2020年4月18日

通算第942回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19肺炎のサイトカインストーム治療試験が続々開始 
  • Immunomedics、ADCのTNBC試験が早期成功 
  • リジェネロン、エボラの抗体治療薬を承認申請 
  • MSD、キートルーダを高TMB固形癌に承認申請 
  • FDA、SGENのher2阻害剤を承認 
  • FDA、インサイトのFGFR阻害剤を承認 
  • FDA、神経線維腫1型用薬を承認 


【今週の話題】


COVID-19肺炎のサイトカインストーム治療試験が続々開始
(2020年4月14日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のremdesivirは、中国での試験が流行鎮静化で患者が集まらず中断になった。中国の公衆にとっては幸福な結果だが、グローバルではまだまだ新規感染が多く、中国も再流行しないとは限らない。対策はワクチンが最重要だが、中国の報告によると、ワクチンより抗体誘導力が高い自然感染でも十分な量の抗体を獲得できない人がいるようなので、ワクチン普及後も抗ウイルス治療薬や肺炎治療薬のニーズは残るだろう。

COVID-19感染症は全体としては症状が軽かったり殆どなかったりする人が多いが、急に呼吸機能が低下し重篤な状態になることがあるので油断できない。一因と疑われているのが炎症性サイトカインの異常増加を伴う免疫機構の過剰反応によって臓器が損傷を受けることだ。対策として中外製薬/ロシュのActemra(tocilizumab)を始めとする抗インターロイキン薬の臨床試験が続々と開始されている。先週は、JAK1/2阻害剤やBTK阻害剤、抗Ang2抗体の臨床試験が発表された。

まず、イーライリリーが、NIAIDが行っているアダプティブ・デザインのCOVID-19治療試験に同社のbaricitinibの群を設定することで合意した。4月中に米国で開始して欧州アジアに拡大する計画で、2ヶ月内に結果をまとめる考え。

baricitinibはインサイト(Nasdaq:INCY)がイーライリリーと共同開発販売しているJAK1/2阻害剤で、欧米でOlumiant名で、日本ではオルミエントとして、中重度関節リウマチなどに承認されている。インサイトはノバルティスと共同で骨髄線維症などに開発販売しているJAK1/2阻害剤、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)の第三相試験もロンチしている。

さて、イーライリリーは抗angiopoietin 2(Ang2)抗体LY3127804で第二相試験を行うことも発表した。COVID-19肺炎で入院しARDS(急性呼吸窮迫症候群)を合併するリスクが高い患者を組入れる。ARDSではAng2が亢進していることに着目した。

リンク: イーライリリーのプレスリリース(4/10付)

一方、アストラゼネカは、慢性リンパ性白血病やマントル細胞腫に承認されているBTK阻害剤、Calquence(acalabrutinib)でCOVID-19治療試験を開始した。サイトカインストームを合併した重度入院患者を対象に、パート1ではICU治療を受けていない患者をBSC(最良支持療法)だけの群とCalquenceも投与する群に無作為化割付し、オープンレーベルで死亡や呼吸補助療法のリスクを比較する。パート2はICU患者の単群試験でBSCとCalquenceを施行する。

マクロファージはSARS-CoV-2のようなウイルスの短鎖RNAをTLR3やTLR7、TLR8で認識し、BTK依存的にNF-カッパBやIRF3を活性化、TNFアルファやIL-6、IL-10、MCP-1などの生産を刺激する。BTK阻害剤は初期の臨床試験で免疫を抑制しCOVID-19誘導性ARDSを改善する可能性が示唆されたとのことだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(4/14付)


【新薬開発】


Immunomedics、ADCのTNBC試験が早期成功
(2020年4月6日発表)

Immunomedics(Nasdaq:IMMU)は、IMMU-132(sacituzumab govitecan)のトリプル・ネガティブ転移乳癌(TNMBC)の第三相が成功したと発表した。第1/2相データに基づき米国で承認審査中で、審査期限は6月2日となっているが、もし第三相データの提出を求められたら、審査期限延長の可能性も出てくるのではないか。

IMMU-132はEGP-1(epithelial glycoprotein-1)を標的とする抗体をirinotecanの活性代謝物と結合したADC(抗体薬物複合体)。EGP-1はher2、エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体の全ての発現が陰性であるトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)の80%以上で発現する一方、正常細胞には少ない。第1/2相試験でORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が110人中31%、メジアン反応持続期間9.1ヶ月となり、18年に米国でトリプル・ネガティブ転移乳癌の三次治療薬として承認申請された。優先審査を受けたが、工場査察時にデータの改ざんなどが発覚、審査完了通知受領となった。CEO退任を経て、19年12月に再承認申請された。

ORRのような代理マーカーに基づき加速承認を求める場合は、延命効果などを確認する第三相試験の患者組入れを承認までの間にかなりの程度、完了しておく必要がある。Immunomedicsは17年に今回の第三相を開始したが、審査に手間取る間に結果が出てしまった格好だ。

このASCENT試験は、トリプル・ネガティブ乳癌で、転移性乳癌の治療として二次以上の治療歴を持つ患者を組入れて、PFS(無進行生存期間)を医師が選んだ化学療法薬(eribulin、capecitabine、gemcitabineまたはvinorelbine)と比較するもの。独立データ監視委員会が直近のルーチン評価で圧倒的な効果に基づき繰上げ完了を勧告した。

第940号でアストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)の慢性腎疾患アウトカム試験に関して『ルーチン評価による中止勧告というのはあまり聞かない』と書いたばかりだが、臨床試験に必要な期間を短縮して新薬開発をスピードアップするための工夫として、流行っているのかもしれない。臨床試験の途中で振り子が触れるように群間の偏りが生じたり解消したりすることはよくあるようであり、また、統計学的にも多重性が生じないように注意する必要があるが、十分な配慮(ハザードレシオの閾値や持続性、p値の配分などに関して)が行われているのだろう。

リンク: Immunomedicsのプレスリリース


【承認申請】


リジェネロン、エボラの抗体治療薬を承認申請
(2020年4月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、FDAがREGN-EB3の承認申請を受理したと発表した。優先審査を受けるが、審査期限は10月25日とのことで、リードタイムが案外長い印象だ。承認されれば米国初のエボラウイルス疾患治療薬となる。

リジェネロンは抗体医薬の開発で独自のプラットフォームを持ち、08年に米国で承認されたArcalyst(rilonacept)を皮切りに、下表のように、数多くの抗体医薬を輩出している。

名称 適応症 種類
Arcalyst(rilonacept) 抗IL-1融合蛋白 CAPS(CIAS1変異関連自己炎症定期的症候群)など
Zaltrap(ziv-aflibercept) 抗VEGFR融合蛋白 結腸直腸癌など
Eylea(aflibercept) 抗VEGFR融合蛋白 加齢性黄斑変性など
Kevzara(sarilumab) 抗IL-6受容体アルファサブユニット抗体 リウマチなど
Libtayo(cemiplimab-rwlc) 抗PD-1抗体 皮膚扁平上皮癌など
Dupixent(dupilumab) 抗IL-4Rアルファサブユニット抗体 アトピー性皮膚炎など
Praluent(alirocumab) 抗PCSK9抗体 高脂血症など

REGN-EB3はマウスにヒトの抗体を発現させる同社のバックボーン技術により創製された三種類の抗体の混合物で、新規感染症に即応するためのVelociSuiteプラットホームを活用して量産まで漕ぎつけた。

エボラは中央アフリカで数年おきに流行しているが、18年8月に大流行が始まったコンゴ民主共和国で実施された直接比較試験で最も良い成績を上げたのがREGN-EB3だ。673人を4種類の開発品に無作為化割付して28日死亡率を比較したところ、REGN-EB3群は33.5%と、対照群とされたZMapp(カナダ衛生庁が開発しMapp Biopharmaceuticalが商業化した三種類の抗体の混合物)の49.7%を大きく下回った。mAb114(Ridgeback Biotherapeuticsの抗体医薬)は35.1%、remdesivir(ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬)は51.3%だった。

remdesivirはCOVID-19で復活を目指しているが、リジェネロンもVelociSuiteを用いてスパイク蛋白に結合する二種類の抗体の混合物を開発、6月に臨床試験を開始する予定。エボラの治験結果を見ても、抗ウイルス薬より抗体医薬のほうが効果が高そうだが、エボラと異なりCOVID-19は全世界が対象なので一社一製品では足りず、多少見劣りしても複数の選択肢が必要だろう。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

MSD、キートルーダを高TMB固形癌に承認申請
(2020年4月7日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をTMB(腫瘍変異負荷)がメガベース当り10変異以上と高い、切除不能/転移性固形癌に単剤投与する適応拡大を米国で申請し、受理されたと発表した。再発治療に用いるが、十分な代替的治療法がない場合の一次治療も申請している。成人と小児も対象。優先審査を受け、審査期限は6月16日。

KeytrudaはMSI-H(マイクロサテライト不安定性高)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)の切除不能/転移性固形腫瘍で前治療に進行した代替的治療法のない成人及び小児に用いることが17年にFDAに承認された。今回の適応も切り口は同じで、多くの遺伝子変異を持つ腫瘍は正常細胞と異なる蛋白が多く産生されるだろうから、免疫機構の注意を惹きやすく免疫療法応答性が高いはず、という発想だ。違いは、マイクロサテライト(特定の塩基配列が何度も繰り返される、複製ミスが起きやすい箇所)の繰り返し数や遺伝修復に係る蛋白の発現だけでなく、様々な遺伝子の様々な変異を包含していることだ。

MSI-H/dMMRは患者数としては結腸直腸癌や内膜腫が多い。高TMBもこの二つが多いようだ。MSI-Hよりも高TMBのほうが数が多いという指摘もあるので、Keytrudaの適応が広がることになる。尚、マイクロサテライト不安定性は高くないがTMBは高いという場合もあるようだ。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


FDA、インサイトのFGFR阻害剤を承認
(2020年4月17日発表)

FDAは、インサイト(Nasdaq:INCY)のPemazyre(pemigatinib)をFGFR2融合またはその他の再編成がある切除不能局所進行性/転移性胆管癌の二次治療薬として加速承認した。審査期限は5月末だったので1ヶ月半の前倒し。Foundation Medicine社のコンパニオン診断薬も承認される見込み。欧州でも承認審査中。

胆管癌は欧米で10万人当たり0.3-3.4人が発症する。診断時点で既に末期であることが多い。米国で承認されている薬はなく、標準療法は化学療法だが、二次治療薬はない。肝内胆管癌と肝外胆管癌があり、FGFR2融合/再編成は前者の10~16%で見られる。日米欧で2000~3000人が対象と推測されている。

PemazyreはFGFR阻害剤。13.5mgを一日一回経口投与する。14日連続服用し7日間休む。第二相単群試験では、ORR(客観的反応率、独立中央放射線学的評価)が36%、メジアン反応持続期間は9.1ヶ月だった。重要な有害事象は網膜剥離などの眼球疾患、高リン血症、催奇性。

第三相はgemcitabineとcisplatinの併用を対照群とするPFS(無進行生存期間)検討試験が進行中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: インサイトのプレスリリース

FDA、SGENのher2阻害剤を承認
(2020年4月17日発表)

FDAはシアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)の選択的her2チロシンキナーゼ阻害剤、Tukysa(tucatinib)を承認した。her2標的薬による治療歴を持つ切除不能な局所進行性/転移性her2陽性乳癌に、trastuzumab及びcapecitabineと併用する。第三相では摘出術前後を含めて三剤以上のher2標的薬による治療歴を持つ患者を対象としたが、もう少し幅広い適応が認められた。審査期限は8月だったが4ヶ月前倒し。

このHER2CLIMB試験ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン7.8ヶ月と、trastuzumab及びcapecitabineと偽薬を併用した群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.54、p<0.00001、副次的評価項目の全生存期間は各21.9ヶ月、17.4ヶ月、0.66、0.0048となった。この試験は脳転移のある患者を積極的に組み入れ症例の48%を占めたが、このサブグループにおけるPFSは各7.6ヶ月、5.4ヶ月、0.48、0.00001未満となり、抗体と異なるチロシンキナーゼ阻害剤の長所が発揮された。her2陽性転移性乳癌の25%以上が脳転移するとのことなので重要。

主な深刻有害事象は下痢、急性腎障害、死亡。肝毒性があり定期的な肝機能検査が必要。催奇性があり、男の患者も要注意。

この承認審査は、リアル・タイム・オンコロジー・リビューとアセスメント・エイドが適用された。海外の承認審査機関と並行審査するProject Orbisの対象となり、今回は豪州カナダに加えて初めてシンガポールやスイスも参加した。

tucatinibは18年にCascadian Therapeutics(旧称Oncothyreon)を6億ドルで買収して入手した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

FDA、神経線維腫1型用薬を承認
(2020年4月10日発表)

FDAはアストラゼネカのKoselugo(selumetinib)を症候性で切除不能な叢状神経線維腫病(PN)の2歳以上の小児の神経線維腫1型(NF1)の治療薬として承認した。NF1は3000~4000人に一人の常染色体性優性遺伝性疾患で、ニューロフィブロミンの遺伝子変異によりras~PI3K/AKT経路が活性化、良性腫瘍ができやすく、運動機能不全なども合併する。KoselugoはMEK1/MEK2阻害剤で、03年にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)から世界開発販売権を取得、17年にはMSDと共同開発販売提携を結んだ。

承認の根拠となる米国立癌センター主導の第二相試験では、50人中33人の腫瘍が20%以上縮小した。12ヶ月間反応持続率は82%だった。

アストラゼネカは今年第1四半期にEUでも承認申請した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

2020年4月11日

通算第941号

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19の影響で臨床試験の組入れが停滞 
  • アビガンの中国試験に関する統計学的論評 
  • アストラゼネカ、タグレッソの術後アジュバント試験が中間解析で成功 
  • GSK、ヌーカラの慢性副鼻腔炎試験成功 
  • アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型用薬を承認申請 
  • BMS、Opdivoなど4剤併用をNSCLCの一次治療として欧米申請 
  • AVEO、VEGFR阻害剤を米国で再承認申請 
  • ファイザー、BRAF阻害剤を結腸直腸癌の一部に適応拡大 
  • ノバルティス、ベオビュの安全性情報を改定へ 


【今週の話題】


COVID-19の影響で臨床試験の組入れが停滞
(2020年4月6日発表)

COVID-19感染症の拡散により様々な社会活動が打撃を受け、医療に関しては三つの崩壊シナリオが具現しようとしている。第一は、重症患者が増えすぎて医療資源が足りなくなるクリティカルケア崩壊。第二は、感染検査が追い付かず隠れ感染者が増加して、医療従事者が偶々他の病気で受診した患者から感染し戦線離脱してしまうメディカル崩壊。そして、必ずしも必要ではないのに頻繁に受診していた慢性疾患患者が自粛することで医療施設の収益が打撃を受ける経営崩壊だ。

当然のこととはいえ、臨床試験も順調には進まない。もし続行できたとしても、被験者が感染したり死亡したりしたら安全性データの見栄えが悪くなるかもしれない。免疫抑制剤はそうでなくてもウイルス感染症が増加するが、現状では感染症リスクがより大きく現れるだろう(臨床試験を続行すること自体が適切ではないかもしれない)。

実態把握が急がれる中、Medidata社がCOVID 19 and Clinical Trials: The Medidata Perspectiveというレポートを作成した。それによると、3月(3月23日時点)の臨床試験新規組入れ数(施設当たり平均)は前年同期比65%減だった。落ち込みが大きいのはインド(84%減)、英国(80%減)、中国とスペイン、フランス(何れも68%減)、米国(67%減)、韓国(61%減)。イタリア(52%減)、日本(43%減)、ドイツ(32%減)が続く。中国は前月比では240%増とのことで、底は打ったようだ。

領域別では、内分泌系(80%減)、心血管系(70%減)、中枢神経系(68%減)の落ち込みが大きいが、腫瘍学(48%減)、感染症(47%減)、呼吸器管系(34%減)も減っている。COVID-19関連の臨床試験が増えても、規模の大きいそれ以外の試験の停滞を補えないのだろう。

リンク: Medidataのレポートのダウンロードページ

アビガンの中国試験に関する統計学的論評
(2020年4月8日記述)

安倍首相は緊急事態宣言後の会見で、アビガン(ファビピラビル)が症状改善に効果があったとの報告もあった旨、発現した。「報告があった」ではなく「報告もあった」という言い回しが気になるが、おそらく、「効果がなかったとの報告もあった」という意味ではなく、後に見解を変える事態をヘッジするための官僚用語的物言いなのだろう。何れにせよ、首相が言及したとなると患者同意書を得るのは通常の臨床試験よりはるかに容易になるだろう。

弊害は、富士フィルム富山化学が開始した国内の第三相試験に与える影響だ。薬効や安全性をキチンと評価するためには対照群の設定が必要だが、メディアが持て囃して特効薬というイメージが広がると、患者が無作為化割付対照試験を拒んで研究者主導単群試験にしか参加しない事態になりかねない。これでは、本当に効くのかどうか、分からない。

米国でも第二相試験を開始するが、組入れが日本より少ないようなので、どの程度のエビデンスになるか、判然としない。

アビガンの代表的なエビデンスとされるのは、中国で行われた臨床試験二本だ。一つは、武漢大学中南医院のChenらが行った臨床試験で、medRxiv(刊行前の学術論文原稿を公開するウェブサイト)に現在は治験論文の第二稿が掲示されている。査読前なので注意が必要だが、ちょうど統計学者が統計学的論評を刊行したので、参考にしたい。治験デザインは以下の通り。

Patient:発症12日以内でCOVID-19感染が確認されたCOVID-19肺炎の成人

Intervention:favipiravirを600mg一日二回、但し初日は1600mgを二回、7-10日間に亘り経口投与、10日間延長可(投与期間以外は日本のインフルエンザ治療の用量用法と同じで、日本のCOVID-19治療試験より若干低量)

Comparison:arbidol(中国などで承認されている抗インフルエンザウイルス薬)の200mgを一日三回、経口投与。期間はアビガンと同じ。

Outcome:臨床的回復率(第7日または治療終了時点、体温や呼吸数、酸素飽和度、咳頻度などに基づき判定)

武漢大学中南医院や湖北省第三人民医院など三医療施設で二群に120人ずつ無作為化割付したオープンレーベル試験だ。全員が他の治療や支持療法を受けた。評価対象は何故かアビガン群だけ減って116人。

結果はアビガンの臨床的回復率が61%、arbidolは52%でp=0.14となり、主評価項目はフェールした。しかし、重度患者(アビガン群のほうが多かった)を除外したサブグループ分析では71%対55%となり、p=0.02だった。因みに、重度患者だけの解析ではアビガン群が18人中1人のみ、対照群は9人中ゼロだった。また、高血圧且つ又糖尿病の持病を持つサブグループでは54%対51%でp=0.77だった。

アビガン群の主な試験薬関連有害事象は肝機能検査値異常、精神症状、消化管反応、血清尿酸値上昇などだった。

この論文についてはマサチューセッツ大学のWilkinsonらが統計学的論評を行っている。一番のネックとして、重度患者を除くサブグループ分析がプロトコルで事前に設定されたものではない、アドホック分析であることを指摘している。重症度は階層化因子の一つだが、サブグループ分析とは定義が異なる由である。

私が気になるのは、サブグループ分析における回復率が解析計画における前提(各70%と50%)と近いことだ。過去に経験のない感染症の、過去に実績のない候補薬同士の臨床試験で、こんなに予想が的中するものなのか。

また、多寡だか240人の試験なので止むを得ないが、患者背景に群間の偏りがありそうだ。重度患者と高血圧症はアビガン群が多かったが、65歳以上は少ない。何れもp値は0.05を大きく上回っているので統計学的には偏りがあったとは言えないのだが、サンプル数が少ないので検出力が足りないのかもしれない。喫煙歴は言及されておらず、不明。

重症度は階層化因子なのだから、重度患者を除くサブグループ分析が本解析と異なる結果になるのは違和感がある。多分、これも、サンプルが少ないことが影響しているのだろう。

この試験は盲検ではないことを筆頭に様々な弱点があるが、現在の環境下では贅沢は言えない。様々な施設の様々な無作為化割付対照試験のデータが積み重なれば、ある程度の感触を掴めるだろう。

もう一本の、深セン市第三人民医院のCaiらがアビガン群とKaletra(lopinavirとritonavirの合剤)群に割付けた非無作為化オープンレーベル試験臨床試験の論文は、現在、暫定的に撤回されている。理由は不明だが、エビデンスとして参照しないほうが良いだろう。

米国ではトランプ大統領がchloroquineをプッシュし、CDC(疾病管理予防センター)がウェブサイトで事例報告で採用された用量用法を一旦掲示したが、批判が多かったせいか、最近になって撤回した。トランプ大統領は就任前はワクチンの自閉症リスクを喧伝したり、現在、CDCが推奨している布製マスクの着用を、義務付けではなく自分はやらないと語ったり、独自の世界観を発揮している。バイアスというと利害関係者の話ばかり出てくるが、優れた治療法の誕生を望む善意も立派なバイアスであることを忘れてはいけない。

リンク: Chenらの治験論文(medRxiv、2020)
リンク: Wilkinsonらの統計学的論評(Zenodo、2020)
リンク: Caiらの治験論文(Engineering、2020・・・暫定的撤回、2020年4月11日アクセス)


【新薬開発】


アストラゼネカ、タグレッソの術後アジュバント試験が中間解析で成功
(2020年4月10日発表)

アストラゼネカは、Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)の第三相NSCLC(非小細胞性肺癌)術後アジュバント試験がIDMC(独立データ監視委員会)の推奨を受けて予定より早く盲検解除されると発表した。中間解析で圧倒的な効果が認められたため。

このADAURA試験は、ステージIB、II、IIIAのEGFR変異陽性陽性NSCLCで完全切除を受けた患者682名を組入れて、Tagrisso群のDFS(無病生存期間)を偽薬群と比較した。Tagrissoは80mgを一日一回、最長3年間にわたって投与した。両群とも標準的な術後化学療法を施行することが認められていた。

アストラゼネカは適応拡大申請に向かう考え。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

GSK、ヌーカラの慢性副鼻腔炎試験成功
(2020年4月3日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)の慢性副鼻腔炎試験が成功したと発表した。適応拡大申請の予定。

Nucalaは抗IL-5抗体で、好酸球増多型重度喘息症などに用いることが承認されている。今回のSYNAPSE試験は、鼻茸によるCRSwNP(両側鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎)で、過去に切除術を受けたが十分に改善せず再手術が必要な成人400人超を組入れた52週間の無作為化割付二重盲検試験。共同主評価項目は、内視鏡による鼻ポリープ評価と、鼻閉塞のビジュアル・アナログ・スケールによる評価。副次的評価項目である手術までの期間と合わせて、偽薬比有意な差があった。データは未公表。

CRSwNPといえば、リジェネロンとサノフィが共同開発販売している抗IL-4受容体アルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)も欧米で19年に、日本でも今年3月に、適応拡大した。今回のほうが若干重い患者を対象としているのかもしれないが、Nucalaが承認されれば代替的な選択肢になりそうだ。

リンク: GSKのプレスリリース


【承認申請】


アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型用薬を承認申請
(2020年4月7日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ALNY)は、ALN-GO1(lumasiran)を原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)治療薬として欧米で承認申請したと発表した。米国は1月に非臨床部分を提出してローリング申請に着手したが、今回、完了した。

PH1は常染色体劣性遺伝性疾患。肝臓のアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠損によりグリオキシル酸が蓄積、シュウ酸が過剰になりカルシウムが腎臓などに蓄積、尿路結石などの障害を合併する。罹患率は世界で5.88万人に一人。ALN-GO1はグリコール酸酸化酵素の遺伝子を標的とするRNA介入薬で、シュウ酸の生産を抑制する。月一回(4回目からは3ヶ月毎)の皮注。第三相試験では6歳以上で軽中度の腎障害を持つ患者30人を組入れて尿シュウ酸塩の変化を評価したところ、偽薬比有意に減少した。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

BMS、Opdivoなどの四剤併用をNSCLCの一次治療として欧米申請
(2020年4月8日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を化学療法薬二剤と併用で非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大申請を欧米で行い、受理されたと発表した。PD-L1発現度や扁平上皮腫か否かは不問で、EGFRやALKの活性化変異は除外。米国は優先審査を受け、審査期限は8月6日。日本では小野薬品が3月に一変申請済み。

CheckMate-9LA治験が中間解析で主目的(全生存期間の延長)を達成したことに基づく申請だが、データは学会で発表される予定。抗PD-1抗体と化学療法の三剤併用はMSDがKeytruda(pembrolizumab)で承認を得ている。Opdivoは非小細胞性肺癌における開発でKeytrudaに後れを取ってきたが、四剤併用で更に伸ばすことができれば、キャッチアップが可能になるだろう。

リンク: BMSのプレスリリース

AVEO、VEGFR阻害剤を米国で再承認申請
(2020年3月31日発表)

AVEO Oncology(Nasdaq:AVEO)は、tivozanibを再発または難治性の腎細胞腫用薬として米国で承認申請したと発表した。8年前の初申請は不首尾に終わったが、今回はタイトロープを渡りきることができるかどうか、注目される。

07年にキリンからアジア以外の権利を取得したVEGFR阻害剤で、アステラス製薬と共同開発していた時期もあったが、治験成績が今一つで提携解消となった。進行性腎細胞腫のPFS(無進行生存期間)をNexavar(sorafenib)と比較した第三相試験が成功、米国で承認申請したが、副次的評価項目の全生存期間の解析がハザードレシオ1.245、p=0.105となったことがネックとなり、腫瘍学薬諮問委員会が13対1の多数で反対、審査完了通知を受領した。EUではVEGFR阻害剤歴のない患者向けに承認されたが、VEGFR阻害剤の第一選択がNexavarではなくなっため、それを少し上回るだけでは迫力がない。その後、欧州での販売権をEUSA Pharmaにアウトライセンスした。

新たに実施した第三相三次治療試験では、主評価項目のPFSがNexavarを上回ったが、副次的評価項目の全生存期間のハザードレシオは中間解析で1.06となり、打ち切り例を追加追跡して行った解析は1.12と更に上昇した。その後、0.99に改善したものの、メジアンは16.4ヶ月対19.6ヶ月と依然、見劣りした。FDAが再申請に難色を示したため、AVEOは、20年6月に結果が出る最終解析で1を上回ったら撤回すると約束して、今回の申請に踏み切った。

リンク: AVEOのプレスリリース


【承認】


ファイザー、BRAF阻害剤を結腸直腸癌の一部に適応拡大
(2020年4月8日発表)

ファイザーは、Braftovi(encorafenib、和名ビラフトビ)をBRAF-V600E変異を持つ転移性結腸直腸癌の再発治療にErbitux(cetuximab)と併用する適応拡大がFDAに承認されたと発表した。第三相のBEACON試験では、全生存期間がメジアン8.4ヶ月と、irinotecan(またはFOLFIRIレジメン)とErbituxを併用した群の5.4ヶ月を上回った。尚、この試験の主評価項目は更にMektovi(binimetinib、和名メクトビ)も併用するトリプレット群と化学療法群の比較で、これも成功したのだが、ダブレット群と大きな差があるようには見えなかった。

BraftoviはBRAF阻害剤、MektoviはMEK阻害剤で、18年に欧米で、19年には日本でも、BRAF-V600変異陽性悪性黒色腫用薬として承認された。Array BioPharmaが開発、ノバルティスにライセンスしたが、ノバルティスがGSKとの事業スワップにより類薬を取得したため、反トラスト局の要求により解消した。Arrayは19年にファイザーが企業価値を1114億ドルと評価して買収。欧州などの権利はPierre Fabreが、日本と韓国は小野薬品が、保有しており、夫々、昨年11月と今年3月に上記と同様な適応拡大申請を行った。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ノバルティス、ベオビュの安全性情報を改定へ
(2020年4月8日発表)

ノバルティスは、新生血管加齢性黄斑変性治療薬として19~20年に日米欧で承認された抗VEGF-A抗体フラグメント、Beovu(brolucizumab、和名ベオビュ)のレーベルや臨床試験用説明文書などの安全性に関する記述を改訂すると発表した。

3月1日号で報じたように、Beovuを投与した患者で14例の網膜血管炎が報告されているとAmerican Society of Retina Specialistsが会員に通知した。類薬では発生していないようだ。ノバルティスは当該症例などを社内だけでなく外部の独立安全性評価委員にも検討させ、結果、稀に網膜血管炎且つ又網膜血管閉塞(眼内炎症を伴うことも伴わないこともある)が発生し重度視力喪失に至る可能性もあることを確認した。

添付文書には有害事象として眼内炎症や失明を含む視力低下、網膜動脈閉塞を列記しているが、当局の承認を経てアップデートする考え。

リンク: ノバルティスのプレスリリース





今週は以上です。

2020年4月5日

第940回

お知らせ:題名を『海外医薬ニュース』から変更しました。

【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティス、ジャカビをCOVID-19肺炎に開発へ 
  • 米国製薬三社、COVID-19と戦う社員ボランティアを後押し 
  • COVID-19のPOC検査が続々と承認 
  • 抗体検査承認のフェイクニュースも 
  • JNJ、COVID-19ワクチンの開発候補を特定 
  • キイトルーダはMSI-H結腸直腸癌の一次治療にも有効 
  • アストラゼネカ、フォシーガのCKD試験を繰上げ完了へ 
  • ACC:イグザレルトのPAD再血行術後試験成功 
  • ACC:エリキュースの癌患者VTE治療試験が成功 
  • ACC:sGC刺激剤の第三相試験が成功 
  • BCMAを標的とするCAR-Tが承認申請 
  • 赤血球成熟剤がMDS性貧血に適応拡大 
  • FDA、アストラゼネカのイミフィンジを小細胞性肺癌に承認 
  • FDA、ラニチジンの市場回収を正式に要求 


【今週の話題】


ノバルティス、ジャカビをCOVID-19肺炎に開発へ
(2020年4月2日)

ノバルティスは、Jakavi(ruxolitinib、和名ジャカビ、米国名Jakafi)をCOVID-19肺炎の治療に充てる第三相試験とコンパッショネート・ユース・プログラムに着手すると発表した。COVID-19感染症では一部の患者の肺機能が急激に悪化する現象が見られる。炎症性サイトカインの著増を伴う免疫機構の過剰反応が関与している可能性があるため、中外製薬/ロシュのActemra(tocilizumab)などの抗IL-6/IL-6受容体抗体が注目されていて、複数の医薬品の臨床試験が始まった。

Jakaviの標的であるJAK1/2はIL-6受容体のダウンストリーム・シグナルに関与しており、阻害するとIL-12やガンマ・インターフェロン、GM-CSFなどの免疫炎症性サイトカインが減少する。ノバルティスによると、前臨床や第三者の臨床研究でCOVID-19によるサイトカイン・ストームの緩和に有効性が示唆されたようだ。

感染者が急増しているイタリアや米国などでは、ICUや人工呼吸器の不足が深刻になっている。日本もそうなるだろう。これらの抗IL-6療法が奏功すれば、患者の救命だけでなく医療崩壊を回避する一助になるかもしれない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

米国製薬三社、COVID-19と戦う社員ボランティアを後押し
(2020年4月1日)

MSD、ファイザー、イーライリリーの三社は、COVID-19と戦う最前線を志願する社員を後押しすると発表した。製薬会社には多くの医師、看護師、薬剤師、ラボ技士などの有資格者が勤務している。現在もボランティアとして医療・検査施設で働いている社員がいるようだ。三社は、その間の基本給を維持することなどを発表した。まあ、成果報酬部分がないだけでもかなり所得が減るのだろうが。

イーライリリーは、インディアナポリスの本社のドライブスルーCOVID-19検査施設にも医療専門家社員を振り当てると発表した。この施設はコミュニティのために最前線で働く医療従事者やファースト・レスポンダーに対して無償で検査を行う。

COVID-19は新薬の臨床試験に大きな影響を与えており、既に幾つかの製薬会社が原則自粛を発表している(このレポートも何ヶ月かしたらネタが枯渇するかもしれない)。そんな時期だからこそ、人材再配置は一考に値する。

リンク: 三社のプレスリリース

COVID-19のPOC検査が続々と承認
(2020年4月1日発表)

COVID-19のウイルス検査が米国で続々とEUA(非常時使用認可)を受けている。大病院やラボで使うアッセイだけでなく、ポイント・オブ・ケア(POC)で用いる10~20分で結果が出る検査も承認された。

4月1日には初めての抗体検査がEUAを得た。Cellex社のqSARS-CoV-2 IgG/IgM Rapid Testで、血清、血漿、または全血を15-20分で検査する。IgMかつまたIgGを検出すると対応する線の色が変わる。コントロールラインの色が変わらなかったら、陽性でも陰性でも検査が無効になる。キットの有効性を検証するための陽性と陰性のサンプルも同梱されている。

取扱説明書によると、RT-PCRあるいは臨床的に判定された検体を検査したところ、陽性サンプル128件の感度は93.8%(95%信頼区間88.2~96.8%)、陰性250件の特異度は96.0%(92.8~97.8%)だった。

抗体検査なので、感染後数日経って抗体がある程度できた段階で検査する必要がある。迅速検査は一次スクリーニング用で、本筋は核酸検査で確認すべきである。その核酸検査も、それだけで診断を確定すべきではないというディスクレマーが付いているので、建前上は検査を過信すべきではないという結論になるが、非常時には贅沢を言っていられない。

リンク: qSARS-CoV-2 IgG/IgM Rapid Testの取扱説明書(pdfファイル)

核酸検査では、アボットのID NOW COVID-19が3月27日付でEUAを得ている。米国の主要なインフルエンザ、連鎖球菌A、RSVのPOC検査機器であるID NOWという等温増幅PCR用のアッセイで、陽性なら5分、陰性でも13分で結果が出る。一日に5万件の検査を想定して供給する予定。

取扱説明書によると、感度は検出下限の2倍の濃度の陽性サンプル20件で100%、5倍サンプル10件も100%、陰性サンプル30件の特異度も100%だった。95%下限は各83%、72%、88%。また、NCBIやGenbankにアップロードされた全ての2019-nCoVの核酸配列に適合していた。

同社は大規模医療施設やラボ向けのm2000 RealTime SARS-CoV-2 EUAも承認された。両方合わせて月500万件の検査ができるよう供給する計画。

中国ではPCRの感度が7割という報道もあり、感度がそれより低いとなると、いいのか悪いのか微妙だ。米国では検査アッセイの信頼性を確認するための当初の対照標本に欠陥があり大きな問題になったが、EUは今になって対照標本の配布が始まったばかりのようで、もしかしたら、これまでに偽陰性が多く発生していたかもしれない。まあ、人間は万能ではないので、目に見えないものは存在しない決めつけざるを得ないだろう。非常時には尚更だ。

リンク: アボットのプレスリリース(3/17付)
リンク: ID NOW COVID-19取扱説明書(pdfファイル)
リンク: FDAのEUAページ

抗体検査承認のフェイクニュースも
(2020年3月31日報道)

ロイターなどが3月31日にBodysphere社(未上場)の迅速検査がEUA承認されたと報じたが、フェイクニュースだったようで、出典であるBusiness Wireに掲載された同社のプレスリリースも含めて、撤回された。FDAのEUAページに出ていなかったので奇妙に感じてはいたが、真相はもっと奇妙だ。

ロイターのフォローアップ記事によると、BodysphereはFDAのウェブサイトを見て承認されたと誤解した、と説明しているようだ。ところが、メーカーである中国のSafecare Biotech側も、FDAに届出を行ったコンサルティング会社、LSI Internationalも、Bodyshere社と契約関係にはないと語った。

奇妙な話である。日本でも中国製の検査を発売すると発表した会社があったが、社名は公表されていない。純粋に営業機密を守るためなのかもしれないが、気味が悪い。

フェイクと分かる前にBodysphereのサイトで調べた内容を記しておくと、血液中のIgG、IgM抗体を検出するラテラルフローイムノアッセイで、2-10分で結果が出る(ロイターによるとSafecareは10-15分と言っている)。Bodyshereの撤回されたプレスリリースによると、臨床的感度は99%、臨床的特異度は91%だった。しかし、同社のホームページに掲示されていた臨床試験報告によると、浙江大学病院や浙江省疾病管理予防センターで行われた試験で、参照検査で陽性だった53検体に関する感度は84%(95%下限72%)、陰性171検体の特異度は91%(86%)だった。

リンク: COVID-19迅速検査の特徴(Bodysphere社、20年4月5日アクセス)

JNJ、COVID-19ワクチンの開発候補を特定
(2020年3月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、COVID-19ワクチンのリード候補と二種類のバックアップを特定したと発表した。9月までに臨床試験を開始して年末までにデータと取得、21年の早い段階で最初のバッチのEUA(非常時使用認可)を狙う。パンデミックの非常事態の間は、利益ゼロで供給する考え。世界で10億回分の供給を計画している。

JNJは米国立衛生研究所傘下のBARDA(生物医学先端研究開発局)の支援を得ているが、新たに、両者で10億ドル以上をワクチン開発に投じることも合意した。

ワクチン開発が上手く行くという保証はない。短期間・小規模治験で開発したワクチンを数億人、数十億人の単位で接種することを考えると、子宮頸がんワクチンのように、実用化後に稀だが因果関係を直ちに否定できない副反応が表面化する可能性もある。リスクヘッジのためにも、複数のメーカーが並行開発することが望ましいだろう。また、実用化後も市販後薬物監視を進める必要があるだろう。

リンク: JNJのプレスリリース


【新薬開発】


キイトルーダはMSI-H結腸直腸癌の一次治療にも有効
(2020年4月2日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第三相KEYNOTE-177試験の主評価項目の一つが成功認定されたと発表した。未治療の切除不能・転移性結腸直腸癌でMSI-H(マイクロサテライト不安定性高)またはdMMR(DNAミスマッチ修復不全)の308人を組入れて、Keytruda単剤投与群(200mgを3週毎点滴静注、最大35サイクル)の効果を化学療法群(mFOLFOXまたはFOLFIRI、bevacizumabまたはcetuximab併用可)と比較した試験で、独立データ監視委員会がPFS(無進行生存期間)の中間解析で成功認定した。共同主評価項目である全生存の解析に向けて治験は続行する。

MSIは、一定の塩基配列が繰り返されていて遺伝子複製ミスが発生しやすい箇所のリピート回数を腫瘍細胞とそれ以外の細胞の遺伝子で比較することによって、ミスマッチ修復が機能しているかどうかを判定するもの。元々はリンチ症候群の患者の結腸直腸癌で観察された現象のようだ。dMMRは他のタイプも含むより広範なカテゴリー。結腸直腸癌の10-15%が該当するようだ。

複製ミスが多いと変な蛋白ができて免疫機構の注意を惹きやすくなるはずなので、免疫強化療法の応答予測因子として用いられている。KeytrudaはMSI-H/dMMRの固形癌の再発治療薬として承認されているが、結腸直腸がんについては一次治療にも普及していくことになりそうだ。

再発治療試験では薬効評価対象149人のうち、結腸直腸癌(90人)、内膜腫(14人)、胆管癌(11人)、胃・食道胃接合部癌(9人)、膵癌(6人)が多かった。結腸直腸癌以外のMSI-H/dMMR癌の一次治療にも開発が進められるのではないか。

リンク: MSDのプレスリリース

アストラゼネカ、フォシーガのCKD試験を繰上げ完了へ
(2020年3月20日発表)

アストラゼネカは、Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の慢性腎疾患アウトカム試験、DAPA-CKDを繰上げ完了すると発表した。独立データ監視委員会がルーチンの薬効安全性中間評価に基づいて目的達成を認定、結果を学会や承認審査機関に報告するよう勧告したため。

この試験は、アルブミン尿を伴うステージ2~4の慢性腎疾患4245人をFarxiga群と偽薬群に二重盲検無作為化割付して、腎機能悪化(eGFRが半減以上、末期腎疾患、心血管または腎臓因による死亡)のリスクを比較した。

ルーチン評価による中止勧告というのはあまり聞かないが、治験プロトコルの中で、薬効関連の中止基準の一つとして、薬効・安全性データの総合評価に基づいて圧倒的効果による中止を勧告できると定めていた由だ。学会・論文発表時に妥当性が検討されることになるだろう。

Farxigaは腎臓で濾されたグルコースを血液中に戻す輸送体、SGLT2を阻害する血糖治療薬。利尿作用があり、駆出率低下を伴う心不全のアウトカム試験、DAPA-HFで、二型糖尿病を合併していない患者にも便益を示した。今回の試験も二型糖尿病ではない患者も組入れている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ACC:イグザレルトのPAD再血行術後試験成功
(2020年3月28日発表)

バイエルとジョンソン・エンド・ジョンソンは、Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)のVOYAGER PAD試験の結果をACC(米国心臓学会)/WCC(世界心臓学会)バーチャル・カンファレンスとNew England Journal of Medicine誌で発表した。

50歳以上の症候性下肢PAD(末梢動脈疾患)で、下肢再血行術が成功してから10日以内の、出血リスクが高くない患者6564人を組入れて、アスピリンに偽薬またはXarelto(2.5mgを一日二回)を追加経口投与した無作為化割付二重盲検試験で、主要薬効評価項目の発生率(3年間のカプランマイヤー推定)は各19.9%と17.3%、ハザードレシオは0.85、p=0.009だった。

主要薬効評価項目を構成する個々のイベントの解析では、下肢再血行術後の急性下肢虚血はハザードレシオが0.67、95%信頼区間0.55~0.82と良好な結果になったが、血管因による主要切断、心筋梗塞、虚血性脳卒中の三項目についてはハザードレシオは0.9弱と好ましい方向だったが95%上限が1.12~1.19と1を上回っている。また、心血管死はハザードレシオ1.14、95%信頼区間0.93~1.40と、有意ではないが好ましくない方を向いている。

主要安全性評価項目である大出血発生率(TIMI基準、3年間カプランマイヤー推定)は1.87%と2.65%でハザードレシオ1.43、p=0.07、頭蓋内出血や致死的出血事故は有意な群間差はなかった。副次的安全性評価項目とされたISTH基準による大出血は有意に多かった。

リンク: Bonacaらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: バイエルのプレスリリース

ACC:エリキュースの癌患者VTE治療試験が成功
(2020年3月28日発表)

BMSとファイザーは、Xa阻害剤Eliquis(apixaban、和名エリキュース)のCARAVAGGIO試験の結果をACC/WCCとNEJM誌で発表した。癌患者のVTE(静脈血栓塞栓)の治療における効果を実薬(低分子量ヘパリンのdalteparin)と比較したもので、6ヶ月間のVTE再発率は各5.6%と7.9%、ハザードレシオ0.63となり、非劣性解析のp値が0.001を下回り、成功した。大出血の発生率は各3.8%と4.0%、p=0.60だった。

リンク: Agnelliらの治験論文抄録(NEJM)

ACC:sGC刺激剤の第三相試験が成功
(2020年3月28日発表)

MSDは、バイエルに協業して開発しているsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)刺激剤、BAY 1021189/MK-1242(vericiguat)の第三相心不全アウトカム試験の結果をACC/WCCとNEJM誌で発表した。承認申請に向かう予定。

このVICTORIA試験は、NYHAクラスII-IVの慢性心不全で駆出率が45%未満に低下、且つ心不全で入院又は静注利尿薬による治療を受けている5050人を組入れて、偽薬群とvericiguat(10mg一日一回経口投与)群の心血管死・心不全入院リスクを比較した。Duke大など日米欧中42ヶ国の施設が参加した。

結果は、ハザードレシオが0.90でp=0.019となり主目的を達成した。ハザードレシオはあまり低くないが、メジアン10.8ヶ月の追跡で主評価イベント発生率が各群38.5%と35.5%、Number-needed-to-treatは24となり、効果が小さいとは言い難い。但し、相対リスク削減率が小さくp値がそれほど小さくないので、ノイズやバイアスの影響を受けていないか、データセットの細部をあら捜しして確認しなければならない。

心不全は多剤併用が一般的で、新薬の臨床試験が成功し当局の承認を得るだけでは中々浸透しない。実際、今回の被験者のうち、ガイドライン通りの治療を受けていたのは60%だけだった。ノバルティスのEntresto(sacubitril valsartan)はアウトカム試験で心血管死を抑制したが、今回の被験者のうち服用していたのは15%のみだった。vericiguatは有意差があったのは心不全入院だけで、心血管死はトレンドに留まっているので、対象患者が若干違うものの、データの迫力がやや弱い。また、NT-proBNPが最も高い四分位サブグループにおける効果は曖昧だった。当試験は最大血圧が110 mmHg未満を除外条件としており、適応になるのは駆出低下心不全の1/4よりもっと少ないかもしれない。

尚、深刻有害事象や治験離脱など、忍容性指標は各群大差なかった。2.5mgで開始して5mg、10mgと漸増する用法が寄与したのかもしれない。

リンク: Armstrongらの治験論文抄録(NEJM誌)
リンク: 当発表に関するAHAの特集頁
リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


BCMAを標的とするCAR-Tが承認申請
(2020年3月31日発表)

BMSとbluebird bio(Nasdaq:BLUE)は、bb2121(idecabtagene vicleucel)を成人多発骨髄腫の四次治療薬として米国で承認申請した。BCMAに結合するマウス抗体フラグメントとT細胞に活性化シグナルを送るCD3や4-1BBの一部をCD8アルファや膜貫通ドメインで繋いだキメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T)療法で、bluebirdにとっては初めての承認申請。

CAR-Tとしては、ノバルティス(ペンシルバニア大のライセンス)のKymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)、ギリアドが子会社化したKite PharmaのYescarta(axicabtagene ciloleucel)、そしてJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)/BMSが昨年12月に米国で承認申請したJCAR017(lisocabtagene maraleucel)に続く4番手だが、これらのCD19標的型CAR-Tとは標的も適応も異なっている。

承認申請の根拠となる第二相KarMMA試験では、再発かつ難治性多発骨髄腫で三次以上の治療歴を持ち最終治療不応の140人を組入れて、128人に1.5億セル、3億セル、または4.5億セルを投与したところ、ORR(客観的反応率、独立第三者評価)が三群平均で73.4%、4.5億セルコフォートでは81.5%だった。メジアン反応持続期間は平均で10.6ヶ月。CAR-Tに付き物の副作用では、G3以上のサイトカイン放出シンドロームが7人、5.5%で発生し一人は致死的だった。G3以上の神経毒性の発生率は3.1%だった。

bluebirdは、作用の長期化を図るため、培養過程でPI3K阻害剤を使用することでメモリーT細胞的なフェノタイプの比率を高めたbb21217も開発している。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


赤血球成熟剤がMDS性貧血に適応拡大
(2020年4月3日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブとAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)は、Reblozyl(luspatercept-aamt)をMDS(骨髄異形成症候群)などの患者の難治性貧血の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。正式な適応は、very low to intermediate-riskの環状鉄芽球を伴うMDS(MDS-RS)、あるいは骨髄異形成/環状鉄芽球と血小板増多を伴う骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN-RS-T)で、ESA(赤血球造血刺激因子製剤)による治療がフェールし、8週間に2単位以上の赤血球輸血を必要とする成人。

Activin受容体IIB型の細胞外領域と免疫グロブリンG1型の固定領域を細胞融合した遺伝子組み換え薬で、TGFベータをブロックして赤血球の成熟を促す。昨年11月に米国でベータサラセミアに伴う輸血依存貧血症の治療薬として優先審査を経て承認。今回の適応は同時に承認申請されたが標準審査なのでラグが生じた。

BMSはセルジーン買収を通じて共同開発販売権を取得した。

リンク: BMSのプレスリリース

FDA、アストラゼネカのイミフィンジを小細胞性肺癌に承認
(2020年3月30日発表)

FDAは、アストラゼネカの抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)を進展型小細胞性肺癌の治療に用いる適応拡大を承認した。化学療法(cisplatinまたはcarboplatinとetoposide)と三剤併用する。最初の4サイクルは化学療法と同様に3週毎に投与、その後はImfinziだけを4週毎に投与する。

第三相試験では、メジアン全生存期間が13.0ヶ月と化学療法(6サイクル)だけ施行した群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、p=0.0047だった。PFS(無進行生存期間、担当医評価)はハザードレシオ0.78で統計的に有意だったが、メジアン値は5.1ヶ月と5.4ヶ月で少し短い。有害事象による治験離脱率は両群9.4%だった。

全生存のハザードレシオは、先に承認されたロシュのTecentriq(atezolizumab)と大差ない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、ラニチジンの市場回収を正式に要求
(2020年4月1日発表)

FDAは、Zantac(ranitidine)とGE品、OTC品のメーカーに対して市場回収を要求した。やや遅きに失した感がある。日本市場を含めて、既にかなりの企業が昨年末までに自主回収済みではないか。

Zantacは1981年にグラクソ(当時)が米国で発売したH2ブロッカー。年商が世界で初めて10億ドルを超え、ブロックバスターと呼ばれた。2019年の自主回収まで、人間でいえば就職から定年退職までの長期にわたり、胃潰瘍や胸やけの対症療法として広く用いられてきた。

市場回収の原因となったのはN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)の混入。FDAの今回の発表によると、製造段階では微量で一日当り摂取許容量を下回るが、通常の保管条件下でも時間経過とともに増加し、輸送や保管時に暴露する可能性のある程度の高温環境では顕著に増加する。このため、摂取許容量を超えてしまうリスクがある。

経時増加が確認されたため、FDAは従来のスタンスを見直し、ranitidineの服用を止めるよう勧告した。OTC薬の場合は速やかに、処方薬の場合は医師に相談の上で、他の治療法に切り替える。これまでのFDAの検査では、同じH2ブロッカーのPepcid(famotidine)やTagamet(cimetidine)、プロトンポンプ阻害剤のNexium(esomeprazole)やPrilpsec(omeprazole)、Prevacid(lansoprazole)からは検出されていないとのこと。

NDMA混入を最初に指摘したのはValisureという、自ら品質確認した薬を販売するオンラインファーマシーだ。Velisureは一部メーカーの一部の血圧治療薬や血糖治療薬についてもNDMA混入を指摘しており、今後の展開が注目される。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Valisureのホームページ





今週は以上です。

2020年3月30日

2020年3月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ダイヤモンドプリンセスの客室のウイルスは退去の17日後でも残存 
  • ACE阻害剤やARBがCOVID-19を悪化させるという十分な証拠はない 
  • EMA、タイケルブの直接比較試験データ削除を変更せず 
  • 昆虫細胞培養型インフルエンザワクチンの第三相が成功 
  • ベネクレクスタのAML承認後薬効確認試験が成功 
  • ロシュ、米国でゾフルーザの小児適応申請 
  • FDA、ジャディアンスの一型糖尿病適応拡大も認めず 
  • FDA諮問委員会がCOVID-19で中止に 
  • CHMPはバーチャル・ミーティングで対応 
  • BMS、多発硬化症用薬が米国で承認 
  • ファイザー、アトピー用薬が3ヶ月児以上に対象年齢拡大 
  • EMA、直接的経口抗凝固剤の現実の医療における出血リスクは治験データ並みと結論 


【今週の話題】


ダイヤモンドプリンセスの客室のウイルスは退去の17日後でも残存
(2020年3月26日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は、Diamond Princessなどのクルーズ船におけるCOVID-19感染についてレポートをまとめ、Morbidity and Mortality Weekly Report(感染症発症動向週報)掲載に先駆けて、ホームページで公表した。印象的なのは、症候性感染者および無症候性感染者が退去した後、最大17日経った段階でも、客室の様々な表面からSARS-CoV-2のRNAが特定されたこと。情報源は国立感染症研究所感染症疫学センターの山岸主任研究官とのことだ。感染力を持っていたのかは明らかではないが、CDCは、先日、プラスチックや段ボールの表面で長時間活性を維持することを実験により明らかにした。

症状のない患者でも感染させることができる由だが、ドアノブや吊革に付着したウイルスが原因であっても不思議はない。東京都は感染ルートのわからない症例の比率が2割を超えた由。自分がもし感染したら満員電車を最も疑うだろうが、感染者が乗ったかどうかは公表されていないので、結局、感染ルートは分からないことになってしまうかもしれない。何が言いたいかというと、感染者のプライバシーや訪問先の風評被害を気にするのは当然だが、代償として一般大衆が危険や規制に曝されるのでは、公衆衛生の本末転倒だ。

COVID-19確定感染者数の推移

さて、武漢で外出が禁止された時は、さすが独裁政権、民主主義国家には不可能だろうと思ったが、そうでもなさそうだ。イタリア、米国、英国、そして日本にも外出禁止・自粛の波が押し寄せている。

主要国の感染者数の推移を見ると、日本やシンガポール、タイは中国発の津波の余波を受けた後、やや穏やかになったように見えたが、今度は欧州発の津波がやってきた。うまく余波を吸収できるように、医療最前線の皆さん、そして首都圏など外出自粛地域の皆さん、がんばれ、負けるな!

リンク: CDCのレポート

ACE阻害剤やARBがCOVID-19を悪化させるという十分な証拠はない
(2020年3月27日)

3月20日号で書いたように、バーゼル大学病院のLei Fangら三名は、Lancetに投稿した書簡の中で、SARS-CoV-2が細胞に侵入する時に利用するACE2の発現をACE阻害剤やARB、チアゾリジンジオン(二型糖尿病薬)、ibuprofenが増強することに着目、心臓疾患や糖尿病の持病を持つ感染者に重症例が多い一因ではないかと指摘した。

もし本当なら、これらの薬を服用する患者は元々、感染症の合併症のリスクが高いので、火に油を注いでしまうことになる。一方で、血圧や血糖値の管理を疎かにすると心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病性腎症などのリスクが高まる。従って、Fangらの問題提起は重大なインプリケーションがある。

この問題について、欧米の関連学会やFDAに続いて、EMAもプレスリリースを発出した。現時点ではACE阻害剤やARBとCOVID-19悪化の関連性を確立するような臨床あるいは疫学研究のエビデンスはない。ウイルスとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン機構の相互作用は複雑で、完全には理解されていない。このため、ACE阻害剤やARBの服用を止めたり他の薬にスイッチしたりする必要はない、と述べている。

EMAは、疫学研究を推進すべく他の利害関係者とコラボを進めているとのことだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Lancet誌ホームページで電子刊行された書簡(3/11付、pdfファイル)
リンク: ESC Council on Hypertensionの立場表明(3/13付)
リンク: AHA、HFSA、ACCの共同声明(3/17付)
リンク:Vaduganathanらの論文(3/30付、New England Journal of Medicine)

EMA、タイケルブの直接比較試験データ削除を変更せず
(2020年3月27日発表)

EMAは、Tyverb(lapatinib、和名タイケルブ)の直接比較試験のデータをレーベル(SPC)から削除したが、再評価を経て、復活しないことを決めた。データ収載は18年7月付だが、削除したことは今回初めて知った。

Tyverbはグラクソ・スミスクラインが商品化し、事業交換を経て現在はノバルティスが販売しているher2/EGFR阻害剤で、her2陽性転移性乳癌の再発治療薬として承認されている。

問題のデータは、Herceptin治療歴を持つHR陽性her2陽性乳癌に、アロマターゼ阻害剤とTyverbを併用するレジメンとアロマターゼ阻害剤・Herceptin併用を比較した試験のもの。試験レジメンのほうが便益が大きかった。ところが、19年4月になってデータの過ちが発覚、SPCから削除された。

CROを調査したところGCP違反が判明。不適切なデータを除外して再解析したところ、明確な結論が出なかった。このため、再掲載しないことを決定した。

リンク: EMAのプレスリリース

【新薬開発】


昆虫細胞培養型インフルエンザワクチンの第三相が成功
(2020年3月24日発表)

米国の新興ワクチン会社、Novavax(Nasdaq:NVAX)は、昆虫細胞培養型4価季節性インフルエンザワクチンであるNanoFluの第三相試験が成功したと発表した。免疫原性が既存のワクチンと比べて非劣性で、野生ウイルスを試薬とした検査では有意に優れていた。安全性は概ね同程度だった。米国で承認申請に向かう予定。

NanoFluは、遺伝子組換え型ヘマグルチニンのナノパーティクル・ワクチンで、サボニンを添加して免疫刺激を強化している。鶏卵培養ではなく、SF9バキュロウイルス・システムを用いて昆虫細胞で培養する。

第三相は、米国の65歳以上の健常者2652人を組入れて、サノフィのFluzone4価インフルエンザワクチンと効果や安全性を比較した。主評価項目は第28日時点のGMT(幾何平均力価)とSCR(セロコンバージョン率)。免疫原性は鶏卵由来の試薬を用いたHAI(赤血球凝集抑制)アッセイで評価した。結果は、4種類の株全てについて、どちらも非劣性だった。

副次的評価項目として、鶏卵由来ではなく野生の試薬を用いたHAIアッセイでも評価したところ、4株すべてについて有意に上回った。2019/20シーズンの選定株に含まれていないH3N2のドリフト株4種類に対する免疫原性も有意に上回った。

季節性インフルエンザ・ワクチンの最大の特徴は安価であること。新型ワクチンの価格は数倍高く設定されるだろうから、ワクチン効率が多少上回るだけでは競争できないかもしれない。主評価項目がワクチン効率ではなくGMTやSCRなので尚更である。それでも、抗体ができにくい高齢者や卵アレルギーの人には有力な選択肢になりうるかもしれない。

リンク: Novavaxのプレスリリース

ベネクレクスタのAML承認後薬効確認試験が成功
(2020年3月23日発表)

アッヴィとロシュは、夫々に、Venclexta(venetoclax、和名ベネクレクスタ、欧州名Venclyxto)の第三相VIALE-A試験が成功したと発表した。初めて治療を受ける急性骨髄性白血病(AML)で強化化学療法が適応にならない患者431人を組入れて、azacitidineと併用する効果をazacitidine・偽薬併用群と比較したところ、事前に設定された全生存期間の初回中間解析でポジティブな結果が出たことから、独立データ監視委員会が結果を学会や承認審査機関に報告するよう勧告した。

Venclextaは経口bcl-2阻害剤。アッヴィとロシュの共同研究の成果で、米国ではアッヴィとロシュの米国子会社であるジェネンテックが、海外ではアッヴィが販売している。16年に欧米で難治性慢性リンパ性白血病に承認され、18年には75歳以上で強化化学療法不適な未治療AMLにazacitidine、decitabine、または低量cytarabineと併用することも米国で加速承認された。

加速承認は反応率のような代理マーカーに基づく承認で、別途、延命またはそれに準じる効能を確認する必要があり、もしできなかった場合、加速承認が取り消される。Venclextaは、低量cytarabine併用レジメンを検討したVIALE-C試験が僅かにフェールしたが、追跡期間を延長した事後的分析では良さそうな数値が出ており、薬がフェールしたのではなく試験がフェールした可能性も考えられる。

今回、azacitidine併用レジメンが成功したことで、加速承認が全面取消になるリスクが低下したといえるだろう。

但し、中間解析でポジティブな結果が出た、云々の記述はロシュのプレスリリースには記されておらず、思惑を呼ぶ。この試験は反応率も共同主評価項目だったが、成否は記されていない。もしかしたら、事前に設定された中間解析とは有効性を検討するための中間解析ではなく、被験者に大きな害を与えていないことを確認するための安全性解析だったのではないか?この場合、統計学的な有意性を判定するp値の閾値、アルファを事前に配分していないだろうから、p値が良好であったとしても統計学的に有意と言えない懸念が残る。

データが公表された段階で総合的に評価する必要があろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、米国でゾフルーザの小児適応申請
(2020年3月27日発表)

ロシュは、塩野義製薬からライセンスしたインフルエンザ用薬、Xofluza(baloxavir marboxil、ゾフルーザ)の小児適応に関する三件の追加申請をFDAに行い、受理されたと発表した。1歳以上を対象に、合併症を伴わない急性インフルエンザの治療と予防、そして、小児などに適した新開発の経口懸濁用顆粒剤だ。審査期限は11月23日。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA、ジャディアンスの一型糖尿病適応拡大も認めず
(2020年3月20日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を一型糖尿病の血糖値管理に用いる適応拡大申請を米国でも行ったが、審査完了通知を受領した。

Jardianceは、腎臓で濾しとられたグルコースを血液中に戻す輸送蛋白、SGLT2の阻害剤で、二型糖尿病薬として承認されている。原理的に一型糖尿病にも有効なはずだが、インスリンとの用量調整が難しく、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高まることがネックとなり、開発が遅れた。ようやく、昨年、アストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)が日本とEUで、Lexicon社のZynquista(sotagliflozin)がEUで、一型に承認された。

ところが、米国では三剤とも承認されなかった。Zynquistaは諮問委員会が賛成8人、反対8人と分かれた。Jardianceは用量を二型に対する最大承認量の10分の1に抑えたが、諮問委員会は16人中14人が反対と、厳しい結果だった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA諮問委員会がCOVID-19で中止に
(2020年3月23日発表)

FDAは、4月21日に開催予定だった肺・アレルギー用薬諮問委員会の中止を発表した。COVID-19の流行を踏まえて自粛する。

この諮問委員会は、グラクソ・スミスクラインのステロイド・ムスカリン拮抗剤・ベータ2作用剤の三剤配合薬、Trelegy(fluticasone furoate/umeclidinium/vilanterol、和名テリルジー)の効能追加について検討する予定だった。

TrelegyはCOPD患者を52週間治療したIMPACT試験でその他の評価項目に設定された全死因死亡率が1.20%と、umeclidiniumとvilanterolを併用した群の1.88%より低かった(Cox比例ハザードモデルにより解析でp=0.011)。死亡リスク削減効果を認めるべきかどうか、委員の意見を聞く予定だったようだ。

更に、obeticholic acidをNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)肝線維化の治療に用いる適応拡大を申請しているインターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)も、4月22日に予定されていた諮問委員会がリスケされたと発表した。審査期限は6月26日で変更ないとのこと。

この、原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocalivaとして16年に欧米で承認されたウルソデオキシコール酸類縁体は、昨年9月に適応拡大申請され、当初の審査期限は今年3月26日だったが、諮問委員会のスケジュール繰りの関係で3ヶ月延期された。米国の場合、諮問委員会はマストではないが、スケジュール撤回ではなくリスケなので、承認が更に遅れるリスクもあるのではないか。

リンク: テリルジーの諮問委員会に関するFDAの官報(3/23付)
リンク: インターセプト社のプレスリリース(3/26付)

CHMPはバーチャル・ミーティングで対応
(2020年3月27日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、3月のバーチャル・ミーティングで、ノバルティスのゾルゲンスマなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Zolgensma(onasemnogene abeparvovec、和名ゾルゲンスマ)は脊髄性筋萎縮症(SMA)I型の遺伝子療法。SMA1遺伝子の両アレル変異を持ち、臨床的にSMAI型と診断された乃至は3コピーまでのSMN2遺伝子を持つ患者が適応になる。欠乏する遺伝子をアデノウイルスベクターで導入する。

18年に87億ドルで買収したAveXis社の開発品。米国では19年に承認されたが、その後、承認審査期間中に獲得したデータを報告していなかったことが判明、政治問題にも発展した。EUではPRIME指定、日本でも先駆け指定されていたため順調なら19年に承認される見込みだったが、日本は今年3月に承認、EUは5~6月頃の見込みと、大きく遅延した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)と同様な抗CD38抗体で、再発難治多発骨髄腫に用いる。代表的な三次治療レジメンであるpomalidomideとdexamethasoneと併用で、体重1kg当り10mgを28日サイクルで第1サイクルは毎週、その後は隔週、200分(第3サイクルからは75分)点滴静注する。

第三相オープンレーベル試験では、PFS(独立評価委員会がMタンパクや放射線画像で評価)がメジアン11.5ヶ月とpomalidomideとdexamethasoneだけの群の6.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.596、p=0.001だった。有害事象は骨髄抑制や点滴関連反応、肺炎、下痢など。有害事象による治験離脱率、死亡率は対照群より小さかった。

Darzalexは点滴時間が初回は5-6時間、二回目以降も3-4時間と医療施設にとって手離れが悪いが、3-5分で済む皮注用製剤が欧米で承認審査中。Sarclisaはまだ適応が限られるので、5年のビハインドをキャッチアップするのは大変だろう。

リンク: サノフィのプレスリリース

BMSのZeposia(ozanimod)はS1P受容体調節剤。再発寛解型多発性硬化症の治療に用いる。米国で今週、承認されたので、委細は下記を参照してください。

リンク: BMSのプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスの抗IL-17A抗体、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)をnr-axSpA(非X線的体軸性脊椎関節炎)の治療に用いることが支持された。臨床試験では第52週のASAS40が偽薬比有意に改善した。

nr-axSpAは比較的新しい診断名で、強直性脊椎炎とX線所見が異なるものの臨床像が似通っており、同様な治療を受ける。このため、強直性脊椎炎をr-axSpAと呼び、両方合わせてaxSpAとして分類することを可能にした。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)はシアトル・ジェネティクスから米国外の開発販売権を取得した、抗CD30抗体。ホジキン型リンパ腫などに承認されているが、今回、未治療の全身性未分化大細胞型リンパ腫の治療にCHPレジメン(cyclophosphamide、doxorubicin、prednisone)と併用することが支持された。臨床試験では、CHPとvincristineを併用するCHOPレジメンよりPFS(無進行生存期間)が有意に上回った。

リンク: EMAのプレスリリース

Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)のKineret(anakinra)は、アムジェンが抗リウマチ薬として2001年に米国で発売した遺伝子組み替え型ヒト・インターロイキン-1受容体拮抗剤。専ら欧州で様々な希少疾患に適応拡大しているが、新たに、家族性地中海熱に用いることが支持された。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


BMS、多発性硬化症用薬が米国で承認
(2020年3月26日発表)

BMSは、FDAがZeposia(ozanimod)を再発型多発性硬化症用薬として承認したと発表した。選択的S1PR(スフィンゴシン-1-リン酸受容体1)調節剤で、類薬は多いが、治療開始時に遺伝子検査を行ったり初回投与時に何時間も経過観察することがレーベル上、求められていないことが差別化要因。用量漸増法の採用が寄与しているようだ。心毒性がないわけではなく、最近の心筋梗塞、心不全、不整脈歴は禁忌。

尚、FDAが再発型多発性硬化症と呼ぶカテゴリーは、通常の再発寛解型に加えて、CIS(多発性硬化症疑い例)や活性期二次性進行性多発性硬化症も含んでいる。

元々はReceptos社の開発品で、同社を15年に72億ドルで買収したセルジーンを、BMSが昨年、740億ドルで買収した。セルジーン株主はCVR(後発価値債権)を保有しており、主要パイプライン三品が全て承認されれば一株当たり9ドルを得ることができるが、その一つが無事、道標に到達した。

リンク: BMSのプレスリリース

ファイザー、アトピー用薬が3ヶ月児以上に対象年齢拡大
(2020年3月24日発表)

ファイザーは、FDAがアトピー性皮膚炎治療薬Eucrisa(crisaborole)の適応年齢を3ヶ月児以上に拡大することを承認したと発表した。

Eucrisaは16年に買収したAnacor Pharmaceuticalsの開発品で、PDE4を阻害する軟膏薬。米国で同年に2歳以上の軽中度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認された。EUでも今年1月にStaquis名でCHMPの肯定的意見を獲得した。一日二回、患部に塗布した臨床試験では、奏効率(第29日のISGA評価がクリアまたはほぼクリアに改善)が一本では32%(偽薬群は25%)、もう一本では31%(18%)となり、偽薬を有意に上回った。忍容性は良好だった。

今回の対象年齢拡大は3ヶ月~24ヶ月の幼児患者を組入れた安全性試験の成績に基づくもの。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、直接的経口抗凝固剤の現実の医療における出血リスクは治験データ並みと結論
(2020年3月27日発表)

EMAは直接的経口抗凝固剤の深刻出血リスクに関して後顧的観察的疫学研究を行ったが、臨床試験のデータ並みであったため、承認内容は変更しないと発表した。

検討対象となったのは、BMS/ファイザーの Eliquis(apixaban、和名エリキュース)、ベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran etexilate、和名プラザキサ)、バイエルのXarelto(rivaroxaban)。非弁膜性心房細動の治療を受けた英仏独など6ヶ国の患者のデータをビタミンK拮抗剤(ワーファリン)と比較した。

その結果、深刻出血の発現率は臨床試験の実績並みだった。三剤の比較も企図された模様だが、結論を出すにはデータ不足だった。大きなアドヒアランス問題は見つからなかった。

抗凝固薬はほぼ必然的に出血リスクを伴い、特に、高齢者は発生率が高くなる。今回の疫学研究で75歳を超える患者の出血リスクの高さを確認したため、EMAは、メーカーに用量変更の当否を検討するよう要請する考え。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

2020年3月20日

2020年3月20日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • イブプロフェンなどのNSAIDsはCOVID-19を悪化させるか? 
  • カレトラのCOVID-19試験がフェール 
  • リジェネロンら、IL-6阻害抗体でCOVID-19の臨床試験に着手 
  • プリジスタがCOVID-19に有効という裏付けはない 
  • CTCLの光線力学療法試験が成功 
  • ファイザー、JAK1阻害剤の三本目のアトピー性皮膚炎試験が成功 
  • ファイザー、20価肺炎球菌ワクチンの第三相が成功 
  • MSD、難治性慢性咳の第三相試験が成功 
  • バベンチオの頭頸部癌一次治療試験がフェール 
  • アストラゼネカ、小細胞肺がんにイミフィンジと抗CTLA4抗体を併用しても無益 
  • アストラゼネカ、VEGFR阻害剤のリムパーザ併用試験がフェール 
  • ノボ、抗TFPI抗体の第三相を中断 
  • Aurinia、カルシニューリン阻害剤をループス腎炎に承認申請 
  • JNJ、S1P1調節剤を多発硬化症に承認申請 
  • ファイザー、抗NGF抗体を承認申請 
  • EU、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認を停止


【今週の話題】


イブプロフェンなどのNSAIDsはCOVID-19を悪化させるか?
(2020年3月20日)

COVID-19の予防や治療に関する論説や商品は有象無象で、EBM風に言えば確立したエビデンスは少なく、多くの場合、根拠は薄弱だが体や財布が傷まないならやっても良いか、という程度である。ウイルスを破壊する空気洗浄機があるらしいが、私の体は大きくて装置の中で暮らすことができないので、室内の床やドアノブに付着したウイルスを吸い込んで殺すことができることを証明してもらわないと買う気になれない。もしコロナウイルスにも有効ならクルーズ船に運び込まれただろう。SARS-CoV-2よりエセ科学のほうが蔓延している。

イブプロフェンのようなNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)はCOVID-19の症状を悪化するか?発端はLancet誌に寄せられた書簡であるようだ。報道によればフランスの厚生大臣がibuprofenはCOVID-19を悪化させる可能性があるのでparacetamol(WHOが採用する一般名であるINNベース、米国のUSANではacetaminophen、日本のJANではアセトアミノフェン)を使うべきと発言し、フランスではparacetamolが品薄になったとのことである。

WHOからも同様な発言があった模様だが、その後、Twitter上で、現時点ではibuprofenを使うことに反対しないと表明した。EMAやFDAも、このような懸念を裏付けるエビデンスは存在しないと注意を促した。

Lancet書簡は、バーゼル大学病院のLei Fangら三名が連名で出したもの。COVID-19重症例は糖尿病や心血管疾患の持病を持っている人が多いという中国の事例報告に関連して、これらの疾患の治療に用いられる幾つかの薬が影響した可能性を指摘、他の種類の薬を使うよう示唆した。SARS-CoV-1や2は肺や小腸、腎臓、血管の上皮細胞に発現するアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)を通じて標的細胞に侵入する。ACE阻害剤やARB、チアゾリジンジオン(二型糖尿病薬)、ibuprofenはACE2の発現を増やす。従って、これらの薬はウイルスの細胞侵入を促進するというのである。

書簡は、三段論法の最初の2つについては根拠となる論文を引用しているが、結論部分を裏付ける論文や実験については言及していない。この種の三段論法は、論理的には正しくとも、それが患者の人生にどの程度重要なファクターなのかは改めて検討すべきものである。日本列島は少しずつ移動しているらしいが、私はそれでバランスを崩して倒れそうになったことはない。

FDAやEMAの言説は歯切れが悪い。悪いという証拠がないことは正しいことを意味しない、ということに留まらず、ibuprofenには長所だけでなく欠点もあり、そもそも、薬で症状が緩和すると感染の悪化に気付き難くなってしまう可能性もあるため、使うか使わないかは医師や患者が慎重に検討して決めるべきことだからだ。

私達は大声で断言する人たちに、つい耳を傾けてしまうが、責任ある立場の人たちの言説は常に慎重であることを忘れてはいけないだろう。

リンク: Lancet誌ホームページで電子刊行された書簡(3/11付、pdfファイル)
リンク: EMAのステートメント(3/18付)
リンク: FDAのステートメント(3/19付)
リンク: WHOのTwitter(3/19付エントリー)

カレトラのCOVID-19試験がフェール
(2020年3月18日発表)

COVID-19が最初に流行した中国、武漢では様々な医薬品の臨床研究が行われているが、SARSの経験に基づき早い段階からオフレーベル投与されているアッヴィのKaletra(lopinavir、ritonavir)の臨床試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。意外にもフェールしたが、検出力不足だったように感じられる。幾つかの二次的評価項目では良さそうな数値が出ているので、今後発表されるであろう他の医療施設の治験結果を待ってみたい。

このLOTUS China試験は、武漢のJin Yin-Tan Hospitalに入院した、COVID-19感染が確認された肺機能低下患者をKaletraを投与する群と投与しない群に無作為化割付して、罹患期間や28日死亡率などを比較した。Kaletra群は400mg/100mgを一日二回、14日間投与した。症例数は当初は160人の予定だったが、組入れ完了後に検出力不足が判明、199人に増やした。ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)の臨床試験開始の余波を受けたようなので、本当はもっと組入れたかったのかもしれない。

結果は、主評価項目である臨床的改善までの時間は、メジアン値が両群とも16日、ハザードレシオは1.24で統計的に有意ではなかった。カプラン・マイヤー・カーブを見るとKaletra群のほうがどの時点でも臨床的改善達成率が偽薬群と同等以上だったが、群間差は大きく変動している。両群の曲線がギザギザで滑らかではないことと合わせて、症例数の少なさが響いているのではないか。

二次的評価項目は28日死亡率がKaletra群19.2%、非投与群25.0%と大きな差があったが統計的に有意ではなかった。ICU滞在期間のメジアン値は各6日と11日でこれもかなり違う。

一方で、ウイルス量の減少は両群大差なかった。論文著者は検査の間隔が空きすぎた可能性を指摘しているが、釈然としない。

Kaletra群は13.8%の患者が有害事象により投与を中止した。

この試験の難点は、検出力不足に加えて、発症から無作為化割付までのリードタイムがメジアン13日と長いこと。死亡率も高く、もっと早い段階で投与したら異なった結果になったかもしれない。

流行の比較的早い段階で開始された試験なので、診断方法やスピード、支持療法の内容などは、今日のスタンダード・プラクティスとは異なっているかもしれない。その意味でも、他の臨床試験の結果も見てみたい。

リンク: Caoらの治験論文(NEJM)

リジェネロンら、IL-6阻害抗体でCOVID-19の臨床試験に着手
(2020年3月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Kevzara(sarilumab、和名ケブザラ)の第2/3相重度COVID-19試験に着手したと発表した。米国でCOVID-19の本格的な臨床試験が行われるのは初めてではないか。欧州などでもサノフィが開始する予定。

KevzaraはIL-6受容体のアルファ・サブユニットに結合する抗体医薬で、中重度リウマチ性関節炎の治療薬として日米欧などで承認されている。類薬である中外製薬/ロシュのActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)は中国で行われた治験で肺炎を合併した患者の解熱や酸素吸入不要化で良好な成果を上げ、当地の診療ガイドラインに採用された。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因になる炎症免疫反応に関与しているIL-6の作用をブロックする抗体は、抗ウイルス作用というよりはIL-6亢進を伴う合併症の改善に寄与するのだろう。

米国の臨床試験は高熱・肺炎を伴う重度COVID-19感染症の入院患者400人を組入れて、偽薬対照二重盲検試験を行い、第三相ポーションでは人工呼吸器や酸素吸入などの臨床的転帰や死亡リスクを検討する。

Kevzaraは07年にリジェネロンがサノフィと結んだ複数の抗体医薬に関する提携の産物だが、両社は19年に提携関係を見直し、Kevzaraに関しては米国を含む世界市場でサノフィが単独で開発販売することになった。しかし、COVID-19やARDSに関しては引き続き、リジェネロンが米国で、サノフィは米国外で、主導するとのことだ。

リジェネロンはエボラウイルス疾患の治療薬の開発で最も大きな成果を上げ、抗体カクテルを米国で承認申請した。SARS-CoV-2についても二種類の抗体のカクテルを開発して、年央に臨床試験を開始する考えだ。

リジェネロンに続いて、英国のEUSA Pharmaも、イタリアのPapa Giovanni XXIII Hospitalが主導して抗IL-6キメラ抗体、Sylvant(siltuximab)の重度COVID-19試験に着手したと発表した。観察的研究で、過去事例とケース・コントロール研究を行うようだ。

Sylvantはジョンソン・エンド・ジョンソンが14年に欧米で多中心性キャッスルマン病治療薬として承認を取得、18年にEUSA Pharmaが世界の権利を1.5億ドルで入手した。中国の権利はBeiGeneにライセンスした。

更に、ロシュもFDAやBARDA(米国の生物兵器防衛対策組織)とともに、重度COVID-19肺炎330人を組入れるグローバル無作為化割付偽薬対照試験を4月に開始すると発表した。Actemraは大阪大学などの免疫学研究の成果なので、日本も参加するのではないか。

リンク: リジェネロンらのプレスリリース
リンク: 抗体カクテルに関するプレスリリース(3/17付)
リンク: EUSA Pharmaのプレスリリース(3/18付)
リンク: ロシュのプレスリリース(3/19付)

プリジスタがCOVID-19に有効という裏付けはない
(2020年3月20日アクセス)

製薬会社は新薬開発が成功し無事、承認にたどり着くと、様々な追加的な研究を行ってブランドイメージの向上を図る。適応拡大試験が成功すると大々的に発表し、フェールするとブランド名ではなく一般名や開発コードで発表する。経済的利害が大きいので発表内容にバイアスがないか、吟味する必要があるが、考えてみれば、産業界だけでなくアカデミアも、名誉欲だけでなく、患者のために新薬の臨床試験が成功してほしい、あるいは、良い薬が発売されたことを一人でも多くの患者に知ってほしいという善人のバイアスを持っているはずだ。ことさらに製薬会社のニュースだけ眉唾する必要はないだろう。

だからということでもないが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの面白いプレスリリースを紹介したい。同社のHIV/AIDS治療用のプロテアーゼ阻害剤、Prezista(darunavir)について、COVID-19に有効という事例報告が出ているが十分なエビデンスがあるとは承知していない、と発表したのだ。同社は様々なコンパウンドの抗SARS-CoV-2活性を調査したが、in vitroでも、構造解析でも、有効性は確認されていない。安全性や有効性に関する外部研究者の公表データも存在しない由。

同社は中国の臨床試験三本に薬剤を提供しているが、3月20日に改めてアクセスしたところ、Shanghai Public Health Clinical Centerで行われた臨床試験がフェールしたことが記されていた。

anecdotal evidenceは事例証拠と翻訳されているようだが、確立していない証拠という、暫定的、あるいは否定的なニュアンスもある。事例証拠を鵜呑みにせず、エビデンスに基づく行動、あるいは、エビデンスを確立するための行動を取るべきという指摘は尤もだ。

リンク: JNJのプレスリリース


【新薬開発】


CTCLの光線力学療法試験が成功
(2020年3月19日発表)

米国ニュージャージー州の新興製薬会社、Soligenix(Nasdaq:SNGX)は、SGX301の第三相皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)試験が成功したと発表した。詳細は6月に発表する予定。承認申請に向かう。

SGX301はセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリ)に含まれる光増感効果を持つ色素、ヒペリシンを化学合成した軟膏薬。皮膚病変に塗布すると悪性T細胞に集積、16~24時間後に蛍光灯照射すると活性化して増殖を抑制する。第三相試験では、早期(ステージIAからIIA)の患者169人を偽薬と2対1割付して、8週サイクルで最初の6週間に週2回のペースで施行して、第1サイクル後の病変縮小効果を検討した。

結果は、奏効率(Composite Assessment of Index Lesion Scoresが50%以上改善した患者の比率)が16%と偽薬群の4%を上回った(p=0.04)。第2サイクルは全員に投与したところ、奏効率は35%と第1サイクルの試験薬群のデータと比べても上回る数値が出た。

第1サイクルの奏効率はあまり印象的ではなく、第2サイクルはドロップアウトの影響があったかもしれないので、詳細発表を待ちたい。そもそも、この奏効率は患者のQOLや寿命とどの程度リンクするのだろうか?

リンク: Soligenixのプレスリリース

ファイザー、JAK1阻害剤の三本目のアトピー性皮膚炎試験が成功
(2020年3月18日発表)

ファイザーは、PF-04965842(abrocitinib)の三本目の第三相アトピー性皮膚炎試験の成功を発表した。既に二本成功しているが、今回はリジェネロンのDupixent(dupilumab)との差別化に関わるエビデンスも獲得したことが成果。

局所的治療を受けている中重度アトピー性皮膚炎患者837人を偽薬(延長試験で100mgまたは200mgを投与するため二群設定)、100mg、200mg、そしてDupixentの5群に無作為化割付して、共同主評価項目であるIGA奏効率とEASI75達成率を比較したところ、200mgは第12週と第16週の両方で偽薬を有意に上回った。100mgは第12週時点だけだった。一方、二次的評価項目の一つである第2週の痒み評価は200mgがDupixent比でも有意に改善、100mgは数値上上回ったが有意ではなかった。

深刻な有害事象の発生率は各群3.8%、2.5%、0.9%、0.8%で大きな違いはない。有害事象による治験離脱は各3.8%、2.5%、4.4%、3.3%だった。

PF-04965842はJAK1阻害剤。Dupixentとの違いは一日一回の経口剤であることと、IL-4とIL-13だけでなく、痒みに関連するIL-31も阻害すること。数値が未発表なので臨床的な意義は分からないが、もし統計学的にしか有意でなかったとしても、今回の試験成績は宣伝材料になるだろう。

ファイザーは年内に承認申請する考え。承認審査では免疫抑制に伴う有害事象リスクも検討されるだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ファイザー、20価肺炎球菌ワクチンの第三相が成功
(2020年3月18日発表)

ファイザー(と買収される前のワイス)は2000年に7価肺炎球菌ワクチンPrevnar(和名プレベナー)、2011年に13価のPrevnar 13を発売したが、今度は20種類の血清型をカバーする新ワクチン、PF-06482077(別名20vPnC)の第三相試験を成功させた。18才以上で過去に肺炎球菌ワクチンを接種したことのない3880人を組入れた、メインの第三相試験で、主評価項目である60才以上における免疫原性が、19の血清型について、既存のワクチン(Prevnar 13がカバーする型についてはPrevnar 13、それ以外は23価肺炎球菌多糖体ワクチンのPneumovax)と非劣性だった。Prevnar 13がカバーしていない型の一つについては僅かに届かなかったようだが、FDA側は、承認に差し支えるほどではないと考えている由だ。18-59才における免疫原性は、全ての型に関して、60-64才と非劣性だった。

ファイザーは20年末までに承認申請する考え。

Prevnar 13は昨年、ACIP(予防接種に関する推奨を行う米国の諮問委員会)が65才以上に関する勧奨を変更し、免疫低下など特定の条件を満たす過去に接種歴がない人以外は、本人と担当医が相談して決定することとした。小児期における接種が普及し肺炎球菌性感染症が減少、高齢者に感染するリスクが低下したことが理由のようだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

MSD、難治性慢性咳の第三相試験が成功
(2020年3月17日発表)

MSDは、MK-7264(gefapixant)の第三相慢性咳治療試験二本が成功したと発表した。データは学会で発表する計画。承認申請に向かうだろう。

難治性、あるいは説明不可能な慢性咳の患者を組入れて、15mgまたは45mgの何れかを一日二回、経口投与し、一本は第12週、もう一本は第24週の咳の回数(オーディオレコーダーで24時間記録)を偽薬と比較したところ、45mg群は二本とも有意な差があった。一方、15mg群は二本ともフェールした。安全性や忍容性は第二相試験と同様だった由。

慢性咳の米国における罹患率は10%で、うち2~4割は原因が不明とのこと。知覚神経の過剰感作が影響しているケースもあるようだ。MK-7264は選択的P2X3受容体アンタゴニストで、ATPがP2X3受容体を刺激して知覚神経を過剰感作するのを妨げる。

後期第二相試験では50mgを一日二回投与した群の咳が有意に減少した。20mg群や7.5mgは有意ではなかったが数値上は偽薬群より少なかった。難点は用量依存的な味覚異常で、50mg群は半分近くの患者が経験、それによる治験離脱は16%に達した。

第三相の用量が若干少ないのは忍容性の緩和を図ったのだろうが、忍容性が第二相試験と同様であったことや、発生率が低いはずの15mg群が効果の面で不十分だったことは、残念だ。

MK-7264は、09年にロシュからスピンアウトしたAfferent Pharmaceuticalsを16年に当初金5億ドル、開発商業化目標達成金7.5億ドルで買収して入手したコンパウンド。

リンク: MSDのプレスリリース

バベンチオの頭頸部癌一次治療試験がフェール
(2020年3月13日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとファイザーは、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の適応拡大試験がフェールしたと発表した。頭頸部扁平上皮腫の一次治療として治癒的化学放射線療法を受ける患者にBavencioを追加する効果を検討したが、独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定。続行しても主評価項目であるPFS(無進行生存期間)に有意な差が出る可能性は極めて小さいと判断。両社は勧告を受け入れて治験中止を決めた。

Bavencioは抗PD-L1抗体で、メルケル細胞腫などに承認されている。後発であるせいか、ニッチな用途や難しい癌の試験にも取り組んでおり、そのせいか、フェールも少なくない。頭頸部癌ではMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)が転移・切除不能難治性の患者にモノセラピー(PD-L1高発現の場合)または白金薬などと併用することが欧米で承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース

アストラゼネカ、小細胞肺がんにイミフィンジと抗CTLA4抗体を併用しても無益
(2020年3月17日発表)

アストラゼネカは、第三相CASPIAN試験の共同主評価項目の結果を発表した。伸展型小細胞性肺癌の一次治療として、cisplatinまたはcarboplatinをetoposideと併用する対照群と、更に抗PD-L1抗体のImfinzi(durvalumab)を追加する三剤併用群、そして抗CTLA4抗体のtremelimumabも追加する四剤併用群の全生存期間を比較した試験で、三剤併用群は中間解析で目的を達成、日米欧で適応拡大申請中。

今回、四剤併用群がフェールしたことが発表された。残念だが、Imfinziとtremelimumabの併用療法は他の癌でも第三相試験が軒並みフェールしており、事前の期待は小さかった。

抗CTLA4抗体と言えばBMSのYervoy(ipilimumab)が複数の癌に承認されており、一部はOpdivo(nivolumab)との併用だ。両剤は軽鎖などのアミノ酸配列が異なるが、CTLA4側の結合部位、エピトープは同じだ。固定領域がIgG2型なので、ADCC活性やCDC活性がYervoyより小さい可能性があり、明暗が分かれた原因かもしれない。

tremelimumabはファイザーが第三相試験を行ったがフェール、アストラゼネカのメディミューン子会社にアウトライセンスした。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、VEGFR阻害剤のリムパーザ併用試験がフェール
(2020年3月12日発表)

アストラゼネカとMSDは、cediranibのLynparza(olaparib、和名リムパーザ)併用試験がフェールしたと発表した。このVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤は様々な癌の第三相試験がフェールしている。

今回のGY004試験は米国立癌研究所が主導するオープンレーベル試験で、再発卵巣癌に両剤を併用する効果を白金薬ベースの化学療法レジメンと比較した。主評価項目はPFS(無進行生存期間)。データは研究者側が発表する予定。

リンク: 両社のプレスリリース

ノボ、抗TFPI抗体の第三相を中断
(2020年3月16日発表)

ノボ ノルディスクは、NN7415の第三相試験二本と第二相を中断したことを明らかにした。有害事象が原因だが、よほど深刻でない限り、再開に向かう可能性のほうが開発中止より可能性が高いのではないか。

NN7415は活性化血液凝固第VII因子と組織因子の複合体による第X因子の活性化を抑制する天然のインヒビター、TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)を標的とする抗体医薬。TFPIが欠乏している血友病患者は出血リスクが小さいとされる。

第三相はA型とB型の血友病患者の出血を予防するルーチン投与試験が一本はインヒビターを持つ患者、もう一本は持たない患者を組入れて開始した。第二相試験を含めて109人に投与中だったが、第三相試験で3人が非致死的血栓性イベントを発現したため、今後の投与と新規組入れを停止した。

リンク: ノボのプレスリリース


【承認申請】


Aurinia、カルシニューリン阻害剤をループス腎炎に承認申請
(2020年3月16日発表)

カナダのAurinia Pharmaceuticals(TSX:AUP、Nasdaq:AUPH)は米国でvoclosporinをループス治療薬としてローリング承認申請を開始したと発表した。第2四半期中に完了する計画。長い臨床開発歴を持つカルシニューリン阻害剤で、第三相試験では、MMFやステロイドによる治療を受けている患者に23.7mgを一日二回、経口投与したところ、52週時点の腎反応率(eGFRや尿蛋白クレアチニン・レシオなどで評価)が40.8%と偽薬群の22.5%を有意に上回った。深刻有害事象発現率は21.3%で偽薬群の20.8%と大差なかった。但し、死亡者は5人と偽薬群の1人より多かった(組入れ数は335人)。

リンク: Auriniaのプレスリリース

JNJ、S1P1調節剤を多発硬化症に承認申請
(2020年3月18日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンは、EUに続いて米国でもponesimodを再発型多発硬化症用薬として承認申請したと発表した。S1P1受容体調節剤で、ロシュのスピンアウトであるアクテリオン社を17年に子会社化して入手した製品・パイプラインの一つ。第三相試験では、20mgを一日一回経口投与した群の年率再発率が0.202と、teriflunomide 14mgを一日一回経口投与した群の0.290を有意に下回った。

リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

ファイザー、抗NGF抗体を承認申請
(2020年3月2日発表)

ファイザーとイーライリリーは、PF04383119(tanezumab)を米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は12月。ヒトNGFを標的とする抗体は後述の副作用があるため、FDAが開発の当否を諮問委員会に諮問したことがあるが、改めて承認の当否を諮問する考えのようだ。日本やEUでも承認申請する計画。

予定適応症は難治性の中重度変形性関節炎による慢性疼痛。8週毎に皮柱する。

NGFを発見したジェネンテックのスピンアウトであるRinat Neuroscienceを06年に買収して入手したパイプライン。抗hNGF抗体は複数の会社が開発に凌ぎを削っていたが、後に急速進行形変形性関節症(RPOA)と呼ばれることになる有害事象が表面化、FDAがクリニカルホールドを命じたことがある。tanezumabの第三相試験でも1型(関節裂隙狭小化が早い)、2型(関節損傷・破壊)とも発現率が偽薬群より高かった。関節全置換術を受けた患者も偽薬群より多かった。

原因は不明。疼痛が緩和して行動的になることが裏目に出るのかもしれないが、関節に良い薬なのか、悪いのか、よくわからない。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EU、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認を停止
(2020年3月13日発表)

EUの薬品承認審査機関、EMAは、Gedeon Richterの子宮筋腫治療薬Esmya(ulipristal acetate)の承認を停止すると発表した。欧州委員会の要請を受けて、PRAC(市販後医薬品監視・リスク評価委員会)が肝毒性を再検討することが理由。

Esmyaは選択的プロゲスチン受容体調節剤で、欧州で12年に、13年にはカナダでも、子宮筋腫治療薬として承認された。日本でもあすか製薬が昨年12月に承認申請している。米国はアラガンが17年に承認申請したが、深刻な肝障害リスクが見られることから、承認されなかった。

EUでも17年にPRACが審査を開始、18年に新患には投与しないこと、治療を受ける患者は定期的な肝臓検査を受けることを勧告した。今回、承認停止にステップアップしたのはその後も肝障害報告が増えているため。

EMAは、速やかに患者とコンタクトして治療を止めるよう求めている。3月23日を目処にドクターレター(Direct Healthcare Professional Communication)を発出しEMAのウェブサイトにも掲載する予定。

尚、今回の規制や肝毒性リスクは、同じ活性成分を持つ事後的緊急避妊薬、ellaOneは関係ない。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

2020年3月15日

2020年3月15日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、血糖治療薬の開発ガイダンスをアップデート 
  • BMS、エムプリシティの一次治療試験がフェール 
  • 武田のニンラーロも一次治療試験がフェール 
  • オプジーボとヤーボイの併用による肝細胞腫二次治療が米国で承認 
  • BI、オフェブが多様な間質性肺疾患に適応拡大 


【今週の話題】


FDA、血糖治療薬の開発ガイダンスをアップデート
(2020年3月10日発表)

FDAは二型糖尿病の血糖治療薬の開発に関するガイダンスをアップデートし、草案を公開した。6月8日までの90日間、コメントを受け付ける。08年に公表されたガイダンス文書は撤回され、FDAのサイトで検索してもヒットしなくなった。

08年ガイダンスはPPAR作動剤の副作用禍を機に、心血管安全性審査を強化したもの。臨床試験に十分な数の高リスク患者を組入れて検出力を高め、ハザードレシオの信頼区間上限が一定の閾値を下回ることを確認するよう求めた。閾値は1.3に設定されたが、臨床試験費用が膨らみ開発期間が長期化するのを抑制するために、新薬承認審査段階では、複数の試験のメタアナリシスで1.8を下回れば良しとした。もし上回った場合は承認前に、1.3以上1.8未満であった場合は承認後に、大規模長期の心血管アウトカム試験を行わなければならない。

今回のガイダンスは、心血管安全性の評価方法や閾値の明示を止める一方で、様々な高リスク症例の組入れを充実させて多面的な安全性評価を行うよう求めた。FDAは懸念材料を見つけたらケースバイケースで対応する。

具体的には、第三相試験で4000人年以上の試験薬安全性データを構築する。うち、1年以上の投与実績は1500人以上、2年以上が500人以上とする。通常の慢性疾患用薬に関する要求よりは厳しくなっている。

高リスク・サブグループの投与実績に関しては、ステージ3/4の慢性腎疾患が500人以上、確立した心血管疾患(心筋梗塞など)は600人以上、65歳以上は600人以上、を求めた。全てに該当する患者600人ではダメで、何れかに該当する患者を1200人以上、組入れなければならない。

心血管安全性評価は今後も重視され、発現時は第三者による査読が必要。

個々の開発品に関する安全性懸念がある場合、FDAは、第三相試験開始前に指摘して、リスクが許容範囲であることを確認するために十分な検出力を持たせるよう要求する。

印象としては、製薬会社というよりはFDAに対する規制緩和だ。ガイダンス文書を作成する目的は、FDAがケースバイケースの名のもとに恣意的な判断を下すのを防ぐことにあるからだ。ページ数が大きく減ったことと合わせて、ガイダンス文書としては一歩後退したと言わざるを得ない。

リンク: FDAのコメント募集ページ


【新薬開発】


BMS、エムプリシティの一次治療試験がフェール
(2020年3月9日発表)

BMSはEmpliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)の多発骨髄腫一次治療試験がフェールしたと発表した。造血幹細胞移植が適応にならない初発患者を組入れて、Revlimid(lenalidomide)と低量dexamethasoneを併用するRdレジメンに追加する効果をRdレジメン群とオープンレーベルで比較したが、主評価項目のPFS(無進行生存期間)が有意に上回らなかった。データは学会発表の予定。

EmplicitiはSLAMF7(CS1糖蛋白)に結合するヒト化抗体で、15~16年に日米欧で多発骨髄腫の二次治療薬としてRdレジメンに併用することが承認された。再発治療に有効なら一次治療にも効きそうなものだが、不思議だ。

次項のように、競合薬のNinlaroも同様なパターンで一次治療試験がフェールしている。

リンク: BMSのプレスリリース

武田のニンラーロも一次治療試験がフェール
(2020年3月10日発表)

武田薬品はNinlaro(ixazomib、和名ニンラーロ)の多発骨髄腫一次治療試験がフェールしたと発表した。造血幹細胞移植試験が適応にならない初発患者705人を組入れて、Revlimid(lenalidomide)と低量dexamethasoneを併用するRdレジメンに追加する効果を偽薬追加群と比較したが、主評価項目のPFS(無進行生存期間)が有意に上回らなかった。メジアン値は35.3ヶ月対21.8ヶ月で1年以上の差があったが、ハザードレシオは0.83とそれほどでもなく、ログランクp値は0.073だった。

Ninlaroは代表的な多発骨髄腫用薬であるVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤で経口剤であることが特徴。15~17年に日米欧で多発骨髄腫の二次治療薬としてRdレジメンに併用することが承認された。再発治療に有効なら一次治療にも効きそうなものだが、不思議だ。

EUの承認は条件付きで、一次治療試験などを通じて効能を確立しないと取り消される可能性があるため、今回のフェールは痛い。他の試験では、大量化学療法と自家造血幹細胞移植が奏効した初発患者656人を組入れた維持療法試験が成功し、日本でまもなく適応拡大が承認される見込みだが、米国ではNinlaroも、似通った試験が成功したRevlimidも、承認されなかった(承認申請撤回)。多発骨髄腫は米国よりEUのほうがPFSに基づく承認に慎重なので、米国ですら承認されなかったのだからEUでは難しいだろう。治験登録を見る限りでは他に役立ちそうな第三相試験は行われていないようだ。EUでの承認維持はピンチと考えざるを得ない。

競合薬では、ジョンソン・エンド・ジョンの抗CD38抗体、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)が、様々な段階で様々なレジメンと併用する試験を成功させている。自家造血幹細胞移植不適の初発患者ならRdレジメン併用も、Velcadレジメン併用も、欧米では承認されている。今のところ、三剤の適応拡大競争はJNJに軍配が上がりそうだ。

リンク: 武田薬品のプレスリリース


【承認】


オプジーボとヤーボイの併用による肝細胞腫二次治療が米国で承認
(2020年3月11日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブは、抗PD-L1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)を肝細胞腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。バイエルのNexavar(sorafenib)による治療歴を持つ患者が適応になる。最初の4回はOpdivoは1mg/kg、Yervoyは3mg/kgを三週毎に、その後はOpdivoのみ240mgを二週毎に、点滴静注する。反応率データに基づく加速承認なので、別途、延命またはそれに準じる効果を検討する試験を行って便益を確認する必要がある。

第1/2相CheckMate-040試験では、BICR-ORR(盲検独立中央評価による客観的反応率)が33%(完全反応8%、部分反応24%)だった。反応者の56%は反応持続期間が12ヶ月以上だった。深刻有害事象の発現率は59%で、有害事象による治療中止が29%の患者で発生した。

同様な適応で承認されている競合薬の治験成績を見ると、MSDのKeytruda(モノセラピー)はKeynote-224試験でBICR-ORRが17%だった。また、Nexavarと類似した化学構造を持つVEGFR阻害剤であるバイエルのStivarga(regorafenib、モノセラピー)は、偽薬対照二重盲検試験で、Inv-ORR(担当医評価による客観的反応率)が7%、偽薬群は3%(!)だった。こうしてみると、Opdivo・Yervoy併用のパワーは大きい。

リンク: BMSのプレスリリース

BI、オフェブが多様な間質性肺疾患に適応拡大
(2020年3月9日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、FDAがOfev(nintedanib、和名オフェブ)の適応拡大を承認したと発表した。特発性肺線維症や全身性強皮症(SSc)に伴う間質性肺疾患(ILD)の治療薬として承認されているトリプル・アンジオキナーゼ阻害剤だが、SSc以外の進行性の慢性線維化性ILD、具体的には、「分類不能」型や自己免疫性のILD、慢性過敏性肺臓炎、サルコイドーシス、筋肉炎、シェーグレン症候群、石炭労働者じん肺炎、特発性非特定的間質性肺臓炎などによる慢性繊維化症が新たに適応になり、ILD患者の18-32%をカバーできるようになった。

リンク: BIのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2020年3月8日

2020年3月8日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • WSJ紙:ドイツのベバスト社、COVID-19の封じ込めに成功 
  • Karyopharm、Xpovioの三剤併用多発骨髄腫試験が成功 
  • アストラゼネカ、イミフィンジの膀胱癌試験がフェール 
  • ベネクレクスタ、AMLの市販後薬効確認試験がフェール 
  • OAB治療薬ベオーバが米国でも承認申請 
  • JNJ、ponesimodをEUで承認申請 
  • FDA、ノバルティスのクッシング症候群治療薬を承認 
  • FDA、サノフィの抗CD38抗体を多発骨髄腫三次治療薬として承認 
  • ノバルティス、ベオビュの網膜血管炎報告に関してプレスリリース 
  • FDA、シングレアの自殺リスクなどの警告を強化 
(2020年3月10日追補:ノバルティスのクッシング症候群治療薬について、レコルダッチが権利取得済みである旨を追記しました)

【今週の話題】


WSJ紙:ドイツのベバスト社、COVID-19の封じ込めに成功
(2020年3月8日発表)

ドイツの自動車用機器メーカー、ベバスト社は、トップの果断な対策によりCOVID-19の社内感染を封じ込めることに成功した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。政府と国民の関係とは異なり、経営者は企業と社員を守るために思い切った決定を行い、社員に遵守させることができる。逆に言えば、封じ込みの成否は経営者次第であることを、このエピソードは示している。

感染の発端は、ドイツで行われた研修に参加した中国の社員が疑われているようだ。帰国後に発熱したため1月25日土曜日に受診し、陽性と判明、上司に報告した。ドイツでも、数日前から発熱のあった社員が話を聞いて受診したところ、陽性と判明した。

エンゲルマンCEOは1月27日月曜日に報告を受け、その日のうちに危機対策委員会を設置した。委員は感染検査を受けた。感染して開催できなくなった時のためのシャドー委員会も設置した。また、バイエルン州の専門家チームの支援を求めるとともに、感染者の接触者を手間ひまかけて探し出した。接触者解明前に感染が広がるのを防ぐため、1月28日火曜日から週末まで全社員に在宅勤務を命じた。

結局、ドイツの社員の1割以上が感染していたことが判明したが、それ以上広がることはなく、現在では、感染者全員が退院している。

1月28日と言えば、武漢ではまだ感染者が急増している時期で、日本では1月29日から政府チャーター便による武漢在住者の帰国が開始されたが、ドイツでは、上記がCOVID-19感染第一号と推測される。この段階で迅速に対応したことは危機管理のお手本にできるだろう。

特に注目したいのは、感染者の行動履歴をキチンと追って検査を行ったことと、在宅勤務をセットで行ったこと。日本でもスポーツジムやライブハウスにおけるクラスター感染が観察されているが、感染者からのヒアリングをキチンと行えば、関東でももっと多くのクラスターを発見し、それ以上の伝播を防げるかもしれない。感染経路不明の市中感染が広がったと決めつけて、ウイルス検査に積極的に取り組まなかったり、広範な感染抑制策を導入し出口が見えないまま長期間続けたりすることを防げるかもしれない。

リンク: ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版の記事(要購読)


【新薬開発】


Karyopharm、Xpovioの三剤併用多発骨髄腫試験が成功
(2020年3月2日発表)

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)は、Xpovio(selinexor)の第三相BOSTON試験が成功したと発表した。三次までの治療歴を持つ再発難治多発骨髄腫患者を組入れて、Velcade(bortezomib)および低量dexamethasoneと三剤併用するSVdレジメンの効果をVelcadeと低量dexamethasoneだけを併用するVdレジメンと比較したところ、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が各群13.93ヶ月と9.46ヶ月、ハザードレシオは0.70、p=0.0066となり、主目的を達成した。尚、三剤併用群はVelcadeとdexamethasoneを週一回投与と、対照群の週二回より減量している。


Xpovioは核外輸送蛋白XPO1(エクスポーティン1)を阻害して腫瘍抑制的タンパクが核外に排出されるのを妨げる。BOSTON試験は19年7月に米国で多発骨髄腫のサルベージ療法(5次治療)薬として加速承認された時のフェーズIVコミットメントでもあるので、20年第2四半期に本承認に切替と適応拡大を申請する予定。欧州はサルベージ療法として承認審査中。日本は小野薬品が導入した。

米国では最大で年69000人が多発骨髄腫の薬物療法を受けていると推定されている。2~4次治療に用いることが承認されれば対象人口が約3万人と、今より一桁増えることになる。

リンク: Karyopharmのプレスリリース

アストラゼネカ、イミフィンジの膀胱癌試験がフェール
(2020年3月6日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)の第三相DANUBE試験がフェールしたと発表した。切除不能転移膀胱癌の一次治療におけるモノセラピーや抗CTLA-4抗体tremelimumab併用療法の延命効果を検討したが、gemcitabineと白金薬を併用する標準療法と有意差がなかった。この試験は17年に米国で再発膀胱癌のモノセラピーとして加速承認された時の市販後薬効確認試験なので、最悪、加速承認取消の可能性もあるが、化学療法併用を検討している第三相NILE試験の結果が22年頃に開票するまで先送りされるのではないか。

膀胱癌は抗PD-1/PD-L1抗体の代表的な用途であったが、モノセラピーによる一次治療に関してはよくわからないところがある。KeytrudaやTecentriqはcisplatin不耐患者の一次治療に承認されたが、その後の試験でPD-L1陰性に対する効果が対照薬と比べて不十分であったため、適応がPD-L1高発現のみに限定された(米国はcarboplatinにも不耐なら陰性でも可)。

PD-L1発現検査アッセイは各社マチマチなので比較は難しいが、DANUBE試験のモノセラピーの解析対象は、腫瘍細胞や腫瘍浸潤免疫細胞における発現頻度が25%以上と、通常より高発現の患者だった。それでもフェールしたのだから、失望が大きい。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ベネクレクスタ、AMLの市販後薬効確認試験がフェール
(2020年2月28日発表)

アッヴィは、Venclexta(venetoclax、和名ベネクレクスタ)の第三相初発AML(急性骨髄性白血病)試験がフェールしたと発表した。フェーズIVコミットメントなので、最悪の場合、適応拡大が取り消される可能性がある。尤も、数値自体は悪くないので、今回公表されたトップラインデータだけでは足りず、詳細結果の発表を待ちたい。

Venclextaはロシュ/ジェネンテックと共同開発した選択的bcl-2阻害剤。16年に欧米で、19年には日本でも、慢性リンパ性白血病用薬として承認され、米国ではジェネンテックと共同で、海外ではアッヴィが単独で販売している。

AMLは75歳以上または強化化学療法不適の新患にazacitidine、decitabine、または低量cytarabineと併用することが18年11月に米国承認された。第二相試験の完全寛解率データに基づく加速承認なので、別途、第三相対照試験を実施して全生存期間またはそれに準じる指標が向上することを確認する必要がある。

今回のVIALE-C試験は低量cytarabine併用を検討した無作為化割付偽薬対照二重盲検試験。211人を二剤併用群と偽薬・低量cytarabine併用群に2:1割付して全生存期間を比較したところ、メジアン値は7.2ヶ月対4.1ヶ月と上回りハザードレシオも0.75と悪くなかったが、p値が0.11となり有意差が出なかった。

この解析はメジアン12ヶ月間追跡後だが、更に6ヶ月追跡して行った解析では、ハザードレシオ0.70、95%信頼区間0.50-0.99と、事後的解析なので統計学的に有意とは言えないが、悪い数値ではなかった。

また、二次的評価項目の完全寛解率(血球数回復不完全例を含む)は47.6%対13.2%、完全寛解率は27%対7%で、どちらもp<0.001だった。因みに、承認の根拠となった61人の低量cytarabine併用試験では完全寛解率が21%だったので、似たような結果だ。

深刻有害事象は血小板減少症や貧血が少し増加した程度。

azacitidine併用の第三相寛解導入療法は2021年に結果が出る見込み。

リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: 治験登録サイトで開示された治験結果(NCT03069352試験として登録)


【承認申請】


OAB治療薬ベオーバが米国でも承認申請
(2020年3月5日発表)

Urovant Sciences(Nasdaq:UROV)は、FDAがvibegronの新薬承認申請を受理したと発表した。審査期限は12月26日。現時点では諮問委員会招集の考えはないようだ。

Urovantはバイオ株投資家から転じた起業家、Vivek Ramaswamyが設立したRiovant Sciences社の傘下でMSDからライセンスしたvibegronの開発を行っている。尚、Riovant傘下の5社は昨年12月に大日本住友製薬の子会社となった。

vibegronは選択的ベータ3アドレナリン受容体作動剤。18年にキョーリンが日本で過活動膀胱治療薬として製造販売承認を取得した。日本の用法は50mgを一日一回経口投与だが、米国申請は75mg一日一回。臨床試験では効果が偽薬を有意に上回ったが、tolterodineとは有意差がなかった。

類薬であるアステラス製薬のMyrbetriq(mirabegron、和名ベタニス)と異なり血圧・心拍影響は小さそうだが、9年遅れで発売されるハンデを覆すほどの差別化要因ではなさそうだ。

リンク: Urovantのプレスリリース

JNJ、ponesimodをEUで承認申請
(2020年3月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンは、ponesimodをEUに再発型多発硬化症用薬として承認申請したと発表した。S1P1受容体調節剤で、ロシュのスピンアウトであるアクテリオン社を17年に子会社化して入手した製品・パイプラインの一つ。第三相試験では、20mgを一日一回経口投与した群の年率再発率が0.202と、teriflunomide 14mgを一日一回経口投与した群の0.290を有意に下回った。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


FDA、ノバルティスのクッシング症候群治療薬を承認
(2020年3月6日)

FDAはノバルティスのIsturisa(osilodrostat)を成人のクッシング症候群の治療薬として承認した。コルチゾール合成に関わる酵素である11ベータ水酸化酵素を阻害することにより、クッシング症候群におけるコルチゾール分泌過剰を矯正する。一日二回、経口投与。2mgで開始、コルチゾール値や副作用を見ながら最大30mg一日二回まで増量できる。尚、1月に承認したEUによると、アジア系は1mgで開始する。

24週間の単群試験で5割の患者のコルチゾール値が正常化した。引き続き実施された離脱試験では、継続投与群は86%の患者が正常値を維持したのに対して、偽薬にスイッチした群は30%に留まった。主な有害事象で特徴的なのは副腎機能不全や浮腫、QTc延長、副腎ホルモン前駆体の増加。

尚、ノバルティスは19年にIsturisa及びSignifor(pasireotide、和名シグニフォー)の権利をイタリアのレコルダッチに譲渡している。FDAのプレスリリースにはノバルティスに承認供与と記されているので、今後、ライセンスホルダー変更申請を行うのだろう。


リンク: FDAのプレスリリース
リンク: レコルダッチのプレスリリース(pdf)

FDA、サノフィの抗CD38抗体を多発骨髄腫三次治療薬として承認
(2020年3月2日発表)

FDAは、サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc)を再発難治多発骨髄腫用薬として承認した。代表的な一次/二次治療薬であるlenalidomideおよびプロテアーゼ阻害剤による治療歴を持つ成人患者が適応になる。代表的な三次治療レジメンであるpomalidomideとdexamethasoneと併用で、体重1kg当り10mgを28日サイクルで第1サイクルは毎週、その後は隔週、投与する。200分(第3サイクルからは75分)点滴静注する。

第三相オープンレーベル試験では、PFS(独立評価委員会がMタンパクや放射線画像で評価)がメジアン11.5ヶ月とpomalidomideとdexamethasoneだけの群の6.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.596、p=0.001だった。有害事象は骨髄抑制や点滴関連反応、肺炎、下痢など。有害事象による治験離脱率、死亡率は対照群より小さかった。

5年前に米国で承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)と同様な抗CD38抗体。Darzalexは点滴時間が初回は5-6時間、二回目以降も3-4時間と医療施設にとって手離れが悪いが、3-5分で済む皮注用製剤が欧米で承認審査中。Sarclisaはまだ適応が限られるので、5年のビハインドをキャッチアップするのは大変だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ノバルティス、ベオビュの網膜血管炎報告に関してプレスリリース
(2020年3月2日発表)

3月1日号で報じたように、ノバルティスの新生血管加齢黄斑変性治療薬、Beovu(brolucizumab)で市販後に14例の網膜血管炎が報告されていることをASRS(米国網膜専門医学会)が会員に通知した。うち11例は失明のリスクのある閉塞性網膜血管炎である由。当方は会員ではないのでロイターやEyewireなどの報道しかアクセスできなかったが、やっと、ノバルティス自身がプレスリリースを出した。眼科医や患者、メディアからの問い合わせが多かったのだろう。

まだ精査中であるせいか、報道の追認に留まり、新たな情報は少ない。3月2日現在で57000本以上のバイアルを米国の医師に出荷したこと、米国の添付文書には眼内炎症の発生率が4%、網膜動脈閉塞症が1%と記されていること、重度視力喪失や炎症あるいは潜在的な網膜血管炎に関する限られた数の症例報告(他のVEGF阻害剤による治療歴を持つ症例もある)について包括的な検討を行っていること、臨床試験では視力喪失発現率はafliberceptを投与した群と同程度であったこと、進行中の臨床試験の独立データ監視委員会や薬品承認審査機関にも報告したことなどだ。

当面、医師や患者の手助けになりそうなのは、網膜血管炎報告例の多くで1回目または2回目の投与の1~2週間後に飛蚊や霞目などの視力変化が起きているという指摘。投与後に目が赤くなる、光過敏、痛み、視力変化などが発現した場合は直ちに眼科医の治療を受けるよう、患者に注意を促す必要性を再強調した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

FDA、シングレアの自殺リスクなどの警告を強化
(2020年3月3日発表)

FDAは、MSDのSingulair(montelukast、和名シングレア/キプロス)およびGE品の警告強化と適応縮小を発表した。自殺思慮・行動などの神経精神イベントに関する警告を枠付き警告にステップアップするとともに、アレルギー性鼻炎の適応を他剤不応不耐に限定した。

Singulairは22年の市販歴を持つリューコトリエン阻害剤。米国では、1歳以上の喘息症、6歳以上の運動誘発性喘息症、2歳以上の季節性アレルギー性鼻炎、6ヶ月児以上の通年性室内性アレルギー性鼻炎に承認されており、18年には930万人が外来薬局で購入した。

市販後に振戦や自殺思慮・行動、うつ病、不安症などの神経精神性有害事象が報告され、09年に事前注意事項としてレーベルに記載されたが、その後も副作用報告が増加、完成自殺は82例に達した。年齢が明らかな64例のうち19例は17歳以下だった。動物試験でmontelukastが血液脳関門を通過することも判明した。

医療保険データの分析では吸入コルチコイドより有意に多くはなかったが、実態を十分に把握できていない可能性があることや代替的治療手段が存在することなどから、昨年9月に開催された小児用薬諮問委員会と医薬品安全性委員会の共同会議では、多くの委員が規制強化を支持した。

FDAは、喘息症に用いている場合も、患者に神経精神性リスクを説明した上で便益がリスクを上回るか再検討するよう求めた。患者は、行動や気分に関連する変化が現れたら服用をやめて医師に相談する。症状の具体例としては、攻撃性、注意障害、悪夢、うつ病、見当識障害や混乱、不安感、幻覚、過敏、記憶障害、強迫性障害、落ち着きの無さ、夢遊病、吃り、自殺思慮・行動、振戦、睡眠障害、不随意筋運動が列挙されている。

リンク: FDAの安全性情報






今週は以上です。