2020年3月8日

2020年3月8日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • WSJ紙:ドイツのベバスト社、COVID-19の封じ込めに成功 
  • Karyopharm、Xpovioの三剤併用多発骨髄腫試験が成功 
  • アストラゼネカ、イミフィンジの膀胱癌試験がフェール 
  • ベネクレクスタ、AMLの市販後薬効確認試験がフェール 
  • OAB治療薬ベオーバが米国でも承認申請 
  • JNJ、ponesimodをEUで承認申請 
  • FDA、ノバルティスのクッシング症候群治療薬を承認 
  • FDA、サノフィの抗CD38抗体を多発骨髄腫三次治療薬として承認 
  • ノバルティス、ベオビュの網膜血管炎報告に関してプレスリリース 
  • FDA、シングレアの自殺リスクなどの警告を強化 
(2020年3月10日追補:ノバルティスのクッシング症候群治療薬について、レコルダッチが権利取得済みである旨を追記しました)

【今週の話題】


WSJ紙:ドイツのベバスト社、COVID-19の封じ込めに成功
(2020年3月8日発表)

ドイツの自動車用機器メーカー、ベバスト社は、トップの果断な対策によりCOVID-19の社内感染を封じ込めることに成功した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。政府と国民の関係とは異なり、経営者は企業と社員を守るために思い切った決定を行い、社員に遵守させることができる。逆に言えば、封じ込みの成否は経営者次第であることを、このエピソードは示している。

感染の発端は、ドイツで行われた研修に参加した中国の社員が疑われているようだ。帰国後に発熱したため1月25日土曜日に受診し、陽性と判明、上司に報告した。ドイツでも、数日前から発熱のあった社員が話を聞いて受診したところ、陽性と判明した。

エンゲルマンCEOは1月27日月曜日に報告を受け、その日のうちに危機対策委員会を設置した。委員は感染検査を受けた。感染して開催できなくなった時のためのシャドー委員会も設置した。また、バイエルン州の専門家チームの支援を求めるとともに、感染者の接触者を手間ひまかけて探し出した。接触者解明前に感染が広がるのを防ぐため、1月28日火曜日から週末まで全社員に在宅勤務を命じた。

結局、ドイツの社員の1割以上が感染していたことが判明したが、それ以上広がることはなく、現在では、感染者全員が退院している。

1月28日と言えば、武漢ではまだ感染者が急増している時期で、日本では1月29日から政府チャーター便による武漢在住者の帰国が開始されたが、ドイツでは、上記がCOVID-19感染第一号と推測される。この段階で迅速に対応したことは危機管理のお手本にできるだろう。

特に注目したいのは、感染者の行動履歴をキチンと追って検査を行ったことと、在宅勤務をセットで行ったこと。日本でもスポーツジムやライブハウスにおけるクラスター感染が観察されているが、感染者からのヒアリングをキチンと行えば、関東でももっと多くのクラスターを発見し、それ以上の伝播を防げるかもしれない。感染経路不明の市中感染が広がったと決めつけて、ウイルス検査に積極的に取り組まなかったり、広範な感染抑制策を導入し出口が見えないまま長期間続けたりすることを防げるかもしれない。

リンク: ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版の記事(要購読)


【新薬開発】


Karyopharm、Xpovioの三剤併用多発骨髄腫試験が成功
(2020年3月2日発表)

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)は、Xpovio(selinexor)の第三相BOSTON試験が成功したと発表した。三次までの治療歴を持つ再発難治多発骨髄腫患者を組入れて、Velcade(bortezomib)および低量dexamethasoneと三剤併用するSVdレジメンの効果をVelcadeと低量dexamethasoneだけを併用するVdレジメンと比較したところ、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が各群13.93ヶ月と9.46ヶ月、ハザードレシオは0.70、p=0.0066となり、主目的を達成した。尚、三剤併用群はVelcadeとdexamethasoneを週一回投与と、対照群の週二回より減量している。


Xpovioは核外輸送蛋白XPO1(エクスポーティン1)を阻害して腫瘍抑制的タンパクが核外に排出されるのを妨げる。BOSTON試験は19年7月に米国で多発骨髄腫のサルベージ療法(5次治療)薬として加速承認された時のフェーズIVコミットメントでもあるので、20年第2四半期に本承認に切替と適応拡大を申請する予定。欧州はサルベージ療法として承認審査中。日本は小野薬品が導入した。

米国では最大で年69000人が多発骨髄腫の薬物療法を受けていると推定されている。2~4次治療に用いることが承認されれば対象人口が約3万人と、今より一桁増えることになる。

リンク: Karyopharmのプレスリリース

アストラゼネカ、イミフィンジの膀胱癌試験がフェール
(2020年3月6日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)の第三相DANUBE試験がフェールしたと発表した。切除不能転移膀胱癌の一次治療におけるモノセラピーや抗CTLA-4抗体tremelimumab併用療法の延命効果を検討したが、gemcitabineと白金薬を併用する標準療法と有意差がなかった。この試験は17年に米国で再発膀胱癌のモノセラピーとして加速承認された時の市販後薬効確認試験なので、最悪、加速承認取消の可能性もあるが、化学療法併用を検討している第三相NILE試験の結果が22年頃に開票するまで先送りされるのではないか。

膀胱癌は抗PD-1/PD-L1抗体の代表的な用途であったが、モノセラピーによる一次治療に関してはよくわからないところがある。KeytrudaやTecentriqはcisplatin不耐患者の一次治療に承認されたが、その後の試験でPD-L1陰性に対する効果が対照薬と比べて不十分であったため、適応がPD-L1高発現のみに限定された(米国はcarboplatinにも不耐なら陰性でも可)。

PD-L1発現検査アッセイは各社マチマチなので比較は難しいが、DANUBE試験のモノセラピーの解析対象は、腫瘍細胞や腫瘍浸潤免疫細胞における発現頻度が25%以上と、通常より高発現の患者だった。それでもフェールしたのだから、失望が大きい。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ベネクレクスタ、AMLの市販後薬効確認試験がフェール
(2020年2月28日発表)

アッヴィは、Venclexta(venetoclax、和名ベネクレクスタ)の第三相初発AML(急性骨髄性白血病)試験がフェールしたと発表した。フェーズIVコミットメントなので、最悪の場合、適応拡大が取り消される可能性がある。尤も、数値自体は悪くないので、今回公表されたトップラインデータだけでは足りず、詳細結果の発表を待ちたい。

Venclextaはロシュ/ジェネンテックと共同開発した選択的bcl-2阻害剤。16年に欧米で、19年には日本でも、慢性リンパ性白血病用薬として承認され、米国ではジェネンテックと共同で、海外ではアッヴィが単独で販売している。

AMLは75歳以上または強化化学療法不適の新患にazacitidine、decitabine、または低量cytarabineと併用することが18年11月に米国承認された。第二相試験の完全寛解率データに基づく加速承認なので、別途、第三相対照試験を実施して全生存期間またはそれに準じる指標が向上することを確認する必要がある。

今回のVIALE-C試験は低量cytarabine併用を検討した無作為化割付偽薬対照二重盲検試験。211人を二剤併用群と偽薬・低量cytarabine併用群に2:1割付して全生存期間を比較したところ、メジアン値は7.2ヶ月対4.1ヶ月と上回りハザードレシオも0.75と悪くなかったが、p値が0.11となり有意差が出なかった。

この解析はメジアン12ヶ月間追跡後だが、更に6ヶ月追跡して行った解析では、ハザードレシオ0.70、95%信頼区間0.50-0.99と、事後的解析なので統計学的に有意とは言えないが、悪い数値ではなかった。

また、二次的評価項目の完全寛解率(血球数回復不完全例を含む)は47.6%対13.2%、完全寛解率は27%対7%で、どちらもp<0.001だった。因みに、承認の根拠となった61人の低量cytarabine併用試験では完全寛解率が21%だったので、似たような結果だ。

深刻有害事象は血小板減少症や貧血が少し増加した程度。

azacitidine併用の第三相寛解導入療法は2021年に結果が出る見込み。

リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: 治験登録サイトで開示された治験結果(NCT03069352試験として登録)


【承認申請】


OAB治療薬ベオーバが米国でも承認申請
(2020年3月5日発表)

Urovant Sciences(Nasdaq:UROV)は、FDAがvibegronの新薬承認申請を受理したと発表した。審査期限は12月26日。現時点では諮問委員会招集の考えはないようだ。

Urovantはバイオ株投資家から転じた起業家、Vivek Ramaswamyが設立したRiovant Sciences社の傘下でMSDからライセンスしたvibegronの開発を行っている。尚、Riovant傘下の5社は昨年12月に大日本住友製薬の子会社となった。

vibegronは選択的ベータ3アドレナリン受容体作動剤。18年にキョーリンが日本で過活動膀胱治療薬として製造販売承認を取得した。日本の用法は50mgを一日一回経口投与だが、米国申請は75mg一日一回。臨床試験では効果が偽薬を有意に上回ったが、tolterodineとは有意差がなかった。

類薬であるアステラス製薬のMyrbetriq(mirabegron、和名ベタニス)と異なり血圧・心拍影響は小さそうだが、9年遅れで発売されるハンデを覆すほどの差別化要因ではなさそうだ。

リンク: Urovantのプレスリリース

JNJ、ponesimodをEUで承認申請
(2020年3月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンは、ponesimodをEUに再発型多発硬化症用薬として承認申請したと発表した。S1P1受容体調節剤で、ロシュのスピンアウトであるアクテリオン社を17年に子会社化して入手した製品・パイプラインの一つ。第三相試験では、20mgを一日一回経口投与した群の年率再発率が0.202と、teriflunomide 14mgを一日一回経口投与した群の0.290を有意に下回った。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


FDA、ノバルティスのクッシング症候群治療薬を承認
(2020年3月6日)

FDAはノバルティスのIsturisa(osilodrostat)を成人のクッシング症候群の治療薬として承認した。コルチゾール合成に関わる酵素である11ベータ水酸化酵素を阻害することにより、クッシング症候群におけるコルチゾール分泌過剰を矯正する。一日二回、経口投与。2mgで開始、コルチゾール値や副作用を見ながら最大30mg一日二回まで増量できる。尚、1月に承認したEUによると、アジア系は1mgで開始する。

24週間の単群試験で5割の患者のコルチゾール値が正常化した。引き続き実施された離脱試験では、継続投与群は86%の患者が正常値を維持したのに対して、偽薬にスイッチした群は30%に留まった。主な有害事象で特徴的なのは副腎機能不全や浮腫、QTc延長、副腎ホルモン前駆体の増加。

尚、ノバルティスは19年にIsturisa及びSignifor(pasireotide、和名シグニフォー)の権利をイタリアのレコルダッチに譲渡している。FDAのプレスリリースにはノバルティスに承認供与と記されているので、今後、ライセンスホルダー変更申請を行うのだろう。


リンク: FDAのプレスリリース
リンク: レコルダッチのプレスリリース(pdf)

FDA、サノフィの抗CD38抗体を多発骨髄腫三次治療薬として承認
(2020年3月2日発表)

FDAは、サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc)を再発難治多発骨髄腫用薬として承認した。代表的な一次/二次治療薬であるlenalidomideおよびプロテアーゼ阻害剤による治療歴を持つ成人患者が適応になる。代表的な三次治療レジメンであるpomalidomideとdexamethasoneと併用で、体重1kg当り10mgを28日サイクルで第1サイクルは毎週、その後は隔週、投与する。200分(第3サイクルからは75分)点滴静注する。

第三相オープンレーベル試験では、PFS(独立評価委員会がMタンパクや放射線画像で評価)がメジアン11.5ヶ月とpomalidomideとdexamethasoneだけの群の6.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.596、p=0.001だった。有害事象は骨髄抑制や点滴関連反応、肺炎、下痢など。有害事象による治験離脱率、死亡率は対照群より小さかった。

5年前に米国で承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)と同様な抗CD38抗体。Darzalexは点滴時間が初回は5-6時間、二回目以降も3-4時間と医療施設にとって手離れが悪いが、3-5分で済む皮注用製剤が欧米で承認審査中。Sarclisaはまだ適応が限られるので、5年のビハインドをキャッチアップするのは大変だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ノバルティス、ベオビュの網膜血管炎報告に関してプレスリリース
(2020年3月2日発表)

3月1日号で報じたように、ノバルティスの新生血管加齢黄斑変性治療薬、Beovu(brolucizumab)で市販後に14例の網膜血管炎が報告されていることをASRS(米国網膜専門医学会)が会員に通知した。うち11例は失明のリスクのある閉塞性網膜血管炎である由。当方は会員ではないのでロイターやEyewireなどの報道しかアクセスできなかったが、やっと、ノバルティス自身がプレスリリースを出した。眼科医や患者、メディアからの問い合わせが多かったのだろう。

まだ精査中であるせいか、報道の追認に留まり、新たな情報は少ない。3月2日現在で57000本以上のバイアルを米国の医師に出荷したこと、米国の添付文書には眼内炎症の発生率が4%、網膜動脈閉塞症が1%と記されていること、重度視力喪失や炎症あるいは潜在的な網膜血管炎に関する限られた数の症例報告(他のVEGF阻害剤による治療歴を持つ症例もある)について包括的な検討を行っていること、臨床試験では視力喪失発現率はafliberceptを投与した群と同程度であったこと、進行中の臨床試験の独立データ監視委員会や薬品承認審査機関にも報告したことなどだ。

当面、医師や患者の手助けになりそうなのは、網膜血管炎報告例の多くで1回目または2回目の投与の1~2週間後に飛蚊や霞目などの視力変化が起きているという指摘。投与後に目が赤くなる、光過敏、痛み、視力変化などが発現した場合は直ちに眼科医の治療を受けるよう、患者に注意を促す必要性を再強調した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

FDA、シングレアの自殺リスクなどの警告を強化
(2020年3月3日発表)

FDAは、MSDのSingulair(montelukast、和名シングレア/キプロス)およびGE品の警告強化と適応縮小を発表した。自殺思慮・行動などの神経精神イベントに関する警告を枠付き警告にステップアップするとともに、アレルギー性鼻炎の適応を他剤不応不耐に限定した。

Singulairは22年の市販歴を持つリューコトリエン阻害剤。米国では、1歳以上の喘息症、6歳以上の運動誘発性喘息症、2歳以上の季節性アレルギー性鼻炎、6ヶ月児以上の通年性室内性アレルギー性鼻炎に承認されており、18年には930万人が外来薬局で購入した。

市販後に振戦や自殺思慮・行動、うつ病、不安症などの神経精神性有害事象が報告され、09年に事前注意事項としてレーベルに記載されたが、その後も副作用報告が増加、完成自殺は82例に達した。年齢が明らかな64例のうち19例は17歳以下だった。動物試験でmontelukastが血液脳関門を通過することも判明した。

医療保険データの分析では吸入コルチコイドより有意に多くはなかったが、実態を十分に把握できていない可能性があることや代替的治療手段が存在することなどから、昨年9月に開催された小児用薬諮問委員会と医薬品安全性委員会の共同会議では、多くの委員が規制強化を支持した。

FDAは、喘息症に用いている場合も、患者に神経精神性リスクを説明した上で便益がリスクを上回るか再検討するよう求めた。患者は、行動や気分に関連する変化が現れたら服用をやめて医師に相談する。症状の具体例としては、攻撃性、注意障害、悪夢、うつ病、見当識障害や混乱、不安感、幻覚、過敏、記憶障害、強迫性障害、落ち着きの無さ、夢遊病、吃り、自殺思慮・行動、振戦、睡眠障害、不随意筋運動が列挙されている。

リンク: FDAの安全性情報






今週は以上です。

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