2019年7月28日

2019年7月28日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • JNJ、S1P1調節剤を承認申請へ 
  • オプジーボ、ヤーボイ併用で肺癌試験が成功 
  • ヴィーブ、Dovatoのスイッチ試験成功 
  • アステラス、EUでXtandiの適応拡大申請 
  • バーテックス、嚢胞性線維症のトリプル・コンビ薬を承認申請 
  • CHMPがNRTK陽性固形腫瘍の新薬などに肯定的意見 
  • Shield社の経口鉄製剤が米国でも承認 
  • FDA、経鼻投与用グルカゴンを承認 
  • CHMP、ジレニアを妊婦禁忌に 
  • FDA、潰瘍性大腸炎用途でゼルヤンツを警告強化 


【新薬開発】


JNJ、S1P1調節剤を承認申請へ
(2019年7月25日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、ponesimodの第三相再発型多発硬化症試験、OPTIMUMが成功したと発表した。年内に欧米で承認申請する計画。

ponesimodは97年にロシュからスピンアウトしたアクテリオンのS1P1調節剤。06年にロシュと共同開発を開始したが、09年にロシュがジェネンテックを完全子会社化し提携解消したため、単独でPOCを進めることになった。15年に今回のOPTMUM試験を開始。アクテリオンは17年にJNJに買収されたが、開発品を承継したIdorsia Pharmaceuticalsがponesimodの売上に係る収益権を保有している。

OPTIMUMは1133人の患者をponesimod(20mg)またはサノフィのAubagio(teriflunomide、14mg)、を一日一回経口投与する群に無作為化割付して2年間追跡した二重盲検試験。主評価項目は年率再発率で、優越性検定。副次的評価項目では疲労症状や造影検査による病変の変化などを検討している。

主評価項目と多くの副次的評価項目で成功したとのことだが、具体的な数値は9月のECTRIM欧州多発硬化症学会で発表される見込み。なぜAubagioを対照薬に選んだのか、有害事象によるドロップアウトがどの程度影響したのか、などに注目する必要がありそうだ。

リンク: JNJのプレスリリース

オプジーボ、ヤーボイ併用で肺癌試験が成功
(2019年7月24日発表)

BMSは、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)の進行性非小細胞性肺癌一次治療試験であるCheckMate-227試験の全生存解析の結果を発表した。様々な患者に様々な併用法を施行して様々な解析を行ったテンコ盛り試験に相応しく、成功したものもしなかったものもあった。

この試験は先行して行われたPFS(無進行生存期間)解析が成功し適応拡大申請されたがFDAやEMAに承認されなかった。二兎を追うものは一兎も得ず、と教訓を垂れたいところだが、Yervoy(ipilimumab)併用が成功したので、非小細胞性肺癌の需要をすべてKeytruda(pembrolizumab)に持っていかれるというワーストケース・シナリオからは脱却できそうだ。

227試験はパート1a、1b、2の三部作。1aは28-8 pharmaDxアッセイでPD-L1陽性と判定された患者をモノセラピー群、Yervoy併用群、または化学療法群に割り付けた。1bは陰性患者をYervoy併用群、化学療法併用群、または化学療法群に割り付けた。パート2はPD-L1発現不問で化学療法併用と化学療法を比べた。試験薬が多いせいか、二重盲検ではない。

主評価項目は治験開始後に一部変更された。共同主評価項目の一つは、パート1aと1bに組入れられた患者のうちTMB≧10 mut/Mb(腫瘍における遺伝子変異頻度が百万塩基当り10以上)のサブグループを対象としたPFS解析で、上記のように、昨年2月に成功発表された。ハザードレシオ0.58と良好で、対応する全生存解析はハザードレシオ0.79、95%信頼区間0.56-1.10と検出力不足なのか有意差は出ていないが悪くはなかった。

にもかかわらず、EMAもFDAも、適応拡大申請を認めなかった。理由は明らかではないが、TMBに基づくスクリーニングの妥当性が明確にならなかったからではないか。全生存の解析結果は10 mut/Mb未満のサブグループと大差ないからだ。過去のOpdivoやロシュのTecetriq(atezolizumab)の第二相試験でも、PFSの応答予測因子としては有望そうに見えたが全生存との相関性は判然としなかった。閾値はこの第二相の事後的解析に基づいて決定された模様なので、妥当でなかった可能性も検討しなければならないだろう。

今回発表されたのは残りの共同主評価項目である二つの全生存解析。まず、パート1aにおけるYervoy併用群と化学療法群の全生存期間の比較は有意に上回った。具体的なデータは今後の学会で発表される予定。高価なバイオ薬の併用なので、Keytrudaの化学療法併用試験のデータと見比べて、お値段以上なのか吟味する必要がありそうだ。

次に、パート2に組入れられた患者のうち扁平上皮腫以外の症例(非扁平上皮非小細胞性肺癌)における化学療法併用と化学療法のみの比較。フェールした。ハザードレシオ0.86(95%信頼区間<CI>0.69-1.08)、メジアンは18.8ヶ月対15.6ヶ月で2ヶ月強の差、1年生存率67.3%対59.2%となっており、あと一歩だった。また、主評価項目ではないが扁平上皮非小細胞性肺癌患者の探索的全生存解析はハザードレシオ0.69(95%CI0.50-0.97)、メジアンは18.3mヶ月対12.0ヶ月と、見た目の良い数値が出ている。

Keytrudaの対応する治験成績は、非扁平上皮非小細胞性肺癌がハザードレシオ0.49(95%CI0.38-0.64)、メジアンは未達対11.3ヶ月となっており、信頼区間がBMSのそれとオーバーラップしていないので、真の値は大差ないと推定することはできない。一方、扁平上皮腫は各0.64(0.49-0.85)、16.7ヶ月、12.1ヶ月と大きくは違わない。

Opdivoの非小細胞性肺癌一次治療はモノセラピー試験がフェールし、全売上高でもKeytrudaの後塵を浴びることになってしまった。現状ではPD-L1強陽性(TPS≧50)にはKeytrudaモノセラピー、それ以外は化学療法併用というのが標準的な治療方針だが、Opdivo・Yervoy併用レジメンの成績次第で、新たな選択肢が生まれることになる。

リンク: BMSのプレスリリース(Opdivo・Yervoy併用群の成功について)
リンク: 同(Opdivo・化学療法併用群のフェールについて)

ヴィーブ、Dovatoのスイッチ試験成功
(2019年7月24日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーブ・ヘルスケアは、DovatoのTANGO試験の結果をIAS(国際AIDS学会)で発表した。

Dovatoは活性成分二剤で足りる初めての抗HIVレジメンとして19年に欧米で承認された、インテグラーゼ阻害剤dolutegravirと核酸系逆転写阻害剤lamivudineの固定用量合剤。適応は初めて抗ウイルス剤治療を受けるHIV/AID患者に限定されているが、患者数は治療中のほうがはるかに多い。

TANGO試験は、代表的な核酸系逆転写阻害剤であるTAF(tenofovir alafenamide fumarate)を含む多剤併用療法でウイルス抑制に成功している安定的なHIV/AIDS患者を組入れて、治療を継続する群とDovatoにスイッチする群の治療失敗(48週後にHIV-1 RNA量が50コピー/mL以上)率を比較したもの。両群とも1%未満で、調整後の失敗率の差は-0.3%となり、非劣性だった。50コピー未満維持成功率は93.0%対93.2%でこれも非劣性。有害事象による治験離脱は1%未満対4%で若干多かったが、スイッチ試験ではよくあることだ。

臨床試験は選ばれた医療施設の選ばれた医師が、組入れ基準や除外基準に即して厳選した患者を、格別な注意を払いながら治療するので、現実の医療では効果がもっと低く、有害事象はもっと多いと受け止めるべきである。抗ウイルス薬は途中で服用を止めると耐性ウイルスが生じる確率が高まるが、二剤レジメンはその懸念が強い。Dovatoの承認は2年間のGEMINI試験の1年目のデータに基づくものなので、2年目やそれ以降に治療失敗が増えないか、チェックする必要がある。

その意味で重要なGEMINI試験二本の2年間の成績がIASで発表された。奏効率(96週時点で50コピー/mL未満)が86%と、dolutegravir、emtricitabine、tenofovirの三剤を併用した群の90%と非劣性。有害事象治験離脱率は両群3%だった。非劣性といっても数値上は低いので、説得力は今一つなのではないか。

リンク: GSKのプレスリリース(スイッチ試験について)
リンク: 同(ナイーブ試験の96週成績について)


【承認申請】


アステラス、EUでXtandiの適応拡大申請
(2019年7月24日発表)

アステラス製薬は、経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を転移性ホルモン感受性前立腺がんに用いる適応拡大をEUに申請し受理された。アンドロゲン除去療法(ADT)と併用する。ARCHES試験では偽薬・ADT併用群と比べてPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザードレシオが0.39、p<0.0001だった。全生存の解析は未成熟。G3/4有害事象の発生率は両群大差なかった。

もう一つのエビデンスであるENZAMET試験では、ADT併用群とADT・非ステロイド系抗アンドロゲン併用群の全生存期間を比較した。ハザードレシオ0.67、p=0.002、3年生存率は各80%と72%だった。痙攣や疲労の発現率や、有害事象投与中止率はXtandi群のほうが高かった模様。

リンク: アステラス製薬のプレスリリース

バーテックス、嚢胞性線維症のトリプル・コンビ薬を承認申請
(2019年7月22日発表)

バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)は、新開発のCFTRコレクター、VX-445(elexacaftor)を既承認の二剤(CFTRポテンシエイターivacaftorとCFTRコレクターtezacaftor)と組み合わせたトリプル・コンビ・レジメンをFDAに承認申請した。CFTR遺伝子にF508欠損(ホモ接合型、またはヘテロでもう一つは最小機能変異)を持つ嚢胞性線維症の治療に用いる。

バーテックスは優先審査を求めた。嚢胞性線維症の患者は世界で75000人程度と推定されているが、今回の新薬が実用化されれば治療対象が現在の44000人から68000人に増加する見込み。

プレスリリースには明記されていないが、第三相試験では朝は三剤配合錠、夕方は一日二回服用が必要なivacaftor(製品名Kalydeco)だけを服用したので、VX-445単剤ではなくFDC薬を承認申請したものと推察される。

リンク: バーテックスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがNRTK陽性固形腫瘍の新薬などに肯定的意見
(2019年7月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、7月の会合で、バイエルのVitrakvi(larotrectinib)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Vitrakvi(larotrectinib)はトロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)阻害剤。TRKの遺伝子であるNTRKの遺伝子が他の遺伝子と融合し、TRKが異常活性化している固形癌に用いる。臨床試験では67%の患者が反応し、その88%は6ヶ月以上持続した。適応が病変部位ではなく遺伝子変異に基づく薬はEU初。判定はIHC検査陽性だけでは足りず次世代シーケンサーで確認する必要があるようだ。

適応になるのは固形癌のうち1%程度である模様。臨床試験で応答例があったのは軟組織肉腫や唾液腺癌、幼児線維肉腫、甲状腺がん、肺癌など。

米国では昨年11月に承認された。

17年にLoxo Oncology社から共同開発販売権を取得したところ、今年初めにイーライリリーに買収されたため、支配権変動条項に基づき開発販売権を完全取得した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: バイエルのプレスリリース

次に、GW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH) のEpidyolex(cannabidiol)。レノックス・ガストー症候群やドラベ症候群の2歳以上の患者のてんかん発作の治療に、clobazamと共に用いる。米国では昨年6月にEpidiolex名で承認。

カンナビジオールは大麻の成分だが、陶酔効果に係るCB1受容体作動作用は持たないとされる。臨床試験では失立発作が4割前後減少した(偽薬群は1-2割減少)。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GW Pharmaceuticalsのプレスリリース

カナダのTheratechnologies(TSX:TX)のTrogarzo(ibalizumab)は、CD4の細胞外ドメイン2に結合するヒト化抗体。多剤抵抗性HIV-1感染症で適切な多剤併用レジメンを構築できない患者に、2週毎点滴静注する。

Tanox社がバイオジェンからライセンスして開発していたが、07年にTanoxを買収したジェネンテックが台湾の会社にライセンスアウトした。Theratechnologiesは欧米などでの販売権を持っている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Theratechnologiesのプレスリリース(pdfファイル)

Acorda Therapeutics(Nasdaq:ACOR)のInbrijaはlevodopaの吸入用製剤。パーキンソン病はドパミンによく反応するが、次第に作用が減弱するウェアリング・オフを経験するようになる。このような時に必要に応じて使うのがInbrijaだ。米国では昨年12月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Acordaのプレスリリース

適応拡大では、まず、BMSの抗SLAMF7ヒト化抗体、Empliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)を多発骨髄腫の三次治療としてpomalidomide及び低量dexamethasoneと併用する用法追加が支持された。代表的な治療薬であるlenalidomide及びプロテアソーム阻害剤による治療歴を持ち、最終治療に疾病安定化しなかった患者が適応になる。米国は昨年11月に承認、日本は今年2月に用量用法追加申請された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

次に、MSDの抗PD-1ヒト化抗体、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を進行腎細胞腫の一次治療にaxitinibと併用する適応拡大。米国では今年4月に承認された。Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用はPD-L1陽性だけが対象なので、Keytrudaのレジメンのほうが適応が広い。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュの抗PD-L1ヒト化抗体、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)は二種類の適応拡大が支持された。一つは進展型小細胞性肺癌の一次治療。carboplatin及びetoposideと併用する。米国は今年3月に承認、日本も審査中。もう一つは転移性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療。carboplatin及びnab-paclitaxelと併用する。EGFR活性化変異やALK融合蛋白を持つ癌は除く。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース(小細胞性肺癌)
リンク: 同(非扁平上皮非小細胞性肺癌)

大鵬薬品のLonsurf(trifluridineとtipiracilを配合、和名ロンサーフ)は転移性結腸直腸がんのサルベージ療法として承認されているが、モノセラピー限定であることの明記と、転移性胃癌の三次治療にモノセラピーを施行することが支持された。後者は米国では今年2月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

加齢性黄斑変性などVEGFが関連する網膜疾患の治療薬、Lucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)を未熟児網膜症の治療に用いることも支持された。ゾーンI(ステージ1+から3+まで)、ゾーンII(ステージ3+)、またはAP-ROPと呼ばれる進行の早いタイプが適応になる。Lucentisはジェネンテックが創製、北米以外ではノバルティスが開発販売している。

未熟児網膜症はレーザーを何万発も打つのが標準的治療だが、細胞が痛むので長期的な予後が危惧される。Lucentisもレーザー治療対照試験の症例を長期追跡調査するので網膜剥離・失明リスクを削減する効果や正常な成長発達を妨げる有害作用の多寡が明確になっていくだろう。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

このほかに、アクテリオンのSoliris(eculizumab、和名ソリリス)を視神経脊髄炎(NMOSD)の治療に用いる適応拡大も支持された。抗アクアポリン4自己抗体を持つ、NMOSDの7-8割を占めるタイプが適応になる。また、ジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を中重度活性期潰瘍性大腸炎に用いることも支持された。
日米でも適応拡大申請中。現在は乾癬や乾癬性関節炎、クローン病などの治療に承認されている。最後に、MSDのZerbaxa(ceftolozaneとtazobactamの合剤、和名ザバクサ)を院内感染肺炎(人工呼吸器関連肺炎を含む)の治療に用いる適応拡大。米国では6月に承認済み。

さて、6月に否定的意見をまとめた三剤の承認申請について、メーカー側の再審要請を受け入れたことも発表された。まず、UCBがアムジェンと共同開発した抗スクレロスチン抗体、Evenity(romosozumab、和名イベニティ)。骨折リスクの高い骨粗鬆症の治療薬として承認申請されたが、臨床試験で心筋梗塞や脳卒中が増加したり75歳以上のサブグループで死亡例が増加する懸念が浮上、米国では枠付き警告された。日本では発売後3ヶ月で重篤な脳・心血管疾患が11例報告された。治療を続けても効果が減弱するため日本でも米国でも12ヶ月間限定であることなど、難しい薬である。

ノバルティスのRevolade(eltrombopag、和名レボレード)を重度再生不良性貧血に用いる適応拡大申請と、PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のTranslarna(ataluren)を歩行可能なジストロフィン遺伝子ナンセンス変異陽性患者だけでなく歩行不能患者にも用いる適応拡大申請も、再審査が決まった。


【承認】


Shield社の経口鉄製剤が米国でも承認
(2019年7月26日発表)

Shield Therapeutics(LSE:STX)は、FDAがAccrufer(ferric maltol)を成人の鉄欠乏症の治療薬として承認したと発表した。塩ではないので経口鉄不耐の鉄欠乏性貧血症患者にも使える可能性があり、静注用製剤の代替的選択肢になる。欧州ではFeraccru名で16年に承認、Norgine社が販売。米国は販売提携交渉中。

リンク: Shield社のプレスリリース

FDA、経鼻投与用グルカゴンを承認
(2019年7月24日発表)

FDAはイーライリリーのBaqsimiを4歳以上の重度低血糖症の治療薬として承認した。使い捨てディバイスでグルカゴン粉末をそのまま経鼻投与できるので、重度低血糖症という救急事態に注射用薬を調整する手間が省ける。失神時でも使えるようだ。注射用グルカゴンと異なる特有の有害事象としては、鼻詰まりや涙目、充血が見られる。

カナダのLocemia Solutionsから世界権を取得したもの。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


CHMP、ジレニアを妊婦禁忌に
(2019年7月26日発表)

CHMPは、多発性硬化症治療薬Gilenya(fingolimod)を妊婦禁忌にするよう勧告した。新生児が心臓、腎臓、骨、筋肉などに欠陥を持つ確率は2-3%だがGilenya服用者は倍という研究結果を踏まえたもの。治療開始前に妊娠検査を行い、再生産年齢の女性に用いる場合は避妊を徹底する。

Gilenyaはノバルティスが田辺三菱製薬からライセンスして開発販売しているS1PR調整剤。日本ではノバルティスがジレニア名で、田辺三菱がイムセラ名で販売している。

リンク: EMAのプレスリリース

FDA、潰瘍性大腸炎用途でゼルヤンツを警告強化
(2019年7月26日発表)

FDAは、ファイザーのXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)について、一部用途の限定・警告強化を行った。リウマチ性関節炎や乾癬性関節炎、潰瘍性大腸炎の治療薬として承認されているJAK3阻害剤だが、リウマチ性関節炎の安全性確認試験で高用量群(10mgを一日二回投与)に肺塞栓や死亡リスクが見られたため、この用量が承認されている潰瘍性大腸炎のレーベルを見直したもの。

EMAも今年5月に、血栓リスクが高い患者には10mgを用いないよう暫定的勧告を行っているが、FDAは、潰瘍性大腸炎の適応を、他の薬では十分に反応しない、または重度有害事象を経験した患者に限定した。同時に、この用量は血栓リスクが死亡リスクが高まることを枠付警告した。

FDAによると、当該臨床試験で発生した肺塞栓の頻度は19例/3884人年、TNF阻害剤を用いた対照群は3例/3982人年だった。死亡は45例/3884人年、対照群は25/3982人年だった。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2019年7月21日

2019年7月21日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • GSK、PARP阻害剤の卵巣癌1L維持療法試験が成功 
  • ブルーポイント、GIST用薬を承認申請 
  • 抗ネクチン-4ADCが承認申請 
  • ノバルティス、鎌状赤血球症に用いる抗体医薬を承認申請 
  • FDA、SGLT阻害剤の一型糖尿病適応拡大を認めず 
  • オテズラがベーチェット病に適応拡大 
  • FDA、ペネム系三剤合剤を承認 


【新薬開発】


GSK、PARP阻害剤の卵巣癌1L維持療法試験が成功
(2019年7月15日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Zejula(niraparib)の第三相卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功したと発表した。データは今後、学会で発表される見込み。PARP阻害剤の開発は一時期、迷走したが、最適な用途用法が明確になり、着々と適応拡大を進めている。Zejulaはどちらかといえば後発だが、先輩が刻んだ轍を走ることができるアドバンテージがある。

ZejulaはGSKが今年1月に負債継承額を含めて51億ドルで買収したTesaroが12年にMSDからインライセンスして開発したポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ1/2阻害剤。17年に難治性白金薬感受性卵巣癌の維持療法薬として欧米で承認された。BRCA変異または相同組換え不全のある卵巣癌の4次治療薬として米国で承認申請中で、10月に審査結果が判明する見込み。日本は17年に武田薬品が独占開発販売権を取得した。

今回の試験は白金薬ベースの一次治療に反応した患者に体重に応じて200mgまたは300mgを一日一回経口投与して、PFS(無進行生存期間)を偽薬と比較したもの。承認用途と同様に、BRCA有害変異のない患者も組入れている。

BRCAは遺伝子修復に係る酵素で、PARPは遺伝子修復を担う別のメカニズムに係る酵素。前者に機能喪失変異を持つ患者に後者を阻害する薬を投与すると、細胞分裂が活発で遺伝子複製ミスが発生しやすい癌細胞の増殖・生存を妨げる効果が期待されるため、PARP阻害剤はBRCA変異癌を標的とすることが多い。

アストラゼネカ/MSDのPARP阻害剤、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)も、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のRubraca(rucaparib)も、白金感受性卵巣癌の二次治療後の維持療法に用いる場合は、BRCA変異は問わない。しかし、一次治療後の維持療法となると、LynparzaがBRCA変異限定で承認されているだけなので、今回の試験の成功は一歩前進だ。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認申請】


ブルーポイント、GIST用薬を承認申請
(2019年7月18日発表)

米国のブルーポイント・メディスン(Nasdaq:BPMC)は、BLU-285(avapritinib)をEUに販売承認申請し、受理された。KITとPDGFRアルファ・キナーゼの阻害剤で、PDGFRアルファD842V変異型、または、三次までの治療歴のある切除不能・転移消化管間質腫瘍(GIST)に用いることを想定している。

承認申請の根拠となる第一相試験のデータは今年のASCOで発表された。PDGFRAエクソン18変異43例(うち38例はD842V変異)のORR(客観的反応率)は86%、メジアン反応持続期間は未達(メジアン追跡期間10.9ヶ月)だった。三次までの治療歴のある111例では各22%と10.2ヶ月だった。尚、本試験の主評価項目は中央放射線学的評価に立脚するため、これらの数値は変わる可能性がある。

G3/4治療関連有害事象は骨髄抑制、疲労、認知影響、ビリルビン値上昇、下痢など。治療関連有害事象による治験離脱の発生率は8%だった。

米国では今年6月に申請済み。適応範囲は4次治療のほうは同じだが、PDGFRアルファ変異はエクソン18変異型と、D842V変異に限定していないため、若干広くなっている。。

リンク: ブループリントのプレスリリース

抗ネクチン-4ADCが承認申請
(2019年7月16日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)とアステラス製薬は、ASG-22ME(enfortumab vedotin)をFDAに承認申請した。尿路上皮癌の9割以上で発現するネクチン-4に結合する抗体と微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンEをリンカーで結合した抗体薬物複合体(ADC)で、白金製剤とPD-1/PD-L1阻害剤による治療歴のある局所進行性・転移性の尿路上皮種に用いることを想定している。第二相単群試験では、ORR(客観的反応率、第三者査読)が44%(125人中55人)で、うち完全反応が15人と比較的多いのが目を引く。抗PD-1/PD-L1抗体不応例や肝転移例例でも4割前後だった。G3以上の有害事象は貧血、低ナトリウム血症、尿路感染症、高血糖など。

リンク: 両社のプレスリリース

ノバルティス、鎌状赤血球症に用いる抗体医薬を承認申請
(2019年7月16日発表)

ノバルティスは、SEG101(crizanlizumab)を鎌状赤血球症治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。月一回の点滴静注を12か月続けた第二相試験では、血管閉塞性クリーゼ(VOC)という激しい痛みや深刻な合併症のリスクを伴う発作の年率発生率が1.63と、偽薬群の2.98の半分近くに留まった。

16年に達成報奨金を含めて6.65億ドルで買収したSelexys Pharmaceuticalsの開発品で、VOCをイニシエートするPセレクチンに結合・阻害する抗体医薬。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA、SGLT阻害剤の一型糖尿病適応拡大を認めず
(2019年7月15日発表)

アストラゼネカはFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)を一型糖尿病でインスリンだけでは血糖値を十分に管理できない患者に追加投与する適応拡大申請を行い、今年3月に日欧で承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。

理由は不明だが、一型糖尿病薬として承認申請され欧州では今年4月に承認されたが米国は審査完了だったLexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)/サノフィのZynquista(sotagliflozin)と同様に、糖尿病性ケトアシドーシス懸念と推測される。ZynquistaはFDA諮問委員会が承認賛成8人、反対8人と二分した。欧州も、両剤の適応を高BMIでインスリンの用量が多い患者などに限定している。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認】


オテズラがベーチェット病に適応拡大
(2019年7月19日発表)

セルジーンは、Otezla(apremilast、オテズラ)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。乾癬や乾癬性関節炎の治療薬として日米欧で承認されているPDE-4阻害剤を、ベーチェット病患者のお口腔内潰瘍の治療薬として用いることが可能になった。患者の多い日本や欧州でも審査中で、日本は年内の承認が見込めるようだ。

ベーチェット病は自己免疫疾患で米国の有病率は10万人当たり5人。9割の患者で口腔内潰瘍を合併しQOLを低下させる。Otezlaの第三相試験では症状(VASで点数化)が偽薬比有意に改善した。被験者の52%は12週間の治験中、口腔内潰瘍を経験しなかった(偽薬群は22%)。

セルジーンはBMSが子会社化する予定だが、米国連邦取引委員会の反トラスト上の懸念を払しょくするために、Otezla事業は第三者に売却されることが決まった。

リンク: セルジーンのプレスリリース

FDA、ペネム系三剤合剤を承認
(2019年7月17日発表)

FDAはMSDのRecarbrioを承認した。Primaxinの配合成分であるペネム系抗生剤のimipenemとその分解を遅らせるデヒドロペプチダーゼ分解酵素阻害剤のcilastatinに加えて、新開発のベータラクタマーゼ阻害剤、relebactamを配合した合剤で、用途は、感受するグラム陰性菌による複雑尿路感染症や複雑腹腔内感染症の成人。他の治療手段が無いか限定的な場合に用いる。

抗生物質が効かない多剤耐性菌がしばしば見られるようになったため新薬のニーズが高まっているが、一方で、抗菌剤治療の副産物であるクロストリジウム・ディフィシル腸炎の増加により抗生物質の使用を抑制する動きも活発化している。新薬を使えば使うほど耐性菌が早く広く出てくるため、取って置きの薬ほどいざという時のために取って置く傾向があり、製薬会社が開発投資を回収するのが難しくなっている。

Primaxinが米国で承認されたのは1985年なのでRecarbrioは34年ぶりの新薬となるが、大きな売上高は期待できなさそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース





今週は以上です。

2019年7月15日

2019年7月15日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ヴィーブ、HIV/AIDS二剤合剤のスイッチ試験が成功 
  • lumateperoneの双極障害鬱治療試験は一勝一敗 
  • ノバルティスら、BACE1阻害剤のAD予防試験を中止 
  • 汎用インフルエンザ・ワクチンの第三相試験、今年の組入れを開始 
  • COMT阻害剤が米国でも承認申請 
  • Horizon社、甲状腺眼症治療薬を承認申請 
  • サノフィ、抗CD38抗体を米国でも承認申請 
  • JNJはダルザレックス皮注用を承認申請 
  • MSD、キイトルーダの6週毎投与を追加申請 


【新薬開発】


ヴィーブ、HIV/AIDS二剤合剤のスイッチ試験が成功
(2019年7月10日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーブヘルスケアは、Dovatoの第三相TANGO試験が成功したと発表した。ギリアドのVemlidy(tenofovir alafenamide fumarate、和名ベムリディ)を含む三剤併用レジメンでウイルス抑制に成功している患者がスイッチしても再燃したり抵抗性ウイルスが出現したりするリスクは小さいことを明らかにした。データは今月のIAS学会で発表される予定。

Dovatoは塩野義が創製したインテグラーゼ阻害剤dolutegravirと代表的な非核酸系逆転写阻害剤(NNRTI)であるlamivudineの固定用量合剤。初めて抗ウイルス治療を受けるHIV患者に使う薬として19年に欧米で承認された。今回の試験成功により、対象患者拡大申請の道が開けた。

HIV/AIDS治療薬は三種類以上のを併用するのが定番だが、Dovatoはこの一錠を一日一回服用するだけで足りるのが画期的。尤も、選ばられた医療施設の選ばれた医師が、選りすぐられた患者を密接に治療する臨床試験の成績はベストケースシナリオで、現実の医療では効果が低下し副作用は増加すると覚悟しなければならない。例えば、アドヒアランスの悪い患者でも効果が非劣性なのか、知りたいものだ。

リンク: ヴィーブのプレスリリース

lumateperoneの双極障害鬱治療試験は一勝一敗
(2019年7月8日発表)

Intra-Cellular Therapies (Nasdaq:ITCI)は、ITI-007(lumateperone tosylate)の第三相双極障害鬱症状治療試験が一勝一敗となったことを明らかにした。42mgを一日一回経口投与した試験はMADRS総合スコアが16.7ポイント改善し、偽薬群(12.1ポイント)と4.6ポイントの有意な差があった。一方、偽薬、28mg、42mgの三群を設定した試験では、各19.7、18.9、20.7ポイント改善し、どちらの用量も偽薬と有意差がなかった。

第三相はもう一本、リチウムやvalproateを用いている患者に追加する試験が進行中で2020年に開票の予定。精神疾患の薬は偽薬効果が大きく出がちであるため、第三相は3本以上実施して2本以上の成功を目指すのが一般的。lumateperoneは統合失調症治療薬として米国で承認審査中で、今月末に諮問委員会、9月27日が審査期限となっているが、この用途でも第三相は一勝一敗だった。敗因も今回と同じで、偽薬群の成績がもう一本と比べて大変良かった。

リンク: Intra-Cellularのプレスリリース

ノバルティスら、BACE1阻害剤のAD予防試験を中止
(2019年7月11日発表)

ノバルティス、アムジェン、そしてBanner Alzheimer's Instituteは、CNP520(umibecestat)の第2/3相アルツハイマー病予防試験を中止すると発表した。加齢性アルツハイマー病のリスク因子であるApoE4遺伝子を持つ、認知機能は正常な患者を組入れて15年に一本、17年にもう一本、開始したが、中間解析で幾つかの指標で認知機能の悪化が示されたため、中止を決定した。

BACE阻害剤などアミロイド・ベータを標的とする薬の第三相アルツハイマー病治療試験は壊滅状態だ。製薬会社や研究者は、うちのコンパウンドは選択性が高い、脳血管関門を通過する、アミロイドベータが大きく減った、だから大丈夫だとばかりに臨床開発を続け、完敗した後は、発症した後では遅い、発症前に介入すべきと主張、多くの予防試験を立ち上げた。

BACE阻害剤の治療試験では認知機能の悪化がしばしば見られたが、今回、予防試験でも同じ轍に嵌る懸念が浮上した。暗闇の中で行進する時は、前を行く人が落とし穴に落ちたのに気付かずに続々転落するリスクがある。製薬会社は治療試験の経験から学ばず予防試験でも同じ失敗を繰り返すのだろうか?

フェールしたプロジェクトの研究開発費は、上市に漕ぎ着けた新薬の価格に上乗せされるのだから、一般人にも、熟考を促す権利があるはずだ。

リンク: 三者のプレスリリース

汎用インフルエンザ・ワクチンの第三相試験、今年の組入れを開始
(2019年7月8日発表)

イスラエルのBiondVax Pharmaceuticals(Nasdaq:BVXV)はM-001の第三相インフルエンザ予防試験を行っている。東欧の施設で50歳以上の患者12000人を組入れてインフルエンザ予防効果を偽ワクチンと比較するもので、第一コホートとして昨年8-10月に4000人余を組入れた。発症状況を2年間追跡する。今年は7月開始なので更に早く組入れを開始、1年間追跡する。20年後半に結果が判明する予定。

M-001はイスラエルのワイツマン科学研究所の技術を用いて、インフルエンザのユニバーサルワクチンとして創製された。ウイルス蛋白のM1、NP、HAのよく保存されているエピトープ九つを一つに融合した蛋白を大腸菌培養する。液性免疫と細胞性免疫を誘導する由。

CDC(米国疾病予防管理センター)によると季節性インフルエンザ・ワクチンのワクチン効率は平均40%で、流行型の予測がうまくいかなかった04/05年、05/06年、14/15年シーズンは10~21%だった。感染・発症が1割しか減らなかったというのは、もしこれが第三相試験の成績だったとすれば販売承認を取れないかもしれないほど、低い。M-001がもし万能でなかったとしても、平均値やレンジ下限を上げることができるならば、意義がある。

また、通常のワクチンと異なり21日置いて二回筋注する必要があるが、第三相のデザインを見てもわかるように、会社側は効果が通常より長く持続し、もしかしたら、2年間持続するかもしれないと期待している。実現すれば、生産、流通、接種における一時集中を緩和することができる点でもメリットがありそうだ。

ユニバーサル・ワクチンは他にも開発プロジェクトが進行しており、2020年代には実用化されるかもしれない。しかし、既存のワクチンは価格競争力が著しく高いため、新製品が普及するのはハードルが高そうだ。

リンク: BiondVaxのプレスリリース


【承認申請】


COMT阻害剤が米国でも承認申請
(2019年7月10日発表)

Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)は、opicaponeをパーキンソン病治療薬として米国で承認申請し、受理された。審査期限は来年4月26日。レボドパ系の薬だけでは十分に管理できずウェアリング・オフ(薬の効果が切れる)が生じている患者に、一日一回、経口で、追加投与する。

NeurocrineはポルトガルのBial-Portela社から北米の開発販売権を取得した末梢選択的可逆的COMT阻害剤。レボドパの副代謝経路に介入し、生物学的利用率を向上する。欧州では16年に承認。日本は小野薬品がライセンスして今年2月に承認申請した。

第三相試験ではウェアリング・オフ・タイム削減効果が既存のCOMT阻害剤であるentacaponeと非劣性だった。GE化した薬と同じではパッとしない。一日一回で済む点がどれだけアピールするかが鍵だろう。

リンク: NBIXのプレスリリース

Horizon社、甲状腺眼症治療薬を承認申請
(2019年7月10日発表)

ダブリン籍の新興製薬会社、Horizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)は、HZN-001(teprotumumab)を活動期甲状腺眼症治療薬として米国で承認申請した。甲状腺眼症は自己免疫疾患で眼球の膨張・突出や斜視、複視を伴う。米国で年15,000-20,000人が罹患。活動期の軌道線維芽細胞ではインスリン様成長因子I受容体(IGF-1R)の過剰発現が見られる。

teprotumumabはロシュからライセンスした抗IGF-1R完全ヒト化抗体。この用途でブレークスルー・セラピー指定、希少疾患用薬指定、ファースト・トラック指定を受けている。三週毎点滴静注した第三相試験では、奏効率(眼球突出が2mm以上減少)が83%と偽薬群の10%を有意に上回った。有害事象は筋痙攣や脱毛症など。治療関連有害事象は糖尿病患者における高血糖。過去に実施された抗IGF-1R抗体の癌治療試験と同じだ。ドロップアウト率は5%未満で群間の偏りはなかった由。

リンク: Horizon社のプレスリリース

サノフィ、抗CD38抗体を米国でも承認申請
(2019年7月10日発表)

サノフィは、SAR650984(isatuximab)を再発難治多発骨髄腫の三次治療薬として米国で承認申請し受理された。審査期限は来年4月30日。欧州では第2四半期(4-6月)に承認申請が受理された由。

ジョンソン・エンド・ジョンソンがジェンマブからライセンスして15年に米国で、16年に欧州で、17年には日本でも販売承認を取得したDarzalex(daratumumab、和名ダルザレックス)と同様にCD38を標的とするが、完全ヒト化ではなくヒト化技術による抗体。Immunogen(Nasdaq:IMGN)との広範な共同開発プロジェクトを経てライセンスしたもの。

第三相試験では、pomalidomideとdexamethasoneを併用する標準的療法に追加したところ、PFS(無進行生存期間、中央評価委員会が判定)がメジアン11.5ヶ月と標準的療法群の6.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.60、p=0.001だった。有害事象による治験離脱や死亡の発生率は標準的療法群より小さかった。点滴反応の発生率はDarzalexより低そうで、そのせいか、点滴時間も短くなっている。

リンク: サノフィのプレスリリース(GlobeNewswire)

JNJはダルザレックス皮注用を承認申請 
(2019年7月12日発表)

そのジョンソン・エンド・ジョンソンは、(daratumumab、和名ダルザレックス)の皮注用製剤をFDAに承認申請した。ハロザイム・セラピューティクス(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼを一緒に投与して吸収を高めるもので、再発難治多発骨髄腫試験でORR(総合反応率)や血中濃度が既存の点滴静注用製剤と非劣性だった。

既存製剤は3~7時間かけて点滴するが、皮注用は3~5分で足りる。過敏反応リスクがあるので患者が直ぐに帰れるわけではないだろうし、当初は在宅自己注はできないかもしれないが、医療施設の患者滞留時間を短縮できるだろう。

リンク: JNJのプレスリリース

MSD、キイトルーダの6週毎投与を追加申請
(2019年7月9日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の用法追加申請をFDAに行い受理された。審査期限は来年2月18日。200mgを3週毎に30分点滴静注という現在の投与スケジュールに加えて、400mgを6週毎に30分点滴静注する用法を追加するもの。Keytrudaは多くの腫瘍に承認されているが、新用法の対象は悪性黒色腫、古典的ホジキンリンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、胃癌、肝細胞腫、メルケル細胞腫だけ。肺癌や頭頚部癌、尿路上皮癌、子宮頸癌、腎細胞腫、高頻度マイクロサテライト不安定性固形癌は含まれていない。

リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

2019年7月7日

2019年7月7日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、欧米の小児インフルエンザ試験で主目的達成 
  • プーマ、Nerlynxの適応拡大を申請 
  • アルナイラム、急性肝性ポルフィリン症用薬を欧州でも承認申請 
  • 多発骨髄腫のサルベージ療法薬が承認 


【新薬開発】


ロシュ、欧米の小児インフルエンザ試験で主目的達成
(2019年7月3日発表)

ロシュはインフルエンザ治療薬Xofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)の幼小児における安全性などを検討した第三相MINISTONE-2試験で主目的を達成したと発表した。忍容性は20年の使用歴を持つTamiflu(oseltamivir)と同程度、罹病期間も同程度であった由。具体的なデータは今後、学会発表の予定。

Xofluzaは塩野義製薬が創製したCap依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤。インフルエンザウイルスが宿主細胞で自分のmRNAを合成するのを妨げる画期的な作用機序を持っており、18年に日米で承認された。日本は対象年齢を限定しておらず、12歳未満で体重が10kg以上の患者の用量が添付文書に明記されているが、米国は持病のない12歳以上の患者に限定した。持病の有無で区別するのはFDAの従来からのスタンスだ。喘息症や糖尿病、心不全などを患う患者は高リスクなので、罹病期間が短縮する効能だけでは足りず、合併症リスクが低下することを臨床試験で確認すべきという考えなのだろう。

12歳未満を適応外としたのは、日本で行われた12歳未満を対象とした第三相試験で77人中18人に耐性ウイルスが認められたことがネックになったのではないか。12歳以上の第三相では370人中36人となっており、検出率がかなり異なっている。用量決定フォーミュラ(体重に応じて3段階)が不適切なのか、小児は薬物動態の個人差が大きいのか、あるいは、症例数が少なすぎて真の値から大きく乖離してしまったのか?

日本では市販後にも耐性ウイルスの検出が報告されている。サンプル数が少ないことを考慮しても、Xofluzaは検出率が高いように感じられる。

尤も、耐性ウイルス問題は簡単に結論を出すことはできない。インフルエンザは治療しなくても治る可能性が高いので、高リスク患者でなければ、効きが多少低くても何日かしたら軽快する。また、変異ウイルスは増殖・感染能力が低いこともしばしばある。答えが必要なのは、耐性ウイルス感染者とそれ以外で罹病期間がどの程度異なるのか、感染力はどの程度か、耐性ウイルスが年々増えていってamantadineのように効かないウイルスばかりになる可能性があるかどうか、だ。

ロシュの第三相も180人程度の規模なので答えは出ないだろう。取り敢えず、耐性ウイルス検出率が日本試験と同様に高いかどうかが注目される。罹病期間がTamiflu群と同程度だったことは取り敢えずポジティブだが、信頼区間などのデータも見たい。この試験は1歳から組入れた。錠剤・顆粒ではなく新開発の経口懸濁液を用いた模様。用量決定方式や薬物動態が同じなのかどうかも要注目だ。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


プーマ、Nerlynxの適応拡大を申請
(2019年7月1日発表)

Puma Biotechnology(Nasdaq:PBYI)は、米国でNerlynx(neratinib)の適応拡大申請を行った。17~18年に欧米でher2陽性早期乳癌の術後アジュバント療法を終えた後に更に1年間投与する用法で承認された汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤で、ワイス買収を通じて入手したファイザーが開発を断念してライセンスアウトしたもの。今回の適応拡大は、her2陽性転移性乳癌の三次治療としてcapecitabineと併用するもの。

第三相のNALA試験では、capecitabineとTykerbを併用する既承認レジメンとPFS(無進行生存期間、中央査読)を比較したところ、ハザードレシオは0.76、p=0.0059だった。但し、比例ハザードモデルの前提が満たされなかったため、事前に計画されていた代替的解析手法を採用したとのことだ。もう一つの主評価項目である全生存期間はハザードレシオが0.88、p=0.21とフェールした。

なぜ前提が満たされなかったのか不明だが、よくあるのは、当初期間は試験薬群のほうが悪いがその後逆転するパターンだ。もしこのパターンだった場合は、深刻な副作用が原因でないかどうか、吟味する必要があるだろう。NerlynxとTykerbは作用機序も副作用プロファイルも似ているので考えにくいが...

リンク: プーマのプレスリリース

アルナイラム、急性肝性ポルフィリン症用薬を承認申請
(2019年7月1日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、EUにALN-AS1(givosiran)を急性肝性ポルフィリン症(AHP)用薬として承認申請した。加速審査を受ける。米国でも6月にローリング承認申請を完了した。米国でブレイクスルー・セラピー指定、EUでもPRIME指定を受けている。

ポルフィリン症はヘム合成回路の酵素に機能喪失・低下変異があり、ポルフェリンが代謝されずに蓄積、臓器や神経に障害を与える。米国の患者数は2万人以下で、AHPが最も多い。ヘミンやグルコースの注射で治療し発作を予防する。

givosiranはポルフェリンの前駆体であるアミノレブリン酸を合成する酵素(ALAS1)の遺伝子を沈黙させるsiRNA薬。94人を組入れた臨床試験で、ポルフィリン発作(入院、緊急医療受診、またはヘミン投与)が偽薬比有意に小さかった。但し、疼痛や疲労、悪心などの症状を改善する効果は見られず、また、20%の患者で深刻有害事象が発生した(偽薬群は9%)。

リンク: アルナイラムのプレスリリース


【承認】


多発骨髄腫のサルベージ療法薬が承認
(2019年7月3日発表)

FDAは、Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のXpovio(selinexor)を難治多発骨髄腫の5次治療薬として加速承認した。二種類以上のプロテアソーム阻害剤と二種類以上の免疫調停剤(thalidomideのような薬)そして抗CD38抗体(daratumumab)の全てに抵抗性を持つ患者にdexamethasoneと併用する。週二回経口投与。後期第二相試験では総合反応率が25.3%、反応持続期間の中央値は3.8ヶ月だった。有害事象は骨髄抑制など。

この試験の難点は、対照群が設定されていないため本当にselinexorが必要なのか明確でないこと。忍容性面では治療時発現深刻有害事象の発生率が60%、治療時発現致死的有害事象発生率も8%と、良好とは言い難いこともあり、今年2月の腫瘍学薬諮問委員会では、進行中の第三相二次治療試験の結果が出るまで承認を待つべきとする委員が8人対5人で上回った。それだけに、すんなり承認されたのは意外。Karyopharmが追加データを提出して審査期間が延長された経緯があるので、これが影響したのかもしれない。

selinexorは核外輸送蛋白XPO1(exportin 1)に結合して、腫瘍抑制蛋白が細胞核から排出されるのを妨げる。17年に小野薬品が日本や一部アジアでの腫瘍学における権利を取得した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Karyopharmのプレスリリース





今週は以上です。