2023年11月25日

第1130回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • BET阻害剤を骨髄線維症に承認申請へ 
  • TLR9アゴニストの潰瘍性大腸炎試験がフェール 
  • バイエルのXIa阻害剤、最初の第3相が無益中止 
  • ヤンセン、二重特異性抗体の化学療法併用法を追加申請 
  • アベクマの早期使用承認が不透明に 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


BET阻害剤を骨髄線維症に承認申請へ
(2023年11月20日発表)

ドイツのMorphoSys(FSE/Nasdaq:MOR)はCPI-0610(pelabresib)の第3相骨髄線維症試験で主目的を達成したと発表した。12月のASH(米国血液学会)で結果を発表し、24年央に欧米で承認申請する考え。株価は筆頭副次的評価項目がフェールしたことを嫌気して下落した。

21年にConstellation Pharmaceuticalsを17億ドルで買収して入手したBET阻害剤。転写因子の動員に関わるbromodomain and extra-terminal domainを阻害して炎症や癌を抑制することが期待されている。今回のMANIFEST-2試験はDIPSSリスク予測スコアがintermediate-1以上でJAK阻害剤未経験の骨髄線維症430人を組入れて、JAK阻害剤ruxolitinibと併用する効果をruxolitinib・偽薬併用と比較した。主評価項目の第24週脾臓量35%削減奏効率(SVR35)は各群66%と35%となり、統計的に有意な差があった。

一方、最初の副次的評価項目として設定されたTSS(合計症状スコア)50%削減奏効率(TSS50)は52%対46%、p=0.216とフェールした。TSS自体の低下も15.99点対14.05点、差は1.94でp=0.0545だった。但し、intermediateリスク400人のサブグループ分析はどちらもp値が0.05を下回った。TSS50は全体の解析と見比べて偽薬群の数値が低くなっている。逆に言えば、高リスク・サブグループの奏効率が中リスク・グループよりかなり高かったことになり、変な感じだ。尤も、高リスク・サブグループは逸失データが多かったため解析を見送った由であり、同じ理由で全体の解析も歪められているのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


TLR9アゴニストの潰瘍性大腸炎試験がフェール
(2023年11月21日発表)

スウェーデンのInDex Pharmaceuticalsは、IDX0150(cobitolimod)の第3相潰瘍性大腸炎試験の独立データ監視委員会(iDMC)が無益認定したため治験中止すると発表した。5月にヴィアトリス・ジャパンが日本における開発販売権を取得したばかり。

このCONCLUDE試験は伝統的治療薬に加えてバイオ薬やJAK阻害剤にも十分応答しない、中重度左側潰瘍性大腸炎における便益と危険を検討するもの。寛解導入における至適用量を決定するステージ1で、440人を偽薬、250mg、または500mgを第0週と第3週に大腸内投与する3群に無作為化割付けして、第6週における臨床的寛解率を比較した。ステージ2は至適用量による寛解導入、ステージ3は応答者に対する維持療法、を検討する予定だった。しかし、ステージ1の中間評価(n=133)で試験を続行しても目的達成の確率は低いと判定された。

cobitolimodは同社のDNA-based ImmunoModulatory Sequenceプラットフォームの成果で、TLR9に結合して炎症抑制的なサイトカインの分泌を誘導する。後期第2相のCONDUCT試験で250mg群の第6週臨床的寛解率が21%と偽薬群の7%を上回り、片側p値は0.05を下回った。しかし、31mg群が13%、125mg群は5%、隔週ではなく4週連続投与した125mgの群は10%とあまり用量反応相関は見られなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


バイエルのXIa阻害剤、最初の第3相が無益中止
(2023年11月19日発表)

バイエルはBAY 2433334(asundexian)の第3相脳卒中予防/治療試験を2本実施しているが、独立データ監視委員会が予防試験を無益認定、勧告に従い繰上げ中止することを明らかにした。治療試験は勧告に従い続行する。予防ではもう一本、やや異なった第3相を計画しているが、デザインを見直す予定。

Xa阻害剤を販売するバイエルやBMS/JNJ陣営が新たな抗凝固剤として開発している経口XIa阻害剤の一つ。抗凝固薬は血栓塞栓リスクを抑制できるが、その裏返しで出血リスクが高まるのが難点。Xa阻害剤は例外と考えられたが、期待ほどではなかった。次の期待がXIa阻害剤で、アシュケナージ系ユダヤ人で比較的多い欠乏者は脳卒中リスクが低いだけでなく特発的出血も少ない点が注目される。

後期第2相のPACIFIC-Stroke試験では非心原性虚血性脳卒中から48時間以内の標準療法を受けている患者に追加投与して6ヶ月間追跡したが、高用量2群は脳卒中発生率が偽薬群より数値上高かった。検出力を上げるために無症候性の隠れ脳梗塞(MRIで判定)もカウントしたことが裏目に出た模様で、メジアン10ヶ月追跡時点の症候性虚血性脳卒中またはTIA(一過性脳虚血発作)発生率は、少なくとも数値上は、用量と逆相関していた。

今回のOCEANIC-AF初発予防試験は心房細動で脳梗塞のリスクが高い患者18000人を組入れて脳卒中/全身性塞栓症のリスクや大出血のリスクをBMS/ファイザーのEliquis(apixaban)と比較した非劣性検定試験。日本の施設も参加した。安全性は過去の試験と同様であった由なので、予防効果が期待以下だったのだろう。

続行するOCEANIC-STROKE再発予防試験は非心原性虚血性脳卒中または高リスクTIAを発症してから72時間以内の9300人を組入れて、虚血性脳卒中、そして大出血のリスクを偽薬と比較している。三本目のOCEANIC-AFINA試験は65歳以上の高リスク心房細動で、経口抗凝固剤が不適な患者を組入れて効果や安全性を偽薬と比較する予定。一言でいえば、実薬対照試験は打ち切りになったがunmet medical needに応えるべき偽薬対照試験は継続する。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ヤンセン、二重特異性抗体の化学療法併用法を追加申請
(2023年11月20日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは米国でEGFR・MET二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)をEGFRにエクソン19欠損またはL858R置換を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌に適応拡大申請した。Tagrisso(osimertinib)による治療歴を持つ患者にcarboplatin及びpemetrexedと併用する。第3相MARIPOSA-2試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が6.3ヶ月とRybrevantの代わりに偽薬を用いた群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.48だった。全生存期間の解析は未成熟だが、ハザードレシオの点推定値は0.77だった。深刻な有害事象の発生率は32%対20%で上回った。

この試験では第3世代EGFR阻害剤JNJ-73841937(lazertinib)と4剤併用する群も設定されており、組入れは3剤併用群だけ半数に留められていたことから考えれば、本命は4剤併用だったと推測されるが、今回の申請には含まれなかったようだ。PFSのメジアン値は8.3ヶ月、2剤併用群比ハザードレシオは0.44で統計的に有意だったので数値は悪くないが、3剤併用と見比べてハザードレシオが大きくは変わらないことや、未成熟とは言え全生存のハザードレシオが0.96であること、そして、深刻有害事象発生率が52%であることなどを考慮したのかもしれない。あるいは、単に準備が整わなかっただけかもしれない。

Rybrevantは21年に欧米で承認。白金薬による治療歴を持ちEGFRにエクソン20挿入変異のある転移性非小細胞性肺癌に単剤投与する。市販後薬効確認試験のPAPILLON試験が成功、本承認切替や新患患者にcarboplatin及びpemetrexedと併用する一部変更を申請中。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アベクマの早期使用承認が不透明に
(2023年11月20日発表)

2seventy bio(Nasdaq:TSVT)と開発販売パートナーのブリストル マイヤーズ スクイブはAbecma(idecabtagene vicleucel)を承認用法より早い段階で用いる一変申請を行い、日本では薬食審再生医療等製品・生物由来技術部会が効能追加を了承したところだが、米国は審査期限の12月16日には間に合わないとの通知を受けた。腫瘍学諮問委員会に上程が決まったため。招集は12月下旬以降、審査結果がまとまるのはその1ヶ月以上後だろうから、2月以降に持ち越される可能性が高い。急に諮問が決まったことから想像すれば、審査の途中で何らかの懸念材料が浮上したのではないか。

AbecmaはBCMAを標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法。今回の申請は3種類の作用機序の治療薬すべてを含む2~4次治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治/再発多発骨髄腫を適応に追加するもの。エビデンスとなる第3相KarMMa-3試験では、PFS(無進行生存期間、独立委員会評価)のメジアン値が13.3ヶ月と標準治療群(5種類のレジメンから医師が選択)の4.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.49だった。全生存期間の解析は未成熟だが、死亡率は30%対26%で上回った。原因による内訳を見ると癌の進行や有害事象によるものは大差ないが、「死」としか報告されていないものが3.5%対0.2%となっているのが注目される。一方、致死的な有害事象の発生率は14%対6%で上回り、治療時発現有害事象によるものだけに絞っても2.7%対0.8%となっており、薬が原因とは断定できないにしても、有害事象に偏りがあることは軽視できないだろう。。

現在の適応は、米国では3クラス全てを含む4次治療歴。エビデンスとなった試験は3次以上の治療歴を持つ患者を組入れたが、欧日と異なり、FDAは被験者の88%を占めた4次治療歴を持つ患者に限定した。

リンク: BMSのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)←遅延へ
23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期される?
23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
23/12/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
23/12/27MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)



今週は以上です。

2023年11月18日

第1129回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • バイエル、PI3K阻害剤の承認を返上へ 
  • 第二の神経線維腫用薬を承認申請へ 
  • イミフィンジのステージ3NSCLC試験がフェール 
  • リフヌアは米国では支持されず
  • AKT阻害剤が一部の乳癌に承認 
  • イクスタンジが高リスクHSPCに適応拡大 
  • CRISPR技術の薬が英国で世界初承認 
  • キイトルーダがher2陰性の胃癌等にも承認 
  • 中心静脈カテーテル用抗微生物薬が承認 
  • BMSのROS1陽性NSCLC用薬も承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


バイエル、PI3K阻害剤の承認を返上へ
(2023年11月13日発表)

バイエルはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤Aliqopa(copanlisib)の米国における販売承認申請を自主的に撤回すべくFDAと協働する考えであることをプレスリリースで正式公表した。6年前に2種類以上の全身性治療歴を持つ成人の再発濾胞性リンパ腫用薬として加速承認されたが、市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる効果が見られなかった。同薬は中国と台湾でも承認されているが、EUはCHMPが懐疑的で申請撤回を余儀なくされた。

PI3K阻害剤では加速承認後の市販後薬効確認試験フェールが相次いでいる。Aliqopaの場合、加速承認のエビデンスとなった第2相単群試験で良好なORR(客観的反応率)と反応持続性を示し、市販後に完了したCHRONOS-3試験ではrituximabに追加するとメジアンPFS(無進行生存期間)を半年ほど伸ばせることが明らかになったが、同試験の全生存期間の解析はフェールし、適応拡大申請は見送られた。更に、今回、rituxanなどによる1~3次治療歴を持つ難治性緩徐進行非ホジキンリンパ腫を組入れたCHRONOS-4試験で、rituxan-bendamustine併用レジメンあるいはR-CHOP多剤併用レジメンに追加してもPFS延長効果が見られなかった。

効果のない薬の臨床試験がフェールするのは珍しくないが、効果のある薬なら必ず成功するとも限らない。Never give upが重要だが、PI3K阻害剤はORRが意味のある延命と必ずしもリンクしないことがかなり明確になってきたので、セカンド・チャンスやサード・チャンスを貰うのは難しい。他社の先行事例を見ても、承認返上は已むを得ないとことだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


第二の神経線維腫用薬を承認申請へ
(2023年11月16日発表)

米国のSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)はmirdametinibの後期第2相ReNeu試験がポジティブな結果になったと発表した。2歳以上の切除不能神経線維腫症1型関連叢状神経線維腫(NF1-PN)に2mg/m2(最大4mg)を一日二回、28日サイクルで21日反復経口投与したところ、小児におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が52%、成人では41%、メジアン反応持続期間は未到達、メジアン投与期間はどちらも22ヶ月となった。ORRの判定基準は腫瘍量が96週内に20%以上減少すること。悠長だが、過去の試験で1年以上経ってから基準達成する症例もあったことから、追跡期間を投与開始後8ヶ月ではなく約22ヶ月に設定した経緯がある。

G3以上の治療関連有害事象発生率は各25%と16%。同社は24年上期に承認申請する考え。

NF1はMAPK経路のサプレッサーであるニューロフィブロミンの遺伝子の常染色体性優性遺伝性疾患。米国の罹患者は推定10万人。症状は区々だ。20~22年に米欧日でアストラゼネカのMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)が承認された。mirdametinibもMEK1/2阻害剤で会社側は忍容性面でKoselugoを凌ぐことを期待している。SpringWorksは17年にファイザーからmirdametinibなど希少難病領域のパイプラインを継承して設立された。

リンク: 同社のプレスリリース


イミフィンジのステージ3NSCLC試験がフェール
(2023年11月14日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相PACIFIC-2試験がフェールしたことを明らかにした。切除不能なステージIII非小細胞性肺癌(NSCLC)328人を組入れて、根治的白金薬ベース化学放射線療法(CRT)と同時に4週毎投与し、その後も癌が進行するまで維持投与したが、PFS(無進行生存期間)が偽薬を同時投与・維持投与した群と大差なかった。

ImfinziはステージIIINSCLCでCRTに反応/疾病安定化した患者の維持療法として承認されている。上記試験が成功すれば早い段階で、より多くの患者に用いることができるはずだったが、課題持越しとなった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


リフヌアは米国では支持されず
(2023年11月17日報道)

FDAは肺・アレルギー用薬諮問委員会を招集し、MSDが成人の難治/説明不能な慢性咳嗽の治療薬として承認申請した末梢作用性選択的P2X3受容体アンタゴニスト、Lyfnua(gefapixant)について意見を聞いた。12人対一人という圧倒的多数が、薬効に懐疑的なFDAの評価を支持した。日本で22年1月に、EUでも今年9月に承認を取得したが、米国は難しそうだ。審査期限は12月27日。

第3相試験では英国のVitalograph社のVitaloJAK咳モニターを用いて最大24時間連続で咳嗽を録音、無音部分や雑音部分を圧縮した上で、人が咳の回数を数えた。この胸部センサーとマイクを有する機器はFDAの510(k)認証を得ているが、MSDは独自のディバイスと圧縮アルゴリズムを採用したため、FDAは一巡目の承認審査でバリデーションが不十分と見なし、咳のカウント方法にも注文を付け、更に臨床的な便益についても疑問を持ち、審査完了通知を発出した。MSDは追加的分析を提出、二巡目に入った。FDAは、改訂されたデータに基づいて、治療効果が限定的で臨床的な便益があるかどうか不明と再び主張した。

主評価項目の解析はログ変換値を用いて実施されたが、理解しやすい生データのメジアン値に注目すると、COUGH-2試験ではベースライン値の20回/時前後から45mg群は9.8回/時減少したのに対して偽薬群は8.7回/時減少と、差は1回程度に過ぎない。COUGH-1試験ではベースライン(試験薬群は20.9回/時、偽薬群は26.1回/時)比で各10.5回/時と8.9回/時減少と、ここでも1~2回程度の差に過ぎない。

結局のところ、偽薬効果というノイズが大きすぎて試験薬の有難さがぼやけてしまった憾みがある。

ロシュのスピンアウトであるAfferent Pharmaceuticalsを16年に買収して入手したコンパウンド。

リンク: Fierce Biotechの報道

【承認】


AKT阻害剤が一部の乳癌に承認
(2023年11月17日発表)

FDAはアストラゼネカのTruqap(capivasertib)を成人のホルモン受容体陽性her2陰性局所進行/転移乳癌用薬として承認した。PIK3CA、ATK1、またはPTENに変異を持ち、転移後に一次以上の内分泌療法を施行した後に進行、または切除術後付随療法が完了してから12ヶ月内に再発した癌が適応になる。選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレータであるFaslodex(fulvestrant)と併用する。上記変異の有無を検査するFoundationOne CDxアッセイも承認された。日欧でも承認申請中。

エビデンスとなる第3相CAPItello-291試験では共同主評価項目である上記変異を持つサブグループ(n=289)でも、全ユニバース(n=708)でも、PFS(無進行生存期間、担当医評価)が有意に伸びた。前者のメジアン値は7.3ヶ月、Faslodex・偽薬併用群は3.1ヶ月、ハザードレシオは0.50、全ユニバースの数値は各7.2ヶ月、3.6ヶ月、0.60であったため、アストラゼネカは全ユニバース向けに申請したが、FDAはサブグループに限定した。レーベルによると、上記変異を持たない313人ではハザードレシオ0.79(95%信頼区間0.61-1.02)で、効果がないとも言い難い数値だ。FDAが限定した理由は明らかではないが、ORRやPFSが必ずしも全生存期間とリンクしないPI3K阻害剤の連想かもしれない。Truqapの標的であるATKはPI3Kの川下に位置していて、適応がTruqapとオーバーラップするノバルティスのPiqray(alpelisib)はPI3Kアルファ阻害剤である。

あるいは、変異陰性サブグループの全生存期間のデータがあまり有望ではないのかもしれない。PFSの解析が実施された段階では未成熟とのことで、全ユニバースのデータすら公表されていないが...

第一三共/アストラゼネカのEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)が承認されて以来、her2陰性の定義が複雑/曖昧になっている。本剤の適応範囲もFDAは下記リリースでher2陰性と呼んでいるがアストラゼネカはher陰性/低発現と一部食い違っているが、レーベルの上記試験成績の欄では括弧書きでher2低発現も含むことを明記しており、実際には食い違いはない。

Truqapは05年にAstex(13年に大塚製薬が子会社化)と結んだ創薬提携の成果。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース


イクスタンジが高リスクHSPCに適応拡大
(2023年11月17日発表)

アステラス製薬は、Xtandi(enzalutamide)を未だ転移していない、去勢療法にも抵抗性が生じていない段階の前立腺癌に単剤、またはアンドロゲン除去療法剤と併用投与することがFDAに承認されたと発表した。根治的前立腺全摘/放射線療法後にPSA値が9ヶ月間以内に倍増するなど、生化学的再発(BCR)リスクが高い患者が適応になる。第3相EMBARK試験で、併用群の5年MFS(無転移生存)が83.5%とleuprolide・偽薬並行群の71.4%を上回り、ハザードレシオは0.42。Xtandi単剤群もハザードレシオ0.63だった。MFS解析時点では全生存のデータは未成熟だったが、数値自体は良好と報じられている。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


CRISPR技術の薬が英国で世界初承認
(2023年11月16日発表)

CRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)とパートナーのVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、Casgevy(exagamglogene autotemcel)が英国で鎌状赤血球病とベータ・サラセミアの治療薬として承認されたと発表した。12歳以上の、造血幹細胞移植が適応になるがHLA型がマッチするドナーが見つからない、鎌状赤血球病の場合は特定の遺伝子型を持ち血管閉塞性クリーゼを繰り返す患者が、適応になる。鎌状赤血球病の試験では評価可能29人中28人において12ヶ月以上に亘り重度疼痛クリーゼが発生しなかった。ベータ・サラセミアでは42人中39人が12ヶ月以上の間、赤血球輸血が不要だった。残り3人も7割減少した。有害事象は造血幹細胞移植と似ていた。

CRISPR社はCRISPR/Cas9遺伝子編集技術の発明者の一人として20年にノーベル化学賞を受賞したEmmanuelle Charpentierらが設立した会社で、今回、同技術に基づく医薬品が世界で初めて承認された。ヘモグロビンの欠乏を補うために、患者から採取したCD34陽性細胞をCRISPR/Cas9編集し、胎児期や新生児期にだけ発現する胎生ヘモグロビン(HbF)の転写抑制因子であるBCL11A遺伝子を切断・改変した上で患者に戻すもの。赤血球機能が十分に発揮されるようになるまで移植後1ヶ月ほど入院する。

米国やEUでも承認申請中。

リンク: MHRA(英国の承認審査機関)のプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース


キイトルーダがher2陰性の胃癌等にも承認
(2023年11月16日発表)

FDAはKeytruda(pembrolizumab)を成人のher2陰性で局所進行切除不能/転移性の胃/胃食道接合部腺腫に用いることを承認した。fluoropyrimidine系及び白金系の化学療法薬と併用する。KeyNote-859(1次治療試験)の中間解析でメジアン生存期間が12.9ヶ月と偽薬併用群の11.5ヶ月を若干上回り、ハザードレシオは0.78だった。15%の患者が有害事象によりKeytrudaの投与を永続的に中止した。

CPS(腫瘍や免疫細胞におけるPD-L1発現評価スコア)が1未満のサブグループにおけるハザードレシオは0.92と見劣りするためか、EUのCHMPは10月にCPS≧1に限定して肯定的意見を出したが、FDAは限定しなかった。

her2陽性患者に用いることは一足早く21年に加速承認されたが、その後の追跡でCPS≧1以上のサブグループにしかPFS延長効果が見られなかったため、適応範囲が縮小され、EUでもCPS≧1限定で承認された経緯がある。

リンク: FDAのプレスリリース


中心静脈カテーテル用抗微生物薬が承認
(2023年11月15日発表)

米国のCorMedix(Nasdaq:CRMD)は、FDAがDefencath(taurolidine、heparin)を承認したと発表した。腎不全患者に中心静脈カテーテルによる慢性透析を施行する場合、終了後にヘパリンを注入して次回施行までの間に血栓ができるのを防ぐが、抗微生物薬も投与することにより、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を抑制する。806人を組入れた第3相試験の中間解析でヘパリン注入群と比べてリスクが72%小さかった(p=0.0034)。有害事象はカテーテル機能不良、出血、悪心嘔吐など。

20年にローリング承認申請を完了したが、生産委託先やヘパリン調達先が査察時に指摘事項を受け、審査完了通知を二回受領したが、やっと承認に漕ぎ着けた。

the 21st Century Cures Actで導入されたLPAD(Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugs)に基づく承認。適応を限定することを条件に小規模な臨床試験に基づく承認申請を認めるもので、18年に難治性非結核性抗酸菌症性肺炎用薬として承認されたインスメッドのArikayce(amikacin)、19年に高度抵抗性肺結核用薬として承認されたGlobal Alliance for TB Drug DevelopmentのPretomanid(pretomanid)に続く第3号。806人は小規模ではないように感じるが、他の要件が一部簡略化されているのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


BMSのROS1陽性NSCLC用薬も承認
(2023年11月15日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがAugtyro(repotrectinib)を成人の局所進行/転移ROS1陽性非小細胞性肺癌用薬として承認したと発表した。22年にTurning Point Therapeuticsを41億ドル(エクイティ・バリュー・ベース)で買収して入手した経口大環状ROS1チロシン・キナーゼ阻害剤で、160mgを最初の14日は一日一回、その後は二回、経口投与する。

第1/2相試験で類薬を未経験の71人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が79%(完全反応率は6%)、メジアン反応持続期間34ヶ月、1剤経験し化学療法未経験の56人では各38%(同5%)、14ヶ月だった。主な有害事象は眩暈、末梢ニューロパチー、便秘、呼吸困難、運動失調など。致死的有害事象の発生率は4%で、肺臓炎や心停止など。

リンク: 同社のプレスリリース


lebrikizumabがEUでは承認された
(2023年11月17日発表)

スペインのAlmirall(BME:ALM)は、EUがEbglyss(lebrikizumab)を年齢12歳以上、体重40kg以上の小児と成人の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認したと発表した。最初の2回は500mg、その後は250mgを皮下注し、二週毎に16週間反復した第3相試験でEASI75達成率が偽薬を有意に上回った(ADvocate 1試験では59%対偽薬群16%、ADvocate 2では51%対18%)。共同主評価項目であるIGA奏効率も有意に上回った(同じく43%対13%と33%対11%)。

抗IL-13抗体で、ロシュから権利を取得したDermiraが19年に欧州での権利を導出したもの。米国では20年にDermiraを買収したイーライリリーが承認申請したが、生産委託先が査察指摘事項を受け、10月に審査完了通知を受領した。

リンク: Almirallのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)
23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期される?
23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
23/12/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)


今週は以上です。

2023年11月12日

第1128回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • AHA:ウゴービの心血管アウトカム試験成績が発表 
  • バイエル、PI3K阻害剤の承認を自主返上か 
  • BTK阻害剤を蕁麻疹に承認申請へ 
  • イミフィンジ、肝癌のTACE併用試験が成功 
  • ブレヤンジをCLL/SLLに適応拡大申請 
  • CHMP、GSKのJAK阻害剤などの承認を支持 
  • チクングニア熱ワクチンが初めて承認 
  • 武田薬品の二剤が米国で承認 
  • イーライリリーの二型糖尿病薬も肥満症に実質的適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


AHA:ウゴービの心血管アウトカム試験成績が発表
(2023年11月11日発表)

2020年代のスーパースター、GLP-1作用剤の肥満症心血管アウトカム試験の結果がAHA(米国心臓協会)科学部会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。ノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)のSELECT試験に関するもので、トップラインは8月に発表済み。同社は欧米でレーベル収載申請した。

本試験は45歳以上でBMIが27kg/m2以上、且つ心血管疾患を持つ17604人を偽薬群とWegovy群に無作為化割付けして平均40ヶ月追跡し、MACE(主要有害心血管事象:心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中)の発生リスクを比較した。semaglutideはやや低用量が二型糖尿病用薬Ozempicとして販売されているが、本試験では糖尿病患者は除外された。

結果は、ハザードレシオ0.80、p<0.001、と良好な結果になった。発生率は偽薬群が8.0%、試験薬群は6.5%なので、66人に4年間投与すると一人をMACEから救うことができる計算になる。

有害事象による投与中止率は各8.2%と16.6%。胆嚢障害の発生率は各2.3%と2.8%。膵炎や自殺の増加は見られなかった。

過去の肥満症薬は、肺動脈高血圧や不整脈が増えたり、心血管アウトカム試験で効果がなかったり自殺や未遂が増えたりして、散々だったことを考えると、大きな前進だ。但し、このような試験は多くの除外条件が設けられるので、現実の医療では効果は低下し副作用は増えると覚悟すべきだ。また、一人をMACEから救うのに必要な薬剤費(米国のリスト・プライスで計算)は350万ドル超と聞くと、急に眉を顰める人が増えそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


バイエル、PI3K阻害剤の承認を自主返上か

一部報道によると、バイエルはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤Aliqopa(copanlisib)の米国における販売承認を自主返上する考えだ。17年に2種類以上の治療歴を持つ濾胞性リンパ腫に加速承認されたが、市販後薬効確認試験である第3相CHRONOS-4試験(rituximabを含む1~3次治療歴のある患者を組入れて、R-BまたはR-CHOPレジメンに追加する便益を検討)がフェールしたとのこと。CHRONOS-3試験(rituximabに反応/安定化後に進行した患者にrituxuimab再開する時に追加)では主評価項目のPFSは有意に改善したが全生存期間では有意差が出ず2年生存率は86%と偽薬追加群の90%より見劣りした。

PI3K阻害剤は多くの新薬が加速承認されたが、安全性懸念が浮上したり、市販後薬効確認試験がフェールしたり、期待を裏切るニュースが陸続している。Aliqopaよ、お前もか!

【新薬開発】


BTK阻害剤を蕁麻疹に承認申請へ
(2023年11月9日発表)

ノバルティスはLOU-064(remibrutinib)の第3相慢性特発性蕁麻疹試験が二本とも成功したと8月に発表したが、トップライン・データが明らかになった。H1ブロッカーに十分応答しない患者に25mgを一日二回、12週間に亘り経口投与して、UAS7(週次蕁麻疹活動性スコア)の変化を調べたところ、一本では20.1点(偽薬群は13.8点)、もう一本では19.6点(同11.7点)減少し、偽薬比有意な差があった。有害事象全体や、BTK阻害剤でしばしば見られる肝機能検査値異常は偽薬並みだった。

24年に承認申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


イミフィンジ、肝癌のTACE併用試験が成功
(2023年11月9日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相肝細胞腫試験、EMERALD-1の成功を発表した。塞栓術が適応になる切除不能肝細胞腫616人を組入れて、TACE(肝動脈化学閉塞療法)にImfinziを追加する効果を検討したところ、維持療法期にbevacizumabも採用した群のPFS(無進行生存期間)が偽薬追加群より統計的に有意な、そして臨床的に意味のある、延長を示した。副次的評価項目である全生存期間を検討するため治験は続行している。尚、同じく副次的評価項目であるImfinziだけ追加した群の成否は明らかではない。

Imfinziは切除不能肝細胞腫では抗CTLA4抗体Imjudo(tremelimumab-actl)と二剤併用することが承認されている。進行中の第3相では、切除術付随療法としてbevacizumabと併用したり、TACE適合肝細胞腫にImfinzi、Imjudo、エーザイのlenvatinibを併用する手法も検討中。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ブレヤンジをCLL/SLLに適応拡大申請
(2023年11月9日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)を難治再発慢性リンパ性白血病や小リンパ急性リンパ腫に用いる一部変更申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査だが、審査期限は来年3月14日とのこと。TRANSCEND試験でbcl-2阻害剤による治療歴を持ちBTK阻害剤に反応しなかった患者49人に投与したところ、CR(完全反応率、独立評価委員会査読)が18%、反応持続期間はメジアン未達(メジアン21ヶ月追跡時点)。ORR(客観的反応率)は42.9%だった。CAR-T療法につきもののサイトカイン放出症候群の頻度はG3が8.5%、G4以上はゼロ、G3/4神経学的イベントの発生率は18.8%だった。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、GSKのJAK阻害剤などの承認を支持
(2023年11月10日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

GSKのOmjjara(momelotinib)は成人の中重度貧血症を伴う骨髄線維症患者における脾腫などの症状を治療する。JAK1/2だけでなくACVR1も阻害するせいか、骨髄線維症でしばしば発現し、既存のJAK阻害剤を投与するとしばしば増悪する、貧血症のリスクが小さいことが長所。効果自体は既存薬と大差なさそうだ。米国では9月にOjjaara名で承認、日本でも承認申請中。昨年、Sierra Oncologyを買収して権利を取得したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

UCBのRystiggo(rozanolixizumab)は皮下注用抗ヒト胎児Fc受容体抗体。標準療法を受けている成人の抗AChR/MuSK抗体陽性全身性重症筋無力症患者に追加投与する。米国では6月に、日本では9月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

NovartisのSpexotras(trametinib)はMEK1/2阻害剤。1歳以上の患者のBRAF V600E変異のある低/高グレード神経膠腫に同社のBRAF阻害剤Finlee(dabrafenib)と併用する。Finleeのほうは9月に肯定的意見を得ているが、Spexotrasはなぜか2ヶ月遅れとなった。製品名は今回初めて聞いたが、遅延と何か関係があるのかもしれない。米国では前者はMekinist名、後者はTafinlar名で販売されているが、欧州は用途などに応じて二つの製品名を使い分けている様子だ。

リンク: EMAのプレスリリース

Mirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)のKrazati(adagrasib)はKRAS G12C阻害剤。KRAS G12C置換のある進行非小細胞性肺癌に単剤投与する。条件付き承認なので別途、薬効を確認する必要がある。

7月に否定的意見を受けたが、今回、肯定的意見に変更された。理由はCHMPの説明文を読んでも良く分からない。否定的意見を出した時は条件付き承認の要件であるunmed medical needを充足していないと記していたが、今回のQ&A資料を読むと、22年に条件付き承認されたアムジェンの類薬、Lumykras(sotorasib、米国名Lumakras)の市販後薬効確認試験、CodeBreaK 200の成績が前回の判断に影を落としていたように感じられる。Krazatiの単群試験と同様にORRが良好で、主評価項目のPFSはdocetaxel群を有意に上回ったが、メジアン値の差は1ヶ月余と小さかった。また、全生存期間は大差なく、検出力不足であるにしても、実薬より大きく優れるとは言い難いものだった。このため、FDAも、10月に上程されたFDA諮問委員会も、便益が確立したとは言えないと受け止めた。薬がフェールしたというよりは治験がフェールしただけという見方が多かったようだったが、本当にそうなのか、改めて試験しなければ分からない。もし既存薬と同程度なら、unmet medical needに応える薬とは呼べない。

今回、CHMPが意見を変えたのは、腫瘍学のエキスパートの意見などを求めた上で、KrazatiはLumykrasの類薬だが違った点もあるのでCodeBreaK 200試験の結果に配慮する必要は必ずしもないと考え直したためとのこと。あいまいな説明だ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Q&A資料(pdf)

一方、ノバルティスがPROS(PIK3CA関連過成長症候群)の治療薬として承認申請したPI3K阻害剤Vijoice(alpelisib)は、申請撤回となった。米国では昨年4月に承認されたが、CHMPは、臨床的便益が明確でないこと、様々なサブタイプのうち一つにしか作用が見られないこと、成長・発達に与える影響など長期的な安全性が確認されていないことなどから、後ろ向きに評価していた。エビデンスは前向き無作為化割付け対照試験ではなく、Compassionate Use Programに則り人道的な観点から適応外投与が行われた約40人の後顧的チャート・レビューなので、評価が分かれても不思議はない。

尚、活性成分はPiqray名でPIK3CA変異などを持つ転移性乳癌に欧米で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大に関する肯定的意見は以下の通り。

  • Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)のAyvakyt:成人の緩徐全身性肥満細胞腫。KITやPDGFRの阻害薬で、進行性肥満細胞腫やPDGFR変異陽性切除不能/転移消化管間質腫瘍に承認されている。
  • MSDのKeytruda(pembrolizumab):成人の局所進行性切除不能/転移胆管腫瘍の一次治療としてgemcitabine及びcisplatinと併用する。
  • イーライリリーのMounjaro(tirzepatide):肥満症や高リスクオーバーウェイトの体重管理に用いるGIP/GLP-1受容体作動剤。米国では別名販売されるがEUでは二型糖尿病薬の適応拡大という扱いになるようだ。
  • ファイザーのTalzenna(talazoparib):成人の転移性去勢抵抗性前立腺癌(但し化学療法が不適な場合に限る)。同社のXtandi(enzalutamide)と併用する。臨床試験のサブグループ・データが一貫しなかったせいか、限定が付いた。米国ではHRR(相同組換え修復)不全に限定で承認された。PARP阻害剤で、最初の適応であるBRCA変異乳癌でも、EUと米国の適応範囲が若干異なっていた。

  • 尚、イプセン・グループのAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)の局所作用性回腸胆汁酸輸送体阻害剤Bylvay(odevixibat)は、7月のCHMPでアラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒に適応拡大することが支持されたが、10月に申請撤回された。希少疾患用薬指定の打切りが決まったことが原因のようだ。21年に進行性家族性肝内胆汁鬱滞症用薬として承認され、希少疾患用薬指定もされているが、アラジール症候群における希少疾患用薬指定が外されると国によっては保険還付に影響するため、アラジール症候群用薬を別ブランドとして改めて承認申請する考え。

    【承認】


    チクングニア熱ワクチンが初めて承認
    (2023年11月9日発表)

    FDAは、スイスのValneva(Nasdaq:VALN、Euronext Paris: VLA)が開発したチクングニア熱の弱毒化生ワクチン、Ixchiqを加速承認した。チクングニア・ウイルスに曝露するリスクが高い18歳以上に一回、筋注する。免疫原性試験で28日後の防御的中和抗体獲得率が98.5%、半年後でも96%だった。市販後薬効確認試験はブラジルで行われている12歳以上の第3相試験に加えて、別のエンデミック地域でプラグマティックな無作為化割付け対照試験を実施する必要がある。

    審査期限は8月だったが、市販後薬効確認に関して合意が遅れた模様で、延期された。今回、重度チクングニア様有害事象が1.6%で発現したことも明らかになった(偽薬群はゼロ)。入院例や30日以上持続した症例もあった模様で、市販後監視対象に組み込まれた。

    チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症。熱帯・亜熱帯地域に多いが米国や日本でも散見されるようになった。死亡率は高くない。

    リンク: FDAのプレスリリース


    武田薬品の二剤が米国で承認
    (2023年11月9日発表)

    武田薬品が米国で承認申請した新薬二品が米国で承認された。一つはAdzynma(ADAMTS13, recombinant-krhn)。成人小児のcTTP(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)の治療や予防的投与に用いる。cTTPではvon Willebrand因子(VWF)の切断酵素であるADMTS13が欠乏しVWFの重合体が微小血管で血栓を形成、溶血性貧血や虚血性障害、血小板減少症などをもたらす。AdzynmaはADMTS13の補充療法。19年に買収したシャイアがその3年前に合併したBaxaltに起源を持つ。

    リンク: FDAのプレスリリース

    Fruzaqla(fruquintinib)はVEGFR1/2/3阻害剤。成人の転移性結腸直腸癌のサルベージ療法で、代表的な治療薬であるfluoropyrimidine、oxaliplatin、及びirinotecanの全てとVEGF阻害剤、そして使用が適切な場合はEGFR阻害剤の治療歴を持つ患者っ適応になる。5mgを28日サイクルで21日反復投与し7日間休む。Lonsurf(trifluridine/tipiracil)やregorafenibにも不応不耐の患者を組入れた第3相FRESCO-2試験でメジアン生存期間が7.4ヶ月と偽薬群の4.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.66だった。中国のHutchmed(Nasdaq:HCM、和黄医薬)から中国香港マカオ以外の地域での権利を取得したもの。欧日でも承認申請中。

    リンク: 武田のプレスリリース(和文)


    イーライリリーの二型糖尿病薬も肥満症に実質的適応拡大
    (2023年11月8日発表)

    FDAはイーライリリーのZepbound(tirzepatide)を体重管理薬として承認した。肥満症(BMIが30kg/m2以上)、または肥満関連疾病(高血圧症、二型糖尿病、高脂血症、閉塞性睡眠時無呼吸、心血管疾患など)を持つオーバーウェイト(同27~29kg/m2)が適応になる。低カロリー・ダイエット及び運動療法に追加する。

    食欲や胃腸における食物吸収などを抑制するGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)/GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体アゴニスト。22年に米日欧で二型糖尿病薬として承認されたMounjaroの別ブランドで、どちらも、2.5mg週一回皮下注で開始して、それぞれ4週以上空けて、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgと増量していく。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、便秘、腹痛など。

    GLP-1作用剤のクラス警告である、齧歯類における甲状腺C細胞腫(ヒトにおける甲状腺髄様腫に該当)所見や、甲状腺髄様腫歴/家族歴あるいは多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)における禁忌が枠付き警告されている。膵炎の患者における安全性や有効性は検討されていない。妊娠したら中止する。同時使用すると経口避妊薬の効果が低下する虞がある。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: イーライリリーのプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
    23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
    23/11/27BMSのrepotrectinib(ROS1陽性非小細胞性肺癌)
    23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
    23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
    23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)
    23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
    23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期される?
    23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
    23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
    23/12/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
    23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
    諮問委員会
    23/11/16ODAC:Acrotech BiopharmaのPTCL用薬二剤、Folotyn(pralatrexate)とBeleodaq(belinostat)の市販後薬効確認が遅延している件
    23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)



    今週は以上です。

    2023年11月4日

    第1127回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • サレプタ、DMD遺伝子療法の市販後薬効確認試験がフェール 
    • 新規淋病治療薬の第3相が成功 
    • 統合失調症用新薬の第3相が成功 
    • アトラセンタンがIgA腎症用薬として復活 
    • DecipheraもCSF-1R阻害剤をTGCTに承認申請へ 
    • 点鼻型発作性上室性頻拍治療薬を承認申請 
    • CRSPR/Cas9編集薬が承認に向け前進 
    • ボノプラザンが米国でも食道炎に承認 
    • キイトルーダが胆道癌に承認 
    • コセンティクスが化膿性汗腺炎に適応拡大 
    • 中華PD-1阻害薬が米国で遂に承認 


    【今週の話題】


    サレプタ、DMD遺伝子療法の市販後薬効確認試験がフェール
    (2023年10月31日発表)

    サレプタ・セラピューティックスはElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)の市販後薬効確認試験、EMBARKで主目的を達成できなかったと発表した。副次的評価項目では統計的に有意且つ臨床的に意義がある治療効果が見られたと判断、適応年齢を拡大すべくFDAと相談する考え。

    Nationwide Children's Hospitalからライセンスして開発した、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子治療で、アデノ随伴ウイルスをベクターとして通常のジストロフィン遺伝子より小さいがある程度機能するマイクロジストロフィンの遺伝子を導入する。臨床試験でマイクロジストロフィン発現を確認し、22年に4~7歳の歩行能力が未だ残っている患者を対象に米国で承認申請した。FDAの担当部署は運動機能など臨床的な便益が未確認であることを懸念したが、生物学製剤を担当するCBERのヘッドであるPeter Marksの鶴の一声で諮問委員会を招集したところ、12人の委員中6人が承認に賛成した。反対も同数あったが、また鶴の一声があった模様で、今年6月に4~5歳限定で加速承認に至った。

    加速承認を得た企業は、市販後薬効確認試験(PMS)を実施して臨床的な便益を確認する必要がある。サレプタは過去7年間にDMD治療薬4品の加速承認を得たが、PMSの進捗が遅く、これが担当部署がElevidysの加速承認に前向きでなかった一因であった様子だ。最初に結果が出たのがフェールというのは皮肉であり、ジストロフィン等の発現が増えても十分な臨床的便益は得られないのではないか、というFDA審査担当部署側の懸念が現実化した格好だ。

    会社側発表によると、主評価項目の52週NSAA(North Star Ambulatory Assessment)総スコアはベースライン平均の23点から2.6点改善、偽薬群は1.9点改善、治療効果は0.65でp=0.24だった。一方、主要副次的評価項目の一つであるtime to rise from floorはベースライン平均の3.5秒から0.27秒短縮、偽薬群は0.37秒増加、治療効果は0.64秒でp=0.0025だった。もう一つの10メートル歩行/走行テストはベースライン平均の4.8秒から0.34秒短縮、偽薬群は0.08秒増加、治療効果は0.423秒、p=0.0048。何れも、4~5歳のサブグループでも、6~7歳サブグループでも有意差が見られた。

    主評価項目がフェールしたのだから副次的評価項目のp値が0.05を下回っても統計的に有意とは言わないのではないかと思われる。臨床的に意義があるという主張も釈然としない。一方で、自然歴データを見てもDMD患者の歩行機能低下が顕著になるのは8歳以降であり、4-7歳の患者における便益を検討するには1年追跡するだけではそもそも足りなかったようにも感じられる。FDAの評価が注目される。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【新薬開発】


    新規淋病治療薬の第3相が成功
    (2023年11月1日発表)

    GARDP(グローバル抗菌薬研究開発パートナーシップ)は、Innoviva(Nasdaq:INVA)の専門薬子会社と共に、zoliflodacinの第3相淋病試験で主目的を達成したと発表した。承認申請に向かうのではないか。アメリカ、オランダ、ベルギー、タイ、南アの施設で非複雑性泌尿器生殖器淋病の患者930人を組入れて、3gを一回経口投与する効果を標準療法(ceftriaxone 500mg筋注とazithromycin 1g経口の併用)と比較したところ、1週後の泌尿器生殖器における微生物学的治癒率の群間差が5.31%(95%信頼区間1.38-8.65%)となり、非劣性マージンの12%をクリアした。

    淋病は年82万人が感染、うち30%は経口抗生剤に耐性を持ち、最近ではceftriaxone耐性菌も散見されるようになった。新薬が必要だが開発してもやがて耐性菌が生じるだろうから無限ループである。ダイエット薬やしわ取り薬をセレブに売り込む方が賢いビジネスという風潮を補完する組織の一つが薬物耐性菌に有効な新薬を開発するスイスの非営利法人、GARDで、日本を含む様々な国が資金を拠出している。

    zoliflodacinはspiropyrimidinetrione系の新規抗生物質でトポイソメラーゼIIを阻害、DNAの生合成を妨げる。ceftriaxone耐性菌も含め既存の耐性菌にも活性を維持している。アストラゼネカからスピンアウトしたEntasis TherapeuticsをInnovivaが22年に買収して入手した。

    リンク: 両社のプレスリリース(Business Wire)


    統合失調症用新薬の第3相が成功
    (2023年10月30日発表)

    米国カリフォルニア州のReviva Pharmaceuticals(Nasdaq:RVPH)は、RP5063(brilaroxazine)の最初の第3相試験、RECOVERで高用量群が目的達成したと発表した。24年に二本目を開始し、25年に承認申請を狙う。

    自社で発見したセトロニンとドパミンのシグナル調節剤。本試験は統合失調症急性期の412人を偽薬、15mg、または50mgを一日一回、経口投与する群に無作為化割付けして4週間治療し、PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)の改善(点数低下)を比較した。ベースライン平均値は99点。50mg群の低下は23.9点と、偽薬群の13.8点を有意に上回った。治療効果は10.1点、イフェクト・サイズ(Cohen's d)は0.6だった。15mg群は数値上、上回ったが有意ではなかった。

    治療時発現有害事象の発生率は各群30%、34.5%、35.5%で頭痛や傾眠など。体重増やアカシジア、錐体外路症状の発生率はあまり高くなかった。有害事象による治験離脱率は各群4%、1%、0%だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    アトラセンタンがIgA腎症用薬として復活
    (2023年10月30日発表)

    ノバルティスは経口エンドテリンA受容体拮抗剤atrasentanの第3相IgA腎症試験、ALIGHで、主目的を達成したと発表した。24年に加速承認を申請すべくFDAと相談する考え。

    IgA腎症用薬の開発は、薬効確認試験の6~9ヶ月時点のUPCR(尿蛋白クレアチニン比)改善効果に基づき加速承認を申請し、2年時点のeGFR低下抑制効果を確認して本承認切替申請を行うパターンが多い。今回も、RAS阻害剤で治療しても十分改善しない患者に0.75mgを一日一回投与して、まず、36週UPCRが偽薬比有意に改善することを確認した。データは未公表。

    atrasentanはアッヴィが04年に前立腺癌の骨転移治療薬として承認申請したが承認されず、糖尿病性腎症の第3相で良好な便益が示されたが承認申請には至らず、20年にカナダのChinook Therapeuticsに導出した。Chinookは20年にAduro Biotechと合併して抗APRIL抗体BION-1301(zigakibart)を入手、今年7月に第3相IgA腎症試験を開始した。ノバルティスは今年8月にChinookを32億ドル及び後発価値証書3億ドルで買収して両剤を入手した。

    atrasentanの糖尿病性腎症試験では心不全や全死亡が偽薬群より多かった。統計的に有意ではなかったが、検出力が十分なのかどうか、分からない。今回の第3相では心不全は除外条件になっている。

    ノバルティスは発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として欧米で承認申請中の経口B因子阻害剤、LNP023(iptacopan)も第3相IgA腎症試験が成功しており、もし三剤とも承認された場合に、どのように使い分けるのか、気になるところだ。

    アストラゼネカも10年以上前に前立腺癌の第3相三本がフェールしたZD4054(zibotentan)で慢性腎疾患の第3相を行う予定で、エンドテリンA受容体拮抗剤の復活が続いている。

    リンク: 同社のプレスリリース


    DecipheraもCSF-1R阻害剤をTGCTに承認申請へ
    (2023年10月30日発表)

    Deciphera Pharmaceuticals(Nasdaq:DCPH)はDCC-3014(vimseltinib)の第3相腱滑膜巨細胞腫(TGCT)試験、Motionで、目的を達成したと発表した。手術に適さないTGCT患者123人(うち3/4は過去に手術歴あり)に偽薬または30mgを週二回、経口投与して、25週時点のORR(客観的反応率)を調べたところ、各群ゼロと40%となった。主な有害事象は眼窩周囲や顔の浮腫、CPK値上昇、掻痒、高血圧、肝機能検査値上昇など。米国で24年第2四半期に、EUでも第3四半期に、承認申請する考え。

    CSF-1R(コロニー刺激因子1受容体)を阻害する小分子薬としては、19年に第一三共のTuralio(pexidartinib)が米国で成人の重体又は機能低下を伴う切除不適症候性TGCTに承認された。22年度売上高38億円のニッチ薬だ。Toralioは死亡する可能性もある肝障害のリスクが枠付き警告されている。DCC-3014の第3相の規模は同程度なので、深刻例が発現していないようならば、使いやすくなるかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    点鼻型発作性上室性頻拍治療薬を承認申請
    (2023年10月24日発表)

    カナダ本社のMilestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)は短期作用性カルシウム・チャネル・ブロッカーのMSP-2017(etripamil)を発作性上室性頻拍(PSVT)の治療薬として米国で承認申請した。点鼻スプレー製剤であることが特徴。第3相NODE-301試験はフェールしたが、追跡時間を5時間と長く取ったことが敗因であった模様で、30分内に洞調律した患者の比率は試験薬群54%、偽薬群35%、ハザードレシオ1.87、p=0.02だった。そこで、この試験の第2部として位置付けられたRAPID試験で仮説検証したところ、64%対31%、ハザードレシオ2.62、p<0.001となり目的を達成した。2本のプール分析でER入室が39%少なかった(p=0.035)。主な有害事象は鼻の不快感や鼻詰まりなど。

    PSVTは珍しくない疾患で、不快・不安以外に異常はないことが多いが、米国ではPSVTによる入院が年5万件と推測されている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    CRSPR/Cas9編集薬が承認に向け前進
    (2023年10月31日発表)

    CRISPR/Cas9遺伝子編集の代表的企業の一つであるスイスのCRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)と創薬研究パートナーである米国のVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、CTX-001(exagamglogene autotemcel)を欧米で承認申請しており、米国の審査期限は鎌状赤血球病用途が12月8日、輸血依存ベータサラセミア用途は来年3月30日となっている。FDAは、CTGTAC(細胞、組織、遺伝子療法諮問委員会)を招集して、標的外編集リスクの検討が十分か、もし十分でないならどのような試験を行うべきか、意見を聞いたところ、症例を少しくらい増やしても大同小異なので患者の長期追跡調査に重点を置くべきという意見が大勢だった。薬効には問題はなさそうなので、承認に向けて一歩前進したといえるだろう。

    CTX-001は患者の造血幹細胞・前駆細胞の遺伝子を体外で改変し、通常は胎児期や新生児期にしか発現しない胎生ヘモグロビン(HbF)を分泌するよう処理してから患者に戻し、ヘモグロビンの欠乏を補うもの。具体的には、HbFの転写抑制因子であるBCL11AのエンハンサーをCas9で切断する。天然の遺伝子修復メカニズムが作動するが、切断→修復を繰り返すうちに修復エラーが発生し、当該遺伝子が機能しなくなる。承認されればCRISPR/Cas9編集技術を応用した初の医薬品になる。

    この技術の理論的なリスクは、もし標的以外の箇所に同様な塩基配列があった場合、思わぬ副作用が生じてしまうかもしれないことだ。鎌状赤血球病などの患者が多いアフリカ系の人たちに関する遺伝子サンプル量は白人ほど多くないので、特に検討が難しい。

    塩基配列は人により異なるので、100人、1000人に投与して安全でも1001人目で発生しないとは限らない。委員からは、善を成すに不確実を憂うべきではないという趣旨の発言もあったようだ。今回の結語と呼んでもよいだろう。

    リンク: Crispr社のプレスリリース

    【承認】


    ボノプラザンが米国でも食道炎に承認
    (2023年11月1日発表)

    Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)はFDAがVoquezna(vonoprazan)をびらん性食道炎の治療と寛解維持用途で承認したと発表した。前日には、昨年承認されたものの未発売であったピロリ菌除菌用製品、トリプル・パックとデュアル・パックに含まれる同薬の新製剤も承認されており、プトロン・ポンプ阻害剤大国である米国で、いよいよ、発売されることになる。

    武田薬品が開発したPCAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)で、日本では14年に胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ピロリ菌除菌用薬タケキャブとして承認された。Phathom社はGSKの研究開発本部長やビル&メリンダ・ゲイツ財団のグローバル・ヘルス・プログラムのヘッド、そして武田薬品の取締役などを歴任した故山田忠孝氏らが設立した企業。北米欧州市場でライセンスし米国で承認にこぎつけたが、発売の前に発癌性が疑われるNVP(N-nitroso-vonoprazan)が微量検出され、製剤の見直しや長期安定性試験の実施が必要になった。H2ブロッカーやARBで浮上したNDMA(N-ニトロソジメチルアミン)と類似した性質を持つ不純物で、保存中にも増加する可能性があるため、厄介だ。

    リンク: 同社のプレスリリース(GERD用)
    リンク: 同(ピロリ菌除菌用、10/30付)


    キイトルーダが胆道癌に承認
    (2023年11月1日発表)

    MSDはFDAがKeytruda(pembrolizumab)を局所進行切除不能/転移胆道癌の一次治療に用いることを承認したと発表した。gemcitabine及びcisplatinと併用する。KeyNote-966試験では、三剤併用群のメジアン生存期間が12.7ヶ月と、Keytrudaの代わりに偽薬を併用した群の10.9ヶ月を少し上回った。ハザードレシオは0.83、片側p値は0.0034だった。大した数値ではないが2年生存率は各24.9%と18.1%と5ポイント以上改善した。G3/4治療関連有害事象の発生率は各群70%と69%で大差ない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    コセンティクスが化膿性汗腺炎に適応拡大
    (2023年10月31日発表)

    ノバルティスはFDAがCosentyx(secukinumab)を成人の中重度化膿性汗腺炎に用いることを承認したと発表した。300mgを最初の4回は週一回、その後は4週毎に投与する。応答不十分な場合は2週毎投与も可。第3相試験二本では、4週毎投与群のHiSCR50奏効率が一本は42.5%で偽薬群の26.1%を有意に上回ったが、もう一本は41.9%対29.4%で有意ではなかった。2週毎投与群は一本が36.6%、もう一本では44.5%となり、いずれも偽薬比有意。尚、FDAが解析方法に注文を付けた模様で、昨年9月に同社が発表した数値から変わっている。

    Cosentyxは抗IL-17A抗体。プラク乾癬など多くの自己免疫疾患に承認されている。化膿性汗腺炎はEUでも5月に適応拡大した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    中華PD-1阻害薬が米国で遂に承認
    (2023年10月27日発表)

    Coherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)はFDAがLoqtorzi(toripalimab-tpzi)を成人の転移/難治局所進行性上咽頭癌用薬として承認したと発表した。Junshi Biosciences(HKSE:1877、上海君実生物医薬)が創製した抗PD-1抗体で、中国発の抗PD-1/L1抗体が米国で承認されたのは初めて。

    FDAは中国だけで実施される薬効確認試験の信憑性に疑問を持っており、Innovent Biologics(HKEX:01801)が非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療薬として承認申請した抗PD-1抗体、sintilimabは承認されず、イーライリリーが米国権を返還した。ノバルティスが抗PD-1抗体tislelizumabの欧米日などの権利をBeiGene(Nasdaq:BGNE、HKEX:6160、百済神州)に返還したのも、FDAの姿勢が理由ではないかと言われている。Loqtorziは何が違うのか?

    エビデンスとなる第3相JUPITER-02試験は289人中270人を中国の施設で組入れ、台湾とシンガポールは19人だけとなっているためか、同社はグローバル試験ではなく拡大中国試験と呼んでいる。従って、中国以外も参加したからという単純な話ではなく、全体的なデザインやデータや判定の査読が妥当と判断されたのだろう。また、上咽頭癌はアジアに多く米国の患者数は決して多くないことも地域的な偏在を正当化する理由になったのだろう。

    21年9月に承認申請したが、品質管理面の指摘事項や、COVID-19の流行による米国連邦職員の渡航制限などにより、承認が遅れた。24年第1四半期にロンチする予定。中国では米国企業の抗PD-1/L1抗体よりかなり安く販売されているが、Coherusは価格攻勢をかけるつもりはない模様だ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
    23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
    23年11月推 武田薬品のTAK-755(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)
    23/11/17Phathom Pharmaceuticalsのvonoprazan(びらん性胃食道逆流症)
    23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
    23/11/27BMSのrepotrectinib(ROS1陽性非小細胞性肺癌)
    23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
    23/11/30Hutchmed/武田のfruquintinib(結腸直腸癌)
    23/11末ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)←3ヶ月延長
    諮問委員会
    23/11/16ODAC:Acrotech BiopharmaのPTCL用薬二剤、Folotyn(pralatrexate)とBeleodaq(belinostat)の市販後薬効確認が遅延している件
    23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)
    注:イーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)のPDUFAは24Q1に延期された

    今週は以上です。