2020年9月26日

第965回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボの膀胱癌アジュバント試験が成功 
  • ESMO:オプジーボの食道癌試験が二本成功 
  • ESMO:キートルーダの食道癌試験も成功 
  • ESMO:オプジーボとカボメティクスの腎細胞腫併用試験 
  • ESMO:イーライリリー、イブランスのアジュバント試験が成功 
  • 抗CD19ADCを承認申請 
  • FDA、GSKのヌーカラを好酸球増多症候群にも承認 


【新薬開発】


オプジーボの膀胱癌アジュバント試験が成功
(2020年9月24日発表)

BMSは、Opdivo (nivolumab)を高リスク筋層浸潤尿路上皮癌の術後アジュバント療法に用いる第3相CheckMate-274試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。データは学会発表の予定。適応拡大申請を計画。

709人の患者をOpdivo群(最大1年間投与)と偽薬群に無作為化割付した二重盲検試験で、intent-to-treatベースとPD-L1陽性(≧1%)サブグループの両方のDFS(無病生存期間)解析が成功した。副次的評価項目である全生存期間や尿路上皮癌による死亡の解析を行うため治験は続行している。

この用途で抗PD-1/PD-L1抗体の第3相が成功したのは初めて。ロシュのTecentriq(atezolizumab)も類似したIMvigor010試験が行われたが、メジアンDFSは19.4ヶ月と対照群(偽薬の無い観察群)の16.6ヶ月を僅かに上回っただけでハザードレシオは0.89、有意ではなかった。

Tecentriqの試験はメジアン21ヶ月の追跡で3割前後が死亡しており、文字通り高リスクであることが分かる。それだけにOpdivoの試験が成功したのは朗報。但し、どの程度の効果があったのかデータを確認する必要がある。

リンク: BMSのプレスリリース

ESMO:オプジーボの食道癌試験が二本成功
(2020年9月21日発表)

BMSは、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第3相食道癌試験二本の成功を8月に発表したが、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)でデータを明らかにした。適応拡大申請に向かう見込み。

CheckMate-577試験は、食道・胃食道接合部の癌で術前化学放射線療法を受け病理学的完全反応(pCR)を達成できなかったものの完全切除できた患者を対象に、アジュバント療法(240mgを2週毎に8回投与した後、40mgを4週毎投与)を施行した。結果は、DFS(無病生存期間)がメジアン22.4ヶ月と偽薬群の11.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.0003だった。グレード3/4治療関連有害事象の発現率は各群13%と6%だった。

CheckMate-649試験は転移/切除不能進行の胃癌、食道癌、胃食道接合部癌の一次治療としての効用を化学療法(CAPEOXまたはFOLFOXレジメン)と比較した。結果は、主評価項目であるCPS≧5サブグループにおける全生存期間とPFS(無進行生存期間、盲検独立中央委員会評価)が有意に上回った。メジアン生存期間は14.4ヶ月対11.1ヶ月、ハザードレシオ0.71、p<0.0001、PFSは各7.7ヶ月、6.0ヶ月、0.68、p<0.0001。全生存期間はintent-to-treatベースでも達成した(各13.8ヶ月、11.6ヶ月、0.80、0.0002)。有害事象による治験離脱率は24%対36%で下回った。

リンク: BMSのプレスリリース

ESMO:キートルーダの食道癌試験も成功
(2020年9月21日発表)

MSDは8月に成功発表したKeytruda(pembrolizumab、和名キートルーダ)の第3相KeyNote-590試験のデータをESMOで発表した。局所進行/転移食道・胃食道接合部癌の一次治療を受ける患者749人を化学療法(cisplatinと5-FUの併用)とKeytrudaを併用する群とKeytrudaの偽薬を併用する群に無作為化割付して転帰を比較したところ、intent-to-treatベースの全生存期間とPFSなど複数の主評価項目が中間解析で成功認定された。前者はメジアンが12.4ヶ月と偽薬群の9.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、後者はメジアン値は6.3ヶ月対5.8ヶ月で大差ないがハザードレシオは0.65となり、どちらもp<0.0001。CPS≧10サブグループのメジアン生存期間は13.5ヶ月対9.4ヶ月とintent-to-treatより差が広がった。有害事象による治験離脱率は19.5%対11.6%、治療関連死亡は9人対5人でどちらも上回った。

この試験は上記CheckMate-649試験と対象疾患がやや異なり対照群も異なるが、649試験がモノセラピーで化学療法比ハザードレシオが0.71であったのに対して、こちらは三剤併用で0.73なので、印象が薄いのはやむを得ないだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:オプジーボとカボメティクスの腎細胞腫併用試験
(2020年9月19日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)は、高リスク進行/転移腎細胞腫の一次治療としてCabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)とBMSのOpdivo(nivolumab)を併用する効能をファイザーのSutent(sunitinib)と比較した第3相CheckMate-9ER試験のデータをESMOで発表した。主評価項目であるPFSはメジアン16.6ヶ月対8.3ヶ月、ハザードレシオ0.51、p<0.0001、副次的評価項目の全生存期間は両群ともメジアン未達だがハザードレシオは0.60、p=0.001だった。有害事象による投薬中止発現率はCanometyxだけが7%、Opdivoだけ6%、両方3%、Sutentは9%だった。

両社は欧米で用法追加申請中。腎細胞腫一次治療ではCabometyxの単剤投与やOpdivoとYervoy(ipilimumab)の併用が既に承認されている。

抗PD-1抗体とCabometyxのようなVEGF受容体拮抗剤を併用する腎細胞腫一次治療試験は様々な組み合わせで第2相、第3相試験が行われ、概ね、同様な成績を上げている。Opdivo・Yervoy併用も効果は同程度のように見える。

リンク: Exelixisのプレスリリース

ESMO:イーライリリー、イブランスのアジュバント試験が成功
(2020年9月20日発表)

イーライリリーは6月にCDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)の早期乳癌切除後アジュバント療法試験の成功を発表したが、ESMOでデータを公表した。ホルモン受容体陽性、her2陰性閉経後転移乳癌の一次治療薬として日米欧で承認されているが、適応拡大申請する予定。

このmonarchE試験は、ホルモン受容体陽性、her2陰性の高リスク早期乳癌で内分泌療法を受ける患者5637人をVerzenio併用群(150mgを一日二回、経口投与、最大2年間)と併用しない群に無作為化割付してIDFS(無浸潤疾患生存期間)を比較した。中間解析でハザードレシオ0.747、p=0.0096となり、成功認定された。

2年無浸潤疾患生存率はVerzenio併用群が92.2%、非併用群は88.7%だった。メジアン追跡期間は15ヶ月強に過ぎないので、今後も長期追跡データがアップデートされるだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認申請】


抗CD19ADCを承認申請
(2020年9月21日発表)

スイスのADC Therapeutics(NYSE:ADCT)は、米国でADCT-402(loncastuximab tesirine)を難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に承認申請したと発表した。二次以上の治療歴を持つ患者145人を組入れた第二相試験で、ORR(客観的反応率)が48.3%、完全反応は24.1%だった。メジアン反応持続期間は10.2ヶ月。

ADCT-402はCD19を標的とする抗体と、DNA複製阻害剤のADC(抗体薬物複合体)。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


FDA、GSKのヌーカラを好酸球増多症候群にも承認
(2020年9月25日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を好酸球増多症候群(HES)に用いる適応拡大を承認した。12歳以上で病状が6ヶ月以上持続し、ほかに原因が特定されない患者に用いる。

HESは好酸球数が通常の3倍に増加することもあり、様々な器官に浸潤して様々な症状を引き起こす。米国の推定患者数が5000人程度の希少疾患ということもあり、診断されるまで長期間かかることが少なくない。治療薬の承認は14年ぶり。

NucalaはIL-5に結合する抗体医薬。好酸球性喘息症などに承認されている。第3相試験では300mgを4週毎に皮注したところ、32週間のフレア(症状悪化または好酸球数が増加し治療の強化が必要に)の発生率が28%と偽薬群の56%の半分だった。主な有害事象は上部気道感染症や四肢痛。帯状疱疹が見られるため、適応ならワクチン接種を考慮する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース





今週は以上です。

2020年9月20日

第964回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:レムデシビルに続きオルミエントの試験が成功 
  • COVID-19:アクテムラの第3相が三度目の正直で成功したが... 
  • COVID-19:ナノ技術とAIで感染検査を20秒に短縮 
  • COVID-19:アストラゼネカ、英国でワクチンの第3相再開を断行 
  • COVID-19:ワクチンの信頼を取り戻せ! 
  • ESMO:テセントリクの乳癌試験の成績は区々 
  • 抗ネクチン-4ADCの市販後確認試験が成功 
  • CDKL5欠乏障害の第三相が成功 
  • ノバルティス、ベオビュの糖尿病性黄斑浮腫試験が成功 
  • ニーマン・ピック病C型用薬の承認申請が受理 
  • ND4変異によるLHONの遺伝子療法がEUで承認申請 
  • マリンクロット社、1型肝腎症候群用薬がFDAに承認されず 
  • CHMP、肺炭疽治療薬などの承認を推奨 


【今週の話題】


COVID-19:レムデシビルに続きオルミエントの試験が成功
(2020年9月14日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)とイーライリリーは、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導するACTT-2試験で、Olumiant(baricitinib、オルミエント)が主目的を達成したと発表した。詳細はNIAIDが論文・学会発表する予定。両社は別途、第三相試験を実施しているが、その結果を待たずに米国でEUA(非常時使用認可)に向かう可能性がありそうだ。

Olumiantはインサイトが創製しイーライリリーと共同開発販売しているJAK1/2阻害剤。17~18年に日米欧で中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として承認された。

ACTT-2試験はCOVID-19に感染し放射線学的所見や酸素飽和度低下、呼吸困難などを伴う入院患者1000人超を日米欧などの医療施設で組入れた二重盲検無作為化割付対照試験。ACTT-1試験でギリアドのVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)がメジアン罹患期間を4日間短縮する成果を上げたことを受けて、更にOlumiantを追加する効果を検討した。Vekluryは添付文書通りに初日は200mg、2日目以降は100mgを一日一回、最大10日間静注した。Olumiantは4mgを一日一回、最大14日間、経口投与した。

主評価項目のtime to recoveryと、副次的評価項目の症状改善が共に成功した。前者は退院までの罹患期間を比較するもので、医療介入は不要になったが感染管理のために入院を継続した症例や、在宅酸素や活動制限付きの退院も、退院とカウントした。メジアンで1日の群間差があった由。後者は、COVID-19の臨床試験で広く用いられている8段階の病状評価の改善度合いを第15日に評価した。

メジアン罹患期間が1日しか違わないというのは残念ではある。数値が大きくないというだけでなく、誤差の影響が危惧されるからだ。個々の症例データは日数単位ではなく時間単位なのだろうが、例えば退院許可を出すのが他の患者の緊急対応により遅れたり、夜分で担当医が不在だったり、夜が明けるまで待ったりすることがあったとしても不思議はない。現下の医療施設の状況下では通常以上に『ノイズ』の影響を考慮すべきだろう。

尤も、メジアン1日の意味は入院期間が短くなりがちな中等症の患者と長期化しがちな危機的患者では違ってくる。ACTT-1試験でも重症度毎のサブグループ分析の数値は区々だった。サブグループのデータがが注目される。

尚、Olumiantの承認用量は米国は一日2mg、日本は4mgで開始して応答なら2mgに減量、EUでは4mgが標準で応答なら2mgに減量してもよい、となっている。米国が低量なのはFDAが深刻な感染症や腫瘍、血栓のリスクを懸念したためだ。

さて、JAK1/2阻害剤はインターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達を阻害する。IL-6受容体ブロックするActemra(tocilizumab)やKevzara(sarilumab)の第3相COVID-19試験がフェールしたのに、何故、その川下をブロックする薬が成功したのか?こうなると思い起こされるのはLancet誌に掲載されたRichardsonらの論文だ。SARS-CoV-2はACE2受容体に結合して細胞内部に入り込むが、このエンドサイトーシスの制御に係るAAK1(AP2関連プロテイン・キナーゼ)を阻害する既存薬をBenevolentAI社のシステムで探索したところ、baricitinibがヒットしたというのだ。サイクリンG関連キナーゼというエンドサイトーシスの制御に係るもう一つの酵素も阻害することが分かった。

もしこれが作用機序だとすると、他のJAK阻害剤も有効なはずと即断はできないことになる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

COVID-19:アクテムラの第3相が三度目の正直で成功したが...
(2020年9月18日発表)

ロシュは、Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)をCOVID-19肺炎の治療に用いたEMPACTA試験が成功したと発表した。ハザードレシオは0.56と大変良いがp値は0.0348なので、有意性はそれほど高くない。また、退院や症状改善を速める効果は見られず、28日死亡率は有意ではないとはいえ悪かった。他の第3相であるロシュのCOVACTA試験やイタリアのAIF主導試験はフェールしており、類薬の第3相も期待外れだったことを考えると、抗IL-6受容体抗体の有効性が遂に立証された、とは即断できないだろう。

COVID-19肺炎の重症例では炎症性サイトカインが増加するサイトカイン放出症候群がしばしば見られる。ActemraはIL-6の作用をブロックし炎症免疫反応を抑制する効果を持っており、3月に中国のCOVID-19治療ガイドラインに採用されるなど、期待されたが、よくデザインされた対照試験が成功したのは今回が初めてだ。

EMPACTA試験はSpO2が94未満で人工呼吸器装着は不要なCOVID-19肺炎患者389人を米国、南米、南ア、ケニアの医療施設で組入れて、人工呼吸器装着や死亡のリスクを28日間追跡した。特徴は、ヒスパニックやアフリカ系など少数民族が85%を占めること。米国で行われる試験は少数民族の比率が低いことが多く、欧州は人口自体が少ない。米国居住のアフリカ系の場合、半世紀前のスキャンダル(Tuskegee Syphilis Study:政府機関が梅毒のアフリカ系アメリカ人に無料で治療すると嘘を言って実際には最善治療を行わず病気の自然歴を研究した)も影響しているようだ。この試験は現状を改善し少数民族の医療を向上することを目指す運動の一環として行われた。

結果は、Actemra群の人工呼吸器装着・死亡率は12.2%、偽薬群は19.3%で、ハザードレシオは0.56、p=0.0348だった。一方、副次的評価項目の退院(または退院許可)までの期間や病状段階改善までの期間は大差なかった。

28日死亡率は各群10.4%と8.6%で数値上はActemraのほうが高いので、主評価項目の数値が良かったのは、おそらく、人工呼吸器装着が少なかった(装着までの期間が長かった)からだろう。病状がどのようになったら装着するかは国や医療施設によって異なる可能性があり、また、機器が空くまで待つようなこともあったかもしれないので、主観の入る余地が小さい死亡という評価項目と比べると迫力が弱い。

ギリアドのVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)やステロイドのdexamethasone、そしてOlumiant(baricitinib)と、中等症・重症COVID-19に有効性を示す薬が増えてきたので、新規候補の第3相は、これらの薬と併用して効果をどれだけ上乗せできるかが問われることになる。Actemraもremdesivir併用試験が進行しているので、この試験が成功した段階で評価しなおせばよいだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

COVID-19:ナノ技術とAIで感染検査を20秒に短縮
(2020年9月10日発表)

英国のスタートアップ・ベンチャーであるiAbraは、20秒で結果が出るCOVID-19感染検査機器、VirolensをインテルやTTエレクトロニクスとともに開発した。RNAや抗体の判別ではなく、デジタルホログラフィック顕微鏡で唾液検体の4K画像を取得しAIに識別させる。ブリストル大学のウイルス標本で試験したところ、感度は99.8%、特異度は96.7%だった由。検査に特別なトレーニングは不要。3週間前からヒースロー空港で実地試験を行っており、今回、本格的にロールアウトした。

ディープラーニングや機械学習は高度になればなるほどブラックボックス化し、人間に理解できない事例が増える。将棋のプロ棋士がAIの指し手を鵜呑みにしないのは、全ての局面で単一の正解手が存在するとは限らないし、理解できない手を真似しても実力が向上したとは言えず、もしそれで負けたら悔しいからだ。指し手がAIの読み筋通りに進んだのに評価値が大きく変わることがよくあるが、変わった理由を説明できる人はいないだろうし、おそらく、理解しようとしても無駄だろう。AIの判定が正しくても間違っていても、人間に理解できるとは限らないので、依存するのは怖いところがある。

それでも、もし上記の感度、特異度が本当ならば、空港だけでなく競技場やイベント場、飲食店、医療施設、介護施設など多くの検査を短時間で処理する必要のある場所では活躍できそうだ。COVID-19対策のデジタル機器というと熱センサーが広く用いられているが、感染者ののうち発熱があるのはせいぜい5割程度、無症状感染者も含めれば1~2割だろうから、使わないよりは良い程度のものだろう。店舗などにおいてある殺菌剤も、コロナウイルスに効果があることが確立しているものならよいが、そうでなかったら、ボタンについているかもしれないウイルスに感染するリスクも考慮しなければいけない。AIがもし完璧でなかったとしても、現在行われている手法と比べれば、大きな前進だろう。

リンク: iAbraのプレスリリース

COVID-19:アストラゼネカ、英国でワクチンの第3相再開を断行
(2020年9月12日発表)

アストラゼネカとオックスフォード大学は、それぞれ、共同開発しているCOVID-19ワクチンの第3相を英国で再開すると発表した。英国は治験認可の早さや敷居の低さで知られている。他の国が直ぐに追随するかどうかは不透明だろう。

オックスフォード大学は、チンパンジーに感染するアデノウイルスを増殖不能化したものをベクターとしてRNAを送り込む技術を元に、ChAdOx1 nCoV-19を創製した。アストラゼネカがAZD1222という開発コードで共同開発している。5月に英国で第2/3相試験を開始、9月には米国でも第3相入りした。

ところが、9月6日に臨床試験を中断することになった。重要な副作用(ワクチンだろうが何だろうが、副反応ではなく副作用と呼ぶべきである)が発生したため、所定の手続きに則り、独立安全性評価委員会や承認審査機関(英国のMHRAなど)の審査を受けることになったからだ。

幸い、委員会もMHRAも治験再開を推奨、英国では再開が決定した。しかし、何が起きたのか、どう評価されたのかは公表されていない。米国側は、まだ有害事象症例の詳細情報を入手する段階のようだ。

ISRCTN治験登録サイトには第1/2相試験の参加者向け情報シートが過去のバージョンも含めて掲載されている。深刻反応に関する情報は今年7月30日付で改訂され、ボランティアの一人が神経学的症状を発現したため治験を中断したが、その後、当該ボランティアはワクチンとは関連のない神経学的疾患であることが診断されたことが追記された。

おそらく今回の事例を受けてだろう、9月20日付で再び改訂された。それによると、ボランティア(複数)が神経学的症状を発現したため治験を中断して独立的安全性検討を行った結果、ワクチンとの関連性がなさそうである、あるいは、ワクチンとの関連性の有無を断じるだけの十分な証拠がない、と見なされた。「彼ら」は被験者の密接なモニタリングを続けながらワクチン接種を続けるよう推奨した。

この記述を読むと、二例目に関してはワクチンの副作用である可能性が否定されていないようである。尚、「彼ら」が誰を指すのか不明だが、おそらく独立安全性監視委員会と薬品承認審査機関の両方が接種再開を支持したのだろう。

安全性が確認されなかったのに再開するのは乱暴なようだが、COVID-19が健康や経済、社会活動に大きな影響を与えていることや、二例目の転帰が悪くなさそうであること(既に退院したと報じられている)、そして、副作用リスクを探知するためには一定数以上の被害者が必要で、そのためには多くの被験者が必要であることなどから、やむを得なかったのだろう。

リンク: オックスフォード大学の発表
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: ISRCTNレジストリー
リンク: 当該ボランティアに関するCNNの報道(9/17付)

COVID-19:ワクチンの信頼を取り戻せ!
(2020年9月17日アクセス)

米国のアンケート調査などを見ると、COVID-19ワクチンが接種可能になっても直ぐに打ちたい人は2割程度で、過半は、効果や安全性に関する情報が充実するまで様子見姿勢であるようだ。ロシアや中国が接種を開始し、トランプ大統領も11~12月の開始を示唆するなか、スピード最優先で安全性検証が疎かになる可能性を危惧する意見が政府高官の間からも出ていることが影響しているのだろう。政府に対する不信感に加えて、AZD1222の横断性脊髄炎様有害事象症例に関する報道も影を落としているのではないか。

ちょっとした切っ掛けで大衆の意識が変わる先例は、子宮頸がんワクチンなど、枚挙に暇がない。稀だが深刻な有害事象はある程度発現例が集まらないと副作用かどうか分からないのだから、AZD1222の件のように何とも言えない段階であれこれ報道したり議論したりしても我々一般人にはメリットがないのだが、今回は特に注目されるワクチンなので止むを得ない。

信頼を取り戻し、実用化後の接種率を上げるにはどうしたらよいか?政府は政府の責任を果たすとして、製薬会社が動き出した。まず、ワクチンの開発は政治的圧力ではなく科学に則って行うと宣言した。次に、Moderna(Nasdaq:MRNA)がmRNA-1273の第3相COVE試験のプロトコルを公表した。135ページの各ページにコンフィデンシャルと記されたままの資料で、中間解析も含めた詳しい解析計画なども掲載されている。

FDAはワクチン効率の信頼区間下限が30%を超えることを求めている。Modernaの解析計画では、最終解析はイベント数(偽薬群も含めたCOVID-19感染者数)が151件に達した時点で行い、点推定値が49.5%以上であればハードルをクリアできる。検出力は、ワクチン効率が目標通り60%であった場合、90%。

中間薬効解析は二回行われ、イベント数が目標の35%に到達した段階でワクチン効率が74.1%以上、または、70%に到達した段階で56.5%以上なら成功認定される。

Modernaは、早ければ11月、遅くとも12月には、効果が確認できると予想している。BioNTech/ファイザーは10月中を期待しているので1ヶ月前後のビハインドを意味する。

BioNtech/ファイザーもBNT162の第3相プロトコルを公開したと一部で報じられているが、当方は確認できなかった。アストラゼネカも公開する方向のようだ。

報道によると、ファイザーはワクチン承認後にDTC(一般消費者向け直接広告)も検討しているようだ。米国の場合、ワクチンや薬の広告は便益だけでなく危険も同等に開示する必要があり、日本のTVコマーシャルのように短時間すぎて消費者が読めないような広告は禁止されている。このため、自社ワクチンではなくCOVID-19の脅威や予防の重要性に重点を置く、疾病啓蒙型広告になるのではないか。

リンク: ModernaのCOVE試験情報サイト(プロトコルのリンクあり)


【新薬開発】


ESMO:テセントリクの乳癌試験の成績は区々
(2020年9月19日発表)

ロシュの抗PD-L1抗体、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)は腫瘍浸透細胞がPD-L1高発現のトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)の一次治療にnab-paclitaxelと併用することが日米欧で承認されている。類薬の臨床試験が中々成功しない用途なので第3相のIMpassion130試験が成功したのは快挙だが、難点は、延命効果が確立していないことだ。ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で全生存期間の最終解析結果や、nab-paclitaxelではなくpaclitaxelを併用した第3相、そして早期TNBCの第3相ネオアジュバント試験の結果が発表されたが、区々な結果になっている。

130試験はPD-L1陽性サブグループにおけるPFSのハザードレシオが0.60、メジアン値は7.4ヶ月と偽薬併用群の4.8ヶ月を上回った。全生存期間でも上回ったが、シーケンシャルな解析計画において上位に設定された全集団の全生存解析がフェールしたため、延命効果が統計学的に確立したとは言えない状態にある。最終解析ではPD-L1陽性サブグループのハザードレシオは0.67(95%信頼区間0.53-0.86)、メジアン値の絶対差は7.5ヶ月と、数値は悪くない。但し、中間解析の数値よりは悪化しており、全集団の解析では顕著な差はなかったようだ。

IMpassion131試験は切除不能/局所進行/転移乳癌の一次治療にpaclitaxelと併用したが、既報のように、フェールした。主評価項目であるPD-L1≧1%のサブグループにおけるPFSのハザードレシオは0.82(95%信頼区間0.60-1.12)に留まり、副次的評価項目の全生存期間の中間解析は数値上悪かった。今回、全生存期間のアップデート数値が発表されたが、前回より改善したとはいえまだ大きな寿命短縮効果が否定されていない。

最初の中間解析は死亡例が目標の21%に到達した段階で行われ、ハザードレシオが1.55であったことが今回、明らかにされた。酷い数値であり、FDAが9月に安全性通達を発出したのが頷かれる。アップデートは41%到達段階のもので、ハザードレシオ1.12(95%信頼区間0.76-1.65)と点推定値、95%上限共に改善したが、失望的であることに変わりはない。

ロシュのAvastin(bevacizumab)は転移乳癌の第三相でPFS延長効果が見られ米国で加速承認されたが、複数の市販後確認試験で延命効果が確認されなかったため、承認取消となった。現在は当時ほど審査が厳しくない(腫瘍学諮問委員会が厳しくないと書く方が正確かもしれない)が、今回の二本の全生存期間の解析結果は失望的で、少なくとも、諮問委員会に意見を求める展開にはなるのでないか。

最後に、早期TNBCのIMpassion031試験のデータも発表された。切除前にnab-paclitaxel、doxorubicin、cyclophosphamideで腫瘍縮小を目指すネオアジュバント療法に追加したところ、pCR(病理学的完全反応)が57.6%と偽薬追加群の41.1%を上回った。p値は0.0044でこの解析に割り当てられた閾値である0.0185を下回った。効果はPD-L1発現の有無に関連しなかった。適応拡大申請する予定。この試験は切除後のアジュバント療法における効果も検討するため、続行している。

類薬ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)も早期TNBCのネオアジュバント試験が成功した。転移TNBCの化学療法併用試験は二次三次治療のKeyNote-119試験はフェール、一次治療のKeyNote-355試験は共同主評価項目のうちCPS≧10サブグループのPFSは成功したが、もう一つの全生存期間の解析は未だデータが成熟していないため、不明と、区々な内容。Tecentriqと似ている。

リンク: ロシュのプレスリリース

抗ネクチン-4ADCの市販後確認試験が成功
(2020年9月18日発表)

Seattle Genetics(Nasdaq:SGEN)とアステラス製薬は、抗ネクチン-4ADC(抗体薬物複合体)Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)の第3相EV-301試験が成功したと発表した。昨年、米国で加速承認された時のフェーズIIIコミットメントなので、FDAに提出して本承認切替を狙うとともに、他の国で承認申請に向かう考え。

Padcevは、第二相試験の反応率データに基づいて、局所進行/転移尿路上皮癌で白金薬及びPD-1/PD-L1阻害剤による治療歴を持つ患者に使うことが承認された。今回の試験の対象も同様で、600人の患者をPadcev群と化学療法群(docetaxel、paclitaxel、vinflunineのなかから担当医が選択)の全生存期間を比較した。結果は、ハザードレシオが0.70、p=0.001、副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)も0.61でp値は0.00001を下回った。

リンク: SGENのプレスリリース

CDKL5欠乏障害の第三相が成功
(2020年9月14日発表)

Marinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)は、CCD-1042(ganaxolone)の第三相CDKL5欠乏障害(CDD)試験が成功したと発表した。来年央に米国で、第3四半期にEUでも、承認申請する計画。承認まで早くても1年以上かかるが、今年第4四半期にEAP(承認前の薬を深刻な疾患の患者に提供する制度)を開始する考えだ。マーケティング提携も考えている模様だ。

CDDは能が正常に機能する上で必要なサイクリン依存性キナーゼ様5の遺伝子に変異があり、出生後早い段階で癲癇発作を示し、発達障害も現れる。X染色体上の遺伝子で患者は専ら女子。有病率は数万出生に一人と言われている。

ganaxoloneは中枢神経選択的に作用するGABA-Aポジティブアロステリックモジュレーター。GABA-A受容体のGABA結合部位とは異なる部位に結合し、GABAによる抑制的シグナルを増強する。

第三相では難治癲癇を伴う2~21歳のCDD患者101人をganaxolone群(一日1800mgを三回に分けて17週間経口投与)と偽薬群に無作為化割付して主要運動性癲癇頻度(28日間の中央値)をベースライン値と比較したところ、減少率が各群32.2%と4.0%となり、有意な差があった(p=0.002)。事前に設定された副次的評価項目の解析はトレンドに留まったようだ。

同社は難治癲癇重積症でも48時間点滴静注用製剤の第三相を開始する考え。また、PCDH19関連癲癇や結節性硬化症患者の癲癇を治療する第二相試験も実施中。

ganaxoloneは20年以上の臨床歴を持つ。Marinusは03年にPurdue Pharmaからライセンスした。静注用、カプセル、経口懸濁液の三種類の製剤がある。

同様なメカニズムの薬ではSage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)のZulresso(brexanolone)が19年に米国で産後鬱の治療薬として承認された。60時間点滴静注する。SSRIなどと比べて作用のオンセットが早いことが特徴。通常の鬱病に関しては経口剤のSAGE-217(zuranolone)で第3相試験を行ったがフェール、追加試験の構え。

リンク: 同社のプレスリリース

ノバルティス、ベオビュの糖尿病性黄斑浮腫試験が成功
(2020年9月14日発表)

ノバルティスは、Beovu(brolucizumab、和名ベオビュ)の第3相糖尿病性黄斑浮腫試験二本のうちKITE試験が成功したと発表した。主評価項目である第52週の最高矯正視力(BCVA)がバイエルのEylea(aflibercept、和名アイリーア)と非劣性。副次的評価項目のうち中心窩領域網膜厚(CST) は有意に改善した。もう一本の結果を待って適応拡大申請するだろう。

BeovuはVEGF-Aに結合する抗体の可変領域短鎖フラグメント。19~20年に日米欧で新生血管を伴う加齢性黄斑変性の治療薬として承認された。6mgを最初の3ヶ月は毎月、その後は2~3ヶ月に一回、硝子体注射する。インターバルは網膜検査などに基づいて患者毎に決定するが、今回の試験では過半の患者が3ヶ月に一回で足りた。Eyleaは加齢性黄斑変性や糖尿病性黄斑浮腫に承認されている。2mgを最初の3ヶ月は毎月、その後は2ヶ月毎に硝子体注射する。

Beovuは米国承認後に網膜血管炎/網膜血管閉塞のリスクが表面化、発生率は低いものの、欧米の添付文書が改訂された。KITE試験では眼内炎症の発現率が両群大差なかったとのことだが、360人程度の試験なので、検出力が足りなかったのだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


ニーマン・ピック病C型用薬の承認申請が受理
(2020年9月16日発表)

デンマークのOrphazyme(Nasdaq Copenhagen:ORPHA)は、FDAがarimoclomolの承認申請を受理し、優先審査指定したと発表した。審査期限は21年3月17日。現時点では諮問委員会招集の考えはないようだ。年内に欧州でも承認申請の考え。

arimoclomolはハンガリーで発見され権利を取得したロサンジェルスのCytRXがBRX-220として開発したが、腫瘍学に集中することを決め、2011年にOrphazymeにライセンスアウトした。遺伝子を元に蛋白が作られる時の折り畳み異常に対処する、ヒート・ショック・プロテイン増幅作用を持つ、とされる。

薬効や安全性のエビデンスとなる第2/3相試験は、2~8歳のニーマン・ピック病C型患者50人を欧米の施設で組入れて、12ヶ月間に亘り試験薬又は偽薬を経口投与した。結果は、共同主評価項目の一つであるNPC-CSS(5ドメインのみの簡略版)の進行が0.5と偽薬群の1.9を下回ったが、p=0.0506で有意ではなかった。尚、4歳以上のサブグループ(44例)では0.1対2.1でp=0.0219、EMAが要求したmiglustatで治療を受けているサブグループの解析は-0.2対1.8でp=0.0071だった。

一方、FDAの要求で共同主評価項目に設定したCGI-I奏効率は、58.8%対56.3%で大差なかった。深刻有害事象の発生率は14.7%対37.5%でむしろ少なかったが、もし病気に係る症状の発現率が大きく低下しているようなら、副作用は薬効主評価項目ほど厳格に評価されないので信頼性が劣るとはいえ、ポジティブな材料になり得るだろう。有害事象による治験離脱率は8.8%対ゼロで、忍容性はこちらの数値のほうが適切に反映されているのではないか。

ニーマン・ピック病C型はライソゾーム疾患の一つで、コレステロール移送に係るNPC1/2遺伝子の欠損により組織にコレステロールが蓄積、肝脾腫やカタレプキーなどを発症する。欧米で1800人が罹患と推定されている。日本と欧州では経口グルコシルセラミド合成阻害剤Zavesca(miglustat)が承認されているが、便益は限定的で、CHMPは、当初、否定的意見を出した。

arimoclomolの便益も良く分からない。一本しかない小規模な試験で有意差が出なかったのだから、超希少疾患用薬でなければ申請却下されていただろう。NPC-CSSの5ドメイン版は、歩行、構語、認知、微細運動、咀嚼の5ドメインについて0(正常)から5まで5段階で評価する。治療効果は1~2ポイントなので、大きいとも小さいともいえるだろう。サブグループ分析ではもう少し良い数値が出ているが、サブグループ分析には悪魔が潜んでおり、ましてや、今回のような小規模な試験では、患者背景やドロップアウトの影響に偏りが出ていても不思議はないだろう。

arimoclomolは筋萎縮性側索硬化症で第3相、特発性封入体筋炎で第2/3相中で、どちらも21年上期に結果が判明する見込み。

リンク: Orphazymeのプレスリリース

ND4変異によるLHONの遺伝子療法がEUで承認申請
(2020年9月15日発表)

フランスのGenSight Biologics(Euronext:SIGHT)は、Lumevoq(lenadogene nolparvovec)をEUに承認申請した。遺伝子組換え型アデノ随伴ウイルス2型にヒトND4(NADH脱水素酵素4)のcDNAを導入した遺伝子療法で、ミトコンドリアのND4遺伝子変異によるレーバー遺伝性視神経症(LHON)の治療を目的に硝子体注射する。

LHONはミトコンドリア遺伝子変異による疾患で、多くが法律上の盲人になる。欧米の新患が年800~1200人の希少疾患。

リンク: GenSight社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


マリンクロット社、1型肝腎症候群用薬がFDAに承認されず
(2020年9月14日発表)

ダブリン籍の製薬会社、マリンクロット(NYSE:MNK)は、terlipressinを1型肝腎症候群用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。危険・便益バランスに係る情報が不十分と判定されたようだ。最初の承認申請から11年、第三相試験が三度目の正直で成功したのだが、ゴールできなかった。

terlipressinはV1選択的バソプレシン受容体作動剤。欧州の多くの国で肝腎症候群の主要な致死的合併症である食道静脈瘤の治療薬Glypressinとして承認されている。米国ではOrphan Therapeuticsが第三相試験を実施したがトレンドに留まり有意差は出なかった。09年に承認申請したが審査完了となった。権利を取得したIkaria社が第三相試験を実施したが、有意水準には届かなかった。

マリンクロットはIkariaを23億ドルで買収して入手。昨年、第3相CONFIRM試験が遂に成功した。反転率(血清クレアチニンが低位で安定し、腎移植なしで10日間以上生存している患者の比率)が29%と偽薬群の16%を上回り、p=0.012だった。一方で、臨床的な副次的評価項目では便益のトレンドが見られず、呼吸不全による死亡や敗血症による死亡が増加した。このため、心腎用薬諮問委員会の評価も賛成8人、反対7人と分かれた。

リンク: 同社のプレスリリース

CHMP、肺炭疽治療薬などの承認を推奨
(2020年9月18日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、9月の会合で、肺炭疽治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

SFL Regulatory ServicesのObiltoxaximab SFL(obiltoxaximab)は炭疽菌毒素のPA(防御抗原)に結合する抗体医薬。臨床データは健常者における安全性だけで、薬効は霊長類試験の裏付けしかないが、稀にしか発生しない致死的な疾患であることに鑑み、例外的環境条項に基づく承認が支持された。抗生物質などの適切な医療と併用する。既存薬不適の場合は暴露後予防に用いることも可。

活性成分はElusys Therapeuticsが16年に米国でAnthimとして承認を得ている。SFLはスイスのSFL Pharmaのグループ会社と思われるが、Elusysとの関係は明らかではない。

サノフィのワクチン二品目も肯定的意見を得た。MenQuadfiは髄膜炎菌ワクチン。A、C、Y、Wの4種類の株の抗原を、ジフテリアトキソイドと結合したもの。12ヶ月児以上が適応になる。米国では今年4月に2歳以上に接種することが承認された。

Supemtekは細胞培養法による4価インフルエンザワクチン。詳細は明らかではないが、この商標はサノフィが17年に買収したProtein Sciencesが保有している模様なので、おそらく、13年に米国で承認されたFlublokと同じもの、つまり、バキュロウイルスをベクターとして抗原の遺伝子を昆虫細胞株に導入、培養したものと推測される。A型二種類とB型二種類の抗原を配合した4価版ワクチンは米国で16年に承認されている。

適応拡大では、イーライリリーのJAK1/2阻害剤、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)を全身性治療を必要とする中重度アトピー性皮膚炎に用いることが支持された。塗り薬は多いが経口薬が中重度アトピーに承認されれば初。

Olumiantは中重度活性期リウマチ性関節炎の治療に用いることが承認されている。インサイト(Nasdaq:INCY)がイーライリリーと共同開発販売している。

スウェディッシュ・オーファン・バイオビトラム(SOBI)のOrfadin (nitisinone)は29年前に米国で、EUでも15年前に、抗チロシン血症I型の治療薬として承認された古い薬だが、新たに、アルカプトン尿症の治療に用いることが支持された。100万人当たり1~4人の希少疾患で、スロバキアの一部地域にで比較的多い。ホモゲンチジン酸(HGA)の代謝酵素が欠乏し、尿中量が増加する。成人ごろから関節や心血管、泌尿器に合併症のリスクが高まる。Orfadinの臨床試験では尿中HGA量が99%減少した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: SOBIのプレスリリース

抗癌剤では、まず、PARP阻害剤二剤を卵巣癌の一次治療後維持療法に用いることなどが支持された。

グラクソ・スミスクラインのZejula(niraparib、日本では武田薬品のゼジューラ)は、白金薬による一次治療に部分反応以上だった卵巣癌の維持療法に用いることが支持された。臨床試験ではメジアンPFSが13.8ヶ月と偽薬群の8.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。PARP阻害剤はBRCA1/2変異に高い効果を持つ傾向があるが、Tesaroは今回の用途ではBRCA1/2変異などの相同組換え修復欠損(HRD)のある癌に限定されてはいない。米国で今年4月に適応拡大した時も同じ。日本では今月、新薬として第二部会を通過したが、ここでも限定されていない。次項のLynparzaとの違いである。

ZejulaはMSDが発見、12年にTesaroにライセンスアウト、そのTesaroをGSKが19年に51億ドルで買収、と変遷した。現在は難治白金薬感受卵巣癌の白金薬治療後の維持療法、あるいは、HRD陽性卵巣癌の4次治療薬として、承認されている。

アストラゼネカのLynparza(olaparib、リムパーザ)は白金薬による一次治療に部分反応以上だった卵巣癌の維持療法に用いることが既に承認されているが、対象は、生殖細胞系且つ又体細胞系のBRCA悪性変異を持つ患者だけだ。今回、同様な患者にAvastinと併用する用法追加が支持されたが、対象は、HRD陽性に限定された。臨床試験ではメジアンPFSが22.1ヶ月とAvastinだけの維持療法の群の16.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59だった。HRD陽性で、Avastinを使いたい場合は、Lynparzaのほうがエビデンスがあり、また、Avastinを使う分、他のPARP阻害剤をAvastinなしで使うより効果が高いのではないだろうか。

Lynparzaで驚くべきことは膵癌や前立腺癌などに用途を広げていることだ。今回、転移去勢抵抗性前立腺癌でenzalutamideやabirateroneのような比較的新しい薬に反応しなかった患者にゴナドトロピン放出ホルモン・アナログまたは精巣切除と併用することが支持された。生殖細胞系且つ又体細胞系のBRCA1/2変異を持つ患者に限定されており、今年5月に承認された米国より適応が狭くなっている。毎度毎度書いているが、PARP阻害剤の適応限定は製品や適応症によって区々なので大変分かり難い。

Lynparzaは06年にKuDOS社を買収して入手した。BRCA有害変異を持つ転移性乳癌の再発治療などにも承認されている。Zejulaの代わりとばかりに、MSDが17年以降、共同開発販売している。

今や適応拡大の常連となったPD-1/PD-L1阻害剤では、BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を化学療法(2サイクルに留める)と併用で転移非小細胞性肺癌の一次治療に用いることが支持された。EGFRやALKに変異のある癌は適応外。臨床試験ではメジアン生存期間が14.1ヶ月と標準的な化学療法の10.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、p=0.0006だった。米国では5月に承認された。日本でも承認審査中。

次に、ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)は全身的療法未経験の進行/切除不能肝細胞腫にAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)と併用することが支持された。IMBrave150試験で全生存期間のハザードレシオが0.58、p=0.0006と、Nexavar(sorafenib)群より有意に優れていた。米国では5月に承認、日本は9月に第二部会で報告された。

次に、Vifor Fresenius Medical Care Renal Pharma FranceのVelphoro(sucroferric oxyhydroxide)を2歳以上の慢性腎疾患(ステージ4/5または透析期)の血清リン濃度の管理に用いることが支持された。リン吸着剤で、2歳以上のステージ4/5慢性腎疾患に承認されるリン管理薬は初。

リンク: EMAのプレスリリース

オックスフォード大学が主導した大規模COVID-19試験で良績を上げたdexamethasoneは、EU自身の要請に基づきEMAが適応拡大の適否を検討し、今回、12歳以上且つ体重40kg以上のCOVID-19感染症で酸素投与や人工呼吸器を必要とする患者に用いることを是認(endorse)した。経口、注射、点滴静注のいずれかの方法で6mgを一日一回、最大10日間、投与する。適応拡大を望む製薬会社はひな型に即してEMAあるいは加盟国にレーベル改訂を申請する。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、小児適応が支持されたのは、大塚製薬の多剤耐性結核治療薬Deltyba(delamanid、和名デルティバ)、CSLグループのセキーラスの4価MDCK細胞培養型インフルエンザワクチンFlucelvax Tetra、エーザイの抗癲癇薬Fycompa(perampanel、和名フィコンパ)、バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)の嚢胞性線維症治療薬Symkevi(ivacaftor、tezacaftor)。

最後に、CHMPが7月に否定的意見をまとめた二剤について、承認申請者の要請により、再検討が決定した。一つはStemline Therapeutics(Nasdaq:STML)が芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)用薬として承認申請したIL-3・ジフテリア毒素融合蛋白、Elzonris(tagraxofusp)。希少疾患なので小規模な臨床試験しか行われておらず、致死的なこともある毛細血管漏出症候群のリスクも見られるが、米国では18年に承認されているので、意見が覆る可能性があるかもしれない。

もう一つは、スウェディッシュ・オーファン・バイオビトラム(SOBI)が難治原発性血球貪食リンパ組織球症(HLH)の治療薬として申請した抗インターフェロンガンマ抗体Gamifant(emapalumab)。米国では18年に承認されたが、CHMPは、エビデンスが単群試験で他の薬も同時使用されていたため評価が困難であることや、データの取得方法や管理方法に欠陥があることを問題にしており、肯定的意見に転じるかどうか不透明だ。






今週は以上です。

2020年9月12日

第963回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アストラゼネカ、ワクチンの臨床試験を一時中断 
  • アストラゼネカもIL-5標的薬の鼻ポリープ慢性副鼻腔炎試験が成功 
  • 進行性家族性肝内胆汁鬱滞症の第三相が成功 
  • MSD、難治性慢性咳嗽の第三相が成功 
  • MSD、15価肺炎球菌ワクチンの第3相が成功 
  • オラペネム誘導体の第3相が成功 
  • lenabasumの全身性強皮症試験がフェール 
  • ダラザレックスをALアミロイドーシスに適応拡大申請 
  • テリルジーが米国で喘息症に適応拡大 
  • FDA、ブループリント/ロシュのRET阻害剤を承認 
  • FDA:テセントリクを乳癌に使う時はアルブミン結合のパクリタキセルを使うべし 


【今週の話題】


COVID-19:アストラゼネカ、ワクチンの臨床試験を一時中断
(2020年9月9日発表)

アストラゼネカは、オックスフォード大学由来のCOVID-19ワクチン、AZD1222について、英国の第三相で説明不能な疾患が一例発生したため標準的なリビュー手続きを開始したことを明らかにした。同社や治験医から独立した委員会が検討するまで接種を中断する。

この疾患についてNY Timesは横断性脊髄炎(TM)と報じている。脊髄の一部分が横方向にわたって炎症を起こし、神経線維の『被膜』であるミエリンが損傷、軽く触れただけで激痛が起きたり、手足で筋肉衰弱や知覚異常が発現したり、麻痺や排尿排便障害を被ったりする疾患だ。米国では一年間に1000人以上が新規発症し、1/3は回復するが1/3では重い障害が残ると言われている。原因は不明だが、ウイルス性疾患やワクチンとの関連を疑う人もいる。

AZD1222の臨床試験は以前にも一例、神経学的疾患が報告され中断されたが、独立委員会が実は多発性硬化症であることを発見、再開された。今回も、TMの診断すら確定していない段階のようなので、ワクチンとの関連性が否定されるようなら治験再開となるだろう。一方、もし特定できなかった場合、実用化に大きく差し障るだろう。

TMの上位分類である急性散在性脳脊髄炎(ADEM)は様々なワクチンに関連して報告されているが、頻度は数十万人に一人程度であり、因果関係は確立していない。ワクチンや薬と副作用の因果関係を立証するのは容易ではないため、一般的には、発生頻度を統計学的に分析することで推測するが、数十万人に一人程度の差を検出するためには桁違いに多くの症例を追跡する必要があり、現実的ではない。また、この程度の頻度ならそれがリアルである可能性が否定できなくても許容される、と受け止めることもできるだろう。

しかし、AZD1222の場合はTMの発現頻度が3万人に一人と桁違いに大きい。COVID-19ワクチンの需要がどの程度なのか、不透明なところがあるが、インフルエンザワクチンと同程度と考えると日本だけで4000万人規模になり、単純計算すると、1000人以上がTMを罹患し、300人程度が自立の妨げになるような後遺症を被ることになる。インフルエンザワクチンでも深刻な後遺症が発現することがあり、日本では例年、パネルに関連性を検討させているが、対象となるのは数例だ。これと比べても300人は多い。

一部報道によると、幸い、TMを発症した女性は回復し、退院が近いようだ。STAT Newsが最初に報道したのは9月8日だが、翌日のアストラゼネカの株価は前日終値比2%程度下げて始まったものの終値は1%程度の値上がりだった。アストラゼネカのCEOがまだ本年中に承認される可能性があると語っていることもあり、少なくとも株式市場は、悲観するのはまだ早いと冷静に受け止めているようだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【新薬開発】


アストラゼネカもIL-5標的薬の鼻ポリープ慢性副鼻腔炎試験が成功
(2020年9月10日発表)

アストラゼネカは、第三相OSTRO試験が成功したと発表した。鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)でステロイドや手術で十分に改善しない患者にFasenra(benralizumab、和名ファセンラ)を40週間投与したところ、内視鏡による鼻ポリープ評価と患者自身の鼻詰まり症状評価が偽薬比有意に改善した。

Fasenraは協和キリンからライセンスした抗IL-5受容体アルファ鎖ポテリジェント抗体。重度好酸球性喘息症の維持療法薬として日米欧で承認されている。

CRSwNPはリジェネロン/サノフィの抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)が19~20年に日米欧で適応拡大。Fasenraの直接のライバルであるグラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)も第三相が成功、既に適応拡大申請した可能性がある。アストラゼネカも申請するだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

進行性家族性肝内胆汁鬱滞症の第三相が成功
(2020年9月8日発表)

Albireo Pharma(Nasdaq:ALBO)は、A-4250(odevixibat)の第三相進行性家族性管内胆汁鬱滞症(PFIC)試験が成功したと発表した。FDAが推奨する主評価項目である掻痒好転奏効率は53.5%、偽薬群は28.7%でp=0.004。EMAが推奨する主評価項目の血清胆汁酸抑制奏効率は各33.3%とゼロでp=0.003だった。試験薬関連深刻有害事象は発生せず、下痢や頻繁な腸活動の発現率は各9.5%と5.0%で、それほど多くはない。21年前半までに欧米で承認申請する考え。

Albireoは08年にアストラゼネカからスピンアウトした新薬開発会社で、EAファーマが持田製薬と日本で共同開発販売している慢性便秘治療薬グーフィス(エロビキシバット水和物)のライセンス元。グーフィスと同様にA-4250もIBAT阻害剤で、胆汁酸が回腸でトランスポーターに運ばれ肝臓に戻るのを妨げる。PFICは胆汁酸のホメオスタシスに係るATP8B1遺伝子や胆汁酸塩輸出ポンプのABCB11遺伝子などに変異があり、胆汁酸が肝臓に滞留する。典型的な症状は掻痒だが、10歳までに肝硬変や肝不全を合併するリスクがある。

A-4250は葛西手術による治療を受けた胆道閉鎖症患者の第三相試験も進行中。年内にアラジール症候群の第三相も始める予定。

リンク: Albireoのプレスリリース

MSD、難治性慢性咳嗽の第三相が成功
(2020年9月8日発表)

MSDは、MK-7264(gefapixant)の第三相難治性慢性咳嗽試験二本で高用量群(45mg一日二回経口投与)が成功したと発表した。咳の頻度がベースライン時点の約18回/時から7回に減少、偽薬比相対リスク削減率は12週間の試験が18.45%(p=0.041)、24週間の試験では14.64%(p=0.031)だった。一方、低用量群(15mg一日二回)は二本ともフェールした。

MK-7264はP2X3受容体アンタゴニスト。知覚神経線維の過剰感作を防ぐ。代表的な副作用は味覚関連有害事象で、薬効と同様に用量依存している。POC試験では600mg群で咳頻度が偽薬比75%減少したが、24人全員で味覚関連有害事象が発現し、6人が治験を離脱した。第三相でも偽薬群の発現率は一桁、低用量群は10~20%であったのに対して、高用量群は60%前後と多かった。咳より味覚異常のほうが我慢しやすいのではないかとも思われるが、高用量群の有害事象治験離脱率は一本が15%、もう一本は20%と、後期第二相試験の50mg一日二回投与群の数値から改善しなかった。

09年にロシュからスピンアウトしたAfferent Pharmaceuticalsを16年に買収して入手したコンパウンド。類薬では塩野義製薬がS-600918で第二相試験中。

リンク: MSDのプレスリリース

MSD、15価肺炎球菌ワクチンの第3相が成功
(2020年9月9日発表)

MSDは、V114の第3相PNEU-AGE試験が成功したと発表した。PNEU-WAY試験も成功しており、年内に承認申請に向かう予定。

V114は、肺炎球菌ワクチンのベストセラーであるファイザーのPrevnar 13より二つ多い、15血清型をカバーしていることが特徴。PNEU-AGE試験では50歳以上に接種したところ、V114独自の22F型と33F型に対する抗体価がPrevnar 13を有意に上回った。共通する13型に関する非劣性検定も成功し、3型に関しては優越性も達成した。安全性は同程度とのこと。

ファイザーはさらに上回る20価肺炎球菌ワクチンを開発中で、こちらも年内に承認申請予定。乳児の第三相も開始された。カバレッジは多い方が良いだろうから、共通する血清型に対する免疫原性や安全性が同程度なら、この20vPnC(PF-06482077)のほうが成功するのではないか。

リンク: MSDのプレスリリース

オラペネム誘導体の第3相が成功
(2020年9月8日発表)

米国マサチューセッツ州の新薬開発会社、Spero Therapeutics(Nasdaq:SPRO)は、SPR994(tebipenem pivoxil hydrobromide)の第三相複雑性尿路感染症(cUTI)試験が成功したと発表した。Meiji Seika ファルマがワイスからライセンスして日本で商品化したオラペネム(tebipenem pivoxil)の新製剤で、オラペネムの臨床試験や市販後監視のデータと合わせて21年第2四半期に米国でローリング承認申請を完了する計画。

この第3相はcUTIと腎盂腎炎の患者約1370人をSPR994群(600mgを一日3回、経口投与)とertapenem群(1gを一日一回静注)に無作為化割付した二重盲検試験。臨床的治癒と細菌学的駆除の複合奏効率が各群58.8%と61.6%となり、群間差は-3.3%、95%下限は-9.7%となったため非劣性解析が成功した。尚、非劣性マージンはCOVID-19流行の影響を危惧して盲検解除前に当初計画の-10.0%から-12.5%に緩められた経緯があるが、結果的に、当初の閾値もクリアできた。

深刻な治療時発現有害事象は1.3%対1.7%で大差なく、試験薬群の死亡例はなかった。

薬剤耐性菌と戦う上でカルバペネム系抗生剤は重要な武器だが、静注/筋注のために入院したり毎日通院したりしなければならず、初めての経口剤であるSPR994の存在価値は大きい。尚、オラペネムは米国では承認・販売されていない。

リンク: Spero社のプレスリリース

lenabasumの全身性強皮症試験がフェール
(2020年9月8日発表)

Corbus Pharmaceuticals(Nasdaq:CRBP)はlenabasumの第三相びまん皮膚硬化型全身性強皮症(SSc)試験がフェールしたと発表した。日本を含む世界の医療施設で365人を組入れて、ACR CRISSスコアの改善度合いを偽薬と比較したが、大差なかった。

全身性強皮症の治療では免疫抑制剤のオフレーベル使用が増えている模様で、本試験では84%が使用していた。会社側は、その影響で偽薬群の治療成績が向上し試験薬による上乗せ効果が逓減したと考えているようだ。

lenabasumは経口2型カンナビノイド受容体アゴニスト。炎症を抑制し細菌の除去を促進する内在的パスウェイを活性化すると考えられている。日本は科研製薬が19年に開発販売権を取得した。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


ダラザレックスをALアミロイドーシスに適応拡大申請
(2020年9月10日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Darzalex Faspro(daratumumabとhyaluronidase-fihj)を新患ALアミロイドーシスの治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。リアル・タイム・オンコロジー・リビューの対象となったので早期承認もありうるだろう。

Darzalex Fasproは静注用の抗CD38抗体Darzalex(和名ダラザレックス)の活性成分とヒアルロン酸分解酵素を併用することで皮注できるようにしたもの。20年に欧米で多発骨髄腫用薬として承認された。ALアミロイドーシスは免疫グロブリンの軽鎖由来のアミロイドが蓄積、臓器に損傷を与える。臨床試験ではVelcade(bortezomib)、cyclophosphamid、dexamethasoneを併用するVCdレジメンに更にDarzalexを追加したところ、血液学的完全反応率が53%とVCdレジメン群の18%を上回った。臓器が増悪したり死亡したりするリスクも42%小さかった。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


テリルジーが米国で喘息症に適応拡大
(2020年9月9日発表)

グラクソ・スミスクラインとInnoviva(Nasdaq:INVA)は、Trelegy Ellipta(和名テリルジー エリプタ)を18歳以上の喘息症に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。両社で共同開発した、fluticasone furoate(吸入用ステロイド)、umeclidinium(長期作用性ムスカリン阻害剤)、vilanterol(長期作用性ベータ2作用剤)の吸入用薬で、COPD治療薬として日米欧で承認されている。

第三相試験で三剤のうちumeclidiniumを含まない二剤合剤であるBreoより一秒量が約0.1リットル大きかった。

リンク: GSKのプレスリリース

FDA、ブループリント/ロシュのRET阻害剤を承認
(2020年9月8日発表)

FDAは、Gavreto(pralsetinib)をRET融合陽性の転移非小細胞性肺癌用薬として加速承認した。第1/2相試験では、白金薬治療歴を持つ87人に対するORR(客観的反応率)が57%、反応した患者の80%は6ヶ月以上持続した。一方、初めて治療を受けた27人ではORR70%、反応者の58%は6ヶ月以上持続した。

同日にLife TechnologiesのOncomine Dx Targetもコンパニオン診断薬として承認された。

GavretoはBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)がロシュと共同開発・商業化している高度選択的高力価RET阻害剤。米国ではジェネンテックと共同販売、米国外では中国を除きロシュが単独販売する。EUでも承認申請中。

米国ではRET変異陽性の進行/転移甲状腺髄様腫とRET融合陽性甲状腺癌にも申請中で、優先審査及びリアル・タイム・オンコロジー・リビューの対象なので、審査期限は来年2月28日だが前倒し承認される可能性がある。

RET融合陽性は非小細胞性肺癌の1~2%で決して多くはない。類薬ではイーライリリーが子会社化したLoxo OncologyのRetevmo(selpercatinib)が上記三適応症で今年5月に加速承認されている。RET融合陽性転移非小細胞性肺癌の単群試験では、白金歴を持つ105人ではORRが64%、初治療39人では84%だった。単群試験のデータを比較するのは難しいが、効果は概ね同程度に見える。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース(8/7付)


【医薬品の安全性】


FDA:テセントリクを乳癌に使う時はアルブミン結合のパクリタキセルを使うべし
(2020年9月8日発表)

FDAはロシュの抗PD-L1抗体、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をPD-L1陽性トリプルネガティブ乳癌に用いる時は通常のpaclitaxelではなくnab-paclitaxel(Abraxane)と併用するようアラートを発した。第三相試験で死亡リスクが高まる懸念が生じたため。

Tecentriqは日米欧で切除不能局所進行性/転移性のPD-L1陽性トリプル・ネガティブ乳癌にnab-paclitaxelと併用することが承認されている。IMpassion130試験でPFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とnab-paclitaxel・偽薬併用群の4.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.60、95%信頼区間は0.48-0.77だった(米国のレーベルより)。

全生存期間も各25ヶ月、15.5ヶ月、ハザードレシオ0.62と良好なものだった(18年のESMOでの発表より)。しかし、上位解析(PD-L1陽性ではない患者も含むintent-to-treatベース)がフェールしたため、統計的に有意とは言えない。

今回のアラートは、ロシュが8月に公表した、IMpassion131試験のフェールを受けたもの。paclitaxelとTecentriqを併用する群は、主評価項目であるPD-L1陽性サブグループにおけるPFSがpaclitaxel・偽薬併用群と有意な差がなかった。全生存期間は未だ中間段階だがPD-L1陽性サブグループでもintent-to-treatでも数値上、下回った。この試験は全生存期間に関しては検出力不足であり、最終解析でも有意に悪いという答えは出ないかもしれない。

IMpassion131試験の結果が学会・論文発表された段階で、二本の試験の結果が食い違った理由も議論されるだろう。抗PD-1/PD-L1抗体を開発・販売している他社はタキサンを併用する場合はpaclitaxelを併用することが多いが、ロシュはnab-paclitaxelを選択することが多い。paclitaxelは溶剤に過敏反応を起こす患者がいるためステロイドやH2ブロッカーでプリトリートする必要があり、免疫強化療法であるTecentriqの薬効を減衰させるリスクがあるからだ。IMpassion131試験や、他社の乳癌試験がフェールした事実は、ロシュの懸念が正しかった可能性を示唆している。

リンク: FDAのアラート





今週は以上です。

2020年9月5日

第962回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:NIHは回復期血漿を推奨せず 
  • COVID-19:ケブザラの二本目の第3相もフェール 
  • COVID-19:米国ネバダ州でも再感染例 
  • バフセオは非透析期CKDの心血管アウトカム試験がフェール 
  • ESC:フォシーガは糖尿病患者以外の慢性腎疾患にも有益 
  • ESC:ジャディアンスも心不全アウトカム試験が成功 
  • NJ、新作用機序インフルエンザ薬の開発を中止 
  • ギリアド、CAR-Tを濾胞性、辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請 
  • トルリシティの高用量が承認 
  • FDA、経口アザシチジンを承認 
  • FDA、週一回投与型成長ホルモンを承認 
  • PRAC、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認取消を勧告


【今週の話題】


COVID-19:NIHは回復期血漿を推奨せず
(2020年9月1日発表)

第961号で取り上げたようにFDAはCOVID-19に感染し回復期にある患者の血漿(CCP)をCOVID-19入院患者の治療に充てることを非常時使用認可(EUA)したが、様々なキイ・オピニオン・リーダーから疑問の声が上がっている。クリーブランド・クリニック時代にCOX-II阻害剤の薬害訴訟で原告側の証人となり、その後にスクリップス・リサーチ・トランスレーショナル・インスティテュートを立ち上げたエリック・トポル博士は、ハーンFDA長官に(政府の圧力について)全てを話すか、さもなくば辞任せよと迫った。

NIH(米国衛生研究所)のCOVID-19治療ガイドライン・パネルも、CCPを標準療法に組み込むのは時期尚早という声明を出した。最良のエビデンスである無作為化割付対照試験のデータがないこと、抗体量がCCP毎に区々であること、有効と無効の境目となる抗体価の閾値も不明であることなどを踏まえて、CCPの使用を推奨したり反対したりするにはデータ不足と結論した。

NIHはFDAと同じ米国保健福祉省傘下の組織だが、忖度せずに自分の意見を主張するのが米国文化だ。次は、11月頃に予想される、ワクチンのEUAが争点になりそうだ。

リンク: CCPのEUAに関する声明

COVID-19:ケブザラの二本目の第3相もフェール
(2020年9月1日発表)

サノフィは、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と共同開発販売している抗IL-6受容体アルファ抗体、Kevzara(sarilumab、和名ケブザラ)の第3相重症COVID-19治療試験がフェールしたと発表した。欧露日などの施設で重症・危機的な入院患者約400人を組入れて200mgと400mgの効果を偽薬と比較したところ、7段階の病状評価が2段階以上改善するまでの期間が若干短かったが、統計的に有意な水準ではなかった。入院期間や、危機的患者における死亡リスクもトレンドに留まった。

リジェネロンが主導した米国のもっと大規模な試験もフェールしている。ジェネンテックが実施した類薬の試験もフェールしたので、IL-6をブロックすることで免疫の過剰活性化を抑制すれば臓器障害などによる病状悪化や死亡が減る、という仮説に否定的なエビデンスが積み重なってきた。

残念だが、有効な薬とそうでない薬の選別が進んだのは一歩前進であることは間違いない。残ったパイプラインの中では、SARS-CoV-2のスパイク蛋白に結合する抗体医薬に期待したい。

リンク: サノフィのプレスリリース

COVID-19:米国ネバダ州でも再感染例
(2020年8月27日発表)

COVID-19感染経験者は免疫を持っているので二度と感染しない、と主張する免疫パスポート説は、おそらく、都市伝説だろう。抗体ができても数ヶ月で大きく減少してしまう現象が数多く報告されているからだ。だが、液性免疫が長持ちしなかったとしても細胞性免疫は有効なのではないか?また、再感染を防げなくても重症化は回避できるのではないか?そもそも、再感染と呼ばれる症例は、実際は、完治してなかっただけで実際は最初に感染したウイルスの再燃ではないのか?

これらの希望的観測に反する症例が少しずつ、報告され始めた。再燃ではないことをゲノム分析で明らかにした事例が、香港に続いて、米国ネバダ州でも報告されたのだ。Preprints with The Lancetという、Lancet系の論文原稿レジストリーで公開されたTillettらの症例報告によると、4月にSARS-CoV-2陽性と判定された25歳の患者は、9日後に症状軽快し、5月に二回の核酸検査で陰性判定となったが、二回目の検査の2日後に発症、5日後に酸素投与が必要になり入院した。一回目はのどの痛みや咳、頭痛、悪心、下痢などの症状があったが、二回目は息切れや筋痛などの症状も現れ、一回目より重症だった。

ゲノム解析の結果、二回とも20C系統のウイルスだが数か所、変異があり、一回目のウイルスが患者の体内で偶発的に変異する確率は著しく低いと推定された。

今回の再感染事例は、感染を防げなくても重症化は防げるのではないか、という希望的観測に反している。世界の感染者は2500万人とすごく多いので、もし再感染するならもっと多くの症例報告があるはずだが、例外的と断じる根拠もない。

神奈川県でも軽快後に重症化して亡くなった事例が横須賀市により発表された。8月13日に東京都で陽性判定を受け入院し、24日に退院した70代の男性会社員が、9月1日に死亡。神奈川剖検センターの依頼によりPCR検査を実施したところ、陽性が判明したというのだ。一回目の陽性判定から物故まで19日間、退院からだと8日間に過ぎないので再感染というよりは再燃のように感じられるし、そもそも、発症・陽性判定から一定日数が経ち症状が軽快していれば陰性確認なしで退院できるようなので、退院時点では未だウイルスが残っていた可能性もあるのではないか。もしそうだとすると、別の問題が生じる。PCR検査なしで退院させたり、陽性だったが発症から所定の日数が経っていることを理由に入院も自粛も不要と判断したりしていることを再検討すべきなのかもしれない。

いずれにせよ、もっと詳しい情報が欲しいところだ。一例だけだと関係者の風評被害やプライバシーの問題が生じるが、似たような症例を複数、見つけてきて分析・報告する方法ならリスクを抑制できるだろう。保健所や自治体の壁を越えて情報を収集・分析できる立場の人がいるなら、是非、やってもらいたい。


リンク: Tillettらの症例報告原稿(Preprints with The Lancetサイト)
リンク: 横須賀市の報道発表資料


【新薬開発】


バフセオは非透析期CKDの心血管アウトカム試験がフェール
(2020年9月3日発表)

アケビア・セラピューティクス(Nasdaq:AKBA)は、HIF-PF(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害剤AKB-6548(vadadustat)のPRO2TECT(2は下付き)試験二本の結果を発表した。非透析期慢性腎疾患の成人の貧血を治療したところ、薬効は実薬群と非劣性であることが確認されたが、心血管アウトカムは非劣性ではなかった。透析期患者を組入れた試験二本はどちらの評価項目も成功しており、同社は21年に米国で承認申請する予定。欧州でも開発販売権を持つ大塚製薬が承認申請の準備を進める。尚、日本は三菱製薬が権利を持っており、今年6月に保存期・透析期の腎性貧血症の治療薬バフセオとして承認された。

今回の第三相試験は、矯正試験は治療を受けていない患者1751人を、スイッチ試験は赤血球生成因子による治療を受けている患者1725人を、vadadustat群(300mg一日一回経口投与で開始、150~600mgの範囲で滴定)またはdarbepoetin alfaに無作為化割付して、治療効果(第24~36週のヘモグロビン値)が非劣性であることをオープン・レーベルで確認するとともに、二本のプール分析で主要有害心血管イベント(MACE)のリスクが非劣性であることを独立盲検で検証した。

結果は、治療効果の差は矯正試験が0.05 g/dL(95%下限は-0.04 g/dL)、スイッチ試験は-0.01 g/dL(同-0.09 g/dL)となり、95%下限が非劣性マージン(-0.75 g/dL)を上回ったため目的を達成した。一方、MACE(全死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の何れかが発生するまでの期間)はハザードレシオが1.17(95%上限は1.36)となり、FDA基準による非劣性マージン(95%上限が1.25)を上回ったため、フェールした。

透析期患者を組入れた第三相INNO2VATE(2は下付き)試験二本では、治療効果の差は今回より少し大きかったが二本とも非劣性達成。二本合計3923人のMACE解析はハザードレシオ0.96(95%上限は1.11)で、非劣性達成した。

MACEの結果が食い違った理由は明らかではなく、学会などで詳細発表を待ちたい。もし4本の事後的プール分析で95%上限が1.25を下回るようなら、トランプ政権下のFDAは緩くなっているので、政権交代しない限り、承認される可能性があるだろう。但し、他社のHIF-PF阻害剤とのシェア争いでは不利になりそうだ。アケビアの株価が大きく下落したのも無理はない。

リンク: アケビアのプレスリリース

ESC:フォシーガは糖尿病患者以外の慢性腎疾患にも有益
(2020年8月30日発表)

アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)を慢性腎疾患の治療に用いるアウトカム試験の結果をESC欧州心臓学会バーチャル・ミーティングで公表した。合併症リスクを39%抑制する良好な内容だった。

このDAPA-CKD試験は、ステージ2-4の慢性腎疾患で尿中アルブミン/クレアチニン比が200~5000 mg/gの患者4304人を日本を含む21ヶ国の医療施設で組入れて、標準療法にFarxiga(10mgを一日一回服用)を追加する群と偽薬追加群の転帰を比較した。主評価項目はeGFR持続的半減、末期腎疾患、心血管死、腎臓疾患死の何れかの発現。今年3月に独立データ監視委員会がルーチンの薬効安全性評価に基づいて中止勧告したことが公表済み。

主評価項目のハザードレシオは0.61、p<0.0001と高度に有意だった。二型糖尿病患者(被験者の3/4)のサブグループ分析では0.64、それ以外では0.50で、どちらも95%上限は0.8以下だった。発現率の絶対差(絶対リスク削減率)はメジアン2.4年間の追跡で5.3%と大きかった。構成項目別では、eGFR持続的半減はハザードレシオ0.53、末期腎疾患は0.64で何れもpは0.001を下回った。心血管死は0.81だがp=0.2、腎死亡は偽薬群6例に対して試験薬群2例と大きな差があったが少なすぎて統計検定は行われなかった。

全死亡のハザードレシオは0.69、p=0.0035で有意な差があった。内訳は偽薬群は146人死亡のうち心血管死は80人、腎臓死6人、その他60人。一方、試験薬群は死亡101人(差は45人)、心血管死65人(15人)、腎臓死2人(4人)、その他34人(16人)となっている。標的疾患以外の『その他』の理由による死亡が大きく(半減!)減少しているのは、アストラゼネカのアウトカム試験で時々見られる、興味深い現象だ。

深刻有害事象の発現率は29.5%で偽薬群の33.9%を下回った。糖尿病性ケトアシドーシスは偽薬群2例、試験薬群はゼロだった。

Farxigaは心不全のアウトカム試験でも二型糖尿病か否かを問わず便益を示した。次項のように他社のSGLT2阻害剤も心不全試験が成功しており、クラス全体のステータスが上昇している。

Farxigaはブリストル マイヤーズ スクイブが開発・発売したが、事業領域をプライマリーケアから癌や免疫性疾患、ウイルス学のような専門薬にシフトする戦術転換の過程で、代謝性疾患領域の提携先であったアストラゼネカに事業売却した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: メディア向けデジタル・プレスリリース(学会発表スライドのリンクあり)

ESC:ジャディアンスも心不全アウトカム試験が成功
(2020年8月29日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心不全アウトカム試験の結果をESCとNew England Journal of Medicine誌で発表した。ハザードレシオ0.75、糖尿病患者にもそれ以外にも有効だった。

このEMPEROR-Reduced試験は、NYHA II-IVの駆出率低下型心不全(HFrEF:駆出率40%未満)患者3730人を偽薬群とJardiance群(10mg一日一回服用)に無作為化割付して心血管死・心不全入院のリスクを比較したもの。メジアン16ヶ月追跡時点の発生率は各群24.7%と19.4%となり、ハザードレシオ0.75、p<0.001だった。糖尿病サブグループでは0.72、それ以外では0.78だった。

アウトカム試験は標準療法に試験薬を追加するが、心不全の治療ではガイドラインが推奨する薬の一部しか使わないことも珍しくない。しかし、本試験では、Faxiga(dapagliflozin)のDAPA-HF試験と比べてもノバルティスのEntrestoの使用率が高く、ベスト・プラクティスに対しても上乗せ効果があることを示した。

駆出率保持型心不全(HFpEF)を組入れたEMPEROR-Preserved試験も進行中で21年に結果が判明する見込み。HFpEFのアウトカム試験は中々成功しないので期待値は高くないだろう。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Packerらの治験論文(NEJM)

JNJ、新作用機序インフルエンザ薬の開発を中止
(2020年9月2日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、A型インフルエンザで第三相段階のJNJ-63623872(pimodivir)の開発を中止すると発表した。入院患者を組入れた標準療法アドオン試験の中間解析で無益認定されたため。外来治療試験も中止する。

A型インフルエンザ・ウイルスのプロテアーゼ阻害剤。14年にバーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)からVX-787をライセンスしたもの。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認申請】


ギリアド、CAR-Tを濾胞性、辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請
(2020年9月4日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Yescarta(axicabtagene ciloleucel)を難治・再発濾胞性リンパ腫や辺縁帯リンパ腫の三次治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。

第2相のZUMA-5試験に基づくもの。データは今後、学会発表の予定だが、6月のASCOで発表された中間解析では、評価可能96例のORR(客観的反応率)が93%だった。完全反応率は80%で、うち濾胞性80人では81%、辺縁帯16例では75%だった。G3以上の有害事象はサイトカイン放出症候群が8%で、神経学的有害事象が17%で、発生。致死的有害事象は2人で、うちサイトカイン放出症候群による死亡は治療関連と報告された。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


トルリシティの高用量が承認
(2020年9月3日発表)

イーライリリーは、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)の高量投与がFDAに承認されたと発表した。二型糖尿病を治療する週一回投与型GLP-1作用剤で、14年に初承認された時の用量は0.75mgと1.5mgだったが、新たに、3.0mgと4.5mgが承認された。EUでも承認審査中。

根拠となった第3相AWARD-11試験では、36週間の治療で3.0mg群と4.5mg群のHbA1c(ベースラインは8.6%)が各1.7%と1.9%低下し、どちらも1.5mg群の1.5%低下を有意に上回った。体重(ベースラインは95.9kg)も各4.0kgと4.7kg減少し、1.5mg群(3.1kg減)比有意な差があった。

リンク: 同社のプレスリリース

FDA、経口アザシチジンを承認
(2020年9月1日発表)

FDAは、BMSの子会社であるセルジーンのOnureg(azacitidine)を承認した。急性骨髄性白血病で最初の寛解導入療法に完全寛解(血球回復が不十分なケースも含む)した患者の維持療法に用いる。第3相試験では、300mgを一日一回、14日服用して14日休むスケジュールで投与したところ、メジアン生存期間が24.7ヶ月と偽薬群の14.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69だった。有害事象による治験離脱は各13%と4%。G3以上の有害事象は骨髄抑制とその合併症など。

多発骨髄腫用薬Vidazaの活性成分を経口投与できるようにしたもの。多発骨髄腫の臨床試験も行われたが、死亡や深刻有害事象が増加したため途中で打ち切られた。Vidazaなどの静注用製剤や皮注用とは薬物動態が大きく異なるため、Onuregで代替してはいけない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

FDA、週一回投与型成長ホルモンを承認
(2020年9月1日発表)

FDAは、ノボ ノルディスクのSogroya(somapacitan)を成長ホルモン分泌不全症の成人に承認した。同社がインスリンやGLP-1作用剤に応用している、脂肪酸を付加して血中のアルブミンに結合させることによって血中半減期を延長する技術を用いて、皮注頻度を従来の一日一回から週一回に軽減した。頭蓋内高血圧を誘導・悪化させる可能性があるので、治療開始前に兆候である視神経乳頭浮腫の有無をチェックする。

薬効のエビデンスは、成長ホルモンが制御する体幹脂肪。34週間の投与で1.06%減少した。偽薬群は0.47%増加、一日一回投与製剤群は2.23%減少した。

日本や欧州でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


PRAC、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認取消を勧告
(2020年9月4日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの医薬品安全性監視リスク評価委員会(PRAC)は、Gedeon RichterのEsmya(ulipristal acetate)とそのGE品の承認を取消すよう勧告した。CHMPの追認を経て正式に決定する。同じ活性成分の事後的避妊薬、ellaとそのGE品は対象外。

Esmyaは12年にEUで中重度子宮筋腫の治療薬として承認された、選択的プロゲスチン受容体調節剤。摘出術を施行するまでの繋ぎとして最長で3ヶ月間に亘り、5mg錠を一日一回服用する。15年には間歇的にもっと長い期間服用することも承認された。しかし、市販後に数例の深刻肝障害・肝移植が報告されたことから、PRACが17年に再検討を開始、18年以降、段階的に規制を強化、今年3月に承認を停止した。尚、深刻肝障害の頻度は10万人に一人程度のようである。

他国の状況を見ると、米国では17年にアラガンが申請したが肝毒性懸念から承認されなかった。日本はあすか製薬が19年12月に承認申請した。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。