2020年3月20日

2020年3月20日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • イブプロフェンなどのNSAIDsはCOVID-19を悪化させるか? 
  • カレトラのCOVID-19試験がフェール 
  • リジェネロンら、IL-6阻害抗体でCOVID-19の臨床試験に着手 
  • プリジスタがCOVID-19に有効という裏付けはない 
  • CTCLの光線力学療法試験が成功 
  • ファイザー、JAK1阻害剤の三本目のアトピー性皮膚炎試験が成功 
  • ファイザー、20価肺炎球菌ワクチンの第三相が成功 
  • MSD、難治性慢性咳の第三相試験が成功 
  • バベンチオの頭頸部癌一次治療試験がフェール 
  • アストラゼネカ、小細胞肺がんにイミフィンジと抗CTLA4抗体を併用しても無益 
  • アストラゼネカ、VEGFR阻害剤のリムパーザ併用試験がフェール 
  • ノボ、抗TFPI抗体の第三相を中断 
  • Aurinia、カルシニューリン阻害剤をループス腎炎に承認申請 
  • JNJ、S1P1調節剤を多発硬化症に承認申請 
  • ファイザー、抗NGF抗体を承認申請 
  • EU、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認を停止


【今週の話題】


イブプロフェンなどのNSAIDsはCOVID-19を悪化させるか?
(2020年3月20日)

COVID-19の予防や治療に関する論説や商品は有象無象で、EBM風に言えば確立したエビデンスは少なく、多くの場合、根拠は薄弱だが体や財布が傷まないならやっても良いか、という程度である。ウイルスを破壊する空気洗浄機があるらしいが、私の体は大きくて装置の中で暮らすことができないので、室内の床やドアノブに付着したウイルスを吸い込んで殺すことができることを証明してもらわないと買う気になれない。もしコロナウイルスにも有効ならクルーズ船に運び込まれただろう。SARS-CoV-2よりエセ科学のほうが蔓延している。

イブプロフェンのようなNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)はCOVID-19の症状を悪化するか?発端はLancet誌に寄せられた書簡であるようだ。報道によればフランスの厚生大臣がibuprofenはCOVID-19を悪化させる可能性があるのでparacetamol(WHOが採用する一般名であるINNベース、米国のUSANではacetaminophen、日本のJANではアセトアミノフェン)を使うべきと発言し、フランスではparacetamolが品薄になったとのことである。

WHOからも同様な発言があった模様だが、その後、Twitter上で、現時点ではibuprofenを使うことに反対しないと表明した。EMAやFDAも、このような懸念を裏付けるエビデンスは存在しないと注意を促した。

Lancet書簡は、バーゼル大学病院のLei Fangら三名が連名で出したもの。COVID-19重症例は糖尿病や心血管疾患の持病を持っている人が多いという中国の事例報告に関連して、これらの疾患の治療に用いられる幾つかの薬が影響した可能性を指摘、他の種類の薬を使うよう示唆した。SARS-CoV-1や2は肺や小腸、腎臓、血管の上皮細胞に発現するアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)を通じて標的細胞に侵入する。ACE阻害剤やARB、チアゾリジンジオン(二型糖尿病薬)、ibuprofenはACE2の発現を増やす。従って、これらの薬はウイルスの細胞侵入を促進するというのである。

書簡は、三段論法の最初の2つについては根拠となる論文を引用しているが、結論部分を裏付ける論文や実験については言及していない。この種の三段論法は、論理的には正しくとも、それが患者の人生にどの程度重要なファクターなのかは改めて検討すべきものである。日本列島は少しずつ移動しているらしいが、私はそれでバランスを崩して倒れそうになったことはない。

FDAやEMAの言説は歯切れが悪い。悪いという証拠がないことは正しいことを意味しない、ということに留まらず、ibuprofenには長所だけでなく欠点もあり、そもそも、薬で症状が緩和すると感染の悪化に気付き難くなってしまう可能性もあるため、使うか使わないかは医師や患者が慎重に検討して決めるべきことだからだ。

私達は大声で断言する人たちに、つい耳を傾けてしまうが、責任ある立場の人たちの言説は常に慎重であることを忘れてはいけないだろう。

リンク: Lancet誌ホームページで電子刊行された書簡(3/11付、pdfファイル)
リンク: EMAのステートメント(3/18付)
リンク: FDAのステートメント(3/19付)
リンク: WHOのTwitter(3/19付エントリー)

カレトラのCOVID-19試験がフェール
(2020年3月18日発表)

COVID-19が最初に流行した中国、武漢では様々な医薬品の臨床研究が行われているが、SARSの経験に基づき早い段階からオフレーベル投与されているアッヴィのKaletra(lopinavir、ritonavir)の臨床試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。意外にもフェールしたが、検出力不足だったように感じられる。幾つかの二次的評価項目では良さそうな数値が出ているので、今後発表されるであろう他の医療施設の治験結果を待ってみたい。

このLOTUS China試験は、武漢のJin Yin-Tan Hospitalに入院した、COVID-19感染が確認された肺機能低下患者をKaletraを投与する群と投与しない群に無作為化割付して、罹患期間や28日死亡率などを比較した。Kaletra群は400mg/100mgを一日二回、14日間投与した。症例数は当初は160人の予定だったが、組入れ完了後に検出力不足が判明、199人に増やした。ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)の臨床試験開始の余波を受けたようなので、本当はもっと組入れたかったのかもしれない。

結果は、主評価項目である臨床的改善までの時間は、メジアン値が両群とも16日、ハザードレシオは1.24で統計的に有意ではなかった。カプラン・マイヤー・カーブを見るとKaletra群のほうがどの時点でも臨床的改善達成率が偽薬群と同等以上だったが、群間差は大きく変動している。両群の曲線がギザギザで滑らかではないことと合わせて、症例数の少なさが響いているのではないか。

二次的評価項目は28日死亡率がKaletra群19.2%、非投与群25.0%と大きな差があったが統計的に有意ではなかった。ICU滞在期間のメジアン値は各6日と11日でこれもかなり違う。

一方で、ウイルス量の減少は両群大差なかった。論文著者は検査の間隔が空きすぎた可能性を指摘しているが、釈然としない。

Kaletra群は13.8%の患者が有害事象により投与を中止した。

この試験の難点は、検出力不足に加えて、発症から無作為化割付までのリードタイムがメジアン13日と長いこと。死亡率も高く、もっと早い段階で投与したら異なった結果になったかもしれない。

流行の比較的早い段階で開始された試験なので、診断方法やスピード、支持療法の内容などは、今日のスタンダード・プラクティスとは異なっているかもしれない。その意味でも、他の臨床試験の結果も見てみたい。

リンク: Caoらの治験論文(NEJM)

リジェネロンら、IL-6阻害抗体でCOVID-19の臨床試験に着手
(2020年3月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Kevzara(sarilumab、和名ケブザラ)の第2/3相重度COVID-19試験に着手したと発表した。米国でCOVID-19の本格的な臨床試験が行われるのは初めてではないか。欧州などでもサノフィが開始する予定。

KevzaraはIL-6受容体のアルファ・サブユニットに結合する抗体医薬で、中重度リウマチ性関節炎の治療薬として日米欧などで承認されている。類薬である中外製薬/ロシュのActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)は中国で行われた治験で肺炎を合併した患者の解熱や酸素吸入不要化で良好な成果を上げ、当地の診療ガイドラインに採用された。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因になる炎症免疫反応に関与しているIL-6の作用をブロックする抗体は、抗ウイルス作用というよりはIL-6亢進を伴う合併症の改善に寄与するのだろう。

米国の臨床試験は高熱・肺炎を伴う重度COVID-19感染症の入院患者400人を組入れて、偽薬対照二重盲検試験を行い、第三相ポーションでは人工呼吸器や酸素吸入などの臨床的転帰や死亡リスクを検討する。

Kevzaraは07年にリジェネロンがサノフィと結んだ複数の抗体医薬に関する提携の産物だが、両社は19年に提携関係を見直し、Kevzaraに関しては米国を含む世界市場でサノフィが単独で開発販売することになった。しかし、COVID-19やARDSに関しては引き続き、リジェネロンが米国で、サノフィは米国外で、主導するとのことだ。

リジェネロンはエボラウイルス疾患の治療薬の開発で最も大きな成果を上げ、抗体カクテルを米国で承認申請した。SARS-CoV-2についても二種類の抗体のカクテルを開発して、年央に臨床試験を開始する考えだ。

リジェネロンに続いて、英国のEUSA Pharmaも、イタリアのPapa Giovanni XXIII Hospitalが主導して抗IL-6キメラ抗体、Sylvant(siltuximab)の重度COVID-19試験に着手したと発表した。観察的研究で、過去事例とケース・コントロール研究を行うようだ。

Sylvantはジョンソン・エンド・ジョンソンが14年に欧米で多中心性キャッスルマン病治療薬として承認を取得、18年にEUSA Pharmaが世界の権利を1.5億ドルで入手した。中国の権利はBeiGeneにライセンスした。

更に、ロシュもFDAやBARDA(米国の生物兵器防衛対策組織)とともに、重度COVID-19肺炎330人を組入れるグローバル無作為化割付偽薬対照試験を4月に開始すると発表した。Actemraは大阪大学などの免疫学研究の成果なので、日本も参加するのではないか。

リンク: リジェネロンらのプレスリリース
リンク: 抗体カクテルに関するプレスリリース(3/17付)
リンク: EUSA Pharmaのプレスリリース(3/18付)
リンク: ロシュのプレスリリース(3/19付)

プリジスタがCOVID-19に有効という裏付けはない
(2020年3月20日アクセス)

製薬会社は新薬開発が成功し無事、承認にたどり着くと、様々な追加的な研究を行ってブランドイメージの向上を図る。適応拡大試験が成功すると大々的に発表し、フェールするとブランド名ではなく一般名や開発コードで発表する。経済的利害が大きいので発表内容にバイアスがないか、吟味する必要があるが、考えてみれば、産業界だけでなくアカデミアも、名誉欲だけでなく、患者のために新薬の臨床試験が成功してほしい、あるいは、良い薬が発売されたことを一人でも多くの患者に知ってほしいという善人のバイアスを持っているはずだ。ことさらに製薬会社のニュースだけ眉唾する必要はないだろう。

だからということでもないが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの面白いプレスリリースを紹介したい。同社のHIV/AIDS治療用のプロテアーゼ阻害剤、Prezista(darunavir)について、COVID-19に有効という事例報告が出ているが十分なエビデンスがあるとは承知していない、と発表したのだ。同社は様々なコンパウンドの抗SARS-CoV-2活性を調査したが、in vitroでも、構造解析でも、有効性は確認されていない。安全性や有効性に関する外部研究者の公表データも存在しない由。

同社は中国の臨床試験三本に薬剤を提供しているが、3月20日に改めてアクセスしたところ、Shanghai Public Health Clinical Centerで行われた臨床試験がフェールしたことが記されていた。

anecdotal evidenceは事例証拠と翻訳されているようだが、確立していない証拠という、暫定的、あるいは否定的なニュアンスもある。事例証拠を鵜呑みにせず、エビデンスに基づく行動、あるいは、エビデンスを確立するための行動を取るべきという指摘は尤もだ。

リンク: JNJのプレスリリース


【新薬開発】


CTCLの光線力学療法試験が成功
(2020年3月19日発表)

米国ニュージャージー州の新興製薬会社、Soligenix(Nasdaq:SNGX)は、SGX301の第三相皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)試験が成功したと発表した。詳細は6月に発表する予定。承認申請に向かう。

SGX301はセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリ)に含まれる光増感効果を持つ色素、ヒペリシンを化学合成した軟膏薬。皮膚病変に塗布すると悪性T細胞に集積、16~24時間後に蛍光灯照射すると活性化して増殖を抑制する。第三相試験では、早期(ステージIAからIIA)の患者169人を偽薬と2対1割付して、8週サイクルで最初の6週間に週2回のペースで施行して、第1サイクル後の病変縮小効果を検討した。

結果は、奏効率(Composite Assessment of Index Lesion Scoresが50%以上改善した患者の比率)が16%と偽薬群の4%を上回った(p=0.04)。第2サイクルは全員に投与したところ、奏効率は35%と第1サイクルの試験薬群のデータと比べても上回る数値が出た。

第1サイクルの奏効率はあまり印象的ではなく、第2サイクルはドロップアウトの影響があったかもしれないので、詳細発表を待ちたい。そもそも、この奏効率は患者のQOLや寿命とどの程度リンクするのだろうか?

リンク: Soligenixのプレスリリース

ファイザー、JAK1阻害剤の三本目のアトピー性皮膚炎試験が成功
(2020年3月18日発表)

ファイザーは、PF-04965842(abrocitinib)の三本目の第三相アトピー性皮膚炎試験の成功を発表した。既に二本成功しているが、今回はリジェネロンのDupixent(dupilumab)との差別化に関わるエビデンスも獲得したことが成果。

局所的治療を受けている中重度アトピー性皮膚炎患者837人を偽薬(延長試験で100mgまたは200mgを投与するため二群設定)、100mg、200mg、そしてDupixentの5群に無作為化割付して、共同主評価項目であるIGA奏効率とEASI75達成率を比較したところ、200mgは第12週と第16週の両方で偽薬を有意に上回った。100mgは第12週時点だけだった。一方、二次的評価項目の一つである第2週の痒み評価は200mgがDupixent比でも有意に改善、100mgは数値上上回ったが有意ではなかった。

深刻な有害事象の発生率は各群3.8%、2.5%、0.9%、0.8%で大きな違いはない。有害事象による治験離脱は各3.8%、2.5%、4.4%、3.3%だった。

PF-04965842はJAK1阻害剤。Dupixentとの違いは一日一回の経口剤であることと、IL-4とIL-13だけでなく、痒みに関連するIL-31も阻害すること。数値が未発表なので臨床的な意義は分からないが、もし統計学的にしか有意でなかったとしても、今回の試験成績は宣伝材料になるだろう。

ファイザーは年内に承認申請する考え。承認審査では免疫抑制に伴う有害事象リスクも検討されるだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ファイザー、20価肺炎球菌ワクチンの第三相が成功
(2020年3月18日発表)

ファイザー(と買収される前のワイス)は2000年に7価肺炎球菌ワクチンPrevnar(和名プレベナー)、2011年に13価のPrevnar 13を発売したが、今度は20種類の血清型をカバーする新ワクチン、PF-06482077(別名20vPnC)の第三相試験を成功させた。18才以上で過去に肺炎球菌ワクチンを接種したことのない3880人を組入れた、メインの第三相試験で、主評価項目である60才以上における免疫原性が、19の血清型について、既存のワクチン(Prevnar 13がカバーする型についてはPrevnar 13、それ以外は23価肺炎球菌多糖体ワクチンのPneumovax)と非劣性だった。Prevnar 13がカバーしていない型の一つについては僅かに届かなかったようだが、FDA側は、承認に差し支えるほどではないと考えている由だ。18-59才における免疫原性は、全ての型に関して、60-64才と非劣性だった。

ファイザーは20年末までに承認申請する考え。

Prevnar 13は昨年、ACIP(予防接種に関する推奨を行う米国の諮問委員会)が65才以上に関する勧奨を変更し、免疫低下など特定の条件を満たす過去に接種歴がない人以外は、本人と担当医が相談して決定することとした。小児期における接種が普及し肺炎球菌性感染症が減少、高齢者に感染するリスクが低下したことが理由のようだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

MSD、難治性慢性咳の第三相試験が成功
(2020年3月17日発表)

MSDは、MK-7264(gefapixant)の第三相慢性咳治療試験二本が成功したと発表した。データは学会で発表する計画。承認申請に向かうだろう。

難治性、あるいは説明不可能な慢性咳の患者を組入れて、15mgまたは45mgの何れかを一日二回、経口投与し、一本は第12週、もう一本は第24週の咳の回数(オーディオレコーダーで24時間記録)を偽薬と比較したところ、45mg群は二本とも有意な差があった。一方、15mg群は二本ともフェールした。安全性や忍容性は第二相試験と同様だった由。

慢性咳の米国における罹患率は10%で、うち2~4割は原因が不明とのこと。知覚神経の過剰感作が影響しているケースもあるようだ。MK-7264は選択的P2X3受容体アンタゴニストで、ATPがP2X3受容体を刺激して知覚神経を過剰感作するのを妨げる。

後期第二相試験では50mgを一日二回投与した群の咳が有意に減少した。20mg群や7.5mgは有意ではなかったが数値上は偽薬群より少なかった。難点は用量依存的な味覚異常で、50mg群は半分近くの患者が経験、それによる治験離脱は16%に達した。

第三相の用量が若干少ないのは忍容性の緩和を図ったのだろうが、忍容性が第二相試験と同様であったことや、発生率が低いはずの15mg群が効果の面で不十分だったことは、残念だ。

MK-7264は、09年にロシュからスピンアウトしたAfferent Pharmaceuticalsを16年に当初金5億ドル、開発商業化目標達成金7.5億ドルで買収して入手したコンパウンド。

リンク: MSDのプレスリリース

バベンチオの頭頸部癌一次治療試験がフェール
(2020年3月13日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとファイザーは、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の適応拡大試験がフェールしたと発表した。頭頸部扁平上皮腫の一次治療として治癒的化学放射線療法を受ける患者にBavencioを追加する効果を検討したが、独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定。続行しても主評価項目であるPFS(無進行生存期間)に有意な差が出る可能性は極めて小さいと判断。両社は勧告を受け入れて治験中止を決めた。

Bavencioは抗PD-L1抗体で、メルケル細胞腫などに承認されている。後発であるせいか、ニッチな用途や難しい癌の試験にも取り組んでおり、そのせいか、フェールも少なくない。頭頸部癌ではMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)が転移・切除不能難治性の患者にモノセラピー(PD-L1高発現の場合)または白金薬などと併用することが欧米で承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース

アストラゼネカ、小細胞肺がんにイミフィンジと抗CTLA4抗体を併用しても無益
(2020年3月17日発表)

アストラゼネカは、第三相CASPIAN試験の共同主評価項目の結果を発表した。伸展型小細胞性肺癌の一次治療として、cisplatinまたはcarboplatinをetoposideと併用する対照群と、更に抗PD-L1抗体のImfinzi(durvalumab)を追加する三剤併用群、そして抗CTLA4抗体のtremelimumabも追加する四剤併用群の全生存期間を比較した試験で、三剤併用群は中間解析で目的を達成、日米欧で適応拡大申請中。

今回、四剤併用群がフェールしたことが発表された。残念だが、Imfinziとtremelimumabの併用療法は他の癌でも第三相試験が軒並みフェールしており、事前の期待は小さかった。

抗CTLA4抗体と言えばBMSのYervoy(ipilimumab)が複数の癌に承認されており、一部はOpdivo(nivolumab)との併用だ。両剤は軽鎖などのアミノ酸配列が異なるが、CTLA4側の結合部位、エピトープは同じだ。固定領域がIgG2型なので、ADCC活性やCDC活性がYervoyより小さい可能性があり、明暗が分かれた原因かもしれない。

tremelimumabはファイザーが第三相試験を行ったがフェール、アストラゼネカのメディミューン子会社にアウトライセンスした。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、VEGFR阻害剤のリムパーザ併用試験がフェール
(2020年3月12日発表)

アストラゼネカとMSDは、cediranibのLynparza(olaparib、和名リムパーザ)併用試験がフェールしたと発表した。このVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤は様々な癌の第三相試験がフェールしている。

今回のGY004試験は米国立癌研究所が主導するオープンレーベル試験で、再発卵巣癌に両剤を併用する効果を白金薬ベースの化学療法レジメンと比較した。主評価項目はPFS(無進行生存期間)。データは研究者側が発表する予定。

リンク: 両社のプレスリリース

ノボ、抗TFPI抗体の第三相を中断
(2020年3月16日発表)

ノボ ノルディスクは、NN7415の第三相試験二本と第二相を中断したことを明らかにした。有害事象が原因だが、よほど深刻でない限り、再開に向かう可能性のほうが開発中止より可能性が高いのではないか。

NN7415は活性化血液凝固第VII因子と組織因子の複合体による第X因子の活性化を抑制する天然のインヒビター、TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)を標的とする抗体医薬。TFPIが欠乏している血友病患者は出血リスクが小さいとされる。

第三相はA型とB型の血友病患者の出血を予防するルーチン投与試験が一本はインヒビターを持つ患者、もう一本は持たない患者を組入れて開始した。第二相試験を含めて109人に投与中だったが、第三相試験で3人が非致死的血栓性イベントを発現したため、今後の投与と新規組入れを停止した。

リンク: ノボのプレスリリース


【承認申請】


Aurinia、カルシニューリン阻害剤をループス腎炎に承認申請
(2020年3月16日発表)

カナダのAurinia Pharmaceuticals(TSX:AUP、Nasdaq:AUPH)は米国でvoclosporinをループス治療薬としてローリング承認申請を開始したと発表した。第2四半期中に完了する計画。長い臨床開発歴を持つカルシニューリン阻害剤で、第三相試験では、MMFやステロイドによる治療を受けている患者に23.7mgを一日二回、経口投与したところ、52週時点の腎反応率(eGFRや尿蛋白クレアチニン・レシオなどで評価)が40.8%と偽薬群の22.5%を有意に上回った。深刻有害事象発現率は21.3%で偽薬群の20.8%と大差なかった。但し、死亡者は5人と偽薬群の1人より多かった(組入れ数は335人)。

リンク: Auriniaのプレスリリース

JNJ、S1P1調節剤を多発硬化症に承認申請
(2020年3月18日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンは、EUに続いて米国でもponesimodを再発型多発硬化症用薬として承認申請したと発表した。S1P1受容体調節剤で、ロシュのスピンアウトであるアクテリオン社を17年に子会社化して入手した製品・パイプラインの一つ。第三相試験では、20mgを一日一回経口投与した群の年率再発率が0.202と、teriflunomide 14mgを一日一回経口投与した群の0.290を有意に下回った。

リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

ファイザー、抗NGF抗体を承認申請
(2020年3月2日発表)

ファイザーとイーライリリーは、PF04383119(tanezumab)を米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は12月。ヒトNGFを標的とする抗体は後述の副作用があるため、FDAが開発の当否を諮問委員会に諮問したことがあるが、改めて承認の当否を諮問する考えのようだ。日本やEUでも承認申請する計画。

予定適応症は難治性の中重度変形性関節炎による慢性疼痛。8週毎に皮柱する。

NGFを発見したジェネンテックのスピンアウトであるRinat Neuroscienceを06年に買収して入手したパイプライン。抗hNGF抗体は複数の会社が開発に凌ぎを削っていたが、後に急速進行形変形性関節症(RPOA)と呼ばれることになる有害事象が表面化、FDAがクリニカルホールドを命じたことがある。tanezumabの第三相試験でも1型(関節裂隙狭小化が早い)、2型(関節損傷・破壊)とも発現率が偽薬群より高かった。関節全置換術を受けた患者も偽薬群より多かった。

原因は不明。疼痛が緩和して行動的になることが裏目に出るのかもしれないが、関節に良い薬なのか、悪いのか、よくわからない。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EU、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認を停止
(2020年3月13日発表)

EUの薬品承認審査機関、EMAは、Gedeon Richterの子宮筋腫治療薬Esmya(ulipristal acetate)の承認を停止すると発表した。欧州委員会の要請を受けて、PRAC(市販後医薬品監視・リスク評価委員会)が肝毒性を再検討することが理由。

Esmyaは選択的プロゲスチン受容体調節剤で、欧州で12年に、13年にはカナダでも、子宮筋腫治療薬として承認された。日本でもあすか製薬が昨年12月に承認申請している。米国はアラガンが17年に承認申請したが、深刻な肝障害リスクが見られることから、承認されなかった。

EUでも17年にPRACが審査を開始、18年に新患には投与しないこと、治療を受ける患者は定期的な肝臓検査を受けることを勧告した。今回、承認停止にステップアップしたのはその後も肝障害報告が増えているため。

EMAは、速やかに患者とコンタクトして治療を止めるよう求めている。3月23日を目処にドクターレター(Direct Healthcare Professional Communication)を発出しEMAのウェブサイトにも掲載する予定。

尚、今回の規制や肝毒性リスクは、同じ活性成分を持つ事後的緊急避妊薬、ellaOneは関係ない。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

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