2019年11月30日

2019年12月1日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田薬品、デング熱ワクチンの第三相が成功 
  • アストラゼネカ、FDAがイミフィンジの適応拡大申請を受理 
  • インサイト、FDAがFGFR阻害剤の承認申請を受理 
  • 伝染性軟属腫治療薬が米国で承認申請受理 
  • 膀胱癌の遺伝子療法が米国で承認申請受理 
  • ロシュの脊髄筋委縮症用経口剤が米国で承認申請受理 
  • FDA、鎌状赤血球症治療薬を承認 


【新薬開発】


武田薬品、デング熱ワクチンの第三相が成功
(2019年11月25日発表)

武田薬品は、デング熱ワクチンとして開発しているTAK-003(別名DENVax)の第三相試験、TIDESの最終解析結果をASTMH(米国熱帯医学会)第68回年次学術集会で発表した。11月にNew England Journal of Medicine誌に掲載された初回解析結果と比べてワクチン効率がやや低下したが、1型と2型のウイルスに感染するリスクに関しては高い効果が再確認された。一方、3型は数値がかなり低下し、特に、ベースライン時点でデングウイルスに対する血清反応が陰性、つまり、デング熱感染経験がないと推定される青少年に関しては、ワクチン効率はマイナスだった。また、最終解析でも4型感染者は少なく、症例不足で有意な結果にならなかった。

ワクチン効率(%)
  ワクチン効率 95%信頼区間
最終解析 73.3 66.5~78.8
(初回解析) 80.2 73.3~85.3
デング熱入院 90.4 82.6~94.7
ウイルス学的に確認された重症例 2.3 -977.5~91.1
サブグループ分析:
デング感染歴あり 76.1 68.5~81.9
なし 66.2 49.1~77.5
ウイルス型別:
1型 69.8 54.8~79.9
2型 95.1 89.9~97.6
3型 48.9 27.2~64.1
(うち、感染歴あり) 61.8 43.0~74.4
(無し) -68.2 -318.9~32.4
4型 51 -69.4~85.8

TAK-003は弱毒化した2型デングウイルスをバックボーンとして1型、3型、4型の構造蛋白を導入したもの。13年にInvitragenを企業買収して入手した。90日おいて2回皮注する。TIDES試験の初回解析は初回接種後15ヶ月間、最終解析は21ヶ月間、追跡したものだが、総計では4年半追跡するので、今後、3型や4型に関する長期追跡データがまとまるかもしれない。

もう一つ重要なテーマである、未感染者がワクチン接種後に感染すると重篤化するリスクがあるのかどうかについても、サンプル数が増えるにつれて結論が出るだろう。

ワクチンを必要とする国は感染経験者が多いので、サノフィのデング熱ワクチンDengvaxiaのように経験者限定でも多くの人に便益をもたらすが、血清検査は手間や費用が掛かり、自己申告に委ねるのは、デングは自覚症状がない場合も多いようなので、誤判定の懸念を伴う。TAK-003が感染未経験者にも安全であることが確認できれば、事前検査不要になるので、武田にも公衆にも大きな意義があるだろう。

しかし、楽観するのは早いのではないか。過去にタイで行われた疫学研究では、二回目のデング感染で重症化した症例は一回目と異なる型の感染が多かった。TAK-003は2型ウイルス・ベースで、予防効果も2型に対するものが最も高く、もし『キプロスの蜂』現象が起きるなら、一回目は2型による感作となる。3型ウイルス感染症が偽ウイルス群より多かったという現象は、3型ウイルスの侵入例が多かったのではなく、医療施設で受診するほどの重さの症状が発生したことを意味する。結局、「一回目と異なる型に感染した重症例」に近い。

人々に役に立つ情報を提供する人たちは、嘘も方便とばかりに、甘い話ばかりをしてしまうことがある。だが、上手く行っているうちは良いが、良かれと思ってやっていたことが、ひとたび、『但し、』以下に言及せざるを得ない事態になった場合、大衆の信頼が不信に変わってしまう。ヒトパピローマウイルスワクチンだって、日本より先に発売された多くの国で稀だが深刻な神経性障害が報告されていた。インフルエンザワクチンで筋注に慣れている国でもそうなのだから、日本も、長所も短所もキチンと説明していれば、ワクチンとの因果性が確認されていない有害事象が表面化しても、過敏反応を誘導しなくてすんだのではないか。

閑話休題。武田は20年後半に承認申請する予定。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、FDAがイミフィンジの適応拡大申請を受理
(2019年11月29日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)を進展型小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は20年第1四半期とだけ開示された。

小細胞性肺癌は肺癌の1~2割を占め、その2/3は進展型と診断される。申請の根拠となる第三相CASPIAN試験では、etoposideと白金薬を併用する標準療法に更にImfinziを追加したところ、メジアン生存期間が13.0ヶ月と標準療法だけの群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、統計的に有意だった。有害事象治験離脱率は両群とも9.4%だった。

尚、この試験は盲検ではなく、三剤併用群は標準療法レジメンを最大4サイクル施行、標準療法群は6サイクル施行し予防的頭蓋内照射も行った。また、抗CTLA4抗体tremelimumabと4剤併用する群も設けられた。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

インサイト、FDAがFGFR阻害剤の承認申請を受理
(2019年11月27日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、INCB54828(pemigatinib)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。治療歴を持つFGFR2融合・再編成陽性の局所進行性・転移性胆管癌に用いられる見込み。優先審査を受け、審査期限は来年5月30日。

pemigatinibは選択的FGFR(線維芽細胞成長因子受容体)阻害剤。治療歴を持つ局所進行性・転移性胆管癌の第二相試験で13.5mgを一日一回、2週間オン、1週間オフのスケジュールで経口投与したところ、FGFR2融合・再編成を持つ患者を組入れたコフォートのORR(客観的反応率、独立中央放射線学的評価)が107人中36%、メジアン反応持続期間が7.5ヶ月と、比較的良好な結果が出た。

G3以上の治療時発現有害事象は低リン血症(12%)、漿液性網膜剥離(1%)などで、臨床的に深刻なものではなかった模様。尚、軽度のものも含めれば最も多いのはG1、G2の高リン血症だった。

第三相は一次治療におけるPFS(無進行生存期間、独立評価)をgemcitabine・cisplatin併用レジメンと比較する試験を今年6月に開始した。

FGFR阻害剤は、スイスのBasilea Pharmaceutica(SIX: BSLN))がArQule(Nasdaq:ARQL)からライセンスしたderazantinibなど複数のコンパウンドの第二相FGFR2融合・再編成陽性胆管癌試験の結果が今年、発表された。pemigatinibと前後して承認申請されることになりそうだ。

リンク: インサイトのプレスリリース

伝染性軟属腫治療薬が米国で承認申請
(2019年11月27日発表)

Verrica Pharmaceuticals(Nasdaq:VRCA)は、VP-102(cantharidin)局所用溶液を伝染性軟属腫治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は2020年7月13日。

伝染性軟属腫はポックスウイルスの一種に接触感染することで発生する皮膚病で、丘疹が通常は一ヶ所に群発する。治るまで1年、場合によってはそれ以上、かかることがある。米国の推定患者数は600万人で子供が多い。承認されている治療薬はない。

カンタリジンは一部の昆虫が持つ物質で、人が触れると水疱ができることを逆用し、いぼの治療などに用いられることがある。VP-102は特許性局所用溶液で、文献データなど他者のデータに頼らない505(b)(1)条項に基づく承認申請だ。尋常性疣贅などの臨床開発も進行中。

リンク: Verricaのプレスリリース

膀胱癌の遺伝子療法が米国で承認申請
(2019年11月25日発表)

スイスのフェリング・ファーマシューティカルズは、ブラックストーン系のファンドと遺伝子療法の開発販売を担う合弁会社を設立したこと、そして、当該遺伝子療法は既に米国で承認申請し受理されたことを発表した。優先審査指定を受ける。

この遺伝子療法薬は、大学研究者が創製したnadofaragene firadenovec。遺伝子組換え型アデノウイルス5型をベクターとしてインターフェロン・アルファ2bの遺伝子をin vivoで導入する。細胞感染を増強するために界面活性剤様分子Syn3を表面賦形剤として用いている。BCG不応のハイグレード筋層非浸潤性膀胱癌に3ヶ月に一回、膀胱内注入する。第三相試験の結果は12月にSUO(泌尿器腫瘍学会)で発表される予定。

フェリングは、米国承認時にFKD Therapies Oyから世界商業化権を取得するオプションを持っている。今回、米国における販売とグローバルな開発を行う会社としてFerGeneを設立、ブラックストーン・ライフ・サイエンスが4億米ドル、フェリングは最大で1.7億ドルを投資する予定。

リンク: フェリングのプレスリリース

ロシュ、脊髄筋委縮症の経口剤を承認申請
(2019年11月25日発表)

ロシュは、RG7916(risdiplam)を米国で脊髄筋委縮症(SMA)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年5月24日。欧州でも今年中に承認申請されるのではないか。

SMAはSMN1遺伝子の欠損・不全によりSMN蛋白が低下、身体機能障害が発症する。新生児で診断される場合も、成長後の場合もあり、発症が早いほど重症度が高い傾向がある。治療は過去3年間にバイオジェンがSMN2アンチセンス薬Spinraza(nusinersen)を、ノバルティスがSMN1遺伝子療法Zolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)を、相次いで発売。選択肢が増えている。

risdiplamはSMN2スプライシング修飾剤とされる。DNAを転写したRNAから必要な部分を抜き出してメッセンジャーRNAを作成するプロセスに介入して、得率が低いSMN2に基づくSMN生成を改善する。先行二剤と異なり経口液なので使いやすい。新生児発症の1型に加えて、2型、3型にも承認申請した。

元々はPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)がSMA財団と協力して研究開発したもので、ロシュは11年にPTCのSMAプログラム全体をライセンスした。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


FDA、鎌状赤血球症治療薬を承認
(2019年11月25日発表)

FDAは、Global Blood Therapeutics(Nasdaq:GBT)のOxbryta(voxelotor)を12歳以上の鎌状赤血球症の治療薬として加速承認した。審査期限より3ヶ月前倒しだ。

鎌状赤血球症は米国で10万人程度が罹患する希少疾患。アフリカ系が比較的多いとされ、世界では2000万人以上と推測されている。赤血球が鎌状に変形・重合し、毛細血管などを閉塞し疼痛や臓器障害などを合併する。Oxbrytaは前臨床で赤血球の重合・鎌状化を阻害し、変形能や流動性を改善する作用を示した。第三相試験では、一日一回、経口投与したところ、承認用量である1500mgの群では51%の患者でヘモグロビン値が1g/dL以上増加した(偽薬群は6%)。治療関連深刻有害事象の発現率は3%だった(同1%)。

FDAが10日前に承認したノバルティスのAdakveo(crizanlizumab-tmca)は、第三相で鎌状赤血球症の血管閉塞性疼痛クリーゼを抑制する効果が確認済みだが、Oxbrytaは疼痛や臓器障害を抑制する臨床的効用が確立していないため、加速承認となった。フェーズIVコミットメントとして、年内に、2-15歳の患者を組入れてTCD(経頭蓋ドップラー)検査でフロー・ベロシティーの変化を計測する試験に着手する予定。この検査は脳梗塞リスクの評価に使えるとのことだ。

Adakveoのような対症療法よりもOxbrytaのような根源治療のほうが、将来的に根治の夢があるので、印象が良い。しかし、患者にとって重要なのは現在の苦痛や不便さ、将来の合併症の不安を解消することだ。フェーズIVが成功すれば、対象年齢拡大だけでなく薬自体のパーセプションも向上するだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GBTのプレスリリース





今週は以上です。

2019年11月24日

2019年11月24日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、テセントリクとアバスチンの併用は肝細胞腫に有効 
  • レルゴリクスはグローバル前立腺癌試験も成功 
  • AHA:RNA介入薬でLDL-Cが半減 
  • バイエル/MSD、sGC刺激薬の第三相心不全試験が成功 
  • BMS、ヤーボイのオプジーボ併用915試験がフェール 
  • FDA、韓国社の抗癲癇薬を承認 
  • FDA、アストラゼネカのbtk阻害剤をCLLにも承認 
  • FDA、アルナイラムの急性肝性ポルフィリン症治療薬を承認 
  • MSDのキイトルーダ、EUでも頭頚部癌一次治療に承認 

(FDAがSK Biopharmaceuticalsの抗癲癇薬を承認した件を11月25日に追加しました)

【新薬開発】


ロシュ、テセントリクとアバスチンの併用は肝細胞腫に有効
(2019年11月22日発表)

ロシュは、シンガポールで開催中のESMO(欧州臨床腫瘍学会)アジア大会で、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)とAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の併用を切除不能肝細胞腫の一次治療に充てた第三相IMbrave150試験の結果を発表した。全生存期間はNexavar(sorafenib)群比ハザードレシオが0.58、p=0.0006、メジアン値は未達(Nexavar群は13.2ヶ月)。PFS(無進行生存期間、独立評価)は0.59、p<0.0001、メジアン値は6.8ヶ月(同4.3ヶ月)と、高価なバイオ薬の二枚使いに相応しい効果を発揮した。

グレード3/4有害事象の発現率は57%(55%)、致死的有害事象は5%(6%)で大差なかった。

試験が成功したこと自体は10月に発表済み。ロシュは欧米や患者数の多い中国などで適応拡大申請する見込み。

VEGFやその受容体を阻害する薬は様々な腫瘍に承認されているが、肝細胞腫は試験結果が区々で、Nexavarは成功した稀有な例だ。ところが、近年、抗PD-1/PD-L1抗体併用で好成績を上げる今回のような事例が増えており、復活しつつある。

リンク: ロシュのプレスリリース

レルゴリクスはグローバル前立腺癌試験も成功
(2019年11月19日発表)

Myovant Sciences(NYSE:MYOV)は、relugolixの第三相前立腺癌試験が成功したと発表した。米国で2020年4月に子宮筋腫治療薬として承認申請の予定だが、前立腺癌でも同年4-6月期に申請する考え。子宮内膜症も来年上期に第三相が開票するので、順調なら3適応症で次々申請となりそうだ。

relugolixは武田薬品が創製したゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗剤。日本で今年1月に子宮筋腫治療薬レルミナ錠として承認され、婦人科における販売権を持つあすか製薬が販売中。

Myovantはヘッジファンド出身のVivek Ramaswamyが創設したRoivantグループの会社で、アジアの一部を除く世界開発販売権を保有している。

今回の第三相は、アンドロゲン感受性進行前立腺癌を組入れて、初回は360mg、その後は120mgを一日一回、経口投与する効果をleuprolide acetateの3ヶ月毎皮注/筋注用製剤と比較したオープンレーベル試験。主評価項目の第5週から48週までのテストステロン抑制成功率は96.7%、95%下限は94.9%となり、FDAが要求する90%以上をクリアした。対照群は88.8%で、EMAが要求する非劣性解析が成功した。

二次的評価項目では作用のオンセットの速さが示唆された。転移性サブグループを対象に、去勢抵抗性が生じたり死亡したりするリスクの比較を20年7-9月期に行う予定。

有害事象発現率は各群92.9%と93.5%、治療時発現有害事象による離脱は3.5%と2.6%で大差なかった。主要有害心血管イベント(全死亡、心筋梗塞、卒中:査読はなし)の発現率は2.9%対6.2%で、p値は記されていないが少なくとも数値上は小さかった。

リンク: Myovantのプレスリリース

AHA:RNA介入薬でLDL-Cが半減
(2019年11月18日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)はアルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ALNY)からinclisiranをインライセンスして第三相試験を行っている。三本の第三相LDL-C治療試験が成功し米国では今四半期に、欧州でも来年第1四半期に承認申請する計画。9月のESC(欧州心臓学会)におけるORION-11試験(米国外の1617人のアテローム性心血管疾患患者が対象)の結果発表に続いて、AHA(米国心臓協会)科学部会で、米国の医療施設で1561人のアテローム性心血管疾患を組み入れたORION-10試験と、482人のヘテロ接合性家族性高脂血症を組入れたORION-9試験の結果が発表された。

アルナイラムはsiRNA(短RNA干渉薬)に特化した新薬開発企業で、18年に欧米でOnpattro(patisiran、和名オンパットロ)がトランスサイレチン調停アミロイドーシスの治療薬として承認された実績を持つ。inclosiranもsiRNAで、標的はアムジェンの抗体医薬、Repatha(evolocumab)などと同じPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)。肝臓のLDL-C受容体の零落・分解を促進するPCSK9の発現を妨げる。Repathaは2週毎または月一回皮注だが、inclisiranは2回目は3ヶ月後、3回目以降は半年毎と作用が長期間持続することが特徴。

第三相試験はスタチンを服用してもLDL-C値が十分に低下していない患者を対象としており、アテローム性心血管疾患試験のベースライン値は米国外試験が107mg/dL、米国試験は105mg/dL、LDL-C受容体の遺伝子などに変異がありLDL-C値が著しく高い家族性高脂血症の試験では151mg/dLだった。三本とも、第510日時点のLDL-Cが50%前後低下し、偽薬比でも同程度の治療効果があった。効果の面ではRepathaなどと遜色ない。

安全性面では肝機能検査値異常や腫瘍の発生率は偽薬群と大差なかった。心血管イベント数は米国試験では数値上少なかったが、心血管死や致死的/非致死的心筋梗塞・卒中は数値上多かった。
家族性高脂血症試験では心血管イベント数が偽薬群並みだった。米国外試験では心筋梗塞や卒中がかなり少なかったので三本合わせれば群間差は縮小するが、FDAにとっては米国外試験より米国試験のシグナルのほうが重要なので、承認審査における論点の一つになりそうだ。

リンク: MDCOのORION-9試験に関するプレスリリース(11/18付)
リンク: MDCOのORION-10試験に関するプレスリリース(11/16付)

バイエル/MSD、sGC刺激薬の第三相心不全試験が成功
(2019年11月18日発表)

バイエルとMSDは、共同開発している可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬、BAY 1021189/MK-1242(vericiguat)の第三相心不全アウトカム試験が成功したと発表した。データは2020年に学会発表の予定。代理マーカーを主評価項目とした後期第二相は二本ともフェールしたのでサプライズの結果だ。

この、VICTORIA試験は、駆出力低下心不全で心不全入院から6ヶ月以内または入院しなくても利尿薬静注を受けた患者5050人を組入れて、心血管死や心不全入院のリスクを偽薬と比較した。vericiguatは2.5mg一日一回経口投与で開始して、5mgそして10mgに滴定した。Canadian VIGOUR CentreやDuke Clinical Research Instituteが二社とコラボして欧米日中42ヶ国の医療施設で実施した、アカデミック色の強い試験だ。

後期第二相試験は駆出力低下と維持の二本を実施、NT-pro BNPの変化を調べたが、有意差には届かなかった。但し、第三相で採用した高用量の群は好ましい傾向が出ていた。

バイエルはsGC刺激薬の開発で先行していて、Adempas(riociguat、和名アデムパス)を肺高血圧症治療薬として実用化した。心不全ではcinaciguatの後期第二相が実施されたが、高用量で低血圧が増加、中止された。vericiguatも第二相で低血圧が見られたので、第三相データのチェックポイントになるだろう。

リンク: バイエルのプレスリリース

BMS、ヤーボイのオプジーボ併用915試験がフェール
(2019年11月20日発表)

BMSは、第三相CheckMate-915試験の主評価項目の一つがフェールしたと発表した。ステージIIIb/c/dまたはステージIVの黒色腫で完全切除を受けた後のアジュバント療法として、Yervoy(ipilimumab)とOpdivo(nivolumab)を併用する便益を偽薬・Opdivo併用と比較したが、PD-L1が1%未満のサブグループのRFS(無再発生存期間)に有意差はなかった。もう一つの主評価項目であるintent-to-treatの解析が残っているため、この治験は盲検のまま進行中。

後者の解析が成功する可能性はどうか?OpdivoはPD-1をブロックしてPD-L1が結合できなくする薬なので、PD-L1陰性の患者のほうがYervoyを追加する効果が大きくなっても不思議はない。逆に言えば、PD-L1陰性に無効なら陽性を含むintent-to-treat解析が成功するとは考えにくい。

尤も、悪性黒色腫ではPD-L1を気にしなくても良いのかもしれない。この二剤は単剤投与が承認されているが、Opdivoの承認はこの二剤を直接比較したCheckMate-238試験に基づくものだ。治験論文によると、12ヶ月無再発生存率はPD-L1発現が5%以上のサブグループでも5%未満のグループでもOpdivoが上回った。

今回の発表で奇妙なのはサブグループ分析のほうが先に結果が出ていることだ。PD-L1陽性の組入れ開始が遅れたとか何か特殊な事情があるのかもしれない。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


FDA、韓国社の抗癲癇薬を承認
(2019年11月21日発表)

FDAは、韓国のSK BiopharmaceuticalsのXcopri(cenobamate)を成人癲癇患者の部分発作抑制薬として承認した。韓国企業が自社で発見し米国で導出・提携なしに単独で申請した新薬の承認は初めて。DEA(麻薬取締局)のスケジューリング指定を経て20年第2四半期頃に発売する計画。

作用機序はGABA-A受容体を調節して発作を阻害する電流を増強するとともに、と持続性ナトリウム電流を阻害し興奮性電流を減少する。第二相試験に基づく承認で、部分発作の管理不良患者を組入れて100mg、200mg、400mgの何れかを一日一回経口投与する効果を偽薬と比べたところ、ベースライン(4週間平均で8.5回)比35-55%減少した(偽薬群は24%減少)。発作回数半減成功率は40-64%だった(同25%)。

主な有害事象は傾眠など。深刻なものではDRESSで死亡も1例あった。全身性過敏反応の一種で、他の原因薬剤としてはcarbamazepineやallopurinolなどが知られている。SK社は12.5mgで開始して2週毎に緩徐滴定する新用法の安全性確認試験を1339人を組入れて実施、発生をゼロに抑えることができたが、FDAは注意を呼び掛けた。新用法では12.5mg、25mg、50mg、100mg、150mg、200mgと増量していくため、最初の6週間は治療効果が確認されていない用量しか投与されず、目標維持用量に達するまで10週間以上掛かることになる。

QT間隔が20ミリ秒以上短縮するリスクもある。FDAは抗癲癇薬のクラス警告である自殺思慮も警告した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: SK社のプレスリリース

FDA、アストラゼネカのbtk阻害剤をCLLにも承認
(2019年11月21日発表)

FDAは、アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib)の適応拡大をスピード承認した。17年にマントルセルリンパ腫の再発治療薬として承認されたブルトン型チロシンキナーゼ(btk)阻害剤を、慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性リンパ腫(SLL)の一次/再発治療に用いることを、ELEVATE-TN試験やASCEND試験に基づいて、承認した。

ELEVATE-TN試験は初めて治療を受けるCLL患者をCalquence(100mgを一日二回経口投与)単剤投与群、CalquenceとロシュのGazyva(obinutuzumab)の併用群、そしてchlorambucilとGazyvaを併用する対照群に無作為化割付して、PFS(無進行生存期間、独立委員会が評価)を比較した。結果は12月のASH(米国血液学会)で発表される予定だが、米国のレーベルによると、対照群と比べたハザードレシオが単剤投与群は0.20(リスクを8割抑制)、併用群は0.10で、共に統計的に有意だった。PFSのメジアン値はどちらも未達、対照群は22ヶ月だった。

ASCEND試験は再発難治患者の二次治療試験で、単剤群と対照群(rituximabをidelalisibまたはbendamustineと併用)のPFSを比較した。結果は、ハザードレシオが0.31で統計的に有意。メジアンは未達で、対照群は16ヶ月だった。

カプランマイヤー曲線で特徴的なのは、一次治療試験では1年経った辺りから、再発治療試験では9ヶ月辺りから、対照群の進行・死亡が急に増加し始め、Calquence群との差が見る見る広がっていくこと。Calquenceのレジメンのほうが効果の持続性が高いことを示している。

有害事象は骨髄抑制が中心。投薬中止や治療中の疾病進行以外の死亡は二次性原発腫瘍や感染症によるものが多かった。

btk阻害剤はアッヴィ/ジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)が第一号で、再発CLLは5年前に承認、一次治療は3年前に承認と先行しており、様々な併用法のエビデンスを持っている。キャッチアップするために、Acerta Pharma(アストラゼネカが15年に子会社化した)は多くの臨床試験を実施中。

尚、FDAは今回の適応拡大の申請を優先審査指定し、リアル・タイム・オンコロジー・リビュー制度を適用して、PDUFA法に基づく審査期間を4ヶ月残して前倒し承認した。また、プロジェクト・オービスに則り、オーストラリアやカナダの承認審査機関との同時申請・承認を実現した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

FDA、アルナイラムの急性肝性ポルフィリン症治療薬を承認
(2019年11月20日発表)

FDAは、アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のGivlaari(givosiran)を急性肝性ポルフィリン症(AHP)の治療薬をとして承認した。審査期限より2ヶ月以上前倒しだ。欧州でも承認審査中。

AHPはヘム合成回路の酵素の一つに機能喪失・低下変異があり、臓器や神経にポルフィリンが蓄積し、発作時には激しい痛みや麻痺、呼吸不全、中枢神経・精神症状が発生、永続的神経学的損傷や死亡の可能性もある。欧米の患者数は3000人と推定されているが、診断が難しく、本当はもっと多いかもしれない。

アルナイラムはRNAを分解する生来のメカニズムに着目してsiRNA(短RNA介入薬)の研究開発に特化している。Givlaariはアミノレブリン酸合成酵素(ALAS1)遺伝子を沈黙させ、ポルフェリンの前駆体で神経毒性の主犯と目されるアミノレブリン酸などの生成を妨げる。siRNAは半減期を伸ばしたり標的に届くようにするのが難しい。Givlaariは GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)残基を持つライガンドと共益結合する技術を適用した開発品の承認第一号。

日本を含む18ヶ国の医療施設が参加した承認申請用試験では、ポルフィリン発作(入院、緊急治療、または在宅ヘミン投与)の発生率が偽薬群より70%小さかった。深刻有害事象の発現率は20.8%と偽薬群の8.7%を大きく上回った。重要な有害事象は、注射箇所反応(25%の患者で発生)、腎関連有害事象(15%)、肝機能検査値異常(15%でALTが正常値上限の3倍以上に増加、治療開始の3-5ヶ月後が多い)。FDAはアナフィラキシーと腎機能の監視を推奨するとともに、治療開始前と治療中定期的に肝機能検査を行うよう求めた。

月一回、2.5mg/kgを皮注する。アルナイラムは年間薬剤費をWAC(卸取得価格・・・建値)ベースで平均57.5万ドル、法定値引き後で44.2万ドルと想定している。薬剤費保険組織との価格交渉では成功報酬制(所定の効果が得られなかった患者は無料、など)も提案している模様。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アルナイラムのプレスリリース

MSDのキイトルーダ、EUでも頭頚部癌一次治療に承認
(2019年11月20日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を転移切除不能難治性扁平上皮頭頚部癌の一次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。PD-L1発現検査でCPS(combined positive score:腫瘍細胞だけでなく腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1発現も考慮)が1以上の場合に適応になる。

承認の根拠になったKEYNOTE-048試験では、単剤投与群、白金薬および5-FUと併用投与群、cetuximabと白金薬及び5-FUを併用する対照群の全生存期間をCPS≧20のサブグループ、CPS≧1サブグループ、intent-to-treatについて解析した。FDAは白金薬及び5-FUと併用する場合はPD-L1陰性でも可と判定したが、EUは、モノセラピーと同様に、陽性に限定した。

抗PD-1/PD-L1抗体の頭頚部癌試験の成績はそれほどでもなく、Keytrudaは再発治療の承認後薬効確認試験がフェールした。今回の048試験もPFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)は対照群と大差なかった。PFSにおける進行認定やORRにおける反応認定は、多くの場合、腫瘍のサイズが閾値以上に縮小・拡大するかどうかによって機械的に判断され、症状の増悪や治療の奏功(ニアリーイコール延命)とは必ずしも一致しない。主観に左右される難点もある。だから全生存の解析が一番重要なのだが、それも、実薬対照試験であるせいか、対照群との差はそれほどでもない。

具体的には、CPS≧1におけるモノセラピーの効果は、メジアン生存期間が12.3ヶ月、対照群は10.3ヶ月で、ハザードレシオ0.74(統計的に有意)。PFSは3.2ヶ月対5.0ヶ月、HRは1.13で有意ではない。ORRは19%対35%、有意ではない。メジアン反応持続期間は23.4ヶ月対4.5ヶ月で、サイトカイン系免疫療法と同様に、効く人には長期間、恩恵をもたらす。併用の効果は全生存期間が13.6ヶ月対10.4ヶ月、HR0.65で有意。PFSは5.1ヶ月対5.0ヶ月、HRは0.84でp=0.03697だが解析の多重性を考えればおそらく有意とは言えないだろう。ORRは36%対36%で統計的に有意ではない。メジアン反応持続期間は6.7ヶ月対4.3ヶ月。化学療法の寄与が加わる分、反応持続期間の上乗せが小さくなったのだろう。

単剤投与と併用を見比べると、メジアン生存期間は1ヶ月程度しか違わない。CPS≧20のサブグループ分析ではモノのメジアン生存期間は14.9ヶ月、併用群は14.7ヶ月で更に縮小する。このため、CPS≧20にはモノが至適、それ以下には白金薬・5-FU併用が至適、という意見もあるようだ。

リンク: MSDのプレスリリース






今週は以上です。

2019年11月17日

2019年11月17日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群に適応拡大申請へ 
  • ファイザー、ゼルヤンツのJIA離脱試験成功 
  • Reata、アルポート症候群の第三相試験が成功 
  • アストラゼネカ、SLE用薬の二本目のP3は成功 
  • ロシュ、SMA用薬の承認申請用試験が成功 
  • ASLAN社の汎her阻害剤は胆管癌試験もフェール 
  • アストラゼネカ、MEK1/2阻害剤を神経線維腫I型に承認申請 
  • BMS、オプジーボとヤーボイの併用を肝癌に承認申請 
  • FDA諮問委員会、EPA製剤の心血管転帰改善効果を支持 
  • FDA諮問委員会、ジャディアンスに関しても一型糖尿病には反対 
  • CHMP、クッシング症候群の新薬などに肯定的意見 
  • FDA、ノバルティスの鎌状赤血球症治療薬を承認 
  • FDA、塩野義の画期的抗生剤を承認 
  • FDA、百済神州のBtk阻害剤を承認 
  • MSD、エボラワクチンがEUで条件付き承認 
  • CHMP、ゼルヤンツを65歳以上に用いることなどを警告 


【新薬開発】


GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群に適応拡大申請へ
(2019年11月13日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)の好酸球増多症候群(HES)適応拡大試験が成功したと発表した。300mgを4週毎に皮注した群は32週間に症状フレア(悪化、または好酸球数が治療をステップアップすべき水準まで増加)を経験した患者が28%と、偽薬群の56%より少なかった(p=0.002)。二次的評価項目である症状フレア年率発生率も、レイト比が0.34となり、統計的に有意だった。20年に適応拡大申請する予定。

NucalaはIL-5を標的とするヒト化抗体で、重度好酸球性喘息症などの治療薬として日米欧で承認されている。

リンク: GSKのプレスリリース

ファイザー、ゼルヤンツのJIA離脱試験成功
(2019年11月12日発表)

ファーザーは、Xeljanz(tofacitinib citrate、和名ゼルヤンツ)を若年性特発性関節炎(JIA)の治療に用いる第三相試験が成功したと発表した。18週間のランイン期に全員に投与して、所定の改善が見られた患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して26週間、対照試験を行ったところ、再燃に有意な差があった。20年に適応拡大申請する予定。

この種の離脱試験を見る度に当惑するのは、薬が効いた人は継続したほうが良いことは分かった。しかし、薬が効くのかどうかは分からない。ランイン期のデータをもっとちゃんと説明してほしい。

リンク: ファイザーのプレスリリース

Reata、アルポート症候群の第三相試験が成功
(2019年11月11日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)は、RTA402(bardoxolone methyl)の第三相アルポート症候群治療試験が成功したと発表した。米国などで加速承認申請する計画。

アルポート症候群は糸球体や内耳などの構成物である4型コラーゲンの遺伝子に変異を持ち、多くがやがて末期腎疾患を合併する。患者数は米国で3-6万人と推定されている。RTA402はNrf2転写因子の発現を増やす作用を持ち、ミトコンドリア機能を改善したり炎症を抑制したりすることが期待されている。

第三相は米欧日豪の医療施設で157人を組入れ、eGFR改善効果を偽薬と比較した。eGFRが改善したからといって腎障害リスクを抑制できるとは限らないので、FDAと相談して、48週間偽薬対照試験を行った後に4週間、両群に偽薬を投与し、更に48週間偽薬対照試験と4週間偽薬投与試験を行う複雑なプロトコルを採用した。偽薬スイッチ後の残存効果を検証することによって、腎臓をこき使うことでeGFRを一時的に改善するがやがて疲弊させて病状を悪化させるという懸念を検証する意図である。

Reataは最初の52週間のデータで承認申請して加速承認を得て、104週間のデータで本承認を得る考え。今回、前者のデータが判明した。主評価項目の48週後eGFR(単位:mL/分/1.73m2)は、試験薬群、偽薬群、治療効果が各+4.72、-4.78、+9.50となった(p<0.0001)。二次的評価項目の52週後eGFR(同)は-0.96、-6.11、+5.14でp=0.0012。偽薬投与期間が4週間の割には両群の低下スピードが速いのに驚かされるが、何れにせよ、RTA402がeGFR悪化を抑制するだけでなく腎機能低下を遅らせる効果が示唆された。

有害事象はアミノトランスフェラーゼ値の上昇。作用に伴うもので、総ビリルビン値の上昇は伴っていない模様なので肝障害のリスクは小さいかもしれない。筋痙攣も見られた模様。有害事象による治験離脱の発現率は各群12%と5%で上回った。治療時発現深刻有害事象は5%と13%でなぜか小さかった。

RTA402は糖尿病性腎症の第三相で心不全による入院や死亡が偽薬群の1.8倍と多く発生し、治験中止になった前歴を持つが、今回の試験はリスク因子を持つ患者を除外したこともあり、水分過負荷や主要心臓有害イベントは発生しなかった由。

提携関係は、9年前にアボットが欧州などでの開発販売権を取得したが、今年10月にアボットのスピンアウトであるアッヴィから権利を取り戻した。代価としてReataが3年分割で合計3.3億ドルを払う。日本と中国などアジアでの権利は協和キリンがライセンス、上記の治験中止事件を受けて開発を一旦、停止したが、先駆け指定を受けて、昨年5月に糖尿病性腎症の第三相試験を開始した。やはりeGFRの短期的な変化だけでは足りず、2~3年間追跡してeGFRが30%以上低下または末期腎疾患に進行するリスクを偽薬群と比較する。

リンク: Reata社のプレスリリース(pdfファイル)

アストラゼネカ、SLE用薬の二本目のP3は成功
(2019年11月11日発表)

アストラゼネカはMEDI-546(anifrolumab)の二本目の第三相中重度全身性エリテマトーデス(SLE)試験が成功したと発表した。一本目のTULIP 1試験は主評価項目に採用したSLI-4応答率が偽薬並みに留まったが、今回のTULIP 2試験は一本目でよい数値が出たBICLA疾病活動スコア応答率に変更したのが奏功したのか、300mgを4週毎に点滴静注した群が47.8%と偽薬群の31.5%を有意に上回った。

TULIP 1試験の300mg群のBICLA応答率は37%、偽薬群は27%なので、水準は異なるものの治療効果(偽薬群との差)は似たようなものであり、再現性がありそうだ。問題は、なぜスコアによって異なる結果が出るのか、どちらが患者にとって重要なのか、ということだ。

この二本の結果はACR米国リウマチ学会で発表されるとともに、TULIP 1の治験論文がLancet Reumatologyに刊行された。論文著者によると、SLI-4は完全解消しないとその評価項目の点数が変わらないのでBICLAのほうが治療効果に敏感である。また、SRI-4は臨床的評価だけでなく血清学的評価も反映するため、ステロイドなど同時服用薬の増減量の影響を受けやすい(この二本の試験は標準療法に追加投与した)。

20年後半に承認申請される予定だが、承認審査ではこの指摘の妥当性がポイントになりそうだ。

MEDI-546はアストラゼネカの子会社であるメディミューンが04年にメダレックス(09年にBMSが買収)からライセンスした、タイプ1インターフェロンのサブユニット1を標的とする完全ヒト化抗体で、アルファ、ベータなど全てのタイプ1インターフェロンを阻害する。

有害事象で特徴的なのはヘルペスの増加。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ロシュ、SMA用薬の承認申請用試験が成功
(2019年11月11日発表)

ロシュは、RG7916(risdiplam)のSUNFISH試験のパート2が成功したと発表した。脊髄性筋委縮症(SMA)2型または3型の180人を組入れて一日一回経口投与したところ、1年後のMSM-32(運動機能のスケール)が偽薬比有意に改善した。データは未発表。

パート2はパート1で決定した用量の治療効果を仮説検証するものだが、パート1では58%の患者でMSM-32が3ポイント以上改善した。2-25歳を組入れたが、2-11歳に限定すれば71%と更に高い効果が見られた。

ロシュはSMA1型のFIREFISH試験も実施中で、仮説検証的パート2の結果は今4四半期に判明する見込み。来年には承認申請に向かうのではないか。

RG7916はPTC TherapeuticsがSMA財団と共同開発したものを11年にライセンスした。SMN2スプライシング調節剤とされており、survival motor neuronを作る能力がSMN1遺伝子より劣るSMN2遺伝子のスプライシングを変えて、多くの全長mRNAが作られるようにする。

SMA治療薬は16年に米国でIonis(Nasdaq:IONS)/バイオジェンのSpinraza(nusinersen)が1型限定なしで承認。19年にはノバルティスのZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)が1型に承認された。RG7916は作用メカニズム的にはSpinrazaに似ているが経口投与できることが特徴(乳児にはカテーテルで供給する)。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASLAN社の汎her阻害剤は胆管癌試験もフェール
(2019年11月11日発表)

シンガポールのASLAN Pharmaceuticals(TPEx:6497、Nasdaq:ASLN)は、ASLAN001(varlitinib)の第2/3相胆管癌二次治療試験がフェールしたと発表した。欧米日の医療施設でcapecitabineに追加する効果を検討したが、メジアンPFS(無進行生存期間)は2.83ヶ月と、偽薬追加群の2.79ヶ月と大差なかった。ORR(客観的反応率)は9.4%対4.8%で若干上回った程度だった。

varlitinibはEGFR、her2、her3、her4を阻害する小分子薬。昨年1月にArray BioPharma(今年7月にファイザーが買収)から世界開発販売権を取得したが、今年1月にはEGFR/her2陽性転移性胃癌の第二相もフェールしており、開発中止の可能性がありそうだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、MEK1/2阻害剤を神経線維腫I型に承認申請
(2019年11月14日発表)

アストラゼネカとMSDは、AZD6244(selumetinib)を3歳以上の全身性、切除不能叢状神経線維腫I型の治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4-6月期。

この病気は、ニューロフィブロミンの遺伝子変異によるrasそしてPI3K/AKT経路の異常活性化により神経に良性腫瘍が生じ、疼痛や様々な障害をもたらす。悪性腫瘍化するリスクもある。3000~4000人に一人の希少疾患で、欧米で希少疾患用薬指定を受けている。

AZD6244はアストラゼネカが16年前にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)からインライセンスした経口MEK1/2阻害剤。MSDと共同開発提携を結んでいる。これまでに肺癌などの第三相が実施されたが、フェールした。今回の用途では、NCI(米国立癌研究所)が主導した上記疾患の第2相試験で50人の患者のうち66%で腫瘍が20%以上縮小した。FDAのブレイクスルー・セラピー指定を受け、承認申請に至った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

BMS、オプジーボとヤーボイの併用を肝癌に承認申請
(2019年11月11日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)をsorafenib歴を持つ肝細胞腫に併用する適応拡大を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年3月10日。

エビデンスはCheckMate-040試験。上記併用を検討した拡大コフォートでは三種類の投与スケジュールを検討した。OpdivoとYervoyを、各1mg/kgと3mg/kgを3週毎に投与する群と、各3mg/kgと1mg/kgを3週毎の群、そしてOpdivoは3mg/kgを2週毎、Yervoyは1mg/kgを6週毎に投与する群に約50人ずつ組入れた。

ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)は各群32%、31%、31%と大差なかったが、G3/4の治療関連有害事象の発現率は53%、29%、31%となっており、この用途でも、OpdivoではなくYervoyの用量をモノセラピー時より減らす方が良さそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、EPA製剤の心血管転帰改善効果を支持
(2019年11月14日発表)

FDAは内分泌学代謝学薬諮問委員会(EMDAC)を招集し、アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(icosapent ethyl)の心血管アウトカム試験、REDUCE-ITのデータについて意見を聞いた。16人の委員が全員一致で、適応拡大・効能追加を支持した。

Vascepaは高純度EPA製剤。12年に重度高トリグリセライド血症(TG≧500mg/dL)の治療薬として米国で承認された。一方、499mg/dL以下の患者に関しては、TG値を引き下げれば心血管疾患を減らせるというエビデンスが確立していなかったため、承認されなかった。積み残した課題に挑戦したのがREDUCE-IT試験だ。

心血管疾患歴または高リスクで、LDL-Cはスタチンで管理できているがTGが135~499mg/dLの患者約8200人を偽薬(鉱油入り)群とVascepa群に無作為化割付してメジアン4.9年間追跡したところ、後者の方がMACE(主要有害心臓イベント、冠再貫通術や不安定狭心症入院も含む)が25%少なかった(p<0.001)。

EPA製剤の心血管アウトカム試験は、日本だけで行われたJELIS試験も成功した。一方、EPAのほかにDHAも含有する医薬品の心血管アウトカム試験は何れもフェールしている。額面通りに受け止めれば、少なくとも今回の用途に関してはEPAが重要ということになる。EPA・DHA製剤に含まれるEPAだけでは量が足りないのか、あるいは、DHAが心血管に良くないと考える余地もありそうだ。

アマリンの適応拡大・効能追加申請は優先審査で、当初は9月28日までに結果が出る計画だったが、諮問委員会開催に伴い12月28日に延期された。何か拙いことが発覚したのか心配したが、無事承認にたどり着けそうだ。米国の重度高TG血症の潜在患者数は約400万人、今回の適応拡大は、現時点ではまだ対象(初発予防を含むかなど)が確定していないが、1500万人規模と推測される。Vascepaの18年の売上高は2億ドル足らずだったが、REDUCE-IT試験の学会発表や、複数の学会が治療ガイドラインで推奨したことを受けて、今年は倍増ペースで推移している。

Vascepaは米国で2030年まで特許があるが、特許挑戦を受けており、無効認定された場合は来年にもGE化してしまう。アマリンは危機管理策として持田製薬が開発しているEPA新製剤をインライセンスした。

リンク: アマリンのプレスリリース

FDA諮問委員会、ジャディアンスに関しても一型糖尿病には反対
(2019年11月13日発表)

FDAは内分泌学代謝学薬諮問委員会(EMDAC)を招集し、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を一型糖尿病の治療に用いる適応拡大申請について意見を聞いた。諮問委員会は14対2の圧倒的多数で承認に反対した。

二型糖尿病の血糖治療薬はmetforminやSU剤、DPP4阻害剤、SGLT2阻害剤、GLP-1作用剤と様々な選択肢があるが、一型糖尿病は欠乏するインスリンを補充するくらいしかない。SGLT2阻害剤は血糖を尿と一緒に排出させる単純なメカニズムであるため一型にも有効だが、糖尿病性ケトアシドーシスという深刻な副作用のリスクが高まるため、開発が遅れた。

ついに、アストラゼネカが18年にFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の適応拡大を申請、欧州や日本では承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)はSGLT1/2阻害剤Zynquista(sotagliflozin)を一型糖尿病をリード・インディケーションとして新薬承認申請し、EUでは今年4月に承認されたが、米国はEMDACが賛成8人、反対8人と意見が分かれ、審査完了通知を受領する結果になった。

Jardianceは一型糖尿病の用量を2.5mg(一日一回)と、二型糖尿病の承認用量(10mg、25mgまで増量可)より大きく抑えて申請したが、2.5mgの臨床試験は少人数、短期の一本だけであることが響いたのか、A1c低下効果が0.26%と小さいせいか、Zynquistaの時と比べても多くの委員が反対する結末になった。

リンク: 両社のプレスリリース

CHMP、クッシング症候群の新薬などに肯定的意見
(2019年11月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、11月の会合で、ノバルティスのIsturisa(osilodrostat)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Isturisaは副腎皮質におけるコルチゾール合成の最後の過程に係る酵素、11ベータ・ハイドロキシラーゼを阻害する経口剤。クッシング症候群の治療に用いる。ノバルティスが欧米で承認申請した。同社はクッシング症候群ではSignifor(pasireotide)も販売しているが、両剤とも、今年7月にRecordatiに世界権を譲渡した。

リンク: Recordatiのプレスリリース(pdf)

ノバルティスはMayzent(siponimod)も肯定的意見を得た。スフィンゴシン1燐酸受容体の1と5に選択的に作用する経口剤で、活性期二次進行型多発硬化症の治療に用いる。活性期か否かは症状の再発や、炎症痕跡画像に基づいて判定する。米国では今年3月に承認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

このほかに肯定的意見を得たのは、まず、ロシュのPolivy(polatuzumab vedotin)。再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のP1b/2試験のデータに基づく条件付き承認を勧告した。rituximab及びbendamustineと三剤併用する。CD79bに結合する抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体で、Seattle Genetics(Nasdaq: SGEN)の技術を用いている。米国では今年6月に承認。

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のSunosi(solriamfetol)は、選択的ドーパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤。閉塞性睡眠障害やナルコレプシーによる日中の過度の眠気を治療する。米国は今年3月に承認。Aerial BioPharma社経由で韓国のSK Biopharmaceuticalsから世界開発販売権を取得したもの。

Rigel Phharmaceuticals(Nasdaq: RIGL)のTavlesse(fostamatinib disodium hexahydrate、米国の商標はTavalisse)は原発性免疫血小板減少症の治療薬。他の薬に反応しなかった患者に用いる。肥満細胞やマクロファージ、B細胞の免疫グロブリンG受容体の細胞内シグナル伝達に係るSykを阻害し、IL-6やMMP-3を削減する経口剤。米国では今年4月に承認。日本はキッセイ薬品が中韓台も含めて開発商業化権を取得した。

適応拡大では、まず、ロシュのKadcyla(trastuzumab emtansine)をher2陽性早期乳癌後の地固め療法に単剤投与することが支持された。タクサンとher2標的療法の併用による術前化学療法を受けた後に乳房やリンパ節に浸潤性腫瘍が残った患者に用いる。米国では今年5月に承認。Kadcylaは抗her2抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体で、her2陽性転移性乳癌の二次治療に承認されている。米国子会社であるジェネンテックがImmunoGen(Nasdaq:IMGN)の技術を用いて創製した。

最後に、セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide)を再発難治濾胞性リンパ腫にrituximabと併用することが支持された。Revlimidは免疫調停薬とされ、多発骨髄腫などに承認されている。


【承認】


FDA、ノバルティスの鎌状赤血球症治療薬を承認
(2019年11月15日発表)

FDAは、ノバルティスのAdakveo(crizanlizumab-tmca)を鎌状赤血球症の血管閉塞性疼痛クリーゼを抑制する薬として承認した。内皮細胞のPセレクチンに結合するヒト化抗体で、鎌状赤血球が内皮細胞に結合して激しい疼痛を引き起こすのを妨げる。第三相試験では頻度が偽薬比45%少なかった。有害事象は悪心、関節痛、背痛、発熱など。

鎌状赤血球症の患者は米国で10万人程度と推測されている。

16年にSelexys Pharmaceuticalsを買収して入手したパイプライン。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

FDA、塩野義の画期的抗生剤を承認
(2019年11月14日発表)

FDAは、塩野義製薬のFetroja(cefiderocol)をグラム陰性菌による複雑性尿路感染症の治療薬として承認した。18歳以上で、他に治療法がない、または限られている場合に用いる。第三相試験で2gを8時間毎に静注したところ、臨床的・細菌学的複合有効率が72.6%となり、imipenemとcilastatinを用いた群の54.6%と比べて、非劣性だけでなく優越性解析も成功した。但し、臨床的有効率は同程度だった。

深刻な有害事象の発現率は4.7%、対照群は8.1%だった。

Fetrojaはセフェム系だがグラム陰性菌に作用し、三種類の重大なカルバペネム耐性菌にもin vitroで活性を示した。ところが、意外なことに、カルバペネム耐性菌による重症感染を治療した臨床試験で、死亡率が対照群(主としてcolistinが用いられた)より高かった。感染症の悪化による死亡率が15.8%と対照群の8.2%より高かった。主として院内感染肺炎や菌血症、敗血症で偏りが見られた。

別途実施された院内感染肺炎meropenem対照第三相試験も非劣性解析が成功したが、治療時発現有害事象による死亡の発現率が26.4%と対照群の23.3%より数値上多かった。重篤な感染症には効果が弱いのかもしれない。

塩野義製薬は、QIPD制度に基づき有償譲渡可能な優先審査バウチャを取得した。

Fetrojaは今月のCHMPのアジェンダに挙がっていたが、結論持ち越しとなったのか、EMAのプレスリリースには載っていなかった。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、百済神州のBtk阻害剤を承認
(2019年11月14日発表)

FDAはBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)のBrukinsa(zanubrutinib)をマントル細胞腫の二次治療薬として加速承認した。高選択性経口Btk阻害剤で、2010年に北京で設立されたバイオベンチャー、BeiGeneにとって初の米国承認を自社創製品で獲得した。

中国で実施された第二相試験とグローバル第1/2相試験に基づくもので、どちらも、ORR(客観的反応率)は84%、メジアン反応持続期間は前者が19.5ヶ月、後者は18.5ヶ月だった。骨髄抑制があり、肺炎や出血の深刻有害事象が見られた。有害事象による治験離脱率は8%だった。妊婦・授乳婦は禁忌。サンスクリーンの使用が推奨されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Beigeneのプレスリリース(米国居住者向けサイト)

MSD、エボラワクチンがEUで条件付き承認
(2019年11月11日発表)

MSDは、EUがErveboをエボラウイルス疾患予防用ワクチンとして条件付き承認したと発表した。水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一部の遺伝子をザイール種エボラウイルスの遺伝子の一部と置換した弱毒化生ワクチンで、元々はカナダの公衆衛生庁が開発した。米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)がライセンス、14年にMSDに世界独占開発生産販売権を供与した。

接種対象は18歳以上で感染リスクの高い人(感染者の同居人や医療従事者など)。一回、筋注する。

生産プロセスに関する情報の一部が未提出であるため、条件付き承認となった。MSDはドイツの工場で生産に着手し、20年3Qに供給を開始する予定。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: EUのプレスリリース


【医薬品の安全性】


CHMP、ゼルヤンツを65歳以上に用いることなどを警告
(2019年11月15日発表)

CHMPは、11月の会議で、ファイザーのJAK阻害剤、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の規制強化を決定した。発端は、米国で抗リウマチ薬として承認された時のフェーズIVコミットメントとして実施されたA3921133試験で潰瘍性大腸炎にしか承認されていない高用量に安全性懸念が生じたことだが、CHMPは一歩進んで全用量に関して、血栓リスクが高い患者に処方する時は注意を呼び掛けた。特に、潰瘍性大腸炎に10mgを一日二回投与するのは、他に適切な手段が無い場合に限定した。

この試験は中重度リウマチ性関節炎でMTXを服用しているが管理不良、そして心血管リスク因子を持つ4000人以上の患者を組入れて、承認用量である5mg(一日二回)とファイザーが申請したが承認されなかった10mg(同)の心血管・腫瘍安全性を抗TNFアルファ抗体(以下、対照群)と比較したもの。中間解析で10mg群の肺塞栓や全死亡が対照群より多かったため10mgの試験は中止、5mgにスイッチした。

今回の発表によると、肺塞栓発症数と分母となるべき暴露(人年)は、10mg群が17人/3123人年、5mg群は9人/3317人年、対照群は3人/3319人で、10mgのリスクは対照薬の6倍、5mgも3倍だった。全死亡についても、各28人/3140人年、19人/3324人年、9人/3323人年と多かった。何倍かは記されていないので統計的に有意ではなかったのかもしれないが、当方の概算では10mgは有意水準、5mgはわずかに有意でない程度だった。

今回の驚きは、65歳以上のリウマチ性関節炎あるいは潰瘍性大腸炎患者に用いることができるのは他に適切な手段が無い場合に限定されたこと。理由は血栓ではなく、JAK阻害剤の周知のリスクである感染症。65歳以上はそれより若い患者よりも深刻で致死的な感染症のリスクが高まる由。Availabe Dataによればと記されているので、A3921133試験だけでなくプール分析で懸念が浮上したのだろう。Xeljanzは中年若年の患者も多いはずだが、高齢者も使っているだろう。高齢者のほうが感染症に脆弱だろうから、深刻・致死例が多くても不思議はないが、逆に、なぜ今頃このような話が出てきたのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース






今週は以上です。

2019年11月10日

2019年11月10日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田、デング熱ワクチンが第三相で好成績 
  • AVEO、VEGFR阻害剤を20年に米国で承認申請へ 
  • JNJ、イムブルビカの用法追加申請
  • JNJ、エボラ・ワクチンをEUに承認申請 
  • ベータサラセミア治療薬が米国で初めて承認 
  • サノフィ、高齢者用4価インフルエンザワクチンが米国で承認 


【新薬開発】


武田、デング熱ワクチンが第三相で好成績
(2019年11月7日発表)

武田薬品が13年にInviragen社を買収して入手した4価弱毒化生デング熱ワクチン、TAK-003の第三相試験、TIDESの初回解析結果がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。ワクチン効率(VE)は80%と高く、1型、2型、3型に有効で、4型は発症者数が少ないため有意にはなっていないが点推定値は63%と悪くない。武田のプレスリリースによると最終解析も成功した模様。2020年から風土病地域で承認申請に向かう予定。

被験者の28%を占めるベースライン時血清反応陰性(デング感染歴がないことを示す)にも効果が見られた(VEは75%、陽性は82%)。但し、陰性者が3型ウイルスに感染するリスクに関しては、VEがマイナス39%と奇妙な点推定値が出た。

TAK-003は2型ウイルスをバックボーンとして1型、3型、4型の抗原を導入したもの。3ヶ月おいて二回、皮注する。TIDES試験はラテンアメリカとアジアのデング熱風土病地域に住む4-16歳の青少年約2万人をTAK-003と偽薬に2対1割付し、デング熱発症リスクを比較した。初回解析は2回接種後15ヶ月間、最終解析は更に6ヶ月間、追跡した。

2回接種者のper-protocolベースの初回解析では、ワクチン群の感染者は61人、偽薬群は149人で、VEは80.2%、95%下限は73.3%だった。うち、1型に対するVEは73%、2型は97%、3型は62%で良好な結果になった。

デングによる入院は95%少なかった。

最終解析は検出力が向上するので、4型に対する有効性や感染歴のない人に関する3型感染予防効果が確立するかどうか、注目される。

もっと重要なチェックポイントは、感染歴のない人が接種した後にデング感染した場合に症状が重症化する、キプロスの蜂現象を誘発しないかどうかだ。Dengvaxiaはフィリピン政府が自己負担ゼロの接種キャンペーンを行うなど積極採用したが、キプロスの蜂効果が発覚、政府とサノフィの関係が悪化した。現在では、感染歴のない人は適応外になっている。

上記のように、TAK-003の試験でも事前に感染歴の有無を検査している。初回解析ではワクチン群の陰性者のうちデング感染したのは20人に過ぎないので重症度を比較しても意味がないかもしれないが、最終解析では検討課題の一つになるだろう。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)
リンク: Biswalらの治験論文抄録(NEJM)

AVEO、VEGFR阻害剤を20年に米国で承認申請へ
(2019年11月4日発表)

Aveo Oncology(Nasdaq:AVEO)は、Fotivda(tivozanib hydrochloride)を20年に米国で再発難治腎細胞腫用薬として承認申請する考えを表明した。但し、来年央に予定されている二本目の第三相試験の最終全生存解析が不首尾に終わった場合は申請撤回することでFDAと合意した由。EUでは17年に承認されたが、米国はまだまだ踊り場がありそうだ。

FotivdaはVEGFRの1、2、3とc-kit、PDGFRなどを阻害する経口剤。協和キリンから導入した。VEGFR阻害剤やmTOR阻害剤歴のない腎摘出後の進行腎細胞腫を組入れた最初の第三相試験でPFS(無進行生存期間)がメジアン11.9ヶ月とNexavar(sorafenib)群の9.1ヶ月を上回り、p=0.04とボーダーライン上だが有意差が見られた。しかし、全生存期間のメジアン値は28.8ヶ月対29.3ヶ月と大差なく、ハザードレシオは1.245と悪かった。Aveoは12年に米国で承認申請したが諮問委員会が13対1の圧倒的多数で反対、審査完了となった。

二本目の三次治療試験もメジアンPFSが5.6ヶ月とNexavar群の3.9ヶ月を上回ったが今度もp=0.02とそれほど良くなく、全生存は未成熟だがハザードレシオ1.06と好ましくない方向を向いていた。FDAの要請で打切り例の追跡調査を進めたところ1.12とさらに悪化した。昨年8月時点の中間解析では0.99と、やっと点推定値が1を下回ったが、FDAは、最終解析でまた悪化する可能性を指摘、結果が出るまで承認申請を見送るようアドバイスした。妥協策として、Aveoは、承認申請を断行するが最終解析のハザードレシオが1を上回った場合は申請撤回するでFDAと合意した。

この二本の試験に共通する難点は、二重盲検ではないことだ。PFSは主観の入り込む余地があるので、信憑性が低い。第三者が盲検査読するなどの措置を取っても、進行認定されていない患者は査読の対象にならないので、客観性は担保されない。

PFSは全生存期間より早く答えが出るので開発期間や費用を節約できるが、全生存期間が延びることを後でキッチリ確認することが重要だ。

リンク: AVEOのプレスリリース(Business Wireのサイト)


【承認申請】


JNJ、イムブルビカの用法追加申請
(2019年11月8日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはImbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病/小リンパ球性白血病の初度治療にrituximabと併用する用法追加申請をFDAに行った。 ECOG-ACRIN腫瘍研究グループが主導した70歳以下の患者を対象とするE1912試験の中間解析で、FCRレジメン(fludarabine、cyclophosphamide、rituximab)比ハザードレシオがPFS(無進行生存期間)は0.35、全生存期間は0.17と 大変良い成績を上げた。

ImbrucaはB細胞の生存に係るbtkを阻害する小分子薬。慢性リンパ性白血病用途では再発・難治にモノセラピーやbendamustine及びrituximabと三剤併用、初度治療はモノセラピーやGazyva(obinutuzumab)併用が承認されている。また、非ホジキンリンパ腫の一種であるワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症やマントル細胞腫にも承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

JNJ、エボラ・ワクチンをEUに承認申請
(2019年11月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、エボラ・ウイルス病ワクチンをEUに承認申請した。米国でもアニマル・ルールに基づく承認申請に向けてFDAと相談中。

エボラ・ウイルス病は1976年にザイール(現在のコンゴ民主共和国<DRC>)とスーダンで発生して以来、数年おきにアフリカの様々な地域で流行している。18年に始まった今回の流行では、DRC中心に3286人が罹患、2190人が死亡した(WHO:19年11月7日時点)。14-16年のギニア、シエラレオネ、リベリアを中心とする大流行に次ぐ被害だ。

前回の流行時には治療薬や予防ワクチンの臨床試験も開始された。流行が収まり被験者が集まらず打ち切りになってしまったが、今回、その成果が出てきた。治療薬では、米国マイアミの未上場企業であるRidgeback Biotherapeuticsが米国NIHからライセンスしたmAb114と、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-EB3が開発品同士の直接比較試験で勝ち抜き、DRCは、今後、この二剤だけを用いることを決めた。

ワクチンでは、カナダの公衆衛生庁が創製しNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)社を通じてMSDにライセンスしたErveboの承認申請が今年3月にEUで、9月には米国でも、受理された。水疱性口内炎ウイルスの遺伝子の一部をザイール種エボラ・ウイルスのものと置換し、弱毒化した生ワクチンだ。一回筋注する。

JNJのワクチンはプライムとブーストからなるレジメン。プライムは26型アデノウィルスにザイール種エボラウイルスの糖タンパクの遺伝子を導入したAd26.ZEBOV。ブースターは、デンマークのBavarian Nordicが開発した、改変ワクシニア・アンカラにエボラなどのウイルス核蛋白を導入したMVA-BN-Filoで、8週後に接種する。

どちらもDRCで試験的に用いられているが、JNJは今年10月になってDRCなどに対して最大50万回分を寄付すると発表しており、採用が広がっているように見える。

尚、主としてアフリカで使うワクチンを欧米で承認申請するのは、医療従事者やジャーナリストなどが渡航前に接種する需要に応えるため、というよりは、自力で承認審査する体制のない国のためにお墨付きを得る趣旨と思われる。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


ベータサラセミア治療薬が米国で初めて承認
(2019年11月8日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)とAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)は、Reblozyl(luspatercept-aamt)がFDAに承認されたと発表した。ベータサラセミアによる赤血球輸血依存性貧血の治療に用いる。

ベータサラセミアはグロビン遺伝子の塩基欠失などにより発症する遺伝子疾患で、ホモ接合型は恒常的に輸血が必要になる。Reblozylはactivin receptor type IIBの細胞外領域と免疫グロブリンG1の固定領域を細胞融合したもので、赤血球の成熟を促す。Acceleronがセルジーンと共同開発している。臨床試験では、1mg/kgを開始用量として滴定しながら3週毎に皮注したところ、輸血33%削減成功率が21.4%と偽薬群の4.5%を有意に上回った。深刻な有害事象の発現率は15.2%だった(偽薬群は5.5%)。G3以上の血栓性イベントの発現率は0.9%だった(0.1%)。

報道によると、25mgバイアルのWAC(卸取得価格)は3441ドルとのこと。体重75kgの患者が1mg/kgを使ったとすると、年間では6万ドル弱の計算になる。

Reblozylはもう一つ、骨髄異形成症候群による貧血症の治療にも承認申請されたが、こちらは優先審査指定されず、審査期限は来年4月4日となっている。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

サノフィ、高齢者用4価インフルエンザワクチンが米国で承認
(2019年11月4日発表)

サノフィは、4価Fluzone高用量版がFDAに承認されたと発表した。65歳以上のインフルエンザ予防に用いる。13年に承認された4価Fluzoneは4種類のウイルス抗原を15mcgずつ含有しているが、高用量版は4倍の60mcgとなっており、免疫力が低下した高齢者に適している。

今回の承認は抗原性試験に基づくものだが、3価インフルエンザワクチンで高用量と通常用量の高齢者におけるワクチン効率を比較した試験では、高用量群のインフルエンザ感染が24%少なかった。ワクチンが効くと予想されるタイプのウイルスによる感染だけを比較すると、51%少なかった。一方、当然のことながら、いわゆる副反応も増加した。

米国では18/19年シーズンに3価Fluzoneの高用量版を1.1億本出荷し、65歳以上の接種者の2/3が用いたとのこと。

翻って、日本は13歳以上は15mcg版相当を1-2回接種となっており、神奈川県のサイトによると一般的には65歳以上は年1回で効果とのことなので、高用量は普及していない。国により考え方が異なる模様で、3価の高用量版が承認されているのは英国、カナダ、オーストラリア、ブラジルなど一部に留まるようだ。

リンク: サノフィのプレスリリース




今週は以上です。

2019年11月3日

2019年11月3日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • アッヴィ、JAK1阻害剤の乾癬性関節炎試験が成功 
  • イミフィンジもNSCLC一次治療化学療法併用試験が成功 
  • ノバルティス、SMA遺伝子療法の髄腔内投与試験が部分停止に 
  • ロシュ、NMOSD用薬を欧米で承認申請 
  • FDA諮問委員会、多数が早産予防薬の承認取消を支持 
  • バイオジェン/Alkermes、テクフィデラ後継薬が米国で承認 


【新薬開発】


アッヴィ、JAK1阻害剤の乾癬性関節炎試験が成功
(2019年10月31日発表)

アッヴィは、Rinvoq(upadacitinib)の第三相乾癬性関節炎試験が成功したと発表した。延長試験で効果の持続性や安全性を検討した上で適応拡大申請に向かうのではないか。

この試験は、バイオ薬が十分に効かなかった活性期感染性関節炎患者を偽薬、15mg、または30mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付して、12週後のACR20奏効率を比較した。結果は、各群24%、57%、64%となり両用量とも偽薬比有意な差があった。二次的評価項目のPASI75奏効率やHAQ-DIも有意に上回った。

安全性(24週間)は深刻な感染症の発現率が各群0.5%、0.5%、2.8%となり、リウマチと同様に、高用量のほうが若干高かった。MACE(主要有害心血管イベント、査読あり)や肺塞栓症は、逆に、15mg群で1例(発現率は0.5%程度だろう)発生しただけだった。稀だが深刻な副作用は通常の第三相試験一本では評価できないので、関節リウマチ試験を含めたメタアナリシスが必要だ。

RinvoqはJAK1阻害剤。今年8月に米国で中重度リウマチ性関節炎治療薬として承認された。日欧でも承認審査中。

JAK阻害剤のアイソフォーム選択性は良く分からないところがあり、第一号であるファイザーのXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)はJAK3選択的だが、JAK1とヘテロダイマーを形成している場合はJAK1を阻害したのと同じようなことになる。RinvoqはJAK1選択的で、安全性面で優れている可能性もあるが、FDAは、他のJAK阻害剤と同様に動脈静脈血栓症を枠付警告した。第三相ではMTX治療歴を持たない患者にもMTXを大きく上回る奏効率を示したが、MTX不応不耐にしか承認されなかったのは、安全性懸念が理由だろう。

JAK阻害剤は乾癬や炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、そして円形脱毛症など様々な用途に開発されている。tofacitinibは臓器移植後の免疫抑制剤として臨床試験入りしたが、強力すぎて安全性が懸念され、方向転換となった開発歴を持つ。同じく強力な免疫抑制力を持つカルシニューリン阻害剤と併用で、Xeljanzの承認用量の3-6倍を投与した試験の話だが、薬物動態や感受性には個人差があるので、忘れてはいけない過去である。

長期間使用する薬なので、Rinvoqも症例を積み重ねて稀だが深刻な副作用の発現率を評価する必要がある。

リンク: アッヴィのプレスリリース

イミフィンジもNSCLC一次治療化学療法併用試験が成功
(2019年10月28日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)のPOSEIDON試験が成功したと発表した。転移性非小細胞性肺癌の一次治療として化学療法に追加する効果を検討した第三相試験で、先行するMSDのKeytruda(pembrolizumab)との差を一歩縮めることになる。データは学会で発表し、承認審査機関にも提示する計画。

この試験は、Keytrudaなどの試験と同様に、EGFR変異やALK変異を持つ患者は分子標的薬があるので対象外とした。扁平上皮癌か否かは問わず、PD-L1陰性も組入れた。欧米日などの施設が参加した。

割付けは三群あり、対照群は5種類の化学療法レジメンの一つを最大6サイクル施行。Imfinzi群はこれら化学療法レジメンを最大4サイクルとImfinzi(1500mg)を最初の4サイクルは3週毎、その後は4週毎に投与した。第三の群は、更に抗CTLA4抗体tremelimumab(75mg)を最初の4サイクルは3週毎、その後は第16週にも投与した(会社側はトリプル・セラピー群と呼んでいる)。

主評価項目はImfinziだけを併用した群と対照群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)と全生存期間で、今回は前者が成功した。後者は2020年に解析予定。また、二次的評価項目だがトリプル・セラピー群と対照群のPFSも目標を達成した。

抗PD-1/PD-L1抗体の非小細胞性肺癌一次治療試験はフェールが珍しくなく、Imfinziも単剤もしくはtremelimumab併用試験のMYSTICやNEPTUNEがフェールした。それだけに、先週号で取り上げたOpdivoと抗CTLA4抗体YervoyのCheckMate-9LA試験に続いて化学療法併用試験が成功したのは朗報だ。

但し、どちらもデータは未発表なので喜ぶのは早い。全生存期間の延長を確認することも重要だ。市場競争力の面では、PD-L1陰性にも十分な効果があったかどうかも注目される。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ノバルティス、SMA遺伝子療法の髄腔内投与試験が部分停止に
(2019年10月30日発表)

ノバルティスは、米国で今年5月に承認されたI型脊髄性筋委縮症の遺伝子療法薬、Zolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)の髄腔内投与試験に関して、FDAが部分停止を命じたことを明らかにした。解除されるまで新規組入れができない。承認用法である静注は対象外だが、II型を対象とするSTRONG試験の高用量コフォートの組入れが遅れる見込み(低中用量コフォートは既に試験結果が出ている)。

FDAが動いたのは、ノバルティスの子会社でZolgensmaを開発したAveXis社が行った前臨床試験で、神経細胞体の変性・喪失を伴うこともある後根神経節単核細胞の炎症が見られたため。他の前臨床試験や臨床では観察されていない現象である由だが、SMAは希少疾患で投与症例が少ないので、何とも言えないだろう。

一部報道によれば、この前臨床の対象ヒト以外の霊長類。また、この現象が発覚したのは3月とのこと。マウスやラットの試験で毒性が見られたのなら次は長期投与試験とか、もっと高等な動物の試験に進むことになるが、サルならこれ以上の動物試験は行わないかもしれない。また、FDAが部分停止命令を出すほど重要な懸念を発見してから7ヶ月もの間、報告しなかったのだとしたら、ある程度の追加試験や研究を既に終えている可能性もあろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、NMOSD用薬を欧米で承認申請
(2019年10月30日発表)

ロシュは、RG6168(satralizumab、中外の開発コードはSA237)をNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。Actemra(tocilizumab)を開発した中外製薬が新開発のリサイクリング抗体技術を適用して作用を長期化した、抗IL-6受容体リサイクリング抗体で、ロシュは日韓台湾以外の開発販売権を持っている。

NMOSDは欧米の患者数が2~3万人の希少疾患で、その多くは、抗アクアポリン4抗体(AQP4-IgG)が視神経や脊髄、脳に損傷を与えることが原因と考えられている。第三相は免疫抑制剤による治療を受けている患者に追加する試験とナイーブ患者のモノセラピー試験が行われ、どちらも、AQP4-IgG陽性だけでなく陰性を含む全体の解析でも、再発抑制効果が確認された。

NMOSDと言えばAlexion Pharmaceuticals(Nasdaq:ALXN)のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)が欧米でAQP4-IgG陽性型に適応拡大が認められ、日本でも部会通過したところだ。臨床試験のハザードレシオはSolirisのほうがかなり良いが、異なった試験のデータを比較するのは容易ではない。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、多数が早産予防薬の承認取消を支持
(2019年10月29日発表)

FDAはBRUDAC(骨・再生産・泌尿器薬諮問委員会)を招集し、AMAG Pharmaceuticals(Nasdaq:AMAG)の早産再発予防薬、Makena(hydroxyprogesterone caproate)の市販後薬効確認試験がフェールしたことについて意見を聞いた。16人の委員のうち9人が承認取消を支持。再び臨床試験を行わせて結果が出るまで加速承認を維持すべきと回答したのは7人に留まった。AMAG社によれば、産科で医療に携わる6人では5人が再試験支持だった。承認され、広く使われている薬なので拙速を避けたいのだろう。

Makenaの活性成分は60年前に当時のスクイブ社がプロゲスチンが有効な疾患の治療薬としてFDAの承認を取得、発売したが、生産面の問題により2000年に承認返上した。ところが、その3年後に、米国医療研究所が主導した臨床試験で自然単胎早産歴を持つ妊婦の早産リスクを抑制したことが学会・論文発表され、KV Pharmaceuticalsが06年にMakenaとして承認申請、紆余曲折を経て11年に加速承認を獲得した。

加速承認は、臨床的便益は未確認だが代理マーカーの変化に基づいて合理的に推定できる場合に、前倒し承認するもの。米国やEUでは、承認後に薬効確認試験を成功させる必要があり、もしフェールした場合は承認取消しの可能性がある。有名な例では、Avastin(bevacizumab)を転移性乳癌に用いる薬効確認試験がフェールしたためFDA諮問委員会が適応拡大取消を求め、2011年にジェネンテックが承認返上した。

Makenaの場合、求められる便益は胎児・新生児が早産に伴う疾患を発症したり死亡したりするリスクが減ることで、早産の確率が低下するだけでは足りないとみなされ、加速承認となり市販後薬効確認試験が必要になった。

意外なことに、フェーズ4コミットメントとして実施されたPROLONG試験はフェールした。主評価項目である35週未満の出産はMakena群が発生率11%、偽薬群は12%で有意差がなかった。共同主評価項目の新生児疾病・死亡複合指数該当者比率も5.4%対5.2%で差がなかった。一方で、今回は、流産や死産が増加しなかった。

諮問委員会は、Makenaの臨床的便益が確認されなかったという評価で全員一致した。二本の試験を合わせても薬効のエビデンスにはならないと16人中13人が回答した。

なぜ試験結果が分かれたのか?二本の試験を比較すると、組入れ条件は自然単胎早産歴を持つ妊婦で同じ、用量・用法や治療開始時期も同じ。違うのは、一本目は米国の施設で463人を組入れ、うち59%は黒人だった。今回は1710人で、うち36%はロシア、25%はウクライナで米国は23%だけだった。今回のほうが症例数が多く、FDAが関与したので臨床試験のデザインや実行も厳格であっただろう。米国外が中心というのは米国人にとっては好ましくないだろうが、承認されている薬の偽薬対照試験を行うのは難しいので、やむを得ない。信憑性は二本目のほうが高そうだ。

データを見比べると、37週未満出産率は前回は37%対55%で17.8%低かったが、今回は23%対22%で大差なく、米国施設だけの集計は33%対28%でむしろ悪かった。

また、FDAの集計によると、プロゲスチン(主に膣投与)の早産予防効果を検討した治験論文6本の成績は2勝4敗で、文献エビデンスは弱い。

学会は今のところ従来の治療ガイドラインでの推奨を維持している。180度方向転換しなければならないかもしれないので、俄かには決断できないだろう。一方、FDAは、少なくともPROLONG試験のデータのレーベル収載を認めるかどうかに関しては審査期限までにAMAGに回答しなければならない。日本でも行われている、私事だが知人も受けた治療なので、正に他人事ではない。FDAがどのような結論を出すのか、注目される。

捕捉1:PROLONG試験の主評価項目が35週を閾値にしたのは06年の諮問委員会の意見に基づいた。FDAは今日では37週のほうが適切と判断している様子なので、上記ではこのデータを比較した。
捕捉2:ライセンス・ホルダーがKVからAMAGに代わったのは、KVはMakenaの価格を調剤薬局品の百倍に設定したため医師や議員の反発を招き、破産法適用を経てAMAGとペリーゴ社に分割買収されたため。

リンク: AMAGのプレスリリース
リンク: PROLONG試験論文(American Journal of Perinatology誌、オープン・アクセス)


【承認】


バイオジェン/Alkermes、テクフィデラ後継薬が米国で承認
(2019年10月30日発表)

バイオジェン(Nasdaq:BIIB)は06年にスイスのFumapharmを買収してフマル酸誘導体dimethyl fumarateを入手、13年に米国で多発硬化症薬Tecfidera(和名テクフィデラ)として発売した。一日480mgという用量に関する特許が米国では28年まで有効だが、米国特許商標庁がinter partes reviewという再審査手続きを開始した。結果が出るのは20年に入ってからと推測されているが、もし無効認定された場合、同年に用途特許が失効した段階でGE薬が発売される可能性がある。

製薬会社の伝統的な特許切れ対策は、類薬を新規活性成分として開発することだ。バイオジェンはAlkermes(Nasdaq:ALKS)が開発したdiroximel fumarateの世界独占販売権を取得、今回、FDAの承認を得た。

経口投与すると体内で迅速にmonomethyl fumarateに変換され、再発型多発硬化症治療効果を発揮する。エビデンスは2年間の安全性試験とTecfidera対照薬物動態試験だけで、再発予防効果などはTecfideraのデータを参照する。こういう薬のマーケティングは先行品との差別化が重要だ。Alkermesは再発寛解型多発硬化症患者506人を組入れた5週間の直接比較試験を行い、胃腸副作用の発現率や発現日数が有意に少ないことを確認した。有害事象による治験離脱率は1.6%とTecfideraの6.0%より低く、大きな差が出たのは胃腸有害事象による治験離脱率(0.8%対4.8%)だった。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。