2023年8月27日

第1117回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ウゴービ、今度は心不全試験が成功 
  • カボメティクス、NET試験が成功、mCRPC試験はフェール 
  • レットヴィモの甲状腺髄様腫試験が成功 
  • キイトルーダ・レンビマ併用試験がまたフェール 
  • Rybrevantの化学療法併用をsBLA 
  • イクスタンジを高リスク去勢感受性前立腺癌に適応拡大申請 
  • セルビエ、IDH1阻害剤の適応拡大を申請 
  • Geron社、テロメラーゼ阻害剤の優先審査ならず 
  • 胎児のRSV予防ワクチンが米欧で承認 


【新薬開発】


ウゴービ、今度は心不全試験が成功
(2023年8月25日発表)

ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Wegovy(semaglutide)のSTEP HFpEF試験の結果をESC(欧州心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。駆出率を保持している心不全(HFpEF)の肥満症患者における心不全症状改善効果が確認された。既に承認されている適応と推測されるが、臨床的な便益が確立すれば保険還付を受けられるようになるだろう。先ごろ成功発表された心血管疾患再発予防試験、SELECTとともに、レーベル収載申請を行う考え。

今回の試験は、承認用量である2.4mgを週一回、52週間に亘り皮下注射して、KCCQ-CSS(カンザスシティ心筋症質問票-臨床要約スコア)の変化を偽薬群と比較したところ、各群16.6点と8.7点上昇(改善)し、有意な差があった。共同主評価項目である体重も各群13.3%と2.6%減少し有意差があった。副次的評価項目の6分歩行テストは各群21.5メートルと1.2メートル改善した。深刻有害事象の発生率は試験薬群より低かったが有害事象による治験離脱率は各群13%と5%だった。

SELECT試験の主評価項目は心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的卒中という重大イベントの複合評価項目だった。今回は症状や身体的制限に関する患者の主観的評価で、心不全の確立した評価手法とのことだが、客観性や迫力の点で見劣りする。

他剤では、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのSGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin)がEMPEROR-Preserved試験でHFpEFの心血管死/心不全入院を2割抑制する効果を示し、欧米などで適応拡大した。探索的に実施されたKCCQ-CSSの解析は、52週間で4点程度上昇し、偽薬を1.56点上回ったと報告されている。

それと比べるとWegovyのKCCQ-CSSデータはかなり良いが、偽薬群のデータもかなり違うので、比較できるかどうか分からない。効果が高いとしても、心血管死/心不全入院を抑制する効果も上回るとは限らない。偽薬比上回るトレンドが見られたとのことだが、主評価項目に選ばなかったのは、大きな期待はしていなかったからだろう。

STEP HFpEF試験は二型糖尿病も併発している患者を組入れた試験も進行中。二本のプール分析で心不全入院抑制効果が有意水準に達するかどうか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Kosiborodらの治験論文要旨(NEJM)


カボメティクス、NET試験が成功、mCRPC試験はフェール
(2023年8月24日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)はCabometyx(cabozantinib)の第3相の神経内分泌腫瘍(NET)試験と転移去勢抵抗性前立腺癌の成功を公表した。

前者はCABINET試験。NCI(米国立腫瘍研究所)が組織した研究者グループがsomatostatin以外の承認されている薬による治療歴を持つ進行膵NET93人とカルチノイド腫瘍(膵外NET)197人を別のコフォートとして組入れ、PFS(無進行生存期間)を偽薬群と比較した。中間解析でデータ安全性監視委員会が成功認定し、盲検解除を勧告した。データは未公表。

リンク: 同社のプレスリリース(8/24付)

後者はTecentriq(atezolizumab)と併用する便益を検討するロシュとの臨床試験提携の一環であるCONTACT-02試験。新種ホルモン療法歴を持つ、軟組織疾患を伴う転移去勢抵抗性前立腺癌を組入れて、PFSや全生存期間を別の新種ホルモン療法(abirateroneとprednisoneの併用、またはenzalutamide)と比較した。PFSは有意に向上、全生存期間は未成熟だがトレンドが見られた。データは未公表。

CabometyxはVEGFR阻害剤の一つで欧州ではイプセン、日本では武田薬品が開発販売している。17~20年に米欧日で腎細胞腫に承認され、肝細胞腫などにも適応拡大した。

リンク: 同社ののプレスリリース(8/21付)


レットヴィモの甲状腺髄様腫試験が成功
(2023年8月22日発表)

イーライリリーは、Retevmo(selpercatinib)のLIBRETTO-531試験が中間で目的達成したと発表した。進行/転移RET変異甲状腺髄様腫の一次治療試験で、PFS(無進行生存期間、独立データ監視委員会評価)が医師が選んだ薬(cabozantinibまたはvandetanib)を有意に上回った。数値は未発表。

Loxo Oncologyを買収して入手したRET阻害剤で、20~22年に米欧日で上記適応などで承認されている。米国は加速承認、EUは条件付き承認なので、本承認切替申請を行うことになる。尚、EUは当初はcabozantinibまたはvandetanib歴を持つ患者にしか条件付き承認しなかったが、昨年、限定解除し、米国と同様になった。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダ・レンビマ併用試験がまたフェール
(2023年8月25日発表)

MSDとエーザイは18年に前者のKeytruda(pembrolizumab)と後者のLenvima(lenvatinib)の併用法などの共同開発で合意し、様々な腫瘍の臨床試験を実施している。子宮内膜腫や腎細胞腫では良績を上げ承認に結び付いたが、他はパッとせず、今回また、LEAP-010試験のフェールが公表された。PD-L1陽性の難治/転移頭頚部扁平上皮腫の一次治療に用いる効果をKeytruda・偽薬併用と比較し、第一次中間解析ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)やORR(客観的反応率、同)で有意な差が見られたが、第二次中間で全生存期間の目的達成は困難と判定された。別途進行中の二次治療試験は続行する。

これまでに、切除不能肝細胞腫(Lenvima・偽薬と比較)、PD-L1陽性非小細胞性肺癌一次治療(Keytruda・偽薬と比較)、PD-L1陽性cisplatin不適進行尿路上皮腫一次治療(同)、切除不能/転移黒色腫一次治療(同)、ミスマッチ修復機能を持ちマイクロサテライト不安定性も見られない切除不能/転移結腸直腸癌(同)の試験もフェールしており、低い枝にある取り易い実はもうあまり残っていないのかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


Rybrevantの化学療法併用をsBLA
(2023年8月25日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Rybrevant(amivantamab-vmjw)の用法追加と本承認切替を米国で申請した。EGFRにエクソン20挿入変異のある転移非小細胞性肺癌に単剤投与することが21年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されているが、新患用標準療法であるcarboplatinとpemetrexedの併用レジメンに追加する便益を検討した第3相PAPILLIN試験で、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を有意に伸ばすことができた。数値は未発表。

ジェンマブのDuoBody技術を適用して開発したEGFRとMETの二重特異性抗体。

リンク: JNJのプレスリリース


イクスタンジを高リスク去勢感受性前立腺癌に適応拡大申請
(2023年8月24日発表)

アステラス製薬はXtandi(enzalutamide)の適応拡大をFDAに申請した。根治的前立腺全摘または放射線療法を受け転移も抵抗性も示していないがPSA値が9ヶ月間に倍増以上など生物学的検査で再発リスクが高いと診断された前立腺癌に、ホルモン療法薬と併用するもの。第3相EMBARK試験でleuprolide併用群の5年無転移生存率が83.5%とleuprolide・偽薬併用群の71.4%を上回り、ハザードレシオは0.42だった。副次的評価項目の全生存期間は、少なくともAUA(米国泌尿器学会)でデータ発表された時点では、トレンドに留まっていた。今回の申請に含まれているかどうかは明らかではないが、Xtandi単剤投与群の数値は併用より見劣りはするものの悪くはなく、leuprolide不耐患者には有益かもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


セルビエ、IDH1阻害剤の適応拡大を申請
(2023年8月15日発表)

セルビエの米国子会社は、Tibsovo(ivosidenib)をIDH1に変異を持つ難治再発骨髄異形成症候群に適応拡大申請し、FDAに受理されたと発表した。第1相試験で薬効解析対象18人の寛解率が38.9%、客観的反応率が83.3%だった。寛解継続期間はまだメジアン値に達していない。

IDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)による腫瘍性代謝物の生成を抑制する経口剤で、18年に米国で、23年にはEUでも、IDH1変異を持つ難治再発急性骨髄性白血病や局所進行性/転移性胆管癌などに承認された。20年にAgios Pharmaceuticalsから買収した腫瘍学ポートフォリオの一つ。

リンク: セルビエのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Geron社、テロメラーゼ阻害剤の優先審査ならず
(2023年8月22日発表)

Geron(Nasdaq:GERN)はGRN163L(imetelstat)を低/中度リスク骨髄異形成症候群の成人患者の輸血依存貧血症の治療薬として6月に米国で承認申請し、優先審査を要求したが、標準審査で審査期限は24年6月16日となった。テロメラーゼを阻害するファースト・イン・クラスの薬で、適応を赤血球生成因子による治療に応答しないまたは不耐の患者に絞ったが、他の薬がないわけではないことなどが減点材料になったのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


胎児のRSV予防ワクチンが米欧で承認
(2023年8月21日発表)

ファイザーのAbrysvoはRSVによる下部気道感染症を予防する2価RSVワクチンで5月に米国で60歳以上を対象に承認されたが、ユニークなのは、妊婦に接種して胎児の出生後のリスクを抑制する用途でも開発され、今回、米国で適応拡大、EUで両用途で承認された。日本も申請中だが、高齢者向けは見送られたようだ。

妊娠第24週以降の妊婦に120mcgを一回筋注した第3相試験の中間解析では、RSVによる医療が必要な重度下部気道感染症の90日間の発生率が0.2%、偽薬群は0.9%で、ワクチン効率は81.8%と算出された。6ヶ月間の追跡でも69%だった。一方で、7ヶ月目以降は十分な効果は見られなかった。尤も、臨床的に重要なRSV性下部気道感染症の発生率は生後3ヶ月間が最も高いとのことなので、効果が持続しなくても大きな問題はないのかもしれない。

重症以外もカウントした共同主評価項目は90日間が57%、6ヶ月間が51%で有意水準に届かなかった。妊婦や新生児の安全性懸念は浮上しなかった。

5月に開催された諮問委員会では、第24週から第36週の妊婦に接種する便益を14人全員が支持。安全性は10人支持、4人が不支持だった。有害事象や深刻有害事象に群間の偏りは見られなかったが、早産の発生率が5.6%と偽薬群の4.7%を数値上上回ったことなどが響いたのだろう。第2相試験や、フェールしたがGSKのワクチンの類似試験でもトレンドが見られた。米国における早産発生率は10%とのことなので5.6%が真の値なら高くはないが、臨床試験は選ばれた医療施設が厳選された被験者を対象に行うので現実の医療より良い数値が出る可能性があり、本試験も偽薬群の数値を見るとバイアスが感じられる。イベント発生率の有意性検定はイベント発生数に左右されるので、現実の医療で偽薬群の発生率が10%、試験薬群が12%だとしたら、有意水準に達するかもしれない。

この懸念が影響したのか、FDAは妊娠32~36週に接種することとした。サブグループ分析では第24~27週で接種した人から生まれた新生児における90日重症例ワクチン効率は65%で全体の81.8%より見劣りした。しかし28~31週は91%と、32週以降の91%と同程度で、他の評価項目でも特に劣っていない。従って、接種時期を限定したのは、早産となっても第32週以降なら深刻な影響が生じるリスクがそれほど高くないという判断と推測される。

欧州は第24~36週に接種することを認めた。日本はどうだろうか?そもそもの問題として、偽薬群の発生率が6ヶ月間でも2%足らず、ワクチンを接種しても6ヶ月後以降の効果は期待できないのならば、発症後に抗RSV抗体で治療するのとどちらが妥当か、判断が難しい。

リンク: ファイザーのプレスリリース(米国承認)
リンク: 同(EU承認、8/24付)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8~9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/9/9   BioLineRxのAphexda(motixafortide、多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植に伴う得率向上)
  • 23/9/15  ロシュの皮下注用Tecentriq(atezolizumab)
  • 23/9/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症)


諮問委員会:
  • 23/9/11-12 NPDAC:OTC鼻詰まり治療経口剤phenylephrineの有効性について
  • 23/9/13 CRDAC:アルナイラムのOnpattro(patisiran、ATTR心筋症適応拡大)
  • 23/9/21 EMDAC:Intarcia Therapeuticsの二型糖尿病用exenatideインプラント
  • 23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)



今週は以上です。

2023年8月20日

第1116回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • HIF-2アルファ阻害剤はVHL病関連以外の腎臓癌にも有効 
  • Tukysaはカドサイラ併用も有効 
  • IgA腎症治療薬の本承認を申請 
  • 抗CD20xCD3抗体を欧州で承認申請 
  • デルゴシチニブのクリーム製剤を欧州で承認申請 
  • チクングニア熱ワクチンの承認遅延 
  • VMAT2阻害剤がハンチントン舞踏病に適応拡大 
  • CHAPLE症候群用薬などが承認 
  • イプセン、異所性骨化抑制薬が承認 
  • ファイザーの抗BCMAxCD3抗体も承認 


【新薬開発】


HIF-2アルファ阻害剤はVHL病関連以外の腎臓癌にも有効
(2023年8月18日発表)

MSDはWelireg(belzutifan)の第3相LITESPARK-005試験で主評価項目の一つを達成したと発表した。抗PD-1/L1抗体とVEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を持つ進行腎細胞腫を組入れて120mgを一日一回経口投与する効果を実薬であるeverolimusと比較したところ、盲検独立中央評価委員会が中間解析でPFS(無進行生存期間)が統計的に有意に優れると認定した。臨床的に見ても意味のある差があった由。共同主評価項目である全生存期間はトレンドに留まっており、継続追跡して次の解析に向かう。

低酸素誘導因子2アルファ(HIF-2α)の阻害薬で、21年に米国で即時手術の必要はないフォンヒッペル・リンドウ病(VHL)関連腎細胞腫などに用いることが承認された。臨床試験でORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が49%、深刻有害事象の発生率は15%だった。HIF-2は酸欠時に活性化される転写因子で、HIF-2をスクラップする酵素を阻害する薬が日本などで貧血治療薬として承認されている。Weliregは裏返しなので重度貧血症のリスクがあるが、発現時に赤血球生成因子で治療することは推奨されていない。レーベルによると試験されていないことが理由とのことだが、何故試験されなかったのかは不明。

リンク: MSDのプレスリリース


Tukysaはカドサイラ併用も有効
(2023年8月16日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)は、her2チロシン・キナーゼ阻害剤Tukysa(tucatinib)の第3相HER2CLIMB-2試験の主目的達成を発表した。her2陽性の切除不能局所進行性/転移性乳癌でタクサン系とtrastuzumabによる治療歴を持つ患者を対象に、ロシュのKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)と併用する効果を検討したところ、PFS(無進行生存期間、治験医評価)がKadcyla・偽薬併用群を有意に上回った。副次的評価項目の全生存期間はデータが未成熟。同じく副次的評価項目である盲検独立中央評価に基づくPFSの解析結果は記されていない。

Tukysaは18年に買収したCascadian Therapeuticsの開発品で、20年に米国で承認された。her2標的薬を3剤以上使用済みのher2陽性局所進行性/転移性乳癌にtrastuzumab及びcapecitabineと併用するもの。今回、もう少し早い段階で使用する道が開けたことになる。

Seagenは3月にファイザーと企業価値ベース430億ドルの買収で合意した。

リンク: Seagenのプレスリリース

【承認申請】


IgA腎症治療薬の本承認を申請
(2023年8月18日発表)

スウェーデンのCalliditas Therapeutics(Nasdaq:CALT、Nasdaq Stockholm:CALTX)は、米国でIgA腎症治療薬Tarpeyo(budesonide)遅放性カプセルの本承認切替申請を行い受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月20日。欧州でも申請したのではないか。

IgA腎症は免疫グロブリンAが腎臓に蓄積し傷害を与え、血液や蛋白が尿に漏出する。第3相NefIgArd試験でRAS阻害剤による治療を受けている患者に16mg一日一回を追加したところ、9ヶ月間の治療でUPCR(尿蛋白クレアチニン比)が34%低下し、偽薬追加群の5%低下より有意に優れていた。このデータに基づき米国では21年に加速承認、EUでも22年にKinpeygo名で条件付き承認された。

今回は、9ヶ月の治療の完了後に更に15ヶ月間観察し、eGFR(推算糸球体濾過量)のベースライン比低下を偽薬群と比較した。各群2.47mL/分/1.73m2と7.52mL/分1.73m2となり有意な差があった。欧州でも切替申請しているのではないか。

欧州ではSTADAが販売、日本は、昨年、ヴァイアトリスがライセンスした。

リンク: Calliditasのプレスリリース


抗CD20xCD3抗体を欧州で承認申請
(2023年8月17日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はREGN1979(odronextamab)を難治/再発の濾胞性リンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の4次以降の治療薬としてEUに承認申請し受理されたと発表した。米国でも申請したのではないか。

リンパ球のCD20とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。過去の学会発表によると、前者では完全反応率75%、そのメジアン持続期間は20ヶ月だった。後者では各31%と18ヶ月。重度サイトカイン放出症候群が散見され、数人が死亡したためFDAが部分停止命令を発出したこともある。漸増法の採用前と後でで効果や忍容性がどの程度変わったのか、続報が待たれる。抗CD20xCD3抗体のクラス・イフェクトと目されているので、類薬を開発中の企業にも工夫の成果やFDAの評価が参考になるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


デルゴシチニブのクリーム製剤を欧州で承認申請
(2023年8月19日アクセス)

デンマークのLEO Pharmaは汎JAK阻害剤delgocitinibを中重度慢性手湿疹の治療薬としてEUに承認申請し受理されたと発表した。日本たばこ/鳥居薬品のアトピー性皮膚炎治療薬コレクチム軟膏の活性成分をライセンスし、クリーム製剤として開発したもので、第3相試験の一本では奏効率が20%と偽薬群の10%を有意に上回った。

リンク: LEOのプレスリリース(日付はTBCと記されている)


【承認審査・委員会】


チクングニア熱ワクチンの承認遅延
(2023年8月14日発表)

フランスのワクチン企業、Valneva(Nasdaq:VALN)は米国でチクングニア熱の弱毒化生ワクチンであるVLA1553を承認申請し、8月末までに審査結果を受領するはずだったが、3ヶ月延期された。詳細は不明だが、加速承認時に要求される市販後確認試験の内容について合意に達していない模様だ。免疫原性試験に基づく申請だが、チクングニアのワクチンは初めてなので、観察的試験などを通じて臨床的便益(発症や入院の抑制)やワクチン誘導性感染増強リスクを確認するようFDAが求めているのかもしれない。

カナダでも承認申請中。EUは年内に申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


VMAT2阻害剤がハンチントン舞踏病に適応拡大
(2023年8月18日発表)

Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)はFDAがIngrezza(valbenazine)の適応拡大を承認したと発表した。小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害剤で遅発性ジスキネジア用薬として17年に米国で、22年には日本でも承認されている。今回、ハンチントン病患者の舞踏症の治療に用いることが承認された。

臨床試験では自殺思慮などは見られなかったが、他のハンチントン病用薬と同様に、鬱病や自殺思慮・行動のリスクが枠付き警告された。

リンク: 同社のプレスリリース


CHAPLE症候群用薬などが承認
(2023年8月18日発表)

Regenron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はVeopoz(pozelimab-bbfg)がFDAに1歳以上のCD55欠損性蛋白漏出性腸症(別名CHAPLE症候群)の治療薬として承認されたと発表した。この病気は補体制御因子CD55の両方の遺伝子に機能喪失型変異があり、補体系の異常な活性化により低タンパク血症や浮腫、血栓症、ガンマグロブリン欠乏による反復性感染症などを齎す。世界の患者数は数十人で、トルコやシリア、モロッコなどで見られ、報告例はすべて近親婚とのこと。VeopozはC5に結合するIgG4型抗体。第2/3相で負荷用量30mg/kgを点滴静注後、維持用量10mg/kg(12mg/kgに増量可、上限800mg)を週一回皮下注したところ、10人全員で血清アルブミン量と血清ガンマグロブリン量が正常化し、且つ、症状悪化も見られなかった。アルブミン補充や入院も治療前より減少した。

他の補体阻害剤と同様に、髄膜炎菌性感染症が枠付き警告されている。治療開始の2週間以上前にACIP(ワクチン接種諮問委員会)が推奨するワクチンの接種/追加接種を終える。それでもリスクが残るので監視を継続する。

規格は400mgのシングル・ユース・バイアルのみで、報道によると、価格は$34,600と超高価。

Eylea(aflibercept)の8mg製剤も承認された。Catalent社の充填施設でcGMP問題が発覚し遅延していたが、解決し、Veopozの承認が道ずれとなる最悪の事態も回避できた(FDAは、cGMP関連の改善勧告が履行されるまで他の薬の承認を、その施設の関与の有無を問わず、見送ることができる)。

既存製剤より投与頻度が少ないのが長所で、競合品との差を縮めることができる。最初の3回は4週毎に硝子体注射、その後は糖尿病性網膜症の場合は2~3ヶ月毎、加齢性黄斑変性と糖尿病性黄斑浮腫の場合は2~4ヶ月毎で足りる。日本でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース(Veopoz)
リンク: 同(Eylea 8mg)


イプセン、異所性骨化抑制薬が承認
(2023年8月16日発表)

フランスのイプセンは、FDAがSohonos(palovarotene)を承認したと発表した。レチノイン酸受容体ガンマのアゴニストで、FOP(進行性骨化性線維異形成症)による新規異所性骨化量を抑制する。女は8歳以上、男は10歳以上(以下、8/10歳以上)が適応になる。EUは今年7月に欧州委員会が承認しない決定をした。FDAは近年、超希少疾患や難病に用いる薬の承認審査に際して、柔軟性を重視している。このため、医師と患者が危険と便益を周知・検討した上で適否を判断することが従来以上に重要だ。報道によると、イプセンは年62万ドル余の価格を想定している。

FOPは線維性組織の骨化が進行し、長期的に可動性の低下などを齎す。米国の患者数は400人、世界でも900人と推定される超希少疾患だ。ACVR1/ALK2遺伝子の機能獲得ミスセンス多型の関与が指摘されており、Sohonosはこの変異による過剰なシグナル伝達を調停する模様。第3相試験は中間解析で無益認定されたが、平方根変換処理が適切でなかった模様であり、データ自体は悪くなかったため、2ヶ月後に投与再開され、平方根変換を行わない事後的解析で異所性骨化量の抑制作用が浮上した。

枠付き警告は胚胎毒性と成長期小児におけるPPC(骨端軟骨の早期閉鎖)。適応年齢が8/10歳以上に制限されているのは、8/10歳未満の被験者25人中14人で不可逆的で深刻なPPCが発生し、8/10歳以上の39人中10人よりリスクが高かったため(データは1月に承認されたカナダのレーベルによる;米国のレーベルでは組入れ時に8/10歳以上14歳未満の被験者では31%で発生、14歳以上ではゼロと記されている一方で、8/10歳未満のデータは記されていない)。

レチノイド酸受容体アゴニストで有名なのはロシュのニキビ治療薬Roaccutan(isotretinoin)だが、palovaroteneもオリジンはロシュで、13年にライセンスを取得し臨床開発したClementia Pharmaceuticalsをイプセンが19年に買収したもの。

リンク: イプセンのプレスリリース


ファイザーの抗BCMAxCD3抗体も承認
(2023年8月14日発表)

ファイザーはFDAがElrexfio(elranatamab-bcmm)を加速承認したと発表した。代表的な3クラスの薬を含む4次以上の治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫が適応になる。第2相MagnetisMM-3試験で97人のORR(反応率)が58%、反応者の82%は9ヶ月以上持続した。BCMA標的薬も使用済みのコフォート63人でもORR33%、9ヶ月反応持続率84%だった。枠付き警告はサイトカイン放出症候群(G3発生率0.5%)と神経学的毒性(G3/4発生率は7%)。価格(月$41,500)も含めて、同様に骨髄腫のBCMAとT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体で昨年10月に承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンの類薬、Tecvayli(teclistamab-cqyv)と大きな違いはない。

維持用量は76mg週一回皮下注で、反応者は第25週から二週毎に減らすことが可能。副作用対応のため、初回は12mg皮下注して48時間入院観察、第4日に32mgを投与して24時間入院観察、第8日から入院不要の維持療法を開始と、ステップアップしていく。

日欧でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース



【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8~9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/9/9   BioLineRxのAphexda(motixafortide、多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植に伴う得率向上)
  • 23/9/15  ロシュの皮下注用Tecentriq(atezolizumab)
  • 23/9/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症)


諮問委員会:
  • 23/9/13 CRDAC:アルナイラムのOnpattro(patisiran。ATTR心筋症適応拡大)
  • 23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)



今週は以上です。

2023年8月13日

第1115回

【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティス、BTK阻害剤の慢性蕁麻疹試験が成功 
  • ウゴービの心血管アウトカム試験が成功 
  • 打ち切られた第3相社交不安障害試験が良好な結果に 
  • Bavarian Nordic、チクングニア・ワクチンの二本目の第3相が成功 
  • Basilea、MRSA作用剤を16年ぶりに米国申請 
  • 放射線療法の副作用対策用薬は承認されず 
  • EU、ノバルティスの鎌状赤血球症用薬の承認を取消 
  • Akeegaが米国でも承認 
  • ヤンセン、またまた多発骨髄腫用薬が承認 
  • 第2のRET阻害剤も本承認切替え 


【新薬開発】


ノバルティス、BTK阻害剤の慢性蕁麻疹試験が成功
(2023年8月9日発表)

ノバルティスはLOU-064(remibrutinib)の第3相慢性特発性蕁麻疹試験二本で主目的を達成したと発表した。抗ヒスタミンに十分応答しない患者を組入れて25mgを一日二回、経口投与したところ、第12週の疾病活性スコア(weekly urticaria activity score)が偽薬比有意に改善した。同薬のようなBTK阻害剤は肝毒性が散見されるが、当試験では群間の偏りは見られなかった由。延長試験で長期投与時の効果や安全性を確認し24年に承認申請する予定。

BTK阻害剤は血液癌に承認されているが、remibrutinibは慢性疾患に開発されており、多発硬化症でも第3相入りしている。

リンク: 同社のプレスリリース


ウゴービの心血管アウトカム試験が成功
(2023年8月8日発表)

ノボ ノルディスクは大ヒット中の体重管理用薬Wegovy(semaglutide)の心血管疾患(CVD)再発防止試験、SELECTのヘッドライン結果を公表した。年齢が45才以上、BMIが27kg/m2以上で糖尿病歴のないCVD患者17,604人を偽薬群と試験薬群(2.4mgを週一回皮下注)に無作為化割付けして最大5年間追跡し、MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中)の何れかが発生するまでの期間を比較したところ、試験薬群は20%少なかった。個々のイベントでも優越していた。肥満症やオーバーウェイトを治療する意義は必ずしも確立しておらず、医療予算の配分の面では優先順位が高いとは言い難いが、少なくとも心血管疾患歴を持つ人には大きな意義があることを立証した。同社はデータの学会発表や、欧米でレーベル収載申請を行う予定。

同社のGLP-1作用剤では二型糖尿病薬Victoza(liraglutide)が50歳以上の二型糖尿病で心血管疾患歴/リスク因子を持つ9340人を組入れたLEADER試験で3点MACEを13%抑制した。但し、米国施設だけのサブグループ分析では発生率が偽薬群を僅かに上回った。糖尿病治療におけるsemaglutide製品であるであるOzempicもSUSTAIN試験でMACEを26%抑制したが(注:優越性解析は事後的)、サブグループ分析で米国施設は13%とやや見劣りし、心血管疾患歴のないサブグループでは偽薬群と大差なかった。そのせいか、FDAは心血管疾患歴のある患者にしか効能を認めなかった。但し、この試験で採用されていたのは初承認時の1mgで、その後に承認された2mgや、Wegovyの用量である2.4mgより少ない。

これら三剤のデータを重ね合わせると、心血管疾患でBMIが27kg/m2以上ならば二型糖尿病の有無を問わず、再発予防に役立つことになる。肥満が国民病ともいえる米国における便益が、今回のSELECT試験で浮き彫りになるか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


打ち切られた第3相社交不安障害試験が良好な結果に
(2023年8月7日発表)

米国の新興医薬品開発会社、VistaGen(Nasdaq:VTGN)は、PH94B(aloradine)の第3相急性期社交不安障害(SAD)試験、PALISADE-2が良好な結果になったことを明らかにした。主評価項目をオーソドックスなものに変えて改めて第3相を開始する予定。

PH948は鼻の化学感覚受容体に作用する合成ステロイドで、恐怖や不安に関わる臭覚偏桃体神経回路を制御、交感自律神経系のトーンを減衰させる。第3相二本では成人の急性期SAD患者を対象に、偽薬または3.2mcgを両鼻腔に点鼻し、20分後にsimulated public speaking challenge試験を実施、Subjective Units of Distress Scale(0~100、本試験は70以上の患者を組入れ)を計測した。しかし、一本目は昨年7月にフェールした。

二本目は中間無益性解析が悪い結果にならなかったため一旦は継続が決まったが、様々な事情から新規組入れ中止となった。今回、約200人の当初目標に対して141人に留まった症例の解析が実施され、試験薬群はベースライン比13.8点減少と、偽薬群の8.0点減少を有意(p=0.015)に上回ったことが公表された。副次的評価項目のCGI-Iでも不安症の改善がvery muchまたはmuchと答えた患者の比率が37.7%対21.4%、p=0.033だった。重度や深刻な有害事象は見られなかった。

これらの試験の主任研究員は Michael Liebowitz, MDと記されているが、既存のSAD治療薬のエビデンスとなった臨床試験では、おそらく同研究者の名前を冠したLiebowitz Social Anxiety Scale(LSAS)という評価尺度が用いられてきた。同社は一本目がフェールした後にFDAと相談し、LSASを主評価項目とする承認申請用試験を行うことを決めた。評価項目が異なり、そして、おそらく、反復投与試験になるだろうから、今回の好成績が再現されるとは限らないだろう。

18年に同じカリフォルニア州のPherin Pharmaceuticalsからライセンスした開発品の一つ。一本目がフェールした後に株式交換方式で会社ごと買収した。VistaGenの株価は19年の約9ドルから21年には100ドルを超えたが、22年には上場継続が危ぶまれる水準と言われる5ドルを割り込み今年は1ドル台まで低迷していた。今回の発表で13ドルまで上昇も翌日には7ドルと、安値株でよくある1カイ2ヤリの対象になっている。

リンク: 同社のプレスリリース


Bavarian Nordic、チクングニア・ワクチンの二本目の第3相が成功
(2023年8月6日発表)

デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)は、新開発したチクングニア・ワクチンの第3相試験成功を発表した。12~64歳の3,254人を組入れて一回筋注する効果を偽薬と比較したところ、第22日における中和抗体陽転率が98%となり、承認審査機関と合意した水準と同等以上だった。2週経過時点で97%、第6月で86%と、早く、かつ比較的長い間、効果が維持されている。

65歳以上の413人を組入れた第3相でも第22日中和抗体陽転率が87%と、良好な結果になっている。24年に欧米で承認申請する考え。

NIH(米国立衛生研究所)からライセンスしたVLP(ウイルス様粒子)ワクチンでアルミを添加している。今年3月に、バイオテロ関連などに特化を決めたEmergent BioSolutions(NYSE:EBS)から買収した事業の一つ。

スイスのValnevaも弱毒化生チクングニア・ワクチンを開発、昨年12月に米国で承認申請し、順調なら今月末にも承認される見込み。

チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症。死亡率は高くない。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


Basilea、MRSA作用剤を16年ぶりに米国申請
(2023年8月4日発表)

スイスのBasilea Pharmaceutica(SWX:BSLN)はceftobiproleを米国で承認申請した。予定適応症は黄色ブドウ球菌による菌血症(SAB)と地域感染細菌性肺炎(CABP)、そして急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症(ABSSSI)。

MRSA作用性のセファロスポリンで、第3世代セフェム系と比べてMRSAやグラム陰性菌にも活性が高いとされる。ライセンス先のジョンソン・エンド・ジョンソンが07年に欧米でcSSSI(複雑皮膚・皮膚構造感染症)用薬として承認申請したが、FDAの査察で一部の治験実施施設のデータに疑義が生じ、米国は審査完了通知を受領、EUもCHMPが08年には肯定的意見をまとめたがFDA情報に基づき承認見送りとなり、10年にCHMPがcGMP違反を理由に否定的意見に転じた。

ジョンソン・エンド・ジョンソンが権利を返還した後、欧州ではCAP/HAP(院内肺炎感染)の第3相二本に基づき13年に承認を取得したが、米国はCAPとHAPを二本ずつ行うよう求められたため開発が頓挫、米国株式上場も見送られた。しかし、米国政府から補助金を得てABSSSIやSABの第3相を実施。奏効率も死亡率も標準治療と非劣性だった。

Vasileaは承認までの間に米国販売における提携先を探す考え。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


放射線療法の副作用対策用薬は承認されず
(2023年8月9日発表)

Galera Therapeutics(Nasdaq:GRTX)はGC4419(avasopasem manganese)を頭頚部癌の放射線療法に伴う口腔粘膜炎を抑制する用途でFDAに承認申請し優先審査指定されていたが、審査完了通知を受領した。主エビデンスとなる第3相試験一本と支持的エビデンスとした後期第2相試験一本の何れも不十分と見做され、再承認申請の前にもう一本実施するよう求められた。同社はタイプA会議を要請する考え。

スーパーオキシドアニオンラジカルを酸素と過酸化水素に不均化する酵素であるSOD(スーパーオキシド・ジスムターゼ)の模倣体で、放射線照射時にスーパーオキシドが口腔粘膜炎を誘導しないように、予め分解してしまうアイディア。第3相ROMAN試験で重度口腔内粘膜炎(固形物摂取不能)の発生率が54%と偽薬群の64%より低かった。当初、p=0.113でフェールと報じられたが、CMOの解析に誤りがあったとのことで、2ヶ月後にp=0.0451に修正された。胸を張るのは憚れる水準だが、後期第2相でも43%対65%、p=0.009だったので、修正解析に問題がなければ、独立した二本の試験でp<0.05というハードルはクリアできたことになる。

それだけに、FDAが追加試験を要求したのは意外。

リンク: 同社のプレスリリース


EU、ノバルティスの鎌状赤血球症用薬の承認を取消
(2023年8月3日付)

EUはノバルティスのAdakveo(crizanlizumab-tmca)の承認を8月3日付で正式に取り消した。CHMP(医薬品委員会)が5月に勧告し、6月にはEMA(欧州薬品庁)がDirect healthcare professional communicationを発出して予告していた。

内皮細胞のPセレクチンに結合する抗体医薬で鎌状赤血球が結合するのを妨げる。16年にライセンス元のSelexys Pharmaceuticalsを買収して完全自社プロジェクト化した。第2相試験成績に基づいて19年に米国で、20年にはEUでも16歳以上の鎌状赤血球病のVOC(血管閉塞性クリーゼ)を抑制する薬として承認されたが、EUでは第3相試験で薬効や安全性を確認する条件を付けられた。

意外なことに、第2相SUSTAIN試験では鎌状赤血球症関連疼痛クリーゼによる受診が年率1.63回と、偽薬群より45%少なかったのに、第3相STAND試験では2.49回と偽薬群の2.30回より数値上多かった。在宅治療も含める副次的評価も4.70回と3.87回でフェールした。

結果が食い違った理由は明確ではない。二本の試験は組入れ数(各198人と254人)、試験用量(第2相は2.5mg/kgと5mg/kg、第3相は5mg/kgと7.5mg/kg)、そして対象年齢下限(16才と12才)が異なるが、大きな違いではないだろう。

『鎌状赤血球症関連疼痛クリーゼ』の判定を巡る揺らぎがあるのかもしれない。EUの承認時の審査報告書によると、SUSTAIN試験では担当医の判定を独立評価委員会が否定した症例がかなりあり、特に、試験薬群で目立った模様だ。公表されているリスク削減率48%というのは独立評価委員会ベースだが、実際はもっと小さい可能性も否定できないと指摘している。

米国は加速承認ではないので見直す必要はない。再検討する場合は取り敢えず試験結果だけを医療従事者に通知することが少なくないが、今回は未だ出ていない。どう受け止めているのだろうか?

リンク: EMAのリリース(23/5/26付だが後日加筆あり)
リンク: Direct healthcare professional communications(23/6/15付、pdf)

【承認】


Akeegaが米国でも承認
(2023年8月11日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalのAkeega(niraparib、abiraterone acetate)を承認した。PARP阻害剤とCYP17阻害剤を配合した錠剤で、成人のBRCA有害変異を持つ/疑われる転移去勢抵抗性前立腺癌に200/1000mgをprednisone 10mgとともに一日一回経口投与する。睾丸摘出術を受けていない場合はGnRH作用剤も併用する。これまでの承認レジメンであるabiraterone acetateとprednisoneに偽薬またはniraparibを併用した第3相MAGNITUDE試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価)のハザードレシオが0.53、各群のメジアン値は10.9ヶ月と16.6ヶ月だった。全生存期間のハザードレシオは0.79と水準は悪くなかったが有意水準には届かなかった。メジアン値は各28.6ヶ月と30.4ヶ月。

この試験の主評価項目はHRR(相同組換え修復)不全コフォート423人が対象で、rPFSに有意な差があったものの、BRCA有害変異225人を除くとハザードレシオ0.99、全生存ハザードレシオは1.13と低調で、FDAも、4月に承認したEUも、BRCA有害変異型に限定した。尚、本試験はHRR不全ではない患者のコフォートも設定されたが無益中止された。

niraparibはGSKの卵巣癌用薬Zejulaの活性成分と同じ。12年にTesaroがMSDから権利を取得、16年にJNJに日本以外の市場における前立腺癌用途でライセンス、17年には武田薬品に日本市場や前立腺がん以外の用途で韓国などでライセンスした後、19年にGSKに買収された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース


ヤンセン、またまた多発骨髄腫用薬が承認
(2023年8月10日発表)

FDAはJanssen BiotechのTalvey(talquetamab-tgvs)を難治再発多発骨髄腫の治療薬として加速承認した。免疫調停剤、プロテアソーム阻害剤、及び抗CD38抗体を含む4次以上の治療歴を持つ患者が適応になる。臨床試験では、0.4mg/kgを週一回皮下注した100人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が73.0%、倍量を二週毎皮下注した87人では73.6%だった。前者のメジアン反応持続期間は9.5ヶ月、後者はメジアン未達で、反応者の85%で9ヶ月以上持続していた。0.4mg/kgを投与した、二重特異性抗体やCAR-Tによる治療歴を持つ32人(前述には含まれていない模様)のORRは72%だった。

多発骨髄腫で特に高発現するGPRC5D(G protein-coupled receptor class C group 5 member D)とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。ジェンマブの技術を適用して創製した。EUでも7月にCHMPが肯定的意見をまとめた。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは03年にミレニアム・ファーマシューティカルズからプロテアソーム阻害剤Velcade(bortezomib)の共同開発販売権を取得し多発骨髄腫用薬の主要メーカーとなったが、ここに来て続々と新薬を追加している。22年には米欧でBCMAを標的とするCAR-T療法のCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)と同じく二重特異性抗体Tecvayli(teclistamab-cqyv)が承認され、前者は日本でも承認された。

リンク: FDAのプレスリリース


第2のRET阻害剤も本承認切替え
(2023年8月9日発表)

FDAはジェネンテックのRET変異型非小細胞性肺癌用薬、Gavreto(pralsetinib)を本承認した。20年に第2相試験成績に基づいて成人のRET融合陽性転移非小細胞性肺癌用薬として加速承認したが、今回、追加症例の成績も踏まえて、本承認に切替えた。症例数が114人から237人に増加、治療未経験の107人におけるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)は78%、メジアン反応持続期間は13ヶ月、白金薬レジメン歴を持つ130人では各63%と38ヶ月(!)、抗PD-(L)1抗体歴も持つ54人の探索的解析では各59%と22ヶ月だった。

類薬ではイーライリリーのRetevmo(selpercatinib)が昨年9月に本承認切替済み。RET変異型は非小細胞性肺癌の1~2%と小さいためか、ジェネンテックと米国外を担当するロシュは、開発元であるBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)に権利返還を決めた。米国ではRET変異型甲状腺髄様腫やRET融合型甲状腺癌にも加速承認されているが、少なくとも前者は市販後薬効確認試験が困難として承認返上を決めた。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8~9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/16  イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/20  Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
  • 23/8/20  NeurocrineのIngrezza(valbenazine、ハンチントン舞踏病に適応拡大)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/8末    ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)
  • 23/9/9    BioLineRxのAphexda(motixafortide、多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植に伴う得率向上)
  • 23/9/11    武田薬品のTAK-755(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)
  • 23/9/15   ロシュの皮下注用Tecentriq(atezolizumab)
  • 23/9/16   GSKのmomelotinib(骨髄線維症)

諮問委員会:
  • 23/9/13 CRDAC:アルナイラムのOnpattro(patisiran。ATTR心筋症適応拡大)
  • 23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)


今週は以上です。

2023年8月5日

第1114回

【ニュース・ヘッドライン】

  • 価格破壊型ベンチャーが幕引きへ 
  • レットヴィモ、一次治療試験が成功 
  • アムジェン、抗DLL3 BiTE抗体の承認申請を検討 
  • TAAR1アゴニストの第3相がフェール 
  • ACIP、Beyfortusの接種勧奨を支持 
  • 米国版テムセルは今度も承認されず 
  • アステラスの地図状萎縮治療薬が承認 
  • 経口産後鬱治療薬が承認 
  • ロンサーフとベバシズマブの併用が承認 
  • GSKの抗PD-1抗体が悪性遺伝子変異を持つ内膜腫の一次治療薬に承認 


【今週の話題】


価格破壊型ベンチャーが幕引きへ
(2023年8月1日発表)

米国の新興医薬品開発会社EQRx(Nasdaq:EQRX)は、Revolution Medicines(Nasdaq:RVMD)の買収オファーに同意した。株式交換方式で、比率はEQRxの臨時株主総会の前に最終決定するが、Revolutionの株価に大きな変動がなければ、およそ10億ドルに相当すると推測される。

EQRxは中国企業が開発したme-too-drugを米国で既存薬より安価に販売するユニークな戦略を打ち上げていた。創立者はFoundation Medicine(ロシュが買収)やBlueprint Medicenesなど多くのバイオベンチャーの創立者/共同創立者でもある著名なアントレプレナーのAlexis Borisy。ソフトバンクのベンチャー・キャピタルの出資先でもある(今年1月にグループ内の株式移転がSECに届出されている)。

翰森製薬集団が中国で2020年に承認取得したEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤や、基石薬業が21年に中国で承認取得した抗PD-L1抗体を欧州で承認申請した。しかし、米国では、FDAが中国で実施された臨床試験のデザインや結果に関する信憑性に疑問を表明したため、戦略が行き詰った。

Revolution Medicinesも氏が取締役を務める新興医薬品開発会社で、RASが駆動する癌の治療薬を複数、開発している。ベンチャー企業の資金調達が容易でなくなった今日でもキャッシュ・リッチで、今回の買収も新たなキャッシュと従業員の獲得が狙いでパイプラインの開発は中止する考えのようだ。

人的な繋がりを考えれば、華々しく立ち上げた価格破壊型ベンチャーの幕引きを図ったと受け止めても良いのではないか。

リンク: 両社のプレスリリース

【新薬開発】


レットヴィモ、一次治療試験が成功
(2023年8月4日発表)

イーライリリーはRetevmo(selpercatinib)の第3相LIBRETTO-431試験の独立データ監視委員会が中間解析で成功認定したと発表した。20~22年に米日欧で成人のRET融合陽性転移非小細胞性肺癌や治療歴のあるRET変異陽性甲状腺髄様腫、放射性ヨウ素不応不適なRET融合陽性甲状腺癌に用いることが承認されているが、今回、RET融合陽性進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療における便益が標準的治療を上回ることが示された。データは未発表。

米国や欧州は加速/条件付き承認なので別途、対照試験で延命またはそれに準じる効果を確認する必要がある。今回の試験は、標準的治療レジメンである白金薬ベース化学療法とpemetrexed、そして、医師の判断でKeytruda(pembrolizumab)も併用する群とPFS(無進行生存期間)を比較した。一次治療であることや、盲検試験ではないことを考えれば、全生存期間の解析も重要な情報になるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


アムジェン、抗DLL3 BiTE抗体の承認申請を検討
(2023年8月3日発表)

アムジェンは23年第2四半期の決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。AMG 757(tarlatamab)と、Lumakras(sotorasib)の大腸癌適応に関して、FDAと相談する考え。データは未公表。

AMG 757は小細胞性肺癌(SLC)の8割以上で過剰発現するDLL3(デルタ様リガンド3)とT細胞受容体のCD3部位に結合する二重特異性抗体で、同社のBlincyto(blinatumomab)と同様に、ミューニッヒ大学発のBiTE(Bispecific T cell Engager)技術を用いている。再発・難治SLCの第1相試験で107人中23%がORR(客観的反応)、完全反応も2人となり、メジアン反応持続期間が12ヶ月と長いことが印象的。G3以上の有害事象発現率は高く、好中球減少症など血液学的有害事象に加えて、錯乱など神経学的イベントが見られたが、サイトカイン放出症候群はG3一例のみ、G4以上は見られなかった。G5は肺炎で1名死亡した。

第2相DeLLphi-301試験は2次以上の治療歴を持つSCLを組入れたところ、第1相を上回る持続的応答が見られたため、承認申請を狙う由。

DLL3標的薬はアッヴィの抗体医薬複合体、rovalpituzumab tesirineがDLL3高発現SLCの第3相に進んだが、二次治療も一次治療後維持療法もフェールした。第2相3次治療試験のORRは16%、反応持続期間は4ヶ月なので、AMG 757と一緒くたにはできなさそうだ。

LumakrasはKRAS G12C変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として21年に米国で加速承認、22年には日欧でも承認された。新用途はKRAS G12C変異のある転移結腸直腸癌の二次治療として同社の抗EGFR抗体Vectibix(panitumumab)と併用するもの。第3相CodeBreak 300試験で240mgも960mg群も医師選択化学療法群もPFSが有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


TAAR1アゴニストの第3相がフェール
(2023年7月31日発表)

住友ファーマと共同開発者である大塚製薬は、SEP-363856(ulotaront)の第3相統合失調症試験が二本ともフェールしたと発表した。精神疾患の臨床試験では偽薬効果が大きく出ることがあるが、この典型的な負けパターンに嵌った。

TAAR1(微量アミン関連受容体1)と5-HT1Aのアゴニストで、ドパミン/セレトニン受容体には作用しない、既存薬とは異なったレセプター・プロファイルを持つ。住友ファーマの米国子会社がAIディスカバリー技術を持つPsychoGenicsとの共同創薬を通じてライセンス、21年に大塚が他の開発品と共に共同開発販売権を取得した。

第二相では急性増悪期の入院患者245人を偽薬群と試験薬群(一日50~70mg可変用量)に無作為化割付けして4週後のPANSS総合スコアの改善を比較したところ、各群9.7と17.2とで有意な差があった。CGI-Sも有意に改善。有害事象による治験離脱は6%と8%で大差なかった。

ところが、急性増悪期の患者435人を組入れた第3相DIAMOND 1試験では、偽薬、50mg、75mgを一日一回、6週間投与後のPANSS総合スコアの改善が19.3、16.9、19.6と、大差なかった。DIAMOND 2試験でも偽薬、75mg、100mg群の改善が14.3、16.4、18.1と、大差なかった。

会社側はCOVID-19の影響を指摘している。二本の試験の流行前のデータだけ合算分析すると第2相と似たような結果が出ている模様。

第2相は偽薬効果が比較的出にくい入院試験だった。治験登録(ClinicalTrials.gov)に記載されている組み入れ条件には入院という要件がないが、外来試験だったのだろうか?

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


ACIP、Beyfortusの接種勧奨を支持
(2023年8月3日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は、アストラゼネカが開発し米国などではサノフィが販売するRSV関連疾患予防用抗体医薬、Beyfortus(nirsevimab-alip)の接種勧奨に全員一致で賛成した。対象は生後8ヶ月未満の乳幼児全てと2度目のRSV流行期を迎える重症化リスク因子を持つ8~19ヶ月児。後者は呼吸器や心臓の疾患などを持つ人に加えて、ネイティブ・アメリカンやアラスカ・ネイティブも対象になるようだ。

メディミューンがアストラゼネカに買収される前に開発したSynagis(palivizumab)とは異なった部位に結合する抗RSV F蛋白抗体。GSKやファイザーが開発したワクチンと同様にウイルスが宿主細胞に結合する前の構造を標的としている。Synagisの対象は1歳未満の呼吸器や心臓に疾患を持つ人や低体重出生児などだが、Beyfortusは限定されない。価格はSynagisの数分の1の400~500ドル程度になる見込みだが、全0歳児などが打つことを考えると、インフルエンザやCOVID-19のワクチンと比べて高いと感じる人もいるだろう。尤も、殆どの米国人が自己負担なしで打てるようになる見込みだが。

リンク: サノフィのプレスリリース


米国版テムセルは今度も承認されず
(2023年8月3日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB)はヒト間葉系幹細胞ベースの細胞性医薬品、remestemcel-Lを小児のステロイド難治移植片対宿主病の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。20年に一回目の審査完了通知を受領した時に求められた対照試験を実施せずに再申請したので、まあ、やむを得ないだろう。同社は死亡リスクの高い成人患者に絞った対照試験を実施する方向でFDAと相談する考え。予備的調査で死亡リスク削減効果が見られた模様だが、今回実施する試験も含めて、小規模な試験では群間の偏りを排除し難いのではないかと危惧される。

小児を組入れた第3相で反応率69%と文献データの45%を有意に上回り、180日生存率でも69%と文献の30%を上回ったが、FDAは、対照試験ではないことや、ロット毎の力価のムラ、それを検証するためのアッセイの妥当性などに懸念を持ち、承認しなかった。

remestemcel-Lは15年に日本でステロイドに応答しなかった移植片対宿主病の治療薬として承認された。主として成人を組入れた単群試験で第1/2相では57%、第2/3相では48%が完全反応(すべての臓器障害が消失)した。後者では被験者の88%で重篤有害事象が発生、その過半が死亡し、タイミングなどから試験薬との関連性は否定できないと判定された症例もあったが、因果関係を断定する根拠も無かった。

リンク: Mesoblastのプレスリリース

【承認】


アステラスの地図状萎縮治療薬が承認
(2023年8月5日発表)

アステラス製薬はFDAがIzervay(avacincaptad pegol)を地図状萎縮の治療薬として承認したと発表した。地図状萎縮を合併する加齢性黄斑変性患者に2mgを月一回、硝子体注射して病変拡大状況を検討した第3相試験二本で、一本では平均成長率が1.221mmとシャム(注射の振りだけ)群の1.889を35%下回り、もう一本でも1.745mm対2.121mmで18%下回った(何れも平方根換算前の数値の比較)。主な有害事象は結膜出血や眼圧上昇、霞目など。

血液凝固因子C5がC5aとC5bに切断されるのを阻害するRNAアプタマー。7月に59億ドルで買収したIveric Bio社が07年にArchemixからライセンスした。

リンク: アステラスのプレスリリース(和文、pdfファイル)


経口産後鬱治療薬が承認
(2023年8月4日発表)

FDAはSage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)のZurzuvae(zuranolone)を産後鬱の治療薬として承認した。紛らわしいが、出産後4週間以内に発症した患者だけでなく、妊娠第3期の発症もpostpartum depressionと呼ぶようだ。

19年に産後鬱薬として承認された同社のZulresso(brexanolone)と同様なGABA-A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータだが静注点滴ではなく経口カプセルで、入院治療に限定されていない。50mgを一日一回、夕方に脂肪を含む食事と共に服用する。治療期間は14日間と短いが、臨床試験ではHAMD-17評価尺度の改善が第42日時点でも維持されていた。

運転試験の成績に基づき、服用後12時間は自動車や危険な機械の運転を避けるよう枠付き警告された。警告・注意事項は自殺思慮・行為、傾眠や混乱など、そして胚胎毒性。服用中と完了後も1週間は妊娠を避ける。

サプライズは、一般的な鬱病(MDD)の申請が承認されなかったこと。二週間治療して必要なら数週間経ってから再治療、という用法の妥当性やHAMD-17における治療効果が産後鬱では4点程度あったが鬱病試験では2点未満だったことなどがボトルネックかもしれない。第3相はフェールもあったが、二勝一敗の成績で承認された抗鬱剤は少なくない。。

日本と台湾、韓国の開発商業化権は塩野義製薬、それ以外の地域での開発販売権はバイオジェンが保有している。

リンク: FDAのプレスリリース


ロンサーフとベバシズマブの併用が承認
(2023年8月2日発表)

FDAは大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil)の併用法追加を承認した。15年の初承認はfluoropyrimidine、oxaliplatin、及びirinotecanを含む化学療法と、抗VEGF生物学的製剤、及び、RAS野生型の場合は、抗EGFR抗体による治療歴を持つ転移結腸直腸癌に単剤投与だったが、今回、このような患者にbevacizumabと併用することも認められた。EUでも少し異なる内容で承認されたところだ。

第3相SUNLIGHT試験に基づく承認。上記の薬を含む二次までの治療歴を持つ患者をLonsurfだけの群とbevacizumabも併用する群に無作為化割付けして全生存期間を比較したところ、メジアン値は各7.5ヶ月と10.8ヶ月、ハザードレシオは0.61だった。bevacizumabは一次治療化学療法に併用後に再発した患者でも二次治療に再併用することが可能と考えられているが、Lonsurfに関するエビデンスができた。

リンク: FDAのプレスリリース


GSKの抗PD-1抗体が悪性遺伝子変異を持つ内膜腫の一次治療薬に承認
(2023年7月31日発表)

FDAはGSKのJemperli(dostarlimab-gxly)を内膜腫のフロントライン治療向けに適応拡大した。原発性進行内膜腫の2~3割を占める、dMMR(ミスマッチ修復欠損)またはMSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)遺伝子変異を持つ癌に、最初の6回は化学療法と併用で、その後は単剤を、点滴静注する。第3相RUBY試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン30ヶ月と化学療法・偽薬併用群の8ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.29だった。本試験はdMMR/MSI-H陰性患者も組み入れられており、ハザードレシオ0.76と良好な成績だったが、承認申請は欧米とも陽性患者限定だった。

腫瘍学再参入を決めたGSKが19年に買収したTesaroがAnaptysBioとの共同研究を経てライセンスした、IgG4型抗PD-1抗体。現在はdMMR/MSI-H型内膜腫の二次治療に単剤投与することが欧米で承認されている。

フロントライン内膜腫ではKeytruda(pembrolizumab)も同様な試験が成功、PFSのハザードレシオはdMMR型では0.30、陰性患者では0.54とまあまあ似たような結果になった。MSDも適応拡大申請中と推測されるが、陽性に限定されるかどうか、注目される。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)←23/2受理、PDUFA23年
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8月推 JNJのTalvey(talquetamab、多発骨髄腫4次治療)
  • 23年8~9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/9   Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
  • 23/8/16  イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/20  Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
  • 23/8/20  NeurocrineのIngrezza(valbenazine、ハンチントン舞踏病に適応拡大)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/8末   ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)




今週は以上です。