2018年9月30日

2018年9月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • EPAの心血管アウトカム試験が海外でも成功 
  • WCLC:テセントリクの肺癌試験二本のデータが発表 
  • WCLC:武田のALK阻害剤も一次治療でザーコリに勝つ 
  • 抗PD-1抗体がまた承認 
  • ファイザー、汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤が米国で承認 
  • PI3Kデルタ/ガンマデュアルインヒビターが米国で承認 
  • リリーの抗CGRP抗体も片頭痛に承認 


【新薬開発】


EPAの心血管アウトカム試験が海外でも成功
(2018年9月24日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)は、Vascepa(icosapent ethyl)の心血管アウトカム試験が成功したと発表した。EPA製剤としては日本のエパデールのJELIS試験に次ぐ成果で、心血管疾患を予防するにはDHAは不要でEPAを多く服用することが重要であることを示唆した。

Vascepaは2017年に米国でトリグリセライド値が著しく高い(500mg/dL以上)混合異脂血症の治療薬として承認された。アマリンは200~499mg/dLで心血管疾患リスク因子を持つ患者も含めるよう求めたが、諮問委員会もFDAもアウトカム試験の裏付けが必要と判定した。その後、アマリンはFDAと数々の点で対立したが、レーベルに記載されていない効能に関する情報を提供する『表現の自由』を司法が認めるなど、アマリンが優勢に推移している。

今回のアウトカム試験もアマリンの主張の正しさが立証された格好だが、何れにせよ、信念に基づく医療ではなくその裏付けとなるエビデンスを獲得したことに意義がある。

このREDUCE-IT試験は、スタチンで心血管疾患の再発・初発予防を行っている患者のうち、LDL-C値は100mg/dL以下(ベースライン時点のメジアンは75mg/dL)だがトリグリセライド値が150~499mg/dL(同216mg/dL)の患者8179人を偽薬群と4mg/日を投与する群に無作為化割付して、MACE(致死的心血管疾患、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠血行再建術、不安定狭心症による入院)のリスクをメジアン4.9年間比較したもの。

結果は、Vascepa群のリスクが25%小さく、p値が0.001未満であったことが発表された。詳細は11月のAHA米国心臓協会科学部会で発表される予定。

オメガ3脂肪酸の心血管アウトカム試験は欧米では失望的な結果が続き、スタチンが普及した後ではJELIS試験の成功がむしろ例外的であった。日本は欧米と医療風土や人種が異なり、今日のスタンダードからするとJELISのスタチンの用量は控えめで、また、日本ではその後、ARBの心血管アウトカム試験で不正が発覚したり、腎疾患にARBとACE阻害剤の併用効果を検討したLancet論文が撤回されたりした。このため、高力価スタチンがあればオメガ3脂肪酸は不要なのではないかとの意見も見られるようになった。

しかし、今回の試験を過去の知見と照らし合わせると、EPAの作用が用量依存的である可能性が浮上する。EPAの投与量は今回の試験、JELIS、EPA・DHA混合物の試験の順に多く、リスク削減効果の大きさも同じ順番だ。

Vascepaの米国年商は2億ドル足らずだが、今回の用途は対象人口が7000万人と現在の適応の20倍大きく、海外も含めれば40倍と更に膨らむ。特許は用法に関するものが2030年まであるがGE薬メーカーが『ダウト』を掛けており、裁判で敗訴すると2020年にGE化リスクがある。ヘッジの意図なのか、アマリンは持田製薬からエパデールの新製剤の米国開発販売権を取得した。EPA製剤を推進する日米連合群が誕生したことになる。

リンク: アマリンのプレスリリース

WCLC:テセントリクの肺癌試験二本のデータが発表
(2018年9月24日発表)

ロシュは、WCLC(世界肺癌会議)で抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の肺癌第三相試験二本の結果を発表した。非扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療のIMpower132試験と、進展型小細胞性肺癌一次治療のIMpower133試験で、どちらも成功した。

132試験はpemetrexedと白金薬を併用する標準療法に更にTecentriqを追加したところ、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、担当医評価)がメジアン7.6ヶ月とpemetrexed・白金薬だけの群の5.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.60、log-rank p値は0.0001を下回った。

共同主評価項目の全生存期間はまだ中間解析で、メジアン18.1ヶ月対13.6ヶ月、ハザードレシオ0.81、p=0.0797とわずかにフェールした。1年生存率は59.6%対55.4%で4ポイント改善。オープンレーベル試験なので担当医評価のPFSだけではエビデンスとしては弱いが、延命効果のトレンドが見られ数値も悪くない。来年の全生存期間の最終解析に期待してもよさそうだ。

忍容性は、治療関連死亡が各11例(被験者の4%)対7例(同3%)と大きな差はなかった。

133試験はcarboplatinとetoposideの標準療法にTecentriqまたは偽薬を投与してPFSと全生存期間を比較したところ、中間解析で成功認定。生存期間はメジアン12.3ヶ月と偽薬群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70、log-rank p=0.0069、PFSは各5.2ヶ月、4.3ヶ月、0.77、0.017だった。

肺癌の開発はMSDが先行していたが、他陣営も少しずつキャッチアップしてきた。

リンク: ロシュのプレスリリース(IMpower132)
リンク: ロシュのプレスリリース(IMpower133、9/25付け)

WCLC:武田のALK阻害剤も一次治療でザーコリに勝つ
(2018年9月26日発表)

武田薬品のALK阻害剤、Alunbrig(brigatinib)の非小細胞性肺癌フロントライン試験の結果がWCLCで発表された。ALK阻害剤未経験のALK陽性局所進行性/転移性非小細胞性肺癌275人を組入れて、Xalkori(crizotinib)とPFS(盲検独立評価委員会が査読)を比較したところ、ハザードレシオ0.49、p=0.0007と良い結果が出た。メジアンは未達、Xalkori群は9.8ヶ月、1年PFSは67%対43%だった。

XalkoriはALK陽性非小細胞性肺癌を標的とする治療薬の第一号。元々はc-MET阻害剤として臨床開発されていたが、非小細胞性肺癌の一部はALK遺伝子の転座が関与しているという日本の研究者の発見を受けて、ALK阻害剤として開発されることになった。米国承認から7年経ち、既に複数の競合薬が承認されており、何れも、Xalkoriより効果が高く、中枢神経転移に対する効果も持っていることが特徴。これら第2世代品の間の優劣は明確ではなく、Alunbrigもone of themとして競うことになりそうだ。

Alunbrigは武田が昨年、54億ドルで買収したアリアドの開発品で17年にXalkori歴を持つ患者に使う薬として米国で承認された。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認】


抗PD-1抗体がまた承認
(2018年9月28日発表)

FDAは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)を転移性、または根治的な手術や放射線療法が適応にならない局所進行性の皮膚扁平上皮癌の薬として承認した。臨床試験では薬効解析対象108例のORR(客観的反応率)は47.2%だった。皮膚扁平上皮癌の薬がFDAに承認されたのは初。

Libtayoはリジェネロン(Nasdaq:REGN)が創製した抗PD-1抗体。サノフィとの包括的提携の対象。3週毎の投与で、一回分のWAC(問屋取得価格)は9100ドル。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース

難治性MAC肺炎治療薬が承認
(2018年9月28日発表)

FDAは、Arikayce(amikacinリポゾーム吸入用懸濁液)をMAC(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス)による難治性肺炎の治療薬として承認した。標準療法に追加した臨床試験では、奏効率(6ヶ月以内に月次喀痰検査が3回連続で陰転)が29%と標準療法だけの群の9%を上回った。有害事象は過敏性肺臓炎、気管支痙攣、肺疾患増悪、喀血などが枠付き警告された。

一日一回ネブライザで吸入する。申請者のInsmed(Nasdaq:INSM)は一回分のWACを363ドルとする予定。

抗細菌薬は市場性が小さく製薬業界の開発意欲が低いため、米国は優先審査バウチャーの交付など様々なインセンティブを設けている。ArikayceはQIDP(認定感染症製品)指定を受けているため優先審査バウチャーを獲得できるが、同時に、適応を限定することと引き換えに臨床試験が小規模でも容認するLPADパスウェイ制度に基づく初めての承認でもある。市販後に別途、第三相試験を実施して臨床的効用を確認する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Insmedのプレスリリース

ファイザー、汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤が米国で承認
(2018年9月27日発表)

ファイザーは、Vizimpro(dacomitinib)がFDAに承認されたと発表した。選択的不可逆的汎ErbBチロシンキナーゼ阻害剤で、適応はEGFR遺伝子にエクソン19欠損またはエクソン21にL858R置換のある転移性非小細胞性肺癌の一次治療。欧州や日本でも承認審査中。

臨床試験では、PFSがメジアン14.7ヶ月とIressa(gefitinib)群の9.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59だった。

過去にはTarceva(erlotinib)との直接比較試験も実施されたがフェールしており、初期のEGFR阻害剤に抵抗性を持つタイプだけに的を絞ることで復活した格好。但し、最近のEGFR阻害剤は耐性変異に活性を持つものが多く、Tagirsso(osimertinib)なら中枢神経系転移にも有効だがVizimproは禁忌だ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

PI3Kデルタ/ガンマデュアルインヒビターが米国で承認
(2018年9月24日発表)

Verastem(Nasdaq:VSTM)は、FDAがCopiktra(duvelisib)を慢性リンパ性白血病(CLL)・小リンパ球性リンパ腫(SLL)及び濾胞性リンパ腫の三次治療薬として承認したと発表した。再発性難治性の患者に用いる。CLL/SLLの承認申請用試験は二次治療試験だったが、危険と便益のバランスに優れる三次治療以下に限定された。PI3Kのデルタとガンマを阻害するデュアル・インヒビターとしては初承認。

再発性難治性CLL/SLLの試験ではPFSがArzerra(ofatumumab)を有意に上回ったが、全生存はフェールした。再発性難治性濾胞性リンパ腫はORR(42%)に基づく加速承認。致死的なこともある深刻な感染症、下痢、大腸炎、皮膚反応、肺臓炎が枠付き警告されている。REMS(リスク評価・緩和戦略)を導入。WACは月11800ドル。

Infinity Pharmaceuticals(Nasdaq:INFI)が2010年にIntellikine(2年後にミレニアム・ファーマシューティカルズが買収)から権利を取得、当初はアッヴィと共同開発していたが非ホジキン型リンパ腫の第二相試験結果を受けてアッヴィが権利を返還。改めて16年にVerastemに世界開発販売権をライセンスしたもの。EUでも承認審査中。日本はヤクルトが今年6月に日本の開発販売権を取得した。

リンク: Verastemのプレスリリース

リリーの抗CGRP抗体も片頭痛に承認
(2018年9月27日発表)

イーライリリーは、FDAがEmgality(galcanezumab-gnlm)を片頭痛発作予防薬として承認したと発表した。CGRP(calcitonin gene-related peptide)に結合する中和抗体で、類薬が続々と承認されており競争は激しい。月一回皮注で、プリフィルド・シリンジの他にオートインジェクターも用意されている点が長所。WACは月$575の予定。

リンク: イーライリリーのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年9月23日

2018年9月23日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティス、ルセンティスを未熟児網膜症に適応拡大申請へ 
  • JNJ、FGFR阻害剤を尿路上皮種に承認申請 
  • 兎製ヒトC1エステラーゼインヒビターの予防用途は審査完了に 
  • CHMPが網膜遺伝子治療などに肯定的意見 


【新薬開発】


ノバルティス、ルセンティスを未熟児網膜症に適応拡大申請へ
(2018年9月22日発表)

ノバルティスは、抗VEGF抗体フラグメントのLucentis(ranibizumab)を未熟児網膜症の治療に用いた第三相試験の結果をEuropean Society of Retina Specialistsの学会で発表した。惜しくもフェールしたが奏効率自体は良いものであり、安全性も踏まえて、米国で適応拡大申請する考え。

このRAINBOW試験は26ヶ国の医療施設で225人の患者を組入れ、0.1mg群と0.2mg群の24週奏効率を標準療法であるレーザー手術と比較した。結果は各群75%、80%、66.2%となり数値上は上回ったが、p値は0.0254と、閾値の0.025を下回った(二種類の用量をテストしたため多重性を回避するためにアルファの0.05を半分ずつ配分したのだろう。

低出生体重児は網膜の血管が異常成長し網膜剥離に至るリスクがある。状況が悪い場合は周辺の網膜細胞をレーザーで治療するが、将来的に眼鏡による矯正が必要になる可能性がある。また、新生児に全身麻酔を施行すると脳細胞に悪影響を及ぼすことがある。

加齢性黄斑変性などの治療薬として承認されているLucentisは硝子体注射なので感染症などのリスクを伴う。RAINBOW試験のプロトコルは明らかではないが、もし全身麻酔を施行したなら、そのリスクは大差ないことになる。

一番の問題は、長期的な転帰が明らかではないことだ。ノバルティスは長期延長試験を実施して2022年に結果を分析する考えだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、FGFR阻害剤を尿路上皮種に承認申請
(2018年9月18日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、JNJ-42756493(erdafitinib)をFDAに承認申請したと発表した。想定適応は、局所進行性・転移性尿路上皮種で特定のFGFR変異を持ち、化学療法後に進行した患者。第二相単群試験では反応率が42%だった。

汎FGFR阻害剤で、08年にAstex Therapeutics(現在は大塚グループ)から世界開発販売権を取得したもの。このFGFR変異は尿路上皮種の1~2割が該当する模様だ。今年3月に第三相実薬対照試験が開始された。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認審査・委員会】


兎製ヒトC1エステラーゼインヒビターの予防用途は審査完了に
(2018年9月19日発表)

ファーミング(Euronext:PHARM)はFDAにRuconest(conestat alfa)を遺伝性血管浮腫の発作予防に用いる適応拡大を申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効のエビデンスが小規模な第二相試験二本だけで不十分とみなされた模様だ。

遺伝性血管浮腫は3万人に一人の希少疾患で、補体系免疫炎症反応に係るC1インヒビターの欠損により皮膚や小腸、口腔、喉に痛みを伴う浮腫が発生する。Ruconestはトランスジェニック技術を用いてウサギの乳腺に遺伝子組換え型ヒトC1インヒビターを分泌させ、ミルクから回収するもの。米国では14年に発作治療薬として承認されたが、予防のほうが市場性が高い。

リンク: ファーミングのプレスリリース

CHMPが網膜遺伝子治療などに肯定的意見
(2018年9月21日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、9月の会合で、スパーク・テラピュティクス(Nasdaq:ONCE)の遺伝子治療などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

スパーク社のLuxturna(voretigene neparvovec)は両アレルRPE65調停性遺伝性網膜ジストロフィーの成人小児を適応とする遺伝子療法。20万人に一人の希少疾患で、視力低下や失明をもたらす。Luxturnaは増殖しないよう操作したアデノ随伴ウイルスをベクターとしてRPE65遺伝子を導入する。米国では昨年12月に承認。米国外の開発販売はノバルティスが行う。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

次に、イーライリリーのEmgality(galcanezumab)はCGRP(calcitonin gene-related peptide)中和抗体。片頭痛の予防に用いる。第三相間欠性片頭痛試験では、月間片頭痛日数の減少が4~5日と偽薬群より2日前後少なかった。月一回皮注で、オートインジェクターも用意されている。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

Melinta Therapeutics(Nasdaq:MLNT)のVabomere(meropenem、vaborbactam)はカルバペネム系のベータラクタムと、クラスAとクラスCのベータラクタマーゼを阻害する新クラスの化合物の合剤で、カルバペネム耐性菌対策になることが期待される。適応は昨年8月に承認された米国より広く、複雑腹腔内感染症、複雑尿路感染症、院内感染肺炎/人口呼吸器関連肺炎、菌血症など。

昨年、Medicines Companyから買収したRempex Pharmaceuticalsの開発品。

リンク: Melintaのプレスリリース

バイエルのJivi(damoctocog alfa pegol)はPEG化遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子で、A型血友病の出血治療と高リスク患者の予防に用いる。米国は今年8月、日本でも今月、承認された。予防に用いる場合は週二回投与だが、管理良好なら5日毎に減らすことが可能なようだ。

リンク: バイエルのプレスリリース

協和発酵キリンのPoteligeo(mogamulizumab、和名ポテリジオ)はCCR4を標的とするヒト化抗体で、全身治療歴を有する成人の菌状息肉腫やセザリー症候群に用いる。

リンク: 協和発酵キリンのプレスリリース(和名)

武田薬品のAlunbrig(brigatinib)はALK陽性の末期非小細胞性肺癌に用いる。crizotinib不応不耐の二次治療試験も、crizotinib対照一次治療試験も成功したALK阻害剤の一つ。

MSDのPifeltro(doravirine)は非核酸系の逆転写酵素阻害剤(NNTRI)。HIV/AIDSの多剤併用療法に用いる。合剤のDelstrigo(doravirine、lamivudine、 tenofovir disoproxil)も肯定的意見を得た。他のNNTRIと交叉耐性がある。米国では8月に承認。

リンク: MSDのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を得たのは、まず、アステラス製薬/ファイザーのXtandi(enzalutamide)。用途は高リスク非転移性去勢抵抗性前立腺癌。

次に、Exelixis(Nasdaq:EXEL)が開発し日米以外ではイプセン(Euronext:IPN)が開発販売するVEGFR阻害剤、Cabometyx(cabozantinib)。用途は、肝細胞腫。Nexavar(sorafenib)による一次治療の次に使う。

アッヴィがジェネンテックと共同開発販売するbcl-2阻害剤、Venclyxto(venetoclax)は、rituximabと併用で慢性リンパ性白血病の二次治療に用いることが支持された。

リンク: アッヴィのプレスリリース

さて、Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)はExondys(eteplirsen)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として承認申請し、米国ではFDA上層部の鶴の一声で承認されたが、EUはCHMPが否定的意見を出した。Sareptaは再審査請求したが、今回、同じ結論になった。

ジストロフィンの発現と運動機能の改善は必ずしもリンクしないため、6分歩行テストなどで運動機能改善効果を確認すべきだが、Exondysの試験では偽薬比有意な差がなかった。

日本新薬はNS-065を別のタイプのデュシェンヌ型筋ジストロフィー用途で開発しているが、第二相試験の運動機能分析結果が10月に海外の学会で発表される予定だ。Sareptaの二の舞になるかどうか、注目される。

リンク: Sareptaのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年9月16日

2018年9月16日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • バベンチオとインライタの併用はスーテントに勝る 
  • MSD、Zerbaxaの院内感染肺炎適応拡大試験が成功 
  • JNJ、点鼻用抗鬱剤を承認申請 
  • テバの抗CGRP抗体も承認 
  • FDAがアストラゼネカの有毛細胞白血病薬を承認 
  • キイトルーダ、EUで肺癌一次治療化学療法併用が承認 
  • カナグルの心血管保護効果がEUのレーベルに収載 
  • 中国製バルサルタンAPIに新たな不純物発見 


【新薬開発】


バベンチオとインライタの併用はスーテントに勝る
(2018年9月11日発表)

抗PD-L1抗体のBavencio(avelumab、和名バベンチオ)を共同開発販売しているドイツのメルクとアメリカのファイザーは、第三相末期腎細胞腫一次治療試験が成功したと発表した。Inlyta(axitinib、和名インライタ)と併用でPFS(無進行生存期間)を標準療法であるSutent(sunitinib、和名スーテント)と比較したところ、主評価項目であるPD-L1が1%以上で発現しているサブグループで有意に延長した。シーケンシャルに実施された第二の主評価項目である全ユニバースでの解析も成功した。

具体的な数値は未発表。もう一つの主評価項目である全生存期間はまだ熟していない模様だが、PFSデータで適応拡大申請に向かう考えだ。Bavencioは日米欧でメルケル細胞腫に、米国では尿路上皮癌にも、承認されている。

腎細胞腫の薬物療法は、VEGFR阻害剤が登場するまでアルファ・インターフェロンなどのサイトカイン系免疫強化療法が主流だったが、抗PD-1/PL-L1抗体も併用療法で特に良好な成績を上げている。併用法を巡る戦略は科学的、商業的に活発で、MSDはエーザイのVEGFR阻害剤の共同開発販売権を大金を払って取得。BMSは自社のYervoy(ipilimumab)との併用を最優先することで収益最大化を狙っている。ファイザーがBavencioの共同開発販売権を取得したのも、今振り返れば、Inlytaを活用する狙いがあったのだろう。

効果の面ではどの併用療法も大差ないように感じられるので、オフレーベル使用も含めて、様々なレジメンが並行して普及していくだろう。

尚、Inlytaはファイザーが2000年に合併したワーナー・ランバートがその前年に買収したアグロン社由来のVEGFR阻害剤、Sutentはファイザーが2002年に合併したファルマシアがそれ以前に買収したスジェン社由来のVEGFR阻害剤だ。強力なリーダーシップを背景に買収で相手をねじ伏せてきた会社だが、新薬開発に関しては「新宿支店の敵は新宿西口支店」戦略を長く続けていたため、このようなパイプラインの重複が珍しくなかった。

Inlytaが第三相ステージアップの段階で「待て」の状態になってしまったのは残念だったが、これも今振り返ると、時間差を付けることで出番を確保する狙いだったのかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、Zerbaxaの院内感染肺炎適応拡大試験が成功
(2018年9月11日発表)

MSDの静注用複合セファロスポリンであるZerbaxaは、14年に欧米で複雑性尿道感染症と複雑性腹腔内感染症の治療薬として承認されているが、院内感染細菌性肺炎(HABP)・人工呼吸器関連細菌性肺炎(VABP)の適応拡大試験も成功したことが発表された。上記の用量の倍に相当する3mgを8時間毎に8~14日間投与したところ、28日全死亡率と臨床的治癒率がmeropenem群比で非劣勢だった。欧米で適応拡大申請に向かう予定。

細菌性肺炎のような命に係わる感染症については救命効果を確認すべきというのがFDAの考え方で、今回のように、全死亡を主評価項目とする試験が増えてきた。

Zerbaxaはキュビスト社をTOBして入手したプロジェクトで、アステラス製薬のセファロスポリン、ceftolozaneと、元々は大鵬薬品が創製しZosynにも配合されているtazobactamの合剤。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、点鼻用抗鬱剤を承認申請
(2018年9月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、JNJ54135419(esketamine)を成人の難治性鬱病治療薬として米国で承認申請した。欧州でも申請予定。ケタミンのS異性体で、NMDA受容体を非競合的、活性依存的に拮抗し、ドパミンの再取込みを阻害するとされる。点鼻スプレー。5年前に米国でブレークスルー・セラピー指定された。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


テバの抗CGRP抗体も承認
(2018年9月14日発表)

テバ・ファーマシューティカルは、FDAがAjovy(fremanezumab -vfrm)を片頭痛予防薬として承認したと発表した。5月に承認されたアムジェン/ノバルティスのAimovig(erenumab-aooe)との違いは、抗CGRP受容体抗体ではなくCGRPの側に結合する抗体医薬であることと、月一回皮注だけでなく3ヶ月毎皮注も承認されたこと。第三相慢性片頭痛試験では偽薬、3ヶ月毎、月一回投与の各群の月平均片頭痛日数がベースライン比2.5日、4.3日、4.6日減少した。

AjovyのWAC(問屋取得価格)はAimovig並みに設定されるようだ。この二剤のほかに、イーライリリーの抗CGRP抗体LY2951742(galcanezumab)が昨年12月にFDAに申請された。更に、Alder(Nasdaq:ALDR)の抗CGRP抗体eptiezumabも来年初めに承認申請される予定と、競争が激しい。

fremanezumabは01年にジェネンテックからスピンアウトしたRinat社のパイプラインで、06年にRinatを買収したファイザーが12年に導出した相手先の会社を14年にテバが買収したもの。PDUFAは6月だったがAPI調達先のCelltrion社のcGMP問題が原因で承認が遅れていた。日本は大塚製薬が導入している。

リンク: テバのプレスリリース


FDAがアストラゼネカの有毛細胞白血病薬を承認
(2018年9月13日発表)

FDAはアストラゼネカのLumoxiti(moxetumomab pasudotox-tdfk)を有毛細胞白血病用薬として承認した。20年ぶり以上の新薬だ。再発性難治性でプリン類縁体を含む二次以上の前治療歴を持つ成人が適応になる。有毛細胞で高発現するCD22に結合する抗体の可変領域フラグメントに細胞毒のPE38(Pseudomonas exotoxin-A)を結合した抗体薬物複合体で、28日サイクルで第1、3、5日に0.04mg/kgを30分点滴静注する。

有毛細胞白血病は米国で年1000人が診断される希少疾患で、一次治療なら長期寛解が見込めるが、30~40%は5~10年後に再燃する。Lumoxitiの第三相三次治療単群試験では、持続的完全反応率(血液学的寛解が180日超持続)が30%だった。枠付き警告は毛細管漏出症候群と溶血性尿毒症候群で、発生率は前者がG3が1.6%、G4は2%、後者は各3%と0.8%。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

キイトルーダ、EUで肺癌一次治療化学療法併用が承認
(2018年9月10日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)やBMSのOpdivo(nivolumab)の第三相が成功したり承認、申請されてもニュースとは言えないほど数多くのリリースが出ているが、今回は、Keytrudaを非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療にAlimta(pemetrexed)及び白金薬と併用することがEUで承認された。EGFR活性化変異やALK変異陽性ではない成人が適応になる。PD-L1発現は不問。

承認の根拠となったKEYNOTE-189試験では、Alimtaと白金薬だけを併用するこれまでの標準療法と比べて、全生存期間のハザードレシオが0.49だった。米国でも先月、承認されている。

リンク: MSDのプレスリリース

カナグルの心血管保護効果がEUのレーベルに収載
(2018年9月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、SGLT2阻害剤Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の心血管保護効果がEUのレーベルに記載されたと発表した。CANVAS試験で主要有害心血管イベントが対照群比14%少なかったことを販促できることになる。

rosiglitazoneの心筋梗塞リスク疑惑がきっかけで二型糖尿病薬の心血管アウトカム試験は承認を取得・維持するためのマストになったが、CANVAS試験が非劣性解析だけでなく優越性解析も成功したことは、血糖管理が小血管だけでなく大血管を保護する上でも重要であることを示唆する重要な発見だった。

尤も、14%という削減効果はスタチンなどと比べると小さく、臨床的にどの程度の価値があるのかは議論の余地があろう。それどころか、検出力の高い試験を行った結果、下肢切断のような稀だが重大な副作用の懸念も浮上した。

日本では長期大規模で費用の嵩む心血管アウトカム試験を行うことに懐疑的な意見も見られたが、FDAは心血管疾患だけを殊更に問題にした訳ではない。癌のような長期間フォローしなければ検出できないリスクも含めて、長期大規模な試験は二型糖尿病薬のような沢山の患者が長期間服用する薬には必須だろう。

リンク: JNJのプレスリリース


【医薬品の安全性】


中国製バルサルタンAPIに新たな不純物発見
(2018年9月13日発表)

EUと米国の薬品審査機関は、中国の大手原末製造会社であるZhejiang Huahai Pharmaceuticals(ZHP)が生産したvalsartan(元々はノバルティスが創製したアンジオテンシン受容体拮抗剤)のAPIから、新たな不純物が発見されたことを公表した。まだ調査が始まったばかりである模様で、FDAは、既にGE化して多くの会社が販売しているvalsartan製品を片っ端から検査する構えだ。検査方法を公開し、メーカー自身や他国の審査機関にも検査を促す考え。

この不純物は、N‑nitrosodiethylamine(NDEA)。一部製品の自主回収の原因となったN-Nitrosodimethylamine(NDMA)と類似した物質で、WHOが癌原性物質の可能性を指摘している。このため、日本であすか製薬が行った自主回収はクラスI、つまり、重篤な健康被害又は死亡の原因となりうる状況と分類されている。

尤も、少なくともNDMAに関しては、混入したvalsartanを数年間服用した患者でも実際に癌になるリスクはそれほど高くないようだ。肉や魚を焼く時の焼き焦げも癌原性物質とされるが、あまり懸念されていないことと似ている。

NDMAはZHP社が生産プロセスを変更した後のロットに混入していたが、NDEAは変更前であるようだ。変更自体が何年も前の話なので、結局、癌原性物質の混入が何年も放置されていたことになる。実際のリスクは小さいにしても、ヒヤリハットの段階でブレーキをかけないともっと深刻な事態になってからでは遅い。この機会に、徹底した調査が必要だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: EMAのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年9月9日

2018年9月9日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Delta-Fly、株式公開へ 
  • キイトルーダ、メルケル細胞がんに適応拡大申請 
  • ヌーカラ、COPD適応拡大ならず 
  • 大日本住友のADHD用薬はFDAに承認されず 
  • リルゾールの経口液が米国でも承認 
  • 汎erbB阻害剤がEUでも承認 
  • サノフィ、買収した企業のaTTP治療薬がEUで承認 


【今週の話題】


Delta-Fly、株式公開へ
(2018年9月6日発表)

徳島のDelta-Fly Pharmaは、10月12日に東京証券取引所マザーズ市場に上場すると発表した。新株発行で資金調達し、抗癌剤パイプラインの臨床開発に充てる。

メディシノバを連想させる変わり種で、他社が開発や新用途開拓を見送ったコンパウンドをあの手この手で再生させようとしている。代表取締役社長と専務、社外取締役の一人が大鵬薬品出身で、大鵬薬品が諦めたプロジェクトも複数開発している模様だ。

リードコンパウンドのDFP-10917はデオキシシチジン誘導体で、低量を2週間連続投与すると細胞周期をG2/M期で停止させ、アポトーシスを誘導する。09年頃に大鵬薬品がTAS-917という開発コードでMD Anderson Cencer Centerの主導による結腸直腸がんのフェーズIIを行ったが、有望な結果ではなかった模様で、開発権を返還。Delta-Flyが新たに取り組んだところ、MD Andersonの急性骨髄性白血病(AML)フェーズI/II試験でなかなか良い結果が出た。

フェーズIIポーションでは強化化学療法不適の再発難治AMLに6mg/m2/日の点滴静注を14日間連続投与して14日間休薬するスケジュールで施行したところ、総合反応率48%となった。内訳は、CR6例、CRi7例、CRp1例。メジアン生存期間は7.4ヶ月。G3以上の有害事象は骨髄抑制が中心。

09年のフェーズIIとの違いは、適応と、投与スケジュールが前回は14日連続点滴、7日間休薬と回復期が短かったこと。あの手この手で何とかしてシーズを生かそうと工夫する同社らしさが表れている。

17年3月に日本新薬に日本の独占開発権を供与。今年度は米国でフェーズIII、日本でもフェーズIを開始する予定。

類薬では、Cyclacel Pharmaceuticals(Nasdaq:CYCC)が第一三共からTAS-917の経口プロドラッグとされるsapacitabineを導入、高齢AML患者を対象にdecitabine併用フェーズIIIを実施したが、昨年、フェールした。完全反応率はdecitabine単剤投与群より改善したようなので、血液癌と言えども反応率だけで評価するのは危険という気もする。

次に、DFP-14323(ubenimex)は四半世紀の販売歴を持つ日本化薬の白血病補助療法薬ベスタチンの適応拡大。EGFR活性化変異を持つ末期非小細胞性肺癌に低量EGFR阻害剤と併用するフェーズIIを日本で実施している。ubenimexはEiger Pharmaceuticals(Nasdaq:EIGR)が米国でリンパ浮腫のフェーズIIを行っており、ドラッグ・リポジショニングの競演状態だ。

大鵬薬品のカラーが一番出ているのはDFP-11207。5-FUプロドラッグのEM-FUと5-FUの零落を遅らせるCDHP、そして5-FUの活性化を促進するリン酸化剤CTAを一つのモルキュールにした経口剤。分子が大きく吸収がゆっくりであるためTmax上昇に伴う血小板減少症のリスクが小さい可能性がある。米国でフェーズII準備中。

地味なプロジェクトが多い中で異彩を放っているのはDFP-10825。thymidylate synthaseの発現を抑制するショートヘアピンRNA介入で、前臨床段階。Delta-Flyは開発品の試験論文を積極的に発表しており、過去の論文を読むと、元々はアデノウイルスベクターで細胞に導入する、ティーエスワンの効果を増強する補助薬を想定していたようだ。その後、リポソーム法に変更し、卵巣癌や胃がんの腹膜播種転移を治療する方針にリポジショニングした。

大鵬薬品色が強い割には大鵬も大塚HDも出資していない。異色のバイオベンチャーであるだけでなく異色のスピンアウトかもしれないDelta-Flyがハエではなく谷底に突き落とされた獅子の子のように飛翔できるかどうかは、これらのパイプラインの成否に加えて、新たなパイプライン(リポジショニング・アイディア)の獲得も重要な課題になる。

リンク: Delta-Fly Pharmaのホームページ


【承認申請】


キイトルーダ、メルケル細胞がんに適応拡大申請
(2018年9月4日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を難治性局所進行性/転移性メルケル細胞がんの成人小児に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。第二相のKEYNOTE-017試験で観察されたORR(総合反応率)及び反応持続性に基づいて加速承認を求めたもので、優先審査指定され、審査期限は12月28日となった。

メルケル細胞がんと言えば、メルクとファイザーが共同開発販売している抗PD-L1完全ヒト化抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)のリード・インディケーションだ。今日では尿路上皮癌でも承認されているが、この適応は非小細胞性肺癌と並んで抗PD-1/抗PD-L1抗体の激戦区となっている。それだけに、Keytrudaが承認されたら脅威になりそうだ。

余談になるが、ドイツと米国のメルクは元々は本社と米国拠点という関係だった。米国は20世紀の二度の大戦中にドイツ企業の米国資産を差し押さえ、第二次大戦終了後も返還しなかっただけでなく、ドイツ本社の米国進出を一定期間、禁止して、奪取した知的財産を自国の産業育成の礎としたのである。ドイツのシエーリングの米国拠点は再編を経てシェリング・プラウそして米国メルクの一部となった。一方、シエーリングは米国で名を名乗ることが許されず、バーテックスとして活動していた。その後、同じく米国資産没収を受けたバイエルと合併した。

二人のメルクは、米国とカナダでは米国のメルクが、それ以外ではドイツのメルクが「メルク」を名乗り、もう片方は「MSD」を名乗る取り決めになった。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ヌーカラ、COPD適応拡大ならず
(2018年9月7日発表)

グラクソ・スミスクラインは重度好酸球性喘息症の維持療法薬のNucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を好酸球性COPD用薬として米国で適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。第三相試験は一本でp値が0.036とアルファの0.04ををぎりぎりクリアしたがもう一本はフェールした。このため、7月に開催されたFDA諮問委員会では薬効の挙証が不十分なので承認すべきではないと判定した委員が19人中16人と、圧倒的多数だった。

リンク: GSKのプレスリリース

大日本住友のADHD用薬はFDAに承認されず
(2018年9月1日発表)

大日本住友製薬は、米国子会社のサノビオンがADHD治療薬として承認申請したdasotralineがFDAに承認されなかったことを明らかにした。成人試験は第三相がフェールし追加試験中だが、6~12歳を組入れた試験は第2/3相と第3相の二本で4mg/日群が偽薬比有意な臨床スコア改善効果を示しており、どちらも承認されなかったのは意外感がある。

dasotralineは抗鬱剤Zoloft(sertraline)の活性代謝物の光学異性体で、当初はセレトニンやドパミン、ノルエピネフィリンのトリプル再取り込み阻害剤と考えられていたが、セレトニン・トランスポーターに対する占有率は低いことが判明。臨床開発も鬱病はPOC試験がフェールした。一方で、小児の第3相では不眠症の有害事象発生率が20%と偽薬の4%を上回っており、Zoloftやアミン系ADHD薬のAdderallやVyvance並みである。

薬物動態面の特徴は半減期が47~77時間と長いこと。一日一回投与で血中濃度が定常状態に達するまで2週間かかる由だ。となると、上記の小児試験の薬効評価が15日目というのは、効果がフルに発揮されないのではないか?逆に言えば、患者は長期間服用するのだから、用量を減らして当初の副作用リスクを緩和し、定常状態に達してから1~2週間後に評価すれば十分ではないか?

なぜ承認されなかったのか不明だが、敢えて邪推するなら、この点かもしれない。

リンク: 大日本住友のプレスリリース(和文、pdfファイル)


【承認】


リルゾールの経口液が米国でも承認
(2018年9月6日発表)

イタリアのItalfarmacoの米国子会社、ITF Pharmaは、Tiglutik(riluzole)がFDAに承認されたと発表した。筋委縮性側索硬化症治療薬Rilutekの新製剤で、錠剤ではなく経口液なので、病気が進行し嚥下障害の患者には適している。

リンク: ITF Pharmaのプレスリリース(pdfファイル)

汎erbB阻害剤がEUでも承認
(2018年9月4日発表)

Puma Biotechnology(NYSE:PBYI)は、不可逆的汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤のNerlynx(neratinib)がEUで早期乳癌の延長アジュバント用薬として承認されたと発表した。ホルモン受容体とher2が陽性でHerceptin(trastuzumab)ベースのアジュバント療法を完了してから1年以内の患者が適応になる。

第三相試験は成功したが、サブグループ分析の結果、ホルモン受容体陰性やHerceptin治療後1年以上間が空いた群のデータが見劣りしたため、先に承認された米国と同様に、限定的な適応となった。

neratinibは元々はワイスが第三相に進めたが同社を合併したファイザーが11年にPumaにライセンスした。PumaのCEO兼社長兼取締役会会長であるAlan Auerbchはウエルズ・ファーゴのアナリストから転じてCougar Biotechnologyを設立、前立腺癌用薬Zytiga(abiraterone acetate)の開発に成功し会社毎ジョンソン・エンド・ジョンソンに9.7億ドルで売却した実績を持つ。

リンク: Pumaのプレスリリース

サノフィ、買収した企業のaTTP治療薬がEUで承認
(2018年9月3日発表)

サノフィは、AblynxのCablivi(caplacizumab)がEUで後天性血栓血小板減少性紫斑症(aTTP)の治療薬として承認されたと発表した。von Willebrand因子と血小板の相互作用を阻害する二価抗体で、可変領域の軽鎖がないナノボディ。

第三相急性期治療試験では毎日血漿交換と免疫抑制剤に加えて初回は静注、その後は皮注したところ、血小板反応が偽薬群より早く、二次的評価項目である臨床的効能でも4項目中2項目で有意差があった。更に、aTTP関連死亡/再発/主要血栓塞栓イベントのリスクも74%小さかった。主な有害事象は鼻血や歯肉出血。

米国でも審査中で審査期限は来年2月6日。

Ablynxはサノフィがノボ ノルディスクなどとの競争に打ち勝って39億ドルで今年6月に子会社化した。

リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)





今週は以上です。

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2018年9月2日

2018年9月2日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ESC:ビンダケルがaTTR心筋症の転帰を改善 
  • ファイザー、抗ミオスタチン抗体の開発中止 
  • バイエル、TRK阻害剤を欧州で承認申請 
  • ApoC-IIIアンチセンス薬は審査完了に 
  • MSD、新規HIV/AIDS薬と合剤が承認 
  • 新規抗生剤が米国で承認 
  • バイエル、持効性第8因子が米国で承認 
  • ノバルティスとギリアドのCAR-TがEUで承認 
  • アルナイラムのsiRNA、欧州でも承認 
  • Ultragenyxのムコ多糖症VII型用薬がEUで承認 
  • タフィンラーとメキニストの併用がEUで黒色腫のアジュバントに承認 
  • FDA、SGLT2阻害剤のフルニエ壊疽リスクを警告 


【新薬開発】


ESC:ビンダケルがaTTR心筋症の転帰を改善
(2018年8月27日発表)

ファイザーは、Vyndaqel(tafamidis meglumine、和名ビンダケル)のaTTR-CM(トランスサイレチンアミロイド心筋症)試験の結果をESC欧州心臓学会とNew England Journal of Medicine誌で発表した。3年生存率が偽薬群を大きく上回る良好な内容だった。日欧で適応拡大申請に向かうとともに、米国で承認申請されるだろう。診断・認知されていない疾患なので医療従事者の啓蒙活動が重要だろう。

aTTR-CMはトランスサイレチン(TTR)機能不全の代表的な合併症。TTRを構成するテトラマーが遺伝子変異や加齢により分離しやすくなり、アミロイドとして蓄積してしまう。心筋症を合併すると死亡リスクが高まる。患者数は先進国合計で40~50万人、うち遺伝性は10000~15000人で、多くは60歳以上の男性。診断されているのは1%未満で、多くは原因不明の心臓疾患として扱われてしまう由。

VyndaqelはTTRに結合する天然の物質の類縁体で構造を安定化する。11年にEUで、13年には日本でも、TTR家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬として承認された。一方、米国は、FDAも諮問委員会も、進行抑制効果の挙証不十分と判定、審査完了となった。

今回の試験は、遺伝性と加齢性のaTTR-CM441人(平均年齢74歳)を偽薬、20mg、80mg群に2:1:2割付して、偽薬群と試験薬(二群のデータをプール)の30ヶ月間の全死亡・心血管関連入院リスクを比較した。Finkelstein-Schoenfeld法という方法を採用して、全死亡リスクに加重するとともに、通常のtime-to-first-event分析ではなく、複数回発生したイベントも考慮することによって検出力を高めた由。結果は、p=0.0006と有意な差があった。

もっと分かりやすい、全死亡だけの解析は偽薬群が42.9%、試験薬群は29.5%、Cox法によるハザードレシオは0.70、p=0.0259。心血管関連の入院は年0.70回対0.48回、ポアソン相対リスクレシオは0.68、p<0.00016だった。カプランマイヤーカーブを見ると、18ヶ月を過ぎた辺りから両群の曲線が解離し始めており、薬効が発揮されるまで時間がかかるようだ。心機能悪化が進んだ患者に対する効果は鮮明ではなかった。20mg群も80mg群も全生存や心血管入院改善効果は大差なさそうだ。

二次的評価項目の6分歩行テストやKCCQ-OSスコアでも有意な差があった。治療関連有害事象による治験の一時的離脱の発生率は26.0%対20.1%で、試験薬群のほうが少なかった。

Vyndaqelは今回の適応で欧米で希少疾患用薬指定されており、米国ではファーストトラックとブレークスルーセラピー指定、日本では先駆け審査指定されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: Mathew S. Maurerらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

ファイザー、抗ミオスタチン抗体の開発中止
(2018年8月30日発表)

ファイザーは、抗Myostatin(GDF-8)ヒト化抗体のPF-06252616(domagrozumab)をデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に用いる第二相試験を実施していたが、主評価項目でも二次的評価項目でも効果が見られず、開発を中止すると発表した。

Myostatinは筋細胞が過剰に成長しないよう制御する。ブレーキを外して筋力を増強するアイディアは以前からあり、ファイザーが買収したワイエスは、ケンブリッジ・アンチボディ社との共同研究の成果である抗GDF-8完全ヒト化抗体、MYO-029(stamulumab)でベッカー型など様々なタイプの筋ジストロフィーの臨床試験を行ったが、08年に開発中止した。

現在も、ロシュがBMSからライセンスしたMyostatin標的adnectin、RG6206/BMS-986089で第2/3試験を実施中。ペプチドリームも川崎医科大学とMyostatin標的ペプチドの共同研究を行っている。ワイスの失敗を何度も繰り返すのは愚かだ。ファイザーは臨床試験の結果や考察を適切な形で発表し教訓を残すべきだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認申請】


バイエル、TRK阻害剤を欧州で承認申請
(2018年8月27日発表)

バイエルは、LOXO-101(larotrectinib)を欧州で承認申請した。適応は、成人・小児のNTRK遺伝子融合を持つ局所進行性・転移性固形癌。米国コネチカット州のLoxo Oncology(Nasdaq:LOXO)から共同開発商業化権を取得したもので、米国は3月にローリング承認申請を完了、承認後は共同販促する。米国外はバイエルが独占販売。

NTRKはTRK(tropomyosin receptor kinases)を定義する遺伝子で、ETV6など他の遺伝子と融合してレガンド結合ドメインを喪失すると異常活性化して癌の原因になる。臨床試験では唾液腺腫、幼児線維肉腫、甲状腺、結腸、肺、黒色腫、紡錘細胞肉腫、胆管癌、筋周皮腫など様々な部位のNTRK遺伝子融合陽性癌に投与したところ、中央評価によるcORR(一定期間持続した客観的反応率)が75%と、良好だった。有害事象による投与量削減は13%の患者で実施、ほぼ全てが神経認知性有害事象によるものだった。

リンク: バイエルのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ApoC-IIIアンチセンス薬は審査完了に
(2018年8月27日発表)

Akcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)と親会社のIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)はApoC-IIIの発現を妨げるアンチセンス薬、Waylivra(volanesorsen)を家族性カイロミクロン血症候群の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。

臨床試験ではトリグリセライド値が大きく減少したが、グレード3以上の血小板減少症・出血が8例と、1割程度の患者で発生した。このため5月に開催された内分泌代謝薬諮問委員会は賛成12人、反対8人と意見が別れた。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


MSD、新規HIV/AIDS薬と合剤が承認
(2018年8月30日発表)

MSDが新開発したNNRTI(非核酸系逆転写阻害剤)、Pifeltro(doravirine)と一日一回一錠の服用で完結する三剤合剤、Delstrigo(doravirine、lamivudine、tenofovir disoproxil fumarate)がFDAにHIV/AIDS治療薬として承認された。新患も可。

臨床試験では治療効果が既存のNNRTIやプロテアーゼ阻害剤を用いるレジメンと非劣性だった。

NNRTIは交叉耐性があり、doravirineも例外ではない。CYP3Aを強力に誘導する薬の併用は禁忌。合剤は、lamivudineに過敏反応歴も禁忌。また、B型肝炎感染症の増悪リスクが枠付き警告されている。

リンク: MSDのプレスリリース

新規抗生剤が米国で承認
(2018年8月27日発表)

Tetraphase Pharmaceuticals(Nasdaq:TTPH)は、FDAがXerava(eravacycline)を18歳以上の複雑性腹腔内感染症の治療薬として承認したと発表した。テトラサイクリン系の全合成フルオロサイクリンで、CREなどのMDRにも活性を持つ。、臨床試験では効果が既存薬と非劣性だった。10月に発売予定。欧州でも7月にCHMPが肯定的意見を出している。複雑性尿路感染症でも第三相試験が実施されたがフェールした。

リンク: Tetraphase社のプレスリリース

バイエル、持効性第8因子が米国で承認
(2018年8月30日発表)

バイエルは、Jivi(damoctocog alfa pegol、和名ジビ)がFDAに承認されたと発表した。A型血友病のルーチン予防や出血治療に用いる。遺伝子組換え型血液凝固第8因子にポリエチレングリコールを結合して作用を長期化したもので、頻繁に出血する患者の予防目的でルーチン投与する場合は、最初は週二回、管理良好なら5日毎に延ばすことができる。欧州でも承認審査中。日本でも第二部会を通過した。

リンク: バイエルのプレスリリース

ノバルティスとギリアドのCAR-TがEUで承認
(2018年8月27日発表)

ノバルティスとギリアド・サイエンシズはCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞療法)の開発販売で鎬を削っているが、欧州では同時に承認を取得した。ノバルティスは供給体制の確立が遅れている模様で現状の売上高は見劣りするが、日本も含めて開発生産受託会社を活用する方針のようなので、巻き返しに期待したい。

ノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel)はペンシルバニア大学からライセンスしたCAR-Tで、B細胞特異的に発現するCD19に結合する抗体の短鎖可変領域とTCRの共刺激伝達領域であるCD137(4-1BB)及びCD3ゼータチェーンをスペーサーで繋げた遺伝子を、患者から採取したT細胞にレンチウイルスベクターを用いて導入。リンパ枯渇処理を行った患者に戻すと体内で増殖し癌細胞を攻撃する。

適応は、18~25歳の再発性難治性B細胞性急性リンパ性白血病と、成人の再発性難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫。米国では昨年8月に承認、日本でも今年4月に再生医療等製品として承認申請された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

一方、ギリアドのYescarta(axicabtagene ciloleucel)は昨年、Kite Pharmaを119億ドルで買収して入手した。抗CD19短鎖可変領域とCD28、CD3ゼータをリンカーで結合したもので、適応は再発性難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)。米国では昨年10月に承認。日本の製造開発販売権は第一三共が持っている。

リンク: ギリアドのプレスリリース

アルナイラムのsiRNA、欧州でも承認
(2018年8月30日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ALNY)のOnpattro(patisiran)がEUで遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスの成人のステージ1または2の多発性神経障害を治療する薬として承認された。米国でも同月に承認されており、siRNA(小分子介入RNA)という新しいタイプの薬が欧米で支持された。3週毎に点滴静注する。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

Ultragenyxのムコ多糖症VII型用薬がEUで承認
(2018年8月27日発表)

希少疾患用薬に特化した新興製薬会社、Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)は、Mepsevii(vestronidase alfa)がEUでムコ多糖症VII型の治療薬として承認されたと発表した。世界で150人未満の超希少疾患で、臨床試験ではグリコサミノグリカンデルマタン硫酸の排泄が6割減少し、様々な症状を評価するマルチ・ドメイン・レスポンダー・インデックスも改善傾向が見られた。米国では昨年11月に承認された。

リンク: Ultragenyxのプレスリリース

タフィンラーとメキニストの併用がEUで黒色腫のアジュバントに承認
(2018年8月29日発表)

ノバルティスのbraf阻害剤Tafinlar(dabrafenib、和名タフィンラー)とMEK1/2阻害剤Mekinist(trametinib、和名メキニスト)を併用で黒色腫の完全切除後のアジュバント療法として使うことがEUで承認された。ステージIIIのBRAF V600E/K変異を持つ癌が適応になる。臨床試験では無再発生存期間が有意に伸び、全生存期間の好ましいトレンドも見られた。米国では今年4月に、日本は6月に、承認済み。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、SGLT2阻害剤のフルニエ壊疽リスクを警告
(2018年8月29日発表)

FDAは、二型糖尿病治療薬の一種であるSGLT2阻害剤に関して、複数のフルニエ壊疽症例が報告されていることを公表した。第一号が承認された13年3月から今年5月の約5年間に12例。2017年にSGLT2阻害剤の処方を受けた患者は米国だけで170万人なので、発生頻度は極めて低い。二型糖尿病は皮膚の感染症リスクを伴うのでそれがフルニエ壊疽の原因であっても不思議はないが、他の二型糖尿病薬では34年間に6例とのことなので、SGLT2阻害剤の性器感染症リスクが影を落としているのだろう。医師や患者はこのリスクを意識して症状や兆候をモニターする必要がありそうだ。

リンク: FDAの発表






今週は以上です。

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