2020年12月31日

第980回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンが英国で供給可能に 
  • COVID-19:リジェネロンの抗体医薬は入院患者の一部には無益ではない 
  • BMS、オプジーボの小細胞性肺癌適応を撤回 
  • Aprea社、p53再活性化剤の第3相がフェール 
  • Chi-Med社、米国でもsurufatinibの承認申請に着手 
  • CARA社、透析患者の掻痒治療薬を承認申請 
  • ファイザー、ローブレナを米国でも一次治療に申請 
  • BMS、欧州でZeposiaを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請 
  • Alkermes、ALKS 3831を再承認申請 


【今週の話題】


COVID-19:アストラゼネカのワクチンが英国で供給可能に
(2020年12月30日発表)

アストラゼネカは、COVID-19 Vaccine AstraZeneca(開発コードAZD1222/ChAdOx1 nCoV-19)の非常時供給がMHRA(英国の薬品承認機関)に承認されたと発表した。医薬品規制法第174条に基づくもので、有害な病原体、毒物、化学物質、放射性物質の拡散に対処するために、未承認の薬品等の供給を一時的に容認するもの。18歳以上に、0.5mLを4-12週間おいて2回、筋注する(三角筋が好ましい)。元日から接種が始まる見込み。

先に承認された二種類のmRNAワクチンとの違いは、遺伝子組換え型複製不能チンパンジー・アデノウイルス(二重連鎖DNAウイルス)をベクターとしてスパイク蛋白の遺伝子とtPA leaderを細胞に導入、スパイク蛋白を発現させること。

英国で実施された第2/3相髄膜菌結合ワクチン対照試験とブラジルの第3相偽薬対照試験のプール分析では、ワクチン効率(リスク削減効果、効果がフルに発揮される2回目接種の14日後からの感染症例数を対照群と比較)が70%だった。一回当たり5x10^10ウイルスパーティクルを投与する。当初、至適用量の誤認があったために初回に半量しか接種しなかったサブグループのワクチン効率が90%と高かったため、アストラゼネカはこのレジメンに期待したが、MHRAは本来の用量を採用した。この用量のワクチン効率は62%程度と、先に承認された二種類のmRNAワクチンの約95%と比べて見劣りする。また、65歳以上の高齢者に関するデータは限定的だ。

接種間隔の長さが印象的だが、これは臨床試験のプロトコルを反映している。MHRAの医療従事者向け情報に掲載されている、接種間隔と二回目接種後の幾何抗体価(GMT)の関係を分析したデータ(n=819、ベースライン値は57)によると、12週以上だった154人は63,181と、9-11週、6-8週、6週未満の各サブグループより2-3倍高く、間を開けた方が良い可能性を示している。一方で、一回接種によるワクチン効率は5-6割なので、二回目接種までのプロテクションが手薄になる。

有害反応は一回目より二回目のほうが軽微で発現率が低い由。mRNAワクチンと逆なのが興味深い。ベクターや接種間隔の違いが影響したのかもしれない。

アストラゼネカのワクチンの長所は、第一に、通常の冷蔵庫で最長6ヶ月、保存可能であること。第二に、オリジンがオックスフォード大学であるためか、アストラゼネカは儲けゼロで供給すること。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: MHRAの医療従事者向け情報

COVID-19:リジェネロンの抗体医薬は入院患者の一部には無益ではない
(2020年12月29日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-COV2(casirivimabとimdevimab)のCOVID-19入院患者試験のアップデートを行った。ハイフロー酸素や人工呼吸器装着の患者の成績が今一つだったため、新規組入れはローフロー酸素(鼻カニューレにより酸素飽和度が93%超)の患者に限定されたが、そのうち、ベースライン時点で抗SARS-CoV-2抗体を保有していなかった血清陰性サブグループ217人に関して無益性検定を行ったところ、無益ではないとの結果になった。

具体的には、死亡・人工呼吸器装着のハザードレシオが偽薬比0.78、80%信頼区間は0.51-1.2、片側p<0.3となった。一回点滴投与するが、一週間後の時点ではリスクが半減していた。この試験は標準療法アドオン試験で、remdesivirもコルチコステロイドも被験者の7割前後が使用していた。

用量は8g群と2.4g群が設定されたが、効果は用量相関がなく、上記は二群合計を偽薬と比べたもの。高用量は注射箇所反応やそれによる離脱がやや多く、2.4gがベストということになる。米国でEUA(非常時使用認可)を受けている軽中等症外来患者に対する用量も2.4g。

尚、血清陽性サブグループ270人ではハザードレシオが0.98と、便益が見られなかった。

REGN-COV2は外来試験でも血清陽性患者には十分な効果がなかった。EUAの適応は血清陰性に限定されていないが、エビデンスが重なるにつれて見直されるだろう。

入院患者試験は全滅は免れたが、95%ではなく80%信頼区間でも1を跨いでおり、今回のサブグループ解析でも有意性はない。解析対象症例数が当初の予定より大きく減少したため検出力不足に陥ったのかもしれない。オックスフォード大学が入院患者を対象とするRECOVERY試験を行っており、リジェネロンがハイフロー酸素・人工呼吸器患者の組入れを中止した後もプロトコルを変えずに続行している。既に2000人以上を組入れており、ファイナル・アンサーが出そうだ。

同社とイーライリリーの抗体医薬は米国政府が購入して国民に無償で提供しているが、需要は期待外れであるようだ。外来患者は陽性判明した時点では自宅などにいるので、点滴治療を受けるためには、他者に感染しないよう細心の注意を払って、医療施設に行く必要があることがボトルネックのようだ。入院患者なら問題ないのだが、両剤とも、入院患者試験で良い結果が出ていないのが裏腹だ。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

BMS、オプジーボの小細胞性肺癌適応を撤回
(2020年12月29日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の小細胞性肺癌における米国の適応を撤回すると発表した。18年に三次治療薬として加速承認されたが、市販後コミットメントである実薬対照試験がCheckMate-331試験(二次治療のtopotecan/amrubicin対照試験)も、CheckMate-451試験(進展型小細胞性肺癌で一次治療を受け安定化した患者のYervoy併用維持療法試験)も、フェールした。

米国は第1相、第2相試験の反応率などサロゲートマーカーに基づいて加速承認する場合、市販後に延命またはそれに準じる効果を確認するよう求める。しかし、承認された用途で改めて偽薬対照試験を行うのは倫理上問題がないとは言えず、かといって実薬対照試験は優越性を確認するにはハードルが高く、非劣性検定試験は試験自体のハードルが高く制約も多いため、製薬会社のリスクが高い。このため、かっては市販後コミットメントを果たさない、加速審査の食い逃げが新興企業を中心に頻発していた。

腫瘍学諮問委員会が厳しいスタンスを取ったこともあり、加速承認する時点で市販後コミット試験の患者組入れが相当程度進展していることが求められるようになったが、今度は、フェールした時の対応が難問になった。試験のデザインや実施内容が適切でなかったことが原因かもしれないので、もう一度チャンスを与えるか、承認を取消すか、判断が難しい。11年にロシュのAvastin(bevacizumab)の転移性乳癌が適応撤回となったが、日欧では依然として承認されている。その後も市販後コミットメント試験のフェールが散見されるが、今回のように、撤回に至るのは珍しい。

Opdivoと同じ抗PD-1/PD-L1抗体ではロシュのTecentriq(atezolizumab)が進展型小細胞性肺癌の一次治療薬として19年に日米欧で承認。20年にはアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を進展型小細胞性肺癌の一次治療に白金薬などと三剤併用することが日米欧で承認。再発がんでも19年にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が三次治療薬として米国で加速承認と、他の治療手段が増えてきたことも適応撤回の背景になっていそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【新薬開発】


Aprea社、p53再活性化剤の第3相がフェール
(2020年12月28日発表)

p53は腫瘍抑制因子として知られているが、一部の癌では、その遺伝子であるTP53が変異して発現が減少している。p53を再活性化する手法を研究しているAprea Therapeutics(Nasdaq:APRE)は、APR-246(eprenetapopt)の第3相TP53変異型MDS(骨髄異形成症候群)試験を行ったが、フェールした。azacitidine併用とazacitidine単剤の完全寛解率を比較したところ、各33.3%(95%CI:23.1-44.9%)と22.4%(95%CI:13.6-33.4%)となり、p=0.13だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


Chi-Med社、米国でもsurufatinibの承認申請に着手
(2020年12月29日発表)

Hutchison China MediTech(AIM/Nasdaq:HCM、通称Chi-Med)は、米国でもHMPL-012(surufatinib)のローリング承認申請に着手したと発表した。21年上期に完了する予定。血管新生に係るVEGFRやFGFRに加えて、マクロファージによる免疫に係るCSF-1Rも阻害する小分子薬で、膵臓あるいはそれ以外の部位の神経内分泌腫瘍(NET)に用いる。中国で実施された第3相試験では、膵NETにおけるPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.49、非膵NETでは0.33だった。G3以上の有害事象は高血圧症や蛋白尿など。

近年、中国の新薬開発ベンチャーの米国進出が目立つが、Chi-Medも今回の申請が初になる。上記中国試験をメインに、米国試験を補助的エビデンスとして承認申請することでFDAの了解を得ている由だ。

中国では12月30日に非膵NET用薬として承認された。膵NETも審査中。欧州でも21年に承認申請の予定。

リンク: 同社のプレスリリース

CARA社、透析患者の掻痒治療薬を承認申請
(2020年12月28日発表)

米国コネチカット州のCara Therapeutics(Nasdaq:CARA)は、Korsuva(difelikefalin)をFDAに承認申請した。末梢作用性カッパ・オピオイド受容体アゴニストで、透析期慢性腎疾患患者の中重度掻痒の治療に用いる。優先審査を要求している。

週3回、12週間に亘って静注した第3相試験では、奏効率が一本では51%(偽薬群は31%)、もう一本は54%(同42%)だった。

日韓以外の国や米国のうちフレゼニウスの透析センター向けの商業化権はVifor Fresenius Medical Care Renal Pharmaが保有している。

リンク: 同社のプレスリリース

ファイザー、ローブレナを米国でも一次治療に申請
(2020年12月28日発表)

ファイザーは、Lorbrena(lorlatinib、和名ローブレナ)をALK融合遺伝子陽性の非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大申請を米国で行い受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4月だが、Real-Time Oncology Reviewの対象になったので前倒し承認もありそうだ。日本でも今月、一変申請を行った。臨床試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が同社のXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を大きく上回った。

ALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤で、18~19年にALK阻害剤歴を持つALK融合遺伝子陽性非小細胞性肺癌用薬として日米欧で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、欧州でZeposiaを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
(2020年12月28日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Zeposia(ozanimod)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療薬としてEUで適応拡大申請し受理された。今年3月に米国で、5月にはEUでも再発型多発硬化症用薬として承認されたS1PR1/5調節剤で、米国でも適応拡大に向かうと推測される。第3相試験では前治療が十分奏効しなかった患者を組入れて、寛解導入効果と寛解維持効果を検討した。共同主評価項目の一つである臨床的寛解奏効率は18.4%と偽薬の6.0%を有意に上回った。寛解維持率は、各群の応答者を組入れて試験薬群に関しては継続投与群と偽薬スイッチ群に再無作為化割付けすることによって、継続投与の必要性を検討したところ、継続投与群は37.0%、偽薬群は18.5%と有意な差があった。尚、偽薬群は再燃による離脱率が34%と試験薬群の14%よりだいぶ高く、試験完了率が55%と試験薬群の80%よりだいぶ低かった。

リンク: BMSのプレスリリース

Alkermes、ALKS 3831を再承認申請
(2020年12月29日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、ALKS 3831を成人の統合失調症や双極障害一型の治療薬として再承認申請し、受理された。非定型向精神薬olanapineにミュー・オピオイド受容体拮抗剤samidorphanを加えることで体重増加副作用を緩和した合剤で、11月に工場関連の理由で審査完了通知を受領したが、臨床・非臨床データに関する指摘事項はなかった模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2020年12月25日

第979回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • Rhythm社、MC4Rアゴニストの適応拡大試験が成功 
  • ロシュ、Ang2/VEGF-A二重特異抗体のDME試験が成功 
  • BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール 
  • 抗TSLP抗体の経口ステロイド減量試験がフェール 
  • アステラス、ゾスパタの一次治療試験がフェール 
  • JNJ、BCMA標的CAR-Tのローリング申請に着手 
  • ビベグロンが米国でも承認 
  • FDA、第2のエボラ治療薬を承認 

訂正:第978回で、BioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチンについて、規格上はバイアル一瓶が5回分だが実際にはもっと入っていてFDAが使い残しを集めて使うことを認めた、と書きましたが、正確には、6回分または7回分を取れる場合は使うことを容認しましたが、保存剤不添加のため、異なったバイアルの使い残しを寄せ集めて一回分に充てることは認めませんでした。お詫びして訂正します。第978回は修正済みです。

【新薬開発】


Rhythm社、MC4Rアゴニストの適応拡大試験が成功
(2020年12月22日発表)

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)はImcivree(setmelanotide)の第3相バルデー・ビードル症候群(BBS)・アルストレム症候群(AS)試験が成功したと発表した。主評価項目の体重10%減少奏効率は34.5%となり、平均では6.2%減量となった。但し、ASにおける効果は確認できなかった。

この試験はBBSを32人とASを6人組入れて、52週間に亘って一日一回皮注する効果を検討した。但し、一部の患者は偽薬を14週間続けた後に試験薬を遅延開始した。薬効解析対象は52週間の治療を完了した28人と遅延開始群(試験薬の投与は52週間未満)の3人を合わせた31人。

BBSは28人中11人、39%が奏功した。ASは3人の何れも奏功しなかった。治療時発現有害事象は注射箇所反応と悪心嘔吐などで、深刻なものはなかった。有害事象による治験離脱は5人で、うち1人は偽薬期間中の離脱だった。

Imcivreeはメラノコルチン4受容体アゴニスト。今年11月に米国でPOMC、PCSK1、またはLEPRの欠乏による肥満症の体重管理薬として承認された。米国の対象患者数は数百人から数千人の超希少疾患用薬で、優先審査バウチャを取得した。欧州でも承認審査中。

BBSとASは常染色体性劣性遺伝性疾患で、肥満は症状の一つ。BBSの米国患者数は2000人程度と推測されている。

リンク: 同社のプレスリリース

ロシュ、Ang2/VEGF-A二重特異抗体のDME試験が成功
(2020年12月21日発表)

ロシュは、RG7716(faricimab)の第3相糖尿病性黄斑浮腫(DME)試験が二本とも成功したと発表した。6.0mgを8週毎に硝子体注射する群と、投与頻度を16週毎まで広げることが可能なフレックス群の1年後の最良矯正視力を、実薬であるリジェネロン・ファーマシューティカルズ/バイエルのEylea(aflibercept、和名アイリーア)を2.0mgを8週毎に硝子体注射する群と二重盲検で比較したところ、非劣性が確認された。また、フレックス群では1年経った段階で過半の患者が16週毎投与に移行していた。

RG7716はAngiopoietin-2とVEGF-Aに結合する二重特異抗体。VEGF-AとPlGFに結合するEyleaより効果が高いのかと思ったが、それほどでもなさそうだ。Eyleaもフレックス法が可能なので、米国では未承認のようだがフレックス同士の直接比較も見たかった。

RG7716は加齢性黄斑変性の第3相も進行中。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール
(2020年12月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第3相CheckMate-548試験の独立データ監視委員会が延命効果を確認することはできないであろうと判定したことを公表した。盲検解除する予定。

この試験は多形性膠芽腫(GBM)の切除後の標準的アジュバント療法にOpdivoを追加する効用を検討した。代表的なGBM用薬であるtemozolomideはMGMT(DNAの修復に係る酵素)のプロモーター部位がメチル化されているタイプには効果が高いがされていないタイプには弱いとされる。このため、BMSは前者のタイプは548試験に組入れて放射線療法とtemozolomideによる化学療法の併用にOpdivoを追加する手法を偽薬追加と比較し、後者のタイプは498試験で放射線療法にOpdivoを追加する手法とtemozolomide追加を比較した。結果は思わしくなく、498試験は昨年5月に主評価項目である全生存期間の解析がフェールした。548試験も昨年9月、共同主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がフェールした。

残りの共同主評価項目である全生存期間は全症例とベースライン時点でコルチコステロイドを使っていない患だけの解析が行われたが、今回、どちらも目的達成できない見込みになった。尚、治験中止につながるような安全性懸念は観察されていない。

Opdivoは二次治療bevacizumab対照試験もフェールした。脳腫瘍に有効な新薬はなかなか現れない。

リンク: 同社のプレスリリース

抗TSLP抗体の経口ステロイド減量試験がフェール
(2020年12月22日発表)

アストラゼネカとアムジェンは、AMG 157/MEDI9929(tezepelumab)の第3相SOURCE試験がフェールしたと発表した。吸入ステロイドや長期作用性ベータ作用剤に加えて経口ステロイドも服用している重度喘息症患者を組入れて、更に偽薬または210mgを4週毎に皮注して、喘息発作が起きないよう管理しながら経口ステロイドの服用量を減らすことを試みたが、有意な差がなかった。治験デザインが適切でなかった可能性があるようだ。

tezepelumabはアレルギー性疾患のマスタースイッチとも形容されるTSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)に結合する抗体医薬で、IL-4やIL-5、IL-13などTh2細胞性サイトカインを広範に抑制する。重度喘息症の喘息増悪を抑制する効果を検討した第3相NAVIGATOR試験が成功したので、後期第2相試験と合わせて承認申請に向かうものと推測される。好酸球増多を伴う喘息症だけでなく、150個/mcL未満と低値の喘息症にも有効であることが長所。但し、今回のフェールは訴求力の点で減点材料になりそうだ。

12年にアストラゼネカがアムジェンから共同開発販売権を取得した。

リンク: 両社のプレスリリース

アステラス、ゾスパタの一次治療試験がフェール
(2020年12月21日発表)

アステラス製薬は、Xospata(gilteritinib、和名ゾスパタ)の第3相急性骨髄性白血病一次治療試験の独立データ監視委員会が無益性により中止勧告したことを明らかにした。FLT3変異陽性を持つ集中治療不適な患者にazacitidineと併用するレジメンの延命効果をazacitidine単剤とオープンレーベルで比較したが、目的達成の可能性は著しく低いと認定された。

XospataはFLT3阻害剤。18~19年に日米欧で再発難治FLT3変異陽性急性骨髄性白血病に用いることが承認された。一次治療試験のほかに二次治療試験や寛解導入療法後/造血幹細胞移植後の維持療法試験なども進行している。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdf)


【承認申請】


JNJ、BCMA標的CAR-Tのローリング申請に着手
(2020年12月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、JNJ-68284528(ciltacabtagene autoleucel)を再発難治多発骨髄腫用薬として米国でローリング承認申請に着手した。中国系のLegend Biotech(Nasdaq:LEGN)からライセンスしたCAT-T(キメラ抗原受容体T細胞)で、ブルーバード・バイオ/BMSが7月に承認申請したidecabtagene vicleucelと同様に、多発骨髄腫細胞で高発現するBCMA(B細胞成熟抗原)を標的としている。

3次までの治療歴を持ち最終治療抵抗性の多発骨髄腫を日米の施設で組入れた試験の97人のデータが今年のASH(米国血液学会)で発表された。ORR(客観的反応率、独立評価委員会判定)は95%、CAR-T特有の副作用であるサイトカイン放出症候群の発現率は95%と高く、G3-G4は5人とそれほど多くなかったが、G5が1例あった。治療関連有害事象による死亡も6例あった。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


ビベグロンが米国でも承認
(2020年12月23日発表)

大日本住友製薬が昨年、子会社化し来年第1四半期にも完全子会社化する予定のUrovant Sciences(Nasdaq:UROV)は、FDAがGemtesa(vibegron)を承認したと発表した。成人の切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱の治療に用いる。臨床試験では切迫や失禁の頻度を偽薬比有意に抑制した。実薬であるtolterodineを投与する群も設定され、Gemtesaとの正式な比較は行われていないが、数値上は同程度の効果だった。

8年早く承認されたアステラス製薬のMyrbetriq(mirabegron、和名ベタニス)と同じベータ3作用剤。血圧上昇や高血圧の有害事象発現率が偽薬並みでCYP2D6相互作用もない点が長所。MSDからライセンスした。日本ではキョーリンが18年にベオーバとして承認取得、キッセイと共同開発販売している。

リンク: Urovantのプレスリリース

FDA、第2のエボラ治療薬を承認
(2020年12月21日発表)

FDAは、Ridgeback BiotherapeuticsのEbanga(ansuvimab-zykl、通称mAb114)をザイール種エボラウイルス疾患の治療薬として承認した。コンゴ民主共和国(旧ザイール)で行われた開発品同士の直接比較試験で、28日死亡率が35.1%と対照群(Mapp Biopharmaceuticalの3種類の抗体カクテルであるZMapp)の49.7%を有意に下回った。尚、10月に承認されたリジェネロン(Nasdaq:REGN)の3種類の抗体カクテル、Inmazebは33.5%で対照群(ZMappの追加設定群)の51.3%を有意に下回った。一方、ギリアド(Nasdaq:GILD)のremdesivirは53.1%で有意差がなかった。尚、ZMappの効果は確立していないので上記は偽薬と読み替えるのが保守的である。

臨床試験で観察された有害事象はエボラの症状と類似しており、副作用かどうかは明確ではない。

RidgebackはSAC Capitalなどヘッジファンドの出身者が設立した新薬開発会社。Ebangaはコンゴ民主共和国で感染後に回復し生き残った人の血清から単離された抗体で、NIH(米国立衛生研究所)から権利を取得、NIHの下部組織から助成を受け、開発した。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

2020年12月19日

第978回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:米国でもワクチン接種を開始 
  • COVID-19:ModernaのワクチンもEUA 
  • COVID-19:テムセルのCOVID-19試験がフェール 
  • COVID-19:インサイト/ノバルティスのJAK阻害剤はフェール 
  • MSD/エーザイ、キイトルーダとレンビマの内膜腫試験が成功 
  • アッヴィ、アトピー試験でリンヴォックがデュピクセントに勝つ 
  • ノボ、EUでもセマグルチドを肥満症に承認申請 
  • アムジェン、KRAS-G12C阻害剤を承認申請 
  • 武田、好酸球性食道炎用薬を承認申請 
  • PCSK9のRNA介入薬は工場査察遅延で審査完了に 
  • FDA諮問委員会、エンレストのHFpEF適応拡大に前向きな評価 
  • CHMP、エンハーツなどの承認を支持 
  • ギリアド、米国ではジセレカのリウマチ適応を断念 
  • FDA、レルゴリクスを前立腺癌に承認 
  • FDA、タグリッソを肺癌摘出後療法に承認 
  • FDA、Xpovioを多発骨髄腫の二次治療に承認 
  • GSK、ベンリスタがループス腎炎に承認 
  • MacroGenics、her2を標的とするFc最適化抗体が承認 
  • 日光角化症治療薬が承認 


【今週の話題】


COVID-19:米国でもワクチン接種を開始
(2020年12月11日発表)

FDAは、ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)が創製しファイザーと共同開発しているCOVID-19ワクチン、BNT162b2を12月11日にEUA(非常時使用認可)した。12月14日に接種を開始。16歳以上が適応。当初は医療従事者や高齢者施設入居者が優先される。

ファイザーは今月と来年第1四半期に1億回分(5000万人分)を供給する。米国政府は5億回分を追加するオプションを保有しているはずだが、第2四半期の分は行使しないうちに欧州や日本などに取られてしまったようで、不足分はModerna(Nasdaq:MRNA)などのワクチンで補うことになる。政府は多額の補助金の交付先であるModernaに追加発注するとともに、Catalentなどの受託生産会社に対して、他の薬の生産を先送りしてでもワクチンやその成分の生産を優先するよう要請したようだ。

冷蔵庫での保存可能期間は5日程度と短く、輸送や長期保管はファイザーが開発した零下70℃(±10℃)に保つ専用ボックスで最長10日間保存できる。箱を開けた後でも5日毎に氷を補充すれば最長30日間保存できるようだ。専用ボックスはドライアイスが蒸発して外に出るので航空輸送に適さないのではないかとの指摘があり、現に、いち早く接種を開始した英国ではEU離脱前の港湾の渋滞に巻き込まれ輸入が遅延しているらしい。英国はドイツなどの生産拠点に近いのでまだ良いが、コンテナ船だと4週間かかる日本は航空輸送できるのだろうか?

BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを一部修飾してリピッド・ナノパーティクルに封入したもの。30mcgを21日置いて2回、筋注する。バイアル一瓶が5回分となっているが、実際には大目に入っている模様であり、FDAは、当面の供給量が限られていることから、6~7回分、取ることを認めた。但し、保存剤が入っていないこともあり、異なったバイアルの使い残しを寄せ集めて一回分に充てることは認めていない具体的な安全性担保策はファイザーと協議する。

有害事象はワクチンに付き物の注射箇所反応、疲労、頭痛、筋痛、悪寒、関節痛、発熱など。概して二回目のほうが発生率が高い。高齢者は発生率が若干低い。第2/3相試験における深刻な有害事象の発生率は、16-55歳では0.4%(偽薬群は0.3%)、56歳以上では0.8%(0.6%)だった。

第2/3相試験では、症候性感染症の罹患数(ベースライン時点で感染していなかった人を対象に、2回目の接種の7日後からカウント)が偽薬群の162人(感染率0.9%)に対してワクチン群は8人に留まった。ワクチン効率(感染リスク削減率)は95%、65歳以上に限定しても94%、75歳以上だけの集計では100%だった。また、感染し来院した時点で重症だった症例は偽薬群が3人、ワクチン群は1人だった(症例数が少ないせいか、2回目接種前の感染も含めた各9人と1人という数値が広く流布されている)。

効果については確立していないものが少なくない。まず、持続性。この試験は平均2ヶ月足らずしか追跡していない。感染者が自分で作る抗体は経時的に減少していくことが知られており、ワクチンが誘導する抗体も長期間保たないかもしれない。一方で、液性免疫が減衰しても細胞性免疫は長期間続くかもしれない。インフルエンザ・ワクチンのように毎年接種する必要があるのか、2年に一回なのか、半年に一回なのか、今後の検証が必要だ(海外の報道で、接種した医療従事者が『ずっと感染を防ぐことができるのだから副作用を2~3日我慢するのは容易』とコメントしていたが、誤解を招きかねない)。

第二に、無症候性感染予防効果が十分に検討されていないこと。ワクチンはウイルスが体内で増殖するのを抑え、咳などの症状が出るのを防ぐ。咳が出なければ飛沫感染のリスクも下がるはずだが、COVID-19は無症候性感染者がおそらく症候性感染者と同じくらいいて、そのような人からも感染することが知られている。ワクチンの予防効果の一部は、単に症候性感染が無症候性感染にシフトしているだけかもしれないので、感染防止効果はもっと小さいかもしれない。

オックスフォード大学/アストラゼネカのAZD1222の英国第2/3相試験では毎週RT-PCR検査を行って無症候性感染を掬いあげたが、対照群(英国試験では髄膜炎菌ワクチンを接種)における発生率は症候性感染と同程度と高いのにもかかわらず、ワクチン効率は症候性感染よりだいぶ低かった。

図表:AZD1222の感染予防効果

ワクチン群感染率対照群感染率ワクチン効率95%信頼区間
初回半量投与例:
 症候性感染症0.2%2.2%90.0%67.4, 97.0
 無症候性感染症0.6%1.5%58.9%1.0, 82.9
標準用量投与例:
 症候性感染症0.6%1.6%60.3%28.0, 78.2
 無症候性感染症1.0%1.0% 3.8%-72.4, 46.3
注:第2/3相COV002試験の結果。
出所:Voyseyら(Lancet、2020年)より作成。


ワクチン効率が経時的に低下していく可能性も含めて、ワクチンは『遊びのライセンス』でも『免疫パスポート』でもないことを肝に銘ずるべきである。

第三に、合併症や潜在的な後遺症を防ぐ効果は検討されていない。COVID-19は診断時の症状が重くなくても突然悪化することがあるが、臨床試験では診断時の重症例しかカウントしてない。感染時の死亡リスクも症例不足で良く分からない。軽快後も味覚臭覚異常が数ヶ月間続いたり、心筋炎など肺以外の臓器に病変が残った症例報告が複数出ているが、感染時の症状発現を抑制できれば後遺症も抑制/短縮化できるのか、分からない。

第四は、サブグループにおける効果や安全性。免疫低下者や免疫抑制剤利用者、15歳以下の小児における効果は不明。治験では感染歴を持つ人にも有益だったが症例数が少ないため確立したとは言えない。

安全性に関しても未解決の問題が残っている。妊婦に危険であることを示すシグナルはないが、授乳も含めて、安全性が確立したとはいえない。尤も、米国の学会などは、妊婦は感染時の重症化リスクが高いので、接種を躊躇すべきでないと呼びかけている。

このワクチンに重いアレルギー反応を起こしたことのある人は禁忌だが、他のワクチンや鶏卵・ピーナツなど食品のアナフィラキシー歴を持つ人はどうなのか、良く分からない。第2/3相試験ではアナフィラキシー歴は除外条件だったからだ。FDAは、接種を行う場合はepinephrineなどのアナフィラキシー治療薬を準備するよう念を押した。CDC(連邦政府の疾病管理予防センター)は重度アレルギー歴のある人は事前に医師と相談し、接種後は通常の15分ではなく30分様子を見ることを推奨している。

接種開始後、英国では2名、米国でも2名の医療従事者が接種後に重度アレルギー反応を起こしたと報じられている。英国の2名はepinephrineを携行していた由なので、過去に何らかの重度アレルギー反応歴があるのだろう。米国の2名のうち1名はアレルギー歴はないとのことだが、接種の10分後にアナフィラキシー反応が現れ、epinephrineとステロイドで間歇的に治療を受けたが、未だ退院していないようだ。4例目は接種の10分後に目の腫脹や意識朦朧、喉のかすれが現れた。epinephrineとfamotidine(H2ブロッカー)、diphenhydramine(抗ヒスタミン)による治療を受けて1時間足らずで退院した。

Moderna社のワクチンでは、ワクチン関連深刻有害事象として2例の顔面腫脹が報告された。何れも美容用皮膚充填剤注入歴があり、免疫反応の可能性があるようだ。二人とも軽快したが、該当する人には注意を促すべきだろう(誰が伝えるかは難問だが)

第2/3相試験ではワクチンによる疾病増強(ワクチンによって感作された人が感染すると免疫が過剰反応して重症化する現象)を疑わせるシグナルは出ていないが、症例数が少なく、発症後の追跡期間も十分ではないだろうから、まだ油断はできないだろう。デング熱ワクチンなどで発生したのは免疫誘導が不十分だったからとも言われているので、数ヶ月経って免疫が低下した段階で感染した患者をよく追跡して、重症患者は減らせるが重症になると危機的状態/死亡例が多い、などということがないよう、確認する必要があるだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 医療従事者向けファクトシート
リンク: ファイザーとBioNTechのプレスリリース

COVID-19:ModernaのワクチンもEUA
(2020年12月18日発表)

FDAは、Moderna(Nasdaq:MRNA)のmRNA-1273をCOVID-19ワクチンとしてEUA(非常時使用認可)した。18歳以上が対象。前日にはVRBPAC(ワクチン等生物学的製品諮問委員会)が承認の当否を検討、21人中20人が承認に賛成、棄権が1人と圧倒的多数が支持した。一週間前のBioNTech/ファイザーのBNT162b2に関する票決は22人中賛成17人、反対4人、棄権1人で反対票もあったが、接種実績が少ない16-17歳も対象にすることに反対する委員がいたからで、ワクチン自体の問題ではなさそうだ。今回の棄権1票を投じたのはNIH(米国立衛生研究所)所属の感染症や病理学を専門とする医学博士で、ワクチンを広範囲にEUAすること自体に反対である模様だ。BNT162b2の諮問委員会では反対票を投じている。

議論が集中したのは、第3相試験の参加者がEUA後にワクチン接種を望んだ場合に、どう対応するか。追跡期間は2ヶ月程度と異常に短いので本来なら盲検解除せずに長期間、追跡するのがベストだが、接種を禁じるのは臨床研究の倫理に反する可能性がある。ファイザーは、個々の被験者が接種対象になった段階で偽薬群の患者にワクチンを接種していないことを通知し、自発的に接種するのを容認する考えだが、ModernaはEUAと同時に盲検解除する考えを示したため、先週以上の議論になった。結論は出ず、FDAがメーカーと協議して決めることになる。

盲検を維持する(偽薬群の患者のワクチン接種を抑制する)のは事実上、難しい。そもそも、これらのワクチンは8割前後の確率で注射箇所痛が出る。偽薬は1割前後なので、被験者はどちらを接種したのか、ある程度の検討が付くだろう。接種を禁じても無断で受けてしまうかもしれない。結局、私たちはCOVID-19ワクチンの2ヶ月を超える期間における有効性や安全性を知ることはできないだろう。

mRNA-1273はSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを修飾してリピッド・ナノパーティクルに封入したワクチン。BNT162b2のように超低温で保存する必要がないので物流保存面では扱いやすい。輸送・長期備蓄は零下20℃(通常の医療用冷凍庫)で6ヶ月、医院では2-8℃(通常の冷蔵庫)で30日間安定的に保存できる。

NIHが主導した第3相試験では、27817人をワクチン群と偽薬群に無作為化割付して二回目接種からメジアン2ヶ月強、追跡した。100mcgを4週置いて二回筋注し、二回目の接種の14日後以降の症候性感染を観察した。

結果は、偽薬群の感染者185人に対してワクチン群は11人で、ワクチン効率は94.1%だった。18-64歳のサブグループでは95.6%、65歳以上では86.4%と若干下がるが、95%信頼区間は90-96%の範囲でオーバーラップしている。

重症症例は各群30人とゼロだった(但し、最終解析後にワクチン群で重症例が1人、報告され、確認作業中)

主な有害事象の発現率は、注射箇所痛が91%、疲労68%、頭痛63%、筋痛60%、関節痛45%、悪寒43%など。深刻有害事象の発生率は1.0%で偽薬群と同じだった。

ワクチン関連と見なされる深刻有害事象は4例で、難治性悪心嘔吐が1人、顔面腫脹が2人、リウマチ性関節炎が1人。リウマチ以外は解消した。顔面腫脹2人は美容用皮膚充填剤の注入歴を持っており、これが関与した可能性がある。

BNT162b2の第2/3相試験ではベル麻痺が4例発生した(偽薬群はゼロ)。mRNA-1273の第3相でも3例発生している(偽薬群は1例)。米国における罹患率は1万人当たり3人程度なので、これくらいは発生しても異常ではないが、市販後監視の要チェック項目だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Moderna社のプレスリリース
リンク: Moderna社の諮問委員会結果に関するプレスリリース(12/17付)

COVID-19:テムセルのCOVID-19試験がフェール
(2020年12月17日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB)は、remestemcel-Lの危機的COVID-19感染症試験がフェールしたと発表した。18歳以上の人工呼吸器を必要とする300人を米国の施設で組入れて、偽薬または200万個/kgを3日置いて2回、点滴静注して、30日全死亡を43%削減する効果を立証する予定だったが、180例の中間解析で、達成の可能性は著しく小さいと判明した。

remestemcel-Lは成人健常者の骨髄から抽出した間葉系幹細胞を培養したもの。日本で移植片宿主病の治療薬テムセルとして販売されているが、米国では二回、承認申請したが承認されなかった。

11月にノバルティスにCOVID-19を含む急性呼吸窮迫症候群用途での開発販売生産権を供与することで合意したが、まだ実施していないので、キャンセルになるかもしれない。

リンク: Mesoblastのプレスリリース(pdfファイル)

COVID-19:インサイト/ノバルティスのJAK阻害剤はフェール
(2020年12月14日発表)

ノバルティスは、骨髄線維症などの治療薬として承認されているJAK1/2阻害剤、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)の第3相COVID-19試験、RUXCOVIDがフェールしたと発表した。12歳以上の挿管/ICU入室していないCOVID-19感染者432人を組入れて、5mgを一日二回、14日間(医師の判断で更に14日間延長可)経口投与する効果を29日間に亘って偽薬と比較したが、死亡、人工呼吸器管理、またはICU入室した患者の比率が12.0%と偽薬群の11.8%と大差なかった。

ruxolitinibはインサイト(Nasdaq:INCY)から米国外での開発販売権をライセンスしたもの。JAK1/2阻害剤ではイーライリリーがインサイトからライセンスしてリウマチ性関節炎などの治療薬として商業化したOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)が、11月に、酸素投与/人工呼吸器管理の2歳以上の患者にremdesivirと併用するEUA(非常時使用認可)を取得している。同じJAK1/2阻害剤でありながら明暗が分かれたが、オフターゲット作用の違いが影響した可能性がありそうだ。また、COVID-19感染症の試験はremdesivirでも米国試験が成功してWHO試験がフェールするなどチグハグが目立っており、成功した試験でも軽症患者から人工呼吸器管理まで全ての段階の患者における有効性は確立していない。本来ならもっとサブグループに分けて検討すべきなのかもしれないが、残念なことに、そんなことを言っている暇がないのが現状だ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【新薬開発】


MSD/エーザイ、キイトルーダとレンビマの内膜腫試験が成功
(2020年12月16日発表)

VEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を共同開発販売しているエーザイとMSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)と併用で行った第3相子宮内膜腫二次治療試験、KEYNOTE-775が成功したと発表した。治癒的手術不能で白金薬による治療歴を持つ患者をKeytruda(200mgを3週毎点滴静注)・Lenvima(20mgを一日一回経口投与)併用群と医師が選んだ薬(doxorubicinまたはpaclitaxel)群に無作為化割付して共同主評価項目のPFS(無進行生存期間)と全生存期間を比較したところ、全集団でも、ミスマッチ修復能を保持しているサブグループの解析でも、有意に上回っていた。データは未公表。

この併用は第2相試験に基づき19年に米国で加速承認されている。第3相の成功で本承認切替えを申請することになるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

アッヴィ、アトピー試験でリンヴォックがデュピクセントに勝つ
(2020年12月10日発表)

アッヴィは、リウマチ性関節炎などの治療薬として承認されているJAK1阻害剤、Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)の後期第3相アトピー性皮膚炎実薬対照試験が成功したと発表した。全身性治療の対象になる中重度の患者を組入れて、第16週までにEASI症状スコアが75%以上改善した患者の比率をリジェネロン/サノフィの抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab、デュピクセント)と比較したところ、各71%と61%、p=0.006と有意な差があった。シーケンシャルに行われた副次的評価項目の解析では当初2週間の改善や、掻痒や湿疹の軽快でも、有意な差があった。

この試験では、日欧では承認されているが米国では未承認の30mg一日一回投与が採用されたためか、深刻な有害事象の発生率が2.9%対1.2%と数値上上回った。短期間の試験であるせいか、この薬の要注意点である悪性腫瘍や心臓疾患、静脈血栓は発生しなかったが、インフルエンザによる気管支肺炎による死亡1例が治療時発現有害事象とされた。

Rinvoqは今年10月に日本で中重度アトピー性皮膚炎の適応追加申請が行われた。

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認申請】


ノボ、EUでもセマグルチドを肥満症に承認申請
(2020年12月18日発表)

ノボ ノルディスクは、米国に続いてEUでもsemaglutideを肥満症の体重管理薬として承認申請した。BMIが30kg/m2以上、または27kg/m2以上で一つ以上の体重関連併存疾患を持つ患者に、カロリー抑制食事療法や運動療法と併用する。米国では優先審査バウチャーを用いたため来夏にも承認される可能性がある。

semaglutideは二型糖尿病薬Ozempic(和名オゼンピック)の活性成分で週一回皮注用のGLP-1作用剤。Ozempicは一回0.5mgまたは1mgを投与するが、肥満症用途では2.4mgまで漸増していく。68週間の第3相試験三本では体重がベースラインの100~105kgから9~16%低下し、偽薬より6~12%多く低下した。離脱試験では、20週間のランイン期間中に2.4mgまで増量できた、902人中803人の患者を継続群と偽薬スイッチ群に無作為割付して48週間追跡したところ、継続群の体重は更に7.9%低下したが、偽薬群は6.9%増加した。

リンク: 同社のプレスリリース

アムジェン、KRAS-G12C阻害剤を承認申請
(2020年12月16日発表)

アムジェンはAMG 510(sotorasib)をKRASの遺伝子にG12C変異を持つ局所進行性/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬としてFDAに承認申請した。G12C変異はそれだけで腫瘍化をもたらすドライバー・ミューテーションと見なされており、非小細胞性肺癌線維腫の13%、結腸直腸癌の3-5%、その他の癌では1-2%で見られる。阻害するために結合すべき部位が中々見つからなかったが、アムジェンを筆頭に、複数のコンパウンドが臨床入りした。

New England Journal of Medicine誌で刊行された第1/2相試験の中間解析では、KRAS-G12C変異非小細胞性肺炎に960mg/日を投与した34例(メジアン2治療歴)のORR(客観的反応率)は35.3%だった。承認申請に用いられたデータは1月のIASLC(国際肺癌学会)で発表する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

武田、好酸球性食道炎用薬を承認申請
(2020年12月16日発表)

武田薬品は、Eohilia(budesonide)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。承認されれば米国で初の好酸球性食道炎治療薬となる。

好酸球性食道炎は免疫性疾患で、症状は区々だが多くは嚥下障害を伴う。Eohiliaはコルチコステロイドの経口懸濁液で、粘性を持つため食道局所的に作用する。FDAから希少疾患用薬指定とブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


【承認審査・委員会】


PCSK9のRNA介入薬は工場査察遅延で審査完了に
(2020年12月18日発表)

ノバルティスは、Leqvio(inclisiran)をアテローム硬化性心血管疾患の再発予防と家族性高脂血症の治療薬として承認申請し、EUでは高コレステロール血症と混合異脂血症の治療薬として今月、承認されたが、FDAからは審査完了通知を受領した。欧州の生産委託先の工場査察がCOVID-19の影響で全くできていない模様だ。年内もスケジュールが決まる可能性がありそうだが、承認が来年にずれ込むことになった。

inclisiranはRNA介入薬のスペシャリストであるアルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)からライセンスした、PCSK9のmRNAを切断する皮注用薬。メディスンズ・カンパニーを今年、97億ドルで買収して入手した。

リンク: 同社のプレスリリース

FDA諮問委員会、エンレストのHFpEF適応拡大に前向きな評価
(2020年12月16日発表)

FDAは心臓腎臓薬諮問委員会を招集し、ノバルティスのNEP・アンジオテンシンII受容体拮抗剤、Entresto(sacubitril/valsartan)の適応を駆出力低下型の心不全(HFrEF)だけでなく駆出力維持型(HFpEF)にも拡大することについて意見を求めた。意外なことに12人の委員が賛成し反対は一人だった。審査期限は21年第1四半期。

何故意外だったかと言うと、エビデンスとなるPARAGON-HF試験は僅かにフェールしたからだ。心血管死・心不全入院のハザードレシオがvalsartan群と比べて0.87とそれほどよくなく、p=0.059なので統計的に有意ではなかった。FDAは担当医の評価を第三者が査読する過程でサンプル数が減少し治験の検出力が低下したことなどに配慮している模様だ。

FDAは既にGE化したアルドステロン拮抗剤、spironolactoneもフェールしたTOPCAT試験をエビデンスとしてFDA主導でHFpEFに適応拡大する考えのようだ。トランプ政権下で顕著になった承認のハードル低下の実例がまた一つ増えそうだ。

FDAの質問はこれらの試験が『何らかの適応を支持する十分なエビデンスを提供しているか』という茫洋としたものなので、最終的な適応範囲は今後の検討待ちになりそうだ。Entrestoの場合、PARAGON-HF試験の対象は駆出力45%以上、HFrEFにおけるエビデンスであるPARADIGM-HF試験は40%以下が対象なので、40-45%が空白地帯になっている。また、Entrestoの便益は駆出力が低いほど大きいように見える。ASE(米国心エコー図学会議)は53%から73%を正常値と見做しており、このレンジの患者も含むべきかどうかなど、悩ましい点が多い。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

CHMP、エンハーツなどの承認を支持
(2020年12月11日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会合で、第一三共のエンハーツなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Enhertu(trastuzumab deruxtecan、和名エンハーツ)はher2陽性転移乳癌用薬として承認申請され、加速評価により条件付き承認が支持された。抗her2抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体で、2種類以上の抗her2薬歴を持つ患者が適応になる。アストラゼネカが共同開発販売している。米国で昨年12月、日本では今年3月に、承認された。臨床試験では間質性肺疾患のリスクが見られたが、胸部画像所見がCOVID-19感染症と類似しているため、5月に日本で注意が促された。

リンク: EMAのプレスリリース

同じく条件付き承認が支持されたのが、Dynavax(Nasdaq:DVAX)の慢性B型肝炎ワクチン、Heplisav B。先天性免疫に係るTLR9を作動するアジュバントを配合して免疫原性を増強した。接種回数が2ヶ月間に2回と、既存ワクチンの6ヶ月間に3回より少ないことが長所。一方、適応は18歳以上と、需要の中心である小児向けが外されている。

リンク: EMAのプレスリリース

BMSの子会社となったセルジーンのInrebic(fedratinib)はJAK2阻害剤。原発性、または二次性(真性多血症や本態性血小板血症から移行)の骨髄線維症に用いることが支持された。サノフィが2010年に買収したTargeGenの開発品で、臨床試験でウェルニッケ脳症が発生したことなどから開発中止となったが、共同発明者の一人が治験参加者の希望に応じて開発を続行、承認申請まであと一歩の段階で開発会社をセルジーンに契約一時金11億ドル、承認達成報奨金12.5億ドル、売上目標達成報奨金最大45億ドルの巨額で売却した経緯を持つ。米国では昨年8月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのLumoxiti(moxetumomab pasudotox)は再発・難治有毛細胞白血病薬として例外的環境条項に基づき承認することが支持された。プリン・ヌクレオシド・アナログを含む2種類以上の治療歴を持つ患者が適応になる。NCI(米国立癌研究所)が主導した第3相で持続的完全寛解率が30%だった。治療時発現有害事象による治験離脱は溶血性尿毒症症候群(HUS)によるものが5%の患者で、毛細管漏出症候群(CLS)が3%で、発生した。

有毛細胞腫で高発現するCD22を標的とする抗体フラグメントにPE38細胞毒を結合した抗体薬物複合体。05年にGenencor社から権利を取得したケンブリッジ・アンティボディを06年にアストラゼネカが買収した。米国では18年に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

イーライリリーのRetsevmo(selpercatinib、米国名Retevmo)はRET阻害剤。免疫療法歴且つ又白金薬歴を持つRET融合陽性非小細胞性肺癌の成人、sorafenib歴且つ又lenvatinib歴を持つRET融合陽性甲状腺癌の成人、そしてcabozantinib且つ又vandetanib歴を持つRET変異陽性甲状腺髄様腫の成人と12歳以上の青少年に条件付き承認することが支持された。

19年に80億ドルで買収したLoxo Oncologyの主要パイプラインの一つ。米国では今年5月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

ヴィーヴ・ヘルスケアのRukobia(fostemsavir)は多剤抵抗性HIV感染症のサルベージ療法。第3相試験で48週奏効率が54%だった。15年にBMSから買収した抗HIV薬パイプラインの一つで、HIVのエンベロープのgp120に結合して宿主細胞に結合・侵入するのを妨げる、アタッチメント・インヒビター。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスの腎臓薬開発販売会社、Advicenne (Euronext: ADVIC)のSibnayalはクエン酸カリウムと炭酸水素カリウムの顆粒合剤で、遠位腎細管性アシドーシスの治療に処方薬として用いることが支持された。1歳以上が適応になる。服用頻度が一日二回と、既存薬の3-6回より少なく、夜間に服用する必要がなく、忍容性も上回るようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

Seagen(Nasdaq: SGEN、旧称シアトル・ジェネティクス)のTukysa(tucatinib)はher2チロシン・キナーゼ阻害剤。her2を標的とする二剤以上の治療歴を持つ局所進行/転移her2陽性乳癌に用いることが支持された。臨床試験では、trastuzumab、pertuzumab、およびtrastuzumab emtansineによる治療歴を持つ患者にtrastuzumabおよびcapecitabineと併用したところ、PFS(無進行生存期間)や全生存期間がtrastuzumab・capecitabine・偽薬併用群を有意に上回った。G3以上の有害事象は下痢や肝機能検査値異常など。18年に6億ドルで買収したCascadian Therapeutics(旧称Oncothyreon)のコンパウンド。米国では今年4月承認。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大が支持されたのは、

・MSDのKeytruda(pembrolizumab)。マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-H)、またはミスマッチ修復機能欠損(dMMR)を持つ切除不能/転移結腸直腸癌の一次治療に化学療法と併用する。
・独メルク/ファイザーのBavencio(avelumab)。局所進行/転移尿路上皮種で白金ベースの一次治療後に癌が進行しなかった患者の維持療法。二週毎に800mgを60分点滴静注する。
・アッヴィのRinvoq(upadacitinib)。DMARDs不応/反応不十分な活性期乾癬性関節炎に単剤またはMTXと併用で投与する。
・ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)。精神的非常事態にある中重度の大うつ病の急速治療に標準治療薬と併用で点鼻投与する。ASPIRE I/II試験に基づくものなので、米国で昨年10月に承認された、自殺思慮を持つ大うつ病の患者の鬱症状の急速治療と類似した適応と推定される。
・Swedish Orphan Biovitrum(SOBI)の Doptelet(avatrombopag)。難治性原発性慢性免疫性血小板減少症の成人に用いる。元々は山之内アメリカで開発されていたスロンボポイエチン受容体アゴニストで、変遷を経てSOBIが19年に企業買収を通じて入手した。
・サノフィのPlavix/Iscover(clopidogrel)。中高度リスク(ABCD2スコア4以上)の一過性脳虚血発作、またはマイナー(NIHSS≦3)な虚血性脳卒中を起こしてから24時間以内の患者にアスピリンと併用で21日間投与する。その後は単剤投与。二本の試験で主要虚血イベントや脳卒中がアスピリンだけの群より3割程度、少なかった。

最後に、EUは7月にギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir)を条件付き推奨したが、適応を『明確化』した。酸素補給を必要とする肺炎を合併した、12歳以上かつ体重40kg以上の小児と成人のCOVID-19感染患者が適応になるが、酸素補給の内容を、治療開始時にロー/ハイ・フロー酸素または非侵襲的換気管理を受けていることと限定した。承認の根拠となった臨床試験では、人工呼吸器/ECMO管理下の患者には便益が見られなかったことを今になって直視したのだろう。尚、CHMPはWHOが主導したSolidarity試験がフェールしたためremdesivirの再検討を行っているが、進捗に関する発表は未だない。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアド、米国ではジセレカのリウマチ適応を断念
(2020年12月15日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、ベルギーのガラパゴス社から共同開発販売権を取得したJAK1阻害剤、Jyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)について、米国でリウマチ性関節炎薬として承認取得することを断念するとともに、提携範囲を縮小すると発表した。

Jeselecaは今年9月に日欧で中重度活性期リウマチ性関節炎治療薬として承認されたが、米国は審査完了となった。ラットやイヌの試験で精子形成障害が見られ、申請用量である200mg一日一回投与では十分な安全域を確保できないことが理由。ギリアドはリウマチ性関節炎や過敏性腸症候群の男性患者を組入れて、長期的な精子影響や可逆性を検討しているが、FDAは、もっと大規模な試験を要求しているようだ。

このため、承認取得を断念するとともに、ガラパゴスに1.6億ユーロを払って欧州におけるリウマチ性関節炎や承認申請中の潰瘍性大腸炎の開発販売から撤退し、クローン病の開発は続けるが、乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の開発は中止する。

尚、日本などでの販売権や販売認可は継続保持する考え。日本はエーザイが販売・共同販促しており、来年上期に中重度活性期潰瘍性大腸炎の一変申請を行う考え。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


FDA、レルゴリクスを前立腺癌に承認
(2020年12月18日発表)

FDAは、Myovant Sciences(NYSE:MYOV)のOrgovyx(relugolix)を前立腺癌用薬として承認した。ゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗剤で、経口剤は初めて。

オリジンは武田薬品で、日本では19年に子宮筋腫用薬として承認された。米国では子宮筋腫の治療に際してエストロゲンなどと併用することで副作用を緩和する、アドバック療法が盛んであるため、estradiolやnorethindrone acetateを配合した合剤を開発、欧米で承認審査中。

Myovantは昨年、大日本住友製薬が子会社化した。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、タグリッソを肺癌摘出後療法に承認
(2020年12月18日発表)

FDAは、アストラゼネカのTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)をEGFRの遺伝子にエクソン19欠損またはエクソン21L858R置換を持つ非小細胞性肺癌の切除後アジュバント療法として用いる、適応拡大を承認した。対象となる患者数は日米欧中で6万人と推定されている。ADAURA試験では、無病生存のハザードレシオが偽薬比0.20と大変良好な結果だった。G3以上の有害事象の発現率は10%と偽薬群の3%を上回った。

Tagrissoは上記と同じ変異を持つ転移癌などに承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、Xpovioを多発骨髄腫の二次治療に承認
(2020年12月18日発表)

FDAは、Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のXpovio(selinexor)を多発骨髄腫の二次治療にジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)およびdexamethasoneと併用することを承認した。第3相試験ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が13.9ヶ月とVelcade・dexamethasoneだけの9.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。

承認申請が受理されたのは今年7月で、審査期限より3ヶ月早く承認された。

Xpovioはエクスポーティン1阻害剤。昨年、多発骨髄腫のサルベージ薬として欧米で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

GSK、ベンリスタがループス腎炎に承認
(2020年12月17日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Benlysta(belimumab)を18歳以上のループス腎炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。12年にヒューマン・ジノム・サイエンシズを36億ドルで買収して入手した抗BLyS完全ヒト化抗体で、全身性エリトマトーデス治療薬として米国で承認されてから9年経ったが、需要が再拡大しており、生産能力の増強を進めている。

448人の活性期ループス腎炎患者を組入れた第3相試験では、ステロイドなどを用いる標準療法にBenlystaを追加した群の腎奏効率が43%となり、偽薬追加群の32%を上回った。

リンク: GSKのプレスリリース

MacroGenics、her2を標的とするFc最適化抗体が承認
(2020年12月16日発表)

MacroGenics(Nasdaq:MGNX)は、FDAがMargenza(margetuximab-cmkb)を承認したと発表した。成人のher2陽性転移乳癌で、転移後を含めて2以上の抗her2レジメン歴を持つ患者が適応になる。化学療法と併用する。

エビデンスである第3相SOPHIA試験では、IHC法で3+またはISH法で陽性のher2陽性転移乳癌でHerceptin(trastuzumab)及びPerjeta(pertuzumab)による治療歴を持つ患者に化学療法(capecitabine、eribulin、gemcitabine、またはvinorelbine)と併用したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン5.8ヶ月とtrastuzumab・化学療法併用群の4.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、p=0.033だった。全生存期間の解析は未成熟。

転移乳癌におけるPFSはカプランマイヤーカーブが歪になりがちだ。本試験でメジアン値の差がハザードレシオと比べて小さいのも、この歪みが影響したのだろう。進行の判定は主としてCT画像などに基づいて行うので、プロトコルに則り、症状が増悪しなくても定期的にスキャンして確認することになるが、転移性乳癌でよく見られる現象は、対照群は定期検査時期が来る前に検査を受け進行認定されるケースが試験薬群より多く、試験薬群は定期検査時の進行認定が対照群より多くなる。カプラン・マイヤーカーブを見れば定期検査の時期が分かるくらい、歪なラインになりがちだ。本試験のようなオープンレーベル試験では医師のバイアスが検査のタイミング、ひいては進行認定時期を速めてしまう懸念があるのではないかと私は思う。第三者が盲検で査読しているが、担当医が進行例として報告しなかったら査読の対象にならない。

バイアスの余地が小さい全生存の解析を確認したいが、最終解析は21年上期になる見込み。1年前に発表された中間解析ではハザードレシオ0.89、p=0.326、メジアン値は試験薬群19.8ヶ月、対照群は21.6ヶ月と、統計学的にはまだ評価するには早すぎるとはいえ、それほど印象的なものではない。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

日光角化症治療薬が承認
(2020年12月15日発表)

Athenex(Nasdaq:ATNX)は、FDAがKlisyri(tirbanibulin)を顔や頭皮の日光角化症の治療薬として承認したと発表した。来年第1四半期に提携先のAlmirall社がロンチする予定。

Srcキナーゼ阻害剤プラットフォームを使って創製したSrc・微小管阻害剤の軟膏。第3相試験二本で顔や頭皮の病変に一日一回、5日間塗布したところ、第57日完全寛解率が5割前後と対照群の1割前後を大きく上回った。有害事象は塗布箇所の掻痒や疼痛が各1割前後の患者で発生した。

リンク: Athenexのプレスリリース





今週は以上です。

2020年12月11日

第977回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:FDA諮問委員会がBNT162b2ワクチンの承認を支持 
  • COVID-19:英国でワクチン接種後にアレルギー反応3例発生 
  • COVID-19:オックスフォード大/アストラゼネカのワクチンは高齢者に効くのか? 
  • TG社、糖鎖装飾抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功 
  • イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤の最初の第3相が成功 
  • ASH:ノバルティス、慢性骨髄性白血病新薬の第3相結果を発表 
  • ASH:イエスカルタは低悪性度非ホジキンリンパ腫にも有効 
  • FDA:MRI検査ではマスクの金属を確認すべし


【今週の話題】


COVID-19:FDA諮問委員会がBNT162b2ワクチンの承認を支持
(2020年12月10日開催)

FDAはVRBPAC(ワクチン等生物学的製品諮問委員会)を招集して、ファイザーがCOVID-19ワクチンとしてEUA(非常時使用認可)を求めたドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)が創製したBNT162b2について、意見を聞いた。賛成17名、反対4名、棄権1名となり圧倒的多数が『便益が危険を上回る』、即ち承認に値すると評価した。先に非常時使用認可/条件付き承認した英国やバーレーン、カナダに続いて、米国でもEUA承認・接種開始となりそうだ。

尚、英国で発生したアナフィラキシーについても言及されたようだが、次項でまとめて取り上げる。

BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを一部修飾しリピッド・ナノパーティクルに封入したmRNAワクチン。30mcgを21日置いて2回、筋注する。

16歳以上の健常者約43000人を組入れた第2/3相評価者盲検試験で、症候性COVID-19感染症のリスクを偽薬比95%削減した。但し、追跡期間は2回目の接種の7日後から起算して1.5ヶ月程度であり、半年後、1年後、2年後の予防効果は明らかではない。1~2年に一回接種と想定する声もあるようだ。偽薬群のボランティアの人権を考えれば、承認後に接種するのを禁じる訳にはいかないので、接種者を長期追跡して発症者がいつ頃から増えるか見当をつけるしかないだろう。

忍容性は、深刻有害事象の発生率は0.5%未満と低く、例えば1億人が接種したとすると50万人未満となる。G3以上の有害事象は疲労や頭痛の発生率が各3.8%と2.0%となっている。もっと軽い副反応は多くが経験する。注射箇所反応(84%)、疲労(63%)、頭痛(55%)、筋痛(38%)、悪寒(32%)、関節痛(24%)、発熱(14%)などで、これらの多くは、一回目より二回目の接種後のほうが発生率が高い。尚、欧米ではインフルエンザ・ワクチンも筋注で、慣れているので、日本人とは注射時の感じ方が異なるかもしれない。

ワクチン群でベル麻痺が4例発生、偽薬群はゼロより多かったが、人口全体の発生率と比べると決して高くないとのことだ。

追跡期間が短いことを除けば効果や忍容性に大きな問題はなく、毎日多くの米国人が死亡していることを考えれば承認しない危険を看過できないので、圧倒的多数が支持したのは頷かれる。

棄権1名は、16-17歳の接種実績が限定的であるため適応を18歳以上とすることを提案したが認められなかった。反対4名の中にも同じ理由で反対した委員がいそうだが、1名は、mRNAワクチンという新しい技術を採用しているので長期的な安全性を確認すべきであり、また、接種後に感染すると重症化しやすくなるワクチン誘導性疾患増強の懸念を十分に検討すべきという考えのようだ。

尚、HHS(米国保健福祉省:FDAの上部組織)でワクチンを担当している委員は反対票を投じた。自由闊達に自分の意見を表明できる国は羨ましい。政府の方針に反対しても学術会議から爪弾きされないのだろう。

英国のアナフィラキシー事例に関連して、卵アレルギーやピーナツアレルギーを対象に安全性確認試験を行うよう求める意見もあった。ということは、米国は英国と異なり、他のワクチンや薬品、食品に重度アレルギー反応歴を持つ人も、少なくとも現時点では、禁忌にしない考えなのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:英国でワクチン接種後にアレルギー反応3例発生
(2020年12月9日発表)

英国は12月8日にがファイザーと共同開発したCOVID-19ワクチン、BNT162b2の接種を開始したが、初日にアナフィラキシーが疑い例を含めて3例、報告された。何人が接種したのかは明らかではないが、当初は1日5000~7000人に接種する計画なので、1000人中3人程度の頻度なら想定外ではないだろう。

英国の添付文書や米国の諮問委員会用ブリーフィング資料には記されていないが、報道によると、第2/3相試験におけるアレルギー反応系有害事象発生率は0.63%で、偽薬群は0.51%だったからだ。

その多くは軽中等症だった。深刻例はアナフィラキシー反応・アナフィラキシーショックが両群1名ずつ、薬品過敏症は1名対偽薬群ゼロと、頻度の差は1万人当たり1~2人だ。

但し、この試験では過去にワクチンを接種して重症アレルギー反応を経験した人は除外されている。報道によると、英国の3例のうち疑い例を除く2例は、何れもNHS(国民医療制度)のスタッフで、重度アレルギーの既往があるのか、EpiPenなどのアドレナリン製剤を携帯していたという。何のアレルギーなのか、本当にワクチンのせいなのかは明らかではないが、少なくとも、臨床試験のデータを引用して議論できる症例ではないだろう。幸い、この2人は軽快したようだ。

本件を受けて、MHRA(英国の薬品承認審査機関)は、以下の勧告を行った。

・ワクチンや医薬品、食品に関する即発性アナフィラキシー歴を持つ人は接種すべきではない。一回目の接種でアナフィラキシーが生じたら二回目を接種すべきではない。
・ワクチン接種後に15分間(必要と臨床判断した場合は更に長時間)、モニターする。アナフィラキシーが発生した場合は直ぐにアドレナリンを0.5mg筋注し、支援を求めるとともに、5分ごとに投与を繰り返す。
・他のワクチンと同様に、蘇生機器を備えた施設で接種する。

ついでに付記すると、英国の添付文書的資料では妊婦を禁忌とはしていないが、MHRAは、前臨床試験の結果が明らかになるまで、妊娠や授乳している人は接種しないよう勧告していることが分かった。二回目の接種の2ヶ月後まで妊娠しないようにする。妊娠したかもしれないが未だ分からないというような人はどうすればよいのかは、アドバイスはない。

リンク: MHRAのプレスリリース

COVID-19:オックスフォード大/アストラゼネカのワクチンは高齢者に効くのか?
(2020年12月8日発表)

オックスフォード大学が創製しアストラゼネカと共同開発しているCOVID-19ワクチン、AZD1222の第2/3相試験論文がLancet誌に刊行された。事前に予定していた用量を接種した群ではワクチン効率が62%(95%信頼区間41.0-75.7%)とmRNAワクチンの90%超と比べて見劣りするが、アクシデントにより初回に半量しか接種できなかった2741人は90%(95%CI67.4-97.0)という意外な結果だったため、原因に関する考察が注目されたが、良く分からないようだ。

一番意外だったのは、高齢者に関するサブグループ分析が載っていないこと。56歳以上は全被験者の12%と少ないので自粛したのかもしれないが、ワクチン接種が始まった場合、最優先になるのは高齢者と医療・介護従事者であることを考えれば、無責任といわれてもしかたないだろう。

特に、アストラゼネカが一番評価している初回半量、二回目全量接種した群は、全て18~55歳であり、このレジメンが56歳以上に有効であることを示すエビデンスはないことになる。

同社はEUやカナダで非常事態使用認可/ローリング承認を申請しているが、米国は米国試験の結果が出るのを待つ考え。米国試験も二回とも全量投与したはずなので、初回半量・二回目全量接種レジメンのエビデンスにはならない。困ったものだ。インドは承認しなかったと報じられているが、他の国はどうするのだろうか。

リンク: Merryn Voyseyらの治験論文(Lancet、オープンアクセス、pdfファイル)


【新薬開発】


TG社、糖鎖装飾抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功
(2020年12月10日発表)

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)は、TG-1101(ublituximab)の第3相再発型多発性硬化症試験が成功したと発表した。21年央に承認申請する考え。

TG-1101は糖鎖を装飾してADCC(抗体依存性細胞障害)を増強した、CD20を標的とするIgG1型キメラ抗体。他の抗CD20抗体とは結合するエピトープが異なるようだ。

同社が開発中のPI3Kデルタ阻害剤、TGR-1202(umbralisib)と併用した第3相慢性リンパ性白血病実薬対照試験が成功、年内に承認申請の計画だが、抗CD20抗体のもう一つの用途である多発性硬化症も、今回、第3相が二本とも成功した。96週間のARR(年率再発頻度)が0.10を下回り、対照薬であるサノフィのAubagio(teriflunomide)より50~60%低かった。

他の抗CD20抗体より効果が高そうには見えないが、例えばロシュのOcrevus(ocrelizumab)と比べると、投与頻度は最初の2回は二週おき、その後は6ヶ月おきで同じだが、点滴静注時間が初回(150mg)は4時間以上かけるが、2回目以降(450mg)は1時間と短いことが長所だ(Ocrevusは最初の2回は2.5時間以上、3回目からは2時間以上かけて投与)。

リンク: 同社のプレスリリース

イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤の最初の第3相が成功
(2020年12月9日発表)

イーライリリーはLY3298176(tirzepatide)の第3相二型糖尿病試験を数多く実施しているが、モノセラピー試験の成績が発表された。アメリカ、メキシコ、インド、日本の医療施設で血糖治療薬を服用していない二型糖尿病患者478人を偽薬、5mg、10mg、15mgの4群に無作為化割付し40週間に亘って週一回皮注したところ、Hb1Ac(ベースライン値は7.9%)が各群0.0%、1.9%、1.9%、2.1%低下した。試験薬群はいずれも偽薬比有意。体重(ベースライン値は85.9kg)も各群0.9%、7.9%、9.3%、11.0%と偽薬比有意に低下した。

尚、この試験では2.5mgで開始して4週毎に2.5mgずつ増量する用法が採用されている。

試験薬各群の有害事象による治験離脱率は7%未満。重度低血糖は発生しなかった。尚、この試験はCOVID-19の影響で有害事象以外による離脱が通常より多かった。

薬効は後期第2相試験と概ね同様な結果であり、順調な進捗と言えるだろう。

LY3298176はGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の受容体を作動する。後期第2相では同社のGLP-1作用剤、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)よりHbA1c低下や体重減少が大きかった。一方で、クラス・イフェクトである悪心嘔吐などの胃腸系有害事象の発現率は10mg群と15mg群でTrulicityより高かった。

リンク: 同社のプレスリリース

ASH:ノバルティス、慢性骨髄性白血病新薬の第3相結果を発表
(2020年12月8日発表)

ノバルティスは8月にABL001(asciminib)の第3相試験成功を発表したが、ASH(米国血液学会)でデータを公表した。反応率がファイザーのBosulif(bosutinib、和名ボシュリフ)を有意に上回った。21年上期に承認申請する考え。

ABL001は慢性骨髄性白血病(CML)の多くで見られるBCRとABLの遺伝子融合(フィラデルフィア転座)を標的とするBCR-ABL阻害剤。同社のGleevec(imatinib)などとの違いは、ABLのATPポケットではなくミリストイル・ポケットに結合するアロステリック・インヒビターであること。既存薬抵抗性変異に対する効果が期待されている。

今回のACEMBL試験はフィラデルフィア転座陽性のCMLで慢性フェーズにあるが2種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤歴を持ち最終治療不応不耐の成人233人を、40mgを一日二回経口投与する群と、Bosulif 500mgを一日一回経口投与する群に2対1割付して24週間治療したオープンレーベル試験。MMR(分子遺伝学的大奏効)が25.5%対13.2%、p=0.029と有意に上回った。

ABL001群はベースライン時点で最終治療不応患者や3次以上の治療歴を持つ患者の比率がBosulifより低かったが、これらの点を修正した分析でもオッズ比が2.38(95%信頼区間1.06-5.35)と優越性が支持された。

G3以上の有害事象の発現率は各50.6%対60.5%。発現率10%以上はABL001群が血小板減少症と好中球減少症、Bosulif群はALT上昇、好中球減少症、下痢だった。有害事象による治験離脱率は各5.8%と21.1%だった。

リンク: 同社のプレスリリース

ASH:イエスカルタは低悪性度非ホジキンリンパ腫にも有効
(2020年12月5日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は9月にYescarta(axicabtagene ciloleucel、和名イエスカルタ)を難治・再発濾胞性リンパ腫および辺縁帯リンパ腫の三次治療薬として米国で適応拡大申請したが、エビデンスとなる第2相ZUMA-5試験の成績がASH(米国血液学会)で発表された。

低悪性度非ホジキンリンパ腫で二次以上の前治療歴を持つ104人に施行したところ、ORR(客観体反応率)は92%、CR(完全反応)は76%だった。内訳は、濾胞性リンパ腫84人では各94%と80%、辺縁帯リンパ腫20人では85%と60%だった。CAR-Tに付き物のG3以上サイトカイン放出症候群の発生率は7%、同じく神経学的有害事象は19%だった。有害事象後の死亡例は3人で、うちサイトカイン放出症候群から多臓器不全を合併した1人が治療関連と見なされた。

Yescartaは、B細胞などで発現するCD19に結合する抗体の一部やT細胞に活性化刺激を送るCD3やCD28の一部を患者から採取したT細胞に導入した、CAR-T(キメラ抗原受容体)療法。17年に米国で難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬として承認された。日本は第一三共がライセンス、今月、部会で複数の適応での承認が了承された。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA:MRI検査ではマスクの金属を確認すべし
(2020年12月7日発表)

FDAはMRI検査に関する安全性連絡を発出した。顔にマスクと同じ形の火傷を負った症例が報告されたことを機に、改めて、患者が装着しているマスクにワイヤーやホチキス針、ナノパーティクル、銀や銅などを含む抗微生物コーティングが施されていないか、確認するよう求めた。当人が知っているとは限らないので、医療施設側でマスクを用意することを推奨した。

マスクがマストになって、不織布だけでなくおしゃれな刺繍が付いた布製マスクとか、自分は使ったことはないが銀ナノ粒子抗菌マスクとか、多彩な商品が入手できるようになり、思わぬ落とし穴が生じた。関係者は『こんなこと前から知ってる』と受け止めるだろうが、そのほうが幸いだ。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2020年12月5日

第976回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:英国がワクチンの一時的供給を認可 
  • COVID-19:Moderna社もワクチンを申請 
  • 武田、抗CMV薬の第3相が成功 
  • ノバルティス、ジャカビの慢性GvHD試験が成功 
  • Agios社、ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬の第3相が成功 
  • lurbinectedinの市販後コミットメント試験がフェール 
  • Ovid社、アンジェルマン症候群の第3相がフェール 
  • JNJ、EGFR・MET二重特異性抗体を承認申請 
  • ROCK2阻害剤のGvHD承認申請が受理 
  • 経口血漿カリクレイン阻害剤が承認 
  • Vanda社、メラトニン作用剤がスミス・マギニス症候群に適応拡大 
  • RET阻害剤がある種の甲状腺癌に適応拡大 
  • ゾレアが鼻ポリープに適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:英国がワクチンの一時的供給を認可
(2020年12月3日発表)

英国の薬品審査機関であるMHRA、はBioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチン、BNT162b2を『承認』した。正確に言えば、販売承認ではなく非常時における一時的供給認可という建付け。数日内に、最初は高齢者介護施設入居者/就業者や医療/社会的介護従事者を中心に、接種を開始する予定。ロシアや中国が既に開始しているが、欧米などで数万人規模の第3相試験を行って効果や安全性を検討したワクチンの接種は初めてとなる。

医療従事者向け情報という欧州の添付文書に類似した文書が公開されたので、重要な点だけまとめておこう。

対象:
・12歳以上。
・活性成分や添加物にアレルギーを持つ人は禁忌。
・抗凝固薬や易出血性疾患で筋注禁忌の人は原則禁忌。
・高熱を伴う重度疾患を発症している人は注意が必要。
・妊婦は禁忌ではないが推奨はしない。接種前と二回目の接種の2ヶ月以上後までは妊娠を避けるべき。
・授乳中の女性は接種すべきでない。
・免疫低下(免疫抑制剤使用も含む)では免疫反応低下の可能性。
・免疫抑制剤や他のワクチンとの同時使用に関するデータはない。

接種方法:
・21日置いて2回筋注

有害事象:
・注射箇所疼痛(発現率:80%超)、疲労(60%超)、頭痛(50%超)、筋痛(30%超)、悪寒(30%超)、関節痛(20%超)、発熱(10%超)など。通常は軽中等症、2~3日で解消する。
(英国で承認されている筋注用インフルエンザワクチンの数値と比べて、疼痛、疲労、頭痛の発現率が高い)。
・発現率1~10%の有害事象:注射箇所の発赤、同腫脹、嘔気
・同、0.1~1%:リンパ節腫脹、倦怠感
・同、0.1%未満:記載なし

効果:
・2回目の接種の7日後時点で感染歴がなかった36621人におけるワクチン効率:95.0%
・うち、65歳以上のサブグループ:94.7%
・   75歳以上のサブグループ:100%
・全被験者(約44000人)におけるワクチン効率:94.6%
・感染歴を持つサブグループにおけるワクチン効率:記載なし
・重症疾患予防効果:記載なし(メーカー側はプレスリリースで公表しているが)

物流保管:
・195バイアル/箱(975回分)
・有効期限は零下80~60℃で6ヶ月。輸送は専用コンテナで最長15日間可能。
・解凍後は希釈前なら2~8℃で5日間保存可能。希釈後は2~25℃の環境下で6時間以内に使う。

リンク: MHRAのプレスリリース
リンク: 医療従事者向け情報(pdfファイル)

COVID-19:Moderna社もワクチンを申請
(2020年11月30日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA、発音はモダーナ)はCOVID-19ワクチンのmRNA-1273を各地で承認申請した。米国ではEUA(非常時使用認可)を求めている。EUAは非常事態に限定して使用を認めるもので、現今の大流行が鎮静化したら終了する。正式な販売承認ではない。現時点では2ヶ月かそこらの感染予防/安全性データしかないが、数ヶ月追跡したデータを取得次第、正式な承認申請を行う考えではないか。EUでは条件付き承認を求めている。ここでも、第3相試験などの長期追跡データを提出して正式承認を得ることになろう。同社によると、スイスやイスラエル、シンガポールでもローリング審査中。途上国のために、WHO(世界保健機関)にPQ(事前審査)やEUL(非常時使用リスト)の申請も予定。

FDAは12月17日にVRBPAC(ワクチン等生物学的製剤諮問委員会)を招集して意見を聞く予定。当方は12月10日のVRBPACでBioNTech(Nasdaq:BNTX、英語読みはバイオンテック)/ファイザーがEUA申請したBNT162b2と共に検討されることを想定していたが、一週遅れとなった。

EUの薬品審査機関であるEMAは、承認申請の内容が万全であることを前提に、BNT162b2は遅くとも12月29日に開催されるCHMP特別会議で、mRNA-1273は遅くとも21年1月12日の特別会議で、結論を出す計画。こちらは二週遅れだ。

この二つのワクチンはSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAをリピッド・ナノパーティクルに封入したもの。mRNA-1473は100mcgを4週間置いて二回筋注する。3万人規模の第三相試験で感染者は11人、偽薬群は185人でワクチン効率は94.1%だった。重症はゼロ対30人、COVID-19感染による死亡者はゼロ対一人だった。これらの数値は二回目の接種の2週間後以降の感染をカウントしたもの。

因みに、BNT162b2は30mcgを3週間置いて二回筋注。4万人規模の第三相で感染歴のない被験者の感染は8人、偽薬群は162人でワクチン効率95%。重症は1人対9人。これらの数値は二回目の接種の1週間後以降の感染をカウントした。

リンク: Modernaのプレスリリース
リンク: FDAの諮問委員会招集発表


【新薬開発】


武田、抗CMV薬の第3相が成功
(2020年12月4日発表)

武田薬品は、TAK-620(maribavir)の第三相難治性・抵抗性サイトメガロウイルス(CMV)感染症治療試験が成功したと発表した。承認申請に向かう見込み。

CMVは造血幹細胞移植や臓器移植後の免疫抑制療法を受けている患者でしばしば表面化する感染症。今回の第3相では、400mgを一日二回、8週間に亘って経口投与し、ウイルス消失奏効率を実薬(ganciclovir、valganciclovir、foscarnet、cidofovirの中から医師が選択)と比較した。データは未発表。

第2相試験では反応率が72%と、グラクソ・スミスクラインが開発した代表的な抗CMV薬であるvalganciclovirの56%を上回った(規模が小さいせいか有意ではない)。やや気になるのは深刻有害事象の発現率が10%とvalganciclovirの2%より高かったこと。これらの数値は400mg群と800mg群、1200mg群の合計だが、効果だけでなく深刻有害事象も用量相関があるようには見えない。第3相でも、第2相と同様に、急性移植片宿主病や腎不全などが多く発生した可能性がある。

抗CMV薬はポリメラーゼを阻害する薬が多いが、maribavirはCMV複製の様々なプロセスを阻害する模様だ。03年にグラクソ・スミスクラインから権利を取得したViroPharmaが06年に他家造血幹細胞移植後のCMV感染予防薬として第3相試験を行ったが、09年に発症率4.4%と偽薬群の4.8%を僅かに下回るだけという結果が出て、肝移植試験とともに打切りとなった。

13年にViroPharmaを買収したシャイアが用量を4倍以上に増やして上記第2相治療試験を成功させ、19年にシャイアを買収した武田が、11年前の敵を討った格好。

リンク: 武田薬品のプレスリリース(英文)

ノバルティス、ジャカビの慢性GvHD試験が成功
(2020年12月4日発表)

ノバルティスは7月にJakafi(ruxolitinib)の第3相慢性移植片宿主病(GvHD)試験が成功したことを明らかにしているが、今回、データを公表した。24週間の治療で奏効率が49.7%と、最良治療(Best available therapy)群の25.6%を有意に上回った。適応拡大申請へ向かう見込み。

Jakafiはインサイト(Nasdaq:INCY)から米国以外での開発販売権を取得したJAK1/2阻害剤。骨髄線維症などに加えて、19年には難治性急性GvHDの治療に用いることが米国で承認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

Agios社、ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬の第3相が成功
(2020年12月1日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、AG 348(mitapivat)の第3相ピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏症試験が成功したと発表した。ヘモグロビン値が10 g/dL以下で輸血依存ではない成人患者80人を組入れてヘモグロビン量を偽薬と比較したところ、奏効率(ベースライン比1.5 g/dL以上増加した患者の比率)が40%と偽薬群の0%を有意に上回った。

有害事象による治験離脱はゼロ。忍容性は第2相試験と同様だった由。第2相では27人中5人で深刻有害事象が発生したので、油断はできない。

輸血依存患者を組入れた単群試験の結果を待って、21年に欧米で承認申請する考え。

PK欠乏症は遺伝性の希少疾患。赤血球でATPが不足、変形能がなくなり脾臓で捕捉されてしまう。貧血、脾腫、胆石などを合併する。

AG 348はPKR(ピルビン酸キナーゼR)のアロステリック・アクティベイター。一日二回、経口投与する。一回5mgで開始して20mgそして50mgと増量していく。PK欠乏症と鎌状赤血球病でFDAから希少疾患用薬指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース

lurbinectedinの市販後コミットメント試験がフェール
(2020年12月3日発表)

スペインのPharmaMar(MSE:PHM)と米国のJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、Zepzelca(lurbinectedin)の第3相化学療法併用試験がフェールしたと発表した。6月に米国でモノセラピーが加速承認された時の市販後コミットメント試験なので痛い。用法が若干違うので直ぐに承認取消になるようなことはないだろうが、新たな試験を立ち上げるなどして『俺は俺の責務を全うする』決意を見せた方が良いだろう。

PharmaMarが開発したアルキル化剤、Yondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)の類縁体で、白金薬レジメンによる治療歴を持つ転移小細胞性肺癌に3.2mg/m2を3週毎に点滴静注することが承認されている。105人を組入れた試験でORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が30%、メジアン反応持続期間は5.1ヶ月、有害事象は骨髄抑制関連が多かった。

今回の試験は白金薬レジメン後に進行した小細胞性肺癌の二次治療試験で、2.0mg/m2をdoxorubicinと併用する延命効果を、医師が選んだレジメン(topotecanまたはCAVレジメン<cyclophosphamide、doxorubicin、vincristineの三剤併用>)と比較した。プレスリリースには明記されていないが、優越性解析がフェールしたものと推測される。有害な効果はなかったとのことなので、数値は大差なかったか若干劣る程度だったのだろう。

lurbinectedinは16年に中外製薬が日本での権利をライセンスし第1相試験を開始したが、同社のパイプライン表には載っていないので、返還したのかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

Ovid社、アンジェルマン症候群の第3相がフェール
(2020年12月1日発表)

希少神経学的疾患に特化した新薬開発会社であるOvid Therapeutics(Nasdaq:OVID)は、OV101(gaboxadol)の第3相アンジェルマン症候群試験がフェールしたと発表した。4~12歳の97人と薬物動態や安全性を評価するため2~3歳の7人を組入れて12週間に亘って毎日経口投与したが、主評価項目であるCGI-I-AS(Clinical Global Impression-Improvement-Angelman syndrome)スケールの改善が0.7ポイントに留まり、偽薬群の0.8ポイントと大差なかった。副次的評価項目やサブグループ分析でも効果が見られなかった。開発中止になるのではないか。

gaboxadolはデルタ選択的なGABAA受容体作動剤。ルンドベックがライセンスして一時はMSDとも提携して不眠症などの用途で開発したが、15年にOvid社に導出した。

アンジェルマン症候群は母親由来の遺伝子のみが発現するUBE3A(ubiquitin protein ligase E3A)の遺伝子の機能喪失変異による重度の精神発達障害。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


JNJ、EGFR・MET二重特異性抗体を承認申請
(2020年12月3日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、JNJ-61186372(amivantamab)をEGFRエクソン20挿入変異を持つ転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として米国で承認申請した。承認されるまでの繋ぎとしてEAP(未承認薬をFDAの認可の下に提供するプログラム)もロンチした。

amivantamabはGenmab社のDuoBody技術を用いて創製したEGFRとMETに結合する抗体医薬。EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が適応になるが、第1世代はL858M変異などの抵抗性変異を誘導するリスクがある。第2世代品はこのような癌の多くに有効だが、エクソン20挿入変異に有効な薬は初めて。この変異の判定は次世代シーケンサーを使う。

承認申請の根拠となる第1相試験では、エクソン20挿入変異を持つ非小細胞性肺癌に第2相の推奨用量である1050mg(体重80kg以上は1400mg)を投与したサブグループ39人のORR(客観的反応率)が36%、承認申請の対象である白金薬による治療歴を持つ29人だけだと41%、だった。メジアン反応持続期間は10ヶ月。治療関連深刻有害事象の発現率は6%で蜂巣炎、間質性肺疾患、肩胸痛など。

同社は韓国のYuhanが韓国のOscotecの米国子会社であるGenoscoからライセンスした第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、lazertinibの韓国以外での開発販売権を取得、amivantamabと併用で
EGFRエクソン19欠失/L858R置換陽性非小細胞性肺癌の一次治療osimertinib対照第3相試験を開始する考え。

リンク: JNJのプレスリリース

ROCK2阻害剤のGvHD承認申請が受理
(2020年11月30日発表)

Kadmon(Nasdaq:KDMN)はKD025(belumosudil)を慢性GvHD(移植片宿主病)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査で審査期限は21年5月30日となっているが、Real-Time Oncology Reviewパイロット・プログラムの対象なのでもっと早く承認される可能性もありそうだ。

KD025は、免疫細胞の分化や細胞の線維化に係るリン酸化酵素、ROCK2(Rho-associated coiled-coil kinase 2)を阻害してTh17細胞をダウンレギュレートしTreg細胞を増強する。

二次までの治療歴を持つ患者に200mgを一日一回または二回、経口投与した第2相試験では、一日一回群の総合反応率が73%、95%信頼区間下限は60%、一日二回群は各74%と62%となり、95%下限が30%以下という帰無仮説を否定することができた。インサイト/ノバルティスのJAK1/2阻害剤、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)や、アッヴィ/JNJのBTK阻害剤、Imbruvica(ibrutinib)のような最近の新薬による治療歴を持つ患者でも総合反応率が60%を超えた。

深刻有害事象の発現率は34%、有害事象による死亡は5人でうち一人は薬物関連疑い例。10%の患者が薬物関連疑いの有害事象により治験を離脱した。

Surface Logix社がNano Terraに買収された後の2011年にKadmonが世界権をライセンスした。日本周辺は20年にMeiji Seikaファルマが開発商業化権を取得。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


経口血漿カリクレイン阻害剤が承認
(2020年12月3日発表)

BioCryst Pharmaceuticals(Nasdaq:BCRX)といえば注射用インフルエンザ治療薬Rapivab(peramivir、和名ラピアクタ)の開発者として有名だが、第2の製品であるOrladeyo(berotralstat)がFDAに承認された。経口血漿カリクレイン阻害剤で、12歳以上のHAE(遺伝性血管性浮腫)患者の増悪予防に用いる。経口剤は初。

第3相のAPeX-2試験では150mgを一日一回、経口投与したところ、HAEアタックの月間頻度が治験前の2.9回から1.3回に減少し、偽薬群(2.3回)と比べて44%少なかった(p<0.001)。既存薬の治験成績よりだいぶ見劣りするが、激しい痛みや死亡する可能性もあるHAEアタックのリスクが高まっても注射用薬からスイッチすることを望む患者には選択肢になるだろう。有害事象は腹痛、嘔吐、下痢など。過量投与すると用量依存的にQT延長リスクが高まるので注意する。報道によると問屋取得価格は年48.5万ドル。

欧州でも承認審査中。日本は米国より2ヶ月遅れて今年2月に承認申請されたが先駆け指定のようだ。承認後は鳥居薬品が販売する。

リンク: 同社のプレスリリース

Vanda社、メラトニン作用剤がスミス・マギニス症候群に適応拡大
(2020年12月1日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)はHetlioz(tasimelteon)をスミス・マギニス症候群の不眠治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。小児用に新開発した経口液製剤は来年第1四半期に上市する予定。

この病気は17p11.2遺伝子の欠失による発達障害。米国で15000~25000出生に一人の希少疾患。遺伝ではなく特発性であることが多い。最も多い症状は概日リズムの逆転による重度睡眠障害。

Hetliozはメラトニンの受容体であるMT1/2を作動する経口剤で、BMSがBMS-214778として開発していたものを04年にライセンスした。14~15年に米欧で非24時間障害(全盲者の多くで見られる睡眠障害)の治療薬として承認された。

今回の適応では、25人を組入れた臨床試験で総睡眠時間が41分改善した(偽薬群は20分改善、p=0.013)。3月に適応拡大申請した時は受理されなかったが、8月に受理、優先審査で承認となった。

リンク: 同社のプレスリリース

RET阻害剤がある種の甲状腺癌に適応拡大
(2020年12月1日発表)

FDAはBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)のGavreto(pralsetinib)をある種の甲状腺癌に用いることを加速承認した。今年9月にRET融合陽性転移非小細胞性肺癌用薬として承認したばかりだが、今回は審査期限よりほぼ3ヶ月早い承認。Real-Time Oncology Reviewパイロット・プログラムの対象になるとやっぱり速い。

高度選択的高力価RET阻害剤。甲状腺癌ではRETも阻害するVEGFR阻害剤がRET変異型に承認されているが、Gavretoは12歳以上で全身性治療を必要とする進行/転移RET変異陽性甲状腺髄様腫と、全身性治療を必要とし放射性ヨウ素不応のRET融合陽性甲状腺癌が適応になる。400mgを一日一回、食中服用する。

前者の癌では、VEGFR阻害剤2剤の治療歴を持つ患者55人におけるORR(客観的反応率)は60%で、その79%は反応が半年以上持続、持たない患者29人ではORR66%、反応半年持続率84%だった。後者の癌では、9人におけるORR89%、全員で反応が半年以上続いた。

ロシュとの共同開発で、米国では共同販売、中国以外の海外ではロシュが商業化する。

リンク: FDAのプレスリリース

ゾレアが鼻ポリープに適応拡大
(2020年12月1日発表)

ロシュは、Xolair(omalizumab、和名ゾレア)を鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。点鼻ステロイドに十分反応しない、18歳以上の患者が適応になる。第3相のmometasoneアドオン試験二本でポリープが縮小し、鼻詰まりが緩和した。

IgEに結合するヒト化抗体で03年に難治性重度喘息症の治療薬として初承認され、慢性特発性蕁麻疹やアレルギー鼻炎に用途を広げてきた。ジェネンテックが07年に買収したTanox社のコンパウンドで、ノバルティスと共同販売している。

リンク: ロシュのプレスリリース







今週は以上です。