2019年9月29日

2019年9月29日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ESMO:リムパーザは卵巣癌一次治療後の維持療法として有効 
  • ESMO:GSKのPARP阻害剤も卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功 
  • ESMO:オプジーボとヤーボイのNSCLC一次治療試験がやっと成功 
  • ダルザレックスが新患ASCT可能多発骨髄腫に承認 
  • FDA、天然痘・サル痘ワクチンを承認 


【新薬開発】


ESMO:リムパーザは卵巣癌一次治療後の維持療法として有効
(2019年9月28日発表)

アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)の第三相PAOLA-1試験の成績がESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表された。進行卵巣癌の標準的一次治療である化学療法とAvastin(bevacizumab)の併用レジメンに反応し癌が縮小または安定化した患者は、Avastin単剤による維持療法を施行することができるが、今回の試験は維持療法にLynparzaを併用するレジメンを検討したところ、PFS(無進行生存期間、担当医評価)が有意に増加した。

メジアン値は併用群が22.1ヶ月、Avastin単剤群は16.6ヶ月、ハザードレシオは0.59でp値は0.0001を下回った。BRCA変異を持つサブグループのハザードレシオは0.31、持たないサブグループは0.71で、少なくともこの用法に関してはBRCA1/2の悪性変異の有無は不問だった。

担当医評価ではなく盲検独立評価に基づく感受性分析もメジアン値が各26.1ヶ月、18.3ヶ月、ハザードレシオは0.63と同様な結果になった。

G3以上の有害事象の発生率は各57%と51%で若干増加した。

Lynparzaは卵巣癌ではBRCA変異陽性の一次治療後維持療法にモノセラピーで用いることなどが日米欧で承認されているが、Avastin併用も用法追加申請されることになるだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ESMO:GSKのPARP阻害剤も卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功
(2019年9月28日発表)

グラクソ・スミスクラインのPARP阻害剤、Zejula(niraparib)の第三相進行卵巣癌一次治療後維持療法試験の結果もESMOで発表された。こちらはAvastinを使わない治療方針に即してモノセラピーと偽薬を比較したところ、PFSのハザードレシオが0.62、p値は0.001を下回った。BRCA変異を持つサブグループでは0.40、野生サブグループでは0.50と、どちらにも便益があった。また、全生存期間の中間解析でハザードレシオが0.70と好ましい方向を示した。

競合薬のLynparzaはBRCA陽性に維持治療後維持療法として単剤投与することが承認されている。PFSのHRは0.30なので、Zejulaの0.40より好成績だが、異なった試験のデータを比較する時は誤差範囲を大きく取る必要があるので、概ね同じと言えるだろう。

GSKは適応拡大申請する考えだが、Lynparzaが一歩先進んでいる状態に変化はない。

リンク: GSKのプレスリリース

ESMO:オプジーボとヤーボイのNSCLC一次治療試験がやっと成功
(2019年9月28日発表)

BMSは抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体のYervoy(nivolumab)の併用を様々な癌にテストしているが、非小細胞性肺癌では第三相が中々成功せず、適応拡大や売上高でMSDのKeytruda(pembrolizumab)の後塵を浴びることになってしまった。

ついにCheckMate-227試験が成功したが、最初に結果が出たTumor Mutation Burden(TMB)値が高い患者のPFS解析は欧米で適応拡大申請後に数値が低い患者にも便益がある、つまり、TMBでスクリーニングする必然性がないことが判明し、申請撤回となった。

今回は、もう一つの主評価項目であるPD-L1陽性(1%以上)のサブグループの全生存期間の解析結果がESMOで発表された。化学療法群に対するハザードレシオが0.79、97.72%信頼期間は0.65-0.96となった。PD-L1陰性サブグループを対象とする探索的解析でもハザードレシオ0.62、95%信頼区間0.48-0.78となり、この併用レジメンがPD-L1ステータスを問わずに有効である可能性を示唆した。

BMSは今回のデータに基づき適応拡大申請する計画。

Keytrudaと化学療法の併用と比べると治療効果が小さいように感じられる。また、今回の試験のOpdivo・化学療法併用レジメンは効果が化学療法と大差ないという意外な結果になった。Opdivo・Yervoy併用レジメンはPD-L1陰性で化学療法不適、かつ、予算が豊富な患者には適していそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


ダルザレックスが新患ASCT可能多発骨髄腫に承認
(2019年9月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)をASCT(自家幹細胞移植)可能な新患多発骨髄腫に用いることがFDAに承認されたと発表した。Velcade(bortezomib)、thalidomide、低量dexamethasoneと四剤併用で、ASCTの前の導入療法と後の地固め療法に用いる。CASSIOPEIA試験では、完全反応率(通常より厳格に定義)が29%と、上記三剤だけのVTd群の20%を有意に上回った。PFSのハザードレシオは0.47でこれも有意だった。

欧州でも承認審査中。

Darzlexはジェンマブ社からライセンスした抗CD38完全ヒト化抗体で、様々な段階の多発骨髄腫に承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース

FDA、天然痘・サル痘ワクチンを承認
(2019年9月24日発表)

FDAは、デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)のJynneos天然痘・サル痘ワクチンを承認した。サル痘ワクチンの承認は初。戦略的国家備蓄の対象になる予定。同社は優先審査バウチャを取得する。

天然痘はワクチンが普及して感染例がほとんどなくなり、米国では1972年にワクチン接種を終了した。万が一、テロなど人為的な拡散が行われた場合、大きな影響が出る懸念がある。サル痘は動物からの感染で2003年に米国で、アフリカ以外では初めて、流行した。

今回のワクチンはワクシニア・ウイルスに基づく増殖しない生ワクチンで、4週置きに2回接種する。サルの薬効確認試験とヒトの抗体価試験及び安全性確認試験に基づいて承認された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Bavarian Nordicのプレスリリース





今週は以上です。

2019年9月22日

2019年9月22日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、エボラワクチンの承認申請をFDAが受理 
  • JNJ、トレムフィアを感染性関節炎に適応拡大申請 
  • CHMPがゾスパタなどの承認に肯定的意見 
  • 経口投与できるGLP-1作用剤が初承認 
  • JNJ、アーリーダが米国で適応拡大 
  • FDA、キイトルーダとレンビマの併用をスピード承認 
  • カナダ保険省、ラニチジンの出荷停止を要請 


【承認申請】


MSD、エボラワクチンの承認申請をFDAが受理
(2019年9月17日発表)

MSDは、エボラウイルス病の予防用ワクチン、V920をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は2020年3月14日。EUでも3月に承認申請が受理されている。また、WHOでも事前認証審査を受けている。

V920は水疱性口内炎ウイルスにザイール種エボラウイルスの遺伝子を導入し弱毒化したもので、2010年に米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)がカナダ公衆衛生庁から商業化権を取得、14年にMSDに世界独占開発生産販売権をサブライセンスした。

エボラはスーダンとザイール(現コンゴ民主共和国、以下DRC)で1976年に発生して以降、サブサハラ・アフリカ地域で数年おきに流行しており、今回は昨春からDRC中心に大流行、3000人以上が感染し2100人以上が死亡した。14-16年にギニア、リベリア、シエラレオネで28000人以上が感染し11000人以上が死亡したのに次ぐ、史上第2位の被害だ。

DRC政府は、発症者の家族など高リスク者を対象にV920の接種を行ったが、流行地域の政情不安定や住民のワクチンに対する無理解などから順調に進展していない。国境なき医師団の施設が襲撃を受け医療活動の中止を余儀なくされるなど、悲しい事態も生じた。

解決すべき課題は多いが、それでも、ワクチンの実用化は大きな前進だ。MSDはこれまでに24万本超をWHOに寄付・供給し、WHOの要請で流行地域に19万本超を出荷、向こう半年から1年半の期間に更に65万本を出荷する計画。DRC国民に受け入れられなかったとしても、他の国の流行に対応したり、もしもザイール種以外が流行した場合でも対応ワクチンを速やかに開発供給できるかもしれない。

リンク: MSDのプレスリリース

JNJ、トレムフィアを感染性関節炎に適応拡大申請
(2019年9月16日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Tremfya(guselkumab、和名トレムフィア)を成人の活性期乾癬性関節炎の治療に用いる適応拡大申請をFDAに行った。抗IL-23p19サブユニット抗体で、17年に欧米で、18年には日本でも中重度乾癬治療薬として承認された。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがゾスパタなどの承認に肯定的意見
(2019年9月20日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、9月の会合で、アステラス製薬のXospata(gilteritinib、和名ゾスパタ錠)の承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アステラスのXospataはFLT3/AXL阻害剤。再発難治性急性骨髄性白血病の25-30%で見られる、遺伝子内縦列重複変異(ITD)やチロシンキナーゼドメイン変異(TKD)陽性が適応になる。第三相試験ではメジアン生存期間が9.3ヶ月と救援化学療法群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.637、統計的に有意だった。

日本ではさきがけ審査指定を受け昨年9月に承認、米国でも11月に承認された。

リンク: CHMPのプレスリリース

Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)が緑内障・高眼圧症治療薬として承認申請したRhokiinsa(netarsudil)も肯定的意見を得た。米国では17年12月にRhopressa名で承認。

眼房水の排泄などに関与するRhoキナーゼを阻害する、新作用機序を持つ。眼圧引き下げ効果はtimololと同程度だが、一日二回ではなく一回の点眼で足りる。

リンク: CHMPのプレスリリース

新製剤ではアストラゼネカのQtrilmetが肯定的意見を得た。SGLT-2阻害剤のdapagliflozin、DPP-4阻害剤のsaxagliptin、そしてmetforminのトリプルコンビ薬。米国では今年5月にQternmet XR名で承認された。

リンク: CHMPのプレスリリース

適応拡大では、メルクKGaAがファイザーと共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)を根治切除不能/転移性腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。ファイザーのVEGFR阻害剤、Inlyta(axitinib)と併用する。

臨床試験では、メジアンPFS(無進行生存期間、中央査読)が13.8ヶ月とInlyta群の8.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、統計的に有意だった。G3/4肝毒性が9%の患者で発生、どちらかの薬の投与中止が7%で発生した。

リンク: CHMPのプレスリリース

リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発販売している抗IL-4Rアルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)を鼻ポリープを伴う重度慢性副鼻腔炎の治療に用いることも支持された。点鼻ステロイドに追加する。全身性ステロイドや手術を伴う鼻ポリープでは十分な疾病管理ができない患者が適応になる。

米国では今年6月に承認、日本は承認審査中。

DupixentはEUでは中重度アトピー性皮膚炎と、血中好酸球且つ又呼気一酸化窒素の上昇を示す二型炎症の重度喘息症のステップアップ療法に承認されている。

リンク: CHMPのプレスリリース

ロシュの抗VEGF抗体フラグメント、Lucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)をPDR(増殖性糖尿病性網膜症)の治療に用いることも支持された。

これまでにEUで承認された用途は、成人のwAMD(滲出型加齢性黄斑変性)の治療と、CNV(脈絡膜新生血管)、DME(糖尿病性黄斑浮腫)、またはRVO(網膜静脈閉塞)の二次性黄斑浮腫による視力障害の治療。更に、未熟児網膜症の一部に用いることも承認されている。

リンク: CHMPのプレスリリース

サノフィのTaxotere(docetaxel)を転移性ホルモン感受性前立腺癌に用いることも支持された。ADT(アンドロゲン枯渇療法)と併用する。更にprednisone/prednisoloneを追加することも可。

リンク: CHMPのプレスリリース

イーライリリーのGLP-1作用剤、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)は心血管アウトカム試験(REWIND)で二型糖尿病高リスク患者の心血管イベントを12%削減する効果を示した。CHMPはこの試験データを添付文書に記載するレーベル変更に肯定的意見をまとめた。効能を認めたのかどうかはレーベルが未公表であるため不明。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認】


経口投与できるGLP-1作用剤が初承認
(2019年9月20日発表)

FDAは、ノボ ノルディスクのRybelsus(semaglutide)を二型糖尿病の治療薬として承認した。同社の長期作用性GLP-1作用剤、Ozempic(和名オゼンピック)を経口剤化したもの。

GLP-1作用剤は血糖値や体重を引き下げる効果を持つが、これまでの製品は皮注用だった。ノボはEmisphere Technologies社のEligen技術を応用、サルカプロザートナトリウムをキャリアにすることによって胃における受動的細胞内移動により吸収されるようにした。

吸収を妨げないために、一日の最初の飲食や経口剤服用の30分以上前に服用することが必要。3mgで開始、30日間続けてから7mgに増量、更に30日間続けた後に必要なら14mgに増量可。

Ozempic(0.5mgを週一回、皮注)からスイッチする場合は最終投与後7日以内に7mgまたは14mgで開始する。Ozempicは1mgも承認されているが、経口剤には同等の用量はないとのこと。

臨床試験では偽薬だけでなく実薬と比べても高い血糖値・体重引き下げ効果を示した。心血管疾患予防効果については未だ承認審査中(ノボは優先審査バウチャを購入してFDAに優先審査を求めたが、この効能に関しては認められず標準審査となった)。

同社のVictozaやOzempicと同様、齧歯類の癌原性試験で甲状腺C細胞腫が増加したことが枠付警告された。人間におけるリスクは明確ではないが、甲状腺髄様腫の既往や家族歴を持つ人、及び、甲状腺髄様腫のリスクが高い多発性内分泌腫瘍症候群2型は使わないよう勧告した。警告は膵炎、糖尿病性網膜症、低血糖、急性腎障害、過敏反応などで、既知のもの。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

JNJ、アーリーダが米国で適応拡大
(2019年9月17日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide、和名アーリーダ)を転移性去勢感受性前立腺癌に用いる適応拡大を承認した。Real-Time Oncology Reviewパイロット・プログラムの対象となり、申請から承認まで5ヶ月と早かった。

両側精巣摘出患者以外はゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)薬と併用する。TITAN試験では、Erlead・GnRH薬併用群の全生存期間のハザードレシオが偽薬・GnRA薬併用群比で0.67、p=0.0053だった。両群ともメジアン生存期間は未達。24ヶ月生存率は各82.4%と73.5%だった。

Erleadaはアンドロゲン伝達阻害剤で、ファイザー/アステラス製薬のXtandi(enzalutamide)を創製した研究者がフォローオンとして開発し、会社ごとJNJに売却した。18年に米国で、19年に日欧で、非転移性去勢抵抗性前立腺癌に承認された。

期待の適応拡大だが、Xtandi陣営も同じ適応症でFDAに承認申請、審査期限は今年第4四半期とのことなので、Erleadaが需要を享受できる期間は限られる。当初の期待と異なり薬効は大差ないように見えるので、敢えて適応症の少ない新薬を使う理由はない。忍容性はErleadaのほうが良好のように見えるので、それをどれだけアピールできるかが鍵だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

FDA、キイトルーダとレンビマの併用をスピード承認
(2019年9月17日発表)

FDAは、エーザイがMSDと共同開発販売しているVEGFR阻害剤、Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)とMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を子宮内膜種に用いる適応拡大を加速承認した。全身的療法後に進行した、根治的手術/放射線療法不適の、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)やdMMR(ミスマッチ修復機構欠損)を有さない、進行子宮内膜種が適応になる。

KEYNOTE-146試験では、独立放射線学的評価委員会の判定に基づくORR(客観的反応率)が38.3%だった。10例が完全反応、26例は部分反応だった。

FDAは、Project Orbisイニシアティブの下、オーストラリアやカナダの承認審査機関と連携して同時申請・承認審査を進めた(オーストラリアも翌日付で承認を発表した)。また、Real-Time Oncology Reviewパイロット・プログラムの対象とした。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: オーストラリアTGA(医療製品管理局)のプレスリリース(9/18付)
リンク: エーザイのプレスリリース(9/18付、和文)


【医薬品の安全性】


カナダ保険省、ラニチジンの出荷停止を要請
(2019年9月17日発表)

FDAとEMA(欧州薬品庁)は、9月13日、Zantacという商標名で販売されている処方薬・OTC薬を含むranitidine製品に微量のNDMA(N-nitrosodimethylamine)が見つかったことを公表した。NDMAは発癌性が疑われており、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗剤)の一部のGE薬から検出されリコールに至ったことは記憶に新しい。

ranitidineの混入量は食品や水に含まれる程度の微量なので危害は小さく服用を続けても大丈夫とのことだったが、今週、新たな動きがあった。サンドがGE品のグローバル市場でのリコールを決めたのだ。

また、カナダ保健省は、全ranitidine製品に混入が認められたとして、国内での出荷を停止するようメーカーに要請した。

欧米と対応が異なる理由は明確ではない。カナダはリコールまでは要求しておらず、シロともクロとも付かないオフホワイト・ゾーンでの決断の『揺らぎ』が偶々異なった方向に振れただけかもしれない。何れにせよ、一般的に厳格な対応を取るFDAよりも更に慎重な企業や国が現れたことは、この問題の行方が楽観を許さないことを暗示している。

NDMA混入を早くから指摘していたのがValisure社だ。米国の38州で免許を持つオンライン・ファーマシーで、ISO 17025認定のアナリティカル・ラボラトリーで自ら品質検査を行い、検証した製品だけを検査費用を上乗せせず販売することを旨としている。同社によると、ranitidineは安定性が不十分でNDMAが経時的に増加する由であり、FDAのように工場で生産されたばかりの製品を検査するだけでは足りない。

今後、承認審査機関や製薬会社は、Valisure社の主張の妥当性も含めて、NDMA問題の評価を進めていくことになる。

リンク: ヘルスカナダのプレスリリース
リンク: Valisure社のプレスリリース
リンク: Valisure社がFDAに提出した市民請願(19年9月9日付、pdfファイル)
リンク: 再掲、FDAのプレスリリース(9/13付)




今週は以上です。

2019年9月15日

2019年9月15日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • WCLC:TMBに基づくスクリーニングは無効? 
  • ECTRIMS:サトラリズマブの第三相成績は競合に見劣り 
  • ECTRIMS:ノバルティス、抗CD20抗体の皮注用新製剤を多発性硬化症に承認申請へ 
  • ECTRIMS:JNJ、S1P1受容体調節剤を多発性硬化症薬として承認申請へ 
  • WCLC:イーライリリー、RET阻害剤のデータは引き続き良好 
  • ロシュ、テセントリクの非小細胞性肺癌一次治療モノセラピー試験が成功 
  • WCLC:イミフィンジも小細胞性肺癌試験が成功 
  • ACADIA社、Nuplazidの適応拡大試験が成功 
  • エーザイ/バイオジェン、BACE1阻害剤の第三相二本を中止 
  • FDA諮問委員会がピーナツアレルギーの減感作療法用薬の承認を支持 
  • 直ぐに使えるグルカゴン製品が米国で承認 
  • FDA、CDK4/6阻害剤の肺炎リスクを警告 
  • FDAとEMA:ラニチジンからNDMAが微量検出された 


【今週の話題】


WCLC:TMBに基づくスクリーニングは無効?
(2019年9月8日発表)

抗PD-1/PD-L1抗体の応答予測因子としてはPD-L1発現やマイクロサテライト不安定性が実用化されているが、癌種や用法(単剤/併用)によって有効だったり無効だったりして良く分からない。もっと分からないのがTMB(Tumor Mutation Burden)で、複数の製品の第二相非小細胞性肺癌試験の事後的分析で良さそうな結果が出たが、BMSがOpdivo(nivolumab)で実施した第三相非小細胞性肺癌一次治療Yervoy(ipilimumab)併用試験、CheckMate-227では、高TMBサブグループだけでなく低TMBサブグループでも同程度の延命効果が見られた。BMSは高TMB癌だけに欧米で適応拡大申請していたが、撤回の憂き目を見ることになる。

OpdivoとMSDの抗PD-1抗体開発競争を見ていて痛感するのは臨床開発には巧拙があるということだ。第三相入りはOpdivoのほうが早かったが、欧米での承認申請はMSDのKeytruda(pembrolizumab)が先んじた。その後も、大市場である非小細胞性肺癌で臨床試験の成否が分かれ、今ではKeytrudaが売上トップになった。

MSDがやればTMBによるスクリーニングの有効性を立証することができるか?難しいようだ。WCLC(世界肺癌学会)で複数の臨床試験の事後的解析結果が発表された。

進行非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療として、Alimta(pemetrexed)とcarboplatinを併用する標準療法と更にKeytrudaを用いる三剤併用療法を比較した、第1/2相のKEYNOTE-021試験の症例のうちTMBデータのある70例についてTMBと効果(ORR、PFS、全生存期間)を調べたが、関連性は見られなかった。

同様な内容の第三相試験であるKEYNOTE-189試験の293例を対象とした分析でも関連性はなかった。但し、PFSのp値は標準療法群が0.055、三剤併用群も0.075と、強気な製薬会社なら有望なシグナルがあったと胸を張るような数値が出ている。何度も臨床試験を行えば一回くらいはp値が0.05を下回るかもしれない。

TMBは腫瘍細胞のゲノムを正常細胞と比較してどの程度の頻度で変異が発生しているかを調べるもの。検査方法や高低の閾値は区々である模様で、189試験ではエクソーム当り変異数が175を閾値として高TMBサブグループと低TMBサブグループの比較も行ったが、やはり、関連性が見られなかった。

BMSやロシュが行った第二相の事後的分析でも、上記のCheckMate-227試験でも、PFSでは有望そうな結果が出たが、全生存期間のデータは今一つだった。今回のKEYNOTE-189も、方向性としては全生存期間のほうがp値が大きい。結局、TMBは延命効果の予測因子にはならないのだろう。

リンク: WCLC 2019のプレス向けブリーフィングのアーカイブ(Sunday Summary Press Release以下に上記発表に関するプレスリリースと抄録のリンクがある)


【新薬開発】


ECTRIMS:サトラリズマブの第三相成績は競合に見劣り
(2019年9月12日発表)

ロシュはRG6168(satralizumab)の第三相SAkuraStar試験のデータをECTRIMS(欧州多発性硬化症治療研究学会)で発表した。一本目のSAkuaraSky試験のデータと合わせて、年内にNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)治療薬として承認申請する予定。

satralizumabは中外製薬が創製した抗IL-6受容体リサイクリング抗体、SA237をライセンスしたもの。抗リウマチ薬Actemra(tocilizumab)の活性成分を、受容体結合・離散を繰り返すように改変することによって、長期間作用が続くようにしたもの。

NMOSDは視神経や脊髄の障害で、多くの場合、アクアポリン4抗体(AQP4-IgG)が星状細胞に損傷を与えている。患者は欧州で1万人超、米国は15000人、世界では数十万人と推定されている。30-40代の、コーカサス系ではない女性に多い由。類似した疾患であるNMO(視神経脊髄炎)は多発性硬化症と誤診されることがある。

SAkuraStar試験は、20歳以上のNMOまたはAQP4-IgG血清陽性のNMOSD95人を組入れて、偽薬または120mgを最初は2週毎、4回目からは4週毎に皮注して、再発までの期間を比較したところ、ハザードレシオ0.45、p=0.0184と有意な遅延効果が見られた。AQP4-IgG血清陽性のNMO/NMOSDのサブグループ分析では各0.26と0.0014で、より高い効果が見られた。

昨年のECTRIMSで結果発表されたSAkuraSky試験では、13歳以上のNMOまたはAQP4-IgG血清陽性NMOSDで免疫抑制剤による治療を受けている83人を偽薬群とsatralizumab群に無作為化割付して再発遅延効果を検討したところ、ハザードレシオ0.38、p=0.0184、AQP4-IgG血清陽性サブグループでは各0.21、p=0.0086だった。

限界効用逓減の法則から言えばアドオン試験よりモノセラピー試験のほうが効果が高く出そうなものだが、上記のデータはそうなってはいない。異なった試験のデータを比較するのはリスキーで、特に、特定の事象が発生したかしないかという刻みが一つしかないデータは誤差範囲が広くなりがちだ。今回はtime-to-event分析なので再発頻度よりマシなはずだが、私はNMOSDの治験データを見た経験が少ないので、良く分からない。

前置は以上で本題に入ると、ハザードレシオを見る限りでは、satralizumabの効果は競合と同程度か見劣りする。今年6月に米国でAQP4-IgG陽性NMOSDに適応拡大が認められ日欧でも承認審査中のアクテリオン社の抗C5抗体、Soliris(eculizumab、和名ソリリス)は、ハザードレシオ0.058。アストラゼネカ・グループのメディミューンから18年にスピンアウトしたViela Bioが今夏に米国で承認申請した抗CD19フコシル化抗体、MEDI-551(inebilizumab)は第2/3相試験でハザードレシオ0.27、AQP4-IgG陽性サブグループでは0.227だった。inebilizumabは効果が長期間持続するため、2週間置いて2回点滴した後は6ヶ月に一回の投与で足りる見込みだ。

Solirisは超希少疾患用薬で価格が著しく高い。ロシュやVielaは価格も重要な競争手段になりそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: inebilizumabの第2/3相試験論文(Creeら、Lancet誌)

ECTRIMS:ノバルティス、抗CD20抗体の皮注用新製剤を多発性硬化症に承認申請へ
(2019年9月13日発表)

ノバルティスは、ofatumumabの皮注用新製剤を用いた第三相再発型多発性硬化症試験二本の結果をECTRIMSで発表した。19年末までに承認申請する計画。

ofatumumabは非ホジキン型リンパ腫などの治療に承認されている抗CD20抗体、Arzerra(和名アーゼラ)の活性成分。ノバルティスはグラクソ・スミスクラインとのアセット・スワップにより入手、自己免疫疾患に関しては点滴静注ではなく皮注用の製剤に方向転換した。

その最初の成果が今回の第三相試験だ。20mgを月一回皮注して、サノフィのAubagio(teriflunomide)を一日一回、14mgを経口投与する群とARR(年率再発率)を比較した。結果は、一本が0.11対0.22で50%小さく、もう一本は0.10対0.25で58%小さかった。どちらもp<0.001。事前に設定されていた障害進行のプール分析でも有意な差があった。

Aubagioは経口投与できることが長所だが、再発予防効果は近年の新薬ほどではなく、この試験や次項のponesimodのように直接比較試験で咬ませ犬の役を担う機会が増えた。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ECTRIMS:JNJ、S1P1受容体調節剤を多発性硬化症薬として承認申請へ
(2019年9月11日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはponesimodの第三相再発型多発性硬化症試験の結果をECTRIMSで発表した。1133人をponesimod群(20mgを一日一回経口投与)とteriflunomide群(14mgを一日一回経口投与)に無作為化割付して108週間追跡し、ARR(年率再発率)を比較したところ、各0.202と0.290となり、有意な差があった(p=0.0003)。同社は欧米で承認申請する考え。

ponesimodは17年に買収したアクテリオン社のパイプラインで、S1P1受容体の機能的アンタゴニスト。

リンク: JNJのプレスリリース

WCLC:イーライリリー、RET阻害剤のデータは引き続き良好
(2019年9月9日発表)

イーライリリーは、selpercatinibの第1/2相試験の承認審査用データセットをWCLCで発表した。6月のASCOで発表されたやや異なったユニバースのデータと似たような数値だ。順調なら来年には実用化されるだろう。非小細胞性肺癌はEGFR活性化変異やALK融合、ROS1融合など、狙い撃ちできる抗癌剤を使えば高い治療効果を上げることができるタイプが次々と見つかっているが、検査対象にRET融合変異が加わることになる。

selpercatinibはLoxo Oncologyを買収して入手した経口RET阻害剤。承認申請用データセットは、RET融合陽性の非小細胞性肺癌で白金薬レジメンによる治療歴を持つ105例が対象。55%が抗PD-1/PD-L1抗体歴、48%がマルチキナーゼ阻害剤歴を持っていたので、三次治療、四次治療の患者もいただろう。

結果は、ORR(客観的反応率)が68%、メジアン反応持続期間は20ヶ月だった。脳血管関門通過性を持っており、脳転移のある患者における中枢神経ORRは91%と高かった。

EGFR阻害剤やALK阻害剤は一次治療薬として使われている。RET阻害剤も可能性があり、未治療34例におけるORRは85%と高かった。マルチキナーゼ阻害剤より選択性が高いせいか、忍容性は概ね良好で、治療時発現有害事象による離脱率は1.7%と低い。G3/4の治療時発現有害事象は下痢(2%)、高血圧(15%)、肝機能検査値上昇(ASTが7%で、ALTが8%で上昇)、疲労(1%)など。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

ロシュ、テセントリクの非小細胞性肺癌一次治療モノセラピー試験が成功
(2019年9月12日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower110試験が中間解析で成功認定されたと発表した。FDAなどと用法追加について相談する考え。

この第三相試験は、PD-L1陽性の進行非小細胞性肺癌の一次治療におけるモノセラピーの効果をcisplatinまたはcarboplatinに加えて、扁平上皮種にはgemcitabine、非扁平上皮種はAlimta(pemetrexed)を維持療法も含めて、二剤併用する標準療法群と比較したもの。主評価項目はEGFRやALKが野生型の患者の全生存期間で、PD-L1発現度に基づき三種類のユニバースの解析が行われる(Tecentriqのコンパニオン診断薬であるSP142アッセイでTC3/IC3、TC2以上/IC2以上、TC1以上/IC1以上)。

今回、成功認定されたのはTC3/IC3サブグループの解析。他の二つがどうなったのかは明らかではない。MSDのKeytruda(pembrolizumab)のケースではPD-L1強陽性ユニバースのほうがPD-L1陽性ユニバースより効果が高かったので、Tecentriqも、中間解析時点では有意差が出るほどではなかったのかもしれない。

Tecentriqは非小細胞性肺癌の一次治療では化学療法併用が先に承認されているが、モノセラピーで足りる患者には、新しい選択肢が生まれることになる。Keytrudaとどちらを使うかは、今後発表されるデータ次第だろう。

抗PD-1/PD-L1抗体はインターフェロンやIL-2など免疫強化療法が穏やかな効果を示した癌種だけでなく、肺癌など幅広い用途に有効であることが分かった。数社が激しく競争することで新用途開発がスピードアップする好ましい展開だ。しかし、贅沢に慣れるとそれが当たり前になり、地球に飽き足らず月や火星に行きたくなってしまう。

私が不満に思うのは、複数の製品の適応が区々で、PD-L1検査も製品によって必要だったり不要だったり、各社の検査アッセイが異なっていたり、Keytrudaのように、同じ薬でも適応によって検査方法や閾値が異なったり、非常に煩雑であることだ。何とかならないものだろうか。

リンク: ロシュのプレスリリース

WCLC:イミフィンジも小細胞性肺癌試験が成功
(2019年9月9日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)の第三相小細胞性肺癌一次治療試験の結果をWLCLで発表した。先に承認されたロシュのTecentriq(atezolizumab)と概ね同じような成績なので、代替的な選択肢という印象だ。

このCASPIAN試験は進展型小細胞性肺癌の一次治療の標準療法であるcisplatinまたはcarboplatinとetoposideの併用(最大6サイクル)と、この二剤(最大4サイクル)とImfinziの三剤併用の全生存期間を比較した。中間解析で成功認定された。メジアン生存期間は標準療法群が10.3ヶ月、三剤併用群は13.0ヶ月、ハザードレシオは0.73(p=0.0047)。有害事象による治験離脱は両群とも9.4%だった。

この試験は、更にtremelimumabも併用する四剤併用群の全生存期間も主評価項目であるため、続行されている。BMSのYervoyと同じ抗CTLA4抗体だが、他の腫瘍における薬効確認試験はフェール続きなので期待できそうにない。

TecentriqはIMPower133試験でcarboplatin・etoposide群のメジアン生存期間10.3ヶ月に対してTecentriq併用群は12.3ヶ月、ハザードレシオ0.70(p=0.0069)だった。今年、日米欧で適応拡大が認められた。MSDのKeytrudaは二次治療に承認、BMSのOpdivoは治験がフェールした。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ACADIA社、Nuplazidの適応拡大試験が成功
(2019年9月9日発表)

ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)は、Nuplazid(pimavanserin tartrate)の適応拡大試験が成功したと発表した。2020年に効能追加申請すべく、FDAと相談する考え。

Nuplazidは5-HT2Aインバース・アゴニストで、16年に米国でパーキンソン病の精神症状の治療薬として承認された。高齢者の認知症性精神症状の治療に用いると死亡リスクが上昇することが枠付警告されているが、報道によると、オフレーベル使用時の死亡は数百人に達する由。

今回の第三相試験は、アルツハイマーなど様々なタイプの認知症に関連する精神症状の治療効果を検討した。12週間のランイン期間に34mg(20mgに減量可)を一日一回経口投与し、所定の改善を達成した患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して二重盲検で幻覚・妄想の再発(第三者が査読)までの期間を比較した。独立データ監視委員会が中間解析で成功認定した。

精神症状改善効果を検討する試験は偽薬効果が大きくハードルが高いので、便法として今回のような離脱試験が行われる。日本のジェイゾロフトが一例だ。難しいのは、効いた人は止めないほうが良いという裏付けはあるものの、効くという裏付けや有効率はランイン期間のプロトコルやデータをキチンと自分で確認しなければならない。

高齢者における死亡リスクも要チェックだ。尤も、高齢認知症患者の精神症状の治療に広くオフレーベル使用されている非定型向精神薬も死亡リスクが高まる。この用途では、患者の生命以外の要素も重視されるのだろう。

リンク: ACADIAのプレスリリース

エーザイ/バイオジェン、BACE1阻害剤の第三相二本を中止
(2019年9月13日発表)

エーザイとバイオジェンは、共同開発しているBACE1阻害剤、E2609(elenbecestat)の第三相試験二本を中止すると発表した。早期アルツハイマー病の進行を抑制する効果を検討していたが、独立データ安全性監視委員会(IDSMC)が中止を勧告した。危険便益比率が好ましくなかったとのこと。

プロトコルに基づいて中間で中止を勧告する時は、大きく分けて二つのパターンがある。一つは治験を続行しても主目的を達成する可能性が極めて低いと統計学的に判定される場合、無益性が認定される。もう一つは、有害事象と比べて便益が小さい又は見られない場合、独立データ安全性監視委員会が、最大の使命である被験者の利益を守るために、治験運営委員会に中止を勧告する。

バイオジェンのプレスリリースを読むと後者のパターンのように感じられるので、これまでに第三相試験が中止された多くの他社のBACE阻害剤と同様に、効果が見られないだけでなく逆に進行を促進してしまう懸念が浮上したのだろう。

リンク: バイオジェンのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がピーナツアレルギーの減感作療法用薬の承認を支持
(2019年9月13日発表)

FDAのアレルギー製品諮問委員会は、Aimmune Therapeutics(Nasdaq:AIMT)が4-17歳のピーナツアレルギー患者の減感作療法として承認申請したPalforzia(開発コードAR101)を検討し、効果については9人中7人、安全性は8人が支持した。審査期限の12月21日までに承認される可能性が高まった。

AR101はピーナツに含まれる13種類の蛋白の混合物で、食事に混ぜて毎日服用する。30mgのピーナツ蛋白を忍容しない患者を組入れた第三相試験では、1年間の治療後のフード・チャレンジで4-17歳のサブグループは67%が600mgまで忍容するようになった。偽薬群は4%だった。深刻な有害事象の発生率は2.4%(偽薬群は0.8%)で、胃腸や全身性アレルギー性過敏反応など。AR101群のほうが治験期間中のエピネフィリンの使用頻度が高かった。

治療に伴うリスクも大きいため、最初の二回はアレルギー性ショックなどに対処できる施設で投与するなどのREMS(リスク評価緩和戦略)が導入される見込み。

リンク: Aimmuneのプレスリリース


【承認】


直ぐに使えるグルカゴン製品が米国で承認
(2019年9月10日発表)

Xeris Pharmaceuticals(Nasdaq:XERS)は、FDAがGVOKE(glucagon)を承認したと発表した。Ready-to-Useの注射用グルカゴンで、インスリン治療中の糖尿病患者が重度低血糖に陥った時に用いる。プレフィルド・シリンジとオートインジェクターが用意されている。

既存のグルカゴン製品と異なり調合などの手間がかからない製品では、イーライリリーの点鼻用グルカゴン粉末、Baqsimiも今年7月に承認されている。Baqsimiは対象年齢が4歳以上、GVOKEは2歳以上なので若干広い。また、経鼻薬に特有な鼻詰まりや涙目、充血も回避できるだろう。

リンク: Xeris社のプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、CDK4/6阻害剤の肺炎リスクを警告
(2019年9月13日発表)

FDAは、ホルモン受容体陽性転移性乳癌に承認されているCDK4/6阻害剤三剤に関して、間質性肺疾患/肺臓炎のリスクを警告した。臨床試験や市販後に1-3%の患者で発生し、0.1%未満なので稀ではあるが致死例もあった。このため、息切れなどの症状に注意し、発生/増悪したら投薬を中断するよう勧告した。

対象は、ファイザーのIbrance(palbociclib、和名イブランス)、イーライリリーのVerzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)、そしてノバルティスのKisqali(ribociclib、本邦未承認)。

日本でも欧米に先立ち、厚労省がイブランスとベージニオの添付文書に間質性肺疾患の警告を掲載させている。

リンク: FDAのプレスリリース

FDAとEMA、ラニチジンからNDMAが微量検出された
(2019年9月13日発表)

FDAとEMA(欧州薬品庁)は、Zantacという商標名で販売されているものを含む一部のranitidine製品に微量のNDMA(N-nitrosodimethylamine)が見つかった旨の報告を受け検討を開始した。NDMAは発癌性が疑われており、医薬品では一部のARB(アンジオテンシンII受容体拮抗剤)製品から検出されリコールに至ったことが記憶に新しい。ranitidineの場合は、今のところ、食品や水に含まれる程度の微量なので危害は小さく服用を続けても大丈夫と欧米当局共に判断している。服用を止めたい場合は、処方薬の場合は医師に相談し、OTC製品の場合は他の薬にスイッチすることも可能。

ranitidineはグラクソが商業化したH2ブロッカーで、胃食道逆流症や胸やけなどの治療に用いられている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: EMAのプレスリリース



今週は以上です。

2019年9月8日

2019年9月8日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 医療従事者のインフルエンザ感染予防はN95マスクでなくてもよい 
  • ESC:PCSK9のRNA介入薬の第三相試験が成功 
  • ESC:フォシーガが駆出率低下心不全の転帰を改善 
  • ESC:ブリリンタがPCI歴を持つ二型糖尿病の心血管転帰を改善 
  • ESC:ブリリンタがエフィエントに負ける番狂わせに 
  • ESC:Entrestoの駆出率維持心不全アウトカム試験は惜しくもフェール 
  • ゾフルーザのグローバル小児インフルエンザ試験が成功 
  • オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール 
  • オフェブが全身性強皮病に適応拡大 


【今週の話題】


医療従事者のインフルエンザ感染予防はN95マスクでなくてもよい
(2019年9月3日発表)

1999年にメキシコで新型インフルエンザの流行が始まる前、タミフル耐性ウイルスが年々増えてきたので生活の知恵としてマスクを備蓄したらどうかと書き、自分自身50枚入りの安い製品を買った。その後、新型インフルエンザが日本にも上陸しマスクが値上がりしたため、備蓄は正解だったが、改めて調べて意外だったのは、欧米の公衆衛生機関はマスク装着を推奨しないところが多く、推奨する国でも、公的備蓄は行っていなかった。

FDAやCDCの資料によれば、インフルエンザ・ウイルスの粒子は水蒸気より小さく、通常のマスクの網目を通過してしまう。NIOSH(米国労働安全衛生研究所)の防塵規格を満たすN95マスクなら捕捉できるが、正しく装着するのは難しく、危険な感染症に対処する医療従事者は定期的に装着テストを受けるほどである。また、水蒸気が詰まり呼吸困難になるため、数時間に一回、交換しなければならない。

私自身は、例えば満員電車で目の前の人が咳をするようなケースでは有効なのではないかと内心では思っている。また、マスクをしていれば、何気なく指で唇を触って、吊革から手に付着したウイルスが侵入するのも防げるだろう。

一方で、不安に感じるのは、マスクをしている人は咳をする時に口元を抑える咳エチケットを守らないことだ。よく考えれば、自分自身、そうである。マスクがあるからと油断するのだ。ウイルスが飛ぶ距離も短くなるのだろうが、満員電車で目の前のマスクをしている人が咳をするようなケースでも大丈夫なのか、是非、誰かに実験してもらいたい。

閑話休題。Journal of American Medical Association誌に、医療従事中のインフルエンザ感染を防ぐ上でのN95マスクの効果を通常のメディカル・マスクと比較した臨床試験の論文が掲載された。発症率は大差ないという意外な内容だった。数年前にも同様な結論の研究論文が発表されたことがあるが、今回は、無作為化割付数が2862人、シーズン数加重で5180人シーズンと規模が大きいため説得力が高い。

結果は、ラボ検査で確認されたインフルエンザ感染症の発生率(人シーズン当り)がN95群は8.2%、メディカル・マスク群は7.2%となり、有意な差はなかった。急性呼吸器疾患などの二次的評価項目でも有意差はなかった。

N95群の被験者のうち常に、または、時々、装着したと回答したのは89.4%、メディカル・マスク群では90.2%だった。

この試験の弱点は、医療施設外でマスクをしていない時に感染した症例が含まれている可能性だ。解析に際して呼吸器疾患者との接触など様々な共変量により調節されているが、いつどこで誰から感染したかは知る由もないだろう。

マスクのような健康にそれほど害のないものは、やりたい人はやればよい。N95マスクは高く、一日に何枚も交換するのは財布が痛むが、金の使い道は個人の勝手である。しかし、正しい情報は提供しなければならない。日本の医療従事者や一般人を対象とする研究も行うべきなのではないか。

リンク: Radonovichらの臨床試験論文抄録(JAMA)


【新薬開発】


ESC:PCSK9のRNA介入薬の第三相試験が成功
(2019年9月2日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は、inclisiranの第三相試験の結果をESC欧州心臓学会で発表した。アテローム硬化性心血管疾患または同等リスクで最大耐容量のスタチンを服用している米国外の患者1617人を組入れて、最初の二回は3ヶ月置き、その後は6ヶ月毎に300mgを皮注したところ、第510日のLDL-C値が偽薬比54%、低下した。

inclisiranはアルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のALN-PCSscをライセンスしたもので、PCSK9のmRNAを切断するsiRNA薬。LDL-C治療効果は抗PCSK9抗体であるアムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)やリジェネロン/サノフィのPraluent(alirocumab、和名プラルエント)と同程度のように見える。投与頻度が少ないのは良い。

安全性が注目されたが、注射箇所反応以外は大きな問題はなさそうだ。治療時発現深刻有害事象は両群22%、腎肝毒性は特に見られなかった。臨床的に重要な注射箇所反応の発生率は4.7%で偽薬群の0.5%を上回った。抗PCSK9抗体は第三相試験で心血管保護作用の兆候を示したが、inclisiranも心筋梗塞発生率が1.2%(偽薬群は2.7%)、卒中は0.2%(同1.0%)と有意に少なかった。

家族性高脂血症の第三相も進行しており、メディスンズ社は今年第4四半期に米国で、来年第1四半期には欧州でも、承認申請する計画。抗PCSK9抗体の経験を踏まえると、売れるかどうかは価格次第だろう。

リンク: MDCOのプレスリリース

ESC:フォシーガが駆出率低下心不全の転帰を改善
(2019年9月1日発表)

アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Farxiga (dapagliflozin、和名フォシーガ)のアウトカム試験、DAPA-HFの結果をESC欧州心臓学会で発表した。日本を含む20ヶ国の施設で、標準治療を受けている左室駆出率が40%以下に低下した心不全(HFrEF)約4700人をFarxiga群(10mg、一日一回)と偽薬群に無作為化割付して転帰を比較したもので、主評価項目(心血管死または心不全入院・緊急来院)のハザードレシオが0.74となり、統計学的にも臨床的にも意味のある差が確認された。心血管死だけのハザードレシオは0.82、心不全悪化は0.70でどちらもp値が0.05を下回った。

Farxigaは二型糖尿病治療薬として日米欧などで承認されており、アウトカム試験で心不全悪化を抑制する効果を示している。今回の試験はベースライン時点で被験者の45%が二型糖尿病を合併していて、このユニバースに関しては適応拡大にはならない。残りの55%のデータが注目されたが、各サブグループのハザードレシオは0.75と0.73で大差なかった。Farxigaは二型糖尿病を合併していない心不全にも有効ということになる。尤も、被験者の36%はHbA1cが5.7%以上、6.5%未満の前糖尿病で、正常値は19%のみだった。統計学的な検出力が足りないだろうが、正常値の患者におけるハザードレシオも知りたいものだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ESC:ブリリンタがPCI歴を持つ二型糖尿病の心血管転帰を改善
(2019年9月1日発表)

アストラゼネカは、Brilinta(ticagrelor、和名ブリリンタ)の心血管アウトカム試験、THEMISと、そのPCIサブスタディの結果をESCと医学誌(前者はNew England Journal of Medicine、後者はLancet)で発表した。安定性冠動脈疾患を合併してアスピリンを服用している二型糖尿病の心筋梗塞・脳卒中初発予防効果を検討した試験で、どちらも成功したが、PCI歴のない患者に対する効果は認められなかった。

この試験は、PCI歴、バイパス術歴、または冠動脈狭窄が50%以上の患者19,220人を偽薬群と60mg一日二回経口投与群(当初は90mgだったが他の試験の結果を踏まえて減量)に無作為化割付してメジアン40ヶ月、追跡したもの。PCIサブスタディはPCI歴を持つ11,154人だけを対象とした試験。

結果は、主評価項目の心血管死・心筋梗塞または脳卒中の発生率が各群8.5%と7.7%となり、ハザードレシオ0.90、p=0.04と境界域ではあるが統計学的には有意な差があった。年率では0.3%足らずの差だった。TIMI定義に基づく大出血の発生率が1.0%対2.2%、頭蓋内出血が0.5%対0.7%とどちらも統計学的に有意な差があった。

PCIサブスタディは主評価項目の発生率が8.6%対7.3%、ハザードレシオ0.85、p=0.013と全ユニバースの解析より少し良いデータが出た。一方、PCI歴を持たない患者の解析では各8.4%、8.2%、0.98、0.76と効果が見られなかった。

PCIサブスタディでもTIMI大出血の発生率が1.1%対2.0%と有意に増加した。頭蓋内出血に関してはどちらも0.6%で有意な差はなかったが、イベント数が少ないため、安心すべきではないだろう。

THEMIS試験で失望的なのは、3年以上追跡すればどの薬でもこんなものなのだろうが、Brilinta群の34.5%、偽薬群の25.4%が試験薬の服用を途中で止めてしまったこと。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: THEMIS試験論文(NEJM)
リンク: PCIサブスタディ論文(Lancet)

ESC:ブリリンタがエフィエントに負ける番狂わせに
(2019年9月1日発表)

そのBrilintaが、競合品であるイーライリリー/第一三共のEfient(prasugrel、和名エフィエント)との直接比較試験で負けるという、主導した研究者にとって意外な結果になったことがESCとNew England Journal of Medicine誌で発表された。

このISAR-REACT 5試験は、ドイツとイタリアの医療施設に入院しPCIやCABGなどが予定されている急性冠症候群4,018人をBrilinta群とEfient群に無作為化割付し、MACE(主要有害心血管イベント:全死亡、心筋梗塞、脳卒中の何れか)が発生するまでの期間を比較した。主目的は、Brilinta群の優越性を確認すること。ところが、結果は、Brilinta群の発生率9.3%に対してEfient群は6.9%、ハザードレシオは1.36、p=0.006と有意に悪かった。死亡率は各4.5%と3.7%、心筋梗塞発生率は4.8%対3.0%となっている。ST上昇型や非ST上昇型のサブグループ分析も同様な結果になった。

抗血小板薬は虚血性イベントを抑制する便益と出血事故が増える危険の綱引きになることが多いが、本試験では、大出血(BARC基準)の発生率は5.4%対4.8%と大差なかった。この試験に関してはBrilintaの完敗といってもよい。

リンク: ISAR-REACT 5試験論文(NEJM)

ESC:Entrestoの駆出率維持心不全アウトカム試験は惜しくもフェール
(2019年9月1日発表)

ノバルティスは、Entrestoのアウトカム試験、PARAGON-HFの結果をESC及びNew England Journal of Medicine誌で発表した。

EntrestoはNEP阻害剤sacubitrilとアンジオテンシンII受容体拮抗剤valsartanを一つの分子にまとめた一風変わった合剤で、欧米で駆出率が低下した慢性心不全の治療薬として販売中、日本でも慢性心不全治療薬として承認審査中。

今回の試験は、左心室駆出率が45%以上と、駆出率低下(40%以下)ではない慢性心不全(HFpEF)4,822人をvalsartan群(160mgを一日二回、経口投与)とEntresto群(sacubitril 97mg/valsartan 103mgを一日二回経口投与)に無作為化割付して、主評価項目である心血管死または心不全入院(通常のアウトカム試験と異なり、二回目以降の入院も考慮)を比較した。

結果は、レート比が0.87、95%信頼区間0.75-1.01、p=0.06と僅かにフェールした。サブグループでは、駆出率がメジアン値(57%)以下や女性の数値が比較的良好だった。尤も、交絡p値は有意ではないので、誤差が異なった方向に出ただけかもしれない。

二次的評価項目ではNYHA分類が改善した患者や腎不全が悪化しなかった患者の比率がEntresto群のほうが高かった。

心血管アウトカム試験は複合評価項目の構成項目の何れかが発生するまでの期間を比較する、time-to-first event法を採用することが多い。死亡というイベントを例に取るのが一番わかりやすいが、200年追跡すると両群とも死亡率100%となってしまい治療効果を評価できない。time-to-first event法なら評価が可能で、もっと長生きしたいという患者のニーズにも即している。

本試験のtime-to-first event法に基づく解析は、ハザードレシオ0.92(95%信頼区間0.81-1.03)だった。主評価項目における治療効果よりも更に低下(数値は上昇)しており、失望的だ。

ノバルティスはNYHA分類の改善などのデータに基づいて適応拡大申請する方向で承認審査機関と相談する考え。治療効果の多寡や臨床的な意義などが論点になりそうだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: PARAGON-HF試験論文

ゾフルーザのグローバル小児インフルエンザ試験が成功
(2019年9月2日発表)

ロシュは、Xofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)の第三相小児インフルエンザ治療試験、MINISTONE-2の結果をISIRV(インフルエンザ等呼吸器ウイルス疾患国際学会)のOPTIONS X 2019会議で発表した。1歳以上、12歳未満のインフルエンザ患者をXofluza群とTamiflu(oseltamivir、和名タミフル)群に無作為化割付した二重盲検試験で、主評価項目の29日治療時発現有害事象は各群の発生率が46.1%と53.4%、副次的評価項目であるインフルエンザ罹病期間のメジアン値は138.1時間と150.0時間で、どちらも同程度だった。ウイルス排出期間のメジアン値は24.2時間対75.8時間で、成人試験と同様に、Xofluzaのほうがよかった。

Xofluzaは日本の臨床試験で作用点であるRNAポリメラーゼのPAサブユニットにI38TあるいはF199G置換などを持つ低感受性インフルエンザウイルスを選択するリスクが表面化した。12歳以上を組入れた第三相では検出率が被験者の1割弱だったが、12歳未満では2割強(77例中18例)と多かった。変異ウイルスは病原性や感染性が低い場合もあり、低感受性イコール薬が無効とは言えないが、国内小児試験は対照群がなかったため、罹病期間短縮効果が低下するかどうかは明らかではなかった。

このため、グローバル試験で罹患期間がTamifluと大差なかったのは取り敢えず朗報。但し、発現率はウイルス型により異なる可能性もあるので、PA/I38変異検出例とそれ以外の比較データなどの公表が望まれる。

尚、この試験は錠剤や顆粒ではなく新開発の経口液が用いられている。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: 塩野義製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール
(2019年9月5日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第三相CheckMate-548試験のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価ベース)解析がフェールしたと発表した。もう一つの主評価項目である全生存期間の解析が残っているため、データ監視委員会は治験続行を勧告した。

この試験は、MGMT(O6-methylguanine-DNA methyltransferase)メチル化のある新患多形性膠芽腫を標準療法群(放射線療法とアルキル化薬temozolomideを施行)と更にOpdivoも用いる群に無作為化割付した。メチル化のない新患多形性膠芽腫(temozolomideの効用に疑問が投じられている)を組入れたCheckMate-498試験は放射線療法・Opdivo併用群の全生存期間が放射線療法・temozolomide併用群を有意に上回らず、フェールした。また、二次治療のbevacizumab併用第三相試験もフェールしたので、今回の試験の全生存解析もフェールした場合は三連敗になる。

脳腫瘍の臨床試験は中々成功しない。抗PD-1/PD-L1抗体も無効なのだろうか。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


オフェブが全身性強皮病に適応拡大
(2019年9月6日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib、和名オフェブ)を全身性強皮病(SSc)に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の治療に用いる適応拡大を承認した。欧州や日本でも承認審査中。

SSc-ILDはSScの多くが合併する命に係わる肺疾患。米国の推定患者数はSScが10万人、SSc-ILDはその半分。Ofevの臨床試験では、FVC(努力肺活量)の低下が52.4 mL/年と偽薬群の93.3 mL/年より4割小さかった(p=0.04)。深刻な有害事象は肺炎で発現率は2.8%だった(偽薬群は0.3%)。有害事象による永続的な減量が34%の患者で見られた(同4%)。最も多い理由は下痢だった。

Ofevは14~15年に日米欧で特発性肺線維症の治療薬として承認された。欧州では腺腫非小細胞性肺癌用薬Vargatefとしても別名承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース




今週は以上です。