2018年11月25日

2018年11月25日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • メルク/ファイザーの抗PD-L1、卵巣癌試験がフェール 
  • 第一三共もFLT3阻害剤を承認申請 
  • FDA、血球貪食リンパ組織球症治療薬を承認 
  • FDA、ヘッジホッグ阻害剤をAMLに承認 
  • アッヴィのbcl-2阻害剤もAMLに適応拡大 
  • RPE65網膜ジストロフィーの遺伝子療法がEUでも承認 
  • FDA、ジレニア中止後の症状悪化を警告 


【新薬開発】


メルク/ファイザーの抗PD-L1、卵巣癌試験がフェール
(2018年11月19日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、抗PD-L1抗体Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相卵巣癌再発治療試験がフェールしたと発表した。抗PD-1/PD-L1の用途としては新しいだけに注目されたが残念な結果になった。卵巣癌の第三相はもう一本、一次治療三剤併用試験が進行中。

Bavencioはメルクがファイザーと提携して開発、17年に日米欧で承認された。抗PD-1/PD-L1としては後発であるためか、他社の開発があまり進んでいない転移性メルケル細胞腫がリード・インディケーションだった。希少疾患で、欧米の推定患者数は各2500人、日本は75人とのことである。その後、米国では転移性尿路上皮癌の再発治療も承認され、また、腎細胞腫一次治療axitinib併用試験が成功、承認申請の見込みである。

今回のJAVELIN Ovarian 200試験は、白金薬抵抗性/難治性の卵巣癌をモノセラピー、ドキソルビシン塩酸塩リポソーム注射剤(対照群)、両剤併用の3群に無作為化割付して全生存期間を比較したもの。PD-L1発現状況は不問。結果は、モノセラピーのハザードレシオが1.14、併用は0.89で、どちらも有意に上回らなかった。この患者層にBavencioが有効と考えた根拠はどの程度強固だったのか、改めて尋ねたくなるような結果だ。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


第一三共もFLT3阻害剤を承認申請
(2018年11月22日発表)

第一三共は、経口FLT3チロシンキナーゼ阻害剤quizartinib(キザルチニブ)を再発性難治性AML(急性骨髄性白血病)用薬として米国で承認申請し、受理された。審査期限は来年5月25日。AMLの3割程度を占める、FLT3の遺伝子の塩基配列繰返し箇所に重複変異があるタイプ(FLT3-ITD)が適応になる。第三相試験ではメジアン生存期間が6.2ヶ月と化学療法群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、統計的に有意な差があった。有害事象はQT延長など。

昨年、同じ作用機序を持つノバルティスのRydapt(midostaurin)がFLT3-ITD型AMLの一次治療化学療法併用薬として欧米で承認された。後期のようにAMLでは続々と新薬が承認されているので、生存競争は厳しい。quizartinibの試験ではRydapt歴を持つ患者も組入れたので、どの程度の効果があったのか注目される。

米国サンディエゴのAmbit Biosciences社が開発、09年にアステラス製薬が世界共同開発商業化権を取得したが、13年に戦略上の理由で解約、14年に第一三共がマイルストンを含めて総額4億ドルで会社ごと買収した。

日本では10月に、欧州でも11月に申請された。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)


【承認】


FDA、血球貪食リンパ組織球症治療薬を承認
(2018年11月20日発表)

FDAは、HLH(原発性血球貪食リンパ組織球症)の初めての治療薬となるGamifant(emapalumab-lzsg)を承認した。HLHは免疫細胞が異常に活性化、肝臓や脳、骨髄に障害をもたらす、高死亡率の超希少疾患。NKT細胞やCTLが分泌するインターフェロン・ガンマの著増が見られる。

GamifantはスイスのNovimmuneが開発・承認申請した抗インターフェロン・ガンマ抗体で、再発性、難治性、または従来の治療法に不耐の成人小児が適応になる。27人の幼小児を組入れた臨床試験で63%が反応し、70%の患者が幹細胞移植に進むことができた。主な有害事象は感染症や高血圧、点滴箇所反応、低カリウム血、発熱など。

Novimmuneは優先審査バウチャーを取得した。Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)が全世界での開発販売権を保有しており、将来的には事業を継承する予定。欧州でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

FDA、ヘッジホッグ阻害剤をAMLに承認
(2018年11月21日発表)

FDAはファイザーのヘッジホッグ阻害剤Daurismo(glasdegib)を75歳以上または強化化学療法が不適な新患AML(急性骨髄性白血病)用薬として承認した。低量cytarabineと併用で一日一回、経口投与する。ファイザーは12月に発売する予定。WAC(卸取得コスト)は30日分16925ドルの見込み。

ヘッジホッグ・パスウェイは胚形成時に重要な役割を果たす。成人では機能していないが、異常活性化すると癌の幹細胞の発達・生存に関与すると考えられている。承認の根拠となった第二相試験ではメジアン生存期間が8.8ヶ月と低量cytarabineだけの群の4.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.46、統計的に有意だった。深刻有害事象の発生率は79%で、熱性好中球減少症や肺炎、出血、敗血症などが見られた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

アッヴィのbcl-2阻害剤もAMLに適応拡大
(2018年11月21日発表)

アッヴィは、bcl-2阻害剤Venclexta(venetoclax)をAML(急性骨髄性白血病)に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。75歳以上または併存症により強化化学療法の対象にならない新患に、azacitidine、decitabine、または低量cytarabineと併用する。

承認の根拠となった第二相試験ではazacitidineと併用した患者では完全寛解率37%、decitabine併用では54%だった。

リンク: アッヴィのプレスリリース

RPE65網膜ジストロフィーの遺伝子療法がEUでも承認
(2018年11月23日発表)

ノバルティスは、EUがLuxturna(voretigene neparvovec)を両アレルRPE65調停性遺伝性網膜ジストロフィーの治療薬として承認したと発表した。20万人に一人の希少疾患で、視力低下や失明をもたらす。Luxturnaは増殖しないよう操作したアデノ随伴ウイルスをベクターにしてRPE65遺伝子を導入する、in vivo遺伝子治療。米国では昨年12月に承認。スパーク社の開発品で、ノバルティスは米国外での開発販売権を持っている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、ジレニア中止後の症状悪化を警告
(2018年11月20日発表)

FDAはGilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)の安全性情報を発出した。投与を中止した後に多発性硬化症の病状が大きく悪化するリスクがある、というもの。米国で承認されて以来の8年間で35例が報告されている。治療前の状態よりも悪化した事例もあるようだ。転帰は回復6例、部分的回復17例、回復せずあるいは永続的障害が8例。副作用や効果不足により投与を中止する場合は十分に注意し患者にもリスクを伝えるよう勧告している。

リンク: FDAの安全性情報





今週は以上です。

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2018年11月18日

2018年11月18日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダ、食道癌の二次治療試験成功 
  • イミフィンジ、肺癌一次治療試験はやっぱりフェール 
  • イーライリリー、片頭痛治療薬を承認申請 
  • MSD、エボラワクチンを承認申請 
  • アストラゼネカ、リムパーザの卵巣癌維持療法を承認申請 
  • ロシュ、テセントリクをトリプルネガティブ乳癌に適応拡大申請 
  • CHMPがJNJの前立腺癌用薬などの承認を支持 
  • FDA、アドセトリスの適応拡大を2週間足らずで承認 
  • FDA、旅行者の下痢の治療薬を承認 
  • EMA、キノロン系抗生剤の規制強化を決定 


【新薬開発】


キイトルーダ、食道癌の二次治療試験成功
(2018年11月14日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)の第三相食道癌二次治療試験、KEYNOTE-181試験が成功したと発表した。末期/転移性食道・胃食道接合部腫瘍の患者をKeytruda群または化学療法群に無作為化割付して、PL-L1高発現(CPS≧10)サブグループの全生存期間を比較したところ、Keytruda群が有意に上回った。次に、扁平上皮種サブグループやIntent-to-treatベースの解析も行ったところ、方向は好ましかったが有意な差はなかった。詳細は学会発表の予定。

MSDは適応拡大申請する考え。Keytrudaは化学療法併用で食道癌一次治療試験も進行中。

リンク: MSDのプレスリリース

イミフィンジ、肺癌一次治療試験はやっぱりフェール
(2018年11月16日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)の非小細胞性肺癌一次治療試験の全生存解析がフェールしたと発表した。モノセラピーも、抗CTLA-4抗体CP-675,206(tremelimumab)併用群も、標準療法群を有意に上回ることができなかった。

このMYSTIC試験のデザインは期中に幾度が変更された。元々の主評価項目はPFS(無進行生存期間)だったが全生存期間を共同主評価項目とした。BMSのOpdivoの類似試験がフェールした後にモノセラピー群の割付数を増やし、PD-L1発現25%以上のサブグループの解析も行うことにした。

昨年7月、最初に結果が出た併用群のPFS解析がフェールしたことが発表された。事前に計画されていなかったモノセラピーのPFS解析は、数値自体もフェールだった。そして今回、全生存の解析もフェールした。PD-L1発現25%以上のサブグループでは併用群のハザードレシオ0.85、モノセラピー群は0.76でどちらも有意ではなかった。

モノセラピー群の点推定値は悪くなく、多くの解析を盛り込んだためアルファが分散されてハードルが高くなったことが敗因の可能性がありそうだ。様々な抗PD-1/PD-L1抗体の治験成績は必ずしも一致しておらず特に非小細胞性肺癌では取りこぼしが目立つが、実際の効能に差異があると考える理由はなく、治験のデザインや偶然によって差が出てしまったのかもしれない。

尚、tremelimumabはファイザーからライセンスしたもの。固定領域がIgG2型でBMSのYerviy(ipilimumab)のIgG1型ではないせいか、メラノーマの試験がフェールしてファイザーは開発中止。今回の試験でも併用群のハザードレシオのほうが数値が悪く、失望的だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


イーライリリー、片頭痛治療薬を承認申請
(2018年11月14日発表)

イーライリリーはlasmiditanを片頭痛発作の治療薬としてFDAに承認申請した。三叉神経パスウェイで発現する5-HT1F受容体に選択的なアゴニストで、ファースト・イン・クラス。選択性が高いためトリプタン系のような血管収縮リスクが小さい。第三相試験では奏効率が偽薬群を10-17%上回った。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

MSD、エボラワクチンを承認申請
(2018年11月13日発表)

MSDはエボラワクチンのrVSV-ZEBOVをFDAに承認申請した。コンゴ民主共和国などでは既に用いられているが、FDAが承認すれば米国の寄付金や助成金で購入・提供したり、承認審査機関を持たない国でも使えるようになったり、アベイラビリティが高まる。

水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一部の遺伝子をザイール種エボラウイルスの一つの遺伝子と置換した弱毒化生ワクチン。カナダ公衆衛生庁(PHAC)が開発、米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)がライセンスし、14年にMSDに世界独占開発生産販売権を供与したもの。

リンク: MSDのプレスリリース

アストラゼネカ、リムパーザの卵巣癌維持療法を承認申請
(2018年11月12日発表)

アストラゼネカはLynparza(olaparib、和名リムパーザ)を卵巣癌の一次治療後維持療法に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は19年第1四半期。

BRCAに有害変異を持つ末期卵巣癌で、白金レジメンによる一次治療に部分/完全反応した患者に300mg錠を一日二回、最長2年間にわたって投与したSOLO1試験では、PFSの偽薬比ハザードレシオが0.30、3年無進行生存率60.4%(偽薬群26.9%)と有意な差があった。最長2年という制限を患者に納得させるのは難しそうだが、終了時点で完全反応の患者は投薬を中止しても再発しなかった由。

LynparzaはPARP阻害剤。MSDと共同開発販売している。

リンク: 両社のプレスリリース

ロシュ、テセントリクをトリプルネガティブ乳癌に適応拡大申請
(2018年11月13日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を切除不能局所進行性転移性トリプルネガティブ(エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、そしてher2の何れも陰性)乳癌の一次治療薬として承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は来年3月12日。

Abraxane(nab-paclitaxel)と併用する。因みに、ロシュが通常のpaclitaxelではなくAbraxaneを様々な試験で用いているのは、溶剤による過敏反応リスクが小さいため、ステロイドによるプリトリートに伴う免疫抑制を回避できることが理由のようだ。

承認申請の根拠となったIMpassion130試験では、PFSがメジアン7.5ヶ月とAbraxaneだけの群の5.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62、95%信頼区間は0.49-0.78だった。PD-L1陽性サブグループの解析でもハザードレシオ0.62だった。

延命効果の解析は未だ中間段階でハザードレシオ0.84、p=0.0840と有意ではなかった。PD-L1陽性サブグループでは0.62、95%信頼区間0.45-0.86と良好な数字が出たが、これらはシーケンシャル解析なのでIntent-to-treatの解析がフェールした段階でその後の解析は仮説検証ではなく探索的な解析に留まる由。全生存の最終解析結果を待つ必要がある。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがJNJの前立腺癌用薬などの承認を支持
(2018年11月16日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、11月の会合で、ジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Erleada(apalutamide)はアンドロゲン伝達阻害剤。Xtandi(enzalutamide)を創製した医学者が第二世代として開発したもの。対象は、去勢抵抗性前立腺癌で、まだ転移は見られず症状も悪化していないがPSA値が急上昇し始めた、高リスク患者。臨床試験では無転移生存のメジアン値が40.5ヶ月と偽薬群の16.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.28、統計的に有意だった。全生存期間は中間解析だったがハザードレシオ0.45、pは0.0001を下回った。

米国では昨年10月に承認。日本では今年3月に承認申請された。米国承認段階では上記適応を持つ薬は初めてだったが、Xtandiも直ぐ追いついた。しばらくは適応拡大競争が続きそうだが、どこかの時点で薬効の優越性を示すことができない限り、後発の不利がありそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

サノフィが承認申請したFexinidazole Winthropはガンビアトリパノソーマという寄生虫によるアフリカ睡眠病の治療薬。サブサハラ・アフリカで集中的に発生する風土病。fexinidazoleはヘキストが1970年代に創製したが80年代に開発中止となった。21世紀に入ってDNDi(顧みられない病気のための新薬イニシアティブ)が病原虫に対する活性を発見、ヘキストの事業を受け継ぐサノフィと09年から共同開発した。

錠剤なので医療インフラが不十分な地域でも使いやすく、血液脳関門を通過して神経障害を起こす寄生虫にも効果がある経口剤は初めて。

リンク: サノフィのプレスリリース(pdf)

適応拡大で印象的なのは、一度は否定的意見を受けたが復活し今回、肯定的意見を獲得した二剤。まず、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用で中高度リスク末期腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。CHMPは当初、Yervoyの必要性が確立していないことに懸念を示したが、専門医の意見や他の癌の併用成績に基づき、便益が危険を上回ると判断した。

米国では今年4月、日本でも8月に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: BMSのプレスリリース

次に、アムジェンのBlincyto(blinatumomab、和名ビーリンサイト)。フィラデルフィア染色体陰性、CD19陽性の前駆B急性リンパ性白血病で一回目または二度目の完全寛解を達成したが少しだけ癌が残る(MRD:minimal residual disease)患者の治療に用いる適応拡大が一転して支持された。

癌が残るなら完全寛解ではないのではないかと突っ込みたくなるが、アムジェンのプレスリリースによると完全寛解とMRDは判定方法が異なるようだ。前者は顕微鏡検査で癌細胞の比率が20分の1未満だと検出できない可能性がある。後者は高感度検査に基づく判定で1万分の1でも検出できる。結局、完全寛解ではないことになる。

CHMPは当初、MRDを治療する臨床的な効用が確立していないことを危惧したが、専門医の意見や、MRDは再発リスクが高いにもかかわらず治療手段がないこと、BlincytoのMRD奏効率が高いこと、臨床試験の長期フォローアップ結果が出れば延命効果など臨床的な便益を確認することができることなどから、肯定的意見に転じた。

治療の意義は米国でもFDA諮問委員会の意見が賛成8人、反対4人と別れたが、FDAは3月に承認した。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: アムジェンのプレスリリース

一方、ロシュがTecentriq(atezolizumab)の適応拡大申請を10月に撤回していたことが公表された。Avastin併用でPD-L1発現1%以上の局所進行性転移性腎細胞腫の一次治療に用いるというもの。IMotion151試験に基づく申請だが、ロシュの撤回通知を読むかぎりでは、宿題になっていた全生存などの解析が意外な結果だったのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース(pdf)
リンク: ロシュの申請撤回通知(pdf)

【承認】


FDA、アドセトリスの適応拡大を2週間足らずで承認、
(2018年11月16日発表)

FDAは、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を全身性未分化大細胞リンパ腫などのCD30陽性末梢T細胞リンパ腫の一次治療に用いる適応拡大を承認した。

ECHELON-2試験では、伝統的な標準療法であるCHOPレジメン(cyclophosphamide、doxorubicin、vincristine、prednisone)のvincristineをAdcetrisに代えたレジメンをCHOPレジメン群と比較したところ、PFS(担当医評価)のハザードレシオが0.71(p=0.011)、全生存は0.66(p=0.0244)と良好な結果だった。

驚かされるのは承認の早さだ。同社が承認申請を発表したのは今月5日、ブレークスルー・セラピー指定を受けたと発表したのは15日なので、光速承認といえる。7月に導入されたばかりのリアルタイム腫瘍学審査パイロット・プログラム(Real-Time Oncology Review Pilot Program)の寄与の模様だ。FDAが承認申請前にデータの大枠をチェックすることでその後の審査をスムーズに進めるというもの。Adcetrisは4例目とのことだ。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース
リンク: ブレイクスルー・セラピー指定時のプレスリリース(11/15付)
リンク: 承認申請時のプレスリリース(11/5付)

FDA、旅行者の下痢の治療薬を承認
(2018年11月16日発表)

FDAは、Cosmo Pharmaceuticals N.V.(SIX:COPN)の子会社が申請したAemcolo(rifamycin)を旅行者の下痢の治療薬として承認した。非侵襲性大腸菌を原因とする、発熱や血便を伴わない患者に、3-4日間経口投与する。広域半合成非吸収性抗生剤で、MMX技術を用いて胃や小腸での吸収・作用を抑制、大腸局所的に作用させる。

感染症治療薬の開発インセンティブであるQIDP指定されており、優先審査バウチャを獲得する。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、キノロン系抗生剤の規制強化を決定
(2018年11月16日発表)

EMAはキノロン系抗生剤の一部の承認を停止し、残りの製品も適応を制限すると発表した。承認停止はcinoxacin、flumequine、nalidixic acid、pipemidic acid。フルオロキノロンの適応停止は、自然治癒が見込まれるあるいは深刻でない感染症、非細菌性感染症、旅行者の下痢や下部尿路感染症の予防、軽中度細菌感染症(他の広く推奨されている抗菌剤が使えない場合を除く)。

規制強化の理由は、深刻且つ長期間続く不可逆的な副作用を伴うことが判明したため。腱炎、腱断裂、関節炎などである。フルオロキノロンによる深刻な副作用を経験した患者は使用を避けるべき。高齢や腎疾患、臓器移植、コルチコステロイドの同時使用も、腱傷害のリスクを高めるので、使用を避けるべき。

リンク: EMAのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年11月11日

2018年11月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AHA:EPAの心血管アウトカム試験の詳細が明らかに
  • トルリシティが心血管リスクを抑制 
  • アヴェオ、VEGFR阻害剤の腎細胞腫三次治療試験が成功 
  • 第一三共、FLT3阻害剤をEUでも承認申請 
  • SGEN、アドセトリスを適応拡大申請 
  • テラバンス、ネブライザ用LAMAが承認 
  • MSD、キイトルーダが肝細胞腫に承認 
  • BMS、エムプリシティが適応拡大 


【新薬開発】


AHA:EPAの心血管アウトカム試験の詳細が明らかに
(2018年11月10日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(icosapent ethyl)の心血管アウトカム試験、REDUCE-IT試験の詳細がAHA米国心臓協会科学部会とNew England Journal誌で発表された。リスクを25%削減、NNT(number-needed-to-treat)は102人/年という高い治療成果をを示した。

持田製薬のエパデールも日本の心血管アウトカム試験が成功しており、一方、EPA・DHA混合体の近年の同様な試験は一つも成功していない。結局、EPAだけを高量摂取することが重要なのだろう。

REDUCE-IT試験は、心血管疾患既往または糖尿病などのリスク因子を持ち、LDL-Cはスタチンで41-100 mg/dLにコントロールできているが空腹時トリグリセライド(TG)は135-499 mg/dLの患者8179人を、Vascepaを2gずつ一日二回服用する群と偽薬(ミネラルオイルが入っていた)群に無作為化割付して、心血管イベントの発生状況をメジアン4.9年間追跡した。主評価項目は心血管死、心筋梗塞、脳卒中、冠再血行術、不安定狭心症の複合評価項目。

結果は、Vascepa群の発生率が17.2%であったのに対して偽薬群は22.0%、ハザードレシオは0.75(95%CI:0.68-0.83)だった。二次的評価項目の三点MACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)も各11.2%、14.8%、HR0.74(0.65-0.83)と良好な結果になった。一方、有害事象では心房細動による入院(3.2%対2.1%)や深刻出血イベント(2.7%対2.1%)が増加した。

さて、学会発表も査読誌掲載も活発な意見交換の呼び水になる。REDUCE-IT試験にも慎重な意見が出た。ミネラルオイルが足を引っ張って、偽薬ではなく悪薬と比較する結果になってしまったのではないかという懸念だ。Vascepa群のLDL-Cは1年でメジアン3%上昇したが、偽薬群は10%も上昇したからである。ミネラルオイル自体の影響、あるいは、スタチンの作用を阻害したのかもしれない。

尤も、過去のアウトカム試験で見られたLDL-C低下幅とリスク削減効果の相関性を考えれば、7%程度の群間差では心血管リスクを25%も削減することはできないだろう。多少オーバーステートされているとしても、リアルと受け止めるべきではないか。

Vascepaは米国で2012年に承認されたが、適応は重度高TG血症(空腹時TGトリグリセライドが500 mg/dL以上)だけだった。その後、スタチンを服用してもTGが200~499 mg/dLの混合異脂血症にアドオンする適応拡大を申請したが、このユニバースにおける効用は確立していないため、REDUCE-IT試験が成功するまでお預けとなった。アマリンは19年初めに適応拡大申請する考え。

Vascepaは2030年までの特許があるがGE薬メーカーの特許挑戦を受けている。そのせいか、持田製薬から新規EPA製剤の導入を決めた。

リンク: アマリンのプレスリリース
リンク: Bhattらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

トルリシティが心血管リスクを抑制
(2018年11月5日発表)

イーライリリーは、GLP-1作用剤Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)の心血管アウトカム(CVO)試験、REWINDが成功し、リスクを偽薬比有意に抑制したと発表した。データは来年のADA米国糖尿病学会で発表される見込み。

REWIND試験は、二型糖尿病で心血管疾患(CVD)の既往またはリスク因子を持つ9901人をTrulicity群と偽薬群に無作為化割付して再発・初発リスクを比較したもの。主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合評価項目。解析計画は、偽薬群の発生率が年2%、試験薬群のハザードレシオは0.82、9600人を6.5年追跡して検出力90%。

ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤のVictoza(liraglutide)とOzempic(semaglutide)、そしてベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤のJardiance(empagliflozin)もCVD抑制効果を示している。本試験は初発予防が69%と他の試験と比べて多く、その分、長期間追跡しており、再発初発予防の必要性が高い二型糖尿病患者に適した薬のエビデンスが更に充実したことになる。

血糖治療薬の開発会社がCVO試験を行うようになったのはFDAや諮問委員会の要求によるもの。糖尿病患者はCVDで死亡する人が多いため、治療薬がリスクを高めないことを確認することが当初の目的だった。ところが、結果は意外の連続だった。それまでの試験ではインスリンもSU剤もmetforminも有意に抑制できなかったが、複数の製品が増やさないだけでなく減らすことに成功したのだ。

また、一部の薬では心不全や下肢切断が増加した。一方で、動物の毒性試験で浮上した懸念の幾つかについては、ある程度安心できる結果になった。糖尿病患者も人口全体と同様に癌で死亡する人が多い。癌のリスクを高めないことを確認するためには、CVO試験では足りずもっと多くの患者を長期間追跡する必要があるが、やらないよりはやった方がはるかに良い。検出力を高めた結果、ノイズを拾うリスクが高まってしまったが、これまでの成果を見て、FDAや諮問委員会の判断が正しかったと認めない医療従事者や患者はいないだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

アヴェオ、VEGFR阻害剤の腎細胞腫三次治療試験が成功
(2018年11月5日発表)

アヴェオ・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:AVEO)は、Fotivda(tivozanib)の高度難治性末期・転移腎細胞腫試験が成功したと発表した。主評価項目のPFS(無進行生存期間)がメジアン5.6ヶ月とNexavar(sorafenib)を投与した群の3.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.74、p=0.02だった。全生存の解析は未成熟だがハザードレシオ1.06。来年8月頃に行われる最終解析で正しい方向に転換するか、注目される。

FotivdaはEUでは17年に腎細胞腫の一次治療とVEGFR阻害剤歴を持たない患者の二次治療用途で承認されたが、米国は、PFSではsorafenibを有意に上回ったものの全生存ハザードレシオが1.245、p=0.105と、有意ではないものの悪い方向であったため、諮問委員会もFDAも支持しなかった。アヴェオは今回の試験のデータで一次治療から三次治療までの承認申請を行う考え。過去の経緯を考えると、もし全生存ハザードレシオの最終解析が1.06のままだったら、承認されるかどうか微妙だろう。

FotivdaはVEGFRの1、2、3とc-KIT、PDGFRなどを阻害する小分子薬。07年にキリンからアジア以外での権利を取得したもの。11年にアステラス製薬が共同開発販売権を取得したが、14年に返還。欧州ではEUSA Pharmaが販売している。

リンク: アヴェオのプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


第一三共、FLT3阻害剤をEUでも承認申請
(2018年11月6日発表)

第一三共は、quizartinibを再発難治性AML(急性骨髄性白血病)用薬としてEUで承認申請した。経口FLT3チロシンキナーゼ阻害剤でAMLの3割程度を占めるFLT3-ITD(遺伝子内縦列重複)変異を持つ患者が対象になる。日本では10月に申請された。米国でもローリング承認申請中。第三相試験ではメジアン生存期間6.2ヶ月と化学療法群(cytarabineなどを使用)の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、統計的に有意な差があった。有害事象ではQT延長が見られた。

米国のAmbit Biosciencesが創製し09年にアステラス製薬が共同開発商業化権を取得も13年に戦略上の理由で返還。その翌年、同社を第一三共が3.15億ドル及び後発債務0.95億ドルで買収した。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)

SGEN、アドセトリスを適応拡大申請
(2018年11月5日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)をCD30陽性末梢T細胞リンパ腫のフロントライン治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。
臨床試験では、代表的な一次治療法であるCHOPレジメンのうちvincristineをAdcetrisに代えたレジメンをCHOPと比較したところ、担当医評価PFSのハザードレシオが0.71、p=0.011、二次的評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.66、p=0.0244となった。

Adcetrisは抗CD30抗体と細胞毒を結合したADC。ホジキン型リンパ腫などに承認されている。北米以外では武田薬品が開発販売。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース


【承認】


テラバンス、ネブライザ用LAMAが承認
(2018年11月9日発表)

テラバンス・バイオファーマ(Nasdaq:TBPH)とマイラン(Nasdaq:MYL)は、FDAがYupelri(revefenacin)をCOPDの維持療法として承認したと発表した。一日一回で足りるネブライザ用気管支拡張剤はCOPDでは初めて。

同社はグラクソ・スミスクラインとCOPD/喘息症用薬で広範な共同研究開発提携を結んでおり、revefenacinも一旦はGSKがライセンスしたが、ドライパウダー・インヘイラーに適さないことなどから返還。そこで、吸入用ジェネリック薬の開発で実績のあるマイランと手を結び、17年11月に承認申請したもの。マイランが販売する。COPD患者の9%はネブライザを好むとのことであり、長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)を必要とする患者には貴重な選択肢になる。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、キイトルーダが肝細胞腫に承認
(2018年11月9日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を肝細胞腫の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。一次治療薬として承認されているNexavar(sorafenib)歴を持つ患者が適応になる。加速承認の根拠となった第二相試験ではORR(客観的反応率)が17%、うち完全反応率は1%だった。深刻有害事象の発生率は15%。治療成績は、昨年5月に同様な適応拡大が承認された、BMSのOpdivo(nivolumab)と同様だ。

リンク: MSDのプレスリリース

BMS、エムプリシティが適応拡大
(2018年11月6日発表)

BMSは、Empliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)を多発骨髄腫の三次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。セルジーンのPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと併用する。

Revlimid(lenalidomide)やプロテアソーム阻害剤による治療歴を持つ患者を組入れた第二相試験ではPFSが10.3ヶ月とPomalyst・dexamethasoneのPdレジメン群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54、統計的に有意だった。

EmplicitiはSLAM7(CS1糖タンパク)を標的とするヒト化抗体で、プロテイン・デザイン・ラボ(PDL)が創製、08年にBMSにライセンスした。PDLはその後、アッヴィに買収された。

リンク: BMSのプレスリリース








今週は以上です。

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2018年11月4日

2018年11月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • SB623の外傷性脳損傷試験が成功 
  • BMSのアタッチメント阻害剤がヴィーヴでデビューへ 
  • サノフィ、デング熱ワクチンを米国でも承認申請 
  • FDA諮問委員会、産後鬱治療薬の承認を支持 
  • ローブレナ、米国でも承認 
  • キイトルーダ、扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療承認 
  • EUがbcl-2阻害剤とrituximabの併用を承認 
  • イクスタンジ、EUでハイリスクnmCRPCに承認 


【新薬開発】


SB623の外傷性脳損傷試験が成功
(2018年11月1日発表)

サンバイオは、SB623の第二相外傷性脳損傷(TBI)試験で主目的を達成したと発表した。日米の医療施設でTBIから12ヶ月以上経ち安定的な運動障害を被る患者をSB623の三用量群とシャム(穿孔だけ)に無作為化割付して24週後のFugl-Meyer運動スケールの変化を比較したところ、試験薬(三群プール)は平均8.7低下し、シャム群の2.4低下と有意な差があった。

このスケールは関節を動かす能力などを夫々0、1、2の3段階で評価する。同社によると、TBIの障害部位は患者によって区々だが、もし歩行障害だとすると、8ポイントの差は歩けなかった患者が歩けるようになった位の差を示唆するという。

SB623は他家骨髄間葉系幹細胞に神経成長に係るNotch-1の細胞内ドメインの遺伝子を導入したもの。障害部位の近くに頭蓋内投与する。20年1月期までに日本で再生医療等製品として承認申請する予定。

SB623は慢性期脳梗塞でも第二相試験中で、この用途は北米の共同開発販売権を大日本住友製薬が保有している。日本の同用途の権利は帝人が保有していたが今年2月に返還された。

リンク: サンバイオのプレスリリース(pdfファイル)

BMSのアタッチメント阻害剤がヴィーヴでデビューへ
(2018年10月31日発表)

ヴィーヴ・ヘルスケアは、fostemsavirの第三相試験の48週データを発表した。HIV/AIDSで6種類の抗ウイルス剤クラスのうち4種類以上に耐性、不耐、かつまた禁忌の患者を組入れて、最適なバックグランド・セラピーとfostemsavirを投与したところ、48週ウイルス抑制成功率(<40コピー/mL)が54%(272人中146人)となった。CD4陽性T細胞数は139個/mL増加。一方、深刻な有害事象が35%の患者で発生。7%が有害事象を理由に中止した。ヴィーヴは19年に承認申請する考え。

16年にBMSから取得した抗HIV薬パイプラインの一つで、アタッチメント・インヒビターtemsavirのプロドラッグ。HIVエンベロープのgp120に結合してウイルスがCD4陽性T細胞に結合・侵入するのを妨げる。BMSのアタッチメント・インヒビターに関する長年の研究が、GSKと塩野義製薬、ファイザーのHIV合弁会社であるヴィーヴによって、結実することになる。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

【承認申請】


サノフィ、デング熱ワクチンを米国でも承認申請
(2018年10月30日発表)

サノフィは、デング熱ワクチンDengvaxiaを米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年5月1日。

デング熱は蚊が媒介するデングウイルス感染症で、東南アジアや中南米の一部、米国領ではプエルトルコやヴァージン・アイランドで風土病となっている。感染しても症状が出るとは限らない一方で、重篤なデング出血を合併することもある。

Dengvaxiaは弱毒化黄熱病ウイルスに4血清型全てのデングウイルスの抗原を導入した生ワクチンで、08年に買収したAcambisがセントルイス大学のライセンスに基づいて開発した。15年のメキシコを皮切りに幾つかの国で販売承認され、フィリピンでは無料キャンペーンで70万人以上が接種したが、16年になって、未感染者が接種すると感染した時の病状が重くなるリスクが顕在化。政府がサノフィに損害賠償を求める事態になった。

「キプロスの蜂」と呼ばれる現象と同じような話である模様だ。デングウイルス感染は二回目の感染時に免疫機構がパニックを起こして過敏反応してしまうことがあり、ワクチンが初めての暴露である患者でも、同じことが起きる可能性がある。分からないことも多く、一回目と二回目の血清型が異なると発生しやすいとか、誘導された抗体力価が特定の水準以上である場合が危険とか、様々な指摘がされている。

WHOは抗体検査で陽性だった人だけに接種するよう勧告している。10月に肯定的意見をまとめたEUのCHMPも同様。武田が行っているTAK-003(DENVax)の第三相試験も同様。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、産後鬱治療薬の承認を支持
(2018年11月2日発表)

FDAの精神薬理学薬諮問委員会と薬品安全リスク管理諮問委員会の共同会議は、Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)が難治性産後鬱治療薬として承認申請したZulresso(brexanolone)を検討し、18人の委員のうち17人が承認を支持した。薬効は18人全員、安全性は16人が支持した。

米国では年40万人が産後鬱を経験すると言われている。Zulressoはニューロステロイドであるallopregnanoloneの特許性製剤で、GABA-A受容体の陽性アロステリック調整作用を持つ。60時間点滴静注した第三相試験では、HAM-DトータルスコアやCGI-Iが偽薬比有意に改善した。

意外なのは、140人の投与実績のうち6人で失神・前失神・意識喪失が見られたこと。乳児を抱かないようにしたり、速やかに対処できるよう投与完了後数時間経つまで監視を受ける必要があり、リスク評価・緩和戦略が導入される。

同社は類似した作用機序を持つ経口剤を開発、鬱病治療薬として第三相試験を開始する予定で、日本では塩野義製薬がライセンスした。失神リスクは作用機序に伴うものである可能性があるので、現在進行中の第二相産後鬱試験の結果を注視したい。経口剤なら患者は自由に行動できる。意識喪失が起きた時の転倒や交通事故のリスクが高いので、安全性の要求水準が高くなる。

リンク: Sageのプレスリリース


【承認】


ローブレナ、米国でも承認
(2018年11月2日発表)

ファイザーは、Lorbrena(lorlatinib、和名ローブレナ)がFDAにALK陽性転移性非小細胞性肺癌用薬として承認されたと発表した。同社のXalkori(crizotinib)を含む二剤以上のALK阻害剤歴を持つ場合、あるいはAlecensa(alectinib)またはZykadia(ceritinib)による一次治療歴を持つ患者が適応になる。ファイザーはXalkoriを第一世代、他社の二品を第二世代、そしてLorbrenaは第三世代と呼んでいる。日本では9月に承認。

臨床試験では32%の患者で深刻な有害事象が発生した。肺炎、呼吸困難、発熱、精神状態変化、呼吸不全などだ。致死的有害事象の発生率は2.7%だった。

リンク: ファイザーのプレスリリース

キイトルーダ、扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療承認
(2018年10月30日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療にcarboplatin及びpaclitaxel(nab-paclitaxelでも可)と併用する適応拡大がFDAに承認されたと発表した。Keytrudaの適応はPD-L1検査値との関係が複雑だが、今回の適応では不問とされた。

KEYNOTE-407試験に基づくもので、三剤併用群のメジアン生存期間は15.9ヶ月、二剤だけの標準療法群は11.3ヶ月、ハザードレシオ0.64と良好な成果を上げた。治療関連有害事象による死亡は各群10人(3.6%)と6人(2.1%)だった。

リンク: MSDのプレスリリース

EUがbcl-2阻害剤とrituximabの併用を承認
(2018年11月1日発表)

ロシュは、Venclyxto(venetoclax、米国名Venclexta)を再発性難治性CLL(慢性リンパ性白血病)の再発治療薬としてMabThera(rituximab、米国名Rituxan)と併用する適応拡大がEUに承認されたと発表した。

ジェネンテックがアッヴィと共同開発・販売している経口bcl-2阻害剤。rituximab併用でbendamustineとrituximabを併用する標準療法と全生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.48、有意な差があった。効果は高いが副作用リスクも高いので注意が必要。

ロシュは、持病を持つCLLの初度治療にVenclyxtoとGazyva(obinutuzumab)を併用した第三相CLL14試験の成功も発表した。PFS(無進行生存期間)がchlorambucilとGazyvaを併用した標準療法群を有意に上回った。データは学会で発表する考え。適応拡大申請を行う考え。

リンク: ロシュのプレスリリース(EU承認)
リンク: 同(一次治療試験成功)

イクスタンジ、EUでハイリスクnmCRPCに承認
(2018年10月29日発表)

アステラス製薬は、経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)をハイリスクのnmCRPC(非転移性去勢抵抗性前立腺癌)に用いる適応拡大申請がEUに承認されたと発表した。

PROSPER試験に基づくもので、未だ転移はしていないがPSA値が急上昇(10ヶ月以内の期間に倍増)している高リスク患者をXtandi群と偽薬群に2対1割付して無転移生存期間を比較したところ、メジアン36.6ヶ月対14.7ヶ月、ハザードレシオ0.29、p<0.001だった。

リンク: アステラスのプレスリリース(pdfファイル)







今週は以上です。

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