2019年4月28日

2019年4月28日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、キイトルーダの胃癌一次試験は最悪の結果を回避 
  • イーライリリー、トルツのnr-axSpA試験成功 
  • JNJのSGLT2阻害剤が糖尿病性腎症の悪化を抑制 
  • ギリアド、ASK1阻害剤の二本目の第三相NASH試験もフェール 
  • テバの抗CGRP抗体は群発頭痛試験がフェール 
  • Alder、点滴静注用抗CGRP抗体のBLAが受理 
  • CHMP、血液凝固障害用薬などの承認に肯定的意見 
  • アッヴィのスキリージが米国でも承認 
  • Portola、Xa阻害剤の解毒剤がEUでも承認 


【新薬開発】


MSD、キイトルーダの胃癌一次試験は最悪の結果を回避
(2019年4月25日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の胃癌一次治療における延命効果を標準療法と比較した第三相試験、KEYNOTE-062試験の結果を発表した。モノセラピーは非劣性検定成功、標準療法併用は標準療法と有意差なしという、諸手を挙げて喜ぶことはできない内容だった。過去の試験も成否は区々で、この癌の難しさが窺われる。

Keytrudaは米国ではPD-L1陽性胃がんの三次治療に承認されているが、第二相試験の反応率データに基づく加速承認なので、市販後薬効確認試験がフェールしたら承認取消の可能性がある。二次治療試験は一勝一敗だったが、今回の一次治療試験成功で、最悪の事態を免れる可能性が出てきたのではないか。

この試験は、PD-L1陽性(CPSが1以上)の進行胃・胃食道接合部腺腫で一次治療を受ける患者をモノセラピー群、標準療法(5-FUまたはcapecitabineをcisplatinと併用)併用群、標準療法群に無作為化割付して全生存期間を比較したもの。標準療法併用はCPSが10以上のサブグループの全生存期間や、全ユニバースのPFS(無進行生存期間)も検討した。データは6月のASCO米国臨床腫瘍学会で発表される見込み。

『海外医薬ニュース』は海外の話なのでデータを日本人に外挿できるかどうかは無視している。しかし、胃癌は日韓と欧米で予後が大きく異なることがままあるので一言付け加えておくべきだろう。Keytrudaも日本の試験、あるいはグローバル試験の日本人サブグループの成績を見てみたいものだ。

リンク: MSDのプレスリリース

イーライリリー、トルツのnr-axSpA試験成功
(2019年4月22日発表)

イーライリリーは、抗IL-17Aヒト化抗体Taltz(ixekizumab、和名トルツ)の第三相X線陰性体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)試験が成功したと発表した。米国で適応拡大申請する考え。順調に承認されれば、先に発売されたノバルティスの抗IL-17A抗体、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)にこの用途では先んじることができる。

axSpAは仙骨関節炎などを伴う疾患で、世界で450万人が罹患と推測されている。X線陽性のr-axSpAは従来は強直性脊椎炎(AS)と呼ばれていたが、症状が類似しているのにX線画像に異常が見つからない疾患もあるため、両者合わせてaxSpAとして扱うことになった。

今年3月にUCBのCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)が米国で初めて、nr-axSpAの適応を取得した。今後、AS治療薬として承認されている他の新薬も適応拡大が進むだろう。

今回の第三相はnr-axSpAでバイオ薬未経験の患者を組入れて16週時点と52週時点のASAS40奏効率を偽薬と比較したところ、どちらも有意に改善した。ASDASなどの副次的評価項目もすべて成功した。数値は未公表。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

JNJのSGLT2阻害剤が糖尿病性腎症の悪化を抑制
(2019年4月22日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、SGLT2阻害剤Invokana(canagliflozin、日本はオリジンの田辺三菱製薬がカナグル名で販売)の糖尿病性腎症アウトカム試験の結果を世界腎臓学会議(ISN 2019 WCN)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。中間解析で主目的を達成したことは昨年7月に発表済みで、今年3月に米国で効能追加申請済みい。

このCREDENCE試験は二型糖尿病で慢性腎疾患(ステージ2または3)とマクロアルブミン尿を合併する4401人を偽薬群とInvokana群に無作為化割付して転帰を観察した。全員がACE阻害剤あるいはARBによる標準療法を受けた。

主評価項目の腎合併症(末期腎不全、血清クレアチニン倍化、または腎・心疾患による死亡)リスクは偽薬比30%小さかった。副次的評価項目では心血管疾患死・心不全入院が偽薬比31%、MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)が20%、小さかった。

Invokanaは心血管アウトカム試験CANVASで下肢切断や骨損壊が有意に増加したことが懸念材料だ。他のSGLT2阻害剤では下肢切断の増加は見られないので、効能が同じなら他のSGLT2阻害剤のほうが安心ということになる。

興味深いのは、今回の試験では下肢切断も骨損壊も群間の偏りはなかった由。組入れも追跡期間もCANVASの半分程度なので検出力が十分でなかったのか、それとも、CANVASがノイズの影響を受けたのか。長期試験が複数実施されたのでメタアナリシスを実施・公表してほしいものだ。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: Perkovicらの治験論文抄録(NEJM)

ギリアド、ASK1阻害剤の二本目の第三相NASH試験もフェール
(2019年4月25日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-4997(selonsertib)の第三相非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)治療試験がフェールしたと発表した。偽薬、6mg、または18mgを一日一回、48週間に亘り経口投与して、架橋性線維化が改善しNASHは悪化しなかった患者の比率を比較したところ、各群13.2%、12.1%、9.3%となり、数値上はむしろ有害だった。

GS-4997は酸化ストレス下で肝臓の炎症、線維化、アポトーシスを促進するASK-1(アポトーシス・シグナル制御キナーゼ1)の阻害薬。2月には代償性肝硬変を合併したNASHを組入れた第三相のフェールが発表されている。

ギリアドはHIV/AIDSやC型肝炎の新薬が大ヒットしたが、成功が大きければ大きいほどパテントクリフが深刻になるのが新薬開発会社の宿命で、2000年代にファイザーのCEOとして多くの大型企業買収を行ったHenry McKinnellは、LipitorのGE化リスクをVictim of Past Successと呼んでいた。

ギリアドは近年はNASHやCAR-Tなど抗腫瘍薬の開発・導入・企業買収を活発化しており、NASH領域ではGS-4997を含む複数のメカニズムの異なる薬の併用法も検討している。先般は、ノボ ノルディスクの経口GLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)と三剤併用POC試験を行う提携を結んだ。単剤で上手く行かないなら併用を考えるのは自然の成り行きで、NASHでも単剤では足りないと考えるのが主流になりつつあるようだ。今回のフェールは失望的だが、試行錯誤は続くだろう。

リンク: ギリアドのプレスリリース

テバの抗CGRP抗体は群発頭痛試験がフェール
(2019年月日発表)

テバ・ファーマシューティカル(NYSE/TASE:TEVA)は、Ajovy(fremanezumab-vfrm)の第三相反復性群発頭痛試験を打ち切ると発表した。中間解析で無益性認定されたため。昨年6月には慢性群発頭痛も無益中止になった。

Ajovyは、ジェネンテックからスピンアウトした中枢神経系領域部門、Rinat NeuroscienceがRN-307として開発していた抗CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)抗体。Rinatを買収したファイザーが導出、その先の会社を14年にテバが2億ドル及び後発債務6.25億ドルで買収、18年9月に米国で片頭痛予防薬として承認取得、という経緯を持つ。日本は大塚製薬が導入。

抗CGRP抗体は開発競争が激しく、イーライリリーのEmgality(galcanezumab-gnlm)も18年9月に米国承認。Alder BioPharmaceuticals(Nasdaq:ALDR)が2月にALD403をBLA(後述)。抗CGRP受容体抗体もアムジェン/ノバルティスのAimovig(erenumab-aooe)が昨年5月に米国承認、7月にはEUでも承認。

何れも適応は片頭痛予防で、群発頭痛はEmgalityが反復性群発頭痛試験は成功したものの、慢性群発頭痛試験はフェール。販売承認を得る上では一つでも成功すれば大きな違いであり、慢性患者は群発頭痛の1-2割なのでフェールしても傷は浅いが、Ajovyの結果と合わせて考えると、抗CGRP抗体は効くのか、効かないのか、判然としない。両剤の臨床試験のデザインや患者背景、治療効果の多寡などを比較検討してもらいたいものだ。

リンク: テバのプレスリリース


【承認申請】


Alder、点滴静注用抗CGRP抗体のBLAが受理
(2019年4月22日発表)

Alder BioPharmaceuticals(Nasdaq:ALDR)は、ALD403(eptinezumab)の生物学的製剤販売許可申請(BLA)がFDAに受理されたと発表した。抗CGRPヒト化抗体で、反復性や慢性の片頭痛の片頭痛発作予防に用いる。イーライリリーやアムジェンの抗CGRP/CGRP受容体抗体が皮注用であるのに対して点滴静注であることが特徴。12週に一回投与する。テバに特許侵害で提訴されたが、昨年、和解してIP実施権を取得した。

リンク: Alderのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、血液凝固障害用薬などの承認に肯定的意見
(2019年4月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、4月の会合で、血液凝固障害の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

新薬では、まず、Doptelet(avatrombopag)はC-Mpl(スロンボポイエチン受容体)アゴニスト。観血的手術を受ける重度血小板減少症の患者に経口投与して、術前・術後の血小板輸血を減らす。米国では昨年5月に承認された。

類薬が多いせいか、開発主体は変遷した。2005年に山之内製薬が藤沢薬品と合併した時に山之内アメリカからスピンアウトしたAkaRxが権利を承継して開発。AkaRxは2010年にMGIの子会社となり、その後、MGIを買収したエーザイが16年3月にAkaRxをPBMキャピタルグループに売却、Dova Pharmaceuticals(Nasdaq:DOVA)の子会社となった。

リンク: EMAのプレスリリース

ノボ ノルディスクのEsperoct(turoctocog alfa pegol)はPEG化遺伝子組換え型第VIII因子。A型血友病の出血予防・治療に用いる。NovoEightをPEG化して、頻繁に出血する患者がルーチン予防目的で使う時の投与頻度を若干減らした。米国では2月に承認されたが、関連IPを持つ第三者との合意に基づき、2020年まで発売を見送っている。

リンク: EMAのプレスリリース

アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のUltomiris(ravulizumab)は長期作用性C5補体阻害剤。 PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)の治療に用いる。同社のヒット製品であるSoliris(eculizumab)と比べて半減期が長く、同じ点滴静注用薬だが三回目からは8週毎とSoliris(2週毎)より低頻度で済む。米国では昨年12月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

ヴィーヴヘルスケア(GSK、塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS合弁)のDovatoは、インテグラーゼ阻害剤dolutegravirと核酸系逆転写阻害剤lamivudineの固定用量合剤。どちらの活性成分にも抵抗性を持たないHIV/AIDS患者の初度治療に用いる。二種類の活性成分だけで完結するレジメンは初。米国でも4月に承認された。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のLibtayo(cemiplimab)は抗PD-1抗体。局所進行性・転移性の皮膚扁平上皮癌で根治的な手術や放射線療法の候補にならない患者向けに条件付き承認することが支持された。米国では昨年9月に承認。サノフィとの開発販売提携の対象品目。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのTalzenna(talazoparib)はPARP阻害剤。BRCA1/2の遺伝子に生殖細胞系変異を持つher2陰性の転移性/局所進行性乳癌で、アンスラサイクリンやタクサン、内分泌療法の治療歴を持つあるいは不適である患者が適応になる。

BioMarinから有形無形固定資産を買収したメディベーションをファイザーが買収して入手したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、これもPARP阻害剤であるアストラゼネカのLynparza(olaparib)を、卵巣癌の一次治療維持療法に用いることが支持された。生殖細胞系/体細胞系のBRCA1/2変異を持つ進行性卵巣癌で プラチナ薬ベースの一次治療に完全反応または部分反応した患者の地固め療法に用いる。LynparzaはMSDとの共同開発販売提携の対象。Avastin併用試験中。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、CHMPはイーライリリーの Lartruvo(olaratumab)の条件付き承認を取り消すよう勧告した。抗PDGFRアルファ完全ヒト化抗体で、第二相試験のデータに基づき、根治的手術や放射線療法に適さない進行軟組織肉腫にdoxorubicinと併用することが16年に欧米で条件付き承認/加速承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールした。

具体的には、メジアン生存期間が20.4ヶ月とdoxorubicinと偽薬の群の19.8ヶ月と大差なく、ハザードレシオは1.05と数値上は若干悪かった。PFS(無進行生存期間)の解析も、平滑筋肉腫だけの全生存期間解析も、フェールした。

条件付き承認も加速承認も、薬効や安全性が十分に確立するのを待たずに前倒し承認する制度だ。人類の英知は限られているので効くはずが効かなかった例は枚挙に暇がなく、自分の判断や直感は過たないと思っているのは傲慢で未熟な人だけである。大事なのは間違いを間違いと認めて正すこと、そして、そのための道筋をあらかじめ用意しておくことだ。患者が欲しているの新しい薬ではなく、自分に有効で副作用がそこそこな薬なのだから、迅速承認や再生医療等製品制度を作るだけでは足りず、爾後にきちんと検証して患者の信頼に応えなければならない。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


アッヴィのスキリージが米国でも承認
(2019年4月23日発表)

アッヴィは、FDAがSkyrizi(risankizumab-rzaa、和名スキリージ)を中重度乾癬の治療薬として承認したと発表した。全身性治療または光線療法の候補となる成人に皮注する。二回目は4週後だがその後は12週毎と投与頻度がJNJの抗IL-23p19抗体Tremfya(guselkumab)の8週毎より頻度が低い。臨床試験では16週時点(3回目の投与の前)のPASI90奏効率が75%、応答者の88%は1年後も効果を維持していた。

抗IL-23p19ヒト化抗体で、抗原提示細胞が発現するサイトカインに結合してT細胞がTh17細胞に分化するのを抑制する。16年にベーリンガー・インゲルハイム(BI)から共同開発商業化権を取得したもので、アッヴィが販売する。抗TNFアルファ抗体、Humira(adalimumab)の乾癬治療における存在感を活用する狙いだろう。喘息症用途ではBIがコプロモーションの計画。

アッヴィの過去のプレスリリースによると、PASI90がHumiraやJNJの抗IL-12/23p40抗体Stelara(ustekinumab)より有意に大きかったはずだが、レーベルには記載されていない。強力な販促材料になりうるデータだけに、やや失望的。

リンク: アッヴィのプレスリリース

Portola、Xa阻害剤の解毒剤がEUでも承認
(2019年4月26日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、Ondexxya(andexanet alfa、米名AndexXa)がEUで条件付き承認されたと発表した。Xa阻害剤のEliquis(apixaban)またはXarelto(rivaroxaban)を服用している患者が大出血したり緊急手術を受ける時に、抗血栓作用を解毒するために点滴静注する。

米国では昨年5月に承認。欧米共に承認まで2年以上かかったのは、Portolaが健常人の凝固検査値の変化を薬効評価方法としたため。Xa阻害剤服用中に出血した患者を組入れた試験のデータを追加提出するまで承認されなかった。

米国と同様に市販後薬効確認試験の実施が義務付けられた。Xa阻害剤服用中に頭蓋内出血を発症した患者を組入れて、治療12時間後の臨床的評価とCT/MRI造影評価を偽薬群と比較する。

リンク: Portolaのプレスリリース





今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2019年4月21日

2019年4月21日

【ニュース・ヘッドライン】

  • 新規抗生薬の承認から一年足らずで破産法申請 
  • SMA遺伝子療法の第三相中間データ 
  • SCIDの遺伝子療法が成功 
  • 抗NGF抗体は諸刃の剣 
  • ノバルティス、小さな抗VEGF-A抗体をwAMDに承認申請 
  • リムパーザ、欧州でも乳癌に適応拡大 


【今週の話題】


新規抗生薬の承認から一年足らずで破産法申請
(2019年4月15日発表)

Achaogen(Nasdaq:AKAO)は米連邦破産法第11章の適用を連邦デラウェア地域倒産裁判所に申請した。アミノグリコシド系抗生薬Zemdri(plazomicin)の開発に成功し昨年6月に薬物耐性複雑性尿路感染症治療薬としてFDAに承認されたばかり。一部の主評価項目でmeropenemを有意に上回るなど効果は良好だが、このクラスの抗生剤につきものの腎毒性や難聴リスクが既存薬ほどではないにしてもゼロではないことなどから、18年7-12月の売上高は80万ドルに留まっていた。

同社の株価は、急展開を予見するかのように、承認前日の12ドルから低下を始め、直近では0.1ドル台に暴落していた。

抗生剤の開発と耐性菌の出現はエンドレスなので弛まぬ研究開発が必要だが、せっかく新薬を開発しても、稀だが深刻な副作用が付き物であることや包括医療費支払制度の下では高価な新薬を使いにくいことなどから、取って置きの薬として使われないまま取って置かれてしまいがちで、売上高が伸び悩むケースが散見される。

米国は優先審査バウチャー制度が導入されたため、その新薬に関する研究開発投資は回収できるだろうが、売れなかったら販売固定費を回収できない。また、製薬会社は開発失敗したプロジェクトの損失を成功した薬の収益で回収しなければ事業が回らない。欧米や日本では医療施設に毎年一定額を課金する定額課金制度の導入も検討されているようだが、ワークするものかどうか。

Zemdriがもっと良い薬だったら違う結果になったかもしれないが、Achaogenの破産はこの問題の深刻さを示している。

リンク: Achaogenのプレスリリース


【新薬開発】


SMA遺伝子療法の第三相中間データ
(2019年4月16日発表)

ノバルティスが昨年5月に87億ドルで買収したAveXisは、10月にZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)をI型脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬として日米欧で承認申請した。米国は5月、日本も6月までに承認される可能性がある。第一相試験に基づき各地で先駆け指定を受けて承認申請に至ったものだが、今回、MDA(筋ジストロフィー協会)臨床・科学会議で第三相試験の中間解析結果が発表された。

ZolgensmaはSMN2遺伝子の相補的DNAと連続的プロモータを遺伝子組換え型アデノ随伴ウイルス9型をベクターとして導入するもの。機能しないSMN1遺伝子に替えてSMN2に欠乏するSMN蛋白を産生させる。オハイオ州のNationwide Children's Hospitalからライセンスした。RegenxBio社の技術を用いて血液脳関門通過性を持たせている由。

今回のSTR1VE試験は、月齢6ヶ月未満で発症するI型のSMA患者二十数名を組入れて一回投与し、イベントフリー・サバイバル(EFS:永続的人工呼吸なしで生存)や座位維持能力などを評価する。18年9月27日時点の中間解析で、評価対象22人(メジアン月齢は9.5ヶ月)のうち21人がEFS。10.5ヶ月に到達した患者7人中では6人となり、自然歴(50%程度)より良い結果となった。CHOP-INTEND臨床評価スコアも改善した。

死去は一人。薬物との関連性は否定された。剖検の結果、中枢神経でもSMN発現が認められた。尚、同時進行している欧州試験でも一人が呼吸器感染症と神経学的合併症により死亡し、医師が薬物関連の可能性を指摘したとのことで、今後、剖検を行う予定。

SMA治療薬といえばバイオジェンがIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスし開発したアンチセンス薬、Spinraza(nusinersen)が16年から17年にかけて日米欧で承認された。Zolgensmaは遺伝子療法なので投与頻度が少なくて済む可能性があるが、どちらもまだ症例数が少ないので、効果や安全性、価格、効果の長期的な持続性などを総合的に検討する必要がありそうだ。

米国の費用対効果評価機関であるICERは、Zolgensmaの価格が年150万ドル以下なら費用対効果が良好と判定した。Spinrazaに関しては初年度75万ドル、2年目以降は年37.5万ドルという価格は費用対効果がないと評価した。

リンク: Avexisのプレスリリース

SCIDの遺伝子療法が成功
(2019年4月17日発表)

St. Jude Children's Research Hospitalが開発したX-SCID(X連鎖重症複合免疫不全症)遺伝子療法の第1/2相試験の治験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。X-SCIDは遺伝子療法の典型的な研究対象で、20年前にフランスで治療が成功し注目されたが、白血病のリスクが浮上し急ブレーキがかかった。今度こそ良い報告が続くことを期待したい。

X-SCIDはIL-2受容体ガンマの遺伝子変異によりIL-4など様々なIL受容体のシグナル伝達が上手く行われず、T細胞やNK細胞が欠損・著減。免疫力が著しく弱いため無菌環境で生活する必要がある。SCIDの5割程度を占め、有病率は20万人に一人とされる。この遺伝子療法(MB-107)はex vivoでIL-2受容体ガンマの相補的DNAをレンチウイルスベクターを用いて導入するもの。

今回の試験は2歳以上のX-SCID患者8人を組入れて、低量busulfanでプリトリートした上で遺伝子導入細胞を投与し、メジアン16.4ヶ月追跡した。7人でT細胞とNK細胞の数が正常化、残りの一人は2回目を施行した。7人でIgM水準が正常化、うち4人は免疫グロブリン点滴を止めることができ、そのうち3人は標準的なワクチンに応答した。病院側のプレスリリースによると、X-SCIDを治癒したと呼んでも良い成果とのこと。白血病は発生していない。

この病院は、アメリカの人気コメディアンがブレイク前の神との約束を守って1961年に設立、小児難病の研究に特化している。MB-107の研究を主導した研究者は、NEJM論文の原稿を投稿した後に亡くなったとのことで、さぞ無念だったろう。

Fortress Biotech(Nasdaq:FBIO)の子会社のMustang Bio(Nasdaq:MBIO)が18年に世界独占開発商業化権を取得しMB-107として開発中。大手製薬会社は遺伝子療法など斬新な分野に積極的に参入しており、Mustangも開発が順調に進めば買収ターゲットになるのではないか。

リンク: Mamcarzらの治験論文抄録(NEJM)

抗NGF抗体は諸刃の剣
(2019年4月18日発表)

ファイザーとイーライリリーは、中重度変形性関節炎治療薬として共同開発中の抗NGFヒト化抗体、PF04383119(tanezumab)の長期安全性試験の結果を発表した。今回も一部の患者で有害関節イベントが見られ、多くはそれほど深刻ではないが、何年も使い続けたらどうなるのか不安だ。また、全関節置換や死亡が増加しているのも気持ち悪い。高用量群は効果が非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)より高そうだが、裏目に出た時のペナルティを正当化できるのだろうか。

骨粗鬆症治療薬でも一部の患者で骨壊死が発生したり、何年も連続使用することができない薬が承認されたり、骨は難しい。

NGFはジェネンテックが同定し、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの治療を探索したが成功しなかった。痛みや温度の感受性が高まるという症例報告があったため、今度は抗NGF抗体を疼痛治療薬として開発することになった。その後、ジェネンテックは中枢神経系部門をスピンアウト、ファイザーが買収、という経緯だ。

第三相まで進めたところで、2010年に、変形性関節炎の急速な進行(RPOA)や無腐性骨壊死、関節置換術施行のリスクが顕在化、FDAは数社が開発していた抗NGF抗体の治験停止を命じた。12年7月の諮問委員会は全員一致で開発続行を勧告したが、某社の毒性試験で末梢神経系有害事象の懸念が浮上し臨床症例もあったため再び部分的治験停止となった。ファイザーは交感神経系毒性試験を行う一方でイーライリリーとリスクシェアリング契約を結び、15年に治験停止が解除されるや、第三相を再開した。

今回の安全性試験は中重度膝股関節変形性関節炎でアセトアミノフェンに不十分反応/不耐の3021人を2.5mg群、5mg群(何れも8週毎皮注)、NSAIDs群に無作為化割付して、薬効や長期関節安全性を検討したもの。5mg群は疼痛緩和や身体機能でNSAIDs群を有意に上回ったが、もう一つの主評価項目である患者自身の総合的評価は有意差がなかった。2.5mg群は三指標とも有意差なし。何れにせよ、現実の医療ではNSAIDsでまあまあ足りる患者に抗NGF抗体を使うことはないだろうから、薬効を比較してもあまり意味がない。

80週間の関節イベント発生率はNSAIDs、2.5mg、5mgの各群が1.5%、3.8%、7.1%と有意に増加した。RPOAが1.2%、3.2%、6.3%と太宗を占め、その81%はI型(関節空間狭窄など)でII型(関節損傷・劣化)は少なかったので、酷く深刻ではないと考えることもできるだろう。とことが、全関節置換は2.6%、5.3%、8.0%と今回も増加した。死亡は偽薬群1名、試験薬二群合計が9名と、ノイズと一蹴するには大きな偏りが出ている。

関節イベントが増加するのは痛みが軽快し活動性が活発化するから、という話を聞いたことがあるが、これだけ大きな問題になったのだから、近年の臨床試験では口を酸っぱくして患者に自制を促しただろう。それでも結果が大差ないとしたら、骨粗鬆症治療薬と同様に、骨には私たちの知らないことがたくさんあると考えざるを得ない。

ファイザーは他の試験のデータと包括的に検討を進める考え。承認申請するかどうか明らかではない。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


ノバルティス、小さな抗VEGF-A抗体をwAMDに承認申請
(2019年4月15日発表)

ノバルティスは、RTH258(brolucizumab)を滲出型加齢性黄斑変性症の治療薬として承認申請した。ジェネンテックからライセンスして販売しているLucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)と同様にVEGF-Aに結合するが、抗体の一部だけの短鎖フラグメントなので分子量が26キロダルトンと小さく、Lucentisの48キロダルトン、Eylea(aflibercept)の115キロダルトンと比べても小さい。

視力改善効果はEyleaと同程度。投与頻度は当初3ヶ月の後は12週間に一回とインターバルが長い。尤も、定期的に網膜検査を行って必要なら投与する治療方針の医師にとっては、それほど大きなメリットではないだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認】


リムパーザ、欧州でも乳癌に適応拡大
(2019年4月10日発表)

アストラゼネカは、PARP阻害剤Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)を転移性乳癌の二次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。BRCA遺伝子に有害変異を持つ、her2陰性の、化学療法歴を持つ患者が適応になる。

切除付随治療または転移性乳癌治療でアントラサイクリンとタクサンによる治療歴を持つ患者を組入れた第三相試験では、独立放射線学的委員会が盲検査読したPFS(無進行生存期間)がメジアン7.0ヶ月と、実薬対照群(capecitabine、vinorelbine、eribulinの中から選択)の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.58、統計的に有意だった。

この適応拡大は米国では昨年1月、日本も昨年6月に承認された。欧州申請は昨年4月なので、EUの審査が遅かったわけではない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース






今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2019年4月14日

2019年4月14日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • EASL:急性肝性ポルフィリン症治療薬の第三相データ発表 
  • Zogenix、ドラベ症候群治療薬の承認申請は受理されず 
  • FDA、FGFR阻害剤を膀胱癌用薬として承認 
  • イベニティが米国でも承認 
  • FDA、HIV/AIDSの二剤併用療法薬を承認 
  • FDA、Addyiのレーベル変更を製薬会社に命令 


【新薬開発】


EASL:急性肝性ポルフィリン症治療薬の第三相データ発表
(2019年4月12日発表)

RNA介入薬のスペシャリスト、Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、3月にALN-AS1(givosiran)の第三相急性肝ポルフィリン症(AHP)試験の成功を公表したが、治療効果など詳細がEASL(欧州肝臓学会)で発表された。

AHPはヘム合成回路に係る複数の酵素の一つに機能喪失・低下変異があり、ポルフィリンが蓄積して臓器や神経に障害を与える。患者数は米国で2万人以下の希少疾患。急性間欠性ポルフィリン症と呼ばれるサブタイプが最も多い。

ALN-AS1はALAS1(アミノレブリン酸合成酵素1)の発現を沈黙させるsiRNA薬で、ポルフィリンの前駆体でGABAと競合して神経毒性を招くALA(アミノレブリン酸)や、PBG(ポルホビリノゲン)の合成を抑制する。欧米で希少疾患用薬指定と画期的治療薬指定を受けている。

第三相試験は日本を含む18ヶ国の医療施設で94人の患者を偽薬群と2.5mg/kg群に無作為化割付して月一回皮注による治療効果を半年間観察した。主評価項目はAIPサブグループ89例におけるポルフィリン性アタック(AHPによる入院や緊急医療、既存の治療法であるヘミンの投与)の年率発生頻度。試験薬群は平均3.2と偽薬群の12.5より74%少なく、統計的に高度に有意だった。中央値で比較すると1.0対10.7で90%少なかった。

シーケンシャルに実施された二次的評価項目の解析も、9項目中5項目が成功。その一つであるAHP全体の解析も平均で73%少なかった。一方、疼痛、疲労、悪心など症状関連指標はフェールした。

3月に公表されたように、深刻有害事象の発生率は20.8%と偽薬群の8.7%を上回った。主なものは悪心、注射箇所反応、慢性腎疾患(10.4%、偽薬群はゼロ)、疲労など。肝機能検査値が正常値上限を3倍超上回る症例は14.6%(偽薬群は2.2%)、但し何れもHyの法則には該当しない由。被験者は一人を除いてオープンレーベル延長試験に参加したとのことなので、副作用は忍容できる範囲なのだろう。

Alnylamは年央までに米国のローリング承認申請を完了するとともに欧州で承認申請する考え。

リンク: EASLでの発表要旨とプレゼンテーション・スライドのリンク


【承認審査・委員会】


Zogenix、ドラベ症候群治療薬の承認申請は受理されず
(2019年4月8日発表)

Zogenix(Nasdaq:ZGNX)はFintepla(fenfluramine hydrochloride)をドラベ症候群治療薬として開発、2月にFDAに承認申請したが、受理されなかったと発表したした。慢性投与に関する前臨床試験の不足や、臨床データセットが誤ったバージョンのものであったことが原因のようで、臨床的な効用や安全性に係る追加試験は求められていないとのこと。

ドラベ症候群は乳幼児期に全身/半身けいれん発作を発症する。8割の患者はSCN1A(ナトリウムチャネル遺伝子)の機能低下変異を持つ。fenfluramineはセロトニンなどの神経伝達物質を増強する作用を持っており、20世紀後半に食欲抑制剤として用いられたが、肺高血圧症や心臓弁膜症のリスクが表面化、米国では97年に自主回収となった。Pondimin(fenfluramine)やRedux(dexfenfluramine)を販売していたワイスはPL訴訟和解金として200億ドルを超える拠出を余儀なくされた。

Finteplaの第三相試験二本では肺高血圧症や心臓弁膜症の兆候は見られなかったようだ。Pondiminは20mg(40mgまで漸増可)を毎食前服用なので60-120mg/日となるが、Finteplaは体重1kg当り0.8mg、但し上限30mg、を一日二回に分けて服用なので、Pondiminの半分以下に抑えている。尤も、典型的な患者の体重は大きく異なるだろうからkg当り投与量はそれほど変わらないかもしれない。尚、他のドラベ症候群治療薬と併用する時は薬物相互採用を考慮して0.5mg/kgに減量する。

Pondiminや米国で人気を集めたフェンフェン療法の併用薬であるphentermineは、少なくとも米国では数週間の短期コースしか承認されていなかった。また、販売承認取得に必要な試験の種類や期間も昔と今では変わっている。今回、FDAが慢性投与に係る前臨床試験を求めたのは、これらの事情が関係しているのではないか。

具体的な内容は不明だが、もし1年以上の毒性試験を求められたのだとすると、再承認申請が相応に遅れることになる。

Finteplaは欧州でも承認申請中。日本は第三相段階の模様で、今年3月に日本新薬が独占販売権を取得した。

リンク: Zogenixのプレスリリース


【承認】


FDA、FGFR阻害剤を膀胱癌用薬として承認
(2019年4月12日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのBalversa(erdafitinib)を局所進行性/転移性尿路上皮癌用薬として加速承認した。白金薬による治療歴を持ち、同時に承認されたQIAGEN社のコンパニオン診断キットを用いた検査でFGFR3またはFGFR2の遺伝子に特定の変異/融合が検出された場合、適応になる。該当するのは転移性尿路上皮癌の2割程度、米国で年3000人程度と推定されている。

第三相実薬対照試験は昨年始まったばかり。加速承認の根拠となった87例の第二相試験では、BIRC(盲検独立評価委員会)がORR(客観的反応率)を32.2%と判定した。完全反応率は2.3%のみ、反応持続期間のメジアン値は5.4ヶ月で、やや物足りない。

尿路上皮癌は膀胱癌のうち最も多いタイプ。腫瘍学領域を席巻している抗PD-1/PD-L1抗体も承認されているが、上記第二相では抗PD-1/PD-L1不応でもBalversaに応答した癌があった由。一方、FGFR変異のうちFGFR2融合6例ではORRがなく、有効性は判然としない。

G3以上の有害反応は口内炎や爪の様々な異常、手掌-足底発赤知覚不全症候群など。FDAは、目の検査やリンの血液検査を推奨した。前者は中心性漿液性網膜症や網膜色素上皮剥離を早期に発見するためだが、後者は薬効の指標とする狙いもあり、治療開始2~3週後になっても数値が低い場合はBalversaを増量する。

Balversaは汎FGFR阻害剤。一日一回8mg(リン値が低い場合は9mg)を経口投与する。08年にAstex Therapeutics(13年に大塚製薬が買収)から世界開発販売権を取得したもの。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

イベニティが米国でも承認
(2019年4月9日発表)

FDAは、アムジェンがUCBと共同開発したEvenity(romosozumab-aqqg、和名イベニティ)を閉経後骨粗鬆症治療薬として承認した。骨粗鬆症性骨折歴や、複数の骨折リスク因子保有、他の骨粗鬆症治療薬に不応不耐など、骨折リスクの高い患者が適応になる。月一回、医療従事者が皮注する。効果が減衰するため最大でも12回の投与で終える。

臨床試験では、1年間の椎骨新規損壊リスクが偽薬比73%小さかった。1年目はEvenity、2年目はalendronateを投与した試験では、2年間alendronateを投与した群より50%小さかった。

心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクが枠付警告された。1年以内に発症歴を持つ患者には投与しない。アムジェンは市販後監視を行う予定。

UCBが買収した英国のバイオベンチャー、セルテックがアムジェンと共同開発した抗体医薬で、造骨細胞を抑制するスクレロスチンに結合・ブロックする。骨形成を促進し、骨吸収を抑制する。日本では今年1月に承認、2月に一日薬価1625円で薬価収載された。

アナボリック作用を持つ高価な皮注用薬で治療期間が限定されているという点で、イーライリリーのForteo(teriparatide、和名フォルテオ)と共通している。米国で02年に承認、癌原性懸念などから将来性に疑問が持たれたが、18年の全世界売上高は17億ドルと相応に成功した。長期的な治療が必要な疾患における1年しか使えない薬の位置付けは微妙だが、オルターナティブ系骨粗鬆症治療薬は選択肢が限られるので、Evenityも重宝されるのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

FDA、HIV/AIDSの二剤併用療法薬を承認
(2019年4月8日発表)

FDAは、ヴィーヴ・ヘルスケアのDovatoをHIV/AIDSで初めて抗ウイルス治療を受ける患者の治療薬として承認した。塩野義製薬が創製したインテグラーゼ阻害剤、dolutegravirとグラクソ・スミスクラインの核酸系逆転写阻害剤、lamivudineのFTC(固定用量合剤)で、この二活性成分だけで完結する(米国初)。勿論、どちらかの成分に抵抗性を持つ患者は対象外。

HIV/AIDSの治療は核酸系逆転写阻害剤を二種類とそれ以外を一種類以上併用する、高度アグレッシブ抗レトロウイルス療法が一般的。ピルバーデンを緩和するために2-4種類の活性成分を配合したFTCが複数、販売されているが、厄介なのは、核酸系逆転写阻害剤のGE化が進んできたこと。FTCではなくGE薬と別々に購入した方が安上りかもしれない。FTCのGE薬も登場し始めた。

対策としては、FTCの値下げで対応することや、新しい組み合わせのFTCを投入することなどが考えられる。GSKと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーヴも、製品開発を加速している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、Addyiのレーベル変更を製薬会社に命令
(2019年4月11日発表)

欧米で医薬品のリコールが行われる場合、殆どが製薬会社による自主的な判断である。承認審査機関の圧力があろうがなかろうが、関係ない。米国は民間企業が監督官庁の行政行為に不満を持ち訴訟を起こすことが珍しくないが、それでも、医薬品を自主回収したり添付文書の副作用警告の追加・強化はメーカーが自主的に行う。製薬会社は責任意識を持つ企業としてイメージアップを図り、当局は強制執行に付随する手間や時間を省くメリットがある。

今回、珍しいことをFDAが発表した。Sprout PharmaceuticalsにAddyi(flibanserin)の添付文書変更を命じたのだ。女性の後天性全般性HSDD(性的欲望低下障害)治療薬で、重度低血圧や失神のリスクが枠付警告されている。アルコール飲料と同時摂取するとリスクが高まる可能性があるため承認後に試験を行うようFDAが求めた。

結果、飲酒を終えてから2時間以上経ってから服用すればリスクが低下することが確認できたが、Sproutが要求したアルコール相互作用の警告解除に関しては、安全性確認試験は成功したものの、FDAはプロトコルが不適切で検出できなかった可能性があると判定、Sproutと意見が対立した。レーベルは製薬会社の著作物なのでFDAが書き換えることはできず、公式に権限を行使して変更を求めたもの。

flibanserinは5-HT1A作動/5-HT2A拮抗剤。元々はベーリンガー・インゲルハイムが承認申請したがFDAも諮問委員会も効果が穏やかで副作用リスクと釣り合わないと判定、2010年に開発中止を決めた。Sproutは11年に権利を取得、13年の再申請は駄目だったが15年に承認獲得した。飲酒の制約はマーケティング面で重要なので、安全性確認試験のプロトコルを事前にFDAとよく協議しておくべきだった。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2019年4月7日

2019年4月7日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AACR:CD40アゴニスティック抗体が膵癌の初期試験で良績 
  • イブランスが男の乳癌に承認 
  • ビジンプロ、EUでも承認 


【新薬開発】


AACR:CD40アゴニスティック抗体が膵癌の初期試験で良績
(2019年3月31日発表)

米国カリフォルニア州の免疫腫瘍学ベンチャーであるApexigen社は、APX005Mの後期第一相膵癌一次治療試験の中間解析結果をAACR(米国癌学会)で発表した。化学療法やOpdivo(nivolumab)と併用で最良ORR(客観的反応率)が54%となかなか良い。

APX005MはCD40を標的とするアゴニスティック抗体。ナップスター創業者でフェイスブック初代CEOも務めたSean Parkerが設立したParker Institute for Cancer Immunotherapyが米国の治験許可を保有、Cancer Research Instituteと共に今回の臨床試験の費用を助成した。 BMSやベーリンガー・インゲルハイム、ヤンセンと免疫腫瘍学で協業している。

今回の試験は、転移性膵腺腫(症候性中枢神経転移や自己免疫疾患歴は除く)の一次治療としてgemcitabineとnab-paclitaxelを併用する標準療法にAPX005Mを追加する便益を検討した。Opdivoも併用するコフォートも設定した。結果は、0.1mg/kgと0.3mg/kgのコフォート合計24人中13人が部分反応(うち11人は反応が一定期間以上持続する確認ORR)。Opdivo併用12人では8人が部分反応した。

過去の文献データはgemcitabineとnab-paclitaxelのORRが23%、FOLFIRINOXは32%となっており、APX005Mだけでもある程度の上乗せ効果が期待できそうだがOpdivoと4剤併用が最も良さそうに見える。

Apexigenは、0.3mg/kgで第二相試験を開始する計画。標準療法をベースにAPX005M追加群、Opdivo追加群、両方追加群を設定し1年生存率を標準療法の文献データと比較する。

リンク: Apexigenのプレスリリース


【承認】


イブランスが男の乳癌に承認
(2019年4月4日発表)

FDAは、ファイザーのCDK4/6阻害剤、Ibrance(palbociclib、和名イブランス)を男の乳癌に用いる適応拡大を承認した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の進行/転移乳癌の一次治療にアロマターゼ阻害剤またはfulvestrantと併用する。

乳癌は女性がほとんどで男は1%足らず。臨床試験で十分な症例を組入れることは難しく、FDAは、男に対する効果や安全性を疑う余地のある場合は女性に限定するが、そうでない場合は性別を特定せずに、承認しているようだ。

今回の適応拡大で面白いのは、臨床試験ではなく、現実の医療でオフレーベル使用された記録に基づいて承認されたことだ。具体的には、IQVIAの保険データベース、ロシュが昨年子会社化したFlatiron Healthの乳癌データベース、そしてファイザーのグローバル安全性データベースを用いた。2016年に制定した21st Century Cures法の中で、リアルワールド・データに基づく承認の道筋を開いた成果と言えるだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

ビジンプロ、EUでも承認
(2019年4月3日発表)

ファイザーは、Vizimpro(dacomitinib、和名ビジンプロ)がEUに承認されたと発表した。EGFR活性化変異を持つ局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の成人の一次治療に一日一回経口投与する。

Vizimproは不可逆的汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤。ファイザーは09年のワイス買収に際して、EGFRやher2などerbBファミリーの阻害薬開発における反トラスト法上の懸念を解消するため、OSI社(当時)とのEGFR阻害剤共同開発プロジェクトを解消した。その後、OSIはジェネンテック/ロシュに乗り換え04年にTarceva(erlotinib)として米国で発売した。

ワイスから承継したher2/her4阻害剤HKI-272(neratinib)は、結局開発断念。Puma Biotechnologyがインライセンスし17年に早期乳癌アジュバント療法薬Nerlynxとして米国承認を取得した。この分野におけるファイザーの実績は裏目続きだった。

Vizimproは米国で昨年9月に、日本でも今年1月に承認された。失地回復なるか。

リンク: ファイザーのプレスリリース





今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/