2022年9月24日

第1069回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • EUもエバシェルドによる治療を承認 
  • その他の領域: 
  • MSD、NRTTIの臨床試験を用量を減らして再開へ 
  • D因子阻害剤の第3相が成功 
  • Prevnar 20の欧州幼児試験が成功 
  • Seagen、her2阻害剤をher2陽性大腸癌に承認申請 
  • 自家造血幹細胞移植の補助療法を承認申請 
  • FDA諮問委員会:①糞便移植療法用薬の承認を支持 
  • ②多数の委員がPI3K阻害剤duvelisibの承認取消を支持 
  • ③poziotinibの承認は支持されず 
  • ④Pepaxtoの承認は支持されず 
  • GSKもPARP阻害剤ゼジューラの適応を一部返上 
  • リムパーザの適応も一部返上されていた 
  • CHMP、RSV予防薬などの承認を支持 
  • レットヴィモが適応拡大 
  • 白金薬の聴覚副作用抑制薬が承認 
  • もう一つの遺伝子療法薬にも青い鳥 


【COVID-19関連】


EUもエバシェルドによる治療を承認
(2022年9月20日発表)

アストラゼネカはEUがEvusheld(tixagevimab、cilgavimab)をCOVID-19の治療に承認したと発表した。酸素補給は不要だが重症化リスクのある成人や青少年が適応になる。第3相TACKLE試験で重症化/死亡を50%抑制した。

抗SARS-CoV-2抗体のカクテルで21~22年に米欧で暴露前予防というワクチン代替的な用途で承認された。若干遅れて申請された日本では外来治療も特例承認されたが、海外では今回が初。日本でも注記されているが、現在流行しているBA.5ウイルスに対する有効性が上記より劣る可能性があることが影響したのだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【新薬開発】


MSD、NRTTIの臨床試験を用量を減らして再開へ
(2022年9月20日発表)

MSDは抗HIV-1薬MK-8591(islatravir)の臨床試験を用量を減らして再開すると発表した。大類洋博らが創製した核酸系逆転写酵素トランスロケーション阻害剤(NRTTI)で、力価や組織浸透性が高い。半減期が長い特徴もあったが、月一回投与の暴露前予防(PrEP)用途は断念したので、キャッチフレーズではなくなった。

単剤でPrEP用途に、非ヌクレオシド逆転写阻害剤(NNRTI)doravirine(Pifeltro)も配合した合剤で一次治療とスイッチ用途に、第3相入りしたが、新規NNTRIであるMK-8507との併用試験でリンパ球数低下リスクが表面化し、昨年12月、FDAが治験停止を命じた。HIV/AIDSはウイルスがCD4陽性細胞に侵入しリンパ球を減らす病気なので、薬が煽ってしまったら大変まずい。

結局、60mgを月一回投与するPrEP試験は中止、doravirine配合剤の治療試験はislatravirの用量を0.75mg/日から減らして新たな第3相を開始することでFDAと合意した。

同社はギリアド・サイエンシズのカプシド阻害剤lenacapavirと併用で週一回投与する第2相試験も自主的に中断していたが、islatravirの用量(従来は第1日と2日に40mgずつ、第8日以降は20mgを隔週)から減らして再開することも発表した。

リンク: 同社のプレスリリース


D因子阻害剤の第3相が成功
(2022年9月16日発表)

アストラゼネカはALXN2040(danicopan)の第3相ALPHA試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。承認申請に向かう考え。

20年にAchillion Pharmaceuticalsを9.3億ドルで買収して入手した第1世代の経口D因子阻害剤。補体系代替経路が調停する希少疾患の治療を狙っている。今回の試験は、同社の希少疾患子会社であるアレクシオン・ファーマシューティカルズの抗C5抗体、Ultomiris (ravulizumab) やSoliris (eculizumab)による発作性夜間ヘモグロビン尿症などの治療中に発生することのある、血管外溶血の治療効果を偽薬と比較した。主評価項目は第12週のヘモグロビン量。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース


Prevnar 20の欧州幼児試験が成功
(2022年9月19日発表)

ファイザーは20価肺炎球菌結合型ワクチンPrevnar 20の欧州幼児試験が成功したと発表した。EUで承認申請する予定。米国は4回接種試験が成功済みで年内に承認申請の予定。

Prevnar 20は21年に米国で、22年には欧州でもApexxnar名で、18歳以上の成人向けに承認された。米国ではACIP(ワクチン接種諮問委員会)が65歳以上の全員と19~64歳の高リスク者(糖尿病や喘息症など)に接種勧告している。

欧州の幼児試験は生後2ヶ月、4ヶ月、そして11~12ヶ月に三回接種して、2回目と3回目の1ヶ月後の免疫原性を13価ワクチンであるPrevnar 13(欧州名はPrevenar 13)と比較した。2回接種後のIgG幾何平均濃度(GMC)は20の型のうち16型で非劣性だった。3回後は19型で非劣性だった。もう一つの主評価項目である2回後の免疫獲得率(型毎のGMCが事前に設定した閾値を越えた人の比率)も9型で非劣性だった。

Prevnar 20のほうが対応している型が七つも多いのに非劣性解析がフェールした型がこんなに多いのは奇異だが、おそらく、この七つに関しては、Prevnar 13の型毎GMCの中で最も低かった数値と比較したのだろう(Prevnar 13の同様なPrevnar対照試験と同じやり方)。ただそれにしてもフェールが多い。

米国方式である4回接種試験では4回接種1ヶ月後のGMCが20型全てで非劣性だったが、3回後の免疫獲得率は14の型で非劣性だったが、四つはあと一歩、残りの二つは大きな差があった。

こうして見ると、3回接種では20価ワクチンの真価が発揮されないのだろう。ただ、4回接種でも20価ワクチンの看板が泣いていないか、気になるところだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


Seagen、her2阻害剤をher2陽性大腸癌に承認申請
(2022年9月19日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)はFDAがTukysa(tucatinib)の適応拡大申請を受理したと発表した。優先審査を受け、審査期限は23年1月19日。

18年にCascadian Therapeutics(旧称Oncothyreon)を6.1億ドルで買収して入手したher2チロシン・キナーゼ阻害剤で、20年に米国でher2標的薬による治療歴を持つ切除不能/転移her2陽性乳癌に抗her2抗体trastuzumab及びcapecitabineと三剤併用することが承認された。下痢や急性腎障害、死亡などの深刻有害事象が見られるほか、定期的に肝機能検査を行い、男が服用する場合も含めて催奇性に注意する必要がある。

今回の申請は治療歴のあるher2陽性転移性結腸直腸癌に抗her2抗体trastuzumabと併用した第2相試験に基づくもの。確認ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が39.1%、メジアン反応持続期間は12.4ヶ月だった。有害事象による治験離脱率は5.8%。市販後薬効確認試験として未治療のher2陽性結腸直腸癌を組入れてmFOLFOX6レジメンにTukysaとtrastuzumabを追加する第3相試験を開始する予定。結果が出るのは25年8月の見込みなので悠長な印象だが、最近よくある、検出力をブーストして中間解析で主目的達成を狙っているのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


自家造血幹細胞移植の補助療法を承認申請
(2022年9月12日発表)

イスラエルのバイオ企業、BioLineRx(Nasdaq:BLRX、TASE:BLRX)は、米国でBL-8040(motixafortide)を承認申請したと発表した。多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植を施行する時は事前にアフェレーシスでCD34陽性細胞を採取するが、G-CSFに加えて、本剤でCXCR4キモカイン受容体を阻害して末梢血への移行を促し、一回の収量を増やす。第3相GENESIS試験では奏効率(アフェレーシスが二回以内かつ試験薬の投与は一回以内で600万セル/kg以上を動員)が70.0%と偽薬群の14.3%を有意に上回った。

良く分からないのは、大先輩であるCXCR4受容体阻害剤、Mozobil(plerixafor)ではなく偽薬対照なのはなぜだろう?

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会:①糞便移植療法用薬の承認を支持
(2022年9月22日発表)

スイスのFerring Pharmaceuticalsが18年に子会社化したRebiotixは、FDAのVRBPAC(ワクチン・生物学的製品諮問委員会)がRebyota(開発コードRBX2660)を検討し、多くの委員が薬効や安全性を支持したと発表した。製剤面で問題が浮上しない限り、承認されそうだ。BLA(生物学的製剤の承認申請)したは昨年11月30日であることが判明したが、審査期限は不明。

RBX2660は健康なドナーから採取したFMT(糞便移植療法)。事前にスクリーニングされたドナーの糞便をmL当り1~500億CFU(コロニー形成単位)含有する懸濁液で、-80℃前後の極低温で保存・輸送する。18歳以上の、一次治療がフェールした成人の難治クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)に、抗生剤投与の24~72時間後に150mLを一回、浣腸投与して、抗生剤で失われた微生物叢を補充する。第3相試験では奏効率(投与後8週間に亘りCDIによる下痢が発生しない)が70%と偽薬群の58%を大きく上回った。

難点は、薬効確認対照試験一本だけで承認されるほど有意性が高くないことや、死亡者が18人と偽薬群のゼロより多いこと。そもそも、FMTは多剤耐性菌の混入や微生物叢の個人差など、きちんとした管理が必要で、同社の製品ではないと推測されるが、19年に死亡例が発生し、FDAが事前スクリーニングや検査の徹底を求めたことがある。RebyotaはcGMP準拠だが、局所的なリスクがなかったとしても、マイクロバイオーム環境における変化が腸以外の器官にどのような影響を与えるか、不透明な部分も残っている。

それでも、諮問委員は薬効について17人中13人が支持、安全性についても12人が支持した(反対は4人、一人が棄権)。奇異に感じるのは、便益が危険を上回るか、即ち、承認基準に合致しているかという採決が最初から予定されていなかったこと。FDA諮問委員会の意見は参考意見に過ぎず、また、承認に必要な数多の事項のうち一部しか議題に上がらないので、採決の有無や結果は決定的に重要な要素ではないのだが、もしかしたら、CMC(化学、製造、管理)面で何か未確認事項があるのかもしれない。

類薬ではSeres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)が経口ファーミキューテス門芽胞カプセルのSER-109を今月初めに同様な用途でFDAに承認申請している。

リンク: 同社のプレスリリース


②多数の委員がPI3K阻害剤duvelisibの承認取消を支持
(2022年9月23日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、現在はSecure Bioが販売しているCopiktra(duvelisib)の承認を維持すべきか、意見を聞いた。12人中8人が承認継続に反対と、ダブルスコアだった。これまでの経緯を考えると自発的返上は期待し難く、数年かけて承認取消手続きを進めることになるだろう。その間は販売可能だ。欧州は21年に承認され今のところ再審査の話は聞かない。日本はヤクルトが3月に承認申請したところ。(後記:9月29日、ヤクルトは承認申請撤回願いを提出したと発表。)

CopiktraはPI3K阻害剤。Infinity Pharmaceuticals(Nasdaq:INFI)がアッヴィと提携して開発し、16年に第2相難治低悪性度非ホジキンリンパ腫試験で良好な成績を挙げたが期待水準には届かず、アッヴィはライセンス返還、InfinityもVerastem(Nasdaq:VSTM)にライセンスアウトした。

Verastemは難治再発CLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)のofatumumab(抗CD20抗体)対照試験を実施してPFSが実薬より延長することを確認し、18年に3次治療薬として承認を取得した。同時に、難治再発濾胞性リンパ腫の三次治療でも加速承認を得た。

しかし、上記試験の5年最終追跡データで全生存期間のハザードレシオが1.09、メジアンは52.3ヶ月と化学療法群より11ヶ月短かった(有意ではない)。承認と同じ3次以降の患者の解析でもハザードレシオ1.06、メジアン43.9ヶ月で3ヶ月短かった。

実薬対照で有意差がないなら悪いとも言い難いが、深刻な有害事象(感染症や胃腸副作用など)が影響した可能性が高いことが懸念材料。深刻有害事象の発生率は78%(対照群は32%)、有害事象による治験離脱は44%(6%)、致死的有害事象は15%(3%)と比較的大きな差が出ている。癌の治療は手段であって目的ではない。進行を遅らせることができても患者が死んでしまったら意味がない。

Verastemは事業をSecura Bioに売却、Secura Bioは市販後薬効確認試験を完遂する資金がないことを理由に濾胞性リンパ腫の加速承認を返上したが、他のPI3K阻害剤メーカーと異なり、ナケナシの適応症も返上することには抵抗している。

もしかしたら、日欧の承認審査機関の動きに配慮しているのかもしれない。もしEMAやPMDAが承認取消/否認するような事態になれば、粘っても資金の無駄と諦めるかもしれない。


③poziotinibの承認は支持されず
(2022年9月22日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(NasdaqGS:SPPI)は、FDAのODAC(腫瘍学薬諮問委員会)がpoziotinibを検討し13人の委員のうち9人が便益が危険を上回るとは言えないと判定したと発表した。審査期限は11月24日。

15年に韓美薬品からライセンスした経口汎her阻害剤で、EGFRにエクソン20挿入変異を持つ局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の二次以降の治療薬として承認申請したが、FDAは、単群試験のORR(客観的反応率)に基づいて加速承認するほど効果が高いとは言えないこと、有害事象による投与中断・中止が多いこと、5年前に至適用量の再検討をアドバイスしたのに受け入れなかったこと、加速承認時点で市販後薬効確認試験に目標の5割以上を組入れるという一般的なガイダンスをクリアできそうにないどころか、一人も組入れていないこと、申請された用量は16mg一日一回だが第3相は8mg一日二回と食い違っていることなどに疑問を呈していた。

米国のバイオ企業は自転車操業が多く、歯車が狂うと資金調達が困難になり、存続の危機に直面する。至適用量の検討に時間をかけるよりは取り敢えず申請してみた方が株式投資家の受けが良いし、承認が取れればそれに越したことはない。第3相に向けた資金調達も承認後のほうがやりやすくなる。

だが、そのような環境で開発された薬が行き詰まるたびに、もし資金的に余裕のある会社の開発品だったら、困っている人たちに新しい治療手段を提供できたかもしれないのに、と思わざるを得ない。

リンク: Spectrumのプレスリリース


④Pepaxtoの承認は支持されず
(2022年9月22日発表)

FDAのODACはOncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)のPepaxto(melphalan flufenamide)を検討し、16人の委員のうち14人が便益が危険を上回るとは言えないと判定した。8月に欧州で承認されたところだが、明暗が分かれた。

アルキル化剤にペプチドを結合して親油性を改善したもので、21年に米国で多発骨髄腫のサルベージ療法としてdexamethasoneと併用することが加速承認された。しかし、市販後薬効確認試験であるOCEAN試験でpomalidomideと比較したところ、PFS(無進行生存期間、独立評価)は良好だったが副次的評価項目の全生存期間がハザードレシオ1.10、メジアン19.7ヶ月対25.0ヶ月と見劣りした。

同社は加速承認返上を要請したが、前CEOが復帰するや、返上を撤回した。販売中止は現在も継続している。

EUの承認は幹細胞移植歴のない患者や移植の36ヶ月以上後に進行したサブグループに限定されている。サブグループ分析でORR(担当医評価)が28.8%、メジアン反応持続期間は7.6ヶ月だった。多発骨髄腫用薬の評価はCHMPのほうが保守的な印象があったが近年はそうでもない。この種の事後的サブグループ分析はFDAが重視しない傾向があるがCHMPは時々、エビデンスとして認めることがある。


GSKもPARP阻害剤ゼジューラの適応を一部返上
(2022年9月14日発表)

PARP阻害剤はClovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のRubraca(rucaparib)のBRCA変異陽性卵巣癌4次治療化学療法対照試験で主評価項目のPFS(無進行生存期間)が成功したものの全生存期間はハザードレシオ1.3と悪く、6月に米国で加速承認を返上した。

その余波でGSKもZejula(niraparib)の同様な適応も米国で返上に至ったことが明らかになった。白金薬による一次治療や再発治療に完全反応/部分反応した患者の維持療法は未だ承認されているが、後者はNOVA試験の全生存期間の解析があまり良い結果にならなかった模様で、FDAは11月22日の諮問委員会で承認継続の当否を検討すると発表した。

4次治療の返上は、エビデンスが単群試験のORRだけなので、PARP阻害剤で癌が縮小しても全生存期間が伸びるとは限らないというRubracaで浮上した疑惑に反論できないことが直接の理由であるようだ。

白金感受性卵巣癌の維持療法はNOVA試験でgBRCA変異型サブグループのPFSが偽薬比ハザードレシオ0.27、非変異サブグループでも0.45と大変良い成績を上げたが、全生存期間の解析はフェールした模様だ。元々検出力不足であり、クロスオーバーや追跡不能例も多かったため、薬ではなく試験がフェールした可能性も考え得る。それでも、PFSが伸びても延命につながるとは限らないという疑惑が強まった。

尚、Zejulaは日本では武田薬品が販売している。

リンク: GSKのDHCPレター(米国医療提供者向け通知)


リムパーザの適応も一部返上されていた
(2022年8月26日付)

アストラゼネカもLynparza(olaparib)の適応症の一つを米国で8月に返上していたことが判明した。卵巣がん以外にも様々な癌に承認されている、PARP阻害剤のNo.1というイメージを持っていたので、お前もか、と言いたい。

同薬は14年2月に米国でBRCA変異陽性白金感受性卵巣癌の白金薬治療後維持療法向けに新薬承認申請されたが、症例数が少ないことなどから、腫瘍学諮問委員会が11対2で反対した。そのため、適応症変更が行われ、同年12月に、3次以上の治療歴を持つ、生殖細胞系細胞のBRCAに有害変異のある進行卵巣癌用薬として加速承認された。エビデンスとなる第2相試験でORR(客観的反応率)34%、メジアン反応持続期間は7.9ヶ月だった。しかし、市販後薬効確認試験で懸念が浮上したため、返上された。

加速承認を得た会社は市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる効果を確認しなければならない。上記諮問委員会では、早く結果が出るPFS(無進行生存期間)で評価しても構わないか議論されたが、意見が分かれたようだ。結局、SOLO-2試験(二次またはそれ以降の治療に応答した患者の維持療法偽薬対照試験)とSOLO-3試験(二次またはそれ以降の治療歴を持つ難治再発患者を治療する化学療法対照試験)でPFS延長効果を確認することになった。

結果は、前者はハザードレシオ0.25、後者は0.62と良好な結果になった。前者はその後実施された全生存期間の最終解析もハザードレシオ0.74と、検出力不足やクロスオーバー(偽薬群の患者が進行後の治療でPARP阻害剤を使う)の影響で有意ではないものの、正しい方向を向いていた。しかし、後者は、加速承認の対象である3次以上の治療歴を持つサブグループの数値が悪かった模様で、今回、返上となった。

リンク: FDAの返上承認通知


CHMP、RSV予防薬などの承認を支持
(2022年9月16日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬や適応拡大の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのMEDI8897(nirsevimab)はRSV疾患予防薬。同社のSynagis(palivizumab)と類似した抗体医薬だが、適応が低体重出生児や特定の疾患を持つ乳児だけでなく、在胎35週以上の健康な乳児も適応になり、また、冬季に毎月ではなく一回筋注するだけで足りる。但し、投与は最初の冬だけで二年目の冬は認められなかった様子だ。

RSVは風邪の原因ウイルスの一つで通常は深刻な状態にはならないが十分な免疫を獲得していない乳児はリスクがある。在胎35週以上の健康な1歳未満の子供を組入れて150日間追跡した第3相MELODY試験では、RSVによる下部気道感染症の受診発生率が1.2%に留まり、偽薬比74%少なかった。米国は今下期に承認申請予定。

尚、Synagisでも健常者試験が行われたがフェールした。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

サノフィ・グループのジェンザイムのEnjaymo(sutimlimab)はC1sに結合する抗体医薬。成人の寒冷凝集素症における溶血性貧血の治療に用いる。臨床試験ではヘモグロビンの増加や輸血不要化が見られた。今年2月に米国で、6月には日本でもエジャイモ名で、承認された。Bioverativ買収で入手したパイプライン。

リンク: EMAのプレスリリース

武田薬品のLivtencity(maribavir)はCMVのUL97プロテイン・キナーゼ阻害剤。造血幹細胞や臓器の移植後にCMV感染症を合併し一つ以上の前治療に難治性を示した患者に用いる。米国では昨年11月に承認。03年にGSKが導出した先であるViroPharmaを13年にシャイアが買収、そのシャイアを19年に武田が買収した。

リンク: EMAのプレスリリース

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)のPyrukynd(mitapivat)はピルビン酸キナーゼ(PK)Rのアロステリック・アクティベイター。成人のPK欠乏症に用いる。ATPの産生減少により赤血球が変形能を失い、脾臓で補足され溶血する希少遺伝性疾患で、PyrukyndはPKに結合し安定化させる。輸血依存患者の試験では奏効率(輸血減少)が33%、輸血依存ではない患者の試験では奏効率(ヘモグロビン増加)が40%だった(偽薬群は0%)。米国では2月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

スイス籍のADC Therapeutics(NYSE:ADCT)のZynlonta(loncastuximab tesirine)はCD19を標的とする抗体薬物複合体。2次以上の治療に難治再発の、成人のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫やハイグレードB細胞リンパ腫に用いる。条件付き承認となる予定。欧州などではSwedish Orphan Biovitrumが販売する。米国では昨年4月に2次以上の治療歴を持つ難治再発の大細胞型B細胞リンパ腫に加速承認された。日本は田辺三菱製薬が開発販売権を持っている。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も支持された。

  • 中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)のBtk阻害剤、Brukinsa(zanubrutinib)を抗CD20抗体による治療歴を持つ辺縁帯リンパ腫に用いること
  • アッヴィのSkyrizi(risankizumab)をバイオ薬を含む治療薬に応答不十分、応答喪失、または不耐の中重度クローン病に用いること
  • ギリアド・サイエンシズの子会社、Kite PharmaのYescarta(axicabtagene ciloleucel)を化学免疫療法による一次治療に再発/難治の成人性びらん性大細胞型B細胞リンパ腫/ハイグレードB細胞リンパ腫に用いること

  • 【承認】


    レットヴィモが適応拡大
    (2022年9月21日発表)

    FDAはイーライリリーのRetevmo(selpercatinib)の適応拡大を加速承認した。

    19年にLoxo Oncologyを80億ドルで買収して入手したRET阻害剤で、欧米ではRET(rearranged during transfection)遺伝子融合を持つ転移非小細胞性肺癌や甲状腺髄様腫、甲状腺癌に加速承認された。このうち、非小細胞性肺癌は、今回、局所進行性も合わせて本承認に切り替わった。

    新規適応は、RET遺伝子融合を持つ固形癌(但し、全身治療に不応/再発、あるいは、満足のいく代わりの治療法がない場合)。既に承認されている上記の癌以外に投与した臨床試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価、評価対象41人)が44%、メジアン反応持続期間は24.5ヶ月だった。症例・応答例とも、多いのは膵腺腫、唾液腺癌、結腸直腸癌など。RET遺伝子融合は専らNGS(次世代シーケンサー)で検査された。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: イーライリリーのプレスリリース(腫瘍別のORRなども記載)


    白金薬の聴覚副作用抑制薬が承認
    (2022年9月21日発表)

    米国のFennec Pharmaceuticals(Nasdaq:FENC)は、FDAがPedmark(sodium thiosulfate)を承認したと発表した。チオ硫酸ナトリウムの静注用新製剤で、生後1ヶ月から18歳未満までの局所性/非転移固形癌を白金薬で治療する時に、聴力低下副作用を抑制する目的で使用する。共同治験グループが主導したSIOPEL 6肝芽細胞腫試験で聴力低下が55人中18人と、cisplatinだけの群の46人中29人の半分近かった。EFS(無イベント生存期間)や全生存期間は大差なかった。

    20年2月にローリング承認申請を完了し優先審査を受けたが、生産委託先のcGMP問題で承認が大幅に遅れた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    もう一つの遺伝子療法薬にも青い鳥
    (2022年9月16日発表)

    bluebird bio(Nasdaq:BLUE)はFDAがSkysona(elivaldogene autotemcel)をcALD(脳覆髄白質ジストロフィー)の治療薬として加速承認したと発表した。同時に、臨床試験停止命令も解除された。

    cALDは極長鎖脂肪酸をペルオキシソームに輸送するALDPという蛋白が欠乏するX染色体性遺伝子疾患の4割程度が発症する、深刻な神経変性疾患で、治療しないと5年以内に死亡すると推定されている。Skysonaは患者から採取したCD34陽性細胞にALDPの遺伝子であるABCD1の相補DNAをレンチウイルス・ベクターを使って導入。アルキル化剤によるプリコンディショニングを行った患者に投与する。

    適応となるのは4~17歳の早期、活性期cALD。臨床試験では主要な機能障害なしで24ヶ月生存する確率が推定72%、自然歴では43%だった。血液癌のリスクが枠付警告されている。本承認に向けて、臨床試験の被験者も含めて15年間追跡し、効果や安全性を検討する。

    cALDの治療はHLA型が適合する同胞造血幹細胞移植が有効だが、今回の承認は適合ドナーが見つからない場合だけに限定されてはいない。

    リンク: 同社のプレスリリース





    今週は以上です。

    2022年9月16日

    第1068回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • COVID-19関連: 
    • EU、旧型二価ワクチンに続いて新型も承認 
    • その他の領域: 
    • 5価髄膜炎菌ワクチンの第3相が成功 
    • オプジーボもIIB/C黒色腫アジュバント試験が成功 
    • FGF21類縁体の後期第2相NASH試験が成功 
    • コセンティクスの化膿性乾癬炎試験が成功 
    • 副腎白質ジストロフィー用薬を承認申請 
    • Clovis社、PARP阻害剤の適応拡大申請を断行 
    • アルファ・マンノシドーシス補充療法を米国でも承認申請 
    • 肝腎症候群用薬が米国でもやっと承認 
    • 新作用機序の尋常性乾癬治療薬が承認 


    【COVID-19関連】


    EU、旧型二価ワクチンに続いて新型も承認
    (2022年9月12日発表)

    EMA(欧州薬品庁)のCHMP(医薬品審査委員会)はComirnaty Original/Omicron BA.4-5(オミクロンBA.4/BA.5亜系統適合二価ワクチン)を12歳以上の追加接種用COVID-19ワクチンとして承認することに肯定的意見を出した。欧州委員会も同日に承認。Comirnaty Original/Omicron BA.1(同BA.1亜系統適合二価ワクチン)の11日後と、旧型オミクロンや新型オミクロンの抗原を含む製品が相次いで承認された。

    オミクロン株の流行は年初のBA.1から現在は欧米日共にBA.5にシフトしているので、BA.4-5適合二価ワクチンのほうが好ましいが、難点は、臨床試験のエビデンスが限られていること。米国や日本は片方しか承認されていないので、今すぐ接種するか、新型の治験結果が発表されたり承認されたりするのを待つか、二択だが、EU加盟国の場合、選択の余地があるだけに悩ましい。各国がどちらを選ぶか、注目される。

    日本もBA.1版の特例承認の翌日にコミナティのBA.4/5版が承認申請された。欧米より遅いが、承認される頃には臨床成績が判明しているだろうから、むしろ好タイミングかもしれない。但し、政府がBA.1版の在庫が消化されるまでBA.4/5版の接種を遅らせるリスクがあるかもしれない。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【新薬開発】


    5価髄膜炎菌ワクチンの第3相が成功
    (2022年9月15日発表)

    ファイザーはMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)の第3相試験が成功したと発表した。データは未発表。第4四半期以降に米国などで承認申請する計画。

    髄膜炎菌性髄膜炎を予防するワクチンはACWYの4群をカバーするものとB群だけの二種類あるが、5価ワクチンなら接種回数を減らせる。GSKの開発品も第3相の結果が出る頃であり、承認後は啓蒙予算の拡大も見込める中、B群をカバーするワクチンの普及拡大につながるかどうか、注目される。

    MenABCWYは同社のACWY群ワクチンNimenrixとB群ワクチンTrumenbaを配合したもの。今回の試験は欧米の施設で10~25歳の2431人をMenABCWY二回接種群と既存ワクチン群(GSKのACWY群ワクチンMenveoを一回、Trumenbaを二回)に無作為化割付してhSBA(血清殺菌性抗体価)4倍増達成率を比較した。尚、この試験は既にACWY群ワクチンを一回接種した人も組入れたが、B群ワクチン接種済の人は除外している。

    結果は、5群全てについて非劣性だった。ACWY群に関しては、一回接種後の達成率もMenveo一回接種と非劣性で、初回免疫例では一回接種後でも二回目後でもMenveo一回接種を上回った(この試験は開始から2年しか経っていないので試験中にMenveoを二回打った人はいないだろう)。B群の4血清型に関しては二回接種後の達成率がTrumenba二回接種後を上回った。

    CDC(米国疾病予防管理センター)の髄膜炎菌ワクチンに関する接種勧奨は、11~12歳に全員がACWY群ワクチンを一回接種、16歳になったら一回追加接種する。他の世代でも高リスクなら接種勧奨。一方、B群ワクチンは10歳以上の高リスクの人だけだ。但し、16歳~23歳の人は医療従事者と本人が協議の上、短期的保護を目的に接種しても良い。回数は一回以上接種した方が良い。

    ACWY群ワクチンが普及した結果、髄膜炎菌性髄膜炎はB群が主流になったので、TrumenbaやGSKのBexseroの重要性が高まっているはずだが、米国青少年のB群ワクチン一回接種は三人に一人以下、二回接種はもっと少ない由。Trumenbaの価格は一回170ドル程度、Menveoは150ドル程度なのでMenABCWYの価格を300ドルと推定すると、完全に置き換われば市場規模が5割程度拡大することになる。

    リンク: ファイザーのプレスリリース


    オプジーボもIIB/C黒色腫アジュバント試験が成功
    (2022年9月15日発表)

    ブリストル マイヤーズ・スクイブは、Opdivo(nivolumab)の第3相CheckMate-76K試験が中間解析で目的を達成したと発表した。ステージIIB/Cの黒色腫を完全切除した後に480mgを4週毎、最大12ヶ月点滴静注し、再発予防効果を偽薬と比較したもの。データは未発表。適応拡大申請に向かうのではないか。

    OpdivoはステージIIIB/C/IVの黒色腫については完全切除後アジュバント療法が承認されている。競合するMSDのKeytruda(pembrolizumab)は一足先に両方の段階の患者に承認された。

    リンク: BMSのプレスリリース


    FGF21類縁体の後期第2相NASH試験が成功
    (2022年9月13日発表)

    米国サウス・サンフランシスコのAkero Therapeutics(Nasdaq:AKRO) は、AKR-001(efruxifermin)の後期第2相NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)試験が成功したと発表した。奏効率が二用量とも40%前後と、偽薬の20%を有意に上回った。第3相に進むのではないか。

    18年にアムジェンからライセンスした長期作用性FGF21(線維芽細胞増殖因子21)類縁体で、週一回皮注する。今回のHARMONY試験は線維症のステージが2または3のNASH患者128人を偽薬、28mg、50mgの三群に無作為化割付して24週間治療し、奏効率(肝臓線維症が1ステージ以上改善し、且つ、NASHが悪化しない)を比較した。結果は各群20%、39%、41%となり両用量とも偽薬を有意に上回った。薬効解析対象はベースラインと第24週の肝生検データがある113人。データがない患者は非奏功例と見なして試算すると、各群の奏効率は19%、36%、32%となる。

    副次的評価項目の、NASHが解消し線維症は悪化しなかった患者の比率も各15%、47%、76%と良好な結果になった。NASH解消且つ線維症1ステージ以上改善の比率も5%、29%、41%となった。主評価項目と異なり、高用量のほうが成績が良い。

    忍容性の開示は限定的だが、治療時発現深刻有害事象は50mg群で1例(胃食道逆流症歴のある患者で食道炎)、有害事象による治験離脱は28mg群で2人、50mg群で1人、発生した。

    後期第2相は他にGLP-1作用剤アドオン試験と代償性肝硬変試験が進行中で23年に開票する見込み。

    リンク: 同社のプレスリリース


    コセンティクスの化膿性汗腺炎試験が成功
    (2022年9月10日発表)

    ノバルティスは抗IL-17A抗体Cosentyx(secukinumab)の第3相試験が二本とも良好な結果になったことを発表した。EUでは既に適応拡大申請、米国でも年末までに申請予定。承認されれば抗TNF-アルファ抗体Humira(adalimumab)以来となる。

    この試験は300mgを週一回、4回投与した後に2週毎または4週毎に投与し、16週後のHiSCR奏効率を偽薬と比較した。SUNSHINE試験では2週毎群が45.0%と偽薬群の33.7%を有意に上回ったが、4週毎群はp値が0.0418に留まりフェールした。SUNRISE試験では各42.3%、31.2%、46.1%となり、両用量とも有意差があった。

    副次的評価項目である皮膚痛の改善は、2週毎群の二試験プール分析で偽薬を有意に上回った。

    Cosentyxは乾癬性関節炎や乾癬の治療に維持期は4週毎投与することが承認されている。静注用製剤と自己注可能な皮注用製剤があるが、上記試験でどちらが採用されたのかは明らかではない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認申請】


    副腎白質ジストロフィー用薬を承認申請
    (2022年9月14日発表)

    スペインの中枢神経系希少疾患用薬開発会社、Minoryx Therapeuticsは、MIN-102(leriglitazone)をX-ALD(X染色体性副腎白質ジストロフィー)の成人の治療薬としてEUで承認申請し受理されたと発表した。米国ではFDAと次のステップについて相談中とのこと。第2/3相試験は主評価項目がフェールしたが、希少難病なので副次的評価項目などに基づいて条件付き承認される可能性もありそうだ。

    X-ALDはALDPの遺伝子であるABCD1の変異により細胞内に極長鎖脂肪酸が蓄積、中枢神経系における脱髄や神経細胞変性、副腎機能低下などをもたらす。X染色体上の遺伝子なので男性の患者が多い。罹患率は新生男児2万人に一人と推定されている。小児は造血幹細胞移植が有効。エルカ酸とオレイン酸の混合物(通称Lorenzoのオイル)が使われることもあるが効果については諸説ある。21年にEUでbluebird bio(Nasdaq:BLUE)が開発した遺伝子療法、Skysona(elivaldogene autotemcel)が承認されたが、薬価が折り合わず返上、本丸の米国では9月16日に審査結果が判明する。

    MIN-102はPPARガンマ・アゴニストで、pioglitazoneなどより脳浸透性が良い。第2/3相のADVANCE試験では、AMN(副腎脊髄ニューロパチー)の成人男性116人を試験薬群と偽薬群に盲検下で2:1無作為化割付して96週間治療し、運動機能の変化を6分歩行テストで評価した。フェールしたが、早期症候性患者では臨床的に意味のある群間差が見られた由(上記Lorenzoオイルも早期段階には有効という研究がある)。副次的評価項目では、新規/進行性の脳病変が試験薬群77人中3人で発生したが、偽薬群は39人中8人と5倍多かった。深刻な進行段階であるcALD(脳副腎白質ジストロフィー)と診断された患者数も、試験薬群はゼロ、偽薬群は6人と大きな差があった。

    MIN-102は小児のcALDもpivotal試験中。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Clovis社、PARP阻害剤の適応拡大申請を断行
    (2022年9月13日発表)

    米国コロラド州のClovis Oncology(Nasdaq:CLVS)はRubraca(rucaparib)を欧米で進行卵巣癌の一次治療後地固め療法に適応拡大申請したと発表した。第3相ATHENA試験のモノセラピー・パートに基づくものだが、FDAは事前相談で全生存期間のデータがもっと成熟するまで待つように助言した模様なので、at riskだ。

    Rubracaは遺伝子複製ミスの修復に係るポリ(ADPリボース)ポリメラーゼの阻害薬で、BRCA変異陽性の進行卵巣癌の3次治療薬として16年に米国で加速承認された。市販後薬効確認試験でPFS(無進行生存期間、担当医評価)が化学療法群を有意に上回り、本承認に切り替えられたが、その試験の全生存期間の解析で死亡リスクが高まる懸念が浮上、承認返上に至った。

    白金感受卵巣癌の二次治療に応答した患者の再発予防用途は現在も承認されているが、アストラゼネカなどの類薬が一次治療応答後再発予防に適応拡大したため、出番が殆どなくなってしまった。その意味でも今回の申請は背水の陣である。

    リンク: 同社のプレスリリース


    アルファ・マンノシドーシスの補充療法を米国でも承認申請
    (2022年9月12日発表)

    イタリアのChiesi Farmaceutici S.p.A.の希少疾患子会社は、米国でvelmanase alfaをαマンノシドーシス治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、23年上期に審査結果が出る見込み。

    この疾患はαマンノシダーゼの欠乏により炭水化物などのマンノーズを代謝できず、オリゴサッカライドがリポソームに蓄積、知的障害や肝膵肥大、筋骨格異常などをもたらす。有病率は世界で100万人に1~9人の超希少疾患。本剤は遺伝子組換え型αマンノシダーゼで、臨床試験では血清オリゴサッカライドが正常水準まで低下した。

    18年4月にLamzede名でEUの例外的環境状況に基づく承認を取得した

    リンク: 同社のプレスリリース(PR Newsire)

    【承認】


    肝腎症候群用薬が米国でもやっと承認
    (2022年月日発表)

    アイルランド籍のマリンクロットは、FDAがTerlivaz(terlipressin)を肝腎症候群治療薬として承認したと発表した。腎機能が急速に低下している成人患者の腎機能を改善する。血清クレアチニンが5mg/dL超の患者では便益が期待できない。呼吸不全が枠付警告で、臨床試験における発生率は15%(偽薬群は7%)。深刻例や致死例もあった。体液過剰やグレード3のACLF(急速進行する肝不全)が高リスク。低酸素や呼吸器症状、冠動脈などの虚血は禁忌。治療中は連続パルスオキシメーターでモニターする。

    活性成分は選択的バソプレシン1受容体作動剤。米国外で低血圧症などの治療に30年以上の使用歴がある模様だが、米国承認に至る道のりは長く、Orphan Therapeuticsが実施した第3相はフェール、申請を強行したが承認されなかった。権利を取得したIkariaが実施した第3相もフェール。しかし、Ikariaを買収したマリンクロットの第3相で血清クレアチニン抑制効果が確認された。20年の承認申請後も紆余曲折したがやっと承認された。

    尚マリンクロットはオピオイド鎮痛剤の大手で、米国政府などが提起したオピオイド訴訟で16億ドルの和解金を払うことになり、20年に会社更生法適用を申請、今年6月に企業再編手続きが完了したところ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    新作用機序の尋常性乾癬治療薬が承認
    (2022年9月9日発表)

    ブリストル マイヤーズ・スクイブは、FDAがSotyktu(deucravacitinib)を中重度尋常性乾癬治療薬として承認したと発表した。全身性治療または光学療法が候補になる成人患者に用いる。

    タイプIインターフェロンなどがトリガーする細胞内シグナル伝達を調停する酵素、TYK2(tyrosine kinase 2)の制御ドメインに結合してアロステリックに阻害する、ファースト・イン・クラス。欧州でも審査中、日本では8月に第二部会を通過した(ソーティクツ錠、膿疱性乾癬や乾癬性紅皮症にも使える)。

    第3相では偽薬群、6mg一日一回経口投与群、Otezla(apremilast)30mg一日二回経口投与群に無作為化割付して、主評価項目として16週時点のPASI75とsPGS 0/1(静的総合評価)を偽薬と比較、副次的評価としてOtezla群とも比較した。

    結果は、各群のPASI75が一本は13/58/35%、もう一本では9/53/40%となり、偽薬比でも実薬比でも有意に上回った。sPGA 0/1は各7/54/32%と9/50/34%と、ここでも有意に上回った。

    主な有害事象は感染症や血中クレアチン・ホスホキナーゼ値の上昇など。延長試験も含めて52週間追跡したが、最も多い感染症は肺炎とCOVID-19。3人で悪性腫瘍が診断された(100人年当り0.3人)。

    TYKはJAK4とも呼ばれるようだが、本剤はJAK1/2/3を阻害しない。JAK阻害剤は感染症や癌などの枠付警告があるが、本剤は枠付警告なし。

    Otezlaは米国で14年に尋常性乾癬や乾癬性関節炎の治療薬として承認されたPDE4阻害剤。セルジーンが販売していたが、BMSが19年に買収した時に、反トラスト法上の規制をクリアするため、アムジェンに134億ドルで事業売却した経緯がある。

    リンク: BMSのプレスリリース




    今週は以上です。

    2022年9月10日

    第1067回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • COVID-19関連: 
    • 流行が落ち着いたらワクチンが2倍以上に値上がり? 
    • その他の領域: 
    • roflumilastの脂漏性皮膚炎試験が成功 
    • RNAアプタマーの地図状萎縮試験が成功 
    • ファイザー、新規JAK阻害剤を円形脱毛症に承認申請 
    • FDA諮問委員会、ALS用薬の承認を多数が支持 


    【COVID-19関連】


    流行が落ち着いたらワクチンが2倍以上に値上がり?
    (2022年9月9日発表)

    COVID-19ワクチンや新規治療薬の多くは、欧米日本などの高所得国では政府が一括調達し医療施設などに無償供給しているが、米国連邦議会がCOVID-19対策予算の抑制を求めるなど、パンデミック対応からエンデミック対応に移行する兆しが現れている。mRNAワクチンを販売するモデルナやBioNTech/ファイザーは、従来から、エンデミックに入ったらワクチンの価格を他の画期的ワクチンと同程度に引き上げる考えを示しており、消費者にとっては、自己負担の発生と合わせてダブルパンチになる。オミクロン株はこれまでの株より重症化リスクが小さいせいか、米国はブースター接種を4~6ヶ月毎ではなく年一回に留める方針のようだ。政府のトーンダウンや金銭的負担から、来年以降は、今以上に接種人数が減少するだろう。

    問題は価格がどの程度になるかだ。現状は一回当たり20~25ドル程度でインフルエンザ・ワクチンと大差ないと推測されるが、他の画期的ワクチンの中には300ドルと十倍以上のものもある。メーカーはパンデミックが終わって接種が減少しても値上げで売上規模を維持することを考えており、人口の2~3割を占める高齢者などだけが接種する事態を想定すると、3~5倍の値上げが望ましいことになる。

    このような中、モデルナがR&Dデイに際して、米国市場規模のシミュレーションを示した。来年のCOVID-19ワクチンの価格についてはCDC(米国疾病予防管理センター)が64ドルを前提に計画を立てているためマトリクスは価格が64ドル、82ドル、100ドルの何れかであった場合に、接種対象が米国の高リスク者8200万人だけの場合と18歳以上の全2.58億人、但し普及率はインフルエンザワクチン並みの50%の場合を示した。高リスク者だけの場合、64ドルなら52億ドル、100ドルなら82億ドル。全成人の場合、各83億ドルと129億ドルとなっている。

    こうして見ると、高リスク者のみに64ドルというのは色々な意味で現実的なセンなのだろう。CDCは接種に伴う診療報酬等を40ドルと前提しており、合計100ドル程度を保険等と本人が分担することになる。消費者は、おそらく、保険料の引き上げにも直面するだろう。

    リンク: モデルナのR&Dデイ用プレゼン資料(本件は166頁に記載)

    【新薬開発】


    roflumilastの脂漏性皮膚炎試験が成功
    (2022年9月9日発表)

    Arcutis Biotherapeutics(Nasdaq:ARQT)はroflumilastの第3相脂漏性皮膚炎試験が成功したと発表した。23年第1四半期に米国で承認申請する考え。

    同社はroflumilastのクリーム製剤を中重度プラク乾癬治療薬として開発、7月に米国でZoryveクリーム0.3%として12歳以上の患者に承認を取得した。今回の試験は9歳以上の中重度患者457人を新開発の0.3%フォーム製剤を一日一回投与する群と対照群に2対1割付して、8週後のIGA奏効率(治験医の総合評価がクリアまたはほぼクリアで、且つ、ベースライン比2ポイント以上改善)を比較した。結果は各群80.1%と59.2%となり、有意な差があった。痒みを改善する作用も見られた。

    roflumilastはドイツのアルタナが喘息症維持療法薬として創製したPDE4阻害剤。既にGE化しているせいか、Zoryveは競合新薬より安価に販売されている。

    リンク: 同社のプレスリリース


    RNAアプタマーの地図状萎縮試験が成功
    (2022年9月6日発表)

    米国ニュージャージー州の新興バイオ企業、Iveric Bio(Nasdaq:ISEE)は、Zimura(avacincaptad pegol)の二本目の第三相試験が成功したと発表した。来年第1四半期に米国などでドライ型(萎縮型)加齢性黄斑変性における地図状萎縮(GA)治療薬として承認申請する考え。

    DNA/RNAアプタマーは2000年代に臨床開発が活発化、04年にはファイザーのMacugen(pegaptanib sodium)が米国で滲出型加齢性黄斑変性用薬として承認された。この分野で次々とアウトライセンス契約を決めていたのがArchemix社で、Ophthotech(Iveric社の旧社名)に導出したのがavacincaptad pegolだ。RNAアプタマーで、補体C5が切断され活性化するのを阻害する。

    第3相は二本実施した。昨年成功したGATHER1試験は286人を2mg毎月硝子体注射群とシャム群に無作為化割付して12ヶ月間のGAの変化を比較したところ、拡大が27%小さかった。6ヶ月時点の数値も加味したスロープ分析でも27%小さかった。

    今回のGATHER2試験は448人を同じ二群に無作為化割付して今回はスロープ分析を主評価項目としたところ、14%小さかった(p=0.0064)。平方根変換法による解析だが、変換前の数値を見ると、試験薬群は1.745mm拡大、シャム群は2.121mmで、差は0.376mm、17.7%だった。

    Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)が7月に米国で同じ用途に適応拡大申請したC3阻害剤Empaveli(pegcetacoplan)の第3相成績と概ね同程度だ。

    副次的評価項目の最高矯正視力の解析では良好なトレンドが見られたとのこと。臨床的便益は確立されていないことになるが、事前にFDAの特別プロトコル評価を得ているので、これでもよいのかもしれない。

    安全性面では注射関連反応が見られたが、眼内炎や視神経症は発生しなかった。脈絡膜血管新生は15人(6.7%)で発生した。偽薬群は9人4.1%。最初の第三相は各6人(9.0%)と3人(2.7%)だったので、リスクが再現されたことになる。

    Macugenは効果が抗体医薬ほどではないため売上が伸びず、ファイザーは事業譲渡した。ノバルティスがOphthotechからライセンスしたPDGFを阻害するDNAアプタマーは第3相滲出型加齢性黄斑変性試験が二本ともフェールした。アプタマーの人気低下を覆すことができるか、注目される。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    ファイザー、新規JAK阻害剤を円形脱毛症に承認申請
    (2022年9月9日発表)

    ファイザーはJAK3阻害剤PF-06651600(ritlecitinib)を12歳以上の円形脱毛症の治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国は来年第2四半期、欧州はEMAが来年第4四半期に、結論を出す見込み。経口JAK3阻害剤で、後期第2相/第3相試験で30mg群と50mg群(各一日一回投与)のSALT奏効率(脱毛が頭皮の20%以下に改善)が偽薬を有意に上回った。データは未発表と思われる。

    JAK1/2阻害剤ではイーライリリーのOlumiant(baricitinib)も欧米などで承認されている。感染症や心血管疾患、癌、血栓症などのリスクに注意する必要がある。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、ALS用薬の承認を多数が支持
    (2022年9月7日発表)

    FDAはPCNSDAC(末梢・中枢神経系薬諮問委員会)を招集し、Amylyx(Nasdaq:AMLX)がALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認申請したAMX0035(sodium phenylbutyrate、taurursodiol)について再び意見を聞いた。3月に開催した時は薬効確立と判定した委員は4人に留まり、否定の6人を僅かに下回ったが、今回は承認するのに十分な薬効のエビデンスがあると回答した委員が7人、否定は2人と多くが支持した。

    治験データが大して変わっていないのに諮問委員会が二回、開催されるのは異例。一回目は反対した6人のうち議長を務めたスタンフォード医科大学のT. Montine医学博士を含む4人が賛成に転じたのはサプライズだが、元々、3月の票決でも、多くの委員が困難な判断であったと表明しており、質量ともに僅差だった。

    今回、委員たちの肩を押したのは、二人の発言であるようだ。FDAの神経科学系部門のトップであるBilly Dunn医学博士はALSのように深刻な難病に使う薬の承認審査にはフレキシビリティが必要と主張した。AmylyxのCEOはもし第3相試験がフェールしたら承認返上も含め患者に最も良い対応を行うと言明した。

    Dunn氏はバイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab-avwa)が21年にアルツハイマー病用薬として承認された時も牽引役だった。但し、上役の調停により承認ではなく加速承認に留められた。今回も実体的には加速承認と似ているので、もう一回ウルトラCを発動するかもしれない。審査期限は今月29日。

    薬効のエビデンスは発症18ヶ月以内の患者137人を組入れた第2相試験。ALSFRS-R(機能評価尺度)の悪化が偽薬比有意に小さかった。しかし、ベースライン時点の進行度を加味した感受性分析がフェールしたことや、追跡打切り例が多いこと、試験薬群は治験期間中に承認されている薬の服用を開始した患者が偽薬群より多かったことなど、頑強性に疑問があった。今回、試験後に偽薬群から試験薬にスイッチした患者と比較した全生存解析データが提出されたが、ALSの生存期間は個人差が大きいため、この程度の規模の試験では明確なことは言えないようだ。

    第3相のPHOENIX試験は欧米の施設で発症24ヶ月以内の患者600人を48週間治療してALSFRS-Rと死亡リスクを比較する。成否は23年終わりから24年始め頃に判明する見込み。

    AMX0035は尿素サイクル異常症の治療に使われているフェニル酪酸ナトリウムを3g、原発性胆汁性肝硬変用薬タウロオルソデオキコール酸を1g含有する合剤。前者は小胞体発の、後者はミトコンドリア発の、神経変性経路を阻害すると考えられている。必要なら合剤の承認を待たなくとも既存製品をオフレーベル投与できるのではないだろうか。

    リンク: 同社のプレスリリース






    今週は以上です。

    2022年9月4日

    第1066回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • COVID-19関連: 
    • BA.4/5適合二価ワクチンが米国でEUA 
    • CHMP、BA.1適合二価ワクチンの承認を勧告 
    • その他の領域: 
    • 第XIa因子阻害剤が続々と第3相へ 
    • アセンディス、PTH補充療法を承認申請 
    • 週一回投与型第VIII因子を承認申請 
    • FDA、イミフィンジを胆道癌に承認 
    • 膿疱性乾癬用薬が初承認 
    • ゼンフォザイムが米国でも承認 
    • PRAC、トピラマートの胎児リスクを検討開始 


    【COVID-19関連】


    BA.4/5適合二価ワクチンが米国でEUA
    (2022年8月31日発表)

    FDAはBioNTech/ファイザーとモデルナのCOVID-19二価ワクチンをEUA(非常時使用認可)した。従来の一価ワクチンによるプライマリー接種またはブースター接種を受けてから2ヶ月(!)以上経過した、前者は12歳以上、後者は18歳以上の、ブースター接種に用いる。承認の翌日、CDC(疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)も接種を推奨した。

    BioNTech/ファイザーの一価ワクチンは武漢株のスパイク蛋白のmRNAを30mcg含有しているが、二価ワクチンは武漢株とBA.4/BA.5亜系統オミクロン株のものを15mcgずつ配合している。モデルナの一価ワクチンmRNA-1273はD614G変異株のスパイク蛋白mRNAをブースターの場合50mcg接種するが、二価のmRNA-1273.222はBA.4/BA.5のものと25mcgずつ配合したものを接種する。

    承認取得に必要な三種類の資料のうち臨床成績に係るものは日本で承認申請されたBA.1亜系統適合二価ワクチンに係るものを援用した。武漢株/D614G変異株の偽ウイルス・アッセイで阻害力価が一価ワクチンと非劣性、BA.1偽ウイルス・アッセイでは有意に上回った。BA.1適合ワクチンはBA.4/BA.5偽ウイルス・アッセイに対する力価がBA.1に対するより小さかった筈だがレーベルには記されていない。

    臨床試験の結果が判明するのは数ヶ月後の見込み。BA.1適合ワクチンではなくBA.4/BA.5ワクチンを選択するに当たって、FDA諮問委員会の圧倒的支持も得ているのだが、オピニオン・リーダーの一部は、自分自身は臨床データを見てから接種したいとコメントしているようだ。

    米国は連邦議会がCOVID-19関連予算を圧縮しており来年のどこかで一括調達・無償供与が終わる見込み。但し、ワクチンに関しては一回目のブースター接種を受けた人数を上回る量を既に手当てしている模様なので、駆け込まなくても大丈夫なようだ。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: BioNTech/ファイザーのプレスリリース
    リンク: 両社の二価ワクチンのファクトシート
    リンク: モデルナのプレスリリース
    リンク: モデルナの二価ワクチンのファクトシート
    リンク: CDCのプレスリリース(9/1付)


    CHMP、BA.1適合二価ワクチンの承認を勧告
    (2022年9月1日発表)

    EMA(欧州薬品庁)のCHMP(医薬品委員会)はBioNTech/ファイザーとモデルナの二価ワクチンを承認するよう欧州委員会に勧告した。日本と同様に、既承認の一価ワクチンの一部変更という位置付けになるようだ。従来のワクチンに含まれるスパイク蛋白のmRNAと、オミクロン株BA.1亜系統のスパイク蛋白のmRNAを配合したもので、どちらも、12歳以上で直近の接種から3ヶ月(!)以上経った人の追加免疫に用いる。

    BA.4/BA.5亜系統に適合した二価ワクチンも承認審査中/間もなく申請予定とのことなので、EU加盟国の国民は、こちらが承認されるまで待つかどうか、悩むことになる(インターバルが3ヶ月とか2ヶ月なら、理屈の上では年末までに両方打つことも可能だが...)。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【新薬開発】


    第XIa因子阻害剤が続々と第3相へ
    (2022年8月28日発表)

    ESC(欧州心臓学会)で第XIa因子阻害剤二剤の第2相試験成績が発表された。どちらも薬効面の解析はフェールしたが、評価方法や検出力面での制約を考えれば、第3相ステージアップを見送るような内容ではないだろう。出血リスクは有意差がなかったが、これも検出力不足だろうから、大規模な試験で確認する必要がある。

    一つはバイエルのBAY 2433334(asundexian)。後期第2相のPACIFIC-Stroke試験で非心原性虚血性脳卒中を発症してから48時間以内の1808人を対象に、標準療法(抗血小板薬を1~2剤)に加えて偽薬、10mg、20mg、50mgを一日一回、6ヶ月間経口投与して、脳梗塞再発抑制効果の用量依存性を検討したが、発生率は各群19.1%、18.9%、22.0%、20.1%となり、フェールした。

    検出力を高めるためにMRI画像における梗塞所見もカウントしたことが結果的に裏目に出た。メジアン10.6ヶ月追跡後の症候性虚血性脳卒中/TIA(一過性脳虚血発作)発生率は各群8.3%、7.6%、6.2%、5.4%と用量依存っぽい数値になっている。

    12ヶ月間のISTH基準の大出血・臨床的に重要な非大出血発生率は偽薬群が2.4%、試験薬群は三群合計で3.9%、ハザードレシオは1.57で統計的に有意ではないが臨床的に意味のない差ではないだろう。

    第3相は心房細動で脳梗塞リスクが高い患者を組入れて塞栓性疾患のリスクをBMS/ファイザーのXa阻害剤apixabanと比較するOCEANIC-AF試験と、今回と同じ非心原性虚血性脳卒中や高リスク患者を組入れるOCEANIC-STROKE試験を開始する予定。

    BMSがJanssen Pharmaceuticalsと共同開発しているBMS-986177/JNJ-70033093(milvexian)は、第2相AXIOMATIC-SSP試験の結果が発表された。ラクナではない虚血性脳卒中または高リスクのTIAを発症してから48時間以内の2366人を組入れて、標準療法(アスピリンと最初の21日間はもう一つの抗血小板薬を併用)に加えて偽薬または25mgを一日一回、または25mg、50mg、100mg、または200mgを一日二回、90日間経口投与する6群の脳梗塞リスクの用量依存性を検討したが、フェールした。

    この試験でもMRIによる梗塞所見のデータがかく乱要因となっており、虚血性脳卒中だけの発生率は各群6.1%、4.9%、4.2%、4.2%、4.0%、8.5%と、最大用量以外はそれっぽい結果になっている。大出血は各群0.6%、0.6%、0.6%、1.5%、1.6%、1.5%となっており、25mg一日二回程度なら増えないようにも見えるが症例数が限られているので何とも言えないだろう。

    milvexianは総膝関節置換術後の静脈血栓塞栓を予防する第2相enoxaparin対照試験もまあまあな成績を挙げており、複数の適応でステージアップしそうだ。

    抗血栓薬は血栓塞栓性疾患の抑制に役立つが、出血リスクを伴う。第Xa因子阻害剤は危険と便益のバランスが良いはずと期待されたが、それほどではなかった。第XIa阻害剤はどうだろうか。

    リンク: ESCのプレスリリース(asundexian)
    リンク: バイエルのプレスリリース(asundexianの第3相開始)
    リンク: BMS/ヤンセンのプレスリリース(Milvexianの第2相試験)

    【承認申請】


    アセンディス、PTH補充療法を承認申請
    (2022年8月31日発表)

    デンマークのアセンディス・ファーマ(Nasdaq:ASND)は米国でTransCon PTHを副甲状腺ホルモン欠乏症のホルモン補充療法として承認申請した。オートインジェクターで一日一回皮注した第3相ではアルブミン調整血清カルシウム水準正常化率が78.7%と、カルシウムと活性化ビタミンDだけを投与した対照群の4.8%を大きく上回った。試験薬群は期中に95%の患者がカルシウム・活性化ビタミンDの服用を止めている。

    今四半期中に日本の小規模な第3相試験の成否も判明する見込み。

    リンク: 同社のプレスリリース


    週一回投与型第VIII因子を承認申請
    (2022年8月30日発表)

    サノフィは米国でefanesoctocog alfaをA型血友病用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年2月28日。

    血液凝固第VIII因子の周りにIgG1固定領域とフォン・ヴィルブランド因子の第VIII因子結合領域、そしてXTENポリペプチドを結合して作用を長期化したもので、週一回静注と既存製剤の半分程度の投与頻度で足りるため、出血リスクの高い患者に予防的投与するのに適している。21年にAmunixを10億ドル余で買収して入手、欧州などではSobiが開発販売を主導する。

    12歳以上の予防的投与を受けている患者159人を組入れた試験では、年率出血率(ABR)が平均0.71、メジアン値はゼロだった。治験開始前のABRと比べると77%減少した。

    リンク: サノフィのプレスリリース

    【承認】


    FDA、イミフィンジを胆道癌に承認
    (2022年9月2日発表)

    FDAはアストラゼネカの抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を局所進行性/転移性胆道癌に用いることを承認した。gemcitabine及びcisplatinと併用で3週毎に8サイクル施行し、その後は単剤を4週毎に投与する。Imfinziの代わりに偽薬を投与した群と全生存期間を比較した第3相Topaz-1試験でハザードレシオが0.8だった。メジアン生存期間は12.8ヶ月対11.5ヶ月でそれほど大きな差はないが、2年生存率は25%対10%だった。

    リンク: FDAのプレスリリース


    膿疱性乾癬用薬が初承認
    (2022年9月1日発表)

    ベーリンガー・インゲルハイムはSpevigo(spesolimab-sbzo)がFDAに承認されたと発表した。IL-36受容体に結合する抗体医薬で、汎発型膿疱性乾癬の急性症状(フレア)を治療する。900mgを90分点滴静注した第2相試験では1週後に54%の患者で膿疱が視認されなくなった(偽薬群は6%)。有害事象は感染症や過敏反応など。

    膿疱性乾癬はバイオ薬がオフレーベル使用されている模様だが、正式に承認されたのはSpevigoが初。日本で7月に第二部会通過、欧州でも承認申請中。

    リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


    ゼンフォザイムが米国でも承認
    (2022年8月31日発表)

    FDAはサノフィの子会社であるジェンザイムのXenpozyme(olipudase alfa-rpcp)を酸性スフィンゴミエリナーゼ欠乏症(ASMD、別名ニーマン・ピック病A型、B型)の非神経学的症状の治療薬として承認した。ASMDはSMPD1遺伝子変異によりスフィンゴミエリンが蓄積し臓器障害をもたらす疾患で、日米欧の患者数は2000人と推定されている。Xenpozymeは欠乏する酵素を二週毎点滴静注で補充する。臨床試験では肺機能や肝脾肥大の改善が見られた。アナフィラキシーを含む過敏反応が枠付警告されている。

    3月に日本で、6月にはEUでも、承認された。

    FDAはバイオ薬の先発品と後続品を分別するため、一般名の末尾または冒頭に四文字の識別子を付けている。今回ではrpcpが該当するが、なぜかFDAのプレスリリースには見当たらず、サノフィのプレスリリースにしか記されていない。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    PRAC、トピラマートの胎児リスクを検討開始
    (2022年9月2日発表)

    EMA(欧州薬品庁)でファーマコビジランスを担うPRACは、topiramateを服用している妊婦から生まれる子供の神経発達障害リスクを検討すると発表した。癲癇や、一部の国では体重管理に用いられている薬で、催奇性を持つことは既知のはずだが、北欧の疫学研究で自閉症スペクトラム障害(ASD )や精神遅滞(ID)などのリスクが示唆されたことが契機のようだ。

    JAMA Neurologyで刊行されたレジストリー・ベースのコフォート研究論文によると、抗癲癇薬を服用しなかった癲癇患者が出産した子供におけるASD有病率は1.5%であったのに対してtopiramateモノセラピーを受けた癲癇患者の子供では4.3%、調整ハザードレシオは2.8だった。IDは各0.8%、3.1%、3.5だった。

    この研究ではvalproateモノセラピーやlevetiracetam・carbamazepine併用、lamotrigine・topiramate併用でも神経発達障害の調整ハザードレシオが3前後だった。

    リンク: EMAのプレスリリース
    リンク: Bjorkらの試験論文(JAMA Neurol. 2022;79(7):672-681. doi:10.1001/jamaneurol.2022.1269)





    今週は以上です。