2019年2月24日

2019年2月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、サンスクリーンを規制対象に 
  • オベチコール酸のNASH適応拡大試験が成功 
  • キイトルーダ、肝細胞腫の市販後薬効確認試験がフェール 
  • ロシュ、抗CD79ADCの承認申請受理 
  • ロシュ、ROS1/TRK阻害剤の承認申請受理 
  • 新規プレウロムチリンの承認申請が受理 
  • アッヴィ、JAK1阻害剤をリウマチに承認申請 
  • キイトルーダ、悪性黒色腫切除後治療に承認 
  • ファイザー、ゼルヤンツの安全性試験で高用量を中止 
  • FDA、フェブリクの死亡リスクを枠付き警告 


【今週の話題】


FDA、サンスクリーンを規制対象に
(2019年2月21日発表)

FDAは、処方箋なしで買えるサンスクリーン(日焼け止め)の成分や表示などに関する規制を導入・強化する案を公表した。パブリックコメントを募集中。

FDAは処方薬やOTC薬、医療機器、食品、タバコなど多くの製品の販売を規制しているが、規制導入前に長年にわたり大きな問題なく流通しているOTC薬については、GRACE(安全かつ有効と一般的に認識されている)製品として販売承認取得を免除している。この認識が覆った場合は再評価の対象になり、もし安全性に深刻な懸念が判明した場合は、メーカーに改めて販売承認申請を求めることになる。

FDAはOTCサンスクリーンをGRACEとみなしていたが、皮膚がん予防策の一つとしての重要性に鑑み、効果や安全性、レーベルなどの吟味が必要と判定。以下の規制や枠組みを提案した。

・現在使われているサンスクリーンの活性成分16種類のうち、GRACEとみなすのは酸化亜鉛と二酸化チタンの二種類、安全性面でGRACEではないとみなされるのはPABA(パラアミノ安息香酸)とサリチル酸トロラミン。残りの12種類は安全性に関する情報が不十分なので業界などに追加データを要請している。

・剤型面でGRACEとみなされるのは、スプレイ、オイル、ローション、クリーム、ジェル、バター、ペースト、軟膏、スティック。パウダーも含める方向だが追加データが必要。ワイプやタオルレット、ボディウオッシュ、シャンプーなどの剤型はFDAがデータを持っていないため新薬とみなす考え。

・SPF値の最大カテゴリーを現在の50+から60+に引き上げることを提案。SPF値15以上の製品についてはSPF値に見合った広いスペクトラムのプロテクションを求める考え。

・製品の表側に活性成分などを表示する。

・虫よけ成分などを含むコンビ製品はGRACEではない。

猶予期間が設けられるのだろうが、規制が始まれば、酸化亜鉛と二酸化チタン以外の活性成分を用いたり、イメージアップや製品差別化目的でサンスクリーン以外の成分を配合するのが困難になりそうだ。

リンク: FDAの発表


【新薬開発】


オベチコール酸のNASH適応拡大試験が成功
(2019年2月19日発表)

Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)は、Ocaliva(obeticholic acid)の高量を用いたNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)肝線維症治療試験が成功したと発表した。本年下期に欧米で適応拡大申請する考え。日本は権利を持つ大日本住友製薬が実施した第二相が4年前にフェールしたが、海外で原発性胆汁性肝硬変(PBC)に続いてNASH適応拡大試験も成功したことを受けて、再びエンジンがかかるのではないか。

Ocalivaはウルソデオキシコール酸の類縁体でファルネソイドX受容体に対する力価が著しく高い。16年に欧米でPBCの治療に用いることが承認された。用量用法は5mgを一日一回経口投与、10mgまで増量可。臨床試験では25mgまでテストしたが、致死的な肝毒性が見られるため、抑えめになった。

今回の試験は、NASHによるステージ2または3の肝線維症2500人を偽薬、10mg、または25mgを一日一回経口投与する三群に無作為化割付して18ヶ月間治療するもの。主評価項目は、肝線維症が1ステージ以上改善しNASHが悪化しなかった患者の比率と、NASHが解消し肝線維症が悪化しなかった患者の比率。組入れに時間がかかったため17年にどちらか一つが成功すれば主目的達成と解析計画を変更した。

結果は、931人の中間解析で、25mg群の前者の定義に基づく奏効率が23.1%となり、偽薬群の11.9%を大きく上回った。一方、後者の奏効率は25mg群も10mg群も11%強で、偽薬群の8%を有意に上回らなかった。

この薬の代表的な副作用は掻痒で、25mgの発生率は51%と10mg群の28%や偽薬群の19%を大きく上回った。25mg群の重度掻痒は5%だった。

リンク: Interceptのプレスリリース

キイトルーダ、肝細胞腫の市販後薬効確認試験がフェール
(2019年2月19日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)のKEYNOTE-240試験がフェールしたことを発表した。米国で昨年7月に加速承認された、肝細胞腫二次治療の市販後薬効確認試験なので、最悪の事態では承認取消も考えられる。しかし、点推定値や名目p値はそれほど悪くないので、総合判断で承認が維持される可能性もあるのではないか。

240試験はNexavar(sorafenib)など全身治療薬による治療歴を持つ患者413人を組入れて、全生存期間やPFS(無進行生存期間)を偽薬群と比較した。前者はハザードレシオ0.78、95%上限0.998、p=0.0238、後者は各0.78、0.99、0.0209となっており、一見すると悪くないが、p値の閾値は各0.0174と0.002とのことで、ハードルをクリアできなかった。

閾値が通常より厳しい理由は不明。中間解析やサブグループ分析に多くのアルファが配分されていたのだろうか。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、抗CD79ADCの承認申請受理
(2019年2月19日発表)

米国連邦政府のつなぎ予算が成立したせいか、複数の医薬品の承認申請が受理された。まず、ロシュのRG7596(polatuzumab vedotin)。優先審査で、審査期限は今年8月19日。

申請の根拠となった第二相試験では、造血幹細胞移植不適の再発難治性びまん性巨細胞型B細胞リンパ腫にRituxan(rituximab)およびTreanada(bendamustine)と併用したところ、完全反応率(独立評価委員会査読)が40%とRituxan・Treandaだけの群の15%を有意に上回った。探索的に実施された全生存期間の解析はメジアン12.4ヶ月対4.7ヶ月、ハザードレシオ0.42だった。主な重度有害事象は熱性白血球減少症など。

Seattle Genetics(Nasdaq:SGEN)からライセンスした抗CD79抗体にMMSE細胞毒を結合したADC(抗体薬物複合体)。第三相では一次治療としてR-CHOP療法のvincristineに代えてRG7596を用いるレジメンをR-CHOPと比較している。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、ROS1/TRK阻害剤の承認申請受理
(2019年2月19日発表)

ロシュは、RG6268(entrectinib)の承認申請もFDAに受理された。審査期限は8月18日。

バイエルがLoxo Oncoogy社(イーライリリーが買収予定)からライセンスして昨年、欧米で発売したVitrakvi(larotrectinib)と同じTRK阻害剤だが、ROS1阻害活性もあり、ロシュはNTRK融合陽性の局所進行性/転移性固形癌の二次治療に加えて、ROS-1陽性転移性非小細胞性肺癌の適応も求めた。複数の臨床初期中期試験のプール解析で、前者に対するORR(客観的反応率)は57%、後者は77%だった。

18年に17億ドルで買収したIgnyta社の開発品。日本は昨年12月に中外製薬がNTRK融合遺伝子陽性固形癌に承認申請した。

リンク: ロシュのプレスリリース

新規プレウロムチリンの承認申請が受理
(2019年2月19日発表)

Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)は昨年12月にlefamulinを米国で承認申請したが、受理されたことを発表した。優先審査で審査期限は8月19日。FDAから、審査に関する大きな問題は現時点ではなく、諮問委員会を開催する予定もない旨、通知してきた由だ。

プレウロムチリン系の半合成抗生剤で、地域感染細菌性肺炎の治療に用いる。経口剤と点滴静注用の二種類の製剤がある。QIDP指定されているため承認されれば新薬排他権や優先審査バウチャーを取得できる。

リンク: Nabriva社のプレスリリース

アッヴィ、JAK1阻害剤をリウマチに承認申請
(2019年2月19日発表)

アッヴィは、ABT-494(upadacitinib)を中重度リウマチ性関節炎の治療薬として承認申請しているが、FDAに受理され、審査期限が今年第3四半期(7-9月)であることが公表された。

IL-6等の受容体の細胞内シグナル伝達物質であるJAK1の経口阻害薬で、感染性関節炎やアトピー性皮膚炎などにも開発されている。

臨床試験の一つでは血栓塞栓性イベントは特に増加しなかったが、30mg群で一名、肺塞栓と心不全による死亡があった。

欧州でも昨年12月に承認申請された。

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認】


ノボの長期作用性第VIII因子が米国承認
(2019年2月19日発表)

ノボ ノルディスクは、FDAがEsperoct(turoctocog alfa pegol)を承認したと発表した。6年前に発売した遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子、NovoEightをPEG化して半減期を1.6~1.9倍に長期化したもの。A型血友病のルーチン出血予防に用いる場合、3~4日に一回の投与で足りる。出血時の治療や周術期の出血管理に用いることも承認された。

長期作用性第VIII因子は多くの会社が発売しており、画期性は乏しい。他社の知的所有権の関係でノボは2020年まで発売しない予定。

リンク: ノボのプレスリリース

キイトルーダ、悪性黒色腫切除後治療に承認
(2019年2月19日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)を悪性黒色腫のアジュバントに用いることがFDAに承認された。ステージIIIの癌を完全切除した後の再発リスク削減に用いる。Keynote-054試験では無再発生存のハザードレシオが偽薬比0.57だった。G3-5の治療時発現有害事象は14.7%で発生した(偽薬群は3.4%)。

リンク: MSDのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ファイザー、ゼルヤンツの安全性試験で高用量を中止
(2019年2月19日発表)

ファイザーは、JAK3阻害剤Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の安全性確認試験に関して、高用量群の投与量を10mg一日二回から5mg一日二回に移行すると発表した。独立データ監視委員会が安全性シグナルを探知して通知してきたため。

このA3921133試験は12年に米国で中重度関節リウマチの治療薬として承認された時のフェーズIVコミットメントとして、承認用量である5mg一日二回と未承認の10mgの腫瘍リスクや心血管リスクをTNF阻害剤(北米ではHumira、その他ではEnbrel)と比較するもの。50歳以上で一つ以上の心血管リスク因子を持つ、典型的なリウマチ患者よりも高リスクが対象だ。

独立データ監視委員会の役割は、被験者を未知のリスクから守るために安全性指標に群間の大きな偏りが発生していないかデータを定期的にチェックすること。被験者保護を徹底するために、治験を運営主導する医師とは異なる、利害関係のない人が参加する。

今回は、高用量群とTNF阻害剤群の間で肺塞栓の発生率に統計学的にも臨床的にも大きな差が発生した。更に、死亡リスクも標準用量群やTNF阻害剤群と比べて高かった。

他のリウマチ性関節炎試験や市販後監視ではこのようなリスクは見られなかった由だが、他のJAK阻害剤では散見されているリスクなので、等閑に付すことはできない。感染症や腫瘍に関する懸念からリウマチでは10mg一日二回は日米欧何れの当局も承認しなかったが、潰瘍性大腸炎ではインダクション時の標準的用量であり、メンテナンスでも必要に応じて許容されている。このため、未承認用量の話と一蹴することもできない。

もう一つの懸念である腫瘍についても、結果が注目される。リウマチ試験における皮膚がん(メラノーマを除く)の発生率は100人年当り0.5程度だが、米国の添付文書は、皮膚がんのリスクを持つ患者に投与する場合は定期的な皮膚検査を行うよう推奨している。免疫抑制剤的抗リウマチ薬は様々な形で腫瘍に係り得るので、大規模な疫学調査が必要だ。

JAK阻害剤では、イーライリリー/インサイトのJAK1/2阻害剤、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)も第2相と第3相の合計で心静脈血栓・肺塞栓が5例、100人年当り1.2の頻度で発生した。対照群はゼロだった。抗リウマチ薬として承認申請され、日欧は17年にすんなり承認したが、FDAは至適用量や安全性の再検討を求め、諮問委員会を経て、4mgは承認せず2mgだけ承認した。

XeljanzとOlumiantは選択性が真逆だが、JAKのほうが1と3でヘテロダイマーを形成していたりするので、臨床的な差異はそれほど鮮明ではない。

リンク: ファイザーのプレスリリース(pdfファイル)

FDA、フェブリクの死亡リスクを枠付き警告
(2019年2月21日発表)

FDAは2009年に痛風治療薬として承認した武田薬品のUloric(febuxostat、日本はオリジネーターの帝人ファーマがフェブリク名で販売)の適応縮小・警告強化を決定した。大規模安全性確認試験の所見に基づき、心血管疾患による死亡や全死亡が増加するリスクを枠付き警告。適応をもう一つのキサンチンオキシダーゼ阻害剤であるallopurinolに不応不耐だけに限定した。

allopurinolは尿酸の合成を阻害することによって痛風の原因である尿酸結晶の蓄積を緩和するが、深刻な皮膚障害などが生じることがある。Uloricは効果や安全性に優れ、ある程度なら腎障害にも使える薬として期待されて第三相入りしたが、安全性データは期待されたほどではなく、それどころか、心血管安全性懸念が浮上。市販後安全性確認試験では1000人年当りの死亡数が26とallopurinol群の22を上回り、うち心血管関連死亡は15対11だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: WhiteらのCARES心血管安全性試験論文(NEJM誌)






今週は以上です。

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2019年2月17日

2019年2月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO GU:バイエル、アンドロゲン受容体阻害剤の前立腺癌試験成功 
  • ASCO GU:イクスタンジの転移性CSPC試験のデータ発表 
  • ASCO GU:キイトルーダとインライタの併用はスーテントより優れる 
  • ギリアド、ASK1阻害剤の第三相がフェール 
  • キイトルーダを頭頚部癌の一次治療に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会がJNJのエスケタミンをポジティブに評価 
  • ノバルティスの肝蛭症治療薬が米国でも承認 


【新薬開発】


ASCO GU:バイエル、アンドロゲン受容体阻害剤の前立腺癌試験成功
(2019年2月14日発表)

昨年10月に成功発表されたBAY-1841788(darolutamide)の第三相非転移性去勢抵抗性前立腺癌(nmCRPC)試験のデータがASCO GUシンポジウムとNew England Journal of Medicines誌で発表された。アンドロゲン枯渇療法薬(ADT)と併用した群の無転移生存期間は40.4ヶ月とADTと偽薬を併用した群の18.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.41、p<0.001だった。

全生存期間は中間解析でハザードレシオ0.71、p=0.045だが有意ではなかった。承認申請に向かうことになりそうだ。

darolutamideはアンドロゲン受容体阻害剤。14年にオライオン社(OMX:ORNAV)から共同開発販売権を取得したもの。類薬では18年に日米で承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide)と対象患者が同じ。売上高や適応の広さでトップのアステラス製薬/ファイザーのXtandi(enzalutamide)も昨年、同用途で承認された。

無転移生存期間のハザードレシオは夫々0.28と0.29で、数値上はdarolutamideより良い。そのせいか、バイエルのプレスリリースは忍容性を強調しているが、競争環境は厳しそうだ。

リンク: バイエルのプレスリリース

ASCO GU:イクスタンジの転移性CSPC試験のデータ発表
(2019年2月11日発表)

アステラス製薬がファイザーと共同開発共同販売しているXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)のARCHES試験の結果がASCO GUで発表された。アンドロゲン除去療法が効果を失っていないのに転移した転移性ホルモン感受性前立腺癌を組入れて放射線学的転移のない生存期間(rPFS)を偽薬と比較したところ、Xtandi追加群はメジアン未達、偽薬追加群は19.4ヶ月でハザードレシオは0.39、p<0.001だった。

全生存期間は未成熟(解析に必要な発生数に達していない)。両社は適応拡大申請の予定。

リンク: 両社のプレスリリース

ASCO GU:キイトルーダとインライタの併用はスーテントより優れる
(2019年2月11日発表)

ASCO GUではMSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をファイザーのInlyta(axitinib、和名インライタ)と併用で末期/転移性腎細胞腫の一次治療に用いる効果をファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)と比較した試験のデータも公表された。全生存期間のハザードレシオは0.53、p=0.0001、PFSのハザードレシオは0.69、p=0.0001だった。G3からG5までの有害事象による治験離脱は6.3%でSutentの10.1%を下回った。

PD-1/PD-L1阻害剤は予想以上に幅広い疾患に有効で、腎細胞腫ではBMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab)の併用が承認されている。ハザードレシオはKeytruda・Inlyta併用のほうが数値上、良く、また、先月同じ内容で適応拡大申請されたメルク/ファイザーのBavencio(avelumab)と比べても数値が見栄えするため、肺癌だけでなく腎細胞腫でもKeytrudaが優位に立ちそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース

ギリアド、ASK1阻害剤の第三相がフェール
(2019年2月11日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-4997(selonsertib)の第三相NASH代償性(F4)肝硬変試験のフェールを発表した。48週後に組織学的評価スコアが改善しNASHが悪化しなかった患者の比率は偽薬群が12.8%に対して6mg群(一日一回経口)は12.5%、12mg群は14.4%と大差なかった。第二相の結果も判然としないものであったため高リスク試験とみなされていたので、サプライズではないだろう。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認申請】


キイトルーダを頭頚部癌の一次治療に適応拡大申請
(2019年2月11日発表)

MSDは抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)を再発難治性頭頚部扁平上皮種の一次治療に用いる適応拡大申請を米国で行い受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月10日。

標準療法と比較した第三相標準療法対照試験では、モノセラピーはCPSスコア20%以上の癌に、化学療法併用はCPS1%以上の癌に、有意な延命効果を示した。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がJNJのエスケタミンをポジティブに評価
(2019年2月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)がFDAの精神薬理学薬諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会の共催会議に上程され、賛成14、反対2、棄権1の圧倒的多数で難治性鬱病の治療における便益が危険を上回ると判定した。FDAも承認に前向きな模様であり、REMS(リスク評価・緩和戦略)の内容も好評価を受けた様子なので、審査期限が3月4日とあまり余裕がないが、無事承認されるのではないか。

オフレーベルで使用されているketamineのS異性体を点鼻スプレイにしたもので、NMDA受容体を非競合的・活性依存的に拮抗し、ドパミンの再取り込みを阻害する。難治性鬱病の治療薬をスイッチする時に、新しい抗鬱剤と併用する。週二回投与。有効率が他の薬と比べて高く、作用のオンセットが早い。但し、第三相4本のうち明確に成功と言えるのは短期治療試験と離脱試験の低用量群だけだった。

忍容性面では、ketamineと同様に、解離感覚や血圧上昇、眩暈、鎮静が見られ、多くは投与の2時間以内に発生する。このため、REMS(リスク評価・緩和戦略)の下に、投与後2時間の密接監視を徹底し、患者に直接提供するのを禁止し、レジストリーを行う予定。諮問委員会が肯定的に判断した一因は、REMSの内容がしっかりしていることである模様だ。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


ノバルティスの肝蛭症治療薬が米国でも承認
(2019年2月13日発表)

ノバルティスはFDAが肝蛭症治療薬のEgaten(triclabendazole)を承認したと発表した。6歳以上が適応になる。古くから用いられていてWHOが推奨リストに収載している唯一の肝蛭症治療薬だが、米国承認は初。特許が既に失効しており、ノバルティスは2005年からWHOに寄付を続けている。従って、売上利益は小さいだろう。顧みられない熱帯病に対する治療薬を開発し承認取得した会社に供与される優先審査バウチャーを取得したのが唯一の米国承認における金銭的見返りではないか。

リンク: ノバルティスのプレスリリース







今週は以上です。

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2019年2月10日

2019年2月10日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Fc最適化抗her2抗体の乳癌三次治療試験成功 
  • サノフィの抗CD38抗体も多発骨髄腫三次治療試験が成功 
  • ロシュ、カドサイラを早期乳癌アジュバントに承認申請 
  • インサイト、Jakafiの適応拡大申請は審査期間延長に 
  • FDAも後天性血栓性血小板減少性紫斑症治療薬を承認 


【新薬開発】


Fc最適化抗her2抗体の乳癌三次治療試験成功
(2019年2月6日発表)

MacroGenics(Nasdaq:MGNX)は、MGAH22(margetuximab)の第三相SOPHIA試験が成功したと発表した。her2陽性転移性乳癌でHerceptin(trastuzumab)とPerjeta(pertuzumab)による治療歴を持つ536人の患者を組入れて、化学療法にMGAH22を追加するレジメンとHerceptin追加レジメンを比較したところ、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、第三者査読)のハザードレシオが0.76、p=0.033だった。

有意と言ってもボーダーライン上だが、事前に設定されたサブポピュレーション分析であるFcガンマRIIIaに158Fアレルを持つ患者では、ハザードレシオ0.68、p=0.005と高度に有意な差が出た。

主評価項目の解析が成功したため、シーケンシャルな主評価項目である全生存の解析を行う予定。2020年頃になるのではないか。MacroGenicsはPFSデータで2019年後半に承認申請する予定。

margetuximabは抗her2抗体の固定領域(Fc)を最適化して、活性化的Fcガンマ受容体に対する親和性を高め抑制的Fcガンマ受容体親和性を弱めた。FcガンマRIIIaは158Vアレルを持つ人がホモ、ヘテロあわせて85%と大勢を占めるが、158FアレルはFc親和性が低いため、ADCC(抗体依存性細胞傷害)活性が特に低くなり、Herceptinなど従来の抗体医薬に対する応答性が低いと言われる。

尤も、今回の第三相がHerceptinに対する優越性を示したと結論するのは早計だ。患者背景が特殊だからだ。被験者は前治療でHerceptinを用いている。化学療法併用で再発した患者にもう一度Herceptinを使うのは有効な治療方法だが、被験者の90%はKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)歴も持っていたので、Herceptin抵抗性が相応にありそうだ。また、報道によると、被験者の8割が158Fアレルを持っていた。Herceptinが効かなそうな患者を厳選した試験と言える。

従って、今回の試験の組入れ条件・除外条件に該当する患者には有効だが、her2陽性乳癌全体や、乳癌用薬の主用途である切除術アジュバント療法でHerceptinを上回るかどうかは、今後の適応拡大試験の結果を見ないと何とも言えないだろう。

潜在的な競合は、第一三共がDS-8201a(trastuzumab deruxtecan)の第三相試験を複数、実施中。SOPHIA試験よりも前の段階の患者を組入れており、また、her2低発現でHerceptinなどが適応にならない患者の試験も行っているので、承認申請はmargetuximabより遅くなりそうだが、現時点での将来性は上回っていそうだ。

リンク: MacroGenicsのプレスリリース

サノフィの抗CD38抗体も多発骨髄腫三次治療試験が成功
(2019年2月5日発表)

サノフィは、SAR650984(isatuximab)の第三相多発骨髄腫三次治療試験が成功したと発表した。Pomalyst(pomalidomide)と低量dexamethasoneを併用するレジメンとSAR650984も含めて三剤併用するレジメンのPFS(無進行生存期間)を比較したところ、有意に上回った。具体的なデータは学会発表の予定。サノフィは19年上期中に欧米で承認申請する計画。

Immunogen(Nasdaq:IMGN)との共同研究に基づきライセンスした抗CD38抗体。同じく抗CD38抗体のDarzalex(daratumumab、和名ダルザレックス)は同じ用途で15年に米国されRevlimid(lenalidomide)またはVelcade(bortezomib)とdexamethasoneを併用する二次治療でも承認されており、当面はキャッチアップが課題になる。

リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


ロシュ、カドサイラを早期乳癌アジュバントに承認申請
(2019年2月5日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine)を早期her2陽性乳癌の切除後アジュバント療法に適応拡大申請した。術前のネオアジュバント療法でpCR(病理学的完全反応)とならず残存疾患の患者が適応になる。

KATHERINE試験では、Kadcyla単剤投与群の3年無浸潤性乳癌生存率が88.3%とHerceptin(trastuzumab)単剤投与群の77.0%を上回り、ハザードレシオ0.50、高度に有意だった。全生存の解析は未成熟で有意差は出ていないが、ハザードレシオ0.70と正しい方向を向いている。深刻有害事象の発生率は12.7%対8.1%で上回った。

KadcylaはHerceptinの抗her2抗体に微小管重合阻害剤を結合した抗体薬物複合体。13年に米国で転移性her2陽性乳癌の二次治療薬としてHerceptinの2倍強の価格で発売された。一次治療試験も実施されたがHerceptinとtaxaneを併用した対照群を上回ることができなかった。

FDAは今回の適応拡大申請をReal-Time Oncology Review(RTOR)パイロット・プログラムの対象に指定した。シアトル・ジェネティクスのAdcetris(brentuximab vedotin)は申請書類提出完了の11日後に承認された。Kadcylaも早期承認が見込めそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


インサイト、Jakafiの適応拡大申請は審査期間延長に
(2019年2月7日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)はJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)をステロイド不応急性移植片宿主病の治療薬としてFDAに承認申請し、審査期限は2月24日の予定だったが、3ヶ月延期された。FDAの要請に応じて提出した情報が申請内容の主要な変更とみなされたため。

JakafiはJAK1/2阻害剤。日米欧で突発性(PMF)、真性赤血球増多症性(PPV-MF)、及び本態性血小板血症性(PET-MF)の骨髄線維症と、難治性真性赤血球増加症(多血症)に承認されている。

JAKはインターロイキン受容体などの細胞内シグナル伝達に係る酵素。JAK阻害剤は上記の適応に加えてリウマチ性関節炎やアトピー性皮膚炎、脱毛症など多くの自己免疫疾患・血球関連疾患に承認・開発されており、経口投与可能なこともあって、多くのパイプラインが存在する。過去には一部の開発品でビタミンB1関連有害事象や心血管毒性の懸念が浮上し、FDAがクラス全体のクリニカル・ホールドを命じたこともあるが、生き残ったものの一つがJakafiだ。

リンク: インサイトのプレスリリース


【承認】


FDAも後天性血栓性血小板減少性紫斑症治療薬を承認
(2019年2月6日発表)

サノフィが昨年、ノボ ノルディスクを退けて39億ドルで完全子会社化したAblynx社の開発品であるCablivi(caplacizumab)が、昨年9月の欧州に続いて米国でも、aTTP(後天性血栓性血小板減少性紫斑症)の治療薬として承認された。von Willebrand因子に結合する、可変領域に軽鎖を持たないナノバディと呼ばれる抗体医薬で、aTTP治療薬もナノバディも承米国承認第一号。薬剤費は典型的な事例で27万ドル/人。

aTTPの急性期は深刻で、血漿交換と免疫抑制剤による標準療法が開発され死亡率が大きく低下したがそれでも2割近いと言われる。Cabliviの臨床試験では、標準療法に追加したところ、血小板数が偽薬群より有意に早く回復し、TTP関連の死亡、再発、主要血栓塞栓イベントの発生率が13%対38%と67%少なかった。専ら寄与したのは再発が少なかったこと。一方、やむをえないことだが出血性有害事象の発生率は66%対49%と上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)






今週は以上です。

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2019年2月3日

2019年2月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アーリーダは転移性去勢感受性前立腺癌にも有効 
  • 武田、デング熱ワクチンの第三相の初回解析成功 
  • ファイザーの抗NGF抗体も第三相成功 
  • アレクシオン、ソリリス後継薬のaHUS試験成功 
  • ロシュ、抗アミロイドベータ抗体のアルツハイマー病試験を繰上げ中止 
  • Alkermesの鬱病治療用合剤は承認されず 
  • 大日本住友米国子会社のパーキンソン病用薬は承認されず 
  • アヴェオ、tivozanibの米国再承認申請を先送り 
  • CTI、pacritinibの欧州承認申請を撤回 
  • CHMPがテバの片頭痛予防薬などの承認を支持 
  • イムブルビカ、ガザイバ併用が米国で承認 
  • EMA、直接的経口抗凝固薬の出血リスクを検討へ 


【新薬開発】


アーリーダは転移性去勢感受性前立腺癌にも有効
(2019年1月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Erleada(apalutamide)の第三相TITAN試験が中間解析で目的達成したと発表した。データは学会などで発表される見込み。類薬であるアステラス/ファイザーのXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)との差を一歩縮めることになるが、後発の不利を払拭するにはXtandiを上回るデータが必要だろう。

TITAN試験は前立腺癌で薬物去勢療法に感受だが転移してしまったmCSPC患者1050人余を組入れて、アンドロゲン除去療法(ADP)にErleadaを追加する効果を偽薬追加群と比較した。主評価項目は放射線学的PFS(無進行生存期間)と全生存期間。独立データ監視委員会が中間解析でどちらも目的達成と判定した。

ErleadaはXtandiを創製した医学者が第二世代品として開発、ジョンソン・エンド・ジョンソンに権利売却したもの。Xtandiから6年遅れて18年2月に米国で承認され、今年1月にEUで承認、日本でもアーリーダ名で第二部会を通過した。

リードインディケーションである非転移性去勢抵抗性前立腺癌での開発はErleadaが先んじたが5ヶ月後にXtandiもFDAから承認取得、EUはXtandiが3ヶ月先んじた。こうなると、Erleadaが明らかに優れていると考える理由はないため、医療施設としては市販年数でも適応範囲でも上回るXtandiを優先的にストックすることになりがちである。

今回の適応であるmCSPCではXtandiも第三相が成功したことが昨年12月に発表されている。元々の計画では2020年に終了する予定だったが、早期目的達成を目指してプロトコルを変更したことが寄与して、Erleadaより一足先に成功発表できた。。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、米国でテストステロン合成阻害剤Zytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)の残存特許が無効認定され、いつGE薬が承認されても不思議のない状態だ。適応がオーバーラップするため、GE化したら販促リソースをErleadaに振り向けることになろう。それでも、Xtandiを明らかに上回るデータを出さない限り、Xtandiのシェアを脅かすことはできないだろう。

リンク: JNJのプレスリリース

武田、デング熱ワクチンの第三相の初回解析成功
(2019年1月30日発表)

武田薬品は、デング熱ワクチンTAK-003(通称DENVax)の第三相試験の初期解析が成功したと発表した。ラテンアメリカとアジアの4-16歳の20100人を組入れて90日置いて2回、皮注して予防効果を偽薬群と比較したもの。今年後半に更に6ヶ月間追跡した解析を行って、血清型や感染歴の有無等に基づくサブポピュレーション分析を行った上で承認申請に向かう予定。

13年にInviragen社を買収して入手した開発品で、デング熱の原因になる4種類の株のうち2型ウイルスをベースに残りの1、3、4型の抗原遺伝子を導入した4価弱毒化生ワクチン。15年以降にメキシコやフィリピンなどで承認・発売されたサノフィのDengvaxiaは弱毒化黄熱病17Dウイルスにデングウイルスの抗原遺伝子を導入したもの。TAK-003はデングウイルスの非構造蛋白も含有しているところが主な相違点。

Dengvaxiaは発売後に意外な現象が発見された。臨床試験では4種類の株について感染を4-8割削減する効果を示したが、臨床試験で初めてデングウイルスに感作した人がその後に感染すると症状が重くなりがちになるというのだ。理由は諸説あるが、デングウイルスは元々、初回の感染では症状が出ないことが珍しくなく、重い症状が出るのは二回目の感染時に免疫記憶が過敏反応するから、という説がもし正しいとしたら、ワクチン接種はそれ自体が両刃の剣ということになる。Dengvaxiaは適応が感染歴のある人だけに限定され、現在、欧米でも承認審査中だ。

このようなリスクを検討するため、武田薬品は臨床試験に参加するすべての被験者から接種前の血液サンプルを取得した。血清抗体価を測定することで感染歴の有無を判定し、予防効果や感染時の重症度を検討できることになる。もし同様な現象が見られた場合、Dengvaxiaと同じように抗体検査を行って感染歴が確認された人だけに接種するプロトコルになるだろう。

よくわからないのは、このプロトコルがワークするのか?子宮頸がんワクチンはヒトパピローマウイルスに持続感染している人が接種しても効果が小さいことが第三相試験で判明した。私は事前検査が導入されるのではないかと想像していたが、欧米でも日本でも、この不都合な真実は無視された。検査の手間暇が主因だろう。先進国でもそうなのだから、デング熱が流行する国々で検査の費用やロジスティクスの負担が受け入れられるのだろうか?

リンク: 武田薬品のプレスリリース(和文)
リンク: TAK-003の第三相試験の治験登録(ClinicalTrials.gov)

ファイザーの抗NGF抗体も第三相成功
(2019年1月29日発表)

ファイザーと開発販売パートナーのイーライリリーは、抗NGF抗体PF04383119(tanezumab)の二本目の第三相変形性関節炎試験も成功したと発表した。今年下期に承認申請する考え。

NGFはジェネンテックが発見した神経成長因子で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの仮説探索的試験が行われたが奏功しなかった。意外にも疼痛感受性が高まる様子が見られたため、一転して、抗NGF抗体を鎮痛剤として開発することになった。元々は制癌物質のはずだったTNFが抗体の標的に転じた前例を彷彿させる。ジェネンテックは中枢神経系の研究開発部門をスピンアウトしたことがあり、このRinat社を06年に買収してtanezumabなどを入手したのがファイザーだ。

開発は順調ではなかった。2010年に第二相、第三相試験で変形性関節炎の急速な悪化や無腐性骨壊死、関節置換術などのリスクが見られ、FDAが他社の抗NGF抗体も含めて治験停止を命じたのだ。12年には諮問委員会が臨床開発続行を支持したが、他社の毒性試験で末梢神経毒性が見られ臨床でも発生したため、腫瘍学以外の治験は部分停止となった。他社の多くは開発断念したが、ファイザーはイーライリリーとリスクシェアリング提携を結び、追加毒性試験を実施して治験停止解除に成功、6本7000人級の第三相試験を行った。

今回の二試験は、膝や股関節の中重度変形性関節炎で複数の既存薬に十分に反応しなかった日米欧などの患者計1500人強を偽薬、2.5mg、5mgの3群に無作為化割付して8週毎に皮注し、鎮痛効果などを検討した。主評価項目はWOMAC鎮痛サブスケール、WOMAC身体機能サブスケール、患者自身の症状全般評価の三種類。結果は、5mgは三項目とも偽薬比有意だったが、2.5mgはWOMACのサブスケール二本だけだった。一本目は両用量とも成功していた。

上述の副作用はRPOA(急速進行型変形性関節症)というカテゴリーで報告されている。発生率は2.1%、偽薬群は0%。一本目は1.3%対0%なので同じような結果だ。このうち、比較的症状の軽い加速関節空間狭窄(1型)が3分の2を占め、関節損傷・劣化(2型)が3分の1となった。

抗NGF抗体の治療効果を上記サブスケールや全般評価の数値の変化率で表現すると10%前後であり、特効薬という感じはしない。既存の薬に反応しない患者のサルベージセラピーなのだろう。そうであったとしても、関節炎の治療を期待して使った薬で急速悪化してしまった患者は、誰を恨めばよいのか。

リンク: 両社のプレスリリース

アレクシオン、ソリリス後継薬のaHUS試験成功
(2019年1月28日発表)

アレクシオン(Nasdaq:ALXN)は、Ultomiris(ravulizumab-cwvz)の非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)適応拡大試験が成功したと発表した。上期中に米国で、その後に欧州や日本でも承認申請する予定。

Ultomirisは長期作用性抗C5抗体で、同社の主力製品であるSoliris(eculizumab、和名ソリリス)より半減期が3-4倍長く、点滴静注用である点では同じだが頻度が8週毎とSolirisの2週毎よりかなり少ない。薬効は非劣性。18年12月に米国で発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬として承認され、欧州でも承認審査中。

今回のaHUSはSolirisの主用途の一つなので重要な適応拡大プロジェクトだ。補体阻害剤治療歴を持たない患者を組入れて26週間治療し、血栓性微小血管症の完全反応率を評価したところ、53.6%となった。構成要素のうち血小板数正常化は56名中83.9%、LDH正常化は76.8%、血清クレアチニン25%改善は58.9%が達成した。深刻有害事象は肺炎や高血圧など。4名が死亡したが薬物関連と評価されてはいない由。

リンク: アレクシオンのプレスリリース

ロシュ、抗アミロイドベータ抗体のアルツハイマー病試験を繰上げ中止
(2019年1月30日発表)

ロシュは、RG7412(crenezumab)の第三相早期アルツハイマー病試験二本の中止を発表した。中間解析で独立データ評価委員会が無益性(継続しても成功の可能性が低い)を認定したため。家族性アルツハイマー病予防の第二相は継続する予定。複数の先行類薬の第三相がフェールしたことや、第二相の裏付けが弱いことを考えれば、決して意外とは言えないだろう。

RG7412はアミロイドベータに結合するヒト化抗体で、特徴は固定領域がIgG4型であること。免疫細胞との連携はIgG1型のほうが強力で、通常、IgG4型を採用するのは標的が正常細胞の表面蛋白であるケースだ。例えば、腫瘍免疫を増強するために免疫細胞の抑制刺激受容体であるPD-1に結合する抗PD-1抗体はKeytrudaもOpdivoもIgG4型、抑制的免疫細胞や腫瘍細胞が発現するPD-L1に結合する抗体はTecentriq、Imfinzi BavencioともIgG1型となっている。

ロシュがIgG4型の抗体で第三相を開始したのは、抗アミロイドベータ抗体の典型的な副作用であるARIA(アミロイド関連画像異常)を回避する狙いがあったようだ。凝集したアミロイドベータを抗体で攻撃すると近辺の組織に飛び火して血管原性浮腫のような副作用が発生しがちで、特に、APOE4という老人性アルツハイマー病と関連する数少ない遺伝子多型を持つ患者では発生率が高まる。そこで、ミクログリア細胞を刺激しにくいIgG4型の抗体を、IgG1型より多量に投与することで、効果と副作用のバランスの改善を図った。

今回の第三相は60mg/kgを4週毎点滴静注と、軽中度アルツハイマー病の第二相試験で臨床的効用の兆しを示した15mg/kgの4倍を投与した。先行して第三相入りしフェールした他社品と比べても高量だ。尤も、この用量選択はモデル分析に基づくもので、至適用量決定試験はオミットされている。第二相では臨床的評価項目は有意差なし、PETによるアミロイドベータ試験もフェール、但し脳脊髄液のアミロイドベータは減少となっており、裏付けが十分とは言えない。

抗アミロイド抗体の第三相をエーザイと進めているバイオジェンの決算発表電話会議では、BIIB037(aducanumab)の中間無益性解析の計画に関する質問が多数出たようだ。タイミング的にはもうそろそろだが、ノーコメントに終始した模様。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


Alkermesの鬱病治療用合剤は承認されず
(2019年2月1日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は米国でALKS 5461(samidorphan, buprenorphine)を難治性鬱病治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領したと発表した。薬効のエビデンスとなるべき臨床データが不十分と指摘された。

samidorphanはミュー・オピオイド受容体アンタゴニスト、buprenorphineは同受容体のアゴニストかつカッパ・オピオイド受容体アンタゴニストで、併用することによってカッパ拮抗作用だけを生かすアイディア。第三相は三本実施されたが二本がフェールした。このため、昨年11月の諮問委員会で23人中20人が承認に反対した。

リンク: Alkermesのプレスリリース

大日本住友米国子会社のパーキンソン病用薬は承認されず
(2019年1月30日発表)

大日本住友製薬の米国子会社、サノビオン・ファーマシューティカルズは、パーキンソン病のオフタイム治療薬として承認申請していたAPL-130277(apomorphine)について、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。追加的な情報や分析の提出を求められたが追加的な臨床試験は求められていないとのことなので、内容次第では早期の完全回答が可能かもしれない。

APL-130277はAquestive Therapeutics(Nasdaq:AQST)のPharmFilm技術を用いた舌下投与用フィルム製剤。apomorphineは薬の効果が減衰してパーキンソン病症状が出るオフタイムのレスキュー薬として皮注製剤が既に実用化されているが、経口投与できるなら簡便だ。このような背景を考えると、指摘事項は薬効や安全性というよりは、皮注用薬との薬物動態の相違辺りではないか。スイッチ需要を考えれば、用量換算方法も知りたいところである。

16年に6.2億ドルで買収したCynapsusTherapeuticsの開発品。

リンク: サノビオンのプレスリリース
リンク: Aquestive Therapeuticsのプレスリリース

アヴェオ、tivozanibの米国再承認申請を先送り
(2019年1月31日発表)

アヴェオ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:AVEO)は、AV-951(tivozanib)を5月までに米国で再承認申請する計画を撤回、第三相試験の全生存期間最終解析の結果が第4四半期に出るのを待つ考えであることを明らかにした。

初回申請時にFDAも諮問委員会も薬効に疑問を呈した最大の理由である延命効果の欠如が、今回の試験の中間解析でも再現されたため、死亡者数が増加して治験の検出力が高まるのを待つ。最終解析は当初は8月の予定だったが、生存期間が想定より長く推移していることなどから、第4四半期にもう一度解析を行い最終とする。

tivozanibは07年にキリンからアジア以外の地域でライセンスしたVEGFR阻害剤。末期腎細胞腫の第三相で主評価項目のPFS(無進行生存期間)がNexavar(sorafenib)を上回ったが、全生存の解析はメジアン28.8ヶ月対29.3ヶ月と大差なく、ハザードレシオは1.245、p=0.105と、点推定値はむしろ悪かった。このため、12年9月に米国で承認申請したものの、審査完了通知を受領した。

開発販売提携していたアステラス製薬は、前後して、EUでの承認申請を断念、最終的に全権利返還したが、EUは上記データに基づき17年に承認しており、評価が機関や会社によって異なることを示唆している。

腎細胞腫の三次治療薬として実施した追加試験は、PFSのNexavar群比ハザードレシオが0.74、p=0.02となったが、全生存期間は1.06で有意差がなかった。その後、打切り例の追加調査を行ったところ、後者が1.12と更に上昇したことが今回、公表された。

最終解析の成功を期待するのは楽観的だろう。別途、非劣性試験を行えば成功するだろうが、15年遅れでNexavar並みの薬を上市してもアピールしないし、NexavarのGE化も脅威になる。結局、アステラスの判断が正しかったのではないか。

リンク: アヴェオのプレスリリース

CTI、pacritinibの欧州承認申請を撤回
(2019年2月1日発表)

CTI Biopharma(Nasdaq:CTIC)は、JAK2阻害剤pacritinibの欧州における承認申請を撤回すると発表した。CHMPの会議で否定的意見をまとめる方向であることを通知されたため。第3四半期に追加的第三相試験を開始する予定。

骨髄線維症の治療薬として開発されているが、16年に第三相試験の一本で死亡率に偏りが見られ、米国ではFDAがフル・クリニカルホールドを命じ、CTIは承認申請を撤回した。EUも一旦、申請撤回したが、17年6月に血小板減少症を伴う骨髄線維症に限定して再承認申請していた。

結局、欧米共に追加試験を実施してから承認申請することになる。

リンク: CTIのプレスリリース

CHMPがテバの片頭痛予防薬などの承認を支持
(2019年2月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、1月の会合で、テバのAjovy(fremanezumab)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Ajovy(fremanezumab)は抗CGRPヒト化抗体。片頭痛を予防する皮注薬。ジェネンテックのスピンアウトであるRinat社を買収したファイザーから権利を取得した会社をテバが14年に買収したもの。米国では昨年9月に承認、日本は大塚製薬がインライセンスした。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのVizimpro(dacomitinib)は汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤。局所進行性・転移性の非小細胞性肺癌でEGFR活性化変異を持つ成人の一次治療薬として単剤投与する。一次治療や再発治療試験が行われ、Tarceva(erlotinib)対照試験はフェールしたがIressa(gefitinib)対照一次治療試験でPFS(無進行生存期間)が有意に上回った。米国では昨年9月、日本は今年1月に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、アストラゼネカのForxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)を一型糖尿病に用いることが支持された。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高まるため、適応はBMIが27kg/m2以上の肥満・オーバーウェイトの患者に限定、インスリンが低量で足りる患者には推奨されない。ケトアシドーシスや低血糖を回避するためインスリン用量の調整に留意する。専門医が使うことを想定。この適応拡大は日本でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

このほかに、以下の適応拡大も支持された。

・中外製薬が創製し海外ではロシュが販売するHemlibra(emicizumab、和名ヘムライブラ)をインヒビターを持つA型血友病だけでなく持たない患者の出血予防に用いること。

・ロシュのMabThera(rituximab、和名リツキサン)を尋常性天疱瘡(PV)の治療に用いること。

・ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をAvastin(bevacizumab)やpaclitaxel、carboplatinと4剤併用で転移性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に用いること。但し、EGFR変異やALK変異のある場合は適切な標的療法が優先。

・MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をcarboplatinおよびpaclitaxel(またはnab-paclitaxel)と併用で転移性扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に用いること。

・リジェネロン/サノフィのPraluent(alirocumab、和名プラルエント)を確立したアテローム硬化性の心血管疾患に用いて心血管リスクを削減すること。


【承認】


イムブルビカ、ガザイバ併用が米国で承認
(2019年1月28日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Btk阻害剤Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)を慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性リンパ腫(SLL)の一次治療にロシュのGazyva(obinutuzumab)と併用する適応拡大がFDAに承認されたと発表した。

iLLUMINATE試験に基づくもので、chlorambucilとobinutuzumabを併用した実薬対照群と比べて、PFS(無進行生存期間、独立評価委員会査読)のハザードレシオが0.23となり、統計的に有意だった。メジアンは未達、対照群は19.0ヶ月。有害事象による治験離脱は16%対9%で増加した。

Imbruvicaは13年に米国でマントル細胞リンパ腫の二次治療に単剤投与する薬として初承認。CLL/SLLは二次治療や一次治療に用いることが承認されているが、いわゆる化学療法薬を使わないレジメンは、他の薬も含めて、今回が初。

リンク: JNJのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、直接的経口抗凝固薬の出血リスクを検討へ
(2019年2月1日発表)

EMAは、直接的経口抗凝固薬を非弁性心房細動の血栓予防に用いた症例の疫学試験の結果を検討すると発表した。主要出血のリスクが銘柄により異なっていたり、制限や特別警告、注意事項などの順守状況に対する懸念を持たせるものであったことが理由。EMAは、この試験のインプリケーションや、使用条件変更の必要性を検討する。

検討対象は、BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)、ベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran etexilate、和名プラザキサ)、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaba、和名イグザレルトn)。疫学試験の結果は未公表。抄録が数日内にEUの承認後試験登録に掲載される予定で、登録番号は16014である由。

リンク: EMAのプレスリリース(pdfファイル)
リンク: EUの承認後試験登録第16014号







今週は以上です。

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