2020年5月31日

第948回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:GSK、COVID-19ワクチン用アジュバントを量産へ 
  • ASCO:エンハーツが第二相三本で好成績 
  • ASCO:キイトルーダとレンビマの併用試験二本 
  • ASCO:キイトルーダはMSI-H/dMMR結腸直腸癌なら一次治療にも有効 
  • ASCO:タグリッソがEGFRm+NSCLCの切除後アジュバントで良績 
  • Argenx社、抗FcRn抗体フラグメントを全身性重症筋無力症薬として承認申請へ 
  • イブランスの術後アジュバント試験はフェール 
  • GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群用薬として承認申請 
  • Protalix社、今度はファブリー病の酵素補充療法を承認申請 
  • CHMP、エボラワクチンや分子標的薬の承認を支持 
  • FDA、子宮筋腫による過多月経の治療薬を承認 
  • ロシュ、テセントリクが肝細胞腫に適応拡大 
  • BMS、オプジーボとヤーボイが肺癌で用法追加 
  • FDA、ALK阻害剤をALK転座陽性NSCLCの一次治療に承認 


【今週の話題】


COVID-19:GSK、COVID-19ワクチン用アジュバントを量産へ
(2020年5月28日発表)

グラクソ・スミスクラインは、21年にパンデミックCOVID-19ワクチン用のアジュバントを10億回分生産すべく、リスクを覚悟で増産投資する決意を発表した。パンデミック期は利益を追求せず、利益はCOVID-19ワクチンの研究開発や他のパンデミックに備えた投資に充当する考え。

アジュバントはワクチンの抗原性を強化する添加物で、一回分に含まれる抗原量を節約できるので、今回のように大量の抗原が必要とされる環境下では重要な要素技術となる。通常はアルミなどを用いるが、同社は新種のアジュバントに積極的に取り組んでおり、例えば、子宮頸がんワクチンのサーバリックスには、Corixa社が開発したグラム陰性菌由来のTLR4刺激剤、monophosphoryl lipidを含有するAS04アジュバントが添加されている。

GSKはサノフィとCOVID-19ワクチンで協業を発表したが、欧州や中国でもコラボを決め、他にも多くの開発者と交渉中とのこと。サノフィ提携だけでも年10億回分以上を供給する計画なので、供給先が増えればアジュバントも10億回分では足りないが、すべての開発品が成功するとは限らないし、GSKはGSKで、10億回分を作るのは大仕事なのだろう。

どのようなアジュバントなのかはプレスリリースには記されていないが、報道によると、スクアレンなどから構成されるAS03アジュバントを想定しているようだ。2019年型パンデミックインフルエンザのワクチンとして欧州で3000万回以上、接種されたPandemrixに採用されている。

Pandemrixに関してはスエーデンやフィンランドで数百人のナルコレプシー症例が発生し、EMAが関連性を検討したことがあるが、結局、結論が出ないまま15年に販売認可が失効した(GSKが更新しなかった)。免疫機構がH1N1ウイルスと類似した蛋白を攻撃することが原因であり、ワクチンを接種しなくても感染すればナルコレプシーが起きる可能性がある、との説もあるが、アジュバントがこのリスクを高める可能性もあるのではないか。

ナルコレプシー症例は青少年が多かったが、この世代におけるCOVID-19重症化リスクはそれほど高くないのだから、真偽が分からないままCOVID-19ワクチンが実用化されたら若者は救われない。特に、日本は、事前には耳障りの良いことしか言わずに、副作用懸念が浮上したらリスクや危険便益バランスを十分に検討せずに臭いものに蓋をして済ませる性癖がある(最近では子宮頸癌ワクチン)。起きてから議論をしても上手く行かないのだから、事前に十分検討してほしいものだ。

リンク: GSKのプレスリリース


【新薬開発】


ASCO:エンハーツが第二相三本で好成績
(2020年5月29日発表)

第一三共と共同開発販売提携先のアストラゼネカは、Enhertu(trastuzumab deruxtecan、和名エンハーツ)を胃癌、肺癌、大腸癌の治療に充てた第二相試験三本の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。何れもher2変異を持つ一部の癌だけが対象だが、概して良好で、第三相に期待がかかる。

EnhertuはロシュのHerceptinの活性成分である抗her2抗体、trastuzumabとirinotecan誘導体をテトラペプチド・リンカーで結合した抗体薬物複合体。米国で昨年12月に、日本でも今年1月に、her2陽性の切除不能/転移乳癌用薬として承認された。現時点では他の抗her2抗体を先に使うことになるが、将来的には、もっと早い段階や、Herceptinの対象にならないher2低度発現乳癌、そして他の部位のher2陽性癌にも出番を増やしていきそうだ。乳癌用薬の需要は早期乳癌の切除後のアジュバント療法用途が最大だが、忍容性が重視されるので、現時点ではEnhertuの適否は不透明である。

上記三本の一つは、DESTINY-Gastric01試験。her2陽性の切除不能/転移胃癌・胃食道接合部腺腫の三次治療で、日本で先駆け審査指定、米国でもブレークスルーセラピー指定を受けている。日本と韓国の医療施設で175人をEnhertu群(承認用量の5.4mg/kgより多い6.4mg/kgを三週毎点滴静注)と実薬群(irinotecanまたはpaclitaxelから治験医が選択)に2対1割付して、cORR(確認客観的奏効率、独立中央評価)を比較したところ、42.9%対12.5%と有意に上回った。メジアン反応持続期間も11.3ヶ月対3.9ヶ月と良好。

副次的評価項目の全生存期間は未だ中間解析だが、メジアン12.5ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.59、p=0.0097となった。G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症や貧血などの骨髄抑制関連など。治療関連間質性肺疾患/肺臓炎(独立評価委員会が検証)はG3が2例、G4は1例、G5(死亡)はゼロだった。

胃癌のうちher2陽性は2割とのこと。

この試験の論点は、日韓のデータを欧米に外挿できるか否か。胃癌に関しては予てより、日米の治療成績の乖離が議論になっており、日本の執刀医に言わせれば早期発見と高度な医療技術の成果、米国側に言わせれば必ずしも寿命に影響しない早い段階の患者を切っているから。注目されるのはAvastin(bevacizumab)をcapecitabine及びcisplatinの標準的一次治療レジメンに追加する効果を検討したAVAGAST試験のサブグループ分析だ。欧州や米国の施設では全生存期間のハザードレシオが何れも0.85だったが、日韓を中心とするアジアの施設では0.97と見劣りし、全体の解析もフェールした。Avastin追加群のメジアン生存期間は大差なかったが、偽薬追加群は日本が12.1ヶ月、欧州は8.6ヶ月、米国は6.8ヶ月だった。

尤も、今回はハザードレシオが0.59ともっと良い数値が出ており、欧米でもし悪化するとしても、治療効果が消失するほどとは考えにくい。実薬対照試験であることや、三次治療試験であることを考えれば、やはり、素直に評価すべきだろう。

リンク: 両社のプレスリリース(胃癌試験)

次に、DESTINY-Lung01試験はher2陽性またはher2変異を持つ切除不能/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療試験で、こちらも6.4mg/kgを採用している。今回はher2変異42人(白金薬歴を持つ患者が91%、抗PD-1/PD-L1抗体歴は55%)のcORR(独立中央評価)が61.9%、メジアン反応持続期間は未到達であることが公表された。her2変異はher2陽性(過剰発現)とは異なった概念で、非小細胞性肺癌の2-4%で見られる由。Enhertuはher2変異転移非小細胞性肺癌でFDAのブレークスルーセラピー指定を受けている。

リンク: 同(肺癌試験)

最後に、DESTINY-CRC01はher2陽性の切除不能/転移結腸直腸癌の三次治療試験。RAS/BRAF変異癌は対象外。この試験も6.4mg/kgを採用した。cORR(独立中央評価)は45.3%、反応持続期間はメジアン未到達。一方、her2低発現サブグループの探索的解析ではcORRはゼロだった。評価対象は53人。

この試験では間質性肺疾患/肺臓炎(独立評価委員会が検証)が5人(6.4%)で発生し、G2が2例、G3が1例、G4はゼロだがG5は2人だった。

結腸直腸癌のうち2-5%がher2陽性とのこと。

リンク: 同(結腸直腸癌試験)

ASCO:キイトルーダとレンビマの併用試験二本
(2020年5月28日発表)

MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とエーザイのVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)の併用は、進行子宮内膜種の二次治療レジメンとして米国で承認されているが、肝臓や腎臓など多くの癌でもテストされている。ASCOでは、肝細胞腫の一次治療と抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ腎細胞腫の臨床初期中期試験結果が発表された。

KeyNote-524試験は後期第一相切除不能肝細胞腫一次治療試験。Lenvimaは体重に応じて8mgまたは12mgを一日一回、経口投与した。36人のcORR(確認客観的反応率、RECIST 1.1に基づく独立画像評価)は36%、反応持続期間はメジアン12.6ヶ月だった。mRECIST基準ではcORRは各46%と8.6ヶ月だった。G3、G4、G5の治療関連有害事象発現率は各63%、1%、3%で、致死例は急性呼吸不全、急性呼吸逼迫症候群、そして間質性穿孔と肝機能異常の併発が各1例だった。

KeyNote-146試験は第二相で抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ腎細胞腫が対象。Lenvimaは20mgを一日一回投与と、ここでも細かく用量を変えている。ORR(RECIST 1.1基準、担当医評価)は52%、反応持続期間はメジアン12ヶ月だった。治療時発現有害事象による死亡は104人中2人で、上部胃腸出血死と突然死。

リンク: 両社のプレスリリース

ASCO:キイトルーダはMSI-H/dMMR結腸直腸癌なら一次治療にも有効
(2020年5月28日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-177試験の結果もASCOで発表した。同薬はMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)固形癌のサルベージ療法として日米で承認されているが、今回の試験はMSI-HまたはdMMR(ミスマッチ修復不全)のある切除不能/転移結腸直腸癌の一次治療として200mgを三週毎に、最大35回投与する効果を検討した。対照群は代表的な標準療法であるmFOLFOX6またはFOLFIRIで、医師の判断でbevacizumabあるいはcetuximabも追加した。

結果は、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)が中間解析で達成認定された。具体的には、ハザードレシオ0.60、p=0.0002、メジアン値は各16.5ヶ月と8.2ヶ月と、かなり良い。もう一つの全生存期間のデータがまだ熟していないため、本試験は続行されている。

マイクロサテライトは塩基配列が何度も繰り返されている箇所を指す。変異が起きやすいので、腫瘍とそれ以外の細胞を比較することで、遺伝子修復が機能しているかどうか判定することができる。dMMRも類似した概念。結腸直腸癌では5-20%が該当するとされる。

リンク: MSDのプレスリリース

ASCO:タグリッソがEGFRm+NSCLCの切除後アジュバントで良績
(2020年5月28日発表)

アストラゼネカは、Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)のEGFR変異陽性早期非小細胞性肺癌の完全切除後アジュバント試験の結果をASCOで発表した。抗癌剤の技術革新が相次ぐ現在でも未開に留まっている、治癒的完全切除が成功した患者の再発予防が成功した意義は大きい。

Tagrissoは第一世代のEGFR阻害剤の治療中にしばしば見られるT79M抵抗性変異に強いEGFR阻害剤で、EGFR活性化変異陽性非小細胞性肺癌の一次、二次治療薬として日米欧で承認されている。今回のADAURA試験は、ステージIB/II/IIIAのEGFR活性化変異非小細胞性肺癌682人を組入れて、80mgを一日一回、最大3年間投与する効果を偽薬群と比較した。主評価項目はステージIIとIIIAのサブグループのDFS(無病生存期間)で、中間解析でハザードレシオ0.17、p<0.0001となり、成功認定された。

副次的評価項目のIBも含んだ解析でもハザードレシオ0.21、p<0.0001となり、2年無病生存率は89%と偽薬群の53%を大きく上回った。全生存期間の解析は未だ成熟していない。

G3以上の有害事象発現率は各10%と3%だった。

アストラゼネカは適応拡大申請に向けて当局と相談する考え。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Argenx社、抗FcRn抗体フラグメントを全身性重症筋無力症薬として承認申請へ
(2020年5月26日発表)

オランダのArgenx(Euronext & Nasdaq:ARGX)は、ARGX-113(efgartigimod)の第三相全身性重症筋無力症試験が成功したと発表した。年内に米国で承認申請する計画。

AGRX-113はFcRn(胎児性Fc受容体)を標的とする抗体のフラグメント。FcRnは細胞に取り込まれたIgG抗体のFc領域に結合し、リソソームに輸送されて分解されるのを防ぐ。IgG抗体の異常が係る、筋無力症や原発性免疫血小板減少性紫斑症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、尋常性天疱瘡の治療薬として臨床開発が進められている。

今回のADAPT試験は、日米欧で167人の成人を組入れて、10mg/kg週一回点滴静注群の26週間後のMG-ADL反応率を偽薬群と比較した。主評価項目のAChR抗体陽性サブグループの反応率は67.7%となり、偽薬群の29.7%を有意に上回った。陰性患者を含む全集団の反応率も有意な差があった。

同社によると、重症筋無力症は米国で65000人、日本も2万人が罹患。この8-9割がAChR抗体陽性。

リンク: 同社のプレスリリース

イブランスの術後アジュバント試験はフェール
(2020年5月29日発表)

ファイザーは、CDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib、和名イブランス)のPALLAS試験が中間解析で無益(続行しても成功する確率が極めて低い)認定されたと発表した。アカデミア主導試験で、詳細は研究者側が発表する。

ホルモン受容体陽性、her2陰性の早期乳癌を組入れた術後アジュバント試験で、内分泌療法を5年以上施行する標準療法群と、Ibranceの2年コースも施行する群の浸潤性乳癌無再発生存期間を比較した。

Ibranceはホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌に内分泌療法薬と併用することが承認されている。忍容性が若干悪いのでアジュバント試験の成否が注目されたが、意外な結果になった。Ibranceは術前化学療法で完全反応しなかった高リスク早期乳癌の術後アジュバント試験、PENELOPE-Bも進行していて、年内に結果が出る見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群用薬として承認申請
(2020年5月27日発表)

グラクソ・スミスクラインは、抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を好酸球増多症候群の治療に用いる適応拡大申請をFDAが優先審査すると発表した。審査期限は不明。POC試験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行されたのは09年で元々はリードインディケーションだったのだが、昨年、遂に第三相試験が成功、32週間の増悪発生率が56%と偽薬群の28%を有意に上回った。

Nucalaは重度好酸球性喘息症の維持療法や好酸球性多発血管炎性芽腫症の治療薬として日米欧で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

Protalix社、今度はファブリー病の酵素補充療法を承認申請
(2020年5月28日発表)

Protalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX)とパートナーのChiesiは、米国でPRX-102(pegunigalsidase alfa)をファブリー病治療薬として承認申請したと発表した。三本の第三相試験のうち完了したのは類薬であるReplagal(agalsidase alfa)からスイッチする単群試験だけだが、加速承認を目指す。

同社は遺伝子を植物細胞で発現させる技術を持ち、ファイザーにライセンスしたElelyso(taliglucerase alfa)が1型ゴーシェ病治療薬として12年に米国で承認された。PRX-102も化学装飾したPEGを結合したアルファ・ガラクトシダーゼAを植物細胞で量産する。循環半減期が80時間と長いのが特徴。Replagalスイッチ試験では2mg/kgを二週毎に投与して腎機能(eGFR)の変化を観察したところ、Replagal使用中と比べて悪化ペース(スロープ)が小さかった。

メインのBALANCE試験はサノフィのFabrazymeを1年以上使用している腎機能低下患者をFabrazyme継続群とPRX-102スイッチ群に割付けて、eGFRの変化を比較する。12ヶ月中間解析で非劣性検定を、24ヶ月最終解析で優越性検定を、行う予定。もう一本は、FabrazymeやReplagalを使っていた患者にこの試験では4週毎に投与して効果や忍容性を検討する単群試験。腎リスクの小ささと投与頻度をセールスポイントにする考えなのだろう。

ファブリー病はアルファ・ガラクトシダーゼの欠乏により、分解できなかった蛋白が血管内皮や臓器に蓄積し、様々な障害をもたらす。罹患率は1~4万人に一人と推測されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、エボラワクチンや分子標的薬の承認を支持
(2020年5月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、5月の会合で、ジョンソン・エンド・ジョンソンのエボラウイルス疾患ワクチンなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

JNJグループのヤンセン・ファーマシューティカルが承認申請したエボラウイルス疾患ワクチンは、例外的環境条項に基づく加速承認が支持された。臨床試験は免疫原性試験だけで、予防効果は動物試験のデータから類推された。対象年齢は1歳以上。

最初にZabdeno(Ad26.ZEBOV)を、8週後にMvabea(MVA-BN-Filo)を、接種する。効果がフルに発揮されるまで時間がかかるため、直ぐに必要な場合は、昨年11月にEUで承認されたMSDのErveboのほうが一回で済むため適している。

プライムワクチンのZabdenoは26型アデノウイルスにZaire種エボラウイルスの糖タンパクの全長遺伝子を導入したもの。ブースターワクチンのMvabeaは改変ワクシニア・アンカラにZaire種エボラウイルスなど5種類のウイルスの糖タンパクを導入したもので、デンマークのBavarian Nordicからライセンスした。

CHMPは、エボラ感染者を治療する医療従事者などが用いる場合はMvabea接種の4ヶ月以上後にZabdenoをもう一回接種することを検討するよう推奨している。

米国では未だ承認申請に向けた相談段階のようだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ヤンセンのプレスリリース

ノバルティスのPiqray(alpelisib)はPIK3CA変異陽性ホルモン受容体陽性her2陰性の局所進行性/転移乳癌で内分泌療法歴を持つ閉経後女性または男性に、fulvestrantと併用することが支持された。PI3Kアルファ阻害剤で、PI3Kの酵素活性部位であるPIK3CAに機能獲得変異が生じPI3KアルファやAktシグナルが活性化した癌を狙い打つ。変異の有無は腫瘍又は血清検体で判定する。

150mg錠二錠を一日一回経口投与した第三相では、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が11ヶ月と偽薬・fulvestrant併用群の5.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65、p<0.001だった。有害事象による治験離脱率は各5%と1%。尚、PIK3CA変異のない患者のコフォートの解析も行われたが、ハザードレシオは0.85で、95%信頼区間は1を跨いでいた。

米国では昨年5月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

ロシュのRozlytrek(entrectinib、和名ロズリートレク)はROS1/NTRK阻害剤。条件付き承認が支持された。適応は二つあり、NTRK遺伝子融合陽性局所進行性/転移/切除不適の固形癌でNTRK阻害剤歴を持たず他に満足できる治療オプションがない12歳以上の患者と、ROS1陽性進行非小細胞性肺癌でROS1阻害剤歴を持たない成人。

薬効のエビデンスは臨床試験におけるORR(客観的反応率)で、前者の適応では63.5%(n=74)、後者は73.4%(n=94)だった。

18年に17億ドルで買収したIgnyta社の開発品。日本で昨年6月に世界に先駆けて承認され、2ヶ月後に米国でも二つの適応で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

Xenleta(lefamulin)も肯定的意見を得た。半合成プロイロムチリンで、細菌のリボソームにおける蛋白合成を阻害する。一般的な抗生物質が不適または不応の成人の地域感染肺炎に用いる。優遇税制を梃子に世界の知識集約型企業を誘致しているアイルランドに籍を置く、Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)が開発した、20年ぶりの新クラスの抗生剤だ。米国では昨年8月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Nabriva社のプレスリリース

適応拡大では、まず、アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているLynparza(olaparib、和名リムパーザ)。生殖細胞系列BRCA1/2変異を持つ転移膵腺腫で、白金薬レジメンによる16週間以上の一次治療で進行しなかった患者の維持療法に用いる。第三相POLO試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン7.4ヶ月と偽薬群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.53、p=0.004だった。

偽薬群のORRが10%と試験薬群の20%よりは低いものの通常は0%であることを考えると異常に高いため、同様に主観の入る余地が大きいPFSだけでなく全生存期間の解析も成功してほしいところだが、必要イベント数の46%に到達した時点での中間解析ではどちらも18ヶ月強と大差なく、69%到達時でも有意差が無かった。クロスオーバーは偽薬群の15%程度なので大きな影響がありそうな感じはしない。これらのことから承認審査機関の判断が注目されたが、米国は、諮問委員会は賛成7人、反対5人と意見が分かれたものの、昨年12月に承認。CHMPも今回、肯定的評価だった。

リンク: EMAのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib、和名オフェブ)は、進行性の慢性線維化ILD(間質性肺疾患)に使うことが支持された。既承認の全身性強皮症に伴うILD以外の、自己免疫性ILDや慢性過敏性肺臓炎などが対象になるようだ。米国では3月に、日本も5月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

さて、今回は承認ではないが否認でもないという発表が三件あった。一つはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のremdesivirに関するもの。CHMPは追加データの提出を要求した。間もなく、正式な条件付き承認の申請とともに、提出される予定とのことだ。米国でEUA(非常時使用認可)、日本も特例承認と素早く対応しているのと比べて出遅れているので、世論に配慮して途中経過報告が必要と判断したのだろう。

remdesivirの承認審査は、臨床データが限られ、評価する時間も限られているので、大変だろう。供給量が限られる中、日本は侵襲的人工呼吸器やECMO装着患者を優先する方針の模様だが、第947回で書いたように、ACTT-1試験ではこのような患者に対する症状改善効果や救命効果は見られなかった。もしかしたら、治験論文に記されている程度の情報すら持たずに承認したのかもしれない。結果的に、エビデンスに基づかない医療を政府が推進する異常事態になった。

次に、ファイザーの髄膜炎菌血清群Bワクチン、Trumenba。対象年齢を1~9歳に拡大するべく承認申請したが、CHMPは首肯せず、EMAはデータだけレーベルに収載することを決めた。プレスリリースによると、3回接種しても抗体が直ぐに減少するので、足りない可能性がある。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発し欧州ではムンディファーマが開発販売している二型糖尿病薬、Vokanamet。SGLT2阻害剤canagliflozinとmetforminの固定用量合剤で、前者はCREDENCE試験で中等度糖尿病性腎症の腎機能悪化や心血管死、心不全入院のリスクを削減する効果が見られたが、CHMPはVokanametの効能追加には反対した。metforminは中程度腎障害には減量する必要があるが、Vikanametの品揃えでは対応できないことが理由。御尤も。EMAはデータだけ収載することを決定した。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


FDA、子宮筋腫による過多月経の治療薬を承認
(2020年5月29日発表)

FDAは、アッヴィが Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)からライセンスして開発したGnRHアンタゴニスト、elagolixの新製剤をOriahnnという製品名で承認した。最初の製品であるOrilissaは子宮内膜症の疼痛緩和に用いるが、Oriahnnは高量を子宮筋腫に伴う過多月経の出血抑制に用いる。手術以外の薬物療法が承認されたのは米国では初めて。

エストロゲン抑制に伴う副作用を緩和するためにエストロゲンやプロゲスチンを補充する、アドバック療法のニーズに対応するために二種類の製剤や用意されており、朝はestradiol及びnorethindrone acetateも配合した白と黄色のAMと記されたカプセルを、夕方はelagolixだけの白とライトブルーのPMと記されたカプセルを、服用する。

第三相試験二本では、出血抑制奏効率が70%前後と偽薬群の10%前後を大きく上回った。副作用は脳卒中や血栓症が枠付警告された。禁忌は血栓症(現在と過去、高リスクも含む)、骨粗鬆症、乳癌などのホルモン感受腫瘍(病歴も含む)、肝臓疾患、未診断の子宮異常出血。骨塩密度が不可逆的に低下するため24ヶ月以上服用してはいけない。日本で昨年承認されたGnRHアンタゴニスト、レルミナ(レルゴリクス)の使用期間が原則6ヶ月までなのと比べれば長く使える。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース

ロシュ、テセントリクが肝細胞腫に適応拡大
(2020年5月29日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をAvastin(bevacizumab)と併用で切除不能肝細胞腫の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。リアル・タイム・オンコロジー・リビューというパイロット・プログラムの対象で、1月の承認申請から4ヶ月でスピード承認。プロジェクト・オービスの対象でもあり、今回はオーストラリアとカナダ、シンガポールの承認審査機関が並行して審査を進めた。日本は別途、承認申請中。

エビデンスとなったIMbrave150試験では、Nexavar(sorafenib)群と比べた全生存期間のハザードレシオが0.58、p=0.0006だった。メジアン生存期間は未達、Nexavar群は13.2ヶ月。G3/4の有害事象発現率はTecentriq・Avastin併用群が57%、Nexavar群は55%、G5も各5%と6%で、大差なかった。

肝細胞腫一次治療は長年、Nexavarの独壇場だったが、今回の承認を皮切りに、抗PD-L1/PD-1抗体とVEGF標的薬の併用が続々と登場するのではないか。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

BMS、オプジーボとヤーボイが肺癌で用法追加
(2020年5月26日発表)

BMSは、EGFRやALKに活性化変異を持たない転移/難治非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)、そして化学療法(2サイクルに抑える)を併用する用法追加がFDAに承認されたと発表した。肺癌ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)と比べて大きく後れを取っているが、5月にはOpdivo・Yervoyの二剤をPD-L1陽性非小細胞性肺癌に用いることも承認されており、だいぶ差が縮まってきた。それでも、Keytrudaが一次治療化学療法併用試験で上げた成績は競合薬と比べて信じられないほどずば抜けており、追い付くのは困難だろう。

今回の承認はCheckMate-9LA試験に基づくもの。メジアン生存期間が14.1ヶ月と化学療法(4サイクル、非扁平上皮種は維持療法も可)のみの群の10.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.0006だった。1年生存率は各63%と47%だった。PD-L1発現の有無や扁平上皮腫か否かを問わず有効だった。G3/4の治療関連有害事象発現率は47%と化学療法群の38%を上回った。

リンク: BMSのプレスリリース

FDA、ALK阻害剤をALK転座陽性NSCLCの一次治療に承認
(2020年5月26日発表)

FDAは、武田薬品が17年に子会社化したAriad PharmaceuticalsのALK阻害剤、Alunbrig(brigatinib)の適応拡大を承認した。17年の初承認ではファイザーのcrizotinibに不応・不耐のALK転座陽性転移性非小細胞性肺癌に限定したが、一次治療にも使えるようにした。日本では4年遅れで今年2月に第二選択薬として承認申請されたところ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(5/25付け)






今週は以上です。

2020年5月23日

第947回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アビガンの中国治験論文原稿の結論が変わった! 
  • COVID-19:アストラゼネカ、英米で4億本のCOVID-19ワクチンを供給へ 
  • COVID-19:中国のワクチンの第一相論文が刊行 
  • COVID-19:ワクチンの最初の臨床データ 
  • レムデシビルの治験論文が遂に刊行 
  • デュピクセントの好酸球性食道炎試験が成功 
  • フィルゴチニブの潰瘍性大腸炎試験が成功 
  • ヴィーブ、2ヶ月毎筋注の抗HIV薬の暴露前予防試験が成功 
  • Syndax、HDAC阻害剤の乳癌第三相試験がフェール 
  • 新作用機序の避妊薬が承認 
  • サノビオン、アポモルヒネ舌下フィルムが米国で承認 
  • リムパーザも遺伝子修復不全の去勢抵抗性前立腺癌に承認 
  • FDA、テセントリクをモノセラピーでもNSCLC一次治療薬として承認 


【今週の話題】


COVID-19:アビガンの中国治験論文原稿の結論が変わった!
(2020年5月22日)

第941号で、武漢大学中南医院のChenらが行ったfavipiravir(日本でアビガンという商品名でパンデミック・インフルエンザに承認)のCOVID-19治療試験の論文原稿に触れたが、アブストラクトの結論部分が変更されたことに遅まきながら気づいたのでアップデートしたい。medRxiv(刊行前の医学論文を掲示するインターネットサイト)の知名度はCOVID-19の流行で一段と高まったが、よく言われる、『査読を経て記述が変わるかもしれないので気を付けよ』という警告が過剰ではないことを示す実例になった。

このオープンレーベル試験は、発症12日以内のCOVID-19肺炎240人をfavipiravir群とumifenovir(中国でArbidol名でインフルエンザに承認)群に無作為化割付して臨床的回復率を比較した。7日時点の臨床的回復率は各61%と52%となり、p=0.14で有意な差は見られなかった。umifenovirがCOVID-19に有効であることを示すエビデンスは確立していないので、favipiravirの有効性も確認できなかったことになる。

一方、副次的評価項目(重症患者も含む)では熱や咳の改善が有意に早かった。臨床的回復率に関しても、事後的に行われた重症患者を除外した解析では各71%と55%となり、p=0.02だった。

これらの所見に基づき、3月20日と3月27日に掲示された第一稿と第二稿では、favipiravirは第7日臨床的回復率などが高かったので優先的治療薬とみなすことができる、と結論していた。しかし、4月8日の第三稿と現時点で最新の4月15日付第四稿では、favipiravirはumifenovirと比べて第7日臨床的回復率を顕著に改善しなかった、に変更された。

文言上は天地ひっくり返った格好だが、サプライズ感は全然ない。主評価項目である全集団の解析がフェールした段階で、サブグループ分析は有意性を失う。多重性の弊害を回避しなければならないからだ。更に、事前に設定されていない解析は良いとこ取りの懸念もある。このような場合は改めて仮説検証試験を行うべしというのが統計学者や一流の査読誌のスタンスだ。今回のように、階層化とは異なった基準に基づいて事後的に重症者と判定した患者を除外した解析となると、尚更だ。

修正されるべき文言が修正された、と受け止めるべきだろう。

リンク: Chenらの論文(第4稿、pdfファイル)
リンク: 同(初稿、pdfファイル)

COVID-19:アストラゼネカ、英米で4億本のCOVID-19ワクチンを供給へ
(2020年5月22日発表)

アストラゼネカは、オックスフォード大学のジェンナー研究所の技術を用いて開発しているCOVID-19ワクチン、AZD1222について、英国向け1億本に続いて米国でも3億本を供給することでBARDA(米国立衛星研究所の生物医学先端研究開発局)と合意した。BARDAは3万人規模の第三相試験や小児試験の実施と量産体制を確立するための補助金として12億ドルを拠出する。

英国の人口は約6600万人なので、一回接種なら1億本で人口の全てを、二回接種でも3/4をカバーできる計算になる。米国は3億2800万人なので、人口の全て又は6割をカバーできる。

開発が順調に進んだ場合、今年9月から供給を開始する予定。同社は、世界中に広く、公平に、パンデミック中は利益ゼロで供給する考え。今年から来年にかけて10億本を供給するキャパを持っている由なので、日本も早く唾を付けたほうが良さそうだ。

Modernaもバイオ薬の生産受託大手であるロンザ社と提携して製造のスケールアップを行い、年10億本規模のキャパを目標とする考え。サノフィとグラクソ・スミスクラインのCOVID-19ワクチン協業も、年10億本を狙っており、この辺りが一製品当りの現実的な供給水準なのだろう。地球の人口は75億人と推定されているので、年75億本程度のキャパシティがあれば二年かけて全員に二回接種できるが、開発が成功するとは限らないので、同規模のプロジェクトがあと数件、出てきて欲しいものだ。

AZD1222は、チンパンジーに感染するアデノウイルスを遺伝子組換えで不活化したベクターを用いて、SARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子を導入する。このChAdOx1を用いたワクチンの投与実績は320例以上とのことなので、ワクチンとしては極めて少ない。4月に開始した、英国で1090人を組入れた第1/2相試験の結果が間もなく出る由だが、この規模でも安全性を評価するには不十分だ。アストラゼネカ自身が指摘するように、高リスクプロジェクトだ。

オックスフォード大学は第2/3相試験の組入れを開始したと発表した。英国で10,260人の健常者を1回接種、2回接種、髄膜炎菌ワクチンの何れかに無作為化割付して、抗体価や感染予防効果を検討する。5-12歳や56歳以上、70歳以上も少数組入れて、免疫反応がどの程度違うか、確かめる。予防効果が判明するのは今後の流行次第で2~6ヶ月後になる見込み。

英国の累計感染者数は約25万人で人口の0.37%。対照群の発症率が同程度で、ワクチン効果が7割程度なら有意水準に達するのではないか。実際の罹患率はもっと高いだろうから、ワクチン効果が5割程度でも成功の可能性がありそうだ。

ワクチンは多くの人が使うので、効果は当然のことながら、安全性も高水準が求められる。近年の画期的ワクチンは数万人の治験実績を持つものが多いが、それでも、子宮頸がんワクチンのように、市販後に稀だが深刻な、少なくとも当初はワクチンとの関連性が疑われた有害事象が発生した。米国では、突貫工事で開発した新型インフルエンザワクチンでギラン・バレー症候群が発生したこともある。

だから、実用化前にできるだけたくさんの人に投与して、稀にしか発生しない(特殊な条件を持つ人にしか起きない)深刻な副作用の予兆を把握することが望ましいが、現今の状況下では、スピードも優先せざるを得ない。

きちっとした臨床試験をできるだけ早く始めて長期追跡データベースを充実させることも重要だ。中和抗体が長持ちしないようならば、インフルエンザワクチンのように毎年接種を検討しなければならないからだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(5/21付)
リンク: オックスフォード大学のプレスリリース

COVID-19:中国のワクチンの第一相論文が刊行
(2020年5月22日発表)

武漢で実施されたCanSino Biologics(HKEX:6185)のCOVID-19ワクチンの第一相試験論文がLancetに刊行された。世界に先駆けて開始された、三種類の用量を一回筋注し28日間観察した試験で、深刻有害事象は発生せず、SARS-CoV-2や偽型ウイルスの中和テストやT細胞免疫テストで免疫誘導効果が見られたようだ。今月開始された第二相では低中用量をテストしている。

このワクチンは、遺伝子組換え型5型アデノウイルスをベクターとして、SARS-CoV-2の全長S蛋白の遺伝子を導入するもの。Beijing Institute of Biotechnologyと共同開発した。

アデノウイルスは抗体を持つ人が少なくないことが弱点で、この試験でも、抗体を持つ被検者では持たない人より免疫反応が小さかった。

SARS-CoV-2に対する免疫は持続性が明らかではない。この試験では、中和抗体は第28日がピーク、特定T細胞反応は第14日がピークだった。

リンク: Zhuらの治験論文(Lancet)
リンク: ワクチンの効果に関する専門家の様々な意見を紹介したSTATの記事

COVID-19:ワクチンの最初の臨床データ
(2020年5月18日発表)

米国ケンブリッジのmRNAワクチン開発企業、Moderna(Nasdaq:MRNA)は、mRNA-1273の第一相試験の途中経過を公表した。同日に13億ドル相当の新株公募も発表しており、蒲焼の匂いに代えて臨床データをチラ見させることによって資金を呼び込む、米国バイオ企業の定石手順だ。

内容は定性的で、『回復期血清に一般的にみられるのと同程度の水準』という曖昧模糊とした尺度が用いられていることなど、BostonGlobe傘下の医学報道機関、STATが論評したように、突っ込みどころ満載だ。

この試験はNIAID(国立アレルギー及び感染症研究所)が主導したが、NIAIDなどのNIH(米国立衛生研究所)系列の研究機関は、アカデミア主導を尊重し民間企業の容喙を許さないところがあるので、研究や論文が完成し一流の査読誌に刊行されるまで、情報開示を制限するようModernaに要求しているのかもしれない。同じくNIAIDが主導した、ギリアドのVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)のCOVID-19試験も、なかなかデータが発表されなかった。

本題に戻ると、mRNA-1273は、SARS-CoV-2が細胞に入る時に受容体に結合する部位の融合前構造をコードするメッセンジャーRNAを用いたワクチン。NIAIDやCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)の支援・協力を受けて、中国企業以外では世界で最初に臨床入りした。

第一相は18~55歳、56~70歳、71歳以上の年齢層毎に、25mcg、100mcg、250mcgの安全性や免疫原性を検討している。三角筋に筋注して4週後に再接種し、その2週後に抗体価を評価する。今回の発表は18~55歳のコフォートに関するもの。

結果は、まず、一回目の接種後に用量依存的な免疫原性を誘導することができた。二回目の接種によるブースター効果はプレスリリースでは言及されていないが有効であったことがテレカンファレンスで示唆された。

二回接種後の抗体誘導に関しては、25mcg群(n=15)では回復期血清(感染から回復した患者の血清)と同水準の結合抗体ができ、100mcg群(n=10)では顕著に上回った。250mcg群はまだブースト後のデータがまとまっていない。

一番重要な中和抗体のデータは両群4例づつしかまとまっていないが、全員で回復期血清と同程度又はそれ以上の水準だった。マウスのチャレンジ試験で肺におけるウイルス増殖を抑制した抗体価と比べても同程度だった。

テレカンファレンスでは、回復期血清の水準とは具体的にどれくらいなのか、文献の根拠があるのか、などの質問が出たが、明確な回答はなかった。回復期血清の抗体価は個人差が大きいと伝えられているので、それと同程度以上というだけでは情報が不十分だ。

G3以上の有害事象は、100mcg群で1例(注射箇所紅斑)、250mcgでは3例発生した。後者は、テレカンファレンスでの説明によれば、ブースト投与後に発熱や疼痛などワクチンにありがちな副反応が一日だけ発現したようだ。

Modernaは間もなく第二相を、7月には第三相試験も開始する計画。18~55歳と55歳以上を各300人ずつ組入れて、50mcgと100mcg(当初予定の250mcgから変更)を比較して至適用量を決定する。尚、第一相も新たに50mcgを接種する群が設定された。

第三相は健常者に加えて持病や職業面でリスクの高い人たちも組入れる。第二相の被検者のブースターショットすら完了していない時期に始まることになるが、開発のスピードアップとエビデンスの充実、そして、世界的な開発競争に勝つためのタクティクスと推測される。

リンク: Modernaのプレスリリース
リンク: STATの記事(5/19付)


【新薬開発】


レムデシビルの治験論文が遂に刊行
(2020年5月22日発表)

COVID-19治療薬として日本で承認され米国でもEUA(緊急時使用認可)を受けたギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir、和名ベクルリー、JAN/レムデシビル)の臨床試験論文がNew England Journal of Medicineに刊行された。サブグループ分析が注目されたが、発症後10日以内の患者でもそれ以降でも効果は大差なさそうだ。重症度との関連性はよくわからない。人工呼吸器やECMOを用いている患者は回復までの期間、回復率、死亡率の何れで見ても、効果が感じられない。一方、軽中等度患者は回復率は大差ないが死亡率が数値上、小さいので、効かないとは言えないだろう。

このACTT-1試験は、COVID-19で入院した下部気道兆候を持つ患者,1063人をVeklury群(初日は200mg、その後は100mgを一日一回静注、最大10日間投与)と偽薬群に無作為化割付して回復(退院または医療不要の感染管理を目的とする入院継続)までの期間を比較した。結果は、Veklury群がメジアン11日、偽薬群は15日で、レート比は1.32、p<0.001だった。また、カプラン・マイヤー推定による14日死亡率は各7.1%と11.9%、ハザードレシオ0.70、95%信頼区間0.47-1.04となり、有意ではないが良さそうな結果になった。

この試験の元々の主評価項目は、疾病段階を退院(1)から死亡(8)までの序数で分類して、2週間の変化を評価する計画だった。ベースライン時点の序数毎の効果は、4(酸素補給不要、n=127)は回復レート比が1.38(95%信頼区間0.94-2.03)、死亡ハザードレシオは0.46、5(酸素補給、n=421で一番多い)も各1.47と0.22と良好だったが、6は1.20と1.12、7(機械式人工呼吸器またはECMO)は0.95と1.06と、いずれも有意ではないが、呼吸機能低下が大きいほど治療効果が曖昧になっている。

G3/4有害事象の発生率は28.8%対33.0%でVeklury群のほうが低かった。呼吸不全など病状悪化に係る症状の発生率が低く、治療効果が有害事象の減少として現れたのだろう。

リンク: Beigelらの治験論文(NEJM)

デュピクセントの好酸球性食道炎試験が成功
(2020年5月22日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)の第三相好酸球性食道炎試験のパートAが成功したと発表した。81人を組入れて300mgを週一回皮注する効果を偽薬と比較したところ、症状や食道上皮内の好酸球数が改善した。パートBでは他の用法も検討中。

DupixentはIL-4受容体のアルファ・サブユニットに結合するトランスジェニックマウス抗体で、アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症、慢性副鼻腔炎などに承認されている。好酸球性食道炎は米国で16万人が治療を受けているが、うち5万人は十分に管理できていない。薬物療法はステロイドが用いられているが正式に承認されている薬はない。

リンク: 両社のプレスリリース

フィルゴチニブの潰瘍性大腸炎試験が成功
(2020年5月20日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)とベルギーのガラパゴス(Euronext:GLPG)は、GLPG0634(filgotinib)のP2b/3活性期潰瘍性大腸炎試験が成功したと発表した。関節リウマチ治療薬として日米欧で承認申請中のJAK1阻害剤の適応拡大試験で、リウマチと同様に100mgと200mgを一日一回、経口投与する効果を検討したところ、200mg群の臨床的寛解率や寛解維持率が偽薬を有意に上回った。

臨床的寛解率は内視鏡所見や直腸出血、便頻度を第10週時点で評価した。200mg群の成績は、TNF阻害剤などのバイオ薬が未経験の患者では26.1%(偽薬群は15.3%)、経験者では11.5%(同4.2%)だった。寛解した患者を投与継続群と偽薬スイッチ群に再無作為化割付したところ、第58週寛解維持率は37.2%(同11.2%)だった。深刻有害事象の発現率は各群大差なく、深刻感染症も増えなかった。

filgotinibはガラパゴスが開発、アボットが12年にインライセンスしたが、自社開発品であるABT-494(upadacitinib)を選択し返還、15年にギリアドが共同開発販売権を取得した。前臨床で男性生殖機能毒性の懸念が浮上し、FDAが男性に用いる場合は100mgに抑えるよう要請したことがある。現状は明らかではないが、もし懸念が解消していないならば、100mg群の臨床的寛解率が偽薬を有意に上回らなかったことはインプリケーションがあるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

ヴィーブ、2ヶ月毎筋注の抗HIV薬の暴露前予防試験が成功
(2020年5月18日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアは、ジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発した長期作用性筋注用同梱薬のPrEP(暴露前予防)試験が成功したと発表した。効能追加申請に向けて相談する考え。

この同梱薬は、塩野義が創製した長期作用性筋注用インテグラーゼ阻害剤、cabotegravirと、JNJの非核酸系逆転写阻害剤、rilpivirineの長期作用性筋注用新製剤。知財が絡むため、二種類の活性成分を配合したコンビ薬ではなく、夫々が製造した二剤の同梱となっており、痛い筋肉注射を二回、しなければならないのが難点だが、毎月~2ヶ月毎の投与で足りるので、経口剤より好む患者もいるようだ。ウイルス抑制に成功している患者がスイッチする用途で承認申請され、カナダでCabenuvaというブランド名で承認されたが、米国ではCMC(化学、製造、管理に係る書類)がネックで審査完了通知を受領した。

今回のHPTN 083試験はNIAID(米国立アレルギー疾患・感染症研究所)やHIV予防試験ネットワークと共に実施しているP2b/3試験で、米州、アジア、アフリカの男とセックスする男/トランスジェンダー女性約4600人を組入れて、予防効果を承認薬であるtenofovir disoproxil fumarateとemtricitabineの合剤(ギリアドのTruvada)と比較した。Cabenuvaは治療用途では月一回投与で承認申請されたが、本試験は2ヶ月毎に投与した。

独立データ監視委員会が事前に予定されていた中間解析で成功認定した。試験薬群の感染者は12人、対照群は38人で、罹患率は各0.38と1.21となり、非劣性であることが確認された。優越性にも近接とのことだが、最終解析待ちのようだ。

独立データ監視委員会は、1年遅れで開始されたHPTN 084試験のデータも検討したが、継続を勧告した。こちらはアフリカの性的に活発な女性を組入れたPrEP試験。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

Syndax、HDAC阻害剤の乳癌第三相試験がフェール
(2020年5月21日発表)

Syndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)は、SNDX275(entinostat)の第三相試験がフェールしたと発表した。ホルモン受容体陽性her2陰性の進行乳癌にexemestaneと併用する効果を検討したが、延命効果が見られなかった。

entinostatは01年に日本シエーリングが三井製薬を買収した時に入手したクラス1ヒストン・ジアセチラーゼ阻害剤。シエーリングを買収したバイエルが07年にSyndaxに導出した。日本は協和キリンが転移性乳癌に第二相試験段階。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


新作用機序の避妊薬が承認
(2020年5月22日発表)

Evofem Biosciences(Nasdaq:EVFM)は、FDAがPhexxi(乳酸、クエン酸、酒石酸カリウム)膣用ゲルを女性のオンディマンド避妊薬として承認したと発表した。膣をpH3.5-4.5と精子にアゲンストな環境に維持することで避妊を可能にする。

リンク: Evofemのプレスリリース

サノビオン、アポモルヒネ舌下フィルムが米国で承認
(2020年5月21日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるサノビオン・ファーマシューティカルズは、FDAがKynmobi(apomorphine hydrochloride)をパーキンソン病のオフ症状治療薬として承認したと発表した。パーキンソン病はドパミンによく反応するが、何年も服用するうちに段々、作用の持続期間が短くなり、オフ症状が出るようになる。apomorphineはドパミン作用薬で、米国では皮注用薬がオフ症状時のレスキュードラッグとして承認されている。KynmobiはAquestive Therapeuticsの技術を16年にライセンスして開発した長方形の舌下フィルム製剤。

リンク: サノビオンのプレスリリース

リムパーザも遺伝子修復不全の去勢抵抗性前立腺癌に承認
(2020年5月20日発表)

アストラゼネカとMSDは、共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。生殖細胞系列または体細胞系列のHRR(相同組換え修復)変異を持つまたは疑われる転移性去勢抵抗性前立腺癌で、enzalutamideまたはabirateroneによる治療に反応しなかった患者が適応になる。精巣切除例以外はGnRHアナログを併用する。

HRR変異は二重連鎖ブレイクの修復に係るBRCA1/2やATM(BRCA1などをリン酸化する酵素の遺伝子)、CDK12、CDK11などの遺伝子に悪性の変異がある。尚、添付文書によると、承認のエビデンスとなったPROfound試験で定義された15種類のHRR関連遺伝子のうち、PPP2R2Aの変異は、便益とリスクのバランスが適切でないため適応外になったようだ。

この試験の主評価項目は、BRCA1/2またはATMに悪性変異を持つサブグループのPFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価による)で、メジアン7.4ヶ月とabirateroneまたはenzalutamideを投与した群の3.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.34、p<0.0001だった。全生存期間の解析も各19.1ヶ月、14.7ヶ月、0.69、p=0.0175だった。

HRR変異を持つ患者全体のPFSも各5.8ヶ月、3.5ヶ月、0.49、p<0.0001だったが、BRCA1/2またはATM変異を除外した探索的解析では、メジアン4.8ヶ月対3.3ヶ月、ハザードレシオは0.88で95%信頼区間は1を跨いでおり、点推定値も信頼区間も今一つだった。このサブグループのORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)は3.7%対8.3%で数値上低かった。

このため、HRR変異全体が適応になったのは意外だった。もしかしたら、上記のPPP2R2A変異型を除外すれば、BRCA1/2やATMを除いた解析でももっと良い数値が出るのかもしれない。

PARP阻害剤では先週、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のRubraca(rucaparib)をBRCAの生殖細胞系列/体細胞系列有害変異関連の転移性去勢抵抗性前立腺癌でアンドロゲン標的薬とタクサン系薬による治療歴を持つ成人に用いることが承認された。Lynparzaより適応が狭く、エビデンスも単群試験のORRなので、1週間しか先行して発売できないのは痛いだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: 米国のレーベル(pdfファイル)

FDA、テセントリクをモノセラピーでもNSCLC一次治療薬として承認
(2020年5月18日発表)

FDAは、ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をPD-L1高度陽性の進行非小細胞性肺癌の一次治療に単剤投与することを承認した。高度陽性は、腫瘍細胞の50%以上または腫瘍浸潤免疫細胞の10%以上でPD-L1が発現している。Ventana Medical SystemのSP142アッセイがコンパニオン診断薬として承認された。尚、分子標的薬が第一選択になるEGFR/ALK変異癌は対象外。

IMpower-110試験でメジアン生存期間が20.2ヶ月と、化学療法群の13.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.59、p=0.0106だった。この試験は低中度陽性も組入れたが、中高度陽性例あるいは全陽性例の解析は有意水準に達しなかった。MSDのKeytruda(pembrolizumab)と同様に、低中度陽性癌にはモノセラピーは至適ではないのだろう。

Tecentriqの非小細胞肺癌におけるこれまでの適応は、白金薬歴を持つ癌にモノセラピー、一次治療にcarboplatinとpaclitaxelおよびbevacizumabと併用、非扁平上皮型の一次治療にcarboplatinおよびnab-paclitaxelと併用で、何れもPD-L1発現の有無は不問だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース(5/19付)




今週は以上です。

2020年5月17日

第946回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:米国で抗原検査が初承認 
  • COVID-19:FDAがアボットの迅速核酸検査の偽陽性報告を検討へ 
  • ASCO:ロシュの抗TIGIT抗体がNSCLCにおける抗PD-L1抗体の効果を増強 
  • ASCO:ノバルティスも抗PD-1抗体を開発 
  • ASCO:オプジーボ、ヤーボイ、CTの併用で非小細胞性肺癌の全生存期間を延長 
  • MSD、キイトルーダのトリプルネガティブ乳癌と古典的ホジキンリンパ腫試験が成功 
  • 臍帯血由来の細胞療法の第三相造血幹細胞移植試験が成功 
  • サノフィ、抗CD38抗体の多発骨髄腫二次治療試験が成功 
  • 禁煙補助薬の第三相ドライアイ試験が成功 
  • MyoKardia社、症候性閉塞性肥大型心筋症の第三相が成功 
  • Genfit、PPAR作動剤の第三相NASH試験がフェール 
  • サノフィ、寒冷凝集素症用薬を承認申請 
  • ブループリント社、GIST治療薬の適応拡大ならず 
  • BMS、CAR-Tは7月に再承認申請へ 
  • スノビオン、dasotrelineの承認申請を撤回 
  • FDA、GIST4次治療薬を3ヶ月前倒しで承認 
  • FDA、オプジーボとヤーボイの併用を非小細胞性肺癌の一次治療に承認 
  • FDA、ポマリストをカポジ肉腫に承認 
  • FDA、Clovis社のPARP阻害剤をBRCA変異前立腺癌に効能追加 
  • リムパーザ、卵巣癌一次治療後維持療法にベバシズマブ併用が承認 


【今週の話題】


COVID-19:米国で抗原検査が初承認
(2020年5月8日発表)

Quidel(Nasdaq:QDEL)は、SARS-CoV-2の抗原検査がFDAの緊急時使用認可(EUA)を取得したと発表した。検査時間は15分で、特定の条件を満たす医療施設ならポイント・オブ・ケア検査として使用することができる。

同社のSofia 2蛍光免疫アナライザー用のラテラル・フロー免疫蛍光サンドイッチ法アッセイで、鼻腔や上咽頭スワブの中のヌクレオカプシド蛋白抗原を検出する。季節性コロナウイルスには反応しないがSARS-CoV(SARSウイルス)とSARS-CoV-2を識別することはできない。

試験成績は、上咽頭スワブ冷凍検体(陽性59例、陰性84例)を用いた試験では感度が80%(95%信頼区間下限68%)、特異度100%(同96%)だった。鼻から採取したスワブ検体(陽性5例、陰性43例)の感度は80%(同37.6%)、特異度は100%(同91.8%)だった。感染者を見落とすリスクがある一方で、あらぬ疑いをかけるリスクはあまり高くなさそうだ。

初期出荷は40万テスト。数週内にキャパを100万テスト/週に増強する計画。

因みに、日本でも富士レビオのエスプラインSARS-CoV-2が承認された。鼻咽頭ぬぐい液中のSARS-CoV-2を検出するイムノクロマト技術による抗原検査試薬で、30分以内に青いラインが二本、現れたら陽性と判定される。国内臨床検体72例の試験では、感度(RT-PCR法との陽性一致率)は37%、特異度(陰性一致率)は98%だった。また、行政検査検体124例では各66.7%と100%だった。何れも、ウイルス量の多い検体では感度がもっと高かった。

リンク: Sofia 2 SARS Antigen FIAのEUA要旨
リンク: Quidelのプレスリリース
リンク: Quidel Sofia 2 SARS Antigen FIA説明ページ
リンク: エスプライン SARS-CoV-2の添付文書(PDMAサイト)

COVID-19:FDAがアボットの迅速核酸検査の偽陽性報告を検討へ
(2020年5月14日発表)

FDAは3月にAbbot ID NOW COVID-19の非常時使用認可(EUA)を行ったが、偽陽性に関する15例の有害事象報告を受領したため、調査を開始したと発表した。

米国でインフルエンザ、連鎖球菌A、RSVのPOC(ポイント・オブ・ケア)検査機器として広く用いられているID NOWという等温増幅PCR用のアッセイで、陽性なら5分、陰性でも13分と結果が早いことが特徴。取扱説明書に記載されている試験データによると感度も特異度も100%。認可当時のプレスリリースによると、アボットは一日に5万件の検査を想定して供給する計画だった(通算第940号参照)。

検査に誤りは付き物で、偽陽性や偽陰性の原因としては、機器の欠点だけでなく、検体の採取方法や特性(ウイルス量など)、ウイルス輸送媒体の種類や欠陥、など様々な要素を考えうるようだ。FDAとアボットは、症例報告を精査するとともに、判定が陰性でも臨床的な兆候や症状と一致していなかったら別の製品で検査するようレターを発出する考え。更に、アボットは市販後監視試験を行うことを同意した。

上記15例の詳細は不明だが、アボットのプレスリリースでは先日、bioRxiv(査読前論文原稿のサーバー)で公開された、ニューヨークのアカデミア研究者が行った試験に触れている。論文原稿によると、Cepheid Xpert Xpress SARS-CoV-2とAbbot ID NOW COVID-19で検査したところ、前者で陽性だった検体のうち鼻咽頭スワブでは3割、鼻スワブでは5割が後者では陰性判定だった。

臨床試験のデータは、選ばれた医療施設の選ばれた医師が、数多くの組入れ基準や除外基準に基づいて厳選された理想的な被検者に、厳格に定められた、時には現実の医療とは乖離したプロトコルに即して、通常の医療より密接に患者を観察・検査して、取得したものである。現実の医療では治療成績はもっと低く、副作用はもっと多く発生し、その転帰はもっと悪いと考えるべきである。

それにしても、この乖離は大きく、原因究明は急務だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アボットのプレスリリース
リンク: BasuらのAbbot ID NOW COVID-49に関する研究論文草稿(bioRxiv)


【新薬開発】


ASCO:ロシュの抗TIGIT抗体がNSCLCにおける抗PD-L1抗体の効果を増強
(2020年5月14日発表)

5月29日から31日にかけて実施されるASCO(米国臨床腫瘍学会)バーチャル・ミーティングの抄録公開に合わせて、多くの医薬品会社がプレスリリースを出している。一部メディア向けのプレス・ブリーフィングの内容も報じられている。いくつかを紹介しよう。

近年、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用レジメンに続けとばかりに、免疫チェックポイント阻害剤の併用法の開発が活発化している。今年のASCOでは、ロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と抗TIGHT抗体RG6058(tiragolumab)の第二相非小細胞性肺癌一次治療試験の結果が発表される予定。

プレスリリースなどによると、PD-L1陽性(TPS≧1%)の転移非小細胞性肺癌135人を二剤併用群とTecentriq・偽薬併用群に無作為化割付して効果を比較したところ、ORR(客観的反応率)は各31.3%と16.2%、PFS(無進行生存期間)は各5.4ヶ月と3.6ヶ月でハザードレシオは0.57(95%信頼区間0.37-0.90)だった。G3以上の治療関連有害事象発現率は各15%と19%で二剤併用のほうが小さかった。有害事象治験離脱率も各7.5%と10.3%。

TPS≧50%の58例と1-49%の77例のサブグループ分析を見ると、前者はORRが55.2%対17.2%、PFSハザードレシオ0.33(95%信頼区間0.15-0.72)とかなり良いが、後者はそれほど大きな差はなさそうだ。

今年3月に日米欧などで第二相と同じような内容の第三相試験が始まった。これに先駆け、進展型小細胞性肺癌でも、Tecentriq、carboplatin、及びetoposideのレジメンに追加する効果を検討する第三相が始まっている。

TIGIT(T-cell immunoreceptor with immunoglobulin and ITIM domains)は活性化T細胞やNK細胞などの免疫細胞のチェックポイント蛋白で、CD155がTIGITに結合すると抑制的刺激が、CD226に結合すると活性化刺激が伝わる。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASCO:ノバルティスも抗PD-1抗体を開発
(2020年5月13日発表)

ノバルティスのIgG4型抗PD-1抗体、PDR001(spartalizumab)の第三相試験の探索的パートの結果も発表される。先行品が数多いので偽薬対照試験を行うだけでも工夫が必要だが、17年に開始された第三相の特徴は、BRAF-V600変異を持つ切除不能/転移黒色腫の一次治療として、同社のTafinlar(dabrafenib、和名タフィンラー)及びMekinist(trametinib、和名メキニスト)と三剤併用すること。分子標的薬は特定のタイプの癌に高い効果を示すが抵抗性が生じることがあり、チェックポイント阻害剤は反応率はそれほどでもないが反応持続期間が長い傾向があるので、補完性があるかもしれないのだが、実際に併用試験が行われるのは珍しい。

パート1では9人を組入れて忍容性を、パート2では27人を組入れて癌の微小環境やバイオマーカーとの関連性を検討した。薬効面では、ORR(客観的反応率、治験医評価)は78%で、完全反応率は44%だった。完全反応例ではベースライン時点で腫瘍微小環境における免疫抑制的因子の発現が顕著に少なかった。なんだそうか、ま、そうだろうなという感じだ。

パート3では500人を組入れて無作為化割付偽薬対照二重盲検試験を行う。今年後半に結果が判明する見込み。

リンク: LongらのASCO抄録

ASCO:オプジーボ、ヤーボイ、CTの4剤併用で非小細胞性肺癌の全生存期間を延長
(2020年5月13日発表)

BMSはCheckMate-9LA試験のヘッドラインを公表した。転移性非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)及びYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を化学療法(CT)と併用する効果を検討した第三相オープンレーベル試験で、昨年10月に中間解析で成功認定されたことが公表された。Opdivoは非小細胞性肺癌における開発成果がライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)に劣後しており、4剤併用で一気に逆転できるかどうか注目されたが、決定的ではなさそうだ。

この試験はPD-L1発現の有無や扁平上皮腫か否かは問わずEGFRやALK変異を除外して組入れた719人を、Opdivo(360mgを三週毎点滴静注)とYervoy(1mg/kgを6週毎点滴静注)を化学療法と併用する群と化学療法だけの群に無作為化割付して、全生存期間を比較した。化学療法は扁平上皮種はpaclitaxel、それ以外はpemetrexedを、carboplatinまたはcisplatinと併用した。特徴的なのは、化学療法群は最大4サイクル(pemetrexedは維持療法として継続投与可)施行したが、四剤併用群の化学療法は最大2サイクルに留めたこと。忍容性向上を企図したものと推測される。

中間解析でハザードレシオ0.69(96.71%信頼区間0.55-0.87)、p=0.0006となった。PD-L1の発現状況や、扁平/非扁平を問わず便益が見られた由。この解析は全被験者を8.1ヶ月以上追跡した時点のものだが、学会抄録によると、12.7ヶ月時点では4剤併用群のメジアン生存期間は15.6ヶ月、化学療法群は10.9ヶ月だった。ハザードレシオは0.66で、PD-L1発現が1%未満のサブグループでは0.62、1%以上では0.64だった。

G3/4の投与薬関連有害事象発現率は各47%と38%だった。

米国で承認されたOpdivoとYevoyの二剤併用は、CheckMate-227試験のPD-L1陽性患者だけの解析で全生存期間が17.1ヶ月、化学療法群は14.9ヶ月で、ハザードレシオは0.79と上記の4剤併用の数値より大きくなっている。

MSDは扁平上皮腫と非扁平上皮腫を別の試験で行ったので比較が難しいが、Keytrudaと化学療法の三剤併用で前者はハザードレシオ0.64、後者は0.49だった。ヘッドライン・データを見る限りでは、高価なバイオ薬を二剤使うメリットは感じられない。

リンク: BMSのプレスリリース

MSD、キイトルーダのトリプルネガティブ乳癌と古典的ホジキンリンパ腫試験が成功
(2020年5月13日発表)

MSDは2月にKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のトリプルネガティブ乳癌試験の成功を発表したが、データがASCOで発表される。このKeyNote-355試験は切除不能/転移トリプルネガティブ乳癌で転移後の化学療法を初めて受ける患者を組入れて、Keytrudaを併用する効果を偽薬併用と比較した。化学療法はpaclitaxel、nab-paclitaxel、gemcitabineとcarboplatinの併用の中から医師が選んでした。主評価項目は欲張りで、CPS≧10のサブグループ、CPS≧1サブグループ、そしてintent-to-treatベースのPFSと全生存期間。

中間解析でCPS≧10サブグループ(被験者の38%を占める)のPFSが成功認定された。メジアン値は各9.7ヶ月と5.6ヶ月、ハザードレシオは0.65、p=0.0012だった。一方、CPS≧1(75%を占めた)サブグループではハザードレシオ0.74、p=0.0014となり、数値は良好だったが、成功認定の閾値を下回らなかった。intent-to-treatは0.82で、上位解析がフェールしたため有意性検定は行われなかった。

この試験は全生存期間の解析に向けて継続中。

抗PD-1/PD-L1抗体のトリプルネガティブ乳癌というと、ロシュのTecentriq(atezolizumab)を、PD-L1を発現する腫瘍浸潤免疫細胞の割合が1%以上を占める癌にnab-paclitaxelと併用することが日米欧で承認されている。PFSハザードレシオは0.60だった。数値はTecentriqのほうが良いが、KeytrudaのCPSは免疫細胞だけでなく腫瘍細胞のPD-L1発現状況も評価するのでベースが異なり、比較は難しい。いつも思うのだが、企業の壁を越えて、PD-L1検査アッセイや検査方法の標準化を進めるべきではないか。

リンク: MSDのプレスリリース

Keytrudaは古典的ホジキンリンパ腫の再発治療試験もASCOで発表される。KeyNote-204試験は自家幹細胞移植後に再発した、あるいは不適な、難治再発古典的ホジキンリンパ腫における効果を承認薬であるAdcetris(brentuximab vedotin)と比較した。結果は、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン13.2ヶ月とAdcetrisの8.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.65、p=0.00271だった。Adcetrisは一次治療にも承認されているので過去に治療歴を持つ患者も組入れられていたが、ハザードレシオは0.34と、Adcetris歴のないサブグループの0.67より良い数値になっている。G3-5治療関連有害事象の発現率は各19.6%と25.0%だった。Keytruda群では治療関連死が1例(肺炎)発生した。

この試験は17年に米国で古典的ホジキンリンパ腫の4次治療薬として加速承認された時のフェーズIVコミットメント。

リンク: 同社のプレスリリース

臍帯血由来の細胞療法の第三相造血幹細胞移植試験が成功
(2020年5月12日発表)

Gamida Cell(Nasdaq:GMDA)は、omidubicelの第三相血液癌造血幹細胞移植試験が成功したと発表した。好中球生着の中央値が12日と、標準的な臍帯血移植を施行した群の22日より有意に短かった(p<0.001)。生着成功率(per protocol、移植42日後まで評価)は各96%と88%だった。同社は今年第4四半期に米国でローリング承認申請を開始する計画。

Gamida Cellはイスラエルのバイオベンチャーで、ノバルティスが第二位株主になっている。細胞培養時の活性酸素や一酸化窒素による悪影響をニコチンアミドで抑制することによって造血幹細胞・前駆細胞の機能性を強化する、NAM技術を適用して臍帯血を処理した細胞療法がomidubicelだ。欧米で希少疾患用薬指定、米国でブレークスルー・セラピー指定を受けている。

第三相は欧米アジアの医療施設で臍帯血移植を受ける高リスク血液癌の125人を組入れた。試験薬群は感染リスクが小さく入院期間は短かった。

Intent-to-Treatの症例数は試験薬群が62人、対照群は63人だがper Protocolは各52人と58人となっており、試験薬群のほうがプロトコル通りに施行できた数がやや少ない。偶然なのか、十分な量を取得できないなどの理由があったのか、学会・論文発表が期待される。

リンク: Gamida社のプレスリリース
リンク: Horwitzらの第1/2相論文(Journal of Clinical Oncology)

サノフィ、抗CD38抗体の多発骨髄腫二次治療試験が成功
(2020年5月12日発表)

サノフィは、Sarclisa(isatuximab-irfc)の第三相IKEMA試験が成功したと発表した。データは学会発表の予定。米国で今年3月に三次治療薬として承認されたところだが、本試験に基づき二次治療に追加申請する計画。

IKEMAは1~3次の治療歴を持つ難治多発骨髄腫302人を組入れて、Kyprolis(carfilzomib)と低量dexamethasoneを併用するKdレジメンと、更にSarclisaも使うレジメンのPFS(無進行生存期間)を比較したオープンレーベル試験。抗CD38抗体の5年先輩であるジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab)も同様な内容のCANDO試験が成功、今年2月に米国で適応拡大申請された。抗CD38抗体は忍容性面の理由で数時間かけて点滴静注する必要があるが、Darzalexは数分で足りる皮注製剤が欧米で承認審査中と、先行逃げ切り体制だ。

Sarclisaはイミュノジェン(Nasdaq:IMGN)との広範な共同研究プロジェクトを通じてライセンスしたもの。

リンク: サノフィのプレスリリース

禁煙補助薬の第三相ドライアイ試験が成功
(2020年5月11日発表)

米国ニュージャージー州の新興医薬品開発会社、Oyster Point Pharma(Nasdaq:OYST)は、OC-01(varenicline)の第三相ドライアイ試験が成功したと発表した。後期第二相試験のデータと合わせて、今年下期にFDAに承認申請して、21年第4四半期に発売を狙っている。

ファイザーが禁煙補助薬として販売しているニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)部分作動剤、Chantix(和名チャンピックス)の活性成分を点鼻スプレー化したもので、鼻腔の三叉神経のnAChRを刺激して、涙の分泌を制御する副交感神経に働きかける。Oysterは米国で眼科用または点鼻薬として開発販売する権利をファイザーからライセンスした。Chantixは米国で06年に発売された薬だが、ライセンスした特許は早くても22年8月まで失効しないとのこと。

第三相のONSET-2は、ドライアイで人工涙液を用いている米国の患者758人を低用量群(0.6mg/mL、一日二回)、高用量群(1.2mg/mL、同)、コントロールに無作為化割付したダブルマスク試験。主評価項目は4週間の治療後の奏効率(シルマー試験で10mm以上増加)。結果は、各群44%、47%、26%となり、両用量とも偽薬比有意に上回った。ベースライン比で平均11.0mm、11.2mm、5.9mm増加した(両用量とも有意)。

症状面では、副次的評価項目であるEDS(Eye Dryness Score)の結果は検査方法により区々だった。COVID-2流行の影響で評価不能例が増えて統計学的な検出力が低下した面もあるようだ。

シルマー試験は涙を試験紙にしみこませて計量する。ドライアイなどの診断に使われているが、第三相の薬効評価項目として妥当なのだろうか?FDAの事前プロトコル評価を受けているのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース

MyoKardia社、症候性閉塞性肥大型心筋症の第三相が成功
(2020年5月11日発表)

MyoKardia(Nasdaq:MYOK)は、MYK-461(mavacamten)の第三相症候性閉塞性HCM(肥大型心筋症)試験が成功したと発表した。21年第1四半期に米国で承認申請する計画。筋肉を動かすミオシンやアクチンを標的とする薬が、遂にゴールが見える地点に辿り着いた。

MYK-461は心臓ミオシンのアロステリック・モジュレータとされる。ミオシンに結合して心筋の収縮性を改善する。HCM患者の2/3を占める、ミオシンなどの遺伝子異常がしばしば見られる、左室流出路(LVOT)閉塞を伴う閉塞性HCMをリードインディケーションに、非閉塞性HCMや駆出率保持型心不全にも臨床試験中。

今回の第三相は、症候性閉塞性HCMでNYHAクラスII/III、ピークLVOT勾配が50 mm/Hg以上、LVEFが55%以上の患者251人を組入れて、試験薬(一日一回経口投与、5mgで開始してECGやNYHAクラス評価、血漿濃度に基づき2.5~15mgの範囲で滴定)または偽薬を30週間投与して、症状や運動機能、QOLなどを比較した。

主評価項目は臨床的反応率。反応の定義は、NYHAクラスが1段階以上改善し且つCPET(心肺運動負荷試験)でpVO2(最大酸素摂取量)勾配が1.5 mL/kg/分以上改善、または、NYHAクラスが悪化せず且つpVO2が3.0 mL/kg/分以上改善。結果は、試験薬群が37%、偽薬群は17%、p=0.0005となった。

副次的評価項目も全て、有意差があった。pVO2(ベースライン値は19 mL/kg/分)は各+1.4 mL/kg/分と-0.05 mL/kg/分、NYHAクラスの1段階以上改善達成率は各65%と31%だった。忍容性は良好で、治療時発現有害事象や深刻有害事象の発現率は両群大差なかった。

同社は14年にサノフィと開発提携したが19年に解消、米国の売上ロイヤルティ権もバイアウトしたため後発債務はないようだ。

リンク: Myokardia社のプレスリリース

Genfit、PPAR作動剤の第三相NASH試験がフェール
(2020年5月11日発表)

フランスの新興バイオ企業、Genfit(Nasdaq:GNFT)は、GFT-505(elafibranor)の第三相NASH(非アルコール性脂肪肝炎)試験の中間解析がフェールしたと発表した。第二相もフェールだったことや、類似した作用機序を持つpioglitazoneも有効性を示さなかったことを考えると、サプライズではないだろう。

このRESOLVE-IT試験は、線維症(F2またはF3)を伴うNASH(NASスコア≧4)の1070人をelafibranor群(120mgを一日一回、経口投与)と偽薬群に2:1割付して72週間治療した。主評価項目のNASH解消且つ線維症悪化回避成功率は各19.2%と14.7%、p=0.0659となり、有意差が出なかった。副次的評価項目の一つである、線維症が1ポイント以上改善した患者の比率は各24.5%と22.4%、p=0.4457と大差なかった。

elafibranorはPPARアルファとガンマの作動薬。PPAR作動剤は主として二型糖尿病治療薬として注目され、多くのコンパウンドが臨床中後期に進んだが、先行品で肝毒性や心不全リスク、癌原性懸念などが浮上し、ブームが下火になった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


サノフィ、寒冷凝集素症用薬を承認申請
(2020年5月14日発表)

サノフィは、sutimlimabを寒冷凝集素症(CAD)用薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月13日。

CADは古典的補体経路の異常活性化を伴う慢性自己免疫性溶血性貧血。推定患者数は日米欧で12000人の希少疾患だ。sutimlimabは補体系のC1複合体のセリンプロテアーゼを標的とするヒト化抗体。サノフィが18年に116億ドルで買収したバイオヴェラティブ社が、バイオジェンからスピンアウトした直後の17年5月に、True North Therapeuticsを買収して入手したコンパウンドだ。

第三相試験では24人に点滴静注したところ、反応率は54%だった。複合評価項目のうち、ヘモグロビンの増加/回復奏効率は62%。輸血回避達成率は71%だった。

日本でも4月に承認申請された。

リンク: サノフィのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ブループリント社、GIST治療薬の適応拡大ならず
(2020年5月15日発表)

ブループリント・メディスンズ(Nasdaq:BPMC)は、KIT/PDGFRアルファ阻害剤のAyvakit(avapritinib)を第一相の切除不応/転移消化管間質腫瘍(GIST)試験に基づいて米国で承認申請し、今年1月、PDGFRアルファにエクソン18変異を持つサブタイプに承認を得た。四次治療でも申請していたが、審査期限前に第三相実薬対照試験がフェールしたため、審査完了通知を受領した。GISTにおけるこれ以上の開発は断念し、全身性肥満細胞腫などに集中する考え。

第一相試験の4次治療例111人におけるORR(客観的反応率、担当医評価)は22%、メジアン反応持続期間は10.2ヶ月と、まあまあな内容だった。第三相のVOYAGER試験は3/4次治療を受ける患者を組入れてバイエルのStivarga(regorafenib)と比較したが、メジアンPFSは各4.2ヶ月と5.6ヶ月、ORR(客観的反応率)は各17%と7%と、案外な結果になった。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、CAR-Tは7月に再承認申請へ
(2020年5月13日発表)

BMSとブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)は、今年3月に米国でbb2121(idecabtagene vicleucel)を再発難治多発骨髄腫用薬として承認申請したが、受理されなかったことを明らかにした。7月末までにCMC(化学、製造、管理)に関する追加情報を収集して再承認申請する考え。

bb2121はBCMAを標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)。昨年11月に740億ドルで買収したセルジーンがブルーバード・バイオから米国の共同開発販売権と海外の生産販売権を取得したもの。セルジーンの旧株主は開発後期パイプライン三品に関するCVR(後発価値権)をBMSから取得しており、全てが所定の国で所定の期限までに承認されたら権利一個当り9ドルを得ることができる。三品のうち、ozanimodは今年3月に承認、JCAR017はPDUFAが今年11月16日に延期されたがCVRの所定期限は年末なので未だ希望は残る。しかし、bb2121が21年3月までに承認されないとCVRがただの紙切れになってしまう。まだ満願の可能性が残っているものの、今回の発表を受けてCVRの市場価格が下落した。

リンク: BMSのプレスリリース

スノビオン、dasotrelineの承認申請を撤回
(2020年5月13日発表)

大日本住友製薬の米国子会社であるスノビオン社は、dasotralineを中等症から重症の過食性障害の治療薬として米国で承認申請していたが、審査期限である5月14日の前日に、申請撤回を発表した。追加試験を求められた模様だ。ADHDでも18年に審査完了通知を受領しており、開発が難航している。

スノビオンの前身であるセプラコー社は光学異性体技術を用いて喘息症や不眠症の治療薬の開発に成功した。dasotralineはファイザーの選択的セレトニン再取込阻害剤Zoloft(sertraline)の活性代謝物の光学異性体で、当初はトリプル再取込阻害剤と見なされていたが、実際はドパミンとノルエピネフリンの再取込を阻害するDNRIであることが判明した。半減期が47時間から77時間と長く、一日一回投与だと血中濃度が定常状態に達するまで2週間かかる。09年に第二相鬱病試験がフェール。ADHDの第二相や第三相は区々な結果になった。過食性障害は第2/3相試験のデータしか見る機会がなかったが、治療効果は穏やかに見えた。

リンク: Sunovionのプレスリリース


【承認】


FDA、GIST4次治療薬を3ヶ月前倒しで承認
(2020年5月15日発表)

FDAは、米国マサチューセッツ州のDeciphera Pharmaceuticals(Nasdaq:DCPH)のQinlock(ripretinib)を、消化管間質腫瘍(GIST)の4次治療薬として承認した。Real Time Oncology Reviewという審査期間短縮を目指すパイロットプログラムの対象で、審査期限は8月だが3ヶ月の前倒しになった。複数国連携審査を目指すProject Orbisの対象だが、並行して審査しているオーストラリアやカナダの承認審査機関はまだ結論を出していない。

GISTはKITやPDGFRアルファの異常活性化がドライバーになっていることが多く、imatinibなどのKIT阻害剤が広く使われているが、抵抗性変異が起きることもあるので、Qinlockや上記のavapritinibのような、変異型にも活性を持つ新薬が重要になる。Qinlockの第三相試験では、imatinibやsunitinib、regorafenibの三剤の治療歴を持つ129人に2対1割付したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立放射線学的評価)がメジアン27.6週間と偽薬群の4.1週間を上回り、ハザードレシオは0.15、p<0.0001だった。ORR(客観的反応率)は各9.4%と0%だったが有意ではなかった。メジアン生存期間は各15.1ヶ月と6.6ヶ月と差が広がり、ハザードレシオは0.36だったが、上位解析のORRがフェールしたため有意性は確認できなかった。

深刻副作用は皮膚がん、高血圧、心駆出低下、催奇性(授乳も避ける、パートナーの男も注意)。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Deciphera社のプレスリリース

FDA、オプジーボとヤーボイの併用を非小細胞性肺癌の一次治療に承認
(2020年5月15日発表)

FDAは、PD-L1陽性(≧1%)でEGFRやALKの変異はない転移/難治非小細胞性肺癌(NSCLC)の一次治療にBMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用する適応拡大を承認した。CheckMate-227試験のパート1aのエビデンスに基づくもので、メジアン生存期間が17.1ヶ月と化学療法群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.79、p=0.0066だった。深刻有害事象の発現率は58%。

NSCLCでMSDの後塵を浴びていたBMSにとっては嬉しい承認。但し、EUは、CHMPが上記試験の主評価項目などが途中で何度も変更されたことに難色を示したため、申請撤回となった。上記のChackMate-9LA試験に基づいて、化学療法と4剤併用で欧米適応拡大申請中。

日本は二剤併用を一次治療と再発治療の両方で、PD-L1陽性NSCLCに一部変更申請中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

FDA、ポマリストをカポジ肉腫に承認
(2020年5月15日発表)

FDAは、BMSの多発骨髄腫用薬Pomalyst(pomalidomide、和名ポマリスト)をカポジ肉腫に適応拡大することを承認した。多剤併用療法がフェールして発症したAIDS患者にアドオンしたり、HIV陰性の成人に用いる。米国立癌センターの単群試験で、HIV患者18人におけるORRは67%、HIV陰性10人では80%だった。カポジ肉腫は米国で100万人当たり年6人が発症する超希少疾患。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

FDA、Clovis社のPARP阻害剤をBRCA変異前立腺癌に効能追加
(2020年5月15日発表)

FDAは、米国コロラド州のClovis Oncology(NASDAQ:CLVS)のRubraca(rucaparib)をBRCAの生殖細胞系列/体細胞系列有害変異関連の転移性去勢抵抗性前立腺癌に用いる効能追加を承認した。アンドロゲン標的薬とタクサン系薬による治療歴を持つ成人に、600mgを一日二回経口投与する。精巣全摘を受けていない患者はGnRHアナログを併用する。

第二相試験の反応率データに基づく加速承認。62人に対するcORR(確認客観的反応率、盲検独立放射線学的評価)は44%で、反応例の56%は6ヶ月以上持続した。

警告・注意は骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病の二次的腫瘍と催奇性。

Rubracaは11年にファイザーからライセンスしたPARP阻害剤で、ファースト・イン・クラスで臨床入りしたことで知られる。BRCA有害変異卵巣癌の三次治療や白金感受性卵巣癌の二次治療に応答した患者の維持療法承認されている。

BRCA変異陽性転移去勢抵抗性前立腺癌ではアストラゼネカもPARP阻害剤のLynparza(olaparib、和名リムパーザ)の効能追加を欧米で申請中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Clovis社のプレスリリース

リムパーザ、卵巣癌一次治療後維持療法にベバシズマブ併用が承認
(2020年5月11日発表)

FDAは、アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)をHRD(相同組換え修復障害)陽性進行卵巣癌の一次治療後維持療法としてbevacizumabと併用することを承認した。PAOLA-1試験の探索的解析でPFS(無進行生存期間、担当医評価)の偽薬・ bevacizumab併用群比ハザードレシオが0.33と良好な結果が出たため。HRDの有無を判定するコンパニオン診断薬、Myriad Genetics myChoice CDxテストも同時に承認された。

この試験の主評価項目はBRCA有害変異などのHRDの有無を問わない、全集団のPFSだった。ハザードレシオ0.59、ログランクp<0.0001、と良好な結果になったが、BRCA有害変異を持たないサブグループのハザードレシオは0.71、HRDを持たないサブグループでは0.92と偏りがあったため、FDAの判定が注目された。EMAと比べて、遺伝子型による事後的サブグループ分析に慎重な傾向があるからだ。FDAがこのサブグループ分析を受け入れたのは、HRDの検査は無作為化割付後に行われたのだが、二重盲検下でサブグループ分析を意図して実施されたので、判定の信憑性が十分に担保されていなかったり、盲検解除後のただの後顧的分析だったりする事例と同一視すべきではないと判断したのだろう。

それにしても、PARP阻害剤や抗PD-1/PD-L1抗体の応答予測因子を決定するのは難しい。Lynparzaは米国で複数の効能が承認されているが、進行卵巣癌の一次治療として白金薬レジメンに完全反応/部分反応だった患者の維持療法に用いる場合、bevacizumab併用はHRD変異が対象となるが、モノセラピーは生殖細胞系または体細胞系のBRCA有害変異を持つ患者だけとなる。再発後の白金レジメンに完全反応/部分反応だった患者の維持治療法に用いる場合は、これらの変異を問わず、モノセラピーが適応になる。進行卵巣癌の4次治療に用いる時は、生殖細胞系BRCA有害変異にモノセラピーである。

他の腫瘍では、化学療法歴を持つher2陰性転移性乳癌と、転移性膵腺腫で白金レジメンによる一次治療に進行しなかった患者の維持療法は、生殖細胞系BRCA変異にモノセラピーとなっている。

更に、Tesaro(Nasdaq:TSRO)のZejula(niraparib)は4月に米国で進行卵巣癌の白金薬一次治療後の維持療法として単剤投与することが承認されたが、HRDの有無を問わず適応になる。

適応範囲は個々の試験の成績に基づいて判断するのが当然だが、これだけバラバラだと、本当にそれが適切なのか、疑問を持たざるを得ない。医療現場では、類薬のうちどれをストックし個々の患者にどれを使うか、決定するのが大変だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース





今週は以上です。

2020年5月9日

第945回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:FDA、家庭で採取した唾液も検査できるRNA検査キットを承認 
  • TG社、抗CD20抗体とPI3Kデルタ阻害剤の併用CLL試験が成功 
  • 抗PD-1抗体の基底細胞癌試験が成功 
  • アムジェン、オテズラの軽中度尋常性乾癬試験が成功 
  • ニューロン社、sarizotanのRett症候群試験はフェール 
  • FDA、RET変異癌の分子標的薬を承認 
  • FDA、METエクソン14スキップ型非小細胞性肺癌用薬を承認 
  • フォシーガが左室駆出率低下心不全に適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:FDA、家庭で採取した唾液も検査できるRNA検査キットを承認
(2020年5月8日発表)

FDAは、4月に緊急時使用認可(EUA)を与えたRutgers Clinical Genomics LaboratoryのTaqPath SARS-CoV-2 Assayに関して、特定のキット(Spectrum Solutions LLCのSDNA-1000 Saliva Collection Device)を用いて被検者が自分で取得し郵送した標本を検査することも認めた。家庭採取の鼻ぬぐい液に対応した核酸検査は4月にLaboratory Corporation of America(LabCorp)のCOVID-19 RT-PCR TestがEUAを受けたが、唾液にも対応したアッセイは初めて。報道によると、価格は一回分が150ドル、キャパは一日一万件程度だが拡大中とのこと。検査は上記ラボで行う。

このアッセイは、中咽頭、上咽頭、前鼻、または中鼻甲介のぬぐい液や唾液中のRNAを検出する。唾液の採取から48時間後に行われた検査の成績は、上咽頭ぬぐい液(26例)または中咽頭ぬぐい液(4例)で陽性判定された30例の感度が100%(95%信頼区間下限88.7%)、陰性判定31例(上咽頭27例と中咽頭4例)の特異度は100%(同88.7%)だった。

因みに、LabCorpのほうの成績は、採取72時間後に検査して、陽性標本36例は全て陽性、陰性30例は全て陰性だった。自分で鼻ぬぐい液を取るのは痛みやくしゃみが気になるが、説明書を読むと、綿棒を奥まで差し込む必要はなく球状の部分が入れば十分と書いてある。

COVID-19については鼻と喉の両方からぬぐい液を取るべきとか言われているので、意外感がある。もし本当なら、このやり方を日本でも検討してみるべきではないか。

尚、どちらも医師の処方が必要。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Rutgers Clinical Genomics Laboratory TaqPath SARS-CoV-2 AssayのEUA要旨
リンク: LabCorp COVID-19 RT-PCR TestのEUA要旨


【新薬開発】


TG社、抗CD20抗体とPI3Kデルタ阻害剤の併用CLL試験が成功
(2020年5月5日発表)

米国のTG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)は、慢性リンパ性白血病(CLL)におけるTG-1101(ublituximab)とTGR-1202(umbralisib)の併用法(U2レジメン)の効果を検討した第三相試験が中間解析で成功したと発表した。年末までに承認申請する計画だ。

TG-1101はロシュのGazyva(obinutuzumab)と同様な、糖鎖を改変してADCC(抗体依存的細胞毒性)を増強した抗CD20抗体だが、結合するエピトープや、キメラ抗体で固定領域がIgG1型であることなどが異なる。TG-11202はPI3KデルタやCK-1エプシロンの阻害薬で、難治再発の辺縁帯リンパ腫や濾胞性リンパ腫のローリング承認申請が6月までに完了する見込み。どちらも導入品だ。

今回のUNITY-CLL試験は、CLLの初治療・再発治療を受ける420人をU2レジメン群とGazyva・chlorambucil併用群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を比較した。データ安全性監視委員会が中間解析で成功認定した。データは学会発表の予定で、p値が0.0001を下回ったことだけが明らかにされた。

リンク: TG社のプレスリリース

抗PD-1抗体の基底細胞癌試験が成功
(2020年5月5日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)の基底細胞癌試験が成功したと発表した。進行性でヘッジホッグ・パスウェイを阻害する薬に不応不耐の患者に350mgを3週毎に点滴静注したところ、局所進行性84例におけるORR(客観的反応率、独立中央評価)が29%となり、85%で反応が1年以上持続した。転移性28例では各21%と83%だった。深刻有害事象の発現率は32%、有害事象による治験離脱は13%だった。

基底細胞癌は手術などで治癒できるが、米国で年2万人程度が診断される進行性基底細胞癌は年3000人が死亡と、治療が難しい。

Libtayoはリジェネロンがヒト抗体発現プラットフォームを用いて開発した抗PD-1抗体で、類薬と異なり固定領域がIgG4型。一般に、癌細胞のように破壊すべき細胞を標的とする場合はIgG1型のほうが良いとされるが、今のところ、治療効果に違いがあるか明確ではない。

18~19年に欧米で治癒的摘出術/放射線療法が適応にならない転移/局所進行性皮膚扁平上皮癌に承認された。適応拡大では、先月、PD-L1高発現の非小細胞性肺癌の一次治療単剤投与試験が成功したことが発表された。

リンク: 両社のプレスリリース

アムジェン、オテズラの軽中度尋常性乾癬試験が成功
(2020年5月6日発表)

BMSはセルジーンを買収するに当たって反トラスト規制をクリアするためにセルジーンのPDE-4阻害剤、Otezla(apremilast、和名オテズラ)の事業権をアムジェンに譲渡した。このようなケースでは代価が抑えられがちだが、Otezlaは134億ドルで、株式投資アナリストからは現在価値と比べて1割以上割高と見なされていた。適正利潤を得るためには適応拡大が不可欠だが、まず、軽中度尋常性乾癬の偽薬対照試験が成功した。

既に中重度尋常性乾癬と中重度乾癬性関節炎、ベーチェット病などに承認されているが、今回の組入れ条件を中重度尋常性乾癬試験と比較すると、体表面積に占める患部の割合が2~15%(中重度試験では10%以上)、sPGAスコアの値が2~3(3以上)、PASIスコアの値が2~15(12以上)となっており、名称通り、一部はオーバーラップしている。用量用法は30mgを一日二回、経口投与で同じ。

主評価項目はsPGAに基づく反応率、副次的評価項目は体表面積に占める比率に基づく反応率や増減、PASIの増減など。数値は未発表。

アムジェンは適応拡大申請の計画。

リンク: アムジェンのプレスリリース

Newron社、sarizotanのRett症候群試験はフェール
(2020年5月4日発表)

イタリアのNewron Pharmaceutical S.p.A.(SIX:NWRN)は、ドイツのメルクからライセンスした5-HT1aアゴニスト、sarizotanをRett症候群治療薬として開発していたが、第三相がフェールし開発を止めることを明らかにした。主評価項目の覚醒時無呼吸エピソードの削減も、副次的評価項目も、達成されなかった。

Rett症候群は主として女性が患う神経発達障害で、7割の患者が無呼吸や過呼吸、呼吸障害を患う。95%以上の患者でMECP2遺伝子の変異が見られる。有病率は女性1万人当たり0.5~1人とされる。

リンク: Newronのプレスリリース(pdfファイル)


【承認】


FDA、RET変異癌の分子標的薬を承認
(2020年5月8日発表)

FDAは、Retevmo(selpercatinib)をRET融合/変異を持つ非小細胞性肺癌や甲状腺癌の薬として加速承認した。イーライリリーの承認申請が受理されたのが今年1月、審査期限は今年第3四半期とされていたので、前倒しだ。報道によると、WAC(卸取得価格)は30日分が20,600ドルとのこと。昨年2月に80億ドルで買収したLoxo Oncologyが開発したRET阻害剤。RET変異の承認された診断薬はない。次世代シーケンサーが最適と言われているようだ。

適応と治験成績は、まず、転移性非小細胞性肺癌は成人でRET融合陽性が適応になる。白金薬治療歴を持つ105人のORR(客観的反応率)は64%、初治療39人では84%だった。甲状腺癌は12歳以上で全身性治療を必要とする患者のうち、進行/転移甲状腺髄様腫でRET変異陽性は承認薬であるcabozantinib且つ又 vandetanibによる治療歴を持つ55人ではORR69%、承認されている薬による治療歴のない88例では73%だった。また、進行/転移甲状腺癌で放射性ヨウ素治療に不応不適のRET融合陽性は、前治療が放射性ヨウ素だけの8人ではORR100%、他の治療も受けた19人では79%だった。何れも、反応した患者の6割以上は6ヶ月以上、持続した。

160mg(低体重では120mg)を一日二回、経口投与する。深刻有害事象は肝毒性、血圧上昇、QT延長、出血、アレルギー反応など。催奇性がある。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA、METエクソン14スキップ型非小細胞性肺癌用薬を承認
(2020年5月6日発表)

FDAは、Tabrecta(capmatinib)をエクソン14スキップ型のMET遺伝子変異を持つ転移性非小細胞性肺癌用薬として承認した。この変異は転移性非小細胞性肺癌の新患の3~4%で見られ、米国では年4000~5000人が適応になると推測されている。このタイプの分子標的薬の承認は初めて。高力価高度選択的MET受容体チロシンキナーゼ阻害剤で、ノバルティスが09年にインサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスして開発したもの。組織標本の判定に用いるコンパニオン診断薬として、Foundation Medicine社のFoundationOne CDxアッセイも同日承認された。F社は血液標本を評価するシステムも承認申請している。

400mg錠を一日二回、経口投与した臨床試験で、未治療患者28人におけるORR(客観的反応率、盲検独立評価委員会方式)が68%、メジアン反応持続期間は12.6ヶ月、既治療69人では各41%と9.7ヶ月だった。治療時発現有害事象は末梢浮腫や胃腸系副作用など。光毒性がある。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

フォシーガが左室駆出率低下心不全に適応拡大
(2020年5月6日発表)

アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin、欧州名Forxiga、和名フォシーガ)を左室駆出率の低下を伴う心不全の転帰改善に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。SGLT2阻害剤は血糖治療薬として承認されているが、利尿効果も持ち、心筋梗塞などのリスクを抑制することができる。今回の適応拡大は血糖値が高めな糖尿病予備群や正常な患者も組入れたDAPA-HF試験に基づくもので、心不全による入院/緊急受診、または心血管死の複合評価項目のハザードレシオが0.74と、SGLT2阻害剤以外の薬を使った対照群より良好な転帰となった。Number-Needed-to-Treatは21と、これも良好な数値が出た。

日本でも慢性心不全に効能追加申請中。左室駆出率があまり低下していない患者にも承認するのか、これを機に欧米と同様に低下型と保持型に分けて承認するのか、機構の判断が注目される。

ところで、本題から離れるが、先日、アストラゼネカはフォシーガをCOVID-19の合併症の治療に用いる臨床試験を開始すると発表した。心血管や腎臓の保護作用に注目し、心血管、代謝、腎臓の合併症リスクを持つ患者900人を組入れて、臓器不全の新発・悪化や全死亡の抑制を図る。

COVID-19の重症患者ではケトアシドーシスが起きやすいためSGLT2阻害剤を服用していたら他の薬にスイッチすべし、というエキスパート・オピニオンもあるようなので、表と出るか、裏と出るか、注目される。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース





今週は以上です。

2020年5月2日

第944回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:Modernaが今四半期中にワクチンのP2へ 
  • ロシュのSMA用薬、1型試験も成功 
  • リジェネロンらの抗PD-1抗体も非小細胞性肺炎試験が成功 
  • MSD、ertugliflozinの心血管アウトカム試験は非劣性に留まる 
  • BMS、経口アザシチジンを承認申請 
  • CHMPがノバルティスの喘息用トリプルコンビ薬などの承認を支持 
  • COVID-19:FDA、レムデシビルを特例承認 
  • FDA、GSKのPARP阻害剤を卵巣癌一次治療後維持療法として適応拡大 
  • EMA、フルオロウラシル系抗癌剤を使う前にDPD欠損症の検査を推奨 


【今週の話題】


COVID-19:Modernaが今四半期中にワクチンのP2へ
(2020年4月27日発表)

米国の新興新薬開発会社、Moderna(Nasdaq:MRNA)は、FDAにCOVID-19ワクチンの治験許可申請を行った。NIAID(米国立アレルギー及び感染症研究所)が3月に開始した第一相試験を礎に、今四半期中に第二相試験を開始、順調なら秋にも第三相へ進む見込み。

同社はmRNAを投与して抗体を誘導する技術に特化しており、CMVワクチンやMSDにライセンスしたRSVワクチンが第二相試験段階。COVID-19に関しては、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)やBARDA(生物医学先端研究開発局)、NIAIDの支援を得てmRNA-1273を開発している。第一相試験では25mcg、100mcg、250mcgをテスト、18~55歳のコフォートは45人を組入れ完了、56~70歳と71歳以上のコフォートを組入れ中。

第二相は18~55歳と55歳以上を対象に偽薬、50mcg、250mcgを28日置いて2回接種し、2回目の接種から12ヶ月間、追跡する方向でFDAと相談を進めている由。長期間だが、免疫の持続性(数年維持されるのか、インフルエンザのように毎年接種しなければならないのか)は重要な検討課題だ。

リンク: Modernaのプレスリリース


【新薬開発】


ロシュのSMA用薬、1型試験も成功
(2020年4月28日発表)

ロシュがPTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)からライセンスして開発したSMN2スプライシング修飾剤、RG7916(risdiplam)は、脊髄筋委縮症(SMA)の治療薬として欧米で承認申請中で、米国では5月に審査結果が出る見込み。SMAのI~III型全てを目標適応としているが、今回、I型SMA試験の仮説検証フェーズの結果が公表された。詳細はAAN(米国神経学会議)のバーチャル・プレゼンテーションで発表される予定。

I型は幼少期に発症し、II型やIII型より重症。第2/3相のFIREFISH試験は、パート1の用量決定フェーズでは21人、パート2の仮説検証フェーズでは1~7ヶ月児の41人を組入れて、一日一回、経口投与した。12ヶ月の治療後に支え無しで5秒間以上静坐できるかどうか検査したところ、パート2では29%が達成した。自然歴ではゼロで、統計的に有意な差があった。メジアン15ヶ月治療時点の生存率は93%と、これも自然歴より高かった。主な深刻有害事象は肺炎(31%)など。

リンク: ロシュのプレスリリース

リジェネロンらの抗PD-1抗体も非小細胞性肺炎試験が成功
(2020年4月27日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)の第三相局所進行性/転移性非小細胞性肺癌(NSCLC)一次治療試験が予定より早く成功したと発表した。PD-L1著高発現(≧50%)の患者を組入れて、全生存期間を標準的化学療法と比較したところ、中間解析でハザードレシオが0.676となり、統計的に有意な差があった。年内に欧米で適応拡大申請する予定。

LibtayoはPD-1を標的とするIgG4型抗体医薬。局所進行性/転移性皮膚扁平上皮癌で根治的手術や放射線療法の対象にならない患者向けに欧米で承認されている。

MSDのKeytruda(pembrolizumab)もPD-L1著高発現NSCLCの一次治療として承認されており、化学療法併用や他にも多くの腫瘍に使うことができる。医療施設で一剤だけストックするとしたら適応が多い方が好都合なので、Libtayoの適応拡大が承認されても、売上嵩上げ効果は決して大きくはないだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

MSD、ertugliflozinの心血管アウトカム試験は非劣性に留まる
(2020年4月28日発表)

MSDは、2020年第1四半期決算発表プレスリリースの中で、ファイザーが創製し両社で共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Steglatro(ertugliflozin)の心血管アウトカム試験が成功したが、優越性解析はフェールしたことを明らかにした。データはADA米国糖尿病学会科学部会で発表する予定。

この、VERTIS CV試験は、二型糖尿病で心血管疾患を持つ8238人を組入れて、標準療法にSteglatroを追加する効果を偽薬追加と比較した。MACE(主要有害心血管イベント)の非劣性が確認され、米国承認時のフェーズIVコミットメントを果たした。

意外なのは、主要副次的評価項目に設定された様々な優越性解析がフェールしたこと。心血管死/心不全入院の複合評価項目も、心血管死も、腎臓転帰(腎臓疾患による死亡、透析や移植、または血清クレアチニン倍化)も、フェールしたようだ。

他のSGLT2阻害剤は心血管アウトカム試験で好成績を上げた。Steglatroがなぜ非劣性に留まったのか、学会発表が注目される。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


BMS、経口アザシチジンを承認申請
(2020年5月1日発表)

BMSは、昨年11月に買収したセルジーン社の開発品であるCC-486(azacitidine)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は9月3日。

CC-486は骨髄異形成症候群(MDS)の治療などに承認されているDNAメチル化阻害剤を、注射ではなく経口投与できるようにした。第三相試験では、造血幹細胞移植が不適または患者が望まない急性骨髄性白血病で、集中化学療法による導入療法で完全反応(血球回復だけが不十分でも可)した患者の維持療法としての効果を検討したところ、メジアン生存期間が24.7ヶ月と偽薬群の14.8ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.69、統計的に有意だった。有害事象による治験離脱は各13%と4%で増加した。G3以上の有害事象は骨髄抑制とその合併症が中心。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがノバルティスの喘息用トリプルコンビ薬などの承認を支持
(2020年4月30日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、4月の会合で、ノバルティスのEnerzair Breezhalerなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Enerzair Breezhalerは、長期作用性ベータ2作用剤のindacaterol、長期作用性ムスカリン拮抗剤のglycopyrronium bromide、吸入コルチコステロイドのmometasone furoateを配合した固定用量合剤。喘息症で長期作用性ベータ2作用剤と吸入コルチコステロイドを併用しても管理不良で前年に1回以上、増悪した患者がステップアップする。indacaterolは自社開発、glycopyrronium bromideはそーせい(TSE:4565)が05年に買収した会社がVecturaと共同開発したものをインライセンス、momentasoneは06年にシェリング・プラウ(当時)とのコンビ薬提携の成果と開発歴は長い。

今時なのは、オプションで電子センサー付きの吸入ディバイスを選べること。吸入すべき量や服用歴をスマホのアプリに送信することができる。

リンク: EMAのプレスリリース(4/30付)
リンク: ノバルティスのプレスリリース(5/1付)

ファイザーのDaurismo(glasdegib)はSMO(smoothened inhibitor)阻害剤。急性骨髄性白血病または高リスク骨髄異形成症候群の新患で75歳以上または集中的化学療法が不適な患者に、低量cytarabineと併用することが支持された。第二相試験でメジアン生存期間が8.8ヶ月とcytrabine群の4.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.46、統計的に有意だった。深刻有害事象の発現率は79%で、骨髄抑制による合併症が中心。米国では18年11月に承認された。

BMSのReblozyl(luspatercept)はActRⅡBの細胞外領域と免疫グロブリンG1の固定領域の融合たんぱく。ベータサラセミアや骨髄異形成症候群による輸血依存貧血の治療に用いることが支持された。昨年11月に買収したセルジーンがAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)から共同開発販売権を取得したもの。米国では昨年11月に承認されている。

リンク: BMSのプレスリリース(4/30付)

適応拡大では、BRAF-V600変異陽性悪性黒色腫に承認されているBRAF阻害剤、Braftovi(encorafenib、和名ビラフトビ)をBRAF-V600E変異陽性の転移性結腸直腸癌の再発治療にcetuximabと併用することが支持された。ファイザーが昨年買収したArray BioPharmaの製品で、欧州などの権利はピエール ファーブルが保有している。米国では今年4月に適応拡大が承認された。日本は小野薬品が一変申請中。

エビデンスとなる臨床試験では、Mektovi(binimetinib、和名メクトビ)も併用するトリプレットの延命効果をirinotecanとcetuximabなどを併用する標準療法と比較したところ、有意に上回った。ところが、ダブレットの群も標準療法を有意に上回り、トリプレットとダブレットの探索的解析では有意な差はなかった。このため、日本と異なり、欧米ではダブレットが承認/承認申請された。

次に、イーライリリーのTaltz(ixekizumab、和名トルツ)を体軸性脊椎関節炎(axSpA)の治療に用いることが支持された。既存療法に十分に反応しない、特徴的なX線画像が現れるr-axSpA、または、現れないnr-axSpAが適応になる。Taltzは抗IL-17A抗体で中重度乾癬などに承認されている。

次に、アレクシオン ファーマシューティカルズの長期作用性抗C5補体抗体、Ultomiris(ravulizumab、和名ユルトミリス)を非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の治療に用いることが支持された。体重10kg以上で、補体阻害剤歴を持たない、あるいは同社の類薬であるSoliris(eculizumab)による3ヶ月以上の治療歴を持ち反応した患者が適応になる。米国では昨年10月に適応拡大が認められている。

Ultomirisは発作性夜間ヘモグロビン尿症に承認されている。Solirisのライフサイクルマネジメントという位置付けなので、今後もキャッチアップ適応拡大が進められることだろう。


【承認】


COVID-19:FDA、レムデシビルを特例承認
(2020年5月1日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のRNAポリメラーゼ阻害剤、GS-5734(remdesivir)を重度COVID-19治療薬として特例承認した。Emergency Use Authorizationという制度に基づくもので、これまでに様々なウイルス/抗体検査キットや人工呼吸器などが承認されている。COVID-19の大流行が鎮静化すれば解除されることになるが、数年は現実化しないだろう。EUもローリング承認審査が始まった。日本も特例承認に向かうだろう。

武漢で小規模な感染が確認されてから5ヶ月程度でここまで来たのは偉業だ。承認のエビデンスとなる臨床試験を挙行したNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)の所長であるAnthony S. Fauci博士は、HIV/AIDSの初めての治療薬であるAZT(満屋博士がNIAIDの上部機関であるNIHで開発した)になぞらえて、試合を決める決定打ではないが、これを皮切りに治療法が進歩していくだろうと述べた。

実用化の問題点はトリアージだ。ギリアドによると、手持ちは150万回分(10日コース換算で14万人分程度)、10月までの供給が36万人分、年末までに総計100万人分を用意する計画。一方、世界の累計感染者数は既に300万人以上、回復・死亡を除いても200万人を越えるので、全く足りない。感染者の多くは症状が軽く、そのため、治療効果も小さいだろうから、重症患者に限定使用することになる。

そこで、FDAが承認した適応を見ると、COVID-19感染症が検査で確認された、または疑われる、重度疾患で入院した成人と小児、となっている。ここで重度疾患とは、血中酸素量が低下、酸素補給が必要、または侵襲的人工呼吸が必要な状態で、日本でいえば、中等症または重症に相当するのではないか。

陽性確認前に投与を開始することが認められたのはプラクティカルだが、深刻な副作用も伴うので、検査を全くしないというわけにはいかないだろう。どこの国でも検査件数を増やすのに四苦八苦しているが、remdesivirの承認でニーズが一層高まるだろう。少なくとも、過去に私自身が考えていた、陽性でも陰性でも治療法は同じなのだから検査は必ずしも必要ではないと主張することは不可能になった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 米国の医療従事者向けファクトシート(pdfファイル)
リンク: EMAのプレスリリース(4/30付)

さて、改めてremdesivirのエビデンスを概観すると、一番重要なのはNIAIDのACTT試験だ。欧米アジアの68施設で肺炎を合併したCOVID-19入院患者1063人を組入れた無作為化割付偽薬対照試験で、独立データ安全性監視委員会が中間解析で成功認定した。記者会見などで発表されたデータによると、退院または通常の活動水準までに回復するまでの期間が偽薬群より31%短かった(p<0.001)。メジアン値はremdesivir(最大10日間投与)群が11日、偽薬群は15日だった。死亡率は各8.0%と11.6%で、有意水準には届かなかった(p=0.059)ものの、安心材料だ。

リンク: NIAIDのプレスリリース(4/29付)

ギリアドが主導した二本の試験のうち、重症患者を組入れたSIMPLE試験のヘッドラインも公表された。NIAIDなどが採用した10日コースと5日コースを比較した試験で、症状改善(退院から死亡までを7段階に分けて、第14日までに2段階以上改善)のオッズ・レシオを検討したところ、0.75(95%信頼区間0.51-1.12)と有意差が無かった。メジアン値は10日コースが11日、5日コースは10日。第14日までに退院した患者の比率は各52.3%と60.0%だった(p=0.14)。

偽薬群が設定されていないのでremdesivirの治療効果を計測することはできないが、薬剤の供給が限られる中、患者によっては5日で足りるなら好都合だ。具体的にどの程度の重症度なら大丈夫なのか、詳細な情報公開が望まれる。

尚、この試験は重症患者といっても侵襲的人工呼吸は対象外のようなので、日本でいえば中等症試験というところか。

リンク: ギリアドのプレスリリース(4/29付)

最後に、中国で実施された重症患者試験の結果がLancet誌に刊行された。先週号で、WHOが手違いで概要をリークしてしまった件についてコメントしたが、当方の理解が誤りだったことが判明したため、付記したい。

この試験は発症12日以内の入院肺炎患者に10日コースを施行し、偽薬と効果を比較した。両群とも、Kaletra(lopinavirとritonavirの合剤)やインターフェロン、ステロイドなどの使用が許可されていた。症状改善(6段階で評価し2ポイント以上改善、または退院)するまでの期間が偽薬群はメジアン21日、remdesivir群は15日と想定し452人を組入れる計画だったが、流行が穏やかになったことや、病床不足により受け入れを制限せざるを得なくなったことから、237人の組入れに留まり打ち切られた。

解析結果は、remdesivir群はメジアン症状改善期間が21日、偽薬群は23日、ハザードレシオは1.23となり、有意な差はなかった。検出力不足は明らかだが、差が2日しかなかったのだから、点推定値も不満足なものと言えるだろう。

尚、当方はハザードレシオが1を上回っているのでremdesivirのほうが悪かったと理解したが、逆だった。

さて、この試験の発症から投与開始までのリードタイムは、メジアン10日だった。発症10日以内のサブグループではメジアン症状改善期間が各18日と23日、ハザードレシオが1.52と、統計的に有意ではないしこの種のサブグループ分析は要注意とは言いながら、好ましい方向を向いていた。

他の評価項目では、死亡率は各群14%と13%で大差なかった。10日以内のグループでは11%と15%で数字自体は悪くなかった。ウイルス量の変化は両群大差なかった。

有害事象による治験離脱は各群12%と5%で、remdesivir群のほうが多かった。

尚、この試験も侵襲的人工呼吸器の患者はごく少数だった。

リンク: Wangらの治験論文(Lancet誌)

FDA、GSKのPARP阻害剤を卵巣癌一次治療後維持療法として適応拡大
(2020年4月29日発表)

FDAは、GSKのZejula(niraparib)を卵巣癌の白金薬ベース一次治療に反応した患者の維持療法として承認した。PARP阻害剤で、BRCA変異などにより遺伝子修復が上手くできない癌に適しているが、臨床試験では変異のない癌にも有効だった。全ユニバースにおけるメジアンPFS(無進行生存期間)は13.8ヶ月と、偽薬群の8.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.62、統計的に有意だった。

Zejulaは白金感受性卵巣癌の再発治療に反応した患者の維持療法として欧米で承認されている。日本は武田薬品が導入し昨年11月に承認申請した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、フルオロウラシル系抗癌剤を使う前にDPD欠損症の検査を推奨
(2020年4月30日発表)

EMAは、fluorouracil系の抗癌剤による治療を開始する前に、ジヒドロピリミジン脱水素酵素(DPD)欠損症の検査を行うよう推奨した。経口剤(capecitabineやtegafur)も対象。DPDはfluorouracilを不活化する代謝酵素で、低活性や欠損の場合、副作用リスクが高まることが知られているが、なぜ、今になって、事前検査まで踏み込んだのか、驚きだ。

EMAによると、カフカス系人種の最大9%が低活性、0.5%は完全欠損とのこと。検査は尿中のウラシル量を調べる。最大で一週間かかる模様で、深刻な真菌感染症をflucytosineで治療する場合は治療を遅らせるわけにはいかないため不要。光線角化症の治療などに用いる外用薬も全身暴露が小さいため不要。

リンク: EMAのプレスリリース






今週は以上です。

2020年5月1日

第943回

訂正:remdesivirの中国試験について、事実関係の誤解を訂正しました。論文が刊行され、ハザードレシオ1.23はremdesivirのほうが悪いのではなく良かったことが判明しました(2020/5/1付)

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:テムセルが人工呼吸器患者の回復を支援 
  • COVID-19:NY地区入院患者の特性と転帰 
  • COVID-19:remdesivirの中国試験の結果がリーク 
  • COVID-19:ヒドロキシクロロキンは有効か 
  • Idorsia社、オレキシン受容体アンタゴニストの最初の第三相が成功 
  • BMS、オプジーボの適応拡大試験が二本成功 
  • サノフィ、髄膜菌性疾患ワクチンが承認 
  • Immunomedics、TROP-2標的ADCがTNBCに承認 
  • JNJ、イムブルビカをリツキシマブと併用することが承認 


【今週の話題】


COVID-19:テムセルが人工呼吸器患者の回復を支援
(2020年4月24日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB、Nasdaq:MESO)は、COVID-19で中重度急性呼吸窮迫症候群を合併し人工呼吸器のサポートを受けている患者12人に同社が開発しているヒト間葉系幹細胞医薬品、Ryoncil(remestemcel-L、和名テムセル)を投与したところ、9人が人工呼吸器を外すことができ、7人が退院、死亡率は17%に留まっていることを明らかにした。この事例をもとに、北米で第2/3相試験を実施する考え。

この症例報告は、NY市のMt Sinai病院が非常時の治験許可(IND)に基づいて実施したもの。対照群がないのではっきりしたことは分からないが、次項のNY市地域全体のデータと比べると、良さそうに見える。

remestemcel-Lは健常者の骨髄から抽出した間葉系幹細胞。開発が難航し経営困難に陥った会社からMesoblastが事業取得したもの。日本ではJCRファーマが導入し15年に急性移植片宿主病(GvHD:血液癌で他家造血幹細胞移植を受けた患者などで移植細胞が患者の組織を攻撃してしまう病気)治療用の再生医療等製品として承認された。米国でも今年に入って小児急性GvHDに承認申請され、9月30日に審査期限を迎える。

リンク: Methoblastのプレスリリース

COVID-19:NY地域入院患者の特性と転帰
(2020年4月22日発表)

米国ニューヨーク市は人口の1%以上がSARS-CoV-2に感染し、その6%程度が死亡と、大きな影響を受けている。陽性判定されていない3000人の検査では13%が陽性だった。そのニューヨーク市地域でCOVID-19感染により入院した連続5700人の持病や治療、転帰などを分析した、電子医療記録による後顧的研究の論文がJAMA誌に電子刊行された。簡素なものだが、医療現場の大変さを思えば、このような分析を行ったこと自体が称賛されるべきだろう。

5700人の患者背景は、年齢はメジアン63歳(四分位範囲52-75歳)、女性が40%(!)、持病は高血圧が56%、肥満41%、糖尿病33%、喫煙経験なし84%(!)、癌は6%。臨床検査値の平均を見ると、しばしば指摘されるように、BNP値やD-dimerが参照値をかなり上回っている。

5700人中、侵襲的人工呼吸器症症例は1151人(20%)で、転帰は死亡が24%、生存退院3%で、72%は入院中。

また、5700人のうち退院・死亡した2634人の治療や転帰は、侵襲的人工呼吸器症例が320人(12%)、腎移植が81人(3%)、死亡は553人(21%)。

印象的なのは、第一に、トリアージ時点で38度以上の発熱があったのは30%、酸素補給が必要だったのは27%と、症状が多様であることだ。第二に、年代別の転帰を見るとやはり高齢なほど死亡率が上昇しているが、どの年代でも死亡するまでのメジアン入院期間が3-6日程度と、短いこと。罹患期間が2週間ともいわれる中、本研究のメジアン追跡期間は数日と短く、今後亡くなる方もいるのかもしれないが、短期死亡者が相当数いることが分かる。

尚、米国の死亡率が高く特に黒人で高い理由の一つとして、健康保険が強制ではないことが想像されているが、今回の研究に限れば殆どが民間・公的医療制度に加入していた。

リンク: Richardsonらの論文(JAMA、オープンアクセス)

COVID-19:remdesivirの中国試験の結果がリーク
(2020年4月23日発表)

COVID-19治療薬の候補の一つであるギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)は、同社やNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導する大規模な第三相試験が進行中で、ギリアドの重症入院患者を対象とする試験の結果は今月末飲み込み。中等症入院患者試験とNIAID試験の結果は5月末の見込みだが、報道によると、5月上中旬に判明する可能性があるようだ。このほかに、INSERM(フランス国立保健医学研究所)もDisCoVeRy試験を実施中。

先に開始された中国の研究者主導試験は、流行が一巡して患者組入れが困難になったため、重症入院患者試験も軽中等症試験も打ち切られたが、前者の結果がWHOのサイトの手違いで公開されてしまった。Boston Globe系のニュースメディア、STATが発見し、9行程度の記述のスクリーンショットとともに報じた。現在は撤回されている。治験論文がまだ学術誌の査読中で、著者から許可を得ていない情報を公開してしまったようだ。

内容は失望的なものだった。首都医科大学がスポンサーとなって中日友好医院などの施設で237人をremdesivir群と偽薬群に2対1無作為化割付して、臨床症状改善(退院から死亡までの6段階の分類が2段階以上改善)までの期間を盲検で検討したところ、ハザードレシオは1.23で、統計的に有意な差はなかった。28日死亡率も13.9%対12.8%で有意ではないが向きが違う。PCR陰転も有意な差はなかった。有害事象による離脱率は11.6%対5.1%で上回った。

ギリアド側は、途中で打ち切られた試験なので十分な検出力はないと指摘している(最初の治験登録では452人目標だった)。ギリアドは、潜在的な便益のトレンドが、早い段階で治療を受けた患者で特に、示唆されたことを指摘している。上記資料では言及されていないので、論文刊行まで何とも言えない。

(抗ウイルス剤なので感染後早い段階で投与したほうが良いのだろうが、サルの試験とは異なり、臨床では感染12時間後、24時間後ではなく、1~2週間後が普通なのだろうから、どの程度早く投与する必要があるのか定量情報が必要だ。)

何れにせよ、対照試験一本だけでは結論は出せない。ギリアドの重症入院患者試験は5日コースと10日コースの二群で偽薬群が無いので、客観評価は難しい。5月に偽薬対照試験の結果が出るまで答えはお預けだ。

リンク: STATの報道
リンク: ギリアドのコメント

COVID-19:ヒドロキシクロロキンは有効か
(2020年4月24日発表)

COVID-19の治療法として複数の医薬品や新薬の試験的投与や臨床試験が進行しているが、今のところ、効果が確立したと言えるような薬は見つかっていない。それどころか、デザインが不十分なので決定的とは言えないがフェールした試験も少なくない。大統領就任前から医学的リテラシーに疑問の声も上がっているトランプ大統領がゲームチェンジャーと呼んだhydroxychloroquine(HCQ)/chloroquineも同じで、EMAは早くから心毒性などに注意を呼び掛けてきたが、FDAも、遂に、QT延長(突然死との関連が指摘されている心電図兆候)を密接に監視し、入院患者以外には使わないよう警告した。

リンク: FDAの安全性情報

それに先駆け、退役軍人保険局のデータを用いた後顧的研究が失望的な結果になったことが判明した。

査読前の論文草稿サーバーであるmedRxivで公開されたMagagnoliらの研究論文によると、退役軍人保険局の医療施設に4月11日までに入院した388人の確定SARS-CoV-2感染患者のデータを分析したところ、HCQによる治療を受けた97例の死亡率は27.8%、HCQとazithromycin(AZ)を施行された113例は22.1%、HCQ暴露が無かった158例(この3割はazithromycinあり)は11.4%だった。HCQ群のほうが重症であったが、これらの因子を調整した後のハザードレシオでも、HCQ群は非HCQ群の2.61倍(95%信頼区間1.10-6.17、p=0.03)だった。HCQ・AZ併用群も1.14倍だったが統計的に有意ではなかった。他の評価項目でもHCQの有望性は見られなかった。

この試験の対象はメジアン69歳、6割超がアフリカ系とかなり偏っている。解析方法もtime-to-event分析ではなく、そのせいか、分析対象が退院又は死亡した患者だけで入院したままの患者が除外されている。後顧的分析はベースラインに偏りが出やすく、例えば、未承認薬で患者同意書を取る必要のある薬を敢えて使わなければならない患者と、使わずに済んだ患者を比較するのは無理がある。本論文は修正ハザードレシオを使うことで克服しようとしているが、数百例では適切な修正はできないのではないか?

結果についても、HCQが死亡リスクを高めるとしたら、AZが特効薬でないかぎり、HCQとAZを併用した群の死亡リスクも高いはずだ。上記のFDA安全性情報は、AZもQT延長リスクがあり併用で更に高まる可能性を指摘している。

このように奇妙な点も多いが、死亡リスク2倍という指摘は無視できない。in vitroでSAR-CoV-2を抑制した用量はリウマチなどに承認されている用量の数倍なので副作用リスクがもっと高まるだろう。キチンとした試験で効果や安全性を確認する必要がある。

リンク: Magagnoliらの論文草稿

朗報は、ノバルティスがGE薬子会社のサンドを通じてHCQの第三相COVID-19試験を行うと発表したこと。Johns Hopkins大のDr. Richard Chaissonが主導して、米国の医療施設で入院患者440人を偽薬群、HCQ群、HCQ・AZ併用群に無作為化割付して転帰を比較する。5月に開始、結果は6月にも判明する見込み。

ノバルティスは臨床研究に資するため1.3億回分のHCQを寄付することをコミットしているが、今回の試験が成功しても発生する知的所有権を独占してアクセスを妨げるようなことはしないと表明している。

話は飛躍するが、GE薬は巨額を投じて臨床試験を行っても果実を独占できないので、民間企業が今回のような適応拡大試験を行うのは異例だ。通常は、似たような薬を新薬として開発しGE薬より高く販売して投資を回収する。しかし、そうして開発された新薬が売れず旧薬のオフレーベル使用が続く事例は少なくない。新薬として開発するのは時間も費用もかかるので、公的組織や医療保険業界がスポンサーになって、GE薬の新用途での開発を推進するような仕組みを作るほうが全体最適だろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(4月20日付)


【新薬開発】


Idorsia社、オレキシン受容体アンタゴニストの最初の第三相が成功
(2020年4月20日発表)

Idorsia(SIX: IDIA)は、ACT-541468(daridorexant)の最初の第三相不眠症治療試験が成功したと発表した。もう一本は今年7-9月期に判明する見込みで、その後に承認申請に向かうものと思われる。

Idorsiaはアクテリオンがジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にスピンアウトした会社で、複数の開発後期パイプラインを持っている。daridorexantはオレキシン受容体アンタゴニストで、日米で承認されているMSDのBelsomra(suvorexant)やエーザイのDayvigo(lemborexant)と同作用機序・同適応症となる。今回の第三相では1ヶ月後と3ヶ月後の客観的/主観的睡眠潜時や中途覚醒時間、日中の運動機能などが有意に改善した由。プレスリリースは長いが具体的なデータは記されていない。

日本ではイドルシア ファーマシューティカルズ ジャパンが持田製薬と共同開発販売提携を結んでいる。

リンク: Idorsiaのプレスリリース

BMS、オプジーボの適応拡大試験が二本成功
(2020年4月20日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の適応拡大試験二本が成功したと発表した。データは未公表。適応拡大申請に向かうことになりそうだ。

一つは悪性胸膜中皮腫の一次治療においてYervoy(ipilimumab)と併用する効果を化学療法と比較したCheckMate-743試験。OpdivoとYervoyの併用用量は二種類あるが、本試験は前者が3mg/kgを2週毎、後者は1mg/kgを6週毎投与。化学療法はcisplatinまたはcarboplatinをpemetrexedと併用する標準療法。PD-L1は不問。主評価項目の全生存期間が中間解析で成功認定された。

Opdivoは悪性胸膜中皮腫では二次治療に承認されている。

リンク: BMSのプレスリリース

もう一本は進行/転移腎細胞腫の一次治療においてCabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)錠と併用する効果をファイザーのSutent(sunitinib)と比較したCheckMate-9ER試験。主評価項目のPFS(無進行生存期間)に加えて、副次的評価項目とされた全生存期間(オープンレーベル試験なので重要)も中間解析で目的達成した。

Opdivoは腎細胞腫では単剤で二次治療に、米国ではYervoy併用で中高リスク患者の一次治療にも、承認されている。CabometyxはExelixis(Nasdaq:EXEL)が開発したVEGFR阻害剤で、腎細胞腫の二次治療だけでなく一次治療にも日米欧で承認されている。CabometyxだけでもSutentに勝ったのだから、本試験はSutentを上回るだけでは不十分、Cabometyxの数値をどこまで伸ばせるかどうかが注目点になる。

OpdivoのライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)は、一次治療にファイザーのもう一つのVEGFR阻害剤、Inlyta(axitinib)と併用することが承認されている。

リンク: BMSとExelixisのプレスリリース


【承認】


サノフィ、髄膜菌性疾患ワクチンが承認
(2020年4月24日発表)

サノフィは、FDAが髄膜菌性疾患ワクチンMenQuadfiを承認したと発表した。A/C/Y/W株をカバーするジフテリアトキソイド結合ワクチンで、対象年齢が2歳以上と広いことが特徴。

リンク: サノフィのプレスリリース

Immunomedics、TROP-2標的ADCがTNBCに承認
(2020年4月22日発表)

FDAは、Immunomedics(Nasdaq:IMMU)のTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)をトリプル・ネガティブ転移乳癌(TNMBC)で二次の治療歴を持つ患者向けに加速承認した。審査期限は6月2日なので前倒しだが、審査は二巡目でFDAは一巡目に治験成績については大きな問題を指摘していなかった模様なので、サプライズとは言い難い。

TrodelvyはEGP-1(epithelial glycoprotein-1:別名TROP-2)を標的とする抗体をirinotecanの活性代謝物であるSN-38と結合したADC(抗体薬物複合体)。EGP-1はher2、エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体の全ての発現が陰性であるトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)の80%以上で発現する一方、正常細胞には少ない。FDAのリリースによると、第1/2相試験でORR(客観的反応率、担当医評価、n=108)が33.3%、メジアン反応持続期間は7.7ヶ月だった。

このデータに基づき18年に承認申請されたが、工場査察時にデータの改ざんなどが発覚、審査完了となった。CEO退任を経て、19年12月に再承認申請され、承認に漕ぎ着けた。好中球減少症と下痢が枠付警告となった。

ORRなどの代理マーカーに基づいて加速承認を受けた場合、別途、臨床試験を行って延命効果や症状改善効果を確認する必要がある。Immunomedicsは17年にASCENT試験を開始したが、承認に手間取る間に、先日、独立データ監視委員会が繰上げ成功認定した。データは未公表。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Immunomedicsのプレスリリース

JNJ、イムブルビカをリツキシマブと併用することが承認
(2020年4月21日発表)

FDAは、70歳以下で未治療のCLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)にジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)とrituximabを併用することを承認した。FCRレジメン(fludarabine、cyclophosphamide、rituximabの併用)と比較したE1912試験でPFSハザードレシオが0.34だった。37ヶ月時点のPFSは88%とFCRレジメンの75%を上回った。

ImbruvicaはBTK阻害剤。適応・用法開発が積極的に行われており、今回の承認はCLLでは6回目、全6疾患領域では11回目となる。

リンク: FDAのプレスリリース



今週は以上です。