2020年3月15日

2020年3月15日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、血糖治療薬の開発ガイダンスをアップデート 
  • BMS、エムプリシティの一次治療試験がフェール 
  • 武田のニンラーロも一次治療試験がフェール 
  • オプジーボとヤーボイの併用による肝細胞腫二次治療が米国で承認 
  • BI、オフェブが多様な間質性肺疾患に適応拡大 


【今週の話題】


FDA、血糖治療薬の開発ガイダンスをアップデート
(2020年3月10日発表)

FDAは二型糖尿病の血糖治療薬の開発に関するガイダンスをアップデートし、草案を公開した。6月8日までの90日間、コメントを受け付ける。08年に公表されたガイダンス文書は撤回され、FDAのサイトで検索してもヒットしなくなった。

08年ガイダンスはPPAR作動剤の副作用禍を機に、心血管安全性審査を強化したもの。臨床試験に十分な数の高リスク患者を組入れて検出力を高め、ハザードレシオの信頼区間上限が一定の閾値を下回ることを確認するよう求めた。閾値は1.3に設定されたが、臨床試験費用が膨らみ開発期間が長期化するのを抑制するために、新薬承認審査段階では、複数の試験のメタアナリシスで1.8を下回れば良しとした。もし上回った場合は承認前に、1.3以上1.8未満であった場合は承認後に、大規模長期の心血管アウトカム試験を行わなければならない。

今回のガイダンスは、心血管安全性の評価方法や閾値の明示を止める一方で、様々な高リスク症例の組入れを充実させて多面的な安全性評価を行うよう求めた。FDAは懸念材料を見つけたらケースバイケースで対応する。

具体的には、第三相試験で4000人年以上の試験薬安全性データを構築する。うち、1年以上の投与実績は1500人以上、2年以上が500人以上とする。通常の慢性疾患用薬に関する要求よりは厳しくなっている。

高リスク・サブグループの投与実績に関しては、ステージ3/4の慢性腎疾患が500人以上、確立した心血管疾患(心筋梗塞など)は600人以上、65歳以上は600人以上、を求めた。全てに該当する患者600人ではダメで、何れかに該当する患者を1200人以上、組入れなければならない。

心血管安全性評価は今後も重視され、発現時は第三者による査読が必要。

個々の開発品に関する安全性懸念がある場合、FDAは、第三相試験開始前に指摘して、リスクが許容範囲であることを確認するために十分な検出力を持たせるよう要求する。

印象としては、製薬会社というよりはFDAに対する規制緩和だ。ガイダンス文書を作成する目的は、FDAがケースバイケースの名のもとに恣意的な判断を下すのを防ぐことにあるからだ。ページ数が大きく減ったことと合わせて、ガイダンス文書としては一歩後退したと言わざるを得ない。

リンク: FDAのコメント募集ページ


【新薬開発】


BMS、エムプリシティの一次治療試験がフェール
(2020年3月9日発表)

BMSはEmpliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)の多発骨髄腫一次治療試験がフェールしたと発表した。造血幹細胞移植が適応にならない初発患者を組入れて、Revlimid(lenalidomide)と低量dexamethasoneを併用するRdレジメンに追加する効果をRdレジメン群とオープンレーベルで比較したが、主評価項目のPFS(無進行生存期間)が有意に上回らなかった。データは学会発表の予定。

EmplicitiはSLAMF7(CS1糖蛋白)に結合するヒト化抗体で、15~16年に日米欧で多発骨髄腫の二次治療薬としてRdレジメンに併用することが承認された。再発治療に有効なら一次治療にも効きそうなものだが、不思議だ。

次項のように、競合薬のNinlaroも同様なパターンで一次治療試験がフェールしている。

リンク: BMSのプレスリリース

武田のニンラーロも一次治療試験がフェール
(2020年3月10日発表)

武田薬品はNinlaro(ixazomib、和名ニンラーロ)の多発骨髄腫一次治療試験がフェールしたと発表した。造血幹細胞移植試験が適応にならない初発患者705人を組入れて、Revlimid(lenalidomide)と低量dexamethasoneを併用するRdレジメンに追加する効果を偽薬追加群と比較したが、主評価項目のPFS(無進行生存期間)が有意に上回らなかった。メジアン値は35.3ヶ月対21.8ヶ月で1年以上の差があったが、ハザードレシオは0.83とそれほどでもなく、ログランクp値は0.073だった。

Ninlaroは代表的な多発骨髄腫用薬であるVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤で経口剤であることが特徴。15~17年に日米欧で多発骨髄腫の二次治療薬としてRdレジメンに併用することが承認された。再発治療に有効なら一次治療にも効きそうなものだが、不思議だ。

EUの承認は条件付きで、一次治療試験などを通じて効能を確立しないと取り消される可能性があるため、今回のフェールは痛い。他の試験では、大量化学療法と自家造血幹細胞移植が奏効した初発患者656人を組入れた維持療法試験が成功し、日本でまもなく適応拡大が承認される見込みだが、米国ではNinlaroも、似通った試験が成功したRevlimidも、承認されなかった(承認申請撤回)。多発骨髄腫は米国よりEUのほうがPFSに基づく承認に慎重なので、米国ですら承認されなかったのだからEUでは難しいだろう。治験登録を見る限りでは他に役立ちそうな第三相試験は行われていないようだ。EUでの承認維持はピンチと考えざるを得ない。

競合薬では、ジョンソン・エンド・ジョンの抗CD38抗体、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)が、様々な段階で様々なレジメンと併用する試験を成功させている。自家造血幹細胞移植不適の初発患者ならRdレジメン併用も、Velcadレジメン併用も、欧米では承認されている。今のところ、三剤の適応拡大競争はJNJに軍配が上がりそうだ。

リンク: 武田薬品のプレスリリース


【承認】


オプジーボとヤーボイの併用による肝細胞腫二次治療が米国で承認
(2020年3月11日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブは、抗PD-L1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)を肝細胞腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。バイエルのNexavar(sorafenib)による治療歴を持つ患者が適応になる。最初の4回はOpdivoは1mg/kg、Yervoyは3mg/kgを三週毎に、その後はOpdivoのみ240mgを二週毎に、点滴静注する。反応率データに基づく加速承認なので、別途、延命またはそれに準じる効果を検討する試験を行って便益を確認する必要がある。

第1/2相CheckMate-040試験では、BICR-ORR(盲検独立中央評価による客観的反応率)が33%(完全反応8%、部分反応24%)だった。反応者の56%は反応持続期間が12ヶ月以上だった。深刻有害事象の発現率は59%で、有害事象による治療中止が29%の患者で発生した。

同様な適応で承認されている競合薬の治験成績を見ると、MSDのKeytruda(モノセラピー)はKeynote-224試験でBICR-ORRが17%だった。また、Nexavarと類似した化学構造を持つVEGFR阻害剤であるバイエルのStivarga(regorafenib、モノセラピー)は、偽薬対照二重盲検試験で、Inv-ORR(担当医評価による客観的反応率)が7%、偽薬群は3%(!)だった。こうしてみると、Opdivo・Yervoy併用のパワーは大きい。

リンク: BMSのプレスリリース

BI、オフェブが多様な間質性肺疾患に適応拡大
(2020年3月9日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、FDAがOfev(nintedanib、和名オフェブ)の適応拡大を承認したと発表した。特発性肺線維症や全身性強皮症(SSc)に伴う間質性肺疾患(ILD)の治療薬として承認されているトリプル・アンジオキナーゼ阻害剤だが、SSc以外の進行性の慢性線維化性ILD、具体的には、「分類不能」型や自己免疫性のILD、慢性過敏性肺臓炎、サルコイドーシス、筋肉炎、シェーグレン症候群、石炭労働者じん肺炎、特発性非特定的間質性肺臓炎などによる慢性繊維化症が新たに適応になり、ILD患者の18-32%をカバーできるようになった。

リンク: BIのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

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