2022年7月29日

第1061回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • EMA、承認審査をフライング・スタート 
  • その他の領域: 
  • パドセブがキイトルーダと併用で良績 
  • カンジダ治療薬を承認申請 
  • アッヴィ、リンヴォックをクローン病に申請 
  • バイオジェン、ALS用薬をサブパ-トH申請 
  • 米国でもエンハーツをher2低発現MBCに承認申請 
  • 新規アルキル化剤をHSCT前処理に再申請 
  • 武田、エクソン20変異標的薬のEU申請を撤回 
  • ObsEva、米国申請を撤回し権利をキッセイに返還へ 


【COVID-19関連】


EMA、承認審査をフライング・スタート
(2022年7月27日発表)

EMA(欧州薬品庁)はETF(緊急タスクフォース)がVERU-111(sabizabulin)の承認審査を開始したと発表した。Veru(Nasdaq:VERU)が第3相重症COVID-19試験を成功させ、6月に米国でEUA(非常時使用認可)を申請したが、EUではまだ申請していない段階。EU加盟国の一つであるドイツの要請に基づきETFが審査、CHMPに報告し、CHMPが肯定的意見を纏めたら、ドイツなどの加盟国がEUの承認前に使用を開始することができるようになる。COVID-19ワクチンなどで類似前例があるが、今回は1月に成立した2022/123規制の第18条3項に基づく手続きだ。

sabizabulinは微小管阻害剤。アルファ/ベータ・サブユニットのcolchicine結合部位に結合する。POCは転移性乳癌だったが、微小管はインフルエンザ・ウイルスの細胞内移動にも関わっており、また、sabizabulinはCOVID-19の重大な合併症であるARDS(急性呼吸促迫症候群)における炎症反応を抑制する作用もあるようだ。

第3相は米州やブルガリアでARDSを合併する中等症・重症入院患者204人を9mgを一日一回、経口投与する群と偽薬群に2対1割付して死亡リスクを60日間追跡した。150人の中間解析が成功、死亡率は各群20%と45%、相対リスク削減率は55%、p=0.0029と大変良い結果になった。全てのサブグループ分析で試験薬のほうが良かった。

5ヶ国の27施設で150人を組入れたので、個々の施設の組入れは必ずしも多くなく、第三の因子が介入していても不思議はない。死亡リスクが高い患者を組入れたとはいえ死亡率45%というのは高いような気がする。また、dexamethasoneやremdesivir、tocilizumabのような標準療法の施行率に若干の群間の偏りがあるように感じられる。それでも、ここまで大きな差があると、EMAのように、真摯に受け止めない訳にはいかない。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Barnetteらの治験論文(NEJM Evidence)

【新薬開発】


パドセブがキイトルーダと併用で良績
(2022年7月26日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)とアステラス製薬は、膀胱癌における抗Nectin-4抗体薬物複合体Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)とMSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)の併用効果を調べる第1b/2相EV-103/KEYNOTE-869試験のコフォートKのトップラインを公表した。切除不能局所進行性/転移性の尿路上皮腫でcisplatinレジメンに適さない未治療患者を組入れて併用とPadcev単剤のcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)を検討したところ、併用群は64.5%、反応持続期間はメジアン未達、と良好な結果になった(n=76)。但し、20年2月に公表された45例のデータ、73.3%よりは低下している。また、単剤投与群の成績は言及されていない。

Keytruda単剤のORRは30%程度だが、PD-L1発現の多寡でかなり変わる。また、米国では今回のようにcisplatinだけ不適な患者は適応にならない(全ての白金薬に不適のみ)。そもそも、免疫強化療法はORRでは真価が発揮されないので、Keytrudaのデータと比較してもあまり意味がない。比較するならPadcev単剤投与群のデータだが、割愛されているところを見ると、比較できるデータではないのか、または、あまりよくなかったのだろう。

Seagenは創業者の一人で社長兼CEO兼会長だったClay Siegallが妻に対する家庭内暴力で5月に逮捕された後、MSDが買収交渉中との観測記事が出ている。19年に第3相併用試験を共同で実施する提携を結んでいる。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


カンジダ治療薬を承認申請
(2022年7月27日発表)

Cidara Therapeutics(Nasdaq:CDTX)) は、CD101(rezafungin)を侵襲性カンジダ症やカンジダ血症の治療薬として承認申請したと発表した。18ヶ国132施設で187人を組入れた第3相試験で週一回静注の効果をcaspofungin一日一回静注と比較したところ、FDA向け主評価項目である30日全死亡率は23.7%対21.3%、EU向けの14日全般治癒率は59.1%対60.6%となり、非劣性解析が成功した。

米国の権利をMelinta Therapeutics (Nasdaq:MLNT)に供与したことも発表した。日米以外はMundipharmaにライセンスしており、残りは日本市場となった。

リンク: 同社のプレスリリース


アッヴィ、リンヴォックをクローン病に申請
(2022年7月27日発表)

アッヴィはRinvoq(upadacitinib)を成人の中重度活性期クローン病の治療に用いる適応拡大を米国とEUで申請したと発表した。バイオ薬にも不応不耐の患者を組入れた第3相試験で寛解導入(45mg一日一回)も、寛解維持(15mgまたは30mg)も、偽薬を上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


バイオジェン、ALS用薬をサブパ-トH申請
(2022年7月26日発表)

バイオジェンはBIIB067/IONIS-SOD1Rx(tofersen)をSOD1(スーパーオキシドディスムターゼ1)変異型のALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬としてFDAに承認申請して受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は23年1月25日。第3相試験では臨床的便益を確認できなかったが、NFL(ニューロフィラメント軽鎖)の減少というサロゲート・マーカーに基づく加速承認を求めている。

SOD1は細胞内に存在する活性酸素分解酵素。ALSの2割程度は家族性で、その1割程度がSOD1変異を持つとされるので、対象患者数は世界で3000~4000人と推測される。tofersenはSOD1のmRNAに介入するアンチ・センス・オリゴヌクレオチドで、18年にIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスした。第3相VALOR試験では108人をtofersen群(100mgを髄腔内投与)と偽薬群に2:1割付して28週間治療し、ALSFRS-R総合点の変化を比較したところ、ベースライン値の36から各群8.14と6.98低下し、有意な差はなかった。

一方で、脳脊髄液におけるSOD1や血漿NFLなどのバイオマーカーは良く応答した。また、オープンレーベル延長(OLE)試験も含める12ヶ月間のデータでは、最初からtofersenを投与した患者とOLEで初めて投与した患者のALSFRS-R総合点には3.5点の差があった。

28週間の対照試験中の深刻有害事象発生率は各群18.1%と13.9%、有害事象による治験離脱率は5.6%とゼロだったが、IONISのプレスリリースによると、12ヶ月間の解析では前者が36.5%、後者は17.3%だった。なぜこんなに増えたのか、そもそも比較できるデータなのか、不明。

バイオジェンが第3相がフェールしたにもかかわらず承認申請というと、アルツハイマー病薬Aduhelm(aducanumab)を彷彿させる。背中を押したのはFDAで、おそらく、今回も、同じだろう。但し、NFLがALSにおける臨床的便益につながると合理的に予測できるようなサロゲート・マーカーであるか否かは、アルツハイマーにおけるアミロイド・ベータ以上に、議論の余地が大きいだろう。FDAは諮問委員会を招集する考えなので、最初の試金石になる。

リンク: バイオジェンのプレスリリース
リンク: IONISのプレスリリース


米国でもエンハーツをher2低発現MBCに承認申請
(2022年7月25日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)をher2低発現の転移性乳癌に用いる適応拡大をFDAに承認申請し、受理された。優先審査を受け、今年第4四半期に是非が決まる見込み。転移後の二次治療薬としての承認を求めている。

エビデンスとなるのは第3相DESTINY-Breast04試験。切除不能/転移性のher2低発現乳癌で転移後の治療歴を持つ患者約550人をEnhertu群と化学療法群に2対1割付して、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を比較した。尚、被験者の9割を占めたホルモン受容体(HR)陽性患者に関しては、内分泌療法抵抗性が組入れ条件だった。

主評価項目であるHR陽性サブグループのPFSはハザードレシオ0.51、メジアン値は10.1ヶ月、化学療法群は5.4ヶ月だった。副次的評価項目のうちHR陽性サブグループの全生存ハザードレシオは0.64、メジアン値は各23.9ヶ月と17.5ヶ月だった。HR陰性も含む全ユニバースの解析結果も概ね同様だった。

Enhertuに付き物の有害事象である間質性肺疾患による死亡は3人(0.8%)、化学療法群はゼロだった。

EnhertuはHercptin(trastuzumab)の活性成分である抗her2抗体とトポイソメラーゼI阻害剤をリンカーで結合した抗体薬物複合体。her2陽性の転移性乳癌や胃癌などに承認されている。Herceptinを始め、これまでのher2標的薬はIHC法検査で3+、または、2+の場合はFISH法でも検査して陽性であった癌の治療に用いられてきたが、今回の申請は2+且つFISH陰性、または1+の癌が対象。前者に該当するのは転移性乳癌の2割であるのに対して、後者は5割と大きい。

尤も、その全てが適応になるわけではないだろう。本試験は内分泌療法が適応になる患者を組入れていない。また、被験者の多くがCKD4/6阻害剤歴も持っており、二次治療試験というよりは三次治療、四次治療試験である。致死的な副作用リスクがあるだけに、十分なエビデンス無しに広範な適応が認められるとは限らない。

リンク: 両社のプレスリリース


新規アルキル化剤をHSCT前処理に再申請
(2022年7月25日発表)

カナダのMedexus Pharmaceuticals(TSX:MDP)とドイツのmedacは、treosulfanをFDAに再承認申請したと発表した。昨年8月に審査完了通知を受領、今年4月に臨床試験の追加データを提出したが受理されず、再挑戦となる。

アルキル化剤で、他家造血幹細胞移植の前処理にfludarabineと併用する。急性骨髄性白血病と骨髄異形成症候群を組入れた臨床試験で、3年EFS率(再発やグラフト・フェールなしで生存)が60%と低集中度busulfan・fludarabine群の50%を有意に上回り、3年生存率も各67%と56%と良好な結果になった。EUでは1ヶ月児以上の血液癌と成人の重度疾患の造血幹細胞移植の前処理に用いることが19年に承認された。カナダでも21年に承認され、米加の販売権を持つMedexusが上市した。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


武田、エクソン20変異標的薬のEU申請を撤回
(2022年7月28日発表)

武田薬品は17年に54億ドルで買収したAriad Pharmaceuticalsの開発品の一つであるExkivity(mobocertinib)のEUにおける承認申請を撤回したことを四半期決算リリースの中で公表した。EGFRにエクソン20挿入変異を伴う成人の局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として21年9月に米国で加速承認され、今年3月には英国でも条件付き承認されたが、CHMP(医薬品評価委員会)は難色を示したのだろう。何が問題なのかは、8月にCHMP側から発表があるだろう。

40mgカプセルを4個、一日一回経口投与する。命に係わるQTc延長のリスクが枠付警告されている。米国で21年5月に同じ適応症に承認され、EUでも同年末に承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンのEGFR・MET二重特性抗体、Rybrevant(amivantamab)にはこのような枠付警告はないので、クラス・イフェクトではないのだろう。

リンク: 同社の23年3月期第1四半期決算プレスリリース


ObsEva、米国申請を撤回し権利をキッセイに返還へ
(2022年7月27日発表)

スイスのObsEva(Nasdaq:OBSV、SIX:OBSN)はキッセイ薬品からライセンスした非ペプチド系GnRH受容体アンタゴニスト、linzagolixを子宮筋腫治療薬として承認申請し、EUでは6月に承認されたが、米国は9月13日の審査期限までに承認されない見込みになった。FDAから申請内容に欠陥がありレーベルや市販後コミットメントに関する協議に進めない旨の通知を受けたため。

米国のバイオテックは自転車操業が多く、ObsEvaは資金不足により開発を断念、ライセンスをキッセイ薬品に返還することを決めた。尚、北米やアジア以外の権利はTheramexにサブライセンスしているが、提携解消後はキッセイとの直契約に切り替わる見込み。

ObsEvaは人員削減や、スイスの裁判所に債務返済猶予を求める考え。

linzagolixの何がボトルネックなのかは明らかではないが、EUでの承認審査も、今年2月に、追加質問が来そうなので承認が遅れる可能性がある旨のプレスリリースを出している。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2022年7月24日

第1060回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • EU、ベクルリーを正式承認へ 
  • CHMP、スパイクバックスを12-17歳の追加免疫に肯定的意見 
  • その他の領域: 
  • オプジーボ・カボメティクス併用の延命効果が当初データより低下 
  • 武田、CIPD維持療法試験が成功 
  • テセントリクの腎細胞腫術後補助療法試験がフェール 
  • キイトルーダの頭頚部癌CRT併用試験がフェール 
  • リムパーザの大腸癌試験がフェール 
  • VBLの遺伝子療法、卵巣癌試験もフェール 
  • Rett症候群用薬を承認申請 
  • C3阻害剤を地図状萎縮に承認申請 
  • 不快な味のない尿素サイクル異常症用薬を再承認申請 
  • エンハーツ対抗品を欧州でも承認申請 
  • CHMPがsiRNAなどに肯定的意見 
  • ルキソリチニブ・クリームが白斑に適応拡大 
  • 欧州でAADC欠損症用薬が承認 
  • ザーコリが希少疾患に適応拡大 


【COVID-19関連】


EU、ベクルリーを正式承認へ
(2022年7月22日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、Veklury(remdesivir)の条件付き販売承認を終了し通常の承認とすることに肯定的意見を纏めた。20年5月から6月にかけて米、日、欧でCOVID-19用薬として特例的に承認されたが、米国は既にEUA(非常時使用認可)から通常の承認に切り替えており、三極のうち二極が特例的承認という不確かな位置付けを速やかに終了することになる。

リンク: ギリアド・サイエンシズのプレスリリース


CHMP、スパイクバックスを12-17歳の追加免疫に肯定的意見
(2022年7月22日発表)

CHMPは、モデルナのCOVID-19ワクチン、Spikevax(elasomeran)を12~17歳の追加免疫に用いることを支持した。用量は初回免疫の半分の50mcg。接種時期が初回免疫から3ヶ月以上後と、意外に早いことが印象的。初回免疫の効果が3ヶ月程度で減弱するというエビデンスがあるのかもしれない。

リンク: モデルナのプレスリリース

【今週の話題】


オプジーボ・カボメティクス併用の延命効果が当初データより低下
(2022年7月14日発表)

FDAは、ブリストル マイヤーズ・スクイブのOpdivo(nivolumab)とExelixis(Nasdaq:EXEL)のCabometyx(cabozantinib)の処方情報を改訂し、CHECKMATE-9ER試験の全生存期間のアップデート値を追加記載することを承認した。進行腎細胞腫の一次治療として両剤を併用する効果をファイザーのSutent(sunitinib)と比較した試験で、このデータに基づき21年に日米欧で適応拡大が承認された。

主評価項目のPFS(無進行生存期間)はハザードレシオが0.51(95%信頼区間0.41-0.64)、メジアン値は16.6ヶ月と8.3ヶ月で8か月もの差があった。一方、副次的評価項目である全生存期間は、166イベント時のハザードレシオは0.60(98.89%信頼区間0.40-0.89)、メジアン値は両群未達だったが、271イベント到達時の最終解析ではハザードレシオ0.70(95%信頼区間0.55-0.90)、メジアン値は37.3ヶ月と34.3ヶ月でたった3ヶ月しか違わなかった。

IMDCリスク分類に基づくサブグループ分析では、favorableではハザードレシオ1.03(95%信頼区間0.55-1.92)、intermediateは0.74(0.54-1.01)、intermediate/poorでは0.65(0.50-0.85)、poor riskでは0.49(0.31-0.79)だった。

一次治療薬の全生存期間は二次治療などの内容にも左右されるが、副作用が原因で二次治療の選択肢が狭まるようなことも起こり得るので、解釈が難しい。処方情報には上記以上の解説がなく、両社が学会などで釈明することが望まれる。

リンク: Opdivoの処方情報(FDA、pdfファイル)
リンク: Cabometyxの処方情報(FDA、pdfファイル)

【新薬開発】


武田、CIPD維持療法試験が成功
(2022年7月22日発表)

武田薬品は、HyQvia(rHuPH20含有皮注用ヒト免疫グロブリン)の第3相CIPD(慢性炎症性脱髄性多発根神経炎)維持療法試験が成功したと発表した。23年3月期末までに欧米で承認申請する予定。

CIPDは四肢の筋力低下と感覚機能障害を伴う進行性の自己免疫疾患。HyQviaはHalozyme Therapeutics(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロン酸分解酵素を用いて、静注用薬である免疫グロブリンを皮注する時の生物学的利用率を改善したもので、13~14年に欧米で原発性免疫不全症などの治療薬として承認された。医師が認めれば自己注射可能。武田が19年に買収したシャイアがその3年前に合併した、Baxter社の製品だ。

今回の試験は、静注用免疫グロブリンによる治療を受けている患者を偽薬群とHyQvia群に無作為化割付して、神経筋障害・機能障害の再発予防効果を、調製INCAT(Inflammatory Neuropathy Cause and Treatment)障害スコアを用いて検討した。偽薬スイッチ群は31.4%がベースライン比悪化したが、皮注用製剤で治療を継続した群は9.7%に留まり、有意な差があった。

継続投与が有効なら実薬対照試験にすべきではないかとも感じられるが、偽薬でも倫理的な問題がないのだとしたら、静注用免疫グロブリンによる再発予防療法を患者がよほど嫌っていて、止めてしまう人が多いのか、INCATが1ポイント低下する程度なら大騒ぎするほどではないのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


テセントリクの腎細胞腫術後補助療法試験がフェール
(2022年7月21日発表)

ロシュは、2022年上期決算発表会で、Tecentriq(atezolizumab)の第3相IMmotion010試験がフェールしたことを明らかにした。腎細胞腫で腎切除術を受けたが転移リスクが高い患者778人をTecentriqを3週毎に1年間投与する群と偽薬群に無作為化割付してDFS(無再発生存期間、担当医評価)を比較したもの。データは未公表。

MSDのKeytruda(pembrolizumab)はKeyNote-564試験が成功し21~22年に欧米で承認されたので、ロシュが再挑戦する場合は対照薬をKeytrudaに変える必要があるだろうから、この適応は諦めるのではないか。

腎細胞腫では一次治療bevacizumab併用試験も成功したはずだが適応拡大申請に至ってはおらず、上手くいっていない。

リンク: ロシュの2022年上期決算プレゼン資料(92頁に記載)
リンク: IMmotion010試験の治験登録(ClinicalTrials.gov)


キイトルーダの頭頚部癌CRT併用試験がフェール
(2022年7月20日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相頭頚部扁平上皮腫(HNSCC)一次治療化学放射線療法併用試験がフェールしたと発表した。局所進行性患者を組入れてcisplatinと放射線療法にKeytruda(200mgを3週毎点滴静注、プライム投与と1年間のメンテナンス投与も)を追加することによりEFS(無イベント生存期間)延長を図ったが、偽薬追加群比トレンドに留まった。数値は未公表。

Keytrudaは転移性又は切除不能難治性HNSCCの一次治療として、プラチナ薬及びフルオロウラシルと併用することが承認されている。PD-L1高発現(CPS≧20)の場合はモノセラピーで足りる。また、再発治療に単剤投与することも認められている。

今回の被験者は放射線療法が適応になる、一歩前の段階であることが違いを生んだのかもしれないが、何れにせよ、委細は学会発表待ちだ。

リンク: MSDのプレスリリース


リムパーザの大腸癌試験がフェール
(2022年7月18日発表)

MSDは、Lynparza (olaparib)の第3相LYNK-003試験で独立データ監視委員会が無益認定したことを明らかにした。中止する予定。切除不能/転移結腸直腸癌の一次治療で進行が止まった患者の維持療法に、単剤、またはbevacizumabと併用投与する効果をbevacizumab単剤と比較した試験で、主評価項目はPFS。

LynparzaはアストラゼネカのPARP阻害剤。MSDは共同開発販売権を持っており、今回の試験を主導した。

ある種の卵巣癌や乳癌、前立腺癌に承認されているが、最近はネガティブなニュースも散見され、3月にはKEYLINK-010試験(転移性去勢抵抗性前立腺癌の二次治療実薬対照試験)が無益認定された。

リンク: MSDのプレスリリース


VBLの遺伝子療法、卵巣癌試験もフェール
(2022年7月19日発表)

イスラエルのVBL Therpeutics(Nasdaq:VBLT)は、VB-111(ofranergene obadenovec)の第3相OVAL試験がフェールしたと発表した。白金抵抗性卵巣癌を組入れてpaclitaxelと併用する効果を検討したが、PFS(無進行生存期間)も全生存期間の中間解析も、paclitaxel・偽薬併用群と大差なかった。PFSはハザードレシオ1.03、メジアン値はどちらも5.3ヶ月前後、全生存期間はハザードレシオ0.97、メジアン値は試験薬群は13.37ヶ月、偽薬群は13.14ヶ月だった。

VB-111は複製能を除去した5型アデノウイルスをベクターとして、血管内皮細胞指向性を持つプロモーターとデス・レセプターを導入する点滴用薬。新生血管の血流を阻害し、免疫を刺激し、腫瘍微小環境で高発現するTNFアルファが新生血管をアポトーシスさせることが期待されている。日本はナノキャリア(TSE:4571)が開発販売権を持っている。

これまでの成果は案外で、18年には第3相神経膠腫bevacizumab併用試験がフェール。他の癌は第2相段階だ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


Rett症候群用薬を承認申請
(2022年7月18日発表)

Acadia Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)はtrofinetideを2歳以上のRett症候群用薬としてFDAに承認申請した。Rett症候群は神経系の発達不全を伴う希少疾患で、米国の罹患数は6000~9000人。trofinetideはニューロンやグリア細胞で産生されるIGF-1のアミノ端末トリペプチドの類縁体で、神経炎症を抑制しシナプス機能を支えることが期待されている。

5-20歳の女性患者187人を組入れて一日二回、12週間に亘り経口又は経胃瘻投与した第3相試験で、共同主評価項目のRett Syndrome Behaviour QuestionnaireとClinical Global Impression–Improvementが偽薬比有意に改善した。前者は45項目について介護者が0/1/2の何れかに評価するもの。ベースライン比5.1低下し、偽薬群の1.7を上回った。修正イフェクト・サイズは0.37。後者は医師が全般症状の変化を1~7で評価するもので、大きいほど悪い。各群3.5と3.8となり、イフェクト・サイズは0.47だった。

治療時発現有害事象の発現率は17%と2%でだいぶ差があるが、深刻有害事象は両群とも3.2%だった。

trofinetideは18年にオーストラリアのNeuren Pharmaceuticals(ASX:NEU)から北米の開発商業化権を取得したもの。

リンク: 同社のプレスリリース


C3阻害剤を地図状萎縮に承認申請
(2022年7月19日発表)

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)は、pegcetacoplanの硝子体注射用新製剤を加齢性黄斑変性の二次的地図状萎縮治療薬としてFDAに承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月26日。現時点で諮問委員会招集は予定されていない。同社はEUでも年内に承認申請する計画。

地図状萎縮は加齢性黄斑変性の合併症で、失明の原因として最も多いとのこと。米国の推定患者数は100万人。補体系C3の関与が指摘されている。pegcetacoplanはC3阻害剤で、皮注用製剤が21年に欧米で夜間ヘモグロビン尿症用薬として承認されている。

今回のエビデンスとなるのは第3相試験二本と第2相試験。毎月または2ヶ月毎に12ヶ月間投与して病変の拡大を観察したところ、OAKS試験では治療効果(偽薬比)が各22%と16%となり、有意な拡大抑制効果が見られた。一方、DERBY試験は各12%と11%に留まり、フェールした。第2相のFILLY試験では各29%と20%と最も良い数値が出たが、2ヶ月毎投与群のp値は0.067だった。

第3相は18年10月に投与が一時中断された。特定ロットを投与した患者8人すべてで非感染性炎症が発言したため。第3相でも6331回投与して13件の眼内炎症が発現したが、転帰はそれほど悪くない模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース


不快な味のない尿素サイクル異常症用薬を再承認申請
(2022年7月18日発表)

Acer Therapeutics(Nasdaq:ACER)はACER-001(sodium phenylbutyrate)を再承認申請したと発表した。活性成分のフェニル酪酸ナトリウムは尿素サイクル異常症の治療薬として用いられているが、味が不快で価格も高いことが難点。ACER-001は無味の粉末製剤で、21年8月に505(b)(1)申請したが、包装工程委託先の査察ができなかったため、6月に審査完了通知を受領した。委託先の査察受け入れ準備が整った模様だ。

Relief Therapeutics(SIX:RLF)と開発発販売提携を結んでいる。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツ対抗品を欧州でも承認申請
(2022年7月18日発表)

オランダのByondis B.V.は、SYD985(vic-trastuzumab duocarmazine)をEUで承認申請し受理されたと発表した。承認後はドイツのmedac GmbHが販売する予定。米国でも先ごろ、承認申請が受理され、審査期限は23年5月12日。

抗her2抗体trastuzumabとアルキル化剤duocarmazineを結合した抗体薬物複合体。乳癌の一部で過剰発現するher2に結合して細胞内部に取り込まれると、リンカーが外れて薬剤が活性化する。エビデンスとなる第3相TULIP試験では、類薬であるロシュのKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)または二種類以上のher2標的薬による治療歴を持つher2陽性切除不能局所進行性/転移性乳癌436人を試験薬群と医師が選んだ治療法群に2対1割付してPFS(無進行生存期間、独立評価)を比較したところ、ハザードレシオ0.64、メジアン値は各7ヶ月と4.9ヶ月となり、副次的評価項目である全生存期間も予備的解析で好ましいトレンドが見られた。

競合品では第一三共/アストラゼネカのEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)がほぼ同様な適応範囲で承認されているが、対照試験の裏付けは未だないのでデータを見比べることはできない。EnhertuはKadcyla対照試験が成功し承認されたので、今後は、3番目ではなく2番目に使うher2標的薬として普及していくだろう。となると、SYD985はKadcylaではなくEnhertu歴を持つ患者にも有効なのかが問われることになる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがsiRNAなどに肯定的意見
(2022年7月22日発表)

CHMPは以下の新薬と適応拡大に肯定的意見を纏めた。順調なら2ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アルナイラム・ファーマシューティカルズのAmvuttra(vutrisiran)は二重連鎖短鎖介入性RNA薬。hATTR(遺伝性トランスサイレチン調停)アミロイドーシスの成人のステージ1/2ポリニューロパチーを治療する。類薬である同社のOnpattro(patisiran、和名オンパットロ)が3ヶ月に一回点滴静注するのに対して、皮注で済むことが特徴。臨床試験で複数の症状評価スコアがOnpattroの第3相の偽薬群と比べて有意に改善した。有害事象は四肢痛や関節痛。米国では6月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

大塚製薬のLupkynis(voclosporin)はカルシニューリン阻害剤。成人の活性期クラスIII/IV/Vルーパス腎炎の治療に別の免疫抑制剤、mycophenolate mofetilと併用する。Aurinia Pharmaceuticals(TSX:AUP)から日欧市場で導入したもの。ロシュがカナダのIsotechnikaからライセンスして腎移植後免疫抑制剤として開発したことがあるが08年に権利を返還。Isotechnikaは単独開発を試みたが、13年にAurinia社と合併した。

リンク: EMAのプレスリリース

イーライリリーのMounjaro(tirzepatide)はGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の受容体のデュアル・アゴニスト。成人の二型糖尿病の治療に週一回、皮注する。米国では5月に承認、日本でも申請済み。GLP-1アゴニストと同様に肥満症にも開発されている。

リンク: EMAのプレスリリース

Comharsa Life SciencesのNulibry(fosdenopterin)は超希少な常染色体劣性遺伝性疾患であるモリブデン補因子欠乏症(MoCD)A型の基質補充療法。モリブデン補因子合成1遺伝子の変異によるモリブデン欠乏が原因でモリブデン依存性酵素が活性化されず、亜硫酸などが臓器に蓄積するのを防ぐために、体内でモリブデン補因子に転換されるcPMP(環状ピラノプテリン一リン酸)を補充する。

BridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)がアレクシオン・ファーマシューティカルズから合成cPMP関連資産を取得、Origin Biosciencesを設立して開発し、米国で21年2月に承認を取得した。今年3月にインドのGE薬大手であるZydus Lifesciencesの子会社、Sentynl Therapeuticsが世界開発商業化権と米国外の生産権を取得した。Comharsaは医薬品開発受託会社のようなので、おそらく、EUはSentynlではなく提携先が販売することになるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース

BMSのOpdualag(relatlimabとnivolumab)はイフェクターT細胞や制御的T細胞が発現する免疫チェックポイント受容体であるLAG-3に結合するIgG4型モノクローナル抗体と、抗PD-1抗体Opdivoの活性成分の抱き合わせ製品。12歳以上でPD-L1発現が1%未満の切除不能/転移黒色腫の一次治療に用いる。米国では3月に承認されたが、PD-L1に基づく限定はない。臨床試験ではPD-L1発現が1%以上だったサブグループは主評価項目のPFSがOpdivo単剤と大差なかったが、死亡は16%少なかった。欧米の判断が分かれたのは、エビデンスが明確でないからだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

JNJグループのJanssen-CilagのTecvayli(teclistamab)は、多発骨髄腫が発現するBCMAとT細胞のCD3に結合する二重特性抗体。GenmabのDUOBODY技術で創製した。三種類の代表的な多発骨髄腫用薬を含む3次以上の治療歴を持ち最終治療抵抗性の患者に週一回皮注する。第1/2相試験のORR(反応率)に基づく条件付き承認が支持された。有害事象は低ガンマグロブリン血症やサイトカイン放出症候群、好中球減少症など。米国は昨年12月に承認申請された。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのTezspire(tezepelumab)はアムジェンからライセンスした抗TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)抗体。成人・青少年の管理不良重度喘息症に4週毎皮注する。米国では昨年12月に承認。日本も申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュのVabysmo(faricimab)はアンジオポイエチン2とVEGF-Aに結合する二重特異性抗体。成人の新生血管を伴う加齢性黄斑変性や、糖尿病性黄斑浮腫による視力障害の治療に硝子体内注射する。今年1月に米国で、3月には日本でも、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークの承認申請支援企業、Billev PharmaのIlluzyce(lutetium (177lu) chloride)は、放射性同位元素。177luで標識して用いることが承認されている医薬品に用いる。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大は、まず、Bavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)のImvanex (弱毒化、生ワクシニアウイルスAnkaraワクチン)。13年に天然痘ワクチンとして例外的環境条項に基づき承認されたが、新たにサル痘やワクシニアウイルスによる病気の予防に用いることが支持された。米国では19年に天然痘とサル痘のワクチン、Jynneosとして承認されている。EUはサルの臨床試験を禁じているはずだが、Imvanexのエビデンスは非ヒト霊長類の試験。国会議事堂近くでなければ原発も可、というのと似ている。

リンク: EMAのプレスリリース

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)のImcivree(setmelanotide)は三種類の遺伝性肥満症に承認されているが、新たに6歳以上のバルデー・ビードル症候群による肥満症と飢餓感の治療に用いることが支持された。一方、アルストレム症候群による肥満症の治療は、投与実績が6例と少ないことがネックとなり、申請撤回となった。6月に米国でも前者にだけ承認された。

イーライリリーのRetsevmo(selpercatinib、米名Retevmo、和名レットヴィモ)はRET融合且つ又RET転移のある非小細胞性肺癌や甲状腺髄様腫に承認されているが、進行RET変異甲状腺髄様腫における、cabozantinib且つ又vandetanib歴という限定を解除することが支持された。

ギリアド・サイエンシズ・グループのKite Pharma(Nasdaq:KITE)のCAR-TであるTecartus(brexucabtagene autoleucel)を26歳以上の再発難治前駆B細胞急性リンパ芽急性白血病に用いることも支持された。米国では21年10月に適応拡大が承認されたが、対象年齢は単に『成人』となっている。

アストラゼネカが買収したアレクシオン・ファーマシューティカルズのUltomiris(ravulizumab)を抗AChR抗体陽性の全身性筋無力症に用いることも支持された。米国は4月に承認、日本でも申請中。

一方、インサイトのINCB050465(parsaclisib)は、1月の米国に続いてEUでも承認申請撤回となった。PI3K阻害剤は当初考えられていたほど有効ではない可能性が浮上し、FDAはPI3K阻害剤を血液癌に承認申請する場合はORR(客観的反応率)という不確かな指標ではなく無作為化割付試験で延命効果を立証すべき、と方針を変更した。EUも、成人の辺縁帯リンパ腫の二次治療薬として承認申請されたparsaclisibに関して、対照試験のエビデンスがないことや、条件付き承認の要件である既存治療に対する優越性が示されていないことから、否定的に考えていた。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


ルキソリチニブ・クリームが白斑に適応拡大
(2022年7月18日発表)

Incyte(Nasdaq:INCY)はOpzelura(ruxolitinib)を12歳以上の非分節型白斑の治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。白斑治療薬は初めて。一日二回、病変部位に塗布する。体表面積の10%を越えて塗布してはいけない。満足のいく成果が出るまで24週間以上、治療を続ける。

第3相試験二本ではF-VASI75(顔面白斑重症度指標が75%以上改善)達成率が30%と、偽薬群の8%と13%を有意に上回った。

JAK阻害剤Jakafi(和名ジャカビ)のクリーム製剤で21年に米国で局所性製剤不応不適の軽中度アトピー性皮膚炎に用いることが承認された。JAK阻害剤のクラス警告である深刻な感染症、死亡、腫瘍、主要有害心血管事故、血栓症のリスクが枠付警告されている。

リンク: 同社のプレスリリース


欧州でAADC欠損症用薬が承認
(2022年7月20日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はUpstaza(eladocagene exuparvovec)がEUでAADC(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症薬として承認されたと発表した。生後18か月以上の重症型患者が適応になる。エビデンスは台湾で実施された臨床試験で、例外的環境条項に則り承認された。米国では承認申請していない模様。

AADC欠損症はドパミンやセロトニンの合成に必要な酵素、DDCに変異を持つ常染色体性劣性遺伝性疾患。乳児期から発達遅延や眼球運動異常、四肢ジストニアなどが見られる。Upstazaは遺伝子組換え型アデノ随伴ウイルス2型をベクターとして、DDC遺伝子を定位脳手術で導入する。運動機能の改善が見られるようだ。有害事象は不眠、易刺激性、ジスキネジアなど。

EUにおける承認はプレスリリースを出さない企業も多く、また、承認に先行するCHMPのプレスリリースでかなりカバーできるため、本稿では割愛することが多いが、世界初承認であることや希少疾患用薬であることから例外的に取り上げた。

リンク: 同社のプレスリリース


ザーコリが希少疾患に適応拡大
(2022年7月14日発表)

FDAはファイザーのXalkori(crizotinib)を1歳以上のALK陽性切除不能/再発/難治炎症性筋線維芽細胞腫瘍に用いることを承認した。小児試験ではORR(客観的反応率、第三者評価)が86%(14人中12人、うち5人は完全反応)、成人試験ではORR(担当医評価)が71%(7人中5人、うち1名は完全反応)だった。反応者のうち、12ヶ月以上持続したのは小児試験では58%、成人試験では40%だった。

XalkoriはALS/ROS1阻害剤。米国ではALK/ROS1陽性非小細胞性肺癌やALK陽性再発/難治全身性未分化大細胞リンパ腫に承認されている。

FDAもファイザーも本件に関するプレスリリースは出していないようだ。

リンク: 米国の処方情報(Drug@FDA、pdfファイル)






今週は以上です。

2022年7月14日

第1059回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ヌバキソビッド、米国でもEUA 
  • EU、mRNAワクチンの再追加接種を60歳以上などに推奨 
  • モデルナのBA.1対応ワクチンもBA.4/5には効果が低下しそう 
  • 抗GM-CSFの臨床試験がフェール 
  • その他の領域: 
  • 米国で経口避妊薬のOTCスイッチを申請 
  • 腎細胞腫のトリプル・セラピーが成功 
  • 週一回静注用第VIII因子の第3相が成功 
  • ノボ、ヘムライブラ対抗品を承認申請へ 


【COVID-19関連】


ヌバキソビッド、米国でもEUA
(2022年7月13日発表)

FDAはNovavax(Nasdaq:NVAX)のCOVID-19ワクチンを18歳以上の初回免疫にEUA(非常時使用認可)した。7月19日にACIP(ワクチン接種諮問委員会)が勧奨の当否や対象を検討する予定。SARS-CoV-2のスパイク蛋白抗原5mcgにMatrix-M免疫刺激剤50mcgを添加した製品で、欧州では昨年12月にNuvaxovidとして初回免疫に条件付き承認、日本では今年4月にヌバキソビッドとして初回および追加免疫に承認された。同社は米国では自社製品を販売する予定だったが、生産が順調に進まなかった模様で、インドのSerum Institute of India製に切り替えた。

21日置いて2回、筋注した第3相米国試験ではワクチン効率が90%だった。偽薬群も含めて感染例はアルファ株が多く、オミクロン株に対する効果は他のワクチンと同様に低下すると想像される。

EUAなので、18歳以上の初回免疫に正式承認されている二製品のほうが優先される。mRNAワクチンは嫌だが従来技術なら良い、という人が対象になりそうだが、どの程度いるのだろうか?尤も、接種を推進する上では、蜘蛛の糸でも掴めるものは掴んで、切れたらその時に考えればよいと達観するのが正統的なのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース


EU、mRNAワクチンの再追加接種を60歳以上などに推奨
(2022年7月11日発表)

EMAとECDC(欧州疾病管理予防センター)は、60歳以上の人とリスク因子(一部の基礎疾患など)を持つ人達を対象に、COVID-19ワクチンのブースター接種から4ヶ月以上経ったらもう一度接種することを考慮するよう推奨した。4月の段階では80歳以上にしか勧告していなかったが、その後、感染者が増加し入院・ICU入室率も上昇してきたため、対象を広げた。

米国は3月にFDAが50歳以上と、臓器移植またはそれと同様なリスク因子を持つ人に4ヶ月以上経った段階での再追加接種を推奨している。日本は60歳以上とリスク因子を持ち最初の追加接種から5ヶ月以上経った人に推奨しており、各国、対象や時期が若干異なっている。

歯切れが悪いのは再追加接種の疫学データがそれほど良くないためだ。10月以降にBA.1対応やBA.4/5対応ワクチンが実用化されれば現行のワクチンよりは改善しよう。尤も、EUやWHOはBA.1対応の二価ワクチンの承認審査を進めている模様だが、米国はメーカーにBA.4/5対応二価ワクチンの承認申請を求めるなど、足並みの乱れが目立つ。日本はどうするのだろうか?

リンク: EMAとECDCの共同プレスリリース


モデルナのBA.1対応ワクチンもBA.4/5には効果が低下しそう
(2022年7月11日発表)

モデルナはSpikevax(elasomeran)の抗原とオミクロンのBA.1株に対応した抗原を25mcgずつ配合したCOVID-19ワクチン、mRNA1273.214の再追加接種試験のトップラインを発表した。感染歴のない人の接種後血液を用いて測定したBA.4/5ウイルスに対する中和抗体価は776(接種前の6.3倍)、Spikevaxを再追加接種した人の血液では458(同3.5倍)となり、幾何平均比は1.69だった。

6月に発表された、BA.1ウイルスに対する同様な試験データは、2372(8倍)と1473(n.a.)、幾何平均比は1.75だった。相手がBA.1でもBA.4/5でも、Spikevaxより二価ワクチンのほうが抗体価が高いことになる。但し、どちらもBA.4/5に対する数値は見劣りする(この二本の試験のデータが比較できるものかどうかは明らかではないが)。

BioNTech/ファイザーのオミクロン株ワクチンもBA.1と比べてBA.4/5に対する作用は低下するとメーカー自身が認めている。だから、FDAは開発が進んでいるBA.1対応品ではなく現在の流行に適合するBA.4/5対応二価ワクチンを選択したのだろう。

リンク: モデルナのプレスリリース


抗GM-CSFの臨床試験がフェール
(2022年7月12日発表)

Humanigen(Nasdaq:HGEN)は、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導したACTIV-5/BET試験がフェールしたと発表した。COVID-19肺炎患者の人工呼吸器/ECMO装着や死亡を抑制する効果を検討したが、自社で実施した第3相試験の成績を再現することができなかった。

GM-CSFに結合する抗体医薬で、サイトカイン放出症候群を抑制する効果が期待されている。米州で実施した試験では28日無人工呼吸器装着・生存ハザードレシオが1.54、p=0.0365とボーダーライン上だが統計的に有意な抑制効果が見られた。特に、CRPが150mg/L未満のサブグループでは人工呼吸器装着・死亡リスクが62%小さかった。同社はEUAを申請したが、認められなかった。

今回の試験の主評価項目は、85歳未満かつCRP<150mg/Lのサブグループの29日人工呼吸器/ECMO装着/死亡。フェールした。全被験者の死亡リスクではハザードレシオ0.72だったが統計的に有意ではなかった。

本試験では全員にremdesivirを投与したが、tocilizumabなどは用いられなかった模様だ。もう一回臨床試験を行う場合、tocilizumab対照またはアドオンというデザインになるだろうから、ハードルが高くなる。おそらく、手仕舞いになるだろう。

Humanigenの前身であるKaloBios Pharmaceuticalsは2015年にMartin Shkreliが株式の過半を取得しCEOに就任したが、翌月、逮捕されたため追放しチャプター11の適用を申請、16年に現社名で復活した。

リンク: 同社のプレスリリース

【今週の話題】


米国で経口避妊薬のOTCスイッチを申請
(2022年7月11日発表)

ダブリン籍の製薬会社、Perrigo(NYSE:PRGO)は、5月に18億ポンドで買収したHRA Pharmaが米国で経口避妊薬Opoll(norgestrel 75mcg)のOTCスイッチを申請したと発表した。最高裁が避妊手術の合法性は連邦政府ではなく州政府が判断と決定したこととは関係なく、以前からの計画通りで、HRAは英国では昨年7月にHana(desogestrel 75mcg)のOTCスイッチに成功している。英米では避妊薬を無料で入手できるが、英国ではOTC版は有料。

リンク: Perrigoのプレスリリース

【新薬開発】


腎細胞腫のトリプル・セラピーが成功
(2022年7月11日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)は、第3相COSMIC-313試験の主目的を達成したと発表した。中高リスク腎細胞腫の一次治療としてBMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)のレジメンに更にCabometyx(cabozantinib )を追加する効能を偽薬追加と比較したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立放射線学的評価)のハザードレシオが0.73(95%信頼区間0.57-0.94)、p=0.01と、統計的に有意な差があった。副次的評価項目である全生存期間の中間解析はフェールした。

このVEGF受容体拮抗剤は進行腎細胞腫の一次治療にOpdivoと併用することが承認されている。エビデンスとなるsunitinib対照試験ではPFS(同)のハザードレシオが0.51、メジアン値は16.6ヶ月対8.3ヶ月だった。全生存期間のハザードレシオは0.60、メジアン値は両群未達。OpdivoとYervoyも中・高リスク腎細胞腫の一次治療に承認されており、エビデンスとなるsunitinib対照試験ではPFS(同)のハザードレシオは0.82、メジアン値は11.6ヶ月と8.4ヶ月、全生存期間のハザードレシオは0.63、メジアン値は未達と25.9ヶ月だった。

組入れ対象が若干異なるものの、sunitinib群のメジアンPFSは同程度なので二本の結果を比較すると、Opdivoと併用するならYervoyよりCabometrxの方が効果が高いように見える。しかし、全生存期間のハザードレシオは大差なく、どちらも大差ないようにも見える。

この知見を今回の試験に演繹すると、Opdivo・Yervoy併用群のPFSは実力(延命効果)より低く示されている可能性があり、それを有意に上回ったとしても、一番重要な全生存期間でどの程度上回るかは判然としない。PFS自体もp=0.01というのは十分に低いとは言えない。

結局、真贋が明らかになるのは全生存期間の最終解析だろう。

リンク: Exelixis社のプレスリリース


週一回静注用第VIII因子の第3相が成功
(2022年7月10日発表)

サノフィは、efanesoctocog alfaの第3相重症A型血友病試験が成功したと発表した。12歳以上の予防的投与を受けている患者159人を組入れて、50 IU/kg週一回静注を52週間施行したところ、ABR(年率出血率)が中央値でゼロ、平均値で0.71となった。副次的評価項目であるスイッチ前のABRとの比較は、77%減(0.69対2.96)となった。インヒビターは検出されなかった。年内に承認申請を開始する予定。

血液凝固第VIII因子にIgG1固定領域、フォン・ヴィルブランド因子の第VIII因子結合領域、そしてXTENポリペプチドを結合して半減期を長期化した新製剤。

リンク: 同社のプレスリリース


ノボ、ヘムライブラ対抗品を承認申請へ
(2022年7月10日発表)

ノボ ノルディスクは、NN7415(concizumab)の第3相試験が良好な結果になったと発表した。年内に日米で、23年にはEUなどでも、承認申請する考え。

NN7415はTFPI(tissue factor pathway inhibitor)に対する抗体。TFPIが第X因子を活性化するのを妨げる。一日一回皮注用。第3相で12歳以上のA型/B型血友病(インヒビターを持つ人も持たない人も含む)133人を試験薬による予防的投与を施行する群としない群(出血時に治療する)に2:1割付してABR(年率出血率)を比較したところ、平均値は各群1.7と11.8、メジアン値はゼロと9.8で、有意な差があった。

この試験は20年3月に非致死的な血栓性イベントが3例発生し、FDAが治験停止を命じたことがある。開始用量や多剤併用時の用量制限、ブレークスルー出血時の治療法の限定など対策を導入して8月に再開した後は血栓塞栓事故は発生していないとのことだ。

中外/ロシュのHemlibra(emicizumab)でも似たような事象が見られたので、承認の妨げになるとは限らないだろう。

血液凝固因子補充療法以外の治療法という点で、両剤は似ているが、NN7415はB型血友病もカバーしていることが特徴。但し、今回のプレスリリースは、A型とB型のサブグループ分析について言及していない。

リンク: ノボのプレスリリース





今週は以上です。

2022年7月9日

第1058回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 中華抗PD-1抗体を再承認申請 
  • ロシュ、抗CD20xCD3抗体が米国でも申請受理 
  • 尿酸酸化酵素製剤のMTX併用が承認 
  • PRAC、クロルマジノンなどの髄膜腫リスク緩和策を発表 


【承認申請】


中華抗PD-1抗体を再承認申請
(2022年7月6日発表)

Coherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)は上海君実生物医薬(HKSE:1877)から抗PD-1抗体toripalimabの北米における権利を取得、昨年9月に米国で進行難治/転移性上咽頭癌の一次治療化学療法併用と単剤二次治療薬として承認申請したが、今年5月に審査完了通知を受領した。今回、再承認申請が受理され、審査期限が12月23日に設定されたことを発表した。

審査完了通知では品質問題と中国工場査察の遅れが指摘された模様。前者は対応を終えたが、後者は未だである様子だ。中国のロックダウンが緩和されたので、査察担当者の渡航もそのうち可能になるのだろう。

toripalimabは中国では上記に加えて悪性黒色腫や尿路上皮癌、食道扁平上皮腫などに承認され、欧米系の抗PD-1/PD-L1抗体の数分の1の価格で販売されている。米国でも承認されれば価格破壊型製品になるだろう。尤も、医療保険や医療機関は利ザヤの大きい高額製品を使い続けるかもしれないが。

リンク: Coherusのプレスリリース


ロシュ、抗CD20xCD3抗体が米国でも申請受理
(2022年7月6日発表)

ロシュはFDAがLunsumio(mosunetuzumab)の承認申請を受理したと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月29日。予定適応は濾胞性リンパ腫の三次治療。EUでは6月に条件付き承認された。米国でも早晩承認と想像していたが思ったより遅かった。

B細胞のCD20と細胞傷害的T細胞のCD3に結合する二重特異性抗体で、テーラーメイドする必要のない、CAR-T療法の代替品となることが期待されている。承認申請の根拠となった臨床試験では、完全反応率60%(90人中54人)、客観的反応率80%、メジアン反応持続期間は22.8ヶ月だった。CAR-T療法はサイトカイン放出症候群など特徴的な有害事象がしばしば発生するが、mosunetuzumabはG3発生率が2.3%、G4は0.5%と、重篤重症例はあまり見られない。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


尿酸酸化酵素製剤のMTX併用が承認
(2022年7月8日発表)

Horizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)は、FDAが重度難治性痛風治療薬Krystexxa(pegloticase)の用法追加を承認したと発表した。2010年に承認された時はモノセラピーだけだったが、通常はMTX(methotrexate)併用、但しMTX不適の場合はモノセラピー、に変わった。

デューク大学が開発した遺伝子組換え型PEG化尿酸化酵素(ブタ)で、尿酸の腎排泄を促す。アナフィラキシー/注射箇所反応とG6PD欠乏症患者における溶血/メトヘモグロビン血症リスクが枠付警告されている。また、多くの患者で薬効や副作用に関連する抗薬物抗体が生じる。このため、オフレーベルでMTXを併用し免疫反応を抑制した症例が多くあるようだ。

今回の試験では、既存薬不応不耐患者にランイン期間中にMTX(15mg/週)を経口投与して忍容性を確認した上で、Krystexxa(8mg)を二週毎点滴静注する群と偽薬追加群に2対1割付して、奏効率(第6月に80%以上の検査時点で血清尿酸値が6mg/dL未満)を比較した。結果は、MTX併用群は71%、偽薬併用群は39%と大きな差があった。点滴反応発生率も各4%と31%で大きな差があった。Krystexxaの欠点をかなり補うことができた。

MTXの用量はリウマチ性関節炎を治療する時の標的用量と大差なく、副作用リスクを伴うと予想されるが、レーベルにはランイン期間中の有害事象が記されておらず、MTX追加の便益と危険が十分に開示されているとは言えない。尤も、難治性痛風を治療する医師はMTXの使用経験も豊富だろうから、大きな問題はないだろう。

ヤンセンが抗TNFアルファ抗体Remicade(infliximab)を初めからMTX併用で開発したことを考えれば、Krystexxa・MTX併用も12年前に承認されていても良かったはずだが、元々のライセンス・ホルダーであったSavientPharmaceuticalsには余裕がなかったのかもしれない。そのツケか、承認は取得したものの販売不振で3年後にチャプター11適用を申請。1.2億ドルで子会社化したプライベート・エクイティ系の企業を16年にHorizonが5.1億ドルで買収、販促を強化するとともに、今回の用法追加を実現した。

リンク: Horizon社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、クロルマジノンなどの髄膜腫リスク緩和策を発表
(2022年7月8日発表)

EMAのPRAC(ファーマコビジランス リスク評価委員会)は、生理障害やホルモン補充療法、避妊などに用いられているプロゲスチンのchlormadinoneとnomegestrolについて、用量および期間依存的な髄膜腫リスクの対応策をまとめた。CHMP(医薬品委員会)の追認を得た上でドクター・レターを発出する予定。

髄膜腫は通常は良性で腫瘍とは見なされないが、稀に脳の機能などに深刻な影響を与えることがある。両剤はフランスの疫学研究で懸念が浮上した(二箇所のサイトでフランス語を英語に翻訳してみたものの、意味がハッキリとしなかった)。

PRACの勧告は、まず、高量(chlormadinoneは5-10mg、nomegestrolは3.75–5mg)を用いる場合はできるだけ低量、短期間に留める。既往を含め髄膜腫は禁忌。治療中は髄膜腫の症状等を監視し、発症したら投与を中止する。髄膜腫の症状としては、視力の変化、難聴、耳鳴り、臭覚喪失、頭痛、記憶喪失、癲癇発作、手足の脱力が列記されている。

リンク: EMAのプレスリリース






今週は以上です。

2022年7月2日

第1057回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ファイザー、抗ウイルス剤を正式に承認申請 
  • FDA、BA.4/5対応二価ワクチンの開発を推奨 
  • コミナティのオミクロン対応ワクチンもBA.1株に有効 
  • その他の領域: 
  • EMA、天然痘ワクチンをサル痘に適応拡大審査開始 
  • EPAのCVO試験が成功したのは偽薬に鉱油を使ったから? 
  • 抗PD-1抗体の食道扁平上皮腫一次治療試験が成功 
  • HDAC阻害剤のDMD試験成功 
  • レキサルティをアルツハイマー性アジテーションに適応拡大申請へ 
  • ジャズ、多発性硬化症の痙攣予防試験がフェール 
  • イプセン、FOP治療薬を承認申請 
  • ギリアド、カプシド阻害剤を米国で再承認申請 
  • テビペネム ピボキシル臭化水素酸塩は承認されず 
  • Vivusのダイエット補助用合剤が小児にも承認 
  • ブレヤンジがLBCLの二次治療に承認 
  • サノフィ、酵素補充療法二品がEUで承認 
  • デュベリシブは死亡リスクが抗CD20抗体を上回る 


【COVID-19関連】


ファイザー、抗ウイルス剤を正式に承認申請
(2022年6月30日発表)

ファイザーはPAXLOVID(nirmatrelvirとritonavirの同梱製品)をCOVID-19治療薬としてFDAに承認申請したと発表した。適応は昨年12月のEUAと同様のようだ(12歳40kg以上の軽中度だが重症化リスクのある患者)。

EUAの根拠となった軽中等症だが重症化リスク因子を持つ患者を組入れたEPIC-HR試験の最終解析では、入院・全死亡が偽薬比86%少なかった。28日死亡はゼロ対12人。この試験の対象外で便益が曖昧だったワクチン接種済みの重症化リスク因子を持つ患者については、EUA後にEPIC-SR試験の結果が出て、当該サブグループの28日入院・死亡リスクが偽薬比57%少なかった。程度の差はあれ、高リスク患者にはワクチン接種の有無(実務的には接種後の経過期間も)に関わらず有効ということになる。

ところで、抗ウイルス薬のご多分に漏れずPAXLOVIDもリバウンド(ウイルス検査陰転後の陽転)が1%前後の患者で発生する。最近では米国大統領の首席医療顧問であるアンソニー・ファウチ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長(81歳)が6月15日に感染し服用したところ、3日連続で陰転したが、4日目に陽転し、未承認用途だが5日間、再服用したと報じられている。追加免疫を二回行っても感染し、抗ウイルス剤で治療してもどこかに隠れてしまうのは鬱陶しいが、入院・死亡という結果にはなっていないので、最低限の便益はあったことになる。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA、BA.4/5対応二価ワクチンの開発を推奨
(2022年6月30日発表)

FDAでワクチンなどの生物学的製剤を担当するCBERのPeter Marksディレクターは、COVID-19ブースター・ワクチンにBA.4/5対応mRNA/抗原を追加するようメーカーに推奨した。二大製品であるBioNTech/ファイザーのComirnaty(tozinameran)とSpikevax(elasomeran)は、BA.1対応ワクチンの免疫原性データが公表されたばかりだが、BA.4/5対応シーケンスを追加した二価ワクチンについてもメーカー側は10~11月頃の接種開始が可能と見込んでいる模様だ。尚、初回免疫は従来製品を使用する。低年齢向けは現行ワクチンを用いた初回免疫が承認されたばかりだし、mRNAワクチンを忌避する人は抗原ワクチンによる初回免疫なら受け入れるかもしれないが、抗原ワクチンの開発・生産はmRNAワクチンほど早くないので、譲歩したのかもしれない。

米国ではBA.4とBA.5が新規感染例の過半を越えた。日本も入国制限を緩和しているので早晩、主流になるだろう。スパイク蛋白などの変異がBA.1など他の株より多く、ワクチンや抗体医薬の効果が低下するが、BA.4/5に一点張りすると他の系統から新規流行株が現れた時に大外れしかねない。私は、今秋はBA.1ベースの二価ワクチンを採用し、BA.4/5対応版は来年導入と予想していたが、現状で最善の方針を打ち出した。

6月28日に開催されたワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会では21人の委員のうち19人がオミクロン株対応ワクチンの採用に賛成した。長所はオミクロン株に対する免疫原性が現行のワクチンより優れること。弱点は、感染や重症化を防ぐ臨床的な便益が確立していないことや、実用化される頃にはまた新しいウイルスが流行しているかもしれないこと。また、反対した2人が指摘するように、現行のワクチンでもオミクロン株感染者の重症化予防効果は維持されている。

亜株の選択や二価ワクチンの是非は採決対象ではないが、多くの委員がBA.4/5対応の二価ワクチンを推奨したようだ。FDAはEMAなどとも協議しているので、おそらく、これが世界の潮流になるのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース


コミナティのオミクロン対応ワクチンもBA.1株に有効
(2022年6月25日発表)

ファイザーとBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、オミクロン株対応COVID-19ワクチンの第2/3相免疫原性試験のトップラインを公表した。56歳以上で一回ブースター接種済の1234人を組入れて、BA.1対応ワクチンと、BA.1対応と現行の抗原の二価ワクチンの夫々二用量(30mcgと60mcg)のBA.1株に対する中和抗体幾何平均価(GMT)を現行のワクチンと比較したところ、BA.1対応ワクチンはGMR(幾何平均比)が30mcgは2.23、60mcgは3.15と、どちらも95%下限が優越性判定の閾値である1.5を上回った。2価ワクチンも各1.56と1.97で数値上、上回ったが、閾値をクリアできなかった。

GMRではなくGMTはどうか?BA.1ワクチンは接種前と比べて各用量13.5倍と19.6倍に増加、二価ワクチンは9.1倍と10.9倍に増加した。

現行のワクチンの二回目ブースターはイスラエルの免疫原性試験に基づきEUA(非常時使用認可)されたものだが、接種の2週間後の野生株やデルタ株、オミクロン株に対する中和抗体力価は初回ブースターの5か月後と比べて11倍に上昇している。今回の試験ではこんなに上昇してはいないはずなので、比較できるデータではないのだろう。

今回は、米国でも主流になったBA.4やBA.5についても、接種者の血液と生ウイルス中和アッセイを用いてin vitroで検討した。結果はBA.1の3倍(の量を投与しないとウイルス量を抑制できない)という残念なものだった。

mRNAワクチンの双璧であるモデルナもオミクロン対応2価ワクチンのオミクロン株に対する現行ワクチン比GMRが1.75(97.5%下限1.49)と良好な成績を上げた。どちらもEUがローリング承認審査を開始したが対応株は未定、米国はBA.4やBA.5に対応する二価ワクチンの採用をブースターに関しては決定した。

リンク: 両社のプレスリリース

【今週の話題】


EMA、天然痘ワクチンをサル痘に適応拡大審査開始
(2022年6月28日発表)

EMAは、Bavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)の天然痘ワクチンImvanexのサル痘予防効果について検討を開始した。米国で天然痘やサル痘の予防に承認されている同社のJynneosと名前が違うだけと当方は思っていたが、工場が異なり、他にも細かな違いがあるのかもしれない。零下20℃で保存できる有効期間はImvanexが2年、Jynneosは3年だが、実際はどちらも3年間有効のようだ。このような主観的な違いも整理の必要があるのだろう。

天然痘ワクチンはバイオテロなど万が一に備えた危機対応策の一つという位置付けだったため、調達量や熱意は国によって異なる。Imvanexは直ぐに供給できる量が限られている模様であり、EUは加盟国向けにJynneosを11万回分、調達契約した。

リンク: EMAのプレスリリース


EPAのCVO試験が成功したのは偽薬が有害だったから?
(2022年6月28日刊行)

EPA/DHAの心血管疾患予防試験はフェールしたものが多いが、EPAだけを比較的多く投与した試験二本は成功した。Amarin(Nasdaq:AMRN)のEPA製剤、Vascepaカプセル(icosapent ethyl)はその貴重な一本であるREDUCE-IT試験に基づき、19年に米国で、心血管疾患歴やリスク因子を持つ高トリグリセライド血症の患者の心血管疾患リスクを抑制する適応・効能で承認された。

この試験では偽薬群のLDL-Cがメジアンで10.9%上昇しており、若干低下した試験薬群と12.1%の群間差が生じた。VascepaのLDL-C抑制効果は限定的であるため、本試験が成功したのはVascepaが効いたのではなく、色などを似せる目的で偽薬カプセルに入れた鉱油が有害だったのではないか、という見方もあった。しかし、諮問委員会が16人全員一致で便益が危険を上回ると判定するなど、主流意見にはならなかった。

ところが、本試験の成功がAHA(米国心臓協会)年次総会やNew England Journal of Medicine誌で発表されてから3年半、米国承認から2年半経った今になって、偽薬群はLDL-Cだけでなく様々な炎症バイオマーカーも悪化したことが判明した。一方、Vascepa群は大きな変動はなかった。

Circulation誌論文によると、第12月における群間差は、hsCRPが38.5%、IL-1ベータは48.7%、IL-6は19.8%となっている。今回の論文の筆頭著者であるPaul Ridker氏はこれらの指標に注目してスタチンや抗IL-1ベータ抗体の心血管アウトカム試験を成功させている(後者は適応がFDAに承認されなかったが)。

この論文はREDUCE-IT論文の筆頭著者も名を連ねており、そのせいか、インプリケーションについては言及していない。しかし、メディカル・ジャーナリズムの報道によれば、Steve NissenやRobert Harrington、Harlan Krumholzといった心血管領域のオピニオン・リーダーでFDA心血管諮問委員会でも中心的な役割を果たした実績を持つ各氏が、改めて、本試験の解釈について問題提起している。

Vascepaは米国ではGE化、欧州などでは未承認なので、メーカー側が再試験を行う可能性はゼロだろうから、結局、この件は有耶無耶になるのではないか?

リンク: Ridkerらの論文(Circulatin、フリー・アクセス)

【新薬開発】


抗PD-1抗体の食道扁平上皮腫一次治療試験が成功
(2022年6月30日発表)

ノバルティスは、BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)から日米欧の権利を取得して開発している抗PD-1抗体、tislelizumabの第3相RATIONALE 306試験の結果をESMO(欧州臨床腫瘍学会)の学会で発表した。中国や欧米、日本、オーストラリア、アジアの施設で未治療の切除不能/局所進行性/難治/転移性食道扁平上皮腫患者を組入れて、化学療法に追加する効果を検討したところ、主評価項目の全生存期間ハザードレシオ0.66、メジアン値は17.2ヶ月(偽薬追加群は10.6ヶ月)だった。副次的に実施されたPD-L1高発現(≧10%)サブグループの解析ではハザードレシオ0.62、10%未満のサブグループの探索的解析では0.72だった。

米国で二次治療向けに承認申請中だが、早晩、適応拡大申請されるだろう。FDAは中国で実施される臨床試験の信頼性に懸念を表明しているが、これらの臨床試験は中国だけでなく、欧米や日本を含むアジアの施設も参加している。

リンク: 同社のプレスリリース


HDAC阻害剤のDMD試験成功
(2022年6月25日発表)

イタリアのItalfarmacoは、ITF2357(givinostat)の第3相デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)試験が成功したことをPPMD(Parent Project Muscular Dystrophy)2022年年次総会で発表した。承認申請に向けて欧米の審査機関と相談する考え。プレスリリースだけではよく分からないが、難病だけに取り敢えず朗報だ。

givinostatはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤。産学共同研究を通じて創製した。DMDによる作用機序は、HDACの分泌過剰により神経再生が抑制されたり炎症がトリガーされたりするのを妨げる、と考えられている。

今回のEPIDYS試験は欧米の医療施設で6歳以上の歩行可能な、ステロイドによる治療を受けているDMD患者179人を組入れて2対1無作為化割付して12ヶ月実施した偽薬対照二重盲検試験。試験薬は体重に応じた量の10mg/mL経口液を空腹時に一日二回、投与した。主評価項目は階段4段昇段時間で、主解析対象はMRI造影によるVL MFF(外側広筋の筋脂肪分画)がベースライン時点で5%超、30%未満のサブグループ。

結果は、期中の悪化が偽薬比1.78秒小さかった。p=0.0345なので高度に有意ではない。ベースライン値は不明だが、この試験の組入れ条件の一つは同時間が8秒以内であること。

副次的評価項目で6分歩行テストやNorth Star Ambulatory Assessmentも検討したはずだが、結果は記載されていない。

試験薬群の3人(2.5%)が有害事象で治験を離脱した。

リンク: 同社のプレスリリース(Business Wire)


レキサルティをアルツハイマー性アジテーションに適応拡大申請へ
(2022年6月27日発表)

大塚製薬とルンドベックは、向精神薬Rexulti(brexpiprazole)をアルツハイマー病患者のアジテーション(激越)の治療に充てる適応拡大を本年後半に申請する計画を明らかにした。最初の第3相二本は一勝一敗だったが、3本目が成功したため。FDAは、アルツハイマー病に用いると死亡リスクが高まる旨のクラス・ウォーニングを向精神薬のレーベルに掲載させており、Rexultiも精査の対象になるだろう。

brexpiprazoleはAbility(aripiprazole)の類縁体で、5-HT1A部分作動性と5HT-2A阻害性を増強しD2部分作動を弱めたもの。統合失調症の治療などで日米欧で承認されている。

アルツハイマー病性激越の第3相は17年に2mg群が一生一敗となった。一本は主評価項目(CMAI総スコア)が偽薬比p<0.05と成功したが副次的評価項目のCGI-S(医師の重症度評価)はフェール、もう一本はCMAI総スコアがフェールもCGI-Sはp値が良好だった。

今回は345人を偽薬群、2mg群、そして新たに設定した3mg群に無作為化割付した。比較対象は試験薬2群合計と偽薬群のようで、主評価項目のCMAI総スコアはp=0.0026、副次的評価項目のCGI-Sはp=0.0055だった。

3mg群で1名が死亡したが、担当医は薬物関連ではないと評価した。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)


ジャズ、多発性硬化症の痙攣予防試験がフェール
(2022年6月28日発表)

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、JZP378(nabiximols)の最初の第3相多発性硬化症痙攣予防試験がフェールしたと発表した。欧州などで承認されている薬であり、米国でも他に二本、進行中なので、諦めるのはまだ早そうだ。

昨年子会社化したGW Pharmaceuticalsは、大麻の成分を抽出して医薬品として開発販売している。カンナビジオール(CBD)を活性成分とするEpidiolex(欧州名Epidyolex)は18年に米国で、19年にはEUでも、レノックス・ガストー症候群やドラベ症候群に伴うてんかんの治療薬として承認された。

nabiximolsはCBDだけでなく陶酔作用も持つテトラヒドロカンナビノール(THC)も含有する。2010年に英国で多発硬化症に伴う既存治療不応の中重度痙攣用薬Sativexとして承認され、現在では29ヶ国で用いられている。口腔粘膜スプレイ用製剤を一日一回で開始して最大12回まで滴定する。

今回のRELEASE MSS1試験は68人の成人患者を組入れて21日間治療し、LLMT-6(両足の膝屈筋、膝伸筋、足底屈筋の状態を修正Ashorthスケールで評価した平均値)の変化を偽薬群と比較した。データは未発表。

米国では同様なデザインだが190人を組入れたMSS5試験と、446人を組入れて第57日から84日の期間における癲癇頻度を比較するMSS3試験が進行しており、秋以降に結果が出そうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


イプセン、FOP治療薬を承認申請
(2022年6月29日発表)

イプセンはpalovaroteneをFOP(進行性骨化性線維異形成症)における異所性骨化を抑制する経口剤としてFDAに再承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月29日。EUでも承認申請中。カナダでは今年1月に女性は8歳以上、男性は10歳以上のFOP用薬として承認された。

FOPは骨が軟部結合組織など本来とは異なった場所にできる。罹患率が100万人当たり1.36人という超希少疾患。同薬はレチノイン酸受容体ガンマ・アゴニストで、19年に買収したClementia Pharmaceuticalsが14年にロシュからライセンスしたもの。FOP試験では新規異所性骨化が成人でも小児でも自然歴より少なかった。

懸念材料は19年に14歳未満の患者の試験が部分停止となったこと。筋骨格的に未成熟な患者の27%で骨端線早期閉鎖が見られたため。カナダでは14歳未満の一部に使うことが認められたことを考えれば、それほど深刻な問題ではないのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


ギリアド、カプシド阻害剤を米国で再承認申請
(2022年6月27日発表)

ギリアド・サイエンシズはlenacapavirをFDAに再承認申請したと発表した。昨年6月にHIV/AIDSのサルベージ治療薬として承認申請したが、バイアルのホウケイ酸塩ガラスが薬剤に反応して非可視性のガラス・パーティクルを生じる懸念が浮上したため、アルミノケイ酸塩ガラス製に切り替えた。しかし、FDAは臨床試験に用いられたバイアルとの比較可能性の立証が不十分として今年3月に審査終了を通知した。

EUでは6月にCHMPが肯定的意見をまとめており、米国でも早晩、承認されるのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


テビペネム ピボキシル臭化水素酸塩は承認されず
(2022年6月27日発表)

Spero Therapeutics(Nasdaq:SPRO)はSPR994(tebipenem pivoxil hydrobromide)を複雑尿路感染症(腎盂腎炎を含む)の治療薬としてFDAに承認申請し、優先審査を受けたが、審査完了通知を受領した。3月と5月にFDAがエビデンスに疑問を呈している旨のアップデートがあったため、サプライズではない。Speroはリストラを断行中。

Meiji Seikaファルマから欧米などの権利を取得して開発した、オラペネムの新規塩。第3相試験では複合奏効率(臨床的治癒かつ細菌学的駆除)が58.8%とertapenem群の61.6%を3.3%下回ったが、95%下限が閾値の-12.5%を上回ったため、非劣性認定された。

閾値は通常は-10%だが、COVID-19の影響で組入れが予定より減少したため、-12.5%に変更された。妥当なのか、私にはわからない。FDAはサブグループ分析などで非劣性が確立しなかったことなどを懸念しているようだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


Vivusのダイエット補助用合剤が小児にも承認
(2022年6月27日発表)

FDAはVivus社のQsymia(phentermine、topiramate)を12~17歳の小児肥満症に適応拡大した。年齢と性別で標準化したBMIが95パーセンタイル以上の、カロリー抑制食事療法と運動療法を受けている患者に用いる。223人を組入れて56週間投与した試験では、偽薬群のBMIが3.3%上昇したのに対して、低用量群(phentermine 7.5mgとtopiramate 46mg)は4.8%減、高用量群(各15mgと92mg)は7.1%減となった。

肥満症の短期治療薬と抗癲癇薬のコンビ薬で、前者は過剰な空腹感を抑え、後者は満腹感の欠如を補うことが期待されている。催奇性があり、また、小児における心血管安全性は確立していない。

12年7月に米国で成人肥満症に承認されたが、販売は不振。欧州は承認されなかった。Vivusは20年7月に連邦デラウェア地区破産裁判所にチャプター11の適用を申請、同年12月に債権者であったIEH Biopharmaの完全子会社となった。この会社の親会社は、コーポレート・レーダーとして株式市場を席巻したCarl Icahnが創立し取締役会長をしているIcahn Enterprisesである。

リンク: FDAのプレスリリース


ブレヤンジがLBCLの二次治療に承認
(2022年6月24日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブは6月20日にEUでBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)をDLBCL(びまん性大細胞型リンパ腫)などの二次治療に適応拡大申請して受理されたと発表したが、その4日後、米国で承認された。承認通知書によると申請は昨年12月。日本は3月申請なので、結構区々だ。

初回治療に難治または12ヶ月以内に再発したHSCT(造血幹細胞移植)に適した患者を組入れてEFS(応答不十分、進行、または死亡をカウント、独立評価委員会判定)を標準療法と比較したTRANSFORM試験でハザードレシオが0.34、メジアン値は各10.1ヶ月と2.3ヶ月と、大きな差を示した。対照群は過半が治療を受けられなかった。完全反応率は各群66%と39%。

米国では、初回治療に難治/再発したHSCT不適患者に用いることも承認された。第2相PILOT試験で61人の完全反応率が54%だった。

Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)が開発したCD19標的CAR-T療法で、Junoを買収したセルジーンをBMSが買収した。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース


サノフィ、酵素補充療法二品がEUで承認
(2022年6月28日発表)

サノフィは、Nexviadyme(avalglucosidase alfa)とXenpozyme(olipudase alfa)がEUで承認されたと発表した。前者はポンペ病の酵素補充療法で、米国では昨年8月、日本でも9月に承認された。EUもCHMPが7月に肯定的意見をまとめたが、新規活性成分と見なされず希少疾患用薬指定も解除されたため、おそらくサノフィがへそを曲げたのだろう、着地が遅れた。遅発型と乳児発症型の両方に使うことができる。

リンク: 同社のプレスリリース

後者はA/B型またはB型のASMD(酸性スフィンゴミエリナーゼ欠乏症、別名ニーマン・ピック病)の中枢神経以外の症状を治療する酵素補充療法。年齢限定なし。臨床試験では肺拡散能や脾臓量の改善が見られた。日本で今年3月に承認、米国でも審査中。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


デュベリシブ、死亡リスクが抗CD20抗体を上回る
(2022年6月30日発表)

FDAは、難治/再発慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の3次治療薬として承認されているPI3Kデルタ阻害剤、Copiktra(duvelisib)について、安全性警告を発出した。承認の根拠となったDUO試験の長期フォローアップで、死亡リスクがofatumumab(ノバルティスの抗CD20抗体)群を上回る傾向があった。

Copiktraはこの試験でPFS(無進行生存期間、独立第三者評価)がメジアン13.3ヶ月とofatumumab群の9.9ヶ月を上回り、ハザードレシオが0.52となったことから、18年に米国で承認された。しかし、その時点で全生存期間の解析はフェールしていた。そのせいか、FDAは当試験の組入れ条件である一次治療歴ではなく、二次以上の治療歴を持つ患者にしか承認しなかった。

今回、5年追跡した最終解析でもハザードレシオ1.09(95%信頼区間0.79~1.51)、メジアン生存期間52.3ヶ月対63.3ヶ月と、優越性は確認されず数値上はむしろ悪かった。二次以上の治療歴を持つサブグループでも同様だった。信頼区間が1を跨いでいないので統計学を軽視する審査機関なら実薬と同程度だから問題ないと受け止めるかもしれないが、非劣性解析は優越性解析よりハードルが高く、通常は、点推定値が正しくないほうを向いていたらフェールする。

FDAによると、Copiktra群は深刻な有害事象やそれによる死亡、有害事象による用量調節が対照群より多く発生した。体の一部に過ぎない癌には有効だが、患者には抗CD20抗体のほうが良いことになる。ORRを奏効率、PFSを無増悪生存期間、と訳さないのは、一部の癌を除いて症状に基づいて判定されるわけではないので主観的な表現をすべきでないという意味もあるが、今回のようなケースのようにぬか喜びに終わることもあるからだ。患者が望むのは寿命を延ばすことであり、癌の縮小は手段に過ぎないので、ORRやPFSを必要以上に高く評価すべきではない。尤も、生存期間だって治験が成功してもメジアン値で2~3ヶ月しか延びないのが一般的なのだから、抗癌剤は裸の王様だ。

デュベリシブは日本でヤクルトが承認申請中。(後記:9月29日、ヤクルトは承認申請撤回願いを提出したと発表。)

リンク: FDAの安全性連絡





今週は以上です。