2021年8月28日

第1014回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • コミナティが米国で承認 
  • Modernaも米国で承認申請 
  • 中国発の抗体カクテルの外来第3相が成功 
  • アストラゼネカ、抗体カクテルの感染予防試験が成功 
  • その他の領域: 
  • 早産防止薬の承認取消前に公聴会開催へ 
  • ESC:ジャディアンスが駆出率保持心不全の再入院を2割抑制 
  • 銅キレーター新薬のウィルソン病試験が成功 
  • ユルトミリスのALS試験はフェール 
  • キムリアのアグレッシブB-NHL二次治療試験がフェール 
  • ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬が承認申請 
  • TCR・抗CD3抗体融合蛋白をブドウ膜黒色腫に承認申請 
  • バース症候群の初認申請を断行 
  • オレンシアをaGvHDに適応拡大申請 
  • オプジーボとヤーボイを食道癌に適応拡大申請 
  • ロシュ、米国でテセントリクのTNBC承認を返上 
  • FDA、TibsovoをIDH1変異陽性再発胆管癌に承認 
  • 週一回投与型成長ホルモンが承認 
  • イグザレルト、下肢血行再建術後投与が承認 
  • 透析患者の掻痒緩和薬が承認 
  • オプジーボが膀胱がんのアジュバントに承認 


【COVID-19関連】


コミナティが米国で承認
(2021年8月23日発表)

ファイザーとドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、Comirnaty(tozinameran、コミナティ)がFDAに承認されたと発表した。16歳以上がCOVID-19感染症の予防を目的に3週間隔で二回筋注する。BioNTechが創製したリピッド・ナノパーティクル封入mRNAワクチンで、米国では昨年12月にEUA(非常時使用認可)されたが、これは正式な承認ではなく、非常時でなくなれば消滅する。12~15歳は未だEUAだけだが、臨床試験の6ヶ月追跡データがまとまった段階で一部変更申請を行う予定。

3回目接種に関しては、12歳以上で臓器移植レシピエントなど免疫不全にEUAされたところだが、両社は16歳以上の一般人口に広げるためのローリング申請に着手した。18~55歳で2回目接種から4.8~8ヶ月経った306人を組入れた第3相試験で野生株に対する中和抗体価が2回目接種後の3.3倍に増加した。ブースターが必要なのは免疫が低下することが前提なので確認のために3回目の前の中和抗体価も知りたいところだ。

米国連邦政府は9月20日の週から逐次、3回目接種を開始する予定だが、間隔は2回目の8ヶ月後となっているので、ファイザーの試験も8ヶ月経ったサブグループのデータが重要だ。尤も、8ヶ月というのは謂わば腰だめの数字で、一部では6ヶ月後に変更されるとも報じられている。8ヶ月後だとすると9月20日時点では人口の0.7%が対象になるが、6ヶ月後なら12.9%と大幅に増える。大変だが、4月のピーク時のペースなら2週間で達成できるはずだ(OurWorldInDataのデータから試算)。

興味深いのは、正式承認を機に、従業員・職員等に接種を義務付ける動きが一段と活発化していることだ。事情があれば免除されるのだろうが、他の国でもアメだけでなくムチも導入されるのだろうか?

リンク: 両社のプレスリリース(米国承認)
リンク: 同(ブースターショットrBLA着手、8/25付)



Modernaも米国で承認申請
(2021年8月25日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA)は米国でCOVID-19ワクチンのローリング承認申請を完了した。18歳以上を対象とする予定。12~15歳についてはEUAを申請した。昨年12月に第3相試験の2ヶ月追跡データに基づき18歳以上の接種がEUAされたが、今回、6ヶ月データを提出した。ワクチン効率は93%とのことなので、2ヶ月データの94%と大差ない。尤も、何れもデルタ株が流行する前のデータだろうから、今日では減衰している可能性が高い。

リンク: 同社のプレスリリース



中国発の抗体カクテルの外来第3相が成功
(2021年8月25日発表)

中国のBrii Biosciences(2137.HK)は、二種類の抗SARS-CoV-2抗体(BRII-196とBRII-198)のカクテルの外来治療試験が成功したと発表した。NIAID(米国アレルギー感染症研究所)の主導で様々なCOVID-19用薬候補をテストしているACTIV試験のうち、外来患者を組入れるACTIV-2試験が中間解析で主目的を達成、独立データ監視委員会が公表を許可した。

これらの抗体は、COVID-19感染から回復しつつある患者の血清から特定した抗体を改変して抗体依存的疾病増強リスクを抑制し、半減期を長期化したもの。Tsinghua University(清華大学)及びShenzhen Third People’s Hospital(深圳第3人民病院)と共同開発した。シュードウイルス試験ではアルファ、ベータ、ガンマ、エプシロン、デルタ、ラムダにも活性を示した。

ACTIV-2試験のBRII抗体カクテル・コフォートは、外来治療可能だが高齢や持病などリスク因子を持つ837人を組入れて、入院・死亡リスクを偽薬と比較した。被験者の69%を占める、28日の追跡期間を終えた患者の中間解析で、ハザードレシオが0.78と、他の抗SARS-CoV-2抗体カクテルと遜色ないリスク抑制効果を示した。入院患者は12人(偽薬群は45人)、死亡は1人(同9人)だった。G3以上の有害事象発生率は3.8%(13.4%)、薬物関連深刻有害事象はなかった。

この試験は発症後10日以内の患者を対象としたが、5日以内と6日以上のサブグループ分析を行う予定。

さて、Briiの抗体カクテルも中等症入院患者(発症後13日未満)を組入れたACTIV-3試験がフェールしている。感染症が進行し免疫が異常亢進する段階に至った患者には抗ウイルス薬よりは免疫抑制剤のほうが急務なのかもしれない。あるいは、抗体補充療法は自力で抗体を獲得できた人には無用の長物なのかもしれない。リジェネロン(Nasdaq:REGN)のREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)の入院患者試験は、二本とも、抗体陰性サブグループには死亡や人工呼吸器装着リスク抑制効果が見られたが、陽性サブグループには無効だった。

日本でも承認されたが、免疫力や進行度によって応答する人と無効な人がいる可能性を忘れずに、適応範囲をファインチューンする努力を続けるべきだろう。

リンク: 同社のプレスリリース



アストラゼネカ、抗体カクテルの感染予防試験が成功
(2021年8月20日発表)

アストラゼネカは、AZD7442(tixagevimab、cilgavimab)の第3相曝露前COVID-19感染予防試験、PROVENTが成功したと発表した。リジェネロンの類薬の予防試験は濃厚接触者の感染リスクを予防する、考え方としては感染確認前に治療を開始する『見込み治療』試験だったが、この試験はワクチン代替を目指すもので、ワクチンに十分応答しない可能性がある、あるいは、感染リスクが高い場所で就労/居住する、感染歴もワクチン接種歴もない約5100人をAZD7442群と偽薬群に2:1割付して、半年間の症候性感染リスクを比較した。

結果は、試験薬群の感染リスクは偽薬比77%小さかった。重症感染はゼロ、偽薬群は3人でうち2人は死亡した。承認申請に向かうだろう。

AZD7442は、米国テネシー州のVanderbilt University Medical Centerが回復期血漿から同定した二種類の抗体を、アストラゼネカの技術で装飾し、半減期を最長12ヶ月に長期化すると共に、Fc受容体親和性を抑制して抗体依存的疾病増強(ADE)のリスクを緩和したもの。in vitro中和試験ではでデルタ株にも有効性を示した。

米国政府から5億ドル近い生産・治験補助金を受けており、承認を前提に、21年に70万回分を7億ドル超で供給することに合意している。

リンク: 同社のプレスリリース


【今週の話題】


早産防止薬の承認取消前に公聴会開催へ
(2021年8月19日発表)

スイスのCovis Groupは、FDAがMakena(hydroxyprogesterone caproate)とそのGE薬の承認を取消す前に公聴会を開くことを決定したと発表した。結論が変わる可能性があるのかどうか、良く分からないが、何れにせよ、切迫早産のリスク抑制に承認されている唯一の処方薬の命運を決めるカウントダウンが始まる。

最初にこれまでの経緯をまとめよう。Makenaの活性成分はプロゲスチンの一種。65年前にスクイブ(当時)が安全性データを元に販売認可を取得、別の用途で発売したが、2000年に承認返上した。03年にNIH(米国衛生研究所)主導試験で早産予防効果が認められ、調剤薬局品がオフレーベル使用されるようになったが、流産や死産の懸念も指摘されていたため、FDAが今日の基準に即した臨床試験を行って改めて承認申請するようメーカーに呼びかけ、KV Pharmaceuticalsが06年に承認申請、5年後に、37週より前の単胎自然早産歴を持つ女性の単体早産予防薬としての加速承認を取得した。

FDAの要請に応じて古い薬の薬効・安全性確認試験を行い承認を取得した会社は独占販売権を獲得するが、Makenaの場合は価格が100倍と高く設定されたこともあり、政治家が介入して調剤薬局が販売を継続できるようにした。KVは半値に値下げしたが売れず、承認の1年後に会社更生手続き(破産法第11条)の適用を申請した。14年にMakenaなどの事業を分割買収したAMAG Pharmaceuticalsを20年に買収したのが、2011年にCerberus Capital Managementが設立した製薬会社、Covisで、吸入ステロイドAlvesco(ciclesonide、和名オルベスコ)など経年薬の事業権を取得して事業拡大するビジネスモデルを採用している。

加速承認を得た会社は市販後試験で薬効や安全性を確認しなければならないが、Makenaは、PROLONG試験で、共同主評価項目である35週未満早産率(11%対偽薬群の12%)も新生児の疾病死亡リスク(5.4%対5.2%)も偽薬並みだった。但し、NIH試験では流産・死亡率が4.8%と偽薬群の3.9%を上回ったが、PROLONG試験では1.7%対1.9%と大差なかった。

19年10月に開催された諮問委員会では、9人の委員が承認取消に賛成したが、残りの7人はもう一回薬効確認試験のチャンスを与えるべきと主張した。産婦人科医は6人中5人が後者だった。ACOG(米国産婦人科学会)もPROLONG試験はイベント数が前提より少なく検出力不足になったことを指摘、再試験を支持した。

FDAの判断が注目されたが、20年10月、自発的に承認を返上するようメーカーに要求した(FDAは承認を取消す権限を持っているが、法廷闘争に時間を費やし好ましくない状態が何年も続く事態を避けるため、通常は自主返上要求の形をとる)。

対岸の火事だが、やがて日本の医療にも飛び火するだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


ESC:ジャディアンスが駆出率保持心不全のCV死・HF入院を2割抑制
(2021年8月27日発表)

ベーリンガー・インゲルマイムと開発販売パートナーのイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス) のEMPEROR-Preserved試験の結果をESC(欧州心臓学会)やNew England Journal of Medicine誌で発表した。左室駆出率が保持(LVEF40%以上)されたクラスII-IVの心不全患者5,988人を組入れて、標準療法にJardiance(10mgを一日一回経口投与)を追加する群と偽薬追加群の心血管死・心不全入院をメジアン26.2ヶ月間追跡したところ、発生率は各13.8%と17.1%、ハザードレシオは0.79、p<0.001だった。効果は専ら心不全入院で、心血管死は数値上、少なかったものの有意水準には達していない。

Jardianceは二型糖尿病の血糖治療薬として承認されているが、本試験では二型糖尿病ではない患者にも効果が見られた。駆出率低下型(40%未満)心不全にもEMPEROR-Reduced試験に基づき承認されたが、本試験の成功により、対象患者拡大の道が開けた。65%以上のサブグループにおける効能は明確ではなかったが、元々、低下型と保持型の境界線は曖昧だ。最終的には、症例毎に医師の判断に委ねる格好になるのではないか。

前例では、ノバルティスのアンジオテンシンⅡ受容体・ネプリライシン阻害剤、Entresto(sacubitril/valsartan、和名エンレスト)は駆出率保持(45%以上)の心不全を組入れたPARAGON-HF試験で、ベースライン時点のメジアン駆出率である57%を下回るサブグループにしか効果が見られなかったが、FDAは慢性心不全適応における駆出率低下型限定を解除した。レーベルによると、駆出率は変動するので使うかどうかは臨床的に判断すべきである。

SGLT2阻害剤は血液中のグルコースが腎臓で一旦濾し取られた後に血中に戻るのを妨げ、糖尿を促進する。尿道の糖が細菌の栄養になるのか感染症の副作用があり、本試験でも非複雑性性器/尿道感染症が増加した。排尿が増えるせいか、低血圧症も見られた。

本試験ではベースライン時点でAXE阻害剤またはARB服用者が8割超、ベータブロッカー服用者も8割超、いた。他にも様々な薬を併用しているだろうし、忍容性や腎機能の状況、他の病気などに応じて用量の増減や薬の見直しなども必要になるだろう。上記のEntrestoも選択肢になったので、嬉しいとばかりも言えない悲鳴が増えそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース



銅キレーター新薬のウィルソン病試験が成功
(2021年8月26日発表)

アストラゼネカは、ALXN1840の第3相ウィルソン病試験が成功したと発表した。データは未公表。承認申請に向かうのではないか。

ウィルソン病はATP7B遺伝子変異による常染色体性劣性遺伝疾患。銅が排泄されず臓器に沈着して肝臓や腎臓の機能障害や神経精神症状を合併する。治療は銅の摂取を避け、銅キレーターや亜鉛を服用する。米国の罹患率は新生児3万人に一人。ALXN1840は一日一回経口投与する新世代銅キレーター。

今回のFoCus試験は、12歳以上でSOC歴がゼロから10年以上までの214人を組入れて、48週間のdNCC(セルロプラスミン非結合銅)をSOCと比較した。ウィルソン病では、体内の主要な銅結合蛋白であるセルロプラスミンの血中/尿中濃度が著しく低いことが多いが、本試験はセルロプラスミンに結合していない銅を直接測定法で計測し、AUEC(効果時間曲線下面積)の日次平均を主評価項目とすることで、銅を組織から動員する効果を調べた。

結果は、SOCより有意に優れた改善を示した。主な有害事象は可逆的なトランスアミラーゼの上昇など。

今年7月におよそ400億ドルで買収したアレクシオン・ファーマシューティカルズが18年にスウェーデンのWilson Therapeuticsを約8億ドルで買収して入手したコンパウンド。アストラゼネカにとってはアレクシオン系パイプラインの初の第3相成功だ。

リンク: 同社のプレスリリース



ユルトミリスのALS試験はフェール
(2021年8月20日発表)

アストラゼネカの希少疾患用薬子会社であるアレクシオン・ファーマシューティカルズは、 Ultomiris(ravulizumab、和名ユルトミリス)の第3相ALS(筋委縮性側索硬化症)試験を中止すると発表した。運動性症状が表れてから36ヶ月以内の特発性/家族性患者382人を欧米アジアの治験施設で組入れてALSFRS-R機能評価スケールの変化を比較したが、独立データ監視委員会が、中間解析で、続行しても主目的を達成する可能性は極めて低いと無益性認定したため。

Ultomirisは長時間作用型C5阻害剤。PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)やaHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)の治療に承認されており、全身性筋無力症の第3相試験も成功した。

リンク: 同社のプレスリリース



キムリアのアグレッシブB-NHL二次治療試験がフェール
(2021年8月24日発表)

ノバルティスは、Kymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)の第3相BELINDA試験がフェールしたと発表した。一次治療不応・再発のアグレッシブB細胞非ホジキン型リンパ腫を組入れてEFS(無イベント生存期間、盲検独立評価委員会方式)をサルベージ化学療法(応答なら幹細胞移植へ進む)と比較した試験で、対象がやや異なるものの、複数の類薬のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の二次治療試験が成功したことを考えると、意外だ。

KymriahはCD19を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体)療法。ペンシルバニア大学からライセンスした。前駆B急性リンパ性白血病やびまん性大細胞型B細胞型リンパ腫のうち難治性または二次以上の治療歴を持つ患者に使うことが承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬が承認申請
(2021年8月17日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、AG-348(mitapivat)の承認申請が欧米で受理されたと発表した。米国は優先審査を受け、審査期限は22年2月17日。

ピルビン酸キナーゼ(PK)の欠乏により赤血球が変形能を失い脾臓でスクラップされてしまう希少遺伝子疾患の経口治療薬で、輸血依存ではない患者を組入れた第3相試験ではヘモグロビン増加奏効率が40%と偽薬群の0%を上回った。輸血依存の単群試験では輸血量減少奏効率が37%、22%の患者は24週間に一度も輸血しないで済んだ。

リンク: 同社のプレスリリース



TCR・抗CD3抗体融合蛋白をブドウ膜黒色腫に承認申請
(2021年8月24日発表)

英国のImmunocore(Nasdaq:IMCR)は、IMCgp100(tebentafusp)を欧米で承認申請し受理されたと発表した。どちらも加速審査を受け、米国の審査期限は22年2月23日となった。HLA-A*02:01型の患者の転移ブドウ膜黒色腫に用いる。

親和性増強可溶性T細胞受容体と抗CD3単鎖可変領域フラグメントを細部融合した二重特異性融合蛋白で、患者のHLA(ヒト白血球抗原)型に応じて標的とする腫瘍関連抗原を選択する。IMCgp100はカフカス人種の5割を占めるA*02:01型に対応するためにgp100を選択した。尚、日本人では1割しか占めない。

第3相試験は初めて治療を受ける患者を組入れて全生存期間を医師が選んだ治療法(Keytrudaが82%を占めた)と比較したところ、ハザードレシオが0.51、p<0.0001となった。

Immunocoreはオックスフォード大学におけるT細胞受容体の研究に基づき1999年に設立された。

リンク: 同社のプレスリリース



バース症候群の初認申請を断行
(2021年8月24日発表)

Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は、elamipretideをバース症候群治療薬としてFDAに承認申請した。FDAは申請前会議で挙証不十分であり改めて対照試験を行うようアドバイスしたが、BSF(バース症候群財団)に背中を押されて、断行した。最初の関門は受理されるかどうかだ。

バース症候群は新生児20~40万人に一人の希少X染色体性遺伝子疾患で、ミトコンドリア機能不全により心不全や不整脈、敗血症、筋力低下などを合併する。elamipretideはミトコンドリアのcardiolipinに作用すると考えられており、ミトコンドリア機能不全による様々な疾患の第2相、第3相が実施されたが、何れもフェールした。

今回の申請は12人のバース症候群を組入れた第3相TAZPOWER試験のオープンレーベル延長試験のデータを自然歴と比較したSPIBA-001試験に基づく。elamipretide(40mg)を一日一回、皮注した群は6分歩行テストが80m以上改善したが、傾向スコアがマッチする19人の自然歴では1m未満に留まった(p=0.0005)。

TAZPOWER試験自体は6分歩行テスト改善効果を確認できずフェールしたのでFDAが追加試験を求めたのは合理的と感じられるが、BSFが4200人を超える署名を集めて承認を請願したことや、FDAも同社も追加試験のデザイン決定に難渋したことから、承認申請に至った。

近年はFDAの大盤振る舞いが目立ち、バイオジェン/エーザイのアルツハイマー病薬Aduhelm(aducanumab-avwa)やノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)の駆出維持型慢性心不全適応はFDA側がメーカーの肩を押したとされる。サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Exondys 51(eteplirsen)はFDA上層部が審査担当部署の反対を押し切って承認させた。最初の二件は臨床試験の主評価項目が曖昧な結果になったにも関わらず、様々な補助的解析を行って『有効性』を挙証している。Exondys 51承認の立役者であるJanet Woodcock氏がFDA長官代行である今のうちなら、チャンスがあるかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース



オレンシアをaGvHDに適応拡大申請
(2021年8月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Orencia(abatacept、和名オレンシア)を他家幹細胞移植後の急性移植片対宿主病(aGvHD)リスクを抑制する用途でFDAに適応拡大申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月23日。

OrenciaはCTLA-4とIgG1を細胞融合した抗体類似薬。中重度リウマチ性関節炎治療薬として米欧日で承認されている。

今回の申請は第2相のABA2試験に基づくもの。ClinicalTrials.govに結果概要が届け出されているが、カルシニューリン阻害剤とMTXにOrenciaまたは偽薬を追加投与したところ、HLA(組織適合性抗原)が8/8マッチする142人の二重盲検コフォートでは移植後100日間の重度aGvHD発生率が6.8%と偽薬群の14.8%を下回った。7/8マッチ(1抗原不適合)の43人では2.2%と、外部対照群であるCIBMTRレジストリーにおける実績の30.2%を大きく下回った。

副次的評価項目のうち全死亡率は各群26.0%、34.7%、25.5%、na、だった。深刻有害事象は各70%、66.7%、70%、na、だった。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 治験登録(ClinicalTrials.gov)



オプジーボとヤーボイを食道癌に適応拡大申請
(2021年8月17日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、切除不能進行/難治/転移食道扁平上皮腫の一次治療にOpdivo(nivolumab)をYervoy(ipilimumab)あるいは化学療法(fluorouracil+cisplatin)と併用する適応拡大をEUに承認申請し受理されたと発表した。おそらく米国でも申請済みだろう。

CheckMate-648試験に基づくもので、主評価項目の一つであるPD-L1陽性患者におけるメジアン生存期間が化学療法群は9.1ヶ月、Opdivo・Yervoy併用群は13.7ヶ月(ハザードレシオ0.64)、Opdivo化学療法併用群は15.4ヶ月(同0.54)だった。Intent-to-treatベースでも各10.7ヶ月、12.8ヶ月(0.78)、13.2ヶ月(0.74)だった。G3/4薬物関連有害事象発生率は各36%、32%、47%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


ロシュ、米国でテセントリクのTNBC承認を返上
(2021年8月27日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の数多くの適応のうち、PD-L1陽性(IC≧1%)の切除不能局所進行性/転移性トリプル・ネガティブ乳癌をFDAに自主撤回することを決めた。18年にIMpassion130試験のPFS(無進行生存期間)データに基づき加速承認されたが、承認後薬効確認試験であるIMpassion131試験がフェールし、検出力不足なので断定はできないものの全死亡が増加する可能性も浮上、20年9月にFDAがアラートを発出する意外な展開になってしまった。

今年4月のFDA腫瘍学諮問委員会では9人の委員のうち7人が他の試験の結果が出るまで加速承認を維持すべきと判断したが、7月にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が同様な適応(CPS≧10なので若干狭い)で本承認されたことで状況が急転。FDAの要請もあり、自主返上を決めた。

尚、日本や欧州での承認は返上しない。

130試験と131試験は併用薬が異なり、後者で採用されたオリジナルのpaclitaxel製剤は過敏反応リスクを緩和するため免疫抑制剤を併用する。効果は一時的とは言え、免疫強化療法である抗PD-L1抗体と併用するなら、日を変えたり前者で採用されたnab-paclitaxelを使ったほうが良いのかもしれない。Keytrudaの同様な試験は医師が選ぶことができたので、もし製剤毎のサブグループ分析が可能なら、結果を見てみたいものだ。

似たような薬が特定の癌に関しては片方は有効だがもう片方は有害、とは俄かには考えられないが、抗PD-1/PD-L1抗体では時々見られるので、一々検討していたら切りがない。エビデンスが確立した薬があるのに敢えて曖昧な薬を使う必要はない、と割り切って、トリアージを断行するしかないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


FDA、TibsovoをIDH1変異陽性再発胆管癌に承認
(2021年8月25日発表)

FDAは、セルビエのTibsovo(ivosidenib)を治療歴のあるIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)変異陽性局所進行性/転移性胆管癌に用いる適応拡大を承認した。コンパニオン診断薬としてLife TechnologiesのOncomine Dx Target Testも承認した。

1~2次の治療歴を持つ患者に500mgを一日一回経口投与した第3相試験で、PFS(無進行生存期間、独立評価)のメジアン値が2.7ヶ月と偽薬群の1.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.37だった。偽薬群の70%が進行後にTibsovoにクロスオーバーしたせいか、全生存期間はハザードレシオ0.79、p=0.093と有意な差は出なかった。G3以上の治療時発現有害事象は腹水、貧血、ビリルビン値上昇など。

Tibsovoは今年4月にAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)から買収した腫瘍学ポートフォリオの一つ。IDH1阻害剤で、IDH1変異を持つ急性骨髄性白血病(難治/再発と75歳以上または強化化学療法不適の一次治療)に承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース



週一回投与型成長ホルモンが承認
(2021年8月25日発表)

デンマークのAscendis Pharma(Nasdaq:ASND)は、FDAがSKYTROFA(lonapegsomatropin-tcgd)を承認したと発表した。1歳以上、体重11.5kg以上の成長ホルモン分泌不良による成長不全に用いる。リンカーによりキャリアと結合することで代謝を遅らせる技術を応用、毎日ではなく週一回皮注を実現した。小児が使える週一回型成長ホルモン製剤は初。

週一回型成長ホルモン製剤ではノボ ノルディスクが脂肪酸結合技術により作用を長期化したSogroya(somapacitan、和名ソグルーヤ)の承認を20~21年に日米で取得した。また、OPKO Healthが開発しファイザーがライセンスしたsomatrogonが日米欧で承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース



イグザレルト、下肢血行再建術後投与が承認
(2021年8月24日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、バイエルからライセンスして米国で開発販売しているXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の9番目の適応がFDAに承認されたと発表した。症候性末梢動脈疾患の下肢血行再建術後に2.5mg(一日二回)をアスピリン(100mg一日一回)と併用する。

下肢血行再建術後10日以内の患者約6,500人を組入れた第3相VOYAGER PAD試験では、主評価項目の主要有害下肢・心血管事象の発生率(3年間カプラン・マイヤー推定)が17.3%とアスピリン・偽薬併用群の19.9%を下回り、ハザードレシオ0.85、p=0.009だった。

アスピリンと抗血栓薬の併用は出血リスクも高まる。本試験では他の適応症より少量を用いたが大出血(TIMI定義)の発生率(3年間カプラン・マイヤー推定)が2.65%と対照群の1.87%を上回った。ハザードレシオは1.43で、p=0.07だが、検出力不足の可能性もあるだろうし、0.07も0.04も共感染近辺であることに変わりはない。

いずれにせよ、この用途におけるアスピリンと抗血栓薬の併用は20年以上オフレーベル使用されてきたとのことなので、よくデザインされた対照試験のエビデンスが確立しオンレーベル化されたのは前進だ。

Xareltoは末梢動脈疾患に関しては心血管疾患や急性下肢虚血のリスクを抑制する効果も承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース



透析患者の掻痒緩和薬が承認
(2021年8月23日発表)

Cara Therapeutics(Nasdaq:CARA)とVifor Pharmaは、FDAがKorsuva(difelikefalin)を慢性腎疾患で透析を受けている患者の掻痒緩和薬として承認したと発表した。メディケアの保険還元手続きを行って来年第1四半期にロンチする予定。

末梢作用性の静注用カッパ・オピオイド受容体アゴニストで、臨床試験では二本とも奏効率が偽薬群を有意に上回った。Vifor Pharmaは米国の透析チェーン大手であるフレゼニウスの子会社で、フレゼニウス向けの売上はCaraと利益を折半、それ以外はCaraが6割を得る取り決め。

リンク: 両社のプレスリリース



オプジーボが膀胱がんのアジュバントに承認
(2021年8月20日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を筋層浸潤尿路上皮癌の術後アジュバント療法に使うことを承認した。この用途の薬は初。また、局所進行性/転移性尿路上皮腫の加速承認を本承認に切り替えた。

CheckMate-274試験に基づくもので、PD-L1発現を問わないintent-to-treat分析で、メジアン無病生存期間が20.8ヶ月と偽薬群の10.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、p=0.0008だった。PD-L1≧1%のサブグループではハザードレシオ0.55、p=0.0005だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

2021年8月20日

第1013回

 

【ニュース・ヘッドライン】


  • COVID-19関連: 
  • 米国はワクチンの3回目接種を9月から開始 
  • FDA、免疫不全にワクチン三回接種を承認 
  • Rigel、Syk阻害剤のEUA認められず 
  • その他の領域: 
  • ETA/AT1受容体拮抗剤のIgA腎症試験が成功 
  • 中国発の抗PD-1抗体、肺癌一次治療試験が成功 
  • MSDの難治慢性咳嗽治療薬は審査期限が延期 
  • イプセン、FOP治療薬の承認申請を撤回 
  • Sesen Bioの抗体薬物複合体は承認されず 
  • FDAはエベレンゾを承認せず 
  • フォン・ヒッペル・リンドウ病薬が承認 
  • ダニ媒介脳炎ワクチンが米国でも承認 
  • ジャディアンスも心不全に承認 
  • GSK、抗PD-1抗体が適応拡大 
  • キイトルーダとレンビマの併用も腎細胞腫一次治療に承認 
  • オキシベートが特発性過眠症に適応拡大  

  • 【COVID-19関連】


    【今週の話題】


    米国はワクチンの3回目接種を9月から開始
    (2021年8月17日報道)

    米国連邦政府は、FDAの承認とACIP(CDC<米国疾病管理予防センター>のワクチン接種諮問委員会)の勧奨を条件に、mRNAワクチンの3回目接種を9月20日の週から開始すると発表した。2回目から8ヶ月経った時点で接種する。COVID-19ワクチンの接種頻度は、1~2年に一回で足りることが期待されていたが、季節性インフルエンザ・ワクチンより短くなった。対象年齢はFDAやACIPの判断に委ねる考え。

    米国ではジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンの一回接種用のアデノウイルス26型ベクター・ワクチンもEUA(非常時使用認可)を受けているが、ブースター・ショットの有効性が未確認であることや、接種が始まってから5ヶ月しか経っていないことから、9月時点ではBioNTech/ファイザーとModernaのmRNAワクチンを接種した人だけが対象になる。日本ではブースター・ショットを有料化する意見も出ているようだが、米国は無料を続ける。

    WHOは、ワクチンの供給が需要に追い付かない現状を踏まえて、低中所得国で接種が進むまで3回目接種を自粛するよう提言しているが、ジョー・バイデン大統領は、アメリカ人を守る責務があることや、外国に総計で6億回分のワクチンを寄付する計画を遂行していることを指摘した。

    ワクチンは先進国が『合理的な』価格で大量に購入するからこそ、メーカーが開発投資を回収して低所得国には安価に提供することが可能になる。COVID-19ワクチンの場合、アストラゼネカ/オックスフォード大学とジョンソン・エンド・ジョンソンは利益ゼロで販売しているが、ファイザーは21年の売上高を335億ドル、売上高税前利益率は20%台後半と予想しており、大きな収益貢献をしている。米国政府から様々な開発補助金を得たModernaも21年売上高200億ドルを予想。両社はパテント・クリフならぬワクチン・クリフを懸念しており、低中所得国がmRNAワクチンを今後も安価に取得したければ、先進国にたくさん接種してもらったほうが良いはずだ。

    エビデンス
    さて、CDC(疾病管理予防センター)などの高官は、記者会見で、3回目接種のエビデンスとして、複数の疫学試験やin vitro免疫原性試験を挙げた。

    これらの疫学試験は、ワクチンの効果が経時的に低下することを示唆した。免疫減衰は遅かれ早かれ起こりうることだが、感染力の強いデルタ株の流行も影響したと考えられている。但し、入院するほど重い感染を防ぐ効果は、少なくともこれまでのところは、それほど減衰しない可能性が示唆されている。

    一つは、第1010回で取り上げた、BioNTech/ファイザーのワクチンの臨床試験の半年追跡データだ。成人試験と青少年試験のプール分析で、二回目接種の7日後から2ヶ月後の前日までの期間はワクチン効率が96.2%だったが、2ヶ月後から4ヶ月後の前日までの期間は90.1%、4ヶ月後以降は83.7%(74.7-89.9)と、漸減した。

    他の三本の疫学研究は、MMWR(疫学週報)に掲載される論文が先行公開された。一番大きな減衰を示唆したのが、Nanduriらが行った、介護施設がCDCに報告しているデータの分析だ。mRNAワクチン二製品の効率はデルタ株が主流になる前の期間(3月1日から5月9日)が74.7%だったのに対して、5月10日から6月2日の中間期間は67.5%、デルタ株が主流になった期間(6月21日から8月1日)は53.1%だった。

    介護施設入居者は免疫力が低下していても不思議はなく、その分、効果の減衰も大きいのかもしれない。尚、この研究は未症候性感染もカウントしていることに留意すべき。一般人口にとっては症状がなかったり軽いままだったりする感染はそれほど重要ではないかもしれない。

    Rosenbergらは、NYの感染者を分析した。ヤンセンを含む3種類のワクチンの効率は5月3日の週の91.7%から7月12日の週は78.2%、翌週も79.8%と、低下した。一方、COVID-19感染による入院を防ぐワクチン効率は各95.3%、94.8%、95.3%と大きな変化はなかった。

    Tenfordeらは18州21病院に入院した患者を分析した。COVID-19感染による入院を防ぐmRNAワクチンのワクチン効率は86%、免疫不全状態の人を除くと90%だった(案外差が小さい)。二回目接種後2-12週間は86%、13-24週間は84%と、ここでも、入院予防効果はあまり減衰していない。但し、感染者の5割がアルファ株でデルタ株は16%に過ぎないことに留意すべき。

    論文は未公開のようだが、医療従事者等4000人超のデータ分析でも、症候性・未症候性感染のワクチン効率がデルタ前の92%からデルタ後は64%に低下した。

    (後日加筆:MMWRに掲載される論文が8月24日付で先行公開された。リンク: 医療従事者らの疫学研究(Fowlkesら))

    免疫原性試験は、デルタ株などを中和するためには欧米の初期株であるD614G変異株より高い抗体価が必要であることを示している。mRNAワクチンのブースター・ショット試験では抗体価が10倍に上昇した。Modernaのワクチンの臨床試験データを分析すると抗体価と感染予防効果の相関性が見られるため、3度目接種で抗体価を挙げれば感染予防効果の減衰を避けることが期待できる。

    なぜ8ヶ月?
    記者会見では、3回目を8ヶ月後にした根拠について質問が出たが、『ジャッジメント』とのことだ。エビデンスは6ヶ月過ぎから減衰することを示しているが、最も重要な、感染による入院や死亡を防ぐ効果はそれほど変わっていない。とは言え、感染者が増えれば重症者も増えると考えるべきであり、政府の対応が遅れると被害が広がってしまうので、イスラエルなどの状況も参考に、ウイルスに先手を打つことを決めた。

    FDAやACIPを軽視?
    薬やワクチンの用途用法を決めるのはFDAであり、ワクチンをどのような人たちに接種勧奨するか助言するのはACIPだ。3回目接種はファイザーが追加承認申請したばかりで現在は未だ、内容に不備不足がないか確認する段階だろう。Modernaは未だ申請すらしていない。ACIPは前回の会合でデータの紹介があった程度である。法定手続きが完了していない段階で開始日や接種間隔にまで言及するのは越権行為にならないか?

    少なくとも、関連組織のヘッドは今回の施策に同意している。CDC、FDA、NIH(米国立衛生研究所)、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)などのトップが共同声明を発し、9月20日の週から8ヶ月経った接種者向けに開始する予定であることを確認したのだ。勿論、FDAの審査担当者やACIPの委員が反対するなら受け入れるだろうし、対象年齢や、場合によっては2回目からの間隔についても、変更されるかもしれない。

    4回目はあるか?
    質問が出なかったのは、4回目もあるのか、という点だ。医療ウェブサイトに寄せられたエキスパート・オピニオンによると、接種間隔を開けた方が免疫が長持ちする可能性があり、SARS-CoV-2は季節性インフルエンザほど頻繁に変異しないので、効果が何年も持つ可能性があるようだ。私自身は未だ毎年接種シナリオを捨てていないが、only time will tell。

    リンク: ホワイト・ハウスCOVID-19対応チームなどの記者会見筆記録
    リンク: 同、プレゼン用スライド(pdfファイル)
    リンク: 米保険福祉省と傘下関連組織首脳の共同声明
    リンク: BNT162b2の臨床試験の継続追跡データ(C4591001 Clinical Trial Group、medRxiv収載の査読前原稿)
    リンク: 介護施設入居者の疫学研究(Nanduriら、MMWR先行公開)
    リンク: NYにおける入院リスク疫学研究(Rosenbergら、同上)
    リンク: 入院リスク疫学研究(Tenfordeら、同上)



    FDA、免疫不全にワクチン三回接種を承認
    (2021年8月12日発表)

    FDAはBioNTech/ファーザーとModernaのmRNAワクチンのEUA(非常時使用認可)を改訂し、臓器移植レシピエントなどの免疫不全者に三回接種することを承認した。臨床試験で中和抗体力価が二回接種後より上昇したため。三回目は二回接種完了の28日以上後に行う。CDC(米国疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は全員一致で該当者に三回接種を勧奨した。

    臓器移植を受けた人は拒絶反応を防ぐため強力な免疫抑制剤を使用しているので、ワクチンを接種しても十分な免疫を誘導できない可能性がある。接種完了後に感染する、ブレークスルー感染の4-5割は免疫不全者だったという研究も出ている。また、SARS-CoV-2に当てはまるかどうかは定かでないが、免疫力の弱い人ではウイルスの抵抗性変異が起きやすい、という指摘もある。

    このため、もう一回接種する小規模な試験が複数、実施され、中和抗体価が更に上昇することを明らかにした。現状に対する問題提起と、対策の有効性の確認という両輪が揃ったため、今回の承認/勧奨に至った。

    ACIPで用いられたCDC側のプレゼンスライドによると、以下の人たちが対象になる模様。米国の成人の2~3%が該当する模様だ。

    ・癌(血液癌を含む)の治療中/最近の治療歴
    ・臓器移植後または最近の造血幹細胞移植
    ・重度原発性免疫不全
    ・進行/未治療のHIV感染症
    ・免疫抑制剤使用(高量コルチコステロイド、アルキル化剤、代謝拮抗剤、TNFブロッカー、その他の免疫抑制的/調停的バイオ薬など)
    ・無脾症や慢性腎疾患に伴う免疫不全

    ワクチン接種が早かったイスラエルや米国では接種完了者の感染も増加している。米国の場合、8月2日時点で1.6億人以上が接種を完了しているが、ブレークスルー感染で入院した人が7101人、死亡例は1507人とのことだ。これらの74%以上は65歳以上とのことなので、高齢者は特に、ワクチン接種後も油断はできない。

    イスラエルは50代以上に三回目の接種を勧奨、既に対象人口の半分が終えたようだ。フランス、ドイツでも免疫不全に三回目の接種が始まった。英国も9月に開始する予定。

    CDCは、免疫不全者は3回接種後もマスクを着用し、ディスタンス(米国は6フィート≒1.8m)を取り、医師が認めた場合を除いて人込みや空調の悪い室内空間を避けるよう勧奨する考えのようだ。3回接種後の中和抗体価が免疫不全でない人の二回接種後より低い症例が少なくないことを警戒したのかもしれない。

    リンク: FDAのプレスリリース



    Rigel、Syk阻害剤のEUA認められず
    (2021年8月13日発表)

    Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)はfostamatinibをCOVID-19治療薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請したが、認められなかった。NIH(米国立衛生研究所)と傘下のNHLBI(米国立心肺血液研究所)が主導した第2相試験をエビデンスとしたのだが、おそらく、症例数が59人と多くないことや、主評価項目が深刻有害事象で、対照群より少なかったが有意な差はなく、副次的評価項目である死亡例もゼロ対3人と、少なかったが有意ではなかったことから、薬効の挙証が不十分と見なされたのだろう。社内外で第3相試験が進行中なので、成功なら再申請することになるのではないか。

    経口Syk(spleen tyrosine kinase)阻害剤で、米国ではTavalisse名で、欧州ではTavlesse名で、成人の慢性免疫性血小板減少症用薬として承認されている。日本は18年にキッセイ薬品が開発販売権を取得。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【新薬開発】


    ETA/AT1受容体拮抗剤のIgA腎症試験が成功
    (2021年8月16日発表)

    Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、sparsentanの第3相IgA腎症試験が成功したと発表した。22年上期に米国で加速承認を申請する考え。EUに条件付き承認を申請することも検討中。

    Travereは米国カリフォルニア州の新興企業。特許が切れたが一社しか供給していない薬の権利を取得して、思いっきり値上げして儲けるビジネスモデルで悪名をなしたMartin ShkreliによりRetrophinとして設立されたが、逮捕・CEO辞任を経て独立、昨年11月に社名変更した。sparsentanはBMSがBMS-346567として臨床入りさせたエンドテリンA受容体とアンジオテンシンIIタイプ1受容体のデュアル・アンタゴニストで、06年にPharmacopeiaにアウトライセンスした。TravereはPharmacopeiaを買収したLigand Pharmaceuticalsから12年にプラットフォーム全体の権利を取得した。

    IgA腎症は腎臓の糸球体に免疫グロブリンAが蓄積、腎機能低下や腎障害、高血圧症などをもたらす。第3相試験は、ACE阻害剤やARBで治療しても蛋白尿が続く患者404人を400mgを一日一回、経口投与する群とARBのirbesartanを300mg、一日一回経口投与する群に無作為化割付した。主評価項目は最初の280人における、第36週時点の尿蛋白/クレアチニン比の低下率。各群49.8%と15.1%となり、p<0.0001だった。

    副次的評価項目である全集団の2年後のeGFRは23年下期に結果が判明する見込み。今回の解析では好ましい内容であったようだ。

    同剤は原発性FSGS(巣状分節状糸球体硬化症)の第3相も進行中。今回と同様に最初の190人の中間解析で36週蛋白尿部分寛解率がirbesartan群を有意に上回ったが、主評価項目である2年eGFR改善を確認してから承認申請する予定。

    リンク: 同社のプレスリリース



    中国発の抗PD-1抗体、肺癌一次治療試験が成功
    (2021年8月18日発表)

    中国のJunshi Biosciences(上海君実生物医薬)は、Tuoyi(toripalimab)の第3相進行非小細胞性肺癌一次治療試験が中間解析で成功したと発表した。中国の医療施設で扁平上皮腫220人と非扁平上皮種245人を組入れて化学療法に試験薬を追加投与する群と偽薬追加群に2:1割付したところ、主評価項目のPFS(無進行生存期間、担当医評価)のハザードレシオが0.58(扁平上皮腫0.55、非扁平上皮腫0.59)、メジアンは各5.6ヶ月と8.3ヶ月だった。副次的評価項目の独立評価PFSも同様な結果だったようだ。全生存期間は未成熟かつ偽薬群の患者は進行後に試験薬にクロスオーバーすることが認められているが、ハザードレシオ0.81と好ましい方向を向いている。

    抗PD-1抗体で、中国ては18年に悪性黒色腫の二次治療に条件付き承認され、イーライリリーと共同販売中。上咽頭癌化学療法併用一次治療に続いて、今回の用途でも適応拡大申請する考え。米国のFDAは中国だけの試験に基づいて抗癌剤の承認を取得することは可能と他社の照会に回答した由であり、米国でも初承認申請する予定。北米はCoherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)がライセンスを取得している。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認審査・委員会】


    MSDの難治慢性咳嗽治療薬は審査期限が延期
    (2021年8月9日発表)

    MSDは、21年第2四半期の四半期報告書(フォーム10-Q)で、FDAがMK-7264(gefapixant)の承認審査期限を22年3月21日まで3ヶ月延期したことを明らかにした。理由は不明。選択的P2X3受容体アンタゴニストで、難治性または説明不能な成人の慢性咳嗽の治療薬として承認申請していた。日本でも承認申請中。

    第3相試験は二本実施され、高用量の45mgを一日二回、経口投与した群は二本とも咳の回数(24時間録音計で測定)がベースライン平均の時間当たり18回から7回に減少、偽薬比有意な差があった。15mgは二本ともフェールした。難点である味覚関連有害事象の発生率は45mg群が6割前後、15mg群は1~2割、偽薬群は1割以下だった。45mg群は2割前後が有害事象により治験を離脱した。

    リンク: MSDの10-Q(21年2Q、pdfファイル)



    イプセン、FOP治療薬の承認申請を撤回
    (2021年8月13日発表)

    イプセンは、palovaroteneをFOP(進行性骨化性線維異形成症)治療薬としてFDAに承認申請していたが、撤回したことを明らかにした。臨床試験の追加的分析などが求められたが、現行の審査サイクル内には完了できないため。米国はEUより規制がフレキシブルで、途中でデータを追加提出したり、一旦、審査完了通知を出してもらって必要なデータを後日、提出することも可能なので、申請撤回は珍しい。

    FOPは本来とは異なった場所で骨が形成される。palovaroteneはRAR(レチノイン酸受容体)-ガンマ・アゴニストで、ロシュがR667として肺気腫などに開発したが断念。13年にインライセンスしたClementia Pharmaceuticalsをイプセンが19年に買収したが、14歳未満の試験で成長板早期閉鎖のリスクが表面化、FDAが臨床試験の部分的停止を命じた。20年にIDMC(独立データ監視委員会)が第3相試験の中間解析で無益性を認定したこともあり、のれんの減損を余儀なくされたが、解析計画が適切でなかった可能性もあるようで、承認申請を断行した。

    希少疾患ということもありNHS(英国国民医療制度)の自然歴試験のデータと比較するプロトコルであったため、細部にたくさんの悪魔が潜んでいても不思議はない。

    リンク: 同社のプレスリリース



    Sesen Bioの抗体薬物複合体は承認されず
    (2021年8月13日発表)

    Sesen Bio(Nasdaq:SESN)はoportuzumab monatox-qqrsをNMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)用薬として欧米で承認申請したが、米国では審査完了通知を受領した。追加的な臨床/解析データの提出と、承認前検査で指摘された工場問題の対処を求められた模様だ。

    膀胱癌の多くで発現する接着分子、EpCAMに結合する抗体の短鎖可変領域フラグメントと細胞毒であるPseudomonas Exotoxin Aをフレキシブル・リンカーで結合した、抗体薬物複合体。ハイ・グレードNMIBCに局所投与した単群試験のBCG不応コフォートで、完全反応率(n=82、3ヶ月時点)が39%だった。他のコフォートを含む133例における深刻有害事象発生率は14%だった。

    7月14日付で、late cycle review meetingが無事終わり、工場問題以外は特に問題がなかったと発表していたので、驚かされる。もっと驚かされるのがSTATという生命科学ニュースサイトの報道だ。購読していないので詳細は把握していないが、臨床試験で数多くの不適切な行為や副作用隠しがあった模様だ。

    リンク: 同社のプレスリリース



    FDAはエベレンゾを承認せず
    (2021年8月11日発表)

    Fibrogen(Nasdaq:FGEN)はroxadustatを慢性腎不全の貧血症治療薬として開発、日本で19年にエベレンゾ錠として承認を取得、EUでも承認されたばかりだが、米国は審査完了通知を受領した。追加試験を求められたようだ。7月に開催された心臓腎臓薬諮問委員会では、透析依存患者に関しては14人の委員中12人が、非依存患者は13人が、承認に反対したので、意外感はない。

    HIF2-PH(低酸素誘導因子2-プロリン水酸化酵素)阻害剤。エポエチンの代替品として複数の類薬が開発・承認されているが、臨床試験で重篤な血栓塞栓症が増加する懸念が浮上した。欧米の試験では痙攣発作の懸念も見られた。

    日本やEMEA(欧州中東アフリカ)ではアステラス製薬と、中国や米国などではアストラゼネカと、共同開発販売している。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認】


    フォン・ヒッペル・リンドウ病薬が承認
    (2021年8月13日発表)

    FDAは、MSDのWelireg(belzutifan)をVHL(フォン・ヒッペル・リンドウ)病関連腫瘍に用いることを承認した。成人の手術不要な腎細胞腫、中枢神経系血管芽細胞腫、膵神経内分泌腫瘍が適応になる。

    VHL病は米国で1万人、世界で20万人程度の希少疾患で、腎細胞腫などを合併することが多い。サプレッサー遺伝子であるVHLが不活化し、VEGFなどの腫瘍関連遺伝子の転写因子として機能するHIF(低酸素誘導因子)-2アルファが安定化、蓄積することが原因と推測されている。

    Weliregは経口HIF-2アルファ阻害薬。19年にPeloton Therapeuticsを10.5億ドル及び目標達成報奨金11.5億ドルで買収して入手した。

    腎細胞腫でVHL生殖細胞系変異を持つ61人に投与した第2相試験では、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が49%だった。深刻有害事象は15%で発生し、多いのは重度貧血や重度酸欠、アナフィラキシー、網膜剥離など。HIFの分解を妨げる、正反対の機能を持つ薬は貧血症治療薬として承認されているので、阻害薬で貧血酸欠が起きるのはやむを得ない。胚胎毒性が枠付警告されている。

    適応になるとは思わなかったが、中枢神経系血管芽細胞腫(24人)ではORRが63%、膵神経内分泌腫瘍(12人)では83%と、症例数は少ないが数値は腎細胞腫より良い。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: MSDのプレスリリース



    ダニ媒介脳炎ワクチンが米国でも承認
    (2021年8月13日発表)

    ファイザーは、TICOVACがFDAに承認されたと発表した。マダニが媒介するフラビウイルス属ウイルスによるダニ媒介脳炎を予防する不活化全ウイルス・ワクチンで、1歳以上が対象。欧州やアジアの一部における風土病で、渡航者や駐在者が接種対象になる。

    1970年代以降、欧州アジアなどで1.7億回以上の接種実績を持つが、20年の売上実績は2700万ドルと小さい。米国承認による上乗せも小さいだろし、今更という感じだが、報道によると、米軍が肩を押したようだ。

    リンク: 同社のプレスリリース



    ジャディアンスも心不全に承認
    (2021年8月18日発表)

    ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を慢性心不全の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。駆出率が低下した症候性患者が適応になる。EUでは7月に承認、日本でも承認申請中。類薬ではアストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)が同じ用途で昨年、日米欧で承認されている。

    アウトカム試験で心血管死・心不全入院のハザードレシオが偽薬比0.75、二型糖尿病を併発する患者では0.72、それ以外でも0.78だった。メジアン16ヶ月間の追跡で発生率は19.4%と偽薬群の24.7%を大きく下回った。

    駆出率を保持している慢性心不全を組入れたEMPEROR-Preserved試験も成功、8月27日にESC(欧州心臓学会)で発表される予定。良好なら症候性慢性心不全全般に用途が広がる。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース



    GSK、抗PD-1抗体が適応拡大
    (2021年8月17日発表)

    グラクソ・スミスクラインは2014年にノバルティスとアセット・スワップを行い、ワクチン事業を譲り受け腫瘍学事業を譲渡する『選択と集中』を断行した。その後、抗癌剤市場が著しく拡大し大手製薬会社にとって無視できなくなったため、新しいCEOの下、Tesaro社の買収などを通じて再構築を進めている。

    その一つである抗PD-1抗体、Jemperli(dostarlimab-gxly)は今年4月に米国で、dMMR(ミスマッチ修復不全)陽性で白金薬レジメンによる治療歴を持つ難治/進行内膜腫に加速承認されたが、今回、dMMR陽性の難治/進行固形癌にも加速承認された。臨床試験では209人中41.6%がORRとなり、完全反応率は9.1%だった。メジアン反応持続期間は34.7ヶ月。

    レーベルには二つの適応症が記載されているが、上記209人中103人は内膜腫なのでオーバーラップしている。残りのうち69人は結腸直腸癌、12人は小腸がん、8人は胃癌。残りは症例数がごく少数か、ORRがゼロだった。

    dMMRは細胞分裂の過程で発生する複製ミスが十分に修復されていない。本来と異なる蛋白ができると免疫の注意を惹くので、免疫強化療法の応答予測因子として使う余地があり、既に、MSDのKeytruda(pembrolizumab)が同様な適応を得ている。ORRも大差ない。

    ロシュ・グループのVENTANA MMR RxDx Panelがコンパニオン診断薬として承認された。

    リンク: GSKのプレスリリース
    リンク: ロシュのプレスリリース(8/18付)



    キイトルーダとレンビマの併用も腎細胞腫一次治療に承認
    (2021年8月11日発表)

    FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とエーザイがMSDと共同開発販売しているLenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を進行転移腎細胞腫の一次治療に併用する適応拡大を承認した。Lenvimaと同じVEGFR阻害剤であるsunitinib単剤と比較した第3相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が23.9ヶ月対9.2ヶ月と上回り、ハザードレシオは0.39。メジアン生存期間は両群とも未達だがハザードレシオは0.66で、どちらも統計的に有意だった。G5(致死的)治療関連有害事象の発生率は1.1%対0.3%、G3以上は71.6%対58.8%だった。日本でも一変申請中。

    KeytrudaはファイザーのInlyta(axitinib)との併用も承認されており、第3相試験成績はほぼ同程度。Inlytaは25年にGE化する見込み。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: 両社のプレスリリース



    オキシベートが特発性過眠症に適応拡大
    (2021年8月12日発表)

    FDAはJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のXywav(sodium oxybatesにカルシウムやマグネシウム、カリウムを添加した経口液)を特発性過眠症の治療に用いる適応拡大を承認した。

    前身であるXyrem(sodium oxybates)よりナトリウム量が少なく、高血圧症や心不全、腎機能低下の患者にも使いやすい。昨年7月に、ナルコレプシーによる日中の眠気や脱力発作を防ぐ薬として承認された。

    特発性過眠症は睡眠が足りているのに日中、眠くなる。ナルコレプシーと異なり脱力発作などのREM関連症状が見られず、仮眠しても解消しない。希少疾患で、治療薬の承認は初。

    米国で麻薬指定されている覚醒剤で、中枢神経抑圧や乱用、誤用のリスクが枠付警告されている。麻薬取締局の規制はスケジュールIIIなのでそれほどでもないが、oxybatesの別名であるgamma-hydroxybutyrate(GHB)は犯罪に使われたこともあり、最も厳しいスケジュールI指定されている。

    XyremはOrpharn Medicalが開発、02年にナルコレプシー治療薬として米国で承認された。Jazzは05年にOrphan社を1.2億ドルで買収、Xyremの販促と値上げ、そして、FDAにオフレーベル販促を摘発されて以降はオンレーベル化に注力し、20年の売上高17億ドル超の大型薬に育てた。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: 同社のプレスリリース






    今週は以上です。

    2021年8月11日

    第1012回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • COVID-19関連: 
    • BNT162b2はデルタ変異に弱い?
    • その他の領域: 
    • ポライビー、DLBCL一次治療試験が成功 
    • エンハーツ、乳癌二次治療試験が成功 
    • ブルーバードの遺伝子治療、今度はSkysonaでMDS症例 
    • キイトルーダの二つの適応拡大申請 
    • GSK、米国で二番目となるMMRワクチンを承認申請 
    • Axsome、抗鬱剤の承認が遅延へ 
    • アッヴィ、abicipar pegolのライセンスを返還


    【COVID-19関連】


    BNT162b2はデルタ変異に弱い?
    (2021年8月9日発表)

    COVID-19ワクチンは2020年にBioNTech/ファイザーのBNT162b2とModernaのmRNA-1273が実用化、米国などで大規模接種が開始された。武漢で第1号症例が報告されてから1年という、光速の対応だ。尤も、ウイルスのほうもワクチンの雛型となったスパイク蛋白に様々な変異が生まれており、第3相試験の成績が再現されるかどうか、不透明になっている。

    メーカーや研究者が主導した接種者の血清と偽ウイルスを用いたin vitro試験では、武漢型ほどではないがアルファやベータ、ガンマ、デルタにも比較的高い有効性が見られた。

    しかし、BNT162b2を早期大規模接種したイスラエルにおける疫学試験では、デルタ株の流行のせいか、予防効果の低下が示唆され高リスク層に対する3回目の接種が始まった。また、第1010回で取り上げたように、米国マサチューセッツ州で発生したデルタ株中心のイベント関連大規模クラスターでは、感染者の74%がワクチン接種を完了していた。マサチューセッツ州の接種完了率は8割なので、もしリスクを9割予防できるなら3割弱の筈である。入院患者でも8割を占めており、サンプル数が少ないのではっきりしたことは分からないが、少なくとも数値上は『ワクチンは感染予防以上に重症化予防効果が高い』とは言えない。

    このような中、メイヨー・クリニック系医療施設の疫学研究の論文草稿が査読前論文サーバーであるmedRxivに登録された。ミネソタ州で今年1月から7月までに上記ワクチンを接種した人としなかった人合わせて5万人から年齢や性別、人種、PCR検査歴、ワクチン接種日などがマッチする事例を選び、感染リスクを比較したものだ。

    mRNA-1273の予防効果は86%、BNT162b2は76%と、第3相の90%超よりは低いが水準としては十分に良好な結果となった。COVID-19関連入院の予防効果は各91%と85%だった。

    ところが、デルタ株が7割超を占めるようになった7月単月のデータを見ると、感染予防効果は各76%(95%信頼区間58-87%)と42%(同13-62%)と、両剤とも低下したが特にBNT162b2が顕著で、二剤の罹患率比(IRR)は0.41(同0.21、0.76)となった。尚、COVID-19関連入院予防効果に関しては各81%(同33-96.3%)と75%(同24-93.9%)と、どちらも高い効果を維持している。

    著者はウィスコンシンやアリゾナ、フロリダ、アイオアの系列施設も含めた分析を行った。二剤の罹患率比はコンスタントに1を下回って推移したが、7月は点推定値が0.44と更に低下した上に、両剤とも感染者が増加し検出力が高まったため、95%信頼区間が0.32-0.6と1を跨がなかった。この結果、累計でも0.50(同0.39-0.64)となった。

    データをよく見ると、ミネソタのデータは6月は罹患率比が2.1と有意ではないが方向は7月と逆だった。5州合計は未接種者のデータなどが記されておらず、見当は付くので大きな問題ではないだろうが、不安感が残る。

    査読前の論文なので、刊行までに重要な部分の記述が変わらないか、注意しなければならない。

    ワクチン接種者の罹患率比

    mRNA-1273
    vs.未接種
    BNT162b2
    vs.未接種
    mRNA-1273
    vs. BNT162b2
    未接種群罹患率
    (千人日当り)
    ミネソタ州
    5月0.069 *0.17 *0.40.14
    6月0.38 *0.18 *2.10.036
    7月0.24 *0.58 *0.41 *0.1
    5州合計
    5月nana0.81na
    6月nana0.58na
    7月nana0.44na
    出所:Puranikらの下記論文草稿から作成。

    リンク: Puranikらの疫学研究論文草稿(medRxiv、21年8月9日登録)


    【新薬開発】


    ポライビー、DLBCL一次治療試験が成功
    (2021年8月9日発表)

    ロシュは、Polivy(polatuzumab vedotin-piiq、和名ポライビー)の第3相POLARIX試験が成功したと発表した。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の一次治療を受ける879人を標準療法であるR-CHOP(rituximab、cyclophosphamide、doxorubicin、prednisone、vincristineの5剤併用レジメン)及びPolivyの偽薬を投与する群とR-CHP(R-CHOPのvincristineの代わりに偽薬を投与)とPolivyを併用する群に無作為化割付した試験で、主評価項目のPFS(無進行生存期間、担当医評価)に有意な差があった。データは未発表。

    PolivyはB細胞型ホジキンリンパ腫に高度特異的に発現するCD79bに結合しインターナライズしてMMAE(チューブリン重合阻害薬)を放出する、抗体薬物複合体。19~21年に米、欧、日で三次治療薬としてrituximab及びbendamustineと三剤併用することが承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース



    エンハーツ、乳癌二次治療試験が成功
    (2021年8月9日発表)

    第一三共と共同開発販売パートナーであるアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki、和名エンハーツ)の第3相DESTINY-Breast03試験が成功したと発表した。her2陽性転移性乳癌は一次治療で抗her2抗体のtrastuzumab、二次治療は抗her2抗体薬物複合体ado-trastuzumab emtansine(ロシュのKadcyla)、そして三次治療にEnhertuを、化学療法薬併用又は単剤で使うのが現在の標準療法だが、今回の二次治療試験でKadcylaを有意に上回ったことから、適応拡大承認後は今より早い段階で使われることになりそうだ。

    本試験は、タクサン系抗癌剤とtrastuzumabによる治療歴を持つher2陽性転移性乳癌約500人をEnhertu群とKadcyla群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を比較した。独立データ監視委員会が中間解析で目的達成と判定した。副次的評価項目の全生存期間はデータが未成熟(合計死亡者数が所定の水準に達していない)だが上回るトレンドが見られた。データは未発表。G4-5の治療関連間質性肺疾患は観察されなかった。

    Enhertuは日米欧で条件付き承認されているが、米国の加速承認の市販後コミットメントは今回の試験なので、本承認に切り替わるだろう。EUにおけるコミットメントはDESTINY-Breast02/A-U301試験(三次治療におけるPFSをtrastuzumabまたはlapatinibをcapecitabineと併用する群と比較)なので、22年頃に結果が出るまでお預け。日本は早期承認の市販後コミットメントが強化されたはずだが、化学療法歴を持つ患者を組入れた第3相試験の結果を医療従事者に情報提供すれば条件を満たせるので、ルールを作って一件落着、という日本型お役所仕事だ。

    リンク: 両社のプレスリリース



    ブルーバードの遺伝子治療、今度はSkysonaでMDS症例
    (2021年8月9日発表)

    bluebird bio(Nasdaq:BLUE)は、2021年第2四半期決算発表に合わせて、FDAがLenti-D(elivaldogene autotemcel、EU名Skysona)のクリニカル・ホールドを命じたことを明らかにした。1年前に第3相cALD(脳副腎白質ジストロフィー)試験で投与した患者一名がウイルスベクター調停の可能性のあるMDS(骨髄異形成症候群)を発症したため。治験停止が解除されれば年内に米国申請できるとのことだが、どうだろうか。

    cALDは希少X染色体性遺伝子疾患で、ABCD1遺伝子の欠損によりALDPがペルオキシソームに移送されず蓄積する。他家造血幹細胞移植が有効だがグラフトがフェールすると命に係わる。Lenti-Dは患者から採取したCD34陽性造血幹細胞にレンチウイルスをベクターとしてABCD1遺伝子の相補DNAを導入し培養、患者をプリコンディショニングした上で投与する。第2/3相単群試験の成績に基づきEUで今年7月に承認された。

    同社は、レンチウイルスベクターを用いて異なった遺伝子を導入するbb1111の臨床試験でAML(急性骨髄性白血病)やMDSが発生したことから、19年にEUで承認されたZyntegloと共に、クリニカル・ホールドになったことがある。精査の結果、ベクターが癌の原因になったとは考えられないとして今年6月に解除となったばかり。

    レンチウイルスは患者のゲノムに組み込まれるので導入した遺伝子が長期に亘り発現することが期待されるが、変なところに組み込まれて癌原性変異が生じないか、よく検討する必要がある。cALDは重大な病気なので、多少のリスクは甘受されるかもしれないが。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認申請】


    キイトルーダの二つの適応拡大申請
    (2021年8月10日発表)

    MSDは米国でKeytruda(pembrolizumab)の二種類の適応拡大申請を行い受理されたと発表した。

    一つは腎細胞腫の術後アジュバント。腎摘出術を受けた、再発リスクがintermediate-highまたはhighあるいは転移部を完全切除した患者に最大17回、投与する。優先審査を受け、審査期限は12月10日。KEYNOTE-564試験に基づくもので、DFS(無病生存)のハザードレシオは偽薬比0.68、p=0.001だった。全生存期間はハザードレシオ0.54だがp値が0.0164と事前に設定された閾値を下回らなかったため、継続追跡中。G3-5の治療関連有害事象発生率は18.9%と偽薬の1.2%を大きく上回った。

    リンク: 同社のプレスリリース

    もう一つは、治癒的手術/放射線療法が適応にならない、全身性治療後に進行したMSI-H/sMMR内膜腫。審査期限は来年3月28日。KEYNOTE-158試験の二つのコフォート合計90人におけるORR(客観的反応率)に基づくもので、データは9月のESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表される予定。

    MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)とdMMR(ミスマッチ修復不全)は癌細胞と正常細胞のゲノムの変異の多寡を調べる。異常な蛋白がたくさんできれば免疫の注意を惹くので、抗PD-1/PD-L1抗体のような免疫強化療法の応答予測因子として使える可能性がある。Keytrudaは治療歴のあるMSI-H/dMMR陽性切除不能/転移性固形癌で他に適切な治療法がない患者に用いることが16年に米国で加速承認された。根拠となった試験の症例数が一番多い結腸直腸癌については別の試験に基づき20年に一次治療適応が承認された。二番目に多い(14例)のが内膜腫で、今回の申請内容と似ており、承認で何が変わるのか良く分からない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    GSK、米国で二番目となるMMRワクチンを承認申請
    (2021年8月2日発表)

    グラクソ・スミスクラインは、MMR(麻疹、おたふくかぜ、風疹)の弱毒化生ワクチン、Priorixを米国で承認申請したと発表した。MMRワクチンは既にMSDが販売しているが、ワクチンは時々、歩留まりが下がり供給不足になることがあるので、代替的な選択肢がある方が良い。総計17393人を組入れた臨床試験では、免疫原性がMSDの製品と同程度だった。

    Priorixは24年前にドイツで初承認後、欧州諸国やカナダ、豪州などでも販売されている。CDC(米国疾病管理予防センター)は、生後12~15ヶ月に一回目、4~6歳で二回目を接種するよう勧奨している。米国でも空白期間があったようで、10代以上の青少年や大人であっても、免疫が無い人(1957年以降に誕生し、麻疹感染歴を証明できず、ワクチン未接種で、ラボ検査による免疫確認もしていない人)は1~2回接種を勧奨している。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認審査・委員会】


    Axsome、抗鬱剤の承認が遅延へ
    (2021年8月9日発表)

    Axsome Therapeutics(Nsdaq:AXSM)は、21年第2四半期決算発表に合わせて、AXS-05(dextromethorphan、bupropion)の承認申請に関して、FDAから内容に欠陥があり承認審査の最終段階に当たるレーベルなどの協議に進めない旨の通知を7月30日に受領していたことを明らかにした。審査期限は8月22日だが、審査完了通知を受領することになるのではないか。

    AXS-05はNMDA受容体アンタゴニストのdextromethorphanと、鬱病や薬物依存の治療に用いられているノルエピネフィリンとドパミンの再取込阻害剤、bupropionを配合した経口調整放出錠で、後者は前者の代謝酵素である2D6を阻害するブースターとして役割も担っている。第3相試験では軽中度鬱病患者のMADRS(モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度)が偽薬比有意に改善した。

    アルツハイマー病患者のアジテーション治療でも第3相段階。

    リンク: 同社のプレスリリース



    アッヴィ、abicipar pegolのライセンスを返還
    (2021年8月9日発表)

    Molecular Partners(SIX:MOLN)がアラガンと11年に結んだ包括的な創薬提携は、最初の成果であるabicipar pegolが承認申請まで到達したが、承認されず、アラガンを買収したアッヴィから同薬の開発販売権を返還する旨の通知を受領した。

    同社はチューリッヒ大学発のベンチャーで、ankyrin繰り返し蛋白を標的に合わせて組み合わせることにより高力価高安定性の阻害薬を創製するDARPin技術を持っている。abicipar pegolはVEGFとPDGFに結合する蛋白をPEG化したもので、新生血管加齢性黄斑変性の治療薬として第3相試験が二本実施され、視力改善効果がLucentis(ranibizumab)と非劣性であることが確認された。

    残念なのは眼内炎症の発生率が15%とLucentis群の0~1%より高かったこと。承認申請と並行して、大腸菌除去の工程を加えた製剤の臨床試験を実施、9%まで低下したが、ゼロにはならなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース






    今週は以上です。

    2021年8月7日

    第1011回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • チクングニア熱ワクチンの承認申請用試験が成功 
    • Libtayoの肺癌一次治療化学療法併用試験が成功 
    • ファイザーのJAK阻害剤も円形脱毛症試験が成功 
    • セルビエ、IDH1阻害剤のAML一次治療化学療法併用試験が成功 
    • Dicerna社のRNAi、PH1には有効も肝心のPH2は? 
    • キイトルーダをステージII黒色腫の術後アジュバントに申請 
    • Marinus、CDKL5欠乏障害用薬を承認申請 
    • テセントリクの早期非小細胞性肺癌術後補助療法を承認申請 
    • 韓美のG-CSF、米国では承認されず 
    • イストダックスのPTCL適応、米国で撤回へ 
    • ポンペ病の新らしい酵素補充療法が承認 
    • アストラゼネカ、SLE治療薬が承認 


    【新薬開発】


    チクングニア熱ワクチンの承認申請用試験が成功
    (2021年8月5日発表)

    日本脳炎ワクチンIxiaroの開発で知られるフランスのワクチン会社、Valneva(Euronext Paris:VLA)は、VLA1553の第3相免疫原性試験が成功したと発表した。承認申請に向かう見込み。

    ネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介するチクングニアウイルスによる感染症で、60年前にアフリカで発見され、各地に広がった。日本でも少数の感染例があるが、今のところは渡航時に感染したものと推定されている。VLA1553はゲノムの一部を除去して弱毒化した生ワクチン。米国でファースト・トラック指定とブレークスルー・セラピー指定、EUでもPRIME指定を受けている。

    第3相は米国の施設で18歳以上の4115人を組入れ、一回投与後第28日の免疫原性や安全性を検討した。薬効解析対象268人のうち98.5%(95%信頼区間96.2-99.6)が感染予防に必要な中和抗体価を獲得し、FDAが加速承認申請を許容する水準として事前に示唆した70%を上回った。高齢者にもヤングアダルトと同程度の効果が見られた。重度有害事象の発生率は1.6%で、発熱など。

    アフリカや南アジアの風土病は欧米の国民にとってはそれほど重要ではないが、油断しているとSARSのように世界的大流行になりかねない。軍事活動や外交、経済活動、娯楽目的で渡航して感染するリスクもある。問題は、価格を高く設定すると購買力に合わず普及しない、かといって、安くすると開発投資を回収できないことだ。

    リンク: 同社のプレスリリース



    Libtayoの肺癌一次治療化学療法併用試験が成功
    (2021年8月5日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)の EMPOWER-Lung 3試験が成功したと発表した。局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療として白金薬ベースの化学療法レジメンに追加する効能を検討した試験で、独立データ監視委員会が中間解析で成功認定した。全生存期間のハザードレシオは0.71、p=0.014、メジアン値は22ヶ月と偽薬追加群の13ヶ月を上回った。欧米で承認申請する予定。

    IgG4型の抗PD-1抗体で、当該疾患ではPD-L1高度発現(TPS≧50%)の場合に単剤投与することが欧米で承認されている。化学療法併用が承認されれば、先輩格であるMSDのKeytruda(pembrolizumab)と同じ土俵に立てる。

    このセッティングにおけるKeytrudaのデータは抗PD-1/PD-L1抗体の中でずば抜けており、非扁平上皮非小細胞性肺癌試験では全生存期間のハザードレシオが0.49、扁平上皮非小細胞性肺癌試験では中間解析で0.64、最終解析で0.71となっている。患者数で加重平均すると0.6を下回るのではないかと思われるので、Libtayoが急速に浸透するのは難しそうだ。

    リンク: 両社のプレスリリース



    ファイザーのJAK阻害剤も円形脱毛症試験が成功
    (2021年8月4日発表)

    ファイザーは、PF-06651600(ritlecitinib)の後期第2相/第3相重度円形脱毛症試験が成功したことを明らかにした。長期安全性を確認し次第、承認申請に向かうのではないか。命に係わる病気ではないので安全性を十分に検討すべきだろう。

    JAK3とTEC(肝細胞腫発現チロシン・キナーゼ)ファミリーの高度選択的阻害剤で一日一回、経口投与する。本試験は、12歳以上の小児・成人で、50%以上の頭部毛髪を喪失した病歴10年以内の円形脱毛症患者718人を7群(偽薬、30mg、50mgの負荷用量(最初の4週間は偽薬/200mg)ありとなしで全6群と10mgの負荷用量なし群)に無作為化割付して30mgと50mgの効果や安全性を偽薬と比較した。

    主評価項目は24週後にSALT(Severity of Alopecia Tool)スコアが20以下になった患者の比率(SALT20達成率)。SALTは頭頂部、後頭部、右側、左側の夫々について毛髪で覆われていない部分の比率(%)を評価し、加重加算するもので、組入れ条件により、ベースライン値は50以上である。データは今後、発表されるが、30mgも50mgも偽薬を有意に上回った由。

    前期第2相試験では、142人(平均36歳、66%が女性、SALTスコアは平均88)を偽薬群と試験薬群(最初の4週間は200mg、その後の20週間は50mgを一日一回投与)に無作為化割付してSALTスコアの変化を比較したところ、偽薬比33改善した。37%の患者ではSALTスコアが半減した。

    先に第3相試験が成功したインサイト/イーライリリーのJAK1/2阻害剤、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)の第3相重度円形脱毛症試験二本では、偽薬/2mg/4mgの各群のSALT20達成率が一本は3%/17%/33%、もう一本は5%/22%/35%となり、何れも偽薬比有意に上回った。両社は今年下期に適応拡大申請する予定。

    Olumiantの試験は日本の施設も参加したので、わが国でも実用化される可能性がありそうだ。尚、過去の複数のJAK阻害剤の試験では、病歴の長い患者は応答しにくい傾向が見られた。ritlecitinibの試験が病歴10年以内を対象にしたのもそのせいだろう。

    リンク: ファイザーのプレスリリース



    セルビエ、IDH1阻害剤のAML一次治療化学療法併用試験が成功
    (2021年8月2日発表)

    セルビエは、Tibsovo(ivosidenib)の第3相AGILE試験が成功したと発表した。データは未発表。適応拡大申請に向かうだろう。

    TibsovoはIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤。Agios Pharmaceuticalsから18億ドル(及びマイルストーンや売上ロイヤルティ)で取得した腫瘍学事業の柱だ。18年に米国でIDH1変異を持つ(6~10%が該当)再発難治AML(急性骨髄性リンパ腫)に、19年には75歳以上または強化導入療法に適さないIDH1変異陽性未治療AMLに、完全反応率データに基づき承認された。

    今回はIDH1変異陽性未治療AMLにazacitidineと併用する効果をazacitidineだけと比較した。主評価項目のEFS(無イベント生存期間)だけでなく全生存期間や完全反応率の解析も成功。独立データ監視委員会の勧奨に基づきこれ以上の組入れは中止した。

    TibsovoはEUでも承認申請したが薬効確認不十分と判定され、撤回した。今回、延命に準じる効果が確立したのならば、再申請できのではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


    【承認申請】


    Dicerna社のRNAi、PH1には有効も肝心のPH2は?
    (2021年8月5日発表)

    Dicerna Pharmaceuticals(Nasdaq:DRNA)はnedosiranの承認申請用原発性高シュウ酸尿症(PH)試験が成功したと発表した。6歳以上の患者35人を米日欧の施設で組入れて月一回、皮注する効果を偽薬と比較したところ、24時間尿中シュウ酸(第90日から180日までの平均曲線下面積)が偽薬比57.5%減少した(p<0.0001)。副次的評価項目である奏効率(正常あるいはそれに近い水準まで減少)も50%対ゼロで有意に上回った。有害事象は注射箇所反応など。試験薬群では23人中一人が有害事象により治験を離脱した。

    PHは遺伝子変異によりシュウ酸が過剰に産生、蓄積し、尿路結石や腎障害を招く。原因遺伝子により1型(米国の推定患者数2700人)、2型(1700人)、3型(4100人)に分類されている。昨年、アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のRNA介入薬、Oxlumo(lumasiran)が欧米でPH1に承認された。

    nedosiranもRNA介入薬だが、グリオキシル酸をシュウ酸に代謝するLDH(lactate dehydrogenase)を標的としており、三種類の型すべてに有効であることが期待されている。

    ところが、この試験ではPH1で偽薬比59%減少したのに対して、PH2は、試験薬群5人では微増したのに対し偽薬群1人は40%以上減少と、組入れが少ないことを考慮しても異常な結果になった。

    これがノイズであろうがなかろうが、今年第4四半期に予定されている承認申請はPH1だけになりそうだ。Oxlumoと完全にバッティングすることになる。但し、PH3の試験結果が10月頃に判明する見込みなので、対象が広がる可能性は残っている。

    リンク: 同社のプレスリリース



    キイトルーダをステージII黒色腫の術後アジュバントに申請
    (2021年8月5日発表)

    MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をステージIIの黒色腫を完全切除した再発リスクの高い患者の術後補助療法に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月4日。

    根拠となるKeyNote-716試験が成功したことも発表した。RFS(無再発生存期間)が有意に増加したとのことで、データは今後、発表する。

    Keytrudaはリンパ節転移のある黒色腫の完全切除後アジュバント療法として19年に米国で承認されている。ステージIIIの患者を組入れたKeyNote-054試験ではRFSのハザードレシオが0.57となったが、G3-5の治療関連有害事象発生率も14.7%と偽薬群の3.4%を上回った。尚、ステージIIはリンパ節転移がない。

    ライバルのOpdivo(nivolumab)もステージIII黒色腫の完全切除後アジュバントに欧米で承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース



    Marinus、CDKL5欠乏障害用薬を承認申請
    (2021年8月3日発表)

    米国フィラデルフィア州のMarinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)は、ganaxoloneをCDKL5(サイクリン依存キナーゼ様5)欠乏障害用薬としてFDAに承認申請した。中枢神経選択的なGABA Aポジティブ・アロステリック・モジュレーターで、2~21歳の101人を組入れた第3相試験では、1800mgを一日三回に分けて経口投与した群の28日主要運動性癲癇頻度がベースライン値と比べてメジアン30.7%減少し、偽薬群の6.9%減と有意な差があった(p=0.0036)。副次的評価項目は何れもトレンドに留まった。

    CDKL5欠乏障害は脳が正常に機能する上で必須のCDKL5遺伝子に変異がある。X染色体上の遺伝子なので男児は誕生できず、患者は専ら女性。罹患率は数万出生に一人と推測されている。

    同社は、欧州における販売権をフィンランドのOrionにライセンスしたことも発表した。

    リンク: 同社のプレスリリース



    テセントリクの早期非小細胞性肺癌術後補助療法を承認申請
    (2021年8月3日発表)

    ロシュは抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を早期非小細胞性肺癌の術後補助療法に用いる適応拡大を米国で申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月1日。

    IMpower010試験に基づくもので、ステージII・IIIAでPD-L1陽性のサブグループでは、無病生存期間(治療医評価)のハザードレシオが0.66(95%信頼区間0.50~0.88)、メジアン値は対照群は35.3ヶ月、Tecentriq群は未達だった。もう一つの主評価項目であるPD-L1陽性以外も含む解析も成功したが、今回の申請はPD-L1陽性だけなので、陰性/不明に対する効果は限定的だったのだろう。

    G3/4有害事象の発生率は各11.5%と21.8%、Tecentriq群のG5(致死的)有害事象発生率は0.8%だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認審査・委員会】


    韓美のG-CSF、米国では承認されず
    (2021年8月6日発表)

    Spectrum Pharmaceuticals(Nasdaq:SPPI)はRolontis(eflapegrastim)を化学療法誘導性好中球減少症の治療薬としてFDAに承認申請したが、審査完了通知を受領した。生産体制の欠陥を指摘されたようだ。韓国の韓美薬品からライセンスした長期作用性G-CSFで、元々は18年12月に承認申請したのだが、生産関連の情報不足を指摘され撤回。19年10月に再申請したが、COVID-19の流行によりFDA職員が今年5月まで韓美の施設査察を行えず、審査が大幅に遅延していた。

    リンク: 同社のプレスリリース



    イストダックスのPTCL適応、米国で撤回へ
    (2021年8月2日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブ・グループのセルジーンは、Istodax(romidepsin、和名イストダックス)の二つの適応症のうち再発難治PTCL(末梢T細胞リンパ腫)について、米国で撤回することを発表した。10年前にORR(客観的反応率)データに基づき加速承認されたが、承認後薬効確認試験である第3相PTCL一次治療化学療法アドオン試験がフェールし、延命またはそれに準じる効果を確立できなかったため。

    加速承認制度を巡っては、導入された数年後に加速承認の食い逃げ(いつまでたっても薬効確認試験を完了しない)が問題になり腫瘍学薬諮問委員会がFDAを厳しく突き上げたことがある。加速承認の段階で薬効確認試験の組入れが半分以上進捗していること、という条件を導入することで対応したが、バイオジェン/エーザイのアルツハイマー病薬Aduhelm(aducanumab-avwa)のような例外もある。

    今回、問題になっているのは薬効確認試験がフェールした場合の対応だ。サラブレッドが負ける理由と同様に臨床試験がフェールする理由も数多あり、薬のせいとは限らない。前回は新興企業が多かったが今回は大手製薬会社の製品も俎上に挙がっている点で、新たなステージに進んでいる。EUも条件付き承認の後の進捗監視を強化する姿勢を示している。日本も同様な規制強化が行われたが、オリンピックのCOVID-19対策を見てもわかるように、この国は規制を作れば完了で、遵守されるかどうかは問わない傾向がある。

    romidepsinはHDAC阻害剤。ゲノムがヒストンにタイトに巻き付くのに必要なヒストン・ジアセチラーゼを阻害して癌細胞の成長増殖を抑制する。藤沢薬品(現アステラス製薬)が発酵天然物からスクリーニング、米国の国立がん研究所が皮膚T細胞リンパ腫に対する活性を発見、04年にGloucester Pharmaceuticalsがライセンス、10年に同社をセルジーンが買収、19年にセルジーンをBMSが買収という経緯。

    Istodaxは米国で09年に再発CTCL(皮膚T細胞リンパ腫)に初承認。EUではPTCLで承認申請されたが、対照試験のエビデンスがないこと、延命効果が不明であること、cGMP違反がまだ解消されていなかったことから12年にCHMPが否定的意見を出した。日本では17年にPTCLで承認、18年に薬価収載・上市された。

    リンク: BMSのプレスリリース


    【承認】


    ポンペ病の新らしい酵素補充療法が承認
    (2021年8月6日発表)

    FDAは、サノフィの子会社であるジェンザイムのNexviazyme(avalglucosidase alfa-ngpt)を1歳以上の遅発型ポンペ病の治療薬として承認した。ジェンザイムと言えば06年にMyozyme(alglucosidase alfa)、10年には生産方法を変更したLumizymeを発売したポンペ病酵素補充療法の魁。Nexviazymeは筋細胞のM6P受容体親和性を増強した改良薬で、臨床試験では努力性肺活量の改善がalglucosidase alfaと比べて非劣性だった。優越性解析がフェールしたため、シーケンシャルに行われた副次的評価項目の有意性は成立しないが、6分歩行テストの改善は32メートルと先輩薬の2メートルを大きく上回った。点滴静注頻度は同じ。

    同社はLumizymeと同じ価格で発売する予定。EUでも先月、CHMPがNexviadymeという商標名で肯定的意見をまとめたが、新規活性成分とは認められなかったため、再検討を要求しているところ。alglucosidase alfaの特許切れ対策としての意味合いもあるだろうから、新規活性成分に与えられる排他権は重要だ。

    日本でも今年1月に承認申請された。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: サノフィのプレスリリース



    アストラゼネカ、SLE治療薬が承認
    (2021年8月2日発表)

    アストラゼネカは、Saphnelo(anifrolumab-fnia)がFDAにSLE(全身性エリテマトーデス)治療薬として承認されたと発表した。SLEの第3相試験は中々成功せず、承認されたのはHuman Genome Sciences(後にグラクソ・スミスクラインが買収)が開発した抗BLyS抗体、Benlysta(belimumab、和名ベンリスタ)以来、10年ぶり。

    アルファやベータなどのタイプ1インターフェロンのサブユニット1に結合するヒト化抗体で、04年にメディミューン(後にアストラゼネカが買収)がMedarex(後にBMSが買収)からライセンスした。最初の第3相は主評価項目のSRI4(SLE Responder Index 4)奏効率がフェールし数値上は偽薬群より悪かったが、BICLA(British Isles Lupus Assessment Group Composite Lupus Assessment)に基づく奏効率は37%と偽薬群の27%を上回り、差の95%信頼区間は0.6~19.7だった。そこで、二本目は盲検中に主評価項目をBICLA奏効率に変更、各群47.8%と31.5%となり、有意な差があった。第二相のMUSE試験はSRI4もBICLAも良好な結果であり、まとめると、BICLA奏効率は三戦三勝だった。

    BICLAはSRI4と比べて症状変化に敏感で、一部の症状がある程度改善するだけでも数値が変動する。このため、薬効評価方法として適している可能性がある。もちろん、全症状が解消するのが望ましいが、有効な治療薬が少ないだけに、ハードルを引き下げる余地がある。

    リンク: 同社のプレスリリース






    今週は以上です。