2022年5月29日

第1052回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • NRxのVIPも危機的患者試験がフェール 
  • その他の領域: 
  • サル痘対策でワクチンを調達 
  • ファイザーのS1P受容体調節剤もUC試験成功 
  • ガンマ・セクレターゼ阻害剤のデスモイド腫瘍試験成功 
  • デュアルher2ブロックをher2+大腸癌に承認申請へ 
  • イドルシア/JNJ、新規ERAの血圧治療試験が成功 
  • こちらのJAK阻害剤も円形脱毛症試験が成功 
  • Biohaven社、trorilizoleは脊髄小脳失調症試験もフェール 
  • 血友病の遺伝子療法を承認申請 
  • Biohaven社、点鼻用CGRP阻害剤を承認申請 
  • リリーも抗IL23p19抗体を承認申請 
  • ロシュ、CD20/CD3二重特異性抗体を欧州で申請していた 
  • NX-1207の承認申請は受理されず 
  • 伝染性軟属腫用薬はCMOが足を引っ張り承認見送りに 
  • キムリア、米国でも濾胞性リンパ腫に承認 
  • IDH1阻害剤が一次治療に適応拡大 
  • 新作用機序の局所性乾癬治療薬が承認 
  • トレプロスチニルのドライパウダー製剤が承認 


【COVID-19関連】


NRxのVIPも危機的患者試験がフェール
(2022年5月25日発表)

NRx Pharmaceuticals(Nasdaq:NRXP)は、NIAID(米国立アレルギー感染症研究所)のACTIV-3b試験が打ち切りとなったことを明らかにした。COVID-19に感染し危機的状態の患者を組入れて、remdesivirなどの標準療法に同社のRLF-100(aviptadil)を加える効果を検討したが、中間解析で主評価項目(90日転帰の改善、死亡から生存退院まで6段階の序数で評価)のオッズ比が1.10、p=0.56、副次的評価項目の死亡率は37%、偽薬群は36%で有意差なしとなり、データ安全性監視委員会が無益認定した。

aviptadilは合成ヒト血管作動性腸管ペプチド(VIP)。SARS-CoV-2が肺胞細胞に侵入するのを妨げたり肺サーファクタントの分泌を促す効果が期待され、肺炎を合併した患者のP2b/3試験が実施されたがフェールした。同社は少数の症例のケース・コントロール試験のデータに基づきEUA(非常時使用認可)を求めたがFDAは認めなかった。

I-SPY COVID-19試験が継続しているが、この試験でテストされた他の試験薬はすべてフェールしており、生き残っているのは同剤だけである。

リンク: 同社のプレスリリース

【今週の話題】


サル痘対策でワクチンを調達
(2022年5月25日発表)

デンマークのBavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)は、某国と天然痘ワクチンの調達契約を結んだと発表した。サル痘感染の拡大に備えて中短期備蓄に充てる考えのようだ。デンマーク・クローネ安の影響もあり、2022年の営業収入予想を期初の11~14億DKKから13~15億DKKに上方修正したことも公表した。日本円に換算すると18~36億円規模の上乗せになる。備蓄需要が中心と推測される特殊な製品なので価格は想像がつかないが、COVID-19ワクチンやインフルエンザ・ワクチンと同じ15~20ドル/回とすると、40~120万人分となり、調達規模としては決して大きくない。サブサハラ地域におけるエボラ・ワクチンと同様に、感染者の濃厚接触者に暴露後接種することを想定しているのだろう。

サル痘の感染はサブサハラ・アフリカが中心だが、今回は欧米豪加イスラエルで確認例が219例に増えている(5月24日現在、Our World in Dataによる)。うち英国が71例、スペイン51例、ポルトガルが39例。疑い例も入れると300例となっている(スペインの109例がトップ)。

同社の天然痘ワクチンJynneos(欧州ではImvamuneやImvanex)は米加ではサル痘予防にも承認されており、Emergent BioSolutionsが販売しているACAM2000と異なり弱毒化生ワクチンなので、注射する人が感染しないよう自ら接種する必要はなく、心筋炎/心膜炎の枠付警告もない。皮注して4週後にもう一回接種する。

CDC(米国疾病予防管理センター)によると、どちらも使えない場合はサノフィのワクチンをIND(治験認可)/EUA(非常時使用認可)ベースで接種することができる。

CDCは1970年代に天然痘ワクチンの一般向け接種勧奨を終了し、今日では、オルソポックスウイルスの研究者や検査技師、感染者発生時に対応する人たちなどに限定している。効果は数年持続するが、対象者は定期的な接種が必要になる。

尚、治療は18年にSIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)のTPOXX(tecovirimat)が、21年にはChimerix(Nasdaq:CMRX)のTembexa(brincidofovir)が、天然痘治療薬として動物試験のデータに元ついて天然痘治療薬として承認された。Merck Mannualによると後者の類薬であるcidofovirの使用を考慮しても良い。tecovirimatはEUでは体重13kg以上の小児と成人のサル痘の治療に用いることが例外的環境状況に基づき承認されている。

リンク: Bavarian Nordicのプレスリリース

【新薬開発】


ファイザーのS1P受容体調節剤もUC試験成功
(2022年5月24日発表)

ファイザーはetrasimodの第3相潰瘍性大腸炎(UC)試験、ELEVATE UC 12とELEVATE 52試験の結果をDDW(Digestive Disease Week)で発表した。2mgを一日一回、経口投与して臨床的寛解率を偽薬と比較したところ、前者は12週時点で24.8%対15.2%、後者は12週時点で27.0%対7.4%、52週時点では32.1%対6.7%と、有意に上回った。内視鏡的評価など副次的評価項目もすべて成功した。主な有害事象は頭痛やUCの悪化、COVID-19感染など。徐脈や房室ブロックは見られなかった。年内に承認申請する考え。

類薬で先にこの適応が承認されたブリストル マイヤーズ・スクイブのZeposia(ozanimoc)は過去6ヶ月間に心筋梗塞、卒中、あるいは非代償性心不全による入院歴を持つ患者や房室ブロックは禁忌。S1P受容体調節剤のクラス・イフェクトなのでetrasimodも軽々には結論を出せないが、もし心臓副作用リスクが小さいなら差別化要因になりうる。

22年にエクイティ・バリュー67億ドルで買収したArena PharmaceuticalsがAPD334として開発した。クローン病やアトピー性皮膚炎などでも開発中。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ガンマ・セクレターゼ阻害剤のデスモイド腫瘍試験成功
(2022年5月24日発表)

米国コネチカット州のSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)は、nirogacestatの第3相進行性デスモイド腫瘍試験が成功したと発表した。今年下期に米国で承認申請する予定。

デスモイド腫瘍は軟組織の稀だが衰弱性の腫瘍で、症状は疼痛や出血など様々。米国で年1000~1500人が診断される。20~44歳で診断されることが多く、女性が6~8割を占める。nirogacestatは選択的ガンマ・セクレターゼ阻害剤で、デスモイド腫瘍の成長に係るノッチを阻害する作用を持つ。NCI(米国立癌研究所)の第2相試験で効果が見られステージアップした。

第3相は成人患者142人を組入れて150mgを一日二回、経口投与して、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を偽薬と比較した。結果は、ハザードレシオが0.29、統計的に有意だった。詳細は学会で発表する考え。

ガンマ・セクレターゼ阻害剤はアルツハイマー病試験の症例が豊富だが、若い女性には特有のリスクがあるようだ。プレスリリースによると、再生産年齢の女性被験者の過半で卵巣機能障害が発生した。該当者は多いだろうから、詳細発表が待たれる。今回の試験は対象外だが、小児は受胎能に影響する可能性もあるようだ。

SpringWorks Therapeuticsは2017年にファイザーのアイディアに基づいて設立、ファイザーからライセンスしたコンパウンドを難病向けに開発している。

リンク: 同社のプレスリリース


デュアルher2ブロックをher2+大腸癌に承認申請へ
(2022年5月23日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)はTukysa(tucatinib)の第2相her2陽性結腸直腸癌試験の結果を発表した。米国で加速承認を申請する考え。

Tukysaはher2チロシンキナーゼ阻害剤。19年に三種類以上のher2標的薬による治療歴を持つher2陽性局所進行/転移乳癌にtrastuzumab及びcapecitabineと併用する対照試験が成功、20年に米国で、21年にはEUでも承認された。

今回の試験は治療歴のあるher2陽性結腸直腸癌117人を組入れてTukysaとtrastuzumabを投与したところ、cORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が39.1%、メジアン反応持続期間は12.4ヶ月だった。

先行類薬の臨床試験では、trastuzumabでher2をブロックし、チロシン・キナーゼ阻害剤でher2発の細胞内シグナル伝達を阻害する方法は効果より副作用の上乗せのほうが大きいような印象があった。Tukysaの承認用途はサルベージなので多少バランスが悪くても許容されるところがあるが、今回は他にも治療法があるだろうから忍容性も重要なファクターになる。

尚、同社は共同創業者の一人で社長兼CEO兼会長だったClay Siegallが妻に対する家庭内暴力で今月上旬に逮捕され、CMOのR. Danseyが暫定CEO、主席独立取締役のF. Bakerが会長に就任した。

リンク: 同社のプレスリリース


イドルシア/JNJ、新規ERAの血圧治療試験が成功
(2022年5月23日発表)

スイスのイドルシアはACT-132577(aprocitentan)の第3相難治性高血圧症試験が成功したと発表した。amlodipine、valsartan、hydrochlorothiazideの三剤固定用量合剤で治療しても収縮期血圧が140 mmHg以上の730人を偽薬、12.5mg、25mgの3群に無作為化割付して4週後の血圧を比較したところ、両用量とも偽薬比有意に低下した。数値は未公表。

パート2では全員に32週間に亘って25mgを投与した後、再無作為化割付して4週後の血圧を比較したところ、偽薬スイッチ群は試験薬継続群比有意に上昇した。

各群の治療時発現有害事象発生率は19.4%、27.6%、36.7%、有害事象治験離脱率は0.8%、2.5%、2.0%だった。

aprocitentanはエンドテリン受容体アンタゴニスト(ERA)。浮腫/体液貯留がクラス・イフェクトで、本試験では発生率が30%と高かったが治験離脱は7人(1%未満)、深刻例は2人(どちらも25mg群)だった。パート1での発生率は各群2.1%、9.1%、18.4%だった。

ERAは癌や高血圧症にも開発されたが、成功したのは肺動脈高血圧症用途。代表作であるOpsumit(macitentan、和名オプスミット)を開発したアクテリオンはジョンソン・エンド・ジョンソンに買収されたが、一部事業はイドルシアとしてスピンアウトされた。aprocitentanはmacitentanの代謝物で、親が果たせなかった夢を寿命の長い息子が果たす格好だ。JNJが共同開発権と単独販売権を持っている。

リンク: イドルシアのプレスリリース


こちらのJAK阻害剤も円形脱毛症試験が成功
(2022年5月23日発表)

Concert Pharmaceuticals(Nasdaq:CNCE)はCTP-543(deuterated ruxolitinib)の第3相円形脱毛症試験が成功したと発表した。もう一本が第3四半期に成功したら23年上期に承認申請する考え。類薬ではイーライリリーがOlumiant(baricitinib)を欧米で円形脱毛症に適応拡大申請し、今月、CHMPの肯定的意見を得た。ファイザーなども開発中。

CTP-543は骨髄線維症などに承認されているJakafi/Jakavi/ジャカビ(ruxolitinib)の重水素化薬。今回のTHRIVE-AA1試験は年齢が18~65歳、SALT(Severity of alopecia Tool)が50以上(50%以上の毛髪を喪失)、現在の脱毛エピソードが6ヶ月以上10年以内の患者706人を偽薬、8mg、12mg群に無作為化割付して1日二回、24週間に亘って経口投与し、奏効率(SALTが20以下に低下)を比較した。結果は各群0.8%、29.6%、41.5%と両用量とも偽薬を有意に上回った。帯状疱疹は偽薬群はゼロ、試験薬二群は何れも1人。薬物関連深刻有害事象は8mg群で1人だけだった。

JAK阻害剤の第2相試験では、残念なことに、脱毛から年数の経った患者にはあまり効果が見られなかった。本試験は病歴自体は10年以上でも除外しなかったので、セラプティック・ウインドウが少しでも広がるかどうか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


Biohaven社、trorilizoleは脊髄小脳失調症試験もフェール
(2022年5月23日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)の第2/3相脊髄小脳失調症試験がフェールしたと発表した。主評価項目であるf-SARA(modified functional Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)がベースラインの平均4.9から48週後に5.1に上昇し、偽薬群の5.2と大差なかった。

新興企業の例に漏れず、同社はサブグループ所見に希望を託す。被験者や患者全体の4~5割を占めるSCA3型では0.55の治療効果が見られ、名目p値は0.053だったとのこと。

同剤はALS治療薬riluzoleのプロドラッグ。20年に第3相全般不安障害試験と第2/3相強迫性障害試験がフェール、21年には軽中度アルツハイマー病の第2/3相試験がフェールしており、今回、4連敗となった。

同社はファイザーが買収する予定だが、片頭痛治療のCGRP受容体アンタゴニスト以外のtroriluzoleなどのパイプラインは社名と経営陣を引き継ぐ新会社にスピンアウトされる予定で、2代目Biohavenにも残念な結果になった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


血友病の遺伝子療法を承認申請
(2022年5月24日発表)

CSL(ASX:CSL)グループのCSLベーリングは米国でCSL222(etranacogene dezaparvovec)をB型血友病治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。EUでは既に申請受理されている。

アデノ随伴ウイルス5型をベクターとして、B型血友病で欠乏している血液凝固第IX因子(FIX)の亜型で活性が8~9倍高い、FIX-Paduaの遺伝子を導入する。重度患者54人に2x10^13 gc/kgを一回投与した試験では、FIX量が安定化した後の第7~18月のABR(出血率年率)が予防的投与を受けていたリード・イン期間と比べて64%低下した。

77歳の被験者が65週後に尿敗血症と心原性ショックで死亡したが試験薬関連ではないと判定された。深刻有害事象としては1名が肝細胞腫を発症したが、生検細胞の遺伝子を調べたところ、ベクターが組み込まれる確率は0.027%と低く、場所は区々で肝癌に関わるとは考えられていない箇所であったため、関連性は否定され、FDAも昨年4月に治験停止を解除した。

20年にオランダのuniQure biopharma(Nasdaq:QURE)からライセンスした。

リンク: CLSベーリングのプレスリリース


Biohaven社、点鼻用CGRP阻害剤を承認申請
(2022年5月23日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は米国でBHV-3500(zavegepant)を片頭痛治療薬として承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年第1四半期。CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)受容体アンタゴニストで、点鼻用であることが特徴。臨床試験では10mg群の2時間後疼痛解消成功率が24%と偽薬群の15%を有意に上回った。疼痛緩和成功率も59%対50%と上回ったが、15分後でも16%対8%と有意な差があった。有害事象は味覚異常(クラス・イフェクト)など。

16年にブリストル マイヤーズ・スクイブからライセンスした。Biohavenはファイザーが買収しCGRP受容体アンタゴニスト拮抗剤以外のパイプラインをスピンアウトする予定。

リンク: 同社のプレスリリース


リリーも抗IL23p19抗体を承認申請
(2022年5月24日発表)

イーライリリーはLY3074828(mirikizumab)の第3相潰瘍性大腸炎試験二本の結果をDDWで発表するとともに、第1四半期に欧米で承認申請したことを明らかにした。競合の激しい分野だが、他社が先行した乾癬用途よりも競争条件が良いと判断したのだろう。

mirikizumabはIL-23p19サブユニットを標的とする抗体医薬の一つ。今回のLUCENT-1試験は既存治療に不応不耐の中重度潰瘍性大腸炎を12週間治療し、臨床的寛解率を比較したところ、24.2%と偽薬群の13.3%を有意に上回った。臨床的応答率(63.5%対42.2%)や内視鏡的寛解率でも有意差があった。

LUCENT-2試験は12週間の治療で応答した患者を再無作為化割付して1年間投与した。臨床的寛解率は49.9%と偽薬群の25.1%を有意に上回った。寛解導入期に臨床的寛解を達成した患者は63.6%が寛解維持したが、偽薬群は36.9%に留まった。試験薬群の寛解達成者は98%がステロイドを中断できた。

最初の12週間である程度反応した患者は継続投与で更に改善する可能性がありそうだ。尚、二本の試験を元に12ヶ月治療して臨床的寛解に到達する確率を試算すると、試験薬は31.6%、偽薬は10.6%となった。

リンク: 同社のプレスリリース


ロシュ、CD20/CD3二重特異性抗体を欧州で申請していた
(2022年5月27日発表)

ASCO(米国臨床腫瘍学会)が6月の年次総会の抄録を公開しメディア向けブリーフィングを行ったのを受けて、複数の企業が演題や概要をプレス発表した。ロシュはRG6026(glofitamab)の拡大第2相試験のヘッドラインと、欧州で既に承認申請したことを明らかにした。米国などでも年内申請予定。

glofitamabはB細胞のCD20とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。今回の試験対象は難治・再発性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で、メジアンで3治療歴を持ち3割強はCAR-T治療歴もあった。結果は、155人中61人、39%がCR(完全反応、独立評価委員会方式)、OR(総合反応)は51%だった。

クラス・イフェクトであるG3/4のサイトカイン放出症候群が3.9%で発生したが、G5はなかった。

類薬ではジェンマブがアッヴィと共同開発しているDuoBody-CD3xCD20(epcoritamab)は第1/2相試験の最初のコフォート(157人)でcORR(確認客観的反応)が63%だった。こちらの方が高いが、比較可能かどうかは明かではない。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


NX-1207の承認申請は受理されず
(2022年5月23日発表)

米国カリフォルニア州のNymox Pharmaceutical(Nasdaq: NYMX)はNX-1207(fexapotide triflutate)を良性前立腺肥大の治療薬としてFDAに承認申請していたが、受理されなかった。申請発表時のプレス・リリースで、申請結果に関するいかなる保証もフォワード・ルッキング・ステートメントも伴わないと釘を刺していたが、その通りになった。

同社によると長期安全性データの欠落が理由。FDAは第3相試験開始前や承認申請前のミーティングで1年間の追跡データがあれば十分と言ったが、方針変更した。

FDAが立場を変えた理由は不明。0017試験と0018試験は1年追跡データしかないが2~3年追跡したNX02-0020試験やNX02-0022試験の安全性データも提出済みとのことなので、後者二本に安全性シグナルが見つかったのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


伝染性軟属腫用薬はCMOが足を引っ張り承認見送りに
(2022年5月24日発表)

米国フィラデルフィア州のVerrica Pharmaceuticals(Nasdaq:VRCA)はVP-102(cantharidin)を伝染性軟属腫の治療薬としてFDAに承認申請していたが、3回目の審査完了通知を受領した。バルクの生産委託先であるSterling Pharmaceuticalsが無菌眼科用薬の生産工程に関してFDAから改善を求められていることが影響したようだ。

2巡目の審査でも同様な指摘がありSterling社が対応したはずだったが、FDAは、2月の再調査を経て、是正要求をVAI(Voluntary Action Indicated)からOAI(Official Action Indicated)にステップアップした。FDAは、是正されるまで対象企業が係る医薬品の承認を見送ることができる。

Verricaは当該工場に監視員を派遣したり、最終工程の委託先に複数回の品質チェックを行わせるなどの対策を既に取っているが、別の委託先の探索も開始した。

伝染性軟属腫はポックスウイルス科のウイルスによる皮膚病で光沢の丘疹が現れる。主に小児が罹患する。カンタリジンはある種の昆虫が持つ成分で皮膚に水疱を起こす。毒をもって毒を制する訳だ。日本で承認されていたこともあるようだが、鳥居薬品が21年にVP-102の日本での輸入販売権を取得した。

リンク: Verrica社のプレスリリース

【承認】


キムリア、米国でも濾胞性リンパ腫に承認
(2022年5月28日発表)

ノバルティスはKymriah(tisagenlecleucel)を成人の再発・難治濾胞性リンパ腫の3次治療に用いる適応拡大がFDAに加速承認されたと発表した。EUでも今月、条件なしで承認されている。

第2相ELARA試験に基づくもので、完全反応率が68%、クラス・イフェクトであるサイトカイン放出症候群は概ね軽中度でG3以上は発生しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


IDH1阻害剤が一次治療に適応拡大
(2022年5月25日発表)

セルビエは、Tibsovo(ivosidenib)をIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)変異のある未治療急性骨髄性白血病にazacitidineと併用することがFDAに承認されたと発表した。75歳以上または強化寛解導入療法不適の患者が適応になる。第3相AGILE試験ではEFS(治療がフェールせず生存)のハザードレシオが0.35、副次的評価項目の全生存も0.44(メジアン24ヶ月、azacitidineだけでは8ヶ月)だった。

20年にAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)から取得した腫瘍学ポートフォリオの一つ。IDH1阻害剤で、これまでに、IDH1変異を持つ再発/抵抗性や未治療の急性骨髄性白血病や、治療歴のあるIDH1変異型局所進行性/転移性胆管細胞腫に単剤投与することがFDAに承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


新作用機序の局所性乾癬治療薬が承認
(2022年5月24日発表)

Roivant Sciences(Nasdaq:ROIV)の子会社であるDermavant Sciencesは、FDAがVtama(tapinarof)を尋常性乾癬の治療薬として承認したと発表した。新作用機序の局所投与薬が米国で承認されたのは25年ぶり。

伝統的治療法だが癌の懸念を伴うコールタール療法と同様に、アリル炭化水素受容体(AhR)を調整し、表皮細胞の分化や防御システムを刺激する。1%クリーム製剤を一日一回、患部に塗布する。第3相試験ではPGA反応率が一本は35%、もう一本は40%となり、偽薬群(どちらも6%)を有意に上回った。PASI75達成率も36.1%対10.2%と47.6%対6.9%で二本とも有意な差があった。有害事象は毛包炎、上咽頭炎、接触性皮膚炎など。

GSKが09年に子会社化した皮膚科用薬会社、StiefelがWelichem BiotechからWBI-1001の中国周辺以外での開発商業化権を取得したが、GSKは18年にRoivantに導出した。日本はJTが20年に独占的開発商業化権を取得した。

リンク: 同社のプレスリリース


トレプロスチニルのドライパウダー製剤が承認
(2022年5月24日発表)

米国の上場PBC(株主価値だけでなく公益も追及する法人)であるUnited Therapeutics(Nasdaq:UTHR)は、FDAがTyvaso DPI(treprostinil)を肺動脈高血圧症とPH-ILD(間質性肺疾患に伴う肺高血圧症)の治療薬として承認したと発表した。同社のドライ・パウダー・インへイラーにセットして一日4回、吸入する。

プロスタグランディンI2であるtreprostinilは連続点滴皮注/静注用薬が02年に米国でRemodulinとして承認、09年には吸入用液がTyvasoとして承認された。この種の薬は作用が長続きしないのが弱点で、他の条件が同じなら、投与が簡便な製品のほうが好ましいだろう。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2022年5月21日

第1051回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 5-11歳のコミナティ追加免疫がEUA 
  • フルボキサミンのEUA申請は却下 
  • EU、コミナティの調達を3ヶ月先送り 
  • その他の領域: 
  • オプジーボとヤーボイ、膀胱癌一次治療併用試験がフェール 
  • アッヴィ、持続皮下注用パーキンソン病薬を承認申請 
  • CHMP、三種類の希少疾患の初の治療薬などを支持 
  • デュピクセント、好酸球性食道炎に適応拡大 
  • アザシチジンが若年性骨髄単球性白血病に承認 


【COVID-19関連】


5-11歳のコミナティ追加免疫がEUA
(2022年5月17日発表)

BioNTechとファイザーは、両社が共同で開発・販売しているCOVID-19ワクチン(Comirnaty)を5~11歳の追加免疫に用いることをFDAがEUA(非常時使用認可)したと発表した。初回免疫(10mcgを3週おいて二回筋注)から5ヶ月以上経った人に10mcgを筋注する。米国では既に800万人超が初回免疫を完了しているとのこと。

初回免疫完了から6ヶ月以上経った140人を組入れた臨床試験では、1ヶ月後の中和抗体幾何平均力価が野生株に対しては6倍、オミクロン株(n=30)に対しては36倍に増加した。新たな有害事象は見られなかった。

リンク: 両社のプレスリリース


フルボキサミンのEUA申請は却下

強迫性障害などの治療に用いられているSSRIのfluvoxamine(ブランド名Luvox)は、COVID-19治療薬としても期待されているが、FDAはEUA(非常時使用認可)しなかった。理由を示す覚書が公開されたが、臨床試験の主評価項目が適切でないことや、他の試験の成績が区々であることが主因のようだ。

同剤はブラジルで実施されたTOGETHER試験で入院リスクを抑制した。高リスク患者約1500人を偽薬群と100mg一日二回経口投与群に無作為化割付して10日間治療し、28日間の三次医療施設入院/ER長時間入室率を比較したところ、各群16%と11%、相対リスクは0.68となり、統計的に有意な差があった。

FDAによると、差があったのは専らER長時間入室。6時間以上滞在を長時間と判定したが、この閾値の臨床的な意義は明確でない。入院・死亡だけをカウントすると各群98人と75人、相対リスク0.78だが統計的に有意ではない。

COVID-19の難しいところは、入院すべきなのにベッド不足で入院できなかったり、治癒しても隔離のため退院できなかったり、病状と入退院がリンクしない事態が起こりうることだ。ERとなると様子を見たり、入院先を探したり、色々な攪乱要因がありそうだ。

ファイザーやMSDの抗ウイルス薬の臨床試験の主評価項目も上記と同じだが、ER長時間入室の定義は24時間以上であったので、話がだいぶ違う。

fluvoxamineのC大規模なOVID-19試験はSTOP COVID 2試験やCOVID-OUT試験が途中で無益中止となった。通算では一勝二敗。二勝三敗ならEUAされるかもしれないので、もう二本実施する余地もあるだろうが、既に複数の経口抗ウイルス薬が実用化されていることや、オミクロン株は重症化リスクが小さい分、従来より大規模な臨床試験が必要になることがボトルネックになり得る。

尚、EUAを申請したのはDr. David R Boulware(ミネソタ大学)と記されている。fluvoxamineの他の試験やメタアナリシスの著者だが、TOGETHER試験論文がLancet Global Health誌に刊行された時にCorrespondenceを寄せており、当該治験には直接関与していない模様だ。

リンク: FDAの覚書(pdfファイル)
リンク: ReisらのTOGETHR試験論文
リンク: BoulwareらのCorrespndence


EU、コミナティの調達を3ヶ月先送り
(2022年5月13日発表)

EUはComirnatyの納入スケジュールを加盟国のニーズに合わせるべく変更することでBioNTech及びファイザーと合意したと発表した。今年は6.5億回分を調達する契約だが、6~8月納入分を9~12月に先送りする。

理由は明記されていないが、おそらく、流行の波が下向きなことやオミクロン株は重症化リスクが小さいこと、そして、再追加接種の便益が明確ではなく、EUは米国ほど前向きではないことが影響しているのだろう。また、オミクロン株対応ワクチンが実用化されたらそちらを調達することが可能なので、秋までに承認される可能性も考慮したようだ。

かかりつけ医に尋ねたところ、感染者が減少しているので接種券が来てもしばらく待って、増え始めてからでも遅くないのではないかと言っていた。効果の持続性の観点からも、急がない方が良いのだろう。

リンク: EUのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

【新薬開発】


オプジーボとヤーボイ、膀胱癌一次治療併用試験がフェール
(2022年5月16日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療に用いた第3相試験、CheckMate-901がフェールしたと発表した。PD-L1陽性(≧1%)サブグループの全生存期間をcisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用する標準療法群と比較したが、ダメだった。

本試験は盛り沢山で、cisplatin不耐患者だけを対象とした全生存期間の解析も主評価項目。更に、cisplatin忍容患者を対象に化学療法にOpdivoを追加する効果を検討するサブスタディもあり、どちらも、続行する。

尿路上皮腫は抗PD-1/PD-L1抗体の得意分野と思いきや、便益は必ずしも明確でなく、切除不能/転移尿路上皮腫で単剤投与が本承認されている製品でも、延命またはそれに準じる効果が臨床試験で確認されたものはなく、フェールしたものなら複数ある。Yervoy併用で効果増強が期待されたが、案外な結果になった。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認申請】


アッヴィ、持続皮下注用パーキンソン病薬を承認申請
(2022年5月20日発表)

アッヴィは米国でABBV-951(foslevodopa、foscarbidopa)を進行パーキンソン病の治療薬として承認申請した。レボドパとカルビドバのプロドラッグを24時間持続皮下注する。症状管理不良な130人を組入れた試験でオンタイム(効き目のある時間)が2.7時間増加し、経口レボドパ・カルビドパ製剤群の1.0時間増加を上回った。オフタイム(症状が出る時間)は2.7時間減少した(対照群は1時間減)。深刻有害事象の発現率は各8%と6%で大差ないが、有害事象による離脱率は21.6%と1.5%で上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、三種類の希少疾患の初の治療薬などを支持
(2022年5月20日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、三種類の希少疾患用薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら1~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のUpstaza(eladocagene exuparvovec)はAADC(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素)欠損症の遺伝子療法。生後18か月以上の重症型患者が適応になる。欠乏しているドパミンやセロトニンの合成に必要な酵素の遺伝子を、アデノ随伴ウイルス2型ベクターを用いて、定位脳手術で送り込む。例外的環境条項に基づく承認が支持された。エビデンスは台湾で行われた臨床試験のようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

サノフィ・グループのジェンザイムのXenpozyme(olipudase alfa)はASMD(酸性スフィンゴミエリナーゼ欠乏症、通称ニーマン・ピック病)の酵素補充療法。A型(乳児期に発症する)またはA/B型に用いる。年齢制限はない。臨床試験で肺拡散能(%予測値)が改善、脾臓量が減少した。有害事象は感染症や点滴箇所反応、胃腸合併症など。現時点では精神運動症状を改善する効果は認められていない。

日本で今年3月に世界初承認、米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

Eiger BioPharmaceuticals(Nasdaq:EIGR)のZokinvy(lonafarnib)はハッチンソン・ギルフォード早老症候群やある種の早老ラミノパチーの治療薬。生後12ヶ月以上の患者に例外的条項に基づいて承認することが支持された。プログリンが蓄積して障害を与えるプロセスに係るファルネシルの転移酵素を阻害し、細胞の完璧性や機能を維持する。臨床試験では平均余命が文献比半年長かった。米国では2010年に承認。

活性成分はシェリング・プラウが肺癌などの治療薬として開発したことがあるが、第3相が無益中止となり、MSDと合併後の2010年にEigerに導出した。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスのLFB(Laboratoire français du Fractionnement et des Biotechnologies)のCevenfacta (eptacog beta)はノボ ノルディスのNovoSeven(eptacog alfa)と同じような活性化第VII因子製剤。12歳以上の先天性血友病で第XIII因子製剤や第IV因子製剤にインヒビターを持つ、あるいは不応不耐の患者の出血治療や手術時の出血予防に用いる。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では以下が支持された。

イーライリリーのOlumiant(baricitinib):成人の重度円形脱毛症

アッヴィのRinvoq(upadacitinib):成人の既存薬不応不耐の中重度活性期炎症性大腸炎

ノバルティスのCosentyx(secukinumab):6歳以上で既存治療不応不耐な、活性期ERA(付着部関連関節炎)や活性期JPsA(若年性脊椎関節炎)などのJIA(若年性特発性関節炎)

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のNexpovio(selinexor、米名Xpovio):一次以上の治療歴のある成人の多発骨髄腫にbortezomib及びdexamethasoneと併用

【承認】


デュピクセント、好酸球性食道炎に適応拡大
(2022年5月20日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズとサノフィは、抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を12歳以上かつ体重40kg以上の好中球性食道炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。この適応取得は米国初。欧州でも承認審査中。

他の適応より高曝露の、300mg週一回皮注。臨床試験では64%の患者で嚥下障害などの症状が改善し(偽薬群は41%)、59%で食道上皮内好酸球数が減少した(同6%)。他の適応の多くと同じ300mg二週毎皮注群はトレンドに留まり、承認されていない。

優先審査を受け、審査期限は8月3日だったが2ヶ月半、前倒しになった。

リンク: 両社のプレスリリース

アザシチジンが若年性骨髄単球性白血病に承認
(2022年5月20日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ・スクイブ・グループのセルジーンのVidaza(azacitidine)をJMML(若年性骨髄単球性白血病)の小児新患に用いる適応拡大を承認した。臨床試験で18人中9人が臨床的に応答した。

骨髄異形成症候群の初めての薬として承認されてから18年、まだまだ開発が続いていたんだ。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

2022年5月14日

第1050回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • その他の領域: 
  • UCB、抗nFC受容体抗体とC5阻害剤の筋無力症試験が成功 
  • ロシュ、抗TIGHT抗体の第3相がNSCLCでもフェール 
  • エーザイ/バイオジェンが第2の抗アミロイド・ベータ抗体を承認申請 
  • ビンゼレックスは米国では承認されず 
  • イーライリリーのGLP-1/GIP作用剤が承認 
  • エダラボン経口懸濁液が米国で承認 


【新薬開発】


UCB、抗nFC受容体抗体とC5阻害剤の筋無力症試験が成功
(2022年5月10日発表)

UCBはMGFA国際会議で全身性重症筋無力症(gMG)の新薬候補二剤の第3相試験結果を発表した。年内に米欧日で承認申請する考え。どちらも治療効果が既存薬と大きく違うようには見えないが、併用試験でシナジーが確認されれば朗報だ。抗nFC抗体はもし長期反復投与が可能なら既存薬と差別化できるが、どうなのだろうか?

UCB7665(rozanolixizumab)はヒトのneonatal Fc受容体に結合する自己皮注用抗体医薬。第3相のMycarinG試験はAChR又はMuSK(muscle-specific tyrosine kinase)に対する自己抗体を持ちMG-ADL病状診断スコアが3以上の患者200人を偽薬、7mg/kg、10mg/kgの3群に無作為化割付して第43日のMG-ADLスコアを比較した。低量群は偽薬比2.586ポイント、高量群は同2.619ポイント、改善が大きく、統計的に有意だった。各群67.2%、81.3%、82.6%の患者で治療時発現有害事象が報告された。

RA101495(zilucoplan)は補体系C5を阻害する一日一回自己皮注用の環状ペプチド。19年にRa Pharmaceuticalsを25億ドルで買収して入手した、第3相RAISE試験は抗AChR自己抗体を持ちMG-ADLが6以上の患者174人を偽薬と0.3mg/kg群に無作為化割付して第12週のMG-ADLスコアを比較した。結果は偽薬比2.12ポイント改善した。各群70.5%と76.7%で治療時発現有害事象が報告された。

抗nFc受容体抗体ではArgenx(Euronext:ARGX)のVyvgart(efgartigimod alfa-fcab)が昨年12月に米国で承認された。週一回、4週間に亘って静注する。必要に応じて再投与するが、3週間以内に再開する時の安全性は確立していない。第3相の主評価項目はMG-ADLベースの奏効率だが、MG-ADL自体の推移を示すグラフを見ると、6週時点の治療効果は2ポイント程度でUCB7665と大きくは変わらない。尚、群間差は第4週にピークを付けた後に縮小、第8週時点では大差なくなっている。長期反復投与できれば良いのだが、安全性懸念があるのかもしれない。

C5阻害剤はアストラゼネカ・グループのアレクシオン・ファーマシューティカルズの抗体医薬、Soliris (eculizumab) が17年に米欧日で適応拡大した。第3相試験は薬効解析方法が特殊であったためかフェールしたが、元々は感受性分析のために事前に計画されていた解析で有意差が見られ、試験薬群はMG-ADLがベースラインの10から4.2ポイント低下、偽薬群は2.3ポイント低下し治療効果は1.9だった。

異なった試験のデータを比較するのは難しいのでよほど大きな差がない限り、効果は同程度と考えるべきだろう。自己注可能なのはよいが頻度が高いのは難点。

リンク: 同社のプレスリリース


ロシュ、抗TIGHT抗体の第3相がNSCLCでもフェール
(2022年5月11日発表)

ロシュはRG6058(tiragolumab)の第3相SKYSCRAPER-01試験の共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間)がフェールしたと発表した。もう一つの全生存期間は未成熟であるため続行する。残念な結果だが、どちらも数値上は偽薬群を上回っている模様であり、また、免疫強化療法の効果は癌の縮小より延命のほうが表れやすいので、まだ諦めるには早いだろう。

この試験はPD-L1を高発現する未治療の局所進行/切除不能/転移性非小細胞性肺癌534人を組入れてTecentriq(atezolizumab)とRG6058の併用をTecentriq・偽薬併用と比較した。PD-L1陽性の同様な患者を組入れた第2相試験ではPFSがメジアン5.6ヶ月と偽薬併用群の3.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。PD-L1高発現サブグループでは各16.6ヶ月、4.1ヶ月、0.29とさらに良さそうな数値が出ていた。全生存の解析結果も有望なものだった。

RG6058は2月に進展型小細胞性肺癌の第3相化学療法併用試験がフェールしたが、今回は第2相の裏付けがあっただけに意外な結果だ。

上記二剤を併用する第3相試験はステージIII非小細胞性肺癌の化学放射線療法後維持療法や未治療進行非扁平上皮非小細胞性肺癌の化学療法併用、そして食道扁平上皮腫の化学放射線療法後維持療法や一次治療化学療法併用が進行中。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


エーザイ/バイオジェンが第2の抗アミロイド・ベータ抗体を承認申請
(2022年5月10日発表)

エーザイとバイオジェンは、BAN2401(lecanemab)の米国における段階的生物学的製剤承認申請を完了したと発表した。アミロイド・ベータの凝集体に対するヒト化モノクローナル抗体で、脳内にアミロイド病変が確認されたアルツハイマー性軽度認知障害(MCI)と軽度アルツハイマー病の治療に用いることを想定している。加速審査が認められた場合、年内にも承認が見込まれる。

薬効のエビデンスは後期第2相試験のアミロイド・ベータ削減作用で、米国で昨年6月に加速承認されたが欧日では承認されなかった抗アミロイド・ベータ抗体Aduhelm(aducanumab)と同様。10mg/kgを2週毎に点滴静注する治療を18ヶ月間続けたところ、画像診断による脳内アミロイド・ベータ蓄積量の指標であるSUVR(Standard Uptake Value Ratio)がベースラインの平均1.37ユニットから0.36ユニット減少し、80%以上の患者で陰性化した。

特徴的な有害事象であるARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫)の発生率は9.9%(161人中16人)で、アルツハイマー病の疾病関連因子であるApoE4ホモ接合型の10人では50%と高かったがヘテロ型39人では5%、ノンキャリア112人では8%、偽薬群245人では0.8%だった。ARIA-H(アミロイド関連画像異常-出血)は6.2%(161人中10人)でApoE4キャリア49人は12.2%、ノンキャリア112人は3.6%、偽薬群は4.9%だった。

同社は市販後薬効確認試験となるべき第3相CLARITY AD試験を実施中。トップライン・データが判明するのは今秋の見込みなので、この解析が成功しない限り、もし加速承認されたとしても、Aduhelmと同様に、売れないだろう。Aduhelmの諮問委員会ではアミロイド・ベータ削減作用に基づく加速承認に賛成票を投じた委員は一人もいなかった。今回も諮問委員会が招集されるだろうが、大荒れは必至だ。しかし、主評価項目であるCDR-SB(認知機能と日常生活機能の診断スコア;MCIや軽度アルツハイマー病の薬効評価尺度に適しているとされる)や副次的評価項目のADAS-cog(認知機能スコア)で統計的に有意な差があれば、効果の多寡に関わらず、世評が一変するだろう。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


ビンゼレックスは米国では承認されず
(2022年5月13日発表)

UCBは抗IL-17A・IL-17F二重特異性抗体Bimzelx(bimekizumab)を既存治療に十分応答しない中重度プラク乾癬の治療薬として承認申請し、欧州では昨年8月、日本では今年1月に承認を取得した。米国は昨年10月が審査期限だったが渡航制限で欧州工場の査察ができなかったため遅延、今回、審査完了通知を受領した。承認前検査は実施されたが指摘事項があった模様だ。

IL-17標的薬はノバルティスのCosentyx(secukinumab)やイーライリリーのTaltz(ixekizumab)が乾癬など様々な自己免疫疾患で承認され、幾つかの試験では既存のバイオ薬を上回る成績を挙げている。Bimzelxも乾癬の第3相でヤンセンの抗IL-12/IL-23抗体Stelara(ustekinumab)を上回る効果を示した。

リンク: UCBのプレスリリース

【承認】


イーライリリーのGLP-1/GIP作用剤が承認
(2022年5月13日発表)

FDAはイーライリリーのMounjaro(tirzepatide)を二型糖尿病治療薬として承認した。血糖値や食欲の制御に係るホルモンのうち、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1と)とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の受容体を作動するデュアル・アクション薬で、週一回2.5mg皮注で開始し、4週以上後に5mgに増量、効果が不十分なら更に2.5mgずつ、各回4週以上後に、最大15mgまで増量できる。

第3相試験ではHbA1cが偽薬比1.5~1.6%低下した。有害事象は悪心嘔吐など。GLP-1作用剤と同様に前臨床試験で甲状腺C細胞腫瘍リスクが見られたことが枠付警告されている。

FDAの今回のプレスリリースは意外な点が二つある。一つは、直接比較試験で15mg群はノボ ノルディスクのGLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)やノボやサノフィの持効性インスリンよりHbA1c低下が体重減が大きかったことに数値付きで言及していること。

確かにOzempic対照試験ではHbA1cで0.5%の群間差があったが、Ozempicの用量は1mgで、試験後の今年3月に承認された2mgではない。2mgの効果は1mgを0.2%上回るだけなので、おそらくMounjaroの15mgには勝てないが、FDAは、これまで、メーカーが効果が優れると宣伝するためには直接比較試験で対照薬の最大承認用量と比較したエビデンスが必要としていたはずだ。FDAのプレスリリースは宣伝ではないが、エビデンス重視に変わりはないだろう。

インスリン対照試験の解釈については、FDAは他剤の諮問委員会用ブリーフィング資料の中で、インスリンの用量や効果には上限がないのだからインスリン群のほうがHbA1cが高かったとしたら用量調節が適切でなかったのではないか、と疑問を呈したことがあるが、今日では受け入れるようになったのだろう。添付文書に上限が記載されていなくても、使い過ぎたら低血糖などの反動が出るのだから、現実の医療では効果の上限があるはずだ。

もう一つは、優先審査指定について。イーライリリーはバウチャを使って審査期間短縮を狙ったが、FDAのプレスリリースの文言を読む限りでは、純粋に薬の重要性に基づいて優先審査指定したように感じられる。このような場合、バウチャは返してもらえるのだろうか?

リンク: FDAのプレスリリース


エダラボン経口懸濁液が米国で承認
(2022年5月12日発表)

FDAは田辺三菱製薬のRadicava ORS(edaravone)をALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬として承認した。フリーラジカル・スカベンジャーedaravoneの新製剤で、朝の空腹時に105mg/5mLを経口/経栄養チューブ投与する。60mgを点滴静注する製剤と同様に、28日サイクルで第1サイクルは14日、その後は10日、連続投与する。エビデンスは生物学的同等性試験。日本でも承認申請中。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2022年5月8日

第1049回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • パキロビッドの曝露後予防試験がフェール 
  • FDA、パキロビッドの使い方について一言 
  • FDA、JNJのワクチンの適応を大幅縮小 
  • その他の領域: 
  • Clovis、PARP阻害剤の適応拡大申請にFDAが後ろ向き 
  • ユルトミリスのNMOSD試験も成功 
  • フォシーガもHFpEF試験が成功 
  • バイエル、ニュベクオの適応拡大を申請 
  • イミフィンジを胆道癌に適応拡大申請 
  • オラペネムの新規塩はFDAがエビデンスに疑問 
  • Axsomeの片頭痛治療薬はCRL 
  • 中国発の抗癌剤がまた承認されず 
  • ハチソン、VEGFR阻害剤が承認されず 
  • エンハーツが二次治療薬に昇進 
  • タケキャブが8年遅れで米国でも承認 
  • トリエンチンの新規塩が承認 


【COVID-19関連】


パキロビッドの曝露後予防試験がフェール
(2022年4月29日発表)

ファイザーはCOVID-19治療薬PAXLOVID(nirmatrelvir錠とritonavir錠の抱き合わせ製品)の第2/3相EPIC-PEP試験がフェールしたと発表した。ウイルス検査で確認された症候性COVID-19感染者と同居していた、無症状かつ検査陰性の成人2957人を組入れて、5日コース群と10日コース群の発症かつ陽性判定となるリスクを14日間にわたって追跡したところ、相対リスク削減率が偽薬比各32%と37%になったものの、有意水準には達しなかった。

敗因は明らかではない。現在の主流株であるオミクロンは抗ウイルス薬の効果が感じられ難いところがある。PAXLOVIDは軽中等症感染者の入院・死亡リスクを抑制するが、オミクロン株は元々リスクが小さいのでNumber-Needed-to-Treatが大きくなる。感染力は高いが無症状で済むことも多いので本試験のように症候性感染に絞り込むと検出力が足りなくなる恐れがある。まあ、どちらの用途でもPAXLOVIDで治療する意義がデルタ株などと比べて小さいことにはなるのだが...

因みに、リジェネロン/ロシュの抗SARS-CoV-2抗体、REGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)は、暴露後予防試験で発症率が1.5%と偽薬群の7.8%より81%低かった。観察期間は4週間だが半分以上は第1週の発症だった。但し、この試験が行われたのはオミクロンの流行前だ。オミクロンはREGEN-COVに感受しないため、EUA(非常時使用認可)が適用されない。

リンク: ファイザーのプレスリリース


FDA、パキロビッドの使い方について一言
(2022年5月4日発表)

FDAのJohn Farley感染症部ディレクターは、PAXLOVIDを使う医療従事者向けに幾つかの見解を示した。ファイザーやエキスパートの意見が確立した知見ではないことを示す目的であるようだ。

注目されるのは、まず、ブレークスルー感染時の再投与/延長コースの当否。臨床試験では5日コース完了・PCR検査陰転後に陽転する現象がPAXLOVID群や偽薬群の患者の1~2%で発生した。多くは無症状で入院・死亡には繋がらなかった。抗菌剤なら投与を再開したり他の抗菌剤に切り替えるところだが、PAXLOVIDは10日コースに延長したり投与再開したりする事例があるようだ。

しかし、Farley博士は、そのような使用法の便益を示すエビデンスがないことを指摘した。PAXLOVIDでは確認されていないが、3CL阻害剤は耐性ウイルスを選択する潜在的なリスクがあるので、漫然と継続することを懸念した面もあるのではないか。

もう一つはワクチンとの関係。PAXLOVIDは重症化リスクの高い患者に用いるが、リスク因子は変遷するので、ワクチン接種の有無も考慮するのが適切と述べた。承認の根拠となった第3相試験はワクチン未接種者を対象としており、接種者を組入れた試験の結果はまだ公表されていない。FDAは接種者に投与することも認めているが、見直し中なのかもしれない。

リンク: FDAの発表


FDA、JNJのワクチンの適応を大幅縮小
(2022年5月5日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチン、Ad26.COV2.SのEUAを見直し、適応を、他のワクチンが利用不能、臨床的に不適、または本人が拒否、の場合に限定した。稀だが重篤なTTS(血小板減少を伴う血栓症候群)のリスクが見られ、治療を誤ると火に油を注ぐことになりかねないため。

このワクチンは26型アデノウイルスをベクターとしてSARS-CoV-2のスパイク蛋白遺伝子の一部を送り込み、体内で発現させる。FDAは21年2月にEUAしたが、CVST(脳静脈洞血栓症)などが報告されたため、2ヶ月後に接種の一時中止を勧告した。発生率は100万人に一人程度であったため便益が上回ると判断、再開を認めたが、12月になってCDC(米国疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種委員会)がBioNTech/ファイザーやモデルナのmRNAワクチンを優先して接種すべきと勧告。今回、FDAも追随した。

TTSは上記のCVST症例も含む包括的な概念で、血小板減少が見られるが、ヘパリン誘導性血小板減少症と同様に、ヘパリンを投与すると悪化するので厄介。FDAはTTSリスクをファクト・シート(処方情報類似の文書)の冒頭に記載させた。FDAのワクチン有害事象報告システムに届出された症例のうち60例がTTSと判定され、うち死亡例は9人。発生頻度は100万回当たり3例で、幅広い年齢層の、男女ともに発生しているが、比較的高いのは30~49歳の女性で100万回当り8回。発生は接種の1~2週間後とラグがあるようだ。

21年の売上高は24億ドル、JNJは今年の売上高を30~35億ドルと予想していたが、適応縮小が公表される前に撤回した。

リンク: FDAのプレスリリース

【今週の話題】


Clovis、PARP阻害剤の適応拡大申請にFDAが後ろ向き
(2022年5月5日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は2021年第1四半期財務報告書(10-Q)の中で、FDAがRubraca(rucaparib)の適応拡大申請に後ろ向きであることを公表した。前日の5月4日の決算発表リリースでは欧米で申請予定としか記されていなかったが、5月3日と4日のFDAとのミーティングでフィードバックがあったようだ。

Rubracaはファイザーからライセンスして開発したPARP阻害剤。BRCA変異のある卵巣癌や前立腺癌の一部と、難治白金感受卵巣癌の化学療法応答後維持療法に承認されている。様々な適応拡大試験のうち、進行卵巣癌の一次治療応答者を組入れた維持療法試験、ATHENA-MONOが成功、欧米で適応拡大申請する予定だった。主評価項目はHRD(相同組換え不全)を持つサブグループのPFS(無進行生存期間、担当評価)で、ハザードレシオ0.47、メジアン値は28.7ヶ月(偽薬群は11.2ヶ月)となり、成功時に行われるシーケンシャルな主評価項目であるintent-to-treatベースの検定でも各0.52と20.2ヶ月(同9.2ヶ月)となった。探索的に実施されたHRD陰性のサブグループ分析でも0.65、12.1ヶ月(同9.1ヶ月)と良さそうな結果が出ていた。

しかし、FDAは延命効果の確認を要求。必要イベント数の50%に達した段階で解析するよう求めた。現時点の進捗は25%で到達は2年後と予想されている。

全生存の直近の解析ではHRD陽性サブグループで0.96、intent-to-treatは0.97とのこと。

FDAは、それ以前に申請するなら諮問委員会を招集する考えを伝えたとのこと。諮問委員会は招集するのが原則なので、FDAが敢えて言及したということは、何か良くないデータがあるのだろう。米国は適応拡大試験の学会・論文発表だけでオフレーベル使用されることがあるが、FDAが入手するデータは遥かに多いので、諮問委員会で思わぬ事実を知らされることがある。

FDAが延命効果確認を求めたもう一つの理由は、BRCA変異を持つ卵巣癌の3次治療試験で全生存期間が化学療法より見劣りしたこと。主評価項目であるPFSのハザードレシオは0.639、p=0.001だったが、全生存のハザードレシオは1.55(95%信頼区間1.085-2.214)、メジアン値は19.6ヶ月(化学療法群は27.1ヶ月)だった。このデータを受けて欧州でもCHMPが3次治療における承認の再検討を開始、結論が出るまで新規に投与しないよう推奨している。

一次治療後維持療法は類薬であるアストラゼネカのLynparza(olaparib)やグラクソ・スミスクラインのZejula(niraparib)がPFSデータに基づき承認されている。FDAが方針を変えたのは上記に加えて、unmet medical needでないことや、PD-1/PD-L1阻害剤やPI3K阻害剤などで市販後薬効確認試験のフェールがしばしば発生していることも影響しているのだろう。

リンク: Clovisのform 10-Q

【新薬開発】


ユルトミリスのNMOSD試験も成功
(2022年5月5日発表)

アストラゼネカはUltomiris(ravulizumab-cwvz)の第3相NMOSD(視神経脊髄炎)試験が成功したと発表した。抗アクアポリン4自己抗体陽性の患者58人を欧米日亜の施設で組入れ、メジアン73週間治療したところ、誰も再発しなかった。Soliris(eculizumab)の同様な試験の偽薬群(年率再発率0.350)と比べ有意に少なかった。

UltomirisはSolirisの効果の持続性を高めたもの。後者の特許切れ対策として一つ一つ、適応症をキャッチアップさせてきた。上記試験でSolirisの年率再発率は0.016だったので、効果の差は歴然としないが、投与頻度が少ない長所は残る。

リンク: 同社のプレスリリース


フォシーガもHFpEF試験が成功
(2022年5月5日発表)

アストラゼネカはFarxiga(dapagliflozin)の第3相DELIVER試験が成功したと発表した。左室駆出率が40%超の心不全で二型糖尿病ではない患者を組入れたアウトカム試験で、心血管死/心不全入院/心不全救急のイベントリスクが偽薬を下回った。適応拡大に向かう見込み。

同じSGLT阻害剤であるベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのJardiance(empagliflozin)も類似した試験が成功、心血管死/心不全入院のハザードレシオは0.79だった。減少したのは入院イベントが主。また、左室駆出率があまり高くないサブグループのほうがハザードレシオが小さかった。Farxigaのデータがどの程度なのか注目される。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


バイエル、ニュベクオの適応拡大を申請
(2022年5月3日発表)

バイエルはNubeqa(darolutamide)をホルモン感受前立腺癌の転移後一次治療レジメンに追加する適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。欧日中でも申請中。

非ステロイド系のアンドロゲン受容体アンタゴニストで、転移していないが高リスクの去勢抵抗性前立腺癌にGnRH作用剤などと併用することが米欧日で承認されている。今回の申請はARASENS試験に基づくもので、docetaxelとアンドロゲン枯渇療法に追加したところ、全生存期間のハザードレシオが偽薬追加群比0.68、p<0.001だった。

リンク: 同社のプレスリリース


イミフィンジを胆道癌に適応拡大申請
(2022年5月4日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を進行胆道癌の一次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年第3四半期。第3相のTopa-1試験に基づくもので、gemcitabineとcisplatinに追加したところ、全生存期間のハザードレシオが0.80、メジアン値は12.8ヶ月(偽薬追加群は11.5ヶ月)、2年生存率は25%(同10%)だった。PFSのハザードレシオは0.75、メジアンは7.2ヶ月(同5.7ヶ月)。2年生存率以外のデータはそれほどでもないが、深刻な癌なので軽視できない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


オラペネムの新規塩はFDAがエビデンスに疑問
(2022年5月3日発表)

Spero Therapeutics(Nasdaq:SPRO)はSPR994(tebipenem pivoxil hydrobromide)を複雑尿路感染症の治療薬としてFDAに承認申請したが、6月27日の審査期限を前に、FDAが薬効のエビデンスが不十分と見做していると公表した。3月に、申請内容に欠陥がありレーベルや市販後コミットメントの協議に進めない旨の通知があったので、サプライズではない。

臨床試験では奏効率がertapenem比非劣性だったが、FDAの感受性分析では異なった結果になったようだ。

この試験はCOVID-19の影響を理由に非劣性マージンが当初計画の10%から12.5%に緩和された。結果は試験薬群のほうが3.3%低かったが、95%上限は9.7%なので、閾値が10%でも成功は成功だがボーダーライン上となる。

SPR994はMeiji Seikaファルマからライセンスした、オラペネム(テビペネム ピボキシル)の新しい塩。

リンク: Spero社のプレスリリース


Axsomeの片頭痛治療薬はCRL
(2022年5月2日発表)

米国NY州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)はAXS-07を片頭痛治療薬として承認申請していたが、CRL(審査完了通知)を受領した。FDAから問題点の指摘がありCRLに終わりそうであることが4月に発表済みなので意外ではない。指摘事項は製品や生産プロセスに関するもので、臨床試験の実施は求められていない由。

AXS-07はNSAIDのmeloxicamと5-HT1作動剤rizatriptanの合剤。

リンク: 同社のプレスリリース


中国発の抗癌剤がまた承認されず
(2022年5月2日発表)

上海君実生物医薬(Junshi Biosciences、HKSE:1877)と米国のCoherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)は抗PD-1抗体toripalimabを上咽頭癌用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。品質や生産プロセスの変更が求められたが、対処は可能で、22年央に修正承認申請を提出する計画。但し、中国の渡航制限で立ち入り調査ができないこともボトルネックになっている。

toripalimabは18年に中国で悪性黒色腫の二次治療に承認、他の中国企業の抗PD-1抗体とともに、価格競争力を武器に高いシェアを取った。FDAは中国だけで実施された臨床試験に基づく承認申請に懐疑的な姿勢に転じ、次項のsurufatinibも含めて、承認されない事態が連続している。toripalimabの一次治療gemcitabine・cisplatin併用試験は中国以外の施設も参加しており、上咽頭癌の症例は主として東南アジアであることから、同一視できないと考えていたが、別の理由で残念な結果になった。

リンク: 両社のプレスリリース


ハチソン、VEGFR阻害剤が承認されず
(2022年5月2日発表)

和黄医薬(Hutchmed、Nasdaq:HCM)は米国でsurufatinibを神経内分泌腫瘍(NET)用薬として承認申請していたが審査完了通知を受領した。中国で実施された膵NETとそれ以外のNETの試験、そして米国のブリッジング試験に基づいて申請したが、FDAは患者背景が米国と異なることや渡航制限により立ち入り調査できないことなどを指摘。中国以外の施設も参加する多地域臨床試験の実施を推奨した。

suruftinibはVEGFR阻害剤。類薬が存在することもFDAの判断に影響したのではないか。

欧州でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


エンハーツが二次治療薬に昇進
(2022年5月5日発表)

FDAは第一三共がアストラゼネカと共同開発販売している抗体薬物複合体、Enhertu (fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を成人のher2阻害剤による治療歴を持つ転移性乳癌に用いることを承認した。また、3次治療に用いる加速承認を本承認に切り替えた。

先に発売されたロシュのKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)と比較した臨床試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立評価)のハザードレシオが0.28だった。全生存期間の解析は未成熟だがハザードレシオは0.56と好ましい数値が出た。

日欧でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース


タケキャブが8年遅れで米国でも承認
(2022年5月3日発表)

Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)はVoqueznaのトリプル・パックとデュアル・パックがFDAに承認されたと発表した。ピロリ菌の除菌に用いる。日本で14年に承認された武田薬品のタケキャブが含有するカリウムイオン競合型アシッドブロッカー、vonoprazan錠と、前者はamoxicillinカプセルとclarithromycin錠、後者はamoxicillinカプセルだけを同梱したもの。

臨床試験では除菌奏効率がvonoprazanの代わりにlansoprazoleを用いた群と非劣性だった。第3四半期にロンチする予定。

同梱の必然性は不明だが、私の場合、lansoprazoleだけ口腔内急崩壊錠という訳の分からない組み合わせだったので、一理あるのかもしれない。

vonoprazanはびらん性食道炎や胸やけの治癒や寛解維持にも承認申請中。

Phathomはスミスクラインやグラクソ・スミスクラインの新薬開発を長年牽引し武田薬品の取締役を務めたこともある故山田忠孝氏がFrazier Healthcare Partnersの後押しで設立した会社。

リンク: 同社のプレスリリース


トリエンチンの新規塩が承認
(2022年5月2日発表)

フランスのOrphalan SAはFDAがCuvrior(trientine tetrahydrochloride)をウィルソン病治療薬として承認したと発表した。

この常染色体劣性遺伝による希少疾患の治療はペニシラミンが70年の使用歴を持つ第1選択だが、3分の1を占める不耐患者にはトリエンチンが30年以上に亘り利用されている。Orphalanは欧州で新規の塩を開発、Cuprior名で5歳以上の患者に販売している。今回の四塩化物は第3相のスイッチ試験で24週後の血清NCC(非セルロプラスミン銅)がd-penicillamine継続群比非劣性だったが、銅の24時間尿排出量は274mcg対511mcgで有意に少なかった。臨床試験のデザインや結果が影響したのか、適応はトリエンチンの本来の位置付けと異なる、ペニシラミンに耐容する脱銅した安定ウィルソン病の成人となった。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。