2020年1月26日

2020年1月26日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 新型コロナウイルス感染症に立ち向かう ~欧米の動き~ 
  • ロシュ、risdiplamのSMA幼児試験が成功 
  • ロシュ、テセントリクの筋層浸潤尿路上皮癌アジュバント試験がフェール 
  • ジャズ、ナトリウムの少ないナルコレプシー治療薬を承認申請 
  • リムパーザをある種の前立腺癌に適応拡大申請 
  • FDA、Epizymeの類上皮肉腫用薬を承認 
  • FDA、ホライゾン社の甲状腺眼症用薬を承認 


【今週の話題】


新型コロナウイルス感染症に立ち向かう ~欧米の動き~
(2020年1月23日発表)

武漢から世界に広がり始めた新型コロナウイルス、2019-nCoVの治療やワクチン開発などに関する欧米の動きを幾つか取り上げたい。

まず、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)がワクチンの開発に向けて二社と一大学に助成を決めた。CEPIは17年のダボス会議で正式に発足した組織で、エボラウイルス疾患など既知あるいは新規の深刻な感染症のワクチンを迅速に開発、試験、備蓄すべく、各国政府や研究機関、企業の支援・調整を行っている。創設者はノルウェーやインドの政府、ビル&メリンダ ゲイツ財団、ウエルカム・トラスト、世界経済フォーラムで、日本やカナダ、オーストラリアなども資金を拠出している。

CEPIは今回と同じコロナウイルス科のMERSウイルスのワクチン開発を支援している。米国フィラデルフィアのInovio Pharmaceuticals(Nasdaq:INO)は助成金を得てMERSワクチンのINO-4700の第二相試験に着手すべく準備中。ラッサ熱ワクチンのINO-4500も助成金で臨床入りした。助成金の規模は二剤合計で最大5600万ドル。今回、2019-nCoVワクチンの開発でもパートナーシップを発表した。最大900万米ドルの助成金を得て、INO-4800を第一相試験まで持っていく。

Inovioは韓国のGeneOne Lifescience(KSE:011000)と提携して複数のDNAワクチンを開発している。近年話題になった感染症では、GeneOneからライセンスしたジカウイルス感染症のDNAワクチン、GLS-5700の第1相試験を実施、17年にNew England Journal of Medicine誌に論文発表した。現在、第1/2相試験中。

CEPIはクイーンズランド大学ともMERS-CoVワクチンの開発に続いて今回、2019-nCoVワクチンのパートナーシップを結んだ。Molecular Clampという技術を使って、ウイルスの表面抗原が宿主に侵入する時にリモデリングしてワクチン抗原から変わってしまう現象の克服を図る。

今回、新規助成先となったのが米国ケンブリッジのModerna(Nasdaq:MRNA)。mRNAを投与して抗体を誘導する技術に特化しており、CMVワクチンやMSDにライセンスしたRSVワクチンが第二相試験段階。2019-nCoVワクチンに関しては、CEPIの助成でNIH(米国立医療研究所)傘下の組織とmRNAワクチンを開発生産し、NIAID(NIHのアレルギー感染症組織)が治験許可申請に必要な試験と第一相を行う計画。

CEPIはウイルスのゲノム同定から16週間以内に臨床試験用ワクチンを開発することを目標としている。米国ではCDC(疾病管理予防センター)が米国で発見された2019-nCoV感染者のサンプルを基にシーケンシングを行っており、順調なら春から夏にはワクチン候補ができあがるのではないか。

次に、治療薬に関しては今のところ話があまり出ていないが、ロイター報道によると、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)がGS-5734(remdesivir)を試験する可能性についてNIHと協議している。ヌクレオチド類縁体のプロドラッグで、コンゴのエボラ臨床試験で28日死亡率が49%とリジェネロン(Nasdaq:REGN)のREGN-EB3を投与した群の33%、NIHなどが創製したmAb114の35%より悪く、ドロップアウトしてしまった。従来はフィロウイルス科をターゲットとしていたため、コロナウイルスに使うのは意外だったが、改めて調べると、過去3年間にSARSやMERSのin vitroそしてマウスモデルの実験論文が刊行されていた(Sheahanら、Sci Transl Med. 2017など) 。

コロナウイルス感染症は症状だけでは特定できないし、深刻とは限らないので危ない患者を識別する必要がある。当面は武漢訪問歴が手掛かりになるが、もし二次・三次感染例が増えれば、ウイルスを迅速に特定して隔離することが必要になる。米国ではCDCがリアルタイム逆転写PCR検査を開発、ウイルス検査を担っているが、FDAに緊急使用認可(EUA)を申請し、国内外の機関が使えるようにする計画だ。また、全ゲノムの同定が完了したらGenBankやGISAIDなどのデータベースにアップロードして公開する予定。

リンク: CEPIのプレスリリース


【新薬開発】


ロシュ、risdiplamのSMA幼児試験が成功
(2020年1月23日発表)

ロシュは、RG7916(risdiplam)の第2/3相FIREFISH試験が成功したと発表した。データは未発表。RG7916は先に臨床試験が成功したSMA(脊髄筋委縮症)II型やIII型だけでなくI型にも米国で承認申請されているが、今回の成功でI型におけるエビデンスが強化された。

SMAは一万人に一人の希少疾患で、多くの場合、サバイバル・モーター・ニューロン(SMN)の遺伝子であるSMN1の先天的欠損・不全を持っている。乳児期に発症するI型、月齢6ヶ月以降で発症することが多いII型、大きくなってから診断されるIII型の順にSMNが少ない。RG7916は、不完全なSMNをある程度作ることができるSMN2のスプライシングを修飾して全長mRNAの生成を促す。SMAではバイオジェンやノバルティスが画期的治療薬を相次いで発売したが、RG7916は経口投与可能であることが長所。

FIREFISH試験は月齢1~7ヶ月のI型患者を組入れて安全性や静坐達成率を検討した。パート1で21人を組入れて至適用量を検討、パート2で41人を組入れて仮説検証を行った。パート2で採用した用量を投与したパート1の17例では、41%が12ヶ月投与後に支え無しで5秒間静坐できた。

RG7916は、PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)とSMA財団の共同研究の成果で、ロシュは11年に前臨床段階のプログラムをライセンスした。19年11月に米国で承認申請受理、優先審査で審査期限は5月24日。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、テセントリクの筋層浸潤尿路上皮癌アジュバント試験がフェール
(2020年1月24日発表)

ロシュはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMvigor010試験がフェールしたと発表した。MICU(筋層浸潤尿路上皮癌)の切除術を受けた高リスク患者809人を組入れて1200mgを3週毎に投与する群と観察群のDFS(無進行生存期間、担当医評価)を比較した試験で、PD-L1の発現状況は不問。データは未発表。

Tecentriqは転移性尿路上皮癌の再発治療や白金薬不適時の一次治療に承認されているが、一次治療は承認後の試験でPD-L1低発現患者における全生存期間が白金薬レジメン群より短かったことから、PD-L1発現が5%以上の癌に限定された。他のPD-L1/PD-1阻害剤も尿路上皮癌では区々な結果になっており、今回の試験も、詳細発表が待たれる。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


ジャズ、ナトリウムの少ないナルコレプシー治療薬を承認申請
(2020年1月22日発表)

ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、JZP-258をFDAに承認申請した。7歳以上のナルコレプシー患者の脱力発作や日中の過剰な眠気の治療に用いる。優先審査バウチャーを用いたので第3四半期ごろの承認が期待される。

JZP-258は米国で02年に承認された同社のXyrem(sodium oxybate)と同じoxybateベースの薬だが、カチオンの組成を変えナトリウム量を92%削減した。AHA(米国心臓協会)はナトリウムの摂取量を一日2.3g(食塩換算で5.8g)未満に、リスク因子を持つ人は1.5g(同3.8g)未満に、抑えることを推奨しているので、Xyremより良いことになる。Xyremは年商14億ドルの大型薬なので、Jazzの特許切れ対策にもなる。

リンク: Jazzのプレスリリース

リムパーザをある種の前立腺癌に適応拡大申請
(2020年1月20日発表)

アストラゼネカとMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)の適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年4-6月期。

対象となるのは、生殖細胞系または体細胞系の相同組換え修復(HRR)関連遺伝子悪性変異を持つまたは疑われる、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)で、新ホルモン療法薬による治療後に進行した患者。LynparzaはDNAの一重鎖損傷の修復に係る酵素、PARPを阻害する小分子薬。米国では二重連鎖損傷の修復に係るBRCAに機能低下・喪失変異を持つ卵巣癌や乳癌、膵癌に承認されている。HRR関連遺伝子は上位分類のようなもので、BRCA1/2に加えて、BRCA1などをリン酸化する酵素の遺伝子であるATM(Ataxia-Telangiectasia-Mutated)やCDK12、CDK11など15種類の遺伝子を含む。mCRPCの25-30%でHRR関連遺伝子悪性変異が見られる由。

承認申請のエビデンスとなるPROfound試験では、HRR関連遺伝子悪性変異を持つmCRPCでabiraterone(JNJのZytiga)且つ又enzalutamide(アステラス/ファイザーのXtandi)による治療後に進行した患者に投与したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価)がメジアン5.8ヶ月と対照群(abirateroneまたはenzalutamideを投与)の3.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.49、p<0.0001だった。

尚、この試験の主評価項目はBRCA1/2またはATMだけに悪性変異を持つサブグループのPFSで、ハザードレシオ0.34、p<0.0001と成功したことから、シーケンシャルな主要二次的評価項目とされた上記の解析に進んだ。全生存期間の中間解析は数値は大変良好だがアルファの配分が小さい関係で未だ成功認定されていない。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


FDA、Epizymeの類上皮肉腫用薬を承認
(2020年1月23日発表)

FDAは、Epizyme(Nasdaq:EPZM)のTazverik(tazemetostat)を16歳以上の転移性/局所進行性類上皮肉腫用薬として加速承認した。第一選択である根治手術の対象にならない患者に用いる。Epizymeは治療対象は300人程度と推定している。報道によると、価格は月15,500ドルとなる予定。300人全員が使っても月商450万ドル程度にしかならないが、後述の適応拡大を視野に入れているのだろう。

類上皮肉腫では、遺伝子発現に係るヒストンメチル基転換酵素、EZH2(enhancer of zeste homolog 2)の活性を抑制するINI1(integrase interactor 1)蛋白の喪失が多くの患者で見られる。TazverikはEZH2阻害薬。62人に800mgを一日二回経口投与した第二相試験でORR(客観的反応率)が13%だった。完全反応率は1.6%と小さい。反応者の67%は6ヶ月以上持続した。深刻有害事象の発生率は37%で出血や胸水、皮膚感染など。二次性腫瘍や胚胎毒性も警告されている。

昨年12月に再発難治濾胞性リンパ腫の三次治療にも承認申請された。第二相試験では、EZH2活性化変異を持つ45人におけるORR(独立評価委員会によるもの)が69%、野生型54人では35%だった。

日本ではエーザイがライセンスしてE7438としてB細胞型非ホジキンリンパ腫に開発している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Epizymeのプレスリリース

FDA、ホライゾン社の甲状腺眼症用薬を承認
(2020年1月21日発表)

FDAは、ホライゾン・セラピューティクス(Nasdaq:HZNP)のTepezza(teprotumumab-trbw)を中重度活動期甲状腺眼症用薬として承認した。この自己免疫疾患の治療薬は初めて。3週間に一回、点滴静注した臨床試験では眼球突出が2mm以上低下した患者の比率が一本では71%、もう一本では83%と偽薬群(各20%と10%)を有意に上回った。主な有害事象は筋痙攣、悪心、脱毛、下痢、疲労、高血糖など。催奇性がある。

teprotumumabは活動期の軌道線維芽細胞で過剰発現しているインスリン様成長因子I受容体に対する抗体。元々はロシュがデンマークのジェンマブ社と共同で肉腫などに開発したが09年に中止、12年にインライセンスしたRiver Vision Developmentを17年にホライゾンが買収した。ホライゾンはRiver Visionの旧株主に米国承認目標達成報奨金として1億500万ドルを支払う。

ホライゾンは長い市販歴を持つが競合の少ない医薬品の権利を取得して値上げで稼ぐビジネスモデルからニッチ志向モデルに業態を転換しつつあるが、やはり、気になるのは価格。報道によると500mgバイアルのWAC(卸取得価格)は14900ドルとのことなので、体重70kgの患者が半年治療する場合は総額が30万ドルを越える計算になる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ホライゾンのプレスリリース




今週は以上です。

2020年1月19日

2020年1月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アッヴィ、スキリージはコセンティクスより奏効率が高い 
  • アストラゼネカ、EPA/DHA製剤の混合異脂血症心血管アウトカム試験を中止 
  • BMS、オプジーボ・ヤーボイ併用療法を非小細胞性肺癌一次治療に承認申請 
  • リムパーザをアバスチン併用で卵巣癌維持療法に承認申請 
  • アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型のRNA介入薬の承認申請に着手 
  • ヴィーヴ、HIV/AIDSのアタッチメント阻害剤を欧州でも承認申請 
  • ネクター、PEG化オピオイドの承認申請撤回・開発中止 
  • オゼンピックの心血管疾患リスク削減効果が米国で承認 
  • FDA、エーザイの体重管理薬に癌の懸念が浮上


【新薬開発】


アッヴィ、スキリージはコセンティクスより奏効率が高い
(2020年1月14日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、中重度プラク乾癬治療薬Skyrizi(risankizumab-rzaa、和名スキリージ)の奏効率をノバルティスのCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)と比較した第三相試験が成功したと発表した。主評価項目の一つである52週時点のPASI90奏効率は各87%と57%となり、Skyriziが有意に上回った。もう一つの16週時点のPASI90奏効率は各74%と66%で、非劣性という目標を達成した。深刻有害事象の発生率は各5.5%と3.7%、有害事象による治験離脱は1.2%と4.9%だった。

乾癬治療はIL-23そしてIL-17を阻害する新薬が続々と登場した。IL-23やIL-12のサブユニットであるp40を標的とするジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab、和名ステラーラ)、IL-23特有のp19サブユニットに結合するSkyrizi、IL-23の刺激によりTh17細胞などが分泌するIL-17を標的とするCosentyxである。今回の二剤は、夫々、直接比較試験で奏効率がStelaraより高かった。決勝戦の結果が出たので、シェア動向に変化が出そうだ。

この試験は、中重度プラク乾癬の患者320人余を無作為化割付したオープンレーベル、評価者盲検試験。Skyrizi群は75mg二回皮注を2回目は4週後、3回目以降は12週毎に施行した。Cosentyx群は150mg二回皮注を最初の5回は毎週、その後は4週毎に施行した。

利便性に差があるためCosentyxは有害事象以外の理由による治験離脱が多かったかもしれず、奏効率に差が出た一因になったかもしれないが、それだけでは長期効果の差の大きさは説明できないだろう。

一つ気になるのは、プレスリリースの後半のディスクレマーが専ら欧州の読者を意識したものであることだ。通常、私が読むプレスリリースは、明らかに米国外を対象としたもの以外は、FDAの広告規制に準拠して米国における承認状況や副作用情報が併記されていることが多いが、今回はEUで承認されている適応症(日米と異なり既存治療で効果不十分な患者に限定されていない)や安全性情報が記載されている。

今回の治験は欧米の医療施設で実施されたので、米国の医師や患者にとっても重要なエビデンスのはずだ。背景は明らかではないが、今回のデータをレーベルに記載することをFDAが認めるまで自粛する意図なのかもしれない。

実薬対照試験というと日本で行われたノバルティスのvarsartanの心血管アウトカム試験でデータ偽造の疑いが浮上し多数の関連論文が撤回されたことが記憶に新しい。海外でも、向精神薬の直接比較試験の結論を集約すると効果が高いのはA薬>B薬>C薬>A薬となる、という問題提起的レビュー論文が出ている。

それだけに、今回のデータが米国のレーベルに収載されるようなら、信憑性が大きく高まることになる。

リンク: アッヴィのプレスリリース

アストラゼネカ、EPA/DHA製剤の混合異脂血症心血管アウトカム試験を中止
(2020年1月13日発表)

アストラゼネカは、Epanova(omega-3 carboxylic acids)の第三相STRENGTH試験を中止すると発表した。混合異脂血症の心血管リスク削減を図ったが、中間解析で独立データ監視委員会が無益性を認定、続行しても偽薬比有意な治療効果を立証することは困難と結論した。

Epanovaは魚油由来の医療用EPA/DHA製剤。米国で14年に重度高トリグリセライド血症(TG≧500mg/dL)の治療薬として承認された。重度患者と異なり、軽中度トリグリセライド血症におけるトリグリセリド値削減の便益は確立していないため、複数の医療用オメガ3脂肪酸製剤メーカーが心血管アウトカム試験を断行した。STRENGTHはその一つで、TG値が175~499mg/dLでHDL-C低値、且つ、LDL-Cはスタチンの最大耐容量を服用することで100mg/dL未満に管理できている、心血管疾患リスクが高い13086人を組入れて、心筋梗塞などの心血管疾患の転帰を対照群(コーン油)と比較した。

グラクソ・スミスクラインもEPA/DHA製剤のLovaza(omega-3-acid ethyl esters)を用いて様々な病気の患者の心血管アウトカム試験を行ったが、全滅だった。結局、オメガ3脂肪酸の心血管アウトカム試験が成功したのはEPA製剤だけである。エパデールの日本のJELIS試験は初発予防試験でNumber-needed-to-treatが比較的大きく、また、今日の尺度からするとLDL-C値の管理が至適ではないので、現在の医療における十分なエビデンスを持っているのはアマリンのVascepa(icosapent ethyl)だけと言えるだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


BMS、オプジーボ・ヤーボイ併用療法を非小細胞性肺癌一次治療に承認申請
(2020年1月15日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用療法を転移・難治性非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理された。EGFRやALKに異常のあるタイプは対象外。プレスリリースを読む限りでは、PD-L1陽性だけでなく陰性も対象のようだ。審査期限は5月15日。

根拠となる第三相CheckMate-227試験のパート1では、Opdivoは3mg/kgを2週毎、Yervoyは1mg/kgを6週毎に投与したところ、共同主評価項目の一つであるPD-L1発現≧1%のサブグループにおける全生存期間のハザードレシオが0.79(97.72%信頼区間0.65-0.96)と化学療法群を有意に上回った。PD-L1陰性サブグループの探索的解析でもハザードレシオ0.62(95%信頼区間0.48-0.78)と便益が示唆された。

尚、この試験のパート1のもう一つの主評価項目はTMB(腫瘍遺伝子変異量)がメガベース当り10変異以上のサブグループのPFS(無進行生存期間)。結果が早く出て欧米で承認申請されたが、全生存期間の解析では10変異未満のサブグループにも便益が示唆されたため撤回、今回の仕切り直しに至った。

昨年10月、この二剤に加えて化学療法も併用した第三相CheckMate-9LA試験の成功も発表されたので、用法追加申請されるだろう。データは未発表。

リンク: BMSのプレスリリース

リムパーザをアバスチン併用で卵巣癌維持療法に承認申請
(2020年1月13日発表)

アストラゼネカとMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)を進行卵巣癌の一次治療後維持療法としてAvastinと併用する用法追加申請をFDAに行ったと発表した。

Lynparzaは遺伝子変異・複製ミスの修復機構に係るPARP(ポリアデノシン5'二リン酸リボースポリメラーゼ)を阻害する経口剤で、もう一つの修復機構に係るBRCAに変異を持つ癌に使うと、細胞分裂が活発で頻繁に遺伝子複製が行われ複製ミスも多発する癌細胞の増殖を抑制する。

これまでに、米国では、BRCA有害変異のある進行卵巣癌の四次医療、再発治療後の維持療法、一次治療後の維持療法、そして卵巣がん以外でもBRCA有害変異のある再発her2陰性乳癌や膵癌一次治療後維持療法に承認されている。

今回の申請は、モノセラピーではないことと、BRCA変異の有無を問わないことが新しい。PAOLA-1試験では、PFS(無進行生存期間、担当医評価)がメジアン22.1ヶ月と偽薬・Avastin併用群の16.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、p値は0.0001を下回った。尚、BRCA変異を持つサブグループにおけるハザードレシオは0.31、それ以外では0.71となっており、また、BRCA変異でも相同組換え欠損(HRD)でもないサブグループでは0.92とのことなので、FDAが適応を限定する可能性もありそうだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型のRNA介入薬の承認申請に着手
(2020年1月10日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、米国でALN-GO1(lumasiran)のローリング新薬承認申請に着手したことを発表した。今年の早い段階で完了する予定。

原発性高シュウ酸尿症I型はアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠損により、シュウ酸の生産が過剰になり臓器に蓄積、障害を与えるとともに、腎臓結石も合併する。世界で5.8万人に一人の超希少疾患。ALN-GO1はグリコール酸酸化酵素の遺伝子に介入し、シュウ酸の生産を抑制する。欧米で希少疾患薬指定、米国でブレークスルー・セラピー指定、EUでPRIME指定を受けている。

6歳以上で軽中度の腎障害を持つ30人を組入れた第三相試験で、3mg/kgを最初の3回は月一回、その後は3ヶ月毎に皮注したところ、尿シュウ酸塩が有意に減少したとのこと。データは3月にアムステルダムで開催される学会で発表の予定。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

ヴィーヴ、HIV/AIDSのアタッチメント阻害剤を欧州でも承認申請
(2020年1月10日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS治療領域における合弁会社であるヴィーヴヘルスケアは、fostemsavirをHIV/AIDSのサルベージ治療薬としてEUに承認申請したと発表した。加速審査指定されている由。

ヴィーヴが15年にブリストル·マイヤーズ スクイブから取得した抗HIV薬パイプラインの一つで、体内で活性成分のtemsavirに変換され、HIVエンベロープのgp120に結合、gp120がCD4に結合してCD4陽性細胞に侵入するのを妨げる。

標準的な多剤併用レジメンに抵抗・不適・不耐な患者を組入れた第三相試験で、48週間の治療後のウイルス学的奏効率(40コピー/mL未満)が54%、CD4陽性T細胞増加数は139個/mm3だった。深刻有害事象発生率は35%、有害事象による治験離脱は7%だった。

米国では昨年12月に承認申請されている。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ネクター、PEG化オピオイドの承認申請撤回・開発中止
(2020年1月14日発表)

FDA諮問委員会で27人の委員が全員一致で承認に反対したことを受けて、ネクター・セラピューティクス(Nasdaq:NKTR)はNKTR-181(oxycodegol)の承認申請を撤回し、これ以上の開発を行わない旨、発表した。

oxycodegolはoxycodolをPEG化したもの。通常のオピオイドと比べて血液脳関門通過が遅く、高揚感などを直ぐに体験できない。米国ではオピオイドを乱用し副作用で死亡する若者が多く、社会問題化しているため、乱用防止型オピオイド製剤の開発が重要な課題になっている。だが、破砕して注射とか吸引とか、どの方法を使っても即効性が得られない製剤の開発は難しく、承認審査合格率が低位に留まっている。

ネクターの場合、第三相試験が治療離脱試験(事前投与で効果のあった患者を継続投与群と偽薬群に無作為化割付)一本だけで、適応も慢性腰痛だけだったことや、静注・吸引した場合の薬物依存性試験を行わなかったこと、そして、肝毒性が見られることから、全員反対という惨憺たる評価を受けた。

米国のオピオイド製剤市場はピークアウトした感がある。既存メーカーは損害賠償訴訟の標的になり経営破綻した会社もある。研究開発型製薬会社にとって魅力的な市場ではなくなってしまったのだから、追加投資が求められるなら止めた方がまし、という経営判断をしても不思議はないだろう。

リンク: ネクターのプレスリリース


【承認】


オゼンピックの心血管疾患リスク削減効果が米国で承認
(2020年1月16日発表)

ノボ ノルディスクは、Ozempic(semaglutide)の効能追加がFDAに承認されたと発表した。二型糖尿病で確立した心血管疾患を持つ患者の主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)リスクを削減するというもの。3000人以上の患者を2年間追跡したSUSTAIN 6試験に基づくもので、MACE発生率が6.6%と偽薬群の8.9%を下回り、ハザードレシオは0.74、主評価項目の非劣性検定だけでなくポストホックの優越性検定も成功した。

Ozempicは週一回皮注型GLP-1作用剤で、米国では17年に承認された。18年2月にEUでも承認されたがペン型ディバイスの申請・承認まで発売が見送られた。18年3月に日本でも承認されたが、規格が初年度投与日数規制に対応していないため、改めてペン型ディバイスを承認申請することになった。

ノボは、semaglutideの経口投与用製剤、RybelsusのMACEリスク削減に関するFDAの審査結果も明らかにした。3000人以上の患者を2年間追跡したPIONEER 6試験でMACEの発生率が3.8%と偽薬群の4.8%を数値上下回り、ハザードレシオは0.79で非劣性検定に成功したものの、優越性検定は届かなかった。SUSTAIN 6試験の結果との整合性をどう考えるか、難しいところだが、FDAはありのままに、PIONEER 6試験のデータをレーベルに収載することは承認したがリスク削減効能は認めなかった。

Rybelsusは昨年7月に日本でも承認申請された。

リンク: ノボのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、エーザイの体重管理薬に癌の懸念が浮上
(2020年1月14日発表)

FDAは、Arena Pharmaceuticalsが開発し現在はエーザイが米国で販売している体重管理薬、Belviq(lorcaserin)に関して、長期大規模安全性確認試験で癌の懸念が浮上したことを公表した。リスクが高まると断定した訳ではなく、現在も検討中。

Belviqは選択的5-HT2cアゴニスト。Arenaが09年に米国で承認申請したが、体重減少効果が穏やかであることやラットの癌原性試験、そして90年代末に類似した作用を持つ医薬品で大きな副作用禍が発生したことなどから、一旦は審査完了通知を受領。二巡目の審査を経て12年に承認された。同年、欧州でも承認申請されたがリスクの正当化を求められ、撤回した。売上が伸びず、Arenaは共同開発パートナーのエーザイに権利を譲渡した。

癌原性試験での懸念は、米国のレーベルによると、マウスやラットで腫瘍の増加が見られた。多くは臨床用量換算で著高量を投与した結果だが、メスのラットにおける乳腺線維腺腫の増加はセーフティマージン(無影響量と臨床用量の倍率・・・10倍以上が望ましいと言われている)が確保されていないようだ。

今回、FDAが言及した長期大規模安全性試験は、米国の血栓学共同治験グループであるTIMIなどが主導した、CAMELLIA-TIMI 61試験と推測される。14673人を組入れたもので、主評価項目である心血管疾患リスクは、メジアン3.3年間の追跡で、偽薬比非劣性だった。New England Journal of Medicine誌に掲載された主論文に加えて、Belviq群は腎障害の新発・進行が少なかったという論文や、糖尿病や微小血管性を合併する患者が少なかったという論文も刊行されている。

NEJM論文によれば、特別関心有害事象の発生率は低血糖を除いて概ね同程度であった。しかし、今回のFDA発表によれば、5年間追跡データで癌(特別関心有害事象の一つ)と診断された患者数がBelviq群で増加した。PPAR作動剤Actos(pioglitazone)もそうだったが、癌のリスクを評価するには5年、10年と長期間の追跡が必要なので、懸念が払拭されるまで時間がかかりそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CAMELLIA-TIMI試験の治験論文(NEJM誌)






今週は以上です。

2020年1月11日

2020年1月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • リジェネロン、抗Activin A抗体をFOP治療薬として承認申請へ 
  • Apellis社、補体C3阻害剤の夜間ヘモグロビン尿症試験が成功 
  • バベンチオの膀胱癌一次治療後維持療法試験が成功 
  • キイトルーダの進展型小細胞性肺癌試験は半分成功 
  • インサイト、FGFR阻害剤をEUでも申請 
  • 高脂血症のRNA介入薬が承認申請 
  • フォシーガを心不全に適応拡大申請 
  • FDA、ブループリントのPDGFRアルファ阻害剤を承認 
  • FDA、キイトルーダを筋層非浸潤膀胱癌に適応拡大 



【新薬開発】


リジェネロン、抗Activin A抗体をFOP治療薬として承認申請へ
(2020年1月9日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN2477(garetosmab)の第二相FOP(進行性骨化性線維異形成症)の結果を発表した。承認申請に向けて当局と相談する考えだ。

FOPは全身の筋肉や腱、靭帯などが骨化し手足の可動域が狭まる超希少疾患。発熱や疼痛を伴うフレア・アップが起きることがある。患者の多くでACVR1(別名ALK2)受容体の遺伝子変異が見られ、Activin Aが結合した時に本来なら細胞内シグナル伝達がオフになるべきなのにオンになってしまう事が関与と推測されている。常染色体性優性遺伝よりも突然変異による症例のほうが多いようだ。患者数は世界で800人程度と推測されているが未診断/誤診断も多そうだ。

REGN2477はActivin Aに結合する抗体。第二相のLUMINA-1試験は、ACVR1変異を持つ18歳から60歳のFOP患者22人を組入れて28週間治療したところ、総病変活性が偽薬比25%低下した(p=0.07)。新規病変が9割近く少なかったことが寄与した。病変量は25%少なかった(p=0.37)。フレア・アップは50%少なかった(名目p=0.03)。有害事象として報告されたフレア・アップの発生率は10%で偽薬群の42%より低かった。主な治療時発現有害事象は鼻血、眉毛喪失、挫創など。入院して膿瘍のドレーンを行った患者が2名いた。

治療効果は統計的に有意ではないようだが、超希少疾患なので止むを得ないのだろう。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

Apellis社、補体C3阻害剤の夜間ヘモグロビン尿症試験が成功
(2020年1月7日発表)

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)は、APL-2(pegcetacoplan)の第三相夜間ヘモグロビン尿症(PNH)試験が成功したと発表した。本年上期中に承認審査機関と相談を行う予定。

Apellisは補体C3に係る疾患と医薬品の研究開発に特化した米国の新興医薬品開発会社。APL-2は補体C3とC3bに特異的に結合する合成環状ペプチドをPEG化した皮注用薬。PNHの標準治療薬であるアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のSoliris(eculizummab、和名ソリリス)は補体C5に結合する抗体医薬で、標的が異なる。C3は補体経路でC5の上流に位置し、肝臓や脾臓のマクロファージによる溶血にも関与している。

今回のPEGASUS試験は、Solirisによる3ヶ月以上の治療歴を持ちヘモグロビン(Hb)値が10.5g/dL未満のPNH患者80人を組入れ、標準療法に十分に反応しない患者の貧血治療を図った。

一風変わった試験で、まず4週間のランイン期間に80人全員に試験薬(1080mgを週二回皮注)を追加投与した。次に、試験薬だけの群とSolirisだけの群に無作為化割付して治療した。主評価項目はHb値の変化で、対照試験の16週時点の数値をランイン期間前のベースライン値と比較した。

結果は、調整後平均Hb値がベースラインの8.7g/dLから試験薬群は2.4g/dL増加した。Soliris群は1.5g/dL減少し、群間差は3.8g/dLで統計的に有意だった。

全体像を鳥瞰すると、ランイン期間中に平均で約3g/dL増加し、APL-2群はSolirisを止めた後もあまり減少しなかったが、Soliris群は元々の水準に戻ったことになる。

二次的評価項目はシーケンシャルに非劣性検定が行われた。まず輸血回避率は85%でSoliris群の15%を大きく上回り、非劣性達成。網赤血球絶対数も非劣性。LDH(乳酸脱水素酵素)値は非劣性ではなく、次のFACIT疲労スコアの検定は行われなかったが、数値上は良さそうなものだった。

有害事象は、注射箇所反応(各群36%と2%)や下痢(22%と0%)が上回り、頭痛(7%と20%)や疲労(4%と15%)が下回った。溶血は9.8%(4人)と23.1%でだいぶ少なかったが、有害事象による治験離脱(各群3人と0人)は全て溶血によるもの。深刻有害事象の発生率は各17%と15%だった。

本試験のデザインに関して、FDAは、輸血依存の改善を伴うHb安定化は臨床的便益とみなされるが、この試験のようにHb値がそれほど低くない患者も組入れている場合は挙証十分とは言えない可能性もあるとコメントしている由。患者背景が開示されておらずランイン期間前の輸血依存度がどの程度であったか分からないので、この点がリスク要因になり得る。それでも、全患者の輸血回避率の群間差が大きいことを考えれば、少なくとも輸血依存の患者における便益は大きそうだ。

今回は二次治療用途だが、将来、一次治療に拡大する上でのAPL-2の弱点は投与頻度。抗C5抗体の維持用量期の投与頻度はSolirisは2週毎、アレクシオンの長期作用性抗C5抗体新薬であるUltomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)は8週毎だ。

リンク: Apellis社のプレスリリース

バベンチオの膀胱癌一次治療後維持療法試験が成功
(2020年1月6日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、両社で共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相局所進行性/転移性尿路上皮腫瘍一次治療後維持療法試験が中間解析で成功したと発表した。共同主評価項目である全集団及びPD-L1陽性サブグループの全生存期間が、Bavencioを投与しない対照群を有意に上回った。

Bavencioはメルケル細胞腫や腎細胞腫などに承認されている。尿路上皮腫瘍では17年に米国で二次治療に加速承認された。今回の試験はフェーズIVコミットメントでもあるため、適応拡大とともに加速承認を本承認に切り替える申請も行うことになろう。米国外でも一次治療後維持療法で適応拡大申請されることになろう。

リンク: 両社のプレスリリース

キイトルーダの進展型小細胞性肺癌試験は半分成功
(2020年1月6日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKEYNOTE-604試験の結果を発表した。進展型小細胞性肺癌の一次治療としてcisplatinまたはcarboplatinとetoposideを併用するレジメンに更に偽薬またはKeytrudaを追加したところ、共同主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)は中間解析でハザードレシオが0.75、95%信頼区間は0.61-0.91となり成功したが、もう一つの全生存期間は最終解析でハザードレシオ0.80、95%信頼区間0.64-0.98となり、フェールと認定された。成功認定の閾値は不明。

上記の尿路上皮腫瘍一次治療試験と同様に、進展型小細胞性肺癌一次治療第三相試験も抗PD-1/PD-L1抗体によって結果が区々だ。アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)はCASPIAN試験で全生存期間のハザードレシオが0.73、p=0.0047となり、米国で適応拡大承認申請された。ロシュのTecentriq(atezolizumab)は一足先にIMpower133試験が成功、ハザードレシオはPFSが0.77で今回と類似、全生存期間は0.70だった。この試験ではcisplatinは採用されずcarboplatinだけだったが、インプリケーションは不明。昨年、日米欧で適応拡大が承認された。BMSのOpdivo(nivolumab)はCheckMate-331試験で白金薬ベースの一次治療で疾病安定化以上の成果が上がった患者の維持療法としてYervoy(ipilimumab)と併用したが、フェールした。

MSDがKeytrudaの延命効果を確認できなかったのは多重性を補正するためにハードルを高く設定したことが敗因と推測されるが、他剤の成績と見比べると、点推定値自体も若干見劣りする。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


インサイト、FGFR阻害剤をEUでも申請
(2020年1月7日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、INCB54828(pemigatinib)をEUで承認申請し受理されたと発表した。選択的FGFR(線維芽細胞成長因子受容体)阻害剤で、FGFR2融合/再編成陽性の局所進行性/転移性胆管癌の二次治療に用いる。米国では昨年11月に承認申請が受理された。

第二相試験で13.5mgを一日一回、14日オン、7日オフのサイクルで投与したところ、客観的反応率(独立中央放射線学的評価)が36%、メジアン反応持続期間は7.5ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は低リン血症(12%で発生)や漿液性網膜剥離(1%)で、臨床的な転帰はそれほど悪くなかった由。

FGFR2融合/再編成は管内胆管癌の10-16%で見られ、推定患者数は日米欧で2000-3000人とのこと。

リンク: インサイトのプレスリリース

高脂血症のRNA介入薬が承認申請
(2020年1月6日発表)

ノバルティスは、Medicines Company(Nasdaq:MDCO)の買収が完了したことと、MDCOが期待のパイプラインであるinclisiranを昨年12月に米国で承認申請したことを公表した。

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)からライセンスしたRNA介入薬で、PCSK9のmRNAを切断する。アテローム性心血管疾患の再発予防と、家族性高脂血症の治療薬として申請された。心血管アウトカム試験も進行中。

LDL-C治療効果は抗PCSK9抗体であるアムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)やリジェネロン/サノフィのPraluent(alirocumab、和名プラルエント)と大差ない。心血管メタアナリシスにおけるハザードレシオも良好な内容。皮注用薬であることも同じ。違いは投与頻度で、二回目は3ヶ月後、三回目以降は6ヶ月置きと少なくて済む。

抗PCSK9抗体は強気な価格設定が裏目に出て米国では値下げせざるをえなくなった。MDCOは少なくともノバルティスの子会社になる前は、反面教師とする考えを示していたので、競争的な価格設定になっても不思議ではない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

フォシーガを心不全に適応拡大申請
(2020年1月6日発表)

アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)を駆出率低下を伴う心不全の治療に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受け、今年4-6月期に結果が出る見込み。二型糖尿病薬として承認されている薬だが、今回はそれ以外の患者も対象になることが斬新だ。

この申請はNYHA分類がIIからIVで左室駆出率が40%以下の心不全患者約4700人を組入れたDAPA-HF試験に基づくもの。Farxiga 10mgを一日一回経口投与した群は、複合評価項目(心血管死、心不全による入院または緊急受診)のハザードレシオが0.74だった。被験者の45%を占めたニ型糖尿病合併例でも、残りのHbA1cが6.5%未満のサブグループでも、ハザードレシオは大差なかった。Number-needed-to-treatは21と効率も高かった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認】


FDA、ブループリントのPDGFRアルファ阻害剤を承認
(2020年1月9日発表)

FDAは、ブループリント・メディスンズ(Nasdaq:BPMC)のAyvakit(avapritinib)をPDGFRアルファのエクソン18変異を持つ切除不能/転移GIST(消化管間質腫瘍)の治療薬として承認した。米国の対象患者数は年300人程度と推測されている。報道によると、WAC(卸取得価格)は30日分が32000ドルに設定される予定。

エクソン18変異はGISTの新患の6%程度で見られ、最も多いD842V変異は既存のチロシンキナーゼ阻害剤に反応しにくい。Ayvakitはこの変異にも強いPDGFRアルファ/KIT阻害剤。承認の根拠となった第一相試験では、客観的反応率が84%、完全反応率は7%だった。43人中38人を占めたD842V変異型では各89%と8%だった。反応持続期間はメジアン未達。

有害事象で特徴的なのは頭蓋内出血(軽度のものも含めると発現率3%)や中枢神経毒性(58%)で、減量/投与中断が必要。胎児や新生児毒性があり、男のパートナーも避妊が必要。

ブループリントは4次治療(変異の有無は不問)でも承認申請したが、FDAは別の承認申請として審査している。ブループリントによると、3次/4次治療における効能をバイエルのStivarga(regorafenib)と比較する第三相VOYAGER試験の組入れが予想以上のペースで進み、結果が20年第2四半期に判明する見込みであることから、データを追加提出する予定であり、審査期間延長の公算があるとのこと。

ブループリントは米国マサチューセッツ州ケンブリッジの新興医薬品開発会社で、Ayvakitのようなプレシジョン・メディシンに重点を置いている。1月にはRET阻害剤BLU-667(pralsetinib)をRET融合非小細胞性肺癌にプレシジョン・メディシンのローリング承認申請に着手した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ブループリントのプレスリリース

FDA、キイトルーダを筋層非浸潤膀胱癌に適応拡大
(2020年1月8日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)をNMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)に用いる適応拡大を承認した。高リスクの上皮内腫瘍でBCGに反応せず、膀胱全摘術に不適または患者が望まない場合に適応になる。乳頭腫瘍の有無は問わない。

200mgを3週毎に投与した第二相試験で、3ヶ月完全反応率(中央評価)が41%、メジアン反応持続期間は16.2ヶ月だった。G3/4の治療時発現有害事象が13%の患者で発生した。

NMIBCは米国の膀胱癌新患の75%を占める。BCG不応の第一選択は全摘だが、QOL面から拒否する患者が少なくないようだ。画期的な抗癌剤として知名度が高い抗PD-1/PD-L1抗体が承認されると拒否例が更に増加する懸念があるが、FDA諮問委員会は13人の委員のうち9人が承認を支持した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

2020年1月4日

2020年1月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • インサイト、新規JAK1阻害剤の急性移植片宿主病試験がフェール 
  • リムパーザがBRCA有害変異膵癌の維持療法として適応拡大 


【新薬開発】


インサイト、新規JAK1阻害剤の急性移植片宿主病試験がフェール
(2020年1月2日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、ICNB39110(itacitinib)の第三相急性GvHD(移植片宿主病)試験がフェールしたと発表した。初めて治療を受ける患者にステロイドと併用する効果を検討したが、主評価項目の28日奏効率が74.0%とステロイド・偽薬併用群の66.4%をわずかに上回るに留まり、p=0.08と有意水準に達しなかった。二次的評価項目の6ヶ月死亡率(癌の再発によるものは除く)も同程度だった。

インサイトはJAK1/2阻害剤Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)が骨髄線維症などに加えて急性GvHDの二次治療にも承認されている。itacitinibはJAK1選択性が高く一次治療用途や忍容性面で注目されたが残念な結果になった。

第三相は昨年、慢性GvHDの一次治療ステロイド併用試験も始まった。パート1で至適用量を決定し、パート2で反応率を評価する。結果が出るのは23年の見込みで、まだ先。

リンク: インサイトのプレスリリース(pdfファイル)


【承認】


リムパーザがBRCA有害変異膵癌の維持療法として適応拡大
(2019年12月27日発表)

FDAは、アストラゼネカとMSDが共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)の適応拡大を承認した。BRCA1/2遺伝子に生殖細胞系有害変異を持つ転移性膵腺腫で白金薬レジメンによる16週間以上の一次治療で進行しなかった患者が対象。BRCA生殖細胞系有害変異は膵癌の5-7%が該当するとのこと。コンパニオン診断薬としてミリアド・ジェネティクスのBRACAnalysis CDxも承認された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース(12/30付)




今週は以上です。