2023年12月30日

第1135回

【ニュース・ヘッドライン】

  • Cytokineticsも心ミオシン阻害剤のoHCM試験が成功 
  • 長期作用性GLP-2作用剤を承認申請 
  • 抗her3ADCを承認申請 
  • 先天性高インスリン血症用薬の承認はお預け 
  • ルマケラス、市販後コミットメント達成とは認められず 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


Cytokineticsも心ミオシン阻害剤のoHCM試験が成功
(2023年12月27日発表)

Cytokinetics(Nasdaq:CYTK)はCK-3773274(aficamten)の第3相SEQUOIA-HCM試験がポジティブな結果になったと発表した。成人の左心室流出閉塞を伴う症候性肥大性心筋症(HCM)患者270人を組入れて、一日一回、経口投与し、第24週にCPET(心肺運動負荷試験)を行ってpVO2(最高酸素摂取量)をベースラインと比較したところ、偽薬群を1.74mL/kg/分、上回った。事前に設定されたサブグループ分析も、副次的評価項目も、良好な結果になった。治療時発現深刻有害事象の発生率は5.6%(偽薬群は9.3%)。LVEF(左室駆出率)が50%を下回った症例は5人(3.5%)で偽薬群の1人(0.7%)を上回った。

心ミオシン阻害剤はブリストル マイヤーズ スクイブのCamzyos(mavacamten)が22~23年に米欧で承認されている。臨床試験でLVEF低下リスクが顕在化し、55%以上の患者だけに用いることや、治療中に50%を下回ったり心不全症状が出たら投与を中断するプロトコルが導入された。心不全治療薬の副作用が心不全というのでは釈然とせず、もしaficamtenのリスクが小さいなら注目できるが、今回の試験だけでは何とも言えないだろう。一次治療単剤投与metoprolol対照MAPLE-HCM試験や非閉塞性HCMを組み入れるACACIA-HCM試験のデータが25~26年にまとまれば明確になるのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


長期作用性GLP-2作用剤を承認申請
(2023年12月23日発表)

デンマークのZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)は米国でZP 1848(glepaglutide)を承認申請した。GLP-2のアミノ酸の一部を改変し作用を長期化したもので、成人の非経口栄養サポート下の短腸症候群に用いる。武田薬品のGattex(レベスティブ、teduglutide)が米国では11年前に承認されているが、毎日皮下注ではなく週二回で足りる。第3相EASE 1試験では10mg週二回投与群の週間非経口栄養量がベースライン比5.1L減少し、偽薬群の2.8L減少を有意に上回った。週一回投与群も3.1L減少したが有意水準には届かなかった。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


抗her3ADCを承認申請
(2023年12月25日発表)

第一三共と開発販売パートナーのMSDは、米国でpatritumab deruxtecanをher2変異のある局所進行/転移非小細胞性肺癌の3次治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は24年6月26日。

第一三共が08年に買収したU3 PharmaがアムジェンのXenomouse技術を用いて創製した、her3を標的とする抗体薬物複合体。9月のWCLC(世界肺癌会議)発表によると、EGFR阻害剤と白金ベース化学療法歴を持つEGFR変異陽性非小細胞性肺癌225人を組入れた第2相HERTHENA-Lung01試験で、5.6mg/kg群のORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が29.8%、メジアン反応持続期間は6.4ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象発生率は65%、間質性肺疾患の発生数はG3が3人、G5が1人だった。用量制限的毒性は血小板減少症、アミノトランスフェラーゼ上昇など。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


先天性高インスリン血症用薬の承認はお預け
(2023年12月23日発表)

デンマークのZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)は米国でZegalogue(dasiglucagon)を乳幼児の先天性高インスリン血症の治療薬として適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAが生産委託先の査察時に改善すべき点を指摘したため。効果や安全性に関する指摘はなかった由。委託先が指摘事項に対処した上で24年上期に回答する考え。

持続皮下注用グルカゴン・アナログで6歳以上の糖尿病患者の重度低血糖症治療薬として米国で21年に承認された。ペン型なので素早く使える。昨年6月に適応拡大申請され、生後7日以降の小児に最大3週間連続投与する用法用途だけ優先審査指定されたが、迅速承認とはならなかった。ウェラブル・ポンプによる3週間以上の連続投与はFDAがデータの追加分析を求めたため、24年上期に提出する考え。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


ルマケラス、市販後コミットメント達成とは認められず
(2023年12月26日発表)

アムジェンのKRAS-G12C阻害剤Lumakras(sotorasib)は21年に米国でKRAS-G12C変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として加速承認された。翌年、市販後コミットメントである第3相CodeBreaK 200試験が成功、アムジェンは本承認切替などを申請していたが審査完了通知を受領した。10月の諮問委員会でも12人中10人が承認に反対したので驚きではない。FDAは新たな市販後コミットメント試験を28年2月までに完了するよう求めた。

上記第3相は加速承認と同じ適応のdocetaxel対照試験。メジアンPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が5.6ヶ月と対照群の4.5ヶ月を上回りハザードレシオは0.66だった。メジアン値の差は5週程度だが、プロトコルにおける定期検査頻度は6週毎だったので、医師が前倒しで造影検査を行うかどうかで変わってしまう程度の差と言えないこともない。主観の入る余地が小さいメジアン生存期間は10.6ヶ月と11.3ヶ月で3週ほど見劣りし、ハザードレシオは1.01だった。クロスオーバーの影響や検出力の問題も影を落としている模様なので、はっきりしたことは分からない。FDAは無作為化割付の有効性やドロップアウトに関する群間の偏りなど実行面での問題点も指摘した、

もう一つの宿題であった至適用量の再検討に関しては、従来通り960mg一日一回で決着した模様だ。CodeBreak 300試験でPFS(同上)が240mg群はメジアン3.9ヶ月、960mg群は5.6ヶ月だった。Lonsurf(trifluridine、tipiracil)またはStivarga(regorafenib)を投与した標準療法群は2.2ヶ月で、ハザードレシオは各0.58と0.49だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/5Novan(Ligand Pharmaceuticals)のberdazimer(伝染性軟属腫)
24/1/12 アステラス製薬のIMAB362(zolbetuximab、Claudin 18.2中強度発現胃腺癌/食道胃接合部腺癌)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/20 MSDのKeytruda(pembrolizumab、新患高リスク子宮頸癌化学放射線療法併用)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)


今週は以上です。

2023年12月23日

第1134回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • シクロベンザプリンの線維筋痛症試験が成功 
  • GSK、抗PD-1抗体とPARP1/2阻害剤の併用で良績 
  • PSMA陽性前立腺癌試験が成功 
  • ヒフデュラの適応拡大試験がまたフェール 
  • サノフィ、なけなしのADCが開発中止に 
  • AlloVir、T細胞療法の第3相3本が総崩れ 
  • JNJ、デュアルEGFRブロック療法を承認申請 
  • MSD、21価肺炎球菌ワクチンを承認申請 
  • ロシュ、ゾレアを食物アレルギー予防に適応拡大申請 
  • リフヌアは米国ではやはり承認されず 
  • Checkpoint社の免疫チェックポイント阻害剤は審査完了に 
  • TTR-PN用アンチセンス薬が承認 
  • IgA腎症用薬が初の本承認 
  • 表皮水疱症用薬が承認 
  • カービクティの二次性血液癌リスクを警告強化 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


シクロベンザプリンの線維筋痛症試験が成功
(2023年12月20日発表)

Tonix Pharmaceuticals(Nasdaq:TNXP)はTNX-102(cyclobenzaprine HCl 、舌下錠)の第3相RESILENT試験が成功したと発表した。線維筋痛患者457人を組入れて、5.6mg(最初の2週間は半量)を就寝前に服用する効果を偽薬と比較したところ、疼痛の数値的評価スケールの改善が1.8と、偽薬群の1.2を有意に上回った。睡眠などに関する副次的評価項目も成功した。有害事象は口の感覚鈍麻など。深刻有害事象は試験薬との関連性がないと評価された腎臓癌と、可能性ありとされた急性膵炎が各1例。

3年前に成功発表されたRELEF試験でも1.9対1.5、有意に上回っており、24年下期に承認申請する予定。

同社は中枢神経系領域で既存薬の転用(repurpose)を進めている。cyclobenzaprine HCIは筋弛緩剤だが構造が三環系抗鬱剤と類似しており、EULAR(欧州リウマチ学会)は線維筋痛症における睡眠障害に用いることを認めているが、疼痛緩和作用は確認されていなかったようだ。同社は舌下錠を開発することで吸収や生物学的利用率などを向上した。

リンク: 同社のプレスリリース


GSK、抗PD-1抗体とPARP1/2阻害剤の併用で良績
(2023年12月18日発表)

GSKは抗PD-1抗体Jemperli(dostarlimab-gxly)とZejula(niraparib)を化学療法二剤と併用したRUBY試験のパート2がポジティブな結果になったと発表した。ステージIII/IV原発性進行/難治内膜腫を組入れてcarboplatinとpaclitaxelを併用する標準療法にパート1ではJemperliだけを追加する用法を検討したところ、特にdMMR(ミスマッチ修復機能不全)やMSI-H(マイクロサテライト不安定性高)でPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.28、24ヶ月PFS率61.4%対15.7%と大変良い成績となり、欧米で適応拡大が認められている。今回のパート2では二剤追加群の便益を検討したところ、全体の解析でも、pMMR(ミスマッチ修復機能十分)・MSS(マイクロサテライト安定性)サブグループでも標準療法比で統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を達成した。数値は未発表。全生存期間の成績次第で適応拡大申請に向かいそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


PSMA陽性前立腺癌試験が成功
(2023年12月18日発表)

Lantheus(Nasdaq:LNTH)とPOINT Biopharma(Nasdaq:PNT)は、177Lu-PNT2002(lutetium Lu 177 )の第3相mCRPC試験で有意差を確認したと発表した。全生存期間の数値は未だ熟しておらず、次の解析を行ってから承認申請する考え。

放射性核種をPSMAに結合するレガンドと結合した局所放射線療法。今回のSPLASH試験では、abirateroneなどのアンドロゲン受容体パスウェイ阻害剤のうち一つ以上による治療に進行し化学療法が不適または拒否する患者を組入れて、8週おきに4回投与する群と、enzalutamideまたはabirateroneをステロイドと併用する群のPFS(無進行生存期間、盲検独立放射線学的中央評価)を比較したところ、メジアン値が各9.5ヶ月と6.0ヶ月、ハザードレシオは0.71で統計的に有意だった。全生存期間の解析は未だ目標の46%しか到達していないため未成熟だが、ハザードレシオ1.11となっている。本試験はクロスオーバー可能で試験薬群の多くが進行後にクロスオーバーしたことが攪乱要因になっているのかもしれないが、この点推定値が真なら別のアンドロゲン受容体パスウェイ阻害剤を使った後に残しておいたほうが良いかもしれない。

尤も、22年承認の類薬であるノバルティスのPluvicto(lutetium Lu 177 vipivotide tetraxetan)のデータも概ね同様だ。POINT Biopharmaはイーライリリーが買収で合意していて、株主の応募はあまり進捗していなかったが、この内容なら第三者が高値をオファーする可能性はあまりないだろうから、応募が進むのではないか。

Lantheusは22年に本剤とPNT2003の世界商業化権を取得した(アジアの一部地域は対象外)。

リンク: 両社のプレスリリース


ヒフデュラの適応拡大試験がまたフェール
(2023年12月20日発表)

argenx(Nasdaq:ARGX)はVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa、hyaluronidase-qvfc) の第3相天疱瘡試験のフェールを発表した。ステロイドだけの群の成績が想定外に良かったことが敗因のようだが、この用途の開発は中止する。

中重度の尋常性天疱瘡(PV)190人と落葉状天疱瘡(PF)32人を組入れて、30週内の完全反応率を偽薬と比較した。両群ともステロイドを併用したが、開始用量は治療ガイドラインの推奨より低量で、漸減した。主評価項目のPVサブグループにおける完全反応率は35%、偽薬・ステロイド併用群は30.3%、p=0.60だった。副次的な評価項目もフェールした。

この皮下注用薬は11月に慢性免疫性血小板減少症の第3相もフェールした。点滴静注用の製剤を用いた試験は成功したので、共通の適応症である抗AChR抗体陽性全身性重症筋無力症とは何かが違うのかもしれない。今回の第3相は皮下注用だけなので静注用と比較できない。

リンク: 同社のプレスリリース


サノフィ、なけなしのADCが開発中止に
(2023年12月21日発表)

サノフィはSAR408701(tusamitamab ravtansine)の開発中止を発表した。CEACAM5陽性再発性非扁平上皮非小細胞性肺癌の第3相試験を進めてきたが、中間解析でPFS(無進行生存期間)も全生存期間もdocetaxel群を有意に上回らなかった。他のCEACAM5標的抗体医薬複合体にシフトする考え。今回の中止で開発後期のADCがなくなった。


Immunogen(Nasdaq:IMGN)との広範な共同開発プロジェクトの成果。
リンク: 同社のプレスリリース


AlloVir、T細胞療法の第3相3本が総崩れ
(2023年12月22日発表)

AlloVir(Nasdaq:ALVR)はALVR105(posoleucel)の第3相試験を3本実施していたが、夫々のデータ監視委員会が無益認定したため、中止を決めた。身売りなどの戦略オプションを検討する考え。

BKウイルス、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、エプスタイン-バー・ウイルス、ヒト・ヘルペスウイルス6型、JCウイルスの6種類を標的とする他家T細胞療法。造血幹細胞移植を受けた患者のウイルス感染症予防や、ウイルス関連出血性膀胱炎の治療、そしてアデノウイルス感染症の治療における便益を検討してきたが、ワークしなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


JNJ、デュアルEGFRブロック療法を承認申請
(2023年12月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗EGFRxMET二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)と新開発の第3世代EGFR阻害剤JNJ-73841937(lazertinib)を化学療法薬と併用でEGFRに特定の変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌用薬として欧米で承認申請した。第3相MARIPOSA試験に基づくもので、EGFRにエクソン19欠損やL858R置換などの変異のある局所進行/転移非小細胞性肺癌1074人のフロントライン治療における便益を標準療法であるTagrisso(osimertinib)と比較したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン23.7ヶ月対16.6ヶ月、ハザードレシオ0.70、全生存期間は未成熟だがハザードレシオ0.80と好ましい方向を向いている。尚、Rybrevantだけ投与する参考群も設定されたが、メジアン値は18.5ヶ月と若干上回る程度だ。

G3以上の有害事象はラッシュや爪周囲炎、低アルブミン血症や末梢浮腫、静脈血栓塞栓など。間質性肺疾患の発生率は両群とも3%未満となっている。

リンク: 同社のプレスリリース(FDA申請)
リンク: Janssenのプレスリリース(EU申請)


MSD、21価肺炎球菌ワクチンを承認申請
(2023年12月19日発表)

MSDは21価肺炎球菌ワクチンV116を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は24年6月17日。18歳以上の成人が対象。

肺炎球菌ワクチンは23価のPneumovaxを擁するMSDが38年ぶりに無毒性変異ジフテリア毒素結合15価ワクチンVaxneuvanceを発売して、このタイプで先行したファイザーのPrevnarシリーズを追いかけている。カバーしている血清型の数ではPrevnar 20を一つ上回るだけだが中身がかなり異なり、65歳以上の侵襲性肺炎球菌疾患の3割を占める8株についてはPneumovaxも含めて初のワクチンだ。肺炎球菌ワクチンを初めて接種する2663人を組入れて免疫原性をPrevnarと比較したSTRIDE-3試験では、独自の血清型だけでなく共通する血清型に関しても抗体価が有意に上回ったとのこと。

リンク: 同社のプレスリリース


ロシュ、ゾレアを食物アレルギー予防に適応拡大申請
(2023年12月19日発表)

ロシュは米国でXolair(omalizumab)の適応拡大申請を行い、受理された。意図せぬ摂取による食物アレルギーのリスクを抑制するもので、優先審査を受け、審査期限は24年第1四半期とのみ記されている。対象は1歳以上。食べても大丈夫ということではなく、少なくとも現段階では、アレルゲンの摂取回避努力を続ける必要がある。

XolairはIgEを標的とする抗体医薬で、難治喘息症などに承認されている。今回の用途はNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導した第3相OUtMATCH試験の第1ステージに基づく。ピーナツを含む3種類以上の食物アレルギーを持つ1~17歳を165人組み入れて、体重と血漿IgE水準に基づき決定する用量と投与頻度で16週間治療し、アレルゲン・チャレンジ(発症するまで摂取量を少しずつ増やしていく、最大6044mg)を行ったところ、中間解析でピーナツや卵白、牛乳、カシューナッツの耐容摂取量が偽薬群を上回った。

この試験は成人患者のコフォートや、応答後に摂取回避を止める試験も予定されている模様だが、続行しているかどうかは不明。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: NIHのプレスリリース

【承認審査・委員会】


リフヌアは米国ではやはり承認されず
(2023年12月20日発表)

MSDは、末梢作用性選択的P2X3受容体アンタゴニストLyfnua(gefapixant)を成人の難治性または説明不能な慢性咳嗽の治療薬として開発、昨年1月に日本で、今年9月にはEUでも、承認を獲得したが、米国は審査完了通知を受領した。薬効不十分ということのようだ。11月の諮問委員会でも13人の委員中12人が承認に反対した。

携帯型24時間録音機を用いて咳の回数を計測し、会社側はlog変換した数値を用いて解析したが、FDAが独自に実施した変換前の集計値によると、一時間当たりの回数がベースラインのメジアン20~26回から24週後に45mg群は7~9回、偽薬群は11回余に減少した。3回程度の差が臨床的に意味があるかどうか、という分かりやすい議論が可能になった。

リンク: 同社のプレスリリース


Checkpoint社の免疫チェックポイント阻害剤は審査完了に
(2023年12月18日発表)

Checkpoint Therapeutics(Nasdaq:CKPT)はCK-301(cosibelimab)を治癒的切除や放射線療法が不適な局所進行/転移皮膚扁平上皮腫用薬としてFDAに承認申請していたが、1月3日の審査期限を約2週間前倒しで、審査完了通知を受領した。FDAによる生産委託先の査察で指摘事項があったことが唯一のボトルネックである模様。

Dana-Farber Cancer Instituteからライセンスした抗PD-L1抗体で、エビデンスはORR(客観的反応率)。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


TTR-PN用アンチセンス薬が承認
(2023年12月21日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)と開発販売パートナーのアストラゼネカは、夫々、FDAがWainua(eplontersen)を成人の遺伝性トランスサイレチン調停アミロイドーシスにおけるポリニューロパチーの治療薬として承認したと発表した。35週間の臨床試験で血清トランスサイレチン濃度がベースライン比81%低下しmNIS+7ニューロパチー障害スコアも偽薬比有意な差があった。オートインジェクターによる皮下注用薬で4週毎に投与する。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


IgA腎症用薬が初の本承認
(2023年12月20日発表)

Calliditas Therapeutics(Nasdaq:CALT)は、FDAがIgA腎症治療薬Tarpeyo(budesonide遅放性カプセル)の加速承認を本承認に切り替えたと発表した。第3相NefIgArd試験のパートAで成人の原発性IgA腎症患者のUPCR(尿蛋白クレアチニン比)が9ヶ月の治療後に偽薬比有意に改善することを立証、21年に米国で加速承認、22年にはEUでも条件付き承認された。パートBでは試験薬の投与を打ち切った上で更に15ヶ月間追跡したところ、eGFR(推算糸球体濾過量)のベースライン比低下が偽薬比有意に小さかった。このため、今回、IgA腎症用薬として初めて、腎機能低下を抑制する効能が認められた。最大耐容量のRAS阻害剤と併用する。主な有害事象は末梢浮腫や高血圧症、筋痙攣、挫創など。

eGFRの経時的推移を見ると、群間差は試験薬服用中の第3月に5mL/分/1.73m2に拡大し、その後の拡大はあまり大きくない。つまり、偽薬群と同様なペースで悪化していく。安全性を考えて9ヶ月しか投与しないのだろうが、残念なことだ。

IgA腎症は免疫グロブリンAが補体などと結合して腎臓に沈着し、傷害を与える。新薬開発が活発なので、向こう5年間に多くのライバルが登場するだろう。もう一つ、心配なのが、通常製剤のGE薬との競合だ。

リンク: 同社のプレスリリース


表皮水疱症用薬が承認
(2023年12月19日発表)

ChiesiグループのChiesi Global Rare Diseasesは、FDAがFilsuvez(birch triterpenes)を栄養障害型表皮水疱症(DEB)と接合部型表皮水疱症(JEB)の治療薬として承認したと発表した。生後6ヶ月以上が対象になる。白樺の樹皮から抽出したトリペリテンのゲル製剤で、第3相で45日創傷閉鎖達成率が41%と偽薬群の29%を上回った。有害事象は創傷部位の合併症や掻痒、貧血などが増加した。重度有害事象発生率は12%(偽薬群は5%)、有害事象治験離脱率は2.8%(同1.8%)だった。

EUでは昨年6月に承認されたが、米国では同年2月に審査完了通知を受領、紛争調停手続きを経てゴールに到達した。

DEB治療薬は5月にKrystal Biotech(Nasdaq:KRYS)のVyjuvek(beremagene geperpavec-svdt)が承認されている。米国の推定患者数3000人の希少疾患で、Vyjuvekは遺伝子療法ということもありディスカウント前の薬剤費が年63万ドルと高く設定された。Filsuvezの価格はどうなるのか、注目される。FDAがストレートに承認しなかった理由は不明だが、審査報告書が公表されれば判明するだろう。

Amryt Pharma(Nasdaq:AMYT)を今年1月に12.5億ドルで買収して入手したコンパウンド。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


カービクティの二次性血液癌リスクを警告強化
(2023年12月21日発表)

Legend Biotech(Nasdaq:LEGN)は、Janssen Biotechと共同開発販売しているBCMA標的CAR-T療法、Carvykti(ciltacabtagene autoleucel)の米国における処方情報が改訂され、二次性血液癌の警告が枠付き警告に格上げされたことをSEC提出資料で明らかにした。日米の施設で3次以上の治療歴を持ち最終治療抵抗性の多発骨髄腫97人を組入れたCARTITUDE-1試験で10人が発症した。内容は骨髄異形成症候群と急性骨髄性白血病で発症時期は治療の162~1040日後。次の治療を開始していたケースもあり、また、前治療薬が犯人の可能性もある。10人中9人は死亡した。

FDAは11月にBCMAまたはCD19を標的とするCAR-T6製品について深刻なT細胞腫瘍のリスクが対策の必要性を検討すると発表しており、クラス・イフェクトの可能性が高い。

リンク: 同社のフォーム6-K

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)←AC上程で遅延へ
23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期か
23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
23/12/30Zealand PharmaのZegalogue(dasiglucagon、先天性高インスリン血症に適応追加)
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)→23Q4から遅延
24/1/5Novan(Ligand Pharmaceuticals)のberdazimer(伝染性軟属腫)
24/1/12 アステラス製薬のIMAB362(zolbetuximab、Claudin 18.2中強度発現胃腺癌/食道胃接合部腺癌)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/20 MSDのKeytruda(pembrolizumab、新患高リスク子宮頸癌化学放射線療法併用)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)

注:ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)は審査期限が12月21日から24年3月21日に延期された

今週は以上です。

2023年12月16日

第1133回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:ダラキューロのMMフロントライン試験が成功 
  • ノバルティス、B因子阻害剤はC3糸球体症の第3相も成功 
  • ASH:ブレヤンジが濾胞性リンパ腫二次治療でも良績 
  • ASH:アベクマ、早期段階試験で延命効果は確認できず 
  • LSD類薬が全般不安症の第3相へ 
  • Opdualagの大腸癌試験が無益中止に 
  • CSL、抗XIIa抗体をHAEに承認申請 
  • アムジェン、小細胞肺癌用二重特異性抗体を承認申請 
  • MDMAをPTSDに承認申請 
  • ファイザーも抗TFPI抗体を血友病に承認申請 
  • EUもCRISPR-Cas9テクノロジー薬に肯定的意見 
  • PDE4阻害剤が脂漏性皮膚炎に承認 
  • 尿路上皮腫にパドセブ・キイトルーダ併用が瞬速承認 
  • MSDのHIF-2アルファ阻害剤に新適応 
  • エフロルニチンが高リスク神経芽細胞腫用薬として復活 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ASH:ダラキューロのMMフロントライン試験が成功
(2023年12月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはASH(米国血液学会)でDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)の第3相PERSEUS試験の結果を発表した。新患多発骨髄腫の標準療法の一つであるVRd(Velcade、Revlimid、dexamethasoneによるインダクション及びRevlimidによるメンテナンス)に皮下注用Darzalexによるインダクションとメンテナンスを追加する便益を検討したオープン・レーベル試験で、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.42、統計的に有意だった。メジアン値は未達、48ヶ月PFS率は84.3%対67.7%だった。G3/4有害事象は好中球減少症などの骨髄抑制と肺臓炎、下痢などが増加した。

多発骨髄腫は治療の選択肢が増加してVelcadeやRevlimidのような主力薬を一次治療で併用するような豪華なレジメンが可能になった。今回、更に豪華なレジメンを採用することでPFSをさらに改善できることが明らかになった。先に使ってしまうと再発時の治療オプションが限られてしまうが、8割以上の患者が4年以上進行しないなら、大きな問題にはならないかもしれない。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: Sonneveldらの治験論文抄録(New England Journal of Medicine)


ノバルティス、B因子阻害剤はC3糸球体症の第3相も成功
(2023年12月11日発表)

ノバルティスは可逆的B因子阻害剤Fabhalta(iptacopan)が発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)における初の経口剤として米国で承認されたばかりだが、第3の希少疾患試験が成功した。補体系が調停する超希少腎疾患であるC3糸球体症(C3G)を組入れて6ヶ月後の尿蛋白クレアチニン比(UPCR)の改善を偽薬と比較した、APPEAR-C3G試験で主目的を達成した。適応拡大に向けて承認審査機関と相談する考え。

Fabhaltaは10月に原発性IgA腎症のAPPLAUSE-IgAN試験が中間解析でUPCRの有意な改善を達成したことが発表された。eGFR(推算糸球体濾過量)の解析は未だ行われていないので加速承認を申請できるか不透明であり、もしかしたらC3Gのほうが先になるかもしれない。非典型溶血性尿毒症症候群でも第3相試験中。アストラゼネカのC5因子阻害剤Soliris(eculizumab)やUltomiris(ravulizumab-cwvz)とバッティングする疾患で急速に存在感を高めている。

リンク: 同社のプレスリリース


ASH:ブレヤンジが濾胞性リンパ腫二次治療でも良績
(2023年12月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはCD19を標的とするキメラ抗原受容体T細胞療法、Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の第2相TRANSCEND FL試験における二次治療コフォートの成績をASH(米国血液学会)で発表した。23人中22人がORR(客観的反応率)を達成、その全員がCR(完全反応)だった。メジアン16ヶ月追跡で反応持続期間は未だメジアン値に達していない。CAR-Tに付き物のサイトカイン放出症候群はG3の発生率が1%、G4、G5はなかった。G3神経学的イベントの発生率も2%と低く、G4、G5はゼロ。

同社は6月に本試験の三次治療コフォートの成績も発表している。101人中ORRが97%、CRは94%、メジアン16ヶ月追跡で反応持続期間のメジアン値は未達と、似たような結果になっている。当局と適応拡大申請に向けて相談する考え。

Breyanjiは難治びまん性巨細胞型B細胞リンパ腫などの治療薬として米欧日などで承認されている。FDAはCAR-Tの二次性腫瘍リスクについて再検討を開始しており、適応拡大審査における攪乱要因になるかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


ASH:アベクマ、早期段階試験で延命効果は確認できず
(2023年12月11日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはASH(米国血液学会)でBCMAを標的とするCAR-T療法Abecma(idecabtagene vicleucel)のKarMM-3試験のアップデート・データも発表した。3種類の代表的な抗癌剤を既に経験し最終治療に応答しなかった難治再発多発骨髄腫の薬として米欧日で承認されているが、本試験は3代表薬を含む2~4次治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治かつ再発多発骨髄腫における便益を標準療法群と比較した。主評価項目のPFS(無進行生存期間)は22年の中間解析で成功、ハザードレシオ0.49、13.8ヶ月対4.4ヶ月と良好な成果を上げた。しかし、今回、副次的評価項目の全生存期間がハザードレシオ1.01、41.4ヶ月対37.9ヶ月と、差が小さく有意でなかったことが明らかになった。クロスオーバー可であったため標準療法群の56%が進行後にAbecmaによる治療を受けており、その影響を除外した感受性分析ではハザードレシオが0.69と上向いたとのことだが、有意水準には達していない模様であり、そもそも先行解析がフェールしているため説得力は万全ではない。

日本ではこの試験をエビデンスに2次以上の治療歴を持つ患者に用いることが今月、承認されたが、米国ではFDAが全生存期間のデータに懸念を持ち最近になって諮問会議上程を決定、12月16日の審査期限までに承認されないことがほぼ確定した。FDAがどのデータを気にしているのかは明らかではなく、また、全生存期間が標準療法と同程度でもPFSが伸びればそれなりに意義があるようにも思われるので、今回のデータがポジティブ/ネガティブのどちらに作用するかは明確ではない。

リンク: 同社のプレスリリース


LSD類薬が全般不安症の第3相へ
(2023年12月14日発表)

Mind Medicine(Nasdaq:MNMD)はMM-120(lysergide d-tartrate)が後期第2相全般不安症試験で良好な結果を出したと発表した。FDAと相談した上で24年下期に第3相へ進める考え。後述のMDMAといい、幻覚剤の医療使用が前進してきた。

MM-120はトリプタミン系のサイケデリックでセロトニン2A受容体を部分作動する。今回の試験では重度全般不安症患者198人を組入れて25mcg、50mcg、100mcg、200mcgまたは偽薬を一回投与し、4週後に効果を評価した。主評価項目のHAM-A(ベースライン値は30点前後)が偽薬群は13.7点、100mcgは21.3点、200mcgは19.3点、夫々低下した。25mcgの効果は小さく、50mcgの数値は公表されていないがグラフを見ると100mcgほど低下していない。100mcg群は偽薬群との差のp<0.0004と高度に有意で、Cohenのイフェクト・サイズは0.88と標準療法薬の過去データの倍と大きく、他の評価項目でも他の用量を凌いだことから、至適用量と見なされた。

投与日に発生した有害事象は幻覚剤らしくイリュージョン(100mcgの発生率57%)、悪心(同40%、多汗症(同22%)、瞳孔散大(同20%)が多く、幻覚や陶酔感、不安なども発生した。尚、投与後は薬力学的症状が回復するまで最大12時間、留めて観察した。また、相互作用の懸念から本試験では心理療法などは併用されていない。

リンク: 同社のプレスリリース


Opdualagの大腸癌試験が無益中止に
(2023年12月15日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは22年に欧米で切除不能/転移黒色腫用薬として承認されたOpdivo(nivolumab)と抗LAG-3抗relatlimabの合剤、Opdualagで様々な第3相試験を実施しているが、RELATIVITY-123試験は中止すると発表した。マイクロサテライト安定性のある転移結腸直腸癌の2~4次治療薬としての便益をStivarga(regorafenib)またはLonsurf(trifluridine、tipiracil)を投与する群と比較していたが、独立データ監視委員会が中間解析結果を踏まえて続行しても目的達成の可能性は極めて低いと無益認定したため。免疫チェックポイント阻害剤の併用は当初期待されたほどの成果を挙げていない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


CSL、抗XIIa抗体をHAEに承認申請
(2023年12月14日発表)

CSL(ASX:CSL)はCSL312(garadacimab)を欧米でHAE(遺伝性血管浮腫)の発作抑制薬として承認申請し受理されたと発表した。kallikrein-kininカスケードをトリガーする活性化XII因子をブロックする抗体医薬で、12歳以上のC1エステラーゼ・インヒビターが不足するHAE患者63人を組み入れた第3相VANGUARD試験で、月一回皮下注して6ヶ月間の発作頻度を観察したところ、月平均0.27回と偽薬群の2.01回より8割以上少なかった。

リンク: 同社のプレスリリース


アムジェン、小細胞肺癌用二重特異性抗体を承認申請
(2023年12月13日発表)

アムジェンはAMG 757(tarlatamab)を小細胞性肺癌の3次治療薬として米国で承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は24年6月12日。 小細胞性肺癌の8割で発現し健常細胞にはないデルタ様リガンド3(DLL3)とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体で、半減期延長装飾を行い二週毎投与を可能にした。エビデンスとなる第2相DeLLphi-301試験で220人の患者を10mg群と100mg群に割付けてORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)を調べたところ、夫々40%と32%だった。有害事象はクラス・イフェクトであるサイトカイン放出症候群が各51%と61%で発生したがG3は1%と6%だけ、G3のICANS(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群)はなかった。

100mg群のORRが見劣りするのは忍容性の問題なのだろう。ESMO(欧州臨床腫瘍学会)やNew England Journal of Medicineで結果発表した時の会社側プレスリリースには10mgのデータしか記されていなかったので、この用量だけ申請したのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース


MDMAをPTSDに承認申請
(2023年12月12日発表)

MAPS PBCはMDMA(midomafetamine)をPTSD(トラウマ後ストレス障害)用薬としてFDAに承認申請した。ブレークスルー・セラピー指定を受けており、会社側は優先審査を求めている。

精神療法のセッションを行う時に1.5~2時間おいて2回、経口投与する。第3相試験二本では第18週のCAPS-5(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5)が偽薬比有意に改善した。二本目の試験の探索的解析では71%の患者がDSM-5における診断基準に該当しなくなった(偽薬群は47%)。深刻な有害事象は発生しなかった。但し、MDMAは心室期外収縮のリスクが指摘されている。

サイケデリック(幻覚剤)の承認申請は初めて。現在はDEA(麻薬取締局)が依存リスクが高く医療に使われない物質として最も厳しい規制が課されるスケジュールIに指定されているが、承認されたら緩和され、その後、州毎の規制も緩和が見込まれる。

同社は1986年設立の非営利研究・教育組織、Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies(略称MAPS)が、サイケデリックやマリファナなどの合法的な販売を目標に、設立した。PBC(Public Benefit Corporation)は州法における法人形態の一つで、営利法人だが株主と同等またはそれ以上に公益も重視することを定款で定めている。税制上のインセンティブなどは無い模様であり、人間としての誇りの表明だ。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザーも抗TFPI抗体を血友病に承認申請
(2023年12月11日発表)

ファイザーは、PF-06741086(marstacimab)をインヒビターを持たないA型とB型の血友病治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年第4四半期とのこと。EUでも承認審査が始まっており、25年第1四半期にも結論が出る見込み。

TFPI(組織因子パスウェイ・インヒビター)のKunitz2ドメインに結合する抗体医薬。12歳以上の重症A型血友病と中程度重症又は重症のB型血友病患者145人を組入れた第3相BASIS試験のインヒビターを持たない116人のコフォートで、リードイン期の治療方針が出血したら治療だった患者は出血頻度が92%低下、血液凝固因子の予防的投与だった患者でも35%低下した。インヒビターを持つ患者のデータは来年遅くに判明する見込み。

類薬であるノボ ノルディスクのアレモ(concizumab)は今年、カナダと日本で承認されたが、米国は審査完了通知を受領し、EUは申請が遅かったため未だ審査中と、開発状況が地域により区々。臨床試験で非致死的な血栓性有害事象が発生し治験を一時中断したことや、TFPIは検査方法が普及しておらず薬の効き具合を確認できないことなども影響したのかもしれない。marstacimabも他山の石ではないかもしれない。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


EUもCRISPR-Cas9テクノロジー薬に肯定的意見
(2023年12月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Vertex Pharmceuticals(Nasdaq:VRTX)がCRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)から共同開発販売権を取得して承認申請したCasgevy(exagamglogene autotemcel)はベータサラセミアや鎌状赤血球病のex vivo遺伝子療法。正常な赤血球を生成できない患者に、患者から採取した造血幹細胞を、本来は胎児期などにしか発現しない胎生ヘモグロビンを産生できるように遺伝子編集して培養し、患者に戻す。CRISPR-Cas9技術を用いた製品の第一号で米国でも今月、鎌状赤血球病に承認され、来年3月にはベータサラセミアでも承認される見込み。どちらも12歳以上で造血幹細胞移植が適応になるがHLA適合ドナーが見つからない患者が対象で、鎌状赤血球病における便益は血管閉塞性クリーゼの抑制、ベータサラセミアでは赤血球輸血の抑制。条件付き承認なので26年8月までに臨床試験の最終解析結果や長期追跡データを提出するなどして本承認を取得しなければならない。

リンク: EMAのプレスリリース

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)のSkyclarys(omaveloxolone)は16歳以上のフリードライヒ運動失調症に用いる。臨床試験ではmFARS症状評価スコアが偽薬比有意に改善した。この常染色体劣性遺伝性疾患では、細胞が酸化ストレスに対抗する上で必要なパスウェイを活性化するNrf2が少ないことが指摘されている。SkyclarysはNrf2のアクティベイター。米国では2月に承認されている。

ファイザーのVelsipity(etrasimod)はS1P受容体調節剤。16歳以上の中重度活性期潰瘍性大腸炎で従来療法又はバイオ薬に不十分応答/不耐な患者に用いる。米国では10月に承認。

一方、GSKの抗BCMA抗体薬物複合体、Blenrep(belantamab mafodotin)の条件付き承認を更新しないよう推奨した。多発骨髄腫のサルベージ用薬として20年8月にEUでは条件付き承認、米国では加速承認されたが、薬効確認試験に位置付けられた3次治療3剤併用試験がフェールしたため。CHMPは9月に非更新を推奨したがGSKの請求により再審査し、評価を再確認したもの。米国も承認取消の手続きが進行している。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大に関する肯定的意見を得たのは、まず、武田薬品グループのバクスアルタのHyQvia。免疫グロブリンとヒト・ヒアルロニダーゼの皮下注用配合剤で、免疫グロブリン静注による治療を受けたCIDP(慢性炎症性脱髄性多発根神経炎)患者の維持療法に用いる。臨床試験で神経筋障害や機能障害の再発を偽薬比7割抑制した。米国でも審査中。

ベーリンガー・インゲルハイムのMetalyse(tenecteplase)は急性虚血性脳卒中の治療に用いることが支持された。状態が良好だった時から4.5時間以内で頭蓋内出血のない成人患者が適応になる。心筋梗塞後の血栓溶解剤としてEUで承認されたのは21年前なので、そういえばこちらは脳梗塞未承認だったっけ、という印象。

医薬品の承認審査機能を持たない国は、日米欧などで承認されている薬は原則的に承認します、というスタンスを取ることが多い。EUは、一歩進んで、EU域外で治療に用いられることを前提に承認審査するEU-M4allという制度を設けている。今回、肯定的意見を得たのが住血吸虫症治療薬arpraziquantelだ。代表的な治療薬であるメルクのpraziquantelは適応が6歳以上で、剤形が大きく苦い短所がある。そこで、光学異性体を用いて、水に分散して飲め、未就学児の味覚に合い、熱帯気候にも耐えうる製剤を開発した。生後3ヶ月から6歳、且つ体重5kg以上の幼小児が適応になる。メルクが様々な製薬会社とコンソーシアムを組んで開発、臨床試験では治癒率が90%超だった。

リンク: EMAのプレスリリース

EMAからの発表ではないが、Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)は、加齢性黄斑変性による地図状萎縮の治療薬として承認申請しているSyfovre(pegcetacoplan)に関して、1月の会合でCHMPが否定的意見を出す見込みであることを公表した。12月の会合で非公式なトレンド投票を行ったところ、否定的な委員が多かったため。正式決定後に再審請求などの手続きを取る考え。

米国で21年に承認されたが市販後に網膜血管炎などが報告され視力喪失に至った患者もいたため、学会が注意を呼び掛けた。

リンク: 同社のプレスリリース(12/14付)

【承認】


PDE4阻害剤が脂漏性皮膚炎に承認
(2023年12月15日発表)

Arcutis Biotherapeutics(Nasdaq:ARQT)はFDAがZoryve(roflumilast)のフォーム製剤を9歳以上の中重度脂漏性皮膚炎の治療薬として承認したと発表した。22年に乾癬治療薬として承認されたクリーム製剤と異なり、毛髪の生えている部位にも塗布しやすい。第3相試験では第8週のIGA奏効率が80%と偽薬群の59%を有意に上回った。疼痛などの症状も緩和した。有害事象発生率は低い。中重度肝障害は禁忌。

roflumilastは経口剤がCOPD治療薬として10年以上前に欧米で承認された。同社はアストラゼネカから開発権を取得、クリーム製剤はアトピー性皮膚炎に適応拡大申請中、フォーム製剤は頭部などの乾癬治療にも承認申請する計画。

リンク: 同社のプレスリリース


尿路上皮腫にパドセブ・キイトルーダ併用が瞬速承認
(2023年12月15日発表)

FDAはアステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)をMSDのKeytruda(pembrolizumab)と併用で局所進行/転移尿路上皮癌の1次治療に用いることを承認した。審査期限は来年5月9日だったので5ヶ月前倒し、申請受理から1ヶ月余の瞬速承認だ。第3相試験では白金薬とgemcitabineを併用した群と比べて全生存期間のハザードレシオが0.47、メジアン生存期間は31.5ヶ月対16.1ヶ月と良好な成績を上げた。

Padcevはネクチン-4を標的とする抗体薬物複合体。今年4月にcisplatin不適患者限定でKeytruda併用一次治療が加速承認されたばかり。Agensysが11年にSeattle Genetics(現Seagen)に共同開発・商業化権を供与した後、前者はアステラスに買収され、後者は先般、ファイザーに買収された。

リンク: FDAのプレスリリース


MSDのHIF-2アルファ阻害剤に新適応
(2023年12月14日発表)

FDAはMSDのWelireg(belzutifa)の適応追加を承認したと発表した。HIF-2アルファを阻害する経口剤で、21年にVHL病関連腎細胞腫などに用いることが承認された。新用途は、進行腎細胞腫でPD-1/L1阻害剤とVEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤を既に使用した患者に120mgを一日一回、経口投与する。第3相でeverolimus対照群と比べてPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.75、片側p=0.0008だった。尚、メジアン値は両群とも5.6ヶ月だった。

MSDが19年にPeloton Therapeuticsを買収して入手したコンパウンド。

リンク: FDAのプレスリリース


エフロルニチンが高リスク神経芽細胞腫用薬として復活
(2023年12月14日発表)

US WorldMeds社はFDAがIwilfin(eflornithine)を神経芽細胞腫の維持療法薬として承認したと発表した。抗GD2免疫療法を含む多剤併用療法に部分反応以上だったが再発リスクが高いと推測される成人小児の患者に、一日二回、2年間にわたり経口投与する。第2相単群試験で4年EFS(無イベント生存期間)率が84%だった。別の臨床試験のデータをプロペンシティ・マッチングにより外挿した外部対照群では73%だった。全生存率も96%対84%で上回った。有害事象は難聴、中耳炎、発熱、肺炎、下痢など。

神経芽細胞腫の米国における年間診断数は700~800人で、その5割が高リスクと判定され5年生存率は5割程度とされる。eflornithineは米国で1990年にアフリカトリパノソーマ症(睡眠症)用薬Ornidylとして承認されたが商業上の理由で発売されなかった模様だ。クリーム製剤が脱毛用薬として承認されたが現在は販売されていない模様。全く異なる用途で復活することになるが、神経芽細胞腫で多く発現するオルニチン脱炭酸酵素を阻害する作用が寄与しているようだ。開発は順調ではなく様々な会社が関わった後、今年7月にUS WorldMedsがCancer Prevention社からライセンスした。

10月の腫瘍学薬諮問委員会では一部の委員が対照試験が実施されていないことを批判したが、FDAは、深刻な希少疾患で、自然歴が確立しており、治療効果が大きい場合は容認できると述べた。

リンク: 同社のプレスリリース(BusinessWire)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)←AC上程で遅延へ
23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期か
23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
23/12/27MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)
23/12/30Zealand PharmaのZegalogue(dasiglucagon、先天性高インスリン血症に適応追加)
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)→23Q4から遅延
24/1/3Checkpoint TherapeuticsのCK-301(cosibelimab、皮膚扁平上皮癌)
24/1/5Novan(Ligand Pharmaceuticals)のberdazimer(伝染性軟属腫)
24/1/12 アステラス製薬のIMAB362(zolbetuximab、Claudin 18.2中強度発現胃腺癌/食道胃接合部腺癌)
24/1/20 MSDのKeytruda(pembrolizumab、新患高リスク子宮頸癌化学放射線療法併用)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)

注:ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)は審査期限が12月21日から24年3月21日に延期された

今週は以上です。

2023年12月9日

第1132回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • SABCS:内分泌療法抵抗性乳癌の新薬 
  • サークリサの多発骨髄腫一次治療試験が成功 
  • RegeneronもBCMA・CD3抗体を承認申請へ 
  • オプジーボとヤーボイのMSI-H/dMMR大腸癌試験が成功 
  • SABCS:Seagenのher2阻害剤、二次治療試験で全生存が悪い方向? 
  • MSD、Keytrudaと他社の経口剤の併用試験が二本フェール 
  • メルクのBTK阻害剤、多発性硬化症の第3相が二本ともフェール 
  • イーライリリーのCDK4/6阻害剤も延命効果は確立せず 
  • デュアルPPARアゴニストを原発性胆汁性胆管炎に承認申請 
  • BMS、オプジーボを尿路上皮腫一次治療に適応拡大申請 
  • Kisqaliの乳癌摘出術後アジュバントをEUで適応追加申請 
  • FDAが二種類の鎌状赤血球症遺伝子療法を承認 
  • ノバルティス、新規作用機序のPNH用薬が承認 
  • イーライリリー、BTK阻害剤が適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


SABCS:内分泌療法抵抗性乳癌の新薬
(2023年12月8日発表)

ロシュはSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)でPI3Kアルファ阻害剤RG6114(inavolisib)の第3相INAVO120試験の成功を発表した。ホルモン受容体陽性乳癌の約4割ではPI3Kアルファの遺伝子であるPIK3CAに変異が見られ、内分泌療法に応答し難いことがある。本試験はホルモン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌でPIK3CA変異を持ちアロマターゼ阻害剤やtamoxifenによる切除術後アジュバント療法に抵抗性を示した325人を組入れて、Ibrance(palbociclib)とfulvestrantの標準的療法にinavolisibを追加する便益を検討した。

結果は、PFS(無進行生存期間、担当医評価)のハザードレシオが0.57と大きな改善を見た。全生存期間はハザードレシオが0.64、p=0.0338と良さそうな結果が出ているが、解析計画で割当てられたアルファは0.0098だけであるため、未だ有意とは言えない。プレスリリースによると投与中止率は6.8%で偽薬追加群の0.6%を上回った。G3/4有害事象は血小板減少症、貧血、口内炎、高血糖などで、忍容性は概して良好だった。

同社は新薬承認申請に向けて承認審査機関と相談する考え。

類薬ではノバルティスのPiqray(alpelisib)が19~20年に米欧でfulvestrantと併用することが承認された。適応や治験組入れ条件は若干異なっており、転移後に内分泌療法を受けて抵抗性を示した癌や、CDK4/6阻害剤歴を持つ患者も含まれている。

リンク: ロシュのプレスリリース


サークリサの多発骨髄腫一次治療試験が成功
(2023年12月7日発表)

サノフィは抗CD38抗体Sarclisa(isatuximab-irfc)の第3相IMROZ試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。適応拡大を申請する考え。

20年に米欧日で成人の難治再発多発骨髄腫の三次以降の治療薬としてPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと三剤併用することが承認され、翌年には二次以降の治療にVelcade(carfilzomib)及びdexamethasoneと三剤併用が承認と、早期治療に向けて一段ずつ階段を上がってきた。今回の試験は造血幹細胞移植が適応にならない多発骨髄腫の一次治療として、Velcade、Revlimid(lenalidomide)、及びdexamethasoneと4剤併用することでPFS延長を図った。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース


RegeneronもBCMA・CD3抗体を承認申請へ
(2023年12月7日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は骨髄腫で発現するBCMAとT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体、REGN5458(linvoseltamab)の第1/2相LINKER-MM1試験の成績を公表した。3次以上の治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫の試験で、200mgを投与した117人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が71%、完全反応率は46%だった。G3以上の有害事象発現率は85%で、感染症が34%と多かったが、この種の薬に特徴的な有害事象であるサイトカイン放出症候群は1%、ICANS(免疫細胞関連神経毒性症候群)は2%と少なかった。治療時発現有害事象により14人が死亡したことは気にかかる(殆どが感染症)。

リンク: 同社のプレスリリース


オプジーボとヤーボイのMSI-H/dMMR大腸癌試験が成功
(2023年12月7日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、MSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)の転移結腸直腸癌におけるOpdivo(novolumab)とYervoy(ipilimimab)の併用法を検討したCheckMate-8HW試験が中間解析で主目的の一つを達成したと発表した。一次治療サブグル-プにおいてPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が医師の選んだ化学療法を施行した群と比べて統計的に有意な、かつ臨床的に意味のある、改善を示した。もう一つの、全被験者におけるOpdivo・Yervoy併用とOpdivo単剤投与の比較は継続追跡する。

ライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)は類似した内容のKeyNote-177試験でPFSのハザードレシオが0.60だった。全生存期間はp値が0.07とフェールしたがハザードレシオは0.74で悪くはなく、化学療法群の6割が抗PD-1抗体にクロスオーバーしたことを考えれば健闘したといえる。おそらく、Opdivoの単剤投与群も化学療法群と見比べて良好な成績を上げるだろう。従って、本試験の眼目はもう一つの主評価項目の成否だろう。

リンク: BMSのプレスリリース


SABCS:Seagenのher2阻害剤、二次治療試験で全生存が悪い方向?
(2023年12月6日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)は8月にher2チロシンキナーゼ阻害剤Tukysa(tucatinib)のHER2CLIMB-02試験が成功したと発表したが、SABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で、全生存期間は好ましくない方向であることが明かされた模様だ。イベント数が目標の5割強と未成熟な段階の解析なので、今後反転する可能性がないとも言えないが、PFS(無進行生存期間、治験医評価)に基づく適応拡大申請は難しそうだ。

Tukysaは20~21年に米欧でher2標的薬による治療歴を持つ切除不能/転移her2陽性乳癌用薬としてtrastuzumab及びcapecitabineと併用することが承認された。エビデンスとなるHER2CLIMB試験はtrastuzumab、pertuzumabそしてado-trastuzumab emtansineによる治療歴を持つ患者が対象。今回の試験は、taxane系の薬とtrastuzumabによる治療を術後アジュバントまたは進行/転移後に受けた患者を組入れて、ado-trastuzumab emtansineに追加する効果を検討した。主評価項目であるPFSはメジアン9.5ヶ月と偽薬を追加した群の7.4ヶ月を2ヶ月ほど上回り、ハザードレシオは0.76と良好だが、p値は0.0163とまあまあな水準だった。抗her2抗体は脳転移に対する活性が弱いことが多いが、Tukysaは小分子薬なので効果があり、本試験の44%を占めたベースライン時点で脳転移のあったサブグループにおけるハザードレシオは0.64と更に良好だった。

8月時点と同様に、今回のプレスリリースでも全生存の解析は未成熟としか記されていないが、複数の報道によると、SABCSでハザードレシオが1.23(95%信頼区間0.87、1.74)と悪い方向を向いていることが明かされた。FDAはPFSだけでなく全生存期間の延長効果を要求する傾向を強めている旨、複数の製薬会社がコメントしており、適応拡大申請は難しそうだ。また、第一三共/アストラゼネカのEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)は類似したデザインのDESTINY-Breast03試験で全生存期間のハザードレシオがado-trastuzumab emtansine比0.64で統計的に有意だった。除外条件であった症候性あるいは安定していない脳転移のある患者以外はEnhertuに見劣りする。

Seagenは22年に社長兼CEO兼会長が家庭内セクハラ問題で退任。今年3月にファイザーが企業価値ベース430億ドルで買収することに合意しており、反トラスト機関の認可を待っている状態。

リンク: Seagenのプレスリリース
リンク: AACR(米国癌研究協会)のSABCSプレスリリース


MSD、Keytrudaと他社の経口剤の併用試験が二本フェール
(2023年12月7-8日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)とアストラゼネカのPARP阻害剤Lynparza(olaparib)を併用した第3相転移扁平上皮性非小細胞性肺癌一次治療試験を無益中止すると発表した。Keytrudaと化学療法による標準療法を施行し疾病安定化以上の成果を挙げた患者をKeytruda・Lynparza併用群とKeytruda・偽薬併用群に無作為化割付けして転帰を比較していたが、共同主評価項目のうちPFS(無進行生存期間、放射線学的盲検独立中央評価)は第2回中間解析でも有意水準に到達せず、全生存期間は独立データ監視委員会が第3回中間解析で無益認定、打ち切りを勧告した。

両社はLynparzaの開発販売で提携しており、肺癌や前立腺癌、婦人科癌などで多くの第3相併用試験を進めているが、昨年3月には転移性去勢抵抗性前立腺癌のKEYLYNK-010が無益中止された。

リンク: 同社のプレスリリース(12/7付)

翌日、MSDはエーザイと共に第3相LEAP-001試験のフェールを発表した。MSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)ではなくpMMR(ミスマッチ修復機能十分)な進行/難治内膜腫の一次治療として、エーザイのLenvima(lenvatinib)とKeytrudaの併用法を検討したが、全生存期間もPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)も標準療法群(carboplatinとpaclitaxelの併用)を有意に上回らなかった。

リンク: 両社のプレスリリース(12/8付)


メルクのBTK阻害剤、多発性硬化症の第3相が二本ともフェール
(2023年12月5日発表)

ドイツのメルクは、M2951(evobrutinib)の第3相再発性多発性硬化症試験が二本ともフェールしたと発表した。血液癌用薬として複数の製品が承認されているBTK阻害剤のもう一つの有望用途と見なされているので驚きだ。

45mgを一日二回、経口投与する効果をサノフィのAubagio(teriflunomide)14mg一日一回経口投与と比較した試験で、主評価項目である年率再発率が一本は両群とも0.11、もう一本は0.15対0.14で、大差なかった。会社側はAubagio群の成績が予想以上に良かったことを指摘している。確かに、20年に米国で承認されたノバルティスの抗CD20抗体Kesimpta(ofatumumab)の第3相Aubagio対照試験二本では0.11対0.22と0.10対0.25、21年承認のJanssenのS1P1調節剤Ponvory(ponesimod)の試験では0.20対0.29だった。Aubagio自身は12年に承認され、14mgは第3相試験の一本で0.37(偽薬群は0.54)、もう一本は0.32(同0.50)だった。

優れた治療薬が普及するにつれて、未知の要素が残る新薬の臨床試験の被験者を募集するのが難しくなる。偽薬ではなく実薬対照とするのは対策の一つだが、Aubagioは咬ませ犬状態で、近年の多くの新薬が対照試験で有意な差を付けているため、担当医が比較的状態がよく再発の少ない患者を選りすぐって組み入れるリスクがありそうだ。それにしても、数値が対照群並みに留まったのは失望的だ。

リンク: 独メルクのプレスリリース


イーライリリーのCDK4/6阻害剤も延命効果は確立せず
(2023年12月5日発表)

イーライリリーのCDK4/6阻害剤Verzeni(abemaciclib)は18年に米欧日でホルモン受容体陽性her2陰性乳癌の一次治療としてアロマターゼ阻害剤と併用することが承認された。エビデンスとなったMONARCH 3試験の中間解析でPFS(無進行生存期間)がメジアン28ヶ月とアロマターゼ阻害剤・偽薬併用群の14ヶ月を上回り、ハザードレシオが0.54、p<0.0001と良好な成績を収めた。承認から5年経ち、副次的評価項目である全生存の解析は有意水準に達しなかったことがサン・アントニオ乳癌シンポジウムで発表された。メジアン生存期間は66.8ヶ月対53.7ヶ月で1年以上上回ったが、ハザードレシオは0.804と、承認されている薬の多くと異なり0.80の壁をクリアできなかった。p値も0.066だった。

ノバルティスのCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)は上記と類似した内容のMONALEESA-2試験でPFSのハザードレシオ0.556、副次的評価項目である全生存のハザードレシオは0.76となり、どちらも統計的に有意だった。数値の上では大きな差があるわけではないので、検出力の違いが命運を分けたのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


デュアルPPARアゴニストを原発性胆汁性胆管炎に承認申請
(2023年12月7日発表)

イプセンは、欧米でelafibranorを原発性胆汁性胆汁炎(PBC)に承認申請し受理されたことを公表した。標準療法であるUDCA(ウルソデオキシコール酸)に十分応答しない患者に80mgを一日一回経口投与する。米国は優先審査で審査期限は6月10日、EUは米国より前に受理された模様だ。

PBCは自己免疫性疾患。肝内胆管が徐々に破壊され胆汁が肝臓内に滞留、肝臓障害を齎す。罹患率は10万人当り20~40人。50~60代の女性患者が多いようだ。elafibranorは同じフランスのGenfit(Nasdaq:GNFT)からライセンスしたPPARアルファ・デルタ作動剤。第3相ELATIVE試験でがUDCAに十分応答しない患者に追加投与したところ、第52週生化学的反応率(アルカリフォスファターゼがULN(基準値上限)の1.67倍未満でベースライン比15%以上低く、総ビリルビンがULN以下)が51%と偽薬群の4%を大きく上回った。副次的評価項目のアルカリフォスファターゼ正常化率も15%対0%で上回った。一方、掻痒評価スコアの改善はトレンドに留まった。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、オプジーボを尿路上皮腫一次治療に適応拡大申請
(2023年12月5日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)を成人の切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療としてcisplatinベースの化学療法と併用する適応拡大を米国で申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は24年4月5日。

エビデンスとなるCheckMate-901試験ではgemcitabineをcisplatinまたはcarboplatinと併用する標準療法と、更にOpdovoも使う三剤併用法、そして一部の患者においてOpdivoとYervoy(ipilimumab)の二剤併用を施行し、全生存期間を比較した。様々な主評価項目のうち、前二群を比較したサブスタディでメジアン生存期間が21.7ヶ月と標準療法群の18.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78、p値は0.0171だった(多重性補正の有無は不明)。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)も7.6ヶ月、7.9ヶ月、0.72、0.0012とこちらは高度に有意だった。

リンク: BMSのプレスリリース


Kisqaliの乳癌摘出術後アジュバントをEUで適応追加申請
(2023年12月8日発表)

ノバルティスはCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)の第3相NATALEE試験のアップデート・データをSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で発表するとともに、EUで適応追加申請したことを明らかにした。米国でも今月中に優先審査バウチャを添えて申請する予定。

Kisqaliは日本における開発は中止された様子だが欧米ではホルモン受容体陽性her2陰性の進行/転移乳癌に承認されている。本試験はステージIIとIIIのホルモン受容体陽性her2陰性の乳癌を切除したが再発リスクが高いと予想される患者5101人を組入れて、非ステロイド系アロマターゼ阻害剤(適応ならgoserelinも)と併用する効果を検討した。進行/転移乳癌における600mg一日一回より少ない400mgを28日サイクルで21日オン、7日オフのスケジュールで投与した。iDFS(無侵襲性疾病生存)のハザードレシオは0.749で6月のASCOで発表された0.748と大差なく、ステージIIとIIIのサブグループ・データも概ね同様だったが、イーライリリーのVerzenio(abemaciclib)の同様な試験では組み入れられなかった、リンパ節転移のないサブグループの数値は0.63から0.72に変わった。

一部報道によると、全生存期間のハザードレシオは0.882に留まっている。Verzenioの同様な試験も全生存延長効果は確立しなかった。死亡率が3%強と未成熟であるため信頼性が低く、また、早期乳癌は再発/転移後の治療手段が多いためこれらの薬の影響も考えなくてはならないが、FDAが全生存期間を重視する姿勢を示していることを考えると、数年後に発表されるであろう全生存期間のキチンとした解析結果を注視する必要があるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


FDAが二種類の鎌状赤血球症遺伝子療法を承認
(2023年12月8日発表)

FDAは鎌状赤血球症のex vivo遺伝子療法を二品、承認した。一つはCRIPR/cas-9という遺伝子編集技術の代表的な企業であるCRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)がVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)と共同開発したCasgevy(exagamglogene autotemcel)。もう一つは、遺伝子療法薬の承認が相次いでいるbluebird bio(Nasdaq:BLUE)のLyfgenia(lovotibeglogene autotemce)で、審査期限前倒しで競合品と同日承認された。

どちらも患者から採取した造血幹細胞の遺伝子を修飾し培養した上で患者に戻す。拒絶反応が起きないように、投与前に化学療法による骨髄枯渇処理を施行する。二品の適応は若干異なるが、どちらも重い血管閉塞性クリーゼ(急性症状)を経験した12歳以上の患者の再発を予防するために、一回施行する。臨床試験の主評価項目が若干異なるので単純比較はできないが、どちらも9割以上の患者が長期間予防できた。

違いは遺伝子操作手法とその標的遺伝子。鎌状赤血球症は赤血球のヘモグロビンの遺伝子に変異があり、赤血球が鎌状となって、壊れたり毛細血管で詰まったりする。臓器障害を合併するリスクもある。アフリカ系に多い。

Casgevyは、ヘモグロビンの代わりに、胎児・新生児期にしか発現しない胎生ヘモグロビン(HbF)を発現させるために、転写抑制因子であるBCL11A遺伝子の赤血球系特異的エンハンサー領域をCRISPR/cas-9技術で切断する。修復メカニズムが作用するが、切断・修復を繰り返す内にエラーが発生し遺伝子が壊れる。

Lyfgeniaは同社のレンチウイルス・ベクターを用いてベータ・グロブリンの遺伝子を導入し正常なヘモグロビンを生成できるようにするもの。臨床試験で血液癌が数例見られたことが枠付き警告されている。

価格はCasgevyが220万ドル、Lyfgeniaは310万ドルとのことだが、少なくともbluebirdはアウトカム・ベースの代価決定をオファーする考えであり、例えば3年間分割払いにして急性期治療の頻度が所定を超えたらその時点で打ち切り、のようなフォーミュラが採用されるのではないか。患者が多いメディケイドにおけるプライシングも要注目点だ。

尚、Casgevyはベータ・サラセミアの治療にも承認申請されているが、優先審査ではなく、審査期限は24年3月30日。

bluebirdはLyfgeniaが承認されたら優先審査バウチャをノバルティスに1億ドル余で売却する予定だったが、バウチャを取得できず期待外れに終わった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Vertex・Crisprのプレスリリース
リンク: bluebirdのプレスリリース


ノバルティス、新規作用機序のPNH用薬が承認
(2023年12月6日発表)

ノバルティスはFDAがFabhalta(iptacopa)を成人の発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)用薬として承認したと発表した。血液凝固B因子を阻害する作用機序も、PNHの経口剤も、初。200mgを一日二回服用する。

抗血液凝固C5因子抗体で治療してもHgbが十分に上昇しない患者を組入れたAPPLY-PNH試験で24週奏効率(輸血を受けずにHgbが2g以上上昇)が82.3%となり、抗C5抗体を継続投与した群の0%を有意に上回った。抗C5抗体歴のない患者を組入れた単群試験では77.5%だった。前者の試験では輸血回避率も95.2%対45.7%で大きな差があった。

有害事象は胃腸系の発現率が抗C5抗体を上回り、ウイルス感染症は下回った。深刻有害事象の発現率は二次治療試験で3%、ナイーブ試験は5%だった。莢膜細菌感染症が枠付き警告。ワクチンを接種した上で、投与後は兆候・症状を観察する。

リンク: 同社のプレスリリース


イーライリリー、BTK阻害剤が適応拡大
(2023年12月1日発表)

イーライリリーはFDAがJaypirca(pirtobrutinib)を慢性リンパ性白血病/小リンパ急性リンパ腫に承認したと発表した。成人の、他のBTK阻害剤とbcl-2阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ成人が適応になる。

第1/2相BRUIN試験で、200mgを一日一回経口投与したコフォートのORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が72%、完全反応はゼロ、メジアン反応持続期間は12ヶ月だった。深刻な有害事象の発生率は56%、有害事象による治験離脱率は9%だった。

加速承認なので第3相試験で延命またはそれに準じる便益を確認しなければならない。

Jaypircaは今年1月に米国で、成人のBTK阻害剤を含む2次以上の全身性治療歴を持つ難治/再発マントル細胞腫に加速承認された。他のBTK阻害剤と異なり共有結合せず、BTK抵抗性変異にも活性を持つ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)←AC上程で遅延へ
23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期か
23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
23/12/27MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)
23/12/30Zealand PharmaのZegalogue(dasiglucagon、先天性高インスリン血症に適応追加)
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)→23Q4から遅延
24/1/3Checkpoint TherapeuticsのCK-301(cosibelimab、皮膚扁平上皮癌)
24/1/5Novan(Ligand Pharmaceuticals)のberdazimer(伝染性軟属腫)
24/1/12 アステラス製薬のIMAB362(zolbetuximab、Claudin 18.2中強度発現胃腺癌/食道胃接合部腺癌)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/20 MSDのKeytruda(pembrolizumab、新患高リスク子宮頸癌化学放射線療法併用)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)

注:ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)は審査期限が12月21日から24年3月21日に延期された

今週は以上です。

2023年12月2日

第1131回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アストラゼネカ、高カリウム血症用薬のアウトカム試験を中止 
  • 中国製プラスチック・シリンジは要注意 
  • アッヴィ、c-Met ADCが第2相で良績 
  • 広カバレッジ肺炎球菌ワクチンの第3相成績 
  • Blenrep shall return 
  • BioVieのアルツハイマー試験で波乱 
  • ウィフガートの皮下注用はpITP試験がフェール 
  • ファイザーの経口GLP-1作用剤、服用中止が多く第3相入りが不透明に 
  • パドセブの4剤併用法を申請 
  • CAR-TをALLに承認申請 
  • EUでデュピクセントをCOPDに効能追加申請 
  • エプキンリをEUで適応拡大申請 
  • Aldeyraのドライアイ治療薬はやっぱり承認されず 
  • 初のデスモイド腫瘍治療薬が承認 
  • PRAC、プソイドエフェドリンやGLP-1作用剤に関してアップデート 
  • FDA、CAR-T療法後の二次性腫瘍の精査を開始 
  • FDA、一部の抗癲癇薬のDRESSリスクを警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


アストラゼネカ、高カリウム血症用薬のアウトカム試験を中止
(2023年12月1日発表)

アストラゼネカは18~20年に欧米日で高カリウム血症薬として承認されたLokelma(sodium zirconium cyclosilicate)の心腎アウトカム試験二本を中止すると発表した。患者組入れに時間がかかり、イベント発生率も低いことから、医療を前進させる上で意味のある時間軸内に結果を出すことが困難になったため。安全性問題が原因ではないとしている。

二本のうちSTABILIZE-CKD試験は高カリウム血又はそのリスクが高い慢性腎疾患1360人を組入れて悪化抑制作用をeGFR(推算糸球体濾過量)で評価するもの。DIALIZE-Outcomesは高カリウム血症を合併した慢性血液透析患者2800人を組入れて、突然心臓死や卒中、不整脈による入院/ER入室などのリスクを偽薬と比較していた。ClinicalTrials.govによると何れも21年に開始、当初は24~25年に主評価項目の結果が判明する見込みだったが直近では26年に変更されている。

15年にZS Pharmaを27億ドルで買収して入手した、非ポリマー系カリウム結合剤。FDAのオレンジブックには35年失効の特許も収載されているが、新薬排他権は今年、失効した。承認当時は年商10億ドル超の声もあったが、23年1-9月期売上高は3億ドルに留まっている。

リンク: 同社のプレスリリース


中国製プラスチック・シリンジは要注意
(2023年11月30日発表)

FDAは中国で製造された液体注入/吸引用プラスチック・シリンジについてデータ収集・分析を行っていることを発表した。中国製造者数社の製品の品質問題に関する情報提供があり、安定的かつ十分な品質や機能を持っていない可能性が疑われるため。
現時点ではガラス製シリンジ、プリフィルド・シリンジ、経口/局所用シリンジは対象外。

消費者や医療提供者、関連施設に対して、レーベルなどをチェックしてもし中国製であった場合はそうでない製品の使用を検討するよう推奨している。中国製しか保有していない場合は使用することができるが、液漏れや破損などのトラブルを密接に監視する。

リンク: FDAの安全性情報

【新薬開発】


アッヴィ、c-Met ADCが第2相で良績
(2023年11月29日発表)

アッヴィは抗c-Met抗体薬物複合体ABBV-399(telisotuzumab vedotin)の第2相LUMINOSITY試験のデータを公表した。昨年初にFDAのブレークスルー・セラピー指定を受けた当時のデータほどではないが良好な成績で、複数の報道によると、加速承認申請を検討しているようだ。

この試験はc-Metを発現し、EGFRは野生型の進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌で白金薬による治療歴を持つ患者の単群2次/3次治療試験。c-Met高発現例ではORR(客観的反応率、独立中央評価)が35%、メジアン反応持続期間9ヶ月、メジアン生存期間は14.6ヶ月だった。中程度発現例では各23%、7.2ヶ月、14.2ヶ月だった。

c-Met陽性はEGFR野生型進行非小細胞性肺癌の25%程度を占める。同社はVENTANA MET (SP44) RxDxアッセイ(IHC検査)でスクリーニングしている。

リンク: 同社のプレスリリース


広カバレッジ肺炎球菌ワクチンの第3相成績
(2023年11月28日発表)

MSDは21価肺炎球菌ワクチンV116の第3相STRIDE-3試験の結果を公表した。配合されている株の数は既存ワクチンとそれほど変わらないが、既存ワクチンがカバーしていない、そのため感染者数の多い株をカバーしていることが長所。多くの第3相を実施中で、承認申請時期は明らかではない。

肺炎球菌は血清型が多く、同社のVaxneuvanceは15価、Pneumovax 23は23価、ファイザーのPrevnar 20は20価ワクチンとなっている。V116は21価で、直接のライバルであるPrevnar 20と大差ないが、株の種類がかなり異なっており、65歳以上の侵襲性肺炎球菌疾患の30%を占める15A、15C、16F、23A、23B、24F、31、35Bの8株をカバーしているのはV116だけ。

今回の試験は肺炎球菌ワクチン未接種の成人をV116群とPrevnar 20群に無作為化割付けして一回筋注し、30日後の免疫応答(オプソニン食作用活性試験における幾何平均抗体価で評価)を比較した。50歳以上のコフォート(2362人を1:1割付け)では共通する10株における非劣性検定が成功した。V116だけが配合する11株中10株では、優越性検定が成功し、もう一つの主評価項目である幾何平均抗体価4倍増奏効率でも優越性が確認された。

18~49歳のコフォート(301人を2:1割付)では、50~64歳における免疫応答と比較したところ、全21株について非劣性検定が成功した。なぜPrevnar 20群と比較しないのか分からないが、Prevnar 20の試験でも18~59歳に関する比較対象は対照ワクチンではなく60~64歳のデータだったので、薬効の挙証が完璧でないワクチンと比較すると推定誤差が広がってしまうことを恐れたのかもしれない。

第3相8本のうちSTRIDE-6試験(肺炎球菌ワクチン接種歴を持つ50歳以上を組入れてVaxneuvanceやPneumoxax 23と比較)も全株に関して有意に上回った旨、公表されている。

リンク: 同社のプレスリリース


Blenrep shall return
(2023年11月27日発表)

GSKはBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)の第3相DREAMM-7試験が中間解析で主目的達成したと発表した。欧米共に既存の販売承認は返上/取消の見込みだが、別途承認/適応追加申請に向かうのではないか。

BCMAに結合する抗体薬物複合体で20年に欧米で再発/難治多発骨髄腫の5次治療薬として条件付き承認/加速承認されたが、市販後薬効確認試験であるDREAMM-3試験がフェールし3次治療においてpomalidomide及びdexamethasoneのPdレジメンに追加しても進行・死亡リスクを十分に抑制できず全生存期間は数値上悪化することが判明。米国では11月に承認返上手続きに着手、EUでは9月にCHMPが承認更新に否定的意見をまとめた。

起死回生ともいうべき今回の試験は2次治療を受ける494人を組入れて、bortezomibとdexamethasoneのVdレジメンにBlenrepを追加する群とDarzalex(daratumumab)を追加する群のPFS(独立評価委員会方式)を比較した。独立データ監視委員会の勧告に基づき盲検解除した。副次的評価項目である全生存期間は継続追跡するが、中間の名目p値は0.0005と好ましい方向を向いている由。

リンク: 同社のプレスリリース


BioVieのアルツハイマー試験で波乱
(2023年11月29日発表)

米国のBioVie(Nasdaq:BIVI)はNE3107の第3相軽中度アルツハイマー病試験が順調に進まなかったことを明らかにした。プロトコルやGCP(臨床試験基準)の違反例がひどく多く、検出力が失われた。adaptive designの試験であることを利用して、CRO(医薬品開発業務受託機関)を変更した上で追加組入れを行う考え。この用途でのPOC試験は行われていないので、成否の予想は困難だ。

NE3107はERK阻害剤。FDAの研究者が抗炎症作用やインスリン感受性改善作用を確認したが糖尿病薬としての開発は上手く行かなかった様子で、開発権が様々な会社に変遷。BioVieはアルツハイマー病患者の多くでインスリン抵抗性が見られることなどに着目、21年にNeurMedixから資産を買収した。アップフロントは300万ドルと株式、目標達成金は730万ドルと株式、という倹しいディールだ。

第3相は米国の39施設で439人を組入れて、偽薬群と20mg群(一日二回経口投与、用量は漸増)の第30週におけるADAS-Cog 12とCDR-SB(後者はFDAの推奨に基づき試験中に変更)を比較した。開始当時のプレスリリースによると、プロトコル開発で協力したCROはWorldwide Clinical Trials、実施を担ったCROはCognitive Research Corporation。

データ収集・解析を始めたところ、同一施設の複数の症例のMRI画像が酷似していたり、偽薬群の患者の数値が過去の試験では見られなかったほど改善していたり、異常なデータが散見された。精査した結果、15の施設でプロトコルからの顕著な逸脱やGCP違反が判明した。このような場合は当該施設のデータを全て除去して解析することになるが、残った症例は81人のみ、治験を完了し血液検査で服用が確認されたper protocol解析対象は57例しかなかった。

この一握りの症例に関しては、最近のアルツハイマー病薬と同様なささやかな治療効果が見られたが、全く有意ではなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


ウィフガートの皮下注用はpITP試験がフェール
(2023年11月28日発表)

アルジェニクス(Euronext/Nasdaq:ARGX)はVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa、hyaluronidase-qvfc)の第3相原発性免疫性血小板減少症(pITP)試験、ADVANCE-SC試験がフェールしたと発表した。昨年、点滴静注用薬を用いたADVANCE試験が成功し、持続的血小板回復奏効率が21.8%と偽薬群の5%を上回ったが、今回は13.7%対16.2%で数値上、偽薬以下だった。IWG基準に基づく反応率も点滴静注試験は51%対20%で成功したが、皮下注試験は有意差がなかった。敗因は明らかではない。

抗AchR抗体陽性全身性重症筋無力症に承認されている点滴静注用薬Vyvgartの皮下注用新製剤で、米国で6月に承認、日欧でも承認申請中。

同社はADVANCE試験に基づき世界に先駆けて6月に日本で一部変更申請した。24年第1四半期に審査結果が出る見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザーの経口GLP-1作用剤、服用中止が多く第3相入りが不透明に
(2023年12月1日発表)

ファイザーは二種類の経口GLP-1作用剤を並行して開発し、第2相の成績を踏まえて片方は第3相ステージアップを断念したが、もう片方も忍容性問題が浮上し不透明になってきた。

そーせい社の創薬プラットフォームを利用して創製したPF-07081532(lotiglipron)は今年6月、薬物相互作用や肝臓酵素上昇リスクから開発中止した。マッチ・レース状態だったPF-06882961(danuglipron)は二型糖尿病の用量変動試験でA1cが最大1.16%、体重が4.1kg減少し、経口剤であるため期待が高まった。今回開票した肥満症の後期第2相試験でも第32週に体重が6~11%減少し、偽薬群(1%増加)より優れた成績を上げた。

しかし、GLP-1作用剤に付き物の胃腸系副作用の発生率が嘔吐は最大47%、下痢も同25%と高く、各用量とも離脱率が50%を超えた。偽薬群も40%なので、注射用薬よりハードルが低い分、副作用忍容力が低い被験者が集まった可能性もあるかもしれない。

それでも、ファイザーは、現行の一日二回服用薬の開発を断念し、24年上期に一日一回型製剤の薬物動態試験の結果が出てから今後の方針を決定する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


パドセブの4剤併用法を申請
(2023年11月30日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)とアステラス製薬は、抗ネクチン-4抗体薬物複合体Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)をMSDのKeytruda(pembrolizumab)、gemcitabine、及び白金薬と併用で局所進行/転移尿路上皮癌の一次治療に用いる適応拡大をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は24年5月9日。

EV-302/KeyNote-A39試験に基づくもので、gemcitabineと白金薬だけの群と比べて全生存期間のハザードレシオが0.47、メジアン生存期間は31.5ヶ月対16.1ヶ月だった。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)も有意に上回った。

Padcev・Keytruda併用は米国でcisplatinベースの化学療法に不適な局所進行/転移尿路上皮癌の一次治療に加速承認されている。上記試験は市販後コミットメントも兼ねているため、本承認切替えも認められるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース


CAR-TをALLに承認申請
(2023年11月27日発表)

英国のAutolus Therapeutics(Nasdaq:AUTL)は米国でobecabtagene autoleucelを成人の難治/再発B細胞急性リンパ芽球性白血病に承認申請した。EUでも来年上期に申請する予定。CD19を標的とするCAR-T(キメラ抗体受容体-T細胞)療法で、結合後の遊離を早める装飾を行って、過剰刺激に伴う副作用の抑制を図った。エビデンスは第2相FLEX試験で、6月のASCO(米国臨床腫瘍学会)における発表によれば、94人におけるORR(客観的反応率、独立評価)は76%(完解率54%、血球数以外完解21%)だった。メジアン9.5ヶ月追跡時点で61%が寛解を維持していた。G3以上のサイトカイン放出症候群発生率は3%、同ICANは7%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


EUでデュピクセントをCOPDに効能追加申請
(2023年11月27日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab)の二本目のCOPD試験が中間解析で目的達成したと発表した。米国で24年上期に適応拡大申請する考え。EUでは一本目のデータに基づき適応拡大申請中であることも明らかにされた。

二本とも、二型炎症性(血中好酸球数が300セル/mcL以上)の中重度COPDで三剤併用しても増悪を十分に管理できない患者を組入れて、52週間の中重度急性増悪の頻度を偽薬と比較したところ、一本目のBOREAS試験では30%抑制、二本目のNOTUS試験では中間解析で34%抑制した(p=0.0002)。副次的評価項目のFEV1の改善も前者では160ml対77mL、後者でも139mL対57mLと、どちらも有意に上回った。尚、今回の試験では有害事象による死亡の発生率が2.6%対1.5%だったが、一本目は1.5%対1.7%で大差なかった。

Dupixentは抗IL-4受容体アルファ抗体。アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症など二型炎症反応が関わる疾患に承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース


エプキンリをEUで適応拡大申請
(2023年11月27日発表)

アッヴィは、ジェンマブから共同開発販売権を取得した抗CD20/CD3二重特異性抗体、Tepkinly(欧州名、米国ではEpkinly、一般名epcoritamab)の適応拡大をEUで申請し受理されたと発表した。第1/2相のEPCORE NHL-1試験の濾胞性リンパ腫コフォートのデータに基づくもので、成人の難治/再発患者におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が82%(n=128)だった。反応持続期間はメジアン未達。G3のサイトカイン放出症候群が1.6%で発生した。

Tepkinlyは23年に米欧日で難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫用薬として承認された(米国は加速承認、EUは条件付き承認)。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Aldeyraのドライアイ治療薬はやっぱり承認されず
(2023年11月27日発表)

Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は米国でADX 102(reproxalap)をドライアイ治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。事前に開示されていたとおり、FDAは薬効の挙証が不十分と見なし、追加試験を求めた。

FDAが2020年にパブコメを求めたドライアイ治療薬に関する開発ガイダンス草案は立証すべき便益として選択肢を三つ挙げている。同社が採用した、兆候と症状の改善効果に関しては夫々について一本を超える臨床試験で実証することを求めている(兆候と症状の両方を評価した試験二本でもよい)。ところが、同社は兆候に関してはシルマー試験と充血度を検討する偽薬対照試験を二本実施したものの、症状はドライアイ・チャンバー・クロスオーバー試験を一本実施してその副次的評価項目として検討しただけだった。承認されなくても無理はない申請内容だったことになる。

同社はもう一本ドライアイ・チャンバー・クロスオーバー試験を行ってデータを24年上期にも追加提出する計画。一本目と同様に、目に強風を当てて症状を偽薬群と比較するもので、申請後に不適切と言われないように事前にSPA(特別プロトコル評価)を求める考えだ。

ADX 102はRASP(反応性アルデヒド種)調節剤。免疫原となる有機アルデヒド遊離体に結合し炎症推進作用を妨げる。アレルギー性結膜炎でもチャンバー試験が二本、成功しているが、市場性の大きいドライアイ用途を優先している。11月にアッヴィが開発生産販売オプションを取得したところ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのドライアイ治療薬開発ガイダンス(草案、2020年12月、pdfファイル)

【承認】


初のデスモイド腫瘍治療薬が承認
(2023年7月27日発表)

FDAはSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)のOgsiveo(nirogacestat)を成人の全身性治療が必要な進行性デスモイド腫瘍の治療薬として承認した。150mgを一日二回、経口投与する。

デスモイド腫瘍は軟組織における稀な腫瘍。致死的なことは稀だが、手術で摘出してもしばしば再発し、周辺組織に浸透することもある。症状は部位や大きさにより区々。新患は年数千人。Ogsiveoはガンマ・セクレターゼ阻害剤。デスモイド腫瘍の成長を活性化するシグナルを阻害する。第3相試験ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが偽薬比0.29、確認ORR(客観的反応率)も41%対8%で上回り、疼痛や身体機能、全般的QoLも有意に改善した。治療時発現有害事象による離脱が20%で発生した(偽薬群は1%)。再生産年齢の女性の75%で無月経症などの卵巣機能障害が見られた。

同社は2017年にファイザーから当剤を含む難病薬の開発権を継承して設立された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、プソイドエフェドリンやGLP-1作用剤に関してアップデート
(2023年12月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品安全性監視・リスク評価委員会、PRACは、pseudoephedrineを配合した医薬品やGLP-1作用剤の安全性に関してアップデートした。

前者は鼻詰まり用薬として市販薬なども含めて広く普及しているが、PRES(可逆性後頭葉白質脳症)やPCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)の副作用例が報告されていることから、疑われる症状が現れたら即座に服用を止めて受診するよう処方時に指示しなければならない。また、重度または管理不良の高血圧症や急性/慢性の腎臓疾患/腎不全の患者に投与すべきでない。EMAは製薬会社に添付文書を改訂して警告を追加するよう求めた。また、CHMP(医薬品科学的評価委員会)の追認を経て、DHPC(直接的医療従事者向け通知)を発出する考えだ。

GLP-1作用剤は様々な副作用懸念が残存しているが、今回は、自殺思慮や自傷思慮に関する症例が臨床試験、市販後薬物監視、刊行物などで報告されているため、製薬会社に追加的な質問を行うことを決めた。来年4月のPRACで改めて検討する予定。現時点では因果関係の結論は出ていないが、クリアすべき事項が残っている由だ。

リンク: EMAのプレスリリース


FDA、CAR-T療法後の二次性腫瘍の精査を開始
(2023年11月28日発表)

FDAはCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法後の二次性腫瘍のリスクを評価すると発表した。レンチウイルスやレトロウイルスをベクターとする遺伝子療法のレーベルでは既に警告済みだが、FAERS(FDAの有害事象報告システム)などの症例報告が20件程度蓄積されたため、リスクを精査しFDAによる対応が必要かどうか、検討する。便益が危険を上回るという評価には変わりはない、とのこと。

対照はBCMAまたはCD19を標的とする以下の6製品。

  • 2seventy bio/BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、和名アベクマ)
  • セルジーンのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、和名ブレヤンジ)
  • Legend Biotech/JanssenのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、和名カービクティ)
  • ノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)
  • ギリアド・サイエンシズのTecartus(brexucabtagene autoleucel)
  • 同、Yescarta(axicabtagene ciloleucel、和名イエスカルタ)

  • 証券会社の調査データを見ると施行実績が多い製品ほど有害事象報告が多いが、当然といえば当然で、FDAはクラス・イフェクトと考えているようだ。CAR-T細胞陽性の腫瘍も見られた由。

    メーカー側は因果関係について概して懐疑的である様子。血液癌患者に別の血液癌が併発したり、化学療法後に別の血液癌が生じたりすることは珍しくなく、CAR-Tは複数の抗癌剤を経験した患者に用いられることが多いため前治療が原因かもしれない。勿論、理論的な懸念材料なのでCAR-Tが犯人かもしれない。もしそうだとしても、幸いなことに報告件数で見ると頻度は1000人に一人程度とそれほどでもなく、実際は10倍としても100人に一人程度だ。

    ASH(米国血液学会)が始まるので色々、議論されるだろう。先週号で書いたように、Abecmaの適応拡大申請に関する諮問委員会が招集される模様なので、議題に上がるかもしれない。

    リンク: FDAの安全性情報


    FDA、一部の抗癲癇薬のDRESSリスクを警告
    (2023年11月28日発表)

    FDAはUCBのKeppra(levetiracetam、和名イーケプラ)とルンドベックのOnfi/Frisium(clobazam)の警告事項にDRESS(薬剤性過敏症症候群)を追加するようメーカー側に要請した。前者は米国で24年前に承認、後者も12年前と市販歴が長く今更だが、この、速やかに診断し治療しなければ命に係わる過敏反応の有害事象が稀に報告されている由。大半は米国外で発生した様子だ。

    患者に対しては医師に相談する前に服用を止めないよう注意した。ラッシュやリンパ節/顔の腫脹など、異常な症状や反応が現れたら即座に救急医療を求める。ラッシュを伴わないこともあるので診断は簡単ではない。

    Onfiは米国では11年にレノックス・ガストー症候群の治療薬として承認されたが、活性成分は欧州などでもっと前から抗不安症薬として用いられており、日本でも住友製薬の癲癇治療薬マイスタンとして2000年に承認された。米国では13年にFDAがスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死融解症(TEN)が稀に発生している旨の安全性情報を発出したことがある。

    リンク: FDAの安全性情報

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
    23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)←AC上程で遅延へ
    23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
    23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期か
    23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
    23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
    23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
    23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
    23/12/27MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)
    23/12/30Zealand PharmaのZegalogue(dasiglucagon、先天性高インスリン血症に適応追加)
    24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)→23Q4から遅延
    24/1/3 Checkpoint TherapeuticsのCK-301(cosibelimab、皮膚扁平上皮癌)
    24/1/5 Novan(Ligand Pharmaceuticals)のberdazimer(伝染性軟属腫)
    24/1/12 アステラス製薬のIMAB362(zolbetuximab、Claudin 18.2中強度発現胃腺癌/食道胃接合部腺癌)
    24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
    24/1/20 MSDのKeytruda(pembrolizumab、新患高リスク子宮頸癌化学放射線療法併用)
    24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)

    注:ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)は審査期限が12月21日から24年3月21日に延期


    今週は以上です。

    2023年11月25日

    第1130回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • BET阻害剤を骨髄線維症に承認申請へ 
    • TLR9アゴニストの潰瘍性大腸炎試験がフェール 
    • バイエルのXIa阻害剤、最初の第3相が無益中止 
    • ヤンセン、二重特異性抗体の化学療法併用法を追加申請 
    • アベクマの早期使用承認が不透明に 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    BET阻害剤を骨髄線維症に承認申請へ
    (2023年11月20日発表)

    ドイツのMorphoSys(FSE/Nasdaq:MOR)はCPI-0610(pelabresib)の第3相骨髄線維症試験で主目的を達成したと発表した。12月のASH(米国血液学会)で結果を発表し、24年央に欧米で承認申請する考え。株価は筆頭副次的評価項目がフェールしたことを嫌気して下落した。

    21年にConstellation Pharmaceuticalsを17億ドルで買収して入手したBET阻害剤。転写因子の動員に関わるbromodomain and extra-terminal domainを阻害して炎症や癌を抑制することが期待されている。今回のMANIFEST-2試験はDIPSSリスク予測スコアがintermediate-1以上でJAK阻害剤未経験の骨髄線維症430人を組入れて、JAK阻害剤ruxolitinibと併用する効果をruxolitinib・偽薬併用と比較した。主評価項目の第24週脾臓量35%削減奏効率(SVR35)は各群66%と35%となり、統計的に有意な差があった。

    一方、最初の副次的評価項目として設定されたTSS(合計症状スコア)50%削減奏効率(TSS50)は52%対46%、p=0.216とフェールした。TSS自体の低下も15.99点対14.05点、差は1.94でp=0.0545だった。但し、intermediateリスク400人のサブグループ分析はどちらもp値が0.05を下回った。TSS50は全体の解析と見比べて偽薬群の数値が低くなっている。逆に言えば、高リスク・サブグループの奏効率が中リスク・グループよりかなり高かったことになり、変な感じだ。尤も、高リスク・サブグループは逸失データが多かったため解析を見送った由であり、同じ理由で全体の解析も歪められているのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    TLR9アゴニストの潰瘍性大腸炎試験がフェール
    (2023年11月21日発表)

    スウェーデンのInDex Pharmaceuticalsは、IDX0150(cobitolimod)の第3相潰瘍性大腸炎試験の独立データ監視委員会(iDMC)が無益認定したため治験中止すると発表した。5月にヴィアトリス・ジャパンが日本における開発販売権を取得したばかり。

    このCONCLUDE試験は伝統的治療薬に加えてバイオ薬やJAK阻害剤にも十分応答しない、中重度左側潰瘍性大腸炎における便益と危険を検討するもの。寛解導入における至適用量を決定するステージ1で、440人を偽薬、250mg、または500mgを第0週と第3週に大腸内投与する3群に無作為化割付けして、第6週における臨床的寛解率を比較した。ステージ2は至適用量による寛解導入、ステージ3は応答者に対する維持療法、を検討する予定だった。しかし、ステージ1の中間評価(n=133)で試験を続行しても目的達成の確率は低いと判定された。

    cobitolimodは同社のDNA-based ImmunoModulatory Sequenceプラットフォームの成果で、TLR9に結合して炎症抑制的なサイトカインの分泌を誘導する。後期第2相のCONDUCT試験で250mg群の第6週臨床的寛解率が21%と偽薬群の7%を上回り、片側p値は0.05を下回った。しかし、31mg群が13%、125mg群は5%、隔週ではなく4週連続投与した125mgの群は10%とあまり用量反応相関は見られなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    バイエルのXIa阻害剤、最初の第3相が無益中止
    (2023年11月19日発表)

    バイエルはBAY 2433334(asundexian)の第3相脳卒中予防/治療試験を2本実施しているが、独立データ監視委員会が予防試験を無益認定、勧告に従い繰上げ中止することを明らかにした。治療試験は勧告に従い続行する。予防ではもう一本、やや異なった第3相を計画しているが、デザインを見直す予定。

    Xa阻害剤を販売するバイエルやBMS/JNJ陣営が新たな抗凝固剤として開発している経口XIa阻害剤の一つ。抗凝固薬は血栓塞栓リスクを抑制できるが、その裏返しで出血リスクが高まるのが難点。Xa阻害剤は例外と考えられたが、期待ほどではなかった。次の期待がXIa阻害剤で、アシュケナージ系ユダヤ人で比較的多い欠乏者は脳卒中リスクが低いだけでなく特発的出血も少ない点が注目される。

    後期第2相のPACIFIC-Stroke試験では非心原性虚血性脳卒中から48時間以内の標準療法を受けている患者に追加投与して6ヶ月間追跡したが、高用量2群は脳卒中発生率が偽薬群より数値上高かった。検出力を上げるために無症候性の隠れ脳梗塞(MRIで判定)もカウントしたことが裏目に出た模様で、メジアン10ヶ月追跡時点の症候性虚血性脳卒中またはTIA(一過性脳虚血発作)発生率は、少なくとも数値上は、用量と逆相関していた。

    今回のOCEANIC-AF初発予防試験は心房細動で脳梗塞のリスクが高い患者18000人を組入れて脳卒中/全身性塞栓症のリスクや大出血のリスクをBMS/ファイザーのEliquis(apixaban)と比較した非劣性検定試験。日本の施設も参加した。安全性は過去の試験と同様であった由なので、予防効果が期待以下だったのだろう。

    続行するOCEANIC-STROKE再発予防試験は非心原性虚血性脳卒中または高リスクTIAを発症してから72時間以内の9300人を組入れて、虚血性脳卒中、そして大出血のリスクを偽薬と比較している。三本目のOCEANIC-AFINA試験は65歳以上の高リスク心房細動で、経口抗凝固剤が不適な患者を組入れて効果や安全性を偽薬と比較する予定。一言でいえば、実薬対照試験は打ち切りになったがunmet medical needに応えるべき偽薬対照試験は継続する。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    ヤンセン、二重特異性抗体の化学療法併用法を追加申請
    (2023年11月20日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは米国でEGFR・MET二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)をEGFRにエクソン19欠損またはL858R置換を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌に適応拡大申請した。Tagrisso(osimertinib)による治療歴を持つ患者にcarboplatin及びpemetrexedと併用する。第3相MARIPOSA-2試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が6.3ヶ月とRybrevantの代わりに偽薬を用いた群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.48だった。全生存期間の解析は未成熟だが、ハザードレシオの点推定値は0.77だった。深刻な有害事象の発生率は32%対20%で上回った。

    この試験では第3世代EGFR阻害剤JNJ-73841937(lazertinib)と4剤併用する群も設定されており、組入れは3剤併用群だけ半数に留められていたことから考えれば、本命は4剤併用だったと推測されるが、今回の申請には含まれなかったようだ。PFSのメジアン値は8.3ヶ月、2剤併用群比ハザードレシオは0.44で統計的に有意だったので数値は悪くないが、3剤併用と見比べてハザードレシオが大きくは変わらないことや、未成熟とは言え全生存のハザードレシオが0.96であること、そして、深刻有害事象発生率が52%であることなどを考慮したのかもしれない。あるいは、単に準備が整わなかっただけかもしれない。

    Rybrevantは21年に欧米で承認。白金薬による治療歴を持ちEGFRにエクソン20挿入変異のある転移性非小細胞性肺癌に単剤投与する。市販後薬効確認試験のPAPILLON試験が成功、本承認切替や新患患者にcarboplatin及びpemetrexedと併用する一部変更を申請中。

    リンク: JNJのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    アベクマの早期使用承認が不透明に
    (2023年11月20日発表)

    2seventy bio(Nasdaq:TSVT)と開発販売パートナーのブリストル マイヤーズ スクイブはAbecma(idecabtagene vicleucel)を承認用法より早い段階で用いる一変申請を行い、日本では薬食審再生医療等製品・生物由来技術部会が効能追加を了承したところだが、米国は審査期限の12月16日には間に合わないとの通知を受けた。腫瘍学諮問委員会に上程が決まったため。招集は12月下旬以降、審査結果がまとまるのはその1ヶ月以上後だろうから、2月以降に持ち越される可能性が高い。急に諮問が決まったことから想像すれば、審査の途中で何らかの懸念材料が浮上したのではないか。

    AbecmaはBCMAを標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法。今回の申請は3種類の作用機序の治療薬すべてを含む2~4次治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治/再発多発骨髄腫を適応に追加するもの。エビデンスとなる第3相KarMMa-3試験では、PFS(無進行生存期間、独立委員会評価)のメジアン値が13.3ヶ月と標準治療群(5種類のレジメンから医師が選択)の4.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.49だった。全生存期間の解析は未成熟だが、死亡率は30%対26%で上回った。原因による内訳を見ると癌の進行や有害事象によるものは大差ないが、「死」としか報告されていないものが3.5%対0.2%となっているのが注目される。一方、致死的な有害事象の発生率は14%対6%で上回り、治療時発現有害事象によるものだけに絞っても2.7%対0.8%となっており、薬が原因とは断定できないにしても、有害事象に偏りがあることは軽視できないだろう。。

    現在の適応は、米国では3クラス全てを含む4次治療歴。エビデンスとなった試験は3次以上の治療歴を持つ患者を組入れたが、欧日と異なり、FDAは被験者の88%を占めた4次治療歴を持つ患者に限定した。

    リンク: BMSのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
    23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
    23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
    23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)←遅延へ
    23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
    23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期される?
    23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
    23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
    23/12/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
    23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
    23/12/27MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)



    今週は以上です。

    2023年11月18日

    第1129回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • バイエル、PI3K阻害剤の承認を返上へ 
    • 第二の神経線維腫用薬を承認申請へ 
    • イミフィンジのステージ3NSCLC試験がフェール 
    • リフヌアは米国では支持されず
    • AKT阻害剤が一部の乳癌に承認 
    • イクスタンジが高リスクHSPCに適応拡大 
    • CRISPR技術の薬が英国で世界初承認 
    • キイトルーダがher2陰性の胃癌等にも承認 
    • 中心静脈カテーテル用抗微生物薬が承認 
    • BMSのROS1陽性NSCLC用薬も承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    バイエル、PI3K阻害剤の承認を返上へ
    (2023年11月13日発表)

    バイエルはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤Aliqopa(copanlisib)の米国における販売承認申請を自主的に撤回すべくFDAと協働する考えであることをプレスリリースで正式公表した。6年前に2種類以上の全身性治療歴を持つ成人の再発濾胞性リンパ腫用薬として加速承認されたが、市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる効果が見られなかった。同薬は中国と台湾でも承認されているが、EUはCHMPが懐疑的で申請撤回を余儀なくされた。

    PI3K阻害剤では加速承認後の市販後薬効確認試験フェールが相次いでいる。Aliqopaの場合、加速承認のエビデンスとなった第2相単群試験で良好なORR(客観的反応率)と反応持続性を示し、市販後に完了したCHRONOS-3試験ではrituximabに追加するとメジアンPFS(無進行生存期間)を半年ほど伸ばせることが明らかになったが、同試験の全生存期間の解析はフェールし、適応拡大申請は見送られた。更に、今回、rituxanなどによる1~3次治療歴を持つ難治性緩徐進行非ホジキンリンパ腫を組入れたCHRONOS-4試験で、rituxan-bendamustine併用レジメンあるいはR-CHOP多剤併用レジメンに追加してもPFS延長効果が見られなかった。

    効果のない薬の臨床試験がフェールするのは珍しくないが、効果のある薬なら必ず成功するとも限らない。Never give upが重要だが、PI3K阻害剤はORRが意味のある延命と必ずしもリンクしないことがかなり明確になってきたので、セカンド・チャンスやサード・チャンスを貰うのは難しい。他社の先行事例を見ても、承認返上は已むを得ないとことだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【新薬開発】


    第二の神経線維腫用薬を承認申請へ
    (2023年11月16日発表)

    米国のSpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)はmirdametinibの後期第2相ReNeu試験がポジティブな結果になったと発表した。2歳以上の切除不能神経線維腫症1型関連叢状神経線維腫(NF1-PN)に2mg/m2(最大4mg)を一日二回、28日サイクルで21日反復経口投与したところ、小児におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が52%、成人では41%、メジアン反応持続期間は未到達、メジアン投与期間はどちらも22ヶ月となった。ORRの判定基準は腫瘍量が96週内に20%以上減少すること。悠長だが、過去の試験で1年以上経ってから基準達成する症例もあったことから、追跡期間を投与開始後8ヶ月ではなく約22ヶ月に設定した経緯がある。

    G3以上の治療関連有害事象発生率は各25%と16%。同社は24年上期に承認申請する考え。

    NF1はMAPK経路のサプレッサーであるニューロフィブロミンの遺伝子の常染色体性優性遺伝性疾患。米国の罹患者は推定10万人。症状は区々だ。20~22年に米欧日でアストラゼネカのMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)が承認された。mirdametinibもMEK1/2阻害剤で会社側は忍容性面でKoselugoを凌ぐことを期待している。SpringWorksは17年にファイザーからmirdametinibなど希少難病領域のパイプラインを継承して設立された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    イミフィンジのステージ3NSCLC試験がフェール
    (2023年11月14日発表)

    アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相PACIFIC-2試験がフェールしたことを明らかにした。切除不能なステージIII非小細胞性肺癌(NSCLC)328人を組入れて、根治的白金薬ベース化学放射線療法(CRT)と同時に4週毎投与し、その後も癌が進行するまで維持投与したが、PFS(無進行生存期間)が偽薬を同時投与・維持投与した群と大差なかった。

    ImfinziはステージIIINSCLCでCRTに反応/疾病安定化した患者の維持療法として承認されている。上記試験が成功すれば早い段階で、より多くの患者に用いることができるはずだったが、課題持越しとなった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    リフヌアは米国では支持されず
    (2023年11月17日報道)

    FDAは肺・アレルギー用薬諮問委員会を招集し、MSDが成人の難治/説明不能な慢性咳嗽の治療薬として承認申請した末梢作用性選択的P2X3受容体アンタゴニスト、Lyfnua(gefapixant)について意見を聞いた。12人対一人という圧倒的多数が、薬効に懐疑的なFDAの評価を支持した。日本で22年1月に、EUでも今年9月に承認を取得したが、米国は難しそうだ。審査期限は12月27日。

    第3相試験では英国のVitalograph社のVitaloJAK咳モニターを用いて最大24時間連続で咳嗽を録音、無音部分や雑音部分を圧縮した上で、人が咳の回数を数えた。この胸部センサーとマイクを有する機器はFDAの510(k)認証を得ているが、MSDは独自のディバイスと圧縮アルゴリズムを採用したため、FDAは一巡目の承認審査でバリデーションが不十分と見なし、咳のカウント方法にも注文を付け、更に臨床的な便益についても疑問を持ち、審査完了通知を発出した。MSDは追加的分析を提出、二巡目に入った。FDAは、改訂されたデータに基づいて、治療効果が限定的で臨床的な便益があるかどうか不明と再び主張した。

    主評価項目の解析はログ変換値を用いて実施されたが、理解しやすい生データのメジアン値に注目すると、COUGH-2試験ではベースライン値の20回/時前後から45mg群は9.8回/時減少したのに対して偽薬群は8.7回/時減少と、差は1回程度に過ぎない。COUGH-1試験ではベースライン(試験薬群は20.9回/時、偽薬群は26.1回/時)比で各10.5回/時と8.9回/時減少と、ここでも1~2回程度の差に過ぎない。

    結局のところ、偽薬効果というノイズが大きすぎて試験薬の有難さがぼやけてしまった憾みがある。

    ロシュのスピンアウトであるAfferent Pharmaceuticalsを16年に買収して入手したコンパウンド。

    リンク: Fierce Biotechの報道

    【承認】


    AKT阻害剤が一部の乳癌に承認
    (2023年11月17日発表)

    FDAはアストラゼネカのTruqap(capivasertib)を成人のホルモン受容体陽性her2陰性局所進行/転移乳癌用薬として承認した。PIK3CA、ATK1、またはPTENに変異を持ち、転移後に一次以上の内分泌療法を施行した後に進行、または切除術後付随療法が完了してから12ヶ月内に再発した癌が適応になる。選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレータであるFaslodex(fulvestrant)と併用する。上記変異の有無を検査するFoundationOne CDxアッセイも承認された。日欧でも承認申請中。

    エビデンスとなる第3相CAPItello-291試験では共同主評価項目である上記変異を持つサブグループ(n=289)でも、全ユニバース(n=708)でも、PFS(無進行生存期間、担当医評価)が有意に伸びた。前者のメジアン値は7.3ヶ月、Faslodex・偽薬併用群は3.1ヶ月、ハザードレシオは0.50、全ユニバースの数値は各7.2ヶ月、3.6ヶ月、0.60であったため、アストラゼネカは全ユニバース向けに申請したが、FDAはサブグループに限定した。レーベルによると、上記変異を持たない313人ではハザードレシオ0.79(95%信頼区間0.61-1.02)で、効果がないとも言い難い数値だ。FDAが限定した理由は明らかではないが、ORRやPFSが必ずしも全生存期間とリンクしないPI3K阻害剤の連想かもしれない。Truqapの標的であるATKはPI3Kの川下に位置していて、適応がTruqapとオーバーラップするノバルティスのPiqray(alpelisib)はPI3Kアルファ阻害剤である。

    あるいは、変異陰性サブグループの全生存期間のデータがあまり有望ではないのかもしれない。PFSの解析が実施された段階では未成熟とのことで、全ユニバースのデータすら公表されていないが...

    第一三共/アストラゼネカのEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)が承認されて以来、her2陰性の定義が複雑/曖昧になっている。本剤の適応範囲もFDAは下記リリースでher2陰性と呼んでいるがアストラゼネカはher陰性/低発現と一部食い違っているが、レーベルの上記試験成績の欄では括弧書きでher2低発現も含むことを明記しており、実際には食い違いはない。

    Truqapは05年にAstex(13年に大塚製薬が子会社化)と結んだ創薬提携の成果。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: アストラゼネカのプレスリリース


    イクスタンジが高リスクHSPCに適応拡大
    (2023年11月17日発表)

    アステラス製薬は、Xtandi(enzalutamide)を未だ転移していない、去勢療法にも抵抗性が生じていない段階の前立腺癌に単剤、またはアンドロゲン除去療法剤と併用投与することがFDAに承認されたと発表した。根治的前立腺全摘/放射線療法後にPSA値が9ヶ月間以内に倍増するなど、生化学的再発(BCR)リスクが高い患者が適応になる。第3相EMBARK試験で、併用群の5年MFS(無転移生存)が83.5%とleuprolide・偽薬並行群の71.4%を上回り、ハザードレシオは0.42。Xtandi単剤群もハザードレシオ0.63だった。MFS解析時点では全生存のデータは未成熟だったが、数値自体は良好と報じられている。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)


    CRISPR技術の薬が英国で世界初承認
    (2023年11月16日発表)

    CRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)とパートナーのVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、Casgevy(exagamglogene autotemcel)が英国で鎌状赤血球病とベータ・サラセミアの治療薬として承認されたと発表した。12歳以上の、造血幹細胞移植が適応になるがHLA型がマッチするドナーが見つからない、鎌状赤血球病の場合は特定の遺伝子型を持ち血管閉塞性クリーゼを繰り返す患者が、適応になる。鎌状赤血球病の試験では評価可能29人中28人において12ヶ月以上に亘り重度疼痛クリーゼが発生しなかった。ベータ・サラセミアでは42人中39人が12ヶ月以上の間、赤血球輸血が不要だった。残り3人も7割減少した。有害事象は造血幹細胞移植と似ていた。

    CRISPR社はCRISPR/Cas9遺伝子編集技術の発明者の一人として20年にノーベル化学賞を受賞したEmmanuelle Charpentierらが設立した会社で、今回、同技術に基づく医薬品が世界で初めて承認された。ヘモグロビンの欠乏を補うために、患者から採取したCD34陽性細胞をCRISPR/Cas9編集し、胎児期や新生児期にだけ発現する胎生ヘモグロビン(HbF)の転写抑制因子であるBCL11A遺伝子を切断・改変した上で患者に戻すもの。赤血球機能が十分に発揮されるようになるまで移植後1ヶ月ほど入院する。

    米国やEUでも承認申請中。

    リンク: MHRA(英国の承認審査機関)のプレスリリース
    リンク: 両社のプレスリリース


    キイトルーダがher2陰性の胃癌等にも承認
    (2023年11月16日発表)

    FDAはKeytruda(pembrolizumab)を成人のher2陰性で局所進行切除不能/転移性の胃/胃食道接合部腺腫に用いることを承認した。fluoropyrimidine系及び白金系の化学療法薬と併用する。KeyNote-859(1次治療試験)の中間解析でメジアン生存期間が12.9ヶ月と偽薬併用群の11.5ヶ月を若干上回り、ハザードレシオは0.78だった。15%の患者が有害事象によりKeytrudaの投与を永続的に中止した。

    CPS(腫瘍や免疫細胞におけるPD-L1発現評価スコア)が1未満のサブグループにおけるハザードレシオは0.92と見劣りするためか、EUのCHMPは10月にCPS≧1に限定して肯定的意見を出したが、FDAは限定しなかった。

    her2陽性患者に用いることは一足早く21年に加速承認されたが、その後の追跡でCPS≧1以上のサブグループにしかPFS延長効果が見られなかったため、適応範囲が縮小され、EUでもCPS≧1限定で承認された経緯がある。

    リンク: FDAのプレスリリース


    中心静脈カテーテル用抗微生物薬が承認
    (2023年11月15日発表)

    米国のCorMedix(Nasdaq:CRMD)は、FDAがDefencath(taurolidine、heparin)を承認したと発表した。腎不全患者に中心静脈カテーテルによる慢性透析を施行する場合、終了後にヘパリンを注入して次回施行までの間に血栓ができるのを防ぐが、抗微生物薬も投与することにより、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を抑制する。806人を組入れた第3相試験の中間解析でヘパリン注入群と比べてリスクが72%小さかった(p=0.0034)。有害事象はカテーテル機能不良、出血、悪心嘔吐など。

    20年にローリング承認申請を完了したが、生産委託先やヘパリン調達先が査察時に指摘事項を受け、審査完了通知を二回受領したが、やっと承認に漕ぎ着けた。

    the 21st Century Cures Actで導入されたLPAD(Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugs)に基づく承認。適応を限定することを条件に小規模な臨床試験に基づく承認申請を認めるもので、18年に難治性非結核性抗酸菌症性肺炎用薬として承認されたインスメッドのArikayce(amikacin)、19年に高度抵抗性肺結核用薬として承認されたGlobal Alliance for TB Drug DevelopmentのPretomanid(pretomanid)に続く第3号。806人は小規模ではないように感じるが、他の要件が一部簡略化されているのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    BMSのROS1陽性NSCLC用薬も承認
    (2023年11月15日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがAugtyro(repotrectinib)を成人の局所進行/転移ROS1陽性非小細胞性肺癌用薬として承認したと発表した。22年にTurning Point Therapeuticsを41億ドル(エクイティ・バリュー・ベース)で買収して入手した経口大環状ROS1チロシン・キナーゼ阻害剤で、160mgを最初の14日は一日一回、その後は二回、経口投与する。

    第1/2相試験で類薬を未経験の71人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が79%(完全反応率は6%)、メジアン反応持続期間34ヶ月、1剤経験し化学療法未経験の56人では各38%(同5%)、14ヶ月だった。主な有害事象は眩暈、末梢ニューロパチー、便秘、呼吸困難、運動失調など。致死的有害事象の発生率は4%で、肺臓炎や心停止など。

    リンク: 同社のプレスリリース


    lebrikizumabがEUでは承認された
    (2023年11月17日発表)

    スペインのAlmirall(BME:ALM)は、EUがEbglyss(lebrikizumab)を年齢12歳以上、体重40kg以上の小児と成人の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認したと発表した。最初の2回は500mg、その後は250mgを皮下注し、二週毎に16週間反復した第3相試験でEASI75達成率が偽薬を有意に上回った(ADvocate 1試験では59%対偽薬群16%、ADvocate 2では51%対18%)。共同主評価項目であるIGA奏効率も有意に上回った(同じく43%対13%と33%対11%)。

    抗IL-13抗体で、ロシュから権利を取得したDermiraが19年に欧州での権利を導出したもの。米国では20年にDermiraを買収したイーライリリーが承認申請したが、生産委託先が査察指摘事項を受け、10月に審査完了通知を受領した。

    リンク: Almirallのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
    23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
    23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
    23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)
    23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
    23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期される?
    23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
    23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
    23/12/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
    23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)


    今週は以上です。

    2023年11月12日

    第1128回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • AHA:ウゴービの心血管アウトカム試験成績が発表 
    • バイエル、PI3K阻害剤の承認を自主返上か 
    • BTK阻害剤を蕁麻疹に承認申請へ 
    • イミフィンジ、肝癌のTACE併用試験が成功 
    • ブレヤンジをCLL/SLLに適応拡大申請 
    • CHMP、GSKのJAK阻害剤などの承認を支持 
    • チクングニア熱ワクチンが初めて承認 
    • 武田薬品の二剤が米国で承認 
    • イーライリリーの二型糖尿病薬も肥満症に実質的適応拡大 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    AHA:ウゴービの心血管アウトカム試験成績が発表
    (2023年11月11日発表)

    2020年代のスーパースター、GLP-1作用剤の肥満症心血管アウトカム試験の結果がAHA(米国心臓協会)科学部会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。ノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)のSELECT試験に関するもので、トップラインは8月に発表済み。同社は欧米でレーベル収載申請した。

    本試験は45歳以上でBMIが27kg/m2以上、且つ心血管疾患を持つ17604人を偽薬群とWegovy群に無作為化割付けして平均40ヶ月追跡し、MACE(主要有害心血管事象:心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中)の発生リスクを比較した。semaglutideはやや低用量が二型糖尿病用薬Ozempicとして販売されているが、本試験では糖尿病患者は除外された。

    結果は、ハザードレシオ0.80、p<0.001、と良好な結果になった。発生率は偽薬群が8.0%、試験薬群は6.5%なので、66人に4年間投与すると一人をMACEから救うことができる計算になる。

    有害事象による投与中止率は各8.2%と16.6%。胆嚢障害の発生率は各2.3%と2.8%。膵炎や自殺の増加は見られなかった。

    過去の肥満症薬は、肺動脈高血圧や不整脈が増えたり、心血管アウトカム試験で効果がなかったり自殺や未遂が増えたりして、散々だったことを考えると、大きな前進だ。但し、このような試験は多くの除外条件が設けられるので、現実の医療では効果は低下し副作用は増えると覚悟すべきだ。また、一人をMACEから救うのに必要な薬剤費(米国のリスト・プライスで計算)は350万ドル超と聞くと、急に眉を顰める人が増えそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    バイエル、PI3K阻害剤の承認を自主返上か

    一部報道によると、バイエルはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤Aliqopa(copanlisib)の米国における販売承認を自主返上する考えだ。17年に2種類以上の治療歴を持つ濾胞性リンパ腫に加速承認されたが、市販後薬効確認試験である第3相CHRONOS-4試験(rituximabを含む1~3次治療歴のある患者を組入れて、R-BまたはR-CHOPレジメンに追加する便益を検討)がフェールしたとのこと。CHRONOS-3試験(rituximabに反応/安定化後に進行した患者にrituxuimab再開する時に追加)では主評価項目のPFSは有意に改善したが全生存期間では有意差が出ず2年生存率は86%と偽薬追加群の90%より見劣りした。

    PI3K阻害剤は多くの新薬が加速承認されたが、安全性懸念が浮上したり、市販後薬効確認試験がフェールしたり、期待を裏切るニュースが陸続している。Aliqopaよ、お前もか!

    【新薬開発】


    BTK阻害剤を蕁麻疹に承認申請へ
    (2023年11月9日発表)

    ノバルティスはLOU-064(remibrutinib)の第3相慢性特発性蕁麻疹試験が二本とも成功したと8月に発表したが、トップライン・データが明らかになった。H1ブロッカーに十分応答しない患者に25mgを一日二回、12週間に亘り経口投与して、UAS7(週次蕁麻疹活動性スコア)の変化を調べたところ、一本では20.1点(偽薬群は13.8点)、もう一本では19.6点(同11.7点)減少し、偽薬比有意な差があった。有害事象全体や、BTK阻害剤でしばしば見られる肝機能検査値異常は偽薬並みだった。

    24年に承認申請する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    イミフィンジ、肝癌のTACE併用試験が成功
    (2023年11月9日発表)

    アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相肝細胞腫試験、EMERALD-1の成功を発表した。塞栓術が適応になる切除不能肝細胞腫616人を組入れて、TACE(肝動脈化学閉塞療法)にImfinziを追加する効果を検討したところ、維持療法期にbevacizumabも採用した群のPFS(無進行生存期間)が偽薬追加群より統計的に有意な、そして臨床的に意味のある、延長を示した。副次的評価項目である全生存期間を検討するため治験は続行している。尚、同じく副次的評価項目であるImfinziだけ追加した群の成否は明らかではない。

    Imfinziは切除不能肝細胞腫では抗CTLA4抗体Imjudo(tremelimumab-actl)と二剤併用することが承認されている。進行中の第3相では、切除術付随療法としてbevacizumabと併用したり、TACE適合肝細胞腫にImfinzi、Imjudo、エーザイのlenvatinibを併用する手法も検討中。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    ブレヤンジをCLL/SLLに適応拡大申請
    (2023年11月9日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブは、Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)を難治再発慢性リンパ性白血病や小リンパ急性リンパ腫に用いる一部変更申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査だが、審査期限は来年3月14日とのこと。TRANSCEND試験でbcl-2阻害剤による治療歴を持ちBTK阻害剤に反応しなかった患者49人に投与したところ、CR(完全反応率、独立評価委員会査読)が18%、反応持続期間はメジアン未達(メジアン21ヶ月追跡時点)。ORR(客観的反応率)は42.9%だった。CAR-T療法につきもののサイトカイン放出症候群の頻度はG3が8.5%、G4以上はゼロ、G3/4神経学的イベントの発生率は18.8%だった。

    リンク: BMSのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    CHMP、GSKのJAK阻害剤などの承認を支持
    (2023年11月10日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    GSKのOmjjara(momelotinib)は成人の中重度貧血症を伴う骨髄線維症患者における脾腫などの症状を治療する。JAK1/2だけでなくACVR1も阻害するせいか、骨髄線維症でしばしば発現し、既存のJAK阻害剤を投与するとしばしば増悪する、貧血症のリスクが小さいことが長所。効果自体は既存薬と大差なさそうだ。米国では9月にOjjaara名で承認、日本でも承認申請中。昨年、Sierra Oncologyを買収して権利を取得したもの。

    リンク: EMAのプレスリリース

    UCBのRystiggo(rozanolixizumab)は皮下注用抗ヒト胎児Fc受容体抗体。標準療法を受けている成人の抗AChR/MuSK抗体陽性全身性重症筋無力症患者に追加投与する。米国では6月に、日本では9月に承認された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    NovartisのSpexotras(trametinib)はMEK1/2阻害剤。1歳以上の患者のBRAF V600E変異のある低/高グレード神経膠腫に同社のBRAF阻害剤Finlee(dabrafenib)と併用する。Finleeのほうは9月に肯定的意見を得ているが、Spexotrasはなぜか2ヶ月遅れとなった。製品名は今回初めて聞いたが、遅延と何か関係があるのかもしれない。米国では前者はMekinist名、後者はTafinlar名で販売されているが、欧州は用途などに応じて二つの製品名を使い分けている様子だ。

    リンク: EMAのプレスリリース

    Mirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)のKrazati(adagrasib)はKRAS G12C阻害剤。KRAS G12C置換のある進行非小細胞性肺癌に単剤投与する。条件付き承認なので別途、薬効を確認する必要がある。

    7月に否定的意見を受けたが、今回、肯定的意見に変更された。理由はCHMPの説明文を読んでも良く分からない。否定的意見を出した時は条件付き承認の要件であるunmed medical needを充足していないと記していたが、今回のQ&A資料を読むと、22年に条件付き承認されたアムジェンの類薬、Lumykras(sotorasib、米国名Lumakras)の市販後薬効確認試験、CodeBreaK 200の成績が前回の判断に影を落としていたように感じられる。Krazatiの単群試験と同様にORRが良好で、主評価項目のPFSはdocetaxel群を有意に上回ったが、メジアン値の差は1ヶ月余と小さかった。また、全生存期間は大差なく、検出力不足であるにしても、実薬より大きく優れるとは言い難いものだった。このため、FDAも、10月に上程されたFDA諮問委員会も、便益が確立したとは言えないと受け止めた。薬がフェールしたというよりは治験がフェールしただけという見方が多かったようだったが、本当にそうなのか、改めて試験しなければ分からない。もし既存薬と同程度なら、unmet medical needに応える薬とは呼べない。

    今回、CHMPが意見を変えたのは、腫瘍学のエキスパートの意見などを求めた上で、KrazatiはLumykrasの類薬だが違った点もあるのでCodeBreaK 200試験の結果に配慮する必要は必ずしもないと考え直したためとのこと。あいまいな説明だ。

    リンク: EMAのプレスリリース
    リンク: Q&A資料(pdf)

    一方、ノバルティスがPROS(PIK3CA関連過成長症候群)の治療薬として承認申請したPI3K阻害剤Vijoice(alpelisib)は、申請撤回となった。米国では昨年4月に承認されたが、CHMPは、臨床的便益が明確でないこと、様々なサブタイプのうち一つにしか作用が見られないこと、成長・発達に与える影響など長期的な安全性が確認されていないことなどから、後ろ向きに評価していた。エビデンスは前向き無作為化割付け対照試験ではなく、Compassionate Use Programに則り人道的な観点から適応外投与が行われた約40人の後顧的チャート・レビューなので、評価が分かれても不思議はない。

    尚、活性成分はPiqray名でPIK3CA変異などを持つ転移性乳癌に欧米で承認されている。

    リンク: EMAのプレスリリース

    適応拡大に関する肯定的意見は以下の通り。

  • Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)のAyvakyt:成人の緩徐全身性肥満細胞腫。KITやPDGFRの阻害薬で、進行性肥満細胞腫やPDGFR変異陽性切除不能/転移消化管間質腫瘍に承認されている。
  • MSDのKeytruda(pembrolizumab):成人の局所進行性切除不能/転移胆管腫瘍の一次治療としてgemcitabine及びcisplatinと併用する。
  • イーライリリーのMounjaro(tirzepatide):肥満症や高リスクオーバーウェイトの体重管理に用いるGIP/GLP-1受容体作動剤。米国では別名販売されるがEUでは二型糖尿病薬の適応拡大という扱いになるようだ。
  • ファイザーのTalzenna(talazoparib):成人の転移性去勢抵抗性前立腺癌(但し化学療法が不適な場合に限る)。同社のXtandi(enzalutamide)と併用する。臨床試験のサブグループ・データが一貫しなかったせいか、限定が付いた。米国ではHRR(相同組換え修復)不全に限定で承認された。PARP阻害剤で、最初の適応であるBRCA変異乳癌でも、EUと米国の適応範囲が若干異なっていた。

  • 尚、イプセン・グループのAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)の局所作用性回腸胆汁酸輸送体阻害剤Bylvay(odevixibat)は、7月のCHMPでアラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒に適応拡大することが支持されたが、10月に申請撤回された。希少疾患用薬指定の打切りが決まったことが原因のようだ。21年に進行性家族性肝内胆汁鬱滞症用薬として承認され、希少疾患用薬指定もされているが、アラジール症候群における希少疾患用薬指定が外されると国によっては保険還付に影響するため、アラジール症候群用薬を別ブランドとして改めて承認申請する考え。

    【承認】


    チクングニア熱ワクチンが初めて承認
    (2023年11月9日発表)

    FDAは、スイスのValneva(Nasdaq:VALN、Euronext Paris: VLA)が開発したチクングニア熱の弱毒化生ワクチン、Ixchiqを加速承認した。チクングニア・ウイルスに曝露するリスクが高い18歳以上に一回、筋注する。免疫原性試験で28日後の防御的中和抗体獲得率が98.5%、半年後でも96%だった。市販後薬効確認試験はブラジルで行われている12歳以上の第3相試験に加えて、別のエンデミック地域でプラグマティックな無作為化割付け対照試験を実施する必要がある。

    審査期限は8月だったが、市販後薬効確認に関して合意が遅れた模様で、延期された。今回、重度チクングニア様有害事象が1.6%で発現したことも明らかになった(偽薬群はゼロ)。入院例や30日以上持続した症例もあった模様で、市販後監視対象に組み込まれた。

    チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症。熱帯・亜熱帯地域に多いが米国や日本でも散見されるようになった。死亡率は高くない。

    リンク: FDAのプレスリリース


    武田薬品の二剤が米国で承認
    (2023年11月9日発表)

    武田薬品が米国で承認申請した新薬二品が米国で承認された。一つはAdzynma(ADAMTS13, recombinant-krhn)。成人小児のcTTP(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)の治療や予防的投与に用いる。cTTPではvon Willebrand因子(VWF)の切断酵素であるADMTS13が欠乏しVWFの重合体が微小血管で血栓を形成、溶血性貧血や虚血性障害、血小板減少症などをもたらす。AdzynmaはADMTS13の補充療法。19年に買収したシャイアがその3年前に合併したBaxaltに起源を持つ。

    リンク: FDAのプレスリリース

    Fruzaqla(fruquintinib)はVEGFR1/2/3阻害剤。成人の転移性結腸直腸癌のサルベージ療法で、代表的な治療薬であるfluoropyrimidine、oxaliplatin、及びirinotecanの全てとVEGF阻害剤、そして使用が適切な場合はEGFR阻害剤の治療歴を持つ患者っ適応になる。5mgを28日サイクルで21日反復投与し7日間休む。Lonsurf(trifluridine/tipiracil)やregorafenibにも不応不耐の患者を組入れた第3相FRESCO-2試験でメジアン生存期間が7.4ヶ月と偽薬群の4.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.66だった。中国のHutchmed(Nasdaq:HCM、和黄医薬)から中国香港マカオ以外の地域での権利を取得したもの。欧日でも承認申請中。

    リンク: 武田のプレスリリース(和文)


    イーライリリーの二型糖尿病薬も肥満症に実質的適応拡大
    (2023年11月8日発表)

    FDAはイーライリリーのZepbound(tirzepatide)を体重管理薬として承認した。肥満症(BMIが30kg/m2以上)、または肥満関連疾病(高血圧症、二型糖尿病、高脂血症、閉塞性睡眠時無呼吸、心血管疾患など)を持つオーバーウェイト(同27~29kg/m2)が適応になる。低カロリー・ダイエット及び運動療法に追加する。

    食欲や胃腸における食物吸収などを抑制するGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)/GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体アゴニスト。22年に米日欧で二型糖尿病薬として承認されたMounjaroの別ブランドで、どちらも、2.5mg週一回皮下注で開始して、それぞれ4週以上空けて、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgと増量していく。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、便秘、腹痛など。

    GLP-1作用剤のクラス警告である、齧歯類における甲状腺C細胞腫(ヒトにおける甲状腺髄様腫に該当)所見や、甲状腺髄様腫歴/家族歴あるいは多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)における禁忌が枠付き警告されている。膵炎の患者における安全性や有効性は検討されていない。妊娠したら中止する。同時使用すると経口避妊薬の効果が低下する虞がある。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: イーライリリーのプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
    23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
    23/11/27BMSのrepotrectinib(ROS1陽性非小細胞性肺癌)
    23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
    23/12/8 Vertex/CRISPR TherapeuticsのCTX-001(exagamglogene autotemcel、鎌状赤血球病)
    23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)
    23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
    23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期される?
    23/12/20bluebird bioのbb1111(lovotibeglogene autotemcel、鎌状赤血球症)
    23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
    23/12/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
    23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
    諮問委員会
    23/11/16ODAC:Acrotech BiopharmaのPTCL用薬二剤、Folotyn(pralatrexate)とBeleodaq(belinostat)の市販後薬効確認が遅延している件
    23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)



    今週は以上です。