2022年12月30日

第1083回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19が死因の第7~8位に 
  • ファイザーのB型血友病遺伝子療法も第3相が成功 
  • デスモイド腫瘍用薬を承認申請 
  • Ardelyx、テナパノルの再承認申請に向けて相談へ 
  • 骨化性線維異形成症用薬の承認はお預け 
  • またまた抗CD20抗体が多発硬化症に承認 


【今週の話題】


COVID-19が死因の第7~8位に

COVID-19による死亡者数は12月に入って大きく増加、29日時点で7004人と8月の7295人を超える勢いだ。前年12月は行動自粛が効いて33人に留まったため前年同期比200倍以上の増加、一昨年比でも5~6倍に増えている。新規感染者数に対する比率は0.1~0.2%と、アルファ株やベータ株の流行時より低下しているが、感染者数が前年12月の約700倍、一昨年の約50倍に増えた。

年間では4万人近くになりそうで、日本人の死因としては「不慮の事故」と並ぶ第7位か8位になりそうだ。但し、人口動態統計上はコロナによる死亡は「その他の特殊目的用コード」に分類されるため、公式な統計には出てこないかもしれない。

米国は20年も21年も数十万人が死亡し第3位だった。日本ははるかにマシだが、油断できる状況ではないことを忘れてはいけないだろう。

COVID-19は政府やメディアに利益相反が生じる。高齢者が減れば健康保険や年金の負担が軽減し、相続税が発生する一方で、所得税は、多くの場合、影響ないので、財政には好影響を与える。TV局は景気後退でスポンサー料やCM料が減るだけでなく、ドル箱である夏休みなどのイベントも打撃を受けるので、楽観論に傾きやすい。ウィズコロナを主張する論者の多くは利益相反を抱えており、当方は主張に反対するわけではないが、割り引いて聞いている。

【新薬開発】


ファイザーのB型血友病遺伝子療法も第3相が成功
(2022年12月29日発表)

ファイザーはfidanacogene elaparvovecの第3相B型血友病試験の成功を発表した。承認審査機関と相談する考え。

11月に米国で承認されたCLS/UniQureのHemgenix(etranacogene dezaparvovec-drlb)と同様な、アデノ随伴ウイルスをベクターとして高活性のPadua型第IX因子を肝細胞特異的に導入するin vivo遺伝子療法。第3相では重度または中程度に重度の患者45人を組み入れて、第IX因子の予防的投与などを継続するリードイン期間(6ヶ月以上)と、試験薬投与後12週経って第IX因子が増加してから12ヶ月間の全出血(年率)を比較した。結果は、4.43から1.3に71%減少した。Hemgenixの第3相は4.19から1.51に64%減少したので、概ね同程度だ。

治療関連の深刻有害事象は2例(コルチコステロイド使用下の十二指腸潰瘍による出血と免疫調停性肝ALT上昇)発生した。

フィラデルフィア小児病院の研究成果に基づいて13年に設立されたSpark Therapeuticと14年に結んだ提携の成果。Spark社は19年にロシュに買収された。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


デスモイド腫瘍用薬を承認申請
(2022年12月27日発表)

SpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)は米国でnirogacestatを成人のデスモイド腫瘍用薬として承認申請した。ファイザーからライセンスした選択的ガンマ・セクレターゼ阻害剤で、142人の進行性患者を組み入れて偽薬または150mgを一日二回経口投与した第3相ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザード・レシオが0.29、偽薬群のメジアン値は15.1ヶ月、試験薬群は未到達だった。cORR(確認客観的反応率)は各8%と41%。治療時発現有害事象による離脱率は各1%と20%だった。

デスモイド腫瘍は軟組織の良性と悪性の中間の希少腫瘍で、若い女性に比較的多い。試験薬群では再生産年齢の女性の75%で無月経症などの卵巣機能障害が発生した。投与中止11例では全員が、継続14例でも9例が、解消したとのことだが、命を脅かすことは少ない病気なので、便益と危険のバランスが論点になりそうだ。

SpringWorks Therapeuticsは2017年にファイザーの開発品を難病向けに開発する狙いで設立された。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Ardelyx、テナパノルの再承認申請に向けて相談へ
(2022年12月29日発表)

Ardelyx(Nasdaq:ARDX)は20年6月に米国でXphozah(tenapanor)を慢性腎疾患の高リン血症治療薬として承認申請したが、21年7月に審査完了通知を受領した。血清リン濃度低下作用が既存の薬より小さく、臨床的便益が明確でないことが影響した。しかし、今年11月に開催された心臓腎臓学諮問委員会で多数の委員の支持を獲得したこともあり、異議申し立てが成功。承認審査を担当したCRD(心臓腎臓学部門)の上位組織であるOND(新薬局)が、CRDに対してレーベルを協議するよう指示するとともに、同社に対してCRDと再申請の内容を協議するよう推奨した。

CRDに承認するよう指示した訳ではないので今後の見通しは不透明。同社の株価は、21年7月の暴落後の水準を少し上回った程度に留まっている。諮問委員が支持したのは、既存のリン結合剤は忍容しなかったり嫌がる患者が少なくないことが主因なので、でもしかドラッグ(「この薬でも良いかあ、これしか無いもんなあ」)として承認される可能性はありそうだ。

tenapanorはナトリウム水素交換輸送体3阻害剤。12年にアストラゼネカがライセンスしたが15年に返還。17年に協和キリンが日本で導入し、今年10月に製造販売承認を申請した。IBS-C治療薬Ibsrelaとして19年に米国で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


骨化性線維異形成症用薬の承認はお預け
(2022年12月23日発表)

イプセンは米国でpalovaroteneをFOP(進行性骨化性線維異形成症)に伴う異所性骨化を抑制する薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。10月に臨床試験データを追加提出するよう求められたことが関係している模様だが、具体的な論点や指摘事項は明らかではない。

19年に買収したClementia Pharmaceuticalsがロシュからライセンスして開発した経口レチノイン酸受容体(RAR)ガンマ・アゴニスト。開発は波乱万丈で、第3相試験は20年に独立データ監視委員会が中間解析で無益認定したが、元々の解析計画に問題があったらしく、14歳以上の患者に限定して再開、新規異所性骨化体積が自然歴比1/3程度という好ましい結果が出た。一方で、筋骨格の形成が未成熟な患者の27%で骨端線早期閉鎖が発現するリスクも表面化した。

イプセンは21年に承認申請したが、臨床試験データの追加分析や評価を求められ、8月に撤回。22年6月に再申請が受理されたが、再び追加データを要求された。EUでも21年に申請したが、今年6月に照会事項に回答したところ。一方、カナダやUAEでは承認された。

類薬ではロシュのRARアルファ/ベータ/ガンマ・アゴニストRoaccutan(isotretinoin)がニキビ治療薬として用いられていたことがあるが、催奇性や鬱病、自殺思慮・施行などの懸念などから、多くの国で販売中止された。palovaroteneにも同様な懸念があるかどうかは不明。

リンク: イプセンのプレスリリース

【承認】


またまた抗CD20抗体が多発硬化症に承認
(2022年12月28日発表)

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)はFDAがBriumvi(ublituximab-xiiy)を再発型多発硬化症用薬として承認したと発表した。フコース抑制処理を施した抗CD20キメラ抗体で、近年米国で承認された多発硬化症用薬と同様に、再発寛解型だけでなく初めて発作を経験したclinically isolated syndrome型や活性期二次進行型に用いることも承認された。

第3相試験二本では、再発率がteriflunomide比5~6割低かった。ノバルティスの抗CD20完全ヒト化抗体Kesimpta(ofatumumab)の治験成績とほぼ同じ。用法はロシュの抗CD20ヒト化抗体Ocrevus(ocrelizumab)と類似しておりコルチコステロイドと抗ヒスタミンでプリトリート、2週間おいて二回点滴静注した後は24週毎で足りる。Ocrevusは2~3.5時間かけて点滴静注するが、Briumviは初回は4時間だがその後は1時間と短いのが長所といえば長所だが、類薬よりはっきり良いとは言い難い。。

フランスのLFB Biotechnologiesからフランスとベルギー以外の地域でライセンスしたもの。同社の本命はスイスのRhizen PharmaceuticalsからライセンスしたPI3Kデルタ阻害剤Ukoniq(umbralisib)と併用で慢性リンパ性白血病の治療に充てる用途だったと推測されるが、実薬対照試験でPFS(無進行生存期間)が有意に上回ったものの全生存期間は見劣りし、併用の承認が取れなかっただけでなくUkoniq単剤の加速承認まで返上する事態になってしまった。

リンク: 同社のプレスリリース




今週は以上です。

2022年12月24日

第1082回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • her2陽性胆道癌のpivotal試験成功 
  • PDE3/4阻害剤の二本目のCOPD試験成功 
  • NASH治療薬を承認申請へ 
  • イミフィンジのNSCLC一次治療モノセラピー試験はフェール 
  • 武田、抗CMV薬の一次治療実薬対照試験はフェール 
  • 放射線療法誘導性口腔粘膜炎の予防薬を承認申請 
  • ファイザーもS1P受容体調節剤を承認申請 
  • パドセブとキイトルーダの併用を膀胱癌に承認申請 
  • ETA/B阻害剤を難治高血圧症に承認申請 
  • 和黄医薬、米国でVEGFR阻害剤を大腸癌にローリング承認申請着手 
  • PDE4阻害剤を幼小児尋常性乾癬に対象拡大申請 
  • 合成ヒペリシンをCTCLの光力学療法に承認申請 
  • ジェネンテックの抗CD20/CD3二重特異性抗体が米国でも承認 
  • カプシド阻害剤が米国でも承認 
  • アバロパラチドが高リスク骨粗鬆症の男に承認 
  • EBV性リンパ増殖性疾患の細胞療法がEUで承認 
  • レカネマブの治験で3人目の死亡例


【新薬開発】


her2陽性胆道癌のpivotal試験成功
(2022年12月21日発表)

アイルランド籍のJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)と米国デラウェア州に籍を移したZymeworks(Nasdaq:ZYME)は、ZW25(zanidatamab)のHERIZON-BTC-01試験のトップラインを公表した。pivotal試験と呼んでいるので、米国などで承認申請に向かう考えなのだろう。

治療歴のあるher2陽性(IHC法で2+または3+)胆道癌を組み入れた単群試験で、ORR(客観的反応率、独立中央評価)が41.3%(95%信頼区間30.4~52.8)、メジアン反応持続期間は12.9ヶ月だった。

本剤はher2のエピトープのうち二ヶ所に結合する抗体。Jazzは10月に米欧日などの独占開発商業化権を取得したが、今回、権利継続を決めた。判り難いが、前回の一時金は5000万ドル、今回は3.25億ドルなので、10月の合意はオプション取得と同じような意味合いなのだろう。目標達成時報奨金は承認にかかわるものが最大5.25億ドル、売上関連は最大8.62億ドル、売上ロイヤルティは10~20%となっている。

her2陽性胃食道腺腫の一次治療でもpivotal試験中。her2標的薬は少なくとも進行/転移癌に関しては第一三共/アストラゼネカのEnhertu(trastuzumab deruxtecan)のような抗体薬物複合体が主役になるのではないかと思われるが、共通の癌で治験成績が明らかになれば、優劣が明確化するだろう。

リンク: 両社のプレスリリース


PDE3/4阻害剤の二本目のCOPD試験成功
(2022年12月20日発表)

英国のVerona(Nasdaq:VRNA)はRPL554(ensifentrine)の二本目の第3相中重度COPD維持療法試験が成功したと発表した。従来の計画通り、23年上期に米国で承認申請する考え。

英国のVernalisが開発したネブライザ吸入用PDE3/4阻害剤で、同社を18年に買収した米国のLigand Pharmaceuticals(Nasdaq:LGND)がVeronaに導出した。第3相は中重度症候性COPDでLAMA(長時間作用性ムスカリン受容体拮抗剤)またはLABA(同ベータ2刺激剤)を用いている患者などを組み入れて、3mgを一日二回、24週間に亘って追加吸入する効果を偽薬追加と比較した。主評価項目のFEV1(吸入後0~12時間のAUC(曲線化面積)、12週後)は、最初に結果が出たENHANCE-2試験では偽薬比94mL改善、今回のENHANCE-1試験では87mL改善した。副次的評価項目では、吸入後0~4時間におけるピークFEV1が偽薬比146mLと147mL改善。一番重要な中重度増悪頻度は偽薬比42%減(p=0.01)と36%減(p=0.0505)で、二本目はフェールしたが、リスク削減率はそれほど違わず、二本のプール分析では40%減、p=0.0012となっている。忍容性は大きな問題はなかったようだ。

COPDは増悪時に短時間作用性気管支拡張剤で治療するが、しばしば増悪する場合はLAMAまたはLABAで予防し、それでも増悪する場合は両剤併用またはICS(吸入コルチコステロイド)を追加する。本試験の被験者は6~8割が単剤治療を受けていたので、二の矢を目指していることになる。

リンク: Veronaのプレスリリース


NASH治療薬を承認申請へ
(2022年12月19日発表)

Madrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL) は、MGL-3196(resmetirom)の第3相NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)試験で主目的を達成したと発表した。年初にNAFLD(非アルコール性脂肪肝疾患)の第3相も成功しており、23年第1四半期に肝硬変を合併していないNASHの治療薬として承認申請する考え。8月に代償性NASH肝硬変の臨床的アウトカム試験も開始しており、加速承認後の本承認切替えと適応拡大を狙う。

resmetiromは08年にVIA Pharmaceuticalsがロシュからライセンスした権利・資産を11年に買収したもの。甲状腺ホルモン受容体のうち、肝臓における脂肪やコレステロールの新生や代謝を管理するベータ型を高度選択的に作動し、アルファ型作動に伴う心臓や骨に対する副作用を回避する。

今回のMAESTRO-NASH試験は966人の患者を偽薬、80mg、または100mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付けして、ベースライン時点と52週後に生検を実施し、第3者がNASH症状や線維症の進展を評価した。主評価項目はFDAのガイダンス文書に即してNASH解消奏効率(風船様肝細胞腫大がなく、小葉炎症の評価値が0または1、NAFLD活動性スコアが2ポイント以上改善、かつ線維症は悪化せず)と線維症改善奏効率(1ステージ以上改善かつNAFLD活動性スコア悪化せず)。前者は各群10%、26%、30%、後者は14%、24%、26%となり、両用量とも偽薬比有意に上回った。副次的評価項目ではLDL-Cも偽薬群は1%上昇したが試験薬群は各12%と16%低下した。

有害事象は下痢や悪心の発生率が偽薬群より10~20パーセンテージポイント程度高かった。もっぱら軽度で、深刻有害事象の発生率は三群とも12%前後、有害事象治験離脱率は各群3.7%、2.8%、7.7%だった。

NASHの前段階であるNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の試験は主評価項目は安全性だったが、副次的評価項目である肝臓脂肪(MRI評価)が偽薬群は52週間で8%増加したのに対して80mg群は43%減、100mg群は48%低下した。

リンク: 同社のプレスリリース


イミフィンジのNSCLC一次治療モノセラピー試験はフェール
(2022年12月19日発表)

アストラゼネカはImfinzi(durvalumab)の第3相PEARL試験がフェールしたと発表した。対象患者を広げすぎたのだろう。PD-L1陽性(25%以上の腫瘍で発現)の転移非小細胞性肺癌で初めて治療を受ける患者を中国などアジアの施設を中心に組み入れて、単剤投与と化学療法の全生存期間を比べたが、全ユニバースの解析も、共同主評価項目である、新開発のアルゴリズムで早期死亡リスクが低いと判定したサブグループの解析も、フェールした。

類薬ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)による一次治療モノセラピーが承認されているが、対象となるのはPD-L1が50%以上の腫瘍で発現している癌。PEARL試験でも50%以上限定の副次的評価項目では臨床的に意味のある差が示されたとのことなので、結果論で言えば、戦場を広げすぎたのだろう。

抗PD-L1/PD-1抗体は化学療法や免疫療法薬との併用ならPD-L1陰性や低発現でも上乗せ効果がある。Imfinziの場合、10月に米国でEGFR/ALK変異のない転移非小細胞性肺癌に抗CTLA-4抗体Imjudo(tremelimumab-actl)と併用することが承認された。但し、PD-L1≧50%の癌はKeytrudaモノセラピーで十分という意見もあるので、PEARL試験のフェールは痛いことは痛いだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


武田、抗CMV薬の一次治療実薬対照試験はフェール
(2022年12月20日発表)

武田薬品はLivtencity(maribavir)の第3相AURORA試験がフェールしたと発表した。昨年11月に米国で承認された時のポスト・マーケティング・コミットメントだが、悪い内容ではなく、二次治療ではなく一次治療の試験なので、少なくとも承認取消しの可能性はなさそうだ。

オリジネーターはGSKで、03年にライセンスしたViroPharmaを13年にシャイアが買収、19年に武田に買収された。CMV(サイトメガロウイルス)のpUL97プロテイン・キナーゼを阻害する新規作用機序を持ち、既存のポリメラーゼ阻害剤に応答しないウイルスにも期待できる。CMV感染症は日和見感染だが臓器移植や造血幹細胞移植を受けた患者は免疫抑制療法を受けるのでCMVの発症や重症化リスクがある。ViroPharmaが実施した予防試験はフェールしたが、用量を4倍に増やした二次治療試験が成功、12歳以上で体重35kg以上の患者に用いることが承認された。

今回は、造血幹細胞移植を受けた患者の初回治療としての効果をvalgancicloverと比較した。第8週のCMV消失達成率は69.6%と77.4%で、群間差は-7.7%、95%下限は-14.98となり非劣性マージンとして設定された-7%を下回った。但し、第8週と16週の両方でCMV消失を達成した患者の比率は52.7%と48.5%で大差なかった。また、二次治療試験と同様に、好中球減少症の発生率は大きく下回った。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


放射線療法誘導性口腔粘膜炎の予防薬を承認申請
(2022年12月12日発表)

Galera Therapeutics(Nasdaq:GRTX)はGC4419(avasopasem manganese)を頭頚部癌の放射線治療を受ける患者の口腔内粘膜炎を抑制する薬として米国で承認申請した。cisplatinと強度変調放射線治療を受ける患者455人を組み入れた第3相ROMAN試験で重度口腔内粘膜炎(固形物や液状物を摂取できない)発生率が54%と偽薬群の64%を下回り、p=0.0451だった。発症日数で見てもp=0.0022だった。

SOD(スーパーオキシド・ジスムターゼ)類縁体で、スーパーオキシドが放射線に刺激されて粘膜炎を誘導しないように、分解してしまうアイディア。同社は昨年10月に上記試験がフェールしたと発表したが、治験管理受託会社の解析に誤りがあったことが判明、p値だけ0.113から0.0451に変更された。これでもボーダーライン上だが、後期第2相ではp=0.009だったので、再現性は見られたことになる(数値修正の経緯は気になるが)。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ファイザーもS1P受容体調節剤を承認申請
(2022年12月21日発表)

ファイザーはetrasimodを中重度潰瘍性大腸炎の治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。3月に企業価値67億ドルで買収したArena Pharmaceuticalsの主要開発品で、S1P受容体調節剤。2mgを一日一回、経口投与する。第3相試験で第12週臨床的寛解率(修正Mayoスコア・ベース)が一本では24.8%(偽薬群は15.2%)、もう一本は27.0%(同7.4%)だった。

S1P受容体調節剤は既に様々な薬が様々な用途で用いられているが、特徴的な副作用がある。欧米で多発硬化症や中重度潰瘍性大腸炎に承認されたブリストル マイヤーズ・スクイブのZeposia(ozanimod)の場合、事前に全血球計算やECG、肝機能検査、そしてブドウ膜炎や黄斑浮腫歴のある患者は眼底検査も実施する必要があり、投与量は3段階漸増する。ファイザーはZeposiaのような複雑な用量漸増は必要でないと記しているので、どの程度シンプルなのか、注目される。

リンク: ファイザーのプレスリリース


パドセブとキイトルーダの併用を膀胱癌に承認申請
(2022年12月20日発表)

抗Nectin-4抗体薬物複合体Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)を共同開発販売しているSeagen(Nasdaq:SGEN)とアステラス製薬、そして、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)を開発販売しているMSDは、両剤を併用でcisplatin系化学療法に適さない局所進行性/転移性尿路上皮腫の一次治療に用いる適応拡大を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4月21日。

後期第1相/第2相のEV-103/KeyNote-869試験のコフォートKとコフォートAに基づくもので、前者ではcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が64.5%(完全反応率は10.5%)だった。

Padcevは白金製剤及び抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ局所進行性/転移性尿路上皮腫に用いることが米日欧で承認されている。抗PD-L1/PD-1抗体も有効と考えられてきたが、最近の治験成績は期待外れ。併用で捲土重来を図ることになる。

リンク: 三社のプレスリリース


ETA/B阻害剤を難治高血圧症に承認申請
(2022年12月20日発表)

スイスのイドルシアはaprocitentanを難治性高血圧症用薬として米国で承認申請した。Ca拮抗剤、ARB、HCT利尿剤の三剤合剤で治療してもSBP(収縮期血圧)が140 mmHg以上の患者を組み入れて偽薬/12.5mg/25mgのいずれかを4週間投与した第3相試験で、各群のSBPが11.5/15.3/15.2 mmHg低下し、両用量とも偽薬を有意に上回った。有害事象は浮腫/体液貯留が増加した。

肺動脈高血圧症治療薬Opsumitの活性成分であるmacitentanの代謝物で、エンドテリンのAとBを阻害する。イドルシアは17年にアクテリオンがジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にスピンアウトした会社で、aprocitentanも、結局、JNJが独占開発販売オプションを行使、イドルシアは売上の20~35%をロイヤルティとして受領する。

リンク: イドルシアのプレスリリース


和黄医薬、米国でVEGFR阻害剤を大腸癌にローリング承認申請着手
(2022年12月19日発表)

Hutchmed(和黄医薬)は米国でfruquintinibを難治性転移結腸直腸癌のサルベージ療法としてローリング承認申請手続きを開始した。23年上期に完了する予定。米欧日豪で実施した第3相FRESCO-2試験をエビデンスとするもので、これらの地域でも承認申請する考えだ。

中国では18年に3次治療薬として承認されたVEGFR阻害剤。上記試験では代謝拮抗剤Lonsurf(trifluridine、tipiracil)やVEGFR阻害剤Stivarga(regorafenib)に不応不耐で他の標準療法はすべて実施済みの患者を組み入れて全生存期間を偽薬と比較したところ、ハザードレシオは0.66、メジアン生存期間は各7.4ヶ月と4.8ヶ月と、有意に上回った。有害事象は高血圧症や脱力、手足症候群など。

中国企業は政府が外国の監査法人による監査を受け入れていなかったため、2020年に米国でHolding Foreign Companies Accountable Actが成立、米国株式市場に上場できなくなる可能性が生じた。結局、中国側が譲歩し、無事監査が終わった模様。HutchmedやBeiGene、Zai Labなど約200社がリストアップされていたようだが、危機は去った。

リンク: 同社のプレスリリース


PDE4阻害剤を幼小児尋常性乾癬に対象拡大申請
(2022年12月19日発表)

Arcutis Biotherapeutics(Nasdaq:ARQT)はZoryve(roflumilast、0.3%クリーム製剤)を2~11歳の尋常性乾癬治療薬として米国で対象年齢拡大申請を行った。欧米でCOPD治療薬として承認されているPDE4阻害剤で、7月に12歳以上の尋常性乾癬に承認された。適応拡大に活発に取り組んでおり、第3相は6歳以上の軽中度アトピー性皮膚炎試験や、フォーム製剤を用いた9歳以上の中重度脂漏性皮膚炎試験と頭部体部乾癬試験が、すでに成功している。

リンク: 同社のプレスリリース


合成ヒペリシンをCTCLの光力学療法に承認申請
(2022年12月15日発表)

米国のSoligenix(Nasdaq:SNGX)はHyBryte(hypericin)を早期菌状息肉腫/皮膚T細胞リンパ腫の光力学療法用薬としてFDAに承認申請した。セント・ジョーンズ・ワートに含まれる、光増感作用を持つ色素を合成した軟膏で、皮膚病変に塗布すると腫瘍T細胞に集積する。24時間後に蛍光灯照射する。通常の光線なので紫外線より深部まで浸透し、二次的腫瘍の懸念も小さい可能性がある模様。

週2回、6週間治療して2週間休むサイクルで治療した第3相では、第1サイクル後の病変反応率(評価対象に設定された3病変のmodified Composite Assessment of Index Lesion Severityスコアが50%以上改善)が16%と偽薬群の4%を上回った(p=0.04)。偽薬対照期間終了後の第2サイクル後は40%、第3サイクル後は49%に上昇した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


ジェネンテックの抗CD20/CD3二重特異性抗体が米国でも承認
(2022年12月22日発表)

FDAはジェネンテックのLunsumio(mosunetuzumab-axgb)を成人の難治再発濾胞性リンパ腫の3次治療薬として加速承認した。腫瘍化したB細胞のCD20と細胞傷害性T細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体で、第2相試験では90人中72人(80%)がORR(客観的反応率、独立評価)、メジアン反応持続期間は22.8ヶ月だった。54人(60%)は完全反応だった。サイトカイン放出症候群が枠付き警告されているが、G3の発生率は2%、G4は0.5%で、CAR-T療法よりかなり低い。EUでは6月にロシュが承認取得した。

ジェネンテックとロシュはCD20に結合する腕2本とCD3に結合する一本を持つ二重特異性抗体、glofitamabも開発していて、難治再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として4月にEUで承認申請した。第2相拡大試験で155人中51%がORR、39%は完全反応だった。

両社の抗CD20抗体Rituxan(rituximab)はIDECからライセンスしたもの。上記二剤も提携範囲に含まれていたのか、2003年にIDECと合併したバイオジェンが売上ロイヤルティなどを取得する。

リンク: FDAのプレスリリース


カプシド阻害剤が米国でも承認
(2022年12月22日発表)

FDAはギリアド・サイエンシズのSunlenca(lenacapavir)をHIV/AIDSのサルベージ・セラピーとして承認した。欧州では8月に承認されたが、目に見えないガラス・パーティクルが形成される懸念が生じバイアルをホウケイ酸塩ガラスからアルミノケイ酸塩ガラスに切り替えたことなどが影響したためか、米国では遅れていた。

ウイルスの複製に必要な、RNAを包むカプシドを阻害する新規作用機序を持つ。当初は錠剤と皮下注用製剤を併用するが、維持期は6ヶ月毎皮下注で足りる点も画期的。多剤抵抗性HIV-1感染症の成人を組み入れて、最適化バックグラウンド・セラピーに追加する効果を検討した臨床試験では、14日後のウイルス抑制奏効率が87.5%と偽薬群の16.7%を上回り、52週時点でも83%と高水準が維持された。

体内に少量が1年、あるいはそれ以上の期間、残存するため、耐性ウイルスの出現や薬物相互作用に注意する必要がある。

リンク: FDAのプレスリリース


アバロパラチドが高リスク骨粗鬆症の男に承認
(2022年12月20日発表)

Radius HealthはFDAがTymlos(abaloparatide)を骨折リスクが高い、または既存治療不応不耐の骨粗鬆症の男性に用いることを承認したと発表した。ヒト副甲状腺ホルモン関連ペプチドの類縁体で、日米欧で高リスク閉経後骨粗鬆症の治療薬として承認されている(日本では帝人のオスタバロ)。プレスリリースによると、股関節骨折症例の3割は男性。

80mcgを一日一回皮下注射する。前臨床で骨肉腫が見られたことなどから米国承認時は累積投与2年以内という制限や枠付き警告が付されたが、いつの間にか削除された。

リンク: 同社のプレスリリース


EBV性リンパ増殖性疾患の細胞療法がEUで承認
(2022年12月19日発表)

Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)のEbvallo(tabelecleucel)が臓器/骨髄移植を受けた2歳以上の小児・成人の深刻なEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)陽性リンパ増殖性疾患の二次治療薬としてEUで承認された。ボランティアから採取したT細胞をESVに曝露したB細胞と会合させた上で培養した細胞療法で、臨床試験ではrituximabなどの治療がフェールした38人中19人が反応し、うち11人は6ヶ月以上持続した。症例が少なく延命効果などは確立していないが、希少な難病であることなどから、EUの例外的環境条項に基づき承認された。

ピエール・ファーブルが欧州などの独占販売権を持っている。

リンク: 両社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


レカネマブの治験で3人目の死亡例
(2022年12月21日発表)

エーザイがスウェーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンスからライセンスしバイオジェンと共同開発している抗アミロイド・ベータ抗体BAN2401(lecanemab)は、米国で早期アルツハイマー病用薬として承認申請され、来月6日までに合否が判明する予定だが、被験者の死亡がまた明らかになった。11月と同様に、SCIENCEINSIDERが報じたもの。

BAN2401などの抗アミロイド抗体を投与すると、MRI検査でARIA(アミロイド関連造影異常)が見られることがしばしばある。脳血管に付着したアミロイドが免疫により除去される過程で血管の腫脹や出血が起きると考えられている。幸い、症状を伴わないことが多いが、全てではない。アルツハイマー病は高齢者の病気なのでlecanemabの第3相でも1800人中13人が死亡したが、SCIENCEINSIDERが報じた2例と10月にSTATが報じた症例は脳出血や脳梗塞を発症後に死亡したため、薬との関連性を十分に検討する必要がありそうだ。

3例目は79歳の女性で延長試験に参加していた。アルツハイマー以外に健康上の問題はなかったとのことだが、脳卒中で入院、痙攣を合併し、検査で脳浮腫や出血が見られた。数日後に多臓器不全で死亡した。

臨床試験での症候性ARIAの発生率は低いが、選ばれた医療施設の選ばれた医師が厳選された患者を治療する臨床試験と比べると、現実の医療では薬効はもっと小さく、副作用はもっと多くなる。上記の死亡率は米国の60代の年間死亡率が1~2%、70代は2~5%であるのと比べて低く、余命という点では平均より健康な人たちが組み入れられたことが分かる。FDAは両社のAduhelm(aducanumab)を21年に加速承認したが、臨床試験のプロトコルと異なり、治療前や治療中のMRI検査を義務化しなかったので、症状のないうちにARIAを早期発見することは難しく、症候性ARIAが臨床試験より多く発生してしまう可能性もあるのではないか。

リンク: SCIENCEINSIDERの記事






今週は以上です。

2022年12月17日

第1081回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アステラス、クローディン標的薬を承認申請へ 
  • mRNAワクチンは癌にも有効 
  • ASH:BTK阻害剤の直接比較試験 
  • ASH:Regeneron、抗CD20xCD3抗体を承認申請へ 
  • リンゼスが米国で小児便秘に適応拡大申請 
  • ODAC:心ミオシン活性化剤はエビデンスが不十分 
  • CHMP、B型血友病の遺伝子療法などの承認を支持 
  • 筋層非浸潤膀胱癌の遺伝子療法が承認 
  • 第2のKRAS阻害剤が承認 
  • テセントリクが胞巣状軟部肉腫に承認 
  • アッヴィ、カリプラジンが鬱病に承認 


【新薬開発】


アステラス、クローディン標的薬を承認申請へ
(2022年12月16日発表)

アステラス製薬はIMAB362(zolbetuximab)の二本目の第3相試験、GLOWが成功したと発表した。先に成功した一本目のSPOTLIGHTと合わせてグローバルに承認申請する予定。

細胞間接着分子Claudin-18(CLDN)のアイソフォームで胃腺癌の4割程度で高発現しているClaudin-18.2に結合する抗体医薬。16年にドイツのGanymed Pharmaceuticalsを約4億ユーロ及び目標達成時報奨金約8億ユーロで買収して入手した。因みに、Ganymedは今を時めくBioNTechの共同創業者でCEOのUgur Sahin氏と共同創業者兼CFOのOzlem Tureci氏の夫妻が創設した。

第3相はClaudin-18.2陽性でher2陰性の切除不能局所進行性/転移性の胃腺腫・食道胃接合部腺癌の一次治療を受ける患者が対象で、GLOW試験はCAPOXレジメン(capicitabineとoxaliplatinの併用)に追加、SPOTLIGHT試験はmFOLFOX-6(5-FU、leucovorin、及びoxaliplatinの併用)に追加する便益と危険を検討した。どちらも主評価項目であるPFS(無進行生存期間)と全生存期間に統計的に有意な差があった。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


mRNAワクチンは癌にも有効
(2022年12月13日発表)

モデルナ(Nasdaq:MRNA)と開発販売パートナーであるMSDは、mRNA-4157(MSDの開発コードはV940)が後期第2相試験で統計的に有意かつ臨床的にも意味のある再発・死亡抑制効果を示したと発表した。統計的に有意と言えるかどうかは議論の余地があるが、点推定値は良好で、第2相試験であることを考えればとやかく言うほどではないと私は思う。但し、有害事象はやや多いか。第3相に向かう予定。

このテイラーメイド・ワクチンは、患者の癌細胞で発現するネオアンチゲン(腫瘍細胞特有の変異蛋白)のうち最大34種類をスクリーニングして一本のmRNAにエンコードし、リピッド・ナノパーティクルに封入したもの。MSDは16年に共同開発販売オプションを取得、今年10月に2.5億ドルで行使した。

今回のKEYNOTE-942/mRNA-4157-P201試験は、ステージIII/IV黒色腫の完全切除を受けたが再発リスクが高い患者157人を組み入れた術後アジュバント試験。承認薬であるKeytruda(pembrolizumab)を投与する群と、Keytruda(200mgを3週毎に最大18回投与)とmRNA-4157(3週毎に最大9回投与)を併用する群のRFS(無再発生存期間)を比較した。結果はハザードレシオが0.56(95%信頼区間0.31-1.08)、片側p=0.0266だった。深刻有害事象の発現率は14.4%でKeytruda群の10%を上回った。

95%信頼区間は1を跨ぎ、p値は両側p値を使うのが保守的だが、後期第2相なのでハードルが甘目に設定されているのだろう。アジュバント療法は末期癌より安全性要求が高いこともあり、第3相で再現性を確かめる必要がある。それでも、現時点では良好な結果と言えそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース


ASH:BTK阻害剤の直接比較試験
(2022年12月13日発表)

BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)はBrukinsa(zanubrutinib)の効果をアッヴィ/ヤンセンのImbruvica(ibrutinib)と比較したALPINE試験の最終解析結果をASH(米国血液学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。欧米中国の施設で難治再発患者652人を各剤に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオは治験医評価でも独立評価委員会でも0.65となり、有意に優れていた。24ヶ月時点での無進行生存率は各群78.4%と65.9%で、10ポイント以上の差がある。有害事象による治験離脱率は各15.4%と22.2%、致死的心臓有害事象発生率はゼロと1.9%で、BTK阻害剤のクラス・イフェクトである心毒性が比較的小さそう。一方、好中球減少症や感染症の発生率は若干上回った。

Brukinsaは米国でマントル細胞腫やワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、辺縁帯リンパ腫に承認されている。CLL/SLLは一次治療と合わせて欧米で承認申請、米国は審査期限が来月20日に延期されたがEUでは11月に承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


ASH:Regeneron、抗CD20xCD3抗体を承認申請へ
(2022年12月11日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はREGN1979(odronextamab)の第1相と第2相びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)コフォートと濾胞性リンパ腫(FL)コフォートの成績をASH(米国血液学会)で発表した。DLBCLは、CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法未施行の患者に加えて、症例数はまだ限られているがCAR-T歴を持つ患者にも良好な成績を上げた。23年に米国などで承認申請する考え。FLも良好に進捗している様子だ。

抗PD-1/PD-L1抗体に続いて雨後の筍状態になった抗CD20xCD3二重特異性抗体の一つ。第2相のうちCAR-T未施行DLBCLコフォートで130人に投与したところORR(客観的反応率)49%、CR(完全反応率)は31%、メジアン反応持続期間は18ヶ月だった。第1相のCAR-T歴を持つコフォート31人ではORR48%、CR32%。反応持続期間はまだメジアン値に達していない。

odronextamabは2年前にFDAが治験の部分停止を命じたことがある。効果が高い分、メカニズムに基づく副作用であるCRS(サイトカイン放出症候群)のリスクも高かったからだ。同社は用量漸増レジメンを探索し、第2相試験の途中で採用されたレジメン下ではG3のCRS発生率が1%まで低下した。また、G4/5のCRSは第2相の当初のレジメンを含めても一件も発生しなかったとのこと。

第2相FLコフォート121人ではORR81.8%、CR75.2%、完全反応のメジアン反応持続期間は20.5ヶ月だった。131人中5人がG3のCRSを発現したが、新レジメンでは1人だけだった(発生率2%)。G4/5のCRSはなし。治療関連深刻有害事象は53人で発現、治療との関連が考えうる死亡は3人(肺炎、進行性多巣性白質脳症、全身性真菌症)だった。

抗CD20xCD3抗体はCAR-Tと類似した作用機序を持つが、患者本人から採取したT細胞を加工・培養するのではなく出来合いの製品を使うので事前の準備に時間がかからず順調に培養できないリスクも無い。薬効自体は見劣りするように感じられるが、各社が開発競争する中で、どの程度向上できるか注目される。

リンク: 同社のプレスリリース(DLBCL、12/11付)
リンク: 同社のプレスリリース(FL、12/12付)

【承認申請】


リンゼスが米国で小児便秘に適応拡大申請
(2022年12月16日発表)

アッヴィはIronwood Pharmaceuticals(Nasdaq:IRWD)と米国で共同開発販売している慢性便秘/便秘型過敏性腸症候群治療薬、Linzess(linaclotide)の適応拡大をFDAに申請した。6~17歳の青少年の機能性便秘に72mcgを投与する、対象年齢拡大及び用量追加に関わるもの。

手元の初承認時のメモを読むと、6歳以下は禁忌、17歳以下は使うべきではないと記されている。マウスの試験で大人は承認用量の1000倍まで投与できたが子供で死亡例が発生したことが原因のようだ。小児適応申請が初承認の10年後というのは最近の新薬ではかなり遅いが、慎重に検討、試験したからなのだろう。

Linzessは日本ではアステラス製薬がリンゼス名で販売している。

リンク: アッヴィのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ODAC:心ミオシン活性化剤はエビデンスが不十分
(2022年12月13日発表)

FDAのODAC(腫瘍学薬諮問委員会)はCytokinetics(Nasdaq: CYTK)が駆出率低下心不全(HFrEF)の治療薬として承認申請したCK-1827452(omecamtiv mecarbil)の便益や危険を検討し、8人対3人の多数が便益が便益が上回るとは言えないと判定した。FDAもエビデンス不足と考えている模様なので、承認されないだろう。

筋収縮の原動力であるmyosinに結合し活性化する経口剤。第3相GALACTIC-HF試験でLVEF(左心駆出率)が正常値の35%以下であるクラスII~IVの心不全患者を組み入れて心不全による入院や救急治療、心血管死などのリスクを抑制する効果を検討したところ、偽薬比ハザードレシオ0.92(95%信頼区間0.86-0.99)、p=0.0252と、統計学的には有意だがボーダーライン上、臨床的には悪くはないが喜ぶほどでもない結果になった。心血管死や主要虚血性心臓イベントは両群大差なく、QOL指標も同程度だった。

会社側はLVEFが28%以下のサブグループではハザードレシオ0.84と良好であることをアピールしたが、この閾値の合理性を認定するのは容易ではない。過剰投与すると心筋梗塞や心不全のリスクが高まる懸念があるが、この試験では心房細動/心房粗動を合併する患者で心血管死が増加する兆候が見られた。本試験は薬剤の血漿濃度を調べながら漸増する手法を採用したが、検査アッセイは承認申請されていない。

CK-1827452はアムジェンやセルビエが共同開発販売権を取得したが、第3相試験の結果が出た後に返還した。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、B型血友病の遺伝子療法などの承認を支持
(2022年12月16日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、下記の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

CSL BehringのHemgenix(etranacogene dezaparvovec)はB型血友病の遺伝子療法。重度または中程度重度で第IV因子インヒビターを持たない成人に用いることが条件付き承認された。アデノ随伴ウイルス5型をベクターとして高活性のPadua型第IV因子の遺伝子を導入し、肝細胞選択的に発現させるもの。53人の臨床試験で出血頻度が年率1.51回と、第IV因子の予防的投与を受けていたリード・イン期間中の4.19回から大きく低下した。1名以外は予防的投与を中止できた。長期追跡データは未だ十分ではなく、最長3年が3例程度。米国では11月に承認され、リストプライスは350万ドル。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのImjudo(tremelimumab)はファイザーからライセンスした抗CTLA-4抗体。T細胞の抑制的刺激受容体をブロックし、活性化・増殖を促す。同社の抗PD-L1抗体、Imfinzi(durvalumab)と併用で進行/切除不能幹細胞腫の一次治療に、あるいは、更に化学療法も併用して、EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応にならない転移非小細胞性肺癌の一次治療に、用いる。米国は各10月と11月に承認、日本でも11月に第二部会を通過した。

尚、肺癌のほうはImjudoではなくTremelimumab AstraZenecaというGE薬のような名称になっているので、後日、Imjudo名でも承認されるのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース(Imjudo)
リンク: EMAのプレスリリース(Tremelimumab AstraZeneca)

アミカス・セラピューティクス(Nasdaq: FOLD)のPombiliti(cipaglucosidase alfa)は遺伝子組換え型アルファ・グルコシダーゼ。ポンペ病の酵素補充療法で、安定性をや活性を増強する目的でmiglustat(アストラゼネカのアクテリオン子会社が3型ガウシェ病治療薬として販売しているグルコシルセラミド合成酵素阻害剤)を併用する。6分歩行テストを主評価項目とした遅発型ポンペ病の第3相でジェンザイムのLumizyme(alglucosidase alfa)と同程度の効果が見られた。米国でも審査中だが、中国の渡航制限により現地企業の査察ができず、遅延している。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、否定的意見だったのはY-mAbs Therapeutics(Nasdaq:YMAB)のOmblastys(131I-omburtamab)。Memorial Sloan Ketteringからライセンスしたヨード131標識抗B7-H3(CD276)マウス抗体で、神経芽腫の中枢神経転移治療薬として新薬承認申請したが、外部対照群との比較可能性がネックとなり、米国でも承認されなかった。

リンク: EMAのプレスリリース

CHMPの評価が思わしくなく申請撤回となったのは、Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)はImbarkyd(bardoxolone methyl)をアルポート症候群の慢性腎疾患治療薬として欧米で新薬承認申請したが、米国では承認されず、CHMPは便益や安全性について懸念を持った。臨床試験でeGFR(推定腎濾過率)の低下が抑制されたが、臨床的便益につながるサロゲート・マーカーとは見なされないことや催不整脈性懸念、そして、CHMPによれば、薬物動態や代謝物に関する検討が不十分であることがネックとなった。

日本は協和キリンが昨年、承認申請したが、承認されるかどうか不透明であるようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を得たのは、まず、サノフィがRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と共同開発販売しているDupixent(dupilumab)。12歳以上、体重40kg以上で従来療法に十分応答しない、不耐、または対象にならない好中球性食道炎に用いることが支持された。米国では5月に承認。

アストラゼネカのForxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)は症候性慢性心不全の適応における駆出率低下(LVEF40%以下)限定の解除。DELIVER試験でLVEF40%超の患者の心血管死/心不全入院・救急を18%抑制した。

第一三共がアストラゼネカと共同開発販売しているEnhertu(trastuzumab deruxtecan)は成人のher2低発現型切除不能/転移乳癌。転移後に化学療法を受けた、あるいは、切除術後アジュバント療法中、または完了後6ヶ月以内に再発した患者が対象。米国は6月に承認。

UCBのFintepla(fenfluramine hydrochloride)はレノックス・ガストー症候群。米国は3月に承認。20~22年に米欧日でドラベ症候群の癲癇治療薬として承認されている。

ロシュが日本外で中外製薬からライセンスしたHemlibra(emicizumab)は17~18年に米欧日でA型血友病の出血予防薬として承認されたが、EUでは重度患者(第VIII因子活性が正常の1%未満)に限定されている。今回、中度患者(同1%~5%)で重度出血フェノタイプに用いることも支持された。因子活性と出血リスクは必ずしもパラレルではなく、米国では限定されていない。ロシュはHAVEN 6試験で中度患者などにおける便益を確認した。

バイエルのKerendia(finerenone)は成人二型糖尿病患者のアルブミン血症を伴うステージIII/IV慢性腎不全に承認されているが、ステージIII・IV限定解除が支持された。FIGARO-DKD試験でステージIからIVまで幅広い段階の患者に便益が見られた。

意外だったのはイーライリリーのJAK阻害剤、Olumiant(baricitinib)。酸素投与/呼気補助を必要とするCOVID-19に適応追加申請され20年11月に米国でEUA(非常時使用認可)、日本でも21年4月に承認されたが、CHMPは便益の立証が不十分と考えていたようで、申請撤回となった。臨床試験は三本実施され、NIAID(米国アレルギー・感染症研究所)主導試験では回復までの期間がメジアン7日と対照群より1日早かったがp値は0.047だった。イーライリリーの試験では死亡/呼気補助リスクが有意に小さくなかった。オックスフォード大学主導の大規模なRECOVERY試験では年齢調整死亡率比が0.87だったが、p値は0.026で、remdesivirによる治療を受けた患者が20%と今日の標準療法とは食い違っていた。とは言え、FDAは今年5月に成人適応に関しては本承認に切り替えており、CHMPが否定的なのは重ね重ね意外だ。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


筋層非浸潤膀胱癌の遺伝子療法が承認
(2022年12月16日発表)

FDAはフェリングのAdstiladrin(nadofaragene firadenovec-vncg)をBCG不応で高リスクの上皮内NMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)に用いることを承認した。乳頭状腫瘍であるか否かは問わない。フィンランドのFKD Therapies Oyからライセンスした遺伝子療法で、増殖できないアデノウイルス5型をベクターとしてインターフェロン・アルファ2bの遺伝子を膀胱内に、3ヶ月毎に最大4回、注入する。第3相で完全反応率が53%、うち24%は12ヶ月以上持続した。治療関連有害事象による離脱率は1.9%だった。

膀胱癌の新患は7~8割がNMIBCで、結核ワクチンであるBCGが標準治療薬だが、再発/進行リスクが高い。切除術が適応になるが、20年にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が切除不適/拒否患者向けに米国で適応拡大した。どちらも完全反応率と反応持続期間に基づく承認で、比較できるかどうかは不明だが、前者はAdstiladrin、後者はKeytrudaのほうが若干高くなっている(化学療法と免疫療法でよくあるパターンだ)。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: フェリングのプレスリリース


第2のKRAS阻害剤が承認
(2022年12月12日発表)

FDAはMirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)のKrazati(adagrasib)を加速承認した。全身性治療歴のある成人のKRAS-G12C変異型局所進行/転移非小細胞性肺がんに600mg(3錠)ずつ一日二回、経口投与する。第2相KRYSTAL-1試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が43%、メジアン反応持続期間は8.5ヶ月だった。被験者112人の殆どが免疫療法および化学療法による治療歴を持っていた。有害事象は胃腸や肝臓毒性、QTc延長、間質性肺疾患/肺臓炎(G3/4発生率1.4%、致死的1例)など。枠付き警告はない。欧州でも承認申請中。

市販後コミットメント試験は上記と同様な患者を組み入れて延命効果などをdocetaxelと比較する試験を実施中。FDAは抗癌剤開発企業の至適用量探索が不十分と考えている模様であり、そのせいか、Krazatiも第3相では400mg一日二回が採用された模様だ。

類薬はアムジェンのLumakras(sotorasib)が21~22年に米欧日で承認されている。米国は加速承認、EUは条件付き承認で、上記と同様な試験で960mgを一日一回投与したところ、ORRが36%、メジアン反応持続期間は10ヶ月だった。被験者の背景が異なる可能性もあるので、両剤とも大差ないと考えたほうが良いだろう。

Miratiの株価は承認直前の一週間で半減した。KRYSTAL-7試験でKRAS-G12C変異非小細胞性肺癌の一次治療としてKeytrudaと併用したところ53人のORRが49%だったことが発表されたため。単剤が二次治療で43%だったことを考えると案外な結果だ。

リンク: FDAのプレスリリース


テセントリクが胞巣状軟部肉腫に承認
(2022年12月9日発表)

FDAはロシュ・グループのジェネンテックの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)を2歳以上の切除不能/転移胞巣状軟部肉腫に用いることを承認した。米国で年80人が診断される超希少疾患で、当初は痛みなどの症状を伴わないため早期発見が難しい。5年生存率は50%程度とのこと。49人に投与した臨床試験ではORR(客観的反応率、独立評価委員会)が24%、6ヶ月反応持続率は66%だった。G3/4の有害事象は筋骨格痛、高血圧、頭痛など。

Memorial Sloan Kettering Cancer CenterなどがNCI(米国癌研究所)などの支援を受けて実施したsunitinibの試験では48人中一人が部分反応しただけだった(ClinicalTrials.govによる)のでかなり違う。テセントリクは日本でも研究者指導試験中。

リンク: FDAのプレスリリース


アッヴィ、カリプラジンが鬱病に承認
(2022年12月16日)

アッヴィはFDAがVraylar(cariprazine)を鬱病治療に用いることを承認したと発表した。標準療法薬に十分応答しない成人患者に追加投与する(アジャンクティブ用法)。パミンD3、D2、セロトニン5-HT1A受容体の部分作動剤で、ハンガリーのゲデオン・リヒターから北米の権利をライセンス、これまでに双極障害I型のうつ症状や急性躁症状、混合症状、そして統合失調症の治療に承認されている。日本でもアッヴィが開発予定。



リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2022年12月10日

第1080回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 欧州のETF、二価ワクチンを当初免疫にも容認 
  • マルチトープ・ワクチンの第3相が成功 
  • その他の領域: 
  • ビンゼレックスも化膿性汗腺炎試験が成功 
  • SABCS:AKT阻害剤のFaslodex併用試験が成功 
  • ノバルティス、PNH一次治療試験が成功 
  • SABCS:エンハーツの延命データ 
  • ノバルティス、Pluvictoはプリキモにも有効 
  • GSK、抗PD-1抗体の第3相内膜腫化学療法併用試験が成功 
  • テセントリクとカボメティクスの併用肺がん試験はフェール 
  • Relmada、鬱病試験が二連敗 
  • PI3K阻害剤の開発を断念 
  • ヤンセン、新種の二重特異性抗体を承認申請 
  • ファイザーも高齢者用RSVワクチンを承認申請 
  • 新規抗鬱剤を承認申請 
  • EQRx、EGFR阻害剤を欧州で承認申請 
  • メルク、乳幼児用住血吸虫症治療薬を承認申請 
  • I-131標識抗B7-H3抗体は承認されず 
  • Oncopeptides、FDAが加速承認返上を要請 
  • 武田のデング熱ワクチンがEUで承認 
  • 第2のIDH1阻害剤が承認 
  • Brexafemmeがカンジダの再燃予防薬としても承認 
  • ゼルヤンツを55人に5年間投与すると一人が癌に 


【COVID-19関連】


欧州のETF、二価ワクチンを当初免疫にも容認
(2022年12月6日発表)

欧州の薬品審査機関、EMAのEmergency Task Forceは、COVID-19の二価ワクチンを当初免疫に用いることを容認すると発表した。根拠はin vitro研究やオミクロン株感染者の免疫応答データ。SPC(添付文書)は今まで通り、追加免疫に限定されるようだ。

欧米の添付文書は、BioNTech/ファイザーのComirnatyとモデルナのSpikevaxの二価バージョンの用途を追加免疫に限定している。オリジナルのワクチンも半量とはいえ配合されているので当初免疫でも良いのではないかと思うが、BA.4/5対応ワクチンは免疫原性試験の結果すら出ていない段階で承認されたことなどから、対象をむやみに広げないほうが良いと判断したのだろう。

現時点で未接種の成人はおそらく二価ワクチンも接種しないだろうから、実質的には、対象となるのは幼小児や20代の未接種者だろう。

リンク: EMAのプレスリリース


マルチトープ・ワクチンの第3相が成功
(2022年12月2日発表)

米国のVaxxinity(Nasdaq:VAXX)は、新種のCOVID-19ワクチンであるUB-612の第3相追加接種試験が成功したと発表した。まず英国とオーストラリアで来年上期に条件付き/暫定承認を申請する考え。

ウイルスのS1タンパクのRBD(受容体結合領域)のよく保護されたエピトープに加えて、S2のヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞に認識されるエピトープや膜などのペプチドも配合されていることが特徴。第3相は米国、パナマ、フィリピンの施設で16歳以上の944人を組み入れて、過去の接種と異なるワクチンを用いる「ヘテロ・ブースター」接種を行い、28日後に抗原性を一価ワクチン(BioNTech/ファイザーのComirnaty、オックスフォード大学/アストラゼネカのVaxzevria、Sinopharm(中国医薬集団)のBIBP)と比較した。

主評価項目の武漢株に対する中和抗体力価はGMR(幾何平均比)がComirnaty対比では非劣性、VaxzevriaやBIBP対比では有意に上回った。オミクロン株に対するGMRや、副次的評価項目である抗体陽転率(4倍増達成率)もComirnaty比非劣性、他の二品に対して有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


ビンゼレックスも化膿性汗腺炎試験が成功
(2022年12月9日発表)

UCBはbimekizumabの第3相中重度化膿性汗腺炎試験が二本とも成功したと発表した。第16週のHiSCR50(膿瘍・炎症性結節数半減)奏効率が偽薬群を有意に上回った。データは未発表。23年第3四半期から適応拡大申請を開始する予定。

IL-17AとIL-17Fに結合する二重特異性抗体で、昨年EUでBimzelx名で、今年1月には日本でもビンゼレックス名で、乾癬治療薬として承認された。米国は遅れているが、政府の渡航制限により工場査察ができなかったことが要因のようだ。適応拡大は体軸性脊椎関節炎や乾癬性関節炎の第3相が成功、既に承認申請が開始されたと推測される。

IL-17Aだけに結合する多くの抗体医薬と競合しているが、化膿性汗腺炎はノバルティスのCosentyx(secukinumab)が承認審査中であるだけ。抗TNFアルファ抗体もHumira(adalimumab)が承認されているだけなので、比較的競争条件が良い。

リンク: UCBのプレスリリース


SABCS:AKT阻害剤のFaslodex併用試験が成功
(2022年12月8日発表)

アストラゼネカは10月にAZD5363(capivasertib)の第3相CAPItello-291試験の成功を発表したが、データをSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で明らかにした。アロマターゼ阻害剤歴を持つ局所進行/転移ホルモン受容体陽性乳癌を組み入れて、Faslodex(fulvestrant)と併用する効果を検討したところ、メジアンPFS(無進行生存期間、治験医評価)が7.2ヶ月とFaslodex・偽薬併用群の3.6ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.60だった。Faslodex抵抗性が指摘されているPI3KCA/AKT1/PTEN経路に活性化変異を持つサブグループ(被験者の4割)では各7.3ヶ月、3.1ヶ月、ハザードレシオ0.50だった。her2発現の多寡(陽性、低発現、陰性)を問わずに効果が見られた。副次的評価項目の全生存期間は未成熟だが好ましいトレンドが出ている由。

AKTをATP競合的に阻害する経口剤で、Astex(13年に大塚製薬が買収)が英国のがん研究所と共同で創製、アストラゼネカにライセンスした。トリプル・ネガティブ乳癌や前立腺癌の第3相も進行中。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


ノバルティス、PNH一次治療試験が成功
(2022年12月8日発表)

ノバルティスはLNP023(iptacopan)の第3相APPOINT-PNH試験の成功を発表した。eculizumabなどの既存の補体阻害剤による治療を受けていないPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)患者に200mgを一日二回、24週間に亘り経口投与した単群試験で、ヘモグロビンが輸血なしで上昇した。

代表的なPNH治療薬であるアストラゼネカのeculizumab/ravulizumabは補体系C5因子を抗体で阻害するが、iptacopanは補体副経路のB因子を可逆的に阻害する小分子薬。eculizumab/ravulizumabに十分応答しない患者を組み入れた第3相スイッチ試験、APPLY-PNHでヘモグロビン矯正奏効率が継続投与群より有意に高かった。もともと十分応答していなかったのだから当然といえば当然で、真価を決するには一次治療試験が必要だが、残念なことに、今回の試験は実薬対照試験ではなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


SABCS:エンハーツの延命データ
(2022年12月7日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の延命効果を示すデータをSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で発表した。trastuzumabとタキサン系抗がん剤による治療歴を持つ転移乳癌を組み入れてロシュの類薬であるKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)と直接比較したDESTINY-Breast03に関するもので、主評価項目のPFS(無進行生存期間)は21年に成功発表、米国では今年5月に適応追加された。この時点では副次的評価項目である全生存期間の解析は未成熟でトレンドに留まっていたが、今回、ハザードレシオ0.64、 p=0.0037、2年生存率(推定)は77.4%対69.9%となったことが発表された。13.3人に投与すれば2年間で一人多く死亡から救うことができる計算になる。

転移性乳癌領域では、異なったタイプの抗がん剤の試験で、PFSが増加しても全生存期間は延びないという意外な現象が見られた。治療法が増えて4次治療、5次治療も珍しくなったため後治療の影響も無視できないが、加速承認の取消が取りざたされる事例も出てきている。それだけに、延命効果も確認できたのは一安心だ。

リンク: 両社のプレスリリース


ノバルティス、Pluvictoはプリキモにも有効
(2022年12月5日発表)

ノバルティスはPluvicto(lutetium Lu 177 vipivotide tetraxetan)の第3相PSMAfore試験が成功したと発表した。アンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI:abiraterone、enzalutamide、darolutamide、またはapalutamide)のうち一つによる治療歴を持ち化学療法未施行のPSMA陽性mCRPC(転移去勢抵抗前立腺癌)を対象に、6週毎6回投与する群のrPFS(放射線学的無進行生存期間)を、前治療とは異なるARPIを投与する群と比較したところ、有意に上回った。数値は未発表。23年に適応拡大申請する予定。

DKFZ(ドイツの癌研究所)とハイデルベルグ大学病院が共同開発した放射性医薬品で、PSMAに結合しベータ線を放出する。ノバルティスは18年にEndocyteを21億ドルで買収して入手、22年に米国でARPI歴と化学療法歴を持つPSMA陽性mCRPCに承認取得した。今回の成功で一歩前の段階での使用が見えてきた。

リンク: 同社のプレスリリース


GSK、抗PD-1抗体の第3相内膜腫化学療法併用試験が成功
(2022年12月2日発表)

GSKはJemperli(dostarlimab-gxly)の第3相内膜腫化学療法併用試験、RUBYが中間解析で成功したと発表した。主評価項目であるdMMR/MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性/DNAミスマッチ修復機能欠損)を持つサブグループのPFS(無進行生存期間、担当医評価)も、全ユニバースのPFSも、化学療法と偽薬を併用した群を有意に上回った。dMMR/MSI-Hではないサブグループにも臨床的に重要な便益があった由。データは学会発表の予定。適応拡大申請に向かうのではないか。

Jemperliは19年にTesaroを負債承継込み51億ドルで買収して入手したパイプラインで、IgG4型の抗PD-1抗体。21年に欧米でdMMR/MSI-Hを持つ難治/進行内膜腫の二次治療薬として承認された。米国では他に適切な治療手段のない、dMMR/MSI-Hを持つ固形癌にも加速承認されている。

リンク: GSKのプレスリリース


テセントリクとカボメティクスの併用肺がん試験はフェール
(2022年12月8日発表)

ロシュとExelixis(Nasdaq:EXEL)は前者の抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と後者のCabometyx(cabozantinib)の併用試験を複数の癌で実施しているが、CONTACT-01試験はフェールした。抗PD-1/PD-L1抗体と白金薬による治療歴のある転移性非小細胞肺癌における延命効果をdocetaxelと比較したダメだった。詳細は不明。

CabometyxはVEGFR阻害剤。日本では武田薬品、日米以外ではイプセンが販売している。

リンク: Exelixisのプレスリリース


Relmada、鬱病試験が二連敗
(2022年12月7日発表)

Relmada Therapeutics(Nasdaq:RLMD)はREL-1017(esmethadone)の鬱病モノセラピー試験に続き、第3相抗鬱剤併用試験もフェールしたことを明らかにした。この試験でも組み入れ数の多い二施設で偽薬群のMADRS(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale)低下が試験薬を大きく上回る異常値が出ており、他の施設だけの解析ではp<0.02と悪くない結果になっている由。もう一本のアジャンクト試験の成否が注目される。

どの施設なのか、気になる製薬会社は多いだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


PI3K阻害剤の開発を断念
(2022年12月6日発表)

米国のMEIファーマ(Nasdaq:MEIP)と開発販売パートナーの協和キリンは、PI3Kデルタ阻害剤ME-401(zandelisib)の開発を中止すると発表した。FDAがPI3K阻害剤全体の安全性に懸念を持ち、MEIファーマが第2相試験の反応率データに基づいて承認申請することを認めなかっただけでなく、第3相試験についても先月、統計解析計画などに関して新たな勧告を行ったため、規模拡大による費用負担などに鑑み、ギブアップした。

但し、日本市場に関しては11月にトップラインが出た第2相MIRAGE試験に基づいて2次以上の治療歴を持つ再発/難治低悪性度B細胞非ホジキンリンパ腫に承認申請することを引き続き検討する。

FDAがPI3K阻害剤に厳しくなったのは、幾つかの製品の臨床試験で、反応率や無進行生存期間は良かったのに全生存期間が延びなかったりむしろ短くなったりする現象が見られたためだ。トラベル・ドクターだけでなく医師も使命は癌を直すことではなく人を見て人を直すことなのだから、腫瘍がある程度縮小減少しただけのことで奏功と呼んではいけない。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


ヤンセン、新種の二重特異性抗体を承認申請
(2022年12月9日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、JNJ-64407564(talquetamab)を3種類の薬による治療歴を持つ多発骨髄腫用薬として米国で承認申請した。

骨髄細胞で発現し正常な細胞ではあまり発現しないGPRC5D(G Protein-Coupled Receptor Family C Group 5 Member D)とCD3に結合する二重特異性抗体で、ジェンマブのDUOBODY技術で創製されたもの。

第1/2相試験では、0.4mg/kgを週一回皮下注した143人におけるORR(客観的反応率)が73%、完全寛解率は29%、メジアン反応持続期間は9.3ヶ月だった。CAR-T療法とは異なりG3以上のサイトカイン放出症候群発生率は2%のみ。G3以上の有害事象は貧血(31%)、好中球減少症(30%)、血栓性血小板減少症(20%)、感染症(19%)など。

リンク: JNJのプレスリリース


ファイザーも高齢者用RSVワクチンを承認申請
(2022年12月7日発表)

ファイザーはPF-06928316を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年5月。60歳以上のRSV(respiratory syncytial virus)による下部気道疾患を予防するワクチンで、120mcgを一回接種する。第3相試験では二つ以上の症状を伴う同疾患が偽薬比66%減、三つ以上は85%少なかった。

RSVは珍しくない感染症だが米国では高齢者が年6~12万人入院し、6000~14000人が死亡と推定されている。NIH(米国立医療研究所)が融合前結晶構造を解明したことを機にワクチンの開発が活発化、ファイザーのほかにGSKもGSK3844766Aの承認申請が日米欧で10~11月に受理された。

PF-06928316は妊婦に接種して新生児の感染を予防する第3相も成功、承認申請される予定。GSKの同様な試験はフェールしており、何が違うのか、解明が望まれる。

リンク: ファイザーのプレスリリース


新規抗鬱剤を承認申請
(2022年12月6日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)とバイオジェンは、米国でSAGE-217/BIIB125(zuranolone)のローリング承認申請を完了した。GABA-Aの選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレーターで鬱病と産後鬱の治療に用いる。2週間投与して反応を確認し、鬱病の場合は必要に応じて8週以上の間をおいて再投与することができる。19年に米国で産後鬱治療薬として承認されたZulresso(brexanolon)の類薬だが、連続点滴静注ではなく一日一回経口投与できるので外来治療に適している。

日本と台湾韓国は塩野義製薬が開発販売権を取得した。

リンク: 両社のプレスリリース


EQRx、EGFR阻害剤を欧州で承認申請
(2022年12月2日発表)

米国のEQRx(Nasdaq:EQRX)はaumolertinibをEUに承認申請し受理されたと発表した。成人の局所進行性/転移性非小細胞性肺癌のうち、EGFRに活性化変異を持つ癌の一次治療、または、T790M変異を持つ癌に用いることを想定している。中国で実施されたAENEAS試験で初治療を受ける患者におけるPFS(無進行生存期間、担当医評価)がメジアン19.9ヶ月とgefetinib群の9.9ヶ月を上回り、ハザード比は0.46で統計的に有意だった。

Hansoh Pharma(翰森製薬集団、3692.HK)からライセンスしたEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤で、中国では20年に承認されている。EQRxは中国などの製薬会社かライセンスした薬を欧米で比較的廉価に供給する価格破壊型企業を目指していたが、米国に関しては、FDAが中国内で実施された臨床試験の成績に懐疑的であるために、方針転換した。aumolertinibは化学療法併用試験の結果が27年頃に開票してから米国申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


メルク、乳幼児用住血吸虫症治療薬を承認申請
(2022年12月2日発表)

ドイツのメルクは、arpraziquantelをEUで乳幼児の住血吸虫症治療薬として承認申請した。3か月児から6歳までの乳幼児が対象。承認されたら24年にサブサハラ・アフリカから供給を開始する考え。

住血吸虫症は同地域などで流行した風土病。メルクのpraziquantelが有効だが、錠剤が大きく苦いことなどもあり、6歳以上が適応となっている。arpraziquantelは左旋性異性体を使った経口分散錠で、未就学児の味覚にも合うらしい。メルクが主導するPediatric Praziquantel Consortiumが開発、臨床試験では臨床的治癒率が90%超だった。今回の申請はEU域外で使用される薬を政府に代わって審査する制度に基づくもの。メルクは儲けなしで供給する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


I-131標識抗B7-H3抗体は承認されず
(2022年12月1日発表)

Y-mAbs Therapeutics(Nasdaq:YMAB)は米国で131I-omburtamabを小児神経芽腫の中枢神経系/軟髄膜転移の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加試験を求められた模様。元々、FDAの事前同意を得ずに強行したハイリスク案件なのでサプライズ感はない。

同社は創業社長であるThomas Gadが娘の神経芽腫治療に効果があった抗GD2抗体と上記のI-131標識抗B7-H3マウス抗体を開発するためにMemorial Sloan Ketteringから権利を取得して設立した。前者はDanyelza(naxitamab-gqgk)として20年に米国で加速承認されたが、後者は症例数が少ないことや対照群が90年代初めにまで遡るドイツの患者登録データで小児神経芽腫自体の治療の強度などがかなり異なることが難点となった。FDAの分析によると、全生存の調整後ハザードレシオは1.02となり、同薬を使わなかった患者と大差なかった。10月の諮問委員会でも16人の委員全員が薬効の立証不十分と判定した。

リンク: 同社のプレスリリース


Oncopeptides、FDAが加速承認返上を要請
(2022年12月7日発表)

スェーデンのOncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)は、Pepaxto(melphalan flufenamide)の加速承認を撤回するようFDAから要請を受けたと発表した。21年に多発骨髄腫の5次治療薬として加速承認されたが、4次治療の第3相dexamethasone併用試験で全生存期間がメジアン19.7ヶ月とdexamethasone・pomalidomide併用群の25.0ヶ月を下回り、ハザードレシオ1.104(95%信頼区間0.846-1.441)と見劣りしたため、9月に開催された諮問委員会でも16人の委員中14人が便益が危険を上回るとは言えないと判定した。会社側は昨年10月に加速承認の撤回を申し入れ、販売も中止したが、前CEOが復職して撤回を撤回。今年8月にはEUで一部の患者の4次治療に承認されるなど、事態が二転三転している。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


武田のデング熱ワクチンがEUで承認
(2022年12月8日発表)

武田薬品はQdengaがEUで承認されたと発表した。米国でも審査中。4価弱毒生デング熱ワクチンで、4歳以上に90日おいて二回、皮下注する。中南米や東南アジアの風土病なので、これらの地域に長期渡航する人や、承認審査をEUなどに依存している国で使用されることになりそうだ。臨床試験では1年間のデング熱発症が偽薬比80%少なく、入院治療に至った患者は95%少なかった。4年半の追跡データでも各61%と84%少なく、効果の持続性が窺われる。

タイの大学から権利を取得し開発したInviragenを13年に買収して入手したもの。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


第2のIDH1阻害剤が承認
(2022年12月1日発表)

Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)はFDAがRezlidhia(olutasidenib)を成人の難治再発急性骨髄性白血病用薬として承認したと発表した。このIDH1(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1)阻害剤に感受性を持つIDH1変異のある癌が適応になる。臨床試験では147人中51人、35%が完全寛解(末梢血球数の回復が部分的なCRhも含む)した。うち47人が完全寛解。メジアン反応持続期間は25.9ヶ月。有害事象は肝機能検査値以上など。

承認申請したForma Thaerapeutics(Nasdaq:FMTX)から8月に世界開発販売権を取得したもの。米国外はサブライセンスする考えだ。

IDH1阻害剤は18年に米国でAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)のTibsovo(ivosidenib)が75歳以上または強化導入化学療法に適さないIDH1変異型新患急性骨髄性白血病用薬として承認されている。Agiosはその後、腫瘍学から撤退。製品と開発品はセルビエが継承した。

リンク: Rigelのプレスリリース


Brexafemmeがカンジダの再燃予防薬としても承認
(2022年12月1日発表)

Scynexis(Nasdaq:SCYX)はBrexafemme(ibrexafungerp)を難治外陰膣カンジダ症の再燃抑制に用いることがFDAに承認されたと発表した。昨年承認された治療用途では150mg錠を二錠ずつ、一日二回、二日間服用するが、新用途はfluconazoleなどに応答した患者に150mg二錠一日二回投与を月一回、6ヶ月間行う。臨床試験では24週間無再発率が65.4%と偽薬群の53.1%を上回った(p=0.02)。有害事象は下痢、悪心嘔吐、腹痛、眩暈など。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


ゼルヤンツを55人に5年間投与すると一人余計に癌に
(2022年月日発表)

ファイザーのXeljanz(tofacitinib)はFDAの要請で実施された長期安全性確認試験で心臓や血管における血栓塞栓性疾患と腫瘍のリスクが確認され、他のJAK阻害剤も含めて、使用が制限されるようになった。このうち、癌に関する解析結果が論文発表された。

Xeljanzの5mg一日二回群と10mg一日二回群は100人年当り1.13と1.11件発生し、抗TNFアルファ抗体を投与した群の0.77を有意に上回った。リスクは服用期間と相関する模様で、Xeljanz二群のカプランマイヤー・カーブは18ヶ月が経過した辺りから抗TNFアルファ抗体の曲線と離れ始め、乖離が次第に広がっていった。5年間の癌発生率はXeljanz両群が約6%、抗TNFアルファ抗体群が約3%と倍に開いた。Number-needed-to-Halm(害必要数)は約275で、55人に5年間投与するとXeljanzは抗TNFアルファ抗体より一人多く癌を発症することになる。代表的な用途である中重度関節リウマチは5年では治らないので、もっと長く服用することになるが、5年データでも解析対象症例数がかなり減っており、6年目以降に更にリスクが高まるのかどうかはよくわからない。

リンク: Curtisらの治験論文(Annals of the Rheumatic Diseases)





今週は以上です。

2022年12月2日

第1079回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • BQ.1系変異株が増加しリリーの抗体が無効に 
  • その他の領域: 
  • WHIM症候群の第3相が成功 
  • アルツハイマー性激昂の治療試験が成功 
  • lecanemabの学会発表と第二の死亡報告 
  • ドライアイ治療薬を承認申請 
  • 重症筋無力症治療薬を欧米申請 
  • テセントリクの膀胱癌適応を返上へ 
  • 初の糞便移植療法が承認 


【COVID-19関連】


BQ.1系変異株が増加しリリーの抗体が無効に
(2022年11月30日発表)

FDAは、イーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体bebtelovimabは現在、米国のどの地域でもオーソライズされていないと発表した。今年2月にEUA(非常時使用認可)したが、有効性が期待できない変異株、BQ.1とBQ.1.1による感染の構成比が57%に達したため。EUAが取り消されたわけではなく、将来、同薬が活性を持つ変異株が増加する事態に備えて、在庫を適切な方法で保存しておくよう求めている。

米国はCOVID-19治療薬やワクチンに関する連邦政府予算の追加が議会に認められなかったため、政府一括購入・無償供与から医療施設購入・公的/民間保険負担に切り替わりつつある。最初に移行したのがbebtelovimabで、イーライリリーは8月に州政府や医療施設に対する直接販売を開始したところ。

リンク: FDAのプレスリリース

【新薬開発】


WHIM症候群の第3相が成功
(2022年11月29日発表)

X4 Pharmaceuticals(Nasdaq:XFOR)は、X4P-001(mavorixafor)の第3相WHIM症候群治療試験が成功したと発表した。ANC(好中球数絶対数)が500セル/mcLを上回っていた時間が24時間当たり15時間と、偽薬群の2.7時間を有意に上回った。副次的評価項目の一つである1000セル/mcL以上の時間も15時間対4時間で上回った。感染症抑制効果も検討したはずだが今回のリリースでは言及されていない。

WHIM症候群は希少常染色体性優性遺伝による原発性免疫不全症で、Wはヒトパピローマウイルスによる疣贅、Hは低ガンマグロブリン血症、Iは細菌感染症、Mは骨髄性細胞貯留を指す。X4P-001は造血幹細胞移植におけるアフェレーシス補助剤として用いられているMozobil(plerixafor)を創製したAnorMedのもう一つのCXCR4受容体アンタゴニスト。AnorMedを06年に買収したジェンザイムを11年に買収したサノフィからライセンスしたもの。

リンク: 同社のプレスリリース


アルツハイマー性激昂の治療試験が成功
(2022年11月28日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)はAXS-05(dextromethorphan、bupropion)の第3相アルツハイマー性激昂試験が成功したと発表した。ラン・イン期間中に投与して応答した患者108人を偽薬スイッチ群と継続投与群に無作為化割付けして激昂症状が再発するまでの期間を比較したところ、ハザードレシオ0.275(p=0.014)となった。偽薬群は25%の患者が症状悪化したが継続投与群は7%に留まった。

通常の治療試験も既に第2/3相が一本成功、もう一本は25年に開票の見込み。承認申請はその後か。

AXS-05は鎮咳去痰薬として用いられているNMDA受容体アンタゴニスト、dextromethorphanと、その代謝を阻害するノルアドレナリン/ドーパミン再取込阻害剤、bupropionの調整放出錠。8月に鬱病治療薬Auvelityとして米国で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


lecanemabの学会発表と第二の死亡報告
(2022年11月29日発表)

エーザイがスウェーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス(Nasdaq Stockholm:BIOA B)からライセンスしバイオジェンと共同開発している抗アミロイド・ベータ抗体、lecanemabの第3相試験の結果がCTAD(Clinical Trials on Alzheimer's Disease)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。ヘッドラインは9月に公表済みだが、今回は18ヶ月後のCDR-SBの群間差だけでなく各群の変化も明らかになった。これとは別に、この試験に参加した患者が延長試験中に死亡した件についてSCIENCEINSIDERが報じた。

このCLARITY AD試験は脳アミロイドのあるアルツハイマー性軽度認知障害と軽度アルツハイマー病の患者1795人を偽薬群と試験薬群(10mg/kgを二週毎に点滴静注)に無作為化割り付けして18ヶ月間追跡した。主評価項目のCDR-SBはベースライン時点の平均値3.2から、偽薬群は1.66、試験薬群は1.21悪化した。低下率は偽薬群は52%、試験薬群は38%となる。群間差は0.45(p=0.00005)、低下抑制率は27%だった。

CDR-SBは記憶機能や日常生活機能など6評価項目について症状を0、0.5、1、2、3の5段階で評価し合計したもの(但しパーソナルケアに関しては0.5がない)。数値が大きいほど障害が大きい。軽度認知障害のCDRは0.5、軽度アルツハイマー病は0.5~4程度と言われている。lecanemabの治療効果である0.45は、6評価項目のうち一つで1段階上がる(0.5または1)よりも小さい。治験論文でも穏やかな効果と形容されている。

SCIENCEINSIDERが報じた65歳女性は、本試験の延長試験で試験薬の投与を受けていた。本試験でどちらの群に割り付けられていたたのか、あるいは、直近の投与時期は記されていない。脳梗塞を発症し救急医療としてtPAを投与したところ、大量出血し、数日後に死亡した。

lecanemabなどの抗アミロイド・ベータ抗体を投与するとMRI脳検査でARIA(アミロイド関連造影異常)がしばしば現れる。多くは症状を伴わないが全てではない。今回の事例は、lecanemab投与により弱体化した血管が抗凝固剤の投与により更に弱体化し破れた疑いがあるようだ。

STATで報じられた、脳出血で死亡した80代後半の男性もXa阻害剤apixabanとlecanemabの相互作用が疑われているようだ。

このようなケースまでlecanemabの副作用と呼ぶのは議論の余地がありそうだ。副作用だった場合、抗凝固剤の併用を禁忌にして対処する方法もある。しかし、悩ましいのは、現実の医療環境は臨床試験ほど単純ではないことだ。

臨床試験と現実の違いを端的に示すのは死亡率だ。被験者の平均年齢は70歳、男女ほぼ半々で、18ヶ月間の死亡率は偽薬群が0.8%、試験薬群は0.7%だった。人口全体の年間死亡率は米国男性の場合で60代は1~2%、70代は2~5%、80代は5~15%、女性は男性の6~8掛けなので、被験者は少なくとも命に関しては同年代の平均より健康だった。しかし、承認後は臨床試験では除外されるような患者にも使われるだろう。年齢的に、治療後に脳梗塞を発症する人も少なくないだろう。製薬会社や承認審査機関とは異なり、医師や患者にとっては、併用禁忌の一言で片づけられる問題ではないだろう。

白ではなく黒でもなく、悪いとも言えず良いとも言えない、難しい問題だ。

リンク: Dyckらの治験論文アブストラクト(NEJM)
リンク: SCIENCEINSIDER誌の記事(11/27付)
リンク: 両社のプレスリリース(和文、11/30付)

【承認申請】


ドライアイ治療薬を承認申請
(2022年11月29日発表)

RASP(反応性アルデヒド種)調節剤を開発しているAldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は、ADX 102(reproxalap)をドライアイ治療薬としてFDAに承認申請した。免疫原性を持つ有機アルデヒド遊離体に結合し炎症を抑制する。第3相は目の赤さを主評価項目とした試験がフェールしたが、副次的評価項目であるシルマー検査(下瞼に検査紙を挟み涙の量を測定)が有意に改善したため、もう一本の主評価項目を変更したところ、偽薬群は0mm、試験薬4回点眼後に測定した群は4mmと涙が有意に多かった。

リンク: 同社のプレスリリース

重症筋無力症治療薬を欧米申請
(2022年11月14日発表)

UCBはRA101495(zilucoplan)を欧米で承認申請し受理されたと発表した。アミノ酸15個からなる環状ペプチドで、補体系C5を阻害する。抗AChR(アセチルコリン受容体)自己抗体を持つ重症筋無力症の治療薬として一日一回、皮下注射する。臨床試験ではMG-ADL総スコアの12週間の悪化が偽薬比2.09点小さかった。

同社は抗胎児Fc受容体抗体UCB7665(rozanolixizumab)も承認申請したと推測される。臨床試験ではMG-ADLの43日間の悪化が偽薬比2.6点程度小さかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


テセントリクの膀胱癌適応を返上へ
(2022年11月28日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)の適応症の一つである尿路上皮癌一次治療を返上する考えであることを明らかにした。第2相試験成績に基づき16年に再発癌の単剤治療が加速承認されたが、市販後薬効確認試験の成績が芳しくなく、翌年、適応がPD-L1陽性患者や白金薬不適患者などに限定され、21年3月には適応返上に至った。一次治療は17年に加速承認されたが、フェーズ4コミットメントの対象である化学療法試験で、メジアン生存期間が上回ったものの有意水準には届かずフェール、加速承認と同じ単剤投与群は数値上悪かった。

免疫療法が有効な癌と考えていたが、抗PD-L1/PD-1抗体の第3相試験成績は区々で、適応返上/限定が増えている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


初の糞便移植療法が承認
(2022年11月30日発表)

FDAはFerring PharmaceuticalsのRebiotix(糞便微生物叢、生、接尾辞jslm)を18歳以上の難治クロストリジウムディフィシル感染症(CDI)治療薬として承認した。健常者ドナーの糞便を含有する浣腸用懸濁液で、抗生剤治療の24~72時間後に150mLを一回投与する。臨床試験では奏効率(治療後8週間に亘りCDIによる下痢が起きない)が70.6%と偽薬群の57.5%を上回り、優越性の事後確率は99.1%だった。臨床試験での安全性は、投与後6ヶ月間の深刻有害事象発生率は10.1%と偽薬群の7.2%を上回ったが、薬物関連とみなされるものはなかった。

CDIは、多くの場合、抗生剤治療により腸内微生物バランスが崩れたのに乗じて、クロストリジウム・ディフィシル菌が繁殖する。血液があまり届かない場所に生息するため全身性抗生剤が効きにくい。米国では年15000~30000人がCDIで死亡する。

対策として、様々な組織が健常者の糞便や糞便微生物叢を移植して再建する糞便移植療法を開発しているが、19年にESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生大腸菌感染による死亡等が発生、FDAがドナーのスクリーニングと糞便の多剤耐性菌検査などの徹底を求めた。Rebiotixは規制適合していた模様だが、風評被害や、検査対象外の細菌や食物アレルゲンの存在を完全に否定することは不可能であるため、臨床試験の目標症例数を動員することが困難になり、FDAの助言に則り、ベイズ確率による解析を主評価項目とするなどのプロトコル変更を行った経緯がある。

フェリングは18年にRebiotixを買収して入手した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Ferring Pharmaceuticalsのプレスリリース






今週は以上です。