2021年1月30日

第984回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンがEUで承認 
  • COVID-19:JNJの一回接種ワクチンは効果がやや見劣り 
  • COVID-19:Novavaxのワクチンも南アで感染を予防 
  • COVID-19:Modernaのワクチンは南ア型の予防にも資する可能性 
  • COVID-19:ワクチン接種後のアナフィラキシーは百万接種当り数例 
  • COVID-19:リリーの抗体医薬、入院死亡を7割抑制 
  • COVID-19:リジェネロン/ロシュの抗体医薬も暴露後感染リスクを抑制 
  • COVID-19:MSD、二種類のワクチンの開発を中止 
  • アムジェン、KRAS-G12C阻害剤のORRは37% 
  • BeiGene、抗PD-1抗体のグローバル食道癌試験が成功 
  • 輸血依存型ピルビン酸キナーゼ欠乏症治療薬の試験が成功 
  • ロシュ、二重特異性抗体の加齢黄斑変性試験が成功 
  • アストラゼネカ、btk阻害剤の直接比較試験で心房細胞が少ない 
  • 抗PD-1抗体にヤーボイを追加してもPD-L1強発現非小細胞性肺癌には効かない 
  • ペネム系経口抗生剤の承認申請が受理 
  • 進行性家族性肝内胆汁鬱滞用薬の承認申請が受理 
  • FDA、バイオジェンのアルツハイマー病用薬の承認審査を延長 
  • voclosporinが遂に承認 
  • ゼルヤンツの心血管・腫瘍安全性試験がフェール 


【今週の話題】


COVID-19:アストラゼネカのワクチンがEUで承認
(2021年1月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、アストラゼネカのCOVID-19ワクチン(ChAdOx1-S、遺伝子組換え)を条件付き承認した。18歳以上に、4~12週間おいて二回、筋注する。55歳以上の症例数は限定的であるためドイツのワクチン委員会は65歳以上の接種を推奨しなかったが、EUは限定していない。妊婦は、動物試験では問題ないものの臨床データが限定的であることから医師と相談することを推奨。授乳に関しては、安全性が確認されたわけではないが危険は予想されない、としている。

EMAの分析によると、臨床試験におけるワクチン効率は60%だった。対照群の症候性感染は5210人中154人であったのに対してワクチン群は5258人中64人に留まった。

アメリカはトランプ前大統領が自国民の接種が終わるまで米国産COVID-19ワクチンの輸出を禁じた。欧州ではファイザーに続いてアストラゼネカも生産が計画を下回っており、業を煮やしたEUは、域外輸出を規制する(事前認可が必要)ことを決めた。日本のワクチンは一部を除いて欧州製と推測されるので、アストラゼネカのワクチンに関しては、JCR Pharmaに受託生産量を予定より増やすようネゴしたほうが良いだろう。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

COVID-19:JNJの一回接種ワクチンは効果がやや見劣り
(2021年1月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはCOVID-19ワクチンのJNJ-78436735(Ad26.COV2.S)の第3相試験結果を発表した。ワクチン効率は66%、米国だけの集計でも72%となっており、BioNTech/ファイザーやModernaのmRNAワクチンの94-95%と比べて見劣りする。この試験は一回接種して、接種後28日以降の中重症感染をカウントした。BioNTech/ファイザーの試験は21日おいて二回接種して、二回目の8日後以降、一回目から起算すると28日程度後以降の、軽中重症感染をカウントした。つまり、この二本の試験の効果計測開始タイミングはほぼ同じなので、直接比較することが可能なはずである。

この試験は接種14日後以降の中重症感染も主評価項目だった。予防効果があったようだが数値は公表されていない。先行三社のワクチンは一回接種してから二回目接種するまでの期間もある程度の予防効果があるので、もし一回接種後数週間の効果が同程度であったならば、2回目接種がない分、接種を受けた人が不利益を被ることになりかねない。

但し、JNJは軽症感染症をカウントしていない。アストラゼネカの英国試験データから推測すると、ワクチンの効果の少なくとも一部は、ウイルスの増殖を抑制して症状が出ない程度の感染に抑えることだ。このカテゴリーシフトは中重症から軽症へのシフトよりも、軽症から無症状へのシフトのほうが大きいと想定するのが自然だろう。だから、軽症が減る効果が反映されないJNJの試験のほうがデータが悪く出る可能性があるのではないか。

JNJのワクチンはアデノウイルス血清型26をベクターとしてスパイク蛋白の遺伝子を導入する。エボラウイルス疾患ワクチンで採用した技術だ。第3相は米国、中南米、南アフリカで43783人を組入れた。米国におけるワクチン効率は72%だったが、ラテンアメリカは66%、南アは57%だった。南アでは、自然感染やワクチンで誘導される抗体が効きにくいエスケープ変異を持つ、B.1.351系統のウイルスが新規感染の9割以上を占めているので、57%でも防げたのは朗報だ。ラテンアメリカでは少なくともブラジルでは、エスケープ変異を持つ可能性が高いB.1.1.248系統列が発見されており、治験成績に影響したかもしれない。

効果が見劣りしてもワクチンの供給不足が続く間はニーズはあるし、接種を受ける側の好き嫌いは許されないだろう。第3相の成功を受けて、JNJは欧米などで承認申請に向かうと予想される。

mRNAワクチンは低温保存が必要だが、JNJのワクチンは2~8℃で最大3ヶ月間、保存可能で、零下20℃なら2年間大丈夫。また、パンデミックが続くうちは利益ゼロで供給することをコミットしている。

スパイク蛋白のアミノ酸変異
英国型(B.1.1.7):H69欠損、V70欠損、Y144欠損、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118H
南ア型(B.1.351):L18F、D80A、D215G、L242欠損、A243欠損、L244欠損、R246I、K417N、E484K、N501Y、D614G、A701V
ブラジル型/日本型(B.1.1.248):L18F、T20N、P26S、D138Y、R190S、K417T、E484K、N501Y、D614G、H655Y、T1027I
カリフォルニア型:S13I、W152C、L452R、D614G

リンク: JNJのプレスリリース

COVID-19:Novavaxのワクチンも南アで感染を予防
(2021年1月28日発表)

米国メリーランド州の新興企業、Novavax(Nasdaq:NVAX)は、COVID-19ワクチンであるNVX-CoV2373の第3相試験を英国で、後期第2相を南アフリカで行った。両国ではワクチンの効果に影響しかねない遺伝子変異を持つウイルスが流行しているため注目されていたが、特に危惧された南ア型変異に対しても、インフルエンザ・ワクチンとそれほど変わらない程度の効果がありそうだ。

同社のワクチンは、SARS-CoV-2の融合前スパイク蛋白の遺伝子をバキュロウイルス・ベクターで昆虫細胞に導入して生産した抗原と、サポニン・ベースのアジュバントから成る。英国試験は18~84歳の15000人超を偽薬と試験薬(抗原5mcg+アジュバント50mcg)に無作為化割付して、3週置いて2回筋注し、2回目の7日後以降の症候性感染を観察した。ベースライン時点の血清検査で陽性だった、関連歴が疑われる人は主評価項目から除外した。最初の中間解析で各群の感染者数が56人と6人となり、ワクチン効率は89.3%(95%信頼区間75.2-95.4%)となった。重症例は少なく各1人とゼロだった。

感染者の変異型におけるワクチン効率を事後的に解析したところ、英国型変異は62例中32例で、ワクチン効率は85.6%。それ以外の型(24例)のワクチン効率は95.6%だったので10ポイント程度低下する勘定になる。尚、6例は不明だった。

忍容性は偽薬と同程度であった由。

南ア試験は4400人超を組入れて、ベースライン時点で血清陰性者の症候性感染リスクを比較した。HIV陰性(被験者の94%)のCOVID-19感染は偽薬群29人に対して試験薬群は15人で、ワクチン効率は60%(95%信頼区間19.9-80.1%)となった。重症例は各1人とゼロ。HIV陽性も含めたワクチン効率は49.4%(6.1-72.8%)だった。

HIV陰性の感染者44人中27人の分析では、25人が南ア型変異に感染していた。南ア型は、英国型が持つ、細胞侵入・感染力が高まるとされるN501Y変異に加えて、感染者やワクチン接種者が取得した抗体からエスケープできる可能性のあるK417N変異とE484K変異を持っている。そのような変異が蔓延していても感染者を6割減らすことができたのだから、感染症のワクチンとしては悪くない成績と言えるのではないか。

この試験ではベースライン時点で3分の1が血清陽性、即ち感染歴を持っているであろう人だった。疫学的には南ア型感染ではなかったと推測されるので、もしこの人たちの感染状況も追跡調査していたならば、エスケープ変異を持たないウイルスに感染し抗体を取得した人が南ア型に感染するリスクがどの程度なのか、貴重な情報を得ることができるだろう。もしこの人たちも試験に組入れられたのならば、自然感染による免疫がワクチンでどの程度増強できるのか、知ることができるだろう。残念ながら、現時点ではこのような試験を行ったのかどうかすら分からない。

NVX-CoV2373は英国で承認審査中。日本では武田薬品がライセンスした。通常の冷蔵庫で保管でき、液状のレディー・トゥー・ユース製剤なので使い勝手は良い。

リンク: 同社のプレスリリース(pdf)

COVID-19:Modernaのワクチンは南ア型の予防にも資する可能性
(2021年1月25日発表)

COVID-19のワクチンや抗SARS-CoV-2抗体は、ウイルスのスパイク蛋白を標的にするものが多い。ウイルスが細胞に侵入する第一歩はスパイク蛋白が細胞表面のACE2に結合することだからだ。スパイク蛋白のアミノ酸配列に置換や欠損が生じると、場合によっては、ワクチンや抗体医薬の効果が低下する可能性が出てくる。幸い、接種が始まった三種類のワクチンはインフルエンザなどのワクチンと比べて開発・生産スピードが速いので、もし効果が落ちるならば変異型に対応した塩基配列のワクチンを開発すればよい。流行が始まってから一年も経たずに最初のワクチンを実用化できたのだから、変異型にも数ヶ月で対応できるだろう。

mRNAワクチンを販売しているModerna(Nasdaq:MRNA)は、変異型に対するmRNA-1273ワクチンの効果に関する研究論文草稿を投稿し、論文草稿登録サイトに届け出たと発表した。遺伝子変異を導入したシュードウイルスとワクチン接種者の血漿を用いたin vitro中和試験に関するもので、結論は、英国型変異(B.1.1.7系統)はオリジナルの武漢型と中和抗体力価が大差なかった。南ア型(B.1.351系統)は6倍少なかったが、防御が期待できる水準はクリアしていたとのこと。

取り敢えず朗報だが、SARS-CoV-2におけるシュードウイルス中和アッセイの信憑性や、抗体水準と予防効果の関係性は確立していないだろうから、有効と断定できるほどではないのではないか。逆に、液性免疫が低下しても細胞性免疫が補ってくれる可能性もあり、結局、この段階では何とも言い難い。

プランBに関する朗報は、同社が南ア型に対するワクチンの開発を進めていること。現時点ではブースターとして自社あるいは他社のワクチンを補完することを考えている模様だ。 

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:ワクチン接種後のアナフィラキシーは百万接種当り数例
(2021年1月27日発表)

米国で12月中旬にCOVID-19ワクチンの接種が始まってから1ヶ月半が経った。これまでに2000万人以上が接種し、2回目を終えた人もいる。米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)にも9000件を超える症例が集まった。この種のデータは氷山の一角と言われるが、MSDが04年にrofecoxibの自主回収を発表した途端、有害事象報告数が急増したように、関心が高い薬剤の注目されている副作用に関しては比較的データが集まりやすい傾向がある。

FDAが1月27日にACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、COVID-19ワクチンの開発、接種、副作用報告状況についてアップデートした。CDC(米国疾病予防管理センター)のShimabukuro医学博士のプレゼンテーション用スライドによると、BioNTech/ファイザーのワクチン(以下、B/P社製)は約1215万人、Modernaのワクチン(以下、M社製)は約969万人が接種した(1月24日時点)。有害事象報告数は各7307件と1786件だった(1月18日時点)。性別では女性が約77%を占めた。接種者に占める割合は61%。他の国でも報告されている現象であり、また、他のワクチンでも見られるとのことだが、女性の方がリスクがやや高くなっている。

両ワクチン合計の百万接種当り報告数は、深刻有害事象が45件、深刻でないものが372件だった。

ワクチン接種直後に一番警戒しなければならないアナフィラキシーの症例数は、B/P社製が50例、M社製は21例だった。女性は各47人と21人で、9割以上を占めている。理由は不明。尚、アナフィラキシーではないが、臨床試験では美容目的で頬などに充填剤を入れた人が二人、深刻な顔面腫脹を発症しており、思い当たる人は気を付けた方が良いだろう。

百万接種当りのアナフィラキシー報告件数はB/P社製が5.0、Moderna製は2.8。発症時期は接種後30分以内が90%を占めた。発症者のメジアン年齢は約39歳、アレルギー/アレルギー反応歴を持つ人が8割以上を占めた。アナフィラキシー歴は24%で、食品などによるものを含めて、今回が初めてという人が少なくないことになる。

接種後の死亡報告(因果関係不問)はB/P社製が113人、M社製が83人で合計196人。うち129人は介護施設入居者で、ノルウェーでの報告と同様に、数が多い。介護施設入居者は130万人が接種したと推定されており、死亡頻度を試算するとおよそ1万人に一人。全米では10万人に一人なのでリスクは10倍となる。尤も、高齢者や介護施設入居者は元々、死亡リスクが高く、通常の死亡率と比べて接種後が特に高いとは考えられていない。

COVID-19ワクチンは妊婦における安全性が確立していない。危険と考える理由もないため、米国では医師とよく相談して決めるよう推奨している。米国はv-safeというスマホ・アプリで接種者から有害事象報告を受け付けたり、二回目の接種が近づいたら通知するようなシステムを導入し、200万人以上が登録しているが、うち妊婦は約15,000人だった。その殆どは医療従事者と推測されるが、多くの妊婦が接種しているようだ。

図表:ワクチン有害事象報告状況

BioNTech/PfizerModerna不明合計
米国の接種者数(1/24時点)12,153,5369,689,497-21,843,033
有害事象(VAERS、1/18時点)7,3071,78639096
うち、女性5,6281,36136,992
深刻有害事象5883901979
百万接種当り頻度:
深刻有害事象45
非深刻有害事象372
アナフィラキシー症例数5021
うち女性4721
メジアン年齢38.5歳39歳
15分以内の発症74%86%
30分以内の発症90%90%
アレルギー/アレルギー反応歴80%86%
アナフィラキシー歴24%24%
百万接種当りアナフィラキシー頻度5.02.8
接種後全死亡報告11383196
うち、介護施設入居者129
65歳未満43
接種者のうち女性61%
v-safe回答者数(1/20時点)997,0421,083,1742,080,216
(うち妊婦)8,6336,49815,131
出所:ACIPにおけるShimabukuro医学博士のプレゼン資料より作成


リンク: ACIP会合で用いられたプレゼンスライドのリンク

COVID-19:リリーの抗体医薬、入院死亡を7割抑制
(2021年1月26日発表)

イーライリリーは軽中等症COVID-19感染症で重症化リスクの高い患者の治療薬として昨年11月にLY-CoV555(bamlanivimab)のEUA(非常時使用認可)を取得したが、同月に、LY-CoV016(etesevimab)との併用もEUA申請している。今回、この併用法が第三相試験で良好な成績を挙げたことが発表された。

第3相BLAZE-1試験のパートCとして、新患の重症化リスクが高い軽中等症患者1035人を偽薬群と試験薬群(各剤2800mgずつを点滴静注)に無作為化割付して入院・死亡リスクを二重盲検で比較したところ、偽薬群のCOVID-19関連入院または死亡が36件(7.0%)あったのに対して、併用群は11件(2.1%)に留まり、相対リスク削減率70%、p=0.0004だった。死亡は10人対ゼロ、深刻有害事象は5人対7人、有害事象による死亡は2人対ゼロと、救命効果の面でも忍容性の点でも良好だった。

この試験ではbamlanivimabを単剤投与する時の推奨用量である700mgよりかなり大量に投与したが、もっと少量で足りる可能性があり、各剤700mgと1400mgを併用する試験も進行中。用量が減らせれば皮注の可能性も出てくるようだ。尚、EUAではbamlanivimabを60分かけて点滴することを推奨しているが、16分に短縮すべくFDAと相談している由。

bamlanivimabは米国のほかにカナダやドイツ、ハンガリー、イスラエル、サウジアラビアなどで承認されている。併用法も米国外で承認申請する考えだ。

今回のデータで若干残念なのは、相対リスク削減率70%というのはbamlanivimabが第2相モノセラピー試験で叩き出したCOVID-19入院・ICU入室リスク72%減と大差ないことだ。ウイルス量削減効果は併用のほうが減少ペースも期間も優れているので、臨床的な効果も高いと想像したが、第2相が実力以上だったのかもしれない。

もう一つ心配なのは、上記二剤は南ア型変異(B.1.351系統)やブラジル型変異(B.1.1.248系統)に対する効果が弱いと一部で指摘されていることだ。そのせいか、イーライリリーは、サンフランシスコのVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)がグラクソ・スミスクラインと共同開発しているSARS-CoV-2抗体、VIR-7831とbamlanivimabの併用試験の計画を発表した。

bamlanivimabは米国連邦政府が一括調達して州政府を通じて医療施設に配布する。20年第4四半期の売上高は8.71億ドルに上ったが、実需は伸び悩んでいる模様だ。抗SARS-CoV-2抗体は酸素・換気補助の必要な重症化した患者に対する効果や安全性が確立していないことや、自力で抗体を獲得できた患者には無益な可能性があること、そして、EUAを受けた適応症では、感染検査の結果が出るまで自宅待機していた患者にまたクリニックまで来てもらって点滴投与するという、ロジスティックの難が原因と言われている。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:リジェネロン/ロシュの抗体医薬も暴露後感染リスクを抑制
(2021年1月26日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGEN-COV(登録商標。casirivimabとimdevimabの併用)の第3相家庭内感染予防試験の初期解析結果を発表した。感染者の同居者を組入れて偽薬または1200mgを一回、皮注して、発症リスクを二重盲検で比較したところ、大きな予防効果が示された。予防ならワクチンが有効だが抗SARS-CoV-2抗体は即効性が高く、また、既に感染していた場合、速やかに治療することができるので、濃厚接触者等の暴露後予防には有効だろう。

今回は目標症例数2000例のうち400例程度の探索的解析。症候性感染者数は偽薬群が223人中8人(3.8%)、試験薬群は186人中ゼロだった。無症候性感染者を含めると各23人(10.3%)と10人(5.4%)で、予防効果が5割弱に低下した。

無症候性感染で一番問題となる、他者に感染するリスクも抑制できるのではないか。試験薬群の感染者はウイルス負荷のピーク値やウイルス排出期間、感染持続期間の何れをとっても偽薬群の感染者より良好だからだ。

COVID-19関連入院は各群1人対ゼロ、全死亡も1人対ゼロ。今回の解析ではイベント数が少なすぎて明確なことは分からない。

尚、同社はREGEN-COVが英国型変異や南ア型変異にも有効であることを示唆する試験結果を発表した。同社とコロンビア大学の研究者が別々に実施したin vitroシュードウイルス抗体力価試験で、imdevimabはどちらにも力価を維持した。casirivimabは南ア型に対する力価が低下したが、一定の水準は維持している模様だ。論文発表の予定。治療/予防効果を検証する試験もやってほしいものだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 変異株試験に関するプレスリリース(1/27付)

COVID-19:MSD、二種類のワクチンの開発を中止
(2021年1月25日発表)

欧米露におけるのCOVID-19ワクチンの開発は、ModernaやBioNTechのような新興企業の、核酸ワクチンという前例があまりない技術が先行した。グローバル・メジャーであるMSD、サノフィ、グラクソ・スミスクラインも他のワクチンで蓄積した技術や他社のノウハウを導入して様々なタイプのワクチンを開発しているが、今のところ、後塵を浴びている。MSDは二種類のウイルスベクター・ワクチンを臨床入りさせたが、どちらも開発中止した。第1相試験で免疫応答が自然感染や他社のワクチンより見劣りしたため。

一つは遺伝子組換え型弱毒化水胞性口炎ウイルスをベクターとするV590。昨年、非営利科学研究団体のIAVIとコラボを結んで開発を進めてきたもの。このウイルスベクターはコンゴ民主共和国や欧米で承認されているエボラ・ワクチン、Erveboに採用されたことで知られている。

もう一つは遺伝子組換え型弱毒化麻疹ウイルスをベクターとするV591。昨年、オーストリアのThernis Bioscienceを完全子会社化することで入手した。

サノフィがGSKのAS03アジュバントを用いて開発している遺伝子組換え型COVID-19抗原ワクチンも、第1/2相試験で49歳以上における免疫原性が十分でなかったため製剤や抗原量の見直しが必要になり、承認申請時期の想定が今年上期から下期に遅延している。

ワクチンは丼ものと同じで、お盆にご飯とみそ汁、漬物を乗せ、かつ丼ならカツ、親子丼なら卵と鶏肉、天丼ならてんぷらをご飯に乗せタレをかけたら出来上がり。開発生産販売のシナジーを享受できるグローバル・メジャーのほうがブティックより有利なはずだが、『新技術の脅威』を克服しないと、電動化時代を迎える自動車メーカーと同じ運命をたどることになりかねない。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: IAVIのプレスリリース


【新薬開発】


アムジェン、KRAS-G12C阻害剤のORRは37%
(2021年1月28日発表)

アムジェンはAMG 510(sotorasib)をKRAS-G12C変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として昨年12月に欧米で承認申請したが、根拠となる第2相試験の成績がWCLC(世界肺癌学会)のプレスリリースで公表された。ORR(客観的反応率、独立盲検中央評価)は126人中46人(37.1%)で、うち完全反応3人、部分反応43人。メジアン反応持続期間は10ヶ月だった。昨年、New England Journal of Medicine誌で論文刊行された第1/2相試験のデータと概ね同様な結果だ。有害事象による治験離脱率は7%、G3以上の治療時発現有害事象発生率は20%で内容は肝機能検査値異常や下痢など。

非小細胞性肺癌では遺伝子変異に基づく薬剤選択が広がってきた。KRAS-G12C変異は非小細胞性肺癌線維腫の13%程度で見られる模様。

リンク: IASLCのプレスリリース

BeiGene、抗PD-1抗体のグローバル食道癌試験が成功
(2021年1月27日発表)

中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)は、BGB-A317(tislelizumab)の第3相進行・切除不能/転移食道扁平上皮腫二次治療試験が成功したと発表した。北米欧州アジアの医療施設で512人を組入れて、200mgを3週毎点滴静注する群と化学療法(paclitaxel、docetaxel、irinotecanから選択)の群の全生存期間を比較したところ、統計的に有意で臨床的にも意味のある延命を中間解析で達成した。この解析はPD-L1陽性以外の患者も含むintent-to-treatベース。

tislelizumabはPD-1に結合する抗体医薬で、IgG4型であることと、マクロファージのFcガンマ受容体結合性を抑制すべく改変してあることが特徴。中国では古典的ホジキン型リンパ腫やPD-L1陽性尿路上皮腫に条件付き承認、進行扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用に本承認を受け、非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用と切除不能肝細胞腫の二次治療に承認審査中。

中国外での承認申請を企図したグローバル試験は、非小細胞性肺癌の二次治療モノセラピー試験もPD-L1不問で成功したが、今回の適応のほうが競合が少ない。承認申請に向かうだろう。

北米や欧州、日本などでの権利は先日、ノバルティスが取得した。

リンク: BeiGeneのプレスリリース(Business Wire)

輸血依存型ピルビン酸キナーゼ欠乏症治療薬の試験が成功
(2021年1月26日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はAG-348(mitapivat)をピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏症の治療薬として開発している。定期的な輸血が必要なほど悪化していない成人を組入れた第3相試験では被験者の4割でヘモグロビン濃度が1.5g/dL以上増加した(偽薬群は0%)。今回、輸血依存型27人を組入れた単群試験で被験者の37%で輸血量が33%以上減少したことが発表された。22%の患者は滴定期間後の24週間に一度も輸血しなかった。

PK欠乏症は希少遺伝性疾患で、ピルビン酸を作る酵素の欠乏によりATPの産生が低下、脱水により赤血球が変形能を失い、脾臓で分解され溶血性貧血を呈する。AG-348はPKのスプライシング多型のうちPKRのアロステリック・アクティベータとされる。第2相試験では深刻有害事象の発生率が20%近かった。第3相試験の学会・論文発表時の注目材料だ。

Agiosは今年第2四半期中に米国で、年央にはEUでも、承認申請する計画。

リンク: 同社のプレスリリース

ロシュ、二重特異性抗体の加齢黄斑変性試験が成功
(2021年1月25日発表)

ロシュは、RG7716(faricimab)の第3相加齢黄斑変性試験が二本とも成功したと発表した。新生血管を伴う加齢黄斑変性における最高矯正視力改善効果を実薬であるリジェネロン/バイエルのEylea(aflibercept)と比較したところ、非劣性だった。糖尿病性黄斑浮腫の第3相二本も非劣性解析が成功しており、承認申請が見込まれる。

RG7716はAngiopoietin-2とVEGFに結合する二重特異性抗体。EyleaはVEGF-AとPlGFに結合する融合蛋白で、作用機序的には前者の方が効きそうに聞こえるが、そうはいかないのがこの病気だ。RG7716も遡及ポイントは効果ではなく作用の持続性。の臨床試験での投与間隔は、最初はEyleaと同じで8週毎硝子体注射だが、経過に応じて12週毎または16週毎に延ばすことが許容され、1年経過時点では加齢黄斑変性試験では45%が、糖尿病性黄斑浮腫試験では過半が、16週毎に変更していた。

リンク: ロシュのプレスリリース

アストラゼネカ、btk阻害剤の直接比較試験で心房細胞が少ない
(2021年1月25日発表)

アストラゼネカは、 Calquence (acalabrutinib、和名カルケンス) とジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)のbtk阻害剤直接比較試験であるELEVATE-TNの結果を公表した。65歳以上で基礎疾患を持つ未治療の高リスク慢性リンパ性白血病を組入れて単剤投与によるPFS(無進行生存期間)を比較したところ、非劣性だった。

主要副次的評価項目である安全性に関しては、心房細動の発生率が有意に少なかった。シーケンシャルに行われたG3以上の感染症やリヒター症候群の発生状況は差がなかった。

全生存期間はキチンとした解析ではないようだが数値上好ましいトレンドが見られた由。

数値は未発表。Imbruvicaは未治療慢性リンパ性白血病にobinutuzumabと併用したiLLUMINATE試験で心房細動の発生率が12%(G3以上は5%)だった。chlorambucilをobinutuzumabと併用した対照群では0%だった。Calquenceのobinutuzumab併用試験では心房細動は主要有害事象として報告されていない。

リンク: 同社のプレスリリース

抗PD-1抗体にヤーボイを追加してもPD-L1強発現非小細胞性肺癌には効かない
(2021年1月29日発表)

MSDは、昨年11月、Keytruda(pembrolizumab、和名キートルーダ)にBMSのYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用する上乗せ効果を検討したKEYNOTE-598試験がフェールしたと発表したが、WCLC(世界肺癌会議)でデータを発表した。PD-L1強発現(TPS≧50%)でEGFRやALK変異のない転移性非小細胞性肺癌の一次治療試験で、全生存期間とPFS(無進行生存期間)が共同主評価項目だったが、中間解析で独立データ監視委員会が無益性認定した。メジアン生存期間は21.4ヶ月で単剤の21.9ヶ月と大差なく、PFSも8.2ヶ月対8.4ヶ月だった。治療関連の深刻有害事象発生率は27.7%で単剤の13.9%を大きく上回り、治療関連死亡は2.5%対ゼロだった。

YervoyはPD-L1陽性(≧1%)でEGFR/ALK変異のない転移非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)と併用することが昨年5月、米国で承認された。しかし、エビデンスとなるCheckMate-227試験は両剤併用と化学療法を比較しており、Opdivo単剤では足りないのか、という疑問には答えていない。

一方、単剤でも効果のあるKeytrudaとYervoyを併用したらもっと効くのではないか、という疑問には今回、少なくともPD-L1共発現に関しては、答えが出た。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


ペネム系経口抗生剤の承認申請が受理
(2021年1月25日発表)

Iterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)はsulopenemをキノロン系に感受しない非複雑尿路感染症の治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は7月25日。FDAは諮問委員会に上程する考え。

ファイザーが10年前に開発中止した広域ペネム系ベータラクタム、PF-03709270を5年前にライセンスして経口剤や点滴用製剤の第3相試験を行った。複雑腹腔内感染症と複雑尿路感染症試験はフェールしたが、成人女性の非複雑尿路感染症実薬対照試験でキノロン非感受サブグループに良績を残した。

具体的には、sulopenemの経口剤とprobenecid(尿酸排泄促進剤)の5日コースを受けた患者の第12日TOC(Test of Cure)奏効率が62.6%と、ciprofloxacinの3日コース群の36.0%を有意に上回った。

一方、キノロン感受サブグループに関しては各66.8%と78.6%となり、非劣性解析がフェールした。

リンク: 同社のプレスリリース

進行性家族性肝内胆汁鬱滞用薬の承認申請が受理
(2021年1月25日発表)

Albireo Pharma(Nasdaq:ALBO)はA-4250(odevixibat)を進行性家族性肝内胆汁鬱滞(PFIC)における掻痒の治療薬として昨年12月に欧米で承認申請したが、FDAが受理し優先審査指定したことを公表した。審査期限は7月20日。EUも加速審査を決定している。

PFICは希少遺伝子疾患で、胆汁が肝臓に留まり障害を与える。典型的な症状が掻痒。10歳までに肝硬変や肝不全を合併するリスクがある。A-4250はナトリウム胆汁酸共輸送体を回腸局所的に阻害する経口剤で、胆汁酸が肝臓に戻るのを妨げる。希少疾患指定、希少小児疾患指定、ファーストトラック指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA、バイオジェンのアルツハイマー病用薬の承認審査を延長
(2021年1月29日発表)

バイオジェンとエーザイは、FDAがBIIB037(aducanumab)の審査期限を6月7日に、3ヶ月先延ばししたことを発表した。FDAの要請に応じて追加資料を提出したところ、FDAが、審査期限が近づいた時点で申請内容の主要な変更が行われた場合は審査期間を最長3ヶ月延ばすことができる、という規定を適用した。

アミロイドベータの立体配座エピトープに結合する抗体医薬で、アルツハイマー病の第3相試験がフェールしたが、追加的・事後的分析で効果の兆しが窺われたため、FDAと相談の上、承認申請に進んだ。しかし、エビデンスが強固ではないことから、諮問委員会では11人中10人が薬効を肯定せず、残りの一人は棄権した。

審査完了通知(提出された資料の内容では承認できないことを伝えるレター)がコンセンサスだっただろうから、結論が先送りされたのは、イコール、事態が良い方向に向かっているのではないかという観測を招く。株式市場は変化率を重視するのでバイオジェンの株価が上昇したが、金儲けを望む人と治療を望む人の評価が一致するとは限らない。

BIIB037は欧州や日本でも承認中。

リンク: 両社のプレスリリース

CHMP、COVID-19ワクチンなどの承認を支持
(2021年1月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、アストラゼネカのCOVID-19ワクチンなどの承認に肯定的意見を纏めた。上記のようにこのワクチンは即日承認。他は、順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

CHMPも繁忙なのか、承認の詳細な内容は2月1日に発表するとのこと。新薬に関してはメーカー側がプレスリリースを出しているが、適応拡大については病名すら分からないので、次回改めて報告したい。

肯定的意見を得た新薬は、まず、ドイツのPAION(FSE:PA8)のByfavo(remimazolam、和名アネレム)。結膜鏡や気管支鏡による検査など、30分以内の処置を受ける成人の鎮静導入・維持に用いる。

08年にCeNeS Pharmaceuticalsを子会社化して入手したベンゾジアゼピン系麻酔薬で、オンンセットやオフセットが早く、体内のエステラーゼで不活化されるのでP450相互作用リスクがない。日本でムンディファーマが導入、昨年1月に今年1月に全身麻酔薬として製造販売承認を得た。米国ではAcacia Pharma(Euronext:ACPH)がライセンス、昨年6月に処置用鎮静剤として承認を取得し、今月、ロンチした。

リンク: PAIONのプレスリリース

ノバルティスのKesimpta(ofatumumab)は活性期再発型多発性硬化症の成人に用いる。ジェンマブ(OMX:GEN)からライセンスして開発し慢性リンパ性白血病用薬として販売している抗CD20抗体、Arzerra(和名アーゼラ)の活性成分を皮注できるようにしたもの。

第三相は20mgを月一回投与する群とサノフィの Aubagio(teriflunomide)を一日一回経口投与する群のARR(年率再発率)を比較したところ、相対リスク削減率が一本は50%、もう一本は58%で統計的に有意だった。

米国では昨年8月に承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のXpovio(selinexor)は、成人の難治性多発骨髄腫のサルベージセラピーとして条件付き承認することが支持された。四次以上の治療歴を持ち、二種類のプロテアーゼ阻害剤、二種類の免疫調停剤、そして抗CD38抗体に難治性で、最終治療抵抗性の患者にdexamethasoneと併用する。米国ではこの用途と再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の三次治療に加速承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

Arvelle TherapeuticsのOntozry(cenobamate)は韓国のSK Biopharmaceuticalsからライセンスした電位依存性カリウムチャネルブロッカー。二種類以上の抗癲癇薬による治療歴を持つ、焦点発作管理不良な癲癇の成人に追加投与する。米国ではXcopri名で19年に承認された。尚、Arvelle社はAngeliniに買収されることで合意している。

リンク: 同社のプレスリリース

インサイト(Nasdaq:INCY)のPemazyre(pemigatinib)はFGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)阻害剤。FGFR2融合/再編成遺伝子陽性の局所進行または転移性胆管癌用の薬として条件付き承認が支持された。

第二相試験でORR(客観的反応率、独立中央放射線学的評価)が36%で、内訳は完全反応2.8%、部分反応33%だった。メジアン反応持続期間は9.1ヶ月。米国では昨年4月に承認された。日本でも承認審査中。

リンク: 同社のプレスリリース

ノボ ノルディスクのSogroya(somapacitan)は遺伝子組換え型成長ホルモン。成長ホルモン分泌不全症の成人に用いる。同社がインスリンやGLP-1作用剤に応用している、脂肪酸を付加して血中のアルブミンに結合させることによって血中半減期を延長する技術を用いて、皮注頻度を従来の一日一回から週一回に軽減した。頭蓋内高血圧を誘導・悪化させる可能性があるので、治療開始前に兆候である視神経乳頭浮腫の有無をチェックするよう米国では推奨されている。

米国では昨年、日本では今月、承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

アマリン(Nasdaq:AMRN)のVAZKEPA(icosapent ethyl)は高純度EPA製剤。EMAのプレスリリースには心血管疾患のリスクが高い患者のリスク削減としか記されていないが、同社のリリースによると、トリグリセライド値が150mg/dL以上でスタチンを服用中の成人のうち、確立した心血管疾患、または、糖尿病を含む二つ以上の心血管リスク因子を持つ成人に用いることが想定されている。

米国では12年に高トリグリセライド血症治療薬Vascepaとして承認され、心血管アウトカム試験が成功したため期待が高まったが、GE化リスクが顕在化している。欧州では10年間の新薬排他権が得られるだろう。このアウトカム試験に基づく特許も所得する考えのようだ。

リンク: 同社のプレスリリース

適応拡大では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)、ジョンソン・エンド・ジョンソンの結核治療薬Sirturo(bedaquiline、和名サチュロ)、Emergent Netherlandsのコレラ・ワクチン、Vaxchoraが肯定的意見を得たが、内容は不詳。一方、ロシュのTecentriq(atezolizumab)は進行/転移尿路上皮腫の一次治療として白金薬と併用する適応拡大申請が撤回された旨、発表されたが、こちらも詳細は不明。


【承認】


voclosporinが遂に承認
(2021年1月22日発表)

Aurinia Pharmaceuticals(TSX:AUP、Nasdaq:AUPH)は、FDAがLupkynis(voclosporin)をループス腎炎の治療薬として承認したと発表した。経口剤は初めて。但し、GE化した類薬がオフレーベルで用いられている。

ロシュがIsotechnikaから導入し臓器移植後拒絶反応防止などの用途で開発したが08年に権利を返還。Isotechnikaは13年にAuriniaと合併した。

ループス腎炎の第3相試験では、mycophenolate mofetil及び低量ステロイドを服用している患者に偽薬または23.7mgを一日二回投与したところ、腎反応率(eGFRや尿蛋白クレアチニンレシオなどで評価)が各群22.5%と40.8%となり、統計的に有意な差があった。

EUや日本では大塚製薬が承認申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


【医薬品の安全性】


ゼルヤンツの心血管・腫瘍安全性試験がフェール
(2021年1月27日発表)

ファイザーは、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の市販後安全性確認試験がフェールしたと発表した。主要有害心血管イベント(MACE)や癌のリスクがTNF阻害剤より著しく高くはないことを確認しようとしたが、できなかった。リスク倍率自体は決して高くないが、今まで以上に、他剤不応不耐の患者だけにしか用いられなくなるのではないだろうか。クラス・イフェクトではないと考えるのは難しいので、類薬の需要にも影響する可能性がありそうだ。

このA3921133試験は、50歳以上で心血管リスク因子を一つ以上持つ中重度リウマチ性関節炎患者約4350人を、Xeljanzの承認用量である5mgを一日二回経口投与する群、10mg一日二回群、そして対照群として抗TNF-アルファ抗体(北米はHumira、それ以外はEnbrel)を皮注する群に無作為化割付して、MACEや腫瘍(黒色腫以外の皮膚癌は除く)のリスクを平均3~4年、追跡した。結果は、MACEの100人年当り発生率が各群0.91、1.05、0.73、ハザードレシオは5mg群が1.24、10mg群は1.43、両用量合計では1.33(95%信頼区間0.91、1.94)となり、95%上限が非劣性マージンの1.8を上回ったため、フェールした。MACEは心筋梗塞や脳梗塞が多かった。

腫瘍についても100人年当り発生率が各1.13、1.1、0.77、ハザードレシオは各1.47と1.48で両用量合計では1.48(95%信頼区間1.04、2.09)で、こちらも非劣性マージンの1.8をクリアできなかった。

尚、10mg群は肺塞栓や死亡が他の群より多かったため、19年にプロトコル変更し、5mgに減量した。

Xeljanzはインターロイキンなどの受容体の細胞内シグナル伝達に係るJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤。尋常性乾癬や強直性脊椎炎、日欧では潰瘍性大腸炎の治療に10mgを一日二回服用することも承認されている。米国では命に係わることもある感染症、肺塞栓などの血栓性疾患、リンパ腫などの腫瘍のリスクが枠付警告されている。


図表:Xeljanzの心血管・腫瘍安全性試験の結果

5 mg10 mg合計TNF阻害剤
解析対象1,4551,4562,9111,451
主要有害心血管イベント:
発症人数(発生率)47 (3.23)51 (3.50)98 (3.37)37 (2.55)
100人年当り0.911.050.980.73
ハザード比1.24 1.43 1.33
(95%信頼区間) (0.81, 1.91) (0.94, 2.18) (0.91, 1.94)
腫瘍イベント:
発症人数(発生率)62 (4.26)60 (4.12)122 (4.19)42 (2.89)
100人年当り1.131.13 1.130.77
ハザード比1.47 1.48 1.48
(95%信頼区間) (1.00, 2.18) (1.00, 2.19) (1.04, 2.09)


リンク: ファイザーのプレスリリース






今週は以上です。

2021年1月24日

第983回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:抗血栓薬は標準用量より増やしたほうがよい 
  • COVID-19:抗SARS-CoV-2抗体医薬の暴露後予防試験が成功 
  • COVID-19:回復期血漿の試験がまたフェール 
  • COVID-19:CA州がModernaのワクチンの特定ロットを使用停止 
  • COVID-19:ノルウェーでワクチン接種後に30人が死亡 
  • Agios、TibsovoのIDH1変異胆管癌試験で延命効果は確認されず 
  • 独メルク、二重機能性融合蛋白の第2相が無益性認定に 
  • Biohaven、アルツハイマー病の第2/3相がフェール 
  • インサイトも抗PD-1抗体を承認申請 
  • ノボ、オゼンピックの高用量を承認申請 
  • ロシュ、Esbrietを適応拡大申請 
  • オプジーボを胃癌の一次治療に適応拡大申請 
  • アルジェニクス、筋無力症用薬を承認申請 
  • 新作用機序の心不全治療薬が米国で承認 
  • 月一回筋注用HIV治療薬が米国でも承認 
  • オプジーボとカボメティクスの併用が承認 


【今週の話題】


COVID-19:抗血栓薬は標準用量より増やしたほうがよい
(2021年1月22日発表)

中重症COVID-19ではしばしば血栓性合併症が見られるためヘパリンなどの抗血栓薬で予防する手法が普及してきた。しかし、臨床試験のエビデンスは乏しく、用量や介入タイミングも確立していない。抗血栓薬は出血リスクが高まるので、便益と危険を秤にかけるためにはよくデザインされた対照試験の裏付けが必要だ。

このような問題意識で開始されたアダプティブ・デザイン試験の結果が発表された。NIH(米国立衛生研究所)が主導したACTIV-4試験など、5大陸300病院の『中等症』患者1000例超をカバーする三試験の中間解析で、入院患者の血栓症予防に用いる標準用量よりも、『フルドース』のほうが、換気・重要臓器サポートが必要になるリスクが小さかった。死亡リスクを抑制するトレンドも見られた由。数値は未発表。早急に論文発表する予定。

この試験は危機的患者(ICU入室または人工呼吸器装着)も組入れたが、効果がなくむしろ有害である可能性が浮上、昨年12月に打ち切りが発表された。今回の『中等症』は全被験者から危機的患者を除外したもの、即ち、重症患者も含んでいるものと推測される。

治験成功は朗報だが、現時点では分からないことが多い。抗血栓薬は様々な銘柄の未分画/低分子量ヘパリンから選択可能だったが、銘柄間の違いはないのだろうか。一部の銘柄は安静入院患者の血栓予防に用いることが欧米で承認されているが、弾性ストッキングなどの非薬物療法を優先する地域や医療施設もあるだろうから、標準用量がゼロという症例もあったのではないだろうか?『フルドース』が何なのかもはっきりしない。呼び方から想像すると血栓症治療時の用量かもしれないが、ACTIV-4試験の治験登録には単に標準用量より多い量としか記されていない。

一番重要な、出血リスクも分からない。論文刊行が待たれる。

リンク: NIHのプレスリリース

COVID-19:抗SARS-CoV-2抗体医薬の暴露後予防試験が成功
(2021年1月21日発表)

イーライリリーのLY3819253(bamlanivimab)は軽中等症のCOVID-19感染症治療薬として11月にFDAのEUA(非常時使用認可)を得ているが、新たに、介護施設で実施された予防試験が成功した。

予防はワクチンの開発が成功、高齢者にも高い効果を持っているが、効果がフルに発揮されるまで1ヶ月以上かかるため、クラスターが発生して他の入居者の感染が懸念されるような事態には、作用が早く、もし既に感染していた場合は治療にも役立つような手法のほうが好ましいかもしれない。

bamlanivimabはカナダのAbCellera Biologicsが米国やカナダの政府の支援を受けて開発した抗体医薬で、イーライリリーとの創薬提携の最初の成果だ。ウイルスは抵抗性変異が生じやすいため、イーライリリーは中国の君実生物医薬科技からライセンスしたLY3832479/JS016(etesevimab)との併用も開発中。

今回の第3相BLAZE-2試験は、過去7日間に感染者が発生した介護施設の入居者やスタッフを組入れて、4200mgを一回投与する効果を偽薬と8週間に亘って比較した。主評価項目はベースライン時点で感染検査が陰性だった965人の症候性COVID-19感染リスク。結果はオッズ比が0.43、p=0.0002となった。入居者だけのオッズ比は0.20でこちらも統計的に有意だった。各群の感染率は未公表。

米国の医療従事者向けファクトシートによると、bamlanivimabなどのモノクローナル抗体はハイフロー酸素や人工呼吸器患者の臨床的転帰を悪化させる可能性がある。実際、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導した入院患者のremdesivir併用試験は中間で無益が認定された。ワクチンにも言えることだが、感染リスクが低下してもいざ感染した時に重症になりやすくなることも考えられないことはないので、精査が必要だ。

今回の試験に関しては、ベースライン時点で陽性だった治療サブグループも含めて、入居者340人のうち偽薬群の死亡が11人、試験薬群は5人だった。うち、COVID-19による死亡は各8人とゼロだった。少なくとも、ADE(感染依存体増強)により死亡者が増加する兆候は見られなかったことになる。

イーライリリーはこの用途でもEUAを申請する考え。エビデンスが不十分であることや、隔離されるべき患者に点滴投与するロジスティクス面の難点から、現時点の需要は期待外れだ。介護施設の暴露後予防なら普及する可能性が残っている。但し、bamlanivimabは英国や南アで検出された変異型には効きにくいと一部で報じられている点が気がかりだ。

尚、EUAの用量は700mgなので今回は6倍を投与したことになるが、EUAの根拠となった試験では700mgから7000mgまでテストして用量反応相関は見られなかったので、予防に関しても最終的には700mg程度に落ち着くのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:回復期血漿の試験がまたフェール
(2021年1月15日発表)

英国で実施されているCOVID-19治療試験、RECOVERY試験の主任研究者達は、独立データ監視委員会の勧告に基づき、回復期血漿の試験に係る患者組入れを中止したと発表した。組入れ数10,406人、28日死亡1,873人という大規模な試験を行ったが、回復期血漿群の28日死亡率は18%で通常医療群の18%と有意な差がなかった。治験論文を早急に刊行する考え。

回復期血漿はFDAがEUA(非常時使用認可)を行ったがエビデンスは不十分。臨床試験の成績もインドやアルゼンチンで行われた試験で延命効果が見られなかった。COVID-19感染を乗り越えて軽快した患者の血漿には中和抗体が多く含まれているはずだが、量は個人差があり、また、経時的に低下していくので、同じ回復期血漿でも中身はムラがある。だから、治験がフェールしても回復期血漿全般が無効とは言えない。同時に、もし一つの臨床試験で好成績を上げたとしても、回復期血漿全般が有効とは言えない。困ったものだ。

RECOVERY試験はオックスフォード大学の主導で、様々な薬品の効能をアダプティブ・デザインで検討している。これまでに、dexamethasoneの有効性を確立し、hydroxychloroquineやazithromycin、lopinavir(ritonavirブースト)の無効性を明らかにする成果を上げた。

リンク: 主任研究者達の声明

COVID-19:CA州がModernaのワクチンの特定ロットを使用停止
(2021年1月17日発表)

カリフォルニア州はModerna(Nasdaq:MRNA)のCOVID-19ワクチン、mRNA-1273について、特定のロット(41L20A)の接種を停止した。あるコミュニティ・ワクチン・クリニックでアレルギー反応可能例が通常より多く発生したため、念のために、米国疾病予防管理センターやFDA、Moderna、CA州による調査が完了するまで待つ。

過去24時間に治療を必要としたのは10人未満とのこと。CA州全体では287施設に33万回分以上が供給されたが、他の施設ではクラスターは発生していないとのこと。

リンク: カリフォルニア州公衆衛生省のプレスリリース

COVID-19:ノルウェーでワクチン接種後に30人が死亡
(2021年1月21日発表)

ノルウェーの薬品庁はワクチン接種に係る有害事象を積極的に調査収集することで知られている。ワクチンが原因とは俄かには断定できない症例をバンビロに集計することで、未知の副作用を探知できるかもしれないからだ。接種が始まったBioNTech/ファイザーとModernaのCOVID-19ワクチンに関しては、週次で有害事象報告数を公表している。死亡例が多いことに驚かされる。

1月21日時点で71,971人が最初の接種を受けたが、有害事象疑い例は292例が報告され、うち104例が薬品庁の評価により認められた。尚、Modernaのワクチンは接種開始が遅かったため薬品庁の評価はBioNTech/ファイザーのワクチンに係るものだけだった。

104例の内訳を見ると、性別は女性75人、男性29人。年齢は80-89歳が33人と一番多く、90歳以上が29人、70-79歳が13人、69歳未満が25人、不明4人となっている。どの国でも医療従事者と高齢者、特に介護施設・長期療養施設入居者の接種を優先しているので、高齢者に偏っているのは当然のことだ。

重篤度では、死亡が30例、それ以外の重篤症例が16例、非重篤が58例となっている。死亡例は接種の1-9日後だった。

薬品庁によると死亡した人はたいへん脆弱で末期患者だった。ノルウェーの介護施設では一日45人が死亡するとのことであり、ワクチンと死亡の間に因果関係があるとは限らない。

リンク: ノルウェー薬品庁のCOVID-19ワクチン有害事象報告週報(1/21時点、pdfファイル)


【新薬開発】


Agios、TibsovoのIDH1変異胆管癌試験で延命効果は確認されず
(2021年1月17日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はTibsovo(ivosidenib)の第3相ClarIDHy試験についてアップデートを行った。IDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)変異型胆管癌の二次・三次治療として500mgを一日一回、経口投与する効果を偽薬と比較した試験で、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)の解析が成功したことは19年9月に発表済み。ハザードレシオは0.37で統計的有意、6ヶ月無進行生存率は各群32%と0%、と良好な内容だったが、メジアン値は各群2.7ヶ月と1.4ヶ月で1ヶ月程度の差しかなかったので、副次的評価項目である全生存期間のデータが注目されていた。結果は、ハザードレシオは0.79と数値上は悪くないが有意ではなかった。メジアン値は各群10.3ヶ月と7.5ヶ月。

残念だが、偽薬群のクロスオーバー率が7割と高かったことが影響したようだ。本試験は偽薬に割付けられる患者に配慮して、試験薬の割付を2倍多くして、更に、偽薬群の患者はPFS後に試験薬を使うことが可能だった。クロスオーバーの影響を調整した感受性分析は良好な結果になった模様。

同社は今四半期中に適応拡大申請する予定。

TibsovoはIDH1阻害剤。米国でIDH1変異を持つ急性骨髄性白血病に承認されている。販売が低調なのか、同社は昨年12月に腫瘍学の医薬品と開発品をセルビエに売却することで合意している。今後は遺伝子疾患に集中する考え。

リンク: Agiosのプレスリリース

独メルク、二重機能性融合蛋白の第2相が無益性認定に
(2021年1月20日発表)

ドイツのメルクはPD-L1とTGFベータに結合する二重機能性融合蛋白、M7824(bintrafusp alfa)を様々な腫瘍に臨床試験中だが、第1相でなかなか良い成果を上げたPL-L1陽性進行非小細胞性肺癌一次治療の第2相Keytruda対照試験はフェールした。全生存期間向上が期待されたが、独立データ監視委員会が無益性を認定、打切りを勧告した。

TGFベータは癌細胞が発現し免疫細胞の活動を抑制する。抗PD-1/PD-L1抗体とのシナジーが期待されるターゲットの一つ。グラクソ・スミスクラインと共同開発している。

リンク: メルクのプレスリリース

Biohaven、アルツハイマー病の第2/3相がフェール
(2021年1月18日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は、BHV-4157(troriluzole)の第2/3相軽中度アルツハイマー病試験がフェールしたと発表した。共同主評価項目のADAS-cog 11でもCDR-SBでも、副次的評価項目の海馬量でも、偽薬比有意な差がなかった。軽度患者では数値上良かったようだが、p値は低くなく、そもそも、この手のサブグループ分析はあてにならない。

筋萎縮性側索硬化症用薬riluzoleのプロドラッグで服用頻度が一日一回と少なく、食物影響が小さい。全般不安症の第3相が行われたがフェールした。強迫性障害の第2/3相がフェールしたが投与量を増やして再挑戦する意向。スラムダンクの安西先生ではないが、あきらめたら試合はそこで終了ですよ・・・という訳だ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


インサイトも抗PD-1抗体を承認申請
(2021年1月21日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、INCMGA0012(retifanlimab)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は7月25日。目標適応は、局所進行/転移肛門菅扁平上皮腫で 白金薬レジメンによる治療歴を持つまたは不耐の患者で、承認されれば二次治療薬としては初。但し、MSDのKeytruda(pembrolizumab)などがオフレーベルのまま標準療法になっている模様だ。

17年にMacroGenics(Nasdaq:MGNX)からライセンスした抗PD-1抗体で、承認されれば抗PD-1/PD-L1抗体としては7-8番目になる。500mgを4週毎に点滴静注した第2相では、cORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が14%(完全反応1例、部分反応12例)でメジアン反応持続期間は9.5ヶ月だった。PD-L1陰性や肝転移、HIV感染者でも応答例があった。G3以上の治療時発現有害事象発生率は11.7%。

リンク: インサイトのプレスリリース

ノボ、オゼンピックの高用量を承認申請
(2021年1月21日発表)

ノボ ノルディスクは、二型糖尿病治療薬Ozempic(semaglutide、和名オゼンピック)の用量に2.0mgを追加するレーベル変更申請を米国で行った。EUでも昨年末に申請した由。用量を倍に増やしても効果がすごく高まるわけではないが、イーライリリーの競合品や開発品と宣伝競争を行う上で、僅差でも一番を保つことに意義があるのだろう。

Ozempicは週一回皮注型のGLP-1作用剤。現状では0.25mgで開始し、必要なら0.5mg、1.0mgと増量していく。このクラスは食欲抑制作用や催吐性があり血糖治療薬としては珍しく体重減少効果を持っており、semaglutideは12月に肥満症治療薬として2.4mg週一回皮注が欧米で承認申請されたところだ。

2mgのエビデンスとなるSUSTAIN FORTE試験では、経口剤を服用している二型糖尿病患者に2mgを40週間投与したところ、HbA1c(ベースライン値8.9%)低下が2.2%と1mg群の1.9%を有意に上回った。体重(ベースライン値99.3kg)減少も各群6.9kgと6.0kgとなり有意に大きかった。

0.2%、0.9kgの差がどのくらい重要か、という議論は置いておいて、ライバルであるイーライリリーのTrulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)や開発中のGIP/GLP-1受容体作用剤、LY3298176(tirzepatide)のデータと見比べてみよう。

Trulicityはノボが実施した直接比較試験でHbA1c低下作用がOzempicを有意に下回った。しかし、12月に米国で最大4.5mgまで増量することが認められたので、おそらく今、直接比較試験を行ったら、大差ないだろう。Ozempicの2mgが承認されれば、再び0.2%程度の差がつく可能性がある。

LY3298176は後期第2相試験で最大用量の15mgがTrulicityの1.5mgに大きな差(0.7%)を付けた。Trulicityの4.5mgと比べても勝つだろう。しかし、Ozempicの2mgとは大差ないと推測される。

Ozempicの用量追加はTrulicityだけでなく、22年頃の承認申請が見込まれるLY3298176の迎撃策でもあるのだろう。

リンク: ノボのプレスリリース

ロシュ、Esbrietを適応拡大申請
(2021年1月21日発表)

ロシュはEsbriet(pirfenidone、日本では塩野義製薬のピレスパ)をUILD(分類不能な間質性肺疾患)に適応拡大するようFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査で期限は5月。第2相試験でFVC(努力肺活量)の低下が偽薬より小さかった。

pirfenidoneは抗線維化作用を持ち特発性肺線維症用薬として日米欧で承認されている。間質性肺疾患は全身性強皮病によるものなど様々なタイプがあるが、原因が不明で分類できない症例も多く、UILDと呼ばれている。

リンク: 同社のプレスリリース

オプジーボを胃癌の一次治療に適応拡大申請
(2021年1月20日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を胃・胃食道接合部癌や食道線維細胞腫の一次治療に用いる適応拡大をFDAに承認申請し受理されたと発表した。白金薬およびfluoropyrimidine系抗癌剤と併用する。優先審査で審査期限は5月25日。

エビデンスとなるCheckMate-649試験では、FOLFOXまたはCapeOXレジメンに追加したところ、主評価項目であるPD-L1陽性(CPS≧5)サブグループのメジアン全生存期間が14.4ヶ月と、追加しなかった群の11.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.71、p値は0.0001未満だった。副次的評価項目である全集団の解析も各13.8ヶ月、11.6ヶ月、0.80、0.0002と良好な結果だった。但し、CPSが5未満のサブグループだけでも良好なのか、当方は承知していない。

胃癌での開発は日本が先行しており、一次治療化学療法併用も昨年5月に一変申請され、12月にはCheckMate-649試験のデータも提出された。

リンク: BMSのプレスリリース

アルジェニクス、筋無力症用薬を承認申請
(2021年1月8日発表)

オランダのアルジェニクス(Euronext:ARGX)は、ARGX-113(efgartigimod)を全身性重症筋無力症用薬としてFDAに承認申請したことを明らかにした。日本も参加した第3相試験で、抗アセチルコリン受容体抗体陽性サブグループの反応率が67%と偽薬群の30%を有意に上回った。全集団の解析でも有意差があった。今年上期(1-6月)に日本で、下期にはEUでも、承認申請する予定。

免疫グロブリンG(IgG)の細胞内分解を妨げる胎児性Fc受容体に結合・阻害する抗体のフラグメントで、IgGが係る免疫性血栓性血小板減少症や尋常性天疱瘡などでも承認申請用試験が進行中。点滴用だが皮注用製剤の開発も進んでいる。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


新作用機序の心不全治療薬が米国で承認
(2021年1月20日発表)

MSDは、FDAがVerquvo(vericiguat)を承認したと発表した。駆出率45%未満の慢性心不全で、増悪による入院または利尿剤静注歴を持つ成人に用いる。エビデンスとなるVICTORIA試験では、心血管死/心不全入院のハザードレシオが0.90、p=0.019だった。この数値自体はあまり見栄えしないが、メジアン10ヶ月余の追跡期間中の心血管死/心不全入院発生率は35.5%と偽薬群の38.5%より3ポイント低く、年率では4.2%の絶対差があった。心血管死だけの解析では有意差がなかったが数値上は偽薬群より低かった。

有害事象は低血圧、貧血などだが、偽薬群と比べて若干増加する程度。2.5mg(一日一回)で開始して5mg、10mgと増量していく滴定が効いているのかもしれない。

上記試験では最大血圧100 mmHg未満や硝酸薬服用は除外条件だった。しかし、レーベル上は特に禁忌にはなっていない。枠付警告は催奇性で、妊婦は禁忌。

可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤で、酸化窒素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイに介入し、酸化窒素とsGCの結合を強化する。バイエルから共同開発権を取得、米国ではMSDが、海外ではバイエルが、販売する。

リンク: MSDのプレスリリース

月一回筋注用HIV治療薬が米国でも承認
(2021年1月21日発表)

FDAは、CabenuvaをHIV-1感染症の治療薬として承認した。月一回、筋注する二種類の抗ウイルス薬のコ・パッケージで、他のレジメンによる治療によりウイルスを抑制できていて、過去に治療フェール歴がなく、個々の配合成分に抵抗性を持たない成人の患者がスイッチすることができる。最初の一ヶ月間は経口剤を一日一回服用して忍容性を確認する。

活性成分の一つはグラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアの長期作用性インテグラーゼ阻害剤、cabotegravir。Vocabria名で錠剤も承認された。もう一つはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンが開発した非核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine)の長期作用性製剤。HIV/AIDSの標準的治療方針は核酸系逆転写阻害剤二種類ともう一種類を併用するが、Cabenuvaは二剤だけ併用する。

米国はCMC(化学、製造、管理)面の理由で承認が遅れたが、EUでは12月に承認されている。米国と異なりEUでは2ヶ月毎投与も承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴのプレスリリース

オプジーボとカボメティクスの併用が承認
(2021年1月22日発表)

FDAは、BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とExelixis(Nasdaq:EXEL)のCabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)を併用で進行腎細胞腫の一次治療に用いることを承認した。効果をファイザーのSutent(sunitinib)と比較したCheckMate-9ER試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が各16.3ヶ月と8.3ヶ月となり、ハザードレシオは0.51、p<0.0001だった。全生存期間のハザードレシオは0.60、p=0.001。

抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤の併用は類薬も含めて進行腎細胞腫の標準療法になりつつある。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2021年1月17日

第982回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:CHMPもComirnatyの隠れ容量を指摘 
  • COVID-19:アクテムラの成功した試験の論文草稿が公開 
  • COVID-19:ユルトミリスの第3相は組入れ停止に 
  • COVID-19:ウイルス変異がPCR検査に及ぼす影響 
  • COVID-19:EUもアストラゼネカのワクチンの承認審査を開始 
  • MSDも新開発の肺炎球菌ワクチンを米国で承認申請 
  • ジャディアンスの心不全適応拡大を米国でも申請 
  • FDA、エンハーツをher2陽性胃癌に承認 
  • FDA、ザーコリを小児ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫に承認 
  • ダラキューロがALアミロイドーシスに承認 


【今週の話題】


COVID-19:CHMPもComirnatyの隠れ容量を指摘
(2021年1月8日発表)

EUの医薬品専門家委員会であるCHMPは、BioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチン、Comirnatyに関して、バイアル一瓶から6回分を得ることができる旨を製品情報に記載するよう勧告した。FDAもEUA(非常時使用認可)後に同様な発表をしている。現状では供給量が限られているので、たとえ2割でもより多くの人に提供できるなら朗報だ。

CHMPによると、小デッドスペース型(デッド・ボリュームが35mcL以下)のシリンジ且つ又針を使えば6回分を得ることができる。もし6回目に0.3mL未満しか取得できなかった場合は、他のバイアルの使い残しと混ぜるのではなく、廃棄する。

それにしても、なぜこのワクチンだけ、余得が大きいのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース

COVID-19:アクテムラの成功した試験の論文草稿が公開
(2021年1月7日発表)

査読中の論文草稿を公開するサーバー、medRxivで、COVID-19肺炎における抗IL-6受容体抗体の効果を検討したREMAP-CAP試験の論文草稿が公開された。過去の同様な試験の結果は区々で明暗が分かれた理由もはっきりしないが、少なくともこの試験では、大きな救命効果が示唆された。

REMAP-CAP試験は英国などの研究者が主導したCOVID-19肺炎のマスター・プロトコルで、様々な薬をアダプティブ・デザインで取っ替え引っ替え調べている。抗IL-6受容体抗体の試験は、重度肺炎を合併しICUで肺や心血管のサポートを開始してから24時間以内の患者803人を中外/ロシュのActemra(tocilizumab)またはリジェネロン/サノフィのKevzara(sarilumab)を投与する群と対照群に無作為化割付し、臓器サポート不要日数をオープンレーベルで比較した。

統計解析はベイズ確率に基づく。中間解析で成功認定されたためか、Kevzaraの症例数は45例と少ない。ベースライン時点で9割の患者がコルチコステロイドを、3割がremdesivieを、使用していた。

結果は、各群の臓器サポート不要日数(メジアン値)は10日、11日、0日、調整オッズ比はActemraが1.64、Kevzaraは1.76となり、どちらも優越性の事後確率が99.5%以上だった。副次的評価項目である院内死亡率は各28.0%、22.2%、35.8%で、調整オッズ比は1.64と2.01、事後確率はどちらも99.5%以上だった。

抗IL-6受容体抗体の第3相試験はロシュのCOVACTA試験がフェール、EMPACTA試験は成功したが副次的評価項目である28日死亡率は数値上悪かった。Kevzaraはメーカー主導試験が二本ともフェールしたが、一本では危機的肺炎サブグループで死亡率が数値上、低かった。当時、CRP値が特に高い患者だけなら効果があるのではないかとも想像したが、今回の試験では、CRP値と効果の関連性は見られなかったようだ。

COVID-19治療薬はremdesivirもWHO主導試験がフェールしており、成功した試験でも危機的肺炎サブグループにおける効果は明確ではなかった。dexamethasoneも一部のサブグループには有効ではなかった。明暗が分かれた理由を探求する必要がある。

リンク: REMAP-CAP研究グループの論文草稿(medRxiv、1/9公開のver.2)

COVID-19:ユルトミリスの第3相は組入れ停止に
(2021年1月13日発表)

アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Ultomiris(ravulizumab、和名ユルトミリス)の第3相重症COVID-19試験の組入れを停止すると発表した。人工呼吸器を必要とする危機的患者の29日生存率を改善する効果を検討したが、独立データ監視委員会が中間解析に基づき効果不十分と判定した。既に治療を開始した患者は継続する由。

Ultomirisは補体系のC5を標的とする抗体医薬。 発作性夜間ヘモグロビン尿症や非典型溶血性尿毒症症候群に承認されている。

アレクシオンはアストラゼネカが約390億ドルで買収する予定。

リンク: アレクシオンのプレスリリース

COVID-19:ウイルス変異がPCR検査に及ぼす影響
(2021年1月8日発表)

英国や南アで発見されたSARS-CoV-2の変異型は、宿主細胞に侵入する時に用いるスパイク蛋白の形状安定性が高く、細胞側のACE2に結合する能力が高いため感染力も高いと考えられている。実際、英国の調査では初めて検出された昨年9月以降、10月、11月と当該ウイルスに感染した患者の比率が高まっている(サンプル数はごく少ないが)。

ウイルスに変異は付き物だが感染力が高いとなると話は別だ。南アで発見された変異型は英国変異型と幾つかの変異箇所が重なっているが、どちらかから派生したものではなく、別々に起きた変異が継承されたものと考えられている。英国の感染爆発の一因がこの変異型だとしたら、米国や日本での感染爆発も、夫々の地域で発生した同様な変異型が寄与しているのかもしれない。

もう一つ、考えなければならないのは、ワクチンに及ぼす影響だ。BioNTech/ファイザーのワクチンは、N501Y変異を導入したウイルスを接種者の血清に曝露した試験などにより、英国のVUI 202012/01(2020年12月第1番の調査対象ウイルス、という意味)に有効である可能性が指摘されている。一方、南ア型に対する効果は不透明で、現時点では、効果が低下する可能性を指摘する声の方が目立っている。

また、英国では、ウイルス検査の検出力が低下する可能性を懸念する声も出ている。詳細は不明だったが、FDAが現時点での情報を提供した。三社のPCR検査キットに関して、ある種の変異があると検出力が低下する可能性があるが、ウイルスRNAの複数の箇所をチェックするので顕著な影響はなさそう、というものだ。

建前上はRT-PCRだろうが何だろうが検査に絶対はなく、結果を妄信せずに臨床判断で補う必要がある。検査結果に疑念があったら別の検査キットで再検査するべきだ。だから、変異によって検出力が少しくらい低下しても当局は『想定の範囲内』で済ませることができたはずだが、今回は、大統領や政府高官、FDA、医師のオピニオン・リーダーなどの見解が区々で何を(誰を)信じたらよいのか分からない状況だ。PCR検査不要論が出ないよう、FDAが先制的、防御的攻撃に打って出たと言えるだろう。

リンク: FDAのプレスリリース

COVID-19:EUもアストラゼネカのワクチンの承認審査を開始
(2021年1月12日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAは、アストラゼネカがオックスフォード大学からライセンスして共同開発したCOVID-19ワクチン、ChAdOx1-S/AZD1222の承認申請を受理したと発表した。順調なら1月29日にも条件付き承認が決まる見込みだ。

このワクチンはチンパンジーに感染するアデノウイルスを不活化しSARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子を導入したもので、接種者の細胞に入り込みスパイク蛋白抗原を発現する。先に承認されたmRNAワクチンと比べた長所は、第一に、通常の冷蔵庫で最長6ヶ月、保存可能であること。第二に、オリジンがオックスフォード大学であるためか、アストラゼネカは儲けゼロで供給すること。第三に、二回接種の投与間隔が3週間とか4週間とかに限定されず、12週間おいて接種した症例もあること。自己負担ゼロで接種を推進する政府や医療施設にとって都合が良い。

一方、接種を受ける側にとっては不満もあるだろう。mRNAワクチンと比べて感染予防効果が見劣りするからだ。また、65歳以上の症例数が限定的であることも残念な点だ。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認申請】


MSDも新開発の肺炎球菌ワクチンを米国で承認申請
(2021年1月12日発表)

MSDは、V114(通称PCV-15)を18歳以上の侵襲性肺炎球菌性疾患予防ワクチンとしてFDAに承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は7月18日。EUでも承認申請したとのこと。

肺炎球菌ワクチンは同社のPneumovax(通称PPSV23:23血清型をカバー)が主として高齢者に40年近い接種実績を持ち、ファイザーのPrevnarやPrevnar 13も乳幼児や高齢者に20年の実績を持つ。V114はPrevnar 13がカバーしていない22F型と33F型も含めて15種類の血清型をカバーしている点が長所。

ファイザーもPF-06482077(通称20vPnC)を開発、18歳向けに昨年10月に米国で承認申請した。こちらも優先審査で、審査期限は6月。カバレッジが広く、V114の15血清型に加えて、8、10A、11A、12F、15BCも含めて20血清型をカバーしている。

成人向けの承認申請はファイザーが1ヶ月先んじたが、Prevnar 13の主市場である乳幼児向けの開発はMSDが先行している模様で、先陣争いが注目される。

リンク: MSDのプレスリリース

ジャディアンスの心不全適応拡大を米国でも申請
(2021年1月11日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を駆出力低下を伴う心不全の治療に用いる適応拡大申請をFDAに行い受理されたと発表した。昨年11月に日本でも申請している。

エビデンスとなるEMPEROR-Reduced試験では、駆出率40%未満の心不全3730人を組入れて、10mg一日一回経口投与の効果を偽薬と比較したところ、主評価項目の心血管死/心不全入院の発生率が19.4%と偽薬群の24.7%を下回り、ハザードレシオ0.75、統計的に有意だった。Jardianceは二型糖尿病薬として発売されたが本試験では糖尿病ではない患者のハザードレシオが0.78、糖尿病サブグループは0.72と、糖尿病ではない患者にも有効だった。

駆出力を保持している心不全患者を組入れたEMPEROR-Preservedも進行中で、今年結果が出る見込み。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


FDA、エンハーツをher2陽性胃癌に承認
(2021年1月15日発表)

FDAは、第一三共がアストラゼネカと共同開発販売しているEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki、和名エンハーツ)を局所進行性/転移性her2陽性胃・胃食道接合部腺腫に用いる適応拡大を承認した。trastuzumab歴を持つ患者が適応になる。日本でも昨年9月に承認。

日韓で実施された第2相三次治療試験では、メジアン生存期間が12.5ヶ月と化学療法群(irinotecanまたはpaclitaxel)の8.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、p=0.0097だった。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、ザーコリを小児ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫に承認
(2021年1月14日発表)

FDAは、ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を1歳以上の小児の難治再発性ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫に用いる適応拡大を承認した。280mg/m2を一日二回、経口投与する。

臨床試験(n=26)ではORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が88%でその39%は6ヶ月以上持続した。寛解率は81%。深刻有害事象の発現率は35%で、好中球減少症が感染症など。副作用に備えて制吐剤の併用や目の定期検査を推奨している。

XalkoriはALKやc-MET、ROS1などを阻害する小分子薬。ALK変異非小細胞性肺癌などに承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース

ダラキューロがALアミロイドーシスに承認
(2021年1月15日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Darzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、和名ダラキューロ)をALアミロイドーシスの新患に用いる適応拡大がFDAに加速承認されたと発表した。Velcade(bortezomib)、dexamethasone、およびcyclophosphamideと併用する(D-VCdレジメン)。重い心臓疾患を合併している患者は適応外。

Darzalexはジェンマブからライセンスした抗CD38抗体でFasproは皮注用製剤。多発骨髄腫用薬として承認されている。ALアミロイドーシスは米国で年4500人程度が診断される希少疾患で、免疫グロブリンの軽鎖由来のアミロイドが臓器に蓄積する。臨床試験ではD-VCdレジメンの血液学的反応率が53%とVCdだけの18%を大きく上回った。

リンク: JNJのプレスリリース




今週は以上です。

2021年1月8日

第981回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:BNT162b2のアナフィラキシー報告は100万人当り11人 
  • COVID-19:EUもModernaのワクチンを条件付き承認 
  • サレプタ、DMD遺伝子治療試験が成功 
  • アルナイラム、vutrisiranの第3相が成功 
  • アストラゼネカ、フォシーガを米国でもCKDに適応拡大申請 
  • あの一型糖尿病予防薬が遂に承認申請 


【今週の話題】


COVID-19:BNT162b2のアナフィラキシー報告は100万人当り11人
(2021年1月6日発表)

CDC(米国疾病予防管理センター)は、BioNTech/ファーザーのCOVID-19ワクチン、BNT162b2のアナフィラキシー報告を分析報告した。米国では12月14日から23日の間に1,893,360人が初回の接種を受けたが、VAERS(ワクチン有害事象報告システム)に4,393例(0.2%)の有害事象報告があった。重度アレルギー反応可能例が175例あり、うち21例がアナフィラキシーと判定された。発生率は100万人当たり11人。残りの86例はアナフィラキシーではないアレルギー反応、61例は非アレルギー性有害事象と判定され、7例は現在も分析中。

アナフィラキー症例の特性は、まず、発症時期は、接種後15分以内が71%、30分以内に広げると86%が該当した。因みに、アナフィラキシーではないアレルギー反応症例も概ね同様だ。

薬品や食品、刺傷によるアレルギー歴を持っていたのは17例。うちアナフィラキシー歴は7例で、原因は狂犬病ワクチン、インフルエンザワクチン、サルファ剤、プロクロルペラジン、クラゲ刺傷、クルミ、不明が各1例となっている。

性別は90%が女性。接種者における比率も64%と高いが、それだけが原因とも言えないだろう。因みに、アナフィラキシーではないアレルギー反応症例では67%が女性と、母集団と似たような構成比になっている。

ER入室は17例、入院は4例でうち3例はICUだった。アナフィラキシーは命に係わる疾患だが、死亡報告は寄せられていない。転帰が記されている20例は全て軽快または退院した。

CDCは、禁忌や注意事項に基づく接種前のスクリーニング、アナフィラキシー治療機器の用意、接種後観察期間の励行、アナフィラキシー疑い例に対する速やかなエピネフィリン筋注、などを改めて勧告した。

リンク: MMWR(2021年1月6日号)

COVID-19:EUもModernaのワクチンを条件付き承認
(2021年1月6日発表)

EUはModerna(Nasdaq:MRNA)のCOVID-19ワクチン、mRNA-1273をCOVID-19 Vaccine Moderna名で承認した。条件付きで、第3相試験の被験者を2年間追跡して効果の持続性などを報告する必要がある。EUのワクチンはBioNTech(Nasdaq:BNTX)/ファイザーのComirnaty(tozinameran/INN)に次ぐ二品目。21日ではなく28日おいて二回、筋注する。mRNA-1273が承認されたのは、制度の違いを無視すれば、米国、カナダ、イスラエルに次ぐ4ヶ国/連合組織目。

第3相試験では、感染歴のない人の症候性感染数(二回目接種の14日後からカウント)が1000人年当り3.328と偽薬群の56.510より大幅に少なく、ワクチン効率は94.1%だった。18歳から94歳まで組入れたが、64歳以下におけるワクチン効率は95.6%、65歳以上では86.4%だった。深刻な有害事象の発現率は1%で偽薬並み。ワクチン関連の深刻有害事象は、難治性悪心嘔吐、リウマチ性関節炎、顔面腫脹2例(二人とも美容用皮膚充填剤注入歴があり、免疫感作された可能性)。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: プロダクト・インフォメーション(pdfファイル)


【新薬開発】


サレプタ、DMD遺伝子治療試験が成功
(2021年1月7日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬として開発しているSRP-9001の102試験のトップライン・データを発表した。一部のDMDに承認されている同社のExondys 51(eteplirsen)などのエクソン・スキッピング薬と同様に、マイクロジストロフィンの発現は増加したが運動機能の改善は確認できなかった。

SRP-9001はNationwide Children's Hospitalからライセンスした遺伝子療法。DMDの多くで欠乏するジストロフィンを補うために、ある程度の機能を持つ短縮ジストロフィンの遺伝子を74型アデノ随伴ウイルスに導入して患者に送り込む。

102試験は41人を組入れた無作為化割付偽薬対照二重盲検試験。共同主評価項目の一つである遺伝子療法群のマイクロジストロフィン発現量(12週時点、ウエスタン・ブロット法)は正常値の28.1%となった。

もう一つのノーススター運動機能評価(NSAA総合スコア、48週時点)は1.7改善したが偽薬群(0.9改善)と有意差がなかった。4~5歳の16人では各群4.3と1.9でp=0.017と数値上は良い結果が出たが、6~7歳25人では、ベースライン値が各群20と24で偏りがあったせいか、良い結果が出なかった。

治療関連深刻有害事象は遺伝子治療群が3人(横紋筋融解症2人、トランスアミラーゼ上昇2人)、偽薬群は1人(横紋筋融解症)。

この試験は各群をクロスオーバーしてパート2を進行中。偽薬からスイッチした患者の48週後のNSAAが注目される。

DMDの短縮ジストロフィン遺伝子療法はファイザーもPF-06939926を開発しており、昨年12月に他社に先駆けて第3相試験を開始した。

リンク: サレプタのプレスリリース

アルナイラム、vutrisiranの第3相が成功
(2021年1月7日発表)

アルナイラム(Nasdaq:ALNY)はALN-TTRsc02(vutrisiran)の第3相hATTR(遺伝性トランスサイレチン関連アミロイドーシス)ポリニューロパチー試験が良好な結果になったと発表した。神経症状スコアが他の試験の偽薬群のデータと比べて有意に改善した。米国、そしてブラジルや日本でも承認申請する予定。18ヶ月データを取得してEUでも申請計画。

同社はRNA干渉薬に特化した新薬開発新興企業で、代表的な製品の一つが18年にhATTRポリニューロパチー治療薬として承認されたOnpattro(patisiran、和名オンパットロ)だ。vutrisiranは体内での安定性が高く、3ヶ月毎皮注とOnpattroの3週毎70分点滴静注より簡便だ。

今回のHELIOS-A試験は、vutrisiran群(25mg)とpatisiran群(0.3mg/kg)に3対1割付して9ヶ月間治療し、mNIS+7(補正神経障害スコア+7)の変化をOnpattroの第3相Apollo試験の偽薬群のデータと比較した。結果は、副次的評価項目のNorfolk QOL-DNスコアや10分歩行テストとともに、p<0.001となった。治療関連深刻有害事象は異脂血症と尿路感染症の2例。

データは未公表。patisiran群との差異も不明。

リンク: サレプタのプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、フォシーガを米国でもCKDに適応拡大申請
(2021年1月6日発表)

アストラゼネカはFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)を慢性腎不全(CKD)の治療に用いる適応拡大を米国で申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は今年第2四半期。日本でも先月、一変申請がなされている。

腎臓で濾しとられたグルコースを血中に戻すトランスポーター、SGLT2を阻害する薬で、二型糖尿病や慢性心不全の治療薬として承認されている。CKDで承認されればSGLT2阻害剤で初。エビデンスとなるDAPA-CKDでは、二型糖尿病の有無を問わずにステージ2~4のCKDを組入れて、腎機能悪化(eGFR半減)、末期腎障害進展、心血管死、または腎臓死の何れかが発生するリスクを偽薬と比較したところ、ハザードレシオ0.61、高度に有意だった。メジアン2.4年間の追跡で発生率の絶対差が5.3%と治療効果も大きい。全死亡もハザードレシオ0.69で有意だった。

リンク: 同社のプレスリリース

あの一型糖尿病予防薬が遂に承認申請
(2021年1月4日発表)

Provention Bio(Nasdaq:PRVB)は、PRV-031(teplizumab)を一型糖尿病予防薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は7月2日。5月27日に暫定予定されている諮問委員会に上程される見込み。

NIH(米国立衛生研究所)が主導した、一型糖尿病の近親者を持ち二種類以上の一型糖尿病自己抗体を保有する8歳以上の血糖値異常患者76人を組入れた第2相試験で、発症ハザードレシオが偽薬群の0.41、p=0.006だった。メジアン発症期間は48ヶ月で偽薬群は24ヶ月。有害事象はラッシュやリンパ球減少症など。

CD3のエプシロン鎖に結合するIgG1型抗体。イフェクターT細胞を抑制し制御的T細胞を強化する。30分静注を14日間連続で行わなければならないのが不便なところ。新患患者を組入れる第3相試験も進行中。

開発歴は長く、研究者主導試験で有望性が示され、07年にイーライリリーがMacroGenicsからライセンスしたが第3相がフェール、10年に権利返還した。Provention Bioは18年に全資産を取得、ブレークスルー・セラピー指定を経て承認申請に至った。

リンク: 同社のプレスリリース






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