2021年7月31日

第1010回

【ニュース・ヘッドライン】


  • COVID-19関連: 
  • ロナプリーブが暴露後予防にEUA 
  • コミナティの効果のオンセットとディケイ 
  • MMWR:ワクチン接種してもデルタ株には要警戒 
  • その他の領域: 
  • デュピクセントの第3相蕁麻疹試験が成功 
  • ロシュ、二重特異性抗体を網膜疾患に承認申請 
  • NHE3阻害剤は承認されず 
  • インサイトの抗PD-1抗体は承認されず 
  • sulopenemは承認されず 
  • BMS、オプジーボ単剤の肝細胞腫適応を返上 
  • ヌーカラが鼻ポリープに適応拡大 
  • ウプトラビの静注用製剤が承認 
  • キイトルーダ、TNBC切除術付随療法が今度は承認 
  • 2月に加速承認されたメルファラン系新薬に死亡リスク浮上 

【COVID-19関連】


ロナプリーブが暴露後予防にEUA
(2021年7月30日発表)

FDAは、リジェネロン・ファーマシューティカルズのREGEN-COV(casirivimabとimdevimab、和名ロナプリーブ)をCOVID-19感染者の濃厚接触者や同施設入居者の暴露後予防に用いることをEUA(非常時使用認可)した。前者は1.8メートル以内に24時間累積で15分以上いた人、後者は高齢者施設や刑務所入所者などを指す。年齢12歳以上かつ体重40kg以上で、ワクチン接種を完了していない、あるいは免疫抑制剤使用などにより免疫が低下している人が適応。点滴または皮注、一回投与だが、継続的暴露が予想される人は4週毎投与も可。

この抗SARS-CoV-2カクテルは重症化リスクを持つ軽中度COVID-19感染症患者に発症後10日以内に点滴・皮注することがEUAされているが、少なくとも現時点では、入院・酸素投与が必要な患者に対する便益は示されていないと注記されている。また、投与方法は点滴が強力推奨で、皮注はやむを得ない場合に限定されているが、今回はなぜか限定されていない。

今回のほうが使いやすく、需要拡大に資するだろう。ワクチン接種未完了者などに限定されたのは意外だが、中和抗体補充療法は感染またはワクチン接種により自力で抗体を作れた人にはあまり効かなそうなので、止むを得ない。

臨床試験では、ベースライン時点でRT-PCRまたは血清陰性だった人では症候性感染症の発症を81%抑制、全被験者でも62%抑制した。

リンク: FDAのプレスリリース



コミナティの効果のオンセットとディケイ
(2021年月日発表)

インフルエンザ・ワクチンは効果が数ヶ月と短いが冬の病気なので年一回の接種で足りる。一方、COVID-19は通年流行するで、できれば1年、可能なら2年以上、効果が続いてほしい。残念なことに、COVID-19ワクチンの薬効確認試験の追跡期間は二回目接種の数週間後から2~3ヶ月間と、非現実的に短かったため、どの程度もつのか良く分からない。

BNT162b2(tozinameran、和名コミナティ)の継続追跡試験の論文草稿が査読前草稿レジストリーであるmedRxivで公表された。7月28日登録の草稿によると、16歳以上の44,165人と12~15歳の2,264人を最大6ヶ月間追跡したところ、ワクチン効率(COVID-19感染予防効果)は91%(95%信頼区間89.0-93.2)だった。二回目接種の7日後から2ヶ月後の前日までの期間は96.2%(同93.3-98.1)だったが、2ヶ月後から4ヶ月後の前日までの期間は90.1%(同86.6-92.9)、4ヶ月後以降は83.7%(74.7-89.9)と、漸減している。

このワクチンを早期大量導入したイスラエルの疫学研究でも6ヶ月過ぎた後の効果低減が指摘されているが、原因はワクチンなのか、感染力が強かったり抗体抵抗性変異を持っていたりする変異株の影響なのか、良く分からない。試みに今回のデータを使って、偽薬群の一万人当たり一日当りの感染者数を計算すると、二回目接種の7日後から2ヶ月後の前日までの期間は3人弱だが、2ヶ月後から4ヶ月後の前日までの期間は4.7人、4ヶ月後以降は3.9人と変動しており、もしかしたら、感染力の強いウイルスの出現が偽薬群以上にワクチン群の感染者数に影響したのかもしれない。従来の株ならウイルス量を検出限界未満に抑制できるが、増殖力が強い株はそこまで下がらないので、ウイルス量が偽薬群より少なくても陽性判定されてしまうようなことが起きても不思議はない。

勿論、観察値が真実の値と同じとは限らず、誤差は乗除計算で大きく拡大する。Number at riskを見ると4ヶ月以上追跡できた症例数はほぼ半減しており、追跡できなかった人たちの感染状況次第では結論が大きく変わってしまうかもしれないので注意が必要だ。Modernaなどのワクチンのデータも見てみたいものだ。

COVID-19の承認申請用試験は主目的を達成した後も一定期間、感染状況を追跡するが、承認され接種が始まった後も盲検を続けるのは偽薬群の被験者に不当な損失を与えかねないため、長くても半年で盲検解除することが認められた。4ヶ月以上追跡例が少ないのは、偽薬群の半分近くがワクチンを接種しドロップアウトしたことが原因かもしれない。増殖・感染力の強いデルタ株(B.1.617.2、インドで発見)の流行は上記の継続追跡データには反映されていないだろうし、今後の追跡データは質が落ちるだろうから、結局、疫学研究に頼らざるを得ない(次項参照)。

さて、BNT162b2の治験論文草稿からも明白なのは、一回目接種後10日程度経つまでは効果が弱いということだ。ワクチン効率は18%、しかし第11日以降は90%台に乗せる。一回接種しても油断せず、10日程度は自粛生活を続けたほうが良さそうだ。

コミナティの感染予防効果(経時的推移)

BNT162b2偽薬VE(95%CI)
n23,04023,037
一回目接種後:
 第1~10日415018.2(-26.1、47.3)
 第11日~二回目接種前56091.7(79.6,97.4)
二回目接種後:
 第1~8日33591.5(72.9,98.3)
 第8日~2ヶ月後の前1231296.2(93.3、98.1)
 2ヶ月後~4ヶ月後の前4644990.1(86.6、92.9)
 4ヶ月後以降2412883.7(74.7、89.9)
出所:S. ThomasらC4591001 Clinical Trial Groupの論文草稿より作成

偽薬群の感染率(経時的推移)

感染者数No. at risk観察期間(人年)一万人当たり
一日当り感染数
一回目接種後:
 第1~10日5022,4346752.03
 第11日~二回目接種前6022,3696562.51
二回目接種後:
 第1~8日3522,0014222.27
 第8日~2ヶ月後31222,0012,8842.96
 2ヶ月後~4ヶ月後の前44920,3442,5934.74
 4ヶ月後以降12811,8028953.92
出所:S. ThomasらC4591001 Clinical Trial Groupの論文草稿のデータより試算

リンク: C4591001 Clinical Trial Groupの論文草稿抄録(medRxiv)



MMWR:ワクチン接種してもデルタ株には要警戒
(2021年月日発表)

CDC(米国疾病予防管理センター)は7月27日にこれまでの勧奨を見直し、流行地域では室内の公衆エリアでマスクを着けるよう勧奨した。根拠となったのがマサチューセッツ州(ワクチン接種率が69%と高い)と共同で実施した疫学研究だ。MMWR(疫学週報)に掲載されるレポートが前倒し公開されたので概要を紹介する。

7月にBarnstable郡で開催されたの複数の大規模イベントに行った同州の患者469人をトレースしたところ、74%はワクチン接種完了者だった。入院患者で見ても、5人中4人は接種完了者だった(4人の年齢は20~70歳と区々、基礎疾患ありは二人)。感染者のうち死亡者はゼロ。

133人の検体のうち90%はデルタ株だった。RT-PCR Ct値は接種完了者(メジアン22.77、n=127)もそれ以外(21.54、n=84)も大差なかった(ウイルス量がそれほど変わらないことを意味し、ワクチンがウイルス抑制にそれほど寄与していない可能性や、感染時にほかの人に移す可能性が疑われる)。

ブレークスルー感染者の特徴は、まず、接種したワクチンの構成比は、BioNTech・ファイザーが46%、Modernaが38%、ヤンセンが16%となっている。因みに、マサチューセッツ州全体では各56%、38%、7%。接種完了の14日後から発症までのメジアン期間は86日(6-178日)。79%は兆候症状があり、多いのは咳、頭痛、のどの痛み、筋痛、発熱。

尚、男性の比率が高いが、当該イベントの参加者自体が多かったので、重視しなくてよいだろう。

リンク: CDCのプレスリリース


【新薬開発】


デュピクセントの第3相蕁麻疹試験が成功
(2021年7月29日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体のDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)をアトピー性皮膚炎や喘息症などの治療薬として販売しているが、今度は中重度慢性特発性蕁麻疹の第3相試験成功を発表した。6歳以上で抗ヒスタミンによる治療に十分応答せず、バイオ薬(ノバルティスのXolair)未経験の138人に偽薬またはDupixentを24週間追加投与した試験で、FDAが望む主評価項目であるISS7(かゆみの尺度)は各群6.01pts(35%)と10.24pts(63%)低下、p<0.001だった。EMAが望む主評価項目のUAAS7(蕁麻疹活動性の尺度)も各群12.0pts(37%)と20.53pts(65%)低下、p<0.001。

治療時発現有害事象は各群59%と50%の被験者で発生、多いのは注射箇所反応で各群13%と11%だった(どちらも偽薬群より少ない)。

もう一本、Xolairに十分応答しないまたは不耐の患者を組入れた第3相が進行中で、来年上期に結果が出た後で適応拡大申請に向かうのではないか。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、二重特異性抗体を網膜疾患に承認申請
(2021年7月29日発表)

ロシュはRG7716(faricimab)をnAMD(中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性)やDME(糖尿病黄斑浮腫)の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。糖尿病性網膜症にも承認申請したが、標準審査のようだ。

血管新生に係るアンジオポイエチン-2とVEGFの両方を阻害する抗体で、日本やEUでも最初の二つの適応で承認審査中。VEGFあるいはVEGF受容体だけを阻害する抗体と比べて効果が高いわけではないが、硝子体注射の頻度が低く、臨床試験では1年経った段階で過半の患者で16週おきに減らすことができた。

現実の医療ではルーチンではなく検査して悪化の兆候が見られたら投与、というパターンも多いようだが、4か月までなら間が開いても大丈夫というある程度のエビデンスがあれば安心だろう。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


NHE3阻害剤は承認されず
(2021年7月29日発表)

Ardelyx(Nasdaq:ARDX)はNHE3(ナトリウム水素交換輸送体3)阻害剤tenapanorを先ず便秘型過敏性腸症候群の治療薬として開発、19年に米国で承認を取得した。次に透析期慢性腎疾患の高リン血症治療の第3相試験を二本成功させ、適応拡大申請したが、審査期間延長を経て、審査完了通知を受領した。FDAは治療効果が小さく臨床的便益が明確ではないことを指摘、追加試験の実施をアドバイスした。

enapanorは協和キリンが日本でこの用途の第3相試験を実施中。

今回は承認されなかった話が多い。

リンク: 同社のプレスリリース



インサイトの抗PD-1抗体は承認されず
(2021年7月23日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は抗PD-1抗体のretifanlimabを白金レジメン歴を持つまたは不耐の局所進行性/転移性肛門管扁平上皮腫に米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。6月の腫瘍学薬諮問委員会で承認に賛成した委員が17人中4人のみだったので意外感はない。

抗PD-1/PD-L1抗体は先に承認された製品が多いので出遅れた会社はニッチを狙うことになる。上記適応ではKeytruda(pembrolizumab)が広く用いられているようだが、承認されている薬はない。だが、第2相試験のcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)は14%とそれほど高くなく、この癌のリスクが比較的高いHIV患者に対する投与実績もそれほど多くなかった。一方、G3以上の治療関連有害事象発生率は11.7%だった。

ORRは特定の箇所の腫瘍のサイズが一定以上縮小するか否かを評価するが、これ位の事で奏効と呼ぶのは誇張である。患者にとって重要なのは、副作用による苦痛をできるだけ抑えながら延命することだ。副作用で死ぬ人もいるのだから、ネットで全生存期間がどれくらい延びるのかを明らかにしなければ患者のニーズに応えたことにはならない。幾つかの癌ではORRと延命またはそれに準じる効果の相関性が明らかだが、患者数の少ない癌では、10%でよいのか、30%以上必要なのか、確立していない。

また、Keytrudaの文献データはもう少し良い。比較できるかどうかは明らかではないが。

これらのことから、FDAは便益の挙証が不十分で加速承認に値しないと判断した。

retifanlimabは17年にMacroGenics(Nasdaq:MGNX)から世界開発販売権を取得した。

リンク: インサイトのプレスリリース



sulopenemは承認されず
(2021年7月26日発表)

Iterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)はsulopenem etzadroxilを成人女性の複雑尿路感染症治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。期中の経緯には違和感があり、FDAは諮問委員会を予定していたが延期。審査期限を前に、内容に欠陥があるため最終段階であるレーベルや市販後コミットメントの相談に進むことができない旨、通知した。審査の過程で何らかの問題点に気付いたものと推測される。

sulopenemはthiopenem系抗生剤。ファイザーがPF-3709270として開発、日本で点滴用製剤を1000人以上に投与した実績を持つ。15年にIterumがライセンス、複雑腹腔内感染症と複雑尿路感染症の第3相はフェールしたが、経口剤をprobenecidと併用した複雑尿路感染症試験の、キノロン非感受286人のサブグループ分析で奏効率が62.6%とciprofloxacin群の36.0%を有意に上回った。キノロン感受785人では66.8%対78.6%で非劣性解析がフェールしたが、同社によると、FDAは、事前相談で、結果を見てどちらかだけに申請することを認めた由である。

しかし、FDAは今回、対照薬を変えるなどしてもう一本実施することを推奨した。キノロン系に感受しない、またはそう疑われる患者に用いる予定だが、感受しそうな患者を組入れた試験ではciprofloxacinに対する非劣性解析がフェールしたことがボトルネックになっているのかもしれない。また、作用時間を伸ばすために痛風治療薬probenecidを併用するが、血中濃度が抗菌に最低限必要な水準を上回る時間は2.8時間から3.6時間に増加するだけ、AUCも28%増加するだけなので、危険に見合う便益があるかどうかを問題にしているのかもしれない(この薬は一日二回服用)。

リンク: 同社のプレスリリース



BMS、オプジーボ単剤の肝細胞腫適応を返上
(2021年7月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)をsorafenibによる治療歴を持つ肝細胞腫に用いる米国での適応を自主的に返上する決断をしたと発表した。第2相の反応率データに基づき17年に加速承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールした。

尚、OpdivoはYervoy(ipilimumab)併用でsorafenibによる治療歴を持つ患者に使うことが20年に加速承認されている。反応率は33%と、Opdivo単剤投与試験の14%よりだいぶ高い。こちらの加速承認の市販後コミットメントは標準療法対照試験の結果を提出すること。期限は24年7月なのでOpdivo単剤より時間的に余裕がある。

切除不能肝細胞腫は未治療の患者にロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevacizumab)を併用することが日米欧で承認されている。MSDのKeytrudaはsorafenib歴を持つ患者に加速承認されており、市販後コミットメント試験はフェールしたが、p値自体は悪くなかった。アジアで実施された試験の結果がもうそろそろ判明するはずだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


ウプトラビの静注用製剤が承認
(2021年7月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、肺動脈工血症治療薬Uptravi(selexipag)の静注用製剤がFDAに承認されたと発表した。錠剤服用者が何らかの理由で服用できなくなった時に代用する。臨床試験では、初日は経口剤を一日二回、第2日は静注を一日二回、第3日は朝は静注、夕方は錠剤、第4~9日は錠剤を一日二回投与した。

リンク: ヤンセンのプレスリリース


ヌーカラが鼻ポリープに適応拡大
(2021年7月29日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。18歳以上の点鼻コルチコステロイドに十分応答しない患者に追加投与する。第3相SYNAPSE試験で手術歴を持ち再手術の候補になっている患者に100mgを4週毎に52週間、皮注したところ、ポリープのサイズや鼻詰まりが偽薬比有意に改善した。再手術のリスクも抑制された(ハザードレシオ0.43)。

Nucalaは抗IL-5抗体で、好酸球性喘息症や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、好酸球増多症候群に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース



キイトルーダ、TNBC切除術付随療法が今度は承認
(2021年7月27日発表)

FDAはKeytruda(pembrolizumab)をトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)の切除術付随療法に用いる適応拡大を承認した。ステージII/IIIの早期乳癌だが高リスク因子を持つ患者の術前に化学療法と併用し、術後にも単剤投与する。KeyNote-522試験でEFS(手術、局所/遠隔転移、二次性原発癌、全死亡の複合評価項目)のハザードレシオが偽薬比0.63、p=0.00031だった。

MSDは術前補助療法によるpCR(病理学的完全反応)データに基づき前倒しでFDAに承認申請したが、アップデートされた群間差が中間解析段階より縮小したことや、延命効果が未検討であったため、3月に審査完了通知を受領していた。ダメモトで申請しても無駄のように感じたが、FDAによると今回は審査期限より約5ヶ月早く承認したとのことなので、ダメモトではなくツバ付け申請しておいたことが奏効したと言えるだろう。

尚、全生存期間はまだイベント数未達で有意差は出ていないが、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると、ハザードレシオ0.72、95%信頼区間0.51-1.02と正しい方向を向いている。

KeytrudaはTNBCでは昨年11月にKeyNote-355試験の成績に基づきPD-L1陽性(CPS≧10)の切除不能/転移癌に化学療法二剤と併用することが加速承認され、今回、522試験の成功により本承認に切り替わった。尚、355試験はCPS≧10サブグループの全生存解析も成功したことが今回、発表された。


KEYNOTE-522試験の結果

Keytruda群 偽薬群 
n784390
pCR達成率63.055.6
EFS非達成率16%24%
ハザード比0.63
p値0.00031
アルファ0.0052


リンク: FDAのリリース
リンク: MSDのプレスリリース(TNBC承認)
リンク: 同(355試験)


【医薬品の安全性】


2月に加速承認されたメルファラン系新薬に死亡リスク浮上
(2021年7月28日発表)

FDAはOncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)のPepaxto(melphalan flufenamide)の市販後コミットメントであるOCEAN試験で、死亡リスクが対照群(BMS/セルジーンのPomalyst(pomalidomide)を使用)より高かったと発表した。会社側発表と概ね同じ内容。2月に加速承認された適応と一部重なっているので、早急に分析を終え対応を決めることが望まれる。

Pepaxtoはアルキル化剤のmelphalanにペプチドを結合して親油性を向上したもの。多発骨髄腫用薬で、4次治療歴を持ち3種類の代表的な多発骨髄用薬に抵抗性を示した患者に、dexamethasoneと併用する。加速承認の根拠となった試験ではORR(客観的反応率)が23.7%、メジアン反応持続期間は4.2ヶ月、G3/4有害事象は骨髄抑制、肺炎(発生率11%)、疲労、気道感染症、骨/四肢痛など。

第3相試験は2~4次治療歴を持つ患者をPepaxto群とPomalyst群に無作為化割付して両群ともdexamethasoneと併用投与し、PFS(無進行生存期間、独立評価)を比較した。同社の5月の発表によると、ハザードレシオは0.817で、同社によると、非劣性だった。

事態が急転したのは7月。一部のデータが変更されたため再び独立評価委員会が検討したところ、PFSのハザードレシオは0.792(95%信頼区間0.64-0.98)、p=0.0311と数値が改善した一方で、副次的評価項目である全生存期間のハザードレシオは1.104(同0.846-1.441)と死亡リスクが1.4倍である可能性が否定されず、今回のFDA発表によると、メジアン生存期間は19.7ヶ月対25.0ヶ月と5ヶ月も短かった。カプラン・マイヤー・カーブを見ると、15ヶ月経った辺りから差が広がっている。

FDAは同社に臨床試験の部分停止(新規組入れ中止)と、投与を続ける被験者からは新たなリスクを伝えて同意書を取り直すよう求めた。

意外なことに、この解析のカットオフは2月3日であることも今回、判明した。同社が成功発表した5月時点では死亡リスクが高まる懸念が判明していたのではないか、という疑いを禁じ得ない。

リンク: FDAの安全性情報
リンク: データ概要とカプラン・マイヤー・カーブ(pdfファイル)




今週は以上です。

2021年7月25日

第1009回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ロナプリーブが日本で世界初承認 
  • EMA、IL-1受容体アンタゴニストの適応拡大申請を受理 
  • CHMP、モデルナのワクチンを12-17歳に接種しても良い 
  • EMAもGBSをヤンセンのワクチンのリスクとして記載 
  • その他の領域: 
  • ノバルティス、アロステリックABL阻害剤を承認申請 
  • ファイザーのJAK阻害剤二剤、承認が更に遅延 
  • tenapanorの承認が遅延 
  • CHMP、ポンペ病用薬の承認に肯定的意見 
  • 家族性肝内胆汁うっ滞の対症療法が承認 
  • アフリカ睡眠病の経口治療薬が米国でも承認 
  • MSD、15価肺炎球菌結合ワクチンが承認 

☆休む予定でしたが間に合ったのでリリースします


【COVID-19関連】


ロナプリーブが日本で世界初承認
(2021年7月20日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)および米国外における開発販売パートナーであるロシュは、ロナプリーブ(カシリビマブ、イムデビマブ)が日本でCOVID-19治療薬として承認されたと発表した。ロシュの日本子会社である中外製薬が申請していたもので、12歳且つ体重40kg以上の小児・成人で酸素投与の必要がないが重症化リスク因子を持つ軽症から中等症Iの入院患者に用いる。

両社によると、この抗SARS-COV-2抗体カクテルが承認されたのは世界で初めて。米独仏伊などで既に販売されているので違和感があるが、非常時使用認可(EUA)制度に基づくもので正式な販売承認ではないので、日本の特例承認とは異なるという整理なのだろう。

適応は若干異なり、米国のEUAは外来患者が対象で、ファクトシートには入院患者に対する便益は確立していないと記されている。オックスフォード大学が主導したRECOVERY試験では、入院患者のうち抗SARS-CoV-2抗体陰性サブグループ(全被験者の1/3)の死亡率が24%と通常医療のみの30%を有意に下回ったが、抗SARS-CoV-2抗体陽性患者では便益が見られず、全集団の解析でも有意な差はなかった。当該サブグループの66%はベースライン時点で酸素投与を、20%は非侵襲的換気を受けていたので、日本の適応範囲とはあまり一致しない。

リジェネロンの過去の試験でも抗SARS-CoV-2抗体陽性に対する効果が見られず、結局、抗SARS-CoV-2抗体療法は、免疫グロブリンと同様な、自力で十分な抗体を作れない人に対する補充療法として使うのがベストなのだろう。

米国も抗体陰性に限定していないので商業的には棚から牡丹餅状態だが、売上高は当初考えられたほど伸びていない。米国は外来患者が対象なので、検査が陽性になった後、もう一度医療施設に来てもらって投与するロジスティクス面の不便さがあるからだろう。日本はもっと使いやすいが新規感染者数が米国と二桁違うので、大きな寄与は期待し難い。

リンク: ロシュのプレスリリース



EMA、IL-1受容体アンタゴニストの適応拡大申請を受理
(2021年7月19日発表)

EMAは、Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)のKineret(anakinra)をCOVID-19肺炎で重度呼吸不全のリスク因子を持つ成人の治療に用いる適応拡大申請の審査を開始した。追加情報が必要にならないかぎり10月までに結論を出す予定。

天然のIL-1受容体アンタゴニストの遺伝子組換え薬で、アムジェンが01年にリウマチ性関節炎用薬として米国で発売、クリオピリン関連周期性症候群やStill病などに適応拡大したが、一日一回皮注であることやTNFアルファ阻害剤併用試験で副作用リスクが増強されたことなどから売上高が伸びず、08年にSOBIに事業売却した。

COVID-19ではギリシャとイタリアの施設で実施された第3相SAVE-MORE試験が成功した。中重度COVID-19肺炎で入院し、suPAR(soluble urokinase plasminogen activator receptor:免疫亢進の血漿バイオマーカーで様々な疾患の悪予後予測因子)が6ng/ml以上に亢進している患者約600人を組入れて、100mgを一日一回、最長10日間皮注する効果を偽薬と比較したもので、症状改善の調整オッズ比(WHOの11点臨床症状序数で評価)が0.36、p<0.001となった。治癒退院オッズ比は0.36、重度呼吸不全/死亡オッズ比は0.46で共にp<0.01、28日死亡ハザード比は0.45、p=0.045だった。

臨床症状序数を主評価項目としたCOVID-19試験は承認されている薬も含めてフェールが多く、それだけに、サプライズな結果だ。尤も、ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体Ilaris(canakinumab、和名イラリス)の第3相COVID-19肺炎性サイトカイン放出症候群治療試験は、主評価項目の29日人工呼吸器無装着生存率がフェールしたものの88.8%対偽薬群85.7%、副次的評価項目のCOVID-19関連死亡率は4.9%対7.2%と、数値自体は悪くはなかった。suPAR亢進患者だけならもっと良い結果が出たのかもしれない。

いずれにせよ、EMAの承認審査に耐えられるほど頑強な結果なのか、数ヶ月後に真価が判明する。

リンク: EMAのプレスリリース



CHMP、モデルナのワクチンを12-17歳に接種しても良い
(2021年月日発表)

EUの薬品審査機関、EMAは、Moderna(Nasdaq:MRNA)のSpikevax(和名COVID-19ワクチンモデルナ)の適応年齢を12-17歳に拡大することに肯定的意見をまとめた。早晩、承認されるのではないか。2163人に投与した試験で免疫原性が18-25歳と同様だった。この群の感染者数はゼロ、偽薬群1073人では4例だった。

リンク: EMAのプレスリリース



EMAもGBSをヤンセンのワクチンのリスクとして記載
(2021年7月22日発表)

EMAもヤンセンのCOVID-19ワクチンとギラン・バレー症候群(GBS)の関連性を認め、製品情報(添付文書)に記載することを決めた。EUのファーマコビジランス・データベースと文献の合計で108例報告されており、一人が死亡した(6月末時点)。接種人数は2100万人。

米国でも7月のACIP(ワクチン接種諮問委員会)で詳細なデータが公表された。累計100例のうち95例は深刻で入院し、一人が死亡。2011年に刊行されたGBS罹患率に関するメタアナリシスを用いて年代別にリスクの率比を求めたところ、18歳以上の全年齢では5倍、40代と50-64歳では7倍と高かった。尚、ヤンセンのワクチンのGBS症例はその98%が接種後42日間に発生しているためこの分析も42日間の自然発生率と比較しているが、84%を占める21日間を使って試算するとリスク倍率はもっと高くなるはずだ。

欧米で感心するのは、リスクを定量化するとともに、感染予防という便益も定量評価した上で、後者が前者を上回ると結論していることだ。ヤンセンが米国の医療従事者向けのサイトで提供している情報なのでリンクや引用は差し控えるが、お題目を唱えるだけでは説得力がないと痛感させられる。

GBS超過リスク分析(42日間、n=98)
年代GBS症例数接種回数予想症例数率比(95%CI)
全年齢(18歳以上)9812,235,97819.565.01
(4.07, 6.11)
18-294 2,138,2591.992.01
(0.55, 5.14)
30-3910 2,071,9322.3484.26
(2.04, 7.83)
40-4921 2,174,3622.977.07
(4.38, 10.81)
50-6447 3,918,4136.766.95
(5.11, 9.24)
65以上16 1,933,0124.793.34
(1.91, 5.43)

注:接種実績は06/28/2021時点。予想症例数はJ. Sejvarら(Neuroepidemiology. 2011;36(2):123-33)の推定を利用して42日間に発生しうる件数を算出。
出所:FDAのACIPプレゼンテーション・スライド(7/22)

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ACIPのプレゼンスライド(7/22、Dr. Alimchandani、pdfファイル)


【承認申請】


ノバルティス、アロステリックABL阻害剤を承認申請
(2021年7月21日発表)

ノバルティスは、21年第2四半期の決算発表に合わせて、ABL001(asciminib)をフィラデルフィア転座陽性慢性骨髄性白血病用薬としてFDAに承認申請したことを明らかにした。慢性期で、2種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を待つ、あるいは、T315I変異を持つ癌を想定している。第3相試験では40mgを一日二回、経口投与した群の24週MMR(分子遺伝子学的大奏効)が25.5%とファイザーのBosulif(bosutinib)の13.2%を有意に上回った。G3以上の有害事象発生率は各50.6%と60.5%で、asciminib群は血小板減少症や好中球減少症が10%以上の患者で発生した。有害事象による治験離脱率は各5.8%と21.1%だった。

Bosulifや同社のGleevec(imatinib)、Tasigna(nilotinib)と同様に遺伝子転座により異常亢進したABLを阻害することで進行を抑制する小分子薬だが、ATP競合的ではなく、ミリストイル・ポケット特定的なアロステリック・インヒビター。ATP競合的ABL阻害剤で発生しやすいATP結合部位の変異にも活性を持つと期待される。

リンク: 21年第2四半期決算発表リリース(pdfファイル)


【承認審査・委員会】


ファイザーのJAK阻害剤二剤、承認が更に遅延
(2021年7月21日発表)

ファイザーはJAK1阻害剤のPF-04965842(abrocitinib)を中重度アトピー性皮膚炎に新薬承認申請するとともに、JAK1/3阻害剤のXeljanz(tofacitinib。和名ゼルヤンツ)の5mg(一日二回経口投与)を活性期強直性脊椎炎に承認申請したが、審査期間が延長された上に、今回、FDAから期限までに結論を出せない旨の通知を受けた。

XeljanzのフェーズIVコミットメントであるA3921133試験で主要有害心血管事象や腫瘍のリスクがTNF阻害剤を有意に上回ったことが切っ掛けで、FDAがJAK阻害剤の安全性に関する検討を強化、JAK阻害剤の承認審査が軒並み遅れている。諮問委員会に上程する様子も今のところは見られない。こんなに長引いているところを見ると、FDA内部で意見の対立が見られるのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース



tenapanorの承認が遅延
(2021年7月19日発表)

Ardelyx(Nasdaq:ARDX)はtenapanorを透析期慢性腎疾患患者の高リン血症治療薬として米国で承認申請しているが、承認が更に遅れる見込みであることを公表した。詳細は不明だが、申請内容の不備が発見されたため、承認審査プロセスの最終ステージであるレーベルや市販後コミットメントに関する協議に進めない旨の通知を受領したとのこと。

tenapanorはナトリウムの小腸における吸収に係るナトリウム水素交換輸送体3(NHE3)の阻害薬。経口剤だが殆ど吸収されない。19年に米国でIBS-C治療薬Ibsrelaとして承認された。高リン血症における作用機序は、ナトリウムの吸収減により細胞のプロトン濃度が上昇、細胞間接着が強固になるため胃腸におけるリンの吸収が抑制されるとのこと。日本では協和キリンが今年、腎性高リン血症の第3相試験を4本、ロンチした。

米国で昨年6月に承認申請した後の動きは違和感にあふれており、審査期限であった今年4月29日に、臨床解析データを追加提出したことが申請内容の主要な変更と見なされ7月29日に延期されたことが公表された。通常はもっと早く連絡が来てもっと早く公表されることが多い。今回の遅延も、公表は7月19日だがFDAの通知を受領したのは7月13日だった。

委細確認に時間がかかるのは止むを得ないが、証券取引法における適時開示規制の対象になるであろう事象が発生してから開示まで4営業日というのでは、適時開示義務違反の疑いが浮上しても不思議はない。この4日間に株式を購入した投資家が株主代表訴訟を提起する可能性もありそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース



CHMP、ポンペ病用薬の承認に肯定的意見
(2021年7月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、ポンペ病の新規酵素補充療法の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

サノフィの子会社であるジェンザイムのNexviadyme(avalglucosidase alfa)は、同社のMyozyme/Lumizyme(alglucosidase alfa)を改良したポンペ病の酵素補充療法。遅発性ポンペ病96人に2週毎に20mg/kgを4時間点滴静注した試験で、努力肺活量(%予測値)が49週間後に2.89改善、alglucosidase alfa群の0.46改善と比べて劣ってはいなかった。優越性解析はフェール。上位解析がフェールしたため副次的評価項目の有意性を検討するのは禁じ手だが、6分歩行テストの改善は32.2メートル対2.2メートルで、群間差の95%下限は1を上回った。

Nexviadymeの用量、点滴時間、投与頻度はalglucosidase alfaと同じ。長所がもっと多いと良いのだが。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大は小児適応に係るものばかりなので割愛する。

協和キリンのNouryant(istradefylline、和名ノウリアスト)は否定的意見となった。日本でパーキンソン病のウェアリングオフ現象を改善する薬として13年に承認、米国でも19年にNourianzとして承認されたが、CHMPは、8本の試験中4本でしかオフ時間(標準薬であるレボドパなどを服用してもパーキンソン病症状が出てしまう時間)が減少せず、特に欧州の患者を組入れた試験は二本ともフェール、また、作用が用量依存しているように見えないことに難色を示した。

アデノシンA2A受容体を拮抗する新規作用機序を持つが、第3相試験が中々成功したかった。上記の8本がどれを指すのか不明だが、日本で実施された後期第2相と第3相はオフ時間がベースライン時点の6時間余/日から偽薬群より40~50分多く減少した。米国で実施された後期第2相と第3相合計4本のうち、3本では、起床時間に対するオフ時間の比率が偽薬比4~6ポイント多く低下した。起床時間が16時間とすると治療効果はやはり40~50分程度ということになる。

04~05年に米国で実施されたもう一本の試験(US-018)の結果は不明。同時期に欧州で実施されたEU-007試験の結果も不明。

リンク: EMAのプレスリリース

EMAはロシュがTecentriq(atezolizumab)の適応拡大申請の一つを取り下げたことも公表した。早期トリプル・ネガティブ乳癌のネオアジュバント療法として、標準的療法であるnab-paclitaxelと化学療法のシーケンシャル・レジメンに追加する用法とのことなので、IMpassion031試験に基づく申請と推定される。pCR(病理学的完全奏功)が57.6%と偽薬追加群の41.1%を上回り、p値は0.0044と閾値(アルファ)の0.0185をクリアした。

米国ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)を同様な用途用法に用いる適応拡大申請が承認されなかった。両薬とも一本の試験で術前ネオアジュバント療法と術後アジュバント療法の二兎を追っており、一兎は逃したが、延命またはそれに準じる効果が今後の解析で確認されれば、二匹とも手に入れることができるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


家族性肝内胆汁うっ滞の対症療法が承認
(2021年7月20日発表)

米国ボストンのAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)は、FDAがBylvay(odevixibat)を家族性肝内胆汁うっ滞(PFIC)患者の掻痒治療薬として承認したと発表した。40mcg/kgを一日一回、朝食時に服用する。3ヶ月経っても効果が不十分なら最大120mcg/kg(但し6mgが上限)まで漸増できる。局所作用性iBAT(回腸胆汁酸輸送体)阻害剤で、1型と2型のPFIC患者を組入れた第3相試験では、FDAの要請に基づく主評価項目である掻痒改善率が53.5%と偽薬群の28.7%を有意に上回った。

Bylvayは直前にEUでも承認された。上記試験では、EUが要請した主評価項目である血清胆汁酸削減奏効率が33.3%と偽薬群のゼロを上回った。

PFICは希少遺伝子疾患で、胆汁酸が肝臓に滞留し障害を与える。10歳までに肝硬変や肝不全を合併することが多い。掻痒は主な症状。患者数は中国やインドを含めて世界で15000人とされる。原因遺伝子の違いなどから三種類に細分されるが、Bylvayは限定なしで承認された。冷蔵不要、カプセルを開けて食品に振りかけて摂取することもできる。

リンク: Albireoのプレスリリース(米国承認)
リンク: 同(EU承認、7/19付)



アフリカ睡眠病の経口治療薬が米国でも承認
(2021年7月19日発表)

サノフィは、FDAがfexinidazoleをTrypanosoma brucei gambienseによる睡眠病の治療薬として承認したと発表した。6歳以上且つ体重20kg以上の小児や成人に、一日一回、10日間、経口投与する。発症当初の第1ステージだけでなく、寄生虫が血管脳関門を通過し神経精神症状が現れる第2ステージの患者にも有効。

睡眠病はツェツェバエが媒介する寄生虫感染症で、一度消滅した後に再流行したがWHOの対策が奏功、年間発症者は2800人程度に激減した。上記のガンビア型寄生虫による睡眠病は西アフリカや中央アフリカに多い。

fexinidazoleは1970年代にヘキストが創製、80年代に開発中止となった後、05年に非営利研究開発団体であるDNDi(顧みられない病気のための新薬イニシアティブ)が病原虫に対する活性を発見、サノフィなどと連携して臨床試験を行った。EUでは19年に承認。米国と同様に、アフリカなどでの使用を想定している(承認審査を欧米などの組織に頼る国は多く、また、米国で承認されれば米国政府が薬を寄附することも可能になる)。

熱帯病薬優先審査バウチャ(熱帯病薬承認時に交付され、熱帯病薬でなくても承認申請時に使えば優先審査を受けられる)はDNDiが獲得したが、サノフィは換金時などの利益分配権を持っている。

リンク: 同社のプレスリリース



MSD、15価肺炎球菌結合ワクチンが承認
(2021年7月16日発表)

MSDはVaxneuvance(通称PCV-15、開発コードV114)が肺炎球菌による侵襲性疾患の予防用ワクチンとしてFDAに承認されたと発表した。18歳以上が接種対象になる。15血清型の肺炎球菌莢膜多糖体をCRM197(無毒性変異ジフテリア毒素)と結合したワクチンで、免疫原性をファイザーのPrevnar 13と比較した臨床試験で、Prevnarが対応している13血清型のうち12型で非劣性、残りの一つとVaxneuvance独自の二つに関しては有意に上回った。安全性は同程度だった。

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が10月の会合で接種勧奨の当否を検討する予定。EUでも承認審査中。

ファイザーは先月、20価の肺炎球菌結合ワクチン、Prevnar 20の承認を取得しており、10月のACIPに上程される。こちらも18歳以上が対象で、単純に考えれば、Veaneuvanceより良さそうに見える。

リンク: MSDのプレスリリース






今週は以上です。

2021年7月17日

第1008回

 


【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ヤンセンのワクチンでギラン・バレー報告 
  • その他の領域: 
  • ANAがAuhelmの加速承認に不満を表明 
  • GSK、HIF-PH阻害剤の第3相がすべて成功 
  • キイトルーダ、TNBC補助療法試験がEFS達成 
  • オプジーボとヤーボイの頭頚部癌一次治療試験が目的未達 
  • FDA諮問委員会、エベレンゾの承認に反対 
  • ROCK2阻害剤が慢性移植片宿主病に承認 
  • FDA、観察的試験に基づきプログラフを肺移植患者向けに承認 
  • ダラキューロが七つ目の適応・用法を獲得 

☆来週はお休みします

【COVID-19関連】


ヤンセンのワクチンでギラン・バレー報告
(2021年7月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のJanssen Pharmaceuticalは、COVID-19ワクチンの米国におけるファクト・シート(パッケージ・インサート類似の説明資料)を改訂し、接種後42日間にギラン・バレー症候群のリスクが高まることを警告した。欧州で承認されているアストラゼネカのワクチンも承認審査機関が同様なリスクについて検討しており、アデノウイルス・ベクターを使うワクチンのクラス・イフェクトなのかもしれない。

ファクトシートには詳細は記されていないが、CDC(疾病予防管理センター)を情報源とする報道によると、報告数は100例で、うち95例は深刻な入院事例、一人は死亡した。接種実績は1250万人とのことなので、発症頻度はおよそ10万人に一人となる。発症時期として多いのは接種後2週間。専ら男性で、年齢は50代以上が多いとのことだ。

ワクチンは健康な人が対象なので高い安全性が求められる。免疫刺激に伴うリスクは避けられないので、リスクと便益を定量的に評価することが重要だ。

CDCの纏めによると、米国におけるワクチン接種後のアナフィラキシーの頻度は100万人当たり2~5人。ヤンセンのワクチンのTTS(血栓性血小板減少を伴う血栓症候群)頻度は接種回数1260万回に対して確認症例が38例で、50歳未満の女性のリスクが比較的高い。三種類のワクチンの接種後死亡報告は3.31億回に対して5946例(0.0018%)となっているが、FDAが副作用か否かを問わず全ての死亡例を報告するよう求めているため膨らんでおり、死亡診断書やカルテなどを分析したが因果関係は確立していない。但し、ヤンセンのワクチンを接種後にTTSで死亡した症例に関しては、因果関係があっても不思議はない、とのこと。

リンク: ヤンセンのプレスリリース
リンク: COVID-19ワクチンの有害事象報告に関するアップデート((CDC)


【今週の話題】


ANAがAuhelmの加速承認に不満を表明
(2021年7月14日発表)

米国神経学協会(ANA)の執行委員会は、バイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab-avwa)をFDAがアルツハイマー病薬として加速承認したことや、市販後試験で薬効を確認するまでの猶予期間が著しく長いことに不満を表明した。

FDAは、アミロイド・ベータを減らすことができるならば、病気の進行を遅らせることもできると合理的に推測することができると判定、加速承認したが、ANAは、全員一致で承認に反対した末梢・中枢神経薬諮問委員に同意を表明。適応や用法についても、第3相試験の被験者と同様な条件(アミロイドベータの蓄積など)を満たす患者に、抗アミロイドベータ抗体特有の有害事象リスクを注意しながら、使うべきと釘を刺した。更に、市販後薬効確認試験の結果の提出期限が2030年であることについて、有効性が未確認なまま放置される期間が9年というのは長すぎる、3年に短縮することが望ましいと主張した。

ANAは極めて権威のある学会として知られ、過去には、ある製薬会社が決算発表会で臨床試験の結果をANA学会で発表する予定と述べたところ、まだ抄録を受理していない段階だったためANAが反発、学会会場近くのホテルでひっそりと発表せざるを得なかったことがある。加速承認後に諮問委員が数人、辞任したのも、それだけ誇りが大きいからだろう。

それでも、ここまでハッキリとFDAの判断に意義を唱えるのは珍しい。

報道によると、米国の費用対効果評価期間であるInstitute for Clinical and Economic Review(ICER)が専門家パネルに尋ねたところ、15名のパネリスト全員が便益に関する十分なエビデンスはないと回答した。また、高名な医療機関であるクリーブランド・クリニックやマウント・サイナイ・ヘルス・システムはAduhelmを使わないことを決定した。

加速承認された時点では、医師がどう思おうと患者が使いたいと言ったら使わざるを得ないという見方が主流だったが、雲行きが怪しくなっている。これだけ専門家の反対が多いとメディアの論調もトーンダウンせざるを得ず、大衆もAduhelmという薬があったことをやがて忘れてしまう可能性がある。

リンク: ANA執行委員会のコメント


【新薬開発】


GSK、HIF-PH阻害剤の第3相がすべて成功
(2021年7月16日発表)

グラクソ・スミスクラインは、daprodustatの第3相試験が5本とも成功したと発表した。慢性腎疾患患者の貧血症を治療する試験で、保存期のヘモグロビン矯正、透析期のヘモグロビン矯正や維持、二本の心血管アウトカム、一日一回ではなく週三回の経口投与の全てで主目的を達成した。治療時発現有害事象は対照群(アムジェンのAranespや偽薬)と大きな差はなかった。2022年に承認申請する計画。

データは未発表。悪魔は細部に潜むので、後述のroxadustatのように、承認審査の段階になって初めて表面化する副作用もあるかもしれない。

HIF-PH(低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素)阻害剤で、日本で昨年、ダーブロック錠として承認された。一日一回、経口投与する。協和キリンが販売。日本のESA(赤血球造血刺激因子製剤)対照試験では血栓塞栓疾患が特には増えなかったようだが、どの程度の検出力があったのか分からない。

リンク: 同社のプレスリリース



アレクシオン、ユルトミリスの筋無力症試験が成功
(2021年7月15日発表)

カナダのアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Ultomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)の第3相gMG(全身性筋無力症)試験が成功したと発表した。21年から22年始めにかけて日米欧で適応拡大申請する考え。

Soliris(eculizumab、和名ソリリス)を改変して半減期を長期化した抗C5補体抗体で、PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)やaHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)に承認されている。今回のgMGもSolirisで承認獲得済みだが、既存薬不応以外の患者も組入れた模様なので、重症gMGだけでなく中等症や早期の患者にも承認されるかもしれない。

他の点ではSolirisの第3相と類似しており、抗AChR抗体陽性でMG-ADL総スコアが6以上の患者175人を組入れて26週間治療し、スコア改善幅を偽薬と比較した。MG-ADLは患者が8項目について0から3(最も重い)までの4段階で評価し、合算する。最大は24。本試験のベースライン値は公表されていない。

Ultomiris群は3.1低下し、偽薬群の1.4低下と有意な差があった。尚、Solirisの試験では4.2対2.3なので、治療効果が大きく違うようには感じられない。既存の適応と同様に、投与頻度が少なくて済むことが長所になるのではないか。

Ultomiris群は26週間の延長試験期間も含めて4人が死亡したが、うち3人はCOVID-19によるもの。薬物関連有害事象ではないが、免疫抑制剤の一種なので、全然関係ないとも言い難いのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース



キイトルーダ、TNBC補助療法試験がEFS達成
(2021年7月15日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相KEYNOTE-522試験のEFS(無イベント生存率)データをESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表した。ハザードレシオは0.63と過去の中間解析と同程度だがp値が遂に事前に設定された閾値を下回った。共同主評価項目である術前pCR(病理学的完全反応)の解析は既に成功しているが、術前術後補助療法の便益を定量評価する上では今回の解析のほうが意義が大きい。pCRに基づく適応拡大申請は不首尾に終わったが、EFSデータがあれば今度は承認されるのではないか。

この試験はステージII/IIIの未治療TNBC(トリプル・ネガティブ乳癌:エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、her2の何れも過剰発現していない乳癌)1174人をKeytruda群と偽薬群に2:1割付して、根治手術前に化学療法と試験薬によるネオアジュバント療法、術後に試験薬だけのアジュバント療法を施行する便益を比較した。

ネオアジュバント療法におけるpCRはKeytruda群64.8%、偽薬群51.2%、p値は0.00055と閾値の0.005を下回った。但し、FDAによると、解析対象者が増加したアップデート・データでは群間差が7.5%に縮小したようだ。

EFSのハザードレシオは0.63(95%信頼区間0.48-0.82)、p=0.00031だった。前回の解析ではp=0.0025でその時点での閾値である0.0021を僅かに上回ったが、今回はクリアした。便益はPD-L1発現やpCR達成の有無に依存しなかった。

副次的評価項目である全生存期間の第4次中間解析はハザードレシオ0.72(95%信頼区間0.51-1.02)、p=0.03214で、未だハードルをクリアしていないが方向は悪くない。

MSDは本試験のpCR解析に基づいて加速承認を申請したが、FDAはpCRが延命効果につながるとは限らないこと、アップデート・データで治療効果の低下が見られたこと、この試験はネオアジュバントとアジュバントの二兎を追うデザインであることなどから承認申請前から否定的で、2月に開催された腫瘍学薬諮問委員会も10人全員がEFS解析が成功するまで承認を待つべきと判定。3月に審査完了通知を受領した。

EFS解析が成功したのだから、今度は承認されるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース



オプジーボとヤーボイの頭頚部癌一次治療試験が目的未達
(2021年7月16日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、CheckMate-651試験がフェールしたと発表した。難治/転移頭頚部扁平上皮腫の一次治療試験で、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用する延命効果を標準的療法であるEXTRMEレジメン(cisplatinまたはcarboplatinをcetuximabおよびfluorouracilと併用)と比較したが、有意な差がなかった。但し、共同主評価項目であるintent-to-treatとPD-L1陽性(CPS≧20)サブグループの解析のうち、後者はトレンドが見られた由。

Opdivoは難治/転移頭頚部扁平上皮腫の二次治療に用いることが本承認されている。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、エベレンゾの承認に反対
(2021年7月15日発表)

FibroGen(Nasdaq:FGEN)はroxadustatを慢性腎疾患の貧血治療薬として米国で承認申請したが、FDAは安全性データに懸念を示しており、今回、心臓腎臓薬諮問委員会も透析依存患者に関しては14人中12人が、非透析依存は14人中13人が、承認に反対した。

roxadustatはHIF2-PH(低酸素誘導因子2-プロリン水酸化酵素)阻害剤で赤血球の新生などを刺激する。第3相は透析依存患者のESA(赤血球造血刺激因子製剤)対照試験と非透析依存患者の主として偽薬対照の試験が複数実施され、ヘモグロビン値を矯正する作用が確立された。18~19年に中国や日本(エベレンゾ錠)で承認を取得し、EUでも6月にCHMPの肯定的意見を得た。日本や欧州ではアステラス製薬、米国や中国ではアストラゼネカと共同開発販売している。

ヘモグロビン値を上げると高血圧や血栓塞栓症、心筋梗塞などのリスクが高まる可能性がある。このうち、心筋梗塞は発生頻度が高くはないので、FDAは大規模な心血管アウトカム試験または対照試験のメタアナリシスを行って主要有害心血管イベント(MACE)が大きく増加しないことを確認するよう求めている。roxadustatは全死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中のハザードレシオの信頼区間上限が対照群を大きくは上回らず、合格した。しかし、血栓症の発生率が透析依存試験では21.7%(ESA群は19.2%)、非依存試験では9.4%(偽薬群は5.1%)と上回った。

血栓塞栓症のリスクはヘモグロビン値や上昇ペースと関連しているため、FibroGenはヘモグロビンの目標レンジを第3相試験の10.5~12g/dLではなくESAなみの10~11g/dLに抑え、開始用量を70mg~200mg(体重やこれまでのESA使用量に応じて決定する)ではなく40mg~100mgに引き下げ、不応時の連続増量回数を3回までに制限することを提案した。しかし、根拠はシミュレーションで臨床試験のエビデンスはないため、FDAも諮問委員も受け入れなかった。因みに、日本の開始用量はESA未経験者は50mg、スイッチは70mgまたは100mg。

意外なことに、敗血症も含めて感染症の発生率や、てんかん発作の発生率も対照群を上回った。同社は市販後にこれらの有害事象の報告を定期的に分析報告することも提案したが、不十分と見なされた。

米国はESAでヘモグロビン値をアグレッシブに矯正する風土があったが、弊害が明確になり、矯正目標が上記に引き下げられた。薬と言うよりは使い方の問題なのだが、歴史的な経緯から、FDAは有効かつ安全な用量用法の確立を求めている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


ROCK2阻害剤が慢性移植片宿主病に承認
(2021年7月16日発表)

Kadmon(Nasdaq:KDMN)は、FDAがRezurock(belumosudil)を慢性GvHD(移植片宿主病)の治療薬として承認したと発表した。二次治療の全身性治療歴を持つ12歳以上の患者に、200mgを一日一回、経口投与する。臨床試験ではORR(客観的反応率)が75%で、応答者の62%は12ヶ月以上に亘り、新規の全身性治療が不要だった。良く分からないが、メジアン反応持続期間は1.9ヶ月と短い。一旦反応しても直ぐにリバウンドするが治療法を変えたり追加するほどではない、ということなのだろうか。

免疫細胞の分化と細胞の線維化に関与するリン酸化酵素、ROCK2(Rho-associated coiled-coil kinase 2)の阻害薬。Nano Terraからライセンスした。日本はMeiji Seikaファルマがアジア12ヶ国も含めてライセンス。

Kadmonは米国ニューヨーク州の新興企業。Imclone Systemsの創業者で抗EGFR抗体Erbitux(cetuximab、和名アービタックス)を世に送り出す前にインサイダー情報を友人に漏らした罪で逮捕されたSamuel Waksalが刑期終了後に設立、株式公募に際して弟のHarlanにCEOを譲位した。

リンク: Kadmonのプレスリリース



FDA、観察的試験に基づきプログラフを肺移植患者向けに承認
(2021年7月16日発表)

FDAはアステラス製薬のPrograf(tacrolimus、和名プログラフ)を肺移植後の拒絶反応抑制に用いる適応拡大を承認した。27年前に肝移植患者向けに初承認されて以来、腎移植、心移植に続き、四つ目の適応を取得した。

薬の承認はよくデザインされた複数の薬効確認試験を根拠とするのが鉄則だが、今回、面白いのは、介入試験ではなく、観察的試験によるReal World Evidenceに立脚していること。SRTR(米国の移植患者レジストリー)のデータと社会保障局の死亡データの分析で、肺移植を受けて免疫抑制治療の一部としてPrografによる治療を受けた患者の転帰は、免疫抑制療法を施行しなかった/最低限だった患者の自然歴と比べて『ドラマチックに改善』した。

レーベルによると、成人患者では退院の1年後のグラフト・サバイバル率がMMF併用例(15478人)では90.9%、azathioprine併用例(4263人)では90.8%だった。小児では各91.7%と84.7%だった。対照群のデータは記されていない。

リンク: FDAのプレスリリース



ダラキューロが七つ目の適応・用法を獲得
(2021年7月9日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalのDarzalex Fasproの適応・用法追加を承認した。ジェンマブが創製した抗CD38抗体と蛋白分解酵素の配合薬で、元々は点滴静注用だったDarzalexを皮下注射できるようにした。これまでに多発骨髄腫と全身性ALアミロイドーシスに承認されているが、前者は新薬が続々発売されていることからヤンセンも様々な段階における併用法を開発しており、今回、プロテアーゼ阻害剤とlenalidomide を含む一次以上の治療歴を持つ患者に、セルジーン/BMSのPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと併用する、D-Pdレジメンが実用化された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヤンセンのプレスリリース(7/12付)






今週は以上です。

2021年7月10日

第1007回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ブースター・ワクチンは有効だが時期尚早 
  • インド企業の弱毒化ワクチン、第3相成功 
  • プラスミドDNAワクチンの第3相が世界で初めて成功 
  • CureVacのmRNAワクチンの効率は47%のみ 
  • ワクチンの極めて稀な副作用 
  • その他の領域: 
  • Aduhelmの承認過程を監査するようFDA長官代行が要請 
  • アルツハイマー病薬のレーベルが早くも変更 
  • キイトルーダの胃・GEJ腺癌適応を自主返上へ 
  • ジャディアンスのHFpEF試験が成功 
  • Pepaxtoの早期患者試験が部分停止に 
  • 一型糖尿病予防薬は審査完了に 
  • FDA、バイエルのMRAを糖尿病性腎症に承認 
  • FDA、膀胱癌用抗体薬物複合体を本承認 
  • キイトルーダが局所進行性の皮膚扁平上皮癌にも承認


【COVID-19関連】


ブースター・ワクチンは有効だが時期尚早
(2021年7月8日発表)

ファイザーとBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、COVID-19のリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)の開発に成功、21年の年商は150億ドルと、ワクチンのベストセラーであるPrevnarの3倍近くに達する見込みだ。但し、成功が大きければ大きいほど一巡後の落ち込みも大きくなるので、経営陣は打撃吸収策を練る必要がある。両社やModernaの戦略は、Prevnarなどのハイテク・ワクチンと比べて低く抑えられている価格を引き上げることと、国家備蓄やブースター・ショット需要を開拓すること。数量が落ち込んでも価格を7~9倍に引き上げることができれば売上高を維持できる計算だ。

一方、行政や医療従事者はこのような発言にクールに反応している。今回も意見が分かれた。

ファイザーとBioNTechは、Comirnatyを二回接種した人に6ヶ月おいてもう一回接種する試験の中間解析が良好な結果になったと発表した。野生株やベータ株(南アで初発見)に対する中和抗体価が2回目接種後の5~10倍に増加した。論文発表やFDA/EMAに報告する予定。

一方、HHS(米国保健福祉省)傘下のCDC(疾病予防管理センター)とFDAは、現段階では、ワクチン接種を完了したアメリカ人はブースター・ショットは不要という共同声明を出した。英国で感染者が増加に転じたり、イスラエルの疫学研究で6ヶ月経つと効果が減弱する可能性が浮上したり、デルタ株(インドで初発見)が英国や米国でも流行し始めたことで国民が心配しないよう配慮したのだろう。米国にもかなりいる、ワクチンの安全性や意義に疑問を持つ人たちに新たな言い訳を与えない意図もあっただろう。

米国で接種が始まったのは昨年12月なので、もしブースター・ショットが有効であったとしても現時点で接種すべき人数は限られている。優先接種だった医療従事者の間で感染者が増え始めるようならば、考え直すタイミングになるだろう(医療従事者は接種後もマスクをして治療に当たるだろうから、シグナルが出るのは市井のほうが先かもしれないが)。

さて、アストラゼネカのワクチンに関して、接種の1年後に抗体価が接種後の3分の1に低下したが接種前よりは高かった、そしてブースター・ショット後は再び上昇した、という論文草稿を読んだことがあるが、今回は抗体価のピーク水準と比べて5~10倍なので、意味がかなり違う。ブースターに関してもリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンのほうが有効なのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: CDCとFDAの共同声明



インド企業の弱毒化ワクチン、第3相成功
(2021年7月2日発表)

インドのワクチンメーカーであるBharat Biotechは、Covaxinの第3相COVID-19予防試験が成功したと発表した。インドの施設で18歳以上の約26000人を組入れ、4週間おきに二回接種して更に14日経った後の症候性感染を追跡したところ、ベースライン時点で抗体陰性者(≒感染歴がない)では24人と偽薬群の106人を大きく下回り、ワクチン効率は77.8%(95%信頼区間65.2-86.4)だった。欧米で開発されたワクチンと同様に、重症感染症を予防する効果は93.4%(一人対15人)と更に高かった。

インドではB.1.617系統が発展しカッパ株(B.1.617.1)や感染力が高いとされるデルタ株(B.1.617.2)、そしてワクチンの効果低下につながる可能性のあるK417N変異も持つデルタ・プラス(B.1.617.2.1)などが登場、英国でもアルファ株(B.1.1.7)に代わりデルタ株が主流になった。Covaxinの治験でもこれらの系統が頻出したと推測されるが、デルタ株に関するワクチン効率は65.4%と、全体の77.8%より10ポイント程度低いだけだった。

この試験は無症候性感染も評価項目となっており、ワクチン効率は63.6%だった。ワクチンの仕組みから推測すると、重症感染者は純減するが、中等症と軽症は予防効果の一部が上から降りてくる人(ワクチンのお陰で重症化せず中等症で済む人)で相殺される。何もしなければ無症候感染者となったはずの患者の一部は検出不能(感染していないと判定)になるはずだが、症状が出なくて済んだ人による増加も大きいだろう。このため、ワクチン効率は重症感染予防効果の数値が最もよく、無症候感染予防効果が最も低いと推定される。これまでの臨床試験成績は、この推定と矛盾していない。それだけに、Covaxinの無症候性感染ワクチン効率が症候性感染と10ポイント程度しか違わないのは意外感がある。

会社側はmRNAワクチンやウイルスベクター・ワクチンより忍容性が良いことを期待している。第3相では副作用発生率は12.4%、深刻有害事象発生率は0.5%だった。

Covaxinはスパイク蛋白だけでなくウイルス全体を弱毒化したワクチン。米国のViroVaxがNIAID(米国立アレルギー感染症研究所)の支援を受けて開発したAlhydroxiquim-IIという、アルミにTLR7/8を活性化する分子を結合したアジュバントを採用している。1月にインドでEUA(非常時使用認可)、一回分が150インドルピー(約220円)という低価格で政府に供給している。現在はブラジルなども含めて13ヶ国でEUA、これまでに3億回分を納入したとのこと。第3相の成功を受けて、米国などでも承認申請する予定。

リンク: 両社のプレスリリース



プラスミドDNAワクチンの第3相が世界で初めて成功
(2021年7月1日発表)

インドのZydus Cadilaは、ZyCoV-Dの第3相試験が成功したと発表した。12歳以上の28000人を組入れ3回皮内注射したところ、症候性感染症を予防するワクチン効率が66.6%、中等症以上の感染では100%だった。インドでEUA申請する予定。免疫原性試験では3mg二回接種でも三回接種並みの効果があったとのこと。

プラスミドDNAワクチンの第3相成功は世界初。インドは感染者が多く臨床試験に適しているとはいえ、アンジェスなど日本の企業より遥かに先んじたのは驚きだ。日本はCOVID-19オリンピックで惨敗している。新型インフルエンザの時の、外国製ワクチンは一滴足りとも入れないという鎖国主義を排して、日本の被験者が足りないならインドやブラジルの医療施設も巻き込むようなグローバルな展開、及び競争を推進し、勝てないなら退いてもらう勇気が必要だ。産官学ワクチン複合体の存続より国民全体の健康のほうが大事なのだから。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)



CureVacのmRNAワクチンの効率は47%のみ
(2021年6月30日発表)

ドイツのCureVac(Nasdaq:CVAC)は、CVnCoVの後期第2相/第3相試験の最終解析結果を発表した。6月発表の第二次中間解析と同じ47%に留まった。18~60歳では53%ともう少し良い成績だったが61歳以上には効果が認められなかった。何れにせよ、開発が先行したリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンの効率は90%超だったことを考えると、半分程度に留まったのは意外。

CureVacは12mcgを4週間おいて二回筋注と、既存製品と比べて少量であることが裏目に出たのかもしれない(生産高をよりたくさんの人に提供することを狙ったのかもしれない)。あるいは、流行株の変遷が影響した可能性もある。この試験の感染者204人のうち野生株は3%足らずでVOC(感染力や抗体抵抗性の点で懸念すべき変異株)やVOI(まだ評価が定まっていないが注視すべき変異株)が殆どだったからだ。

但し、サンプル数が少なく信頼区間が広いとはいえ、アルファ株(英国型)に対するワクチン効率が55%というのは見劣りする。ペルーで流行している、F490Sという中和抗体抵抗性の可能性のある斬新な変異を持つラムダ株は53%、日本で最初に発見されたブラジルで流行しているガンマ株は67%、コロンビアで流行のB.1.621は42%となっており、流行株の違いというよりはワクチン自体の違いが主因のように感じられる。

CVnCoVはEUでローリング審査中。米国は一部を除いてワクチンのEUAを締め切ったので、正式な承認を申請することになる。

リンク: 同社のプレスリリース



ワクチンの極めて稀な副作用
(2021年7月9日発表)

EMAのPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)はBioNTech/ファイザーとModerna、そしてヤンセンのCOVID-19ワクチンについて、極めて稀な副作用を認定、レーベルに追加するよう勧告した。CHMPなどの検討を経て収載されることになる。

リピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンは、心筋炎と心膜炎。EEA(欧州経済領域)でComirnatyは心筋炎145例、心膜炎138例、ModernaのSpikevaxはどちらも19例が報告された。死亡は5人。EEAにおける接種実績(5月末時点)は夫々1.77億回と2000万回なので、頻度は50~70万人に一人ということになる。接種後14日以内、一回目よりは二回目の接種後、若い男性、が多い。死亡者は高齢または持病を持っていた。

本件は6月のACIP(米国のワクチン接種諮問委員会)でも報告された。症例分析がもう少し詳しいので第1005回(6/26付)を参照されたい。

Covid-19 Vaccine Janssenは、毛細血管漏出症候群。病歴のある人に接種しないことも勧告した。3件報告されているが、うち1例は病歴があった。何れも接種後2日以内に発症、2人は死亡した。接種実績(6月21日時点)は世界で1800万人なので、頻度は600万人に一人となるが、転帰が悪そうだ。

アデノウイルスベクターを用いる遺伝子ワクチンはオックスフォード大学/アストラゼネカのVaxzevriaも6月に同様なPRAC勧告が出た。その時点で14例の報告があり、欧州における接種実績は7800万回だったので、550万人に一人となる。ヤンセンのワクチンにはEDTA(カルシウムに結合する安定化剤)が添加されていないため毛細血管漏出性がVaxzevriaより小さいことも考えられるが、頻度は大差なく、よくわからない。

リンク: EMAのプレスリリース(ComirnatyとSpikevax)
リンク: 同(COVID-19 Vaccine Janssen)


【今週の話題】


Aduhelmの承認過程を監査するようFDA長官代行が要請
(2021年7月9日発表)

Janet Woodcock FDA長官代行は、自身のツイッターで、バイオジェン/エーザイのアルツハイマー病治療薬Aduhelm(aducanumab-avwa)の承認過程を監査するようHHS(保健福祉省)のOIG(監察総監室)に要請したことを公表した。Christi Grimm OIG室長代行あての書簡の全文画像も添付されている。

19年3月に第3相試験が無益性で打ち切られてから次項のレーベル変更までの2年間に、不可解な、違和感のある動きが数多くあったはずだが、今になって検証を求めたのは、STATというBoston Globe傘下のオンライン・ライフサイエンス・メディアの報道が契機のようだ。私は有料購読していないため内容を把握していないが、他の報道によると、神経科学領域の新薬の審査を行う部門を率いるBilly Dunnダイレクターが公式な連絡手続きを逸脱して承認申請者に接触したことや、早い段階で加速承認の可能性に言及していたことなどを報じたようだ。

トップが監査を求めたとなると、如何にも疑惑が濃厚であるように聞こえるが、おそらく、他の省庁や組織の担当業務に平気で口を出す、米国人気質の良い面が表れたのだろう。元々、『疑惑の承認』との論評が少なくない案件について、新たな疑惑が報じられた以上、傍観していたら長官代行の責務を果たせない。『疑惑の銃弾』と同じ顛末になるかもしれないのだから、忖度して握りつぶすよりも監査を受けて白黒ハッキリさせるほうがお互いのためである。

リンク: Woodcock長官代行のツイート(Twitter)



アルツハイマー病薬のレーベルが早くも変更
(2021年7月8日発表)

バイオジェンとエーザイは、米国で6月7日に加速承認されたAduhelm(aducanumab-avwa)の適応に関するレーベル改訂を行ったと発表した。適応症は『アルツハイマー病』と広範なままだが、MCI(軽度認知障害)または軽度アルツハイマー病の患者に対して治療を開始すべしという補足が追加された。日本の添付文書における『効能又は効果に関する注意』を彷彿させる。

FDAの資料や報道によると、『アルツハイマー病の治療』という適応症は元々、メーカー側が求め、FDAが承認したが、中重度患者に関するエビデンスがなく照会が相次いだため、メーカー側に再考を促した、という経緯のようだ。適応症自体を変えなかったのは、治療しても病気は進行するので、中等度そして重度になっても適応から外れる訳ではないことを明確にする趣旨のようだ。

第3相試験のもう一つの組入れ条件であるアミロイド検査陽性は、今回も、無視された。

中重度患者のエビデンスがないのは前から分かっていたのだから、初承認の時点で注記なり但し書きなりすればよかったのではないか。相変わらず、ことAduhelmに関してはFDAの行動は理解しがたい。

リンク: 両社のプレスリリース



キイトルーダの胃・GEJ腺癌適応を自主返上へ
(2021年7月1日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の胃・GEJ(胃食道接合部)腺癌3次治療における加速承認を返上すると発表した。半年内に手続きに着手する予定。

第2相試験のORR(客観的反応率)データに基づきPD-L1陽性(CPS≧1)の患者の用いることが17年に認められたが、市販後薬効確認試験であるpaclitaxel対照二次治療試験がフェールした。加速承認は深刻な疾患で適切な薬がない場合にORRのような代理マーカーに基づいて前倒しで承認する制度だが、のちに類薬であるBMSのOpdivo(nivolumab)が一次治療化学療法併用で本承認され、一次治療でOpdivoを使った患者の三次治療にも有効であるかどうか不明ということもあり、加速承認を維持する意義が低下した。

MSDが自主返上を受諾しなかったため今年4月の諮問委員会に上程したところ、8人中6人が加速承認維持に反対、今日に至った。

尚、FDAは承認を取消す権限を持っているが、ライセンスホルダーが反発してFDA内の不服申し立て手続きを行ったり司法に救済を求めたりしたら結果が出るまで時間がかかるため、自発的返上が第一選択になる。

適応が一つ減ったもののKeytrudaの用途は着々と拡大しており、胃・胃食道接合部腺腫に関しても、her2陽性で局所進行切除不能/転移性の癌の一次治療にtrastuzumab、fluoropyrimidine、及び白金薬と併用することが加速承認されている。直感的には整理が困難だが、不確かなエビデンス(代理マーカーの改善)を積み重ねても確かなエビデンスにはならず、加速承認を本承認に切り替えることはできないが、多少異なった用途で新たに加速承認する妨げにはならない、ということなのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


ジャディアンスのHFpEF試験が成功
(2021年7月6日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと共同開発販売パートナーであるイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)のEMPEROR-Preserved試験が成功したと発表した。左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)の成人約6000人を組入れて心血管疾患死や心不全入院を観察した心血管アウトカム試験で、データは8月27日にESC(欧州心臓学会)で発表する予定。

駆出率が低下した高リスク心不全を組入れたEEMPEROR-Reduced試験も成功しており、日米欧で適応拡大申請中。

尚、SGLT2阻害剤は二型糖尿病薬として承認されているが、これらの試験では二型糖尿病は組入れ条件ではない。

リンク: 両社のプレスリリース



Pepaxtoの早期患者試験が部分停止に
(2021年7月8日発表)

スエーデンのOncopeptides AB(Nasdaq Stockholm:ONCO)は、今年2月に米国で難治再発多発骨髄腫の5次治療薬として加速承認されたPepaxto(melphalan flufenamide、通称melflufen)に関して、市販後薬効確認試験且つ3次~5次治療試験である第3相OCEAN試験の結果のアップデートを行うとともに、FDAが他の臨床試験を部分停止したことを明らかにした。

Pepaxtoはアルキル化剤melphalanにペプチドを結合して親油性を向上したもの。4週毎に30分点滴静注する。dexamethasoneと併用する。欧州でも承認申請中。

OCEAN試験はdexamethasoneにPepaxtoを併用する群のPFS(無進行生存期間)をPomalyst(pomalidomide)併用群と比較した。5月の結果発表によると、独立評価委員会が査読したPFSはハザードレシオが0.817となったがp=0.064でフェールした。根拠は不明だが、会社側は非劣性だったと主張している。担当医評価のPFSはハザードレシオ0.79(95%信頼区間0.639-0.976)と良好な数値になったが、オープンレーベル試験なので主観的評価項目の信頼性は頑強ではなく、解析の多重性も考慮しなければならない。

今回、数値が若干変更された。データベースをロックし最終解析を行う過程で幾つかの修正が行われたため改めて独立評価委員会に検討を委ねたところ、495例のうち29例の画像評価が変わり、ハザードレシオは0.792、p=0.0311と一転して統計的に有意な差が検出された。ORR(客観的反応率)は変更されなかった。

意外なことに、今回初めて公表された全生存期間のハザードレシオは1.104とdexamethasone・Pomalyst併用より数値上悪かった(信頼区間は1を跨いでいる)。事前に特定されたサブグループ毎の解析では0.5から1.5まで大きなムラがあり、Pepaxtoに適した患者と使うべきでない患者がいることを示唆している。どのようなサブグループなのかは、投資家向けテレカンファレンスでも開示されなかった。

Pepaxtoは様々な薬との併用試験などが進行しているが、FDAは、新規組入れを禁じるパーシャル・クリニカル・ホールドを発出した。一方で、現在承認されている用途に関しては、特に何も命じなかった。承認されている主要な薬を使い終わった患者のサルベージ治療なので、死亡リスクが明らかに高まるのでないかぎり、本人が望むなら使っても良いという考え方なのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


一型糖尿病予防薬は審査完了に
(2021年7月6日発表)

Provention Bio(Nasdaq:PRVB)はPRV-031(teplizumab、通称Ala-Ala)を一型糖尿病発症を遅らせる薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効のエビデンスとなる第2相試験で用いられたバッチと販売用バッチの同等性がボトルネックになったようだ。同社は新患一型糖尿病治療試験のサブスタディとして収集したデータを転用できないか、検討する考え。

モノクローナル抗体医薬の第一号である抗CD3エプシロン・マウス抗体、OKT3(muromonab)をヒト化したもので、MacroGenics者が権利を取得、イーライリリーがライセンスして第3相新患一型糖尿病治療試験を実施したが2010年にフェールした。Proventionは18年にライセンス、NIH(米国衛生研究所)が主導したTN-10試験のデータをエビデンスとして昨年、承認申請した。

TN-10試験は一型糖尿病の近親者を持ち二種類以上の疾病関連自己抗体陽性、OGTT値が高いが糖尿病の基準値は下回っている8歳以上の76人を組入れて、30分点滴静注を14日連続で施行する群と偽薬群の発症状況を比較したもの。結果はハザードレシオ0.41、p=0.006、メジアン値は48ヶ月対24ヶ月と、発症を2年程度遅らせる効果を示した。

5月に開催された諮問委員会では賛成10人、反対7人と票が分かれた。FDA側は臨床試験の規模が小さいこと、腎症や神経症の抑制などの臨床的便益が確立していないこと、糖尿病性ケトアシドーシスやサイトカイン放出症候群、感染症の懸念などを指摘していた。

ブリッジング試験で薬物動態の同等性が見られなかった問題は4月に表面化した。この問題が未解決であるため、承認審査の最終段階であるレーベルや市販後コミットメントに関する検討・交渉に進むことができないとFDAが通知してきたのだ。従って、審査完了通知に留まったのはそれほど意外ではない。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


FDA、バイエルのMRAを糖尿病性腎症に承認
(2021年7月9日発表)

FDAはバイエルのKerendia(finerenone)を成人の二型糖尿病関連慢性腎疾患の治療薬として承認した。欧米中日などの施設が参加した第3相アウトカム試験、FIDELIO-DKDで、腎臓合併症(eGFRの40%以上の低下や腎不全)のリスクを18%抑制し、心血管合併症(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全入院)リスクも14%抑制した(但し、非致死的脳卒中は偽薬群より数値上、多かった)。主な有害事象は高カリウム血症、低血圧、低ナトリウム血症など。副腎不全やCYP3A4強阻害剤併用は禁忌。

非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体阻害剤(MRA)だが、Inspra(eplerenone、和名セララ)など既存のMRAと異なり、分布が腎臓に偏らず選択性も高いため、腎安全性に優れる可能性がある。心不全ではなく慢性腎疾患を最初の適応症として開発したのはこれが理由だろう。

今回の適応より幅広く、腎機能がそれほど悪化していない患者や進行した患者も組入れた第3相FIGARO-DKD心血管アウトカム試験が成功したことも公表されている(データは未発表)。症候性心不全でも第3相FINEARTS-HF試験が日米欧などで進行中。

さて、糖尿病性腎症の新薬はSGLT2阻害剤も次々と承認されており、作用機序が異なるとはいえ、競合するだろう。両方使うことも不可能ではないが、FIDELIO-DKD試験の被験者は6割以上がインスリンを用いておりSGLT2阻害剤服用は4%のみだった。効果もさることながら、血圧低下リスク(作用)のある薬を標準療法であるACE阻害剤も含めて三剤併用するにはエビデンス不足なのではないか。

MRAの第1号であるAldactone(spironolactone)は研究者主導試験の論文がNew England Journal of Medicine誌に掲載されオフレーベル使用されるようになったが、腎機能低下は除外条件であったことが軽視され、多くの副作用被害が発生した。教訓は様々だが、その一つは、組入れ・除外条件や患者背景の表に注意すべきことだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: バイエルのプレスリリース



FDA、膀胱癌用抗体薬物複合体を本承認
(2021年7月9日発表)

FDAは、アステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)を局所進行/転移尿路上皮癌の再発治療薬として承認した。PD-1/PD-L1阻害薬と白金薬レジメンによる治療歴を持つ、または、cisplatin不適で一次治療歴を持つ患者が適応になる。前者は19年12月に加速承認され、今回、第3相試験のエビデンスに基づき本承認となった。後者は第2相試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が51%、メジアン反応持続期間13.8ヶ月だった。これだけなら加速承認だったかもしれないが、おそらく、似たようなセッティングで延命効果が確認されたため、こちらも本承認となった。

転移性尿路上皮癌の9割で発現するNectin-4を標的とする抗体にMMAEという細胞毒を結合した抗体医薬複合体。11年に3.7億ドルで買収したAgensysの唯一の開発成功品で、Seagen(Nasdaq:SGEN)が共同開発販売している。日欧でも承認申請中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース



キイトルーダが局所進行性の皮膚扁平上皮癌にも承認
(2021年7月6日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)を根治手術・放射線療法が適応にならない局所進行性皮膚扁平上皮癌に用いる適応拡大がFDAに承認された。KeyNote-629試験の第二次中間解析結果に基づくもので、54人中27人がORR(客観的反応率:完全反応率17%、部分反応率33%)を達成し、その81%が6ヶ月以上持続した。

Keytrudaは昨年、難治性/転移性の癌に承認されており、今回の承認で三種類のサブタイプをカバーした。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

2021年7月1日

第1006回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • CRISPR技術が臨床で初めて有効性を示した 
  • リンヴォックの潰瘍性大腸炎試験が成功 
  • イエスカルタの二次治療試験が成功 
  • カボメティクス錠の肝臓癌一次治療、今一つな結果に 
  • Multikine、10年間かけた第3相がフェール 
  • ギリアド、効果が半年続く抗HIV薬を承認申請 


【今週の話題】


CRISPR技術が臨床で初めて有効性を示した
(2021年6月26日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジのCRISPR/Cas9遺伝子編集技術開発会社、Intellia Therapeutics(Nasdaq:NTLA)と共同開発パートナーのRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は、NTLA-2001の第1相試験中間解析結果をNew England Journal of Medicine誌や学会で発表した。ポリニューロパチーを有する遺伝性ATTRアミロイドーシスの患者6人に0.1mg/kgまたは0.3mg/kgを一回点滴静注したところ、血清TTR(トランスサイレチン)が各52%と87%減少した。最大は96%減少した患者も一名いた。深刻な有害事象は見られなかった。

現在は1mg/kgのコフォートに組入れ中。今後、至適用量が決まったらそのコフォートの組入れを拡大し、良好な結果になれば、心筋症型も含めて、承認申請のためのpivotal studyに進む予定。

ATTRアミロイドーシスはTTRの遺伝子に変異があり、トランスサイレチンが代謝されずに蓄積する。NTLA-2001は肝臓のTTRの遺伝子を切断・不活化する。

この疾患ではAkcea Therapeutics/Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)のTegsedi(inotersen)とアルナイラム(Nasdaq:ALNY)のOnpattro(patisiran、和名オンパットロ)が17~18年に欧米で承認されている。前者は遺伝子アンチセンス技術、後者はRNA干渉技術に立脚しており、広い意味では、何れもゲノム研究の成果といえる。何れも血清TTRが70~90%減少する。

NTLA-2001は反復投与が不要な可能性もあるが、新しい技術なのでリスクもありそうだ。効果が同程度なら、リスクも同程度であることが求められるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Gillmoreらの治験論文(NEJM)


【新薬開発】


リンヴォックの潰瘍性大腸炎試験が成功
(2021年6月29日発表)

アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)を関節リウマチやアトピーなど様々な自己免疫疾患向けに開発している。潰瘍性大腸炎では、第3相インダクション試験二本に続いて、メンテナンス試験も成功したことを発表した。適応拡大申請に向かうと予想される。但し、FDAはJAK阻害剤の副作用に強い問題意識を持っており、今回のように、リウマチより高用量を投与する場合はより慎重なスタンスを取るかもしれない。

インダクション試験二本では、中重度患者500人前後を45mgを一日一回経口投与する群と偽薬群に2:1割付して、8週後の臨床的寛解率(Adapted Mayo Score基準)を比較した。一本では26%対5%、もう一本は33%対4%と有意な差があった。副次的評価項目である二種類の内視鏡的評価でも有意な差があった。両試験とも、Rinvoq群の応答率は70%台だった。今回のメンテナンス試験は、インダクション応答者451人を偽薬、15mg群、30mg群に無作為化割付して52週間後の臨床的寛解率を比較したところ、各群12%、42%、52%となり偽薬比有意な差があった。内視鏡的評価でも有意な差があった。

8週間の治療に応答した患者は、投与を続ければ寛解維持/達成できる可能性があり、止めると治療効果を吐き出してしまう可能性があることを示唆している。

さて、JAK阻害剤の第1号であるXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)は市販後安全性確認試験で心血管リスクや癌リスクが高まることが判明。リスクは用量依存する可能性があるため、リウマチの倍の量を投与する潰瘍性大腸炎の適応は他剤不応重度不耐に限定された。

Rinvoqのリスクは明確ではないが、中重度リウマチ性関節炎の承認用量は15mgであるのに対してアトピー性皮膚炎の適応拡大申請は15mgと30mg、今回もインダクションは45mg、メンテナンスは30mgもテストされており、用量依存的なリスクの増大を懸念する余地はあるだろう。

FDAはRinvoqを含む各社のJAK阻害剤の適応拡大/新薬承認を軒並み先送りしており、近い将来に何らかのアクションが見られるだろう。予想されるシナリオは、取り敢えず諮問委員会に諮問したり、長期安全性試験を市販後ではなく承認前に義務付けするなどが考えられる。

リンク: 同社のプレスリリース



イエスカルタの二次治療試験が成功
(2021年6月28日発表)

ギリアド・サイエンシズの子会社であるKite Pharmaは、Yescarta(axicabtagene ciloleucel、和名イエスカルタ)の第3相ZUMA-7試験が成功したと発表した。難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の二次治療試験で、EFS(イベント・フリー・サバイバル)のハザードレシオが0.398、p<0.0001となり、標準療法を有意に上回った。副次的評価項目のORR(客観的反応率)も有意に上回り、全生存期間はデータが成熟していないこともありトレンドに留まった。

CAR-Tに付き物のG3以上のサイトカイン放出症候群発生率は6%、同じく神経学的イベントは21%だった。

尚、標準療法は免疫化学療法を施行して、応答したら、そして忍容できるなら、強化化学療法を行い、幹細胞移植を行った。

YescartaはCD19を標的とするキメラ抗原受容体-T細胞療法。17年に米国で、18年にEUで、21年には日本でも、難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として承認された。

リンク: 同社のプレスリリース



カボメティクス錠の肝臓癌一次治療、今一つな結果に
(2021年6月28日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)と開発販売パートナーのイプセン(Euronext:IPN)は、VEGFR拮抗剤Cabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)の第3相COSMIC-312試験の結果を公表した。進行肝細胞腫の一次治療として抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と併用する効果を承認薬であるNexavar(sorafenib)と比較したところ、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)が有意に上回った。ハザードレシオは0.63、99%信頼区間は0.44-0.91だった。

もう一つの主評価項目である全生存期間の解析は中間解析ということもありトレンドに留まったが、会社側は、22年初めにも行われる最終解析でも有意差が出ないと予想している。意外だ。

いずれにせよ、二剤併用がVEGFR阻害剤単剤を凌げないのでは情けない。期待外れになりそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース



Multikine、10年間かけた第3相がフェール
(2021年6月28日発表)

米国ヴァージニア州のCEL-SCI(NYSE American:CVM)は、1983年の設立以来、ヒト由来のサイトカインなどの混合物であるMultikineを癌の治療薬として研究開発してきた。リーマン・ショックを乗り越え2010年に第3相頭頚部癌ネオアジュバント試験を開始、FDAの治験停止命令を乗り越え完遂し、結果はフェールだったが乗り越えてサブグループに承認申請する考えであることを発表した。

Multikineは健常ボランティアから採取したIL-2やTNFアルファ、CSF、キモカインなどを培養したもの。第3相試験はステージIII/IVaの原発性頭頚部癌の新患928人を組入れて、手術、放射線療法、そして化学療法を施行する前にMultikineとcyclophosphamide、indomethacin、そして鉛マルチビタミンによる3週間の術前治療を行う群と行わない群に割付けて、生存率を比較した。16年にFDAが部分的治験停止を命じ新規投与を禁止、その後、全面的な治験停止を命じたが、既に殆どの患者の投与を終えていたので大きな影響はなかっただろう。

主評価項目はフェールしたが、事前に設定された、化学療法を施行しなかったサブグループではハザードレシオ0.68、p=0.0236とボーダーライン上だが有意な差があった。5年生存率はMultikine群が62.7%、対照群は48.6%だった。

手術と放射線療法だけを行うか、化学療法も施行するかは、NCCNガイドラインに即して決定するプロトコルだったので、選択の恣意性はあまりなさそうだ。それでも、サブグループ分析は患者背景に偏りがあるなど細部に悪魔が潜んでいることが多い。当面の注目は、FDAからどのようなフィードバックがあるかだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


ギリアド、効果が半年続く抗HIV薬を承認申請
(2021年6月28日発表)

ギリアド・サイエンシズは米国でGS-6207(lenacapavir)をHIV/AIDSのサルベージ治療薬として承認申請した。ウイルスの複製に不可欠な、HIVのRNAを包むカプシドを阻害する。治療開始時は14日間に3回、錠剤を服用するが、第15日に皮注用製剤にスイッチした後の維持期は半年に一回で足りる。

臨床試験では、複数のクラスの抗HIV薬に抵抗性の患者24人に投与したところ、88%でウイルス量が14日後に0.5log10以上減少した。偽薬群12人では17%に留まった。その後、偽薬群を試験薬群にクロスオーバーした上で皮注の26週後に検査したところ、26人中73%で検出不能となった。有害事象は注射箇所反応など。

ギリアドはMSDと夫々の長期作用性抗HIV薬の併用法も共同開発している。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。