2019年3月31日

2019年3月31日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ギリアド、JAK1阻害剤のリウマチ試験成功 
  • 抗Nectin-4抗体薬物複合体を承認申請へ 
  • アバニア、アルツハイマー性激高の治療試験成功 
  • セルジーン、多発性硬化症用薬を承認申請 
  • JNJ、ダラザレックスをASCT付随療法に適応拡大申請 
  • CHMPがベータサラセミアの遺伝子療法の承認などを支持 
  • メルクセローノの多発性硬化症薬、申請から10年を経て承認 
  • FDA、初めての非レントゲン性体軸性脊椎関節炎治療薬を承認 
  • 経口テストステロンが承認 
  • FDA、ノバルティスの二次進行型多発性硬化症用薬を承認 
  • フォシーガ、日本と前後してEUでも一型糖尿病に承認 


【新薬開発】


ギリアド、JAK1阻害剤のリウマチ試験成功
(2019年3月28日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、JAK1阻害剤filgotinibの第三相中重度関節リウマチ試験二本が成功したと発表した。100mgまたは200mgを一日一回投与する効果を検討したもので、一本はmethotrexate(MTX)に十分反応しなかった患者に追加投与したところ、ACR20が各69.8%と76.6%となり、偽薬追加群の49.9%を有意に上回った。HAQ-DIやmTSS(構造的損傷の指標)でも有意な差があった。

Humira(adalimumab)群のACR20は70.8%。filgotinibとHumiraの間の統計的検定はACR20ではなく疾患活動性低下(DAS26≦3.2)成功率で行われた様子で、200mg群は非劣性、100mgは非劣性ではなかった。

もう一本の試験は、MTX未経験患者にMTXと100mgまたは200mgを併用または200mgを単剤投与する効果をMTX・偽薬併用群と比較したところ、ACR20が各80.2%、81.0%、78.1%、71.4%となり、併用二群は偽薬併用を有意に上回った。モノセラピーは有意差がなかったが、ACR50など他の指標では有意差が出ているので、他の試験のデータなどと総合的に考える必要がありそうだ。

併用二群はHAQ-DIでも有意差があったが、mTSSはフェール。モノセラピーはHAQ-DIでも有意差がなかったがmTSSでは有意差ありと、こちらの試験のデータはあまり明確ではない。

二本の試験の安全性は概ね良好で、深刻な有害事象の発生率はHumira群も含めて各群同程度。腫瘍や静脈血栓イベントの症例数も同程度だが、絶対数が少ないため、全対照試験のプール分析のデータが公表されるまで何とも言えないだろう。

少なくともこれまでのところは、filgotinibの安全性は既存のJAK阻害剤と比べて同等以上に見える。但し、200mgは精巣毒性の懸念があり、これも、毒性試験や臨床試験のデータを総合的に俯瞰できるようになるまで何とも言えない。

filgotinibは15年12月にベルギーのGalapagos(Nasdaq:GLPG)から共同開発販売権を取得したもの。アッヴィがライセンスしていた時期もあったが、自社パイプラインの開発進展に伴い権利を返還した。

リンク: ギリアドのプレスリリース(MTX-IR試験成功)
リンク: ギリアドのプレスリリース(MTXナイーブ試験成功)

アステラス、抗Nectin-4抗体薬物複合体を承認申請へ
(2019年3月28日発表)

アステラス製薬は、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)と共同開発している抗体薬物複合体(ADC)、ASG-22ME(enfortumab vedotin)の第二相尿路上皮癌試験が良好な結果になったと発表した。今年後半に米国で承認申請する考え。

ASG-22MEは転移性尿路上皮種の9割で発現するNectin-4を標的とする抗体とMMAEというシアトル・ジェネティクス/武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin)にも採用されている細胞毒を結合したもの。アステラスが子会社化したAgensys社がシアトル・ジェネティクスと進めてきたADC共同研究開発プロジェクトの成果。

今回のEV-201試験は局所進行性/転移性の尿路上皮癌に対する効果を検討するピボタル(承認申請に用いる)試験だ。白金薬とチェックポイント阻害剤による治療歴を持つ患者128人を組入れた第一コフォートの解析で、第三者査読によるORR(客観的反応率)が44%となった。第一相試験における同様なユニバースのORRは40%だったので再現性があったことになる。第三相試験も進行中。

尿路上皮癌の最近の新薬であるチェックポイント阻害剤の効果は、例えロシュのTecentriq(atezolizumab)はPD-L1陽性に対するORRが26%。ASG-22MEは三次治療薬ではなくチェックポイント阻害剤に代わる二次治療薬としても有望なのではないか。

この試験の詳細データは学会などでの発表が見込まれる。第一相試験でのG3以上の有害事象は貧血症、低ナトリウム血症、尿路感染症、高血糖など。4%弱が治療関連有害事象により死亡した(呼吸不全、尿路閉塞、糖尿病性ケトアシドーシス、及び多臓器不全)。

リンク: アステラスのプレスリリース(和文)

アバニア、アルツハイマー性行動障害治療試験成功
(2019年3月25日発表)

大塚製薬の米国子会社、アバニアは、AVP-786の第三相試験が成功したと発表した。中重度アルツハイマー型認知症の行動障害(アジテーション)を治療する12週間の試験で、二用量のうち一つでCMAI症状評価スコアが偽薬比有意に改善、もう一つはトレンドに留まった。主な有害事象は転倒、尿路感染、頭痛、下痢など。

同社はNuedexta(dextromethorphanとquinidine sulfateの合剤)をALS(筋萎縮性側索硬化症)や多発性硬化症などに伴う情動調節障害の治療薬として販売している。AVP-786は同じ成分を配合しているが、Concert PharmaceuticalsのIPをライセンスしてdextromethorphanの水素分子を重水素に置換することによって2D6による代謝を抑制し、薬物動態を改善した。このため、2D6阻害剤として配合されているquinidineの用量を減らすことができた。

説明が長くなったが、要するに、AVP-786はNuedextaの特許切れ対策ともいうべき薬である。Nuedextaは2010年の米国承認後、養老施設でアルツハイマー病の易怒性・攻撃性を抑える目的でも用いられていた。15年にレーベルが変更され『アルツハイマー病などでの薬効や安全性は示されていない』という記述が削除されたためオフレーベルではなくなったが、アバニアは今年2月、司法省とオフレーベル販促に関する司法和解を受け入れた。

AVP-786もアルツハイマー病が主用途と想像されるので、今回、最初の第三相が成功したことは朗報だ。Nuedextaのこの用途における第三相試験データは見たことがないので、優劣を比較されることもないだろう。アバニアは賢く立ち回っている。

今回の試験は偽薬群のうち最初の6週間である程度以上改善した患者は解析から除外した。精神症状治療試験でしばしば攪乱要因となる偽薬効果を排除することが目的で、一理あるが、何れにせよ、通常の試験より治験成功のハードルが低いことになる。残りの二本は通常の解析を行うようなので、成功するかどうか注目される。

リンク: 大塚製薬のプレスリリース(和文)

【承認申請】


セルジーン、多発性硬化症用薬を承認申請
(2019年3月25日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、ozanimodを欧米で承認申請したと発表した。米国の予定適応症は再発型多発性硬化症、欧州は再発寛解型多発性硬化症と多少異なっている。

後述のノバルティスのMayzent(siponimod)と同様なS1P受容体1/5調節剤。15年に72億ドルで完全子会社化したReceptos社の開発品で、17年12月に米国で承認申請したが、活性代謝物の評価が不十分だった模様で、受理されなかった。

セルジーンはReceptosから移籍したチームに開発を委ねていた模様だが、セルジーンなら申請しなかったとの発言があったと報じられている。買収企業のグリップが不十分だったことになる。セルジーンは他にも様々なセットバックが起きて経営陣に対する信頼が悪化、今年に入り、BMSに買収されることで合意した。

リンク: セルジーンのプレスリリース

JNJ、ダラザレックスをASCT付随療法に適応拡大申請
(2019年3月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の適応拡大をFDAに承認申請した。ジェンマブ社からライセンスして多発骨髄腫薬として販売している抗CD38完全ヒト化抗体で、一次治療ではASCT(自家造血幹細胞移植)に不適な患者向けに承認されているが、今回、ASCTを受ける患者にも適応を広げる。Velcade(bortezomib)やthalidomide、dexamethasoneと4剤併用でASCT前とその後の地固め療法を行う。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがベータサラセミアの遺伝子療法の承認などを支持
(2019年3月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、3月の会合で、Zyntegloの承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)のZyntegloは、ex vivoの遺伝子療法。12歳以上の輸血依存ベータサラセミア(TDT)でマッチするドナーがいないため幹細胞移植ができない患者に条件付き承認するよう勧告した。患者から採取したCD34陽性細胞にレンチウイルスベクターを用いて装飾ベータ・グロブリン遺伝子を導入、患者に戻す。臨床試験では過半が輸血不要になった。但し、遺伝子型がベータ0のホモ接合でヘモグロビンを殆ど作れない患者は効果が低下するため、CHMPは適応外とした。

ベータサラセミアはヘモグロビンのベータ鎖の遺伝子に変異があり、重い場合は定期的な輸血が必要になる。幹細胞移植が根治療法。

先進医療はCHMPだけでは十分な評価ができず、専門家委員会の活用などにより審査期間が長期化しがちだが、ZyntegloはPRIME指定制度の対象となり開発段階から密接なコミュニケーションを取ったため、審査期間150日と過去のATMP(先進治療用医療製品)の中で最も早く審査結果がまとまったとのこと。

遺伝子治療のようなテイラーメイド医薬品は著しく効果になりがち。Zyntegloは年一回投与する想定の模様であり、米国より価格に辛い欧州でどのような価格が設定され、どの低度普及するか、注目される。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: bluebird bioのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を受けた主なものは、セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)とImnovid(pomalidomide、米名Pomalyst、和名ポマリスト)。前者は、初めて治療を受ける幹細胞移植に適さない多発骨髄腫に、dexamethasone、bortezomib及びdexamethasone、あるいはmelphalan及びprednisoneのいずれかのレジメンと併用することが支持された。

後者は多発骨髄腫でRevlimid歴を持つ患者の二次治療としてbortezomib及びdexamethasoneと併用することが支持された。

再審関連では、CHMPは昨年12月にオメガ3脂肪酸を心筋梗塞の再発予防に用いるのは無効と判定したが、今回、確認した。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


メルクセローノの多発性硬化症薬、申請から10年を経て承認
(2019年3月29日発表)

FDAは、メルクセローノのMavenclad(cladribine)を再発型多発性硬化症の治療薬として承認した。同社が欧米で承認申請したのは09年。欧州では承認取得に8年、米国では10年かかった。再発寛解型と、二次進行型に進展した当初の数年間に見られる再発型(活性期)の患者が適応になる。原則として他剤不応不適に用いることを推奨。後述のノバルティスのMayzentとは異なり、CIS(Clinically isolated syndrome)に用いることは推奨されていない。

枠付警告は腫瘍と胎毒性。有害事象は骨髄抑制など。

活性成分のcladribineはプリン類縁体で米国で93年に有毛細胞性白血病治療薬として承認された。医師主導試験で多発性硬化症に効果が見られ、Ivax社(のちにテバが買収)が経口剤を開発、セラーノが世界開発販売権を取得した。4-5日間連続服用するサイクルを年に2-4サイクル施行する。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、初めての非レントゲン性体軸性脊椎関節炎治療薬を承認
(2019年3月28日発表)

FDAは、UCBのCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)を非レントゲン性体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)の治療に用いる適応拡大を承認した。nr-axSpAはレントゲン画像に異常が見られない脊椎関節炎で、強直性脊椎炎の定義の再評価に伴い、体軸性脊椎関節炎の前兆とも考えられる病状として提唱された病名。概念が新しいこともあり、治療薬として承認されたのはCimziaが初。

CimziaはUCBが2004年に15億ポンドで買収した英国のセルテックが創製したTNFアルファを標的とするPEG化抗体フラグメント。08年にクローン病治療薬として米国で初承認、その後、適応を関節リウマチや活性期強直性脊椎炎、プラク乾癬に広げてきた。

今回の承認は、高CRP値や仙腸骨炎のような客観的な炎症兆候を持つnr-axSpaの成人317名を組入れた第三相試験の成績に基づくもの。Cimzia群は47%が52週時点でASDAS(強直性脊椎炎疾病活動性スコア)の大きな改善を達成し、偽薬群の7%を大きく上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: UCBのプレスリリース

経口テストステロンが承認
(2019年3月27日発表)

Clarus Therapeutics(未上場)は、Jatenzo(testosterone undecanoate)ソフトゲルカプセルがFDAに承認されたと発表した。先天的または後天的な、原発性または低ゴナドトロピン性の性腺機能低下症の成人男性に用いる。経口テストステロン補充療法は初。

2014年に承認申請されたが諮問委員会もFDAも便益がリスクを上回るとは見なさなかった。開始用量を減らすなどして17年に再承認申請したが、昨年1月の諮問委員会では引き続きオフレーベル使用(若返り感を得るため)の懸念や心血管リスク、過剰投与リスクなどから、10対9で反対する委員が上回った。尤も、14年の諮問委員会の17対4で圧倒的多数が反対よりはよかった。

リンク: Clarusのプレスリリース

FDA、ノバルティスの二次進行型多発性硬化症用薬を承認
(2019年3月26日発表)

FDAはノバルティスのS1P1/5(スフィンゴシン1燐酸受容体1/5)調節剤、Mayzent(siponimod)を再発型多発性硬化症用薬として承認した。再発寛解型と活性期二次進行型の多発性硬化症、そしてCIS(Clinically isolated syndrome)という多発性硬化症に進展する可能性の高い疾患に用いることができる。

第三相試験で二次進行型の患者の再発リスクや疾病進行リスクを削減することに成功しており、同社のGilenya(fingolimod)を含む既存のS1P調節剤との差別化点になる。但し、二次進行型の初期に見られる再発を伴う時期(活性期)の患者以外は、臨床試験で治療効果が確認されなかったため、適応外。

報道によると、WAC(卸取得価格)は年88000ドルで、Gilenyaの95500ドルよりは低いが、米国の費用対効果評価機関であるICERが算定した月680-1000ドルのレンジからは大きく逸脱している。

Gilenyaの米国の特許は2027年まで有効だが特許挑戦を受けており2021年頃にGE薬が発売されるリスクが残っている。ノバルティスは、Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)がムコ多糖症VII型治療薬の承認時に取得した優先審査バウチャーを1.3億ドルで購入し、Mayzentが優先審査を受けられるようにした。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース(3/27付)

フォシーガ、日本と前後してEUでも一型糖尿病に承認
(2019年3月25日発表)

アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Forxiga(dapagliflozin、米名Farxiga、和名フォシーガ)を一型糖尿病の治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。直後に日本でも承認されている。米国でも審査中だが、先例からすると承認されない可能性もありそうだ。

SGLT2阻害剤は、腎臓で尿に移行したグルコースを血中に戻す輸送体を阻害して、血糖値を引き下げる。作用機序的には既承認の二型糖尿病だけでなく一型にも効きそうで、実際、Forxigaを創製開発したブリストル・マイヤーズ・スクイブは、一型の開発も進めていた。それがEUの場合で承認が二型から7年も遅れたのは、糖尿病性ケトアシドーシスの懸念が原因と推測される。

EUは、適応をBMIが27kg/m2以上の患者に限定し、インスリンが低量で足りる患者には推奨せず、治療開始時だけでなくその後もインスリンの用量至適化に留意することを求めた。

Lexicon社がサノフィと共同開発しているSGLT1/2阻害剤、Zynquista(sotagliflozin)は、Forxiga同様にCHMPの肯定的評価を獲得したが、米国は審査完了通知を受領した。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを重視するか、一型糖尿病はインスリン以外の治療の選択肢が少ないことを重視すべきか、判断が難しいことを示唆している。Farxigaも米国は審査完了通知に留まる可能性がありそうだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース







今週は以上です。

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2019年3月24日

2019年3月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アミロイド仮説の墓標がまた一つ 
  • GSK、抗PD-1抗体で腫瘍学に再参入へ 
  • FDA、ベネトクラクスの多発骨髄腫試験を部分停止 
  • ノボ、経口GLP-1作用剤を承認申請 
  • Aimmune、1か月遅れでFDAが承認申請を受理 
  • LexiconのSGLT阻害剤はFDAに承認されず 
  • Jazz、眠気治療薬が承認 
  • FDA、産後鬱治療薬を初めて承認 
  • テセントリクの小細胞性肺癌適応が承認 
  • プラルエントの心血管予防効果がEUで承認


【今週の話題】


アミロイド仮説の墓標がまた一つ
(2019年3月21日発表)

バイオジェンとエーザイは、抗アミロイドベータ抗体BIIB037(aducanumab)の第三相早期アルツハイマー病試験二本を打ち切ると発表した。独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定したため。

アミロイド仮説に基づく抗体やセクレターゼ阻害剤はこれまでに数多くが第三相に進み、軒並み討ち死にした。バイオジェンとエーザイはBACE阻害剤の第三相も実施中で、新たに、アミロイドベータの凝集過程における中間体を標的とする抗体の第三相も開始した。失敗から学ぶことの難しさを示している。

アルツハイマー病の新薬開発は他のメカニズムのものも含めて成功率が低く、効果に関するハードルを引き下げざるを得ない状態にある。FDAはかねてより、偽薬比で統計的に有意な差があれば効果の多寡は問わない方針を示している。過去の試験で効果が小さく有意差が出なかったコンパウンドでも、大規模な検出力の高い試験で再挑戦すれば、上手くいくかもしれないのだ。

現実的にはフェールしたコンパウンドの再試験は被験者組入れが進まない可能性があるので、別のちょっと異なるコンパウンドで挑戦することになる。検出力を高めても成功するとは限らないのでハイリスクだが、成功すればハイリターンなので、投資価値があるかもしれない。問題は第三相試験の資金や支援リソースの負担だ。ビッグファーマの競争力が最大限に生きることになる。

米国の新興バイオ企業は手元キャッシュが1年分しかないことが多く、経営破綻につながりかねないため開発失敗を認めたがらない傾向がある。アルツハイマー病に関しては、バイオジェンやエーザイのような大企業でも、冷静な経営判断のもとに『違う結果を期待して同じことを繰り返す愚行』を繰り返す可能性があるので、注意が必要だ。高収益会社が多少損するだけなら容喙すべきことではないが、フェールした開発品の研究開発費は成功した開発品の価格に上乗せされるのだから、国民医療費を抑制するためには製薬会社の無駄使いを監視する必要がある。

さて、今回の件は、投資家に対する情報開示の点でも問題含みだ。バイオジェンの2018年12月期決算発表テレカンファレンスで、複数のアナリストが中間解析の有無や時期について質問したが、会社側はノーコメントを貫いた。フェールしたら株価が暴落するのは十分に予見可能であり、リスク情報が十分に提供されなかった憾みがある。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)
リンク: 同(BAN2401の第三相開始について、3月22日付和文)


【新薬開発】


GSK、抗PD-1抗体で腫瘍学に再参入へ
(2019年3月19日発表)

グラクソ・スミスクラインは、抗PD-1抗体dostarlimabの第1/2相子宮内膜種試験の結果をSGO(Society for Gynecologic Oncology)年次婦人科腫瘍総会で発表した。年末に承認申請する考え。

このGARNET試験は、再発性・進行性子宮内膜種で白金薬による治療歴を持つ患者を組入れて、免疫関連RECIST基準に基づくORR(客観的反応率)を検討した。抗PD-1抗体は結腸直腸癌ではMSI-H(マイクロサテライト不安定性が高い)タイプに良績を示した。子宮内膜種はMSI-Hが25%程度を占め、この試験でも3割強が該当した。結果は、MSI-H41例に対するORRが49%、MSS(マイクロサテライト安定)79例では20%、全ユニバースでは30%と、MSI-Hではない腫瘍にもある程度の効果が見られた。

同社はRECIST1.1に基づく解析を行って承認申請する予定。

dostarlimabは1月にTesaro社を負債込み51億ドルで買収して入手したコンパウンドの一つ。AnaptysBioとの共同研究の成果で、他にTIM-3やLAG-3など、抗PD-1抗体とシナジーが期待される抗体も開発している。GSKは2014年にノバルティスとアセット・スワップを行って腫瘍学領域から撤収したが、トップ交代を経て再参入した。

リンク: GSKのプレスリリース

FDA、ベネトクラクスの多発骨髄腫試験を部分停止
(2019年3月19日発表)

FDAは、アッヴィのVenclexta(venetoclax、和名ベネトクラクス)の第三相多発骨髄腫試験について3月6日にパーシャル・クリニカル・ホールドを発したと発表した。再発難治性多発骨髄腫の2-4次治療としてVelcade(bortezomib)およびdexamethasoneと併用する効果を検討した試験で、中間解析で主評価項目のPFS(無進行生存期間)が成功した(メジアン22.4ヶ月、Velcade・dexamethasone・偽薬の群は11.5ヶ月、ハザードレシオは0.63、統計的に有意)。

しかし、シーケンシャルに行われたもう一つの主評価項目である全生存の解析は、ハザードレシオが2.0、95%信頼区間は1.04-3.94と有意に悪かった。メジアン17.9ヶ月の追跡で死亡率が21.1%対11.3%と大きく上回った。敗血症、肺炎、心停止による死亡が対照群より多かったようだ。

Venclextaはbcl-2阻害剤で慢性リンパ性白血病や急性骨髄性白血病に承認されている。FDAが3月6日付で発したクリニカル・ホールドは上記試験の新規組入れ・投与を禁止するもので、良い効果が出ている既存の被験者や、承認用途は対象外。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認申請】


ノボ、経口GLP-1作用剤を承認申請
(2019年3月20日発表)

ノボ ノルディスクは、GLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)の経口剤をFDAに承認申請した。購入したバウチャーを使って優先審査を受ける。Ozempicの心血管アウトカム試験の成功を受けて、Ozempicと経口剤の心血管保護効能についても同時に追加申請したが、こちらは標準審査になる。欧州でも上期(1-6月)中に申請する考え。

GLP-1作用剤は胃腸ホルモンGLP-1と同じメカニズムで二型糖尿病の血糖値を抑制し、体重を減らす。競合品は多いが経口剤は初めてなので、肥満症治療用途も含めて、期待が大きい。

リンク: ノボのプレスリリース

Aimmune、1か月遅れでFDAが承認申請を受理
(2019年3月18日発表)

Aimmune Therapeutics(Nasdaq:AIMT)は、FDAがAR101の承認申請を受理したと発表した。審査完了は来年1月後半ごろを見込んでいる。

AR101は4~17歳のピーナツアレルギーを対象とする減感作療法。偶発的暴露時に深刻なアナフィラキシーを起こすリスクを削減する。FDAからファースト・トラック指定とブレイクスルー・セラピー指定を受けている。

昨年12月21日に生物学的製剤許可申請を行ったが、同日に連邦政府が予算切れ・部分閉鎖になってしまった。アレルギー成分抽出物はユーザー課金制度の対象ではないため、正式受理前の予備審査が進まず、ほぼ1ヶ月遅れとなった。

リンク: Aimmuneのプレスリリース


【承認審査・委員会】


LexiconのSGLT阻害剤はFDAに承認されず
(2019年3月22日発表)

サノフィは、Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)から日本以外の地域での独占開発販売権を取得して米国で一型糖尿病の補助治療薬として承認申請したSGLT-1/2阻害剤、Zynquista(sotagliflozin)について、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。内容は不明。

一型糖尿病の治療はインスリンをベースに必要に応じて他の薬を追加するが、効果が高まりすぎると低血糖のリスクが生じインスリンを減らしすぎると糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高まるので匙加減が難しい。sotagliflozinの臨床試験ではアシドーシス関連の有害事象が偽薬比8倍に増加した。このため、1月に開催された諮問委員会では賛否が真っ二つに分かれた。

一方で、EUの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、肥満/オーバーウェートで高量のインスリンを用いている患者に限定して、肯定的意見を出した。当方が危惧していたより多くの支持を集めることができた印象だ

リンク: サノフィのプレスリリース(pdfファイル)


【承認】


Jazz、眠気治療薬が承認
(2019年3月20日発表)

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、FDAがSunosi(solriamfetol)を承認したと発表した。ナルコレプシーや閉塞性睡眠障害(OSA)による成人の過度の眠気を改善する。閉塞性睡眠障害の臨床試験では37.5mg、75mg、150mgの三用量とも効果が見られたが、ナルコレプシーは150mgだけで、同疾患に37.5mgを使うことは承認されなかった。

Sunosiは選択的ドパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤。米国のAerial BioPharmaから、日韓などアジア12か国以外の開発生産販売権を取得した。麻薬取締局がスケジュール(規制カテゴリー分け)を決定した後で発売する予定。

リンク: Jazzのプレスリリース

FDA、産後鬱治療薬を初めて承認
(2019年3月19日発表)

FDAは、Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)のZulresso(brexanolone)を産後鬱の成人女性の初の治療薬として承認した。60時間連続点滴静注する。過剰鎮静や突発的な意識喪失のリスクが枠付き警告された。REMS(リスク評価緩和戦略)に則り、認証を受けた医療施設が連続酸素飽和度モニタリングなど患者の様子をよく監視しながら、治療する。乳児を抱きかかえている時に気を失う可能性もあるため、特に注意する必要がある。

麻薬取締局がスケジュールを決定した後で発売する予定。報道によると、WAC(卸取得価格)は患者一人当たり平均で34000ドル程度とのこと。

brexanoloneはプロゲステロンの代謝物であるallopregnanolone系の新薬で、GABA-A受容体の選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータとされる。60時間点滴、REMS、34000ドルとハードルが高いが、他の選択肢が十分ではないこと、作用のオンセットが24時間と早く治療後1か月経っても効果が残存することなどの長所があることから、中度重度の患者なら許容範囲だろう。

同社は経口剤のSAGE-217も産後鬱及び難治性鬱病の治療薬として開発していて、日本でも昨年、塩野義製薬が開発商業化権を取得した。Sageがbrexanoloneの諮問委員会に提出した資料によれば、鎮静失神は作用機序に伴う副作用とみなされているので、SAGE-217にも同様な懸念がありそうだ。

失神した時のリスクは病院のベッドの上より戸外のほうが大きく、深刻だ。brexanoloneが許容されてもSAGE-217を難治性鬱病に用いる時は許容されない可能性があり、普及の妨げになりそうだ。

もう一つ、今回、brexanoloneで驚かされたのは麻薬取締規制の対象になりそうなこと。SAGE-217も薬物依存性があるのかもしれない。スケジュール(規制分類)次第なので、麻薬取締役局がbrexanoloneについてどう判断するか、注目したい。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: SAGEのプレスリリース

テセントリクの小細胞性肺癌適応が承認
(2019年3月19日発表)

ロシュは、FDAが抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を進展型小細胞性肺癌の一次治療に用いることを承認したと発表した。抗PD-1/PD-L1抗体で初。carboplatin及びetoposideと併用する。

第三相試験ではメジアン生存期間が12.3ヶ月とcarboplatin・etoposide併用群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、統計的に有意だった。

リンク: ロシュのプレスリリース

プラルエントの心血管予防効果がEUで承認
(2019年3月15日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、抗PCSK9抗体Praluent(alirocumab、和名プラルエント)の適応拡大がEUで承認されたと発表した。確立したアテローム硬化性心血管疾患の成人のLDL-C水準を削減することにより心血管リスクを削減するというもの。

スタチンの最大耐容量を服用している患者に追加投与したODYSSEY OUTCOMES試験では、MACE(主要有害心血管イベント)が偽薬群より15%少なかった。

リンク: 両社のプレスリリース








今週は以上です。

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2019年3月17日

2019年3月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDAがベンタナSP142アッセイを乳癌のコンパニオン診断薬として承認 
  • サイラムザ、タルセバ併用一次治療試験が成功 
  • JNJ、ダラザレックスのRd併用レジメンを承認申請 
  • Rhoキナーゼ阻害剤の合剤が承認 
  • ヘムライブラ、EUでも無インヒビターに承認 
  • リツキサンによるPV治療がEUで承認 


【今週の話題】


FDAがベンタナSP142アッセイを乳癌のコンパニオン診断薬として承認
(2019年3月11日発表)

先週号で書いたように、FDAはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をPD-L1陽性トリプル・ネガティブ乳癌の一次治療に用いる適応拡大を承認したが、ロシュの週明けのプレスリリースによると、コンパニオン診断薬としてロシュ・グループのVENTANA社のPD-L1アッセイ(SP142)も承認した。

SP142はTecentriqの他の適応でも承認されているが、注目されるのは、nab-paclitaxelとTecentriqの併用療法によって便益を受ける患者を特定する上で、腫瘍に浸潤している免疫細胞のPD-L1発現状況を評価することは不可欠というプレスリリースの記述だ。Tecentriqは類薬の中で初めて乳癌に対する便益を立証したが、これが成功の秘訣かもしれない。

抗PD-1/PD-L1抗体の数多くの適応のうち一部はPD-L1陽性/強陽性に限定される。検査アッセイは複数あり、製品によって判定結果が異なる場合もある。評価対象も、BMS/小野薬品のOpdivoのように腫瘍細胞だけを検査する場合と、TecentriqやアストラゼネカのImfinziのように腫瘍浸潤免疫細胞も検査する場合、そして、MSDのKeytrudaのように適応によって異なる場合があり、複雑だ。

尤も、どのアッセイで何を検査するかは医学上の問題ではなく企業の嗜好や戦略の問題なのではないかと私は想像している。非小細胞性肺癌を除いて、一つの抗PD-1/PD-L1抗体が効果を示せば、他の製品も、PD-L1検査アッセイを問わず、治験が成功することが多いからだ。

例外がTecentriqのトリプル・ネガティブ乳癌で、本当は他の製品も効くのか、それとも通常のpaclitaxelではなく免疫抑制が小さいアルブミン懸濁型paclitaxelを併用したことが秘訣なのか、不思議に思っていたが、もう一つ、腫瘍浸潤免疫細胞も検査したことが寄与した可能性も浮上してきた。

リンク: ロシュのプレスリリース


【新薬開発】


サイラムザ、タルセバ併用一次治療試験が成功
(2019年3月12日発表)

イーライリリーは、抗VEGFR-2抗体Cyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)の転移性非小細胞性肺癌一次治療試験が成功したと発表した。EGFR活性化変異を持つ患者にTarceva(erlotinib、和名タルセバ)と併用するレジメンのPFS(無進行生存期間)をTarceva・偽薬併用群と比較したところ、有意に上回った。データは今後の学会で発表する考え。治療効果はどの程度なのか、第2世代EGFR阻害剤のデータと見比べてどうなのか、などを知りたいところだ。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、ダラザレックスのRd併用レジメンを承認申請
(2019年3月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)をRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと併用で自家幹細胞移植不適の新患多発骨髄腫に用いる適応拡大をFDAに申請した。FDAのReal-Time Oncology Reviewの対象とのことなので、短期間で承認される可能性がありそうだ。

エビデンスとなるMAIA試験で、代表的な一次治療レジメンであるRevlimid・dexamethasone併用レジメンとPFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオは0.56、p値は0.0001未満だった。メジアンは未達、Rdレジメンは31.9ヶ月。完全反応率は48%対25%で大きく上回った。G3/4の治療時発現有害事象で多かったのは好中球減少症(50%で発生)、リンパ球減少症(15%)、肺炎(14%)、貧血(12%)など。

Darzalexはジェンマブから世界独占開発販売権を取得した抗CD38完全ヒト化抗体。多発骨髄腫用薬として四次治療にモノセラピーで、三次治療や二次治療に三剤併用で、一次治療にVelcadeなどと四剤併用で、FDAに承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


Rhoキナーゼ阻害剤の合剤が承認
(2019年3月12日発表)

Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)は、FDAがRocklatanを承認したと発表した。開放隅角緑内障や高眼圧症の眼圧上昇を治療する。同社が開発して17年12月にFDA承認を得たRhoキナーゼ阻害剤、netarsudilと、プロスタグランジンのlatanoprostの合剤で、前者が線維柱帯による房水流出、後者がブドウ膜強膜路による流出を改善する。一日一回点眼。

リンク: Aerie社のプレスリリース

ヘムライブラ、EUでも無インヒビターに承認
(2019年3月14日発表)

ロシュは、Hemlibra(emicizumab、和名ヘムライブラ)を重度A型血友病でインヒビターを持たない患者のルーチン出血予防に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。同時に、これまでの週一回に加えて、二週毎あるいは四週毎の投与も承認された。

血液凝固第IX因子と第X因子に結合する二重特異性抗体で中外製薬が創製、ロシュに海外の権利を導出したもの。インヒビターを持ち第VIII因子を使えない患者の代替的治療法として初承認されたが、日米に続いて今回、欧州でも、無インヒビターに用いることが可能になった。皮注で遺伝子組換え型第VIII因子より投与頻度が少ないので、頻繁に出血する患者の予防用途に簡便。

リンク: ロシュのプレスリリース

リツキサンによるPV治療がEUで承認
(2019年3月15日発表)

ロシュは、MabThera(rituximab、米名Rituxan、和名リツキサン)を中重度尋常性天疱瘡(PV)の治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。米国でも昨年6月に承認されている。PVは罹患率が10万人に3人の希少疾患。

リンク: ロシュのプレスリリース






今週は以上です。

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2019年3月10日

2019年3月10日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • AMAG、早産予防薬の市販後薬効確認試験がフェール 
  • Alnylam社、急性肝ポルフィリン症の第三相試験成功 
  • バーテックス、膿胞性線維症のトリプルセラピー試験が成功 
  • アラガン、会社期待の新薬の第三相がフェール 
  • デュピクセントを慢性副鼻腔炎に適応拡大申請 
  • ロシュ、bcl-2阻害剤と抗CD20抗体の併用を適応拡大申請 
  • ロシュ、ゾフルーザを高リスク患者に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、9-16歳限定でサノフィのデング熱ワクチンを支持 
  • テセントリクが欧米で適応拡大 
  • ケタミン系の抗鬱剤が承認 


【今週の話題】


AMAG、早産予防薬の市販後薬効確認試験がフェール
(2019年3月8日発表)

AMAGファーマシューティカルズ(Nasdaq:AMAG)は、早産予防薬Makena(hydroxyprogesterone caproate)の市販後薬効確認試験がフェールしたと発表した。加速承認時のフェーズIVコミットメントとして行われた試験なので、最悪、承認取消のリスクがある。

この活性成分は早産予防薬として半世紀以上の使用歴があるが、流産や死産の懸念が浮上したことからFDAが改めて承認申請するよう要請、2011年にKVファーマシューティカルズが加速承認を取得した。調剤薬局調合品(一回分10~20ドル)の販売は禁止される見込みだったが、KVが一回分1500ドルで発売したため政治問題化。690ドルに値下げしたものの医師がそっぽを向き、結局、KVは破産法の適用を申請する結末になり、後にAMAGに買収された。その後は徐々に浸透、米国の普及率は5割程度に上昇した模様だ。

今回の試験は、早産歴を持つ1710人の妊婦を組入れて予防効果を偽薬と比較したが、35週未満の早産率は約11%、新生児死亡・有病率は約5%で偽薬と大差なかった。承認前の試験では35週未満早産率は20%で偽薬群の30%より少なかった。

なぜ異なる結果が出たのか?今回の試験は被験者の3/4以上が米国外の施設で、米国だけだった前回と異なるので、標準療法や医療風土の違いが影響したのかもしれない。また、FDAが加速承認に留めたことを考えれば、承認前試験のデザインや執行が不適切でノイズを拾ってしまったのかもしれない。

リンク: AMAG社のプレスリリース

【新薬開発】


Alnylam社、急性肝ポルフィリン症の第三相試験成功
(2019年3月6日発表)

RNA介入薬のスペシャリスト、Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-AS1(givosiran)の第三相急性肝ポルフィリン症(AHP)試験が成功したと発表した。治療効果は未公表、忍容性は良好とは言えなさそうなので、4月13日にEASL(欧州肝臓学会)でフルデータが発表されるのを待つ必要がありそうだ。

AHPはヘム合成回路に係る複数の酵素の一つに機能喪失・低下変異があり、ポルフィリンが蓄積して臓器や神経に障害を与える。患者数は米国で2万人以下の希少疾患。

ALN-AS1はALAS1(アミノレブリン酸合成酵素1)の発現を沈黙させるsiRNA薬で、ポルフィリンの前駆体でGABAと競合して神経毒性を招くALA(アミノレブリン酸)や、PBG(ポルホビリノゲン)の合成を抑制する。欧米で希少疾患用薬指定と画期的治療薬指定を受けている。

今回の試験はAHP94人(うち89人は遺伝学的に確認された急性間欠性ポルフィリン症)を偽薬群と2.5mg/kg群に無作為化割付して月一回皮注を半年間続けた。主評価項目はポルフィリン性アタック(AHPによる入院や緊急医療、既存の治療法であるヘミンの投与)の年率換算値。数値は公表されていないが、高度に有意な群間差があり、主評価項目の各構成要素を見ても、サブグループ分析でも、好ましい方向が示されている由。

副次的評価項目は、尿検査値などに基づく5項目が成功したが、疼痛や疲労、悪心など症状に係る4項目は統計学的にフェールしたとのこと。上位解析がフェールしたため下位解析が軒並みフェールになっただけかもしれないが、副作用の影響かもしれない。

深刻な有害事象の発生率は20.8%(偽薬群は8.7%)。主なものは悪心、注射箇所反応、慢性腎疾患(10.4%、偽薬群はゼロ)、疲労など。肝機能検査値が正常値上限を3倍超上回る症例は14.6%(偽薬群は2.2%)、但し何れもHyの法則には該当しない由。

(Hyの法則は薬物誘導性肝毒性を推測評価する方法で、肝機能検査値が正常値上限を3倍超上回り、総ビリルビンの倍増を伴い、他の原因が見つからない症例は重度肝疾患のリスクありと見做す。FDAは、慢性疾患用薬についてはHyの法則発生頻度の95%上限が0.1%未満であることを求めている --- Guidance for Industry, Drug-Induced Liver Injury: Premarketing Clinical Evaluation、2009年)

増悪治療のリスクが減る一方で症状が悪化する現象をどう整理したらよいのか、患者にとってどちらがより重要なのか。学会発表やエキスパート・コメントが待望される。

リンク: Alnylam社のプレスリリース

バーテックス、膿胞性線維症のトリプルセラピー試験が成功
(2019年3月6日発表)

バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)は、VX-445と既承認二剤を併用した第三相膿胞性線維症試験が成功したと発表した。今回の解析は第4週時点だが、第24週時点のデータがまとまるのを待って、同時進行的に開発しているVX-659の第三相データと比較検討し、どちらかを今年第3四半期に米国で、第4四半期には欧州でも、承認申請する考え。

同社はキナーゼ標的薬の研究開発で名をはせた会社で、アベンティスやノバルティス、グラクソ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど多くのビッグファーマと創薬提携や導出契約を結んだ実績がある。嚢胞性線維症財団(CFF)との共同研究の成果が2012年に欧米で嚢胞性線維症治療薬Kalydeco(ivacaftor)で、機能喪失・低下変異したCFTRのチャネル開口時間を長期化するポテンシエイターとされる。

膿胞性線維症の原因とされる遺伝子変異は様々なタイプがあり、Kalydecoはその一部にしか有効でない。効果を増強したり他のタイプを治療するために開発されたのがivacaftorとtezacaftorで、CFTRが細胞表面に移行するのを助けるコレクターとされる。前者は15年にivacaftor配合剤のOrkambiとして、後者は18年にivacaftor配合剤Symdeko/Symkeviとして、欧米で承認された。

今回のVX-445とVX-659はコレクターとされる。どちらも第三相は、一本はivacaftorとtezacaftorを併用しているF508欠損ホモ接合型を組入れて、試験薬追加群と偽薬追加群を比較。もう一本は片方の遺伝子がF508欠損、もう一つは最小機能変異の患者を組入れて、三剤併用群と偽薬のみの群を比較した。正確を期すと、試験薬群は朝は三剤合剤、夕方は一日二回服用が必要なivacaftorだけを服用した。主評価項目は%1秒量(ppFEV1)の4週間の変化(絶対値の差分)。

結果は、ホモ接合型試験では10パーセンテージポイント、ヘテロ接合型試験では13.8パーセンテージポイント、対照群を上回った。忍容性は過去の試験と大差ない模様。

この治療効果はVX-659と大差なく、現時点ではどちらを選ぶか悩ましいところだろう。

VX-445/VX-659が承認されF508欠損・最小機能変異の全てをカバーできるようになれば、治療対象が現在の世界の嚢胞性線維症7万人余のうち50%から、90%に拡大する。Kalydecoが承認された頃は、対象患者はたったこれだけなのか、適応拡大もこんなに少しずつしか進まないのかと歯痒かったが、とうとうここまで来た。

リンク: バーテックスのプレスリリース

アラガン、会社期待の新薬の第三相がフェール
(2019年3月6日発表)

アラガン(NYSE:AGN)は、GLYX-13(rapastinel)の第三相鬱病試験がフェールしたと発表した。抗鬱剤に部分的にしか反応しなかった患者に月一回静注を追加した急性期治療試験は、三本とも、主評価項目も副次的評価項目も偽薬群と大差なかった。忍容性は良好で精神異常副作用の兆候はなかった由。再発予防試験は中間解析で無益認定された。

このほかに第三相モノセラピー試験や自殺リスクの高い患者のPOC試験も進行中だが、今回の結果を受けて再検討し、年内に今後の方針を決定する考え。

rapastinelは中程度選択的ポジティブNMDA受容体調節剤。NMDA受容体が標的である点では下記のketamineと同じだが作用の仕方は異なるようだ。15年にNaurex社を5.6億ドルで買収して入手した。

アイルランドなど税負担の軽い国に税法上の本籍を置く会社は、一時期、節税を狙う米国企業の買収ターゲットとなったが、当時の政権が対抗措置を仄めかしたため鎮静化。シャイアーは結局、節税狙いではない日本の武田薬品が買収したが、アラガンは未だ誰も買収していない。今回のセットバックを機に、経営陣が身売りに動くのではないかという観測が米国では出ている模様だ。

リンク: アラガンのプレスリリース

【承認申請】


デュピクセントを慢性副鼻腔炎に適応拡大申請
(2019年3月8日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)の適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。鼻ポリープを伴う管理不良重度慢性副鼻腔炎の維持療法として追加投与するもの。第三相試験では、mometasone furoate点鼻スプレーを用いている患者に300mgを二週毎に投与したところ、鼻詰まりなどが改善した。

DupixentはIL-4受容体のアルファ・サブユニットに結合する抗体で、中重度のアトピー性皮膚炎や喘息症に承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース


ロシュ、bcl-2阻害剤と抗CD20抗体の併用を適応拡大申請
(2019年3月7日発表)

ロシュは、米国でVenclexta(venetoclax)の適応拡大申請した。CLL(慢性リンパ性白血病)でほかの病気も罹患している患者の初度治療として同じくロシュの抗CD20抗体、Gazyva(obinutuzumab)と併用するもの。データは今後の学会で発表される予定。リアルタイム・オンコロジー・リビューの対象である由なので、短期間で承認される可能性がありそうだ。

Venclextaは、CLLで過剰発現しているアポトーシス抵抗性に係る蛋白、bcl-2を阻害する小分子薬。米国子会社のジェネンテックが07年にアッビイ(当時はアボット)と結んだ複数のコンパウンドの共同開発提携の成果で、米国市場では両社が共同開発販売、海外市場と生産はアッヴィが単独で行う。16年に再発難治CLL用薬として欧米で承認、日本でも昨年11月に承認申請された。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュ、ゾフルーザを高リスク患者に適応拡大申請
(2019年3月6日発表)

ロシュは、塩野義製薬からライセンスしたインフルエンザ治療薬、Xofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)を合併症高リスクのインフルエンザ患者に用いる適応拡大をFDAに申請した。具体的には、65歳以上の高齢者や、喘息症や慢性肺疾患、病的肥満、心臓疾患罹患者が対象となる。

インフルエンザ治療薬に対する考え方は国により異なり、日仏は比較的前向きだが英国などは後ろ向きだ。治療しなくても5日程度で自然治癒することが多いので、普段健康な人に投薬するのは医療費予算や耐性ウイルスリスクの面で適切とは言えない、という考え方による。2000年代に新型インフルエンザの流行に備えたキャンペーンが行われたため諸国は前向きな方向にシフトしたが、抵抗勢力は依然健在だ。

FDAも高リスク患者と一般患者を別扱いしており、昨年10月の承認時の適応は、12歳以上で他に病気のないインフルエンザ感染症だった。今回申請された適応のほうが治療するニーズが高いので、重要だ。

ゾフルーザといえば、小児試験で耐性ウイルス発生率が成人試験より高かった。市販後のサンプル調査でも、タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害剤より耐性ウイルス検出率が高く、他の薬を使っている患者や未治療者からも耐性ウイルスが見つかった模様だ。

タミフルも発売の数年後から耐性ウイルス発生率が年々上昇していったが、2009年の新型インフルエンザ流行を機に沈静化した。ゾフルーザの発生率は成人試験やタミフルの発売当初と比べても高く、今後を注視すべきだ。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、9-16歳限定でサノフィのデング熱ワクチンを支持
(2019年3月7日発表)

FDAのワクチン及び生物学的製品諮問委員会はデング熱の風土病地域に住む9-45歳の感染経験者向けにサノフィが承認申請したデング熱ワクチン、Dengvaxiaを検討、効果の立証が十分と判定した委員は6人、不十分7人、棄権が1人で、安全性の立証は7対7の同数で、どちらも判定が分かれた。一方、9-16歳に限定すれば効果は13対1で支持、安全性も10対4で支持が上回った。審査期限は5月1日。

Dengvaxiaはフィリピンやメキシコで承認されフィリピンが大々的な接種キャンペーンを行った後で、感染未経験者が接種するといざ感染した時に重篤化するリスクがあることが判明。10名が死亡したとも報じられ、フィリピンでは大きな政治問題になった。ワクチンでなくても、一回目の感染で強力に感作され二回目が重篤になる、キプロスの蜂現象がデングでも見られる模様だ。このため、サノフィやWHOは接種対象をラボ検査で感染歴が確認された患者に限定した。

サノフィは当初、風土病地域での承認取得・普及を優先する方針だったが、進捗が遅かったため方針転換し、EUや米国で承認を取って風土病地域で『お墨付き』として使うことにした。EUでは昨年12月に9-45歳向けに承認された。それだけに、FDA諮問委員会が16歳以下に限定したのは意外だった。

デング熱ワクチンは武田薬品も第三相試験を実施中。事前検査で感染歴が確認された人だけを対象としており、Dengvaxiaと同じだ。ワクチン効果が著しく上回らない限り、Dengvaxiaと同じ扱いを受けるのではないか。

【承認】


テセントリクが欧米で適応拡大
(2019年3月8日発表)

ロシュと米国子会社のジェネンテックは、夫々、EUとFDAが抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)の適応拡大を承認したと発表した。

EUで承認されたのは、非扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療としてcarboplatin、paclitaxel、bevacizumabと四剤併用する用法。EGFR阻害剤やALK阻害剤などが適応になる患者はこれらによる治療が優先。日本と米国では昨年12月に承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース

米国は、切除不能局所進行性・転移性で、her-やエストロゲン受容体、プロゲスチン受容体は陰性だがPD-L1は陽性の乳癌の一次治療にnab-paclitaxelと併用することが加速承認された。抗PD-1/PD-L1抗体が乳癌に承認されたのは初。

第三相試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とnab-paclitaxelだけの群の4.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.60だった。トリプル・ネガティブ乳癌は予後が比較的悪く治療の選択肢も限られるので重要なツールになりうる。加速審査に留まったのは、全生存期間の解析が未成熟で有意差が出ていないためだろう。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

ケタミン系の抗鬱剤が承認
(2019年3月5日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)を難治性鬱病の治療薬として承認した。半世紀前に麻酔薬として承認されたNMDA受容体拮抗剤、ketamineのS異性体で、2種類の抗鬱剤の何れにも反応しなかった患者に、3番目の抗鬱剤による治療をスタートするとともに、Spravatoをインダクション期(4週間)は週二回、その後のメンテナンス期は毎週または二週毎に、点鼻投与する。第三相試験は急性期治療試験三本のうち一本が成功。応答した患者を対象とする離脱試験は低用量群が成功した。

ketamineは麻薬取締法の対象でクラスIII指定されており、Spravatoも処方流通制限が導入される。肝毒性が見られないものの解離感覚や血圧上昇、めまい、鎮静などを伴うため、在宅投与はダメ、医療施設で投与し2時間に亘り副作用を監視する。催奇性があり、授乳も不可。

点鼻ディバイスは28mgを含有、治療開始時は一度に2本使い、必要なら4本(84mg)に増量可。WAC(卸売り会社取得価格)は一本295ドルとのことなので、インダクション・フェーズは4週間で合計2360~8850ドルとなる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース







今週は以上です。

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2019年3月3日

2019年3月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 甲状腺眼症用薬の第三相が成功 
  • リムパーザの第三相膵癌試験成功 
  • ブリリンタの二型糖尿病冠動脈疾患試験が成功 
  • アステラス、ゾスパタを欧州でも承認申請 
  • バイエル、前立腺癌用薬を承認申請 
  • selinexorの承認は第三相の結果が出てからか 
  • CHMPが高カイロミクロン血症治療薬などの承認を支持 
  • 皮注用ハーセプチンが米国でも承認 
  • ロンサーフ、米国でも胃癌に適応拡大 
  • AACR:心臓疾患を持つ患者にザイティガを使うリスク 


【新薬開発】


甲状腺眼症用薬の第三相が成功
(2019年2月28日発表)

希少疾患用薬と抗リウマチ薬に特化した新興医薬品開発企業のHorizon Pharma(Nasdaq:HZNP)は、HZN-001(teprotumumab)の第三相甲状腺眼症(TED)試験が成功したと発表した。本年央に米国で承認申請する考え。

TEDは甲状腺に関係する抗体が目の周辺の脂肪や目を動かす筋肉で炎症を起こす自己免疫疾患で、斜視や複視、眼球突出などを合併する。米国の推定患者数は年15000~20000人の希少疾患だ。teprotumumabは、TEDの活動期に軌道線維芽細胞で過剰発現するIGF-1R(インスリン様成長因子I受容体)を標的とする完全ヒト化抗体で、元々はロシュがジェンマブと共同創製したもの。

第三相では、中重度活動期TED83人を20mg/kg(初回は10mg/kg)を3週毎に点滴静注する群と偽薬群に無作為化割付して21週間治療し、眼球突出が2mm以上減少し、且つ、もう片方の目が悪化しなかった患者の比率を比較したところ、各82.9%と9.5%となり、有意な差があった(p<0.001)。ドロップアウト率は5%未満で群間の偏りはなかった由。主評価項目が若干異なるものの、全体的に後期第二相試験と同じような結果になっている。

抗IGF-1R抗体と言えば、ファイザーを中心に多くのビッグファーマが抗癌剤としてPOC試験や第三相試験を行ったが、上手くいかなかった。ロシュもR1507という開発コードでユーイング肉腫のPOC試験を行ったが09年に開発中止。アウトライセンス先をHorizonが買収したという経緯。十年を経て、思わぬ適応で蘇ったことになる。

リンク: Horizon社のプレスリリース

リムパーザの第三相膵癌試験成功
(2019年2月26日発表)

アストラゼネカと開発販売パートナーのMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)の第三相膵癌維持療法試験、POLOが成功したと発表した。生殖細胞系BRCA悪性変異を持つ転移性膵腺癌で白金薬レジメンによる一次治療に反応または安定化した患者154人を300mg錠または偽薬を一日一回服用する群に3:2割付してPFS(無進行生存期間)を比較したところ、統計的に有意で臨床的にも意味のある改善が見られた由。データは学会発表の予定。適応拡大申請に向けて諸国の承認審査機関と相談する考え。

Lynparzaは、DNAの修復に係る酵素であるPARPを阻害する。ある種の卵巣癌やBRCA悪性変異を持つher2陰性転移性乳癌に欧米で承認され、日本でも昨年、癌化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性・her2陰性の手術不能または再発乳癌に承認された。

他のPARP阻害剤よりも適応拡大試験が先行しており、今回の膵癌のほかに、転移性去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxel歴を持つ患者を組入れた第二相abiraterone・prednisone併用試験でabiraterone・prednisoneのみの群よりPFSが有意に伸びた。

尚、アストラゼネカとMSDは17年にLynparza及びselumetinib(MEK阻害剤)の共同開発販売で提携した。

リンク: 両社のプレスリリース

ブリリンタの二型糖尿病冠動脈疾患試験が成功
(2019年2月25日発表)

アストラゼネカは、P2Y12阻害剤Brilinta(ticagrelor、和名ブリリンタ)のTHEMIS試験成功を発表した。二型糖尿病で冠動脈疾患を持ち心筋梗塞や脳卒中歴はまだない患者19000人超を日米欧の医療施設で組入れて、アスピリンをベースにBrilintaを併用する初発予防効果を偽薬併用と比較したもの。用量は当初は90mg(一日二回)だったが、PEGASUS試験で再発予防効果が60mg(同)と大差なく忍容性は見劣りしたことを受けて、途中で60mg(同)に変更された。

二型糖尿病における有用性を確認した点で意義があるが、臨床的な意義は良く分からない。この試験の冠動脈疾患の定義は、PCI、CABG、または50%以上の冠動脈狭窄となっているが、PCIを受けた患者にP2Y12阻害剤を用いるのはごく一般的であり、効果があって当然のように思われるからだ。偽薬ではなくPlavix(clopidogrel)のような他のP2Y12阻害剤と比較しても良かったのではないか。また、デザインペーパーにも明記されていないが、投与期間は1年とか2年とか上限が設定されていたのだろうか?

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


アステラス、ゾスパタを欧州でも承認申請
(2019年2月28日発表)

アステラス製薬は、Xospata(gilteritinib、和名ゾスパタ)をEUに難治性FLT3遺伝子変異陽性AML(急性骨髄性白血病)用薬として承認申請し受理されたと発表した。迅速審査指定されている。

18年に日米で承認されたFLT3/AXL阻害剤で、第三相AMIRAL試験の中間解析では、完全寛解率(血液学的回復が部分的なCRhも含む)が21%、メジアン持続期間は4.6ヶ月だった。AMLのうちFLT3遺伝子の遺伝子内縦列重複変異やチロシンキナーゼドメイン変異を持つのは25~30%とされる。

リンク: アステラスのプレスリリース(和文)

バイエル、前立腺癌用薬を承認申請
(2019年2月27日発表)

バイエルは、BAY-1841788(darolutamide)の米国ローリング承認申請を完了した旨、発表した。オライオン社からライセンスした非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニストで、第三相試験では、非転移性去勢抵抗性前立腺癌でアンドロゲン枯渇療法に反応しているが高リスクの患者を組入れて600mgを一日二回追加投与する群を偽薬追加群と比較したところ、無転移生存期間のメジアン値が40.4ヶ月対18.4ヶ月、ハザードレシオは0.41と有意な差があった。

転移ホルモン感受性前立腺癌の第三相も進行中。先行競合薬が多いので、適応拡大をスピードアップする必要があるだろう。

リンク: バイエルのプレスリリース


【承認審査・委員会】


selinexorの承認は第三相の結果が出てからか
(2019年2月26日発表)

FDAは、Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)が多発骨髄腫のサルベージセラピーとして承認申請したKPT-330(selinexor)に関して、諮問委員会を招集。後期第二相単群試験のデータに基づいて加速承認すべきか、第三相試験の結果が出るまで待つべきか諮問したところ、8人対5人と多数の諮問委員が第三相を待つべきと回答した。順当な結果だろう。

selinexorは核外輸送蛋白であるXPO1に結合・阻害して腫瘍抑制蛋白が細胞核に蓄積するよう仕向ける。後期第二相試験では5次までの治療歴を持ち主要三剤(プロテアソーム阻害剤、免疫調停剤、抗CD38抗体)の全てに反応しなかった、ペンタ難治性多発骨髄腫122人を組入れて、低量dexamethasoneと併用したところ、ORR(客観的反応率)が25.4%、メジアン反応持続期間は4.4ヶ月だった。

問題は、文献データによると高量dexamethasoneのORRも同程度であること。忍容性面でも、治療関連深刻有害事象の発生率が60%、致死的治療関連有害事象が8%、有害事象治験離脱が28%と良好ではなく、薬が何もないよりはマシとも言い難い。

第三相では多発骨髄腫の二次治療として、Velcade(bortezomib)及び低量dexamethasoneにselinexorを追加する効果を比較している。selinexor併用群はVelcadeの投与頻度が最初から週一回と承認用法より少ないことが特徴。本年末から来年にかけて結果が出る見込み。

日本は小野薬品がライセンス、フェーズI段階。

リンク: Karyopharmのプレスリリース

CHMPが高カイロミクロン血症治療薬などの承認を支持
(2019年3月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、2月の会合で、FCS(家族性カイロミクロン血症候群)治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

尚、英国のEU離脱に伴いEMAがロンドンから移転するため、次回のCHMPは新拠点で開催される。

リンク: EMAのプレスリリース

このFCS治療薬は、Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製し子会社のAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)にライセンスしたWaylivra(volanesorsen)。ApoC-IIIの遺伝子をアンチセンスして、血清トリグリセライド値の上昇とそれに伴う腹痛や膵炎、肝脾腫大などを抑制する。臨床試験ではトリグリセライド値がベースラインの2209mg/dLから77%低下し、偽薬群の18%増と有意な差があった。主な有害事象は血小板減少症と注射箇所反応。

Akceaは米国でも申請したが、血小板減少症と深刻な出血リスクが原因で審査完了通知を受領した。

リンク: EMAのプレスリリース

このほかに肯定的意見を得たものは、まず、Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)のOndexxya(andexanet alfa、米国名AndexXa)。遺伝子組換え型ヒトXa因子で、Xa阻害剤のXarelto(rivaroxaban)やEliquis(apixaban)を服用している患者が緊急手術を受ける場合などの中和剤として用いる。

臨床試験で臨床的効用が検討されていないことなどからCHMPは条件付き承認を推奨し、上記以外のXa阻害剤の中和に用いることは認めなかった。米国では昨年5月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)のPalynziq(pegvaliase)。PEG化遺伝子組換え型フェニルアラニン・アンモニア・リアーゼで、フェニルケトン尿症の治療に用いる。同社のKuvan(sapropterin dihydrochloride)に十分に反応しない患者などに用いられることになろう。効く患者と効かない患者がいることや、アナフィラキシーのリスクが留意点。米国では昨年5月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

サノフィがLexicon(Nasdaq:LXRX)から日本以外の独占開発販売権を得て欧州で承認申請したZynquista(sotagliflozin)はSGLT-1/2阻害剤。既存のSGLT-2阻害剤と異なり、一型糖尿病に用いる。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを伴うため、適応はBMIが27kg/m2超の患者に限定され、インスリンが低量で足りる患者には推奨されない。米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのLorviqua(lorlatinib、米国名Lorbrena、和名ローブレナ)はALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤。ALK陽性非小細胞性肺癌で、他のALK阻害剤による治療歴を持つ患者に用いる。昨年9月に日本で初承認、米国でも11月に承認された。

アッヴィのSkyrizi(risankizumab、和名スキリージ)は抗IL-23p19ヒト化モノクローナル抗体。中重度乾癬に用いる。臨床試験ではHumira(adalimumab)と比べても奏効率が有意に高かった。日米でも承認審査中で日本は2月に第二部会を通過した。

適応拡大で肯定的意見を得た主なものは、まず、リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィが共同開発販売している抗IL-4受容体アルファ抗体、Dupixent(dupilumab)。中重度アトピー性皮膚炎に承認されているが、新たに12歳以上の重度喘息で二剤併用しても発作を十分に管理できない患者に追加投与することが支持された。

アストラゼネカのPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)を生殖細胞性BRCA変異陽性、her2陰性の局所進行性・転移性乳癌に単剤投与することも支持された。現在は生殖細胞性BRCA陽性卵巣癌の維持療法などに承認されている。

CTI BioPharma(Nasdaq:CTIC)はEpjevy(pacritinib)の承認申請を撤回する予定であることを2月に発表したが、EMA側からも、撤回通知を受領した旨の発表があった。中高度骨髄線維症でインサイト社のJakafi(ruxolitinib)が適応にならない血小板減少症を伴う患者を予定適応としていたが、臨床試験で脾臓量は有意に減少したものの、症状改善効果は確立していない。CHMPによると至適用量の検討も不十分。

米国では16年に承認申請したが臨床試験で死亡率に偏りが生じたためFDAが治験停止を命じ、申請撤回。FDAは再試験を求めている。

JAK2/FLT3阻害剤で、12年にS*BIO社から関連資産毎取得したもの。翌年にバクスターにアウトライセンスしたが、バクスターを買収したシャイア(今年、武田薬品が買収)が権利返還した。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


皮注用ハーセプチンが米国でも承認
(2019年2月28日発表)

ロシュは、Herceptin Hylecta(trastuzumab, hyaluronidase-oysk)がFDAに承認されたと発表した。her2陽性の高リスク早期乳癌の切除術補助療法と転移性乳癌の二次治療に用いる。Halozyme社のrHuPH20技術を用いて皮注投与を可能にしたもので、投与に必要な時間が点滴静注用製剤の30-90分から2-5分に短縮されている。EUでは13年に承認されたが、米国では遅れていた。

rHUPH20技術は遺伝子組換え型ヒアルロニダーゼを用いて皮下のヒアルロナンを一時的に分解し、高分子薬の吸収を向上するもの。ロシュのRituxan(rituximab)など複数の抗体医薬に応用・商品化されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

ロンサーフ、米国でも胃癌に適応拡大
(2019年2月26日発表)

大鵬薬品は、Lonsurf(trifluridineとtipiracilの合剤、和名ロンサーフ)が米国で胃癌に適応拡大したと発表した。転移性の胃と食道胃接合部の腺癌が適応になる。三次治療試験でメジアン生存期間が5.7ヶ月と偽薬群の3.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69だった。日本や欧州でも承認審査中。

リンク: 大鵬薬品のプレスリリース(和文)


【医薬品の安全性】


AACR:心臓疾患を持つ患者にザイティガを使うリスク
(2019年2月27日発表)

AACR(米国癌学会)は3月29日から4月3日にかけて開催するカンファレンスのメディア向けブリーフィングを行い、合わせて、概要をプレスリリースで公表した。その一つは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの前立腺癌用薬、Zytiga(abiraterone、和名ザイティガ)に関する疫学研究で、心臓疾患を持つ患者は死亡リスクが高い可能性を示唆した。

フィラデルフィアのトマス・ジェファーソン大学Sidney Kimmel Cancer CenterのLu-Yaoらが米国のSEER癌登録とメディケアの医療記録のデータベースを用いて、Zytigaが承認された2011年から2014年までに治療を受けた2845人の6ヶ月全死亡リスクを分析したもの。このうち1924人は心臓疾患を持っていた。

結果は、心臓疾患のない患者の6ヶ月死亡率が15.8%であったのに対して、虚血性心疾患や脳卒中、鬱血性心不全、心房細動、心筋梗塞歴は各21.4%、22.1%、23.4%、24.4%、25.6%だった。

治療を受ける前と後の入院リスクの比較でも、心臓疾患患者はインシデンス・レートレシオ(IRR)の倍率が1.5~1.9だった。

前立腺癌用薬は心毒性を持つものがあり、臨床試験で心臓疾患患者を除外することは珍しくない。しかし、承認後は広く使われる可能性があり、今回の調査でも7割近くが該当した。実験と実医療のギャップを埋める上で、重要な研究と言えるだろう。

ただ、良く分からない点もある。上記の死亡率は患者背景の違いを修正していない模様だが、心臓疾患を持っている患者は元々、死亡リスクが高いだろう。分析対象のメジアン年齢は75歳と高齢なので尚更だ。死亡率の差のうちどの程度が薬の影響なのか、判然としない。心臓疾患による死亡が増えたのかどうかも明らかではない。

入院リスクの分析も、治療開始前と後を比較するのは妥当なのか?心臓疾患のない患者でもIRR倍率が1.8と、有病者と同様な上昇を示している。学会や論文での発表に注目したい。

リンク: AACRのプレスリリース
リンク: Lu-Yaoらの抄録







今週は以上です。

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