2022年1月30日

第1035回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • リリーとリジェネロンの抗体医薬、事実上のEUA停止に 
  • オミクロン感染による入院はデルタ株の1.8倍 
  • その他の領域: 
  • Sierra社、JAK阻害剤のサルベージに成功 
  • CHMP、Paxlovidなどに肯定的意見 
  • インサイト、PI3K阻害剤の加速承認申請を撤回 
  • リジェネロンら、子宮頸がんの適応拡大申請を撤回 
  • リフヌアは米国では承認されず 
  • オルミエントはアトピーには承認されない? 
  • 眼科の二重特異性抗体が承認 
  • 初のブドウ膜黒色腫用薬が承認 
  • 骨化性線維異形成症用薬がカナダで承認 


【COVID-19関連】


リリーとリジェネロンの抗体医薬、事実上のEUA停止に
(2022年1月24日発表)

FDAは、イーライリリーのbamlanivimabとetesevimabの併用カクテルと、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のcasirivimabとimdevimabの併用カクテルのEUA(非常時使用認可)に関して、医療従事者向けファクト・シートを改訂し、感受しないウイルスが流行している地域には認可されていないという文言を追加した。現在、米国で検出されるSARS-CoV-2の99%以上を占めるオミクロン株に対する効果が野生株比で各1000分の1と3000分の1程度とほぼ無効であるため、事実上、EUAを一時停止した。将来、感受ウイルスが流行したら、州毎に適否を検討することになる。

既知の事実なのでサプライズはない。抗生剤の適応が感受株に限定されていることを考えれば抗SARS-CoV-2抗体も初めから同様な文言にしておけば改訂する必要がなかったのだろうが、こんなにすごい変異株が出てくるとは思わなかったのだろう。

尚、Vir Biotechnology(Nasdaq:VIR)がグラクソ・スミスクラインと共同開発したXevudy(sotrovimab、和名ゼビュディ)はオミクロンにも活性を維持している。需要が急増しており、22年上期は200万回分の生産を計画している。承認用途が異なるがアストラゼネカのEvusheld(tixagevimab、cilgavimab)も低下はするが高水準を維持している模様だ。

リンク: FDAのプレスリリース


オミクロン感染による入院はデルタ株の1.8倍
(2022年1月28日発表)

オミクロン株はデルタ株より重症化率が低そうだが、感染力は高い。感染者の治療を担う人たちに重要なのは前者だが、一般人の関心は掛け算の答え、即ち、感染して重症患者になるリスクだ。

CDC(米国疾病管理予防センター)の疫学週報、MMWRに収載された論文によると、少なくともピーク時点では、オミクロン株に感染して入院した患者数はデルタ株のピーク時の1.8倍だった。アメリカ人にとっては、デルタよりオミクロンのほうが脅威ということになる。

この分析は、オミクロン株の大流行期(21年12月19日から22年1月15日)におけるアメリカの疫学データをデルタ株の大流行期(21年7月15日から21年10月31日)や昨冬の大流行期(20年12月1日から21年2月28日)と比較したもの。オミクロン株感染数のピーク(7日移動平均)は79.9万人で、デルタ株の16.4万人の5倍だった。一方、入院数のピーク(同)は各2.2万人と1.2万人で1.8倍だった。

感染者1000人当たりのデータを見ると、ER入室数はオミクロン株が87、デルタ株が167、昨冬は92だった。一方、入院数は各27、78、68、死亡数(3週間ラグ)は9、13、16だった。オミクロン株感染時の死亡リスクはデルタ株より3割低いが、それでも、致死例が少ない訳ではないことに驚かされる。

オミクロン株は潜在感染者がデルタ株より多いだろうから、感染者が入院したり死亡したりする確率はもっと低いだろう。しかし、入院や死亡の実数を見る限り、決して油断できない。

リンク: Iulianoらの論文(MMWR 2022;71:146–152)

【新薬開発】


Sierra社、JAK阻害剤のサルベージに成功
(2022年1月25日発表)

米国カリフォルニア州のSierra Oncology(Nasdaq:SRRA)は、momelotinibの第3相骨髄線維症試験、MOMENTUMが成功したと発表した。JAK阻害剤治療歴を持ち貧血症を示す症候性患者に200mgを一日一回、24週に亘って経口投与する効果を検討したところ、主評価項目である症状改善奏効率(MSAF-Total Symptom Scoreが50%以上低下)が25%と、対照群(danzolを一日二回、経口投与)の9%を有意に上回った。副次的評価項目の脾臓応答率(脾臓量が35%以上減少)も23%対3%で有意に上回った。

danazolはテストステロン誘導体で子宮内膜症の治療などに承認されているが、骨髄線維症でしばしば見られる貧血症の治療薬として、NCCNやESMOのガイドラインに採用されている(但しEPO低下が見られる場合は遺伝子組換えEPOを使う)。対照薬として選んだのは、既存のJAK阻害剤と異なり貧血症が悪化せず、むしろ、danzolに匹敵する改善効果があることをアピールする狙いのようだ。副次的評価項目である輸血しないで済んだ患者の比率は各群31%と20%となり、期待された通り、非劣性解析が成功した。

G3以上の有害事象の発生率は各54%と65%、治療時発現深刻有害事象は35%と40%だった。

momelotinibはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)がYM BioSciencesを5.1億ドルで買収して第3相を実施したが、成績が満点でなかったためか、開発を中止し、Sierraに一時金300万ドル、達成報奨金1.95億ドルで導出したもの。インサイト/ノバルティスのJakafi(ruxolitinib)やBMSのInrebic(fedratinib)で十分に管理できない患者の第二選択薬という位置付けでも新興企業にとっては満足のいく成果が得られるという考えなのだろう。

リンク: Sierraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、Paxlovidなどに肯定的意見
(2022年1月28日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、COVID-19治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら1~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのPAXLOVID(nirmatrelvir、ritonavir)はCOVID-19治療薬。ウイルスが持つ、自身の複製に必要な蛋白分解酵素を阻害する3CLプロテアーゼ阻害剤と、その代謝酵素を阻害して効果を長持ちさせる3A4阻害剤の同梱製品。発症後5日以内で、軽中等症だが重症化リスク因子を持つ患者に、12時間おきに5日間、経口投与する。

ワクチン未接種の患者2000人超を組入れて28日間追跡した第3相試験では、偽薬群のCOVID-19関連入院・全死亡率が6.3%(死亡者は12人)であったのに対して、PAXLOVID群は0.8%(死亡ゼロ)だった。SPC(添付文書)によると、ベースライン時点で血清陰性だった992人では各群11.5%と1.4%、陽性の1068人では1.5%と0.2%だった。陰性者の場合、1000人中987人は飲んでも飲まなくても結果は同じという計算になる。この薬が予防薬であることを考えれば無駄打ちは避けたいが、事前スクリーニングは非現実的なので、悩ましい。但し、もしワクチン接種者の便益も小さいならば、適応外とするのは容易だ。

リンク: EMAのプレスリリース(1/27付)

ブリストル マイヤーズ スクイブのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、和名ブレヤンジ)はCD19標的CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)。難治性再発性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫や、原発性縦隔B細胞リンパ腫、そして二次以上の治療歴のあるグレード3B濾胞性リンパ腫に用いることが支持された。昨年2月に米国で、3月には日本でも、承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)のKIT/PDGFRアルファ阻害剤、Ayvakyt(avapritinib、米国名米Ayvakit)を全身性肥満細胞症に用いることが支持された。一回以上の全身性治療歴のある成人のアグレッシブな全身性肥満細胞症、血液学的新生物を伴う全身性肥満細胞症、肥満細胞白血病が適応になる見込み。臨床試験で総合反応率が57%(完全寛解率28%)、メジアン反応持続期間は38ヶ月だった。米国では昨年6月に適応拡大済み。

リンク: EMAのプレスリリース

欧米は慢性心不全の適応に関して駆出率低下型と保持型を分別する傾向があったが、SGLT2阻害剤のアウトカム試験ではどちらにも悪化抑制効果が見られた。駆出率が高いほど悪化リスクが低く治療する便益が縮小することには変わりが無いので、閾値ではなく臨床的なリスク評価に基づいて適否を判断すべきということのようだ。今回、CHMPは、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのJardiance(empagliflozin)について、症候性慢性心不全における駆出率低下型限定を解除することに肯定的意見をまとめた。米国でも申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

今回は新薬や適応拡大の申請取り下げが多かった。何れもメーカー側が12月に取り下げを通知したもの。

意外だったのはバイエルのPI3Kアルファ/デルタ阻害剤、Aliqopa(copanlisib)だ。米国では17年に濾胞性リンパ腫の3次治療薬として加速承認されている。再発性緩徐進行性B細胞非ホジキン型リンパ腫の第3相rituximab併用試験でPFS(無進行生存期間)がrituximab単剤を上回り、米国で適応拡大申請するとともに、EUでは治験対象のうち再発性辺縁帯リンパ腫だけに絞って新薬承認申請したが、撤回となった。CHMPは投与実績が少ないモノセラピーについては懐疑的だったが、rituximab併用についてはコメントしておらず、バイエル側で何らかの支障が生じたものと推測される。別項のように、PI3K阻害剤はセットバックが相次いでいる。

リンク: EMAのプレスリリース

DBV Technologies(Euronext:DBV)のAbylqisはピーナツアレルギーの経皮的減感作療法。CHMPは便益が限定的で深刻なショックのリスクを上回るとは言えないのではないかと考えていた。第3相がフェールしたので意外ではない。米国でも承認されず、同社は改良品(パッチを円形にして50%大きくした)の第3相を開始する考え。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカはP2Y12阻害剤Brilique(ticagrelor、和名ブリリンタ)の脳卒中適応拡大申請を撤回した。急性虚血性卒中/一過性虚血発作の約11000人を24時間以内に割付けしたアスピリン併用試験、THALESに基づく申請で、米国では20年11月に軽中度脳卒中に承認されたが、CHMPは1ヶ月間だけの短期的治療による便益が致死的/非致死的な出血リスクを明確に上回るとは言えない、と考えていた。機能障害を改善する効果が見られなかったことも指摘している。同試験ではアスピリン・偽薬併用群と比べて卒中が2割弱少なかったが、死亡は1.3倍、重度出血は4倍、致死的出血は5.5倍だった(おそらく検出力不足のせいで死亡関連のデータは有意ではない)。

リンク: EMAのプレスリリース


インサイト、PI3K阻害剤の加速承認申請を撤回
(2022年1月25日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)はPI3Kデルタ阻害剤INCB050465(parsaclisib)の加速承認をFDAに申請していたが、撤回することを明らかにした。第2相試験の反応率データに基づいて難治再発性の濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、そしてマントル細胞腫における適応を求めたが、市販後薬効確認試験に必要な期間や費用など実務的な理由で、断念した。

今月はギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)も、PI3Kデルタ阻害剤Zydelig(idelalisib)の米国における三つの適応症のうち、再発性濾胞性B細胞非ホジキンリンパ腫と再発性小リンパ球性白血病を返上する旨、FDAに申請した。第2相試験の反応率データに基づいて加速承認されたが、市販後薬効確認試験の進捗が順調でなかったことや、他の選択肢が複数存在することなどから、撤回に踏み切った。今後は、本承認されている再発性慢性リンパ球性白血病だけに用いられることになる。

昨年12月には、Secura BioがPI3Kデルタ/ガンマ阻害剤Copiktra(duvelisib)の適応のうち難治再発性濾胞性リンパ腫(加速承認)を返上している。

加速承認は、臨床的な便益が危険を上回ることが合理的に推測できる薬であることを示している。推測なので、期待が裏切られ、迅速承認ではなく拙速承認というオチになることも想定の範囲内だ。昨年来、FDAが棚卸に取り組みはじめ、抗PD-1/PD-L1抗体やPI3Kガンマ/デルタ阻害剤で適応返上が散発している。

PI3K阻害剤では、濾胞性リンパ腫の三次治療薬として17年に加速承認されたバイエルのAliqopa(copanlisib)の第3相rituximab併用試験が成功、昨年6月に米国で適応拡大申請された。早晩、承認されるとともに、モノセラピーによる三次治療も本承認に切り替わるのではないか。Aliqopaの実薬対照試験は開始から主評価項目(PFSにおける優越性)達成まで5年かかった。同じ疾病における似たような薬の似たような臨床試験に患者を組入れるのは容易ではないので、他社はもっと時間がかかるだろう。

Aliqopaは上記試験などに基づいて欧州で再発辺縁帯リンパ腫だけに承認申請されたが、CHMPに支持されず、取り下げとなった。緩徐進行型非ホジキン腫で承認を取ることの難しさが窺われる。

リンク: インサイトのプレスリリース
リンク: ギリアド・サイエンシズの声明(1/14付)


リジェネロンら、子宮頸がんの適応拡大申請を撤回
(2022年1月28日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、抗PD-1抗体Libtayo(cemiplimab-rwlc)を難治/転移子宮頸癌の治療に用いる適応拡大を米国で申請していたが、処方薬ユーザー・フィー法に基づく審査期限の1月30日を前に、撤回を発表した。市販後コミットメント試験に関してFDAの要求を受け入れられなかった模様だが、詳細は不明。

日本の施設も参加した第3相化学療法併用試験で全生存ハザードレシオが0.7だったので、加速承認後の薬効確認試験が争点になった訳ではないだろうが、上記インサイトの事例と似ていることが気になる。

リンク: 両社のプレスリリース


リフヌアは米国では承認されず
(2022年1月24日発表)

MSDはMK-7264(gefapixant)を難治性/原因不明の慢性咳嗽の治療薬として開発、1月に日本でリフヌア名で承認されたところだが、米国は審査完了通知を受領した。薬効測定に関する追加情報を求められた模様だ。詳細は不明だが、塩野義製薬など類薬を開発している企業にもインプリケーションがありそうだ。

09年にロシュからスピンアウトしたAfferent Pharmaceuticalsを16年に買収して入手したもの。気道粘膜の炎症等により放出されたアデノシン三リン酸が気道の迷走神経のC線維状のP2X3受容体に結合して過剰感作するのを抑制する。副作用は味覚異常・喪失が用量依存的に発生する。COVID-19と被るのが嫌な感じだ。

第3相試験二本では、15mgまたは45mgを一日二回、経口投与して、一本は第12週の、もう一本は第24週の、咳嗽頻度を胸部センサー付きデジタル録音装置を用いて24時間計測した。15mg群はフェールしたが、45mg群はボーダーライン上とはいえ統計的に有意だった。具体的には、一本ではベースラインの時間当り18回から7回に減少した(偽薬群は22回から10回に減少)。もう一本は24回から8回に減少した(偽薬群は25回が10回)。解析対象が異なるが、相対リスク削減率は前者が18.4%(p=0.041)、もう一本は14.6%(0.031)だった。

p値があまり低くないことに加えて、有害事象による治験離脱率が12週の試験では15%(偽薬群は3%)、24週の試験は20%(同5%)と比較的高いので、投与打切例や追跡不能例のデータをどう処理するかによって結論が変わってしまうかもしれない。

そもそも、録音方式は自己記録より正確・客観的な手法ではあるのだろうが、もしカウントもデジタル処理(自動判定)ならば、アルゴリズムの妥当性を検討しなければならないだろうし、人の耳なら、判定の揺らぎや個人差をどう回避したのかも知りたいところだ。

FDAの懸念とは無関係かもしれないが、日本のインタビューフォームに収載されている期中推移のグラフを見ると、第12週辺りから二本のカーブが接近し始め、第24週には更に接近している。長期服用時に作用が減衰しないか、気に掛かるところだ。

リンク: MSDのプレスリリース

オルミエントはアトピーには承認されない?
(2022年1月28日発表)

イーライリリーとインサイト(Nasdaq:INCY)は、中重度リウマチ性関節炎などに承認されているJAK1/2阻害剤、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)の適応拡大プロジェクトについて、ニ点、アップデートした。一つは活性期全身性エリテマトーデスの第3相中止。二本実施したが、主評価項目(SRI-1)の解析は一勝一敗、副次的評価項目は二敗だった。

もう一つは、成人の中重度アトピー性皮膚炎の適応拡大申請に関して、FDAから審査完了通知を受領する可能性が高まった由。適応範囲について見解の相違が生じたようだ。

JAK阻害剤は心血管疾患や血栓症、感染症、癌のリスクが高まる懸念があり、FDAが承認審査を厳格化している。バイオ薬が承認されている用途ではバイオ薬不応不耐に限定することで決着したように感じられ、止まっていた適応拡大申請が動き出している。アトピーではアッヴィのRinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)が12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎でバイオ薬を含む他の薬に管理不良または不適な患者に承認されたばかり。それだけに、サプライズだ。

Olumiantは何が違うのか、よくわからないが、RinvoqはDupixent(dupilumab)直接比較試験で効果が同等以上だったエビデンスを持っている点が評価されたのかもしれない。あるいは、イーライリリーが、日欧の適応と同様に、バイオ薬不応不耐に限定しないことを求めたのかもしれない。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認】


眼科の二重特異性抗体が承認
(2022年1月28日発表)

ロシュ・グループのジェネンテックは、FDAがVabysmo(faricimab-svoa)を新生血管加齢性黄斑変性と糖尿病性黄斑浮腫の治療薬として承認したと発表した。最初の4回は月一回、その後は患部の状態に合わせて1~4ヶ月毎に、硝子体注射する。

VEGF-Aとアンジオポイエチン-2に結合する二重特異性抗体で、効果はVEGFだけに結合する既存薬と非劣性なだけだが、臨床試験で5割近い患者が16週毎投与に移行したエビデンスを持つ。主な有害事象は結膜出血。日欧でも承認審査中。

リンク: 同社のプレスリリース


初のブドウ膜黒色腫用薬が承認
(2022年1月26日発表)

Immunocore(Nasdaq:IMCR)はFDAがKimmtrak(tebentafusp-tebn、通称IMCgp100)をHLA-A*02:01陽性の成人の切除不能/転移ブドウ膜黒色腫に承認したと発表した。EUや英国、カナダ、オーストラリアでも承認申請中。

ブドウ膜黒色腫は眼内腫瘍。米国の罹患数は年1600~2000人。手術や放射線療法が施行されるが、5割程度は転移し、承認されている治療薬は今までなかった。KimmtrakはHLA-A*02:01型の黒色腫細胞が抗原提示するgp100ペプチドを認識する可溶性T細胞受容体と、CD3に結合する抗体の短鎖可変領域フラグメントを細胞融合した二重特異性T細胞エンゲージャー。週一回点滴静注。用量は三段階漸増する。

第3相実薬対照試験(対照群の82%はKeytrudaを選択)では全生存のハザードレシオが0.51、メジアン生存期間は21.7ヶ月対16.0ヶ月だった。G3以上の有害事象はラッシュ、発熱、掻痒など。サイトカイン放出症候群が枠付警告されており、最初の3回とその後も必要に応じて、投与後16時間以上観察する必要があるが、臨床試験におけるG3以上の発生率は1%未満で、致死例はなかった。

同社の技術は患者の細胞を採取して加工するCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法とは異なり、テイラーメイドの必要はないが、対応するヒト白血球抗原型を持つ患者にしか使えない。A*02:01型はカフカス人種の5割を占めるとされるが、日本人は1割と多くない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Immunocoreのプレスリリース


骨化性線維異形成症用薬がカナダで承認
(2022年1月24日発表)

イプセンは、Sohonos(palovarotene)がカナダで進行性骨化性線維異形成症用薬として承認されたと発表した。女性は8歳以上、男性は10歳以上の患者が適応になる。臨床試験では新規の異所性骨化が自然歴より少なかった。

レチノイン酸受容体ガンマのアゴニスト。13年にロシュからインライセンスしたカナダ企業を19年に一時金10億ドル及び達成報奨金2.6億ドルで買収して入手した。

臨床試験で成長板の早期閉鎖が見られ、19年に14歳未満の患者に関する部分治験停止をFDAから命じられた。米国では21年5月に承認申請したが、臨床試験の追加分析・評価が求められ、一旦、撤回した。今年上期に再申請する予定。

リンク: イプセンのプレスリリース





今週は以上です。

2022年1月22日

第1034回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • FDA、ベクルリーを軽中等症の外来患者に適応拡大 
  • その他の領域: 
  • デュピクセントを結節性痒疹に適応拡大申請へ 
  • ビンゼレックスを適応拡大申請へ 
  • ASCO GI:イミフィンジの胆道癌試験が成功 
  • ASCO GI:イミフィンジの肝臓癌一次治療試験も成功 
  • ASCO GI:キイトルーダ、アジアの肝細胞腫試験は成功 
  • リジェネロン、抗PD-1抗体を併用で肺癌に承認申請 
  • エンハーツのMBC二次治療を米国でも申請 
  • エヌジェンラは米国では審査完了に 
  • スキリージが米国でも乾癬性関節炎に適応拡大 


【COVID-19関連】


FDA、ベクルリーを軽中等症の外来患者に適応拡大
(2022年1月21日発表)

FDAはギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)を軽中等症だが重症化リスクを持つ体重3.5kg以上のCOVID-19感染者の外来治療に用いる適応拡大を認めた。12歳以上且つ体重40kg以上の患者に関しては正式な承認、体重3.5kg以上40kg未満の小児と12歳未満で体重3.5kg以上の承認についてはEUA(非常時使用認可)だ。年齢や体重に応じて用量を決定し、一日一回、3日連続で点滴静注する。

発症から7日以内の患者を組入れた第3相PINETREE試験では、28日間のCOVID-19関連入院/全死亡が偽薬群は283人中15人(5.3%)だったのに対して試験薬群は279人中2人(0.7%)に留まり、ハザードレシオは0.13、p=0.008だった。両群とも死亡は発生しなかった。

この試験は1264人を組入れる予定だったが、抗SARS-CoV-2抗体が承認されたため偽薬対照試験の続行が困難になり、昨年4月に新規組入れを終了、既存症例だけの盲検を続けた経緯がある。抗体医薬は発症10日以内と治療ウインドウが若干広く一回投与で足りるのでVekluryより使いやすいが、Vir/GSKのXevudy(sotrovimab)以外はオミクロン株に対して無効/エビデンス欠落なので、代替的な治療薬が必要だ。

経口剤のうち、MSDのLagevrio(molnupiravir)は効果が弱く、動物試験で催奇性が見られたため、妊婦には推奨されず、男性は治療終了後3ヶ月間、妊娠させないよう注意する必要がある(米国の場合。日本の添付文書や患者同意書には記されていない)。ファイザーのPAXLOVID(nirmatrelvir錠とritonavir錠)は便益の面でも危険の面でも大きな問題はないが、経口剤二剤は発症後5日以内と治療ウインドウが狭いことが制約になる。

リンク: FDAのプレスリリース

【新薬開発】


デュピクセントを結節性痒疹に適応拡大申請へ
(2022年1月19日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab)の二本目の第3相結節性痒疹試験が成功したと発表した。適応拡大を申請する考え。

結節性痒疹は強い痒みを伴う皮膚疾患。DupixentはIL-4受容体のアルファ・サブユニットを標的とする抗体医薬で、アトピー性皮膚炎や好酸球性/難治性の喘息症、鼻ポリープによる慢性副鼻腔炎などの治療に承認されている。

この二本の試験は、第一選択薬である局所性ステロイドで十分に管理できない患者を組入れて、二週毎皮注する効果を偽薬と比較した。局所性低・中力価ステロイドの継続使用可。主評価項目の掻痒緩和奏効率は、一本目が37%(偽薬群は22%)、今回は60%(同18%)となり、二本とも偽薬比有意な差があった。副次的評価項目の病変治癒率も各45%(同16%)と48%(同18%)と、こちらは二本とも類似した結果になった。

リンク: 両社のプレスリリース


ビンゼレックスを適応拡大申請へ
(2022年1月18日発表)

UCBはBimzelx(bimekizumab)の二本目の第3相軸性脊椎関節炎試験と二本目の第3相乾癬性関節炎が成功したと発表した。

BimzelxはIL-17AとIL-17Fに結合する二重特異性抗体。中重度プラク乾癬用薬として昨年8月にEUで、1月20日には日本でも、承認された。一方、米国は連邦職員の渡航制限により欧州工場の査察が遅れ、審査期限超過となっている。

軸性脊椎関節炎は活性期強直性脊椎炎を組入れた試験が12月に成功したのに続いて、今回、活性期nr-axSpA(X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)試験が成功した。

活性期乾癬性関節炎試験はバイオ薬歴を持たない患者を組入れた試験に続いて、今回、TNF阻害薬に不応不耐患者の試験が成功した。

データは未公表。第3四半期に両適応症で承認申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース(軸性脊椎関節炎)
リンク: 同(乾癬性関節炎、1月21日付)


ASCO GI:イミフィンジの胆道癌試験が成功
(2022年1月18日発表)

アストラゼネカは昨年10月、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の胆道癌一次治療試験が中間で成功認定されたことを明らかにしたが、ASCO GI(米国臨床腫瘍学会胃腸腫瘍シンポジウム)でデータを発表した。進行した胆管腺腫や胆嚢癌などの患者685人を組入れて、gemcitabineとcisplatinの標準療法にImfinziを追加する効果を検討したところ、全生存期間のハザードレシオが0.80、副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)は0.75と、どちらも偽薬追加群を有意に上回った。

メジアン生存期間は12.8ヶ月対11.5ヶ月と、ごく僅差だが、2年生存率は25%対10%と比較的大きな差が出ている。追跡期間が延びるほどサンプル数が減少しデータの信頼性が低下するが、免疫療法の場合は一部の患者が比較的長く生きる傾向も見られるので、こんなことがあっても不思議ではない。

G3/4の治療時発現有害事象発生率は両群大差なかった。G5も0.6%対0.3%で大差なかった。

リンク: 同社のプレスリリース


ASCO GI:イミフィンジの肝臓癌一次治療試験も成功
(2022年1月18日発表)

アストラゼネカは昨年10月、Imfinzi(tremelimumab)のHIMALAYA試験が成功したと発表したが、データをASCO GIで公表した。一次治療を受ける、切除不能・局所治療不適な進行肝細胞腫の1324人を組入れて、抗CTLA-4抗体durvalumab(300mg)を一回だけ投与した後にImfinzi(1500mg)を4週毎投与するSTRIDEレジメンと、Imfinziだけを4週毎投与するモノセラピーの効果をNexavar(sorafenib)と比較したもので、STRIDEレジメンのハザードレシオは0.78で優越性解析が、モノセラピーは0.86で非劣性解析が、成功した。

各群のメジアン生存期間は16.4ヶ月、16.6ヶ月、13.8ヶ月、2年生存率は41%、40%、33%、3年生存率は31%、25%、20%。G3/4治療時発現有害事象発生率は25.8%、12.9%、36.9%。G5は2.3%、0%、0.8%。

このデータだけ見ると、モノセラピーで十分のようにも感じられる。

この用途ではロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と抗VEGF抗体Avastin(bevacizumab)の併用が20年に日米欧で承認されている。第3相sorafenib対照試験で全生存のハザードレシオが0.58と、STRIDEレジメンより見栄えのする数値が出ている。メジアン生存期間は未達だが、sorafenib群は13.2ヶ月なので今回と大差なく、異なった試験の数値を比較するべきではないとディスクレマーを入れるのが躊躇される。

一方、BMSのOpdivo(nivolumab)のCheckMate-459試験はフェールした。メジアン生存期間は16.4ヶ月、sorfenib群は14.7ヶ月、ハザードレシオは0.85なので、Imfinziモノセラピー群と大差なく、STRIDE群とも大きくは変わらない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


ASCO GI:キイトルーダ、アジアの肝細胞腫試験は成功
(2022年1月18日発表)

MSDは昨年9月、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)のKEYNOTE-394試験成功を発表したが、データをASCO GIで発表した。sorafenibによる治療歴を持つ進行肝細胞腫453人を中国などアジアの施設で組入れて、Keytruda群と偽薬群に2:1割付して全生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.79となった。p値は0.018と最終解析の閾値である0.019307を僅かに下回るだけ、メジアン値は14.6ヶ月対13.0ヶ月で差は1~2ヶ月と、統計学的にも臨床的にも大きな差とは呼び難い。

副次的評価項目のPFSはハザードレシオ0.74、p値は0.0032(閾値は0.013447)と良好な解析結果となったが、メジアン値は2.6ヶ月対2.3ヶ月で僅少だ。

G3-5の治療時発現有害事象発生率は14.4%対5.9%、治療薬関連の死亡は3人で、胃腸出血、自己免疫肝炎、軟組織感染症によるもの。

Keytrudaは18年に米国で進行肝細胞腫の二次治療に用いることが加速承認されたが、市販後コミットメント試験であるKEYNOTE-240試験がフェールした。今回の成功で加速承認が本承認に切り替わる可能性があるが、今回発表されたデータだけでは、説得力が弱いように感じられる。

承認されても普及するかどうか、不透明だ。一次治療で抗PD-L1抗体を含む併用レジメンが普及すれば、再発治療にKeytrudaを用いる有効性を改めて検討する必要があるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


リジェネロン、抗PD-1抗体を併用で肺癌に承認申請
(2022年1月19日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は抗PD-1抗体Libtayo(cemiplimab-rwlc)を局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療に化学療法薬と併用する適応拡大を欧米で申請したと発表した。米国では受理され、審査期限は9月19日に設定された。臨床試験では全生存のハザードレシオが0.71、メジアン生存期間は22ヶ月と偽薬群の13ヶ月を上回った。

LibtayoはモノセラピーがPD-L1高発現の非小細胞性肺癌の一次治療、皮膚扁平上皮腫、基底細胞腫に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツのMBC二次治療を米国でも申請
(2022年1月17日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。her2陽性転移性乳癌における現在の適応は、二種類以上のher2標的薬歴を持つ患者の三次治療以降だが、二次治療以降に拡大する計画。

典型的なher2標的二次治療薬であるロシュの抗her2抗体薬物複合体Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine)と比較した臨床試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.28(統計的に有意)、副次的評価項目の全生存期間のハザードレシオは0.56(未成熟で有意水準には未達)だった。

Enhertuはtrastuzumab系の薬による治療歴を持つher2陽性局所進行/転移性の胃癌/胃食道接合部腺腫に用いることも米国で承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


エヌジェンラは米国では審査完了に
(2022年1月21日発表)

OPKO Health(Nasdaq:OPK)とライセンシーのファイザーは、長期作用性遺伝子組換えヒト成長ホルモン製剤のsomatrogonをソマトロピン欠乏症の治療薬として承認申請し、日本では今月、承認され、EUでも昨年12月にCHMPの肯定的意見を獲得したが、米国は審査完了通知を受領した。何がボトルネックなのかは公表されていない。両社はFDAと協議して今後の方策を決定する考え。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


スキリージが米国でも乾癬性関節炎に適応拡大
(2022年1月21日発表)

アッヴィはSkyrizi(risankizumab-rzaa)を活性期乾癬性関節炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。バイオ薬やDMARDに不応不耐の患者を組入れた試験二本でACR20奏効率が偽薬を有意に上回った。最初の二回は4週おいて皮注するが、その後は3ヶ月毎と、回数が少なく済むことが特徴。

IL-23p19を標的とする抗体医薬で19年に日米欧で中重度乾癬治療薬として承認された。乾癬性関節炎はEUでは昨年11月に承認された。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

2022年1月15日

第1033回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ensovibepの第2/3相外来試験、第3相へ 
  • その他の領域: 
  • メディケアもアデュカヌマブの保険適用に慎重 
  • バイオマリン、A型血友病遺伝子療法の出血事故抑制効果を確認 
  • JAK阻害剤二剤がアトピーに承認 
  • 第3のオレキシン受容体アンタゴニストが承認 


【COVID-19関連】


ensovibepの第2/3相外来試験、第3相部分開始へ
(2022年1月10日発表)

チューリッヒ大学のスピンアウトであるスイスのMolecular Partners(SIX:MOLN)と開発販売パートナーのノバルティスは、MP0420(ensovibep)の第2/3相軽中等症COVID-19外来治療試験を実施中だが、第2相に当たるパートAの解析が成功したと発表した。第3相部分の組入れを開始する予定。

Molecular Partnersは天然のアナリキン・リピート蛋白由来のDARPin蛋白を組み合わせて抗体医薬のように標的に結合させる技術を持っている。MP0420はSARS-CoV-2の受容体結合領域の異なった部位に結合する三種類のDARPinを結合した。パートAは18歳以上で二種類以上の軽中等症状を示し発症7日以内の患者407人を組入れて、75mg、225mg、600mgの何れかを一回、点滴静注する群の第8日ウイルス負荷を偽薬群と比較した。データは未公表だが、副次的評価項目である入院/ER入室リスクは、偽薬群が99人中6人、6.0%であったのに対して、試験薬群は301人中4人、1.3%だった。このうち、死亡者は2人対ゼロだった。

第3相のパートBでは1700人を組入れて75mgをテストする。また、両社はパートAのデータに基づくEUA(非常時使用認可)について当局と相談する考え。

MP0420はNIH(米国立衛生研究所)が実施したACTIV-3重症入院患者試験が中間で無益認定となった。やはり、抗ウイルス剤は感染の早い段階に用いる方が真価を発揮するのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

【今週の話題】


メディケアもアデュカヌマブの保険適用に慎重
(2022年1月11日発表)

米国の公的高齢者医療制度などを管轄するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、FDAが21年6月に軽度認知障害/軽度アルツハイマー症用薬として加速承認したバイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab-avwa)などの抗アミロイド・ベータ抗体について、医療費給付を適格臨床試験に参加する患者に限定する案を公表した。パブコメを経て4月に最終決定する予定。

Aduhelmは第3相試験二本が中間解析で無益認定されたが、フォローアップ分析で高用量群に日常生活機能や認知機能の悪化を遅らせる可能性が示された。しかし、エビデンスは頑強ではなく、また、治療効果が十分なのか議論の余地があった。忍容性面でも、アミロイド関連画像異常がしばしば発生し、多くは無症状/軽症だが例外もあった。このため、FDA諮問委員会では誰一人として承認に賛成しなかった。にも関わらず承認されたため、諮問委員だけでなく、承認審査担当部署からも、辞職者が輩出した。各種学会も民間の医療保険も臨床試験以外で使用するのは時期尚早という意見が多かった。米国外ではEUも日本も承認を見送った。

今回、CMSも同様な結論に達した。最終決定後の流れは、おそらくバイオジェン/エーザイが、新規第3相試験のプロトコルをCMSに提出し審査を受ける。適格認定を得るためには、無作為化割付対照試験であること、生活機能や認知機能の悪化を遅らせる臨床的に重要な便益を評価する検出力を持つこと、有害事象を把握すること、などの条件を満たす必要がある。治験施設が病院などに限定されるなど、ハードルは高そうだ。また、CMSは対照群の一例として最良標準療法を挙げており、臨床試験に参加しても偽薬群に割付けられる可能性がありそうだ。尚、NIH(米国衛生研究所)がスポンサーとなる試験は適格として扱われる。

Aduhelmの市販後薬効確認試験の結果が判明するのは26年頃と遅い。一方、両社が第2相試験のデータに基づいてローリング承認申請手続きを開始したはBAN2401(lecanemab)の第3相の結果は本年内に判明する見込み。イーライリリーがローリング承認申請手続きを開始したLY3002813(donanemab)の第3相の開票は23年の見込み。もしこれら二剤の第3相が統計的かつ臨床的に成功しFDAに承認されたら、CMSは評価を見直し広範なカバレッジに踏み切るだろう。もしフェールなら、抗アミロイドベータ抗体に対する期待が薄れるだろう。どちらのケースでも、Aduhelmは主役の座を降りることになる。

リンク: CMSのプレスリリース
リンク: 抗アミロイド・ベータ抗体の医療費給付(案)

【新薬開発】


バイオマリン、A型血友病遺伝子療法の出血事故抑制効果を確認
(2022年1月9日発表)

BioMarin Pharmaceuticals(Nasdaq:BMRN)はBMN 270(valoctocogene roxaparvovec)の第3相重症A型血友病試験で治療を必要とする出血イベントがベースライン比85%減少したと発表した。効果の持続性は不透明であるものの、少なくとも2年間は維持されることが明らかになり、投与実績も増えたため、欧米で承認される可能性が出てきた。

BMN 270は遺伝子療法。A型血友病で欠乏する第VIII因子の遺伝子を遺伝子組換え5型アデノ随伴ウイルスに導入し、患者の肝臓で発現させる。欧米で希少疾患用薬指定とRMAT(再生医療高度治療)/BT(ブレークスルー・セラピー)/PRIME(EMAが優先的に取り扱うべき医療)指定を受けている。

19年12月に欧米で承認申請したが、承認されなかった。症例数が少ないことや便益の持続性が曖昧であることに加えて、FDAは、市販用のバッチと臨床試験で用いられたバッチの同等性や、主評価項目が第VIII因子活性の上昇というサロゲート・マーカーで、出血傾向を抑制する臨床的な便益が確立していないことなどを指摘した。

今回の第3相は、過去の臨床試験で治療を受けた112人を追加組入れして、年率出血率(ABR)を2年間追跡した。プレスリリースには様々な数値が記載されているが解析対象症が区々なので、ABR(上記112人の解析)だけ記すと、ベースライン時点の平均4.8から初年度は0.9、2年目は0.7、2年間平均では0.8に、有意に低下した。メジアン値は2.8からゼロに低下。

インヒビターや腫瘍、血栓塞栓イベントは見られなかった。主な有害事象は点滴箇所反応や臨床症状を伴わない軽中度の肝臓酵素上昇。

3年以上追跡した症例のデータも開示されたが、少数であることに加えて、初年度や2年目の数値が記されていないため、主要関心事項である効果の持続性は不明。これまでに発表されたデータによると、第VIII因子活性は2年目に大きく低下し3年目も下げ止まらない。

遺伝子療法は一回の投与で済む点が長所だが、2~3年しか持続しないなら、潜在的危険の許容限度が低下する。ウイルスベクターに対する抗体ができるかもしれないので、繰り返し施行した場合の有効性も検討すべきだ。まあ、COVID-19ワクチンを引き合いに出すまでもなく、全ての答えが出るのを待っていたらキリがなく、続かないなら何回でも施行するしかないのだが、こんな筈ではなかった感を持たざるを得ない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


JAK阻害剤二剤がアトピーに承認
(2022年1月14日発表)

FDAはJAK阻害剤の安全性に強い警戒感を持っていて、多くの適応拡大/新薬承認審査が長期化・遅延していたが、昨年12月にメーカー側が副作用警告強化に応じたのを機に、滞っていたパイプラインが流れ始めた。

1月14日には、アトピー性皮膚炎で二件の承認が発表された。アッヴィのRinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)の適応拡大と、ファイザーのCibinqo(abrocitinib、和名サイバインコ)の新薬承認だ。

前者は日欧では昨年8月に承認。後者は昨年9月に英日で、12月にはEUでも、承認されている。米国のレーベルの特徴は、第一に、バイオ薬を含む既存の全身性治療薬で管理不良または不適な患者に限定されていること。Rinvoqは直接比較試験で効果がリジェネロン/サノフィのDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)を有意に上回ったが、Dupixentのような薬より先に使うことはできなくなった。

第二は、Cibinqoにも他のJAK阻害剤と同様なクラス枠付警告が導入されたこと。微生物感染症リスク、他のJAK阻害剤の臨床試験でバイオ薬より死亡リスクが高かったこと、腫瘍リスク、心血管死/心筋梗塞/卒中リスク、血栓症リスクだ。

Rinvoqは欧日と同様に12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎の患者に15mg(効果不十分なら30mgに増量可)を一日一回経口投与することが認められた。一方、Cibinqoは成人の中重度アトピー性皮膚炎に100mg(効果不十分なら200mgに増量可)を一日一回、経口投与となった。臨床試験では12~17歳も組入れており、日本ではこの年齢層に用いることも承認されたが、欧米は認められなかった。

リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース


第3のオレキシン受容体アンタゴニストが承認
(2022年1月10日発表)

スイスのイドルシア(SIX:IDIA)は、FDAがQuviviq(daridorexant)を成人の不眠症用薬として承認したと発表した。覚醒剤指定を経て5月に上市する予定。OX1RとOX2Rの二種類のオレキシン受容体を拮抗する経口剤で、25mgまたは50mgを就寝前に服用する。臨床試験では総睡眠時間や睡眠後覚醒時間が偽薬比有意に改善し、50mg群は日中機能の向上も見られた。

類薬としては8年前にMSDのBelsomra(suvorexant)が、2年前にエーザイのDayvigo(lemborexant)が承認されている。前者の21年1-9月期の売上高は2.4億ドル、前年比微減に留まっている。

リンク: イドルシアのプレスリリース




今週は以上です。

2022年1月8日

第1032回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • コミナティ、FDAが3回目接種の間隔短縮、対象年齢引き下げ 
  • GM-CSF標的薬の第2/3相がフェール 
  • その他の領域: 
  • オブシーバ社、リンザゴリクスの子宮内膜症試験も成功 
  • 第3相ATTR-CM試験、最初の解析はフェール 
  • アッヴィ、リンヴォックをnr-axSpaに適応拡大申請 
  • JNJ、BCMA・CD3二重特異性抗体を承認申請 
  • クッシング症候群治療薬が承認 
  • LEO、抗IL-13抗体がアトピーに米国でも承認 
  • PRAC、オルメサルタンの有害事象に自己免疫性肝炎を追加 


【COVID-19関連】


コミナティ、FDAが3回目接種の間隔短縮、対象年齢引き下げ
(2022年1月3日発表)

ファイザーとBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、共同開発販売しているCOVID-19ワクチン(tozinameran、欧州名Comirnaty、和名コミナティ)の3回目接種に関して、FDAがEUA(非常時使用認可)の一部変更を認めたと発表した。これまでは16歳以上を対象に2回目の接種から6ヶ月以上経った段階でブースター接種するとされていたが、12歳以上に5ヶ月以上経ってから、に変わった。対象年齢拡大の根拠は12歳以上16歳未満を組入れた免疫原性試験。間隔の短縮はイスラエルにおける410万人を超える接種実績というリアル・ワールド・データである模様だ。

このワクチンは臓器移植などにより免疫不全状態にある場合はプライマリー接種を3回とすることがEUAされているが、今回、対象年齢が12歳以上から5歳以上に拡大された。5~11歳は最初の二回と同様に10mcgを接種する。間隔は12歳以上と同じで、2回目接種の28日以上後。エビデンスは臓器移植を受けた成人に関する研究データのようだ。

FDAは後日、モデルナのCOVID-19ワクチンについても、ブースター接種の間隔を5ヶ月以上に変更した。

リンク: 両社のプレスリリース



GM-CSF標的薬の第2/3相がフェール
(2021年12月28日発表)

バミューダ籍の Kiniksa Pharmaceuticals(Nasdaq:KNSA)は、KPL-301(mavrilimumab)の第2/3相COVID-19肺炎試験がフェールしたと発表した。研究者主導試験や第2相ポーションでは好ましい成績を挙げたが、再現されなかった。

Cambridge Antibody Technology(CAT)がAMRAD(後にCSLが買収)と共同開発したGM-CSF受容体アルファ・サブユニットに結合するIgG4型ファージディスプレイ抗体で、CATを買収したアストラゼネカからKiniksaが17年に権利取得、巨細胞性動脈炎の第2相試験が成功したが、研究者主導試験で14日酸素投与不要生存率が57.1%と偽薬群の47.4%を上回るトレンドが見られたことから、COVID-19を優先して第2/3相にステージアップした。第2相ポーションでは人工呼吸医管理を受けていない患者116人を組入れたコフォート1で29日無人工呼吸器装着生存率が86.7%と偽薬群の74.4%を上回るトレンドを示した。

第3相では、肺炎を合併または炎症が亢進した成人の重症COVID-19入院患者582人を組入れて二用量をテストしたが、29日無人工呼吸器装着生存率が有意に改善しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


オブシーバ社、リンザゴリクスの子宮内膜症試験も成功
(2022年1月6日発表)

スイスのObsEva(Nasdaq:OBSV)は、linzagolixの第3相子宮内膜症試験、EDELWEISSの結果を発表した。中重度子宮内膜炎関連疼痛の女性484人を組入れて、75mg一日一回投与と、ホルモン・アドバック・セラピー併用で200mg一日一回投与する用量用法の効果を偽薬と比較した試験で、主評価項目の一つは月経困難症(DYS)改善奏効率、もう一つは非月経骨盤痛(NMPP)改善奏効率。何れも被験者が0から3の4段階で評価し、3ヶ月時点の数値がベースライン比でDYSは1.1以上、NMPPは0.8以上改善したら奏功と判定した。

偽薬、75mg、200mgのDYS奏効率は各群24%、43%、73%となり、二群とも偽薬比p<0.001だった。一方、NMPP奏効率は各群31%、39%、47%となり、200mgのみp=0.007で有意だった。

忍容性は概ね良好。紅潮の発現率は各群2.5%、7.5%、6.8%だった。骨密度影響は、両用法とも腰椎BMDが6ヶ月時点で0.8%前後の低下に留まった。

linzagolixはキッセイ薬品から導入した非ペプチド系GnRH受容体アンタゴニスト。子宮筋腫の月経過多治療薬として欧米で承認申請中。この種の薬は欧米ではエストロゲン及びプロゲスチンを併用して副作用を緩和するホルモン・アドバック・セラピーが広く用いられているが、linzagolixは子宮筋腫に関しては単剤でも有効であることが特徴(子宮筋腫試験では75mgではなく100mgを採用)。

リンク: オブシーバのプレスリリース



第3相ATTR-CM試験、最初の解析はフェール
(2021年12月27日発表)

BridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)は、acoramidisの第3相ATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)試験でパートAにおける主目的を達成できなかった。NYHAクラスI-IIの患者632人を試験薬群(800mg一日二回経口投与)と偽薬群に2対1無作為化割付して、12ヶ月後の6分歩行テスト値の低下を比較したところ、各群平均9メートルと7メートルとなり、p=0.76だった。パートBでは通算30ヶ月間追跡して心血管関連入院や死亡のリスクを比較する予定。

acoramidisはファイザーのVyndaqel(tafamidas)と同様にトランスサイレチンを安定化させ、アミロイドーシスの進行を抑制する。スタンフォード大学からライセンス。日本ではアレクシオンがライセンス、昨年、ブリッジング試験を開始した。

パートAの敗因は不明だが、偽薬群の低下が小さいことが印象的。Vyndaqelの試験では12ヶ月時点で60メートル程度低下していた。BridgeBioによると、年7メートルというのは通常の高齢者の低下と大差ない。Vyndaqelの試験と比べてトランスサイレチン遺伝子変異を持つ患者や米国患者の比率が低いことが何らかの影響を及ぼしたのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


アッヴィ、リンヴォックをnr-axSpaに適応拡大申請
(2022年1月7日発表)

アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)をnr-axSpA(X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)に用いる適応拡大を欧米で承認申請したと発表した。NSAIDsに十分に反応しない患者に15mgを一日一回経口投与を想定している。

nr-axSpAは強直性脊椎炎(AS)に類似した疾患で同様な治療が行われている。Rinvoqは日欧米で中重度のリウマチ性関節炎/乾癬性関節炎に承認されていて、日欧ではアトピー性皮膚炎、欧州ではASにも承認されている。

FDAはJAK阻害剤の副作用に強い警戒感を持っており、適応拡大が遅れている。バイオ薬が承認されている疾患に関してはバイオ薬優先と考えており、アッヴィは、ASに関して、バイオ薬不応不耐患者の試験結果を提出した。

リンク: 同社のプレスリリース



JNJ、BCMA・CD3二重特異性抗体を承認申請
(2021年12月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ヤンセンがJNJ-7957(teclistamab)をFDAに承認申請したと発表した。ジェンマブ社のDUOBODY技術を用いて開発した、BCMA(B細胞成熟抗原)とCD3に結合する二重特異性抗体で、難治再発性多発骨髄腫に用いる。第2相と第1相試験では、免疫調停薬とプロテアーゼ阻害剤及び抗CD38抗体による治療歴を持つ患者に1.5mg/kgを投与したところ、ORR(客観的反応率)が62%だった。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


クッシング症候群治療薬が承認
(2021年12月30日発表)

米国シカゴのXeris Biopharma(Nasdaq:XERS)はFDAがRecorlev(levoketoconazole)を承認したと発表した。アゾール系経口抗真菌薬の先駆けであるketoconazokeの2S, 4R異性体で、コルチゾール合成阻害作用を利用して、クッシング症候群の成人患者の手術不応不適な内因性高コルチゾール血症の治療に用いる。150mg一日二回経口投与で開始して最大で600mg一日二回まで、150mg/日ずつ、毎回2~3週間以上離して、漸増する。

ラセミ体と本剤に関する重度肝毒性と、用量依存的なQT延長リスクが枠付警告された。

21年10月にStrongbridge Biopharmaを買収して入手したパイプライン。

リンク: 同社のプレスリリース



LEO、抗IL-13抗体がアトピーに米国でも承認
(2021年12月28日発表)

皮膚病薬を展開するデンマークのLEO Pharmaは、Adbry(tralokinumab-ldrm)が米国でアトピー性皮膚炎治療薬として承認されたと発表した。IL-13を標的とするIgG4抗体で、局所治療薬に十分反応しない、または不適な、成人の中重度アトピー性皮膚炎に用いる。150mgの針付きプリフィル用シリンジを初回は4本、その後は2週毎に2本を皮注する。体重100kg未満で16週の治療後にIGA0/1(病変部位がクリアまたはほぼクリアに)達成なら間隔を4週毎に広げることも可。モノセラピーの第3相試験二本ではIGA0/1達成率が2割前後(偽薬は1割前後)、局所製剤に追加した試験では39%(同26%)だった。警告注意事項は結膜炎と角膜炎、寄生虫感染症、生ワクチン回避など。

EUでは6月にAdtralza名で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【医薬品の安全性】


PRAC、オルメサルタンの有害事象に自己免疫性肝炎を追加
(2022年1月6日発表)

EMAの市販後薬物監視委員会であるPRACは、olmesartan配合剤のSPC(製品特徴要旨;レーベル)の一部変更をメーカーに要求した。薬物関係の可能性がある有害事象として自己免疫性肝炎を追加するもの。頻度は不明、発症は数ヶ月から数年後と遅く、服用を止めれば可逆的とのことだ。

olmesartanは第一三共が創製したARBで高血圧症の治療などに用いられる。02~04年に米独英日などで発売された。稀な遅発性免疫反応関連有害事象としてはスプルー様腸疾患が知られているが、自己免疫性肝炎は最初の症例報告が17年ごろと、比較的新しい知見だ。PRACは文献情報に加えて欧州の有害事象報告システムであるEudraVigilanceのデータも考慮した上で今回の結論を出した。米国のレーベルには記されていない。

リンク: PRACの推奨(21年11~12月会議決定分、pdfファイル)





今週は以上です。