2021年9月24日

第1018回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 高リスク限定でコミナティの三回目接種がEUA 
  • コミナティを5~11歳にも申請へ 
  • JNJ、一回投与型ワクチンの二回接種試験が成功 
  • ベクルリーの外来治療試験が成功 
  • その他の領域: 
  • アステラス、更年期障害用新薬の第3相結果を発表 
  • ESMO:キイトルーダのTNBC一次治療試験、全生存期間の解析も成功 
  • ブルーバード、ベータ・サラセミアの遺伝子治療を米国でも承認申請 
  • BMS、抗LAG-3抗体合剤を承認申請 
  • スキリージをクローン病に承認申請 
  • リズム社、MC4Rアゴニストをバルデー・ビードル症候群などに適応拡大申請 
  • 伝染性軟属腫治療薬の承認がCMO問題により遅延 
  • インサイト、JAK阻害剤の局所用新製剤がアトピーに承認 
  • ジャカビが慢性の移植片対宿主病に適応拡大 
  • 抗TF抗体薬物複合体が子宮頸癌二次治療に承認 
  • カボメティクスが分化甲状腺癌に適応拡大 




【COVID-19関連】


高リスク限定でコミナティの三回目接種がEUA
(2021年9月22日発表)

バイデン米国大統領は9月20日の週からCOVID-19ワクチンのブースター接種を開始する考えだったが、FDAはBioNTech/ファイザーのComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)の三回目接種を一部の人にしかEUA(非常時使用認可)しなかった。両社は16歳以上の全人口を対象にEUAではなく正式な承認を求めていた。Modernaのワクチンは申請/審査手続きが終わっておらず、政府の構想は大きく後退した。

Comirnatyの現在の適応をまとめると、16歳以上に21日置いて二回のプライマリー接種は正式承認、12~15歳はEUA。臓器移植レシピエントなど免疫不全に二回目の28日後に三回目のプライマリー接種はEUA。そして、今回、以下の人たちに二回目から少なくとも6ヶ月置いてブースター接種を行うことがEUAされた。

・65歳以上
・18~64歳で重症COVID-19感染症のリスクが高い人
・18~64歳で施設内/職業的曝露により重症感染症などの深刻合併症リスクが高い人(介護施設入居者/従事者や医療従事者など)

VRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)の判断を踏襲した格好だ。(米国大統領は学術会議会員を選定する権限を持っていないのかな。いい国だな)

リンク: Cimirnatyの医療従事者向け文書



コミナティを5~11歳にも申請へ
(2021年9月20日発表)

BioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーは、5~11歳におけるCOVID-19ワクチンComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)の免疫原性や安全性を確認した試験がポジティブな結果になったと発表した。4500人級の大規模小児試験の、当該年齢を組入れた第2/3相コフォートの解析で、10mcgを3週置いて二回接種したところ、GMT(幾何平均抗体価)が1,197と、30mcgを3週置いて二回接種した16~25歳の外部対照群の1,146と非劣性だった。副作用も同様だった。米国はEUA、EUは条件付き承認、などを申請する予定。

2~5歳と6ヶ月~2歳のコフォート(どちらも3mcgを3週置いて二回接種)も進行中で年内に結果が出る見込み。

COVID-19ワクチンは接種者の感染リスクや感染入院リスクを削減するが、他人にうつすリスクが減るかどうかは判然としない。海外では接種が進むにつれて行動規制が緩和され、マスクを外すことも容認されるようになったが、もし、自分は感染しても発症しないが他人にはうつす人たちが活発に行動するようになったら、接種していない人のリスクが高まってしまう。規制緩和に乗じて非接種なのにマスクを外す人もいるだろう。多様性を尊重しなければならない時代なので自業自得ではなく自己リスクと表現せざるを得ないが、子供や已むを得ない理由で接種できない人達には手を差し伸べなければならない。

リンク: 同社のプレスリリース



JNJ、一回投与型ワクチンの二回接種試験が成功
(2021年9月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはアデノウィルス26型をベクターとするCOVID-19ワクチンを開発、今年2月に米国でEUA(非常時使用認可)、3月にEUで条件付き承認を得ている。同社は接種回数を一回に留めて第3相を行ったが、英国政府などの要請に応じて二回接種を検討したENSEMBLE 2試験も成功したことが発表された。ワクチン効率や抗体価は一回接種試験のデータより良好だ。

この試験は、一回接種のENSEMBLE試験と同様に18歳以上の健常者を組入れて、8週置いて二回接種する効果を偽薬二回と比較した。目標組入れ数はClinicalTrials.govによると3万人。メジアン追跡期間は二回接種完了後36日間で、一回投与試験やmRNAワクチンの第3相試験の約2ヶ月間と比べても短い。

JNJの試験は中等症以上の感染症だけに絞り込んで評価しているのが特徴。ワクチン効率は75%と一回投与試験の67%より上向いた。米国だけのデータは各94%と74%。但し、直接比較試験ではないので、流行株や被験者の行動態様など第3の因子が影響している可能性もある。

抗体価は一回目の接種の後と比べて4~6倍に高まり、8週ではなく6ヶ月後に接種した症例では12倍に上昇したとのこと。ワクチン効率とどのように相関するのかはプレスリリースには記されていない。最近の重要なテーマであるデルタ株に関する分析も記されていない。

一回接種と二期接種

ENSEMBLE 1ENEMBLE 2
被験者数約4万人約3万人
接種日第1日第1日と第57日
メジアン追跡期間:8週間5週間
ワクチン効率(2週後以降):
中等症以上の感染症67%75%
(米国)(74%)(94%)
(海外)(61%)(75%)
注:一回接種はFDA諮問委員会用資料、二回接種は下記プレスリリースのデータを採用(但し、一回接種の海外データは南アフリカとラテンアメリカのデータから算出)。

リンク: 同社のプレスリリース



ベクルリーの外来治療試験が成功
(2021年9月22日発表)

ギリアド・サイエンシズはVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)の第3相非入院治療試験が成功したと発表した。効果は抗SARS-CoV-2抗体と大きな差がないように感じられるが、一回ではなく三回点滴静注なので、外来治療にせよ往診治療にせよ、ロジスティクスが不便だ。22年に経口剤の治験許可申請を行う予定。

このPINETREE試験は発症から7日以内、診断から4日以内に治療を着手できる外来患者1264人を組入れる予定だったが、抗SARS-CoV-2抗体の登場などにより、今年4月に組入れを繰上げ終了し、既組入れの562人で二重盲検試験を行った。初日は負荷用量で200mg、2日目と3日目は100mgを一日一回投与した(承認用法は5~10日間連続投与)。

主評価項目の28日間のCOVID-19関連入院/全死亡リスクは、試験薬群は0.7%、偽薬群は5.3%、ハザードレシオ0.13、p=0.008となった。両群とも死亡者はゼロ。安全性は過去の試験と同様だった由。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


アステラス、更年期障害用新薬の第3相結果を発表
(2021年9月22日発表)

アステラス製薬は、NK3受容体拮抗剤fezolinetantの第3相更年期障害試験の結果をNAMS(北米閉経学会)で発表した。閉経に伴う中重度VMS(血管運動神経症状)の患者を偽薬、30mg、または45mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付して、両用量の第4週と第12週の発症頻度と重症度という8つの主評価項目を検討した欲張りな試験で、今年2月に二本とも全主評価項目が成功したことが発表されているが、今回、約500人を組入れたSKYLIGHT 2試験のデータが公表された。

まず、30mgと45mgの各群の中重度VMS平均頻度(ベースライン値は11.5/日)は、4週時点で偽薬群より各1.82と2.55多く改善、12週時点では各1.86と2.53多く改善した。何れもp≦0.001。尚、学会抄録によると偽薬群は4週時点で3.5、12週時点では4.8改善しており、偽薬効果が治療効果と比べてもかなり大きいことが窺われる。

同様に、平均重症度(ベースライン値は2.42)は4週時点で各0.15と0.29多く改善、12週時点でも0.16と0.29改善した。45mg群はp≦0.001だが30mg群はp≦0.021とp=0.049なので、有意性はそれほど高くはない。尚、偽薬群は0.3と0.46改善しており、ここでも偽薬効果がかなり大きかった。。

統計解析の厳格性という点で私が敬意を持っているのはMSDとエーザイだ。一方、直接比較試験で複数の副次的評価項目の非劣性検定と優劣性検定を行い、一つでも後者が成功したら大々的に喧伝する製薬会社もある。今回の試験は主評価項目なのでデータ自体は信頼性が高いと推測されるが、多重性の補正をどのように行ったのか、明らかではない。学会抄録にはunajusted pと記されているが、何を調整していないのか、調整後pはいつ公表されるのか、記されていない。

SKYLIGHT 1試験のデータは別途発表されるのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース(和文)



ESMO:キイトルーダのTNBC一次治療試験、全生存期間の解析も成功
(2021年9月19日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相KEYNOTE-355試験の共同主評価項目である全生存期間の解析が成功したと発表した。切除不能/転移トリプル・ネガティブ乳癌の一次治療として、paclitaxelまたはnab-paclitaxel乃至はcarboplatin・gemcitabine併用レジメンに追加する効果を偽薬追加群と比較した試験で、もう一つの評価項目であるPFS(無進行生存期間、独立盲検評価)は、昨年、PD-L1高発現(CPS≧10)のサブグループに関して成功したことが発表されている。今回も同じサブグループで全生存期間ハザードレシオが0.73、p=0.0093、メジアン値は23ヶ月対16.1ヶ月と7ヶ月程度の延命効果が見られた。併用薬毎の解析でも大きな食い違いはなかったようだ。

Keytrudaは本試験のPFSデータに基づき昨年米国で加速承認され、ネオアジュバント試験の成功により今年7月、本承認に切り替わった。日本では先月承認、EUでは今月、CHMPで肯定的意見を得たところ。従って、今回の発表で適応が新たに増える訳ではないが、延命効果が確認されなかった抗PD-1/PD-L1抗体も存在するので、きちっとしたエビデンスができたことは一安心だ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


ブルーバード、ベータ・サラセミアの遺伝子治療を米国でも承認申請
(2021年9月21日発表)

bluebird bio(Nasdaq:BLUE)は、 betibeglogene autotemcel(通称beti-cel)の米国におけるローリング承認申請を完了したと発表した。目標適応症は成人青少年の輸血に依存するベータ・サラセミア。

この疾患はベータ・グロブリンの遺伝子異常によりヘモグロビンが不足又は欠乏する重症遺伝子疾患。世界で28万人が罹患と推測されている。治療は同種幹細胞移植が有効だが適合するドナーが見つかるとは限らない。beti-celは自己不活化レンチウイルスにベータ・グロブリン遺伝子を組入れたin vivo遺伝子療法。臨床試験では19人中15人が輸血不要になり、19年にEUで条件付き承認された。EUの適応は、12歳以上の輸血依存ベータセラサミアで造血幹細胞移植が適応になるがマッチするドナーがいない患者。ヘモグロビンを殆ど作れないベータ0/ベータ0遺伝子型は適応外となったが、米国での申請は限定していないようだ。

レンチウイルスはRNAウイルスで、逆転写によりDNAが生成され、ウイルスインテグラーゼにより宿主ゲノムに挿入される。分裂していない細胞のゲノムにも入ることができる。被験者のうち数人が血液癌を発症したため一時的に治験停止となったが、ゲノム解析の結果、変なところにウイルスの遺伝子が組み込まれたことが原因ではないことが示唆された。

リンク: 同社のプレスリリース



BMS、抗LAG-3抗体合剤を承認申請
(2021年9月20日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、抗LAG-3抗体BMS-986016(relatlimab)と抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)の固定用量合剤(FDC)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年3月19日。12歳以上かつ体重40kg以上の切除不能/転移黒色腫に用いることを想定している。

第2/3相RELATIVITY-047試験では、未治療患者714人をFDCとOpdivoに無作為化割付してOpdivoは480mg、relatlimabは160mgを4週毎点滴静注したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.75、p=0.0055、メジアン値は各10.1ヶ月と4.6ヶ月だった。G3/4の治療関連有害事象発生率は各18.9%と9.7%、G5は3人と2人、治療関連有害事象による治験離脱率は14.6%と6.7%だった。

抗LAG-3抗体はイフェクターT細胞や制御的T細胞が発現する免疫チェックポイント受容体をブロックする。抗PD-1抗体は様々なチェックポイント阻害剤と併用試験が行われているが、最も有望なパートナーの一つと考えられていた。

リンク: BMSのプレスリリース



スキリージをクローン病に承認申請
(2021年9月20日発表)

アッヴィはSkyrizi(risankizumab-rzaa、和名スキリージ)を16歳以上の中重度潰瘍性大腸炎の寛解導入や寛解維持に用いる適応拡大をFDAに申請した。第3相寛解導入試験二本では、偽薬、600mg、または1200mgを点滴静注した各群の臨床的寛解率(CDAI基準)が一本は25%、45%、42%、もう一本は19%、42%、41%となり、二用量とも偽薬比有意だった。寛解導入試験の試験薬群の患者を偽薬、180mg、または360mgを皮注する群に無作為化割付したした第52週寛解維持試験(離脱試験)は臨床的寛解率が各41%、55%、52%となり、二用量とも偽薬比有意だった。但し、180mgはEUの要求に応じて設定した主評価項目がフェールした。そのせいか、寛解導入は600mg、維持は360mgを申請した。

Skyriziは抗IL-23p19抗体。日米欧で乾癬治療薬として承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース



リズム社、MC4Rアゴニストをバルデー・ビードル症候群などに適応拡大申請
(2021年9月20日発表)

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)は、Imcivree(setmelanotide)を6歳以上のバルデー・ビードル症候群(BBS)やアルストレム症候群(AS)の肥満症や食欲抑制に用いる適応拡大をFDAに申請した。EUでも第4四半期に申請予定。

Imcivreeはメラノコルチン4受容体(MC4R)アゴニスト。過去の開発品と異なり血圧上昇リスクが見られない。2010年にイプセンから世界市場での権利をライセンス、2020年に米国でPOMC、PCSK1、またはレプチン受容体の欠乏による6歳以上の肥満症の治療薬として米国で承認され、翌年、EUでも承認された。

今回の二疾患も希少遺伝子疾患で、網膜色素変性症、難聴、肥満などを伴う。第3相試験はBBS患者32人とAS患者6人を組入れて一日一回皮注したところ、主評価項目である12歳以上のサブグループにおける10%以上の減量を、BBSでは28人中11人が達成、ASでは3人とも達成できなかった。治療時発現有害事象は注射箇所反応や悪心嘔吐など。

今回の目標適応である6歳以上の集団におけるデータやASにおける便益の裏付けとなるデータは未公表。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


伝染性軟属腫治療薬の承認がCMO問題により遅延
(2021年9月30日発表)

Verrica Pharmaceuticals(Nasdaq:VRCA)はVP-102(cantharidin局所用液)を伝染性軟属腫治療薬として承認申請したが、第2巡も審査完了となった。昨年の審査完了通知ではCMC(化学・製造・管理)における欠陥や、患者がアプリケータを正しく使えるか十分に検討していないことなどが指摘されていたが、今回は、製造委託先の、VP-102の製造とは直接関係のない、体制不備がネックだったようだ。Verricaによると、当該委託先は30事業日内の問題解決を計画しているとのことだが、製造問題はしばしば長引くので油断はできない。

伝染性軟属腫は皮膚に蝋または真珠のような丘疹ができる。米国で推定600万人が罹患、多くは小児。カンタリジンはある種の昆虫が持つ成分で、皮膚に水疱を起こすため、再生が促がされる。日本で承認されていたこともあるようだ。VP-102は新開発の使い捨てアプリケータを用いて投与する。日本は今年3月に鳥居薬品がライセンスした。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


インサイト、JAK阻害剤の局所用新製剤がアトピーに承認
(2021年9月21日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、FDAがOpzelura(ruxolitinib)をアトピー性皮膚炎の治療薬として承認したと発表した。骨髄異形成症候群などの治療薬として承認されているJakafi(和名ジャカビ)の活性成分をクリーム化した新製剤で、適応になるのは、12歳以上で、局所性処方薬に十分応答しないまたは不適の、免疫不全ではない、軽中度アトピー性皮膚炎。常用ではなく、間歇的な慢性使用または短期間使用する。

JAK阻害剤のクラス・ウォーニングである以下の有害事象が枠組み警告された。
・入院や死亡の可能性もある深刻感染症
・炎症性疾患の治療に用いると全死亡や主要有害心臓イベントが増加したり、リンパ腫などの腫瘍や深刻で命に係わることもある血栓症が発生することがある

Opzeluraの臨床試験では顕著なリスクは見られなかったが、長期安全性確認試験は実施されていないので、良く分からない。

局所性製剤にすることで全身性曝露をどの程度抑えられたのだろうか?レーベルによると、成人小児患者41人のPK試験(一回用量は1.2~37.6g、一日二回、28日間投与)で初日のCmax(最高血中濃度)は平均449nM、AUC0-12(投与後12時間の血中濃度の曲線下面積)は平均3215nM時だった。反復投与しても蓄積は見られなかった。用量は患部の面積に応じて変動するが、一週間の累積用量を60g(チューブ一本分)以下に抑えるよう注意書きがあるので、これらの数値を過小評価と考える必要はないだろう。

一方、JakafiのPK試験(5~200mgを一回投与)ではCmaxが205~7100nM、AUCは862~30700nM時のレンジだった。用量とCmax、AUCは相関したとのことなので、Opzeluraの全身性曝露はJakafiの推奨開始用量レンジである5~20mgと大差なさそうだ。

さて、FDAはJAK阻害剤の上記リスクを懸念、数多くの新薬や適応拡大の承認審査が遅延していたが、遂に流れ出したと推測される。承認されている用途ほど深刻ではない疾患であるように感じられるアトピーで承認されたことは他社のJAK阻害剤にもポジティブだろう。

ところで、アトピー性皮膚炎の新薬として人気を集めたカルシニューリン阻害剤に発癌性が確認された15年ほど前の事件の記憶はどの程度残っているだろうか。

リンク: 同社のプレスリリース



ジャカビが慢性の移植片対宿主病に適応拡大
(2021年9月22日発表)

FDAはインサイト(Nasdaq:INCY)のJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)を慢性のステロイド不応GvHD(移植片対宿主病)に用いる適応拡大を承認した。12歳以上で1~2種類の全身性治療がフェールした患者が適応になる。臨床試験では、24週間のORR(客観的反応率)が70%と最良既存療法の57%を上回った。メジアン反応持続期間は各4.2ヶ月と2.1ヶ月だった。Jakafiを投与した230人中5人が中毒性表皮壊死症や好中球減少症、貧血、且つ又血栓性血小板減少症の有害事象により死亡した。

JakafiはJAK1/2阻害剤で骨髄線維症などの治療に用いられている。造血幹細胞移植などの合併症で移植された細胞がレシピエントの組織を攻撃するGvHDでは、急性型に用いることが米国では19年に承認されている。急性は移植後100日以内、慢性は100日以降に発症することが多いようだ。急性の開始用量は5mg一日二回だが慢性は10mg一日二回。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: インサイトのプレスリリース



抗TF抗体薬物複合体が子宮頸癌二次治療に承認
(2021年9月20日発表)

デンマークのジェンマブ(Nasdaq:GMAB)と共同開発販売パートナーのSeagen(Nasdaq:SGEN)は、FDAがTivdak(tisotumab vedotin-tftv)を治療歴のある難治転移子宮頸癌用薬として加速承認したと発表した。白金薬レジメンなど1~2次治療歴を持つ患者101人を組入れて、2mg/kg(最大200mg)を3週毎に30分点滴静注した第2相試験で、確認ORR(客観的反応率、独立評価委員会)が24%、メジアン反応持続期間は8.3ヶ月だった。直接比較試験ではないが、ORRの数値はMSDのKeytruda(pembrolizumab)より高い。

枠組み警告は角膜上皮や結膜の障害。深刻な視力低下を招く可能性もある。上記試験では眼球表面の活性期疾患や瘢痕性結膜炎、スティーブンス・ジョンソン症候群、G2以上の末梢神経症、凝固障害による高出血リスクは除外条件だった。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース(9/21付)



カボメティクスが分化甲状腺癌に適応拡大
(2021年9月17日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)は、Cabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)を分化甲状腺癌に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。12歳以上で他のVEGFR阻害剤による治療歴を持ち放射線ヨウ素に抵抗性または不適の局所進行性/転移分化甲状腺癌が適応になる。

60mgを一日一回経口投与した第3相試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立放射線学委員会評価)がメジアン11.0ヶ月と偽薬群の1.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.22、p値は0.0001を下回った。

Cabometyxは腎臓や肝臓の癌にも承認されている。甲状腺癌では、錠剤ではなくカプセル剤のCometriqが進行/転移甲状腺髄様腫に承認されている。日本では武田薬品がライセンス、根治切除不能または転移性の腎細胞腫に単剤またはオプジーボ(ニボルマブ)と併用することが承認されている。

リンク: Exelixisのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース(9/22付)





今週は以上です。

2021年9月19日

第1017回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • FDA諮問委員会、バイデン政権のブースター接種計画に反対 
  • リリーの抗SARS-CoV-2抗体も暴露後予防にEUA 
  • その他の領域: 
  • ESMO:エンハンスト・ハーツーの好成績が続々披露 
  • ESMO:キイトルーダの黒色腫補助療法と子宮頸癌一次治療データ 
  • アステラスの遺伝子療法で4人目の死亡者 
  • リンヴォックを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請 
  • 百済神州、抗PD-1抗体を米国で承認申請 
  • CHMP、抗癌剤などの承認に肯定的意見 
  • 武田、Ariadの第3の医薬品が承認 
  • 百済神州、BTK阻害剤が米国で適応拡大 


【COVID-19関連】


FDA諮問委員会、バイデン政権のブースター接種計画に反対
(2021年9月17日発表)

FDAはVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)を招集し、BioNTech(Nasdaq:BNTX)がファイザーと共同で承認申請した、COVID-19ワクチンComirnaty(tozinameran)のブースター・ショットの便益と危険について意見を聞いた。ファイザーは二回接種を終えてから6ヶ月以上経った16歳以上の全人口を適応とする考えだったが、16対2の圧倒的多数が反対した。一方、65歳以上の高齢者と感染したら重症化するリスクのある人(基礎疾患のある人など)に関しては、全員が賛成した。公式な採決ではないが、後者に医療従事者のような感染リスク自体が高い人を含めることも支持された。

バイデン政権は9月20日の週から接種完了後9ヶ月経った人のCOVID-19ワクチンのブースター接種を開始する予定だが、FDAの中には否定的な意見も多いようで、この件が引き金になったのかトランプ大統領時代の政策のせいなのかは分からないが、ワクチンを担当するCBERの高官二名が退職を決めたという。この諮問委員会にも影を落としており、通常は一週間前に委員用ブリーフィング資料と共に公表される諮問事項が、直前になって一つ公表されただけだった。ファイザーのブースター接種の投与実績は数百人とワクチンとしては少なく、低年齢や高齢者は特に少なかったので、この質問にYesと答えるのは困難であり、クリーブランド・クリニック時代から一部製薬会社のスタンスを厳しく批判し続けているScripps ResearchのEric Topol博士の言葉を借りれば、フェールすべくしてフェールした。

ファイザーの申請内容に即して議論するのは当然だが、FDAは範囲を狭めたり広げたりすることがしばしばある。65歳以上の高齢者や基礎疾患を持つ人に限定した第二の諮問事項は、通常なら、一週間前に開示されていたはずだ。議論をall or nothingに誘導して承認申請を潰すことを企図した勢力が存在するのだろう。

ブースター接種の必要性に関するエビデンスは、今のところ、前向き臨床試験のエビデンスはそれほどでもなく、ワクチン効率は経時的に減衰するが酷く低下する訳ではなく、重症感染を減らす効果はかなり維持されている。抗体価の推移の研究でも大きな低下はまだ見られない。一方、イスラエルの研究を始めとする後顧的疫学試験の幾つかでは、特にデルタ株が主流になった後に、効果の顕著な低下が示唆された。今すぐブースターが必要なのか、それとも早計なのかは、どちらを信じるかによって大きく変わる。

イスラエルの研究については、ブリストル大学の研究者のプレゼンの中で、群間の観察期間の違いを調整し人年ベースで比較すればNew England Jounal of Medicine誌に刊行されたデータほど悪い数値にはならないと指摘したと報じられている。このような交通整理をもっと沢山、行ってほしいものだ。

ブースター接種に反対する人たちの主要な論拠の一つはワクチンの需給が逼迫し低所得国での普及が妨げられる懸念があることだが、諮問委員会会長は、この点を考慮しないよう委員に念を押した。委員会の役割を考えれば当然だろう。

諮問委員会を経てFDAがどのような結論を出すのか、極めて不透明な状況にある。組織である以上、上層部の判断には従わなければならないが、政府にしたって、対象年齢を何歳からにするかはFDAの意見を聞く考えだし、接種完了の8ヶ月後というタイミングは、前回書いたように、腰だめで強固なエビデンスがあるわけではないのだから、当面は65歳以上かつまた感染・重症化高リスクに限定するような譲歩の余地もありそうだ。

尚、この承認申請は正式なsBLAだが、FDAはEUA(非常時使用認可)の是非を諮問した。

リンク: ファイザーのプレスリリース



リリーの抗SARS-CoV-2抗体も暴露後予防にEUA
(2021年9月16日発表)

FDAは、イーライリリーがカナダのAbCellera Biologicsや中国のJunshi Biosciencesから夫々ライセンスして開発した二種類の抗SARS-CoV2抗体、bamlanivimabとetesevimabを併用で、COVID-19感染者と濃厚接触した人の曝露後予防に用いることをEUA(非常時使用認可)した。リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)も7月に同内容のEUAを得ている。尚、曝露後予防はワクチン接種の代替になるものではないことをFDAは強調している。

適応になるのは、以下の条件をすべて満たす人だ。

・12歳以上且つ体重40kg以上
・COVID-19感染者と濃厚接触した、または同じ施設(介護施設や刑務所など)に入居している
・感染した時の重症化(入院や死亡を含む)リスクが高い
・ワクチン接種を完了していない、または、完了しているが十分な免疫を期待できない(免疫低下を伴う持病や免疫抑制剤治療中)

濃厚接触はCDC(米国疾病管理予防センター)基準により、感染者から6フィート(約1.8m)以内の場所に、24時間の中で合計15分以上、過ごした人。日本基準より厳しい。映画館やスタジアムの席は一席毎に座っても日本の基準を満たせないが、米国基準は2席ずつ空けても充足できず、前後の席も空けなければならないだろうから、かなり厳しい。

薬効のエビデンスはbamlanivimabだけを投与した臨床試験の高リスク・サブグループ分析。一回投与後8週間の症候性感染が偽薬群より7割少なかった。エビデンスのないetesevimab併用だけをEUAしたのは、bamlanivimab単剤はエプシロン株(カリフォルニア型変異)やB.1.525変異(ニューヨーク型)、ベータ株(南ア型)やガンマ株(ブラジル/日本型)の感受性が低く、イーライリリーが治療に関するEUAを返上した経緯があるからだろう。併用してもベータ株やガンマ株には有効性が期待できないが、デルタ株が席巻している現状では大きな問題ではなさそうだ。

よくわからないのがワクチン接種完了者を原則適応外とした根拠。ワクチンが予防してくれるはずだから不要、というだけの理由なのか、それとも、臨床試験の裏付けがあるのだろうか。治療試験では、感染して自力で抗体を作れた患者には効果が見られなかった。適応外になっていないのは、おそらく、事前抗体検査を義務付けると治療開始が遅れ、そうでなくても狭いセラプティック・ウインドウが更に狭くなってしまう懸念があるからだろう。曝露後予防は、予防というよりは感染が確認される前の段階で見込みで治療を開始するようなものなので、ワクチンや自力で抗体を獲得できた人には無効でも不思議はなく、ワクチン接種歴によるスクリーニングは手間暇がかからないので、適応に含めたのかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース


【新薬開発】


ESMO:エンハンスト・ハーツーの好成績が続々披露
(2021年9月18日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で、抗he2抗体・薬物複合体のEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki、和名エンハーツ)の乳癌、肺癌、胃癌試験の成績を発表した。何れも良好だが特にロシュの同様な抗体薬物複合体であるKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)との直接比較で大きな差を付けたのが印象的。

第3相DESTINY-Breast03試験はher2陽性切除不能/転移乳癌でtrastuzumabとタクサン系抗癌剤による治療歴を持つ患者を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)をKadcylaと比較した。結果はハザードレシオ0.28(95%信頼区間0.22-0.37)となり、Enhertu群はメジアン未達だが、治験医評価ではハザードレシオ0.26、メジアン25.1ヶ月、対照群は7.2ヶ月と1年以上の差を付けた。

副次的評価項目である全生存期間の解析は未成熟だが、ハザードレシオ0.56、p=0.007、1年生存率は94.1%対85.9%と少なくとも今のところ、良さそうな数値が出ている。Enhertuは過去の試験で間質性肺疾患/肺臓炎(以下、ILD/P)のリスクが散見されたが、この試験では治療関連と見なされるG4以上の症例は発生しなかった。尚、Enhertuの多くの試験ではILD/Pでステロイド治療を受けたことのある患者や、現在ILD/Pであることが否定できない患者を除外している。

EnhertuはKadcylaの次に使う3次治療薬として承認されているが、2次治療ステップアップの目途がついた。また、本試験は米国で加速承認された時の市販後コミットメントなので、3次治療が本承認に切り替わるだろう。一方、欧州の市販後コミットメントは条件付き承認と同じ3次治療のDESTINY-Breast02試験であるようだ。

第2相DESTINY-Lung01試験のアップデートも行われた。治療歴のある非小細胞性肺癌に5.4mg/kgではなく6.4mg/kgを投与した試験のher2変異型コフォートに関するもので、確認ORR(客観的反応率、独立中央評価、n=91)は54.9%、メジアン反応持続期間は9.3ヶ月だった。G3以上の有害事象発現率は46%、薬物関連ILD/PはG3が一人、G5(致死的)が二人だった。

非小細胞性肺癌は様々なメカニズムの寄せ集めで、EGFR、ALK、ROSなどにおける、頻度は1割あるかないかだが腫瘍化に大きく関わるドライバー変異を標的とする薬が実用化されている。her2変異型の頻度は2~4%なので、上記変異と同様に検査しても該当しない確率のほうがはるかに高いが、該当者には新しい選択肢が現れそうだ。

第2相DESTINY-Gastric02試験はher2陽性の切除不能/転移性胃・胃食道接合部腺腫でtrastuzumabレジメンのよる治療歴を持つ患者に6.4mg/kgを投与した。確認ORR(客観的反応率、独立中央評価、n=791)は38%(完全反応率3.8%)、メジアン反応持続期間は8.1ヶ月だった。G5のILD/Pが一例発生した。

余談になるが、第一三共のネーミングは面白く、プラビックスより優れると期待する薬の一般名がプラスグレル、抗her2抗体に従来より多くの細胞毒を結合してハーツ―攻撃力をエンハンスした薬の製品名がエンハーツ。プラスグレルの第2相の学会発表は、プログラムが公表された段階では演題だけでどの薬か分からなかったが、試験名にJumboが付いていたためCS-747と断定できた。

リンク: 両社のプレスリリース(DESTINY-BREAST03)
リンク: 同(DESTINY-Lung01)
リンク: 同(DESTINY-Gastric02)



ESMO:キイトルーダの黒色腫補助療法と子宮頸癌一次治療データ
(2021年9月18日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第3相試験であるKeynote-716とKeynote-826のデータをESMOで発表した。

前者はステージIIの黒色腫の術後アジュバント試験。200mg(12歳以上の小児は2mg/kg)を3週毎に投与しRFS(無再発生存期間)を偽薬と比較したところ、ハザードレシオ0.65、p=0.006となった。G3/4の治療関連有害事象発生率は16.1%、偽薬は4.3%だった。

ステージIIIを組入れた試験でもハザードレシオ0.57と良好な成績を挙げ、19年に米国で適応拡大が承認された。ステージIIも本試験に基づき8月に承認申請され、審査期限は12月4日となっている。

ステージIIIよりIIのほうが予後が良いように聞こえるが、黒色腫に関してはRFSも全生存期間もそれほど大きくは変わらないようだ。それだけに、ステージIIで高リスクな患者の標準療法を確立することが重要なのだろう。

後者の試験は治癒的手術・放射線療法が適応にならない持続・難治・転移子宮頸がんの一次治療として、carboplatinまたはcisplatinをpaclitaxelと併用するレジメン(bevacizumab追加も可)に更にKeytrudaを追加する効果を偽薬追加と比較した。中間解析で全生存期間のハザードレシオが0.67、p<0.001、メジアン値は24.4ヶ月対偽薬群の16.5ヶ月、もう一つの主評価項目であるPFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.65、p<0.001、メジアン値10.8ヶ月対8.2ヶ月と、どちらも成功した。PD-L1発現の有無に関わらず効果があった。G3以上の治療関連有害事象発生率は各68.4%と64.1%だった。

KeytrudaはPD-L1陽性(CPS≧1)子宮頸がんの二次治療薬として米国で承認されているが、一次治療に展開できそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース



アステラスの遺伝子療法で4人目の死亡者
(2021年9月14日発表)

アステラス製薬は、AT132のX染色体連鎖性ミオパチー(XLMTM)試験で、4人目の死者が出たことを公表した。このASPIRO試験は昨年、高量投与例のうち3名で致死的有害事象が発生したためFDAが治験停止を命じた。12月に解除され低量に限定して再開されたが、再開後最初の、そして唯一の患者でも発生したことを考えると、開発続行はかなり難しくなったのではないか。

XLMTMはMTM1遺伝子の変異によりmyotubularinが欠乏、筋力低下や呼吸不全などを発症する重篤な希少神経筋疾患。AT132は20年に30億ドルで買収したAudentes Therapeuticsの開発品で、アデノ随伴ウイルス8型をベクターとしてMTM1遺伝子を導入する。力価アッセイを途中で変えた模様で、高用量は現行の第2世代アッセイでは350兆vg/kg、第1世代アッセイでは300兆vg/kg、低用量は各130兆vg/kgと100兆vg/kgとなる。当初は高用量が至適とされ、これまでに17人に投与された。低用量は7人。

高用量の死亡例は、一人目は敗血症、二人目は進行性肝不全と敗血症、三人目は肝機能不全を経て消化管出血により、死去した。共通点は、この試験は5歳未満が対象だがその中でも比較的年齢が高く、体重も比較的大きく、従って投与量も多く、肝胆疾患既往であること。そこで、低用量を3歳未満に投与する形で今夏、治験が再開された。

今回の死亡例は間歇的な胆汁うっ滞歴があったものの事前の肝超音波や肝機能検査では問題はなかったのに、今月初め、肝機能検査値異常の深刻有害事象を起こしたことが公表された。

アデノ随伴ウイルスの遺伝子療法は高量化傾向が見られ、脊髄性筋萎縮症治療薬として日米欧で承認されているノバルティスのZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)は110兆vg/kg、デュシェンヌ型筋ジストロフィー向けに開発されているサレプタのSRP-9001やSolid BiosciencesのSGT-001は200兆vg/kg、ファイザーのPF-06939926は300兆vg/kgと、100兆越えが珍しくなくなって来た。このうち、SGT-001は霊長類試験で3頭中1頭が臓器不全、豚の試験では3匹すべてがCNS副作用で犠牲となり、19年に二回、高用量が治験停止になったことがある。

FDAは今月、細胞組織遺伝子療法諮問委員会を招集してアデノ随伴ウイルス遺伝子療法の発癌性や肝障害、血栓性微小血管障害などのリスクについて意見を求めた。FDAは、何れも高量投与例で観察されており、また、カプシドだけで治療効果を持たない、いわばドンガラが、関与している可能性もあることを指摘したが、極めて専門的な分野であるためか、明確な結論は出なかったようだ。アステラスをはじめ、遺伝子療法を開発している企業はこのドンガラの量などについて開示を拒否しており、第三者が研究検討できない状態のようである。

人体を潜在的な危険に曝す臨床試験が倫理的に許容されるのは、他の多くの人たちの便益に繋がり得るからだ。暗闇の行軍で前の人が落とし穴に落ちたのに気付かず全滅する事態は何としても回避しなければならない。未知の領域に望む多くの研究者や患者のために、アステラスは原因解明を進め知見を開示すべきである。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


【承認申請】


リンヴォックを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
(2021年9月16日発表)

アッヴィは、Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)を中重度潰瘍性大腸炎の寛解導入と維持に用いる適応拡大を欧米で承認申請した。伝統的治療薬またはバイオ薬に不応不耐な患者に、寛解導入期は45mg、維持期は15mgまたは30mgを一日一回経口投与することを想定している。

8週間の寛解導入試験では、臨床的寛解率が一本は26%(偽薬群は5%)、もう一本は33%(同4%)だった。応答者を偽薬、15mg、30mgに無作為化割付した52週間の維持療法試験では、臨床的寛解率が各群12%、42%、52%だった。

Rinvoqは欧州ではリウマチ性関節炎、感染性関節炎、強直性脊髄炎、そしてアトピー性皮膚炎に承認されているが、米国は副作用懸念からリウマチしか承認されていない。FDAは、JAK阻害剤のファースト・イン・クラスで潰瘍性大腸炎にも承認されているファイザーのXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の市販後安全性確認試験で心臓関連イベントや癌の懸念が浮上したことから、この二剤とイーライリリーのOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)の枠組み警告を強化し、適応を伝統的治療薬だけでなくTNF阻害剤にも不応不耐な患者に限定した。

潰瘍性大腸炎は様々な治療手段におけるJAK阻害剤の位置付けが比較的高いと言われているが、この流れから推測すると、少なくとも米国では会社が想定している適応よりカバレッジが狭まりそうだ。

リンク: アッヴィのプレスリリース



百済神州、抗PD-1抗体を米国で承認申請
(2021年9月13日発表)

BeiGene(Nasdaq:BGNE、HKEX:6160、百済神州)は、BGB-A317(tislelizumab)を米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年7月12日。欧米アジア11ヶ国で全身性治療歴を持つ進行切除不能/転移食道扁平上皮腫の患者512人を組入れたRATIONAL 302試験に基づくもので、メジアン生存期間が8.6ヶ月と化学療法(paclitaxel、docetaxel、またはirinotecan)群の6.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70、p=0.0001だった。PD-L1陽性癌には特に有効で、ハザードレシオ0.54だった。

抗PD-1抗体で、中国では19年に古典ホジキン型リンパ腫で承認されて以降、複数の適応を取得、今回の用途は7月に承認申請が受理された。米国は初申請。米国や日欧市場ではノバルティスが販売する。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、抗癌剤などの承認に肯定的意見
(2021年9月17日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Amivas社のartesunateは成人小児の重症マラリアの初度治療に用いる抗原虫薬。WHOが必須医薬品にリスト・アップしている古くからある薬だが、EUでは未承認だった。米国でも同様で必要な場合はCDC(米国疾病予防管理センター)主導で供給していたが、このために設立されたAmivasが昨年5月に承認を取得、今年3月に発売した。

リンク: EMAのプレスリリース

BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGN、HKEX:6160)のBrukinsa(zanubrutinib)はBTK阻害剤。ワルデンシュトレームマクログロブリン(WM)血症の二次治療(化学免疫療法不適なら一次治療も可)で肯定的意見を得た。米国では19年にマントル細胞腫の二次治療薬として加速承認、今年8月にWM血症に適応拡大した。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュのGavreto(pralsetinib)はRET阻害剤。RET融合陽性の進行非小細胞性肺癌でRET阻害剤歴を持たない成人向けに条件付き承認することが支持された。米国では昨年9月に承認。Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)からライセンス。

リンク: EMAのプレスリリース

Deciphera Pharmaceuticals(Nasdaq:DCPH)のQinlock(ripretinib)はKIT/PDGFRアルファ阻害剤。GIST(消化管間質腫瘍)で3種類のキナーゼ阻害剤による治療歴を持つ患者に支持された。米国では昨年5月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

バイオジェンのVumerity(diroximel fumarate)は成人の再発寛解型多発硬化症用薬。同社のTecfidera(dimethyl fumarate)の類縁体で胃腸副作用が若干改善されている。Alkermesからライセンス、Tecfideraとの生物学的同等性試験に基づいて申請された。米国では19年10月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、グラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体、Nucala (mepolizumab、和名ヌーカラ)の3種類の新用途が支持された。現在は重度難治性好酸球性喘息症(6歳以上)に承認されているが、新たに、再発寛解性または難治性の好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(6歳以上)と好酸球増多症候群(管理不十分な成人、非血液学的原因が特定できない場合に用いる)、そして鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎(全身性ステロイド且つ又手術でも十分に管理できない成人)が追加されることになる。米国では17年から21年7月にかけて逐次承認された。

フェリング・ファーマシューティカルズのGnRH受容体拮抗剤、Firmagon(degarelix、日本ではアステラス製薬のゴナックス)を高リスク局所性または局所進行性のホルモン依存性前立腺癌に放射線療法と併用で、またはその前のネオアジュバント療法として、用いることが支持された。現在の、進行ホルモン依存前立腺癌の治療より早い段階で用いることが可能になる。

ギリアド・サイエンシズがベルギーのGalapagos(Euronext:GLPG)からライセンスして09年に日欧で抗リウマチ薬として承認されたJAK1阻害剤、Jyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)を中重度活性期潰瘍性大腸炎でバイオ薬又は従来療法に反応不十分、反応喪失、または不耐な患者に用いることも支持された。

適応拡大の常連である抗PD-1抗体では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)をPD-L1陽性(CPS≧10)の局所再発性切除不能または転移性のトリプル・ネガティブ乳癌の転移後初治療に化学療法と用いることが支持された。

ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)は、PD-L1陽性(CPS≧5)でher2陰性の進行/転移性胃、胃食道接合部、食道の腺腫の一次治療として白金薬及びfluoropyrimidineと併用することが支持された。米国では4月に承認されたが、PD-L1は不問。

MSDのNoxafil(posaconazole、和名ノクサフィル)は複数の真菌による侵襲性感染症の第二選択薬として承認されているが、侵襲性アスペルギルス症に関しては限定を解除し一次治療に使えるようにすることが支持された。

否定的意見となったのが、ファイザーがイーライリリーとリスク・シェアリング契約を結んで開発した抗ヒトNGF抗体、Raylumis(tanezumab)だ。変形性関節炎に伴う中重度疼痛でNSAIDsやオピオイド系鎮痛剤に不応不耐な成人に承認申請されたが、CHMPは、鎮痛・運動機能改善効果が小さく、NSAIDs対照試験では上回らず、副作用面では急速進行性変形性関節炎や関節置換術のリスクが見られることから、便益や危険を上回らないと判定した。10年前に予想された通りの結果になった。

米国でも承認申請され、昨年12月に審査期限が来たはずだが、音沙汰無いので承認されなかったのだろう。日本では昨年8月に承認申請された。

リンク: EMAのプレスリリース

承認申請が撤回されたのは二件。Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)はLivmarli(maralixibat)を1歳以上のPFIC2(進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型)用薬として承認申請したが、撤回した。CHMPは、25人に13週間投与した単群試験で血中胆汁酸水準が十分に低下しなかったことや、cGMP適合性懸念などから、否定的なスタンスだった。

ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤で、18年にシャイアから、ライセンス元であるファイザーのものも含めた知的資産を取得したもの。胆汁うっ滞を伴う別の希少疾患、アラジール症候群で今年2月に米国で承認申請、EUでもPFIC2と入れ替わりに今月、承認申請された。

リンク: EMAのプレスリリース

Sesen Bio(Nasdaq:SESN)は抗EpCAM抗体フラグメント薬物複合体のoportuzumab monatoを欧米で承認申請していたが、8月に米国で審査完了通知を受領、EUでも申請撤回した。EUでは膀胱癌の治療・再発予防と乳頭癌再発予防で申請されたが、CHMPは、生産プロセスが一本化されていないことや、cGMPや不純物の懸念、臨床試験の対象と目標適応症の不一致、治験デザインの妥当性(途中で変更があったことや主評価項目)、薬効が不十分で安全性データには矛盾も散見されることなど、数多くの懸念を持っていた。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


武田、Ariadの第3の医薬品が承認
(2021年9月16日発表)

武田薬品は、FDAがExkivity(mobocertinib)をEGFRエクソン20挿入変異を持つ成人の転移性非小細胞性肺癌に加速承認したと発表した。40mgカプセル4個を一日一回、経口投与する。

第1/2相試験ではORR(客観的反応率、独立審査委員会評価、n=114)が28%、メジアン反応持続期間は17.5ヶ月と長い。有害事象による治験離脱率は17%で、理由は下痢や悪心など。命に係わるQTc延長(TdPを含む)のリスクがあり、治療開始前と治療中定期的に検査することや、QTc延長作用を持つ薬やCYP3A中強度インヒビターを同時使用しないことなどが枠組み警告されている。FDAはコンパニオン診断薬としてLife TechnologiesのOncomine Dx Target Testも承認した。

EGFRやher2のキナーゼ阻害剤で、EGFRの野生型よりエクソン20挿入変異型に対する力価が高い。17年に54億ドルで買収したAriad PharmaceuticalsがAP32788として開発したもので、米国で12年に承認された慢性骨髄性白血病用薬Iclusig(ponatinib)、17年承認のALK陽性非小細胞性肺癌用薬Alunbrig(brigatinib)に続く第3の医薬品となった。

EGFRエクソン20挿入変異は通常のEGFR阻害剤に抵抗性を持つ。非小細胞性肺癌の1~3%が該当し、米国の対象患者数は3000人、世界では3万人程度と推定されている。ライバルは今年5月に米国で加速承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンのEGFR・MET二重特異性抗体、Rybrevant(amivantamab-vmjw)。こちらの試験は未治療脳転移を持つ患者を除外するなど患者背景が異なり、どちらも対照試験ではないので見比べることしかできないが、ORR(独立審査委員会評価)は40%、メジアン反応持続期間は11.1ヶ月だった。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)
リンク: FDAのプレスリリース



百済神州、BTK阻害剤が米国で適応拡大
(2021年9月15日発表)

BeiGene(Nasdaq:BGNE、HKEX:6160、百済神州)は、FDAがBrukinsa(zanubrutinib)の適応拡大を加速承認したと発表した。BTK阻害剤で19年にマントル細胞腫の二次治療薬として米国で初承認、今年2月にはワルデンシュトレームマクログロブリン血にも承認、そして、今回、成人の再発難治辺縁帯リンパ腫に用いることが認められた。

第2相試験と第1/2相試験でORR(客観的反応率、2014年ルガノ基準、CTベース)が各56%と80%だった。完全反応率はどちらも20%。反応者の各85%と72%は1年以上持続した。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース




今週は以上です。

2021年9月11日

第1016回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • Humanigen、抗GM-CSF抗体のEUA取れず 
  • その他の領域: 
  • アストラゼネカ、SABA・ICS合剤の喘息症第3相が成功 
  • アストラゼネカ、抗PD-L1抗体と抗CTLA4抗体の併用試験がやっと成功したが 
  • C3阻害剤の第3相地図状萎縮試験は一勝一敗 
  • サノフィ、BTK阻害剤の第3相天疱瘡試験がフェール 
  • MacroGenics、Margenzaの延命効果確認できず 
  • レルゴリクス合剤が米国で適応拡大申請 


【COVID-19関連】


Humanigen、抗GM-CSF抗体のEUA取れず
(2021年9月9日発表)

Humanigen(Nasdaq:HGEN)はKB003(lenzilumab)をCOVID-19肺炎の治療薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに求めていたが、認められなかった。今後に向けてFDAからどのようなフィードバックがあったのかは開示されていない。様々な新興企業が治験で良績を上げEUA申請したが、プレス発表の勇ましさとは裏腹の結果になることが少なくない。

lenzilumabはGM-CSFに結合するIgG1型ヒト化抗体。第3相は米国と南米の施設で肺炎の画像所見があり酸素投与(ハイフロー酸素も含む)を受けているが人工呼吸器装着までは悪化していない患者約500人を組入れて、標準療法(8割の被験者がdexamethasone、6割がremdesivirを使用)に追加する効果を偽薬と比較した。結果は、28日間人工呼吸器フリー生存のハザードレシオが1.54、p=0.0365と高度ではないが有意な差があった。人工呼吸器装着または死亡のカプラン・マイヤー推定率は15.6%で偽薬群の22.1%より低く、検出力不足で有意ではないが死亡率も9.6%対13.9%と良好だった。

結果発表時のプレスリリースで一つだけ気になるのは、無作為化割付512人のうち33人は投与を受けなかったことだ。現場はバタバタしているだろうから責められないし、一部の施設がキチンと執行しない前例も偶には見られるが、もしかしたら、インプリメンテーション自体が厳格でなかったのかもしれない。

lenzilumabは昨年10月にNIAID(米国立炎症・アレルギー疾患研究所)がACTIV-5/Big Effect Trial-B試験に採用、人工呼吸器装着・死亡リスク抑制効果を検討しているので、もし成功なら再申請の道が開けるかもしれない。

Humanigenの前身はKaloBios Pharmaceuticals。15年にMartin Shkreliが買収、CEOに就任したが証券不祥事で逮捕され、会社更生手続きを経て16年に新社名で復活した。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


アストラゼネカ、SABA・ICS合剤の喘息症第3相が成功
(2021年9月9日発表)

アストラゼネカはPT027(albuterolとbudesonideの吸入用合剤)の第3相試験二本が成功したと発表した。一本は4歳以上の中等症から重症の喘息症3132人を組入れて、喘息発作時のレスキュー・メディケーションとしての効果をalbuterol群やbudesonide群と比較した。もう一本は4歳以上の軽症から中等症の喘息症1001人を組入れて、一日4回、12週間に亘り吸入する効果をalbuterol群、budesonide群、そして偽薬群と比較した。PT027の用量は高用量(各180mcgと160mcg)と低用量(180mcgと80mcg)をテストした。

中重症試験は両用量とも主評価項目の重度増悪が各単剤群より有意に少なかった。軽中等症試験は両用量とも主評価項目のFEV1(一秒量)が各単剤群や偽薬群より有意に改善した。データは未発表。22年に承認申請する予定。

同社が13年に子会社化したPearl Therapeuticsの開発品で、18年に英国のリスク志向型CROであるAvillionが開発販売権を取得、アストラゼネカは米国で商業化するオプションを保有している。今回、Avillionとは別々にプレスリリースを出したところを見ると、行使を考えているのだろう。Avillionにとっては、ファイザーの慢性骨髄性白血病薬Bosulif(bosutinib)に続く成功例になりそうだ。まあ、アストラゼネカが行使しなかったら別の製薬会社にライセンスしても成功例に変わりはないが。

喘息増悪時のレスキュー・メディケーションは短期作用性ベータ2作用剤であるalbuterol(USAN)/salbutamol(INN)/サルブタモール(JAN)が長年の標準療法で、PT027はレスキューにおけるありそうでなかったステップアップ・セラピーという位置付けになるようだ。維持療法のベータ2作用剤は長期作用性のsalmeterolなどが一般的ではないかと思わるが、敢えてalbuterolを使うメリットは何だろう?吸入薬は生産・製品保存時の湿気対策が難しく、経口剤ほどGE薬との競争が激しくないが、昔からある薬同士の合剤に新薬としての価格を付けるのはチャレンジングだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



アストラゼネカ、抗PD-L1抗体と抗CTLA4抗体の併用試験がやっと成功したが
(2021年9月9日発表)

アストラゼネカはファイザーから抗CTLA4抗体CP-675,206(tremelimumab)をインライセンスして抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)との併用レジメンを様々な癌に試験してきた。難治SCCHN(頭頚部扁平上皮腫)、SCCHN一次治療、非小細胞性肺癌で第3相に進み、何れもフェールと失望続きだったが、遂にPOSEIDON試験が成功した。但し、WLCで発表されたデータを見ると、類薬との販売競争は容易ではなさそうだ。

転移性非小細胞性肺癌の一次治療として、Imfinziと化学療法(以下、三剤併用)、または、Imfinzi、tremelimumabと化学療法(四剤併用)を施行する効果を化学療法群と比較したもので、主評価項目である三剤併用のPFSはハザードレシオ0.74と良好な結果になったが、共同主評価項目である全生存期間はフェールした。点推定値自体が見栄えのしない水準だ。

一方、副次的評価項目である四剤併用はPFSのハザードレシオが0.72、メジアン値は6.2ヶ月と化学療法群の4.8ヶ月を1ヶ月余上回った。オープンレーベル試験なので主観バイアスの入りにくい全生存の解析が注目されたが、今回、ハザードレシオ0.77、メジアン値は14.0ヶ月対11.7ヶ月、2年生存率は32.9%対22.1%であることが発表された。

主評価項目がフェールしたので通常は副次的評価項目の解析は仮説形成的な位置付けになるが、本試験では、両方のレジメンのPFS解析が成功したら、四剤併用群の全生存解析も仮説検証的になることが事前にプロトコルで定められていた由だ。

類薬の同じ用途での成績を見ると、BMSの抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)を化学療法と併用するレジメンは全生存期間の化学療法比ハザードレシオが0.69なので大きくは違わない。MSDのKeytruda(pembrolizumab)と化学療法の併用は扁平上皮腫ではハザードレシオ0.64、それ以外では0.49と、抗CTLA抗体を使わないのに一番良い数値を叩き出している。新薬を二剤使う贅沢なレジメンに相応しい効果が欲しいものだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



C3阻害剤の第3相地図状萎縮試験は一勝一敗
(2021年9月9日発表)

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)はpegcetacoplanの第3相地図状萎縮試験が成功したと発表した。加齢性黄斑変性に地図状萎縮を合併した1258人を二本の試験に組入れて、15mg/0.1mLを2ヶ月毎または毎月、硝子体注射する効果を、対応するシャム(注射する振り)二群のプール・データと比較した試験で、主評価項目はFAF(眼底自発蛍光)撮影による12ヶ月間の病変拡大。OAK試験では2ヶ月毎投与群の相対リスク削減率が16%、毎月投与群は22%でどちらも統計的に有意だったが、DERBY試験は各群11%と12%でどちらも有意ではなかった。

有害事象では滲出の新規発生率が各群4.1%と6.0%となりシャム群の2.4%を若干上回った。試験薬を合計で6331回投与して眼内炎は13件(0.21%)、感染性眼内炎は確認例が2件、疑い例が1例とそれほど多くはなく、発症しても臨床的に重要な視力変化は見られなかった。22年上期に承認申請の予定。承認されれば地図状萎縮の適応を持つ初めての医薬品になる。

治験登録を見る限りでは、二本の試験はデザインも実施地域も大差なく、なぜ再現されなかったのか不思議だが、第2相のFILLY試験(2ヶ月毎群は相対リスク削減率20%、毎月群は29%)のデータが使えるならば、通算2勝1敗となるので、承認される可能性がありそうだ。

pegcetacoplanはC3補体阻害剤。21年に米国で皮注用製剤が夜間ヘモグロビン尿症治療薬Empaveliとして承認された。髄膜炎など深刻感染症が枠付警告されている。C3糸球体症や寒冷凝集素症などにも開発されている。

リンク: 同社のプレスリリース



サノフィ、BTK阻害剤の第3相天疱瘡試験がフェール
(2021年9月9日発表)

サノフィは、rilzabrutinibの第3相尋常性/落葉性天疱瘡試験がフェールしたと発表した。世界19ヶ国の施設で中重症患者131人を組入れて完全寛解率を偽薬と比べたが残念な結果になった。

20年に37億ドルで買収したPrincipia Biopharmaのリード・コンパウンドで、天疱瘡とITP(特発性血小板減少性紫斑症)でFDAからファースト・トラック指定と希少疾患用薬指定を受けている。ITPでも第3相段階。

リンク: サノフィのプレスリリース



MacroGenics、Margenzaの延命効果確認できず
(2021年9月7日発表)

MacroGenics(Nasdaq:MGNX)は、第3相SOPHIA試験におけるMargenza(margetuximab-cmkb)の全生存期間の解析がフェールしたと発表した。昨年12月に本試験のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)データに基づきher2陽性転移性乳癌の3次治療薬として米国で承認されたばかりだが、1次治療や2次治療に展開する期待が低下した。尚、加速承認ではないし、3次治療になると選択肢が限られてくるので、承認を取消される可能性は低いだろう。

抗hers2抗体のFc領域を改変し、CD16A(Fcガンマ受容体IIIa)結合力を高めCD32B(Fcガンマ受容体IIb)結合力を弱めることによりADCC(抗体依存性細胞傷害)活性などを増強したもの。CD16Aのアミノ酸に158F変異を持つ患者は抗her2抗体の旗幟であるtrastuzumabの応答性が低いことに注目した。

SOPHIA試験はher2陽性転移性乳癌でtrastuzumab及びロシュのPerjeta(pertuzumab)による治療歴を持ち被験者の9割はKadcyla(ado-trastuzumab emtansine) 歴もある536人を組入れて、capecitabineなどの化学療法薬と併用する効果をtrastuzumab・化学療法併用と比較した。主評価項目のPFSはハザードレシオ(以下、HR)が0.76と良い数値が出たが、p=0.033なので高度に有意とは言えず、メジアン値は各5.8ヶ月と4.9ヶ月で1ヶ月強の差しかなかった。

発表から2年半が経ち、シーケンシャルな主評価項目である全生存期間の最終解析結果が公表されたが、HR0.95、メジアン値は各21.9ヶ月と21.6ヶ月で大差なかった。

探索的に実施されたCD16Aの対立遺伝子別解析を行ったところ、158Fアレル(被験者の82%を占めた)ではHR0.86、メジアンは23.3ヶ月と20.8ヶ月とまずまずの結果になり、中でも158Fホモ接合型(36%)では各0.72、23.6ヶ月、19.2ヶ月だった。一方、片親から158F、もう片親から158Vを継承したヘテロ接合型(46%)では0.96、21.3ヶ月、22.0ヶ月と大差なく、158Vホモ接合(13%)では1.77、22.0ヶ月、31.1ヶ月と悪かった。

trastuzumabの苦手を克服するという開発者の狙い通りの結果だが、CD16A多型は階層化因子ではないので患者背景に偏りがあるかもしれず、上位解析がフェールしたこともあり、解析の信頼性はあまり高くないのが残念なところだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


レルゴリクス合剤が米国で適応拡大申請
(2021年9月9日発表)

大日本住友製薬の子会社であるMyovant Sciencesとファイザーは、子宮筋腫による過剰出血の治療薬、Myfembree(relugolix、estradiol、norethindrone)を子宮筋腫に伴う中重度疼痛の治療に用いる適応拡大を米国で申請し、受理されたと発表した。審査期限は来年5月6日。

武田薬品からライセンスしたGnRH受容体拮抗剤、relugolixの合剤で、GnRH受容体拮抗剤が持つ望ましくない作用をエストロゲンおよびプロゲスチンで相殺するアド・バック・セラピーを一日一回一錠服用するだけで施行することができる。GnRH阻害剤を子宮筋腫に用いる場合、安全性に配慮して短期使用に留める必要があるが、Myfembreeは最長24ヶ月間治療することが承認されている(日本で販売されている、合剤ではないレルミナは6ヶ月間)。

ファイザーは北米市場で共同開発販売提携している。

リンク: 両社のプレスリリース






今週は以上です。

2021年9月5日

第1015回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ECDCはワクチンの追加接種に否定的 
  • 米国はイーライリリーの抗体医薬の出荷を再開 
  • PRAC、COVID-19ワクチンの安全性監視状況をアップデート 
  • その他の領域: 
  • 抗タウ抗体の第2相アルツハイマー試験が一部成功 
  • ESC:バイエル、Kerendiaの二本目の糖尿病性腎症試験も成功 
  • ファイザー、JAK1阻害剤新薬の直接比較試験が成功 
  • 武田、NEDD8阻害剤の第3相がフェール 
  • HIV感染予防ワクチンの後期第2相がフェール 
  • 上海君実、米国で抗PD-1抗体を承認申請 
  • FDA、百済神州のbtk阻害剤をWM症候群に適応拡大 
  • キイトルーダ、膀胱癌一次治療が結局、本承認に 
  • FDA、JAK阻害剤の規制を強化 
  • PRAC、イムブルビカ・リツキシマブ併用とACE阻害剤の相互作用懸念を公表 


【COVID-19関連】


ECDCはワクチンの追加接種に否定的
(2021年9月1日発表)

EU版疾病予防管理センター、ECDCは、COVID-19ワクチンの追加接種に関する暫定的な評価を明らかにした。米国と異なり否定的だが、ワクチンの信頼性や世界的な供給不足に与える影響にも配慮していることが特徴だ。

まず、免疫不全の人の追加接種と、人口全般のブースター接種は意味合いが違うことを強調した。今回、ワクチンの専門家はブースター・ショットの定義から議論を始めることが多く、東電福島原発の事故でメルトダウンが危惧された時、原子力の専門家は『もしこれをメルトダウンと呼ぶならば、』と最初に定義を問うことが多かったことを思い起こす。ワクチンで十分な免疫を獲得できない人がもう一回接種するのはプライマリー接種の継続であり、免疫を獲得した人が経時的な低下を補うためにするのがブースター接種とのことだが、私にとって重要なのは、定義や名称が何であろうが、私たちに危害や便益を及ぼすか否かなので、無視したい。

ブースター接種の便益については、現時点のエビデンスは、EUで承認されているワクチンの入院、重症感染、死亡予防効果が高いことを示しており、急いで追加接種する必要はないと指摘した。ワクチンの主目的は重症感染症を防ぐことなので、もっと軽い感染症を予防する効果がもし低下したとしても慌てるな、という訳だ。

ブースターが有益であることを示すエビデンスも不十分で、接種タイミングや、サブグループ毎の便益など、明確でない事項が多い。

一方、ブースター接種導入のリスクは、ワクチンに対する公衆の信頼や接種意欲の低下、そして、低所得国など接種が遅れている国がたくさんある中で、供給不足が一層ひどくなることが懸念される。

ブースター接種に前向きなイスラエルや米国でBioNTech/ファイザーのワクチンを3回接種した人と2回止まりな人の感染リスクを比較した疫学研究草稿が査読前論文サーバーで公開された。高い効果がありそうだが、追跡期間が短い難点がある。メーカーが示唆するように毎年接種が必要なのかどうかも含めて、only time will tell。

リンク: ECDCのプレスリリース



米国はイーライリリーの抗体医薬の出荷を再開
(2021年9月2日発表)

8月27日、米国連邦保健福祉省(HSS)傘下のASPR(事前準備対応次官補局)とFDAは、軽中等症COVID-19感染者の外来治療薬としてEUA(非常時使用認可)を受けているイーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体カクテル、LY-CoV555(bamlanivimab)とLY-CoV016(etesevimab)の併用に関して、対象を見直し、一部の州政府に対する連邦政府の出荷を再開したと発表した。更に、9月2日、対象を全ての州に広げると発表した。

このカクテルとbamlanivimab単剤は、シュードウイルス試験の所見から一部の変異ウイルスの感受性が低いことが判明。リジェネロン(Nasdaq:REGN)の抗体カクテルにはこのような問題はないことなどから、bamlanivimab単剤のEUAは取り消され、6月には、二剤併用の出荷も中止された。

今回のレーベル変更・出荷再開は新しい知見によるものではなさそうだ。デルタ株の流行でリジェネロンやVir/GSKの抗体医薬の需要が8月に急増したと報じられており、供給を増やす一助として、イーライリリーのカクテルが有効な株と不適な株を明確にし、兆候や症状ではなく州で線引きする実務的な対応を行った。上記試験ではベータ株、ガンマ株、ミュー株、デルタ株の派生でK417N変異を持つAY.1やAY.2(通称デルタ・プラス)などの感受性が野生株より低下したが、圧倒的なウェートを占めるデルタ株などは低下しなかった。上記の低感受株は抗体抵抗性変異の一つであるK417変異を持っている。

そこで、抵抗性を持つ株による感染者の比率が5%以上である州の感染者(その州に旅行中に感染またはその州からの旅行者の濃厚接触者を含む)は適応外であることをファクトシートに明記することによって、5%未満の州で利用することを可能にした。ファクトシートには該当する州としない州が列記されており、8月27日段階では、イリノイ、オハイオ、ミシガンなどで利用可能だった。9月2日に発表された見直しは直近の変異株調査に基づくもので、ほとんどの州はデルタ株だけで95%を超えている。

イーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体の売上高は、20年第4四半期の8.7億ドル、21年第1四半期の8.1億ドルから第2四半期には1.5億ドルに激減した。今回の出荷再開でどれくらい回復するだろうか。

リンク: ASBR・FDAのプレスリリース(8/27付)
リンク: 同(9/2付)
リンク: CDC COVID Data Tracker(州別変異株別構成比)



PRAC、COVID-19ワクチンの安全性監視状況をアップデート
(2021年9月3日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAのPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は、COVID-19ワクチンの市販後安全性報告の検討状況をアップデートした。比較的新しい事項は、まず、BioNTech/ファーザーのComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)における多臓器炎症症候群。デンマークの17歳の青年で発生したが全快した。他のワクチンでも報告されているようだ。プレスリリースには発生頻度は記されておらず、重要性が伝わらない。

COVID-19流行前の推定では20歳未満の人口10万人当たり罹患率は年2~6人とのことなので、頻度がこれを大きく上回れば副作用が疑われることになる。厄介なのは、有害事象の発生時期の設定次第でこの数値が大きく変わってくることだ。副作用のうち8割は接種後10日以内に発生、9割は30日以内、一番遅い症例は60日後というような場合、ワクチンを接種しなくても罹患するリスクは10万人当たりで各0.05~0.17人、0.16~0.49人、0.33~0.99人と、最大値は最小値の20倍に達する。

PRACはヤンセンの26型アデノウイルス・ベクター・ワクチンの静脈血栓塞栓リスクについても検討している。ヤンセンとオックスフォード大/アストラゼネカのCOVID-19ワクチンは稀な有害事象として血小板減少性血栓症候群が報告されているが、それとは異なる由。承認申請用試験でリスクが浮上し、市販後監視を進めている。

COVID-19ワクチンはウイルスが流行し始めてから1年足らずで大規模接種が始まるという快挙を達成した。接種人数も多いので10万人に一人の副作用でも世界で70億人が接種すれば被害者は7万人に及ぶ。ワクチン開発技術だけでなく、安全性監視・評価技術も飛躍させるために、ごく稀な有害事象を補足し原因を追及して開発にフィードバックする努力が必要だ。

リンク: EMAのプレスリリース


【新薬開発】


抗タウ抗体の第2相アルツハイマー試験が一部成功
(2021年8月31日発表)

スイスのAC Immune(Nasdaq:ACIU)は、ライセンス先のジェネンテックが実施したRG6100(semorinemab)の第2相アルツハイマー試験で共同主評価項目の一つが成功したと発表した。もう一つの主評価項目や副次的評価項目はフェールしており、一本目や他の抗タウ抗体の臨床成績が今一つであることも考えると、現時点では慎重に受け止めたい。

このLAURIET試験は、PETまたはCSF検査でアミロイド・ベータ42陽性の軽中度アルツハイマー病患者272人を組入れて、第49週の認知機能(ADAS-cog11で評価)と日常生活機能(ADCS-ADLで評価)の変化をオープンレーベルで偽薬と比較した。結果は、前者では悪化が43.6%小さく、p<0.0025と有意な差があったが、ADCS-ADLや副次的評価項目のMMSEやCDR-SBは有意差がなかった。詳細は11月にCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表する考え。

アミロイド・ベータ42陽性の前駆・軽度アルツハイマー病を組入れた一本目の第2相は、主評価項目のCDR-SBも、副次的評価項目のADAS-cog13やADCS-ADLもフェールした。この、AC Immuneがジェネンテックとの共同研究を通じて発見した抗体は、タウが広がっていくのを妨げるためにN端末を標的にしている点で他の抗タウ抗体と異なるが、臨床成績の面では大差ないとも言えるだろう。

観察期間が抗アミロイド・ベータ抗体の試験ほど長くないので治療効果が表面化しにくいのかもしれないが、第3相の結果が出るまで何とも言えないだろう。

リンク: AC Immuneのプレスリリース



ESC:バイエル、Kerendiaの二本目の糖尿病性腎症試験も成功
(2021年8月28日発表)

バイエルは、ESC(欧州心臓学会)とNew England Journal of Medicines誌でのKerendia(finerenone)のFIGARO-DKDアウトカム試験のデータを発表した。今年7月の米国承認の根拠となったFIDELIO-DKD試験と同様な結果になった。

非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤で、二型糖尿病で慢性腎障害を合併する成人の腎機能低下や心血管疾患リスクを抑制する薬として米国で承認、欧州でも審査中。二本とも日本の施設も参加しているので、おそらく日本でも承認審査中だろう。

一本目のFIDELIO-DKD試験では主評価項目の腎臓アウトカムのハザードレシオ(HR)が0.82で、特に、持続的eGFR低下が偽薬比少なかった。Number-needed-to-treat(以下、NNT:3年間の数値)は29。今回の試験では筆頭副次的評価項目で、HR0.87で、有意水準には達しなかった。偽薬群の発生率が10.8%と一本目の21.1%の半分に留まったことも影響したのだろう。

今回の試験の主評価項目である心血管アウトカムのHRは0.87で、特に心不全入院が0.71と良好だった。NNTは(42ヶ月)は47。一本目(副次的評価項目)のHRは0.86だったので、中身は若干異なるものの、複合評価項目全体としては同様な結果になった。

今回の試験は対象が一本目より広く、早期や進行した患者も組入れたとされる。治験登録の記載を見ると、一本目は基準値が明記されているのに対して、二本目は定性的だが、実態の違いを反映しているとは限らない。何が違うのか、明確にしてもらいたいものだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: PittらFIGARO-DKD研究員の治験論文(NEJM)



ファイザー、JAK1阻害剤新薬の直接比較試験が成功
(2021年8月30日発表)

ファイザーは新開発のJAK1阻害剤、PF-04965842(abrocitinib)を欧米で12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として日米欧で承認申請中だが、発売後のライバルになり得る、リジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィの抗IL-4Rアルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)との直接比較試験の成功を発表した。

200mgを一日一回、経口投与する群の効果を300mgを二週毎皮注する群と比較したダブル・ダミー二重盲検試験で、共同主評価項目である、第2週の掻痒スケール(PP-NRS4)と第4週のEASI-90がいずれも有意に上回った。

承認申請用試験では12週時点のIGA奏効率とEASI-75を共同主評価項目とした。今回、慢性疾患であるにも関わらず敢えて2~4週の数値を選択したのは、オンセットの速さをセールスポイントにできると踏んだのだろう。アッヴィが中重度アトピー性皮膚炎に適応拡大申請したRinvoq(upadacitinib)も直接比較試験で1~2週後の数値が良かった。

ファイザーの試験では試験薬群で2名が死亡したが、治験医は薬品との関連はないと判定した。一人はCOVID-19感染によるもの、一人は頭蓋内出血から心肺停止に至ったもの。プレスリリースには組入れ数が記されていないので死亡率の見当が付かないが、治験登録では728人と記されているので、0.5%程度だろう。

JAK1阻害剤は感染症や腫瘍、血栓塞栓症などの懸念がある(後述)が、本試験では発生しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース



武田、NEDD8阻害剤の第3相がフェール
(2021年9月2日発表)

武田薬品は、TAK-924(pevonedistat)の第3相PANTHER試験がフェールしたと発表した。データは未発表。21~22年に発売を期待する主要パイプラインの一つだが、他のプロジェクトも含めて、順調には進んでいない。13年前に買収したミレニアム・ファーマシューティカルズがMLN4924として開発していたもので、当時は期待のパイプラインだったが、長い間パイプに詰まっていたことを考えれば、急にバラ色に変わるものでもないだろう。

この試験は、高リスクMDS(骨髄異形成症候群)、CMML(慢性骨髄単球性白血病)、そして低芽球性AML(急性骨髄性白血病)の一次治療として、azacitidineと併用する効果をazacitidineだけの群とオープン・レーベルで比較した。主評価項目はEFS(無イベント生存期間)で、低芽球性AMLは死亡のみ、それ以外は死亡かAML(WHO基準)移行のどちらか早いほうをカウントした。

第2相試験はフェールしたが、高リスクMDSサブグループはメジアン生存期間が23.9ヶ月とazacitidine群の19.1ヶ月を上回り、客観的反応率も79.3%対56.7%だった。第3相でも同様なサブグループ分析が行われるのか、学会発表が待たれる。

リンク: 同社のプレスリリース



HIV感染予防ワクチンの後期第2相がフェール
(2021年8月31日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、サブサハラ・アフリカで実施したHIVワクチンの後期第2相試験がフェールしたと発表した。ワクチン群は感染者が25%少なかったが統計学的に有意ではなかった。欧米でもやや異なったワクチンの第3相が進行中。

このAD26.Mos4.HIVワクチンは、26型アデノウイルスをキャリアとしてHIVの4種類の抗原の遺伝子を導入するもの。このキャリアは同社のCOVID-19ワクチンにも使われている。一年かけて4回、筋注するが、3回目と4回目は、HIVのC系統群に対応したgp140とアルミ・アジュバントを併用する。

HIV陰性の女性2600人を組入れて3回目投与の1ヶ月後から18ヶ月間追跡したところ、試験薬群は1079人中51人、偽薬群は1109人中63人が感染し、ワクチン効率は25.2%、95%信頼区間は-10.5%から49.3%だった。このため、本試験は中止された。

第3相MOSAICO試験は、欧米の施設で男とセックスする男やトランスジェンダー3800人を組入れる。欧米豪州ではB系統群が多いため、3、4回目は複数の種類のgp140を混合したものを使っている。被験者や地域、試験薬の違いが異なった結果を生むかもしれないが、HIVワクチン開発のトラック・レコードはフェールの連続なので、楽観はしにくい。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認申請】


上海君実、米国で抗PD-1抗体を承認申請
(2021年9月1日発表)

Junshi Biosciences(上海君実生物医薬、HKSE:1877)とCoherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)は、toripalimabを上咽頭癌用薬として米国で承認申請したと発表した。目標適応は進行難治または転移性の上咽頭癌の一次治療にgemcitabine・cisplatin併用と白金ベース化学療法後の二次治療。

中国では同国企業初の抗PD-1抗体として18年に悪性黒色腫に承認を獲得。21年には上咽頭癌の三次治療と白金レジメン歴のある尿路上皮腫に条件付き承認、上記の一次治療と食道扁平上皮腫に承認申請と、積極的に適応拡大を進めている。一方、米国では今回が初めての承認申請。

類薬は数多いので、北米市場の権利を持つCoherus社は、価格で差別化する考えも持っているようだ。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


FDA、百済神州のbtk阻害剤をWM症候群に適応拡大
(2021年9月1日発表)

FDAはBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE)のBrukinsa(zanubrutinib)をワルデンシュトレームマクログロブリン血(WM)症に適応拡大した。btk阻害剤の先輩であるImbruvica(ibrutinib)と直接比較した試験で優越性解析がフェールしたが、FDAのプレスリリースによると、「非対称的評価」に基づき承認した。、

WM症候群は形質細胞の悪性腫瘍。第3相は、Imbruvica応答性が比較的高い、MYD88遺伝子にL265P変異を持つ患者を組入れたImbruvica対象コフォートと、野生型の単群コフォートに分けて施行し、前者は主評価項目のVGPR率(修正IWWM-6基準)が28.4%とImbruvica群の19.2%を上回ったが有意な差はなかった。部分反応も含む反応率は77.5%だった、野生型は症例数が少ないとはいえ反応率は50%だった。

この試験では160mgを一日二回、経口投与したが、FDAは320mg一日一回も承認したため、服用回数が多いハンデは生じなかった。

リンク: FDAのプレスリリース



キイトルーダ、膀胱癌一次治療が結局、本承認に
(2021年8月31日発表)

MSDは、FDAがKeytruda(pembrolizumab)を尿路上皮癌の一次治療に用いることを承認したと発表した。局所進行性/転移性で全ての白金薬に不適な患者が適応になる。

17年に一次治療と二次治療に承認されたが、一次治療は加速承認なので、市販後薬効確認試験で臨床的効能を確立しなければいけなかった。しかし、白金薬レジメン併用に加えてモノセラピーの全生存期間やPFS(無進行生存期間)も検討したKeyNote-361試験がどちらもフェールし、モノセラピー群は寿命が短縮する懸念も浮上と、失望的な結果になってしまった。

加速承認取消が危ぶまれたが、4月に開催された、加速承認後の薬効確認試験がフェールした抗PD-1/PD-L1抗体の様々な適応症に関する諮問委員会では、他の試験二本の結果が25年と27年に出るまで結論を先送りすべきとの意見が5対3で上回った。

今回、一転して本承認が下りたのはサプライズだが、361試験の対照群はgemcitabineをcisplatinまたはcarboplatinと併用するレジメンを施行しており、加速承認の対象であった白金レジメン不適とは異なっている。代表的な一次治療が適応にならない患者にやむを得ず使うという位置付けが否定されたわけではないのだ。

とはいえ、サプライズであることに変わりはない。上記の他の試験の結果が前倒しで判明したのかもしれない。

尚、cisplatinに不適なPD-1陽性(CPS≧10)にも加速承認されていたが、今回、削除された。

リンク: MSDのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、JAK阻害剤の規制を強化
(2021年9月1日発表)

FDAは、リウマチ性関節炎などに承認されているJAK阻害剤三剤について、枠付警告を強化し、適応をTNFブロッカー不応不耐に限定し、ファイザーのJAK3阻害剤Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)に関しては、高用量の10mg一日二回だけでなく5mg一日二回も血栓や死亡リスクがTNFブロッカーより高いという新発見を追加するレーベル変更をメーカーに要請したと発表した。

ファースト・イン・クラスであるXeljanzの長期安全性試験のデータに基づく措置だが、JAK阻害剤は元々、様々な副作用リスクがあり、三剤とも深刻な感染症、リンパ腫などの腫瘍、深静脈血栓や肺塞栓、動脈血栓などが枠付警告されているので、審査に時間がかかった割には、新しい情報は少ない。

枠付警告では、動脈血栓ではなく心臓関連イベントという、よりダイレクトな表現に変わりそうな印象だ。

サルベージ限定は、現在でもTNFブロッカーの次に使う薬という位置付けが一般的なようなので、実質的に大きな影響はないのではないか。

FDAは従来同様、喫煙者(止めた人も含む)や心血管リスク因子を持つ人、腫瘍またはその既往(悪性ではない皮膚癌は除く)は特に注意するよう呼びかけた。上記試験で喫煙者/経験者の肺がんリスクがTNFブロッカーより高かった。

XeljanzだけでなくイーライリリーのJAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)とアッヴィのJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)も規制強化の対象となった。一方、骨髄線維症などに承認されているJAK阻害剤、Jakafi (ruxolitinib)とやInrebic (fedratinib)は、対象外。用途が異なるので別途、検討が必要とのことだ。

JAK阻害剤は人気があり、米国外ではGalapagos(Nasdaq:GLPG)/ギリアド・サイエンシズのJyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)やアステラス製薬のスマイラフ(peficitinib)も承認されている。また、RinvoqやファイザーのPF-04965842(abrocitinib)は中重度アトピー性皮膚炎に承認/承認申請中、Concert Pharmaceuticals(Nasdaq:CNCE)のCTP-543(deuterated ruxolitinib)やファイザーのPF-06651600(ritlecitinib)は円形脱毛症で第3相段階と、用途も拡大している。

命に係わらない疾患ほどリスクとベネフィットのバランスが危うくなる。今現在、多くの適応拡大/新薬承認申請の審査が滞っているが、どのような転機になるか、注目される。また、Xeljanzの10mg1日2回投与をリウマチなどでも承認するなど、鷹揚なスタンスを取っているEUが、考え方を変えるかどうかも注目だ。

リンク: FDAの安全性通知



PRAC、イムブルビカ・リツキシマブ併用とACE阻害剤の相互作用懸念を公表
(2021年9月3日発表)

EUの薬品安全性監視委員会であるPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は、Pharmacyclics(アッヴィの子会社)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発販売しているBTK阻害剤、Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)について、DHPC(direct healthcare professional communication)発出を検討していることを公表した。CLL(慢性リンパ性白血病)やマントル細胞腫、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症などに用いられているが、CLLにrituximabと併用した試験の中間解析で、ACE阻害剤を服用していた患者の突然死・心臓死が標準療法群(fludarabine、cyclophosphamide、rituximabのFCRレジメン)より高かった。PRACは、まだ分析中としながらも、予防的な措置として、CLLでACE阻害剤を服用している患者は他のレジメンに切り替えるよう推奨した。症例数や発生頻度は記されていない。

ImbruvicaはBTK阻害剤の先駆けだが、二番手以降の製品と比べて心血管リスクが比較的高い。G3以上の高血圧症の発生率が対照群より5%程度高く、心房細動や心不全、出血なども報告されている。先日、Journal of Clinical Oncology誌で刊行されたカナダでの疫学研究でも心房細動、心不全、出血リスクが高かった。

尤も、なぜACE阻害剤の服用と関連するのか、分からない。常識的には抗癌剤レジメンを変えるより降圧剤を変える方が容易であるように感じられるが、ARBや利尿剤、Ca拮抗剤服用者のデータはどうなのだろうか?そもそも、高血圧患者全体のリスクが高いのではないだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Abdel-Qadirらの疫学研究論文(Journal of Clinical Oncology)




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