2023年7月30日

第1113回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • CDCがRSVワクチンの勧奨内容を正式発表 
  • CDCがAlpha-gal症候群の流行に注意喚起 
  • 21価肺炎球菌ワクチンの第3相が好結果に 
  • RSVワクチンの第3相がフェール 
  • 抗CD47抗体の第3相がフェール 
  • 武田、ex20挿入変異NSCLCの一次治療試験がフェール 
  • イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤を体重管理薬として承認申請 
  • レミトロの米国承認はお預けに 
  • 脊髄小脳失調症用薬の承認申請が受理されず 
  • Demodex眼瞼炎用薬が承認 
  • 伝染性軟属腫治療薬が承認 


【今週の話題】


CDCがRSVワクチンの勧奨内容を正式発表
(2023年7月21日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は5月に承認された60歳以上向けRSVワクチン二品に関する接種勧奨をMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)に掲載した。ACIP(ワクチン接種諮問委員会)における討議後にプレス・リリースが出ているが、今回が正式な決定版だ。

GSKのArexvyもファイザーのAbrysvoも第3相試験でRSVによる下部気道感染症を6~8割抑制したが、罹患率は偽薬群でも1000人当り3~4人とそれほど高くない。翌シーズンもある程度効果がありそうなことを考慮しても便益(Number needed to treat)は1000人当り4~7人くらいだろう。一方、危険は、ADEM(急性播種性脳脊髄炎)やギラン・バレー症候群がごく稀に発生した。便益と危険を天秤にかけ、CDCは、市販後安全性確認試験でADEMやギラン・バレー症候群などの炎症性神経学的イベントのリスクが小さいことが確認されるまではshared decision-making、即ち、個々人が医師と相談して便益と危険を検討した上で決定するよう勧奨した。感染時のリスクが高いためワクチンの便益が大きい人口としては、COPDや喘息症、鬱血性心不全、冠動脈疾患、脳血管疾患、慢性腎疾患などの持病を持つ人や75歳以上を例示した。

報道によると、GSKは270~295ドル程度の価格を想定している模様。以前の倍に上昇しているが、販売数量の想定が変わったのかもしれない。

インフルエンザ・ワクチンやCOVID-19ワクチンの勧奨対象とオーバーラップしているが、三剤を同時期に接種する安全性は確立したとは言えない。臨床試験の話は聞かないので、FDAやCDCは市販後疫学試験で足りると考えているのだろう。

リンク: CDCのRSVワクチン勧奨(MMWR)


CDCがAlpha-gal症候群の流行に注意喚起
(2023年7月28日発表)

CDCはAlpha-gal症候群に関する二件の調査分析論文をMMWRに掲載した。感染が増加しているが実際はもっと多い可能性があるとして医療従事者に注意を促した。2010年から2022年の間に11万件以上の疑い例が特定されたが、トリガーとなる赤身肉や乳製品の摂取から発症まで2~6時間かかることや、アレルギー専門医の地域的偏在や医療従事者の知識不足などから、実際は45万件と推定された。地域的には、東部のコネチカット州やペンシルバニア州、同ノース・キャロライナ州、中部のカンサス州、同オクラホマ州の4州を結ぶ長方形内や、ニュー・ヨーク州ニュー・ヨーク、ミネソタ州やウィスコンシン州の一部、などで疑い例が多い。但し、アレルギー医不在地域もあるため確実なことは言えないようだ。

Alpha-galは、マダニの唾液に含まれるAlpha-gal(galactose-α-1,3-galactose)が咬まれた時に移行しIgE免疫を誘導することが発端。牛肉や豚肉、乳製品、ゼラチン含有食品、抗EGFRキメラ抗体cetuximabなどはAlpha-galを含んでいるため、摂取/投与後にアナフィラキシーなどの過敏反応が起きる。日本ではゼラチン含有三種混合ワクチンを接種した人の一部で類似した症状が散見され、ワクチンの改良が行われたことがある。

リンク: Thompsonらの地域別年代別分析(MMWR)
リンク: Carpenterらの医療従事者知識調査(MMWR)

【新薬開発】


21価肺炎球菌ワクチンの第3相が好結果に
(2023年7月27日発表)

MSDはV116ワクチンの第3相試験二本が良好な結果になったことを明らかにした。肺炎球菌ワクチン未接種の2600人を組入れて30日後のOPA(オプソニン食作用活性)をファイザーのPrevnar 20と比較したSTRIDE-3試験では、V116だけ対応している株はもちろんのこと、どちらも配合している株に関しても幾何平均力価が有意に上回った。最後に接種してから1年以上経った50歳以上の716人をV116群、MSDのVaxneuvance(PCV15)群、同Pneumovax(PPSV23)群に割付けて安全性やOPAを検討したSTRIDE-6試験でも対応21株全てについて免疫原性を示した。

肺炎球菌ワクチンではMSDとファイザーが開発競争を繰り広げている。V116は21種類の株の抗原を配合しており、65歳以上の侵襲性肺炎球菌疾患の3割を占める8種類の株(15A、15C、16F、23A、23B、24F、31、35B)に関しては初のワクチンだ。

リンク: 同社のプレスリリース


RSVワクチンの第3相がフェール
(2023年7月22日発表)

デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)はRSV AとRSV Bの5種類の抗原を含有するワクチン、MVA-BNの第3相試験が思わしくない結果になり、開発中止を決めた。米独の施設で60歳以上の2万人超を組入れて、2症状以上または3症状以上を伴うRSV関連下部気道感染症を抑制する効果を検討したところ、2症状以上は偽薬比59%少なく有意な差があったが、3症状以上は42.9%に留まりフェールした。先行するファイザーのワクチンのワクチン効率は各66%と85%となっており、厳密な比較はできないのかもしれないが、少なくとも見劣りはする。今から申請しても今秋には間に合わず、一年遅れで勝負を挑むには力弱いと判断したのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


抗CD47抗体の第3相がフェール
(2023年7月21日発表)

ギリアド・サイエンシズはGS-4721(magrolimab)の第3相試験のうちENHANCE試験を無益中止すると発表した。血液癌の一部などが高発現し、マクロファージのSIRPアルファ受容体に結合して免疫回避を齎すCD47に結合する抗体医薬で、高リスク骨髄異形成症候群の一次治療に際してazacitidineに追加することによる完全寛解率や全生存期間の向上を狙ったが、中間解析で続行しても成功する可能性は低いと判定された。

第3相はこのほかに、TP53変異型急性骨髄性白血病や強化治療不適急性骨髄性白血病一次治療における併用試験が進行中。

20年にForty Seven社を49億ドルで買収して入手したもの。日本や周辺の権利は小野薬品が19年にライセンスした。

10年以上前に、ENHANCEという試験名は縁起が悪くフェールが多いと書いたことがあるが、実例が増えた。

リンク: 同社のプレスリリース


武田、ex20挿入変異NSCLCの一次治療試験がフェール
(2023年7月27日発表)

武田薬品は、2023年度第1四半期決算のプレゼンテーションに際して、Exkivity(mobocertinib)の第3相Exclaim-2試験が無益中止となることを公表した。EGFRにエクソン20挿入変異(既存のEGFR阻害剤に抵抗性を示す)を持つ転移非小細胞性肺癌の318人を組入れてPFS(無進行生存期間)を白金薬レジメンと比較したが、中間解析で続行しても無益と認定された。

Exkivityは第1/2相試験のORR(客観的反応率)データに基づいて21年9月に米国で加速承認された。FDAは24年3月までに無作為化割付け試験でPFS延長効果を確認するよう求めているが、今回のフェールで履行が困難になった。FDAは、近年、このような事例に厳しいスタンスを取る傾向があり、もしかしたら、諮問委員会の意見を確かめた上で、加速承認取消しに動くかもしれない。

17年にAriad Pharmaceuticalsを54億ドルで買収して入手したコンパウンドの一つ。

リンク: 武田薬品の2023年第1四半期決算プレゼンテーション資料(和文、pdf)

【承認申請】


イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤を体重管理薬として承認申請
(2023年7月27日発表)

イーライリリーは、二型糖尿病薬Mounjaroの活性成分でGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体を作動するtirzepatideを米国で体重管理薬として承認申請したことを明らかにした。年内に結果が判明する見込みとのことなので、6月より前に申請していたのだろう。

第3相試験のうち、食事運動療法で成果を上げた(5%以上減量した)肥満/太り過ぎ患者(二型糖尿病併発は対象外)を組入れたSURMOUNT-3試験では、試験薬群は更に21%低下したが、偽薬群は3%増加した。更なる5%減量の奏効率は各群94%と11%だった。以上はefficacy estimandで、途中で投与を止めた症例は最終観察値などを参照した。投与中止後のデータも参照するtreatment-regimen estimandでは前者は18%と3%、後者は88%と17%だった。

一方、肥満/太り過ぎの患者(二型糖尿病併発は対象外)を組入れて全員にtirzepatideを36週間投与した後に試験薬と偽薬に無作為化割付けした離脱試験、SURMOUNT-4試験では、その後52週間に試験薬群は体重が更に7%低下したが、偽薬スイッチ群は15%増加した(efficacy estimand)。36週間の投与で体重が107kgから推定79kg位に低下したのに同91kg位に戻った勘定になり、他の減量法と同様に、リバウンド現象が見られる。treatment-regimen estimandでは各群6%低下と14%増加。

イーライリリーはこれらのデータを10月の各種学会で発表する予定。尚、下記プレスリリースは、試験結果を発表するついでに承認申請済みであることを明らかにする体裁になっている。

ところで、誰かefficacy estimand/trial product estimandやtreatment-regimen estimand/treatment policy estimandの名称を統一したり、和名を付けてくれないだろうか。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


レミトロの米国承認はお預けに
(2023年7月29日発表)

米国ニュー・ジャージー州の新興薬品会社Citius Pharmaceuticals(Nasdaq:CTXR)はLymphir(denileukin diftitox)を米国で再発/難治皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の二次治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。製品の検査や管理など、CMC(化学、製造、管理)面の指摘事項があった模様で、薬効や安全性に関するコメントはなかった由。

IL-2受容体の3サブユニットに結合する蛋白とジフテリア毒素フラグメントを細胞融合したもの。日本でエーザイが開発要請に基づき再発/難治のCTCLと末梢性T細胞リンパ腫用薬として申請し、21年3月にレミトロ名で承認された。米国で99年にSerageneが承認取得したOntakの純度を向上したもの。ニッチ薬だけにOntakの欧米における開発・販売企業はイーライリリー→Seragene→Ligand Pharmaceuticals→エーザイ→Dr. Reddy's→Citiusと変遷している。

リンク: Citiusのプレスリリース


脊髄小脳失調症用薬の承認申請が受理されず
(2023年7月27日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)を脊髄小脳失調症用薬として米国で承認申請したが受理されなかった。第2/3相試験がフェールしており、受理されなかったことより、申請していたことを知って驚かされた。

筋萎縮性側索硬化症用薬として承認されているriluzoleのプロドラックで、血液中のアミノペプチダーゼにより変換される。これまでにアルツハイマー病、全般不安障害、強迫性神経障害でも第2/3相や第3相試験が実施されたがいずれもフェールした。

脊髄小脳失調症でも運動失調評価尺度の変化が偽薬群と大差なかったが、被験者の4割を占めるSCA3変異型の患者では名目pが0.053とあと一歩の成績だった。FDAは後顧的サブグループ分析に懐疑的で、当該サブグループを対象とする追加試験を求めることが多いが、難病や希少疾患の薬に関しては承認審査部門のヘッドが審査担当者の肩を強力にプッシュするケースが増えており、Biohavenもワンチャンあると思ったのだろう。

BiohavenはCGRP受容体拮抗剤rimegepantやzavegepantの実用化で有名だが、これらの片頭痛薬の権利をファイザーに譲渡してしまったため、今日ではtroriluzoleが主要開発品の一つになっている、

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


Demodex眼瞼炎用薬が承認
(2023年7月25日発表)

米国カリフォルニア州のTarsus Pharmaceuticals(Nasdaq:TARS)はFDAがXdemvy(lotilaner)をDemodexダニによる眼瞼炎の治療薬として承認したと発表した。動物治療大手のElancoからライセンスした寄生虫用動物薬の点眼用新医薬品で、一日二回、6週間治療した第3相試験で病変完治率が56%と偽薬群の13%を上回った。コラレット(まつ毛の付け根にできるダニの塊)治癒率は各89%と33%、ダニ駆除率は52%と14%だった。

Demodex眼瞼炎は眼瞼炎の主な原因の一つで、米国では年2500万人が罹患と推定されているが、治療薬が承認されたのは初。価格は6週間分が1850ドルとなる予定。

リンク: 同社のプレスリリース


伝染性軟属腫治療薬が承認
(2023年7月21日発表)

Verrica Pharmaceuticals(Nasdaq:VRCA)はFDAがYcanth(cantharidin)を承認したと発表した。ポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルスに接触後に丘疹などを発症する、伝染性軟属腫の初の治療薬。2歳以上が適応。病変部位に塗布し、24時間後に石鹸水で除去する。必要に応じて3週毎に反復する。有害事象は小胞や結節などの局所性皮膚反応。乾燥しても可燃性を維持するので要注意。

カンタリジンはある種の昆虫が持つ成分で皮膚に水疱を起こすのを逆用していぼなどの治療に用いられてきた。日本でも承認されていたことがある模様で、Verricaは鳥居薬品に独占開発販売権を供与している。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:

  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23年8月推 JNJのTalvey(talquetamab、多発骨髄腫4次治療)
  • 23年8~9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/2   MesoblastのProchymal(remestemcel-L、小児急性移植片宿主病)
  • 23/8/5   Sage TherapeuticsのSAGE-217(zuranolone、鬱病、産後鬱)
  • 23/8/9   Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
  • 23/8/13  大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil、結腸直腸癌におけるbevacizumab併用を追加)
  • 23/8/16  イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/20  Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
  • 23/8/20  NeurocrineのIngrezza(valbenazine、ハンチントン舞踏病に適応拡大)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/8末   ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)



今週は以上です。

2023年7月22日

第1112回

【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダの子宮頸癌CRT併用試験 
  • T119M模倣体の第3相ATTR-CM試験がとうとう成功 
  • アルジェニクス、ヴィフガートのCIDP試験が成功 
  • 二重特異性抗体の肺癌一次治療試験が成功 
  • 新規抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤の併用を肝細胞腫に承認申請 
  • NASH用薬を承認申請 
  • ビンゼレックスを欧州で適応拡大申請 
  • イーライリリーも第3相データで抗アミロイド・ベータ抗体の承認を求めた 
  • CHMP、胎児用RSVワクチンなどに肯定的意見 
  • 免疫原性を強化した炭疽ワクチンが承認 
  • ヴァンフリタが米国でも承認 
  • 全0歳児が使えるRSV予防薬が米国でも承認 
  • 地図状萎縮用薬で眼内炎症懸念が浮上 


【新薬開発】


キイトルーダの子宮頸癌CRT併用試験
(2023年7月19日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の子宮頸癌同時放射線化学療法(CRT)試験で主目的の一つを達成したと発表した。根治手術や放射線療法が不適でPD-L1陽性(CPS≧1)の患者向けに米欧日などで承認されているが、当試験で全生存期間の延長が確認されるようなら、早期段階でも使用されるようになりそうだ。

このKEYNOTE-A18試験は欧米の共同治験グループが局所進行性子宮頸癌の新患で高リスク(ステージ3~4Aまたはリンパ節転移のあるステージ1B2~2B)の1060人を組入れて、同時CRT(外照射、並行してcisplatin、その後小線源治療)にKeytrudaを追加する便益を偽薬追加と比較した。事前に計画された中間解析でPFS(無進行生存期間)の統計的に有意かつ臨床的に意味のある改善が見られた。データは未発表。もう一つの主評価項目である全生存期間は未成熟でトレンドに留まっており、追跡続行している。

難治再発転移治療における効果を検討した試験はPD-L1陰性患者も組み入れたが、単剤投与試験だけでなく化学療法併用試験でも上乗せ効果が限定的であったため、CPS≧1しか承認されなかった。今回の試験はどうだったのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


T119M模倣体の第3相ATTR-CM試験がとうとう成功
(2023年7月17日発表)

BridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)はBBP-265(acoramidis)の第3相ATTR心筋症試験で共同主評価項目の一つを達成したと発表した。年内に承認申請する考え。

ATTR心筋症(別名、心アミロイドーシス)はトランスサイレチンの遺伝子変異などによりアミロイドが蓄積、心不全や不整脈を合併する深刻な疾患。ファイザーのVyndaqel(tafamidis)が第3相ATTR-ACT試験で全死亡や心血管疾患による入院を夫々3割程度抑制することに成功し、米日欧で承認されている。神経症を合併するトランスサイレチン調停ポリニューロパチーには同薬以外にも多くの新薬が承認されている。

トランスサイレチン遺伝子に有害変異を持つにも関わらず発症しない患者から発見されたT119M置換体を模倣したのがacoramidis。トランスサイレチンの四量体構造を安定化させる。スタンフォード大学から権利を取得買収した。日本はアレクシオン・ファーマが導入。

今回のATTRibute-CM試験はNYHAクラスIとIIの患者632人を800mgを一日二回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けして転帰を比較した。パートAでは12ヶ月後の6分歩行テストを主評価項目としたが21年にフェールした。tafamidisの試験では偽薬群は60メートル悪化したが、当試験では7メートルしか悪化せず、試験薬群の9メートル悪化と大差なかった。承認されている薬があるのに偽薬に割付けられる可能性のある試験は軽症の患者中心になりやすいが、この現象が起きたのかもしれない。

今回成功したパートBの主評価項目は30ヶ月追跡して全死亡、心血管関連入院、NT-proBNPの変化、6分歩行距離の複合評価を行った。通常は何れかが発生するまでの期間を比較するが、当試験は各群1例ずつをランダムに選択して優先順位に即して勝ち負けを決めるWin Ratio分析を採用した。例えば、投与開始の半年後に心筋梗塞を発症した各群一症例のうち偽薬群は即死、試験薬群はその半年後に死亡したようなケースでは、time-to-event法では優劣無しと評価されるが、Win Ratio法では最優先となる全死亡時期に半年の違いがあるため試験薬の勝ちとなる。複合評価の弱点をある程度補えるのが長所だ。

結果はWin Ratioが1.8、p<0.0001と高度に有意な差があった。構成項目のうち全死亡だけの副次的評価はp=0.057と有意ではなかったが、心血管入院が50%少なかったことなどが寄与した模様だ。

Win Ratio分析は未だ一般的ではないので、このような分析が承認審査機関に受け入れられるかどうか、また、他に落とし穴がないか(例えば、心血管入院における主観バイアス)、良く分からない。

tafamidisの第3相では偽薬群の全死亡率が42.9%、試験薬群は29.5%と、多くの患者が亡くなった。深刻な疾患であることを考えれば全死亡に有意差が出なかったことは、少なくとも商業的には、減点材料だろう。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: ATTRibute-CMの治験登録(ClinicalTrials.gov)


アルジェニクス、ヴィフガートのCIDP試験が成功
(2023年7月17日発表)

アルジェにニクス(Euronext & Nasdaq:ARGX) はVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa-fcab、hyaluronidase-qvfc)の第2相CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経障害)試験が成功したと発表した。抗AChR抗体陽性の全身性重症筋無力症治療薬として米日欧で承認されている点滴静注用抗胎児性Fc受容体抗体フラグメントの皮下注用新製剤で、6月に米国で承認されたばかりだが、当局と適応拡大申請を相談する考え。

CIDPは希少末梢神経障害で疲労や手足の脱力・感覚喪失などを発症する。免疫グロブリンGに対する自己抗体の関与が疑われている。Vyvgartは細胞内で免疫グロブリンGがスクラップされるのを妨げる胎児性Fc受容体をブロックする抗体医薬。第2相ではステージAとして全員に投与したところ、322人中214人、67%で症状改善が見られた。ステージBでは応答した患者221人を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして増悪リスクを比較したところ、ハザードレシオ0.39となり、維持療法の有効性が示された。偽薬群は最初の24週間に54%で増悪が見られたが試験薬群は26%に留まった。有害事象はステージAで注射箇所反応が20%の患者で発生した。

リンク: 同社のプレスリリース


二重特異性抗体の肺癌一次治療試験が成功
(2023年7月17日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceutical Companiesは、Rybrevant(amivantamab-vmjw)が第3相PAPILLON試験でPFS(無進行生存期間)延長効果を示したと発表した。数値は未発表。

EGFRとMETの二重特異性抗体で、転移非小細胞性肺癌の2~3%を占めるEGFR遺伝子にエクソン20活性化挿入変異を持つ患者の二次治療薬として21年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されている。今回の試験はこのような癌の一次治療においてcarboplatinとpemetrexedの標準療法に追加する便益をオープンレーベルで検討したもので、加速承認時の市販後コミットメントでもある。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認申請】


新規抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤の併用を肝細胞腫に承認申請
(2023年7月17日発表)

米国ニュー・ジャージー州の新興医薬品開発企業であるElevar Therapeuticsは、camrelizumabとrivoceranibを切除不能肝細胞腫に併用する新薬承認申請を行いFDAに受理されたと発表した。審査期限は24年5月16日。

camrelizumabは抗PD-1抗体、rivoceranib(中国における一般名はapatinib)はVEGFR-2阻害剤で、Jiangsu Hengrui Medicine(江蘇恒瑞医薬)が中国で複数の癌向けに販売している。Elevarは18年に進行肝細胞腫向けに共同開発提携を結んだ。米国、中国、欧州、アジア、ロシア、ウクライナなど13ヶ国の95施設で543人を組み入れたオープンレーベル試験で主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立評価)がメジアン5.6ヶ月とsorafenib群の3.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.52だった。全生存の解析も22.1ヶ月対15.2ヶ月、ハザードレシオ0.62だった。この試験に基づき中国では今年2月に承認されている。

類薬ではロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevacizumab)の併用が20年に米日欧で承認されている。中華抗PD-1抗体は米国で価格破壊が期待されるが、その前に、グローバル第3相試験がきちんと実施されたことをFDAに立証する必要がある。COVID-19が日常となり、中国施設の査察が可能になったことはポジティブだ。

リンク: 同社のプレスリリース


NASH用薬を承認申請
(2023年7月17日発表)

米国フィラデルフィア州の新興医薬品開発企業であるMadrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)はMGL-3196(resmetirom)の米国におけるローリング承認申請を完了したと発表した。肝線維症を伴うが未だ肝硬変を合併する前のNASH(非アルコール性脂肪性肝疾患)用薬として加速承認を求めている。

NASHで活性の低下が見られる甲状腺ホルモン受容体βの作動薬で、08年にロシュからライセンスした。第3相MAESTRO-NASH試験で966人を偽薬、80mg、または100mgを一日一回経口投与する三群に無作為化割付けして52週間投与し、肝細胞の腫大や炎症の改善、あるいは線維症の改善を生検評価したところ、NASH奏効率(NASHが改善且つ線維症悪化せず)が各群10%、26%、30%、共同主評価項目の線維症改善率(線維症が改善且つNASHは悪化せず)も14%、24%、26%となり、いずれも偽薬比有意に上回った。LDL-C値は偽薬群は1%増、試験薬群は各12%と16%低下した。主な有害事象は下痢や悪心。深刻有害事象発生率は各12.1%、11.8%、12.7%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


ビンゼレックスを欧州で適応拡大申請
(2023年7月18日発表)

UCBは欧日で中重度乾癬などの治療薬として承認されている抗IL-17A/IL-17F抗体、Bimzelx(bimekizumab)について、欧州で中重度化膿性汗腺炎に適応拡大申請し受理されたと発表した。腋の下や鼠径部、臀部などに結節や瘻などができる疾患で罹患率は人口の1%と高い。二本の第3相では偽薬群、320mg4週毎投与群、同2週毎投与群の奏効率(HiSCR評価スコアが半減以上)が一本は各26.7%、45.3%、47.8%、もう一本は32.2%、53.8%、52.0%だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


イーライリリーも第3相データで抗アミロイド・ベータ抗体の承認を求めた
(2023年7月17日発表)

イーライリリーはLY3002813(donanemab)の第3相試験成績をAAIC(アルツハイマー協会国際会議)やJournal of American Medical Associationで発表すると共に、第2四半期にデータをFDAに追加提出したことを明らかにした。年内に審査結果が判明する見込み。米国外でも年内に承認申請する予定。

アミロイド・ベータ(p3-42)を標的とする抗体医薬。エーザイ/バイオジェンのAduhelm(aducanumab-avwa)がアミロイド・ベータ除去作用に基づき21年に米国で加速承認されたことに勇気付けられて22年に申請したが、除去が確認されたら偽薬にスイッチする用法を採用したため長期(1年)投与実績が基準値である100例に達せず、今年1月に審査完了通知を受領した。今年5月、早期症候性アルツハイマー病の第3相TRAILBLAZER-ALZ2試験が成功、臨床的評価尺度の改善が確認されたため、今回、本承認を求めた。700mgを第0週、第4週、第12週に点滴静注した後は1400mgを4週毎投与と、先ごろ本承認されたLeqembi(lecanemab-irmb)の2週毎より負担が小さいことと、アルツハイマー病用薬には珍しく投与を完了する目安やエビデンスを持つこと、そして、少なくともカプラン・マイヤー曲線の上では、最初の半年間だけでなくその後も進行予防効果が上積みされるように見えることが特徴。効果の多寡を比較するのは難しい。安全性はARIA(アミロイド関連造影異常)の発生率がLeqembiより高そうに見える。Leqembiの週一回皮下注試験では静注よりCmaxが下がりARIA発生率が低かったとのこと。donanemabも一回投与量を減らして二週毎とか毎週投与すれば改善するのかもしれないが利便性と裏腹だ。

この第3相は軽度認知障害または軽度アルツハイマー病でアミロイド・ベータ蓄積が確認された患者を偽薬群と試験薬群に無作為化割付けして76週後に評価した。当初はCDR-SBを主評価項目としたが、途中でiADRS(アルツハイマー病統合評価尺度)に変更し、階層化因子であるタウ量が低中程度の1182人における解析(アルファは0.04を配分)と全ユニバースの解析(同0.01)を行う変更があった。

iADRSは治療効果の感度を増幅するために伝統的な評価尺度であるADAS-cogとADCS-ADLをチェリーピックしたもの。前者は数値が大きいほど重く、後者は逆なので、ADAS-cog14の値を90から差し引いた数値を、後者の一部を抜粋して算出する数値と合算する。範囲は0~146。結果は、どちらのユニバースでも悪化が偽薬比有意に小さかった。効果はApoEのエプシロン型や年齢、MCI/軽度ADの別を問わず見られた。

Leqembiの試験と同じCDR-SBに着目すると、タウ低中量患者では、偽薬群が1.88低下したのに対して試験薬群は1.20低下した。ベースライン比を試算すると各群50%と30%悪化したことになる。全ユニバースでは各2.42と1.72低下し、悪化率は60%と40%。試験薬群は24週時点で3割程度がアミロイド除去により偽薬にスイッチしたがその後も群間差は拡大した。

当試験でもARIA-E(浮腫型)が24%の患者で発生し、特にApoEがエプシロン4ホモ接合型の患者では50%と高かった。Leqembiでもこの型の5割程度で発生したが対象症例数が少ないため誤差範囲が大きそうだ。全ユニバースにおける発生率はdonanemabのほうが高いが、高リスク患者の構成比の違いがある程度影響しているだろう。多くは症状を伴わないが深刻例もあり、当試験では3人が死亡した。このほかに点滴関連反応や中枢神経系脳表ヘモジデリン沈着症が偽薬群より多かった。

リンク: Simsらの治験論文(JAMA)
リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、胎児用RSVワクチンなどに肯定的意見
(2023年7月21日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのAbrysvoはRSV下部気道感染症の予防用ワクチン。A型とB型のウイルスの融合前Fサブユニットを抗原としている。対象は60歳以上と、妊婦に接種して胎児を出生後半年間保護する斬新な手法も支持された。前者の臨床試験では2以上の症状を伴う症例を85%、3以上の症例は92%、抑制した。妊婦接種試験は重度下部気道感染症による受診を最初の90日間は82%、6ヶ月間でも69%抑制した。6ヶ月以降は偽薬と大差なかった。

米国では5月に高齢者向けに承認、胎児向けは5月に諮問委員会の支持も獲得し、審査期限は8月21日。約2万人に投与した高齢者試験では米国でギラン・バレー症候群、日本でミラー・フィッシャー症候群が各1例発生した。胎児用試験では早産発生率が数値上偽薬群を上回った。

GSKや塩野義などの合弁であるViiV HealthcareのApretude(cabotegravir)は塩野義製薬が創製した長期作用性インテグラーゼ阻害剤。体重35kg以上の青少年と成人のHIV/AIDS感染予防に用いる。ギリアド・サイエンシズの三剤合剤と比較した第3相では感染が一本では66%、もう一本では89%、少なかった。米国では21年12月に承認。主活性成分は20~21年に欧米でrilpivirine同梱製品がHIV/AIDS治療薬Cabenuvaとして承認されている。

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のEnrylaze(crisantaspase)はErwinia chrysanthemi属由来のアスパラギナーゼ。急性リンパ芽球性白血病やリンパ芽球性リンパ腫の多剤併用レジメンの一つで、大腸菌由来のアスパラギナーゼ製剤に過敏反応を示す、または過敏反応症状は起きないが薬剤に応答しないサイレント・イナクティベーションの患者向けの代替品。米国では21年にRylaze(asparaginase erwinia chrysanthemi (recombinant)-rywn)として承認。12年に買収したEUSA Pharmaの開発品。

大塚製薬のInqovi(decitabine、cedazuridine)は急性骨髄性白血病の新患で標準的な寛解導入化学療法に適さない患者向けの経口DNAメチル化阻害剤。decitabineは点滴静注用薬として承認されているが、経口投与を可能にするために、代謝を阻害するシチジンデアミナーゼ阻害剤E7727と合剤にした。decitabineを開発したエーザイの子会社からライセンスしたもの。米国では20年に承認。

MSDのLyfnua(gefapixant)は成人の難治または説明不可能な慢性咳嗽の治療薬で臨床試験では24時間咳嗽頻度を16~18%抑制した。特徴的な有害事象は味覚障害。22年1月に日本で承認された後、欧米では追加分析を求められたが、欧州で支持されたので米国でも良い方向に向かうのではないか。ロシュがスピンアウトした会社を買収して入手したP2X3受容体アンタゴニスト。尚、MSDはGefzuris名でも申請していたが、この度、戦略上の理由で撤回した。

20年にイタリアのメラリーニが買収したStemline TherapeuticsのOrserdu(elacestrant)は非ステロイド系選択的エストロゲン受容体アルファ零落剤。閉経後女性または男性のESR1活性化変異のあるエストロゲン受容体陽性、her2陰性の局所進行性/転移性乳癌でCDK4/6阻害剤併用による一次以上の内分泌療法歴を持つ患者が適応になる。代表的なエストロゲン受容体零落剤であるfulvestrantと異なり血管脳関門を通過し、また、この種の薬に抵抗性を示しやすいESR1活性化変異型に有効であることが特徴。06年にRadius Healthがエーザイからライセンスして開発したが、戦略変更により、20年に腫瘍学事業全体をメラリーニに譲渡した。米国では今年1月に承認。

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen-Cilag InternationalのTalvey(talquetamab)は多発骨髄腫で高発現するGPRC5DとT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。免疫調整剤、プロテアソム阻害剤、および抗CD38抗体を含む3次以上の治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治かつ再発多発骨髄腫向けに条件付き承認することが第1/2相試験の反応率データに基づき支持された。米国でも承認審査中。ジェンマブ社のDUOBODY技術を用いて創製した。

アッヴィのTepkinly(epcoritamab、米国名はEpkinly)はB細胞のCD20とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。成人の二次以上の全身性治療歴を持つ難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に条件付き承認することが支持された。ジェンマブとの共同研究を通じて創製、米国では5月に加速承認され、日本では昨年12月にジェンマブが申請した。

ノバルティスのTevimbra(tislelizumab)は百済神州(Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)からライセンスしたIgG4型抗PD-1抗体。白金薬ベース化学療法歴のある成人の切除不能/局所進行/転移食道扁平上皮腫に単剤投与する。中国や日米欧などの施設で実施した第3相試験でメジアン生存期間が8.6ヶ月と化学療法群の6.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70だった。中国では百剤が多くの適応で販売しているがこの用途も昨年4月に承認。米国はノバルティスが承認申請し、FDAが中国施設の査察をやっと完了した模様なので順調なら年内に承認されるのではないか。

適応拡大では、まず、Albireoの局所作用性iBAT(回腸胆汁酸輸送体)阻害剤、Bylvay(odevixibat)。21年に欧米で進行性家族性肝内胆汁鬱滞(PFIC)治療薬として承認されたが、今回、生後6ヶ月以上のアラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒の治療薬として肯定的意見を獲得した。米国では6月に12歳以上の患者向けに承認。Albireoは08年にアストラゼネカからスピンアウト、今年1月にイプセンに買収されることで合意した。

MSDのKeytruda(pembrolizumab)はPD-1陽性(CPS≧1)のher2陽性局所進行切除不能/転移胃・胃食道接合部腺腫の一次治療にtrastuzumab、fluoropyrimidine、及び白金薬と併用することが支持された。米国では21年にKEYNOTE-811試験におけるORR(客観的反応率)データに基づきPD-1発現不問で加速承認されたが、その後のPFS(無進行生存期間)解析でCPS<1の患者には効果が見られなかったため、MSDは適応縮小を検討している。

BMSのOpdivo(nivolumab)は悪性黒色腫の完全切除後アジュバント療法における適応範囲をリンパ節転移のあるステージIIIだけでなくIIBやIICにも広げることが支持された。CheckMate-76K試験で12ヶ月無再発生存率が89%と偽薬群の79%を上回った。米国でも承認審査中。

イーライリリーのJAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib)は1剤以上の伝統的/バイオ薬に十分応答しないまたは不耐の2歳以上の活性期小児特発性関節炎に用いることが支持された。単剤またはMTXに併用する。

一方、否定的意見となったのがMirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)のKrazati(adagrasib)。KRASにG12C置換のある進行非小細胞性肺癌の再発治療薬として反応率データに基づき条件付き承認を求めたが、条件付き承認の要件に該当しないと判定された。アムジェンの類薬、Lumykras(sotorasib)が22年1月に条件付き承認されており、充足されない医療上のニーズではなくなったとの判断かもしれない。米国は加速承認されている類薬があっても別の薬が加速承認される可能性があり、Lumakras(米国名)が21年に加速承認された後の22年12月にKrazatiも加速承認された。Miratiは再審請求する考え。

承認申請撤回となったのが、GSKのHIF-PH阻害剤Jesduvroq(daprodustat)。6月にCHMPから成人の慢性腎疾患患者の症候性貧血の治療薬として肯定的意見を獲得したが、対象が透析期だけで経口剤の強みが生きる保存期には認められなかったため、欧州委員会による承認の前に撤回した。米国でも2月に透析期限定で承認されており、保存期が認められたのはHIF-PH阻害剤の王国である日本だけだ。

MSDのCOVID-19用薬Lagevrio(molnupiravir)も6月に申請撤回となった。酸素投与不要な症候性感染で重症化リスクを持つ患者向けに米国や日本で非常時使用認可/特例承認されているが、CHMPは、入院・死亡リスクや罹患期間を削減する効果の挙証が不十分と判定、今年2月に認可しないよう勧告した。

適応拡大申請が撤回されたのがロシュの抗CD20低フコース化抗体Gazyvaro(obinutuzumab)。同社の二重特性抗体Columvi(glofitamab)でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を治療する際のサイトカイン放出症候群リスクを緩和するために7日前に投与する用法を申請したが、CHMPは、対照試験が実施されていないこと、至適用量の検討やB細胞抑制作用を持つ同時使用薬(ステロイドなど)や前治療の影響の評価が不十分であること、薬効評価方法などに疑問を呈した。

尚、この用法はColumviの米国のレーベルにはプリメディケーションの一つとして収載されている。

【承認】


免疫原性を強化した炭疽ワクチンが承認
(2023年7月20日発表)

Emergent BioSolutions(NYSE:EBS)はFDAがCyfendusを承認したと発表した。沈降炭疽菌ワクチンで、同社のBioThraxにCPG 7909アジュバントを添加して免疫原性を増強するとともに、6ヶ月間に3回ではなく2ヶ月間に2回筋注と簡便化した。18~65歳の炭疽菌曝露が疑われるまたは確定した人の曝露後予防として、抗菌剤治療と併用する。モルモットのリーサル・チャレンジ試験で生存率の向上が見られた。免疫原性臨床試験では免疫獲得奏効率が86%とBioThrax群の61%比非劣性だった。差の95%下限は20%なので、BioThraxが他社の競合品だったら優越性解析も実施して成功していたかもしれない。

同社は2019年に米国保健福祉省(HHS)にテロ対策の備蓄用として出荷を開始。BioThraxの販売も継続するようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ヴァンフリタが米国でも承認
(2023年7月20日発表)

FDAは第一三共のVanflyta(quizartinib)をFLT3遺伝子に内縦列重複(ITD)変異を持つAML(急性骨髄性白血病)の一次治療薬として承認した。標準的なcytarabineベースの寛解導入・地固め療法と併用し、完了後は単剤で維持療法を施行する。FLT3-ITD変異はAMLの3割程度で見られる。

第3相QuANTUM-First試験でVanflyta追加群の全生存ハザードレシオが0.78だった。学会発表時は60歳以上のサブグループ分析が0.91で有意水準に達しなかったことが注目されたが、レーベルには記されていないので、FDAは明確な結論は出せないと判定したのだろう。CR(完全寛解)率は偽薬追加群と同じ55%だったがメジアン寛解持続期間が38.6ヶ月対12.4ヶ月で上回った。重大な不整脈であるQT延長や多形性心室頻拍、心停止が枠付き警告されている。3A阻害作用を持つ薬と同時使用すると曝露が増加するので減量する。

Ambit Biosciencesが開発、09年にアステラス製薬がライセンスしたが13年に戦略上の理由で解約権を行使、14年に第一三共が企業買収した。

リンク: FDAのプレスリリース


全0歳児が使えるRSV予防薬が米国でも承認
(2023年7月17日発表)

アストラゼネカと開発販売パートナーのサノフィは、FDAがBeyfortus(nirsevimab-alip)をRSV予防薬として承認したと発表した。前者のメディミューン子会社が開発したSynagis(palivizumab)の類薬だが、RSVのF蛋白の異なった部位に結合するため宿主細胞融合前でも結合でき、投与頻度が月一回ではなくひとシーズンに一回で足りること、そして、適応範囲がRSV感染時の重症化リスクが高い1歳未満の乳幼児だけでなく、すべての1歳未満と、重症化リスクが高い幼児は2年目のシーズンも使えることが違い(Synagisは低リスク乳幼児試験がフェールした)。

在胎35週以上で出生した健康な1歳未満を組入れた第3相MELODY試験では、RSVによる下部気道感染症による投与後150日間の受診率が1.2%と偽薬群の5%を75%下回った。29週から35週で出生した健康な乳幼児を組入れた試験では同じく2.6%対9.5%で70%下回った。第2シーズンにおける効果は薬物動態などに基づき認定された。

主な有害事象はラッシュや注射箇所反応、警告・事前注意事項は深刻な過敏反応。臨床的に顕著な出血性疾患を持つ患者には注意が必要。

全ての1歳未満に使うことができるが、感染時のリスクは人により異なり軽症で済む症例も多いので、実際に全員に使われるかどうかは明らかではない。CDC(疾病管理予防センター)は8月3日にACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集して勧奨範囲などについて意見を聞く予定。

欧州では昨年11月に承認、日本でも承認申請中。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


地図状萎縮用薬で眼内炎症懸念が浮上
(2023年7月19日発表)

各種報道によると、ASRS(米国網膜専門医協会)は、21年に米国で加齢性黄斑変性による地図状萎縮の治療薬として承認されたApellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)のC3補体阻害剤、Syfovre(pegcetacoplan)を投与した医師たちから眼内炎症の発症報告が寄せられていることを会員向けに通知した。閉塞性網膜血管炎も6例報告されているとのこと。硝子体注射なので眼内炎症は臨床試験でも一回投与当たり平均発生率が0.23%だったが網膜血管炎や網膜静脈閉塞は発生しなかった。

薬の問題なのか、注射の仕方によるものなのかは明らかではない。そもそも、臨床試験は選ばれた施設の選ばれた医療スタッフが厳選された患者に行うので、現実の医療では効果が低下し副作用は増加するのが常である。

ASRSは20年にノバルティスの新生血管加齢性黄斑変性用薬Beovu(brolucizumab)について網膜血管炎が14例発生し、うち11例は閉塞性網膜血管炎で視力喪失に進展したことを会員に通知したことがある。19年に米国で承認されたばかりだったが、競合品が多いこともあり、その後も売上高は伸び悩んでいる。

リンク: Ophthalmology Timesの報道

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年6~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23/7/23  Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
  • 23/7/28  Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/2    MesoblastのProchymal(remestemcel-L、小児急性移植片宿主病)
  • 23/8/5    Sage TherapeuticsのSAGE-217(zuranolone、鬱病、産後鬱)
  • 23/8/9    Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
  • 23/8/13  大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil、結腸直腸癌におけるbevacizumab併用を追加)
  • 23/8/16  イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/20  Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
  • 23/8/20  Neurocrine Biosciencesのvalbenazine(ハンチントン病適応拡大)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/25  Tarsus PharmaceuticalsのTP-03(lotilaner、ニキビダニ眼瞼炎)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/8末    ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)


諮問委員会:
  • 23/8/13 ODAC:Mesoblastのremestemcel-L(ステロイド難治急性移植片宿主病)



今週は以上です。

2023年7月16日

第1111回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗CD20抗体の皮下注試験が成功 
  • オプジーボも膀胱癌一次治療試験が成功 
  • 抗CD19抗体薬物複合体の第2相で7人が死亡 
  • 武田、米国ではデング熱ワクチンの承認申請を撤回 
  • OTC避妊薬が米国で初承認 


【新薬開発】


抗CD20抗体の皮下注試験が成功
(2023年7月13日発表)

ロシュはOcrevus(ocrelizumab)の皮下注用新製剤が第3相OCARINA II試験で主目的と副次的目的を達成したと発表した。再発型あるいは一次進行型の多発性硬化症を対象に、6ヶ月毎に10分間皮下注する群と、17~18年に米欧で承認された点滴用製剤を6ヶ月毎に2時間以上かけて静注する群の薬物動態やMRIによる疾患活動性を比較したところ、非劣性だった。実用化されれば患者の拘束時間が大きく減少することになる。但し、Ocrevusは点滴投与後に1時間以上、副作用が発生しないか密接に監視することが求められており、皮下注用製剤も同じだろうから、実質的な拘束時間は3時間超から1時間超に、7割前後減るだけで、また、おそらく、自己注は認められないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


オプジーボも膀胱癌一次治療試験が成功
(2023年7月11日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)のCheckMate-901試験のサブスタディが最終解析で主目的を達成したと発表した。901試験は切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療試験で、メイン・スタディはYervoy(ipilimumab)と併用する便益をgemcitabineと白金薬を併用する標準療法と比較したが、主評価項目の一つであるPD-L1陽性サブグループにおける全生存期間がフェールした。一方、サブスタディはcisplatinが適応になる患者を対象に、cisplatin及びgemcitabineの標準療法にOpdivoを追加する便益を検討したところ、共同主評価項目の全生存期間とPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が有意に向上した。

Opdivoは二次治療以降に単剤投与することが欧米で承認されているが、一次治療に適応拡大申請することになりそうだ。

抗PD-1/PD-L1抗体ではメルクのBavencio(avelumab)がgemcitabine及び白金薬の併用一次治療に反応/疾病安定化した患者の維持療法として米欧日で承認されている。901試験は維持療法だけではなく最初から用いているのでデータを直接比較できないが、効果が高く忍容性がそれほど悪くないならば、早い段階で用いるようになるかもしれない。

リンク: BMSのプレスリリース


抗CD19抗体薬物複合体の第2相で7人が死亡
(2023年7月11日発表)

スイスのADC Therapeutics(NYSE:ADCT)は、21~22年に米欧で難治再発LBCL(大細胞型B細胞リンパ腫)の三次治療薬として承認された抗体薬物複合体、Zynlonta(loncastuximab tesirine-lpyl)の第2相試験の中間解析で呼吸器関連の治療時発現有害事象が多発し、7人が死亡、G3/4も5例あったことから、組入れを自発的に中断したと発表した。死亡した一名以外は薬物との関連はなさそうと判定された。第3相市販後薬効確認試験の進行や期待に与える影響が気になるところだが、会社側によると、今回の試験の対象は第3相には組入れられないような患者層とのことだ。

この第2相LOTIS-9試験は、R-CHOP療法に不適なびまん性LBCLの一次治療にrituximabと併用する効果や安全性を検討した。中間安全性解析の対象は40人なので死亡率は2割近いことになる。12人全員がCOPDなどの呼吸器疾患や最近のCOVID-19罹患歴を持ち、年齢は80歳以上とのことなので、元々死亡リスクが高かった可能性もある。

米国で加速承認された時のフェーズIVコミットメントである第3相LOTIS-5試験は、治療歴のある難治再発びまん性LBCLを対象に、rituximabと併用する効果をR-GemOXレジメンと比較している。25年に成否判明する見込み。治験登録によると、病気や状態に基づき医師が不適と判断した患者は除外されるので、LOTIS-9試験の被験者はこの条件に引っかかるのかもしれない。

Zynlontaは日本では田辺三菱製薬が、欧州などはSwedish Orphan Biovitrumが、ライセンスしている。

リンク: ADC社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


武田、米国ではデング熱ワクチンの承認申請を撤回
(2023年7月11日発表)

武田薬品は13年にInviragenを買収して入手した4価弱毒化デング熱ワクチンの第3相試験を成功させ、インドネシアを皮切りにEUやブラジルなどで承認を取得したが、米国は申請撤回に至った。過去の臨床試験で収集対象とならなかったデータをFDAに求められ、タイムリーに提出することができないため。

デング熱はアフリカやアジアの一部地域の風土病。医薬品の承認審査体制を持たない国はEUや米国、日本の審査結果を参照することになるが、EUはEU域内だけでなくそのようなニーズのある国向けにも承認しているので、米国が承認しなくても大勢に影響はない。申請撤回の影響を受けるのは流行地域に渡航する米国居住者と、プエルトリコなどデング熱が散見される地域の住人だ。

リンク: 武田の声明

【承認】


OTC避妊薬が米国で初承認
(2023年7月13日発表)

FDAはHRA PharmaのOpill(norgestrel)を承認した。英国では同社のHana(desogestrel)が21年にOTCスイッチされたが、米国でOTC避妊薬が承認されたのは初。

norgestrelは1973年に医薬品Ovretteとして承認されたが2005年に安全性や有効性以外の理由により販売中止となった。HRAはOTC薬に求められるレーベル理解度試験を行い昨年6月に承認申請、諮問委員会で17人の委員全員の支持を獲得した。避妊薬の効果は100%ではなく副作用リスクもある。レーベル理解度試験では癌の罹患歴を持つ人は医師に相談すべきという注意書きが見過ごされたり、過剰服用したりする症例が少なくなかった。一方で、米国では年610万件の妊娠の半分は意図せぬ妊娠とのことだ。このような妊娠は好ましくない結果に繋がるリスクが高まるため、OTC薬の登場は社会的意義があると評価された。

乳癌や罹患歴は禁忌。他の癌の罹患歴がある人は事前に医師と相談する。他の避妊薬の併用は禁忌。妊娠が確認されたら服用を止める。

価格は未定。米国でも英国でも処方薬は保険がカバーし自己負担は小さい模様だが、英国のHanaは有償。

HRAはOTCスイッチ申請する直前の昨年5月にアイルランド籍のOTC薬大手、Perrigo(NYSE:PRGO)に18億ポンドで買収された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Perrigoのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年6~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23年7月推 アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab、0歳児等のRSV下部気道感染症予防)
  • 23/7/23  Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
  • 23/7/24  第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固め)
  • 23/7/28  Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/2   MesoblastのProchymal(remestemcel-L、小児急性移植片宿主病)
  • 23/8/5   Sage TherapeuticsのSAGE-217(zuranolone、鬱病、産後鬱)
  • 23/8/9   Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
  • 23/8/13  大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil、結腸直腸癌におけるbevacizumab併用を追加)
  • 23/8/16  イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/20  Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
  • 23/8/20  Neurocrine Biosciencesのvalbenazine(ハンチントン病適応拡大)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/25  Tarsus PharmaceuticalsのTP-03(lotilaner、ニキビダニ眼瞼炎)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/8末    ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)


諮問委員会:
  • 23/8/13 ODAC:Mesoblastのremestemcel-L(ステロイド難治急性移植片宿主病)



今週は以上です。

2023年7月8日

第1110回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • スペソリマブのGPP増悪予防試験が成功 
  • Dato-DXdの第3相が成功、株価は下落 
  • 抗CLDN18.2抗体を米国でも承認申請 
  • モデルナもRSVワクチンを承認申請 
  • ジェネンテック、RET阻害剤の一部適応を返上へ 
  • レカネマブが本承認 


【新薬開発】


スペソリマブのGPP増悪予防試験が成功
(2023年7月4日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは2月にSpevigo(spesolimab-sbzo)の後期第2相Effisayil 2試験の主目的達成を発表したが、委細をWCC(世界皮膚学会議)で公表した。膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)の患者約120人を組入れて3種類の用量の増悪予防効果を48週に亘り検討したところ、偽薬比84%抑制できたとのこと。また、最高用量群では4週経過した後は一度も増悪が観察されなかった。有害事象に群間の偏りはなかった。

GPPは全身に無菌性の膿疱が現れ疼痛や発熱、全身倦怠感を伴う。増悪を繰り返す。敗血症など深刻な合併症を招くこともある。多くの患者でIL-36受容体アンタゴニストをコードする遺伝子に変異が見られる。治療は様々な免疫抑制剤が使用されている模様だ。Spevigoは抗IL-36受容体抗体で、GPPの増悪時治療薬として22年に米日欧で承認された。適応拡大が承認されれば使用頻度が増加することになる。

リンク: 同社のプレスリリース


Dato-DXdの第3相が成功、株価は下落
(2023年7月3日発表)

第一三共とアストラゼネカはDS-1062(datopotamab deruxtecan、略称Dato-DXd)の第3相TROPION-Lung01試験で主評価項目のPFS(無進行生存期間)に有意差が出たと発表した。白金薬レジメン、及び、適応になるなら抗PD-1/PD-L1抗体やEGFR阻害剤などの分子標的薬による治療歴を持つ進行/転移非小細胞性肺癌の患者約600人を試験薬とdocetaxelに無作為化割付けして効果を比較したもの。共同主評価項目である全生存期間は未だ中間解析段階で、良好ではあるものの中間解析に割当てられた閾値をまだクリアしておらず、継続追跡する。

第一三共と札幌医科大学の共同研究の成果である抗TROP2抗体とトポイソメラーゼI阻害剤のDXdをリンカーを通じて1対4の割合で結合した抗体医薬複合体。TROP2は乳癌や結腸癌、肺癌などで発現しており、類薬であるギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)はホルモン受容体陽性かつher2陰性、またはトリプル・ネガティブの転移性乳癌に承認されている。

過去四半世紀に抗癌剤が次々と実用化された一因は、臨床試験の組入れを増やして検出力を高めたことだ。研究者主導試験が主流だった頃はメジアン生存期間倍増のようなアグレッシブな仮説を立てて討ち死にすることが多かったが、大手製薬会社が開発に本腰を入れるようになってからは、2~3ヶ月延びれば目的達成というささやかな仮説が一般的になった。近年は更にオーバーパワーになり、中間解析で目的達成するのが当たり前のようになった。お金で時間を買う開発戦略である(抗癌剤の限界効用が小さくなる一方で薬価が急騰したのは、この戦略と、他社を買収してパイプラインを横取りするのに必要な買収価格のプレミアムや、共同開発販売する二社がどちらも十分なリターン・オブ・エクイティを確保しようとすることと無関係ではないだろう)。

本題に戻ると、統計的に有意でも臨床的にはそれほど有り難くないことが少なくないため、今回のように数値未公表の場合は正式発表まで油断できず、当方は無視することすらあるのだが、アストラゼネカは有難いことに、a statistically significant and clinically meaningful improvement(統計的に顕著で臨床的に意味のある改善)とプレスリリースに記載することが多い。ところが、今回は臨床的に意味のあるという文言がなかった。このため、治験が成功したのに両社の株価が下落するという残念な結果になった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


抗CLDN18.2抗体を米国でも承認申請
(2023年7月6日発表)

アステラス製薬はzolbetuximabを米国で承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は来年1月12日。Claudin 18.2に結合する抗体で、胃腺癌や食道胃接合部腺癌の4割弱を占めるClaudin 18.2高発現の、her2は陰性、切除不能局所進行または転移性癌の一次治療に、mFOLFOX6レジメン又はCAPOXレジメンと併用する。日本でも承認申請中。

BioNTechの創設者が設立したGanymed Pharmaceuticalsを16年に買収して入手した開発品。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdfファイル)


モデルナもRSVワクチンを承認申請
(2023年7月5日発表)

モデルナは、EU、スイス、そしてオーストラリアでmRNA-1345を承認申請した。米国はローリング申請に着手したところ。60歳以上のRSウイルスによる下部気道疾患や急性肺疾患を予防するワクチンで、22ヶ国の37000人を組み入れて一回接種の効果を検討したConquerRSV試験の中間解析で主目的を達成した。二つ以上の症状を伴うRSV下部気道疾患に関するワクチン効率は83.7%(95.88%信頼区間66.1-92.2)、三つ以上の症状は82.4%(96.36%信頼区間34.8-95.3)だった。G3以上の有害事象発生率は4.0%だった(偽薬群は2.8%)。

60歳以上向けRSVワクチンはGSKのArexvyとファイザーのAbrysvoが5月に米国で承認され、EUでは前者が承認、後者は審査中、日本は両者とも審査中となっている。モデルナ品が順調に承認されれば第3号となり、今回初めて、mRNAベースのワクチンが先行の利を得ずに全面的に抗原ベースのワクチンと競争することになる。その過程で両者のごく稀な副作用に関する知見も充実していくだろう。

リンク: モデルナのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ジェネンテック、RET阻害剤の一部適応を返上へ
(2023年6月29日発表)

ロシュはBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)からRET阻害剤Gavreto(pralsetinib)の共同開発販売権を取得、子会社のジェネンテックが20年に米国でRET変異のある転移非小細胞性肺癌、進行/転移甲状腺髄様腫(MTC)、そして放射性ヨウ素不応甲状腺癌に加速承認された。しかし、このうちMTCについては返上するとジェネンテック及びBlueprintが発表した。反応率などのデータに基づき加速承認を得た会社は市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる効果を確認する必要があり、同社はスペインで198人を組入れる一次治療実薬対照試験を実施する計画だったが、実行困難と判断したため。

GavretoはEUでもRET変異のある転移非小細胞性肺癌に承認されているが、MTCと甲状腺癌はエビデンス不足と判定され、申請撤回を余儀なくされた。一方、イーライリリーのRET阻害剤Retsevmo(selpercatinib)は、米欧日でRET変異型MTCの適応を取得しており、EUでは昨年、一次治療に用いることも可能になった。

ロシュとBlueprintの提携は解消が決まっており、戦線縮小による追加投資節減も今回の背景かもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


レカネマブが本承認
(2023年7月6日発表)

FDAはエーザイがバイオジェンと共同開発したLeqembi(lecanemab)を1月に加速承認したが、今回、本承認に切り替えた。第3相CLARITY AD試験でアルツハイマー病による軽度認知障害や軽度認知症の悪化を抑制する効果が確認されたため。薬剤費だけで年26500ドルと高額医療だが、高齢者医療制度であるメディケアが広くカバーする見込みなので、自己負担は多くても5300ドル程度で済む模様だ。このほかに診療報酬やMRI検査料などが上乗せされることになる。

上記試験は約1800人を偽薬または試験薬を二週毎1時間点滴静注する二群に無作為化割付けして18ヶ月後のCDR-SB臨床評価尺度を比較した。偽薬群は1.66点低下(推定変化率52%)したが試験薬群は1.21点低下(同38%)に留まり、統計的に有意な差があった。副次的評価項目もADAS-cog(各群の変化率は23%対17%)やADCS MCI-ADL(同、13%対8%)などで有意な差が見られた。

パッケージ・インサートに載っているCDR-SBの3ヶ月毎の推移を示すグラフを見ると、投与後12ヶ月間は群間差が拡大していくが、その後は大きな拡大も縮小もなく最初の貯金を守る格好だ。アミロイド・プラクの蓄積を除去する作用機序なので除去が完了したらあとは蓄積予防効果だけにパワーダウンしても不思議はなく、18ヶ月以上投与を続ける便益は明確ではない。エーザイらは除去が完了したら投与を止める臨床試験も実施しているので、数年後には答えが出るだろう。

今回、抗アミロイド抗体のARIA(アミロイド関連造影異常)リスクに関する枠付き警告が導入された。第3相におけるARIA-H(出血型)の発生率は各群8%と14%、ARIA-E(浮腫型)は2%と13%で、多くは症状を伴わないが、深刻例も見られた。ApoE4のエプシロン4多型ホモ接合型の患者は特に発生率が高いため、事前にApoE4検査を行う。エプシロン4多型はアルツハイマー病リスクと関連するのでリスクだけでなく治療ニーズも高いのが痛し痒しだ。

加速承認時のレーベルと同様に、初回、第5回、第7回、第14回の投与前にMRI検査を行い、ARIAが見られる場合は型や重症度、症状の有無などを考慮して投与の適否を決定するよう求めている。

新たに禁忌が設定されたが活性成分に対する過敏反応だけでエプシロン4ホモ接合型は盛り込まれなかった。このため、事前検査をせずに投与することも可能だが、枠付き警告に関わるものなので、この検査や高価なMRI検査をやらないわけにはいかないのではないか?

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年7~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23年7月推 アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab、0歳児等のRSV下部気道感染症予防)
  • 23/7/23  Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
  • 23/7/24  第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固め)
  • 23/7/28  Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/2   MesoblastのProchymal(remestemcel-L、小児急性移植片宿主病)
  • 23/8/5   Sage TherapeuticsのSAGE-217(zuranolone、鬱病、産後鬱)
  • 23/8/9   Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
  • 23/8/13  大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil、結腸直腸癌におけるbevacizumab併用を追加)
  • 23/8/16  イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
  • 23/8/19  Iveric BioのZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/20  Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
  • 23/8/20  Neurocrine Biosciencesのvalbenazine(ハンチントン病適応拡大)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/8末   ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)


諮問委員会:
  • 23/8/13 ODAC:Mesoblastのremestemcel-L(ステロイド難治急性移植片宿主病)



今週は以上です。

2023年7月1日

第1109回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • PPAR作動剤の胆汁性胆管炎試験が成功 
  • エプコリタマブの適応拡大を相談へ 
  • トリアゴニストで体重が2割減少 
  • PTC社、vatiquinoneのミトコンドリア関連癲癇試験もフェール 
  • HDAC阻害剤をDMDに承認申請 
  • PDE3/4阻害剤をCOPDに承認申請 
  • ファイザーも血友病Bの遺伝子療法を承認申請 
  • 複合セフェムを承認申請 
  • テロメラーゼ阻害剤を承認申請 
  • FDA諮問委員会、骨化性線維異形成症用薬の承認を支持 
  • 高量アイリーアは承認先送り 
  • UCB、二重特性抗体の適応拡大審査がまた長引く 
  • 血友病Aの遺伝子療法が承認 
  • ラ島細胞療法が承認 
  • 週一回型成長ホルモンが承認 
  • UCBの筋無力症用薬も承認 



【新薬開発】


PPAR作動剤の胆汁性胆管炎試験が成功
(2023年6月30日発表)

フランスのイプセンとGENFIT(Nasdaq/Euronext:GNFT)は、GFT505(elafibranor)の第3相原発性胆汁性胆管炎(PBC)試験で主目的を達成したと発表した。標準療法であるUDCA(ursodeoxycholic acid)に十分応答しない患者161人を試験薬(80mg錠を一日一回経口投与)追加群と偽薬追加群に2:1割付けして52週時点の応答率(アルカリフォスファターゼがULN(通常値上限)の1.67倍未満且つ15%以上減少、且つ総ビリルビンがULN以下になった患者の比率)を比較したところ、各群51%と4%で有意な差があった。副次的評価項目ではALP正常化率も有意差があったが掻痒スコアはトレンドに留まった。承認申請に向けて欧米の審査機関などと相談する考え。

PBCは米国で10万人当り24~39人、欧州では同じく22人程度が罹患と推測される、女性に多い希少疾患。胆汁が胆管から漏れて肝臓に障害を与える。Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)のファルネソイドX受容体アゴニスト、Ocaliva(obeticholic acid)が今回と類似した試験で同じような成績を上げ、16年に欧米で加速承認された。

GFT505はPPARアルファとデルタのデュアル・アゴニスト。日本ではPPARアルファ・アゴニストのベザフィブラートがオフレーベル使用されている模様なので、今回の成功はそれほど意外感はない。

リンク: 両社のプレスリリース


エプコリタマブの適応拡大を相談へ
(2023年6月27日発表)

アッヴィとジェンマブは、後者が創製し前者と米国などで共同開発販売している抗CD3xCD20抗体Epkinly(epcoritamab-bysp)の第1/2相EPCORE NHL-1試験についてアップデートした。難治/再発巨細胞型B細胞リンパ腫を組み入れたコフォートの成績に基づき5月に米国で加速承認、日欧でも承認審査中だが、今回、難治/再発濾胞性リンパ腫コフォートで良好な成績を上げたため、承認審査機関と相談する考え。

二次以上の全身性治療歴を持ち、被験者の7割は抗CD20抗体にもアルキル化剤にも抵抗性を示したが、Epkinlyの投与で128人中82%がORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)を達成、メジアン反応持続期間は未達だった。メジアン追跡期間は公表されていない。

Epkinlyは皮下注用薬。当初は週一回投与で用量漸増していくが、目標用量に到達する第3回は投与後24時間入院して副作用に備える必要がある。おそらく今回の適応でも同様だろう。

リンク: 両社のプレスリリース


ADA:トリアゴニストで体重が2割減少
(2023年6月26日発表)

ADA(米国糖尿病学会)で各社のGLP-1作用剤等の第2相試験の詳細が明らかにされた。先行二社の一つであるイーライリリーはADAとNew England Journal of Medicine誌でLY3437943(retatrutide)の肥満症試験などの結果を発表した。GLP-1受容体とGIP受容体に加えてグルカゴン受容体も作動する『トリアゴニスト』で、1~12mgを週一回皮下注したところ、24週間で体重が7~17.5%低下した(偽薬群は2%)。48週時点で9~24%と更に低下しており、GLP-1作用剤やデュアル・アゴニストを凌ぐトップクラスの実力がありそうだ。二型糖尿病試験では0.5~12mgで24週時点のHbA1cが最大2%低下した。偽薬群は0%、同社のGLP-1作用剤アゴニスト、Trulicity(dulaglutide、1.5mg)を投与した群は1.4%低下に留まった。

更に、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の第2相では1~12mgを24週間投与したところ肝臓脂肪が43~82%低下した。

GLP-1作用剤は悪心嘔吐など忍容性に難があり、承認最大用量における効果は自動車における10.15モード燃費のようなものだ。便益と危険のバランスを考えるためには大規模な試験が必要。第3相は来年にも開始される見込み。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

追いかける集団も増えてきた。ファイザーは二種類の経口GLP-1作用剤の第2相試験を並行実施していたが、PF-06882961(danuglipron)に軍配を上げた。二型糖尿病試験でHbA1cが最大1.16%低下、体重も最大4.1kg低下した。秋に肥満症試験も開票する見込み。

一方、そーせいの創薬プラットフォームを利用して発見したPF-07081532(lotiglipron)は開発中止となった。薬物相互作用や肝機能検査値異常などが見られたため。

リンク: ファイザーのプレスリリース


PTC社、vatiquinoneのミトコンドリア関連癲癇試験もフェール
(2023年6月29日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はPTC-743(vatiquinone)の第2/3相小児ミトコンドリア関連癲癇試験がフェールしたと発表した。24週治療しても運動発作の減少が有意水準に到達せず、開発中止を決めた。

ミトコンドリアのエネルギー・酸化ストレス経路に関わる15-lipoxygenaseの阻害薬。5月に第3相フリードライヒ運動失調症のフェールが発表された。一部の患者や一部の評価項目には効果の兆候が見られたため当局と相談する考えは変わっていない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


HDAC阻害剤をDMDに承認申請
(2023年6月29日発表)

イタリアのItalfarmacoは米国でITF2357(givinostat)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は12月21日。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の経口液で、過剰なHDACが神経再生を妨げ炎症をトリガーするのを防ぐ。第3相EPIDYS試験で6歳以上の歩行可能な患者179人を偽薬と2対1割付けして18ヶ月治療し、階段を4段上がるのに必要な時間の変化を比較したところ、1.78秒の差が生じた(p=0.0345)。試験薬群は3人が有害事象で治験を離脱した。

リンク: 同社のプレスリリース(Business Wire)


PDE3/4阻害剤をCOPDに承認申請
(2023年6月27日発表)

英国のVerona Pharma(Nasdaq:VRNA)は米国でRPL554(ensifentrine)をCOPDの維持療法薬として承認申請した。PDE3/4阻害剤で一日二回ネブライザ吸入する。専らLAMA(長期作用性ムスカリン拮抗剤)またはLABA(長期作用性ベータ作用剤)だけしか使っていない中重度COPD患者を組入れた二本の維持療法試験で第12週における一秒量(FEV1)の12時間曲線下面積が偽薬比90mL前後、改善した。中重度増悪抑制率は一本では42%、p=0.01だったがもう一本は36%、p=0.0505に留まった。

Vernalisが18年にLigand Pharmaceuticals(Nasdaq:LGND)に買収された時に導出されたPDE3とPDE4のデュアル・アンタゴニストで、気管支拡張作用と炎症抑制作用の両方を持つとされる。

リンク: Veronaのプレスリリース


ファイザーも血友病Bの遺伝子療法を承認申請
(2023年6月27日発表)

ファイザーはPF-0683843(fidanacogene elaparvovec)を米国で承認申請し受理された。審査期限は来年第2四半期とだけ公表されている。EUでも承認申請が受理された。

血友病Bの遺伝子療法で、アデノ関連ウイルスをベクターとして高活性多型であるPadua型の第IX因子を肝細胞特異的に発現させる。14年にSpark Therapeutics(後にロシュが子会社化)からライセンスした。中程度重度/重度の患者45人を組入れた第3相単群試験で出血年率が1.3と、第IX因子などによる予防的投与を行ったリードイン期間中の4.43と比べて71%減少した。薬物関連深刻有害事象は2名で発生、一人はステロイドによる免疫抑制中の十二指腸潰瘍出血、もう一人は免疫調停性肝アミノトランスフェラーゼ上昇。

類薬ではオランダのuniQure biopharma(Nasdaq:QURE)が開発し20年にCSL BehringにライセンスしたrhAAV5-FIX-Padua、Hemgenix(etranacogene dezaparvovec-drlb)が昨年11月に米国で承認、今年2月にはEUでも条件付き承認されている。リスト・プライスが350万ドルという、高価な治療だが、難治血友病の治療は元々、高額になりがちだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース


複合セフェムを承認申請
(2023年6月26日発表)

Allecra TherapeuticsはExblifep(cefepime、enmetazobactam)をFDAに承認申請した。第4世代セファロスポリンと新開発のベータ・ラクタマーゼ阻害剤の合剤で、グラム陰性菌による複雑尿路感染症/急性腎盂腎炎の治療に用いる。約1000人を組入れて前者を2mg、後者を0.5gずつ、8時間毎2時間静注点滴を7~14日反復したところ、テスト・オブ・キュアにおける総合的奏効率(臨床的治癒かつ微生物学的根絶)が79.1%と、piperacillin 4gとtazobactam 0.5gを投与した群の58.9%比非劣性だった。優越性解析も成功した。臨床的治癒率より微生物学的根絶率の差が大きかった。治療時発現有害事象率は各群50%と44%だった。

対照薬がZosyn/Tazocinとして発売された30年前と比べて、ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌の増加が課題になっている。今回の試験ではESBL産生菌感染者に対する総合奏効率の群間差が特に大きかった。

リンク: 同社のプレスリリース(Business Wire)


テロメラーゼ阻害剤を承認申請
(2023年6月20日発表)

Geron(Nasdaq:GERN)はGRN163(imetelstat)をFDAに承認申請した。テロメラーゼ阻害剤で、寿命を短くする薬、ではなく、低/中程度1リスクの骨髄異形成症候群の成人の輸血依存貧血症を治療する。エリスロポイエチン生成刺激剤に応答しない、または不適な患者が適応と想定している。第3相試験では40%が輸血不要になった(偽薬群は15%)。有害事象は骨髄抑制で、貧血発生率が19.5%と偽薬群の6.8%を上回ったことがほろ苦い感じだ。

ジョンソン・エンド・ジョンソンがライセンスして血小板増多症などにテストしていた頃、FDAが肝臓酵素上昇を懸念して完全治験停止命令を出したことがある。今回の試験でもG3のALT上昇が3.4%で発生したが偽薬群は5.1%なので増えるようには見えず、薬物誘導性肝障害の試金石であるHyの法則に該当する症例はなかったとのこと。

リンク: Geronのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、骨化性線維異形成症用薬の承認を支持
(2023年6月29日発表)

FDAはEMDAC(内分泌学代謝学薬諮問委員会)を招集し、イプセンが進行性骨化性線維異形成症(FOP)用薬として承認申請したpalovaroteneについて意見を聞いた。便益に関しては10人が支持、4人が認めず、便益が危険を上回るかという問いは11人対3人で支持が増加した。カナダやUAEでは既に承認、EUはCHMPが否定的意見と評価が分かれており、FDAも全面的に支持しているようには見えないが、近年は難病用薬のハードルが低下しているようにも見えるので、承認に一歩近づいたと受け止めるべきだろう。

FOPは骨格筋や腱、靱帯などの線維性組織が骨化し、運動機能が進行性に悪化する、先天性で罹患率は100万人に1.36人の超希少疾患。palovaroteneは19年に買収したClementia Pharmaceuticalsがロシュからライセンスしたレチノイン酸受容体ガンマ・アゴニスト。ほとんどのFOPで見られるACVR1/ALK2遺伝子の機能獲得変異による過剰シグナルを調停する作用が見られる模様だ。第3相試験はフェールしたがデータの平方根変換がワークしなかった模様で、この処理を行わない事後的解析では新規異所性骨化量が自然歴比有意に少なかった。諮問委員会の論点は、FDAが例外的に受け入れた、この事後的解析の信憑性と、過去の治験停止命令の原因となった成長板早期閉鎖リスク、そして、異所性骨化に伴うフレアが自然歴データより多いことの評価。諮問委員は事前に設定された解析計画が適切でなかったと判定。成長板早期閉鎖は適応年齢を絞ることで対処されるのではないか。フレアの増加は長期的なインプリケーションがあるかもしれないので、長期追跡を市販後コミットメントとするのではないか。

リンク: イプセンのプレスリリース


高量アイリーアは承認先送り
(2023年6月27日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はEylea(aflibercept)の高量版を米国で承認申請し、他社から購入したバウチャを用いて優先審査を獲得したが、審査完了通知を受領した。薬剤充填工程を担う第3者施設がFDA査察後に指摘事項を受領したことが唯一の理由とのことだ。日本でも承認申請中。

加齢性黄斑変性や湿潤型加齢性黄斑変性の代表的な治療薬でVEGFと免疫グロブリンの融合蛋白を硝子体注射する。既存の2mg製剤は製剤特許が27年に失効する。また、他社が数ヶ月に一回投与するだけで足りる画期的新薬を発売、競合が激化した。8mgの高量版の第3相では月一回で3回投与した後は12週毎または16週毎と間隔を広げたが、48週時点の視力改善は2mg 8週毎投与(当初の5回は月一回)と非劣性だった。

今回、上記試験の2年データも公表された。投与間隔は浮腫など眼球の状態に基づき調整するプロトコルが採用されているが、8週毎群も12週群も8割以上の患者が頻度を上げないで済んだ。43%の患者が20週毎以上に広げることが認められる基準に到達、27%は24週毎に広げられる基準に達した。この20/24週毎が承認申請されているかどうかは明らかではない。

リンク: 同社のプレスリリース


UCB、二重特性抗体の適応拡大審査がまた長引く
(2023年6月26日発表)

UCBは抗IL-17AxIL-17F二重特異性抗体Bimzelx(bimekizumab)を中重度プラク乾癬の治療薬として開発、21年に日欧で承認を獲得したが、米国は審査が長引き、1年半後に審査完了通知を受領した。昨年11月に追加情報を提出し、今第2四半期中に承認の可否が通知されるはずだったが、第3四半期に遅れる見込みになった。理由は不明。

第1サイクルの審査遅延の主因はFDAがCOVID-19関連の渡航制限により欧州工場の査察ができなかったこと、承認されなかった主因は査察で指摘事項があったことだ。再申請の審査はクラス2(6ヶ月審査)なので、内容は不明だが、元々、簡単に対応/審査できるようなものではなかったのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


血友病Aの遺伝子療法が承認
(2023年6月29日発表)

FDAはBioMarin Pharmaceutical(Nasdaq:BMRN)のRoctavian(valoctocogene roxaparvovec-rvox)を成人の重症血友病Aの治療薬として承認した。AAV5(アデノ随伴ウイルス5型)に対する抗体を持つ一部の患者には効果が低減/喪失するため、コンパニオン診断薬として承認されたARUP LaboratoriesのAAV5DetectCDxで事前に検査して陰性患者だけに用いる。

欠乏する第VIII因子の遺伝子をAAV5ベクターで導入する、この疾患では初めての遺伝子療法。臨床試験では3年間の年率出血頻度が平均2.6回と、予防的治療を受けていたラン・イン期間中の5.4回と比べて52%低下した。尚、昨年8月に承認されたEUのレーベルでは4.8回から0.8回に8割以上低下したと記されているが、FDAは、追跡期間中に第VIII因子による予防的治療を受けた患者に関してはそれ以前のデータしか考慮しない独自解析を行った模様だ。

上記はメジアン3年間のデータだが、治療効果は1年目、2年目と漸減する傾向が見られる。バイオマリンは被験者を最大15年、市販後の患者は15年以上、追跡する計画。FDAのプレスリリースは肝細胞腫の理論的懸念にも言及している。

米国の重症血友病A患者6500人のうち2500人程度が適応になる見込み。正味価格は190万ドル程度の見込みだが、患者が応答しなかった場合は全額を、4年以内に応答しなくなった場合は按分額を、医療保険組織に返還する考え。重症血友病の治療は年40万ドルとも言われているので、第VIII因子の投与などが5年間ゼロになれば元を取れる計算になる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Biomarinのプレスリリース


ラ島細胞療法が承認
(2023年6月28日発表)

FDAはCellTransのLantidra(donislecel-jujn)を一型糖尿病用薬として承認した。重度低血糖が起き易く血糖管理が上手くいかない成人患者が適応になる。死者のランゲルハンス島由来の同種細胞療法で、肝門脈に点滴投与する。反応に応じて再投与できる。臨床試験では低血糖症を自覚できない一型糖尿病患者30人に延べ56回移植したところ、21人が1年以上インスリン不要になり、うち10人は5年以上不要だった。一方、5人はインスリン不要にならなかった。有害事象は移植時の裂傷や出血、移植細胞からの微生物感染症、そして、免疫抑制療法の合併症など。臨床試験では1名が感染症による多臓器不全で死亡した。

CellTransはこの技術を開発したイリノイ大学の研究者が実用化のために設立した。

リンク: FDAのプレスリリース


週一回型成長ホルモンが承認
(2023年6月28日発表)

ファイザーの週一回皮下注用成長ホルモン製剤、Ngenla(somatrogon-ghla)がFDAに承認されたと発表した。日欧では昨年、承認されたが、米国は審査期間延長や審査完了通知で遅延した。3~17歳の成長ホルモン欠乏症患者を組み入れた第3相試験で0.66mg/kg/日を週一回投与した群の身長が年率10.1cm伸長、somatropinを0.034mg/kg/日群、毎日投与した群の9.8cmと同程度だった。

ヒト成長ホルモンのN端末とC端末にヒト絨毛性ゴナドトロピンのベータ鎖の一部を結合して半減期を長期化したもの。OPKO Health(Nasdaq:OPK)が13年にイスラエル企業を買収して入手し、翌年、ファイザーに開発商業化権をライセンスした。

米国のリスト・プライスは月$8300とのことなので日本より安いように見える。

リンク: 同社のプレスリリース


UCBの筋無力症用薬も承認
(2023年6月27日発表)

UCBはFDAがRystiggo(rozanolixizumab-noli)を成人の重症筋無力症(gMG)の治療薬として承認したと発表した。欧日でも承認審査中。同社はC5インヒビターzilucoplanも米欧日で承認申請中。

Rystiggoは胎児性Fc受容体(FcRn)に結合する抗体医薬。21年に米日欧で承認されたアルジェニクス(Euronext & Nasdaq:ARGX)のVyvgart(efgartigimod alfa-fcab)も抗FcRnフラグメントなので似ている。適応面の違いは、Rystiggoはアセチルコリン受容体(AChR)に対する自己抗体を持つタイプ(gMGの85~90%を占める)だけでなく、MuSK(筋特定的チロシン・キナーゼ)に対する自己抗体を持つタイプ(抗AChR抗体陰性gMGの5~70%を占める)も適応になること。

投与方法は週一回、体重に応じた用量を10分前後かけて持続皮下注する。自己注が可能なようだ。6回反復投与し、必要があれば、数週後に再開する。一方、Vyvgartは点滴用薬として承認されたが6月に米国で1分皮下注用のVyvgart Hytruloが承認された。週一回、4回投与し、必要に応じて数週間おいて再開する。日欧でも申請中。投与時間はVyvgartのほうが短いが自己注不可なので、Rystiggoのほうが患者には好都合かもしれない。

一番重要なのは薬効の違いだが、主評価項目や評価時期が異なるため比較は難しい。

リンク: UCBのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年6~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23年7月推 アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab、0歳児等のRSV下部気道感染症予防)
  • 23/7/6   エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb、本承認切替)
  • 23/7/23  Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
  • 23/7/24  第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固め)
  • 23/7/28  Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)



今週は以上です。