2020年12月31日

第980回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンが英国で供給可能に 
  • COVID-19:リジェネロンの抗体医薬は入院患者の一部には無益ではない 
  • BMS、オプジーボの小細胞性肺癌適応を撤回 
  • Aprea社、p53再活性化剤の第3相がフェール 
  • Chi-Med社、米国でもsurufatinibの承認申請に着手 
  • CARA社、透析患者の掻痒治療薬を承認申請 
  • ファイザー、ローブレナを米国でも一次治療に申請 
  • BMS、欧州でZeposiaを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請 
  • Alkermes、ALKS 3831を再承認申請 


【今週の話題】


COVID-19:アストラゼネカのワクチンが英国で供給可能に
(2020年12月30日発表)

アストラゼネカは、COVID-19 Vaccine AstraZeneca(開発コードAZD1222/ChAdOx1 nCoV-19)の非常時供給がMHRA(英国の薬品承認機関)に承認されたと発表した。医薬品規制法第174条に基づくもので、有害な病原体、毒物、化学物質、放射性物質の拡散に対処するために、未承認の薬品等の供給を一時的に容認するもの。18歳以上に、0.5mLを4-12週間おいて2回、筋注する(三角筋が好ましい)。元日から接種が始まる見込み。

先に承認された二種類のmRNAワクチンとの違いは、遺伝子組換え型複製不能チンパンジー・アデノウイルス(二重連鎖DNAウイルス)をベクターとしてスパイク蛋白の遺伝子とtPA leaderを細胞に導入、スパイク蛋白を発現させること。

英国で実施された第2/3相髄膜菌結合ワクチン対照試験とブラジルの第3相偽薬対照試験のプール分析では、ワクチン効率(リスク削減効果、効果がフルに発揮される2回目接種の14日後からの感染症例数を対照群と比較)が70%だった。一回当たり5x10^10ウイルスパーティクルを投与する。当初、至適用量の誤認があったために初回に半量しか接種しなかったサブグループのワクチン効率が90%と高かったため、アストラゼネカはこのレジメンに期待したが、MHRAは本来の用量を採用した。この用量のワクチン効率は62%程度と、先に承認された二種類のmRNAワクチンの約95%と比べて見劣りする。また、65歳以上の高齢者に関するデータは限定的だ。

接種間隔の長さが印象的だが、これは臨床試験のプロトコルを反映している。MHRAの医療従事者向け情報に掲載されている、接種間隔と二回目接種後の幾何抗体価(GMT)の関係を分析したデータ(n=819、ベースライン値は57)によると、12週以上だった154人は63,181と、9-11週、6-8週、6週未満の各サブグループより2-3倍高く、間を開けた方が良い可能性を示している。一方で、一回接種によるワクチン効率は5-6割なので、二回目接種までのプロテクションが手薄になる。

有害反応は一回目より二回目のほうが軽微で発現率が低い由。mRNAワクチンと逆なのが興味深い。ベクターや接種間隔の違いが影響したのかもしれない。

アストラゼネカのワクチンの長所は、第一に、通常の冷蔵庫で最長6ヶ月、保存可能であること。第二に、オリジンがオックスフォード大学であるためか、アストラゼネカは儲けゼロで供給すること。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: MHRAの医療従事者向け情報

COVID-19:リジェネロンの抗体医薬は入院患者の一部には無益ではない
(2020年12月29日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-COV2(casirivimabとimdevimab)のCOVID-19入院患者試験のアップデートを行った。ハイフロー酸素や人工呼吸器装着の患者の成績が今一つだったため、新規組入れはローフロー酸素(鼻カニューレにより酸素飽和度が93%超)の患者に限定されたが、そのうち、ベースライン時点で抗SARS-CoV-2抗体を保有していなかった血清陰性サブグループ217人に関して無益性検定を行ったところ、無益ではないとの結果になった。

具体的には、死亡・人工呼吸器装着のハザードレシオが偽薬比0.78、80%信頼区間は0.51-1.2、片側p<0.3となった。一回点滴投与するが、一週間後の時点ではリスクが半減していた。この試験は標準療法アドオン試験で、remdesivirもコルチコステロイドも被験者の7割前後が使用していた。

用量は8g群と2.4g群が設定されたが、効果は用量相関がなく、上記は二群合計を偽薬と比べたもの。高用量は注射箇所反応やそれによる離脱がやや多く、2.4gがベストということになる。米国でEUA(非常時使用認可)を受けている軽中等症外来患者に対する用量も2.4g。

尚、血清陽性サブグループ270人ではハザードレシオが0.98と、便益が見られなかった。

REGN-COV2は外来試験でも血清陽性患者には十分な効果がなかった。EUAの適応は血清陰性に限定されていないが、エビデンスが重なるにつれて見直されるだろう。

入院患者試験は全滅は免れたが、95%ではなく80%信頼区間でも1を跨いでおり、今回のサブグループ解析でも有意性はない。解析対象症例数が当初の予定より大きく減少したため検出力不足に陥ったのかもしれない。オックスフォード大学が入院患者を対象とするRECOVERY試験を行っており、リジェネロンがハイフロー酸素・人工呼吸器患者の組入れを中止した後もプロトコルを変えずに続行している。既に2000人以上を組入れており、ファイナル・アンサーが出そうだ。

同社とイーライリリーの抗体医薬は米国政府が購入して国民に無償で提供しているが、需要は期待外れであるようだ。外来患者は陽性判明した時点では自宅などにいるので、点滴治療を受けるためには、他者に感染しないよう細心の注意を払って、医療施設に行く必要があることがボトルネックのようだ。入院患者なら問題ないのだが、両剤とも、入院患者試験で良い結果が出ていないのが裏腹だ。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

BMS、オプジーボの小細胞性肺癌適応を撤回
(2020年12月29日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の小細胞性肺癌における米国の適応を撤回すると発表した。18年に三次治療薬として加速承認されたが、市販後コミットメントである実薬対照試験がCheckMate-331試験(二次治療のtopotecan/amrubicin対照試験)も、CheckMate-451試験(進展型小細胞性肺癌で一次治療を受け安定化した患者のYervoy併用維持療法試験)も、フェールした。

米国は第1相、第2相試験の反応率などサロゲートマーカーに基づいて加速承認する場合、市販後に延命またはそれに準じる効果を確認するよう求める。しかし、承認された用途で改めて偽薬対照試験を行うのは倫理上問題がないとは言えず、かといって実薬対照試験は優越性を確認するにはハードルが高く、非劣性検定試験は試験自体のハードルが高く制約も多いため、製薬会社のリスクが高い。このため、かっては市販後コミットメントを果たさない、加速審査の食い逃げが新興企業を中心に頻発していた。

腫瘍学諮問委員会が厳しいスタンスを取ったこともあり、加速承認する時点で市販後コミット試験の患者組入れが相当程度進展していることが求められるようになったが、今度は、フェールした時の対応が難問になった。試験のデザインや実施内容が適切でなかったことが原因かもしれないので、もう一度チャンスを与えるか、承認を取消すか、判断が難しい。11年にロシュのAvastin(bevacizumab)の転移性乳癌が適応撤回となったが、日欧では依然として承認されている。その後も市販後コミットメント試験のフェールが散見されるが、今回のように、撤回に至るのは珍しい。

Opdivoと同じ抗PD-1/PD-L1抗体ではロシュのTecentriq(atezolizumab)が進展型小細胞性肺癌の一次治療薬として19年に日米欧で承認。20年にはアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を進展型小細胞性肺癌の一次治療に白金薬などと三剤併用することが日米欧で承認。再発がんでも19年にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が三次治療薬として米国で加速承認と、他の治療手段が増えてきたことも適応撤回の背景になっていそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【新薬開発】


Aprea社、p53再活性化剤の第3相がフェール
(2020年12月28日発表)

p53は腫瘍抑制因子として知られているが、一部の癌では、その遺伝子であるTP53が変異して発現が減少している。p53を再活性化する手法を研究しているAprea Therapeutics(Nasdaq:APRE)は、APR-246(eprenetapopt)の第3相TP53変異型MDS(骨髄異形成症候群)試験を行ったが、フェールした。azacitidine併用とazacitidine単剤の完全寛解率を比較したところ、各33.3%(95%CI:23.1-44.9%)と22.4%(95%CI:13.6-33.4%)となり、p=0.13だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


Chi-Med社、米国でもsurufatinibの承認申請に着手
(2020年12月29日発表)

Hutchison China MediTech(AIM/Nasdaq:HCM、通称Chi-Med)は、米国でもHMPL-012(surufatinib)のローリング承認申請に着手したと発表した。21年上期に完了する予定。血管新生に係るVEGFRやFGFRに加えて、マクロファージによる免疫に係るCSF-1Rも阻害する小分子薬で、膵臓あるいはそれ以外の部位の神経内分泌腫瘍(NET)に用いる。中国で実施された第3相試験では、膵NETにおけるPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.49、非膵NETでは0.33だった。G3以上の有害事象は高血圧症や蛋白尿など。

近年、中国の新薬開発ベンチャーの米国進出が目立つが、Chi-Medも今回の申請が初になる。上記中国試験をメインに、米国試験を補助的エビデンスとして承認申請することでFDAの了解を得ている由だ。

中国では12月30日に非膵NET用薬として承認された。膵NETも審査中。欧州でも21年に承認申請の予定。

リンク: 同社のプレスリリース

CARA社、透析患者の掻痒治療薬を承認申請
(2020年12月28日発表)

米国コネチカット州のCara Therapeutics(Nasdaq:CARA)は、Korsuva(difelikefalin)をFDAに承認申請した。末梢作用性カッパ・オピオイド受容体アゴニストで、透析期慢性腎疾患患者の中重度掻痒の治療に用いる。優先審査を要求している。

週3回、12週間に亘って静注した第3相試験では、奏効率が一本では51%(偽薬群は31%)、もう一本は54%(同42%)だった。

日韓以外の国や米国のうちフレゼニウスの透析センター向けの商業化権はVifor Fresenius Medical Care Renal Pharmaが保有している。

リンク: 同社のプレスリリース

ファイザー、ローブレナを米国でも一次治療に申請
(2020年12月28日発表)

ファイザーは、Lorbrena(lorlatinib、和名ローブレナ)をALK融合遺伝子陽性の非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大申請を米国で行い受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4月だが、Real-Time Oncology Reviewの対象になったので前倒し承認もありそうだ。日本でも今月、一変申請を行った。臨床試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が同社のXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を大きく上回った。

ALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤で、18~19年にALK阻害剤歴を持つALK融合遺伝子陽性非小細胞性肺癌用薬として日米欧で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、欧州でZeposiaを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
(2020年12月28日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Zeposia(ozanimod)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療薬としてEUで適応拡大申請し受理された。今年3月に米国で、5月にはEUでも再発型多発硬化症用薬として承認されたS1PR1/5調節剤で、米国でも適応拡大に向かうと推測される。第3相試験では前治療が十分奏効しなかった患者を組入れて、寛解導入効果と寛解維持効果を検討した。共同主評価項目の一つである臨床的寛解奏効率は18.4%と偽薬の6.0%を有意に上回った。寛解維持率は、各群の応答者を組入れて試験薬群に関しては継続投与群と偽薬スイッチ群に再無作為化割付けすることによって、継続投与の必要性を検討したところ、継続投与群は37.0%、偽薬群は18.5%と有意な差があった。尚、偽薬群は再燃による離脱率が34%と試験薬群の14%よりだいぶ高く、試験完了率が55%と試験薬群の80%よりだいぶ低かった。

リンク: BMSのプレスリリース

Alkermes、ALKS 3831を再承認申請
(2020年12月29日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、ALKS 3831を成人の統合失調症や双極障害一型の治療薬として再承認申請し、受理された。非定型向精神薬olanapineにミュー・オピオイド受容体拮抗剤samidorphanを加えることで体重増加副作用を緩和した合剤で、11月に工場関連の理由で審査完了通知を受領したが、臨床・非臨床データに関する指摘事項はなかった模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2020年12月25日

第979回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • Rhythm社、MC4Rアゴニストの適応拡大試験が成功 
  • ロシュ、Ang2/VEGF-A二重特異抗体のDME試験が成功 
  • BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール 
  • 抗TSLP抗体の経口ステロイド減量試験がフェール 
  • アステラス、ゾスパタの一次治療試験がフェール 
  • JNJ、BCMA標的CAR-Tのローリング申請に着手 
  • ビベグロンが米国でも承認 
  • FDA、第2のエボラ治療薬を承認 

訂正:第978回で、BioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチンについて、規格上はバイアル一瓶が5回分だが実際にはもっと入っていてFDAが使い残しを集めて使うことを認めた、と書きましたが、正確には、6回分または7回分を取れる場合は使うことを容認しましたが、保存剤不添加のため、異なったバイアルの使い残しを寄せ集めて一回分に充てることは認めませんでした。お詫びして訂正します。第978回は修正済みです。

【新薬開発】


Rhythm社、MC4Rアゴニストの適応拡大試験が成功
(2020年12月22日発表)

Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)はImcivree(setmelanotide)の第3相バルデー・ビードル症候群(BBS)・アルストレム症候群(AS)試験が成功したと発表した。主評価項目の体重10%減少奏効率は34.5%となり、平均では6.2%減量となった。但し、ASにおける効果は確認できなかった。

この試験はBBSを32人とASを6人組入れて、52週間に亘って一日一回皮注する効果を検討した。但し、一部の患者は偽薬を14週間続けた後に試験薬を遅延開始した。薬効解析対象は52週間の治療を完了した28人と遅延開始群(試験薬の投与は52週間未満)の3人を合わせた31人。

BBSは28人中11人、39%が奏功した。ASは3人の何れも奏功しなかった。治療時発現有害事象は注射箇所反応と悪心嘔吐などで、深刻なものはなかった。有害事象による治験離脱は5人で、うち1人は偽薬期間中の離脱だった。

Imcivreeはメラノコルチン4受容体アゴニスト。今年11月に米国でPOMC、PCSK1、またはLEPRの欠乏による肥満症の体重管理薬として承認された。米国の対象患者数は数百人から数千人の超希少疾患用薬で、優先審査バウチャを取得した。欧州でも承認審査中。

BBSとASは常染色体性劣性遺伝性疾患で、肥満は症状の一つ。BBSの米国患者数は2000人程度と推測されている。

リンク: 同社のプレスリリース

ロシュ、Ang2/VEGF-A二重特異抗体のDME試験が成功
(2020年12月21日発表)

ロシュは、RG7716(faricimab)の第3相糖尿病性黄斑浮腫(DME)試験が二本とも成功したと発表した。6.0mgを8週毎に硝子体注射する群と、投与頻度を16週毎まで広げることが可能なフレックス群の1年後の最良矯正視力を、実薬であるリジェネロン・ファーマシューティカルズ/バイエルのEylea(aflibercept、和名アイリーア)を2.0mgを8週毎に硝子体注射する群と二重盲検で比較したところ、非劣性が確認された。また、フレックス群では1年経った段階で過半の患者が16週毎投与に移行していた。

RG7716はAngiopoietin-2とVEGF-Aに結合する二重特異抗体。VEGF-AとPlGFに結合するEyleaより効果が高いのかと思ったが、それほどでもなさそうだ。Eyleaもフレックス法が可能なので、米国では未承認のようだがフレックス同士の直接比較も見たかった。

RG7716は加齢性黄斑変性の第3相も進行中。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、オプジーボの脳腫瘍試験がまたフェール
(2020年12月23日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第3相CheckMate-548試験の独立データ監視委員会が延命効果を確認することはできないであろうと判定したことを公表した。盲検解除する予定。

この試験は多形性膠芽腫(GBM)の切除後の標準的アジュバント療法にOpdivoを追加する効用を検討した。代表的なGBM用薬であるtemozolomideはMGMT(DNAの修復に係る酵素)のプロモーター部位がメチル化されているタイプには効果が高いがされていないタイプには弱いとされる。このため、BMSは前者のタイプは548試験に組入れて放射線療法とtemozolomideによる化学療法の併用にOpdivoを追加する手法を偽薬追加と比較し、後者のタイプは498試験で放射線療法にOpdivoを追加する手法とtemozolomide追加を比較した。結果は思わしくなく、498試験は昨年5月に主評価項目である全生存期間の解析がフェールした。548試験も昨年9月、共同主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がフェールした。

残りの共同主評価項目である全生存期間は全症例とベースライン時点でコルチコステロイドを使っていない患だけの解析が行われたが、今回、どちらも目的達成できない見込みになった。尚、治験中止につながるような安全性懸念は観察されていない。

Opdivoは二次治療bevacizumab対照試験もフェールした。脳腫瘍に有効な新薬はなかなか現れない。

リンク: 同社のプレスリリース

抗TSLP抗体の経口ステロイド減量試験がフェール
(2020年12月22日発表)

アストラゼネカとアムジェンは、AMG 157/MEDI9929(tezepelumab)の第3相SOURCE試験がフェールしたと発表した。吸入ステロイドや長期作用性ベータ作用剤に加えて経口ステロイドも服用している重度喘息症患者を組入れて、更に偽薬または210mgを4週毎に皮注して、喘息発作が起きないよう管理しながら経口ステロイドの服用量を減らすことを試みたが、有意な差がなかった。治験デザインが適切でなかった可能性があるようだ。

tezepelumabはアレルギー性疾患のマスタースイッチとも形容されるTSLP(胸腺間質性リンパ球新生因子)に結合する抗体医薬で、IL-4やIL-5、IL-13などTh2細胞性サイトカインを広範に抑制する。重度喘息症の喘息増悪を抑制する効果を検討した第3相NAVIGATOR試験が成功したので、後期第2相試験と合わせて承認申請に向かうものと推測される。好酸球増多を伴う喘息症だけでなく、150個/mcL未満と低値の喘息症にも有効であることが長所。但し、今回のフェールは訴求力の点で減点材料になりそうだ。

12年にアストラゼネカがアムジェンから共同開発販売権を取得した。

リンク: 両社のプレスリリース

アステラス、ゾスパタの一次治療試験がフェール
(2020年12月21日発表)

アステラス製薬は、Xospata(gilteritinib、和名ゾスパタ)の第3相急性骨髄性白血病一次治療試験の独立データ監視委員会が無益性により中止勧告したことを明らかにした。FLT3変異陽性を持つ集中治療不適な患者にazacitidineと併用するレジメンの延命効果をazacitidine単剤とオープンレーベルで比較したが、目的達成の可能性は著しく低いと認定された。

XospataはFLT3阻害剤。18~19年に日米欧で再発難治FLT3変異陽性急性骨髄性白血病に用いることが承認された。一次治療試験のほかに二次治療試験や寛解導入療法後/造血幹細胞移植後の維持療法試験なども進行している。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdf)


【承認申請】


JNJ、BCMA標的CAR-Tのローリング申請に着手
(2020年12月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、JNJ-68284528(ciltacabtagene autoleucel)を再発難治多発骨髄腫用薬として米国でローリング承認申請に着手した。中国系のLegend Biotech(Nasdaq:LEGN)からライセンスしたCAT-T(キメラ抗原受容体T細胞)で、ブルーバード・バイオ/BMSが7月に承認申請したidecabtagene vicleucelと同様に、多発骨髄腫細胞で高発現するBCMA(B細胞成熟抗原)を標的としている。

3次までの治療歴を持ち最終治療抵抗性の多発骨髄腫を日米の施設で組入れた試験の97人のデータが今年のASH(米国血液学会)で発表された。ORR(客観的反応率、独立評価委員会判定)は95%、CAR-T特有の副作用であるサイトカイン放出症候群の発現率は95%と高く、G3-G4は5人とそれほど多くなかったが、G5が1例あった。治療関連有害事象による死亡も6例あった。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


ビベグロンが米国でも承認
(2020年12月23日発表)

大日本住友製薬が昨年、子会社化し来年第1四半期にも完全子会社化する予定のUrovant Sciences(Nasdaq:UROV)は、FDAがGemtesa(vibegron)を承認したと発表した。成人の切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱の治療に用いる。臨床試験では切迫や失禁の頻度を偽薬比有意に抑制した。実薬であるtolterodineを投与する群も設定され、Gemtesaとの正式な比較は行われていないが、数値上は同程度の効果だった。

8年早く承認されたアステラス製薬のMyrbetriq(mirabegron、和名ベタニス)と同じベータ3作用剤。血圧上昇や高血圧の有害事象発現率が偽薬並みでCYP2D6相互作用もない点が長所。MSDからライセンスした。日本ではキョーリンが18年にベオーバとして承認取得、キッセイと共同開発販売している。

リンク: Urovantのプレスリリース

FDA、第2のエボラ治療薬を承認
(2020年12月21日発表)

FDAは、Ridgeback BiotherapeuticsのEbanga(ansuvimab-zykl、通称mAb114)をザイール種エボラウイルス疾患の治療薬として承認した。コンゴ民主共和国(旧ザイール)で行われた開発品同士の直接比較試験で、28日死亡率が35.1%と対照群(Mapp Biopharmaceuticalの3種類の抗体カクテルであるZMapp)の49.7%を有意に下回った。尚、10月に承認されたリジェネロン(Nasdaq:REGN)の3種類の抗体カクテル、Inmazebは33.5%で対照群(ZMappの追加設定群)の51.3%を有意に下回った。一方、ギリアド(Nasdaq:GILD)のremdesivirは53.1%で有意差がなかった。尚、ZMappの効果は確立していないので上記は偽薬と読み替えるのが保守的である。

臨床試験で観察された有害事象はエボラの症状と類似しており、副作用かどうかは明確ではない。

RidgebackはSAC Capitalなどヘッジファンドの出身者が設立した新薬開発会社。Ebangaはコンゴ民主共和国で感染後に回復し生き残った人の血清から単離された抗体で、NIH(米国立衛生研究所)から権利を取得、NIHの下部組織から助成を受け、開発した。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

2020年12月19日

第978回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:米国でもワクチン接種を開始 
  • COVID-19:ModernaのワクチンもEUA 
  • COVID-19:テムセルのCOVID-19試験がフェール 
  • COVID-19:インサイト/ノバルティスのJAK阻害剤はフェール 
  • MSD/エーザイ、キイトルーダとレンビマの内膜腫試験が成功 
  • アッヴィ、アトピー試験でリンヴォックがデュピクセントに勝つ 
  • ノボ、EUでもセマグルチドを肥満症に承認申請 
  • アムジェン、KRAS-G12C阻害剤を承認申請 
  • 武田、好酸球性食道炎用薬を承認申請 
  • PCSK9のRNA介入薬は工場査察遅延で審査完了に 
  • FDA諮問委員会、エンレストのHFpEF適応拡大に前向きな評価 
  • CHMP、エンハーツなどの承認を支持 
  • ギリアド、米国ではジセレカのリウマチ適応を断念 
  • FDA、レルゴリクスを前立腺癌に承認 
  • FDA、タグリッソを肺癌摘出後療法に承認 
  • FDA、Xpovioを多発骨髄腫の二次治療に承認 
  • GSK、ベンリスタがループス腎炎に承認 
  • MacroGenics、her2を標的とするFc最適化抗体が承認 
  • 日光角化症治療薬が承認 


【今週の話題】


COVID-19:米国でもワクチン接種を開始
(2020年12月11日発表)

FDAは、ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)が創製しファイザーと共同開発しているCOVID-19ワクチン、BNT162b2を12月11日にEUA(非常時使用認可)した。12月14日に接種を開始。16歳以上が適応。当初は医療従事者や高齢者施設入居者が優先される。

ファイザーは今月と来年第1四半期に1億回分(5000万人分)を供給する。米国政府は5億回分を追加するオプションを保有しているはずだが、第2四半期の分は行使しないうちに欧州や日本などに取られてしまったようで、不足分はModerna(Nasdaq:MRNA)などのワクチンで補うことになる。政府は多額の補助金の交付先であるModernaに追加発注するとともに、Catalentなどの受託生産会社に対して、他の薬の生産を先送りしてでもワクチンやその成分の生産を優先するよう要請したようだ。

冷蔵庫での保存可能期間は5日程度と短く、輸送や長期保管はファイザーが開発した零下70℃(±10℃)に保つ専用ボックスで最長10日間保存できる。箱を開けた後でも5日毎に氷を補充すれば最長30日間保存できるようだ。専用ボックスはドライアイスが蒸発して外に出るので航空輸送に適さないのではないかとの指摘があり、現に、いち早く接種を開始した英国ではEU離脱前の港湾の渋滞に巻き込まれ輸入が遅延しているらしい。英国はドイツなどの生産拠点に近いのでまだ良いが、コンテナ船だと4週間かかる日本は航空輸送できるのだろうか?

BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを一部修飾してリピッド・ナノパーティクルに封入したもの。30mcgを21日置いて2回、筋注する。バイアル一瓶が5回分となっているが、実際には大目に入っている模様であり、FDAは、当面の供給量が限られていることから、6~7回分、取ることを認めた。但し、保存剤が入っていないこともあり、異なったバイアルの使い残しを寄せ集めて一回分に充てることは認めていない具体的な安全性担保策はファイザーと協議する。

有害事象はワクチンに付き物の注射箇所反応、疲労、頭痛、筋痛、悪寒、関節痛、発熱など。概して二回目のほうが発生率が高い。高齢者は発生率が若干低い。第2/3相試験における深刻な有害事象の発生率は、16-55歳では0.4%(偽薬群は0.3%)、56歳以上では0.8%(0.6%)だった。

第2/3相試験では、症候性感染症の罹患数(ベースライン時点で感染していなかった人を対象に、2回目の接種の7日後からカウント)が偽薬群の162人(感染率0.9%)に対してワクチン群は8人に留まった。ワクチン効率(感染リスク削減率)は95%、65歳以上に限定しても94%、75歳以上だけの集計では100%だった。また、感染し来院した時点で重症だった症例は偽薬群が3人、ワクチン群は1人だった(症例数が少ないせいか、2回目接種前の感染も含めた各9人と1人という数値が広く流布されている)。

効果については確立していないものが少なくない。まず、持続性。この試験は平均2ヶ月足らずしか追跡していない。感染者が自分で作る抗体は経時的に減少していくことが知られており、ワクチンが誘導する抗体も長期間保たないかもしれない。一方で、液性免疫が減衰しても細胞性免疫は長期間続くかもしれない。インフルエンザ・ワクチンのように毎年接種する必要があるのか、2年に一回なのか、半年に一回なのか、今後の検証が必要だ(海外の報道で、接種した医療従事者が『ずっと感染を防ぐことができるのだから副作用を2~3日我慢するのは容易』とコメントしていたが、誤解を招きかねない)。

第二に、無症候性感染予防効果が十分に検討されていないこと。ワクチンはウイルスが体内で増殖するのを抑え、咳などの症状が出るのを防ぐ。咳が出なければ飛沫感染のリスクも下がるはずだが、COVID-19は無症候性感染者がおそらく症候性感染者と同じくらいいて、そのような人からも感染することが知られている。ワクチンの予防効果の一部は、単に症候性感染が無症候性感染にシフトしているだけかもしれないので、感染防止効果はもっと小さいかもしれない。

オックスフォード大学/アストラゼネカのAZD1222の英国第2/3相試験では毎週RT-PCR検査を行って無症候性感染を掬いあげたが、対照群(英国試験では髄膜炎菌ワクチンを接種)における発生率は症候性感染と同程度と高いのにもかかわらず、ワクチン効率は症候性感染よりだいぶ低かった。

図表:AZD1222の感染予防効果

ワクチン群感染率対照群感染率ワクチン効率95%信頼区間
初回半量投与例:
 症候性感染症0.2%2.2%90.0%67.4, 97.0
 無症候性感染症0.6%1.5%58.9%1.0, 82.9
標準用量投与例:
 症候性感染症0.6%1.6%60.3%28.0, 78.2
 無症候性感染症1.0%1.0% 3.8%-72.4, 46.3
注:第2/3相COV002試験の結果。
出所:Voyseyら(Lancet、2020年)より作成。


ワクチン効率が経時的に低下していく可能性も含めて、ワクチンは『遊びのライセンス』でも『免疫パスポート』でもないことを肝に銘ずるべきである。

第三に、合併症や潜在的な後遺症を防ぐ効果は検討されていない。COVID-19は診断時の症状が重くなくても突然悪化することがあるが、臨床試験では診断時の重症例しかカウントしてない。感染時の死亡リスクも症例不足で良く分からない。軽快後も味覚臭覚異常が数ヶ月間続いたり、心筋炎など肺以外の臓器に病変が残った症例報告が複数出ているが、感染時の症状発現を抑制できれば後遺症も抑制/短縮化できるのか、分からない。

第四は、サブグループにおける効果や安全性。免疫低下者や免疫抑制剤利用者、15歳以下の小児における効果は不明。治験では感染歴を持つ人にも有益だったが症例数が少ないため確立したとは言えない。

安全性に関しても未解決の問題が残っている。妊婦に危険であることを示すシグナルはないが、授乳も含めて、安全性が確立したとはいえない。尤も、米国の学会などは、妊婦は感染時の重症化リスクが高いので、接種を躊躇すべきでないと呼びかけている。

このワクチンに重いアレルギー反応を起こしたことのある人は禁忌だが、他のワクチンや鶏卵・ピーナツなど食品のアナフィラキシー歴を持つ人はどうなのか、良く分からない。第2/3相試験ではアナフィラキシー歴は除外条件だったからだ。FDAは、接種を行う場合はepinephrineなどのアナフィラキシー治療薬を準備するよう念を押した。CDC(連邦政府の疾病管理予防センター)は重度アレルギー歴のある人は事前に医師と相談し、接種後は通常の15分ではなく30分様子を見ることを推奨している。

接種開始後、英国では2名、米国でも2名の医療従事者が接種後に重度アレルギー反応を起こしたと報じられている。英国の2名はepinephrineを携行していた由なので、過去に何らかの重度アレルギー反応歴があるのだろう。米国の2名のうち1名はアレルギー歴はないとのことだが、接種の10分後にアナフィラキシー反応が現れ、epinephrineとステロイドで間歇的に治療を受けたが、未だ退院していないようだ。4例目は接種の10分後に目の腫脹や意識朦朧、喉のかすれが現れた。epinephrineとfamotidine(H2ブロッカー)、diphenhydramine(抗ヒスタミン)による治療を受けて1時間足らずで退院した。

Moderna社のワクチンでは、ワクチン関連深刻有害事象として2例の顔面腫脹が報告された。何れも美容用皮膚充填剤注入歴があり、免疫反応の可能性があるようだ。二人とも軽快したが、該当する人には注意を促すべきだろう(誰が伝えるかは難問だが)

第2/3相試験ではワクチンによる疾病増強(ワクチンによって感作された人が感染すると免疫が過剰反応して重症化する現象)を疑わせるシグナルは出ていないが、症例数が少なく、発症後の追跡期間も十分ではないだろうから、まだ油断はできないだろう。デング熱ワクチンなどで発生したのは免疫誘導が不十分だったからとも言われているので、数ヶ月経って免疫が低下した段階で感染した患者をよく追跡して、重症患者は減らせるが重症になると危機的状態/死亡例が多い、などということがないよう、確認する必要があるだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 医療従事者向けファクトシート
リンク: ファイザーとBioNTechのプレスリリース

COVID-19:ModernaのワクチンもEUA
(2020年12月18日発表)

FDAは、Moderna(Nasdaq:MRNA)のmRNA-1273をCOVID-19ワクチンとしてEUA(非常時使用認可)した。18歳以上が対象。前日にはVRBPAC(ワクチン等生物学的製品諮問委員会)が承認の当否を検討、21人中20人が承認に賛成、棄権が1人と圧倒的多数が支持した。一週間前のBioNTech/ファイザーのBNT162b2に関する票決は22人中賛成17人、反対4人、棄権1人で反対票もあったが、接種実績が少ない16-17歳も対象にすることに反対する委員がいたからで、ワクチン自体の問題ではなさそうだ。今回の棄権1票を投じたのはNIH(米国立衛生研究所)所属の感染症や病理学を専門とする医学博士で、ワクチンを広範囲にEUAすること自体に反対である模様だ。BNT162b2の諮問委員会では反対票を投じている。

議論が集中したのは、第3相試験の参加者がEUA後にワクチン接種を望んだ場合に、どう対応するか。追跡期間は2ヶ月程度と異常に短いので本来なら盲検解除せずに長期間、追跡するのがベストだが、接種を禁じるのは臨床研究の倫理に反する可能性がある。ファイザーは、個々の被験者が接種対象になった段階で偽薬群の患者にワクチンを接種していないことを通知し、自発的に接種するのを容認する考えだが、ModernaはEUAと同時に盲検解除する考えを示したため、先週以上の議論になった。結論は出ず、FDAがメーカーと協議して決めることになる。

盲検を維持する(偽薬群の患者のワクチン接種を抑制する)のは事実上、難しい。そもそも、これらのワクチンは8割前後の確率で注射箇所痛が出る。偽薬は1割前後なので、被験者はどちらを接種したのか、ある程度の検討が付くだろう。接種を禁じても無断で受けてしまうかもしれない。結局、私たちはCOVID-19ワクチンの2ヶ月を超える期間における有効性や安全性を知ることはできないだろう。

mRNA-1273はSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを修飾してリピッド・ナノパーティクルに封入したワクチン。BNT162b2のように超低温で保存する必要がないので物流保存面では扱いやすい。輸送・長期備蓄は零下20℃(通常の医療用冷凍庫)で6ヶ月、医院では2-8℃(通常の冷蔵庫)で30日間安定的に保存できる。

NIHが主導した第3相試験では、27817人をワクチン群と偽薬群に無作為化割付して二回目接種からメジアン2ヶ月強、追跡した。100mcgを4週置いて二回筋注し、二回目の接種の14日後以降の症候性感染を観察した。

結果は、偽薬群の感染者185人に対してワクチン群は11人で、ワクチン効率は94.1%だった。18-64歳のサブグループでは95.6%、65歳以上では86.4%と若干下がるが、95%信頼区間は90-96%の範囲でオーバーラップしている。

重症症例は各群30人とゼロだった(但し、最終解析後にワクチン群で重症例が1人、報告され、確認作業中)

主な有害事象の発現率は、注射箇所痛が91%、疲労68%、頭痛63%、筋痛60%、関節痛45%、悪寒43%など。深刻有害事象の発生率は1.0%で偽薬群と同じだった。

ワクチン関連と見なされる深刻有害事象は4例で、難治性悪心嘔吐が1人、顔面腫脹が2人、リウマチ性関節炎が1人。リウマチ以外は解消した。顔面腫脹2人は美容用皮膚充填剤の注入歴を持っており、これが関与した可能性がある。

BNT162b2の第2/3相試験ではベル麻痺が4例発生した(偽薬群はゼロ)。mRNA-1273の第3相でも3例発生している(偽薬群は1例)。米国における罹患率は1万人当たり3人程度なので、これくらいは発生しても異常ではないが、市販後監視の要チェック項目だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Moderna社のプレスリリース
リンク: Moderna社の諮問委員会結果に関するプレスリリース(12/17付)

COVID-19:テムセルのCOVID-19試験がフェール
(2020年12月17日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB)は、remestemcel-Lの危機的COVID-19感染症試験がフェールしたと発表した。18歳以上の人工呼吸器を必要とする300人を米国の施設で組入れて、偽薬または200万個/kgを3日置いて2回、点滴静注して、30日全死亡を43%削減する効果を立証する予定だったが、180例の中間解析で、達成の可能性は著しく小さいと判明した。

remestemcel-Lは成人健常者の骨髄から抽出した間葉系幹細胞を培養したもの。日本で移植片宿主病の治療薬テムセルとして販売されているが、米国では二回、承認申請したが承認されなかった。

11月にノバルティスにCOVID-19を含む急性呼吸窮迫症候群用途での開発販売生産権を供与することで合意したが、まだ実施していないので、キャンセルになるかもしれない。

リンク: Mesoblastのプレスリリース(pdfファイル)

COVID-19:インサイト/ノバルティスのJAK阻害剤はフェール
(2020年12月14日発表)

ノバルティスは、骨髄線維症などの治療薬として承認されているJAK1/2阻害剤、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)の第3相COVID-19試験、RUXCOVIDがフェールしたと発表した。12歳以上の挿管/ICU入室していないCOVID-19感染者432人を組入れて、5mgを一日二回、14日間(医師の判断で更に14日間延長可)経口投与する効果を29日間に亘って偽薬と比較したが、死亡、人工呼吸器管理、またはICU入室した患者の比率が12.0%と偽薬群の11.8%と大差なかった。

ruxolitinibはインサイト(Nasdaq:INCY)から米国外での開発販売権をライセンスしたもの。JAK1/2阻害剤ではイーライリリーがインサイトからライセンスしてリウマチ性関節炎などの治療薬として商業化したOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)が、11月に、酸素投与/人工呼吸器管理の2歳以上の患者にremdesivirと併用するEUA(非常時使用認可)を取得している。同じJAK1/2阻害剤でありながら明暗が分かれたが、オフターゲット作用の違いが影響した可能性がありそうだ。また、COVID-19感染症の試験はremdesivirでも米国試験が成功してWHO試験がフェールするなどチグハグが目立っており、成功した試験でも軽症患者から人工呼吸器管理まで全ての段階の患者における有効性は確立していない。本来ならもっとサブグループに分けて検討すべきなのかもしれないが、残念なことに、そんなことを言っている暇がないのが現状だ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【新薬開発】


MSD/エーザイ、キイトルーダとレンビマの内膜腫試験が成功
(2020年12月16日発表)

VEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を共同開発販売しているエーザイとMSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)と併用で行った第3相子宮内膜腫二次治療試験、KEYNOTE-775が成功したと発表した。治癒的手術不能で白金薬による治療歴を持つ患者をKeytruda(200mgを3週毎点滴静注)・Lenvima(20mgを一日一回経口投与)併用群と医師が選んだ薬(doxorubicinまたはpaclitaxel)群に無作為化割付して共同主評価項目のPFS(無進行生存期間)と全生存期間を比較したところ、全集団でも、ミスマッチ修復能を保持しているサブグループの解析でも、有意に上回っていた。データは未公表。

この併用は第2相試験に基づき19年に米国で加速承認されている。第3相の成功で本承認切替えを申請することになるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

アッヴィ、アトピー試験でリンヴォックがデュピクセントに勝つ
(2020年12月10日発表)

アッヴィは、リウマチ性関節炎などの治療薬として承認されているJAK1阻害剤、Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)の後期第3相アトピー性皮膚炎実薬対照試験が成功したと発表した。全身性治療の対象になる中重度の患者を組入れて、第16週までにEASI症状スコアが75%以上改善した患者の比率をリジェネロン/サノフィの抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab、デュピクセント)と比較したところ、各71%と61%、p=0.006と有意な差があった。シーケンシャルに行われた副次的評価項目の解析では当初2週間の改善や、掻痒や湿疹の軽快でも、有意な差があった。

この試験では、日欧では承認されているが米国では未承認の30mg一日一回投与が採用されたためか、深刻な有害事象の発生率が2.9%対1.2%と数値上上回った。短期間の試験であるせいか、この薬の要注意点である悪性腫瘍や心臓疾患、静脈血栓は発生しなかったが、インフルエンザによる気管支肺炎による死亡1例が治療時発現有害事象とされた。

Rinvoqは今年10月に日本で中重度アトピー性皮膚炎の適応追加申請が行われた。

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認申請】


ノボ、EUでもセマグルチドを肥満症に承認申請
(2020年12月18日発表)

ノボ ノルディスクは、米国に続いてEUでもsemaglutideを肥満症の体重管理薬として承認申請した。BMIが30kg/m2以上、または27kg/m2以上で一つ以上の体重関連併存疾患を持つ患者に、カロリー抑制食事療法や運動療法と併用する。米国では優先審査バウチャーを用いたため来夏にも承認される可能性がある。

semaglutideは二型糖尿病薬Ozempic(和名オゼンピック)の活性成分で週一回皮注用のGLP-1作用剤。Ozempicは一回0.5mgまたは1mgを投与するが、肥満症用途では2.4mgまで漸増していく。68週間の第3相試験三本では体重がベースラインの100~105kgから9~16%低下し、偽薬より6~12%多く低下した。離脱試験では、20週間のランイン期間中に2.4mgまで増量できた、902人中803人の患者を継続群と偽薬スイッチ群に無作為割付して48週間追跡したところ、継続群の体重は更に7.9%低下したが、偽薬群は6.9%増加した。

リンク: 同社のプレスリリース

アムジェン、KRAS-G12C阻害剤を承認申請
(2020年12月16日発表)

アムジェンはAMG 510(sotorasib)をKRASの遺伝子にG12C変異を持つ局所進行性/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬としてFDAに承認申請した。G12C変異はそれだけで腫瘍化をもたらすドライバー・ミューテーションと見なされており、非小細胞性肺癌線維腫の13%、結腸直腸癌の3-5%、その他の癌では1-2%で見られる。阻害するために結合すべき部位が中々見つからなかったが、アムジェンを筆頭に、複数のコンパウンドが臨床入りした。

New England Journal of Medicine誌で刊行された第1/2相試験の中間解析では、KRAS-G12C変異非小細胞性肺炎に960mg/日を投与した34例(メジアン2治療歴)のORR(客観的反応率)は35.3%だった。承認申請に用いられたデータは1月のIASLC(国際肺癌学会)で発表する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

武田、好酸球性食道炎用薬を承認申請
(2020年12月16日発表)

武田薬品は、Eohilia(budesonide)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。承認されれば米国で初の好酸球性食道炎治療薬となる。

好酸球性食道炎は免疫性疾患で、症状は区々だが多くは嚥下障害を伴う。Eohiliaはコルチコステロイドの経口懸濁液で、粘性を持つため食道局所的に作用する。FDAから希少疾患用薬指定とブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


【承認審査・委員会】


PCSK9のRNA介入薬は工場査察遅延で審査完了に
(2020年12月18日発表)

ノバルティスは、Leqvio(inclisiran)をアテローム硬化性心血管疾患の再発予防と家族性高脂血症の治療薬として承認申請し、EUでは高コレステロール血症と混合異脂血症の治療薬として今月、承認されたが、FDAからは審査完了通知を受領した。欧州の生産委託先の工場査察がCOVID-19の影響で全くできていない模様だ。年内もスケジュールが決まる可能性がありそうだが、承認が来年にずれ込むことになった。

inclisiranはRNA介入薬のスペシャリストであるアルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)からライセンスした、PCSK9のmRNAを切断する皮注用薬。メディスンズ・カンパニーを今年、97億ドルで買収して入手した。

リンク: 同社のプレスリリース

FDA諮問委員会、エンレストのHFpEF適応拡大に前向きな評価
(2020年12月16日発表)

FDAは心臓腎臓薬諮問委員会を招集し、ノバルティスのNEP・アンジオテンシンII受容体拮抗剤、Entresto(sacubitril/valsartan)の適応を駆出力低下型の心不全(HFrEF)だけでなく駆出力維持型(HFpEF)にも拡大することについて意見を求めた。意外なことに12人の委員が賛成し反対は一人だった。審査期限は21年第1四半期。

何故意外だったかと言うと、エビデンスとなるPARAGON-HF試験は僅かにフェールしたからだ。心血管死・心不全入院のハザードレシオがvalsartan群と比べて0.87とそれほどよくなく、p=0.059なので統計的に有意ではなかった。FDAは担当医の評価を第三者が査読する過程でサンプル数が減少し治験の検出力が低下したことなどに配慮している模様だ。

FDAは既にGE化したアルドステロン拮抗剤、spironolactoneもフェールしたTOPCAT試験をエビデンスとしてFDA主導でHFpEFに適応拡大する考えのようだ。トランプ政権下で顕著になった承認のハードル低下の実例がまた一つ増えそうだ。

FDAの質問はこれらの試験が『何らかの適応を支持する十分なエビデンスを提供しているか』という茫洋としたものなので、最終的な適応範囲は今後の検討待ちになりそうだ。Entrestoの場合、PARAGON-HF試験の対象は駆出力45%以上、HFrEFにおけるエビデンスであるPARADIGM-HF試験は40%以下が対象なので、40-45%が空白地帯になっている。また、Entrestoの便益は駆出力が低いほど大きいように見える。ASE(米国心エコー図学会議)は53%から73%を正常値と見做しており、このレンジの患者も含むべきかどうかなど、悩ましい点が多い。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

CHMP、エンハーツなどの承認を支持
(2020年12月11日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会合で、第一三共のエンハーツなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Enhertu(trastuzumab deruxtecan、和名エンハーツ)はher2陽性転移乳癌用薬として承認申請され、加速評価により条件付き承認が支持された。抗her2抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体で、2種類以上の抗her2薬歴を持つ患者が適応になる。アストラゼネカが共同開発販売している。米国で昨年12月、日本では今年3月に、承認された。臨床試験では間質性肺疾患のリスクが見られたが、胸部画像所見がCOVID-19感染症と類似しているため、5月に日本で注意が促された。

リンク: EMAのプレスリリース

同じく条件付き承認が支持されたのが、Dynavax(Nasdaq:DVAX)の慢性B型肝炎ワクチン、Heplisav B。先天性免疫に係るTLR9を作動するアジュバントを配合して免疫原性を増強した。接種回数が2ヶ月間に2回と、既存ワクチンの6ヶ月間に3回より少ないことが長所。一方、適応は18歳以上と、需要の中心である小児向けが外されている。

リンク: EMAのプレスリリース

BMSの子会社となったセルジーンのInrebic(fedratinib)はJAK2阻害剤。原発性、または二次性(真性多血症や本態性血小板血症から移行)の骨髄線維症に用いることが支持された。サノフィが2010年に買収したTargeGenの開発品で、臨床試験でウェルニッケ脳症が発生したことなどから開発中止となったが、共同発明者の一人が治験参加者の希望に応じて開発を続行、承認申請まであと一歩の段階で開発会社をセルジーンに契約一時金11億ドル、承認達成報奨金12.5億ドル、売上目標達成報奨金最大45億ドルの巨額で売却した経緯を持つ。米国では昨年8月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのLumoxiti(moxetumomab pasudotox)は再発・難治有毛細胞白血病薬として例外的環境条項に基づき承認することが支持された。プリン・ヌクレオシド・アナログを含む2種類以上の治療歴を持つ患者が適応になる。NCI(米国立癌研究所)が主導した第3相で持続的完全寛解率が30%だった。治療時発現有害事象による治験離脱は溶血性尿毒症症候群(HUS)によるものが5%の患者で、毛細管漏出症候群(CLS)が3%で、発生した。

有毛細胞腫で高発現するCD22を標的とする抗体フラグメントにPE38細胞毒を結合した抗体薬物複合体。05年にGenencor社から権利を取得したケンブリッジ・アンティボディを06年にアストラゼネカが買収した。米国では18年に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

イーライリリーのRetsevmo(selpercatinib、米国名Retevmo)はRET阻害剤。免疫療法歴且つ又白金薬歴を持つRET融合陽性非小細胞性肺癌の成人、sorafenib歴且つ又lenvatinib歴を持つRET融合陽性甲状腺癌の成人、そしてcabozantinib且つ又vandetanib歴を持つRET変異陽性甲状腺髄様腫の成人と12歳以上の青少年に条件付き承認することが支持された。

19年に80億ドルで買収したLoxo Oncologyの主要パイプラインの一つ。米国では今年5月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

ヴィーヴ・ヘルスケアのRukobia(fostemsavir)は多剤抵抗性HIV感染症のサルベージ療法。第3相試験で48週奏効率が54%だった。15年にBMSから買収した抗HIV薬パイプラインの一つで、HIVのエンベロープのgp120に結合して宿主細胞に結合・侵入するのを妨げる、アタッチメント・インヒビター。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスの腎臓薬開発販売会社、Advicenne (Euronext: ADVIC)のSibnayalはクエン酸カリウムと炭酸水素カリウムの顆粒合剤で、遠位腎細管性アシドーシスの治療に処方薬として用いることが支持された。1歳以上が適応になる。服用頻度が一日二回と、既存薬の3-6回より少なく、夜間に服用する必要がなく、忍容性も上回るようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

Seagen(Nasdaq: SGEN、旧称シアトル・ジェネティクス)のTukysa(tucatinib)はher2チロシン・キナーゼ阻害剤。her2を標的とする二剤以上の治療歴を持つ局所進行/転移her2陽性乳癌に用いることが支持された。臨床試験では、trastuzumab、pertuzumab、およびtrastuzumab emtansineによる治療歴を持つ患者にtrastuzumabおよびcapecitabineと併用したところ、PFS(無進行生存期間)や全生存期間がtrastuzumab・capecitabine・偽薬併用群を有意に上回った。G3以上の有害事象は下痢や肝機能検査値異常など。18年に6億ドルで買収したCascadian Therapeutics(旧称Oncothyreon)のコンパウンド。米国では今年4月承認。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大が支持されたのは、

・MSDのKeytruda(pembrolizumab)。マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-H)、またはミスマッチ修復機能欠損(dMMR)を持つ切除不能/転移結腸直腸癌の一次治療に化学療法と併用する。
・独メルク/ファイザーのBavencio(avelumab)。局所進行/転移尿路上皮種で白金ベースの一次治療後に癌が進行しなかった患者の維持療法。二週毎に800mgを60分点滴静注する。
・アッヴィのRinvoq(upadacitinib)。DMARDs不応/反応不十分な活性期乾癬性関節炎に単剤またはMTXと併用で投与する。
・ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)。精神的非常事態にある中重度の大うつ病の急速治療に標準治療薬と併用で点鼻投与する。ASPIRE I/II試験に基づくものなので、米国で昨年10月に承認された、自殺思慮を持つ大うつ病の患者の鬱症状の急速治療と類似した適応と推定される。
・Swedish Orphan Biovitrum(SOBI)の Doptelet(avatrombopag)。難治性原発性慢性免疫性血小板減少症の成人に用いる。元々は山之内アメリカで開発されていたスロンボポイエチン受容体アゴニストで、変遷を経てSOBIが19年に企業買収を通じて入手した。
・サノフィのPlavix/Iscover(clopidogrel)。中高度リスク(ABCD2スコア4以上)の一過性脳虚血発作、またはマイナー(NIHSS≦3)な虚血性脳卒中を起こしてから24時間以内の患者にアスピリンと併用で21日間投与する。その後は単剤投与。二本の試験で主要虚血イベントや脳卒中がアスピリンだけの群より3割程度、少なかった。

最後に、EUは7月にギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir)を条件付き推奨したが、適応を『明確化』した。酸素補給を必要とする肺炎を合併した、12歳以上かつ体重40kg以上の小児と成人のCOVID-19感染患者が適応になるが、酸素補給の内容を、治療開始時にロー/ハイ・フロー酸素または非侵襲的換気管理を受けていることと限定した。承認の根拠となった臨床試験では、人工呼吸器/ECMO管理下の患者には便益が見られなかったことを今になって直視したのだろう。尚、CHMPはWHOが主導したSolidarity試験がフェールしたためremdesivirの再検討を行っているが、進捗に関する発表は未だない。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアド、米国ではジセレカのリウマチ適応を断念
(2020年12月15日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、ベルギーのガラパゴス社から共同開発販売権を取得したJAK1阻害剤、Jyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)について、米国でリウマチ性関節炎薬として承認取得することを断念するとともに、提携範囲を縮小すると発表した。

Jeselecaは今年9月に日欧で中重度活性期リウマチ性関節炎治療薬として承認されたが、米国は審査完了となった。ラットやイヌの試験で精子形成障害が見られ、申請用量である200mg一日一回投与では十分な安全域を確保できないことが理由。ギリアドはリウマチ性関節炎や過敏性腸症候群の男性患者を組入れて、長期的な精子影響や可逆性を検討しているが、FDAは、もっと大規模な試験を要求しているようだ。

このため、承認取得を断念するとともに、ガラパゴスに1.6億ユーロを払って欧州におけるリウマチ性関節炎や承認申請中の潰瘍性大腸炎の開発販売から撤退し、クローン病の開発は続けるが、乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の開発は中止する。

尚、日本などでの販売権や販売認可は継続保持する考え。日本はエーザイが販売・共同販促しており、来年上期に中重度活性期潰瘍性大腸炎の一変申請を行う考え。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


FDA、レルゴリクスを前立腺癌に承認
(2020年12月18日発表)

FDAは、Myovant Sciences(NYSE:MYOV)のOrgovyx(relugolix)を前立腺癌用薬として承認した。ゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗剤で、経口剤は初めて。

オリジンは武田薬品で、日本では19年に子宮筋腫用薬として承認された。米国では子宮筋腫の治療に際してエストロゲンなどと併用することで副作用を緩和する、アドバック療法が盛んであるため、estradiolやnorethindrone acetateを配合した合剤を開発、欧米で承認審査中。

Myovantは昨年、大日本住友製薬が子会社化した。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、タグリッソを肺癌摘出後療法に承認
(2020年12月18日発表)

FDAは、アストラゼネカのTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)をEGFRの遺伝子にエクソン19欠損またはエクソン21L858R置換を持つ非小細胞性肺癌の切除後アジュバント療法として用いる、適応拡大を承認した。対象となる患者数は日米欧中で6万人と推定されている。ADAURA試験では、無病生存のハザードレシオが偽薬比0.20と大変良好な結果だった。G3以上の有害事象の発現率は10%と偽薬群の3%を上回った。

Tagrissoは上記と同じ変異を持つ転移癌などに承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、Xpovioを多発骨髄腫の二次治療に承認
(2020年12月18日発表)

FDAは、Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のXpovio(selinexor)を多発骨髄腫の二次治療にジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)およびdexamethasoneと併用することを承認した。第3相試験ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が13.9ヶ月とVelcade・dexamethasoneだけの9.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。

承認申請が受理されたのは今年7月で、審査期限より3ヶ月早く承認された。

Xpovioはエクスポーティン1阻害剤。昨年、多発骨髄腫のサルベージ薬として欧米で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

GSK、ベンリスタがループス腎炎に承認
(2020年12月17日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Benlysta(belimumab)を18歳以上のループス腎炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。12年にヒューマン・ジノム・サイエンシズを36億ドルで買収して入手した抗BLyS完全ヒト化抗体で、全身性エリトマトーデス治療薬として米国で承認されてから9年経ったが、需要が再拡大しており、生産能力の増強を進めている。

448人の活性期ループス腎炎患者を組入れた第3相試験では、ステロイドなどを用いる標準療法にBenlystaを追加した群の腎奏効率が43%となり、偽薬追加群の32%を上回った。

リンク: GSKのプレスリリース

MacroGenics、her2を標的とするFc最適化抗体が承認
(2020年12月16日発表)

MacroGenics(Nasdaq:MGNX)は、FDAがMargenza(margetuximab-cmkb)を承認したと発表した。成人のher2陽性転移乳癌で、転移後を含めて2以上の抗her2レジメン歴を持つ患者が適応になる。化学療法と併用する。

エビデンスである第3相SOPHIA試験では、IHC法で3+またはISH法で陽性のher2陽性転移乳癌でHerceptin(trastuzumab)及びPerjeta(pertuzumab)による治療歴を持つ患者に化学療法(capecitabine、eribulin、gemcitabine、またはvinorelbine)と併用したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン5.8ヶ月とtrastuzumab・化学療法併用群の4.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、p=0.033だった。全生存期間の解析は未成熟。

転移乳癌におけるPFSはカプランマイヤーカーブが歪になりがちだ。本試験でメジアン値の差がハザードレシオと比べて小さいのも、この歪みが影響したのだろう。進行の判定は主としてCT画像などに基づいて行うので、プロトコルに則り、症状が増悪しなくても定期的にスキャンして確認することになるが、転移性乳癌でよく見られる現象は、対照群は定期検査時期が来る前に検査を受け進行認定されるケースが試験薬群より多く、試験薬群は定期検査時の進行認定が対照群より多くなる。カプラン・マイヤーカーブを見れば定期検査の時期が分かるくらい、歪なラインになりがちだ。本試験のようなオープンレーベル試験では医師のバイアスが検査のタイミング、ひいては進行認定時期を速めてしまう懸念があるのではないかと私は思う。第三者が盲検で査読しているが、担当医が進行例として報告しなかったら査読の対象にならない。

バイアスの余地が小さい全生存の解析を確認したいが、最終解析は21年上期になる見込み。1年前に発表された中間解析ではハザードレシオ0.89、p=0.326、メジアン値は試験薬群19.8ヶ月、対照群は21.6ヶ月と、統計学的にはまだ評価するには早すぎるとはいえ、それほど印象的なものではない。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

日光角化症治療薬が承認
(2020年12月15日発表)

Athenex(Nasdaq:ATNX)は、FDAがKlisyri(tirbanibulin)を顔や頭皮の日光角化症の治療薬として承認したと発表した。来年第1四半期に提携先のAlmirall社がロンチする予定。

Srcキナーゼ阻害剤プラットフォームを使って創製したSrc・微小管阻害剤の軟膏。第3相試験二本で顔や頭皮の病変に一日一回、5日間塗布したところ、第57日完全寛解率が5割前後と対照群の1割前後を大きく上回った。有害事象は塗布箇所の掻痒や疼痛が各1割前後の患者で発生した。

リンク: Athenexのプレスリリース





今週は以上です。

2020年12月11日

第977回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:FDA諮問委員会がBNT162b2ワクチンの承認を支持 
  • COVID-19:英国でワクチン接種後にアレルギー反応3例発生 
  • COVID-19:オックスフォード大/アストラゼネカのワクチンは高齢者に効くのか? 
  • TG社、糖鎖装飾抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功 
  • イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤の最初の第3相が成功 
  • ASH:ノバルティス、慢性骨髄性白血病新薬の第3相結果を発表 
  • ASH:イエスカルタは低悪性度非ホジキンリンパ腫にも有効 
  • FDA:MRI検査ではマスクの金属を確認すべし


【今週の話題】


COVID-19:FDA諮問委員会がBNT162b2ワクチンの承認を支持
(2020年12月10日開催)

FDAはVRBPAC(ワクチン等生物学的製品諮問委員会)を招集して、ファイザーがCOVID-19ワクチンとしてEUA(非常時使用認可)を求めたドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)が創製したBNT162b2について、意見を聞いた。賛成17名、反対4名、棄権1名となり圧倒的多数が『便益が危険を上回る』、即ち承認に値すると評価した。先に非常時使用認可/条件付き承認した英国やバーレーン、カナダに続いて、米国でもEUA承認・接種開始となりそうだ。

尚、英国で発生したアナフィラキシーについても言及されたようだが、次項でまとめて取り上げる。

BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを一部修飾しリピッド・ナノパーティクルに封入したmRNAワクチン。30mcgを21日置いて2回、筋注する。

16歳以上の健常者約43000人を組入れた第2/3相評価者盲検試験で、症候性COVID-19感染症のリスクを偽薬比95%削減した。但し、追跡期間は2回目の接種の7日後から起算して1.5ヶ月程度であり、半年後、1年後、2年後の予防効果は明らかではない。1~2年に一回接種と想定する声もあるようだ。偽薬群のボランティアの人権を考えれば、承認後に接種するのを禁じる訳にはいかないので、接種者を長期追跡して発症者がいつ頃から増えるか見当をつけるしかないだろう。

忍容性は、深刻有害事象の発生率は0.5%未満と低く、例えば1億人が接種したとすると50万人未満となる。G3以上の有害事象は疲労や頭痛の発生率が各3.8%と2.0%となっている。もっと軽い副反応は多くが経験する。注射箇所反応(84%)、疲労(63%)、頭痛(55%)、筋痛(38%)、悪寒(32%)、関節痛(24%)、発熱(14%)などで、これらの多くは、一回目より二回目の接種後のほうが発生率が高い。尚、欧米ではインフルエンザ・ワクチンも筋注で、慣れているので、日本人とは注射時の感じ方が異なるかもしれない。

ワクチン群でベル麻痺が4例発生、偽薬群はゼロより多かったが、人口全体の発生率と比べると決して高くないとのことだ。

追跡期間が短いことを除けば効果や忍容性に大きな問題はなく、毎日多くの米国人が死亡していることを考えれば承認しない危険を看過できないので、圧倒的多数が支持したのは頷かれる。

棄権1名は、16-17歳の接種実績が限定的であるため適応を18歳以上とすることを提案したが認められなかった。反対4名の中にも同じ理由で反対した委員がいそうだが、1名は、mRNAワクチンという新しい技術を採用しているので長期的な安全性を確認すべきであり、また、接種後に感染すると重症化しやすくなるワクチン誘導性疾患増強の懸念を十分に検討すべきという考えのようだ。

尚、HHS(米国保健福祉省:FDAの上部組織)でワクチンを担当している委員は反対票を投じた。自由闊達に自分の意見を表明できる国は羨ましい。政府の方針に反対しても学術会議から爪弾きされないのだろう。

英国のアナフィラキシー事例に関連して、卵アレルギーやピーナツアレルギーを対象に安全性確認試験を行うよう求める意見もあった。ということは、米国は英国と異なり、他のワクチンや薬品、食品に重度アレルギー反応歴を持つ人も、少なくとも現時点では、禁忌にしない考えなのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:英国でワクチン接種後にアレルギー反応3例発生
(2020年12月9日発表)

英国は12月8日にがファイザーと共同開発したCOVID-19ワクチン、BNT162b2の接種を開始したが、初日にアナフィラキシーが疑い例を含めて3例、報告された。何人が接種したのかは明らかではないが、当初は1日5000~7000人に接種する計画なので、1000人中3人程度の頻度なら想定外ではないだろう。

英国の添付文書や米国の諮問委員会用ブリーフィング資料には記されていないが、報道によると、第2/3相試験におけるアレルギー反応系有害事象発生率は0.63%で、偽薬群は0.51%だったからだ。

その多くは軽中等症だった。深刻例はアナフィラキシー反応・アナフィラキシーショックが両群1名ずつ、薬品過敏症は1名対偽薬群ゼロと、頻度の差は1万人当たり1~2人だ。

但し、この試験では過去にワクチンを接種して重症アレルギー反応を経験した人は除外されている。報道によると、英国の3例のうち疑い例を除く2例は、何れもNHS(国民医療制度)のスタッフで、重度アレルギーの既往があるのか、EpiPenなどのアドレナリン製剤を携帯していたという。何のアレルギーなのか、本当にワクチンのせいなのかは明らかではないが、少なくとも、臨床試験のデータを引用して議論できる症例ではないだろう。幸い、この2人は軽快したようだ。

本件を受けて、MHRA(英国の薬品承認審査機関)は、以下の勧告を行った。

・ワクチンや医薬品、食品に関する即発性アナフィラキシー歴を持つ人は接種すべきではない。一回目の接種でアナフィラキシーが生じたら二回目を接種すべきではない。
・ワクチン接種後に15分間(必要と臨床判断した場合は更に長時間)、モニターする。アナフィラキシーが発生した場合は直ぐにアドレナリンを0.5mg筋注し、支援を求めるとともに、5分ごとに投与を繰り返す。
・他のワクチンと同様に、蘇生機器を備えた施設で接種する。

ついでに付記すると、英国の添付文書的資料では妊婦を禁忌とはしていないが、MHRAは、前臨床試験の結果が明らかになるまで、妊娠や授乳している人は接種しないよう勧告していることが分かった。二回目の接種の2ヶ月後まで妊娠しないようにする。妊娠したかもしれないが未だ分からないというような人はどうすればよいのかは、アドバイスはない。

リンク: MHRAのプレスリリース

COVID-19:オックスフォード大/アストラゼネカのワクチンは高齢者に効くのか?
(2020年12月8日発表)

オックスフォード大学が創製しアストラゼネカと共同開発しているCOVID-19ワクチン、AZD1222の第2/3相試験論文がLancet誌に刊行された。事前に予定していた用量を接種した群ではワクチン効率が62%(95%信頼区間41.0-75.7%)とmRNAワクチンの90%超と比べて見劣りするが、アクシデントにより初回に半量しか接種できなかった2741人は90%(95%CI67.4-97.0)という意外な結果だったため、原因に関する考察が注目されたが、良く分からないようだ。

一番意外だったのは、高齢者に関するサブグループ分析が載っていないこと。56歳以上は全被験者の12%と少ないので自粛したのかもしれないが、ワクチン接種が始まった場合、最優先になるのは高齢者と医療・介護従事者であることを考えれば、無責任といわれてもしかたないだろう。

特に、アストラゼネカが一番評価している初回半量、二回目全量接種した群は、全て18~55歳であり、このレジメンが56歳以上に有効であることを示すエビデンスはないことになる。

同社はEUやカナダで非常事態使用認可/ローリング承認を申請しているが、米国は米国試験の結果が出るのを待つ考え。米国試験も二回とも全量投与したはずなので、初回半量・二回目全量接種レジメンのエビデンスにはならない。困ったものだ。インドは承認しなかったと報じられているが、他の国はどうするのだろうか。

リンク: Merryn Voyseyらの治験論文(Lancet、オープンアクセス、pdfファイル)


【新薬開発】


TG社、糖鎖装飾抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功
(2020年12月10日発表)

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)は、TG-1101(ublituximab)の第3相再発型多発性硬化症試験が成功したと発表した。21年央に承認申請する考え。

TG-1101は糖鎖を装飾してADCC(抗体依存性細胞障害)を増強した、CD20を標的とするIgG1型キメラ抗体。他の抗CD20抗体とは結合するエピトープが異なるようだ。

同社が開発中のPI3Kデルタ阻害剤、TGR-1202(umbralisib)と併用した第3相慢性リンパ性白血病実薬対照試験が成功、年内に承認申請の計画だが、抗CD20抗体のもう一つの用途である多発性硬化症も、今回、第3相が二本とも成功した。96週間のARR(年率再発頻度)が0.10を下回り、対照薬であるサノフィのAubagio(teriflunomide)より50~60%低かった。

他の抗CD20抗体より効果が高そうには見えないが、例えばロシュのOcrevus(ocrelizumab)と比べると、投与頻度は最初の2回は二週おき、その後は6ヶ月おきで同じだが、点滴静注時間が初回(150mg)は4時間以上かけるが、2回目以降(450mg)は1時間と短いことが長所だ(Ocrevusは最初の2回は2.5時間以上、3回目からは2時間以上かけて投与)。

リンク: 同社のプレスリリース

イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤の最初の第3相が成功
(2020年12月9日発表)

イーライリリーはLY3298176(tirzepatide)の第3相二型糖尿病試験を数多く実施しているが、モノセラピー試験の成績が発表された。アメリカ、メキシコ、インド、日本の医療施設で血糖治療薬を服用していない二型糖尿病患者478人を偽薬、5mg、10mg、15mgの4群に無作為化割付し40週間に亘って週一回皮注したところ、Hb1Ac(ベースライン値は7.9%)が各群0.0%、1.9%、1.9%、2.1%低下した。試験薬群はいずれも偽薬比有意。体重(ベースライン値は85.9kg)も各群0.9%、7.9%、9.3%、11.0%と偽薬比有意に低下した。

尚、この試験では2.5mgで開始して4週毎に2.5mgずつ増量する用法が採用されている。

試験薬各群の有害事象による治験離脱率は7%未満。重度低血糖は発生しなかった。尚、この試験はCOVID-19の影響で有害事象以外による離脱が通常より多かった。

薬効は後期第2相試験と概ね同様な結果であり、順調な進捗と言えるだろう。

LY3298176はGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の受容体を作動する。後期第2相では同社のGLP-1作用剤、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)よりHbA1c低下や体重減少が大きかった。一方で、クラス・イフェクトである悪心嘔吐などの胃腸系有害事象の発現率は10mg群と15mg群でTrulicityより高かった。

リンク: 同社のプレスリリース

ASH:ノバルティス、慢性骨髄性白血病新薬の第3相結果を発表
(2020年12月8日発表)

ノバルティスは8月にABL001(asciminib)の第3相試験成功を発表したが、ASH(米国血液学会)でデータを公表した。反応率がファイザーのBosulif(bosutinib、和名ボシュリフ)を有意に上回った。21年上期に承認申請する考え。

ABL001は慢性骨髄性白血病(CML)の多くで見られるBCRとABLの遺伝子融合(フィラデルフィア転座)を標的とするBCR-ABL阻害剤。同社のGleevec(imatinib)などとの違いは、ABLのATPポケットではなくミリストイル・ポケットに結合するアロステリック・インヒビターであること。既存薬抵抗性変異に対する効果が期待されている。

今回のACEMBL試験はフィラデルフィア転座陽性のCMLで慢性フェーズにあるが2種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤歴を持ち最終治療不応不耐の成人233人を、40mgを一日二回経口投与する群と、Bosulif 500mgを一日一回経口投与する群に2対1割付して24週間治療したオープンレーベル試験。MMR(分子遺伝学的大奏効)が25.5%対13.2%、p=0.029と有意に上回った。

ABL001群はベースライン時点で最終治療不応患者や3次以上の治療歴を持つ患者の比率がBosulifより低かったが、これらの点を修正した分析でもオッズ比が2.38(95%信頼区間1.06-5.35)と優越性が支持された。

G3以上の有害事象の発現率は各50.6%対60.5%。発現率10%以上はABL001群が血小板減少症と好中球減少症、Bosulif群はALT上昇、好中球減少症、下痢だった。有害事象による治験離脱率は各5.8%と21.1%だった。

リンク: 同社のプレスリリース

ASH:イエスカルタは低悪性度非ホジキンリンパ腫にも有効
(2020年12月5日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は9月にYescarta(axicabtagene ciloleucel、和名イエスカルタ)を難治・再発濾胞性リンパ腫および辺縁帯リンパ腫の三次治療薬として米国で適応拡大申請したが、エビデンスとなる第2相ZUMA-5試験の成績がASH(米国血液学会)で発表された。

低悪性度非ホジキンリンパ腫で二次以上の前治療歴を持つ104人に施行したところ、ORR(客観体反応率)は92%、CR(完全反応)は76%だった。内訳は、濾胞性リンパ腫84人では各94%と80%、辺縁帯リンパ腫20人では85%と60%だった。CAR-Tに付き物のG3以上サイトカイン放出症候群の発生率は7%、同じく神経学的有害事象は19%だった。有害事象後の死亡例は3人で、うちサイトカイン放出症候群から多臓器不全を合併した1人が治療関連と見なされた。

Yescartaは、B細胞などで発現するCD19に結合する抗体の一部やT細胞に活性化刺激を送るCD3やCD28の一部を患者から採取したT細胞に導入した、CAR-T(キメラ抗原受容体)療法。17年に米国で難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬として承認された。日本は第一三共がライセンス、今月、部会で複数の適応での承認が了承された。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA:MRI検査ではマスクの金属を確認すべし
(2020年12月7日発表)

FDAはMRI検査に関する安全性連絡を発出した。顔にマスクと同じ形の火傷を負った症例が報告されたことを機に、改めて、患者が装着しているマスクにワイヤーやホチキス針、ナノパーティクル、銀や銅などを含む抗微生物コーティングが施されていないか、確認するよう求めた。当人が知っているとは限らないので、医療施設側でマスクを用意することを推奨した。

マスクがマストになって、不織布だけでなくおしゃれな刺繍が付いた布製マスクとか、自分は使ったことはないが銀ナノ粒子抗菌マスクとか、多彩な商品が入手できるようになり、思わぬ落とし穴が生じた。関係者は『こんなこと前から知ってる』と受け止めるだろうが、そのほうが幸いだ。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2020年12月5日

第976回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:英国がワクチンの一時的供給を認可 
  • COVID-19:Moderna社もワクチンを申請 
  • 武田、抗CMV薬の第3相が成功 
  • ノバルティス、ジャカビの慢性GvHD試験が成功 
  • Agios社、ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬の第3相が成功 
  • lurbinectedinの市販後コミットメント試験がフェール 
  • Ovid社、アンジェルマン症候群の第3相がフェール 
  • JNJ、EGFR・MET二重特異性抗体を承認申請 
  • ROCK2阻害剤のGvHD承認申請が受理 
  • 経口血漿カリクレイン阻害剤が承認 
  • Vanda社、メラトニン作用剤がスミス・マギニス症候群に適応拡大 
  • RET阻害剤がある種の甲状腺癌に適応拡大 
  • ゾレアが鼻ポリープに適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:英国がワクチンの一時的供給を認可
(2020年12月3日発表)

英国の薬品審査機関であるMHRA、はBioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチン、BNT162b2を『承認』した。正確に言えば、販売承認ではなく非常時における一時的供給認可という建付け。数日内に、最初は高齢者介護施設入居者/就業者や医療/社会的介護従事者を中心に、接種を開始する予定。ロシアや中国が既に開始しているが、欧米などで数万人規模の第3相試験を行って効果や安全性を検討したワクチンの接種は初めてとなる。

医療従事者向け情報という欧州の添付文書に類似した文書が公開されたので、重要な点だけまとめておこう。

対象:
・12歳以上。
・活性成分や添加物にアレルギーを持つ人は禁忌。
・抗凝固薬や易出血性疾患で筋注禁忌の人は原則禁忌。
・高熱を伴う重度疾患を発症している人は注意が必要。
・妊婦は禁忌ではないが推奨はしない。接種前と二回目の接種の2ヶ月以上後までは妊娠を避けるべき。
・授乳中の女性は接種すべきでない。
・免疫低下(免疫抑制剤使用も含む)では免疫反応低下の可能性。
・免疫抑制剤や他のワクチンとの同時使用に関するデータはない。

接種方法:
・21日置いて2回筋注

有害事象:
・注射箇所疼痛(発現率:80%超)、疲労(60%超)、頭痛(50%超)、筋痛(30%超)、悪寒(30%超)、関節痛(20%超)、発熱(10%超)など。通常は軽中等症、2~3日で解消する。
(英国で承認されている筋注用インフルエンザワクチンの数値と比べて、疼痛、疲労、頭痛の発現率が高い)。
・発現率1~10%の有害事象:注射箇所の発赤、同腫脹、嘔気
・同、0.1~1%:リンパ節腫脹、倦怠感
・同、0.1%未満:記載なし

効果:
・2回目の接種の7日後時点で感染歴がなかった36621人におけるワクチン効率:95.0%
・うち、65歳以上のサブグループ:94.7%
・   75歳以上のサブグループ:100%
・全被験者(約44000人)におけるワクチン効率:94.6%
・感染歴を持つサブグループにおけるワクチン効率:記載なし
・重症疾患予防効果:記載なし(メーカー側はプレスリリースで公表しているが)

物流保管:
・195バイアル/箱(975回分)
・有効期限は零下80~60℃で6ヶ月。輸送は専用コンテナで最長15日間可能。
・解凍後は希釈前なら2~8℃で5日間保存可能。希釈後は2~25℃の環境下で6時間以内に使う。

リンク: MHRAのプレスリリース
リンク: 医療従事者向け情報(pdfファイル)

COVID-19:Moderna社もワクチンを申請
(2020年11月30日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA、発音はモダーナ)はCOVID-19ワクチンのmRNA-1273を各地で承認申請した。米国ではEUA(非常時使用認可)を求めている。EUAは非常事態に限定して使用を認めるもので、現今の大流行が鎮静化したら終了する。正式な販売承認ではない。現時点では2ヶ月かそこらの感染予防/安全性データしかないが、数ヶ月追跡したデータを取得次第、正式な承認申請を行う考えではないか。EUでは条件付き承認を求めている。ここでも、第3相試験などの長期追跡データを提出して正式承認を得ることになろう。同社によると、スイスやイスラエル、シンガポールでもローリング審査中。途上国のために、WHO(世界保健機関)にPQ(事前審査)やEUL(非常時使用リスト)の申請も予定。

FDAは12月17日にVRBPAC(ワクチン等生物学的製剤諮問委員会)を招集して意見を聞く予定。当方は12月10日のVRBPACでBioNTech(Nasdaq:BNTX、英語読みはバイオンテック)/ファイザーがEUA申請したBNT162b2と共に検討されることを想定していたが、一週遅れとなった。

EUの薬品審査機関であるEMAは、承認申請の内容が万全であることを前提に、BNT162b2は遅くとも12月29日に開催されるCHMP特別会議で、mRNA-1273は遅くとも21年1月12日の特別会議で、結論を出す計画。こちらは二週遅れだ。

この二つのワクチンはSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAをリピッド・ナノパーティクルに封入したもの。mRNA-1473は100mcgを4週間置いて二回筋注する。3万人規模の第三相試験で感染者は11人、偽薬群は185人でワクチン効率は94.1%だった。重症はゼロ対30人、COVID-19感染による死亡者はゼロ対一人だった。これらの数値は二回目の接種の2週間後以降の感染をカウントしたもの。

因みに、BNT162b2は30mcgを3週間置いて二回筋注。4万人規模の第三相で感染歴のない被験者の感染は8人、偽薬群は162人でワクチン効率95%。重症は1人対9人。これらの数値は二回目の接種の1週間後以降の感染をカウントした。

リンク: Modernaのプレスリリース
リンク: FDAの諮問委員会招集発表


【新薬開発】


武田、抗CMV薬の第3相が成功
(2020年12月4日発表)

武田薬品は、TAK-620(maribavir)の第三相難治性・抵抗性サイトメガロウイルス(CMV)感染症治療試験が成功したと発表した。承認申請に向かう見込み。

CMVは造血幹細胞移植や臓器移植後の免疫抑制療法を受けている患者でしばしば表面化する感染症。今回の第3相では、400mgを一日二回、8週間に亘って経口投与し、ウイルス消失奏効率を実薬(ganciclovir、valganciclovir、foscarnet、cidofovirの中から医師が選択)と比較した。データは未発表。

第2相試験では反応率が72%と、グラクソ・スミスクラインが開発した代表的な抗CMV薬であるvalganciclovirの56%を上回った(規模が小さいせいか有意ではない)。やや気になるのは深刻有害事象の発現率が10%とvalganciclovirの2%より高かったこと。これらの数値は400mg群と800mg群、1200mg群の合計だが、効果だけでなく深刻有害事象も用量相関があるようには見えない。第3相でも、第2相と同様に、急性移植片宿主病や腎不全などが多く発生した可能性がある。

抗CMV薬はポリメラーゼを阻害する薬が多いが、maribavirはCMV複製の様々なプロセスを阻害する模様だ。03年にグラクソ・スミスクラインから権利を取得したViroPharmaが06年に他家造血幹細胞移植後のCMV感染予防薬として第3相試験を行ったが、09年に発症率4.4%と偽薬群の4.8%を僅かに下回るだけという結果が出て、肝移植試験とともに打切りとなった。

13年にViroPharmaを買収したシャイアが用量を4倍以上に増やして上記第2相治療試験を成功させ、19年にシャイアを買収した武田が、11年前の敵を討った格好。

リンク: 武田薬品のプレスリリース(英文)

ノバルティス、ジャカビの慢性GvHD試験が成功
(2020年12月4日発表)

ノバルティスは7月にJakafi(ruxolitinib)の第3相慢性移植片宿主病(GvHD)試験が成功したことを明らかにしているが、今回、データを公表した。24週間の治療で奏効率が49.7%と、最良治療(Best available therapy)群の25.6%を有意に上回った。適応拡大申請へ向かう見込み。

Jakafiはインサイト(Nasdaq:INCY)から米国以外での開発販売権を取得したJAK1/2阻害剤。骨髄線維症などに加えて、19年には難治性急性GvHDの治療に用いることが米国で承認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

Agios社、ピルビン酸キナーゼ欠乏症用薬の第3相が成功
(2020年12月1日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、AG 348(mitapivat)の第3相ピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏症試験が成功したと発表した。ヘモグロビン値が10 g/dL以下で輸血依存ではない成人患者80人を組入れてヘモグロビン量を偽薬と比較したところ、奏効率(ベースライン比1.5 g/dL以上増加した患者の比率)が40%と偽薬群の0%を有意に上回った。

有害事象による治験離脱はゼロ。忍容性は第2相試験と同様だった由。第2相では27人中5人で深刻有害事象が発生したので、油断はできない。

輸血依存患者を組入れた単群試験の結果を待って、21年に欧米で承認申請する考え。

PK欠乏症は遺伝性の希少疾患。赤血球でATPが不足、変形能がなくなり脾臓で捕捉されてしまう。貧血、脾腫、胆石などを合併する。

AG 348はPKR(ピルビン酸キナーゼR)のアロステリック・アクティベイター。一日二回、経口投与する。一回5mgで開始して20mgそして50mgと増量していく。PK欠乏症と鎌状赤血球病でFDAから希少疾患用薬指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース

lurbinectedinの市販後コミットメント試験がフェール
(2020年12月3日発表)

スペインのPharmaMar(MSE:PHM)と米国のJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、Zepzelca(lurbinectedin)の第3相化学療法併用試験がフェールしたと発表した。6月に米国でモノセラピーが加速承認された時の市販後コミットメント試験なので痛い。用法が若干違うので直ぐに承認取消になるようなことはないだろうが、新たな試験を立ち上げるなどして『俺は俺の責務を全うする』決意を見せた方が良いだろう。

PharmaMarが開発したアルキル化剤、Yondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)の類縁体で、白金薬レジメンによる治療歴を持つ転移小細胞性肺癌に3.2mg/m2を3週毎に点滴静注することが承認されている。105人を組入れた試験でORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が30%、メジアン反応持続期間は5.1ヶ月、有害事象は骨髄抑制関連が多かった。

今回の試験は白金薬レジメン後に進行した小細胞性肺癌の二次治療試験で、2.0mg/m2をdoxorubicinと併用する延命効果を、医師が選んだレジメン(topotecanまたはCAVレジメン<cyclophosphamide、doxorubicin、vincristineの三剤併用>)と比較した。プレスリリースには明記されていないが、優越性解析がフェールしたものと推測される。有害な効果はなかったとのことなので、数値は大差なかったか若干劣る程度だったのだろう。

lurbinectedinは16年に中外製薬が日本での権利をライセンスし第1相試験を開始したが、同社のパイプライン表には載っていないので、返還したのかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

Ovid社、アンジェルマン症候群の第3相がフェール
(2020年12月1日発表)

希少神経学的疾患に特化した新薬開発会社であるOvid Therapeutics(Nasdaq:OVID)は、OV101(gaboxadol)の第3相アンジェルマン症候群試験がフェールしたと発表した。4~12歳の97人と薬物動態や安全性を評価するため2~3歳の7人を組入れて12週間に亘って毎日経口投与したが、主評価項目であるCGI-I-AS(Clinical Global Impression-Improvement-Angelman syndrome)スケールの改善が0.7ポイントに留まり、偽薬群の0.8ポイントと大差なかった。副次的評価項目やサブグループ分析でも効果が見られなかった。開発中止になるのではないか。

gaboxadolはデルタ選択的なGABAA受容体作動剤。ルンドベックがライセンスして一時はMSDとも提携して不眠症などの用途で開発したが、15年にOvid社に導出した。

アンジェルマン症候群は母親由来の遺伝子のみが発現するUBE3A(ubiquitin protein ligase E3A)の遺伝子の機能喪失変異による重度の精神発達障害。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


JNJ、EGFR・MET二重特異性抗体を承認申請
(2020年12月3日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、JNJ-61186372(amivantamab)をEGFRエクソン20挿入変異を持つ転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として米国で承認申請した。承認されるまでの繋ぎとしてEAP(未承認薬をFDAの認可の下に提供するプログラム)もロンチした。

amivantamabはGenmab社のDuoBody技術を用いて創製したEGFRとMETに結合する抗体医薬。EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が適応になるが、第1世代はL858M変異などの抵抗性変異を誘導するリスクがある。第2世代品はこのような癌の多くに有効だが、エクソン20挿入変異に有効な薬は初めて。この変異の判定は次世代シーケンサーを使う。

承認申請の根拠となる第1相試験では、エクソン20挿入変異を持つ非小細胞性肺癌に第2相の推奨用量である1050mg(体重80kg以上は1400mg)を投与したサブグループ39人のORR(客観的反応率)が36%、承認申請の対象である白金薬による治療歴を持つ29人だけだと41%、だった。メジアン反応持続期間は10ヶ月。治療関連深刻有害事象の発現率は6%で蜂巣炎、間質性肺疾患、肩胸痛など。

同社は韓国のYuhanが韓国のOscotecの米国子会社であるGenoscoからライセンスした第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、lazertinibの韓国以外での開発販売権を取得、amivantamabと併用で
EGFRエクソン19欠失/L858R置換陽性非小細胞性肺癌の一次治療osimertinib対照第3相試験を開始する考え。

リンク: JNJのプレスリリース

ROCK2阻害剤のGvHD承認申請が受理
(2020年11月30日発表)

Kadmon(Nasdaq:KDMN)はKD025(belumosudil)を慢性GvHD(移植片宿主病)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査で審査期限は21年5月30日となっているが、Real-Time Oncology Reviewパイロット・プログラムの対象なのでもっと早く承認される可能性もありそうだ。

KD025は、免疫細胞の分化や細胞の線維化に係るリン酸化酵素、ROCK2(Rho-associated coiled-coil kinase 2)を阻害してTh17細胞をダウンレギュレートしTreg細胞を増強する。

二次までの治療歴を持つ患者に200mgを一日一回または二回、経口投与した第2相試験では、一日一回群の総合反応率が73%、95%信頼区間下限は60%、一日二回群は各74%と62%となり、95%下限が30%以下という帰無仮説を否定することができた。インサイト/ノバルティスのJAK1/2阻害剤、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)や、アッヴィ/JNJのBTK阻害剤、Imbruvica(ibrutinib)のような最近の新薬による治療歴を持つ患者でも総合反応率が60%を超えた。

深刻有害事象の発現率は34%、有害事象による死亡は5人でうち一人は薬物関連疑い例。10%の患者が薬物関連疑いの有害事象により治験を離脱した。

Surface Logix社がNano Terraに買収された後の2011年にKadmonが世界権をライセンスした。日本周辺は20年にMeiji Seikaファルマが開発商業化権を取得。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


経口血漿カリクレイン阻害剤が承認
(2020年12月3日発表)

BioCryst Pharmaceuticals(Nasdaq:BCRX)といえば注射用インフルエンザ治療薬Rapivab(peramivir、和名ラピアクタ)の開発者として有名だが、第2の製品であるOrladeyo(berotralstat)がFDAに承認された。経口血漿カリクレイン阻害剤で、12歳以上のHAE(遺伝性血管性浮腫)患者の増悪予防に用いる。経口剤は初。

第3相のAPeX-2試験では150mgを一日一回、経口投与したところ、HAEアタックの月間頻度が治験前の2.9回から1.3回に減少し、偽薬群(2.3回)と比べて44%少なかった(p<0.001)。既存薬の治験成績よりだいぶ見劣りするが、激しい痛みや死亡する可能性もあるHAEアタックのリスクが高まっても注射用薬からスイッチすることを望む患者には選択肢になるだろう。有害事象は腹痛、嘔吐、下痢など。過量投与すると用量依存的にQT延長リスクが高まるので注意する。報道によると問屋取得価格は年48.5万ドル。

欧州でも承認審査中。日本は米国より2ヶ月遅れて今年2月に承認申請されたが先駆け指定のようだ。承認後は鳥居薬品が販売する。

リンク: 同社のプレスリリース

Vanda社、メラトニン作用剤がスミス・マギニス症候群に適応拡大
(2020年12月1日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)はHetlioz(tasimelteon)をスミス・マギニス症候群の不眠治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。小児用に新開発した経口液製剤は来年第1四半期に上市する予定。

この病気は17p11.2遺伝子の欠失による発達障害。米国で15000~25000出生に一人の希少疾患。遺伝ではなく特発性であることが多い。最も多い症状は概日リズムの逆転による重度睡眠障害。

Hetliozはメラトニンの受容体であるMT1/2を作動する経口剤で、BMSがBMS-214778として開発していたものを04年にライセンスした。14~15年に米欧で非24時間障害(全盲者の多くで見られる睡眠障害)の治療薬として承認された。

今回の適応では、25人を組入れた臨床試験で総睡眠時間が41分改善した(偽薬群は20分改善、p=0.013)。3月に適応拡大申請した時は受理されなかったが、8月に受理、優先審査で承認となった。

リンク: 同社のプレスリリース

RET阻害剤がある種の甲状腺癌に適応拡大
(2020年12月1日発表)

FDAはBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)のGavreto(pralsetinib)をある種の甲状腺癌に用いることを加速承認した。今年9月にRET融合陽性転移非小細胞性肺癌用薬として承認したばかりだが、今回は審査期限よりほぼ3ヶ月早い承認。Real-Time Oncology Reviewパイロット・プログラムの対象になるとやっぱり速い。

高度選択的高力価RET阻害剤。甲状腺癌ではRETも阻害するVEGFR阻害剤がRET変異型に承認されているが、Gavretoは12歳以上で全身性治療を必要とする進行/転移RET変異陽性甲状腺髄様腫と、全身性治療を必要とし放射性ヨウ素不応のRET融合陽性甲状腺癌が適応になる。400mgを一日一回、食中服用する。

前者の癌では、VEGFR阻害剤2剤の治療歴を持つ患者55人におけるORR(客観的反応率)は60%で、その79%は反応が半年以上持続、持たない患者29人ではORR66%、反応半年持続率84%だった。後者の癌では、9人におけるORR89%、全員で反応が半年以上続いた。

ロシュとの共同開発で、米国では共同販売、中国以外の海外ではロシュが商業化する。

リンク: FDAのプレスリリース

ゾレアが鼻ポリープに適応拡大
(2020年12月1日発表)

ロシュは、Xolair(omalizumab、和名ゾレア)を鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。点鼻ステロイドに十分反応しない、18歳以上の患者が適応になる。第3相のmometasoneアドオン試験二本でポリープが縮小し、鼻詰まりが緩和した。

IgEに結合するヒト化抗体で03年に難治性重度喘息症の治療薬として初承認され、慢性特発性蕁麻疹やアレルギー鼻炎に用途を広げてきた。ジェネンテックが07年に買収したTanox社のコンパウンドで、ノバルティスと共同販売している。

リンク: ロシュのプレスリリース







今週は以上です。

2020年11月28日

第975回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:トランプ大統領が使った抗体医薬がEUA 
  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンも治験成功 
  • COVID-19:レムデシビルの評価分かれる 
  • ブドウ膜黒色腫の第3相試験が成功 
  • FDA、抗GD2抗体を神経芽腫用薬として承認 
  • アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型用薬が米国でも承認 
  • ゾフルーザが米国で暴露後予防に適応拡大;小児は米国もダメ 


【今週の話題】


COVID-19:トランプ大統領が使った抗体医薬がEUA取得
(2020年11月23日発表)

FDAはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のcasirivimab(REGN-10933)とimdevimab(REGN-10987)をEUA(非常時使用認可)した。軽・中等症のCOVID-19感染症で重症化リスクが高く、発症後10日以内の、成人や12歳以上且つ体重40kg以上の小児に、両剤を1200mgずつ、60分以上かけて点滴静注する。一回投与で足りる。

『重症化リスクが高い』の定義は、BMI≧35、慢性腎疾患、糖尿病、免疫低下疾患、免疫抑制剤使用、年齢65歳以上、55歳以上で心血管疾患や高血圧症、またはCOPDなどの慢性呼吸器疾患、または12~17歳で著高BMI値/鎌状赤血球病/心疾患/脳性まひなどの神経発達障害/気管支切開や胃瘻、陽圧換気を受けている患者、または毎日の服薬が必要な喘息症などの慢性呼吸器疾患。

臨床試験では28日間の入院・ER入室した患者の比率が3%と偽薬群の9%より小さかった。尚、重症化リスクが高くない患者も含む全被験者における比率は各2%と4%となっている。また、この試験では各剤4000mgずつ投与する群も設定されたが、効果は高まらず、過敏反応などの副作用は増加した。

非常に残念なことに、ベースライン時点でで入院・酸素投与が必要な患者に対する便益は確認されておらず、むしろ、ハイフロー酸素や人工呼吸器が必要な重症患者に投与すると悪化させる可能性がある。トランプ大統領は入院前に呼吸困難になり酸素投与を受けたが入院時点では一旦軽快していたと報じられているが、このような患者に投与するのは妥当なのか、避けるべきなのか、悩ましい。

また、上記試験の主評価項目であるウイルス量抑制効果に着目すると、ベースライン時点で抗SARS-CoV-2抗体を持っていた患者には効果が見られなかった。抗SARS-CoV-2抗体の補充療法なので、意外ではない。リジェネロンは治療前にスクリーニングする手法も検討しているが、FDAは無視しているようだ。論拠は不明。ウイルス量より入院・ER入室リスクのほうが重要という判断は賛成できるが、後者のイベント数は各群ごく少数であり、サブグループ評価ができない。抗体保有サブグループの症状軽快までのメジアン期間は各群同程度だった。本当に無視して良いのか、心配だ。

両剤は感染から回復した患者の抗体などから創製したIgG1型ヘテロテトラマー抗体で、リジェネロンは二剤のカクテルをREGN-COV2という開発コードで呼んでいる。連邦政府と4.5億ドル相当の生産・供給契約を結んでおり、今月末までに8万人分、1月末までに30万人分を用意する予定。連邦政府は国民に無償で提供する。1日に20万人近くが診断されている国なので到底足りないが、抗体医薬なので量産が難しいのだろう。

米国外は開発生産提携先のロシュが担当する。二社合計で治療用途に年200万人分、探索中の用途である暴露後予防で年800万人分程度の生産を計画している。

尚、リジェネロンのプレスリリースに明記されているように、両剤はFDAから承認されていない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 医療従事者向けファクト・シート(pdfファイル)
リンク: リジェネロンのプレスリリース

COVID-19:アストラゼネカのワクチンも治験成功
(2020年11月23日発表)

アストラゼネカは、オックスフォード大学が創製したCOVID-19ワクチン、AZD1222/ChAdOx1 nCoV-19の第3相試験が中間解析で成功したと発表した。承認審査機関に条件付き承認/早期承認などを申請するとともに、低所得国でも使えるようにWHOにEUL(非常時使用リスティング)を求める考え。

このワクチンは、増殖不能処理を行った遺伝子組換え型チンパンジー・アデノウイルス(ChAdOx1)にSARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子などを導入したもので、接種後に体内で当該遺伝子が翻訳され、抗原となる。ChAdOx1技術のワクチンは過去に300人程度の接種実績しかなく、大規模な試験はCOVID-19ワクチンが初めてだ。

中間解析の対象は英国の第2/3相試験とブラジルの第3相試験。18歳以上の患者に1ヶ月以上おいて二回接種し、終了後更に14日経った後の感染を追跡した。英国試験では週一回、拭い液を検査して感染の有無を確認した。対照群は、英国試験は髄膜炎菌結合ワクチン、ブラジル試験は二回目の接種は偽薬を使った。

用量は5x10^10 vp(ウイルス・パーティクル)を使ったが、一部の患者は一回目に半量しか接種しなかった。報道によると、オックスフォード大学が至適用量を誤解していたことにアストラゼネカが気付き、二回目とその後に開始した被験者は全量を接種したという経緯のようだ。

実際は、誤解していたのはアストラゼネカのほうかもしれない。初回半量サブグループ2741人におけるワクチン効率は90%、全量サブグループ8895人では62%、合計では70.4%で、何れもp≦0.0001という結果になったからだ。忍容性についてはワクチン関連の深刻有害事象はなかったことだけが開示された。

効果に付いて二点、検討したい。先に第3相結果が発表されたmRNAワクチン二品のワクチン効率は95%前後なので、70.4%というのは見劣りする。当方で前提を置いて推算したところ95%信頼区間は55~80%となった。BNT162b2は90~97%、mRNA-1237は86~98%なので、重なっていない。但し、英国試験は無症候感染者も多く検出しているはずなので、ワクチンのお陰で症状が出ないで済んだような患者は、本試験では感染と診断されるが他の試験では診断されないような現象が起きても不思議ではない。夫々のワクチンの試験における症候性感染者だけのデータが明らかになればリンゴとリンゴを比較することが可能になるだろう。

奇妙なのは初回半量サブグループのほうが好成績であることだ。ウイルスベクターに対する抗体が影響しているのかもしれない。

アデノウイルスは抗体を持っている人が少なくなく、そのような人がアデノウイルスを使ったワクチンを接種しても抗原遺伝子が発現される前にウイルスが抗体に攻撃されて、十分な効果を発揮できないことになりかねない。現に、CanSino Biologics(HKEX:6185)のアデノウイルス5(Ad5)-nCOVワクチンの第2相では、抗Ad5抗体保有者における免疫原性が小さかった。この現象を回避するために、ロシアが世界に先駆けて接種開始したスプートニクVワクチンは一回目はAd26ベース、二回目はAd5ベースと、ウイルスベクターを使い分けている。

オックスフォード大学がヒトではなくチンパンジーに感染するウイルスを使っているのも同じ理由だ。しかしそれでも、二回接種すると一回目にできた抗体が二回目はもっと強力にワクチンを分解してしまうかもしれない。このような現象が過去の試験で見られたのかどうか、気になるところだ。

尤も、初回半量サブグループの成績が全量サブグループより良いと断定できるかどうかは曖昧だ。そこで、再び95%信頼区間を推算してみた。全体の感染者数は131人と発表されている。対照群の被験者数はワクチン群の対応するサブグループと同じ、感染率は対照群全体の感染率と同じと前提した。結果は、初回半量サブグループのワクチン効率の95%信頼区間は63~98%、全量サブグループは42~75%となった。63~75%の部分が重なっているので、二つの解析結果が矛盾するとは言い難いことになる。

アストラゼネカは初回半量レジメンを承認申請する考えだが、点推定値が示すほど効果が高いかどうかは議論の余地がありそうだ。

さて、アストラゼネカは米国でEUAを得ることができるだろうか?米国でも別途、第3相試験を行っているが、9月に英国試験で横断性脊髄炎様症例が発見されたため中断、英国は数日後に再開できたが、米国は10月23日まで再開認可が下りなかったため、遅れているはずだ。FDAはCOVID-19被害者が多いアフリカ系などマイノリティを一定割合組入れるようワクチン開発者に要請しているが、英国とブラジルのデータだけでは充足できないのではないか。

AZD1222の長所は、通常の冷蔵設備で6ヶ月以上、保存や輸送が可能であること。特に低所得国では好都合だ。アストラゼネカ/オックスフォード大学は、パンデミック下では製造コストに治験費用として20%を上乗せした価格、つまり、利益ゼロで供給するとコミットしており、事実、ブラジルなどとの供給契約では一回分が2~4ドルとmRNAワクチンの10分の1程度に留まっている。価格の点でも低所得国には魅力的だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

COVID-19:レムデシビルの評価分かれる
(2020年11月25日発表)

FDAは10月にギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)をCOVID-19入院患者の治療薬として本承認したが、11月20日にWHOがSOLIDARITY試験の結果に基づいて使用を推奨しない暫定的ガイドラインを刊行したことに触発されたのか、承認の根拠を改めて説明するプレスリリースを発出した。主要エビデンスであるACTT-1試験が無作為化割付偽薬対照二重盲検であるのに対して、SOLIDARITY試験は複数の介入方法を標準療法だけの群と比較した、偽薬を使わないオープンレーベル試験であることや、ACTT-1試験で示された、回復を早めたり症状を改善したりする効果はSOLIDARITY試験でも否定されていないことを指摘した。

ACTT-1試験のデザインのほうが優れているのは確かであり、特に、症状改善のようなソフトな評価項目は二重盲検が重要だ。しかし、例えば人工呼吸器装着のようなイベントは、その医療施設/国の慣習や機器のアベイラビリティによって、時期がずれる可能性がある。評価項目(効能)としては罹患期間より死亡リスク削減のほうが価値が高いが、ACTT-1試験は十分な検出力がなかった。

SOLIDARITY試験のもう一つの価値は症例数が多いことだ。remdesivirの解析に用いられた症例だけでも5000人を超え、ACTT-1試験の5倍だ。治療に忙殺される時期に、治験の概要を説明して患者同意書を取得し、様々なデータを都度報告しなければならない現場の負担を多少でも緩和すべく二重盲検を採らず、オープンレーベル試験の欠点を少しでも緩和すべくハードな評価項目を採用し、そのために多くの患者を組入れた。

従って、この二本はどちらも一長一短であり、どちらかを依怙贔屓することはできないだろう。

remdesivirの試験成績で溜息が出るのは、サブグループ分析や他の試験の成績が区々であることだ。下表のように、ベースライン時点で人工呼吸器/ECMO装着患者に関しては、どちらの試験でも、死亡リスクが高まる可能性が示されている。統計的に有意ではないが、十分な検出力はないだろうから、安全性指標に関する鉄則である、『疑わしきはクロ』を当てはめる必要があるのではないか?

ギリアド自身が主導した、酸素投与を必要としない入院患者のオープンレーベル試験では、5日コースの症候改善オッズ比が標準療法のみの群より有意に高かったが、10日コースは大差なかった。10日経たないうちに退院した患者が多かったため10日コースのメジアン投与期間は6日に留まっており、1日かそこらの違いで明暗が分かれたのは理解に苦しむ。

FDAは年齢12歳以上、体重40kg以上の全ての入院患者に使うことを承認しているが、様々な組織のガイドラインは、人工呼吸器/ECMO装着患者には推奨しなかったり、区々だ。新たな臨床試験が行われることはないだろうから、今後も不透明感が続くことになる。

二試験の概要

SOLIDARITYACTT-1
地域世界欧米亜
薬効解析対象数5,4511,062
二重盲検×
BL重症比率76%89%
発症後メジアン経過日数不明6日
死亡リスクRR 0.95 nsHR 0.73 ns
(BL酸素投与無し)0.900.82
(BL酸素投与)0.85-
(BLローフロー酸素)0.30
(BLハイフロー酸素)1.02
(BL人工呼吸器)1.201.13
退院リスク不明RR 1.29 ss
注:BL=ベースライン、RR=レート比、HR=ハザードレシオ、ss=統計的に有意、ns=有意ではない。重症は酸素投与以上の措置が必要な状態を指す。
出所:SOLIDARITY試験論文草稿やACTT-1試験論文から作成

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: WHOのプレスリリース(11/20付)
リンク: EMAのプレスリリース(11/20付)
リンク: SOLIDARITY試験論文草稿(medRxiv)
リンク: ACTT-1試験論文(New England Journal of Medicine)


【新薬開発】


ブドウ膜黒色腫の第3相試験が成功
(2020年11月23日発表)

オックスフォード大学発のベンチャーであるImmunocore(未上場)は、IMCgp100(tebentafusp)の第3相ブドウ膜黒色腫試験が中間解析で成功したと発表した。承認申請に向かうのではないか。

ブドウ膜黒色腫は新患が世界で年8000人、米国だけだと1600~2000人の希少疾患。手術や放射線療法などで治療されるが、5割は転移し、その5割は1年以内に死亡すると言われている。腫瘍学では抗PD-1/PD-L1抗体が席巻しているが、ブドウ膜黒色腫は遺伝子変異が少ないため免疫療法応答性が低い。

IMCgp100は親和性増強可溶性T細胞受容体と抗CD3短鎖可変領域フラグメントの融合蛋白。腫瘍細胞の表面のペプチド・HLA複合体で抗原提示されるgp100を認識し、T細胞を活性化させる。

HLA-A*0201陽性患者の転移ブドウ膜黒色腫378人を組入れて一次治療における延命効果を医師が選んだ薬(8割の医師がKeytruda(pembrolizumab)を選択)と比較した第3相試験ではハザードレシオが0.51、p値は0.0001を下回った。カプラン・マイヤー推定による1年生存率は73%で対照群の58%を上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


FDA、抗GD2抗体を神経芽腫用薬として承認
(2020年11月25日発表)

FDAはY-mAbs Therapeutics(Nasdaq:YMAB)のDanyelza(naxitamab-gqgk)を難治/再発性高リスク神経芽腫用薬として加速承認した。骨/骨髄の神経芽腫で前治療に安定化以上の反応を示した1歳以上の小児や成人が適応になる。4週サイクルで第1、3、5日に3mg/kgを点滴静注する。サイクル開始前後の5日間にGM-CSFを一日一回、皮注する。

エビデンスは第二相試験の反応率および反応持続期間。201試験ではORR(客観的反応率)が45%、その30%で反応が6ヶ月以上持続した。12-230試験では各34%と23%だった。

深刻な点滴関連反応と神経毒性(重度神経性疼痛、横断性脊髄炎、可逆性後頭白質脳症症候群など)が枠付警告された。外来治療可能だが、投与前にプリメディケーションを行い、治療後は2時間、密接にフォローする。

DanyelzaはMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSK)の研究者が創製した抗GD2ヒト化抗体。 Thomas Gad会長兼創業者兼社長は娘が2歳の時に高リスク神経芽腫と診断され、MSKで抗GD2マウス抗体による治療を受けた。再発後は抗B7-H3抗体omburtamabベースの治療も受けた。Gad会長はnaxitamabとomburtamabをライセンスして開発、後者の承認申請は受理されなかったのでやりなおしになるが、Danyelzaの承認で最初の目標を達成した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: y-mAbsのプレスリリース

アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型用薬が米国でも承認
(2020年11月23日発表)

FDAは、アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のOxlumo(lumasiran)を小児・成人の原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)治療薬として承認した。EUでも今月、承認されている。

PH1はアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠損により肝臓内にグリオキシル酸が蓄積する。シュウ酸過剰になりカルシウムが腎臓などで蓄積、腎障害や尿路結石を合併する。患者数は欧米で1000~1700人と推定されている。

アルナイラムはRNA介入に特化した新薬開発販売会社。Oxlumoはグリコール酸酸化酵素の遺伝子であるHAO1のmRNAに介入する。3ヶ月毎に皮注する。臨床試験では尿と血漿のシュウ酸が減少した。重度あるいは深刻な有害事象は発生しなかった。投与実績は月齢4ヶ月から61歳まで幅広い。

同社は希少小児疾患用薬優先審査バウチャを取得した。希少疾患や小児疾患だけでなく様々な病気の治療薬の承認申請を行う時に、このバウチャを使って優先審査を求めることができる。転売も可能で、最近では他社が1億ドル弱で売却した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アルナイラムのプレスリリース(11/24付)

ゾフルーザが米国で暴露後予防に適応拡大;小児は米国もダメ
(2020年11月23日発表)

FDAはロシュのXofluza(baloxavir marboxil)をインフルエンザ感染者に接触した12歳以上の小児と成人の発症を予防する、暴露後予防に適応拡大した。塩野義製薬が創製した画期的な作用機序を持つインフルエンザ治療薬で、今回の用途は10月に日本で第二部会を通過、11月にはEUでCHMPの肯定的意見を得た。日本で実施された感染者の家族を組入れた臨床試験では、10日間の発症率が1%と偽薬群の13%を大きく下回った。有害事象発現率は各22.2%と20.5%だった。被験者の3/4は家族の発症後24時間以内に投与を受けており、曝露後予防というよりは発症前の早期に治療したという印象。受験に備えてタミフルを服用する予防法とは異なる。

先に発売された日本を中心に因果関係を否定できないアナフィラキシーやショックが十例以上、報告されており、FDAもプレスリリースにリスクを明記した。更に、乳製品やカルシウム強化飲料、緩下剤、制酸剤、カルシウムあるいは鉄、マグネシウム、セレン、アルミ、亜鉛、を含有する経口サプルメントと一緒に服用しないよう注意した。

ロシュと塩野義製薬は12歳未満の小児の治療や予防でも申請したが、FDAも、第二部会も、CHMPも、首肯しなかった。臨床試験で変異ウイルスの発現がしばしば見られたことが原因だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース(11/24付)







今週は以上です。

2020年11月21日

第974回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:FDAがイーライリリーのJAK阻害剤をEUA 
  • COVID-19:BioNTech/ファイザーがワクチンをEUA申請 
  • COVID-19:Moderna社のワクチンも第1回中間解析が成功 
  • AHA:EPAとEPA・DHA製剤の試験結果の整合性 
  • B型血友病の第3相遺伝子療法試験が成功 
  • ギリアド、capsid阻害剤が多剤抵抗ウイルスを抑制 
  • リンパ腫の抗体薬物複合体が承認申請 
  • サノフィ、ポンペ病の新薬を米国でも承認申請 
  • サノフィの寒冷凝集素症用薬は承認審査完了 
  • FDA、早老症治療薬を承認 
  • アルナイラム、高シュウ酸尿症I型治療薬が欧州で承認 
  • サノフィ、昆虫細胞培養型インフルエンザワクチンがEUでも承認 


【今週の話題】


COVID-19:FDAがイーライリリーのJAK阻害剤をEUA
(2020年11月19日発表)

FDAはイーライリリーのOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)をCOVID-19肺炎治療薬としてEUA(非常時使用認可)した。成人と2歳以上の小児で酸素投与、人工呼吸器、またはECMOを必要とする患者に、4mg(9歳未満などは2mg)を一日一回、最長14日間に亘って、経口投与する。Veklury(remdesivir)の最長10日間のコースと併用する。

エビデンスはNIAID(米国アレルギー感染症研究所)が主導したACTT-2試験。1033人の中重度患者を組入れて退院(医療不要になったが隔離目的で入院継続も含む)までの期間を調べたところ、Olumiant・remdesivir併用群はメジアン7日間と偽薬・remdesivir併用群の8日間を上回った。インシデンス・レート比は1.15、p値は0.047なので、治療効果の点でも統計学的有意性の点でもボーダーライン上である。

副次的評価項目の症状改善オッズ比は1.26だがp=0.044とこちらもボーダーライン上。29日死亡率は各群4.7%と7.1%で、数値は良好だがp値は0.09なので有意ではない。

致死的有害事象発現率は各群4%と6%、有害事象治験離脱率は7%と12%で、どちらもOlumiant群のほうが低かった。

Olumiantはインターロイキンなどの受容体の細胞内シグナル伝達に係るJAK1/2の阻害薬。インサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスした。中重度リウマチ性関節炎の治療薬として17~18年に日米欧で承認された。深刻感染症、リンパ腫などの腫瘍、血栓症のリスクが枠付警告されている。FDAは、EUAに際して、禁忌でなければ静脈血栓塞栓の予防を行うよう推奨した。動物試験で胚胎毒性が見られたが、妊婦禁忌までにはなっていない。

EMAやPMDAと比べてFDA及び諮問委員会は4mgの安全性に懐疑的で、2mgしか承認していない。

EUAはエビデンスが不確かでも取得することができるが、承認とは扱われない。だから、remidesivirが正式承認されるまではギリアドはプレスリリースを出す時に米国では承認されていないと明記しなければならなかった。

Olumiantの場合、薬効に関するp値が十分に低くなく、再現性を確認すべきもう一本の試験が未了であることなどを考えれば、イーライリリーが実施している第3相でもっとよい結果が出ない限り承認を取るのは無理だろう。

尚、OlumiantはSARSが細胞内に侵入する過程で作用するAAK1(AP2関連プロテイン・キナーゼ1)やサイクリンG関連キナーゼを阻害する作用を持っている由で、COVID-19肺炎における作用機序はJAK1/2阻害ではなくこちらかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 医療従事者向けファクト・シート(pdfファイル)

COVID-19:BioNTech/ファイザーがワクチンをEUA申請
(2020年11月20日発表)

ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)と共同開発パートナーのファイザーは、COVID-19のmRNAワクチン、BNT162b2のEUA(非常時使用認可)をFDAに申請した。オーストラリアやカナダ、EU、日本、英国でも既にローリング承認申請に着手している由。FDAは12月10日にワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会を招集しデータやFDAの評価に関して意見を聞く予定。委員会はYou TubeやFacebook、TwitterのFDAサイトやFDAホームページで配信する予定。

18日には第3相試験の最終薬効解析でワクチン効率が95%だったことが公表された。高齢者を含めて様々なサブグループで効果が見られ、重度有害事象発現率はそれほど高くなかった。FDAの要請を踏まえて様々な人種・民族を組入れており、被験者の4割は56歳以上だった。小児に関しては別途、12~15歳の100人に接種して安全性評価を行っている。妊婦は不明だが、おそらく、治験対象外なのではないか。

BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイク蛋白の全長mRNAを修飾してリピッド・ナノパーティクルに封入したmRNAワクチンで、体内でスパイク蛋白が発現、免疫反応を誘導する。30mcgを3週置いて2回、筋注する。

今回の第3相は米国やドイツ、南米などで18歳以上の43538人をワクチン群と偽薬群に無作為化割付してCOVID-19感染リスクを検討した。ワクチンの効果は直ぐにはフルに発揮されないため、二回目の接種の7日後以降の確認感染例だけをカウントした。

最初の主評価項目である感染歴のないサブグループにおける確認感染例は各群8人と162人となり、ワクチン効率95%、p<0.0001となった。第二の評価項目である、感染歴を持つ被験者も含めた解析も成功した。

感染時の重症化リスクは年齢や持病、人種によって異なる。65歳以上の高齢者は重症化リスクが高いが一般的に免疫力が弱くワクチンの効果が小さくなる傾向があるが、幸い、本試験ではワクチン効率94%以上と良好だった。様々なジェンダーや人種、民族に効果が見られた。

深刻有害事象は今のところゼロ。G3以上の重度有害事象は疲労(発現率3.8%)や頭痛(2.0%)。

本試験で興味深いのは、感染歴を持つ人も参加していること。既に免疫を持っていてワクチンの効果が小さい可能性があるが、このサブグループだけの数値はどうだったのだろうか?また、デング熱のような、二回目の感染に相当するワクチン接種時に重症化するリスクを検証しなければならないが、本試験では抗体依存性感染増強が疑われる症例はなかっただろうか?

ファイザーは承認後数時間内に出荷を開始する予定。零下70℃という超低温環境で輸送する必要があり、ファイザーは、最長15日間有効な専用コンテナを用意した模様。冷蔵庫では保存可能期間は最長5日間に過ぎないので、クリニックでは期間を定めて集中的に接種し、都合の悪い人は大病院で接種するようなやり方が考えられる。

両社は世界で5000万回分(2500万人分)を本年内に、13億回分を来年末までに、生産する考え。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: 同、第3相試験成績について(11/18付)
リンク: FDAの諮問委員会開催発表リリース(11/20付)

COVID-19:Moderna社のワクチンも第1回中間解析が成功
(2020年11月16日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA、発音はモダーナ)は、mRNA-1273ワクチンの第3相COVID-19感染予防試験、COVEの第1回中間解析が成功したと発表した。数週内にFDAの要求によるメジアン2ヶ月間の追跡を充足し、EUA(非常時使用認可)を申請する考え。米国外では10月のカナダと英国に続いて、EMA(欧州薬品庁)もローリング審査を開始した。

COVE試験はNIH(米国医療研究所)などの政府機関やCROのPPD(Nasdaq:PPD)の協力を経て18歳以上のボランティア3万人を米国の施設で組入れて、100mcgを4週置いて二回接種する効果を偽薬と比較した。組入れ完了は10月22日とのことなので、まだ二回目の接種を終えていない人もいるだろう。

結果は、主評価項目である感染者数がワクチン群は5人、偽薬群は90人。ワクチン効率(予防率)は94.5%、p値は0.0001未満となり、プロトコルで定められた第1回中間解析の成功認定閾値である0.0002を下回った。

BioNTech/ファイザーのBNT162b2のワクチン効率95%と同程度であり、二種類のリピッド・ナノパーティクル封入mRNAワクチンが相次いで好成績を上げたことになる。

副次的評価項目である重症感染症はワクチン群はゼロ、偽薬群は11人と大変好ましい結果になった。

G3以上の重度有害事象と発現率は、1回目の接種後は注射箇所反応(2.7%)など、2回目は疲労(9.7%)、筋痛(8.9%)、関節痛(5.2%)、頭痛(4.5%)、疼痛(4.1%)、注射箇所の紅斑・発赤(2.0%)など。ワクチンでは一般的な有害反応だが、BNT162b2より少し多いように見える

mRNA-1273とBNT162b2の効能・忍容性以外の違いは、接種間隔は各4週と3週なので、後者の方が早く効果をフルに享受できる可能性があるが、それだけで決まる話ではないだろう。実務面で重要な違いは冷凍冷蔵温度だ。mRNA-1273は、輸送・備蓄は零下20℃(通常の医療用冷凍設備)で6ヶ月間、医院では2℃(通常の冷蔵庫)で30日間、開封後は室温で12時間、保存できる。一方、BNT162b2は輸送・備蓄は零下70℃、医院では2-8℃で5日間と、低温要求が厳しい。実務的にはmRNA-1273のほうが扱いやすいので、まだヘッドライン・データに過ぎないが、BNT162b2と似たような成績を挙げたことは朗報だ。

リンク: Modernaのプレスリリース
リンク: EMAのローリング審査開始に関するプレスリリース

AHA:EPAとEPA・DHA製剤の試験結果の整合性
(2020年11月15日刊行)

オメガ-3脂肪酸はサプリメントとして人気があり、サプリメントより高い基準に即して生産された高純度EPA(エイコサペンタエン酸)製剤やEPA・DHA(ドコサヘキサエン酸)製剤は重度高トリグリセライド血症の治療薬として承認されている。より多くの患者における便益を検討すべく、様々な心血管アウトカム試験が実施されたが、結果は区々だ。今年も大規模試験の結果が発表されたが、謎が解消するどころか、過去の議論が再燃した。

ポジティブな効果に関する代表的なエビデンスは、18年のAHA(米国心臓協会科学部会)で発表された、アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(EPAエチルエステル)のREDUCE-IT試験だ。中程度の高トリグリセライド血症(135mg~500mg/dL)で心血管疾患のリスクが高くスタチンを服用している患者8179人に、2gまたは偽薬(鉱油)を一日二回、メジアン4.9年間に亘り投与したところ、心血管アウトカム(CVO:心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・冠再建術・不安定狭心症の何れか)のハザードレシオが0.75(95%信頼区間0.68-0.83)と有意なリスク削減効果が見られた。

わが国で行われた持田製薬のエパデール(イコサペント酸エチル)の高LDL-C血症を組入れた初発・再発予防試験、JELISでも、CVO(突然死・非致死的心筋梗塞・不安定狭心症・血管形成術・ステント・CABG)のハザードレシオが0.81(95%信頼区間0.69-0.95)と良好な結果が出た。惜しむらくは、群間差が大きかったのは不安定狭心症という医師や患者の主観バイアスや影響しやすい評価項目であったこと。二重盲検試験ではないため、信頼性が頑強ではない。多額の資金と時間、医療従事者と患者の善意や情熱が十分に報われない結果になってしまった。

さて、今年のAHAでは、アストラゼネカのEpanova(EPA・DHAカルボン酸製剤)のSTRENGTH試験の結果が発表された。REDUCE-ITと同様な、中程度高トリグリセライド血症(180~499mg/dL)かつ低HDL-C値で心血管リスクが高くてスタチンを服用している患者13078人に一日4gまたは偽薬(コーン油)を投与して、CVO(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的卒中・冠再建術・不安定狭心症による入院)を追跡したが、中間解析で無益判定された。メジアン3.5年間の追跡で、ハザードレシオ0.99(95%信頼区間0.90-1.09)と殆ど差がなかった。

REDUCE-IT試験とは95%信頼区間すら重なっておらず、かなり異なった結果だ。原因として考えられているのは三点。第一は、試験薬の違い。EpanovaはDHAも含有しており、EPAの量はVascepaより少ない。Vascepaの試験では出血リスクが増加したが、Epanovaの試験では観察されておらず、もしかしたら、EPAの血栓抑制作用に伴う血管閉塞性疾患防止効果がDHAの血栓促進作用によってオフセットされているのかもしれない。あるいは、DHAとスタチンの間に好ましくない相互作用があるのかもしれない。

第二は偽薬の違い。Vascepaの試験では鉱油群でLDL-C値やhsCRP値(炎症のバイオマーカー)が若干上昇しており、鉱油の副作用がVascepaの治療効果を嵩上げしたのかもしれない。

また、どちらもスタチン服用者を対象としているが、コレステロール異常症のような苦痛を伴わない、治療の必要性も効き目も体感できない病気は服薬アドヒアランスがあまりよくなく、スタチンのアウトカム試験でも3年、5年と経つうちに服用を自発的に止めてしまう患者が増えていく。STRENGTH試験論文にはベースライン時点と1年経過後の各群の平均LDL-C値が表記されているが、その後の状況は記されていないので、スタチン服用中止例に群間の偏りがなかったかどうか、当方は確認できない。

個々の要素は転帰を大きく変えるほどのインパクトはないように感じられるが、全部合わせれば95%信頼区間の重ならなかった部分くらいは説明できるかもしれない。

FDAがVascepaの心血管疾患リスク削減効果を承認したため、REDUCE-IT試験に対する疑念は一旦静まったが、STRENGTH試験の学会・論文発表を機に再燃している。

リンク: Nichollsらの治験論文(JAMA、オープン・アクセス)
リンク: Sharmaらのエディトリアル(同)
リンク: Curfmanのエディターズ・ノート(同)


【新薬開発】


B型血友病の第3相遺伝子療法試験が成功
(2020年11月19日発表)

アムステルダム大学アカデミック・メディカル・センター発の希少疾患ベンチャーであるuniQure(Nasdaq:QURE)は、AMT-061(etranacogene dezaparvovec)の第3相重症B型血友病試験で主目的を達成したと発表した。

54人を組入れて、AAV5(アデノ随伴ウイルス5型)をベクターとして第IV因子Paduaを2x10^13ゲノムコピー/kg投与したところ、第IV因子レベル(正常値対比)で治療前の2%未満から37%に上昇した。72%の患者は出血事故がゼロになり、残りの15人は合計で21回出血があった。第IV因子製剤の使用量は、治療前の年率29万IUと比べて96%減少した。治療前に抗AAV5中和抗体を保有していた23人にも治療効果が見られた。

主な有害事象は肝機能検査値異常(プロトコルに従いステロイドで治療)の発現率が17%、点滴関連反応と頭痛、インフルエンザ様症状が各13%だった。治療時関連深刻有害事象の発生は報告されていない。

第IX因子PaduaはイタリアのPadua大学の研究者、Paolo Simioniが発見した多型で、FIX活性が野生型より8-9倍高い。AMT-061は今年6月にCSL Behringが開発販売権を取得した。

リンク: uniQureのプレスリリース

ギリアド、capsid阻害剤が多剤抵抗ウイルスを抑制
(2020年11月18日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-6207(lenacapavir)の第2/3相試験の当初結果を公表した。多剤耐性ウイルスに対して、ファースト・イン・クラスに相応しい効果を示した。

GS-6207はHIVのRNAを包むカプシド蛋白の阻害薬で、ウイルスのライフサイクルにおける複数の段階に介入する。このCAPELLA試験は複数のクラスの抗HIV薬に抵抗性を持ち、ウイルス検出不能状態に管理できていない患者36人を組入れて、機能的モノセラピー期では錠剤を追加投与して2週間後のウイルス量を偽薬と比較した。維持期では、バック・グラウンド・レジメンを個々の患者に最適なものに切り替えた上で、試験薬群は長期作用性皮注用製剤を6ヶ月毎に投与、偽薬群は錠剤によるリードインを経て皮注用に移行する。

発表されたのは機能的モノセラピー期のヘッドライン・データ。試験薬群(ベースライン時点のウイルス量は4.2log10コピー/mL)は0.5log10減少達成率が88%と偽薬群の17%を有意に上回った。減少幅は試験薬群が1.93log10、偽薬群は0.29log10でこちらも有意に上回った。有害事象は注射箇所の結節や腫脹など。

画期的な作用機序を持つので今回のような多剤耐性ウイルスが最初のターゲットになりそうだが、忍容性次第では一次、二次治療にも展開するだろう。長期作用性注射用抗HIV薬という点ではヴィーヴヘルスケアの筋注用インテグラーゼ阻害剤、cabotegravirと似ており、将来的に両薬がHIV予防に承認されればバッティングしそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


リンパ腫の抗体薬物複合体が承認申請
(2020年11月20日発表)

スイスのADC Therapeutics(NYSE:ADCT)は、Lonca(loncastuximab tesirine)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は21年5月21日。二重連鎖DNAの二本の間に共有クロスリンクを形成して細胞分裂を妨げる薬物を抗CD19抗体とリンカーで結んだADC(抗体薬物複合体)で難治再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療以降に用いる。第2相試験ではORR(客観的反応率)が48.3%(完全反応率は24.1%)、メジアン反応持続期間は10.2ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症、血小板減少症、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ上昇、貧血など。

リンク: 同社のプレスリリース

サノフィ、ポンペ病の新薬を米国でも承認申請
(2020年11月18日発表)

サノフィは、avalglucosidase alfaをポンペ病薬として米国でも承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は21年5月18日。

ポンペ病はα-グルコシダーゼの欠乏によりライソゾームにグリコーゲンが蓄積、筋力低下による様々な合併症を引き起こす。現在はアミカス・セラピューティクスのCEOとして経口剤の開発を進めているジャック・クラウリーが娘を助けるために研究者や出資者を探して実用化に漕ぎ着けたMyozyme(alglucosidase alfa、和名マイオザイム)が代表的な治療薬だ。クラウリーは事業をジェンザイムに譲渡、サノフィは2011年にジェンザイムを買収して超希少疾患用薬に本格参入した。

avalglucosidase alfaはalglucosidase alfaの改良薬で、筋細胞のM6P受容体に対する親和性を高め、効果増強を図った。しかし、遅発型ポンペ病と診断され初めて治療を受ける患者96人を組入れた直接比較試験では、主評価項目である相対的努力肺活量(ppFVC)の非劣性解析は成功したものの、優越性解析は有意水準にあと一歩、届かなかった。

EUでも10月に承認申請が受理されている。

リンク: サノフィのプレスリリース


【承認審査・委員会】


サノフィの寒冷凝集素症用薬は承認審査完了
(2020年11月14日発表)

サノフィは今春、sutimlimabを寒冷凝集素症治療薬として日米で承認申請したが、FDAからは審査完了通知を受領した。FDAは委託先における製造問題を指摘しているようだ。頻発しているcGMP問題だとしたら解決に時間がかかる可能性もある。

寒冷凝集素症は古典的補体経路の異常活性化による自己免疫性溶血性貧血の一種で、米国の患者数は5000人、日米欧では12000人と推測されている。sutimlimabはC1複合体のセリンプロテアーゼに対する抗体で、24人を組入れた第3相単群試験では過半でヘモグロビン濃度が改善し、過半で輸血不要になった。重篤な治療時発現有害事象が7人で発生したが、何れも担当医が試験薬との因果関連を否定した。

サノフィが18年に買収したBioverativがその前年にTrue North Therapeuticsを買収して入手したコンパウンド。

リンク: サノフィのプレスリリース


【承認】


FDA、早老症治療薬を承認
(2020年11月20日発表)

FDAは、アイガー バイオファーマシューティカル(Nasdaq:EIGR)のZokinvy(lonafarnib)を1歳以上のハッチンソン・ギルフォード症候群早老症および一部のプロセッシング異常による早老性ラミノパチーの死亡リスクを抑制する薬として承認した。

これらの希少遺伝子疾患はプロゲリンが細胞内に蓄積、多くの患者が15歳前に心不全などを発症して死亡する。Zokinvyはファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤。自然歴対照試験で死亡リスク低下が見られた。FDAによると、3年間の治療・追跡で平均3ヶ月間、延命する。CYP3A阻害剤/誘導剤などが併用禁忌。

旧シェリング・プラウがSCH66336/Sarasarというコードでras経路に介入する抗癌剤として開発したが、MSDによる買収を経て、2010年にアイガーに導出。アイガーは早老研究財団の支援を受けて承認に至った。

リンク: FDAのプレスリリース

アルナイラム、高シュウ酸尿症I型治療薬が欧州で承認
(2020年11月19日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、EUがOxlumo(lumasiran)を原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)の治療薬として承認したと発表した。PH1治療薬は欧州初。米国でも承認審査中で審査期限は12月3日。

PH1はアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠損により肝臓内にグリオキシル酸が蓄積する。シュウ酸過剰になりカルシウムが腎臓などで蓄積、腎障害や尿路結石を合併する。

アルナイラムはRNA介入に特化した新薬開発販売会社。Oxlumoはグリコール酸酸化酵素の遺伝子であるHAO1のmRNAに介入する。臨床試験では尿と血漿のシュウ酸が減少した。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

サノフィ、昆虫細胞培養型インフルエンザワクチンがEUでも承認
(2020年11月18日発表)

サノフィは、昆虫細胞培養型の遺伝子組換え4価季節性インフルエンザワクチン、SupemtekがEUに承認されたと発表した。17年に買収したProtein Sciencesの開発品で、米国では13年にFlublok名で承認取得、16年にはA型ウイルスの抗原二種類とB型ウイルス抗原二種類を配合した4価ワクチンも承認された。抗原量が通常のワクチンの3倍であることが特徴。

従来のインフルエンザワクチンは鶏卵にウイルスを導入し増殖させる。生産に数ヶ月かかるので、流行する型を事前に予測して見込み生産するが、近年は予測が外れたり、鶏卵で培養中にウイルスがドリフト(変異)したり上手く増殖しなかったりするケースが散見されるようになった。Supemtekの第三相試験が行われたシーズンもそうで、Supemtekの感染率は2.2%、鶏卵ベースワクチン群は3.2%で、非劣性解析が成功しただけでなく、探索的に実施された優越性解析でもよいp値が出た。

リンク: サノフィのプレスリリース







今週は以上です。

2020年11月14日

第973回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:BioNTech/ファイザーのワクチンの効率が中間解析で90%越え 
  • COVID-19:FDAがイーライリリーの抗体をEUA 
  • ファイブ・プライム、抗FGFR2b抗体が胃癌に良績 
  • 抗TSLP抗体の第3相重度喘息症試験が成功 
  • ヴィーヴ、女性のHIV感染予防試験も大成功 
  • キートルーダとレンビマの第3相腎細胞腫併用試験が成功 
  • キートルーダとヤーボイの併用肺癌試験がフェール 
  • バイエル、MRAを糖尿病性腎症に承認申請 
  • ヤンセン、ダラザレックス皮注のD-Pdレジメンを多発骨髄腫二次治療に承認申請 
  • Supernus社、ADHD用薬は承認されず、パーキンソン病薬は申請受理されず 
  • CHMP、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍用薬などの承認を支持 
  • FDA、MSDのキイトルーダをトリプル・ネガティブ乳癌に承認 
  • CHMP、ulipristalの子宮筋腫用途での承認を取消さず 


【今週の話題】


COVID-19:BioNTech/ファイザーのワクチンの効率が中間解析で90%越え
(2020年11月9日発表)

ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)と共同開発販売パートナーであるファイザーは、COVID-19ワクチンの第3相試験の中間解析データを公表した。途中経過なので数値は今後変わってくる可能性があるが、今回の解析ではワクチン効率(感染リスク削減率)が90%超と、世間の期待値よりだいぶ良かった。FDAは被験者の過半を2ヶ月以上追跡して安全性を確認するよう要求しており、ファイザーは、期日到来を待って今月第3週以降にEUA(非常時使用認可)を申請する考え。EUでは10月にローリング承認審査が始まった。両社は2020年に5000万回分(2500万人分)、21年に13億回分(6.5億人分)を生産する予定。


このBNT162b2ワクチンは、SARS-CoV-2が細胞に結合・侵入する時に使うスパイク蛋白の全長RNAを一部修飾し、リピッド・ナノパーティクルに封入したもの。接種者の体内で発現し、免疫を刺激する抗原となる。30mcgを3週間置いて二回、筋注する。零下70℃の超低温で冷凍輸送しなければならないのが物流面でのネック。医療施設や公共施設で短期集中的に接種を行い、スケジュールが合わない人は大病院に行ってもらうような流れになるのではないか。

今年7月にグローバル第3相偽薬対照試験を開始、これまでに43538人を組入れ、38955人が二回接種を完了した。二回目の接種の7日後からのCOVID-19感染をモニターする。両群合わせて32人が感染した時点で初回の中間解析を行う予定だったが、FDAとの協議を経て見送り、62イベント時点を初回とした。協議過程で94イベントに到達したため、今回の解析は94人ベースとなっている。

ワクチン効率が91%だったとすると、ワクチン群の感染者数は8人、偽薬群は86人となる。分母を38955人の半分とすると感染率は各群0.04%と0.44%。米国の9月15日以降の感染者数は約340万人、人口の1%強なので偽薬群の感染率よりかなり高いが、米国ほど流行していない国の施設も参加していることや、追跡期間が2ヶ月弱より短い可能性があること、そして、ワクチンの臨床試験に参加するような被験者はおそらく意識が高く日常活動を自制しているであろうことなどを考えると、現実離れしたデータとは言えないだろう。

両社は164人が感染した段階で最終解析を行う。また、他社が開発中のワクチンは4週置いて二回接種が多いので、比較可能性を担保するために、二回目接種の14日後以降の感染だけをカウントしたデータもまとめる予定。

治験論文を刊行すべく査読医学誌に投稿する考え。今回はヘッドライン・データしか公表されておらず、重症例を防ぐ効果や、高齢者や医療従事者など特に重要なサブポピュレーションにおける有効性や忍容性は分からない。深刻な有害事象は発生しなかった由だが、6.5億人が接種するとしたら第3相の1万倍以上なので、稀だが深刻な有害事象を被る何らかの素因を持つ人がいないとは限らない。ワクチン接種を促すために楽観的なことばかり喧伝すると子宮頸がんワクチンの二の舞になりかねないので、慎重に検討し是々非々で開示することが重要だ。

また、COVID-19ワクチンの最大の注目点、即ち、薬効面では予防効果の持続期間、安全性面では接種後に感染すると重症化しやすくなるようなことがないかどうかは、多寡だか2ヶ月間の追跡では分からない。来年以降に発表されるデータで確認する必要がある。

下記のように、FDAはイーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体のEUA(非常時使用認可)を行ったが、呼吸困難が進行した患者に用いると臨床的転帰を悪化させる可能性があることを指摘した。合併症が重症化した患者に今更、抗ウイルス抗体を投与しても手遅れであることが原因なのかもしれないが、以前から懸念されている、抗体誘導性感染増強(ウイルスに結合した抗体が細胞内に取り込まれて結果的にウイルスの侵入を手助けしてしまう)が現実化したのだとしたら、ワクチンで誘導された抗体でも同じことが起きるかもしれない。

尤も、感染者を10分の1に減らすことができるなら、もし感染時に全員が重症化するリスクがあったとしても、通常の重症化比率は10%程度なので、重症患者発生数はワクチンを接種しない人たちと同じで、軽中等症感染症を防げる分、便益があると考えることもできる。この意味でも、もし本当にワクチン効率が90%超ならば、意義が大きい。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:FDAがイーライリリーの抗体をEUA
(2020年11月9日発表)

FDAはイーライリリーのbamlanivimabを軽中等度COVID-19に感染し入院リスクが高い成人及び小児(12歳且つ40kg以上)の治療薬としてEUA(非常時使用認可)した。発症後10日以内に、一回、60分点滴静注する。

エビデンスとなる465人の軽中等症患者を外来治療した第2相試験では、28日間の入院/ER入室率が3%と偽薬群の10%を大きく下回った。700mg、2800mg、7000mgの三種類をテストしたが、ウイルス学的効果も含めて、各用量大差なかった。主な有害事象は注射箇所反応。

入院患者や酸素・呼吸補助を必要とする患者は適応外。ハイフロー酸素投与や人工呼吸器装着患者にモノクローナル抗体を投与すると臨床的転帰を悪化させる可能性があるので注意する(FDAはクラスイフェクトと受け止めているようだ)。

これはかなりな難題だ。トランプ大統領が感染して入院した時、最初に投与を受けたのはリジェネロン社の抗体医薬だった。だが、入院前に呼吸困難が起きて酸素投与を受けたと報じられているので、もしハイフロー酸素なら、本当は適応外だったことになる。そうでなかったとしても、もし治療が奏功せずハイフロー酸素が必要になった時に、体に残っている抗体が有害になるかもしれない。

bamlanivimabはカナダのAbCellera Biologicsの技術を用いて共同開発した、抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体。イーライリリーは中国のJunshi Biosciencesからライセンスした異なったエピトープに結合する抗体医薬、etesevimabとの併用も開発しており、おそらく、併用が本命だろう。

米国政府は10月に30万人分を調達することを決定、国民に自己負担ゼロで提供する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: bamlanivimabのEUAファクトシート(pdfファイル)
リンク: イーライリリーのプレスリリース


【新薬開発】


ファイブ・プライム、抗FGFR2b抗体が胃癌に良績
(2020年11月10日発表)

ファイブ・プライム・セラピュティクス(Nasdaaq:FPRX)は、FPA144(bemarituzumab)の第2相胃癌試験が良好な結果になったと発表した。まあまあな規模なので、もしかしたら、加速承認を申請するかもしれない。

FPA144はFGFの受容体、FGFR2b、に結合する抗体医薬。her2陰性胃癌の3割程度を占めるFGFR2b過剰発現胃癌などの臨床試験が進められている。今回の第2相は、FGFR2b陽性her2陰性の進行胃・胃食道接合部癌でフロントライン・セラピーを受ける155人を組入れて、mFOLFOX6レジメンに偽薬またはFPA144を追加する効果を比較した。

結果は、PFS(無進行生存期間)はメジアン値が各7.4ヶ月と9.5ヶ月、ハザードレシオは0.68でp=0.073。全生存期間は偽薬群はメジアン12.9ヶ月、試験薬群は未達、ハザードレシオは0.58でp=0.027、ORR(客観的反応率)は試験薬群が13.1%上回り、p=0.106だった。この試験は第2相で成功判定の閾値はp値が0.20を下回ることだったため、会社側は成功したと形容している。

主な有害事象は角膜炎や口内炎など。網膜剥離や高燐酸血症は見られなかった。G3以上の有害事象の発現率は各74.0%と82.9%、致死的有害事象は5.2%と6.6%、有害事象による治験離脱率は5.2%対34.2%だった。

新薬の販売承認を得るためには仮説検証的試験で仮説が正しくない可能性を棄却する必要がある。今回の第2相は、症例数は多いものの、p値の閾値が甘く設定されているところを見ると、承認申請を想定して厳格に設計・実行した試験ではないのかもしれない。また、一般に、FDAは一次治療薬に延命またはそれに準じる効果を要求する傾向がある。

それでも、一次治療薬を非対照試験のORRデータに基づいて承認したこともあることや、胃癌全てではなく特定のバイオマーカーに基づきスクリーニングした患者だけに使うテーラーメイド・メディスンであることから、今回のデータで加速承認される可能性もゼロではないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

抗TSLP抗体の第3相重度喘息症試験が成功
(2020年11月9日発表)

アムジェンとアストラゼネカは、共同開発している抗TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)抗体、AMG 157/MEDI9929(tezepelumab)の第三相試験が成功したと発表した。データは未公表だが、抗IL-5抗体や抗IL-4Rアルファサブユニット抗体と異なり、好酸球増多型以外にも有効であった模様。第3相はもう一本、経口ステロイド服用者の服用量抑制を目指す試験も進行中。早晩、承認申請されるのではないか。

TSLPは胸腺などの上皮細胞が分泌するサイトカインで、アレルギー性炎症のマスタースイッチとも呼ばれる。抗TSLP抗体はIL-4、IL-5、IL-13などの分泌を抑制するので、メカニズム的には上記抗体医薬と似たところがある。アトピー性皮膚炎のプルーフ・オブ・コンセプト試験はフェールしたが、重度喘息症は後期第2相試験で喘息増悪を6-7割抑制する効果を示した。

今回のNAVIGATOR試験は、中高量吸入ステロイドを含む二種類以上の喘息症維持療法薬を併用しても管理不良な重度喘息症患者1000人以上を組入れて、tezepelumabを4週毎に皮注する効果を52週間に亘って観察したところ、主評価項目の喘息増悪年率が偽薬比有意に低かった。被験者の約半分を占める好酸球数が300個/mcL未満のサブグループ分析でも有意に低かった。150個/mcL未満のデータも同程度に低かった由。

喘息症の過半を占める、好酸球増多型などのTh2誘導型は上記の抗体医薬が続々と発売されたが、それ以外の患者にも有効そうな新薬候補は久しぶりだ。FDAは好酸球増加型ではない重度喘息症にブレークスルー・セラピー指定している。

リンク: 両社のプレスリリース

ヴィーヴ、女性のHIV感染予防試験も大成功
(2020年11月9日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアは、cabotegravirの第3相HIV感染予防試験が中間解析で成功したと発表した。サブサハラアフリカの施設で性的にアクティブなシスジェンダー女性をcabotegravirまたは実薬であるギリアド・サイエンシズのTruvada(tenofovir DFとemtricitabineの合剤)に無作為化割付して追跡したところ、感染者数は各4人と34人、感染率は0.21%と1.79%となり、cabotegravirのほうが89%少なかった。主な有害事象は注射箇所反応。

cabotegravirは2ヶ月に一回筋注する長期作用性インテグラーゼ阻害剤。ジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸的逆転写阻害剤、rilpivirineの長期作用性筋注用製剤との併用で、他の抗ウイルス剤レジメンによりウイルス抑制できているHIV患者がスイッチする用法で欧米で承認されている。

5月には男と性交する男やトランスジェンダー女性(出生時の判定は男性)を組入れた同様な試験でも、感染率が0.38%と1.21%で69%少ないという好結果を出した。

Truvadaは経口投与で利便性は高いが、副作用はあるので、病気による痛みも不自由もない健常者が予防目的で長期間使うにはハードルが低いとは言えない。cabotegravirは筋注なので痛いが、2ヶ月に一回なので、我慢できないでもない。予防試験で効果が大きく上回ったのは、アドヒアランスの違いが大きいのだろう。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

キートルーダとレンビマの第3相腎細胞腫併用試験が成功
(2020年11月10日発表)

MSDとエーザイは、Keytruda(pembrolizumab、和名キートルーダ)とLenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を進行腎細胞腫の一次治療に用いた第3相試験が成功したと発表した。前者は200mgを三週毎点滴静注、後者は20mgを毎日経口投与したところ、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、第三者評価)も副次的評価項目の全生存期間、ORR(客観的反応率)も、実薬であるファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)を有意に上回った。データは未公表。

この試験はLenvima(18mg)とノバルティスのAfinitor(everolimus、和名アフィニトール)を併用する群もあり、こちらもPFSとORRがSutentを有意に上回った。

腎細胞腫ではKeytrudaのような抗PD-1抗体とLenvimaのようなVEGFR阻害剤の併用試験が続々と成功・承認されており、今回のレジメンも承認申請されることになりそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース

キートルーダとヤーボイの併用肺癌試験がフェール
(2020年11月9日発表)

MSDはKeyNote-598試験が中間解析で無益認定され、中止することを発表した。TPS(Tumor Proportion Score:PD-L1発現指標)が50%以上でEGFRやALKの活性化変異はない転移非小細胞性肺癌の一次治療試験で、BMSの抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)をKeytruda(pembrolizumab)と併用する群の全生存期間とPFS(無進行生存期間)を偽薬・Keytruda群と比較したが、好結果が出なかった。併用はG3以上の有害事象が増加し、致死的有害事象も増えた。

Yervoyは良く分からない薬で悪性黒色腫で初承認される根拠となった臨床試験の成績は議論の余地のあるものだった。ファイザーの抗CTLA-4抗体の開発はフェールし、アストラゼネカが権利を取得して自社の抗PD-L1抗体と併用試験を行っているが、あまりよい結果は出ていない。

一方、今回の対象であるTPS50%以上の非小細胞性肺癌では、Keytrudaのモノセラピー試験が大変良い成績を上げた。単剤でも大きな効果があるのでYervoy追加による限界効用が小さくても不思議はない。

以下は、KeytrudaやOpdivoの非小細胞性肺癌一次治療試験における化学療法群と試験レジメン群のメジアン生存期間やハザードレシオを一覧したもの。KはKeytruda、KCTはKeytrudaと化学療法の3剤併用、OYはOpdivoとYervoy併用、OYCTはOpdivo、Yervoy、化学療法の4剤併用を示す。異なった試験の成績を比較するのはミスリーディングだが、少なくとも延命効果の点では、Opdivo・Yervoyの二剤合計とKeytruda単剤は大差ないように見える。

抗PD-1抗体の非小細胞性肺癌全生存期間

メジアン値(ヶ月)ハザードレシオ
化学療法試験レジメン
PD-L1不問:
KCT(扁平以外)11.3未達0.49
KCT(扁平のみ)11.315.90.64
OYCT10.714.10.69
PD-L1≧1%:
K(扁平のみ)12.116.70.81
OY14.917.10.79
PD-L1≧50%:
K14.230.00.60
K(扁平のみ)12.220.00.69


リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


バイエル、MRAを糖尿病性腎症に承認申請
(2020年11月9日発表)

バイエルは、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)のBAY 94-8862(finerenone)を糖尿病性腎症の治療薬として欧米で承認申請した。

蛋白尿を伴う2型糖尿病性腎症の患者約5700人を日中欧米の施設で組入れてメジアン2.6年間追跡したアウトカム試験、FIDELIO-DKDで、主評価項目の腎転帰(腎不全、eGFRが40%以上持続的に低下、または腎死亡)のハザードレシオが偽薬比0.82、p=0.0014だった。個別ではeGFR40%以上持続低下のハザードレシオが0.81で、他は有意差はなかった。副次的評価項目である心血管転帰(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または心不全入院)はハザードレシオ0.86、p=0.0339で統計的に有意だがボーダーライン・シグニフィカンスだった。個々のイベントでは非致死的心筋梗塞のハザードレシオが0.80と良かったが有意性はなかった。

深刻有害事象発現率は32%で偽薬群の34%と大差ない。高カリウム血症の発生率は18%で偽薬群の9%を上回り、深刻例に絞っても1.6%対0.4%となったが、既存の類薬ほどではなさそうだ。

既存類薬は心不全治療薬として承認されており、バイエルも日米欧の施設で症候性心不全アウトカム試験を今年6月にロンチした。

リンク: バイエルのプレスリリース

ヤンセン、ダラザレックス皮注のD-Pdレジメンを多発骨髄腫二次治療に承認申請
(2020年11月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Darzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)を多発骨髄腫の二次治療薬として欧米で適応拡大申請した。BMSが買収したセルジーンのPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと併用する。また一つ、ラインや併用レジメンが増加することになる。

Darzalex Fasproはオリジナルの点滴静注用製剤を皮注用に代えた製剤で、投与時間が数分と点滴用の3~6時間と比べて著しく短い。今回の適応拡大申請は点滴静注用は含まれていない模様なので、今後は皮注用で用途を広げていく考えなのだろう。

Darzalexは一次治療も含めて様々な段階に様々な薬と併用で承認されている。D-Pdレジメンは欧州では未承認だが米国では三次治療に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


Supernus社、ADHD用薬は承認されず、パーキンソン病薬は申請受理されず
(2020年11月9日発表)

Supernus Pharmaceuticals(Nasdaq:SUPN)はSPN-812(viloxazine)をADHD治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。最近移転した、分析試験を行う自社研究所に関する問題点が主な要因である模様。

同社は6月にUS WorldMeds社の中枢神経系事業を買収し、開発品であるSPN-830(apomorphine)をパーキンソン病のオン/オフ症状治療薬として承認申請したが受理されなかった。

FDAと今後を相談する考え。

viloxazineはインペリアル・ケミカルが1976年に欧州で抗鬱剤として発売したが、現在は販売していない。Supernusはセロトニン・ノルエピネフィリン調節作用を持つと考えている。

リンク: 同社のプレスリリース

CHMP、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍用薬などの承認を支持
(2020年11月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会合で、BPDCN(芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍)用薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

BPDCNは急性骨髄性白血病の一種で形質細胞様樹状細胞が異常に増加、骨髄に蓄積し皮膚にも浸潤する。脾臓や肝臓の肥大、あるいは血球数の減少を伴うこともある。イタリアのメラニーニ社が6月に買収したStemline Therapeutics(Nasdaq:STML)のElzonrisは、BPDCNで過剰発現するIL-3受容体アルファ、別名CD123に結合するIL-3とジフテリア毒素を細胞融合したもの。臨床試験では一次治療患者13人のうち7人がCR/CRc(完全反応または活性のない皮膚異常を除いて完全反応)した。一方で、命にかかわることもある毛細血管漏出症候群も17%の患者で発現した。

CHMPは7月の会議で症例数の少なさや治験デザインの欠陥、毛細血管漏出症候群の懸念を根拠に否定的意見を出したが、今回、希少疾患なので十分な内容の試験を行うのが困難であることや承認薬がないことを斟酌して、肯定的意見に転じた。但し、再発治療に関するエビデンスが不十分であることから一次治療に限定した。

尚、米国では18年12月に承認されている。妊婦は禁忌、FDAは肝機能検査を推奨している(EUは現時点では不明))。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 再審査に関する質疑応答集(pdfファイル)

塩野義製薬が創製し日本国外ではロシュが開発販売しているXofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)は18年に日米で非複雑性インフルエンザ治療薬として承認されたが、EUでは遅れていて今回、初の肯定的意見が出た。適応は12歳以上の非複雑性インフルエンザの治療と曝露後予防。EMAは、プレスリリースの中で、市販後にアナフィラキシーなどの過敏反応症例が報告されていることに言及した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュのPhesgo(pertuzumab、trastuzumab、hyaluronidase)はPerjetaとHerceptinの活性成分とHalozyme Therapeutic社のヒアルロニダーゼの固定用量合剤。her2陽性の早期乳癌や転移乳癌に用いる。オリジナルの製剤との最大の違いは短時間の皮注で済むこと。PerjetaとHerceptinを併用で点滴静注する場合、初回は150分、二回目以降は60~150分かかるが、Rhesgoは各8分と5分に短縮できる。早期乳癌で摘出術が成功し再発を防ぐためのアジュバント療法を行う場合、日常生活の負担にならないことが望まれるので、投与時間が短く自己注できるなら幸便だ。米国では今年6月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)のRoclandaはプロスタグランジン類縁体のlatanoprostとrhoキナーゼ阻害剤netarsudilの合剤。単剤では眼圧を十分に管理できない原発開放隅角緑内障または高眼圧症の患者に、一日一回点眼する。米国ではRoclatan名で19年3月に承認。日本は今年10月に参天製薬が開発販売権を取得したところで、合剤ではなくnetarsudil単剤の開発が先になりそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Aerie社のプレスリリース

適応拡大では、アムジェンのKyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)をDarzalex(daratumumab)及びdexamethasoneと併用で多発骨髄腫の二次治療以降に用いることが支持された。米国では8月に承認。Kyprolisはプロテアソーム阻害剤で多発骨髄腫の様々な治療段階で様々な薬との併用が承認されている。薬の選択肢が少なかったころは併用などもっての外、再発に備えて次の薬を取って置かなければならなかったが、今日では3剤、4剤併用も珍しくなくなってきた。

リンク: EMAのプレスリリース

ChiesiグループのTrimbow(beclometasone、formoterol、glycopyrronium)はCOPD治療薬として17年にEUで承認されたが、喘息症維持療法を追加することが支持された。中量以上の吸入ステロイドとベータ2作用剤を併用しても十分に管理できず、前年に1回以上の喘息症増悪を経験した患者が、一日二回、加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)で吸入する。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)がHLH(原発性血球貪食リンパ組織球症)用薬として承認申請したGamifant(emapalumab)は、再審査を経て、今年7月の否定的意見が維持された。治験の症例数が少ないこと、他の薬も併用した患者が多いことや症状が自然改善することもあるため効果を特定できないこと、データ収集・管理方法に難があることなどが理由。米国では18年に承認されており、SOBIはこれらの地域に注力する考え。Gamifantは19年に買収したスイスのNovimmuneの開発品。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: SOBIのプレスリリース

今回は三品目に関して申請撤回の発表があった。何れもCHMPが否定的に考えていた。Santhera Pharmaceuticalsがデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として承認申請していたPuldysa(idebenone)は、米国で承認申請するための薬効確認試験がフェールし、この用途は開発中止となった。idebenoneはコエンザイムQ10。武田薬品が日本で脳梗塞・脳出血治療薬アバンとして販売していたことがあり、EUでは現在もレーバー遺伝性視神経萎縮症などに承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)が重度A型血友病治療薬として承認申請していたRoctavian(valoctocogene roxaparvovec)は、5型アデノ随伴ウイルスをベクターとして血液凝固第8因子を導入する遺伝子療法。CHMPは効果の持続性が明確でないことや反応に個人差があること、症例数や追跡期間が十分でなく安全性が確立していないことなどに懸念を持った。FDAも今年8月に審査完了通知を出している。

臨床試験では第8因子活性レベルが2年目に半減する傾向が見られた。会社側は統計的モデルに基づき効果が8年持続と予想しているが、半年内に効果が減弱して第8因子の週3回投与が必要になった患者もいた。

リンク: EMAのプレスリリース

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)がIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)変異型再発難治急性骨髄性白血病用薬として承認申請していたTibsovo(ivosidenib)は、米国では18年に承認されたが、CHMPは薬効の証明が不十分と考えた。申請撤回は会社側が10月に発表済みで、新患に化学療法と併用する効果を検討している進行中の第3相試験の結果を待って再申請する考え。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


FDA、MSDのキイトルーダをトリプル・ネガティブ乳癌に承認
(2020年11月13日発表)

FDAはMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をPD-L1陽性(CPS≧10)の局所再発切除不能/転移トリプル・ネガティブ乳癌に化学療法と併用する適応拡大を承認した。KeyNote-355試験に基づくもので、被験者の38%を占めたCPS≧10のサブグループではPFS(無進行生存期間)がメジアン9.7ヶ月と化学療法・偽薬併用群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65、p=0.0012だった。尚、化学療法はnab-paclitaxel、paclitaxel、またはgemcitabine・carboplatin併用の何れかを医師が選択した。)

CPSは癌細胞だけでなく腫瘍浸透免疫細胞のPD-L1発現も検査する。Dako社のPD-L1 IHC 22C3 pharmDxがコンパニオン診断薬として同時承認された。上記試験ではCPS≧1という区切りのサブグループ分析でもメジアンが7.6ヶ月対5.6ヶ月、ハザードレシオ0.74となり、多重性に考慮したp値の閾値はクリアできなかったものの、良好な数値が出ていた。しかし、CPSが1~9のサブ・サブグループの数値は思わしくなかったのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース


【医薬品の安全性】


CHMP、ulipristalの子宮筋腫用途での承認を取消さず
(2020年11月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、子宮筋腫治療薬として承認されているEsmya(ulipristal acetate)の適応を一部取消すようEMAに推奨した。9月に薬物市販後監視委員会であるPRACから承認取消の推奨を受けていたが、他に適切な治療方法がない患者に用いることは許容した。尚、同じ活性成分を使っている事後的避妊薬、ellaOneは今回の再審査の対象外。

ulipristalは選択的プロゲスチン受容体調節剤。12年に欧州で中重度子宮筋腫用薬として承認されたが、肝移植に至る可能性もある深刻な肝障害が市販後に数例、報告されたことから、17年にPRACが調査検討を開始した。CHMP推奨を受けて、摘出術を予定している患者が症状緩和目的で最長3ヶ月間服用する用途は承認取消になり、摘出術不適・不応の閉経前女性だけに限定されることになりそうだ。

ulipristalは米国では緊急避妊用途以外では承認されなかった。日本ではEllaOneを販売しているあすか製薬が19年12月に子宮筋腫用薬として承認申請した。欧州の動きに対応したのか、三菱UFJ系のファンドがリスクシェアリングしている。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。