2022年2月26日

第1039回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • オミクロン株対応のため予防用抗体カクテルの用量を倍増 
  • BA.2流行に備えて治療用抗体の適応に関する文言を一部改訂 
  • mRNAワクチンの二回目は8週後のほうが良い? 
  • タバコ培養型ワクチンがカナダで承認 
  • 吸入用ベータ・インターフェロンの第3相がフェール 
  • その他の領域: 
  • エンハーツ、her2低発現乳癌の第3相が成功 
  • アッヴィ、cariprazineを鬱病のアジャンクトに適応拡大申請 
  • マリンクロットの肝腎症候群用薬は今回も審査完了通知 
  • CHMP、ブドウ膜黒色腫用薬などの承認を支持 
  • ジャディアンスが駆出率保持心不全にも承認 


【COVID-19関連】


オミクロン株対応のため予防用抗体カクテルの用量を倍増
(2022年2月24日発表)

FDAはアストラゼネカのEvusheld(tixagevimab、cilgavimab同梱製品)について、初回の投与量を各剤300mgずつと、従来比倍増した。ワクチンに応答し難いまたは不耐不適な人に使うCOVID-19感染予防用の抗SARS-CoV-2抗体カクテルで、昨年12月にEUA(非常時使用認可)されたが、オミクロン株(BA.1とBA.1.1)に対する中和力価が低下することが判明したため、見直した。3mlずつと投与量が増えるため、臀筋などに注射する。

既に150mgずつ筋注済みの人は速やかに150mgずつ追加する。必要に応じて6ヶ月毎に再投与することができることになっているが、流行株が変遷する可能性もあるため、現時点では適切な投与間隔や用量は不明とのことだ。

尚、BA.2型には力価低下は見られないようだ。

米国は日本と同様にBA.2型ではなくBA.1.1型が主流になった。CDC(米国疾病管理予防センター)によると、2月13日に始まる週の構成比は、BA.1.1が75.6%、B.1.1.529(BA.1)が20.6%、BA.2が3.8%を占め、デルタなど他の株は検出されなかった。

リンク: FDAのプレスリリース


BA.2流行に備えて治療用抗体の適応に関する文言を一部改訂
(2022年2月25日)

FDAはグラクソ・スミスクラインがVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)から導入・開発して軽中等症COVID-19感染の重症化・死亡リスクを抑制する薬として販売しているsotrovimab(欧州などの商品名Xevudy、日本ではゼビュディ)の適応に関する文言を一部改訂した。この薬に感受しない変異株が流行している地域で用いることは認められない、というもの。但し、現時点ではどの地域も該当しないとのこと。

他の抗SARS-CoV-2抗体は、感受しない株が散見されるようになったため、既に同様な文言が導入され、州毎の利用可否一覧表が定期的にアップデートされている。sotrovimabはオミクロン株にも活性を維持している貴重な医薬品だが、BA.2株に対する力価は10倍以上低下すると言われており、この機会に文言の足並みを揃えたのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース


mRNAワクチンの二回目は8週後のほうが良い?
(2022年2月22日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は、mRNAワクチンの初回と二回目の投与間隔について、12歳以上の一部の人には8週間が至適かもしれないと結論した。暫定ガイドラインに文言を追加した。

BioNTech/ファイザーのComirnaty(tozinameran)は3週後、モデルナのSpikevaxは4週後に接種という従来の勧告は維持しているが、特に12~39歳の男性については、ごく稀な心筋炎のリスクが他の年齢層や女性より高いため、接種間隔を空けても良いと判断した。効果に関するある程度のエビデンスもあるとのことだ。

心筋炎を懸念してワクチン接種を忌避する人を懐柔するために8週後にしても良いと言っているのか、12~39歳の男性は8週後にした方が良いと考えているのか、明確にしてほしいものだ。

参考:COVID-19関連売上高
(2021年、百万ドル)
製品名メーカー売上高
ワクチン:
Comirnatyファイザー36,781
同 22年予想 32,000
Spikevaxモデルナ17,675
同 22年予想 22,000
Vaxzevriaアストラゼネカ3,981
Ad26.COV2.SJNJ2,385
抗SARS-CoV2抗体:
Ronapreveリジェネロン5,828
イーライリリー2製品イーライリリー2,239
XevudyGSK1,322
その他:
Vekluryギリアド5,565
Actemraロシュ3,898
注:予想は会社予想。

リンク: CDCのプレスリリース


タバコ培養型ワクチンがカナダで承認
(2022年2月24日発表)

田辺三菱製薬のカナダの子会社であるMedicagoとグラクソ・スミスクラインは、ヘルス・カナダ(カナダの厚生省)がCovifenzを18~64歳向けのCOVID-19ワクチンとして承認したと発表した。SARS-CoV-2のスパイク蛋白のVLP(ウイルス様粒子)遺伝子をベンサミアナ・タバコに導入して培養・精製した抗原と、グラクソ・スミスクラインのパンデミック用アジュバントを含有している。3.75mcgを21日置いて二回筋注する。約2万人を組入れた第3相試験ではCOVID-19感染率が0.37%(39人)と偽薬群の1.23%(118人を)下回り、ワクチン効率は71%だった。抗原ワクチンなので冷蔵保存可能。

上記試験はデルタ株やガンマ株が中心だった地域・時期に行われた。オミクロン株に対する免疫原性が気になるが、カナダの添付文書には言及されていない。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Covifenzの概要(ヘルス・カナダ)


吸入用ベータ・インターフェロンの第3相がフェール
(2022年2月21日発表)

Synairgen(LSE AIM:SNG)はSNG001(interferon beta-1a、吸入)の第3相COVID-19試験がフェールしたと発表した。罹患期間も重症化・死亡リスクも偽薬群と大差なかった。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導するACTIV-2外来治療試験は第3相ポーションにステージアップしており、抗ウイルス剤は感染初期で軽症の患者のほうが効果を発揮しやすいので、結果が注目される。

SNG001は第2相二重盲検偽薬対照試験でOSCI(WHOのCOVID-19感染症症状評価序数)の改善オッズ比が2.32、p=0.033、重症化はオッズ比0.28、p=0.064と好ましい効果を示し、入院患者623人を組入れる第3相に進んだ。しかし、共同主評価項目のうち28日退院ハザードレシオは1.06、28日回復ハザードレシオは1.02とどちらも偽薬並みだった。副次的評価項目は35日重症化・死亡オッズ比が0.69、35日死亡オッズ比は0.79と悪くない数値が出たが、統計的に有意ではなかった。

第2相試験当時は用いられていなかった全身性ステロイドをベースライン時点で87%の被験者が用いていたことが影響したのではないかと会社側は考えている。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


エンハーツ、her2低発現乳癌の第3相が成功
(2022年2月21日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の第3相DESTINY-Breast04試験が成功したと発表した。her2陽性だがher2標的薬が適応になるほどではない乳癌の治療に新たな選択肢になる。

Enhertuは抗her2抗体とイリノテカン誘導体を結合した抗体薬物複合体。her2陽性の切除不能/転移性の乳癌・胃癌の3次治療薬として承認されている。

今回の試験はIHC法で1+、または2+且つFISH法で陰性の、治療歴を持つ切除不能/転移性乳癌540人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師が選んだ化学療法薬と比較した。主評価項目であるホルモン受容体陽性サブグループ480人の解析が成功。副次的評価項目の全集団の解析や、全生存期間の同サブグループおよび全集団の中間解析も成功した。数値は未公表だが、臨床的にも意味のある改善が見られた由。適応拡大申請に向かうだろう。

抗her2抗体は当初はIHC法で2+以上なら適応になったが、FISH法と組み合わせることでリファインできることが判明したため、今日では、2+の場合はFISH検査を行って陽性なら適応と判定するようになった。今回の試験は、このher2陽性癌の常識を打ち破り適応範囲を拡大する意義がある。尚、her2検査は判定の個人差が指摘されているが、本試験は中央判定した。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


アッヴィ、cariprazineを鬱病のアジャンクトに適応拡大申請
(2022年2月22日発表)

アッヴィはVraylar(cariprazine)を難治鬱病のアジャンクト・セラピー(抗鬱剤治療を受けている患者に追加投与する)としてFDAに適応拡大申請した

ハンガリーのゲデオン・リヒターから北米の権利を取得して統合失調症の急性期治療と維持療法、そして双極障害I型の鬱病治療の薬として販売している。日本は田辺三菱製薬がライセンスを返還し、昨年、アッヴィが開発・商業化計画を公表した。

難治鬱病は後期第2相フレキシブル・ドウス試験で1~2mg/日の群のMADRSが偽薬比有意に改善したが、3-4.5mg/日群はフェールした。アッヴィが実施した第3相試験二本は3mg群はどちらもフェール、1.5mg群は一勝一敗だった。鬱病の試験は勝ち星を二つ挙げることが重要で、勝率は、よほど低くない限り、問われない傾向がある。1~2mg/日のレンジで二勝したので、3mgのフェールの原因が忍容性(薬効が発揮される前にドロップアウトしてしまう)であるならば、承認される可能性があるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


マリンクロットの肝腎症候群用薬は今回も審査完了通知
(2022年2月22日発表)

マリンクロット(NYSE:MNK)は選択的V1受容体作動剤terlipressinをI型肝腎症候群(HRS)用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知(CRL)を受領した。一回目のCRLは便益と危険に関する情報不足を指摘されたが、今回は工場問題がボトルネックのようだ。同社によると、過去2週間に新しい包装・ラベル工場を特定する必要が生じ、FDAの査察が間に合わないため、承認が見送られた。

terlipressinは合成バソプレシン。欧州の一部の国やオーストラリアでHRSまたは合併症である食道静脈瘤性出血の治療薬として承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、ブドウ膜黒色腫用薬などの承認を支持
(2022年2月25日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、ブドウ膜黒色腫用薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら1~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

英国のImmunocore(Nasdaq:IMCR)が開発したKimmtrak(tebentafusp)は切除不能/転移ブドウ膜黒色腫の初めての薬。HLA-A*02:01型の成人に用いる。カフカス人種の5割がこのHLA型を持つとされる。日本人は1割程度のようだ。米国では1月に承認された。

T細胞受容体と抗CD3抗体フラグメント、そして、このHLA型が抗原提示する黒色腫抗原、gp100を結合した融合蛋白。週一回点滴静注した第3相試験では、メジアン生存期間が21.7ヶ月と、主としてKeytrudaをオフレーベル投与した対照群の16ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.51だった。

CHMPは、抗癌剤に習熟しサイトカイン放出症候群に備えのある医師が即時蘇生措置の可能な施設で施行することを求めている。

リンク: EMAのプレスリリース

米国に本社を、イスラエルに工場を持つVBI Vaccines(Nasdaq:VBIV)のPreHevbriはB型肝炎ワクチン。代表格のEngerix-Bと同様に三回接種するが、抗原が一種類を20mcgではなく3種類を10mcgずつ配合されていることが特徴。Engerixと同様にアルミ・アジュバントを使用している。第3相では抗体保有率が91.4%となり、Engerix-B群は76.5%だった。米国では昨年、PreHevbrio名で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

Vifor Fresenius Medical Care Renal PharmaのKapruvia(difelikefalin)は透析期慢性腎疾患の中重度掻痒治療薬。血液透析時にボーラス注入する。有害事象は高カリウム血症、傾眠、知覚異常、めまいなど。Cara Therapeutics(Nasdaq:CARA)からフレゼニウスの米国の透析センタや欧州での商業化権を取得した末梢作用性カッパ・オピオイド受容体アゴニストで、米国では昨年承認、丸石製薬が導入しキッセイ薬品と共同開発している日本では1月に第3相の成功が発表されたところ。

リンク: EMAのプレスリリース

大日本住友製薬が19年に子会社化したMyovant SciencesのOrgovyx(relugolix)はGnRH受容体アンタゴニスト。成人の進行性ホルモン感受前立腺癌に用いる。一日一回経口投与した臨床試験では去勢奏効率が96.7%とleuprolideのデポ製剤(22.5mg、但し日台は11.25mg)を3ヶ月毎に皮注した群の88.8%と非劣性だった。米国は20年12月に承認、日本はライセンス元の武田薬品が第3相段階。

relugolixは子宮筋腫、内膜腫の治療薬として日米欧で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)のVydura(rimegepant)はCGRP受容体アンタゴニストの凍結乾燥による口腔内崩壊錠。成人の片頭痛の、急性期治療や、月4回以上発作のある反復性患者の発作予防に用いる。ブリストル マイヤーズ・スクイブから16年にライセンスして開発、米国では20年にNurtec ODT名で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

アステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin、和名パドセブ)はネクチン-4に結合する抗体とモノメチルアウリスタチンEの抗体薬物複合体。白金薬及び抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ成人の局所進行性/転移性尿路上皮癌に用いる。CHMPは昨年12月に肯定的意見をまとめたが、新たな安全性関連情報があった模様で、欧州委員会の要請に基づき再検討したとのこと。どのような情報なのかは不明。米国では19年12月に、日本でも昨年9月に承認された。

以下の適応拡大も肯定的意見を得た。

モデルナのSpikevax:COVID-19ワクチンの対象年齢に6~11歳を追加。

ファイザーのComirnaty:COVID-19ワクチンのブースター接種の対象年齢に12~17歳を追加。

ノバルティスのBeovu(brolucizumab、和名ベオビュ):糖尿病性黄斑浮腫による視力低下を適応追加。

イーライリリーのVerzenios(abemaciclib、和名ベージニオ):成人のホルモン受容体陽性her2陰性早期乳癌の術後アジュバント療法を適応追加。再発リスクが高くリンパ節転移のある癌の摘出術後に内分泌療法と併用する(閉経前/周閉経期の女性はアロマターゼ阻害剤及びLHRHアゴニストと併用)。

ブリストル マイヤーズ・スクイブのOpdivo(nivolumab):成人のPD-L1陽性(≧1%)筋層浸潤尿路上皮癌の切除術後アジュバント。米国では昨年8月にPD-L1不問で適応拡大した。

同:成人のPD-L1陽性(≧1%)切除不能進行性、難治性、転移性食道扁平上皮腫の一次治療。fluoropyrimidine及びcisplatin、あるいはYervoy(ipilimumab)と併用する。日本でも適応拡大申請中。

【承認】


ジャディアンスが駆出率保持心不全にも承認
(2022年2月24日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)の慢性心不全における左室駆出率低下型限定を解除した。NYHAクラスII-IVの心不全のうち、駆出率が40%未満に低下した患者だけでなく、40%以上に使うことも可能になった。

40%以上の患者約6000人を組入れたEMPEROR-Preserved試験で、心不全で入院したり心血管因により死亡したりするハザードレシオが0.79、p<0.001だった(発生率は13.8%、偽薬群は17.1%)。

65%以上の患者に対する効果は明確でなかった模様だ。閾値が曖昧で駆出率を用いること自体の妥当性も議論されているが、リスクの小さい患者ほど便益が小さくなる、あるいは、明確ではなくなると考えるべきなのだろう。

Jardianceは二型糖尿病の成人の血糖管理や心血管疾患リスク抑制などにも承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

2022年2月19日

第1038回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • リムパーザ、ザイティガ併用でmCRPCの進行を抑制 
  • ゼジューラ、ザイティガ併用はHRR変異のあるmCRPCの進行を抑制 
  • omecamtivの二本目の心不全試験はフェール 
  • Sage社のデュアルADT試験が成功も効果の持続性に疑問が残る 
  • デュピクセントのゾレア不応不耐蕁麻疹試験がフェール 
  • 長期作用性抗RSV抗体をEUで承認申請 
  • Mirati社、KRAS G12C阻害剤を承認申請 
  • her2エクソン20変異型NSCLC用薬を承認申請 
  • ピルビン酸キナーゼ欠乏症治療薬が承認 


【新薬開発】


リムパーザ、ザイティガ併用でmCRPCの進行を抑制
(2022年2月14日発表)

アストラゼネカと開発販売パートナーのMSDは、Lynparza(olaparib)の第3相PROpel試験が中間解析で成功認定されたことを昨年9月に公表したが、データをASCO泌尿器癌カンファレンスで発表した。化学療法未施行の転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の治療法の一つであるヤンセンのZytiga(abiraterone)とprednisoneのレジメンにLynparzaを追加するとrPFS(放射線学的無進行生存期間)を延ばせることを示した。

主評価項目である治験医評価に基づくrPFSはハザードレシオが0.66、p<0.0001、メジアン値は24.8ヶ月と偽薬追加群の16.6ヶ月を上回った。副次的評価項目のうち全生存期間のハザードレシオは0.86と好ましい数値が出ているが、必要イベント数の29%しか到達していないため、まだ有意ではない。盲検独立中央評価に基づくrPFSはハザードレシオ0.61、メジアン値は各群27.6ヶ月対16.4ヶ月と、似たような結果になっている。

LynparzaはPARP阻害剤である種の卵巣癌や乳癌、そして、mCRPCでは相同組換え修復(HRR)関連遺伝子変異を持ちabirateroneなどによる治療後に進行した患者に用いることが欧米で承認されている。PROpel試験はHRR変異のない患者も組入れたが、rPFSの探索的サブグループ分析(n=552)でハザードレシオが0.76(95%上限0.97)と、HRR変異あり(n=226)の0.50よりは高いものの、良好な結果が出た。

リンク: 両社のプレスリリース


ゼジューラ、ザイティガ併用はHRR変異のあるmCRPCの進行を抑制
(2022年2月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンはTesaro(後にグラクソ・スミスクラインが買収)からライセンスしたPARP阻害剤Zejula(niraparib)をある種の卵巣癌向けに開発販売しているが、化学療法未治療のmCRPCに同社のZytiga(abiraterone)とprednisoneを併用するレジメンに追加する便益を検討した第3相試験の結果をASCO泌尿器癌カンファレンスで発表した。

相同組換え修復(HRR)関連遺伝子に変異のあるサブグループと無いサブグループにおける有効性を夫々検討するデザインになっていて、後者は中間で無益認定されたが、前者(n=423)はrPFS(放射線学的無進行生存期間、盲検独立中央評価)がハザードレシオ0.73、p=0.022と、高度ではないが統計的に有意な差があった。

有害事象による治験離脱率は10.7%と偽薬追加群の4.7%を上回った。

HRR変異型腫瘍にPARP阻害剤を使うと左足で立っている人の左足を蹴とばすような効果が期待できるかもしれないが、変異のないタイプにはあまり効かないかもしれない。Zejulaの治験成績は想定の範囲内だが、上記のように、LynparzaはHRR野生型にも有効だった。変異型におけるハザードレシオも見劣りする。何が違うのか不思議である。

リンク: JNJのプレスリリース


omecamtivの二本目の心不全試験はフェール
(2022年2月15日発表)

米国南サンフランシスコのCytokinetics(Nasdaq:CYTK)はCK-1827452(omecamtiv mecarbil)の第3相3METEORIC-HF試験がフェールしたと発表した。データはACC(米国心臓学会)で発表する予定。一本目のアウトカム試験が成功し米国で承認申請が受理されたばかりなのでサプライズだが、デザインは一本目のほうが良いので、現時点では、承認審査に大きな影響を与えるとは考えにくい。承認の期待確率は元々高くないが、もし承認された場合の商業的なポテンシャルが低下したと考えられる。

この試験は駆出率低下型慢性心不全(NYHAクラスII/III)で運動機能が低下した276人を組入れて試験薬(漸増目標50mg一日二回)と偽薬に2対1割付した。主評価項目はCPET(心肺運動負荷試験)のpVO2(最大酸素摂取量)。

一方、承認申請の根拠となるGALACTIC-HF試験は駆出率低下型慢性心不全(NYHAクラスII~IV)でナトリウム利用ペプチド上昇の見られる心不全入院中/過去1年間に入院/ER歴のある8256人を組入れて、心不全による入院/ER入室/心血管死を偽薬と比較した。結果はハザードレシオ0.92(95%信頼区間0.86-0.99)、p=0.0252、メジアン21.8ヶ月の発生率37.0%、偽薬群は39.1%だった。副次的評価項目の心血管死は両群同程度だった。

慢性心不全の治療は多くの薬を併用するため、もう一つ追加するハードルは高い。治験成績が今一つだったせいか、ライセンシーのアムジェンも、欧州でのサブライセンシーのセルビエも、GALACTIC-HF試験の結果判明後にライセンスを返還した。

リンク: 同社のプレスリリース


Sage社のデュアルADT試験が成功も効果の持続性に疑問が残る
(2022年2月16日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)と開発パートナーのバイオジェンは、SAGE-217/BIIB125(zuranolone)の第3相CORAL試験が成功したと発表した。鬱病の治療に際して担当医が新規に抗鬱剤を処方し、偽薬またはzeranoloneと併用する用法を検討したところ、主評価項目である第3日のHAMD17スコアのベースライン比低下が各群7.0と8.9となり、有意な差があった(p=0.0004)。副次的評価項目である期中平均値(第3、8、12、15日の平均)の低下も各群10.1と11.7となりp=0.0054。一方、元々の主評価項目である第15日の数値は12.9と13.7で有意差がなかった。

19年に産後鬱の治療薬として米国で承認されたZulresso(brexanolone)と同様なGABA A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレーターで、点滴静注ではなく経口投与できるので外来治療にも適している。今回の試験の投与期間は14日間と短く、他の試験を見ても、専ら短期的な便益を検討しているが、効果が2週間も持たないなら残念なことだ。

リンク: 両社のプレスリリース


デュピクセントのゾレア不応不耐蕁麻疹試験がフェール
(2022年2月18日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズと開発販売パートナーのサノフィは、抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)の二本目の第3相慢性特発性蕁麻疹試験がフェールしたと発表した。omalizumabに十分に応答しない、または不耐の患者83人を組入れて二週毎皮注する効果を偽薬と比較したところ、副次的評価項目の多くで偽薬を数値上上回ったが、主評価項目で有意な差がなかった。

バイオ薬未経験の患者では138人を組入れた第3相と72人の前期第2相が成功しており、抗ヒスタミンだけでは症状を十分に管理できない患者に適応拡大する余地はあると思われる。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


長期作用性抗RSV抗体をEUで承認申請
(2022年2月17日発表)

アストラゼネカは、MEDI8897(nirsevimab)を乳幼児のRSV関連下部気道感染症予防薬としてEUに承認申請し受理されたと発表した。加速審査を受ける。米国でも承認申請中と推測される。

RSVは多くの人が感染するウイルスで、転帰はあまり悪くないが、低出生体重児や心臓や肺などに持病のある乳幼児は重症化リスクがあるため、同社の子会社であるMedImmuneが創製した抗RSV F蛋白抗体、Synargis(palivizumab)を冬場に月一回、筋注して予防する。

nirsevimabの特徴は、第一に、1シーズンに1回の筋注で足りること。第二に、在胎35週以下または慢性肺疾患や鬱血性心臓疾患を持つ乳幼児を組入れた試験だけでなく、在胎35週以上の健康な1歳未満を対象とした第3相MELODY試験も成功したこと。前者は最初の2回のRSV流行期に、後者は最初の流行期に、投与することを想定している。

アストラゼネカはサノフィと提携、自社が開発生産し、サノフィが商業化を主導する。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


Mirati社、KRAS G12C阻害剤を承認申請
(2022年2月15日発表)

Mirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)はMRTX849(adagrasib)を全身性治療歴のあるKRAS G12C変異陽性非小細胞性肺癌用薬としてFDAに承認申請し受理された。審査期限は12月14日。600mgを一日二回、経口投与した第2相試験で、ORR(客観的反応率、中央独立評価)が43%だった。

KRAS G12C阻害剤はアムジェンのLumakras(sotorasib、和名ルマケラス)ファーストインクラスで、日米欧で上記適応で承認されている。960mgを一日一回経口投与した第2相でORR(同)が36%だった。

LumakrasはFDAが優先審査で承認した。本承認ではない加速承認なのでMRTX849が優先審査指定されなかったのは意外。

リンク: Miratiのプレスリリース


her2エクソン20変異型NSCLC用薬を承認申請
(2022年2月11日発表)

米国ネバダ州に籍を置くSpectrum Pharmaceuticals(NasdaqGS:SPPI)はpoziotinibを米国で承認申請し受理された。審査期限は11月24日。

治療歴のあるher2エクソン20挿入変異陽性の局所進行性/転移非小細胞性肺癌に16mgを一日一回投与した第2相試験で確認ORRが27.8%、メジアン反応持続期間は5.1ヶ月だった。12%が有蓋事象で離脱した。

韓国のHanmi Pharmaceteuticalsから中韓以外の権利を取得したもの。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


ピルビン酸キナーゼ欠乏症治療薬が承認
(2022年2月17日発表)

FDAはAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)のPyrukynd(mitapivat)をピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏症の成人の溶血性貧血症治療薬として承認した。PK欠乏症は100万人に数人の希少遺伝性疾患。ATPの生成が阻害され赤血球の異常化・脾内補足による溶血症状や黄疸、胆石などを示す。

PyrukyndはPKのスプライシング多型の一つであるPKRのアロステリック・アクティベイター。50mg一日二回を目標に漸増滴定する。輸血の必要のない患者80人を組入れた偽薬対照試験でヘモグロビン奏効率(ベースライン比1.5 g/dL以上増加)が40%と偽薬群のゼロを上回った。有害事象による治験離脱は発生せず、4人(10%)で深刻有害事象が見られた(各、心房細動、胃腸炎、肋骨骨折、筋骨格痛)。

輸血依存27人を組入れた単群試験では奏効率(輸血量がベースライン比33%以上減少)が33%だった。22%の患者は輸血ゼロだった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Agios社のプレスリリース






今週は以上です。

2022年2月12日

第1037回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • オミクロン株にも有効な抗SARS-CoV-2抗体がEUA 
  • コミナティ、4歳以下の適応は先送り 
  • ノバルティス、画期的COVID-19治療薬のEUAを申請 
  • ファイザー、重症入院患者用3CLプロテアーゼ阻害剤は開発中止 
  • COVID-19関連売上高 
  • その他の領域: 
  • Karyopharm、selinexorの内膜腫試験成功 
  • アドセトリス、ホジキン型リンパ腫試験で高い延命効果 
  • ミオシン活性化剤を承認申請 
  • FDAも諮問委員会も初見の中国だけのデータは受け容れず 


【COVID-19関連】


オミクロン株にも有効な抗SARS-CoV-2抗体がEUA
(2022年2月11日発表)

FDAはイーライリリーのLY3853113(bebtelovimab)を重症化リスクのある軽中等症COVID-19の治療薬としてEUA(非常時使用認可)した。成人と、12歳以上かつ体重40k以上の青少年が適応になる。発症7日以内に175mgを30秒以上かけて一回、静注する。

同社にとって最初の抗SARS-CoV-2抗体であるbamlanivimabと同様にカナダのAbCellera Biologicsからライセンスしたもので、in vitroでオミクロン株やその派生とされるBA.2型を含む全ての既知の変異株に活性を示したことが注目点。類薬でオミクロン株に有効なのはグラクソ・スミスクラインのXevudy(sotrovimab)のみ。BA.2に有効性が確認されているものはない。

エビデンスは第2相試験のデータの外挿。発症から平均3.6日の低リスク患者380人を組入れたコフォートではモノセラピー群と同社の既存二剤と併用したトリプレット群のウイルス量の低下が偽薬群を上回り、メジアン罹患期間は各群6日、7日、8日だった。一方、29日間のCOVID-19関連入院・全死亡は各群1.6%(2人)、2.4%(3人)、1.6%(2人)と、低リスクであるが故にイベント数が少ないせいか、各群大差なかった。高リスク患者150人を組入れたコフォートの29日COVID-19関連入院・全死亡率はモノセラピー群が3%(3人)、トリプレットが4%(2人)、偽薬群は設定されていない。トリプレットを176人に投与したオープンレーベル試験では1.7%(3人)だった。

ウイルス量の変化を見てもトリプレットによる上乗せは小さいためモノセラピーで使うことになった。類薬と異なり入院・死亡リスクを抑制する効果が確立していないことと、低リスク患者試験も高リスク患者試験も入院・死亡率が大差ないことが印象的で、オミクロン株やBA.2に有効でなかったら、EUAが認められたかどうか分からないだろう。

類薬と同様に過敏反応や病状悪化リスクが警告注意事項になっている。有害事象発生率は低い。

米国のEUAは正式な承認ではなく、非常事態が鎮静化すれば消滅する。また、正式に承認された薬を使えない(臨床的に不適、または入手できない)場合にだけ用いるよう、各品のファクト・シート(添付文書)に明記されている。1月にギリアド・サイエンシズのVeklury (remdesivir)が上記と同じ適応症で承認されたので、法制上は、抗SARS-CoV-2抗体やファイザーやMSDの抗ウイルス薬の出番は少ないはずだが、FDAは逃げ道を用意している。Vekluryは一日一回、3日間に亘って点滴静注する必要があるため、完全に代替できる治療法ではない、と言うのだ。介護施設入居者など3日コースでも支障のない患者はどうか、などと野暮な突っ込みは自粛すべきだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース
リンク: bebtelovimabのファクト・シート


コミナティ、4歳以下の適応は先送り
(2022年2月11日発表)

BioNTech(Nasdaq:BNTX)/ファイザーはCOVID-19ワクチンComirnaty(tozinameran)の対象年齢拡大に積極的に取り組んでいて、現在の下限は5歳となっている。4歳以下は臨床試験の中間解析結果が今一つであったため、もう一回接種するプロトコル変更を行った。

ところが、FDAはEUAの一部変更申請を行うよう要請。2月15日に諮問委員会を招集すると発表した。どうしたことかと訝ったが、結局、両社はローリング申請を続けることを決定、FDAも諮問委員会を延期した。4月上旬に3回接種の結果がまとまるのを待つ考えだ。

3回接種の結果が4月上旬なら、2回接種の最終結果は2月上旬ごろだろう。つまり、方向転換したのは、最終成績が中間より更に失望的だった、または、接種者の血漿を用いた偽ウイルス試験でオミクロン株に対する力価が今一つだったからではないだろうか。2回でもある程度の効果が見込まれるならば、ブースター接種と同様に、有効性が確認された段階で3回目を追加的にEUAしても支障ないはずだからだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース


ノバルティス、画期的COVID-19治療薬のEUAを申請
(2022年2月10日発表)

チューリッヒ大学発のバイオベンチャーであるMolecular Partners(SIX:MOLN)は、ノバルティスがMP0420(ensovibep)をFDAにEUA申請したと発表した。同社は天然のアンキリン繰り返し蛋白由来のDARPin蛋白を組み合わせて標的に結合・阻害する薬を創製する技術を持っている。SARS-CoV-2のスパイク蛋白の受容体結合領域の異なったエピトープに結合する三種類のDARPinを結合したのがensovibepだ。そのままだと半減期が短いためPEG化している。

第2/3相試験では発症7日以内で二つ以上の軽中等症状のある18歳以上の感染者を組入れて、3種類の用量の何れかを一回、点滴静注する効果を検討した。外来407人を組入れたパートAの解析が成功、偽薬群の入院/ER入室/死亡率が6.0%(99人中6人)であったのに対して試験薬群は1.3%(301人中4人)に留まった。死亡は各2人とゼロだった。最低用量の75mgを第3相ポーションでテストする予定。

酸素投与が必要な入院患者が対象のACTIV-3試験で採用され、中間解析で無益認定された点も含めて、抗SARS-CoV-2抗体に似ている。もし実用化され普及するならば、他の病気の治療薬を輩出できるかもしれない宝の山としてDARPin技術に期待が高まるだろう。

リンク: Molecular Partnersのプレスリリース


ファイザー、重症入院患者用3CLプロテアーゼ阻害剤は開発中止
(2022年2月8日発表)

ファイザーは2021年決算発表に合わせてPF-07304814の開発中止を発表した。元々はSARSの治療を想定してスクリーニングした点滴静注用の3CL(Mpro)阻害剤で、重症入院COVID-19の第2/3相試験を進めてきたが、これまでの治験実績などを考慮して決定した。トリガーになったのかどうかは不明だが、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導するCOVID-19入院治療試験、ACTIV-3試験も、PF-07304814群の組入れを打ち切った。

抗ウイルス剤は感染初期の軽中等症患者の治療薬として複数のコンパウンドが実用化されたが、中等症・重症入院患者の試験は中々成功しない。ACTIV-3試験は他にもイーライリリーのbamlanivimab、Vir Biotechnology/GSKのsotrovimab、アストラゼネカのtixagevimab・cilgavimabカクテル、Brii BiosciencesのBRII-196・BRII-198カクテル、Molecular Partners/ノバルティスのensovibepと軒並みフェールしている。最初の3品は軽中等症患者の治療や予防でEUAされたので、効果がないわけではないだろう。炎症が亢進して呼吸障害などを合併した患者にはそちらの治療のほうが最優先なのか、それとも、remdesivirが標準療法になった今では抗ウイルス剤の上乗せ効果は限定的なのか、よくわからない。

リンク: 同社の決算発表プレスリリース


COVID-19関連売上高
(2022年2月12日作成)

製薬会社の2021年決算発表から、COVID-19ワクチンや治療薬の売上高をまとめた。果敢に挑戦した企業が獲得した果実の大きさに改めて驚かされる。日本企業もがんばれ!

COVID-19関連売上高(2021年、百万ドル)
製品名メーカー売上高
ワクチン:
Comirnatyファイザー36,781
Spikevaxモデルナ未発表
Vaxzevriaアストラゼネカ3,981
Ad26.COV2.SJNJ2,385
抗SARS-CoV2抗体:
Ronapreveリジェネロン5,828
イーライリリー2製品イーライリリー2,239
XevudyGSK1,322
その他:
Vekluryギリアド5,565
Actemraロシュ3,898
出所:各社資料より作成



【新薬開発】


Karyopharm、selinexorの内膜腫試験成功
(2022年2月8日発表)

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)はselinexor(米国名Xpovio、欧州名Nexpovio)の第3相内膜腫維持療法試験が成功したと発表した。上期中に適応拡大申請する考え。

核外輸送蛋白のexportin 1を阻害して腫瘍抑制蛋白の蓄積を促すXPO1阻害剤で、多発骨髄腫などに用いることが承認されている。今回の試験は進行/再発内膜腫でタキサン系のフロントライン化学療法に部分反応以上した患者263人を80mg(BMI<20kg/m2は60mg)を週一回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けしてPFS(無進行生存期間、治験医評価)を比較した。結果はハザードレシオ0.7、p=0.0486、メジアン値は各5.7ヶ月と3.8ヶ月と、点推定値は良いものだったが統計学的な信頼性はそれほど高くはなかった。

selinexorは腫瘍抑制因子であるp53の蓄積をもたらす。事前に計画されていた、被験者のうちp53が変異していない103人のサブグループ分析では、ハザードレシオ0.38、p=0.0006、メジアン13.7ヶ月対3.7ヶ月と大変良い数値が出た。

有害事象による治験離脱率は10.5%だった。

発表されたデータは以上で、副次的評価項目のBICR-PFS(盲検独立評価に基づくPFS)や、p53変異サブグループの数値は不明。学会発表を待つことになる。

リンク: 同社のプレスリリース


アドセトリス、ホジキン型リンパ腫試験で高い延命効果
(2022年2月3日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)は 、Adcetris(brentuximab vedotin)の第3相古典的ホジキン型リンパ腫試験、ECHELON-1の副次的評価項目である全生存期間の解析結果を発表した。メジアン6年間の追跡でハザードレシオ0.59、p=0.009と、mPFS(修正無進行生存期間、第三者評価)に基づき成功認定された時の中間解析値である0.73より更に向上した。

ABVDレジメン(adriamycin、bleomycin、vinblastine、dacarbazine)のbleomycinに代えてAdcentrisを二週毎点滴静注するレジメンとABVDレジメンを比較した試験で、mPFSのハザードレシオは0.77と良い数値だがp値は0.035なので高度に有意ではなく、2年mPFS率は82.1%対77.2%でそれほど大きな差ではなかった。それだけに、全生存期間のハザードレシオは輝いており、メジアン値など詳細発表が待たれる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ミオシン活性化剤を承認申請
(2022年2月4日発表)

Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)はCK-1827452(omecamtiv mecarbil)を駆出率低下心不全の治療薬としてFDAに承認申請し、受理されたと発表した。優先審査ではなく、審査期限は11月30日。

心筋を駆動する心臓ミオシンを活性化する経口剤。クラスII~IVの心不全でLVEF(左室駆出率)が35%以下に低下した患者を組入れた第3相GALACTIC-HF試験で、心不全入院/ER入室/心血管死のハザードレシオが偽薬比0.92(95%信頼区間0.86-0.99)、p=0.0252と、臨床的にも統計学的にもまあまあな成績を挙げた。被験者の50%超を占めるLVEF≦28%のサブグループではハザードレシオ0.84(95%信頼区間0.77-0.92)と数値が上向くが28%超では同1.04(0.94-1.16)と好ましくない方向を向いていた。

CK-1827452はアムジェンがPOC試験後の09年にライセンスしたが、上記第3相の結果を公表した翌月、20年11月に、返還を決定した。

ミオシン標的薬ではブリストル マイヤーズ・スクイブが2010年に買収しMyoKardia社のMYK-461(mavacamten)を症候性閉塞性肥大性心筋症の治療薬としてFDAに承認申請中で、審査期限は3ヶ月延期され今年4月28日となっている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDAも諮問委員会も初見の中国だけのデータは受け容れず
(2022年2月10日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、中国のInnovent Biologics(HKEX:01801)がイーライリリーと共同開発し承認申請した抗PD-1抗体、sintilimabについて、意見を聞いた。委員のほぼ全員がエビデンス不足、追加試験を行うべしと判定した。

エビデンスとして提出されたのは、未治療の進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)患者397人を組入れて中国で実施されたORIENT-11試験。pemetrexedと白金薬を併用する当時の標準療法にsintilimabを追加した群のメジアンPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)が8.9ヶ月と偽薬を追加した群の5.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.48と大変よい成績を挙げた。

FDAも諮問委員も、患者背景が米国の人種構成と異なっている点を難じた。FDA側は、事前に臨床試験のデザインを相談していないことや結果の検証ができないこと、効果の高いKeytrudaの三剤併用レジメンが試験中に承認されたことを被験者に通知していないこと、ICH(医薬品規制調和国際会議)の複数のガイドラインから逸脱していることなども指摘した。

米国では中国企業の新薬承認申請が増加しており、順調に承認されたケースもある。アジア人だけの臨床試験に基づいて承認された先例としては、日本発の筋萎縮性側索硬化症治療薬、edaravoneが印象に残る。今回は意外な結果になったが、米国では既にKeytrudaのトリプレットが承認されていて、似たような効果を持つ似たような薬を急いで承認する必要はないという判断なのだろう。

尚、sintilimabは中国では18年に古典的ホジキン型リンパ腫の3次治療薬として初承認され、今回のNSNSCLCを含めて多くの癌に適応拡大された。中国では地元企業が抗PD-1抗体を安価に販売しており、イーライリリーは米国でも価格破壊を期していたが、お預けになった。

リンク: Innovent社のプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース






今週は以上です。

2022年2月5日

第1036回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • FDA、コミナティの6ヶ月~4歳児承認を検討へ 
  • FDAもモデルナのワクチンを承認 
  • Novavax、抗原ワクチンを米国でもEUA申請 
  • リリー、第3の抗体をEUA申請 
  • その他の領域: 
  • UCB、もう一つの筋無力症薬候補も第3相が成功 
  • レット症候群の第3相(?)が成功 
  • THRベータ作動剤のNAFLD試験が成功? 
  • バイエル、P2X3阻害剤の開発を断念 
  • ファイザー、ANGPTL3アンチセンス薬の開発を中止 
  • ロシュ、抗CD20/CD3二重特異性抗体などを承認申請 
  • リアタ、またまたアト・リスク承認申請に着手 
  • 武田、ブデソニド粘性製剤の承認取得を断念 
  • FDA、サノフィの寒冷凝集素症用薬を承認 
  • FDA、TG社のPI3K阻害剤に安全性通知 


【COVID-19関連】


FDA、コミナティの6ヶ月~4歳児承認を検討へ
(2022年2月1日発表)

BioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーは、COVID-19ワクチンComirnaty(tozinameran)を未成年向けにも積極的に開発し、米国では16歳以上(30mcg)に承認、5~15歳にもEUA(非常時使用認可:12~15歳は30mcg、5~11歳は10mcg)されている。6ヶ月児以上4歳以下は3mcgを3週おいて二回接種する効果を試験したが、中間解析が今一つだったため、8週後にもう一回接種するプロトコル変更を行った。

ところが、両社は6ヶ月~4歳児のデータをFDAに提出しローリング申請に着手したと発表した。三回接種の結果はまだ出ていないようなので思い切った行動だが、FDAの要請を受けたとのことだ。2月15日のVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会)で議論される予定。オミクロン株の流行で幼小児の感染が増えているため、FDAは承認できるなら承認したいと考えているのだろう。

上記試験は50%中和力価の幾何平均値(GMT)を、感染予防効果が確立している16-25歳の臨床試験の価と比較して、非劣性なら免疫ブリッジング成功と判定するもの。中間解析で6~24ヶ月児のコフォートは非劣性だったが2~4歳のコフォートはフェールした。両社は6~24ヶ月児も含めて8週後に三回目を接種するプロトコル変更を行ったので、6~24ヶ月児のデータも満点ではなかったのかもしれない。尤も、閾値は閻魔様ではなく、GMT比の両側95%信頼区間下限が0.66ならフェール、0.68なら成功というような判定基準は取り決めに過ぎない。報道によると感染予防効果に関するある程度のデータもあるようなので、2~4歳も含めてEUAの可能性もあるだろう。

とはいえ、承認されればそれでいいとは限らないのはアルツハイマー病治療薬Aduhelm(aducanumab-avwa)の販売不振を見れば明らかだ。FDAは昨年10月にComirnatyを5-10歳にEUAしたが、12月19日時点の接種実績は870万人と、対象人口の1/3強に留まっている。5歳未満の人口1800万人に普及させようとしたら、十分な説得力が必要だろう。

リンク: 両社のプレスリリース


FDAもモデルナのワクチンを承認
(2022年1月31日発表)

FDAはモデルナ(Nasdaq:MRNA)のSPIKEVAXを承認した。COVID-19のリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンで、18歳以上が適応になる。市販後に心筋炎や心膜炎のリスク上昇が見られたことが警告・注意事項となっている。発症タイミングは二回目の接種後の7日間が多いようだ。年齢・性別では40歳以下(特に18-24歳)の男性の頻度が比較的高い。集中治療が必要になった人もいるが、殆どは、少なくとも短期的には、保存的療法で軽快したとのこと。

FDAはCOVID-19ワクチンや治療薬の開発・承認審査をスピードアップするためにEUA(非常時使用認可)という制度を活用している。SPIKEVAXは、ワクチンの第一号であるBioNTech/ファイザーのComirnatyに続いて、2020年12月にEUAされた。その時点では二回接種後2ヶ月程度の追跡期間における感染予防効果しか確立していなかったが、正式承認は、6ヶ月程度追跡したエビデンスに基づいている。

Comirnatyは昨年5月に承認申請され、3ヶ月後の8月に承認された。一方、Spikevaxは昨年8月に承認申請され、承認は5ヶ月後だった。6ヶ月間の薬効データはSpikevaxのほうが良さそうに見えるが、審査が長引いたのは、上記の心筋炎・心膜炎リスクが原因だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: モデルナのプレスリリース


Novavax、抗原ワクチンを米国でもEUA申請
(2022年1月31日発表)

米国のNovavax(Nasdaq:NVAX)は、NVX-CoV2373を米国でEUA申請したと発表した。全長融合前スパイク蛋白を抗原とするリピッド・ナノパーティクルCOVID-19ワクチンで、遺伝子を組み込んだバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させて生産する。サポニン・ベースのMatrix-Mアジュバントを用いている。昨年12月に、EUで条件付き承認を取得、日本で武田薬品が承認申請した。

米国申請が遅れた一因は、臨床試験用バッチの生産が遅れ、米州試験の完了が英国試験より数か月遅れたこと。加えて、FDAは力価の評価方法について懸念を持っている模様で、今回の申請は米国工場ではなくインドのライセンシーであるSerum Institute of IndiaのCMC(化学製造管理)データを提出した模様。

薬効面はどちらの試験でもワクチン効率90%前後と、少なくとも当時流行していたウイルス株に関しては、良好な成績だった。

リンク: 同社のプレスリリース


リリー、第3の抗体をEUA申請
(2022年2月3日発表)

イーライリリーは、21年決算発表会で、LY3853113(bebtelovimab)のEUAをFDAに申請したことを明らかにした。bamlanivimab、etesevimabに次ぐ第3の遺伝子組換え型抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体で、bamlanivimabと同様にカナダのAbCellera Biologicsからライセンスしたもの。先行二剤は21年の売上高が22億ドルに膨らんだが、オミクロン株に対する中和活性が低いため、少なくとも米国では使われなくなった。bebtelovimabは既知の変異株すべてに中和力を維持している模様。

データは見たことが無い。第2相は先行二剤のBLAZE-4試験に群を追加して単剤と三剤併用をテストした。軽中等症COVID-19感染症に対するウイルス抑制効果や副次的評価項目として入院・死亡リスクも検討した。

リンク: 21年決算プレゼン・スライド(pdfファイル)

【新薬開発】


UCB、もう一つの筋無力症薬候補も第3相が成功
(2022年2月4日発表)

UCBはzilucoplanの第3相全身型重症筋無力症(gMG)試験、RAISEが成功したと発表した。欧米日で承認申請する予定。データは未公表。

19年にRA Pharmaceuticalsを25億ドルで買収して入手した、補体系C5を選択的に阻害する環状ペプチド。RAISE試験は米加欧日の施設で抗AChR自己抗体陽性の患者を組入れて、0.3mg/kgを一日一回、自己皮注する効果を盲検で偽薬と比較した。主評価項目は第12週のMyasthenia Gravis-Activities of Daily Living(MG-ADL)。深刻な有害事象の発現率は大差なかった。

同社は皮注用抗ヒト新生児Fc受容体抗体UCB7665(rozanolixizumab)の第3相gMG試験も昨年12月に成功発表している。こちらは免疫グロブリンGに介入する作用機序なので、もしかしたら、併用できるかもしれない。

gMGは米国で6~8万人が罹患する自己免疫疾患。新薬が続々と登場しており、C5標的薬はアストラゼネカ(アレクシオン・ファーマシューティカルズ)の抗C5抗体Soliris(eculizumab)とUltomiris(ravulizumab-cwvz)、新生児Fc受容体標的薬はオランダのArgenx(Euronext:ARGX)のVyvgrt(efgartigimod)と、先行品が多い。Vyvgrtは週一回点滴静注だが皮注用の開発も進められているため、zilucoplanは効果や安全性で上回ることが望ましい。

リンク: 同社のプレスリリース


レット症候群の第3相(?)が成功
(2022年2月1日発表)

米国ニューヨーク州の中枢神経系薬開発会社、Anavex Life Sciences(Nasdaq:AVXL)は、ANAVEX2-73(blarcamesine)のAVATAR試験が成功したと発表した。FDAと承認取得に向けた相談に進む考え。症例数が少なく、主目的が最近になって変更された可能性があり、薬効評価方法が良く分からないため、追加的な開示を期待したい。

ANVEX2-73はsigma-1受容体アゴニスト。第2/3相アルツハイマー病試験は経口カプセルを、今回の第3相レット症候群試験は経口液を、用いている。プレスリリースによると、AVATAR試験はMECP2変異を持つレット症候群の成人女性33人を組入れて一日一回、7週間投与して、Rett Syndrome Behavioural Questionnaire(RSBQ)などの変化を偽薬と比較した無作為化割付二重盲検偽薬対照試験。主評価項目のRSBQ AUC奏効率は72.7%と偽薬群の38.5%を上回り(p=0.037)、副次的評価項目のAnxiety、Depression and Mood Scale(ADAMS)奏効率は各52.9%と8.3%(p=0.010)、CGI-I奏効率は72.2%対38.5%(p=0.037)だった。治療時発現有害事象発生率は75.0%対61.5%、それによる離脱率は10.0%対7.7%だった。

プレスリリースによると、AUC(曲線下面積)を用いたのは、特定の時期の数値ではなく一定期間のデータを総合的に評価することにより期中のブレの影響を抑制する意図のようだ。また、プレゼンテーション用資料によると、RSBQだけではなくCGI-Iでも1ポイント以上改善した症例だけを奏効と判定した模様(実際、両評価項目の数値は似通っている)。更に、ClinicalTrials.govによると、薬剤曝露も考慮して判定した模様だ(この試験は30mgを目標に滴定した模様)。

もっと分からないのは、今年1月18日付でClinicalTrials.govの届出内容が変更されていることだ。つい3日前の届出までは第2相試験で主評価項目は薬剤曝露と安全性、即ち、只の薬物動態試験だった。盲検解除前なら変更が容認されることもあるが、時間軸的には微妙なところだ。そもそも、第2相の副次的評価項目と第3相の主評価項目では判定の厳格性が異なっていても不思議はない。

同社のホームページは、STATニュースのAdam Feuersteinの発言は過ちで真実ではないと枠付警告している。不慣れな社員が誤って登録したのを訂正しただけ、とのことだが、俄かには信じ難い。上記のように、主評価項目に関する記述は資料により若干異なっており、分かり辛い。p値は0.05を下回っているが十分に低いとは言えず、希少疾患用薬でなかったら一本の試験だけで承認されるとは思えない。詳細発表が待望される。

レット症候群は神経系を中心とする発達障害。9割前後の患者でMECP2遺伝子の特発的変異が見られる。専ら女性で、罹患率は1~1.5万出生に一人と推測されている。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 21年1月18日付と1月15日付の届出内容の比較(ClincalTrials.gov)


THRベータ作動剤のNAFLD試験が成功?
(2022年1月31日発表)

Madrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)はMGL-3196(resmetirom)の第3相NAFLD(非アルコール性脂肪肝疾患)試験が成功したと発表した。NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)試験も実施中で、成功なら承認申請に向かうと予想される。発表を受けて株価が上昇したが、NASH試験の結果が出るまで真価は分からないだろう。

高度選択的な、肝臓を標的とする、甲状腺ホルモン受容体(THR)ベータ作動剤で、ロシュからライセンスした。NASHでは肝臓におけるTHRベータの活性が低下していることに注目した。POC試験では肝臓脂肪(MRIでプロトン密度脂肪分画により計測)が12週後にメジアン36%減と偽薬(10%減)を上回る効果を示した。

今回の第3相は972人を組入れて、偽薬、80mg、または100mgを一日一回、52週間に亘り経口投与する便益と危険を検討した。主評価項目は安全性で、大きな問題はなかったようだ。有害事象は下痢や悪心など。治療時発現深刻有害事象の発生率は各群6.3%、6.1%、7.4%だった。副次的評価項目の肝臓脂肪(POC試験と同様にMRI-PDFF評価)は16週時点で各群6%減、41%減、48%減と大きな差が見られ、52週時点でも8%増、43%減、48%減と維持された。また、HDL-Cを除くコレステロール値が24週時点で各群2%減、13%減、14%減と若干低下した。

脂肪量減少作用は好ましいが、十分条件ではないだろう。NASH試験は2000人を3群に無作為化割付して組織学的評価や臨床的転帰を比較している。ClinicalTrials.govによると主評価項目の解析時期は21年12月となっているので、COVID-19流行の影響で遅延しても不思議はないが、早晩、真価が判明するだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


バイエル、P2X3阻害剤の開発を断念
(2022年2月4日発表)

バイエルはBAY1817080(eliapixant)の開発打ち切りを発表した。Evotec社との創薬提携の成果で、難治性神経性慢性咳嗽や内膜症、過活動膀胱、神経性疼痛の第2相試験を実施していた。昨年9月には難治性神経性慢性咳嗽の後期第2相試験の結果を学会発表。75mg一日二回投与群の咳の回数が偽薬比27%少なく、クラス・イフェクトである味覚関連有害事象も穏やかという有望そうなものだったが、急転した。

MSDはファースト・イン・クラスであるMK-7264(gefapixant)を難治性慢性咳嗽治療薬として日米で承認申請し、日本ではリフヌア名で承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。薬効評価に関する追加情報を求められた模様だ。バイエルの変心に何か関係があるかもしれない。

バイエルはEvotecと多くの領域で創薬提携を進めているが、P2X3関連の資産はEvotecが再取得する。

リンク: バイエルのプレスリリース


ファイザー、ANGPTL3アンチセンス薬の開発を中止
(2022年1月31日発表)

ファイザーとIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、PF-07285557/AKCEA-ANGPTL3-LRx(vupanorsen)の臨床開発プログラムを中止すると発表した。後者が創製した、トリグリセリドやコレステロール、グルコールなどエネルギー代謝の制御に関与するアンジオポイエチン様3の生産を抑制するアンチセンス薬で、後期第2相のTRANSLATE-TIMI 70試験で除HDL-Cコレステロールやトリグリセリドを抑制する効果を示したが、十分ではなかった由。安全性面では肝臓脂肪の増加が見られ、高用量では肝機能検査値異常も見られた。

ファイザーは19年にインライセンス、一時は年商30億ドル超を期待するほどだったが、提携解消するだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


ロシュ、抗CD20/CD3二重特異性抗体などを承認申請
(2022年2月3日発表)

ロシュは21年決算発表に際してパイプライン・アップデートを行い、第4四半期の承認申請/適応拡大申請実績を公表した。

RG7828(mosunetuzumab)は抗CD20/CD3二重特異性抗体。EUで承認申請したことは12月に公表済みだが、米国でも、第1/2相試験に基づき、濾胞性リンパ腫の3次治療に新薬承認申請した。同社の抗CD20抗体Rituxan(rituximab)はIDEC Pharmaceuticalsからライセンスしたものだが、その関係か、IDECと合併したバイオジェンが、今月、RG7828の共同開発商業化オプションを行使した。

Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)と共同開発販売しているRET阻害剤Gavreto(pralsetinib)は米国で20年12月に加速承認されたが、EUでもRET陽性の甲状腺髄様腫や甲状腺癌に新薬承認申請した。

抗CD79b抗体薬物複合体Polivy(polatuzumab vedotin)は未治療のCD20陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のR-CHP(四剤併用レジメン)試験が成功、グループの中外製薬が12月に日本で適応拡大申請したが、EUでも申請した。米国で申請したとは記されていない。

中外製薬が創製したHemlibra(emicizumab)は昨年12月のASH(米国血液学会)で中軽度A型血友病のHAVEN 6試験の成功が発表されたが、第4四半期にEUで適応拡大申請した。米国で申請したとは記されていない。現在は重度A型血友病の出血傾向の抑制に承認されている。

脊髄筋委縮症用薬Evrysdi(risdiplam)を2ヶ月児未満の未症候性患者に用いる対象年齢拡大申請を欧米で行ったことも明らかにされた。

フェーズIIIプロジェクトの開発中止も一件、発表された。ヒト・インテグリンのベータ7サブユニットに結合するヒト化抗体、PRO145223/RG7413(etrolizumab)は、中重度活性期潰瘍性大腸炎や中重度活性期クローン病の第3相試験が実施されたが、打ち切られた。潰瘍性大腸炎は寛解導入試験が一勝一敗、寛解維持試験がフェールした。クローン病試験の結果は不明だが、今一つだったのだろう。武田薬品のEntyvio(vedolizumab)と異なりアルファ4サブユニットに結合しないため効果増強が期待されたが、実現しなかった。

リンク: ロシュの21年決算プレゼン・スライド(pdfファイル)


リアタ、またまたアト・リスク承認申請に着手
(2022年1月31日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)は米国でRTA 408(omaveloxolone)をフリードライヒ運動失調症用薬としてローリング承認申請に着手したと発表した。FDAは薬効確認試験をもう一本実施するようアドバイスしているはずなので、2月25日に審査期限を迎えるRTA 402(bardoxolone methyl)と同様に、承認されないリスクがありそうだ。

RTA 408は第2世代のNrf2アクティベイターとされる(RTA 402が第1世代)。103人を組入れて150mgを一日一回、48週間に亘って経口投与する効果を偽薬と比較した第2相試験で、mFARSが1.55ポイント改善、偽薬群は0.85ポイント悪化した(p=0.014)。p値が十分に低いとは言えないこと、開発プログラム全体で投与実績が決して多くないことから、もう一本のエビデンスが欲しいところだが、米国の患者数が5000人の希少疾患なので悩ましい。

RTA 402はアルポート症候群用薬として米国で承認申請されたが、昨年12月の心臓腎臓薬諮問委員会では13人全員が反対した。eGFR(推定腎濾過率)というサロゲート・マーカーの妥当性や追跡不能例の多さ、糖尿病性腎症試験で心不全懸念が浮上したことなどがボトルネックとなった。日本では協和キリンが昨年7月に承認申請したが、どうだろうか。

リンク: Reataのプレスリリース

【承認審査・委員会】


武田、ブデソニド粘性製剤の承認取得を断念
(2022年2月3日発表)

武田薬品は21年度第3四半期決算発表に合わせてTAK-721(budesonide)の開発を打ち切ると発表した。19年に買収したシャイアの開発品で、20年に米国で好酸球性食道炎の治療薬として承認申請したが、追加試験実施を求められた。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


【承認】


FDA、サノフィの寒冷凝集素症用薬を承認
(2022年2月4日発表)

FDAはサノフィのEnjaymo (sutimlimab-jome)を承認した。寒冷凝集素症(CAD)の成人の溶血による赤血球輸血を抑制する。

CADは古典的補体経路の異常活性化による慢性自己免疫性貧血で、米国の患者数は5000人と推定されている。EnjaymoはC1複合体のセリン・プロテアーゼに結合する抗体。18年に116億ドル(株式価値ベース)で買収したバイオベラティブが前年にTrue North Therapeuticsを4億ドル及び開発承認販売目標達成時の報奨金4.25億ドルで買収して入手した。

過去6ヶ月間に輸血を受けた経験を持つ24人を組入れて6.5g(体重75kg超は7.5g)を二週毎(但し二回目は一週後)に点滴静注した第3相単群試験でヘモグロビン矯正奏効率が54%だった。深刻有害事象発現率は13%。FDAは被包性細菌感染予防用ワクチンを接種するよう求めている。

20年5月に承認申請が受理され優先審査指定されたが、生産委託先で工場問題が生じ、一巡目は審査完了に終わった。その後、過去6ヶ月間に輸血を受けていない患者を組入れた偽薬対照試験も成功、ヘモグロビン矯正奏効率(奏効の閾値はやや異なる)が76%と偽薬群の15%を上回っており、欧州などでも承認申請されるのではないか。日米欧で希少疾患用薬指定されている。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、TG社のPI3K阻害剤に安全性通知
(2022年2月3日発表)

FDAはTG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)のUkoniq(umbralisib)の安全性を検討していることを明らかにした。

PI3Kデルタとcasein kinase 1エプシロンを阻害する経口剤で21年に辺縁帯リンパ腫の2次治療と濾胞性リンパ腫の4次治療に加速承認された。

既報のように、同社が開発中の抗CD20糖鎖改変抗体TG-1101(ublituximab)と併用で慢性リンパ性白血病試験UNITY-CLLを行ったところ、主評価項目のPFS(無病生存期間)はGazyva(obinutuzumab)・chlorambucil併用群を有意に上回ったものの、死亡リスクが高まる可能性が浮上した。COVID-19関連の死亡を除くとハザードレシオ1.04と大きな差はないが、FDAは進行中の臨床試験の新規組入れを禁ずる部分的治験停止命令を発出した。

今回のFDA発表で注目されるのは、「同じPI3キナーゼ阻害剤クラスの他剤の臨床試験でも同様な安全性懸念が示された」と、クラス・イフェクトの可能性を示唆していることだ。

第1035回で取り上げたように、PI3K阻害剤ではSecura BioがPI3Kデルタ/ガンマ阻害剤Copiktra(duvelisib)の適応のうち難治再発性濾胞性リンパ腫の加速承認を返上、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)がPI3Kデルタ阻害剤Zydelig(idelalisib)の米国における三つの適応症のうち再発性濾胞性B細胞非ホジキンリンパ腫と再発性小リンパ球性白血病の加速承認を返上、インサイト(Nasdaq:INCY)がPI3Kデルタ阻害剤INCB050465(parsaclisib)の難治再発性の濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、そしてマントル細胞腫における加速承認申請を撤回と、失望的なニュースが続いている。

リンク: FDAの薬品安全性通知





今週は以上です。