2020年4月18日

通算第942回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19肺炎のサイトカインストーム治療試験が続々開始 
  • Immunomedics、ADCのTNBC試験が早期成功 
  • リジェネロン、エボラの抗体治療薬を承認申請 
  • MSD、キートルーダを高TMB固形癌に承認申請 
  • FDA、SGENのher2阻害剤を承認 
  • FDA、インサイトのFGFR阻害剤を承認 
  • FDA、神経線維腫1型用薬を承認 


【今週の話題】


COVID-19肺炎のサイトカインストーム治療試験が続々開始
(2020年4月14日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のremdesivirは、中国での試験が流行鎮静化で患者が集まらず中断になった。中国の公衆にとっては幸福な結果だが、グローバルではまだまだ新規感染が多く、中国も再流行しないとは限らない。対策はワクチンが最重要だが、中国の報告によると、ワクチンより抗体誘導力が高い自然感染でも十分な量の抗体を獲得できない人がいるようなので、ワクチン普及後も抗ウイルス治療薬や肺炎治療薬のニーズは残るだろう。

COVID-19感染症は全体としては症状が軽かったり殆どなかったりする人が多いが、急に呼吸機能が低下し重篤な状態になることがあるので油断できない。一因と疑われているのが炎症性サイトカインの異常増加を伴う免疫機構の過剰反応によって臓器が損傷を受けることだ。対策として中外製薬/ロシュのActemra(tocilizumab)を始めとする抗インターロイキン薬の臨床試験が続々と開始されている。先週は、JAK1/2阻害剤やBTK阻害剤、抗Ang2抗体の臨床試験が発表された。

まず、イーライリリーが、NIAIDが行っているアダプティブ・デザインのCOVID-19治療試験に同社のbaricitinibの群を設定することで合意した。4月中に米国で開始して欧州アジアに拡大する計画で、2ヶ月内に結果をまとめる考え。

baricitinibはインサイト(Nasdaq:INCY)がイーライリリーと共同開発販売しているJAK1/2阻害剤で、欧米でOlumiant名で、日本ではオルミエントとして、中重度関節リウマチなどに承認されている。インサイトはノバルティスと共同で骨髄線維症などに開発販売しているJAK1/2阻害剤、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)の第三相試験もロンチしている。

さて、イーライリリーは抗angiopoietin 2(Ang2)抗体LY3127804で第二相試験を行うことも発表した。COVID-19肺炎で入院しARDS(急性呼吸窮迫症候群)を合併するリスクが高い患者を組入れる。ARDSではAng2が亢進していることに着目した。

リンク: イーライリリーのプレスリリース(4/10付)

一方、アストラゼネカは、慢性リンパ性白血病やマントル細胞腫に承認されているBTK阻害剤、Calquence(acalabrutinib)でCOVID-19治療試験を開始した。サイトカインストームを合併した重度入院患者を対象に、パート1ではICU治療を受けていない患者をBSC(最良支持療法)だけの群とCalquenceも投与する群に無作為化割付し、オープンレーベルで死亡や呼吸補助療法のリスクを比較する。パート2はICU患者の単群試験でBSCとCalquenceを施行する。

マクロファージはSARS-CoV-2のようなウイルスの短鎖RNAをTLR3やTLR7、TLR8で認識し、BTK依存的にNF-カッパBやIRF3を活性化、TNFアルファやIL-6、IL-10、MCP-1などの生産を刺激する。BTK阻害剤は初期の臨床試験で免疫を抑制しCOVID-19誘導性ARDSを改善する可能性が示唆されたとのことだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(4/14付)


【新薬開発】


Immunomedics、ADCのTNBC試験が早期成功
(2020年4月6日発表)

Immunomedics(Nasdaq:IMMU)は、IMMU-132(sacituzumab govitecan)のトリプル・ネガティブ転移乳癌(TNMBC)の第三相が成功したと発表した。第1/2相データに基づき米国で承認審査中で、審査期限は6月2日となっているが、もし第三相データの提出を求められたら、審査期限延長の可能性も出てくるのではないか。

IMMU-132はEGP-1(epithelial glycoprotein-1)を標的とする抗体をirinotecanの活性代謝物と結合したADC(抗体薬物複合体)。EGP-1はher2、エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体の全ての発現が陰性であるトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)の80%以上で発現する一方、正常細胞には少ない。第1/2相試験でORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が110人中31%、メジアン反応持続期間9.1ヶ月となり、18年に米国でトリプル・ネガティブ転移乳癌の三次治療薬として承認申請された。優先審査を受けたが、工場査察時にデータの改ざんなどが発覚、審査完了通知受領となった。CEO退任を経て、19年12月に再承認申請された。

ORRのような代理マーカーに基づき加速承認を求める場合は、延命効果などを確認する第三相試験の患者組入れを承認までの間にかなりの程度、完了しておく必要がある。Immunomedicsは17年に今回の第三相を開始したが、審査に手間取る間に結果が出てしまった格好だ。

このASCENT試験は、トリプル・ネガティブ乳癌で、転移性乳癌の治療として二次以上の治療歴を持つ患者を組入れて、PFS(無進行生存期間)を医師が選んだ化学療法薬(eribulin、capecitabine、gemcitabineまたはvinorelbine)と比較するもの。独立データ監視委員会が直近のルーチン評価で圧倒的な効果に基づき繰上げ完了を勧告した。

第940号でアストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)の慢性腎疾患アウトカム試験に関して『ルーチン評価による中止勧告というのはあまり聞かない』と書いたばかりだが、臨床試験に必要な期間を短縮して新薬開発をスピードアップするための工夫として、流行っているのかもしれない。臨床試験の途中で振り子が触れるように群間の偏りが生じたり解消したりすることはよくあるようであり、また、統計学的にも多重性が生じないように注意する必要があるが、十分な配慮(ハザードレシオの閾値や持続性、p値の配分などに関して)が行われているのだろう。

リンク: Immunomedicsのプレスリリース


【承認申請】


リジェネロン、エボラの抗体治療薬を承認申請
(2020年4月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、FDAがREGN-EB3の承認申請を受理したと発表した。優先審査を受けるが、審査期限は10月25日とのことで、リードタイムが案外長い印象だ。承認されれば米国初のエボラウイルス疾患治療薬となる。

リジェネロンは抗体医薬の開発で独自のプラットフォームを持ち、08年に米国で承認されたArcalyst(rilonacept)を皮切りに、下表のように、数多くの抗体医薬を輩出している。

名称 適応症 種類
Arcalyst(rilonacept) 抗IL-1融合蛋白 CAPS(CIAS1変異関連自己炎症定期的症候群)など
Zaltrap(ziv-aflibercept) 抗VEGFR融合蛋白 結腸直腸癌など
Eylea(aflibercept) 抗VEGFR融合蛋白 加齢性黄斑変性など
Kevzara(sarilumab) 抗IL-6受容体アルファサブユニット抗体 リウマチなど
Libtayo(cemiplimab-rwlc) 抗PD-1抗体 皮膚扁平上皮癌など
Dupixent(dupilumab) 抗IL-4Rアルファサブユニット抗体 アトピー性皮膚炎など
Praluent(alirocumab) 抗PCSK9抗体 高脂血症など

REGN-EB3はマウスにヒトの抗体を発現させる同社のバックボーン技術により創製された三種類の抗体の混合物で、新規感染症に即応するためのVelociSuiteプラットホームを活用して量産まで漕ぎつけた。

エボラは中央アフリカで数年おきに流行しているが、18年8月に大流行が始まったコンゴ民主共和国で実施された直接比較試験で最も良い成績を上げたのがREGN-EB3だ。673人を4種類の開発品に無作為化割付して28日死亡率を比較したところ、REGN-EB3群は33.5%と、対照群とされたZMapp(カナダ衛生庁が開発しMapp Biopharmaceuticalが商業化した三種類の抗体の混合物)の49.7%を大きく下回った。mAb114(Ridgeback Biotherapeuticsの抗体医薬)は35.1%、remdesivir(ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬)は51.3%だった。

remdesivirはCOVID-19で復活を目指しているが、リジェネロンもVelociSuiteを用いてスパイク蛋白に結合する二種類の抗体の混合物を開発、6月に臨床試験を開始する予定。エボラの治験結果を見ても、抗ウイルス薬より抗体医薬のほうが効果が高そうだが、エボラと異なりCOVID-19は全世界が対象なので一社一製品では足りず、多少見劣りしても複数の選択肢が必要だろう。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

MSD、キートルーダを高TMB固形癌に承認申請
(2020年4月7日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をTMB(腫瘍変異負荷)がメガベース当り10変異以上と高い、切除不能/転移性固形癌に単剤投与する適応拡大を米国で申請し、受理されたと発表した。再発治療に用いるが、十分な代替的治療法がない場合の一次治療も申請している。成人と小児も対象。優先審査を受け、審査期限は6月16日。

KeytrudaはMSI-H(マイクロサテライト不安定性高)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)の切除不能/転移性固形腫瘍で前治療に進行した代替的治療法のない成人及び小児に用いることが17年にFDAに承認された。今回の適応も切り口は同じで、多くの遺伝子変異を持つ腫瘍は正常細胞と異なる蛋白が多く産生されるだろうから、免疫機構の注意を惹きやすく免疫療法応答性が高いはず、という発想だ。違いは、マイクロサテライト(特定の塩基配列が何度も繰り返される、複製ミスが起きやすい箇所)の繰り返し数や遺伝修復に係る蛋白の発現だけでなく、様々な遺伝子の様々な変異を包含していることだ。

MSI-H/dMMRは患者数としては結腸直腸癌や内膜腫が多い。高TMBもこの二つが多いようだ。MSI-Hよりも高TMBのほうが数が多いという指摘もあるので、Keytrudaの適応が広がることになる。尚、マイクロサテライト不安定性は高くないがTMBは高いという場合もあるようだ。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


FDA、インサイトのFGFR阻害剤を承認
(2020年4月17日発表)

FDAは、インサイト(Nasdaq:INCY)のPemazyre(pemigatinib)をFGFR2融合またはその他の再編成がある切除不能局所進行性/転移性胆管癌の二次治療薬として加速承認した。審査期限は5月末だったので1ヶ月半の前倒し。Foundation Medicine社のコンパニオン診断薬も承認される見込み。欧州でも承認審査中。

胆管癌は欧米で10万人当たり0.3-3.4人が発症する。診断時点で既に末期であることが多い。米国で承認されている薬はなく、標準療法は化学療法だが、二次治療薬はない。肝内胆管癌と肝外胆管癌があり、FGFR2融合/再編成は前者の10~16%で見られる。日米欧で2000~3000人が対象と推測されている。

PemazyreはFGFR阻害剤。13.5mgを一日一回経口投与する。14日連続服用し7日間休む。第二相単群試験では、ORR(客観的反応率、独立中央放射線学的評価)が36%、メジアン反応持続期間は9.1ヶ月だった。重要な有害事象は網膜剥離などの眼球疾患、高リン血症、催奇性。

第三相はgemcitabineとcisplatinの併用を対照群とするPFS(無進行生存期間)検討試験が進行中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: インサイトのプレスリリース

FDA、SGENのher2阻害剤を承認
(2020年4月17日発表)

FDAはシアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)の選択的her2チロシンキナーゼ阻害剤、Tukysa(tucatinib)を承認した。her2標的薬による治療歴を持つ切除不能な局所進行性/転移性her2陽性乳癌に、trastuzumab及びcapecitabineと併用する。第三相では摘出術前後を含めて三剤以上のher2標的薬による治療歴を持つ患者を対象としたが、もう少し幅広い適応が認められた。審査期限は8月だったが4ヶ月前倒し。

このHER2CLIMB試験ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン7.8ヶ月と、trastuzumab及びcapecitabineと偽薬を併用した群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.54、p<0.00001、副次的評価項目の全生存期間は各21.9ヶ月、17.4ヶ月、0.66、0.0048となった。この試験は脳転移のある患者を積極的に組み入れ症例の48%を占めたが、このサブグループにおけるPFSは各7.6ヶ月、5.4ヶ月、0.48、0.00001未満となり、抗体と異なるチロシンキナーゼ阻害剤の長所が発揮された。her2陽性転移性乳癌の25%以上が脳転移するとのことなので重要。

主な深刻有害事象は下痢、急性腎障害、死亡。肝毒性があり定期的な肝機能検査が必要。催奇性があり、男の患者も要注意。

この承認審査は、リアル・タイム・オンコロジー・リビューとアセスメント・エイドが適用された。海外の承認審査機関と並行審査するProject Orbisの対象となり、今回は豪州カナダに加えて初めてシンガポールやスイスも参加した。

tucatinibは18年にCascadian Therapeutics(旧称Oncothyreon)を6億ドルで買収して入手した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

FDA、神経線維腫1型用薬を承認
(2020年4月10日発表)

FDAはアストラゼネカのKoselugo(selumetinib)を症候性で切除不能な叢状神経線維腫病(PN)の2歳以上の小児の神経線維腫1型(NF1)の治療薬として承認した。NF1は3000~4000人に一人の常染色体性優性遺伝性疾患で、ニューロフィブロミンの遺伝子変異によりras~PI3K/AKT経路が活性化、良性腫瘍ができやすく、運動機能不全なども合併する。KoselugoはMEK1/MEK2阻害剤で、03年にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)から世界開発販売権を取得、17年にはMSDと共同開発販売提携を結んだ。

承認の根拠となる米国立癌センター主導の第二相試験では、50人中33人の腫瘍が20%以上縮小した。12ヶ月間反応持続率は82%だった。

アストラゼネカは今年第1四半期にEUでも承認申請した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

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