2018年12月30日

2018年12月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 米国連邦政府機関が予算不足で部分閉鎖 
  • 降圧剤をエーラス・ダンロス症候群治療薬として承認申請 
  • 吸入用レボドパが承認 


【今週の話題】


米国連邦政府機関が予算不足で部分閉鎖
(2018年12月22日発表)

12月22日、米国連邦政府機関の一部が予算不足により閉鎖・職員帰休となった。トランプ大統領の公約であるメキシコ国境に壁を建設するための予算を上院が認めなかったため、大統領が連邦議会の予算案に拒否権を発動したことが原因。クリントン政権やオバマ政権でも発生した、お馴染みの茶番だ。

警察など重要な機能は維持される。また、民間が費用負担する業務の一部も影響を受けない。FDAの場合、約7000人の職員のうち41%は帰休となるが、食品安全性監視や、ユーザー課金制度を原資とする新薬、GE薬、バイオシミラー、一部の医療機器の承認審査は資金が続く限り継続される。

新規の承認申請は受理されないリスクが残るが、26日に2社が承認申請受理を発表した。Acer TherapeuticsのEdsivo(後述)は希少疾患用薬なので上記例外に該当するのだろう。よくわからないのがKala Pharmaceuticalsのドライアイ治療薬で、過去のユーザー課金の使い残しを流用したのか、あるいはFDAの担当者が門が閉まる前に駆け込むことに成功したのかもしれない。

トランプ政権下では18年1月にも部分閉鎖があったが3日間で終了したため影響は小さかった。オバマ政権では13年10月に16日間の部分閉鎖が発生した。少なくとも承認審査に関しては大きな影響はなかった模様だが、同月下旬に予定されていた細胞組織遺伝子療法諮問委員会が翌年2月にリスケ、薬品科学臨床薬理諮問委員会はキャンセルされた。特定の薬の承認審査に係るものではなかったようなので、おそらく、ブリーフィング資料の作成などの準備ができなかったのだろう。

今回、19年1月に承認審査期限を迎えるものとしては、大日本住友製薬の子会社であるSunovion Pharmaceuticalsがパーキンソン病オフタイム治療薬として承認申請したAPL-20277が29日、Alkermes(Nasdaq:ALKS)の鬱病治療用合剤、ALKS 5461が31日の予定。

諮問委員会に関しては、1月11日に関節炎諮問委員会が、帝人が創製し米国では武田が開発販売している痛風治療薬、Uloric(febuxostat)の心血管リスクを議論する予定。アウトカム試験の結果がネガティブだったので警告・処方制限がどの程度強化されるかが注目点になりそうだ。

更に、1月16日には骨・再生産・泌尿器薬諮問委員会がアムジェンが骨粗鬆症治療薬として新薬承認申請したEvenity(romosozumab、和名イベニティ)を、その翌日には内分泌代謝学薬諮問委員会がレキシコン(Nasdaq:LXRX)がサノフィと一型糖尿病薬として新薬承認申請したSGLT阻害剤、Zynquista(sotagliflozin)を、検討する予定。

18年の中間選挙の結果、下院は1月3日をもって民主党が多数を占めるようになるため、壁建設予算の成立を期待するのは極めて難しくなる。トランプ大統領が諦めれば、予算が成立し政府機能が回復するのだが...

リンク: FDAのプレスリリース


【承認申請】


降圧剤をエーラス・ダンロス症候群治療薬として承認申請
(2018年12月26日発表)

Acer Therapeutics(Nasdaq:ACER)は血管エーラス・ダンロス症候群治療薬Edsivo(celiprolol)の承認申請がFDAに受理され、優先審査指定されたと発表した。審査期限は19年6月25日。クリスマス休暇が終了し、連邦予算遅延の影響が懸念される中、平穏なスタートとなった。

血管エーラス・ダンロス症候群はコラーゲンの形成異常による疾患。celiprololはベータ1受容体アンタゴニストで、高血圧の治療に用いられている薬の転用。Greater Paris University Hopitalsから16年にライセンスしたもの。

リンク: Acer社のプレスリリース


【承認】


吸入用レボドパが承認
(2018年12月21日発表)

アコーダ・セラプティクス(Nasdaq:ACOR)は、Inbrija(levodopa)がFDAに承認されたと発表した。パーキンソン病の標準治療薬であるレボドパの効果が薄れる『オフタイム』の治療に用いる吸入用レボドパで、臨床試験では第12週時点でも吸入30分でUPDRSパートIIIが9.83ポイント改善し偽薬群の5.91ポイント改善を有意に上回った。有害事象は痰の変色などレボドパによるものと咳などで、吸入薬の要注意点である肺の副作用は大きな問題はなかった。

14年に5.25億ドルで買収したCivitas Therapeuticsの開発品。CMC(化学、生産、品質管理)がボトルネックとなり遅れたが、承認申請から足掛け1年半、承認にこぎつけた。

リンク: アコーダ社のプレスリリース








今週は以上です。

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2018年12月23日

2018年12月23日


【ニュース・ヘッドライン】

  • JAK阻害剤が相次いで円形脱毛症の後期臨床試験入り 
  • イクスタンジの適応拡大試験成功 
  • ロキサデュスタットはアストラゼネカの第三相も成功 
  • バベンチオ、卵巣癌試験がまたフェール 
  • ファイザーの黄色ブドウ球菌ワクチンもフェール 
  • FDAがBPDCN用薬を承認 
  • FDA、アレキシオンの長期作用性PNH治療薬を承認 
  • リムパーザ、適応拡大承認、別の適応拡大試験成功 
  • キイトルーダ、メルケル細胞腫に承認 
  • セルビエのアスパラギン枯渇剤が承認 
  • アストラゼネカ、COPDのFDCがEUでも承認 
  • FDAもフルオロキノロンの警告強化 


【今週の話題】


JAK阻害剤が相次いで円形脱毛症の後期臨床試験入り
(2018年12月23日発表)

イーライリリーに続いてファイザーがJAK阻害剤の後期第二相/第三相円形脱毛症試験をClinicalTrials.govに治験登録した。どちらも21年頃に成否が判明する見込みだ。POC試験の良好な結果が再現されるか、注目される。

円形脱毛症(AA)は自己免疫疾患で、細胞傷害性T細胞が毛包組織を攻撃する。米国の患者数は約50万人で、半数は20歳までに発症する。ファイザーのコンパウンドのPOC試験では被験者の平均年齢は36歳、7割が女性だった。finasterideなどの5アルファ還元酵素阻害剤が適応になる男子アンドロゲン性脱毛症とは対照的だ。

AAはウィッグで隠すこともできるし軽症なら自然に治ることもあるようだが、患者のニーズが強いようで、FDAはPatient-Focused Drug Development Initiativeの対象に選定、臨床試験のデザインの妥当性や薬効と副作用のバランスを検討する時の参考にすべく、新薬開発の早い段階で患者のヒアリングを行った。

JAK阻害剤は免疫細胞などのインターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達に係る酵素を阻害する。リウマチ性関節炎治療薬Xeljanz(tofacitinib)が複数の研究者主導試験で良好な成績を上げ、注目されるようになった。

イーライリリーは今年9月、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)でAAのP2b/3試験を開始した。インサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスしたJAK1/2阻害剤で、中重度リウマチ性関節炎治療薬として日米欧で承認されている。

ファイザーはPOC試験でJAK3阻害剤のPF-06651600やJAK1/TYK2阻害剤PF-06700841を24週間投与して効果や安全性を偽薬と比較した。主評価項目のSALT(severity of alopecia tool)スコアは偽薬比で前者が33ポイント改善、後者は49ポイント改善しどちらも統計的に有意だった。このスコアは完全脱毛が100、毛髪喪失無しが0、被験者142人の平均ベースライン値は88.1だったので、かなりの改善だ。

忍容性は有害事象による治験離脱が各2人と5人、偽薬群は2人で、JAK1/TYK2阻害剤が見劣りする。深刻有害事象である横紋筋融解症は各ゼロ、2人、ゼロとここでもJAK1/TYK2阻害剤が見劣りする。そのせいか、今回ステージアップしたのは、効果の面では数値が見劣りするJAK3阻害剤のほうだった。

P2b/3試験では、頭部毛髪50%以上喪失、全頭型、または汎発型の成人青年で直近の顕著な脱毛から10年以内の患者660人を組入れて、PF-06651600の5種類の用量用法を偽薬と比較する。主評価項目は24週後にSALTスコアが10以下に低下した患者の比率。ハードルを高く設定したのは偽薬効果(治療とは関係ない自然な改善)を抑制する意図なのではないか。

イーライリリーのP2b/3の主評価項目は36週時点の奏効率で、判定基準はAA-IGA(Achieving Alopecia Areata Investigator Global Assessment)が1以下に改善かつベースライン比2ポイント以上改善、となっている。

リンク: PF-06651600のP2b/3試験登録(ClinicalTrials.gov)
リンク: baricitinibのP2b/3試験登録(ClinicalTrials.gov)


【新薬開発】


イクスタンジの適応拡大試験成功
(2018年12月20日発表)

アステラスとファイザーは、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の第三相ARCHES試験の成功を発表した。転移性ホルモン感受性前立腺癌を組入れてアンドロゲン除去療法にXtandiを追加する効果を検討したところ、PFS(放射線学的評価による無進行生存期間)がアンドロゲン除去療法だけの群を有意に上回った。適応拡大申請に向かうだろう。データは学会発表の予定。

Xtandiはジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤Zytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)やXtandiを発明した医学者が次世代品として創製したErleada(apalutamide)と適応拡大競争を行っている。本試験は当初は2020年に開票の予定だったが、治験デザインを変更し前倒しした経緯がある。Zytigaは今回の用途で先に承認を取得したが、Xtandiもキャッチアップの見込みが立った。

リンク: 両社のプレスリリース

ロキサデュスタットはアストラゼネカの第三相も成功
(2018年12月20日発表)

アストラゼネカは、roxadustat(JAN:ロキサデュスタット)の第三相試験二本が成功したと発表した。末期腎障害の貧血を治療する試験で、一本は保存期の患者を組入れて偽薬と比較、もう一本は透析期患者にエポエチン・アルファと比較したところ、どちらもヘモグロビン上昇が有意に大きかった。

roxadustatは、酸素欠乏時に活性化される転写因子であるhypoxia-inducible factorのスクラップに係る酵素、HIF2-PHの阻害剤で、赤血球などの新生を促す。エポエチンと異なり経口投与可能。米国のFibroGenが創製、日欧中東アフリカなどではアステラス製薬と、それ以外の国ではアストラゼネカと、共同開発している。先ごろ、中国で承認。日本では来年3月までに承認申請される見込み。

エポエチンは使いすぎると心臓疾患のリスクが高まる懸念があり、roxadustatもFDAが07年にクリニカルホールドを命じたことがある。HIFは70以上の遺伝子の発現に係るので、安全性をしっかり確かめる必要があるのだ。エポエチン対照試験は中国で行われた試験でも効果が有意に上回ったが、両刃の剣と考えることもできるので要注意だ。アストラゼネカの今回の二本は何れも2000人以上を組入れており、他の試験も含めれば1万人規模に達する。来年上期に心血管リスクのプール分析を行って、米国での承認申請につなげる考え。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

バベンチオ、卵巣癌試験がまたフェール
(2018年12月21日発表)

ドイツのメルクと開発販売パートナーのファイザーは、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相JAVELIN Ovarian 100試験が中間解析で独立データ監視委員会に無益性認定されたため中止すると発表した。卵巣癌の一次治療試験で、carboplatinとpaclitaxelの併用に更にBavencioを追加する効果を検討したが、PFS(無進行生存期間)がcarboplatin・paclitaxel二剤併用群を上回る可能性は著しく小さいという結論に達した。

白金薬抵抗性難治性の卵巣癌を組入れた第三相もフェールしたことが発表済み。抗PD-1/PD-L1抗体は適していないのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

ファイザーの黄色ブドウ球菌ワクチンもフェール
(2018年12月20日発表)

ファイザーはPF-06290510(SA4Ag)の後期第二相試験を中止すると発表した。中間解析で独立データ監視委員会が無益性認定したため。

黄色ブドウ球菌の複数の抗原を配合したワクチンで、待機的脊椎固定術を受ける患者の術後侵襲性黄色ブドウ球菌感染症を予防することが期待されたが、実現しなかった。類薬ではMSDのV710などもフェールしており、開発が難航している。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認】


FDAがBPDCN用薬を承認
(2018年12月21日発表)

FDAは、Stemline Therapeutics(Nasdaq:STML)のElzonris(tagraxofusp-erzs)を芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)用薬として承認した。2歳から適応になる。集中化学療法と骨髄移植という標準療法に不耐の患者の充足されないニーズに応えた。

BPDCNは稀だが進行の早い血液癌。他の血液癌と類似しており、判別にはCD123(IL-3受容体アルファ)などの検査が必要。ElzonrisはIL-3と断片化ジフテリアの融合蛋白で、21日サイクルで最初の5日間、静注する。小規模な臨床試験で初めて治療を受ける患者13人のうち7人が完全反応または臨床的完全反応を示した。再発難治患者15人に投与した試験では2例だった。

命に係わる毛細血管漏出症候群が枠付き警告。肝機能検査が推奨されている。妊婦禁忌。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Stemline社のプレスリリース

FDA、アレキシオンの長期作用性PNH治療薬を承認
(2018年12月21日発表)

FDAはアレキシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のUltomiris(ravulizumab)を発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬として承認した。審査期限は来年2月だった。同社のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)と同様に補体系のC5に結合・阻害する抗体で、末端半減期が3-4倍長く、点滴静注頻度が3回目からは8週毎と、Solirisの2週毎より少ないことが長所。効果は直接比較試験で非劣性だった。

用量は体重に応じて三種類設定されているが、60-100kgの場合、年間薬剤費(WACベース)は58万ドル程度となりSolirisと大差ない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アレキシオンのプレスリリース

リムパーザ、適応拡大承認、別の適応拡大試験成功
(2018年12月19日発表)

抗PD-1/PD-L1ほどではないがホットな分野がPARP阻害剤だ。開発が難航し開発主体も変遷したが、卵巣癌や乳癌に効果が確認され、BRCA悪性変異型以外での有効性も散見されるようになった。

代表的な製品であるアストラゼネカのLynparza(olaparib、和名リムパーザ)は、末期卵巣癌で白金薬レジメンによる一次治療に完全または部分反応した患者の維持療法に用いることがFDAに承認された。11月に申請受理が発表されたばかりなのでサプライズだ。

BRCA遺伝子に生殖細胞系または体細胞系の悪性変異がある癌が適応になる。SOLO-1試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが偽薬比0.30、3年無進行生存率は60.4%で偽薬群の26.9%を上回った。

翌日、白金薬感受卵巣癌の三次治療におけるORR(客観的反応率)やPFSを化学療法と比較したSOLO-3試験の成功も発表された。

Lynparzaは米国では生殖細胞系BRCA有害変異のある卵巣癌の4次治療、白金薬に反応した卵巣癌の維持療法、生殖細胞系BRCA有害変異のあるher2陰性転移性乳癌で化学療法歴のある患者、に承認されている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: 同(SOLO-3試験成功、12/20付)

キイトルーダ、メルケル細胞腫に承認
(2018年12月19日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を難治性局所進行性または転移性のメルケル細胞腫の成人小児に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。進行癌に対する全身性治療歴を持たない患者50人を組入れた第二相試験で、完全反応率が24%、部分反応率は32%だったことに基づく加速承認で、今後の試験で延命効果を確認する必要がある。

メルケル細胞腫と言えばメルク/ファイザーのBavencio(avelumab、和名バベンチオ)の最初の適応症だ。今回の適応拡大はMSDにとっては小さな一歩だが、二度の世界大戦中に米国政府に資産凍結を受けるまでMSDの親会社であったドイツのメルクにとっては、上記の適応拡大試験フェールと合わせて、痛い。反応率はBavencioの試験のほうが低いが、二次、三次治療の患者が多かったので比較できないだろう。

MSDにとっては、非小細胞性肺癌の適応拡大申請のPDUFA(米国のユーザー課金制度に基づく承認審査期限)が4月11日に延期されたことの方が痛いだろう。モノセラピーの適応を現状のPD-L1著高発現(TPS≧50%)から1%以上に対象患者拡大するもので、追加データを提出したことが申請内容の大きな変更と判定されたようだ。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース(肺癌審査期限延期について、12/20付)

セルビエのアスパラギン枯渇剤が承認
(2018年12月20日発表)

セルビエの長期作用性アスパラギン枯渇剤、Asparlas(calaspargase pegol-mknl)がFDAに承認された。生後1ヶ月から21歳までの急性リンパ性白血病の多剤併用療法に用いる。類薬であるシャイアーのOncaspar(pegaspargase)などと薬効や安全性は大差ないが、投与間隔が3週毎と長く、有効期間も長い。

AsparlasもOncasparも元々はSigma-Tau Pharmaceuticalsの製品だったが、バクスターがアスパラギン枯渇剤ポートフォリオを9億ドルで買収、そのバクスターをシャイアーが買収、そのシャイアーが、武田薬品に買収を持ちかけられていた今年4月に、腫瘍学事業をセルビエに24憶ドルで買収したという経緯。

リンク: レーベル(Drugs@FDA収載、pdfファイル)

アストラゼネカ、COPDのFDCがEUでも承認
(2018年12月20日発表)

アストラゼネカは、Bevespi Aerosphere(glycopyrronium、formoterol fumarate)がEUでCOPDの維持療法薬として承認されたと発表した。長時間作用性ムスカリン受容体拮抗剤と長時間作用性ベータ2作用剤の固定用量合剤(FDC)で、加圧式定量吸入器(pMDI)を採用している。一日二回、吸入する。13年に買収したPearl Therapeuticsが多孔質粒子技術を用いて開発した。米国では16年に承認された。

グラクソ・スミスクラインのLAMA・LABA合剤、Anoro(umeclidinium、vilanterol、和名アノーロ)と直接比較した試験ではピークFEV1が非劣性、トラフFEV1は非劣性ではなかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDAもフルオロキノロンの警告強化
(2018年12月20日発表)

FDAは、フルオロキノロンが大動脈破裂・解離リスクを高めることを警告する安全性情報を発出した。大動脈瘤などの血管疾患、高血圧、高齢などの高リスク患者は、他に治療方法がない場合を除いて、使うべきではない。処方する時は、発症したらすぐ連絡するよう患者に伝える。

11月18日号で書いたように、EUはキノロン系合成抗菌剤の規制を強化し、キノロン系の一部は承認を停止、残りの製品やフルオロキノロンは深刻な疾患などに適応限定した。理由は深刻で不可逆的なこともある有害事象の懸念で、具体的には、腱炎、腱断裂、関節炎、下肢痛、歩行障害、知覚異常を伴う神経症、鬱病、疲労、記憶障害、睡眠障害、聴力や視力、味覚、嗅覚の異常が列挙されているが、大動脈破裂解離は言及されていない。

FDAによると、過去3年間に4本の疫学論文が刊行されていて、何れも、フルオロキノロン使用者は大動脈破裂解離のリスクが2倍前後高いと推定している。FDAの有害事象報告システムには15年12月時点で15例が報告されていた。18年4月までに56例が追加されたが殆どは訴訟代理人による報告とのことなので、診断・報告の信憑性や客観性は不確かということになる。そもそも、疫学的研究には様々な制約があるので、2倍程度なら誤差の範囲内かもしれない。

それでも、複数の集団における異なった手法での推定が皆同じような結果になったことは軽視できない。別の文献によると、一般人口における発症頻度は10万人当たり年9回だが、高リスクグループ(85歳以上など)では300回と急増する。このような人たちは、リスクがリアルであった場合に備えて、使わないのが生きる知恵なのかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

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2018年12月16日

2018年12月16日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • トレムフィアがコセンティクスに勝つ 
  • NBIX、valbenazineのトゥレット症候群試験はフェール 
  • イグザレルトを入院患者の血栓塞栓予防に適応拡大申請 
  • CHMP、持効性インターフェロン・アルファなどの承認に肯定的意見 
  • EMA、オメガ3脂肪酸の心筋梗塞再発予防効果を認めず 
  • シャイアの慢性便秘治療薬、米国でも承認 


【新薬開発】


トレムフィアがコセンティクスに勝つ
(2018年12月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン社は、中重度乾癬治療薬Tremfya(guselkumab、和名トレムフィア)の直接比較試験で奏効率がノバルティスのCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を上回ったと発表した。夫々の薬の過去の臨床成績から推測された通りの結果だ。

Tremfyaは乾癬の病理に係るIL-17の分泌に関与するIL-23のp19サブユニットを標的とする抗体医薬で、MorphoSys社との創薬提携の産物。一回100mgを最初の2回は4週毎、その後は8週毎に皮注する。Cosentyxは抗IL-17抗体。150mgを毎回2回ずつ、最初は毎週、6回目からは4週毎に皮注する。

今回のECLIPSE試験は1048人の患者を両剤に無作為化割付した二重盲検試験。主評価項目は48週時点のPASI90奏効率。結果はTremfyaが84.5%、Cosentyxは70.0%で有意な差があった。二次的評価項目のPASI75奏効率は84.6%対80.2%で、非劣性。

シーケンシャルに実施されたPASI75の優越性解析がフェールしたため、それ以降の解析は仮説検証的ではなく仮説探索的と評価されるが、12週時点のPASI75は89.3%対91.6%で、Cosentyxのほうが上回ったが非劣性。有害事象による治験離脱は5.1%対9.3%、深刻有害事象は6.2%対7.2%だった。

リンク: ヤンセンのプレスリリース

NBIX、valbenazineのトゥレット症候群試験はフェール
(2018年12月12日発表)

ニューロクリン・バイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)は、valbenazineの後期第二相トゥレット症候群試験がフェールしたと発表した。POC試験もフェールしており、意外感は小さい。

valbenazineは小胞モノアミントランスポータ2阻害剤で、ドパミンなどの神経伝達物質のシナプス前小胞への取り込みを減らし、不随意運動の発生に係るドパミン神経系機能異常を改善する。17年に米国で遅発性ジスキネジア治療薬として承認された。日本は田辺三菱製薬がライセンス。トゥレット症候群は平均6歳で運動性・音声チックを発症する希少疾患。

リンク: NBIXのプレスリリース


【承認申請】


イグザレルトを入院患者の血栓塞栓予防に適応拡大申請
(2018年12月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン社は、Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)をmedically ill患者の静脈血栓塞栓(VTE)予防に用いる適応拡大をFDAに申請した。

承認用途の一つである関節置換術などを受ける患者ほどではないが、心不全、脳卒中、呼吸器不全、感染症、炎症などの治療で入院中の要安静患者はVTEのリスクがある。治療ガイドラインはXa阻害剤などの抗凝固薬による予防を推奨しているが、今回の申請は退院後も投薬を続けるのが特徴だ。

申請の根拠となった二本の第三相のうち、MAGELLAN試験は、入院中及び退院後も最大35日間投与したところ、VTEリスクが低分子量ヘパリン(承認用法である入院中と退院後10日間の投与)より有意に小さかったが、出血リスクは増加した。MARINER試験は退院後の期間だけを比較したところ、フェールした。

このため、退院後35日コースは難しそうだが、入院期間中だけなら、他のXa阻害剤も承認されているので、承認される可能性がありそうだ。

リンク: ヤンセンのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、塩野義の新薬二品などの承認に肯定的意見
(2018年12月14日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会合で、塩野義製薬の新薬二品などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

塩野義製薬のlusutrombopagはトロンボポエチン受容体作動薬。待機的な観血的手技を受ける成人慢性肝疾患患者の血小板減少症を治療薬。日本では15年にムルプレタ名で、米国は今年8月にMulpleta名で承認された。製品名は現時点ではlusutrombopag Shionogiだが、後日変更されるのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

Rizmoic(naldemedine)はオピオイドの副作用であるオピオイド誘発性便秘症の治療薬。末梢ミューオピオイド受容体を拮抗してオピオイドから保護する。下剤による治療歴を持つ成人患者に用いる。日本はスインプロイク、米国はSymproic名で共に17年3月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

希少疾患用薬は二新薬が肯定的意見を得た。Besremi(ropeginterferon alfa-2b)は長期作用性インターフェロン・アルファで投与頻度は2週間に一回(長期維持療法では4週間毎も可)。適応は既存のPEG化インターフェロン・アルファと異なり、症候性脾腫を伴わない真性赤血球増多症の治療に用いる。ウイーンのAOP Orphan Pharmaceuticalsが2009年に台湾のPharmaEssentia社(TWSE:6446)から欧州の権利を取得して開発、承認申請したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

Trecondi(treosulfan)は他家造血幹細胞移植の前治療(『コンディショニング』)に用いるアルキル化剤プロドラッグ。2年無イベント生存率が向上する。ドイツのmedac Gesellschaft fur klinische Spezialpraparate mbHが承認申請した。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大が支持された主なものは、まず、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)が創製し欧州では武田薬品が開発販売している抗CD30抗体薬物複合体、Adcetris(brentuximab vedotin)。CD30陽性ホジキンリンパ腫の再発治療などに承認されているが、今回はステージIVの一次治療として、伝統的なABVD併用レジメンのうちbleomycinに代えてAdcetrisを用いる。ABVDと比較した試験で修正PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.77、p=0.035だった。米国では3月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のPARP阻害剤、Rubraca(rucaparib)。白金薬感受性卵巣癌の再発治療で白金薬レジメンに部分/完全反応した成人の維持療法に用いる。現在は三次治療に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、ノバルティスが心筋梗塞再発予防薬として適応拡大申請していた抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab)は、申請撤回となった。米国では10月に審査完了通知を受領している。CANTOS試験の成功が学会・論文発表された時は驚いたが、何か裏話があったのだろう。

EMA、オメガ3脂肪酸の心筋梗塞再発予防効果を認めず
(2018年12月14日発表)

EMAは、オメガ3脂肪酸(EPAとDHAの混合体)を心筋梗塞患者の心血管リスク削減に用いても十分な効果は認められないと判定した。欧州の一部の国で承認されている用途だが、適応取り消しになる。尚、高トリグリセライド血症の治療には引き続き使用できる。

当レポートでも何度か書いたが、オメガ3脂肪酸の近年の心血管アウトカム試験はフェール続きだ。承認の根拠となったGISSI Prevenzione試験の結果が再現できていないのだから、この試験の信憑性を疑わざるを得ないが、高力価スタチンの登場など医療全体の進歩で限界的な薬の限界効用が低下してしまったことが原因かもしれない。

尚、EPA・DHAを一日1gではなくEPAだけをもっと高量投与した試験は良好な結果になっており、今後の魚油ベースの治療の主流になりそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


シャイアの慢性便秘治療薬、米国でも承認
(2018年12月14日発表)

FDAはシャイア(武田薬品が買収予定)のMotegrity(prucalopride)を慢性特発性便秘治療薬として承認した。2mg(重度腎障害は半量)を一日一回経口投与する。腸の穿孔や閉塞、クローン病などの重度炎症性疾患は禁忌。自殺思慮・行動が警告注意事項になっている。

元々はジョンソン・エンド・ジョンソンが創製した5-HT4受容体作動剤で、Propulsid(cisapride)のリコールで懲りたのかMovetis社に導出、欧州で09年にResolor名で承認された。米国は04年に遺伝子毒性や癌原性懸念からFDAが治験許可を停止、開発が遅れた。

シャイアはリサーチ・アンド・サーチの先駆けで昔からインライセンスや企業買収に活発だ。2010年にMovetisを4.2億ユーロで買収、12年にFDAが治験再開を認めた後に米国の権利もJNJから取得し、心血管リスク評価などを行って今年3月に承認申請したもの。

リンク: Motegrityのレーベル(Drug@FDA収載)






今週は以上です。

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2018年12月9日

2018年12月9日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 光速承認の背景 
  • SABCS:カドサイラ、術後アジュバント試験成功 
  • ASH:luspaterceptの第三相成功 
  • ASH:ダラザレックス、Rd併用試験も成功 
  • ASH:イムブルビカの様々なCLL一次治療試験が成功 
  • イムフィンジ、頭頚部癌試験がフェール 
  • ASH:イグザレルト、高リスク癌患者の静脈血栓予防試験がフェール 
  • テセントリク、小細胞性肺癌の一次治療に適応拡大申請 
  • テセントリク、非扁平上皮非小細胞性肺癌の四剤併用一次治療が承認 


【今週の話題】


光速承認の背景
(2018年12月3日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を全身性未分化大細胞リンパ腫などのCD30陽性末梢T細胞リンパ腫の一次治療に用いる適応拡大をFDAが承認した時、光速承認と書いた(2018年11月18日号)。承認申請書類がFDAに届いてから11日後の承認だったからだ。これを可能にしたのがFDAが腫瘍学薬の承認審査に導入した、Real-Time Oncology Review(RTOR) Pilot Programだ。

報道によると、同社のCEOであるClay Siegall氏もこの制度について初めて聞いた時、光速と感じたそうだ。適応拡大試験が大成功で条件を満たしうるものだったため、FDAに適用を求め、結果、トップラインデータ発表の46日後に承認取得した。承認審査を前倒しする仕組みなので実際の審査期間は11日間より長いはずだか、申請書類作成期間も含めて1ヶ月半というのは大変な驚きだ。

RTORに即して承認されたのは3例目とのことなので、この機会に、当プログラムと過去3例を紹介しよう。

フローはこうだ。承認申請者は適応拡大試験のトップラインが判明した段階でFDAに相談し、このプログラムの適用を認められたら、トップライン・データを提出する。FDAは予備的な審査を行い論点を明確化、申請者に追加データ・分析を都度求める。Adcetrisの場合もデータのやり取りが繰り返されたが、FDAが設定した提出期限は常に24時間後だった由なので、FDAだけでなく申請側にも光速が求められることになる。全書類を提出し終わり正式に承認申請することには審査がかなり進行しているので、その後の審査期間を短縮できる。

RTORの適用条件は、既承認薬の適応拡大で、既存の薬と比べて大きな改善をもたらすものであり、臨床試験のデザインが単純で、評価項目の解釈が容易であること、等。評価項目の明快さは例えば無作為化割付試験の全生存解析。米国外だけで実施された試験や予防試験、また、製法変更、薬理学的・毒性試験データ、コンパニオン診断薬を伴うものなどは対象外。

パイロットプログラムの実施期間や本格採用あるいは腫瘍学薬以外での導入については未定。将来は適応拡大だけでなく新薬も対象になる可能性があるようだ。

RTORに加えて、Assesment Aid Pilot Programも導入された。FDAが用意するテンプレートに即して情報を提出、ページの片側に記された申請者の評価の横にFDA側の評価が併記されるため論点が明確になる。これも対象は腫瘍学。適応拡大だけでなく新薬も可。申請者が任意で利用する。

RTOR承認第一号であったノバルティスのKisqali(ribociclib)はこの両方を採用した。今年4月にFDAとRTOR協議を行い、同月、トップラインデータ(『申請前パッケージ』)を提出、6月に正式な承認申請を行い、PDUFA日は12月だったが申請の20日後、申請前パッケージ提出からだと85日後に承認された。内容は、ホルモン受容体陽性、her2陰性の末期・転移乳癌の一次治療(アロマターゼ阻害剤またはfulvestrant併用)と二次治療(fulvestrant併用)なので、複数の臨床試験のデータが対象となった。

第二号はMSDのKeytruda(pembrolizumab)。KeyNote-189試験に基づいて非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用を申請した。試験成功が発表されたのは18年1月16日、RTOR協議を経て申請前パッケージを提出したのは2月27日、正式な承認申請は3月23日で審査期限は9月23日に設定され、8月20日に承認された。通常の優先審査より1ヶ月早いがAdcetris、Kisqaliほどではない。

最後に、Adcetrisは適応拡大試験成功が発表されたのが10月1日、申請前パッケージの提出時期は不明、適応拡大申請は11月4日、承認は11月16日だった。前二回も通常よりは早かったが、光速と呼べるのはAdcetrisだけだろう。

リンク: FDAの制度紹介ページ
リンク: FiercePharmaの報道


【新薬開発】


SABCS:カドサイラ、術後アジュバント試験成功
(2018年12月5日発表)

ロシュの抗体薬物複合体、Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)の術後アジュバント試験、KATHERINEの結果がサン・アントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。再発死亡リスクがHerceptin(trastuzumab)群を有意に下回る、良好な結果だった。

この試験は、her2陽性早期乳癌で切除前にタクサン系抗癌剤とHerceptinによるネオアジュバント治療を行ったが病理学的完全反応に到達しなかった患者をKadcyla群とHerceptin群に無作為化割付して14サイクル投与し、侵襲性疾患の再発や死亡のリスクを比較したもの。結果は、ハザードレシオ0.50、p<0.0001だった。

3年無侵襲性疾患生存率は88.3%対77.0%で上回った。全生存のハザードレシオは0.70だったがデータが未成熟でpは0.08と未だ有意水準に到達していない。深刻有害事象の発生率は12.7%対8.1%で増加した。

ロシュは適応拡大申請に向かう予定。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: Minckwitzらによる治験論文(NEJM)

ASH:luspaterceptの第三相成功
(2018年12月2日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)とAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)は、ASH(米国血液学会)で、ACE-536(luspatercept)の第三相試験二本の結果を発表した。良好な内容で、19年上期に欧米で承認申請する予定。

luspaterceptはアクティビン受容体IIB型の細胞外領域とヒト免疫グロブリンG1型の固定領域を融合した蛋白。TGFベータ・スーパーファミリーが受容体に結合して赤血球の成熟を妨げないよう羽交い絞めにする。セルジーンは11年にAcceleronから共同開発販売権を取得した。

第三相の一本は環状鉄芽球陽性のMDS(骨髄異形成症候群)でリスク分類は超低、低、または中度、そして疾病装飾薬による治療は受けておらず、エポエチン不応不耐で輸血に依存している貧血症を組入れ、1.0mg/kgを3週毎に皮注したところ、奏効率(8週間以上赤血球輸血なし)が37.9%と偽薬群の13.2%を有意に上回った。

治療時発現有害事象は153人中5人で発生、偽薬群は76人中1人。急性骨髄性白血病(AML)が3人で発生したが、偽薬群も1人となっており、今回の試験だけでは二次性AMLのリスクを評価するにはデータ不足。

もう一本は、輸血依存ベータサラセミアを治療したところ、奏効率(第13-24週の輸血量がランイン期間中と比べて33%以上減少)が21.4%と偽薬群の4.5%を有意に上回った。深刻有害事象は15.2%と偽薬群の5.5%より多かった。メカニズム的に不可避なのだろうが、血栓性イベントの発生率も偽薬群を上回り、G3以上だけでも0.9%対0%となっている。

リンク: 両社のプレスリリース(MDS試験、12/2付)
リンク: 両社のプレスリリース(ベータサラセミア試験、12/1付)

ASH:ダラザレックス、Rd併用試験も成功
(2018年12月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の第三相新患多発骨髄腫試験、MAIA試験の成功をASHで発表した。自家幹細胞移植不適にRevlimid(lenalidomide)と低量dexamethasoneを併用するRd療法に更にDarzalexを追加したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオがRd療法群比0.56、ログランクp値<0.0001と効果が増強された。メジアンは未達、Rd療法は31.9ヶ月だった。

完全反応率は48%対25%で上回り、治療時発現有害事象による死亡は6%対7%で大差なかった。適応拡大申請に向かう予定。

Darzalexはジェンマブ社からライセンスした抗CD38トランスジェニックマウス抗体。多発骨髄腫のサルベージ療法として15年に米国で、16年に欧州で、17年には日本でも承認された。

リンク: ヤンセンのプレスリリース(pdfファイル)

ASH:イムブルビカの様々なCLL一次治療試験が成功
(2018年12月3日発表)

Bruton's tyrosine kinase阻害剤Imbruvica(ibrutinib)のCLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)一次治療試験三本の結果がASHで発表された。様々なタイプの患者に様々な薬と併用しており、エビデンスの充実がうかがわれる。

まず、iLLUMINATE試験。ロシュの糖鎖改変型タイプII抗CD20抗体Gazyva(obinutuzumab、和名ガザイバ)と併用する効果をGazyva・chlorambucil併用と比較したところ、PFSハザードレシオは0.23、p<0.0001だった。メジアンは未達、対照群は19.0ヶ月。有害事象による治験離脱は16%対9%だった。

Imbruvicaは一次治療として単剤投与することが承認されているが、副作用忍容力のある患者に対する併用は未だ。アッヴィは10月にこの試験のデータで適応拡大申請した。

リンク: アッヴィのプレスリリース(12/3付)

次に、Alliance for Clinical Trials in OncoogyとNCI(米国立癌研究所)が主導した第三相試験。高齢CLLの初治療としてImbruvicaを単剤あるいはrituximab併用で施行する効果をrituxanとbendamustineの併用と比較したところ、PFSハザードレシオがモノセラピーは0.39、併用も0.38となった。2年無進行生存率はモノが87%、併用88%、対照群は74%だった。

一方、2年生存率は各90%、94%、95%だった。95%信頼区間はオーバーラップしているので大差ないと受け止めるべきなのだろうが、奇妙な感じである。

グレード5有害事象の発生率は各群13%、12%、9%。要因は明確ではないが、New England Journal of Medicine電子版の治験論文によれば二次性腫瘍による死亡や説明不能・証言者不在の死亡がやや多い。グレード5症例はなかったがグレード3と4の心房細動も増加した。Imbruvicaが諸刃の剣であることを思い起こされる。

リンク: Woyachらの治験論文(NEJM、12/1付電子版)

最後に、これも研究者主導のE1912試験。70歳以下の新患CLL/SLLを組入れて、Imbruvicaとrituximabの併用をFCR(fludarabine、cyclophosphamide、rituximab)レジメンと比較したところ、PFSハザードレシオが0.35、全生存のそれは0.17と、有意な差があった。

リンク: アッヴィのプレスリリース(12/4付)

ASH:ニンラーロ、新患維持療法試験のデータを発表
(2018年12月3日発表)

武田薬品は、経口プロテアソーム阻害剤Ninlaro(ixazomib cirate、和名ニンラーロ)のTOURMALINE-MM3試験のデータをASHで発表した。大量化学療法と自家造血幹細胞移植に反応した多発骨髄腫656人を組入れてNinlaroを週一回、3回投与して1回休むペースで最長24ヶ月投与したところ、独立審査委員会評価に基づくPFS(無進行生存期間)がメジアン26.5ヶ月と偽薬群の21.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.72、p=0.002と有意な差があった。深刻有害事象の発生率は27%対20%、有害事象による治験離脱は7%対5%で若干増加した。

武田薬品は適応拡大に向けて各国の承認審査機関と相談する考え。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)

イムフィンジ、頭頚部癌試験がフェール
(2018年12月7日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1ヒト化抗体Imfinzi(durvalumab)の第三相頭頚部扁平上皮種試験がフェールしたと発表した。欧米や日本など24ヶ国の白金薬歴を持つ難治性転移性患者をPD-L1の発現を問わずに組入れて、モノセラピーやtremelimumab(ファイザーからライセンスした抗CTLA-4ヒト化抗体)併用の延命効果を標準療法と比較したが、有意な差はなかった。同社は両剤併用で一次治療試験も実施しており19年上期に開票の見込み。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ASH:イグザレルト、高リスク癌患者の静脈血栓予防試験がフェール
(2018年12月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の第三相CASSINI試験の結果を発表した。静脈血栓塞栓症のリスクが高い癌患者1080人を組入れて10mgを一日一回、180日間経口投与する効果を検討したところ、複合主評価項目である深静脈血栓、肺塞栓または静脈血栓塞栓による死亡の発生率が5.95%と偽薬群の8.79%を大きく下回りハザードレシオ0.66と良さそうな数字が出た。しかし、p値は0.101と有意水準に到達しなかった。

治験離脱が50.2%、偽薬群も43.7%、と高かったことが原因で、治療期間中(on-treatment)の解析は2.62%対6.41%で有意な差があった。但し、主評価項目ではないだろうから厳密には有意とは言えないだろう。ISTH基準に基づく大出血は1.98%対0.99%で、これは有意ではないとのことだが、検出力不足が原因だろうから、厳密には有意でないとは言えないだろう。

ヤンセンはon-treatmentの解析に基づいて当局と適応拡大に向けた相談を行う考えのようだが、現実の医療ではintent-to-treatが重要であることを考えれば、血栓事故が発生する前に死亡したり患者が服用を止めてしまうような治療は割り引いて受け止めたほうが良いのではないか。

リンク: ヤンセンのプレスリリース(pdf)


【承認申請】


テセントリク、小細胞性肺癌の一次治療に適応拡大申請
(2018年12月5日発表)

ロシュは抗PD-L1ヒト化抗体Tecentriq(atezolizumab)を進展型小細胞性肺癌の一次治療としてcarboplatin及びetoposideと併用する適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査で審査期限は3月18日。

IMpower133試験に基づくもので、メジアン生存期間が12.3ヶ月と上記二剤だけの群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、p=0.0069。PFSは差が小さく、メジアンは5.2ヶ月対4.3ヶ月、ハザードレシオは0.77、p=0.017だった。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


テセントリク、非扁平上皮非小細胞性肺癌の四剤併用一次治療が承認
(2018年12月6日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Tecentriq(atezolizumab)を転移性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。EGFRやALKに悪性遺伝子変異を持たない患者に、carboplatin、paclitaxel、Avastin(bevacizumab)と四剤併用する。PD-L1発現は問わない。

第三相IMpower150試験ではメジアン生存期間が19.2ヶ月と他の三剤を投与した群の14.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78、p=0.016だった。

非扁平上皮非小細胞性肺癌の場合、paclitaxelではなくAlimta(pemetrexed)を好む医師や患者もいるだろうし、抗体医薬二剤併用は高価に付きそうだ。それでも、同じ抗PD-1/PD-L1でも肺癌試験の成否は区々なので、再発治療だけでなく一次治療も承認されたことは競争面で価値が大きい。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年12月2日

2018年12月2日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • DRCでエボラの臨床試験開始も、アビガンは見送り 
  • オプジーボ、小細胞性肺癌の市販後薬効確認試験がまたフェール 
  • ティッシュー・アゴノスティック抗癌剤が承認 
  • amifampridineが新薬として承認 
  • アステラスのゾスパタが米国でも承認 
  • MSDの新規抗HIV薬がEUでも承認 
  • ポテリジオがEUでも承認 
  • シャイア、TakhzyroがEUでも承認 
  • 武田のALK阻害剤がEUでも承認 
  • FDAがIDH阻害剤の分化症候群リスクを警告 
  • FDA、Lemtradaの卒中・動脈剥離リスクを警告 


【今週の話題】


DRCでエボラの臨床試験開始も、アビガンは見送り
(2018年11月26日発表)

エボラは2014年にギニアなどで大流行し、1万人以上が死亡したのち、沈静化した。数年毎に流行する傾向があり、今年はコンゴ民主共和国(DRC)で400人以上が発症(疑い例も含む)、200人以上が死亡した。WHOやMSF(国境なき医師団)などが対応に当たっているが、今回も、紛争や公衆衛生・現代医療に対する知識不足・不信が障害になっているようだ。米国政府職員は危険地域への出張が禁じられており、CDC(疾病管理予防センター)の経験豊富な職員も足止めを食らっている。

2014年との違いは、薬やワクチンについてある程度の感触が掴めていること。ワクチンは、発症者の濃厚接触者にring vaccinationして感染を輪の中に封じ込めるために、MSDの遺伝子組換え型弱毒化生ワクチン、V920/rVSV-ZEBOVが用いられている。

薬はカナダ政府機関が創製しMapp Biopharmaceutical/LeafBioが開発生産するモノクローナル抗体混合薬、ZMappがデファクト・スタンダードになっている模様。他にも候補は多いが、臨床試験が終わらないうちに前回の流行が終わってしまったため、エビデンス不足の状態。ZMappの供給体制は十分とは言えないため、DRC政府は3種類の開発品の治療効果をZMappと比較する臨床試験を開始した。

まず、NIAID(米国立アレルギー感染症研究所)がDRCやスイスなどの研究組織と共同開発した、感染生存者から単離した抗体、mAb114。一つで済むなら生産性が向上する。次に、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)。Filovirus系ウイルスに有効と考えられている核酸医薬で、動物試験では感染の3日目に投与を開始する用法で生存率100%だった。最後に、リジェネロンのREGN-EB3。エボラウイルスに対する3種類の完全ヒト化抗体の混合体だ。

前回はフランスなど一部で富士フィルム富山化学のアビガン(favipiravir)も用いられ、現在も出動に備えて備蓄されているはずだが、今回の試験には採用されなかった。WHOが公開したエキスパート評価によると、患者に便益をもたらすかどうか、大きな不確かさ(considerable uncertainty)があるとのことだ。用量も明確ではない。フランスの国立研究機関の推奨量は日本でインフルエンザ治療に承認されている用量の初日は3倍、維持用量は2倍となっている。

これらのことから、上記4剤の何れも入手できない時のバックアップという位置付けに留められている。

リンク: WHOのプレスリリース


【新薬開発】


オプジーボ、小細胞性肺癌の市販後薬効確認試験がまたフェール
(2018年11月26日発表)

BMSは第三相CheckMate-451試験がフェールしたと発表した。進展段階の小細胞性肺癌で白金薬ベースの一次治療に反応または安定化した患者を組入れて、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)の二剤による維持療法の延命効果を検討したが、偽薬を有意に上回らなかった。

この併用は4月に米国で小細胞性肺癌の三次治療に用いることが承認されたが、加速承認で、19年7月までに全生存期間が向上することを示す臨床データを提出しなければならない。10月のCheckMate-331二次治療試験のフェールに続くセットバックで、最悪、承認取り消しの可能性も出てきた。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


ティッシュー・アゴノスティック抗癌剤が承認
(2018年11月26日発表)

FDAは、Loxo Oncology(Nasdaq:LOXO)のVitrakvi(larotrectinib)をNTRK融合蛋白陽性の切除不能転移性固形癌用薬として承認した。代替的治療法がない場合、または治療後に進行した、成人小児が適応になる。NTRK融合蛋白陽性でもこの薬剤に抵抗性を持つ変異は適応外。

抗癌剤の適応は原発部位や転移部位毎に決定されるのが一般的だが、癌原性遺伝子変異を標的とする分子標的薬は当該変異を持つ複数の部位の癌に有効性を示すことがある。her2やEGFRに対するモノクローナル抗体が一例だ。

Vitrakviは固形癌であれば発生組織は問わない、tissue agonosticな抗癌剤として承認された。同様な事例としてはMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)がマイクロサテライト不安定性が高い癌に承認されているが、最初の適応が組織不問なのはVitrakviが初めてだ。

NTRKはニューロンの制御に関与するtropomyosin receptor kinasesの遺伝子で、他の遺伝子と融合してレガンド結合ドメインを喪失すると、恒常的に活性化する。該当するのは癌の0.5~1%、米国で1500~5000人と稀。臨床試験では17種類の癌が組入れられたが、軟組織肉腫や唾液腺腫、幼児線維肉腫などが比較的該当率が高いようだ。

成人は100mgを一日二回、経口投与、小児は体表面積に応じて調整する。臨床成績はORR(客観的反応率)が75%、6ヶ月反応持続率は73%、1年持続は39%。有害事象は神経や肝臓、胚・胎児毒性。

報道によると、WAC(卸取得価格)は月32800ドル。バイエルが米国で共同販促、海外は独占販売する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Loxo社のプレスリリース

amifampridineが新薬として承認
(2018年11月28日発表)

FDAはCatalyst Pharmaceuticals(Nasdaq:CPRX)のFirdapse(amifampridine phosphate)をランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)治療薬として承認した。19年第1四半期に発売予定。価格がどの程度高騰するのか、12月のロンチ計画発表が注目される。

LEMSは電位依存性カルシウムチャネルが自己抗体に攻撃される自己免疫疾患で、筋力の低下や自律神経障害などを伴う。二人に一人は小細胞性肺癌などの腫瘍を併発しており、癌の治療に応答する。血漿交換やステロイドも有効である模様。米国の患者数は3000人と推定されている。

amifampridine(3,4-DAP)はカリウムチャネルブロッカーで、90年代にLEMSに有効であることが発見され、未承認のまま広く用いられるようになったが、品質や供給力に懸念が表明されている。今回のリン酸塩(3,4-DAPP)はフランスの研究所が創製したもので、欧州ではバイオマリン(Nasdaq:BMRN)が09年に発売した。

ここで、温故知新型新薬に付き物の問題が発生した。これまで3,4-DAPを用いていた患者は、3,4-DAPPにスイッチすると費用が数十倍に急増してしまうのだ。批判が大きかったのか、コスト意識が強い欧州では売れなかったのか、バイオマリンは12年に北米の権利をCatalystにライセンスした。

このような経緯があるので、Catalystが米国でどのようなプライシングを行うか、注目される。また、3,4-DAPを販売しているJacobus Pharmaceuticalsも正式に承認を取る方針である模様なので、競合品の動向も気になるところだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Catalyst社のプレスリリース

アステラスのゾスパタが米国でも承認
(2018年11月28日発表)

FDAは、アステラス製薬のXospata(gilteritinib、和名ゾスパタ)を再発・難治性FLT3変異陽性AML(急性骨髄性白血病)用薬として承認した。遺伝子内縦列重複変異(ITD)あるいはチロシンキナーゼドメイン変異(TKD)を持つ、AMLの3割程度が対象。FLT3阻害剤は昨年、ノバルティスのRydapt(midostaurin)がAMLの一次治療併用薬として承認されたが、再発治療の承認は初。

120mgを一日一回、経口投与する。臨床試験では21%の患者が完全寛解/部分的血液学的回復を伴う完全寛解を達成した。FDAは重要な有害事象として可逆性後頭葉白質脳症症候群やQT延長、膵炎の監視を勧告。稀に分化症候群が見られる。胚胎児毒性あり。報道によると、WAC(卸取得価格)は30日分が22500ドル。日本では9月に承認され、薬価は30日分が約175万円。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アステラスのプレスリリース(和文、29日付)

MSDの新規抗HIV薬がEUでも承認
(2018年11月28日発表)

MSDの新規非核酸系逆転写阻害剤、Pifeltro(doravirine)とlamivudine及びtenofovir disoproxil fumarateを配合したDelstrigoがEUで承認された。初治療に用いるのも可。同じNNRTIであるSustiva(efavirenz)より安全性が高いとされる。ギリアドが創製したTDFの合剤が用意されていることもポイントか。米国では8月に承認。

リンク: MSDのプレスリリース

ポテリジオがEUでも承認
(2018年11月26日発表)

協和発酵キリンの抗CCR4ポテリジェント抗体、Poteligeo(mogamulizumab、和名ポテリジオ)がEUで承認された。全身治療歴を有する成人の菌状息肉腫(MF)およびセザリー症候群(SS)に用いる。米国では8月に承認。日本では12年にCCR4陽性成人T細胞白血病で初承認、今年8月に上記用途も承認された。

リンク: 協和発酵キリンのプレスリリース(英文)

シャイア、TakhzyroがEUでも承認
(2018年11月30日発表)

シャイアの抗血漿カリクレイン抗体、TakhzyroがEUでも遺伝性血管浮腫の発作予防に承認された。二週毎に皮注、管理良好なら四週毎も可。第三相試験では発作を87%削減した。

15年に承認マイルストンを含め65億ドルで買収したDyax社の開発品。米国では8月に承認。シャイアと買収で合意した武田薬品にとっても重要な新薬だ。

リンク: シャイアのプレスリリース

武田のALK阻害剤がEUでも承認
(2018年11月28日発表)

武田薬品のALK阻害剤、Alunbrig(brigatinib)がEUでALK陽性非小細胞性肺癌用薬として承認された。ALK阻害剤の先輩であるcrizotinibに不応不耐の患者に用いる。臨床試験では確認ORR(客観的反応率)が53%、メジアン反応持続期間は13.8ヶ月、脳転移症例における頭蓋内ORRは67%だった。致死的有害事象の発生率は3.7%で、肺炎、突然死、呼吸困難など。米国では昨年4月に承認された。

医薬品開発拠点間の優勝劣敗は世界共通の現象で、例えばロシュはジェネンテック頼みの状態が続いている。武田薬品も日本の生産性低下をミレニアムのアウトプットや企業買収で補い、今回、現経営体制下では初めて大型買収に踏み切ることになる。それと比べれば小さいとはいえ、17年のAriad社買収も総額54億ドルと大きな買い物だった。Alunbrigはファーストインクラスのcrizotinibよりは良さそうだが競合品は数多いので、投資を回収するには工夫が必要だろう。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)


【医薬品の安全性】


FDAがIDH阻害剤の分化症候群リスクを警告
(2018年11月29日発表)

FDAは、Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)が開発しセルジーン(Nasdaq:CELG)が販売するIDH2変異型難治再発AML(急性骨髄性白血病)用薬Idhifa(enasidenib)に関して、分化症候群のリスクを患者も含めてきちんと認識するよう警告する安全性情報を発出した。今年5~7月の安全性報告で分化症候群に関連する死亡が5例報告されたことが引き金のようだ。

臨床試験では14%の患者で発生した。治療開始後、早いケースでは10日、遅い事例では5ヶ月程度で発生。症状は急性呼吸器不全や肺浸潤、胸水、リンパ節腫脹などだが、当初は心原性肺浮腫や肺炎、敗血症と酷似のこともある。

Agios社はIDH1阻害剤Tibsovo(ivosidenib)も今年、IDH1変異型難治再発AMLに米国で承認されたが、こちらも分化症候群のリスクがあるようだ。IDH阻害剤は分化を促すことで癌を抑制するメカニズムなので、分化症候群の発生は已むを得ないのかもしれない。問題は、これまで、急性前骨髄球性白血病用薬であるレチノイン酸くらいでしか起きなかった珍しい有害事象であるため、馴染みの少ない医療従事者がいても不思議はないことだ。

FDAが承認時から枠付き警告されているリスクを改めて念押ししたのは、このような懸念が背景かもしれない。画期的新薬はマスコミが良いことばかり書いて深刻な副作用を割愛しがちであることにも問題意識を持っているだろう。

FDAの研究者は土曜日に始まったASH米国血液学会でIDH阻害剤の分化症候群リスクに関する発表を行う予定。抄録によるとIdhifaの臨床試験では19%の患者で発生、5%が致死的だった由。

リンク: FDAの安全性情報
リンク: Norsworthyら(ASH抄録)

FDA、Lemtradaの卒中・動脈剥離リスクを警告
(2018年11月29日発表)

FDAは、サノフィのLemtrada(alemtuzumab)で稀だが深刻な卒中や動脈剥離が報告されていることを警告した。かってはMabCampath/Campath名でB細胞慢性リンパ性白血病用薬としても販売されていた抗CD52ヒト化抗体だが、年一回、5日連続で一日一回静注する多発性硬化症治療薬Lemtradaとして14年に米国で承認されて以来、世界で13例報告された。

うち、出血性脳卒中が7例、虚血性が2例、残りは頸動脈剥離などの複合例で、一人は死亡した。一例を除き投与後1日以内に発症。タイミング的にサイトカイン症候群と関連する可能性もあるが明確ではない。

深刻な自己免疫疾患や点滴箇所反応、甲状腺がんや黒色腫、リンパ増殖性疾患などのリスクもある難しい薬なので他の薬で再発を抑制できない難治性患者だけに使われているはずだが、出番が一層減ることになりそうだ。

リンク: FDAの安全性情報






今週は以上です。

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