2021年10月29日

第1023回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • Novavax、抗原ワクチンをまず英国で承認申請 
  • FDA諮問委員会、5~11歳のコミナティ接種を支持したが... 
  • その他の領域: 
  • アッヴィ、持続皮下注型パーキンソン病薬の第3相が成功 
  • 歯周病菌を治療すればアルツハイマーの進行を抑制? 
  • MSD、日本発の抗HIV薬の第3相が成功 
  • イミフィンジの胆道癌試験が成功 
  • デュピクセントの二本目の好酸球性食道炎試験が成功 
  • Rafael、第3相にジャンプしたが失敗 
  • イラリスの肺癌試験は二本目もフェール 
  • リリー、アルツハイマーと糖尿病の新薬承認申請 
  • 抗NGF抗体の開発を断念 


【COVID-19関連】


Novavax、抗原ワクチンをまず英国で承認申請
(2021年10月27日発表)

米国メリーランド州のワクチン開発会社、Novavax(Nasdaq:NVAX)は、英国でNVX-CoV2373の条件付き承認申請を行った。日本では武田薬品がライセンスし1.5億回分の供給を予定しているCOVID-19ワクチンのグローバル承認申請が始まったことになる。

受容体融合前の構造のスパイク蛋白の遺伝子を導入したバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させて製造するナノ粒子状抗原ワクチンで、通常の冷蔵庫で保存可能。原薬は富士フィルムの米国の子会社が生産する。5mcgとサボニン・ベースのMatrix-Mアジュバント50mcgからなり、21日置いて2回筋注する。

第3相は英国で15000人規模、米墨で3万人規模の試験を行い、前者はワクチン効率が89.7%、重症はゼロ、偽薬群の5人と比べて100%防いだ。野生株に関するワクチン効率は96%、アルファ株は86%だった。米墨試験はワクチン効率90.4%、中等症・重症はゼロ対14人で100%防いだ。

EUやWHOでも承認申請手続きを進めている。

リンク: 同社のプレスリリース



FDA諮問委員会、5~11歳のコミナティ接種を支持したが...
(2021年10月26日発表)

FDAはワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会を開催し、ファイザーがドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)からライセンスして共同開発したCOVID-19ワクチン、Comirnaty(tozinameran、開発コードBNT162b2)を5~11歳の健常者が接種する危険と便益について意見を聞いた。18人の委員のうち17人が便益が上回ると回答し、一人は棄権した。複数の委員がリスク因子を持つ人に限定することを打診したが、FDAは受け入れず、上回る、下回る、どっち?と迫った。

第2/3相試験では16歳以上の用量の1/3である10mcgを3週置いて二回接種したところ、免疫原性が16~25歳を組入れた別の試験のデータと非劣性だった。記述的解析として予防効果を検討したところ、ワクチン群の症候性感染は解析対象1450人中2人、偽薬群は736人中16人で、ワクチン効率は90%だった。重症感染者は両群ともゼロ。副作用は過去の治験と概ね同様だった。若年層で懸念されている稀な有害事象である心筋炎・心膜炎は、接種実績が全部で3000人程度と少ないせいか、報告されていない。

諮問委員が躊躇した理由は、第一に、この年代の罹患リスクは上の年代と比べれば高くないこと。米国の対象人口2800万人に対して過去1年間のCOVID-19関連死亡は66人と、インフルエンザ並みの脅威にはなっているものの、高齢者ほどではない。また、小児の4割以上は既に抗体を保有しているという調査もあるようで、現実の医療におけるワクチン効率は上記より低くなる可能性もある。

一方、危険面では、心筋炎・心膜炎が特に男子では女子や30代以上と比べれば多く発生するようだ。但し、疫学研究なので精度が低い可能性があり、実際、データソースによって数値が異なるのでハッキリしたことは言えない。また、発見されても入院や治療が必要な症例は少ないと言われている。それでも、何人においても便益が危険を上回ると断言するには裏付けが不十分かもしれない。

勿論、FDAの承認は使ってもよいと言っているだけで、使うべきかどうか決めるのは医師である。ワクチンの場合は医師のアドバイスを受けずに決める人も多いので、CDC(米国疾病管理予防センター)がACIP(ワクチン接種諮問委員会)の意見に基づき行う推奨を参考に、最終的な判断は個々人が決めることになる。

これが一般論だが、米国では、EUAではなく正式承認された対象人口に関して、従業員に接種を求める医療施設や自治体、企業が相次いでいる。多くの場合、定期的に感染検査を行う代替的な選択肢も用意されていて、米国は無料で検査できるので、接種義務付けではないが、諮問委員は、承認≒接種圧力となってしまうシナリオを懸念している様子だ。

興味深いことに、英国がアストラゼネカのワクチンについて行ったのと同様に、FDAも便益と危険の定量化を試みている。ワクチン効率は症候性感染が70%、入院予防効果は80%、心筋炎・心膜炎の発生頻度は30mcgを投与した12~15歳の疫学データと同じ、と前提した上で、流行度合いは現状、8月末のピーク水準、6月のボトム水準の三つのシナリオと、ワクチン効率90%シナリオ、COVID-19死亡率が高まるシナリオについて、便益と危険を100万人当たりの減少と増加で示した。

どちらも入院の数値に着目すると、心筋炎・心膜炎は接種100万人当たり92人増加する。男子は156人、女子は28人と大きな偏りがあるが、この病気の罹患率は、元々、10代男子が一番高いとのことだ。

流行がピーク水準の場合、ワクチンはCOVID-19入院を接種100万人当たり250人減らすことができる(男女とも同数)。ボトムの場合、同21人減る(同)。ワクチン効率が90%の場合、入院減少数が2~3割増える。

この指標では、ピーク時でも便益と危険の倍率は2~3倍で、女子は10倍近いが男子は2倍以下と接近する。

このような試算は一定の前提のもとに、リンゴとミカンを比べるものなので、数値だけ見て判断するのは誤りだ。かといって、何も調べず、何の根拠もなく便益や危険を上回ると断定するのも誤りだ。結局、個々人の事情に即して判断するしかないのだろう。

尚、FDAはICU入室や死亡に関する推計も行なっているが、疫学データのサンプル数が少ないことや、上記試験で重症感染症や死亡を防ぐ効果は確認されていないので、本稿では割愛した。興味のある人は下記リンクの資料を参照されたい。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDA諮問委員会関連情報


【新薬開発】


アッヴィ、持続皮注型パーキンソン病薬の第3相が成功
(2021年10月28日発表)

アッヴィは、ABBV-951(foslevodopa、foscarbidopa)の第3相進行パーキンソン病実薬対照試験が成功したと発表した。承認申請の主要構成要素となる予定。

同社はlevodopaとcarbidopaを胃瘻チューブ経由で16時間持続腸注入するDuopa(米国外ではDuodopa)を販売しているが、ABBV-951は両活性成分のプロドラッグを24時間持続皮下注入することができる。当試験は進行パーキンソン病患者130人を米国などの施設で組入れて、第24週のオン時間(薬剤が効いて症状を抑制できている時間。煩わしくない程度のジスキネジアが発現した時間も含む)を経口levodopa・carbidopa配合剤と比較した、無作為化割付二重盲検ダブルダミー試験。

結果は、2.75時間増対0.97時間増となり有意に上回った。オフ時間(症状が発現または煩わしいジスキネジアが発現した時間)も2.75時間減対0.96時間減だった。深刻有害事象発現率は8%対6%と大差なかったが、有害事象による治験離脱率は21.6%対1.5%と大きな偏りが出た。理由は不明。

リンク: 同社のプレスリリース



歯周病菌を治療すればアルツハイマーの進行を抑制?
(2021年10月26日発表)

米国南サンフランシスコの新興企業、Cortexyme(Nasdaq:CRTX)はCOR388(atuzaginstat)の第3相アルツハイマー病試験で主目的は達成できなかったものの、唾液検査でポルフィロモナス・ジンジバリスDNA陽性だったサブグループでは共同主評価項目の一つで用量依存的に悪化を抑制する効果が示唆されたと発表した。当局などと今後の方針を相談する考え。

COR388は歯周病とアルツハイマー病の関連を示唆する仮説に立脚したプロジェクトで、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌が分泌するプロテアーゼ、リジン・ジンジパインを阻害する。第3相GAIN試験では欧米の施設で軽中度アルツハイマー病643人を組入れて、偽薬、40mg、または80mgを一日二回経口投与し、ADAS-Cog11とADCS-ADLの変化を48週間、観察したが、どちらもフェールした。

しかし、上記のサブグループ(242人)ではADAS-Cog11の悪化が40mg群は偽薬比42%、80mg群は57%小さかった(p=0.02と0.07)。一方、ADCS-ADLでは有意な差はなかった。

仮説を考えれば、この細菌が関与するアルツハイマー病にしか効かなくても不思議はなく、サブグループ分析は悪魔が潜むと一蹴するのは躊躇する。それでも、ADAS-Cog11の絶対差は2ポイント程度なので治療効果が大きいようには感じられない。生活機能を評価するADCS-ADLの悪化を抑制できなかった点もネガティブだ。

このサブグループの症例数は各群82人、86人、74人と群間の偏りがあるので、患者背景に偏りがあっても不思議はない。また、アルツハイマー病の患者の一部は進行が速いようだが、事前に予測することはできないようなので、小規模な解析のかく乱要因になり得る。

ADAS-Cog11の解析はMixed-effects Model Repeated Measures方式だが、48週時点のnumber at riskは各群74人、62人、48人とドロップアウト率に大きな偏りが出た影響がないとも言えないだろう。

忍容性面では肝機能検査値異常(通常値上限の3倍以上)の発生率が各群2%、7%、15%と用量相関的に上昇し、80mg群では2人が説明できないビリルビン上昇を併発した。もしHayの法則に該当するなら、発現率1%は慢性疾患の治療薬としてはアウトなのではないかと危惧される。

リンク: 同社のプレスリリース



MSD、日本発の抗HIV薬の第3相が成功
(2021年10月25日発表)

MSDはMK-1439(doravirine)とMK-8591(islatravir)の固定用量合剤の第3相試験が二本、成功したと発表した。どちらも他の抗ウイルス剤のレジメンによりHIVの抑制に成功している患者を組入れたスイッチ試験で、一本はギリアド・サイエンシズのBiktarvy(bictegravir、emtricitabine、tenofovir)服用者だけを組入れた。どちらもウイルス抑制フェール率が従来レジメンを継続した群と同程度だった。

doravirineは非ヌクレオシド逆転写阻害剤で、Pifeltro(和名はピフェルトロ)として日米欧で多剤併用することが承認されている。islatravirはヌクレオシド逆転写酵素トランスロケーション阻害という新しい作用機序を持っている。横浜薬科大の大類洋博士らがヤマサ醤油と満屋裕明国立国際医療研究センター研究所長(世界で初めて抗HIV薬を発見)と共同で研究開発したもの。

リンク: 同社のプレスリリース



イミフィンジの胆道癌試験が成功
(2021年10月25日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相切除不能進行/転移胆道癌一次治療試験、TOPAZ-1が成功したと発表した。米州や欧州、そして日本を含むアジアの施設で、中国やタイで多い胆管腺腫と南米印日で多い胆嚢癌の685人を組入れて、gemcitabineとcisplatinの標準療法にImfinziを追加する効果を偽薬追加と比べたところ、中間解析で主評価項目の全生存期間も副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)などでも有意な差があった。有害事象による治験離脱は増加しなかった由。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース



デュピクセントの二本目の好酸球性食道炎試験が成功
(2021年10月25日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズとサノフィは、抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)の第3相好酸球性食道炎(EoE)試験が成功したと発表した。12歳以上の患者159人を組入れて週一回、300mgを皮注したところ、主観的奏効率(自覚症状の改善)が64%と偽薬群の41%を上回り、もう一つの主評価項目である客観的奏功率(食道上皮内好酸球数が一定以下に低下)も59%(同6%)となり、有意な差があった。

有害事象は注射箇所反応、発熱、副鼻腔炎、COVID-19、高血圧など。二本目も成功したことから、22年に適応拡大申請する予定。

好酸球性食道炎は米国で16万人が治療中だが4.8万人は十分応答していない。薬はステロイドが用いられているが、この疾患に承認されているわけではない。患者の多くは他の二型炎症性疾患も罹患しており、アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症など複数の適応を持つDupixentは一石多鳥。

リンク: 両社のプレスリリース



Rafael、第3相にジャンプしたが失敗
(2021年10月28日発表)

Rafael Holdings(NYSE:RFL)は、合併する予定のRafael PharmaceuticalsのリードコンパウンドであるCPI-613(devimistat)の第3相が二本ともフェールしたと発表した。転移性膵腺腫の一次治療として減量FOLFIRINOXレジメンと併用する効果をFOLFIRINOXレジメンと比較したが、全生存期間のハザードレシオは0.95、メジアン値は各11.1ヶ月と11.7ヶ月と、ほとんど効果がなかった。

もう一本は60歳以上の急性骨髄性白血病に高量cytarabine・mitoxantrone併用レジメンに追加することで寛解率向上を図ったが、中間解析で独立データ監視委員会が無益認定した。

どちらもごく小規模な臨床試験が終わるや第3相に進んだので、元々高リスクプロジェクトだった。

CPI-613は腫瘍細胞の増殖や生存に係るミトコンドリアのTCA回路に介入、抗癌剤の作用を増強することなどが期待されている。アジアでの開発商業化権は小野薬品が取得、ONO-7912として韓国で上記二適応症の第3相試験を開始したとのことだがClinicalTrials.govにはそれらしき試験は見つからない。

リンク: Rafaelのプレスリリース



イラリスの肺癌試験は二本目もフェール
(2021年10月25日発表)

ノバルティスは抗IL-1ベータ抗体Ilaris(canakinumab)の第3相局所進行/転移非小細胞性肺癌一次治療試験がフェールしたと発表した。白金ベースの化学療法とpembrolizumabのレジメンに追加して全生存期間とPFS(無進行生存期間)の延長を図ったが、果たせなかった。hsCRP高値の患者には効果の兆しが見られたようだが、抗癌剤のサブグループ分析はあまりアテにならない。

Ilarisは二次三次治療docetaxel併用試験もフェールした。もう一本、術後アジュバントの第3相が進行中。

リンク: 同社のプレスリリース



【承認申請】


リリー、アルツハイマーと糖尿病の新薬承認申請
(2021年10月26日発表)

イーライリリーは、第3四半期決算発表に合わせて、LY3002813(donanemab)のローリング承認申請を開始したことと、LY3298176(tirzepatide)を欧米で承認申請したことを発表した。前者はアミロイド・ベータのp3-42部位に結合する抗体医薬で、早期症候性アルツハイマー病の適応を想定。第3相試験の結果が判明するのは23年の見込みとまだ先だが、バイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab-avwa)がFDAに加速承認されたことに着目、第2相試験のアミロイド・ベータ抑制データに基づき申請する考えだ。この効果をAduhelmと直接比較する試験もロンチする。

前例を作ってしまったのでFDAが加速承認しない事態は、安全性などに何か問題がない限り、考え難い。Aduhelmの足元の売上は惨憺たるものなので、イーライリリーの売上も第3相が成功するまで期待し難い。

tirzepatideはGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の受容体を作動するデュアル・アクション薬。二型糖尿病の治療にも強いる。高用量はノボの競合薬の高用量より血糖降下作用が高そうだが、ノボは更なる高用量を米国で5月に承認申請した。

リンク: イーライリリーの決算発表プレスリリース


【承認審査・委員会】


抗NGF抗体の開発を断念
(2021年10月26日発表)

ファイザーとイーライリリーは抗ヒトNGF抗体tanezumabを変形性関節炎の治療薬として日米欧で承認申請していたが、開発中止を決めた。イーライリリーが決算発表に際して公表したもの。

元々はジェネンテックのコンパウンドで、NGFのALS治療試験で痛みの感受性が高まる主訴が見られたことから、一転して、阻害薬の開発を始めた。その後、スピンアウトされた中枢神経系の研究開発事業をファイザーが買収、本格的な開発に着手した。しかし、一部の患者でRPOA(急速進行性変形性関節炎)が発生、他社の開発品も含めてクリニカル・ホールドとなり、開発が大幅遅延した。

抗NGF抗体のブームが終わり他社が開発中止する中、ファイザーはイーライリリーとリスク・シェアリング契約を結び、第3相を経て、既存の鎮痛剤に不応不耐な中重度変形性関節炎の疼痛治療薬として承認申請した。しかし、RPOA一型(関節が裂隙狭小化)の発生率が2.3%と非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)群の1.1%、偽薬群のゼロより高く、二型(関節損傷・破壊)も各群0.4%、0.1%、ゼロと上回り、投与を中止しても損傷が進行したことや、追跡期間が1年に留まり長期的な転帰が不明であること、NSAIDs不応患者を組入れたスイッチ試験で効果がNSAIDs継続群と大差なかったことなどから、米国では承認されず、欧州でも9月にCHMPが否定的意見をまとめた。

リンク: イーライリリーの決算発表プレスリリース





今週は以上です。

2021年10月24日

第1022回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 従来技術のワクチンの第3相が成功 
  • コミナティ、3回目接種で感染を更に95%予防 
  • FDA諮問委員会、ヤンセンのワクチンの二回目接種を推奨 
  • FDA、三ワクチンの追加接種と交差接種をEUA 
  • 肺炎合併入院患者にベータインターフェロンは無効 
  • アテア/ロシュの抗ウイルス薬、第2相が意外な結果に 
  • その他の領域: 
  • バーチャル・リアリティ弱視治療法が承認 
  • bluebird、遺伝子療法の欧州承認を返上 
  • Oncopeptides、多発骨髄腫用薬の加速承認を返上 
  • デュピクセントは結節性痒疹にも有効 
  • 新規SERDの乳癌試験が成功 
  • カルバペネム耐性アシネトバクター治療試験が成功 
  • タケキャブの海外びらん性食道炎試験が成功 
  • バイオジェン、ALS用薬の第3相がフェールしたが承認申請を相談へ 
  • イミフィンジと抗CTLA-4抗体の併用肝癌一次治療試験が成功 
  • Sage/バイオジェン、抗鬱剤を来年下期に承認申請へ 
  • 加速承認申請が一転して認められず 
  • バース症候群用薬の承認申請はやっぱり受理されず 
  • Omeros社、HSCT-TMA用薬が承認されず 
  • UCB、抗IL-17抗体の承認審査が遅延 
  • CHMP、PNH治療薬などの承認を支持 
  • ACIP、肺炎球菌結合型ワクチンの勧奨範囲拡大を支持 
  • 加齢性黄斑変性の治療用インプラントが承認 
  • 禁煙補助成分が新規作用機序のドライアイ治療薬として承認 
  • テセントリクの肺癌アジュバント療法が承認 



【COVID-19関連】


従来技術のワクチンの第3相が成功
(2021年10月18日発表)

フランスのワクチン開発販売会社、Valneva(Euronext Paris:VLA)は、VLA2001が第3相COVID-19予防試験でアストラゼネカのVaxzevriaに匹敵する成績を挙げたことを明らかにした。英国に続いて、EUにも条件付き承認に向けたローリング申請を着手する考え。

このワクチンはS蛋白を高密度化した弱毒化全ウイルス・ワクチン。Dynavax(Nasdaq:DVAX)のCpG 1018アジュバントとアルミを添加して抗原性を高めている。同社の日本脳炎ワクチン、Ixiaroと同様に、ベロ細胞で培養。冷蔵庫で摂氏2~8度で保存できる。

第3相は英国で18歳以上の4012人を組入れて、30歳以上の2972人は対照群であるVaxzevriaと2:1割付けし、30歳未満(副作用懸念から可能ならVaxzevriaは使わない方が良いと英国ではされている)は全員VLA2001に割付けて、4週置いて二回、筋注した。

薬効の主評価項目は、30歳以上でスクリーニング時点で抗体を持っていなかった各群500人弱における中和抗体価(GMT:幾何平均抗体価)。結果は各群803と576となり、GMT比率は1.39、p<0.0001で有意に上回った。尤も、抗体陽転率は両群95%以上で非劣性、探索的評価項目であるCOVID-19感染も両群同程度だったので、実質的には、同程度と考えておけばよいだろう。

忍容性は注射箇所反応発生率が73.2%対91.1%、全身性反応が70.2%対91.1%、深刻有害事象はゼロだった。

COVID-19ワクチンはmRNAリピッド・ナノパーティクル・ワクチンが期待をはるかに上回る臨床成績を上げたため、追いかける会社には高いハードルが出来てしまった。開発の遅れを少しでも補うためには、第1グループ4品と同じように数万人級の臨床試験を行って感染予防効果と稀な副作用を検証するよりは、数千人規模の抗体価非劣性試験でチャチャっと済ませるほうが望ましい。感染予防効果のデータが無いので、先行品と比較されることもない。

問題は、このチャチャっと戦略が承認審査機関に受け入れられるかだ。抗体価とワクチン効率の関連性は他社の臨床試験である程度、明らかになっただろうが、考え方としては全人類が接種する可能性のあるワクチンの安全性を検討するには、数千人では足りないのではないだろうか?英国などで20代にVaxzevriaを使わないようにしているのは、感染時の重症化リスクが低い一方で、血栓性血小板減少症のリスクが他の世代より高いからだが、高いと言っても10万人に一人程度だ。このようなリスクは3万人の試験でも検出するのは困難だが、数千人ではもっと頻度の高い副作用も探知できないだろう。

日本で開発されているワクチンにも同じ疑問を持っている。

リンク: Valnevaのプレスリリース



コミナティ、3回目接種で感染を更に95%予防
(2021年10月21日発表)

BioNTechとファイザーは、BNT162b2(tozinameran、和名コミナティ)の第3相ブースター接種試験が良好な結果になったことを発表した。一部の国では既に開始されているが、初めての明確なエビデンスになり得るので、欧米などの規制機関に提出する考え。

このワクチンを二回接種した16歳以上の1万人超を30mcg一回筋注群と偽薬群に無作為化割付して、7日経過後の症候性感染を観察した。被験者の年齢はメジアンで53歳、二回目接種後の経過期間はメジアン11ヶ月、観察期間はメジアン2.5ヶ月間でデルタ株の流行期だった。

結果は、各群5人と109人が感染し、ワクチン効率は95.6%(95%CI89.3, 98.6)だった。年齢や性別、人種、基礎疾患に関わらず効果が見られた。

二回接種の効果を検討した試験では、メジアン1.5ヶ月の観察期間のワクチン効率は95%だった。メジアン11ヶ月経って効果が最悪ゼロになっていたとしても、ブースターで免疫を再構築できることになる。実際はゼロにはならないだろうし、今回の試験は感染力の強いデルタ株が相手なので、二回接種試験より優れた成績と考えることもできるだろう。

プレスリリースには記されていないがこの試験はNCT04955626と推測される。米国やブラジル、南アメリカの施設で、二回目の接種から175日以上経った人を組入れて実施した。

リンク: 同社のプレスリリース



FDA諮問委員会、ヤンセンのワクチンの二回目接種を推奨
(2021年10月15日発表)

FDAはワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会を招集してジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンのCOVID-19ワクチン、Ad26.COV2.Sについて意見を聞いた。19人の委員全員が2ヶ月以上空けてもう一回接種することに賛成した。

このワクチンは26型アデノウィルスにSARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子を組入れたもの。当委員会はmRNAワクチンについては感染時のリスクが高い人に限定して追加接種を推奨したが、ヤンセンのワクチンについては限定しなかった。二回接種試験の結果が判明し、中等症以上の感染予防効果が一回接種試験より向上し米国施設だけのデータはmRNAワクチンに匹敵するものであったからだ、この試験は一回目から2~6ヶ月後に接種したが、FDA/諮問委員会は一番短い2ヶ月以上経った段階での接種が妥当と判定した。mRNAワクチンと同様に、二回接種するワクチンに軌道修正されることになる。

リンク: JNJのプレスリリース



FDA、三ワクチンの追加接種と交差接種をEUA
(2021年10月20日発表)

FDAは、Moderna(Nasdaq:MRNA)及びジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンのCOVID-19ワクチンの追加接種をEUA(非常時使用認可)した。また、BioNTech/ファイザーのComirnatyも含めて、プライマリー接種とは異なる製品を使うミックス・アンド・マッチもEUAした。

Moderna品はComirnatyと同様に、65歳以上と、18~64歳で重症化リスクを持つ、あるいは深刻合併症のリスクがある職場(例:病院)や施設(刑務所や高齢者施設)にいる人が対象。プライマリー接種(最初の二回の接種)が完了して6ヶ月以上経ってからブースター接種を行う。ブースターの用量はプライマリーの半分の50mcg。FDAのリリースによると、ブースター接種ではプライマリー接種時よりも腋窩リンパ節腫脹の発生率が高い由。

ヤンセン品は、18歳以上に一回接種することがEUAされていたが、2ヶ月以上経ってからもう一回、追加された。高リスク者限定ではなく全員が対象なので、事実上、二回接種に変わったことになる。二回目は他の二製品を使ってもよい。

リンク: FDAのプレスリリース



肺炎合併入院患者にベータインターフェロンは無効
(2021年10月18日発表)

NIH(米国立医療研究所)はACTT-3アダプティブ試験のinterfeon beta-1a試験がフェールしたと発表した。治験論文もLancet Respiratory Medicineに刊行された。

この第3相試験は、COVID-19患者ではインターフェロンの低下がみられることから、ベータ・インターフェロンを補充する効果に期待して昨年8月にロンチされた。肺炎を合併し入院している患者969人を米日など5ヶ国の施設で組入れ、remdesivirの最大9日間のコースに偽薬またはinterfeon beta-1aを追加する効果を検討した。承認用途である再発多発硬化症では4.4mcgまたは8.8mcg週三回皮注で開始して第5週の目標用量である22mcgまたは44mcgまで漸増していくが、本試験では最初から44mcgを一日おきに最大4回、皮注した。

主評価項目に設定された回復までの期間は両群ともメジアン5日間で、15日臨床的改善オッズ比も有意差がなかった。尚、ハイフロー酸素投与患者は途中経過データが好ましくなかったため機械的換気患者も含めて昨年9月に組入れが中止されている。

敗因は良く分からないが、合併症が進行した患者はしばしば炎症免疫反応が亢進しているので、油を注いでしまったのかもしれない。

リンク: NIHのプレスリリース
リンク: Kalilらの治験論文(Lancet Respiratory Medicine、オープンアクセス )



アテア/ロシュの抗ウイルス薬、第2相が意外な結果に
(2021年10月19日発表)

アテア・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:AVIR)は、AT-527の第2相COVID-19外来治療試験でウイルス抑制作用に偽薬比有意な差がなかったことを明らかにした。一足先に開始した第3相試験のデザイン変更を検討する。

AT-527は、先日MSDが第3相外来治療試験の成功を発表したmolnupiravirと同様にRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を阻害するだけでなく、ニドウイルスRdRP関連ヌクレオチジルトランスフェラーゼも阻害するデュアル・アクションの経口カプセル剤。ロシュが共同開発、米国外での単独販売権を持っており、日本では子会社の中外製薬が開発している。

第2相は今年6月、高リスク入院患者62人を組入れた試験が中間解析で良好な成果を挙げたことが発表された。550mg群(一日二回、最大5日間投与)の第2日ウイルス量の低下が偽薬群より0.7 log10大きかった。第14日RT-qPCR検出不能率は各47%と22%だった。

今回の第2相軽中等症COVID-19外来治療試験は550mg一日二回と1100mg一日二回の二つのコフォートに各30人を組入れ、ウイルス量の低下を偽薬群40人と比較したが、有意な差はなかった。

molnupiravirの第3相試験は重症化リスク因子を持つ患者だけを組入れた。本試験は軽症や低リスク患者が多かったが、高リスク患者(550mg群は7人、対応する偽薬群は11人、1100mg群は14人、対応する偽薬群は7人)におけるウイルス低下は550mg群も1100mg群も偽薬群より0.5 log10大きかった。サンプルサイズが小さく第三の因子の影響を排除できないだろうから事前に設定された分析だろうが探索的解析だろうが説得力は弱い。しかし、免疫力が強く軽症で済んでいる人は自力で自然軽快してしまい薬の効果が表れにくかったとしても不思議ではないだろう。

また、本試験ではウイルス株やワクチン接種者におけるワクチン銘柄に偏りがあった模様だ。molnupiravirの第3相は、一部の報道によれば、ワクチン接種者は対象外だった。

結局、第3相の成否を占う上で、楽観はできなくなったが諦めるのはまだ早い。但し、組入れ条件や主評価項目の変更を検討するため、結果が出るのは今年下期ではなく来年下期の見込みになった。

現状の第3相試験のデザインは、軽中等症の外来患者1400人を組入れて症状改善までの期間を偽薬と比較する。抗ウイルス剤なので早期に治療を開始したほうがよく、発症から投与まで5日以内、PCR検査で陽性判定から無作為化割付まで72時間以内が組入れ条件になっているが、これは第2相やmolnupiravirの第3相とそれほど変わらない。

リンク: アテアのプレスリリース


【今週の話題】


バーチャル・リアリティ弱視治療法が承認
(2021年10月20日発表)

米国マサチューセッツ州のデジタル・セラピー企業、Luminopiaは、FDAがLuminopia Oneを弱視治療機器としてデ・ノボ発売前承認したと発表した。4~7歳の不同視かつまた軽度の斜視を伴う患者が適応になる。

片方の目の視力が弱い小児は、良い方の目にアイパッチをしたり目薬で霞ませたりして弱い方の目を使わざるをえなくする治療が奏功する可能性がある。代替手法が今回の製品で、自宅でVRヘッドセットを装着してアニメなどのTV番組や映画を一日一時間、週6日、12週に亘って視聴する。眼科医が処方する。臨床試験では視力が有意に向上した。アイパッチなどと比べてアドヒアランスが良好のようだ。

ボストン・チルドレンズ・ホスピタルやマサチューセッツ工科大学ピコワー記憶学習研究所、そしてセサミ・ストリートを製作するSesame Workshop、アニメ制作会社であるカナダのNelvanaやフランスのMillimagesとともに開発した。700時間以上のコンテンツが用意されている。

中学のころ、ビートルズの歌詞は直ぐ覚えるのに英語の教科書の一話丸暗記は中々できないのはなぜだろう、と不思議に思ったことを思い出した。ビートルズでいいじゃないか、と開き直ることが大事なのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース(Business Wire)
リンク: Xiaoらの治験論文(Ophthalmology、オープンアクセス)



bluebird、遺伝子療法の欧州承認を返上
(2021年10月21日発表)

bluebird bio(Nasdaq:BLUE)は米国におけるex vivo遺伝子療法に事業集中を進めているが、先に承認されたEUでの承認返上を開始した。まず、今年7月にEUで承認されたばかりの脳副腎白質ジストロフィー治療薬Skysona(elivaldogene autotemcel)を返上した。19年に条件付き承認されたベータサラセミア治療薬Zynteglo(betibeglogene autotemcel)も来年初めに取り下げる考えだ。

米国では前者は未承認、後者も9月に承認申請したばかり。なけなしの承認を返上してしまうのは、それだけ、普及に苦戦しているからだろう。Zyntegloは、市場としてはそれほど大きくないものの、ドイツで薬価合意に達せず承認を返上した。また、類似した別の遺伝子療法の被験者が急性骨髄性白血病を発症し、一時的に販売・治験停止になったこともあった。

同社の遺伝子療法は患者から採取したCD34陽性細胞に自己不活化レンチウイルス・ベクターを用いて目的遺伝子を挿入し、患者に返す。レンチウイルスは分裂していない細胞のゲノムにも組み込まれるので、効率は良さそうだが、偶然に変な場所に組み込まれてしまうリスクが付きまとう。投与前のプリコンディショニングに用いる化学療法薬も別の癌を誘導してしまう懸念があり、紛らわしい。

導入する遺伝子はマーカー付きなので、癌細胞のゲノム・シーケンシングを行えばウイルス・ベクターや導入遺伝子が犯人なのかどうか、見当が付き、EMAは、上記症例の犯人は遺伝子療法ではないと判定したが、それでもなお、年1回の血液癌検査を15年間続けることを求めた。

おそらく米国でも前途は多難だろう。

同社はBMSに導出したAbecma(idecabtagene vicleucel)が多発骨髄腫のCAR-T療法として承認されたが、腫瘍学領域を2seventy bio社として11月に株主割当の形でスピンアウトする予定。この社名は、時速270マイルというニューロンの神経伝達速度で革新的な着想を実用化する野望を表している。

リンク: 同社のプレスリリース



Oncopeptides、多発骨髄腫用薬の加速承認を返上
(2021年10月22日発表)

スウェーデンのOncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)は今年2月に米国で加速承認されたばかりの多発骨髄腫サルベージ療法薬、Pepaxto(melphalan flufenamide)の承認を返上した。市販後薬効確認試験で他のレジメンと比べて死亡リスクが高い懸念が浮上したため。FDAは、加速承認の食い逃げを防ぐため、加速承認の段階で市販後コミットメント試験の組入れが相当以上進んでいることを求めている。もし延命またはそれに準じる効果が見られなかった場合、速やかに過ちを正すことができるわけだが、それにしても、8ヶ月でレッドカードとは早い。

Pepaxtoはmelphalanにベプチドを結合して親油性を向上したもの。4次までの治療歴を持ち3種類の代表的な薬に抵抗性を持つ多発骨髄腫にdexamethasoneと併用した試験でORR(客観的反応率)が23.7%、メジアン反応持続期間4.2ヶ月だった。第3相は2~4次治療歴を持ちlenelidomide抵抗性を持つ患者を組入れて、dexamethasoneとセルジーン/BMSのPomalyst(pomalidemide)を併用する群と比較したところ、PFS(無進行生存期間、担当医評価)やORR(客観的反応率)は上回ったものの、全生存期間のハザードレシオ1.104、メジアン生存期間は19.7ヶ月対25.0ヶ月と、統計的に有意ではないものの好ましくない方向のデータが出た。

同社は、適切な患者には無償提供を続ける考え。4月にEUに提出した承認申請は取り下げない考え。欧米の営業活動を止めて研究開発会社に戻る考えなので、EUもすんなり承認されない限り取り下げになるのではないか。

リンク: 同社のDHCPレター


【新薬開発】


デュピクセントは結節性痒疹にも有効
(2021年10月22日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、抗IL4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)の一本目の第3相結節性痒疹試験が成功したと発表した。来年上期に二本目の結果が出るのを待って適応拡大申請に向かう考え。

結節性痒疹は酷く強い痒みと皮膚病変を伴う。米国の患者数は74000人と推定されている。Dupixentは好酸球などが増加する二型炎症性疾患に強く、これまでに、アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症、鼻ポリープ、蕁麻疹、好酸球性食道炎などに承認・第3相試験成功の成果を挙げている。

今回の第3相は局所ステロイド不応不適の成人患者160人を組入れて、痒みや病変の抑制効果を偽薬と比較した。結果は、主評価項目の12週痒み抑制奏効率が37%対偽薬群22%、p=0.0216となった。24週時点でも58%対20%、第24週病変軽快率(治癒又はほぼ治癒)は45%対16%と良好な結果だ。

有害事象で特徴的なのは、アトピー性皮膚炎試験と同様に結膜炎とヘルペス感染症が偽薬より多かった(どちらも6%対0%)。

リンク: 両社のプレスリリース



新規SERDの乳癌試験が成功
(2021年10月20日発表)

イタリアのメナリーニとアメリカのRadius Health(Nasdaq:RDUS)は、RAD1901(elacestrant)の第3相乳癌二次/三次治療試験が成功したと発表した。データは12月のサン・アントニオ乳癌シンポジウムでの公表を狙っている。22年に欧米で承認する計画。

非ステロイド系のSERD(選択的エストロゲン受容体零落剤)で一日一回、経口投与する。今回のEMERALD試験はエストロゲン受容体陽性、her2陰性の進行/転移乳癌で、内分泌療法による1~2次の治療歴(一回はCDK4/6阻害剤と併用)を持つ466人を、400mg群と標準療法群(筋注用SERDのfulvestrantまたは三種類のアロマターゼ阻害剤の何れか)に無作為化割付して、PFS(無進行生存期間)を比較した。対照薬に筋注用薬と経口剤が含まれているせいかオープン・レーベルになっているが、デザイン論文によるとPFSは独立放射線学的評価委員会が判定するので、ある程度の客観性が保たれていると考えてよさそうだ。全生存期間も副次的評価項目として解析する。

PFSの解析対象は全被験者と、エストロゲン受容体1(ESR1)変異癌サブグループ(被験者の5割弱)の両方が主評価項目に設定され、両方成功した。ESR1変異は内分泌療法を受けた患者で生じがちな抵抗性変異とされる。

Radiusは16年にエーザイからelacestrantの日本国外での権利をライセンス、15年には日本の権利も取得し、更年期障害や乳癌の治療薬として開発してきたが、腫瘍学から撤退することを決め、20年にメラリーニに世界独占開発商業化権を供与した。

リンク: 両社のプレスリリース



カルバペネム耐性アシネトバクター治療試験が成功
(2021年10月18日発表)

Entasis Therapeutics(Nasdaq:ETTX)は、ETX2514SUL(sulbactam、durlobactam)の第3相ATTACK試験が成功したと発表した。17ヶ国の医療施設でアシネトバクター・バウマンニ感染による院内感染細菌性肺炎、人工呼吸器関連細菌性肺炎、人工呼吸器肺炎、菌血症の患者207人を組入れた試験で、薬効主評価項目はカルバペネム抵抗性サブグループ125人における28日全死亡。19.0%でcolistin群の32.3%と非劣性だった(差は-13.2%、95%上限は3.5%)。共同主評価項目である一回以上投与した全被験者の分析でも同様な傾向が見られた(有意とは記されていない)。

テスト・オブ・キュアによる臨床的治癒率は61.9%対40.3%で有意に上回った。また、腎毒性(クレアチニンと糸球体ろ過率で評価)発現率は13.2%対37.6%で有意に低かった。治療関連有害事象発生率も12.1%対30.2%だった。

ETX2514SULは、アシネトバクター・バウマンニに活性を持っていたが耐性菌が増えて使われなくなったsulbactamを、クラスA、C、Dのベータ・ラクタマーゼを広スペクトラム高力価で阻害する新開発のdurlobactamと組み合わせた固定用量合剤。各剤1gずつを6時間おきに3時間点滴静注した。colistinは12時間おきに30分点滴静注。両群ともimipenemとcilastatinも1gずつ6時間おきに1時間点滴静注した。

尚、本試験はパートBでcolistinやpolymyxin Bがフェールした患者28人にETX2514SULレジメンを投与している。22年央に承認申請する計画だが、パートAの一次治療だけでなく二次治療も視野に入れてているのだろう。

Entasisは15年にアストラゼネカの抗菌薬パイプラインを承継してスピンアウトした会社。現時点で開発が最も進んでいるのがETX2514SULで、アジア太平洋地域の権利は上海のZai Lab(Nasdaq:ZLAB)が保有している。

リンク: Entasisのプレスリリース



タケキャブの海外びらん性食道炎試験が成功
(2021年10月18日発表)

Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)は、vonoprazanの第3相びらん性食道炎(EE)試験が成功したと発表した。米国ではピロリ菌除菌療法で承認申請中だが、承認が見込まれる22年上期頃に適応拡大申請する予定。

武田薬品が開発し日本で14年に胃潰瘍治療およびピロリ菌除菌用薬タケキャブ(ボノプラザンフマル酸塩)として承認された、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー。8月に亡くなった山田忠孝氏がパートナーであったFrazier Healthcare Partnersが19年に北米欧州の権利を取得、開発会社として設立したのがPhathomだ。

EE試験は治療期と維持期があり、前者は20mgを一日一回、8週間投与して、内視鏡的完治率を武田が創製したプロトン・ポンプ阻害剤、lansoprazole(30mg)と比較した。結果は、93%対85%で非劣性、探索的な優越性解析も好ましい結果が出た。完治者を再無作為化割付した維持期では、10mg群と20mg群の寛解維持率がどちらもlansoprazole(15mg)比で非劣性。優越性解析は10mg群のpが0.0218、20mg群は0.0068だった。

有害事象は維持期で胃炎や腹痛やlansoprazoleより若干多かった。COVID-19の致死例も含む深刻有害事象に群間の偏りがあったが、試験薬との関連は否定された。

vanoprazanは9月に米国でピロリ菌除菌療法に承認申請された。amoxicillinと併用する(clarithromycin追加も可)。この用途でQIPD(認定感染症製品指定)とファーストトラック指定を受けている。

リンク: Phathomのプレスリリース



バイオジェン、ALS用薬の第3相がフェールしたが承認申請を相談へ
(2021年10月17日発表)

バイオジェンはBIIB067(tofersen)の第3相SOD1変異陽性ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験の結果をANA(米国神経学会)で発表した。主評価項目はフェールしたが、神経学的バイオマーカーの悪化が偽薬群より小さかったことや、オープン・レーベル延長試験も含めた分析で早期の患者において運動機能などの悪化を遅らせる傾向が見られたことから、EAP(FDAの承諾の下、未承認の薬を患者に提供するプログラム)を拡大すると発表した。二匹目のドジョウではないが、承認申請について当局と相談する意向だ。

SOD1(スーパーオキシド・ディスムターゼ1)は抗酸化作用を持つ酵素。変異は家族性ALSの2割程度、ALS全体の2%程度で見られる。BIIB067はSOD1のRNAに介入しタンパク合成を妨げるアンチセンス・オリゴヌクレオチド。18年にIONIS Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスした。第3相VALOR試験では108人を100mg髄腔内投与群と偽薬群に2対1割付した。主評価項目はALSFRS-R総合点の28週間の変化。治験感度を高めるために、変異型やALSFRS-R悪化速度、SVC肺活量に基づいて進行が早いと判定された60人を主評価対象とした。

結果は、試験薬群は8.14低下(悪化)、偽薬群は6.98低下となり、群間差は1.2、p=0.97だった。因みにベースライン値は36。6割の患者がriluzole、5%がedaravoneによる治療を受けていた。

副次的評価項目では、脳脊髄液におけるSOD1蛋白や血漿ニューロフィラメント軽鎖などのバイオマーカーで良好な差が見られ、早期段階の患者では運動機能など複数の評価項目で悪化が遅れる傾向が見られた。

深刻有害事象の発生率は18.1%(偽薬は13.9%)、有害事象により5.6%の被験者が離脱した(偽薬群はゼロ)。試験薬群では2名が脊椎炎を発症、うち1名が死亡したが試験薬との関連はないと判定された。

米国にはRight to Tryという法制があり、深刻な疾患を患い、臨床試験に参加できない患者が、試験薬を供給するようメーカーに要望する道筋が設けられている。今年3月、BIIB067の申請があったため、バイオジェンは延長試験が終了したあとに提供を開始することを決めた。

ALSはアルツハイマー病と比べても深刻度・切迫度が高く、SOD1変異陽性ALSは世界で数千人と患者が少ないため、もし効果が不十分であったとしても、あるいは深刻な副作用のリスクが隠れていたとしても、試してみる権利を尊重する余地はありそうだ。但し、効果がはっきりしないものを高価で販売するのは一歩間違えると詐欺商法になってしまうので、十分な配慮が必要だろう。

リンク: 同社のプレスリリース



イミフィンジと抗CTLA-4抗体の併用肝癌一次治療試験が成功
(2021年10月15日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)と抗CTLA-4抗体tremelimumab(ファーザーの開発コードCP-675,206)の併用効果を検討したHIMALAYA試験の成功を発表した。治癒的切除や局所性治療が不適な進行肝細胞腫の一次治療として、Imfinziを単独またはtremelimumabと併用するレジメンの全生存期間を検討したところ、併用療法が標準療法であるsorafenibを統計的かつ臨床的に有意に上回った。Imfinzi単剤は非劣性解析が成功、数値上は上回っていた。データは未発表。

Imfinzi単剤は忍容性がsorafenibを上回り、併用群の深刻肝臓有害事象はImfinzi単剤を上回らなかった。

この組み合わせはBMSの抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用レジメンを彷彿させるが、tremelimumabはファイザーの臨床試験が成功せず、開発権を取得したアストラゼネカの第3相もフェールが続いた。しかし、今年に入って、転移非小細胞性肺癌の一次治療として化学療法に二剤を追加したPOSEIDON試験の全生存期間の解析が成功。今回、二本目の成功となった。

用法は若干異なり、前者の試験では化学療法を6サイクルではなく4サイクルに抑えて、Imfinzi(1500mg)とtremelimumab(75mg)を最初は3週毎に、第5サイクルは4週後に、その後はImfinziだけを4週毎に投与した。今回の試験ではtremelimumab(300mg)は一回だけ、Imfinzi(1500mg)は4週毎に投与した。抗CTLA-4抗体は抗PD-1/PD-L1抗体より忍容性が悪いので、併用法に工夫したことが成功につながったのかもしれない。

OpdivoとYervoyのレジメンは米国でsorafenib歴を持つ肝細胞腫に加速承認されている。MSDはKeytruda単剤で同じ適応に加速承認され、市販後薬効確認試験がフェールしたが、中韓馬台で行われた試験の成功が9月に発表された。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



Sage/バイオジェン、抗鬱剤を来年下期に承認申請へ
(2021年10月19日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)とバイオジェンは、FDAとの申請前相談を踏まえて、22年下期にSAGE-217(zuranolone)を鬱病の短期治療薬として米国で承認申請する考えを明らかにした。来年上期にローリング承認申請を開始する。2年前の第3相フェールから何とか立ち直れそうだ。

SAGE-217はGABA-A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレーター。benzodiazepinesとは異なり、シナプス外のGABA-A受容体にも作用する。抑制系神経細胞に直接作用するためか、効果発現がSSRI等と比べて早い。18年に塩野義製薬が日台韓で、20年にはバイオジェンが米日台韓以外の市場で、開発商業化権を取得した。同じメカニズムを持つ、経口剤ではなく60時間連続点滴静注用薬であるZulresso(brexanolone)が19年に産後鬱の治療薬として米国で承認されている。

最初の第3相鬱病試験は30mgを一日一回、夜に経口投与する群の第15日のHAM-Dトータルスコアが偽薬比1.4の改善に留まり、フェールした。血中量が検出できず服用しなかった可能性のある症例を除くと1.8の差でp=0.048、ベースライン値が24以上の比較的重いサブグループでは2.3でp=0.032だったが、フェールした試験のサブグループ分析のボーダーライン・シグニフィカンスなので、感銘しない。20mg群は何れも有望な数値ではなかった。

そこで、50mgをテストするWATERFALL試験を実施したところ、成功した。第15日HAM-Dトータルスコアが14.1低下、偽薬と1.7の差があった(p=0.0141)。治療時発現有害事象率は60.1%と偽薬群の44.6%を上回ったが、それにより治験を離脱した患者は全体の3.4%と偽薬群の1.5%を少し上回っただけで、深刻有害事象発現率は両群0.7%だった。

鬱病試験は承認されている薬でもしばしばフェールするので、一本位フェールしても落ち込む必要はない。但し、一般医療に外挿するためには再現性の確認、即ち、もう一本成功させることが必要だ。Sageが直ぐに承認申請しないのは、抗鬱剤と併用するCORAL試験や1年安全性試験の結果が出るのを待つつもりなのだろう。

尚、産後鬱でも30mgの第3相が成功、50mgの第3相が進行中だが、承認申請は鬱病の承認が見込まれる23年上期まで待つ考え。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


加速承認申請が一転して認められず
(2021年10月22日発表)

米国マサチューセッツ州の新興企業、Agenus(Nasdaq:AGEN)は抗PD-1抗体AGEN2034(balstilimab)を化学療法歴のある難治/転移子宮頸癌用薬としてFDAに加速承認を求め、優先審査指定を受けていたが、申請取り下げを余儀なくされた。同じ用途で先に加速承認されていたMSDのKeytruda(pembrolizumab)が、市販後薬効確認試験の成功により正式承認されたため、FDAが取り下げるよう求めたもの。

加速承認は承認された治療薬が存在しない深刻な疾患に対処する薬を一刻も早く患者に提供するために、抗癌剤でいえばORR(客観的反応率)のような、比較的小規模な試験で計測でき、延命またはそれに準じる効果とリンクする可能性のある代理マーカーに基づいて販売承認する制度。市販後に同じまたは類似した適応・用法の薬効確認試験を行なう必要がある。

他社の製品が加速承認されていても、薬効が確立した訳ではないので、加速承認を申請することは可能だ。問題は、申請後に他の製品が正式に承認された場合だ。今回の事例では、Keytrudaの加速承認はPD-L1陽性(CPS≧1)の難治/転移子宮頸がんの二次治療が対象だが、Agenusの申請はPD-L1陽性に限定していなかった様子である。また、Keytrudaの本承認切替は一次治療化学療法併用試験の成功・適応拡大に伴うもので、二次治療試験で延命効果が確認されたわけではない。

制度の趣旨を考えれば、加速承認はダメと言われても仕方ないが、FDAが却下せず自主撤回を求めたところを見ると、グレーゾーンなのだろう。加速承認制度は市販後薬効確認試験がフェールした時の対応など、様々な点で運用が厳しくなっているが、今回の事例も重要な先例になりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース



バース症候群用薬の承認申請はやっぱり受理されず
(2021年10月20日発表)

Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は8月に米国でMTP-13(elamipretide)をバース症候群用薬として承認申請したが、受理されなかった。第二相無作為化割付偽薬対照試験がフェールし、延長試験は対照試験ではないため、薬効のエビデンスが不十分と判定された。元々アト・リスク申請なので意外感はない。

同社はティッカーシンボルのとおり、ミトコンドリア異常が係る疾患の治療薬を開発している。MTP-13はミトコンドリアのcrdiolipinに結合しミトコンドリア膜の構造を正常化するとされ、原発性ミトコンドリア筋症などの臨床試験が行われたが、良い結果は出ていない。

バース症候群はTAZ遺伝子の変異が係るミトコンドリア障害により心不全や不整脈を合併、白血球減少により敗血症のリスクも高まる。患者数は米国で130人足らずの超希少疾患だ。

P2試験では12人を偽薬または40mgを一日一回皮注する群に割付けて12週間治療したがフェールした。オープン・レーベル延長試験も含めると6分歩行テストなどの改善が見られたため、通算データをジョンズ・ホプキンズの傾向スコアがマッチする自然歴19例と比較したところ、6分歩行テストの改善幅が80メートル対1メートル足らずでp=0.0005だった。

前向き対照的介入試験ではないためFDAは承認申請に否定的だったが、Barth Syndrome Foundationが4200人の署名を集めて同社やFDAに請願したことに背中を押されて、承認申請を断行した経緯がある。

今回、FDAは受理しなかった旨のプレスリリースを出した。異例だが、患者や支援団体の熱意に少しでも誠意を示したかったのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース



Omeros社、HSCT-TMA用薬が承認されず
(2021年10月18日発表)

米国シアトルの医薬品開発会社、Omeros(Nasdaq:OMER)は、米国でOMS721(narsoplimab)を造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症(HSCT-TMA)の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。昨年11月の承認申請以降、当初計画されていた諮問委員会上程が行われなかったり、審査期限が3ヶ月延期されたり、今月初めにはFDAから申請に欠陥があるためレーベルや市販後コミットメントの協議に進めない旨の通知があったことが公表されたり、意外な展開が続いたため、サプライズは小さい。

通知には、治療効果を推定するのが困難との指摘があった由。ディスクロージャーが悪い会社なので治験デザインや成績に不明な点が少なくないので良く分からない。主評価項目である完全反応率は臨床検査値評価と臨床評価の複合であるようだが、どちらがどう寄与したのかも不明だ。外部データを対照群に設定した模様だが出典等も不明。

リンク: 同社のプレスリリース



UCB、抗IL-17抗体の承認審査が遅延
(2021年10月16日発表)

UCBはIL-17AとIL-17Fを標的とする二重特性抗体bimekizumabを中重度プラク乾癬の治療薬として日米欧で承認申請し、欧州では8月にBimzelx名で承認されたが、FDAは審査期限の10月15日までには回答できないと通知してきた。米国連邦職員はCOVID-19感染を抑制するために渡航制限が課せられており、承認前に済ませなければならない欧州の工場の査察ができないため。

リンク: 同社のプレスリリース



CHMP、PNH治療薬などの承認を支持
(2021年10月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、夜間ヘモグロビン尿症治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Swedish Orphan Biovitrum(SOBI)のAspaveli(pegcetacoplan)は皮注用C3補体阻害剤。7月にアストラゼネカに買収されたアクテリオンの代表作であるSoliris(eculizumab)の標的であるC5より川上に位置するC3とC3bに特異的に結合する合成環状ペプチドをPEG化したもの。成人の夜間ヘモグロビン尿症(PNH)で、C5阻害剤で3ヶ月以上治療しても貧血が続く不十分応答者に用いる。

米国では5月にEmpaveli名で成人の夜間ヘモグロビン尿症全般に承認された。未治療患者を組入れた第3相が成功したのでEUでも第一選択薬として一部変更申請が行われるのではないか。

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)の開発品で、SOBIは世界共同開発権と米国外での独占販売権を持っている。

尚、SOBIは9月にAdvent International(プライベート・エクイティ)とシンガポール政府投資会社の関連会社の合弁が694億スウェーデン・クローナ(約9200億円)規模の友好的買収オファーを発表している。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのCibinqo(abrocitinib、和名サイバインコ)はJAK1阻害剤。成人の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎に経口投与する。日本では世界に先駆けて9月に承認された。米国はFDAがJAK阻害剤の心血管疾患や感染症、癌のリスクを警戒しているせいか、審査期限が延期されただけでなく超過してしまっている。

リンク: EMAのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen-CilagのRybrevant(amivantamab)はEGFRとMETの二重特異性抗体医薬。非小細胞性肺癌の2-3%を占める、EGFR遺伝子のエクソン20挿入活性化変異型に条件付き承認するよう勧告した。米国では5月に加速承認されている。臨床試験ではORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が40%、メジアン反応持続期間は11ヶ月だった。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズが昨年、210億ドルで買収したImmunomedics(sacituzumab govitecan)の唯一の製品であるTrodelvy (sacituzumab govitecan)は抗TROP-2抗体とSN-38(irinotecanの活性代謝物)を結合した抗体薬物複合体。二次以上の治療歴(うち一回は進行がんの治療)を持つ成人の切除不能または転移性のトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)に用いる。

乳がんはエストロゲン/プロゲスチン受容体を発現するタイプにはホルモン療法、her2陽性癌にはher2阻害剤が適応になるが、TNBCはいずれも高発現してないため治療手段が少ない。TROP-2は8割以上が発現し、正常細胞の発現は少ないため、標的として都合が良い。

医師が選択した化学療法薬(eribulin、capecitabine、gemcitabine、またはvinorelbine)と比較した臨床試験で、全生存期間のハザードレシオが0.51、メジアン生存期間は11.8ヶ月対6.9ヶ月だった。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのVaxneuvanceは15価肺炎球菌結合ワクチン。肺炎球菌による肺炎や関連侵襲性疾患の予防に用いる。18歳以上が対象。肺炎球菌ワクチンはファイザーのPrevnarが各種ワクチンの中でも大きな売上高を挙げている。もう一方の雄(不適切語?)であるPneumovaxを開発したMSDの対抗品がVaxneuvanceだ。しかしファイザーもPrevnarの20価版を開発、米国では承認されEUでも審査中なので、競争条件が良好とは言えないだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、まず、MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)とエーザイがMSDと共同開発販売しているVEGFR阻害剤Lenvima/Kisplyx(lenvatinib、和名レンビマ)の併用療法。治癒目的の手術や放射線療法が適応にならない、白金レジメン歴を持つ成人の進行・難治内膜腫と、成人の進行性腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。前者は日米で、後者は米国で、承認済み。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのSkyrizi(risankizumab、和名スキリージ)を成人の活性期乾癬性関節炎に用いることも支持された。DMARDsに十分応答しない患者にMTXと併用する。抗IL-23p19抗体でプラク乾癬の治療薬として日米欧で承認されている。

ファイザーのJAK阻害剤Xeljanz(tofacitinib)を活性期強直性脊椎炎の成人で従来療法に十分応答しない患者に用いることも支持された。心血管疾患や癌のリスクを検討した市販後安全性確認試験が好ましくない結果になったことからFDAは他のJAK阻害剤を含め懸念を持っており、この適応拡大も米国では審査期限(第3四半期の初め)を超過してしまった。

多発硬化症用薬として欧米で承認されているS1PR1/5調節剤、Zeposia(ozanimod)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いることも支持された。米国では5月に承認。ブリストル マイヤーズ スクイブが19年に株式価値ベース740億ドルで買収したセルジーンが、15年に72億ドルで買収したReceptosの開発品。

一方、インサイト社がMacroGenics(Nasdaq:MGNX)からライセンスして開発した抗PD-1抗体、 Zynyz(retifanlimab)は、米国で承認されなかっただけでなく、EUでも申請撤回となった。第2相試験に基づいて、白金レジメン不応不耐の局所進行性/転移性肛門管扁平上皮腫に申請されたが、確認ORR(独立中央評価)が14%、メジアン反応持続期間が9.5ヶ月程度の効果では全生存期間又は無進行生存期間を延長できるかどうか明確ではないことや、白金レジメン不耐患者の一次治療は臨床試験の対象に含まれていなかったことなどから、CHMPは否定的に考えていた。、

リンク: EMAのプレスリリース



ACIP、肺炎球菌結合型ワクチンの勧奨範囲拡大を支持
(2021年10月20日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)はACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、新規肺炎球菌結合型ワクチン二製品の接種勧奨範囲について意見を聞いた。一つはファイザーの20価ワクチン、Prevnar 20(以下、PCV20)、もう一つはMSDの15価ワクチン、Vaxneuvance(同PCV15)で、どちらも18歳以上に承認されている。

ACIPは、全員一致で、65歳以上で肺炎球菌ワクチンを未接種または不明な人全員と、19~64歳でリスク因子(糖尿病や喘息症、免疫不全、喫煙、アルコール依存など)を持つ人に勧奨することを勧告した。PCV20を用いる場合は一回筋注、PCV15の場合は一回筋注後にPneumovax(23価莢膜ポリサッカライド肺炎球菌ワクチン、以下PPSV23)でブーストする。

ファイザーの一つ前の製品であるPrevnar 13(以下、PCV13)は乳幼児のワクチン・スケジュールに組み込まれているが、成人向けは限定的だ。代わりにPPSV23が、65歳以上に勧奨(65歳前に接種している場合は5年以上経過してから)、19~64歳は高リスクなら1~2回接種となっており、PCV13は65歳以上では危険と便益を十分検討した上ならば使ってもよい、19~64歳は特に高リスクならPPSV23の前に接種、という立ち位置になっている。

今回のACIPの勧告がCDCに採用されたら結合型ワクチンの対象人口が拡大することになる。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


加齢性黄斑変性の治療用インプラントが承認
(2021年10月22日発表)

ロシュは、FDAがSusvimo(ranibizumab)をwAMD(湿潤性加齢性黄斑変性)の治療薬として承認したと発表した。抗VEGF薬の注射に二回以上応答した患者が適応になる。米国ではジェネンテック、海外ではノバルティスがLucentisとして販売している抗VEGF薬のインプラント版で、目に留置すると、6ヶ月間に亘り活性成分を放出する。6ヶ月毎にリフィルする。必要ならインプラント内にLucentisを注射することもできる。他社の抗VEGF薬の月一回硝子体内注射と比較した試験では、効果が非劣性だった。眼内炎の発生率は2%と通常の抗VEGF薬より高い。

欧州でも承認審査中。

リンク: ロシュのプレスリリース



禁煙補助成分が新規作用機序のドライアイ治療薬として承認
(2021年10月18日発表)

米国ニュージャージー州の新興製薬会社Oyster Point Pharma(Nasdaq:OYST)は、FDAがTyrvaya(varenicline)をドライアイ治療薬として承認したと発表した。二つの点で画期的。第一に、点眼薬ではなく点鼻スプレーであること。第二に、アルファ4ベータ2選択的ニコチン受容体部分作動という、新規作用機序を持っていることだ。

vareniclineはファイザーの禁煙補助薬、Chantix(和名チャンピックス)の活性成分で、Oyster社は米国で眼科あるいは点鼻用に開発する特許実施権を取得した。鼻腔の三叉神経のコリン受容体を刺激して、三叉神経・副交感神経経路を活性化、涙液層を増強する。

軽中重度患者を組入れて一日二回点鼻した臨床試験では、奏効率(シルマースコアが4週間で10mm以上改善)が一本は52%(偽薬群は14%)、もう一本は47%(同28%)だった。これらの試験では0.06mgまでテストしたが、奏効率が大きくは異ならなかったせいか、0.03mg/0.05mLだけが承認された。

リンク: 同社のプレスリリース



テセントリクの肺癌アジュバント療法が承認
(2021年10月15日発表)

ロシュは抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をPD-L1陽性の早期非小細胞性肺癌に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。ステージIIからIIIAの癌を摘出し白金ベース化学療法による術後アジュバント療法を行った後に、1200mgを3週毎に最大16回、点滴静注する。抗PD-L1/PD-1抗体のこの適応症の承認は初。

第3相IMpower010試験では、主評価項目であるPD-L1陽性サブグループのDFS(無病生存期間、担当医評価)のハザードレシオが偽薬比0.66だった。メジアン期間は偽薬群は35.3ヶ月、試験薬群は未達。


リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

2021年10月15日

第1021回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • MSDがRdRp阻害剤を承認申請 
  • アストラゼネカの中和抗体薬、治療試験も成功 
  • リジェネロン、欧米でロナプリーブを承認申請 
  • FDA諮問委員会、Modernaのワクチンのブースター接種を支持 
  • CureVac、ワクチンの承認取得を断念 
  • その他の領域: 
  • 先天性胸腺症の細胞療法が承認 
  • キートルーダが子宮頸癌一次治療に適応拡大 
  • ベージニオ、早期乳癌の術後補助療法に適応拡大 


【COVID-19関連】


MSDがRdRp阻害剤を承認申請
(2021年10月11日発表)

MSDとRidgeback Biotherapeuticsは、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)をEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請した。RNAウイルスの増殖に必要なRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を阻害するEIDD-1931のプロドラッグで、Emory大の非営利法人が発見、Ridgebackがライセンスして、昨年5月、MSDと共にCOVID-19治療の臨床試験を開始したもの。

第2/3相試験の第3相パートでは、軽中等症COVID-19感染症で発症5日以内の、入院の必要はないが一つ以上の重症化リスク因子を持つ患者に800mgを一日2回、5日間、経口投与して29日間追跡したところ、385人中28人(7.3%)が死亡または入院した。偽薬群の377人中53人(14.1%)と比べて有意に少なかった(p=0.0012)。死亡はゼロ対8人。試験薬関連有害事象発生率は12%対11%で大きな差はなく、有害事象による治験離脱は1.3%対3.4%と下回った。この試験は日本の医療施設も参加した。

SARS-CoV-2の増殖を抑制する抗ウイルス薬はRdRp阻害剤Veklury(remdesivir、和名ベクルリー)や複数の中和抗体が実用化されているが、Vekluryは点滴静注を一日一回、5日間施行、中和抗体は一回投与だが今のところ治療用途では点滴静注が必要と、簡便さに欠ける。molnupiravirは経口投与できるので、核酸/抗原検査が出た後に問診し処方箋を書くだけで終わるので手離れが良い。

今四半期は、ほかにも複数の経口抗ウイルス薬の第3相試験の成否が判明する見込み。RdRp阻害剤ではアテア・ファーマシューティカルズがロシュ・グループと共同開発しているAT-527。発症5日以内の軽中等症患者を外来治療する第3相試験には日本の施設も参加している。主評価項目は症状改善までの期間。日本発のRdRp阻害剤、アビガン(favipiravir)もAppili Therapeutics(TSX:APLI)が陽性判定から72時間以内の軽中等症外来患者1231人を米墨伯の施設で組入れた第3相PRESECO試験の結果が11月頃に判明する見込み。Dr. Reddy'sなど提携先も入院患者の治療試験を行っている。

ファイザーは3CLプロテアーゼ阻害剤PF-07321332の第2/3相高リスク外来患者試験の結果が第4四半期に出る見込み。プロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低いのが難点だが、ritonavirブーストにより一日二回服用で足りるようにした。他のプロテアーゼ阻害剤では、オックスフォード大学などがアッヴィのHIV治療薬Kaletra(lopinavir、ritonavir)の大規模な臨床試験を行ったが十分な効果は見られなかった。

上記4品は何れも重症・死亡リスク因子を持つ患者が対象。リスク因子の定義は治験や国により異なる可能性が高いが、リジェネロン・ファーマシューティカルズのREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)の米国の医療従事者用ファクト・シートには以下が列挙されている。

・高齢者(65歳以上など)
・肥満やオーバーウェイト(BMIが25kg/m2超など)
・妊娠
・慢性腎疾患
・糖尿病
・免疫が低下する疾患または免疫抑制治療
・心血管疾患または高血圧
・慢性肺疾患(COPD、喘息症、間質性肺疾患、嚢胞性線維症、肺高血圧症など)
・鎌状赤血球症
・神経発達障害(脳麻痺など)
・医療措置依存(気管切開、胃瘻、陽圧換気など)
・他の要素(人種など・・・米国はアフリカ系の医療が不十分であることが指摘されている)

これらは例示に過ぎないので、実際にはもっと多くの人が適応になるだろう。

リンク: MSDのプレスリリース



アストラゼネカの中和抗体薬、治療試験も成功
(2021年10月11日発表)

アストラゼネカはAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)の第3相TACKLE試験が成功した発表した。日本も参加した症候性COVID-19の外来治療試験で、発症7日以内、陽性判定された検体の採取から3日以内の患者に300mgを一回、筋注した群の重症化/死亡は407人中18人(4.42%)と偽薬群の415人中37人(8.92%)と比べて半分だった。発症5日以内の患者に限定すると3.56%対10.76%と治療効果がもっと大きかった。

先行類薬であるリジェネロン・ファーマシューティカルズのREGEN-COV(casirivimab、imdevimab)は、発症7日以内、陽性判定3日以内で重症化リスク因子を持つ軽中等症外来患者の重症化/死亡を7割抑制した。AZ7442の試験も被験者の9割が重症化リスク因子を持っていたので、似たようなユニバースだが、偽薬群のイベント発生率(REGEN-COVはCOVID-19関連入院/死亡)が倍以上なので、患者背景、あるいは標準療法の内容や手厚さに違いがあるかもしれない。現時点では、AZD7442のほうが効果が低いと断定するのは躊躇される。

リンク: 同社のプレスリリース



リジェネロン、欧米でロナプリーブを承認申請
(2021年10月14日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズは米国でREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)をBLA(生物学的製剤認可申請)し、受理されたと発表した。審査期限は来年4月13日。適応は入院していないCOVID-19感染患者の治療と、感染者と同居する未感染者/無症候感染者の発症予防を想定している。FDAは諮問委員会招集を考えている由。EUも今月、同適応症で承認審査を開始しており、順調なら年内に結論が出る見込みだ。

REGEN-COVは既にEUA(非常時使用認可)を受けているが、パンデミックが収まったら消滅する。7月に日本で特例承認された時に、米国外の販売を担当するロシュがプレスリリースで世界初承認と記したのは、特例承認とは異なりEUAは正式な承認ではないとの認識からだろう。特例承認は海外で承認された薬が対象なので狐に摘ままれたような話だ。

リンク: リジェネロンのプレスリリース



FDA諮問委員会、Moderna製ワクチンのブースター接種を支持
(2021年10月14日発表)

FDAはワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会を招集し、ModernaがEUA申請したCovid-19ワクチンのブースター接種について意見を求めた。プライマリー接種(最初の2回接種)を完了してから少なくとも6ヶ月以上経った、以下に該当する人たちに追加接種することに19人全員が賛成した。

・65歳以上
・18~64歳で感染時の重症化リスク因子を持つ人
・18~64歳で深刻な合併症(重症感染症を含む)のリスクのある職場や施設にいる人(医療従事者など)

Modernaが用意したエビデンスはBioNTech/ファイザーと比べて見劣りし、メーカーが申請したプライマリー接種の半分の用量である50mcgの症例数はさらに少ないため頑強とは言い難いが、委員会は、BioNTech/ファイザーのブースター接種免疫原性試験やイスラエルの持続性疫学研究のデータも参考にするとともに、Modernaだけ承認されなかった場合に起こるであろう混乱にも配慮した様子だ。

尚、Modernaのワクチンは16~17歳にはEUAされていないため、ブースターも対象外。

18歳以上の人口全てにブースター接種を承認する代案については初めから採決対象に上がらず、議論されただけだったが、前回同様に、否定的な意見が多かったようだ。

この日はmRNAワクチンでごく稀に観察される心筋炎・心膜炎に関する疫学研究の報告もあった。リスクが相対的に高いのは18~24歳の男性、1回目より2回目のほうが多い、集中治療を受けた人もいるが多くは保存療法で軽快、但し長期的な転帰はまだ明らかではない。

ブランド間格差が指摘されているが、FDAは、18~25歳のインシデンス・レート・レシオはModerna品もBioNTech/ファイザー品も大差ないと指摘。イベント数が少ないため信頼区間が広く、また、リスク因子の調整が一部しかできなかったようなので、軍配を上げることも引き分けにすることもできなかったのだろう。

当委員会は15日にジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンのブースター接種の検討と、NIAID(米国立アレルギー感染症研究所)が主導した交差接種による免疫原性試験の報告を聞く予定。

リンク: Modernaのプレスリリース



CureVac、ワクチンの承認取得を断念
(2021年10月12日発表)

ドイツのCureVac(Nasdaq:CVAC)は、COVID-19ワクチンの承認取得を断念、第二世代品の開発にシフトすると発表した。同じドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)や米国のModerna(Nasdaq:MRNA)と比べて一年以上後れを取り、効果や安全性の面で差別化できる見込みも立たないため。

CureVacはmRNAワクチンの研究開発におけるパイオニアの一つで、昨年、米国企業が買収するとの噂に驚いたドイツ政府がワクチン安全保障の観点から急遽、出資を決めたことがある。結局、8月にNasdaq上場する形で開発資金調達に目途を立てた。

先行二社のワクチンは効果や安全性を向上するためにSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを一部装飾しているが、CureVacのCVnCoVワクチンはは異なった方法を採用した。そのせいか、それとも一回接種当たり抗原量が12mcgとBioNTech/ファイザーのComirnaty(30mcg)やModernaのSpikevax(100mcg)より少ないせいか、はたまた治験実施地域や流行株の違いのせいか、第2/3相試験のワクチン効率は47%と先行二製品の半分程度に留まり、61歳以上では有意な効果が見られなかった。シーケンシングが行われた18~60歳の感染者187例では、ミュー株(コロンビア型)が42%と一番低かったが、アルファ55%、ガンマ67%、ラムダ53%と、先行二製品では良好に感受したアルファ株でも特別に良い数値は出ておらず、ワクチン自体が一番の問題ではないかと想像せざるを得ない。

最初に壁にぶつかったのは米国だ。FDAは、今年5月、事前相談実施済みのワクチン以外はEUA(非常時使用認可)しない方針を発表したが、CureVacは事前相談していなかった。先行二製品は臨床試験の薬効追跡期間が2ヶ月程度でEUA申請されたが、正式な承認申請となると6ヶ月以上のデータが必要なので、数ヶ月の差が生じる。更に、EUAは申請から認可まで1ヶ月もかからなかったが、正式な承認審査は数ヶ月かかるだろう。

EUは第2/3相試験の成否が判明する前の今年2月にローリング審査を開始。会社側は、順調なら6月にも条件付き承認と期待していたが、今回、撤回した。早くても来年第2四半期に遅れる見込みになったからだ。この頃にはグラクソ・スミスクラインの助けを借りて開発した第二世代品のCV2CoVが第3相入りする可能性があり、動物試験では免疫原性が10倍高かったため、こちらにシフトすることを決めた。同社はEUと2億2500万回分(1億8000万回分を追加可能)の供給で合意していたが、終了した。

同社以外にもCOVID-19ワクチンの開発を進めている企業はあるが、先進国では接種が進み、ワクチン不足も深刻ではなくなったため、大規模な偽薬対照試験をロンチしても患者組入れは難航必至だ。有効なワクチンが存在するのに偽薬対照試験を行うのは人道に反する可能性すらある。一方、低所得国では依然として接種率が低く、CVnCoVのように通常の冷蔵庫でも3ヶ月保存可能な製品のニーズはありそうだが、ワクチンの価格を低く設定せざるを得ないだろうから、投資採算の面で難がある。

プライム接種用途は断念して、ブースター接種用途に特化しても良いのではないか。半年でブースター接種することが認められたのはメーカーにとっては望外のシナリオに違いない。先進国の特需が一巡しても半年毎のブースター需要があれば、2020~21年並みの需要が毎年、期待できるからだ。運命の女神の前髪を掴めなかった会社にもラストチャンスが残っている。

リンク: CureVacのプレスリリース


【承認】


先天性胸腺症の細胞療法が承認
(2021年10月8日発表)

FDAは、大日本住友製薬が2019年にRoivant Sciencesから取得したVANT5社の一つであるエンジバント・セラピューティクスのRethymic(allogeneic processed thymus tissue-agdc)を小児先天性無胸腺症の治療薬として承認した。エンジバントにとっても、この超希少疾患の治療薬としても、初めての承認。

この疾患はT細胞が育ち卒業試験を受ける胸腺が欠損しているため感染症のリスクが高い。米国で年20人前後の新生児が罹患、治療しないと余命は2~3年とされる。Rethymicは心臓手術を受ける幼児から採取して加工・培養した他家培養胸腺組織で、デューク大学の医学者が30年近く、症例を集積してきた。患者の体表面積(単位:平方メートル)当り5000~22000平方ミリメートルを一回、大腿内に移植する。27年間に投与された生後1ヶ月から16歳の105人は、1年生存率77%、2年生存率は76%だった。

免疫機能を獲得するまで6~12ヶ月以上かかるため厳格な感染予防を継続する必要があるが、移植後1年間生き延びた患者は、追跡期間の中央値である10.7年後の生存率が94%と、長期予後がよい。一方、処方情報によると、腎機能低下やCMV感染症は死亡リスク因子とのこと。

エンジバントは希少小児疾患優先審査バウチャを取得した。優先審査の対象にならない薬を優先審査してもらうことができ、最近の相場では1億ドル前後で転売することもできる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 大日本住友のプレスリリース(10/11付、和文、pdfファイル)



キートルーダが子宮頸癌一次治療に適応拡大
(2021年10月13日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を子宮頸癌の一次治療に化学療法(bevacizumab併用も可)と併用することを承認した。治癒的手術・放射線療法不適でPD-L1陽性(CPS≧1)の治療抵抗性・再発・転移性の子宮頸癌が適応になる。

エビデンスとなる第3相KEYNOTE-826では、carboplatinまたはcisplatinをpaclitaxel、そして必要ならbevacizumabと併用する標準療法群にKeytrudaを追加するレジメンの全生存期間とPFS(無進行生存期間)を偽薬追加と比較した。ESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると全生存期間のハザードレシオは0.67、メジアン値は24.4ヶ月と16.5ヶ月だったが、今回承認されたのは被験者の9割を占めたPD-L1陽性患者だけだったため、レーベル上は各0.64、メジアン未達、16.3ヶ月になった。PFSはハザードレシオ0.62、メジアン値は10.4ヶ月対8.2ヶ月。

Keytrudaは子宮頸癌の二次治療に単剤投与することが18年に加速承認されているが、上記試験の成功により市販後コミットメントが果たされたため、本承認に切り替わった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース



ベージニオ、早期乳癌の術後補助療法に適応拡大
(2021年10月13日発表)

FDAはイーライリリーのVerzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)を早期乳癌の術後アジュバント療法に用いることを承認した。ホルモン受容体陽性、her2陰性、リンパ節転移があり、再発リスク因子を持ち、且つKi-67スコアが20%以上の成人男女が適応になる。

エビデンスは第3相monarchE試験。内分泌療法(tamoifenまたはアロマターゼ阻害剤)を5~10年施行する標準療法群と、更にVerzenio(150mg)を一日二回、2年間経口投与する群のIDFS(無浸潤疾患生存期間)をオープンレーベルで比較した。中間解析でハザードレシオ0.747、p=0.0096となり、成功認定された。

この試験は陽性腋窩リンパ節が4個以上、腫瘍が5cm以上、Bloom Richardson分類でグレード3、Ki-67インデックスが20%以上、の四つのリスク因子のうち一つ以上を持つ患者を組入れたが、意外なことに、承認されたのはKi-67≧20%だけだった。レーベル上のハザードレシオは0.626(95%信頼区間0.49-0.80)、3年生存率は標準療法群が79.0%、試験薬併用群が86.1%となっている。サブグループのデータが全集団より良いので、おそらく、それ以外の患者のデータが頑強ではなかったのだろう。

Ki-67スコアは癌の増殖能と相関性が指摘されているKi-67蛋白の発現程度をIHC染色法で判定したもの。検査方法が確立していなかったり、再検査すると数値が変わったりするため、確立したスクリーニング手法とは考えられていないようだ。本試験ではオンサイトではなく中央検査・評価しており、また、FDAはAgilent社のアッセイをコンパニオン診断薬として承認したので、この組み合わせに関してはお墨付きとなったわけだが、どの程度普及するだろうか。

尚、男性を組入れた本試験の成功に基づき、Verzenioの全用途について、男性も適応となった。

VerzenioはCDK4/6阻害剤。米国ではホルモン受容体陽性her2陰性の進行/転移乳癌にホルモン療法薬と併用することや上記術後アジュバントが承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース





今週は以上です。

2021年10月9日

第1020回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • アストラゼネカ、抗体カクテルを感染予防薬として申請 
  • EMA、追加接種を緩く承認 
  • JNJもブースター接種を申請
  • その他の領域: 
  • 乳児神経軸索ジストロフィーの第2/3相試験が成功 
  • リンヴォックの体軸性脊椎関節炎試験が成功 
  • ロフルミラストの新製剤を乾癬に承認申請 
  • FDA諮問委員会、武田の抗CMV薬の承認を支持 
  • C5a受容体拮抗剤がANCA血管炎に承認 


【COVID-19関連】


アストラゼネカ、抗体カクテルを感染予防薬として申請
(2021年10月5日発表)

アストラゼネカはAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)を症候性COVID-19感染症の予防薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請した。二種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテルで、効果が通常の4倍長く続くことと、自己注も可能な筋注用薬であることが特徴。

第3相試験は曝露後予防(過去8日間に感染者に暴露した人が対象)と曝露前予防(ワクチン接種や感染歴がなく接種しても応答が弱そうな人や感染リスクの高い人が対象)が行われ、前者はフェールしたが後者が成功。300mgを一回筋注した群の183日症候性感染は偽薬群より77%少なかった(95%信頼区間46-90)。重症感染症はゼロ(偽薬群は3人、うち2人は死亡)。

テネシー州のVanderbilt University Medical Centerが特定した抗体をベースに、アストラゼネカが半減期を延長し抗体依存的疾病増強リスクを抑制する改変を行った。in vitroでデルタ株にも活性を示した。米国政府の助成を受けており、EUA後に70万回分を7億ドル強で供給することに合意している。

感染予防の第一選択はワクチンだが、免疫低下疾患や免疫抑制療法を受けている患者は十分な免疫を獲得できないかもしれない。AZD7442はそのような人の選択肢の一つになり得る。今回の試験は半年しか追跡していないので、抗体の半減期だけでなく感染予防効果も一年続くかどうか未だ分からないが、ワクチンの効果の持続期間も想定より短そうなので、当面は大きな問題にはならないだろう。

問題は、費用対効果だ。BioNTech/ファイザーやModernaのワクチンの価格は、地域や開発補助金授受状況などにより異なるが、欧米では二回接種で32~50ドル程度である模様だ。抗体医薬のほうが20倍以上高い。

AZD7442も将来的に治療に適応拡大する可能性があるだろう。治療薬の相場と比べれば1000ドルは決して高くない。リジェネロン・ファーマシューティカルズの抗SARS-CoV-2抗体カクテルは治療薬として承認されているが、一人分が2000ドル強と報じられている。MSDは米国政府とポリメラーゼ阻害剤molnupiravirの供給で合意しているが、補助金を貰っているせいか、かつまた政府一括納入で販売管理費が少なくて済むせいか、調達価格は1コース700ドルと低くなっている。ギリアド・サイエンシズが米国政府を通さずに販売するremdesivirは一人3100ドル(5日コース)と報じられている。

しかし、最初の用途が予防となると、治療より投与しないリスクが小さいため、費用対効果が大きく変わってくる。上記試験で、偽薬群の感染率は1%程度、試験薬群は0.2%程度と推測されるので、number needed to treat(NNT)は125。曝露後予防試験は、フェールしたとはいえ、NNTは67だった。今回の試験で死亡リスクを100%抑制したのは立派だが、有意性は不明で、NNTは850と大きい。

リンク: 同社のプレスリリース



EMA、追加接種を緩く承認
(2021年10月4日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、重度免疫不全の人にBioNTech/ファイザーのComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)やModerna(Nasdaq:MRNA)のSpikevaxを追加接種することを承認した。二回目から28日以上経ってから接種する。Comirnatyに関しては二回目から6ヶ月以上経った18歳以上の全人口にも承認した。但し、プレスリリースの表現は、重度免疫不全は『接種してもよい』(may be given)、18歳以上の全員は『考慮しても良い』(may be considered)と謙虚なものになっている。EMAやECDC(欧州疾病予防管理センター)は人口全体に追加接種する必要はないと考えているが、EU加盟国の一部は既にブースター・ショットを高齢者など向けに開始しているため、中道的な言い方にならざるを得なかったのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース



JNJもブースター接種を申請
(2021年10月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、COVID-19のブースター接種をEUAするようFDAに申請した。56日後に筋注する。二回目の接種の14日後からメジアン36日間追跡したENSENBLE 2試験では、中等症以上の感染症が二回偽薬接種群より75%少なかった(米国は94%、米国外の施設では75%)。重症以上の感染症は100%少なかった。

リンク: JNJのプレスリリース


【新薬開発】


乳児神経軸索ジストロフィーの第2/3相試験が成功(?)
(2021年10月6日発表)

米国カリフォルニア州の新興企業、Retrotopeは、RT001の第2/3相INAD(乳児神経軸索ジストロフィー)試験の結果概要を公表した。症状改善効果などには有意な差はなかったが、副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)や全生存期間の解析でp値が0.05を下回った。今後の開発方針についてFDAと相談する考え。もし承認申請が認められるようならば眉のツバを拭き取るべきだろう。

INADはPLA2G6遺伝子の変異による深刻な常染色体劣性遺伝性疾患。多価不飽和脂肪酸が脂肪過酸化反応により分解されて生じる毒性副産物が除去されずに蓄積する。RT001は安定化リノール酸エチルエステルで、フリードライヒ運動失調症でも第2/3相、進行性核上麻痺、筋萎縮性側索硬化症などに第2相試験中。

INAD試験は19人の患者に960mgカプセルを一日4個、経口投与し、1年以上追跡した。深刻な超希少疾患であることから偽薬群は設けず、ベースライン時点の患者背景がマッチする自然歴36例を対照群とした。主評価項目のAshworth Spasticity Scaleは対照群比6.42ランク・ポイント改善したがp=0.14と、サンプルサイズが小さいせいか、フェール。他の副次的評価項目もフェールしたが、同じく副次的評価項目に設定された、PFSはハザードレシオ0.175、p=0.021、全生存期間は0.112、p=0.014、試験薬群の死亡率は11%、対照群は31%と、主評価項目がフェールなので統計的に有意とは言えないが、好ましい数値になった。

超希少疾患なので厳格な試験を望むのは難しく、この程度の試験で真贋を判定しなければならないが、生死は支持療法なども関係するので、個々の症例を精査して第三の因子が関与していないことを確かめる必要がある。自然歴データは過去の文献や特定の医療施設での症例に基づくことが多いが、今回は出所すら明記されていない。

リンク: 同社のプレスリリース



リンヴォックの体軸性脊椎関節炎試験が成功
(2021年10月7日発表)

アッヴィは、JAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)の二本の第3相体軸性脊椎関節炎試験が成功したと発表した。活性期強直性脊椎炎は第2/3相試験データに基づき欧州では既に承認、日米でも承認申請中だが、今回、小分子薬だけでなくバイオ薬にも十分応答しない患者(n=420)のエビデンスもできた。第14週におけるASAS(Assessment in SpondyloArthritis International Society)40達成率は45%と偽薬群の23%を有意に上回った。バイオ薬歴を持たない患者を組入れた第2/3相では52%対26%だったので、概ね似たような結果だ。

強直性脊椎炎はX線基準を満たす体軸性脊椎関節炎(r-axSpA)と呼ばれることが増えた。症状が類似しているがX線所見のない、非X線体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)と対照して分類するためだ。Rinvoqはこのnr-axSpAを組入れた第3相(n=313)でもASAS40が45%と偽薬群の23%を有意に上回った。

忍容性は、両試験とも、深刻有害事象が2.8%と偽薬群(r-axSpA試験は0.5%、nr-axSpA試験は1.3%)より多かった。COVID-19やブドウ膜炎、腎盂腎炎など感染症が増加した。一方、MACE(主要心臓有害事象)やVTE(静脈血栓塞栓)は見られなかった。用量が15mg一日一回と、米国でも承認されている低用量であることや、投与期間が14週と長くないことなども影響しているのではないか。

FDAは今年9月、炎症性疾患の治療に承認されているJAK阻害剤3製品(Xeljanz、Rinvoq、Olumiant)について、深刻な心臓関連事象や感染症、癌の警告を強化し、全適応症に関して、TNF阻害剤に不応不耐の患者に限定した。JAK阻害剤はアトピー性皮膚炎や円形脱毛症など様々な用途に承認申請されているが、FDAは酷く念入りに審査しており、多くの案件の審査期限が超過してしまっている。Rinvoqのr-axSpA適応拡大も遅れ遅れになっているが、治験対象はバイオ薬ナイーブだったので、FDAの新しい適応範囲と合致しない。もし承認されなかったら、今回のデータで修正承認申請することができるだろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース(非X線所見体軸性脊椎関節炎)
リンク: 同(強直性関節炎)


【承認申請】


ロフルミラストの新製剤を乾癬に承認申請
(2021年10月4日発表)

米国カリフォルニア州の新興企業、Arcutis Biotherapeutics(Nasdaq:ARQT)は、ARQ-151(roflumilast)を成人の中重度尋常性乾癬治療薬としてFDAに承認申請した。0.3%クリームを患部に一日一回塗布した第3相試験二本では、IGA奏効率が一本は42%(偽薬群は6%)、もう一本は37%(同6%)だった。PASI-75は40%前後で、市販後に競合するであろう薬を比べても見栄えがする。有害事象は下痢が若干増える程度。

roflumilastはドイツのAltanaがCOPDの吸入用薬Daxasとして実用化したPDE4阻害剤。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、武田の抗CMV薬の承認を支持
(2021年10月8日発表)

FDAはAMDAC(抗微生物薬諮問委員会)を招集し、武田薬品が造血幹細胞や臓器の移植後に発症しがちな難治CMV(サイトメガロウイルス)感染症の治療薬として承認申請したTAK-620(maribavir)について意見を求めた。17人の委員全員が便益が危険を上回る(承認に値する)と判定した。年内に承認されるのではないか。

第3相試験では400mgを一日2回、8週間投与したところ、ウイルス消失奏効率が55.7%と、医師の選んだ実薬(ganciclovir、valganciclovir、foscarnetまたはcidofovir。併用も可)を用いた群の23.9%を有意に上回った。治療時発現有害事象による治験離脱率が13.2%と対照群の31.9%より低かった。治療時発現深刻有害事象により各群1名が死亡した(本試験は2:1割付)。

この試験では試験薬群の被験者の5割、対照群の6割が、実薬4剤に抵抗性を持つ遺伝子型のウイルスに感染していた。FDAは、抵抗型と非抵抗型の夫々について便益危険バランスを問うたが、どちらも全員一致で賛成だった。

CMV治療薬はポリメラーゼ阻害剤が多いがmarivirはCMVのUL97プロテインキナーゼを阻害する、新作用機序を持っている。ウイルス増殖の複数のプロセスに介入するため抵抗変異に強く、また、忍容性が比較的良い。

03年にViroPharmaがグラクソ・ウエルカムからライセンス、造血幹細胞移植後CMV感染を治療する第3相を行ったが、用量が100mg一日2回と少なかったせいか、6ヶ月再発率が4.4%と偽薬群の4.8%と大差なかった。13年にViroPharmaを買収したシャイアが改めて第3相を行い、遂に成功した。武田は19年にシャイアを買収した。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


【承認】


C5a受容体拮抗剤がANCA血管炎に承認
(2021年10月8日発表)

米国カリフォルニア州の新興企業、ChemoCentryx(Nasdaq:CCXI)は、FDAがTAVNEOS(avacopan)を重症活動期ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎の治療薬として承認したと発表した。コルチコステロイドなどの標準療法を受けている、顕微鏡的多発血管炎(MPA)や多発血管炎性肉芽腫症(GPA)の患者に追加投与する。

ANCA関連血管炎は補体系の過剰亢進により好中球が異常活性化、血管に損傷を与え、腎障害などの臓器障害をもたらす。欧米の患者数は10万人と推測されている。Tavneosは補体系のC5aの受容体を阻害する経口剤。第3相試験ではrituximabまたはcyclophosphamideベースの治療レジメンをベースに、30mgを一日二回投与する群と、prednisoneを漸減法で加える群を比較したところ、26週寛解率が非劣性だった。シーケンシャルに行われた52週持続寛解率の解析も、まず非劣性解析が成功、次に優越性解析もp=0.0066と成功した。eGFRの改善やQOL指標も上回った。両群ともステロイドの使用が認められていたが、試験薬群のほうがステロイド関連有害事象が少なかった。

5月に開催された諮問委員会の見解は分かれた。薬効のエビデンスに関しては9人が支持、9人が不十分と判定。安全性は10人が支持、8人が不十分。便益が危険を上回るかどうかについても10人が支持、8人が反対した。バックグラウンド・レジメンや寛解判定尺度の選択に関して議論の余地があることや肝毒性などが影響したようだ。

レーベルには肝毒性、深刻な過敏反応(血管浮腫など)、B型肝炎ウイルスの再燃、深刻な感染症が警告・注意事項として記されている。

米国外の商業化権はFresenius SE(Xetra:FRE)とVifor Pharma(SIX:VIFN)の合弁会社が保有しており、日本ではサブライセンシーであるキッセイ薬品が9月にタブネオス名で製造販売承認を取得した。欧州でも承認審査中。

リンク: ChemoCentryxのプレスリリース





今週は以上です。

2021年10月2日

第1019回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 経口抗ウイルス剤の第3相外来治療試験が成功 
  • ACIPもブースター接種の対象について意見が分かれた 
  • EMA、Modernaのワクチンのブースター接種を評価開始 
  • ロナプリーブの外来/入院治療試験のデータ 
  • その他の領域: 
  • キイトルーダ、肝癌加速承認取消のリスクが薄らぐ 
  • MPO阻害剤の多系統萎縮症試験がフェール 
  • アミカス、ポンペ病新薬を承認申請 
  • ノバルティス、前立腺癌の放射性医薬を承認申請 
  • リジェネロン、抗PD-1抗体を子宮頸癌に承認申請 
  • 初のアラジール症候群治療薬が承認 
  • アッヴィ、MSD由来の片頭痛予防薬が承認 
  • TecartusがCAR-Tで初めて前駆B細胞ALLに適応拡大 


【COVID-19関連】


経口抗ウイルス剤の第3相外来治療試験が成功
(2021年10月1日発表)

MSDと米国マイアミ州の新興企業、Ridgeback Biotherapeuticsは、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)の第3相COVID-19外来治療試験が中間解析で成功したと発表した。米国でEUA(非常時使用認可)を、海外でも製造販売承認を、申請する考え。経口投与できるので外来治療に向いており、価格も、おそらく、抗SARS-CoV-2抗体より安価に設定されるだろう。効果はやや見劣りする。副作用は大きな問題はなさそうだ。抗SARS-CoV-2抗体同様にセラプティック・ウインドウはそれほど広くない。妊婦など臨床試験の除外条件がそのまま適応外になるかどうかも重要な点だ。

molnupiravirは19年にインフルエンザ治療薬候補として臨床入りしたRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)阻害剤。ポリメラーゼを標的とする点でギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)や富士フィルム富山化学のアビガン(ファビピラビル/JAN、favipiravir/INN)、Atea Pharmaceuticalsがロシュ・グループと共同開発しているAT-527と同系列だ。EIDD-1931のプロドラッグで、血管脳関門透過性や肺分布が良好とされる。

エモリー大学の非営利法人が開発、Ridgebackがライセンスを取得し、20年にMSDが世界開発商業化権を取得、COVID-19の臨床試験を開始した。

今回のデータは第2/3相試験の第3相ポーションに関するもの。発症5日以内で一つ以上の重症化リスク因子を持つ外来患者を800mgを一日二回、5日間経口投与する群と偽薬群に無作為化割付して、29日間の死亡・入院リスクを比較した。中間薬効解析の対象は762人。新規組入れは打ち切られたが既に推定1400人前後の組入れを終えているので、今後、データがアップデートされる可能性がある。

中間解析では偽薬群の死亡・入院率が14.1%であったのに対して試験薬群は7.3%と有意に下回った(p=0.0012)。発症からの日数やリスク因子の内容に関わらず効果が見られた。一部症例でウイルスのシーケンシングを行ったところ、ガンマ、デルタ、ミュー株にも有効だった。偽薬群は8人(2%)が死亡したが試験薬群はゼロだった。薬物関連有害事象発生率は各11%と12%、有害事象による治験離脱率は3.4%と1.3%で試験薬の方が低い。

さて、COVID-19治療薬は承認されている薬でも万能ではなく、疾病進行の度合いだけでなく臨床試験の実施地域や主評価項目、未解明の第3の因子により臨床試験が成功したり曖昧な結果になったりしている。molnupiravirもできることとできないこと、使わない方が良い類型があると推測される。

まず、第2相パートから第3パートに進むに際して行われた組入れ条件の見直しは、まず、入院患者試験は見送られた。第2相で無益判定されたため。外来試験は当初は発症7日以内を組入れたが、第3相で5日以内に変更された。6~7日経った患者の成績が好ましくなかったのではないか。

第2/3相の治験登録を見ると、腎機能や血小板数の大きな低下が除外条件になっている。

妊婦・授乳も除外条件で、妊娠可能年齢の女性やパートナーは性交を控えるか避妊する必要がある。短期間しか服用しない薬だが、アビガンがインフルエンザ治療薬として承認されながらこの用途では殆ど使われていないように、もし催奇性が確認されたら普及の制約になるだろう。尤も、第3相と並行して前臨床催奇性試験が行われただろうから、承認される段階では懸念が解消しているかもしれない。

MSDは21年末までに1000万コース分を生産する予定。低中所得国での普及を促すためにインドのGE薬会社などに製造販売権を供与している。

Ridgebackにとっては、新薬承認第2号になりそうだ。第1号はザイール種エボラウイルス感染症の治療薬、Ebanga(ansuvimab-zykl、通称mAb114)。どちらもライセンス品だ。SACキャピタルという一世を風靡したヘッジファンドの出身者が夫妻で設立した会社だ。

リンク: 両社のプレスリリース



ACIPもブースター接種の対象について意見が分かれた
(2021年9月24日発表)

ブースター接種の当否についてはWHOやEMA、ECDC(欧州疾病予防管理センター)が比較的慎重なスタンスを表明しているのに対して、イスラエルや英国、ドイツなどでは高齢者など高リスク層を対象に既に開始した。人口全般を対象とすることにはおそらく皆が否定的、高齢者や免疫力低下者にもう一度接種するのはおそらく皆が肯定的だろうが、どこで線引きすべきかは意見が鋭く分かれている。

米国の場合、FDAが新型ワクチンや適応拡大を承認したら、次はCDC(米国疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン諮問委員会)がどのような人たちに接種勧奨すべきか検討し、CDCが結論をMMWR(罹患死亡週次報告)で公表するのが通常の手順だ。しかし、今回の相手は通常ではないため、政府の対応は異例ずくめだ。

最初に、バイデン大統領がHHS(米国保健福祉省)傘下の関連組織のトップとともに、COVID-19ワクチン接種を完了してから8ヶ月以上経った18歳以上の全員を対象にブースター接種を開始する計画を発表した。BioNTech/ファイザーの承認申請を受けて諮問委員会が開催されたが、6ヶ月以上経った16歳以上全員を適応とすることには18人の諮問委員のうち16人が反対した。追加された諮問事項である、65歳以上と重症合併症のリスクが高い人の接種は全員が賛成した。非公式な採決が行われた、医療や介護に従事する人たちを高リスク層に含めることにも全員が賛成した。

次に、ACIPが開催され、65歳以上の高齢者や介護施設入居者は全員賛成、50~64歳で高リスク基礎疾患(CDCは17種類を列挙)は15人中13人が賛成したが、18~49歳の高リスク基礎疾患は賛成9、反対6、18~64歳の職業的曝露リスクを持つ人(医療従事者や教師など)は賛成6、反対9で評価が割れた。

FDAは諮問委員会の意見に拘束されないので、その後の申請者側との協議や諮問対象外の事項に基づき、違う結論を出すことが珍しくない。一方、CDCがACIPの勧奨を採用しなかったのは18年前に一回あっただけであるようだ。今回、二回目の珍事が起きた。MMWRが刊行されていないので未だ確定した訳ではないが、CDCは、高齢者・介護施設入居者と50~64歳で高リスク基礎疾患は接種すべき(should)、18~49歳の高リスク基礎疾患と18~64歳の職業的曝露は、個々人の便益と危険に応じて、接種することができる(may)と、ACIP勧告を一部変更する考えであることを発表したのだ。

リスク管理は医学的な評価だけでなく行動科学や心理学的な考察も必要になるため、行政の裁量の余地も大きくなる。私見では、今回のワクチン接種で一番ナンセンスだったのは米国でも日本でも州や自治体の人口に応じてワクチンを配布したことだ。感染リスクの高い医療従事者を優先するなら感染者の多い地域も優先するのが王道であるはずだ。地方に住んでいる人の多くは、後回しにされて不快感を持つかもしれないが、そのような人たちでも、首都圏や大都市で流行が収まれば自分たちには波及しないと思っているだろう。だが、選挙区の有権者に都民ファーストと言えるのは東京都の知事や議員だけである。ワクチン接種方針が高速道路の建設と同じ理由で歪められてしまった。

ブースター接種の線引きは専門家のコンセンサスが形成されていないので今まで以上に行政や政治家が主導することになりそうだ。

リンク: CDCのプレスリリース



EMA、Modernaのワクチンのブースター接種を評価開始
(2021年9月27日発表)

EMAは、Moderna社のCOVID-19ワクチン、Spikevaxのブースター接種について評価を開始したと発表した。接種を完了してから6ヶ月以上経った12歳以上に対象人口拡大申請がなされたことを受けたもの。承認審査を開始した、のではない理由は、EMAもECDC(欧州疾病管理予防センター)も、現時点では、人口全体にブースター接種を施行する必要はないと考えているため。必要になった時に備えるだけ、と弁明している。

インフルエンザ・ワクチンは効果の持続期間が短いが、専ら冬に流行するため、年一回の接種で足りる。COVID-19は通年流行するので何ヶ月持つか気になるが、臨床試験の追跡期間が接種完了後2~3ヶ月間と短く、よくわからない。偽薬対照試験を継続できたらよかったのだが、一般接種が始まった後も被験者の接種を禁じるのは倫理に反する可能性があり、できなかった。

Modernaは、代わりに、偽薬群に割付けられ盲検解除後に接種した遅延接種群と、ワクチン群の、今年7~8月における感染状況を比較する研究を行った。遅延接種群は一回目接種からメジアン8ヶ月が経過した11431人、ワクチン群はメジアン13ヶ月経過した14746人を集計したところ、1000人年当り罹患数は各49.0と77.1で、前者のほうがインシデンスが36%少なかった(95%信頼区間17-52%)。疫学研究では入院・死亡リスク抑制効果に関しては未だ大きな低下がみられていないが、今回の研究では1000人年当り重症例も3.3対6.2で少なかった。

年齢やリスク因子を調整したCox比例ハザードモデルでも同様な結果になったとのこと。感染予防効果が時系列的に低下する証左となり得るが、intent-to-treatではない事後的分析なので、群間の偏りがないとも限らない。BioNTech/ファイザーの承認申請にも言えることだが、今、追加接種しなければならない論拠が曖昧であり、特に、なぜ6ヶ月なのか、8ヶ月や1年ではいけないのか、判断材料が足りない。

リンク: EMAのプレスリリース



ロナプリーブの外来試験と入院試験のデータ
(2021年9月29日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGEN-COV(商標名:casirivimabとimdevimab、和名ロナプリーブ)の第3相COVID-19外来治療試験の論文刊行と、第2/3相入院治療試験の結果概要を発表した。

外来治療試験は昨年11月に米国でEUAされた時のエビデンスで、RT-PCRで感染確定してから3日以内、発症からは7日以内の非入院患者を二剤合計4800mg、同2400mg、または偽薬を一回点滴静注する群に無作為化割付して、死亡またはCOVID-19関連の入院のリスクを29日間追跡した。途中で解析対象を重症・死亡リスク因子を持つ人たちに絞り込むプロトコル変更が行われた。

結果は、4800mg群(1355人)の発生率が1.3%であったのに対して対応する偽薬群は4.6%、相対リスク削減率は71.3%だった。2400mg群(736人)も1.0%で対応する偽薬群の3.2%より低く、相対リスク削減率は70.4%だった。

尚、抗SARS-CoV-2抗体は本試験で見られたように用量応答相関が鈍く、EUA時の承認用量は二剤合計2400mgだったが、その後1200mgに変更されている。また、当初は二剤別々のバイアルに入っていたが、米国では今年6月に配合剤がロンチされた。

さて、REGEN-COVは抗ウイルス薬なので早く投与した方が良さそうに感じられるが、残念ながら、発症/診断確定から投与までの経過日数と治療効果の相関性については言及されていない。診断確定から3日以内に来院/往診で点滴するのはスケジュール的にタイトなので、分析できるほど日数の分布が広がっていないのだろう。

REGEN-COVは抗SARS-CoV-2抗体の補充療法なので、感染又はワクチン接種により抗体を獲得した患者にも有効なのかどうかは曖昧だ。論文著者はベースライン時点で抗体陽性だった患者にも効果があったと述べている。Appendix収載のグラフを見ると、陰性サブグループにおける相対リスク削減率が4800mgは76%、2400mg群は83%であったのに対して、陽性サブグループでは各69%と85%となっており、点推定値は大差ない。しかし、陽性サブグループの信頼区間は著しく広く、上限は1を上回っている。被験者のうち2割と、数が少ないせいで検出力不足だったのかもしれない。

驚かされるのは、抗体陽性が2割しかいなかったこと自体だ。検査・判定方法が同じかどうか分からないが、入院患者試験では、後述の試験でも英国で行われた超大規模試験でも、6割前後だった。入院するほど症状が重くなく、65歳以上などリスク因子を持つ患者層では2割しか抗体陽性でないのだとしたら、陽性陰性を問わずに投与することを肯定する現在の適応が非合理的とは言えないだろう。

次に、入院患者治療試験の成績は、これだけで適応拡大が認められるほど頑強なものではないようだ。組入れが進まず目標の1/3程度で中止してしまったことが響いたのだろう。オックスフォード大学が主導したRECOVERY試験は抗体陰性サブグループに関して成功しているので、今回の試験を支持的証跡とすれば、EUAを取れるのではないか。

組入れが進まなかったのは、おそらく、当初の治験成績がパッとしなかったからだろう。この試験は、昨年10月、独立データ監視委員会がハイフロー酸素投与や人工呼吸器装着患者の新規組入れ停止を勧告した。酸素投与不要またはローフローで足りる患者の組入れは続行したが、今度は、他社の抗SARS-CoV-2抗体の入院治療試験でフェールが相次ぎ、注目がremdesivirやdexamethasoneにシフトしていった。

組入れ目標変更に合わせたのだろう、主評価項目も抗体陰性で酸素不要またはローフロー酸素投与のサブグループのウイルス量の変化に変更された。統計的に有意な効果があったとのこと。臨床的評価項目も全てで好ましいトレンドが見られた。29日死亡リスクは56%減、陽性を含めても36%減とのことだが、統計的に有意ではなさそうだ。また、陽性だけではどうなのかは明記されていない。

尚、この試験では、初期の臨床試験用量である二剤合計8000mgと2400mgをテストした。

リンク: Weinreichらの治験論文(New England Journal of Medicine、フリー・アクセス)
リンク: リジェネロンのプレスリリース(入院患者試験、9/30付)


【新薬開発】


キイトルーダ、肝癌加速承認取消のリスクが薄らぐ
(2021年9月27日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKEYNOTE-394試験が成功したと発表した。進行肝細胞腫の二次治療試験で、全生存期間や副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)が偽薬を有意に上回った。Keytrudaは18年に米国でsorafenib歴を持つ患者に加速承認されたが、市販後薬効確認試験であるKEYNOTE-240試験が二兎も四兎も追ったため多重性補正が祟りフェールした。FDAは承認を取消すべきか今年4月に腫瘍学薬諮問委員会で尋ねたが、全員が取消は早計と判定。期待された通り、今回の試験で答えが出た。

394試験は中国、韓国、マレーシア、台湾の医療施設でsorafenibまたはoxaliplatinによる治療歴を持つ又は不耐な進行肝細胞腫を組入れた。データは未発表。米国ではoxaliplatinを肝細胞腫に用いることは承認されていないので、sorafenib歴を持つ患者だけのサブグループ分析も望ましい結果なのか、知りたいところだ。

抗PD-1抗体はブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)も17年に米国で肝細胞腫二次治療に加速承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、今年7月に自発的返上した。

一方、ロシュのTecentriq(atezolizumab)は全身性治療未経験の切除不能肝細胞腫にAvastin(bevacizumab)を併用した試験で全生存期間などがsorafenibを有意に上回り、昨年、日米欧で承認された。このレジメン歴を持つ患者にKeytrudaが有効であるかどうかは不明なので、もし普及した場合、本承認されてもKeytrudaの出番は限られるだろう。

リンク: MSDのプレスリリース



MPO阻害剤の多系統萎縮症試験がフェール
(2021年9月27日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は、BHV3241(verdiperstat)の第3相多系統萎縮症(MSA)試験がフェールしたと発表した。40~80歳の患者336人を偽薬または600mgを一日二回経口投与する群に無作為化割付して48週間治療し、修正MSA評定尺度の変化などを比較したが、主評価項目も主要な副次的評価項目も大差なかった。

MSAは希少な、急進行・致死的な神経変性疾患。通常、発症後6~20年で死亡するとのこと。verdiperstatは脳における酸化ストレスや炎症のドライバーとなるミエロペルオキシダーゼ(MPO)を阻害する経口剤、アストラゼネカが300mgと600mgのプルーフ・オブ・コンセプト試験を行なったところ、上記尺度などで用量依存的なシグナルが見られた。Biohavenは18年にライセンス。MSAに加えて、ALSでも第3相試験中で今年第4四半期に組入れ完了する見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


アミカス、ポンペ病新薬を承認申請
(2021年9月29日発表)

アミカスセラピューティクス(Nasdaq:FOLD)はポンペ病の新規併用療法をFDAに承認申請し受理されたと発表した。新開発の遺伝子組換え型アルファ・グルコシダーゼ、cipaglucosidase alfaと、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのアクテリオンがゴーシェ病I型やニーマン・ピック病C型の薬として販売しているグルコシルセラミド合成酵素阻害剤miglustatを併用することで、前者を安定化・活性増強する狙い。生物学的製剤である前者の審査期限は来年7月29日、小分子薬である後者は来年5月29日と分かれた。

アミカスの会長兼CEOであるJohn Crowleyは、娘二人がポンペ病を発症したのを機にBMSを退社、治療法の研究者やスポンサー探しに奔走し、8年後の06年、遂にMyozyme(alglucosidase alfa)がFDAに新薬承認された。アミカスでは折り畳み異常の蛋白を細胞内のスクラップ場にエスコートする経口ファーマシューティカル・シャペロンの実用化に成功。今回、miglustatブーストでパワーアップを図ったが、成功したと言えるかどうかは微妙だ。

第3相試験では歩行可能で人工呼吸器を装着していない遅発型ポンペ病患者123人を、cipaglucosidase alfa(20mg/kg点滴静注)とmiglustat(260mg経口)を二週毎に投与する群と、新工程で生産されたalglucosidase alfaであるLumizymeと偽薬を二週毎投与する群に2:1割付して、1年後の6分歩行テストの改善を比較した。結果は21メートル対7メートルで併用が上回ったが、優越性解析はp=0.072でフェールした。ベースライン値の355メートルと比べると4%程度の差に過ぎない。副次的評価項目の%努力性肺活量(ベースライン値は70%)は0.9%低下対4.0%低下、p=0.023となったが、主評価項目がフェールしたので統計的に有意とは言えない。

被験者の77%はLumizyme経験者で、治療効果に満足していないから本試験に参加した人が多かったのではないか。もしそうだとしたら、併用法にステップアップしても大差ないことになり、期待外れと言われかねない。尤も、直前まで治療を受けていた95人の事前に設定されたサブグループ分析ではもう少し良い結果が出ており、良く分からない。

深刻な治療時発現有害事象が各群9.4%と2.9%の患者で見られた。

尚、アミカスは18年にCelenex社を1億ドルで買収して参入した遺伝子療法部門をCaritas Therapeuticsとしてスピンアウトする計画を発表した。SPAC(特別買収目的会社)による買収の形をとるが、アミカスは36%を保有する筆頭株主になる予定。Crowley氏は新会社の会長兼CEOとなり、アミカスでは名誉会長兼チーフ・ストラテジック・アドバイザーに就任する。酵素補充療法、ファーマシューティカル・シャペロンに次ぐ第三のモダリティに乗りだすわけだ。

リンク: 同社のプレスリリース



ノバルティス、前立腺癌の放射性医薬を承認申請
(2021年9月28日発表)

ノバルティスは、177Lu-PSMA-617をアンドロゲン受容体標的薬とタクサン系化学療法レジメンによる治療歴を持つ転移性去勢抵抗性前立腺癌に使う薬として米国で承認申請し、受理された。優先審査を受ける。

転移性去勢抵抗性前立腺癌の8割以上で発現する、PSMA(前立腺特異的膜抗原)に分布して腫瘍細胞の近くでベータ線を放出する放射性医薬品。ドイツのDKFZ癌研究所とハイデルベルグ大学病院が共同開発し、ノバルティスは18年にEndocyte社を21億ドルで買収して世界独占権を入手した。

第3相ではPETスキャンでPSMA陽性だった患者を組入れて、標準療法に追加する効果を検討したところ、全生存期間がメジアン15.3ヶ月と標準療法のみの群の11.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)も各8.7ヶ月、3.4ヶ月、0.40となった。G3以上の有害事象発生率は52.7%と対照群の38.0%を上回った。

リンク: 同社のプレスリリース



リジェネロン、抗PD-1抗体を子宮頸癌に承認申請
(2021年9月28日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、Libtayo(cemiplimab-rwlc)を化学療法歴のある難治/転移子宮頸癌に用いる適応拡大を米国で申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は来年1月30日。

第3相EMPOWER-Cervical 1試験では、扁平上皮腫サブグループ477人のメジアン生存期間が11.1ヶ月と化学療法群の8.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、p=0.003だった。シーケンシャルな主評価項目である腺腫/腺扁平上皮腫131人も含む全被験者の解析も各12.0ヶ月、8.5ヶ月、0.69、p<0.001と成功した。

深刻有害事象の発生率は各群30%と27%、有害事象治験離脱率は各8%と5%だった。

サノフィと共同開発販売している抗PD-1抗体で皮膚がんの一部で承認されている。本邦未承認だが上記試験は日本の施設も参加したので承認申請されるのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


【承認】


初のアラジール症候群治療薬が承認
(2021年9月29日発表)

米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)は、Livmarli(maralixibat)がFDAに承認されたと発表した。1歳以上のアラジール症候群患者の胆汁鬱血性掻痒の治療に用いる経口液。この疾患の治療薬が承認されたのは初めて。希少疾患用新薬の承認を得た会社に供与される優先審査バウチャを取得したので、最近の相場では1億ドル程度で売れそうだ。

アラジール症候群は常染色体性優性遺伝性疾患で、胆道の形成不全により胆汁がうっ滞し、肝腎心などに合併症が生じる。睡眠を含め日常生活の差しさわりになるのが痒みだ。米国の対象患者数は2000~2500人と推測されている。Livmarliは回腸胆汁酸輸送体阻害剤で、胆汁が肝臓に戻るのを阻害する。平均年齢5.4歳の31人を組入れた後期第2相試験では、掻痒や血中胆汁酸量が減少した。

この業界はわらしべ物語が多い。筆者が遡れるのは14年にシャイアがLumena Pharmaceuticalsを買収して入手したこと。シャイアはアラジール症候群や原発性硬化性胆管炎の第2相試験を行ったが、何れもフェール、18年にMirumにmaralixibatとvolixibatの権利と前者はファイザー、後者はサノフィの関連知的所有権を譲渡した。

先ごろ武田薬品が日本の権利を取得したが、世が世なら、シャイアを買収した時に一緒に付いてきたはずだったのだ。今となると、なぜシャイアの試験が血中胆汁酸も掻痒もフェールしたのか不思議だ。第2相は140mcg/kgと280mcg/kgをテスト、第3相は190mcg/kgで開始し1週間後に380mcg/kgに増量したので、この違いなのかもしれない。

類薬ではAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)の回腸胆汁酸輸送体阻害剤、Bylvay(odevixibat)が進行性家族性肝内胆汁うっ滞(PFIC)治療薬として今年7月、欧米で承認された。アラジール症候群でも第3相試験中。MirumもPFICで第3相試験中なので、順調に進めば数年後には全面戦争になりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース



アッヴィ、MSD由来の片頭痛予防薬が承認
(2021年9月28日発表)

アッヴィは、FDAがQulipta錠(atogepant)を成人の反復性片頭痛の予防的治療薬として承認したと発表した。

昨年、エクイティバリュー630億ドルで買収したアラガンが15年にMSDから取得した経口CGRP受容体拮抗剤パイプラインの一つ。第3相試験では、片頭痛日数が月4~14日の反復性片頭痛患者を偽薬、10mg、30mg、または60mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付して治療効果を比較したところ、ベースライン(月7~9日)比で各群2.5、3.7、3.9、4.2日減少した。半減奏効率は各群29%、56%、59%、61%だった。FDAは全用量を承認しており、開始用量の推奨はない。主な有害事象は悪心、便秘、疲労傾眠など。

リンク: 同社のプレスリリース



TecartusがCAR-Tで初めて前駆B細胞ALLに適応拡大
(2021年10月1日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンシズが17年に子会社化したKite PharmaのTecartus(brexucabtagene autoleucel)を難治/再発性前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病に用いる適応拡大を承認した。患者から採取したT細胞にCD19に結合する抗体フラグメントとT細胞に活性化刺激を与える分子の遺伝子を導入することによってテーラーメイド抗癌剤に仕立て上げる、CAR-T療法がこの血液癌に承認されたのは初めて。

20年に欧米で初承認された難治/再発マントル細胞腫は、エビデンスが単群試験の反応率だったため、米国では加速承認、EUでは条件付き承認だった。今回のエビデンスは単群試験の完全寛解率(54人のうち52%)と寛解持続性(過半が12ヶ月以上)なので似ているが、本承認だった。CAR-Tに特徴的な副作用であるサイトカイン放出症候群はG3以上の発生率が26%、神経学的毒性は同35%で、前者はマントル細胞腫の試験より上昇している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Kiteのプレスリリース







今週は以上です。