2021年12月25日

第1031回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ファイザーの経口治療薬がEUA 
  • MSDのモルヌラビルは、男性は要注意 
  • 回復期血漿の試験が今度は成功 
  • モデルナのワクチンも三回接種すればオミクロンに有効 
  • EU、ノババックスのワクチンを承認 
  • その他の領域: 
  • ファイザー、DMDの遺伝子療法で死亡者 
  • CD感染症の第3相がフェール 
  • ノバルティス、新薬がゾレアに勝てず 
  • Aldeyra社、一本目の第3相ドライアイ試験がフェール 
  • 遺伝子シグネチャーでスクリーニングするVEGFR阻害剤を承認申請 
  • ユルトミリスを筋無力症に適応拡大申請 
  • 武田、好酸球性食道炎用薬は度重なる遅延の挙句、承認されず 
  • 高脂血症治療用RNA介入薬が承認 
  • 長期作用性HIV感染予防薬が承認 
  • 統合失調症治療薬が双極性障害鬱症状に適応拡大 
  • オテズラ、尋常性乾癬の中重度限定が解除 


【COVID-19関連】


ファイザーの経口治療薬がEUA
(2021年12月22日発表)

ファイザーは、FDAがPAXLOVID(nirmatrelvir錠とritonavir錠の同梱製品)を軽中等症COVID-19感染症の治療薬としてEUA(非常時使用認可)したと発表した。SARS-CoV-2感染が確認された、12歳以上、体重40kg以上の青少年と成人のうち、重症化リスク因子を持つ患者に、各剤を一日二回、5日間経口投与する。発症から5日以内に投与を開始する。活性成分等に過敏反応歴を持つ患者や重大なCYP3A相互作用のある薬との同時使用は禁忌。妊婦や授乳は大きな問題はなさそうだが、個々に判断する。警告事項は肝毒性と、ritonavir抵抗性HIV-1を誘導するリスク。

nirmatrelvvir(PF-07321332)はSARS-CoV-2の3CLプロテアーゼを選択的に阻害してウイルスの複製を妨げる。ritonavirはHIV-1の複製を阻害するプロテアーゼ阻害剤だが、CYP3A4阻害作用を持っているため、この代謝酵素で分解される薬の持続性を高め投与頻度を抑制する目的で低量を併用する。ritonavir-boostと呼ばれる手法で、これまでは主として抗HIV/AIDS薬に用いられてきた。

発症5日以内の患者を組入れた臨床試験では、偽薬群のCOVID-19関連入院・全死亡が1046人中66人、6.3%だったのに対して、試験薬群は1039人中8人、0.8%に留まった。死亡者は各群12人とゼロだった。深刻有害事象の発生率は4.1%対2.1%、有害事象による治験離脱は4.2%対2.1%で何れも偽薬群を下回った(以上、最終解析値)。この試験は発症3日以内に開始した患者における解析を主評価項目としたが、概ね同様な結果になっている。

リンク: ファイザーのプレスリリース



MSDのモルヌラビルは、男性は要注意
(2021年12月23日発表)

MSDは、FDAがmolnupiravirを成人の軽中等症COVID-19治療薬としてEUAしたと発表した。重症化リスク因子を持ち、FDAに承認された治療法が不能または臨床的に不適な患者に用いる。18歳未満やCOVID-19で入院した患者に投与を開始すること、5日コースを越えて投与することなどは認められていない。妊婦に投与することは推奨されない。妊娠可能年齢の女性は妊娠していないことを確認するとともに、投与開始から完了の4日後まで避妊手段を取る。授乳も同じ期間、避ける。男性も妊娠させる可能性がある場合は服用中と終了後3ヶ月間(!)、避妊手段を取る。

エモリー大学の研究者が発見し、最初のライセンシーであるRidgeback BiotherapeuticsとMSDが共同開発したRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤。陽方向鎖ゲノムRNA(+gRNA)から-gRNAを生成する過程でRNAポリメラーゼを欺き、グアニンの代わりにシトシンなど、雛型とは異なる塩基を結合させる。複製を繰り返すうちにミスが積み重なり、『エラー・カタストロフィー』が起きる。

MSDのプレスリリースに明記されているように、molnupiravirは、PAXLOVIDと同様に、FDAに承認されていない。上記の、承認されている薬がある場合はそちらを優先という記述は全てのEUA品目に当てはまるものだろうが、おそらく、PAXLOVIDが使えるならmolnupiravirは使わない方が良いという含意もあるだろう。

違いは、第一に、臨床成績。PAXLOVIDは入院・死亡リスクを9割抑制したが、molnupiravirは3割だ。臨床試験のデザインや評価項目の定義などが一部異なるので単純には比較できないが、これだけ違うと、推定誤差など吹っ飛んでしまう。第二に、ウイルスの変異リスク。作用機序的に、オミクロン株のような好ましくない変異を持つウイルスが生まれてしまう可能性を排除できない。第三に、胎児に対するリスク。妊娠しても直ぐに分かるわけではないし、男の妊娠回避期間3ヶ月などというのは初めて聞いた。因みに、類薬のアビガン(ファビピラビル)の日本における規制は投与終了後7日間だけだ。

molnupiravirは11月に英国で条件付き承認された。根拠は入院・死亡リスク半減という中間解析で、3割という最終解析結果が判明したのはそのあとである。EUのCHMPは加盟国に対して肯定的な推奨を行ったが、報道によると、フランスは承認せず調達合意もキャンセルした。

日本でも特例承認されたが、早くPAXLOVIDが使えるようになってほしいものだ。発症5日以内というのは検査を受けるタイミングなどを考えるとかなりタイトなので、配送をもっとスピードアップできないものか。

リンク: MSDのプレスリリース



回復期血漿の試験が今度は成功
(2021年12月21日公開)

感染症から立ち直ったばかりの患者から採取した回復期血漿(CCP)は、エボラウイルス疾患などの難病が流行した地域で、治療薬が開発されるまでの繋ぎとして用いられてきた。COVID-19でも試されたが、キチンとしたデザインの臨床試験が続々とフェールしたため、FDAはEUA(非常時使用認可)を取消し、WHOも便益を示すエビデンスは不十分と断じている。

ところが、Johns Hopkinsなどの研究者が実施した高力価CCPの無作為化割付偽薬対照二重盲検試験が成功し、査読前の治験論文がmedRx査読前論文サーバーで公開された。遺伝子組換え型抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体と同様に、入院するほど悪化していない患者に投与すれば入院リスクを抑制できる可能性が示された。

この試験は発症8日以内の非入院患者1181人を組入れて、COVID-19関連入院リスクを28日間追跡した。結果は、偽薬群では569人中37人、6.3%が入院したのに対して、CCP群は592人中17人、2.9%に留まり、相対リスクは0.46、95%上限0.733、p=0.004だった。共変数を調整した解析でも結果は同様だった。

遺伝子組換え型モノクローナル抗体(rMab)の試験と幾つか違いがあるので以下、検討しよう。まず、rMabの試験は発症からスクリーニング/割付までの期間が3~5日と短かく設定された。本試験はデザインだけでなく投与実績もメジアン6日(四分位範囲4-7日)と治療ウィンドウが少し広い。

主評価項目は死亡をカウントしていない。但し、入院後の死亡は偽薬群が3人、試験薬群はゼロなので、死亡を防ぐ効果が示されていないとは言えない。

今回の試験はワクチン接種した患者も組入れている。但し、被験者に占める割合は1割強に過ぎない。感染者54人中53人は接種歴がなく、残りの一人は一回目の接種しか終えていなかった。このため、接種歴のある人にも効果があるかどうかは分からない。また、重症化リスク因子を持つ患者だけのサブグループ分析は記されていない。rMabの試験も重症化リスク因子の有無を問わずに組入れたが、承認されたのは有りの人だけ。無しの人は重症化リスクが低く、従って治療の便益も小さいとFDAが判断しているのならば、このサブグループ・データの有無、内容は、EUA審査において重要なポイントになり得る。

さて、CCPは様々な国で今回のような大規模な試験が実施され、当方が知る限り、すべてフェールした。米国のITAC試験、英国のRECOVERY試験、インド試験、アルゼンチン重症肺炎試験などだ。殆どは入院患者が対象で、米国で実施されたC3PO試験は発症7日以内の軽症患者を外来治療する今回と似たデザインだが、ER入室患者が対象であるせいか、偽薬群の15日間追加治療/入院/死亡率が31%とはるかに高く、同一視できない。

ウイルスの増加を防ぐことで合併症を抑制すると考えれば、肺炎などを合併して免疫血栓活動が異常亢進している患者の治療に役立たなくても不思議はなく、今回、異なった結果が出たことに違和感はない。

リンク: Sullivanらの治験論文抄録原稿(medRxiv)



モデルナのワクチンも三回接種すればオミクロンに有効
(2021年12月20日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA)はSpikevax(COVID-19ワクチンモデルナ筋注)のオミクロン株シュードウイルス中和試験のトップラインを発表した。追加接種(3回目)の前の患者から採取した血清はオミクロン株の変異を導入した偽ウイルスに対する中和力価が低かったが、50mcgや100mcgを追加接種して29日経った血清ではGMT(幾何平均力価)が各850(追加接種と比べて37倍)と2,228(同83倍)に増加した。

COVID-19ワクチンの感染予防効果は半年程度で低下してしまうので、追加接種前との比較ではなく、二回接種後との比較が見たい。また、過去のシュードウイルス試験ではオミクロン株が持つ重要な変異を全部ではなく一つずつ導入・試験した事例もあるが、この試験はどうなのだろうか?

Modernaと研究者は論文原稿を査読前論文サーバーで公開する考え。

リンク: 同社のプレスリリース



EU、ノババックスのワクチンを承認
(2021年12月20日発表)

EMAはNovavax(Nasdaq:NVAX)のCOVID-19ワクチン、Nuvaxovidを承認した。CHMPが臨時会議で肯定的意見を纏めた当日のスピード承認だ。

融合前スパイク蛋白を抗原とするワクチンで、バキュロウイルスをベクターとして、昆虫細胞に遺伝子を導入・発現させる。3週おいて二回筋注する。米墨の第3相試験ではワクチン効率が90%、中重症感染症は100%抑制した。英国試験のワクチン効率も90%だった。一方、南アで実施した後期第2相試験はエスケープ変異株の影響で49%に留まった。

第3相はアルファ株やベータ株が流行していた頃に実施されたため、デルタ株やオミクロン株に対する効果は明確ではない。

このワクチンは11月にインドネシアで世界初承認。WHOのEUL(非常時使用リスト)にも収載された。米国は当局と相談中。日本はライセンシーの武田薬品が今月、製造販売申請した。厚労省は薬事承認等を前提に1.5億回分の購入を決めている。

リンク: Nuvaxovidの概要(EMA)


【今週の話題】


ファイザー、DMDの遺伝子療法で死亡者
(2021年12月20日発表)

ファイザーは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者支援団体などに向けた書簡の中で、PF-06939926(fordadistrogene movaparvovec)の後期第1相試験に参加した若い男性患者が一名、死亡したことを明らかにした。原因を検索中で、因果関係はまだ不明。患者の特性については、歩行不能コフォートに組入れられたことしか明らかでない。FDAは治験許可を停止した。

業界全体に開発が活発化している遺伝子組換え型アデノ随伴ウイルス9型をベクターとする遺伝子療法で、本来のものよりは短いが、ある程度は機能する、ミニジストロフィンの遺伝子を患者の筋細胞に導入する。過去の投与例では、補体系の深刻な異常活性化や、心筋炎を伴うこともある深刻な筋力低下などが見られた。

対策として特定の遺伝子型を持つ患者は除外して第3相試験を実施中で、22年に結果が判明する見込みだった。

遺伝子療法は22年前、被験者の死亡をきっかけに警戒感が高まり開発が長期間、停滞した。近年、今回のような高量投与例で深刻な有害事象が散見されており、亡くなった人の検索結果が注目される。

リンク: Parent Project Muscular Dystrophyのリリース


【新薬開発】


CD感染症の第3相がフェール
(2021年12月20日発表)

Summit Therapeutics(Naasdaq:SMMT)はSMT19969(ridinilazole)の第3相クロストリジウム・ディフィシル(CD)感染症試験がフェールしたと発表した。副次的評価項目やサブグループでは効果の兆しも見られたようだが、もう一本実施して確認する必要があるだろう。

200mgを一日二回、10日間に亘って経口投与する効果をvancomycin(125mg一日4回)と比較した試験で、主評価項目は持続的臨床的応答率(治療完了後、30日間再燃しなかった患者の比率)。データは未公表。

この試験は二本実施する予定だったが、COVID-19の影響か、2年以上経っても目標の半分の753人に留まり、昨年8月、一本に統合した経緯がある。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)



ノバルティス、新薬がゾレアに勝てず
(2021年12月20日発表)

ノバルティスはQGE031(ligelizumab)の第3相慢性特発性蕁麻疹(CSU)試験を二本実施し、偽薬には勝ったがXolair(omalizumab)とは有意な差がなかったと発表した。異なった評価項目を採用した後期第2相では上回っていただけにネガティブ・サプライズだ。

同社はジェネンテックとXolairを共同開発、03年に米国で管理不良の中重度喘息症治療薬として承認を取得した。QGE031は新開発の抗IgE抗体で親和性を88倍に高めた。抗ヒスタミンに十分応答しないCSUがリード・インディケーション。第3相は2000人以上の患者を組入れて、偽薬、72mg、120mg、またはXolairを4週毎皮注して、第12週のUAS7(蕁麻疹の数の多さと痒みを各0~3で毎日評価し7日平均を算出)を比較した。数値は来年下期に完了してから公表する予定。

22年に承認申請する予定だが、商業的な展望は明るくなさそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース



Aldeyra社、一本目の第3相ドライアイ試験がフェール
(2021年12月20日発表)

Aldeyra TherapeuticsはADX 102(reproxalap)の第3相ドライアイ試験がフェールしたと発表した。副次的評価項目は好ましい結果になったため、もう一本の主評価項目や目標組入れ数を改訂した。

アレルギー性結膜炎の原因となる有機アルデヒドの遊離体に結合する0.25%点眼用液。アレルギー性結膜炎の第3相アレルゲン・チャレンジ試験が二本、成功したが、承認申請はドライアイを優先する考え。

今回のTRANQUILITY-1試験は主評価項目の充血症状がフェールしたが、ドライアイ治療試験の一般的な主評価項目であるSchirmerテストはp=0.0001と良好な結果になった模様。このため、もう一本はこの両方を主評価項目とし、どちらかだけでも有意なら成功とみなすことにした。これに伴い、組入れも増やす。結果は22年央に出る見込み。

同社によると、第二相試験で充血改善効果を確認できているため、二本目の試験でどちらかの評価項目で有意差が出れば、承認取得に必要な二本のエビデンスを提出することが可能になる。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


遺伝子シグネチャーでスクリーニングするVEGFR阻害剤を承認申請
(2021年12月21日発表)

Allarity Therapeutics(Nasdaq:ALLR)はdovitinibを腎細胞腫の3次治療薬としてFDAに承認申請したと発表した。4月にPMA(販売前申請)したDRP-Dovitinibというコンパニオン診断キットを用いて適した患者をスクリーニングする考えのようだ。

ノバルティスがTKI258名で開発した経口マルチ・キナーゼ阻害剤で、VEGFR1-3、PDGFR、FGFR1-3、c-KIT、FLT3などを阻害する。ノバルティスはVEGF標的薬とmTOR阻害剤の両方の治療歴を持つ患者の三次治療薬として第3相試験を実施したが、主評価項目のPFS(無進行生存期間、独立中央放射線学的評価)がメジアン3.7ヶ月とsorafenib群の3.6ヶ月と大差なく、ハザードレシオ0.86でフェールした。メジアン生存期間も11ヶ月強で大差なかった。G3/4有害事象は、高TG血症が多かったものの高血圧症や手掌足底発赤知覚不全は少なかった。

Allarityは遺伝子シグネチャーに基づいて最適な患者をスクリーニングする手法に着目、複数のコンパウンドを導入・開発していて、最も進んでいるのがdovitinibだ。今年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると、セルラインの試験で、腎細胞腫で発現している25000の遺伝子の中から、dovitinib感受性/抵抗性に係る58の遺伝子を特定。上記第三相試験のdovitinib群(約280人)の生検組織(135例)を調べたところ、DRP(薬品応答性予測値)が50%を超える49人では、メジアン生存期間が15ヶ月だった。一方、sorafenib群(286人)のメジアン生存期間は11.2ヶ月だった。DRPが67%を超える15人に絞り込んだ解析ではメジアン20.6ヶ月と更に増加した。

この分析が奇妙なのは、第一に、sorafenib群もDRP50%超だけのデータを使うべきではないのか。in vitroで増殖抑制効果が高かったとはいえ、DRPが応答性ではなく予後因子に過ぎない可能性も残っているだろう。第二に、被験者のうち遺伝子検査に同意しなかったのが4割、十分なデータが取得できなかったのが2割と逸失データが多く、サンプルサイズが小さいように感じられる。

同社は上記試験の非劣性解析に基づく承認も視野に入れている模様。確かにPFSハザードレシオの95%上限は1.04と悪い数値ではないが、優越性解析はintent-to-treat、非劣性解析はper protocolが原則であり、後者が前者と同様な結果になるとは限らない。そもそも、毒性が高く減量や休薬、中止が珍しくない抗癌剤の試験でper protocolの解析が上手くいくのかどうか、私にはわからない。

リンク: 同社のプレスリリース



ユルトミリスを筋無力症に適応拡大申請
(2021年12月21日発表)

アストラゼネカはUltomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)を全身性筋無力症(gMG)治療薬として適応拡大申請し、受理されたと発表した。優先審査バウチャを使用して優先審査を獲得、審査期限は来年第2四半期の予定。日欧で申請したことも明らかにした。

長期作用性C5補体阻害剤で、18~19年に米日欧でPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)治療薬として、19~20年にはaHUS(非典型溶血性尿毒症)の治療にも、承認された。gMGは欧米日亜などで実施された抗AChR抗体陽性患者を組入れた試験で日常生活機能に係るMG-ADL総合スコアが3.1減少と、偽薬群の1.4減少を上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


武田、好酸球性食道炎用薬は度重なる遅延の挙句、承認されず
(2021年12月22日発表)

武田薬品はEohilia(budesonide、開発コードTAK-721/SHP62)を好酸球性食道炎の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAは優先審査指定したが今年4月の審査期限を3ヶ月延期、新期限が到来しても結論を出さず、結局、承認申請から一年以上も費やしたのに承認しなかった。理由は不明。

コルチコステロイドの粘性経口懸濁液。08年にVerus PharmaceuticalsからインライセンスしたMeritage Pharmaを買収するオプションを11年にViroPharmaが取得、ViroPharmaを買収したシャイアが15年に行使、そして19年に武田がシャイアを買収と、いつものことながら変遷している。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認】


高脂血症治療用RNA介入薬が承認
(2021年12月22日発表)

ノバルティスはFDAがLeqvio(inclisiran)を承認したと発表した。スタチンの最大耐量を服用しているヘテロ結合型家族性高脂血症またはアテローム硬化性心血管疾患の成人に用いる。300mgを皮注するが、二回目は3ヶ月後、その後は半年毎なので頻度はそれほどでもない。臨床試験ではLDL-Cが50%超低下した。心血管アウトカム試験の結果はまだ出ていないが、臨床試験のメタアナリシスではハザードレシオが0.8未満だった。

アムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)と同様に、LDL受容体の零落に係るPCSK9を標的とする薬だが、抗体医薬ではなく、合成を妨げるRNA介入薬。昨年、97億ドルで買収したMedicines Companyが13年にアルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)から共同開発販売権を取得したもの。どちらも皮注だが、売上不振の轍を踏まないように、自己注ではなく医療従事者が注射するようにした(米国の高齢者医療制度では薬局で買う薬と医療施設で使う薬は異なった扱いを受ける)。

リンク: ノバルティスのプレスリリース



長期作用性HIV感染予防薬が承認
(2021年12月20日発表)

FDAはViiV Healthcare(GSKと塩野義、ファイザーのHIV薬合弁)のApretude(cabotegravir)をHIVの暴露前感染予防(PrEP)薬として承認した。体重35kg以上の青年成人でHIV感染者と性交する男女に、300mgを最初の二回は月一回、その後は2ヶ月毎に、筋注する。臨床試験では感染リスクが実薬(ギリアド・サイエンシズのTruvada、毎日経口投与)と非劣性だった。

米国でPrEPが推奨される120万人の普及率は25%程度で、5年前と比べれば大きく上昇したが、まだ低い。励行しない理由は様々だが、毎日飲まなくて良いならば、という人もいるだろう。

リンク: FDAのプレスリリース



統合失調症治療薬が双極性障害鬱症状に適応拡大
(2021年12月20日発表)

Intra-Cellular Therapies(Nasdaq:ITCI)はFDAがCaplyta(lumateperone)の適応拡大を承認したと発表した。ブリストル マイヤーズ・スクイブからライセンスした5-HT2A受容体とドパミンD2受容体のアンタゴニストで、統合失調症の第3相は一勝一敗だったが一部施設のデータの除外などを経て、19年に米国で承認された。双極障害I型とII型の鬱症状を治療する試験はモノセラピーが一勝一敗、リチウムまたはバルプロ酸に追加投与した試験は成功し、今回、承認に至った。

初承認時に、向精神薬のクラスレーベルである、認知症患者の精神症状の治療に用いると死亡するリスクが高まることが枠付警告された。今回更に、抗鬱剤のクラスレーベルである、小児やヤング・アダルトに用いると自殺行動や自殺思慮のリスクが高まることが枠付警告された。

リンク: 同社のプレスリリース



オテズラ、尋常性乾癬の中重度限定が解除
(2021年12月20日発表)

アムジェンのOtezla(apremilast)は尋常性乾癬や乾癬性関節炎の治療薬として米欧日で承認されているが、前者はFDAが中重度患者限定を解除した。成人の光学療法や全身的治療が適応になる患者すべてに広がり、局所性治療薬に十分応答/忍容しなかった段階で使うことができるようになった。

セルジーンが開発し承認を取得したが、ブリストル マイヤーズ・スクイブが買収に際して独禁規制をクリアするためにアムジェンに譲渡したもの。全身性治療を開始する患者におけるブランド・シェアがトップとのことだが、同じ経口剤のBMS-986165(deucravacitinib)が22年に中重度尋常性乾癬に承認されたら競合が激化する。

リンク: アムジェンのプレスリリース





今年は以上です。皆様、よいお年を!

2021年12月18日

第1030回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • コミナティ、4歳以下は3回接種を検討へ 
  • ファイザーの3CL阻害剤は最終解析も良好 
  • ACIP、JNJ品よりmRNA型ワクチンを優先するよう勧告 
  • アストラゼネカ、EvusheldはOmicronにも有効なはず 
  • その他の領域: 
  • 新規echinocandinのカンジダ試験が成功 
  • RT誘導性口内炎予防薬の第3相が一転して成功宣言 
  • ASH:ポライビーの一次治療試験が成功 
  • ASH:ヘムライブラの中軽度A型血友病試験が成功 
  • ASH:移植後EBV性リンパ増殖性疾患の細胞療法が成功 
  • ASH:ブレヤンジの二次治療試験が成功 
  • キイトルーダ・レンビマ併用は肺癌には無効 
  • ベーリンガー、汎発性膿疱性乾癬用薬を米国でも承認申請 
  • インサイト、局所性JAK1/2阻害剤を白斑に適応拡大申請 
  • イエスカルタをLBCL二次治療に承認申請 
  • ロシュ、抗CD20/CD3二重特性抗体を承認申請 
  • CHMP、COVID-19治療薬などの承認を支持 
  • 全身性重症筋無力症治療薬が承認 
  • 抗TSLP抗体が重症喘息症に承認 
  • オレンシアが急性移植片宿主病に適応拡大 
  • コルチコステロイドの新製剤をIgA腎症に承認 
  • 米国でJAK阻害剤の適応拡大が流れ出した 


【COVID-19関連】


コミナティ、4歳以下は3回接種を検討へ
(2021年12月17日発表)

BioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーはCOVID-19ワクチンComirnaty(tozinameran)の対象年齢拡大を進めており、米国では5歳以上なら接種可能になった。5歳未満も免疫原性試験を実施しているが、2~4歳児を組入れたコフォートの中間解析が思わしい結果でなかかったことから、三回目を接種することを決定した。

Comirnatyは12歳以上の青少年と成人は30mcgを、5~11歳は10mcgを、3週おいて二回、筋注する。5歳未満は更に減量して3mcg二回接種を行ってきた。6~24ヶ月児のコフォートは中間解析で免疫原性が16~25歳(臨床試験で免疫原性と感染予防効果が共に立証されている)のデータと非劣性だったが、2~4歳のコフォートはフェールした。二回接種では足りなかった可能性があるため、6~24ヶ月児も合わせて、二回目から2ヶ月後に3mcgを追加接種することを決めた。

試験成功なら年内の対象年齢拡大申請が見込まれたが、早くても22年上期にずれ込む見込み。

オミクロン株感染が密かに拡大している現状などを鑑み、両社は、小児についてもブースター接種試験の実施を決めた。5~11歳は10mcgを、12~17歳は30mcgに加えて10mcgも、検討する考えだ。

リンク: 両社のプレスリリース



ファイザーの3CL阻害剤は最終解析も良好
(2021年12月14日発表)

ファイザーは11月にPAXLOVID(nirmatrelvir錠とritonavir錠)を非入院高リスクCOVID-19患者の治療薬としてEUA(非常時使用認可)申請した。第3相の中間解析結果に基づくものだが、最終解析も同様な結果になったことを公表した。また、高リスクではないワクチン未接種患者と接種した高リスク患者を組入れた第2/3相試験の中間解析が、主評価項目の寛解率はフェールしたものの、副次的評価項目の全死亡・入院リスクは望ましい方向で推移していることも明らかにした。

PAXLOVIDはSARS-CoV-2の3CLシステイン・プロテアーゼの阻害剤とその代謝酵素であるCYP3A4を阻害して効果を長持ちさせるritonavirの同梱製品。前者は二錠、後者は一錠を12時間おきに最大5日間、服用する。

第3相は発症後5日以内の軽中等症患者を組入れて入院死亡リスクを偽薬群と比較した。主評価項目は3日以内に投与を開始した患者だけの解析だが、より現実的でMSDのLagevrio(molnupiravir)や各社の抗SARS-CoV-2抗体の臨床試験と同じ、5日以内の患者全体のデータに注目すると、中間解析では偽薬群は612人中41人(6.7%)が入院、うち10人が死亡したのに対して試験薬群は607人中6人(1.0%)、死亡はゼロだった。

最終解析では、偽薬群が1046人中66人(6.3%)、死亡12人に対して、試験薬群は1039人中8人(0.8%)、死亡ゼロだった。molnupiravirの試験のような大きな差異は生じなかった。

非高リスク患者試験は、中間解析で寛解率(4日連続で症状が解消と報告した患者の比率)が偽薬と大差なかった。一方、副次的評価項目の全入院・死亡は偽薬群は329人中8人(2.4%)、試験薬群は333人中2人(0.6%)だった。その後の解析でも426人中10人(2.4%)対428人中3人(0.7%)だった。両群、両分析とも死亡者はゼロ。

高リスクではないだけに偽薬群の入院率は上記試験の半分以下だが、相対リスク削減率で見るとそれほど変わらない。

ワクチンを接種したのに感染した患者にもファイザーやMSDの抗ウイルス薬は有効なのか?適応外にならない可能性もあるので、この試験のワクチン接種コフォートのデータが公表されるのを待望したい。

リンク: 同社のプレスリリース



ACIP、JNJ品よりmRNA型ワクチンを優先するよう勧告
(2021年12月16日発表)

CDC(米国疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は、12月16日の会合で、COVID-19ワクチンはジョンソン・エンド・ジョンソンのアデノウイルス・ベクター・ワクチンよりもBioNTech/ファイザーやモデルナのmRNAリピッド・ナノパーティクル・ワクチンを優先して接種することを全員一致で推奨した。MMWRに収載された時点で正式勧告となる。

背景となったのが血小板減少を伴う血栓症(TTS)。血液循環する血小板が少なくなるほど著しく血栓形成が活発化する疾患で、米国では1700万回接種されたうち、54人が発症し、9人が死亡、関連が疑われる死亡も2例あった。性別も年齢も区々だが、30代と40代の女性のTTSによる死亡率は100万回当り2人と特に高かった。薬物に対する抗体が引き起こす副作用はしばしば遅発性だが、この副作用も発症が接種のメジアン9日後と間がある。過半の患者でCVST(脳静脈洞血栓症)を合併していた。

このため、FDAはEUAを一部改訂し、やや異なったアデノウイルス・ベクターを用いているオックスフォード大学/アストラゼネカのワクチン(米国は未承認だが臨床試験が実施された)も含めて、TTSを発症した人は禁忌とした。

常識的に考えれば明らかに劣るワクチンをは種したくないが、二回ではなく一回だけ接種することが承認されているのは同社のワクチンのみ。mRNAワクチンは通常の冷蔵庫では保管できないため、特にインフラが整っていない国では、都合が良い。米国が接種中止に踏み切ったら途上国に激震を誘発しかねない。ACIPができるのは劣後させることだけだったのだろう。

米国の接種実績のうち、同社のワクチンは接種回数ベースで3%、人数ベースでも7-8%程度を占めるに過ぎない。今後も、ごく一部の人たちが止むを得ず接種する製品として位置付けられるのだろう。

リンク: ACIPのスライドなど(CDCのサイト)
リンク: JNJのプレスリリース(劣後に置かれたことには言及していない)



アストラゼネカ、EvusheldはOmicronにも有効なはず
(2021年12月16日発表)

アストラゼネカは長期作用性抗SARS-CoV-2抗体カクテル、Evusheld(tixagevimabとcilgavimabの同梱製品)について、FDAが行ったin vitro試験でOmicron株にも中和活性を維持していたことを発表した。念のため、リンクされているNIH(米国立衛生研究所)のポータルサイトを見てみたが、他の多くの抗SARS-CoV-2抗体と同様に、武漢株と比べて力価が大きく低下している。結局、同社は、低下するが水準自体は悪くないと主張したいのだろう。

Evusheldは、特定の条件を満たす人がワクチンの代わりに用いる感染予防薬として米国でEUAされた。上記試験はOmicron株が持つ全ての変異を導入した偽ウイルス試験二本で、未だ論文も査読前論文草稿も公表されていないようだ。EvusheldのOmicron株に対するIC50 GMTは各171.1ng/mLと276ng/mL、武漢株では1.3ng/mLと1.51ng/mLで、各132倍と183倍に低下した。

但し、アストラゼネカによると、Omicron株の数値はCOVID-19感染者が取得する抗体と同様なレンジとのことだ。

Omicron感染者はワクチンを二度接種した人が少なくない。ワクチンで誘導される抗SARS-CoV-2抗体は感染者の抗体と大差ないようなので、感染者が取得する抗体と同水準であることが自慢になるのか、私にはわからない。

尚、上記ポータルサイトは様々な研究者が様々なワクチンや医薬品、開発品で様々な変異株に対して実施し論文発表/原稿公開した生ウイルス/シュードウイルス試験の結果を一覧化したもの。手法は区々なので製品間の優劣を論じるには不十分だが、流石に、武漢株比100倍と1倍では差があるだろう。欧米で承認されている抗SARS-CoV-2抗体でOmicron株にも武漢株並みの中和力価を維持しているのはVir Biotechnology/GSKのsotrovimabだけのようだ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: NIHの変異株活性一覧
リンク: AZD7442のOmicron株活性(NIHポータル・サイト)


【新薬開発】


新規echinocandinのカンジダ試験が成功
(2021年12月14日発表)

Cidara Therapeuticsと欧州などの販売権を持つMundipharmaは、CD101(rezafungin)の第3相ReSTORE試験の成功を発表した。カンジダ血症や侵襲性カンジダ症の患者187人を18ヶ国の132施設(!)で組入れて、負荷用量は400mg、その後は週次で200mgを3回投与する群と、caspofunginを一日一回投与する群の転帰を比較した試験で、30日全死亡率(FDA基準)は各23.7%と21.3%で差は2.4(95%下限は-9.7)、14日全般治癒率(EMA基準)は59.1%対60.6%で差は-1.1(95%下限は-14.9!)となり、何れも非劣性と判定された。22年央に承認申請する予定。

132施設の全てが組入れたとすると施設当たり平均1人強のみということになるが、無作為化割付がキチンとできたのだろうか?14日全般治癒率の非劣性マージンが大きいような印象もあるが、どうなのだろうか?

リンク: 両社のプレスリリース



RT誘導性口内炎予防薬の第3相が一転して成功宣言
(2021年12月14日発表)

Galera Therapeutics(Nasdaq:GRTX)は10月にフェールしたGC4419(avasopasem manganese)の第3相ROMAN試験が、実際は成功だったと訂正した。治験受託組織の解析に誤りがあった由。22年にFDAと承認申請の当否を相談する計画。

GC4419はスーパーオキシドを酸素と過酸化水素に分解する酵素、SOD(スーパーオキシド・ジスムターゼ)の類縁体。放射線療法の前に投与して、スーパーオキシドを分解することによって口腔内粘膜炎が起きるのを抑制するアイディアだ。

この試験は局所進行性頭頚部癌の化学放射線治療を受ける患者455人を組入れて、90mg群(60分点滴静注)の重度口腔内粘膜炎発生率を偽薬と比較した。結果は54%対64%で10月発表と同じだが、p値が0.113から0.0451に訂正された。副次的評価項目の罹患日数やG4口腔粘膜炎(飲食不能)発生率もp値が低下した。

0.0451は胸を張れる水準ではないが、後期第2相試験でも60%対43%、p=0.009という結果が出ているので、頑強性などに問題がなければ承認申請に進めるのではないか。それにしても、どのような誤りがあったのだろう?

リンク: 同社のプレスリリース



ASH:ポライビーの一次治療試験が成功
(2021年12月14日発表)

ロシュはPolivy(polatuzumab vedotin-piiq)の第3相POLARIX試験が成功したと8月に発表したが、詳細をASH(米国血液学会)などで発表した。CD20陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一次治療を受ける879人を組入れて、代表的なレジメンであるR-CHOP(rituximab、cyclophosphamide、doxorubicin、vincristine、prednisoneの5剤併用)と、Polivyを追加してvincristineを除外したレジメンのPFS(無進行生存期間、担当医評価)を比較したところ、ハザードレシオが0.73となった。G3/4有害事象の発生率は各群57.5%と57.7%、G5(致死的)は2.3%と3.0%でそれほど増えなかった。

抗CD79b抗体とチューブリン重合阻害剤を結合した抗体薬物複合剤で、19~21年に再発治療薬として米欧日で承認された。日本で中外が適応拡大申請したが、ロシュも欧米で申請したと推測される。

リンク: ロシュのプレスリリース



ASH:ヘムライブラの中軽度A型血友病試験が成功
(2021年12月13日発表)

ロシュはHemlibra(emicizumab-kxwh)の中等症・軽症A型血友病の出血予防試験の結果をASH(米国血液学会)で発表した。血液凝固因子活性の面では重症と判定されなくても出血しやすく何とかしたい患者には、予防的投与が有効であることを示した。

このHAVEN-6試験は中等症患者51人と軽症患者20人に24週間予防的投与を行った。全員、インヒビターを持っていなかった。37人はベースライン時点で第8因子の予防的投与を受けていた。24週間追跡した50人の中間解析で、治療が必要な出血がなかった人が80%、治療の必要な関節出血がなかった人は90%に達し、成功認定された。

有害事象は頭痛や注射箇所反応。この試験では血栓性微小血管症や深刻血栓性イベントは発生しなかった。

Hemlibraは子会社の中外製薬が創製した第IX因子/第X因子二重特異性抗体。17~18年にかけてA型血友病の出血傾向を抑制する用途で日米欧で承認された。日米と異なり、EUでは、インヒビターを持たず、重症でもない患者は適応外だ。

しかし、血液凝固因子活性に基づく重症度分類と出血リスクは必ずしも相関しない。日米が適応限定しなったのは、医師が実態に即して判断すべきという意味だろう。

ロシュは、HAVEN-6をエビデンスとしてEUで限定解除の一変申請を行うのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース



ASH:IDH1変異AMLの一次治療試験成功
(2021年12月13日発表)

セルビエはAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)から取得したイソクエン酸脱水素酵素1(IDH1)阻害剤、Tibsovo(ivosidenib)の第3相AGILE試験が中間解析で成功したと7月に発表したが、AHA(米国血液学会)で詳細を明らかにした。未治療の強化療法が適応にならないIDH1変異陽性の急性骨髄性白血病146人を組入れて、azacitidineに500mg(一日一回経口)または偽薬を追加する効果を検討したところ、EFS(イベント・フリー・サバイバル)のハザードレシオが0.33と優れた成績を上げ、、独立データ監視委員会が新規組入れを中止するよう勧告した。副次的評価項目でも全生存期間のハザードレシオが0.44、メジアン24.0ヶ月対7.9ヶ月、完全反応率は47.2%対14.9%、何れも統計的に有意だった。

Tibsovoは18年に米国で難治/再発IDH1変異陽性急性骨髄性白血病に、今年8月には治療歴のあるIDH1変異陽性局所進行性/転移胆管細胞腫にも、単剤投与することが承認された。命に係わることもある分化症候群が枠付警告されている。一方、欧州はCHMPが薬効の挙証不十分と判定、承認申請を取り下げた。無作為化割付対照試験で延命効果が確認されたので、今回の用途で承認申請されるのではないか。

リンク: MontesinosらのASH抄録



ASH:移植後EBV性リンパ増殖性疾患の細胞療法が成功
(2021年12月13日発表)

Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)はtabelecleucelの第3相ALLELE試験の中間解析結果をASHで発表した。臓器や造血幹細胞の移植後にエプスタイン・バー・ウイルスによるリンパ増殖性疾患を合併し、rituximabによる治療がフェールした38人の単群試験で、ORR(客観的反応率、独立評価)は50%、反応持続期間は19人中11人で6ヶ月を越えた。

EUでは昨年11月に承認申請が受理された。Pierre Fabreが販売権を持っている。米国はアカデミアが実施した臨床試験の薬剤との同等性評価がボトルネックになっている模様で、来年第2四半期に申請完了する計画。

リンク: Atara社のプレスリリース



ASH:ブレヤンジの二次治療試験が成功
(2021年12月11日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)の第3相TRANSFORM試験の成功を6月に公表したが、詳細をASHで発表した。自己幹細胞移植が適応になる大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)の二次治療における便益を医師が選んだ化学療法と比較した試験で、EFS(イベント・フリー・サバイバル、独立評価委員会方式)のハザードレシオが0.39、p<0.0001、メジアン値は10.1ヶ月対2.3ヶ月と、大きな差があった。副次的評価項目の完全反応率は各群66%と39%、メジアンPFS(無進行生存期間)は14.8ヶ月と5.7ヶ月だった。尚、メジアンEFSのほうが短いのは、無作為化割付から9週以内に部分反応以上でないとダメ、と条件が厳しいためだろう。

BreyanziはCD19標的型CAR-T療法。19年に買収したセルジーン社が前年に買収したJune Therapeuticsの開発品。難治再発LBCLの三次治療薬として日米で承認されている。ライバルの一つであるギリアドもYescartaのLBCL二次治療試験のデータをASHで発表するとともに、欧米で適応拡大申請したことも公表している(後述)。

リンク: BMSのプレスリリース



キイトルーダ・レンビマ併用は肺癌には無効
(2021年12月10日発表)

ESMO-IO(欧州臨床腫瘍学会免疫腫瘍学会議)でMSDのKeytruda(pembrolizumab)とMSD・エーザイが共同開発販売しているVEGFR阻害剤、Lenvima(lenvatinib)を併用した第3相LEAP-007試験の結果が発表された。PD-L1陽性(TPS≧1%)の非小細胞性肺癌の一次治療として、KeytrudaにLenvima(20mg/日)を追加する効用を偽薬追加と比較したが、独立データ監視委員会が定期的な中間評価で無益認定した。

全生存期間のハザードレシオは1.10、メジアン値は14.1ヶ月対16.4ヶ月で併用群が見劣りした。PFS(無進行生存期間)のハザードレシオは0.78、メジアン6.6ヶ月対4.2ヶ月と良好だったが、延命効果に繋がらなかった。G3-5の治療時発現有害事象発生率は57.9%対24.4%とかなり悪化した。

リンク: Csosziらの抄録(ESMO I-O 2021、抄録番号1200)


【承認申請】


ベーリンガー、汎発性膿疱性乾癬用薬を米国でも承認申請
(2021年12月15日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムはBI 655130(spesolimab)をGPP(汎発性膿疱性乾癬)の急性期治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。10月にはEUでも申請受理されている。

GPPは希少難病で増悪すると全身に痛みを伴う紅潮や膿疱が現れる。一部の患者ではIL-36受容体アンタゴニストの欠損が見られる。BI 655130は抗IL-36受容体ヒト化抗体。

リンク: 同社のプレスリリース



インサイト、局所性JAK1/2阻害剤を白斑に適応拡大申請
(2021年12月14日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は米国でOpzelura(ruxolitinib phosphate)を12歳以上の白斑の治療薬として承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4月18日。欧州でも10月に申請受理されている。

非分節型全身型白斑に1.5%クリームを一日二回投与した第3相二本で、24週時点のF-VASI75(顔面白斑重症度指標75%改善)達成率が29.9%だった。

Opzeluraは9月に米国で軽中度アトピー性皮膚炎用薬として承認された。局所治療薬に十分応答しないまたは不耐の患者に一日二回塗布する。治療期間・頻度に制限が設けられている。

リンク: 同社のプレスリリース



ASH:イエスカルタをLBCL二次治療に承認申請
(2021年12月11日発表)

ギリアド・サイエンシズはYescarta(axicabtagene ciloleucel)の第3相ZUMA-7試験の成功を6月に公表したが、詳細をASHで発表した。難治再発大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)の二次治療としての効果を免疫化学療法と比較したところ、EFS(イベント・フリー・サバイバル)のハザードレシオが0.398、p<0.0001、メジアン値は各群8.3ヶ月と2.3ヶ月だった。副次的評価項目の完全反応率は各66%と39%だった。

Yescartaは17年に米国で、18年にEUで、今年は日本でも、LBCLなどの三次治療薬として承認された。標記試験の成功を受け米国で適応拡大を申請し受理された。審査期限は来年4月1日。欧州でも申請済み。

リンク: ギリアドのプレスリリース



ロシュ、抗CD20/CD3二重特性抗体を承認申請
(2021年12月11日発表)

ロシュはRG7828(mosunetuzumab)のP1/2難治再発濾胞性リンパ腫3次治療試験の結果をASHで発表するとともに、欧州で非ホジキンリンパ腫に承認申請したこと、そして、米国でも申請する考えであることを明らかにした。

B細胞腫瘍のCD20と細胞傷害型T細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体で、臨床試験で完全反応率が60%だった。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、COVID-19治療薬などの承認を支持
(2021年12月17日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、抗SARS-CoV-2抗体などの承認に肯定的意見を纏めた。

リンク: EMAのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインがVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)からライセンスした抗SARS-CoV-2抗体、Xevudy(sotrovimab、和名ゼビュディ)は12歳且つ体重40kg以上で酸素投与は不要だが重症化リスクを持つCOVID-19感染者に用いる。臨床試験では29日の追跡期間中に24時間以上入院した患者が528人中6人(1%)と偽薬群の529人中30人(6%)を有意に下回った。死亡者は各群ゼロと2人だった。in vitro試験ではOmicron株にも有効。有害事象は過敏反応など。

5月に米国でEUA、8月にオーストラリアで条件付き承認、9月には日本でも特例承認された。

CHMPで肯定的意見を得た薬は通常、2~3ヶ月内に承認されるが、Xevudyは同日に承認された。EUでは韓国のセルトリオンのRegkirona(regdanvimab)とリジェネロン・ファーマシューティカルズのREGEN-COV(casirivimabとimdevimab、和名ロナプリーブ)が既に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース(12/16付)

Global Blood Therapeutics(Nasdaq:GBT)のOxbryta(voxelotor)は12歳以上の鎌状赤血球症患者の溶血性貧血治療薬。単剤、またはhydroxycarbamideと併用する。ヘモグロビンに可逆的に結合し酸素親和性を増強、赤血球の鎌状化を妨げ血中ヘモグロビン量を増やす。有害事象は頭痛、下痢、腹痛など。

米国では19年に加速承認された。2~15歳の脳梗塞抑制試験を実施して本承認に切り替える予定。EUは本承認するようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーがOPKO Health(Nasdaq:OPK)からライセンスして開発したNgenla(somatrogon)は長時間作用型遺伝子組換えヒト成長ホルモン製剤。毎日ではなく週一回の皮注で足りる。米国でも承認申請中。日本は11月に第一部会を通過した。

リンク: EMAのプレスリリース

同じくファイザーのApexxnarは18歳以上を対象とする20価肺炎球菌結合型ワクチン。米国では6月にPrevnar 20として承認された。COVID-19ワクチンが発売される前までのベストセラー・ワクチンであるPrevnarシリーズの第3弾。

リンク: EMAのプレスリリース

バイエルのKerendia(finerenone)は非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤。成人二型糖尿病患者のアルブミン血症を伴うステージ3/4慢性腎疾患に用いる。腎アウトカム試験で腎機能低下を抑制した。米国で7月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

アステラス製薬がSeagen(Nasdaq:SGEN)と共同開発したPadcev(enfortumab vedotin)は抗Nectin-4抗体とMMAE細胞毒のADC。白金薬レジメン歴と抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ成人の局所進行/転移尿路上皮腫に用いる。第3相試験でメジアン生存期間が12.9ヶ月と化学療法群の9.0ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70だった。主な有害事象は重度皮膚反応、血糖値上昇、末梢神経症など。

米国では19年に加速承認、日本では9月にパドセブとして承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのSaphnelo(anifrolumab)はタイプ1インターフェロンのサブユニット1に結合する抗体。活性自己抗体陽性で標準療法に十分な応答が得られない中重度全身性エリテマトーデスに用いる。SLEレスポンダー・インデックス4を主評価項目とした最初の第3相はフェールしたが、BICLAに切り替えた第3相が成功、奏効率が47.8%と偽薬群の31.5%を有意に上回った。

04年にMedarex(09年にBMSが買収)からライセンスした。7月に米国で、9月には日本でもサフネローとして、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのTepmetko(tepotinib)はc-MET阻害剤。MET遺伝子にエクソン14スキッピングが生じるような変異のある進行非小細胞性肺癌に用いる。非小細胞性肺癌の3%程度が該当する。高齢者が比較的多く、第2相の被験者のメジアン年齢は74歳だった。20年3月に日本でテプミトコとして初承認、今年2月には米国でも加速承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

スイスのオブシーバ(Nasdaq:OBSV)がキッセイ薬品からライセンスして開発したYselty(linzagolix choline)は非ペプチド系GnRH受容体アンタゴニスト。再生産年齢期の成人女性の子宮筋腫に伴う中重度症状を治療する。経口剤で、紅潮などの副作用が起きにくいため、エストロゲンとプロゲスチンを併用して副作用を緩和するアドバック・セラピーが不適な患者にも使うことができる。米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、アムジェンが創製し現在はSwedish Orphan Biovitrum ABが開発販売している遺伝子組換え型ヒト・インターロイキン-1受容体アンタゴニスト、Kineret(anakinra)を酸素投与が必要なCOVID-19肺炎の成人に用いることが支持された。suPAR(可溶性ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体)値が6ng/mL以上の、重度呼吸不全を合併するリスクのある患者が適応になる。ギリシャとイタリアで実施されたSAVE-MORE試験で症状を改善し重度呼吸不全/死亡リスクを抑制する効果が見られた。

リンク: EMAのプレスリリース(12/16付)

COVID-19治療薬の先鞭であるギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)の適応範囲をまたまた見直すことも支持された。昨年7月に12歳以上で40kg以上の酸素補給を必要とする肺炎に条件付き承認、12月には治療開始時にロー/ハイフロー酸素または非侵襲的換気を受けている患者が適応であることを明確化したが、今回、成人に関しては酸素投与不要であるものの重症化リスクを持つCOVID-19感染者に適応拡大する。日米では拡大済。

それにしても、WHO主導のSOLIDARITYがフェールした件の、敗因分析はどうなったのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大の常連であるMSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)は、成人の腎細胞腫の切除後アジュバント療法として支持された。再発リスクが中重度または高度の患者に用いる。KEYNOTE-564試験で再発死亡ハザードレシオが偽薬比0.68だった。G3-5の治療時発現有害事象の発生率は18.9%と偽薬群の1.2%を上回った。

リンク: EMAのプレスリリース

武田薬品の抗アルファ4ベータ7インテグリン抗体、Entyvio(vedolizumab、和名エンタイビオ)は難治性のクローン病や潰瘍性大腸炎に承認されているが、今回は、潰瘍性大腸炎を治療するために大腸切除・腸肛門パウチ術を受けた後に中重度活性期慢性嚢炎を合併し、抗生物質治療に十分反応しない成人に用いることが支持された。米国や日本では申請されていないようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤、Lorviqua(lorlatinib、和名ローブレナ)は成人のALK陽性非小細胞性肺癌の初めてのALK阻害剤として用いることが支持された。これまでは他のALK阻害剤による治療歴を持つ患者に限定されていた。米日は限定解除済み。

リンク: EMAのプレスリリース

オランダのノルディックグループが大鵬薬品からライセンスして開発販売しているTeysuno(tegafur、gimeracil、oteracil potassiumの合剤、和名ティーエスワン)は欧州では進行性胃癌の一次治療にcisplatinと併用することが承認されているが、今回、fluoropyrimidine不耐の転移結腸直腸癌に用いることが支持された。アジュバントまたは転移後の治療で手足症候群や心血管毒性が発生し継続投与が適切でない患者に、単剤、またはoxaliplatinあるいはirinotecanと併用(bevacizumab追加も可)で投与する。

リンク: EMAのプレスリリース

COVID-19用薬は各国がEUAや条件付き承認、特例承認など様々な手段を用いて実用化をスピードアップしているが、EUはあまり融通が効かないようで、加盟国が独自に承認する事例が目立っている。CHMPは、正式な承認審査とは別に、加盟国向けの推奨を行ってニーズに応えている。

今回は、ファイザーのPAXLOVID(nirmatrelvir、ritonavir)について、加盟国向け推奨を行った。COVID-19に感染し酸素投与は不要だが重症化リスクを持つ成人に、発症後5日以内に投与開始する。同梱二剤を一日二回、5日間服用する。有害事象は味覚異常、下痢、嘔吐など。薬物相互作用に注意する。妊婦や避妊していない妊娠可能年齢の女性には推奨しない。授乳は一定期間、中断する。

ローリング審査も開始した。米国では11月にEUA申請されている。

リンク: EMAのプレスリリース(12/16付)

一方、バイオジェンとエーザイが共同開発販売しているAduhelm(aducanumab)は否定的意見となった。軽度認知障害や軽度アルツハイマー病の治療薬として承認申請され、米国ではなぜか承認されたがほとんど売れていない。CHMPも、臨床成績が区々であること、アミロイド・ベータの減少と病状悪化の抑制がリンクするかどうかは未確立であること、脳血管浮腫や脳出血などのリスクがあり適切な発見・対処法もないことを指摘している。

両社は、このような場合にしばしば用いられる、再審請求を行う考え。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: バイオジェンとエーザイのプレスリリース

承認申請が撤回されたのがIntercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)のobeticholic acid。NASH治療薬として承認申請されたが、臨床試験で治療効果が限定的であったことや、心血管や腎臓の毒性が懸念されることなどから、CHMPは承認に前向きではなかった。FDAも同様な理由で6月に審査完了通知を発出している。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


全身性重症筋無力症治療薬が承認
(2021年12月17日発表)

FDAは、オランダのArgenx(Euronext:ARGX)が申請したVyvgart(efgartigimod)をアセチルコリン受容体(AChR)に対する自己抗体を持つ成人の全身性重症筋無力症の治療薬として承認した。

重症筋無力症は免疫グロブリンGが神経・筋肉間の情報伝達を妨げ、筋力低下を引き起こす希少疾患。Vyvgartは免疫グロブリンGの分解を妨げるFcRn(胎児性Fc受容体)を標的とする抗体フラグメントで、臨床試験では68%の患者で日常生活機能の改善が見られた(MG-ADLで評価)。偽薬群は30%だった。主な有害事象は感染症や過敏反応。

日本でも11月に第一部会を通過した(ウィフガード点滴静注)。欧州でも承認申請中。

リンク: FDAのプレスリリース



抗TSLP抗体が重症喘息症に承認
(2021年12月17日発表)

アストラゼネカは、アムジェンと共同開発している抗TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)抗体、Tezspire(tezepelumab-ekko)がFDAに承認されたと発表した。12歳以上の重度喘息症患者の維持療法に追加する。第3相試験では増悪頻度が偽薬比56%低かった。

喘息症のステップセラピーにおいて抗体医薬は最終ステップで用いられるが、これまでの製品は、事前に好酸球数や通年性アレルゲン検査でスクリーニングする必要があった。限定がない薬はTezspireが初。

リンク: 同社のプレスリリース



オレンシアが急性移植片宿主病に適応拡大
(2021年12月15日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ・スクイブのOrencia(abatacept)を他家造血幹細胞移植を受ける2歳以上の患者の急性移植片宿主病(aGvHD)を抑制する用途で承認した。HLA型が適合または7アレル適合である場合に、カルシニューリン阻害剤及びMTXと併用する。この用途の薬の承認は初。

OrenciaはCTLA-4と免疫グロブリンG1の融合蛋白。05~10年に米欧日でDMARD不応不耐リウマチ性関節炎の治療薬として承認されている。

HLA適合患者を組入れた臨床試験では、180日重度aGvHD発症・死亡のハザードレシオが対照群比0.55と数値上は悪くなかったが有意ではなかった。一方、180日生存率は97%対84%で上回り、死亡ハザードレシオは0.33(95%信頼区間0.12-0.93)だった。有害事象は貧血、高血圧、サイトメガロウイルス感染症など。

7/8適合移植のエビデンスは患者登録のデータ。180日生存率が98%と対照群の75%を上回った。FDAはレジストリーのようなリアル・ワールド・データに基づく承認申請もケース・バイ・ケースで受け入れるようになった。

リンク: FDAのプレスリリース



コルチコステロイドの新製剤をIgA腎症に承認
(2021年12月15日発表)

FDAはスエーデンのCalliditas Therapeutics(Nasdaq:CALT、Nasdaq Stockholm:CALTX)のTarpeyo(budesonide)を原発性IgA腎症の蛋白尿を改善する用途で加速承認した。ステロイドの腸溶性コーティング徐放性カプセルで、16mgを一日一回、経口投与する。RAS阻害剤の最大耐容量を服用している成人患者約200人を組入れた第3相試験では、UPCR(尿蛋白クレアチニン比)が9ヶ月後に平均34%低下した。偽薬群は5%低下に留まった。

メーカー側は腎機能低下を遅らせる効能を市販後に確認すべくコミットメントしている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Calliditas社のプレスリリース



米国でJAK阻害剤の適応拡大が流れ出した
(2021年12月14日発表)

FDAはJAK阻害剤の安全性に関してEUや日本より強い懸念を示しており、適応拡大申請の審査がPDUFA(処方薬ユーザー課金法)で定められた期限を軒並み超過していたが、メーカー側が枠付警告強化や適応限定などのレーベル改訂を終えたのと軌を一にして、流れ始めた。

ファイザーはXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)を活性期強直性脊髄炎に用いることが承認されたと発表した。順調なら半年前に承認されるはずだった。11月に承認されたEUとは異なり、DMARD不応不耐だけでは適応にならず、リウマチ性関節炎と同様にTNFブロッカー不応不耐に限定されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アッヴィのRinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)を活性期乾癬性関節炎に用いることも承認された。順調なら第1四半期中に承認されるはずだった。EUや日本と異なり、TNFブロッカー不応不耐に限定されている。

こうしてみると、Xeljanzの長期安全性確認試験の対象であったリウマチ性関節炎以外の適応症に関しても、TNFブロッカーが承認されている場合はTNFブロッカーが優先とFDAは判断しているようだ。

リンク: アッヴィのプレスリリース






今週は以上です。

2021年12月11日

第1029回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • コミナティは三回接種すればオミクロン株にも有効? 
  • アストラゼネカの抗体カクテルが予防にEUA 
  • 植物培養ワクチンの第3相が成功 
  • アクテムラ、EUでも中等症COVID-19に承認 
  • ゼビュディの第3相の最終解析値 
  • その他の領域: 
  • UCB、重症筋無力症の第3相が成功 
  • B型血友病の遺伝子療法を欧米で承認申請へ 
  • ニューロクラインのVMAT2阻害剤もハンチントン病試験成功 
  • SERD新薬の乳癌試験が成功 
  • レット症候群試験が成功 
  • Biohaven、点鼻用CGRP受容体アンタゴニストの二本目が成功 
  • リンヴォックのクローン病試験が成功 
  • 韓国発の汎her阻害剤が承認申請 
  • NASH用薬の欧州申請を撤回 
  • FDA諮問委員会、アルポート症候群用薬の承認に反対 
  • Secura Bio社、米国で抗癌剤の加速承認を相次いで返上 
  • ファイザー、アトピー性皮膚炎治療薬サイバインコがEUでも承認 
  • JAK阻害剤二剤にもクラス枠付警告が導入 


【COVID-19関連】


コミナティは三回接種すればオミクロン株にも有効?
(2021年12月8日発表)

BioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチン、Comirnaty(tozinameran)はOmicron株に対する感染予防効果が低い可能性を示す、in vitro試験の結果が相次いで発表された。

一つは南アフリカのAfrica Health Research Instituteによるもの。ホームページに概要と査読前論文のリンクが掲載されている。

ワクチンを二回接種した12人の14血漿検体を生ウイルス中和アッセイでテストしたところ、野生株(D614G型)におけるGMT(幾何平均抗体価)が1321であったのに対して、Omicron株では32と、41分の1だった。但し、感染歴のある6人の血漿では、感染歴のない血漿の野生株に対するGMTと同程度だった。因みに、未感染6人の検体は接種完了のメジアン12日後に採取、感染歴6人はメジアン27日後で、感染したのは1年以上前だった。

もう一つはBioNTech/ファイザーがプレスリリースで発表した。二回接種完了の3週間後に採取した血清を用いて、Omicronと同様な変異を導入したシュードウイルスの中和抗体価テストしたところ、野生株に対する値の25分の1だった。一方、ブースター接種の1ヶ月後に採取した血清ではGMTが154と、二回接種後の血清の野生株(155)やDelta株(398)に対するGMTに匹敵していた。液性免疫の点では二回より三回接種のほうが良いことになる。

一方、CD8陽性T細胞が認識するエピトープの8割はOmicron株のゲノム変異に影響されていないため、二回接種でも重症化リスクは十分抑制できるのではないか、と両社は推測している。まあ、それを言えば、Delta株に対しても重症化だけなら二回接種でも十分に抑制できるのではないかと思われるが。

プレスリリースだけなので、検体数や老若の差異、二回目と三回目の間隔は不明。また、三回目接種から6ヶ月、8ヶ月、12ヶ月経っても有効なのか、明らかではない。

リアル・ワールドではどうか?MMWR(12月10日付)によると、米国では12月1~8日にOmicron株感染者が43人報告されたが、うち34人は発症/検査陽性の14日以上前にワクチン二回接種を完了しており、さらにそのうち14人は追加接種も済ませていた(但しこのうち5人は発症前14日以内)。今後、感染例が積み重なるにつれて、実態が浮き彫りになるだろう。

いずれにせよ、両社はOmicron株を標的とするmRNAリピッド・ナノパーティクル・ワクチンの開発を進める考え。現時点では未だ主流になっていないが、今後、感染シェアが上昇するようなら、3回目はOmicron対応ワクチンだけ接種するような方法も考えられるだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: AHRIのプレスリリース
リンク: medRxivに提出された試験論文草稿(AHRIのサイト、pdfファイル)
リンク: Omicron株感染者の特徴に関する論文(MMWR、12/10/2021)



アストラゼネカの抗体カクテルが予防にEUA
(2021年12月8日発表)

FDAはアストラゼネカのEvusheld(tixagevimabとcilgavimabの同梱)をCOVID-19の暴露前予防に承認した。ワクチン同様に感染や重症化を防ぐために用いるが、適応になるのは12歳かつ体重40kg以上の中重度免疫不全またはワクチンに不耐不適な人だけ。他社の抗SARS-CoV-2抗体は感染後の治療や感染者の濃厚接触・同居者の曝露後予防用途で承認されているが、当製品は曝露後予防試験がフェールしているため、感染者の濃厚接触や同居者は適応外。

具体的にどのような人が対象なのか?医療従事者向けファクト・シート(処方情報類似文書)では、固形癌や血液癌の治療、臓器/幹細胞移植後の免疫抑制療法、コルチコステロイド(プレドニゾン換算で20mg/日以上を2週間以上)やTNFブロッカーによる治療などを受けている人や、中重度原発性免疫不全やHIV感染により免疫低下した人などが例示されている。MTXは列挙されていないが、これらは例示に過ぎないので、学会や医師の判断に委ねられる。

ワクチン未接種で感染歴もない人を組入れた第3相試験では、各活性成分を150mg、一回ずつ筋注した群の症候性感染が3441人中8人、0.2%だったのに対して偽薬群は1731人中17人、1.0%となり、相対リスク削減率は77%だった。この主解析はメジアン83日間しか追跡していないが、6.5ヶ月追跡した解析では3441人中11人(0.3%)、偽薬群は1731人中31人(1.8%)となり、相対リスク削減率は83%だった。

主な有害事象は注射箇所反応や筋注に伴う出血、そして、心臓有害事象など。上記試験では心臓に関する深刻有害事象の発生率が0.6%(22人)と偽薬群の0.2%(3人)を上回った。うち、冠動脈疾患/心筋梗塞が10人、心不全が6人、不整脈が4人で発生した。全ての症例が心血管疾患歴または心臓疾患リスク因子を持っていた。発生時期は投与の数時間後から追跡期間完了時点まで様々で一定のパターンは見られない。第3相曝露後予防試験ではこのような偏りは見られなかったが、被験者数が5分の1、メジアン年齢が48歳と9歳若く心血管疾患歴/リスク保有者の比率が低いので、判然としない。結局、薬との因果関係は不明なままである。

Evusheldは、Vanderbilt Universityの研究者が感染者の回復期血漿から抽出した二種類の抗SARS-CoV-2抗体を装飾し、半減期を長期化するとともに、抗体依存的疾病強化リスクを緩和したもの。in vitroではオミクロン株にも中和活性を示したとのことだが、どのような試験を行ったのかは明らかではない。米国連邦政府と70万回分を7.26億ドルで供給する合意を結んでいる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファクト・シート(添付文書相当)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース



植物培養ワクチンの第3相が成功
(2021年12月7日発表)

田辺三菱製薬が13年に買収したカナダの植物培養ワクチン開発会社、Medicagoとグラクソ・スミスクラインは、共同開発しているSARS-CoV-2ワクチン、MT-2766の第3相試験の中間解析が成功したと発表した。カナダ、米国、英国、メキシコ、アルゼンチンで18歳以上の24000人超を組入れて、3.75mcgを21日おいて二回筋注する効果を偽薬と比較したところ、ワクチン効率(VE;感染リスク削減率)は71%だった(95%信頼区間58.7-80.0)。デルタ株に対するVEは75.3%、ガンマ株では88.6%だった。このデータはper protocolだがintent-to-treatでも大差ない由。COVID-19ワクチンの臨床試験ではベースライン時点で抗SARS-CoV-2抗体を持つ、関連歴が疑われる被験者は除外してVEを算出することが多いが、このベースでもVEは75.6%(同64.2-83.7)と大差なかった。ワクチン関連深刻有害事象は発生しなかった。

先行企業が第3相試験を実施した1年前とは流行株が異なっているため比較は難しいが、決定的に劣るようには感じられない。カナダで承認申請する計画。カナダ政府から開発補助金を受領しており、承認後に7600万回分の供給で合意している。

Medicagoはワクチン抗原の遺伝子をベンサミアナ・タバコに導入して培養・量産する技術を持っている。MT-2766はスパイク蛋白の安定化融合前三量体を抗原とし、グラクソのパンデミック・アジュバントで免疫原性を増強した。冷蔵保存可能。

リンク: 両社のプレスリリース



アクテムラ、EUでも中等症COVID-19に承認
(2021年12月7日発表)

ロシュは、欧州委員会がRoActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)をCOVID-19の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。EMAのCHMPが肯定的意見をまとめてから数時間後の特急承認だ。

適応となるのは酸素投与または人工呼吸器装着の全身性コルチコステロイドによる治療を受けている成人患者。CHMPによると、全身性コルチコステロイド治療を受けていない患者に投与する場合、死亡リスクが高まってしまう可能性を否定できない。

承認の主エビデンスはオックスフォード大学が主導したRECOVERY試験のようだ。29日死亡率が31%と標準療法群の35%より低かった。29日退院率は57%対50%で上回った。

100人に一回(改善しなかったら8時間以上後にもう一回)投与すれば4人を救命できるので重要な薬だが、リスク削減率の面では決して高くない。また、臨床試験のエビデンスは区々で、人工呼吸器装着までは進行していない患者を組入れたEMPACTA試験では人工呼吸器装着リスクを抑制したが死亡率は数値上、上回った。COVACTA試験とREMDACTA試験はフェールした。被験者数はRECOVERY試験が圧倒的に多いため信頼性が高いが、オープンレーベルであることや、異なった薬の臨床試験と2x2方式で実施されたことなど、頑強性で劣る面もある。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: EMAのプレスリリース(12/6付)



ゼビュディの第3相の最終解析値
(2021年12月2日発表)

Vir Biotechnology(Nasdaq:VIR)とグラクソ・スミスクラインは、共同開発販売している抗SARS-CoV-2抗体、Xevudy(sotrovimab)が英国で条件付き承認されたと発表した。同時に、第3相COMET-ICE試験の最終解析論文原稿をmedRxivで公開したことを明らかにした。

COMET-ICE試験は今年3月に独立データ監視委員会が中間解析結果に基づき成功認定、5月に米国でEUA(非常時使用認可)、8月にオーストラリアで条件付き承認、9月に日本で特例承認された。この時の全入院・全死亡リスク削減率(n=583)は85%、p=0.002だったが、最終解析(n=921)では79%、p<0.001と若干低下した。試験薬群は528人中6人が入院したが、うちCOVID-19関連は3人だけだった。試験薬群は529人中29人が入院した(COVID関連の内訳は不明)。死亡者は各群ゼロと2人で、イベント数が少ないため正式な統計検定は見送られた。

中間解析と最終解析で治療効果の数値が変化する事例は、最近ではmolnupiravirで話題になった。中間解析はもし結果が悪ければ打ち切られるし、そこそこならデータ非公表のまま続行するので、途中で公表されるのは成功認定された良いデータだけだけである。一方、その後のデータは、中間解析の上にも下にも変動する可能性があるはずだが、「平均への回帰」がしばしば観察される。今回の変化くらいなら驚くほどではない。

sotrovimabはシュードウイルスの試験でOmicron株に対する活性が見られた由。変異箇所が多いので過去にワクチンや試験薬で行われたような一ヶ所だけ変異させたシュードウイルスの試験では足りない可能性があるが、今回は抗体医薬の標的であるスパイク蛋白の変異37箇所を全て反映したシュードウイルスを用いた由なので、この種の試験の中では信頼性が高そうだ。

リンク: 両社のプレスリリース


【新薬開発】


UCB、重症筋無力症の第3相が成功
(2021年12月10日発表)

UCBはUCB7665(rozanolixizumab)の第3相全身型重症筋無力症試験の成功を発表した。22年第3四半期に日米欧で承認申請する予定。データは未発表。

重症筋無力症は自己免疫疾患で、筋細胞のコントロールが不調になり、重症化すると呼吸不全のリスクも生じる。UCB7665は皮注用の抗ヒトneonatal Fc受容体抗体で、免疫グロブリンGをブロックする。第3相は二種類の用量の第43日MG-ADL総スコア改善効果を検討した。

同社は皮注用C5インヒビターであるzilucoplanの第3相も実施中で、数週内に結果が判明する見込み。両方成功なら、使い分けや併用の余地を探索することになりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース



B型血友病の遺伝子療法を欧米で承認申請へ
(2021年12月9日発表)

米国のCSL BehringとオランダのuniQure(Nasdaq:QURE)は、AMT-061(etranacogene dezaparvovec)の第3相重度B型血友病試験で、第IV因子の増加だけでなく出血予防効果も確認できたと発表した。22年上期に欧米で承認申請する予定。

uniQureはアムステルダム大学発の遺伝子療法開発会社。AMT-061はPadua大学の研究者が発見した第IX因子の高活性多型、FIX-Paduaをアデノ随伴ウイルス5型(AAV5)ベクターで導入する。CSL Behringは昨年6月に開発販売権を取得した。

第3相では重度のB型血友病54人に2x10^13 gc/kgを一回投与して第IX因子活性が正常水準対比でどの程度上昇するか観察した。この試験は正常水準比2%未満の患者を組入れたが、26週時点で平均37.2%まで上昇した。AAV5は中和抗体保有者が多いのが難点で本試験でも23人が該当したが、効果や忍容性は持たない人と大差なかった。

今回の解析はFDAが要請したもので、第IX因子の定常化が見込まれる第7月から第18月までの出血頻度年率を6ヶ月のリード・イン期間中と比較した。結果は1.51対4.19となり、非劣性検定だけでなく優越性検定も成功した(p=0.0002)。また。第18月時点の第IX因子活性は正常水準の36.9%と、高水準を維持していた。

腹部超音波定期検査で被験者の一人から肝細胞腫が見つかり、治療関連疑い例とされたため、FDAが治験停止を命じたことがある。生検の結果、ごく一部の細胞にしかベクターが組込まれていないことや、組み込まれた部位は区々で肝癌の発症への関与が知られていない部位であることが判明、今年4月にホールド解除となった。他に肝細胞腫は報告されていない。77歳の被験者が尿敗血症と心原性ショックで死亡したが、試験薬との関連性は認められなかった。死亡はこの一人のみ。

リンク: 両社のプレスリリース



ニューロクラインのVMAT2阻害剤もハンチントン病試験成功
(2021年12月7日発表)

Neurocrine Biosciences (Nasdaq: NBIX)は、valbenazineの第3相ハンチントン病試験が成功したと発表した。22年に承認申請予定。

valbenazineは小胞モノアミン・トランスポーター(VMAT)2阻害剤。ドパミンなど神経伝達物質がシナプス前小胞に取り込まれるのを抑制し、不随意運動に係る神経系機能を正常化する。遅発性ジスキネジア治療薬Ingrezzaとして17年に米国で承認、日本でもライセンシーの田辺三菱製薬が承認申請中。

今回のKINECT-HD試験は、18~75歳の舞踏症状を持つ患者128人を組入れて、UHDRS-TMC(Unified Huntington's Disease Rating Scale Total Maximal Chorea)スコアの変化を検討したところ、偽薬比3.2単位の改善が見られた(p<0.0001)。副次的評価項目のCGI(臨床的全般的評価)も医師評価と患者評価ともに有意に改善した。有害事象は既知のものと同じで、自殺行動や自殺思慮悪化は見られなかった。

VMAT2阻害剤はルンドベックのXenazine(tetrabenazine)やテバのAustedo(deutetrabenazine)がハンチントン病の舞踏症治療薬として米国で承認されている。

リンク: ニューロクラインのプレスリリース



SERD新薬の乳癌試験が成功
(2021年12月8日発表)

イタリアのメナリニとRadius Health(Nasdaq:RDUS)は、非ステロイド系選択的エストロゲン受容体零落剤elacestrantの第3相進行転移乳癌試験の結果をSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で発表した。ハザードレシオや12ヶ月時点のデータは良好だが、メジアン値の群間差は案外小さかった。また、効果は特定のサブグループに限定的のようだ。成功したこと自体は10月に公表済み。来年、欧米で承認申請する考え。

この第3相はエストロゲン受容体陽性、her2陰性の進行/転移乳癌で1~2次の内分泌療法歴且つCKD4/6阻害剤歴を持つ男女477人を組入れて、400mgを一日一回経口投与する群のPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価委員会方式)を標準療法(fulvestrant、anastrozole、letrozoleまたはexemestane)とオープンレーベルで比較した。PFSのハザードレシオは0.70、メジアン値は各群2.79ヶ月と1.91ヶ月、推定12ヶ月無進行生存率は22.3%と9.4%だった。共同主評価項目である、エストロゲン受容体1(ESR1)のライガンド結合ドメインに変異のあるサブグループ228人のPFSは夫々0.55、3.78ヶ月と1.87ヶ月、26.8%と8.2%だった。

内分泌療法応答性が低いと言われているESR1変異型における上乗せ効果が大きいのはポジティブな発見だ。一方、この変異のない腫瘍における便益は曖昧だ。

全生存期間は未成熟だが良いトレンドとのこと。最終解析は22年から23年とのことなので、承認と前後するのではないか。有害事象は悪心、背痛、肝機能検査値異常、頭痛など。

Radiusは06年にエーザイからelacestrantをライセンス、当初は更年期障害や骨粗鬆症向けに開発を進めたが、腫瘍学における研究開発を中止するに当たって、昨年7月にメラニリに世界開発商業化権を供与した。

尚、Radiusは皮注用骨粗鬆症治療薬Tymlos(abaloparatide)の経皮投与用貼付薬の第3相、wearABLe試験がフェールしたことも発表した。腰椎BMD改善効果がTymlos比非劣性ではなかった。

Tymlosは日本では帝人がライセンス、3月にオスタバロ名で販売承認を取得した。

リンク: 両社のプレスリリース



レット症候群試験が成功
(2021年12月6日発表)

ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)はtrofinetideの第3相RETT症候群試験、Lavenderが成功したと発表した。介護者や医師の症状評価が改善した。22年央に承認申請する予定。

Rett症候群は神経系の発達不全を呈する希少疾患。MECP2などの変異遺伝子の関与が指摘されている。米国の患者数は6000~9000人。trofinetideはニューロンやグリア細胞から分泌されるIGF-1のアミノ端末トリペプチドの類縁体。18年にNeuren Pharmaceuticals(ASX:NEU)から北米における開発商業化権を取得した。

Lavender試験は5~20歳のRett症候群の女性187人を組入れて、体重に応じて30~60mLを一日二回、12週に亘って経口/経管投与した。RSBQ(Rett Syndrome Behaviour Questionnaire)はベースライン比5.1低下、偽薬群は1.7低下で、p=0.0175、プレスリリースによるとイフェクト・サイズは0.37だった。CGI-I(Clinical Global Impression–Improvement)スコアは各3.5と3.8、p=0.003、イフェクトサイズは0.47だった。深刻有害事象の発生率は両群とも3.2%だったが、治療時発現有害事象による治験離脱率は17.2%対2.1%と偏りがあった。薬効解析にどのような影響があるか、知りたいところだ。

リンク: 同社のプレスリリース



Biohaven、点鼻用CGRP受容体アンタゴニストの二本目が成功
(2021年12月6日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-3500(zavegepant)の第3相中重度片頭痛急性期治療試験が成功したと発表した。第2/3相試験のデータと合わせて22年第1四半期に米国で承認申請する予定。輩出しているCGRP受容体を標的とする薬の一つで、同社は昨年、Nurtec(rimegepant)口腔内急崩壊錠を急性期治療と予防的治療向けに米国で発売しているが、zavegepantは点鼻用であることが特徴。悪心嘔吐や胃麻痺などの胃腸系症状を持つ患者に適している。

第3相は1405人を組入れて10mgを一回投与する効果を検討した。薬効解析対象は約1200人。共同主評価項目のうち2時間疼痛解消率は24%対15%、最も煩わしい症状の解消率は40%対31%と、どちらも偽薬比有意に上回った。疼痛緩和奏効率は15分後には16%対8%、2時間後でも59%対50%と有意な差が持続した。有害事象は味覚異常など。

上記二剤はブリストル マイヤーズ・スクイブから16年にライセンスしたもの。

リンク: 同社のプレスリリース



リンヴォックのクローン病試験が成功
(2021年12月6日発表)

アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)の第3相U-EXCEED試験が成功したと発表した。バイオ薬に応答不十分/不耐の中重度クローン病患者約500人を組入れて45mg群と偽薬群に2対1割付して12週間投与したインダクション試験で、共同主評価項目は臨床的寛解率と内視鏡的奏効率。

前者はFDA基準(CDAIが150未満に低下)では39%対21%、EMEA基準(軟便・液便頻度と腹痛を評価)では40%対14%、後者は35%対4%で、何れも有意な差があった。深刻有害事象発現率は9.9%対9.3%で大差なく、深刻感染症は2.8%対1.8%で少し上回った。

クローン病試験の要注意事項である胃腸穿孔は発生しなかったが、おそらく維持療法試験の被験者数を増やすためだろう、偽薬群や追加組入れ患者に投与した追加症例207人では2人で発生した。

Rinvoqは潰瘍性大腸炎の試験が成功、日米欧で承認審査中。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


韓国発の汎her阻害剤が承認申請
(2021年12月6日発表)

米国ネバダ州の新興製薬会社、Spectrum Pharmaceuticals(NasdaqGS:SPPI)は、poziotinibをher2エクソン20挿入変異陽性で治療歴のある非小細胞性肺癌に用いる承認申請をFDAに行ったと発表した。15年に韓国のハンミ・ファーマから中韓以外の権利を取得した汎her阻害剤で、エクソン20挿入変異は非小細胞性肺癌の2~3%で見られる。

第2相試験のher2エクソン20挿入変異再発治療コフォートでは、90人に16mgを一日一回経口投与したところ、cORR(確認客観的反応率)が27.8%となり、95%下限が閾値の17%を上回った。メジアン反応持続期間は5.1ヶ月、治療関連有害事象と有害事象治験離脱の発生率は各14%と12%だった。尚、一次治療コフォートはフェールした。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


NASH用薬の欧州申請を撤回
(2021年12月9日発表)

Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)はobeticholic acidをNASH(非アルコール性脂肪肝炎)による肝線維症の治療薬として欧米で承認申請したが、昨年6月にFDAから審査完了通知を受領したのに続いて、EUの承認申請を撤回したと発表した。NASH治療薬の開発は一時期盛り上がったが、戦線離脱が相次ぎすっかり鎮静化してしまった。

FDAは、審査完了通知の中で、病理学的サロゲートマーカーである程度の差が見られただけでは便益が不確かであり危険を上回るとは言えないため、加速承認はできない、長期追跡によって臨床的便益を確認するよう求めた。EUも同じ判断だろう。

obeticholic acidは胆汁酸誘導体で閣内転写調節受容体、ファルネソイドX受容体を作動する。原発性胆汁性肝硬変用薬Ocalivaとして16年に欧米で加速/条件付き承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース



FDA諮問委員会、アルポート症候群用薬の承認に反対
(2021年12月8日発表)

FDAは心臓血管薬諮問委員会を招集し、Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)が承認申請したImbarkyd(bardoxolone methyl)について意見を聞いた。目標適応症のアルポート症候群は糸球体などの4型コラーゲンの遺伝子に遺伝性/突然変異を持ち腎不全を合併するリスクが高い希少疾患。腎疾患の進行抑制効果が認められるか、そして、便益は危険を上回るか、という諮問に対して、16人の委員全員が否と答えた。

同社は米欧日豪の施設で157人の患者を組入れて48週間治療し、eGFR(推算糸球体濾過量)を偽薬と比較した。結果は、試験薬群は4.5mL/分/1.73m2改善、偽薬群は4.7mL/分/1.73m2悪化し、有意な差があった。FDAは2年間追跡して効果や安全性を確認してから承認申請するようアドバイスしたが同社は待たずに断行した。

惨憺たる結果になった敗因は効果と安全性。eGFRは腎臓疾患のスクリーニングなどに用いられているが、腎機能改善効果を評価する指標としては確立していない。負荷がかかって一時的に濾過率が上昇しても、やがて疲弊し、却って悪化してしまうかもしれない。先に実施された糖尿病性腎症治療試験では進行を抑制する効果が見られなかっただけでなく、全死亡や体液貯留による心不全が偽薬比増加したことから、データ監視委員会の勧告に基づき中止となった。アルポート症候群試験でも血圧上昇やアルブミン尿の増加などが見られたようだ。

日本は協和キリンがライセンス。上記の糖尿病性腎症試験中止を受けて一時的に開発中止したが、再開し、糖尿病性腎症や常染色体優性多発性嚢胞腎の第3相を実施するとともに、今年7月にアルポート症候群で承認申請した。

リンク: Reataのプレスリリース



Secura Bio社、米国で抗癌剤の加速承認を相次いで返上
(2021年12月3日発表)

米国ラスベガスの新興製薬会社、Secura Bioは、Copiktra(duvelisib)の米国における二つの適応症のうち濾胞性リンパ腫3次治療の加速承認を返上すると発表した。11月にはFarydak(panobinostat、和名ファリーダック)の加速承認返上も発表しており、1~2年前に開発販売権を取得したばかりの二本柱が相次いで縮小/手仕舞いとなってしまった。どちらも加速承認時に課された市販後薬効確認試験が実施されず、FDAが12月2日の腫瘍学薬諮問委員会に上程する計画を立てていた。

CopiktraはInfinity Pharmaceutical(Nasdaq:INFI)からライセンスしたPI3Kデルタ阻害剤。Verastem(Nasdaq:VSTM)が18年に米国で難治再発慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の3次治療として本承認、難治再発濾胞性リンパ腫の3次治療として加速承認、を取得した。EUでも今年、この二適応症に承認。日本は18年にヤクルトが開発商業化権を取得、第2相段階。

加速承認の場合、市販後薬効確認試験を実施して期限までに結果を提出する義務を負うが、Verastemは米国承認の2年後にSecuraに権利譲渡し、Securaは商業的な理由で市販後コミットメント試験を断念、加速承認返上を申請した。

Farydakはノバルティスからライセンスしたヒストン脱アセチル化酵素阻害剤。臨床試験で癌の進行以外による死亡が対照群より多かったことから7人の委員のうち5人が反対したが、15年に多発骨髄腫の3次治療薬として加速承認された。同年、日欧でも承認されている。

市販後コミットメント試験の実施が求められたがノバルティスは承認の4年後の19年ににSecura社に権利譲渡。Securaは、承認されている用途用法と同じ内容の臨床試験を行うのは困難であることから断念し、加速承認返上をFDAに申請した。

加速承認時点で市販後薬効試験のデザインについては合意しているはずだから、何年も後になって、やっぱり無理でしたとシラを切るのでは製薬会社の良識が疑われる。しかし、Secura Bioなら、自分がコミットした訳ではなく、黒字のようには思えないので承認返上するのはやむをえないと受け入れてもらえる。口さがない機関投資家アナリストに、初めから出来レースではなかったのかと嫌味を言われかねないが、株式上場していないので聞くことはない。、

リンク: Secura Bioのプレスリリース(PRNewswire)
リンク: 同、Farydakの撤回について(11/30付、PRNewswire)


【承認】


ファイザー、アトピー性皮膚炎治療薬サイバインコがEUでも承認
(2021年12月10日発表)

ファイザーは、Cibinqo(abrocitinib、和名サイバインコ)がEUで成人の中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認されたと発表した。100mgと200mgに加えて、中程度以上の腎機能低下や2C19を阻害する薬と同時使用する患者向けに50mgも承認された。

経口JAK阻害剤で、モノセラピー試験と局所性治療薬アドオン試験で症状改善効果が確認された。一部の指標ではリジェネロン・ファーマシューティカルズ/サノフィの皮注用薬Dupixent(dupilumab)を上回った。

日本で世界初承認、英国や韓国でも承認されたが、米国はFDAがJAK阻害剤の安全性に警戒感を持っているため審査が遅れている。

リンク: 同社のプレスリリース


【医薬品の安全性】


JAK阻害剤二剤にもクラス枠付警告が導入
(2021年12月2日付け)

FDAは9月にJAK阻害剤によるリウマチ性関節炎などの治療に関して警告強化を発表したが、12月2日付で対象4製品のレーベル変更が実施されたことが判明した。

ファースト・イン・クラスであるファイザーのXeljanz(tofacitinib)のリウマチ性関節炎長期安全性確認試験で、多くの副作用懸念が確認されたことが背景。JAK阻害剤各剤は選択性プロファイルが異なるが副作用の出方は概ね似通っているため、FDAはリウマチ性関節炎に承認されている4製品共通のクラス枠付警告の記載を求めた。

通常は速やかに実施されるが、今回はメーカー側の反発が強かったのか、肝心のXeljanzとその徐放製剤も含めて、3ヶ月遅れとなった。この間に治療開始して当該副作用を発症した人たちがPL訴訟を起こさないか、老婆心ながら心配だ。

枠付警告の内容は、まず、Xeljanzのリウマチ性関節炎試験で全死亡(突然死を含む)やリンパ腫、肺癌、心血管死/心筋梗塞/脳卒中、肺塞栓/静脈動脈血栓が抗TNFアルファ抗体(TNFブロッカー)より多かった事実が記された(イーライリリーのOlumiant(baricitinib)やアッヴィのRinvoq(upadacitinib)のレーベルでは実名ではなく「他のJAK阻害剤」と記載)。

このほかに、各剤の臨床試験で観察された有害事象として、入院あるいは死亡につながるような深刻感染症や腫瘍、血栓症が、従来同様、記されている。

また、TNFブロッカー未使用患者にも承認されていた三剤(Rinvoq以外)についてはTNFブロッカー不応不耐に限定された。MTX不応ならTNFブロッカー、それでも不応ならJAK阻害剤というステップ・セラピーが従来以上に施行されることになる。





今週は以上です。

2021年12月5日

第1028回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • MSDのmolnupiravir、諮問委員会で支持が少し上回る 
  • イーライリリーの抗体カクテル、乳幼児にもEUA 
  • その他の領域: 
  • ニュベクオのmHSPCトリプル・セラピー試験が成功 
  • ImmunoGen、抗FRアルファ抗体薬物複合体を承認申請へ 
  • 局所遺伝子療法の栄養障害型表皮水疱症試験が成功 
  • MSD、肺炎球菌ワクチンの幼小児適応を承認申請 
  • アストラゼネカ、リムパーザをBRCA変異陽性早期乳癌に適応拡大申請 
  • JNJ、イムブルビカとベネクレクスタの併用を用法追加申請 
  • BMS、TYK2阻害剤を日米欧で承認申請 
  • 化学療法誘導性好中球減少症の予防薬は審査完了に 
  • 化学療法誘導性難聴の予防薬は審査完了に 
  • キイトルーダの黒色腫術後アジュバントが承認 
  • 新規B型肝炎ワクチンが承認 
  • ダラキューロもKd併用が承認 
  • アッヴィ、リンヴォックのレーベルに適応範囲縮小とクラス枠付警告を導入 


【COVID-19関連】


MSDのmolnupiravir、諮問委員会で支持が少し上回る
(2021年11月30日発表)

FDAは抗微生物薬諮問委員会を招集し、MSDがEUA(非常時使用認可)を申請したMK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)について意見を聞いた。重症化・入院リスク因子を持つ軽中等症の成人の外来治療薬としてEUAすべきと答えた委員は13人、反対は10人で、予想以上に慎重な意見が多かった。全被験者における入院・死亡抑制効果が中間解析よりかなり低下したことや、フランケンシュタインのようなウイルスを作ってしまうリスクが否定できないことなどが響いたようだ。

ファイザーが今月申請したPAXLOVID(PF-07321332、ritonavir)がEUAされるまでは唯一の経口剤になり、また、薬剤抵抗性懸念があるオミクロン株が登場し治療の選択肢を一つでも増やしたい局面でもあるので、EUAはされるだろうが、将来性は不透明だ。諮問委員の中にはもっと良い薬が承認されたらEUAを見直すべきとの声もあったほどだ(法的に可能なのだろうか?)。

【適応範囲】


適応範囲はまだ不透明だが、第3相の除外条件であったワクチン接種歴を持つ患者(ブレークスルー感染者)は適応にならない可能性がある。ベースライン時点で抗体陽性だった患者における便益は見られなかったが、サンプル数が小さいことや、検査結果が出るまで時間がかかり発症5日以内という治療ウインドウを逸してしまう可能性があることなどから、不問とする方向だ。

18歳未満は適応外とすることでFDAとメーカー側が合意している。前臨床試験で骨・軟骨形成を抑制する懸念が生じたため。治療中は授乳しないよう推奨されるだろう。妊婦は否定的な意見が多かったようだ。動物試験でシグナルが見られたことを考えると。胎児のリスクがゼロとは断定できない。

第2相試験で入院患者に対する効果は見られなかったが、服用中に入院に至った場合は、医師の判断で5日コースを完了させることが可能になりそうだ。

第3相は発症から無作為化割付まで5日以内の患者に限定したが、先例を見ると、適応条件にはならないのではないか。

【ウイルスを変異させる作用機序】


さて、諮問委員会が慎重になった一因は、ウイルス・ゲノムを改変する薬だからだ。molnupiravirはRNA依存性RNAポリメラーゼを欺いてウイルスの複製過程で作成される陰方向鎖ゲノムRNAに紛れ込み、RNAの一部が置換されたウイルスが作られるようにする。複製を繰り返すうちに置換が積み重なって限界を越え(エラー・カタストロフィー)、それ以上ウイルスが増えなくなる。類似した作用機序を持つfavipiravirより活性化が高い。

この作用機序を裏返すと、新型変異ウイルスができてしまう可能性がゼロとは言えない。オミクロン株の第一号はHIV患者とも報道されている。差別やいじめを招かないようにい慎重な言動が必要だが、一般論としては、免疫力が低下している人ではウイルスが変異して生き延びるリスクがあるので、不思議ではないかもしれない。molnupiravirが適応になるであろう高齢者や肥満症、糖尿病などの患者はHIVほどではないにしても免疫低下状態にあるので、新型の温床になるリスクは軽視できない。

尚、ヒトのゲノムを改変するリスクは小さいと考えられているが、数百万人、数千万人に投与してもゼロと言えるほどではない。

【治験後半にデータが悪化】


もう一つの理由は、全被験者における薬効が中間解析より低下した理由が分からないことだ。薬効確認試験一本だけで承認を取るためには、p値やサブグループ分析などの面でデータが頑強でなければならず、ハードルが低いEUAならともかく、正式な承認を取るのは無理だっただろう。

FDAのブリーフィング資料にサブグループ分析が掲載されていたので、中間解析データと、全被験者の数値から中間解析の数値を差し引いた『後半データ』を比較してみたが、以下に記すように、容疑者は浮上しなかった。

入院・死亡発生率の倍率(記載されていないので当方が階層化せずに算出)は中間解析の0.5(リスク半減)から後半データは1.3(リスク増加)に悪化したが、目立つのは、偽薬群の入院・死亡発生率が14.1%から4.7%と大きく低下していることだ。試験薬群は7.3%から6.2%と若干の低下に留まっているので、不自然な印象だ。サブグループではラテンアメリカと非肥満症患者における偽薬群の発生率低下が特に大きかった。アジア太平洋地域等の数値も偽薬群が50%から10%に激減、試験薬群は20%から28%に上昇しており奇妙だが、組入れ数が総計で35人、構成比2%と僅少なので評価に値しないだろう。

患者背景の変化で目立つのは、欧州の比率が23%から44%に上昇し、ラテンアメリカが66%から35%に低下したこと。そのせいか、変異株のうちブラジルなどで流行したガンマ株やコロンビアで発見されたミュー株の感染者が激減し、デルタ株が殆どになった。但し、デルタ株感染者におけるイベント発生率の倍率は中間0.5、後半1.4と、全体の数値と大差なく、ミックスの変化が犯人とは思えない。また、感染株に基づくサブグループ分析の対象外となった症例(おそらく判定や検査の不能例だろう)の構成比が32%から59%に上昇しており、株に基づく分析はnaが多すぎて困難だ。

むしろ、判定/検査不能例が増えた背景を知りたいところだ。例えば、新たに治験に参加した国で検査ができなかった(あるいは割愛した)というような場合だ。主評価項目である29日入院・死亡のうち、死亡は主観の入り込む余地が小さいが、入院は国や地域、施設により基準が異なるようなことも考えられるからだ。日本を例に取れば、今なら速やかに入院できるが今夏は入院したくてもできない人がいた(そもそも、全員入院が原則なので、組入れ条件や評価尺度を変えざるを得ない)。

米国や日本などが大量調達する薬の効果があやふやでは情けない。真犯人を見つけてほしいものだ。、

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: 上記諮問委員会に関するFDA情報(ブリーフィング資料などのリンクあり)
リンク: EMAの加盟国向け評価文書(全被験者データは検討していないが、CMCを含めて詳細に記載)



イーライリリーの抗体カクテル、乳幼児にもEUA
(2021年12月3日発表)

FDAはイーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体カクテル(bamlanivimabとetesevimabの併用)について、EUAの対象年齢を新生児を含む12歳未満の幼小児に拡大した。重症化リスク因子を持つ軽中度COVID-19感染症の外来治療と、曝露後予防の両方の適応が対象。

治療の投与実績は体重8.6kgの10ヶ月児まである。暴露後予防試験には小児は組入れなかったが、他の年齢層における実績を踏まえて、EUAした。

ところで、この抗体カクテルはオミクロン株にも有効なのだろうか?in vitroで感受性が低下したベータ株やガンマ株と同様にK417N変異を持っているようなので、流行の主流がデルタ株からシフトするケースに備えて、十分に検討すべきだろう。

図表:主要変異株の重要変異箇所
PangoWHOH69/V70欠損K417NL452RE484KE484AN501YD614GA701V
B.1.1.7アルファ
B.1.351ベータ
B.1.1.248ガンマ
B.1.617.2デルタ
B.1.617.2.1『デルタ+』
B.1.1.529オミクロン
注:感染力や中和抗体感受性に関連すると考えられているアミノ酸置換を比較。『デルタ+』(WHOの正式な名称ではなく俗称)のように変異株が更に変異する場合もある。
出所:CDC、WHO、NGS-SAなどの資料から作成。

リンク: FDAのプレスリリース


【新薬開発】


ニュベクオのmHSPCトリプル・セラピー試験が成功
(2021年12月3日発表)

バイエルはNubeqa(darolutamide、和名ニュベクオ)の第3相ARASENS試験が成功したと発表した。転移したホルモン感受前立腺癌(mHSPC)1306人を組入れて、代表的な治療法の一つであるアンドロゲン枯渇療法とdocetaxelの併用に、Nubeqa(600mgを一日二回経口投与)を追加する効果を検討した無作為化割付偽薬対照二重盲検試験で、主評価項目は全生存期間。データは学会で発表する予定。バイエルは適応拡大申請する考え。

ファースト・イン・クラスのXtandi(enzalutamide、アステラス/ファイザー)は転移ホルモン感受前立腺癌にGnRHアナログと二剤併用することが承認されているが、今回、よりアグレッシブな治療法に道を開いたことになる。

Nubeqaはオライオン社から共同開発販売権を取得した非ステロイド系のアンドロゲン受容体アンタゴニスト。19~20年に米日欧で非転移性去勢抵抗性前立腺癌に単剤投与することが承認された。

リンク: 同社のプレスリリース



ImmunoGen、抗FRアルファ抗体薬物複合体を承認申請へ
(2021年11月30日発表)

設立が1980年とアムジェンと同じ、ジェネンテック(1976年)とも大差ない老舗バイオテック企業であるImmunoGen(Nasdaq:IMGN)は、40年の時を経て、新薬開発企業から販売企業に転じる第一歩を踏み出す。IMGN853(mirvetuximab soravtansine)の第2相卵巣癌試験が成功、22年第1四半期に生物学的製剤販売許可申請する予定であることを発表した。

葉酸受容体(FR)アルファを標的とする抗体とDM4細胞毒を結合した複合体で、これまでの道のりは順調ではなかったが、今回、単にFRアルファ陽性だけでなく、高度発現する患者に絞り込んだSORAYA試験が成功した。Avastin歴を含む3次までの治療歴を持つFRアルファ高度陽性白金抵抗性卵巣癌106人を組入れて、調整理想体重1kg当り6mgを3週毎投与したところ、主評価項目のcORR(確認客観的反応率、治験医評価)が32.4%(95%信頼区間23.6-42.2)、メジアン反応持続期間は5.9ヶ月だった。完全反応も5例あった。ORRは第三者盲検評価でも31.6%と同程度。G3以上の治療関連有害事象は霞目(6%)、角膜症(9%)など。治療関連有害事象による治験離脱率は7%だった。

FRアルファ高度陽性に絞り込んだのは前回の第2相でこのサブグループの数値が良かったため。抗癌剤の臨床試験のサブグループ分析には悪魔が潜むが、偶にはこういうこともあるので、試してみる価値はある。

単群試験に基づく承認申請なので、承認されても加速承認だろう。同社は同様な内容の第3相実薬対照試験を開始しており、22年第3四半期に結果が出る見込みなので、承認審査期限と前後することになる。

リンク: 同社のプレスリリース



局所遺伝子療法の栄養障害型表皮水疱症試験が成功
(2021年11月29日発表)

米国ペンシルバニア州の局所性遺伝子療法開発会社、Krystal Biotech(Nasdaq:KRYS)は、Vyjuvek(beremagene geperpavec)のピボタル試験が成功したと発表した。米国の3施設で1~44歳の栄養障害型表皮水疱症(DEB)患者を組入れて、病変の面積や年齢に応じた量を週一回、投与して、完全治癒率を同じ患者の偽薬を投与した病変と比較したところ、主評価項目である第22週と24週、または第24週と26週における完全治癒率は67%と偽薬病変の22%を有意に上回った。3ヶ月時点の完全治癒率も71%対20%で有意な差があった。薬物関連の深刻有害事象や治験離脱は発生しなかった。同社は22年上期に米国で、その後早い時期に欧州でも、承認申請する考え。日本などでの承認申請も検討中。

DEBは米国の患者数が約3000人の希少疾患。真皮と表皮をつなぐ係留線維の構成成分である7型コラーゲンの遺伝子(COL7A1)に優性/劣性遺伝による変異を持ち、ちょっとの接触で水疱やびらんが生じ、感染症や扁平上皮腫のリスクがある。Vyjuvekは遺伝子療法で、表皮細胞親和性を持つHSV-1を改変して増殖能などを除去したものをベクターとしてCOL7A1遺伝子をケラチノサイトや線維芽細胞の核に導入、発現させる。全身投与ではなくゲル製剤を塗布する。米国でRMAT(先端的再生医療)、EUでPRIME(優先医療)の指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


MSD、肺炎球菌ワクチンの幼小児適応を承認申請
(2021年12月1日発表)

MSDは15価肺炎球菌結合型ワクチンVaxneuvanceを幼小児(6週から17歳)に用いる対象年齢拡大をFDAに申請し、受理された。優先審査を受け、期限は来年4月1日。このワクチンは今年7月、18歳以上に承認され、11月には欧州でもCHMPの肯定的評価を獲得、日本でも承認申請中。

肺炎球菌ワクチンは同社の23価莢膜ポリサッカライドワクチンPneumovaxとファイザーのPrevnarシリーズが双璧だが、今年はファイザーのPrevnar 20も米国で承認され、カバレッジ拡大競争が起きている。対象株が20と多いPrevnar 20のほうが有力だろう。

リンク: MSDのプレスリリース



アストラゼネカ、リムパーザをBRCA変異陽性早期乳癌に適応拡大申請
(2021年11月30日発表)

アストラゼネカはMSDと提携してPARP阻害剤Lynparza(olaparib)を様々なBRCA変異陽性癌に開発しているが、米国で早期乳癌に適応拡大申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は22年第1四半期とのこと。

第3相OlympiA試験に基づくもの。BRCAに生殖細胞系変異を持つher2陰性早期乳癌で、切除術を受けたが再発リスク因子を持ち、術前/術後にアジュバント療法を受けた患者を組入れて、150mg二錠を一日二回、最長12ヶ月経口投与したところ、無侵襲性疾患生存期間の偽薬比ハザードレシオが0.58、3年間無侵襲性疾患生存率85.9%、偽薬群は77.1%だった。有害事象による治験離脱率は10%だった。

リンク: 同社のプレスリリース



JNJ、イムブルビカとベネクレクスタの併用を用法追加申請
(2021年11月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、慢性リンパ性白血病の一次治療にBTK阻害剤Imbruvica(ibrutinib)をアッヴィのbcl-2阻害剤Venclexta(venetoclax)と併用する一部変更申請をEUで行った。第3相GLOW試験に基づくもので、28日サイクルで最初の3サイクルはImbruvica(420mg/日)だけ、第4~16サイクルはVenclextaと共に、経口投与する群のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)をchlorambucil・obinutuzumab併用群と比較したところ、ハザードレシオが0.216、メジアン値は未達対21ヶ月と高い効果を示した。G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症、下痢、高血圧症など。死に至った有害事象は各群106人中7人と105人中2人だった。全生存期間の解析は未成熟だが、ハザードレシオ1.048と現時点では好ましくない方向を指し示している。

Imbruvicaは欧州では慢性リンパ性白血病の一次治療(モノセラピー、rituximab併用、またはobinutuzumab併用)、再発治療(モノまたはbendamustine及びrituximab併用)、難治再発マントル細胞腫(モノ)、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(モノ、rituximab併用)が承認されている。今回のレジメンが承認されれば初の経口剤同士の併用になるが、どうだろうか。

リンク: JNJのプレスリリース



BMS、TYK2阻害剤を日米欧で承認申請
(2021年11月29日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブは、BMS-986165(deucravacitinib)を成人の中重度プラク乾癬(尋常性乾癬)の治療薬として欧米で承認申請し、受理されたと発表した。米国の審査期限は22年9月10日。同時に、日本でも一足先に受理されていたことを明らかにした(適応は尋常性乾癬、膿疱性乾癬、感染性紅皮症)。

IL-23やIL-12、I型インターフェロンによる細胞内シグナル伝達を調停する酵素、TYK2を阻害する経口剤で、作用機序的にはJAK阻害剤に似ているが、臨床用量ではJAKは阻害しない。6mgを一日一回投与した第3相試験二本で、共同主評価項目であるPASI75と静的PGA評価に基づく奏効率が偽薬を有意に上回った。更に、副次的評価項目である経口PDE-4阻害剤Otezla(apremilast)を投与した群と比べても、有意に上回った。

同社は19年にセルジーンを買収するに当たって、反トラスト規制をクリアするためにセルジーンのOtezlaをアムジェンに譲渡したが、本剤が無事承認されれば、逃したものより大きな魚を釣ることができる。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


化学療法誘導性好中球減少症の予防薬は審査完了に
(2021年12月1日発表)

BeyondSpring(Nasdaq:BYSI)はBPI-2358(plinabulin)を化学療法の副作用である好中球減少症を抑制する用途でFDAに承認申請していたが、審査完了となった。G-CSFと併用した第3相試験では第1サイクルにおけるG4好中球減少症発生率が13.6%とG-CSF・偽薬併用群の31.5%を有意に上回り、副次的評価項目も全て達成したが、FDAは、データが頑強でないためもう一本実施することを推奨した。

この海藻由来の活性成分は造血幹細胞/前駆細胞を増やしたり抗原提示細胞を誘導する作用を持つ模様。後者に着目した非小細胞性肺癌二次三次治療docetaxel併用試験が成功したことが8月に発表されている。

リンク: 同社のプレスリリース



化学療法誘導性難聴の予防薬は審査完了に
(2021年11月30日発表)

Fennec Pharmaceuticals(Nasdaq:FENC)はチオ硫酸ナトリウムの静注用新製剤をcisplatinによる小児がん治療に伴う聴力低下を抑制する補助薬として欧米で承認申請しているが、米国は昨年8月に続いて、審査完了通知を受領した。前回同様、生産委託先における承認前検査がネックとなったようだ。FDAと詳細や今後の方向性を相談する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


キイトルーダの黒色腫術後アジュバントが承認
(2021年12月3日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)をステージIIB/IIC黒色腫の完全切除後のアジュバント療法に使うことを承認した。12歳以上が対象で、小児は2mg/kg(成人と同じ200mgが上限)を、成人同様に、3週毎に最大1年間、点滴静注する。

KEYNOTE-716試験の中間解析でRFS(無再発生存期間、治験医評価)の偽薬比ハザードレシオが0.65だった(p=0.006)。G3/4治療関連有害事象の発生率は16.1%だった(偽薬群は4.3%)。

リンク: FDAのプレスリリース



新規B型肝炎ワクチンが承認
(2021年12月1日発表)

米国マサチューセッツ州に本社、イスラエルに工場を持つVBI Vaccines(Nasdaq:VBIV)は、FDAが慢性B型肝炎ワクチンPreHevbrioを18歳以上に承認したと発表した。GSKのEngerix-Bと同様に、半年かけて三回、筋注する。第3相試験では抗体保有率が91.4%とEngerix-B群の76.5%比で非劣性だった。45歳以上では89.4%対73.1%だった。一方、18-44歳のサブグループでは99.2%対91.1%と差が縮まり、18~45歳だけを組入れた試験では99.3%対94.8%と更に縮小した。

主な有害事象は注射箇所反応など。

ウイルスのS抗原だけでなくプリS1抗原、プリS2抗原も含有しているHBVワクチンは初。1mLに合計10mcgとアルミ・アジュバント500mcgなどを含有している。Engerix-Bは各20mcgと500mcgなので、抗体保有率や抗体価の差はプリSの寄与なのだろう。尚、PreHevbrioはCHO細胞法で、Engerix-Bはイースト菌法で培養される。

リンク: 同社のプレスリリース



ダラキューロもKd併用が承認
(2021年12月1日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・バイオテックのDarzalex Faspro(daratumumab、hyluronidase-fihj)とアムジェンのKyprolis(carfilzomib)、そしてdexamethasoneを併用で難治再発多発骨髄腫の2~4次治療に用いることを承認した。単群試験でORR(客観的反応率)が84.8%だった。

Fasproは点滴静注用薬Darzalexの皮注用製剤で、欧州ではDarzalex SC、日本ではダラキューロ配合と命名されている。Darzalexも上記二剤のKdレジメンと併用することが承認されており、ORRは単群試験で81%だったので、大きな差があるようには見えないが、3~6時間点滴静注ではなく3~5分皮注なので実務面ではかなり違う。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


アッヴィ、リンヴォックのレーベルに適応範囲縮小とクラス枠付警告を導入
(2021年12月3日発表)

アッヴィは米国で中重度活性期リウマチ性関節炎用薬として承認されているJAK1阻害剤、Rinvoq(upadacitinib)のレーベルを改訂したと発表した。MTX不応不耐を適応範囲から除外しTNF阻害剤不応不耐に限定するとともに、ファイザーのJAK阻害剤Xeljanz(tofacitinib)の長期安全性確認試験で浮上したリスクを枠付警告として追加した。

FDAがRinvoqとイーライリリーのJAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)に関して9月1日に発表した、レーベル改訂要請に応えたもの。3ヶ月抵抗した、と書いた方が適切かもしれない。Olumiantは元々MTX不応不耐には承認されていないので対象患者数は変わらないはずだが、クラス枠付警告は未だ導入されていない。それほど驚くべき内容ではないように感じるが、両社にとっては許容しがたいのだろう。

Rinvoqの従来の枠付警告は、臨床試験で深刻な微生物感染症やリンパ腫などの悪性腫瘍が見られたことなど。今回、他のJAK阻害剤の臨床試験での知見として追加されたのは、突然死を含む全死亡や、肺癌やリンパ腫、主要有害心臓イベント、肺塞栓や静脈血栓塞栓、動脈血栓がTNF阻害剤群より多かったこと。

FDAはJAK阻害剤の深刻な副作用に強い関心を持っており、日欧で承認された各種JAK阻害剤の適応拡大などが軒並み、遅延している。アッヴィがRinvoqのレーベル改訂を容認するのと引き換えで乾癬性関節炎、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎の適応拡大を獲得できるかどうか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2021年11月27日

第1027回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • WHO、今月発見されたばかりの変異株をVOCに指定 
  • MSD、RdRp阻害剤の効果が下方修正? 
  • mRNAワクチンの追加接種、全ての18歳以上に 
  • その他の領域: 
  • オブジーバ、GnRH受容体アンタゴニストを米国でも承認申請 
  • ギリアド、デルタ型慢性肝炎治療薬を米国でも承認申請 
  • 難治CMV治療薬が承認 
  • 血管周囲類上皮細胞腫瘍用薬が承認 
  • 軟骨無形成症用薬が米国でも承認 
  • 一型糖尿病にフォシーガを使うな 


【COVID-19関連】


WHO、今月発見されたばかりの変異株をVOCに指定
(2021年11月26日発表)

WHOはB.1.1.529系統をVOC(Variant of Concern:懸念される変異株)に追加し、Omicron(オミクロン:ギリシャ文字でアルファベットのOに相当する文字の呼称)と命名した。今月9日に南アフリカで採取された検体から発見されたばかりだが、ヨハネスブルグ周辺で過去に例がないほど急速に感染例に占める割合(シェア)が高まっている。感染力や病原性に係る変異を数多く持っていてワクチンや抗SARS-CoV-2抗体の効果が減弱する可能性もあることから、迅速に対応した。WHOは低中所得国の経済に配慮して渡航制限に消極的な傾向が見られるが、欧米などは南アなどの国との渡航禁止を決めた。

南アでは5月に流行株がベータからデルタにシフトしたが、11月に入ってB.1.1.529が急増、11月14日から23日の期間にはシェアが7割を超えた。デルタが出現してから主流になるまで2~3ヶ月かかったことを考えると、感染力がデルタよりさらに高い可能性がある。南アはワクチン接種率が低いことや免疫力が低下するHIV感染者が比較的多いこともあり、今後の拡大が懸念されている。また、他の国でも南ア渡航者などの感染例が散見されている。

南アでSARS-CoV-2のゲノム研究を担うNGS-SA(Network for Genomics Surveillance in South Africa )によると、オミクロン株は△69-70、△105-107、G142D、R203K、G204R、K417N、T478K、E484A、N501Y、D614G、H655Y、N679K、P681Hなど、宿主細胞侵入時の効率や、インターフェロンに係る免疫、全体的な感染力などに係ると推測されるアミノ酸置換/欠損を持っている。

NGS-SAの主要メンバーであるNICD(南ア国立伝染病研究所)は、感染やワクチン接種により獲得する免疫力が低くなる可能性があるものの、ワクチンの入院・死亡抑制効果は高水準で維持されると推測している。但し、根拠は明確ではない。

69-70欠損を持っているため、広く用いられているPCRアッセイの一つ(私のゲスはTaqPath)で一次スクリーニングすることができるようだ。PCRはゲノムの2~3ヶ所をチェックするが、ヌクレオカプシドやRNA依存性RNAポリメラーゼの遺伝子は変化していないため、PCRや迅速抗原検査の感度には影響しないと推測しているが、要確認とのこと。

南アでは変異速度がVOC株の2倍というC.1.2株が発見されているが、シェアは数パーセントに留まっていて、オミクロンは独自に発展した株と推測されている。

症状面では特に変わったところは見られず、無症状例もあるようだ。

リンク: WHOのプレスリリース
リンク: VOCなどの一覧表(WHO)
リンク: NICDのFAQ
リンク: NGS-SAの週報(変異株のゲノム分析結果など、pdfファイル)



MSD、RdRp阻害剤の効果が下方修正?
(2021年11月26日発表)

COVID-19のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)阻害剤、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)を共同開発しているMSDとRidgeback Biotherapeuticsは、軽中等症非入院患者を対象とした第3相MOVe-OUT試験のアップデート値を公表した。中間解析では入院・死亡リスクを48%抑制したが、全被験者の解析では30%に低下した。追加症例だけ見ると試験薬群のほうが悪く、原因究明が望まれる。

MK-4482は、Veklury(remdesivir)やアビガン(ファビピラビル)と同様に、ウイルスの増殖に必要なRdRpを誤作動させる。今月、英国で条件付き承認された。米国でもEUA(非常時使用認可)され、11月30日の抗微生物薬諮問委員会に上程される予定。

第2相で入院患者に対する効果が見られなかったため、第3相は発症5日以内の軽中等症だが重症化リスク因子を持つ、ワクチン未接種の外来患者に限定して、800mgを一日二回、5日間投与する効果を検証した。中間解析で成功認定基準をクリアし、新規組入れ打ち切りとなった。

中間解析では、主評価項目の29日入院・全死亡は偽薬群が377人中53人(14.1%)であったのに対して、試験薬群は385人中28人(7.3%)となり、絶対差6.8ポイント、相対リスクは0.52(95%信頼区間0.33-0.80)だった。

一方、今回発表された数値は偽薬群が699人中68人(9.7%)、試験薬群は709人中48人(6.8%)で、絶対差3.0ポイント、相対リスクは0.70(同0.49-0.99)だった。

統計解析としては中間解析が正式な結果である。また、絶対差も相対リスクも95%信頼区間はオーバーラップしているので、二つの解析が矛盾した結果になったわけではない。

しかし、試みに、今回追加された数値だけを取り出して29日入院・全死亡率を算出すると、偽薬群(n=322)は4.7%、試験薬群(同324)は6.2%となり、相対リスクは1.33と逆転する。

尤も、偽薬群の数値が中間解析よりかなり低下しており、流行がピークを過ぎたせいかもしれないが、他の要因が影響した可能性も否定できない。

何れにせよ、一部でゲームチェンジャーとも呼ばれる薬の効果がこんなに変化したのは驚きだ。精査が望まれる。

リンク: 両社のプレスリリース



mRNAワクチンの追加接種、全ての18歳以上に
(2021年11月19日発表)

FDAはBioNTech/ファイザーとModerna(Nasdaq:MRNA)のmRNAワクチンに関して追加接種の適応対象を18歳以上の全員に拡大するEUA(非常時使用認可)一部変更を行った。8月にバイデン大統領が打ち出した構想が予定より2ヶ月遅れで実現した。

当初のEUAが高齢者や基礎疾患のある人などに限定された主因は、VRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会)で全人口を対象とすることに懐疑的な意見が大多数を占めたことだが、今回の変更は諮問委員会を経ずに断行されており、異例だ。

これを受けて、CDC(疾病管理予防センター)は、緊急招集したACIP(ワクチン接種諮問委員会)の意見を確認した上で、50歳以上の全員と、18~49歳の長期介護施設入居者に関しては接種すべき(should)、それ以外の18歳以上は接種してもよい(may)と推奨した。

対象変更の理由は明確ではないが、ACIPではファイザーが実施した1万人規模の追加接種試験で症候性感染を偽薬比95%予防したことが報告されており、一因となったものと推測される。尚、この試験では被験者の65%が二回目接種の10~12ヶ月後に追加接種しており、厳密にいえば、承認内容である6ヶ月後以降とは整合しない。

もう一つの理由は、メッセージを伝わりやすくすることであったようだ。治療薬は医師が処方するが、ワクチンは、かかりつけ医など相談できる相手がいる場合を除いて自分で判断しなければならないので、専門用語の羅列や細分化を避けて、できるだけ単純にしたほうがよい。

上層部が変更を求めた可能性もある。バイデン大統領がブースター接種構想を発表した日、支持する共同声明をFDAやCDC、NIH(米国立衛生研究所)、HHS(保健福祉省)などのトップが出した。一方、現場では、承認申請すらされていない段階で開始日まで決定したことに反発したのか、ワクチンの承認審査担当部署で二名が辞任を表明、9月と10月の諮問委員会には出席したが、その後、退職した。

何れにせよ、適応範囲や接種タイミングはエビデンスが少なく科学的に判断するのが困難であり、政治判断するしかない。便益と危険は定量的に判断する必要があり、便益は新規感染率に左右されるので、今年1月のピークと6月のボトムでは話が変わってくるし、言うまでもなく、一日3万人の米国と100人の日本では大きく異なる。専門家が科学的に評価し、政府が政治的に判断し、それを参考に個人が決定することになる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CDCのプレスリリース
リンク: ACIPプレゼン資料等
リンク: CDCのブースター接種勧奨

【承認申請】


オブジーバ、GnRH受容体アンタゴニストを米国でも承認申請
(2021年11月22日発表)

スイスのObsEva(Nasdaq:OBSV)は、FDAがlinzagolixの新薬承認申請を受理したと発表した。審査期限は22年9月13日。欧州では昨年11月に申請しており、順調ならCHMPが12月にも意見をまとめる見込み。

キッセイ薬品から欧米市場などでライセンスした経口ゴナドトロピン放出ホルモン受容体アンタゴニストで、閉経前女性の子宮筋腫関連月経過多の治療に用いる。第三相試験は二本とも有意な改善効果を示した。ホルモン薬のアドバック・セラピー(副作用を緩和するためにエストロゲンとプロゲスチンを併用する)と200mgを併用することも、ホルモン薬禁忌/忌避の患者は奏効率は低下するものの100mgを単剤服用することも、可能になる見込み。

リンク: 同社のプレスリリース



ギリアド、デルタ型慢性肝炎治療薬を米国でも承認申請
(2021年11月19日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Hepcludex(bulevirtide)を成人の代償性デルタ型慢性肝炎の治療薬として米国で承認申請したと発表した。

デルタ型やB型の肝炎ウイルスは肝細胞のNTCP(ナトリウムタウロコール酸共輸送体ポリペプチド)に結合して細胞内に侵入する。bulevirtideはB型肝炎ウイルスのNTCP結合部位に由来するアミノ酸47基の脂肪酸結合ペプチドで、侵入を妨げる。2mgを一日一回、皮注する。

第3相試験の24週中間解析では、ウイルス学的・生化学的複合反応率が36.7%と観察群の0%を有意に上回った。10mg群も設定されたが、28%だった。深刻な有害事象や有害事象による治験離脱は発生しなかった。NTCPは胆汁酸の輸送体でもあるため10%以上の患者で血中胆汁酸塩が増加したが、症状を伴う症例はなかった。

この試験の主評価項目は48週時点の複合反応率なので、おそらく、加速承認を申請したものと推測される。また、小分子薬ではなく生物学的製剤としてBLAした。

ドイツのMyr社が開発、昨年7月にEUで条件付き承認を取得した。ギリアドは今年3月に11億ユーロで同社を買収した。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


難治CMV治療薬が承認
(2021年11月23日発表)

FDAは武田薬品のLivtencity(maribavir)を造血幹細胞/臓器移植後難治/抵抗性CMV(サイトメガロウイルス)感染症治療薬として承認した。12歳以上、体重35kg以上の患者が適応になる。抵抗性変異の有無は問わない。既存薬に応答しない患者に使える薬が承認されたのは初めて。第3相試験では200mg錠二個を一日二回、8週間に亘って経口投与したところ、奏効率(ウイルスDNAが検出不能)が56%と、医師が選んだ既存薬を投与した群の24%を有意に上回った。主な有害事象は味覚異常や悪心嘔吐、下痢、疲労。

03年にViroPharmaがグラクソ・スミスクラインから開発販売権を取得してから18年、100mgを一日二回投与した第3相移植後CMV疾患予防試験がフェールしてから12年を経て、遂に実用化された。この間には13年にシャイアがViroPharmaを買収、そのシャイアを19年に武田が買収と看板も変遷した。

リンク: FDAのプレスリリース



血管周囲類上皮細胞腫瘍用薬が承認
(2021年11月23日発表)

Aadi Bioscience(Nasdaq:AADI)は、FDAがFyarro(sirolimus、アルブミン結合)を局所進行性切除不能/転移悪性PEComa(血管周囲類上皮細胞腫瘍)用薬として承認したと発表した。

mTOR阻害剤をヒト血清アルブミンと結合しアモルファス状のナノパーティクル化した新製剤で、21日サイクルで第1日と第8日に100mg/m2を30分点滴静注する。第2相試験ではORR(客観的反応率、第3者評価、n=31)が39%だった。完全反応も2例あった。メジアン反応持続期間は未達だが2年以上。G3以上の有害事象は骨髄抑制、感染症、口内炎、高血糖、低カリウム血症、ラッシュなど。

悪性PEComaは子宮や胃腸、肺、腎肝泌尿器などの軟組織肉腫の一種で、米国で年100~300人が罹患する超希少疾患。TSC1/TSC2遺伝子の変異によるmTOR経路の活性化がしばしば見られる。

Aadi社の創設者兼CEOであるNeil Desaiはアルブミン結合ナノパーティクル技術の発明者で、Abraxis BioScience在籍中にAbraxane(nab-paclitaxel)の開発にも携わった。

リンク: 同社のプレスリリース



軟骨無形成症用薬が米国でも承認
(2021年11月19日発表)

FDAはバイオマリン(Nasdaq:BMRN)のVoxzogo(vosoritide)を軟骨無形成症用薬として加速承認した。5歳以上で、成長板が未閉鎖で身長が伸びる可能性のある患者が適応になる。EUでは8月に承認され、フランスでは年3000万円程度で販売されているようだ。日本やブラジル、オーストラリアでも承認申請中。

軟骨無形成症は骨の成長を抑制するFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)の機能獲得変異により身長が伸び悩む。有病率は25000人に一人とされる。8割は遺伝ではなく突然変異による。

vosoritideは、FGFR3とは逆に骨の成長を刺激するC型ナトリウム利尿ペプチドの安定化アナログで、15mgを一日一回、皮注する。52週間の臨床試験ではAGV(身長の年率成長速度、ベースライン値は年4.2cm)が年1.4cmと偽薬群(年▲0.1cm)を有意に上回った。主な有害事象は注射箇所反応、嘔吐、血圧低下など。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


一型糖尿病にフォシーガを使うな
(2021年11月11日発表)

EMAは、アストラゼネカがSGLT2阻害剤Forxiga(dapagliflozin、米名Farxiga、和名フォシーガ)のEUにおける適応の一つである、一型糖尿病を返上したことを明らかにした。同社のDHCPレター(医療従事者向け通知)によると、臨床試験で被験者の1%以上で糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)が発生したとのこと。頻度はともかく、一型糖尿病にSGLT2阻害剤を併用するとDKAが発生する可能性があること自体は周知の事実なので、なぜこのタイミングなのか唐突感が残る。

EUの医薬品審査機関であるEMAは多くの加盟国の利害が絡むせいか融通が効かないところがあり、COVID-19の治療薬やワクチンの承認が他国と比べて遅い。法制の問題なので変えれば良いはずだが、実現していない。独自に承認する加盟国も増えてきている。

Forxigaの承認撤回も、アストラゼネカがEMAのPRAC(市販後監視委員会)とDHCPの文言に関して合意してから発出まで、他の部門との手続きなどで2ヶ月を費やしている。

一型糖尿病は米国ではDKA懸念から承認されなかったが、EUと日本では19年に承認された。

リンク: アストラゼネカのDHCPレター(pdfファイル)





今週は以上です。

2021年11月19日

第1026回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ファイザー、抗ウイルス薬の承認申請を開始 
  • NIHの入院患者試験がまたまたフェール 
  • その他の領域: 
  • 慢性疼痛を治療するVRコンテンツが承認 
  • 住血吸虫症の第3相が成功 
  • ジャディアンスを駆出率保持心不全にも申請 
  • Aduhelm、EUは承認しない方向 
  • FDA、キイトルーダを腎細胞腫術後アジュバントに承認 


【COVID-19関連】


ファイザー、抗ウイルス薬の承認申請を開始
(2021年11月16日発表)

ファイザーはPAXLOVIDの承認申請手続きを開始した。米国でEUA(非常時使用認可)を申請し、英豪新韓などでローリング承認申請を開始した。

プレスリリースを読むと、PAXLOVIDは配合剤ではなく二種類の錠剤の同梱製品のようだ。ウイルスの複製に必要な非構造蛋白を切り出す3CLシステイン・プロテアーゼを阻害するPF-07321332は150mg錠2錠、その代謝を阻害して効果を長持ちさせるritonavirは100mg錠1錠を、一日二回ずつ、5日間、服用する。軽中等症COVID-19感染で入院はしていないがリスク因子を持つ成人を発症から5日以内に組入れた第2/3相試験で入院・死亡リスクが偽薬比85%小さかった。

ファイザーは米国政府と1000万治療コース分を52.9億ドルで供給することで合意した。MSDも310万治療コース分のRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤MK-4482(molnupiravir)を約22億ドルで供給合意済みだが、規模が3倍以上に膨らみ、その分、単価は25%引きとなった。

同社は、世界人口の53%を占める低中所得国95ヶ国に向けて、Medicines Patent Poolとライセンス合意した。GE薬メーカーが自社生産してこれらの国で販売することが可能になる。MSDも同様なライセンス合意を行っている。

リンク: 同社のプレスリリース(承認申請)



NIHの入院患者試験がまたまたフェール
(2021年11月16日発表)

チューリッヒ大学発の医薬品開発ベンチャーであるMolecular Partners(SIX:MOLN)は、MP0420(ensovibep)のACTIV-3試験が中間解析で無益認定されたと発表した。ACTIV-3はNIH(米国立衛生研究所)が主導するCOVID-19マスター・プロトコル試験の一つで、入院患者を対象に、様々な開発品を次から次へとテストしているが、5日後の症状改善という主評価項目が厳しすぎるのか、試験薬が抗ウイルス剤に偏っていて重症患者には手遅れなのか、今回で5連敗となった。その中には外来治療試験が成功してEUAされた薬もあるので、MP0420も、開発販売パートナーであるノバルティスが主導している第2/3相外来治療試験が成功する期待が残っているだろう。

先にフェールした4剤は何れも抗SARS-CoV-2抗体で、イーライリリーのLY-CoV555(bamlanivimab)、Vir Biotechnology(Nasdaq:VIR)/GSKのVIR-7831(sotrovimab)、中国のBrii BiosciencesのBRII-196とBRII-198のカクテル、そしてアストラゼネカのAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)だ。MP0420はDARPin(designed ankyrin repeat protein)と呼ばれる高分子薬で、ankyrinを組み合わせてウイルスの異なった部位に結合する三種類のDARPinを作成、結合したもの。分子量はPEG化後で34kDa程度と抗体医薬より小さい。

ノバルティスの第2/3相試験の第2相部分は軽中等症で診断から7日以内の成人400人を組入れて、病状悪化・入院リスクを偽薬と比較しており、22年始めに結果が出る見込みだ。

尚、ACTIV-3試験のほうは、ファイザーの静注用3CLプロテアーゼ阻害剤、PF-07304814と、人工呼吸器装着など危機的な状態の患者を組入れるACTIV-3クリティカル・ケア・プロトコルで採用されたRelief TherapeuticsのZyesami(aviptadil)の試験がまだ生き残っている。

リンク: 同社のプレスリリース


【今週の話題】


慢性疼痛を治療するVRコンテンツが承認
(2021年11月16日発表)

FDAはAppliedVR社のEaseVRxを18歳以上の慢性疼痛の治療機器として承認した。医師の処方が必要だが、在宅治療可能。VRヘッドセットを装着して一本2~16分の3-D認知行動療法プログラムを毎日、8週間に亘って、受講する。プログラムは56セッション用意されている。ディープ・リラックスのセッションでは深呼吸音をマイクで拾い、プラクティスできているかどうかモニターする。

176人の患者を組入れた臨床試験では、30%疼痛緩和成功率が66%と、2-D非認知行動療法プログラムを視聴した群の41%を上回った。50%疼痛緩和成功率も46%対26%と上回った。治療終了後の持続性もあったようだ。

有害事象は9.7%の患者が乗り物酔いと悪心を報告した。Pico G2 4Kヘッドセットが用いられたが、将来、もっと遅延の小さいハードが開発されれば、改善していくだろう。

被験者はオピオイド治療を受けていたようなので、難治性の患者に適しているのかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Garciaらの臨床試験論文(Journal of Medical Internet Research、フリー・アクセス)


【新薬開発】


住血吸虫症の第3相が成功
(2021年11月16日発表)

Pediatric Praziquantel Consortiumは、arpraziquantelの第3相幼小児住血吸虫症試験が成功したと発表した。この官民コンソーシアムを主導するメルクKGaAがEUの域外使用薬審査制度を利用して承認申請し、EMAの肯定的意見を得た上で、住血吸虫症が流行している国やWHOに承認を求める計画。

住血吸虫症はアフリカなどの風土病。治療はメルクが開発したpraziquantelが用いられているが、適応となるのは6歳以上で、錠剤や大きく、味が苦いなど、世界で5000万人とされる未就学児感染者には適していない。このため、薬効を持つ左旋性異性体のarpraziquantelを活性成分とする経口分散錠が開発された。

今回の第3相はコート・ジ・ボワールとケニアの3ヶ月児から6歳までの患者288人を組入れて、治癒率(寄生虫の卵が便又は尿から検出されない)をpraziquantel(錠剤を砕いて服用)と比較した。異性体薬は50mg/kg、ラセミ薬は40mg/kgを一回投与したが、ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)感染者のコフォートは成績が今一つだったため途中で60mg/kgに変更された。

結果は、このコフォートもマンソン住血吸虫のコフォートも90%以上が治癒した由だ。

このコンソーシアムにはアステラス製薬も参加しており、幼小児用口腔内急崩壊錠の開発を進めていたはずだが、プレスリリースが出ていないので、第3相は異なった製剤が採用されたのかもしれない。

後日付記:アステラス製薬はラセミ体の口腔内急崩壊錠の第3相を実施、成功したためEUに承認申請すると11月25日に発表した。  

リンク: Pediatric Praziquantel Consortiumのプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


ジャディアンスを駆出率保持心不全にも申請
(2021年11月11日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)は、二型糖尿病の血糖治療と心血管疾患リスク抑制、そして左心駆出率(LVEF)が低下した慢性心不全の入院・死亡リスク抑制の適応効能が承認されているが、後者の駆出率低下限定を解除すべくFDAに申請し、優先審査指定されたことが発表された。

LVEFが40%超を維持しているクラスII-IVの慢性心不全に10mgを一日一回、経口投与したEMPEROR-Preserved試験で、心血管死/心不全入院の発生率が13.8%と偽薬群の17.1%を下回り、ハザードレシオ0.79、p<0.001だった。40%未満を組入れたEMPEROR-Reducedのハザードレシオは0.75だったので、Jardianceは駆出率を問わず有効、ということになる。但し、数値が高いほど便益が低下する可能性が残る。

ノバルティスのARB/NEP阻害剤Entresto(sacubitril/valsartan、和名エンレスト)も最初は駆出率低下限定で承認されたが、維持型を組入れた試験が成功し限定解除された。諮問委員会のブリーフィング資料などによれば、FDAはこの二つを分けて考えることに疑問を感じつつあるようだ。LVEFは正常値が十分に確立しておらず、また、同じ患者でも数値が変化するため、適応を定義する指標としては頼りない。このため、50%以下とか60%以下とか閾値を設けるのではなく、担当医が臨床的に判断すべきと考えているようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


Aduhelm、EUは承認しない方向
(2021年11月17日発表)

バイオジェンとエーザイが共同開発している抗アミロイド・ベータ抗体、Aduhelm(aducanumab)は、米国ではアルツハイマー病用薬として6月に加速承認されたが、EUは承認しない方向であることが明らかになった。医薬品専門家委員会であるCHMPのtrend voteが否定的な結果になったため。

Trend voteはCHMPの議長が委員の見解を打診するために非公式に行う。様々な段階で行うことができるが、今回は、CHMPが指摘した問題点に対するメーカー側の口頭説明を11月9日に受けたことを踏まえて、採決したもの。12月のCHMPで否定的意見がまとまる可能性が高く、その前に申請撤回されるかもしれない。

尚、最終評価に関するtrend voteなら一ヶ月待たずに公式採決すればよいようにも思われるが、事前に決定していた議題しか公式採決できない模様だ。意見が異なる委員が欠席した時に抜き打ち採決するような事態を回避する趣旨のようだ。CHMPの委員は各加盟国から送り込まれており、医療風土や価値観が異なる国が不利な扱いを受けないよう、配慮したのかもしれない。

Aduhelmの最近の話題は、カナダの75歳女性がARIA-Eを発症、癲癇重積状態になり死亡したと報じられたこと。ARIAは抗アミロイド抗体の臨床試験でしばしば発生する有害事象で、アミロイド関連造影異常というあまり深刻には聞こえない診断名の略称だ。実際、多くは症状を伴わない由だが、例外もある。今回の症例と薬の関係はまだ検討中とのことだが、これまでに何人に投与したのか(発生確率の点推定値はどれくらいか)くらいは公表すべきなのではないか。

さて、昨年12月に承認申請された日本はどのような判断を下すだろうか。COVID-19ワクチンのブースター接種をプライマリー接種完了の8ヶ月以上後に定めたのはバイデン米国大統領の尻馬に乗ったのだろうが、FDAやCDCが6ヶ月以上後で承認・勧奨した後も変更せず、譲歩(自治体の判断で変更しても良い)に留めるなど、意思決定が遅く判断の根拠も問答無用にする国なので、Aduhelmも審査の内容よりスピードを優先するのだろうか?

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


FDA、キイトルーダを腎細胞腫術後アジュバントに承認
(2021年11月17日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を腎細胞腫の摘出術後アジュバント療法に用いる適応拡大を承認した。再発リスクがintermediate-highまたはhigh、あるいは転移があり完全切除を受けた患者が適応になる。

エビデンスはKEYNOTE-564試験。中間解析でDFS(無病生存)率が22%と偽薬群の30%を下回り、ハザードレシオ0.68(95%信頼区間0.53-0.87)、p=0.001だった。両群ともメジアン値に到達していない。全生存の解析も死亡率が両群合わせて5%と低く、まだ成熟していない。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2021年11月13日

第1025回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ファイザーの抗ウイルス薬が入院死亡を8割抑制 
  • 抗SARS-CoV-2抗体は8ヶ月に亘って感染を予防 
  • コミナティのブースター接種を全成人に認めるよう要請 
  • 血管作動性腸管ペプチドはEUAされず 
  • アビガンの海外試験がフェール 
  • その他の領域: 
  • オプジーボの肺癌ネオアジュバント、延命効果も確認 
  • GIST4次治療薬の2次治療試験がフェール 
  • CHMPがロナプリーブなどの承認を支持 
  • 初度治療にも使える真性赤血球増加症治療用インターフェロンが承認 


【COVID-19関連】


ファイザーの抗ウイルス薬が入院死亡を8割抑制
(2021年11月5日発表)

ファイザーは、PAXLOVID錠の第2/3相軽中等症COVID-19外来治療試験が中間解析で成功したと発表した。組入れを打切り、承認申請に向かう予定。治験成績は一足先に承認申請されたMSDのRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤、molnupiravirと見比べても良好だ。同じ作用機序を持つ塩野義製薬のS-217622にも期待がかかる。

PAXLOVIDは新開発の3CLプロテアーゼ阻害剤PF-07321332と、その代謝酵素であるCYP3A4を阻害して効果を長持ちさせる低量ritonavirの合剤。3CLプロテアーゼはウイルスの複製に必要な非構造蛋白を切り出すシステイン蛋白分解酵素。ヒトのプロテアーゼと異なる部位を持っているためウイルス選択的な作用が期待される。

第2/3相試験では、軽中等症で入院はしていないが重症化リスク因子を持つ、発症から無作為化割付まで5日以内の患者を組入れて、12時間おきに5日間、経口投与する効果や安全性を偽薬と比較した。

主評価項目は発症後3日以内に治療を開始したサブグループにおけるCOVID-19関連入院/全死亡。結果は、試験薬群が389人中3人、偽薬群は385人中27人でハザードレシオは0.11、p<0.0001だった。入院患者のうち死亡者(COVID-19以外の原因も含む)はゼロ対7人。他の患者も含めたintent-to-treatベースの解析も、607人中6人対612人中41人でp<0.0001。死亡数はゼロ対10人だった。

有害事象の発生率は、治療時発現有害事象が19%対21%、深刻有害事象は1.7%対6.6%、有害事象治験離脱率は2.1%対4.1%と、何れも偽薬群を上回らなかった。

molnupiravirは類似した試験で発症5日以内の患者のCOVID-19入院・全死亡を約50%抑制した。点推定値はPAXLOVIDのほうがだいぶ良いが、どちらもイベント発生数が少ないので点推定値だけで判断すべきではない。また、偽薬群のCOVID-19入院・全死亡発生率がPAXLOVIDは6.7%、molnupiravirは14.1%とかなり違うので、治験実施地域の構成や標準療法の内容が異なっていないか、確認が必要だろう。更に、PAXLOVIDの試験は目標症例数3000例の7割を既に組入れたとのことなので、将来、若干異なるアップデート値が公表される可能性もあるだろう。

尚、どちらの試験もワクチン接種歴を持つ人は組入れから除外した。ファイザーは重症化リスクが高くない軽中等症患者を組入れる試験で接種歴を持つ患者のコフォートを設定しているので、ヒントが得られるだろう。

妊婦や授乳者はどちらも除外、妊娠可能な女性はどちらも避妊が求められた。

PAXLOVIDの試験では肝臓疾患や中度以上の腎障害、CYP3A4阻害/誘導/代謝依存薬を必要とする患者も除外された。

リンク: 同社のプレスリリース



抗SARS-CoV-2抗体は8ヶ月に亘って感染を予防
(2021年11月8日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-COV2(casirivimab、imdevimab;和名ロナプリーブ)の曝露後予防試験の延長追跡結果を公表した。主評価期間である4週間だけでなく、その後の7ヶ月間も症候性COVID-19感染を8割抑制した。抗体医薬は値段がワクチンより二桁高く代替品にはならないが、適応に即して投与を受けた人は一定期間、予防効果を期待できることになる。また、効果が8ヶ月続くなら、免疫低下を伴う病気や治療を受けている人の感染予防法として臨床試験を行う価値がありそうだ。

曝露後予防試験は過去4日以内に感染確認された患者の同居者を組入れて、ベースライン時点で感染検査が陰性だった人の症候性感染を28日間追跡した。結果は、偽薬群では752人中59人(7.8%)が発症したのに対して試験薬群は753人中11人(1.5%)に留まり、相対リスク削減率は81%、p<0.0001だった。

今回は8ヶ月間追跡したデータで、第2-8月の症候性感染は偽薬群が842人中38人(4.5%)、試験薬群は841人中7人(0.8%)で相対リスク削減率は81%、p<0.0001だった。入院例は偽薬群が6人、試験薬群はゼロ。死亡は両群ゼロだった。

今回の知見で良く分からないのは、米国で承認されている反復投与法との整合性だ。COVID-19治療に当たる医療従事者などの感染予防を目的に、1200mgを静注/皮注した後に4週毎に600mgを投与するものだが、一回投与の効果が8ヶ月持続するなら、こんなに投与する必要はないのではないか?

REGN-COV2の売上高は今年1~9月に47億ドルと大きく伸長した。感染が再燃した第2四半期に米国政府が大規模調達を行ったことが寄与した。米国外で販売するロシュも12億ドル程度の売上高を計上している。

リンク: 同社のプレスリリース



コミナティのブースター接種を全成人に認めるよう要請
(2021年11月9日発表)

ファイザーとBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、Comirnaty(tozinameran)のEUA(非常時使用認可)を一部変更してブースター接種の対象を18歳以上の全ての人に広げるよう要請した。1万人以上を組入れて追加接種による抗体価の上昇や感染リスクの減少を検討した偽薬対照試験をエビデンスとして再チャレンジする。

BioNTechは元々、16歳以上の全人口を対象にEUA申請したが、FDAは65歳以上の全人口と18~64歳で重症化リスクが高い、または施設内感染リスクが高い人に限定した。一番大きな理由は、感染予防効果は経時的に低下するもののワクチンの一番重要な効能である重症化/死亡リスクを抑制する効果に関しては半年経っても低減するようには見えないことであるようだ。

接種の当否を判断して勧奨するCDC(米国疾病管理予防センター)は、高齢者・介護施設入居者とリスク因子を持つ50~64歳は接種すべき、リスク因子を持つ18~49歳と職業的曝露(医療従事者や教師)のある18~64歳は接種しても良い、と結論した。このうち、職業的曝露は、18年ぶりに、ACIP(ワクチン接種諮問委員会)の判断が覆された。

一方、EUの医薬品専門家委員会であるCHMPは18歳以上で接種完了から6ヶ月以上経った人はブースター接種を考慮しても良い、と発表した。このように、どこで線を引くかは判断が分かれている。

リンク: 両社のプレスリリース



血管作動性腸管ペプチドはEUAされず
(2021年11月4日発表)

NRx Pharmaceuticals(Nasdaq:NRXP)はZyesami(aviptadil acetate)を呼吸不全を合併したCOVID-19の治療薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請していたが、認められなかった。薬効や安全性が十分に示されていないと判定された模様。複数の試験が進行中なので、成功なら再々チャレンジできるだろう。

ZyesamiはVIP(血管作動性腸管ペプチド)を化学合成した点滴静注用薬。2000年代にバイオジェンがスイスのmondoBIOTECHからライセンスして肺動脈高血圧症試験を行ったが、権利返還。mondoは数回の事業統合を経てRelief Therapeutics(SIX:RLF)となり、20年にNeuroRxと共同開発販売提携を結んだ。このNeuroRxがビッグ・ロック・グループのSPAC(特定目的企業買収会社)と合併して21年に誕生したのがNRx Pharmaceuticalsだ。

SARS-CoV-2はACE2を通じて二型肺胞細胞に侵入し肺サーファクタントの分泌を妨げる。VIPはVPAC1受容体を通じて二型肺胞細胞に作用し、肺サーファクタントの分泌を促す作用がある。20年に20人の投与実績に基づいてCOVID-19用薬としてEUA申請したが、FDAは無作為化割付試験のデータを求めた。COVID-19肺炎でネーザルハイフロー以上の呼吸補助を受けている患者196人を組入れた試験で好ましい結果が出たらしく、再申請したが、プレスリリースを読んでも何が主評価項目で何がサブグループ分析なのか理解できず、学会・論文発表もされていないようなので、眉に唾を付けて審査結果を待つしかない状態だった。

aviptadilは連邦政府が主導するACTIV-3bクリティカル・ケア試験やI-SPY COVID-19試験にも採用されているので、効くのか効かないのか、やがて判明する。

リンク: 同社のプレスリリース


アビガンの海外試験がフェール
(2021年11月12日発表)

カナダのAppili Therapeutics(TSX: APLI)はAvigan/Reeqonus(favipiravir)の第3相PRESECO試験がフェールしたと発表した。米墨伯の38施設で陽性判定から72時間以内の軽中等症COVID-19外来患者1231人を組入れて、持続的症状軽快までの期間を偽薬と比較したが、有意な差がなかった。

favipiravirRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤。MSDのmolnupiravirと類似した作用機序を持っているが臨床試験成績は区々だ。今回、大規模な二重盲検試験がフェールしたことで、COVID-19治療薬としての期待は大きく後退した。イベルメクチンにも言えることだが、効果や安全性が確立した治療薬が複数、実用化された今日になっても尚、オフレーベル使用している医師は、医療倫理軽視の誹りを免れないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


オプジーボの肺癌ネオアジュバント、EFS延長効果も確認
(2021年11月8日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)の第3相CheckMate-816試験のもう一つの主評価項目が中間解析で成功認定されたと発表した。ステージIBからIIIAの切除可能非小細胞性肺癌の術前ネオアジュバント療法として化学療法にOpdivoを追加する効果を化学療法だけの群と比較した試験で、切除後に判明するpCR(病理学的完全反応)の解析は昨年10月に中間解析で達成。24%対2.2%と大きく向上した。PD-L1発現や組織学的分類、ステージに関わらず便益があった。但し、延命効果に繋がるかどうかは明確ではなかったため、今回、EFS(無イベント生存期間)の中間解析が成功した意義は大きい。どの程度の効果があったのか、学会論文発表が待たれる。

リンク: 同社のプレスリリース



GIST4次治療薬の2次治療試験がフェール
(2021年11月5日発表)

Deciphera Pharmaceuricals(Nasdaq:DCPH)は広域KIT-PDGFRアルファ阻害剤Qinlock(ripretinib)の開発に成功、昨年5月に米国で消化管間質腫瘍(GIST)の4次治療薬として承認を取得した。今年9月にはEUのCHMPが肯定的意見をまとめた。抗癌剤の開発はサルベージ、再発治療、一次治療と遡っていくのが典型的で、Qinlockもimatinib歴だけを持つ患者の第3相二次治療試験が行われたが、フェールした。

主評価項目に設定された、KITエクソン11プライマリー変異のある327人におけるPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)がメジアン8.3ヶ月とsunitinib群の7.0ヶ月と大差なく、ハザードレシオは0.88、有意ではなかった。Intent-to-treat453人の解析でも8.0ヶ月対8.3ヶ月、ハザードレシオ1.05だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがロナプリーブなどの承認を支持
(2021年11月12日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、抗SARS-CoV-2抗体二品などの承認に肯定的意見を纏めた。この二品は既に承認されたが、他は順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

抗SARS-CoV-2抗体医薬の一つはリジェネロン・ファーマシューティカルズのRonapreve(casirivimab、imdevimab)。12歳以上かつ体重40kg以上の青少年と成人で、COVID-19に感染し酸素投与は不要だが重症化リスク因子を持つ患者の治療、または、感染予防(感染者の同居者などの暴露後予防を含む)に用いる。前者は一回投与のみ、後者は必要に応じて反復投与できる。米国では昨年11月、日本では今年7月に初承認されている。

もう一品は韓国のセルトリオン・ヘルスケアのRegkirona(regdanvimab)。成人の酸素投与不要だが重症化リスク因子を持つCOVID-19感染症の治療に一回だけ点滴静注する。臨床試験では29日以内に入院、酸素投与、または死亡に至った患者がRegkirona群は446人中14人、偽薬群は434人中48人となり、リスクが72%抑制された。Ronapreveの同様な試験のデータと大差ない。

リンク: Ronapreveの概要(EMA)
リンク: Regkironaの概要(同)

Vifor Fresenius Medical Careがケモセントリクス(Nasdaq:CCXI)から米国外の権利を取得して承認申請したTavneos(avacopan)は補体C5受容体阻害剤。ANCA関連血管炎の一種である重症活動期のMPA(顕微鏡的多発血管炎)または多発血管炎による肉芽腫症の治療に用いる。日本はキッセイ薬品がサブライセンスして今年9月にタブネオス名で世界初承認。ケモセントリクスも10月に米国で承認を得た。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのAscendis Pharma(Nasdaq:ASND)のSKYTROFA(lonapegsomatropin)は週一回皮注用の遺伝子組換え型成長ホルモン。3~18歳の成長ホルモン不全に用いる。成長ホルモン治療を初めて受ける小児161人を組入れた52週間の試験で、身長の成長ベロシティが11.2cmとgonadotropin群の10.3cm比非劣性だった。

リンク: EMAのプレスリリース

アムジェンのLumykras(sotorasib)は腫瘍関連遺伝子の一つであるKRASのG12C変異を標的とする阻害薬。開発不可能と思われていたが、アムジェンが成就した。CHMPはこの変異を持つ非小細胞性肺癌の二次治療薬として条件付き承認することを支持した。米国ではLumikras名で5月に加速承認、日本では4月に承認申請された。市販後コミットメント試験の結果がもうそろそろ出るのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース

SIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)のTecovirimat SIGA(tecovirimat)は抗オルソポックスウイルス薬。体重13kg以上の青少年と成人のオルソポックスウイルス(天然痘、サル痘、牛痘)の治療や天然痘ワクチン接種後にワクシニアウイルスが増殖してしまった時の治療に用いる。天然痘はワクチンが普及して消えたはずだがバイオテロに使われる可能性もある。臨床試験の実施は非現実的なので動物試験で効果を検証した。CHMPは例外的条項に基づく承認を支持。米国では18年7月に天然痘治療薬TPOXXとして承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

Viela BioのUplizna(inebilizumab)は抗CD19afucosylated抗体。NMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)の治療薬で、患者の8割を占めるAQP4に対する自己抗体保有者が適応になる。中外/ロシュのEnspryng(satralizumab)や7月にアストラゼネカが子会社化したアレクシオンのSoliris(eculizumab)と比べて投与頻度が低く免疫抑制剤を併用しなくてもよい。米国では昨年6月に、日本では田辺三菱がユブリズナ名で今年3月に、承認を取得した。

Viela Bioは18年にアストラゼネカのバイオ薬子会社、Medimmuneからスピンアウトし、今年3月にHorizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)に買収された。

リンク: EMAのプレスリリース

SERB SASのVoraxaze(glucarpidase)はメトトレキサートを不活性代謝物に変える解毒剤。CHMPは例外的条項に基づく承認を支持した。3月にボストン・サイエンティフィックから取得したBTG Specialty Pharmaceuticalsの開発品で、米国では2012年に承認。日本では大原薬品が導入し今年9月にメグルターゼ名で製造販売承認を取得した。

ルンドベックのVyepti(eptinezumab)は抗CGRP抗体。片頭痛日が月4日以上ある成人の予防に用いる。12週に一回、点滴静注する。CGRP標的薬は小分子薬も含めて続々、承認されている。19年に買収したAlder BioPharmaceuticalsの開発品で、米国では昨年2月に承認。

ノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)はGLP-1作動剤。肥満症または二型糖尿病や高血圧などを併発するオーバーウェイトに、カロリー抑制食事療法と運動療法とともに用いる。2.4mgを週一回、皮注。米国では昨年6月に承認。

今月の適応・対象拡大は小児の対象年齢引き下げなどなので割愛する。

申請者が再評価を請求したが再び否定的意見となったのは、協和キリンのアデノシンA2A受容体拮抗剤、Nouryant(istradefylline、和名ノウリアスト)。日米でパーキンソン病薬として承認されているが、CHMPは薬効確認試験8本中4本しか成功せず、用量反応相関も見られず、欧州の患者を組入れた試験は二本ともフェールしたことから、薬効の立証が不十分と判定した。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


初度治療にも使える真性赤血球増加症治療用インターフェロンが承認
(2021年11月12日発表)

FDAはファーマエッセンシア(TPEx:6446)のBesremi(ropeginterferon alfa-2b-njft)を真性赤血球増加症(PV)の治療薬として承認した。通常はヒドロキシウリアが第一選択だが、FDAは二次治療に限定しなかった。初度治療に使える薬の正式承認は初。PVにインターフェロン製剤が承認されたのも初。

欧州でインライセンスして19年に承認を取得したAOP Orphan Pharmaceuticalsが実施した試験で、血液学的寛解率(瀉血なしでヘマトクリットが45%未満に低下し、白血球や血小板などは正常範囲内、且つ血栓が発生しない)が61%だった。有害事象は肝臓酵素上昇や白血球数・血小板数の減少など。インターフェロン・アルファのクラス警告である、命に係わることもある精神疾患、自己免疫疾患、虚血や感染症が枠付き警告されている。

FDAはCOVID-19による渡航制限で海外工場の査察が困難になっている。Besremiも台湾工場査察の遅れで一度は審査完了通知が出たが、何とかなったようだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファーマエッセンシアのプレスリリース(Business Wire)






今週は以上です。