2019年10月27日

2019年10月27日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • バイオジェン/エーザイ、一転してaducanumabを承認申請へ 
  • 降圧剤の服用は就寝前のほうが良い 
  • SGEN社、her2阻害剤を承認申請へ 
  • テセントリクの肝癌試験が成功 
  • オプジーボとヤーボイの肺癌化学療法併用試験が成功 
  • Spectrum、顆粒球コロニー刺激因子を承認申請 
  • TesaroのPARP阻害剤がHRD陽性卵巣癌のサルベージに適応拡大 
  • バーテックス、第4の嚢胞性線維症治療薬がスピード承認 
  • ステラーラが潰瘍性大腸炎に適応拡大 


【今週の話題】


バイオジェン/エーザイ、一転してaducanumabを承認申請へ
(2019年10月22日発表)

認知症領域で複数のパイプラインを共同開発しているバイオジェンとエーザイは、BIIB037(aducanumab)を20年初めに米国で承認申請する計画を発表した。今年3月に第三相試験二本が無益認定され両社の株価が暴落したが、症例数や追跡期間が増えたその後の解析で、高用量群の成績が一本では偽薬比有意、もう一本も高用量を10回以上投与したサブグループなどで支持的なデータが得られた。前日のFDAとの相談を踏まえて、米国申請を決定した。欧州などでも相談を本格化する考え。

無益性解析は、無駄な投与を続けて被験者を長期間拘束・苦しめるのを防ぐための手続きで、中間解析で治験成功の可能性を検討し、一定水準以下だったらデータ監視委員会が打ち切りを勧告する。最終解析で結論が覆ることは稀。

ここ3年のFDAは、少なくとも深刻な希少疾患に関しては承認のハードルが明らかに下がっている。アルツハイマー病の新薬は開発成績が極めて悪く、FDAは以前から、治療効果の多寡は問わず偽薬比統計的に有意なら承認を考慮する考えを示している。これらのことから、今回のデータで承認される可能性はゼロではないだろう。

新薬が成功するためにはFDA承認は必要条件に過ぎず、保険機関や医師、患者、介護者に効果が認められる必要がある。偽薬比有意と言っても悪化が止まるわけではなく、何もしなければ1年で到達する水準に1.5年かかる程度の話である。コストも重要な要素だ。薬の価格は患者に提供する便益に基づいて決定されるべきであり、製薬業界が過去に失った研究開発費用に基づくべきではない。

以下、バイオジェンが四半期決算発表会で行った説明に即して詳述する。両社は、アルツハイマー性軽度認知障害または軽度アルツハイマー病の患者1600人余を組入れた第三相試験を二本、実施した。低用量(ApoE4陽性は3mg/kg、陰性は6mg/kg)と高用量(同6mg/kg、10mg/kg)を月一回静注する効果を偽薬と比べるもので、主評価項目は78週後のCDR-SBの変化。

無益認定されたのは、昨年12月26日時点で78週を完了していた二本合計1748人の解析で事前に設定された条件(最終解析で統計的に有意な結果が出る条件付き検出力がどちらの試験のどちらの用量群も20%未満)が充足されたため。二本のうちEMERGE試験ではトレンドが見られたがENGAGE試験は見られなかった。

今回は、intent-to-treat(ITT)の二本合計3285人と完了者(OTC:opportunity-to-complete)2066人が対象。EMERGE試験の高量両群は、CDR-SBの悪化が偽薬より小さく(治療効果はITT解析で23%、p=0.01、OTCでも23%だが症例数が6掛けであるためp=0.031とやや大きい)、二次的評価項目のADAS-Cog13やADCS-ADL-MCIもp値がITTで0.01以下、OTCでも0.038以下となっている。

但し、ENGAGE試験における高用量の治療効果はCDR-SBがITTでマイナス2%、OTCはマイナス6%で数値上は悪く、ADAS-Cog13やADCS-ADL-MCIも偽薬群並みだった。

FDAが原則として薬効確認試験を二本実施することを求めているのは、一般的な有意性判定基準であるp=0.05では不十分と考えているからだ。偶然に0.05を下回る確率は5%、つまり20回に一回だが、二本の独立した試験の両方で5%を下回る確率は0.25%、400回に一回だ。裏返すと、成功した試験が一本でもp値が0.0025未満なら承認される可能性がある。

今回は二つの用量を同時にテストしたのだから閾値は0.05ではなく0.025だった可能性もあり、EMERGE試験のp=0.01は十分に低いとは言えない。ENGAGE試験がフェールしたのだから再現性がなく、母集団、即ち現実の医療でEMERGE試験と同じ結果が出るとは信じがたい。

但し、ENGAGE試験がフェールした理由を合理的に説明することができるようなら、そして一部の患者のデータを用いた感受性分析がEMERGE試験を裏付けるようなら、好意的に解釈する余地が生じる。バイオジェンはこれに期待している模様だ。

具体的には、この抗アミロイドベータ(3-6)抗体が効果を発揮するには一定期間以上に亘り毎月10mg/kgを投与する必要がある、という仮説だ。ENGAGE試験がフェールしたのは該当例が比較的少なかったことが原因とバイオジェンは判断している。

違いが生じた背景の説明は複雑で長い。発端は、高用量群に割付けられたApoE4陽性患者に関して二回の治療プロトコル変更が行われたこと。アルツハイマー病患者はApoE4陽性が少なくなく、本試験では全症例の3分の2まで組入れることが認められていた。当該患者に抗アミロイドベータ抗体を投与するとARIAと呼ばれる画像診断上の副作用(浮腫など)が発生しやすいため、上記のように用量を減らすプロトコルだったが、並行して進められたP1b試験でARIAが必ずしも症状を伴わないことや、滴定で減らせることが判明。治験開始の翌年に、ARIAで投与中断した患者でも再開できるようにプロトコルを変更し、その翌年の17年には、高用量群は6mg/kgではなく滴定で段階的に10mg/kgまで持っていくよう変更した。

奇妙なことに、ENGAGE試験の高用量群は10mg/kgの暴露がEMERGE試験より小さかった。治験開始は15年8月でEMERGEより一ヶ月早いだけ、実施施設も、どちらも米国、フランス、ドイツ、日本などとなっており、大きな違いがあるようには感じられないのだが、なぜか、差が生じた。

10mg/kgを10回以上投与した症例を対象とした感受性分析では、EMERGE試験(127例、ITTは547人)も、ENGAGE試験(97例、ITTは555人)もCDR-SBの推移を示すグラフが似たような格好になっている。尤も、78週時点での偽薬群との差を読み取るとEMERGEが1ポイント程度だがENGAGEは0.5ポイント程度と、やはり、ENGAGEのデータのほうが見劣りする(サンプル数が小さくどっちにせよデータの信頼性は低いのだろうが)。

また、二本の試験合わせて高用量群に約1100人を割付けておきながら、ちゃんとした治療ができたのは約220人、2割のみというのは、上記の事情があるとはいえ、エビデンスとして物足りない。検出力が不十分な試験でまあまあなp値が出たとしても信頼性は高くない。

BIIB037はスイスのNeurimmune社が認知機能正常な高齢健常者の検体から逆翻訳技術でスクリーニングした、凝集したアミロイドベータに選択的に結合する抗体。バイオジェンが07年に世界開発商業化権を取得、エーザイと共同開発している。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: バイオジェンのプレゼンテーション・スライド

降圧剤の服用は就寝前のほうが良い
(2019年10月22日発表)

降圧剤は高血圧症の心血管疾患リスクを削減することができるが、朝、起床後に服用するよりは就寝前のほうが効果が高いという前向き試験、Hygia Chronotherapy Trialの結果がEuropean Heart Journal誌に刊行された。スペイン北部のプライマリーケア施設40ヶ所で19,084人を組入れて、降圧剤(複数可)を就寝時に服用する群と起床時服用群に割付けてメジアン6.3年間追跡したものだが、差が大きいことに驚かされる。

主評価項目(心血管死、心筋梗塞、冠血行再建術、心不全、脳卒中の何れかの発生リスク)の修正ハザードレシオは0.55(95%信頼区間0.50-0.61)。個別では心血管死のハザードレシオが0.44、心筋梗塞0.66、冠血行再建術0.60、心不全0.58、脳卒中0.51で何れも95%上限が1を大きく下回っている。性別、年齢、心血管疾患歴などに基づくサブグループ分析でも大きな偏りはなさそうだ。文句の付けようがない。

降圧剤やコレステロール治療薬を一剤追加する効果が20-30%であることを考えれば、45%削減というのは凄い。泥酔時に服用を失念する可能性を除けば費用や行動制約は小さいので、もし真実なら就寝時服用を実践すべきである。他の地域でも同じなのか、臨床試験の実施が望まれる。

リンク: Hermidaらの治験論文(European Heart Journal、オープン・アクセス)


【新薬開発】


SGEN社、her2阻害剤を承認申請へ
(2019年10月21日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq;SGEN)は、選択的her2阻害剤tucatinibの承認申請用乳癌試験が成功したと発表した。20年第1四半期に米国で承認申請する予定。適応は、今月、承認申請が受理された第一三共/アストラゼネカのDS-8201(trastuzumab deruxtecan)とバッティングする。DS-8201の試験成績が判明した段階で改めて競争力を検討することになる。

このHER2CLIMB試験は、ロシュの三種類の抗her2抗体(trastuzumab、pertuzumab、ado-trastuzumab emtansine)による治療歴を持つ患者約480人を組入れて、capecitabineとtrastuzumabを併用する典型的なレジメンをベースに、tucatinibを追加する便益を偽薬追加群と比較した。

結果は、主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価に基づく)のハザードレシオが0.54、p<0.00001となり成功した。二次的評価項目の全生存期間のハザードレシオも0.66、p=0.0048。G3以上の有害事象は下痢や肝機能検査値異常が対照群より多かったが、ビリルビン上昇発現率は逆に低かった。有害事象による治験離脱は5.7%で偽薬群の3.0%より高かった。

昨年、Cascadian Therapeuticsを6.1億ドルで買収して入手したパイプライン。ado-trastuzumab emtansine併用の第三相試験も進行中。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

テセントリクの肝癌試験が成功
(2019年10月21日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相肝細胞腫Avastin併用試験が成功したと発表した。データは学会で発表する計画。欧米や中国(患者が多い)で適応拡大申請する予定。

このIMbrave150試験は、切除不能肝細胞腫で全身治療歴を持たない患者501人を組入れて、Tecentriq(1200mg)とAvastin(15/mg/kg)を三週毎に投与する群と標準療法(sorafenib)群の全生存期間やPFS(無進行生存期間、独立評価)を比較した。

肝細胞腫は抗PD-1/PD-L1抗体が比較的苦労している分野で、Opdivo(nivolumab)は米国で二次治療に承認されたがEUは申請撤回になり、一次治療の第三相はフェールした。Keytruda(pembrolizumab)も米国で二次治療に承認されたが薬効確認試験がフェールした。

モノセラピーの効果が十分には確立していないだけに、今回のような、抗VEGF抗体あるいはVEGF受容体阻害剤との併用が注目されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

オプジーボとヤーボイの肺癌化学療法併用試験が成功
(2019年10月22日発表)

ブリストル・マイヤーズ・スクイブは、非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を化学療法と併用した第三相試験が中間解析で成功したと発表した。全生存期間が化学療法だけの群を有意に上回った。データは学会発表するとともに、適応拡大申請する考え。

このCheckMate-9LA試験は、Opdivo(360mgを3週毎)とYervoy(1mg/kgを6週毎)を化学療法(最大2サイクル)と併用する効果を化学療法(最大4サイクル、適応になるなら維持療法可)と比較したもの。PD-L1発現は不問、扁平上皮腫もそれ以外も組入れた。

Opdivoは非小細胞性肺癌の一次治療試験が成功せず、抗PD-1抗体のベストセラーの地位をMSDのKeytruda(pembrolizumab)に奪われてしまった。Keytrudaは化学療法と三剤併用が承認されているが、Opdivoは四剤併用なので、メジアン生存期間が更に延びても不思議はない。逆転ホームランになるか、データ発表が注目される。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


Spectrum、顆粒球コロニー刺激因子を承認申請
(2019年10月24日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(NasdaqGS:SPPI)は、米国でRolontis(eflapegrastim)を承認申請した。2012年に韓国のHenmi PharmaceuticalからライセンスしたG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)で、PEGリンカーで免疫グロブリンG4の固定領域と結合することにより作用を長期化、通常のGCSFより少量で足りるようにした。

早期乳癌の化学療法に伴う好中球減少症を治療した第三相試験二本で、罹患期間がpegfilgrastim(Neulasta)と非劣性だった。

Neulastaはシミラーが登場し始めているので、Rolontisは価格を抑える必要がありそうだ。

リンク: Spectrum社のプレスリリース


【承認】


TesaroのPARP阻害剤がHRD陽性卵巣癌のサルベージに適応拡大
(2019年10月24日発表)

グラクソ・スミスクラインが今年初めに子会社化したTesaro社のPARP阻害剤、Zejula(niraparib)の適応拡大がFDAに承認された。17年に難治性白金感受性卵巣癌の白金レジメン奏功後維持療法として初承認されたが、今回、第二相のQUADRA単群試験に基づいて、HRD(相同組換え不全)卵巣癌の4次治療に用いることが承認された。

PARP阻害剤の適応は製品や適応によって微妙に異なり、BRCA変異でも生殖細胞系の変異と腫瘍細胞における変異があるように複雑だ。今回のミソはBRCA変異のある白金感受卵巣癌に限定されていないこと。具体的には、BRCA変異を持つ患者(白金薬感受/不応/抵抗は不問)に加えて、GIS(遺伝子不安定性スコア)が42以上で白金感受性の患者も適応になる。ORR(客観的反応率)はこれらの患者全体で24%、全て部分反応だった。メジアン反応持続期間は8.3ヶ月。腫瘍BRCA変異だけのORRは白金薬感受(18人)が39%、白金抵抗(16人)29%、白金難治(16人)は19%だった。

有害事象による減量・中断が73%の患者で発生した。骨髄抑制や胃腸系の副作用によるものが中心のようだ。

Zejulaは12年にMSDからライセンス。日本周辺の権利は武田薬品が17年に取得した。また、PARP阻害剤の新用途である前立腺癌に関する開発販売権はジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のヤンセン・バイオテックが16年に取得(日本は武田)、今月、FDAからBRCA1/2変異を持つ転移性去勢抵抗性前立腺癌で化学療法歴を持つ患者に関するブレークスルー・セラピー指定を受けた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSK米国法人のプレスリリース(10月23日付)

バーテックス、第4の嚢胞性線維症治療薬がスピード承認
(2019年10月21日発表)

バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)は、FDAがTrikaftaを嚢胞性線維症治療薬として承認したと発表した。審査期限は来年3月だったが申請後3ヶ月のスピード承認となった。欧州でも承認審査中。

CFTRのF508欠損がヘテロ接合型の患者を組入れた試験では平均ppFEV1が偽薬比13.8%改善した。ホモ接合型の試験では既存薬であるOrkambiと比べて10%改善した。肝機能検査値異常や3A4相互作用、白内障のリスクなどが警告されている。希少小児疾患用薬の開発に成功したためFDAから優先審査バウチャを取得した。

同社は1998年に嚢胞性線維症財団のCystic Fibrosis Foundation Therapeuticsと共同研究を開始。14年後の2012年に嚢胞性線維症の多くで見られるCFTR遺伝子変異を補うCFTRポテンシエイター、Kalydeco(ivacaftor)を発売した。この段階では適応になるのは片方又は両方の遺伝子にG551D変異を持つ米国で1200人程度に過ぎなかったが、その後も適応拡大や対象年齢引き下げを進めるとともに、15年にはivacaftorとCFTRコレクターのlumacaftorを組み合わせた合剤、Orkambiを発売、最も多いF5508欠損ホモ接合型も治療できるようになった。

更に、18年に新規CFTRコレクターであるtezacaftorとivacaftorを組み合わせたOrkambiを発売、F508欠損ヘテロ接合型の一部をカバーできるようになった。

第4弾のTrikaftaは、Orkambiの二剤に新開発のCFTRコレクターのelexacaftorを追加したもの。適応はCFTRのF508欠損のホモまたはヘテロ接合を持つ12歳以上の患者。FDAによると米国の嚢胞性線維症患者の90%に当たる27000人が対象になる。バーテックスは異なる数字を示しており、米国の対象患者数が上記三剤の12000人が18000人に増加する由。

各国で承認が進めば世界の対象患者数が44000人から68000人に増加する見込み。現段階では、残りの7000人は遺伝子編集のような異なったアプローチを探索していく考えだ。

報道によると、Trikaftaの卸取得価格は31.1万ドルと、Orkambiの27.2万ドル、Symdekoの29.2万ドルをやや上回る程度に設定される。F508欠損ホモ接合など適応が重なるため、患者が望めばTrikaftaにスイッチできるよう配慮したのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: バーテックスのプレスリリース

ステラーラが潰瘍性大腸炎に適応拡大
(2019年10月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Stelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。IL-12やIL-23のp40サブユニットに結合する完全ヒト化抗体で、09年に中重度慢性プラク乾癬治療薬として欧米で承認された。適応拡大は乾癬性関節炎に加えて中重度活性期クローン病に展開。日本でも17年にクローン病治療薬として新発売した。

潰瘍性大腸炎における治療効果は、6mg/kgを点滴静注による導入療法で8週後に寛解率が19%となり、90mgを8週毎に皮注する維持療法で45%が1年後も寛解を維持していた。

この用途は欧州では9月に承認、日本でも審査中。

リンク: JNJのプレスリリース





今週は以上です。

2019年10月20日

2019年10月20日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ジャカビの第三相aGvHD試験が成功 
  • イーライリリー、IL-10の膵癌試験がフェール 
  • 第一三共、FDAがADCの承認申請を受理 
  • FDA諮問委員会、塩野義の新規抗生剤の承認を支持 
  • CHMPがエボラワクチンなどの承認を支持 
  • ユルトミリスがaHUSに適応拡大 
  • ゾフルーザを高リスクインフル患者に用いることも承認 
  • イグザレルトが急性疾患入院患者のVTE予防に適応拡大 


【新薬開発】


ジャカビの第三相aGvHD試験が成功
(2019年10月16日発表)

ノバルティスはJakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ、欧州名Jakavi)の第三相急性移植片対宿主病(aGvHD)試験が成功したと発表した。GvHDは血液癌の治療のために他家骨髄移植を受けた患者に起きがちな、他家由来免疫細胞が患者の組織を攻撃してしまう疾患。ステロイド治療が奏功しなかった患者を組入れて第28日時点のORR(客観的反応率)を評価したところ、BAT(施行可能な中で最善の治療)群より優れていた。

具体的なデータは学会発表の予定。第二相単群試験では重症度がグレード2の患者ではORRが100%、3または4の患者では40%強だった。

Jakafiはインサイト(Nasdaq:INCY)が開発したJAK1/2阻害剤で、ノバルティスは米国外での開発販売権を保有している。11年の米国を皮切りに、欧州や日本などで骨髄線維症や難治性真性多血症の治療薬として承認された。ステロイド不応aGvHDに関しては上記第二相試験のデータに基づき今年5月に12歳以上の患者を対象に米国で承認された。第三相の成功を受けて、ノバルティスは各国の承認審査機関と適応拡大申請を相談する考えだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

イーライリリー、IL-10の膵癌試験がフェール
(2019年10月16日発表)

イーライリリーは、LY3500518(pegilodecakin)の第三相転移性膵癌二次治療試験の結果を公表した。gemcitabineを含む一次治療レジメンに不応・再発の患者567人をFOLFOXレジメン(5-fluorouracil、folinic acid、oxaliplatinの三剤併用)群とFOLFOX・pegilodecakin併用群に割り付けて全生存期間を比較したがフェールした。データは学会発表の予定。

IL-10をPEG化した遺伝子組換え薬で、CD8陽性T細胞の増殖や細胞毒性強化を誘導するとされる。昨年、Armo BioSciences社を16億ドルで買収して入手した。最初の第三相のフェールは痛いが、諦めてはいないだろう。

免疫強化療法はIL-2やインターフェロンが期待されたが、一部の患者には長期にわたり便益をもたらすものの反応率が低く、今日では専ら、他に適切な選択肢がない病気にしか使われなくなった。ワクチン療法の開発も概して失望的だ。重大な例外が抗PD-1/PD-L1抗体で、IL-2やインターフェロンに反応する黒色腫や腎臓癌や、結核予防ワクチンBCGがアジュバント治療などに用いられる膀胱癌だけでなく、肺癌など多くの癌で高い奏効率と反応持続期間を示している。

この結果、免疫強化療法を抗PD-1/PD-L1と併用する研究開発が活発化。pegilodecakinも転移性非小細胞性肺癌の後期第二相としてKeytruda(pembrolizumab)併用一次治療試験(PD-L1強度高発現が対象)やOpdivo(nivolumab)併用二次治療試験が進行中。2020年内にに結果が出る見込みなので、楽しみが残っている。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認申請】


第一三共、FDAがADCの承認申請を受理
(2019年10月17日発表)

第一三共と開発販売提携先のアストラゼネカは、DS-8201(fam-trastuzumab deruxtecan)をKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)による治療歴を持つher2陽性転移性乳癌用薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は2020年4-6月期。日本でも先月、承認申請済み。

DS-8201はHerceptin(trastuzumab)の抗her2抗体とトポイソメラーゼI阻害剤irinotecanの誘導体をリンカーで結合した抗体薬物複合体(ADC)。trastuzumabと微小管重合阻害剤maytansineをリンカーで結合したKadcylaと似ているが、抗体に対する薬剤の比率がKadcylaの2倍と高く、制癌作用が高い可能性がある。

Herceptinは乳癌細胞を検査してher2が過剰発現なら適応になる。発売当初はIHC法で2+または3+なら適応になったが、FISH法の臨床研究が進み、2+でもFISH法で陰性の場合は反応率が低いことが判明。IHC法で2+の場合はFISH法で陽性であることを確かめて用いるようになった。

DS-8201の今回の申請はHerceptinやKadcylaの後に使うサルベージ用途だが、将来はIHC2+でFISH陰性などに適応を広げて抗her2療法の対象人口を拡大することが期待される。

尚、Kadcylaの一般名の冒頭のado-は、Herceptinとの取り違え事故を防ぐためFDAが付与したもので、USANやINNはtrastuzumab emtansineとなっている。DS-8201のfam-も同趣旨だろう。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、塩野義の新規抗生剤の承認を支持
(2019年10月17日発表)

塩野義製薬はS-649266(cefiderocol)を複雑性尿路感染症(腎盂炎を含む)治療薬として欧米で承認申請している。FDAの抗微生物薬諮問委員会が開催され、賛成14人、反対2人と圧倒的多数が、治療の選択肢が他にない乃至は限定的な患者に用いることを支持した。審査期限は11月14日。商標はFetrojaとなる模様。

cefiderocolは注射用シデロフォアセファロスポリン。WHOが17年に公表した世界的に大きな問題になっている12種類の病原菌のうち、カルバペネム耐性を示す三種類のグラム陰性菌(緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、腸内細菌化細菌)の全てにin vitroで強い抗菌活性を示した。

第三相試験では2000mgを8時間毎に7-14日に亘って静注したところ、投与終了の7日後における臨床的・細菌学的複合有効率が72.6%となり、 imipenem/cilastatin群の54.6%と比べて非劣性だった。優越性解析も成功したが、実際に上回ったのは細菌学的評価項目が中心だった。深刻有害事象の発現率は4.7%対8.1%で小さかった。

議論になったのが、カルバペネム耐性菌(CRE)感染者を組入れた第三相実薬対照試験で感染症による死亡率が高かったこと。14日死亡率が18.8%と、BAT群(施行可能な最善治療、主としてcolistinが用いられた)の12.2%を大きく上回った。死因は感染症によるものが多く、治療効果が十分ではない可能性が示唆された。

尤も、院内感染肺炎の第三相実薬対照試験では生存率が非劣性だったので、真偽は不明。この二本の試験の更なる解析が望まれる。

リンク: 塩野義製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

CHMPがエボラワクチンなどの承認を支持
(2019年10月18日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、10月の会合で、エボラウイルスワクチンなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのErveboは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一部の遺伝子をザイール種エボラウイルスの遺伝子の一部と置換した弱毒化生ワクチン。元々はカナダの公衆衛生庁が開発、米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)に商業分野での権利をライセンスしたもので、MSDは14年に世界独占開発生産販売権を取得した。

14-16年の流行時にリベリアなどで臨床試験が行われ、高い予防効果が示唆された。今回のコンゴ民主共和国でも実地研究が行われ、予備的分析だが良好な結果が出ている模様だ。

接種対象は18歳以上で感染リスクの高い人(感染者の同居人や医療従事者など)。一回、筋注する。生産プロセスに関する情報の一部が未提出であるため、CHMPは条件付き承認に肯定的意見をまとめた。

このエボラワクチンは米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

このほかに肯定的意見を得た新薬は、まず、アムジェンとUCBが共同開発したEvenity(romosozumab、和名イベニティ)。骨形成を抑制し骨吸収に寄与するスクレロスチンを標的とする抗体医薬。スクレロスチンは大動脈血管平滑筋などでも発現しているため心血管安全性が注目されるところ、臨床試験で心筋梗塞や脳卒中が増加したり、75歳以上の被験者で死亡リスクが高まる可能性が浮上した。このため、CHMPは6月に一旦、否定的意見を出した。

今回、肯定的意見に転じた理由は必ずしも明確ではないが、適応が、重度閉経後骨粗鬆症で骨折のリスクが高く、心筋梗塞や脳卒中歴のない患者と多少限定的になっている。実質的に、今年4月に承認された米国と同様と思われる。日本では今年1月に承認されたが、9月に同様な趣旨の添付文書変更が行われた。

リンク: EMAのプレスリリース(pdfファイル)
リンク: アムジェンのプレスリリース(10/17付)

米国のMelinta Therapeutics(Nasdaq:MLNT)のQuofenix(delafloxacin)は第三世代キノロンとされる。06年に湧永製薬からライセンス、欧州は共同開発先のメラリーニ社が急性細菌性皮膚皮膚構造感染症治療薬として承認申請した。静注用と経口剤があり、第三相試験では効果がvancomycinとatreonamのレジメンに非劣性だった。他剤不適な患者に用いる。米国では17年にBaxdelaという商標名で承認されている。

アッヴィのJAK1阻害剤、Rinvoq(upadacitinib)は様々な自己免疫疾患に開発されているが、まず中重度リウマチ性関節炎治療薬としてCHMPの支持を得た。米国では今年8月に承認されたが他のJAK1阻害剤と同様に、深刻な感染症やリンパ腫などの腫瘍、動脈静脈血栓症のリスクが枠付警告された。日本でも承認審査中。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)は難治性鬱病の治療薬としてオフレーベル使用されているketamineのS異性体。治療開始当初は週二回、5週目からは1-2週に一回、点鼻投与する。米国では今年3月に承認され、麻薬取締局のスケジュールIII指定を経て発売された。

イーライリリーのBaqsimi(glucagon)は4歳以上の糖尿病患者が重度低血糖症を発症した時の治療薬。使い捨てディバイスでグルカゴン粉末をそのまま経鼻投与できるので、注射用薬を調整する手間が省ける。失神時でも使える。注射用グルカゴンと異なる特有の有害事象としては、鼻詰まりや涙目、充血が見られる。カナダのLocemia Solutionsから世界権を取得したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

新薬で否定的意見となったのは、第一三共のVanflyta(quizartinib、ヴァンフリタ)。14年に子会社化したAmbit BiosciencesのFLT3チロシンキナーゼ阻害剤で、FLT3の遺伝子内縦列重複変異を持つ再発難治急性骨髄性白血病薬として日米欧で承認申請されたが、今のところ承認されたのは日本だけだ。

承認申請の根拠となる第三相試験では、メジアン生存期間が6.2ヶ月と実薬対照群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76で統計的に有意だった。しかし、FDAもCHMPも、治療効果が限定的なことや臨床試験の実施状況に難がありデータを過信できないことなどを理由に、承認に後ろ向きだった。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を得たのは、まず、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)。PD-L1陽性(CPSが1以上)で転移性または切除不能な難治性頭頚部扁平上皮種の一次治療に、単剤または白金薬及び5-FUと併用で投与することが支持された。

今年6月に承認された米国では、併用ならPD-L1陰性でも適応になったが、CHMPはオーソドックスにPD-L1陽性に限定した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

次に、ジョンソン・エンド・ジョンソンがジェンマブからライセンスして開発販売している抗CD38抗体、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)。 多発骨髄腫の様々な段階・レジメンに承認されているが、今回は、自家幹細胞移植不適な新患成人にRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと併用する用法が支持された。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、バーテックス(Nasdaq:VRTX)のKalydeco(ivacaftor)。様々なタイプのCFTR変異型嚢胞性線維症に承認されているが、適応年齢を従来の生後12か月以上から6ヶ月以上、体重は7kg以上から5kg以上に、引き下げることが支持された。2012年に欧米で承認された薬だが、対象人口拡大を一歩ずつ地道に進めていることに感嘆する。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


ユルトミリスがaHUSに適応拡大
(2019年10月18日発表)

アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Ultomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)をaHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)による補体調停性TMA(血栓性微小血管症)の治療に用いる効能追加がFDAに承認されたと発表した。日欧でも審査中。

Ultomirisは補体系のC5に結合・阻害する抗体医薬。同社のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)より長期間作用するため点滴静注頻度が少なくて済むことが特徴。18-19年に米日欧で発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として承認された。今回のaHUSはSolirisの最大用途なので、Solirisの需要を特許失効前にUltomirisに誘導する戦略の大きなマイルストーンとなる。

リンク: アレクシオン社のプレスリリース

ゾフルーザを高リスクインフル患者に用いることも承認
(2019年10月18日発表)

インフルエンザを治療する必要性に関する考え方は国によって異なり、日本はワクチンの問題などから治療薬に前向きに取り組んでいるが、高齢者などを除けば深刻な合併症のリスクが小さく大抵は放置しても自然に軽快するので原則的に治療の必要はないと考える国もある。

どちらかと言えば前向きだが合併症のリスクが高い患者に対する効果を明確にするのが好ましいと考えるのが米国で、ロシュが塩野義製薬からライセンスして海外で開発販売しているXofluza(baloxavir marboxil)の対象は、米国では、非複雑性インフルエンザに限定されていた。

今回、高リスク患者に用いることも承認された。根拠となる臨床試験では、CDC(疾病管理センター)の定義に即して喘息症や慢性肺疾患、糖尿病、心臓疾患、病的肥満の持病を持つ患者や、65歳以上の高齢者を組入れて症状が改善するまでの時間を計測したところ、メジアン73時間と偽薬群の102時間より有意に早かった。

この試験は12-17歳の患者も組入れたが、このサブグループにおけるメジアン改善時間は各188時間と191時間で大差なかった。但し、症例数が各13人と12人と極めて少ない(全体の解析は各群385人と385人)ので、本当に効果がないのかどうかは分からない。

尚、この試験ではTamiflu(oseltamivir)群も設定されたが、メジアン改善時間は81時間とXofluzaの73時間と大差なかった。

リンク: ロシュのプレスリリース

イグザレルトが急性疾患入院患者のVTE予防に適応拡大
(2019年10月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を急性疾患で入院し安静状態の患者のVTE(静脈血栓塞栓症)予防に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。退院後も含めて31-39日間、経口投与する。抗血栓薬は予防効果と出血リスクのバランスを取るのが難しく、Xareltoも例外ではない。FDAは出血リスクの小さい患者に限定した。

XareltoのようなXa阻害剤や低分子量ヘパリンは関節手術を受けた患者などのVTE予防に承認されているが、弾性ストッキングや電気刺激など他にも方法があるため、普及率は決して高くない。米国の治療ガイドラインは急性疾患安静入院患者のVTE予防に抗凝固薬を使うことを認めているが、退院後も続けることは推奨していない。結局、VTEリスクが著しく高く出血リスクは小さい患者に限定して、1ヶ月コースは更に限定的に、施行することになるのだろう。

Xareltoはバイエルが開発、ジョンソン・エンド・ジョンソンは米国における開発販売権を保有している。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース





今週は以上です。

2019年10月13日

2019年10月13日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ピーナツアレルギー減感作療法用パッチ薬、FDAが承認申請受理 
  • FDA、イーライリリーの片頭痛治療薬を承認 
  • FDA、エボラ迅速検査を承認 
  • ノバルティス、AMD治療薬が米国で承認 
  • 赤芽球性プロトポルフィリン症の治療薬が米国でも承認 


【承認申請】


ピーナツアレルギー減感作療法用パッチ薬、FDAが承認申請受理
(2019年10月4日発表)

フランスのDBV Technologies(Euronext:DBV)は、Viaskin Peanutをピーナツアレルギー治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年8月5日。

減感作療法用のパッチ薬で、第三相試験では4-11歳の患者に250mcgのピーナッツ蛋白を一日一回、12ヶ月間経皮投与したところ、奏効率が35.3%と偽薬群の13.6%を上回った(p=0.00001)。但し、差の95%信頼区間は12.4-29.8%で、95%下限が15%を上回るという目標を達成することはできなかった。

同社は昨年10月に承認申請したが、生産手順や品質管理に関する情報が不十分とみなされたため12月に撤回、今年8月に再申請していた。

リンク: DBVのプレスリリース(pdfファイル)


【承認】


FDA、イーライリリーの片頭痛治療薬を承認
(2019年10月11日発表)

FDAはイーライリリーのReyvow(lasmiditan)を片頭痛治療薬として承認した。ファースト・イン・クラスの選択的セレトニン5-HT1Fアゴニストで、50mg、100mg、または200mgを一日一回経口投与した二本の第三相試験で2時間後頭痛解消率が偽薬群を有意に上回った。主な有害事象はめまいや鎮静、知覚異常、疲労など。服用後8時間は自動車や機械の運転を避けるべき。

片頭痛の代表的な治療薬であるトリプタン系5HT1D受容体アゴニストと異なり、5-HT1F受容体を選択的に作動するため、心血管リスクが小さいと考えられている。

薬物嗜好試験でリスクが見られたため、麻薬取締局が規制スケジュールを決定してから発売する予定。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA、エボラ迅速検査を承認
(2019年10月10日発表)

FDAは、OraSure Technologies(Nasdaq:OSUR)のOraQuick Ebola Rapid Antigen Testを承認した。血液や死体口腔液を元にエボラウイルス疾患を迅速検査するもので、最終的な診断は別途確定する必要がある。

エボラウイルス疾患はコンゴ民主共和国などサブサハラ地域で定期的に流行している。FDAは2014年の流行時に非常時使用承認(EUA)制度に基づいてエボラウイルス検査を承認したが、その後も通常の承認に向けてメーカーと協議を進めてきた。その成果が今回の承認だ。

審査の迅速性と正確性を両立するための便法として参考になるのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース

ノバルティス、AMD治療薬が米国で承認
(2019年10月8日発表)

ノバルティスは、FDAがBeovu(brolucizumab)を滲出型AMD(加齢黄斑変性症)の治療薬として承認したと発表した。

VEGF-Aを標的とする眼科用抗体医薬としては同社が共同開発販売しているジェネンテックのLucentis(ranibizumab)やリジェネロン(Nasdaq:REGN)がバイエルと共同開発販売しているEylea(aflibercept)が既にあるが、Beovuはウサギの抗体をヒト化した短鎖フラグメントで分子量が26キロダルトンと、Eyleaの115キロダルトンだけでなく抗体フラグメントであるLucenisの48 kDaと比べても小さいのが特徴。

第三相試験では視力改善効果や忍容性がEyleaと非劣性だった。この臨床試験では最初の三回は月一回、その後は8-12週毎に硝子体注射と、Eylea(最初の三回は月一回、その後は8週毎)より投与間隔を空けることが可能だった。48週間の試験だが、5割強の患者が12週毎で足りた。

現実の医療では臨床試験と異なった用法を採用するケースもあるだろうし、定期投与ではなく改善したらしばらく様子を見て悪化したら再治療という方針を採用する医師もいるだろう。このため、投与スケジュールの違いがどの程度アピールするかは不透明なところがある。また、上記試験で一部の二次的評価項目ではEyleaより効果が高かったことがレーベルには記載されなかった。一方、眼内炎の発現率が4%とEyleaの1%より高かったことが明らかにされた。

brolucizumabは09年にスイスのESBATechを達成報奨金含めて5.9億ドルで買収して入手したコンパウンド。Lucentisは北米ではジェネンテックが独占販売し、他の地域では売上ロイヤルティ負担があるがBeovuは制約がない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

赤芽球性プロトポルフィリン症の治療薬が米国でも承認
(2019年10月8日発表)

FDAは、オーストラリアのClinuvel Pharmaceuticals(ASX:CUV)のScenesse(afamelanotide)を初の赤芽球性プロトポルフィリン症(EPP)治療薬として承認した。

EPPは常染色体優性遺伝性疾患で、フェロケラターゼの遺伝子欠損によりヘム生合成過程の中間体であるプロトポルフィリンIVが皮膚などに蓄積、日光など光線と反応して皮膚の痛みや腫れを起こす。Scenesseはアルファ-MSH(メラニン細胞刺激ホルモン)の類縁体でMC1-R(メラノコルチン-1受容体)を作動しメラニンの産生を増強、皮膚を光線や紫外線から守る。アルファ-MSHは数秒しか持たないが、Scenesseは皮下インプラントで2ヶ月に一回の埋め込みで足りる。

効果は限定的で、日を浴びても痛くならない時間が若干増える程度。FDAは治療中もサン・プロテクションを行うよう勧告している。14年12月にEUで例外的環境条項に基づき承認されたが、18/6期の売上高は2100万ドル余に留まっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Clinuvelのプレスリリース(pdfファイル)





今週は以上です。

2019年10月6日

2019年10月6日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティス、コセンティクスをnr-axSpAに適応拡大申請へ 
  • オフェブはSSc-ILD以外の間質性肺疾患にも有効 
  • Agios社、IDH1変異胆管癌の第三相試験が成功 
  • MSD、三剤合剤抗生剤の適応拡大試験が成功 
  • ESMO:リムパーザはHRR変異前立腺癌に有効 
  • ESMO:テセントリクの尿路上皮癌一次治療試験が成功 
  • ESMO:キイトルーダの早期乳癌切除術付随試験が成功 
  • アストラゼネカ、FDAがCOPD用三剤合剤を承認せず 
  • ギリアドの抗HIV薬、予防にも承認 
  • FDAがカナグリフロジンの腎合併症予防効果を承認 


【新薬開発】


ノバルティス、コセンティクスをnr-axSpAに適応拡大申請へ
(2019年10月2日発表)

ノバルティスは、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)の非X線的体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)治療効果を検討した第三相PREVENT試験が成功したと発表した。52週後のASAS40スコアが偽薬比有意に改善した。ノバルティスは適応拡大申請する考え。

Cosentyxは14年12月に日本で、15年1月には欧米でも、プラク乾癬治療薬として承認された抗IL-17A抗体。nr-axSpaは仙腸関節のX線画像で確認できるX線的体軸性脊椎関節炎(従来、強直性脊椎炎と呼ばれていた)と対立的な概念だが類似した疾患とみなされており同じような治療を行う。今回のような適応拡大試験も活発に行われるようになった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

オフェブはSSc-ILD以外の間質性肺疾患にも有効
(2019年9月30日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、VEGFR阻害剤Ofev(nintedanib、和名オフェブ)のINBUILD試験の結果を学会・論文発表した。Ofevは肺線維腫やSSc-ILD(全身性強皮症に伴う間質性肺疾患)に承認されているが、今回の試験は全身性強皮症以外の線維化進行性間質性肺疾患の663人を15ヶ国の153施設で組入れて52週間の治療効果を検討したもの。結果は、150mgを一日二回経口投与した群のFVC低下が17.8 mL/年と、偽薬群の80.8 mL/年より有意に小さかった。効能追加申請に向かう予定。

リンク: Flahertyらの治験論文抄録(New England Journal of Medicine誌)
リンク: ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

Agios社、IDH1変異胆管癌の第三相試験が成功
(2019年9月30日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)は、Tibsovo(ivosidenib)をIDH1変異胆管癌の二次三次治療に用いた第三相試験が成功したと発表した。難治性腫瘍であるせいか、治療効果が高いような感じは受けない。

500mgを一日一回、経口投与した群はPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)がメジアン2.7ヶ月と偽薬群の1.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.37、p<0.001だった。6ヶ月PFS率は32%と偽薬群のゼロを上回った。部分反応率は2%(偽薬群は0%)と低いが疾病安定化率が51%(同28%)と高かった。

全生存期間はメジアン10.8ヶ月で偽薬群の9.7ヶ月を少し上回っただけだがハザードレシオは0.69と悪くない。本試験は偽薬群の患者が進行認定された後にTibsovoにクロスオーバーすることが認められていたので、偽薬群の数値が実力以上である可能性がある。

治療時発現有害事象は悪心、下痢、疲労など。G3以上は腹水など。

TibsovoはIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤。18年7月に米国で再発難治IDH1変異型急性骨髄性白血病に用いることが承認された。胆管癌試験の成功を受けて適応拡大申請する計画。

同社は17年8月にIDH2阻害剤Idhifa(enasidenib)が再発難治IDH2変異型急性骨髄性白血病に米国承認されている(BMSが買収予定のセルジーンと開発販売提携)。

リンク: Agiosのプレスリリース

MSD、三剤合剤抗生剤の適応拡大試験が成功
(2019年9月30日発表)

MSDは、Recarbrioの院内感染細菌性肺炎/ベンチレータ関連細菌性肺炎適応拡大試験が成功したと発表した。28日死亡率や早期臨床的反応率がpiperacillin・tazobactam併用群と非劣性だった。データは2020年に学会発表の予定。適応拡大申請することになりそうだ。

Recarbrioはカルバペネム系抗生物質のimipenemとデヒドロペプチダーゼ分解酵素阻害剤cilastatin(不活性代謝物による腎障害リスクを緩和するために配合)、そして新開発のクラスA/Cベータラクタマーゼ阻害剤relebactamの固定用量合剤。今年7月にRecrbrioに感受するグラム陰性菌による複雑尿路感染症と複雑腹腔内感染症のサルベージ療法として米国で承認された。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:リムパーザはHRR変異前立腺癌に有効
(2019年9月30日発表)

アストラゼネカはPARP阻害剤Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)をBRCA1/2遺伝子変異を持つ卵巣癌や乳癌向けに販売しているが、新たに、前立腺癌の一部にも有効であることが第三相試験で確認された。試験成功自体は8月に公表済みだが、データなどの詳細がESMO欧州臨床腫瘍学会で発表された。

このPROfound試験は、相同組換え修復(HRR)に係る遺伝子変異のある転移性去勢抵抗性前立腺癌で新ホルモン薬(abirateroneまたはenzalutamide)による治療に進行した387人をLynparza群(300mgを一日二回経口投与)または対照群(abiraterone且つprednisoneあるいはenzalutamide)に2対1割付し、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央査読による放射線学的評価)を比較したオープンレーベル試験だ。

主評価項目の、BRCA1/2またはATM(ataxia-telangiectasia-mutated)に変異を持つ245人のPFSは、メジアンが各7.4ヶ月と3.6ヶ月でハザードレシオ0.34となり有意な差があった。シーケンシャルに実施された主要副次的評価項目である全患者のPFSは各5.8ヶ月、3.5ヶ月、0.49でこれも有意だった。

もう一つの主要副次的評価項目である全生存期間の中間解析は、BRCA1/2またはATM変異サブグループが18.5ヶ月、15.1ヶ月、0.64となり、p=0.0173だが中間解析に配布されたアルファは0.01なのでまだトレンドに留まっている。全ユニバースの解析は各17.5ヶ月、14.3ヶ月、0.67で、名目p=0.0063となっている。

BRCA1/2またはATM以外のHRR関連遺伝子に変異を持つ患者の数値が明らかではないためはっきりしたことは分からないが、これらの数値を見る限りでは、HRR関連遺伝子変異を持つ患者(転移性去勢抵抗性前立腺癌の25-30%)全体に有効なのだろう。

PARP阻害剤は遺伝子の複製ミスを修復するメカニズムのうち、DNA一本鎖切断の修復に係るポリADP-リボースポリメラーゼを阻害する。BRCA1/2などの遺伝子に変異があるとDNA二本鎖切断の修復が困難になり、そのような患者にPARP阻害剤を投与すると遺伝子修復が著しく困難になるため、遺伝子複製・細胞分裂が活発で複製ミスが起きやすい腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ESMO:テセントリクの尿路上皮癌一次治療試験が成功
(2019年9月30日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMvigor130試験の結果をESMOで発表した。局所進行性/転移性尿路上皮癌の1213人をcispatinまたはcarboplatinとgemcitabineを併用する対照群と更にTecentriqを併用する群、そしてオープンレーベルでTecentriqモノセラピーを施行する群に割り付けて、Tecentriq併用のPFS(無進行生存期間、担当医評価)・全生存期間延長効果を検討した。

結果は、メジアンPFSが8.2ヶ月と対照群の6.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.82、p=0.007と有意に延びた。全生存期間はデータがまだ成熟していないが、メジアン値は各16.0ヶ月と13.4ヶ月、ハザードレシオは0.83だった。

モノセラピー群のメジアン生存期間は15.7ヶ月だったが、対照群に対するハザードレシオは1.02で有意差はなかった。PD-L1高発現には良好であった模様だが統計学的に厳格な解析ではないので何とも言えない。

リンク: ロシュのプレスリリース

ESMO:キイトルーダの早期乳癌切除術付随試験が成功
(2019年9月29日発表)

MSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を早期トリプル・ネガティブ乳癌摘出術の前後に用いる第三相偽薬対照試験、KEYNOTE-522の結果がESMOで発表された。術前のネオアジュバント療法として化学療法に併用したところ、pCR(病理学的完全奏効率)が偽薬併用群より向上した。摘出術後もアジュバント療法としてKeytrudaまたは偽薬を単剤投与したところ、通算のEFS(無再発生存率)が向上した。

乳癌は早期発見が進み、摘出術と必要に応じて術前・術後薬物療法を行うことで高い生存率を達成できるようになった。エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体を高発現するタイプにはホルモン療法、her2陽性にはher2標的薬が有効だ。しかし、この何れも高発現していない、乳癌の15-20%を占める患者には有効なレジメンが限られている。

KEYNOTE-522試験はこのトリプル・ネガティブ早期乳癌1170人余をKeytruda群と偽薬群に2:1割付して、ネオアジュバント化学療法に追加する便益と、アジュバント療法に用いる延命効果を共同主評価項目として検討した。前者のpCR解析は602例の中間解析で64.8%と偽薬群の51.2%を有意に上回り、成功認定された。

PD-L1陽性(CPS≧1)のサブグループでも、陰性でも、pCRが改善した。面白いことに、偽薬群も試験薬群も、陰性のほうが陽性よりpCRが20ポイント以上低くなっている。

EFSはハザードレシオ0.63で、95%信頼区間は0.43-0.93となっているが、統計的に有意かどうかは明らかではない。

G3-5の治療時有害事象発現率は試験薬群76.8%、偽薬群72.2%、治療時発現有害事象による死亡は各群2人と1人だった(2対1割付なので発現率は大差ないはず)。

EFSのデータがどの程度成熟しているか不明だが、承認申請に向かうのではないか。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


アストラゼネカ、FDAがCOPD用三剤合剤を承認せず
(2019年10月1日発表)

アストラゼネカは、Breztri(budesonide、glycopyrronium、formoterol fumarateの三剤合剤)を欧米で中重度COPD治療薬として承認申請しているが、米国は審査完了通知を受領した。理由は不明だが、8月に成功発表したETHOS増悪予防試験のデータを追加提出する計画なので、承認申請時点では二剤より増悪抑制効果が高いことが明確になっていなかったことがボトルネックだったのだろう。

日本では今年6月にビレーズトリという商品名で承認されている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認】


ギリアドの抗HIV薬、予防にも承認
(2019年10月3日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Descovy(emtricitabineとtenofovir alafenamide fumarateの合剤、和名デシコビ)をHIV感染症の予防に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。HIV陰性で性的感染のリスクがある、35kg以上の成人と青少年が適応になる。膣受容性交に伴う感染リスクを持つ個人は対象外。

類薬のTruvada(emtricitabineとtenofovir disoproxil fumarateの合剤、和名ツルバダ)も同用途で承認されているが、GE化が始まったため、骨密度低下リスクがTruvadaより小さいことを梃子に需要をDescovyに誘導する考え。

リンク: ギリアドのプレスリリース

FDAがカナグリフロジンの腎合併症予防効果を承認
(2019年9月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、二型糖尿病薬Invokana(canagliflozin、JAN:カナグリフロジン)の腎合併症予防効果をレーベルに記載することがFDAに承認されたと発表した。欧州でもライセンシーのムンディファーマが承認申請中。

糖尿病成人症患者を組入れた腎アウトカム試験で、末期腎不全、血清クレアチンに倍加、腎・心血管疾患死のリスクを30%削減した。

Invokanaは近年、心不全治療効果が注目されるようになったSGLT2阻害剤の一つだは、心血管アウトカム試験でなぜか足切断リスクが高まる懸念が浮上、販売が苦戦している。今回の効能追加はポジティブだが、競合薬もやがてキャッチアップするだろうから、伸び悩みが解消する可能性は低そうだ。

リンク: JNJのプレスリリース





今週は以上です。