2019年1月27日

2019年1月27日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、業務再開 
  • BMS、高TMB非小細胞性肺癌の承認申請を撤回 
  • キモセントリクス、C5a受容体阻害剤の承認申請を撤回 
  • EMA、イーライリリーのLartruvoの新患投与を禁止 
  • EUもビーリンサイトを微小残存病変治療薬として承認 


【今週の話題】


FDA、業務再開
(2019年1月25日発表)

FDAは1月26日付で業務を再開した。連邦政府は昨年12月にトランプ大統領が予算承認を拒否したため一部閉鎖となったが、2月15日まで3週間の暫定予算が成立したため、35日間という過去最長記録を残して終了した。新薬承認申請の受理も行われる。

本格的な予算法案が成立するかどうか、あるいは、一部閉鎖による遅れをどこまで取り戻せるか、不透明な点が多々あるが、議会や大統領の駆け引きで政府機能がしわ寄せを受ける米国の茶番劇が取り敢えず終わった。

リンク: FDAのHP


【承認審査・委員会】


BMS、高TMB非小細胞性肺癌の承認申請を撤回
(2019年1月24日発表)

BMSはOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用で高TMB転移性非小細胞性肺癌の一次治療に充てる適応拡大を欧米で承認申請していたが、欧州で審査期間が延長されたのに続いて、米国は申請撤回となった。2018年決算と合わせて公表された。これ自体は予想されたことだが、他の適応拡大も含めて、抗PD-1抗体のライバルであるMSDと比べて製品開発の稚拙さが目立つ。

この承認申請はCheckMate-227試験に基づくもの。複雑な試験で、パート1aはPD-L1陽性を対象にOpdivoとOpdivo・Yervoy併用を化学療法と比較、パート1bはPD-L1陰性を対象にOpdivo・Yervoy併用とOpdivo・化学療法併用を化学療法と比較、パート2はオールカマー方式でOpdivo・化学療法併用を化学療法と比較した。主評価項目はパート1aと1bの高TMBサブグループのPFS(無進行生存期間)と、パート1aの全生存期間の解析。

TMBはTumor Mutation Burdenの略。癌に関連する様々な遺伝子の変異の多寡を検査するもので、BMSは、過去の試験の事後的解析に基づき、メガベース当り10以上の変異を高TMBと定義した。変異が多いほど免疫を刺激しやすいと考えられるため、免疫腫瘍学薬の応答予測因子として注目されている。

PFS解析の結果はOpdivo・Yervoy併用のハザードレシオが0.58となり、統計的に有意だった。対応する全生存期間はハザードレシオ0.79と数字は悪くなかったが95%信頼区間は0.56-1.10で未成熟なのか有意ではなかった。

問題は、承認申請後に追加提出された全生存解析。高TMBサブグループはメジアン23.0ヶ月と化学療法群の16.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.77となったが、95%信頼区間は0.56-1.06と依然として有意ではなかった。一方、低TMBサブグループは16.2ヶ月対12.4ヶ月、ハザードレシオ0.78、95%信頼区間0.61-1.00だった。

TMBに基づくスクリーニングは、BMSやロシュがTecentriq(atezolizumab)で行った事後的分析でも、PFS応答性を予測することができたが、全生存期間はTMBに依存しなかった。従って、227試験の結果に特別な違和感は私にはない。今回はYervoy併用なので話が変わっても不思議はないが、副作用も増加するので、出来上がりの数字がその分、悪化することになる。

尤も、ハザードレシオの点推定値は悪くないのに信頼区間が広がってしまったのは二兎どころか、三兎も四兎も追った欲張りなデザインであることが敗因と推測することもできる。薬ではなく試験がフェールしたと考えれば、『総合的判断』の余地がある。

何れにせよ、ボールはBMSの手に戻った。今後のアップデートが注目される。

リンク: BMSのプレスリリース

キモセントリクス、C5a受容体阻害剤の承認申請を撤回
(2019年1月24日発表)

キモセントリクス(Nasdaq:CCXI)はCCX168(avacopan)をANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎の治療薬としてEUに条件付き販売承認を申請していたが、撤回した。順調なら年内にもCHMPの肯定的意見を得ることが可能なはずだが、今年第4四半期に第三相試験の結果が出るのを待って本承認申請する方針転換した。承認が1年以上遅れることになるので、本意とは思えず、CHMPのフィードバックが思わしくなかったのではないか。

CCX168はC5a受容体を選択的に阻害する経口薬。申請の根拠であった第二相CLEAR試験では、rituximabまたはcyclophosphamideによる標準療法に加えて、prednisone(開始用量60mg/日)、prednisone(半量)とCCX168(20mgを一日二回投与)の併用、またはCCX168だけを投与したところ、12週時点の奏効率が各70%、86.4%、81.0%となり、CCX168の二群ともprednisone群比非劣性だった。

ドイツのフレゼニウス(Xetra:FRE)とスイスのVifor Pharmaの合弁会社が米国や中国以外の商業化権を保有しており、日本はキッセイ薬品がサブライセンスしている。

リンク: キモセントリクスのプレスリリース

EMA、イーライリリーのLartruvoの新患投与を禁止
(2019年1月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、イーライリリーのLartruvo(olaratumab)による治療を新規に開始しないよう勧告した。16年に治癒的放射線療法・手術が適応にならない軟組織肉腫の治療薬として条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため。すでに治療を受けていて臨床的便益を得ている患者は、現段階では、医師の判断で継続することが可能。現在、EUで1000人程度が治療を受けていると推定される由。

先週号で書いたように、イーライリリー自身が新規治療停止を勧奨しているのでサプライズではない。注目されるのはトップライン・データが公表されたこと。

このANNOUCE試験はdoxorubicinにLartruvoを併用して全生存期間を偽薬併用群と比較したもの。結果は、メジアン生存期間が20.4ヶ月と偽薬群の19.7ヶ月と同程度、ハザードレシオ(HR)は1.05だった。平滑筋肉腫のサブグループ分析でも各21.6ヶ月、21.9ヶ月、0.95と大差なかった。二次的評価項目であるPFS(無進行生存期間、全ユニバース)は各5.4ヶ月、6.8ヶ月、1.23と悲惨な結果。有害事象は各群大差なかった由なので、副作用による寿命短縮が敗因ではなさそうだ。

Lartruvoは08年に65億ドルで買収したイムクローン社のパイプラインの一つ。軟組織肉腫で高発現・高活性となっているPDGF受容体アルファに結合する完全ヒト化抗体で、第二相試験のデータに基づいて16年に欧米で条件付き承認/加速承認された。市販後薬効確認試験がフェールしたので、欧米共に承認取消の公算がある。

第二相試験では、主評価項目のPFSがメジアン6.6ヶ月と偽薬併用群の4.1ヶ月を上回り、階層化HR0.672、p=0.0615だった。p値は一般的な閾値である0.05を上回っているが、第二相試験なので閾値が甘く設定されており、Lancet誌の治験論文は主目的達成と胸を張っている。

PFSはともかくとして、全生存期間はメジアン26.5ヶ月対14.7ヶ月、階層化HR0.463、p=0.0003と大変良い数字が出た。ORR(客観的反応率)は18.2%対11.9%と、有意ではなかったが数字は良い。主評価項目がフェールした以上、二次的評価項目は仮説生成的解析に留まり、別途仮説検証的試験を行う必要があるのだが、全体像は決して悪くなかった。

なぜ異なった結果が出たのか?第二相の薬効解析対象は129人で第三相の目標組入れ数の460人と比べかなり小さい。第三相は主解析が二つあったようなので通常よりサンプル数を増やす必要があったのだろうが、第二相は、p値の閾値が甘く設定されたことも考えると、アンダーパワーでノイズを拾いやすかったのかもしれない。また、PFSとOSのメジアン値の差が大きいことに注目すると、第三相では治験離脱後の治療に偏りがあったのかもしれない。

迅速承認制度は日米欧で導入されているが、薬効・安全性が確立する前に承認するので、市販後薬効確認試験がフェールし取消になるリスクを秘めている。重要なのは、再審査のプロセスや審査後のアクションを明文化して粛々と実行すること、そして、何を見誤ったのか、承認審査奏効率を向上するには何が必要なのか、を十分に検討し今後の臨床試験、承認申請、承認審査に生かしていくことである。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース(1/18付)
リンク: Tapらの第2相試験論文抄録(Lancet、2016年)


【承認】


EUもビーリンサイトを微小残存病変治療薬として承認
(2019年1月22日発表)

アムジェンは、Blincyto(blinatumomab、和名ビーリンサイト)をMRD治療に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。BlincytoはCD19に結合する可変領域とCD3結合可変領域を持つ二価抗体。14年に米国で、15年にEUで、そして18年に日本で承認された。今回の適応拡大は、対象疾患は初承認と同じフィラデルフィア染色体陰性CD19陽性前駆B急性リンパ性白血病だが、第1/第2完全寛解期にあるもののMRDを有する患者の追加治療である点が異なる。

MRDは高感度検査を使わないと探知できない微小残存病変で、通常の検査に基づき完全寛解と判定されても、MRDを有していることがある。Blincytoはこのような患者を組入れた第二相試験で約8割の患者でMRD探知不能(完全MRD反応)となった。

CHMPは一度は否定的意見を出したが、エキスパート・ヒアリングなどを経て肯定的意見に転じた。米国では昨年3月に承認されたが、諮問委員会では賛成8人、反対4人と、予想外に票が分かれた。どちらも、MRDを治療する意義が論点となった。今後の臨床研究が期待される。

リンク: アムジェンのプレスリリース






今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2019年1月20日

2019年1月20日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 米国連邦政府閉鎖の影響でビーナッツアレルギー治療薬の承認審査が遅延 
  • イムブルビカの適応拡大試験がフェール 
  • リリーの抗PDGFRアルファ抗体、市販後薬効確認試験がフェール 
  • テセントリク、NSNSCLC一次治療レジメンを追加申請 
  • ビンダケル、米国で承認申請受理 
  • ImmunomedicsのADCは承認見送り 
  • サノフィのSGLT阻害剤、FDA諮問委員会の意見は二分 
  • イベニティ、FDA諮問委員会で支持されたが 
  • Exelixis、VEGFR阻害剤が肝臓癌に適応拡大 
  • オプジーボとヤーボイの併用、EUで腎細胞腫に承認 
  • 第二世代アンドロゲン伝達阻害剤がEUで承認 


【今週の話題】


米国連邦政府閉鎖の影響でビーナッツアレルギー治療薬の承認審査が遅延
(2019年1月14日発表)

米国連邦政府の予算成立が遅れているため、昨年12月21日以降、政府組織の一部が閉鎖され多くの職員が一時帰休となっている。FDAに関しては、食品汚染など重要な事態に対処する機能が維持されるだけでなく、食品などに関する業務の一部は別途成立した法律で予算が確保されており、更に、医薬品や医療機器などの承認審査はユーザー課金制度に基づく受益者拠出が大きなウェイトを占めているため直ぐには影響が出ないはずである。

医薬品関係で影響が出そうなのは、新たな承認申請だ。ユーザー課金制度の対象になる承認申請は、予算が成立するまで徴収できないため、受理されない。希少疾患用薬や中小企業による申請(何れも課金免除)、そしてユーザー課金制度の対象にならない承認申請は受理される可能性があるが、スタッフの給与を払えないので審査を開始できないのではないか。

ユーザー課金制度に基づいて既に申請受理された品目でも審査期限に間に合わない事態が想定される。ユーザー課金残高はあと1ヶ月で枯渇する模様であり、政府閉鎖が長期化すると影響が更に広がる可能性がある。

このような中、最初の被害が明らかになった。Aimmune Therapeutics(Nasdaq:AIMT)が、FDAから、連邦予算が成立するまでAR101の承認審査を開始しない旨の通知を受けたのだ。AR101はピーナッツのアレルゲンを含有する減感作療法薬で、小分子薬や抗体医薬と異なりユーザー課金制度の対象ではないため、現状では審査原資がないのだ。

リンク: Aimmune社のSEC提出資料(form 8-K)

今四半期に審査期限を迎える薬は承認審査がかなり進んでいるだろうから、大きく遅延するとは考えにくいが、それでも、注視は必要だ。以下にリストアップした新薬や適応拡大の帰趨に注目したい。

審査期限:1月26日
Duchesnay社のOsphena(ospemifene)。閉経後中重度性交痛の治療薬を膣乾燥に適応拡大。17年に塩野義製薬から北米での販売権を取得したもの。

1月29日
大日本住友製薬の米国子会社のAPL-130277(apomorphine)。パーキンソン病オフ症状治療薬。レスキュー用途で用いられている注射用薬を舌下投与できるようにした新製剤。

1月31日
Alkermes(Nasdaq:ALKS)のALKS 5461。難治性鬱病用薬。ミュー・オピオイド受容体拮抗剤samidorphanの副作用をミュー・オピオイド受容体アゴニスト/カッパ・オピオイド受容体アンタゴニストのbuprenorphineで相殺するアイディア。

1月中(推)
メルクのcladribine錠。再発寛解型多発硬化症。元々は血液癌の治療薬として承認されたDNA合成阻害薬を錠剤化して新用途に開発。最初の承認申請から8年を経て17年に欧州で承認。

2月6日
Ablynx(Euronext Brussels:ABLX)のCablivi(caplacizumab)。後天性血栓血小板減少性紫斑症。二価抗von Willebrand因子ナノ抗体。欧州では昨年9月に承認。

2月13日
Motif Bio(Nasdaq:MTFB)のMTF-100(iclaprim)。MRSAを含むグラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症。オリジンはロシュ。

2月15日
ボシュ・ヘルスケア(NYSE:BHC)のDuobrii(halobetasol propionate, tazarotene)。尋常性乾癬治療薬。昨年11月に承認された高力価ステロイドにレチノイドを配合したローション。

2月16日
MSDのKeytruda(pembrolizumab)。多発骨髄腫切除後のアジュバント療法に適応拡大。抗PD-1抗体。

2月24日
インサイト(Nasdaq:INCY)のJakafi(ruxolitinib)。骨髄線維症や真性赤血球増加症の治療に承認されているJAK1/2阻害剤をステロイド不応急性GvHD(移植片対宿主病)に適応拡大。

2月中(推)
ノボ ノルディスクのNN7088(turoctocog alfa pegol)。A型血友病用のPEG化遺伝子組換え型第VIII因子。

3月中ノバルティスのBAF312(siponimod)。二次進行性多発硬化症の治療に用いるスフィンゴシン1燐酸受容体アゴニスト。ウルトラジェニクスから1.3億ドルで買った優先審査バウチャを使って審査期間を短縮した。

3月11日
リジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィのDupixent(dupilumab)。アトピー性皮膚炎の適応を12-17歳に広げる対象年齢拡大。 抗IL-4Rアルファサブユニット抗体。

3月12日
ロシュのTecentriq(atezolizumab)。切除不能局所進行性・転移性トリプル・ネガティブ乳癌の一次治療としてAbraxaneと併用する適応拡大。抗PD-L1抗体。

3月14日
Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)のRoclatan(netarsudil, latanoprost)。緑内障治療に用いるRhoキナーゼ阻害剤とプロスタグランディンF-2アルファを配合する点眼液。

3月18日
同じくロシュのTecentriq(atezolizumab)。進展型小細胞性肺癌の一次治療に適応拡大。

3月19日
Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)のZulresso(brexanolone)。出産後の鬱病。GABA-A受容体の選択的ポジティブアロステリックモジュレーターで入院患者に60時間連続点滴静注する。同じ作用機序を持つ経口剤も産後鬱病と通常の鬱病に第三相試験中で、こちらは塩野義製薬が日本の権利をライセンスした。

3月20日
Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のJZP-110(solriamfetol)。ナルコレプシーや閉塞性睡眠障害に伴う成人の過度の眠気に用いる選択的ドーパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤。Aerial BioPharmaからライセンス。

3月22日
Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)/サノフィのZynquista(sotagliflozin)。SGLT阻害剤で既存薬との違いはSGLT2選択的ではないことと、リード・インディケーションは一型糖尿病で承認申請されたこと。

3月中
シャイアのGattex(teduglutide)。短腸症候群による栄養物点滴依存を改善するGLP-2作用剤の適応を1-17歳に広げる対象年齢拡大。NPS Pharmaceuticalsが開発、欧州などの権利はナイコメッド社が07年に取得したが11年に武田薬品に買収された後、12年に欧米で承認されたにもかかわらず、13年に権利返還した。NPSはシャイアが15年に買収、そのシャイアは先ごろ、武田の子会社となったため、Gattexが出戻った。

3月中(推)
アッヴィのImbruvica(ibrutinib)。慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫の一次治療として、既承認のモノセラピーに加えて、抗CD20糖鎖改変抗体のGazyva(obinutuzumab)と併用する用法追加申請。Btk阻害剤。ジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発販売。


【新薬開発】


イムブルビカの適応拡大試験がフェール
(2019年1月18日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、Imbruvica(ibrutinib)の第三相転移性膵腺腫一次治療試験がフェールしたと発表した。nab-paclitaxel・gemcitabineの標準的療法とImbruvicaを追加した三剤併用療法のPFS(無進行生存期間)とOS(全生存期間)を比較したが、どちらで見ても有意差がなかった。

過去の臨床試験の裏付けはあったのだろうか?治験登録で検索してもPubMedで論文検索してもImbruvicaの膵癌試験はヒットしなかった。最近よく見かける、複数の癌種の100例以上を組入れる後期第一相試験や前臨床でシグナルがあったのかもしれない。何れにせよ、膵癌一次治療試験はフェールした薬が多いので、失望感は小さい。

リンク: アッヴィのプレスリリース

リリーの抗PDGFRアルファ抗体、市販後薬効確認試験がフェール
(2019年1月18日発表)

イーライリリーは、Lartruvo(olaratumab)の第三相軟組織肉腫試験、ANNOUNCEがフェールしたことを明らかにした。治癒的放射線療法・手術不適の進行軟組織肉腫をdoxorubicinで治療する時に併用する薬として16年に欧米で条件付き承認/加速承認された抗PDGFRアルファ抗体で、今回の試験で本承認を得る予定だったが、承認取消の可能性すら生じた。

承認の根拠となった第2相試験では、メジアン生存期間が26.5ヶ月とdoxorubicinだけの群の14.7ヶ月を上回り、階層化ハザードレシオ0.463、統計的に有意だった。PFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)は有意な差がなかったが、数値自体は決して悪くなく、n=129と小規模な試験であることが影響と考えることが可能だった。

イーライリリーは販促停止を決定。現在治療を受けていて便益を得ている患者は引き続き利用できる。今後の方針を医薬品承認審査機関と相談する考え。

Lartruvoは08年に65億ドルで買収したイムクローン社のパイプラインの一つ。今回の事態を受けて無形資産減損を計上する予定。

米国で市販後薬効確認試験がフェールして加速承認取消となった前例としては、Avastin(bevacizumab)の転移性乳癌適応がある。EUの条件付き承認制度も薬効確認できなかったら承認取消となる。但し、臨床試験のフェールには、薬のフェールと実験のフェールの二種類ありうるので、データを精査して後者の可能性があるならば、セカンドチャンスを得られるだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認申請】


テセントリク、NSNSCLC一次治療レジメンを追加申請
(2019年1月17日発表)

ロシュはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の用法追加申請をFDAに行い受理されたと発表した。審査期限は9月2日。NSNSCLC(非扁平上皮非小細胞性肺癌)の一次治療にcarboplatin及びAbraxane(アルブミン懸濁paclitaxel)と三剤併用するもの。

エビデンスとなる130試験では、メジアン生存期間が18.6ヶ月とcarboplatin・Abraxane二剤併用群の13.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.79、p=0.033だった。

非小細胞性肺癌ではPD-L1陽性でプラチナ薬治療歴を持つ患者の再発治療にモノセラピー、そして、非扁平上皮型の一次治療にcarboplatin、paclitaxel、Avastin(bevacizumab)と四剤併用が、米国で承認されている。扁平上皮型の一次治療は今回と同じ三剤併用をテストした131試験のPFS(無進行生存期間)解析が成功したが、共同主評価項目である全生存期間は未成熟であるせいか二剤併用と大差なく、最終解析を待ちたいところ。

リンク: ロシュのプレスリリース

ビンダケル、米国で承認申請受理
(2019年1月14日発表)

ファイザーは、Vyndaqel(tafamidis meglumine、和名ビンダケル)を後天性トランスサイレチン型心アミロイドーシスの治療薬としてFDAに承認申請し、受理されたと発表した。日欧ではトランスサイレチン家族性アミロイドポリニューロパチーの末梢神経障害を改善する薬として既に承認されているが、米国はFDAも諮問委員会も薬効未確立とし追加試験を求めていた。ファイザーは心アミロイドーシス型の試験を実施、今回の承認申請につながった。

第三相ではメグルミン塩カプセル(20mg)を4カプセル、一日一回経口投与したが、新たに遊離酸のカプセル製剤(61mg)を開発・申請した。一回1カプセルで足りる。メグルミン塩は優先審査で審査期限は今年7月、遊離酸は標準審査で11月となった。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ImmunomedicsのADCは承認見送り
(2019年1月18日発表)

Immunomedics(Nasdaq:IMMU)はIMMU-132(sacituzumab govitecan)を転移性トリプルネガティブ乳癌の三次治療薬として承認申請していたが、FDAから審査完了通知(CRL)を受領したと発表した。指摘事項はCMC(化学、生産、管理)に関するものだけで、臨床や前臨床のデータを追加提出することは求められていないとのこと。

FDANewsの報道によると、FDAは昨年8月の工場査察後にデータ改ざんなどに関する問題点を指摘するForm 483をImmunomedicsに送付した。今回のCRLと関係あるかもしれない。

IMMU-132は抗TROP-2抗体とirinotecan系抗癌剤SN-38を結合した抗体薬物複合体。第1/2相試験でORR(反応率、独立放射線学的査読後)が31%だった(110人中完全反応6人、部分反応28人)。トリプルネガティブ乳癌(TNBC)はホルモン療法が適応になるエストロゲン受容体やプロゲスチン受容体の高発現がなく、her2標的薬が適応になるher2の高発現もない。予後が比較的悪く、治療の選択肢が限られている。

TROP-2は正常細胞には少なく腫瘍細胞に専ら発現する表面分子で、TNBCでは8割以上に発現している。

リンク: Immunomedicsのプレスリリース(GlobeNewswire)
リンク: FDANewsの報道(18年12月17日付)

サノフィのSGLT阻害剤、FDA諮問委員会の意見は二分
(2019年1月17日発表)

FDAの内分泌学代謝薬諮問委員会は、サノフィが一型糖尿病治療薬として承認申請したSGLT阻害剤、Zynquista(sotagliflozin)を検討したが、便益が危険を上回り承認に値すると答えた委員が8名、反対が8名と真っ二つに分かれた。

薬効面では、sotagliflozinを追加投与するとHbA1cを0.3-0.4%引き下げることが可能。見栄えしない数値だが、インスリンの一日用量が平均数単位、減少した影響だろう。SGLT阻害剤は利尿作用があり、インスリンと異なり体重が増えない点も長所。

問題は糖尿病性ケトアシドーシスのリスク。この薬の問題というよりは、一型糖尿病にインスリン以外の薬を追加投与する困難さを示しているように感じられる。インスリンの量を減らさないと低血糖のリスクが高まり、減らしすぎるとケトアシドーシスのリスクが高まるので匙加減が難しいのだ。とはいえ、リスクが偽薬群の8倍、Number-needed-to-harmは26人/年、というのは驚かされる。承認されているSGLT2阻害剤と異なりSGLT1も阻害することでリスクを緩和できるという仮説もあったはずだが、実現しなかった。

Lexicon(Nasdaq:LXRX)が創製しサノフィは15年に日本以外の世界独占開発生産商業化権を取得した。一型糖尿病をリードインディケーションに選んだのはSGLT2阻害剤との差別化が狙いと推測され、雁行的に二型糖尿病にも開発されているので、一型で承認されなかったとしてもセカンドチャンスがある。

リンク: サノフィのプレスリリース(pdf)

イベニティ、FDA諮問委員会で支持されたが
(2019年1月16日発表)

アムジェンは、抗スクレロスチン抗体Evenity(romosozumab、和名イベニティ)を日米欧で承認申請し、日本で今月、承認されたところ。米国は承認申請後に実薬対照試験で心血管副作用懸念が浮上、一旦、審査完了となり、昨年7月にこのARCH試験のデータを取りまとめて再申請した。今回、BRUDAC(骨・再生産・泌尿器薬諮問委員会)に上程され、19人の委員のうち18人が便益が危険を上回ると判定した。

比較的穏当な結果になったのは、心血管リスクが明らかとは言えないことや、アムジェンの対策が妥当とみなされたことが理由だろう。ARCH試験では1年間の心血管深刻有害事象の発生率(第三者査読に基づく)が2.5%とalendronate群の1.9%を有意に上回った。しかし、もう一本の大規模試験では大きな偏りがなく、フェイクを疑う余地がある。アムジェンは心血管安全性を更に検討するために市販後にコフォート研究を行って、他の骨粗鬆症治療薬と比べてリスクが2倍以上ではないことを確認する考え。

また、当面の策として、心血管リスクを枠付き警告して適応を閉経後骨粗鬆症のうち骨折リスクの高い患者に絞る考え。

諮問委員の適応範囲に関する意見は区々で、心血管リスクの小さい患者に限定とか、治療期間を1年以内に制限とかの意見があったようだ。また、コフォート研究で心血管懸念が払拭されることが前提とのコメントもあったようだ。

Evenityは造骨細胞を活発化する薬で、ビスフォスフォン酸のような破骨細胞抑制型とは対照的、遺伝子組換え型ヒト上皮小体ホルモンForteo(teriparatide、和名フォルティオ)と似ている。Forteoは長期投与時の癌原性が疑われるため治療期間が2年以内に限定されており、また、一日一回皮注と経口剤と比べて使い難いが、作用機序の違いが評価され大型薬に育った。

Evenityは1年以内に限定される可能性があり、一日一回だが半量ずつ二回皮注なのでForteoと比べ見劣りする。レーベルの内容はともかくとして、高骨折リスクで他の薬に不耐の患者に1年だけ使う限界的な薬になるのではないか。

Evenityは、英国のセルテックが創製し02年にアムジェンに導出した。セルテックはその2年後、UCBに買収された。

報道によると、EvenityのPDUFAデートは今年1月12日だったとのこと。政府閉鎖とは関係なく独自の理由で遅れたことになる。

リンク: アムジェンのプレスリリース


【承認】


Exelixis、VEGFR阻害剤が肝臓癌に適応拡大
(2019年1月14日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)は、Cabometyx(cabozantinib)を肝細胞腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。バイエルのNexavar(sorafenib)による治療歴を持つ患者の二次治療。臨床試験では中間解析でメジアン生存期間が10.2ヶ月と偽薬群の8.0ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、統計的に有意だった。

肝細胞腫では07年のNexavarの適応拡大がエポックメイキングだったが、一昨年来、バイエルのStivarga(regorafenib)やBMSのOpdivo(nivolumab)、MSDのKeytruda(pembrolizumab)が相次いで二次治療に適応拡大、エーザイのLenvima(lenvatinib)は一次治療で適応拡大と、開発が活発化している。その分、競争は激しい。

リンク: Exelixisのプレスリリース

オプジーボとヤーボイの併用、EUで腎細胞腫に承認
(2019年1月14日発表)

BMSは、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用レジメンが中高度リスク腎細胞腫の一次治療薬としてEUで承認されたと発表した。第三相試験では、ORR(客観的反応率)が41.6%とSutent(sunitinib)群の26.5%を上回り、PFS(無進行生存期間)の解析は多重性補正の影響でフェールしたものの、第三の主評価項目である全生存期間はハザードレシオ0.63と好成績だった。

米国では昨年4月、日本では8月に承認されている。EUが遅れたのは、二剤併用の必要性が確立していないとしてCHMPが一度は否定的意見を出したことが原因。

リンク: BMSのプレスリリース

第二世代アンドロゲン伝達阻害剤がEUで承認
(2019年1月15日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、EUでErleada(apalutamide)が承認されたと発表した。非転移性の前立腺癌でアンドロゲン枯渇療法を受けているがPSA値が急上昇し始めた、高リスク患者に用いる。臨床試験ではErleadaを追加投与した群のMFS(無転移生存期間)がメジアン40.5ヶ月と偽薬追加群の16.2ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.28、全生存のハザードレシオも中間解析で0.45と、有意に改善した。

Xtandi(enzalutamide)を発明した研究者が第二世代品として開発したアンドロゲン伝達阻害剤。JNJは開発会社をマイルストンを含めて10億ドルで13年に買収した。

リンク: JNJのプレスリリース(pdf、日付がxx, 2019になっている)






今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2019年1月13日

2019年1月13日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ニューデクスタは主用途におけるエビデンスが弱い 
  • オプジーボ、食道がんの第三相が成功 
  • マイトマイシン・ゲルの第三相上部尿路上皮癌試験が成功 
  • Sage社、産後鬱の第三相試験が成功 
  • FDA諮問委員会、多くの委員がフェブリクの心血管死リスクを憂慮 
  • ウリプリスタル、カナダも使用制限を強化 


【今週の話題】


ニューデクスタは主用途におけるエビデンスが弱い
(2019年1月7日発表)

大塚製薬の米国子会社であるアバニア・ファーマシューティカルズのNuedexta(dextromethorphan, quinidine sulfate)に関する医療保険データ分析論文がJAMA Internal Medicine誌に発表された。主としてALS(筋萎縮性側索硬化症)とMS(多発硬化症)を組入れた第三相試験に基づき2010年にPBA(情動調節障害)治療薬として承認されたNMDA受容体拮抗・シグマ-1作動剤だが、専ら異なった原疾患に用いられていることを明らかにした。

Brigham and Women's HospitalのFralickらによると、ALS・MS患者向けは需要の15%に過ぎない。57%は認知症・パーキンソン病向けだが、便益の裏付けは薄弱。転倒や不整脈の副作用があることや、心不全やQT延長リスクを持つ他の薬を服用している患者への処方が少なくないことなどを考えると、安易に使用されている疑いが残る。

Nuedextaは抗不整脈薬であるdextromethorphanの用量を10~20分の一に減らしてquinidineの2D6薬物相互作用で補う固定用量合剤。初承認当時のレーベルには、アルツハイマー性などの認知症にしばしば付随する情動障害に対する安全性や便益は示されていない旨の注記があったが、大塚製薬がアバニアを35億ドルで買収した15年1月に文言が削除された。第二相試験でアルツハイマー病のアジテーション(焦燥性興奮)を改善する効果が示されたことが寄与したのかもしれない。

精神・神経疾患の薬はオフレーベル使用が珍しくないが、Nuedextaをアルツハイマー病の患者に処方することは情動障害治療目的ならオフレーベルではないことになる。とは言え、エビデンスが確立していない用途が過半を占めるのは歪である。第三相試験が進行中で、今年以降に開票する見込みなので、大塚製薬の仕上げを御覧じろ。

リンク: Fralickらの論文抄録(JAMA Internal Mediine)

【新薬開発】


オプジーボ、食道がんの第三相が成功
(2019年1月9日発表)

小野薬品とBMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第三相食道癌試験が成功したと発表した。5-FU・プラチナ薬に不応不耐の切除不能進行再発食道癌に対する延命効果をタクサン系の化学療法と比較したところ、有意に上回った。PD-L1発現陽性・陰性を問わず効果が見られた。チェックポイント阻害剤でこれらを兼ね揃える成果を上げたのはOpdivoが初めて。データは学会で発表する予定。

リンク: 両社のプレスリリース(和文、pdf)

マイトマイシン・ゲルの第三相上部尿路上皮癌試験が成功
(2019年1月8日発表)

UroGen Pharma(Nasdaq:URGN)は、UGN-101(mitomycinゲル製剤)の第三相OLYMPUS試験の途中経過を発表した。完全反応率57%、その全例が6ヶ月時点でも完全反応持続と良好な結果になっている。昨年12月にローリング承認申請が始まっており、順調なら年内に申請完了できるのではないか。米国で希少疾患指定、ファースト・トラック、ブレークスルー・セラピー指定を受けている。

同社は低温では液状だが体温でゲル化し長時間に亘り薬剤を放出する製剤技術を持っている。リードコンパウンドがUGN-101で、既存のmitomycinと同様に尿管カテーテル点滴注入する。第三相試験では低悪性度上部尿路上皮癌の71例に7日毎に6回投与して効果を確認、完全反応なら維持療法を更に11回施行した。今回の解析は結果が出た61例のもの。昨年12月に組入れ完了したので、残りの症例も下期までに結果が判明するだろう。

治療時創出有害事象は尿管カテーテル処置に伴うものが主で、尿管狭窄、水腎症、尿道感染など。

膀胱がんと異なり、腎盂や尿管の上皮癌は薬物療法が少なく、mitomycinはオフレーベルで切除後のアジュバント治療に用いられているがエビデンスは十分ではない。ゲル製剤が既存製剤と比べてどの程度優れているのか曖昧な面があり、承認後に既存の製剤が代替使用されるリスクが残っているがるが、現時点では、きちんとした試験で薬効を証明することに意義があると評するべきだろう。

この試験の被験者の45%は切除不能なので元々治療の選択肢が限られているが、もし奏功持続期間が長いようならば、切除可能例でも第一選択になる可能性がありそうだ。

リンク: UroGen社のプレスリリース

Sage社、産後鬱の第三相試験が成功
(2019年1月7日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)は、SAGE-217の第三相産後鬱病試験が成功したと発表した。通常の鬱病の第三相二本の結果を待って承認申請に向かう予定。

SAGE-217はGABA-A受容体に対する選択的ポジティブアロステリックモジュレーター。本来のレガンド結合部位とは異なる箇所に結合してレガンド結合時のシグナル伝達を増強する。類薬ではSAGE-547(brexanolone)が昨年5月に産後鬱病治療薬として承認申請され、11月の諮問委員会で18人中17人が承認を支持したが、REMS(リスク評価緩和戦略)精査のために審査期限が今年3月に延期された。

両剤の長所は効果のオンセットが早いこと。SAGE-547は入院患者に60時間連続点滴したところHAM-Dトータルスコアなどの薬効評価項目が偽薬比有意に改善した。SAGE-217は経口投与で第三相として2週間外来治療したところ、HAM-Dトータルスコアなどが偽薬比有意に改善した。3日目から有意な差があった由なので、SAGE-217と同様にオンセットが早いことになる。治療効果の数値は異なるが、臨床的に意味のある差なのかどうかは不明。

懸念されるのは、SAGE-547の試験で見られた失神・意識喪失リスク。140例中6例なので頻度が低いとは言えない。数日間の連続点滴投与なので転倒や事故の可能性は低いだろうが、SAGE-217は在宅治療なので話が別だ。特に、通常の鬱病に用いる場合は長期間使用される可能性が高く、また、治療が奏功して活動意欲が改善すると転倒・失神時の被害が大きくなってしまう。

幸い、今回の第三相では一例も発生しなかったが、SAGE社の諮問委員会用資料を読むとクラス・イフェクトと考えているようなので、他の第三相試験の結果を確認する必要があるだろう。

有害事象発生率は58%で偽薬群の51%よりやや高い。偽薬より多かったのが傾眠、めまい、上部気道感染症、鎮静、少なかったのが頭痛、悪心嘔吐、異常夢、多汗症など。自殺思慮・行動は増えなかったが、これも、メタアナリシスが必要だろう。

SAGE-217は米国でブレークスルー・セラピー指定されている。日本や韓国、台湾の開発商業化は塩野義製薬がライセンスした。

リンク: SAGE社のプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA諮問委員会、多くの委員がフェブリクの心血管死リスクを憂慮
(2019年1月11日発表)

FDAは関節炎諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会の共同会議を開催し、武田薬品が帝人からライセンスして米国で販売している痛風治療薬、Uloric(febuxostat、和名フェブリク、フランスなどではAdenuric)の心血管リスクについて意見を聞いた。選択肢には承認取消あるいは販売中止もあったが、22人の委員のうち19人は便益が危険を上回る症例がありうると回答。棄権が一人、上回らないと答えたのは2人だけだった。

Uloricはキサンチンオキシダーゼ阻害剤。同じ作用機序を持つallopurinolと異なり尿だけではなく便でも排泄されるので腎機能低下患者にも使うことができる(重度腎障害は半量を使う)。

米国では09年に承認されたが、薬効確認試験のプール分析で心血管疾患リスクの兆候が見られたため、FDAが市販後心血管アウトカム試験を実施するよう要請。武田は15年1月までに結果を報告するとコミットしたが、このようなケースでしばしば見られるように、大きく遅延した。

このCARES試験のデータは昨春のACC米国心臓学会やNew England Journal of Medicine誌で発表された。MACE(主要有害心血管イベント)はallopurinolを投与した群と非劣性だったが、なぜか、心血管死はハザードレシオ1.34、p=0.03、Number-Needed-to-Harmは91だった(91人に投与すると心血管疾患で死亡する患者がallopurinolより一人増える)。全死亡もハザードレシオ1.22、p=0.04だった。

非致死的心筋梗塞などは増加していないのに、なぜ心血管死が増加したのか、メカニズムは明確ではない。血小板数など血球細胞に影響するせいかもしれないが曖昧である。また、痛風はQOLに大きな影響を及ぼす可能性があり、尿酸治療薬はallopurinol以外の薬も含めて安全性が十分ではないため、この程度のリスクなら許容せざるをえないかもしれない。思い出すのは、自主回収されたVioxx(rofecoxib)の諮問委員会で、痛みを緩和するためなら重篤な血栓性イベントのリスクが倍増しても構わないと証言した患者がいたことだ。

これらのことを考えると、FDAが販売中止に動く可能性は低そうだ。枠付き警告や禁忌追加などの規制強化に留まるのではないか。

リンク: TCTMDの報道

ウリプリスタル、カナダも使用制限を強化
(2019年1月11日発表)

ヘルス・カナダは、子宮筋腫治療薬Fibristal(ulipristal acetate、欧州名Esmya)の使用制限を追加すると発表した。カナダと欧州などで承認されているが、市販後に深刻な肝障害症例が複数報告されたことを受けた措置。欧州でも昨年5月に規制強化が導入されたが、その時の深刻肝障害例は投与実績765000人中8人だった。今回のカナダの発表ではulipristalと関連する可能性のある症例が20例と、ベースが同じかどうかは不明だが、数値が増加している。

子宮筋腫を治療する便益と稀だが深刻な副作用の危険を天秤にかけた結果、カナダも欧州と同様に適応を絞り込んだ。具体的には、肝疾患(既往を含む)は禁忌。二回以上の間歇的な治療を行うことができるのは、子宮摘出術を受けられない妊娠可能年齢の女性に限定した。

Fibristalは選択的プロゲスチン受容体調節剤。フランスのLaboratorie HRA PharmaのライセンスでGedeon Richterが販売している。日本はあすか製薬が権利を取得、ファンドとリスクシェアリングしながら開発している。米国は未承認。

尚、同じ活性成分が事後的避妊薬Esmyaとして多くの国で販売されているが、こちらでは肝毒性は見られないようだ。一回用量は6倍だが一回服用するだけだからだろう。

リンク: ヘルスカナダのプレスリリース
リンク: ヘルスカナダのSummary Safety Review






今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2019年1月6日

2019年1月6日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Viela社、視神経脊髄炎関連疾患用薬を承認申請へ 
  • FDAがスプリセルの対象年齢拡大を承認 


【新薬開発】


Viela社、視神経脊髄炎関連疾患用薬を承認申請へ
(2019年1月3日発表)

米国メリーランド州のViela Bio社はinebilizumabの承認申請用試験であるN-MOmentum試験が成功したと発表した。今年上期中に米国で承認申請する予定。他の国でも計画中。

対象はNMOSD(視神経脊髄炎関連疾患)という稀だが命に係わる中枢神経系自己免疫疾患。患者の多くでAQP4蛋白に対する自己抗体が見られるが、陰性の場合もあるため、病名が多少ぼかされている。

治療はジェネンテックの抗CD19キメラ抗体rituximabがオフレーベルで使用されることがあり、新薬では、中外製薬/ロシュが抗IL-6受容体リサイクリング抗体SA237/RG6168(satralizumab)を承認申請する予定。アレクシオン社も抗C5ヒト化抗体Soliris(eculizumab)の適応拡大を申請予定。

Viela社は昨年2月にアストラゼネカ・グループのメディミューン社からスピンアウトした。リードコンパウンドがinebilizumabで、メディミューンはMEDI-551と呼んでいた。フコース装飾型抗CD19ヒト化抗体で、今回のP2/3試験の仮説はrituximabの研究者主導試験のデータなどを参考にした、

今回の試験は231人の患者を組入れて増悪発作頻度を偽薬と比較したところ、77%少なかった。二次的評価項目である障害悪化でも有意に小さかった。詳細は今年の学会で発表する計画。この試験の強みはAQP4ステータス陽性だけでなく陰性も組入れたこと。対象人口が2-3割多くなる。

リンク: Viela社のプレスリリース


【承認】


FDAがスプリセルの対象年齢拡大を承認
(2019年1月2日発表)

BMSは、FDAがSprycel(dasatinib、和名スプリセル)の対象年齢拡大を承認したと発表した。17年にフィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病の適応を1歳以上に引き下げることが承認されたが、今回、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病でも1歳以上となった。

米国連邦政府は予算成立が遅れているため多くの職員が一時帰休している。医薬品の承認審に関しては費用を承認申請者などが拠出しているため影響は小さいはずだが、審査が遅れるようなことがあっても不思議はない。

最初に審査期限を迎えたSprycelの動向が注目されたが、実際には、一時帰休が始まった前日に承認されていたようだ(Drugs@FDA収載の承認通知が12月21日付)。審査期限は12月28日、BMSは1月2日まで承認を発表しなかったため気付かなかった。

リンク: BMSのプレスリリース






今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/