2021年11月27日

第1027回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • WHO、今月発見されたばかりの変異株をVOCに指定 
  • MSD、RdRp阻害剤の効果が下方修正? 
  • mRNAワクチンの追加接種、全ての18歳以上に 
  • その他の領域: 
  • オブジーバ、GnRH受容体アンタゴニストを米国でも承認申請 
  • ギリアド、デルタ型慢性肝炎治療薬を米国でも承認申請 
  • 難治CMV治療薬が承認 
  • 血管周囲類上皮細胞腫瘍用薬が承認 
  • 軟骨無形成症用薬が米国でも承認 
  • 一型糖尿病にフォシーガを使うな 


【COVID-19関連】


WHO、今月発見されたばかりの変異株をVOCに指定
(2021年11月26日発表)

WHOはB.1.1.529系統をVOC(Variant of Concern:懸念される変異株)に追加し、Omicron(オミクロン:ギリシャ文字でアルファベットのOに相当する文字の呼称)と命名した。今月9日に南アフリカで採取された検体から発見されたばかりだが、ヨハネスブルグ周辺で過去に例がないほど急速に感染例に占める割合(シェア)が高まっている。感染力や病原性に係る変異を数多く持っていてワクチンや抗SARS-CoV-2抗体の効果が減弱する可能性もあることから、迅速に対応した。WHOは低中所得国の経済に配慮して渡航制限に消極的な傾向が見られるが、欧米などは南アなどの国との渡航禁止を決めた。

南アでは5月に流行株がベータからデルタにシフトしたが、11月に入ってB.1.1.529が急増、11月14日から23日の期間にはシェアが7割を超えた。デルタが出現してから主流になるまで2~3ヶ月かかったことを考えると、感染力がデルタよりさらに高い可能性がある。南アはワクチン接種率が低いことや免疫力が低下するHIV感染者が比較的多いこともあり、今後の拡大が懸念されている。また、他の国でも南ア渡航者などの感染例が散見されている。

南アでSARS-CoV-2のゲノム研究を担うNGS-SA(Network for Genomics Surveillance in South Africa )によると、オミクロン株は△69-70、△105-107、G142D、R203K、G204R、K417N、T478K、E484A、N501Y、D614G、H655Y、N679K、P681Hなど、宿主細胞侵入時の効率や、インターフェロンに係る免疫、全体的な感染力などに係ると推測されるアミノ酸置換/欠損を持っている。

NGS-SAの主要メンバーであるNICD(南ア国立伝染病研究所)は、感染やワクチン接種により獲得する免疫力が低くなる可能性があるものの、ワクチンの入院・死亡抑制効果は高水準で維持されると推測している。但し、根拠は明確ではない。

69-70欠損を持っているため、広く用いられているPCRアッセイの一つ(私のゲスはTaqPath)で一次スクリーニングすることができるようだ。PCRはゲノムの2~3ヶ所をチェックするが、ヌクレオカプシドやRNA依存性RNAポリメラーゼの遺伝子は変化していないため、PCRや迅速抗原検査の感度には影響しないと推測しているが、要確認とのこと。

南アでは変異速度がVOC株の2倍というC.1.2株が発見されているが、シェアは数パーセントに留まっていて、オミクロンは独自に発展した株と推測されている。

症状面では特に変わったところは見られず、無症状例もあるようだ。

リンク: WHOのプレスリリース
リンク: VOCなどの一覧表(WHO)
リンク: NICDのFAQ
リンク: NGS-SAの週報(変異株のゲノム分析結果など、pdfファイル)



MSD、RdRp阻害剤の効果が下方修正?
(2021年11月26日発表)

COVID-19のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)阻害剤、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)を共同開発しているMSDとRidgeback Biotherapeuticsは、軽中等症非入院患者を対象とした第3相MOVe-OUT試験のアップデート値を公表した。中間解析では入院・死亡リスクを48%抑制したが、全被験者の解析では30%に低下した。追加症例だけ見ると試験薬群のほうが悪く、原因究明が望まれる。

MK-4482は、Veklury(remdesivir)やアビガン(ファビピラビル)と同様に、ウイルスの増殖に必要なRdRpを誤作動させる。今月、英国で条件付き承認された。米国でもEUA(非常時使用認可)され、11月30日の抗微生物薬諮問委員会に上程される予定。

第2相で入院患者に対する効果が見られなかったため、第3相は発症5日以内の軽中等症だが重症化リスク因子を持つ、ワクチン未接種の外来患者に限定して、800mgを一日二回、5日間投与する効果を検証した。中間解析で成功認定基準をクリアし、新規組入れ打ち切りとなった。

中間解析では、主評価項目の29日入院・全死亡は偽薬群が377人中53人(14.1%)であったのに対して、試験薬群は385人中28人(7.3%)となり、絶対差6.8ポイント、相対リスクは0.52(95%信頼区間0.33-0.80)だった。

一方、今回発表された数値は偽薬群が699人中68人(9.7%)、試験薬群は709人中48人(6.8%)で、絶対差3.0ポイント、相対リスクは0.70(同0.49-0.99)だった。

統計解析としては中間解析が正式な結果である。また、絶対差も相対リスクも95%信頼区間はオーバーラップしているので、二つの解析が矛盾した結果になったわけではない。

しかし、試みに、今回追加された数値だけを取り出して29日入院・全死亡率を算出すると、偽薬群(n=322)は4.7%、試験薬群(同324)は6.2%となり、相対リスクは1.33と逆転する。

尤も、偽薬群の数値が中間解析よりかなり低下しており、流行がピークを過ぎたせいかもしれないが、他の要因が影響した可能性も否定できない。

何れにせよ、一部でゲームチェンジャーとも呼ばれる薬の効果がこんなに変化したのは驚きだ。精査が望まれる。

リンク: 両社のプレスリリース



mRNAワクチンの追加接種、全ての18歳以上に
(2021年11月19日発表)

FDAはBioNTech/ファイザーとModerna(Nasdaq:MRNA)のmRNAワクチンに関して追加接種の適応対象を18歳以上の全員に拡大するEUA(非常時使用認可)一部変更を行った。8月にバイデン大統領が打ち出した構想が予定より2ヶ月遅れで実現した。

当初のEUAが高齢者や基礎疾患のある人などに限定された主因は、VRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会)で全人口を対象とすることに懐疑的な意見が大多数を占めたことだが、今回の変更は諮問委員会を経ずに断行されており、異例だ。

これを受けて、CDC(疾病管理予防センター)は、緊急招集したACIP(ワクチン接種諮問委員会)の意見を確認した上で、50歳以上の全員と、18~49歳の長期介護施設入居者に関しては接種すべき(should)、それ以外の18歳以上は接種してもよい(may)と推奨した。

対象変更の理由は明確ではないが、ACIPではファイザーが実施した1万人規模の追加接種試験で症候性感染を偽薬比95%予防したことが報告されており、一因となったものと推測される。尚、この試験では被験者の65%が二回目接種の10~12ヶ月後に追加接種しており、厳密にいえば、承認内容である6ヶ月後以降とは整合しない。

もう一つの理由は、メッセージを伝わりやすくすることであったようだ。治療薬は医師が処方するが、ワクチンは、かかりつけ医など相談できる相手がいる場合を除いて自分で判断しなければならないので、専門用語の羅列や細分化を避けて、できるだけ単純にしたほうがよい。

上層部が変更を求めた可能性もある。バイデン大統領がブースター接種構想を発表した日、支持する共同声明をFDAやCDC、NIH(米国立衛生研究所)、HHS(保健福祉省)などのトップが出した。一方、現場では、承認申請すらされていない段階で開始日まで決定したことに反発したのか、ワクチンの承認審査担当部署で二名が辞任を表明、9月と10月の諮問委員会には出席したが、その後、退職した。

何れにせよ、適応範囲や接種タイミングはエビデンスが少なく科学的に判断するのが困難であり、政治判断するしかない。便益と危険は定量的に判断する必要があり、便益は新規感染率に左右されるので、今年1月のピークと6月のボトムでは話が変わってくるし、言うまでもなく、一日3万人の米国と100人の日本では大きく異なる。専門家が科学的に評価し、政府が政治的に判断し、それを参考に個人が決定することになる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CDCのプレスリリース
リンク: ACIPプレゼン資料等
リンク: CDCのブースター接種勧奨

【承認申請】


オブジーバ、GnRH受容体アンタゴニストを米国でも承認申請
(2021年11月22日発表)

スイスのObsEva(Nasdaq:OBSV)は、FDAがlinzagolixの新薬承認申請を受理したと発表した。審査期限は22年9月13日。欧州では昨年11月に申請しており、順調ならCHMPが12月にも意見をまとめる見込み。

キッセイ薬品から欧米市場などでライセンスした経口ゴナドトロピン放出ホルモン受容体アンタゴニストで、閉経前女性の子宮筋腫関連月経過多の治療に用いる。第三相試験は二本とも有意な改善効果を示した。ホルモン薬のアドバック・セラピー(副作用を緩和するためにエストロゲンとプロゲスチンを併用する)と200mgを併用することも、ホルモン薬禁忌/忌避の患者は奏効率は低下するものの100mgを単剤服用することも、可能になる見込み。

リンク: 同社のプレスリリース



ギリアド、デルタ型慢性肝炎治療薬を米国でも承認申請
(2021年11月19日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Hepcludex(bulevirtide)を成人の代償性デルタ型慢性肝炎の治療薬として米国で承認申請したと発表した。

デルタ型やB型の肝炎ウイルスは肝細胞のNTCP(ナトリウムタウロコール酸共輸送体ポリペプチド)に結合して細胞内に侵入する。bulevirtideはB型肝炎ウイルスのNTCP結合部位に由来するアミノ酸47基の脂肪酸結合ペプチドで、侵入を妨げる。2mgを一日一回、皮注する。

第3相試験の24週中間解析では、ウイルス学的・生化学的複合反応率が36.7%と観察群の0%を有意に上回った。10mg群も設定されたが、28%だった。深刻な有害事象や有害事象による治験離脱は発生しなかった。NTCPは胆汁酸の輸送体でもあるため10%以上の患者で血中胆汁酸塩が増加したが、症状を伴う症例はなかった。

この試験の主評価項目は48週時点の複合反応率なので、おそらく、加速承認を申請したものと推測される。また、小分子薬ではなく生物学的製剤としてBLAした。

ドイツのMyr社が開発、昨年7月にEUで条件付き承認を取得した。ギリアドは今年3月に11億ユーロで同社を買収した。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


難治CMV治療薬が承認
(2021年11月23日発表)

FDAは武田薬品のLivtencity(maribavir)を造血幹細胞/臓器移植後難治/抵抗性CMV(サイトメガロウイルス)感染症治療薬として承認した。12歳以上、体重35kg以上の患者が適応になる。抵抗性変異の有無は問わない。既存薬に応答しない患者に使える薬が承認されたのは初めて。第3相試験では200mg錠二個を一日二回、8週間に亘って経口投与したところ、奏効率(ウイルスDNAが検出不能)が56%と、医師が選んだ既存薬を投与した群の24%を有意に上回った。主な有害事象は味覚異常や悪心嘔吐、下痢、疲労。

03年にViroPharmaがグラクソ・スミスクラインから開発販売権を取得してから18年、100mgを一日二回投与した第3相移植後CMV疾患予防試験がフェールしてから12年を経て、遂に実用化された。この間には13年にシャイアがViroPharmaを買収、そのシャイアを19年に武田が買収と看板も変遷した。

リンク: FDAのプレスリリース



血管周囲類上皮細胞腫瘍用薬が承認
(2021年11月23日発表)

Aadi Bioscience(Nasdaq:AADI)は、FDAがFyarro(sirolimus、アルブミン結合)を局所進行性切除不能/転移悪性PEComa(血管周囲類上皮細胞腫瘍)用薬として承認したと発表した。

mTOR阻害剤をヒト血清アルブミンと結合しアモルファス状のナノパーティクル化した新製剤で、21日サイクルで第1日と第8日に100mg/m2を30分点滴静注する。第2相試験ではORR(客観的反応率、第3者評価、n=31)が39%だった。完全反応も2例あった。メジアン反応持続期間は未達だが2年以上。G3以上の有害事象は骨髄抑制、感染症、口内炎、高血糖、低カリウム血症、ラッシュなど。

悪性PEComaは子宮や胃腸、肺、腎肝泌尿器などの軟組織肉腫の一種で、米国で年100~300人が罹患する超希少疾患。TSC1/TSC2遺伝子の変異によるmTOR経路の活性化がしばしば見られる。

Aadi社の創設者兼CEOであるNeil Desaiはアルブミン結合ナノパーティクル技術の発明者で、Abraxis BioScience在籍中にAbraxane(nab-paclitaxel)の開発にも携わった。

リンク: 同社のプレスリリース



軟骨無形成症用薬が米国でも承認
(2021年11月19日発表)

FDAはバイオマリン(Nasdaq:BMRN)のVoxzogo(vosoritide)を軟骨無形成症用薬として加速承認した。5歳以上で、成長板が未閉鎖で身長が伸びる可能性のある患者が適応になる。EUでは8月に承認され、フランスでは年3000万円程度で販売されているようだ。日本やブラジル、オーストラリアでも承認申請中。

軟骨無形成症は骨の成長を抑制するFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)の機能獲得変異により身長が伸び悩む。有病率は25000人に一人とされる。8割は遺伝ではなく突然変異による。

vosoritideは、FGFR3とは逆に骨の成長を刺激するC型ナトリウム利尿ペプチドの安定化アナログで、15mgを一日一回、皮注する。52週間の臨床試験ではAGV(身長の年率成長速度、ベースライン値は年4.2cm)が年1.4cmと偽薬群(年▲0.1cm)を有意に上回った。主な有害事象は注射箇所反応、嘔吐、血圧低下など。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


一型糖尿病にフォシーガを使うな
(2021年11月11日発表)

EMAは、アストラゼネカがSGLT2阻害剤Forxiga(dapagliflozin、米名Farxiga、和名フォシーガ)のEUにおける適応の一つである、一型糖尿病を返上したことを明らかにした。同社のDHCPレター(医療従事者向け通知)によると、臨床試験で被験者の1%以上で糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)が発生したとのこと。頻度はともかく、一型糖尿病にSGLT2阻害剤を併用するとDKAが発生する可能性があること自体は周知の事実なので、なぜこのタイミングなのか唐突感が残る。

EUの医薬品審査機関であるEMAは多くの加盟国の利害が絡むせいか融通が効かないところがあり、COVID-19の治療薬やワクチンの承認が他国と比べて遅い。法制の問題なので変えれば良いはずだが、実現していない。独自に承認する加盟国も増えてきている。

Forxigaの承認撤回も、アストラゼネカがEMAのPRAC(市販後監視委員会)とDHCPの文言に関して合意してから発出まで、他の部門との手続きなどで2ヶ月を費やしている。

一型糖尿病は米国ではDKA懸念から承認されなかったが、EUと日本では19年に承認された。

リンク: アストラゼネカのDHCPレター(pdfファイル)





今週は以上です。

2021年11月19日

第1026回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ファイザー、抗ウイルス薬の承認申請を開始 
  • NIHの入院患者試験がまたまたフェール 
  • その他の領域: 
  • 慢性疼痛を治療するVRコンテンツが承認 
  • 住血吸虫症の第3相が成功 
  • ジャディアンスを駆出率保持心不全にも申請 
  • Aduhelm、EUは承認しない方向 
  • FDA、キイトルーダを腎細胞腫術後アジュバントに承認 


【COVID-19関連】


ファイザー、抗ウイルス薬の承認申請を開始
(2021年11月16日発表)

ファイザーはPAXLOVIDの承認申請手続きを開始した。米国でEUA(非常時使用認可)を申請し、英豪新韓などでローリング承認申請を開始した。

プレスリリースを読むと、PAXLOVIDは配合剤ではなく二種類の錠剤の同梱製品のようだ。ウイルスの複製に必要な非構造蛋白を切り出す3CLシステイン・プロテアーゼを阻害するPF-07321332は150mg錠2錠、その代謝を阻害して効果を長持ちさせるritonavirは100mg錠1錠を、一日二回ずつ、5日間、服用する。軽中等症COVID-19感染で入院はしていないがリスク因子を持つ成人を発症から5日以内に組入れた第2/3相試験で入院・死亡リスクが偽薬比85%小さかった。

ファイザーは米国政府と1000万治療コース分を52.9億ドルで供給することで合意した。MSDも310万治療コース分のRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤MK-4482(molnupiravir)を約22億ドルで供給合意済みだが、規模が3倍以上に膨らみ、その分、単価は25%引きとなった。

同社は、世界人口の53%を占める低中所得国95ヶ国に向けて、Medicines Patent Poolとライセンス合意した。GE薬メーカーが自社生産してこれらの国で販売することが可能になる。MSDも同様なライセンス合意を行っている。

リンク: 同社のプレスリリース(承認申請)



NIHの入院患者試験がまたまたフェール
(2021年11月16日発表)

チューリッヒ大学発の医薬品開発ベンチャーであるMolecular Partners(SIX:MOLN)は、MP0420(ensovibep)のACTIV-3試験が中間解析で無益認定されたと発表した。ACTIV-3はNIH(米国立衛生研究所)が主導するCOVID-19マスター・プロトコル試験の一つで、入院患者を対象に、様々な開発品を次から次へとテストしているが、5日後の症状改善という主評価項目が厳しすぎるのか、試験薬が抗ウイルス剤に偏っていて重症患者には手遅れなのか、今回で5連敗となった。その中には外来治療試験が成功してEUAされた薬もあるので、MP0420も、開発販売パートナーであるノバルティスが主導している第2/3相外来治療試験が成功する期待が残っているだろう。

先にフェールした4剤は何れも抗SARS-CoV-2抗体で、イーライリリーのLY-CoV555(bamlanivimab)、Vir Biotechnology(Nasdaq:VIR)/GSKのVIR-7831(sotrovimab)、中国のBrii BiosciencesのBRII-196とBRII-198のカクテル、そしてアストラゼネカのAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)だ。MP0420はDARPin(designed ankyrin repeat protein)と呼ばれる高分子薬で、ankyrinを組み合わせてウイルスの異なった部位に結合する三種類のDARPinを作成、結合したもの。分子量はPEG化後で34kDa程度と抗体医薬より小さい。

ノバルティスの第2/3相試験の第2相部分は軽中等症で診断から7日以内の成人400人を組入れて、病状悪化・入院リスクを偽薬と比較しており、22年始めに結果が出る見込みだ。

尚、ACTIV-3試験のほうは、ファイザーの静注用3CLプロテアーゼ阻害剤、PF-07304814と、人工呼吸器装着など危機的な状態の患者を組入れるACTIV-3クリティカル・ケア・プロトコルで採用されたRelief TherapeuticsのZyesami(aviptadil)の試験がまだ生き残っている。

リンク: 同社のプレスリリース


【今週の話題】


慢性疼痛を治療するVRコンテンツが承認
(2021年11月16日発表)

FDAはAppliedVR社のEaseVRxを18歳以上の慢性疼痛の治療機器として承認した。医師の処方が必要だが、在宅治療可能。VRヘッドセットを装着して一本2~16分の3-D認知行動療法プログラムを毎日、8週間に亘って、受講する。プログラムは56セッション用意されている。ディープ・リラックスのセッションでは深呼吸音をマイクで拾い、プラクティスできているかどうかモニターする。

176人の患者を組入れた臨床試験では、30%疼痛緩和成功率が66%と、2-D非認知行動療法プログラムを視聴した群の41%を上回った。50%疼痛緩和成功率も46%対26%と上回った。治療終了後の持続性もあったようだ。

有害事象は9.7%の患者が乗り物酔いと悪心を報告した。Pico G2 4Kヘッドセットが用いられたが、将来、もっと遅延の小さいハードが開発されれば、改善していくだろう。

被験者はオピオイド治療を受けていたようなので、難治性の患者に適しているのかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Garciaらの臨床試験論文(Journal of Medical Internet Research、フリー・アクセス)


【新薬開発】


住血吸虫症の第3相が成功
(2021年11月16日発表)

Pediatric Praziquantel Consortiumは、arpraziquantelの第3相幼小児住血吸虫症試験が成功したと発表した。この官民コンソーシアムを主導するメルクKGaAがEUの域外使用薬審査制度を利用して承認申請し、EMAの肯定的意見を得た上で、住血吸虫症が流行している国やWHOに承認を求める計画。

住血吸虫症はアフリカなどの風土病。治療はメルクが開発したpraziquantelが用いられているが、適応となるのは6歳以上で、錠剤や大きく、味が苦いなど、世界で5000万人とされる未就学児感染者には適していない。このため、薬効を持つ左旋性異性体のarpraziquantelを活性成分とする経口分散錠が開発された。

今回の第3相はコート・ジ・ボワールとケニアの3ヶ月児から6歳までの患者288人を組入れて、治癒率(寄生虫の卵が便又は尿から検出されない)をpraziquantel(錠剤を砕いて服用)と比較した。異性体薬は50mg/kg、ラセミ薬は40mg/kgを一回投与したが、ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)感染者のコフォートは成績が今一つだったため途中で60mg/kgに変更された。

結果は、このコフォートもマンソン住血吸虫のコフォートも90%以上が治癒した由だ。

このコンソーシアムにはアステラス製薬も参加しており、幼小児用口腔内急崩壊錠の開発を進めていたはずだが、プレスリリースが出ていないので、第3相は異なった製剤が採用されたのかもしれない。

後日付記:アステラス製薬はラセミ体の口腔内急崩壊錠の第3相を実施、成功したためEUに承認申請すると11月25日に発表した。  

リンク: Pediatric Praziquantel Consortiumのプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


ジャディアンスを駆出率保持心不全にも申請
(2021年11月11日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)は、二型糖尿病の血糖治療と心血管疾患リスク抑制、そして左心駆出率(LVEF)が低下した慢性心不全の入院・死亡リスク抑制の適応効能が承認されているが、後者の駆出率低下限定を解除すべくFDAに申請し、優先審査指定されたことが発表された。

LVEFが40%超を維持しているクラスII-IVの慢性心不全に10mgを一日一回、経口投与したEMPEROR-Preserved試験で、心血管死/心不全入院の発生率が13.8%と偽薬群の17.1%を下回り、ハザードレシオ0.79、p<0.001だった。40%未満を組入れたEMPEROR-Reducedのハザードレシオは0.75だったので、Jardianceは駆出率を問わず有効、ということになる。但し、数値が高いほど便益が低下する可能性が残る。

ノバルティスのARB/NEP阻害剤Entresto(sacubitril/valsartan、和名エンレスト)も最初は駆出率低下限定で承認されたが、維持型を組入れた試験が成功し限定解除された。諮問委員会のブリーフィング資料などによれば、FDAはこの二つを分けて考えることに疑問を感じつつあるようだ。LVEFは正常値が十分に確立しておらず、また、同じ患者でも数値が変化するため、適応を定義する指標としては頼りない。このため、50%以下とか60%以下とか閾値を設けるのではなく、担当医が臨床的に判断すべきと考えているようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


Aduhelm、EUは承認しない方向
(2021年11月17日発表)

バイオジェンとエーザイが共同開発している抗アミロイド・ベータ抗体、Aduhelm(aducanumab)は、米国ではアルツハイマー病用薬として6月に加速承認されたが、EUは承認しない方向であることが明らかになった。医薬品専門家委員会であるCHMPのtrend voteが否定的な結果になったため。

Trend voteはCHMPの議長が委員の見解を打診するために非公式に行う。様々な段階で行うことができるが、今回は、CHMPが指摘した問題点に対するメーカー側の口頭説明を11月9日に受けたことを踏まえて、採決したもの。12月のCHMPで否定的意見がまとまる可能性が高く、その前に申請撤回されるかもしれない。

尚、最終評価に関するtrend voteなら一ヶ月待たずに公式採決すればよいようにも思われるが、事前に決定していた議題しか公式採決できない模様だ。意見が異なる委員が欠席した時に抜き打ち採決するような事態を回避する趣旨のようだ。CHMPの委員は各加盟国から送り込まれており、医療風土や価値観が異なる国が不利な扱いを受けないよう、配慮したのかもしれない。

Aduhelmの最近の話題は、カナダの75歳女性がARIA-Eを発症、癲癇重積状態になり死亡したと報じられたこと。ARIAは抗アミロイド抗体の臨床試験でしばしば発生する有害事象で、アミロイド関連造影異常というあまり深刻には聞こえない診断名の略称だ。実際、多くは症状を伴わない由だが、例外もある。今回の症例と薬の関係はまだ検討中とのことだが、これまでに何人に投与したのか(発生確率の点推定値はどれくらいか)くらいは公表すべきなのではないか。

さて、昨年12月に承認申請された日本はどのような判断を下すだろうか。COVID-19ワクチンのブースター接種をプライマリー接種完了の8ヶ月以上後に定めたのはバイデン米国大統領の尻馬に乗ったのだろうが、FDAやCDCが6ヶ月以上後で承認・勧奨した後も変更せず、譲歩(自治体の判断で変更しても良い)に留めるなど、意思決定が遅く判断の根拠も問答無用にする国なので、Aduhelmも審査の内容よりスピードを優先するのだろうか?

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


FDA、キイトルーダを腎細胞腫術後アジュバントに承認
(2021年11月17日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を腎細胞腫の摘出術後アジュバント療法に用いる適応拡大を承認した。再発リスクがintermediate-highまたはhigh、あるいは転移があり完全切除を受けた患者が適応になる。

エビデンスはKEYNOTE-564試験。中間解析でDFS(無病生存)率が22%と偽薬群の30%を下回り、ハザードレシオ0.68(95%信頼区間0.53-0.87)、p=0.001だった。両群ともメジアン値に到達していない。全生存の解析も死亡率が両群合わせて5%と低く、まだ成熟していない。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2021年11月13日

第1025回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ファイザーの抗ウイルス薬が入院死亡を8割抑制 
  • 抗SARS-CoV-2抗体は8ヶ月に亘って感染を予防 
  • コミナティのブースター接種を全成人に認めるよう要請 
  • 血管作動性腸管ペプチドはEUAされず 
  • アビガンの海外試験がフェール 
  • その他の領域: 
  • オプジーボの肺癌ネオアジュバント、延命効果も確認 
  • GIST4次治療薬の2次治療試験がフェール 
  • CHMPがロナプリーブなどの承認を支持 
  • 初度治療にも使える真性赤血球増加症治療用インターフェロンが承認 


【COVID-19関連】


ファイザーの抗ウイルス薬が入院死亡を8割抑制
(2021年11月5日発表)

ファイザーは、PAXLOVID錠の第2/3相軽中等症COVID-19外来治療試験が中間解析で成功したと発表した。組入れを打切り、承認申請に向かう予定。治験成績は一足先に承認申請されたMSDのRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤、molnupiravirと見比べても良好だ。同じ作用機序を持つ塩野義製薬のS-217622にも期待がかかる。

PAXLOVIDは新開発の3CLプロテアーゼ阻害剤PF-07321332と、その代謝酵素であるCYP3A4を阻害して効果を長持ちさせる低量ritonavirの合剤。3CLプロテアーゼはウイルスの複製に必要な非構造蛋白を切り出すシステイン蛋白分解酵素。ヒトのプロテアーゼと異なる部位を持っているためウイルス選択的な作用が期待される。

第2/3相試験では、軽中等症で入院はしていないが重症化リスク因子を持つ、発症から無作為化割付まで5日以内の患者を組入れて、12時間おきに5日間、経口投与する効果や安全性を偽薬と比較した。

主評価項目は発症後3日以内に治療を開始したサブグループにおけるCOVID-19関連入院/全死亡。結果は、試験薬群が389人中3人、偽薬群は385人中27人でハザードレシオは0.11、p<0.0001だった。入院患者のうち死亡者(COVID-19以外の原因も含む)はゼロ対7人。他の患者も含めたintent-to-treatベースの解析も、607人中6人対612人中41人でp<0.0001。死亡数はゼロ対10人だった。

有害事象の発生率は、治療時発現有害事象が19%対21%、深刻有害事象は1.7%対6.6%、有害事象治験離脱率は2.1%対4.1%と、何れも偽薬群を上回らなかった。

molnupiravirは類似した試験で発症5日以内の患者のCOVID-19入院・全死亡を約50%抑制した。点推定値はPAXLOVIDのほうがだいぶ良いが、どちらもイベント発生数が少ないので点推定値だけで判断すべきではない。また、偽薬群のCOVID-19入院・全死亡発生率がPAXLOVIDは6.7%、molnupiravirは14.1%とかなり違うので、治験実施地域の構成や標準療法の内容が異なっていないか、確認が必要だろう。更に、PAXLOVIDの試験は目標症例数3000例の7割を既に組入れたとのことなので、将来、若干異なるアップデート値が公表される可能性もあるだろう。

尚、どちらの試験もワクチン接種歴を持つ人は組入れから除外した。ファイザーは重症化リスクが高くない軽中等症患者を組入れる試験で接種歴を持つ患者のコフォートを設定しているので、ヒントが得られるだろう。

妊婦や授乳者はどちらも除外、妊娠可能な女性はどちらも避妊が求められた。

PAXLOVIDの試験では肝臓疾患や中度以上の腎障害、CYP3A4阻害/誘導/代謝依存薬を必要とする患者も除外された。

リンク: 同社のプレスリリース



抗SARS-CoV-2抗体は8ヶ月に亘って感染を予防
(2021年11月8日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-COV2(casirivimab、imdevimab;和名ロナプリーブ)の曝露後予防試験の延長追跡結果を公表した。主評価期間である4週間だけでなく、その後の7ヶ月間も症候性COVID-19感染を8割抑制した。抗体医薬は値段がワクチンより二桁高く代替品にはならないが、適応に即して投与を受けた人は一定期間、予防効果を期待できることになる。また、効果が8ヶ月続くなら、免疫低下を伴う病気や治療を受けている人の感染予防法として臨床試験を行う価値がありそうだ。

曝露後予防試験は過去4日以内に感染確認された患者の同居者を組入れて、ベースライン時点で感染検査が陰性だった人の症候性感染を28日間追跡した。結果は、偽薬群では752人中59人(7.8%)が発症したのに対して試験薬群は753人中11人(1.5%)に留まり、相対リスク削減率は81%、p<0.0001だった。

今回は8ヶ月間追跡したデータで、第2-8月の症候性感染は偽薬群が842人中38人(4.5%)、試験薬群は841人中7人(0.8%)で相対リスク削減率は81%、p<0.0001だった。入院例は偽薬群が6人、試験薬群はゼロ。死亡は両群ゼロだった。

今回の知見で良く分からないのは、米国で承認されている反復投与法との整合性だ。COVID-19治療に当たる医療従事者などの感染予防を目的に、1200mgを静注/皮注した後に4週毎に600mgを投与するものだが、一回投与の効果が8ヶ月持続するなら、こんなに投与する必要はないのではないか?

REGN-COV2の売上高は今年1~9月に47億ドルと大きく伸長した。感染が再燃した第2四半期に米国政府が大規模調達を行ったことが寄与した。米国外で販売するロシュも12億ドル程度の売上高を計上している。

リンク: 同社のプレスリリース



コミナティのブースター接種を全成人に認めるよう要請
(2021年11月9日発表)

ファイザーとBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、Comirnaty(tozinameran)のEUA(非常時使用認可)を一部変更してブースター接種の対象を18歳以上の全ての人に広げるよう要請した。1万人以上を組入れて追加接種による抗体価の上昇や感染リスクの減少を検討した偽薬対照試験をエビデンスとして再チャレンジする。

BioNTechは元々、16歳以上の全人口を対象にEUA申請したが、FDAは65歳以上の全人口と18~64歳で重症化リスクが高い、または施設内感染リスクが高い人に限定した。一番大きな理由は、感染予防効果は経時的に低下するもののワクチンの一番重要な効能である重症化/死亡リスクを抑制する効果に関しては半年経っても低減するようには見えないことであるようだ。

接種の当否を判断して勧奨するCDC(米国疾病管理予防センター)は、高齢者・介護施設入居者とリスク因子を持つ50~64歳は接種すべき、リスク因子を持つ18~49歳と職業的曝露(医療従事者や教師)のある18~64歳は接種しても良い、と結論した。このうち、職業的曝露は、18年ぶりに、ACIP(ワクチン接種諮問委員会)の判断が覆された。

一方、EUの医薬品専門家委員会であるCHMPは18歳以上で接種完了から6ヶ月以上経った人はブースター接種を考慮しても良い、と発表した。このように、どこで線を引くかは判断が分かれている。

リンク: 両社のプレスリリース



血管作動性腸管ペプチドはEUAされず
(2021年11月4日発表)

NRx Pharmaceuticals(Nasdaq:NRXP)はZyesami(aviptadil acetate)を呼吸不全を合併したCOVID-19の治療薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請していたが、認められなかった。薬効や安全性が十分に示されていないと判定された模様。複数の試験が進行中なので、成功なら再々チャレンジできるだろう。

ZyesamiはVIP(血管作動性腸管ペプチド)を化学合成した点滴静注用薬。2000年代にバイオジェンがスイスのmondoBIOTECHからライセンスして肺動脈高血圧症試験を行ったが、権利返還。mondoは数回の事業統合を経てRelief Therapeutics(SIX:RLF)となり、20年にNeuroRxと共同開発販売提携を結んだ。このNeuroRxがビッグ・ロック・グループのSPAC(特定目的企業買収会社)と合併して21年に誕生したのがNRx Pharmaceuticalsだ。

SARS-CoV-2はACE2を通じて二型肺胞細胞に侵入し肺サーファクタントの分泌を妨げる。VIPはVPAC1受容体を通じて二型肺胞細胞に作用し、肺サーファクタントの分泌を促す作用がある。20年に20人の投与実績に基づいてCOVID-19用薬としてEUA申請したが、FDAは無作為化割付試験のデータを求めた。COVID-19肺炎でネーザルハイフロー以上の呼吸補助を受けている患者196人を組入れた試験で好ましい結果が出たらしく、再申請したが、プレスリリースを読んでも何が主評価項目で何がサブグループ分析なのか理解できず、学会・論文発表もされていないようなので、眉に唾を付けて審査結果を待つしかない状態だった。

aviptadilは連邦政府が主導するACTIV-3bクリティカル・ケア試験やI-SPY COVID-19試験にも採用されているので、効くのか効かないのか、やがて判明する。

リンク: 同社のプレスリリース


アビガンの海外試験がフェール
(2021年11月12日発表)

カナダのAppili Therapeutics(TSX: APLI)はAvigan/Reeqonus(favipiravir)の第3相PRESECO試験がフェールしたと発表した。米墨伯の38施設で陽性判定から72時間以内の軽中等症COVID-19外来患者1231人を組入れて、持続的症状軽快までの期間を偽薬と比較したが、有意な差がなかった。

favipiravirRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤。MSDのmolnupiravirと類似した作用機序を持っているが臨床試験成績は区々だ。今回、大規模な二重盲検試験がフェールしたことで、COVID-19治療薬としての期待は大きく後退した。イベルメクチンにも言えることだが、効果や安全性が確立した治療薬が複数、実用化された今日になっても尚、オフレーベル使用している医師は、医療倫理軽視の誹りを免れないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


オプジーボの肺癌ネオアジュバント、EFS延長効果も確認
(2021年11月8日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)の第3相CheckMate-816試験のもう一つの主評価項目が中間解析で成功認定されたと発表した。ステージIBからIIIAの切除可能非小細胞性肺癌の術前ネオアジュバント療法として化学療法にOpdivoを追加する効果を化学療法だけの群と比較した試験で、切除後に判明するpCR(病理学的完全反応)の解析は昨年10月に中間解析で達成。24%対2.2%と大きく向上した。PD-L1発現や組織学的分類、ステージに関わらず便益があった。但し、延命効果に繋がるかどうかは明確ではなかったため、今回、EFS(無イベント生存期間)の中間解析が成功した意義は大きい。どの程度の効果があったのか、学会論文発表が待たれる。

リンク: 同社のプレスリリース



GIST4次治療薬の2次治療試験がフェール
(2021年11月5日発表)

Deciphera Pharmaceuricals(Nasdaq:DCPH)は広域KIT-PDGFRアルファ阻害剤Qinlock(ripretinib)の開発に成功、昨年5月に米国で消化管間質腫瘍(GIST)の4次治療薬として承認を取得した。今年9月にはEUのCHMPが肯定的意見をまとめた。抗癌剤の開発はサルベージ、再発治療、一次治療と遡っていくのが典型的で、Qinlockもimatinib歴だけを持つ患者の第3相二次治療試験が行われたが、フェールした。

主評価項目に設定された、KITエクソン11プライマリー変異のある327人におけるPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)がメジアン8.3ヶ月とsunitinib群の7.0ヶ月と大差なく、ハザードレシオは0.88、有意ではなかった。Intent-to-treat453人の解析でも8.0ヶ月対8.3ヶ月、ハザードレシオ1.05だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがロナプリーブなどの承認を支持
(2021年11月12日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、抗SARS-CoV-2抗体二品などの承認に肯定的意見を纏めた。この二品は既に承認されたが、他は順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

抗SARS-CoV-2抗体医薬の一つはリジェネロン・ファーマシューティカルズのRonapreve(casirivimab、imdevimab)。12歳以上かつ体重40kg以上の青少年と成人で、COVID-19に感染し酸素投与は不要だが重症化リスク因子を持つ患者の治療、または、感染予防(感染者の同居者などの暴露後予防を含む)に用いる。前者は一回投与のみ、後者は必要に応じて反復投与できる。米国では昨年11月、日本では今年7月に初承認されている。

もう一品は韓国のセルトリオン・ヘルスケアのRegkirona(regdanvimab)。成人の酸素投与不要だが重症化リスク因子を持つCOVID-19感染症の治療に一回だけ点滴静注する。臨床試験では29日以内に入院、酸素投与、または死亡に至った患者がRegkirona群は446人中14人、偽薬群は434人中48人となり、リスクが72%抑制された。Ronapreveの同様な試験のデータと大差ない。

リンク: Ronapreveの概要(EMA)
リンク: Regkironaの概要(同)

Vifor Fresenius Medical Careがケモセントリクス(Nasdaq:CCXI)から米国外の権利を取得して承認申請したTavneos(avacopan)は補体C5受容体阻害剤。ANCA関連血管炎の一種である重症活動期のMPA(顕微鏡的多発血管炎)または多発血管炎による肉芽腫症の治療に用いる。日本はキッセイ薬品がサブライセンスして今年9月にタブネオス名で世界初承認。ケモセントリクスも10月に米国で承認を得た。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのAscendis Pharma(Nasdaq:ASND)のSKYTROFA(lonapegsomatropin)は週一回皮注用の遺伝子組換え型成長ホルモン。3~18歳の成長ホルモン不全に用いる。成長ホルモン治療を初めて受ける小児161人を組入れた52週間の試験で、身長の成長ベロシティが11.2cmとgonadotropin群の10.3cm比非劣性だった。

リンク: EMAのプレスリリース

アムジェンのLumykras(sotorasib)は腫瘍関連遺伝子の一つであるKRASのG12C変異を標的とする阻害薬。開発不可能と思われていたが、アムジェンが成就した。CHMPはこの変異を持つ非小細胞性肺癌の二次治療薬として条件付き承認することを支持した。米国ではLumikras名で5月に加速承認、日本では4月に承認申請された。市販後コミットメント試験の結果がもうそろそろ出るのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース

SIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)のTecovirimat SIGA(tecovirimat)は抗オルソポックスウイルス薬。体重13kg以上の青少年と成人のオルソポックスウイルス(天然痘、サル痘、牛痘)の治療や天然痘ワクチン接種後にワクシニアウイルスが増殖してしまった時の治療に用いる。天然痘はワクチンが普及して消えたはずだがバイオテロに使われる可能性もある。臨床試験の実施は非現実的なので動物試験で効果を検証した。CHMPは例外的条項に基づく承認を支持。米国では18年7月に天然痘治療薬TPOXXとして承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

Viela BioのUplizna(inebilizumab)は抗CD19afucosylated抗体。NMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)の治療薬で、患者の8割を占めるAQP4に対する自己抗体保有者が適応になる。中外/ロシュのEnspryng(satralizumab)や7月にアストラゼネカが子会社化したアレクシオンのSoliris(eculizumab)と比べて投与頻度が低く免疫抑制剤を併用しなくてもよい。米国では昨年6月に、日本では田辺三菱がユブリズナ名で今年3月に、承認を取得した。

Viela Bioは18年にアストラゼネカのバイオ薬子会社、Medimmuneからスピンアウトし、今年3月にHorizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)に買収された。

リンク: EMAのプレスリリース

SERB SASのVoraxaze(glucarpidase)はメトトレキサートを不活性代謝物に変える解毒剤。CHMPは例外的条項に基づく承認を支持した。3月にボストン・サイエンティフィックから取得したBTG Specialty Pharmaceuticalsの開発品で、米国では2012年に承認。日本では大原薬品が導入し今年9月にメグルターゼ名で製造販売承認を取得した。

ルンドベックのVyepti(eptinezumab)は抗CGRP抗体。片頭痛日が月4日以上ある成人の予防に用いる。12週に一回、点滴静注する。CGRP標的薬は小分子薬も含めて続々、承認されている。19年に買収したAlder BioPharmaceuticalsの開発品で、米国では昨年2月に承認。

ノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)はGLP-1作動剤。肥満症または二型糖尿病や高血圧などを併発するオーバーウェイトに、カロリー抑制食事療法と運動療法とともに用いる。2.4mgを週一回、皮注。米国では昨年6月に承認。

今月の適応・対象拡大は小児の対象年齢引き下げなどなので割愛する。

申請者が再評価を請求したが再び否定的意見となったのは、協和キリンのアデノシンA2A受容体拮抗剤、Nouryant(istradefylline、和名ノウリアスト)。日米でパーキンソン病薬として承認されているが、CHMPは薬効確認試験8本中4本しか成功せず、用量反応相関も見られず、欧州の患者を組入れた試験は二本ともフェールしたことから、薬効の立証が不十分と判定した。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


初度治療にも使える真性赤血球増加症治療用インターフェロンが承認
(2021年11月12日発表)

FDAはファーマエッセンシア(TPEx:6446)のBesremi(ropeginterferon alfa-2b-njft)を真性赤血球増加症(PV)の治療薬として承認した。通常はヒドロキシウリアが第一選択だが、FDAは二次治療に限定しなかった。初度治療に使える薬の正式承認は初。PVにインターフェロン製剤が承認されたのも初。

欧州でインライセンスして19年に承認を取得したAOP Orphan Pharmaceuticalsが実施した試験で、血液学的寛解率(瀉血なしでヘマトクリットが45%未満に低下し、白血球や血小板などは正常範囲内、且つ血栓が発生しない)が61%だった。有害事象は肝臓酵素上昇や白血球数・血小板数の減少など。インターフェロン・アルファのクラス警告である、命に係わることもある精神疾患、自己免疫疾患、虚血や感染症が枠付き警告されている。

FDAはCOVID-19による渡航制限で海外工場の査察が困難になっている。Besremiも台湾工場査察の遅れで一度は審査完了通知が出たが、何とかなったようだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファーマエッセンシアのプレスリリース(Business Wire)






今週は以上です。

2021年11月5日

第1024回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • MSDのmolnupiravir、まず英国で承認 
  • Modernaのワクチン、米国の18歳未満は来年までお預け 
  • コミナティ、米国で5-11歳にも承認 
  • WHO、インドのワクチンを非常時使用リストに収載 
  • イーライリリー、EUで抗SARS-CoV-2抗体の承認申請を撤回 
  • その他の領域: 
  • アッヴィ、カリプラジンを鬱病に適応拡大申請へ 
  • インサイト、PI3K阻害剤を承認申請 
  • Amylyx、ALS用薬の承認申請を断行 
  • オラペネムの経口剤が承認申請 
  • ノバルティス、キムリアを濾胞性リンパ腫に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、プラダー・ウィリ症候群用薬として承認することに反対 
  • 新種のPh+CML用薬が承認 
  • 老眼治療薬が承認


【COVID-19関連】


MSDのmolnupiravir、まず英国で承認
(2021年11月4日発表)

英国の薬品審査機関であるMHRAは、世界に先駆けて、MSDのLagevrio(molnupiravir)を成人の軽中等症COVID-19感染症の治療薬として条件付き承認した。SARS-CoV-2感染が確認された、重度疾患合併リスク因子を一つ以上保有する患者が適応になる。早い段階のほうが効くので、発症から5日以内に治療を開始するよう推奨している。妊婦は推奨されない。

エモリー大学の非営利組織が発見、MSDがRidgeback Biotherapeuticsと共同で開発したRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤。活性代謝物のNHC-TPがウイルスのRNAに紛れ込みゲノムを改変する。200mgハードカプセルを4個ずつ、一日二回、5日間服用する。

第3相試験では、軽中等症COVID-19感染症で、入院していない、ワクチン接種歴がない、重症化リスク因子を持つ、発症から無作為化割付まで5日以内の、患者に投与したところ、29日間に入院または死亡した患者が中間解析で385人中28人(7.3%)と、偽薬群の377人中53人(14.1%)と比べて有意に少なかった。ウイルスのゲノム分析が行われた症例では、ガンマやデルタ、ミュー株にも効果が見られた。死亡者はゼロ対8人。薬物関連有害事象発生率は12%対11%だった。有害事象治験離脱率は1.3%対3.4%で偽薬群を上回らなかった。

この種の薬は人間のゲノムに紛れ込むと困るが、英国のSPC(製品概要書)によると、遺伝子毒性や変異原性のリスクは小さいと判断されている。妊娠能にも影響は見られなかった。一方、妊娠した動物や胎児、子供の発達には影響が見られた。このため、妊婦に投与することは推奨されていない。また、一定の期間、妊娠や授乳を避ける。

ワクチン接種歴は不問だが、接種した人にも有効という記述はない。英国ではブースター接種が始まっている。効果が長続きしないと考えているのだろうから、〇×ではなく、接種後の経過期間や免疫低下疾患/治療の有無などに基づいて、裁量を効かすよう求めているのかもしれない

リンク: MHRAのプレスリリース
リンク: 英国のSPC
リンク: RidgebackとMSDのプレスリリース



Modernaのワクチン、米国の18歳未満は来年までお預け
(2021年10月31日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA)のCOVID-19ワクチン、Spikevaxは、7月にEUや日本で12~17歳にも承認され、6~11歳に50mcgを3週おいて二回接種する対象年齢・用量追加も申請される見込みだが、米国は遅れている。12~17歳はEUA(非常時使用認可)を申請中だが、心筋炎リスクに関する国際的分析データを追加提出したところ、来年1月より前に承認するのは難しいとの通知を受けた。承認されるまで6~11歳の申請を先送りすることを決めた。

同社やBioNTech/ファイザーのmRNAワクチンの極めて稀な副作用として、心筋炎や心膜炎を発症することがある。10代から20代前半の男子が多いが、これは、COVID-19ワクチンと関係ない症例でも同じだ。ModernaはFDAに日欧の17歳以下の市販後有害事象報告データを提出したものと推測される。FDAの反応から推測すると、好ましいものではなかったのではないか?EMAのPRACが今月、何か公表するかどうか、注目される。

リンク: Modernaのプレスリリース



コミナティ、米国で5-11歳にも承認
(2021年11月2日発表)

BioNTech(Nasdaq:BNTX) /ファイザーは、10月29日、FDAがCOVID-19ワクチンのComirnaty(tozinameran)を5-11歳に接種することをEUA(非常時使用認可)したと発表した。16歳以上の用量の1/3に当たる10mcgを3週おいて二回筋注する。臨床試験で中和抗体価が16~25歳の試験データと非劣性で、副作用も同程度だった。追跡期間中の症候性感染者は1450人中3人で、偽薬群の736人中16人と比べてリスクが90%小さかった。11月2日にはCDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が全員一致で接種を推奨した。対象人口は2800万人。

mRNAワクチンでは10代男子を中心にごく稀に心筋炎・心膜炎が散見される。10月21日と11月2日のACIPでCDCタスクフォースのプレゼンがあったので付記しておこう。

Comirnatyは昨年12月に16歳以上の青少年と成人に、今年5月には12~15歳にも、EUAされた。10月21日のプレゼンによると、VAERS(ワクチン有害事象報告システム)に全年齢男女合計で797例の心筋炎が報告されている(未検証を含めるともっと多い)。接種100万回当り罹患率を見ると、一番多いのが16~17歳の男子の二回目接種時の69.1だ。日本でいえば、16~17歳の男子全てが接種すれば70人程度が罹患する計算になる。但し、12~15歳と18~24歳の二回目接種時の罹患率は100万人当たり30~40と半分なので、16~17歳の真の値はもっと低い可能性もあるのではないか。

11月2日のACIPでは追加的な情報が示された。10月6日時点で30歳以下のmRNAワクチン接種者の心筋炎が1640件、VAERSに報告され、うち877件はCDCの心筋炎判定基準に合致することの確認が終わった。この877人のうち、789人(95%)は入院したが、うち607人は報告時点で症状が回復したことが分かっている(回復率76%以上)。MRI検査が行われた312人中223人(72%)で心臓に異常が見られた。

心筋炎罹患率(100万接種当り)

ComirnatySpikevax
1回目2回目1回目2回目
男性:
12~15歳4.239.9--
16~17歳5.769.1--
18~24歳2.336.86.38.5
25~29歳1.310.83.417.2
女性:
12~15歳0.43.9--
16~17歳0.07.9--
18~24歳0.22.50.65.3
25~29歳0.21.20.45.7
注:10月6日までにVAERSに届出された、接種後0-6日に発生した心筋炎の症例のうち、797例の分析。
出所:21年10月21日のACIPプレゼン資料から抜粋。


リンク: CDCのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース(EUAについて、10/29付)
リンク: John Su博士のACIPプレゼン資料(10/21付、pdfファイル)
リンク: Oster博士のACIPプレゼン資料(11/2付、pdfファイル)



WHO、インドのワクチンを非常時使用リストに収載
(2021年11月3日発表)

WHO(世界保健機関)はインドのBharat Biotech社のCovaxinを18歳以上のCOVID-19ワクチンとしてEUL(非常時使用リスト)に収載したと発表した。Indian Council of Medical ResearchおよびNational Institute of Virologyと共同開発した全粒子不活化ワクチンで、vero細胞で培養する。通常の冷蔵庫で保管できるので低中所得国にも便利。インドの施設で18~98歳の25798人を組入れて4週おいて二回接種した試験では症候性感染が偽薬比77.8%少なかった。デルタ株感染も65%防いだ。

EUL収載は7製品目。これまでに、BioNTech/ファイザーやModernaのmRNAワクチン、アストラゼネカ/SKBio/Serum Institute of IndiaやJanssen–Cilagのアデノウイルスベクター・ワクチン、そして中国系のSinopharm(中国医薬集団)/BIBPやSinovac(北京科興生物制品有限公司、Nasdac:SVA)の不活化ワクチンが収載されている。医薬品の承認審査体制が整っていない国は、WHOなどの判断を援用して承認の是非を決めることになる。

リンク: WHOのプレスリリース



イーライリリー、EUで抗SARS-CoV-2抗体の承認申請を撤回
(2021年11月2日発表)

EMAは今年3月にイーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体カクテル(bamlanivimab、etesevimab)のローリング審査に着手したが、中止した。リリーが手続きを打ち切ったため。EMAの医薬品専門家委員会であるCHMPは生産方法のバリデーションを要求したが、リリーは、欧州における現在の需要に鑑み、当面は生産する必要がないと判断した。EUではあまり売れていないということなのだろう。

この二剤は前者はカナダのAbCellera Biologicsから、後者は中国のJunshi Biosciencesからライセンスして開発したもの。米国では昨年11月にbamlanivimabが、今年2月には両剤併用が、EUAされた。その後、bamlanivimabはin vitroでE484変異やL452R変異などを持つウイルス株に対する活性が低かったことから今年4月に単剤のEUAが取り消され、併用も連邦政府の調達がストップしていた。しかし、ワクチン接種開始後も感染の波が来たことや、流行の中心であるデルタ株には有効であることから、8月に再開。9月には曝露後予防に用いることもEUAされた。連邦政府が一括調達しており、9月に38.8万回分のetesevimabを3.3億ドルで、今月には来年1月までに61.4万回分の両剤を12.9億ドルで、調達する旨、合意している。

EUでは一部の加盟国が先行承認を望んだことから、EMAが3月に肯定的なアドバイスを行った。使っている国もあるのではないかと想像していたが、誰が見てもリジェネロン/ロシュの競合品のほうが輝いているので、出番は限定的だったのだろう。米国連邦政府は3年前からAbCelleraとパンデミック対応に向けた共同プロジェクトを進めてきたが、欧州政府は特別な思い入れはないだろうし。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イーライリリーの撤回通知(10/29付、pdfファイル)



【新薬開発】


アッヴィ、カリプラジンを鬱病に適応拡大申請へ
(2021年10月29日発表)

アッヴィはVraylar(cariprazine、欧州のブランド名はReagila)の第3相大鬱病アジャンクト試験のトップラインを発表した。ポテンヒット程度の成績だが米国で適応拡大申請する考え。

VraylarはドパミンのD3、D2やセロトニンの5-HT1A受容体の部分作動剤。ハンガリーのゲデオン・リヒターから北米の権利などを取得したもの。米国では統合失調症の急性期治療や維持療法、双極障害I型の躁・混合症状や鬱症状の治療に承認されている。アッヴィは8月に日本でも開発商業化する計画を発表した。

鬱病試験は抗鬱剤に十分反応しない患者を偽薬、1.5mg/日、または3mg/日の3群に無作為化割付して第6週における症状改善をMADRS(Montgomery Åsberg Depression Rating Scale)総スコアで評価した。二本実施したところ、1.5mg/日は一勝一敗、3mg/日は二敗となった。主な有害事象はアカシジア、悪心、傾眠、頭痛、不眠。

承認申請はリヒターが実施した第2相鬱病アジュバント試験のデータも主要エビデンスとして使う予定。用量を固定しないフレキシブル・ドース方式で、1~2mg/日と2~4.5mg/日の第8週MADRS改善効果を偽薬と比較したところ、後者が成功した。

鬱病試験は偽薬効果が大きく出がちで、承認されている薬でもしばしばフェールする。このため、治験成績が二勝一敗でも承認を取ることは不可能ではないだろう。ただ、今回は1.5mgまたは1~2mg/日を投与した群が一勝二敗、3mgまたは2~4mgを投与した群も一勝二敗と負け越している。何か隠し玉があるのだろうか?

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認申請】


インサイト、PI3K阻害剤を承認申請
(2021年11月1日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)はINCB050465(parsaclisib)を米国で承認申請し受理されたと発表した。PI3Kデルタ阻害剤で、適応症のうち、抗CD20抗体歴を持つ成人の難治再発性辺縁帯リンパ腫と一次以上の治療歴を持つ成人のマントル細胞腫は優先審査を受け、審査期限は来年4月30日、二次治療の全身治療歴を持つ難治再発濾胞性リンパ腫は標準審査で8月20日。第二相非ホジキンリンパ腫試験に基づく申請。

リンク: 同社のプレスリリース



Amylyx、ALS用薬の承認申請を断行
(2021年11月2日発表)

米国のAmylyx社は、AMX0035(sodium phenylbutyrateとtauroursodeoxycholic acidの合剤)をALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬として開発、6月のカナダに続いて、米国でも承認申請した。尿素サイクル異常症の治療薬と原発性胆汁性肝硬変の治療薬を併用で転用することによって、小胞体とミトコンドリアの両方の神経変性回路を抑制し、神経細胞死を抑制することが期待されている。

承認申請の根拠となる第2相試験は19年12月に成功発表され、昨年夏にNew England Journal of Medicine誌に論文掲載された。発症後18ヶ月以内の患者135人を偽薬またはAMX0035に無作為化割付して一日二回(最初の3週間は一回)経口投与し、24週後のALSFRS-Rスコアを比較したところ、偽薬群は月平均1.66ポイント低下したが試験薬群は1.24ポイント低下に留まり、24週間で2.32ポイントの差があった(p=0.03)。有害事象による治験離脱は各群8%と19%だった。

この試験は承認薬であるRadicava(edaravone)やriluzoleの使用が容認されていて、前者はベースライン時点で偽薬群の50%と試験薬群の25%が、後者は各77%と68%が、治療を受けていた。edaravoneの承認の根拠となった日本の第3相試験では、ALSFRS-Rのベースライン平均値が41.9と今回の試験の36より大きかった(病状が軽かった)が、治療効果は2.49で今回の2.32と同程度であった。

また、オープンレーベル延長試験期間も含めた中間解析で、偽薬開始群のメジアン生存期間が18.5ヶ月であったのに対して、試験薬群は25.0ヶ月で、死亡ハザードレシオは0.56だった。

数値は良いが症例数が少ないので頑強とは言い難い。承認薬併用率に群間の偏りがあること自体は、試験薬に不利に働く可能性があるので保守性の観点から容認できるが、このような大きな偏りが他にも発生していないか、気になるところだ。第3相試験の結果が出るのはまだ先なので、当面は、FDAが申請を受理するかどうかが注目だ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Paganoniらの治験論文(New England Journal of Medicine誌)



オラペネムの経口剤が承認申請
(2021年10月28日発表)

Spero Therapeutics(Nasdaq:SPRO)はSPR994(tebipenem pivoxil hydrobromide)を複雑性尿路感染症(腎盂腎炎を含む)の治療薬としてFDAに承認申請した。Meiji Seikaファルマがオラペネム(tebipenem pivoxil)を経口投与できるように開発した新製剤で、日本など以外の市場でライセンスした。600mgを一日3回投与した第3相では、臨床的治癒率と細菌学的駆除率がInvanz(ertapenem)と非劣性だった。深刻な治療時発現有害事象発生率は1.3%対1.7%で大差なかった。

リンク: 同社のプレスリリース



ノバルティス、キムリアを濾胞性リンパ腫に適応拡大申請
(2021年10月27日発表)

ノバルティスはCAR-T療法のKymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)を成人の二次以上の治療歴のある再発/難治濾胞性リンパ腫に適応拡大すべく、欧米で承認申請し受理されたと発表した。日米欧で希少疾患薬指定を受けている。

第2相試験では完全反応率(独立評価委員会方式、n=94)が66%だった。CAR-T固有の副作用の発生率(n=97)は、G3/4サイトカイン放出症候群はゼロ、G4神経学的イベントは1例と少なかった。

Kymriahは米国で難治/再発性前駆B急性リンパ芽球性白血病やある種のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、プラダー・ウィリ症候群用薬として承認することに反対
(2021年11月4日発表)

シカゴの医薬品開発企業、Levo Therapeuticsは、LV-101(carbetocin)をプラダー・ウィリ症候群(PWS)用薬としてFDAに承認申請したが、11月4日に開催された精神薬理学薬諮問委員会は、13人中12人が承認に反対した。驚きではない。

第三相試験で共同主評価項目に設定された9.6mg群の過食症状スコアと強迫症状スコアの解析が何れもフェールし、承認申請された3.2mg群も過食症状スコアしか偽薬群を大きく上回らなかった。後者は副次的評価項目なので、主評価項目がフェールしたためpが0.05を下回っていても統計的に有意ではない。

通常、第三相試験は二本実施して再現性を確認する必要があるため、FDAは承認申請に後ろ向きだったが、同社は断行した。有害事象面では、延長試験で8人が深刻有害事象により離脱した。主として精神症状が原因だった。

PWSは16000出生に一人の希少神経発達障害。食欲が抑制できず過食、肥満などを伴う。carbetocinは神経内分泌ホルモンのオキシトシンの類縁体で、帝王切開後の異常出血予防などに一部の国で用いられている。LV-101は点鼻スプレー製剤で、スイスのFerring PharmaceuticalsからPWS治療薬としての権利を取得した。


【承認】


新種のPh+CML用薬が承認
(2021年10月29日発表)

FDAはノバルティスのScemblix(asciminib)を成人の慢性期フィラデルフィア転座陽性(Ph+)慢性骨髄性白血病用薬として加速承認した。2種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤(TKI)歴を持つ、または、T315I変異の癌が適応になる。

同社のGleevec(imatinib)など既存のBCR-ABL阻害剤はATP競合的に阻害するが、ScemblixはABLミリストイル・ポケットを標的とするアロステリック・インヒビターで、耐性変異に強い。

2種類以上のTKI治療歴を持つ患者223人を組入れて24週MMR(分子遺伝学的大奏効)率をファイザーのBosulif(bosutinib)と比較した第3相では、25%対13%と有意に上回った。有害事象治験離脱率は5.8%対21.1%とだいぶ良かった。この試験は40mgを一日二回、経口投与したが、80mg一日一回も承認された。

T315I変異45人を組入れて200mgを一日二回経口投与したた第1相試験では、24週MMR率が42%だった。

リンク: FDAのプレスリリース



老眼治療薬が承認
(2021年10月29日発表)

アッヴィが20年に630億ドル(株式価値ベース)で買収したアラガン社のVUITY(pilocarpine HCI)が老眼治療薬として承認された。老眼治療薬は初めて。一日一回、点眼する。臨床試験では15分で効果が発現、最大6時間持続した。

活性成分はムスカリン受容体刺激剤で、錠剤がシェーグレン症候群や一部の抗癌剤の副作用として発現するドライマウスの治療に用いられている。点眼剤も緑内障の治療に用いられることがあるようだ。老眼における作用機序は瞳孔括約筋の収縮を補助し焦点を合わせやすくするとのこと。

第3相試験では近見視力が改善し、遠見視力はあまり悪化しなかった。治療時発現有害事象は頭痛、結膜充血、霞目、目の痛みなど。遠近の焦点切替が一時的に困難になることがあるので注意する。

リンク: アッヴィのプレスリリース






今週は以上です。