2019年6月30日

2019年6月30日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • イムフィンジの小細胞性肺癌試験が成功 
  • Conatus、P2bNASH試験が三本ともフェール 
  • オプジーボ、肝細胞腫一次治療試験がフェール 
  • サノフィ、4価髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンを承認申請 
  • GSK、PARP阻害剤を適応拡大申請 
  • FDA、AcerのvEDS用薬を承認せず 
  • CHMPが合成アンジオテンシンIIの承認などを支持 
  • ダラザレックス、Rdレジメン併用が承認 
  • ソリリス、神経脊髄炎に適応拡大 
  • Dova社のスロンボポイエチン受容体アゴニストが適応拡大 
  • デュピクセント、鼻ポリープに適応拡大 


【新薬開発】


イムフィンジの小細胞性肺癌試験が成功
(2019年6月27日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第三相CASPIAN試験の中間解析が成功したと発表した。進展型小細胞性肺癌の一次治療試験で、cisplatinまたはcarboplatinをetoposideと併用する化学療法レジメンに追加したところ、全生存期間が化学療法のみの群より統計的に且つ臨床的にも有意に伸びたとのこと。データは学会発表の予定。

この試験は、ファイザーからライセンスした抗CTLA4抗体tremelimumabも追加する四剤併用レジメン群と化学療法群の全生存期間の比較も共同主評価項目となっているため、続行される。

ImfinziはPD-L1陽性尿路上皮種の二次治療や非小細胞性肺癌の一次治療後維持療法に承認されている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Conatus、P2bNASH試験が三本ともフェール
(2019年月日発表)

Conatus Pharmaceuticals(Nasdaq:CNAT)は、emricasanの後期第二相NASH治療試験、ENCORE-LFがフェールしたと発表した。非代償性肝硬変を合併する患者に5mgまたは25mgを一日二回投与してイベント・フリー・サバイバルを観察したが偽薬群と有意差がなかった。

emiricasanは不可逆的汎カスパーゼ阻害剤。Idun Pharmaceuticalsを05年に買収して入手したファイザーが、08年に慢性C型肝炎治療薬としての開発を断念。買収までIdunの経営者であったSteven Mentoが設立したConatus社が権利を取得し、肝移植やNASH領域で開発を進めた。17年にはノバルティスがオプト・イン・オプションを行使、第三相以降の開発を担う計画だった。

ここ数年、新興新薬開発会社によるNASH治療薬の開発が活発化しており、ノバルティス以外の大手もインライセンス活動を積極化していた。しかし、少なくともemricsanの場合は、肝移植も、NASH線維症も、NASH肝硬変の門脈圧亢進治療も、そして今回、疾病が進行した患者を組入れた試験も、フェールした。Conatusは従業員のリストラを発表。投資銀行に戦略的代替策の提案を求めたとのことであり、他のパイプラインが有望なら第三者が買収し、そうでなければ会社更生・清算に進むことになりそうだ。

リンク: Conatus社のプレスリリース
リンク: 同(リストラについて)

オプジーボ、肝細胞腫一次治療試験がフェール
(2019年6月24日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckMate-459試験がフェールしたことを発表した。切除不能肝細胞腫の一次治療における延命効果をNexavar(sorafenib)と比較した第三相試験で、ハザードレシオは0.85、95%上限は1.02、p=0.0752と、あと一歩届かなかった。

Opdivoは17年にFDAが第二相試験のORR(客観的反応率)データに基づき肝細胞腫の再発治療に用いることを承認した。しかし、欧州のCHMPは、当該試験が対照試験ではなく文献データとの比較も難しいことから承認に難色を示し、申請撤回となった。

第三相のフェールは残念だが、一次治療薬として承認されている薬と比べて効果が明確に優れていなくても、二次治療の承認が取り消されるほど決定的なダメージではないだろう。他の試験のデータでリカバリーショットを打てるかどうかが鍵になりそうだ。

抗PD-1/PD-L1抗体は破竹の勢いだが、当然、取りこぼしもある。肝細胞腫では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)も第二相試験のORRデータに基づいてNexavarの次に使う薬としてFDAに承認されたが、市販後薬効確認試験はフェールし、全生存期間もPFS(無進行生存期間)も偽薬比有意な差はなかった。

尤も、95%上限は1を下回っており、敗因は、p値の閾値が全生存は0.0174、PFSは0.002と通常より厳しかったこと、言葉を換えれば、二兎どころか三兎も四兎も追ったことと推測される。本当に効かないのかどうか、まだ結論は出せない。

抗PD-1/PD-L1は第一相や第二相の併用試験で良さそうな数値を出している。Opdivoは同じくBMS社のYervoy(ipilimumab)と、KeytrudaはMSDが共同開発販売しているエーザイのlenvatinibなどと、ロシュは同社のTecentriq(atezolizumab)をAvastin(bevacizumab)と、組み合わせてORRをモノセラピーの20%から30%超に引き上げることに成功している。20%が不十分でも30%ならハードルをクリアできる可能性があるのではないか。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認申請】


サノフィ、4価髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンを承認申請
(2019年6月27日発表)

サノフィは、MenQuadfiを米国で承認申請し、受理されたと発表した。審査期限は来年4月25日。A、C、Y、W群髄膜炎菌をカバーするジフテリアトキソイド結合ワクチンで、2歳以上の髄膜炎菌性髄膜炎の予防に用いる。完全液状ワクチン。

リンク: サノフィのプレスリリース

GSK、PARP阻害剤を適応拡大申請
(2019年6月24日発表)

GSKは、Zejula(niraparib)を進行卵巣癌の四次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は10月24日。今年1月に負債承継を含めて51億ドルで買収したTesaro社がMSDからライセンスして開発したPARP1/2阻害剤で、17年に欧米で難治性白金感受性卵巣癌の維持療法として承認された。

今回の申請は第二相QUADRA試験に基づくもので、主評価項目である相同組換え不全(HRD)陽性で白金薬レジメンによる直前の治療に感受した患者47人におけるORR(担当医評価)が28%だった。治療時発現深刻有害事象は小腸閉塞(7%)、血小板減少症(7%)、嘔吐(6%)など。

GSKは、HRDまたはBRCA変異を持ち、直前の白金薬レジメンの後、6ヶ月以上、癌が進行しなかった患者に用いることを求めている。BRCA変異は卵巣癌の35%程度、BRCA野生・HRD陽性は30%程度を占めるとされるので、PARP阻害剤の中でもカバレッジが比較的広くなる。Zejula自身も含めて、PARP阻害剤は早期段階で使う場合はBRCA不問であることが多いので、将来は全面戦争になるのだろうが、序盤戦における後発の不利を補う上で重要なセールスポイントだ。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA、AcerのvEDS用薬を承認せず
(2019年6月25日発表)

Acer Therapeutics(Nasdaq:ACER)はEdsivo(celiprolol)を血管エーラス・ダンロス症候群(vEDS)の治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。よくデザインされた対照試験で臨床的な効用を明確にするよう求められた由。

celiprololは高血圧治療薬として承認されている心選択的アドレナリン受容体ベータ1アンタゴニスト。vEDSはコラーゲン線維形成機構の異常を原因とする希少疾患で、皮膚無力症、皮膚脆弱症、過剰弾力性皮膚などと呼ばれることもあるようだ。

フランスとベルギーの施設で行われた4年間の試験で動脈イベント発生率が20%と、治療しなかった対照群の50%を有意に下回った。その後、フランスでは普及率が大きく上昇した模様。尤も、この試験の組入れは53人に過ぎず、米国申請の対象であるタイプIIIコラーゲン変異型は33人と更に少ない。

希少疾患なので大目に見てもらえる可能性もあったのだろうが、承認されなくても意外感はない。

リンク: Acer社のプレスリリース(GlobeNewsWireのサイト)

CHMPが合成アンジオテンシンIIの承認などを支持
(2019年6月28日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、6月の会合で、アンジオテンシンIIの承認などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

新薬で肯定的意見を得たのはLa Jolla Pharmaceuticals(Nasdaq:LJPC)のGiapreza(angiotensin II acetate)。敗血症などによるショックで血圧が低下し、カテコラミンによる治療に十分反応しない患者に、最大で7日間、連続点滴静注する。米国では17年12月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: La Jollaのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を得たのは、まず、ロシュの抗PD-L1抗体、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)。切除不能局所進行・転移トリプル・ネガティブ乳癌の一次治療にnab-paclitaxelと併用する。腫瘍浸透免疫細胞のPD-L1検査で陽性(1%以上)の場合に適応になる。nab-paclitaxelの投与サイクルに合わせて2週毎に投与する。

米国は今年3月に承認。抗PD-L1/PD-1抗体が遂に乳癌領域まで進出してきた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

次に、イーライリリーの抗VEGFR-2抗体、Cyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)。AFP(アルファ・フェトプロテイン)が400 ng/mL以上の肝細胞腫でsorafenibによる治療歴を持つ患者が対象。臨床試験では全生存のハザードレシオが偽薬比0.71だった。米国では先月、日本では今月、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

そして、ジョンソン・エンド・ジョンソンがアッヴィと共同開発販売しているBtk阻害剤、Imbruvica(ibrutinib)。CLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)の一次治療にobinutuzumab併用と、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の治療にrituximab併用という用法追加が支持された。

リンク: EMAのプレスリリース

対象年齢拡大では、ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤、Victoza(liraglutide)。10歳以上の青少年二型糖尿病患者が使えるようになる。小児二型糖尿病に承認されている血糖治療薬はインスリンとmetforminしかないため重要。米国では今月承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、ノボのFiasp(insulin aspart)。糖尿病の対象年齢を1歳以上に拡大する。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発販売している抗IL-4Rアルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)。中重度アトピー性皮膚炎の対象年齢を12-17歳に拡大する。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、否定的意見となった新薬は、UCBがアムジェンと共同開発した抗スクレロスチン抗体、Evenity(romosozumab、和名イベニティ)。日本は今年1月に、米国も4月に骨粗鬆症治療薬として承認したが、CHMPは、臨床試験で心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患が対照群より多かったことや、75歳以上で死亡者が多かったことを懸念した。後者は初耳で驚かされた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース

対象拡大申請に否定的意見が出たのはPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のTranslarna(ataluren)。EUでデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として14年に条件付き承認されたが、対象はジストロフィン遺伝子にナンセンス変異を持つ5歳以上の歩行可能な患者に限定された。PTCは歩行できなくなった患者に適応拡大(限定解除)を図ったが、CHMPは、薬効のエビデンス不足と判定した。

CHMPによると、薬物動態試験で歩行可能な患者と同様なデータを出したが、病気が進行し歩行できなくなった患者が必要とする便益は異なる。臨床的効用を検討した試験は文献データを対照群としたが、患者登録データの選択方法などが不適切。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


ダラザレックス、Rdレジメン併用が承認
(2019年6月27日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の用法追加申請がFDAに承認されたと発表した。ジェンマブ社からライセンスした抗CD38抗体で、多発骨髄腫の再発治療や初度治療に日米欧で承認されているが、今回、自己幹細胞移植が不適な新患にRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneを併用することが承認された。

第三相MAIA試験では、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.56、メジアンPFSはDRd群が未達、Rd群は31.9ヶ月だった。

リアル・タイム・オンコロジー・リビューの対象で、承認申請からのリードタイムは3ヶ月。もう一つの代表的な一次治療法であるVMPレジメン(bortezomib、melphalan、prednisone)との併用は米国で昨年5月に承認されている。また、自己幹細胞移植が可能な患者に、BTd(bortezomib、thalidomide、dexamethasone)と併用する用法も今年3月に米国で承認申請された。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

ソリリス、神経脊髄炎に適応拡大
(2019年6月27日発表)

FDAは、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)の抗C5抗体、Soliris(eculizumab、和名ソリリス)を抗アクアポリン4抗体陽性型NMOSD(視神経脊髄炎)に適応拡大した。日欧の承認機関も審査中。

NMOSDは歩行障害や失明、死亡のリスクを伴う疾患で、米国の推定患者数は4000-8000人。7-8割の患者で抗アクアポリン4自己抗体が見られる。Solirisの臨床試験では、再発頻度が偽薬比94%小さかった。米国でNMOSD治療薬が承認されたのは初。但し、rituximabのような抗CD20抗体などがオフレーベルで使用されているようなので、超高額薬であるSolirisの出番は難治例に限定されるのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アレクシオン社のプレスリリース

Dova社のスロンボポイエチン受容体アゴニストが適応拡大
(2019年6月27日発表)

Dova Pharmaceuticals(Nasdaq:DOVA)は、FDAがDoptelet(avatrombopag)の適応拡大を承認したと発表した。慢性免疫性血小板減少症で前治療に十分反応しなかった成人に用いる。他社のスロンボポイエチン受容体アゴニストが先に承認されているので、肩を並べただけで売上影響は限定的なのではないか。

オリジンは山之内製薬で、藤沢薬品と合併した時に山之内アメリカからスピンアウトしたAkaRXが開発を承継した。AkaRXはMGIに買収されたが、MGIを買収したエーザイがDovaのグループ会社に売却したという経緯。重度血小板減少症を合併する慢性肝疾患の患者が手術を受ける前に血小板数を増やす薬として、18年に米国で、今週、EUでも、承認された。このリードインディケーションを選んだのは先行品との競合を避ける意図と推測されるが、前後して塩野義製薬のMulpleta(lusutrombopag)も日米で同じ用途に承認されており、競合している。

リンク: Dova社のプレスリリース
リンク: 同(EU承認、6/25付)

デュピクセント、鼻ポリープに適応拡大
(2019年6月26日発表)

FDAは、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)の適応拡大を承認した。管理不良な重度慢性副鼻腔炎を伴う鼻ポリープの治療に用いるもの。臨床試験ではポリープの退縮や鼻詰まり症状の改善が見られた。深刻なアレルギー反応や結膜炎、角膜炎に注意する必要がある。生ワクチンの接種は避ける。

サノフィと共同開発販売している抗IL-4Rアルファサブユニット抗体で、これまでに中重度アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症の治療薬として承認されている。用法は同じなので、日本で承認されれば薬価ベースで年200万円程度になる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース




今週は以上です。

2019年6月23日

2019年6月23日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • アレクシオン社、ユルトミリスをaHUSに適応拡大申請 
  • Melinta社、delafloxacinを適応拡大申請 
  • 第一三共のヴァンフリタ、FDAは承認せず 
  • FDAが第二の女性性欲低下障害治療薬を承認 
  • キイトルーダ、小細胞性肺癌三次治療に承認 
  • ファイザー、PARP阻害剤が欧州でも承認 
  • リムパーザ、欧州でも卵巣癌一次治療後維持療法に適応拡大 


【承認申請】


アレクシオン社、ユルトミリスをaHUSに適応拡大申請
(2019年6月20日発表)

アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Ultomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)を非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)患者の補体調停的血栓性微小血管症(TMA)を阻害する用途でFDAに適応拡大申請し、受理された。優先審査で審査期限は10月19日。

UltomirisはSoliris(eculizumab)と同様なC5補体に対する抗体医薬で作用が長期持続するため、維持期の投与間隔が8週とSolirisの2週より長い。米国で昨年12月に、日本でも今年6月に、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬として承認されたが、aHUSはSolirisの主用途なので重要な適応だ。

Soliris未経験のaHUS患者を組入れた臨床試験では、26週時点のTMA反応率が53.6%だった。血小板数やLDH値を正常化するとともに、血清クレアチニン改善作用も見られた。深刻な有害事象は肺炎と高血圧症。56人中4人が死亡したが薬物との関連性は見られなかった由。

リンク: アレクシオンのプレスリリース

Melinta社、delafloxacinを適応拡大申請
(2019年6月19日発表)

Melinta Therapeutics(Nasdaq:MLNT)はBaxdela(delafloxacin)を地域感染細菌性肺炎(CABP)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請し受理された。優先審査で、審査期限は10月24日。

涌永製薬から世界開発販売権を取得したフルオロキノロンで、類薬と比べてスペクトラムが広く、耐性菌や肺炎球菌にも活性を持つ。17年に米国で急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症に承認された。

CABP試験では、FDAの承認基準である早期臨床反応率(初回投与の3-5日後における各種症状改善奏効率)が88.9%と対照薬のmoxifloxacinの89.0%と比べて非劣性だった(非劣性マージン12.5%)。二次的評価項目のTOC奏効率(投与完了の5-10日後に評価)も90.5%対89.7%で非劣性。有害事象の発生率は両群同程度だった。

リンク: Melintaのプレスリリース


【承認審査・委員会】


第一三共のヴァンフリタ、FDAは承認せず
(2019年6月21日発表)

第一三共は昨年、FLT3チロシンキナーゼ阻害剤quizartinibをFLT3-ITD変異を持つ再発難治性AML(急性骨髄性白血病)の治療薬として日米欧で承認申請した。日本では、先日、世界に先駆けて承認された(ブランド名はヴァンフリタ)が、FDAは承認を見送り審査完了通知を出した。5月の諮問委員会で第三相試験のデータの質や頑強性に疑問が指摘されていたのでサプライズではないが、同社が承認申請中あるいは予定中の他の抗癌剤の臨床試験はキチンと行われたのか、一抹の不安が残る。

諮問委員会は承認賛成が3人、反対は8人と、慎重な意見が大勢を占めた。第三相試験でメジアン生存期間が6.2ヶ月と化学療法群(低量cytarabineなど)の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.76で統計的に有意な差があったものの、中央値の差は1.5ヶ月程度なので、重大な副作用であるQT延長のリスクを十分に正当化できるほどではない。エビデンスの質の面では、割り付けられたが一度も投与されず、治験離脱後の追跡調査も行われなかった症例が対照群に偏っていたことが減点材料になる。頑強性の面では、二次的評価項目がフェールしたことが減点材料。

これらの点をPMDAはどう評価したのか、審査報告書の公表が待望される。いつものように、一度は疑問を呈するが回答を受領するとそれで了承したのだろうか?

quizartinibは09年にアステラス製薬が米国のAmbit Biosciences(Nasdaq:AMBI)から共同開発販売権を取得したが13年に解約、14年に第一三共がAmbitを目標達成報奨金を含めて4.1億ドルで買収して入手したという経緯。

リンク: 第一三共の米国子会社のプレスリリース


【承認】


FDAが第二の女性性欲低下障害治療薬を承認
(2019年6月21日発表)

FDAは、AMAG Pharmaceuticals(Nasdaq:AMAG)のVyleesi(bremelanotide)を閉経前女性の後天的で全般性な性欲低下障害(HSDD)の治療薬として承認した。米国でHSDD治療薬が承認されたのは4年ぶり

Palatin Technologiies(AMEX:PTN)からライセンスしたメラノコルチン4型受容体アゴニストで、45分以上前にオートインジェクターで皮注する。臨床試験では性欲スコア(1.2から6.0まで、数値が大きいほど強い)が1.2ポイント以上改善した患者の比率が25%と偽薬群の17%を上回った。典型的な副作用は悪心で40%の被験者で発生、薬物治療例だけでも13%と多かった。血圧上昇が一因でFDAが治験許可を停止したことも過去にはあった。一時的な上昇に留まるようだが、管理不良高血圧や心血管疾患は禁忌、心血管疾患高リスク患者に用いることは推奨されない。

米国の潜在患者数は600万人と推定されているが、治療法があることを知らない人が多い由。15年にValeant(NYSE:VRX)が5-HT1A作動/5-HT2A拮抗剤のAddyi(flibanserin)の承認を取得したが、売れていない。Vyleesiも上記のデータを見る限りでは、ヒットしそうにない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: AMG社のプレスリリース

キイトルーダ、小細胞性肺癌三次治療に承認
(2019年6月17日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を転移性小細胞性肺癌に適応拡大した。白金薬などによる治療歴を持つ患者の三次治療に用いる。
二本の臨床初期試験の合計でORR(客観的反応率、独立委員会が盲検で評価)が19%(完全反応2%を含む)、反応の6ヶ月持続率は94%、18ヶ月は56%だった。深刻有害事象発生率は31%、有害事象による治験離脱率は9%だった。

Keytrudaと同様な抗PD-1抗体であるBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)も昨年8月に同じ用途に適応拡大している。臨床成績はORR12%(完全反応1%)、メジアン反応持続期間17.9ヶ月、深刻有害事象発生率45%、有害事象治験離脱率10%となっており、大きな差はなさそうだ。

どちらもORRという代理マーカーに基づく加速承認なので、承認後に延命効果またはそれに準じるものを確認する必要がある。ORRは決して高くないが、1.5年経っても被験者の10%程度が反応という持続性の高さを考えると、期待できそうだ。

尚、ロシュの抗PD-L1抗体、Tecentriq(atezolizumab)は、今年3月に、進展型小細胞性肺癌の一次治療に化学療法と併用することが米国で承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

ファイザー、PARP阻害剤が欧州でも承認
(2009年6月21日発表)

ファイザーのTalzenna(talazoparib)が、EUで、生殖細胞系BRCA1/2変異を持ちher2陰性の進行転移乳癌に承認された。不適である場合を除いて、アンスラサイクリン、タクサン、そして内分泌療法薬による治療歴を持つ患者が適応になる。米国では昨年10月に承認された。

16年に140億ドルで買収したメディベーション社が前年にバイオマリンから資産ごと買収したPARP阻害剤。第三相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が8.6ヶ月と実薬対照群(capecitabineやeribulinなどから医師が選択)の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.54で統計的に有意に上回った。

リンク: ファイザーのプレスリリース

リムパーザ、欧州でも卵巣癌一次治療後維持療法に適応拡大
(2019年6月18日発表)

アストラゼネカとMSDは、BRCA遺伝子変異陽性卵巣癌の初回化学療法後にLynparza(olaparib)で維持療法を行う適応拡大がEUで承認されたと発表した。翌日、日本でも承認。米国は昨年12月に承認されている。

白金薬レジメンによる一次治療に部分反応以上だった患者391例を組入れた第三相SOLO-1試験では、300mg錠を一日二回経口投与した群の36ヶ月メジアンPFS(無進行生存率)が60.4%と偽薬群の26.9%を大きく上回り、ハザードレシオは0.30だった。二年経過時点で完全反応だった患者は投薬を中止したが再発しなかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



今週は以上です。

2019年6月16日

2019年6月16日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ADA:トラゼンタの心血管アウトカム試験が成功 
  • ADA:トルリシティが心血管疾患リスクを抑制 
  • ロシュ、抗CD79b抗体薬物複合体が米国で加速承認 
  • キイトルーダ、頭頚部癌一次治療に適応拡大 


【新薬開発】


ADA:トラゼンタの心血管アウトカム試験が成功
(2019年6月10日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、ADA(米国糖尿病学会)で、Tradjenta(linagliptin)の心血管アウトカム試験、CAROLINAの結果を発表した。他のDPP-4阻害剤と同様に、心血管リスクが高まらないことを確認できた。

この試験は、6033人の二型糖尿病で心血管疾患既往・高リスク患者を組入れて6年超、追跡したもの。発症してから数年で薬物治療を受けていない患者も組入れた点と、偽薬ではなく実薬(glimepiride)対照である点が特徴だ。

結果は、MACE(主要有害心臓イベント:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発生率が11.8%対12.0%となり、非劣性だった。不安定狭心症による入院を含む4点MACEも13.2%対13.3%で大差なかった。

過去の臨床試験では、2年間のglimepiride対照試験で心血管イベントが有意に少なかったり、9459例のメタアナリシスで4点MACEの対照群比ハザードレシオが0.78と有意ではないが良さそうな数値が出たりした。しかし、アウトカム試験では、今回だけでなく昨年開票したCARMELINA試験も3点MACEが偽薬比非劣性に留まった。やはり、データマイニングだけでは駄目で、前向き試験で確認するプロセスが不可欠なのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

ADA:トルリシティが心血管疾患リスクを抑制
(2019年6月9日発表)

イーライリリーは、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)の心血管アウトカム試験、REWIND試験の結果も発表した。3点MACEのハザードレシオが偽薬比0.88となり、統計学的に有意な抑制効果が確認できた。

但し、解析計画の前提(ハザードレシオ0.82)ほどではなく、また、同じGLP-1作用剤であるノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide)がSUSTAIN-6試験で出した0.74、経口semaglutideがPIONEER 6試験で出した0.79(但し有意ではない)、グラクソ・スミスクラインのTanzeum(albiglutide)がHARMONY試験で出した0.78と比べて、見栄えしない。

ノボのVictoza(liraglutide)もLEADER試験のハザードレシオが0.87だった。。REWINDは9901人を5.4年間追跡した大規模な試験なので、フェークとは考えにくい。クラス間の格差はリアルなのか、もしフェークならどちらが真で、数値の差が出たのはなぜなのか、今後の検討が期待される

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認】


ロシュ、抗CD79b抗体薬物複合体が米国で加速承認
(2019年6月11日発表)

ロシュのPolivy(polatuzumab vedotin-piiq)がFDAに加速承認された。再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で、二種類の薬物による治療歴を持ち造血幹細胞移植不適な患者に、rituximab及びbendamustinと併用する。

B細胞非ホジキン型リンパ腫に特異的に発現するCD79bに結合する抗体と細胞毒を結合したもので、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)とのコラボの産物。承認の根拠となった後期第一相/第二相試験では、完全反応率(独立評価委員会ベース)が40%と、rituximabとbendamustinだけのBRレジメンの18%を大きく上回った。メジアン生存期間は各12.4ヶ月と4.7ヶ月、ハザードレシオ(探索的解析)は0.42だった。

リンク: ロシュのプレスリリース

キイトルーダ、頭頚部癌一次治療に適応拡大
(2019年6月10日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を転移・切除不能難治頭頚部扁平上皮種(HNSCC)の一次治療に用いる適応拡大を承認した。白金薬及びfluorouracilと併用する。PD-L1陽性(Combined Positive Scoreが1以上)ならモノセラピーも可。

エビデンスであるKEYNOTE-048試験では、EXTREMEレジメン(carboplatinまたはcisplatinをfluorouracil及びcetuximabと併用)に対する全生存のハザードレシオが併用群は0.77、p=0.0067だった。モノセラピー群(CPS≧1サブグループだけの解析)は0.78、p=0.0171だった。

今年のASCOで発表されたデータによると、CPSが20以上の患者のサブグループ解析は、併用群がメジアン14.7ヶ月、EXTREME群は10.7ヶ月、ハザードレシオ0.60だった。一方、モノセラピー群はメジアン14.9ヶ月でハザードレシオ0.61だった。併用群とモノセラピー群の比較は検討されていないが、見た目は大差なさそうだ。CPSが20以上ならモノセラピー、未満なら併用という使い分けになるのではないか。

尚、この試験におけるPD-L1発現評価は、階層化はTumor Proportion Score(閾値50)に基づいて行われたが、上記のように、サブグループ解析はCPSを使っている。元々はKeytrudaの他の試験と同じTPSを使う計画だったのを途中でCPSに変更したようだ。キットはどちらもPD-L1 IHC 22C3 pharmDXとのこと。

TPSで区切ったらどうなるのか、興味がある。PD-L1発現状況を検査するコンパニオン診断薬は薬品毎に異なり、互換性は100%ではないようだ。評価対象も腫瘍だけ、免疫細胞だけ、両方と色々あり、同じ癌でも会社によって違っていたりする。同じ尺度で評価したら結果がどう変わるのかは、今後の適応拡大余地を想像する上で、重要な手掛かりになり得る。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

2019年6月9日

2019年6月9日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • アストラゼネカのBTK阻害剤、CLL一次治療試験も成功 
  • ASCO:SGEN/アステラスのADC、膀胱癌に良績 
  • ASCO:INCY/ノバルティスのc-MET阻害剤、ある種の肺癌に良績 
  • ASCO:リムパーザの膵癌試験、PFSは延びたが寿命は延びず 
  • ASCO:リムパーザのフェーズIVコミットメント試験成功 
  • Acceleron、赤血球成熟剤の承認申請が受理 
  • イーライリリーの抗CGRP抗体が反復性群発頭痛に適応拡大 
  • FDA、MSDのザバクサを院内感染肺炎に適応拡大 
  • ブルーバード・バイオの遺伝子療法がEUで承認 


【新薬開発】


アストラゼネカのBTK阻害剤、CLL一次治療試験も成功
(2019年6月6日発表)

アストラゼネカはCalquence(acalabrutinib)の未治療CLL(慢性リンパ性白血病)試験が中間解析で成功したと発表した。詳細は学会で発表する考え。

Bセルの生存メカニズムに係るBruton's tyrosine kinase(BTK)を阻害する経口剤で、4年先輩にあたるジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib)より忍容性が高い可能性がある。15年にAcerta Pharmaを子会社化して入手、第二相再発性マントル細胞リンパ腫試験の反応率データに基づき17年に米国で加速承認された。

今回のELEVATE-TN第三相試験は535人を組入れて、主評価項目はロシュのGazyva(obinutuzumab)と併用する群のPFS(無進行生存期間)を標準療法群(Gazyvaとchlorambucilを併用)と比較した。結果は、統計的にも臨床的にも有意に上回った。二次的評価項目の、Calquenceモノセラピーと標準療法の比較も成功した由。

Imbruvicaも同様な併用試験で大変良い成績を上げて今年1月に米国で効能追加が認められており、Calquenceのデータが発表されたら見比べることができるだろう。モノセラピーがどの程度上回ったのかも注目だ。

Calquenceは5月に第三相再発性CLL試験の成功も発表されている。データは6月16日にEHA(欧州血液学会)で発表される予定。抄録によると、PFS(独立委員会評価)のハザードレシオは0.31と大変良い結果だった(対照群はidelalisibまたはbendamustineをrituximabと併用)。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ASCO:SGEN/アステラスのADC、膀胱癌に良績
(2019年6月3日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)とアステラス製薬が共同開発している抗体薬物複合体(ADC)、ASG-22ME(enfortumab vedotin)の第二相膀胱癌試験の結果がASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表された。ヘッドラインは3月のプレスリリースで公表済みだが、今回、完全反応例が結構あったことが明らかになった。この試験の対象である白金薬及び抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ患者だけでなく、もっと早い段階でも有望なのではないか。両社は年内に米国で承認申請する考え。

ASG-22MEは、膀胱癌の9割以上で過剰発現するNectin-4に結合して内部化し、細胞毒であるMMAEを放出する。アステラスが07年に買収したAgensys社がシアトル・ジェネティクスに共同開発商業化権を供与した。

今回発表されたのは、局所進行性/転移性の尿路上皮腫を組入れたEV-201試験の第一コフォートのORR(反応率、第三者査読)。125人のうち15人が完全反応、40人が部分反応でORR(客観的反応率)は44%だった。抗PD-1/PD-L1抗体無効例や肝転移例でも4割前後あった。メジアン反応持続期間は7.6ヶ月。

G3以上の有害事象は好中球減少症、貧血、疲労、発疹、高血糖など。間質性肺疾患により一人が死亡した。後期第一相試験では約110人に投与して4人が治療関連有害事象により死亡。内容は呼吸不全、尿路閉塞、糖尿病性ケトアシドーシス、多臓器不全となっている。

リンク: 両社のプレスリリース(和文、6/4付)

ASCO:INCY/ノバルティスのc-MET阻害剤、ある種の肺癌に良績
(2019年6月3日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)がノバルティスと共同開発しているc-MET受容体チロシンキナーゼ阻害剤、INC280(capmatinib)の第二相試験のアップデートもASCOで発表された。承認申請されるのではないか。

発表されたのは、MET変異/増幅がありEGFR活性化変異やALK再編成はない局所進行性/転移性非小細胞性肺癌を組入れたGEOMETRY mono-1試験のうち、進行非小細胞性肺癌の3-4%で見られるエクソン14スキップ変異を持つ患者を組入れたコフォートのORR(第三者査読)。昨年10月にESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表されたデータより症例数が数人増えている。

初めて治療を受ける患者28人のORRは68%、メジアン反応持続期間11.1ヶ月。治療歴を持つ69人ではORR41%、メジアン反応持続期間は9.7ヶ月。概ね、ESMOから変わっていない(初治療は72%、再発治療は41%)。

G3/4の有害事象の発生率は36%(G4は5%)だった。

INC280はMETエクソン14スキップ変異局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の二次治療でFDAからブレークスルーセラピー指定を受けている。同用途で日米で希少疾患指定。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ASCO:リムパーザの膵癌試験、PFSは延びたが寿命は延びず
(2019年6月3日発表)

アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているPARP阻害剤、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)は、本命用途であるBRCA1/2変異型の卵巣癌や乳癌以外にも様々な癌で開発されている。昨年のASCOでは転移性ホルモン抵抗性前立腺癌で化学療法歴を持つ患者を組入れてabiraterone及びprednisoneと併用した第二相試験の成功が発表された。今年は、2月に成功発表された第三相BRCA変異膵癌維持療法試験(POLO試験)の具体的なデータが発表された。治験論文もNew England Journal of Medicine誌に電子刊行された。

生殖細胞系BRCA変異を持つ転移性膵癌で、白金薬レジメン(FOLFIRINOXが多かった)の一次治療に反応または疾病安定化した154人を対象に偽薬または300mg錠を一日二回、経口投与した試験で、主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は、各メジアン3.8ヶ月と7.4ヶ月、ハザードレシオは0.53、p=0.004だった。

深刻有害事象の発生率は各15%と24%、有害事象による治験離脱は各2%と6%だった。

全生存期間の中間解析(46%到達時点)は各メジアン18.1ヶ月と18.8ヶ月で有意差がなかった。69%到達時点で行われる最終解析でも有意差は期待できないのではないか。偽薬群でPARP阻害剤にクロスオーバーしたのは15%程度とのことなので、二次治療の影響とも考えにくい。膵癌は発見された時には既に進行/転移していることが多く、新薬に対する期待は大きいが、もし延命効果がないのならば、使い方を再吟味すべきかもしれない。

リンク: 治験論文抄録(NEJM誌)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ASCO:リムパーザのフェーズIVコミットメント試験成功
(2019年6月3日発表)

アストラゼネカとMSDは、Lynparzaの市販後薬効確認試験(SOLO-3試験)の成功も発表した。Lynparzaは白金薬による二次治療に反応した生殖細胞系BRCA1/2変異卵巣癌の維持療法として最初に承認申請され、EUでは承認されたが、米国は諮問委員会で多数の反対を受け、生殖細胞性BRCA1/2変異卵巣癌の四次治療薬として初承認された。第二相試験に基づく加速承認であるため、フェーズIVコミットメントとして市販後薬効確認試験の実施が求められていた。

SOLO-3試験は、生殖細胞系BRCA1/2変異白金薬感受卵巣癌の三次治療を受ける約220人をLynparza群(300mg錠を一日二回服用)と化学療法群に無作為化割付して、ORR(盲検独立中央評価)を比較したもの。化学療法はpaclitaxel、topotecan、pegylated liposomal doxorubicin、gemcitabineの中から医師が選択した。

結果は、72.2%対51.4%、p=0.002と有意且つ大きく上回った。二次的評価項目のPFSもメジアン13.4ヶ月対9.2ヶ月、ハザードレシオ0.62、p=0.013だった。有害事象による治験離脱は7%対20%と少なかった。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


Acceleron、赤血球成熟剤の承認申請が受理
(2019年6月4日発表)

Acceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)は、セルジーンと共同開発しているACE-536(luspatercept)を4月に欧米で承認申請していたが、受理されたと発表した。用途はベータサラセミアまたは骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血症の治療。米国では前者は優先審査を受け、審査期限は12月4日、後者は標準審査で来年4月4日となった。

ACE-536はACTR(アクチビン受容体)IIBの細胞外領域と免疫グロブリンG1の固定領域を結合した融合蛋白で、レガンドがActivin受容体ⅡB型に結合しないようブロックすることにより、赤血球の成熟を促す。三週毎皮注。ベータサラセミアの試験では奏効率(輸血が33%以上減少)が21.4%と偽薬群の4.5%を有意に上回った。深刻有害事象が15.2%の患者で発生した(偽薬群は5.5%)。

環状鉄芽球陽性の低・中程度リスクMDSで赤血球生成刺激剤に不応不適不耐の貧血患者を組入れた試験では、奏効率(8週間以上に亘り赤血球輸血なし)が37.9%と偽薬群の13.2%を有意に上回った。

セルジーンは08年にAcceleronと類薬の共同開発販売権を取得、11年にACE-536の権利も取得した。セルジーンはBMSが740億ドルで買収する予定。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


イーライリリーの抗CGRP抗体が反復性群発頭痛に適応拡大
(2019年6月4日発表)

FDAは、イーライリリーのEmgality(galcanezumab-gnlm)を反復性群発頭痛の治療に用いる適応拡大を承認した。昨年、片頭痛発作予防薬として承認された抗CGRP(calcitonin gene-related peptide)抗体で、複数の類薬が相次いで承認されたが、群発頭痛の適応を取ったのは、他の種類の薬も含めて、米国初。

群発頭痛は激しい頭痛が頻発する。反復性は、2週間から2ヶ月程度症状持続・その後1ヶ月程度休止、を繰り返す。臨床試験では、週当たり発作回数(ベースライン値は17回)が8.7回減少し、偽薬群の5.2回減少を上回った(p=0.036)。尚、休止期のない慢性群発頭痛を治療した試験はフェールした。他社の抗CGRP抗体の中にはどちらもフェールした製品もあり、全体的に、抗CGRP抗体の治療効果はボーダーライン上という印象である。

用法は、片頭痛予防は初回240mg、その後は120mgを月一回皮注する。反復性群発頭痛は頭痛が始まってから収まるまでの間、300mg(100mgを3回連続)を月一回皮注する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA、MSDのザバクサを院内感染肺炎に適応拡大
(2019年6月3日発表)

FDAは、MSDのZerbaxa(和名ザバクサ)をHABP(院内感染細菌性肺炎)/VABP(人工呼吸器関連細菌性肺炎)の治療に用いることを承認した。藤沢薬品(現アステラス製薬)と湧永製薬が創製したセフェム系抗生剤、ceftolozaneと、大鵬薬品が開発したベータラクタマーゼ阻害剤、tazobactamを配合した静注用薬で、感受グラム陰性菌によるものであることが確認または強く疑われる患者に用いる。既存の適応である複雑性尿道感染症の用量の倍を用いた適応拡大試験では、奏効率や死亡率がmeropenem群と非劣性だった。

QIDP指定を受けているので優先審査バウチャーを取得することになろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

ブルーバード・バイオの遺伝子療法がEUで承認
(2019年6月3日発表)

bluebird bio(Nasdaq:BLUE)は、ZyntegloがEUで輸血依存ベータサラサミア(TDT)の治療薬として承認されたと発表した。条件付き承認なので市販後に薬効確認が必要。注目される価格に関しては、他の遺伝子治療薬と同じような成功報酬制を盛り込んだスキームを考えている模様。国ごとに行われる薬価交渉の帰結が注目される。

Zyntegloは、患者のCD34陽性細胞を採取してベータグロブリンの遺伝子をレンチウイルス・ベクターで導入するもの。12歳以上のTDTで、造血幹細胞移植が望ましいがマッチするドナーがいない患者に用いる。ヘモグロビンを殆ど作れないベータ0/ベータ0型は効果が小さいため適応外。

第1/2相試験など三本合計で19人中15人が輸血不要になった。深刻有害事象は薬物関連の可能性を否定できない血小板減少症など。

米国は第三相試験の結果を待って年内に承認申請の予定。

リンク: bluebird bioのプレスリリース







今週は以上です。

2019年6月2日

2019年6月1日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO:非小細胞性肺癌一次治療の5年生存率23%! 
  • ASCO:Keytrudaの胃癌試験は失望的な結果に 
  • ASCO:ノバルティス、Kisqaliの延命効果を確認 
  • ASCO:JNJ、アーリーダのmHSPCデータを発表 
  • バーテックス、嚢胞性線維症のトリプルコンビ薬を承認申請へ 
  • バイオマリン、A型血友病遺伝子治療試験の途中経過を公表 
  • Epizyme、類上皮肉腫用薬を承認申請 
  • アマリン、EPA製剤の心血管疾患予防効果を一変申請 
  • Santhera、イデベノンを再びDMD治療薬として承認申請 
  • CHMPがウィルソン病治療薬などに肯定的意見 
  • アラガンのVraylarが適応拡大 
  • 濾胞性リンパ腫の無化学療法レジメンが承認 


【新薬開発】


ASCO:非小細胞性肺癌一次治療の5年生存率23%!
(2019年6月1日発表)

今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)もMSDのKeytruda(pembrolizumab)が話題を集めそうだ。後期第一相試験で非小細胞性肺癌にモノセラピーを施行した患者の5年生存率データが発表された。一次治療101例では23.2%、再発治療(449例)では15.5%だった。PD-L1発現と関連性がありそうで、高発現(TPS≧50%)症例では一次治療27例中29.6%、再発治療138例中25.0%、TPSが1%-49%では各52例中15.7%と90例中12.6%に低下、1%未満(再発治療90例のみ)では3.5%となっている。

競合薬のOpdivo(nivolumab)の試験がフェールしたた、め非小細胞性肺癌の一次治療は、EGFR活性化変異など分子標的薬に適したタイプなどを除いて、PD-L1高発現にはKeytrudaのモノセラピー、中低度発現には化学療法併用を施行するのが主流のようだ。早期乳癌と異なり肺癌の5年生存率には馴染みがないので一次治療のメジアン生存期間を見ると、22ヶ月と過去の抗癌剤の試験で見慣れた数値を9ヶ月前後上回っている。高発現は35%だ。勿論、満足できる水準ではなく、たった一歩前進しただけだが、更なる飛躍を期待させる大きな一歩だ。

リンク: MSDのプレスリリース

ASCO:Keytrudaの胃癌試験は失望的な結果に
(2019年6月1日発表)

KeytrudaはKEYNOTE-062試験の結果も記者向け説明会で公表された。学会発表は6月2日(現地時間)。進行胃・胃食道接合部腺腫でPD-L1陽性(CPS≧1)、her2陰性の患者763人を組入れて、モノセラピー群や化学療法併用群の全生存期間を化学療法群と比較した第三相試験だ。

モノセラピー群のメジアン生存期間は10.6ヶ月、対照群は11.1ヶ月で、2年生存率は各27%と19%だった。ハザードレシオは0.91、99.2%上限は1.18で閾値の1.2を下回ったため、非劣性解析が成功した。

事前に特定されたCPS≧10のサブグループの解析では、ハザードレシオ0.69、95%上限0.97と良さそうな数値が出たが、解析計画上、正式な解析とは見なされない由。主評価項目が大変多いので、この解析は上位解析が成功した時だけ有効になるシーケンシャル評価項目なのかもしれない。

併用群のメジアン生存期間は12.5ヶ月で対照群の11.1ヶ月と大差なく、ハザードレシオは0.85、95%上限は1.03、p=0.046となり、優越性解析がフェールした。CPS≧10のサブグループ解析も、もう一つの主評価項目であるPFS解析も、有意水準に達しなかった。

結果論で言えば、主評価項目を絞り込んでアルファを十分に留保していれば、統計的に有意という結論が出たかもしれないし、少なくとも全く効かないという感じはしない。しかし、必要最低限のハードルを越えたかと聞かれれば首を傾げざるを得ない。残念な結果だ。

Keytrudaは胃癌の第三相試験のフェールが続いた。Opdivoは日韓台の施設で標準療法不応不耐を組入れた第三相が成功したが、日韓と欧米の胃癌は生存期間などが異なるので、単純比較できない。現実に、EUのCHMPもこの試験に基づく承認に難色を示し、BMSは申請撤回した。PD-1/PD-L1阻害剤は胃癌に効くのか、効かないのか、エビデンスがまだ足りない。

リンク: MSDのプレスリリース

ASCO:ノバルティス、Kisqaliの延命効果を確認
(2019年6月1日発表)

ノバルティスは、ASCOとNew England Journal of Medicine誌で、Kisqali(ribociclib)のMONALEESA-7の全生存解析結果を発表した。中間解析でハザードレシオ0.712、p=0.00973と好成績を上げ成功認定された。CDK4/6阻害剤の第三相試験で延命効果が確認されたのは初めて。販促に追い風だ。

この第三相試験は、ホルモン受容体陽性、her2陰性の進行/転移乳癌で初めて治療を受ける閉経前・周閉経期女性を組入れて、goserelinとアロマターゼ阻害剤またはtamoxifenの併用レジメンにKisqaliを追加する効果を偽薬追加と比較したもの。既にPFS解析が成功し欧米で適応拡大が承認済み。

Kisqaliは細胞周期進行に係るCDK4/6を阻害する経口剤で、選択性が高い。CDK4の結晶構造を解明したAstex Pharmaceuticals(現在は大塚製薬傘下)と05年に開始したセルサイクル・コントロールに関する共同研究の成果だ。

欧米で17年に初承認されたが、報道によると日本は開発を断念したという。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ASCO:JNJ、アーリーダのmHSPCデータを発表 
(2019年5月31日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Erleada(apalutamide、和名アーリーダ)の第三相TITAN試験の結果をASCOとNew England Journal誌で発表した。先行類薬であるアステラス製薬/ファイザーのXtandi(enzalutamide)の同様な試験と似たような結果になり、アンドロゲン伝達阻害剤クラスの有用性を改めて示した。

ErleadaはXtandiのポテンシャルを発見した研究者が第二世代品として開発したもので、JNJは13年に資産全体を買収した。18~19年に日米欧で非転移性CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)用薬として承認されている。TITAN試験はmHSPC(転移性ホルモン療法感受性前立腺癌)の適応拡大試験で、中間解析で成功認定となったことが今年1月に発表されたが、データは未公表だった。

主評価項目はrPFS(放射線学的無進行生存期間)と全生存期間の二つ。前者はアンドロゲン枯渇療法とErleadaを併用した群の24ヶ月rPFS率が68.2%と偽薬を併用した群の47.5%を上回り、ハザードレシオは0.48、p<0.0001だった。後者は各82.4%、73.5%、0.67、p=0.0053となった。

Xtandiは同様な試験であるARCHES試験でrPFSハザードレシオが0.39、p<0.0001だった。まだイベント数が少ないため延命効果は不明。偽薬併用群のメジアンrPFSが19.4ヶ月とErleadaの試験より短く、患者背景がやや異なる可能性があるものの、両剤の効果に大きな差があると考える材料はなさそうだ。

JNJは4月に適応拡大申請、FDAはRTOR(リアル・タイム・オンコロジー・リビュー)プログラムを適用したので半年も経たないうちに承認される可能性がある。JNJのもう一つの前立腺癌用薬、Zytiga(abiraterone acetat、和名ザイティガ)が米国でGE化したところなので、重要なイベントだ。尤も、Xtandiのデータより良いわけではないので、後行の不利を覆すには力不足だろう。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: TITAN試験論文抄録(NEJM)

バーテックス、嚢胞性線維症のトリプルコンビ薬を承認申請へ
(2019年5月30日発表)

バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)は、嚢胞性線維症治療薬として承認申請するトリプルコンビ薬の第三の活性成分を決定した。二種類の第二世代CFTRコレクターを並行開発してきたが、第三相試験のデータを踏まえて、VX-659ではなくVX-445(elexacaftor)を選択した。薬効は大差ないように見えるが、安全性や忍容性、薬物相互作用、ホルモン系避妊薬を同時服用できること、光感受性が低いことなどが決め手になったようだ。

同社は1998年来、嚢胞性線維症の財団と共同研究を進め、多くの患者で機能喪失・低下遺伝子変異が見られるCFTR蛋白の開口時間を長期化するCFTRポテンシエイター、Kalydeco(ivacaftor)を2012年に欧米で発売した。この時点ではG551D置換を持つ患者だけが対象だったが、その後も臨床試験を進め、R117Hなど38種類の変異型が応答することを確認した。

嚢胞性線維症の罹患者数は世界で7万人と推定されているが、米国の場合はその半分近くがF508欠損ホモ接合型。Kalydecoの効果は限定的で、その意味では一部の患者にしか使えなかったが、バーテックスはCFTR蛋白が細胞表面にちゃんと移行するのを助けるCFTRコレクター(矯正剤)、VX-809(lumacaftor)の開発を進め、2015年に両薬の合剤であるOrkambiをF508欠損ホモ接合型の治療薬として発売。

更に、2018年には、新たなCFTRコレクターであるtezacaftorとivacaftorのコンビ薬、SymdekoをF508欠損のホモ接合型またはヘテロ接合でもう片方がSymdekoに応答する27種類の変異の一つである患者の治療薬として発売した。

今回のトリプルコンビ薬は、Symdekoの二剤にelexacaftorを追加する。適応はほとんど同じだが、呼吸機能改善作用が高そうなので、普及率が上昇しよう。

患者が少なくても治療効果が大きければ価格を高く設定して開発投資資金を回収しても良い・・・そんな時代になり、希少難病治療薬の開発に取り組む会社が増えてきた。NTRK再編成型とか、マイクロサテライト不安定性とか、特定のタイプだけを標的とする薬の開発も活発だ。それでも、積み残した荷物を忘れずに何度でも戻ってきた事例は珍しい。

バーテックスのトリプルコンビ薬が上市されれば、嚢胞性線維症の9割がカバーできる由。共同研究を開始してから21年、ごく一部の患者だけの治療薬を発売してから7年。とうとうここまでたどり着けそうだ。

リンク: バーテックスのプレスリリース

バイオマリン、A型血友病遺伝子治療試験の途中経過を公表
(2019年5月28日発表)

バイオマリン・ファーマシューティカル(Nasdaq:BMRN)は、BMN 270(valoctocogene roxaparvovec)の第三相重度A型血友病試験の途中経過と第1/2相試験の長期追跡結果についてアップデートした。

BMN 270はA型血友病の患者で欠如している血液凝固第8因子の遺伝子をアデノ随伴ウイルス5型をベクターとして導入するもの。第三相は130人を組入れる予定だが、今回は16人の単群解析。7人がFDAやEUの基準である『第23-26週の第8因子水準が40 IU/dL以上』を達成、データカットオフ後に更に一人が到達した。26週間の出血率(年率)はメジアンでゼロ、平均値は1.5で第8因子ルーチン補充療法を受けていたベースライン値と比べて85%減少した。第8因子の使用も9割減少した。

安全性解析(22人)は深刻有害事象が3人で発生、うち2人は点滴反応、もう一人は胃腸炎で治療とは関連無しと評価された。インヒビターは見られず。治験離脱はゼロ。有害事象は肝機能検査値異常、悪心、頭痛、疲労、関節炎など。

遺伝子療法は既存の薬と異なり反復投与しないが、薬効がどの程度持続するのか、減衰した時に再治療できるかが長期的な探索課題だ。BMN 270は2年目に第8因子活性水準が低下したが、3年目の低下は穏やかだった。具体的には、発色合成基質法アッセイによる8人の平均値が1年経過時点の64.3 IU/dLから2年経過時点は36.4 IU/dLに低下したが、3年経過時点では32.7 IU/dLを維持した。3年目の出血率(年率)はメジアンがゼロ、平均は0.7でベースライン比96%減少。

会社側は、モデルに基づき治療効果が8年以上持続と推定している。4年目以降も減衰するが最低限必要な水準は上回るとの評価だ。ルーチン補充療法を開始した被験者もいるようなので、特効薬という感じはしない。それでも、ルーチン補充療法でも出血を十分に管理できない難治性患者、あるいは代替的な選択肢として位置付けることはできそうだ。

バイオマリンは承認審査機関との相談を経て19年7-9月期に承認申請時期を決定する考えだ。

リンク: バイオマリンのプレスリリース(フェーズIII中間解析について)
リンク: 同(フェーズI/IIの長期追跡データについて)


【承認申請】


Epizyme、類上皮肉腫用薬を承認申請
(2019年5月30日発表)

Epizyme(Nasdaq:EPZM)は、EPZ-6438(tazemetostat)をFDAに類上皮肉腫用薬として承認申請したと発表した。根治手術の対象にならない転移性・局所進行性で、類上皮肉腫の9割で見られるINI1(integrase interactor 1)喪失癌が適応になる。

Epizymeは遺伝子の発現制御に係るエピジェネティクスに基づく新薬開発を行っている。EPZ-6438はINI1に代わってEZH2(enhancer of zeste homolog 2)というヒストン・メチルトランスフェラーゼを抑制する。

承認申請の根拠となった第二相試験では、62人の患者に800mgを一日二回投与したところ、ORR(客観的反応率、数ヶ月後に持続が確認された数値ではなさそう)が13%(全て部分反応)、うち初治療例では21%だった。メジアン反応持続期間は48週間以上、PFSは16週間(初治療例では25週間)、メジアン生存期間は82週間(初治療例では未達、再発治療例では47週間)。

第二相試験に基づき加速承認を得るためには、延命効果またはそれに準ずるものを確認する第三相試験を開始して承認までに患者組入れをかなり進めなければならない。EpizymeはデザインをFDAと相談して、合意に至りFDAが承認申請を受理した段階で治験内容を公表する考え。

EPZ-6438は日本ではエーザイがE7438として開発している。

リンク: Epizymeのプレスリリース

アマリン、EPA製剤の心血管疾患予防効果を一変申請
(2019年5月29日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)は、Vascepa(icosapent)の心血管疾患予防効能・効果をレーベルに追加する適応拡大申請が受理され、優先審査指定されたことを発表した。審査期限は9月28日。

Vascepaは欧米では珍しいEPAだけを配合した医薬品で、米国で2012年に重度高トリグリセリド血症(TG≧500 mg/dL)の治療薬として承認された。アマリンはその後、混合異脂血症でTG値が200-500 mg/dLの患者に適応拡大申請したが、諮問委員会の反対を経てFDAが意見を変え、心血管アウトカム試験が成功するまでお預けとなっていた。

アマリンは2011年にREDUCE-IT試験を開始。スタチンによる治療によりLDL-Cが低下(ベースライン値はメジアンで75mg/dL)したが中度TG血症(150-499 mg/dL、ベースラインはメジアン216 mg/dL)の患者約8200人をVascepa群(4mg/日と日本のEPAのアウトカム試験であるJELISよりかなり多い)と偽薬群に無作為化割付し、MACE(主要有害心血管イベント:心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠再開通術、または不安定狭心症による入院)を比較したところ、Vascepa群は25%少なかった。医師の主観の入る余地が小さい3点MACE(心血管疾患死・非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)は26%少なく、心血管疾患死は20%少ない。数値上は文句のつけようのない結果だ。

但し、心房細動による入院や重度出血事故は増加した。また、偽薬群は鉱油が含まれていたせいかLDL-Cが増加しており、上記は過大評価である可能性も考えられる。

FDAは心血管アウトカム試験の評価経験が豊富なので、問題があれば発見するだろう。審査結果が注目される。

リンク: アマリンのプレスリリース

Santhera、イデベノンを再びDMD治療薬として承認申請
(2019年5月27日発表)

スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)は、Puldysa(idebenone)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の呼吸機能改善薬としてEUで承認申請した。16年に申請した時はCHMPが否定的意見を出した。今回は長期追跡データも追加提出した模様だが、CHMPが意見を覆すほどのものではないだろう。米国で承認申請するために実施しているSIDEROS試験は患者組入れが遅れている。DMDは画期的新薬が承認・開発されており、被験者がそちらの臨床試験に流れているのかもしれない。

idebenoneは武田薬品が創製した合成コエンザイムQ10で、1986年に日本で脳卒中後遺症治療薬アバンとして承認されたが、薬効再確認試験がフェールし98年に販売中止となった。欧州の一部の国では販売されていたが、Santheraが権利を取得して様々な希少疾患用途を探索、欧州で承認申請し、ついに2015年に例外的環境条項に基づきLHON(レーバー遺伝性視神経萎縮症)治療薬Raxoneとして承認された。

DMD用途はステロイドを用いていない患者に高用量を投与したDELOS試験が成功、52週間後の呼吸機能が偽薬群ほど悪化しなかった。尤も、ピークフロー(%予測値)の群間差は5.96%と小さく、p値は0.044とあまり良いものではなかった。CHMPが否定的意見を出したのは治験実施方法や解析方法に疑問があり、また、筋力やQOLが改善しなかったため。今回も同じ評価になることが危惧される。

リンク: Santheraのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがウィルソン病治療薬などに肯定的意見
(2019年5月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、5月の会合で、ウィルソン病治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

今月は肯定的意見も否定的意見も申請撤回も、新薬という感じがしない。肯定的意見を得た新薬では、まず、Univar BVのCufence(trientine dihydrochloride)。ウィルソン病という常染色体劣性遺伝による先天性銅過剰症の治療に用いる。EUの推定患者数は23000人。このうち、D-ペニシラミンを耐容しない5歳以上の患者に用いる。経口剤で、米国では既にGE化している。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、ノバルティスの子会社のAdvanced Accelerator Applicationsが承認申請したLysaKare。L-アルギニン塩酸塩とL-リジン塩酸塩の点滴用薬で、同社の放射線核種薬、Lutathera(Lu 177 dotatate)を用いて胃腸膵神経内分泌腫瘍の治療を行う時に、薬剤が腎臓で再吸収され滞留するのを妨げ放射線暴露を減らすために使う。主な有害事象は悪心嘔吐。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、否定的意見だったのがEmmaus Life Sciences社のXyndari。2年前に米国で鎌状赤血球症治療薬Endariとして承認されたグルタミン酸だが、CHMPは、48週間の第三相試験のドロップアウト率が36%と偽薬群の24%より高く、効果が判定できない症例が多いためエビデンスが不十分と判定した。尚、米国の諮問委員会は10人対3人で支持が反対を上回った。Emmaus社は異議を申し立てる考え。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Emmausのプレスリリース

田辺三菱製薬のラジカット(エダラボン)は日本で脳梗塞治療薬として承認され海外でも華々しい成功が期待されたが、海外試験がフェールしたのか、この用途ではガラパゴス薬になってしまった。しかし、新用途であるALS(筋委縮性側索硬化症)では日本の臨床試験に基づき米国で承認。今度こそ日本が生んだオンリーワン薬になるかと思われたが、EUは承認申請撤回となってしまった。

EMAはALS用薬開発ガイドラインの中で、1年以上の臨床試験で死亡や永久的呼吸補助/気管切開のリスクを削減する効果を確認するよう求めている。日本の試験は半年間と短く、延命効果や呼吸能力あるいは筋力の改善効果が確認されていないため、CHMPはエビデンス不足と判断した。更に、ベースライン時点で試験薬群のほうが重症度が低い患者が多かったことや、偽薬群から試験薬にスイッチした患者では機能評価スケールの改善が見られなかったことにも疑問を持っているようだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 田辺三菱製薬の申請撤回通知(pdf)
リンク: 田辺三菱製薬のプレスリリース(和文)


【承認】


アラガンのVraylarが適応拡大、
(2019年5月28日発表)

アラガン(NYSE:AGN)とハンガリーのゲデオン・リヒターは、Vraylar(cariprazine)を双極障害I型の鬱症状の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。

ドパミンD3、D2、セロトニン-HT1A受容体の部分作動剤で、15年に米国で統合失調症の急性期治療(一日1.5-6mgを服用)や双極障害I型の躁症状や混合症状の治療(同3-6mg)に承認された。今回、鬱症状の治療(一日1mgまたは3mg)が承認されたことで、混合症状なのか単独なのか見極めに時間を掛けずに治療を開始することができるようになった。用量域が異なるが、どのみち、患者毎に至適用量を探索することになるので、妨げにはならないだろう。

リンク: アラガンのプレスリリース

濾胞性リンパ腫の無化学療法レジメンが承認
(2019年5月28日発表)

FDAは、セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)をrituximabと併用で治療歴を持つ濾胞性リンパ腫や辺縁帯リンパ腫に用いる適応拡大を承認した。この用途で化学療法を使わないレジメンは初めて。AUGMENT試験では、PFS(無進行生存期間、独立評価委員会査読)がメジアン39.4ヶ月と偽薬・rituximab併用群の14.1ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.46だった。

米国の成人性非ホジキン型リンパ腫のうち、濾胞性リンパ腫は22%、辺縁帯リンパ腫は7%を占めるとのこと。

Revlimidはサリドマイドの改良品で、2005年に骨髄異形成症候群や多発骨髄腫に用いることが承認された。本当に、今週は古い薬の話題が多い。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: セルジーンのプレスリリース



今週は以上です。