2020年11月28日

第975回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:トランプ大統領が使った抗体医薬がEUA 
  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンも治験成功 
  • COVID-19:レムデシビルの評価分かれる 
  • ブドウ膜黒色腫の第3相試験が成功 
  • FDA、抗GD2抗体を神経芽腫用薬として承認 
  • アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型用薬が米国でも承認 
  • ゾフルーザが米国で暴露後予防に適応拡大;小児は米国もダメ 


【今週の話題】


COVID-19:トランプ大統領が使った抗体医薬がEUA取得
(2020年11月23日発表)

FDAはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のcasirivimab(REGN-10933)とimdevimab(REGN-10987)をEUA(非常時使用認可)した。軽・中等症のCOVID-19感染症で重症化リスクが高く、発症後10日以内の、成人や12歳以上且つ体重40kg以上の小児に、両剤を1200mgずつ、60分以上かけて点滴静注する。一回投与で足りる。

『重症化リスクが高い』の定義は、BMI≧35、慢性腎疾患、糖尿病、免疫低下疾患、免疫抑制剤使用、年齢65歳以上、55歳以上で心血管疾患や高血圧症、またはCOPDなどの慢性呼吸器疾患、または12~17歳で著高BMI値/鎌状赤血球病/心疾患/脳性まひなどの神経発達障害/気管支切開や胃瘻、陽圧換気を受けている患者、または毎日の服薬が必要な喘息症などの慢性呼吸器疾患。

臨床試験では28日間の入院・ER入室した患者の比率が3%と偽薬群の9%より小さかった。尚、重症化リスクが高くない患者も含む全被験者における比率は各2%と4%となっている。また、この試験では各剤4000mgずつ投与する群も設定されたが、効果は高まらず、過敏反応などの副作用は増加した。

非常に残念なことに、ベースライン時点でで入院・酸素投与が必要な患者に対する便益は確認されておらず、むしろ、ハイフロー酸素や人工呼吸器が必要な重症患者に投与すると悪化させる可能性がある。トランプ大統領は入院前に呼吸困難になり酸素投与を受けたが入院時点では一旦軽快していたと報じられているが、このような患者に投与するのは妥当なのか、避けるべきなのか、悩ましい。

また、上記試験の主評価項目であるウイルス量抑制効果に着目すると、ベースライン時点で抗SARS-CoV-2抗体を持っていた患者には効果が見られなかった。抗SARS-CoV-2抗体の補充療法なので、意外ではない。リジェネロンは治療前にスクリーニングする手法も検討しているが、FDAは無視しているようだ。論拠は不明。ウイルス量より入院・ER入室リスクのほうが重要という判断は賛成できるが、後者のイベント数は各群ごく少数であり、サブグループ評価ができない。抗体保有サブグループの症状軽快までのメジアン期間は各群同程度だった。本当に無視して良いのか、心配だ。

両剤は感染から回復した患者の抗体などから創製したIgG1型ヘテロテトラマー抗体で、リジェネロンは二剤のカクテルをREGN-COV2という開発コードで呼んでいる。連邦政府と4.5億ドル相当の生産・供給契約を結んでおり、今月末までに8万人分、1月末までに30万人分を用意する予定。連邦政府は国民に無償で提供する。1日に20万人近くが診断されている国なので到底足りないが、抗体医薬なので量産が難しいのだろう。

米国外は開発生産提携先のロシュが担当する。二社合計で治療用途に年200万人分、探索中の用途である暴露後予防で年800万人分程度の生産を計画している。

尚、リジェネロンのプレスリリースに明記されているように、両剤はFDAから承認されていない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 医療従事者向けファクト・シート(pdfファイル)
リンク: リジェネロンのプレスリリース

COVID-19:アストラゼネカのワクチンも治験成功
(2020年11月23日発表)

アストラゼネカは、オックスフォード大学が創製したCOVID-19ワクチン、AZD1222/ChAdOx1 nCoV-19の第3相試験が中間解析で成功したと発表した。承認審査機関に条件付き承認/早期承認などを申請するとともに、低所得国でも使えるようにWHOにEUL(非常時使用リスティング)を求める考え。

このワクチンは、増殖不能処理を行った遺伝子組換え型チンパンジー・アデノウイルス(ChAdOx1)にSARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子などを導入したもので、接種後に体内で当該遺伝子が翻訳され、抗原となる。ChAdOx1技術のワクチンは過去に300人程度の接種実績しかなく、大規模な試験はCOVID-19ワクチンが初めてだ。

中間解析の対象は英国の第2/3相試験とブラジルの第3相試験。18歳以上の患者に1ヶ月以上おいて二回接種し、終了後更に14日経った後の感染を追跡した。英国試験では週一回、拭い液を検査して感染の有無を確認した。対照群は、英国試験は髄膜炎菌結合ワクチン、ブラジル試験は二回目の接種は偽薬を使った。

用量は5x10^10 vp(ウイルス・パーティクル)を使ったが、一部の患者は一回目に半量しか接種しなかった。報道によると、オックスフォード大学が至適用量を誤解していたことにアストラゼネカが気付き、二回目とその後に開始した被験者は全量を接種したという経緯のようだ。

実際は、誤解していたのはアストラゼネカのほうかもしれない。初回半量サブグループ2741人におけるワクチン効率は90%、全量サブグループ8895人では62%、合計では70.4%で、何れもp≦0.0001という結果になったからだ。忍容性についてはワクチン関連の深刻有害事象はなかったことだけが開示された。

効果に付いて二点、検討したい。先に第3相結果が発表されたmRNAワクチン二品のワクチン効率は95%前後なので、70.4%というのは見劣りする。当方で前提を置いて推算したところ95%信頼区間は55~80%となった。BNT162b2は90~97%、mRNA-1237は86~98%なので、重なっていない。但し、英国試験は無症候感染者も多く検出しているはずなので、ワクチンのお陰で症状が出ないで済んだような患者は、本試験では感染と診断されるが他の試験では診断されないような現象が起きても不思議ではない。夫々のワクチンの試験における症候性感染者だけのデータが明らかになればリンゴとリンゴを比較することが可能になるだろう。

奇妙なのは初回半量サブグループのほうが好成績であることだ。ウイルスベクターに対する抗体が影響しているのかもしれない。

アデノウイルスは抗体を持っている人が少なくなく、そのような人がアデノウイルスを使ったワクチンを接種しても抗原遺伝子が発現される前にウイルスが抗体に攻撃されて、十分な効果を発揮できないことになりかねない。現に、CanSino Biologics(HKEX:6185)のアデノウイルス5(Ad5)-nCOVワクチンの第2相では、抗Ad5抗体保有者における免疫原性が小さかった。この現象を回避するために、ロシアが世界に先駆けて接種開始したスプートニクVワクチンは一回目はAd26ベース、二回目はAd5ベースと、ウイルスベクターを使い分けている。

オックスフォード大学がヒトではなくチンパンジーに感染するウイルスを使っているのも同じ理由だ。しかしそれでも、二回接種すると一回目にできた抗体が二回目はもっと強力にワクチンを分解してしまうかもしれない。このような現象が過去の試験で見られたのかどうか、気になるところだ。

尤も、初回半量サブグループの成績が全量サブグループより良いと断定できるかどうかは曖昧だ。そこで、再び95%信頼区間を推算してみた。全体の感染者数は131人と発表されている。対照群の被験者数はワクチン群の対応するサブグループと同じ、感染率は対照群全体の感染率と同じと前提した。結果は、初回半量サブグループのワクチン効率の95%信頼区間は63~98%、全量サブグループは42~75%となった。63~75%の部分が重なっているので、二つの解析結果が矛盾するとは言い難いことになる。

アストラゼネカは初回半量レジメンを承認申請する考えだが、点推定値が示すほど効果が高いかどうかは議論の余地がありそうだ。

さて、アストラゼネカは米国でEUAを得ることができるだろうか?米国でも別途、第3相試験を行っているが、9月に英国試験で横断性脊髄炎様症例が発見されたため中断、英国は数日後に再開できたが、米国は10月23日まで再開認可が下りなかったため、遅れているはずだ。FDAはCOVID-19被害者が多いアフリカ系などマイノリティを一定割合組入れるようワクチン開発者に要請しているが、英国とブラジルのデータだけでは充足できないのではないか。

AZD1222の長所は、通常の冷蔵設備で6ヶ月以上、保存や輸送が可能であること。特に低所得国では好都合だ。アストラゼネカ/オックスフォード大学は、パンデミック下では製造コストに治験費用として20%を上乗せした価格、つまり、利益ゼロで供給するとコミットしており、事実、ブラジルなどとの供給契約では一回分が2~4ドルとmRNAワクチンの10分の1程度に留まっている。価格の点でも低所得国には魅力的だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

COVID-19:レムデシビルの評価分かれる
(2020年11月25日発表)

FDAは10月にギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)をCOVID-19入院患者の治療薬として本承認したが、11月20日にWHOがSOLIDARITY試験の結果に基づいて使用を推奨しない暫定的ガイドラインを刊行したことに触発されたのか、承認の根拠を改めて説明するプレスリリースを発出した。主要エビデンスであるACTT-1試験が無作為化割付偽薬対照二重盲検であるのに対して、SOLIDARITY試験は複数の介入方法を標準療法だけの群と比較した、偽薬を使わないオープンレーベル試験であることや、ACTT-1試験で示された、回復を早めたり症状を改善したりする効果はSOLIDARITY試験でも否定されていないことを指摘した。

ACTT-1試験のデザインのほうが優れているのは確かであり、特に、症状改善のようなソフトな評価項目は二重盲検が重要だ。しかし、例えば人工呼吸器装着のようなイベントは、その医療施設/国の慣習や機器のアベイラビリティによって、時期がずれる可能性がある。評価項目(効能)としては罹患期間より死亡リスク削減のほうが価値が高いが、ACTT-1試験は十分な検出力がなかった。

SOLIDARITY試験のもう一つの価値は症例数が多いことだ。remdesivirの解析に用いられた症例だけでも5000人を超え、ACTT-1試験の5倍だ。治療に忙殺される時期に、治験の概要を説明して患者同意書を取得し、様々なデータを都度報告しなければならない現場の負担を多少でも緩和すべく二重盲検を採らず、オープンレーベル試験の欠点を少しでも緩和すべくハードな評価項目を採用し、そのために多くの患者を組入れた。

従って、この二本はどちらも一長一短であり、どちらかを依怙贔屓することはできないだろう。

remdesivirの試験成績で溜息が出るのは、サブグループ分析や他の試験の成績が区々であることだ。下表のように、ベースライン時点で人工呼吸器/ECMO装着患者に関しては、どちらの試験でも、死亡リスクが高まる可能性が示されている。統計的に有意ではないが、十分な検出力はないだろうから、安全性指標に関する鉄則である、『疑わしきはクロ』を当てはめる必要があるのではないか?

ギリアド自身が主導した、酸素投与を必要としない入院患者のオープンレーベル試験では、5日コースの症候改善オッズ比が標準療法のみの群より有意に高かったが、10日コースは大差なかった。10日経たないうちに退院した患者が多かったため10日コースのメジアン投与期間は6日に留まっており、1日かそこらの違いで明暗が分かれたのは理解に苦しむ。

FDAは年齢12歳以上、体重40kg以上の全ての入院患者に使うことを承認しているが、様々な組織のガイドラインは、人工呼吸器/ECMO装着患者には推奨しなかったり、区々だ。新たな臨床試験が行われることはないだろうから、今後も不透明感が続くことになる。

二試験の概要

SOLIDARITYACTT-1
地域世界欧米亜
薬効解析対象数5,4511,062
二重盲検×
BL重症比率76%89%
発症後メジアン経過日数不明6日
死亡リスクRR 0.95 nsHR 0.73 ns
(BL酸素投与無し)0.900.82
(BL酸素投与)0.85-
(BLローフロー酸素)0.30
(BLハイフロー酸素)1.02
(BL人工呼吸器)1.201.13
退院リスク不明RR 1.29 ss
注:BL=ベースライン、RR=レート比、HR=ハザードレシオ、ss=統計的に有意、ns=有意ではない。重症は酸素投与以上の措置が必要な状態を指す。
出所:SOLIDARITY試験論文草稿やACTT-1試験論文から作成

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: WHOのプレスリリース(11/20付)
リンク: EMAのプレスリリース(11/20付)
リンク: SOLIDARITY試験論文草稿(medRxiv)
リンク: ACTT-1試験論文(New England Journal of Medicine)


【新薬開発】


ブドウ膜黒色腫の第3相試験が成功
(2020年11月23日発表)

オックスフォード大学発のベンチャーであるImmunocore(未上場)は、IMCgp100(tebentafusp)の第3相ブドウ膜黒色腫試験が中間解析で成功したと発表した。承認申請に向かうのではないか。

ブドウ膜黒色腫は新患が世界で年8000人、米国だけだと1600~2000人の希少疾患。手術や放射線療法などで治療されるが、5割は転移し、その5割は1年以内に死亡すると言われている。腫瘍学では抗PD-1/PD-L1抗体が席巻しているが、ブドウ膜黒色腫は遺伝子変異が少ないため免疫療法応答性が低い。

IMCgp100は親和性増強可溶性T細胞受容体と抗CD3短鎖可変領域フラグメントの融合蛋白。腫瘍細胞の表面のペプチド・HLA複合体で抗原提示されるgp100を認識し、T細胞を活性化させる。

HLA-A*0201陽性患者の転移ブドウ膜黒色腫378人を組入れて一次治療における延命効果を医師が選んだ薬(8割の医師がKeytruda(pembrolizumab)を選択)と比較した第3相試験ではハザードレシオが0.51、p値は0.0001を下回った。カプラン・マイヤー推定による1年生存率は73%で対照群の58%を上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


FDA、抗GD2抗体を神経芽腫用薬として承認
(2020年11月25日発表)

FDAはY-mAbs Therapeutics(Nasdaq:YMAB)のDanyelza(naxitamab-gqgk)を難治/再発性高リスク神経芽腫用薬として加速承認した。骨/骨髄の神経芽腫で前治療に安定化以上の反応を示した1歳以上の小児や成人が適応になる。4週サイクルで第1、3、5日に3mg/kgを点滴静注する。サイクル開始前後の5日間にGM-CSFを一日一回、皮注する。

エビデンスは第二相試験の反応率および反応持続期間。201試験ではORR(客観的反応率)が45%、その30%で反応が6ヶ月以上持続した。12-230試験では各34%と23%だった。

深刻な点滴関連反応と神経毒性(重度神経性疼痛、横断性脊髄炎、可逆性後頭白質脳症症候群など)が枠付警告された。外来治療可能だが、投与前にプリメディケーションを行い、治療後は2時間、密接にフォローする。

DanyelzaはMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSK)の研究者が創製した抗GD2ヒト化抗体。 Thomas Gad会長兼創業者兼社長は娘が2歳の時に高リスク神経芽腫と診断され、MSKで抗GD2マウス抗体による治療を受けた。再発後は抗B7-H3抗体omburtamabベースの治療も受けた。Gad会長はnaxitamabとomburtamabをライセンスして開発、後者の承認申請は受理されなかったのでやりなおしになるが、Danyelzaの承認で最初の目標を達成した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: y-mAbsのプレスリリース

アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型用薬が米国でも承認
(2020年11月23日発表)

FDAは、アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のOxlumo(lumasiran)を小児・成人の原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)治療薬として承認した。EUでも今月、承認されている。

PH1はアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠損により肝臓内にグリオキシル酸が蓄積する。シュウ酸過剰になりカルシウムが腎臓などで蓄積、腎障害や尿路結石を合併する。患者数は欧米で1000~1700人と推定されている。

アルナイラムはRNA介入に特化した新薬開発販売会社。Oxlumoはグリコール酸酸化酵素の遺伝子であるHAO1のmRNAに介入する。3ヶ月毎に皮注する。臨床試験では尿と血漿のシュウ酸が減少した。重度あるいは深刻な有害事象は発生しなかった。投与実績は月齢4ヶ月から61歳まで幅広い。

同社は希少小児疾患用薬優先審査バウチャを取得した。希少疾患や小児疾患だけでなく様々な病気の治療薬の承認申請を行う時に、このバウチャを使って優先審査を求めることができる。転売も可能で、最近では他社が1億ドル弱で売却した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アルナイラムのプレスリリース(11/24付)

ゾフルーザが米国で暴露後予防に適応拡大;小児は米国もダメ
(2020年11月23日発表)

FDAはロシュのXofluza(baloxavir marboxil)をインフルエンザ感染者に接触した12歳以上の小児と成人の発症を予防する、暴露後予防に適応拡大した。塩野義製薬が創製した画期的な作用機序を持つインフルエンザ治療薬で、今回の用途は10月に日本で第二部会を通過、11月にはEUでCHMPの肯定的意見を得た。日本で実施された感染者の家族を組入れた臨床試験では、10日間の発症率が1%と偽薬群の13%を大きく下回った。有害事象発現率は各22.2%と20.5%だった。被験者の3/4は家族の発症後24時間以内に投与を受けており、曝露後予防というよりは発症前の早期に治療したという印象。受験に備えてタミフルを服用する予防法とは異なる。

先に発売された日本を中心に因果関係を否定できないアナフィラキシーやショックが十例以上、報告されており、FDAもプレスリリースにリスクを明記した。更に、乳製品やカルシウム強化飲料、緩下剤、制酸剤、カルシウムあるいは鉄、マグネシウム、セレン、アルミ、亜鉛、を含有する経口サプルメントと一緒に服用しないよう注意した。

ロシュと塩野義製薬は12歳未満の小児の治療や予防でも申請したが、FDAも、第二部会も、CHMPも、首肯しなかった。臨床試験で変異ウイルスの発現がしばしば見られたことが原因だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース(11/24付)







今週は以上です。

2020年11月21日

第974回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:FDAがイーライリリーのJAK阻害剤をEUA 
  • COVID-19:BioNTech/ファイザーがワクチンをEUA申請 
  • COVID-19:Moderna社のワクチンも第1回中間解析が成功 
  • AHA:EPAとEPA・DHA製剤の試験結果の整合性 
  • B型血友病の第3相遺伝子療法試験が成功 
  • ギリアド、capsid阻害剤が多剤抵抗ウイルスを抑制 
  • リンパ腫の抗体薬物複合体が承認申請 
  • サノフィ、ポンペ病の新薬を米国でも承認申請 
  • サノフィの寒冷凝集素症用薬は承認審査完了 
  • FDA、早老症治療薬を承認 
  • アルナイラム、高シュウ酸尿症I型治療薬が欧州で承認 
  • サノフィ、昆虫細胞培養型インフルエンザワクチンがEUでも承認 


【今週の話題】


COVID-19:FDAがイーライリリーのJAK阻害剤をEUA
(2020年11月19日発表)

FDAはイーライリリーのOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)をCOVID-19肺炎治療薬としてEUA(非常時使用認可)した。成人と2歳以上の小児で酸素投与、人工呼吸器、またはECMOを必要とする患者に、4mg(9歳未満などは2mg)を一日一回、最長14日間に亘って、経口投与する。Veklury(remdesivir)の最長10日間のコースと併用する。

エビデンスはNIAID(米国アレルギー感染症研究所)が主導したACTT-2試験。1033人の中重度患者を組入れて退院(医療不要になったが隔離目的で入院継続も含む)までの期間を調べたところ、Olumiant・remdesivir併用群はメジアン7日間と偽薬・remdesivir併用群の8日間を上回った。インシデンス・レート比は1.15、p値は0.047なので、治療効果の点でも統計学的有意性の点でもボーダーライン上である。

副次的評価項目の症状改善オッズ比は1.26だがp=0.044とこちらもボーダーライン上。29日死亡率は各群4.7%と7.1%で、数値は良好だがp値は0.09なので有意ではない。

致死的有害事象発現率は各群4%と6%、有害事象治験離脱率は7%と12%で、どちらもOlumiant群のほうが低かった。

Olumiantはインターロイキンなどの受容体の細胞内シグナル伝達に係るJAK1/2の阻害薬。インサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスした。中重度リウマチ性関節炎の治療薬として17~18年に日米欧で承認された。深刻感染症、リンパ腫などの腫瘍、血栓症のリスクが枠付警告されている。FDAは、EUAに際して、禁忌でなければ静脈血栓塞栓の予防を行うよう推奨した。動物試験で胚胎毒性が見られたが、妊婦禁忌までにはなっていない。

EMAやPMDAと比べてFDA及び諮問委員会は4mgの安全性に懐疑的で、2mgしか承認していない。

EUAはエビデンスが不確かでも取得することができるが、承認とは扱われない。だから、remidesivirが正式承認されるまではギリアドはプレスリリースを出す時に米国では承認されていないと明記しなければならなかった。

Olumiantの場合、薬効に関するp値が十分に低くなく、再現性を確認すべきもう一本の試験が未了であることなどを考えれば、イーライリリーが実施している第3相でもっとよい結果が出ない限り承認を取るのは無理だろう。

尚、OlumiantはSARSが細胞内に侵入する過程で作用するAAK1(AP2関連プロテイン・キナーゼ1)やサイクリンG関連キナーゼを阻害する作用を持っている由で、COVID-19肺炎における作用機序はJAK1/2阻害ではなくこちらかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 医療従事者向けファクト・シート(pdfファイル)

COVID-19:BioNTech/ファイザーがワクチンをEUA申請
(2020年11月20日発表)

ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)と共同開発パートナーのファイザーは、COVID-19のmRNAワクチン、BNT162b2のEUA(非常時使用認可)をFDAに申請した。オーストラリアやカナダ、EU、日本、英国でも既にローリング承認申請に着手している由。FDAは12月10日にワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会を招集しデータやFDAの評価に関して意見を聞く予定。委員会はYou TubeやFacebook、TwitterのFDAサイトやFDAホームページで配信する予定。

18日には第3相試験の最終薬効解析でワクチン効率が95%だったことが公表された。高齢者を含めて様々なサブグループで効果が見られ、重度有害事象発現率はそれほど高くなかった。FDAの要請を踏まえて様々な人種・民族を組入れており、被験者の4割は56歳以上だった。小児に関しては別途、12~15歳の100人に接種して安全性評価を行っている。妊婦は不明だが、おそらく、治験対象外なのではないか。

BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイク蛋白の全長mRNAを修飾してリピッド・ナノパーティクルに封入したmRNAワクチンで、体内でスパイク蛋白が発現、免疫反応を誘導する。30mcgを3週置いて2回、筋注する。

今回の第3相は米国やドイツ、南米などで18歳以上の43538人をワクチン群と偽薬群に無作為化割付してCOVID-19感染リスクを検討した。ワクチンの効果は直ぐにはフルに発揮されないため、二回目の接種の7日後以降の確認感染例だけをカウントした。

最初の主評価項目である感染歴のないサブグループにおける確認感染例は各群8人と162人となり、ワクチン効率95%、p<0.0001となった。第二の評価項目である、感染歴を持つ被験者も含めた解析も成功した。

感染時の重症化リスクは年齢や持病、人種によって異なる。65歳以上の高齢者は重症化リスクが高いが一般的に免疫力が弱くワクチンの効果が小さくなる傾向があるが、幸い、本試験ではワクチン効率94%以上と良好だった。様々なジェンダーや人種、民族に効果が見られた。

深刻有害事象は今のところゼロ。G3以上の重度有害事象は疲労(発現率3.8%)や頭痛(2.0%)。

本試験で興味深いのは、感染歴を持つ人も参加していること。既に免疫を持っていてワクチンの効果が小さい可能性があるが、このサブグループだけの数値はどうだったのだろうか?また、デング熱のような、二回目の感染に相当するワクチン接種時に重症化するリスクを検証しなければならないが、本試験では抗体依存性感染増強が疑われる症例はなかっただろうか?

ファイザーは承認後数時間内に出荷を開始する予定。零下70℃という超低温環境で輸送する必要があり、ファイザーは、最長15日間有効な専用コンテナを用意した模様。冷蔵庫では保存可能期間は最長5日間に過ぎないので、クリニックでは期間を定めて集中的に接種し、都合の悪い人は大病院で接種するようなやり方が考えられる。

両社は世界で5000万回分(2500万人分)を本年内に、13億回分を来年末までに、生産する考え。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: 同、第3相試験成績について(11/18付)
リンク: FDAの諮問委員会開催発表リリース(11/20付)

COVID-19:Moderna社のワクチンも第1回中間解析が成功
(2020年11月16日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA、発音はモダーナ)は、mRNA-1273ワクチンの第3相COVID-19感染予防試験、COVEの第1回中間解析が成功したと発表した。数週内にFDAの要求によるメジアン2ヶ月間の追跡を充足し、EUA(非常時使用認可)を申請する考え。米国外では10月のカナダと英国に続いて、EMA(欧州薬品庁)もローリング審査を開始した。

COVE試験はNIH(米国医療研究所)などの政府機関やCROのPPD(Nasdaq:PPD)の協力を経て18歳以上のボランティア3万人を米国の施設で組入れて、100mcgを4週置いて二回接種する効果を偽薬と比較した。組入れ完了は10月22日とのことなので、まだ二回目の接種を終えていない人もいるだろう。

結果は、主評価項目である感染者数がワクチン群は5人、偽薬群は90人。ワクチン効率(予防率)は94.5%、p値は0.0001未満となり、プロトコルで定められた第1回中間解析の成功認定閾値である0.0002を下回った。

BioNTech/ファイザーのBNT162b2のワクチン効率95%と同程度であり、二種類のリピッド・ナノパーティクル封入mRNAワクチンが相次いで好成績を上げたことになる。

副次的評価項目である重症感染症はワクチン群はゼロ、偽薬群は11人と大変好ましい結果になった。

G3以上の重度有害事象と発現率は、1回目の接種後は注射箇所反応(2.7%)など、2回目は疲労(9.7%)、筋痛(8.9%)、関節痛(5.2%)、頭痛(4.5%)、疼痛(4.1%)、注射箇所の紅斑・発赤(2.0%)など。ワクチンでは一般的な有害反応だが、BNT162b2より少し多いように見える

mRNA-1273とBNT162b2の効能・忍容性以外の違いは、接種間隔は各4週と3週なので、後者の方が早く効果をフルに享受できる可能性があるが、それだけで決まる話ではないだろう。実務面で重要な違いは冷凍冷蔵温度だ。mRNA-1273は、輸送・備蓄は零下20℃(通常の医療用冷凍設備)で6ヶ月間、医院では2℃(通常の冷蔵庫)で30日間、開封後は室温で12時間、保存できる。一方、BNT162b2は輸送・備蓄は零下70℃、医院では2-8℃で5日間と、低温要求が厳しい。実務的にはmRNA-1273のほうが扱いやすいので、まだヘッドライン・データに過ぎないが、BNT162b2と似たような成績を挙げたことは朗報だ。

リンク: Modernaのプレスリリース
リンク: EMAのローリング審査開始に関するプレスリリース

AHA:EPAとEPA・DHA製剤の試験結果の整合性
(2020年11月15日刊行)

オメガ-3脂肪酸はサプリメントとして人気があり、サプリメントより高い基準に即して生産された高純度EPA(エイコサペンタエン酸)製剤やEPA・DHA(ドコサヘキサエン酸)製剤は重度高トリグリセライド血症の治療薬として承認されている。より多くの患者における便益を検討すべく、様々な心血管アウトカム試験が実施されたが、結果は区々だ。今年も大規模試験の結果が発表されたが、謎が解消するどころか、過去の議論が再燃した。

ポジティブな効果に関する代表的なエビデンスは、18年のAHA(米国心臓協会科学部会)で発表された、アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(EPAエチルエステル)のREDUCE-IT試験だ。中程度の高トリグリセライド血症(135mg~500mg/dL)で心血管疾患のリスクが高くスタチンを服用している患者8179人に、2gまたは偽薬(鉱油)を一日二回、メジアン4.9年間に亘り投与したところ、心血管アウトカム(CVO:心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・冠再建術・不安定狭心症の何れか)のハザードレシオが0.75(95%信頼区間0.68-0.83)と有意なリスク削減効果が見られた。

わが国で行われた持田製薬のエパデール(イコサペント酸エチル)の高LDL-C血症を組入れた初発・再発予防試験、JELISでも、CVO(突然死・非致死的心筋梗塞・不安定狭心症・血管形成術・ステント・CABG)のハザードレシオが0.81(95%信頼区間0.69-0.95)と良好な結果が出た。惜しむらくは、群間差が大きかったのは不安定狭心症という医師や患者の主観バイアスや影響しやすい評価項目であったこと。二重盲検試験ではないため、信頼性が頑強ではない。多額の資金と時間、医療従事者と患者の善意や情熱が十分に報われない結果になってしまった。

さて、今年のAHAでは、アストラゼネカのEpanova(EPA・DHAカルボン酸製剤)のSTRENGTH試験の結果が発表された。REDUCE-ITと同様な、中程度高トリグリセライド血症(180~499mg/dL)かつ低HDL-C値で心血管リスクが高くてスタチンを服用している患者13078人に一日4gまたは偽薬(コーン油)を投与して、CVO(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的卒中・冠再建術・不安定狭心症による入院)を追跡したが、中間解析で無益判定された。メジアン3.5年間の追跡で、ハザードレシオ0.99(95%信頼区間0.90-1.09)と殆ど差がなかった。

REDUCE-IT試験とは95%信頼区間すら重なっておらず、かなり異なった結果だ。原因として考えられているのは三点。第一は、試験薬の違い。EpanovaはDHAも含有しており、EPAの量はVascepaより少ない。Vascepaの試験では出血リスクが増加したが、Epanovaの試験では観察されておらず、もしかしたら、EPAの血栓抑制作用に伴う血管閉塞性疾患防止効果がDHAの血栓促進作用によってオフセットされているのかもしれない。あるいは、DHAとスタチンの間に好ましくない相互作用があるのかもしれない。

第二は偽薬の違い。Vascepaの試験では鉱油群でLDL-C値やhsCRP値(炎症のバイオマーカー)が若干上昇しており、鉱油の副作用がVascepaの治療効果を嵩上げしたのかもしれない。

また、どちらもスタチン服用者を対象としているが、コレステロール異常症のような苦痛を伴わない、治療の必要性も効き目も体感できない病気は服薬アドヒアランスがあまりよくなく、スタチンのアウトカム試験でも3年、5年と経つうちに服用を自発的に止めてしまう患者が増えていく。STRENGTH試験論文にはベースライン時点と1年経過後の各群の平均LDL-C値が表記されているが、その後の状況は記されていないので、スタチン服用中止例に群間の偏りがなかったかどうか、当方は確認できない。

個々の要素は転帰を大きく変えるほどのインパクトはないように感じられるが、全部合わせれば95%信頼区間の重ならなかった部分くらいは説明できるかもしれない。

FDAがVascepaの心血管疾患リスク削減効果を承認したため、REDUCE-IT試験に対する疑念は一旦静まったが、STRENGTH試験の学会・論文発表を機に再燃している。

リンク: Nichollsらの治験論文(JAMA、オープン・アクセス)
リンク: Sharmaらのエディトリアル(同)
リンク: Curfmanのエディターズ・ノート(同)


【新薬開発】


B型血友病の第3相遺伝子療法試験が成功
(2020年11月19日発表)

アムステルダム大学アカデミック・メディカル・センター発の希少疾患ベンチャーであるuniQure(Nasdaq:QURE)は、AMT-061(etranacogene dezaparvovec)の第3相重症B型血友病試験で主目的を達成したと発表した。

54人を組入れて、AAV5(アデノ随伴ウイルス5型)をベクターとして第IV因子Paduaを2x10^13ゲノムコピー/kg投与したところ、第IV因子レベル(正常値対比)で治療前の2%未満から37%に上昇した。72%の患者は出血事故がゼロになり、残りの15人は合計で21回出血があった。第IV因子製剤の使用量は、治療前の年率29万IUと比べて96%減少した。治療前に抗AAV5中和抗体を保有していた23人にも治療効果が見られた。

主な有害事象は肝機能検査値異常(プロトコルに従いステロイドで治療)の発現率が17%、点滴関連反応と頭痛、インフルエンザ様症状が各13%だった。治療時関連深刻有害事象の発生は報告されていない。

第IX因子PaduaはイタリアのPadua大学の研究者、Paolo Simioniが発見した多型で、FIX活性が野生型より8-9倍高い。AMT-061は今年6月にCSL Behringが開発販売権を取得した。

リンク: uniQureのプレスリリース

ギリアド、capsid阻害剤が多剤抵抗ウイルスを抑制
(2020年11月18日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-6207(lenacapavir)の第2/3相試験の当初結果を公表した。多剤耐性ウイルスに対して、ファースト・イン・クラスに相応しい効果を示した。

GS-6207はHIVのRNAを包むカプシド蛋白の阻害薬で、ウイルスのライフサイクルにおける複数の段階に介入する。このCAPELLA試験は複数のクラスの抗HIV薬に抵抗性を持ち、ウイルス検出不能状態に管理できていない患者36人を組入れて、機能的モノセラピー期では錠剤を追加投与して2週間後のウイルス量を偽薬と比較した。維持期では、バック・グラウンド・レジメンを個々の患者に最適なものに切り替えた上で、試験薬群は長期作用性皮注用製剤を6ヶ月毎に投与、偽薬群は錠剤によるリードインを経て皮注用に移行する。

発表されたのは機能的モノセラピー期のヘッドライン・データ。試験薬群(ベースライン時点のウイルス量は4.2log10コピー/mL)は0.5log10減少達成率が88%と偽薬群の17%を有意に上回った。減少幅は試験薬群が1.93log10、偽薬群は0.29log10でこちらも有意に上回った。有害事象は注射箇所の結節や腫脹など。

画期的な作用機序を持つので今回のような多剤耐性ウイルスが最初のターゲットになりそうだが、忍容性次第では一次、二次治療にも展開するだろう。長期作用性注射用抗HIV薬という点ではヴィーヴヘルスケアの筋注用インテグラーゼ阻害剤、cabotegravirと似ており、将来的に両薬がHIV予防に承認されればバッティングしそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


リンパ腫の抗体薬物複合体が承認申請
(2020年11月20日発表)

スイスのADC Therapeutics(NYSE:ADCT)は、Lonca(loncastuximab tesirine)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は21年5月21日。二重連鎖DNAの二本の間に共有クロスリンクを形成して細胞分裂を妨げる薬物を抗CD19抗体とリンカーで結んだADC(抗体薬物複合体)で難治再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療以降に用いる。第2相試験ではORR(客観的反応率)が48.3%(完全反応率は24.1%)、メジアン反応持続期間は10.2ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症、血小板減少症、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ上昇、貧血など。

リンク: 同社のプレスリリース

サノフィ、ポンペ病の新薬を米国でも承認申請
(2020年11月18日発表)

サノフィは、avalglucosidase alfaをポンペ病薬として米国でも承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は21年5月18日。

ポンペ病はα-グルコシダーゼの欠乏によりライソゾームにグリコーゲンが蓄積、筋力低下による様々な合併症を引き起こす。現在はアミカス・セラピューティクスのCEOとして経口剤の開発を進めているジャック・クラウリーが娘を助けるために研究者や出資者を探して実用化に漕ぎ着けたMyozyme(alglucosidase alfa、和名マイオザイム)が代表的な治療薬だ。クラウリーは事業をジェンザイムに譲渡、サノフィは2011年にジェンザイムを買収して超希少疾患用薬に本格参入した。

avalglucosidase alfaはalglucosidase alfaの改良薬で、筋細胞のM6P受容体に対する親和性を高め、効果増強を図った。しかし、遅発型ポンペ病と診断され初めて治療を受ける患者96人を組入れた直接比較試験では、主評価項目である相対的努力肺活量(ppFVC)の非劣性解析は成功したものの、優越性解析は有意水準にあと一歩、届かなかった。

EUでも10月に承認申請が受理されている。

リンク: サノフィのプレスリリース


【承認審査・委員会】


サノフィの寒冷凝集素症用薬は承認審査完了
(2020年11月14日発表)

サノフィは今春、sutimlimabを寒冷凝集素症治療薬として日米で承認申請したが、FDAからは審査完了通知を受領した。FDAは委託先における製造問題を指摘しているようだ。頻発しているcGMP問題だとしたら解決に時間がかかる可能性もある。

寒冷凝集素症は古典的補体経路の異常活性化による自己免疫性溶血性貧血の一種で、米国の患者数は5000人、日米欧では12000人と推測されている。sutimlimabはC1複合体のセリンプロテアーゼに対する抗体で、24人を組入れた第3相単群試験では過半でヘモグロビン濃度が改善し、過半で輸血不要になった。重篤な治療時発現有害事象が7人で発生したが、何れも担当医が試験薬との因果関連を否定した。

サノフィが18年に買収したBioverativがその前年にTrue North Therapeuticsを買収して入手したコンパウンド。

リンク: サノフィのプレスリリース


【承認】


FDA、早老症治療薬を承認
(2020年11月20日発表)

FDAは、アイガー バイオファーマシューティカル(Nasdaq:EIGR)のZokinvy(lonafarnib)を1歳以上のハッチンソン・ギルフォード症候群早老症および一部のプロセッシング異常による早老性ラミノパチーの死亡リスクを抑制する薬として承認した。

これらの希少遺伝子疾患はプロゲリンが細胞内に蓄積、多くの患者が15歳前に心不全などを発症して死亡する。Zokinvyはファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤。自然歴対照試験で死亡リスク低下が見られた。FDAによると、3年間の治療・追跡で平均3ヶ月間、延命する。CYP3A阻害剤/誘導剤などが併用禁忌。

旧シェリング・プラウがSCH66336/Sarasarというコードでras経路に介入する抗癌剤として開発したが、MSDによる買収を経て、2010年にアイガーに導出。アイガーは早老研究財団の支援を受けて承認に至った。

リンク: FDAのプレスリリース

アルナイラム、高シュウ酸尿症I型治療薬が欧州で承認
(2020年11月19日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、EUがOxlumo(lumasiran)を原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)の治療薬として承認したと発表した。PH1治療薬は欧州初。米国でも承認審査中で審査期限は12月3日。

PH1はアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠損により肝臓内にグリオキシル酸が蓄積する。シュウ酸過剰になりカルシウムが腎臓などで蓄積、腎障害や尿路結石を合併する。

アルナイラムはRNA介入に特化した新薬開発販売会社。Oxlumoはグリコール酸酸化酵素の遺伝子であるHAO1のmRNAに介入する。臨床試験では尿と血漿のシュウ酸が減少した。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

サノフィ、昆虫細胞培養型インフルエンザワクチンがEUでも承認
(2020年11月18日発表)

サノフィは、昆虫細胞培養型の遺伝子組換え4価季節性インフルエンザワクチン、SupemtekがEUに承認されたと発表した。17年に買収したProtein Sciencesの開発品で、米国では13年にFlublok名で承認取得、16年にはA型ウイルスの抗原二種類とB型ウイルス抗原二種類を配合した4価ワクチンも承認された。抗原量が通常のワクチンの3倍であることが特徴。

従来のインフルエンザワクチンは鶏卵にウイルスを導入し増殖させる。生産に数ヶ月かかるので、流行する型を事前に予測して見込み生産するが、近年は予測が外れたり、鶏卵で培養中にウイルスがドリフト(変異)したり上手く増殖しなかったりするケースが散見されるようになった。Supemtekの第三相試験が行われたシーズンもそうで、Supemtekの感染率は2.2%、鶏卵ベースワクチン群は3.2%で、非劣性解析が成功しただけでなく、探索的に実施された優越性解析でもよいp値が出た。

リンク: サノフィのプレスリリース







今週は以上です。

2020年11月14日

第973回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:BioNTech/ファイザーのワクチンの効率が中間解析で90%越え 
  • COVID-19:FDAがイーライリリーの抗体をEUA 
  • ファイブ・プライム、抗FGFR2b抗体が胃癌に良績 
  • 抗TSLP抗体の第3相重度喘息症試験が成功 
  • ヴィーヴ、女性のHIV感染予防試験も大成功 
  • キートルーダとレンビマの第3相腎細胞腫併用試験が成功 
  • キートルーダとヤーボイの併用肺癌試験がフェール 
  • バイエル、MRAを糖尿病性腎症に承認申請 
  • ヤンセン、ダラザレックス皮注のD-Pdレジメンを多発骨髄腫二次治療に承認申請 
  • Supernus社、ADHD用薬は承認されず、パーキンソン病薬は申請受理されず 
  • CHMP、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍用薬などの承認を支持 
  • FDA、MSDのキイトルーダをトリプル・ネガティブ乳癌に承認 
  • CHMP、ulipristalの子宮筋腫用途での承認を取消さず 


【今週の話題】


COVID-19:BioNTech/ファイザーのワクチンの効率が中間解析で90%越え
(2020年11月9日発表)

ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)と共同開発販売パートナーであるファイザーは、COVID-19ワクチンの第3相試験の中間解析データを公表した。途中経過なので数値は今後変わってくる可能性があるが、今回の解析ではワクチン効率(感染リスク削減率)が90%超と、世間の期待値よりだいぶ良かった。FDAは被験者の過半を2ヶ月以上追跡して安全性を確認するよう要求しており、ファイザーは、期日到来を待って今月第3週以降にEUA(非常時使用認可)を申請する考え。EUでは10月にローリング承認審査が始まった。両社は2020年に5000万回分(2500万人分)、21年に13億回分(6.5億人分)を生産する予定。


このBNT162b2ワクチンは、SARS-CoV-2が細胞に結合・侵入する時に使うスパイク蛋白の全長RNAを一部修飾し、リピッド・ナノパーティクルに封入したもの。接種者の体内で発現し、免疫を刺激する抗原となる。30mcgを3週間置いて二回、筋注する。零下70℃の超低温で冷凍輸送しなければならないのが物流面でのネック。医療施設や公共施設で短期集中的に接種を行い、スケジュールが合わない人は大病院に行ってもらうような流れになるのではないか。

今年7月にグローバル第3相偽薬対照試験を開始、これまでに43538人を組入れ、38955人が二回接種を完了した。二回目の接種の7日後からのCOVID-19感染をモニターする。両群合わせて32人が感染した時点で初回の中間解析を行う予定だったが、FDAとの協議を経て見送り、62イベント時点を初回とした。協議過程で94イベントに到達したため、今回の解析は94人ベースとなっている。

ワクチン効率が91%だったとすると、ワクチン群の感染者数は8人、偽薬群は86人となる。分母を38955人の半分とすると感染率は各群0.04%と0.44%。米国の9月15日以降の感染者数は約340万人、人口の1%強なので偽薬群の感染率よりかなり高いが、米国ほど流行していない国の施設も参加していることや、追跡期間が2ヶ月弱より短い可能性があること、そして、ワクチンの臨床試験に参加するような被験者はおそらく意識が高く日常活動を自制しているであろうことなどを考えると、現実離れしたデータとは言えないだろう。

両社は164人が感染した段階で最終解析を行う。また、他社が開発中のワクチンは4週置いて二回接種が多いので、比較可能性を担保するために、二回目接種の14日後以降の感染だけをカウントしたデータもまとめる予定。

治験論文を刊行すべく査読医学誌に投稿する考え。今回はヘッドライン・データしか公表されておらず、重症例を防ぐ効果や、高齢者や医療従事者など特に重要なサブポピュレーションにおける有効性や忍容性は分からない。深刻な有害事象は発生しなかった由だが、6.5億人が接種するとしたら第3相の1万倍以上なので、稀だが深刻な有害事象を被る何らかの素因を持つ人がいないとは限らない。ワクチン接種を促すために楽観的なことばかり喧伝すると子宮頸がんワクチンの二の舞になりかねないので、慎重に検討し是々非々で開示することが重要だ。

また、COVID-19ワクチンの最大の注目点、即ち、薬効面では予防効果の持続期間、安全性面では接種後に感染すると重症化しやすくなるようなことがないかどうかは、多寡だか2ヶ月間の追跡では分からない。来年以降に発表されるデータで確認する必要がある。

下記のように、FDAはイーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体のEUA(非常時使用認可)を行ったが、呼吸困難が進行した患者に用いると臨床的転帰を悪化させる可能性があることを指摘した。合併症が重症化した患者に今更、抗ウイルス抗体を投与しても手遅れであることが原因なのかもしれないが、以前から懸念されている、抗体誘導性感染増強(ウイルスに結合した抗体が細胞内に取り込まれて結果的にウイルスの侵入を手助けしてしまう)が現実化したのだとしたら、ワクチンで誘導された抗体でも同じことが起きるかもしれない。

尤も、感染者を10分の1に減らすことができるなら、もし感染時に全員が重症化するリスクがあったとしても、通常の重症化比率は10%程度なので、重症患者発生数はワクチンを接種しない人たちと同じで、軽中等症感染症を防げる分、便益があると考えることもできる。この意味でも、もし本当にワクチン効率が90%超ならば、意義が大きい。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:FDAがイーライリリーの抗体をEUA
(2020年11月9日発表)

FDAはイーライリリーのbamlanivimabを軽中等度COVID-19に感染し入院リスクが高い成人及び小児(12歳且つ40kg以上)の治療薬としてEUA(非常時使用認可)した。発症後10日以内に、一回、60分点滴静注する。

エビデンスとなる465人の軽中等症患者を外来治療した第2相試験では、28日間の入院/ER入室率が3%と偽薬群の10%を大きく下回った。700mg、2800mg、7000mgの三種類をテストしたが、ウイルス学的効果も含めて、各用量大差なかった。主な有害事象は注射箇所反応。

入院患者や酸素・呼吸補助を必要とする患者は適応外。ハイフロー酸素投与や人工呼吸器装着患者にモノクローナル抗体を投与すると臨床的転帰を悪化させる可能性があるので注意する(FDAはクラスイフェクトと受け止めているようだ)。

これはかなりな難題だ。トランプ大統領が感染して入院した時、最初に投与を受けたのはリジェネロン社の抗体医薬だった。だが、入院前に呼吸困難が起きて酸素投与を受けたと報じられているので、もしハイフロー酸素なら、本当は適応外だったことになる。そうでなかったとしても、もし治療が奏功せずハイフロー酸素が必要になった時に、体に残っている抗体が有害になるかもしれない。

bamlanivimabはカナダのAbCellera Biologicsの技術を用いて共同開発した、抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体。イーライリリーは中国のJunshi Biosciencesからライセンスした異なったエピトープに結合する抗体医薬、etesevimabとの併用も開発しており、おそらく、併用が本命だろう。

米国政府は10月に30万人分を調達することを決定、国民に自己負担ゼロで提供する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: bamlanivimabのEUAファクトシート(pdfファイル)
リンク: イーライリリーのプレスリリース


【新薬開発】


ファイブ・プライム、抗FGFR2b抗体が胃癌に良績
(2020年11月10日発表)

ファイブ・プライム・セラピュティクス(Nasdaaq:FPRX)は、FPA144(bemarituzumab)の第2相胃癌試験が良好な結果になったと発表した。まあまあな規模なので、もしかしたら、加速承認を申請するかもしれない。

FPA144はFGFの受容体、FGFR2b、に結合する抗体医薬。her2陰性胃癌の3割程度を占めるFGFR2b過剰発現胃癌などの臨床試験が進められている。今回の第2相は、FGFR2b陽性her2陰性の進行胃・胃食道接合部癌でフロントライン・セラピーを受ける155人を組入れて、mFOLFOX6レジメンに偽薬またはFPA144を追加する効果を比較した。

結果は、PFS(無進行生存期間)はメジアン値が各7.4ヶ月と9.5ヶ月、ハザードレシオは0.68でp=0.073。全生存期間は偽薬群はメジアン12.9ヶ月、試験薬群は未達、ハザードレシオは0.58でp=0.027、ORR(客観的反応率)は試験薬群が13.1%上回り、p=0.106だった。この試験は第2相で成功判定の閾値はp値が0.20を下回ることだったため、会社側は成功したと形容している。

主な有害事象は角膜炎や口内炎など。網膜剥離や高燐酸血症は見られなかった。G3以上の有害事象の発現率は各74.0%と82.9%、致死的有害事象は5.2%と6.6%、有害事象による治験離脱率は5.2%対34.2%だった。

新薬の販売承認を得るためには仮説検証的試験で仮説が正しくない可能性を棄却する必要がある。今回の第2相は、症例数は多いものの、p値の閾値が甘く設定されているところを見ると、承認申請を想定して厳格に設計・実行した試験ではないのかもしれない。また、一般に、FDAは一次治療薬に延命またはそれに準じる効果を要求する傾向がある。

それでも、一次治療薬を非対照試験のORRデータに基づいて承認したこともあることや、胃癌全てではなく特定のバイオマーカーに基づきスクリーニングした患者だけに使うテーラーメイド・メディスンであることから、今回のデータで加速承認される可能性もゼロではないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

抗TSLP抗体の第3相重度喘息症試験が成功
(2020年11月9日発表)

アムジェンとアストラゼネカは、共同開発している抗TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)抗体、AMG 157/MEDI9929(tezepelumab)の第三相試験が成功したと発表した。データは未公表だが、抗IL-5抗体や抗IL-4Rアルファサブユニット抗体と異なり、好酸球増多型以外にも有効であった模様。第3相はもう一本、経口ステロイド服用者の服用量抑制を目指す試験も進行中。早晩、承認申請されるのではないか。

TSLPは胸腺などの上皮細胞が分泌するサイトカインで、アレルギー性炎症のマスタースイッチとも呼ばれる。抗TSLP抗体はIL-4、IL-5、IL-13などの分泌を抑制するので、メカニズム的には上記抗体医薬と似たところがある。アトピー性皮膚炎のプルーフ・オブ・コンセプト試験はフェールしたが、重度喘息症は後期第2相試験で喘息増悪を6-7割抑制する効果を示した。

今回のNAVIGATOR試験は、中高量吸入ステロイドを含む二種類以上の喘息症維持療法薬を併用しても管理不良な重度喘息症患者1000人以上を組入れて、tezepelumabを4週毎に皮注する効果を52週間に亘って観察したところ、主評価項目の喘息増悪年率が偽薬比有意に低かった。被験者の約半分を占める好酸球数が300個/mcL未満のサブグループ分析でも有意に低かった。150個/mcL未満のデータも同程度に低かった由。

喘息症の過半を占める、好酸球増多型などのTh2誘導型は上記の抗体医薬が続々と発売されたが、それ以外の患者にも有効そうな新薬候補は久しぶりだ。FDAは好酸球増加型ではない重度喘息症にブレークスルー・セラピー指定している。

リンク: 両社のプレスリリース

ヴィーヴ、女性のHIV感染予防試験も大成功
(2020年11月9日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアは、cabotegravirの第3相HIV感染予防試験が中間解析で成功したと発表した。サブサハラアフリカの施設で性的にアクティブなシスジェンダー女性をcabotegravirまたは実薬であるギリアド・サイエンシズのTruvada(tenofovir DFとemtricitabineの合剤)に無作為化割付して追跡したところ、感染者数は各4人と34人、感染率は0.21%と1.79%となり、cabotegravirのほうが89%少なかった。主な有害事象は注射箇所反応。

cabotegravirは2ヶ月に一回筋注する長期作用性インテグラーゼ阻害剤。ジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸的逆転写阻害剤、rilpivirineの長期作用性筋注用製剤との併用で、他の抗ウイルス剤レジメンによりウイルス抑制できているHIV患者がスイッチする用法で欧米で承認されている。

5月には男と性交する男やトランスジェンダー女性(出生時の判定は男性)を組入れた同様な試験でも、感染率が0.38%と1.21%で69%少ないという好結果を出した。

Truvadaは経口投与で利便性は高いが、副作用はあるので、病気による痛みも不自由もない健常者が予防目的で長期間使うにはハードルが低いとは言えない。cabotegravirは筋注なので痛いが、2ヶ月に一回なので、我慢できないでもない。予防試験で効果が大きく上回ったのは、アドヒアランスの違いが大きいのだろう。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

キートルーダとレンビマの第3相腎細胞腫併用試験が成功
(2020年11月10日発表)

MSDとエーザイは、Keytruda(pembrolizumab、和名キートルーダ)とLenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を進行腎細胞腫の一次治療に用いた第3相試験が成功したと発表した。前者は200mgを三週毎点滴静注、後者は20mgを毎日経口投与したところ、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、第三者評価)も副次的評価項目の全生存期間、ORR(客観的反応率)も、実薬であるファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)を有意に上回った。データは未公表。

この試験はLenvima(18mg)とノバルティスのAfinitor(everolimus、和名アフィニトール)を併用する群もあり、こちらもPFSとORRがSutentを有意に上回った。

腎細胞腫ではKeytrudaのような抗PD-1抗体とLenvimaのようなVEGFR阻害剤の併用試験が続々と成功・承認されており、今回のレジメンも承認申請されることになりそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース

キートルーダとヤーボイの併用肺癌試験がフェール
(2020年11月9日発表)

MSDはKeyNote-598試験が中間解析で無益認定され、中止することを発表した。TPS(Tumor Proportion Score:PD-L1発現指標)が50%以上でEGFRやALKの活性化変異はない転移非小細胞性肺癌の一次治療試験で、BMSの抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)をKeytruda(pembrolizumab)と併用する群の全生存期間とPFS(無進行生存期間)を偽薬・Keytruda群と比較したが、好結果が出なかった。併用はG3以上の有害事象が増加し、致死的有害事象も増えた。

Yervoyは良く分からない薬で悪性黒色腫で初承認される根拠となった臨床試験の成績は議論の余地のあるものだった。ファイザーの抗CTLA-4抗体の開発はフェールし、アストラゼネカが権利を取得して自社の抗PD-L1抗体と併用試験を行っているが、あまりよい結果は出ていない。

一方、今回の対象であるTPS50%以上の非小細胞性肺癌では、Keytrudaのモノセラピー試験が大変良い成績を上げた。単剤でも大きな効果があるのでYervoy追加による限界効用が小さくても不思議はない。

以下は、KeytrudaやOpdivoの非小細胞性肺癌一次治療試験における化学療法群と試験レジメン群のメジアン生存期間やハザードレシオを一覧したもの。KはKeytruda、KCTはKeytrudaと化学療法の3剤併用、OYはOpdivoとYervoy併用、OYCTはOpdivo、Yervoy、化学療法の4剤併用を示す。異なった試験の成績を比較するのはミスリーディングだが、少なくとも延命効果の点では、Opdivo・Yervoyの二剤合計とKeytruda単剤は大差ないように見える。

抗PD-1抗体の非小細胞性肺癌全生存期間

メジアン値(ヶ月)ハザードレシオ
化学療法試験レジメン
PD-L1不問:
KCT(扁平以外)11.3未達0.49
KCT(扁平のみ)11.315.90.64
OYCT10.714.10.69
PD-L1≧1%:
K(扁平のみ)12.116.70.81
OY14.917.10.79
PD-L1≧50%:
K14.230.00.60
K(扁平のみ)12.220.00.69


リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


バイエル、MRAを糖尿病性腎症に承認申請
(2020年11月9日発表)

バイエルは、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)のBAY 94-8862(finerenone)を糖尿病性腎症の治療薬として欧米で承認申請した。

蛋白尿を伴う2型糖尿病性腎症の患者約5700人を日中欧米の施設で組入れてメジアン2.6年間追跡したアウトカム試験、FIDELIO-DKDで、主評価項目の腎転帰(腎不全、eGFRが40%以上持続的に低下、または腎死亡)のハザードレシオが偽薬比0.82、p=0.0014だった。個別ではeGFR40%以上持続低下のハザードレシオが0.81で、他は有意差はなかった。副次的評価項目である心血管転帰(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または心不全入院)はハザードレシオ0.86、p=0.0339で統計的に有意だがボーダーライン・シグニフィカンスだった。個々のイベントでは非致死的心筋梗塞のハザードレシオが0.80と良かったが有意性はなかった。

深刻有害事象発現率は32%で偽薬群の34%と大差ない。高カリウム血症の発生率は18%で偽薬群の9%を上回り、深刻例に絞っても1.6%対0.4%となったが、既存の類薬ほどではなさそうだ。

既存類薬は心不全治療薬として承認されており、バイエルも日米欧の施設で症候性心不全アウトカム試験を今年6月にロンチした。

リンク: バイエルのプレスリリース

ヤンセン、ダラザレックス皮注のD-Pdレジメンを多発骨髄腫二次治療に承認申請
(2020年11月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Darzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)を多発骨髄腫の二次治療薬として欧米で適応拡大申請した。BMSが買収したセルジーンのPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと併用する。また一つ、ラインや併用レジメンが増加することになる。

Darzalex Fasproはオリジナルの点滴静注用製剤を皮注用に代えた製剤で、投与時間が数分と点滴用の3~6時間と比べて著しく短い。今回の適応拡大申請は点滴静注用は含まれていない模様なので、今後は皮注用で用途を広げていく考えなのだろう。

Darzalexは一次治療も含めて様々な段階に様々な薬と併用で承認されている。D-Pdレジメンは欧州では未承認だが米国では三次治療に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


Supernus社、ADHD用薬は承認されず、パーキンソン病薬は申請受理されず
(2020年11月9日発表)

Supernus Pharmaceuticals(Nasdaq:SUPN)はSPN-812(viloxazine)をADHD治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。最近移転した、分析試験を行う自社研究所に関する問題点が主な要因である模様。

同社は6月にUS WorldMeds社の中枢神経系事業を買収し、開発品であるSPN-830(apomorphine)をパーキンソン病のオン/オフ症状治療薬として承認申請したが受理されなかった。

FDAと今後を相談する考え。

viloxazineはインペリアル・ケミカルが1976年に欧州で抗鬱剤として発売したが、現在は販売していない。Supernusはセロトニン・ノルエピネフィリン調節作用を持つと考えている。

リンク: 同社のプレスリリース

CHMP、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍用薬などの承認を支持
(2020年11月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会合で、BPDCN(芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍)用薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

BPDCNは急性骨髄性白血病の一種で形質細胞様樹状細胞が異常に増加、骨髄に蓄積し皮膚にも浸潤する。脾臓や肝臓の肥大、あるいは血球数の減少を伴うこともある。イタリアのメラニーニ社が6月に買収したStemline Therapeutics(Nasdaq:STML)のElzonrisは、BPDCNで過剰発現するIL-3受容体アルファ、別名CD123に結合するIL-3とジフテリア毒素を細胞融合したもの。臨床試験では一次治療患者13人のうち7人がCR/CRc(完全反応または活性のない皮膚異常を除いて完全反応)した。一方で、命にかかわることもある毛細血管漏出症候群も17%の患者で発現した。

CHMPは7月の会議で症例数の少なさや治験デザインの欠陥、毛細血管漏出症候群の懸念を根拠に否定的意見を出したが、今回、希少疾患なので十分な内容の試験を行うのが困難であることや承認薬がないことを斟酌して、肯定的意見に転じた。但し、再発治療に関するエビデンスが不十分であることから一次治療に限定した。

尚、米国では18年12月に承認されている。妊婦は禁忌、FDAは肝機能検査を推奨している(EUは現時点では不明))。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 再審査に関する質疑応答集(pdfファイル)

塩野義製薬が創製し日本国外ではロシュが開発販売しているXofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)は18年に日米で非複雑性インフルエンザ治療薬として承認されたが、EUでは遅れていて今回、初の肯定的意見が出た。適応は12歳以上の非複雑性インフルエンザの治療と曝露後予防。EMAは、プレスリリースの中で、市販後にアナフィラキシーなどの過敏反応症例が報告されていることに言及した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

ロシュのPhesgo(pertuzumab、trastuzumab、hyaluronidase)はPerjetaとHerceptinの活性成分とHalozyme Therapeutic社のヒアルロニダーゼの固定用量合剤。her2陽性の早期乳癌や転移乳癌に用いる。オリジナルの製剤との最大の違いは短時間の皮注で済むこと。PerjetaとHerceptinを併用で点滴静注する場合、初回は150分、二回目以降は60~150分かかるが、Rhesgoは各8分と5分に短縮できる。早期乳癌で摘出術が成功し再発を防ぐためのアジュバント療法を行う場合、日常生活の負担にならないことが望まれるので、投与時間が短く自己注できるなら幸便だ。米国では今年6月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

Aerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)のRoclandaはプロスタグランジン類縁体のlatanoprostとrhoキナーゼ阻害剤netarsudilの合剤。単剤では眼圧を十分に管理できない原発開放隅角緑内障または高眼圧症の患者に、一日一回点眼する。米国ではRoclatan名で19年3月に承認。日本は今年10月に参天製薬が開発販売権を取得したところで、合剤ではなくnetarsudil単剤の開発が先になりそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Aerie社のプレスリリース

適応拡大では、アムジェンのKyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)をDarzalex(daratumumab)及びdexamethasoneと併用で多発骨髄腫の二次治療以降に用いることが支持された。米国では8月に承認。Kyprolisはプロテアソーム阻害剤で多発骨髄腫の様々な治療段階で様々な薬との併用が承認されている。薬の選択肢が少なかったころは併用などもっての外、再発に備えて次の薬を取って置かなければならなかったが、今日では3剤、4剤併用も珍しくなくなってきた。

リンク: EMAのプレスリリース

ChiesiグループのTrimbow(beclometasone、formoterol、glycopyrronium)はCOPD治療薬として17年にEUで承認されたが、喘息症維持療法を追加することが支持された。中量以上の吸入ステロイドとベータ2作用剤を併用しても十分に管理できず、前年に1回以上の喘息症増悪を経験した患者が、一日二回、加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)で吸入する。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)がHLH(原発性血球貪食リンパ組織球症)用薬として承認申請したGamifant(emapalumab)は、再審査を経て、今年7月の否定的意見が維持された。治験の症例数が少ないこと、他の薬も併用した患者が多いことや症状が自然改善することもあるため効果を特定できないこと、データ収集・管理方法に難があることなどが理由。米国では18年に承認されており、SOBIはこれらの地域に注力する考え。Gamifantは19年に買収したスイスのNovimmuneの開発品。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: SOBIのプレスリリース

今回は三品目に関して申請撤回の発表があった。何れもCHMPが否定的に考えていた。Santhera Pharmaceuticalsがデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として承認申請していたPuldysa(idebenone)は、米国で承認申請するための薬効確認試験がフェールし、この用途は開発中止となった。idebenoneはコエンザイムQ10。武田薬品が日本で脳梗塞・脳出血治療薬アバンとして販売していたことがあり、EUでは現在もレーバー遺伝性視神経萎縮症などに承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)が重度A型血友病治療薬として承認申請していたRoctavian(valoctocogene roxaparvovec)は、5型アデノ随伴ウイルスをベクターとして血液凝固第8因子を導入する遺伝子療法。CHMPは効果の持続性が明確でないことや反応に個人差があること、症例数や追跡期間が十分でなく安全性が確立していないことなどに懸念を持った。FDAも今年8月に審査完了通知を出している。

臨床試験では第8因子活性レベルが2年目に半減する傾向が見られた。会社側は統計的モデルに基づき効果が8年持続と予想しているが、半年内に効果が減弱して第8因子の週3回投与が必要になった患者もいた。

リンク: EMAのプレスリリース

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)がIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)変異型再発難治急性骨髄性白血病用薬として承認申請していたTibsovo(ivosidenib)は、米国では18年に承認されたが、CHMPは薬効の証明が不十分と考えた。申請撤回は会社側が10月に発表済みで、新患に化学療法と併用する効果を検討している進行中の第3相試験の結果を待って再申請する考え。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


FDA、MSDのキイトルーダをトリプル・ネガティブ乳癌に承認
(2020年11月13日発表)

FDAはMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をPD-L1陽性(CPS≧10)の局所再発切除不能/転移トリプル・ネガティブ乳癌に化学療法と併用する適応拡大を承認した。KeyNote-355試験に基づくもので、被験者の38%を占めたCPS≧10のサブグループではPFS(無進行生存期間)がメジアン9.7ヶ月と化学療法・偽薬併用群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65、p=0.0012だった。尚、化学療法はnab-paclitaxel、paclitaxel、またはgemcitabine・carboplatin併用の何れかを医師が選択した。)

CPSは癌細胞だけでなく腫瘍浸透免疫細胞のPD-L1発現も検査する。Dako社のPD-L1 IHC 22C3 pharmDxがコンパニオン診断薬として同時承認された。上記試験ではCPS≧1という区切りのサブグループ分析でもメジアンが7.6ヶ月対5.6ヶ月、ハザードレシオ0.74となり、多重性に考慮したp値の閾値はクリアできなかったものの、良好な数値が出ていた。しかし、CPSが1~9のサブ・サブグループの数値は思わしくなかったのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース


【医薬品の安全性】


CHMP、ulipristalの子宮筋腫用途での承認を取消さず
(2020年11月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、子宮筋腫治療薬として承認されているEsmya(ulipristal acetate)の適応を一部取消すようEMAに推奨した。9月に薬物市販後監視委員会であるPRACから承認取消の推奨を受けていたが、他に適切な治療方法がない患者に用いることは許容した。尚、同じ活性成分を使っている事後的避妊薬、ellaOneは今回の再審査の対象外。

ulipristalは選択的プロゲスチン受容体調節剤。12年に欧州で中重度子宮筋腫用薬として承認されたが、肝移植に至る可能性もある深刻な肝障害が市販後に数例、報告されたことから、17年にPRACが調査検討を開始した。CHMP推奨を受けて、摘出術を予定している患者が症状緩和目的で最長3ヶ月間服用する用途は承認取消になり、摘出術不適・不応の閉経前女性だけに限定されることになりそうだ。

ulipristalは米国では緊急避妊用途以外では承認されなかった。日本ではEllaOneを販売しているあすか製薬が19年12月に子宮筋腫用薬として承認申請した。欧州の動きに対応したのか、三菱UFJ系のファンドがリスクシェアリングしている。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

2020年11月8日

第972回

 

(今週はaducanumabの諮問委員会の話が長いです)

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:抗GM-CSF抗体の第3相が好調に推移? 
  • COVID-19:イラリスの第3相がフェール 
  • COVID-19:RECOVERY試験はREGN-COV2を続行 
  • ファイザー、ゼルヤンツの強直性脊椎炎試験が成功 
  • BMS、TYK2阻害剤が第3相乾癬試験でオテズラに勝つ 
  • Karyopharm、Xpovioの脱分化型脂肪肉腫試験が成功 
  • バイオマリン、軟骨無形成症用薬の承認申請はFDAの助言に従っていなかった 
  • ギリアド、ジセレカを欧州で潰瘍性大腸炎に適応拡大申請 
  • バイオジェン/エーザイ、アデュカヌマブをEUでも承認申請 
  • FDA諮問委員会、バイオジェン/エーザイのaducanumabの承認に否定的 
  • アストラゼネカ、ブリリンタが脳梗塞に適応拡大 
  • ADA-SCIDの遺伝子治療がリンパ腫懸念で投与停止に 


【今週の話題】


COVID-19:抗GM-CSF抗体の第3相が好調に推移?
(2020年11月6日発表)

Humanigen(Nasdaq:HGEN)は抗GM-CSF抗体lenzilumabの第3相COVID-19肺炎治療試験を進めているが、データ安全性監視委員会(DSMB)が検出力を確認するための中間解析を踏まえて、検出力90%以上を維持するために、目標イベント数(両群合計の回復者数)を257から402に増やすよう推奨したと発表した。同社は目標組入れ数を300人から515人に拡大する考え。

ここまでならよくあることで、治療効果が前提を下回っているんだろうな、尤も検出力90%というのはかなり高いから前提が楽観的過ぎたということでもないんだろうな、どんな解析計画だったのだろう?・・・で終わるところだが、同社は一歩踏み込んだ。この種の中間解析の具体的なデータは、主目的を達成したリ無益性や安全性懸念で打ち切りあるいは盲検解除にならない限り、製薬会社や治験医等には伝達されない。しかし、スポンサーである同社はプロトコルを把握しているのである程度の推測が可能だ。今回、二つの推測を公表した。

このアダプティブ・デザイン試験では、DSMBが中間解析に基づき組入れ拡大を推奨する条件の一つとして、中間データが有望域にあることを求めている。従って、有望域の定義より、『回復』の偽薬比ハザードレシオが1.29以上であることが推測できる(大きいほど良好)。

更に、目標イベント数から逆算して、中間解析のハザードレシオが1.37程度だったことが推測できる由だ。

話が前後するが、この試験は人工呼吸器/ECMO装着が必要なほどは悪化していないCOVID-19肺炎患者を米国と南米の施設で組入れて、回復状況を偽薬群と比較する無作為化割付二重盲検試験。両群ともSOC(標準療法)を受けており、途中経過段階では8割の患者がremdesivirかつまたdexamethasoneによる治療を受けていた。当初目標の300人組入れは既に終了している。

重症患者でしばしば見られる肺疾患や血栓症は免疫血栓反応が異常亢進することが原因と推測されるため、抗IL-6受容体抗体など様々な免疫抑制剤の臨床試験が実施されたが、今のところ、思わしい結果は出ていない。顆粒球単球コロニー刺激因子を抗体でブロックすることで回復までの期間を2~3割短縮できるなら朗報だが、会社側推定は本当に正しいのだろうか?

そもそも、盲検試験の途中経過を公表するのはタブーであり、例え推定であったとしても、治験医や被験者にバイアスを与えるリスクがあるので、好ましいことではない。臨床試験の厳格性を損ねる懸念がある。

lenzilumabは別途、NIH(米国立衛生研究所)がremdesivir併用効果を検討するPOC試験、ACTIV-5/BET-B試験を行っている。目標組入れ数は200人なのでやや小さいが、もう一つのエビデンスになりうるだろう。二本とも成功するかどうか、注目したい。

Humanigenは旧名KaloBios Pharmaceuticals。15年11月にMartin Shkreliが仲間と株式の7割を取得しCEOに就任したが、翌月、証券詐欺で逮捕されたため解任、チャプター11の適用申請を経て、ハゲタカファンドの支援を得て復活した。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:イラリスの第3相がフェール
(2020年11月6日発表)

ノバルティスは、抗IL-1ベータ抗体Ilaris(canakinumab、和名イラリス)をCOVID-19肺炎によるサイトカイン放出症候群の治療に用いる第3相試験がフェールしたと発表した。挿管/人工呼吸器装着していない患者454人を組入れて転帰を検討したが、主評価項目である、人工呼吸器装着せずに29日間生存している患者の比率は88.8%と偽薬群の85.7%と大差なかった(p=0.29)。副次的評価項目のCOVID-19関連死亡率は4.9%対7.2%でp=0.33だった。

釈然としない発表だ。死亡率の点推定値の差は2.3%と大きく、もっと大規模な試験なら有意差が出たのではないか、という疑念を持たざるを得ない。尤も、この試験もtime-to-event分析を採用しているのだろうから、当初の群間差がもっと小さい、もしかしたら、Ilarisのほうが悪い、という可能性も考えられないでもない。

Ilarisは周期熱症候群や全身型若年性特発性関節炎、周期性症候群などの治療薬として日米欧で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:RECOVERY試験はREGN-COV2を続行
(2020年11月5日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は二種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテル、REGN-COV2の第3相COVID-19治療試験や予防試験を実施しているが、既報のように、入院患者の試験でハイフロー酸素/人工呼吸器患者に安全性懸念が生じたことから、精査が終わるまで当該患者の新規組入れを一時停止した。独自にCOVID-19入院患者試験を実施しているオックスフォード大学でも独立データ監視委員会がチェックしたが、続行を推奨したことが公表された。好ましいニュースだが、症例数が少ないので、楽観はできないだろう。

オックスフォード大学はRECOVERY試験というマスター・プロトコルの下、COVID-19入院患者の死亡リスクや罹患期間を抑制する効果を検証すべく、幾つかの既存薬/新薬の試験を行っている。これまでに、酸素投与/呼吸補助を必要とするサブグループにおけるdexamethasoneの有効性と、hydroxychloroquineやlopinavir/ritonavirの無効性を明らかにする成果を上げている。医療現場の負担を軽減すべく集計項目を簡素化するとともに、英国外の医療施設も加えることで、規模とスピードを両立させた。試験薬は適宜、見直しており、REGN-COV2の試験は今年9月に、対照群と2000人ずつ組入れるのを目標に、開始した。

今回、独立データ監視委員会は安全性と効果のデータがある15,545人(うちREGN-COV2群と対照群は合計325人)のデータや外部情報を検討した結果、治験のプロトコルを見直す十分な根拠はなく、患者組入れを続行するよう推奨した。

リジェネロンの入院患者試験の目標症例数は1850人なのでRECOEVRY試験のほうが規模が大きいが、評価対象が325人となると、そのうちハイフロー酸素投与以上の措置が必要な患者だけに関する便益や危険を判断するには不十分だろう。当否を確認するにはもっと多くの患者を組入れる必要がある。

リンク: RECOVERY試験データ監視委員会の報告(pdfファイル)
リンク: リジェネロンのプレスリリース


【新薬開発】


ファイザー、ゼルヤンツの強直性脊椎炎試験が成功
(2020年11月6日発表)

ファイザーは、JAK阻害剤Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の第3相活性期強直性脊椎炎試験が成功したと発表した。2種類以上のNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)に不応不耐の270人を組入れて、5mgを一日二回、経口投与する効果を偽薬と比較したところ、ASAS20達成率が各56%と29%となり、有意な差があった。副次的評価項目のASAS40達成率も41%対13%で有意に上回った。

詳細は、11月9日にACR(米国リウマチ学会)/ARP(リウマチ専門医協会)年次総会で発表する予定。また、既にFDAに適応拡大申請して受理されたことも明らかにされた。審査期限は21年第2四半期。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、TYK2阻害剤が第3相乾癬試験でオテズラに勝つ
(2020年11月3日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、BMS-986165(deucravacitinib)の一本目の第3相中重度尋常性乾癬試験が成功したと発表した。偽薬だけでなくアムジェンのOtezla(apremilast、和名オテズラ)に対しても有意に上回った。データは未発表。二本目の結果は来年第1四半期に判明する見込み。日本や中台韓でも別途、第3相試験中。

尋常性乾癬では、活性化した抗原提示細胞が分泌してT細胞のTh17細胞化を誘導する、IL-23を標的とする抗体医薬が続々と登場している。BMS-986165はIL-23やIL-12、I型インターフェロンがトリガーする細胞内シグナル伝達を調停するチロシンキナーゼ2(TYK2)の経口阻害剤で、作用メカニズムが似ている。第2相試験では一日6mg以上を投与した群のPASI75が69~75%と偽薬群の7%を大きく上回った。Otezlaの第3相は偽薬群を23~28%上回る程度だったので、今回の結果は意外ではないだろう。

この第3相試験は中重度尋常性乾癬で光学療法または全身性治療の対象となる666人を偽薬群、9mg群(一日一回投与)、またはapremilast群に無作為化割付して16週間治療し、PASI(乾癬面積・重症度)が75%以上低下した患者の比率や、sPGA(医師による静的総合評価)が0(無症状)または1(極軽度)に改善した患者の比率を偽薬群と比較した。どちらも尋常性乾癬の臨床試験では一般的な薬効評価方法だ。副次的評価項目としてapremilast群との比較も行った。

安全は第2相試験と同様であった由。

Otezlaは経口PDE-4阻害剤でIL-23やIL-17、IL-6、そしてTNFアルファやガンマなどの炎症性サイトカインの産生を抑制する。セルジーン社の製品だったが、BMSとの合併に際して反トラスト法上の懸念を回避するため、アムジェンに事業売却した。ファースト・イン・クラスのTYK2阻害剤の第3相が成功したことによって、ファイザーのJAK1/TYK阻害剤であるPF-06700841などの開発にも拍車がかかるだろう。

リンク: BMSのプレスリリース

Karyopharm、Xpovioの脱分化型脂肪肉腫試験が成功
(2020年11月2日発表)

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)は、Xpovio(selinexor)の第3相SEAL試験が成功したと発表した。21年第1四半期に適応拡大申請する予定。

Xpovioは核外輸送蛋白であるエクスポーティン1に結合し腫瘍抑制蛋白の排出を妨げる経口剤。19年に米国で再発難治多発骨髄腫の5次治療薬として、今年6月にはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬としても、加速承認された。欧州でも新薬承認審査中。日本は小野薬品がライセンスしたが返還を決定した。

SEAL試験は進行切除不能脱分化型脂肪肉腫の3次治療試験。多発骨髄腫の5次治療では80mgを週二回投与、2次治療では100mgを週一回投与するが、今回の試験ではモノセラピーで60mgを週二回投与してPFS(無進行生存期間)を偽薬と比較した。結果は、ハザードレシオ0.70、p=0.023だった。偽薬群の患者は癌の進行後に試験薬にクロスオーバーできるプロトコルだったが、しなかった患者との比較では、試験薬群の全生存期間が上回る傾向が見られた由(あまり良い比較ではないが)。PFSですらp値が十分に低くなかったのだから、延命効果を確認するには検出力不足なのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


バイオマリン、軟骨無形成症用薬の承認申請はFDAの助言に従っていなかった
(2020年11月2日発表)

バイオマリンはBMN 111(vosoritide)を軟骨無形成症の治療薬として欧米で承認申請し、欧州に続いて米国でも受理された。審査期限は来年8月20日とのことなので、承認薬がない25000出生に一人という希少難病の薬であるにも関わらず、優先審査指定されなかったことになる。現時点では諮問委員会を招集する考えはないとのことだが、すんなり承認されるとは限らないのではないか。

プレスリリースによると、FDAは18年に開催した小児用薬諮問委員会・内分泌代謝薬諮問委員会共催会議で、軟骨無形成症の適応を取るためには異なった年齢層に対する2年間の対照試験の裏付けが必要との立場を示した。一方、バイオマリンは、第3相試験(対照試験期間は1年)の結果が高度に説得的で、第2相試験では最大5年間の自然歴対照データがあることから、不要との立場を取っているとのことだ。

臨床試験の規模や期間を抑制すれば早く結果を出して早く承認申請できることになるが、優先審査指定されなかったことで、数ヶ月分を吐き出した。十分なデータが揃っていないため時間をかけてじっくり検討審査する必要がある、という立場を示したのだろう。承認されなかった場合、更に吐き出すことになる。

軟骨無形成症はFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)の常染色体優性変異による疾患で、骨の成長が抑制され、四肢短縮型低身長が現れる。遺伝より突然変異のほうが多いようだ。BMN 111は、FGFR3の経路を抑制するC 型ナトリウム利尿ペプチドの安定化アナログ。成長板がまだ開いている、軟骨無形成症の25%程度を占める患者が対象になる。5歳から14歳の患者121人を組入れた第3相試験では、15mcg/kgを毎朝皮注した群のAGV(年率成長速度)が偽薬群を1.57cm/年、有意に上回った。期間が短いためQOLなどの指標は有意差がなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

ギリアド、ジセレカを欧州で潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
(2020年11月2日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、EUでJyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)の適応拡大申請を行った。中重度潰瘍性大腸炎でバイオ薬を含む既存薬に十分に反応しない、または反応しなくなった、または不耐の患者に200mgを一日一回経口投与するもの。

ベルギーのガラパゴス(Nasdaq:GLPG)からライセンスしたJAK1阻害剤で、DMARDs(疾病修飾的抗リウマチ薬)に不応不耐の中重度活性期リウマチ性関節炎用薬として今年9月、日欧で承認された。一方、米国は審査完了通知を受領した。従来からの懸念である精子毒性が原因のようで、長期的な精子影響や可逆性を確認するMANTA-RAY試験などの結果を21年上期に確認した後で、改めて今後の方針を決めることになるのではないか。

リウマチでは100mgまたは200mgを一日一回経口投与するが、潰瘍性大腸炎用途では第3相で100mg群の成績が今一つだった。ラットやイヌのデータからは200mgでは十分な安全域を確保できなさそうなので、都合が悪い。リウマチはある年齢以上の女性が多いので男性に使えなくても需要に大きな影響はないが、潰瘍性大腸炎は男性も若い人も少なくないので、話が変わってくる。JAK阻害剤は癌や血栓のリスクも懸念される。他社もラインアップしているので、敢えてJyselecaを選択しなければならない症例は限られるのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース

バイオジェン/エーザイ、アデュカヌマブをEUでも承認申請
(2020年10月30日発表)

バイオジェンとエーザイは、BIIB037(aducanumab)をアルツハイマー病薬としてEUで承認申請し受理されたと発表した。米国でも承認審査中(諮問委員会の項を参照)。勝算がなければ申請しないだろうから取り敢えずポジティブだが、実際に承認されるかどうかは別問題だ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、バイオジェン/エーザイのaducanumabの承認に否定的
(2020年11月6日発表)

FDAは末梢中枢神経系薬諮問委員会を招集し、、バイオジェン/エーザイがアルツハイマー病薬として承認申請したBIIB037(aducanumab)について、意見を求めた。事前に公表されたブリーフィング資料のトーンが異常に肯定的だったため驚いたが、諮問委員会の判定は常識的で、エビデンス不足と結論した。

FDAの承認審査は徹底しており、広く信頼されている。諮問委員会がFDAの分析を受け入れないことも無いではないが、今回のように、FDAの評価を殆ど誰も支持しなかったのは私の20年余の経験では初めてだ。サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq: SRPT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Exondys 51(eteplirsen)の承認や、一部のCOVID-19用薬のEUA(非常時使用認可)など、近年はFDAの判断を批判する声が増えており、FDAに対する信頼は過去のエピソードになってしまった。

最初に、これまでの経緯を振り返る。aducanumabはアミロイド・ベータの立体配座エピトープに結合する抗体医薬。バイオジェンがスイスのNeurimmune社から世界開発商業化権を取得、 アルツハイマー病領域で協業しているエーザイと共同開発している。他社が抗アミロイド・ベータ抗体で実施した第3相は全滅したが、両社は、早期段階(アルツハイマー病による軽度認知障害と軽度アルツハイマー病)の、脳のPET検査によりアミロイド・ベータの蓄積が確認された患者に絞り込んで、15年に第3相を二本、開始した。

19年に中間解析で無益性が認定され、治験打ち切りとなったが、症例数や追跡期間が増えたアップデート分析で、302試験(通称EMERGE試験)の高用量群で主評価項目であるCDR-SBの悪化が偽薬比有意に小さかったことが判明。301試験(同ENGAGE試験)はフェールしたが、累積投与量が一定以上だったサブグループでは好ましい傾向が見られた。

最後の点について背景を付記すると、抗アミロイド・ベータ抗体はARIA(アミロイド関連画像異常)という副作用が見られ、特に、アルツハイマー病発症リスクに関連するApoE4(アポリポタンパク質E4)遺伝子多型を持つ患者では高頻度に発現する。このため、aducanumabの第3相ではApoE4型(被験者の2/3を占める)に対する用量を抑制していた。しかし、後期第1相試験で追加検討した用量漸増法の首尾が良好であったことや、ARIAが発現しても多くは症状を伴わないことが判明したことから、途中でプロトコルを変更、高用量群のApoE4型患者も陰性患者と同様に目標用量を10mg/kg月一回点滴静注に変えた。その時点では既に多くの患者が投与を受けていたため、初期に組入れられたApoE4型患者はプロトコル変更後の患者と比べて累積投与量が小さくなってしまった。301試験は302試験より遅く始まったため、影響が比較的大きかった。

両社は様々な感受性分析を行いながら日米欧の承認審査機関と相談を進め、1年後の今年7月に米国で、上記のように10月にはEUでも、承認申請した。

FDAの承認審査担当者は肯定的に受け止めた。まず、なぜ両社の抗アミロイド・ベータ抗体の試験は成功したのか?第一に、薬が違う。aducanumabはオリゴマーの形成を阻害することができ、POC(プルーフ・オブ・コンセプト)試験で脳/脳脊髄液のアミロイド・ベータを軽減する作用が確認されている。第二に、臨床試験のデザインが異なる。病気が進行した患者のアミロイド・プラクを除去しても手遅れかもしれないので早期段階の患者に限定し、アミロイド・ベータを標的とする薬なので蓄積のある患者だけを組入れた。

次に、302試験と301試験の食い違いについて。審査担当者は上記のApoE4型患者における累積投与量の問題や、301試験の高用量群だけ急速進行者の比率が多かったことなどに注目したが、それだけでは説明できないため、301試験は有効性を肯定するほどではないが否定するものでもないと結論した。

それでは、なぜ承認に前向きなのか?通常、薬効を確認するためには仮説検証的試験を二本実施して統計学的に有意な差を確認する必要があるが、救命のような臨床的に極めて重要な効能を大規模な試験で確認した場合は、例外的に取り扱われることがある。例えば抗癌剤の試験や心血管アウトカム試験などだ。また、抗鬱剤や鎮痛剤の試験のように薬効評価が主観的で偽薬効果が大きく出やすい場合は、治験の結果が2勝1敗でも、複数成功したという事実を重視して、承認する場合がある。審査担当者は、302試験を薬効の主エビデンス、後期第1相の103試験を補助的エビデンスに据え、301試験のサブグループ分析も整合的、と建付けた。

aducanumabについて記述する時は『意外なことに』を多用せざるを得ないが、FDAの統計学的評価担当者は、承認審査担当者と異なる結論だった。無益性判定後に行われた解析は厳格性がなく、累積投与量などに関する事後的サブグループ分析は信用すべきでないという、至極尤もなものだった。

承認審査担当者は、諮問委員会から肯定的な意見を引き出すべく、バイアスを盛り込んだ質問リストを作成したが、評決は散々だった。

第1問:302試験は効果を支持する強力なエビデンスを提供しているか?301試験は無視して判断せよ。
回答:Yes 1名、No 8名、棄権2名。
第2問:103試験は補助的なエビデンスを提供しているか?
回答:Yes 0名、No 7名、棄権4名。
第3問:アルツハイマー病の病理における薬理学的効果に関する強力なエビデンスが提示されているか?
回答:Yes 5名、No 0名、棄権6名。
第4問:301試験の事後的探索的解析結果も考慮した上で、302試験を有効性に関する主要なエビデンスと見なすことは合理的か?
回答:Yes 0名、No10名、棄権1名

第3問はYesが多かったが、アミロイド・ベータなどバイオマーカーが改善する効果は確認されているので、むしろ、少なかったと解釈すべき。棄権6名は、バイオマーカーが改善しても臨床的効用があるとは限らないのだから、こんな質問には答えたくないと考えたのかもしれない。

FDAの諮問委員会は特定の事項に関して専門家の意見を聞くものであり、FDAが承認するかどうかは別問題だ。それでも、これだけの反対を押し切って承認するのは容易ではないだろう。

尚、承認審査担当者は治療効果の多寡は問題にしていない。FDAは従来から、アルツハイマー病薬については治療効果の多寡を議論するのは困難であるため、統計学的に有意であれば十分というスタンスを取っているからだろう。しかし、発売されれば価格は高いだろうし、治療前には高額なPET検査も必要だ。月一回、医療施設に通って点滴を受ける費用や手間もばかにならない(米国は在宅点滴も可能だが、軽度患者が対象なので、必然ではないだろう)。従って、それに見合った治療効果があって欲しいものだ。

成功した302試験のデータを見ると、偽薬群はCDR-SBがベースラインの2.5から78週間で1.7悪化したが、aducanumab群は悪化幅が0.4小さかった。逆算すると、78週間で1.3悪化したことになる。CDR-SBは記憶機能の評価を中心に生活機能など6評価項目について夫々0点(問題なし)から3点(重度)まで0.5点刻みで評価したものを合計したものなので、0.4点の差は1刻みにも満たないことを意味する。これが十分な治療効果なのかどうかは、別途、検討すべき課題だろう。

リンク: FDAと承認申請者の共同ブリーフィング資料(pdfファイル)
リンク: 両社のプレスリリース


【承認】


アストラゼネカ、ブリリンタが脳梗塞に適応拡大
(2020年11月6日発表)

アストラゼネカは、Brilinta(ticagrelor、和名ブリリンタ)を軽中度の脳卒中(NIHSSが5以下の急性虚血性卒中と高リスクな一過性虚血発作)の急性期治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。アスピリン併用で、初日は180mgを一回、その後は90mgを一日二回、30日間に亘り経口投与する。

エビデンスとなるTHALES試験では発症24時間以内の患者約11000人を偽薬またはBrilintaをアスピリン(初日は300~325mg、その後は75~100mgを一日一回投与)と30日間併用する群に無作為化割付して死亡・卒中リスクを比較したところ、偽薬群の発生率は6.6%、Brilinta群は5.5%、ハザードレシオは0.83でp=0.02だった。卒中だけのハザードレシオは0.81で、死亡は1.33と数値上は上回ったもののイベント数が少ないため統計的に有意ではなかった。

抗血小板薬の併用は必然的に出血リスクを高める。当試験では重度出血の発生率が偽薬群の0.1%を大きく上回る0.5%となり、ハザードレシオは3.99、p=0.001だった。出血事故による死亡は偽薬群が2人に対してBrilinta群は11人。計算上は、1000人に30日間投与すると11人の脳卒中を防ぐことができるが、1~2人を致死的出血で死なせる覚悟が必要になる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ADA-SCIDの遺伝子治療がリンパ腫懸念で投与停止に
(2020年10月30日発表)

英国のOrchard Therapeuticは、ADA-SCID(アデノシンデアミナーゼ欠損症による重症複合免疫不全症)の治療薬としてEUで承認されている遺伝子治療薬、Strimvelisの投与を一時的に停止すると発表した。4年前に治療を受けた患者がT細胞リンパ腫と診断されたため。

Strimvelisと同じようにガンマレトロウイルスをベクターとして欠損している遺伝子を患者に導入した遺伝子療法試験で白血病が発現したことがあり、StrimvelisのSPC(製品概要)に警告事項として記載されている。懸念が表面化してしまったのかもしれない。

欧州では年14人程度の新生児がADA-SCIDに罹患と推定されている。Strimvelisは12人に投与したところメジアン7年後に全員生存という成績を残し、HLA型が適合する近親者からの造血幹細胞移植を受けることができない患者向けに16年に承認されたが、希少疾患であることに加えて、薬剤費が約7000万円と高いことなどからあまり普及せず、承認取得したグラクソ・スミスクラインが他の希少疾患薬事業と合わせて18年にOrchard Therapeuticsに売却した経緯がある。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。