2022年3月25日

第1043回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ワクチン無料が終わる? 
  • モデルナは18歳以上の4回目接種を申請 
  • モデルナ、6ヶ月以上6歳未満に対象年齢拡大申請へ 
  • アストラゼネカの抗体医薬、EUでも肯定的意見 
  • その他の領域: 
  • ファイザー、S1PR調節剤の潰瘍性大腸炎試験が成功 
  • イミフィンジの子宮頸癌一次治療試験はフェール 
  • 一型糖尿病予防薬を再承認申請 
  • 中国の抗PD-l抗体が承認されず 
  • 前立腺癌の放射性医薬品が承認 
  • キイトルーダ、変異の多い進行内膜腫に正式承認 
  • オプジーボとしか併用できない抗LAG-3抗体が承認 
  • CDKL5欠乏症治療薬が承認 
  • ヤンセンとヴィーヴの筋注用HIV薬は最初から使える 



【COVID-19関連】


ワクチン無料が終わる?
(2022年3月25日)

報道によると、米国政府内でCOVID-19ワクチンの無料提供を早ければ年内にも終了すべきとの意見が出ている。財源不足が主因の模様だ。従来から、パンデミックがエンデミックに変わったらどこかの段階で有償化されると考えられてきたが、依然として多くの感染者が発生し日本と比べたら多くの人が亡くなっている中で、思ったより早い動きだ。

米国が有償化した場合、日本も追随する可能性があるだろう。インフルエンザ・ワクチンも高齢者など以外は自己負担だが、一点異なるのは価格だ。欧米などの政府は一回分が20ドル程度で調達しているが、民間向けは、物流コストなどがかかることもあり、数倍に膨らむだろう。

ファイザーは、COVID-19ワクチンが開発段階だったころの投資家向けミーティングで、政府向けは通常の150~175ドルより安価になることを示唆した。当時はブースターショットは年1回以下と想定されていたので、プライマリー接種が一巡したら年間需要は半減すると想定されていたが、価格を倍増すれば高水準の売上高を維持できる見通しだった。これらのことから推測すると、メーカー側は民間向けの一回分の適正価格は40~175ドルと考えているのだろう。

有償化したら今以上に接種希望者が減るだろう。説得するためには、ブースターショットの有効性をもっとハッキリと調査分析し国民に伝える努力が必要だ。


モデルナは18歳以上の4回目接種を申請
(2022年3月17日発表)

モデルナはCOVID-19ワクチンmRNA-1273(elasomeran)を18歳以上の4回目接種に用いるEUA(非常時使用認可)をFDAに申請した。

BioNTech/ファイザーが65歳以上にComirnaty(tozinameran)の4回目接種をEUA申請した時はイスラエルの疫学研究と免疫原性試験をエビデンスとしたが、モデルナは米国とイスラエルの文献を用いたようだ。両者とも、4度目ともなると厳格な感染予防効果確認試験は不要という考えなのだろう。

対象年齢を高齢者に絞らなかったのは、CDC(米国疾病管理予防センター)や医師の裁量に委ねる趣旨とのこと。対象年齢やブースター接種など対象拡大が続く中、その一部に関してFDAとCDCの見解の相違が表面化しており、役割分担のあり方が問われている。

FDAは4月6日にワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会を収集して、ブースター接種に関する様々な論点について意見を聞く予定。二製品の4回目接種の当否というよりは、他のワクチンやオミクロン株対応ワクチン、5回目、6回目以降の接種など全般的な方針を議題に挙げる模様。

リンク: モデルナのプレスリリース


モデルナ、6ヶ月以上6歳未満に対象年齢拡大申請へ
(2022年3月23日発表)

モデルナはCOVID-19ワクチンmRNA-1273を6ヶ月以上6歳未満の幼小児に接種する対象年齢拡大を数週内に欧米などで申請すると発表した。第2/3相KidCOVE試験に2歳未満2500人と2~5歳4200人を組入れて25mcgを28日置いて二回筋注し、安全性や免疫原性を既承認の年齢層と比較したところ、大差なかった。

38度以上の発熱の頻度は2歳未満が17%、2~5歳が15%、6~11歳(50mcg二回接種)は24%だった。懸念材料である心筋炎や心膜炎、小児多系統炎症症候群は発生しなかった。18~25歳(100mcg二回接種)と比べた中和抗体幾何平均比(GMR)は2歳未満が1.3、2~5歳が1.0で非劣性だった。

ワクチン効率(感染予防効果)は各43.7%と37.5%。18歳以上の臨床試験では90%超だったが、流行株がオミクロンに代わった今日ではもっと低いだろうから、どこまでが世代特有の問題なのか、明らかではない。

mRNA-1273は欧州では6歳以上、日本でも12歳以上の初回免疫に承認されているが、米国は心筋炎などの懸念から12~17歳向けの承認審査が長引いている。同社は追加データを提出するとともに6~11歳向けの申請に着手した。

リンク: 同社のプレスリリース


アストラゼネカの抗体医薬、EUでも肯定的意見
(2022年3月24日発表)

アストラゼネカはEvusheld(tixagevimab、cilgavimab)をEUでもCOVID-19感染予防薬として承認申請しているが、CHMPが肯定的意見をまとめた。昨年12月にEUA(非常時使用認可)された米国と同様に12歳且つ体重40kg以上の人が対象だが、中重度免疫不全やワクチン不耐不適に限定してはいないようだ。

用量は各活性成分を150mgずつ順番に筋注する。この抗体カクテルはオミクロンのBA.2株には中和力価を維持しているがBA.1やBA.1.1には低下する。米国はBA.2の比率が急上昇しているもののこれまでの主流はBA.1.1であるため、FDAが推奨用量を300mgずつに倍増した。CHMPも異なった用量の検討を続けると記している。

オミクロン株出現の前に実施された第3相試験では、メジアン83日追跡中の試験薬群の感染率が0.2%(3441人中8人)に対して偽薬群は1.0%(1731人中17人)だった。各群の重症感染者はゼロと3人、死亡はゼロと2人だった。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【新薬開発】


ファイザー、S1PR調節剤の潰瘍性大腸炎試験が成功
(2022年3月23日発表)

ファイザーはetrasimodの第3相ELEVATE 12潰瘍性大腸炎試験が成功したと発表した。長期試験の結果が今月中にも出た段階で承認申請に向かうだろう。

欧米、日本、ロシア、ウクライナなどの施設で一つ以上の治療薬に不応不耐だった中重度活性期潰瘍性大腸炎354人を組入れて、2mg錠を一日一回、経口投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目である12週時点の臨床的寛解率だけでなく、副次的評価項目も全て成功した。

もう一本のELEVATE 52は52週時点の臨床的寛解率を検討している。

今月、Arena Pharmaceuticalsを企業価値ベース67億ドルで買収して入手したコンパウンドの一つで、S1P受容体調節剤。潰瘍性大腸炎がリード・インディケーション。

類薬ではブリストル マイヤーズ・スクイブのZeposia(ozanimod)をこの用途に用いる適応拡大が21年に欧米で承認されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース


イミフィンジの子宮頸癌一次治療試験はフェール
(2022年3月24日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi (durvalumab)の第3相局所進行性子宮頸癌一次治療試験がフェールしたと発表した。770人の患者を組入れて化学放射線療法に追加する効果を検討したが、PFS(無進行生存期間)を有意に伸ばすことはできなかった。

類薬ではMSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)はKeyNote-826試験が成功、米国で適応拡大が承認された。ImfinziとKeytrudaの試験の主な違いは、前者はPD-L1不問だが後者はCPS≧1限定であること、前者は放射線療法も並行施行したが後者は化学療法だけであること、前者は一次治療だが後者は再発治療も組入れたこと。これらの違いが成否につながったのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


一型糖尿病予防薬を再承認申請
(2022年3月21日発表)

Provention Bio(Nasdaq:PRVB)はteplizumabを高リスク患者の一型糖尿病発症を遅らせる薬としてFDAに再承認申請し、受理された。審査期限は8月17日。

成熟T細胞のCD-3エプシロン鎖に結合するIgG1型ヒト化抗体で、18年にMacroGenicsからライセンスした。MacroGenicsがイーライリリーと提携して実施した一型糖尿病試験は2010年にフェールしたが、NIH(米国立医療研究所)が主導した第2相試験が成功。一型糖尿病の近親者を持ち、一型糖尿病に関連する二種類以上の自己抗体を持ち、OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)高値の高リスク患者76人を組入れて、一日一回、2週間に亘って点滴静注したところ、臨床的に一型糖尿病と診断されるまでの期間が48ヶ月と偽薬群の24ヶ月を大きく上回った。

Provention Bioが20年に承認申請したが、臨床試験で用いられたイーライリリーの薬剤とAGC Biotech製の市販用バッチとの薬物動態的等価性などがネックとなり、審査完了通知を受領した。今回の申請では、FDA側の提案を受け入れて、曝露が臨床試験時と同程度(90%信頼区間が80~125%のレンジ内)になるよう用量を調節した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


中国の抗PD-l抗体が承認されず
(2022年3月24日発表)

イーライリリーは中国のInnovent Biologics(HKEX:01801)からsintilimabをライセンスし、米国で進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。一言でいえば、既に承認されている薬と比べて特に優れたところのない薬を、FDAに事前に相談せずに中国だけで実施した臨床試験に基づいて申請しても、承認しないということだろう。中国発の薬を競合品の4割引きで販売しようとしている会社は複数あるが、何はなくとも報連相だけは怠れない。

この抗PD-1抗体は中国でクラシック型ホジキン・リンパ腫など複数の癌に承認されている。今回のORIENT-11試験はpemetrexedと白金薬のレジメンに追加する効果を偽薬追加と比較したもの。PFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)がメジアン8.9ヶ月対5.0ヶ月、ハザードレシオ0.48、全生存期間のハザードレシオは0.60と良好な結果になり、中国では適応拡大が承認された。

しかし、FDAは2月の諮問委員会でデザインが不適切と断じた。ICH(医薬品規制調和国際会議)の多施設臨床試験や民族的要因に関する基準を充足していないこと、対照群は既に米国で承認されているKeytrudaと化学療法のレジメンであるべきこと、事前相談どころか結果が出た後で初めてFDAに情報提供したことなどを難じた。中国でKeytrudaのレジメンが承認されたのは本試験が始まった後だが、FDAは、その時点で患者同意書の改訂・コンセント再取得が行われなかったことも難じた。審査完了通知は、Keytruda対照非劣性試験の実施を推奨した。

こうして見ると中国の臨床試験は全部ダメと言っているわけではなさそうだ。特定人種だけの小規模な試験に基づいて承認した前例では、筋萎縮性側索硬化症用薬edaravoneがある。急性脳梗塞の治療用途では、各社の開発品の第3相が続々フェールする中で唯一、日本の試験が成功し承認され、治験論文が掲載されるのはNEJMか、Lancetか、JAMAかと期待していたら聞いたことのない医学誌で、期待された欧米での取得も実現しなかったトラウマがあるので、ALSでも承認されるかどうか心配していたが、杞憂だった。中国だけの試験でも、事前にFDAのプロトコル審査を受けたり、米国でも十分な薬がない病気や段階なら、承認される可能性はあるのではないか。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認】


前立腺癌の放射性医薬品が承認
(2022年3月23日発表)

FDAはノバルティス・グループのAdvanced Accelerator Applications社が申請したPluvicto(lutetium Lu 177 vipivotide tetraxetan)を転移去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認した。アンドロゲン受容体標的薬とタキサン系抗癌剤による治療歴を持ち、PET検査でPSMA(前立腺特異的膜抗原)陽性と判定された癌が適応になる。

半減期が72時間と比較的短い放射性核種、ルテチウム177を搭載した放射性医薬品で、7.4 GBq(200ミリシーベルト)を6週毎に最大6回、投与する。第3相試験ではメジアン生存期間が15ヶ月と標準療法/最良支持療法だけの群の11ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。PFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザードレシオは0.40だったが、対照群の早期離脱が多く、二重盲検ではなかったこともあり、解釈は困難であるようだ。有害事象は骨髄抑制や腎毒性など。

ノバルティスが18年に21億ドルで買収したEndocyte社がドイツのDKFZ癌研究所やハイデルベルグ大学病院と共同開発したもの。PMSAスクリーニング用のコンパニオン診断薬、Locametz(gallium Ga 68 gozetotide)も承認された。

報道によると、一回分の価格は42,500ドル。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース


キイトルーダ、変異の多い進行内膜腫に正式承認
(2022年3月21日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)をMSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復欠損)の進行内膜腫に単剤投与することがFDAに承認されたと発表した。治癒的手術/放射線療法が適応にならず、全身性治療後に進行した患者が対象。エビデンスはKeyNote-158試験のコフォートDとKの90例。ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が46%(完全反応率12%)、反応者の68%は12ヶ月以上持続した。

MSI-HやdMMR、TMB-H(腫瘍遺伝子変異量高スコア)は癌細胞の遺伝子変異の多さを示す指標。奇妙な蛋白が多く作られれば免疫応答を招きやすいだろうから、免疫応答を増強する抗PD-1/PD-L1抗体が効きやすいことが想定される。

Keytrudaは17年に米国でMSI-H/dMMRの切除不能/転移性固形癌の再発治療に加速承認された。エビデンスのうち症例が最も多い結腸直腸癌は、実薬対照延命効果確認試験のエビデンスに基づいて、20年にMSI-H/dMMRの切除不能/転移性結腸直腸がんの一次治療薬として本承認された。二番目に多いのが進行内膜腫で、ORR(同上)は14人中5人、36%だった。従って、今回の承認は新規の適応拡大というよりは、加速承認の一部が本承認に格上げされたと考えるべきである。

同様な適応ではグラクソ・スミスクラインの抗PD-1抗体、Jemperli(dostarlimab-gxly)が21年に白金薬レジメンによる治療歴を持ちdMMRの難治/進行内膜腫用薬として承認されている。

尚、MSI-HでもdMMRでもない進行内膜腫の再発治療にはKeytrudaとエーザイ/MSDのLenvima(lenvatinib)の併用が承認されている。

リンク: MSDのプレスリリース


オプジーボとしか併用できない抗LAG-3抗体が承認
(2022年3月18日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブのOpdualag(relatlimab-rmbw、nivolumab)が12歳以上の切除不能/転移黒色腫用薬として米国で承認された。ファースト・イン・クラスの抗LAG-3抗体とOpdivoの活性成分の固定用量配合剤で、免疫細胞が癌細胞を見過ごす原因になりうる二つの異なったパスウェイを同時にシャットダウンする。

714人を組入れた第2/3相RELATIVITY-047試験では、relatlimab(160mg)とnivolumab(480mg)を4週毎点滴静注した群のPFS(無進行生存期間、担当医評価)がメジアン10.1ヶ月と偽薬・nivolumab併用群の4.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.75、p=0.0055だった。

BMSのOpdivoとYervoy(ipilimumab)の併用と効果の面では大差なさそうだが、毒性がそれほど高まらないのが長所。治療関連有害事象発生率はG3/4が各群18.9%と9.7%、致死例は各3人と2人、治療関連有害事象による治験離脱率は14.6%と6.7%となっている。

承認申請時のプレスリリースには体重40kg以上が対象と記されていたが、レーベル上は限定されず、体重40kg未満の患者における至適用量は確立していないと注記するに留められた。

今回、抗LAG-3抗体を固定用量配合剤として商品化したのは、抱き合わせ販売することにより他社の抗PD-1/PD-L1抗体と併用できないようにしたのだろう。単純な抱き合わせ販売は反トラスト法違反の虞があるが、薬品業界では、皮注用ベータ・インターフェロンと経口ribavirinの同梱製品とか、しばしば見られるのが不思議だ。

リンク: BMSのプレスリリース


CDKL5欠乏症治療薬が承認
(2022年3月18日発表)

FDAはMarinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)のZtalmy(ganaxolone)をCDKL5(cyclin-dependent kinase-like 5)欠乏症患者の癲癇発作を抑制する薬として承認した。中枢神経選択的GABA Aポジティブ・アロステリック・モジュレーターで、1800mg分の経口懸濁液を一日三回、服用する。臨床試験では主要運動性癲癇頻度がベースライン比で30.7%減少し、偽薬群の6.9%減より高い予防効果を示した。有害事象は傾眠、鎮静など。2歳児から適応になる。価格は年13万ドルと高い。

CDKL5欠乏症は数万出生に一人の遺伝子疾患で、脳が適正に機能する上で重要な蛋白の遺伝子に変異がある。X染色体上にあるため男子の出生は少ない。新生児のころから癲癇や重度の神経発達障害を示す。

03年にPurdue Pharmaからインライセンスした。EUでも承認審査中で、Orion社が販売権を持っている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Marinus社のプレスリリース


ヤンセンとヴィーヴの筋注用HIV薬は最初から使える
(2022年3月24日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalとGSK/塩野義/ファイザーの合弁会社、ヴィーヴ・ヘルスケアは、夫々、Cabenuva(cabotegravir、rilpivirine)の米国のレーベルが改訂され、筋注用製剤を最初から使えるようになったと発表した。21年に承認された長期作用性インテグラーゼ阻害剤と長期作用性非核酸系逆転写阻害剤の同梱製品で、ウイルスを抑制できているHIV/IDS患者がスイッチすれば、月一回、または二か月に一回の筋注で足りるようになる。初承認時点では最初の28日間以上は経口製剤を服用しなければならなかったが、FLAIR試験の124週データに基づき、経口剤を挟んでも最初から筋注でも効果は同じと判定された。

リンク: JNJのプレスリリース






今週は以上です。

2022年3月18日

第1042回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ラムダ・インターフェロンの第3相が成功 
  • ファイザー、ワクチンの4回目接種を認可申請 
  • ACTIV-2試験は中止、国際共同治験に鞍替え 
  • その他の領域: 
  • ESMO:キイトルーダのNSCLC術後補助療法データが発表 
  • 長期作用性甲状腺ホルモンの欧米第3相が成功 
  • ネクターのPEG化IL-2、オプジーボ併用試験がフェール 
  • サノフィ、SERDの転移乳癌試験がフェール 
  • キイトルーダとリムパーザのmCRPC試験が無益中止に 
  • アステラス、fezolinetantのアジア試験はフェール 
  • カボメティクスを肝細胞腫一次治療に申請するのは断念 
  • タケキャブ導入米社が承認申請 
  • アストラゼネカ、ファセンラの適応拡大はお預けに 
  • リンヴォックが潰瘍性大腸炎にも承認 


【COVID-19関連】


ラムダ・インターフェロンの第3相が成功
(2022年3月17日発表)

米国の新興製薬会社Eiger BioPharmaceuticals(Nasdaq:EIGR)は、PEG-Interferon lamda-1aの第3相COVID-19外来治療試験が成功したと発表した。効果はファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)に見劣りするがワクチン接種者が多いので単純には比較できないだろう。

このTOGETHER試験はブラジルの12施設が参加した研究者主導プラットフォーム試験で、これまでにhydroxychloroquine、lopinavir/ritonavir、ivermectin、metforminの無益性とfluvoxamine maleateの有効性を確認た実績がある。今回は発症7日以内で軽中等症の、入院していないが重症化リスクを持つ1936人を組入れて、PEG-Interferon lamda-1a(180mcg)を一回皮注する効果を偽薬と比較した。主評価項目は28日間のCOVID-19関連の入院/ER6時間以上入室。優越性検定はベイズ確率を用いた。

結果は、偽薬群は1020人中57人、5.6%だったのに対して試験薬群は916人中25人、2.7%だった。ベイズ確率は99.91%と閾値の97.6%を上回った。死亡は各群4人と1人だった。昨年7月から今年2月までの試験期間中に様々な株が変遷したが、オミクロン株を含む様々な変異株に有効だった。有害事象発生率は両群同程度。

欧米で承認申請する考え。

元々はブリストル マイヤーズ・スクイブが2010年に買収したZymoGeneticsのコンパウンドで、Eigerは16年にライセンス、抗肝炎ウイルス薬として開発してきた。

リンク: 同社のプレスリリース


コミナティの4回目接種を認可申請
(2022年3月15日発表)

ファイザーとBioNTechは、65歳以上を対象に、COVID-19ワクチンComirnaty(tozinameran)の追加ブースター接種(以下、4回目接種)をEUA(非常時使用認可)申請した。エビデンスはイスラエルの疫学研究および免疫原性試験。前者はイスラエル厚生省が60歳以上の110万人超のデータを分析したもので、3回目から4ヶ月以上開けて4回目接種した人は3回接種のみの人と比べて感染率が1/2、重症疾患罹患率は1/4だった。

ファイザーのCEOであるAlbert Bourla氏は、CBSのFace the Nationというインタビュー番組で、ブースター接種一回だけでもCOVID-19による入院は防げるが感染は防げない、と発言した。根拠はよくわからないが、未発表のデータがある模様だ。ブースター接種は有効と聞いていたので驚かされるが、オミクロン株は別ということなのかもしれない。

インタビュアーは、FDAは当初はブースターは不要と言っていたが必要と意見を変え、国民を混乱させたと難じた。日々、蓄積されるエビデンスに基づいて判断するしかないので已むを得ないのだが、あまり繰り返すと不信感が高まりかねない。

リンク: 両社のプレスリリース


ACTIV-2試験は中止、国際共同治験に鞍替え
(2022年3月17日発表)

英国の新薬開発企業Synairgen(LSE:SNG)は、SNG001(interferon beta-1a、吸入用)の第3相COVID-19入院治療試験(SPRINTER)を行ったが、入院期間短縮効果を確認できなかった。一方、NIH(米国医療研究所)が主導する外来治療試験、ACTIV-2は、昨年10月に第3相フェーズアップが決定。入院・死亡リスク抑制が期待されたが、一転して、ACTIV-2試験全体が新規組入れ中止になってしまった。効果の問題というよりは、環境が変化しデザインの立て直しが必要になっのだろう。

第一は、オミクロン株の流行。マスター・プロトコル(21年6月時点)によるとREGEN-COV(casirivimab、imdevimab:和名ロナプリーブ)対照非劣性試験で、真の入院・死亡率2.3%を前提に、各群600人を組入れる予定だった。しかし、オミクロン株は重症化リスクが低いので、検出力を維持するためにはもっと多くの患者を組入れる必要があるだろう。また、REGEN-COVはオミクロン株に対する力価が低いことが判明。非対照試験がナンセンスになり、偽薬対照優越性試験に衣替えを迫られた。

第二は、ファイザーやMSDの抗SARS-CoV-2薬が実用化されたこと。対照薬を変えれば済む話だが、米国でも供給は十分でなく、効果が明らかに劣るMSDのmolnupiravirがPaxlovidに匹敵するほど処方されている模様なので、現実的ではないかもしれない。そもそも、既に二剤がEUA(非常時使用認可)されている状況で第三、第四の新薬の探索は最優先課題ではないかもしれない。

もしかしたら関係しているかもしれないのは、政府と議会の予算を巡る何時もの駆け引きだ。政府はこのままではワクチンや治療薬を調達できなくなると言っており、NIHの予算にも影を落としているのかもしれない。企業の出捐で埋めれば良いのだが、NIH主導試験のコンセプトは利益相反のない研究者による研究の支援なので、フリー・ランチは食い難い。相手が新興企業だと向こうの予算にも制約があるかもしれない。

他剤の動向を見ると、ACTIV-2試験はSAB Biotherapeutics(Nasdaq:SABS)のウシ由来抗SARS-CoV-2ポリクローナル抗体、SAB-185の試験も途中で止めた。感染・入院者が減少して検出力不足になったため。

一方、塩野義製薬とACTG(AIDSやCOVID-19の共同治験グループ)は、S-217622の第3相ACTIV-2d/CORPIO-HR試験着手を発表した。発症5日以内の非入院高リスク患者1700人を偽薬と2対1割付して重症化リスクを比較する。ACTIV-2試験との違いは、症例数の多さと、欧州、南ア、北米、アフリカ、アジアと多くの地域が参加すること、そして偽薬対照であることだ。おそらく、Paxlovidやmolnupirvirが未だ承認されていない、または調達できない国の患者を多く組入れるのだろう。

一連の動きを総合すると、ACTIV-2試験は、より多くの患者をより多くの国で組入れる方向に模様替えしていくのだろう。Paxlovidのような効果の高い薬が承認されると偽薬対照試験を行い難くなるので、扉が閉まらないうちに結果を出さなければならない。

リンク: Synairgenのプレスリリース

【新薬開発】


ESMO:キイトルーダのNSCLC術後補助療法データが発表
(2022年3月17日発表)

MSDは1月にKeytruda(pembrolizumab)の第3相KeyNote-091試験の成功を発表したが、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)でデータが明らかになった。ステージIBからIIIAの早期非小細胞性肺癌の切除術を受けた患者1177人を偽薬と試験薬に無作為化割付してDFS(無病生存期間)を比較したもので、主評価項目は全体とPD-L1高発現(TPS≧50%)サブグループのDFSの二種類。

前者はハザードレシオ0.76、p=0.0014と成功した。メジアン値は各42.0ヶ月と53.6ヶ月で1年以上の差があった。後者は、意外なことに、ハザードレシオ0.82、p=0.14でフェールした。両群ともメジアン未達。引き続き追跡する予定。副次的評価項目の全生存期間は未成熟で、ハザードレシオ0.87、p=0.17となっている。

G3以上の有害事象発生率は各25.8%と34.1%。有害事象による治験離脱率は5.9%と19.8%、治療関連による死亡はゼロと4人だった。

この用途ではロシュのTecentriq(atezolizumab)のIMpower010試験も成功、米国で承認された。違いは、TecentriqはステージIBやPD-L1陰性には効果が見られず、TPSが1~49%よりも50%超の癌に対する効果の方が大きかった。また、Tecentriqはcisplatinベースの術後化学療法が適応になる患者を組入れたが、Keytrudaは不問。

従って、Keytrudaのほうが対象患者が多くなる可能性があるが、サブグループ分析結果とその解釈次第だろう。

リンク: MSDのプレスリリース


長期作用性甲状腺ホルモンの欧米第3相が成功
(2022年3月13日発表)

デンマークのAscendis Pharma(Nasdaq:ASND)はTransCon PTHの第3相副甲状腺機能低下症試験が成功したと発表した。第3四半期に米国で、年内に欧州でも、承認申請する予定。日本は別途、第3相試験を実施中で、第3四半期に結果が判明する見込み。

同社はホルモン薬をPEG化して作用を長期化するTransCon技術を持つ。第一号の週一回皮注用成長ホルモン製剤、SKYTROFA(lonapegsomatropin-tcgd)が21~22年に欧米で小児成長ホルモン欠乏症治療薬として承認されたところ。今回は甲状腺ホルモンをPEG化して、体内で徐々にPEGを切り離して作用を発揮するようにした。オート・インジェクターで一日一回、皮注する。

第3相は約80人を試験薬群と対照群(カルシウムと活性化ビタミンDだけを服用)に3対1割付して26週間治療して奏功率を比較した。奏効の定義は、カルシウム服用なし(600mg/日以下なら可)、活性化ビタミンD製剤も服用なしでアルブミン調整血清カルシウム・レベルが正常化(8.3~10.6mg/dL)すること。被験者の殆どが首の手術後の発症。ベースライン時点ではカルシウム製剤を2000mg/日前後服用、アルブミン調整血清カルシウム値は8.8mg/dLだった。

結果は78.7%対4.8%となり有意に上回った。症状やQOLに係る副次的評価項目も全て成功した。試験薬群では95%がカルシウム製剤も活性化ビタミンDも中止できた。カルシウムの尿排泄量も正常化した。忍容性面では、有害事象は対照群より少なく、治験離脱は各群1人と2人で有害事象によるものはなかった。試験薬群で投与過誤に伴う深刻治療時発現有害事象(心停止)が発生した。死亡も1例発生した(同じ患者だろう)が、試験薬とは関係なしと判定された。どんな投与過誤なのかは明らかではない。

リンク: 同社のプレスリリース


ネクターのPEG化IL-2、オプジーボ併用試験がフェール
(2022年3月14日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブとNektar Therapeutics(Nasdaq:NKTR)は、第3相メラノーマ一次治療試験(PIVOT IO-001)がフェールしたと発表した。Opdivo(nivolumab)にPEG化IL-2製剤NKTR-214(bempegaldesleukin)を追加する効果を検討したが、三種類の主評価項目全てが期待外れだった。Nektarはリストラ断行を示唆した。

この試験は未治療の切除不能/転移メラノーマにOpdivoとNKTR-214(0.006mg/kgを3週毎投与)を併用する効果をOpdivoだけの群と比較した。しかし、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)もBICR-ORR(客観的反応率、同)もフェール。もう一つの全生存期間は未だ中間解析だが有望なものではなかったようで、最終解析を断念し盲検解除した。同様な術後アジュバント試験も盲検を打ち切った。

BMSは18年に一時金10億ドルと出資8.5億ドル、開発承認目標達成時報奨金14.3億ドル、販売目標達成時報奨金3.5億ドルという巨額を投じてNKTR-214の共同開発販売権を取得したが、減損を余儀なくされそうだ。

NKTR-214は腎細胞腫や膀胱癌でも第3相中。

リンク: 両社のプレスリリース


サノフィ、SERDの転移乳癌試験がフェール
(2022年3月14日発表)

サノフィはSAR439859(amcenestrant)のAMEERA-3試験がフェールしたと発表した。第2相だが成功なら承認申請を検討する筈だった。palbociclib併用で第3相一次治療試験も進行中。

SARS439859はエストロゲン受容体を選択的に零落する経口剤。本試験はホルモン療法歴を持つエストロゲン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌を組入れてPFS(無進行生存期間、独立中央評価)を医師が選択した薬と比較した。

類薬ではRadius Health(Nasdaq:RDUS)がエーザイから導入したelacestrantの第3相二次治療試験を行い、成功したが、PFSのハザードレシオは0.70と良好であった一方で、メジアン値の差は1ヶ月足らずと、医師が選んだ薬を大きく上回ることができなかった。この試験は、エストロゲン受容体1のライガンド結合ドメインに変異を持つESR1変異型を多く組み入れたが、このサブグループはハザードレシオ0.55、メジアン値の群間差2ヶ月弱ともう少し良い結果が出ている。開票前にインライセンスしたメナリニは22年内に承認申請する考え。

サノフィの試験はESR1変異型の組入れを増強してはいない模様なので、成否が分かれる敗因になったのかもしれない。

リンク: サノフィのプレスリリース


キイトルーダとリムパーザのmCRPC試験が無益中止に
(2022年3月15日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)をアストラゼネカと同社が共同開発販売しているPARP阻害剤Lynparza(olaparib)と併用でmCRPC(転移性去勢抵抗性前立腺癌)を治療する第3相KEYLINK-010試験を打ち切ると発表した。

化学療法と、abiraterone actate乃至はenzalutamideによる治療歴を持つ793人を組入れてPFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価)及び全生存期間をenzalutamideまたはabiraterone actateを投与する群を比較したが、PFSに続いて、今回、全生存期間も独立データ監視委員会が中間解析に基づき無益認定した。

G3~5の有害事象や薬物関連深刻有害事象は対照群より多かった。

Keytrudaは前立腺癌では高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)且つ又ミスマッチ修復(MMR)機能欠損を持つ癌のサルベージ療法として単剤投与することが承認されている。一方、Lynparzaは、相同組換え修復(HR)遺伝子変異を伴うmCRPCでabiraterone actateまたはzalutamideで治療しても進行が止まらなかった患者に単剤投与することが承認されている。

今回、もっと多くの患者に資するべく併用を探索したが、残念な結果になった。

リンク: MSDのプレスリリース


アステラス、fezolinetantのアジア試験はフェール
(2022年3月15日発表)

アステラス製薬は17年にベルギーのOgeda社を買収してNK3受容体拮抗剤ESN364(fezolinetant)を入手、閉経に伴うVMS(血管運動神経症状)の治療薬として開発してきた。欧米で実施した第3相薬効確認試験は二本とも成功、1年の長期安全性試験も良好な結果になり、承認申請に向かう予定だが、中韓台で実施した第3相はフェールした。偽薬比改善したが有意水準に届かなかった。

この三ヶ国はともかく、欧米で承認を取る上では大きな問題はないのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


カボメティクスを肝細胞腫一次治療に申請するのは断念
(2022年3月14日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)は肝細胞腫の一次治療にVEGFR阻害剤Cabometyx(cabozantinib)とロシュのTecentriq(atezolizumab)を併用した第3相試験の全生存期間の最終解析がフェールしたと発表した。同じVEGFR阻害剤であるsorafenibだけを投与した群と比べて良くも悪くもなかった。適応拡大申請は断念する。

VEGFに結合する抗体医薬Avastin(bevacizumab)とTecentriqを併用した第3相は全生存のハザードレシオが0.58とsorafenib単剤より効果が高く、20年に日米欧で適応拡大が承認された。同じようなアイディアなのに、案外だ。他社はエーザイとMSDがVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib)とKeytrudaの第3相一次治療併用試験を実施中。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


タケキャブ導入米社が承認申請
(2022年3月14日発表)

米国ニュージャージーのPhathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)はvonoprazanをFDAに承認申請した。適応・効能はびらん性食道炎の治癒と胸やけの緩和で、治療と寛解維持を予定している。第3相びらん性食道炎試験では治癒率も寛解維持率もlansoprazole群と非劣性で、探索的に行われた優越性解析も成功した。安全性は、維持期のCOVID-19による深刻有害事象数に大きな偏りがあったが薬物関連とは判断されなかった。

武田薬品から欧米の権利をライセンスしたカリウムイオン競合型アシッド・ブロッカー。日本では14年に胃潰瘍の治療やピロリ菌除菌療法レジメンの一つとして承認された。Phathom社は昨年9月にピロリ菌除菌療法にamoxicillinと二剤併用、またはclarithromycinも加えた三剤併用を米国で承認申請している。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


アストラゼネカ、ファセンラの適応拡大はお預けに
(2022年3月14日発表)

アストラゼネカはFasenra(benralizumab)を鼻茸を伴う管理不良慢性副鼻腔炎の治療薬として米国で適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。追加データを求められた模様。同社は二本目の第3相が進行中と指摘しているので、一本だけではエビデンス不十分と判定されたのかもしれない。

Fasenraは協和キリンのBioWaからライセンスしたIL-5受容体アルファ・チェーンに結合するPOTELLIGENT抗体。17~18年に米欧日で重度好酸球性喘息症の治療薬として承認された。類薬であるグラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab)を追いかけるように、HES(好酸球増多症候群)やEGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)、好酸球性食道炎など様々な疾患で第3相試験中。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


リンヴォックが潰瘍性大腸炎にも承認
(2022年3月16日発表)

アッヴィはRinvoq(upadacitinib)を中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。TNF阻害剤に不応不耐の成人に、寛解導入期は45mg、維持期は15mg(病状や応答性に応じて30mgも可)を一日一回経口投与する。日欧でも承認申請中。

アッヴィは既存の治療薬に不応不耐な患者と対象とする計画だったが、FDAはJAK阻害剤の副作用に強い関心を持っており、リウマチなどと同様に、TNF阻害剤を先に使用すべきと判断した。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2022年3月12日

第1041回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 米国は人口の4割が既に感染 
  • インド発の不活化ワクチンはEUAされず 
  • その他の領域: 
  • 新規複合セファロスポリンの第3相cUTI試験が成功 
  • アッヴィ、経口CGRP阻害剤の慢性片頭痛予防試験が成功 
  • 週一回静注用第VIII因子を承認申請へ 
  • ギリアド、Trodelvyの試金石試験が成功? 
  • イムブルビカを未治療マントル細胞腫に二種変更申請 
  • IDH1阻害剤を一次治療に適応拡大申請 
  • Nymox社、今度こそオオカミが来た? 
  • リムパーザがBRCA変異早期乳癌のアジュバント療法に承認 


【COVID-19関連】


米国は人口の4割が既に感染
(2022年2月25日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は、民間のラボがCOVID-19感染以外の理由で採取した血液標本のCOVID-19抗原検査を行って、無症候性感染も含めた感染状況を間歇的に調査している。約7万検体を対象とした1月の分析によると血清陽性率は43%だった。米国人口に当てはめると感染経験者は1.4億人と推定され、これは、累計感染者数約7400万人の倍近い。2020年頃に言われていたのと似た結果になった。

年齢別には、0~17歳は58%、18~49歳は48%、50~64歳は37%、65歳以上は23%となっている。

過去のデータを見ると、昨年の2月時点では20%、9月は29%だった。連続性があるのか不明だが、下記サイトに掲示されている推移のグラフを見ると、昨秋以降、急上昇している。

アメリカは20年12月にワクチン接種が始まったが1年後にオミクロン株の流行で新規感染者数が急増した。最近になって人口当たりの数値が日本並みに低下したのは、ブースター接種だけでなく、自然感染による免疫獲得が進んだことも寄与したかもしれない。

興味深いのは、昨年のデータでも0~17歳の数値が最も高く年齢層が上がるにつれて低下している。オミクロン株は青少年の感染者が多いと言われているが、過去の株は無症状で顕在化していなかっただけで、感染率自体は変わっていないのかもしれない。

リンク: CDCのデータ・トラッカー(3月10日アクセス)


インド発の不活化ワクチンはEUAされず
(2022年3月4日発表)

米国ペンシルバニア州の遺伝子療法・ワクチン開発会社、Ocugen(Nasdaq:OCGN)は、Covaxinを2~18歳のCOVID-19予防用ワクチンとしてFDAにEUA(非常時使用認可)申請していたが、認められなかった。

インドのBharat Biotechが開発したvero細胞培養による不活化全粒子ワクチンで、昨年1月にインドでEUA、11月にはWHOにEUL(非常時使用リスト収載)された。18歳以上の約26000人を組入れたインドの第3相で症候性感染症に対するワクチン効率が77.8%、重症感染だけでは93.4%、無症候性感染症は63.6%という成績を挙げた。

Ocugenはインドで2~18歳の約500人を組入れて免疫原性を成人データと比較したブリッジング試験のデータを用いて昨年11月にEUA申請したが、直後に第3相のIND(治験許可)が停止されるなど(2月に解除)、不透明感があった。

承認されたワクチンが複数ある中で米国人における効果や安全性が確立していない製品を緊急認可する必要があるようには思えない。日本でも、ブースター接種試験で違うワクチンを交互接種した群の中和抗体価が同じワクチンを接種した群と大差ないという不思議なワクチンが話題になっているが、新規参入組が存在価値を認めてもらおうと思ったら、相応の努力と実績が必要だろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


新規複合セファロスポリンの第3相cUTI試験が成功
(2022年3月10日発表)

米国ペンシルバニア州の未上場抗生剤開発企業、Venatorx Pharmaceuticalsは、ベータ・ラクタマーゼ阻害剤VNRX-5133(taniborbactam)と第4世代セフェム系抗生剤cefepimeを併用で複雑性尿路感染症(腎盂腎炎を含む)の治療に充てる第3相試験が成功したと発表した。22年第4四半期に承認申請する予定。

このCERTAIN-1試験は欧米や中国、ロシア、ウクライナなどの施設で成人患者661人を試験薬群とmeropenem群に2対1割付けしてTest of Cure(第19~23日)における微生物学的かつ臨床的な奏効率が非劣性であることを検証した。試験薬は2.5gを2時間静注、meropeenemは1gを30分静注、どちらも8時間おきに7日間(菌血症の場合は14日間)投与した。

結果は、奏効率が各70%と58%となり成功。シーケンシャルに行われた優越性解析も成功した。第28~35日に行った追跡評価でも優越性が維持された。治療時発現有害事象発生率は各35.5%と29.0%、治療時発現有害事象治験離脱率は3.0%と0.9%と上回ったが、深刻治療時発現有害事象は2.0%と1.8%で大差なかった。試験薬群で一人が死亡したが治験医は治療関連ではないと判定した。

VenatorxはNIAID(米国立アレルギー感染症研究所)の開発助成金を得ている。次は年内に院内感染細菌性肺炎/人工呼吸器関連細菌性肺炎の第3相をBARDA(アメリカ生物医学先端研究開発局)の資金援助を得て実施する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


アッヴィ、経口CGRP阻害剤の慢性片頭痛予防試験が成功
(2022年3月10日発表)

アッヴィはQulipta(atogepant)の第3相慢性片頭痛予防試験が成功したと発表した。米国で適応拡大申請に向かうとともに、海外でも反復性片頭痛予防と合わせて新薬承認申請する考え。

片頭痛の治療や予防ではCGRP(calcitonin-gene-related peptide)受容体拮抗剤が続々と発売され、中でも、Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)のNurtec ODT(rimegepant)が経口剤の強みを生かしトップ・シェアを獲得したようだ。発作時の治療と反復性片頭痛(月4日以上発生)の予防に承認されており、後者にしか承認されておらず治療は別の製品(Ubrelvy錠)を使うQuliptaよりフレキシブルな使い方ができる。

今回の適応拡大試験成功で競争関係がどう変わっていくか、注目される。

慢性片頭痛は月15日以上発生する状態が3ヶ月以上続く。本試験は1年以上続く778人を組入れて、反復性片頭痛における最大承認量である60mg一日一回に加えて、30mg一日二回もテストした。結果は月間片頭痛日数の減少が各6.88日、7.46日となり、偽薬群の5.05日を有意に上回った。EU向けのestimandベースの解析も同様な結果になった。副次的評価項目の発作日数半減奏効率は各41%、42%、26%とこちらも有意に上回った。

有害事象は便秘や悪心など、多くは軽中度だった。深刻有害事象の発生率は各2.7%、1.6%、1.2%で治療関連と判定されたものはゼロ。

Quliptaは2020年に買収したアラガンが15年にMSDから取得した経口CGRP受容体拮抗剤パイプラインの一つ。因みにNurtecは16年にBMSからライセンスしたもの。

リンク: 同社のプレスリリース


週一回静注用第VIII因子を承認申請へ
(2022年3月9日発表)

サノフィとSwedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)は、BIVV001(efanesoctocog alfa)の第3相A型重症血友病試験が成功したと発表した。予防的投与を受けている12歳以上の患者159人を組入れて、50 IU/kgを週一回、52週間に亘って静注した単群試験で、出血率年率(ABR)がメジアン値はゼロ、平均は0.71と良好な出血予防効果が示された。治験前の既存製剤を用いていた時期との比較では有意に減少した。インヒビターは検出されていない。治療時発現有害事象は頭痛、関節痛、転倒、背痛など。年内に米国などで承認申請する予定。

血液凝固第VIII因子は2010年代に長期作用性製剤が登場、予防的投与の頻度が減少したが、それでも3~5日に一回だ。週一回なら利便性が高まり、中外/ロシュの皮注用抗第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体、Hemlibra(emicizumab)との差も縮めることができるだろう。

同社のEloctate(efmoroctocog alfa)は第VIII因子に免疫グロブリンG1の固定領域を細胞融合して半減期を延長したもの。efanesoctocog alfaは更にXTEN(商標)ポリペプチドと、当初は第VIII因子を安定化させるがやがてシャペロンとして分解を手助けするフォン・ヴィルブランド因子(vWF)との結合を回避するために、vWFの第VIII因子結合領域も融合した。2月にAmunix Pharmaceuticalsを一時金10億ドル及び目標達成報奨金2.25億ドルで買収して入手した。

リンク: 両社のプレスリリース


ギリアド、Trodelvyの試金石試験が成功?
(2022年3月7日発表)

ギリアド・サイエンシズはTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第3相TROPiCS-02試験が成功したと発表したが、データは公表せず、臨床的に意味のある効果の有無について明言せず、買収時に資産計上したイン・プロセスR&Dの減耗テストに言及し、その企業の本社閉鎖と人員削減を発表した。患者にとって朗報と言えるのかどうか不透明感が残った。

多くの腫瘍で発現するTROP-2(別名EGP-1)を標的とする抗体にirinotecan活性代謝物であるSN-38を結合した抗体薬物複合体で、転移性トリプル・ネガティブ乳癌(8割以上がTROP-2を発現)の三次治療薬として欧米で承認されたている。ギリアドは20年にImmunomedicsを210億ドル、買収プレミアム100%という太っ腹買収で入手した。この頃に断行した他の企業買収が大きな成果を上げていない中、Trodelvyのライフ・サイクルマネジメントの成否が衆目を集めていた。

今回の試験はホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌で内分泌療法、CDK4/6阻害剤、そして2~4次の化学療法歴を持つ543人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師が選んだ薬(eribulin、capecitabine、gemcitabineまたはvinorelbine)と比較した。30%リスク削減を目標に、メジアン期間の差が0.9ヶ月以上なら統計的に有意となる検出力を持たせた。

プレスリリースによると、結果は第1/2相IMMU-132-01試験のホルモン受容体陽性、her2陰性群と整合的だった。同時にSECに提出されたQ&A資料によると、当該群のメジアンPFSは5.5ヶ月だった。

サルベージ療法は無いよりマシ程度でもニーズがあるが、好中球減少症や下痢が枠付警告されていることなどと天秤に掛けると、針がどの程度振れるか分からない。

リンク: 当該発表とQ&Aに関するSEC提出資料(8-K)

【承認申請】


イムブルビカを未治療マントル細胞腫に二種変更申請
(2022年3月8日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Imbruvica(ibrutinib)を自家造血幹細胞移植不適な未治療のマントル細胞腫にbendamustineおよびrituximabと併用する二種変更をEUに申請した。65歳以上の患者を組入れ得た第3相SHINE試験に基づくもので、データは学会で発表する予定。米国などでも申請するのではないか。

Pharmacyclics(現在はアッヴィの子会社)からライセンスしたBruton's tyrosine kinase阻害剤で、難治再発マントル細胞腫における単剤投与や慢性リンパ性白血病やワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の初発/再発治療のための単剤/併用投与が承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


IDH1阻害剤を一次治療に適応拡大申請
(2022年3月7日発表)

セルビエはIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤Tibsovo(ivosidenib)を未治療の強化療法不適IDH1変異AML(急性骨髄性白血病)にazacitidineと併用する方法をFDAに申請し受理された。優先審査を受ける。審査期限は未公表。

20年にAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)から買収した腫瘍学ポートフォリオの一つで、発癌性物質を産生してしまう可能性のある変異IDH1を阻害する。18年にIDH1変異難治/再発AMLに承認、19年には未治療の強化療法不適IDH1変異AMLに単剤投与することも承認された。昨年、IDH1変異のある局所進行性/転移性胆管細胞腫にも承認された。

今回の用法は第3相AGILE試験に基づくもの。EFS(治療フェール、死亡、または24週までに寛解しないリスク)のハザードレシオが0.33、全死亡のハザードレシオが0.44、メジアン生存期間は24ヶ月とazacitidine・偽薬併用群の7.9ヶ月を大きく上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Nymox社、今度こそオオカミが来た?
(2022年3月3日発表)

Nymox Pharmaceutical(Nasdaq: NYMX)はNX-1207(fexapotide triflutate)を良性前立腺肥大の症状治療薬として米国で承認申請したと発表した。同社は17年に欧州5ヶ国で承認申請したことを発表、米国でも間もなく申請としていたが数ヶ月後に欧米で申請準備中とトーンダウン。18年には米国で申請前会議が終了し年内に承認申請と発表したが、その後、幾度となく申請予定時期を先送りした実績がある。流石に法的な懸念が生じたのか、最近のプレスリリースには、承認申請の結果に関する如何なる保証も将来予想もしていないというディスクレマーを本文中に付けている。

リンク: 同社のプレスリリース一覧

【承認】


リムパーザがBRCA変異早期乳癌のアジュバント療法に承認
(2022年3月11日発表)

アストラゼネカとMSDは、生殖細胞系BRCA変異を持ちher2陰性の早期乳癌で摘出術を受けたが再発リスクの高い患者のアジュバント療法としてLynparza(olaparib)を用いることがFDAに承認されたと発表した。化学療法によるネオアジュバントまたはアジュバント療法を受けた患者に、150mg錠を二錠ずつ、一日二回、12ヶ月間投与する。

エビデンスとなるOlympiA試験では浸潤癌・死亡のハザードレシオが偽薬比0.58、3年間無浸潤癌生存率は86%で偽薬群の77%を上回った。全生存のハザードレシオは0.68だった。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

2022年3月5日

第1040回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • WHO:男はモルヌピラビル服用後一定期間、妊娠させてはだめ 
  • オミクロン株の流行で外来治療試験が難航 
  • その他の領域: 
  • 低リスク児のRSV感染予防試験が成功 
  • ファイザー、CDIワクチンの第3相フェールも希望が残る 
  • sotagliflozinの承認申請が撤回に 
  • ギリアドのカプシド阻害剤は審査完了に 
  • カバノキ由来の表皮水疱症薬は審査完了に 
  • バルドキソロンはやっぱり承認されず 
  • FDA、オプジーボの肺癌術前療法を光速承認 
  • 血小板減少を伴う骨髄線維症の薬が承認 
  • 第2のBCMA標的型CAR-Tが承認 


【COVID-19関連】


WHO:男はモルヌピラビル服用後一定期間、妊娠させてはだめ
(2022年3月3日発表)

WHOはCOVID-19の予防・治療ガイドライン、Therapeutics and COVID-19: living guidelineを改訂し、MSDの経口抗ウイルス薬molnupiravirを重症ではないが入院のリスクが高い患者の治療薬として追加した。内容は概ねFDAと同じ。男性が女性を妊娠させた場合のリスクについては、FDAと同様に、一時的な精子毒性の可能性があるため女性と性的に活発な男性は治療完了後3ヶ月間、避妊するよう求めた。日本の添付文書や患者同意書、日本感染症学会のガイドライン(21年12月24日付)はこの懸念に言及していない。

EMAは治療効果が小さいことなどから承認自体に後ろ向きと一部で報道されている。抗体医薬も含めてSARS-CoV-2の抗ウイルス薬は症状を緩和したり罹患期間を短縮したりする効果は確立していない。重症化/入院の確率を引き下げる、ワクチンのような製品だ。臨床試験のデータ上では、100人に投与すると数人を入院/死亡から救うが残りの90人以上には特別な便益はない。それだけに、高い安全性が求められる。

リンク: WHOのダウンロードページ


オミクロン株の流行で外来治療試験が難航
(2022年3月3日発表)

ファイザーのPAXLOVID(nirmatrelvir、ritonavir)やMSDのmolnupirvirの第3相入院・死亡予防試験が行われた頃に流行していたのはデルタ株だった。入院・死亡リスクが比較的小さいオミクロン株に流行がシフトしたために、同様な試験を行っても上手くいかないケースが出始めた。対照群の入院・死亡率が解析計画の前提を大きく下回り、検出力不足に陥ってしまう懸念が生じたのだ。今週はNIH/NIAIDが推進するACTIV-2試験で二つの残念な動きがあった。

ACTIV-2試験は外来治療による入院・死亡抑制効果を検討するマスター・プロトコル試験で、様々な候補品を雁行的にテストしている。3月2日、SAB Biotherapeutics(Nasdaq:SABS)は、ウシ由来抗SARS-CoV-2ポリクローナル抗体であるSAB-185をテストする群が打ち切られたと発表した。第3相段階に進んでいたが、感染者や入院者が減少し検出力不足になったためであるようだ。SAB-185は、元々、非劣性検定を行う計画だったが、実薬であるリジェネロンのREGEN-COV(casirivimab、imdevimab)がオミクロン株にあまり効かないことが判明したため、2月に偽薬対照優越性試験に変更されたばかりだった。

翌日、英国のSynairgen(LSE:SNG)は、ベータ・インターフェロンの吸入用製剤SNG001について、第3相用の薬剤の用意を一次的に停止するようNIHから通知を受けたことを明らかにした。詳細は不明だが、臨床試験のデザインの見直しが必要になったようなので、SAB-185と同じ理由かもしれない。昨年10月に第2相の成果に基づきステージアップが決まったところなので、効果が無いとは考え難い。

SNG001は2月に第3相入院治療試験がフェールし、抗ウイルス薬なので外来治療試験は成功する可能性があると書いたばかりだが、結果が判明するのはまだ先になりそうだ。

リンク: SAB Biotherapeuticsのプレスリリース(3/2付)
リンク: Synairgenのプレスリリース

【新薬開発】


低リスク児のRSV感染予防試験が成功
(2022年3月3日発表)

アストラゼネカと開発パートナーのサノフィは、昨年6月、MEDI8897(nirsevimab)の第3相RSウイルス(RSV)感染症予防試験の成功を発表したが、治験論文がNew England Journl of Medicine誌に刊行された。早産や心臓/呼吸器疾患など合併症のリスクが高い乳児以外にも感染予防の便益があることが確認されたが、入院リスク抑制効果はトレンドに留まった。高リスク児を組入れたSynagis(palivizumab)対照試験が成功したので承認は取れるだろうが、Synagisが適応にならない低リスク児にも承認されるかどうかは不透明だ。

RSVは風邪の原因の一つで、多くの乳幼児が感染するが、自力で治癒することが多い。例外は早産だったり鬱血性心臓疾患や慢性肺疾患などの乳幼児で、RSV感染というよりは合併症を防ぐために、最初と二回目の冬に月一回、Synagisを筋注する。Synagisはそれ以外の乳児の試験も行われたが、元々のリスクが小さいことや、安全性懸念が浮上したことなどから、承認取得には至らなかった。MEDI8897はSynagisと同じ融合前F蛋白に対する抗体で、月一回ではなくひと冬に一回で足りる。

今回の試験は、在胎35週以上で健康な1歳未満を試験薬群と偽薬群に2:1割付して、一回筋注し、RSVによる下部気道感染症で受診するリスクを150日間追跡した。目標症例数は3000人だったが、COVID-19の流行により大衆の衛生志向が強まったのかRSV感染が減少したため、薬効解析は1500人、安全性データベースとして更に1500人、に変更された。

結果は、試験薬群の発生率は1.2%、偽薬群は5.0%で、74.5%抑制できた(p<0.001)。副次的評価項目のRSV感染による入院治療も0.6%対1.6%で62%抑制したがp=0.07と有意ではなかった。深刻有害事象の発生率は6.8%対7.3%で大差なかった。

RSV感染自体はそれほど深刻ではないので入院リスクで有意差が出なかったのは減点材料だが、在胎29~35週の健康な早産児1447人を組入れた後期第2相偽薬対照試験と合わせたプール分析(事前に計画されていた)では、0.6%対2.7%、p<0.001だった。第3相の点推定値も悪くなく、繰上げ完了で検出力が低下したことがフェールの理由であることが検証できれば、大きな問題にはならないだろう。

但し、150日間の追跡が未了で欠測データの補完が必要だった症例が両群合わせて21例と、感染者合計(37例)や入院者合計(14人)と比べて少ないとは言えないことは留意点だ(100日間とか130日間とかのデータが反映されているなら大きな問題にはならないが)。

今回の試験で偽薬群は感染25人、入院8人で入院治療率は32%だった。高リスク乳児を組入れた後期第2相では各46人と20人で入院治療率は43%だった。後者の方が重症者リスクが高いと言えば高いが、前者が低いとも言えない。安全性に問題がなければ、早産ではない健康児全てとは言わないまでも、適応が広がる可能性はあるのではないか。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: Hammittらの治験論文抄録(NEJM)

ファイザー、CDIワクチンの第3相フェールも希望が残る
(2022年3月1日発表)

ファイザーはクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)予防用ワクチンPF-06425090の第3相が主評価項目はフェールしたものの副次的評価項目で有望な成績を挙げたと発表した。承認審査機関と相談する考え。プレスリリースの記述が難しく、私には理解できない。

クロストリジウム・ディフィシルが分泌するA毒素とB毒素を抗原とする遺伝子組換え型ワクチンで、第3相は50歳以上の高リスク者17,500人を試験薬群と偽薬群に2対1割付して、第0月、1月、6月に3回接種し、14日経過後の感染状況を追跡した。17年に開始した段階では2年追跡して感染者が66人に達したら解析する予定だったが、COVID-19の流行などから、4年で42人に変更した。

主評価項目は3回接種後と2回接種後の最初のCDI(first primary episode of CDI)。ワクチン効率は前者が31%(96.4%信頼区間-38.7、66.6)、後者は28.6%(同-28.4、61.0)で、信頼区間がゼロを跨いだ。

会社側が注目しているのは、副次的評価項目の一つであるCDIによる受診(participants who sought medical attention for CDI)。試験薬群は17人が感染したが受診はゼロ、偽薬群は25人中11人が受診となっており、受診に関しては100%予防した計算になる。

罹患期間はメジアン値が各群1日と4日、平均は3日と16日だった。忍容性は良好で有害事象や深刻有害事象、死亡者数は両群同程度だった。

分からないのはCDIとCDI受診の違い。もし、前者は定期的な感染検査で発見されたもの、後者は下痢などの症状が出て受診時に発見されたものを指すのだとしたら、後者を重要視できるかもしれない。

そもそもの疑問としては、主評価項目の検出力は維持されているのか?time to first event試験の検出力はイベント数と相関するので、フェールしたのは66例を42例に変更したことが響いたのかもしれない。

CDIワクチンは数年前にジェンザイム(サノフィ)の第3相がフェールするなど難航しているので希望が残っているのは良いことだ。詳細発表が待たれる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


sotagliflozinの承認申請が撤回に
(2022年2月28日発表)

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)は、21年決算発表に合わせて、LX4211(sotagliflozin)の米国における承認申請を撤回したことを公表した。技術的な不備に気付いたため。近い将来に改めて申請する予定。

SGLT-1とSGLT-2を阻害する小分子薬。既に多くのSGLT-1阻害剤が存在するため同社は一型糖尿病をリード・インディケーションとして承認申請し、EUでは19年に承認されたが、米国は審査完了となった。SGLT-1阻害剤と同様に糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高まることがボトルネックになった。

今回の申請は心不全を合併する二型糖尿病のアウトカム試験二本に基づくもの。心不全症状が悪化している、あるいは他のリスク因子を持つ高リスク成人患者の心血管死・心不全入院/緊急受診を偽薬と比較したところ、SOLOIST試験ではハザードレシオが0.84、SCORED試験では0.74だった。

どちらもCOVID-19流行の影響を受けて繰上げ完了を余儀なくされ、途中で主評価項目を変更した経緯があり、不透明さを感じる。

リンク: 同社の21年決算発表プレスリリース


ギリアドのカプシド阻害剤は審査完了に
(2022年3月1日発表)

ギリアド・サイエンシズはGS-6207(lenacapavir)をHIV/AIDSのサルベージ治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。12月のクリニカル・ホールドと同じ、ガラス・パーティクル混入問題が原因のようだ。容器を代えて再び申請する考え。

長期作用性抗ウイルス剤で、ウイルス複製に必要な、RNAを包むカプシドを阻害する、斬新な作用機序を持つ。第1日、2日、8日に錠剤を服用し、その後は6ヶ月毎に皮注する。臨床試験では第52週時点で36人中30人(83%)がウイルス検出不能(50コピー/mL未満)になった。

注射用液のバイアルはホウケイ酸を用いているが、薬剤と反応して目に見えないガラス・パーティクルを生じる懸念が発生。第3相暴露前予防試験などが停止された経緯がある。

リンク: 同社のプレスリリース


カバノキ由来の表皮水疱症薬は審査完了に
(2022年2月28日発表)

Amryt Pharma(Nasdaq:AMYT)は昨年3月に欧米でOleogel-S10を表皮水疱症の治療薬として承認申請したが、審査が長引き、米国は結局、審査完了通知を受領した。詳細は不明。

カバノキ抽出物のゲル製剤で、200人規模の第三相試験で創傷閉鎖奏効率が41%と偽薬群の29%を有意に上回った(p=0.013)。劣性栄養障害型サブグループ175人では44%対26%と比較的大きな差があったが優性栄養障害型や接合部型では大差なかった。有害事象は創傷部位合併症、掻痒、貧血などが増加し、重症有害事象発生率は11.9%と偽薬群の5.3%を上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


バルドキソロンはやっぱり承認されず
(2022年2月25日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)はRTA 402(bardoxolone methyl)をアルポート症候群の慢性腎疾患用薬として米国で承認申請したが、審査完了通知を受領した。FDAは腎機能低下や腎不全リスクを抑制する便益やQT延長リスクの評価が不十分と指摘した。

同社は1年治療後のeGFR(推定腎濾過率)改善をエビデンスとして承認申請したが、FDAは、一時的に改善してもやがて疲弊してむしろ腎障害を加速することを懸念。2年間の追跡データを求めていた。安全性面では、糖尿病性腎症の第3相試験が心不全有害事象や死亡者の増加で中止になった経緯がある。心臓腎臓薬諮問委員会も13人の委員全員が承認に反対した。

bardoxoloneは日本では協和キリンが開発中。昨年7月にアルポート症候群に承認申請したのには驚かされた。

リンク: Reataのプレスリリース

【承認】


FDA、オプジーボの肺癌術前療法を光速承認
(2022年3月4日発表)

FDAは、Opdivo(nivolumab)を切除可能非小細胞性肺癌のネオアジュバント療法に白金薬などと併用する適応拡大を承認した。360mgを3週毎に3回投与したCheckMate-816試験に基づくもので、pCR(病理学的完全奏効率、盲検独立中央評価)が24%と偽薬併用群の2.4%を上回り、EFS(イベントフリー生存率、盲検独立中央評価)もハザードレシオ0.63、p=0.0052、メジアン値は31.6ヶ月対20.8ヶ月と、大きく改善した。G3/4治療時発現有害事象の発生率は同程度だった。

早期非小細胞性肺癌のネオアジュバント療法薬がFDAに承認されたのは初めて。

もう一つ、驚かされたのは、光速の承認。ブリストル マイヤーズ・スクイブが承認申請受理を発表したのは2月28日のことで、本号に掲載する予定だったが、申請・承認同時掲載となった。審査期限は7月13日なので、4ヶ月以上の前倒しだ(FDA側は5ヶ月早く承認と書いている)。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSの承認申請に係るプレスリリース(2/28付)

血小板減少を伴う骨髄線維症の薬が承認
(2022年3月1日発表)

FDAはCTI BioPharma(Nasdaq:CTIC)のVonjo(pacritinib)を加速承認した。経口JAK2/FLT3阻害剤で血小板数が5万個/mcL未満の中間/高リスク原発性または二次性の骨髄線維症の治療に、200mgを一日二回投与する。臨床試験では脾臓量35%減達成率が35%と、標準療法群の3%を上回った。リウマチなどの治療に用いるJAK阻害剤と同様に主要有害心血管事故や血栓性疾患、感染症、癌などのリスクが警告されているが、枠付警告にはならなかった。CYP3A4強阻害剤/誘導剤やP-gpなどの基質になる薬の併用は禁忌。

フェーズIVのPACIFICA試験で臨床的便益を確認する。

米国では16年に承認申請したが、上記を含む二本の試験で死亡率に偏りがあったことからクリニカル・ホールドを命じられ、欧州と共に申請撤回した。欧州は17年に改めて申請も、19年にCHMPがトレンド採決で否定的な評価を示したため、撤回した。米国で承認されたのは正直、意外だが、400mg一日一回ではなく200mg一日二回ならリスクが緩和するのだろう。何よりも、米国の骨髄線維症患者21000人の3分の1が該当するといわれる血小板数5万個/mcL未満の患者に使える薬が無いという充足されない必要性を重視したのだろう。

pacritinibは12年にシンガポールのS*BIO pteから資産取得した。翌年にバクスター社と共同開発販売提携したが、シャイア合併後に権利返還となった。

リンク: FDAのプレスリリース


第2のBCMA標的型CAR-Tが承認
(2022年2月28日発表)

Legend Biotech(Nasdaq:LEGN)とジョンソン・エンド・ジョンソン子会社のヤンセンは、夫々、FDAがCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)を再発難治多発骨髄腫用薬として承認したと発表した。プロテアーゼ阻害剤、免疫調停薬、抗CD38抗体の全てを含む4次以上の治療歴を持つ患者が適応になる。

骨髄腫細胞などが発現するB細胞成熟抗原(BCMA)を標的とする二種類の抗体と4-1BB共刺激ドメインを患者から採取したT細胞に発現させたキメラ抗原受容体T細胞。Legendが開発、ヤンセンは共同開発販売権を持っている。P1a/2試験でORR(客観的反応率)が98%、完全反応率78%、メジアン反応持続期間は21.8ヶ月と、ファースト・イン・クラスである2seventy bio/BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、和名アベクマ)のデータを上回る数値を出した。一方で、有害事象リスクも上回りそうだ。

Abecmaと同様に、致死的/命に係わる、サイトカイン放出症候群、ICANS(免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群)、パーキンソン症状、ギラン・バレー症候群、HLH/MAS(血球貪食性リンパ組織球増多症/マクロファージ活性化症候群)、そして持続的/再発性血球減少症のリスクが枠付警告されている。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース(3/1付)





今週は以上です。