2020年7月10日

第954回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:ケブザラは人工呼吸器装着患者にも効果が不十分? 
  • COVID-19:WHOも2剤の臨床試験を中止 
  • COVID-19:抗体カクテルの暴露後予防試験が開始 
  • COVID-19:Novavaxなどが米国政府とワクチン等の供給契約 
  • バイエル、ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤の糖尿病アウトカム試験が成功 
  • イドルシア、daridorexantの二本目の不眠症治療試験が成功 
  • キッセイのGnRHアンタゴニストの海外第三相試験が成功 
  • Immunomedics、Trodelvyの承認後薬効確認試験が成功 
  • バイオジェン/エーザイ、aducanumabをアルツハイマー病に承認申請 
  • レオ ファーマ、抗IL-13抗体をアトピーに承認申請 
  • 第一三共、エンハーツをEMAに承認申請 
  • キイトルーダとレンビマの併用、肝癌承認はお預け 
  • FDA、大塚製薬グループ会社の経口デシタビンを承認 


【今週の話題】


COVID-19:ケブザラは人工呼吸器装着患者にも効果が不十分?
(2020年7月2日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、抗IL-6受容体アルファ・サブユニット抗体Kevzara(sarilumab)のCOVID-19肺炎試験のうち米国試験がフェールしたと発表した。第2/3相試験のフェーズIIポーションで重症(ベースライン時点で酸素投与)サブグループの成績が悪かったためフェーズIIIポーションでは400mg群の危機的(人工呼吸器装着、ハイフロー酸素投与、またはICU入室)患者196人の治療転帰を偽薬群と比較したが、統計的に有意な差がなくトレンドに留まった。一方、重症患者に関してはネガティブな結果だった。

データは未公表だが、深刻有害事象発現率は、多臓器不全症候群は6%(偽薬群は5%)、低血圧は4%(3%)、と若干ではあるが上回っている。前者は薬効評価項目の一部とオーバーラップするので、偽薬より数値上多いのは残念だ。

この試験は800mgを投与するコフォートも設定されていたが、どちらも、中止となった。

Kevzaraはサノフィが主導して日欧露でも第三相COVID-19肺炎試験が進行中。投与スケジュールなどが若干異なるらしく、両試験共通の独立データ監視委員会は治験続行を勧告した。7-9月期に結果が出る見込み。

抗IL-6受容体抗体は中国で行われたActemra(tocilizumab)の小規模な試験で良さそうな結果が出たことが報じられ、ActemraやKevzara、そしてインターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達に係るヤヌスキナーゼを阻害するJAK阻害剤などの臨床試験が活発化した。真っ先にスタートしたKevzaraの米国試験がフェールしたのは嫌な辻占いだ。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:WHOも2剤の臨床試験を中止
(2020年7月4日発表)

WHOはSolidarity試験のhydroxychloroquine(HCQ)群とritonavir-boosted lopinavir(製品名Kaletra)群を打ち切ることを発表した。運営委員会が中間解析結果を踏まえて中止勧告したもの。英国のRECOVERY試験の結果を追認した格好だ。

この試験は、COVID-19に感染し入院した患者5000人超をremdesivir群、HCQ群、Kaletra群、Kaletraとインターフェロン・ベータ1aの併用群、標準療法群に無作為化割付して転帰を比較したもの。HCQ群は疫学論文(後に撤回)で安全性懸念が示唆されたため新規組入れを中断していた。

アウトカム試験がフェールした場合に同じようなデザインのアウトカム試験を行っている研究者がどう対処すべきかは難しい問題だ。remdesivirはNIH(米国立衛生研究所)が主導した試験で効果が確認されたので、Solidarity試験など同時進行している試験でも、標準療法群の患者にremdesivirを標準療法として使えるようにすべきかもしれない。しかし、米国以外の国で再現されるとは限らないので、治療中の患者の同意を得た上で可能な限りそのまま続行してエビデンスを強固にすることも重要だ。

今回の打ち切りはどちらだろうか?プレスリリースを読む限りでは、他の臨床試験だけでなく、SOLIDARITY試験の中間解析でも、期待された効果は具現していないようだ。論文発表/原稿公開されれば明らかになるだろう。

リンク: WHOのプレスリリース

COVID-19:抗体カクテルの暴露後予防試験が開始
(2020年7月6日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、REGN-COV2の第三相COVID-19予防試験に着手したと発表した。感染者の同居人など、SARS-CoV-2に暴露した可能性のある2000人を米国の医療施設で組入れて、実際は予防というよりは早期介入の効果を検討する。米国立衛生研究所傘下の米国立アレルギー・感染症研究所と共同で執行する。

本命用途である治療試験は、第1/2/3相試験のフェーズIポーションが終了、フェーズII/IIIポーションに入った。米国とブラジルなどの施設で入院患者1850人と非入院患者1050人を組入れる予定だが、アダプティブ・デザインなので今後、変更される可能性がある。

REGN-COV2は回復期患者やライブラリーから同定した中和抗体二種類のカクテル。スパイク蛋白の異なった受容体結合ドメインに結合し、ウイルスが細胞に侵入するのを妨げる。エボラウイルス疾患の臨床試験では、後にCOVID-19治療薬として承認されることになるremdesivirよりもリジェネロンなど数社の抗体カクテルのほうが救命効果が高かった。COVID-19でも期待が大きい。

欧米の流行では中国などではあまり見られなかったD614G置換を持つウイルスが多く、いわゆるファクターXの候補の一つになっているが、REGN-COV2はこの変異型にも有効性を示したとのこと。これが原因で欧米では又はアジアでは効かない、という心配はなさそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:Novavaxなどが米国政府とワクチン等の供給契約
(2020年7月7日発表)

トランプ政権は、スタートレックのエンタープライズ号や宇宙戦艦ヤマトのように超光速のスピードでCOVID-19ワクチンや治療薬を開発する『ワープ・スピード作戦』を推進している。通常なら数年かかる新薬開発を1年足らずに短縮するため、臨床試験や量産方法確立、サプライチェーンや生産に係る莫大な先行投資の一部を助成することで資金調達や失敗した時のリスクを分担し、成功したら、所定の数量を取得する。来年1月までに3億回分のワクチンを確保することを狙っている。保険福祉省と国防省の長官が主導する。

具体的な助成先については観測記事しか出ていなかったが、米国のワクチン開発ベンチャー、Novavax(Nasdaq:NVAX)とリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)が開発生産供給契約を決めた旨、発表した。

Novavaxの開発品はNVX-CoV2373。バキュロウイルス・ベクターで抗原遺伝子を昆虫細胞に導入して製造するワクチンで、Matrix-Mアジュバントを混合して免疫原性を高めている。第1/2相試験中で、フェーズIポーションの結果は今月中にも明らかになる見込み。順調なら20年秋から3万人規模の第三相を行う考えで、中国企業やアストラゼネカ、Moderna(Nasdaq:MRNA)を追いかけている。6月に国防相と6000万ドル相当の契約を結び、開発生産成功時に1000万回分を供給することを決めたが、今回、ワープ・スピード作戦の一環として16億ドル相当という大きな契約を決めた。後期臨床開発や量産方法の確立に充てるとともに、FDAの承認/非常時使用認可を前提に、20年末から1億回分を供給する。

リンク: Novavaxのプレスリリース

リジェネロンの開発品はREGN-COV2。ウイルスが細胞に侵入する時に使うスパイク蛋白に結合する二種類の中和抗体のカクテルで、第2/3相治療試験と第3相暴露後予防試験が始まったところ。同社も以前から保健福祉省とパートナーシップを結んで様々な病原体に対する抗体医薬の研究開発を行っているが、今回、ワープ・スピード作戦として4.5億ドル相当の契約を決めた。一回分の用量が決まっていないので流動的だが、治療用途で7~30万回分、予防用途なら42~130万回分を供給することになる。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

前回も書いたようにワクチンの開発は心配な点も多く、Novavaxのようなベンチャー系の企業の場合、フェールしたら経営が破綻しかねないので、政府助成によるリスクシェアリングは必須だ。国民の税金を使う以上、開発が成功したら便益をフルに享受できるような仕組みにしなければならない。トランプ大統領が、国内需要が充足されるまで米国製ワクチンの輸出を認めないと言っているのはこれが背景の一つだろう。

つまり、ほかの国は、様子見を決め込んで勝ち組が決まったら便乗する戦術ではワークせず、自分もリスクを取って(資金を出して)青田買いに踏み切るべきである。種を蒔かざる者、食うべからず。


【新薬開発】


バイエル、ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤の糖尿病アウトカム試験が成功
(2020年7月9日発表)

バイエルは、BAY 94-8862(finerenone)のFIDELIO-DKD試験が成功したと発表した。慢性腎疾患を合併する二型糖尿病患者約5700人を組入れて、10mg錠または20mg錠を一日一回経口投与する群と偽薬群の腎臓アウトカムを比較した試験で、主評価項目(腎不全、eGFRが持続的に40%以上低下、または腎疾患死の複合評価項目)と、主要副次的評価項目(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または心不全入院の複合評価項目)が共に成功した。

データは学会で発表する考え。承認申請に向けて当局と相談する予定。

BAY 94-8862は非ステロイド系のミネラルコルチコイド受容体拮抗剤。アルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に結合して血圧の上昇や心臓のリモデリングを誘導するのを妨げる。ステロイド系の薬が心不全などの治療薬として承認されているが、腎機能低下をもたらすリスクがある。

非ステロイド系は腎毒性が小さく、日本で昨年承認された第一三共の降圧剤、ミネブロ(エサキセレノン)も、糖尿病性腎症試験の成功が発表された。主評価項目は尿中アルブミン/クレアチニン比なので迫力が劣るが、BAY 94-8862の主評価項目も、常識的に考えれば、eGFRという代理マーカーが悪化してヒットした症例が多いだろうから、実質的には大差ないかもしれない。但し、心血管アウトカムは、日本はともかく欧米では、重要だ。

現時点では両剤の効果や忍容性を比較するのに必要な情報が足りない。分かりやすい違いは、ミネブロは半減期が4時間と短いため、一日二回服用する。バイエルのもう一本の第三相試験の対象である心不全では一日二回が珍しくないが、高血圧症や糖尿病性腎症には一回のほうがコンプライアンスが良いのではないか。

リンク: バイエルのプレスリリース

イドルシア、daridorexantの二本目の不眠症治療試験が成功
(2020年7月6日発表)

イドルシア(SIX:IDIA)は、daridorexantの二本目の第三相不眠症治療試験が成功したと発表した。年末頃に米国で承認申請する計画。

イドルシアはアクテリオンがジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にパイプラインを持ってスピンアウトした会社。daridorexantはアクテリオンがACT-541468と呼んでいたデュアル・オレキシン受容体アンタゴニスト。4月に成功発表された最初の第三相では、25mgと50mgの両方で客観的入眠潜時(PSG-LPS)と中途覚醒時間(WASO)、主観的総睡眠時間(sTST)が偽薬比有意に改善し、50mgでは日中機能でも有意差があった。今回の試験は925人(うち39%は65歳以上)の慢性不眠症患者を組入れて10mgと25mgをテストしたところ、25mg群のPSG-WASOとsTSTが偽薬比有意に改善した。PSG-LPSや日中機能はトレンドに留まった。また、10mgはこれらの指標全てでトレンドに留まった。

これらの試験の主評価項目は二種類の用量の第1月と第3月のPSG-LPSとWASOで、一本の試験で8回、検定を行うので、個々の解析のp値の閾値は0.05より遥かに小さくなる。プレスリリースでは16件の検定と記しているので副次的評価項目のsTSTや日中機能の解析にもアルファを配分しているのかもしれない。

それだけに、有意差がないイコール効果がないとは言えないが、何れにせよ、一般に不眠症治療薬の効果は大きくないので、どんなフェールでもフェールはフェールと考えた方が良いかもしれない。

尚、日本ではイドルシア ファーマシューティカルズ ジャパンが持田製薬と共同開発している。

リンク: イドルシアのプレスリリース

キッセイのGnRHアンタゴニストの海外第三相試験が成功
(2020年7月6日発表)

スイスのオブシーバ(Nasdaq:OBSV、SIX:OBSN)は、linzagolixの二本目の第三相子宮筋腫試験が成功したと発表した。24週時点の月経過多治療奏効率が100mg群は56.4%、200mg群(estradiol及びnorethindrone acetateを併用)は75.5%と偽薬比有意に上回った。尚、一本目の試験では各56.7%と93.9%で偽薬群は29.4%だった。

欧州で今年第4四半期に、米国では来年上期に承認申請する計画。

linzagolixはキッセイ薬品のKLH-2109の日本などアジアの一部以外での権利をライセンスしたもの。アッヴィが Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)からライセンスして商業化したOriahnn(elagolix)やMyovant Sciencesが武田薬品からライセンスし開発したMVT-602(relugolix)と同様なGnRHアンタゴニストで、何れも経口投与できることが特徴。三剤の間では、処方期間制限(長期服用時の安全性)で差別化できるかどうかが注目点になろう。

リンク: 同社のプレスリリース

Immunomedics、Trodelvyの承認後薬効確認試験が成功
(2020年7月6日発表)

Immunomedics(Nasdaq:IMMU)は、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第三相ASCENT試験のデータを公表した。今年4月にFDAに加速承認された抗EGP-1抗体とirinotecan活性代謝物のADC(抗体薬物複合体)のフェーズIVコミットメントとして行われた試験で、承認内容とほぼ同じ、転移後に二次以上の治療歴を持つトリプル・ネガティブ乳癌に10mg/kgを投与する効果を医師が選んだ薬(選択肢はeribulin、capecitabine、gemcitabine、vinorelbine)と比較した。4月に独立データ安全性間委員会が『ルーチン評価に基づき圧倒的な効果による中止勧告』を行った旨、発表済み。

主評価項目のPFS(無進行生存期間)はメジアン5.6ヶ月と実薬対照群の1.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.41(95%信頼区間0.32-0.52)だった。副次的評価項目である全生存期間の解析も成功したとのこと。

Immunomedicsは加速承認を本承認に切り替えるよう申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


バイオジェン/エーザイ、aducanumabをアルツハイマー病に承認申請
(2020年7月8日発表)

バイオジェンとエーザイは、スイスのNeurimmune社からライセンスして両社で共同開発しているBIIB037(aducanumab)をアルツハイマー病治療薬としてFDAに承認申請した。他の地域では現在も当局と相談中。

この抗アミロイド・ベータ抗体は、アルツハイマー性軽度認知障害(MCI)または軽度アルツハイマー病の患者を偽薬、低用量、または高用量に無作為化割付して78週間の病状悪化を比較する第三相試験が二本、実施されたが、昨年3月にデータ監視委員会が無益認定した。しかし、その後の追跡データの盲検分析で、途中で改定されたプロトコル通りにApoE4陽性患者にも10mg/kgを月一回静注すれば症状の悪化をある程度抑制できる可能性が浮上した。

背景と経緯を復習すると、aducanumabのような抗アミロイド抗体を投与するとARIA-E(アミロイド関連画像異常を伴う浮腫)が発現することがあり、加齢性アルツハイマー病のリスク遺伝子であるApoE4陽性を持つ患者は特に発現率が高い。このため、当初のプロトコルでは、被験者の6~7割を占めたApoE4陽性患者の用量を抑えていた。具体的には、高用量群は10mg/kgに代えて6mg/kg、低用量群も6mg/kgに代えて3mg/kgを、月一回静注した。また、ARIAが発現したら投与を中断しなければならなかった。

その後、他社の抗アミロイド・ベータ抗体の症例も含めてARIAの転帰がそれほど悪くないことや、用量漸増でリスクを減らせることが判明したため、治験開始の翌年になって、プロトコルを変更してApoE発現後の投与継続を可とした。更にその翌年、高用量群のApoE4陽性患者も10mg/kgを目標に滴定することになった。しかし、その時点では組入れがかなり進行していたため、組入れ時期やARIA発現時期によって累積投与量が変わってしまう事態になった。

一番影響を受けたのが中間無益性解析だ。比較的早く治療を開始した患者が多いからだ。二本合計で1748例を分析したが、ENGAGE試験は無益認定、EMERGE試験もポジティブなトレンドに留まったため、データ監視委員会が二本とも成功する確率は低いと判定、中止勧告した。

その後の最終解析では、ENGAGE試験はフェールしたものの、EMERGE試験は高用量群が偽薬群と有意な差があった。

二本の明暗が分かれた理由として浮上したのが10mg/kgの暴露の違いだ。ENGAGE試験のほうが1ヶ月先に始まり組入れも早かったため、高用量群の78週間の累積投与量はEMERGE試験が平均140mg/kgであったのに対して、ENGAGE試験は126mg/kgに留まった。10mg/kgを10回以上投与した患者だけのデータは、両試験とも、良さそうな数値だった。EMERGE試験もプロトコル変更の影響を受けたわけだから、最初から10mg/kgを目指して滴定していたらもっと良い結果が出た可能性もある。

さて、FDAはaducanumabを承認するだろうか?

ネガティブ材料は二点ある。第一は治療効果の小ささ。アルツハイマー病の代表的な治療薬であるアセチルコリン還元酵素阻害剤の効果は、イメージ的には、症状が半年前の状態に戻るが、そこからまた悪化しはじめる。aducanumabの効果は、症状の悪化は続くが偽薬より小さい。

昨年のCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表されたデータによれば、EMERGE試験では高用量群のCDR-SBスコアの78週間の悪化が偽薬比22%小さかった。ベースライン時点の平均値は各群2.5前後で、偽薬群は1.74低下(悪化)したが、高用量群はそれより0.39小さかった(逆算すると、1.3程度悪化した)。

CDRは軽度認知障害やアルツハイマー病の代表的な症状・兆候6項目の夫々について0から3までの点数で評価する。今回の試験のように早期の患者の場合は0.5前後の項目が多いだろうから、治療効果が0.4というのは、一つの項目が一段階進むか進まないか程度の差に過ぎないのではないか(CDR-SBは単純合算ではないので推測に過ぎないのだが)。何れにせよ、被験者の8割がMCIで元々の症状が軽いのだから治療効果が小さいのは当たり前と言えば当たり前なのだが。

第二はエビデンスの頑強さ。FDAが原則として薬効確認試験を二本実施することを求めているのは、一般的な有意性判定基準であるp=0.05では不十分と考えているからだ。偶然に0.05を下回る確率は5%、つまり20回に一回だが、二本の独立した試験の両方で5%を下回る確率は0.25%、400回に一回だ。裏返すと、成功した試験が一本でもp値が0.0025未満なら承認される可能性がある。逆に、成功が一本だけでp値が0.01とか0.03では、偶々成功した可能性を否定できない。

上記のように、一部の患者だけの解析やその妥当性を検証する感受性分析では良好な数値が出ているが、このような事後的サブグループ分析で浮上した仮説を確認する前向き試験がフェールした事例は枚挙に暇がない。

更に、今回のような長期間の試験は途中で離脱した患者のデータの取り扱いが難問だ。EMERGE試験のCDR-SBの推移を示すグラフを見ると、50週時点では偽薬群と標準偏差レンジが重なっているが、50週と78週のデータをつなぐラインの傾きが急に穏やかになり、78週時点ではレンジが分離した。しかし、グラフの右側に行けば行くほど解析対象が減りサバイバル・バイアスのリスクも高まるので、統計学的な信憑性は低下していく。

FDAは、アルツハイマー病薬に関しては、どの程度の治療効果が必要なのか分からないので統計的に有意な差があれば効果の多寡は問わないという姿勢を従来から示している。しかし、エビデンスの頑強性が弱いとなると、効果の多寡を考えざるを得ないだろう。

Unmet Medical Needであることは確かなので、薬効やエビデンスが不確かでも承認される可能性はあるだろう。価格は高く設定されるだろうし、長期投与される可能性もあるので、医療保険にとっては重荷になる。私見では薬が高いのは正しい用途、用法に関する情報に価値がある。しかし、私には理解できない新薬が増えている。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

レオ ファーマ、抗IL-13抗体をアトピーに承認申請
(2020年7月9日発表)

デンマークの皮膚病治療薬会社、レオ ファーマは、tralokinumabを欧米で承認申請し受理されたことを明らかにした。成人の中重度アトピー性皮膚炎にモノセラピー又は局所ステロイドに追加で使う。米国の審査期限は来年第2四半期とのこと。日本でも承認申請予定。

アストラゼネカが06年に完全子会社化した、ファージ・ディスプレイというノーベル賞技術を持つケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジーがCAT-354として創製した抗IL-13完全ヒト化IgG4型抗体で、アストラゼネカは喘息用薬としての開発を断念したが、16年に皮膚学領域での権利を取得したレオが300mg(初回は600mg)を二週毎に皮注する用法で第三相を三本実施。何れも16週時点のIGA0/1達成率やEASI-75奏効率が偽薬群を10~20ポイント上回った。奏効者を対象とする維持試験も成功し、奏効維持率が劣るものの四週毎皮注で足りる患者も多いことが判明した。

アトピー用の抗IL-13抗体としては、ジェネンテックが創製し喘息用薬として開発したが十分な効果が見られず17年にカリフォルニア州の皮膚病薬会社Dermiraに導出した、MILR1444A(lebrikizumab、ジェネンテックの開発コードはPRO301444、親会社のロシュではRG3637)が第三相試験中。尚、Dermiraは今年1月、イーライリリーによる買収に合意した。

似たような薬で最も重要なのは、リジェネロン・ファーマシューティカルズがサノフィと共同開発販売しているDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)だ。IL-4受容体アルファに結合する抗体だが、このサブユニットはIL-13受容体の構成メンバーでもある。17年に欧米で中重度アトピー性皮膚炎治療薬として承認されて以来、好酸球性喘息症など様々な疾患に適応を広げている。

リンク: 同社のプレスリリース

第一三共、エンハーツをEMAに承認申請
(2020年7月7日発表)

第一三共はEnhertu(trastuzumab deruxtecan、和名エンハーツ)をEMA(欧州医薬品庁)に手術不能/転移HER2陽性乳癌用薬として承認申請し受理されたと発表した。加速審査指定を受けている。

Herceptinの活性成分である抗her2抗体trastuzumabとirinotecan誘導体を結合したADC(抗体薬物複合体)。世界に先駆けて日本で19年9月に承認申請され、同年12月に米国で、翌年3月には日本でも、her2陽性手術不能/転移乳癌のサルベージ療法として承認された。欧州はなぜ遅れたのだろうか?

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)


【承認審査・委員会】


キイトルーダとレンビマの併用、肝癌承認はお預け
(2020年7月8日発表)

抗VEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を共同開発販売しているエーザイとMSDは、Keytruda(pembrolizumab)と併用で切除不能/転移肝細胞腫の一次治療レジメンとしてFDAに適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。

難病における便益が既存薬の文献データを上回ったため加速承認を求めたが、審査期間中に直接比較試験で延命効果を示した他社のレジメンが本承認されたため、『既存薬』のハードルが上がってしまった。第三相試験の組入れが既に完了している由なので、結果を待って改めて承認申請することになるだろう。

承認申請の根拠となったKeyNote-524試験では、cORR(確認客観的反応率、RECIST 1.1に基づく独立画像評価)が36人中36%、メジアン反応持続期間は12.6ヶ月だった。色々あって煩わしいが、mRECISTベースのcORRは46人中46%、メジアン反応持続期間は8.6ヶ月だった。

G3、4、5の治療関連有害事象発現率は各63%、1%、3%で、死因は急性呼吸不全、急性呼吸逼迫症候群、間質性穿孔且つ肝機能異常が各1例あった。

上記の他社レジメンは、5月に承認されたロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevacizumab)のことだろう。エーザイ/MSDの適応拡大申請は今年に入って行われた模様だが、ロシュも今年1月なので、僅差だった。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


FDA、大塚製薬グループ会社の経口デシタビンを承認
(2020年7月7日発表)

FDAはAstex PharmaceuticalsのInqoviをMDS(骨髄異形成症候群)とCMML(慢性骨髄単球性白血病)に承認した。大鵬薬品の米国子会社が販売する予定。

静注用薬Dacogenの活性成分であるDNAメチル化阻害剤のdecitabineとdecitabineを分解するシチジンデアミナーゼを阻害するcedazuridineを配合して経口投与できるようにしたもの。生物学的同等性を確立した第三相試験では、経口剤はdecitabine 35mgとcedazuridine 100mgを、静注用はdecitabineを20mg/m2を、28日サイクルで第1日から5日まで一日一回投与した。経口剤なら在宅投与できるだろうから限られた日々を入通院に費やさなくても済むので幸便だ。

decitabineは99年にSupergenがPharmachemieから権利を取得し、04年にMGI Pharmaにアウトライセンス、06年に米国で承認された。既にGE化している。Supergenは11年にAstexと合併、Astexは13年に大塚製薬に買収された。一方、MGIは08年にエーザイが買収。大塚は、14年に、エーザイからDacogenとASTX727の開発販売権を取得しているが、このASTX727がInqoviで、cedazuridineのエーザイにおける開発コードはE7727となっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 大塚製薬のプレスリリース(和文、7/8付)






今週は以上です。

2020年7月4日

第953回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:RECOVERY試験がカレトラ群をドロップ 
  • COVID-19:FDAがワクチンの開発ガイダンスを公表 
  • COVID-19:ギリアドの治療薬の価格は5日コースが2340ドル 
  • ジェンマブ、抗組織因子ADCを子宮頸がんに承認申請へ 
  • 抗IL-1抗体の再発性心膜炎試験が成功 
  • アステラス子会社の遺伝子療法試験で2名死亡 
  • インターセプト、NASH治療薬承認第一号はならず 
  • アラガンら、VEGF-A拮抗薬で審査完了通知を受領 
  • CHMP、ベクルリーなどの承認に肯定的意見 
  • 鎮静剤アネレムが米国でも承認 
  • 長鎖脂肪酸酸化障害の脂肪酸補充療法が承認 
  • キイトルーダがMSI-H/dMMR大腸結腸癌の一次治療に光速承認 
  • FDA、ロシュのher2陽性乳癌用抗体合剤を承認 


【今週の話題】


COVID-19:RECOVERY試験がカレトラ群をドロップ
(2020年6月29日発表)

オックスフォード大学の主導で英国の医療施設で実施されている大規模なCOVID-19治療試験、RECOVERY試験は大きな成果を上げている。hydroxychloroquineにはCOVID-19感染症で入院した患者の28日死亡率を改善する効果がないことや、低量dexamethasoneが酸素投与や人工呼吸器/ECMO装着が必要な患者の死亡リスクを削減することに続いて、今度は、lopinavirとritonavirの合剤(HIV治療薬Kaletra、和名カレトラ)が無益であることも明らかにした。

KaletraはSARSが流行した頃から一部で用いられていたが、今回は中国のNational Health CommissionがCOVID-19肺炎の治療法として推奨した。武漢で行われた199人規模の無作為化割付対照試験はフェールしたが、点推定値は悪くなく検出力不足だった可能性もあるので決定的なエビデンスとは言い難い。

しかし、RECOVERY試験ではKaletra群(1,596人)の28日死亡率が22.1%と通常医療群(3,376人)の21.3%と大差なく、相対リスクは1.04、p=0.58だった。サブグループ分析も同様で、更に、悪化して人工呼吸器が必要になるリスクや入院期間を短縮する効果も見られなかった。

Kaletraは錠剤なので人工呼吸器/ECMO装着患者には適さない。このため、治験組入れ時点で人工呼吸器装着は4%に過ぎず、70%は酸素投与のみ、26%は呼吸介入が必要でなかった。症例数が少ないことから、RECOVERY試験の治験統括医(複数)は、人工呼吸器装着患者に対する効果は留保して、それ以外の入院患者には無効と結論した。Kaletra群の新規組入れは中止となった。

この試験では、上記三剤のほかに、azithromycin(マクロライド系抗生物質)やtocilizumab(中外/ロシュの抗IL-6受容体抗体)、回復期血漿もテストしている。

リンク: RECOVERY試験治験総括医の声明

COVID-19:FDAがワクチンの開発ガイダンスを公表
(2020年6月30日発表)

FDAはCOVID-19ワクチンの開発ガイダンスを公表するとともに、パブコメ受付を開始した。実用化後は短期間にたくさんの人が接種することになるだろうし、当初は医療従事者が優先される可能性が高いが深刻な副作用が多発したら医療崩壊に繋がりかねないので、当然のことながら、十分な規模の臨床試験を行い、主評価項目の解析が終わった後も被験者を長期的に追跡することを求めている。印象的なのは、ワクチンによる感染増強リスクに繰り返し言及していることだ。FDAは前臨床試験を最初のハードルに据えたが、既に臨床入りしたワクチンでも動物試験の詳細に関する公開情報は限られているので、部外者にとっては闇の中をスペースマウンテンで突っ走っているような不安を感じざるを得ない。

SARSやMERSに開発されたワクチンは、動物試験でワクチン関連ERD(強化呼吸器疾患)の懸念が浮上した。ワクチン接種後にウイルスに感染すると感染症が重くなるリスクだ。このため、FDAは、動物試験で中和抗体価やTh1型T細胞分極が総抗体反応やTh2型反応と比べて高水準ならばFIH(ヒトに対する初めての試験)と並行して、そうでなければFIHの前に、接種後にウイルスに暴露させる動物試験を行ってERDのリスクを検討するよう求めた。

ERDリスクに配慮して、臨床初期段階では感染時の重症化リスクが高い人や、可能ならば、医療従事者のようなウイルスに暴露するリスクが高い人たちも除外するよう推奨した。私は真っ先に参加するのは医療従事者と想像していたので、大変意外だった。数百人規模の試験に進む前にヒトでも中和抗体と総抗体反応、Th1とTh2のバランスを確かめる。中期、後期試験や市販後薬物監視でもERDリスクを引き続き検証する。後期試験は中間解析で無益性のほかにERDリスクも監視する。

薬効確認試験の主評価項目は、抗体価ではなく感染者数を偽薬群と比較するよう求めた。現時点では、どの程度の抗体があれば感染予防できるか、持続性はどの程度か、など不明な点が多いからだ。COVID-19は無症候感染者が多いため『感染』の定義が難しいが、FDAは無症候感染もカウントすることを求めた。但し、臨床試験によって定義が区々だと分かりにくくなるため、発熱など11の症状のうち一つ以上且つRT-PCR陽性を主評価項目とするよう推奨した。

ワクチンは軽症より重症の感染症を予防する効果の方が高い可能性があるため、重症例だけで有意差を検出できるよう組入れ数などを設定するよう推奨している。重症の定義としては、SpO2が室内気で93%以下、PaO2/FiO2が300 mm Hg未満などを列挙した。

本人が気づかないまま感染し抗体を獲得した人を多く組入れるとワクチン効率が希薄され検出力不足でフェールするリスクが生じる。しかし、FDAは、事前に抗体検査を行って陽性例を除外することには反対した(急性期である場合は除外する)。実用段階では事前検査などしない可能性が高いからだ。理由に挙げてはいないが、自然感染による免疫が長続きしない可能性(抗体陽性でもワクチンで更に増やすことが有益である可能性)にも配慮しているのだろう。

米国はマンハッタンでも通りが一本違うと人気がなく怖くて入れないし、ブラジルは車を降りて丘の上からスラム街の写真を撮ったら案内してくれた地元の人に危ないから早く戻れと注意された。これらの国で感染者や死亡者が多い一因はスラム街の存在だろう。FDAは少数民族など罹患者の多い人口を臨床試験に組入れるよう強く推奨した。また、妊婦やその可能性のある人、小児を対象とすることも検討するよう求めた

ワクチン効率のハードルは、点推定値で50%以上(感染率が偽薬群の50%以下)、アルファ調整後の信頼区間が30%超であることを推奨した。この点推定値は近年の季節性インフルエンザワクチンの実績と同じような水準だ。100%が望ましいが、危機管理ではリスクを30%削減することが最初の目標になる。

安全性データベースは、承認申請される用量用法の投与実績が典型的には3000人以上とした。実際には感染率の予想が組入れ数の決定要因になるだろう。開発で先行するアストラゼネカやModernaはP2/3試験に1万人以上を組入れる考えだ。

米国にはEUA(非常時使用認可)という制度があり、十分なエビデンスがなくても未承認の薬や医療機器の使用を認めることができる。ギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)はEUAなので、同社が米国で発出するプレスリリースには、米国では承認されていないことが明記されている。COVID-19ワクチンに関しては、生産関連の情報が十分で臨床試験で薬効や安全性が確認されたならば承認申請前あるいは審査完了前にEUAを出すのは妥当と記しており、第二相で大きなワクチン効率が示されない限り、第三相の結果が出るまで難しそうだ。

リンク: FDAのCOVID-19開発ガイダンス

COVID-19:ギリアドの治療薬の価格は5日コースが2340ドル
(2020年6月29日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のDaniel O'Day会長兼CEOは、ホームページ上の公開書簡で、Veklury(remdesivir、レムデシビル/JAN)の販売価格を明らかにした。先進国政府向けは全て、100mgバイアルを390ドルに設定。Vekluryは初日は200mg、その後は100mgを一日一回、点滴静注する。5日投与して改善が不十分だったり、人工呼吸器/ECMO装着患者の場合は、10日間まで投与できる。ギリアドによれば大半は5日コースの模様なので、一人当たり2340ドルとなる。尚、米国の医療保険向けは$520/バイアルと割高になるが、値引きが常なので、正味価格は政府向けと大差ないだろう。

命に係わる難病に有望と考えられる薬を開発した会社は、正式な承認前に、当局の許可を得て、人道的措置として提供することができる。Compassionate Use Programと呼ばれている。Vekluryも日本を含む多くの国で無償提供されたが、使い終わった段階で、有償購入に切り替わる。通常は政府や医療保険組織が薬価交渉を経て決定するので、今回のように製薬会社が世界統一価格を設定するのは異例だ。スピード優先ということだろう。

Vekluryの臨床試験ではメジアン入院期間が偽薬比4日間短かった。ギリアドによると、米国では4日間早く退院すれば医療費が12000ドル軽減されるとのことで、費用対効果が高いことになる。尤も、この数値がCOVID-19に関するものなのが、全入院例平均なのかは、明記されていないのでわからない。また、COVID-19でも人工呼吸器/ECMO装着の有無などにより費用が変わるだろう。dexamethasoneが正式に承認されれば、各剤のコストパフォーマンスも検討項目になるだろう。

尚、途上国向けはインドなどのジェネリック薬メーカーがロイヤルティフリーでライセンス生産し先進国より安価に販売する予定。報道によると、インドでCipla等が発売した価格は5日コースが350米ドル程度とのことなので、米国の1/7程度だ。

リンク: O'Day会長兼CEOの公開書簡(6月29日付)


【新薬開発】


ジェンマブ、抗組織因子ADCを子宮頸がんに承認申請へ
(2020年6月29日発表)

デンマークの抗体医薬開発会社、ジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Humax-TF-ADC(tisotumab vedotin)の第二相再発転移子宮頸がん試験の結果を明らかにした。転移後に二次以上の治療を受けた患者101人を組入れて全員に投与したところ、cORR(確認客観的反応率、独立中央評価、RECIST 1.1ベース)が24%(95%信頼区間15.9-33.3%)、メジアン反応持続期間8.3ヶ月となり、他の薬の文献データと見比べて良好な成績だった。承認申請に向けて当局と相談する考え。

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)の抗体薬物複合体(ADC)技術をライセンスして創製した、組織因子(TF)を標的とした抗体とMMSE抗癌剤のADC。TFは卵巣癌や前立腺癌、膀胱癌、食道癌、肺癌などでも高発現する一方で正常細胞では少ない由なので、適応拡大の余地もありそうだ。

同社はトランスジェニック・マウス技術を元に抗CD20抗体Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)や抗CD38抗体Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)を創製し大手を通じて実用化した実績を持つ。tisotumab vedotinはシアトル・ジェネティクスと共同開発しており、費用と収益は折半、米加墨以外はジェンマブが商業化する予定なので新薬開発会社から医薬品販売会社にステージアップする転機になり得るだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

抗IL-1抗体の再発性心膜炎試験が成功
(2020年6月29日発表)

Kiniksa Pharmaceuticals(Nasdaq:KNSA)は、rilonaceptの第三相再発性心膜炎試験が成功したと発表した。年内に米国で適応拡大申請する予定。

rilonaceptはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)が創製した抗IL-1抗体で、IL-1受容体のアルファ・ユニットとベータ・ユニットをIgG固定領域と融合することで阻害力を強化したもの。08年にCAPS(CIAS1変異関連自己炎症定期的症候群)治療薬Arcalystとして米国で、09年にはEUでも、承認された。Kiniksaは17年にrilonaceptをIL-1アルファやベータが調停する疾患の治療薬として開発する権利を取得。米国で適応拡大が承認されたら日米市場でもCAPS用途も含めた開発販売権を取得することができる。契約一次金500万ドル、承認達成報奨金は最大2750万ドル、適応拡大承認後の売上高や利益は両社で折半する。

リジェネロンにとっては初めての承認取得となった記念碑的な製品だが、一時は共同開発していたこともあるノバルティスが抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab)を投入したことや、リジェネロンの大型新薬が次々承認されたことから、戦略的な重要性は低下したと推測される。

今回の第三相は、活性期症候性再発心膜炎の患者86人をランインに組入れ、試験薬(初回は320mg、2回目以降は160mgを週一回、皮注)を投与する一方でそれまで服用していた薬(NSAIDsなど)はフェードアウトした。応答した61人を継続投与群と偽薬スイッチ群に1:1無作為化割付して、再発リスク(疼痛のNRSとCRP値などに基づいて判定)を比較したところ、ハザードレシオ0.04、p<0.0001と大変良い結果が出た。副次的評価項目の反応持続率や症状改善奏効率も有意な差があった。

再発性心膜炎は自己免疫疾患で、米国の推定患者数は最大40000人、再発性でrilonaceptの適応になりそうなのは最大14000人と推定されている。rilonaceptはFDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: Kiniksaのプレスリリース

アステラス子会社の遺伝子療法試験で2名死亡
(2020年6月23日発表)

今年1月にアステラス製薬が30億ドルで完全子会社化した米国の遺伝子療法開発会社、Audentes Therapeuticsは、X染色体連鎖性ミオチュブラー・ミオパチー(XLMTM)の患者コミュニティに向けた声明の中で、AT132の第1/2相試験で高用量を投与した3人の患者から二人目の死亡者が発生したことを報告した。もう一人も深刻有害事象が発現したことが先に公表されている。20年央に米国で承認申請する目標だったが、この試験は既にクリニカルホールドとなっており、少なくとも開発遅延、場合によっては打ち切りの可能性もあるのではないか。

XLMTMはMTM1遺伝子の変異によりmyotubularinが欠損・極度欠乏していて、極度の筋力低下、呼吸不全、早期死亡などを被る、希少だが重篤な疾患。AT132は、ヒトMTM1遺伝子をアデノ随伴ウイルス血清型8型で導入する。FDAがRMAT(再生医療先進療法)指定している。17年に第1/2相ASPIRO試験を開始、19年に高用量の3x10^14vg/kgを至適用量と判定し追加組入れを決定したが、今年5月に、この用量を投与した3人が深刻有害事象を発現し一人は敗血症で死亡したことが公表された。今回、もう一人が投与4-6週後に進行性肝不全を発症し、敗血症で死亡したことが明らかにされた。

3名の共通点は年齢(5歳以下を組入れ)が比較的上で、高体重、肝胆疾患の既往があること。尚、低用量(1x10^14 vg/kg)では肝胆疾患既往患者を含め深刻有害事象は発現していない由。

深刻な疾患なので低用量で大きな問題がなければクリニカルホールドが解除される可能性もあるだろう。AT132の動物試験はどうだったのだろうか?Solid Biosciences(Nasdaq:SLDB)のSGT-001のように霊長類試験や子豚の試験で用量依存的な懸念が生じていなかったのだろうか?

リンク: Audentes社の声明(Joshua Frase財団のウェブサイト)


【承認審査・委員会】


インターセプト、NASH治療薬承認第一号はならず
(2020年6月29日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)はobeticholic acidをNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)による肝線維症の治療薬として適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。プレスリリースを読むと会社側はかなり不満であるようなので、異議申立て手続きに進む可能性もあるのではないか。NASHは開発中後期パイプラインが多いので、FDAが過去のアドバイスを覆したのか、注目している会社は多いだろう。

obeticholic acidはウルソデオキシコール酸と同様な胆汁酸誘導体でファルネソイドX受容体を作動する力価が高い。16年に原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocalivaとして5mgまたは10mgを一日一回投与することが欧米で承認された。

NASHは二種類の用量の第三相で高用量の25mg一日一回投与群が中間解析で二つの主評価項目のうち一つで成功。肝線維症奏効率(1ステージ以上改善しNASHが悪化しなかった患者の比率)が23.1%と偽薬群の11.9%を有意に上回った。もう一つのNASH奏効率(解消し肝線維症は悪化しなかった患者の比率)は11.7%と偽薬群の8%を数値上上回ったがp=0.12で有意ではなかった。副作用面は、原発性胆汁性肝硬変でも見られる掻痒が更に増加し、重度掻痒発現率は5%に達した。

19年9月の承認申請後の足取りは平板ではなく、優先審査指定で審査期限が今年3月26日に設定されたが、諮問委員会のスケジュール調整ができず4月開催となったため6月26日に延期され、その諮問委員会はCOVID-19流行による規制で6月に延期、会社側が追加データを提出したため再延期となり、結局、日程が決まらないまま審査完了となってしまった。

審査完了通知には、代理マーカーが穏やかに改善するだけでは臨床的便益が副作用リスクを上回ると合理的に推定することができず、加速承認できないと記されている模様。第三相試験の最終解析結果の報告や、延長試験の継続を推奨した由。

インターセプトはFDAと会合を持って今後の対応を決定する考え。

尚、インターセプトはEUでも昨年12月に適応拡大申請した。

リンク: 同社のプレスリリース

アラガンら、VEGF-A拮抗薬で審査完了通知を受領
(2020年6月26日発表)

アラガンとスイスのMolecular Partners (SIX: MOLN)は、AGN-150998(abicipar pegol)を新生血管加齢性黄斑変性治療薬として欧米で承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。二本の臨床試験で視力悪化を抑制する効果がジェネンテック/ノバルティスのLucentis(ranibizumab)と非劣性だったが、眼内炎症の発生率が約15%とLucentis群の0-1%を大きく上回った。生産工程を見直し大腸菌を減らすことで9%程度に改善したが、FDAは、便益が上回るとは言えないと反対した。

チューリッヒ大学発のベンチャーであるMolecular Partnersは、天然のankyrinの繰り返し配列を使って標的に拮抗する物質を作るDARPin技術を持っている。アラガンとの広範な創薬提携から生まれたのがAGN-150998で、PEG化しても34KDaと分子量が小さく高力価、高安定性であることが特徴。プルーフ・オブ・テクノロジーになるはずが、品質面の問題点が表面化してしまったのは残念。

リンク: 両社とアッヴィの共同プレスリリース

CHMP、ベクルリーなどの承認に肯定的意見
(2020年6月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、6月の会合で、ギリアド・サイエンシズのVeklury (remdesivir、和名ベクルリー)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

VekluryはCOVID-19治療薬。SARS-CoV-2のポリメラーゼを阻害し、増殖を妨げる。CHMPは条件付き承認を推奨した。日本は第三相試験の結果が十分に把握できていない状況で特例承認したと推測され、米国は非常時使用承認なので正式な承認ではなく、正式な承認審査も受けていないと推測される。CHMPの審査は遅かったが、その分、ある程度キチンと評価検討したはずなので、承認内容が注目されたが、12歳以上且つ体重40kg以上で酸素補給や呼吸補助を必要とする肺炎を合併した患者に、最低4日間、最大10日間投与することを勧告した。人工呼吸器やECMOが導入されている患者は除外しなかったが、このような患者に対する効果は確立していない旨、プレスリリースに明記した。

CHMPの勧告を受けて、EMAは条件付き承認を行った。当初の有効期間は1年のみだが、今年8月までにACTT-1試験の全死亡に関する最終解析結果を報告し、年末までに全体の最終報告を行えば、正式承認に切り替わるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース(6/25付)
リンク: ギリアドのEU承認に関するプレスリリース(7/4付)

話をCHMPに戻すと、スエーデンのHansa Biopharma社のIdefirix(imlifidase)も条件付き承認が支持された。高度感作腎移植またはクロスマッチ陽性死体腎移植を受ける成人の脱感作療法。IgG免疫が強く適合する臓器がなかなか見つからない患者はウェイティングリストに乗っても後回しにされてしまいがちだ。現行の脱感作療法は日数がかかるため間に合わないリスクがある。Idefirixは化膿レンサ菌のIgG切断酵素由来のシステイン蛋白分解酵素で、クロスマッチ陽性でも24時間で陰転するのが長所。

第二相試験に基づく申請で、米国は第三相試験を行ってから23年ごろに承認申請する予定。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: HansaBiopharmaのプレスリリース

付記すると、Hansaは、imlifidaseを遺伝子療法の前処理用途で独占開発販売する権利をサレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)にライセンスした。サレプタが開発している74型のアデノ随伴ウイルス療法は、天然のウイルスに感染し中和抗体を持つ人が他の型と比べて比較的少ないが、もし持っていた場合、事前にimlifidaseでプリトリートすれば枯渇させることができるかもしれない。他のウイルスキャリアにも有効かもしれないので注目される。

リンク: Hansa Biopharmaのプレスリリース(7/2付)

またまたCHMPに戻ると、バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)のKaftrioはelexacaftor、tezacaftor、ivacaftorのトリプル・コンビ薬で、12歳以上の嚢胞性線維症でCFTR遺伝子のF508欠損がホモまたはヘテロでもう片方に最小機能変異を持つ患者に用いる。臨床試験では%予測FEV1がホモ接合型では偽薬比10%改善、ヘテロでは同14%改善し、汗中クロライドは各45 mmol/Lと41 mmol/L低下した。尚、ivacaftorは半減期が短いためKaftrioは朝服用し、夕方にivacaftor(Kalydeco名で12年に欧米承認)を服用する。

米国では昨年10月にTrikafta名で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスのXolair(omalizumab、和名ゾレア)を点鼻ステロイドに十分反応しない鼻ポリープを伴う重度慢性副鼻腔炎の成人(18歳以上)に用いることが支持された。臨床試験ではポリープが縮小し鼻詰まりが緩和した。米国でも承認審査中。

XolairはTanox社からライセンスした抗IgE抗体で、アレルギーの原因となるマスト細胞との結合を妨げる。03年に米国で、05年にEUで、17年に日本でも、難治性喘息症用薬として承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

今回は承認申請撤回も多かった。まず、ノバルティスのXiidra(lifitegrast)。人口涙液に十分に反応しないドライアイの点眼薬として承認申請したが、CHMPは否定的だった。臨床試験で示された症状改善効果が網羅的ではなく、効果があっても臨床的に重要な違いではなく、長期投与実績がなく、『人口涙液不十分』診断する定義が曖昧であり臨床試験の対照群は人口涙液を使っていないためスイッチする効果が分からないことなどが理由。尚、米国では16年に承認された。

Xiidraはシャイアが開発していた小分子LFA-1阻害剤で、武田薬品との合併に際して、事業と関連社員400人をノバルティスが承継したもの。契約一時金34億ドル、目標達成報奨金は最大19億ドルとかなり大きなディールだったので、武田薬品にとっても残念なニュースだっただろう。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、第一三共のTuralio(pexidartinib)。腱滑膜巨細胞腫治療薬として承認申請されたが、症状改善効果が小さいことや肝毒性から、CHMPは否定的に考えていた。11年に買収したPlexxikonの開発品でCSF-1Rを阻害する。臨床試験ではORR(客観的反応率)が38%、偽薬群はゼロだった。この試験は深刻肝毒性が2例、発生しデータ監視委員会が新規組入れ中止勧告を行ったが、126人の目標に対して121人を組入れ済みだったため、主目的を達成することができた経緯がある。

米国では昨年8月に重体または機能低下を伴う症候性で切除不能な患者に限定して承認された。良性腫瘍なので腫瘍が縮小することの臨床的意義は必ずしも明確ではなく、欧米で評価が分かれても意外感は小さい。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)


【承認】


鎮静剤アネレムが米国でも承認
(2020年7月2日発表)

Cosmo Pharmaceuticals(SIX:COPN)は、Byfavo(remimazolam)がFDAに承認されたと発表した。結膜鏡や気管支鏡による検査など30分以内の処置を受ける成人の鎮静導入・維持に用いる。米国ではAcacia Pharma(Euronext:ACPH)が販売する。

ベンゾジアゼピン系の麻酔薬で、オンセットやオフセットが早く、体内のエステラーゼで不活化されるのでP450相互作用リスクがない。

ドイツのPaionが08年にCeNeS Pharmaceuticalsを子会社化して入手、昨年11月にEUでも承認申請した。日本は07年に小野薬品がCeNeSからインライセンスしたが14年に戦略上の理由で返還、17年にムンディファーマが導入し、今年1月に全身麻酔薬アネレムとして製造販売承認を得た。

リンク: Cosmo社のプレスリリース


FDA、HIV/AIDSのアタッチメント阻害剤を承認
(2020年7月2日発表)

FDAは、ヴィーヴ・ヘルスケアのRukobia(fostemsavir)をHIV/AIDSのサルベージ療法として承認した。様々な薬の治療経験を持ち抵抗性や副作用が原因で他の薬で十分な効果が上がらない患者に用いる。

ヴィーヴはグラクソ・スミスクライン、塩野義製薬そしてファイザーのHIV合弁。Rukobiaは15年にBMSから買収したHIVパイプラインの一つで、活性代謝物のtemsavirがHIVウイルスが細胞に侵入する時に用いるgp120に結合・ブロックする、懐かしい作用機序を持っている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴのプレスリリース

長鎖脂肪酸酸化障害の脂肪酸補充療法が承認
(2020年6月30日発表)

カリフォルニア州の希少疾患用薬開発販売会社であるUltragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)は、FDAがDojolvi(triheptanoin)経口液を承認したと発表した。LC-FAOD(長鎖脂肪酸酸化障害)の成人小児にカロリーや脂肪酸を供給する。

LC-FAODは常染色体劣性遺伝疾患で、長鎖脂肪酸を代謝できず、もう一つのエネルギー源である糖が欠乏する。米国の患者数は2000-3500人と推定されている。Dojolviは高純度、医薬品品質の奇数炭素中鎖トリグリセライドで、2013年にBaylor Research Instituteから技術導入したもの。

リンク: 同社のプレスリリース

バベンチオが尿路上皮癌の一次治療後維持療法として承認
(2020年6月30日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)が局所進行性/転移性尿路上皮癌の一次治療後維持療法としてFDAに承認されたと発表した。白金薬ベースの化学療法で進行しなくなった患者に、800mgを二週毎に60分点滴静注する。日欧でも適応拡大申請中。

エビデンスとなるJAVELIN Bladder 100試験では、cisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用する一次治療に反応または疾病安定化した約700人を組入れて、10mg/kgを二週毎に点滴静注する群としない群の全生存期間を比較したところ、ハザードレシオ0.69、p=0.001となり、メジアン生存期間は21.4ヶ月と対照群の14.3ヶ月を上回った。もう一つの主評価項目である被験者の51%を占めるPD-L1陽性サブグループの解析も、各0.56、0.0003、未達、17.1ヶ月と成功した。尚、PD-L1陰性(被験者の39%)サブグループの探索的解析ではハザードレシオ0.85、95%信頼区間0.62-1.18)となっているが、FDAは適応をPD-L1陽性に限定しなかった。

Bavencioは17年に二次治療薬として加速承認されたが、フェーズIVコミットメントでもある上記試験で延命効果が確認されたため、今回、本承認に切り替わった。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース(7/1付)

キイトルーダがMSI-H/dMMR大腸結腸癌の一次治療に光速承認
(2020年6月29日発表)

MSDは抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)を持つ切除不能/転移直腸結腸癌の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。Real-Time Oncology-Reviewプロジェクトの対象で、承認申請から1ヶ月足らずで承認された。 

KeytrudaはMSI-H/dMMRの切除不能/転移固形癌の再発治療に用いることが17年に米国で承認された。今回の承認の根拠となったKeyNote-177試験では、代表的な一次治療レジメンであるmFOLFOX6またはFOLFIRI(bevacizumabまたはcetuximabを併用可)とPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価、RECIST 1.1を一部調整)を比較したところ、中間解析でハザードレシオ0.60、p=0.0004、メジアン値は各16.5ヶ月と8.2ヶ月となり、成功認定された。もう一つの主評価項目である全生存期間はデータがまだ熟していない。

マイクロサテライトは塩基配列が何度も繰り返されている箇所を指す。変異が起きやすいので、腫瘍とそれ以外の細胞を比較することで、遺伝子修復が機能しているかどうか判定することができる。dMMRも類似した概念。結腸直腸癌では5-20%が該当するとされる。

リンク: 同社のプレスリリース

FDA、ロシュのher2陽性乳癌用抗体合剤を承認
(2020年6月29日発表)

FDAはロシュのPhesgoをher2陽性乳癌のネオアジュバント療法やアジュバント療法用薬として承認した。同用途で併用することが承認されている抗her2抗体tratuzumabと抗2C4抗体pertuzumab、そして点滴静注ではなく皮注を可能にするためのヒアルロン酸分解酵素hyaluronidase-zzxfの合剤で、投与に必要な時間が負荷用量は150分から8分に、維持用量も60-150分から5分に、短縮できる。自己注も可能なので、医療施設や患者の時間的負担が軽減できる。

hyaluronidaseを使って皮膚組織を弱体化し抗体医薬の吸収を促進する技術はHalozyme Therapeuticsからライセンスしたもの。tratuzumabも同じ技術を用いた皮注用製剤がHerceptin Hylecta(trastuzumab、hyaluronidase-oysk)として欧米で承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース






今週は以上です。

2020年6月26日

第952回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:英国のデキサメタゾン試験の論文原稿が公開 
  • バベンチオをEUでも尿路上皮癌の一次治療後維持療法として適応拡大申請 
  • レルミナを米国で前立腺癌に承認申請 
  • フォスフォマイシンのNDAは審査完了 
  • FDA、フェンフルラミンをドラベ症候群治療薬として承認 
  • FDA、キイトルーダを皮膚扁平上皮癌に適応拡大 
  • FDA、Xpovioをびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:英国のデキサメタゾン試験の論文原稿が公開
(2020年6月22日発表)

医学誌などで刊行される前の論文原稿のレジストリーであるmedRxivに、RECOVERY試験の低量dexamethasone(DEX)群に関する治験論文原稿が登録・公開された。6月16日付のプレスリリースから一部の数値が変更されており、今後も変わる可能性があるが、重要なエビデンスになり得る試験なので主要指標をチェックしてみよう。

RECOVERY試験はCOVID-19に感染し英国の医療施設に入院した患者をDEX群と通常医療群に無作為化割付して、救命効果をオープンレーベルで比較した。RECOVERY試験はアダプティブ・デザインで有望な候補薬が登場したら追加設定できるようになっており、DEX群以外にhydroxychloroquine(HCQ)群、Kaletra(lopinavirとritonavirの合剤)群、azithromycin群などが設定されたが、HCQは中間解析で効果が認められなかっため中止。DEXは成功したため、今後は、酸素投与・呼吸補助が必要に関してはDEXを全員に投与した上で試験薬を追加するプロトコルに変わるのではないか。

DEX試験の結果を改めて吟味すると、まず、患者背景は、平均年齢66歳、女性は36%、持病は糖尿病(被験者の24%)、心臓疾患(27%)、慢性肺疾患(21%)など。SARS-CoV-2検査で陰性(10%)・不明(9%)の患者もいた。

介入方法は、DEX群は6mgを経口又は静注で一日一回、10日間を上限に、投与した。実際にDEXを投与した患者の比率はDEX群が95%、通常医療群は7%だった。azithromycinは両群とも23~24%が使用。RECOVERY試験は重症化した患者を組入れて抗IL-6受容体抗体の効果を検討するサブスタディも設定されているが、DEX群とその対照群に関しては1~2%の患者しか使わなかった。

主評価項目は28日全死亡。転帰不明例(4.8%)については、生存退院した後に死亡したという情報がない限り、28日生存と推定した。

結果は、DEX群の28日全死亡率は21.6%、通常医療群は24.6%となった。DEX群のほうが平均年齢が1歳高いことを調整したレート比は0.83(95%信頼区間0.74-0.92)、p<0.001となった。但し、事前に計画されていた無作為化割付時の重症度に基づくサブグループ分析では異質性検定p値が有意だった。具体的には、人工呼吸器装着例(被験者の15%)では28日全死亡率が29.0%対40.7%、レート比0.65(95%信頼区間0.51~0.82)、p<0.001となったが、酸素投与のみ(61%)では各21.5%、25.0%、0.80(0.70~0.92)、0.002と治療効果が若干低下し、どちらも不要な患者(24%)では17.0%、13.2%、1.22(0.93~1.61)、0.14と数値上は悪かった。

発症から無作為化割付までの期間が7日以上の患者の死亡リスクは削減したが、未満では効果がなかった(傾向性検定p<0.001)。インプリケーションは不明。7日以上の患者は人工呼吸器装着比率が高かったため、交絡した可能性があるからだ。

二次的評価項目では、メジアン入院期間は12日と13日でレート比1.11、統計的に有意だった。

治験論文原稿を読んで意外だったのは、まず、転帰不明例が多いこと。非常事態なのでやむを得ないのだろうが、もし両群の転帰不明率が同程度で、真実はDEX群は全員が死亡、通常医療群は全員生存だったとすると、全ユニバースの死亡率の差3%は吹っ飛んでしまう。尤も、全死亡という評価項目は死亡届をチェックすれば検証できるので、真実を見誤るリスクは小さいのだろうが。

一番の懸念は、酸素投与も呼吸補助も不要な患者で死亡リスクが高まる可能性が浮上したこと。統計的に有意ではないが、信頼区間は望ましくない方に大きく張り出しており、Number-needed to-harmは推定26で、もし真実なら、影響は大きい。

第951回で書いたように、免疫抑制剤は免疫機構の暴走を諫める便益だけでなくウイルスが活発化する危険もあるかもしれないので、臨床検査値に基づいて最適な患者を事前スクリーニングする余地はないのか、あるいは、安全性面を考慮すると選択的な免疫抑制剤のほうが好ましいのではないか、等々、研究課題はまだまだ山積みで残っている。

さて、今回、サブグループ分析のデータが明らかになったので、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir、レムデシビル/JAN)のACTT-1試験結果と見比べてみよう。どちらの試験でも重症度に基づくサブグループ分析が一貫していないので、比較も重症度毎に行う方が良さそうに思われる。但し、両試験は重症度の分類も評価項目も異なり、また、サブグループ分析は本解析より信頼性が劣ることは留意したい。

ACTT-1の主評価項目は退院または感染管理目的で引き続き入院しているが医療は不要となるまでの期間。メジアン11日と偽薬群の15日より早かった。組入れ数が約1,000人と少なく中間解析で成功認定され追跡期間も短縮化されたせいか全死亡では有意差が出なかったが、ハザードレシオは0.70(95%信頼区間0.47-1.04)、14日時点での死亡率(カプラン・マイヤー推定)は7.1%と偽薬群の11.9%比4ポイント以上の差と、見栄えがする。EMA(欧州医薬品庁)によると全生存の最終解析結果が8月までに提出される見込みなので、やがて一般公開されるだろう。

DEXは、上記のように、酸素投与または人工呼吸器/ECMO装着患者で救命効果が見られた。一方、Vekluryは、ベースライン時点の重症度スケールが4(酸素投与不要)だった患者は14日死亡ハザードレシオが0.46だったが、5(酸素投与)では0.22、6(非侵襲的呼吸補助/ハイフロー酸素供給)は1.12、7(人工呼吸器/ECMO)は1.06となっている。

但し、Vekluryのデータは統計的に有意ではなく、また、主評価項目である入院期間と必ずしも符合していない。『軽中等症』の患者における入院期間は両群ともメジアン5日間、レート比1.09で有意差がなかった。EUのCHMPはVekluryを条件付き承認するよう肯定的意見をまとめたが、このデータに基づき、対象を酸素・呼吸補助を必要とする患者に限定した。尤も、上記のように、重症度スケール4という括りだとレート比1.38と、対象はかなりオーバーラップしているはずなのに入院期間の解析結果が食い違っており、変である。

スケール6と7は入院期間で見ても死亡リスクでも、効果が感じられない。日本の添付文書には『現時点では原則として、酸素飽和度94%(室内気)以下、又は酸素吸入を要する、又は体外式膜型人工肺(ECMO)導入、又は侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者を対象に投与を行うこと』と記されているが、人工呼吸器/ECMO導入患者に関するエビデンスは薄弱なのである。CHMPは適応外にはしなかったものの、入院期間が大差なかったことをプレスリリースで明記している。

定性的にまとめると、DEXは呼吸不全が重い患者に適し、酸素投与すら不要な患者には却って有害かもしれない。Vekluryは酸素投与例におけるエビデンスははっきりしている一方で、不要な患者やハイフロー酸素や呼吸補助が必要なほど悪化した患者に対する効果は明確でない。

Vekluryに続いてDEXの臨床試験も成功し、今後は偽薬対照試験ではなく活性薬対照試験、またはこれらの薬を服用している患者にアドオンする試験が主流になると推測される。前者の場合、ベンチマークとなる薬の特性を明確にしておくことが著しく重要だ。例えば、Veklury対照試験を行って効果が非劣性であった場合、試験薬は効果があると言えるのか、言えないのか?対象が酸素投与患者なら言えるかもしれないが、人工呼吸器/ECMO装着患者なら、現状では、非劣性では足りず有意に上回らないとダメだろう。

リンク: Horbyらの治験論文原稿(medRxiv)
リンク: CHMPのプレスリリース(6/25付)


【承認申請】


バベンチオをEUでも尿路上皮癌の一次治療後維持療法として適応拡大申請
(2020年6月22日発表)

ドイツのメルクと米国のファイザーは、抗PD-L1抗体Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)を局所進行性/転移性尿路上皮癌の一次治療後維持療法としてEUで承認申請し受理されたと発表した。米国では4月に、日本でも5月に、申請している。

第三相のJAVELIN Bladder 100に基づくもので、cisplatinまたはcarboplatinとgemcitabineによる一次治療を受けて癌が進行しなかった患者に10mg/kgを2週毎点滴静注したところ、中間解析でメジアン生存期間が21.4ヶ月と維持療法を施行しなかった群の14.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、p=0.0005だった。被験者の51%に相当するPD-L1陽性例ではメジアン生存期間は未達対17.1ヶ月、ハザードレシオ0.56、p=0.0003だった。G3以上の有害事象発現率は47.4%対25.2%だった。

リンク: 両社のプレスリリース

レルミナを米国で前立腺癌に承認申請
(2020年6月22日発表)

Myovant Sciences(NYSE:MYOV)は、MVT-602(relugolix)を米国で進行前立腺癌に承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月20日。承認されれば、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アンタゴニストの経口剤は初になる。

Myovantはヘッジファンド出身のVivek Ramaswamyが創設したRoivant Sciencesの子会社だったが、大日本住友製薬がRoivantとの資本業務提携を通じて傘下子会社に出資、Myovantは大日本の子会社となった。

relugolixは武田薬品がオリジンで、日本で19年に子宮筋腫治療薬として承認された。海外では子宮筋腫・子宮内膜症用途向けはGnRHアンタゴニストの副作用である骨塩密度低下やホットフラッシュをエストロゲンとプロゲスチンを併用することで緩和する、低量ホルモン・アドバック・セラピー用の合剤を開発。子宮筋腫による出血過剰治療薬として3月にEUで、5月には米国でも承認申請した。子宮内膜症も今回、二本目の第三相試験が成功したので、承認申請されるだろう。

子宮筋腫・子宮内膜症はrelugolixを40mg配合しているが、前立腺癌は120mg(初日は360g)を一日一回、経口投与する。日本の医療施設も参加したアンドロゲン感受性進行前立腺癌の第三相試験では、テストステロン抑制奏効率が96.7%となり、leuprolide acetateデポ製剤を3ヶ月毎に皮注・筋注した群の88.8%と比べて非劣性だった。有害事象による治験離脱率は3.5%対2.6%、MACE(主要有害心臓イベント:全死亡、卒中、または心筋梗塞)発現率は2.9%対6.2%だった。

リンク: Myovantのプレスリリース(前立腺癌承認申請受理について)
リンク: 同(内膜症第三相成功について、6/23付)


【承認審査・委員会】


フォスフォマイシンのNDAは審査完了
(2020年6月19日発表)

Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)はContepo(fosfomycin)を腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症の治療薬としてFDAに再承認申請していたが、審査完了通知を受領した。昨年4月の審査完了通知と同様に、欧州の受託生産会社における品質管理問題が原因の模様で、渡航制限によりFDAが現地査察に行けないことが障壁のようだ。

Contepoは欧州で半世紀近い歴史を持つfosfomycinの新製剤で、同社が買収したZavanteの技術を用いて薬力学や薬物動態を最適化した。QIDP(感染症薬製品認定:承認時に優先審査バウチャーを貰えるなどのメリットがある)やファーストトラック指定(開発・承認をスピードアップするためFDAが支援する)を受けている。

リンク: Nabrivaのプレスリリース


【承認】


FDA、フェンフルラミンをドラベ症候群治療薬として承認
(2020年6月25日発表)

FDAは、Zogenix(Nasdaq:ZGNX)のFintepla(fenfluramine)を2歳以上のドラベ症候群の治療薬として承認した。活性成分は麻薬指定(カテゴリーIV)されていて、弁性心臓疾患や肺動脈高血圧症のリスクがあることから、REMS(リスク評価管理戦略)が導入された。

Zogenixは米国カリフォルニア州の希少疾患用薬開発会社。fenfluramineは1960年代にフランスで食欲抑制剤として発売され、90年代後半に米国でphentermineと併用するフェンフェン・レジメンが爆発的に流行したが、心弁障害や肺高血圧症のリスクが顕在化。米国でfenfluramineとその光学異性体を販売していたワイスは200億ドルを超える和解金を拠出した。ドラベ症候群での承認は、サリドマイドが多発骨髄腫用薬として復活したことを連想させる。

Finteplaは経口液。0.1 mg/kgを一日二回服用で開始し、効果や忍容性を見ながら滴定していく。

欧州でも承認審査中。日本は日本新薬が独占販売権を取得した。

先日、レノックス・ガストー症候群の第三相成功が発表された。適応拡大申請されることになりそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Zogenixのプレスリリース

FDA、キイトルーダを皮膚扁平上皮癌に適応拡大
(2020年6月24日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を根治手術・放射線療法不適の難治/転移皮膚扁平上皮癌に使う適応拡大を承認した。KeyNote-629試験で105人に投与したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価、RECIST 1.1基準だが一部調整)が34%、完全反応率は4%、反応持続期間はメジアン未達でレンジは2.7ヶ月から13.1ヶ月以上だった。

皮膚扁平上皮癌ではリジェネロン/サノフィの抗PD-1抗体、Libtayo(REGN2810)も18~19年に欧米で承認されている。どちらもエビデンスは単群試験のORRなので、効果を比較することは難しい。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

FDA、Xpovioをびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に適応拡大
(2020年6月22日発表)

FDAは、Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のXpovio(selinexor)を再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の三次治療薬として加速承認した。60mgを毎週第1日と3日に経口投与した後期第二相試験で、ORR(客観的反応率、独立評価委員会がLugano 2014基準で判定、n=134)が29%、完全反応率は13%だった。反応者の38%が6ヶ月以上持続した。46%で感染症などによる深刻有害事象が発生した。

核外輸送蛋白のエクスポーティン1を選択的に阻害して腫瘍抑制蛋白の蓄積を促す経口剤で、昨年7月に再発難治多発骨髄腫の五次治療薬として加速承認されている。EUでも加速承認審査中で、承認後にDLBCLに適応拡大申請するものと推測される。日本は小野薬品がライセンスしたが戦略上の理由で返還することを5月に発表した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Karyopharmのプレスリリース






今週は以上です。

2020年6月20日

第951回

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、ADHD治療用ゲームソフトの販売を認可 
  • COVID-19:低量デキサメタゾンが呼吸不全患者の死亡リスクを削減 
  • COVID-19:イタリアでアクテムラの臨床試験がフェール 
  • COVID-19:FDA、CQ/HCQのEUAを撤回 
  • COVID-19:FDA、レムデシビルとCQ/HCQの相互作用リスクを警告 
  • COVID-19:ノバルティス、HCQのCOVID-19試験を打ち切り 
  • COVID-19:アストラゼネカ、ワクチンの先行予約が11億回分に 
  • COVID-19:免疫パスポートは期限切れが早い? 
  • ロシュ、AKT阻害剤の第三相試験が成功 
  • テセントリクのTNBCネオアジュバント試験が成功 
  • ベージニオの早期乳癌アジュバント試験が成功 
  • ダラザレックスのALアミロイドーシス試験が成功 
  • FDA、エピザイムのEZH2阻害剤を濾胞性リンパ腫に適応拡大 
  • クリースビータが腫瘍性骨軟化症に適応拡大 
  • キイトルーダが高TMB腫瘍に承認 
  • FDA、小細胞性肺癌の新薬を承認 
  • ノバルティス、コセンティクスがnr-axSpAに適応拡大 
  • ノバルティス、イラリスが米国でもスチル病に承認 


【今週の話題】


FDA、ADHD治療用ゲームソフトの販売を認可
(2020年6月15日発表)

FDAは、Akili Interactiveのデジタル・ヘルス治療用ディバイス、EndeavorRxの販売を認可した。8~12歳の注意欠如型または混合型のADHD(注意欠如・多動症)の治療に用いるゲームソフトで、医師の処方を得たうえで、App StoreからiPhoneなどにダウンロードして使う。ゲーム型医療機器の認可は初めて。

Akiliはボストンの中枢神経疾患治療用ソフトウェア開発会社。EndeavorRxはレース型の3Dゲームで、モバイル機器を左右に動かしたり画面をタップしたりして障害物を回避しながら、30分間に五つの簡単ではないミッションを遂行する。リアクションに基づいてソフトが集中力などをリアルタイム評価し困難度を調節する。

30分経つと翌日までプレイできない。週五日、一ヶ月が一サイクルで、必要に応じて繰り返す。

複数の無作為化割付二重盲検(!)対照試験で、TOVA(Tests of Variables of Attention)やAPI、IRS(Impairment Rating Scale)、ADHD-RSなどが対照群比有意に改善した。治療関連有害事象発現率は9%で、フラストレーション、頭痛、めまい、情緒性反応や易刺激性など。

Akiliは昨年3月に塩野義製薬と日本及び台湾におけるAKL-T01(今回のソフト)とAKL-T02(自閉症の認知不全治療用)の商業化で戦略提携しており、将来的に日本で発売される可能性もありそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Akiliのプレスリリース

COVID-19:低量デキサメタゾンが呼吸不全患者の死亡リスクを削減
(2020年6月16日発表)

オックスフォード大学が主導するCOVID-19治療試験、RECOVERYの治験総括医(複数)は、今度は低量dexamethasone(DEX)群の新規組入れを中止すると発表した。酸素投与/人工呼吸器装着を必要とする患者の死亡リスクを削減する効果が確認されたため。

この試験は、COVID-19に感染した英国の入院患者12,000人をDEX、hydroxychloroquine、Kaletra(lopinavirとritonavirの合剤)、azithromycin、または通常医療のみの5群に無作為化割付して28日死亡率などを比較している。ファクトリアルデザインで回復期血漿や、進行した患者の一部を対象にActemra(tocilizumab)の無作為化割付試験も行っている。DEX群は2104人に6mgを経口または静注で一日一回、10日間投与した。

通常医療群(4321人)に対する死亡リスクのレート比は0.83(95%信頼区間0.74-0.92)、p=0.0007だった。サブグループ分析は偏りがあり、人工呼吸器装着患者(通常医療群の28日死亡率は41%)では0.65(0.48-0.88)、酸素投与患者(同25%)では0.80(0.67-0.96)だったが、酸素投与不要患者(同13%)には効果が見られなかった。

DEXはGE化したステロイド薬で様々な疾患に広く用いられている。入手が容易で安価な薬が、number-needed-to-treatが人工呼吸器装着なら8、酸素投与でも25なのだから、コストパフォーマンスは極めて高い。

治験統括医はできるだけ早く治験結果を刊行する考え。内容に問題が無ければ、そして、他国でも進められているであろう試験で異なった結果が出ない限り、標準療法に組入れられていくだろう。RECOVERY試験はhydroxychloroquineの無益性を明確にしたのに続いて、大きな果実をもたらした。

死亡リスクを2~3割削減しても未だ死亡率は高いので、治療法を更に向上しなければならない。良く分からないのがActemra(tocilizumab)のような抗IL-6受容体抗体やJAK阻害剤との関係だ。重症患者がしばしば発症するサイトカイン・ストームの抑制を狙って、複数の重症COVID-19肺炎治療試験が進行していて、上記のようにRECOVERY試験もActemraサブスタディを設定している。DEXの適応が呼吸不全合併患者となるとActemraと被ってくるのではないか。DEXが標準療法に組み込まれた場合、インターロイキン阻害剤を追加しても大きな上乗せは期待できないかもしれないので、もしかしたら、もう出番はないかもしれない。

そもそも、原因疾患はウイルス感染症なので免疫抑制剤は免疫機構の暴走を諫める便益だけでなくウイルスの抑制を弱める危険もあるはずだ。臨床検査値に基づいて事前スクリーニングを行う余地がないのか、あるいは、安全性面を考慮すると選択的な免疫抑制剤のほうが好ましいのではないか?研究課題はまだまだ山積みだ。

リンク: 低量dexamethasoneに関するプレスリリース

COVID-19:イタリアでアクテムラの臨床試験がフェール
(2020年6月17日発表)

AIFA(イタリア医薬品庁)は、中外製薬が創製し海外ではロシュが開発販売している抗IL-6受容体抗体、Actemra(tocilizumab)をCOVID-19肺炎の治療に用いる臨床試験が中間解析で無益認定されたことを明らかにした。イタリアの24施設で398人の入院患者を組入れて転帰を標準療法のみの群と比較する計画だったが、126人の中間解析で2週間の病状悪化/死亡率が各群28.3%と27.0%、ICU入室率は10.0%と7.9%、30日死亡率は3.3%と3.2%と両群大差なかった。

プレスリリースの情報は限られているが、ClinicalTrials.govにNCT04346355として登録されている第二相試験のことと推測される。組入れ条件を見るとPaO2/FiO2が200~300 mm/Hgと記されているので、ARDS(急性呼吸逼迫症候群)の中でも軽度で人工呼吸器などは必要でない患者が対象のようだ。

この点で、4月に明らかにされたリジェネロン・ファーマシューティカルズ/サノフィの抗IL-6受容体アルファ抗体、Kevzara(sarilumab)の第二相試験結果と符合する。重症肺炎(酸素投与が必要)サブグループでは効果が見られなかったが、危機的肺炎(ハイフロー酸素投与、人工呼吸器装着、ICU入室)では死亡・人口呼吸器装着リスクを緩和し退院率を向上するトレンドが見られた。このため、米国の第三相は対象が危機的肺炎だけに変更された。

Actemraはロシュ・グループもイタリアを含め各国で第三相試験を実施している。危機的肺炎なら効くのか否か、今後、明らかになるだろう。

リンク: AIFAのプレスリリース(イタリア語)
リンク: NCT04346355の治験登録(ClinicalTrials.gov)

COVID-19:FDA、CQ/HCQのEUAを撤回
(2020年6月15日発表)

FDAは、chloroquine diphosphate(CQ)とhydroxychloroquine sulfate(HCQ)をCOVID-19の治療に用いるEUA(非常時使用認可)を撤回した。効果が不十分というエビデンスが積み重なり、心血管疾患などのリスクを便益が上回ると考えることができなくなったため。

CQ/HCQのCOVID-19治療試験というとオックスフォード大学が主導するRECOVERY試験のフェールを連想するが、まだ論文刊行されていないせいか、FDAはTangらの治験論文などをエビデンスとした。軽中度の入院患者150人をHCQ群とSOCだけの群に無作為化割付してウイルス検査陰転を比較したが有意差がなかったというものだ。

米国はトランプ大統領がCQ/HCQをゲームチェンジャーと呼び、ホワイトハウスのスタッフから感染者が出た後は自ら、予防目的で服用した。報道によると今回のFDAの措置に不満を示しているようなので、また首のすげ替えが起きないか、心配だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Tangらの治験論文(BMJ)

COVID-19:FDA、レムデシビルとCQ/HCQの相互作用リスクを警告
(2020年6月15日発表)

FDAは、COVID-19治療薬としてEUA(非常時使用認可)を受けているギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesvir/USAN・INN、レムデシビル/JAN)に関して、chloroquine phosphate(CQ)/hydroxychloroquine sulfate(HCQ)と併用しないよう勧告した。非臨床試験でremdesvirの抗ウイルス作用が低下したため。臨床的な影響は確立していない。CQ/HCQはオックスフォード大学主導試験で救命効果が見られなかったため、相互作用懸念が確立していようがいまいが、今後は併用されなくなるだろう。問題は、他の薬との相互作用の情報だ。

米国のファクトシートによると、remdesvirはCYP2C8、CYP2D6、CYP3A4、OATP1B1/P-gpの基質で、CYP3A4、OATP1B1、OATP1B3、BSEP、MRP4、NTCPのインヒビターであることがin vitroで示された。定量情報は記されていない。これらの薬物代謝酵素/トランスポーターを誘導/阻害したり依存したりする薬との相互作用がどの程度なのか、今後の発表を期待したい。

リンク: FDAのプレスリリース

COVID-19:ノバルティス、HCQのCOVID-19試験を打ち切り
(2020年6月19日)

ノバルティスは、hydroxychloroquine(HCQ)のCOVID-19治療試験を打ち切ると発表した。Johns Hopkins大などの施設で440人を組入れてHCQやHCQ・azithromycin併用の臨床的反応率やウイルス駆除奏効率を偽薬と比較する計画だったが、組入れが不調であるため。

HCQは疫学的研究で安全性懸念が指摘されたため、WHOがSolidarity試験のHCQ群を中断してデータ安全性監視委員会に検討を求めたり、英国の大規模試験で当局の要請を受け中間安全性解析を行ったところ、問題なかったが救命効果も見られなかったため、HCQ群を打ち切る顛末になった。

上記疫学論文は結局撤回されたし、英国試験のデータはまだ論文発表されていないが、COVID-19治療の特徴は、不確かなデータでも敏感に反応することだ。第943回で取り上げた、NY地区入院患者に関するRichardsonらの論文を呼んで一番印象的だったのは、入院中にACE阻害剤やARBを止めた症例が多かったことだ。理由が記されていなかったので私も言及しなかったが、ACE阻害剤やARBがSARS-CoV-2の増殖力を高めるという一部の学者の指摘が影響したのかもしれない。

多くの学会が懐疑的な意見を表明しているので油断していたが、代替的治療法が多く存在する中で回避可能なリスクを取りたくない、転ばぬ先の杖、と考える医師が多いのだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

COVID-19:アストラゼネカ、ワクチンの先行予約が11億回分に
(2020年6月13日発表)

アストラゼネカはオックスフォード大学ジェンナー研究所が開発したCOVID-19用ワクチン、ChAdOx1/AZD1222の臨床開発を進めているが、政府などからの先行予約が10億回分を越えた。英国政府向け1億回分、米国政府向け3億回分、感染症対策推進組織であるCEPI及びGavi向け3億回分に加えて、新たに、欧州のInclusive Vaccines Alliance(IVA:現時点ではイタリア、ドイツ、オランダ、フランスが加盟)向けに4億回分を供給することを決めた。

アストラゼネカが現在計画している生産体制は、自社で年10億回分、主として低中所得国に供給するインドのSerum Institute of Indiaが年10億回分となっているので、日本などの高所得国に供給する余力は小さくなった。

このワクチンはチンパンジーに感染するアデノウイルスをベクターとしてSARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白の遺伝子を導入するもの。霊長類試験では感染予防効果がそれほど高くなかったが、肺炎合併率は対照群が66%であったのに対してゼロだった。

チンパンジー・アデノウイルスベクターを使ったワクチンの過去の投与実績は320人と、ワクチンとしては話にならないほど少なく、今回初めて真価が問われることになる。4月に第1/2相試験入り、5月に結果が出る見込みだったが、まだ発表されていないようだ。5月に1万人規模の第2/3相試験を開始、全てが上手く行けば9月に本格供給を開始する予定。

開発が成功するとは限らないが、アストラゼネカは、非常時対応として、先行して生産体制拡充を進めている。今回の先行予約は、政府などにリスクをシェアしてもらう意図もあり、その見返りということなのか、同社はパンデミックが続く限りは利益ゼロで供給することをコミットしている。米国の補助金額は調達本数と比べてかなり大きかったが、報道によるとIVA向けは一回分が約300円となっており、この辺りが変動費相当額なのではないか。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

COVID-19:免疫パスポートは期限切れが早い?
(2020年6月18日発表)

COVID-19ワクチンが続々と臨床入りし、初期試験の免疫原性データが出始めたが、最も重要な点が明らかになるは未だこれからだ。本当に感染・発症予防に役立つのかどうかは大規模な試験の結果が出るまで分からないが、免疫の持続性は自然感染者のデータが参考になる。Nature Medicine誌に新しい研究結果が論文発表された。重慶市万州区で陽性判定され隔離のため入院した、14日間以上に亘り症状が無い感染者37人と軽症患者37人を追跡調査したもので、小規模なので誤差も大きそうだが、エビデンスの一つにはなるだろう。

興味深いのは、まず、ウイルス排出期間。無症候者の中央値は19日(レンジは6~45日)、軽症患者は14日で有意な差があった。ウイルス検査が陽性でも感染力があるとは限らないが残念なことに、感染試験は行われていない。無症候者の自然歴に関する情報はあまりないが、もしうつす可能性が長期間続くのなら、感染リスクが高いのは発症前後の数日というような、専ら顕在化した患者の所見に基づくプロファイリングだけに依存すべきではないかもしれない。

次に、抗体とその持続性。ウイルス暴露の3-4週後時点で無症候者も軽症者も8割以上がIgG陽性だったが、IgG量の水準は軽症者のほうが数倍高かった。回復期早期の変化を調べるべく退院の8週後に検査したところ、どちらもIgG水準が7割以上低下し、無症候者は40%、軽症者も13%が、血清陰転した。回復期に抗体が急減する現象はこれまでも指摘されてきたが、多寡だか2ヶ月で陰転してしまうのだとしたら、次の冬まで持つことを期待するのは難しそうだ。

もっと大規模、長期間の追跡データが欲しいところだが、ワクチンの効果が数年続くとか、抗体検査で陽性だったからもう自粛せず自由に行動できるとか、楽観しないほうが良さそうだ。

リンク: Longらの論文(Nature Medicine)


【新薬開発】


ロシュ、AKT阻害剤の第三相試験が成功
(2020年6月19日発表)

ロシュは、RG7440(ipatasertib)の第三相転移CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)試験の共同主評価項目の一つが成功したと発表した。症状がないか軽症の患者を組入れて、Zytiga(abiraterone)とprednisone/prednisoloneに加えて偽薬またはRG7440を経口投与したところ、腫瘍抑制遺伝子であるPTENの欠落が見られるサブグループのrPFS(放射線学的無進行生存期間、担当医評価)が有意に延長した。もう一つの主評価項目である全被験者のrPFSはフェールした。データは学会発表の予定。

RG7440はロシュ・グループのジェネンテックが04年にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)と開始した創薬プログラムの成果で、AKTの三種類のアイソフォーム全てを非ATP競合的に阻害する。PTEN欠落は転移CRPCの40~60%で見られ、PI3K/AKTパスウェイの異常活性化をもたらしている。

AKT阻害剤の開発はなかなか上手く行かず、RG7440もPTEN変異などを持つトリプルネガティブ乳癌の一次治療paclitaxel併用第三相試験は今年1月に中止された。

リンク: ロシュのプレスリリース

テセントリクのTNBCネオアジュバント試験が成功
(2020年6月18日発表)

ロシュは抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の早期トリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)ネオアジュバント試験、IMpassion031試験が成功したと発表した。エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、her2の何れも陰性の早期乳癌333人を組入れて、術前化学療法(nab-paclitaxelとdoxorubicin、cyclophosphamideをシーケンシャルに投与)に追加したところ、pCR(病理学的完全寛解)が偽薬追加群と比べて統計的に有意な、臨床的にも意味のある改善を示した。

術後アジュバント療法における効果を検討するため治験は続行されるが、ネオアジュバントにおける承認を得るために欧米当局と相談する考え。

Tecentriqはイタリアの研究者が行った同様な試験、NeoTRIPaPDL1 Michelangeloで、化学療法(nab-paclitaxelとcarboplatin)に追加する効果が検討されたが、pCRは化学療法だけと大差なかった。IMpassion031試験のデータが公表された段階で改めて整合性が検証されることになるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

ベージニオの早期乳癌アジュバント試験が成功
(2020年6月16日発表)

イーライリリーは、Verzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)のmonarchE試験が成功したと発表した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の早期乳癌で摘出術を受けたが再発リスクが高い患者5,637人を組入れて、内分泌療法に追加する効果を検討したところ、中間解析で主目的である無浸潤疾患生存期間延長効果が確認された。データは学会などで発表する予定。適応拡大を申請する予定。

VerzenioはCDK4/6阻害剤で、類薬は複数あるが早期乳癌アジュバント試験が成功したのは初めて。ファイザーのIbrance(palbociclib)はリスクがもう少し小さい患者も組入れたPALLAS試験が中間解析で無益認定されてしまった。やや異なった患者層を組入れたPENELOPE-B試験の結果が年内に判明する見込みなので巻き返しに期待することになる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

ダラザレックスのALアミロイドーシス試験が成功
(2020年6月13日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、daratumumabの皮注用製剤を用いた新患ALアミロイドーシス試験、ANDROMEDAが成功したと発表した。計測可能な血液学的疾患で一つ以上の臓器が影響を受けている患者388人を組入れて、cyclophosphamide、Velcade(bortezomib)、dexamethasoneの三剤を併用するCyBorDレジメンに更にdaratumumabを追加する効用を検討したところ、血液学的完全反応率が53%とCyBorDだけの群の18%を大きく上回った。主要臓器が増悪したり死亡したりするリスクはハザードレシオ0.58だった。但し、死亡率自体は13-15%で同程度のようだ。

ALアミロイドーシスは免疫グロブリンの軽鎖由来のアミロイドが臓器に蓄積、障害を与える。米国では年4500人が罹患と推測されている。daratumumabは多発骨髄腫用薬Darzalex(和名ダルザレックス)として承認されている抗CD38完全ヒト化抗体。皮注用製剤はハロザイム(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換えヒトヒアルロニダーゼを配合することにより皮注を可能にしたもので、Darzalex Fasproとして今年、欧米で承認された。

リンク: JNJのプレスリリース

FDA、エピザイムのEZH2阻害剤を濾胞性リンパ腫に適応拡大
(2020年6月18日発表)

FDAは、エピザイム(Nasdaq:EPZM)のTazverik(tazemetostat)を再発/難治濾胞性リンパ腫に用いることを加速承認した。EZH2活性化変異を持ち二次以上の治療歴を持つ癌と、他に適切な治療オプションがない患者が適応になる。

Tazverikは遺伝子発現に係るヒストンメチル基転換酵素を構成するタンパク質の一つであるEZH2を阻害する。FDAは今年1月に全摘不適の転移/局所進行性類上皮腫用薬として加速承認した。

今回の承認も第二相試験のORR(客観的反応率)に基づくもの。EZH2活性化変異42例のORRは69%(完全反応率12%)、メジアン反応持続期間は10.9ヶ月、野生型53例では各34%(完全反応率4%)と13ヶ月だった。

FDAは、ロシュのcobas EZH2 Mutation Testをコンパニオン診断薬として承認した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: エピザイムのプレスリリース

クリースビータが腫瘍性骨軟化症に適応拡大
(2020年6月18日発表)

Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)と協和キリンは、Crysvita(burosumab-twza、和名クリースビータ)をリン酸塩尿性間葉系腫瘍による腫瘍性骨軟化症(TIO)に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。腫瘍切除不能な2歳以上の患者が適応になる。米国のTIO患者数は年500~1000人で、その半分が切除不能と推定されている。

抗FGF23抗体で、18年に欧米で、19年には日本でも、FGF23の過剰分泌が見られるX染色体遺伝性低リン血症用薬として承認された。TIOでもリン酸塩尿性間葉系腫瘍がFGF23を過剰分泌、血中リン濃度が低下し骨の成長・維持に障害を来す。今回の承認は協和キリンが日韓で実施した14人の第二相試験のデータに基づくもの。

両社は13年に共同開発提携を結び、米国では利益シェア、EUは協和ロイヤルティ・ベースで開発販売している。

リンク: 両社のプレスリリース

キイトルーダが高TMB腫瘍に承認
(2020年6月17日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab)をTMB(腫瘍遺伝子変異量)高値(百万塩基当り10以上)の固形癌に用いる適応拡大を承認した。切除不能または転移性で、前治療歴を持ち、他に適切な治療オプションが無い成人小児が適応になる。反応率に基づく加速承認。

KeyNote-158試験では、TMB値を取得した790人のうち102人が10 mut/Mb以上だった。ORR(客観的反応率)は29%で、反応持続期間のメジアン値は未達だが、反応者の50%は24ヶ月以上持続している。

制約は、まず、小児中枢神経系腫瘍に対する効果や安全性は確立していない。また、MSDのプレスリリースによると、TMBが10 mut/Mb以上、13 mut/Mb未満の患者におけるORRは13%と低い。

TMB高値は、17年に承認されたMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)/dMMR(DNAミスマッチ修復不全)と同様に、遺伝子変異の多寡に基づいて抗PD-1/PD-L1が効きそうな患者をスクリーニングする。変異が多ければ異常蛋白が多く作られて免疫機構の注意を惹くので、抗PD-1/PD-L1抗体のような免疫強化療法の応答性予測因子として使える可能性がある。

尤も、話は単純ではなく、BMSはTMB高値の非小細胞性肺癌の一次治療にOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用する適応拡大申請を欧米で行ったが、申請撤回になった。PFS(無進行生存期間)の解析とは異なり、全生存期間の解析ではTMB低値でも化学療法群を有意に上回ったため、適応を限定する妥当性に疑問が生じたからだ。Opdivo・Yervoy併用や抗PD-L1抗体単剤の第二相試験の事後的分析でも、TMBはPFSの応答予測因子であったが全生存期間に関してはワークしなかった。

今回は癌種が異なるので一概には言えないが、全生存期間ではなくORRによる承認なので、承認後薬効確認試験で延命効果が確認されるかどうか、注目したい。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

FDA、小細胞性肺癌の新薬を承認
(2020年6月16日発表)

FDAは、イタリアのPharma Mar社が開発したZepzelca(lurbinectedin)を白金薬治療中または治療後に進行した転移性小細胞性肺癌に用いることを加速承認した。天然の海洋物質であるecteinascidinsの類薬でポリメラーゼIIを阻害する点滴静注用薬。第二相試験では確認ORR(客観的反応率、RECIST 1.1)が35%、メジアン反応持続期間は5.3ヶ月だった。有害事象は骨髄抑制など。

米国市場はJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)が、日本は中外製薬が、ライセンスした。

リンク: FDAのプレスリリース

ノバルティス、コセンティクスがnr-axSpAに適応拡大
(2020年6月17日発表)

ノバルティスは、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)をnr-axSpA(非X線的体軸性脊椎関節炎)の治療に用いる適応拡大が、4月のEUに続いて米国でも、承認されたと発表した。特徴的なX線兆候を伴うr-axSpAに関しては、従来の病名である強直性脊椎炎で既に適応を取っているので、体軸性脊椎関節炎ならどちらにも使えることになる。

Cosentyxは抗IL-17A抗体で、プラク乾癬などに承認されている。類薬であるイーライリリーのTaltz(ixekizumab、和名トルツ)も今月、nr-axSpAに適応拡大が米国で認められた。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ノバルティス、イラリスが米国でもスチル病に承認
(2020年6月16日発表)

FDAは、ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab、和名イラリス)を活性期成人スチル病(AOSD)の治療に用いる適応拡大を承認した。欧州では16年に承認されている。

Ilarisはクリオピリン関連周期性症候群やSJIA(全身型若年性特発性関節炎)の治療薬として承認されている。AOSDはSJIAと病態が酷似しており、類似した疾患と考えられているので、自然な適応拡大だ。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2020年6月13日

第950回

【ニュース・ヘッドライン】

  • アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型治療薬の第三相データを発表 
  • MSD、キイトルーダの膀胱癌化学療法併用一次治療試験がフェール 
  • FDA、ビエラ・バイオのNMOSD治療薬を承認 
  • オプジーボが米国でも食道がんに適応拡大 


【新薬開発】


アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型治療薬の第三相データを発表
(2020年6月7日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジののRNA介入薬開発会社、アルナイラム(Nasdaq:ALNY)は、ALN-GO1(lumasiran)の第三相ILLUMINATE-A試験の概要をERA-EDTA国際会議でバーチャル発表した。原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)で軽中度の腎障害を持つ患者39人を組入れた試験で、ALN-G01群は尿シュウ酸塩が顕著に減少、5割の患者で正常化した。

PH1はアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠損による常染色体性劣性遺伝疾患。シュウ酸が過剰になり腎臓などに障害を与える。罹患率は数万人に一人と推定されている。、ALN-G01はグリコール酸酸化酵素の遺伝子、HAO1を沈黙させるRNA介入薬。本試験では、3mg/kgを最初の3回は月一回、その後は3ヶ月毎に、皮注した。主評価項目の尿シュウ酸塩減少率(24時間蓄尿、第3~6月の平均値をベースラインと比較)は65.4%、偽薬調整後で53.5%となった。副次的評価項目の一つである、第6月の尿シュウ酸塩正常化(≦0.514 mmol/24hr/1.73m2)率は52%、偽薬群はゼロだった。有害事象は注射箇所反応など。重度以上の有害事象は見られなかった。

代理マーカーに基づく評価だが、事前にFDAの同意を得ている由なので、問題ないのだろう。

アルナイラムは4月に欧米で承認申請した。米国は優先審査で審査期限は12月3日、EUも加速審査を受ける。

サノフィが欧米外の地域でのオプト・イン・オプションを持っていたが行使しなかったため、アルナイラムが全権利を持っている。

リンク: 同社のプレスリリース

MSD,キイトルーダの膀胱癌化学療法併用一次治療試験がフェール
(2020年6月9日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKEYNOTE-361試験がフェールしたと発表した。進行/転移性尿路上皮腫の一次治療として化学療法(gemcitabineとcisplatinまたはcarboplatin)と併用する効果を検討したオープンレーベル試験で、共同主評価項目である全生存期間も、PFS(無進行生存期間)も、事前に設定された成功認定条件をクリアできなかった。モノセラピーの群も設定されたが、上位評価項目がフェールしたため、正式な解析は行われなかった。数値は何れも未公表。

プレスリリースの書きぶりだと、p値の閾値が通常より低く設定されたためフェールしたが0.05ならクリアできたと推測する余地が残っているように感じられる。この試験は米国でモノセラピーによる一次治療が加速承認された時の承認後コミットメントなので、特にモノセラピーの成績は気になるところだ。

米国では17年に尿路上皮腫の二次治療とcisplatin不適に対する一次治療に単剤投与することが承認されたが、後者に関しては、今回の361試験のモノセラピー群のうちPD-L1低発現サブグループの全生存期間が化学療法群より悪かったため、FDAは、一次治療における適応を限定、CPS(腫瘍と腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1発現スコア)が10以上または全ての白金薬に不適な患者という条件を追加した。

このような経緯から、モノセラピー群の最終解析結果がこの適応範囲に符合するものであったかどうかが注目される。

また、化学療法併用群のうちCPS≧10のサブグループ分析のデータも気になるところだ。

今回のプレスリリースでは情報が足りない。学会発表が待たれる。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


FDA、ビエラ・バイオのNMOSD治療薬を承認
(2020年6月11日発表)

FDAは、ビエラ・バイオ(Nasdaq:VIE)のUplizna(inebilizumab-cdon)をNMOSD(視神経脊髄炎関連疾患)治療薬として承認した。NMOSDは主として視神経や脊髄に損傷を与える稀だが深刻な中枢神経系の自己免疫疾患で、米国の患者数は4000~8000人と推定されている。Upliznaは抗CD19フコシル化抗体でrituximabなど他の抗CD19抗体と同様にB細胞系免疫細胞を抑制する。NMOSD患者の8割で見られる、AQP4(aquaporin-4)に対する免疫グロブリンGを持つ患者が適応になる。第三相試験では、症状増悪リスクを77%抑制した。警告は点滴箇所反応、低ガンマグロブリン血症、感染症、催奇性など。他の多くの免疫抑制剤と同様に、進行性多巣性白質脳症のリスクやB型肝炎や結核の再燃リスクも警告。

NMOSD治療薬は昨年、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のSolirisを抗AQP抗体陽性NMOSDに用いる適応拡大が日米欧で承認された。また、中外製薬が創製し欧米などではロシュが開発している抗IL-6受容体リサイクリング抗体、SA237/RG6168(satralizumab)も日米欧で承認審査中。

Upliznaはアストラゼネカ傘下のメディミューンが08年に買収したCellective Therapeuticsのパイプライン。ビエラ・バイオは18年にメディミューンから開発品8品目を携えてスピンアウトした。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ビエラ社のプレスリリース

オプジーボが米国でも食道がんに適応拡大
(2020年6月10日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を切除不能進行/難治/転移食道藩屏上皮腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。fluoropyrimidine及び白金薬による治療歴を持つ患者が適応になる。

小野薬品がアジア中心に実施したATTRACTION-3試験に基づく承認。240mg二週毎点滴静注した群の全生存期間はメジアン10.9ヶ月と、docetaxelまたはpaclitaxelを投与した群の8.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.77、p=0.0189だった。ORR(客観的反応率)は各19.3%と21.5%で有意差なし、PFS(無進行生存期間)は各1.7ヶ月と3.4ヶ月で、上位評価項目の解析がフェールしたため有意性の検証は行われなかった。

日本では今年2月に世界初承認。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース(6/11付)







今週は以上です。

2020年6月7日

第949回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:米国の感染死亡者の1/4は老人ホーム入居者 
  • COVID-19:イーライリリー、抗体医薬の臨床試験を開始 
  • COVID-19:レムデシビルの中等症COVID-19試験結果が発表 
  • COVID-19:ヒドロキシクロロキン、介入的試験でCOVID-19に効果を示せず 
  • COVID-19:クロロキンの安全性に関するLancet論文などが撤回 
  • BMS、多発硬化症用薬の潰瘍性大腸炎適応拡大試験が成功 
  • バイエル、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤を日欧で承認申請 
  • FDA、MSDのカルバペネム合剤を院内感染細菌性肺炎に適応拡大 
  • イーライリリー、トルツが米国でnr-axSpAに適応拡大 
  • イーライリリー、サイラムザがEGFR抵抗性変異NSCLCに適応拡大 
  • アストラゼネカ、ブリリンタが高リスク冠動脈疾患の初発予防に承認 


【今週の話題】


COVID-19:米国の感染死亡者の1/4は老人ホーム入居者
(2020年6月2日発表)

COVID-19は欧州や米国、ブラジルなどで大流行しているが、日本などアジアの罹患率は比較的低い。何が違うのかは諸説あり、民意と言われるのはこそばゆいが、PCRの検体は唾液でも良いと言われると、唾が飛びにくくなるのでマスクがやっぱり大事なのかなとも思う。

一つ気になるのは、イタリアやアメリカでは老人介護施設での感染や死亡が多いという報道だ。日本でもクラスターがあったし、公表されていない事例も多いだろうが、日本は特に都市部では入居が順番待ちで、自宅介護を望む老人や家族も多いだろう。集団生活する老人が少なければ乗数的な老人間感染も少なくなるだろうから、それが罹患率や死亡率の違いの一因になっているのではないか?

残念ながら、高齢者の老人ホーム入居率の国際比較、のようなデータは未だ見つけることができないでいる(知っている人がいたら教えてください)。

そんな折、やっぱり老人ホーム入居者の被害が大きいことを確認できるデータが米国のCMS(高齢者や低所得者向け社会保障制度を担う連邦政府機関)から発表された。感染者数では全米の3%を占める程度だが、千人当り感染者数は62人と全米平均の10倍、感染者の死亡は25,923人で全米の1/4を占め、千人当り27.5人、致死率42%となっている。このほかに、スタッフの感染者が34,442人、死亡者449人となっている。

この調査は、5月24日までに回答が寄せられた、全米15412施設の54%に当たる8,332施設の集計。未回答の施設は報告事項がゼロなのかもしれないが、クラスターの対応に忙殺され回答どころではなかったのかもしれない。もし潜在事例が同数あった場合、米国のCOVID-19感染死亡者の半分程度は老人ホーム入居者ということになる。この調査を踏まえて、CMSは規制や罰則の強化を決めた。

老人ホーム入居者の感染状況
感染者数千人当り感染死亡者千人当り
老人ホーム居住者60,43962.025,92327.5
うち、NY州6,54698.52,94842.2
   NJ州5,179206.73,191145.5
   CA州2,72551.01,16923.0
全米1,830,0665.5106,1200.3
うち、NY州373,04019.229,9681.5
   NJ州161,54518.211,7711.3
   CA州117,0103.04,2930.1
注:老人ホーム入居者のデータは5月24日までに報告された分、全米のデータは6月2日時点。
出所:CMSとJohns Hopkins Universityの資料から作成。

リンク: 老人ホームにおけるCOID-19感染症状(CMS、pdfファイル)

COVID-19:イーライリリー、抗体医薬の臨床試験を開始
(2020年6月1日発表)

イーライリリーは、LY-CoV555の第一相試験の投与を開始した。カナダのAbCellera Biologics社がイーライリリーと共同でスクリーニングしたSARS-CoV-2中和抗体のリードコンパウンドで、抗体医薬の臨床入り第一号と推測される。今月末までに結果が出る見込みで、成功なら入院していないCOVID-19感染者を対象に第二相を行う予定。ワクチンの効果を十分に享受でき難い高齢者を対象に予防試験も検討している。

抗体医薬の開発ではリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)などが先行しているように感じていたが、AbCelleraはダークホースだった。単一細胞微小流体技術と機械学習やデータサイエンスなどの次世代技術を活用した創薬を標榜し、2年前に米国のDARPA(国防高等研究計画局)のパンデミック予防プログラムに参画、プルーフ・オブ・プラットフォームを推進してきた。

COVID-19に関しては今年1月に研究を開始、NIAID(米国立衛生研究所傘下のアレルギー疾患・感染症研究所)とともに、北米の回復患者の血液から採取した500万以上の免疫細胞から500以上の中和抗体をスクリーニング。偶々、抗体医薬創薬に関する提携交渉を行っていたイーライリリーと3月にまずCOVID-19でスタート、3ヶ月足らずでリードコンパウンドを抜擢し臨床入りした。両社は5月に全部で9種類のターゲットに対する抗体のスクリーニングで提携した。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

COVID-19:レムデシビルの中等症COVID-19試験結果が発表
(2020年6月1日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdq:GILD)は、Veklury(remdesivir、和名ベクルリー)の第三相中等症COVID-19肺炎試験の結果を発表した。SARS-CoV-2に感染し肺炎だが酸素飽和度が94%超の入院患者584人を組入れて、レムデシビルの5日コースと10日コースの11日間の転帰(退院から死亡まで7段階で評価して2段階以上改善)をSOC群(標準医療だけ)と比較したところ、5日コースのオドレシオが1.65(95%信頼区間1.09-2.48)、p=0.017、10日コースは同1.31(0.88-1.95)、p=0.18となった。

5日コースが有効で10日コースがダメとは考えにくい。信頼区間は重なっているので本当はどちらも有効なのかもしれないが、重症肺炎試験も5日コースのほうが数値上、良かったことを思い出す。ちぐはぐな結果になった。

remdesivirはSARS-CoV-2のポリメラーゼ阻害剤。米国立衛生研究所が主導したACTT-1試験でCOVID-19肺炎入院患者のメジアン罹患期間を15日間から11日間に短縮する効果が確認された。今回のプレスリリース発出時点で正式に承認されたのは日本だけで、米国はEUA(非常時使用認可)だけ、EUは承認審査中だ。その日本も適応は原則として酸素飽和度94%(室内気)以下に使うとしているので、今回の試験のインプリケーションは曖昧だ。

第11日時点の応答率(2段階以上改善した患者の比率)は5日コースが70%、10日コースは65%、SOC群は61%だった。1段階だけ改善した患者の比率は各76%、70%、66%。死亡は各0%、1%(2人)、2%(4人)。深刻有害事象の発現率は各4%、4%、9%だった。

リンク: ギリアドのプレスリリース

COVID-19:ヒドロキシクロロキン、介入的試験でCOVID-19に効果を示せず
(2020年6月5日発表)

オックスフォード大学が主導するCOVID-19治療試験、RECOVERYの治験総括医(複数)はhydroxychloroquine(HCQ)群の新規組入れを中止すると発表した。MHRA(英国の薬品承認審査機関)の要請で行われた中間解析で救命効果が見られなかったため。

この試験は、COVID-19感染の入院患者11,000人超を低量ステロイド、HCQ、Kaletra(lopinavirとritonavirの合剤)、azithromycin、標準療法のみの5群に無作為化割付して28日死亡率などを比較している。ファクトリアルデザインで回復期血漿や、進行した患者の一部を対象にActemra(tocilizumab)の無作為化割付試験も行っている。

中間解析は事前に設定されたものではなさそうだ。おそらく、WHOと同様に、MHRAは次項で取り上げるLancet論文の結論に驚き、アドホックに安全性評価を行うよう求めたのだろう。まず独立データモニタリング委員会が検討し、治験総括医に盲検解除データを検討するよう推奨した。

HCQ群(1,542人)は28日死亡率が25.7%、標準療法群(3,132人)は23.5%で、ハザードレシオは1.11、95%信頼区間は0.99-1.26となり、Lancet論文で示唆されたような深刻な安全性懸念は確認されなかったが、救命効果も見られなかった。検出力が足りているのか記されていないが、目標症例数は12,000人なのでhydroxychloroquine群の組入れ進捗率はかなり高そうだし、解析計画における死亡率の前提が上記数値より著しく高いとも考えにくい。

HCQ/chloroquineのCOVID-19の治療における用量は確立していない模様。残念なことに、プレスリリースや治験登録は本試験の用量用法について言及していない。

リンク: RECOVERT試験総括医の発表
リンク: 治験登録(ClinicalTrial.gov)

HCQは北米で実施された暴露後予防試験もフェールした。New England Journal of Medicine誌で刊行された論文によると、COVID-19感染が確認または疑われる人と6フィート(1.8m)以内の距離で10分以上、アイシールドなしで、被検者の88%はマスクもなしで過ごした無症状の成人821人を、暴露後4日以内に試験薬群と偽薬群に無作為化割付して、COVID-19様疾患の罹患率を比較した。試験薬は最初に800mg、6-8時間後に600mg、その後は600mgを一日一回、4日間投与した。結果は、各群11.8%と14.3%となり数値上は低かったが有意な差はなかった(p=0.35)。

この試験は被検者が自らインターネット経由で応募し、郵送された薬を服用し、発症の有無を報告した。非常事態なのでやむを得ないが、その分、アドヒランスや罹患判定の正確さに心許ない点が残る(罹患診断に関してPCRによる確認は必須ではなかった)。相対リスク削減率18%なら全く効果がないとは言い難いが、データの信頼性が万全でないことを考えれば、重視すべきではないだろう。

リンク: Boulwareらの治験論文(NEJM)

HCQ/chloroquineに期待する人はトランプ米大統領だけではないようで、複数の大規模試験が実施されている。次の注目は、WHOのSolidarity試験だ。Lancet論文を受けて当該群の投薬を中断しデータ安全性監視委員会に中間評価を求めたが、結果はどうだったのだろうか。

COVID-19:クロロキン等の安全性に関するLancet論文などが撤回
(2020年6月4日発表)

5月にLancet誌で刊行された、COVID-19の治療におけるhydroxychloroquine及びchloroquineの安全性に関する観察的試験論文が撤回された。同じ著者らが同じEHR(電子医療記録)データベースを用いて行った、患者の持病やACE阻害剤/ARBの服用の有無と死亡リスクの関連性を検討したNew England Journal of Medicine誌の論文も撤回された。

前者は死亡リスクが高まる可能性を示唆、WHOが臨床試験を中断し中間安全性解析を行うことを決めた一方で、研究手法に懐疑的な意見も多かった。後者は、SARS-CoV-2が細胞に感染する時に利用するACE2の発現をACE阻害剤やARBがアップレギュレートするため病状悪化要因になり得る、という仮説に否定的なエビデンスの一つになった。

権威ある査読誌である両誌に掲載された論文が、1ヶ月も経たずに撤回されたのは異例だ。過去にも多くの論文が撤回されており査読が万能でないのは明らかなのだが、パンデミックに対抗したり学会発表と同時に刊行するために査読をそこそこで終えるケースが増えているのだとしたら、残念なことだ。

これらの論文は、Brigham and Women's HospitalのMandeep Mehra医学博士らが、シカゴのSurgisphereという医療情報分析会社の創立者、Sapan S. Desai医学博士と共同執筆したもの。同社のEHRリアルタイム収集分析システムを使って、Lancet論文は6ヶ国の671病院の96,032症例、NEJM論文は169病院の8910症例の医療記録を分析した。前者は、COVID-19感染と診断されてから48時間以内にhydroxychloroquineまたはchloroquineを投与した14,888例と投与しなかった81,114例の入院中死亡リスクを比較した。48時間を過ぎてから投与した症例や、remdesivirを投与した症例は除外。結果は、リスク因子などを修正後のハザードレシオがhydroxychloroquine単剤で2.3倍、マクロライド系抗生剤同時使用例では5.1倍、chloroquineは単剤で3.5倍、マクロライド同時使用で4.0倍という衝撃的なものだった。

論文撤回要求は、NEJM論文に関してはDesai医学博士を含む全著者の連名で、生データが提供されず第三者による検証ができなかったことを理由に挙げている。Desai博士以外の著者だけによるLancet論文撤回要求はもう少し詳しく、同社やDesai博士が行った分析に懸念が寄せられたため博士の同意を得て第三者による監査をロンチしたが、同社がクライアントとの契約に基づきデータセットの提供を拒否した。

私は、Lancet論文を読んで感嘆した。医療従事者が余計な書類仕事に感ける暇もないほど忙殺されている時に、EHRという必ず入力されるであろうデータをリアルタイムに収集し、AIが機械学習などの手法でデータマイニングするという、近未来の魁のように感じられたからだ。ハザードレシオも大きい。

しかし、データを提供した病院の名前やリスク因子の修正の仕方など、具体的な情報が欠けていることや、観察研究は一つだけでは信憑性が低く、もう一つ、他の独立したデータセットの分析が出てから検討しても遅くないことから、本稿では取り上げなかった。

将棋ソフトとプロ棋士の対局を見ていて感じたのは、AIが結論を出すプロセスを人間が追いきれなくなるリスクだ。コンピューターが1秒で出す結論を、人間が一つ一つ検証していたら時間がかかって、AIを使う意味がなくなる。かといって、ブラックボックスのままにしておいたら大きな欠陥を見落としかねない。検証は独立した第三者が行うのが望ましいのだから、AIの結論を検証するためのAIを構築する必要がある。

リンク: Lancet論文著者中三名による撤回要請
リンク: 撤回されたLancet論文
リンク: NEJM論文著者全員による撤回要請
リンク: 撤回されたNEJM論文
リンク: Surgisphere社のホームぺージ


【新薬開発】


BMS、多発硬化症用薬の潰瘍性大腸炎適応拡大試験が成功
(2020年6月2日発表)

BMSは、Zeposia(ozanimod)の第三相中重度難治性潰瘍性大腸炎試験がポジティブな結果になったと発表した。適応拡大に向けて当局と相談する考え。

ZeposiaはS1PR1/5調節剤で、3月に米国で、5月にはEUでも、再発型の多発硬化症の維持療法薬として承認された。初回投与後に数時間観察する必要が無く、事前の遺伝子検査も不要と、比較的手間がかからないことが長所。09年に740億ドルで子会社化したセルジーンが、15年に72億ドルで買収したReceptos社の開発品。

今回の試験は1mgを一日一回投与して第10週の臨床的寛解導入成功率を検討したところ、偽薬比有意に上回った。寛解患者を再無作為化割付して行った離脱試験では、継続投与群の第52週寛解維持率が偽薬スイッチ群を有意に上回った。

Zeposiaはクローン病の第三相試験も進行中。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


バイエル、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤を日欧で承認申請
(2020年6月5日発表)

バイエルは、BAY 1021189(vericiguat)を慢性心不全用薬として日欧で承認申請した。肺高血圧症治療薬Adempas(riociguat、和名アデムパス)に続くsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)刺激剤の第二号で、酸化窒素合成酵素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイに係るsGCの酸化窒素感受性を高める。

第三相のVICTORIA試験では、過去6ヶ月間に心不全悪化によって入院乃至は利尿薬静注を受けた、NYHAクラスIIからIVの心不全で左室駆出率が45%未満の患者を組入れて、心血管死または心不全入院のリスクを検討したところ、ハザードレシオが0.90、p=0.019だった。心不全入院だけのハザードレシオは0.90、心血管死は0.93で、どちらも有意ではないが同じ方向を向いている。ハザードレシオが0.80以下ならもっと良かったが、メジアン10.8ヶ月の追跡でイベント発生率が偽薬群38.5%、試験薬群35.5%と高いため、number-needed-to-treatは24と良い数値になっている。

また、NT-proBNPのベースライン値に基づく四分位サブグループ分析では、恩恵が低位3サブグループに偏っており、ハザードレシオは各18-27%だった。

有害事象は低血圧など。尚、本試験は最高血圧100 mm Hg未満の患者は除外した。

リンク: バイエルのプレスリリース


【承認】


FDA、MSDのカルバペネム合剤を院内感染細菌性肺炎に適応拡大
(2020年6月4日発表)

FDAは、MSDのRecarbrioを院内感染細菌性肺炎や人工呼吸器関連細菌性肺炎の治療に用いる適応拡大を承認した。18歳以上で、同薬に感受するグラム陰性菌感染者が対象。

カルバペネム系抗生物質のimipenemとデヒドロペプチダーゼ分解酵素阻害剤のcilastatinおよびベータラクタマーゼ阻害剤のrelebactaを配合する点滴静注用薬で、米国19年に感受グラム陰性菌による複雑性尿路感染症と複雑性腹腔内感染症のマージナルな治療薬(他の治療手段がないか限定的である時だけ使う)として承認された。

適応拡大試験では、28日死亡率が15.9%と、piperacillinとtazobactamを併用した群の21.3%に対して非劣性だった。配合成分に過敏や癲癇など中枢神経障害は禁忌。

リンク: FDAのプレスリリース

イーライリリー、トルツが米国でnr-axSpAに適応拡大
(2020年6月1日発表)

イーライリリーは、Taltz(ixekizumab、和名トルツ)をnr-axSpA(非X線的体軸性脊椎関節炎)の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。nr-axSpAは、r-axSpA(X線的体軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎とも呼ばれる)と類似した疾患と考えられているがX線画像上の兆候が見られない。Taltzは19年にr-axSpAに承認されており、今回、抗IL-17A抗体で初めて、両方の適応を取得した。尚、初めて米国でnr-axSpAの適応を取得したのはUCBのPEG化抗TNFアルファ抗体フラグメント、Cimzia(certolizumab pegol)で、19年3月だった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

イーライリリー、サイラムザがEGFR抵抗性変異NSCLCに適応拡大
(2020年5月29日発表)

イーライリリーは、Cyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)をEGFR抵抗性変異を持つ転移性NSCLC(非小細胞性肺癌)の一次治療にTarceva(erlotinib)と併用することがFDAに承認されたと発表した。EGFR遺伝子のエクソン19が欠損またはエクソン21にL858R置換のある癌が適応になる。

臨床試験では、この二剤を併用した群のメジアンPFS(無進行生存期間、RECIST 1.1ベース、担当医評価)が19.4ヶ月と、偽薬・erlotinib併用群の12.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、p≦0.0001だった。全生存期間の解析は未成熟で有意差は出ていない。

Cyramzaは抗VEGFR-2抗体で非小細胞性肺癌の二次治療などに承認されている。今回の適応はEUでは今年1月に承認、日本でも承認審査中。

同様な用途ではアストラゼネカのEGFR阻害剤、Tagrisso(osimertinib)も臨床試験で全生存期間やPFSがTarcevaまたはIressa(gefitinib)を投与した群を有意に上回り、承認された。延命効果が確立しているので、こちらのほうが出番が多そうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース

アストラゼネカ、ブリリンタが高リスク冠動脈疾患の初発予防に承認
(2020年6月1日発表)

アストラゼネカは、Brilinta(ticagrelor)を高リスク冠動脈疾患の心筋梗塞・脳卒中初発予防に用いることがFDAに承認されたと発表した。アスピリンと併用する。エビデンスとなるTHEMIS試験の対象より広い適応が認められた。

THEMIS試験は二型糖尿病を併発する冠動脈疾患(PCI歴、CABG歴、または冠動脈狭窄)19,220人を組入れて、低量アスピリンに加えて、60mgまたは偽薬を一日二回投与した。メジアン40ヶ月間追跡。結果は、心血管死、心筋梗塞、または脳卒中の罹患率が7.7%と偽薬群の8.5%を下回り、ハザードレシオ0.90、p=0.04と高度ではないが統計的に有意な差があった。

BrilintaはP2Y12拮抗剤。急性冠症状群などにアスピリンと併用することが承認されている。血小板凝集を阻害するので出血事故のリスクも高まり、THEMIS試験では大出血(TIMI基準)発生率が2.2%と偽薬群の1.0%を有意に上回り、頭蓋内出血も0.7対0.5%で僅差だが有意に上回った。

単純計算すると、1000人に3年余投与すると約10人を心血管死・心筋梗塞・脳卒中から救うことができるが、約10人は大出血を被り、残りの殆どの人達は飲んでも飲まなくても結果は同じということになる。初発予防の是非を決定するのは難しい。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース






今週は以上です。

2020年5月31日

第948回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:GSK、COVID-19ワクチン用アジュバントを量産へ 
  • ASCO:エンハーツが第二相三本で好成績 
  • ASCO:キイトルーダとレンビマの併用試験二本 
  • ASCO:キイトルーダはMSI-H/dMMR結腸直腸癌なら一次治療にも有効 
  • ASCO:タグリッソがEGFRm+NSCLCの切除後アジュバントで良績 
  • Argenx社、抗FcRn抗体フラグメントを全身性重症筋無力症薬として承認申請へ 
  • イブランスの術後アジュバント試験はフェール 
  • GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群用薬として承認申請 
  • Protalix社、今度はファブリー病の酵素補充療法を承認申請 
  • CHMP、エボラワクチンや分子標的薬の承認を支持 
  • FDA、子宮筋腫による過多月経の治療薬を承認 
  • ロシュ、テセントリクが肝細胞腫に適応拡大 
  • BMS、オプジーボとヤーボイが肺癌で用法追加 
  • FDA、ALK阻害剤をALK転座陽性NSCLCの一次治療に承認 


【今週の話題】


COVID-19:GSK、COVID-19ワクチン用アジュバントを量産へ
(2020年5月28日発表)

グラクソ・スミスクラインは、21年にパンデミックCOVID-19ワクチン用のアジュバントを10億回分生産すべく、リスクを覚悟で増産投資する決意を発表した。パンデミック期は利益を追求せず、利益はCOVID-19ワクチンの研究開発や他のパンデミックに備えた投資に充当する考え。

アジュバントはワクチンの抗原性を強化する添加物で、一回分に含まれる抗原量を節約できるので、今回のように大量の抗原が必要とされる環境下では重要な要素技術となる。通常はアルミなどを用いるが、同社は新種のアジュバントに積極的に取り組んでおり、例えば、子宮頸がんワクチンのサーバリックスには、Corixa社が開発したグラム陰性菌由来のTLR4刺激剤、monophosphoryl lipidを含有するAS04アジュバントが添加されている。

GSKはサノフィとCOVID-19ワクチンで協業を発表したが、欧州や中国でもコラボを決め、他にも多くの開発者と交渉中とのこと。サノフィ提携だけでも年10億回分以上を供給する計画なので、供給先が増えればアジュバントも10億回分では足りないが、すべての開発品が成功するとは限らないし、GSKはGSKで、10億回分を作るのは大仕事なのだろう。

どのようなアジュバントなのかはプレスリリースには記されていないが、報道によると、スクアレンなどから構成されるAS03アジュバントを想定しているようだ。2019年型パンデミックインフルエンザのワクチンとして欧州で3000万回以上、接種されたPandemrixに採用されている。

Pandemrixに関してはスエーデンやフィンランドで数百人のナルコレプシー症例が発生し、EMAが関連性を検討したことがあるが、結局、結論が出ないまま15年に販売認可が失効した(GSKが更新しなかった)。免疫機構がH1N1ウイルスと類似した蛋白を攻撃することが原因であり、ワクチンを接種しなくても感染すればナルコレプシーが起きる可能性がある、との説もあるが、アジュバントがこのリスクを高める可能性もあるのではないか。

ナルコレプシー症例は青少年が多かったが、この世代におけるCOVID-19重症化リスクはそれほど高くないのだから、真偽が分からないままCOVID-19ワクチンが実用化されたら若者は救われない。特に、日本は、事前には耳障りの良いことしか言わずに、副作用懸念が浮上したらリスクや危険便益バランスを十分に検討せずに臭いものに蓋をして済ませる性癖がある(最近では子宮頸癌ワクチン)。起きてから議論をしても上手く行かないのだから、事前に十分検討してほしいものだ。

リンク: GSKのプレスリリース


【新薬開発】


ASCO:エンハーツが第二相三本で好成績
(2020年5月29日発表)

第一三共と共同開発販売提携先のアストラゼネカは、Enhertu(trastuzumab deruxtecan、和名エンハーツ)を胃癌、肺癌、大腸癌の治療に充てた第二相試験三本の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。何れもher2変異を持つ一部の癌だけが対象だが、概して良好で、第三相に期待がかかる。

EnhertuはロシュのHerceptinの活性成分である抗her2抗体、trastuzumabとirinotecan誘導体をテトラペプチド・リンカーで結合した抗体薬物複合体。米国で昨年12月に、日本でも今年1月に、her2陽性の切除不能/転移乳癌用薬として承認された。現時点では他の抗her2抗体を先に使うことになるが、将来的には、もっと早い段階や、Herceptinの対象にならないher2低度発現乳癌、そして他の部位のher2陽性癌にも出番を増やしていきそうだ。乳癌用薬の需要は早期乳癌の切除後のアジュバント療法用途が最大だが、忍容性が重視されるので、現時点ではEnhertuの適否は不透明である。

上記三本の一つは、DESTINY-Gastric01試験。her2陽性の切除不能/転移胃癌・胃食道接合部腺腫の三次治療で、日本で先駆け審査指定、米国でもブレークスルーセラピー指定を受けている。日本と韓国の医療施設で175人をEnhertu群(承認用量の5.4mg/kgより多い6.4mg/kgを三週毎点滴静注)と実薬群(irinotecanまたはpaclitaxelから治験医が選択)に2対1割付して、cORR(確認客観的奏効率、独立中央評価)を比較したところ、42.9%対12.5%と有意に上回った。メジアン反応持続期間も11.3ヶ月対3.9ヶ月と良好。

副次的評価項目の全生存期間は未だ中間解析だが、メジアン12.5ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.59、p=0.0097となった。G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症や貧血などの骨髄抑制関連など。治療関連間質性肺疾患/肺臓炎(独立評価委員会が検証)はG3が2例、G4は1例、G5(死亡)はゼロだった。

胃癌のうちher2陽性は2割とのこと。

この試験の論点は、日韓のデータを欧米に外挿できるか否か。胃癌に関しては予てより、日米の治療成績の乖離が議論になっており、日本の執刀医に言わせれば早期発見と高度な医療技術の成果、米国側に言わせれば必ずしも寿命に影響しない早い段階の患者を切っているから。注目されるのはAvastin(bevacizumab)をcapecitabine及びcisplatinの標準的一次治療レジメンに追加する効果を検討したAVAGAST試験のサブグループ分析だ。欧州や米国の施設では全生存期間のハザードレシオが何れも0.85だったが、日韓を中心とするアジアの施設では0.97と見劣りし、全体の解析もフェールした。Avastin追加群のメジアン生存期間は大差なかったが、偽薬追加群は日本が12.1ヶ月、欧州は8.6ヶ月、米国は6.8ヶ月だった。

尤も、今回はハザードレシオが0.59ともっと良い数値が出ており、欧米でもし悪化するとしても、治療効果が消失するほどとは考えにくい。実薬対照試験であることや、三次治療試験であることを考えれば、やはり、素直に評価すべきだろう。

リンク: 両社のプレスリリース(胃癌試験)

次に、DESTINY-Lung01試験はher2陽性またはher2変異を持つ切除不能/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療試験で、こちらも6.4mg/kgを採用している。今回はher2変異42人(白金薬歴を持つ患者が91%、抗PD-1/PD-L1抗体歴は55%)のcORR(独立中央評価)が61.9%、メジアン反応持続期間は未到達であることが公表された。her2変異はher2陽性(過剰発現)とは異なった概念で、非小細胞性肺癌の2-4%で見られる由。Enhertuはher2変異転移非小細胞性肺癌でFDAのブレークスルーセラピー指定を受けている。

リンク: 同(肺癌試験)

最後に、DESTINY-CRC01はher2陽性の切除不能/転移結腸直腸癌の三次治療試験。RAS/BRAF変異癌は対象外。この試験も6.4mg/kgを採用した。cORR(独立中央評価)は45.3%、反応持続期間はメジアン未到達。一方、her2低発現サブグループの探索的解析ではcORRはゼロだった。評価対象は53人。

この試験では間質性肺疾患/肺臓炎(独立評価委員会が検証)が5人(6.4%)で発生し、G2が2例、G3が1例、G4はゼロだがG5は2人だった。

結腸直腸癌のうち2-5%がher2陽性とのこと。

リンク: 同(結腸直腸癌試験)

ASCO:キイトルーダとレンビマの併用試験二本
(2020年5月28日発表)

MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とエーザイのVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)の併用は、進行子宮内膜種の二次治療レジメンとして米国で承認されているが、肝臓や腎臓など多くの癌でもテストされている。ASCOでは、肝細胞腫の一次治療と抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ腎細胞腫の臨床初期中期試験結果が発表された。

KeyNote-524試験は後期第一相切除不能肝細胞腫一次治療試験。Lenvimaは体重に応じて8mgまたは12mgを一日一回、経口投与した。36人のcORR(確認客観的反応率、RECIST 1.1に基づく独立画像評価)は36%、反応持続期間はメジアン12.6ヶ月だった。mRECIST基準ではcORRは各46%と8.6ヶ月だった。G3、G4、G5の治療関連有害事象発現率は各63%、1%、3%で、致死例は急性呼吸不全、急性呼吸逼迫症候群、そして間質性穿孔と肝機能異常の併発が各1例だった。

KeyNote-146試験は第二相で抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ腎細胞腫が対象。Lenvimaは20mgを一日一回投与と、ここでも細かく用量を変えている。ORR(RECIST 1.1基準、担当医評価)は52%、反応持続期間はメジアン12ヶ月だった。治療時発現有害事象による死亡は104人中2人で、上部胃腸出血死と突然死。

リンク: 両社のプレスリリース

ASCO:キイトルーダはMSI-H/dMMR結腸直腸癌なら一次治療にも有効
(2020年5月28日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-177試験の結果もASCOで発表した。同薬はMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)固形癌のサルベージ療法として日米で承認されているが、今回の試験はMSI-HまたはdMMR(ミスマッチ修復不全)のある切除不能/転移結腸直腸癌の一次治療として200mgを三週毎に、最大35回投与する効果を検討した。対照群は代表的な標準療法であるmFOLFOX6またはFOLFIRIで、医師の判断でbevacizumabあるいはcetuximabも追加した。

結果は、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)が中間解析で達成認定された。具体的には、ハザードレシオ0.60、p=0.0002、メジアン値は各16.5ヶ月と8.2ヶ月と、かなり良い。もう一つの全生存期間のデータがまだ熟していないため、本試験は続行されている。

マイクロサテライトは塩基配列が何度も繰り返されている箇所を指す。変異が起きやすいので、腫瘍とそれ以外の細胞を比較することで、遺伝子修復が機能しているかどうか判定することができる。dMMRも類似した概念。結腸直腸癌では5-20%が該当するとされる。

リンク: MSDのプレスリリース

ASCO:タグリッソがEGFRm+NSCLCの切除後アジュバントで良績
(2020年5月28日発表)

アストラゼネカは、Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)のEGFR変異陽性早期非小細胞性肺癌の完全切除後アジュバント試験の結果をASCOで発表した。抗癌剤の技術革新が相次ぐ現在でも未開に留まっている、治癒的完全切除が成功した患者の再発予防が成功した意義は大きい。

Tagrissoは第一世代のEGFR阻害剤の治療中にしばしば見られるT79M抵抗性変異に強いEGFR阻害剤で、EGFR活性化変異陽性非小細胞性肺癌の一次、二次治療薬として日米欧で承認されている。今回のADAURA試験は、ステージIB/II/IIIAのEGFR活性化変異非小細胞性肺癌682人を組入れて、80mgを一日一回、最大3年間投与する効果を偽薬群と比較した。主評価項目はステージIIとIIIAのサブグループのDFS(無病生存期間)で、中間解析でハザードレシオ0.17、p<0.0001となり、成功認定された。

副次的評価項目のIBも含んだ解析でもハザードレシオ0.21、p<0.0001となり、2年無病生存率は89%と偽薬群の53%を大きく上回った。全生存期間の解析は未だ成熟していない。

G3以上の有害事象発現率は各10%と3%だった。

アストラゼネカは適応拡大申請に向けて当局と相談する考え。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Argenx社、抗FcRn抗体フラグメントを全身性重症筋無力症薬として承認申請へ
(2020年5月26日発表)

オランダのArgenx(Euronext & Nasdaq:ARGX)は、ARGX-113(efgartigimod)の第三相全身性重症筋無力症試験が成功したと発表した。年内に米国で承認申請する計画。

AGRX-113はFcRn(胎児性Fc受容体)を標的とする抗体のフラグメント。FcRnは細胞に取り込まれたIgG抗体のFc領域に結合し、リソソームに輸送されて分解されるのを防ぐ。IgG抗体の異常が係る、筋無力症や原発性免疫血小板減少性紫斑症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、尋常性天疱瘡の治療薬として臨床開発が進められている。

今回のADAPT試験は、日米欧で167人の成人を組入れて、10mg/kg週一回点滴静注群の26週間後のMG-ADL反応率を偽薬群と比較した。主評価項目のAChR抗体陽性サブグループの反応率は67.7%となり、偽薬群の29.7%を有意に上回った。陰性患者を含む全集団の反応率も有意な差があった。

同社によると、重症筋無力症は米国で65000人、日本も2万人が罹患。この8-9割がAChR抗体陽性。

リンク: 同社のプレスリリース

イブランスの術後アジュバント試験はフェール
(2020年5月29日発表)

ファイザーは、CDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib、和名イブランス)のPALLAS試験が中間解析で無益(続行しても成功する確率が極めて低い)認定されたと発表した。アカデミア主導試験で、詳細は研究者側が発表する。

ホルモン受容体陽性、her2陰性の早期乳癌を組入れた術後アジュバント試験で、内分泌療法を5年以上施行する標準療法群と、Ibranceの2年コースも施行する群の浸潤性乳癌無再発生存期間を比較した。

Ibranceはホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌に内分泌療法薬と併用することが承認されている。忍容性が若干悪いのでアジュバント試験の成否が注目されたが、意外な結果になった。Ibranceは術前化学療法で完全反応しなかった高リスク早期乳癌の術後アジュバント試験、PENELOPE-Bも進行していて、年内に結果が出る見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群用薬として承認申請
(2020年5月27日発表)

グラクソ・スミスクラインは、抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を好酸球増多症候群の治療に用いる適応拡大申請をFDAが優先審査すると発表した。審査期限は不明。POC試験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行されたのは09年で元々はリードインディケーションだったのだが、昨年、遂に第三相試験が成功、32週間の増悪発生率が56%と偽薬群の28%を有意に上回った。

Nucalaは重度好酸球性喘息症の維持療法や好酸球性多発血管炎性芽腫症の治療薬として日米欧で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

Protalix社、今度はファブリー病の酵素補充療法を承認申請
(2020年5月28日発表)

Protalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX)とパートナーのChiesiは、米国でPRX-102(pegunigalsidase alfa)をファブリー病治療薬として承認申請したと発表した。三本の第三相試験のうち完了したのは類薬であるReplagal(agalsidase alfa)からスイッチする単群試験だけだが、加速承認を目指す。

同社は遺伝子を植物細胞で発現させる技術を持ち、ファイザーにライセンスしたElelyso(taliglucerase alfa)が1型ゴーシェ病治療薬として12年に米国で承認された。PRX-102も化学装飾したPEGを結合したアルファ・ガラクトシダーゼAを植物細胞で量産する。循環半減期が80時間と長いのが特徴。Replagalスイッチ試験では2mg/kgを二週毎に投与して腎機能(eGFR)の変化を観察したところ、Replagal使用中と比べて悪化ペース(スロープ)が小さかった。

メインのBALANCE試験はサノフィのFabrazymeを1年以上使用している腎機能低下患者をFabrazyme継続群とPRX-102スイッチ群に割付けて、eGFRの変化を比較する。12ヶ月中間解析で非劣性検定を、24ヶ月最終解析で優越性検定を、行う予定。もう一本は、FabrazymeやReplagalを使っていた患者にこの試験では4週毎に投与して効果や忍容性を検討する単群試験。腎リスクの小ささと投与頻度をセールスポイントにする考えなのだろう。

ファブリー病はアルファ・ガラクトシダーゼの欠乏により、分解できなかった蛋白が血管内皮や臓器に蓄積し、様々な障害をもたらす。罹患率は1~4万人に一人と推測されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、エボラワクチンや分子標的薬の承認を支持
(2020年5月29日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、5月の会合で、ジョンソン・エンド・ジョンソンのエボラウイルス疾患ワクチンなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

JNJグループのヤンセン・ファーマシューティカルが承認申請したエボラウイルス疾患ワクチンは、例外的環境条項に基づく加速承認が支持された。臨床試験は免疫原性試験だけで、予防効果は動物試験のデータから類推された。対象年齢は1歳以上。

最初にZabdeno(Ad26.ZEBOV)を、8週後にMvabea(MVA-BN-Filo)を、接種する。効果がフルに発揮されるまで時間がかかるため、直ぐに必要な場合は、昨年11月にEUで承認されたMSDのErveboのほうが一回で済むため適している。

プライムワクチンのZabdenoは26型アデノウイルスにZaire種エボラウイルスの糖タンパクの全長遺伝子を導入したもの。ブースターワクチンのMvabeaは改変ワクシニア・アンカラにZaire種エボラウイルスなど5種類のウイルスの糖タンパクを導入したもので、デンマークのBavarian Nordicからライセンスした。

CHMPは、エボラ感染者を治療する医療従事者などが用いる場合はMvabea接種の4ヶ月以上後にZabdenoをもう一回接種することを検討するよう推奨している。

米国では未だ承認申請に向けた相談段階のようだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ヤンセンのプレスリリース

ノバルティスのPiqray(alpelisib)はPIK3CA変異陽性ホルモン受容体陽性her2陰性の局所進行性/転移乳癌で内分泌療法歴を持つ閉経後女性または男性に、fulvestrantと併用することが支持された。PI3Kアルファ阻害剤で、PI3Kの酵素活性部位であるPIK3CAに機能獲得変異が生じPI3KアルファやAktシグナルが活性化した癌を狙い打つ。変異の有無は腫瘍又は血清検体で判定する。

150mg錠二錠を一日一回経口投与した第三相では、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が11ヶ月と偽薬・fulvestrant併用群の5.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65、p<0.001だった。有害事象による治験離脱率は各5%と1%。尚、PIK3CA変異のない患者のコフォートの解析も行われたが、ハザードレシオは0.85で、95%信頼区間は1を跨いでいた。

米国では昨年5月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

ロシュのRozlytrek(entrectinib、和名ロズリートレク)はROS1/NTRK阻害剤。条件付き承認が支持された。適応は二つあり、NTRK遺伝子融合陽性局所進行性/転移/切除不適の固形癌でNTRK阻害剤歴を持たず他に満足できる治療オプションがない12歳以上の患者と、ROS1陽性進行非小細胞性肺癌でROS1阻害剤歴を持たない成人。

薬効のエビデンスは臨床試験におけるORR(客観的反応率)で、前者の適応では63.5%(n=74)、後者は73.4%(n=94)だった。

18年に17億ドルで買収したIgnyta社の開発品。日本で昨年6月に世界に先駆けて承認され、2ヶ月後に米国でも二つの適応で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

Xenleta(lefamulin)も肯定的意見を得た。半合成プロイロムチリンで、細菌のリボソームにおける蛋白合成を阻害する。一般的な抗生物質が不適または不応の成人の地域感染肺炎に用いる。優遇税制を梃子に世界の知識集約型企業を誘致しているアイルランドに籍を置く、Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)が開発した、20年ぶりの新クラスの抗生剤だ。米国では昨年8月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Nabriva社のプレスリリース

適応拡大では、まず、アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているLynparza(olaparib、和名リムパーザ)。生殖細胞系列BRCA1/2変異を持つ転移膵腺腫で、白金薬レジメンによる16週間以上の一次治療で進行しなかった患者の維持療法に用いる。第三相POLO試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン7.4ヶ月と偽薬群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.53、p=0.004だった。

偽薬群のORRが10%と試験薬群の20%よりは低いものの通常は0%であることを考えると異常に高いため、同様に主観の入る余地が大きいPFSだけでなく全生存期間の解析も成功してほしいところだが、必要イベント数の46%に到達した時点での中間解析ではどちらも18ヶ月強と大差なく、69%到達時でも有意差が無かった。クロスオーバーは偽薬群の15%程度なので大きな影響がありそうな感じはしない。これらのことから承認審査機関の判断が注目されたが、米国は、諮問委員会は賛成7人、反対5人と意見が分かれたものの、昨年12月に承認。CHMPも今回、肯定的評価だった。

リンク: EMAのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib、和名オフェブ)は、進行性の慢性線維化ILD(間質性肺疾患)に使うことが支持された。既承認の全身性強皮症に伴うILD以外の、自己免疫性ILDや慢性過敏性肺臓炎などが対象になるようだ。米国では3月に、日本も5月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

さて、今回は承認ではないが否認でもないという発表が三件あった。一つはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のremdesivirに関するもの。CHMPは追加データの提出を要求した。間もなく、正式な条件付き承認の申請とともに、提出される予定とのことだ。米国でEUA(非常時使用認可)、日本も特例承認と素早く対応しているのと比べて出遅れているので、世論に配慮して途中経過報告が必要と判断したのだろう。

remdesivirの承認審査は、臨床データが限られ、評価する時間も限られているので、大変だろう。供給量が限られる中、日本は侵襲的人工呼吸器やECMO装着患者を優先する方針の模様だが、第947回で書いたように、ACTT-1試験ではこのような患者に対する症状改善効果や救命効果は見られなかった。もしかしたら、治験論文に記されている程度の情報すら持たずに承認したのかもしれない。結果的に、エビデンスに基づかない医療を政府が推進する異常事態になった。

次に、ファイザーの髄膜炎菌血清群Bワクチン、Trumenba。対象年齢を1~9歳に拡大するべく承認申請したが、CHMPは首肯せず、EMAはデータだけレーベルに収載することを決めた。プレスリリースによると、3回接種しても抗体が直ぐに減少するので、足りない可能性がある。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発し欧州ではムンディファーマが開発販売している二型糖尿病薬、Vokanamet。SGLT2阻害剤canagliflozinとmetforminの固定用量合剤で、前者はCREDENCE試験で中等度糖尿病性腎症の腎機能悪化や心血管死、心不全入院のリスクを削減する効果が見られたが、CHMPはVokanametの効能追加には反対した。metforminは中程度腎障害には減量する必要があるが、Vikanametの品揃えでは対応できないことが理由。御尤も。EMAはデータだけ収載することを決定した。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


FDA、子宮筋腫による過多月経の治療薬を承認
(2020年5月29日発表)

FDAは、アッヴィが Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)からライセンスして開発したGnRHアンタゴニスト、elagolixの新製剤をOriahnnという製品名で承認した。最初の製品であるOrilissaは子宮内膜症の疼痛緩和に用いるが、Oriahnnは高量を子宮筋腫に伴う過多月経の出血抑制に用いる。手術以外の薬物療法が承認されたのは米国では初めて。

エストロゲン抑制に伴う副作用を緩和するためにエストロゲンやプロゲスチンを補充する、アドバック療法のニーズに対応するために二種類の製剤や用意されており、朝はestradiol及びnorethindrone acetateも配合した白と黄色のAMと記されたカプセルを、夕方はelagolixだけの白とライトブルーのPMと記されたカプセルを、服用する。

第三相試験二本では、出血抑制奏効率が70%前後と偽薬群の10%前後を大きく上回った。副作用は脳卒中や血栓症が枠付警告された。禁忌は血栓症(現在と過去、高リスクも含む)、骨粗鬆症、乳癌などのホルモン感受腫瘍(病歴も含む)、肝臓疾患、未診断の子宮異常出血。骨塩密度が不可逆的に低下するため24ヶ月以上服用してはいけない。日本で昨年承認されたGnRHアンタゴニスト、レルミナ(レルゴリクス)の使用期間が原則6ヶ月までなのと比べれば長く使える。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース

ロシュ、テセントリクが肝細胞腫に適応拡大
(2020年5月29日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をAvastin(bevacizumab)と併用で切除不能肝細胞腫の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。リアル・タイム・オンコロジー・リビューというパイロット・プログラムの対象で、1月の承認申請から4ヶ月でスピード承認。プロジェクト・オービスの対象でもあり、今回はオーストラリアとカナダ、シンガポールの承認審査機関が並行して審査を進めた。日本は別途、承認申請中。

エビデンスとなったIMbrave150試験では、Nexavar(sorafenib)群と比べた全生存期間のハザードレシオが0.58、p=0.0006だった。メジアン生存期間は未達、Nexavar群は13.2ヶ月。G3/4の有害事象発現率はTecentriq・Avastin併用群が57%、Nexavar群は55%、G5も各5%と6%で、大差なかった。

肝細胞腫一次治療は長年、Nexavarの独壇場だったが、今回の承認を皮切りに、抗PD-L1/PD-1抗体とVEGF標的薬の併用が続々と登場するのではないか。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

BMS、オプジーボとヤーボイが肺癌で用法追加
(2020年5月26日発表)

BMSは、EGFRやALKに活性化変異を持たない転移/難治非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)、そして化学療法(2サイクルに抑える)を併用する用法追加がFDAに承認されたと発表した。肺癌ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)と比べて大きく後れを取っているが、5月にはOpdivo・Yervoyの二剤をPD-L1陽性非小細胞性肺癌に用いることも承認されており、だいぶ差が縮まってきた。それでも、Keytrudaが一次治療化学療法併用試験で上げた成績は競合薬と比べて信じられないほどずば抜けており、追い付くのは困難だろう。

今回の承認はCheckMate-9LA試験に基づくもの。メジアン生存期間が14.1ヶ月と化学療法(4サイクル、非扁平上皮種は維持療法も可)のみの群の10.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.0006だった。1年生存率は各63%と47%だった。PD-L1発現の有無や扁平上皮腫か否かを問わず有効だった。G3/4の治療関連有害事象発現率は47%と化学療法群の38%を上回った。

リンク: BMSのプレスリリース

FDA、ALK阻害剤をALK転座陽性NSCLCの一次治療に承認
(2020年5月26日発表)

FDAは、武田薬品が17年に子会社化したAriad PharmaceuticalsのALK阻害剤、Alunbrig(brigatinib)の適応拡大を承認した。17年の初承認ではファイザーのcrizotinibに不応・不耐のALK転座陽性転移性非小細胞性肺癌に限定したが、一次治療にも使えるようにした。日本では4年遅れで今年2月に第二選択薬として承認申請されたところ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(5/25付け)






今週は以上です。