2025年6月28日

第1213

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 委員総取っ換え後のACIP、大きな変化はなし 
  • フィンテプラのCDKL5欠損症試験が成功 
  • スピンラザの高量試験が成功 
  • ファイザー、ヒムペブジのインヒビター保有者試験が成功 
  • Nuvalent社、ROS1阻害剤を承認申請へ 
  • シロシビンの鬱病試験はそこそこの結果に 
  • Exelixis、新規VEGFR阻害剤の第3相が成功 
  • 新規禁煙補助薬を承認申請 
  • オゼンピックのEUレーベルにSTRIDE試験のデータが収載へ 
  • Philogen社、欧州で抗癌剤の承認申請を撤回 
  • ダトロウェイがEGFR変異非小細胞性肺癌に承認 
  • FDA、COVID-19 mRNAワクチンの心筋炎警告をアップデート 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


委員総取っ換え後のACIP、大きな変化はなし
(2025年6月25-26日開催)

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が開催された。HHS(米国保健福祉省)長官のイニシアティブで直前に委員の総入替えが断行されたため危惧されたが、各種報道を読む限りでは、まあまあ大きな変更はなく終了したようだ。

今月、米国で承認されたMSDのRSV疾患予防用抗体Enflonsia(clesrovimab-cfor)を生後8ヶ月未満の乳幼児に推奨することには7人中5人が賛成した。Vaccines for Childrenプログラム(医療保険未加入の小児に提供する)に採用することには全員が賛成した。

翌日、6ヶ月児以上の小児成人に禁忌でない限りインフルエンザ・ワクチンの接種を勧奨することに6人全員が賛成した。HHS長官の過去の言動などから注目された、一部製品に保存剤としてチメロサールが添加されている件については、18歳以下の青年小児についても、妊婦に関しても、すべての成人に関しても、チメロサール・フリー製品を推奨することに5人が賛成、反対は一人だけだった。

チメロサールはエチル水銀の殺菌作用により雑菌の増殖を抑制する。米国で自閉症の小児が増加したのはワクチンのチメロサールのせいだとする見解は今や少数意見となり、CDCやFDAを含めて無害が多数意見だが、不必要なリスクは取らないのが危機管理の要諦であり、米国では多くのインフルエンザ・ワクチンが、製造過程でも、最終製品でも、チメロサール・フリーに変わった。例外は複数回量バイアル製品で、SeqirusのAfluriaと細胞培養型ワクチンFlucelvax、そしてサノフィのFluzoneが該当する。何れも、一回量のシリンジ版には添加されていない。

コスト上昇につながるという意見もあったようだが、CDCのホームページに記載されている価格を見ると、バイアル製品もシリンジ製品も大差ない。むしろ、予防効果が高いとされるSeqirusのFluad(アジュバント入り)やサノフィのFluzone高量版のほうが3~4倍高い。

チメロサール添加製品の需要が後退しそうだが、米国で用いられているインフルエンザ・ワクチンの9割以上は不添加とのことなので、大きな影響はなさそうだ。

リンク: Biospaceの報道
リンク: インフルエンザ・ワクチンとチメロサール(FDAの情報頁)

【新薬開発】


フィンテプラのCDKL5欠損症試験が成功
(2025年6月27日発表)

UCBは、fenfluramineの第3相CDKL5欠損症試験、GEMZで主評価項目などを達成したと発表した。できるだけ早く承認申請する考え。データは未発表。

CDKL5欠損症はX染色体上のサイクリン依存的キナーゼ様5遺伝子に変異を持ち、女性は重度の発達障害を生じ、男性は出生前に死亡することが多い。新生児数万人に一人の超希少疾患。fenfluramineはセロトニン作動などの作用を持つ。20年以降、米欧日でドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群における癲癇発作の予防薬Finteplaとして承認された。米国でアメリカン・ホーム・プロダクツが200億ドル超の損害賠償金を課せられた体重管理薬Pondimin(fenfluramine)/Redux(dexfenfluramine)より用量が二けた小さいが、米国では心臓弁疾患や肺動脈高血圧症のリスクが枠付き警告/REMS(リスク評価緩和戦略)導入を課せられている。

リンク: UCBのプレスリリース


スピンラザの高量試験が成功
(2025年6月27日発表)

バイオジェンは脊髄性筋萎縮症治療薬Spinraza(nusinersen)の高量試験成績を学会発表した。初めて治療を受ける乳児発症型患者75人を組入れたDEVOTE試験のパートBについては昨年9月に公表済みだが、Spinraza治療歴を持つ患者を組入れたパートCも良好な結果になったことが明らかになった。

16~17年に米EU日で初承認された時の用量用法は、12mgを第0、14、28、50日に髄腔内投与し、その後は4ヶ月毎に反復する。高量は50mgを第0、14日に髄腔内投与し、その後は28mgを4ヶ月毎に反復する。パートBでは主評価項目のCHOP-INTEND(Children’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders:運動機能を0~64点で評価)が初承認時のエビデンスであるENDEAR試験の対照群の適合サブグループを有意に上回った。承認用量群との比較でも上回るトレンドが見られた。今回のパートCは承認用量用法による治療をメジアン3.9年受けた4~65歳の脊髄性筋萎縮症患者38人全員に高用量を投与したところ、HFMSE(Hammersmith Functional Motor Scale-Expanded:筋機能を評価)が歩行可能な患者では1.1点、不能な患者では2.5点改善した。RULM(Revised Upper Limb Module)やCGI-Cも改善した。15%で深刻有害事象が発生したが治療関連と見做されたものはゼロだった。

高用量は今年1月に欧米で、3月には日本でも、用法追加申請が受理された。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザー、ヒムペブジのインヒビター保有者試験が成功
(2025年6月26日発表)

ファイザーは、インヒビターを持つA型・B型血友病患者を組入れたHympavzi(marstacimab-hncq)の出血予防試験が成功したと発表した。適応拡大申請に向かうのではないか。

血液凝固カスケードにおいて活性化血液凝固第Xa因子と活性化第VII因子の結合を抑制する役割を持つ、TFPIに対する抗体。24年に米、EU、日本で12歳以上のインヒビターを持たないA型・B型血友病の出血傾向を抑制する薬として承認された。エビデンスとなる第3相BASIS単群試験では、治験参加前に血液凝固製剤の予防的投与を受けていた患者ではABR(年率出血率)がリード・イン期間の7.85から5.08に、出血時治療で対処していた患者では38から3.18に、減少した。

今回は同じBASIS試験のインヒビターを持つ48人の解析。出血時にバイパス止血製剤を静注していた時期と比べてABRが19.78から1.39に減少した。関節出血なども減少した。死亡や血栓塞栓イベントは発生しなかった。用量用法は承認内容と同じで、初回は300mg、二回目以降は150mgを週一回皮下注する。必要に応じて300mgに増量可。

類薬ではノボ ノルディスクの一日一回皮下注用抗TFPI抗体、Alhemo(concizumab-mtci)が23~24年に日米EUでインヒビター保有者に承認、日本では24年に非保有者にも適応拡大した。

リンク: ファイザーのプレスリリース


Nuvalent社、ROS1阻害剤を承認申請へ
(2025年6月24日発表)

米国のNuvalent(Nasdaq:NUVL)は、選択的ROS1阻害剤NVL-520(zidesamtinib)のローリング承認申請を7月に開始する計画を明らかにした。第3四半期の完了を見込む。First-in-Human試験である第1/2相ARROS-1試験で、一種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤歴を持ち化学療法歴は1回以下の局所進行/転移ROS1変異型非小細胞性肺癌117人に100mgを一日一回投与したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が44%、12ヶ月反応持続率(当初推定値)は78%だった。G2032Rを持つサブグループでもORRが54%と有効性が示唆された。治療時発現有害事象による用量減量の発生率は10%、治験離脱は2%だった。

NVL-520はcrizotinib以外の既存のROS1阻害剤と同様に血液脳関門通過性を持つ。TRKに対するROS1選択性が高いため忍容性が改善されており、ROS1の薬物耐性変異であるG2032Rにも有効という特徴を持つ。

リンク: 同社のプレスリリース


シロシビンの鬱病試験はそこそこの結果に
(2025年6月23日発表)

英国のCompass Pathways(Nasdaq:CMPS)はCOMP360(psilocybin)の第3相難治鬱病試験で主目的を達成したと発表した。欧州やカナダの施設も参加するもう一本の試験は26年下に結果が判明する見込み。尚、どちらも当初計画ではもっと早く判明するはずだった。

今回のCOMP 005試験は米国の施設で258人を25mg群と偽薬群に2:1割付けして1回投与し、第6週のMADRS(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale)スコアを比較したところ、群間差が3.6、p<0.001と有意な差があった。臨床的に意味のある自殺思慮の不均衡は見られなかった。もう一本のCOMP 006試験では、25mg群、10mg群、1mg群(実質的な偽薬群)に2:1:1割付けし、心理療法の補助薬としてのMADRS改善作用を比較している。

psilocybinは幻覚作用を持っており日米ともに麻薬取締法の対象になっている。セロトニンに類似しており、鬱病やPTSDなどの臨床試験が行われている。精神疾患用薬の臨床試験成績を見比べるのは難しく、小さな違いを云々しても意味はないが、同社の株価は発表後に半減しており、事前の期待かつまた事後の失望の大きさが伺われる。因みに、広い意味で似たような種類の薬であるJNJのSpravato(esketamine)の難治鬱病単剤投与試験では、56mg群の治療効果(第4週MADRSの群間差)が5.1、84mg群は6.8だった、

リンク: Compass社のプレスリリース


Exelixis、新規VEGFR阻害剤の第3相が成功
(2025年6月22日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)はXL092(zanzalintinib)が第3相STELLAR-303試験で共同主評価項目の一つを達成したと発表した。標準療法不応、抵抗、または不耐の転移結腸直腸癌(高マイクロサテライト不安定性は除外)を組入れてロシュのTecentriq(atezolizumab)と併用で100mgを一日一回、経口投与し、全生存期間をバイエルのStivarga(regorafenib)と比較したところ、有意に上回った。もう一つの、肝転移の無いサブグループの全生存期間は引き続き追跡する。

良く分からないのは、治験登録を見ても、過去の学会発表でも、この試験の主評価項目は肝転移なしサブグループの全生存期間だけだ。前者ではintent-to-treatベースは副次的評価項目と記されている。最終変更は昨年7月付けなので、その後に変更されたのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 治験登録(ClinicalTrials.gov)

【承認申請】


新規禁煙補助薬を承認申請
(2025年6月26日発表)

Achieve Life Sciences(Nasdaq:ACHV)はcytisiniclineを成人の禁煙補助薬として承認申請した。ニコチン類似構造を持つ植物アルカロイド系アルファ4ベータ2ニコチン・アセチルコリン受容体部分作動剤で3mgを一日3回経口投与する。第3相試験二本で4週連続禁煙達成率を偽薬群と比較したところ、12週連続投与群は一本が32%(偽薬群は7%)、もう一本では30%(同9%)、6週連続投与群は各25%(同4%)と15%(同6%)だった。有害事象は不眠、異常夢、悪心、頭痛など。

活性成分は中・東欧で20年以上、2000万人以上の治療歴を持つ。Achieve社は誘導体や塩、そしてオリジナル製品の1日6回ではなく3回投与に関する特許を保有している。

尚、ファイザーのアルファ4ベータ2ニコチン・アセチルコリン受容体部分作動剤Chantix(varenicline tartrate)はニトロソアミン問題でリコール・出荷停止状態にあるが、再発売に向けて動き出したようだ。

リンク: Achieve社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


オゼンピックのEUレーベルにSTRIDE試験のデータが収載へ
(2025年6月24日発表)

ノボ ノルディスクは、CHMP(医薬品諮問委員会)がOzempic(semaglutide)のEUにおけるレーベルにSTRIDE試験のデータを追加することを支持したと発表した。順調なら2~3ヶ月内に欧州委員会が承認することになる。

この試験は欧米アジアの施設で症候性PAD(末梢動患疾患)を伴う二型糖尿病患者792人を偽薬群と試験薬群(1mg週一回皮下注)に無作為化割付けして52週間投与したところ、トレッドミル検査成績が各群1.08倍と1.21倍となり、有意な差があった。最大歩行距離は各群14メートルと40メートル増加した。

米国でも申請中で第4四半期に結果が出る見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


Philogen社、欧州で抗癌剤の承認申請を撤回
(2025年6月24日発表)

イタリアを本社とするPhilogen(BIT:PHIL)はNidlegy(daromun)を悪性黒色腫の術前付随療法としてEUに承認申請していたが、撤回した。CMC(化学、製造、管理)や臨床試験に関する追加データを要求されたが、回答に時間がかかるため。

腫瘍細胞等で発現するfibronectinのExtra Domain Bに結合する抗体、L19を、IL2と結合した薬剤と、TNFと結合した薬剤を手術前に週次で4回、病変内投与するもの。独伊仏ポーランドの施設で全摘可能な局所進行性黒色腫256人を組入れた第3相PIVOTAL試験でRFS(無再発生存期間)がメジアン16.7ヶ月と手術だけの群の6.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、log-rank p=0.005だった。G3治療時発現有害事象が12.7%で見られた。

この試験は術後の他剤によるアジュバント療法が認められていた。オープン・レーベル試験なので自分が対照群に割り当てられたら術後アジュバントを希望するかもと想像するが、本試験では試験薬群(40%)のほうが対照群(30%)より施行率が高かった。

daromunはSun Pharmaceutical Industriesが欧州や豪州ニュージーランドの販売権を取得している。

リンク: Philogen社のプレスリリース

【承認】


ダトロウェイがEGFR変異非小細胞性肺癌に承認
(2025年6月23日発表)

FDAは、第一三共がアストラゼネカと共同開発販売している抗TROP2抗体薬物複合体、Datroway(datopotamab deruxtecan-dlnk)をEGFR変異陽性局所進行/転移非小細胞性肺癌に加速承認した。EGFR標的薬と白金ベース化学療法による治療歴を持つ成人が適応になる。

TROPION-Lung05試験や同01試験のEGFR変異サブグループ114人においてORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が45%(完全反応率4.4%)、メジアン反応持続期間は6.5ヶ月だった。05試験では盲検独立中央評価によるORRが45%、治験医評価は34%と大きな違いが見られたが、01試験ではどちらも同程度だった。

Datrowayは札幌医科大学との共同研究の成果である抗TROP2抗体と今やおなじみになったトポイソメラーゼI阻害剤deruxtecanをリンカーで結合した抗体薬物複合体。24~25年に日米欧でホルモン受容体陽性、her2陰性の乳癌の二次治療に承認された。欧米では01試験に基づき非扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療にも承認申請されたが、24年に撤回となり、米国では代わりに今回の適応を申請した。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、COVID-19 mRNAワクチンの心筋炎警告をアップデート
(2025年6月25日発表)

FDAはCOVID-19予防用mRNAワクチンのレーベルを改訂し、心筋炎や心膜炎のリスク情報をアップデートすることを承認したと発表した。ファイザーのComirnatyとモデルナのSpikevaxが対象。医療保険のデータを基に23/24年シーズン用ワクチンを接種後の7日間における心筋炎且つ又心膜炎の発生頻度を調べたところ、6ヶ月~64歳では百万人当り約8人だった。一番高かったのは12~24歳の男性で同約27人。また、FDAがスポンサーとなって実施した後顧的観察的試験によると、接種後に心筋炎を発症した30歳以下の患者300人超のうち3割は約3ヶ月経っても心臓症状が残っていた。但し、左心室機能低下を伴う患者の比率は17%から4%に、心筋浮腫は41%から4%に低下した。心血管死や心移植例は見られなかった。

リンク: FDAの安全性連絡
リンク: Jainらの後顧的観察的試験論文(eClinicalMedicine、24年10月)


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)・・・遅延
25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
25/8推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/8推インサイトのZynyz(retifanlimab-dlwr、肛門扁平上皮癌に適応拡大)
25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠。線維筋痛症)
25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
25/8/31Capricor TherapeuticsのCAP-1002(deramiocel、DMD)
諮問委員会
25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/18PPDAC:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)



今週は以上です。

2025年6月21日

第1212回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC、GLP-1作用剤を肥満症の第一選択に 
  • FDA、光速承認プログラムを導入へ 
  • 癌の血液検査 
  • ロシュ、ルンスミオとポライビーの併用試験が成功 
  • 片頭痛予防薬アトゲパントがタイマンでトピラマートに勝つ 
  • JNJ、タービーとテクベイリの併用が治療の難しい多発骨髄腫に良績 
  • アッヴィ、ベネクレクスタのMDS試験がフェール 
  • Aldeyra、ドライ・アイ用薬の3巡目の承認審査を申請 
  • CHMP、遅発性ジスキネジア用薬などの承認を支持 
  • デュピクセントが水疱性類天疱瘡に適応拡大 
  • アルカプトン尿症用薬が承認 
  • インサイトの抗CD19抗体が濾胞性リンパ腫に適応拡大 
  • 年二回投与型HIV感染予防薬が承認 
  • CSL、 アナエブリが米国でも承認 
  • 抗HCV薬が急性期患者に適応拡大 
  • エレビジスの歩行不能DMDに対する治療を中止
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


ACC、GLP-1作用剤を肥満症の第一選択に
(2025年6月10日発表)

ACC(米国心臓学会)は体重管理薬に関するエキスパート・コンセンサス声明を臨床ガイダンスとして発表した。これまでは先ずLSM(食事療法や運動療法による生活習慣改善)を施行して、十分な成果が上がらなかったら薬物療法に進むよう推奨していたが、二種類のGLP-1受容体アゴニスト、ノボ ノルディスク ノルディスクのOzempic/Wegovy(semaglutide)とイーライリリーのZepbound/Mounjaro(tirzepatide)に関しては、LSMと同時に開始して心血管健康管理を最適化するよう推奨した。体重管理薬が長期試験で心血管保護作用を示してもどうしても突破できなかった壁が、遂に取り去られた。管理医療組織も保険還付方針を見直すだろうか?

この二剤は肥満症向けと二型糖尿病向けで米国におけるブランド名が分かれているが、ACCは両方に言及している。体重管理に関するガイダンスだが糖尿病でも同じはず、という示唆だろうか?

リンク: ACCの臨床ガイダンス(JACC DOI: 10.1016/j.jacc.2025.05.024)


FDA、光速承認プログラムを導入へ
(2025年6月17日発表)

FDAは、迅速審査の更に先を行く、CNPV(Commissioner’s National Priority Voucher)プログラムを年内に導入すると発表した。現行の優先審査バウチャ制度や加速承認制度、ローリング承認申請制度と似ているが、大きな違いは、承認審査完了後の目標審査期間が1~2ヶ月と途轍もなく短いことと、バウチャを用いて申請する開発品を企業が選択する場合とFDAが指定する場合があること。前述の各種制度が同時適用されることもある。

以下の何れかを満たすと認められた場合、バウチャが交付される。

・アメリカの公衆衛生上の危機に対応
・より革新的な治療をアメリカ人に提供
・充足されない医療ニーズに対処
・国家安全保障を鑑み国内生産を増強

承認審査期間を短縮するために、製薬会社は臨床成績以外の資料を前倒しで提出し審査を開始できるようにする。CMC(化学、製造、管理)に関する資料とレーベル草案は承認申請完了予定日の60日以上前に提出する。審査期間中はFDAの問い合わせに適切に回答する。FDAは関連部署が同時進行的に審査し、一回だけ開かれる合同会議ですり合わせを行う。

FDAは、データが不十分・不完全であった場合や、試験結果が曖昧である場合、そして、非常に複雑な審査を必要とする場合は、審査期間を延長することができる。

バウチャは2年で失効する。譲渡は認められないが、取得企業が買収されても失効しない。

光速審査の前例としては、COVID-19ワクチンのComirnatyやSpikevaxを承認申請の翌月にEUA(非常時使用認可)した。初年度はa limited number of vouchersを供与すると注記しているので、年に一件、二件のスケール感ではなさそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース


癌の血液検査
(2025年6月18日発表)

米国カリフォルニア州のGRAIL(Nasdaq:GRAL)は、Galleri MCED(多種腫瘍早期発見)検査の承認申請用試験、PATHFINDER2が中間解析でポジティブな結果になったと発表した。26年上期にFDAに癌のスクリーニング用血液検査としてPMA(医療機器の市販前承認申請)する計画。

ガイドラインに基づき癌のスクリーニング検査が推奨される、過去3年間に発症していない50歳以上の35,878人を北米の施設で組入れ、マンモグラフィやPSA検査などの標準的な検査と共に施行して、3年間追跡したもの。中間解析は事前計画に基づき最初の25,578人を評価した。PPV(陽性判定の的中度)は43%、特異度(陰性判定の的中度)は99.5%だった。腫瘍発生部位の推定も行ったが、正確性は88%だった。

cfDNA(循環無細胞DNA)のメチル化パターンと癌や発生部位の関係を機械学習させた成果物。先立つPATHFINDER試験では6,621人を検査したところ92人が陽性判定となり、その後の臨床診断で35人が癌と診断された(PPV38%)。うち25人は、ルーチンに実施されるスクリーニング検査が存在しない癌だった。偽陽性は62%と結構高い。特異度は99.1%だった。新しいバージョンを用いて再評価した後顧的試験では、PPVが43%、特異度は99.5%と上向いた。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


ロシュ、ルンスミオとポライビーの併用試験が成功
(2025年6月20日発表)

ロシュは、抗CD20xCD3二重特異性抗体Lunsumio(mosunetuzumab-axgb)の皮下注用製剤と抗CD79b抗体薬物複合体Polivy(polatuzumab vedotin-piiq)を移植不適な難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫の治療に用いた第3相SUNMO試験で主目的を達成したと発表した。PFS(無進行生存期間、独立評価方式)のメジアン値が11.5ヶ月とR-GemOx(rituximab、gemcitabine、oxaliplatinの3剤併用)群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.41、12ヶ月PFS率は各群48.5%と17.8%だった。全生存期間の解析は未成熟だが、メジアン18.7ヶ月対13.6ヶ月、ハザードレシオ0.80とまあまあな水準になっている。有害事象はG3/4もG5(致死的)も両群大差なかった。適応拡大に向かう考え。

承認されているLunsumioは点滴静注用で、皮下注用は濾胞性リンパ腫の3次治療以降に欧米で承認申請中。

Polivyは、先ごろ、EHA(欧州血液学会)で第3相POLARGO試験の結果が発表された。R-GemOxに追加した群のメジアン生存期間は19.5ヶ月とR-GemOx群の12.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.60だった。G5有害事象の発生率は11.7%対4%で上回った。COVID-19流行期だったため感染を経て死亡した患者がR-GemOx群より多かった模様であり、今日にも当てはまるかどうか分からないが、表面上はLuncumio・Polivy併用のほうが効果も副作用も穏やかなように見える。

同社のColumvi(glofitamab-gxbm、抗CD20xCD3二重特異性抗体)もR-GemOxのrituximabに代替する便益を検討した第3相STARGLO試験が成功し、全生存期間のハザードレシオは0.59、メジアン値は未達、R-GemOx群は9ヶ月だった。但し、欧米の施設における成績は今一つで、5月のODAC(FDAの腫瘍学薬諮問委員会)では患者代表者以外の8名が米国患者に対する便益が確認されたとは言えないと反対した。EUは4月に適応拡大を認めており、評価が分かれている。

このように、ロシュだけでも三種類のレジメンが周承認申請期に達しており、医療従事者や患者にとっては、どう使い分けたら良いのか、三本の試験はどの程度比較可能なのか、比較する術はあるのか、悩まなければならない時期になっている。

リンク: ロシュのプレスリリース


片頭痛予防薬アトゲパントがタイマンでトピラマートに勝つ
(2025年6月18日発表)

アッヴィは、反復性/慢性片頭痛におけるatogepantの発作抑制効果をtopiramateと比較した第3相TEMPLE試験が成功したと発表した。欧州、イスラエル、カナダの施設で月4日以上片頭痛を経験する成人患者545人を組入れて、60mgを一日一回、24週間、経口投与したところ、有害事象による投与中止率が12.1%とtopiramateを50~100mg/日投与した群の29.6%を有意に下回った。6種類の副次的評価項目も成功し、平均月間片頭痛半減奏効率は64.1%と39.3%だった。

atogepantはCGRP受容体拮抗剤。MSDが創製、15年に導出した先のAllerganをアッヴィが19年に買収した。反復性/慢性片頭痛の発症抑制薬として21~25年に米国やEUで承認され、日本でも承認申請中。

リンク: アッヴィのプレスリリース


JNJ、タービーとテクベイリの併用が治療の難しい多発骨髄腫に良績
(2025年6月15日発表)

薬にあまり応答しないタイプの多発骨髄腫にジョンソン エンド ジョンソン・グループの二種類の二重特性抗体を併用した第2相RedirecTT-1試験の成績がEHA(欧州血液学会)で発表された。3種類の主要な薬を既に用いてしまった、真性EMD(髄外疾患)を伴う難治/再発骨髄腫の患者90人を組入れて、抗GPRC5DxCD3二重特異性抗体Talvey(talquetamab-tgvs)と抗BCMAxCD3二重特異性抗体Tecvayli(teclistamab-cqyv)を2週毎皮下注したところ、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が78.9%、メジアン反応持続期間は13.8ヶ月だった。54.4%の患者が完全反応。被験者の20%を占めたBCMA標的CAR-T療法歴を持っている患者でもORRは83%と高かった。

忍容性は個々の薬のデータと大きな違いはなかった模様。致死的有害事象の発生率は11.1%で、感染症による5人が薬物関連と判定された。

EMDは骨構造と接触していない軟組織や臓器に形質細胞腫が見られる。この二剤を単剤投与した試験のORRはどちらも4割前後だった由。二剤併用により片方の薬に対するエスケープ回路が生じるのを抑制できたのかもしれない。

Tecvayliは23年に米国で難治再発多発骨髄腫の5次治療に加速承認、EUでは4次治療に条件付き承認、24年には日本でも承認された。Talveyは23年に米国で難治再発多発骨髄腫の5次治療に加速承認、EUで4次治療に条件付き承認、日本は第2部会を通過したところ。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: Kummerらの抄録(EHA 2025、LB4001)


アッヴィ、ベネクレクスタのMDS試験がフェール
(2025年6月16日発表)

アッヴィは、Venclexta(venetoclax)の第3相骨髄異形成症候群(MDS)試験、VERONAで主目的を達成できなかったことを明らかにした。IPSS-R予後推測スコアが3点超などの高リスクな新患約500人を組入れて、azacitidineに追加する便益を偽薬追加群と比べたが、全生存期間のハザードレシオは0.908、p=0.3772となった。

Venclextaは経口bcl-2阻害剤。慢性リンパ性白血病や急性骨髄性白血病に承認されている。米国ではジェネンテックと共同開発販売。

リンク: アッヴィのプレスリリース

【承認申請】


Aldeyra、ドライ・アイ用薬の3巡目合格を目指す
(2025年6月17日発表)

米国の医薬品開発企業、Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は、ADX 102(reproxalap)をFDAに修正承認申請したと発表した。3巡目なので、受理後の審査期間は6ヶ月となる。

ADX 102はRASP(反応性アルデヒド種)調節作用を持ち、免疫刺激性を持つ有機アルデヒド遊離体に結合し炎症が促進されるのを妨げる。22年にドライ・アイ治療用点眼剤として承認申請したが、FDAがガイダンス文書で要請している兆候改善試験(目の赤さなどを評価)二本と症状改善試験二本のうち、後者が一本だけであったため、審査完了通知を受領した。追加的チャンバー試験(眼に乾燥した風を当て続けて不快感の変化を偽薬と比較)を実施して24年に修正申請したが、ベースライン値に偏りがあったことなどから、再び審査完了通知を受領した。

今回提出した追加的チャンバー試験はベースライン値に偏りがなく、p値は0.002と前回の0.004より更に向上した。FDA相談を踏まえて、有意差に達しなかった追加フィールド試験のデータは提出していない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、遅発性ジスキネジア用薬などの承認を支持
(2025年6月20日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

テバのAustedo(deutetrabenazine)は成人の中重度遅発性ジスキネジアの治療薬。二本の試験で12週間の投与によりAIMS(異常不随意運動尺度)が改善した。有害事象は鎮静、下痢、ドライ・マウス、疲労など。活性成分はVMAT-2阻害剤trabenazineの水素基を重水素で置換して忍容性や作用の持続性を改善したもの。米国では17年にオリジナルの一日二回経口投与用製剤がハンチントン舞踏病と遅発性ジスキネジアに承認、23年に一日一回用延長放出製剤Austedo XRが承認された。EUで承認申請されているのは後者。

リンク: EMAのプレスリリース

Partner TherapeuticsのImreplys(sargramostim)は骨髄抑制量の急性放射線曝露によるH-ARS(造血症状型急性放射線症候群)の治療に例外的環境条項に基づいて承認するよう勧告した。7mcg/kgを一日一回、皮下注射する。米国では1991年にLeukine名で血液癌の化学療法・骨髄移植付随療法として承認され、2018年に今回と同様な適応拡大が認められたが、欧州で承認されれば今回が初となる。記憶があやふやなのでこの機会にChatGPT(無償で使える古いバージョン)に尋ねてみたところ、アメリカ以外で承認されていないのは、商業的・臨床的なニーズの低さ、競合薬の存在、安全性・コスト面の問題、および製薬企業の申請戦略の影響が主な要因とのことだった。

米国のレーベルによると、エビデンスはアカゲザルの全身照射後投与試験。一本では60日生存率が78%と偽薬群の42%を上回り、線量を増やしたもう一本でも61%対17%で上回った。用量は骨髄移植付随療法時の用量とほぼ同じとのこと。

sargramosimは2002年にImmunexからバイエルに、09年にバイエルからジェンザイムに、ジェンザイムを子会社化したサノフィが18年にPartner社に、事業譲渡したもの。今回の用途の開発では米国政府の補助金を得ている(トランプ大統領に告げ口する意図で書いているわけではありません)。

リンク: EMAのプレスリリース

SpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)のOgsiveo(nirogacestat)はファイザーからライセンスした選択的ガンマ・セクレターゼ阻害剤。成人の進行性デスモイド腫瘍に用いる。第3相でPFS(無進行生存期間)や疼痛、身体機能などが改善した。米国では23年に承認。

同社は4月にMerck KGaAに買収されることで合意している。

リンク: EMAのプレスリリース

Madrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)のRezdiffra(resmetirom)は高度選択的肝臓標的甲状腺ホルモン受容体ベータ・アゴニスト。成人の中等度から進行性までの段階の肝線維症を伴う非肝硬変MASH(代謝異常関連脂肪肝炎)の治療に食事療法や運動療法と共に用いることを条件付き承認するよう勧告した。エビデンスは進行中の第3相試験の52週解析で、この試験と支持的エビデンスとなった試験を完了することが本承認切替の要件。米国では24年3月に加速承認された。

第3相では偽薬群、80mg群、100mg群のMASH奏効率(MASH解消且つ線維症が悪化せず)が各10%、26%、30%で2用量とも偽薬を有意に上回った(22年の会社側発表値)。但し、病理学者による個人差があるようで、米国のレーベルでは各群9~13%、26~27%、24~36%とレンジで記載されている。CHMPのリリースは前者の数値が記されているが、共同主評価項目である線維症奏効率(線維症が改善しMASHは悪化せず)を見ると、会社側発表では各群14%、24%、26%、米国のレーベルでは13~15%、23%、24~28%、CHMPの今回のリリースでは17%、27%、29%と三者三様になっている(点推定値の小さな違いに拘ってもしょうがないが、元々の群間差がすごく大きいわけではないので無視もし難い)。

リンク: EMAのプレスリリース

カナダのExCellThera社の子会社であるCordex BiologicsのZemcelpro(allogeneic umbilical cord-derived CD34- cells, non-expanded/dorocubicel)は臍帯血由来の細胞療法。血液癌で骨髄抑制処理を施行し他家幹細胞移植を必要としているが適合ドナーが見つからない場合に条件付き承認するよう勧告した。臍帯血輸血は必要量を確保するのに苦労することがある。本品はCD34陽性細胞だけ抽出してex vivoで培養し、残ったCD34陰性細胞と共に点滴投与する。第2相試験二本のプール分析で25人中21人がメジアン20日以内に好中球生着を達成、血小板も17人でメジアン40日以内に生着した。移植片宿主病の発生率は急性が60%、慢性は13%。この二本の長期追跡と対照試験やレジストリー試験の実施が条件。

同社は北米などでも承認申請を計画している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ExCellTheraのプレスリリース

適応拡大の支持を得たのは、

  • イプセンのCabometyx(cabozantinib):成人の切除不能/転移性分化膵外/膵神経分泌細胞腫、但し、ソマトスタチン類縁体以外の一種類以上の全身性治療後に進行した場合に用いる。米国ではライセンサーのExelixis(Nasdaq:EXEL)が3月に承認取得(12歳以上の小児も含む)。
  • Janssen-Cilag InternationalのDarzalex(daratumumab、hyaluronidase):多発骨髄腫に進展する可能性が高いくすぶり型多発骨髄腫。日米でも適応拡大申請中。疾病の定義が変動しており厄介。
  • 同、Imbruvica(ibrutinib):成人の自家幹細胞移植が適応になる未治療マントル細胞腫にR-CHOPレジメンと併用。エビデンスは欧州の共同治験グループが主導したTRIANGLE試験で、導入期はR-CHOPレジメンとImbruvicaの併用とR-DHAPレジメンを交互に投与する。
  • バイエルのNubeqa(darolutamide):転移性ホルモン感受性前立腺癌にアンドロゲン枯渇療法と併用。米国では今月、転移性去勢感受性前立腺癌名で承認。
  • サノフィのSarclisa(isatuximab):成人の自家幹細胞移植が適応になる新患多発骨髄腫の導入療法としてbortezomib、lenalidomide、及びdexamethasoneと併用する。

  • イーライリリーが早期アルツハイマー病用薬として承認申請したKisunla(donanemab)は、24年に米日が承認したが、CHMPは今年3月に否定的意見を纏めた。深刻なARIA(アミロイド関連画像異常)の発生率が被験者の1.6%で発生し3名が死亡、ApoE4を持たないサブグループに限定しても0.8%と1名で、便益を比べリスクが大きいと判定したため。会社側請求を受け、再審を開始した。4月に開始決定と発表したが、2ヶ月を何に費やしたのだろうか?

    【承認】


    デュピクセントが水疱性類天疱瘡に適応拡大
    (2025年6月20日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を成人の水疱性類天疱瘡(BP)に治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。経口コルチコステロイド(OCS)と同時に治療を開始し、OCSの用量を漸減しながら疾病寛解を目指した第3相試験で、持続的疾病完解率が18.3%と偽薬・OCS併用群の6.1%を有意に上回った。急性汎発性発疹性膿疱症が1名で発生した(偽薬群はゼロ、各群53人を割付け)。日本やEUでも適応拡大申請中。

    リンク: 両社のプレスリリース


    アルカプトン尿症用薬が承認
    (2025年6月19日発表)

    英国のCycle PharmaceuticalsはFDAがHarliku(nitisinone)を成人のアルカプトン尿症用薬として承認したと発表した。この希少疾患は、homogentisate 1,2-dioxygenaseの先天的欠乏によりHGA(ホモゲンチジン酸)が結合組織などで蓄積し、骨関節炎や組織黒変症、腎・心疾患を誘導する。nitisinoneは上流の酵素、 4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenaseを阻害し、HGAの生成を大きく抑制する。2mg錠を一日一回経口投与する。NIH(米国立衛生研究所)が主導した40人の臨床試験で1年後の尿HGA量が9割減少した。対照観察群は2倍増した。

    活性成分はSwedish Orfanが米国では2002年に遺伝性チロシン血症1型の治療薬Orfadinカプセルとして実用化した。Cycle社は温故知新型の希少疾患用薬会社で、同じ活性成分を含有するNityr錠が17年に米国で遺伝性チロシン血症1型用薬Nityr錠として承認されている。

    リンク: Cycle社のプレスリリース


    インサイトの抗CD19抗体が濾胞性リンパ腫に適応拡大
    (2025年6月18日発表)

    FDAは、インサイト(Nasdaq:INCY)のMonjuvi(tafasitamab-cxix)を成人の難治/再発濾胞性リンパ腫に用いる適応拡大を承認した。lenalidomide及びrituximabと併用して、12mg/kgを28日サイクルで最初の3サイクルは毎週、その後の9サイクルは隔週、点滴静注する。成人の抗CD20抗体歴のある成人のCD19陽性、CD20陽性、難治/再発濾胞性リンパ腫と辺縁帯リンパ腫を組入れた第3相inMIND試験で、主評価項目に設定された濾胞性リンパ腫サブグループのPFS(無進行生存期間、担当医評価)が22.4ヶ月とlenalidomide、rituximab、偽薬を投与した群の13.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.43だった。深刻有害事象の発生率は33%で、深刻感染症(24%)が中心。辺縁帯リンパ腫には効果がなかったのか、レーベルには臨床試験を除き未承認であることが注記されている。

    Monjuviは抗CD19ADCC増強抗体。20~21年に造血幹細胞移植不適な難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に加速/条件付き承認された。

    リンク: FDAのプレスリリース


    年二回投与型HIV感染予防薬が承認
    (2025年6月18日発表)

    ギリアド・サイエンシズは、FDAがYeztugo(lenacapavir)をHIV/AIDSの曝露前予防(PrEP)薬として承認したと発表した。体重35kg以上の青少年と成人が適応になる。初日は463.5mg/1.5mLを二回皮下注するとともに、300mg錠を2個経口投与、第2日は300mg錠2個服用、その後は最終皮下注から26週毎に463.5mg二回皮下注を反復する。

    南アとウガンダの16-25歳のシスジェンダー女性5300人超を組入れた第3相PURPOSE 1試験では一人も発症せず、外部対照群の100人年当り2.41や、Truvada(tenofovir disoproxil fumarate、emtricitabine)群の1.69を有意に下回った。PrEPに承認されている同社のもう一つの医薬品、Descovy(emtricitabine、tenofovir alafenamide fumarate)を投与した群は同2.02で、外部対照群やTruvada群を有意に下回らなかった。米州、南ア、タイのシスジェンダー男性、トランスジェンダー男女、またはノンバイナリー3200人超を組入れた第3相PURPOSE 2試験では同0.10となり、外部対照群の2.37、Truvada群の0.93を有意に下回った。

    活性成分は長期作用性カプシド阻害剤。ウイルスRNAを包む蛋白をライフサイクル上の複数の段階で阻害し、複製を妨げる。22~23年にEU、米国、日本で多剤抵抗性HIV/AIDSの治療薬Sunlencaとして承認された。Yeztugoは投与スケジュールにおける皮下注用と錠剤の使い分けが2種類ではなく1種類で、単剤投与するが、わざわざ製品名を変えたのは、治療に単剤投与する誤用を警戒したのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    CSL、 アナエブリが米国でも承認
    (2025年6月17日発表)

    オーストラリアのCSL(ASX:CSL)は、FDAがAndembry(garadacimab-gxii)を12歳以上の遺伝性血管浮腫(HAE)における発作傾向抑制薬として承認したと発表した。オート・インジェクターで200mgを一回(但し、治療開始時は2回)、皮下注し、1ヶ月毎に反復する。自己注可。一巡目の承認審査は審査完了通知に終わったため、2月に承認されたEUや日本より遅れた。

    HAEの発症プロセスであるカリクレイン・キニン・カスケードをトリガーする、活性化XII因子を標的とするIgG4ラムダ抗体。生来のC1エステラーゼ・インヒビターが欠乏するHAE患者63人を組入れた第3相試験で平均発作頻度が偽薬比80%以上小さかった。61.5%の患者が発作を経験しなかった(偽薬群はゼロ)。活性化XII因子標的薬がHAEリスク抑制薬として承認されたのは初めて。また、CSLの研究所で誕生した遺伝子組換え型抗体医薬がアメリカで承認されたのも初めて。

    競合は、武田薬品の抗血漿カリクレイン抗体、Takhzyro(lanadelumab-flyo)やBioCryst Pharmaceuticals(Nasdaq:BCRX)の経口血漿カリクレイン阻害剤、Orladeyo(berotralstat)。どちらもWAC(問屋調達コスト)ベースで年50万ドル前後の高額医薬だ。

    リンク: CSLのプレスリリース


    抗HCV薬が急性期患者に適応拡大
    (2025年6月11日発表)

    アッヴィは、Mavyret(glecaprevir、pibrentasvir)が米国で3歳以上の急性C型肝炎の治療に適応拡大したと発表した。第3相一次治療試験で、一日一回、8週間経口投与し、完了の12週後にSVR(持続的ウイルス学的反応率)を確認したところ、96%と高水準を達成した。

    後NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤とNS5A阻害剤の合剤で、17年にEU、米国、日本で遺伝子型1~6のC型肝炎ウイルスによる慢性C型肝炎に承認されている。今回の適応拡大で、治療ガイドラインが推奨する急性期の、無症候性の患者にも使えるようになった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    エレビジスの歩行不能DMDに対する治療を中止
    (2025年6月15日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)と米国外における販売権を持つロシュは、 夫々、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)に関するアップデートを発表した。歩行不能な患者に対する治療は即時中止し、臨床試験に関しても、対策を決定してプロトロルに導入するまで、投与を停止する。歩行不能な患者で2人目の急性肝不全による死亡が発生したため。臨床試験は免疫抑制剤の使用などを検討しプロトコルに導入した上で再開する考え。歩行可能な患者では死亡例がなく、投与中止は行わないが、免疫抑制剤併用も視野に入れている模様。

    Elevidysは、DMD患者で欠損するジストロフィンに代えて、短縮化したマイクロジストロフィンの遺伝子を導入する遺伝子療法。23~25年に米日で条件付き承認されたが、EUは24年6月に承認申請が受理された後、音沙汰がない。米日は何れも歩行可能な患者が対象だが、対象年齢は米国が4~5歳、日本は申請内容通り3~7歳と食い違った。その後、24年にFDAが一部変更を認め、4歳以上の歩行可能患者向けに本承認、歩行不能患者向けに加速承認した。このように、歩行不能な患者に承認している主要国は米国だけで、欧日は第3相ENVISION試験(歩行不能または、8~17歳の歩行可能なDMD患者が対象;米国の市販後コミットメント試験)など臨床試験に参加している患者だけである。

    米国のレーベルには警告注意事項として深刻肝不全が記されている。被験者の殆どは歩行可能患者であり、また、肝障害はアデノ随伴ウイルスを用いる遺伝子療法にありがちな副作用なので、歩行不能患者限定のリスクではないだろう。それなのに歩行不能患者だけ中止/停止するのは、確認されている便益の中心がマイクロジストロフィンの発現増加という代理マーカーだけで、運動能力や日常生活機能の改善が未確認であるため、リスクに見合わないという判断だろう。

    尤も、歩行可能な幼児における便益も明確ではない。代理マーカーに基づく23年の加速承認も、24年の対象年齢拡大や歩行不能患者加速承認も、FDAの承認審査担当部署は反対したが、当時のCBER(生物学的製剤評価研究センター)のヘッドであったPeter Marks M.D.が覆したものだ。米日欧における承認やその範囲の食い違いを見ても、評価の難しさが窺われる。

    Elevidysはこれまでに900人超に投与され、うち歩行不能患者は140人。後者だけのリスクだとしたら発生率は1~2%ということになるが、前者に無垢とは考えにくいので、0.1~0.2%と考えるべきなのだろう。

    リンク: Sareptaのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
    諮問委員会
    25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/18PPDAC:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)



    今週は以上です。

    2025年6月14日

    第1211回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 薬も塩分控え目が良い 
    • ケネディ長官、ACIPの委員全員を入れ替え 
    • ファビハルタはHb≧10g/dLにも有効 
    • ソーティクツの乾癬性関節炎適応拡大試験が成功 
    • MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相が成功 
    • GSK、iBAT阻害剤をPBCに承認申請 
    • Jazz、ポリメラーゼII阻害剤を承認申請 
    • esreboxetineは承認申請が受理されず 
    • ブーレンレップは諮問委員会上程へ 
    • DMD細胞療法の諮問委員会はキャンセル 
    • 経口カリクレイン阻害剤の承認審査が遅延 
    • エムレスビアの適応年齢が拡大 
    • キイトルーダを頭頚部癌の周術期療法として承認 
    • 膀胱内注入用マイトマイシンが膀胱癌に承認 
    • Nuvation社のROS1阻害剤が承認 
    • MSD、RSV予防薬が承認 
    • FDA、胃癌や食道癌における抗PD-1抗体の適応範囲を見直し 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    薬も塩分控え目が良い
    (2025年6月9日発表)

    Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は特許切れするナルコレプシー治療薬Xyrem(sodium oxybate)の後継として20年に米国でXywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)を発売した。カッコ内が賑やかだが最大の特徴はナトリウムが92%少なく、AHA(米国心臓協会)が推奨するナトリウム摂取目標の2.3g/日(食塩なら5.8g)、心血管疾患高リスクでは1.5g/日(同3.8g)という目標を達成するのに大きな妨げにならないこと。推奨用量である6~9gを服用する場合、Xyremはナトリウムを1.1~1.6g/日摂取することになり、Xywavより1.0~1.5g/日多くなる。

    このカタログ・スペックの差が血圧にどう影響するか、調べたXYLO試験の結果がSLEEP学会で発表された。sodium oxybate服用中のナルコレプシー患者43人をXyrem群とXywav群に無作為化割付けして6週間後の血圧を比較したところ、24時間携帯血圧計では4.1mmHgの差(132.3mmHg対128.2mmHg)、オフィス測定では9.2mmHgの差があった。薬も塩分控えめのほうが健康に良いという分かりやすいデータだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ケネディ長官、ACIPの委員全員を入れ替え
    (2025年6月9日発表)

    米HHS(保健福祉省)は、Robert F. Kennedy長官のイニシアティブで、傘下のCDC(疾病管理予防センター)におけるACIP(ワクチン接種諮問委員会)の常任委員17人を解任したと発表した。後任を選定中で、長官は6月11日にX(SNS)で8人の概要を明らかにした。6月25~27日に開催される次回のACIPまでにどれだけ集まるか、注目される。アジェンダの一つと報じられている、MSDのRSV下部気道疾患予防薬(後記)も注目だ。

    解任の理由は必ずしも明らかではない。長官は傘下組織における利益相反懸念をしばしば指摘しているが、具体的に何が問題なのか、今回のリリースには記されていない。17人中13人はバイデン大統領時代の2024年に選任され任期が長く残っていることに言及しており、政権交代以降に様々な政府組織で断行された、残滓除去行動の一環に過ぎないようにも感じられる。

    AMA(米国医師会)など多くの医療関連団体が解任に抗議の意を表明している。CDCの過去そして現在の役職員からもKennedy長官の退任を求める声が上がっている模様。上記8人には反ワクチンで知られる人もいる模様で、更なる物議を呼んでいる。

    リンク: HHSのプレスリリース

    【新薬開発】


    ファビハルタはHb≧10g/dLにも有効
    (2025年6月12日発表)

    ノバルティスは昨年12月にPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)治療薬Fabhalta(iptacopan)の後期第3相APPULSE-PNH試験がポジティブな結果になったと発表したが、データがEHA(欧州血液学会)会議で発表された。抗C5抗体による治療に応答しヘモグロビン値が10g/dL以上のPNH患者52人を組入れて、全員Fabhaltaにスイッチし24週投与したところ、ヘモグロビン値が平均2.01g/dL上昇し、輸血は発生しなかった。

    この可逆的B因子阻害剤はヘモグロビン値が10g/dL未満で抗C5抗体に応答不十分、または未治療の、患者を組入れた臨床試験に基づき、23~24年に米欧日で承認された。経口投与(一日二回)できる初のPNH用薬だ。米欧では適応が10g/dL未満に限定されていないが、エビデンスができたのは意義がある。日本では抗C5抗体に十分応答しない患者に使用するよう添付文書に注記されているが、限定解除の道が開けるのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ソーティクツの乾癬性関節炎適応拡大試験が成功
    (2025年6月11日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブは、アロステリックTYK2阻害剤Sotyktu(deucravacitinib)の第3相乾癬性関節炎、POETYK PsA-1の成績をEULAR(欧州リウマチ学会)で発表した。バイオ薬未経験の患者を偽薬群と6mg一日一回経口投与群に無作為化割付けして16週のACR20を比較したところ、各群34.1%と54.2%となり、奏効率に有意な差があった。3月に発表された、TNF阻害剤歴のある患者も組み入れたPOETYK PsA-2試験(39.4%と54.2%)と似たような結果だ。副次的評価項目のうちPASI75は、夫々、7.1%対51.9%と15.4%対40.9%で、今回の方が差が大きい。今回の試験の深刻有害事象発生率は2.4%対1.8%、有害事象治験離脱率は1.8%と2.4%で両群大差なかった。

    22~23年に米日欧で中重度尋常性乾癬治療薬として承認されている。日本法人は6月に乾癬性関節炎の一変申請したと発表しているが、欧米でも申請されたのではないか。

    リンク: BMSのプレスリリース


    MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相が成功
    (2025年6月9日発表)

    MSDはMK-0616(enlicitide decanoate)の第3相試験二本で主目的を達成したと発表した。LDL-C受容体を零落させるPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)を標的とするコレステロール治療薬で、アムジェンのRepatha(evolocumab)などの抗体医薬とは異なり、大環状ペプチド薬で経口投与できる。承認申請に向かうのだろうか?

    一本はCORALreef HeFH。アテローム硬化性心血管疾患を合併またはそのリスクがありスタチン治療を受けているHeFH(ヘテロ接合性家族性高脂血症)の患者に20mg錠または偽薬を一日一回投与し、24週LDL-Cを比較した。統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があったとのこと。もう一本はCORALreef AddOn。類似した内容だが、HeFH以外の高脂血症患者を、20mg錠群、ezetimibe群、ATPクエン酸リアーゼ阻害剤bempedoic acid群、ezetimibe・bempedoic acid併用群に無作為化割付けした。対照3群の何れと比べても統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。有害事象や深刻有害事象は大差なかった。数値は学会などで発表する。

    デカン酸ではなく塩化物を用いた後期第2相では、6、12、18、30mg各群のLDL-Cが偽薬調整後で41~61%低下した。この試験はスタチンを服用していない患者も組入れており、LDL-Cのベースライン平均値が119.5mg/dLと第3相の組入れ基準上限より高かった。第3相では効果がもう少し低く出ているかもしれない。

    米国の製薬会社は、IRA(インフレ抑制法)に基づき、売上高上位の医薬品を値下げしなければならない。製薬業界は新薬開発の妨げになると反対しているが、MSDも、場合によってはアウトカム試験の結果が出るまでMK-0616を発売しないかもしれないと報じられたことがある。その第3相0CORALreef Outcomes試験の結果は29年11月頃に判明する見込みなので、承認申請が遅くなる可能性もありそうだ。尚、ClinicalTrials.govによると日本は上記2試験には参加していないがアウトカム試験には参加している。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    GSK、iBAT阻害剤をPBCに承認申請
    (2025年6月2日発表)

    GSKはGSK2330672(linerixibat)を原発性胆汁性胆管炎(PBC)における胆汁鬱滞性掻痒症の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は26年3月24日。欧中日でも年内には承認申請されるのではないか。

    iBAT(回腸胆汁酸輸送体)やナトリウム胆汁酸共輸送体の阻害薬。欧米中日の施設で中重度胆汁鬱滞性掻痒症を伴う238人を組入れた第3相標準療法アドオン試験、GLISTENで、第24週の月間掻痒尺度(WI-NRS、レンジは0~10)が2.86点低下し、偽薬群の2.13点低下と有意な差があった。胃腸有害事象による治験離脱率は各群4%と1%未満で、それほど増えなかった。

    iBAT阻害剤はAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)のBylvay(odevixibat)やMirum PharmaceuticalsのLivmarli(maralixibat)が米国などで承認されているが、適応はアラジール症候群などで異なる。

    リンク: GSKのプレスリリース


    Jazz、ポリメラーゼII阻害剤を承認申請
    (2025年6月10日発表)

    Jazz Pharmaceuticalsは米国でZepzelca(lurbinectedin)の適応拡大を申請し受理されたと発表した。優先審査を受け審査期限は25年10月7日。

    海洋生物から抗癌活性を持つ物質を発掘しているスペインのPharmaMarから米国の権利を得た、ポリメラーゼII阻害剤で、2020年に米国で治療歴のある転移小細胞性肺癌向けに加速承認された。今回の申請は、ロシュがメイン・スポンサーとなりJazzも資金拠出した第3相IMforte試験に基づくもの。進展型小細胞性肺癌でロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と化学療法の併用一次治療を受け進行しなくなった患者の維持療法としてTecentriqと併用したところ、メジアン生存期間が13.2ヶ月とTecentriqだけの群の10.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73だった。G3/4治療関連有害事象の発生率は25.6%対5.8%で上回った。

    加速承認時のフェーズIVコミットメントであった第3相化学療法併用試験がフェールし前途が危ぶまれたが、代替策として選ばれた二本の一つであるIMforte試験が成功したことで、本承認切替の道も開けただろう。

    リンク: Jazzのプレスリリース


    esreboxetineは承認申請が受理されず
    (2025年6月9日発表)

    米国ニュー・ヨーク州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、esreboxetineを線維筋痛症治療薬として承認申請したが受理されなかったと発表した。エビデンスとして12週間の固定用量試験と8週間の用量変動試験を一本ずつ提出したが、不十分と見做されたため、年内にもう一本、12週固定用量試験を開始する考え。

    ファルマシアが開発したノルエピネフィリン再取込阻害剤reboxetineのS異性体。reboxetineは97年に欧州で抗鬱剤として承認されたが、米国ではフェールした試験もあったため承認されなかった(英語版Wikipediaにはprovisionally approved by FDAと記されているが、FDAから受領したのはapprovable letter、つまり、承認不可より承認のほうに近いが未だ承認しないという通知である。紛らわしい名称であり、私は、承認可能なら承認すれば良いでしょうと皮肉を書いたことがある)。

    ファルマシアを買収したファイザーはesreboxetineの線維筋痛症試験を成功させたが承認申請はせず、2020年にreboxetineと共に権利をAxsomeにライセンスアウトした。Axsomeは22年に承認申請する考えだったが、23年に遅れ、更に24年に遅れ、結局、3年遅れになった。ClnicalTrials.govには一本しか試験登録されておらず、おそらく、Axsome自身は第3相試験を実施していなかったのだろう。

    リンク: Axsome社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    ブーレンレップは諮問委員会上程へ、
    (2025年6月13日公表)

    GSKが承認申請したBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)が7月17日の腫瘍学薬諮問委員会に上程されることが明らかになった。米国連邦政府官報の6月13日付事前縦覧版に掲載されている。PDUFA(処方薬ユーザー・フィー法)に基づく審査期限は7月23日だが、遅延する可能性が高そうだ。

    多発骨髄腫などで高発現するBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とするポテリジェント抗体薬物複合体。20年に難治・再発多発骨髄腫のサルベージ療法として米国で加速承認、EUで条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、米国は23年に、EUは24年に、承認取消/失効となった。皮肉なことに、前後して第3相試験が二本成功し、今年5月に日本で初承認、EUでCHMP(医薬品科学的評価委員会)が肯定的意見を纏めたところ。米国でも順調に承認されると思っていただけに、このタイミングで諮問委員会が発表されたのは意外だ。

    治験成績を概観すると、加速/条件付き承認のエビデンスは5次治療における単剤投与試験、DREAMM-2。ORRが31%、その73%は6ヶ月以上持続した。フェールした第3相DREAMM-3試験は、3次治療を受ける患者を組入れて、2.5mg/kgを3週毎投与する便益をpomalidomide・低量dexamethasone群と比較した。PFS(無進行生存期間)のメジアン値は各群11.2ヶ月と7ヶ月と上回ったが、ハザードレシオは1.03で有意差なし。22年当時の発表によると、全生存期間の解析は未成熟だが、メジアン値は21.2ヶ月と21.1ヶ月、ハザードレシオ1.14だった。

    成功したのは一次以上の治療歴を持つ多発骨髄腫を組入れた二本の併用試験。第3相DREAMM-7試験はbortezomib及び低量dexamethasoneと併用する第3の薬としての便益をdaratumumabと比較、同DREAMM-8試験はpomalidomide及び低量dexamethasoneと併用する第3の薬としての便益をbortezomibと比較した。前者は中間解析でPFSを達成、メジアン値は36.6ヶ月と13.4ヶ月、ハザードレシオ0.41、全生存期間は後に目標達成、メジアン値は両群未到達だがハザードレシオは0.58、3年生存率は74%と60%だった。後者も中間解析でPFSを達成、メジアン値は未到達、対照群は12.7ヶ月、ハザードレシオは0.52。24年3月の成功発表時点では全生存期間の解析は未成熟だったが、ハザードレシオ0.77(95%信頼区間0.53-1.14)、1年生存率は83%と76%だった。

    リンク: 米国連邦政府官報(6/13事前縦覧版、日本時間6/14アクセス)


    DMD細胞療法の諮問委員会はキャンセル
    (2025年6月11日発表)

    米国の医薬品開発企業、Capricor Therapeutics(Nasdaq:CAPR)は24年12月に他家cardiosphere由来細胞療法のCAP-1002(deramiocel)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬としてFDAに承認申請し、優先審査を受けている。5月にFDAから諮問委員会上程の可能性を通知され、6月11日に7月30日に開催されることを発表したが、直後にキャンセルされた。上記の、米国連邦政府官報の6月13日付事前縦覧版に掲載された。理由は不明だが、前例では、FDAの見解に納得できず申請内容を見直したり追加エビデンスを取得したりといった、好ましくない出来事が起きていることが多いように感じられる。

    申請のエビデンスは10歳以上の上腕機能の中程度以上の低下を伴う患者20人を組入れた第2相偽薬対照試験。3か月毎に4回点滴静注したところ、上腕機能が偽薬比有意に改善した。このデータと自然歴の対照試験も提出した。第3相は同社のロサンジェルス工場製造品を用いるコフォートが24年第4四半期に盲検解除となったが、サン・ディエゴ工場品のコフォートBが未だだったため結果は公表されていない。タイミング的にはデータが出揃っていても不思議はないので、何か影響しているのかもしれない。但し、6月11日付のプレス・リリースを読む限りでは何か問題が生じたようには思われないが。

    CAP-1002は心筋を含む他家心細胞塊由来の細胞医療製品。エクソソーム(細胞外小胞)が分泌され、炎症・線維化の低減や筋細胞生成を通じて、運動機能や心機能を改善するとされる。日本新薬が欧米における独占販売権を保有している。

    リンク: Capricorのプレスリリース(6/11付)


    経口カリクレイン阻害剤の承認審査が遅延
    (2025年6月13日発表)

    カルビスタ ファーマシューティカルズ(Nasdaq:KALV)はKVD900(sebetralstat)を遺伝性血管浮腫の治療薬として開発し、24年6月に米国で12歳以上の患者向けに承認申請、8月にはEUで申請受理され、今年1月には日本(科研製薬が販売予定)でも承認申請した。米国の審査期限は6月17日だが、4日前にFDAから結果連絡が4週ほど遅延する旨の連絡を受けた。FDA側の仕事量が多く、リソース不足で間に合わない由。効果や安全性に関する懸念は指摘されていない模様。

    経口血漿カリクレイン阻害剤。増悪治療試験で症状改善までの時間が300mg群は1.61時間、600mg群は1.79時間となり偽薬群の6.72時間を大きく下回った。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認】


    エムレスビアの適応年齢が拡大
    (2025年6月12日発表)

    モデルナは、FDAがRSVワクチンmResviaの適応範囲拡大を承認したと発表した。24年に60歳以上向けに承認されたが、18~59歳でRSウイルスに感染すると重症化するリスクが高い患者にも用いることができるようになった。ACIP(疾病管理予防センターのワクチン接種諮問委員会)は、委員全員が解任される前の4月に、50~59歳の高リスクに接種勧奨するよう勧告済み。

    A型RSVやB型RSVに対する中和抗体価算術平均比が60歳以上を対象とした試験のデータと非劣性だった。同社は優先審査バウチャを用いて、シーズン入り前の承認を獲得した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    キイトルーダを頭頚部癌の周術期療法として承認
    (2025年6月12日発表)

    FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を成人のPD-L1陽性(CPS≧1)切除可能局所進行(ステージIII-IVA)の頭頚部扁平上皮腫(HNSCC)に適応拡大した。エビデンスとなる第3相KeyNote-689試験でCPS≧1のサブグループはEFS(無イベント生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が59.7ヶ月とKeytrudaを用いなかった群の29.6ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.7だった。全生存期間は未成熟だが、悪い傾向は見られていない。

    この試験はPD-L1を発現していない患者も組み入れて、CPS≧10サブグループ、CPS≧1サブグループ、全集団の3カテゴリーにおける便益を検討した。EFSのハザードレシオは、夫々、0.66、0.70、0.73だった。解析順位はCPS≧10が一番のように思えるが、FDAは1を閾値とした。

    治験では200mgを3週サイクルで、切除術前は2サイクル、術後は放射線療法(高リスク患者はcisplatin併用可)とともに3サイクル、その後は単剤を12サイクル、施行した。FDAは400mg6週毎投与も認めた。

    この適応拡大は日本でも3月に申請された。

    リンク: FDAのプレスリリース


    膀胱内注入用マイトマイシンが膀胱癌に承認
    (2025年6月12日発表)

    FDAはUroGen Pharma(Nasdaq:URGN)のZusduri(mitomycin)を成人の再発性LG-IR-NMIBC(低グレード中等度リスク筋層非浸潤膀胱癌)に承認した。75mg/56mLを週次で6回、膀胱内に点滴注入する。注入後15分でゲル化し、数時間に亘り薬剤を放出する。TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後に再発した患者240人を組入れた単群試験で、第3月完全反応率が78%、その79%は反応が12ヶ月以上持続した。深刻有害事象の発生率は12%だった。

    5月の諮問委員会では、既存のエビデンスだけでは便益が危険を上回るとは言えないと判定した委員が9人中5人と意見が分かれた。TURBT併用試験が資金不足により途中中止され、上記単群試験だけが主エビデンスであることが響いたようだ。

    同社は類薬であるJelmyto(mitomycin)も20年に成人の低グレード上部尿路上皮癌に承認された。腎盂造影で薬剤が満たされるのを確認するまで注入を続ける用法なので、膀胱癌に関しては今回のほうが簡便だ。

    リンク: FDAのプレスリリース


    Nuvation社のROS1阻害剤が承認
    (2025年6月11日発表)

    FDAはNuvation Bio(NYSE:NUVB)のIbtrozi(taletrectinib)を局所進行/転移ROS1陽性非小細胞性肺癌用薬として承認した。空腹時に600mgを一日一回、経口服用する。中国で行われたTRUST-I試験と日韓中米のTRUST-II試験でROS1チロシン・キナーゼ阻害剤未治療の患者におけるORR(客観的反応率、独立中央評価)が各90%と85%となり、夫々、反応者の72%と63%は12ヶ月以上持続した。一剤だけ治療歴のある患者では各52%と62%となり、夫々74%と83%は6ヶ月以上持続した。警告注意事項は肝毒性、間質性肺疾患/肺臓炎、QTc延長など。

    24年に合併したAnHeart Therapeuticsが18年に第一三共からライセンスたもの。中国ではライセンシーのInnovent Biologicsが24年12月に承認を取得した。

    リンク: FDAのプレスリリース


    MSD、RSV予防薬が承認
    (2025年6月9日発表)

    MSDはFDAがEnflonsia(clesrovimab-cfor、開発コードMK-1654)をRSウイルス(RSV)による下部気道感染症の予防薬として承認したと発表した。アストラゼネカが開発しサノフィが販売しているBeyfortus(nirsevimab)と同様な抗RSV-F蛋白抗体だが、結合部位が異なるようだ。適応になるのは最初のRSVシーズンを迎える新生児と乳幼児。105mgを一回、筋注する。第3相試験で投与後150日間の発症リスクが偽薬比60%小さく、RSV関連入院リスクは84%小さかった。

    Beyfortusは2回目のRSVシーズンを迎える幼児でも、早産児や心臓や肺の慢性疾患などを持ちRSV感染時に重症化するリスクがあれば用いることができる。MSDが初年度に絞ったのは、2年目の需要は小さいと考えたのだろうか?

    Enflonsiaは6月25~27日のACIP(米疾病管理予防センターのワクチン接種諮問委員会)に上程される模様。委員が総入れ替えになり、ワクチンに必ずしも前向きでない現政権下で、どのような人選、どのような議論が行われるのか、心配だ。

    リンク: MSDのプレスリリース


    FDA、胃癌や食道癌における抗PD-1抗体の適応範囲を見直し
    (2025年5月22-23日)

    FDAは、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とMSDのKeytruda(pembrolizumab)の胃癌や食道癌における一部の適応範囲を見直し、PD-L1陽性のみに限定した。大盤振る舞い感があったが合理的な線に落ち着いた。

    Opdivoは、まず、21年4月に加速承認された、進行/転移性の胃癌、胃食道接合部癌、食道腺腫における化学療法併用一次治療。エビデンスであるCheckMate-649試験の後顧的解析でPD-L1発現検査の指標の一つであるCPSが1未満のサブグループにおける全生存期間のハザードレシオが0.85となり、統計的に有意ではなかった。1以上のサブグループでは0.77で有意だった。

    この試験は元々、サブグループ分析の閾値を1ではなく5としている。EUは21年10月に適応拡大を認めたが、対象はCPS≧5に限定された。日本はPD-L1限定していないが、添付文書記載のサブグループデータを見ると5未満の患者に有効であるようには感じられない(但し、FDAが用いたデータは若干異なっている)。

    次に、切除不能進行/難治/転移性の食道扁平上皮腫における化学療法またはYervoy(ipilimumab)併用一次治療。PD-L1陽性に限定された。CheckMate-648試験の後顧的解析で化学療法併用群の全生存期間のハザードレシオがCPSが1未満のサブグループでは0.98、1以上では0.69となり、Yervoy併用群対化学療法群の比較でも、各1.0と0.76で対照的だったため。

    EUは22年にPD-L1陽性に限定して承認している。日本は限定していないが添付文書に載っているデータを見れば陰性に有効とは感じられない。

    Keytrudaも概ね同様な適応縮小が行われた。her2陰性の局所進行切除不能/転移性胃・胃食道接合部腺腫における化学療法併用一次治療はPD-L1陽性(CPS≧1)のみに限定。EUは23年にCPS≧1限定で承認。日本は限定していないがサブグループ・データを見れば有望とは思わないだろう。

    転移/局所進行・化学放射線療法不適な食道・胃食道接合部腫瘍における化学療法併用一次治療も陽性(CPS≧1)に限定。EUは21年にCPS≧10に限定して承認、日本は限定しておらず、サブグループ・データが記されていないのでCPS10未満における有効性を知ることができない。エビデンスであるKeyNote-590試験における全被験者の全生存期間ハザードレシオは0.73だが、米国のレーベルによると、CPS≧10のサブグループでは0.62(95%信頼区間0.49-0.78)、10未満の後顧的解析では0.86(同0.68-1.10)と明暗が分かれた。FDAが独自解析したCPS≧1サブグループでは0.71(0.59-0.84)だった。1未満の数値は掲載されていないが、昨年9月の腫瘍学薬諮問委員会でFDAが示したデータは1.00だった。

    FDAがなぜ閾値を1にしたのか明らかではないが、おそらく、Opdivoや、上記諮問委員会で議論され今年3月に承認されたBeone(百済神州)の抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab-jsgr)と平仄を合わせたのだろう。

    リンク: FDAのBMS宛て変更承認通知(5/23付)
    リンク: 同、MSD宛て変更承認通知(5/22付)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
    諮問委員会
    25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)



    今週は以上です。

    2025年6月7日

    第1210回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 抗APRIL抗体のIgA試験成績 
    • TACI-Igが遂に実用化なるか 
    • ノバルティス、放射性医薬品のmHSPC試験が成功 
    • ASCO:コセルゴが成人患者試験も成功 
    • ASCO:タグリッソの摘出術前投与試験が成功 
    • ASCO:PARP阻害剤・CYP17阻害剤合剤のHRR-mCSPC試験が成功 
    • ASCO:GSK-3beta阻害剤の第2相データ 
    • ASCO:バイエルの内分泌療法誘導性VMS試験が成功 
    • ASCO:オプジーボの頭頚部癌術後アジュバント試験が成功 
    • ASCO:イムデトラの小細胞肺癌二次治療試験が成功 
    • ASCO:エンハーツの一次治療試験が成功 
    • ASCO:テセントリクのdMMR結腸癌術後付随療法試験が成功 
    • ASCO:アストラゼネカの二剤が試験成功 
    • KMT2A阻害剤をNPM1変異AMLに承認申請 
    • リブタヨを皮膚扁平上皮腫の術後アジュバントに適応拡大申請 
    • バイエル、her2/1阻害剤の承認申請が受理 
    • 欧州でマイクロバイオーム療法薬を承認申請 
    • ニュベクオがmHSPCに承認 
    • PRAC、セマグリチドの眼疾患リスクを認定、水痘ワクチンの検討を開始 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    抗APRIL抗体のIgA試験成績
    (2025年6月6日発表)

    18年に大塚製薬の子会社になったVisterra社は、3月に米国でVIS649(sibeprenlimab)を成人のIgA腎症用薬として承認申請したが、第3相試験成績がERS(欧州腎臓学会)で公表された。ACE阻害剤を単剤またはSGLT阻害剤とともに服用している成人患者510人に400mgまたは偽薬を4週毎皮下注したVISIONARY試験の中間解析で、9ヶ月後の24時間UPCR(尿蛋白クレアチニン比)がベースライン値(メジアン1.2g/g)から50.2%低下、2.1%上昇した偽薬群を有意に上回る効果を示した。

    治療時発現有害事象はCOVID-19など感染症が増加し、高血圧や末梢浮腫は偽薬群より少なかった。深刻なものの発生率は5.4%で偽薬群の3.9%と比べ増加しなかった。

    当試験は24ヶ月のeGFR変化を検証するため続行中。他のIgA腎症用新薬と同様に、UPCRで加速承認を取得しeGFRで本承認に切替える方針なのだろう。

    IgA腎症は糖鎖欠損のあるIGA1が産生されるのがきっかけで自己抗体が生成され、腎機能に悪影響を齎す。本薬はIgA、特に糖鎖欠損IGG1の産生に関わるAPRIL(A PRoliferation Inducing Ligand)に結合する抗体医薬。アジアの患者が7割を占めた第2相ENVISION試験では12ヶ月後のUPCRが用量依存的に下した。この時は静注したが、薬物動態的/薬力学的に400mg皮下注と同程度とされる4mg/kg群は59%低下、偽薬群は20%低下だった。今回のデータはだいぶ上向いたことになる。

    リンク: 大塚製薬のプレスリリース(和文)


    TACI-Igが遂に実用化なるか
    (2025年6月2日発表)

    米国カリフォルニア州の新興医薬品開発会社、Vera Therapeutics(Nasdaq:VERA)は、ataciceptが第3相ORIGIN 3試験で主目的を達成したと発表した。FDAと相談し25年第4四半期に承認申請する考え。

    ataciceptはB細胞のBLySやAPRILの受容体であるTACIのFvドメインとIgG1のFcドメインの融合蛋白。2001年にスイスのセロノがZymoGeneticsから開発権を取得し自己免疫疾患用途で開発したが、前者はメルクに買収され、後者はBMSに買収される変遷を経ても成果が上がらず、2020年にVera社に導出したもの。

    同社は後期第2相のORIGIN試験でIgA腎症における蛋白尿改善作用を確認、今回の第3相に進んだ。成人患者431人を偽薬群と150mg週一回自己皮下注群に無作為化割付けして第36週における24時間UPCR(尿蛋白クレアチニン比)の変化を調べたところ、試験薬群は46%低下し、偽薬調整後でも42%低下した。安全性は両群大差なかった。

    24ヶ月追跡してeGFR(推算糸球体濾過量)の悪化を抑制する効果を確認する予定。IgA腎症における先行他社と同じで、UPCRに基づき加速承認を取得しeGFRで本承認に切替えることになるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ノバルティス、放射性医薬品のmHSPC試験が成功
    (2025年6月2日発表)

    ノバルティスはPluvicto(Lu 177 vipivotide tetraxetan)が第3相PSMAddition試験の中間解析で主目的を達成したと発表した。データは今後、発表する。FDAと相談の上、今期下期に適応拡大申請する考え。

    PSMA結合ライガンドとDOTAキレーターのLu 177を結合した放射線医薬品。ドイツの癌研究所DKFZとハイデルベルグ大学病院が共同開発、ノバルティスは18年にEndocyte社を買収して入手した。22年に米欧で、アンドロゲン受容体回路阻害剤(ARPI)及びタクサン・ベース化学療法歴のあるPSMA陽性転移CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)に単剤投与する適応用法で承認された。

    今回の試験もPSMA陽性癌が対象だが、転移はしたもののホルモン療法はフェールしていないmHSPCを組入れて、標準療法(ARPIとアンドロゲン枯渇療法の併用)に追加する便益を検討したもの。主目的のrPFS(放射線学的無進行生存期間)の統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を達成した。副次的評価項目の全生存期間はトレンドに留まっている様子だ(偽薬群の被験者は進行後にPSA値が著増していたらPluvictoが適応になるので、クロスオーバーも多かっただろう)。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ASCO:コセルゴが成人患者試験も成功
    (2025年6月2日発表)

    アストラゼネカのMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)を神経線維腫1型(NF1)の成人における症候性切除不能叢状神経線維腫病(PN)の治療に当てた第3相KOMET試験の成績がASCO(米国臨床腫瘍学会)とLancet誌で発表された。

    145人を偽薬と試験薬に無作為化割付けしてcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)を比較したところ、各群5%と20%となり、p=0.011だった。同社は2月に欧日で適応拡大申請したことを明らかにしている。

    NF1は3000~4000人に一人の常染色体性優性遺伝性疾患。ニューロフィブロミンの遺伝子変異によりras~PI3K/AKT経路を抑制できない。小児発症だが患者数は成人が7割と多い。本薬は20~22年に米欧日で2歳以上(欧日では3歳以上)の小児患者向けに承認されている。

    リンク: Chenらの治験論文抄録(Lancet)


    ASCO:タグリッソの摘出術前投与試験が成功
    (2025年6月2日発表)

    アストラゼネカのEGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib)が第3相NeoADAURA試験で主目的を達成したことがASCOとJournal of Clinical Oncology誌で発表された。EGFR変異陽性の早期非小細胞性肺癌用途では治癒的完全切除後のアジュバント療法として20~21年に米欧で適応拡大が認められたが、術前投与も有効であることがある程度明らかになった。

    ステージII/IIIBの切除可能な、EGFR遺伝子にex19欠損/ex21L858R置換のある、非扁平上皮非小細胞性肺癌358人を80mg単剤投与群、pemetrexedとcarboplatin/cisplatinによる標準療法に追加する群、標準療法に偽薬追加群に無作為化割付けして、MPR(主要病理学的反応、盲検独立中央評価)を比較したもの。単剤群は25%、併用群は26%が達成し、標準療法群の2%を有意に上回った。オーソドックスな指標であるpCR(病理学的完全反応率)は各群9%、4%、0%となった模様だ。

    一番重要な延命またはそれに準じる便益は確立していないが、目標の15%しか到達していない段階の1年EFS(無イベント生存率)は各群93%、95%、83%と、良さそうな方向を指している。多くの患者が術後に服用した(承認されているので)模様であり、術前投与の便益が表面化し難くなる面もありそうだ。

    リンク: Heらの治験論文抄録(Journal of Clinical Oncology, Just Accepted)


    ASCO:PARP阻害剤・CYP17阻害剤合剤のHRR-mCSPC試験が成功
    (2025年6月3日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ASCOで第3相AMPLITUDE試験の結果を発表した。転移去勢感受性前立腺癌の25%程度を占める、HRR(相同組換え修復)不全の患者696人を組入れて、同社のAkeegaと同じ活性成分(CYP17阻害剤abiraterone acetateとPARP1/2阻害剤niraparib)を含有する合剤をprednisone及びアンドロゲン枯渇療法と併用する便益を、niraparibを偽薬に代えたレジメンと比較したもので、rPFS(放射線学的無進行生存期間)が統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を見た。

    ハザードレシオは0.63(95%信頼区間0.49-0.80)、特にBRCA変異を持つ191人では0.52(同0.37-0.72)だった。一部報道によると、BRCA以外のHRR不全では0.8程度だったようだ。類薬であるLynparza(olaparib)の似たような試験ではPALB2に対しても高いORR(客観的反応率)を示したが、本試験ではあまり効果が見られなかった模様。

    全生存期間は中間解析で未成熟だが、HRR不全全体では0.79(同0.59-1.04)、BRCA変異サブグループでは0.75(同0.51-1.11)だった。G3/4有害事象の発生率は試験薬群が75%、対照群は59%、有害事象治験離脱率は14.7%と10.3%だった。

    Akeegaは23年に欧米で成人のBRCAに有害変異を持つ/疑われる転移去勢抵抗性前立腺癌に承認された。今回の用法が適応拡大申請され承認されれば、化学的去勢療法に応答しているが転移が見られる患者に、BRCA以外のHRR不全も含めて、用いることができるようになる。

    niraparibaは2012年にTesaroがMSDから導入、16年にヤンセン・バイオテックに前立腺癌領域における日本以外の全世界における開発商業化権を供与した。Tesaroは17年に米欧で卵巣癌用薬Zejulaとして承認を取得、19年にGSKに買収された。Zejulaは日本でも20年に承認されているが、Akeegaの開発はどうなっているのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ASCO:GSK-3beta阻害剤の第2相データ
    (2025年6月2日発表)

    Actuate Therapeutics(Nasdaq:ACTU)はASCOで第2相Actuate-1801試験パート3Bの成績を発表すると共に、FDAと承認申請に向けた道筋を相談する考え。

    未治療の転移膵管腺腫286人を、gemcitabine、nab-paclitaxel、そしてNF-k betaやDNA Damage Responseに関わるグルカゴン合成キナーゼ3ベータ(GSK-3beta)を阻害する9-ING-41(elraglusib)を投与する群とgemcitabine・nablitaxelだけの群に2対1割付けして12ヶ月生存率を比較したところ、各群44.1%と22.3%となり、メジアン生存期間は10.1ヶ月対7.2ヶ月、ハザードレシオ0.63、p=0.01だった。ORR(客観的反応率)は29%対21.8%で有意差なし、PFS(無進行生存期間)も5.6ヶ月対5.1ヶ月で有意差なし。G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症の発生率が52%対30%と増加したが、熱性のものや敗血症は両群大差なかった模様だ。

    膵癌は抗癌剤の墓場みたいになっているので注目したいが、ORRやPFSが今一つだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ASCO:バイエルの内分泌療法誘導性VMS試験が成功
    (2025年6月2日発表)

    バイエルはBAY3427080(elinzanetant)の第3相OASIS 4試験の結果をASCOで発表した。米国は参加していない模様だが、欧州などの施設で、乳癌の摘出術後内分泌療法を受け中重度VMS(血管運動神経症状)を罹患した患者474人を組入れて120mgを一日一回、経口投与した、頻度や症状などの緩和を図ったもので、第4週における頻度(ベースライン値は11)が6.5低下、偽薬群は3.0低下に留まった。第12週も各群7.8低下と4.2低下で何れに時点でも有意差があった。深刻有害事象の発生率は2.5%対0.6%。試験薬群は52週安全性追跡期間中の深刻有害事象の発生率が7.1%だった。

    GSKからスピンアウトした会社から更にスピンアウトした企業を20年に買収して入手したNK-1,3受容体拮抗剤。閉経期中重度VMS治療薬として昨年8月に米国で承認申請された。

    リンク: バイエルのプレスリリース
    リンク: Cardosoらの抄録(2025 ASCO #508)


    ASCO:オプジーボの頭頚部癌術後アジュバント試験が成功

    フランスの頭頚部放射線腫瘍学共同治験グループ、GORTECは、NIVOPOSTOP/GORTEC 2018-01試験の結果をASCOで発表した。フランスの施設で局所進行頭頚部扁平上皮腫の切除術を受けた高リスク患者680人を組入れて、放射線療法とcisplatinによるアジュバント療法に抗PD-1抗体nivolumabを追加する便益を検討したオープン・レーベル試験で、3年DFS(無病生存期間)が63.1%と追加しなかった群の52.5%を上回り、ハザードレシオは0.76、p=0.034だった。PD-L1発現を問わず便益が見られた。

    p値がそれほどでもないので全生存期間が注目される。3年生存率は74.2%対67.8%で良さそうだが未成熟。

    BMSのOpdivoの試験とみられるが同社からはプレスリリースが出ていない。ClinicalTrials.govにはGORTECがFDAが規制する薬品の試験ではないと登録しているので、シミラーの試験なのかもしれない。

    類似した試験ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)がKeyNote-689試験の中間解析でEFS(無イベント生存期間)を達成、日本では3月に適応拡大申請されたので欧米でも申請済みだろう。

    リンク: Bourhisらの抄録(2025 ASCO LBA#2)


    ASCO:イムデトラの小細胞肺癌二次治療試験が成功
    (2025年6月2日発表)

    アムジェンはDLL3とCD3に結合するBiTE抗体、Imdelltra(tarlatamab-dll)の第3相DeLLphi-304試験の結果をASCOで発表した。白金薬による一次治療中またはその後に進行した小細胞性肺癌を対象に、全生存期間を標準療法(日本はamrubicin、他の地域はtopotecanなど)と比較したもので、中間解析で成功したことが4月に公表済み。

    ハザードレシオは0.60、メジアン生存期間は13.6ヶ月対8.3ヶ月。抗PD-(L)1薬による治療歴の有無は影響が見られなかった。G3以上の治療関連有害事象が各群27%と62%の患者で発生した。二重特性抗体のボトルネックであるG3CRS(サイトカイン放出症候群)の発生率は1%、ICANS(免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群)はG3/4はゼロだがG5が1例(0.4%)で発生した。

    Imdelltraは今回と似たような適応で24年に米国(加速承認)と日本で承認された。米国は今回の成功で本承認切替の道筋が立つ。米国のレーベルによるとは1回目と2回目の投与時は1時間点滴後に21~23時間モニターする必要があり、患者には、適切な医療施設に47時間滞在することを推奨している。今回の試験では、CRSのリスクや重症度は48時間モニターした209人でも、6-8時間のみの43人でも、大差なかったとのことなので、負担緩和申請する考えなのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ASCO:エンハーツの一次治療試験が成功
    (2025年6月2日発表)

    第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、4月に第3相DESTINY-Breast09試験の成功を公表したが、データをASCOで発表した。her2陽性(IHC3+またはISH+)の進行/転移乳癌の一次治療における抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)単剤、そしてEnhertu・pertuzumab(ロシュの抗2C4抗体Perjeta)併用の便益を、taxane、trastuzumab、pertuzumabの三剤併用群と比較したもので、中間解析でEnhertu・pertuzumab併用群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン40.7ヶ月と対照群の26.9ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.56だった。

    全生存期間の解析は進捗16%と未成熟だが、ハザードレシオ0.84(95%信頼区間0.59-1.19)と、PFSと比べて物足りない水準にある。Enhertuのボトルネックである間質性肺疾患や肺臓炎はG3やG4はなかったが、2人(0.5%)が死去した。

    Emhertu単剤投与群の解析は未だ成熟しておらず、継続追跡される。併用群の次の全生存期間解析も見てみたいものだ。

    リンク: 両社のプレスリリース


    ASCO:テセントリクのdMMR結腸癌術後付随療法試験が成功
    (2025年6月1日発表)

    北米の癌共同治験グループ、Alliance for Clinical Trials in Oncologは、ASCOで、第3相ATOMIC試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。

    この試験は、dMMR(ミスマッチ修復不全)のあるステージIIIの結腸腺腫を切除した712人を組入れて、切除後アジュバント療法であるmFOLFOX6(oxaliplatin、leucovorin、fluorouracilの併用レジメン、12サイクル)に抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、25サイクル)を追加する便益を検討した。主目的のDFS(無病生存期間)は3年DFS率が86.4%とmFOLFOX6だけの群の76.6%を上回り、ハザードレシオは0.50、p<0.0001(アルファの割当は0.009)だった。サブグループ分析も一貫的な結果になった。G3以上の有害事象発生率は各群71.7%と62.1%だった。

    NIH(米国立衛生研究所)のスポンサード(トランプ政権で存続の危機にある)で行われたものだが、同じく資金援助したジェネンテック側からは特にリリースは出ていないようだ。何か瑕疵があるのだろうか?

    リンク: Alliance for Clinical Trials in Oncologyのプレスリリース(EurekAlert!)
    リンク: Sinicropeらの抄録(ASCO 2025 LBA1)


    ASCO:アストラゼネカの二剤が試験成功
    (2025年6月1日発表)

    アストラゼネカは、ASCOで抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)とAZD9833(camizestrant)の日本も参加した第3相試験の成功を発表した。Imfinziは適応拡大申請されるのではないか。

    Imfinziの第3相MATTERHORN試験は、ステージII/III/IVAの胃・胃食道接合部癌患者948人を組入れて、切除術前術後化学療法であるFLOT(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatin、docetaxelの併用、術前と術後に2サイクルずつ施行)にImfinzi(術前2回、術後12回投与)を追加する便益を検討した。3月に中間解析で主評価項目のEFS(無イベント生存率、盲検独立中央評価)が偽薬を追加した群と比べて有意かつ臨床的に意味のある改善を示したことだけ公表されている。

    ハザードレシオは0.71、p<0.001(アルファの割り当ては0.0239)、メジアン値は未達(偽薬追加群は32.8ヶ月)。サブグループ分析も一貫した結果になった由。副次的評価項目の全生存期間は未だ目標の34%にしか到達していないが、ハザードレシオは0.78(95%信頼区間0.62~0.97)、p=0.025(アルファの割当ては0.0001)と、良さそうな数値になっている。最終解析に向けて継続追跡する。

    G3/4有害事象の発生率は71.6%で偽薬追加群の71.2%と大差なかった。

    リンク: 同社のプレスリリース(MATTERHORN試験)


    AZD9833は新開発の次世代経口選択的エストロゲン零落剤(SERD)。複数の第3相試験が進行中だが、SERENA-6試験が最初に開票した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の転移乳癌で、アロマターゼ阻害剤とCKD4-6阻害剤による一次治療を受け進行が抑制されているが、定期的ctDNA検査(血液中に含まれる腫瘍関連DNAを測定)でESR1変異が検出された315人を組入れて、アロマターゼ阻害剤からAZD9833にスイッチする便益をしない群と比較した。2月に統計的有意かつ臨床的に意味のある差があったことだけ公表されている。

    主目的であるPFS(無進行生存期間、治験医評価)はハザードレシオが0.44、メジアン値は各群16.0ヶ月と9.2ヶ月だった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟。G3以上の有害事象の発生率は各群60%と46%で、白血球減少症やリンパ球減少症などが増加した。

    プレスリリースは承認申請予定の有無には触れていない。全生存期間の解析を待たずに申請するなら盲検独立中央評価も行うのではないかと思われるが、どうだろうか。

    それはそれとして、腫瘍標本を採る必要がないctDNA検査で進行再発のリスクをいち早く察知する手法は面白い。

    同薬は、一次治療にCDK4/6阻害剤palbociclibと併用する第3相SERENA-4試験も来年後半に開票する見込み。

    リンク: 同(SERENA-6試験)

    【承認申請】


    KMT2A阻害剤をNPM1変異AMLに承認申請
    (2025年6月2日発表)

    米国のKura Oncology(Nasdaq:KURA)と開発販売パートナーの協和キリンは、2月に目的達成を公表したKO-539(ziftomenib)のKOMET-001試験の成績をASCOで発表すると共に、その前日、FDAが承認申請を受理し、優先審査し、審査期限は11月30日に決まったことを明らかにした。

    ziftomenibは選択的経口menin KMT2A阻害剤。成人の治療歴のある難治/再発NPM1変異急性骨髄性白血病細胞92人を組入れて単剤投与したコフォートで、21人(23%)がCR(完全寛解)/CRh(血球数の回復以外は完全寛解)となった。メジアン完解持続期間は3.7ヶ月と血液癌なので短い。骨髄抑制の発生率はそれほど高くなく、QTc延長は見られなかった。

    リンク: 両社のプレスリリース


    リブタヨを皮膚扁平上皮腫の術後アジュバントに適応拡大申請
    (2025年5月31日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は抗PD-1抗体Libtayo(cemiplimab-rwlc)の第3相C-POST試験の成績をASCOで発表すると共に、欧米で適応拡大申請したことを明らかにした。CSCC(皮膚扁平上皮腫)の摘出術と放射線療法を終えた高リスク患者415人を組入れてDFS(無病生存期間)を偽薬と比較したもので、中間解析でハザードレシオが0.32、メジアン値は未到達(偽薬群は49ヶ月)、2年DFS率は87%(同64%)だった。PD-L1発現が1%以上(309人)ではハザードレシオ0.28、1%未満(85人)では0.32(95%上限0.86)で、どちらにも便益が見られた。G3以上の有害事象発生率は24%(同14%)、有害事象による離脱は10%(同1.5%)だった。

    副次的評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.78(95%信頼区間0.39-1.56)で継続追跡する。

    Libtayoは日本ではある種の子宮癌に、欧米では更にある種の皮膚がんや肺癌にも、承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース


    バイエル、her2/1阻害剤の承認申請が受理
    (2025年5月28日発表)

    バイエルはBAY 2927088(sevabertinib)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。目標適応は、成人の全身性治療歴のあるher2活性化変異陽性進行非小細胞性肺癌。第1/2相SOHO-01試験で20mgを一日2回投与したところ、her2標的薬未治療の44人におけるORR(客観的反応率、治験医評価)が70.5%、メジアン反応持続期間は8.7ヶ月、抗her2抗体薬物複合体歴のある34人では各35.3%と9.5ヶ月だった。用量制限的治療関連有害事象は下痢。昨年8月に、日本も参加して、第3相SOHO-02試験が始まった。

    非小細胞性肺癌の2~4%でher2遺伝子にex20挿入などの変異が見られる由。

    リンク: 同社のプレスリリース


    欧州でマイクロバイオーム療法薬を承認申請
    (2025年6月2日発表)

    フランスのMaaT Pharma(Euronext:MAAT)は、Xervyteg(開発コードMaaT013)をEMA(欧州薬品庁)に胃腸症状のある急性移植片対宿主病の3次治療薬として承認申請したと発表した。承認されれば初めてのマイクロバイオーム(微生物叢)療法になる。

    独仏など欧州50施設で実施された第3相ARES試験でステロイドにもruxolitinibにも応答しなかった66人における28日胃腸総合応答率(独立評価委員会評価)が62%、うち完全反応が38%だった。全臓器応答率も54%だった。深刻な疾患だが、推定12ヶ月生存率は54%で応答者では67%、不応者では28%のみだった。感染症のリスクは高まらなかった。

    健常者由来の多様な微生物を含有する浣腸用薬。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    ニュベクオがmHSPCに承認
    (2025年6月3日発表)

    FDAはバイエルのNubeqa(darolutamide)を転移去勢感受性前立腺癌(mHSPC)に用いることを承認した。第3相ARANOTE試験でADT(アンドロゲン枯渇療法)に追加する便益を検討したところ、rPFS(放射線学的無進行生存期間)のハザードレシオが0.54、メジアン値は未到達(偽薬追加群は25ヶ月)だった。全生存期間は最終解析でも有意差が出なかったが、ハザードレシオ0.78(95%信頼区間0.58-1.05)だった。治療時発現有害事象による投与打切りが9%(偽薬追加群は6.1%)で発生した。

    Nubeqaは14年にOrion(OMX:ORNAV)からライセンスした非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニスト。19~20年に米日欧で非転移性去勢抵抗性前立腺癌に承認された。

    リンク: バイエルのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    PRAC、セマグリチドの眼疾患リスクを認定、水痘ワクチンの検討を開始
    (2025年6月6日発表)

    EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス委員会、PRACは、GLP-1作用剤semaglutideの副作用にNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)を追加するよう勧告した。CHMPの支持を得た上で、欧州委員会に添付文書改訂を勧告することになる。

    疫学研究で1万人当り一人の超過リスク(semaglutideを用いていない患者群と比べた増分)が認められた。臨床試験でも若干の増加が見られた由。治療中に突然、視力喪失や低下を経験したら速やかに医療従事者に相談する。

    GLP-1作用剤ではハーバード大学の疫学試験でもNAIONの超過リスクが見られた。更に、JAMA Ophthalmology誌に、新生血管加齢性黄斑変性のリスク倍増を示唆するカナダの疫学研究も刊行された。

    PRACは、水痘ワクチンの安全性を検討していることも発表した。GSKのVARILRIXとMSDのVARILRIXの二つの弱毒化生ワクチンは脳炎のリスクが知られているが、ポーランドで接種後に発症した小児が数日後に死亡し、政府が暫定的に流通を止めたとのこと。

    リンク: EMAのプレスリリース
    リンク: Shorらの疫学論文抄録(JAMA Ophthalmology)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
    25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
    25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
    25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)



    今週は以上です。

    2025年5月31日

    第1209回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 米連邦政府、トリ・インフルエンザ・ワクチンの開発助成を終了 
    • ASCO:ビラフトビの結腸直腸癌試験が成功 
    • 抗IL-33抗体のCOPD試験は一勝一敗に 
    • 抗PD-1xVEGF二重特異性抗体の第3相は判然としない結果に 
    • 塩違いオラペネムのcUTI試験が成功 
    • モデルナ、LP.8.1対応ワクチンを承認申請 
    • 第一三共、延命効果が確認できずher3標的ADCの承認申請を取下げ 
    • バース症候群用薬は承認されず 
    • 自己免疫性肺胞蛋白症用薬の承認申請が受理されず 
    • 新規作用機序のドライ・アイ治療薬が承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    米連邦政府、トリ・インフルエンザ・ワクチンの開発助成を終了
    (2025年5月28日発表)

    モデルナはmRNA-1018(H5トリ・インフルエンザ・ワクチン)の開発に当たって米国連邦政府から24年7月に1.76億ドルの助成金を獲得し、今年1月には更に最大5.9億ドルの助成金で合意したばかりだが、後期開発助成金とプリパンデミック・インフルエンザ・ワクチン購入権を終了するとの通知を受けた。

    この開発品は第1/2相免疫原性試験で良好な抗体誘導能や安全性を示した由であり、同社は代替的な開発手段を検討する考え。実用化しても流行しなければ需要が発生しないし、流行したとしてもウイルス型がプロトタイプで採用したRNAと適合するか分からない高リスクプロジェクトなので、米国が駄目なら他の国や機関と交渉することになるのではないか。

    HHS(米国連邦保健福祉省)長官のRobert F. Kennedy Jr.は予てより、一部のワクチンの安全性に懸念を表明しており、COVID-19大流行期には同社のmRNAワクチンを始めとするCOVID-19ワクチンにも否定的な見解を示していた。トリ・インフルエンザは鳥では散発的な集団感染が見られるがヒト感染例は限られていることなども考慮したのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【新薬開発】


    ASCO:ビラフトビの結腸直腸癌試験が成功
    (2025年5月30日発表)

    ファイザーはASCO(米国臨床腫瘍学会)でBraftovi(encorafenib)の第3相BREAKWATER試験の生存期間解析結果を発表した。米国では本試験の反応率データに基づき24年12月に加速承認されているが、本承認切替や、他地域での適応拡大申請が進められるだろう。

    BraftoviはBRAF阻害剤。MEK阻害剤Mektovi(binimetinib)併用でBRAF-V600E/K置換のある切除不能/転移性黒色腫などに米欧日で承認されている。

    今回の試験は、BRAF-V600E置換のある転移結腸直腸癌の一次治療を受ける患者を組入れて、300mg一日一回経口投与をcetuximab及びmFOLFOX6と併用するレジメンを標準的化学療法と比較した。今年2月に統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善が見られた旨だけ公表済み。主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザードレシオが0.53、メジアン値は12.8ヶ月と標準療法群の7.1ヶ月を上回った。副次的評価項目の全生存期間も中間解析のハザードレシオが0.49で有意、メジアン値は各30.3ヶ月と15.1ヶ月だった。

    リンク: ファイザーのプレスリリース
    リンク: Elezらの治験論文抄録(NEJM)


    抗IL-33抗体のCOPD試験は一勝一敗に
    (2025年5月30日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、REGN3500/SAR440340(itepekimab)の第3相COPD試験が一本は成功、もう一本はフェールしたことを明らかにした。当局と今後を相談する考え。

    この試験は10箱年以上の喫煙歴を持つが禁煙して6ヶ月以上経つ、2~3剤併用治療を受けている中重度COPD患者を偽薬群、試験薬4週毎皮下注群、2週毎皮下注群に無作為化割付けして52週間投与し、COPDの中重度急性増悪の頻度を比較した。AERIFY-1試験では4週毎皮下注群のリスク削減率が21%、2週毎群は27%となりどちらも有意だったが、AERIFY-2試験は各群12%と2%に留まった。有害事象の発生率はどちらも各群70%前後で大きな差はなかった。

    敗因は明らかではない。この試験はCOVID-19のパンデミック期と重なっており、そのせいか増悪発生率が前提より低く検出力が低下した由。治験登録を見るとこの二本の試験は米国以外の参加国の顔ぶれが異なっており、例えば中国はAERIFY-1に参加したが日本は2だった。

    ClinicalTrials.govによると、第2相試験では600mgを2週毎に投与したところ、COPDの中重度急性増悪が年率1.30と偽薬群の1.61を下回り、リスク比は0.808、p=0.1296だった。こちらは喫煙者と禁煙者をほぼ半々で組入れており、禁煙者サブグループのデータは記されていない。第2相成績が良好なら第3相が一勝一敗でも希望が残るが、承認取得は難しいのではないか。

    リンク: 両社のプレスリリース


    抗PD-1xVEGF二重特異性抗体の第3相は判然としない結果に
    (2025年5月30日発表)

    米国マイアミの医薬品開発会社、Summit Therapeutics(Nasdaq:SMMT)は、ivonescimabが第3相HARMONi試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を達成したが共同主評価項目である全生存期間の中間解析はトレンドに留まったと発表した。当局と相談する考えだが、FDAは全生存期間の有意な改善を求めている由であり、データが熟すのを待つ必要があるのではないか。

    中国のAkeso(康方生物、HKEX:9926.HK)からライセンスしたPD-1とVEGFに結合するアームを二つずつ持つ二重特異性抗体で、両方が存在する環境では親和性が増強される。中国だけで実施された類似したデザインのHARMONi-A試験に基づき、昨年5月に中国で承認された。Summitは欧米日本などの権利を保有している。

    HARMONi試験は欧米アジアなどの施設で第3世代EGFRチロシン・キナーゼ阻害剤による治療後に進行したEGFR変異局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌を組入れて、pemetrexedとcarboplatinの併用レジメンに加えて偽薬または試験薬を3週毎点滴静注し、転帰を比較した。PFSのハザードレシオは0.52、p<0.00001と大変良好な結果になり、アジア地域でも、被験者の38%を占める非アジア地域でも、臨床的に意味のある改善が見られた。

    全生存期間も点推定値は0.79と良好だがp=0.057だった。アジア地域でも北米でも改善のトレンドが見られた。西側地域の患者のメジアン追跡期間はメジアン生存期間より短い。ということは、今後、死亡者が増加するにつれて、有意水準に達する可能性もある。

    G3以上の治療時発現有害事象は56.9%(偽薬追加群は50.0%)、致死的なものは1.8%(同2.8%)で発生した。

    リンク: Summit社のプレスリリース


    塩違いオラペネムのcUTI試験が成功
    (2025年5月28日発表)

    GSKとSpero Therapeutics(Nasdaq:SPRO)は、SPR994(tebipenem pivoxil hydrobromide)の第3相PIVOT-PO試験を繰上げ完了し今下期に承認申請すると発表した。複雑性尿路感染症(cUTI、腎盂腎炎を含む)で入院した成人患者1690人を組入れて、600mg6時間毎経口投与を7~10日間施行する群の総合複合反応率(治療完了の数週後において臨床的治癒且つ細菌学的駆除)をimipenem-cilastatin6時間毎静注レジメンと比較した非劣性検定試験で、iDMC(独立データ監視委員会)が中間解析で目標達成を認定し完了するよう勧告した。

    Meiji Seikaファルマの経口カルバペネム系抗菌剤、オラペネムの活性成分の異なった塩。Speroが欧米などの開発商業化権をライセンスした。uCTIの第3相ertapenem対照試験で総合複合反応率の非劣性を確認、21年に承認申請したが、エビデンス不十分として22年に審査完了通知を受領した。同社は人員削減を断行する一方でGSKと提携、再試験に進んだもの。承認されれば初の経口カルバペネムになる。

    リンク: 両社のプレスリリース

    【承認申請】


    モデルナ、LP.8.1対応ワクチンを承認申請
    (2025年5月23日発表)

    モデルナはCOVID-19ワクチンSpikevaxのLP.8.1対応版をFDAに承認申請した。トランプ政権のこれまでの動きを考えれば、新製品の承認審査を受けるよりも、24/25年シーズンと同じKP.2対応製品を販売したほうが無難なのではないかと思うが、どうだろうか。

    LP.8.1は現時点で米国の感染例の大半を占める大流行株。免疫原性試験成績を見ると、LP.8.1対応ワクチンのほうがKP.2対応ワクチンより中和抗体力価が高い。一方で、シェアが徐々に上がってきている他の変異株に対してはKP.2対応ワクチンのほうが良さそうに見える。勿論、これらの株が主流になるとは限らないが。中国などアジアで流行し始めたNB.1.8.1株にはどうなのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    第一三共、延命効果が確認できずher3標的ADCの承認申請を取下げ
    (2025年5月29日発表)

    第一三共と開発販売パートナーのMSDは、patritumab deruxtecanの米国における承認申請を取下げた。

    Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)と同じトポイソメラーゼI阻害剤をher2ではなくher3に結合する抗体とリンカーで繋げた抗体薬物複合体(ADC)。第2相試験のORR(客観的反応率)データに基づきEGFR変異を有する局所進行/転移非小細胞性肺癌の3次治療以降に加速承認申請したが、第3者製造施設における製造問題などがネックとなり、昨年6月に審査完了通知を受領していた。

    取下げを余儀なくされたのは、延命またはそれに準じる便益を立証すべき第3相HERTHENA-Lung02試験で、第3世代EGFR阻害剤による治療歴を持つEGFRエクソン19欠損又はL858R置換型局所進行/転移非小細胞性肺癌の進行を遅らせる作用が白金薬ベース化学療法より有意に高かったものの、副次的評価項目の全生存期間がフェールしたため。

    昨年9月に成功発表された段階では数値は公表されなかったが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)年次総会の抄録によれば、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオは0.77と合格圏だが、p値は0.011とそれほど低くなく、メジアン値は5.8ヶ月対5.4ヶ月で僅差だった。PFSは担当医の主観を排すため第3者が査読するのが通例になったが、担当医による一次評価で進行と認定されなかった患者は査読対象外なので過信はできない。ルーチン診断のタイミングは4~8週おきに設定されることが多いので、1ヶ月くらいの差は誤差のうちだ。

    なぜ全生存期間の解析がフェールしたのかは明らかではない。単に有意水準に達しなかっただけなのか、それともG3以上の血小板減少症や間質性肺疾患などのリスクが患者の余命や進行後の治療法の選択に影を落としたのだろうか?

    昨年9月のプレスリリースには『統計的に有意な』改善があったと記されているが、近年のバズワードである『かつ、臨床的に意味のある』は付記されなかった。数値未公表の場合は重要な手掛かりになることを示すエピソードがまた一つ増えた。

    リンク: 両社のプレスリリース
    リンク: T. Mokらの抄録(ASCO 2025 #8506)

    【承認審査・委員会】


    バース症候群用薬は承認されず
    (2025年5月29日発表)

    米国マサチューセッツ州のStealth BioTherapeuticsはelamipretideをバース症候群用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。プレス・リリースを読む限りでは前途を悲観する必要はなさそうだが、少なくともこれまでの推移は、同社が期待するようなものではなかったので、慎重に受け止めた方がよいかもしれない。

    バース症候群はX染色体上の遺伝子変異によりミトコンドリアの機能が低下、心臓疾患や敗血症などのリスクが高まる。死亡率は生後4年間が最も高い。超希少疾患で米国の患者数は150人弱、世界でも250人弱とされる。elamipretideはミトコンドリア標的ペプチド(MTP)とされ、ミトコンドリアのcardiolipinに結合し内側ミトコンドリア膜の構造を正常化することによってミトコンドリア機能を改善するとのこと。

    12歳以上の12人を組入れた第2/3相TAZPOWER試験で試験薬群(平均年齢23歳)の6分歩行テスト値がベースライン値の400mから12週後に443mに改善したが、偽薬群(同16歳)も413mから444mに改善したため有意差はなく、共同主評価項目のBTHS-SA(バース症候群症状評価、ベースライン値は7.7)も6.3対6.2と大差なかった。FDAは追加試験を推奨したが、患者数が少なく深刻な疾患でもあることから、同社は患者登録データとの自然歴対照試験を実施、Barth Syndrome Foundationも4200人超の署名を集めて援護射撃し、再申請を断行した。24年10月の諮問委員会では10対6で薬効を認める委員が若干上回ったが、FDA審査担当者が依然として懐疑的であることも明らかになった。

    当案件は波乱万丈で、21年8月の最初の承認申請は受理されなかった。二度目は受理されたが優先審査指定されず、受理の2ヶ月後に異議が認められ指定されたがPDUFA(処方薬ユーザー課金法)に基づく審査期限は変更されなかった。諮問委員会後に審査期限が3ヶ月延期され、それも締め切り落ちし、審査完了通知を受領したのは申請の16ヶ月後だった。

    審査完了通知には主因が記されているはずだが同社は公表していない。FDAは、TAZPOWER試験の副次的評価項目である膝伸筋力改善作用に基づく加速承認申請を認めた模様だが、もし同社が指摘するように6分歩行テストの改善と関連するならば、なぜ上記試験では相関しなかったのか?もし既存のデータで再承認申請できるならば何故審査完了通知となったのか?

    訂正とお詫び:過去3年間、同社に関する記事に株式ティッカー・シンボル(Nasdaq:MITO)を付記してきましたが、22年に上場廃止していました。お詫びして訂正します。

    リンク: 同社のプレスリリース


    自己免疫性肺胞蛋白症用薬の承認申請が受理されず
    (2025年5月27日発表)

    米国フィラデルフィア州のSavara(Nasdaq:SVRA)は、Molbreevi(molgramostim)を自己免疫性肺胞蛋白症(aPAP)の治療薬としてFDAに承認申請したが、受理されなかった。薬効や安全性の懸念ではなく、CMC(化学、製造、管理)面の瑕疵が原因のようだ。

    遺伝子組換え型ヒト顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(rhGM-CSF)。PARI Pharma GmbHのeFlowネブライザで吸入する。aPAPはGM-CSFに対する自己抗体が生じ顆粒球マクロファージが十分に分泌されず、肺胞におけるサーファクタントの分解・除去が進まず、呼吸不全などを合併する。日本では24年にノーベルファーマのrhGM-CSF、サルグマリン(サルグラモスチム吸入用)が承認された。

    Molbreeviは北米日韓豪欧などで実施された第3相IMPALA-2試験で24週肺拡散能が偽薬比有意に改善した。副次的評価項目の一つであるトレッドミル検査はトレンドに留まった。2019年にはIMPALA試験の成功も発表されている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    新規作用機序のドライ・アイ治療薬が承認
    (2025年5月28日発表)

    スイスのAlcon(SIX/NYSE:ALC)はFDAがTryptyr(acoltremon)をドライ・アイ疾患の治療薬として承認したと発表した。一日二回、点眼する。第3相試験二本で奏効率(第14日のシルマー試験でベースライン比10mm以上増加した患者の比率)が一本は42.6%(対照群は8.2%)、もう一本は53.2%(同14.4%)だった。

    2022年に企業価値ベース7.7億ドルで買収したAerie Pharmaceuticalsが2019年にスペインのAvizorex Pharmaを買収して入手したTRPM8アゴニスト。目の乾燥を探知し涙の分泌を促す受容体、TRPM8を作動する新規作用機序を持つ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
    25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
    25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
    25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推アッヴィのRinvoq(upadacitinib、巨細胞動脈炎追加)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7推バイオジェンのSpinraza(nusinersen、用量等追加)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)



    今週は以上です。

    2025年5月25日

    第1208回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • トランプ政権、製薬会社に最恵国薬価を要求 
    • FDA、COVID-19ワクチンで方針変更 
    • FDA諮問委員会、COVID-19ワクチン株選定に意見分かれる 
    • ASCO:大鵬ら、ex20ins変異キラーのデータ発表 
    • ApoC-IIIアンチセンス薬の中度高TG血症試験が成功 
    • 二剤併用による睡眠時無呼吸試験が成功 
    • BI、肺線維症新薬の成績発表 
    • 喘息症増悪治療用合剤の追加第3相が成功 
    • モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの申請を撤回 
    • CHMP、新規CAR-Tなどの承認を支持 
    • Susvimoが糖尿病性網膜症に適応拡大 
    • ヌーカラが好酸球性COPDに適応拡大
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    トランプ政権、製薬会社に最恵国薬価を要求
    (2025年5月20日発表)

    トランプ米国大統領は米国の医薬品が著しく高い状態を是正するために製薬会社に薬価を引き下げを求める大統領令に署名した。30日以内に目標水準を公表する。製薬会社が応じない場合は立法化に動く。貿易赤字是正のための巨大関税と同様な、最初に口先だけでぶち上げて譲歩を迫る戦略だろう。

    対象はあらゆる医薬品。目標となる最恵国薬価は、OECD加盟国のうち一人当たりGDPが米国の6割以上の国(スペインやエストニア辺りまでか)の中で最低の価格。

    内外格差の解消は米国外の薬価を上げるという方法もあるが、実現するにしても時間がかかるので、この抜け道は塞がれたと考えてもいいだろう。外国政府と異なり米国の製薬会社や子会社は司法に救済を求めることが可能なので、メディケアで課せられた特定品目の薬価引き下げと同様に、裁判で争うことになりそうだ。

    このほかに、カナダで米国より低い価格で販売されている薬の輸入販売を州政府が容認するプログラムにFDAが協力することなどを改めて発表した。

    リンク: HHS(米保険福祉省)のプレスリリース
    リンク: 大統領令(5月12日付)


    FDA、COVID-19ワクチンで方針変更
    (2025年5月20日発表)

    FDAでワクチンなど生物学的製剤を担当するCBERのヘッドに就任したV. Prasadディレクターが、MakaryFDA長官と連名で、COVID-19ワクチンの承認基準を見直す考えをNew England Journal of Medicine誌で明らかにした。まず、適応は65歳以上、または、64歳未満でも感染すると重症化リスクのある人とする。メーカーは市販後に50~64歳の重症化リスクを持たない人たちを組入れて偽薬対照試験を行う。6ヶ月児から49歳までの重症化リスクを持たない人たちを組入れてもよい。

    前日にはNovavax(Nasdaq:NVAX)のNuvaxovidがFDAに本承認された。21~22年にEU、日本、米国などで条件付き/特例/非常時使用承認された、全長融合前スパイク蛋白を抗原とするアジュバント・ワクチンで、審査期限は7週前だった。上記の通り、適応は65歳以上と12~64歳で重症化リスク因子を持つ人に限定され、リスク因子を持たない50~64歳を対象とする偽薬対照試験の実施を求められた。

    適応外になってしまう人たちの接種は今日ではそれほど多くないだろうから、需要面では大きな影響はないと推測される。Prasadらが指摘しているように、欧州などでは既に接種勧奨が高齢者または高リスクに限定されており、公衆衛生政策の大きな後退とは言えないだろう。

    流行株が大きく変遷する度に変異株対応ワクチンが開発・承認されてきたが、重症化リスク抑制効果や安全性を検討する大規模な臨床試験ではなく、免疫原性試験やあまり大規模ではない安全性確認試験しか行わないのが一般的になった。FDAが改めて偽薬対照試験を求めるのではないか、という懸念が浮上していたが、少なくとも現時点では、需要を削ぎ取るような方針転換は考えていない様子だ。

    トランプ政権はCDC(米疾病管理予防センター)の管轄縮小を考えているようだが、今回の方針転換はCDCの機能を吸収したような側面もある。本来、FDAの相手方は製薬会社で、特定の条件下での販売を許可する。CDCの相手方は米国民で、特定の条件を持つ国民に接種を勧奨する。適応/勧奨対象は同様であることもあれば、CDCのほうが少ないことも珍しくない。上記寄稿には、諸外国の事例として、米国で言えばFDAが決定する適応範囲ではなく、CDCの勧奨を掲載しており、FDA高官の問題意識がCDCの機能にまで及んでいることを示唆している。

    リンク: Prasadらの論文(NEJM, Sounding Board)
    リンク: Novavaxのプレスリリース(5/19付)


    FDA諮問委員会、COVID-19ワクチン株選定に意見分かれる
    (2025年5月22日発表)

    FDAはVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)を招集し、25/26シーズンCOVID-19ワクチンを一価JN.1系統ワクチンとする当否について意見を聞いた。9人全員が賛成したが、どのJN.1系統株とすべきかは意見が分かれた。

    米国ではLP.8.1株が席巻していて欧州でも流行株におけるシェアがトップに躍り出た。LP.8.1はJN.1の子株であるKP.1の派生で、WHOが2月にVUM(監視中の変異株)に指定した。東大医科学研究所の研究によると、感染やワクチンで取得した中和抗体に対してJN.1株より高い逃避能を有している。先般、EMA(欧州薬品庁)は25/26シーズン・ワクチンにLP.8.1ベースの抗原/mRNAを配合するよう呼びかけた。

    一方、WHOは24/25シーズンと同じJN.1またはKP.2株対応のワクチンで良しとした。代替的にLP.8.1対応ワクチンでも良い。EMAも、LP.8.1対応ワクチンが実用化されるまではJN.1/KP.2ワクチンの使用を容認している。

    誰も一点勝負しないのは、第一に、24/25シーズンのワクチンはLP.8.1にもある程度有効だからだ。モデルナが実施したマウスの免疫原性試験ではLP.8.1ワクチンより若干下回った。一方、Novavaxが実施したヒト免疫原性試験ではLP.8.1株に対する中和抗体価がJN.1やKP.2に対する数値の半分以下だった。

    面白いことに、上記とは裏腹に、ファイザーやモデルナはLP.8.1対応品の開発に、Novavaxは(抗原ワクチンで製造に時間がかかるせいか)従来のJN.1/KP.2対応品に、傾いていると報じられている。メーカーにとっても判断が難しいようだ。

    第二に、過去と同様に新株が登場しLP.8.1を凌駕するかもしれない。この数週間、米国ではLP.8.1.1とLF.7(JN.1.16から派生)の組換え体であるXFC株のシェアが急上昇していて、LP.8.1とは大差だが2位に浮上した。Novavaxが実施したマウス免疫原性試験ではLP.8.1対応ワクチンはKP.2に対する中和抗体価がJN.1ワクチンより大きく劣っていた。スペクトラムが狭い可能性があるのかもしれない。

    昨シーズンにおいても、EUが当初はJN.1ワクチンを選定したが後にKP.2ワクチンも容認するなど、二股が見られた。今年も、秋に向けて、揺り動くかもしれない。そもそも、一部の諮問委員が主張するように、COVID-19の季節性は明確ではないので、もっと早く選定・生産開始したほうが良いのかもしれない。

    注目されるのは、ファイザーやモデルナの対応だ。折しも25/26年シーズンの配合株が検討される時期だが、もしFDAがEMAと同様にLP.8.1株を選定した場合、承認申請が必要になるため適応が従来より縮小されたり市販後試験の実施を求められたりするだろう。現行のKP.2株ベースのワクチンでも取り敢えずは支障がないのだから、LP.8.1株対応ワクチンの開発を後回しにする可能性がないとは言えないだろう。

    リンク: モデルナのプレゼン資料(25/5/22VRBPAC)
    リンク: Novavaxのプレゼン資料(同)

    【新薬開発】


    ASCO:大鵬ら、ex20ins変異キラーのデータ発表
    (2025年5月22日発表)

    Cullinan Therapeutics(Nasdaq:CGEM)と大鵬薬品は、今年1月、CLN-081/TAS6417(zipalertinib)が第1/2相試験の後期第2相ポーションで良好な成績を上げ25年下期に加速承認申請する考えであることを明らかにしたが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)でデータを発表する。

    EGFRのex20挿入変異を標的とするチロシン・キナーゼ阻害剤。野生EGFRは阻害しない。今回のREZILIENT1試験後期第2相ポーションは、当該変異を持ち治療歴のある非小細胞性肺癌を組入れて、100mgを一日二回経口投与した。メジアンで2前治療歴を持つ176人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)は35%、メジアン反応持続期間は8.8ヶ月だった。このうち、白金薬歴のみの125人では各40%、8.8ヶ月、脳転移歴のある68人では31%、8.3ヶ月だった。治療関連有害事象は爪囲炎やラッシュなど。

    両社は米国で共同開発、米中以外は大鵬が販売する。中国はZai Labがライセンスした。

    リンク: 両社のプレスリリース


    ApoC-IIIアンチセンス薬の中度高TG血症試験が成功
    (2025年5月19日発表)

    アンチセンス薬の雄、Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、olezarsenが第3相中等度高TG(トリグリセライド)血症試験、Essence/TIMI 73b試験で主目的を達成したと発表した。次四半期に第3相重度TG症試験二本の結果が出るのを待って適応拡大申請する考えだが、Essence試験のデータも支持的エビデンスとして提出する予定。

    トリグリセライドの代謝を制御するapoC-IIIの発現を妨げるGalNAc結合アンチセンス・オリゴヌクレオチド。24年12月に米国でFCS(家族性カイロミクロン血症候群)用薬Tryngolzaとして承認された。今回の試験は欧米の施設でTG値が150mg/dL以上500mg/dL未満且つアテローム性心血管疾患を合併または高リスクの成人患者を偽薬、50mg、70mg群に各369人、276人、832人、無作為化割付けして月一回皮下注し、6ヶ月後のTG値の変化を比較した。メインの80mg群は偽薬修正後で61%低下、50mg群も同58%低下し、有意な低下作用が確認された。

    第3相FCS試験でも50mgと80mgをテストしたが50mg群はフェールした。一方、高TG血症では、約150人を組入れたBridge-TIMI 73a試験でも、用量間の大きな違いは見られなかった。重度高TG血症試験では一つの用量しかテストしていないようなので、至適用量が分かり難い。

    リンク: 同社のプレスリリース


    二剤併用による睡眠時無呼吸試験が成功
    (2025年5月19日発表)

    米国マサチューセッツ州の未上場医薬品開発会社、Apnimedは、AD109(aroxybutynin、atomoxetine)の第3相SynAIRgy試験で主目的を達成したと発表した。成人のOSA(閉塞性睡眠時無呼吸)患者640人を組入れて、一日一回、26週間経口投与したところ、AHI(無呼吸低呼吸指数)が55.6%低下、偽薬群と有意な差があった。症状なども改善した。第3四半期にはPAP(持続陽圧呼吸)療法に不耐/拒否のOSA患者640人を組入れた第3相LunAIRo試験の結果も出る見込みで、26年初めの承認申請を予想している。

    新開発のムスカリン受容体拮抗剤aroxybutynin(2.5mg)とADHD治療薬として承認されているノルエピネフィリン再取込阻害剤atomoxetine(75mg)を含有する固定用量合剤。未治療またはCPAP不耐のOSA患者211人を組入れた後期第2相用量変動試験、MARIPOSAでもこの用量群はAHIが47%低下し偽薬群の19%低下と有意差があった。但し、aroxybutyninの用量を5mgに増やした群は43%低下に留まり、atomoxetineだけの群も39%低下したので、aroxybutyninを追加する意義やその用量反応相関はあまり感じられなかった。

    aroxybutynin 2.5mg併用群は不眠症や排尿困難の有害事象発生率が偽薬群より増加したものの、atomoxetine単剤投与群比では10ポイント以上低く、もしかしたらatomoxetineの副作用を緩和する作用があるのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    BI、肺線維症新薬の成績発表
    (2025年月日発表)

    ベーリンガー・インゲルハイムは、優先的PDE4B阻害剤BI 1015550(nerandomilast)の第3相肺線維症試験二本の結果をATC(米国胸部学会)やNew England Journal of Medicine誌で発表するとともに、米欧中で承認申請済みであることを明らかにした。

    二本のうち、FIBRONEER-IPF試験は特発性肺線維症の患者1177人を偽薬、9mg、または18mgを一日2回経口投与する群に無作為化割付けして52週後のFVC(努力性肺活量)の変化を比較したところ、各群183.5mL、138.6mL、114.7mL低下となり、両用量群とも偽薬比有意に悪化を抑制した。有害事象では下痢が各群16%、31%、41%で発生した。深刻有害事象は各群大差なかった。

    被験者の45%は同社のOfev(nintedanib)を、32%はロシュ/ジェネンテックのEsbriet(pirfenidone)を同時使用していたが、後者のサブグループは9mg群のFVCが偽薬と大差なく、一方、下痢はそれほど増えていない。薬物相互作用があるのかもしれない。

    もう一本のFIBRONEER-ILD試験はPPF(進行性肺線維症)患者1176人を偽薬、9mg、または18mg群に無作為化割付けして52週後のFVCを比較した。各群165.8mL、84.6mL、98.6mL低下し、偽薬比有意な悪化抑制作用が見られた。有害事象は下痢が被験者の25%、30%、37%で発生した。深刻有害事象は各群同程度だった。本試験では43%がnintedanibを同時使用していた。

    承認されている2剤の第3相成績では100mL以上の治療効果が見られたが、今回は既にこれらの薬で治療を受けている患者が多かったためか、限界効用逓減の法則が当て嵌まっている。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: RicheldiらのFIBRONEER-IPF試験論文抄録(NEJM)
    リンク: MaherらのFIBRONEER-ILD試験論文(NEJM)


    喘息症増悪治療用合剤の追加第3相が成功
    (2025年5月19日発表)

    アストラゼネカはAirsupra(albuterol、budesonide)の後期第3相試験、BATURAの結果をATS/NEJM誌で発表した。低量吸入用ステロイドまたはロイコトリエン受容体拮抗剤による維持療法を受けていて増悪時はalbuterolなどの短期作用性ベータ2作用剤によるas-needed治療を受けてきた12歳以上の患者を組入れて、増悪時にこのベータ2作用剤と吸入ステロイドの合剤を併用する便益をalbuterolだけの群と比較したもので、昨年10月に中間解析で成功認定されている。主評価項目の重度増悪(全身性ステロイドによる治療、緊急治療室入室、入院、または死亡をカウント、time to event分析)のハザードレシオは0.53、各群の発生率は5.1%と9.1%となり、有意な差があった。重度増悪の発生率年率は各群0.15と0.32、率比は0.47だった。

    Airsupraは23年に米国で18歳以上の喘息症の気管支収縮の治療と予防、そして増悪リスク抑制という適応・効能で承認された。エビデンスとなる臨床試験は4~17歳も組入れたが、症例数が少ないためか、成人限定だった。今回の試験も未成年は12~17歳が70人程度組入れられただけだった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会がDarzalexの適応拡大を支持、他3剤は不支持/区々
    (2025年5月20~21日開催)

    FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、4社の4品目に関して意見を聞いた。結果は以下の通り。

  • ジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)をくすぶり型多発骨髄腫に適応拡大:賛成6人、反対2人。
  • ロシュ/ジェネンテックのColumvi(glofitamab-gxbm)をある種のリンパ腫の二次治療に適応拡大:賛成1人、反対8人。
  • UroGen社のUGN-102(mitomycin)膀胱内注入薬をある種の膀胱癌に承認:賛成4人、反対5人。
  • ファイザーのTalzenna(talazoparib)をHRR変異の無い転移去勢抵抗性前立腺癌に適応拡大:賛成ゼロ、反対8人。

  • Darzalex Fasproは皮下注用抗CD38抗体。くすぶり型多発骨髄腫はM蛋白や単クローン形質細胞が増加しているが症状はない。日本も参加した第3相AQUILA試験で高リスク患者の5年PFS(無進行生存)率が63.1%と積極的監視療法群の40.8%を上回り、5年生存率も93.0%対86.9%、ハザードレシオ0.52とこちらは有意水準には届かなかったものの良い成績を上げた。FDAは、上記試験で採用された分類方法が古く、今日の定義では過半が多発骨髄腫と分類され今日の基準に該当する患者だけの解析では十分な効果が見られなかったことや、進行例は殆どが赤血球の減少など検査値の悪化で臨床的な便益が曖昧であることに懸念を示しており、全生存解析の成熟を待つことも考えていたようだ。

    上記試験では試験薬群のG3/4治療時発現有害事象の発生率が40%と対照群の30%を上回り、死に至った症例も2%対1%で上回った。危険に見合う便益が求められる所以である。諮問委員の多数が支持したことにより承認の可能性が高まったが、過剰治療を警戒する意見もあったので、適応範囲の決定が難問として残りそうだ。

    この適応拡大は日欧でも申請中。

    リンク: JNJのプレスリリース(5/20付)

    Columviは抗CD20/CD3二重特異性抗体。一次治療歴を持つ自家幹細胞移植(ASCT)不適な難治/再発びらん性大細胞型B型リンパ腫にgemcitabineおよびoxaliplatinと併用する適応用法追加が申請された。エビデンスとなる第3相STARGLO試験(日本は不参加)でColumviに代えて抗CD20抗体rituximabを併用する群と全生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.62と良い数値が出た。

    問題は、5割を占めたアジアの施設では0.39となった一方で、他の地域では1.06、北米の施設だけだと2.62と大きな違いが見られたこと。カプラン・マイヤー・カーブを見るとアジア地域では早い段階で二群の曲線が分かれるが、他の地域では長期間、大差ない状態が続いた。再発後の治療が地域により異なる可能性があるが、PFSやORR(客観的反応率)で見ても同様な差異が見られる。アジアはASCT不適の理由が患者拒否である症例が欧米より多く、そのせいか平均年齢が若く進行リスクがそれほど高くない患者が多いなど、患者背景に大きな違いあるので、その影響かもしれない。

    実薬対照試験なのでサブグループで有意に上回らなくても同程度なら大目に見る余地があり、北米の組入れは少ないためノイズの可能性も十分ある。しかし、2.62となると大目には見れないということなのだろう。薬品業界はで臨床試験の費用負担を緩和する目的でアジアや東欧の施設での組入れを増やす傾向が見られるが、米国患者をもっと組入れよという警鐘の意味もあるのかもしれない。

    審査期限は7月20日。この適応拡大はEUでは4月に承認された。

    リンク: ロシュのプレスリリース(5/20付)

    UroGen Pharma(Nasdaq:URGN)のUGN-102(mitomycin)はアルキル化剤のハイドロゲル製剤。カテーテルで膀胱内に点滴注入するとゲル化し数時間に亘り薬剤を放出する。再発性LG-IR-NMIBC(低グレード中等度リスク筋層非浸潤膀胱癌)を組入れた第3相ENVISION単群試験で約240人に75mg(56mL)を週一回、6回投与したところ、第3月時点の完全反応率が78%となり、このうち第15月時点で79%が完全反応を維持していた。FDAは、完全反応率のデータは評価したが、対象患者の予後は区々なので反応持続期間が薬の効果なのか、それとも元々進行し難いものなのか、分からないので対照試験で確認すべきと考えているようだ。

    TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後にUGN-102でアジュバント療法を施行したATLAS対照試験でDFS(無病生存期間)がアジュバントを施行しなかった群を有意に上回ったが、財務上の理由で途中で打ち切ったために検出力不足となっていることや、TURBT後に化学療法膀胱内注入によるアジュバント療法を施行する標準療法と比較していないことから、意義があいまいと見做している(同社もTURBT後アジュバント療法では承認申請していない)。

    リンク: Urogen社のプレスリリース(5/21付)

    ファイザーのTalzenna(talazoparib)はPARP1/2阻害剤。第3相TALAPRO-2試験でmPRPC(転移去勢抵抗性前立腺癌)に同社のXtandi(enzalutamide)と併用したところ、全被験者、及び、HRRm(相同組換え修復不全)サブグループにおけるrPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)がXtandi・偽薬併用群を有意に上回り、EUでは24年に化学療法不適患者向けに承認されたが、米国は前年にHRRm向けにしか承認しなかった。同社は延命効果を確認した上でHRRm限定を解除するよう申請したが、諮問委員会は支持しなかった。

    FDAは、上記試験で全被験者やHRRmにおける全生存期間のハザードレシオが夫々0.8と0.55であったのに対して、HRRmではない、または不明の患者だけのサブグループは0.88とあまり良好でないこと、進行後の治療に偏りが見られること、類薬はolaparibもniraparibも非HRRmには便益が見られなかったこと、そもそもHRRmではない患者のほうが多いのに十分な検出力を持たせなかったのは適切でなかったことなどから、限定解除に慎重な姿勢を示していた。

    同社は5月に日本で遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌に一変申請を行ったが、HRR変異の有無は不問としている。

    リンク: MedPageTodayの記事


    モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの申請を撤回
    (2025年5月21日発表)

    モデルナはmRNA-1083を米国で承認申請していたが、一旦、撤回した。SARS-CoV-2の受容体結合ドメインとN端末ドメインをエンコードしたmRNA-1010と新開発のmRNA型インフルエンザ・ワクチンmRNA-1283を配合する混合ワクチンで、前者は単独でも承認申請され、審査期限は今月31日。後者は第3相後に改めて改良製剤の第3相IGNITE P301試験を実施、A/H3N2など4株に対する免疫原性や有害事象発生率がFluzon HD(サノフィの高用量ワクチン)を上回ったが、インフルエンザ感染症を予防する効果は確立していなかった。

    同社は50歳以上を組入れたP304試験の中間解析で予防効果を確認した上で年内に再承認申請する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    CHMP、新規CAR-Tなどの承認を支持
    (2025年5月23日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    英国のAutolus Therapeutics(Nasdaq:AUTL)が申請したAucatzyl(obecabtagene autoleucel)は難治/再発前駆B細胞性急性リンパ性白血病に用いるCD19型CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法。113人中49%が完全反応となった第2相試験に基づき条件付き承認が支持された。米国では24年11月に成人患者向けに承認されたが、CHMPは26歳以上に絞り込んだ。

    リンク: EMAのプレスリリース

    GSKのBlenrep(belantamab mafodotin)は2種類の併用レジメンで前治療歴のある難治/再発多発骨髄腫に用いることが支持された。日本では今月承認、米国の審査期限は7月23日。抗BCMA抗体と細胞毒をリンカーで結合したもので、20年に米欧で加速/条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、承認取消となっていた。

    リンク: EMAのプレスリリース

    SpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)のEzmekly(mirdametinib)は2歳以上の神経線維腫症1型(NF1)における症候性かつ切除不能な叢状神経線維腫の治療に用いる。NF1はMEKなどが関わるMAPK経路のサプレッサーとなるべき蛋白の遺伝子変異を伴う常染色体性優性遺伝性疾患。本薬はアロステリックMEK1/2阻害剤。米国では2月に承認された。同社はファイザーのスピンアウトで、4月にドイツのメルクが企業価値ベース34億ドルで買収合意した。

    リンク: EMAのプレスリリース

    ロシュのItovebi(inavolisib)は変異型PI3Kアルファ阻害剤。成人の、PIK3CA変異、ER陽性、her2陰性の、局所進行/転移乳癌で、アジュバント内分泌療法実施中または完了後12ヶ月以内に再発した患者に、palbociclib及びfulvestrantと3剤併用する。米国では昨年10月に承認された。第3相で全生存期間がメジアン34ヶ月と偽薬・palbociclib・fulvestrant併用群の27ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.67となったことが今月、発表された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    レコルダティ・レア・ディジーズのMaaplivは、分枝鎖アミノ酸を含まない各種アミノ酸の点滴用液。経口/経腸投与用製剤に不適なMSUD(メープルシロップ尿症)患者の急性非代償性増悪時に点滴投与する用途用法で、例外的環境下承認するもの。この疾患はロイシンなどの分岐鎖アミノ酸の代謝不全により様々な症状をきたす先天性代謝異常症。尿の匂いに基づいて命名された。エビデンスは5本の文献。

    リンク: EMAのプレスリリース
    リンク: メープルシロップ尿症(難病情報センターの解説)

    スペインのNeuraxpharm PharmaceuticalsのRiulvy(tegomil fumarate)はエビデンスの一部を既存薬のそれに依存するハイブリッド承認が支持された。13歳以上の再発寛解多発性硬化症に用いる。バイオジェンの多発性硬化症用薬Tecfidera(dimethyl fumarate)と同様に、monomethyl fumarateのプロドラッグ。

    リンク: EMAのプレスリリース

    一方、否定的意見となったのは、まず、ドイツの4SC(FSE:VSC)のヒストン・ジアセターゼ阻害剤Kinselby(resminostat)。全身性治療や電子線療法により安定化した進行皮膚T細胞リンパ腫の維持療法として承認申請されたが、薬効が十分に示されていないと判定された。同社は開発を中止する考え。

    リンク: 4SCのプレスリリース

    次に、FGK Representative Service GmbHが近視治療薬として申請したS01X(atropine sulfate)。初めて聞く会社で誰の依頼かも知らないが、CHMPによると臨床試験はフェールした。

    リンク: EMAのプレスリリース

    申請撤回となったのはノバルティス・グループのAdvanced Accelerator Applicationsが申請した、Lutathera(lutetium Lu 177 dotatate)の一次治療適応。17~21年に欧米日でソマトスタチン受容体陽性胃腸膵神経内分泌腫瘍用薬として承認された放射性医薬品で、オン・レーベルだがエビデンスは確立していない新患患者を対象とした第3相NETTER-2試験でPFS(無進行生存期間)がoctreotideを有意に上回った。しかし、CHMPは、延命効果がまだ確立していないため否定的な方向で考えていた。

    リンク: EMAのプレスリリース

    適応拡大で肯定的意見を得たのは以下の通り。

  • アストラゼネカのImfinzi(durvalumab):成人の筋層浸潤膀胱癌の術前・術後付随療法。米国は3月に承認、日本も申請中。
  • BeiGeneのTizveni(tislelizumab):成人のher2陰性PD-L1陽性、局所進行切除不能/転移性の胃/胃食道接合部腺腫一次治療。PD-L1陽性の定義はTAP(腫瘍域陽性)スコアで5%以上となっており、昨年12月に承認された米国におけるCPS1以上よりやや限定的。

  • 申請者側の請求により再審査が決定したのは、まず、4月に否定的意見となったCassiopea社のWinlevi(clascoterone)。 12歳以上の尋常性座瘡を治療するアンドロゲン受容体拮抗剤のクリーム製剤で、CHMPは未成年に悪影響する懸念が払拭されていないと判定していた。

    もう一件はPharmaMar(MSE:PHM)のAplidin(plitidepsin)。2016年に難治/再発多発骨髄腫用薬として承認申請されたが、メジアンPFSがdexamethasone比で1ヶ月延びるだけで延命効果は不透明であることから、2018年3月にCHMPが否定的意見をまとめた。欧州裁判所における行政訴訟や上訴審を経て、24年に欧州委員会が審査に関与した専門家の利益相反を認め、EMAに再審査を求めた。PharmaMarの再審請求手続きが完了し、今回、再審査が決定した。

    【承認】


    Susvimoが糖尿病性網膜症に適応拡大
    (2025年5月22日発表)

    ロシュはFDAがSusvimo(ranibizumab)を糖尿病性網膜症に適応拡大したと発表した。2種類以上の抗VEGF薬に応答した患者に用いる。抗VEGF抗体フラグメントLucentisのインプラント版で、数週毎にリフィルする。今回の用途では9ヶ月毎のリフィルで足りる。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ヌーカラが好酸球性COPDに適応拡大
    (2025年5月22日発表)

    GSKはFDAが抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)を成人の管理不良な好酸球性COPD(慢性閉塞性肺疾患)に適応拡大したと発表した。好酸球数の閾値が150個/mcLと低く、標準療法である三剤併用治療を受けても増悪する患者の多くに追加投与が可能になる。

    同社は17年に適応拡大申請したが、第3相試験に喘息症患者が紛れ込んだ可能性などから、諮問委員会でも19人中16人が反対し、審査完了通知を受領した。この時の申請は好中球数150mcg/L以上のサブグループ分析に依拠していたが、GSKは300個/mcL以上を対象に追加試験のMATINEEを実施、中重度増悪を偽薬比21%(率比)抑制することを確認した。COPD増悪によるER入室/入院も35%(同)少なかったが、先行解析がフェールしたため統計的に有意とは言えない。

    先例ではRegeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab)が18年に好酸球性喘息症に適応拡大したが、閾値は300個/mcLだった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
    25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
    25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
    25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推アッヴィのRinvoq(upadacitinib、巨細胞動脈炎追加)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7推バイオジェンのSpinraza(nusinersen、用量等追加)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)



    今週は以上です。