2018年6月24日

2018年6月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • サレプタ、初のR&Dデイを開催 
  • PTC、SMAパイプラインが初期試験で良績 
  • ノボ、経口GLP-1作用剤がビクトーザに勝つ 
  • 第一三共、FLT阻害剤の第三相が成功 
  • アレクシオン、第二のソリリスを承認申請 
  • オプジーボとヤーボイの併用を高TMB肺癌に承認申請 
  • FDAもキイトルーダとテセントリクの膀胱癌一次治療を制限 


【新薬開発】


サレプタ、初のR&Dデイを開催
(2018年6月19日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)が初のR&Dデイを開催した。ジストロフィン遺伝子のエクソン51をスキップする核酸医薬を開発し、特定のタイプのデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬、Exondys 51(eteplirsen)として16年に発売した会社で、別のタイプの患者向けにエクソン45やエクソン53をスキップする薬も各々第三相試験を実施中だ。

R&Dデイで印象的だったのは、遺伝子療法で実績を持つNationwide Childern's Hospitalからライセンスした、GALGT2やマイクロジストロフィンの遺伝子療法だ。まだ初期試験が始まったばかりで数例の実績しかないが、少なくとも、各々の遺伝子を発現させることとクレアチンキナーゼ値の削減はできそうだ(DMDは筋細胞疾患なので血清CK値が数万U/Lと著しく高い)。

特に印象的だったのは、マイクロジストロフィン症例のビデオだ。疾病モデル犬は顎の高さほどの柵も越えられなかったが、飛び越えられるようになった。小学校入学前後とお思しき少年は、最初のビデオでは階段を一歩ずつ慎重に上っていたが、次のビデオでは友達に付いて一緒に上がることができた。同じ子供かどうかは分からないが、広場を走っているビデオもあった。

たった一例、二例に過ぎず、ビデオだって第三者が本物であることを確認した訳ではないだろうから、妄信は禁物だが、私は目頭が熱くなった。医学者が、製薬会社が、そして私たちが望んでいるのは、このようなシーンを実現することではなかったか。

ベクターは筋細胞向性の高いアデノ随伴ウイルスrh74、プロモーターは、心臓病や肺炎で死亡する患者が多いことを考慮して、筋、心、横隔膜特異性を持つMHCK7を採用した。ジストロフィンの遺伝子は大きすぎてベクターに組み込めないため、ベッカー型筋ジストロフィー患者から発見された短いがある程度機能する変異遺伝子をヒントに、3.6kbまで短縮・最適化した。

第一相の最初のコフォートは、過去の遺伝子療法治験で抗体ができにくかったエクソン18-58に変異があるDMDの7割程度を占めるタイプの4~7歳の患者6人に投与する。次の段階は4~7歳の患者24人を組入れて偽薬対照1年クロスオーバー試験を行い、結果次第で承認申請に向かうことも考えているようだ。

近年、遺伝子療法の存在感が高まっている。承認されたのに殆ど使われない残念なケースが先行したが、筋ジストロフィーや血友病などで多くのパイプラインが臨床に上がってきたからだ。もう一つの背景は、エクソンスキップの効果が明確でないことだ。Exondys 51はFDAのナンバー2の鶴の一声で承認されたが、審査担当者やその部署のヘッドは効果の立証が足りないと考えていた。この人たちは既にFDAを去った模様だが、今度はEUのCHMPが、否定的意見を出した。他のアプローチに期待がシフトするのは自然の成り行きだろう。

リンク: Sareptaのプレスリリース

PTC、SMAパイプラインが初期試験で良績
(2018年6月16日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は、risdiplamの第2/3相脊髄性筋萎縮症(SMA)試験であるFIREFISH試験の予備的薬効解析結果を発表した。CHP-INTENDスコアが4ポイント以上改善した患者の比率が第56日時点で20人中75%、第182日時点では11人中91%となりベースライン比でメジアン14ポイント改善した。

risdiplamは同社がSMA財団と提携・開発した小分子薬で、SMN2のスプライシングに介入してsurvival motor neuronの生成を増やし、SMN遺伝子の代わりを務めさせる。経口投与可能。ロシュがライセンスしてRG7916あるいはRO7034067という開発コードで臨床開発している。FIREISH試験はI型(月齢3~7ヶ月)でSMN2を2コピー持つ患者21人を組入れて実施している。

SMAではバイジェンがIONIS社からライセンスしたSpinraza(nusinersen)が16年に米国で承認された。I型SMAを組入れた試験では、CHP-INTENDスコアの4ポイント改善達成率が第694日時点で71%、偽薬群は3%だった。ベースライン時点のスコア26.5が平均で16.9ポイント改善した。症例数や期間が異なるものの、risdiplamのデータはなかなか良いと言える。

リンク: PTCのプレスリリース

ノボ、経口GLP-1作用剤がビクトーザに勝つ
(2018年6月20日発表)

ノボ ノルディスクは長期作用性GLP-1作用剤Ozempicの活性成分をEmisphere Technologiesの技術を用いて経口錠化、二型糖尿病薬として第三相試験を行っている。今回、同社の一日一回皮注用GLP-1作用剤Victoza(liraglutide)やMSDのDPP4阻害剤Januvia(sitagliptin)との直接比較試験の成功が発表された。

FDAは血糖治療薬の薬効解析方法を変更しているが、このFDA方式ではHbA1c引き下げ作用がVictozaと非劣性、従来の方法(血糖管理が失敗しレスキューメディスンを使った場合はその段階で薬効評価を打ち切り、など)では優越性が確認された。体重減少はどちらの方法でも有意に大きかった。一方、Januvia対照試験ではどの方法でも、HbA1cでも体重でも、有意に優れていた。

経口剤なので作用が似ているDPP-4阻害剤が直接のライバルになりそうだ。GLP-1作用剤のほうが効果が高いのは周知の事実。悪心有害事象や有害事象による治験離脱が若干多いのも、残念なことではあるが、予想されたこと。Januvia対照試験では血糖管理や忍容状況に応じて用量を調節する手法が採用されており、1年後の服用量は14mgが60%、半分の7mgが31%、3mgが9%だった。

リンク: ノボのプレスリリース

第一三共、FLT3阻害剤の第三相が成功
(2018年6月18日発表)

第一三共は、AC220(quizartinib)の第三相試験成功をEHA欧州血液学会で発表した。FLT3を阻害する経口剤で、FLT3遺伝子内縦列重複変異のある再発性難治性急性骨髄性白血病を組入れて低量cytarabineなど化学療法と全生存期間を比較したところ、メジアン6.2ヶ月対4.7ヶ月となり、ハザードレシオは0.76(95%信頼区間0.58-0.98)、1年生存率は27%対20で上回った。承認申請する見込み。

この変異は急性骨髄性白血病の3割程度で見られる。類薬ではノバルティスのRydapt(midostaurin)が一次治療薬として昨年、欧米で承認され、アステラスのASP2215(gilteritinib)が今年、再発治療で承認申請された。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)


【承認申請】


アレクシオン、第二のソリリスを承認申請
(2018年6月19日発表)

カナダのアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、ALXN1210をPNH(発作性夜間血色素尿症)治療薬として米国で承認申請した。優先審査バウチャーを使ったとのこと。欧州は年央に、日本は下半期に、承認申請する考え。

同社は補体系のC5を標的とする抗体医薬、Soliris(eculizumab、和名ソリリス)をPNH治療薬として販売している。ALXN1210の長所は半減期が長く静注点滴頻度が8週間に一回と、Solirisの二週毎より少ないこと。初めて治療を受ける患者を組入れた直接比較試験では、効果が非劣性だった。Solirisは発売から10年経つため特許切れ対策という意味合いもありそうだ。

リンク: アレクシオンのプレスリリース

オプジーボとヤーボイの併用を高TMB肺癌に承認申請
(2018年6月21日発表)

BMSは、高TMB(Tumor Mutation Burden)の転移性非小細胞性肺癌の一次治療薬としてOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用する適応拡大申請を米国で行い、受理されたと発表した。標準審査の模様で、審査期限は19年2月20日。欧州でも5月に申請受理されている。

TMBは腫瘍における遺伝子変異の頻度を示しており、変異が多いほど変な蛋白が多く生成されるので免疫療法の応答予測因子として使える可能性がある。今回の適応では塩基1メガ当り10以上の変異を高TMBとした。転移性非小細胞性肺癌の40~45%が該当する模様。適応拡大のエビデンスとなるのはCheckMate-227試験。化学療法群と比べて、PFSのハザードレシオが0.58、統計的に有意だった。全生存の解析はハザードレシオ0.79、95%信頼区間0.56~1.10と、まだ有意差は出ていない。

この試験は複雑で、今回の解析はもともと主評価項目ではなかった。Opdivoのモノセラピーで行われた一次治療CheckMate-026試験では、高TMB(243ヶ所以上が変異)のPFSで有意差が出たが
全生存期間は化学療法と大差なかった。そのせいか、227試験の全生存期間の解析はPD-L1陽性という異なったユニバースに対して行われる。

リンク: BMSのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDAもキイトルーダとテセントリクの膀胱癌一次治療を制限
(2018年6月20日発表)

EUに続いて、FDAも、Keytruda(pembrolizumab)やTecentriq(atezolizumab)を切除不能末期/転移性尿路上皮癌の一次治療に用いる時の条件を厳格化した。但し、全ての白金薬に不適な患者なら、これまで通り、PD-1発現の有無を問わず、モノセラピーで使ってもよい。

一方、cisplatinだけに不適な患者は、Keytrudaの場合はCombined Positive Scoreが10超、TecentriqはPD-L1陽性、だけが適応になる。

どちらも白金薬レジメン歴を持つ患者の再発治療とcisplatin不適の一次治療に承認されたが、進行中の臨床試験で、cisplatin不適に関してはこれらの薬より白金薬レジメンのほうが延命効果が高い可能性が浮上した。今後は、cisplatin併用などの開発が重要になりそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年6月17日

2018年6月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • HIV/AIDSの二剤併用療法、第三相が成功 
  • アミロイド仮説がまたまたフェール 
  • ガーダシル9の対象年齢拡大申請 
  • 非営利団体の熱帯病治療薬がFDAに承認 
  • MSD、キイトルーダの二つの適応拡大が承認 
  • ロシュ、アバスチンが術後付随療法に承認 


【新薬開発】


HIV/AIDSの二剤併用療法、第三相が成功
(2018年6月14日発表)

ヴィーブヘルスケアは、HIV/AIDS患者の最初の抗ウイルス療法としてdolutegravirとlamivudineの二剤だけを用いた第三相試験が二本とも成功したと発表した。年内に承認申請する考え。

HIV/AIDSの治療は複数の核酸系逆転写阻害剤とそれ以外の作用機序の抗ウイルス剤を併用する、HAART(highly active anti-retroviral therapy)が主流だ。多剤併用はピルバーデンが重いが、プロテアーゼ阻害剤以外では、3~4種類の薬剤の合剤が実用化され、一日1~2回、1錠/1カプセルずつ服用するだけで足りるようになった。

核酸系逆転写阻害剤は耐性ウイルスが選択されるのを防ぐため複数併用するのが常識だが、ヴィーブは二剤併用療法の開発に相次いで成功した。最初がインテグラーゼ阻害剤dolutegravirとジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤であるrilpivirineを配合したJuluca。17年に米国で、今年5月にはEUでも、HAARTが奏功しウイルス抑制に成功した患者の維持療法として承認された。

第二弾が今回のdolutegravirとlamivudine。第三相試験では対照群に設定されたdolutegravirとギリアドの核酸系逆転写阻害剤であるemtricitabineおよびtenofovir disoproxil fumarate(TDF)の三剤併用群と比べて、奏効率が非劣性だった。二剤で済むなら忍容性の面で都合がよい。

ヴィーブはグラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーの合弁会社。dolutegravirは塩野義が創製したもの。lamivudineはグラクソ・スミスクラインが1990年代に発売した核酸系逆転写阻害剤の代表的な製品。

リンク: ヴィーブのプレスリリース

アミロイド仮説がまたまたフェール
(2018年6月12日発表)

アストラゼネカとイーライリリーは、両社が共同開発しているBACE阻害剤、lanabecestatの第三相アルツハイマー病試験三本の打ち切りを決めた。アルツハイマー病の比較的早い段階の患者を組入れた試験と軽度アルツハイマー病の試験の独立データ監視委員会が無益性を認定したため、延長試験と合わせて、繰上げ終了する。

BACE阻害剤はアミロイド・ベータの切り出しに係る酵素を阻害する。抗アミロイド・ベータ抗体と同様に、アルツハイマー病の患者の脳にアミロイド・ベータの蓄積が見られることに注目したアミロイド仮説にの産物だが、数多くのコンパウンドの第三相試験がフェールしており、信憑性は低下している。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


ガーダシル9の対象年齢拡大申請
(2018年6月13日発表)

MSDは、子宮頸がんワクチンGardasil 9の対象年齢を現在の9~26歳の男女から45歳まで拡大する申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年10月6日。

Gardasilは、将来、ヒト・パピローマ・ウイルスに感染した時の子宮頚癌や肛門癌、尖圭コンジローマのリスクを削減するワクチン。初代のGardasilは4種類、Gardasil 9は9種類のパピローマ・ウイルスをカバーする。癲癇発作に似た失神が起きることがあり、接種後は15分間様子を見る必要がある。酵母やGardasilに過敏反応する患者は禁忌。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


非営利団体の熱帯病治療薬がFDAに承認
(2018年6月13日発表)

Medicines Development for Global Health(MDGH)は、WHOの熱帯病医学特別研究訓練プログラム(TDR)と共同開発したオンコセルカ症(河川盲目症)の治療薬がFDAに承認されたと発表した。非営利団体としては初めて、熱帯病優先審査バウチャーを取得した。

この病気は黒バエが仲介して寄生虫が人体に侵入、皮膚のかゆみや結節、そして、失明に至る障害を引き起こす。今回承認されたmoxidectinは動物の寄生虫駆除剤として長年の使用歴がある。米国での承認を裏付けとして、患者が集中するアフリカ諸国で承認取得・供給することになる。

リンク: MDGHのプレスリリース

MSD、キイトルーダの二つの適応拡大が承認
(2018年6月13日発表)

MSDは、FDAがKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の二つの適応拡大を承認したと発表した。どちらも抗PD-1抗体で初。

一つはPMBCL(原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫)の成人小児の三次治療。PMBCLは米国の非ホジキン型リンパ腫の2~4%を占める。自家造血幹細胞移植を経験済み、または、不適な患者を組入れた第二相試験で、ORR(客観的反応率)が45%、完全反応は11%だった。深刻有害事象の発生率は26%、有害事象による治験離脱率は8%だった。

成人は200mg、小児は2mg/kg(上限200mg)を三週毎に点滴静注する。緊急細胞減少療法が必要な患者は禁忌。

上記試験のデータに基づきブレークスルーセラピー指定を受け、優先審査されたが当初の審査期限よりは遅れた。

もう一つは子宮頚癌の二次治療。PD-L1発現検査でCPS(Combined Positive Score)が1以上が適応になる。小規模な単群試験でORRが14.3%、完全反応は2.6%だった。尚、CPS<1ではORRはゼロだった。

KeytrudaのPD-1発現検査はこれまでの適応ではTPS(Tumor Proportion Score)が用いられてきたが、今回は腫瘍関連免疫細胞における発現状況も評価するCPSが採用された。検査キットはTPSと同じ(PD-L1 IHC 22C3 pharmDx)であるようだ。尚、EUでは白金薬不適末期転移性尿路上皮癌の一次治療に用いる場合もCPSで10以上が条件となっている。

リンク: FDAのプレスリリース(PMBCL)
リンク: MSDのプレスリリース(同)
リンク: 同(子宮頚癌承認、6/12付け)

ロシュ、アバスチンが術後付随療法に承認
(2018年6月13日発表)

ロシュは、Avastin(bevacizumab)を卵巣癌の術後付随療法に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。ステージIII/IVの患者に一次的腫瘍減量手術を行った後、carboplatinとpaclitaxelの標準的レジメンと併用し、更にモノセラピーで総計で22サイクル施行する。

承認の根拠となったGOG-0218試験では、担当医評価によるPFS(無進行生存期間)がメジアン18.2ヶ月と、carboplatin・paclitaxelだけの群の12.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62、統計的に有意だった。

リンク: ロシュのプレスリリース






今週は以上です。

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2018年6月10日

2018年6月10日


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO:MSD、キイトルーダのデータ続々 
  • ASCO:PARP阻害剤は前立腺癌にも有効? 
  • ASCO:アストラゼネカ、抗CD22ADCのデータを発表 
  • ファイザー、PARP阻害剤を承認申請 
  • ロシュ、RituxanがPVに適応拡大 
  • ジェネンテック、bcl-2阻害剤が併用療法も承認 
  • タグリッソ、EUで一次治療が承認 
  • アムジェン、プラリアがEUで適応拡大 


【新薬開発】


ASCO:MSD、キイトルーダのデータ続々
(2018年6月3日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)はBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)と激しい首位争いをしている。臨床開発はOpdivoが先行したが、Keytrudaが追い抜き抗PD-1抗体の承認第一号に。Opdivoは適応拡大を進めて年商で首位に立ったが、非小細胞性肺癌試験の成否で明暗が分かれ、Keytrudaが再び首位に立った。

BMSは同社のYervoy(ipilimumab)との併用や、Tumor Mutation Burdenという新しいバイオマーカーの適用で差別化を図っているが、非小細胞性肺癌に関しては今のところ、裏目に出てしまった。

今年のASCO臨床腫瘍学会では、Keytrudaの第三相試験の結果が続々と発表され、耳目を集めた。他のPD-1/PD-L1阻害剤のデータも数多く発表されたのだが、印象に残るデータ、忘れてはいけない研究成果はKeytruda一色に染まっている。

まず、KEYNOTE-407試験。転移性扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療試験で、carboplatinとpaclitaxel(またはnab-paclitaxel)の標準療法と更にKeytrudaを追加する三剤併用を比較したところ、主評価項目の全生存期間のハザードレシオは0.64で有意な差があった。各群のメジアン値は各11.3ヶ月と15.9ヶ月だった。

PD-L1発現と薬効の関連性はどうか?MSDが採用しているTPSが1%未満のサブグループではハザードレシオ0.61、1~49%では0.57、50%以上では0.64と何れも良い結果が出た。但し、50%以上のデータは95%上限が1.10なので有意ではない。被験者全体に占める各サブグループの比率は35%、37%、26%となっており、症例数が少ないことが影響したのかもしれない。

PFS(第三者査読後)のハザードレシオは0.56、ORR(客観的反応率)は各群38%と58%で、いずれも三剤併用群が有意に優れていた。一方、治療関連有害事象による治験離脱は12%対23%で増加。治療関連有害事象で死亡した患者は6人(2.1%)対10人(3.6%)となった。

6月3日号で取り上げたロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower131試験のデータと見比べると、どちらも主目的を達成したが、Tecentriqは少なくとも現時点では未だ全生存期間延長効果が確認されていない。中間解析におけるメジアン生存期間は14.0ヶ月で標準療法群を0.1ヶ月上回っただけであることが判明した、PFSでは有意差があったがメジアン値の群間差は1ヶ月足らずだ。オープンレーベル試験なので担当医評価に基づくPFSだけではエビデンスとしての頑強性に欠ける。データの量、質、共に、Keytrudaに軍配を上げざるを得ない。

次に、KEYNOTE-042試験は局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療においてcarboplatinとnab-paclitaxelの併用とKeytrudaのモノセラピーを比較したもの。TPSが1%以上の患者が対象で、EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応になる患者は対象外。主評価項目は全生存期間で、TPSの閾値に応じてシーケンシャルな解析が行われた。

まず、TPS≧50%サブグループでは、ハザードレシオ0.69で有意、メジアンは各12.2ヶ月対20ヶ月。このタイプに対する一次治療モノセラピーは米国では2年前に承認されているが、その根拠となった042試験のハザードレシオは0.6なので、まあまあ再現された。次に、TPS≧20%では0.77で有意、各13.0ヶ月と17.7ヶ月。最後に、intent-to-treat(TPS≧1%)は0.81で有意、各12.1ヶ月と16.7ヶ月だった。

ところが、探索的に行われたTPSが1~49%のサブグループ解析は、ハザードレシオが0.92で95%信頼区間が1を跨いでいた。042試験の成功が発表された時は対象患者数が増加すると期待したが、実現しないかもしれない。

非小細胞性肺癌の一次治療で、治験成績が一番良いのはKeytrudaと化学療法の三剤併用だ。TPSが低い患者にも有効なので、忍容できそうな患者なら第一選択、もし化学療法不適でもTPS≧50%ならKeytrudaモノセラピー、という使い分けになりそうだ。正し、EGFRやALKの活性化変異のある癌はEGFR阻害剤やALK阻害剤が第一選択。

尚、この試験における治療関連有害事象死亡は各群14人と13人で大差なかった。全割付数は1274例なので、2%強に相当する。

次に、KEYNOTE-427試験。第二相の末期腎細胞腫一次治療試験で、ORR(総合反応率)は38%。PD-L1高発現サブグループでは50%、中高リスクグループでは42%だった。末期腎細胞腫ではOpdivoがモノセラピーで二次治療に、Yervoy併用で一次治療に、承認されているが、後者のORRは41%なので、モノで38%なら悪くない。尤も、免疫強化療法の真価を測るためにはORRではなく全生存期間を見る必要がある。単群試験ではエビデンスとして弱いので、対照試験のデータを見てみたい。

腎細胞腫では、KEYNOTE-526試験のデータが目を引く。MSDが大金を賭けて共同開発販売権を取得した、エーザイのLenvima(lenvatinib)と併用したP1b/2バスケット試験だ。腎細胞腫コフォートのORR(独立放射線学的査読後)が66%と、30例ほどの小規模なデータではあるものの、Opdivo・Yervoy併用よりだいぶ見栄えのする数字が出ている。

一方で、有害事象による治験離脱が26%と多いのは気になるところ。超強力な抗癌剤を使って癌を殺すことに成功しても患者が死んだら意味がない。ORRのデータしかない場合は、副作用リスクにも十分に目配りする必要がある。

Lenvima・Keytruda併用は末期腎細胞腫用途でFDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。第三相は腎細胞腫一次治療と子宮内膜症二次治療の二本が治験登録されている。

リンク: MSDのプレスリリース(407試験)
リンク: 同(042試験)
リンク: 同(427試験)
リンク: エーザイとMSDのプレスリリース(Keytruda・Lenvima併用試験)

ASCO:PARP阻害剤は前立腺癌にも有効?
(2018年6月4日発表)

MSDは、Keytrudaの併用レジメン開発に際して、他社と積極的に提携している。ASCOでは上記のLenvima併用試験データのほかに、アストラゼネカのLynparza(olaparib)の第二相前立腺癌モノセラピー試験の結果も発表された。

LynparzaはPARP阻害剤で、BRCA変異型の卵巣癌や乳癌に承認されている。今回の試験は、転移性去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxelによる治療歴を持つ患者142人を、abiraterone(JNJのZytiga)とprednisoneを併用する対照群と更にLynparzaを用いる群の放射線学的PFSを比較したもの。HRR(homologous recombination repair:相同組換え修復)ステータスは不問。

結果は、各群のメジアン値は8.2ヶ月と13.8ヶ月、ハザードレシオは0.65となり、有意な差があった。一方全生存の解析は各20.9ヶ月と22.7ヶ月、ハザードレシオ0.91で有意差なし。また、有害事象による治験離脱は10%対30%で3倍。深刻な心血管イベントは1対7で7倍だった。報道によると、致死的有害事象の発生率も1%対6%、6倍であった模様。

Lynparzaは12年前にKuDOS社を買収して入手したコンパウンドで、本命はBRCA変異乳癌だった。前立腺癌に有効というのは初耳で、驚いた。もっと大規模な試験で便益と危険のバランスが適切かどうか、確認する必要がありそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース

ASCO:アストラゼネカ、抗CD22ADCのデータを発表
(2018年6月4日発表)

アストラゼネカの子会社のインターミューンは、CAT-8015(moxetumomab pasudotox)を有毛細胞白血病の三次治療薬として米国で承認申請し、4月に受理されたが、根拠となった第三相試験のデータがASCOで発表された。再発性/難治性の80人を組入れた単群試験で、主評価項目の持続的(血液学的寛解が180日超持続)完全反応率が30%、客観的反応率は75%だった。

治療関連有害事象による治験離脱は、溶血性尿毒症症候群によるものが5%、毛細管漏出症候群3%、血清クレアチニン上昇3%で発生した。

有毛細胞腫で高発現するCD22に結合してインターナライズし、内部で細胞毒を放出する、抗体薬物複合体(ADC)。米NCI(国立がんセンター)から開発権を取得した会社が英国の代表的なバイオ開発企業だったCambridge Antibody Technology(CAT)に権利を譲渡、そのCATをアストラゼネカが06年に買収という経緯だ。今回の第三相のスポンサーはNCIなので、アストラゼネカだけでなくNCIもネバーギブアップだったことになる。

抗CD22ADCというと、ファイザーのBesponsa(inotuzumab ozogamicin)が再発性難治性前駆B急性リンパ性白血病用薬として日米欧で承認されている。英国の代表的なバイオ開発会社であったセルテックの創製で、セルテックはUCBが買収、共同開発していたワイスはファイザーが買収と、変遷した。

ウインブルトンと同じで、表舞台に立つことができなくても、裏舞台で戦いを続けるのが英国だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


ファイザー、PARP阻害剤を承認申請
(2018年6月7日発表)

ファイザーは、talazoparibを欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査を受け、審査期限は今年12月。

EMBRACA試験に基づくもので、生殖細胞性BRCA変異を持ち、トリプルネガティブまたはher2陰性の局所進行性転移性乳癌431人を組入れて1mgを一日一回、経口投与したところ、PFSがメジアン8.6ヶ月と対照群(capecitabine、eribulin、gemcitabine、vinorelbineの中から医師が選んで投与)の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54、有意だった。

16年に買収したメディベーション社が前年にBioMarin社からインライセンスしたもの。BRCA変異乳癌は、アストラゼネカのLynparza(olaparib)がタクサン系の薬による治療歴を持つher2陰性乳癌に用いることが承認されている。他にも複数が卵巣癌に承認されており、乳癌でも競争激化の方向にある。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認】


ロシュ、RituxanがPVに適応拡大
(2018年6月8日発表)

ロシュは、Rituxan(rituximab)を中重度尋常性天疱瘡(PV)の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。PVは10万人に3人の希少疾患で、新薬は60年ぶりとのこと。フランスで実施された臨床試験では、24ヶ月時点の完全寛解率が90%と、多くの患者が経口ステロイドを止めることができた。経口ステロイドだけを用いた群は28%だった。

リンク: ロシュのプレスリリース

ジェネンテック、bcl-2阻害剤が併用療法も承認
(2018年6月8日発表)

ロシュグループのジェネンテックは、Venclexta(venetoclax)をRituxan(rituximab)と併用で慢性リンパ性白血病(CLL)や小リンパ球性リンパ腫(SLL)の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。bcl-2阻害剤で、米国ではアッヴィと共同開発販売、米国外はアッヴィが開発販売する。16年に、欧米で、モノセラピーがCLL・SLLの二次治療薬として承認された。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

タグリッソ、EUで一次治療が承認
(2018年6月8日発表)

アストラゼネカは、Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)をEGFR活性化変異陽性非小細胞性肺癌の一次治療に用いることがEUで承認されたと発表した。

80mgを一日一回投与した適応拡大試験で、メジアンPFSが18.9ヶ月とTarceva(erlotinib)またはIressa(gefitinib)を投与した群の10.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.46、有意な差があった。グレード3以上の有害事象の発生率や有害事象治験離脱率は対照群より数値上、低かった。

TagrissoはEGFR阻害剤。TarcevaやIressaによる治療が無効になった患者でしばしば見られるT790M変異型に対する効果が高く、この用途で15年に米国で、16年には日本や欧州でも承認された。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アムジェン、プラリアがEUで適応拡大
(2018年6月8日発表)

アムジェンは、Prolia(denosumab、第一三共が販売する日本でのブランド名はプラリア)の適応拡大がEUで承認されたと発表した。グルココルチコイド誘導性骨粗鬆症で骨損壊のリスクが高い患者の予防に用いる。

造骨細胞の活性を制御するRANKLに結合する抗体医薬で、閉経後骨粗鬆や癌の骨転移などに承認されている。骨損壊予防では欧州で三種類目の承認となった。

リンク: アムジェンのプレスリリース








今週は以上です。

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2018年6月3日

2018年6月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO:テセントリク、肺癌一次治療試験成功 
  • ASCO:PI3Kアルファ阻害剤の第三相が成功したが... 
  • アストラゼネカ、ファセンラのCOPD試験は三連敗に 
  • JNJ、イムブルビカをWM血症の一次治療薬として適応拡大申請 
  • カタリスト社、LEMS用薬を承認申請 
  • ノバルティス、レボレードを再生不良性貧血の一次治療薬として適応拡大申請 
  • 田辺三菱、ALS用薬を欧州でも承認申請 
  • CHMPがトランスサイレチン・アンチセンス薬などの承認に肯定的意見 
  • イーライリリー、FDAがオルミエントをやっと承認したが... 
  • ゼルヤンツ、潰瘍性大腸炎に承認 
  • クロビス、RubracaがEUで承認 
  • ロシュ、パージェタによるアジュバント療法がEUで承認 
  • EU、膀胱癌におけるキイトルーダとテセントリクの適応を限定 


【新薬開発】


ASCO:テセントリク、肺癌一次治療試験成功
(2018年6月2日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用試験二本の結果を発表した。一本は扁平上皮性だけを組入れたIMpower131試験で、ASCO米国臨床腫瘍学会でデータ発表された。もう一本は扁平上皮以外を組入れたIMpower130試験で、成功したことだけがプレスリリースで公表された。

非小細胞性肺癌の一次治療標準療法併用試験は扁平上皮型だけ別にするのが一般的だ。標準療法の一つであるAlimta(pemetrexed)が有効でないからだ。131試験の場合は、carboplatinとAbraxane(nab-paclitaxel)を併用するC群(以下、標準療法群)と、更にTecentriqを追加するB群(三剤併用群)を比較した。このほかに、通常のpaclitaxelとcarboplatin、そしてTecentriqを併用するA群も設定されている。

主評価項目はB群とC群のPFS(無進行生存期間)と全生存期間の二つ。多重性を回避するために、A群の解析は共同主評価項目が両方成功するのを待って実施する。

ASCOではPFS解析が発表された。メジアン値は標準療法群が5.6ヶ月、三剤併用群は6.3ヶ月とそれほど大きな差はないが、ハザードレシオは0.71(95%信頼区間0.60-0.85)、ログランクp=0.0001なので、免疫療法らしくディケイが長い。腫瘍細胞と浸透免疫細胞のPD-L1発現状況との関連性は、高発現サブグループではハザードレシオ0.44、低発現は0.70、一方、陰性サブグループは0.81で有意差なしとなっている。

一方、全生存解析はまだ中間解析で有意差が出ていない。この試験盲検ではなく、PFS判定の査読も行われていない。深刻な治療関連有害事象の発生率が標準療法群の10%から三剤併用は20%と倍増したことも懸念材料だ。従って、全生存の解析が成功するまで、本試験が成功したとは、名実ともに、言えないだろう

130試験は、carboplatinとAbraxaneの併用を標準療法として更にTecentriqを追加する効果を検討した。主評価項目は、EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応になるEGFR/ALK変異型を除外したユニバースのPFSと全生存期間。どちらも成功した。

非扁平上皮性非小細胞性肺癌一次治療では、carboplatinとpaclitaxel、そしてAvastinの三剤併用を標準療法と見做して更にTecentriqを追加したIMpower150も成功している。paclitaxel系を好む医師や患者には朗報となる。一方、Alimtaを好む医師・患者にはそれほどでもないだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース(131試験について)
リンク: 同(130試験について、5/29付)

ASCO:PI3Kアルファ阻害剤の第三相が成功したが...
(2018年6月2日発表)

ロシュ・グループのGDC-0032(taselisib)の最初の第三相試験の結果もASCOで発表された。PFSが有意に伸びたものの忍容性があまりよくなく、承認申請を見送る可能性がありそうだ。

GDC-0032はPI3K(phosphoinositide-3 kinase)阻害剤だがアルファ・アイソフォーム選択的であることがPI3Kガンマ阻害剤であるギリアドの慢性リンパ性白血病薬、Zydelig(idelalisib)や、ロシュのPI3K阻害剤、RG7321/GDC-0941(pictilisib)との違いだ。

今回のおSANDPIPER試験は、エストロゲン受容体陽性でher2陰性の局所進行性/転移性乳癌でアロマターゼ阻害剤歴を持つ患者をfulvestrant群とGDC-0032併用群に1対2割付した。主評価項目はPIK3CA変異サブグループの担当医評価に基づくPFS。結果は、ハザードレシオ0.70、pは0.0037、各群のメジアンは5.4ヶ月と7.4ヶ月となった。全生存の解析は未成熟。一方、有害事象による治験離脱は各群2%と17%で失望的な結果になった。

リンク: ASCOのプレスリリース

アストラゼネカ、ファセンラのCOPD試験は三連敗に
(2018年5月30日発表)

アストラゼネカは、Fasenra(benralizumab、和名ファセンラ)の二本目の第三相中重度COPD試験がフェールしたと発表した。一本目も、POC試験もフェールしており、三連敗である。

Fasenraは協和発酵キリングループのBioWaからライセンスした、IL-5受容体アルファ鎖を標的とするPOTELLIGENT抗体で、重度管理不良喘息症のうち好酸球が増加しているタイプに追加する薬として日米欧などで承認されている。

競合薬であるグラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)は、2年ほど早く好酸球型重度管理不良喘息症に承認されている。COPDの第三相は、一本では好酸球型サブグループに良い結果を出したが全体の解析はフェール、好酸球型だけを組入れた試験はフェールしたが、昨年11月に米国で適応拡大申請された。

もしNucalaの適応拡大が認められるならば、そしてもしFasenraの臨床試験で好酸球型サブグループの解析が良い結果になっているならば、Fasenraの適応拡大も認められる可能性がありそうだ。しかし、常識的に考えれば、どちらの薬も適応拡大が認められないだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、イムブルビカをWM血症の一次治療薬として適応拡大申請
(2018年6月1日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)のワルデンシュトレーム型マクログロブリン(WM)血症一次治療試験の結果がASCOで発表された機に、米国で適応拡大申請したことを明らかにした。慢性リンパ性白血病などに承認されているBTK阻害剤で、WM血症に関しては現在は二次治療と化学療法不耐の一次治療に限定されている。

第三相一次治療試験が成功したことは昨年12月に発表済みだが、今回、データが明らかになった。rituximabと併用した群のPFSのハザードレシオはrituximabだけの群と比べて0.2となり、総合反応率も72%から92%に上昇した。

リンク: JNJのプレスリリース

カタリスト社、LEMS用薬を承認申請
(2018年5月29日発表)

カタリスト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:CPRX)は、米国でFirdapse(amifampridine phosphate)をランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。審査期限は11月28日。

LEMSは多くの患者でカルシウムチャネルに対する自己抗体が見られ、血漿交換やステロイド治療に反応する。小細胞性肺癌などとの関連が見られ傍腫瘍性神経症候群と認識されている。

Firdapseはカリウムチャネルブロッカーで、09年にEUで文献データに基づき例外的承認を受けた。前後して、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)がHexley社を買収、権利を取得した。カタリストは12年に北米の権利を取得、15年にLEMSと先天性筋無力症の対症療法として承認申請したが、FDAは受理しなかった。相談を踏まえて今回、LEMSに絞って承認申請。先天性筋無力症は承認申請用試験を開始した。

リンク: カタリスト社のプレスリリース

ノバルティス、レボレードを再生不良性貧血の一次治療薬として適応拡大申請
(2018年5月30日発表)

ノバルティスは、Promacta(eltrombopag olamine、和名レボレード)を再生不良性貧血の一次治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査。期限は公表されていない。

トロンボポイエチン受容体を作動する経口剤で、特発性血小板減少性紫斑症の治療薬として08年に発売された。再生不良性貧血は5年生存率60%程度の深刻な疾患で、カルシニューリン阻害剤などの免疫抑制剤が第一選択になる。Promactaは14年に二次治療薬として承認された。一次治療では免疫抑制剤と併用する。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

田辺三菱、ALS用薬を欧州でも承認申請
(2018年5月28日発表)

田辺三菱製薬は、欧州でedaravoneを筋萎縮性側索硬化症(ALS)用薬として承認申請したと発表した。フリーラジカル・スカベンジャーで、2001年に日本で脳梗塞急性期治療薬として初承認された薬が14年後にALS治療薬として再誕生するという、正に定年延長の時代を象徴する薬と言えよう。欧米での開発は脳梗塞試験がフェールしたまま滞っているが、FDAは日本の試験データに基づいて17年5月にALS治療薬Radicavaとして承認した。

リンク: 田辺三菱製薬のプレスリリース(和文)


【承認審査・委員会】


CHMPがトランスサイレチン・アンチセンス薬などの承認に肯定的意見
(2018年6月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、5月の会合で、Tegsediなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Tegsedi(inotersen)はトランスサイレチンの生産を妨げるアンチセンス薬で、先天性ATTR(トランスサイレチン調停アミロイドーシス)の多発神経障害(ステージ2まで)の治療に用いる。アンチセンス薬の開発で実績のあるIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製し、スピンアウトであるAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)にライセンスした。米国でも審査中で、優先審査指定されたが審査期限は10月6日に3ヶ月延期された。

アンチセンス手法の一つであるRNA介入薬の開発で先行するAlnylam Pharmaceuticals(Nasda:ALNY)もALN-TTR02(patisiran)を前後して承認申請しており、日本でも審査中。治験成績を見比べるとpatisiranのほうが良さそうだ。Tegsediは皮注であることが長所(patisiranは70分点滴静注)。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: IonisとAkceaのプレスリリース

Aimovig(erenumab)は、アムジェンが創製し日米以外ではノバルティスが販売する抗CGRP受容体完全ヒト化抗体。慢性または反復性の偏頭痛の予防に用いる。片頭痛は欧州の有病率15%で、遺伝子の影響が大きいとのこと。月間片頭痛日数が4日以上の患者が対象で、臨床試験では偽薬群より月1~2日少なかった。月一回皮注。米国で今年5月に承認され、問屋取得価格は、抗体医薬としては安価な、年6900ドルと発表された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

Aegerion Pharmaceuticals(Nasdaq: AEGR)のMyalepta(metreleptin)は遺伝子組換え型レプチン・アナログ。脂肪萎縮症(LD)のレプチン欠乏の矯正に用いる。対象となるのは、先天的全身性LD(2歳以上)、後天性全身性LD、そして家族性部分LD(12歳以上)。世界で数千人の超希少疾患。

米国ではアムジェンから権利を取得したアミリンが承認申請し、14年にMyalept名で承認。日本はアミリンからライセンスした塩野義製薬が13年に承認取得した。アミリンはBMS、そしてアストラゼネカに買収され、Aegerionはアストラゼネカから塩野義が保有する以外の権利を譲り受けた。

リンク: EMAのプレスリリース

大塚製薬のRxulti(brexpiprazole)は統合失調症治療薬。Abilify(aripiprazole)の構造転換で、D2受容体活性が低く、5-HT1A/2A受容体結合力が高い。米国で15年7月にRexulti名で、日本でも今年1月にレキサルティ名で、承認された。ルンドベックとの開発販売提携の対象。

一方、否定的意見となったのはSarepta Therapeutics(Nasdaq:SPRT)のExondys(eteplirsen)。ジストロフィン遺伝子の転写・翻訳プロセスに介入しエクソン51の読み取りをスキップさせる核酸医薬で、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として承認申請された。米国では16年に承認されたが、審査担当者や部門長の反対を上層部が覆した経緯がある。

CHMPは先月、トレンド投票を行って反対意見が多いことを確認した。通知を受けたSareptaが適時開示したため、否定的意見に終わることは予想されていた。同社は再審請求を行うとともに、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに詳しい医学者に諮問するよう求めた。再審請求になれば、rapporteur(審査担当)二国が交代することになる。

リンク: Sareptaのプレスリリース


【承認】


イーライリリー、FDAがオルミエントをやっと承認したが...
(2018年6月1日発表)

イーライリリーは、FDAがOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)の2mgを中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として承認したと発表した。TNF阻害剤を使っても十分に反応しない患者に、単剤投与またはDMARDsと併用する。

17年に承認された欧州や日本の用量は、第三相試験と同じで、治療開始時は4mgを一日二回、経口投与、応答なら2mgに減量を検討する。しかし、FDAは4mgの深静脈血栓や肺塞栓のリスクが100人年当り0.46と高いことや腫瘍、結核などの増加を懸念。諮問委員会も4mgについては15人の委員の中10人が危険が便益を上回ると判断した。尚、この副作用は日本や欧州のレーベルにも記されている。

インサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスしたJAK1/2阻害剤で、類薬は存在するが血栓塞栓リスクは本剤特有のようだ。4mgの採用が奏功し、TNF阻害剤より効果が高いことをアピールできるはずだったが、米国に関しては画餅になった。深刻感染症や腫瘍に加えて、血栓リスクも枠付き警告となった。

リンク: 両社のプレスリリース

ゼルヤンツ、潰瘍性大腸炎に承認
(2018年5月30日発表)

FDAは、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)を中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いる適応拡大を承認した。注目された用量は、臨床試験の用法と同様に、5mgではなく10mgを一日二回で開始して、8週間経ったら5mgに減量可。潰瘍性大腸炎で経口剤が承認されたのは初めて。

JAK阻害剤の第一号で12年に米国で中重度リウマチ性関節炎治療薬として承認された。EUの承認は5年後なので、EU承認が先行した上記のOlumiantと正反対だ。免疫抑制力が著しく強く、感染症が腫瘍のリスクが高まる可能性がある薬の難しさを痛感する。

今回の適応拡大は、日本で5月に承認。上記では割愛したが、CHMPも5月の会議で肯定的意見をまとめた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

クロビス、RubracaがEUで承認
(2018年5月29日発表)

クロビス・オンコロジー(Nasdaq:CLVS)は、PARP阻害剤Rubraca(rucaparib)がEUで承認されたと発表した。BRCA遺伝子変異陽性卵巣がんで、白金薬に感受した治療歴を持つがこれ以上の投与は無理という患者の三次治療に用いる。BRCA変異は生殖細胞系(先天的)でも体細胞系(後天的)でも可。

米国では16年に同じ用途で、今年4月には白金薬感受性卵巣癌で白金薬2次治療に応答した患者の維持療法として、承認されている。欧州でも維持療法を承認申請する考え。

リンク: クロビスのプレスリリース

ロシュ、パージェタによるアジュバント療法がEUで承認
(2018年6月1日発表)

ロシュは、Perjeta(pertuzumab、和名パージェタ)をher2陽性早期乳癌の術後アジュバント療法に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。化学療法薬やHerceptin(trastuzumab)と併用で1年間投与する。昨年12月に承認された米国と同様に、対象は高リスク患者(リンパ節転移やホルモン受容体陰性)に限定された。尚、日本でも昨年10月に適応拡大申請されている。

抗2C4ヒト化抗体で、her2がher3などと共益するのを妨げる。今回の承認はAPHINITY試験のエビデンスによるもので、全ユニバースの無再発生存期間解析はハザードレシオ0.81、p=0.045と点推定値もp値もボーダーライン上だったが、高リスクサブグループでは、リンパ節転移はハザードレシオ0.77、ホルモン受容体陰性は0.76と良い数値が出た。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EU、膀胱癌におけるキイトルーダとテセントリクの適応を限定
(2018年6月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とロシュのTecentriq(atezolizumab)を膀胱癌の一次治療に用いる時の適応を限定すると発表した。これまではPD-L1発現は不問とされたが、陽性患者に限定する。具体的には、Keytrudaはcombined positive scoreが10以上の強陽性。Tecentriqは白金薬不適の一次治療に承認されているが、PD-L1発現5%以上が条件になる。

5月20日号に記したようにFDAも同様な安全性情報を発出したが、適応限定まで踏み込んではいない。

ことの発端は、KeytrudaのKeynote-361及びTecentriqのIMvigor130試験の中間解析で、モノセラピー群の全生存期間が化学療法群より短いことが判明したため。化学療法併用群も設定されているので、今後はこの群の成績が注目される。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

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