2018年8月26日

2018年8月26日


【ニュース・ヘッドライン】

  • アストラゼネカ、COPD薬の直接比較試験が期待外れの結果に 
  • BMS、エムプリシティを三次治療に適応拡大申請 
  • rhNGFが米国でも神経栄養性角膜炎治療薬として承認 
  • シャイア、遺伝性血管浮腫用薬が承認 
  • キイトルーダ、非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用が承認 
  • レンビマ、欧州でも肝癌承認 
  • イグザレルト、CAD/PADに適応拡大 


【新薬開発】


アストラゼネカ、COPD薬の直接比較試験が期待外れの結果に
(2018年8月23日発表)

アストラゼネカは、COPD維持療法薬の直接比較試験の結果を発表した。競合品に対する優越性を確立して販促面でも優位に立つことを狙ったが、目的を達成できなかった。

このAERISTO試験は、長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)のglycopyrroniumと長期作用性ベータ2作用剤(LABA)のformoterol fumarateの合剤であるBevespi Aerosphereと、グラクソ・スミスクラインのLAMA・LABA合剤であるAnoro Ellipta(和名アノーロエリプタ)の肺活量改善効果を比較した。

前者はDPI(ドライ・パウダー吸入器)で一日二回吸入、後者はpMDI(加圧噴霧式低量吸入器)と形状が異なるため、試験薬ともう一つの試験薬のダミーを吸入する、ダブルダミー方式の二重盲検を採用した。

結果は、FEV1(一秒量)のピーク値の非劣性解析は成功したが、優越性解析とトラフ値の非劣性解析はフェールとなった。ピーク値は専らLABAの寄与、トラフ値は専らLAMAの寄与と考えると、LABAは劣ってはいないが優れているかどうかは分からない、LAMAは劣っている可能性が否定できないことになる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


BMS、エムプリシティを三次治療に適応拡大申請
(2018年8月23日発表)

BMSは、Empliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)を多発骨髄腫の三次治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、期限は今年12月27日。

EmplicitiはPDL(後にアッヴィが買収)が開発してBMSにライセンスした抗SLAMF7ヒト化抗体。骨髄腫細胞やNK細胞で発現する表面分子に結合して抗体依存的細胞毒性を発揮する。15年に米国で、16年には日欧でも、再発難治多発骨髄腫の二次治療にRevlimid(lenalidomide)及び低量dexamethasoneと併用する薬として承認された。

新用法は、Revlimid、そしてVelcade(bortezomib)のようなプロテアソーム阻害剤を含む、二次以上の治療歴を持つ再発性難治性多発骨髄腫に、三次以降の代表的なレジメンであるPomalyst(pomalidomide、和名ポマリスト)および低量dexamethasoneと併用するもの。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン10.3ヶ月と、Pomalyst・dexamethasone二剤併用群の4.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.54、統計的に有意な差があった。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


rhNGFが米国でも神経栄養性角膜炎治療薬として承認
(2018年8月22日発表)

FDAは、Oxervate(cenegermin-bkbj)を神経栄養性角膜炎の治療薬として承認した。イタリアのDompe farmaceuticiが開発し欧州では昨年7月に承認された遺伝子組換え型ヒト神経成長因子(rhNGF)で、rhNGFの承認も、神経栄養性角膜炎用薬の承認も、米国初。

神経栄養性角膜炎は三叉神経の損傷により角膜の感覚が低下、ヒーリングに必要な物質が分泌されにくくなる。重度だと失明のリスクを伴う。臨床試験では、Oxervateを一日6回点眼したところ、8週間後の完全角膜治癒率が70%と対照群の28%を大きく上回った。おもな有害事象は目の痛みや充血、炎症など。希少疾患用薬指定されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Dompeのプレスリリース

シャイア、遺伝性血管浮腫用薬が承認
(2018年8月23日発表)

シャイアは、FDAがTakhzyro(lanadelumab-flyo)を12歳以上の遺伝性血管浮腫の治療薬として承認したと発表した。血漿カリクレインを標的とする完全ヒト化抗体で、2週間または4週間に一回、皮注と、同じ用途で承認されている同社のCinryze(ヒトC1エステラーゼ・インヒビター)の週二回点滴静注より簡便。臨床試験では偽薬と比べて発作頻度が2週毎群が87%、4種毎群は73%、減少した。

16年に59億ドルで買収したDyax社のコンパウンドで、FDA承認達成マイルストンとして当時の株主にDyax一株当たり4ドル支払う(総額は6億ドル程度か)。

シャイアは今年5月に武田薬品が460億ポンドで買収することで合意した。

リンク: シャイアのプレスリリース

キイトルーダ、非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用が承認
(2018年8月20日発表)

MSDは、FDAが抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)を非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)の一次治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。ALK阻害剤が適応になるALK変異や、EGFR阻害剤が適応になるEGFR活性化変異を持たない癌ならPD-L1発現度は問わない。将来的にはALK変異やEGFR活性化変異にも使われるようになるだろう。

NSNSCLCの代表的な一次治療レジメンであるAlimta(pemetrexed)及び白金薬と併用する。KEYNOTE-189試験では、Alimtaと白金薬のみの群と比べて、全生存のハザードレシオが0.49と半減した。

抗PD-1/PD-L1は様々な新規作用機序の薬との併用研究が進行しているが、化学療法併用も有効というのは個人的に盲点だった。免疫性副作用のある薬はダメという先入観があったからだ。

将来的にはPD-L1やMSI(マイクロサテライト不安定性)、TMB(腫瘍変異負荷)に加えて様々な応答性予測因子が発見され、このタイプには単剤、このタイプにはこちらの薬と併用、あのタイプにはあの薬と併用、こっちのタイプには無効なので他の薬を選択、と、使い分けが可能になるだろう。その結果、治療効果が向上するだけでなく、高額で深刻な副作用も伴う薬の無駄打ちを今より減らすことができるだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

レンビマ、欧州でも肝癌承認
(2018年8月23日発表)

エーザイとMSDは、VEGFR拮抗剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を切除不能肝細胞腫の一次治療に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。日本では今年3月、米国でも今月、承認されている。

根拠となったREFLECT試験では、全生存期間がメジアン13.6ヶ月と標準療法であるNexavar(sorafenib)の12.3ヶ月を若干上回ったが、ハザードレシオは0.92に留まり、非劣性解析は成功したが優越性解析では有意差が出なかった。

一方、副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)ではメジアンが各群7.3ヶ月対3.6ヶ月と差が3ヶ月程度に広がり、ハザードレシオは0.66、95%信頼区間は0.57-0.77と上限が1を大きく下回った。ORR(客観的反応率)はmRECIST基準に則り盲検で行われた独立画像評価では41%対12%、RECIST1.1では19%対7%と、効果の差は指標によって区々だ。

優越的なのか、どっちも大差ないのか、どの指標を信じたら良いのか?考え方は簡単だ。第一に、本試験の主評価項目は全生存期間なので、これが一番信用できる。第二に、この試験は二重盲検ではなく、両剤は服用頻度が異なるので患者もどの群に割り当てられたか容易に知ることができる。このため、主観の入る余地のある薬効評価は慎重に受け止めたほうが良い。

第三に、PFSは評価を行うタイミングに左右されてしまうリスクがある。進行したら直ぐに医療施設に出頭して評価してもらえば良いのだが、ここでいう癌の縮小・進行は必ずしも症状の軽快・悪化を伴わないので本人には判断がつかない。このため、プロトコルに従って6週間毎とか12週間毎に来てもらってCT検査を行い、長辺の長さが一定以上長くなったら、その時期を推定して進行認定する。検査インターバルは4~6ヶ月が良いとされるが、本試験がどうだったのか、筆者には知識がない。

偽薬しか使わない群のある臨床試験のカプランマイヤーカーブを見て、いつも溜息を付くには、偽薬群のPFSは治験が始まるや否や下方に垂れ下がり始めるのに対して、試験薬群は第一回目の検査時期の直前まであまり下がらないことだ。何らかの方法で偽薬群に割り付けられたことを知った患者や医師が、心配して定期検査より前に検査を受けるような現象が起きているのではないかと疑ってしまう。試験薬にクロスオーバーが可能な試験では尚更だ。

PFSという指標はそれ自体は客観性が高いが、臨床試験のプロトコルや患者や医師の主観に左右される可能性がゼロではないのである。

本試験は実薬対照試験なのでNexavarを嫌う理由はないはずだが、それを言えば、京都府立医科大学や慈恵医大で行われたvalsartanの心血管アウトカム試験も実薬対照試験だった。高名な大学の高名な研究者の業績でもああいうことが起きうるのだから、研究もその評価も、厳格に行われなければならない。

リンク: 両社のプレスリリース

イグザレルト、CAD/PADに適応拡大
(2018年8月24日発表)

バイエルは、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を冠動脈疾患や末梢動脈疾患の治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。臨床試験では、アスピリン(100mg)を一日一回服用した群と比べて、Xareltoの2.5mgを一日二回服用した群のMACE(主要有害心臓イベント)は24%少なかった。

尚、この試験ではclopidogrelのような薬とアスピリンの併用が適応になる患者は除外している。

リンク: バイエルのプレスリリース






今週は以上です。

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2018年8月19日

2018年8月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 月一回注射型HIV/AIDS治療レジメンの第三相が成功 
  • リジェネロンの抗NGF抗体も第三相が成功 
  • FDAがMRSA作用剤の承認申請を受理 
  • FDAがBPDCN用薬の承認申請を受理 
  • レンビマ、米国でも肝臓癌に承認 
  • オプジーボ、小細胞性肺癌の三次治療薬として承認 
  • アイリーアの12週毎投与が承認されたが... 


【新薬開発】


月一回注射型HIV/AIDS治療レジメンの第三相が成功
(2018年8月15日発表)

グラクソ・スミスクライン、塩野義製薬、ファイザーのHIV/AIDS領域における合弁会社であるヴィーヴヘルスケアは、塩野義が創製したインテグラーゼ阻害剤、S-265744(cabotegravir)と、ジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤、rilpivirineの併用レジメンの最初の第三相試験が成功したと発表した。

標準的な多剤併用療法が奏功した患者を組入れて月一回筋注したところ、48週後のウイルス探知不能率が標準的療法群と比べて非劣性だった。もう一本の試験も年内に開票の予定。

経口剤を毎日服用するのとどちらが良いか、患者によって異なるのではないかと思われるが、薬をきちんと飲まない患者や、感染リスクの高い未感染者の予防などには特に有効だろう。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

リジェネロンの抗NGF抗体も第三相が成功
(2018年8月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とテバ・ファーマシューティカル(NYSE:TEVA)は、抗NGF抗体REGN475(fasinumab)の第三相試験の薬効解析が成功したと発表した。膝や股関節の変形性関節炎患者を偽薬、1mg8週毎、1mg4週毎に皮注する群に無作為化割付して16週時点の疼痛緩和効果を検討したところ、WOMAC疼痛サブスケール改善が各1.56、2.25、2.78となり、両用法とも偽薬と比べて統計的に有意な差があった。

もう一つの薬効主評価項目であるWOMAC身体機能サブスケールも各1.37、2.1、2.57改善し、有意な差があった。

抗NGF抗体は一時は多くの製薬会社が第二相、第三相試験を行っていたが、安全性懸念が浮上し、治験部分停止・解除を繰り返す結果になった。動物試験で症候性神経系副作用が見られたことや、ファイザーのtanezumabの試験で5%程度の患者で関節炎の急速な悪化や無腐性骨壊死が見られたことが原因だ。その後、症例や発生メカニズムの検討が進められ、関節炎諮問委員会の意見などを踏まえてFDAが開発再開を認めた。

このような背景から、今回の試験も、16週では終わらず72週間追跡して安全性解析を行う。後期第二相試験では4週毎投与で9mgまでテストしたが、効果は1mg群と大差なく、関節症の発生率は偽薬群1%、1mg群2%に対して、3mg群は5%、6mg群7%、9mg群12%と用量依存的に高まった。今回の第三相でも、3mg4週毎群と6mg8週毎群は今年5月に独立データ監視委員会の勧告に基づいて中止された。今回の1mgは最後に残ったカードなのである。

関節炎が却って悪化するのでは患者は救われない。同じく第三相試験中のtanezumabも含めて、しっかりと安全性を確認してほしいものだ。

高リスク・プロジェクトであるためか、アルツハイマー病薬と同様なリスク・シェアリングが行われている。リジェネロンはテバと提携し、日本では田辺三菱製薬がMT-5547として第2/3相試験中。ファイザーはイーライリリーと共同開発している。"

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


FDAがMRSA作用剤の承認申請を受理
(2018年8月14日発表)

Motif Bio(Nasdaq:MTFB)は、MRSA作用性抗生物質であるMTF-100(iclaprim)の承認申請がFDAに受理されたことを発表した。優先審査を受け、審査期限は来年2月13日。急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の治療に用いる静注用薬で、第三相試験では奏効率がvancomycinと非劣性だった。

スペクトラムが広く、グラム陽性・陰性を問わず、MRSAやVRSAにも活性を持つ。腎毒性が小さいため2~3割を占める腎臓病患者にも適している。一方、毒性試験のNOAELは臨床用量の0.5~2倍と安全性マージンが小さいので副作用症例をよく検討する必要がありそうだ。

01年にArpida社がロシュからインライセンスし08年に欧米で承認申請したが承認されなかった。Arpidaから権利を取得した会社を15年にMotif Bioが合併したが、こちらも一時は資金不足に苦しんだ。新規活性成分として承認されれば優先審査バウチャを獲得できるだろうから開発資金の一部を回収できるだろう。10年間の排他権が与えられ、その間はGE薬が承認されない。

リンク: Motifのプレスリリース

FDAがBPDCN用薬の承認申請を受理
(2018年8月13日発表)

Stemline Therapeutics(Nasdaq:STML)は、FDAがElzonris(tagraxofusp、開発コードSL-401)の承認審査を受理したと発表した。優先審査で審査期限は来年2月21日。BPDCN(芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍)という超希少疾患の治療に用いる。

BPDCN細胞で高発現するCD123(IL-3の受容体)を標的とする、IL-3と断片化ジフテリアを融合した蛋白で、CD123に結合して細胞内に侵入、ジフテリア毒が攻撃する。臨床試験では、初治療29例の総合反応率が90%、再発難治性13例でも69%だった。FDAからブレークスルーセラピー指定と希少疾患用薬指定を受けている。

リンク: Stemlineのプレスリリース


【承認】


レンビマ、米国でも肝臓癌に承認
(2018年8月17日発表)

エーザイとMSDは、VEGF受容体拮抗剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を切除不能肝細胞腫の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。日本は3月に承認済み。臨床試験では全生存期間がバイエルのVEGF受容体拮抗剤、Nexavar(sorafenib)と非劣性だった。

VEGF受容体拮抗剤は数多いが肝細胞腫試験が成功したのはLenvimaが二例目ではないか。代表格であるファイザーのSutent(sunitinib)は効果も高いが副作用リスクも高く、減量が珍しくない。肝細胞腫試験がフェールしたのは忍容性(治験離脱)が原因かもしれない。

Lenvimaの特徴は用途毎に用量を細かく調整していること。甲状腺癌では24mg(腎臓や肝臓の重度疾患患者は12mg)、腎細胞腫のeverolimus併用療法は18mg(同10mg)、肝細胞腫は12mg(体重60kg未満は8mg)を一日一回服用する。カプセルは10mgと4mgの二種類なので組み合わせパズルのようだが、米国では一日服用量毎のパッケージが8種類用意されているので、間違えるリスクが小さく、減量も小刻みに可能だ。

さて、肝細胞腫における効果はNexavar並なので数年後にNexavarがGE化すると不利になるが、LenvimaにせよNexavarにせよ、近い将来に、PD-1/PD-L1阻害剤との併用が主流になるだろう。臨床初期の試験で反応率に相乗効果が見られたからだ。

リンク: エーザイのプレスリリース

オプジーボ、小細胞性肺癌の三次治療薬として承認
(2018年8月17日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)を転移性小細胞性肺癌の三次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。第1/2相のCheckMate-032試験の反応率と反応持続期間に基づく加速承認。盲検独立中央評価による反応率は12%でPD-L1発現との相関性は見られなかった。反応13例のうち12例は部分反応で完全反応は1例のみ。一方、深刻有害事象の発生率は45%だった。

リンク: BMSのプレスリリース

アイリーアの12週毎投与が承認されたが...
(2018年8月17日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、Eylea(aflibercept、和名アイリーア)の新用法がFDAに承認されたと発表した。つい先日、審査完了通知を受領したばかりなので奇妙な感じだが、レーベルの記述はもっと奇妙だ。

滲出型加齢性黄斑変性を治療する場合、最初の3回は4週毎、その後は8週毎に投与するが、2年目に入ったら12週毎に間隔をあけることが承認された。但し、8週毎より効果が落ちることも明記されているので、どちらを選ぶか悩ましい。現実の医療では何回か投与した後は定期的に網膜を検査して悪化するまで休薬する医師も多い。それでも、間を空けることが可能な期間は長いほうが安心だろう。

ノバルティスが年内に承認申請する類薬、RTH258(brolucizumab)は、12週毎投与。ジェネンテックも長期持続性インプラントを開発している。Eyleaが対抗するために必要な用法追加だったが、この内容では、承認されても価値は小さいだろう。

リンク: リジェネロンのプレスリリース
リンク: 同(審査完了通知受領について、8/13付)







今週は以上です。

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2018年8月12日

2018年8月12日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA諮問委員会がParatekの抗生物質の承認を勧告 
  • Remoxyはスリーアウトに 
  • FDAもアミカスのファブリー病治療薬を承認 
  • FDA、一年間有効のIUDを承認 
  • 基礎体温法のアプリも承認 
  • FDAもポテリジオを承認 


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がParatekの抗生物質の承認を勧告
(2018年8月18日発表)

Paratek Pharmaceuticals(Nasdaq:PRTK)は、FDAの抗微生物薬諮問委員会がPTK 0796(omadacycline)の承認を勧告したと発表した。地域感染細菌性肺炎(CABP)は18人の委員のうち14人が、急性細菌性皮膚皮膚構造感染症(ABSSSI)は17人が、便益がリスクを上回ると判定した。

omadacyclineはテトラサイクリン系の抗生物質で、グラム陽性菌や陰性菌、嫌気性菌などスペクトラムが広く、テトラサイクリン抵抗菌にも活性を維持している。経口剤と注射用薬が用意されているので症状が軽快すれば在宅治療も可。CABP試験では奏効率がmoxifloxacinと比べて非劣性、ABSSSI試験でもlinezolid比で非劣性だった。CABP試験では死亡率が数値上やや高かったが、心毒性の兆候は見られず、文献データと比べるとomadacycline群が高いというよりはmoxifloxacin群が低かったようだ。

提携面では変遷を経ており、99年にグラクソ、03年にバイエル、05年にMSD、09年にノバルティスと導出/共同開発提携を結んだが、11年以降は単独開発に転じている。

リンク: Paratekのプレスリリース

Remoxyはスリーアウトに
(2018年8月6日発表)

Pain Therapeutics(Nasdaq:PTIE)は10年前にRemoxy ER(oxycodone)を乱用されにくいオキシコドン製剤として米国で承認申請したが、08年、11年に続いて三度目の審査完了通知を受領した。米国はオピオイド乱用が酷く、徐放製剤でも砕いて注射、吸引、吸入すれば即効性を得られることから、リクリエーション目的で使用して死亡する人が毎年何万人も発生する。この半分は処方薬の不適正使用だ。

トランプ大統領はアルコール中毒で苦しんだ兄の例を挙げて、オピオイド乱用と戦う姿勢を示している。オピオイド大手のPurdue社は、先ごろ、オピオイド誘発性便秘症治療薬であるSymproicの販売権を塩野義製薬に返上しているが、販売シナジーを追求するどころではない状況なのだろう。

Remoxy ERはDurect社のOradur技術を用いた長期作用性製剤で、厚いゲル状なので注射したりアルコールに溶かしたりするのが困難。但し、噛むと即効性が得られる模様なので、完璧ではなさそうだ。6月に開催された諮問委員会では、17人中14人が承認に反対した。承認すると安全性を誤認させてしまうので、乱用されないオピオイドの開発ではなく乱用防止に重点を置くべしという意見もあったようだ。

Pain社は、科学的評価ではなくイデオロギー的な反対を受けたことに不満を示す一方で、リストラ策を打ち出す考えを表明した。

リンク: Pain社のプレスリリース


【承認】


FDAもアミカスのファブリー病治療薬を承認
(2018年8月10日発表)

FDAは、アミカス・セラピューティクス(Nasdaq:FOLD)のGalafold(migalastat、和名ガラフォルド)をファブリー病の治療薬として加速承認した。この薬で修正可能なガラクトシダーぜ・アルファ遺伝子変異348種類の、何れかを持つ16歳以上の患者が適応になる。米国の場合、35~50%が該当する模様。

ファブリー病は希少疾患で、シャイアのReplagal(agalsidase alfa)やサノフィ子会社であるジェンザイムのFabrazyme(agalsidase beta)などの酵素補充療法が承認されているが、経口投与できる薬は初。ガラクトシダーゼ・アルファ欠乏による腎臓間質性毛細血管におけるGL-3の蓄積を改善するという、サロゲート・マーカーに基づく加速承認なので、アミリンは改めて臨床的効能を確認しなければならない。

EUでは16年に、日本でも今年3月に承認された。アミカスは米国でもEUと前後して承認申請する考えだったが、FDAが上記サロゲートマーカーに基づく加速承認に難色を示したため、胃腸症状改善効果を確認する試験の結果が19年に出るのを待つ姿勢に一度は転じた。しかし、17年7月に、FDAが申請を認めたことを公表、同年12月に申請し、優先審査を経て、今回、承認された。

FDAはなぜスタンスを変えたのか?おそらく、トランプ大統領の影響力だろう。17年2月の施政方針演説の中で、ポンペ病の娘とその父親であるJohn Crowleyと面談したエピソードに言及、FDA改革を表明したからだ。演説原稿には肩書が記されていなかったが、アミカスのCEOのことだろう。

ポンペ病の娘二人を助けるためにBMSを退職し、有望な研究者を探し出し、資金調達に奔走して、遂に06年、Myozyme(alglucosidase alfa)の米国承認を実現した逸話がMBAコースの教科書や映画になり、日本でも、『小さな命が呼ぶとき』というタイトルで上映された。

かって、米国の株式市場では、大統領選で共和党候補が優勢になるとメルク(MSD)が値上がりするトレンドがあったが、今日では、共和党候補も民主党候補も大手製薬会社に批判的で、同情的な候補がいても早々に撤退する。ITやネット系のベンチャーは民主党支持が多いようで、現政権にも批判の声が目立つが、バイオ系に関してはトランプ政権が心強い守護者になりそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アミカスのプレスリリース

FDA、siRNA薬を初承認
(2018年8月10日発表)

FDAは、アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のOnpattro(patisiran)を遺伝性トランスサイレチン調停アミロイドーシス(hATTR)患者の末梢多発性神経障害の治療薬として承認した。hATTRは米国の罹患者が3000人程度の希少疾患で、治療薬が承認されたのは初。欧州は7月にCHMPを通過。アルナイラムは日本などでも18年央以降に承認申請する予定。

siRNA(小分子介入RNA)と呼ばれる新しいタイプの薬が承認されたのも初。アルナイラムが特化している技術で、Onpattroはトランスサイレチンの遺伝子が肝臓で翻訳・生産されるのを妨げることによって、蓄積・線維化による神経障害を抑制する。第三相試験では、3週毎に0.3mg/kgを70分点滴静注して18ヶ月後のmNIS+7(神経障害評価スコア、10~100の患者を組み入れた)を観察したところ、偽薬群が28ポイント増加したのに対して、Onpattro群は6ポイント低下した。

深刻有害事象の発生率は36.5%で、下痢や心不全、起立性低血圧、肺炎、心室ブロックなど。偽薬群は40.3%だった。死亡率は4.7%(偽薬群7.8%)で、試験薬関連とみなされるものはなかった。点滴反応を防ぐためステロイド、アセトアミノフェン、H1/H2ブロッカーでプリトリートする。ビタミンAが減少するのでサプルメントする。

アルナイラムは年45万ドルで発売する計画。多くの健康保険組織に成果保証を行う考えで、効果が目標を下回った場合、リベートを支払う。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アルライナムのプレスリリース
リンク: 同(成果保証について)

FDA、一年間有効のIUDを承認
(2018年8月10日発表)

FDAはAnnoveraを承認した。新開発のプロゲスチンであるsegesterone acetateとethinyl estradiolを用いたIUD(子宮内ディバイス)で、3週間装着・1週間外すを繰り返す。最長で13サイクルまで使用可能。臨床試験では避妊成功率97%(Pearl Index2.98)だった。FDAは、静脈血栓塞栓のリスクや、CYP3A影響薬やタンポンが薬物動態に与える影響を市販後に確認するよう求めた。

承認申請したのは、IUDの代表的な製品であるMirena(levonorgestrel、和名ミレーナ)などの開発実績を持つ非営利組織、Population Council。販売権を持つTherapeuticsMD(Nasdaq:TXMD)は生産のスケールアップを行って19年第4四半期または20年第1四半期に本格発売する予定。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Population Councilのプレスリリース
リンク: TerapeuticsMDのプレスリリース

基礎体温法のアプリも承認
(2018年8月10日発表)

FDAは、避妊用もモバイルアプリを初めて承認した。毎日、起床時の基礎体温を入力すると危険日に警告が出る。

このようなものまで承認が必要なのか、不思議だが、人体に与えるリスクが低中度であるディバイスに係る新しい規定を適用して販売前審査を行ったとのことだ。

Natural Cycles Nordic ABのアプリで、価格は基礎体温計とセットで年79.99ドル、または、月9.99ドル。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Natural Cyclesの製品HP

FDAもポテリジオを承認
(2018年8月9日発表)

FDAは、協和発酵キリンのPoteligeo(mogamulizumab、和名ポテリジオ)を皮膚T細胞リンパ腫用薬として承認した。全身治療歴を有する成人の再発性もしくは難治性の菌状息肉腫(MF)及びセザリー症候群(SS)が適応になる。臨床試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が7.6ヶ月とMSDのZolinza(vorinostat)の3.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.53、統計的に有意だった。

これらの腫瘍で発現するCCR4を標的とする抗体で、Biowa子会社のポテリジェント技術でADCC活性を増強した。日本で12年にCCR4陽性成人T細胞白血病用薬として、14年には皮膚T細胞リンパ腫や末梢T細胞リンパ腫用薬として承認されているが、米国は今回が初承認。欧州でも米国と同じ適応で承認申請中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 協和発酵キリンのプレスリリース(和文、pdf)







今週は以上です。

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2018年8月5日

2018年8月5日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 大塚、Dacogen改良薬の最初の第三相がフェール 
  • Nektar社、新規鎮痛剤の承認申請をFDAが受理 
  • Nektar社、新規鎮痛剤の承認申請をFDAが受理 
  • Progenics社の放射線療法薬をFDAが承認 
  • 塩野義、ムルプレタが米国でも承認 
  • ノバルティス、EUで片頭痛予防薬が承認 
  • 大塚、レキサルティがEUで承認 
  • オプジーボ、EUで黒色腫切除術後アジュバントに適応拡大 
  • EMA、自主回収中の降圧剤の癌のリスクは5000人に一人 


【新薬開発】


大塚、Dacogen改良薬の最初の第三相がフェール
(2018年7月31日発表)

大塚製薬と米国子会社のアステックスは、SGI-110(guadecitabine)の第三相試験がフェールしたと発表した。強度化学療法が不適なAML(急性骨髄性白血病)の一次治療における全生存期間や完全寛解率を実薬(低用量cytarabine、decitabine、azacytidine)と比較したが、有意に上回ることができなかった。

このDNAメチル化阻害剤は、大塚が13年に子会社化したアステックスが開発したdecitabineのプロドラッグで、分布や半減期を向上。DNA外からDNAメチルトランスフェラーゼ1を阻害できる特性もあるようだ。Dacogenは米国ではMDS(骨髄異形成症候群)にしか承認されていないが欧州では強度化学療法不適の一次性、二次性AMLの一次治療にも承認されている。

改良薬の宿命は効果または安全性が既存薬を上回らなければならないこと。既にGE化したdecitabineと同じでは新薬の高薬価を正当化できないからだ。

guadeceitabineはAMLの再発治療や、MDSまたは慢性骨髄単球性白血病(CMML)の再発治療でも第三相試験が進行中。

リンク: 大塚製薬のプレスリリース(和文)


【承認申請】


Nektar社、新規鎮痛剤の承認申請をFDAが受理
(2018年7月30日発表)

Nektar Therapeutics(Nasdaq:NKTR)は、FDAがNKTR-181の承認申請を受理したと発表した。新開発の経口ミュー・オピオイド受容体(OPRM1;MOR)アゴニストで、オピオイド治療歴のない慢性腰痛の治療に用いる。米国ではオピオイドの乱用が重大な社会問題・政治問題になっている。NKTR-181はどのような経路で摂取してもBBB通過が遅いため、薬物乱用されにくい可能性がある。審査期限は来年5月29日。

リンク: Nektarのプレスリリース


【承認】


Progenics社の放射線療法薬をFDAが承認
(2018年7月30日発表)

FDAは、Progenics Pharmaceuticals(Nasdaq:PGNX)のAzedra(iobenguane I 131)を12歳以上の褐色細胞腫や傍神経節腫の治療に用いることを承認した。これらの疾患で抗癌剤が承認されたのは初。ヨーベングアン・スキャン陽性の、切除不能または局所進行性転移性で、全身性抗がん剤を必要とする患者が適応になる。後期第二相試験では25%の患者が降圧剤を半減することができた。二次的評価項目であるRECISTベースの総合反応率は22%だった。

3ヶ月置いて二回、静注する。価格は一回147000ドルとなる模様。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Progenicsのプレスリリース

塩野義、ムルプレタが米国でも承認
(2018年8月1日発表)

塩野義製薬の米国子会社は、FDAがMulpleta(lusutrombopag、和名ムルプレタ)を待機的な観血的手技に関連する出血リスクが高い慢性肝疾患患者における血小板減少症の治療薬として7月31日に承認したと発表した。発売は9月の予定。

トロンボポエチン受容体作動薬で、日本では15年に承認されている。

リンク: 塩野義のプレスリリース

ノバルティス、EUで片頭痛予防薬が承認
(2018年7月30日発表)

ノバルティスは、Aimovig(erenumab)がEUで片頭痛薬として承認されたと発表した。アムジェンが創製した抗CGRP受容体完全ヒト化抗体で、月一回皮注。両社はアルツハイマー病や片頭痛領域で共同開発提携を結んでおり、Aimovigはノバルティスが欧州などの販売を担う。共同販売する米国では5月に承認された。

臨床試験では慢性片頭痛の月間片頭痛日数が6日強減少し、偽薬群の4日強減少を上回った。間歇片頭痛試験では、各3日前後と2日弱減少した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

大塚、レキサルティがEUで承認
(2018年7月31日発表)

大塚製薬は、Rxulti(brexpiprazole、米名Rexulti、和名レクサルティ)がEUで承認されたと発表した。非定型向精神薬Abilify(aripiprazole)の構造転換で、統合失調症の治療に用いる。ルンドベックと共同開発販売しており、19年前半に発売の予定。米国では15年に承認されている。

リンク: 大塚のプレスリリース(pdfファイル)

オプジーボ、EUで黒色腫切除術後アジュバントに適応拡大
(2018年7月31日発表)

BMSは、OPdivo(nivolumab)を悪性黒色腫完全切除後のアジュバント(再発予防)に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。CheckMate-238では18ヶ月無再発生存率が66.4%とYervoy(ipilimumab)群の52.7%を有意に上回った。米国でも昨年12月に承認されている。

リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMA、自主回収中の降圧剤の癌のリスクは5000人に一人
(2018年8月2日発表)

Zhejiang Huahai Pharmaceuticalで製造された原薬を使用している一部のバルサルタン製剤が世界中で自主回収されている。理由は、発がん物質であるN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)の混入が発覚したため。2012年の新生産プロセス導入がきっかけと疑われているようだ。

EMAのリリースで目を引くのは、動物試験での観察を元に癌のリスクを暫定的に推測していることだ。最大承認用量の320mg/日を7年間服用し続けたとして、癌の増加は5000人に一人とのこと。EU市民が一生のうちに癌になるリスクは3人に一人と明記しており、相対的には大きなリスクではないことになる。

問題の原薬を使用していた製薬会社は、製品サンプルを検査してNDMA混入量を確認することになっている。

医薬品審査機関は、自主回収や安全性懸念が浮上するたびに、担当医に相談せずに服薬を止めないよう念を押すのが通例である。だが、患者側としては辛い物を食べた途端に勝手に吐き出してはいけないと言われるようなもので、どうしたらよいのか当惑するばかりだ。それだけに、EUが具体的な推定数字を示したことは評価できる。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

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