2020年2月22日

2020年2月22日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 中国でアビガンなどがCOVID-19の治療に成果 
  • COVID-19感染予防にマスクは不要? 
  • インサイト、ルキソリチニブのアトピー試験成功 
  • テバ、トゥレット症候群試験がフェール 
  • バイオマリン、FDAがA型血友病の遺伝子療法の承認申請を受理 
  • ロシュ、FDAがテセントリクの適応拡大申請を受理 
  • エスペリオン、新作用機序のコレステロール治療薬が承認 
  • ルンドベック、点滴用片頭痛予防薬が承認 
  • イーライリリー、トルリシティで心血管疾患抑制の効能追加 


【今週の話題】


中国でアビガンなどがCOVID-19の治療に成果
(2020年2月16日発表)

チャイナネット(中国の政府系ニュースサイト)やエンドポインツ・ニューズ(カンザス大学系のバイオニュース報道機関)によると、中国ではCOVID-19治療薬として富士フィルム富山化学のアビガン(ファビピラビル/JAN、favipiravir/INN)やクロロキン、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)などが浮上してきたとのこと。

これまで最も有望と考えられていたのはアッヴィのKaletra(プロテアーゼ阻害剤lopinavirと3A4阻害剤ritonavirの合剤)で、SARSが流行した時も、今回も、一部の患者に探索的に投与された。

但し、無作為化割付対照試験ではないので自然軽快だった可能性もあり、エビデンスは強固ではない。非常事態にキチンとした偽薬対照試験を行うのは容易ではないので、現実的な解は、多くの患者が発生した地域で新薬のKaletra対照試験を試験を行い、Kaletraが効こうが効くまいが新薬のほうが良いという結果を出すことだ。

この点で注目されるのがfavipiravirだ。深セン市第三人民医院が主導した80人規模の治験で抗ウイルス活性や有害事象がKaletraより優れていた由。コンパッショネイト・ユースを可能にするためにインフルエンザ治療薬として承認されたと報じられている。薬剤はアビガンのAPI生産を担うZhejiang Hisun Pharmaceutical(浙江海正薬業)が供給する模様だ。

favipiravirは14年に日本でインフルエンザ治療薬として承認された。催奇性を持つためパンデミック用備蓄薬に留まっているが、エボラウイルス疾患の臨床試験も含めて、ある程度の安全性データを持つことが長所。

マラリア治療薬クロロキン二りん酸塩は北京や広東省の10以上の病院で100人以上の患者を組み入れて臨床試験が行われている。治療ガイドライン作成時に採用されるべき、との評価もあるようだ。日本で副作用禍が発生したことがあるが、市販歴は長い。入手可能性の点でも他の薬より良好だろう。

既報のように、remdesivirは中日友好医院などで二本の二重盲検試験が開始されたが、残念なことに、組入れは想定より遅れているようだ。エボラの臨床試験実績があるとは言え、他剤と比べて症例数が限定的であることや、この非常事態に厳格な二重盲検試験を行うのは、残念なことだが、やはり困難なのだろう。

SARSやMERSのワクチンや治療薬の開発が進まなかったのは、流行が長続きしないからである。COVID-19治療薬の開発に成功しても、その頃には不要になっているかもしれないし、臨床試験の最中に沈静化して続行できなくなってしまうかもしれない。しかし、最近痛感するのは、開発に賭けた努力や資金は無駄にはならないということだ。エボラは14~16年の大流行時に実施された臨床試験が沈静化で中断したが、今回のコンゴ民主共和国での流行で開発再開され、複数のワクチンや治療薬が実用化された。KaletraやクロロキンはSARSやMERSに対する使用経験が今回も生かされている。COVID-19が1~2年で終息したとしても、その経験はSARS-CoV-3が登場した時に生かされるだろう。

リンク: チャイナネット(中国政府系ニュースサイト)の記事(2/17付)
リンク: Endpoints Newsの記事(2/18付)

COVID-19感染予防にマスクは不要?
(2020年2月22日)

(2020年4月7日追記:本項執筆後、CDCが一般人に対して布製顔カバー(マスクなど)の着用を推奨する方向転換を行いました。 背景は、感染者の増加と不顕感染者でも他人に感染させる可能性があること。本人が自覚なく感染している可能性を踏まえ、他人にうつさないよう配慮するわけです。医療従事者用のマスクは使うなと言っています。品不足だからでしょう。布製マスクは感染防止力の点では劣るので、一番重要jな『他人と距離を取る』ことの代わりにはならないとしています。)

リンク: CDCの感染予防アドバイス(2020年4月7日アクセス)

インフルエンザ予防にマスクは不要、というCDC(米国疾病管理予防センター)の推奨をMedicine-Blogで紹介してから10年余、再び新型ウイルスが流行し、再びレイメディアがマスクの効果を喧伝し、薬局でもコンビニでも100円ショップでも入手困難になった。私は以前から風邪気味で花粉も飛び始めたので買いたかったが、一箱確保するのがやっと。ネットではトンデモない値段で売られているようだ。

2009年カリフォルニア型A(H1N1)インフルエンザウイルスと比べると今回のSARS-CoV-2は、よくわからないが感染力は弱そう、国内の感染者数も少なそう、しかし死亡率は高そうなので、予防する意義は同じくらいありそう。一方、コロナウイルスはインフルエンザウイルスより小さいとのことなので、マスクの空気穴や端の隙間から出入りする可能性はインフルエンザウイルスと比べても高そうな気がする。

もう一度、CDCの見解を調べたところ、やはり、感染していない人には、人混みを除いて、常用を推奨していない。呼吸器ウイルスは濃厚接触(6フィート<1.8メートル>)下で感染することが多いので、日常的な感染予防手段、つまり、感染者を避け、目や鼻を触らないよう注意して、咳やくしゃみをする時はティッシューでカバーすることを推奨している。

一方、2019-nCoV感染が確認・疑われる人は、病院や家庭で隔離されるまでマスクをするよう推奨している。完全でなくても、リスク管理の第一歩は3割減れば良しとするのが常だからだろう。

心配なのは、世間に広がるマスク神話だ。無意識のうちに指で口を触ってしまうリスクを防げることは長所だが、問題は、マスクをしている時は、遠慮せずに思い切り、口を手で覆いもせず、下を向きもせずに咳をしてしまうことだ。感染してしまった人や濃厚接触せざるを得ない人はマスクが完全ではないことを十分に心得るべきだろう。

N95マスクはインフルエンザウイルスもコロナウイルスも殆ど通過しないが、長時間装着していると水蒸気が空気穴を塞ぎ息苦しくなるので、感染症の治療に当たる医療従事者は数時間おきに交換するらしい。値段が高いので、一日に何度も取り替えるのは財布が痛む。きちっと装着することが重要だが難しく、米国では、N95マスクを必要とする医療従事者は年1回、装着テストを受ける法定義務がある。感染者・濃厚接触者以外には現実的な選択ではなさそうだ。

さて、ダイヤモンド・プリンセス号は中国以外で一番多くの患者を抱える存在になったが、その割には、乗客に対する啓蒙が十分でなかったように感じられる。TV中継や船内のビデオを見ると、一部客室の乗客がデッキに出ることが認められた後、狭い廊下ですれ違ったり、デッキで1メートルも離れていないような椅子に並んで座っていたり、他の部屋の乗客に近づかないようにという指示が徹底されていないように感じられる。ウイルス検査が陰性で症状もない人は下船したが、階段を降りる時に踊り場の手すりを素手で触っている人がいた。

開放を喜ぶ気持ちはよく分かり隔離されていた人たちを責めるつもりはない。キチンと指示したのか、徹底したのかが問題だろう。「清潔」、「不潔」という掲示が法令通達で定められた正式な表記なのかもしれないが、例の写真を見て、昔、朝日新聞の記者が沖縄の珊瑚を自ら傷つけて環境破壊を訴えたヤラセ写真を連想した。

リンク: CDCのFAQ(2020年2月22日アクセス)
リンク: マスクはインフルエンザに効くのか、効かないのか(Medicine-Blog Archive、2009年5月29日付)


【新薬開発】


インサイト、ルキソリチニブのアトピー試験成功
(2020年2月19日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、ruxolitinibのクリーム製剤を軽中度アトピー性皮膚炎の治療に当てた第三相試験が二本とも成功したと発表した。延長試験で忍容性を検討した上で承認申請することになろう。

ruxolitinibはJAK1/2阻害剤で、経口剤がJakafi(和名ジャカビ)として骨髄線維症や真性赤血球増加症、急性移植片宿主病の治療に承認されている。今回のアトピー性皮膚炎試験は、年齢12歳以上、病歴2年以上で局所療法の候補になる、IGAスコアが2から3で病変が頭皮以外の体表面積の3-20%の患者を組み入れて、偽薬、0.75%、または1.5%を一日2回、8週間投与し、IGA奏効率(IGAスコアが0または1になりベースライン比で2ポイント以上改善)を比較した。

結果は、AD1試験では各群15.1%、50.0%、53.8%、AD2試験では7.6%、39.0%、51.3%となった。二次的評価項目のEASI奏効率(EASIスコアが75%以上改善)はAD1が24.6%、56.0%、62.1%、AD2は14.4%、51.5%、61.8%となった。何れも偽薬群比統計的に有意。

治療時有害事象発現率は二本合計で各群33.6%、29.4%、26.3%、深刻有害事象発現率は0.8%、0.8%、0.6%だった。

リンク: インサイトのプレスリリース

テバ、トゥレット症候群試験がフェール
(2020年2月19日発表)

テバファーマスーティカル・インダストリーズ(NYSE:TEVA)は、deutetrabenazineの中重度小児トゥレット症候群適応拡大試験がフェールしたと発表した。12週間の第2/3相試験も、二用量をテストした8週間の第3相も主評価項目(YGTSS-TTSチック症状スコアの改善)を達成できなかった。

deutetrabenazineはルンドベックのVMAT-2(vesicular monoamine transporter Type 2)阻害剤、Xenazine(tetrabenazine)の一部の水素基を重水素で置換することによって作用を長期化するとともに忍容性や薬物動態の個人差、薬物相互作用を改善したもの。Xenazineから9年遅れて17年4月に米国でハンチントン舞踏病治療薬Austedoとして承認され、同年8月にはXenazineのオフレーベル用途である遅発性ジスキネジアに適応拡大した。

しかし、もう一つのオフレーベル用途であるトゥレット症候群は、ニューロクラインバイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)のVMAT-2阻害剤で17年に遅発性ジスキネジア治療薬として承認されたIngrezza(valbenazine)の第二相試験二本もフェールしており、なかなか結果が出ない。

Austedoは15年に35億ドルで買収したAuspex Pharmaceuticalsの開発品。

リンク: テバのプレスリリース


【承認申請】


バイオマリン、FDAがA型血友病の遺伝子療法の承認申請を受理
(2020年2月21日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は昨年12月に欧米でBMN 270(valoctocogene roxaparvovec)を重度A型血友病の成人の治療薬として承認申請していたが、EMAに続いてFDAも正式に受理したことが公表された。優先審査で審査期限は8月21日。現時点では諮問委員会上程は予定されていない由。

血液凝固第8因子の遺伝子を5型アデノ随伴ウイルス(AAV5)で導入する遺伝子療法。第3相試験の中間解析で16人中8人が目標(23~26週後に第8因子水準が40IU/dL以上に増加)を達成した。出血頻度や第8因子投与は9割前後減少した。有害事象は肝臓酵素上昇や悪心、頭痛、疲労、関節炎など。深刻有害事象発現率は13%。インヒビターは検出されなかった。

バイオマリンによると、A型血友病の8割はAAV5に対する免疫を持たずBMN 270の治療対象になる由。確認するためのコンパニオン診断薬、AAV5 total antibody assayもPMA(医療機器承認申請)された。ユタ大学系のARUP Laboratoriesが生産する。

A型血友病の遺伝子治療はサンガモ・セラピューティクスがAAV6をベクターとするSB-525をファイザーと共同開発中。昨年12月にロシュの子会社になったSpark TherapeuticsもSPK-8011が第三相段階。重度血友病は高価な遺伝子組換え型血液凝固因子をルーチン投与して出血事故を予防する。遺伝子療法は更に高価だが、経済的価値を検討するためには半年の試験では足りず、効果が何年続くのか、追跡調査すべきだろう。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

ロシュ、FDAがテセントリクの適応拡大申請を受理
(2020年2月19日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を進行非小細胞製肺がんの一次治療として単剤投与する適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月19日。SP142アッセイでPD-L1高発現(TCが3またはICが3)と判定され、ALKとEGFRは野生型の癌が対象になる。

根拠となるIMpower110試験の中間解析では、Tecentriq群のメジアン生存期間が20.2ヶ月と化学療法群(扁平上皮腫はgemcitabine、それ以外はpemetrexedを、cisplatinまたはcarboplatinと併用、pemetrexedは維持療法も施行)は13.1ヶ月となり、ハザードレシオ0.595、p=0.0106だった。この試験ではPD-L1中高発現サブグループやPD-L1低中高発現サブグループの解析もシーケンシャルな主評価項目だったが、前者は点推定値は悪くなさそうだったがp値が割り当てられたアルファを下回り、探索的解析となった後者は有望には見えなかった。

G3/4の治療時有害事象発現率は12.9%で化学療法群の44.1%を下回った。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


エスペリオン、新作用機序のコレステロール治療薬が承認
(2020年2月21日発表)

エスペリオン・セラピューティクス(Nasdaq:ESPR)は、FDAがNexletol(bempedoic acid)を承認したと発表した。コレステロールの生合成に関わる酵素、ATPクエン酸リアーゼを阻害する経口剤で、ヘテロ接合性家族性高脂血症やアテローム硬化性心血管疾患で、最大耐容量のスタチンを服用してもLDL-Cを十分に下げることができない患者に用いる。臨床試験ではLDL-Cが偽薬比17~18%低下した。

LDL-C治療の目的は心血管疾患リスクの抑制だが、Nexletolは2022年頃まで心血管アウトカム試験の結果が出ない見込み。既存のオルターナティブ系高脂血症薬であるezetimibeはスタチン服用患者に追加投与する時のLDL-C治療効果が10%程度と小さく、心血管アウトカム試験は成功したが米国では効能追加が認められなかった。Nexletolはezetimibeよりは良い結果が出るのではないか。

エスペリオンはbempedoic acidとezetimibeの合剤も承認申請しており、今月内に承認される見込み。欧州では1月にCHMPの肯定的意見を得た。第一三共が単剤、合剤ともに販売する予定。

エスペリオンはLipitor(atorvastatin)の発見に貢献した研究者が設立した。ファルマシアを買収したファイザーが一時期、子会社化していたが、最大のパイプラインであったA-Iミラノの開発が難航、08年にスピンアウトされた。

リンク: エスペリオンのプレスリリース

ルンドベック、点滴用片頭痛予防薬が承認
(2020年2月21日発表)

ルンドベックは、FDAがVyepti(eptinezumab-jjmr)を片頭痛予防薬として承認したと発表した。抗CGRP(calcitonin gene-related peptide)抗体はアムジェンのAimovig(erenumab-aooe)が18年に承認されて以来、続々と承認されているが、Vyeptiは皮注ではなく点滴静注であることが特徴。投与頻度は3ヶ月毎で、テバの皮注用薬Ajovy(fremanezumab -vfrm)と同じ、他の抗CGRP抗体は毎月。

昨年10月にAlder BioPharmaceuticalsを約20億ドルで買収して入手したもの。欧州や日本、中国でも今年、承認申請の計画。

リンク: ルンドベックのプレスリリース

イーライリリー、トルリシティで心血管疾患抑制の効能追加
(2020年2月21日発表)

イーライリリーは、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)の心血管疾患リスク削減効果がFDAに承認されたと発表した。2型糖尿病に用いるGLP-1作用剤で、心血管疾患を合併している、あるいは複数のリスク因子を持つ2型糖尿病を組み入れたREWIND試験で、心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的脳卒中のハザードレシオが0.88(95%信頼区間0.79-0.99)だった。尚、この試験の解析計画上の前提は0.82だった。

TrulicityはGLP-1作用剤のトップブランドだが、ノボ ノルディスクも心血管アウトカム試験が成功し、また、業界初の経口剤を投入したため、競争が激化しれいる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース




今週は以上です。

2020年2月15日

2020年2月15日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダのTNBC一次治療試験が成功 
  • 優先遺伝性アルツハイマー病試験がフェール 
  • Biohaven社、troriluzoleの全般性不安障害試験がフェール 
  • シアトル・ジェネティクス、her2阻害剤を承認申請 
  • ノバルティス、METエクソン14変異型非小細胞性肺癌用薬を承認申請 
  • JNJ、ダラザレックスの用法追加申請 
  • FDA、エーザイにBelviqの販売中止を要請 


【新薬開発】


キイトルーダのTNBC一次治療試験が成功
(2020年2月12日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)のKeyNote-355試験が成功したと発表した。今後、データを学会で発表すると共に承認審査機関と協議する予定。

この試験の対象は、局所再発切除不能または転移性のトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)で転移後の化学療法を初めて受ける患者。2部構成となっており、パート1で至適用量を決定、パート2で847人を化学療法(paclitaxel、nab-paclitaxel、gemcitabineとcarboplatinの併用のうちから医師が選んだ薬を)にKeytrudaを追加する群と偽薬を追加する群に無作為化割付して、仮説を検証した。

主評価項目は欲張りで、PFS(無進行生存期間)と全生存期間を、全ユニバース、CPS(Combined Positive Score)≧10のPD-L1高度陽性サブグループ、そしてCPS≧1のPD-L1陽性サブグループについて、解析した。今回、中間解析で、高度陽性サブグループのPFSの解析が成功認定された。統計学的に有意で臨床的にも意味のある効果が見られた由。全生存期間の解析は未だなので治験は続行される。

PD-L1陽性サブグループや全ユニバースの解析がどうだったのかは明らかではない。主評価項目がこれだけあると成否を分ける閾値はp=0.05より低く設定されているだろうし、中間解析となるとアルファの配分が更に小さいだろうから、単に未だデータが熟していないから言及しなかった可能性も十分あるだろう。

それはそれとして、転移性乳癌の薬効評価は難しいところがあり、PFSで良い結果が出たからと言って全生存の解析が成功するとは限らない。全てのデータが明らかになるまで、評価は保留するのが妥当だろう。

TNBCはエストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、her2の何れも陰性の乳癌で、有効な薬が少ない。乳癌の15~20%を占める。KeytrudaはI-SPY 2という、様々なタイプの薬を次々とテストして第三相試験の成功確率を予測する臨床試験のTNBCパートを15年に卒業した。二次治療、三次治療におけるモノセラピーの効果を化学療法と比較した119試験はフェールしたが、PD-L1陽性サブグループのハザードレシオは悪い数値ではなかった。早期TNBCの術前化学療法併用試験は成功し、CPSが1を上回るサブグループでも下回るサブグループでも効果が見られた。

抗PD-1/PD-L1抗体では、ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)が19年に日米欧でTNBC一次治療に承認されている。腫瘍浸透免疫細胞におけるPD-L1の発現が1%以上の患者にnab-paclitaxelと併用する。MSDがしばしば使うCPSは腫瘍だけでなく免疫細胞のPD-L1発現も評価している。他の類薬の試験成績と見比べると、TNBCに関しては有効なスクリーニング手段であるように感じられるが、早期乳癌試験のような例外もあるので、判然としない。

リンク: MSDのプレスリリース

優先遺伝性アルツハイマー病試験がフェール
(2020年2月10日発表)

セントルイス・ワシントン大学メディカルスクールは、DIAD(優性遺伝アルツハイマー)ネットワーク試験ユニットが主導したDIAN TU試験がフェールしたと発表した。詳細は4月2日にウイーンの学会で発表する予定。

この試験は、アルツハイマー病の優先遺伝変異キャリア194人を組入れて、アミロイドベータを標的とする抗体二剤(ロシュの皮注用gantenerumabとイーライリリーの静注用solanezumab)の治療効果を夫々の偽薬と比較した。主評価項目はDIAN Multivariate Cognitive Endpointという4種類の評価スコアを複合したもの。オーストラリアや北米、欧州の施設が参加した。

アミロイド前駆細胞やPSEN1/2に優性遺伝変異を持つ人は、典型的には30代から50代にかけて、記憶消失や認知症を引き起こすリスクがある。アルツハイマー病は加齢性が殆どで優性遺伝変異による早発性は1%未満に過ぎない。しかし、アミロイド仮説の起源が早発性アルツハイマー病におけるこれらの遺伝子変異であることを考えれば、治験の意義は大きい。アミロイド前駆細胞からアミロイドベータが切り出される過程に係る遺伝子の変異が主導する病気に効かなかったら、加齢に伴う機能低下も係るより複雑なモデルである加齢性アルツハイマー病に効くと信じ続けるのは非合理的であろうからだ。

但し、今回のフェールは薬ではなく治験のフェールである可能性も濃厚だ。第一にサイズ。製薬会社が主導する加齢性アルツハイマー病の第三相は数千人を1年半程度追跡という規模であるのに対して、DIAN TUは一群250人年程度で、病状の悪化が著しく早くない限り、治療効果を検出するには難しいのではないかと思われる。また、この試験は未発症だけでなく軽度アルツハイマー病と診断された患者も組入れており、症状の進行や治療効果が疾病ステージによって異なるとしたら、複雑すぎて真実を把握できなくなるリスクがある。

また、本試験の用量漸増プロトコルの詳は公表されていないが、緩徐すぎたとコメントする研究者もいるようだ。

ロシュとイーライリリーは、対象が異なることなどから、今回のフェールは両剤の進行中の第三相試験には影響しないと述べている。

gantenerumabは前駆/軽度アルツハイマー病の第三相が二本進行中で、22年頃に結果が判明する見込み。

solanezumabは軽中度アルツハイマー病の第三相試験が全てフェールしたが、アミロイドベータ蓄積が見られるがアルツハイマー病とは診断されていない人1150人を組入れて発症予防効果を検討する第三相A4試験が進行中で、22年頃に結果が判明する見込み。

リンク: セントルイス・ワシントン大学のプレスリリース

Biohaven社、troriluzoleの全般性不安障害試験がフェール
(2020年2月10日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)の第三相全般性不安障害試験がフェールしたと発表した。主評価項目のHAM-D総合スコアの低下が9.28ポイントと、偽薬群の9.35ポイントと大差なかった。

troriluzoleはサノフィのALS治療薬、Rilutek(riluzole)のプロドラッグで、アミノペプチダーゼによりriluzoleに変換される。一日二回服用のRilutekと異なり一日一回で足り、食物影響が小さい。Biohavenはエール大学のライセンスでグルタミン酸による興奮性刺激が関与する4疾患に第三相試験を展開してきた。他の三本は第三相強迫性障害試験が今年第2四半期に、第2/3相軽中度アルツハイマー病試験が第4四半期に、第2/3相脊髄小脳失調症試験が2021年に開票する見込み。

リンク: Biohavenのプレスリリース


【承認申請】


シアトル・ジェネティクス、her2阻害剤を承認申請
(2020年2月13日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)はtucatinibを承認申請していたが、昨年12月のEUに続いて、米国でも、受理された。優先審査で審査期限は8月20日だが、リアル・タイム オンコロジー・リビューの対象に選ばれたので、もっと早く承認される可能性がある。また、Project Orbisの対象でもあるため、並行審査に加わる他の国(前例ではオーストラリアやカナダ)で同時承認される可能性がある。

tucatinibは18年に約6億ドルで買収したCascadian Therapeuticsの開発品で高度選択的her2チロシンキナーゼ阻害剤。三剤以上のher2標的薬(trastuzumab、pertuzumab、ado-trastuzumab emtansineなど)歴を持つher2陽性局所進行性/転移性乳癌に、trastuzumab及びcapecitabineと併用する。乳癌は早期発見し外科的治療を行うことが多いが、術前術後でher2標的薬を使った症例も対象。脳転移の有無は問わない。

trastuzumab及びcapecitabineに追加する三剤併用法を偽薬を追加する二剤併用群と比較したHER2CLIMB試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.54、p<0.00001、全生存期間のハザードレシオが0.66、p=0.0048と良好な成績だった。有害事象による治験離脱率は5.7%(偽薬群は3.0%)。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース


ノバルティス、METエクソン14変異型非小細胞性肺癌用薬を承認申請
(2020年2月11日発表)

ノバルティスは、INC280(capmatinib)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は、いつものように、公表されていない。

capmatinibは09年にインサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスした選択的MET阻害剤。承認申請の根拠となった第2相局所進行/転移非小細胞性肺癌試験では、MET遺伝子にエクソン14スキップ変異(METex14m)を持つコフォートで、ORR(客観的反応率、盲検独立評価委員会ベース)が初めて治療を受ける28人では68%でメジアン反応持続期間11.1ヶ月、治療歴を持つ69人では各41%と9.7ヶ月だった。有害事象は末梢浮腫(42%)や胃腸性有害事象、クレアチニン値上昇などが多かった。グレード3/4の有害事象の発現率は36%。

METex14mは進行非小細胞性肺癌の新患の3-4%を占める。ロシュ・グループのFoundation Medicineがコンパニオン診断薬を開発しており、組織標本だけでなく、Foundation MedicineがFDAに承認申請したリキッド・バイオプシー・プラットフォームにも含まれているとのこと。

類薬ではメルクのテプミトコ(テポチニブ塩酸塩水和物)が日本で承認申請され、2月26日の第二部会に上程される予定。欧米の申請状況は不明。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

JNJ、ダラザレックスの用法追加申請
(2020年2月10日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、米国でDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の用法追加を申請した。再発/難治多発骨髄腫にアムジェンのプロテアソーム阻害剤Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)及びdexamethasoneと併用するDKdレジメンで、一次から三次までの治療歴を持つ患者を組入れた第三相のオープンレーベル試験(CANDOR試験)では、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が未達でKyprolisとdexamethasoneだけの群の15.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63、p=0.0014だった。

Darzalexは多発骨髄腫の表面分子、CD38を標的とする完全ヒト化抗体。12年にジェンマブから世界独占開発販売権を取得、15年に米国で四次治療薬として初承認され、その後、様々な併用レジメンで一次治療、再発治療に開発が進められてきた。点滴静注用だがHalozyme社(Nasdaq:HALO)の技術で開発した皮注用製剤も欧米で承認審査中。

リンク: JNJのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、エーザイにBelviqの販売中止を要請
(2020年2月13日発表)

FDAは、体重管理薬Belviq(lorcaserin)とBelviq XRについて自発的に販売中止(market withdrawal)するようエーザイに要請し、エーザイが販売中止申請を提出したと発表した。8年前に承認した時のフェーズIVコミットメントである長期大規模試験で癌の増加が見られたため。私見ではリスクは小さくノイズである可能性も十分に考えられるが、FDAは、薬効が元々穏やかなのでリスクテイクに値しないと判断したのだろう。エーザイのBelviqの売上高は57億円、うち米国は39億円と、小さい(19/3期実績)。

Belviqは元々はアリーナ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARNA)が開発した選択的5-HT2cアゴニスト。体重管理薬と言えば、90年代に米国でfenfluramineとphentermineの併用法が未承認のままフェンフェン名でブーム化したが、肺高血圧症や心臓弁膜障害のリスクが表面化し、fenfluramineやdex異性体を販売していたアメリカン・ホーム・プロダクツ(当時)が販売を中止したことがある。PL訴訟の和解金引当額は211億ドルに達し、MSDのVioxx(rofecoxib)に抜かれるまで、空前絶後と考えられていた。

心臓弁膜副作用はfenfluramineの代謝物が5-HT2bを作動することが原因と考えられている。アリーナは5-HT2c選択的なコンパウンドなら回避できると想定、FDAとの相談を踏まえて臨床試験で心エコー検査などを行い安全性を確認した上で09年に承認申請した。懸念が完全には払しょくされなかったことや、ラットに臨床用量相当量を投与した癌原性試験で乳腺線維腺腫の増加が見られたため一巡目は審査完了通知を受領するに留まったが、12年に、市販後に心血管アウトカム試験を実施して安全性を確認することを条件に承認された。18年にこのCAMELLIA-TIMI 61試験の結果が論文発表された時点では、体重や二型糖尿病発症リスクは期待通りに低下し、心血管イベントや癌は増えないという、可も不可もない結果と受け止められたが、驚くべきことに、今年1月になって、癌が増加したため精査を開始したとFDAが発表した。

治験論文によると、癌の発症は試験薬群が215人(3.59%)、偽薬群が210人(3.50%)で有意差はなかった。ところが、今回の発表によると、試験薬群は462人(7.7%)で520の原発癌が見つかり、偽薬群は423人(7.1%)で470原発癌だった。数値上上回ったと記されているので統計的に有意ではないのだろう(試しに簡易法で計算したところp値は0.1を上回った)。治験論文のメジアン追跡期間は3年3ヶ月だが、癌のリスクは長期間追跡しないと判明しないので、その後も追跡して初めて、リスクの兆候が現れたのだろう。

尤も、本当に癌原性があるのかどうかは曖昧だ。第一に、リスクは点推定値だけ見てもそれほど大きくない。第二に、FDAのリリースによると増加したのは膵癌、結腸直腸癌、肺癌などで、ラット試験における所見とやや異なっている。第三に、そもそも、体重管理薬は途中で止めてしまう人が多く、本試験でも薬効解析時点で服用を続けていたのは6割程度だった。服用しない期間が長かったためノイズを拾いやすかった可能性もあるのではないか(暴露が限定的だったからリスクがあまり高まらなかったのかもしれないが)。

FDAはBelviqを服用している患者は中止するよう勧告したが、公衆向けに推奨されているもの以外の特別な癌検査を行うことまでは勧告していない。リスクが特に大きくはなく、スクリーニング検査には偽陽性などのリスクもあることに配慮したのだろう。

エーザイは体重管理薬の験が悪い。アボット(当時)からライセンスしたsibutramineを07年に日本で承認申請し、第一部会を通過したが、FDAの要請で実施された市販後安全性試験で心血管疾患が小幅だが有意に増加したことが判明。FDAは警告強化に留めたがアボットが自主的に販売中止、日本でも申請撤回となった。このSCOUT試験の結果が出ることは前から分かっていたことなので、なぜ部会をすんなり通過したのか理解できず、公表後に議事録を読んだが伏字ばかりで若わない。抗議の意を込めて、当時出していたブログに全部転載したことを思い出す。

リンク: FDAの安全性通達
リンク: CAMELLIA-TIMI 61治験論文(New England Journal of Medicine、オープンアクセス)
リンク: シブトラミンの心血管安全性問題に関するブログコメント(MEDICINE-BLOG ARCHIVE)






今週は以上です。

2020年2月9日

2020年2月9日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 中国でremdesivirの新型コロナウイルス疾患の第三相試験開始 
  • ロシュ、risdiplamの二型、三型脊髄筋委縮症試験が成功 
  • HIVワクチンの第三相がまた中止に 
  • MSD、Recarbrioを院内感染肺炎に適応拡大申請 
  • 細胞培養型プリパンデミック・インフルエンザワクチンが米国で承認 
  • MSD、ベルソムラの米国のレーベルにアルツハイマー病患者試験のデータを掲載 


【今週の話題】


中国でremdesivirの新型コロナウイルス疾患の第三相試験開始
(2020年2月5日発表)

中国でギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)を2019-nCoV(新型コロナウイルス)疾患の治療に充てる第三相偽薬対照無作為化割付二重盲検試験が二本、開始された。治験登録によると、どちらも推定主要完了日は4月中なので、5~6月には結果が判明するのではないか。remdesivirは前臨床でSARS-CoVやMERS-CoVに活性を示しており、2019-nCoV感染患者に投与したところ軽快した旨の症例報告が、中国と米国で各一例、出ている。しかし、自然治癒した可能性もあるので、よくデザインされた対照試験で検証することが求められていた。

一本は軽中度患者308人を、もう一本は重度患者452人を組入れる。試験薬は負荷用量200mg、維持用量は100mgを一日一回、9日間、静注する。主評価項目は罹患期間(time to clinical recovery)。副次的に全死亡リスクも分析するが、検出力が不十分なのではないか。

スポンサーは首都医科大学。中日友好医院のBin Cao教授が主研究者であるようだ。

今回は中国の対応が早いような印象があり、武漢市の閉鎖など共産主義国ならではの強硬手段も取っている。流行病の臨床試験は着手が遅いと流行が終わってしまうので、今回のように素早く開始するのが望ましい。

ところで、治験登録にギリアドの名前は記されていない。中国の研究者がremdesivirを2019-nCoVの治療に充てる用法特許を申請したがギリアドは静観の構え、という報道もあり、今のところ、同社がどの程度関与しているのか明らかではない。

リンク: 軽中度患者試験の治験登録(ClinicalTrials.gov)
リンク: 重度患者試験の治験登録(同)


【新薬開発】


ロシュ、risdiplamの二型、三型脊髄筋委縮症試験が成功
(2020年2月6日発表)

ロシュは、risdiplamのSUNFISH試験の結果を学会発表するとともに、概要をプレスリリースで明らかにした。2型と3型の脊髄性筋萎縮症(SMA)を組入れた試験で、試験薬群の運動機能スケールや上肢能力が偽薬群比有意に上回った。risdiplamは1型、2型、3型SMA用薬として米国で承認審査中で、審査期限は5月24日。欧州でも今年後半に承認申請される見込み。

risdiplamはPTCセラピュティクス(Nasdaq:PTCT)がSMA財団と提携して開発したSMN2スプライシング修飾薬をロシュがライセンスしたもの。SMAの多くで見られるSMN1遺伝子の欠損・不全を補うために、不完全なSMN蛋白をある程度発現することのできるSMN2遺伝子のスプライシングに介入して、全長mRNAがより多く生成されるようにする。

SMA治療薬は16年にSpinraza(バイオジェンがIonis/Akcea TherapeuticsからライセンスしたSMN2のアンチセンスオリゴヌクレオチド)、19年にZolgensma(ノバルティスが買収したAveXis社のSMN1遺伝子療法)と新薬が相次いで登場した。risdiplamの優劣は未だ判然としないが、脊髄内投与ではなく経口剤であることや、Zolgensmaは供給不足気味であることやFDAが髄腔内投与による2型SMN試験の部分停止を命じたことなどを考えると、少なくとも代替的な選択肢として重要と言えるだろう。

承認申請用試験は1型試験と2歳から25歳の2型、3型患者を組入れたSUNFISH試験が実施され、前者は昨年、成功発表された。SUNFISH試験もパート1(用量決定)の結果は公表済みで、今回、180人を1年フォローしたパート2の結果が発表された。

主評価項目のMFM-32運動機能スケールは偽薬群を1.59ポイント上回った(p=0.0156)。予想された通り、2~5歳のサブグループの応答が特に良く、3ポイント以上改善した患者の比率が78%と偽薬群の53%を上回った。18~25歳でも安定化率(スケールが悪化しなかった患者の比率)が57%対38%で上回った。

副次的評価項目のRULM(上肢で錘などを持ち上げる能力を評価)でも群間差が1.59ポイントあった(p=0.0028)。

深刻有害事象は下部気道感染症の発現率が10%と偽薬群の2%を上回ったが、治験医は治療関連とは見なさず、投与を継続しながら軽快した。

データ発表後、PTCのNasdaq市場での株価は1割以上下落して始まったが直ぐに戻り、結局、前日比1.555ドル高の54.94ドルで引けた。高値圏にあることを考えると、株式市場は今回の発表を順調な経過と受け止めているのだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

HIVワクチンの第三相がまた中止に
(2020年2月3日発表)

米国NIH(国立衛生研究所)傘下の国立アレルギー・感染症研究所は、南アフリカで実施していたHIVワクチンの第2b/3相試験を中止したと発表した。中間解析で独立監視委員会が無益性認定したため。感染者数はワクチン群が2694人中129人、偽薬群は2689人中123人で、何とも失望的な結果になった。

このHVTN 702試験は、サノフィが開発したALVAC-HIV(vCP2438)遺伝子ワクチンをプライムワクチン、グラクソ・スミスクラインが供給したMF59オイル・イン・ウオーター・エマルジョン添加ワクチンをブースターワクチンとして筋注する予防効果を検討した。

ALVAC-HIVワクチンは、タイで行われた第三相試験が09年にフェールしている。約1600人を組入れた試験で、感染者はワクチン群が51人、偽薬群は74人、ワクチン効率26%となり、まったく効果がなかった訳ではないが、有意水準には達しなかった。

今回のワクチンは、南アフリカに多いクレードC株の抗原を使ったことと、抗原がアルミではなくMF59であることが違い。ワクチン効率が高まれば良かったのだが、逆だった。

HIV感染予防は、ギリアド・サイエンシズのTruvada(tenofovir DFとemtricitabineの合剤、和名ツルバダ)が暴露前予防薬として多くの国で承認されていて、今回の試験でも、ローカルスタンダードで推奨している場合は使用が可能だったことが結果に影響したかもしれない。

リンク: 米国立アレルギー・感染症研究所のプレスリリース


【承認申請】


MSD、Recarbrioを院内感染肺炎に適応拡大申請
(2020年2月3日発表)

MSDは、Recarbrioを感受グラム陰性菌による院内感染細菌性肺炎(HABP)や人工呼吸器関連細菌性肺炎(VABP)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月4日。エビデンスとなる第三相試験の成績は、4月にパリで開催されるECCMID 2020で発表される予定。

Recarbrioはカルバペネム系抗生剤のimipenem、その代謝酵素を阻害しベータラクタマーゼ阻害作用も持つcilastatin、そして新開発のベータラクタマーゼ阻害剤、relebactamの三剤合剤。19年7月に米国で、感受グラム陰性菌による複雑性尿路感染症や複雑性腹腔内感染症で他に治療手段が無い/限定的である場合に使う薬として承認された。HABP/VABPの第三相では、28日死亡率や早期臨床的反応率がpiperacillinとtazobactamの合剤(Zosyn)と非劣性だった。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


細胞培養型プリパンデミック・インフルエンザワクチンが米国で承認
(2020年2月3日発表)

CSLグループのSeqirusは、FDAがAUDENZAを承認したと発表した。A(H5N1)型一価インフルエンザワクチンで、将来、新型トリ・インフルエンザなどが流行する事態に備える。特徴は、卵黄ではなく細胞培養すること。生産期間の短縮と、鳥におけるインフルエンザの流行で卵黄が品不足になるリスクのヘッジを見込む。MF59オイル・イン・ウオーター エマルジョンを添加することで必要な抗原量を減らしていることも生産期間短縮につながる。

Seqirusは14年にノバルティスがグラクソ・スミスクラインとアセット・スワップを行った時にインフルエンザワクチン事業を2.75億米ドルで買収したCSLが社名変更した。更に遡ると、ノバルティスが06年に完全子会社化したカイロン社のワクチン事業が起源だ。

Seqirusは季節性インフルエンザ用でも細胞培養型ワクチンのFlucelvax/Optafluを販売している。

リンク: Seqirusのプレスリリース(PR Newswire)

MSD、ベルソムラの米国のレーベルにアルツハイマー病患者試験のデータを掲載
(2020年2月3日発表)

MSDは、不眠症治療薬Belsomra(suvorexant、和名ベルソムラ)のレーベルにアルツハイマー病患者の不眠症を治療した臨床試験のデータを記載することがFDAに承認されたと発表した。4週間の臨床試験で、総睡眠時間(ポリグラフ検査)がベースライン時点の4時間半から73分、増加し、偽薬群の45分増加を有意に上回った。WASO(中途覚醒時間)の減少も41分対32分で有意な差があった。有害事象発現率は22%対16%で上回った。尤も、実際にレーベルに掲載された内容は簡素で薬効関連の数値は割愛されている。

Belsomraはオレキシン受容体アンタゴニストで、14年に日米で承認された。日本はMSDが申請した用量(高齢者は15mg、それ以外は20mg)を承認したが、FDAは、年齢を問わず10mgで開始して20mgまで増量可とした。今回の試験は50歳以上が対象だが高齢者が多かっただろう。被験者の77%が20mgに増量できたとのことなので、高齢者でも20mgの忍容性はそれほど悪くないことを示唆している。

リンク: MSDのプレスリリース





今週は以上です。

2020年2月2日

2020年2月2日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • サノフィ、ニーマン・ピック病B型の第2/3相が成功 
  • インサイト、JAK1/2阻害剤二剤の第三相アトピー性皮膚炎試験が成功 
  • イーライリリー、RET阻害剤を承認申請 
  • デュピクセントの小児適応を申請 
  • ロシュ、テセントリクとアバスチンを切除不能肝細胞腫に適応拡大申請 
  • カイト社、第二のCAR-Tを欧州でも承認申請 
  • BMS、オプジーボとヤーボイのNSCLC適応拡大申請をEUで撤回 
  • CHMP、急性肝性ポルフィリン症治療薬などに肯定的意見 
  • ピーナツアレルギーの経口減感作療法が承認 


【新薬開発】


サノフィ、ニーマン・ピック病B型の第2/3相が成功
(2020年1月30日発表)

サノフィは、GZ402665(olipudase alfa)の酸性スフィンゴミエリナーゼ欠乏症(ASMD)第2/3相試験と小児第二相がポジティブな結果になったと発表した。承認申請は2021年下期からの予定。まだ克服すべき課題が残っているのだろう。

ASMDはSMPD1遺伝子の変異によりライソソームの酸性スフィンゴミエリナーゼが機能低下・欠乏し、スフィンゴミエリンが蓄積、臓器や神経細胞に損傷をもたらす。ニーマン・ピック病(A型、B型)とも呼ばれ、A型は乳児期に発症、多くは3歳前後で死亡する。B型は小児期に発症、症状は神経学的なものは少なく、肝脾腫や膵肥大、心血管骨疾患、成長障害などが中心。尚、ニーマン・ピック病C型は原因遺伝子が異なる。

GZ402665は酸性スフィンゴミエリナーゼの酵素補充療法。日米EUで先駆けなどの指定を受けている。第2/3相試験では、18歳以上のニーマン・ピック病B型患者36人を日米欧など16ヶ国の24施設で組入れ、2週毎に52週間、点滴静注したところ、独立主評価項目の一つである肺機能(%予測肺拡散能で評価)がベースライン比22%改善、偽薬を19%上回った(p=0.0004)。膵量(腹部MRIで評価)は正常値比倍率(multiples of normal)が39.5%低下、偽薬比では40%低下した(p<0.0001)。米国の施設では膵肥大関連症状の患者評価も加味した分析を行ったが患者評価は両群大差なかった。治療関連深刻有害事象や有害事象による治験離脱はゼロ。

小児試験は新生児から17歳までの患者20人を組入れて64週間実施した単群試験。急速進行神経学的疾患は除外しているので、これもB型試験に近い。拡散能検査が可能な9例では33%増加、膵量正常値比倍率は49%低下した。治療時発現深刻有害事象は3人で5件発生した(一時的無症候性ALT上昇、蕁麻疹とラッシュ、アナフィラキシー)。永続的な投与中止はなかったとのことだが、やや心配だ。

リンク: サノフィのプレスリリース

インサイト、JAK1/2阻害剤二剤の第三相アトピー性皮膚炎試験が成功
(2020年1月28日発表)

Incyte(Nasdaq:INCY)は二種類のJAK1/2阻害剤の第三相アトピー性皮膚炎試験が成功したと発表した。一つは骨髄線維症の治療などに承認されているJakafi(和名ジャカビ)の活性成分であるruxolitinibの軟膏新製剤。もう一つはリウマチ性関節炎の治療などに承認されているOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)。

まず、ruxolitinib軟膏のTRuE-AD2試験は、病歴2年以上、年齢12歳以上で、IGA(Investigator's Global Assessment)スコアが2または3(中重度)、頭皮以外の体表面積に占める病変の割合が3-20%の患者を、偽薬、0.75%、または1.5%を一日二回塗布する三群に無作為化割付して、第8週時点のIGA治療成功率(スコアが0または1で且つベースライン比2ポイント以上改善した患者の比率)を比較した。データは未発表。

後期第二相試験では、1.5%を一日二回経口投与した群のEASI(Eczema Area and Severity Index)スコアがベースライン(平均8.4)比で71%改善し、偽薬群の15%と比べて有意な差があった。triamcinolone(中力価局所ステロイド)群の59%とは有意差が無かった。

もう一本の第三相の結果が今四半期中に出るのを待って承認申請に向かうのではないか。ステロイドの代替的な選択肢を目指す。

リンク: インサイトのプレスリリース(ruxolitinib軟膏)

次に、baricitinibのBREEZE-AD4試験。米国外の施設でcyclosporine不応不耐の中重度アトピー性皮膚炎を組入れて、局所性ステロイドに加えて、偽薬、1mg、2mg、または4mgを投与したところ、EASI75奏効率(EASIがベースライン比75%以上改善した患者の比率)が各17%、22%、27%、31%となり、4mg群が偽薬を有意に上回った。

Olumiantはイーライリリーと共同開発販売している。EUではイーライリリーが先日、適応拡大申請したとのこと。日米でも2020年中に申請の予定。

アトピー性皮膚炎ではリジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィが共同開発した抗IL-4受容体アルファサブユニット抗体、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)が17年に欧米で、18年には日本でも、承認された。服用は塗り薬や経口剤のほうが便利だが、JAK1/2阻害剤は長期投与時の血栓症、感染症、腫瘍などのリスクを十分に検討する必要があるだろう。一般向けメディアが特効薬としてもてはやした後に癌のリスクが浮上した外用カルシニューリン阻害剤の轍を踏んではいけない。

リンク: 両社のプレスリリース(1月27日付け)


【承認申請】


イーライリリー、RET阻害剤を承認申請
(2020年1月29日発表)

イーライリリーは、昨年2月にLoxo Oncologyを80億ドルで買収して入手した選択的RET阻害剤、selpercatinibの承認申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は今年第3四半期(7-9月)。予定適応症は、進行非小細胞性肺癌のうちRET融合陽性のもの(2%程度が該当)、甲状腺髄様腫のうちRET変異(同60%)、甲状腺癌のうちRET融合陽性(同20-30%)。

エビデンスとなる第1/2相試験でのORR(客観的反応率)は、RET融合陽性非小細胞性肺癌は未治療34例で85%、白金レジメン歴を持つ105例(うち55%はPD-1/PD-L1阻害剤歴、48%はマルチキナーゼ阻害剤歴あり)では68%でメジアン反応持続期間は20ヶ月だった。治療歴のあるRET変異甲状腺髄様腫のORRは56%、反応持続期間はメジアン未達だが95%下限は11ヶ月となっている。

抗癌剤の適応は原発部位に基づいて決定されるのが一般的だが、特定の遺伝子の変異が関与する癌については部位横断的な適応が承認されるようになってきた。LoxoはNTRK融合蛋白陽性というティッシュー・アゴニスティックな適応を持つTRK阻害剤、Vitrakvi(larotrectinib)の米国承認を18年に取得しただけでなく、今回のRET阻害剤やファースト・イン・クラスではないがbtk阻害剤も開発している、新進気鋭の新薬開発ベンチャーだった。

Vitrakviはバイエルと共同開発販売していたが、イーライリリーの買収が支配権変動条項をトリガー、バイエルがロイヤルティベースで単独開発販売することになってしまったため、イーライリリーにとってはselpercatinibがなけなしのコンパウンドになる。

このような、開発販売提携先とは異なる企業に買収されるケースが多いのは、新興企業側が提携契約に買収禁止条項を入れるのが一般的になったからだ。提携先だけでなく多くの会社が企業買収に乗り出す方が株主に有利だからだ。逆に、買収する側は高値を余儀なくされる。イーライリリーは、Loxoの発表前の株価に68%上乗せした価格で買収した。高い買い物だが、薬価に転嫁すれば回収できる。

近年、米国でも企業は株主だけのものではないという議論が出始めた。Loxoの株主は高値売却で潤い、リリーの株主は高薬価による収益拡大、株価上昇で潤い、結果的に、患者や医療保険加入者の資産が製薬会社の株主に吸い取られる現象も変わっていくのだろうか。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

デュピクセントの小児適応を申請
(2020年1月28日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)を6~11歳の中重度アトピー性皮膚炎の治療に用いる小児適応をFDAに承認申請した。局所性処方薬で十分に管理できない、または不適の場合に用いる。優先審査を受け、審査期限は5月26日。

Dupixentはリジェネロンがヒト抗体を発現するトランスジェニックマウス技術に基づき開発した、IL-4受容体のアルファ・サブユニットに結合する抗体。アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症、鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎などの治療に承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース

ロシュ、テセントリクとアバスチンを切除不能肝細胞腫に適応拡大申請
(2020年1月27日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)とAvastin(bevcizumab、和名アバスチン)を切除不能肝細胞腫の一次治療薬として併用する適応拡大をFDAに申請した。リアル・タイム・オンコロジー・リビュー(RTOR)パイロット・プログラムの対象なので、通常よりかなり早く承認される可能性がありそうだ。

全身性治療未施行の患者501人を組入れて効果をNexavar(sorafenib)と比較した第三相オープンレーベル試験、IMbrave150に基づくもので、主評価項目の一つである全生存期間のハザードレシオは0.58、p=0.0006となった。メジアンは未達(sorafenib群は13.2ヶ月)、もう一つのPFS(無進行生存期間、独立評価機関ベース)は各0.59、p<0.0001、6.8ヶ月、4.3ヶ月。G3/4の有害事象発現率は各群57%と55%、G5(致死的)は5%と6%だった。欧州や中国でも適応拡大申請の予定。

リンク: ロシュのプレスリリース

カイト社、第二のCAR-Tを欧州でも承認申請
(2020年1月28日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq: GILD)の子会社であるカイト社は、KTE-X19を再発・難治性マントル細胞腫用薬としてEUに承認申請し、受理された。米国でも昨年12月に承認申請している。

第二相試験に基づくもので、74人を組入れ68人に投与したところ、総合反応率(独立放射線学的評価委員会ベース)は93%、完全反応率は67%だった。2年以上経った28例では43%が寛解を維持していた。全員がBTK阻害剤歴を持っており、他の薬や開発品のこのような患者における総合反応率が25~42%であったことを考えると、良好だ。臨床試験のCAR-Tはサイトカイン・シンドロームや神経学的副作用が見られるが、本試験ではG3以上の発現率は前者が15%、後者は31%で、G5(致死例)はなかった。

KTE-X19はびまん性巨細胞型B細胞リンパ腫などに承認されているYescarta(axicabtagene ciloleucel)と同様に、CD19に結合する抗体の可変領域単鎖フラグメントとCD3ゼータT細胞活性化ドメイン、そしてCD28シグナリング・ドメインから構成される。違いは生産過程で循環腫瘍細胞を自家免疫細胞から分離していること。直接比較試験は行われないだろうから、臨床的な違いは明確にはならないのではないか。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認審査・委員会】


BMS、オプジーボとヤーボイのNSCLC適応拡大申請をEUで撤回
(2020年1月31日発表)

ブリストル·マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab)を併用で非小細胞性肺癌の一次治療に充てる適応拡大を欧米で承認申請したが、EUに関しては、撤回を発表した。MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)との売上高の差を縮めるためには非常に重要な適応なので、FDAが審査期限の5月15日にどのような判断を示すか、注目される。

この二種変更申請は、CheckMate-227試験に基づくもの。転移性非小細胞性肺癌の一次治療を受ける患者を、PD-L1発現が1%以上の患者はパート1aに、未満はパート1bに振り向け、パート1aはOpdivoとYervoyの併用、Opdivo単剤、化学療法レジメンの三群に、パート1bはOpdivo・Yervoy併用、Opdivo・化学療法、化学療法の三群に、無作為化割付した。組入れ基準を拡大してパート2も設定した。

複数の主評価項目が設定され、最初に結果が出た解析が成功、欧米で承認申請された。パート1aと1bに組入れられた患者のうち、TMB(腫瘍遺伝子変異量)が10変異/メガベース以上のサブグループ分析で、Opdivo・Yervoy併用群のPFS(無進行生存期間)ハザードレシオが化学療法比0.58という大変良いものだった。

しかし、その後に結果が出た全生存期間の解析(主評価項目ではない)ではハザードレシオ0.77と数値は良いが有意差なし、TMBが10変異/メガベース未満のサブグループのハザードレシオは0.78でこちらも惜しくも有意差なし、という悩ましいものだった。この試験は盲検ではないのでPFSの信頼性は万全ではない。また、TMBを使って治療が奏功しそうな患者をスクリーニングする手法を検討したOpdivoの第二相試験やロシュのTecentriqの第二相試験の事後的分析では、PFSに関しては良さそうな結果が出たが全生存期間では無効に見えた。今回の第三相の結果と符合している。

結局、BMSは承認申請を撤回した。その後、もう一つの主評価項目であるパート1aにおけるOpdivo・Yervoy併用群の全生存期間の解析が成功、化学療法比ハザードレシオが0.79で有意だったため、改めて、PD-L1≧1%の転移性難治性非小細胞性肺癌でEGFRやALKの活性化変異を持たない患者に適応拡大申請したという経緯。

EUは、プロトコルが何度も変更されたことに難色を示したようだ。FDAが同じように考えるかどうかは不明。

BMSはCheckMate-9LA試験のデータを提出する考え。非小細胞性肺癌の一次治療としてOpdivoとYervoyそして化学療法を併用する効果を化学療法群と比較したもので、主評価項目である全生存期間の解析が成功した。数値は未発表で、Keytrudaと化学療法の併用と見比べてどれくらい良いのかは明らかではない。

尚、ライバルのKeytrudaもEUで適応拡大申請を撤回している(次項参照)。

リンク: BMSのプレスリリース

CHMP、急性肝性ポルフィリン症治療薬などに肯定的意見
(2020年月日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、1月の会合で、急性肝性ポルフィリン症治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

新薬で肯定的意見を得たのは、まず、アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のGivlaari(givosiran)。12歳以上の急性肝性ポルフィリン症の治療薬。ポルフェリン症は、ヘム合成回路の酵素の機能喪失・低下変異が原因でポルフェリンが蓄積し、肝臓などに障害を与える、欧米で推定3000人が罹患する希少疾患。Givlaariはアミノレブリン酸合成酵素の発現を妨げる短鎖RNA介入薬で、ポルフェリン前駆体の産生を抑制する。臨床試験では増悪を偽薬比70%抑制した。注射箇所反応や腎毒性、肝機能検査値異常が見られる。米国では昨年11月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

Esperion Therapeutics(Nasdaq:ESPR)のNilemdo(bempedoic acid)はACL(ATPクエン酸リアーゼ)阻害剤。高コレステロール血症または混合異脂血症で、スタチンだけではLDL-C値を十分に管理できない又は不耐の患者に用いる。Nustendi(ezetimibeとの固定用量合剤)も肯定的意見を受けた。第一三共がEUやスイスでの独占販売権を持っている。

EsperionはLipitor(ezetimibe)を発見した研究者が創設した会社。最も期待された遺伝子組換え型Apo A-IミラノはIVUS(血管内超音波)試験がフェールし開発中止になったが、遂に初承認が見えてきた。米国でも承認審査中で、審査期限は単剤が今月21日、合剤が同26日。

リンク: エスペリオンのプレスリリース

バイエルがオライオン(OMX:ORNAV/ORNBV)からライセンスしたNubeqa(darolutamide、和名ニュベクオ)は非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニスト。高リスクの非転移性去勢抵抗性前立腺癌に用いる。経口剤で、精巣摘出患者以外はゴナドトロピン放出ホルモン作用剤と併用する。第三相ARAMIS試験ではMFS(無転移生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン40.4ヶ月と、偽薬・アンドロゲン枯渇療法併用群の18.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.41、p<0.001だった。全生存期間の解析も数値は未発表だが、成功した。

米国で昨年7月に、日本でも今年1月に承認された。

リンク: バイエルのプレスリリース

ノボ ノルディスクのRybelsus(semaglutide)は二型糖尿病治療薬。週一回皮注用GLP-1作用剤Ozempicの活性成分を一日一回経口投与に変えた新製剤で、経口投与のGLP-1作用剤は初。Emisohere Technologies(OTCBB:EMIS)の技術を用いてサルカプロザートナトリウムと合わせて錠剤化、胃の受動的細胞内輸送メカニズムに乗れるようにした。米国では昨年9月に承認。日本は昨年7月に承認申請。

リンク: ノボのプレスリリース

イーライリリーのLiumjev(insulin lispro)は超速効型の遺伝子組換え型インスリン。Humalogの活性成分の新製剤で、血糖低下作用のオンセットを早めた。一型、二型の糖尿病患者を組入れたHumalog対照試験で、A1c低下は非劣性だったが、食事の1時間後、2時間後の血糖値は有意に低かった。低血糖リスクは有意差なし。

日本などでも承認申請中。血糖治療薬のライバルであるノボ ノルディスクの類似製品、Fiasp(insulin aspart)に対抗する。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

最後に、ファイザーのStaquis(crisaborole)はアトピー性皮膚炎の治療薬。2歳以上で病変が体表面積の40%以下である患者に用いる。PDE-4阻害剤の軟膏で、米国では16年12月にEucrisa名で承認された。16年5月にAnacor Pharmaceuticalsを52億ドル(現預金残高を差し引いたネット額)で買収して入手したコンパウンドの一つ。

適応追加では、Venclyxto(venetoclax、和名ベネクレクスタ、米名Venclexta)をGazyvaro(obinutuzumab、和名ガザイバ、米名Gazyva)と併用で未治療の成人性慢性リンパ性白血病(CLL)に用いることが支持された。承認の根拠となったCLL14試験では、持病を持つCLL患者の一次治療としてこの二剤の併用またはchlorambucilとGazyvaro併用を施行したところ、PFS(無進行生存期間、独立第三者評価)のハザードレシオが0.33と、大きな違いが出た。米国では昨年5月に用法追加承認。

Venclyxtoはアッヴィとジェネンテックの共同開発で、米国では共同販売、欧州などはアッヴィが単独販売している。

リンク: ロシュのプレスリリース

さて、今回は承認申請撤回が二件、EMAによって発表された。BMSのIdhifa(enasidenib)の新薬承認申請と、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の食道がん適応追加申請だ。

IdhifaはBMSが1月に740億ドルで買収したセルジーンがAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)からライセンスしたIDH2(イソクエン酸脱水素酵素)阻害剤。米国では17年8月にIDH2変異再発難治急性骨髄性白血病用薬として承認されたが、エビデンスは単群試験の反応率と反応持続期間だった。EUは幾つかの血液癌については反応率に基づく承認をしない傾向があり、今回も、これが背景だろう。

血液癌の薬物療法は二次性腫瘍や分化症候群を誘導することがある。Idhifaは分化症候群の発生率が19%、死亡率は5%と比較的高い。

リンク: EMAのプレスリリース

Keytruda(pembrolizumab)は昨年7月に米国で、PD-L1陽性(CPS≧10)の局所進行性/転移性食道扁平上皮腫の二次治療に用いることが承認された。KEYNOTE-181試験に基づくもので、今回、EUで撤回されたのは、同様な内容の申請と推測される。EUは挙証不十分と見做したが、米国でも、承認された適応範囲が変だった。

181試験は三種類の集団に係る全生存期間が主評価項目に設定されたため、夫々の解析のp値の閾値は通常の0.05より低くなった。PD-L1陽性(CPS≧10)サブグループは担当医選択化学療法群に対するハザードレシオが0.69、p=0.0074となり閾値をクリアしたが、扁平上皮種サブグループは0.78、p=0.0095となり数値は良好だったが閾値をクリアできなかった。全割付患者の解析は0.89、p=0.056でフェールした。

従って、適応範囲はPD-L1陽性のみ、あるいは、PD-L1陽性又は扁平上皮腫、と予想していたが、結果は、PD-L1陽性且つ扁平上皮腫という主評価項目とは異なるサブグループだった。二次的評価項目だったのかもしれないが、主評価項目の一つがフェールしたのだから、二次的評価項目に関して統計学的に有意とは言えないはずだ。(A or B)から(A and B)を控除したサブサブグループの数値がよほど悪かったのかもしれない。

CPS≧20というスクリーニング基準は治験の開始後のプロトコル変更であった模様で、群間の偏りが見られるようだ。もしかしたら、FDAは適応を絞り込むことでMSDに今後の宿題を与えたのかもしれない。もしかしたら、EUの懸念も同じで、表現型が異なるだけなのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


ピーナツアレルギーの経口減感作療法が承認
(2020年1月31日発表)

FDAは、米国カリフォルニア州のAimmune Therapeutics(Nasdaq:AIMT)のPalforziaをピーナツアレルギーの減感作療法用薬として承認した。ラッカセイのアレルゲンを粉末化したもので、治療開始時に4-17歳の患者が適応になる。一日一回、半固形食品に混ぜて摂取する。リスクはなくならないので、ピーナツ摂取を避ける努力は続ける。開始時、増量時はアナフィラキシーのリスクが高まるため、服用後60分以上、経過観察する。激しい運動の後や入浴の前後には服用しない。管理不良喘息症や好酸球性疾患は禁忌。

欧州では昨年6月に承認申請された。

リンク: Aimmune社のプレスリリース





今週は以上です。