2021年6月26日

第1005回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • アクテムラが酸素投与/換気補助中の患者にEUA 
  • ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎症例 
  • その他の領域: 
  • リリーも抗アミロイド・ベータ抗体を加速承認申請へ 
  • Aduhelmの自己負担 
  • キイトルーダの子宮頸癌一次治療試験が成功 
  • アッヴィのJAK阻害剤の適応拡大承認審査が更に遅延 
  • FDA諮問委員会、インサイトの抗PD-1抗体の承認に反対 
  • CHMP、多発骨髄腫で初の細胞療法などに肯定的意見 



【COVID-19関連】


アクテムラが酸素投与/換気補助中の患者にEUA
(2021年6月25日発表)

中外製薬が創製し海外ではロシュが開発販売している抗IL-6受容体抗体、Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)を、COVID-19肺炎の治療に用いることがFDAにEUA(非常時使用認可)された。2歳以上で、酸素投与または人工呼吸器/ECMO装着中で全身性コルチコステロイドによる治療を受けている患者に用いる。レーベルによると、体重30kg未満は12mg/kg、以上は8mg/kg(上限800mg)を60分点滴静注し、改善が不十分なら8時間以上経過してからもう一回だけ投与する。

臨床試験の結果は区々だが、おそらく、原動力になったのはオックスフォード大学などが行ったRECOVERY試験だろう。主任研究員の発表数値とは若干異なるが、レーベルによると、28日死亡率推定値が30.7%と投与しなかった群の34.9%を下回り、time-to-deathのハザードレシオは0.85、p=0.0028だった。退院までの日数もメジアン19日と対照群の28日超を下回った。

既報のように他の試験の結果は区々。EMPACTA試験は死亡/人工呼吸器装着リスクが有意に低下したが退院は早まらず、死亡率は有意ではないが増加した。COVACTA試験はフェールし病状改善効果も救命効果も見られなかった。REMDACTA試験もフェールし、入院期間は大差なく、死亡率は若干低かったが有意ではなかった。レーベルにはこの4本の試験の概要が記されているが、RECOVERY試験以外の数値や分析は過去に発表されたものと同じ。つまり、FDAは結果が矛盾していることを承知の上で症例数が圧倒的に多いRECOVERY試験を一番重視したのだろう。

サブグループ分析などを通じて4試験の共通点が浮上するのではないかと期待していたが、実現しなかった。

リンク: ロシュのプレスリリース



ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎症例
(2021年6月23日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は6月23日のACIP(ワクチン接種諮問委員会)でCOVID-19ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎有害事象報告などについてプレゼンした。6月11日に開催されたEUのPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)では報告件数が5月末時点で4製品合計368件とのことだったが、ACIPでは6月11日時点で2製品合計1226件と、より多くの症例がカバーされている。

ワクチン別では、BioNTech/ファイザーのワクチンは791件、うち一回目の接種後が150件、二回目後は563件。Modernaのワクチンは435件で一回目後117件、二回目後264件。接種から発症までの日数はゼロから98日まで様々だが0~4日が多い。

年齢は12~94歳と幅広いが16歳から29歳が中心で、メジアン値は一回接種後は30歳、二回目後は24歳となっている。男性が多く、一回接種後の症例の66%、二回目後の79%を占める。

29歳以下の484人の症状は、胸痛(416人)、呼吸困難(117人)、心臓酵素上昇(310人)、ST/T波変化(295人)、ECG/画像異常(81人)など。CDCが心筋炎・心膜炎の診断を確認した323人のうち、309人が入院治療を受けたが、298人は既に退院。入院中は9人、うちICU入室は2人。

心筋炎・心膜炎は元々、青少年に多い病気のようだが、COVID-19ワクチンに関しても若年層の報告数が多い。12~49歳の男性と12~29歳の女性は通常の発症率と比べても報告数が多く、ワクチンとの関連性が否定できないようだ。

興味深いのは、便益と危険の定量評価を試みていること。上記とは別のプレゼンターによる別のデータの分析だが、12~17歳の男性百万人に二回接種すると、その後120日間のCOVID-19感染症を5700件減らすことができ、COVID-19関連入院は215件減らせる。一方、心筋炎は56-69人増加する。便益・危険倍率は80~100倍となる。同様に、12~17歳の女性の場合は感染が8500件減少、入院183件減少、心筋炎が8~10人増加で、倍率は80~100倍となる。

発生率が最も高い12~17歳の男性でも、心筋炎・心膜炎リスクは数万人に一人と稀である。転帰も、PRAC発表と同様に、深刻な例は多くない様子だ。胸痛を伴うケースが多いようなので、手掛かりになるだろう。

リンク: ACIPのプレゼン・スライドのリンク


【今週の話題】


リリーも抗アミロイド・ベータ抗体を加速承認申請へ
(2021年6月24日発表)

エーザイ/バイオジェンとイーライリリーは、夫々、アルツハイマー病薬として開発中の抗アミロイド・ベータ抗体がFDAのブレークスルー・セラピー指定(BTD)を受けたと発表した。イーライリリーは第2相試験のデータに基づいて年内に加速承認申請を行う考え。他社もバイオマーカー評価に基づく加速承認申請に拍車をかけるだろう。FDAがAduhelmの承認に際して加速承認という妥協策を取った弊害が広がっている。

エーザイはスウェーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンス社(Nasdaq Stockholm:BIOA B)からライセンスしたBAN2401(lecanemab)をバイオジェンと共同開発、19年に第3相試験を開始した。アミロイド・ベータが凝集する過程における中間体を標的としたことが斬新。

BTDの根拠となった後期第2相試験は、アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度アルツハイマー病でPET検査または脳脊髄液検査でアミロイドプラクが確認された患者を組入れた用量変動試験で、高用量群は18ヶ月間のADCOMS悪化が偽薬比有意に小さかった。

ADCOMは代表的な病状判定スコアであるADAS-cog、CDR-SB、MMSEの構成要素のうち感受性の高いものを過去の試験のデータをもとに選択、組み合わせたもので、有意差を出すのに必要な組入れ数を2-3割減らせることが期待されている。この試験はアダプティブ・デザインも導入しており、一群当り170人程度で有意差が出ている。一方、オーソドックスな評価項目の解析結果は区々だった。

イーライリリーはLY3002813(donanemab)がBTDを受けた。アミロイドプラクで見られる、N端末側のグルタミン酸がピログルミタル化されたアミロイド・ベータ(N3pG)に対する抗体。第2相試験では早期段階の症候性アルツハイマー病でアミロイド・ベータ陽性、NFT(神経原線維変化:過剰燐酸化タウの細胞内凝集体)の蓄積が低中度である患者272人を組入れて、76週後のiADRSを偽薬と比較した。結果は、悪化が偽薬比32%小さく有意だった。

iADRSは過去の様々な薬の臨床成績を分析し病気の進行や治療効果の感受性を高めたもの。ADCS-ADLのうち手段的(instrumental)評価項目とADAS-Cog 14を合成した。後者は数値が低いほど良好と前者の逆なので、90からADAS-Cog 14を減算したものを前者に加算して算出する。この、良いとこ取りした指標では有意差が出たが、オーソドックスな評価項目の解析はフェールした。

FDAは、第3相試験のうち一本しか臨床的評価項目の解析が成功しなかった薬を承認するに際して、アミロイド・プラク減少作用に基づく加速承認という方法を取った。臨床的効用を示唆するバイオマーカーに基づいて承認する制度で、承認後に改めて臨床的効用を確認しなければならない。FDAが公表した文書を読むと、FDAの神経科学薬部門の薬効評価担当者と薬理学的評価担当者は通常の承認を推奨したが、統計学的評価担当者は反対した。諮問委員会も反対したため、CDER(小分子薬担当組織)の上層部が、おそらく妥協策として、薬効評価担当者などの同意を得た上で、決定した。

多くの抗アミロイド・プラク抗体がアミロイド・プラク抑制効果を既に立証しているので、臨床的効用を評価する試験が難航しパイプに詰まっていたパイプラインが一斉に流れ出すことになる。

リンク: エーザイとバイオジェンのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース



Aduhelmの自己負担
(2021年6月23日発表)

バイオジェンとエーザイは、アルツハイマー病薬としてFDAに承認されたAduhelm(aducanumab-avwa)について、両社の考え方を公表した。

FDAは適応を限定しなかったので米国では年600万人程度が対象となるが、現実の医療では、第3相試験の組入れ条件である早期段階の、PET/脳脊髄液検査でアミロイド・プラクが確認された患者に限定され、推定100~200万人に留まると予想した。垂直立ち上げではなく数年かけて到達する想定だ。

自己負担に関しては、米国の患者の40%は年200ドル以下で済み、50%は自己負担の上限を抑える特約に加入しているため、最大で20%分を負担しなければならない患者は10%程度と想定している。高齢者なので主としてMedicareのカバレッジになるが、Medicareは製薬会社が自己負担軽減策(事実上の値引き)を導入することに批判的なので、この10%の患者が年11000ドルを払わなくて済むようにするのは難問だ。

もう一つの難問は、自己負担以外の部分は保険料や税金が原資になることだ。保険料率や税率の引き上げ、または、他の薬剤費や医療費の引き下げが必要になる。若い人にとっても他人ごとではない。

リンク: 両社のプレスリリース


【新薬開発】


キイトルーダの子宮頸癌一次治療試験が成功
(2021年6月22日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKeyNote-826試験が中間解析で成功したと発表した。データは未公表。

治癒目的の手術や放射線療法が適応にならない持続性、難治性、または転移性の子宮頸癌の一次治療として、carboplatinまたはcisplatinとpaclitaxel(bevacizumabの併用も可)の標準療法に追加する効果を偽薬追加と比較した試験で、主評価項目である全生存期間とPFS(無進行生存期間)の両方で、統計的に有意で臨床的にも意味のある改善が見られた。PD-L1発現の有無に関わらず効果があった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


アッヴィのJAK阻害剤の適応拡大承認審査が更に遅延
(2021年6月25日発表)

アッヴィはJAK1阻害相Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック) を活性期乾癬性関節炎や活性期強直性脊椎炎に用いる適応拡大を承認申請し、日本では前者が、欧州では両方が、承認されたが、米国は審査が期限までに完了しない旨、FDAから連絡を受けた。前者は既に一回、審査期限が延期されている。今回は延期なのか単なる期限超過なのか、明らかではない。

遅延の理由はFDAがファイザーのJAK阻害剤、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の市販後試験、ORAL Surveillanceの分析を行っているため。リウマチ性関節炎患者が服用しても心血管疾患や癌を発症するリスクが高まらないことを確認する長期安全性確認試験で、1月にファイザーがフェールしたことを公表している。

JAK阻害剤は人気分野で多くの会社が様々な用途で新薬/適応拡大承認申請を行い、日欧では認められたものもあるが、米国は軒並み審査期限延期になっている。FDAが何を考えているのかは明らかではないが、他社のJAK阻害剤に対するアクション、即ち、同様な長期安全性試験の実施を要求するか、一律に用途用法制限を課すか、リスクと非臨床試験データの相関性を分析して安全域を推定するか、などについて検討しているのではないか。

リンク: アッヴィのプレスリリース



FDA諮問委員会、インサイトの抗PD-1抗体の承認に反対
(2021年6月24日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、インサイト(Nasdaq:INCY)が承認申請したINCMGA0012(retifanlimab)について検討した。小規模な試験のORR(客観的反応率)に基づく申請であったため、17人の委員のうち13人が、第3相試験の結果が出るまで承認を見送るべきと判定した。

17年にMacroGenics(Nasdaq:MGNX)からライセンスした抗PD-1抗体。白金レジメン歴を持つ、あるいは不耐の、局所進行性/転移性肛門管扁平上皮腫瘍に加速承認を求めたが、94人の第2相試験でORRが14%(95%信頼区間8-22%)、メジアン反応持続期間が9.5ヶ月とエビデンスが質量とも限定的であることが弱み。肛門管癌はHIVやHPV感染の合併症でもあるが、HIV患者に対する投与実績は少ない。二次治療に承認されている薬はないが、既存の抗PD-1抗体がオフレーベル使用されており、臨床試験の症例数は更に少ないものの、ORR自体はもっと良い数値を出している(評価基準が異なる可能性が高いが)。

審査期限は7月25日。第3相のcarboplatin・paclitaxel併用試験の結果が25年に出るまで承認の可能性は低いのではないか。

チェックポイント阻害剤と言えばFDAが過去の加速承認の棚卸を行っているが、今回の資料によると、ORRに基づく加速承認案件のうち10件は市販後薬効確認試験の結果が出たが、9件がフェールと惨憺たるものだったという。

リンク: 同社のプレスリリース



CHMP、多発骨髄腫で初の細胞療法などに肯定的意見
(2021年6月25日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬や適応拡大の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ブリストル マイヤーズ スクイブ(BMS)が子会社化したセルジーンがbluebird bio(Nasdaq:BLUE)からライセンスして共同開発したAbecma(idecabtagene vicleucel)は、骨髄腫細胞で発現するBCMAに結合するCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞療法)。代表的な三種類の薬すべての治療歴を持つ患者の4次治療薬として肯定的意見を得た。米国では3月に5次治療薬として承認。

尚、bluebird bioは腫瘍学領域の事業を2seventy bio社としてスピンアウトする予定。変わった名前だが、ニューロンの神経伝達最大速度が120メートル/秒、時速では270マイルであることに因んで、革新的な治療法を着想から行動に全速力で移行させる思いを表現したものとのこと。

リンク: EMAのプレスリリース

バイオマリン(Naasdaq:BMRN)のVoxzogo(vosoritide)は軟骨無形成症用薬。2歳以上で成長板が未だ閉鎖していない、遺伝子検査で確認された患者に、毎朝、皮注する。

EUでは年350人程度が発症する、多くの場合、遺伝ではない遺伝子疾患で、骨の成長を抑制するFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)が異常活性化、身長などの伸びを抑制する。Voxzogoは修飾C型ナトリウム利尿ペプチド・アナログで、5~14歳の小児を組入れた第2相試験で身長の伸びが年1.6cm、偽薬群を上回った。主な有害事象は低血圧、注射箇所反応、嘔吐。米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

インサイト(Nasdaq:INCY)のMonjuvi(tafasitamab)は定常領域を修飾してADCC(抗体依存性細胞傷害)活性を増強した抗CD19ヒト化抗体。自家造血幹細胞移植不適の再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に、Revlamid(lenalidomide)併用で最大12サイクル(48週間)、その後は単剤を継続投与する。MorphoSys社が2010年にXencorからライセンスして開発、インサイトは20年に米国は共同で、米国外は単独で、開発販売する権利を取得した。米国では20年に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

UCBのBimzelx(bimekizumab)はIL-17AとIL-17Fに結合する二重特異性抗体。中重度尋常性乾癬の治療に用いる。臨床試験では既存のバイオ薬と直接比較して良好な結果を出した。日米でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

アステラス製薬が承認申請したEvrenzo(roxadustat、和名エベレンゾ)はHIF2-PH(低酸素誘導因子2-プロリン水酸化酵素)阻害剤。慢性腎疾患の貧血症状の治療に用いる。04年に前身の一つである山之内製薬がFibroGenから共同開発販売権を取得したもので、日本では19年に承認。米国は19年12月にFibroGenが承認申請したが審査が長引いており、7月15日の心臓腎臓薬諮問委員会に上程される予定。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、アストラゼネカがBMSから事業継承して適応拡大を進めてきたSGLT2阻害剤、Forxiga(dapagliflozin、米名Farxiga、和名フォシーガ)を慢性腎疾患の悪化抑制に用いることが支持された。二型糖尿病である必要はない。DAPA-CKD試験で腎機能低下や腎臓疾患死などのリスクを39%抑制した。米国では5月に承認、日本でも優先審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

BMSが小野薬品からライセンスした抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab)を食道・胃食道接合部癌の術後アジュバントに用いることも支持された。術前の化学放射線療法でpCR(病理学的完全反応)を達成できなかった、再発リスクが比較的高い患者に、最大1年間施行する。臨床試験ではメジアン無病生存期間が22.4ヶ月と偽薬群の11ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.003だった。G3/4の治療関連有害事象発生率は各群13%と6%だった。

リンク: EMAのプレスリリース

アッヴィのJAK1阻害剤、Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)は全身性治療の対象となる中重度アトピー性皮膚炎に用いることが支持された。12歳以上の未成年は15mgを、成人は15mgまたは30mgを、一日一回服用する。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのJAK1/3阻害剤、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)をJIA(若年性特発性関節炎)や小児乾癬性関節炎に用いることも支持された。MTXを併用するが、不適ならモノセラピーも可。米国では20年に適応拡大承認。

リンク:
EMAのプレスリリース

一方、承認拒否勧告となったのが米国アリゾナ州のCancer Prevention Pharmaが家族性大腸腺腫症用薬として承認申請したFlynpovi(eflornithine、sulindac)。前者の活性成分はアフリカトリパノソーマ症(睡眠症)の治療に用いられているが、腫瘍関連酵素であるornithine decarboxylaseを阻害する効果を持つため、サノフィが膀胱癌などに臨床開発したことがある。家族性大腸腺腫症ではこの酵素の異常活性化と、その結果としてポリアミンの増加が見られるため、ポリアミンの腸細胞からの排出を促進する酵素を活性化する後者の成分も配合した。米国でも承認審査中。

承認を推奨しない理由は、第一に、臨床試験で転帰(手術、病状悪化、癌化、または死亡)が一方の成分だけを投与した二群と大差なかったこと。各活性成分のこの疾患における薬効は確立していないので、事実上、偽薬と同じ扱いになる。会社側はサブグループ分析で良好な数値が出たことに期待したが、悪魔はサブグループ分析に潜む。長期安全性が確立していないことや遺伝子毒性に係る情報が足りないことも指摘した。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、適応拡大申請が撤回されたのがロシュのEsbriet(pirfenidone、日本では塩野義製薬のピレスパ)。特発性肺線維症の治療薬として日米欧で承認されている。第2相試験でILD(間質性肺疾患)の1割程度を占める分類不能型の患者のFVC(努力肺活量)悪化を抑制したため欧米で適応拡大申請したが、CHMPはデータの頑強性や観察期間、適応症の記述などに疑問を持っていた。米国は5月に審査期限を迎えたはずだが、どうなったのだろうか。

リンク: EMAのプレスリリース







今週は以上です。

2021年6月19日

第1004回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 中和抗体の入院患者試験が遂に成功 
  • ブラジルでゼルヤンツの試験が成功 
  • 抗原ワクチン、米墨第3相も成功 
  • セルトリオン、中和抗体の第3相が成功 
  • アストラゼネカ、中和抗体カクテルの曝露後予防試験がフェール 
  • CureVacのmRNAワクチンは中間解析成功せず 
  • その他の領域: 
  • SAGE-217の高用量第3相が成功 
  • バイオジェン、コロイデレミアの遺伝子療法試験がフェール 
  • 第10の抗PD-1/PD-L1抗体が承認申請 
  • 化学療法誘導性好中球減少症予防薬を承認申請 
  • Orphazyme社、NPC用薬が承認されず 
  • 全身性肥満細胞症に適応拡大 


【COVID-19関連】


中和抗体の入院患者試験が遂に成功
(2021年6月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、オックスフォード大学の主導で実施している英国の大規模COVID-19治療試験、RECOVERY試験で、REGN-COV2(casirivimabとimdevimab)が十分な抗体を持っていないCOVID-19肺炎入院患者の死亡リスクを20%抑制したと発表した。抗SARS-CoV-2中和抗体の入院患者試験はこれまで良い結果が出なかったが、第1相、第2相試験の所見に忠実に、自力で抗体を作れない患者にターゲットを絞り込んだことが奏功したのだろう。適応拡大申請する予定。

REGN-CoV2はスパイク蛋白の異なったエピトープに結合する二種類の抗体のカクテル。米国のトランプ前大統領が感染した時の治療に用いられたことがあり、昨年11月に米国で非常時使用認可された。中和抗体は、他社の製品も含めて、入院患者における効果や安全性に懸念があったため、適応は軽中等症で入院の必要がない、但し重症化リスクを持つ患者に限定されている。

RECOVERY試験はマスター・プロトコルで、dexamethasoneなど様々な既存薬や新薬を次から次へとテストしている。医療従事者の負担を緩和するために報告事項を絞り込み、主観の入り込む余地がなく玉石混交の誹りも受けない死亡という決定的な事象を主評価項目に選んでいる。治験の規模が大きく、サブグループ毎の便益をある程度検討できることも長所。過去最大の功績は酸素投与や呼吸補助が必要な患者におけるdexamethasoneの救命効果を確立したことだ。

REGN-COV2のサブスタディは入院患者9785人をREGN-COV2群と偽薬群に無作為化割付した。うち、SARS-CoV2のスパイク蛋白に対するIgG抗体を持つ血清陽性患者が54%、血清陰性が32%を占め、残りは不明だった。ベースライン時点での治療は66%が酸素投与、20%が非侵襲的換気サポート、11%が酸素も換気サポートも不要で、過去の試験で安全性懸念が生じた人工呼吸器/ECMOは2%と極めて少ないことに留意すべきである。

同時使用薬は9割超がdexamethasoneのようなコルチコステロイドを用いていた。remdesivirは26%と少ない。colchicineは21%、aspirinは33%、tocilizumab/sarilumabは13%、azithromycinなどのマクロライドは24%が用いていた。RECOVERY試験は一人の患者を複数のサブスタディに割付けるため、このようなことになる。因みに、この中で成功したのは、ある程度進行した患者を対象としたtocilizumabだけだ。

米国の承認用量は当初は2400mg(一回だけ点滴静注)、現在では1200mgだが、本試験では8000mg。過去の試験では8000mgも2400mgも効果に大差なく、2400mgと1200mgの効果も大差なかったので、
違いを重視する必要はないだろう。

主要評価項目である血清陰性サブグループにおける28日死亡率は試験薬が24%、通常医療だけの群は30%で、率比0.80(95%信頼区間0.70-0.91)、p=0.001だった。カプラン・マイヤー・カーブは1週間経った辺りから分かれている。血清陽性/不明も含めた全集団の解析では20%対21%で大差なかった。陽性サブグループの通常医療群の死亡率は15%と陰性サブグループの半分に留まっている。結局、REGN-CoV2は、インスリンを分泌できない一型糖尿病に遺伝子組換え型インスリンを投与するのと同様な、補充療法ということになる。

忍容性は約3500人における72時間以内の点滴反応くらいしか言及されていない。発熱や突発的低血圧、血栓性イベントの発生率が1~2パーセンテージポイント高まる程度だった。試験薬関連と見なされる深刻有害事象は5人で、アレルギー反応(3人)、てんかん発作(2人)、急性飽和度低下(1人)、一時的意識喪失(1人)。

リンク: リジェネロンのプレスリリース
リンク: オックスフォード大学のプレスリリース(pdfファイル)
リンク: 治験論文草稿(medRxiv、抄録と全文のリンク)



ブラジルでゼルヤンツの試験が成功
(2021年6月16日発表)

ファイザーは、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)をCOVID-19肺炎の治療に用いたブラジルの臨床試験が成功したと発表した。New England Journal of Medicine誌に論文刊行された。

入院後72時間以内で支持療法だけを受けている患者289人を偽薬群と試験薬群(10mgを一日二回、最大14日間に亘って経口投与)に無作為化割付して28日間の死亡・呼吸不全(ハイフロー酸素または侵襲的換気サポート)のリスクを比較したところ、各群29.0%と18.1%となり、リスク比0.63(95%信頼区間0.41-0.97)、p=0.04となった。全死亡も5.5%対2.8%、ハザード比は0.49(95%信頼区間0.15-1.63)と、好ましい数値が出たが検出力不足で有意差はなかった。

深刻有害事象の発生率は12.0%対14.1%で若干増加。Xeljanzは深刻な感染症を合併している場合は禁忌だが、本試験では深刻感染症の発生率が4.2%と3.5%で高まらなかった。

本試験では89%がdexamethasoneなどのグルココルチコイドを使用していた。remdesivirは本試験が実施されていた当時はブラジルで未承認だった。

JAK阻害剤ではインサイト/イーライリリーのOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)が酸素投与/換気サポートが必要なCOVID-19肺炎用薬として日米で承認/非常時使用認可されており、Xeljanzが有効であっても不思議はない。しかし、本試験は規模が比較的小さく、p値がマージナルだ。他の試験の結果も見てみたいが、ClinicalTrials.govで検索しても更に小規模だったり無作為化割付試験ではなかったり、適切なものが見当たらない。残念だ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Guimaraesらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)



抗原ワクチン、米墨第3相も成功
(2021年6月11日発表)

米国のワクチン開発会社、Novavax(Nasdaq:NVAX)は、NVX-CoV2373の二本目の第3相COVID-19予防試験が成功したと発表した。米国とメキシコの施設で29960人を試験薬と偽薬に2対1割付して21日置いて二回接種し、更に7日間経った後の症候性感染をモニターしたところ、各群14人と63人となり、ワクチン効率は90.4%(95%信頼区間82.9-94.6)とハードルをクリアした。中等症以上の感染はゼロと14人で100%予防。

両群合計の感染者77例のうち54例のウイルス遺伝子分析の結果、CDC(米国疾病管理予防センター)がVoC(懸念される変異)と分類する変異型が35例、VoI(評価は定まっていないが関心のある変異)が9例でVoC/VoIに対するワクチン効率(探索的解析)は93.2%だった。尤も、VoC/VoIの多くはアルファ(英国型)で、それ以外はエプシロン(カリフォルニア型)を含め症例数が少ないため、はっきりしない。その他の株の感染は10例で、全て偽薬群だったため、ワクチン効率は100%となる。

Novavaxは欧州などで承認申請中だが、米墨試験の成功を受けて、米国でも承認申請する予定。

NVX-CoV2373は宿主細胞に融合する前の全長スパイク蛋白を抗原とする昆虫細胞培養型ナノパーティクル・ワクチン。中国以外で開発されている蛋白抗原ワクチンでは最も開発が進んでいる。先に行われた第3相英国試験ではワクチン効率が89.3%、後期第2相南アフリカ試験ではHIVに感染していない人におけるワクチン効率が60%だった。

mRNAワクチンでもベータ変異(南アフリカ型)に対する効果は低下すると考えられており、Modernaなどと同様に、Novavaxもベータ対応のブースターワクチンの開発も進めている。COVID-19ワクチンの効果がどの程度続くのかは不明だが、今後も変異株の種類が増えるだろうから、1~2年に一回程度、再接種することになる可能性は高そうだ。

リンク: 同社のプレスリリース



セルトリオン、中和抗体の第3相が成功
(2021年6月14日発表)

韓国のセルトリオン・ヘルスケアは、CT-P59(regdanvimab)のグローバル第3相試験が成功したと発表した。軽中等症患者1315人を偽薬群と試験薬群(40mg/kgを一回、点滴静注)に無作為化割付して重症化リスクを28日間比較したところ、重症化リスクが高いサブグループにおける入院・死亡率が各11.1%と3.1%となり、p<0.0001と有意な差があった。副次的評価項目の全被験者の解析も8.0%対2.4%、p<0.0001だった。臨床的に重要な有害事象は偽薬群と大差なかった。

regdanvimabは抗SARS-CoV-2中和抗体。ベータ株などに対する中和効果が弱い可能性があり、同社は補完的な抗体も開発中。

セルトリオンはバイオシミラーの開発でグローバル・プレゼンスを持っている。実力があるのは確かなのだが、不思議に思うのは、日本の会社は中和抗体を開発する能力はないのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース



アストラゼネカ、中和抗体カクテルの曝露後予防試験がフェール
(2021年6月15日発表)

アストラゼネカはAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)の第3相COVID-19曝露後予防試験がフェールしたと発表した。過去8日間に感染者と接触した1121人を試験薬群と偽薬群に2対1無作為化割付して予防効果を検討したところ、症候性感染症のリスクを偽薬比33%抑制したが、統計的に有意な水準には達しなかった。事前に設定された評価項目である、PCR検査で陰性だったサブグループでは73%抑制と良い数値が出ており、また、投与後7日未満と比べて7日後以降の感染予防効果の方が高いので、投与前に既に感染していた、あるいはウイルス量が多かった、被験者における効果が十分ではなかったのかもしれない。あるいは、他社の抗体カクテルと比べて効果が低いだけのことかもしれない。

AZD7442はVanderbilt University Medical Centerが回復期血漿から同定した二種類の抗体を装飾し、効果持続期間を6~12ヶ月に長期化すると共に、抗体依存的疾病増強を回避するためにFc受容体結合性を抑制したもの。今回の試験では300mgを一回、筋注した。

被験者は事前に抗体検査を受け、陰性確認したが、PCR検査は投与時に受けたので、もし陽性だとしても判明するのは数日後になる。PCR検査も感染から陽性化までタイムラグがあるが、抗体検査ほどではないので、信頼性はPCRのほうが高い。従って、ワクチンの予防試験では、PCR陰性サブグループだけの解析を主評価項目としている。

しかし、中和抗体による曝露後予防試験は、PCR検査で陽性になったり症状が出る前に目の子で治療を開始する、早期介入法の試験という側面がある。中和抗体は感染後の治療にも有効であるはずなので、投与時点でPCR陽性でも陰性でも分けて考える必要はないだろう。

リジェネロン・ファーマシューティカルズがREGN-COV2で実施した家庭内曝露後予防試験では感染を80%以上抑制した。AZD7442の33%は大きく見劣りする。

リンク: 同社のプレスリリース



CureVacのmRNAワクチンは中間解析成功せず
(2021年6月16日発表)

ドイツのCureVac(Nasdaq:CVAC)はCOVID-19のmRNAリピッド・ナノパーティクルワクチン、CVnCoVの後期第2相/第3相試験の第二次中間解析を行ったが、事前に設定されたハードルをクリアできなかったと発表した。最終解析に向かう予定。点推定値自体がそれほど良くなく、原因がワクチンなのか、それとも変異株の影響で多かれ少なかれ他のワクチンにも当てはまることなのか、気になるところだ。高齢者における効果も小さかったとのこと。

CVnCoVはSARS-CoV-2の融合前スパイク蛋白の全長mRNAをリピッド・ナノパーティクルに封入したワクチンで、BioNTech/ファイザーやModernaのワクチンとの違いは、化学的装飾を行っていないこと。安定性が比較的高く、通常の冷蔵庫で最長3ヶ月間保存できる。また、用量は12mcgと半分以下。28日置いて二回筋注する。

今回の試験はラテンアメリカを中心に欧州の施設も参加して約4万人を組入れた。上記ワクチンは中間解析でワクチン効率が90%超となり成功認定されたが、CVnCoVは47%に留まった。会社側は、変異株の流行が影響したと考えているようだ。感染者134人のうちオリジナルの標準株は一人だけで57%がVoC(感染力や重症化、ワクチンの効果などの点で懸念される変異株)、21%がラムダ株(C.37、ペルーで昨年8月に発見)、7%がB.1.621(コロンビアで発見)だったからだ。

BioNTech/ファイザーやModernaのワクチンの臨床試験は変異株がまだ多くなかったころに実施されたため、変異株に関する情報は疫学試験や前臨床試験くらいであるが、JNJのアデノウイルスベクター・ワクチンやNovavaxの蛋白抗原ワクチンの臨床試験データも考慮すると、ワクチン効率は、標準株と比べて、アルファ株(英国変異)に0~10パーセンテージポイント低下、ベータ株(南ア変異)やガンマ株(ブラジル/日本変異)は10~40%低下、と思われる。例外はアストラゼネカのワクチンで、ベータ株が流行している南アの臨床試験で成績が悪かったため、南ア政府は接種を見送った。

BioNTech/ファイザーやModernaのワクチンも今ラテンアメリカや欧州で臨床試験を行えば成績が落ちるのかもしれない。但し、各社の試験は何れにおいても、中等症・重症感染症を予防する効果が軽症も含む症候性感染全てを防ぐ効果より高かった。

最終解析はあと80人が感染した段階で行う計画。実際には、確認待ちの感染症例がたくさんあるようなので、7~8月にも結果が判明するかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


SAGE-217の高用量第3相が成功
(2021年6月15日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)と開発販売パートナーであるバイオジェンは、SAGE-217(zuranolone)の第3相大鬱病試験が成功したと発表した。Sageの株価が値下がりしたことからも分かるように、インプレッシブな成績ではなかったが、そもそも2週間だけ治療することにどの程度の意味があるのか、良く分からない。

SAGE-217は経口のGABA-A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータ。GABA-A受容体のGABA-Aとは違う部位に結合し活性化する。類薬であるZulresso(brexanolone)点滴静注用が19年に米国で産後鬱病の治療薬として承認された。

SAGE-217も重症産後鬱の患者に30mgを一日一回、2週間経口投与した第3相外来治療試験が成功したが、20mgと30mgをテストした大鬱病の第3相がフェールしたため、50mgで再挑戦することになった。産後鬱も含め複数、進行しているが、最初に結果が出たのが今回のWATERFALL試験だ。543人を組入れて、偽薬または50mgを一日一回、二週間に亘って経口投与した。傾眠などの副作用を抑制するために夜、服用した。忍容しない場合は減量可。

結果は、第15日のHAMD-17トータルスコアがベースライン平均値の26.8から14.1低下、偽薬群は12.3低下した。治療効果は1.7、p=0.0141と高度ではないが有意だった。治療終了後4週間経った第42日時点でも試験薬群は改善の86%を維持していた。忍容性は、治療時発現有害事象が60.1%の被験者で見られ、偽薬群の44.6%を上回った。内容は傾眠、眩暈、頭痛、鎮静など。治療時発現有害事象による治験離脱率は各群3.4%と1.5%、深刻有害事象発生率は両群とも0.7%だった。

精神神経学の薬は病状の改善をリニアに反映するスコアの開発が困難であることや、どの程度の改善なら臨床的に意味があるかどうか判断しかねることから、偽薬比統計的に有意なら臨床的に有意であるかどうかは問わないのが通常だ。私は、治療効果がベースライン値の1割以上ならあれこれ言わないと決め打ちしている。しかし、今回の治療効果は6%なので物足りない。19年にフェールした第3相の治療効果は1.4なので、この二つの試験のデータが比較可能と前提するならば、用量を1.6倍に増やしても0.3ポイント程度しか改善しなかったことになる。

一方、有害事象は増加する。同様な比較をすると、30mgは傾眠の発生率が7%、眩暈は6%だったが、50mgは各15%と14%だった。尚、偽薬群はどちらも2-4%だった。

Zulressoもこの薬も2週間投与して完了する用法だ。完了後4週間経っても改善の86%が維持されたとのことだが、14.1の86%は12.1で、偽薬を2週間投与した後の改善(12.3)と大差ない。会社側は偽薬群のデータを開示しないなど口を濁しているが、治療を止めると治療しなかったのと同じ結果になってしまうのではないか、という疑念を禁じ難い。

2週間しか治療しないことにどのようなメリットがあるのか?良く分からない。同社は1年間のas-needed試験(必要に応じて治療コースを繰り返す)を行っているので、成功するなら頓服的な用法が正当化されるだろう。不眠症を併発する患者の第3相も進行中で、傾眠鎮静の副作用が多彩な便益に反転するかもしれない。何れも、年内に結果が出る見込み。

バイオジェンは30mgの第3相がフェールした後の昨年11月に米日台韓以外での開発販売権を取得した。日台韓の権利は18年に塩野義製薬が取得。

リンク: 両社のプレスリリース



バイオジェン、コロイデレミアの遺伝子療法試験がフェール
(2021年6月14日発表)

バイオジェンは、BIIB111(timrepigene emparvovec)の第3相STARコロイデレミア遺伝子療法試験がフェールしたと発表した。コロイデレミアはX連鎖劣性遺伝で細胞内の不要物搬送に係るREP-1の遺伝子、CHMに機能喪失変異があり、網膜色素上皮や脈絡膜が萎縮、視野障害を招く。BIIB111はAAV2(アデノ関連ウイルス2型)をベクターとしてCHM遺伝子を導入する網膜下注射用薬で、昨年6月にオックスフォード大学発ベンチャーであるNightstar Therapeuticsを8億ドルで買収して入手した。

第3相試験ではETDRS視力表を用いて1年後にBCVA(最良矯正視力)が15字以上改善した患者の比率を非介入群と比較したが、フェール。副次的評価項目もフェールした。前回の第1/2試験では視力低下が自然歴と比べて小さかったのだが、再現されなかった。

よくデザインされた対照試験(well-designed controlled trials)が重要であることを、今までに何度、思い知らされたことか。

リンク: バイオジェンのプレスリリース


【承認申請】


第10の抗PD-1/PD-L1抗体が承認申請
(2021年6月17日発表)

米国マサチューセッツ州の免疫系新薬開発会社、Agenus(Nasdaq:AGEN)は、AGEN2034(balstilimab)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月16日。化学療法歴のある難治/転移子宮癌に用いる。第二相試験ではPD-L1陽性癌に対するORRが20%、陰性も含めると15%だった。

PD-1を標的とするIgG4抗体。米国では抗PD-1抗体が既に4製品、抗PD-L1抗体も3製品承認されており、更に抗PD-1抗体2品目が承認審査中なので、順調ならAGEN2034は第10の抗PD-1/PD-L1抗体となる。売上金額は言わずもがな、製品数でもスタチンなどを抜きアンジオテンシンII受容体拮抗剤と並ぶ一大勢力となる。

リンク: 同社のプレスリリース



化学療法誘導性好中球減少症予防薬を承認申請
(2021年6月1日発表)

米国ニューヨーク州のBeyondSpring(Nasdaq:BYSI)はBPI-2358(plinabulin)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月30日。

癌の化学療法の副作用で好中球減少症が発生するのを抑制するために、標準的予防薬であるG-CSFと併用する。第3相PROTECTIVE-2試験では第1サイクルにおけるG4好中球減少症の発生率が13.6%と偽薬・G-CSF併用群の31.5%を下回った(p=0.0015)。熱性好中球減少症の発生率や重症度、入院期間も抑制された。G4治療時発現有害事象は偽薬群より20%少なかった。

微小管結合剤で、GEF-H1の分泌を促進し、樹状細胞の成熟や造血幹細胞/前駆細胞の増加をもたらすとのこと。別途、非小細胞性肺癌を治療する第3相も進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


Orphazyme社、NPC用薬が承認されず
(2021年6月18日発表)

デンマークのOrphazyme(Nasdaq Copenhagen:ORPHA.CO、Nasdaq:ORPH)は米国でMiplyffa(arimoclomol)をニーマン・ピック病C型(NPC)用薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効評価方法の妥当性や追加試験の実施を求められたようだ。まあ、順当な結果だろう。

ハンガリーで糖尿病薬候補として発見されたヒート・ショック・プロテイン増幅剤。欧米で2~8歳の患者50人を組入れて一日3回、12ヶ月間に亘って経口投与する効果を検討した第2/3試験で、主評価項目であるNPCCSS(ニーマン・ピックC臨床的重症度スケールのうち5ドメインを使用)が僅かにフェールした。同社は4歳以上の44人だけのp値が0.02となり、また、EUなどで承認されているmiglustat併用例でも0.007であったことに着目して承認申請したが、FDAが事前に要請したCGI-I反応率の解析は58.3%と偽薬群の56.3%と大差なかった。

FDAは、NPCCSS、特に飲み込みドメインの有効性と解釈に関する質的量的証跡を求めるとともに、追加試験などの実施を求めたようだ。arimoclomolの薬効に自信があるなら追加試験を躊躇する理由はないだろう。

arimoclomolは失望的なニュースが続いており、3月には第2/3相特発性封入体筋炎試験が、5月には第3相筋萎縮性側索硬化症試験が、フェールした。

リンク: 同社のプレスリリース



【承認】


全身性肥満細胞症に適応拡大
(2021年6月16日発表)

FDAはBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)のAyvakit(avapritinib)を進行性全身性肥満細胞症に用いる適応拡大を承認した。200mgを一日一回、経口投与する。53例の臨床試験ではORR(総合反応率)が57%(完全寛解率28%、部分寛解率28%)、メジアン反応持続期間は38.3ヶ月だった。有害事象は浮腫、下痢、悪心、疲労など。血小板数が50x10^9/L未満の患者には推奨しない。

頭蓋内出血が発生したら重症度に係らず投与を永続中止する。認知障害などの中枢神経有害事象が4割程度で発生するので、重症度に応じて投与継続、一時中止し減量して再開、永続中止を判断する。

AyvakitはKIT/PDGFRアルファキナーゼ阻害剤。全身性肥満細胞症はKITの活性化変異が見られることが多く、KIT阻害作用が寄与するのだろう。

昨年1月に米国でPDGFRアルファにエクソン18変異があり標準療法に反応しない切除不能/転移消化管間質腫瘍に300mgを一日一回、経口投与することが承認された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Blueprint社のプレスリリース







今週は以上です。

2021年6月13日

第1003回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • PRACがワクチンの稀な有害事象についてアップデート 
  • その他の領域: 
  • サノフィ、寒冷凝集素症のRCTが成功 
  • BMS、ブレヤンジのLBCL二次治療試験が成功 
  • 第三のハーセプチン型ADCの第3相が成功 
  • Dermavant、AhRモジュレータを乾癬治療薬として承認申請 
  • ジャカビの適応拡大申請も審査期間延長 
  • Aduhelmの承認はナンセンスが一杯 
  • 20価プレベナーが承認 
  • 初のプラスミノゲン欠乏症用薬が承認 
  • GLP-1作用剤の高用量版が体重管理薬として承認 
  • 天然痘治療薬が承認


【COVID-19関連】


PRACがワクチンの稀な有害事象についてアップデート
(2021年6月11日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAのファーマコビジランス・リスク評価委員会(PRAC)はCOVID-19ワクチンに関する様々な有害事象報告の評価を進めているが、オックスフォード大学/アストラゼネカのVaxzevriaを接種した患者で発生した毛細血管漏出症候群について、有害事象として添付文書に記載するよう勧告した。既往歴のある人は禁忌とする予定。

この稀だが深刻な疾患は毛細血管から体液が漏出、手足の腫脹や低血圧、ドロドロ血、低アルブミン血症などが現れる。Vaxzevria接種者では14例が報告され、うち6例は診断を裏付ける十分な情報があった。6例の多くは女性で、接種後4日以内に発症。3人は毛細血管漏出症候群既往で、うち一名はその後死亡した。

EUと英国におけるVaxzevriaの接種実績は7800万回超なので、報告頻度は600~1000万回に一度ということになるが、有害事象報告はしばしば、氷山の一角である。

4社のワクチンにおける心筋炎や心膜炎の検討は続行。Eudravigilance有害事象報告システムに報告された心筋炎は、21年5月末現在で、BioNTech/ファイザーのComirnatyが122件、Moderna製が16件、Vaxzevriaが38件、JNJ製はゼロ。同様に、心膜炎はComirnatyが126件、Moderna製が18件、Vaxzevriaが47件、JNJ製が1件となっている。多くは軽症で数日内に解消した。

尚、EEA(欧州経済圏)における接種実績は、Comirnatyが1.6億回、Moderna製が1900万回、Vaxzevriaが4000万回、JNJ製が200万件となっている。従って、各ワクチンの発生頻度に大きな差があると思わないほうが良さそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース


【新薬開発】


サノフィ、寒冷凝集素症のRCTが成功
(2021年6月11日発表)

サノフィはsutimlimabの第3相寒冷凝集素症試験が成功したと発表した。過去6ヶ月間に輸血を受けずに済んだ患者42人を偽薬群と試験薬群に無作為化割付して二週毎(但し二回目は一週後)に点滴静注して半年間治療したところ、奏効率(ヘモグロビン値が1.5g/dL以上に増加などの複合評価)が各15%と76%となり、有意な差があった。治療時発現深刻有害事象の発生率は各群5%と13.6%で、試験薬群で発生した脳静脈血栓症一例は担当医が試験薬関連と判定した。

C1複合体セリンプロテアーゼを標的とする抗体医薬で、17年にバイオジェンからスピンアウトしたBioverativがTrue North Therapeuticsを買収して入手、18年にサノフィに買収された。第3相単群試験の結果に基づいて2000年に日米で承認申請されたが、米国は生産委託先の工場査察で問題点が指摘され、審査完了通知を受領した。下期に再申請を計画するとともに、初の無作為化割付対照試験(RCT)が成功したことを受けて、欧州でも承認申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース



BMS、ブレヤンジのLBCL二次治療試験が成功
(2021年6月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Breyanzi(lisocabtagene maraleucel、和名ブレヤンジ)の第3相難治/再発性大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)二次治療試験が中間解析で成功したと発表した。データは未公表。承認申請に向かうと推測される。

BreyanziはCD19標的型CAR-T(キメラ抗原T細胞)療法。19年に子会社化したセルジーンが前年に買収したJuno Therapeuticsの開発品で、21年に米国で難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬として承認された。

今回のTRANSFORM試験は、R-DHAPなどの化学療法施行後に高量化学療法と造血幹細胞移植を行う標準療法と、化学療法に代えてBreyanziを施行するレジメンを比較した。主評価項目のEFS(全死亡、疾病進行、部分反応未達の何れも発生せず生存)だけでなく、副次的評価項目の完全反応率や無進行生存期間も有意に上回った。全生存の解析は未だ成熟していない(死者が解析に必要な数に達していない)。

リンク: BMSのプレスリリース



第三のハーセプチン型ADCの第3相が成功
(2021年6月8日発表)

オランダのByondis B.V.は、SYD985(trastuzumab duocarmazine)の第3相TULIP試験が成功したと発表した。年末までに承認申請する予定。データは未発表。

元々はSynthon Biopharmaceuticals B.V.という社名だったが親会社が買収されたのを機に独立、改名した。主要パイプラインがこのADC(抗体薬物複合体)で、Herceptinの活性成分であるtrastuzumabとストレプトミセス属の細菌から発見されたDNAマイナーグルーブ(副溝)結合剤をリンカーで結合したもの。

第3相試験は、her2陽性の切除不能局所進行性または転移性の乳癌で2種類以上のher2標的レジメンまたはハーセプチン型ADCの第1号であるロシュのKadcyla(trastuzumab emtansine)による治療歴を持つ患者を、試験薬群と医師の選んだ治療レジメン群に2対1無作為化割付して、PFS(無進行生存期間、第三者独立評価)を比較した。

主評価項目が成功しただけでなく、副次的評価項目である全生存期間の予備的解析でも薬効を支持するような結果になったようだ。

同社は販売提携先を探す考え。

リンク: 同社のプレスリリース(何故か同社のホームページにアクセスできないためPR Newswireのサイトをリンク)


【承認申請】


Dermavant、AhRモジュレータを乾癬治療薬として承認申請
(2021年6月3日発表)

Roivant SciencesグループのDermavant Sciences GmbH(デルマバント)は、tapinarofを軽中重症尋常性乾癬の治療薬として米国で5月26日に承認申請したと発表した。

アリル炭化水素受容体(AhR)調節剤で、局所クリーム製剤。一日一回、12週間塗布した第三相試験では、PGA反応率(医師による全体評価が0または1でベースライン比2段階以上改善した患者の比率)が一本は35.4%(偽薬群は6.0%)、もう一本は40.2%(同6.3%)だった。副次的評価項目のPASI75も偽薬比有意に上回った。主な有害事象は毛包炎、上咽頭炎、接触性皮膚炎など。

元々は12年にグラクソスミスクラインが子会社化した皮膚病用薬会社、Stiefelが09年にWelichem Biotechから中国周辺以外での開発商業化権を取得したもので、Roivantは18年にグラクソから権利譲渡を受けた。

日本は日本たばこが20年にデルマバントから独占開発商業化権を取得した。

リンク: デルマバントのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ルキソリチニブの適応拡大申請も審査期間延長
(2021年6月11日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、6月8日、ノバルティスと共同開発販売しているJAK1/2阻害剤、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)をステロイド不応の慢性GvHD(移植片宿主病)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請しているが、審査期限が6月22日から9月22日に延期されたことを明らかにした。要請に基づき追加情報を提出したところ、審査期間延長の要件である承認申請内容の重大な変更と見なされた。

Jakafiは原発性/真性多血症後/本態性血小板血症後の骨髄線維症や、真性多血症自体、そして米国ではステロイド難治急性GvHDの治療に承認されている。GvHDは造血幹細胞や臓器移植後に移植された免疫細胞/臓器と患者自身の細胞/免疫細胞が戦ってしまう疾患で、急性は移植後100日以内に、慢性は100日以降に、発症することが多いようだ。急性GvHDの第3相は28日間治療して反応率を評価したたが、慢性GvHD試験は24週間の治療後に評価と、より長期の治療が行われ、結果は、反応率が49.7%と対照群(最良既存治療群)の25.6%を有意に上回った。

更に、6月11日、ruxolitinibのクリーム製剤をアトピー性皮膚炎の治療に用いる承認申請の審査期限も6月21日から9月21日に延期されたと発表した。

JAK阻害剤はリウマチ性関節炎など様々な疾患に開発・承認されているが、第1号であるファイザーのXeljanz(tofacitinib、ゼルヤンツ)の長期安全性試験で血栓性疾患や癌の懸念が裏付けられて以来、FDAが元々日欧と比べて慎重なスタンスを一層強化している。審査期間延長も続発しており、Xeljanzの強直性脊椎炎適応拡大や、アッヴィのRinvoq(upadacitinib、和名リンボック)のアトピー性皮膚炎と乾癬性関節炎適応拡大、インサイトがイーライリリーと共同開発販売しているOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)やファイザーのPF-04965842(abrocitinib)の中重度アトピー性皮膚炎適応拡大と波紋が広がっている。

リンク: インサイトのプレスリリース(Jakafi、6/8付)
リンク: インサイトのプレスリリース(クリーム製剤、6/11付)


【承認】


Aduhelmの承認はナンセンスが一杯
(2021年6月7日発表)

FDAはバイオジェンが07年にNeurimmune Holding AGからライセンスしてエーザイと共同開発した点滴静注用抗アミロイドベータ抗体、Aduhelm(aducanumab-avwa)をアルツハイマー病治療薬として承認した。臨床成績が穴だらけであることや末梢中枢神経系薬諮問委員会(PCNSDAC)で11人の委員のうち10人が承認に反対し1人は棄権と誰も支持しなかったことなどから事前の期待が薄かったため、両社の株価が急騰した。

承認内容もサプライズで、本承認ではなく、深刻な疾患に用いる薬を臨床成績ではなく臨床検査値(代理マーカー)改善作用に基づいて承認する、加速承認となった。FDA側は、諮問委員会で、加速承認というカードは持っていない(考えていない)と述べていたようなので、180度の方向転換だ。一方、承認の根拠となる臨床試験では早期段階の、アミロイドプラクが確認された患者だけを組入れたのだが、FDAは限定せず、適応上は全てのアルツハイマー病に用いることが可能になった。

新薬を待ち望む患者や医師がいる一方で、エビデンスが確立したとは言えない薬の承認に反対する専門医も多いせいか、FDAは、CDER(小分子薬と一部のバイオ薬を担当する部署)のディレクター名でコメントを出すとともに、CDERの神経科学部門のディレクターがPCNSDAC議長に宛てて出した覚書も公開した。配慮は感じられるが、納得のいく説明はなく、PCNSDACで反対票を投じた委員のうち3名が抗議辞任したと報じられている。

加速承認の場合、市販後に改めて薬効確認試験を行って臨床的便益を挙証する義務があるので、ある種の妥協なのだろうが、話が余計ナンセンスになった。FDA側はアミロイドプラクを除去すれば認知症の進行抑制が期待される、と主張しているが、過去に多くの抗アミロイドベータ抗体やセクレターゼ阻害剤の長期大規模試験がフェールしたことを考えれば、むしろ、アミロイドプラクを減らしても認知症の進行抑制効果は小さいと考える方が科学的である。Aduhelmの臨床試験が組入れ対象を絞り込んだのは、過去の失敗を繰り返さないよう、効きそうな相手を厳選するためだ。そのことを無視して進行した患者も適応に含めたのは、Aduhelmに限らずあらゆる臨床試験に参加した医療従事者や患者の善意や熱意を踏みにじる暴挙と呼んでも過言ではないだろう。

市販後薬効試験の実現可能性も疑問だらけだ。Aduhelmが効かないと思っている患者や医師は参加しないだろう。効くと思っている患者や医師も、偽薬群に割付けられる可能性のある臨床試験には参加しないだろう。公的な高齢者医療制度であるメディケアが保険還付を拒否した場合は別だが。

抗アミロイドプラク抗体はARIA(アミロイド関連画像異常)というMRI画像上の変化が起きることがあり、Aduhelmの臨床用量は被験者の41%で発現した(偽薬群は10%)。症候性ARIAは各群24%と5%で、混乱や見当識障害、歩行障害、運動障害などが見られた。多くはやがて解消するようなので転帰が悪いとは言えないが、FDAは、6ヶ月の滴定期間中は臨床評価、目標である10mg/kgを投与する前と半年後にはMRI検査を行うよう推奨している。

報道によると、卸取得価格は平均で年56000ドルとのこと(体重により異なる)。MRI検査や点滴静注にも費用が掛かる。それで得られる臨床効果はどの程度かというと、第3相の一本では、CDR-SBがベースライン値の2.51から78週間で1.35上昇、偽薬群は1.74上昇で、差は統計的に有意だったが、臨床的に意味があるのかどうか、よくわからない。ADAS-Cog 14は22.246から3.763上昇と、偽薬群の5.162上昇より有意に小さかったが、これも良く分からない。アセチルコリン還元酵素(AChE)阻害剤は少なくとも一時的には症状が改善する。この違いが、症状の進んだ患者とそうでない患者の違いによるものなのかどうか、良く分からない。donepezilの軽度認知障害試験はフェールしたが、APOE4だけを組入れれば成功するのではと当時、思った。

何れにせよ、AduhelmがAChE阻害剤と比べ物にならないほど効くという、エビデンスとまでは言わなくても期待感すらない中で、値段だけが比べ物にならないほど高いのは、良薬の承認というよりはユダヤの商人という印象だ。

メーカー側は認知症患者をケアするための費用や家族の機会費用が減ることも考慮すれば高くないと主張しているが、それでは、幾ら減るのか、医療経済学的エビデンスはあるのか?認知症患者の余命は10年というデータを見たことがあるが、Aduhelmの臨床試験は10年追跡してケア費用抑制効果を検討するプロトコルになっているのか?定量的な裏付けなしに脅威だけを訴えるやり方は、癌の怖さを吹き込んだ後で文句を言わずにこの物質を飲めと迫るのと大差ない。

今回の承認は他のアルツハイマー病薬の開発トレンドにも波及するだろう。美味しいところを二社に独占させるわけには行かないとばかりに、お蔵入りになった抗体医薬やセクレターゼ阻害剤の再試験を行って低いハードルをクリアしようとする企業が続出するだろう。逆に、画期的な作用機序の新薬の研究開発が滞る可能性もありそうだ。悪貨は良貨を駆逐するからだ。

コロナ対策で多くの国の財政が悪化する中、お金の無駄のような新薬が広く使われるようになったら、高齢者医療福祉全般の縮小や税・保険料の引き上げが懸念される。全く、全国民にとって他人ごとではないのである。

追記:Endpoints Newsが行ったウェブアンケートで、1410件の回答のうち80%がAduhelm承認に同意しなかった。同意は15%、分からないが5%だった。加速承認という形を取ったことについては不同意69%、同意22%で、この妥協策がある程度効果があったことが窺われる。価格の妥当性については75%がNo、8%がYesだった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CDERディレクターのDr. Patrizia Cavazzoniのコメント
リンク: CDER神経科学部門ディレクターのBilly Dunnの諮問委員会会長宛て覚書(pdfファイル)
リンク: レーベル(pdfファイル)
リンク: Endpoints Newsのアンケート結果(無料登録が必要)



20価プレベナーが承認
(2021年6月8日発表)

ファイザーは、Prevnar 20(通称20vPnC)がFDAに承認されたと発表した。20価肺炎球菌結合型ワクチンで、18歳以上の成人が肺炎球菌による侵襲性疾患や肺炎を予防するために用いる。ACIP(ワクチン接種諮問委員会)が10月に接種勧奨を検討する予定。

Prevnar(和名プレベナー)は特定の血清型の肺炎球菌の抗原部位をジフテリア毒の一部と結合することで効果を増強した。米国では2000年に7価のPrevnar、11年に13価のPrevnar 13と、ほぼ10年毎にカバレッジを増やした新製品が承認されてきた。プレスリリースによると、今回のワクチンで米国で発症する侵襲性肺炎球菌性疾患の過半をカバーできるとのこと。

尚、今回新たにカバーされた8、10A、11A、12F、15BC、22F、33F型については免疫原性試験に基づく加速承認となっている。

23価ワクチンPneumovax(和名ニューモバックス)を販売するMSDも15価ジフテリア毒結合ワクチンであるV114(通称PCV-15)を承認申請中で、審査期限は7月18日。小児向けの開発はMSDのほうが先行しているようなので、開発競争はまだ決着していない。

リンク: ファイザーのプレスリリース



初のプラスミノゲン欠乏症用薬が承認
(2021年6月4日発表)

FDAは、Ryplazim(plasminogen, human-tmvh)を1型プラスミノゲン欠乏症(別称低プラスミノゲン血症)の初めての治療薬として承認した。ヒト由来の血液製剤で、2~4日毎に48週間投与した臨床試験では、ベースライン時点で病変のあった11人全員で5割以上改善した。

Liminal BioSciences(Nasdaq:LMNL)の子会社である Prometic Biotherapeuticsが承認申請したもの。優先審査バウチャを獲得した。Liminal社は採血事業を5月に売却し、Ryplazimを含む血漿分画製剤事業を取得するオプションをKedrion S.p.A社に供与している。貴重な薬なので、事業が宙に浮くことがないようにしてほしいものだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Liminal社のプレスリリース



GLP-1作用剤の高用量版が体重管理薬として承認
(2021年6月4日発表)

FDAはノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)を肥満症(BMI≧30kg/m2)または一つ以上の体重関連疾患を併発するオーバーウェイト(27~30kg/m2)の体重管理用薬として承認した。カロリーを抑制する食事療法及び運動療法と併用する。肥満症全般に使える新薬が承認されたのは7年ぶり。

二型糖尿病薬Ozempicとして承認されている活性成分を一回に1mgではなく2.4mg投与する、週一回皮注用のGLP-1作用剤。糖尿病ではない患者を組入れた臨床試験では、ベースライン時点で平均105kgだった体重が偽薬調整後で12.4%低下した。糖尿病合併患者の試験では同じく100kgから6.2%低下した(なぜこちらのほうが効果が小さいのだろうか?semaglutide群は糖尿病薬を減量した患者が多かったはずで、それがインスリンやSU剤ならそれだけで体重減少効果が高まるはずだが...)。

警告事項はGLP-1作用剤のクラスレーベルである甲状腺C細胞腫(枠付警告)や膵炎、胆石など。インスリンやインスリン分泌刺激薬を併用する場合は低血糖症を回避するためにこれらの薬の減量を検討する。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノボのプレスリリース



天然痘治療薬が承認
(2021年6月4日発表)

FDAはChimerix(Nasdaq:CMRX)のTembexa(brincidofovir)を天然痘治療薬として承認した。新生児から成人まで適応になる。7日間おいて2回、経口投与する。天然痘はWHOが1980年に根絶を宣言したが、生物兵器として使われる可能性もあるため、HHS(米国保健福祉省)傘下のBARDA(生物医学先端研究開発局)が支援して開発した。患者はいないので、FDAのアニマルルールに則り、類似したウイルスを動物に投与して死亡率削減効果を確認。安全性はサイトメガロウイルス(CMV)感染症試験などのデータを援用した。

有害事象は下痢や悪心嘔吐、腹痛など。FDAはCMV感染症予防試験で死亡率が15.5%と対照群の10.1%より数値上高かったことを指摘、長期間投与しないよう注意した。

抗ウイルス薬cidofovirに脂肪を結合して力価を向上するとともに経口投与を可能にしたもの。in vitroでヒトに感染する二重連鎖DNAウイルス全てに抗ウイルス活性を示したとのことで、アデノウイルス感染症やエボラウイルス疾患などに用いられたこともある。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Chimerixのプレスリリース






今週は以上です。

2021年6月4日

第1002回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 血管作動性腸管ペプチドのEUAを申請 
  • 抗GM-CSF抗体のEUAを申請 
  • その他の領域: 
  • ASCO:ノバルティスの放射性医薬品が進行死亡リスクを4割抑制 
  • ASCO:オプジーボの併用レジメンで食道癌の死亡リスクを4割抑制 
  • ASCO:キイトルーダの腎細胞腫術後補助療法は再発死亡リスクを4割抑制 
  • ASCO:リムパーザによるgBRCA変異早期乳癌の術後補助療法後コースは再発死亡リスクを4割抑制 
  • ASCO:キムリア、濾胞性リンパ腫に完全反応率66% 
  • Santhera、新規ステロイドの筋ジストロフィー試験が成功 
  • アゾール系抗真菌薬を承認申請 
  • 新作用機序の抗カンジダ薬が承認 
  • Alkermes、オランザピン配合剤が承認 


【COVID-19関連】


血管作動性腸管ペプチドのEUAを申請
(2021年6月1日発表)

NRx Pharmaceuticals(Nasdaq:NRXP)は、Zyesami(aviptadil acetate)を呼吸不全を合併したCOVID-19の治療薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請した。後期第2相/第3相無作為化割付偽薬対照試験で、呼吸不全からの回復や調整全生存期間の延長作用が見られたとのこと。

ZyesamiはVIP(血管作動性腸管ペプチド)を化学合成した点滴静注用薬。2000年代にバイオジェンがスイスのmondoBIOTECHからライセンスして肺動脈高血圧症試験を行ったが、権利返還。mondoは数回の事業統合を経てRelief Therapeutics(SIX:RLF)となり、20年にNeuroRxと共同開発販売提携を結んだ。このNeuroRxがビッグ・ロック・グループのSPAC(特定目的企業買収会社)と合併して21年に誕生したのがNRx Pharmaceuticalsだ。

SARS-CoV-2はACE2を通じて二型肺胞細胞に侵入し肺サーファクタントの分泌を妨げる。VIPはVPAC1受容体を通じて二型肺胞細胞に作用し、肺サーファクタントの分泌を促す作用がある。20年に20人の投与実績に基づいてCOVID-19用薬としてEUA申請したが、FDAは無作為化割付試験のデータを求めた。それが今回の、COVID-19肺炎でネーザルハイフロー以上の呼吸補助を受けている患者196人を組入れた試験だ。尚、7日間以上人工呼吸器を装着している患者や、ECMOは除外した。

結果はプレスリリースで部分的に開示されているだけ。欧州で承認申請を考えているRelief社も十分なデータを取得できず苦情のプレスリリースを発出したことがあるくらいで、効果のほどは良く分からない。VIPはNIH(米国立衛生研究所)のACTIV 3クリティカル・ケア試験やI-SPY COVID-19試験にも採用されているので、エビデンスが徐々に蓄積されていくだろう。

リンク: 同社のプレスリリース



抗GM-CSF抗体のEUAを申請
(2021年5月28日発表)

Humanigen(Nasdaq:HGEN)はKB003(lenzilumab)をCOVID-19入院患者の治療に用いるEUA(非常時使用認可)をFDAに申請した。第3相試験で人工呼吸器を装着したり死亡したりするリスクが偽薬を有意に下回った。尤も、治験成績に関する情報はプレスリリースだけなので、プロトコルがどの程度厳格・保守的なものであったのか、あるいは、感受性分析でも同様な結果が出ているのか、良く分からないところがある。

同社は元々はKaloBios Pharmaceuticalsという社名だったが、株式を買い集めて支配株主兼CEOとなったMartin Shkreliが不祥事で逮捕されたのを機に、会社更生法適用を経て、16年にHumanigenとして再出発した。主要開発品が上記の抗GM-CSFヒト化抗体だ。CAR-T療法に付き物のサイトカイン放出症候群(CRS)の治療などを想定していたが、COVID-19肺炎でもしばしばCRSを合併することに着目、昨年4月に第3相無作為化割付二重盲検試験を開始した。

米州の医療施設で肺炎を合併し酸素投与が必要だが人工呼吸器装着の必要はない患者512人を組入れて、8時間毎に3回、点滴静注する群の転帰を偽薬と比較した。結果は、主評価項目である人工呼吸器なしで28日間生存するハザードレシオが1.54、p=0.0365だった。カプラン・マイヤー法による人工呼吸器装着・死亡率は各群15.6%と22.1%で6ポイント以上の差があった。

全生存のハザードレシオは1.39と良好だったが検出力不足で有意水準には届いていない(p=0.22)。深刻有害事象のリスクは大差なかった。

ベースライン時点で9割近くの患者がステロイド、6割がremdesivir、57%は両方の、治療を受けていた。

数値はなかなか良いが主評価項目のp値がそれほど低くないので、一本の試験が成功するだけでは心許ない感じがする。NIH(米国立衛生研究所)が昨年10月にACTIV-5試験をロンチしたので、KB003の症例数は200人程度と小さく検出力不足が危惧されるものの、成功を期待したい。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


ASCO:ノバルティスの放射性医薬品が進行死亡リスクを4割抑制
(2021年6月3日発表)

ノバルティスは3月に177Lu-PSMA-617の第3相VISION試験の成功を公表したが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)での発表を前に、概要を明らかにした。転移去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の8割超で発現し正常細胞ではあまり見られない前立腺特定的膜抗原(PSMA)を標的とする薬品とベータ線を放出するルテチウム-177を結合した放射性医薬品で、本試験では、PETスキャンでPSMA陽性だった、タキサンやアンドロゲン受容体標的薬による治療歴を持つ、mCRPCを組入れて6週おきに最大6サイクル施行し、PFS(無進行生存期間、放射線学的評価)や全生存期間を最良支持療法/標準療法だけの群と比較した。

結果は、各群のメジアン生存期間は15.3ヶ月と11.3ヶ月、ハザードレシオ0.62(95%信頼区間0.52-0.74)、PFSは各8.7ヶ月、3.4ヶ月、0.40(99.2%信頼区間0.29-0.57)となった。薬物関連治療時発現深刻有害事象は各群9.3%と2.4%の患者で発現した。

ノバルティスは21年下期に欧米などで承認申請する予定。

ドイツのDKFZ癌研究所とハイデルベルグ大学の共同研究から生まれたコンパウンドで、ノバルティスは18年にEndocyte社を21億ドルで買収して権利を入手した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース



ASCO:オプジーボの併用レジメンで食道癌の死亡リスクを4割抑制
(2021年6月3日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは4月にCheckMate-648試験の成功を公表したが、ASCO発表を前に概要を明らかにした。切除不能進行性または転移性の食道扁平上皮腫648人を組入れて、fluorouracilとcisplatinを併用する標準療法群と、更にOpdivo(nivolimab)を併用する群、そしてOpdivoとYervoy(ipilimumab)の二剤を併用する群の全生存期間やPFSを比較した。

主評価項目であるPD-L1陽性サブグループにおける全生存期間は、各群のメジアン値が9.1ヶ月、15.4ヶ月、13.7ヶ月となり、標準療法に対するハザードレシオは各0.54と0.64、何れも統計的に有意だった。副次的評価項目である全被験者における全生存期間は、同様に、10.7ヶ月、13.2ヶ月、12.8ヶ月、0.74、0.78となり、こちらも全部統計的に有意だった。

G3/4の薬物関連有害事象発生率は各群36%、47%、32%だった。

リンク: BMSのプレスリリース



ASCO:キイトルーダの腎細胞腫術後補助療法は再発死亡リスクを4割抑制
(2021年6月3日発表)

MSDは4月にKeyNote-564試験が中間で成功したことを公表したが、ASCO発表を前に、概要を明らかにした。腎細胞腫を切除したが再発リスクが中高度または高度あるいは転移を完全切除した患者を組入れて、200mgを3週毎、最大17サイクル施行する群の無病生存期間を偽薬と比較したもので、ハザードレシオは0.68(95%信頼区間0.53-0.87)、p=0.001となった。全生存期間の中間解析も0.54(95%信頼区間0.30-0.96)、p=0.0164と良さそうな数値が出ているが、中間解析で成功認定する閾値をクリアしていないため、継続追跡する。

G3-5の治療関連有害事象発生率は18.9%で偽薬群の1.2%を上回った。G5はどれくらいあったのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース



ASCO:リムパーザによるgBRCA変異早期乳癌の術後補助療法後コースは再発死亡リスクを4割抑制
(2021年6月3日発表)

アストラゼネカと共同開発販売パートナーのMSDは、2月に、第3相OlympiA試験の中間解析が成功したと公表したが、ASCO発表を前に、概要を公表した。PARP阻害剤Lynparza(olaparib)の得意分野である生殖細胞系BRCA変異を持つher2陰性の早期乳癌で、術前術後補助療法を受けた高リスク患者に、偽薬または150mg錠2錠を一日二回、最長12ヶ月間投与した試験で、主評価項目のiDFS(局所・領域以上の侵襲的再発なしで生存)のハザードレシオは0.58(99.5%信頼区間0.41-0.82)、p<0.0001となった。3年無侵襲的疾患生存率は各群77.1%と85.9%。副次的な全生存期間の解析はハザードレシオ0.68(99%信頼区間0.44-1.05)、p=0.024となっており、中間解析の閾値は未だクリアしていない。10%の患者が有害事象で治験離脱した。

BRCA変異は卵巣癌や乳癌のリスク因子だが、乳癌の患者のうちBRCA変異を持つのは5%程度とのこと。

リンク: 両社のプレスリリース



ASCO:キムリア、濾胞性リンパ腫に完全反応率66%
(2021年6月2日発表)

ノバルティスは昨年8月にKymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)の第2相難治再発濾胞性リンパ腫試験が中間解析で成功したと発表したが、ASCO発表を前に、データをアップデートした。94人の解析で完全反応率(独立評価委員会方式)が66%と好成績。CAR-T療法に付き物のサイトカイン放出症候群はG1/2のみでG3/4はゼロ、神経学的有害事象はG3はゼロ、G4が一例あった。

21年中に適応拡大申請する予定。Kymriahは既に欧米で一部の濾胞性リンパ腫の三次治療薬として承認されているので、二次治療や、もし症例数が十分なら、濾胞性リンパ腫全般もカバーできるかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース



Santhera、新規ステロイドの筋ジストロフィー試験が成功
(2021年6月1日発表)

スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)と米国のReveraGen BioPharmaは、vamoroloneのP2bVISION-DMD試験がポジティブな結果になったと発表した。4歳から6歳の歩行可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者121人を偽薬、2mg/kg/日、6mg/kg/日、prednisone 0.75mg/kg/日に無作為化割付して、24週後の運動機能を比較したもの。

主評価項目は6mg群の横臥位からの起立時間で、偽薬比p=0.002となった。6mg群はベースラインの6.0秒から4.6秒に改善したが、偽薬群は5.4秒から5.5秒とほぼ横ばいだった。シーケンシャルに行われた副次的評価項目の解析は、同じ評価項目の2mg群と偽薬群の比較はp=0.02、6分歩行テストは6mg群対偽薬群はp=0.003、2mg群対偽薬群はp=0.009、10メートル走行歩行時間はは6mg群対偽薬群はp=0.002だった。

6mg群とprednisoneの群では有意な差はなかった。但し、発育速度はp=0.02でDMDの一般的な治療薬と比べて悪影響が小さかった。

vamoroloneはSantheraがReveraGenからライセンスした解離性ステロイド。通常のステロイドよりメタボリックな作用が小さいとされる。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


アゾール系抗真菌薬を承認申請
(2021年6月1日発表)

米国ノースカロライナ州の新興薬品会社、Mycovia Pharmaceuticalsは、VT-1161(oteseconazole)を難治外陰膣カンジダ症治療薬としてFDAに承認申請した。アゾール系の経口抗真菌薬で、CYP51選択性が高い。第3相は三本成功した。欧州などはハンガリーのGedeon Richterが、中国はJiangsu Hengrui Medicine(江蘇恒瑞医薬)が、開発商業化権を保有。

Mycoviaの旧社名はViamet Pharmaceuticals。18年にNovaQuest Capital Managementに買収され、社名一新となった。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)


【承認】


新作用機序の抗カンジダ薬が承認
(2021年6月2日発表)

米国ニュージャージー州の新興製薬会社、Scynexis(Nasdaq:SCYX)は、Brexafemme(ibrexafungerp)が外陰膣カンジダ治療薬としてFDAに承認されたと発表した。グルカゴン合成酵素阻害剤で殺菌作用を持つ。この疾患で新クラスが承認されるのは20年ぶり以上とのことだ。

経口剤で、第1日に150mg錠を2錠ずつ、12時間おいて二回、服用する。臨床試験では完全反応率(Test-of-cure基準)が一本は50%(偽薬群は28%)、もう一本では63%(同44%)だった。CYP3A強度阻害剤併用時は用量を半減する。有害事象は下痢や腹痛、悪心嘔吐、めまいなど。妊婦は禁忌で、治療開始前に妊娠検査し、投与完了の4日後まで必要なら避妊する。

販売受託組織であるAmplity Healthとともに21年下期にロンチする計画。

リンク: 同社のプレスリリース



Alkermes、オランザピン配合剤が承認
(2021年6月1日発表)

ダブリン籍の新薬開発会社、Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、LybalviがFDAに承認されたと発表した。標準的な非定型向精神薬の一つであるolanzapineと新開発のミュー・オピオイド受容体拮抗剤、samidorphanの合剤で、統合失調症や双極障害I型の急性期治療や維持療法に用いる。

前者の体重増加作用を後者で抑制する狙いで、臨床試験では6ヶ月の治療後の体重増加が4.2%とolanzapine群の6.6%を有意に下回った。

リンク: 同社のプレスリリース




今週は以上です。