2023年6月24日

第1108回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ACIP、委員はRSVワクチンを強力勧奨せず 
  • 第二のチクングニア熱ワクチンが第3相で良績 
  • キイトルーダ、胃癌術前術後療法試験の結果は今一つ 
  • NASH用薬は承認されず 
  • 硝子体網膜リンパ腫用MTXも承認されず 
  • F2Gの抗真菌薬も承認されず 
  • EU、アッヴィの片頭痛用薬などに肯定的意見 
  • 第二の円形脱毛症用JAK阻害剤が承認 
  • DMD遺伝子療法が加速承認 
  • ヴィフガートの皮下注用新製剤が承認 
  • コルヒチンが冠動脈疾患に承認 
  • ファイザーのPARP阻害剤が前立腺癌に適応拡大


【今週の話題】


ACIP、委員はRSVワクチンを強力勧奨せず
(2023年6月21日回刺し)

CDC(米国疾病予防管理センター)はACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、5月に承認されたGSKとファイザーのRSVワクチンを接種勧奨する当否について意見を聞いた。FDAに承認された適応は60歳以上だが、報道やホームページにアップされたプレゼン・スライドによると、CDCは65歳以上だけに勧奨を想定していて、委員は、医師と相談した上で希望する場合という条件を付けた上で、60~64歳に関しては13人が接種勧奨に賛成、一人は棄権、65歳以上は賛成9人、反対5人と票が分かれた。60歳以上の全員に勧奨と予想していたので大変意外だ。60~64歳より65歳以上のほうが後ろ向きな委員が多かった理由は分からない。夫々の症例数やワクチン効率を見る限りでは大きな差があるようには思えない。

本人が希望すれば、という手順前後のような前提を付けた理由の一つは、他のワクチンと同時接種する時の免疫原性や安全性に関するエビデンスが少ないことのようだ。RSVもインフルエンザも冬に多いので今秋はCOVID-19ワクチンと合わせて同時期に(高齢者や医療従事者の手間を考えれば同日に)三本打つことになるが、臨床試験の裏付けがあるのはCOVID-19ワクチンとインフルエンザ・ワクチン、あるいはRSVワクチンとインフルエンザ・ワクチンの二本同時接種だけだ。GSKのArexvy(一価ワクチン、アジュバント配合)を4価インフルエンザ・ワクチンと同時接種した試験では2人(0.5%)がADEM(急性播種性脳脊髄炎)を発症し一人は死亡したことも、発生率が低いとはいえ、影を落としたかもしれない。

尚、ACIPの勧奨は委員の賛否で決まるわけではなく、COVID-19ワクチンの追加接種に関する勧奨のように、CDCが対象範囲や文言を変更して最終決定することも歴史上2回あった。決定版がMorbidity and Mortality Weekly Reportに掲載されるまで何とも言えない。

さて、今回、RSVワクチンの二年目の効果に関するデータが明らかになった。GSKのArexvyは一回筋注でワクチン効率(RSVによる下部気道感染症のリスク削減率)が82%だったが、翌年は77%に低下した。二年目にもう一回接種する効果も検討したが、結果は大差なかった。ファイザーのAbrysvo(二価ワクチン、アジュバントなし)も一年目の66%が二年目(北半球だけのデータ)は49%に低下した。尚、両社の試験は下部気道感染症の定義が異なるため、数値の厳密な比較はできない。

ワクチンの臨床試験で散見されるギラン・バレー症候群は、Arexvyでは第3相再接種試験で一人(日本の78歳の被験者)、Abrysvoでは二人(一人は日本の66歳でミラー フィッシャー症候群の可能性もある)、報告された。人口全体の発症率より高いため、両社が市販後監視する。分母となるべき投与実績はどちらも1万人以上だが、日本の施設における投与実績も気になるところだ(一般に、日本の臨床試験参加施設は有害事象の捕捉率が高いと言われているので、発生率が高いからと言って日本人はリスクが高いとは必ずしも言えないが)。

米国の高齢者医療制度や民間保険会社(及び日本の60歳以上の人たち)にとって重要な価格は、決定はしていないものの、両社とも200~300ドル程度を想定している模様。4価インフルエンザ・ワクチンだけなら100ドル程度だが三本打つと4~5倍に膨らむことになる。

【新薬開発】


第二のチクングニア熱ワクチンが第3相で良績
(2023年6月20日発表)

デンマークのワクチン・メーカー、Bavarian Nordic(OMX:BAVA)は、CHIKV VLP(別称PXVX0317)の第3相高齢者抗原性試験が目的達成したと発表した。幅広い年齢層を対象とするもう一本は第3四半期に結果が判明する見込みで、順調ならその後に承認申請に向かうだろう。

ネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカが媒介するチクングニア・ウイルス感染症の予防用VLP(ウイルス様粒子)ワクチンで、Alhydrogel名のアルミ・アジュバントを添加して免疫原性を高めている。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)からEmergent BioSolutions(NYSE:EBS)がライセンスし第3相まで進めたが、今年3月、事業領域の見直しに伴いBavarian社に他の一部製品・開発品とともに譲渡した。

第3相は65歳以上の413人に一回筋注し、3週後の中和抗体陽転率を調べたところ、87%が当局と相談して決定した閾値をクリアした。第15日時点でも82%と良好だった。もう一本は12~64歳の3000人超を組入れて、三種類のロットの免疫原性を偽薬と比較している。

良く分からないのは効果の持続性。18~45歳を組入れた第2相では、4週置いて二回接種したコフォートの一つで第18ヶ月にブースター接種を施行したところ、中和抗体価が大きく上昇した。欧米に住んでいる人なら流行地域に旅行する時だけ接種すればよいが、流行地域に住んでいる人は1~2年に一回接種しなければならないかもしれない。ルーチンに接種すべきワクチンがどんどん増えていく。

チクングニア熱ワクチンはフランスのワクチン・メーカー、Valneva(Euronext Paris:VLA)が弱毒化生ワクチンVLA1553を昨年米国で承認申請、8月末までに審査結果が出る見込み。こちらの陽転率は98.9%と高いが、ベースが同じで比較できるものなのか明らかではない。

リンク: Bavarian社のプレスリリース


キイトルーダ、胃癌術前術後療法試験の結果は今一つ
(2023年6月20日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-585試験の中間解析結果をアップデートした。局所進行性で切除可能な胃・胃食道接合部腺腫の1007人を組入れて、切除術の前後に実施する化学療法にKeytrudaを追加する便益を検討したところ、共同主評価項目のうちpCR(病理学的完全反応率)は目的達成したが、肝心のEFS(無イベント生存率)は事前に設定された成功認定基準をクリアできなかった。このため、副次的評価項目である全生存期間の正式な解析は見送られたとのこと。

抗PD-1/L1抗体は数多くの適応を持つが、苦手もある。胃癌試験の首尾は白黒混じっており、先週も、Keytrudaはher2陽性進行胃・胃食道接合部腺腫の一次治療化学療法併用試験でPD-L1陽性サブグループにしか効果が見られず、加速承認の適応縮小申請する考えであることが発表された。

今回も失望的といえば失望的だが、主評価項目の一つの、しかも中間解析に割り当てられるアルファは決して大きくないだろうから、点推定値とp値の水準次第では、おまけする余地があるかもしれない。先行解析がフェールしたらそれ以降の解析は意味を持たないが、それでも、全生存期間の点推定値や名目p値を見てみたいものだ。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認申請】


モデルナ、XBB.1.5抗原配合COVID-19ワクチンを承認申請
(2023年6月22日発表)

Moderna(Nasdaq:MRNA)はmRNA-1273.815をFDAに承認申請した。同社のSpikevaxは、起源株の一価ワクチンと起源株/BA.1及び起源株/BA.4-5の二価ワクチンが承認/EUAされているが、今回は世界的に主流となったオミクロンXBB.1.5の融合前スパイク蛋白を抗原とするmRNAワクチン。同様に流行している、同様なスパイク蛋白を保有するXBB.1.16株やXBB.2.3.2株にも有効。

現在用いられているワクチンはXBB.1.5系統に対する中和抗体価がBA.5などと比べて大きく落ちることが報告されている。感染状況の疫学研究では効果が著しく落ちた様子はないので細胞性免疫が有効なのかもしれないが、状況が変わるかもしれないので、早期の実用化が望まれる。米国の感染者におけるXBB.1.5株の構成比は直近のCDC推定では27%と8割強だった3ヶ月前と様変わりしており、依然としてXBB.1系が圧倒的ではあるものの、入れ替わりの速さには驚かされる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


NASH用薬は承認されず
(2023年6月22日発表)

Intercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)は原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocaliva(obeticholic acid)の高量版をNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。5月の諮問委員会では代理マーカーに基づく加速承認に後ろ向きな意見が多かったため、意外感はない。同社はこの疾病に関する開発を中止するとともにリストラに着手する考え。NASHにおける次の期待はMadrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)が承認申請を予定する甲状腺ホルモン受容体β作動剤、MGL-3196(resmetirom)。

FDAはNASHにおける代理マーカーとして、肝線維症が改善しNASHが悪化しない、または、NASHが解消し肝線維症が悪化しない患者の比率が偽薬を有意に上回ることを上げている。第3相REGENERATE試験の中間病理学的解析で前者が23%対12%、p=0.0002と目的達成したが、FDAは長期追跡により肝臓アウトカム(肝不全や肝硬変、死亡などの複合評価項目)の改善を確認するよう求めた。ガイドラインと食い違うが、Ocalivaより多い25mgを投与するせいか薬物誘導性肝障害のリスクが見られるため、『臨床的な便益が合理的に期待できる』だけでは足りないと考えたのだろう。

OcalivaはEUでも承認されているが、NASHは効果の小ささや副作用を指摘され、適応拡大申請撤回を余儀なくされた。

オベチコール酸は胆汁酸誘導物で、FXR(ファルネソイドX受容体)アゴニスト。日本は大日本住友製薬(当時)がライセンスしたが、第2相NASH試験のフェールなどを経て返還した。

リンク: Intercept社のプレスリリース


硝子体網膜リンパ腫用MTXも承認されず
(2023年6月21日発表)

米国マサチューセッツ州の新興製薬会社、Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は、ADX-2191(methotrexate)を原発性硝子体網膜リンパ腫(PVRL)用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。過去の論文刊行された臨床試験と、増殖性硝子体網膜症(PVR)患者68人の安全性確認試験のデータに基づき申請したが、FDAは前者が適切な対照試験ではないことなどから薬効が確立したとは言えないと判定した。

MTXはリウマチ性関節案やある種の癌に加えてPVRLやPVR向けに調剤薬局製硝子体注射用製剤がオフレーベルで使用されている模様。放置すると死亡する可能性もあるため、同社は偽薬対照試験の実施は困難として、FDAと相談した上で、申請に踏み切った。それだけに、意外感がある。

MTXは需給がひっ迫していることや、PVR安全性試験で網膜剥離の副作用発生率が調剤薬局製品の文献データより低かったことなどから、希望する医師に未承認薬の使用を認めるExpanded Accessプログラムの認可を求める考え。

リンク: 同社のプレスリリース


F2Gの抗真菌薬も承認されず
(2023年6月19日発表)

英国の未上場新薬開発企業であるF2G Ltd.はF901318(olorofim)を侵襲性真菌感染症のサルベージ・セラピーとしてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加的なデータや解析を求められた由。後期第2相単群試験の当初100人のデータに基づき申請したが、全203人の組入れ完了済みなので、追加提出する考え。第3相実薬対照試験も進行中で24年後半に結果が判明する見込み。

orotomidesという新クラスの抗真菌薬で、ピリミジン合成経路を阻害し殺菌作用を発揮する。上記試験では第42日応答率が44%だった。但し、8%の患者で薬物誘導性肝障害が発生した。

十分な治療手段が乏しい感染症に使う薬の承認のハードルを引き下げる、Limited Population Pathway for Antibacterial and Antifungal Drugsという制度に基づく申請なので、FDAは不十分なエビデンスを学会や論文でも公表されないような細部まで検討した上で可否を決することになる。勿論、常にそうなのだが、当局の裁量の幅が大きければ大きいほど水面下のデータの重要性が増すので、当方のような第3者には予想もつかない結果になりがちだ。

リンク: 同社のプレスリリース(GLOBE NEWSWIRE)


EU、アッヴィの片頭痛用薬などに肯定的意見
(2023年6月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アッヴィのQulipta(atogepant monohydrate)は経口CGRP(calcitonin-gene-related peptide)受容体拮抗剤。月4日以上片頭痛を経験する患者の再発予防薬で、反復性片頭痛患者を組入れた臨床試験では60%前後の患者が再発頻度半減に成功した(偽薬群は29%)。発生頻度が高い慢性片頭痛試験では半減奏効率が41%だった(同26%)。米国では既に承認済み。

GSKのJesduvroq(daprodustat)はHIF-PH(hypoxia-inducible factor prolyl hydroxylase)阻害剤。透析依存慢性腎疾患の成人の症候性貧血を治療する。20年に日本で、今年2月には米国でも、承認された。

一方、Amylyx(Nasdaq:AMLX)のAlbrioza(sodium phenylbutyrate、taurursodiol)は否定的意見となった。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬として欧米で承認申請され、米国では昨年9月に承認されたが、CHMPは、臨床試験において進行抑制効果が十分に示されなかったことや、データの収集や解析方法が万全でないため延命効果が確立したとは言えないことなどを指摘した。

適応拡大では、まず、ベーリンガー・インゲルハイムのSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)。二型糖尿病の有無を問わず、慢性腎疾患に用いることが支持された。EMPA-KIDNEY試験で腎臓病の進行などのリスクを28%抑制した。日米でも承認審査中。

大鵬薬品が創製し欧州ではセルビエが開発販売しているLonsurf(trifluridine、tipiracil)は、成人の転移結腸直腸癌で主力3剤及びVEGF阻害剤歴を持つ患者にbevacizumabと併用することが支持された。SUNLIGHT試験でメジアン生存期間が10.8ヶ月と、Lonsurfだけを投与した群の7.5ヶ月を上回った。米国でも適応拡大申請中。

ギリアド・サイエンシズの抗TROP-2抗体薬物複合体、Trodelvy(sacituzumab govitecan)は切除不能/転移ホルモン受容体陽性her2陰性乳癌で内分泌療法と進行後に二種類以上の全身的療法歴を持つ成人に用いることが支持された。TROPiCS-02試験でメジアン生存期間が14.4ヶ月と、医師が選んだ薬を投与した群の11.2ヶ月を上回った。

アストラゼネカはImjudo(tremelimumab)とImfinzi(durvalumab)を化学療法と併用で転移非小細胞性肺癌の一次治療に用いることが支持された。実質的には昨年12月に肯定的意見、今年2月に承認されているが、当時はImjudoではなくTremelimumabというGE薬のような製品名だった。

【承認】


第二の円形脱毛症用JAK阻害剤が承認
(2023年6月23日発表)

ファイザーは、FDAがLitfulo(ritlecitinib)を12歳以上の重度円形脱毛症の治療薬として承認したと発表した。日欧でも承認審査中。

JAK3やTEC(肝細胞腫発現チロシン・キナーゼ)ファミリーの酵素を阻害する経口剤。病歴6ヶ月以上10年以内で、SALT(頭皮脱毛率)が88~93の患者を組入れた試験で、SALTが20以下に低下した患者の比率が23%と偽薬群の1.6%を上回った。JAK阻害剤ではイーライリリーのOlumiant(baricitinib)が昨年6月に承認されているが、未成年者に承認されたのはLitfuloが初めて。

JAK阻害剤のクラス枠付き警告が付されている(入院や死につながるかもしれない深刻感染症、類薬の関節リウマチ試験で死亡者が増加、悪性腫瘍の増加、類薬の関節リウマチ試験で主要有害心血管イベントがTNF阻害剤より増加、血栓症)。CYP3A4などを阻害するため併用注意。

リンク: 同社のプレスリリース


DMD遺伝子療法が加速承認
(2023年6月22日発表)

FDAはSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬として加速承認した。4~5歳の、DMD遺伝子に変異が確認されている、歩行可能な患者が適応になる。DMDの遺伝子療法や遺伝子療法の加速承認は初。価格は320万ドルと、UniQure社のB型血友病遺伝子療法の350万ドルに次ぐ第2の高嶺の花となるようだ。

DMDの多くはジストロフィンの遺伝子の機能低下・喪失変異を持ち、進行性の運動障害や、致死的な呼吸/心臓疾患を合併する。類似した疾患であるベッカー型筋ジストロフィー患者のジストロフィンは万全ではないがある程度機能することに着目してNationwide Children's Hospitalが開発したのが今回承認されたrAAVrh74.MHCK7.マイクロジストロフィンで、分子量を138kDaとジストロフィンの1/3まで小さくしてアデノ随伴ウイルス74型に組込むことを可能にし、筋細胞選択的に発現させるもの。

第3相試験では症状スコアが偽薬比有意に改善しなかった。4~5歳のサブグループ分析は有意だったが、6~7歳の数値が偽薬群より悪かったことが響いた。このため、マイクロジストロフィン発現という代理マーカーに基づき4~5歳限定で加速承認された。もう一本の第3相症状改善試験が年内に開票見込みで、この試験や別の試験のデータ次第で本承認切替や年齢制限解除、歩行不能患者追加、裏目に出たら加速承認返上を、申請することになるだろう。

尚、ジストロフィンの変異箇所がエクソン8や9である患者は臨床試験で免疫反応のリスクが見られたため禁忌。事前検査で抗rAAVrh74抗体高力価だった患者は薬効が低下する可能性があるため投与は推奨されない。重要な有害事象は急性深刻肝障害や免疫調停性筋肉炎、心筋炎など。

米国外の権利はロシュが取得、日本は子会社の中外製薬がサブライセンスした。

SareptaのDMD治療薬といえば16年に米国で加速承認されたExondys 51(eteplirsen)の承認経緯が広く知られている。CDER(小分子薬などを担当)のヘッドであったJanet Woodcockが審査担当部署の意見を退け、当時も委員長だった尊敬すべき心臓学者、Robert Callifの支持を得て加速承認させた。今回も、担当部署は後ろ向きだったがCBER(生物学的製剤などを担当)のヘッドであるPeter Marksが諮問委員会を招集するよう推奨、票決は賛成8人反対6人と分かれたが、加速承認させた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース


ヴィフガートの皮下注用新製剤が承認
(2023年6月20日発表)

オランダのargenx SE(Eironext/Nasdaq:ARGX)はFDAがVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc)を抗アセチルコリン受容体抗体を持つ全身性重症筋無力症用薬として承認したと発表した。21~22年に米日欧で承認された点滴静注用薬の皮下注用製剤で、抗FcRn抗体efgartigimod alfaを1008mg、ヒアルロン酸を分解して薬剤の吸収を高めるHalozymeのrHuPH20を11200単位の混合液を30~90秒かけて皮下注する(自己注は認められていない)。静注用と同様に、週一回、4回投与する。必要に応じて繰り返すことができる。価格は同程度に設定される模様。

欧州や日本でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


コルヒチンが冠動脈疾患に承認
(2023年6月20日発表)

スロバキアの製薬会社であるAgepha Pharmaの米国子会社は、FDAがLodoco(colchicine)をアテローム硬化性疾患や心血管疾患高リスク患者に用いることを承認したと発表した。オーストラリアやオランダなどの施設で安定性冠動脈疾患の患者5522人を組入れた第3相研究者主導試験、LoDoCo2で、心血管疾患死/心筋梗塞/虚血性卒中/虚血による冠動脈血行再建術の複合評価項目の発生率が6.8%と偽薬群の9.6%を下回り、ハザードレシオ0.69(95%信頼区間0.57-0.83)だった。各項目とも偽薬群を下回った。

0.5mg錠を一日一回経口投与する。スタチンなどと併用可。但し、CYP3A4やP-gpを阻害する薬は併用禁忌なので、一部のスタチンやARBはオフリミット。また、特に筋毒性を持つ薬と同時使用した時に筋毒性が見られるため、一部のスタチンやフィブレートは×。また、血球・血小板減少リスクがあるためこれらの病気を持つ人は禁忌。重度腎/肝障害も禁忌。

活性成分は元々はイヌサフランから抽出されたもので薬物としての使用歴は1000年を超えるらしい。米国で承認されたのは1961年で、痛風発作の治療に1.8mg/日、家族性地中海熱には1.2-2.4mg/日を投与する。冠動脈疾患における作用機序は明らかではないが、βチューブリンの重合を阻害し好中球などの活性化や移行を妨げる抗炎症作用が寄与と考えられている。

価格設定が難しそうだ。MTXの既存製品は既にGE化しており0.6mg含有品もあるので、オフレーベル使用される可能性があるからだ。大金を投じて薬効や安全性を確認した企業に報いるべきと言いたいところだが、Agepha Pharmaは上記試験の資金や薬剤を提供した訳ではなさそうなので、肩を持ち難い。

リンク: Agepha社のプレスリリース


ファイザーのPARP阻害剤が前立腺癌に適応拡大
(2023年6月20日発表)

FDAはファイザーのTalzenna(talazoparib)の適応拡大を承認した。18年にBRCA有害変異を持つher2陰性の局所進行性/転移性乳癌用薬として承認したが、今回は一転して、HRR(相同組換修復)遺伝子変異のある転移去勢抵抗性前立腺癌に用いることを認めた。Xtandi(enzalutamide)、そして両側精巣摘出を受けていない患者はGnRH作用剤と、併用する。

PARP阻害剤は遺伝子の複製ミスを修復する上で必要な酵素を妨げ、活発に増殖するが故に複製ミスも起きやすい癌の拡大を抑制する。主なターゲットはBRCA変異のある癌だが、他の変異も含むHRR不全全体に対する効能を検討した様々試験が実施され、区々な結果になっている。そのため、FDAはPARP阻害剤の適応範囲を無暗に広げないよう腐心しているように感じられる。

今回の適応のエビデンスとなる第3相TALAPRO-2試験はHRR不全ではない患者も組み入れてXtandi・偽薬併用群とPFS(放射線学的無進行生存期間)を比較した。ハザードレシオは0.63で、HRR不全サブグループ分析では0.46、それ以外では0.70だった。HRR不問で良さそうに見えたが、承認されたのはHRR不全だけだった。今回初めて知ったが、BRCA変異型155人の探索的解析ではハザードレシオ0.20、それ以外のHRR不全では0.72だった。これを見ると、HRR不全ではなくBRCA変異に限定したほうが良いようにも感じられる。

Talzennaは16年に140億ドル(エクイティ・バリュー・ベース)で買収したMedivationがそれ以前にBioMarinから資産取得したもの。欧州では19年に承認、日本では今年2月に両適応症で承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース



【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年6~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23/6/23  Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
  • 23/6/27  Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
  • 23/6/30  Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)
  • 23年7月推 アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab、0歳児等のRSV下部気道感染症予防)
  • 23/7/6  エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb、本承認切替)
  • 23/7/23  Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
  • 23/7/24  第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固め)
  • 23/7/28 Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)


諮問委員会:
  • 23/6/28 EDAC:イプセンのpalovarotene(進行性骨化性線維異形成症)



今週は以上です。

2023年6月17日

第1107回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダ、her2陽性胃GEJ腺腫の適応範囲を制限へ 
  • 金製剤の第2相ALS試験でNfL抑制作用を発見 
  • スキリージの潰瘍性大腸炎維持療法試験が成功 
  • 反応性アルデヒド種調節剤のアレルギー性結膜炎試験が成功 
  • アストラゼネカ、AKT阻害剤を乳癌に承認申請 
  • 米国版タケキャブを再承認申請 
  • ロシュ、優しいCD20xCD3抗体が承認 
  • 心ミオシン・インヒビターが効能追加 
  • アラジール症候群に適応拡大 


【新薬開発】


キイトルーダ、her2陽性胃GEJ腺腫の適応範囲を縮小へ
(2023年6月16日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相KeyNote-811試験の共同主評価項目のうちPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を中間解析で達成したと発表した。既に加速承認されている適応・用法だが、効果が見られたのは専らPD-L1陽性(CPS≧1)だけだったため、適応範囲を限定する方向で承認審査機関と相談する考え。

この試験はher2陽性の進行胃・胃食道接合部腺腫の一次治療を受ける患者を対象に、化学療法とtrastuzumabのレジメンにKeytrudaを追加する便益を偽薬追加群と比較した。もう一つの主評価項目である全生存期間は中間解析の閾値に到達していない模様で、引き続き追跡する。

Keytrudaはこの試験の副次的評価項目の一つであるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)の中間解析が74%と偽薬追加群の52%を有意に上回り、メジアン反応持続期間も10.6ヶ月対9.5ヶ月で上回ったため、主評価項目の開票を待たずに21年に米国で加速承認された。やはり、ORRは当てにならず奏効率などと患者をミスリードする呼び方をすべきではないのだろう。

Opdivoの米国における同様な承認も加速承認で、他の試験で延命またはそれに準じる効果を挙証する必要がある。加速承認のエビデンスとなるデータもPD-1低発現サブグループの数値は今一つだったので、おそらく、クラスイフェクトなのだろう。

リンク: MSDのプレスリリース


金製剤の第2相ALS試験でNfL抑制作用を発見
(2023年6月15日発表)

米国ユタ州のClene(Nasdaq:CLNN)は、第2相HEALEY ALS試験で、CNM-Au8を投与した群の血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)水準が偽薬比有意に低下したことを明らかにした。主評価項目のALSFRS-Rスコアは22年にフェールしたが、同様な規模の試験で同様にALSFRS-RがフェールしたバイオジェンのQalsody(tofersen)がNfL抑制作用に基づいて4月に米国で加速承認された前例に倣って、当局と相談する考え。

CNM-Au8は金のナノクリスタル経口懸濁液。触媒活性を持ち、細胞のエネルギー生成を駆動して神経細胞やグリア細胞が病気のストレッサーから回復するのを助けることにより、神経保護や再ミエリン化を齎すとのこと。ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病、多発硬化症の第2相試験が実施された。

ALSは早期患者45人を組入れて30mg/日を投与したRESCUE-ALS試験が21年にフェールしたが、主評価項目はこの病気の試験ではあまり一般的ではなく、ALSFRS-Rなどの探索的解析はp値が0.01~0.04だった。ALSFRS-R応答率は偽薬群の倍以上高く、オープンレーベル試験で試験薬にスイッチした元偽薬群の患者の全生存期間は最初から試験薬群に割り付けられた患者の半分以下だった。いずれも頑強なエビデンスとは程遠いが、神経学領域の新薬開発には紆余曲折が付き物であり、悲観せずに諦めるにはまだ早いと自らを奮い立たせなかったら、永遠にゴールにたどり着けない。

HEALEY ALSはマサチューセッツ総合病院が主導して米国の68施設が参加しているプラットフォーム試験で、標準療法に追加する便益を様々な薬を使って検討している。CNM-Au8は30mgと60mgに60人ずつ割付けて偽薬群40人のデータと比較した。これも主評価項目はフェールしたが死亡リスクや症状評価の解析は望ましい方向を向いていた。今回発表されたNfLは、自然対数変換値がベースライン比0.024低下、偽薬群は0.076上昇で、差は-0.1000、p=0.040というもの。進行リスクが高いサブグループではもう少し大きな効果が見られた。

p値は胸を張れるほどではなく、データ収集や解析の質も明らかではない。Qalsodyのデータは変化率(半減)なので見比べることはできない。FDAがどう評価するか、相談結果が出るのを待つしかないだろう。

リンク: Cleneのプレスリリース


スキリージの潰瘍性大腸炎維持療法試験が成功
(2023年6月15日発表)

アッヴィは抗IL-23p19サブユニット抗体Skyrizi(risankizumab-rzaa)の第3相COMMAND試験が主評価項目と副次的評価項目を達成したと発表した。バイオ薬/JAK阻害剤/S1PR調節剤のうち一つ以上を含む既存治療に十分応答しない中重度活性期潰瘍性大腸炎の患者を組入れたINSPIREインダクション試験で応答した患者を再無作為化割付けして、静注ではなく皮下注射で180mgまたは360mgを52週間に亘り投与する効果を偽薬と比較したところ、主評価項目の臨床的寛解(Adapted Mayo Score基準)が各群40%、38%、25%となり、有意な差があった。用量間の差は副次的評価項目でも見られないので、180mgで足りそうだ。深刻有害事象発生率は各群5%、5%、8%で大差なし。主要有害心血管イベントやアナフィラキシー反応は見られなかった。

Slyriziは欧米でプラク乾癬や乾癬性関節炎、クローン病の治療に承認されている。潰瘍性大腸炎でも適応拡大申請されるのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース


反応性アルデヒド種調節剤のアレルギー性結膜炎試験が成功
(2023年6月15日発表)

Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(rreproxalap点眼液)をドライアイ治療薬としてFDAに承認申請中だが、アレルギー性結膜炎も三本目の第3相が成功した。既存薬と比べた競争力に自信があれば承認申請に向かうのではないか。

免疫源の一つである有機アルデヒド遊離体に結合して炎症を抑制する画期的新薬。今回のINVIGORATE-2試験は、アレルギー性結膜炎患者131人の双方向クロスオーバー試験で、アレルゲン・チャンバーに約210分間入室させて目のかゆみ(0~4の尺度)を第110~210分の間に11回報告させた。主評価項目も、副次的評価項目の目の充血スコアも、有意に改善した。数値は未公表。

同様なデザインのINVIGORATE試験が21年に、評価項目が異なる第3相も19年に成功しているが、同社は、おそらく競争条件を踏まえて、ドライアイ用途を優先させている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


アストラゼネカ、AKT阻害剤を乳癌に承認申請
(2023年6月12日発表)

アストラゼネカは米国でAZD5363(capivasertib)を局所進行性/転移性乳癌に承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は今年第4四半期とだけ開示している。ホルモン受容体陽性でher2受容体は陰性/境界域(IHC法で-、1+、または2+だがIn situハイブリダイゼーション法では陰性)、そして内分泌療法歴を持つ患者に、Faslodex(fulvestrant)と併用で、400mgを一日二回、4日オン、3日オフのスケジュールで経口投与する。

第3相CAPItello-291試験ではPFS(無進行生存期間、治験医評価)がメジアン7.2ヶ月とFaslodex・偽薬併用群の3.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.60だった。AKT阻害剤なのでPI3KCA/AKT1/PTEN経路に悪性変異を持つサブグループの解析も行われたが、各7.3ヶ月、3.1ヶ月、0.5となっており、持つ者でも持たざる者でも効果は大差なさそうだ。

Astex(13年に大塚製薬が買収)が英国の癌研究機関との共同研究を通じて発見、05年にアストラゼネカがライセンスしたもの。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


米国版タケキャブを再承認申請
(2023年6月12日発表)

Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)はvonoprazanをびらん性胃食道逆流症用薬として再承認申請し受理された。6ヶ月審査で期限は11月17日。

武田薬品のカリウムイオン競合型アシッドブロッカー、タケキャブの北米欧州における開発販売権をライセンスしたもので、抗生剤を同梱したピロリ菌除菌療法用薬Voqueznaトリプル/デュアル・パックとして昨年5月に承認された。ところが、癌原性が疑われるNVP(N-nitroso-vonoprazan)が微量検出されたことから、安定性試験を行って含有量が大きく増えないことを確認するまで販売を見送ることになった(FDAのオレンジ・ブックではdiscontinuedと記されている)。NDMA(N-nitrosodimethylamine)は薬品保管中に量が増える厄介な特性を持っているが、NVPも可能性があるのだろう。

このため、昨年3月にびらん性胃食道逆流症用薬として申請したvonoprazanだけの製品も審査完了通知を受領した。同社は3ヶ月間の安定性試験を実施、5月にトリプル/デュアル・パックの、今回は単剤製品の、再承認申請を行った。6ヶ月間の安定性データも追加提出する予定。有効期間は2年(日本は3年)なので3ヶ月で足りるのか良くわからない。

リンク: Phathom社のプレスリリース

【承認】


ロシュ、優しいCD20xCD3抗体が承認
(2023年6月16日発表)

ロシュはFDAがColumvi(glofitamab-gxbm)をリンパ腫の三次治療薬として加速承認したと発表した。難治再発のDLBCL NOS(別途分類されていないびまん性巨細胞型B細胞リンパ腫)や濾胞性リンパ腫から進展した巨細胞型B細胞リンパ腫が適応になる。臨床試験でORR(客観的反応率)が56%、完全反応率は43%だった。メジアン反応持続期間は18.4ヶ月。G3/4サイトカイン放出症候群の発生率は4%と低かったが命に係わる副作用であるため枠付き警告された。

CD20とCD3を架橋する二重特異性抗体で、近年の抗癌剤には珍しく、投与回数が12回までと固定されており、治療が順調に進んだら休薬が可能。同社のもう一つの抗CD20xCD3抗体、Lunsumio(mosunetuzumab-axgb)も同じだが、Columviは忍容性が比較的よいことに着目、リンパ腫でも悪性度が比較的穏やかな癌を適応としており、二つの意味で優しい製品といえるだろう。

類薬はジェンマブがアッヴィと共同開発したEpkinly(epcoritamab-bysp)が一足先に米国で先月、加速承認され、日欧でも承認申請中。適応範囲が少し異なるためデータを比較するのは難しい。ロシュの二剤は点滴静注用だがEpkinlyは皮下注用。

リンク: ロシュのプレスリリース


心ミオシン・インヒビターが効能追加
(2023年6月15日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、症候性閉塞性肥大性心筋症用薬Camzyos(mavacamten)のレーベル一部変更がFDAに承認されたと発表した。中隔縮小治療(SRT)が適応になる患者の代替的治療とするもので、第3相VALOR-HCM試験では、16週間の治療で82%の患者が適応ではなくなった(偽薬群は23%)。

心臓選択的にミオシンをアロステリックに阻害する経口剤。22年の初承認のエビデンスとなったEXPLORER-HCM試験はpLVOT(ピーク左心室流路)勾配が50mmHg以上の患者だけを組入れており、中隔縮小術が適応になるのは多くの場合50mmHg未満なので、今回の承認は実質的に適応拡大である(承認はpLVOT維持患者だけではなかったので形式上は治験データが追加されただけだが)。EUでもCHMPが4月に両方の用途で肯定的意見をまとめている。

リンク: 同社のプレスリリース


アラジール症候群に適応拡大
(2023年6月13日発表)

FDAはイプセンのBylvay(odevixibat)の適応を追加、アラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒の治療に用いることを承認した。臨床試験では0~17才の52人を偽薬と2:1割付けして掻痒評価スコアの改善を確認したが、承認は12歳以上の患者に限定された。欧州でも適応拡大申請中で今月にもCHMPの意見がまとまる見込みのようだ。

ナトリウム胆汁酸共輸送体を阻害する局所作用性薬品で、21年に欧米で進行性家族性管内胆汁鬱滞症(PFIC)用薬として承認された。胆汁酸の血清濃度を大きく下げる作用を持つ。有害事象は下痢や腹痛など。

08年にアストラゼネカからスピンアウトされたAlbireo Pharmaを今年、買収して入手したもの。

リンク: イプセンのプレスリリース



【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年6月推 ファイザーのPF-06651600(ritlecitinib、12歳以上の円形脱毛症)
  • 23年6~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23/6/17  F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
  • 23/6/20  argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
  • 23/6/21  Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
  • 23/6/22  Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
  • 23/6/22  Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
  • 23/6/23  Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
  • 23/6/27  Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
  • 23/6/30  Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)
  • 23年7月推 アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab、0歳児等のRSV下部気道感染症予防)
  • 23/7/6  エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb、本承認切替)
  • 23/7/23  Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
  • 23/7/24  第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固め)
  • 23/7/28 Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)


諮問委員会:
  • 23/6/28 EDAC:イプセンのpalovarotene(進行性骨化性線維異形成症)



今週は以上です。

2023年6月10日

第1106回

【ニュース・ヘッドライン】

  • ジェコビデンのEUAを取消 
  • EHA:抗C5抗体不十分応答にD因子阻害剤を追加 
  • EHA:本家の抗C5リサイクリング抗体が先輩並みの効果 
  • 家ダニの減感作療法の小児試験が成功による 
  • ASCO:エンハーツが様々なher2陽性癌に良績 
  • オンデキサの市販後薬効確認試験が成功 
  • ASCO:IDH阻害剤はIDH変異型グレード2神経膠腫に有効 
  • ASCO:新患cHLの多剤併用療法にオプジーボ追加が有効 
  • ASCO:キイトルーダは二勝一敗 
  • ASCO:豪華な併用レジメンが卵巣がんの一次治療に有効 
  • 抗CTGF抗体のDMD試験がフェール 
  • 遺伝子編集薬が米国でも承認申請 
  • MSD、キイトルーダを胆道癌に承認申請 
  • GSK、抗PD-1抗体をdMMR/MSI-H内膜腫に承認申請 
  • ASCO:カービクティを二次治療に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、レカネマブの本承認にGo! 
  • FDA諮問委員会、新規RSV感染症予防薬の承認を支持 
  • Rubracaの適応拡大は承認されず 
  • プレバイマスが腎移植レシピエントに適応拡大 


【今週の話題】


ジェコビデンのEUAを取消
(2023年6月2日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen BiotechのCOVID-19ワクチンのEUA(非常時使用認可)を取消した。メーカー側が自発的返上を要請してきたため。このアデノウイルス26型をベクターとするワクチンは21年に米国でEUA、EUでも条件付き承認、22年には日本でも承認され、初回接種に一回筋注だけで効果があることが評価された一方で、予防効果はmRNAワクチンに見劣りし、極稀だが深刻な有害事象も見られたことから、需要が伸び悩んだ。米国政府が保有する在庫有効期限が失効し追加調達の計画もないこと、そして、JNJは現在の流行の中心であるXBB株に対応したワクチンを開発する意思がないことから、取消しに至った。

EUAは公衆衛生上の緊急事態宣言に対応するもので、宣言が終了した今日では、いつ取り消されても不思議はない。

リンク: FDAのプレスリリース

【新薬開発】


EHA:抗C5抗体不十分応答にD因子阻害剤を追加
(2023年6月9日発表)

アストラゼネカはEHA(欧州血液学会)でdanicopanの第3相ALPHA試験の成績を発表した。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は同社のSoliris(eculizumab)やUltomiris(ravulizumab)のような抗C5抗体が有効だが、1~2割の患者は血管内ではなく脾臓や肝臓など血管外で臨床的に重要な溶血が起き、貧血などの症状を発現する。このような患者に経口D因子阻害剤を追加投与する便益を検討したところ、中間解析で目的達成した。主評価項目の第12週ヘモグロビン値はベースライン値の7.7g/dLから2.94g/dL上昇、偽薬群の0.5g/dL上昇を有意に上回った。副次的評価項目の輸血回避奏効率(各群83%と38%)や疲労の臨床評価スコアも有意に改善した。有害事象は頭痛、悪心、関節痛、下痢など。

子会社のAlexionが20年にAchillion Pharmaceuticalsを買収して入手したパイプライン。承認申請する予定。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


EHA:本家の抗C5リサイクリング抗体が先輩並みの効果
(2023年6月9日発表)

ロシュはEHAでRG6107(SKY59、crovalimab)の第3相COMMODORE 2試験の結果を発表した。欧州、日本を含むアジア、そして中南米の施設で補体阻害剤歴を持たない発作性夜間ヘモグロビン尿症患者200人を組入れて、初回は静注、翌日以降は皮下注射で週一回投与を4回繰り返し、その後は倍量を4週毎に投与する用法で、25週間の輸血回避奏効率と第5-25週の溶血管理奏効率(LDH量で評価)をeculizumab(静注用)と比較したところ、前者は65.7%対68.1%、後者は79.3%対79.0%となり、非劣性認定された。深刻感染症の発生率は3%と7%、点滴関連反応の発生率は16%と13%だった(オープンレーベル試験なので試験薬の後者の数値は初回投与時のものだろう)。

中国ではCOMMODORE 3単群試験がすでに成功し、承認審査中。欧米日本では今回の試験と、補体阻害剤歴を持つ患者がスイッチする安全性を検討したCOMMODORE 1試験のデータで申請するものと推測される。米国の施設が参加したのはCOMMODORE 3だけのようであることが気になるところだ。

crovlimabは中外製薬のリサイクリング抗体技術を適用し抗原に繰り返し結合できるようにしたもの。アストラゼネカのUltomirisも似たような技術を用いている模様で、特許紛争を経て和解金を得ることに成功した。

リンク: ロシュのプレスリリース


家ダニ減感作療法の小児試験が成功による
(2023年6月8日発表)

デンマークのALK社は、第3相小児塵ダニ性アレルギー性鼻炎試験が成功したと発表した。欧米の5~11歳の患者1458人を組み入れて、欧州ではAcarizax、米国ではOdactra、日本ではライセンシーの鳥居薬品がミティキュア名で販売している減感作療法用舌下錠の効果を12ヶ月に亘り検討したところ、TCRS鼻炎尺度が偽薬比22%改善し、95%下限は12%となりFDAが示唆した閾値の10%を上回った。一部変更申請に向かうと推測される。日本では18年に12歳未満にも承認されたが、EUは18歳以上、米国は12歳以上に現在も限定されている。

リンク: 同社のプレスリリース


ASCO:エンハーツが様々なher2陽性癌に良績
(2023年6月6日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の第2相DESTINY-PanTumor02試験の中間解析結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。様々な部位のher2陽性癌を再発治療する単群試験で、267人中37%がcORR(確認客観的反応率)、うちIHC検査で3+の75人では61%、2+の125人でも27%だった。部位別では子宮頸癌が50%、内膜腫が57.5%(17.5%は完全反応)、卵巣癌が45%だった(解析対象は夫々40人程度)。

発生部位ではなく遺伝子発現プロファイルに基づく適応は、MSDのKeytruda(pembrolizumab)が高マイクロサテライト不安定性やミスマッチ修復不全と判定された腫瘍に承認されている。加速承認された時点では別途承認された結腸直腸癌を除く症例数は59、ORRは46%、部位毎では内膜腫の14例が最大でORRは36%、ORRがこれを上回ったのは胃・胃食道接合部癌(9例中56%)と膵癌(6例中83%)だけだった。その後、本承認に切り替わった時の症例数は380、部位別に40例以上の実績があるのは内膜腫(94例中50%)と胃・胃食道接合部癌(51人中39%)だけだった。

こうしてみるとEnhertuの症例数は決して見劣りせず、もしher2検査やORR評価の客観性に問題がなく、ORRで承認を取る時に求められる反応持続期間のデータも揃っているならば、今回のデータで承認/加速承認を獲得する可能性があるのではないか。

リンク: 両社のプレスリリース(和文、pdfファイル)


オンデキサの市販後薬効確認試験が成功
(2023年6月5日発表)

アストラゼネカはAndexXa(andexanet alfa)のANNEXA-I試験が中間解析で目的達成したことを発表した。apixabanやrivaroxabanのようなXa阻害剤を服用中に頭蓋内出血を発症した成人患者を15時間以内に組み入れて投与し、止血効果や症状転帰を通常医療(4因子含有プロトロンビン複合体など)と比較したもので、米国で加速承認、EUで条件付き承認された時のフェーズIVコミットメント試験でもあるため、順当な結果になって一安心というところだろう。

2002年にCor TherapeuticsがMillenium Pharmaceuticalsに買収された時にスピンアウトされたPortola Pharmaceuticalsが16年後に実用化したXa阻害剤結合剤で、20年に企業買収したAlexionを21年にアストラゼネカが買収した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


ASCO:IDH阻害剤はIDH変異型グレード2神経膠腫に有効
(2023年6月4日発表)

セルビエは3月にIDH(Isocitrate dehydrogenase-1)1/2阻害剤vorasidenibの第3相試験成功を公表したが、ASCOで詳細が明らかにされた。グレード2神経膠腫の8割程度で見られる、IDH1/2変異型を対象とした試験で、切除術を受けたが残余病変がある、または再発した、薬物治療未経験の患者を組入れて、偽薬または40mgを一日一回経口投与したところ、rPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価委員会方式)のハザードレシオが0.39、各群のメジアン値は11.1ヶ月と27.7ヶ月と、良好な結果になった。G3以上の有害事象発現率は各群13.5%と22.8%、G3以上のALT上昇はゼロと9.6%だった。

20年にAgios Pharmaceuticalsから買収した腫瘍学ポートフォリオの一つ。承認申請するのではないか。

リンク: Mellinghoffらの治験論文抄録(NEJM)


ASCO:新患cHLの多剤併用療法にオプジーボ追加が有効
(2023年6月4日発表)

米国の共同臨床試験グループであるNCTNが実施した古典的ホジキン型リンパ腫(cHL)の一次治療試験、S1826の結果がASCOで発表された。12歳以上のステージIII/IVの新患976人をBV-AVD群(brentuximab vedotin、adriamycin、vinblastine、dacarbazine)またはN-AVD群(brentuximab vedotinに代えてnivolumabを使用)に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したもので、事前に計画されていた中間解析で後者に軍配が上がった。ハザードレシオ0.48、片側p値は0.0005、1年PFS率は各群86%94%だった。有害事象は末梢神経症はBV-AVD群が、甲状腺機能低下/亢進やG3以上の血液学的有害事象はN-AVD群が、上回った。メジアン12ヶ月の追跡で各群4人と11人が死亡し、うち有害事象によるものは3人と7人だった。

Seagen(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin)は18年に米国で、19年にはEUでも、成人の新患cHL向けに承認された。小児も承認されているがadriamycin、vincristine、etoposide、prednisone、cyclophosphamideと併用するので今回のレジメンとは若干異なる。

BMSのOpdivo(nivolumab)は再発cHLに承認されているが新患にも有効であることが明らかになった。類薬ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)が難治再発cHLの第3相でPFSがAdcetrisを上回り、21年に米国で承認された。

リンク: SWOGのプレスリリース
リンク: ASCO抄録(2023ASCO LBA4)


ASCO:キイトルーダは二勝一敗
(2023年6月3日発表)

MSDは2~3月にKeytruda(pembrolizumab)の第3相試験二本の成功と一本のフェールを発表したが、データをASCO(米国臨床腫瘍学会)で公表した。

KeyNote-671試験は切除可能なステージII/IIIA/IIIBの非小細胞性肺癌を組入れて、術前に白金ベース化学療法と併用で、術後にはKeytrudaだけを投与する群のEFS(無イベント生存期間)と全生存期間を、Keytrudaの代わりに偽薬を投与する群と比較した。EFSはハザードレシオ0.58、メジアン25.2ヶ月追跡しても試験薬群はメジアン未達、偽薬群は17ヶ月だった。2年EFS率は各群62.4%と40.6%だった。全生存期間は未成熟だが、ハザードレシオ0.73と好ましい方向を向いている。

EFS延長効果はPD-L1発現の多寡を問わず観察されたが、TPS<1%のサブグループはハザードレシオは0.77だが95%上限は1.07なのでエビデンスが万全とは言い難く、例え未成熟であっても全生存期間の点推定値を見てみたいものだ。

KeytrudaはステージIBからIIIAの非小細胞性肺癌を切除し白金ベースの術後化学療法を終えた患者に用いることが米国で承認されている。今回の用法は3月に申請受理され、審査期限は10月16日。

類薬ではアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)が類似したAEGEAN試験でEFSのハザードレシオ0.68、メジアン値は未達対25.9ヶ月と、まあまあ似たような成績を上げた。一方、BMSのOpdivo(nivolumab)はステージIBからIIIAまでを対象としたCheckMate-816試験で化学療法併用で術前だけ投与したところ、EFSハザードレシオが0.63、メジアン値は31.6ヶ月対20.8ヶ月だった。術前だけで同様な成果が上がるなら幸便なので、ステージ毎のサブグループ分析データを今回の試験と比較してみる余地がありそうだ。

何れにせよ、長期生存の可能性もある患者層なのでEFSだけでなく全生存期間のサブグループ分析も見てみたいものだ。

もう一本はカナダの共同臨床試験グループが主導した第2/3相IND.227/KEYNOTE-483試験。切除不能進行/転移悪性胸膜中皮腫の一次治療における標準療法であるpemetrexedと白金薬のレジメンに追加で3週毎、最大35サイクル投与したオープンレーベル試験で、主評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.79、両側p値は0.0324、メジアン生存期間は17.3ヶ月で対照群の16.1ヶ月を僅かに上回った。PFSもハザードレシオ0.80、p=0.0372、メジアン値は各群7.13ヶ月と7.16ヶ月だった。G3/4治療関連有害事象発現率は27%と15%だった。

同様な患者を組入れたCheckMate-743試験では、OpdivoとYervoy(ipilimumab)を併用した群のメジアン生存期間は18.1ヶ月と化学療法群の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.74だった。併用するならYervoyのほうが良さそうだ。こちらの試験でもPFSはハザードレシオ1.0、メジアン値は6.8ヶ月と7.2ヶ月で見劣りしており、全生存期間のほうがアテになりそうだ。この併用は米国で承認された。

一方、KeyNote-789試験はフェールした。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤歴を持つEGFR変異陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌(被験者の半分がTagrisso(osimertinib)歴あり)を組入れて、pemetrexedと白金薬のレジメンに追加する効果を検討したが、偽薬追加群を少し上回っただけだった。共同主評価項目のうちPFSは第2次中間でハザードレシオ0.80、p=0.0122となり、閾値の片側0.0117をクリアできなかった。メジアン値は5.6ヶ月で偽薬追加群の5.5ヶ月と大差ない。全生存期間の最終解析もハザードレシオ0.84、p=0.0362で閾値の0.0118をクリアできなかった。メジアン値は15.8ヶ月と14.7ヶ月で大差なかった。全生存解析結果はPD-L1陽性グループも陰性グループも同程度だった。一方、G3以上の治療関連有害事象発生率は43.7%対38.6%で上回り、G5は0.4%と0.8%で大差なかった。

Keytrudaの米国における肺癌適応は、EGFR変異陽性が少ない扁平上皮腫を除いて、EGFRやALKに癌原性変異を持たない患者に限定されている。治験の除外条件だからそうなっただけで実際は有効なのではないかと思っていたが、思い違いだった。

リンク: MSDのプレスリリース(671試験)
リンク: Wakeleeらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: MSDのプレスリリース(483試験)
リンク: YangらのASCO抄録(789試験)


ASCO:豪華な併用レジメンが卵巣がんの一次治療に有効
(2023年6月3日発表)

アストラゼネカは、日本も参加したグローバル第3相進行ハイ・グレード上皮性卵巣癌一次治療試験、DUO-Oの結果をASCOで発表した。導入療法として白金ベースの化学療法とbevacizumab、維持療法としてbevacizumabを施行する標準療法を対照群として、Imfinzi(durvalumab)の導入・維持療法とLynparza(olaparib)の維持療法を追加する群と、Imfinziの導入・維持療法だけを追加する群の便益を検討したもので、LynparzaはBRCA有害変異陽性癌の一次治療に応答した患者の維持療法として既に承認されているため、腫瘍細胞にBRCA有害変異(tBRCAm)がないコフォートを解析対象とした。

主評価項目はまず、HRD(相同組換不全)サブグループのPFS(無進行生存期間、治験医評価)。ハザードレシオ0.49、メジアン値は37.3ヶ月対23.0ヶ月と大変良い結果が出た。シーケンシャルに行われたコフォート全体の解析もハザードレシオ0.63、24.2ヶ月対19.3ヶ月と良好。奇妙なことに、HRD陰性だけの事前に設定された探索的解析でもハザードレシオ0.68、95%上限0.86、メジアン20.9ヶ月対17.4ヶ月と良績を上げている。

一方、副次的評価項目であるImfinziだけ追加した群はコフォート全体のハザードレシオ0.87、95%上限1.04、20.6ヶ月対19.3ヶ月となり、フェールした。

深刻有害事象発現率は二剤追加群が39%、Imfinzi追加群が43%、対照群が34%だった。

良く分からないのは、Lynparzaだけ追加では足りないのか?バイオ薬三剤の併用は高価なので、価格に見合った便益が欲しいものだ。

リンク: 同社のプレスリリース


抗CTGF抗体のDMD試験がフェール
(2023年6月7日発表)

FibroGen(Nasdaq:FGEN)はFG-019(pamrevlumab)の第3相デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)試験がフェールしたことを明らかにした。LELANTOS-1試験に12歳以上のステロイド治療を受けている歩行不能な患者99人を組入れて、35mg/kgを2週毎に52週間静注して主評価項目であるPIL(Performance of the Upper Limb)2.0総スコアの変化を偽薬と比較したが、有意な差がなかった。

もう一本、歩行可能な6~11歳の70人を組入れて効果をNSAA(North Star Ambulatory Assessment)総スコアで評価する試験の結果が第3四半期に判明する見込み。また、IPF(特発性肺線維症)の第3相も第3四半期と24年に成否判明する見込み。

CTGF(結合組織成長因子)をブロックする抗体で、組織の線維化やリモデリングの抑制が期待されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


遺伝子編集薬が米国でも承認申請
(2023年6月9日発表)

CRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)と開発販売パートナーのVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、CTX-001(exagamglogene autotemcel、通称exa-cel)を鎌状赤血球病と輸血依存ベータ・サラセミアの治療薬として米国で承認申請し、受理された。承認されれば遺伝子編集薬で初となる。前者の適応は優先審査を受け、審査期限は12月8日。後者は標準審査で来年3月30日。欧州では昨年12月に承認申請、今年1月に受理されている。

CRISPR社は、古細菌がバクテリオファージから身を守る仕組みに着眼したCRISPR-Cas9遺伝子編集技術の代表的な企業で、ノーベル化学賞を受賞したEmmanuelle Charpentierらが設立した。Vertexは15年に共同研究提携を結び、17年にCTX-001をライセンスした。患者から採取したCD34陽性造血幹・前駆細胞の遺伝子を編集し、本来は胎児にしか発現しない胎児ヘモグロビンを赤血球に発現させる。どちらの用途も第1/2/3相試験が中間解析で目的達成したことが今回、EHAで発表された。

鎌状赤血球病試験は欧米の施設で35人を組入れた。中間解析対象の17人のうち16人は12ヶ月以上連続で血管閉塞性クリーゼ(VOC)が発生しなかった。また、17人全員が、12ヶ月以上連続でVOCによる入院がなかった。

輸血依存ベータ・サラセミア試験は48人中27人が解析対象で、88.9%の患者が12ヶ月以上連続で輸血不要だった。患者自身の評価も良好だった。

遺伝子編集された赤血球の比率は安定的で、順調に定着していることが示唆された。治療関連深刻有害事象はベータ・サラセミア試験で2名で発生したが全て解消、鎌状赤血球病試験では発生しなかった。

これらの疾患の遺伝子療法は、bluebird bio(Nasdaq:BLUE)がレンチウイルスをベクターとしてex vivoで導入するZynteglo(betibeglogene autotemcel)を開発、19年にEUで、22年には米国でも、輸血依存ベータ・サラセミア用薬として承認取得した(CTX-001のこの用途が優先審査にならなかったのはこれが理由と推測される)。同社は鎌状赤血球病でもlovotibeglogene autotemcelを4月に承認申請した。

尚、Zyntegloは欧州では薬価交渉が難航し、承認返上となった。メーカー側は年30万ユーロ余を5年払い、但し効果がなくなったら支払い中止、という水準を狙ったが、ドイツでは半額程度に値切られた模様だ。米国では280万ドル、但し輸血依存が解消しなかったら8割を返還、という取り決めになった模様。貧乏患者は麦を食え。

リンク: 両社のプレスリリース(米国承認申請)
リンク: 同(EHA発表)


MSD、キイトルーダを胆道癌に承認申請
(2023年6月8日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)を局所進行切除不能/転移胆道癌に適応拡大申請し受理された。審査期限は来年2月7日。

胆道癌は肝臓癌の15%を占める、肝細胞腫に次いで多い癌。Keytrudaは一次治療を受ける患者1069人を組入れてgemcitabine及びcisplatinに追加する便益を検討したKeyNote-966試験でメジアン生存期間が12.7ヶ月と偽薬追加群の10.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.83だった。2年生存率では24.9%対18.1%ともう少し見栄えのする数値が出ている。G3/4治療関連有害事象の発生率は70%対69%で大差なかった。

リンク: 同社のプレスリリース


GSK、抗PD-1抗体をdMMR/MSI-H内膜腫に承認申請
(2023年6月6日発表)

GSKは米国でもJemperli(dostarlimab-gxly)をdMMR(ミスマッチ修復不全)/MSI-H(高マイクロサテライト不安定性)の原発性進行難治子宮内膜腫に承認申請し受理されたと発表した。審査期限は9月23日。欧州でも4月に受理された。

同社は一時期、腫瘍学から撤退していたが、トップ交代と共に復帰を宣言し、19年にTesaroを買収した。収穫の一つがこの抗PD-1抗体で、21年に欧米で白金レジメン歴を持つdMMR陽性の難治進行内膜腫用薬として承認取得した。今回は化学療法と共に早期段階で使用する。第3相RUBY試験ではPFS(無進行生存期間、治験医評価)のハザードレシオが化学療法・偽薬併用群比で0.28、24ヶ月PFS率は61.4%対15.7%だった。この試験はdMMR/MSI-Hに該当しない患者も組入れており、副次的評価項目である全被験者のPFSハザードレシオは0.64、dMMR/MSI-Hではない患者だけの解析でも0.76と良好だった。全生存期間の解析は未成熟だが大変好ましい方向を指している。治療時発現有害事象による投与中止発生率は17.4%対9.3%で上回った。

類薬ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)もNRG-GY018試験で良好な成績を上げた。

リンク: 同社のプレスリリース


ASCO:カービクティを二次治療に適応拡大申請
(2023年6月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalはCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)の第3相CARTITUDE-4試験の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。成人の1~3次治療歴を持ちlenalidomide抵抗性の多発骨髄腫419人を組入れて、PFS(無進行生存期間)を標準療法(PVdまたはDPdレジメン)と比較したもので、1月に中間解析が成功した。事前にリークされていたように、ハザードレシオは0.26、メジアン値は16ヶ月追跡時点でも未達、標準療法群は11.8ヶ月だった、12ヶ月PFS率は各群76%と49%だった。

各群210人前後のうち39人と46人が死亡、うち有害事象によるものは10人と5人だった。

Carvyktiの適応は米国では4次以上、EUでは3次以上の治療歴を持つ患者。FDAが4次以上に限定したのはエビデンスとなる試験は3次治療歴の患者も組込んだが少数に留まったことが原因のようだ。今回の結果を受けて、EUでは5月に、米国は今月、適応拡大申請した。多発骨髄腫は治療の選択肢が増えて最初から惜しみなく多剤併用するケースが増えたため、2次治療と3次、4次治療の違いが分かりにくくなった。米国における目標適応は、成人の再発難治多発骨髄腫でプロテアソーム阻害剤と免疫調停薬を含む1次以上の治療歴を持ち、lenalidomide抵抗性の患者となっており、結局、主力三剤全てを使い果たした患者ということになる。

リンク: JNJのプレスリリース(ASCO発表)
リンク: JNJのプレスリリース(承認申請)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、レカネマブの本承認にGo!
(2023年6月9日発表)

FDAは末梢中枢神経系用薬諮問委員会を招集し、1月に仮承認したエーザイとバイオジェンの抗アミロイド・ベータ抗体、Leqembi(lecanemab-irmb)を本承認する当否について意見を聞いた。6人の委員全員が支持したので、審査期限の7月6日までに切り替えられるだろう。米国の高齢者医療制度であるメディケアはアミロイド・ベータ削減作用だけでは満足せず臨床的便益が確立し本承認されたら保険還元する方針を示しており、今より多くの患者が利用できるようになるだろう。年26500ドルと高額なので、保険料の引き上げも必須だろう。

MRI検査で脳アミロイドの蓄積が認められた軽度アルツハイマー病(AD)とADによる軽度認知障害の患者1795人を組入れて、2週毎1時間点滴静注を18ヶ月間反復した第3相CLARITY AD試験で、CDR-SBの悪化が偽薬比27%小さかった。ベースライン値は3.2で、試験薬群の修正変化は1.21なので大雑把に言えば18ヶ月間に37%悪化、偽薬群は53%悪化したことになる。CDR-SBは6項目について各5段階評価するものなので、試験薬群は1~2段階悪化、偽薬群は2~3段階悪化したものと推測される。

主な有害事象は点滴箇所反応(試験薬群の発生率26%、偽薬群は7%)、アミロイド関連造影異常-出血(17%と9%)、アミロイド関連造影異常-浮腫(12%と1%)など。

リンク: 両社のプレスリリース(和文、pdfファイル)


FDA諮問委員会、新規RSV感染症予防薬の承認を支持
(2023年6月8日発表)

FDAは抗微生物薬諮問委員会を招集し、アストラゼネカが幼児のRSウイルスによる下部気道感染症を予防する用途で承認申請したMEDI8897(nirsevimab)について意見を聞いた。最初のRSV流行期を迎える生後12ヶ月未満の乳幼児に関しては21人の委員全員が便益が危険を上回ると判定。2回目の流行期を迎える重症化リスク因子を持つ24ヶ月までの幼児についても19人が支持した。昨年11月に承認されたEUに続き、米国でも承認されそうだ。審査期限は第3四半期とのみ公表されている。日本でも承認申請された。

同社が2007年に子会社化したメディミューンの出世製品で四半世紀の市販歴を持つSynagis(palivizumab)とは異なった部位に結合する抗RSV融合前F蛋白抗体。重症化リスク因子を持たない乳児や、低体重出生児や慢性心臓疾患、慢性肺疾患など感染すると重症化の恐れがある幼児は2年目も使える点が重要な違い。初年度は体重5kg未満は50mg、以上は100mg、2年目は200mgを各一回、筋注する。

疫学研究によるとRSV感染症による入院の過半は重症化リスク因子を持たない乳幼児。また、慢性心臓疾患、慢性肺疾患の2~5歳児はRSV疾患のリスクが高い。アストラゼネカは第3相MELODY試験で在胎35週以上の健康な1歳未満においてもRSV性下部気道感染症による医療介入を74%抑制できることを確認した(罹患率1.2%、偽薬群は5.0%)。2年目の予防効果の裏付けは2年目の投与における薬物動態データで、罹患率に関するエビデンスはない。

承認後はアストラゼネカが生産、サノフィが販売する予定。Synagisの米国事業を買収したSobiが米国売上に関するロイヤルティ権を持っている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


Rubracaの適応拡大は承認されず
(2023年5月26日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は米国証券取引委員会に提出した適時開示資料の中で、FDAがPARP阻害剤Rubraca(rucaparib)の適応拡大を認めなかったことを明らかにした。同社は破産裁判所にチャプター11の適用を申請しRubraca事業をPharma& Schweiz GmbHに売却してしまったので事業面での影響は小さいが、承認されていたら貰えたはずの達成報奨金や需要・売上拡大に伴うロイヤルティ収入の上乗せが見込めなくなった。

今回の申請は白金感受性卵巣癌の二次以降の白金薬治療に応答した患者の維持療法。PFSが偽薬比有意に改善したが、PARP阻害剤のPFSは延命効果に繋がらない可能性があるため、FDAは全生存期間の最終解析結果が出るまで承認しない姿勢を示した。

リンク: Clovisのフォーム8-K

【承認】


プレバイマスが腎移植レシピエントに適応拡大
(2023年6月6日発表)

MSDのPrevymis(letermovir)の適応拡大がFDAに承認された。17~18年に米欧日で承認された抗CMV薬で、オリジナルの適応・効能であるCMV抗体陽性の成人他家造血幹細胞移植レシピエントにおけるCMV再活性化予防に加えて、今回、CMV陽性ドナーの腎移植を受けたCMV陰性レシピエントのCMV感染予防に用いることが認められた。臨床試験では、acyclovir併用でPrevymisを移植後200日まで一日一回静注/経口投与した群の1年CMV疾患発症率が10%となり、valganciclovirと、acyclovirに対応する偽薬を併用した群の12%と非劣性だった(差は-1.4、その95%下限は-6.5で閾値の-10をクリア)。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年6月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23/6/15  イプセンのBylvay(odevixibat、アラジール症候群に適応拡大)
  • 23/6/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症)
  • 23/6/16  BMSのCamzyos(mavacamten、閉塞性肥大性心筋症における中隔縮小治療の必要性の抑制に適応拡大)
  • 23/6/17  F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
  • 23/6/20  argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
  • 23/6/21  Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
  • 23/6/22  Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
  • 23/6/22  Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
  • 23/6/23  Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
  • 23/6/27  Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
  • 23/6/30  Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)


諮問委員会:
  • 23/6/15 VRBPAC:2023-24シーズンのCOVID-19ワクチン配合株について
  • 23/6/28 EDAC:イプセンのpalovarotene(進行性骨化性線維異形成症)



今週は以上です。

2023年6月3日

第1105回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティスのCDK4/6阻害剤も乳癌術後薬物療法試験が成功 
  • 抗生剤の新規組み合わせが難治感染症に有効 
  • ファイザー、新種の血友病用薬の第3相が成功 
  • アストラゼネカは抗IL-23抗体の開発を中止 
  • BMSもROS1阻害剤を承認申請 
  • 中華抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤を米国でも承認申請 
  • バフセオを米国で再申請へ 
  • AmylyxのALS用薬、CHMPからネガティブなフィードバック 
  • リムパーザがBRCA変異前立腺癌に適応拡大 
  • ファイザーの高齢者RSVワクチンも承認 


【新薬開発】


ノバルティスのCDK4/6阻害剤も乳癌術後薬物療法試験が成功
(2023年6月2日発表)

ノバルティスは3月にKisqali(ribociclib)の第3相NATALEE試験が中間解析で目的達成した旨明らかにしたが、詳細をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。年内に欧米で適応拡大申請する予定。日本での開発は6年前に何故か打ち切られている。

ステージIIとIIIのホルモン受容体陽性、her2陰性の乳癌を切除した約5100人を組入れて、内分泌療法に加えて400mgを21日連続服用し7日休薬するスケジュールで3年間投与する効果を内分泌療法のみの群と比較したところ、iDFS(侵襲的再発なく生存)のハザードレシオが0.748と、統計的にも臨床的にも有意な結果になった。全生存期間の中間解析も0.759と好ましいトレンドが見られた。

iDFSのサブグループ分析では、ステージIIが0.76、IIIは0.74、と癌やリンパ節転移の進行がそれほど進んでいない症例でも同様な効果が見られた。リンパ節転移のない患者も600人程度組入れられ、0.63と有意ではないが好ましい数値が出た。

用量を転移癌における600mgから減らしたが、肝機能検査値異常などによる服用中止が散見された。

イーライリリーのCDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)は一足先にステージIII限定のmonarchE試験が成功、米日欧で適応拡大が認められた。ハザードレシオは0.653なので、Kisqaliの数値はやや見劣りする。一方で、ステージIIも承認されれば潜在的な対象患者数はVerzenioの2倍以上に拡大し、服用期間は単純計算で1.5倍なので、標的となる市場規模は3倍以上となる。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


抗生剤の新規組み合わせが難治感染症に有効
(2023年6月1日発表)

ファイザーは、グラム陰性菌による深刻感染症のサルベージ療法としてaztreonam(略称ATM)とavibactam(同AVI)を併用した第3相試験二本がポジティブな結果になったと発表した。23年下期に欧州中国米国などで承認申請する考え。

REVISIT試験はグラム陰性菌による複雑腹腔内感染症(cIAI)又は院内感染肺炎(HAP)/人工呼吸器関連肺炎(VAP)で他に治療手段がない又は限られる患者を組入れて、両剤(cIAIの場合はmetronidazoleも追加)を点滴静注する効果をmeropenem(現地の治療方針に応じてcolistinも追加可)群と比較した。cIAIにおける治癒率(intent-to-treatベース)は各群76.4%と74.0%となり、群間差の95%下限は-12.4だった。非劣性検定と推測されるが閾値は記されていない。28日死亡率は各群1.9%と2.9%だった。HAP/VAPでは前者が45.9%と41.7%で群間差の95%下限は-23.6%、後者は10.8%と19.4%だった。非劣性検定が成功したのかどうかは明記されていない。深刻有害事象の発生率は両群大差なく、試験薬群では治療関連深刻有害事象は発生しなかった。

ASSEMBLE試験ではメタロ・ベータ・ラクタマーゼ産生グラム陰性菌感染者12人に投与したところ5人がテスト・オブ・キュア受診で治癒認定された。最善治療施行群では3人中ゼロだった。

ATMはスクイブが米国で1986年に承認取得したモノバクタム系グラム陰性菌用薬。AVIはアベンティスからスピンアウトしたNovexelのベータ・ラクタマーゼ阻害剤で、第3世代セフェム系抗菌剤のceftazidimeとの配合剤を、米国ではライセンシーのフォレストが15年にAvycaz名で、欧州などではNovexelを買収したアストラゼネカが16年にZavicefta名で、承認を取得した。どちらも新規活性成分ではないが、新たな組み合わせで多剤耐性菌に立ち向かう。

ファイザーは16年にアストラゼネカからZaviceftaの北米外の権利を承継、4月に日本でも承認申請した。北米の権利はフォレストが数回の合併を経て合流したアッヴィが保有しているが、ファイザーがスポンサーとなった今回の試験には米国の一部の施設も参加していることや、プレスリリースの書きぶりから、北米での販売もファイザーが主導するつもりではないかと感じられる。

リンク: ファイザーのプレスリリース


ファイザー、新種の血友病用薬の第3相が成功
(2023年5月30日発表)

ファイザーはPF-06741086(marstacimab)の第3相A型/B型血友病治療試験で、インヒビターを持たないコフォートの目的達成を公表した。持つコフォートの開票は24年遅くの見込みとのことなので、承認申請はその後なのかもしれない。

活性化第VII因子とTFの複合体による第X因子の活性化を抑制する、天然のTFPI(tissue factor pathway inhibitor)のKunitz 2ドメインを標的とする抗体医薬。このBASIS試験は12~74歳の重度A型血友病またはFIX活性が2%以下の稍重度/重度B型血友病の患者145人を組み入れる同一患者間対照試験で、負荷用量300mg、維持用量150mg(300mgに増量可)を週一回、皮下注射する皮下注する、12ヶ月の治療期間における出血頻度(年率)を、治験参加前の治療法を継続する6ヶ月間のリード・イン期間と比較するもの。インヒビターを持たないコフォート(116人)のうち、リード・イン期間中に血液凝固因子の予防的投与を受けていなかったサブグループでは出血頻度が92%減少。受けたサブグループでも35%減少した。血栓塞栓イベントは見られなかった。

類薬ではノボ ノルディスクが同じドメインに結合するNN7415(concizumab)を米日などでインヒビターを持つA型B型血友病用薬として承認申請中で、カナダでは4月にB型限定で承認されたが、米国は、ペン型ディバイスに関する理由で、同月、審査完了通知を受領した。

リンク: 同社のプレスリリース


アストラゼネカは抗IL-23抗体の開発を中止
(2023年6月1日発表)

アストラゼネカの抗IL-23抗体brazikumabはクローン病で後期第2相/第3相、潰瘍性大腸炎で後期第2相段階だが、開発中止が決まった。安全性懸念が生じたわけではなく、開発の遅れや競合状況が原因のようだ。紆余曲折があったが、一応の決着を見ることになる。

12年にアムジェンから共同開発権を取得した抗IL-17受容体A抗体brodalumabなど5品目の一つだが、アムジェンが最初に降り、アストラゼネカも16年にアラガンに世界開発販売権を供与した。アラガンがアッヴィと合併した時に反トラスト法上の理由で返還されたが、代償として上記適応における臨床試験の費用等を肩代わりさせることができたので、アストラゼネカにとっては、特別な思い入れも重荷感もないプロジェクトだっただろう。

競合品はジョンソン・エンド・ジョンソンの抗IL-12/23p40サブユニット抗体Stelara(ustekinumab)が09~11年に欧米日で承認、ベーリンガー・インゲルハイムがアッヴィと共同開発した抗IL-23抗体Skyrizi(risankizumab)が19年に日欧米で承認と、だいぶ先行している。brazikumabの臨床試験はロシアのウクライナ侵略の煽りも食った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


BMSもROS1阻害剤を承認申請
(2023年5月30日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはBMS-986472(repotrectinib)をROS1再編成のある局所進行/転移非小細胞性肺癌用薬として米国で申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は11月27日。Turning Point Therapeuticsをエクイティ・バリュー41億ドルで買収して入手したコンパウンドでROS1、TRK、ALKなどを阻害する経口剤。ファースト・イン・ヒューマン試験でもある第1/2TRIDENT-1試験のROS1阻害剤治療歴を持たない非小細胞性肺癌を組み入れたコフォートで高いcORR(確認客観的反応率)を示した。

類薬では19年にロシュのRozlytrek(entrectinib)が日米で同様な適応に承認された。

リンク: BMSのプレスリリース


自家腫瘍浸潤リンパ球を黒色腫に承認申請
(2023年5月26日発表)

Iovance Biotherapeutics(Nasdaq:IOVA)は米国でlifileucelをPD-1/PD-L1阻害剤歴と標的療法歴を持つ進行黒色腫用薬として承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は11月25日。切除した腫瘍から抽出したリンパ球を培養した細胞療法で、リンパ除去後に投与する。臨床試験では87人中3人が完全反応、22人が部分反応し、メジアン反応持続期間は41.4ヶ月だった。

リンク: 同社のプレスリリース


中華抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤を米国でも承認申請
(2023年5月17日発表)

米国ニュー・ハンプシャー州のElevar Therapeutics(旧称LSK BioPharma)は米国でVEGFR2阻害剤rivoceranibと抗PD-1抗体camrelizumabを新薬承認申請した。切除不能肝細胞腫に併用する。米中欧亜露ウクライナなど13ヶ国で実施された一次治療実薬対照試験で効果がsorafenibを上回った。主評価項目のPFS(無進行生存期間)はハザードレシオ0.52、メジアン値は各5.6ヶ月と3.7ヶ月、副次的評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.62、各22.1ヶ月と15.2ヶ月となり、まず中国で2月に承認された。

Jiangsu Hengrui Medicine(江蘇恒瑞医薬、上海:600276)からのライセンス品で、中国では夫々、他の適応・用法でも承認されている。

リンク: Elevarのプレスリリース

【承認審査・委員会】


バフセオを米国で再申請へ
(2023年5月30日発表)

Akebia Therapeutics(Nasdaq:AKBA)はHIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害剤vadadustatを腎性貧血治療薬として開発し、20年に日本のライセンシーである田辺三菱製薬が承認を取得、EUでも23年にAkebiaが承認を取得して提携解消した大塚製薬の後釜であるMedice Arzneimittel Pütterが年内に発売予定となっているが、米国は昨年3月に審査完了通知を受領した。Akebiaは公式紛争解決手続きを開始するよう要求していたが、今回、OND(新薬部)の不服申立て担当者が、請求は却下したものの、新たな臨床試験を実施しないで再申請する道筋を示した。

FDAの審査担当部門は貧血治療薬の心血管安全性に懸念を持っており、vadadustatはリスクがEPOと非劣性であることが確認されなかったことや、薬物誘導性肝障害の懸念から、追加臨床試験の実施を提案した。しかし、同じONDの不服申立て担当者は、血栓塞栓症例はバスキュラー・アクセス関連が中心でリスクはそれほど高くなくレーベルで警告すれば足りる可能性があり、薬物誘導性肝障害も透析時に肝機能検査を受けるので発見・対処できるとの同社の主張を認知したとのこと。日本で発売後2年間に治療を受けた数万人のデータ(薬物誘導性肝障害は1例もなし)も価値を認めた。

このため、同社はタイプA会議を経て7月以降に再申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


AmylyxのALS用薬、CHMPからネガティブなフィードバック
(2023年5月30日発表)

Amylyx(Nasdaq:AMLX)はフェニル酪酸ナトリウムとタウロオルソデオキコール酸の合剤を筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬として開発し、米国では昨年9月に承認されたが、EUは、専門家委員会であるCHMPの傾向投票がネガティブな結果になった旨の連絡を受けた。6月に正式な否定的意見がまとまる可能性があり、その場合、再審請求をする考え。

第2相試験の成績は決して良くはなかったが、ALSは効果の高い治療薬が存在しない難病であり、効果や安全性に不確かなところがあっても患者が受け入れる可能性があることから、承認基準を引き下げる余地がある。米国ではFDAが異例の二回目の諮問委員会を招集し、アルツハイマー病薬の承認を牽引したことで有名な審査担当者がALSのような難病の薬にはフレキシビリティが必要と説得、メーカー側も第3相試験がフェールしたら承認返上も含めて患者に最善な対応を行うと語って、一回目の反対多数を覆した。難しい問題なので欧米で意見が異なっても不思議はないし、結論は真逆でも評価の違いはそれほど大きくないだろうから、EUでも境界線のどちらに転がるか分からないだろう。

リンク: Amylyxのプレスリリース

【承認】


リムパーザがBRCA変異前立腺癌に適応拡大
(2023年6月1日発表)

アストラゼネカと開発販売パートナーのMSDは、FDAがPARP阻害剤Lynparza(olaparib)の適応拡大を承認したと発表した。成人の転移去勢抵抗性前立腺癌で、BRCAに有害変異(疑い例も含む)を持つ患者に、ジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤abiraterone及びprednisoneと併用するもの。エビデンスとなる第3相PROpel試験ではLynparzaではなく偽薬を併用する群と比較したところ、被験者の11%を占めたBRCA有害変異サブグループにおける事後的分析では、rPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザードレシオが0.24、全生存期間は0.30だった。

この試験はBRCA変異や相同組換え修復不全の有無を問わず組み入れたが、BRCA有害変異のない54%の患者では延命効果が見られず、血液検査法と組織検査法のどちらかで判定不能だった35%でも十分な効果は見られなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザーの高齢者RSVワクチンも承認
(2023年5月31日発表)

ファイザーのAbrysvoが60歳以上のRSウイルスによる下部気道疾患を予防するワクチンとしてFDAに承認された。先に承認されたGSKのArexvyとの違いはA型だけでなくB型ウイルスもカバーする二価ワクチンであることと、免疫刺激アジュバントが添加されていないこと。第3相試験成績の比較はデザインがやや異なるので難しいものの、Arexvyのほうが予防効果が高いように感じられる。どちらも一回筋注。6月21日にACIP(ワクチン接種勧奨委員会)が両ワクチンについて接種勧奨の是非を決める予定。おそらく、効果の違いには目を瞑って配給された製品を黙って接種せよと勧告するだろう。日欧でも承認申請中。ファイザーは妊婦が接種して新生児のRSV疾患を予防する用法も日米欧で申請中。

米国では65歳以上の6~16万人が一年間にRSV疾患で入院し、6000~1万人が死亡するが、これまで、予防薬がなかった。今秋以降は、インフルエンザ・ワクチンとCOVID-19ワクチン(XBB.1系統の抗原が採用されるようだ)、そしてRSVワクチンを一緒に、またはタイミングをずらして、接種することになる。インフルエンザ・ワクチンは昔からあるので多くは安価だが他の二種類は夫々100~200ドル程度になりそうなので、一気に費用がかさむ。

リンク: 同社のプレスリリース


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年6月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23/6/5   MSDのPrevymis(letermovir、腎移植後CMV感染症予防に適応拡大)
  • 23/6/15  イプセンのBylvay(odevixibat、アラジール症候群に適応拡大)
  • 23/6/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症)
  • 23/6/16  BMSのCamzyos(mavacamten、閉塞性肥大性心筋症における中隔縮小治療の必要性の抑制に適応拡大)
  • 23/6/17  F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
  • 23/6/20  argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
  • 23/6/21  Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
  • 23/6/22  Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
  • 23/6/22  Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
  • 23/6/23  Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
  • 23/6/27  Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
  • 23/6/30  Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)

諮問委員会:
  • 23/6/8  AMDAC:アストラゼネカのnirsevimab(RSV下部気道感染症予防)
  • 23/6/9  PCNSDAC:エーザイ/バイオジェンのLeqembiのアルツハイマー病本承認
  • 23/6/15 VRBPAC:2023-24シーズンのCOVID-19ワクチン配合株について


今週は以上です。