2020年7月24日

第956回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:ファビピラビルのインドでの治験結果 
  • COVID-19:ワクチンの第二相データが続々と発表 
  • ジャカビの第三相慢性移植片宿主病試験が成功 
  • カルシニューリン阻害剤がループス腎炎に承認申請 
  • ACADIA、Nuplazidを認知症精神症状治療薬として適応拡大申請 
  • BMS、CAR-Tを欧州でも承認申請 
  • アストラゼネカ、ビレーズトリが米国でも承認 
  • ジャズ、ナルコレプシー用薬のミネラルバランス改良製剤が承認 


【今週の話題】


COVID-19:ファビピラビルのインドでの治験結果
(2020年7月22日発表)

インドのグレンマーク・ファーマシューティカルズは、インドで実施しているFabiFlu(favipiravir)の第三相軽中等症COVID-19試験の結果を発表した。主評価項目のウイルス口内放出期間はフェールしたが、主要副次的評価項目である罹病期間は悪くない結果になった。6月にインドで承認されたばかりなので、裏切る結果にならなかったのは取り敢えず一安心だろう。同社は中等症患者を対象にumifenovir併用の第三相試験も実施中。

favipiravirはRNAポリメラーゼ阻害剤。新型インフルエンザが流行した時の治療薬として日本で14年に承認された。COVID-19治療効果は中国やロシアの小規模な試験や日本の観察的試験で良好な数字が出ているが、対照試験は藤田医科大学などで行われた無症候性・軽症患者の第二相がフェール、今回も主評価項目はフェールと、判然としない結果になっている。

今回の試験は、RT-PCR検査で陽性判定されてから48時間以内の入院患者150人(軽症90人、中等症60人)を7臨床施設で組入れて、800mg(初日は1600mg)を一日2回、最長14日間経口投与する群と対照群に無作為化割付して、転帰をオープンレーベルで比較したもの。結果は、ウイルス口内放出期間のハザードレシオが1.36(95%信頼区間0.944、1.979)、p=0.129となり、フェールした。一方、罹病期間のほうはメジアン3日対5日、ハザードレシオ1.749(95%信頼区間1.096、2.792)、p=0.029となった。深刻有害事象はゼロ、対照群は一人で発現した。

主評価項目がフェールしたので副次的評価項目でいくら良い数値が出ても統計的に有意とは言えず、また、罹病期間は熱など様々な項目の複合評価なので、p値がそれほど低くないことや、オープンレーベル試験であることを考えると、割り引いて考える必要があるだろう。効果を立証することができず、かと言って、全くないと切り捨てるほどではない、『ざんねんなりんしょうしけん事典』の収載候補として推薦したい。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)

COVID-19:ワクチンの第二相データが続々と発表
(2020年7月20日発表)

三種類のCOVID-19ワクチンの第二相試験論文が医学誌や論文原稿サーバーに刊行・収載された。この段階としては良好な内容だが、実用化の成否を占ったり、三品のデータを比べたりするのは時期尚早だろう。

安全性については深刻な有害事象は発生しなかったとのことなので、最低限のハードルはクリアしたことになるが、多くても1000人程度のデータなので、稀だが深刻な有害事象を検出することはできない。日本で年数千万人が接種するインフルエンザワクチンよりも広く用いられる可能性が高いことを考えると、数万人規模の第三相データが必要だ。

ワクチンの稀だが深刻な有害事象が普及のボトルネックになった最近の事例では、子宮頸癌ワクチンがある。有効で有益なワクチンが登場すると、命に係わる病気の犠牲者を減らすべく、医師もメディアも公衆衛生学者もこぞって普及を後押しするが、便益ばかり喧伝して人々が不安になるようなことをオミットすると、裏目に出た時にあのような結果になる。日本より先に発売された米国でも英国でも失神など奇妙な現象が騒ぎになったのだから、日本で発現しないと考えるのは楽観的過ぎる。今日ではワクチンの副作用/副反応とは断定できないと考えられているが、当時は未解決だったのだから、見なかったふりをすべきではなかった。

我が国の専門用語である『多様な症状』を第三相をよく調べて、市販後も継続的に情報収集する必要があるだろう。

COVID-19ワクチン固有の要観察事項としては、ワクチン接種者が感染時に却って重体化してしまう可能性をFDAは気にしているようだ。最近ではデング熱ワクチンで表面化して騒ぎになったことがあるが、発現頻度は決して高くないので数万人規模の試験を行わないと発見できないし、多くの人が感染するまで何ヶ月も追跡しなければならない。従って、答えが出るのはまだ先だ。

有効性については、第二相で中和抗体やT細胞性免疫を誘導できることが確認できた。回復期血漿の抗体水準と比較したデータを見ると、オックスフォード大学/アストラゼネカの開発品が若干見劣りするが、回復期血漿に含まれる抗体量は個人差が大きく、また、回復から日数が経つにつれて低下するので、他のワクチンのデータと比較するのは適切ではないかもしれない。また、感染から回復し抗体を持っている人が再び感染しないという保証はない。

結局、感染や重症化を防ぐのに必要な水準が分からないのだから、抗体価などの水準が多少低くても問題ないかもしれないし、逆に、三品とも免疫原性が足りないかもしれない。

そもそも、COVID-19ワクチンに関しては、効果がどの程度持続するか分からない。インフルエンザのように季節性があるなら半年持てば年一回接種で足りるが、夏でも流行が衰えていないことを考えると、半年しか持たなかったら半年毎に接種しなければならないかもしれない。臨床入りしてからまだ半年も経っていないので、答えが出るのはまだこれからだ。

リンク: オックスフォード大学/アストラゼネカのChAdOx1 nCoV-19に関する治験論文(Folegattiら、Lancet、オープンアクセス、pdfファイル)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: CanSino BiologicsのAd5-nCoVに関する治験論文(Zhuら、Lancet、pdfファイル)
リンク: BioNTech/ファイザーのBNT162b1に関する治験論文原稿(Sahinら、medRxiv)


【新薬開発】


ジャカビの第三相慢性移植片宿主病試験が成功
(2020年7月23日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)とノバルティスは、Jakafi(ruxolitinib、欧州名Jakavi、和名ジャカビ)の第三相ステロイド不応/依存慢性GvHD(移植片宿主病)試験が成功したと発表した。第24週のORR(客観的反応率)をBAT(最良医療)群と比較したオープンレーベル試験で、データは今後発表される予定。

Jakafiはインサイトがノバルティスと共同開発販売しているJAK1/2阻害剤で、骨髄線維症や真性多血症などに日米欧で承認されている。米国では昨年、第二相単群試験のデータに基づいてステロイド不応急性移植片宿主病の治療に承認された。今回の慢性期試験と、昨年10月に成功発表された第三相急性期試験はノバルティス中心に実施したもので、米国外も含めて適応拡大申請に向かうだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


カルシニューリン阻害剤がループス腎炎に承認申請
(2020年7月21日発表)

カナダのAurinia Pharmaceuticals(TSX:AUP、Nasdaq:AUPH)はvoclosporinをループス腎炎治療薬として米国で承認申請していたが、受理され、優先審査指定されたと発表した。審査期限は21年1月22日。

臓器移植後拒絶反応防止薬として承認されているcyclosporinなどと同じカルシニューリン阻害剤。ロシュがIsotechnikaからライセンスして移植用途で開発したが権利を返還。その後、Isotechnikaは13年にAuriniaと合併、単独でループス腎炎などの開発を進めた。

点眼用製剤もドライアイ症候群で第三相試験中。第二相では一日二回投与でアラガンのRestasis(cyclosporin点眼液)より効果が高かった。

リンク: 同社のプレスリリース

ACADIA、Nuplazidを認知症精神症状治療薬として適応拡大申請
(2020年7月20日発表)

ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)は、Nuplazid(pimavanserin tartrate)を認知症の精神症状(幻覚妄想)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請していたが、受理され審査期限は来年4月3日になったことを発表した。5-HT2Aインバース・アゴニストで16年に米国でパーキンソン病の精神症状治療薬として承認されている。

この種の薬を認知症患者に用いると死亡リスクを高める可能性があり、Nuplazidのレーベルでも警告されている。今回の適応拡大申請は、懸念を払しょくすることはできないだろうが、便益を明確にすることによって、死亡リスクがあると分かっていてもオフレーベル使用を止めることができないでいる医療従事者にとって朗報になり得るだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、CAR-Tを欧州でも承認申請
(2020年7月17日発表)

BMSは、lisocabtagene maraleucelをEMAに承認申請し受理されたと発表した。日米でも承認審査中だが、EUは目標適応症が多く、難治再発性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、原発性縦隔B細胞リンパ腫、または濾胞性リンパ腫(グレード3B)の三次治療となっている。

Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)からライセンスしたCD19を標的とするキメラ抗原受容体-T細胞で、共刺激ドメインは4-1BB、ベクターはレンチウイルスを使っている。セルジーンを買収して入手したパイプライン。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


アストラゼネカ、ビレーズトリが米国でも承認
(2020年7月24日発表)

アストラゼネカはCOPD維持療法薬Breztri Aerosphere(和名ビレーズトリエアロスフィア)がFDAに承認されたと発表した。吸入コルチコイドのbudesonide、長期作用性ムスカリン拮抗剤のglycopyrrolate(USAN;INN/JANはglycopyrronium)、長期作用性ベータ2作用剤のformoterol fumarateを配合したpMDI(加圧噴霧式定量吸入器)製品。

日本では昨年承認されたが、米国は第三相試験でFEV1改善効果が二剤併用製品を有意に上回らなかったことなどから、日本承認の4ヶ月後に審査完了通知を受領した。前後して開票したETHOS試験で増悪が二剤合剤より有意に少なかったため、アストラゼネカはデータを追加提出、今回の承認につながった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ジャズ、ナルコレプシー用薬のミネラルバランス改良製剤が承認
(2020年7月22日発表)

ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、Xywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)がFDAに承認されたと発表した。7歳以上のナルコレプシー患者の日中の傾眠や脱力発作を抑制する。

同社のブロックバスター医薬品であるXyrem(sodium oxybate)はナトリウムが多く、心不全や高血圧、腎障害の患者が使う場合は注意するよう警告されている。Xywavは陽イオンの組成を変えることでナトリウム量を一日当り1~1.5g減らし、カルシウムやマグネシウム、カリウムを添加したもの。Xyremと同様な経口液で、就寝前に2.5~4時間空けて二回服用する。4.5g/日で開始、推奨用量である6~9gに向けて滴定する。

sodium oxybatesは麻薬指定されている(スケジュールIII)。中枢神経抑制や乱用誤用リスクが枠付警告されている。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

2020年7月18日

第955回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アビガンの国内第二相がフェール 
  • イーライリリーの抗IL-23p19抗体も第三相が成功 
  • ブリリンタの脳卒中再発予防試験論文が刊行 
  • テセントリク、卵巣癌の四剤併用試験がフェール 
  • バイエル/MSD、新規作用機序の慢性心不全治療薬を米国でも承認申請 
  • FDA諮問委員会、テルリプレシンの評価が割れる 
  • FDA諮問委員会、GSKの抗BCMA抗体薬物複合体の承認に賛成 
  • カンタリジンは承認審査完了に 
  • CytoDyn社、抗CCR抗体の承認申請がFDAに受理されず 
  • JNJ、トレムフィアが乾癬性関節炎に承認


【今週の話題】


COVID-19:アビガンの国内第二相がフェール
(2020年7月10日発表)

藤田医科大学が主導して実施していたfavipiravirの第二相試験が主目的を達成できなかったことが公表された。点推定値自体は悪くなさそうだが、favipiravirを使わない対照群と有意な差がなかった。

臨床試験の目的は白黒はっきりさせることであり、結果が期待通りであろうがなかろうが、有効か無効かハッキリするならば人類にとって大きな意義がある。逆に、曖昧な結果に終わった場合、治験に投じられたボランティアの好意と研究者の熱意、そして関わった全ての人の時間や資金が徒労に終わってしまうだけでなく、今後の研究の患いにすらなりかねない。

一例はremdesivirだ。ACTT-1試験が成功し日本などで承認されたが、当初は、中国湖北省で行われたremdesivirの重症COVID-19試験がフェールしたこととの整合性が議論になった。このYeming Wangらの試験も点推定値は良好なもので、偽薬群と有意差が出なかったのは組入れが目標に達せず検出力不足に陥ったことが原因だろう。武漢などでの流行が鎮静化したのは住民にとっては良かったが治験の新規組入れが困難になってしまった。

藤田医科大学ら47医療機関で実施された特定臨床研究の場合、無症状又は軽症のCOVID-19感染者の組入れが89名と予定の86名を越えたので組入れ不足が原因ではなさそうだ。治療開始時点ですでにウイルス消失していた患者など20名が薬効解析対象から除外されたため検出力不足に陥ったのかもしれないが、治療効果の前提や解析計画が甘かったのかもしれない。第二相という立て付けなので、そもそもオフィシャルな仮説はなかったのかもしれないが、だとしたら、この試験に基づいてfavipiravirを承認するというのはずいぶん乱暴な話だったことになる。

主評価項目の累積ウイルス消失率は試験薬群が66.7%、対照群は56.1%、調整後ハザード比は1.42で95%信頼区間は0.76-2.62とのこと。この治療効果では不満という人もいるかもしれないが、通常、何かの病気の臨床試験で有効率が偽薬を10ポイント上回れば、副作用面で大きな問題がない限り、承認を取ることが可能だ。第三相に向かえば成功するかもしれない、との思いを捨てきれない。

尤も、富士フィルム富山化学が主導する非重篤肺炎合併患者の第三相は目標症例数96名、薬効評価項目は7ポイントスケールによる患者状態推移となっており、検出力が足りているかどうか、不安になる。

COVID-19治療薬の探索は世界中で実施されているが、ACTT-1試験の組入れは1000人超、オックスフォード大学が主導しているRECOVERY試験はhydroxychloroquineやlopinavir・ritonavir併用が無効、dexamethasoneは有効であることを明確にする大きな成果を上げたが、各剤の組入れ数は1500名を越えている。英国は大流行したからこれだけの患者を組入れられたのだろうが、中国のCOVID-19ワクチン開発企業がブラジルの医療施設を追加するなど、感染者数不足をグローバル化で克服する動きも出ている。日本も、いつまでもガラパゴスを決めつけないで、大規模な国際治験に一兵卒として参加することによって井の中の蛙ではないことを証明すべきではないだろうか。スマホでは、既に、外国企業の製品が席巻している。政治家や行政はテリトリーがありグローバル化が遅れているが、国民や企業は日本に拘る理由はなく、日本の企業、大学というだけで肩入れしてもらえると思わない方が良い。

リンク: 藤田医科大学のプレスリリース
リンク: 治験登録(JRCTサイト)
リンク: 富士フィルム富山化学主導試験の治験登録(JAPIC臨床試験情報サイト)


【新薬開発】


イーライリリーの抗IL-23p19抗体も第三相が成功
(2020年7月17日発表)

イーライリリーは、IL-23のp19サブユニットに結合する抗体医薬LY3074828(mirikizumab)の最初の第三相試験の結果を発表した。中重度尋常性乾癬における治療効果を偽薬やノバルティスの抗IL-17抗体Cosentyx(secukinumab)と比較したOASIS-2試験で、主評価項目の16週治療奏効率が偽薬を有意に上回り、副次的評価項目のCosentyx群比16週非劣性解析と52週優越性解析も成功した。プレスリリースには明記されていないが承認申請に向かうのではないか。

本試験はsPGA(医師による静的総合評価)とPASI90を用いて奏効評価した。250mgを4週毎皮注した群の16週sPGA奏効率は79.7%と偽薬群の6.2%を有意に上回り、Cosentyx群の76.3%とは非劣性だった。PASI90も同様で、達成率は各74.4%、6.3%、72.8%だった。

LY3074828群は厳密には2群あり、一方は16週以降は125mgを8週毎に、もう一方は250mgを8週毎に、皮注した。Cosentyxは承認用法に則り継続、偽薬群は16週で終了した。52週時点のsPGA奏効率は各83.1%、83.3%、68.5%、PASI90達成率は各81.4%、82.4%、69.4%となり、LY3074828が有意に上回った。

忍容性は類薬と大差なかったとのこと。

既存の抗IL-23p19抗体は、17年に欧米で承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンのTremfya(guselkumab、和名トレムフィア)、18年承認のサンファーマのIlumya(tildrakizumab-asmn、和名イルミア)、19年承認のアッヴィのSkyrizi(risankizumab-rzaa、和名スキリージ)。何れもIgG1抗体だがイーライリリーはIgG4抗体であることが目を引く。

夫々の第三相試験で達成したPASIを見比べると、PASI75達成率が他の三剤のPASI90達成率を下回っているIlumya以外は大差ないように見える。用法は何れも皮注。分かりやすい違いは投与頻度で、SkyriziとIlumyaは維持期の投与頻度が12週毎で、初年度は6回投与するが、8週毎のTremfyaは8回、LY3074828は9回と多い。

こうして見ると、類薬と差別化するためには工夫が必要だろう。同社はクローン病や潰瘍性大腸炎の第三相試験も実施しており、適応の広さでビハインドを縮める戦略なのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

ブリリンタの脳卒中再発予防試験論文が刊行
(2020年7月16日発表)

アストラゼネカとMSDは、THALES試験の治験論文がNew England Jourmal of Medicine誌に刊行されたのに合わせて、データ概要を発表した。非心原性の急性虚血性卒中(AIS)または一過性虚血発作(TIA)を発症してから24時間以内の患者約11000人を組入れて、アスピリンとP2Y12受容体拮抗剤Brilinta(ticagrelor、和名ブリリンタ)を30日間併用するレジメンの再発予防効果をアスピリン・偽薬併用と比較したところ、死亡・脳卒中リスクが有意に低下したが、頭蓋内出血や致死的出血も増加した。

アストラゼネカはFDAに適応拡大を申請し受理された。審査期限は今年第4四半期の予定。

Brilintaのような抗血小板薬は血栓が詰まることで発生する脳卒中や心筋梗塞のリスクを削減するが、体内で頻繁に発生する出血が自然治癒するのを妨げるので、どの薬でも、どの用途でも、便益と出血リスクを天秤にかける必要がある。適応患者全てに処方するのではなく、医師が患者毎に適否を判定して使うことになるのではないか。

この試験ではアスピリンは初日は300~325mg、2日目からは75~100mgを一日一回、Brilintaは初日は一回180mg、2日目からは一回90mgを、一日二回、服用した。先日承認された、冠動脈疾患患者の初発予防用途での用量(60mg一日一回)とは異なり、再発予防用途での一年目の用量と同じだ。

主評価項目の30日死亡・卒中リスクはハザードレシオが0.83(95%信頼区間0.71~0.96)、p=0.02となった。併用群の発生率は5.4%と偽薬併用群の6.5%を1ポイント強、下回った。卒中だけのハザードレシオは0.81、発生率は各5.1%と6.3%と良好な結果が出た一方で、死亡だけのハザードレシオは1.33、発生率は0.6%と0.5%で、信頼区間は1を跨いでいるものの、気にかかる。

安全性指標は、重度出血のハザードレシオは3.99、p=0.001、発現率は0.5%と0.1%。中でも深刻な頭蓋内出血・致死的出血はハザードレシオ3.66で有意、発現率は0.4%と0.1%。中でも深刻な致死的出血の発現数は各11人と2人で、差は9人なので、611人に投与すると一人が副作用で出血死亡する計算になる。有意性の有無は記されていないが、事後的にでも検定を行なえば有意に達するのではないか。Time-to-eventではなく単純に母数と発現数を元に簡便法に基づいてp値を推定したところ、0.01となった。

リンク: Johnstonらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

テセントリク、卵巣癌の四剤併用試験がフェール
(2020年7月13日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMagyn050試験の主評価項目の一つがフェールしたと発表した。進行卵巣癌の一次治療を受ける患者のネオアジュバント/アジュバント療法として、paclitaxel、carboplatin、およびAvastin(bevacizumab)のレジメンにTecentriqを追加する効果を偽薬追加群と比較したが、PFS(無進行生存期間、担当医評価)の解析がフェールした。この試験は全生存期間も主評価項目。また、PFSも全生存期間もIntent-to-treatとPD-L1陽性サブグループの解析を行う由。プレスリリースには明記されていないが、PFS解析は両方フェールしたのだろう。全生存期間は未成熟なので治験を続行する。

抗PD-1/PD-L1抗体のような免疫療法は腫瘍を小さくする効果の割には延命効果が大きい傾向があるが、常識的に考えれば、PFSがフェールした以上、全生存期間の解析に期待するのは難しそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


バイエル/MSD、新規作用機序の慢性心不全治療薬を米国でも承認申請
(2020年7月16日発表)

バイエルとMSDは、BAY 1021189/MK-1242(vericiguat)を慢性心不全治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年1月20日。日欧でも承認申請中。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症などの治療薬として日米欧で承認されているAdempas(riociguat、アデムパス)と同じ可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤で、酸化窒素-sGC-cGMP回路に介入、sGCの酸化窒素感受性を高め、血管平滑筋の弛緩を誘導する。

承認申請の根拠となるVICTORIA試験では、慢性心不全が増悪して入院したり利尿薬静注を受けたりした患者のうち、駆出率が45%未満で、過去6ヶ月に心不全悪化による入院歴があり、収縮期血圧が100mmHg以上、等の条件を満たす約5000人を日米欧中など42ヶ国の施設で組入れて、心血管疾患死または心不全入院のリスクを偽薬と比較した。結果はハザードレシオ0.90、p=0.019と、すごく良いわけではないが、メジアン10ヶ月の追跡で主評価イベント発現率が各35.5%と38.5%と高いため、number-needed to-treatは24と良好な数値になった。

NT-proBNPの四分位で最も高いサブグループを除外すると、もっと良い数値になる。サブグループ分析は信頼性が低いが、感受性分析などで支持されるようならば、このサブグループに限定して承認される可能性もあるのではない。

尚、この試験では両群とも治療ガイドラインに即した標準医療を施行するプロトコルだったが、実際の遵守率は60%程度で、最近の新薬であるノバルティスのEntresto(sacubitril-valsartan)を服用していたのは15%のみだった。心不全の治療ではガイドラインが推奨するような多剤併用によるアグレッシブな治療を差し控えることが少なくない、とよく言われる。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、テルリプレシンの評価が割れる
(2020年7月15日発表)

アイルランド籍のマリンクロット(NYSE:MNK)は、1型肝腎症候群の治療薬として米国で承認申請しているterlipressinをFDA心血管腎臓薬諮問委員会が検討し、承認賛成が8人、反対が7人だったと発表した。FDAの諮問委員会は承認の是非を判断する組織ではなく、特定の事項について意見を聞く場に過ぎないので、差が一人に過ぎないとなると、承認される可能性も、されない可能性もありそうだ。審査期限は9月12日。

肝腎症候群は肝硬変や肝炎の合併症で急性腎不全を起こす。メジアン生存期間2週間の危機的疾患だ。terlipressinはバソプレシンの類縁体でV1受容体を選択的に作動する。欧州では肝腎症候群の深刻な合併症である食道静脈瘤による出血の治療薬Glypressinとして承認されている。

米国での開発歴は順調ではなく、最初の第三相はフェール。Orphan Therapeutics社は09年に承認申請を断行したが審査完了通知を受領した。翌年に北米とオーストラリアの権利を取得したIkaria社が第三相を実施したがフェール。マリンクロットは15年にIkariaを23億ドルで買収、三度目の第三相が成功し、今年3月にローリング承認申請を完了した。

主評価項目の1型肝腎症候群反転奏効率は29%と偽薬群の16%を有意に上回ったが、効能は専ら血清クレアチニンの低下で、ICU入室期間や腎移植後生存期間などは偽薬と有意差がなかった。深刻な疾患であるにもかかわらず延命効果は不明で、呼吸不全による死亡や敗血症による死亡はむしろ偽薬群の数倍に増加した。標準療法であるアルブミンとの相性が影響している可能性も考えられるようだ。

危機的状況の患者の生命予後は区々なので救命効果を検討するためには組入れ数を多く取る必要があるが、米国の対象患者は年3-4万人と決して多くはないので難しい。治験中に腎移植を受けられるか否かでも大きく変わってしまう。それでも、1~2割の患者が副作用で死亡する懸念があるのだから、それ以上に多くの患者の寿命が延びるというエビデンスが欲しいところだ。

リンク: 同社のプレスリリース

FDA諮問委員会、GSKの抗BCMA抗体薬物複合体の承認に賛成
(2020年7月14日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、グラクソ・スミスクラインが多発骨髄腫のサルベージ療法として承認申請したGSK2857916(belantamab mafodotin)について意見を聞いた。12人の諮問委員全員が承認に賛成した。

BioWaのポテリジェント技術で強化した抗BCMA抗体と、シアトル・ジェネティクスからライセンスしたリンカーでMMAF細胞毒を結合した抗体薬物複合体。再発・難治多発骨髄腫試験で2.5mg/kg群のORR(客観的反応率)が31%、VGPR以上だけだと18%、メジアン反応期間は6ヶ月以上だった。3.4mg/kgもテストされたが、ORRは34%と大差なかった。G3/4有害事象は角膜症など。顕著な視力低下を来した症例もあるので眼科医との連携が必要だ。

この試験は3次以上の治療歴を持つ患者を対象としたが、被験者の84%が4次以上、メジアン7治療歴であったため、5次治療薬として承認申請されている模様。審査期限は未公表だが、承認申請の公表時期から推測すると、7~8月ではないか。

リンク: GSKのプレスリリース

カンタリジンは承認審査完了に
(2020年7月14日発表)

Verrica Pharmaceuticals(Nasdaq:VRCA)はVP-102(cantharidin)0.7%局所用液を伝染性軟属腫(みずいぼ)治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。二重盲検試験二本で84日完全寛解率が一本は46%(偽薬群は18%)、もう一本は54%(13%)と良好な成績を上げたが、6月に同社が公表した問題がネックになったようだ。

伝染性軟属腫は必ずしも治療が必要なわけではないが、周りの人に警戒されるのを恐れるのか、切除などの治療を受ける患者も多いようだ。カンタリジンは日本でもかって使われていた昆虫由来の成分で、皮膚に水疱を起こすのを逆用して疣取りに使われることがあるが、リスクもあるので使い方が難しい。米国では未承認。

6月のプレスリリースによると、アプリケータを正しく使わないと安全性懸念が生じることが判明。対策を講じたが、患者が用法を正しく理解・実行することができるかどうか確認するための試験や、アンプルではなくアプリケータ内での安定性を調べる検査が行われていないようだ。

リンク: Verricaのプレスリリース

CytoDyn社、抗CCR抗体の承認申請がFDAに受理されず
(2020年7月13日発表)

米国ワシントン州のCytoDyn(OTC.QB:CYDYO)はleronlimabをHIV/AIDSのサルベージ治療薬としてFDAに承認申請していたが、受理されなかった。資料不足と判定されたようだ。同社はFDAとタイプAミーティングを持って対応を協議する考え。

leronlimabは、今年6月にLantheus Holdings(Nasdaq:LNTH)の子会社となったProgenics Pharmaceuticalsの抗CCR5ヒト化抗体、PRO 140をライセンスしたもの。CCR5は白血球のケモカイン受容体で、HIVウイルスが細胞に侵入する時の取っ掛かりとなる。阻害薬はフェイザーが小分子薬Selzentry(maraviroc、和名シーエルセントリー)を商品化したが、CXCR4向性ウイルスを選択するリスクがあり、主流にはなっていない。

米国の新興企業はパイプラインの開発状況を小まめにアップデートしながら毎年のように資本市場から資金調達するのが習わしとなっている。CytoDynは4月にローリング承認申請を完了した旨発表したが、不具合があったようで、5月に改めて完了宣言した。その後も優先審査要請したことや、FDAから7月10日にも審査期限が決まる可能性があるとの連絡を受けたことなどを公表したが、同社の周りは時空が歪んでいるのか、思わぬ展開になった。

同社はleronlimabをトリプルネガティブ乳癌などにも開発しており、今年に入って、COVID-19試験も開始した。同社はこの第二相試験の結果が間もなく纏まることなども公表して、失地回復に努めている。

リンク: CytoDynのプレスリリース


【承認】


JNJ、トレムフィアが乾癬性関節炎に承認
(2020年7月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Tremfya(guselkumab、和名トレムフィア)を成人の活性期乾癬性関節炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。この適応拡大は抗IL-23p19抗体では初めて。

Tremfyaは17年に欧米で、18年には日本でも、中重度乾癬治療薬として承認された。乾癬患者の最大30%が関節炎を合併と推定されているので、当該患者には効能追加という意義もある。

臨床試験では、TNF阻害剤経験者ではACR20が52%(偽薬群は22%)、ナイーブ試験では64%(同33%)だった。

リンク: JNJのプレスリリース






今週は以上です。

2020年7月10日

第954回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:ケブザラは人工呼吸器装着患者にも効果が不十分? 
  • COVID-19:WHOも2剤の臨床試験を中止 
  • COVID-19:抗体カクテルの暴露後予防試験が開始 
  • COVID-19:Novavaxなどが米国政府とワクチン等の供給契約 
  • バイエル、ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤の糖尿病アウトカム試験が成功 
  • イドルシア、daridorexantの二本目の不眠症治療試験が成功 
  • キッセイのGnRHアンタゴニストの海外第三相試験が成功 
  • Immunomedics、Trodelvyの承認後薬効確認試験が成功 
  • バイオジェン/エーザイ、aducanumabをアルツハイマー病に承認申請 
  • レオ ファーマ、抗IL-13抗体をアトピーに承認申請 
  • 第一三共、エンハーツをEMAに承認申請 
  • キイトルーダとレンビマの併用、肝癌承認はお預け 
  • FDA、大塚製薬グループ会社の経口デシタビンを承認 


【今週の話題】


COVID-19:ケブザラは人工呼吸器装着患者にも効果が不十分?
(2020年7月2日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、抗IL-6受容体アルファ・サブユニット抗体Kevzara(sarilumab)のCOVID-19肺炎試験のうち米国試験がフェールしたと発表した。第2/3相試験のフェーズIIポーションで重症(ベースライン時点で酸素投与)サブグループの成績が悪かったためフェーズIIIポーションでは400mg群の危機的(人工呼吸器装着、ハイフロー酸素投与、またはICU入室)患者196人の治療転帰を偽薬群と比較したが、統計的に有意な差がなくトレンドに留まった。一方、重症患者に関してはネガティブな結果だった。

データは未公表だが、深刻有害事象発現率は、多臓器不全症候群は6%(偽薬群は5%)、低血圧は4%(3%)、と若干ではあるが上回っている。前者は薬効評価項目の一部とオーバーラップするので、偽薬より数値上多いのは残念だ。

この試験は800mgを投与するコフォートも設定されていたが、どちらも、中止となった。

Kevzaraはサノフィが主導して日欧露でも第三相COVID-19肺炎試験が進行中。投与スケジュールなどが若干異なるらしく、両試験共通の独立データ監視委員会は治験続行を勧告した。7-9月期に結果が出る見込み。

抗IL-6受容体抗体は中国で行われたActemra(tocilizumab)の小規模な試験で良さそうな結果が出たことが報じられ、ActemraやKevzara、そしてインターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達に係るヤヌスキナーゼを阻害するJAK阻害剤などの臨床試験が活発化した。真っ先にスタートしたKevzaraの米国試験がフェールしたのは嫌な辻占いだ。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:WHOも2剤の臨床試験を中止
(2020年7月4日発表)

WHOはSolidarity試験のhydroxychloroquine(HCQ)群とritonavir-boosted lopinavir(製品名Kaletra)群を打ち切ることを発表した。運営委員会が中間解析結果を踏まえて中止勧告したもの。英国のRECOVERY試験の結果を追認した格好だ。

この試験は、COVID-19に感染し入院した患者5000人超をremdesivir群、HCQ群、Kaletra群、Kaletraとインターフェロン・ベータ1aの併用群、標準療法群に無作為化割付して転帰を比較したもの。HCQ群は疫学論文(後に撤回)で安全性懸念が示唆されたため新規組入れを中断していた。

アウトカム試験がフェールした場合に同じようなデザインのアウトカム試験を行っている研究者がどう対処すべきかは難しい問題だ。remdesivirはNIH(米国立衛生研究所)が主導した試験で効果が確認されたので、Solidarity試験など同時進行している試験でも、標準療法群の患者にremdesivirを標準療法として使えるようにすべきかもしれない。しかし、米国以外の国で再現されるとは限らないので、治療中の患者の同意を得た上で可能な限りそのまま続行してエビデンスを強固にすることも重要だ。

今回の打ち切りはどちらだろうか?プレスリリースを読む限りでは、他の臨床試験だけでなく、SOLIDARITY試験の中間解析でも、期待された効果は具現していないようだ。論文発表/原稿公開されれば明らかになるだろう。

リンク: WHOのプレスリリース

COVID-19:抗体カクテルの暴露後予防試験が開始
(2020年7月6日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、REGN-COV2の第三相COVID-19予防試験に着手したと発表した。感染者の同居人など、SARS-CoV-2に暴露した可能性のある2000人を米国の医療施設で組入れて、実際は予防というよりは早期介入の効果を検討する。米国立衛生研究所傘下の米国立アレルギー・感染症研究所と共同で執行する。

本命用途である治療試験は、第1/2/3相試験のフェーズIポーションが終了、フェーズII/IIIポーションに入った。米国とブラジルなどの施設で入院患者1850人と非入院患者1050人を組入れる予定だが、アダプティブ・デザインなので今後、変更される可能性がある。

REGN-COV2は回復期患者やライブラリーから同定した中和抗体二種類のカクテル。スパイク蛋白の異なった受容体結合ドメインに結合し、ウイルスが細胞に侵入するのを妨げる。エボラウイルス疾患の臨床試験では、後にCOVID-19治療薬として承認されることになるremdesivirよりもリジェネロンなど数社の抗体カクテルのほうが救命効果が高かった。COVID-19でも期待が大きい。

欧米の流行では中国などではあまり見られなかったD614G置換を持つウイルスが多く、いわゆるファクターXの候補の一つになっているが、REGN-COV2はこの変異型にも有効性を示したとのこと。これが原因で欧米では又はアジアでは効かない、という心配はなさそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:Novavaxなどが米国政府とワクチン等の供給契約
(2020年7月7日発表)

トランプ政権は、スタートレックのエンタープライズ号や宇宙戦艦ヤマトのように超光速のスピードでCOVID-19ワクチンや治療薬を開発する『ワープ・スピード作戦』を推進している。通常なら数年かかる新薬開発を1年足らずに短縮するため、臨床試験や量産方法確立、サプライチェーンや生産に係る莫大な先行投資の一部を助成することで資金調達や失敗した時のリスクを分担し、成功したら、所定の数量を取得する。来年1月までに3億回分のワクチンを確保することを狙っている。保険福祉省と国防省の長官が主導する。

具体的な助成先については観測記事しか出ていなかったが、米国のワクチン開発ベンチャー、Novavax(Nasdaq:NVAX)とリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)が開発生産供給契約を決めた旨、発表した。

Novavaxの開発品はNVX-CoV2373。バキュロウイルス・ベクターで抗原遺伝子を昆虫細胞に導入して製造するワクチンで、Matrix-Mアジュバントを混合して免疫原性を高めている。第1/2相試験中で、フェーズIポーションの結果は今月中にも明らかになる見込み。順調なら20年秋から3万人規模の第三相を行う考えで、中国企業やアストラゼネカ、Moderna(Nasdaq:MRNA)を追いかけている。6月に国防相と6000万ドル相当の契約を結び、開発生産成功時に1000万回分を供給することを決めたが、今回、ワープ・スピード作戦の一環として16億ドル相当という大きな契約を決めた。後期臨床開発や量産方法の確立に充てるとともに、FDAの承認/非常時使用認可を前提に、20年末から1億回分を供給する。

リンク: Novavaxのプレスリリース

リジェネロンの開発品はREGN-COV2。ウイルスが細胞に侵入する時に使うスパイク蛋白に結合する二種類の中和抗体のカクテルで、第2/3相治療試験と第3相暴露後予防試験が始まったところ。同社も以前から保健福祉省とパートナーシップを結んで様々な病原体に対する抗体医薬の研究開発を行っているが、今回、ワープ・スピード作戦として4.5億ドル相当の契約を決めた。一回分の用量が決まっていないので流動的だが、治療用途で7~30万回分、予防用途なら42~130万回分を供給することになる。

リンク: リジェネロンのプレスリリース

前回も書いたようにワクチンの開発は心配な点も多く、Novavaxのようなベンチャー系の企業の場合、フェールしたら経営が破綻しかねないので、政府助成によるリスクシェアリングは必須だ。国民の税金を使う以上、開発が成功したら便益をフルに享受できるような仕組みにしなければならない。トランプ大統領が、国内需要が充足されるまで米国製ワクチンの輸出を認めないと言っているのはこれが背景の一つだろう。

つまり、ほかの国は、様子見を決め込んで勝ち組が決まったら便乗する戦術ではワークせず、自分もリスクを取って(資金を出して)青田買いに踏み切るべきである。種を蒔かざる者、食うべからず。


【新薬開発】


バイエル、ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤の糖尿病アウトカム試験が成功
(2020年7月9日発表)

バイエルは、BAY 94-8862(finerenone)のFIDELIO-DKD試験が成功したと発表した。慢性腎疾患を合併する二型糖尿病患者約5700人を組入れて、10mg錠または20mg錠を一日一回経口投与する群と偽薬群の腎臓アウトカムを比較した試験で、主評価項目(腎不全、eGFRが持続的に40%以上低下、または腎疾患死の複合評価項目)と、主要副次的評価項目(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または心不全入院の複合評価項目)が共に成功した。

データは学会で発表する考え。承認申請に向けて当局と相談する予定。

BAY 94-8862は非ステロイド系のミネラルコルチコイド受容体拮抗剤。アルドステロンがミネラルコルチコイド受容体に結合して血圧の上昇や心臓のリモデリングを誘導するのを妨げる。ステロイド系の薬が心不全などの治療薬として承認されているが、腎機能低下をもたらすリスクがある。

非ステロイド系は腎毒性が小さく、日本で昨年承認された第一三共の降圧剤、ミネブロ(エサキセレノン)も、糖尿病性腎症試験の成功が発表された。主評価項目は尿中アルブミン/クレアチニン比なので迫力が劣るが、BAY 94-8862の主評価項目も、常識的に考えれば、eGFRという代理マーカーが悪化してヒットした症例が多いだろうから、実質的には大差ないかもしれない。但し、心血管アウトカムは、日本はともかく欧米では、重要だ。

現時点では両剤の効果や忍容性を比較するのに必要な情報が足りない。分かりやすい違いは、ミネブロは半減期が4時間と短いため、一日二回服用する。バイエルのもう一本の第三相試験の対象である心不全では一日二回が珍しくないが、高血圧症や糖尿病性腎症には一回のほうがコンプライアンスが良いのではないか。

リンク: バイエルのプレスリリース

イドルシア、daridorexantの二本目の不眠症治療試験が成功
(2020年7月6日発表)

イドルシア(SIX:IDIA)は、daridorexantの二本目の第三相不眠症治療試験が成功したと発表した。年末頃に米国で承認申請する計画。

イドルシアはアクテリオンがジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にパイプラインを持ってスピンアウトした会社。daridorexantはアクテリオンがACT-541468と呼んでいたデュアル・オレキシン受容体アンタゴニスト。4月に成功発表された最初の第三相では、25mgと50mgの両方で客観的入眠潜時(PSG-LPS)と中途覚醒時間(WASO)、主観的総睡眠時間(sTST)が偽薬比有意に改善し、50mgでは日中機能でも有意差があった。今回の試験は925人(うち39%は65歳以上)の慢性不眠症患者を組入れて10mgと25mgをテストしたところ、25mg群のPSG-WASOとsTSTが偽薬比有意に改善した。PSG-LPSや日中機能はトレンドに留まった。また、10mgはこれらの指標全てでトレンドに留まった。

これらの試験の主評価項目は二種類の用量の第1月と第3月のPSG-LPSとWASOで、一本の試験で8回、検定を行うので、個々の解析のp値の閾値は0.05より遥かに小さくなる。プレスリリースでは16件の検定と記しているので副次的評価項目のsTSTや日中機能の解析にもアルファを配分しているのかもしれない。

それだけに、有意差がないイコール効果がないとは言えないが、何れにせよ、一般に不眠症治療薬の効果は大きくないので、どんなフェールでもフェールはフェールと考えた方が良いかもしれない。

尚、日本ではイドルシア ファーマシューティカルズ ジャパンが持田製薬と共同開発している。

リンク: イドルシアのプレスリリース

キッセイのGnRHアンタゴニストの海外第三相試験が成功
(2020年7月6日発表)

スイスのオブシーバ(Nasdaq:OBSV、SIX:OBSN)は、linzagolixの二本目の第三相子宮筋腫試験が成功したと発表した。24週時点の月経過多治療奏効率が100mg群は56.4%、200mg群(estradiol及びnorethindrone acetateを併用)は75.5%と偽薬比有意に上回った。尚、一本目の試験では各56.7%と93.9%で偽薬群は29.4%だった。

欧州で今年第4四半期に、米国では来年上期に承認申請する計画。

linzagolixはキッセイ薬品のKLH-2109の日本などアジアの一部以外での権利をライセンスしたもの。アッヴィが Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)からライセンスして商業化したOriahnn(elagolix)やMyovant Sciencesが武田薬品からライセンスし開発したMVT-602(relugolix)と同様なGnRHアンタゴニストで、何れも経口投与できることが特徴。三剤の間では、処方期間制限(長期服用時の安全性)で差別化できるかどうかが注目点になろう。

リンク: 同社のプレスリリース

Immunomedics、Trodelvyの承認後薬効確認試験が成功
(2020年7月6日発表)

Immunomedics(Nasdaq:IMMU)は、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第三相ASCENT試験のデータを公表した。今年4月にFDAに加速承認された抗EGP-1抗体とirinotecan活性代謝物のADC(抗体薬物複合体)のフェーズIVコミットメントとして行われた試験で、承認内容とほぼ同じ、転移後に二次以上の治療歴を持つトリプル・ネガティブ乳癌に10mg/kgを投与する効果を医師が選んだ薬(選択肢はeribulin、capecitabine、gemcitabine、vinorelbine)と比較した。4月に独立データ安全性間委員会が『ルーチン評価に基づき圧倒的な効果による中止勧告』を行った旨、発表済み。

主評価項目のPFS(無進行生存期間)はメジアン5.6ヶ月と実薬対照群の1.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.41(95%信頼区間0.32-0.52)だった。副次的評価項目である全生存期間の解析も成功したとのこと。

Immunomedicsは加速承認を本承認に切り替えるよう申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


バイオジェン/エーザイ、aducanumabをアルツハイマー病に承認申請
(2020年7月8日発表)

バイオジェンとエーザイは、スイスのNeurimmune社からライセンスして両社で共同開発しているBIIB037(aducanumab)をアルツハイマー病治療薬としてFDAに承認申請した。他の地域では現在も当局と相談中。

この抗アミロイド・ベータ抗体は、アルツハイマー性軽度認知障害(MCI)または軽度アルツハイマー病の患者を偽薬、低用量、または高用量に無作為化割付して78週間の病状悪化を比較する第三相試験が二本、実施されたが、昨年3月にデータ監視委員会が無益認定した。しかし、その後の追跡データの盲検分析で、途中で改定されたプロトコル通りにApoE4陽性患者にも10mg/kgを月一回静注すれば症状の悪化をある程度抑制できる可能性が浮上した。

背景と経緯を復習すると、aducanumabのような抗アミロイド抗体を投与するとARIA-E(アミロイド関連画像異常を伴う浮腫)が発現することがあり、加齢性アルツハイマー病のリスク遺伝子であるApoE4陽性を持つ患者は特に発現率が高い。このため、当初のプロトコルでは、被験者の6~7割を占めたApoE4陽性患者の用量を抑えていた。具体的には、高用量群は10mg/kgに代えて6mg/kg、低用量群も6mg/kgに代えて3mg/kgを、月一回静注した。また、ARIAが発現したら投与を中断しなければならなかった。

その後、他社の抗アミロイド・ベータ抗体の症例も含めてARIAの転帰がそれほど悪くないことや、用量漸増でリスクを減らせることが判明したため、治験開始の翌年になって、プロトコルを変更してApoE発現後の投与継続を可とした。更にその翌年、高用量群のApoE4陽性患者も10mg/kgを目標に滴定することになった。しかし、その時点では組入れがかなり進行していたため、組入れ時期やARIA発現時期によって累積投与量が変わってしまう事態になった。

一番影響を受けたのが中間無益性解析だ。比較的早く治療を開始した患者が多いからだ。二本合計で1748例を分析したが、ENGAGE試験は無益認定、EMERGE試験もポジティブなトレンドに留まったため、データ監視委員会が二本とも成功する確率は低いと判定、中止勧告した。

その後の最終解析では、ENGAGE試験はフェールしたものの、EMERGE試験は高用量群が偽薬群と有意な差があった。

二本の明暗が分かれた理由として浮上したのが10mg/kgの暴露の違いだ。ENGAGE試験のほうが1ヶ月先に始まり組入れも早かったため、高用量群の78週間の累積投与量はEMERGE試験が平均140mg/kgであったのに対して、ENGAGE試験は126mg/kgに留まった。10mg/kgを10回以上投与した患者だけのデータは、両試験とも、良さそうな数値だった。EMERGE試験もプロトコル変更の影響を受けたわけだから、最初から10mg/kgを目指して滴定していたらもっと良い結果が出た可能性もある。

さて、FDAはaducanumabを承認するだろうか?

ネガティブ材料は二点ある。第一は治療効果の小ささ。アルツハイマー病の代表的な治療薬であるアセチルコリン還元酵素阻害剤の効果は、イメージ的には、症状が半年前の状態に戻るが、そこからまた悪化しはじめる。aducanumabの効果は、症状の悪化は続くが偽薬より小さい。

昨年のCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表されたデータによれば、EMERGE試験では高用量群のCDR-SBスコアの78週間の悪化が偽薬比22%小さかった。ベースライン時点の平均値は各群2.5前後で、偽薬群は1.74低下(悪化)したが、高用量群はそれより0.39小さかった(逆算すると、1.3程度悪化した)。

CDRは軽度認知障害やアルツハイマー病の代表的な症状・兆候6項目の夫々について0から3までの点数で評価する。今回の試験のように早期の患者の場合は0.5前後の項目が多いだろうから、治療効果が0.4というのは、一つの項目が一段階進むか進まないか程度の差に過ぎないのではないか(CDR-SBは単純合算ではないので推測に過ぎないのだが)。何れにせよ、被験者の8割がMCIで元々の症状が軽いのだから治療効果が小さいのは当たり前と言えば当たり前なのだが。

第二はエビデンスの頑強さ。FDAが原則として薬効確認試験を二本実施することを求めているのは、一般的な有意性判定基準であるp=0.05では不十分と考えているからだ。偶然に0.05を下回る確率は5%、つまり20回に一回だが、二本の独立した試験の両方で5%を下回る確率は0.25%、400回に一回だ。裏返すと、成功した試験が一本でもp値が0.0025未満なら承認される可能性がある。逆に、成功が一本だけでp値が0.01とか0.03では、偶々成功した可能性を否定できない。

上記のように、一部の患者だけの解析やその妥当性を検証する感受性分析では良好な数値が出ているが、このような事後的サブグループ分析で浮上した仮説を確認する前向き試験がフェールした事例は枚挙に暇がない。

更に、今回のような長期間の試験は途中で離脱した患者のデータの取り扱いが難問だ。EMERGE試験のCDR-SBの推移を示すグラフを見ると、50週時点では偽薬群と標準偏差レンジが重なっているが、50週と78週のデータをつなぐラインの傾きが急に穏やかになり、78週時点ではレンジが分離した。しかし、グラフの右側に行けば行くほど解析対象が減りサバイバル・バイアスのリスクも高まるので、統計学的な信憑性は低下していく。

FDAは、アルツハイマー病薬に関しては、どの程度の治療効果が必要なのか分からないので統計的に有意な差があれば効果の多寡は問わないという姿勢を従来から示している。しかし、エビデンスの頑強性が弱いとなると、効果の多寡を考えざるを得ないだろう。

Unmet Medical Needであることは確かなので、薬効やエビデンスが不確かでも承認される可能性はあるだろう。価格は高く設定されるだろうし、長期投与される可能性もあるので、医療保険にとっては重荷になる。私見では薬が高いのは正しい用途、用法に関する情報に価値がある。しかし、私には理解できない新薬が増えている。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

レオ ファーマ、抗IL-13抗体をアトピーに承認申請
(2020年7月9日発表)

デンマークの皮膚病治療薬会社、レオ ファーマは、tralokinumabを欧米で承認申請し受理されたことを明らかにした。成人の中重度アトピー性皮膚炎にモノセラピー又は局所ステロイドに追加で使う。米国の審査期限は来年第2四半期とのこと。日本でも承認申請予定。

アストラゼネカが06年に完全子会社化した、ファージ・ディスプレイというノーベル賞技術を持つケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジーがCAT-354として創製した抗IL-13完全ヒト化IgG4型抗体で、アストラゼネカは喘息用薬としての開発を断念したが、16年に皮膚学領域での権利を取得したレオが300mg(初回は600mg)を二週毎に皮注する用法で第三相を三本実施。何れも16週時点のIGA0/1達成率やEASI-75奏効率が偽薬群を10~20ポイント上回った。奏効者を対象とする維持試験も成功し、奏効維持率が劣るものの四週毎皮注で足りる患者も多いことが判明した。

アトピー用の抗IL-13抗体としては、ジェネンテックが創製し喘息用薬として開発したが十分な効果が見られず17年にカリフォルニア州の皮膚病薬会社Dermiraに導出した、MILR1444A(lebrikizumab、ジェネンテックの開発コードはPRO301444、親会社のロシュではRG3637)が第三相試験中。尚、Dermiraは今年1月、イーライリリーによる買収に合意した。

似たような薬で最も重要なのは、リジェネロン・ファーマシューティカルズがサノフィと共同開発販売しているDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)だ。IL-4受容体アルファに結合する抗体だが、このサブユニットはIL-13受容体の構成メンバーでもある。17年に欧米で中重度アトピー性皮膚炎治療薬として承認されて以来、好酸球性喘息症など様々な疾患に適応を広げている。

リンク: 同社のプレスリリース

第一三共、エンハーツをEMAに承認申請
(2020年7月7日発表)

第一三共はEnhertu(trastuzumab deruxtecan、和名エンハーツ)をEMA(欧州医薬品庁)に手術不能/転移HER2陽性乳癌用薬として承認申請し受理されたと発表した。加速審査指定を受けている。

Herceptinの活性成分である抗her2抗体trastuzumabとirinotecan誘導体を結合したADC(抗体薬物複合体)。世界に先駆けて日本で19年9月に承認申請され、同年12月に米国で、翌年3月には日本でも、her2陽性手術不能/転移乳癌のサルベージ療法として承認された。欧州はなぜ遅れたのだろうか?

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)


【承認審査・委員会】


キイトルーダとレンビマの併用、肝癌承認はお預け
(2020年7月8日発表)

抗VEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を共同開発販売しているエーザイとMSDは、Keytruda(pembrolizumab)と併用で切除不能/転移肝細胞腫の一次治療レジメンとしてFDAに適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。

難病における便益が既存薬の文献データを上回ったため加速承認を求めたが、審査期間中に直接比較試験で延命効果を示した他社のレジメンが本承認されたため、『既存薬』のハードルが上がってしまった。第三相試験の組入れが既に完了している由なので、結果を待って改めて承認申請することになるだろう。

承認申請の根拠となったKeyNote-524試験では、cORR(確認客観的反応率、RECIST 1.1に基づく独立画像評価)が36人中36%、メジアン反応持続期間は12.6ヶ月だった。色々あって煩わしいが、mRECISTベースのcORRは46人中46%、メジアン反応持続期間は8.6ヶ月だった。

G3、4、5の治療関連有害事象発現率は各63%、1%、3%で、死因は急性呼吸不全、急性呼吸逼迫症候群、間質性穿孔且つ肝機能異常が各1例あった。

上記の他社レジメンは、5月に承認されたロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevacizumab)のことだろう。エーザイ/MSDの適応拡大申請は今年に入って行われた模様だが、ロシュも今年1月なので、僅差だった。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


FDA、大塚製薬グループ会社の経口デシタビンを承認
(2020年7月7日発表)

FDAはAstex PharmaceuticalsのInqoviをMDS(骨髄異形成症候群)とCMML(慢性骨髄単球性白血病)に承認した。大鵬薬品の米国子会社が販売する予定。

静注用薬Dacogenの活性成分であるDNAメチル化阻害剤のdecitabineとdecitabineを分解するシチジンデアミナーゼを阻害するcedazuridineを配合して経口投与できるようにしたもの。生物学的同等性を確立した第三相試験では、経口剤はdecitabine 35mgとcedazuridine 100mgを、静注用はdecitabineを20mg/m2を、28日サイクルで第1日から5日まで一日一回投与した。経口剤なら在宅投与できるだろうから限られた日々を入通院に費やさなくても済むので幸便だ。

decitabineは99年にSupergenがPharmachemieから権利を取得し、04年にMGI Pharmaにアウトライセンス、06年に米国で承認された。既にGE化している。Supergenは11年にAstexと合併、Astexは13年に大塚製薬に買収された。一方、MGIは08年にエーザイが買収。大塚は、14年に、エーザイからDacogenとASTX727の開発販売権を取得しているが、このASTX727がInqoviで、cedazuridineのエーザイにおける開発コードはE7727となっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 大塚製薬のプレスリリース(和文、7/8付)






今週は以上です。

2020年7月4日

第953回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:RECOVERY試験がカレトラ群をドロップ 
  • COVID-19:FDAがワクチンの開発ガイダンスを公表 
  • COVID-19:ギリアドの治療薬の価格は5日コースが2340ドル 
  • ジェンマブ、抗組織因子ADCを子宮頸がんに承認申請へ 
  • 抗IL-1抗体の再発性心膜炎試験が成功 
  • アステラス子会社の遺伝子療法試験で2名死亡 
  • インターセプト、NASH治療薬承認第一号はならず 
  • アラガンら、VEGF-A拮抗薬で審査完了通知を受領 
  • CHMP、ベクルリーなどの承認に肯定的意見 
  • 鎮静剤アネレムが米国でも承認 
  • 長鎖脂肪酸酸化障害の脂肪酸補充療法が承認 
  • キイトルーダがMSI-H/dMMR大腸結腸癌の一次治療に光速承認 
  • FDA、ロシュのher2陽性乳癌用抗体合剤を承認 


【今週の話題】


COVID-19:RECOVERY試験がカレトラ群をドロップ
(2020年6月29日発表)

オックスフォード大学の主導で英国の医療施設で実施されている大規模なCOVID-19治療試験、RECOVERY試験は大きな成果を上げている。hydroxychloroquineにはCOVID-19感染症で入院した患者の28日死亡率を改善する効果がないことや、低量dexamethasoneが酸素投与や人工呼吸器/ECMO装着が必要な患者の死亡リスクを削減することに続いて、今度は、lopinavirとritonavirの合剤(HIV治療薬Kaletra、和名カレトラ)が無益であることも明らかにした。

KaletraはSARSが流行した頃から一部で用いられていたが、今回は中国のNational Health CommissionがCOVID-19肺炎の治療法として推奨した。武漢で行われた199人規模の無作為化割付対照試験はフェールしたが、点推定値は悪くなく検出力不足だった可能性もあるので決定的なエビデンスとは言い難い。

しかし、RECOVERY試験ではKaletra群(1,596人)の28日死亡率が22.1%と通常医療群(3,376人)の21.3%と大差なく、相対リスクは1.04、p=0.58だった。サブグループ分析も同様で、更に、悪化して人工呼吸器が必要になるリスクや入院期間を短縮する効果も見られなかった。

Kaletraは錠剤なので人工呼吸器/ECMO装着患者には適さない。このため、治験組入れ時点で人工呼吸器装着は4%に過ぎず、70%は酸素投与のみ、26%は呼吸介入が必要でなかった。症例数が少ないことから、RECOVERY試験の治験統括医(複数)は、人工呼吸器装着患者に対する効果は留保して、それ以外の入院患者には無効と結論した。Kaletra群の新規組入れは中止となった。

この試験では、上記三剤のほかに、azithromycin(マクロライド系抗生物質)やtocilizumab(中外/ロシュの抗IL-6受容体抗体)、回復期血漿もテストしている。

リンク: RECOVERY試験治験総括医の声明

COVID-19:FDAがワクチンの開発ガイダンスを公表
(2020年6月30日発表)

FDAはCOVID-19ワクチンの開発ガイダンスを公表するとともに、パブコメ受付を開始した。実用化後は短期間にたくさんの人が接種することになるだろうし、当初は医療従事者が優先される可能性が高いが深刻な副作用が多発したら医療崩壊に繋がりかねないので、当然のことながら、十分な規模の臨床試験を行い、主評価項目の解析が終わった後も被験者を長期的に追跡することを求めている。印象的なのは、ワクチンによる感染増強リスクに繰り返し言及していることだ。FDAは前臨床試験を最初のハードルに据えたが、既に臨床入りしたワクチンでも動物試験の詳細に関する公開情報は限られているので、部外者にとっては闇の中をスペースマウンテンで突っ走っているような不安を感じざるを得ない。

SARSやMERSに開発されたワクチンは、動物試験でワクチン関連ERD(強化呼吸器疾患)の懸念が浮上した。ワクチン接種後にウイルスに感染すると感染症が重くなるリスクだ。このため、FDAは、動物試験で中和抗体価やTh1型T細胞分極が総抗体反応やTh2型反応と比べて高水準ならばFIH(ヒトに対する初めての試験)と並行して、そうでなければFIHの前に、接種後にウイルスに暴露させる動物試験を行ってERDのリスクを検討するよう求めた。

ERDリスクに配慮して、臨床初期段階では感染時の重症化リスクが高い人や、可能ならば、医療従事者のようなウイルスに暴露するリスクが高い人たちも除外するよう推奨した。私は真っ先に参加するのは医療従事者と想像していたので、大変意外だった。数百人規模の試験に進む前にヒトでも中和抗体と総抗体反応、Th1とTh2のバランスを確かめる。中期、後期試験や市販後薬物監視でもERDリスクを引き続き検証する。後期試験は中間解析で無益性のほかにERDリスクも監視する。

薬効確認試験の主評価項目は、抗体価ではなく感染者数を偽薬群と比較するよう求めた。現時点では、どの程度の抗体があれば感染予防できるか、持続性はどの程度か、など不明な点が多いからだ。COVID-19は無症候感染者が多いため『感染』の定義が難しいが、FDAは無症候感染もカウントすることを求めた。但し、臨床試験によって定義が区々だと分かりにくくなるため、発熱など11の症状のうち一つ以上且つRT-PCR陽性を主評価項目とするよう推奨した。

ワクチンは軽症より重症の感染症を予防する効果の方が高い可能性があるため、重症例だけで有意差を検出できるよう組入れ数などを設定するよう推奨している。重症の定義としては、SpO2が室内気で93%以下、PaO2/FiO2が300 mm Hg未満などを列挙した。

本人が気づかないまま感染し抗体を獲得した人を多く組入れるとワクチン効率が希薄され検出力不足でフェールするリスクが生じる。しかし、FDAは、事前に抗体検査を行って陽性例を除外することには反対した(急性期である場合は除外する)。実用段階では事前検査などしない可能性が高いからだ。理由に挙げてはいないが、自然感染による免疫が長続きしない可能性(抗体陽性でもワクチンで更に増やすことが有益である可能性)にも配慮しているのだろう。

米国はマンハッタンでも通りが一本違うと人気がなく怖くて入れないし、ブラジルは車を降りて丘の上からスラム街の写真を撮ったら案内してくれた地元の人に危ないから早く戻れと注意された。これらの国で感染者や死亡者が多い一因はスラム街の存在だろう。FDAは少数民族など罹患者の多い人口を臨床試験に組入れるよう強く推奨した。また、妊婦やその可能性のある人、小児を対象とすることも検討するよう求めた

ワクチン効率のハードルは、点推定値で50%以上(感染率が偽薬群の50%以下)、アルファ調整後の信頼区間が30%超であることを推奨した。この点推定値は近年の季節性インフルエンザワクチンの実績と同じような水準だ。100%が望ましいが、危機管理ではリスクを30%削減することが最初の目標になる。

安全性データベースは、承認申請される用量用法の投与実績が典型的には3000人以上とした。実際には感染率の予想が組入れ数の決定要因になるだろう。開発で先行するアストラゼネカやModernaはP2/3試験に1万人以上を組入れる考えだ。

米国にはEUA(非常時使用認可)という制度があり、十分なエビデンスがなくても未承認の薬や医療機器の使用を認めることができる。ギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)はEUAなので、同社が米国で発出するプレスリリースには、米国では承認されていないことが明記されている。COVID-19ワクチンに関しては、生産関連の情報が十分で臨床試験で薬効や安全性が確認されたならば承認申請前あるいは審査完了前にEUAを出すのは妥当と記しており、第二相で大きなワクチン効率が示されない限り、第三相の結果が出るまで難しそうだ。

リンク: FDAのCOVID-19開発ガイダンス

COVID-19:ギリアドの治療薬の価格は5日コースが2340ドル
(2020年6月29日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のDaniel O'Day会長兼CEOは、ホームページ上の公開書簡で、Veklury(remdesivir、レムデシビル/JAN)の販売価格を明らかにした。先進国政府向けは全て、100mgバイアルを390ドルに設定。Vekluryは初日は200mg、その後は100mgを一日一回、点滴静注する。5日投与して改善が不十分だったり、人工呼吸器/ECMO装着患者の場合は、10日間まで投与できる。ギリアドによれば大半は5日コースの模様なので、一人当たり2340ドルとなる。尚、米国の医療保険向けは$520/バイアルと割高になるが、値引きが常なので、正味価格は政府向けと大差ないだろう。

命に係わる難病に有望と考えられる薬を開発した会社は、正式な承認前に、当局の許可を得て、人道的措置として提供することができる。Compassionate Use Programと呼ばれている。Vekluryも日本を含む多くの国で無償提供されたが、使い終わった段階で、有償購入に切り替わる。通常は政府や医療保険組織が薬価交渉を経て決定するので、今回のように製薬会社が世界統一価格を設定するのは異例だ。スピード優先ということだろう。

Vekluryの臨床試験ではメジアン入院期間が偽薬比4日間短かった。ギリアドによると、米国では4日間早く退院すれば医療費が12000ドル軽減されるとのことで、費用対効果が高いことになる。尤も、この数値がCOVID-19に関するものなのが、全入院例平均なのかは、明記されていないのでわからない。また、COVID-19でも人工呼吸器/ECMO装着の有無などにより費用が変わるだろう。dexamethasoneが正式に承認されれば、各剤のコストパフォーマンスも検討項目になるだろう。

尚、途上国向けはインドなどのジェネリック薬メーカーがロイヤルティフリーでライセンス生産し先進国より安価に販売する予定。報道によると、インドでCipla等が発売した価格は5日コースが350米ドル程度とのことなので、米国の1/7程度だ。

リンク: O'Day会長兼CEOの公開書簡(6月29日付)


【新薬開発】


ジェンマブ、抗組織因子ADCを子宮頸がんに承認申請へ
(2020年6月29日発表)

デンマークの抗体医薬開発会社、ジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Humax-TF-ADC(tisotumab vedotin)の第二相再発転移子宮頸がん試験の結果を明らかにした。転移後に二次以上の治療を受けた患者101人を組入れて全員に投与したところ、cORR(確認客観的反応率、独立中央評価、RECIST 1.1ベース)が24%(95%信頼区間15.9-33.3%)、メジアン反応持続期間8.3ヶ月となり、他の薬の文献データと見比べて良好な成績だった。承認申請に向けて当局と相談する考え。

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)の抗体薬物複合体(ADC)技術をライセンスして創製した、組織因子(TF)を標的とした抗体とMMSE抗癌剤のADC。TFは卵巣癌や前立腺癌、膀胱癌、食道癌、肺癌などでも高発現する一方で正常細胞では少ない由なので、適応拡大の余地もありそうだ。

同社はトランスジェニック・マウス技術を元に抗CD20抗体Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)や抗CD38抗体Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)を創製し大手を通じて実用化した実績を持つ。tisotumab vedotinはシアトル・ジェネティクスと共同開発しており、費用と収益は折半、米加墨以外はジェンマブが商業化する予定なので新薬開発会社から医薬品販売会社にステージアップする転機になり得るだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

抗IL-1抗体の再発性心膜炎試験が成功
(2020年6月29日発表)

Kiniksa Pharmaceuticals(Nasdaq:KNSA)は、rilonaceptの第三相再発性心膜炎試験が成功したと発表した。年内に米国で適応拡大申請する予定。

rilonaceptはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)が創製した抗IL-1抗体で、IL-1受容体のアルファ・ユニットとベータ・ユニットをIgG固定領域と融合することで阻害力を強化したもの。08年にCAPS(CIAS1変異関連自己炎症定期的症候群)治療薬Arcalystとして米国で、09年にはEUでも、承認された。Kiniksaは17年にrilonaceptをIL-1アルファやベータが調停する疾患の治療薬として開発する権利を取得。米国で適応拡大が承認されたら日米市場でもCAPS用途も含めた開発販売権を取得することができる。契約一次金500万ドル、承認達成報奨金は最大2750万ドル、適応拡大承認後の売上高や利益は両社で折半する。

リジェネロンにとっては初めての承認取得となった記念碑的な製品だが、一時は共同開発していたこともあるノバルティスが抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab)を投入したことや、リジェネロンの大型新薬が次々承認されたことから、戦略的な重要性は低下したと推測される。

今回の第三相は、活性期症候性再発心膜炎の患者86人をランインに組入れ、試験薬(初回は320mg、2回目以降は160mgを週一回、皮注)を投与する一方でそれまで服用していた薬(NSAIDsなど)はフェードアウトした。応答した61人を継続投与群と偽薬スイッチ群に1:1無作為化割付して、再発リスク(疼痛のNRSとCRP値などに基づいて判定)を比較したところ、ハザードレシオ0.04、p<0.0001と大変良い結果が出た。副次的評価項目の反応持続率や症状改善奏効率も有意な差があった。

再発性心膜炎は自己免疫疾患で、米国の推定患者数は最大40000人、再発性でrilonaceptの適応になりそうなのは最大14000人と推定されている。rilonaceptはFDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: Kiniksaのプレスリリース

アステラス子会社の遺伝子療法試験で2名死亡
(2020年6月23日発表)

今年1月にアステラス製薬が30億ドルで完全子会社化した米国の遺伝子療法開発会社、Audentes Therapeuticsは、X染色体連鎖性ミオチュブラー・ミオパチー(XLMTM)の患者コミュニティに向けた声明の中で、AT132の第1/2相試験で高用量を投与した3人の患者から二人目の死亡者が発生したことを報告した。もう一人も深刻有害事象が発現したことが先に公表されている。20年央に米国で承認申請する目標だったが、この試験は既にクリニカルホールドとなっており、少なくとも開発遅延、場合によっては打ち切りの可能性もあるのではないか。

XLMTMはMTM1遺伝子の変異によりmyotubularinが欠損・極度欠乏していて、極度の筋力低下、呼吸不全、早期死亡などを被る、希少だが重篤な疾患。AT132は、ヒトMTM1遺伝子をアデノ随伴ウイルス血清型8型で導入する。FDAがRMAT(再生医療先進療法)指定している。17年に第1/2相ASPIRO試験を開始、19年に高用量の3x10^14vg/kgを至適用量と判定し追加組入れを決定したが、今年5月に、この用量を投与した3人が深刻有害事象を発現し一人は敗血症で死亡したことが公表された。今回、もう一人が投与4-6週後に進行性肝不全を発症し、敗血症で死亡したことが明らかにされた。

3名の共通点は年齢(5歳以下を組入れ)が比較的上で、高体重、肝胆疾患の既往があること。尚、低用量(1x10^14 vg/kg)では肝胆疾患既往患者を含め深刻有害事象は発現していない由。

深刻な疾患なので低用量で大きな問題がなければクリニカルホールドが解除される可能性もあるだろう。AT132の動物試験はどうだったのだろうか?Solid Biosciences(Nasdaq:SLDB)のSGT-001のように霊長類試験や子豚の試験で用量依存的な懸念が生じていなかったのだろうか?

リンク: Audentes社の声明(Joshua Frase財団のウェブサイト)


【承認審査・委員会】


インターセプト、NASH治療薬承認第一号はならず
(2020年6月29日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)はobeticholic acidをNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)による肝線維症の治療薬として適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。プレスリリースを読むと会社側はかなり不満であるようなので、異議申立て手続きに進む可能性もあるのではないか。NASHは開発中後期パイプラインが多いので、FDAが過去のアドバイスを覆したのか、注目している会社は多いだろう。

obeticholic acidはウルソデオキシコール酸と同様な胆汁酸誘導体でファルネソイドX受容体を作動する力価が高い。16年に原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocalivaとして5mgまたは10mgを一日一回投与することが欧米で承認された。

NASHは二種類の用量の第三相で高用量の25mg一日一回投与群が中間解析で二つの主評価項目のうち一つで成功。肝線維症奏効率(1ステージ以上改善しNASHが悪化しなかった患者の比率)が23.1%と偽薬群の11.9%を有意に上回った。もう一つのNASH奏効率(解消し肝線維症は悪化しなかった患者の比率)は11.7%と偽薬群の8%を数値上上回ったがp=0.12で有意ではなかった。副作用面は、原発性胆汁性肝硬変でも見られる掻痒が更に増加し、重度掻痒発現率は5%に達した。

19年9月の承認申請後の足取りは平板ではなく、優先審査指定で審査期限が今年3月26日に設定されたが、諮問委員会のスケジュール調整ができず4月開催となったため6月26日に延期され、その諮問委員会はCOVID-19流行による規制で6月に延期、会社側が追加データを提出したため再延期となり、結局、日程が決まらないまま審査完了となってしまった。

審査完了通知には、代理マーカーが穏やかに改善するだけでは臨床的便益が副作用リスクを上回ると合理的に推定することができず、加速承認できないと記されている模様。第三相試験の最終解析結果の報告や、延長試験の継続を推奨した由。

インターセプトはFDAと会合を持って今後の対応を決定する考え。

尚、インターセプトはEUでも昨年12月に適応拡大申請した。

リンク: 同社のプレスリリース

アラガンら、VEGF-A拮抗薬で審査完了通知を受領
(2020年6月26日発表)

アラガンとスイスのMolecular Partners (SIX: MOLN)は、AGN-150998(abicipar pegol)を新生血管加齢性黄斑変性治療薬として欧米で承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。二本の臨床試験で視力悪化を抑制する効果がジェネンテック/ノバルティスのLucentis(ranibizumab)と非劣性だったが、眼内炎症の発生率が約15%とLucentis群の0-1%を大きく上回った。生産工程を見直し大腸菌を減らすことで9%程度に改善したが、FDAは、便益が上回るとは言えないと反対した。

チューリッヒ大学発のベンチャーであるMolecular Partnersは、天然のankyrinの繰り返し配列を使って標的に拮抗する物質を作るDARPin技術を持っている。アラガンとの広範な創薬提携から生まれたのがAGN-150998で、PEG化しても34KDaと分子量が小さく高力価、高安定性であることが特徴。プルーフ・オブ・テクノロジーになるはずが、品質面の問題点が表面化してしまったのは残念。

リンク: 両社とアッヴィの共同プレスリリース

CHMP、ベクルリーなどの承認に肯定的意見
(2020年6月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、6月の会合で、ギリアド・サイエンシズのVeklury (remdesivir、和名ベクルリー)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

VekluryはCOVID-19治療薬。SARS-CoV-2のポリメラーゼを阻害し、増殖を妨げる。CHMPは条件付き承認を推奨した。日本は第三相試験の結果が十分に把握できていない状況で特例承認したと推測され、米国は非常時使用承認なので正式な承認ではなく、正式な承認審査も受けていないと推測される。CHMPの審査は遅かったが、その分、ある程度キチンと評価検討したはずなので、承認内容が注目されたが、12歳以上且つ体重40kg以上で酸素補給や呼吸補助を必要とする肺炎を合併した患者に、最低4日間、最大10日間投与することを勧告した。人工呼吸器やECMOが導入されている患者は除外しなかったが、このような患者に対する効果は確立していない旨、プレスリリースに明記した。

CHMPの勧告を受けて、EMAは条件付き承認を行った。当初の有効期間は1年のみだが、今年8月までにACTT-1試験の全死亡に関する最終解析結果を報告し、年末までに全体の最終報告を行えば、正式承認に切り替わるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース(6/25付)
リンク: ギリアドのEU承認に関するプレスリリース(7/4付)

話をCHMPに戻すと、スエーデンのHansa Biopharma社のIdefirix(imlifidase)も条件付き承認が支持された。高度感作腎移植またはクロスマッチ陽性死体腎移植を受ける成人の脱感作療法。IgG免疫が強く適合する臓器がなかなか見つからない患者はウェイティングリストに乗っても後回しにされてしまいがちだ。現行の脱感作療法は日数がかかるため間に合わないリスクがある。Idefirixは化膿レンサ菌のIgG切断酵素由来のシステイン蛋白分解酵素で、クロスマッチ陽性でも24時間で陰転するのが長所。

第二相試験に基づく申請で、米国は第三相試験を行ってから23年ごろに承認申請する予定。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: HansaBiopharmaのプレスリリース

付記すると、Hansaは、imlifidaseを遺伝子療法の前処理用途で独占開発販売する権利をサレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)にライセンスした。サレプタが開発している74型のアデノ随伴ウイルス療法は、天然のウイルスに感染し中和抗体を持つ人が他の型と比べて比較的少ないが、もし持っていた場合、事前にimlifidaseでプリトリートすれば枯渇させることができるかもしれない。他のウイルスキャリアにも有効かもしれないので注目される。

リンク: Hansa Biopharmaのプレスリリース(7/2付)

またまたCHMPに戻ると、バーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)のKaftrioはelexacaftor、tezacaftor、ivacaftorのトリプル・コンビ薬で、12歳以上の嚢胞性線維症でCFTR遺伝子のF508欠損がホモまたはヘテロでもう片方に最小機能変異を持つ患者に用いる。臨床試験では%予測FEV1がホモ接合型では偽薬比10%改善、ヘテロでは同14%改善し、汗中クロライドは各45 mmol/Lと41 mmol/L低下した。尚、ivacaftorは半減期が短いためKaftrioは朝服用し、夕方にivacaftor(Kalydeco名で12年に欧米承認)を服用する。

米国では昨年10月にTrikafta名で承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスのXolair(omalizumab、和名ゾレア)を点鼻ステロイドに十分反応しない鼻ポリープを伴う重度慢性副鼻腔炎の成人(18歳以上)に用いることが支持された。臨床試験ではポリープが縮小し鼻詰まりが緩和した。米国でも承認審査中。

XolairはTanox社からライセンスした抗IgE抗体で、アレルギーの原因となるマスト細胞との結合を妨げる。03年に米国で、05年にEUで、17年に日本でも、難治性喘息症用薬として承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

今回は承認申請撤回も多かった。まず、ノバルティスのXiidra(lifitegrast)。人口涙液に十分に反応しないドライアイの点眼薬として承認申請したが、CHMPは否定的だった。臨床試験で示された症状改善効果が網羅的ではなく、効果があっても臨床的に重要な違いではなく、長期投与実績がなく、『人口涙液不十分』診断する定義が曖昧であり臨床試験の対照群は人口涙液を使っていないためスイッチする効果が分からないことなどが理由。尚、米国では16年に承認された。

Xiidraはシャイアが開発していた小分子LFA-1阻害剤で、武田薬品との合併に際して、事業と関連社員400人をノバルティスが承継したもの。契約一時金34億ドル、目標達成報奨金は最大19億ドルとかなり大きなディールだったので、武田薬品にとっても残念なニュースだっただろう。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、第一三共のTuralio(pexidartinib)。腱滑膜巨細胞腫治療薬として承認申請されたが、症状改善効果が小さいことや肝毒性から、CHMPは否定的に考えていた。11年に買収したPlexxikonの開発品でCSF-1Rを阻害する。臨床試験ではORR(客観的反応率)が38%、偽薬群はゼロだった。この試験は深刻肝毒性が2例、発生しデータ監視委員会が新規組入れ中止勧告を行ったが、126人の目標に対して121人を組入れ済みだったため、主目的を達成することができた経緯がある。

米国では昨年8月に重体または機能低下を伴う症候性で切除不能な患者に限定して承認された。良性腫瘍なので腫瘍が縮小することの臨床的意義は必ずしも明確ではなく、欧米で評価が分かれても意外感は小さい。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)


【承認】


鎮静剤アネレムが米国でも承認
(2020年7月2日発表)

Cosmo Pharmaceuticals(SIX:COPN)は、Byfavo(remimazolam)がFDAに承認されたと発表した。結膜鏡や気管支鏡による検査など30分以内の処置を受ける成人の鎮静導入・維持に用いる。米国ではAcacia Pharma(Euronext:ACPH)が販売する。

ベンゾジアゼピン系の麻酔薬で、オンセットやオフセットが早く、体内のエステラーゼで不活化されるのでP450相互作用リスクがない。

ドイツのPaionが08年にCeNeS Pharmaceuticalsを子会社化して入手、昨年11月にEUでも承認申請した。日本は07年に小野薬品がCeNeSからインライセンスしたが14年に戦略上の理由で返還、17年にムンディファーマが導入し、今年1月に全身麻酔薬アネレムとして製造販売承認を得た。

リンク: Cosmo社のプレスリリース


FDA、HIV/AIDSのアタッチメント阻害剤を承認
(2020年7月2日発表)

FDAは、ヴィーヴ・ヘルスケアのRukobia(fostemsavir)をHIV/AIDSのサルベージ療法として承認した。様々な薬の治療経験を持ち抵抗性や副作用が原因で他の薬で十分な効果が上がらない患者に用いる。

ヴィーヴはグラクソ・スミスクライン、塩野義製薬そしてファイザーのHIV合弁。Rukobiaは15年にBMSから買収したHIVパイプラインの一つで、活性代謝物のtemsavirがHIVウイルスが細胞に侵入する時に用いるgp120に結合・ブロックする、懐かしい作用機序を持っている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴのプレスリリース

長鎖脂肪酸酸化障害の脂肪酸補充療法が承認
(2020年6月30日発表)

カリフォルニア州の希少疾患用薬開発販売会社であるUltragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)は、FDAがDojolvi(triheptanoin)経口液を承認したと発表した。LC-FAOD(長鎖脂肪酸酸化障害)の成人小児にカロリーや脂肪酸を供給する。

LC-FAODは常染色体劣性遺伝疾患で、長鎖脂肪酸を代謝できず、もう一つのエネルギー源である糖が欠乏する。米国の患者数は2000-3500人と推定されている。Dojolviは高純度、医薬品品質の奇数炭素中鎖トリグリセライドで、2013年にBaylor Research Instituteから技術導入したもの。

リンク: 同社のプレスリリース

バベンチオが尿路上皮癌の一次治療後維持療法として承認
(2020年6月30日発表)

ドイツのメルクとファイザーは、共同開発販売している抗PD-L1抗体、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)が局所進行性/転移性尿路上皮癌の一次治療後維持療法としてFDAに承認されたと発表した。白金薬ベースの化学療法で進行しなくなった患者に、800mgを二週毎に60分点滴静注する。日欧でも適応拡大申請中。

エビデンスとなるJAVELIN Bladder 100試験では、cisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用する一次治療に反応または疾病安定化した約700人を組入れて、10mg/kgを二週毎に点滴静注する群としない群の全生存期間を比較したところ、ハザードレシオ0.69、p=0.001となり、メジアン生存期間は21.4ヶ月と対照群の14.3ヶ月を上回った。もう一つの主評価項目である被験者の51%を占めるPD-L1陽性サブグループの解析も、各0.56、0.0003、未達、17.1ヶ月と成功した。尚、PD-L1陰性(被験者の39%)サブグループの探索的解析ではハザードレシオ0.85、95%信頼区間0.62-1.18)となっているが、FDAは適応をPD-L1陽性に限定しなかった。

Bavencioは17年に二次治療薬として加速承認されたが、フェーズIVコミットメントでもある上記試験で延命効果が確認されたため、今回、本承認に切り替わった。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース(7/1付)

キイトルーダがMSI-H/dMMR大腸結腸癌の一次治療に光速承認
(2020年6月29日発表)

MSDは抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)を持つ切除不能/転移直腸結腸癌の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。Real-Time Oncology-Reviewプロジェクトの対象で、承認申請から1ヶ月足らずで承認された。 

KeytrudaはMSI-H/dMMRの切除不能/転移固形癌の再発治療に用いることが17年に米国で承認された。今回の承認の根拠となったKeyNote-177試験では、代表的な一次治療レジメンであるmFOLFOX6またはFOLFIRI(bevacizumabまたはcetuximabを併用可)とPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価、RECIST 1.1を一部調整)を比較したところ、中間解析でハザードレシオ0.60、p=0.0004、メジアン値は各16.5ヶ月と8.2ヶ月となり、成功認定された。もう一つの主評価項目である全生存期間はデータがまだ熟していない。

マイクロサテライトは塩基配列が何度も繰り返されている箇所を指す。変異が起きやすいので、腫瘍とそれ以外の細胞を比較することで、遺伝子修復が機能しているかどうか判定することができる。dMMRも類似した概念。結腸直腸癌では5-20%が該当するとされる。

リンク: 同社のプレスリリース

FDA、ロシュのher2陽性乳癌用抗体合剤を承認
(2020年6月29日発表)

FDAはロシュのPhesgoをher2陽性乳癌のネオアジュバント療法やアジュバント療法用薬として承認した。同用途で併用することが承認されている抗her2抗体tratuzumabと抗2C4抗体pertuzumab、そして点滴静注ではなく皮注を可能にするためのヒアルロン酸分解酵素hyaluronidase-zzxfの合剤で、投与に必要な時間が負荷用量は150分から8分に、維持用量も60-150分から5分に、短縮できる。自己注も可能なので、医療施設や患者の時間的負担が軽減できる。

hyaluronidaseを使って皮膚組織を弱体化し抗体医薬の吸収を促進する技術はHalozyme Therapeuticsからライセンスしたもの。tratuzumabも同じ技術を用いた皮注用製剤がHerceptin Hylecta(trastuzumab、hyaluronidase-oysk)として欧米で承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース






今週は以上です。