2021年4月30日

第997回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • RSV予防用抗体の第3相が成功 
  • 武田、EGFRエクソン20挿入変異阻害剤が優先審査に 
  • 大日本住友の子会社、先天性無胸腺症用薬を再承認申請 
  • バルドキソロンメチルの承認申請は標準審査に 
  • Axsome社、既存薬の配合剤を鬱病に承認申請 
  • 加速承認を巡る諮問委員会の結果 
  • アトピー治療用の抗IL-13抗体は審査完了 
  • Tysabriの皮注用新製剤は審査完了 
  • Protalix、FDAが工場査察できずに承認遅延 


【新薬開発】


RSV予防用抗体の第3相が成功
(2021年4月26日発表)

アストラゼネカと共同開発パートナーのサノフィは、MEDI8897(nirsevimab)の第3相RSウイルス感染予防試験が成功したと発表した。下期には早産児や慢性肺疾患・鬱血心臓疾患を持つ幼児の第3相の結果も出る予定。2022年に承認申請を行う考え。

RSウイルスは0~1歳の幼児の多くが感染し、多くは症状が軽微だが、早産児や慢性肺疾患・鬱血性心臓疾患を持つ幼児は重症化リスクがあるため、アストラゼネカの子会社であるメディミューンが開発したSynagis(palivizumab、和名シナジス)による予防が行われる。nirsevimabはRSVのF蛋白の、Synagisとは異なった部位に結合する抗体で、固定領域のアミノ酸3個を置換することによって半減期を長期化。Synagisは感染リスクのある冬の間、月一回筋注するが、nirsevimabは一回で足りる。

今回のMELODY試験は在胎35週以上の健康な1歳未満の幼児3000人を試験薬群(体重5kg未満は50mg、以上は100mg)と偽薬群に無作為化2対1割付して、RSV感染による下部気道感染症の治療を受けるリスクを150日間、観察した。当初は23年に開票する見込みだったが、COVID-19の余波でRSV感染症例が減少したため前倒して1500例の薬効解析を行ったところ、成功した。

安全性面では臨床的に重要な偽薬群との差異は見られなかった由。

Synagisの承認用途である在胎35週以下の早産児と慢性肺疾患・鬱血性心臓疾患を組入れて両剤の安全性を比較する第2/3相MEDLEY試験も今年後半に前倒し解析を行う予定。

順調に進めばnirsevimabはSynargisより多くの幼児が適応になる。0~1歳児すべてに使われるようにはならないだろうが、上記以外のリスク因子を持つ幼児に普及していくのではないか。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


武田、EGFRエクソン20挿入変異阻害剤が優先審査に
(2021年4月28日発表)

武田薬品はFDAがTAK-788(mobocertinib)を優先審査指定したと発表した。審査期限は10月26日。

TAK-788はEGFRやher2のエクソン20挿入変異を阻害する小分子薬。昨年4月に二次治療でブレークスルー・セラピー指定を受けている。転移性非小細胞性肺癌の1-2%を占める、EGFRエクソン20挿入変異型の成人に用いることが予定されている。第1/2相試験でORR(客観的反応率)が治験医評価では35%、独立データ評価委員会査読では28%だった。反応持続期間のメジアン値は17.5ヶ月だった。

EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌にはEGFR阻害剤が有効だが、エクソン20挿入変異型の治療オプションはTAK-788が初になりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)



大日本住友の子会社、先天性無胸腺症用薬を再承認申請
(2021年4月27日発表)

大日本住友製薬が19年に子会社化した"VANT"5社の一つであるEnzyvant Therapeuticsは、RVT-802を小児先天性無胸腺症の治療薬としてFDAに再承認申請したと発表した。審査期限は10月8日。

この疾患は乳児30万人に一人の超希少疾患で、治療しないと2年以内に感染症で死亡する危険がある。RVT-802はデューク大学の研究者が心臓手術を受ける幼児の胸腺細胞をもとに培養した再生医療用製品で、臨床試験では2年生存率(カプラン・メイヤー推定、n=85)が75%だった。主な有害事象は血小板減少症や好中球減少症、発熱、蛋白尿など。

19年に承認申請し優先審査を受けたが、同年12月に審査完了通知を受領した。細胞療法に関して最近、しばしば聞く、生産プロセスや工場査察時の所見などがボトルネックになったようだ。

再申請まで1年以上かかったが、FDAに指摘された事項を解消するために設備新設など時間をかけて対応した結果であるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)



バルドキソロンメチルの承認申請は標準審査に
(2021年4月26日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)は、RTA 402(bardoxolone methyl)をAlport症候群による慢性腎疾患の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年2月25日。Alport症候群の初めての治療薬だが標準審査になった。FDAは諮問委員会招集も考えている由。

RTA 402はNF-kappaBやSTATの分泌を抑制する作用がある。Alport症候群における効能はeGFRの改善だが、この指標は当初は改善しても次第に疲弊して腎機能低下を加速してしまう可能性も考えられる。日本ではライセンシーの協和発酵キリンが二型糖尿病の慢性腎疾患治療薬として第3相試験を行っているが、主評価項目(eGFRの3割以上の低下または末期腎臓疾患発症)の追跡期間は2~3年が想定されている。

FDAが優先審査指定せず、諮問委員会建議を想定しているのは、おそらく、eGFR改善の持続性懸念が理由だろう。

リンク: Reataのプレスリリース



Axsome社、既存薬の配合剤を鬱病に承認申請
(2021年4月26日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、AXS-05を大鬱病の治療薬として承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は8月22日。

鎮咳去痰薬として用いられているNMDA受容体アンタゴニストのdextromethorphanを45mg、鬱病や薬物依存の治療に用いられているノルエピネフィリン/ドパミン再取込阻害剤のbupropionを150mg配合した調整供給錠で、後者は2D6を阻害して前者の生物学的利用率を向上する作用も持っている。

米国で327人を組入れて6週間治療した第3相試験では、MADRS(モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度)がベースラインの33余から16.6低下、偽薬群は11.9の低下に留まり、統計的に有意な差があった。寛解率も39.5%で偽薬群の17.3%を上回った。有害事象による治験離脱率は6.2%(偽薬群0.6%)。

気になるのは、第3相難治性鬱病試験がフェールし、bupropion比有意な治療効果が見られなかったこと。鬱病の治療は第1選択薬を試し、結果が思わしくなければ第2選択、それでもパッとしなかったら第3選択と進むので、新薬の出番はよほど効果が高くない限り難治性患者が中心になる。鬱病の試験は承認されている薬でもしばしばフェールするので後期第2相を含めて2勝1敗なら立派な方だが、成功するなら難治患者試験が成功してほしかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


加速承認を巡る諮問委員会の結果
(2021年月日発表)

FDAは4月27日から29日にかけて腫瘍学諮問委員会を開催し、加速承認後の薬効確認試験がフェールした3剤の4適応症について、承認を取消すべきか、別の試験の結果が出るまで維持すべきか、意見を聞いた。

加速承認制度は、深刻で適切な治療法がない疾患に用いる薬を反応率などのサロゲートマーカーに基づいて承認するもの。別途、第3相対照試験を行って延命効果またはそれに準ずる効果を確認する必要がある。今回俎上に挙がったのは全て抗PD-1/PD-L1抗体だが、加速承認151件のうち35件が抗PD-1/PD-L1抗体なので、矢が的を外す数が多くても不思議はない。競争の激しさの現れなのだろうが、抗PD-1/PD-L1抗体の承認の半分は加速承認とのことだ。

4月27日には、ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を検討した。19年にPD-L1陽性(IC≧1%)の切除不能局所進行性/転移性トリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)にnab-paclitaxelと併用することが加速承認された。第3相のIMpassion130試験でPFSのnab-paclitaxl比ハザードレシオが0.60と良好だったことが根拠だが、メジアン値は7.4ヶ月対4.8ヶ月でFDAは差が十分に大きいとは認識していなかった。加速承認後に全生存期間の結果が判明したが、プロトコルに則りPD-L1陽性ではない患者も解析対象としていたせいか、ハザードレシオ0.87でフェールした。尤も、統計学的には正しくない検定ではあるが、IC≧1%の患者だけのサブグループ分析はハザードレシオ0.67、メジアン値は25.4ヶ月対17.9ヶ月で7ヶ月の差、と悪くはなかった。

フェーズIVコミットメント試験であるIMpassion131(paclitaxelアドオン)試験の結果が待望されたが、Tecentriq併用群のメジアンPFSは5.95ヶ月と非併用群の5.72ヶ月と大差なかった。全生存期間の解析は検出力不足で信頼性が高くないが、メジアン22.1ヶ月対28.3ヶ月、ハザードレシオ1.11と、寿命を縮める可能性が示唆された。

諮問委員会は9人中7人が別の試験の結果が出るまで承認を維持(言い方を変えると結論を先送り)すべきと判定した。候補となるのはIMpassion131試験で、早期TNBCの治療後1年未満で再発した切除不能局所進行性/転移性癌を組入れてcarboplatinベース2剤併用レジメンに偽薬またはTecentriqを追加して全生存期間を比較する試験で、23年1月頃に開票の見込みだ。

FDAは諮問委員会資料の中で、市販後薬効確認試験の代替的な候補として131試験は許容可能と述べている。諮問委員会の過半の支持を得られたので、おそらく、この試験の結果が出るまで加速承認を維持するのではないか。

尚、PD-L1陽性TNBCは欧州や日本でも19年に承認されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

4月28日は、MSDのKeytruda(pembrolizumab、キイトルーダ)とTecentriqの尿路上皮腫一次治療に関して検討した。一番良く分からないテーマで、欧米で承認後に薬効確認試験で寿命が化学療法より短いことが判明したため、白金薬全てに不適な患者、またはcisplatin不適でPD-L1陽性の患者だけに適応縮小された。だが、このサブポピュレーションに関するエビデンスの質は高くなく、また、他の試験で2~3年内に代替的なエビデンスを取得できそうなものはない。

今回のアジェンダは一次治療だが、二次治療は上記二剤の明暗が分かれており、Keytrudaは本承認されているが、Tecentriqは市販後薬効確認試験がフェールし、ロシュは今年3月、FDAに背中を押されて自主的に承認を撤回した。似たような薬なのになぜ結果が違うのか、これまた良く分からない。

諮問委員会の意見が注目されたが、結局、二剤とも結論先送りが多数意見だった。

Keytrudaは7人中5人が加速承認の維持に賛成。進行中の第3相で薬効確認試験になりうるものは二本あるが、結果が出るのは25年と27年なので、それまでは患者は本当に効くのか自信を持てないまま治療を受けることになる。

以下は私見だが、市販後薬効確認試験であるKeyNote-361試験は一次治療化学療法併用試験で、共同主評価項目の全生存期間もPFSもフェールしたが、敗因は、中間解析も含めて多くの解析を行う見返りに個々の解析の成功認定の閾値が低く設定されたことではないだろうか。最終解析に割り当てられたp値のアルファは全生存期間が片側0.0019、PFSは同0.0142だった。

尤も、PD-L1陽性(CPS≧10)のサブポピュレーションにおける全生存期間の解析は、上位解析がフェールしたため探索的解析という位置付けになってしまったが、偽薬比ハザードレシオ1.01、メジアン生存期間の差は1ヶ月未満と、効果に自信が持てる内容ではなかった。

Tecentriqは上記の二次治療試験のほかに筋層非浸潤膀胱癌の試験もKeytrudaは成功、Tecentriqはフェールと対照的な結果になっており、心許ない状況だったが、11人の委員のうち10人が加速承認維持に賛成した。

IMvigor130試験(一次治療化学療法併用試験)の全生存期間の最終解析結果が出るのを待つことになる。この試験は共同主評価項目の一つであるPFSが成功したが偽薬比ハザードレシオは0.82、メジアン値の差は2ヶ月足らずと、それほど良くはなかった。全生存期間の中間解析のハザードレシオも0.83、メジアン値は16.0ヶ月と化学療法・偽薬併用群の13.4ヶ月を上回り、方向性は良好だが治療効果が十分かどうかは議論の余地があるだろう。もし最終解析がフェールしたら改めて加速承認取消を検討せざるを得なくなるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

4月29日は二剤の三適応症について検討した。まず、KeytrudaのPD-L1陽性(CPS≧1)、難治局所進行性/転移性の胃・胃食道接合部腺腫の三次治療。17年に第2相試験のORRデータに基づいて加速承認されたが、市販後薬効確認を兼ねた二次治療試験で全生存期間がpaclitaxelを有意に上回らなかった(ハザードレシオ0.82、メジアン9.1ヶ月対8.3ヶ月)。効果が同程度と受け止めたとしても、対照薬は今日ならpaclitaxelとCyramza(ramucirumab)の併用のほうが好ましいので、物足りない。

Keytrudaは一次治療試験でモノセラピーの全生存期間が5-FUとcisplatinを併用した対照群比で非劣性だったが、FDAは、MSDが設定した非劣性マージンが甘い点や、解析手法の前提であるハザード定常性が見られなかったことから、エビデンスが十分ではないと論じた。

Opdivoが一次治療化学療法併用に本承認されたことも影を落としているようだ。抗PD-1抗体が一次治療に使われるようになれば、二次治療、三次治療に別の抗PD-1抗体を使う効果が低減する可能性があるが、現時点では懸念を否定できるエビデンスがない。

結局、8人の諮問委員のうち6人が加速承認を維持すべきではないと判定した。一次治療、二次治療には無益であっても、確立した治療法がない三次治療なら、エビデンスが不十分でも許容できるのではないかと思われるが、予想外に厳しかった。

尚、KeytrudaはMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)腫瘍に加速承認されていて、このタイプの胃癌は今回の適応再検討の対象外である。

次に、KeytrudaとOpdivoの、sorafenib歴を持つ肝細胞腫。ORRに基づき加速承認されたが、Keytrudaは偽薬対照二次治療試験がフェール、Opdivoは一次治療sorafenib併用試験がフェールした。前者のフェールのほうが決定的であるように感じられるが、諮問委員会の判定は逆で、Keytrudaは8人全員が加速承認維持を支持、Opdivoは5人対4人で反対のほうが一人だけ多かった。

keytrudaは加速承認と同じ患者層を組入れたアジア試験の結果が6~7月にも判明する見込みなので、それまで待つ趣旨と推測される。Opdivoは、昨年加速承認されたYervoy併用のほうがORRが高いことなどが響いたようだ。

これらの検討結果を総括するのは難しい。セーフとアウトの境界線、判定基準がテーマ毎に区々であるように感じられるからだ。FDAの審査担当者側は取消に傾いているようなので、諮問委員会が加速承認維持に疑問を呈した二件については取消のリスクが比較的高いと推測されるが、維持が支持された医薬品・用途も取消のリスクゼロとは言えないだろう。

リンク: BMSのプレスリリース



アトピー治療用の抗IL-13抗体は審査完了
(2021年4月29日発表)

デンマークのLEO Pharmaは、Adtralza(tralokinumab)を中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として欧米で承認申請し、EUでは先週、CHMPの肯定的意見を得たが、米国は審査完了通知を受領した。ディバイスに関する追加データが必要のようだ。

抗IL-13抗体で2週毎または4週毎に皮注する。日本でも承認申請される見込み。

リンク: 同社のプレスリリース



Tysabriの皮注用新製剤は審査完了
(2021年4月28日発表)

バイオジェンはTysabri(natalizumab)の皮注用新製剤を欧米で承認申請し、EUでは今月、承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。理由は不明。

Tysabriはアルファ4インテグリンに結合する抗体医薬。点滴用が04年に米国で再発型多発硬化症の維持療法薬として承認された。

リンク: 同社のプレスリリース



Protalix、FDAが工場査察できずに承認遅延
(2021年4月28日発表)

Protalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX、TASE:PLX)はPRX-102(pegunigalsidase alfa)を成人のファブリー病治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAは新薬承認前に生産体制の査察を行うが、出張規制によりイスラエル工場の査察やその後のフォローアップができないでいることが主因のようだ。代替策を検討することになる。

スポーツ選手や政治家は世界を駆け巡っているのに、一般人は『来ないでください、行かないでください』と言われてしまうのは不条理だ。

PRX-102はファブリー病で欠如している酵素の補充療法で、植物細胞で培養する点が特徴。Protalixが生産し、開発販売はChiesiが担当する。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 同社の続報





今週は以上です。

2021年4月24日

第996回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • JNJのワクチンにも血小板減少性血栓症の大変稀なリスクありと判定 
  • その他の領域: 
  • JAK阻害剤の第3相円形脱毛症試験が二本目も成功 
  • Jazz社、Xywavの特発性過眠症試験データを学会発表 
  • RNA介入薬を遺伝性ATTRアミロイドーシスに承認申請 
  • CHMP、NMOSD治療薬などに肯定的意見 
  • FDA、アルキル化薬のADCを承認 
  • FDA、GSKの抗PD-1抗体を内膜腫に承認 


【COVID-19関連】


JNJのワクチンにも血小板減少性血栓症の大変稀なリスクありと判定
(2021年4月23日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンを接種した人のうちごく一部で血小板減少を伴う血栓症が発現し致死例もある件について、EUと米国の諮問委員会は、夫々に、大変稀だが深刻な副作用としてレーベルに追加すべきと結論した。便益が危険を上回ることから接種中止までは求めなかった。結論が出たことからJNJはロールアウト再開を決めた。

同様なリスクはアストラゼネカのワクチンでも観察されているが、今のところ、報告頻度はJNJのワクチンのほうが少ない。EMAによると深刻例は約700万回接種して8例(うち1例は致死的)とのことだ。

米国のCDC(疾病管理予防センター)はTTS(血小板減少を伴う血栓症候群)という若干異なったカテゴリーで15例が報告されたことを明らかにした。全員が女性で18-49歳が13例と太宗を占めた。小分類では12例がCVST(脳静脈洞血栓症)。転帰は死亡3人、ICU入室中4人、その他入院3人、5人は退院した。

接種実績は800万回程度なので、頻度は100万回当たり2例弱。女性の年齢別頻度は18-29歳が同5.2例、30代11.8例、40代4.3例、50-64歳1.5例、65歳以上はゼロとなっている。イベント数が少ないせいか綺麗な逆相関にはなっていないが、アストラゼネカのCOVID-19ワクチンと同様に、50歳未満のリスクが高い。

接種後3週間以内に息切れや胸痛、下肢腫脹、持続的な腹痛、重度で持続的な頭痛や霞目のような神経学的症状、そして接種箇所以外での点状出血などの血栓症の症状が現れたら、医療従事者に速やかにコンタクトするよう勧奨した。COVID-19ワクチンはインフルエンザ・ワクチンなどより強力な分、頭痛などの発現率も高いが、接種後何日も経ってから激しい頭痛が生じた場合はTTSを疑ってもよいようだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース(4/20付)
リンク: 同(4/23付)


【新薬開発】


JAK阻害剤の第3相円形脱毛症試験が二本目も成功
(2021年4月20日発表)

イーライリリーは、JAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)の第3相重度円形脱毛症試験が二本目も成功したと発表した。今年下期に米国で、その後に他の地域でも、適応拡大申請する予定。

このBRAVE-AA1試験とBRAVE-AA2試験は、重症(現行の脱毛症状が6ヶ月以上8年以内の期間、継続し、50%以上の毛髪を喪失と定義)の円形脱毛症を米日などの施設で組入れて偽薬、2mg、または4mgを一日一回、36週間投与して、奏効率(脱毛領域の比率が20%以下に低下)を比較した。結果は、AA1試験が各群5%、22%、35%となり、両用量ともp≦0.001だった。AA2試験も3%、17%、33%でp≦0.001。

治療時発現有害事象は上部気道感染症、頭痛、挫創など。静脈血栓塞栓症例や死亡例はなかった。

Olumiantは中重度活性期リウマチ性関節炎や日欧では中重度アトピー性皮膚炎にも承認されている。免疫抑制剤なので深刻な感染症や腫瘍のリスクがあり、JAK阻害剤なので血栓症のリスクも米国では枠付警告されている。FDAはJAK阻害剤の用量依存的深刻副作用に強い警戒心を持っており、日欧と異なり、4mgを承認していない。

従って、今回の発表で一番の朗報は、2mgの効果が確認されたことだ。

尚、組入れを病歴8年以内に限定しているのは、JAK阻害剤の過去の円形脱毛症試験で年齢が若く抜け毛が始まってからの期間が短い患者のほうが効果が出やすかったからだろう。

リンク: 同社のプレスリリース



Jazz社、Xywavの特発性過眠症試験データを学会発表
(2021年4月20日発表)

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は、GABA作用剤Xywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)の第3相特発性過眠症試験が成功したと昨年10月に発表したが、データをAAN(米国神経学会議)で発表した。100人強を組入れてオープン・レーベル(OL)期に全員にXywavを投与した後に、継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して2週間後のEpworth Sleepiness Scale(EPS)を比較した離脱試験。

EPSはTV視聴など八つの環境下で居眠りする可能性を0から3の4段階評価して足し上げる。点数は高いほど可能性が高い。本試験では患者登録時点での平均値15.7(標準偏差3.77)がOL期終了時点では6.1(同3.99)に低下したが、無作為化試験期末には偽薬比平均6.51の差が生まれた(p<0.0001)。

副次的評価項目のIdiopathic Hypersomnia Severity Scale(症状の重さや生活影響に関する14項目について7項目は0-4、7項目は0-3で評価し足し上げる)も患者登録時の31.6(8.34)がOL期末には15.3(8.46)に改善、無作為化試験期末には偽薬比メジアン12.0の差が生じた(p<0.0001)。

Xywavは、ナルコレプシー患者の脱力発作や過度の眠気の治療薬、Xyrem(sodium oxybate)のナトリウム量を92%削減し、高血圧症や腎臓病、心不全などの患者の懸念を解消した製品。昨年、米国でXyremと同じ適応症・効能で承認された。特発性過眠症はXyremが承認されていない新用途。米国の顕在患者数は37000人とのこと。今年4月に適応拡大申請し、審査期限は8月12日。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


RNA介入薬を遺伝性ATTRアミロイドーシスに承認申請
(2021年4月19日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、ALN-TTRsc02(vutrisiran)を遺伝性ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン型家族性アミロイド症)のポリニューロパチー治療薬として米国で承認申請した。日本やブラジルでも申請する予定。EUは18ヶ月追跡データを取得後に申請する考え。

vutrisiranはトランスサイレチン(TTR)遺伝子を標的とするRNA介入薬。3ヶ月毎に25mgを皮注する。第3相試験では9ヶ月後のmNIS+7スコアが2.24ポイント低下(改善)した。対照群(同社の遺伝性ATTRアミロイドーシス治療薬Onpattro<patisiran>の第3相試験の偽薬群のデータを借用)の14.76ポイント上昇と比べて17.0ポイントの差があった(p<0.001)。Norforlk QoL-DNや10分歩行テストも有意な差があった。治療時発現有害事象は下痢、四肢痛、転倒、尿路感染症、注射箇所反応など。薬品関連深刻有害事象は異脂血症と尿路感染症が一例ずつあった(投与は122人)。二人が死亡したが薬物関連とは判定されなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、NMOSD治療薬などに肯定的意見
(2021年4月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、ロシュが中外製薬からライセンスしたNMOSD治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Enspryng(satralizumab、和名エンスプリング)は抗IL-6受容体リサイクリング抗体。NMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)の患者の3分の2を占める、AQP4-IgG陽性型に用いる。投与方法は4週毎皮注で、自己注可能なNMOSD治療薬は初めて。日本では昨年6月、米国でも8月に承認されたが、CHMPは成人だけでなく12歳以上の青少年も適応に含めた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のEvkeeza(evinacumab)はホモ接合型高脂血症の治療薬。トリグリセリドやレムナントなどの代謝を阻害するアンギオポエチン様蛋白III型を標的とする抗体医薬で、スタチンなどによる治療を受けている患者に4週毎点滴静注するとLDL-C値が更に5割近く低下する。米国では今年2月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのLEO PharmaのAdtralza(tralokinumab)はケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジー(CAT)が創製した抗IL-13抗体。CATを買収したアストラゼネカから16年に皮膚学用途でライセンスした。全身性治療が適応になる成人の中重度アトピー性皮膚炎に用いる。米国でも審査中で5月頃に結果が出るのではないか。日本でも承認申請される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: LEO Pharmaのプレスリリース

アストラゼネカのKoselugo(selumetinib)は経口MEK1/2阻害剤。小児叢状神経線維腫病(PN)の2歳以上の小児患者における症候性、切除不能な神経線維腫1型(NF1)の治療に用いる。NCI(米国立がん研究所)が主導した第2相試験で50人中33人の腫瘍が20%以上縮小した。独立中央評価ベースのORR(客観的反応率)は44%だった。

03年にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)からライセンス、MSDと共同開発している。

リンク: EMAのプレスリリース

BMSの子会社となったセルジーンのOnureg(azacitidine)は、点滴静注用薬Vidaza(和名ビダーザ)の活性成分を経口投与できるようにしたフィルム・コート錠。急性骨髄性白血病で寛解導入療法に完全反応(CRiも可)し、HSCT(造血幹細胞移植)に不適/不希望の成人に維持療法として投与する。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を切除不能悪性胸膜中皮腫の成人の一次治療として併用することが支持された。臨床試験でメジアン生存期間が18.1ヶ月と化学療法群の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74だった。米国では昨年10月に承認、日本では先日、第2部会報告が行われた。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)を切除後アジュバントに用いることも支持された。EGFRにエクソン19の欠損やエクソン21のL858R置換を持つステージIBからIIIAの非小細胞性肺癌を完全切除した後に用いる。臨床試験では2年無病生存率が89%と偽薬群の53%を大きく上回った。米国では昨年12月に適応拡大。

リンク: EMAのプレスリリース

アッヴィがジェネンテックと共同開発し米国外では単独販売しているbcl-2阻害剤、Venclyxto(venetoclax、米国名Venclexta)を強力化学療法不適な新患急性骨髄性白血病の成人に低メチル化剤と併用する適応拡大も指示された。併用薬毎に複数の試験が行われ、結果は区々だったが、併用薬はazacitidineに限定されなかった。米国では昨年10月に加速承認から本承認に切り替えられた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認】


FDA、アルキル化薬のADCを承認
(2021年4月23日発表)

FDAは、ADC Therapeutics(NYSE:ADCT)のZynlonta(loncastuximab tesirine-lpyl)を再発難治性巨細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬用薬として加速承認した。抗CD19抗体とアルキル化剤を結合したADC(抗体薬物複合体)で、最初の二回は150mcg/kg、その後は75mcg/kgを3週毎に30分点滴静注する。145人を組入れた第2相試験でORRが48%、完全反応率は24%だった。浮腫・滲出や骨髄抑制、感染症、皮膚反応などが警告注意となっている。投与の前日から3日間、dexamethasoneを一日二回投与してプリメディケートする。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ADC Therapeuticsのプレスリリース

FDA、GSKの抗PD-1抗体を内膜腫に承認
(2021年4月22日発表)

FDAは、グラクソ・スミスクラインのJemperli(dostarlimab-gxly)を難治/進行内膜腫用薬として加速承認した。白金薬レジメンによる治療歴を持ちdMMR(ミスマッチ修復不全)陽性の癌が適応になる。

19年に買収したTesaro社がAnaptysBio社からライセンスして開発した抗PD-1抗体(IgG4型)。500mgを30分以上かけて3週毎に4回、点滴静注し、その後は1000mgを6週毎点滴静注する。臨床試験ではcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価、n=71)が42%で、完全反応率は13%。反応者の93%は6ヶ月以上持続した。深刻有害事象は敗血症、急性腎障害、尿路感染症、腹痛、発熱など。有害事象により被験者の5%が投与中止した。

抗PD-1抗体のトップブランドであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)もdMMR/MSI-Hの難治癌に承認されている。内膜腫の症例数は少ないがORRは36%だったので、優劣を論じるほどではなさそうだ。尚、難治/進行内膜腫ではKeytrudaとエーザイのLenvima(lenvatinib)の併用も承認されているが、dMMR/MSI-H陽性は適応外となっている。

内膜腫は多くの場合、早期発見・切除で治癒できる。dMMR陽性は細胞分裂時に起きがちな遺伝子複製ミスを修復するメカニズムが上手く機能せず、異常な蛋白ができやすいため、免疫療法に反応しやすい可能性がある。難治・進行内膜腫の25%がdMMRとされる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース





今週は以上です。

2021年4月17日

第995回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連:
  • イーライリリーの中和抗体単剤のEUA取消 
  • リジェネロンの中和抗体は感染者の同居者の予防にも有益 
  • BioNTech/ファイザーのワクチンのNNTは30 
  • ワクチン誘導性血小板減少性血栓症の世代別リスク 
  • EMA、アデノウイルス・ベクター・ワクチンの安全性シグナルの検討を開始 
  • JNJのワクチンの接種中断を勧告 
  • 抗寄生虫薬の第2相が成功? 
  • 抗GM-CSF受容体抗体が第2相で良績 
  • MSD、外来患者に抗ウイルス薬の第3相開始へ 
  • MSD、CD24Fcは開発断念 
  • シクレソニドの第3相がフェール 
  • フォシーガの第3相はフェール 
  • それ以外の疾患:
  • オプジーボが肺癌術前療法で良績 
  • バイエルのPI3K阻害剤、NHL二次治療試験が成功 
  • Amylyx、AMX0035をALSに承認申請へ 
  • 新規低用量ピルが米国で承認 
  • オプジーボ、胃癌や食道癌の一次治療に適応拡大 
  • ギリアドの抗EGP-1抗体が膀胱癌に適応拡大 


【COVID-19】


イーライリリーの中和抗体単剤のEUA取消
(2021年4月16日発表)

FDAは昨年11月にイーライリリーのLY-CoV555(bamlanivimab)を12歳以上、体重40kg以上の軽中等症COVID19感染症で入院の必要はないが重症化リスクを持つ患者の治療薬としてEUA(非常時使用認可)したが、取り消した。この抗SARS-CoV-2抗体に抵抗性を持つウイルスの感染例が増加したため。検出率が1月中旬の約5%から3月中旬には約20%に上昇した。同社のLY-CoV016(etesevimab)との併用レジメンや、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-COV(casirivimabとimdevimabの併用レジメン)は有効性を維持しているので、敢えて単剤投与に拘る必要はない。

既報のように、上記三製品のファクトシート(レーベル類似の文書)は3月に改訂され、様々な変異株に関するシュードウイルス試験のデータが掲載された。一番失望的だったのがbamlanivimab(モノセラピー)で、英国型変異(B.1.1.7系統)は感受するが、ニューヨーク型(B.1.525系統やB.1.526系統)のうちE484K変異のあるもの、カリフォルニア型(B.1.427系統やB.1.429系統)、南アフリカ型(B.1.351系統)、そしてブラジル型(B.1.1.248/P.1)は大きく低下するため有効性が期待できないと記されている。英国型以外のウイルスは自然感染やワクチン接種により獲得する抗体や中和抗体医薬品をエスケープする可能性のあるスパイク蛋白L452R変異またはE484K変異を持っている。

(ところで、カリフォルニア型やニューヨーク型はN501Y変異を持っていないようで、そのせいか、英国における英国型、南アフリカにおける南ア型、ブラジルにおけるブラジル型ほど圧倒的な感染シェアを獲得していないが、それでも、カリフォルニアとニューヨークでは高いシェアを占めている。報じられているように、日本の変異株監視体制が最初にN501Y変異を調べて該当するものだけを詳細分析する手順であるならば、この二種類の変異が見落とされている可能性が高いのではないか。)

イーライリリーの併用レジメンなら感受するが、南ア型やブラジル型には十分ではないようだ。中和抗体はワクチンなどと同様に連邦政府が一括購入して無償提供しているが、適応が軽中等症外来患者に限られていて、陽性判定の後に再び呼び出して点滴静注するロジスティクス面の不便さもあるため、あまり普及していない。あえて使うなら、トランプ前大統領と同様に、REGN-COVを選ぶのではないか。

bamlanivimabはカナダのAbCellera Biologicsが米国連邦政府のパンデミック予防プログラムを通じて開発したプラットフォームを使って、回復期血漿からスクリーニングしたもの。イーライリリーが様々な領域の創薬提携に向けて交渉していた時期に浮上、そのままインライセンスに進んだ。etesevimabは中国のJunshi Biosciencesが中国科学院微生物研究所とともに開発した中和抗体。

リンク: FDAのプレスリリース



リジェネロンの中和抗体は感染者の同居者の予防にも有益
(2021年4月12日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)と共同で実施しているREGEN-COV(casirivimab、imdevimab)の家庭内感染予防試験(2069A試験)の成功を発表した。過去4日間に陽性判定されたCOVID-19感染者の家庭内同居人をスクリーニングして、ウイルス陽性ではなく、ウイルスに対する抗体を持たない人1505人を組入れて、偽薬または皮注用新製剤(各1200mg配合)を一回投与して、症候性感染を29日間追跡した第3相試験で、結果は、各群59人と11人が感染、相対リスク削減率81%、pは0.0001未満となった。

上記のうち第1週の感染者数は各32人と9人で相対リスク削減率72%、第2週から29週の発症は27人と2人で93%。発症者の平均症状継続期間は各群3.2週間と1.2週間。有害事象は各群大差なかった。

感染予防はワクチンが有効だが、効果が発揮されるまで1~2週掛かる。既に感染してしまったかもしれないので、治療効果も持つ中和抗体のほうが適していると考えられているが、本試験がエビデンスになりそうだ。

本試験のスクリーニングでウイルス陽性だが症状がなく、抗体も持たない患者を組入れた2069B試験のヘッドラインも公表された。偽薬群は104人中44人が症候性感染に進展、REGEN-COV群は100人中29人で相対リスク削減率31%、p=0.038、第4-29日の発症だけに限定すると22人対5人、76%だった。発症者の平均症状継続期間を計算すると、各3.8週間と3.1週間で、2割程度の減少。こちらの試験の成績は全体的にそれほどインプレッシブではないが、効果があることは確認された。現実の医療ではウイルス検査の結果を待たずに投与することもあるだろうから、有益な情報だ。

REGEN-COVは軽中等症感染で入院していない患者の治療に用いることがEUA(非常時使用認可)されている。同社は対象患者追加を申請する考え。本試験ではウイルスに対する抗体を持つ人を除外しているが、現実の医療では一々検査しないのではないかと想像される。リジェネロンは簡便なコンパニオン診断薬を米国外での販売パートナーであるロシュと共同開発しているはずなので、開発に成功したのか、治療と同様に抗体検査不要とするのか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース(暴露後予防試験)
リンク: 同(発症予防試験)



BioNTech/ファイザーのワクチンのNNTは30
(2021年4月1日発表)

COVID-19のワクチンは武漢での流行が顕在化してから1年足らずで接種が始まる快挙を達成した。一製品当り数万人の第2/3相試験の裏付けがあり、症例数の点ではスピードを優先して質(情報量)を犠牲にしたと言うことはできない。しかし、追跡期間の点では承認/EUA(非常時使用認可)時点では2ヶ月前後と短い。インフルエンザワクチンなら効果が半年保てば十分だが、COVID-19は通年流行するので、ブースター接種はせめて1年後、できれば2年に一回くらいで済んでほしいものだが、現時点でも半年分のデータしかない。開発段階では1年、2年と盲検を続ける期待もあったが、偽薬群の患者の接種を禁じるのは人道に反する可能性があり、結局、偽薬対照のままの追跡データは、せいぜい半年分しか取得できない可能性が高い。

ファイザーがドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)のライセンスで共同開発販売しているCOVID-19ワクチン、Comirnaty(tozinameran、和名コミナティ)の第3相試験の半年追跡データが発表された。46307人を二回目接種の6ヶ月後まで追跡して症候性感染リスクを比較したもので、偽薬群は850人が発症したが、試験ワクチン群は77人に留まり、ワクチン効率は91.3%(95%信頼区間89.0-93.2)となった。

承認/EUAの根拠となった中間解析は対象人数が34922人と異なるため、発症率に注目すると、偽薬群0.92%、試験ワクチン群は0.04%だった。今回は各3.67%と0.33%で、追跡期間が4倍くらい延びた分、両群とも上昇した。

ワクチンでNumber-needed-to-treatが議論されることは少ないが、インフルエンザやCOVID-19のように多くの人が感染するリスクのある病気では、危険と便益を評価する上で重要だ。試算すると、中間解析時点の113から30に向上した。30人に投与すると1人を感染から救うことができ、残りの29人は接種しても感染するか、しなくても感染しないことになる(尚、この事例では接種して感染するのは0.1人のみ)。1年追跡すればもっと小さくなるかもしれないが、データがないので、何とも言えない。返す返すも残念なことだ。

リンク: 両社のプレスリリース



ワクチン誘導性血小板減少性血栓症の世代別リスク
(2021年4月7日発表)

既報のように、オックスフォード大学/アストラゼネカのCOVID-19ワクチンでごく稀に血小板減少を伴う血栓症が報告されていることを受けて、英国は、可能なら20-29歳には異なったワクチンを提供する方針を打ち出した。感染して重篤な状態になる確率は世代とともに高まる一方で、血小板減少を伴う血栓症の報告頻度は世代が若いほど高いからだ。後者は初耳だったためデータを探したところ、ケンブリッジ大学のWinton Centre for Risk and Evidence Communicationという機関のニュースページにそれらしき記述を見つけた。便益と危険を釣り合わせるために、10万人当たりのNumber-needed-to-treatはICU入室を減らす便益で、Number-needed-to-harmは血小板減少を伴う血栓症の危険で、世代別に定量評価したものだ。便益は流行の激しさ次第で変動するため、人口1万人当たり一日当たり感染者数が2人、6人、20人の三つのシナリオが用意されている。便益は観測期間とも相関するが、ここでは16週間の便益に限定している。理由は不明だが、英国でワクチンの接種が始まってから4ヶ月足らずであることや、ワクチンの効果の持続性が不透明であることを反映したのかもしれない。

血小板減少性血栓症の10万人当たり頻度を見ると、20代は1.1例、30代は0.8例、40代は0.5例、50代は0.4例、60代は0.2例となっており、統計的な有意性は不明だが、数値上はきれいに逆相関だ。この副作用がワクチンによる免疫刺激に誘導されたものだとすれば、一般に若いほどワクチン反応が強いので、高齢者より若者のほうがリスクが高くても不思議はない。

便益は1万人当たり2人/日感染するシナリオAに注目すると、20代で便益を受けるのは接種者10万人当たり0.8人となっており、確かに、危険が便益を上回っている。一方、他の世代では便益が危険を上回っており、特に、60代以上では便益が危険の70倍と大きな差が出ている。

日本の流行度合いに置き直すと、東京の感染者が一日700人とすると1万人当たり0.76人、大阪が1200人なら1万人当たり1.35人となるので、英国より便益が全体的に小さくなる。血小板減少を伴う血栓症のリスクは、日本人は血栓症のリスクが欧米より低いと言われているので英国ほどではないかもしれないが、もしデータがあるならば、類似疾患であるヘパリン起因性血小板減少症の頻度で比較したいところだ。

世代別の便益とリスク(10万人当たり)

便益危険
【シナリオA】
20-29歳0.81.1
30-39歳2.70.8
40-49歳5.70.5
50-59歳10.50.4
60-69歳14.10.2
【シナリオB】
20-29歳2.21.1
30-39歳8.00.8
40-49歳16.70.5
50-59歳31.00.4
60-69歳41.30.2
【シナリオC】
20-29歳6.91.1
30-39歳24.90.8
40-49歳51.50.5
50-59歳95.60.4
60-69歳127.70.2
注:シナリオは人口1万人・1日当りの感染者数がA(英国でいえば3月の水準)は2人、B(2月の水準)は6人、C(第2波のピーク水準)は20人と想定。
出所:Winton Centre for Risk and Evidence Communication

リンク: Winton Centre for Risk and Evidence Communicationのニュースリリース



EMA、アデノウイルス・ベクター・ワクチンの安全性シグナルの検討を開始
(2021年4月9日発表)

EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス・リスク評価委員会(PRCA)は、オックスフォード大学/アストラゼネカとジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンについて、安全性シグナルが見られるため検討を開始したと発表した。現時点ではワクチンとの因果関係は明らかではない。

前者のチンパンジー・アデノウイルス・ベクターを用いたワクチンでは、極めて稀に、血小板減少を伴う血栓症が発生することが発見されているが、今回は、毛細血管漏出症候群が5例、報告されたことが明らかになった。副作用報告は氷山の一角に過ぎないが、もっと多かったとしても、これまでの接種実績は数千万回なので、極めて稀であることに変わりはない。

後者のアデノウイルス26型をベクターとするワクチンは、血小板減少を伴う深刻血栓症が4例、報告されていることが明らかにされた。全部米国で、1例は臨床試験、3例は市販後。致死例は1例だった。EUでも承認されたが未だ接種開始されていない。米国の接種実績は約500万回なので、こちらも極めて稀だ。アストラゼネカのワクチンでは頻度がもっと高いので、検証するのは比較のためにも重要だろう。尚、米国でも接種中断勧告が発せられた(次項)。症例数や接種回数は次項のほうがアップデートされている。

リンク: EMAのプレスリリース



JNJのワクチンの接種中断を勧告
(2021年4月13日発表)

CDC(疾病管理予防センター)とFDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチンの接種を中断するよう勧告した。米国で6例のCVST(脳静脈洞血栓症)が報告されたため、念には念を入れて、分析が進むまで見送るよう求めた。ジョンソン・エンド・ジョンソンもワクチンのロールアウトや臨床試験での接種を中断することを決めた。接種を受けた人には、3週間以内に重度頭痛、腹痛、足痛、息切れなどの症状が出たら医療従事者にコンタクトするよう推奨した。

米国の接種実績は680万回とのことなので、発生頻度は100万回当り一回程度であり、アストラゼネカのワクチンの100万人当たり5回より小さい。但し、JNJのワクチンの市販後データは米国、アストラゼネカのワクチンのそれは英国中心に欧州と地域が異なるので、人種構成や医療風土、副作用報告のカバー率などの違いが影響していないとは限らない。

上記6例の特徴は、全員が18~48歳の女性で接種の6~13日後に発症。転帰は一人が死亡、一人は危機的状態。

治療は4例でヘパリンが使用されたが、少なくとも数例は、ELISAで抗PF4抗体陽性が確認された後にアルガトロバンや免疫グロブリン静注に切り替えた。血栓症の治療薬はヘパリンが一般的だが、ワクチン接種者で起きる血小板減少性血栓症はヘパリン起因性血栓症と似ており、ヘパリンを投与すると病状が悪化する可能性があるからだ。CDC/FDAもヘパリンを使わないよう注意を促した。

New England Journal of Medicine誌にアストラゼネカのワクチンを接種した後に血栓症や血小板減少症を発症した症例報告二本が掲載されている。全員が、ヘパリン起因性血栓症と同様に、platelet factor 4(PF4)陽性だった。英国のMHRAによると、D-ダイマーが静脈血栓塞栓で見られる水準よりも大きく増加し、フィブリノーゲンが異常に減少する傾向もある由。可能ならヘパリン投与前にアストラゼネカやJNJのワクチンを接種しなかったか確認するとともに、これらの検査をしたほうが良さそうだ。

4月14日に開催されたACIP(ワクチン接種諮問委員会)のプレゼンテーション・スライドによると、人口全体のCVST罹患率は100万人年当たり5~20例と推定されており、メジアン年齢は37歳、65歳超は全体の8%で、高齢者は比較的少ない。女性が男性の3倍多い。リスク要因としては血栓形成促進的状態、経口避妊薬、妊娠・出産直後、腫瘍、感染症、腰椎穿刺など。JNJのワクチンでは接種後1ヶ月足らずで発症しているので年率修正すると、罹患率は上記通常値の4~15倍と推測される由。

尚、ACIPは情報不足でJNJのワクチン接種を止めるべきかどうか判断できないと結論した。次回のACIPで継続検討する予定。

リンク: CDC/FDAの共同声明(4/13付)
リンク: JNJの声明(4/13付))
リンク: 同(4/14付))



抗寄生虫薬の第2相が成功?
(2021年4月14日発表)

米国のRomark社はNT-300(nitazoxanide ER錠)の第2相軽中等症COVID-19試験が良好な結果になったと発表した。EUA(非常時使用認可)を申請する予定。

米国で寄生虫による下痢の治療薬Aliniaとして販売されている広域抗ウイルス剤の徐放製剤で、SARS-CoV-2のスパイク蛋白の成熟を阻害する作用に着目、今回の試験に進んだ。米国の12歳以上で呼吸器症状発症後72時間以内のCOVID-19疑い例を組入れて偽薬またはNT-300を一日二回、5日間経口投与した外来治療試験で、組入れは1092人だが、薬効解析はウイルス検査で確認された379人が対象。

主評価項目のメジアン罹患期間は両群とも13日だったが、軽症患者では偽薬群(129人)が13.4日であったのに対して試験薬群(116人)は10.3日だった。また、副次的評価項目である重症化率(息切れ症状及びSpO2などに基づいて判定)は偽薬群3.6%、試験薬群は0.5%だった。有害事象は下痢が若干増えた程度。

EUAは正式な承認ではなく、過去にはEUA後に臨床試験がフェールして撤回された事例もあるので、この程度のエビデンスでも認められる可能性がありそうだが、有意性も含めてデータの全容が未公表なので、今後を予想するのは困難だ。

リンク: 同社のプレスリリース



抗GM-CSF受容体抗体が第2相で良績
(2021年4月12日発表)

バミューダ籍の新興医薬品開発会社、Kiniksa Pharmaceuticals(Nasdaq:KNSA)は、KPL-301(mavrilimumab)の第2/3相COVID-19肺炎試験のうち第2相部分のコフォート1の解析が良好な結果になったと発表した。FDAなどと相談し、EUA(非常時使用認可)申請の可能性を探る考え。

KPL-301は、20年前にケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジー(CAT)社がAMRAD社と共同開発を開始した、GM-CSFの受容体に結合するファージ・ディスプレイ型ヒト化抗体。CATを買収したMedimmuneがリウマチ性関節炎などの治療薬として開発を継続したが、霊長類の毒性試験で肺胞蛋白症の懸念が見られたためFDAが米国治験を許可しなかったことなどから中止した。17年にKiniksaがライセンス、巨細胞性動脈炎の第2相試験が成功したが、COVID-19の試験も開始した。昨年12月に研究者主導試験で病状悪化や死亡のリスクを軽減する傾向が見られたことが公表されている。

今回のコフォート1は、重症肺炎を合併し酸素投与が必要だが人工呼吸器等は不要な、炎症の亢進も見られる患者116人を偽薬、6mg/kg、または10mg/kgを一回点滴する群に無作為化割付して、人工呼吸器装着・死亡リスクを29日間観察した。2用量群合計の人工呼吸器非装着生存率は86.7%と偽薬群の74.4%を上回り、p値は0.1224で閾値の0.2をクリアした(小規模な第2相の薬効解析では閾値を甘く設定することが少なくない)。ハザードレシオは0.35、p=0.0175。また、29日死亡率は8.0%と偽薬群の20.5%を大きく下回った。ハザードレシオは0.39、p=0.0726。

コフォート2は人工呼吸器装着後48時間以内の患者を無作為化割付して転帰を比較している。また、第3相ポーションの組入れも逐次開始している。

小規模な第2相の成績なので第3相で再現されるとは限らないが、数値自体は良好なので、どのような結果になるか楽しみだ。

リンク: 同社のプレスリリース



MSD、外来患者に抗ウイルス薬の第3相開始へ
(2021年4月15日発表)

MSDは、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)の第2/3相COVID-19試験の第2相部分の結果概要と、第3相部分は発症後5日以内の外来患者に限定して来月までに開始する計画であることを発表した。

molnupiravirはエモリー大学のDrug Innovations at Emoryという非営利組織が開発、20年3月にRidgeback Biotherapeuticsがライセンス、5月にはMSDが世界開発商業化権を取得した。RNAポリメラーゼを阻害するリボヌクレオシド類縁体で経口カプセルなので、ギリアドが外来治療向けの開発を断念したremdesivirのような点滴静注薬よりも外来治療に向いている。

第2/3相は18歳以上の軽中等症患者が対象で、外来試験は発症7日以内の患者を組入れて入院・死亡リスクを、入院患者試験は発症10日以内の患者を組入れて治癒を偽薬と比較した。第2相部分は用量決定試験で、200mg、400mg、800mgを一日二回、5日間投与した。

両試験ともウイルス量が偽薬より減少し、800mgの効果は二低用量より高かった。発症5日以内の患者では特に治療効果が大きかった。ところが、主評価項目は明暗が分かれ、外来試験は3用量群の入院・死亡率が偽薬群より低い傾向が見られた(イベント数が少ないため統計検定は無意味)。一方、入院試験は効果が見られず、無益認定された。

薬物関連有害事象の発生率は外来試験が偽薬6.8%、3用量群合計は6.2%、入院試験は各21.3%対11.0%。薬物関連有害事象による治験離脱や死亡は発生しなかった。

これらを踏まえて、第3相部分は発症5日以内で一つ以上の重症化リスク因子を持つ軽中等症外来患者に限定して、偽薬または800mgを一日二回、5日間投与する予定。

リンク: MSDのプレスリリース



MSD、CD24Fcは開発断念
(2021年4月15日発表)

MSDは昨年12月にOncoImmune社を4.25億ドルで買収して遺伝子組換えCD24・免疫グロブリン固定領域融合蛋白(CD24Fc)を入手、重症COVID-19治療薬として承認申請を狙っていたが、開発断念した。270人を組入れた第3相試験の中間解析が成功したが、FDAやEMAが承認に前向きでなかったため。

CD24Fcは先天性免疫のチェックポイントとされるCD24と競合して標的と結合、NFカッパBの活性やIL-6などの分泌を抑制する。他家造血幹細胞移植後の移植片宿主病予防薬として第3相試験が進行していたが、COVID-19に感染して酸素投与や換気補助が必要な患者270人に偽薬または480mgを一回、点滴静注した第3相試験が中間解析で成功、一躍有名になった。罹患期間はメジアン6日間と偽薬群の10日間より短く、回復ハザードレシオが1.6、p=0.005だった。呼吸不全・死亡も半減した。remdesivir併用例やステロイド併用例では差がもっと開いた。

このデータを見た現FDA長官代行のJanet Woodcock氏が大手製薬会社との提携を促したという噂があり、周到な臨床開発を行うことで知られるMSDがライセンスした、お墨付きみたいな薬だっただけに、今年2月に刊行されたアニュアル・リポートでFDAのフィードバックがネガティブだったことが明らかにされた時の驚きは大きかったが、今回、臨床試験をもう一本実施するよう求められただけでなく、量産方法の開発も必要であることが明らかにされた。2022年上期中のEUA(非常時使用認可)が難しくなったことから、他のプロジェクトを優先することを決定した。

リンク: MSDのプレスリリース



シクレソニドの第3相がフェール
(2021年4月15日発表)

スイスのCovis Pharma社は、ciclesonide吸入の第3相COVID-19外来治療試験がフェールしたと発表した。12歳以上の症候性感染者約400人を組入れて、160mcgをpMDIで二回ずつ、一日二回、30日間に亘って吸入する効果を偽薬と比較したが、症状解消成功率が70.6%と偽薬の63.5%をそれほど上回らず、p=0.5502という残念な結果になった。

一部のサブグループや一部の副次的評価項目では良さそうな数値も出たようだが、説明が曖昧で良く分からない。

このコルチコステロイドはドイツの化学会社であるアルタナが開発、喘息症維持療法薬Alvescoとして欧米で発売したが化学品事業スピンアウトの方針を突如覆し、薬品部門をNycomedに売却した。その後、Sepracorや大日本住友製薬などを経てCovis Pharmaが事業を取得した。日本では帝人がオルベスコ名で販売している。

日本で行われた臨床試験も無作為化割付がうまくいかなかったのか軽症患者は肺炎増悪リスクが高まる懸念が生じるなど、パッとしない結果になっている。

リンク: 同社のプレスリリース



フォシーガの第3相はフェール
(2021年4月12日発表)

アストラゼネカは二型糖尿病などの治療に用いられるSGLT2阻害剤、Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の第3相COVID-19治療試験を行ったが、フェールしたと発表した。データは5月のACC(米国心臓学会)で発表する計画。

高血圧症や二型糖尿病、アテローム硬化性心血管疾患、心不全、ステージ3以上の慢性腎臓疾患の患者はCOVID-19に感染すると重症化しやすいことが指摘されている。今回のDARE-19試験はこれらのリスク因子を持つCOVID-19入院患者1250人を組入れて、臓器不全・死亡のリスクと、病状改善リスクを偽薬と比較した。

一年前にロンチした段階では、COVID-19感染症のストレス下ではケトアシドーシスが起きるリスクがあるのでSGLT2阻害剤ではなく他の血糖治療薬にスイッチすべき、というエキスパート・オピニオンもあった。実際に、SGLT2阻害剤服用者が感染して正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス(eDKA)を発症した、という症例報告も論文発表されている。

DARE-19試験でもeDKAが見られたか、学会発表が注目される

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: SGLT2阻害剤誘導性eDKAに関するVitaleらの症例報告論文(AACE Clin Case Rep, 2021)


【新薬開発】


オプジーボが肺癌術前療法で良績
(2021年4月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、昨年10月に、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckMate-816試験のpCR(病理学的完全反応率)解析が成功したと発表したが、今回、AACR(米国癌研究会)でデータを発表した。ステージIbからIIIaの切除可能な非小細胞性肺癌の術前化学療法にOpdivoを追加する効果を調べたところ、24%の患者で癌が消滅していた。偽薬追加群は2.2%に留まり、オッズ比は13.94、p値は0.0001を下回った。PD-L1発現度合や細胞の種類、ステージに関わりなく効果があった。グレード3/4治療時発現有害事象の発現率は両群大差なかった。もう一つの主評価項目のEFS(再発などがないまま生存)に向けて治験を継続する。

pCRは早期乳癌では重要な薬効評価手法だが非小細胞性肺癌ではあまり聞かない。BMSが適応拡大申請するかどうか、FDAがサロゲートマーカーとして認めるかどうか、注目したい。

リンク: BMSのプレスリリース



バイエルのPI3K阻害剤、NHL二次治療試験が成功
(2021年4月10日発表)

バイエルは、Aliqopa(copanlisib)の第3相Chronos-3試験の結果をAACRとLancet Oncologyで発表した。一次治療歴を持つ緩徐進行性非ホジキンリンパ腫(NHL)にrituximabと併用する効果を検討した二重盲検試験で、PFS(無進行生存期間)がメジアン21.3ヶ月と偽薬・rituximab併用群の13.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.52、p値は0.0001を下回った。FDAは緩徐進行性NHLを更に細分化して適応を決める傾向があるが、本試験では、濾胞性リンパ腫のハザードレシオが0.58、辺縁帯リンパ腫では0.475でどちらも統計的に有意だった。小リンパ球性リンパ腫(ハザードレシオ0.243)やワルデンシュトレームマクログロブリン血症(0.443)でも良好な数値が出たが検出力不足で有意ではなかった。

治療時発現有害事象による離脱率は32%と対照群の8%よりかなり高かった。Aliqopaは血糖値や血圧が上昇する服用がある。類薬の同様な試験で死亡例が増加し打ち切りになったことがあったので、影を落としたかもしれない。それでもこれだけの好成績が出たのは評価されそうだ。

AliqopaはPI3Kアルファ/デルタ阻害剤。17年に米国で濾胞性リンパ腫の三次治療薬として加速承認された。

リンク: バイエルのプレスリリース



Amylyx、AMX0035をALSに承認申請へ
(2021年4月14日発表)

米国のAmylyx社は、AMX0035(sodium phenylbutyrateとtauroursodeoxycholic acidの合剤)をALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬として第3四半期にカナダで承認申請する計画だが、EUでも年内に申請する考えであることを明らかにした。尚、米国は見送り、第3四半期に欧米で第3相試験を開始する予定。

AMX0035はフェニル酪酸ナトリウム3gとタウロオルソデオキコール酸1gを経口投与する。前者は小胞体、後者はミトコンドリアから始まる神経変性回路を阻害し、神経細胞死を抑制することが期待される。

承認申請の根拠となる第2相試験は19年12月に成功したことが発表され、昨年夏にNew England Journal of Medicine誌に論文掲載された。発症後18ヶ月以内の患者135人を偽薬またはAMX0035に無作為化割付して一日二回(最初の3週間は一回)経口投与し、24週後のALSFRS-Rスコアを比較したところ、偽薬群は月平均1.66ポイント低下したが試験薬群は1.24ポイント低下に留まり、24週間で2.32ポイントの差があった(p=0.03)。有害事象による治験離脱は各群8%と19%だった。

この試験は承認薬であるRadicava(edaravone)やriluzoleの使用が容認されていて、被験者の77%がどちらかを、28%が両方を、用いていた。edaravoneの承認の根拠となった日本の第3相試験では、ALSFRS-Rのベースライン平均値が41.9と今回の試験の36より大きかった(病状が軽かった)が、治療効果は2.49で今回の2.32と同程度であった。従って、今回の試験が実力通りならば、承認される可能性もあるだろう。

しかし、米国申請が先送りされたことを考えると、データが頑強とは言えないのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


新規低用量ピルが米国で承認
(2021年4月15日発表)

オーストラリアのMayne Pharma(ASX:MYX)とベルギーのMithra Pharmaceuticals(Euronext Brussels:MITRA)は、FDAがNextstellis(estetrol、drospirenone)を承認したと発表した。胎児の肝臓が生産するのと同じ低力価エストロゲンとバイエルが開発してYasminなどに配合したプロゲスチンの合剤で、避妊に用いる。Mithraが15年にActavisから導入して開発、3月にカナダで初承認され、EUでCHMPの肯定的意見を得た。

米国はMayneが販売、EUはハンガリーのGedeon RichterがDrovelis名で販売する。尚、日本は富士製薬が16年に権利を取得、FSN-013として開発中。

リンク: 両社のプレスリリース(pdfファイル)



オプジーボ、胃癌や食道癌の一次治療に適応拡大
(2021年4月16日発表)

FDAは、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を進行/転移胃癌や胃食道接合部癌、そして腺腫食道癌の一次治療に化学療法と併用することを承認した。免疫療法が胃癌の一次治療薬として承認されたのは米国では初。

エビデンスとなるCheckMate-649試験では、 mFOLFOX6レジメン(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatin)またはCapeOXレジメン(capecitabine、oxaliplatin)にOpdivoを追加した群のメジアン全生存期間が13.8ヶ月と追加しなかった群の11.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.80、p=0.0002だった。CPS≧5のPD-L1陽性例ではメジアン14.4ヶ月対11.1ヶ月、ハザードレシオ0.71と若干上回る治療効果を示した。有害事象による治験離脱は36%で対照群の24%を上回った。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース



ギリアドの抗EGP-1抗体が膀胱癌に適応拡大
(2021年4月13日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンシズが昨年、210億ドルで買収したImmunomedicsの抗EGP-1抗体、Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)を局所進行性/転移性の尿路上皮腫の3次治療薬として加速承認した。白金薬ベースの化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ患者が適応になる。エビデンスは第2相試験の112人のデータで、確認ORR(客観的反応率)が27.7%、うち完全反応5.4%、部分反応22.3%、メジアン反応持続期間は7.2ヶ月だった。

2年前に同様な癌に加速承認されたアステラス/Seagen(Nasdaq:SGEN)の抗Nectin-4抗体薬物複合体、Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)のORRは40%なのでTrodelvyが特に聞くということではなさそうだ。また、Trodelvyは命に係わることもある好中球減少症や下痢が枠付警告された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース





今週は以上です。

2021年4月9日

第994回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:オルミエントの二本目の第3相は区々な結果に 
  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンの血栓症リスクが公認 
  • COVID-19:Modernaのワクチンも11回分取ってよい 
  • キイトルーダ、腎細胞腫術後アジュバント試験が成功 
  • オプジーボ、食道扁平上皮腫試験が成功 
  • 一型糖尿病予防薬の承認が遅れそう 
  • JAK阻害剤の審査期間延長が続発 
  • エベレンゾは心血管リスクがエポエチンより有意に小さくはなかった 
  • Acadia社、pimavanserinの適応拡大が承認されず 
  • 抗EGP-1抗体薬物複合体がトリプル・ネガティブ乳癌に本承認 
  • Supernus社、ADHD治療薬が承認 


【今週の話題】


COVID-19:オルミエントの二本目の第3相は区々な結果に
(2021年4月8日発表)

イーライリリーとインサイト(Nasdaq:INCY)は、Olumiant(baricitinib、オルミエント)の第3相COVID-19試験の結果を発表した。主評価項目はフェールしたものの、死亡リスクを抑制する可能性が示唆された。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導したACTT-2試験は主目的を達成したが全死亡の解析は有意水準に達しておらず、区々な結果になった。サブグループ分析による感受性分析結果の公表が期待される。

Olumiantはインサイトが創製したJAK1/2阻害剤で、中重度活性期リウマチ性関節炎用薬として承認されている。上記ACTT-2試験に基づいて、酸素投与や人工呼吸器・ECMO装着を受けている患者にremdesivirと併用することが昨年11月にEUA(非常時使用認可)された。

今回のCOV-BARRIER試験は米州欧露日韓の施設で炎症性マーカーが亢進している入院患者1525人を組入れて、偽薬または4mgを一日一回投与する転帰を28日間追跡した無作為化割付二重盲検試験。ACTT-2試験との違いは、呼吸補助を受けている患者は除外したことと、remdesivir併用が必須ではなく被験者の19%に留まったこと。ステロイドは79%が併用した(ACTT-2は不明)。

主評価項目は死亡または侵襲的/非侵襲的呼吸補助のリスク。結果はオッズ比は0.85となったがp=0.18とフェールした。発生率の絶対差は2.7ポイント程度低かった由。

副次的評価項目の死亡リスクはハザードレシオ0.57(95%信頼区間0.41-0.78)、名目p=0.0018、発生率は各群13.1%と8.1%と、主評価項目がフェールしたので統計学的に有意とは言えないが、数値上は良い結果が出た。

ACTT-2試験では、主評価項目である回復までの期間がメジアン8日と偽薬群の7日より少し短く、インシデンス・レート比1.15、p値は0.047とぎりぎり有意だった。ベースライン時点で酸素投与あるいはハイフロー酸素/非侵襲的換気を受けていたサブグループではもっと大きな差があった。一方、死亡率は各群7.1%と4.7%、p=0.09で、相対リスク削減率もp値もCOV-BARRIER試験ほどではなかった。主評価項目もインプレッシブではなく、全体的に、手放しで喜べる成績ではなかった。

尚、両試験とも、有害事象発生率は偽薬群より低かった。

インターロイキンなどの炎症性サイトカインの影響を抑制する薬では、抗IL-6受容体抗体の試験結果も区々だ。本当は1万人規模の試験を行って、効く人と効かない人の見分け方(病状とか、CRPとか)を探索すべきなのだろう。非常事態なので時間をかけている暇はないが、しかし、既に1年経っており、時間を言い訳にできる時期はもうそろそろ終えないといけない。

リンク: 両社のプレスリリース



COVID-19:アストラゼネカのワクチンの血栓症リスクが公認
(2021年4月7日発表)

EUのEMA(欧州薬品庁)や英国のMHRA(医薬品・医療製品規制庁)は、アストラゼネカがオックスフォード大学からライセンスして製品化したCOVID-19ワクチンに関して、血小板減少を伴う血栓症を大変稀な副作用として認めた。アストラゼネカは医療従事者向け書簡を発出、接種後に息切れや胸痛、下肢浮腫、持続的な腹痛、重度或いは持続的な頭痛や霞目などの神経学的症状、注射箇所以外の皮膚点状出血などが発生したら医療従事者にコンタクトするよう接種者に指示することを求めた。JCVI(英国のワクチン接種に関する独立諮問委員会)は、リスクは年齢と逆相関する傾向が見られ、COVID-19感染の重症化リスクは順相関であることから、30歳未満で重症化リスク因子を持たない人にはアストラゼネカ以外のワクチンを提供するのが望ましいと結論した。

アストラゼネカのワクチンは、CVST(脳静脈洞血栓症)やSVT(内臓静脈血栓症)などが報告されている。血小板減少を伴う点やPF4(血小板因子4)に対する抗体も観察されている点でヘパリン誘導性血栓性血小板減少症と似ており、ワクチンに対する免疫反応が原因なのではないかと言われている。MHRAによると、D-ダイマーが静脈血栓塞栓で見られる水準より大きく増加し、フィブリノーゲンが異常に減少する傾向が見られる。

有害事象報告数はEMAによると3月22日時点ではCVSTが62例、SVTが24例で、両方合わせて18例が致死的だった。症例の殆どを占める欧州経済領域と英国でのこの段階での接種実績は2500万人。4月4日時点ではCVST169例、SVT53例、接種実績3400万人なので百万人当たりだと各5例と1.5例となる。一方、英国では3月31日時点でCVST44例、その他が35例で、致死的は19人。CVSTは100万人当たり2.2例の計算になる。尚、CVSTは人口全体でも100万人当たり5-16例発生すると推定されているが、今回の症例は期間が半年足らずであることや、血小板減少を伴う特殊なタイプであるため、数値を単純に比較するのは適当ではないようだ。

リスク因子は見つかっていないが、発生率はヤングアダルトで最も高い(データは公表されていない)。英国では全て一回目の接種で、性別では女性が多いが、元々の構成比が高く、特に女性に関しては、発生率で見ると特に高くはないようだ。多くは接種後2週間以内に発症している。

今のところ、このようなリスクが見られるのはアストラゼネカのワクチンだけで、他のワクチンでのCVST報告数は報道によると100万人年当り1例前後であるようだ。英国ではBioNTech/ファイザーのワクチンでも2例のCVSTが報告されているが、MHRAはワクチンが関連する可能性は著しく低いと判定した。

危険は便益と比較すべきである。英国では今年に入ってからだけでもCOVID-19感染者が52000人以上、死亡した。人口100万人当たりだと約780人となる(因みに、日本は100万人当たり約45人、うち東京は約119人)。英国の場合、CVST/SVTのリスクは感染して死亡するリスクの100分の1以下ということになる。

尤も、COVID-19で亡くなる人は、人口全体で亡くなる人と同様に、高齢者が殆どだ。JCVIによると、40代の感染者の死亡リスクは30代の3倍、20代の12倍とのことであり、危険と便益のバランスは居住地域や年齢に即して検討すべきである。その意味で、JCVIが20代(現時点で接種対象になるのは医療・介護従事者などのみ)には他ののワクチンを供給すべきと勧告したのは理に適っている。定量化をしないまま便益が危険を上回ると断ずる我が国の助さん格さんの末裔は見習うべきだろう。、

リンク: MHRAの医療従事者向け情報
リンク: JCVIの声明
リンク: Dear Healthcare Professional Letter(pdfファイル)



COVID-19:Modernaのワクチンも11回分取ってよい
(2021年4月1日発表)

FDAはModerna(Nasdaq:MRNA)のCOVID-19ワクチンに関してEUA(非常時使用認可)の内容を見直し、バイアル一瓶から最大11回分取れることを明確にした。従来は10回分としていた。また、新たに13~15回分取れるバイアルがラインアップされたことも発表した。大型バイアルは解凍時間が室温解凍で1.5時間、冷蔵庫なら3時間と従来バイアルより30分余計にかかる。

使用するシリンジや針によっては11回分あるいは15回分は取れないかもしれないが、何れにせよ、ワクチンの供給が需要を下回る現状で、少しでも多くの人に接種する手段が公認されたのはプラスだ。

BioNTech/ファイザーのワクチンがバイアル一瓶当り5回分から最大6回分に上方修正された時、なぜ他のワクチンでは同様な話が出ないのか、不思議に思ったが、結局、メーカー側の取り組みの速さの違いだったのだろう。

尚、Modernaのワクチンは一人当たり0.5mLを抽出して希釈せずに投与する。BioNTech/ファイザーのワクチンは0.3mLを抽出して生理食塩水1.8mLで希釈してから投与する。

リンク: FDAのプレスリリース


【新薬開発】


キイトルーダ、腎細胞腫術後アジュバント試験が成功
(2021年4月8日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)のKEYNOTE-564試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。データを学会発表するとともに、適応拡大申請に向かう考え。

この試験は、腎細胞腫の摘出術を受けた患者を組入れて、200mgを3週毎に最大17回投与し、DFS(無病生存期間)を偽薬と比較した二重盲検試験。全生存期間の解析に向けて治験を続行している。

Keytrudaは進行腎細胞腫にVEGF受容体阻害剤と併用することが日米欧で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース



オプジーボ、食道扁平上皮腫試験が成功
(2021年4月8日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の第3相CheckMate-648試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。データは学会発表の予定。適応拡大申請に向かうのではないか。

この試験は、切除不能進行性/転移性食道扁平上皮腫を対象に、fluorouracilとcisplatinの併用レジメンと、更にOpdivoも併用するレジメン、そしてOpdivoとYervoy(ipilimumab)を併用するレジメンの効果を比較したオープンレーベル試験。どちらの併用も、共同主評価項目であるPD-L1陽性サブグループにおける全生存期間とPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の解析が成功した。更に、被験者全体の全生存の解析も成功した。

尚、食道がんは9割が扁平上皮腫で、地域別ではアジアが8割を占めるとのこと。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


一型糖尿病予防薬の承認が遅れそう
(2021年4月8日発表)

Provention Bio(Nasdaq:PRVB)はPRV-031(teplizumab)を一型糖尿病予防薬としてFDAに承認申請しており、審査期限は7月2日だが、遅れる可能性が出てきた。申請内容に欠陥があり、承認審査の最後の段階であるレーベルの内容や市販後コミットメントに関する協議に進めない旨の連絡をFDAから受けたからだ。薬物動態/薬理学的ブリッジング試験で、臨床試験で用いられたバッチと市販予定のバッチの薬物動態が一致しなかったことに懸念を持っている様子だ。諮問委員会は予定通り5月27日に開催される。

teplizumabはCD3のエプシロン鎖に結合するヒト化抗体。通称Ala-Ala。マクロジェニクス(Nasdaq:MGNX)から18年にライセンスした。承認申請の根拠であるNIH(米国立衛生研究所)主導の第2相TN-10試験は近親に一型糖尿病患者がいて、二種類以上の一型糖尿病自己抗体を持ち、血糖値異常の76人(7割が18歳以下)を組入れて、30分点滴静注を1日1回、14日間施行して、その後の1型糖尿病発症リスクを偽薬と比較した。結果は、ハザードレシオ0.41、p=0.006、メジアン期間は48ヶ月と偽薬群の24ヶ月を上回った。

TN-10試験では、07~10年にインライセンスしていたイーライリリーの製造品を使ったが、Provention社はAGC Biotechに製造委託したものを販売する計画なので、当然、同等であることを確認する必要がある。

尚、同社は19年に1型糖尿病の新患を組入れる第3相試験を開始したが、昨年3月、COVID-19など環境の変化を理由に組入れを停止している。もしFDAが加速承認する考えであった場合、市販後コミットメント試験になるべき当該試験の中断が好ましくない影響を与える可能性がある。

リンク: 同社のプレスリリース



JAK阻害剤の審査期限延期が続発
(2021年4月7日発表)

JAK阻害剤は様々な製品が関節リウマチ治療薬として承認されている。適応拡大も活発だが、FDAは、感染症や心血管疾患/血栓性疾患、癌などのリスクに強い関心を示している。第1号であるファイザーのXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の心血管・腫瘍安全性試験が望ましくない結果になった後は拍車がかかったような状態で、承認見送りや審査期限延期が相次いでいる。

ライセンシーであるギリアド・サイエンシズが米国におけるリウマチ性関節炎の開発を断念したガラパゴス社のJyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)や、アトピー性皮膚炎適応拡大のFDA審査期限が3ヶ月延期されたアッヴィのRinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)に続いて、今週は、3品目の審査期限延期が発表された。

まず、ファイザーの新規JAK1阻害剤、PF-04965842(abrocitinib)。12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎に100mgまたは200mgを一日一回、経口投与する適応・用法で承認申請し、優先審査指定されたが、審査期限が第3四半期初め(7月頃)に延期された。痒みを改善する効果が抗IL-4受容体抗体より高い特徴を持つ。臨床試験では一時的とはいえ血小板数減少が見られた。尚、日欧でも承認申請中。

次に、Xeljanz。2種類以上のDMARDsに不応不耐の活性期強直性脊椎炎に適応拡大申請しているが、やはり、第3四半期初めに審査期限延期となった。

更に、イーライリリーのOlumiant(baricitinib)。成人の中重度アトピー性皮膚炎に適応拡大申請しているが、審査期限が第3四半期初めに延期された。

FDAはこれまでも日欧で承認された適応や用量を承認しない事例が相次いでいる。適応によっては高用量しか十分な効果がない場合があり、もしFDAが警告強化に踏み切った場合、日欧市場にも影を落とすかもしれない。

リンク: ファイザーのプレスリリース(4/7付)
リンク: イーライリリーのプレスリリース(4/6付)



エベレンゾは心血管リスクがエポエチンより有意に小さくはなかった
(2021年4月6日発表)

FibroGen(Nasdaq:FGEN)はHIF2-PH阻害剤FG-4592(roxadustat、和名エベレンゾ)を慢性腎疾患患者の貧血治療薬として19年12月に米国で承認申請したが、申請前と同様、申請後の歩みも波乱含みだ。まず、審査期限が今年3月20日に延期された。次に、3月初め頃にFDAが諮問委員会上程を決めたため、期限までに承認されないことが事実上、決定した。今回、心臓腎臓病薬諮問委員会の開催が7月15日に決まったことに加えて、ASN(米国腎臓学会)や医学誌でも発表された心血管メタアナリシスにプロトコル相反を見つけたことを明らかにした。最低限のハードルである、エポエチン・アルファと比べてリスクが高まらないという結論に変わりはないが、一部のサブグループや、一部の評価項目で有意に小さいという所見は撤回された。

ポスト・ホックでプロトコルと相反する処理が行われたのは階層化因子。透析を受けていない患者4270人のMACE(全死亡、卒中、心筋梗塞)ハザードレシオは、ASNなどでは1.08(95%上限1.24)と発表されたが、1.10(同1.27)に修正された。同様に、透析依存3800人のMACEは0.96(1.13)から1.02(1.20)に、MACEに心不全入院と不安定狭心症を加えたMACE+では1.04(0.98)から0.91(1.05)に、修正。新規透析導入の1526人のMACEは0.70(0.96)から0.82(1.11)に、MACE+は0.66(0.89)から0.78(1.02)に、修正された。

誰がどのような目的でこのような変更を行ったのかは明らかにされていない。少なくとも一つだけ言えるのは、このような操作があった以上、他にも不適切な処理が行われなかったか、十分に検証する必要があるだろう。審査期限が延期されたのは臨床試験のデータの検証に時間がかかるという理由だった。今回とは違う件だったとすると、二度あることは三度、四度あると疑うべきである。

学問が石の上に石を積み重ねていく作業だとすると、下の石が崩れると上に積み重ねた沢山の人たちの努力や熱意が瓦解してしまう。医学・薬学の場合、世界中の現在そして将来の患者に誤った治療が施行されたら被害は莫大であり、もし致死的な副作用がある薬であった場合、連続殺人犯より大きな罪を負わなければならない。今回の内容はそこまで深刻ではないが、何れにせよ、重要な研究ほど、厳正、厳格、誠意、謙虚、を忘れてはいけない。

リンク: 同社のプレスリリース



Acadia社、pimavanserinの適応拡大が承認されず
(2021年4月5日発表)

Acadia Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)は、Nuplazid(pimavanserin)を認知症関連幻覚妄想の治療に用いる適応拡大をFDAに申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAとの相談を踏まえて第3相のデザインを決定し、主評価項目も副次的評価項目も達成したのに、今になってサブグループ分析結果や支持的エビデンスである第2相アルツハイマー性精神症試験のデザインに異議を唱えられたため、会社側は不満を隠さない。

Nuplazidは5-HT2Aインバース・アゴニスト。パーキンソン病の精神症状を治療する第3相試験がフェールし二本目も組入れ中止となったが、偽薬効果をできるだけ抑制すべく工夫した三本目が成功、16年に米国で承認された。向精神薬のクラスレーベルだと思うが、高齢者の認知症性精神症状の治療に用いると死亡リスクが上昇することが枠付警告されている。認知症性精神症状の治療が面白いのは、FDAがどれだけ警告しても、向精神薬のオフレーベル使用が続いていることだ。Nuplazidは効果が穏やかなせいか、疫学研究によると死亡リスクが他の向精神薬より小さく、適応拡大の成否が注目されていた。

第3相試験は、まず被験者全員にpimavanserinを投与し、症状が改善した6割強の患者を偽薬スイッチ群と継続投与群に無作為化割付して、幻覚妄想再発リスクを二重盲検で比較した。結果はハザードレシオ0.353、片側p=0.0023だった。

認知症にはアルツハイマー型、パーキンソン型、レビー小体型など様々なタイプがあるが、ACADIAはFDAとの事前相談に基づいて、タイプ毎のサブグループ分析は行わない(検出力は持たせない)ことにした。ところが、今回の審査完了通知には、タイプによって結果に偏りがあることを承認できない理由に挙げていた。

第3相試験が一本だけである場合、FDAは、サブグループ分析などの感受性分析を行って外挿性を検証するのが常である。本件のように不問としたこと自体が例外的と考えるべきだろう。サブグループ分析の結果は承知していないが、パーキンソン病性認知症におけるデータが一番良かったと報じられているので、『認知症の精神症状』ではなく『パーキンソン性認知症の精神症状』という適応だったら問題なかったのかもしれない。

今年に入って、FDAの承認審査が厳しくなっていることを窺わせるエピソードが増えている。本件もその一つなのかもしれない。Janet Woodcock氏が長官代行としてFDAに帰任したことで流れがまた変わるのか、それとも帰任したから変わったのかもしれないが、いずれにせよ、今後が注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


抗EGP-1抗体薬物複合体がトリプル・ネガティブ乳癌に本承認
(2021年4月7日発表)

ギリアド・サイエンシズは、FDAがTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)をトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)用薬として本承認したと発表した。昨年4月の加速承認から切り替わった。

TNBCはエストロゲン受容体もプロゲスチン受容体もhersも過剰発現していないのでホルモン療法やher2阻害剤が適応にならない。TrodelvyはTNBCの8割以上で発現し正常細胞には少ない、EGP-1(別名TROP-2)に結合する抗体とirinotecanの活性代謝物を結合した、抗体薬物複合体。第1/2相試験の反応率データに基づいて、転移性TNBCで転移後に二次以上の治療歴を持つ患者に単剤投与することが加速承認された。

今回の承認は第3相化学療法対照試験に基づくもの。副次的評価項目だが全生存期間のハザードレシオは0.51、メジアン生存期間は11.8ヶ月で医師が4種類から選んで施行した化学療法群の6.9ヶ月を上回った。適応となるのは切除不能局所進行性または転移性のTNBCで、2~3次の全身性治療歴を持ち、うち1レジメン以上は転移後である患者が対応になる。

Trodelvyは昨年9月に210億ドルで買収したImmunomedicsの開発品。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース



Supernus社、ADHD治療薬が承認
(2021年4月2日発表)

Supernus Pharmaceuticals(Nasdaq:SUPN)はFDAがQelbree(viloxazine)を6~17歳のADHDの治療薬として承認したと発表した。イーライリリーのStrattera(atomoxetine、和名ストラテラ)と同様にノルエピネフィリン再取込阻害作用を持っている。元々はインペリアル・ケミカル(アストラゼネカの前身企業の一つの母体)が欧州で抗鬱剤として開発し1976年に発売したが、2000年代に商業上の理由で販売を中止した。

Qelbreeは徐放性カプセル製剤で、100~400mgを一日一回、服用する。自殺思慮・自殺行動のリスクが枠付警告されている。クラス・ウォーニングでStratteraのレーベルでも枠付警告だが、Stratteraとは異なり、Qelbreeの臨床試験では100~400mgを投与した1019人のうち9人(0.9%)で自殺思慮・行動が見られた(自殺行動は3人、完成は無し)。偽薬群は463人中2人(0.4%)で自殺行動は無かった。最初の2~3ヶ月や用量変更時は特に注意が必要なようだ。関連性は確立していないが、不眠症や鬱症状、パニック、激高などの兆候に注意を促している。

リンク: 同社のプレスリリース




今週は以上です。

2021年4月3日

第993回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:ワクチンの効果が6ヶ月持続 
  • COVID-19:抗GM-CSF抗体の第3相が成功? 
  • COVID-19:回復期抗体の試験がまたフェール 
  • COVID-19:一回1000円程度の連続自己検査キットが承認 
  • カイト、CAR-TをALLに適応拡大申請 
  • バフセオ錠が米国でも承認申請 
  • アッヴィ、CGRP受容体拮抗剤を片頭痛予防に申請 
  • TGTX、PI3K阻害剤と抗CD20抗体を併用で承認申請 
  • カバノキ由来の新薬を表皮水疱症に承認申請 
  • オプジーボ、欧州で膀胱癌術後アジュバントに申請 
  • キイトルーダ、早期乳癌術前術後補助療法の米国承認はお預け 
  • FDA、サークリサとカイプロリス等の併用を承認 
  • プラルエントもHoFHに承認 
  • FDA、ブルーバード/BMSのBCMA標的型CAR-Tを承認 
  • FDA、ラモトリギンの催不整脈性を通知 


【今週の話題】


COVID-19:ワクチンの効果が6ヶ月持続
(2021年4月1日発表)

ドイツのBioNTechと共同開発販売パートナーのファイザーは、BNT162b2の第3相COVID-19感染予防試験の6ヶ月追跡データを公表した。46000人超を組入れて、二回目の接種の7日後から6ヶ月後までの症候性感染を偽薬と比較したところ、各77例と850例となり、ワクチン効率は91.3%だった。

EUA(非常時使用認可)の根拠となった2~3ヶ月追跡時のワクチン効率は95%だったので、その後の3か月程度にも同じくらいの予防効果を示したことになる。

CDC(疾病予防管理センター)とFDAは重症の定義が異なるようだが、この試験ではCDC定義による重症例はゼロ対32例でワクチン効率100%、FDA定義では1例対21例で95.3%だった。

地域別では、米国は症候性感染が50例対647例でワクチン効率は92.6%。南アフリカではゼロ対9例で100%だった。この9例中6例はエスケープ変異を持つB.1.351系統だった。組入れ数やイベント数が少ないので信頼区間は広いが、少なくとも南ア変異株に対する効果を疑う余地は小さそうだ。

インフルエンザと異なりCOVID-19は季節性ではないので、ワクチンの効果は半年保つだけでは足りない。接種頻度は少なくとも年一回、できれば2~3年に一回であることが望まれるので、ワクチン試験も1年以上追跡される見込みだが、ワクチンが普及するにつれ、偽薬群の被験者を放置して二重盲検を続けるのは倫理的、実務的に難しくなっていく。FDA諮問委員会における各社の説明などを踏まえて考えると、今回の6ヶ月データが最後で、その後の追跡データは、偽薬群の患者のワクチン接種率が徐々に高まり、解析結果の信頼性が低下していくだろう。残念なことだ。

リンク: 両社のプレスリリース



COVID-19:抗GM-CSF抗体の第3相が成功?
(2021年3月29日発表)

米国カリフォルニア州の新興新薬開発企業、Humanigen(Nasdaq:HGEN、旧称KaloBios Pharmaceuticals)は、抗GM-CSF抗体KB003(lenzilumab)の第3相COVID-19肺炎試験が成功したと発表した。酸素投与やハイフロー酸素が必要だが人工呼吸器装着までは悪化していない患者512人を米国と南米の施設で組入れて、8時間毎に3回点滴静注する効果を偽薬と比較した無作為化割付二重盲検試験で、被験者の88%がdexamethasoneなどのコルチコステロイド、62%がremdesivirによる標準治療を受けていた。

主評価項目は罹患期間であったはずだが、人工呼吸器装着なしで生存するハザードレシオに何時の間にか変わっていた。結果は、1.54、p=0.0365と何とか有意水準に達した。人工呼吸器装着・死亡のカプラン・マイヤー推定(28日時点)は偽薬群が22.1%、試験薬群は15.6%。全死亡のカプラン・マイヤー推定は各群13.9%と9.6%、ハザードレシオは1.39だったが、検出力不足でp=0.2287だった。深刻有害事象に群間の偏りはなかった由。

EUA(非常時使用認可)を申請する考え。FDAが承認するかどうか、あるいは、学会・論文発表されるかどうか、注目したい。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)



COVID-19:回復期抗体の試験がまたフェール
(2021年4月2日発表)

感染症が軽快しつつある患者の血漿には病原菌やウイルスに対する抗体が含まれているはずなので、突然現れた、治療方法が確立していない感染症に有効かもしれない。COVID-19でも様々な臨床試験が行われたが、好ましい結果は出ていない。精製して濃度を高めたハイパーイミューン免疫グロブリン製剤の第3相もフェールしたことが明らかになった。

このITAC試験は、NIAID(米国立アレルギー感染症研究所)が主導して5大陸11ヶ国の医療施設で600人近い患者を組入れて、Emergent BioSolutions(NYSE:EBS)、スペインのGrifols(MCE: GRF)、CoVIg-19 Plasma Allianceに参加している武田薬品とCSL-Behringの4社が供給した点滴静注用製剤または偽薬を一回投与し、第7日の改善具合を序数評価(1:症状なし、から、7:死亡まで)した。発症12日間以内で呼気補助不要な入院患者を対象とした。全員がremdesivirを標準療法として用いた。

回復期血漿の臨床試験は、インドで行われた460人規模の試験も、アルゼンチンで行われた重症肺炎を合併する333人の試験もフェール。英国で行われているRECOVERY試験の回復期血漿群や、NHLBI(米国立心臓肺血液研究所)が主導したC3PO軽中等症外来治療試験も、中間解析で無益認定されフェールした。

少なくともCOVID-19に関しては回復期血漿/抗体の効果は限定的なのだろう。抗SARS-CoV-2抗体の臨床試験も、入院患者に関しては期待外れの結果が続いている。

リンク: Emergent社のプレスリリース



COVID-19:一回1000円程度の連続自己検査キットが承認
(2021年3月31日発表)

FDAは、COVID-19感染症状のない人が処方なしで購入して自分で数日に亘って感染検査するためのキットを承認した。Quidel社のQuickVue At-Home OTC COVID-19テストと、AbbottのBinaxNOW COVID-19 Antigen Self TestおよびBinaxNOW COVID-19 Ag Card 2 Home Testだ。何れも10~20分で結果が出る抗原検査で、症候性患者には以前から承認されている。価格は明らかではないが、一部報道によると一回分が10~20ドル程度で保険還元の対象にもなるとのことだ。

スポーツや芸能イベントに際して、出場者・出演者の間で感染が広がらないよう全員が毎日検査したという話を聞くようになったが、一般人が毎日やるのは価格が高く、また、殺到したらクリニックの負担になりかねない。しかし、在宅で一回1000円程度の検査ができるならば、例えば、里帰りの前後など特定の期間だけなら現実的な選択肢になりうる。企業にとっても、社員一人当たり月3万円程度なら通勤費と大差なく許容範囲内だろう。

症状のない患者はウイルス量が少ない可能性があり感度が低下するかもしれないが、毎日とか36時間おきに何度も検査することで感度を実質的に上げることができるのではないか。感染直後の患者はPCR検査でも見逃す可能性があるが、医療従事者にも保険にも頼らず何度も確認検査ができるなら、症状がなく濃厚接触者でもない人には抗原検査のほうが優れているかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース


【承認申請】


カイト、CAR-TをALLに適応拡大申請
(2021年4月1日発表)

ギリアド・サイエンシズが17年に119億ドルで子会社化したカイト・ファーマは、Tecartus(brexucabtagene autoleucel)を18歳以上の再発・難治前駆B細胞急性リンパ球性白血病に米国で適応拡大したと発表した。第1/2相ZUMA-3試験に基づくもの。

抗CD19抗体の単鎖可変領域フラグメントとCD3ゼータT細胞活性化ドメイン、CD28シグナリング・ドメインの遺伝子を患者のT細胞に導入したCAR-T(キメラ抗原-T細胞)療法で、20年に欧米で再発・難治マントル細胞腫に承認された。

ZUMA-3試験の第1相部分では薬効解析対象41人中28人が完全反応(血液学的反応不十分例を含む)した。第2相部分の成績は今後、発表される見込み。

リンク: ギリアドのプレスリリース



バフセオ錠を米国でも承認申請
(2021年3月20日発表)

Akebia Therapeutics(Nasdaq:AKBA)は、AKB-6548(vadadustat)を透析期/非透析期慢性腎疾患の成人の貧血治療薬として承認申請した。 HIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害剤で、日本では昨年6月にライセンシーの田辺三菱製薬がバフセオ名で承認取得した。欧州は欧米での開発販売パートナーである大塚製薬と申請準備中。

リンク: 同社のプレスリリース



アッヴィ、CGRP受容体拮抗剤を片頭痛予防に申請
(2021年3月30日発表)

アッヴィは、atogepantを片頭痛の再発予防薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。MSDがMK-8031として開発したCGRP(calcitonin-gene-related peptide)受容体拮抗剤で、昨年5月に買収したAllerganが15年にインライセンスしたもの。19年12月に米国で片頭痛治療薬として承認されたCGRP受容体拮抗剤、Ubrelvy(ubrogepant)もAllerganがMSDからライセンスした。

反復性片頭痛の第3相試験では、偽薬、10mg、30mg、または60mgを一日一回、12週間に亘って投与したところ、月平均の片頭痛日数がベースライン比で各群2.48、3.69、3.86、4.20日減少。副次的評価項目の半減達成率も各群29、55、58、60%となり、どちらも全用量偽薬比有意だった。深刻な有害事象の群間の偏りはなかった由。

リンク: アッヴィのプレスリリース



TGTX、PI3K阻害剤と抗CD20抗体を併用で承認申請
(2021年3月29日発表)

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)は、TGTX-1101(ublituximab)とUkoniq(umbralisib)の米国におけるローリング承認申請を完了したと発表した。目標適応症はCLL(慢性リンパ性白血病)の一次/再発治療。

前者は糖鎖を加工してADCC(抗体依存性細胞障害)を強化した抗CD20キメラ抗体(IgG1型)で、今回が初の承認申請。フランスのLFB Biotechnologiesからライセンスした。後者はPI3K(phosphoinositide 3 kinase)デルタとCK1(casein kinase 1)エプシロンを阻害する経口剤で、スイスのRhizen Pharmaceuticalsからライセンスして開発、今年2月に辺縁帯リンパ腫や濾胞性リンパ腫のサルベージ治療用薬として承認された。

第3相CLL試験では、二剤併用群のメジアンPFS(無進行生存期間、第三者評価)が32ヶ月と、ロシュのGazyva(obinutuzumab)とchlorambucilを併用した群の18ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.546、p<0.0001だった。初治療例のハザードレシオは0.48、再発難治では0.60だった。

深刻有害事象の発現率は各群46%と23%、有害事象による治験離脱は17%と8%だった。

抗CD20抗体のほうは多発性硬化症にも承認申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース



カバノキ由来の新薬を表皮水疱症に承認申請
(2021年3月29日発表)

アイルランド籍のAmryt Pharma(Nasdaq:AMYT、AIM:AMYT)は欧米でFilsuvez/Oleogel-S10を表皮水疱症用薬として承認申請し、EUで受理されたと発表した。カバノキ樹皮抽出物(約8割はベツリン)とオリーブオイルをゲル化したもので、200人規模の臨床試験で45日創傷閉鎖達成率が41.3%と偽ゲル群の28.9%を上回った(p=0.013)。表皮水疱症は単純型、接合部型、栄養障害型に大別され、栄養障害型は劣性型と優性型に分かれるが、この試験では劣性栄養障害型175人には効果があったが優性栄養障害型と接合部型は大差なかった。

重度有害事象発生率は各群11.9%と5.3%、有害事象による治験離脱率は2.8%対1.8%だった。

16年にBirken AGを買収して入手した開発品。米国でファースト・トラック指定と小児希少疾患指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース



オプジーボ、欧州で膀胱癌術後アジュバントに申請
(2021年3月29日発表)

BMSは、筋層浸潤尿路上皮癌の摘出術を受けた高再発リスク患者のアジュバント療法にOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を用いる一変申請をEUで行い受理されたと発表した。日本でも小野薬品が申請した。

CheckMate-274試験に基づくもので、無再発生存期間がメジアン21ヶ月と偽薬群の11ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70、98.31%信頼区間(0.54-0.89)、p<0.001だった。PD-L1陽性例ではハザードレシオ0.53と特に良い数値が出た。G3/4治療関連有害事象は各群17.9%と7.2%だった。

全生存期間の解析を行うために当試験は続行している。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


キイトルーダ、早期乳癌術前術後補助療法の米国承認はお預け
(2021年3月29日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)を高リスク早期トリプル・ネガティブ乳癌の術前補助療法に化学療法と併用する用法、及び、術後補助療法に単剤投与する用法を米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。2月の諮問委員会でも10人の委員全員が時期尚早と判断しており、順当な結果だ。

KEYNOTE-522試験のpCR(病理学的完全反応)やEFS(無イベント生存期間)などに基づく申請だったが、前者は、中間解析成功時点では64.8%と偽薬群の51.2%を13ポイント上回ったが、諮問委員会で開示されたアップデートされた数値では7.5ポイントの差しかなかった。EFSはハザードレシオが0.65と良好だったが目標イベント数の53%しか進捗していないためデータが未成熟で、p=0.0021という事前に設定された閾値をクリアしていない。全生存期間も目標進捗率32%のみ。

免疫関連有害事象可能例で4人の死亡者が出たことも明らかになった。

今年第3四半期に第3回の中間解析が行われる予定。良好なら改めて申請されることになるだろう。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


FDA、サークリサとカイプロリス等の併用を承認
(2021年3月31日発表)

FDAはサノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、和名サークリサ)をKyprolis(carfilzomib)及びdexamethasoneと併用で多発骨髄腫の二次から四次治療に用いる適応拡大を承認した。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオがKyprolis・dexamethasone併用群比で0.548、p=0.0032だった。

Immunogen(Nasdaq:IMGN)との広範な共同研究開発プロジェクトから生まれた抗CD38抗体で、Kyprolisのようなプロテアソーム阻害剤およびRevlimid(lenalidomide)による治療歴を持つ多発骨髄腫の三次治療薬として昨年、日米欧で承認された。今回の適応拡大はEUで2月にCHMPの肯定的意見を獲得している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース



プラルエントもHoFHに承認
(2021年4月1日発表)

FDAはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)の抗PCSK9抗体、Praluent(alirocumab、和名プラルエント)をホモ接合性家族性高脂血症(HoFH)の治療に用いる適応拡大を承認した。

心血管疾患や原発性高脂血症に加えて、HoFHが承認されたことにより、同じ抗PCSK9抗体であるアムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)と適応がほぼ並んだ。尤も、これまでもHoFHに使われていた可能性はありそうだが。

リンク: FDAのプレスリリース



FDA、ブルーバード/BMSのBCMA標的型CAR-Tを承認
(2021年3月26日発表)

FDAは、bluebird bio(Nasdaq:BLUE)がブリストル マイヤーズ スクイブと共同開発したAbecma(idecabtagene vicleucel)を承認した。再発/難治多発骨髄腫で免疫調節剤とプロテアソーム阻害剤そして抗CD38抗体を含む4次以上の治療歴を持つ患者が対象になる。承認申請(3次以上の治療歴)と少し異なるが、エビデンスとなる第2相KarMMA試験の被験者のうち治療歴が3次だけだったのは1割程度であったようなので、止むを得ない。

患者から採取したT細胞に腫瘍抗原に結合する抗体などの遺伝子を導入した、CAR-T療法の一つで、CD19ではなくBCMAに結合する抗体フラグメントを採用した製品の承認第1号。上記試験では、至適量を投与した患者100人におけるORR(客観的反応率)が72%、完全反応率は28%でその65%は12ヶ月以上持続した。枠付警告はサイトカイン放出症候群(G3以上の発生率は9%)、神経学的毒性(同4%)、持続的血球減少(同41%)、血球貪食性リンパ球増多症/マウロファージ活性化症候群(127人の被験者のうち2人が死亡)など。

BMSが買収したセルジーンが13年に共同開発生産商業化権を取得したもの。

リンク: FDAのプレスリリース(3/29付)
リンク: BMSのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、ラモトリギンの催不整脈性を通知
(2021年3月31日発表)

FDAは、癲癇や双極障害鬱の治療薬であるLamictal(lamotrigine)およびGE品の催不整脈リスクに関する安全性情報を発出した。健常者を対象とするQTc試験ではQRS幅拡大は見られなかったが、in vitro試験でクラスIB催不整脈性が浮上。構造的心疾患や心筋虚血、頻脈の患者では心室電動が遅延して命に係わる可能性もありうる不整脈のリスクが高まる可能性がある。

この情報は昨年10月にレーベルに追加された。他のナトリウムチャネルブロッカーも安全とは限らなず、試験中とのことだ。

患者に対しては、医師に相談せずに服用を止めるべきではないこと、そして頻脈、徐脈、息切れ、眩暈など不整脈の症状兆候が出たら速やかに診療を受けること、を呼びかけた。

FDAが市販後試験を要求した他のナトリウムチャネルブロッカーは以下の通り。

carbamazepine
cenobamate
eslicarbazepine
fosphenytoin
lacosamide
oxcarbazepine
phenytoin
rufinamide
topiramate
tonisamide

さて、なぜレーベル改訂から半年近く経ったこのタイミングで安全性情報を発出したのだろうか?幾つかの理由がありそうだ。第一に、lamotrigineのリスクに言及したのは前振りに過ぎず、主目的は、他のナトリウムチャネルブロッカーなら安心との誤解を防ぐとともに、確認試験を要請したことを公表することによって、メーカーがキチンと履行するよう圧力をかけたのではないだろうか。

尚、上記in vitro試験は内容も結果も公表されていない。今年2月にILAE(国際抗てんかん連盟)とAES(米国てんかん学会)のアドホック・タスクフォースがまとめた声明によると、グラクソ・スミスクラインに情報提供を求めたが入手できていない由だ。論文が査読中とのことだが、試験自体は19年に結果が出たようなので、未だに秘匿同然なのは不思議だ。

リンク: FDAの安全性情報
リンク: ILAE/AESタスクフォースの本件に関する声明(2/25付、pdfファイル)





今週は以上です。