2020年3月30日

2020年3月30日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ダイヤモンドプリンセスの客室のウイルスは退去の17日後でも残存 
  • ACE阻害剤やARBがCOVID-19を悪化させるという十分な証拠はない 
  • EMA、タイケルブの直接比較試験データ削除を変更せず 
  • 昆虫細胞培養型インフルエンザワクチンの第三相が成功 
  • ベネクレクスタのAML承認後薬効確認試験が成功 
  • ロシュ、米国でゾフルーザの小児適応申請 
  • FDA、ジャディアンスの一型糖尿病適応拡大も認めず 
  • FDA諮問委員会がCOVID-19で中止に 
  • CHMPはバーチャル・ミーティングで対応 
  • BMS、多発硬化症用薬が米国で承認 
  • ファイザー、アトピー用薬が3ヶ月児以上に対象年齢拡大 
  • EMA、直接的経口抗凝固剤の現実の医療における出血リスクは治験データ並みと結論 


【今週の話題】


ダイヤモンドプリンセスの客室のウイルスは退去の17日後でも残存
(2020年3月26日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は、Diamond Princessなどのクルーズ船におけるCOVID-19感染についてレポートをまとめ、Morbidity and Mortality Weekly Report(感染症発症動向週報)掲載に先駆けて、ホームページで公表した。印象的なのは、症候性感染者および無症候性感染者が退去した後、最大17日経った段階でも、客室の様々な表面からSARS-CoV-2のRNAが特定されたこと。情報源は国立感染症研究所感染症疫学センターの山岸主任研究官とのことだ。感染力を持っていたのかは明らかではないが、CDCは、先日、プラスチックや段ボールの表面で長時間活性を維持することを実験により明らかにした。

症状のない患者でも感染させることができる由だが、ドアノブや吊革に付着したウイルスが原因であっても不思議はない。東京都は感染ルートのわからない症例の比率が2割を超えた由。自分がもし感染したら満員電車を最も疑うだろうが、感染者が乗ったかどうかは公表されていないので、結局、感染ルートは分からないことになってしまうかもしれない。何が言いたいかというと、感染者のプライバシーや訪問先の風評被害を気にするのは当然だが、代償として一般大衆が危険や規制に曝されるのでは、公衆衛生の本末転倒だ。

COVID-19確定感染者数の推移

さて、武漢で外出が禁止された時は、さすが独裁政権、民主主義国家には不可能だろうと思ったが、そうでもなさそうだ。イタリア、米国、英国、そして日本にも外出禁止・自粛の波が押し寄せている。

主要国の感染者数の推移を見ると、日本やシンガポール、タイは中国発の津波の余波を受けた後、やや穏やかになったように見えたが、今度は欧州発の津波がやってきた。うまく余波を吸収できるように、医療最前線の皆さん、そして首都圏など外出自粛地域の皆さん、がんばれ、負けるな!

リンク: CDCのレポート

ACE阻害剤やARBがCOVID-19を悪化させるという十分な証拠はない
(2020年3月27日)

3月20日号で書いたように、バーゼル大学病院のLei Fangら三名は、Lancetに投稿した書簡の中で、SARS-CoV-2が細胞に侵入する時に利用するACE2の発現をACE阻害剤やARB、チアゾリジンジオン(二型糖尿病薬)、ibuprofenが増強することに着目、心臓疾患や糖尿病の持病を持つ感染者に重症例が多い一因ではないかと指摘した。

もし本当なら、これらの薬を服用する患者は元々、感染症の合併症のリスクが高いので、火に油を注いでしまうことになる。一方で、血圧や血糖値の管理を疎かにすると心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病性腎症などのリスクが高まる。従って、Fangらの問題提起は重大なインプリケーションがある。

この問題について、欧米の関連学会やFDAに続いて、EMAもプレスリリースを発出した。現時点ではACE阻害剤やARBとCOVID-19悪化の関連性を確立するような臨床あるいは疫学研究のエビデンスはない。ウイルスとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン機構の相互作用は複雑で、完全には理解されていない。このため、ACE阻害剤やARBの服用を止めたり他の薬にスイッチしたりする必要はない、と述べている。

EMAは、疫学研究を推進すべく他の利害関係者とコラボを進めているとのことだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Lancet誌ホームページで電子刊行された書簡(3/11付、pdfファイル)
リンク: ESC Council on Hypertensionの立場表明(3/13付)
リンク: AHA、HFSA、ACCの共同声明(3/17付)
リンク:Vaduganathanらの論文(3/30付、New England Journal of Medicine)

EMA、タイケルブの直接比較試験データ削除を変更せず
(2020年3月27日発表)

EMAは、Tyverb(lapatinib、和名タイケルブ)の直接比較試験のデータをレーベル(SPC)から削除したが、再評価を経て、復活しないことを決めた。データ収載は18年7月付だが、削除したことは今回初めて知った。

Tyverbはグラクソ・スミスクラインが商品化し、事業交換を経て現在はノバルティスが販売しているher2/EGFR阻害剤で、her2陽性転移性乳癌の再発治療薬として承認されている。

問題のデータは、Herceptin治療歴を持つHR陽性her2陽性乳癌に、アロマターゼ阻害剤とTyverbを併用するレジメンとアロマターゼ阻害剤・Herceptin併用を比較した試験のもの。試験レジメンのほうが便益が大きかった。ところが、19年4月になってデータの過ちが発覚、SPCから削除された。

CROを調査したところGCP違反が判明。不適切なデータを除外して再解析したところ、明確な結論が出なかった。このため、再掲載しないことを決定した。

リンク: EMAのプレスリリース

【新薬開発】


昆虫細胞培養型インフルエンザワクチンの第三相が成功
(2020年3月24日発表)

米国の新興ワクチン会社、Novavax(Nasdaq:NVAX)は、昆虫細胞培養型4価季節性インフルエンザワクチンであるNanoFluの第三相試験が成功したと発表した。免疫原性が既存のワクチンと比べて非劣性で、野生ウイルスを試薬とした検査では有意に優れていた。安全性は概ね同程度だった。米国で承認申請に向かう予定。

NanoFluは、遺伝子組換え型ヘマグルチニンのナノパーティクル・ワクチンで、サボニンを添加して免疫刺激を強化している。鶏卵培養ではなく、SF9バキュロウイルス・システムを用いて昆虫細胞で培養する。

第三相は、米国の65歳以上の健常者2652人を組入れて、サノフィのFluzone4価インフルエンザワクチンと効果や安全性を比較した。主評価項目は第28日時点のGMT(幾何平均力価)とSCR(セロコンバージョン率)。免疫原性は鶏卵由来の試薬を用いたHAI(赤血球凝集抑制)アッセイで評価した。結果は、4種類の株全てについて、どちらも非劣性だった。

副次的評価項目として、鶏卵由来ではなく野生の試薬を用いたHAIアッセイでも評価したところ、4株すべてについて有意に上回った。2019/20シーズンの選定株に含まれていないH3N2のドリフト株4種類に対する免疫原性も有意に上回った。

季節性インフルエンザ・ワクチンの最大の特徴は安価であること。新型ワクチンの価格は数倍高く設定されるだろうから、ワクチン効率が多少上回るだけでは競争できないかもしれない。主評価項目がワクチン効率ではなくGMTやSCRなので尚更である。それでも、抗体ができにくい高齢者や卵アレルギーの人には有力な選択肢になりうるかもしれない。

リンク: Novavaxのプレスリリース

ベネクレクスタのAML承認後薬効確認試験が成功
(2020年3月23日発表)

アッヴィとロシュは、夫々に、Venclexta(venetoclax、和名ベネクレクスタ、欧州名Venclyxto)の第三相VIALE-A試験が成功したと発表した。初めて治療を受ける急性骨髄性白血病(AML)で強化化学療法が適応にならない患者431人を組入れて、azacitidineと併用する効果をazacitidine・偽薬併用群と比較したところ、事前に設定された全生存期間の初回中間解析でポジティブな結果が出たことから、独立データ監視委員会が結果を学会や承認審査機関に報告するよう勧告した。

Venclextaは経口bcl-2阻害剤。アッヴィとロシュの共同研究の成果で、米国ではアッヴィとロシュの米国子会社であるジェネンテックが、海外ではアッヴィが販売している。16年に欧米で難治性慢性リンパ性白血病に承認され、18年には75歳以上で強化化学療法不適な未治療AMLにazacitidine、decitabine、または低量cytarabineと併用することも米国で加速承認された。

加速承認は反応率のような代理マーカーに基づく承認で、別途、延命またはそれに準じる効能を確認する必要があり、もしできなかった場合、加速承認が取り消される。Venclextaは、低量cytarabine併用レジメンを検討したVIALE-C試験が僅かにフェールしたが、追跡期間を延長した事後的分析では良さそうな数値が出ており、薬がフェールしたのではなく試験がフェールした可能性も考えられる。

今回、azacitidine併用レジメンが成功したことで、加速承認が全面取消になるリスクが低下したといえるだろう。

但し、中間解析でポジティブな結果が出た、云々の記述はロシュのプレスリリースには記されておらず、思惑を呼ぶ。この試験は反応率も共同主評価項目だったが、成否は記されていない。もしかしたら、事前に設定された中間解析とは有効性を検討するための中間解析ではなく、被験者に大きな害を与えていないことを確認するための安全性解析だったのではないか?この場合、統計学的な有意性を判定するp値の閾値、アルファを事前に配分していないだろうから、p値が良好であったとしても統計学的に有意と言えない懸念が残る。

データが公表された段階で総合的に評価する必要があろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、米国でゾフルーザの小児適応申請
(2020年3月27日発表)

ロシュは、塩野義製薬からライセンスしたインフルエンザ用薬、Xofluza(baloxavir marboxil、ゾフルーザ)の小児適応に関する三件の追加申請をFDAに行い、受理されたと発表した。1歳以上を対象に、合併症を伴わない急性インフルエンザの治療と予防、そして、小児などに適した新開発の経口懸濁用顆粒剤だ。審査期限は11月23日。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA、ジャディアンスの一型糖尿病適応拡大も認めず
(2020年3月20日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を一型糖尿病の血糖値管理に用いる適応拡大申請を米国でも行ったが、審査完了通知を受領した。

Jardianceは、腎臓で濾しとられたグルコースを血液中に戻す輸送蛋白、SGLT2の阻害剤で、二型糖尿病薬として承認されている。原理的に一型糖尿病にも有効なはずだが、インスリンとの用量調整が難しく、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高まることがネックとなり、開発が遅れた。ようやく、昨年、アストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)が日本とEUで、Lexicon社のZynquista(sotagliflozin)がEUで、一型に承認された。

ところが、米国では三剤とも承認されなかった。Zynquistaは諮問委員会が賛成8人、反対8人と分かれた。Jardianceは用量を二型に対する最大承認量の10分の1に抑えたが、諮問委員会は16人中14人が反対と、厳しい結果だった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA諮問委員会がCOVID-19で中止に
(2020年3月23日発表)

FDAは、4月21日に開催予定だった肺・アレルギー用薬諮問委員会の中止を発表した。COVID-19の流行を踏まえて自粛する。

この諮問委員会は、グラクソ・スミスクラインのステロイド・ムスカリン拮抗剤・ベータ2作用剤の三剤配合薬、Trelegy(fluticasone furoate/umeclidinium/vilanterol、和名テリルジー)の効能追加について検討する予定だった。

TrelegyはCOPD患者を52週間治療したIMPACT試験でその他の評価項目に設定された全死因死亡率が1.20%と、umeclidiniumとvilanterolを併用した群の1.88%より低かった(Cox比例ハザードモデルにより解析でp=0.011)。死亡リスク削減効果を認めるべきかどうか、委員の意見を聞く予定だったようだ。

更に、obeticholic acidをNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)肝線維化の治療に用いる適応拡大を申請しているインターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)も、4月22日に予定されていた諮問委員会がリスケされたと発表した。審査期限は6月26日で変更ないとのこと。

この、原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocalivaとして16年に欧米で承認されたウルソデオキシコール酸類縁体は、昨年9月に適応拡大申請され、当初の審査期限は今年3月26日だったが、諮問委員会のスケジュール繰りの関係で3ヶ月延期された。米国の場合、諮問委員会はマストではないが、スケジュール撤回ではなくリスケなので、承認が更に遅れるリスクもあるのではないか。

リンク: テリルジーの諮問委員会に関するFDAの官報(3/23付)
リンク: インターセプト社のプレスリリース(3/26付)

CHMPはバーチャル・ミーティングで対応
(2020年3月27日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、3月のバーチャル・ミーティングで、ノバルティスのゾルゲンスマなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Zolgensma(onasemnogene abeparvovec、和名ゾルゲンスマ)は脊髄性筋萎縮症(SMA)I型の遺伝子療法。SMA1遺伝子の両アレル変異を持ち、臨床的にSMAI型と診断された乃至は3コピーまでのSMN2遺伝子を持つ患者が適応になる。欠乏する遺伝子をアデノウイルスベクターで導入する。

18年に87億ドルで買収したAveXis社の開発品。米国では19年に承認されたが、その後、承認審査期間中に獲得したデータを報告していなかったことが判明、政治問題にも発展した。EUではPRIME指定、日本でも先駆け指定されていたため順調なら19年に承認される見込みだったが、日本は今年3月に承認、EUは5~6月頃の見込みと、大きく遅延した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)と同様な抗CD38抗体で、再発難治多発骨髄腫に用いる。代表的な三次治療レジメンであるpomalidomideとdexamethasoneと併用で、体重1kg当り10mgを28日サイクルで第1サイクルは毎週、その後は隔週、200分(第3サイクルからは75分)点滴静注する。

第三相オープンレーベル試験では、PFS(独立評価委員会がMタンパクや放射線画像で評価)がメジアン11.5ヶ月とpomalidomideとdexamethasoneだけの群の6.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.596、p=0.001だった。有害事象は骨髄抑制や点滴関連反応、肺炎、下痢など。有害事象による治験離脱率、死亡率は対照群より小さかった。

Darzalexは点滴時間が初回は5-6時間、二回目以降も3-4時間と医療施設にとって手離れが悪いが、3-5分で済む皮注用製剤が欧米で承認審査中。Sarclisaはまだ適応が限られるので、5年のビハインドをキャッチアップするのは大変だろう。

リンク: サノフィのプレスリリース

BMSのZeposia(ozanimod)はS1P受容体調節剤。再発寛解型多発性硬化症の治療に用いる。米国で今週、承認されたので、委細は下記を参照してください。

リンク: BMSのプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスの抗IL-17A抗体、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)をnr-axSpA(非X線的体軸性脊椎関節炎)の治療に用いることが支持された。臨床試験では第52週のASAS40が偽薬比有意に改善した。

nr-axSpAは比較的新しい診断名で、強直性脊椎炎とX線所見が異なるものの臨床像が似通っており、同様な治療を受ける。このため、強直性脊椎炎をr-axSpAと呼び、両方合わせてaxSpAとして分類することを可能にした。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)はシアトル・ジェネティクスから米国外の開発販売権を取得した、抗CD30抗体。ホジキン型リンパ腫などに承認されているが、今回、未治療の全身性未分化大細胞型リンパ腫の治療にCHPレジメン(cyclophosphamide、doxorubicin、prednisone)と併用することが支持された。臨床試験では、CHPとvincristineを併用するCHOPレジメンよりPFS(無進行生存期間)が有意に上回った。

リンク: EMAのプレスリリース

Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)のKineret(anakinra)は、アムジェンが抗リウマチ薬として2001年に米国で発売した遺伝子組み替え型ヒト・インターロイキン-1受容体拮抗剤。専ら欧州で様々な希少疾患に適応拡大しているが、新たに、家族性地中海熱に用いることが支持された。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


BMS、多発性硬化症用薬が米国で承認
(2020年3月26日発表)

BMSは、FDAがZeposia(ozanimod)を再発型多発性硬化症用薬として承認したと発表した。選択的S1PR(スフィンゴシン-1-リン酸受容体1)調節剤で、類薬は多いが、治療開始時に遺伝子検査を行ったり初回投与時に何時間も経過観察することがレーベル上、求められていないことが差別化要因。用量漸増法の採用が寄与しているようだ。心毒性がないわけではなく、最近の心筋梗塞、心不全、不整脈歴は禁忌。

尚、FDAが再発型多発性硬化症と呼ぶカテゴリーは、通常の再発寛解型に加えて、CIS(多発性硬化症疑い例)や活性期二次性進行性多発性硬化症も含んでいる。

元々はReceptos社の開発品で、同社を15年に72億ドルで買収したセルジーンを、BMSが昨年、740億ドルで買収した。セルジーン株主はCVR(後発価値債権)を保有しており、主要パイプライン三品が全て承認されれば一株当たり9ドルを得ることができるが、その一つが無事、道標に到達した。

リンク: BMSのプレスリリース

ファイザー、アトピー用薬が3ヶ月児以上に対象年齢拡大
(2020年3月24日発表)

ファイザーは、FDAがアトピー性皮膚炎治療薬Eucrisa(crisaborole)の適応年齢を3ヶ月児以上に拡大することを承認したと発表した。

Eucrisaは16年に買収したAnacor Pharmaceuticalsの開発品で、PDE4を阻害する軟膏薬。米国で同年に2歳以上の軽中度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認された。EUでも今年1月にStaquis名でCHMPの肯定的意見を獲得した。一日二回、患部に塗布した臨床試験では、奏効率(第29日のISGA評価がクリアまたはほぼクリアに改善)が一本では32%(偽薬群は25%)、もう一本では31%(18%)となり、偽薬を有意に上回った。忍容性は良好だった。

今回の対象年齢拡大は3ヶ月~24ヶ月の幼児患者を組入れた安全性試験の成績に基づくもの。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA、直接的経口抗凝固剤の現実の医療における出血リスクは治験データ並みと結論
(2020年3月27日発表)

EMAは直接的経口抗凝固剤の深刻出血リスクに関して後顧的観察的疫学研究を行ったが、臨床試験のデータ並みであったため、承認内容は変更しないと発表した。

検討対象となったのは、BMS/ファイザーの Eliquis(apixaban、和名エリキュース)、ベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran etexilate、和名プラザキサ)、バイエルのXarelto(rivaroxaban)。非弁膜性心房細動の治療を受けた英仏独など6ヶ国の患者のデータをビタミンK拮抗剤(ワーファリン)と比較した。

その結果、深刻出血の発現率は臨床試験の実績並みだった。三剤の比較も企図された模様だが、結論を出すにはデータ不足だった。大きなアドヒアランス問題は見つからなかった。

抗凝固薬はほぼ必然的に出血リスクを伴い、特に、高齢者は発生率が高くなる。今回の疫学研究で75歳を超える患者の出血リスクの高さを確認したため、EMAは、メーカーに用量変更の当否を検討するよう要請する考え。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

2020年3月20日

2020年3月20日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • イブプロフェンなどのNSAIDsはCOVID-19を悪化させるか? 
  • カレトラのCOVID-19試験がフェール 
  • リジェネロンら、IL-6阻害抗体でCOVID-19の臨床試験に着手 
  • プリジスタがCOVID-19に有効という裏付けはない 
  • CTCLの光線力学療法試験が成功 
  • ファイザー、JAK1阻害剤の三本目のアトピー性皮膚炎試験が成功 
  • ファイザー、20価肺炎球菌ワクチンの第三相が成功 
  • MSD、難治性慢性咳の第三相試験が成功 
  • バベンチオの頭頸部癌一次治療試験がフェール 
  • アストラゼネカ、小細胞肺がんにイミフィンジと抗CTLA4抗体を併用しても無益 
  • アストラゼネカ、VEGFR阻害剤のリムパーザ併用試験がフェール 
  • ノボ、抗TFPI抗体の第三相を中断 
  • Aurinia、カルシニューリン阻害剤をループス腎炎に承認申請 
  • JNJ、S1P1調節剤を多発硬化症に承認申請 
  • ファイザー、抗NGF抗体を承認申請 
  • EU、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認を停止


【今週の話題】


イブプロフェンなどのNSAIDsはCOVID-19を悪化させるか?
(2020年3月20日)

COVID-19の予防や治療に関する論説や商品は有象無象で、EBM風に言えば確立したエビデンスは少なく、多くの場合、根拠は薄弱だが体や財布が傷まないならやっても良いか、という程度である。ウイルスを破壊する空気洗浄機があるらしいが、私の体は大きくて装置の中で暮らすことができないので、室内の床やドアノブに付着したウイルスを吸い込んで殺すことができることを証明してもらわないと買う気になれない。もしコロナウイルスにも有効ならクルーズ船に運び込まれただろう。SARS-CoV-2よりエセ科学のほうが蔓延している。

イブプロフェンのようなNSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)はCOVID-19の症状を悪化するか?発端はLancet誌に寄せられた書簡であるようだ。報道によればフランスの厚生大臣がibuprofenはCOVID-19を悪化させる可能性があるのでparacetamol(WHOが採用する一般名であるINNベース、米国のUSANではacetaminophen、日本のJANではアセトアミノフェン)を使うべきと発言し、フランスではparacetamolが品薄になったとのことである。

WHOからも同様な発言があった模様だが、その後、Twitter上で、現時点ではibuprofenを使うことに反対しないと表明した。EMAやFDAも、このような懸念を裏付けるエビデンスは存在しないと注意を促した。

Lancet書簡は、バーゼル大学病院のLei Fangら三名が連名で出したもの。COVID-19重症例は糖尿病や心血管疾患の持病を持っている人が多いという中国の事例報告に関連して、これらの疾患の治療に用いられる幾つかの薬が影響した可能性を指摘、他の種類の薬を使うよう示唆した。SARS-CoV-1や2は肺や小腸、腎臓、血管の上皮細胞に発現するアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)を通じて標的細胞に侵入する。ACE阻害剤やARB、チアゾリジンジオン(二型糖尿病薬)、ibuprofenはACE2の発現を増やす。従って、これらの薬はウイルスの細胞侵入を促進するというのである。

書簡は、三段論法の最初の2つについては根拠となる論文を引用しているが、結論部分を裏付ける論文や実験については言及していない。この種の三段論法は、論理的には正しくとも、それが患者の人生にどの程度重要なファクターなのかは改めて検討すべきものである。日本列島は少しずつ移動しているらしいが、私はそれでバランスを崩して倒れそうになったことはない。

FDAやEMAの言説は歯切れが悪い。悪いという証拠がないことは正しいことを意味しない、ということに留まらず、ibuprofenには長所だけでなく欠点もあり、そもそも、薬で症状が緩和すると感染の悪化に気付き難くなってしまう可能性もあるため、使うか使わないかは医師や患者が慎重に検討して決めるべきことだからだ。

私達は大声で断言する人たちに、つい耳を傾けてしまうが、責任ある立場の人たちの言説は常に慎重であることを忘れてはいけないだろう。

リンク: Lancet誌ホームページで電子刊行された書簡(3/11付、pdfファイル)
リンク: EMAのステートメント(3/18付)
リンク: FDAのステートメント(3/19付)
リンク: WHOのTwitter(3/19付エントリー)

カレトラのCOVID-19試験がフェール
(2020年3月18日発表)

COVID-19が最初に流行した中国、武漢では様々な医薬品の臨床研究が行われているが、SARSの経験に基づき早い段階からオフレーベル投与されているアッヴィのKaletra(lopinavir、ritonavir)の臨床試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。意外にもフェールしたが、検出力不足だったように感じられる。幾つかの二次的評価項目では良さそうな数値が出ているので、今後発表されるであろう他の医療施設の治験結果を待ってみたい。

このLOTUS China試験は、武漢のJin Yin-Tan Hospitalに入院した、COVID-19感染が確認された肺機能低下患者をKaletraを投与する群と投与しない群に無作為化割付して、罹患期間や28日死亡率などを比較した。Kaletra群は400mg/100mgを一日二回、14日間投与した。症例数は当初は160人の予定だったが、組入れ完了後に検出力不足が判明、199人に増やした。ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)の臨床試験開始の余波を受けたようなので、本当はもっと組入れたかったのかもしれない。

結果は、主評価項目である臨床的改善までの時間は、メジアン値が両群とも16日、ハザードレシオは1.24で統計的に有意ではなかった。カプラン・マイヤー・カーブを見るとKaletra群のほうがどの時点でも臨床的改善達成率が偽薬群と同等以上だったが、群間差は大きく変動している。両群の曲線がギザギザで滑らかではないことと合わせて、症例数の少なさが響いているのではないか。

二次的評価項目は28日死亡率がKaletra群19.2%、非投与群25.0%と大きな差があったが統計的に有意ではなかった。ICU滞在期間のメジアン値は各6日と11日でこれもかなり違う。

一方で、ウイルス量の減少は両群大差なかった。論文著者は検査の間隔が空きすぎた可能性を指摘しているが、釈然としない。

Kaletra群は13.8%の患者が有害事象により投与を中止した。

この試験の難点は、検出力不足に加えて、発症から無作為化割付までのリードタイムがメジアン13日と長いこと。死亡率も高く、もっと早い段階で投与したら異なった結果になったかもしれない。

流行の比較的早い段階で開始された試験なので、診断方法やスピード、支持療法の内容などは、今日のスタンダード・プラクティスとは異なっているかもしれない。その意味でも、他の臨床試験の結果も見てみたい。

リンク: Caoらの治験論文(NEJM)

リジェネロンら、IL-6阻害抗体でCOVID-19の臨床試験に着手
(2020年3月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Kevzara(sarilumab、和名ケブザラ)の第2/3相重度COVID-19試験に着手したと発表した。米国でCOVID-19の本格的な臨床試験が行われるのは初めてではないか。欧州などでもサノフィが開始する予定。

KevzaraはIL-6受容体のアルファ・サブユニットに結合する抗体医薬で、中重度リウマチ性関節炎の治療薬として日米欧などで承認されている。類薬である中外製薬/ロシュのActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)は中国で行われた治験で肺炎を合併した患者の解熱や酸素吸入不要化で良好な成果を上げ、当地の診療ガイドラインに採用された。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因になる炎症免疫反応に関与しているIL-6の作用をブロックする抗体は、抗ウイルス作用というよりはIL-6亢進を伴う合併症の改善に寄与するのだろう。

米国の臨床試験は高熱・肺炎を伴う重度COVID-19感染症の入院患者400人を組入れて、偽薬対照二重盲検試験を行い、第三相ポーションでは人工呼吸器や酸素吸入などの臨床的転帰や死亡リスクを検討する。

Kevzaraは07年にリジェネロンがサノフィと結んだ複数の抗体医薬に関する提携の産物だが、両社は19年に提携関係を見直し、Kevzaraに関しては米国を含む世界市場でサノフィが単独で開発販売することになった。しかし、COVID-19やARDSに関しては引き続き、リジェネロンが米国で、サノフィは米国外で、主導するとのことだ。

リジェネロンはエボラウイルス疾患の治療薬の開発で最も大きな成果を上げ、抗体カクテルを米国で承認申請した。SARS-CoV-2についても二種類の抗体のカクテルを開発して、年央に臨床試験を開始する考えだ。

リジェネロンに続いて、英国のEUSA Pharmaも、イタリアのPapa Giovanni XXIII Hospitalが主導して抗IL-6キメラ抗体、Sylvant(siltuximab)の重度COVID-19試験に着手したと発表した。観察的研究で、過去事例とケース・コントロール研究を行うようだ。

Sylvantはジョンソン・エンド・ジョンソンが14年に欧米で多中心性キャッスルマン病治療薬として承認を取得、18年にEUSA Pharmaが世界の権利を1.5億ドルで入手した。中国の権利はBeiGeneにライセンスした。

更に、ロシュもFDAやBARDA(米国の生物兵器防衛対策組織)とともに、重度COVID-19肺炎330人を組入れるグローバル無作為化割付偽薬対照試験を4月に開始すると発表した。Actemraは大阪大学などの免疫学研究の成果なので、日本も参加するのではないか。

リンク: リジェネロンらのプレスリリース
リンク: 抗体カクテルに関するプレスリリース(3/17付)
リンク: EUSA Pharmaのプレスリリース(3/18付)
リンク: ロシュのプレスリリース(3/19付)

プリジスタがCOVID-19に有効という裏付けはない
(2020年3月20日アクセス)

製薬会社は新薬開発が成功し無事、承認にたどり着くと、様々な追加的な研究を行ってブランドイメージの向上を図る。適応拡大試験が成功すると大々的に発表し、フェールするとブランド名ではなく一般名や開発コードで発表する。経済的利害が大きいので発表内容にバイアスがないか、吟味する必要があるが、考えてみれば、産業界だけでなくアカデミアも、名誉欲だけでなく、患者のために新薬の臨床試験が成功してほしい、あるいは、良い薬が発売されたことを一人でも多くの患者に知ってほしいという善人のバイアスを持っているはずだ。ことさらに製薬会社のニュースだけ眉唾する必要はないだろう。

だからということでもないが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの面白いプレスリリースを紹介したい。同社のHIV/AIDS治療用のプロテアーゼ阻害剤、Prezista(darunavir)について、COVID-19に有効という事例報告が出ているが十分なエビデンスがあるとは承知していない、と発表したのだ。同社は様々なコンパウンドの抗SARS-CoV-2活性を調査したが、in vitroでも、構造解析でも、有効性は確認されていない。安全性や有効性に関する外部研究者の公表データも存在しない由。

同社は中国の臨床試験三本に薬剤を提供しているが、3月20日に改めてアクセスしたところ、Shanghai Public Health Clinical Centerで行われた臨床試験がフェールしたことが記されていた。

anecdotal evidenceは事例証拠と翻訳されているようだが、確立していない証拠という、暫定的、あるいは否定的なニュアンスもある。事例証拠を鵜呑みにせず、エビデンスに基づく行動、あるいは、エビデンスを確立するための行動を取るべきという指摘は尤もだ。

リンク: JNJのプレスリリース


【新薬開発】


CTCLの光線力学療法試験が成功
(2020年3月19日発表)

米国ニュージャージー州の新興製薬会社、Soligenix(Nasdaq:SNGX)は、SGX301の第三相皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)試験が成功したと発表した。詳細は6月に発表する予定。承認申請に向かう。

SGX301はセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリ)に含まれる光増感効果を持つ色素、ヒペリシンを化学合成した軟膏薬。皮膚病変に塗布すると悪性T細胞に集積、16~24時間後に蛍光灯照射すると活性化して増殖を抑制する。第三相試験では、早期(ステージIAからIIA)の患者169人を偽薬と2対1割付して、8週サイクルで最初の6週間に週2回のペースで施行して、第1サイクル後の病変縮小効果を検討した。

結果は、奏効率(Composite Assessment of Index Lesion Scoresが50%以上改善した患者の比率)が16%と偽薬群の4%を上回った(p=0.04)。第2サイクルは全員に投与したところ、奏効率は35%と第1サイクルの試験薬群のデータと比べても上回る数値が出た。

第1サイクルの奏効率はあまり印象的ではなく、第2サイクルはドロップアウトの影響があったかもしれないので、詳細発表を待ちたい。そもそも、この奏効率は患者のQOLや寿命とどの程度リンクするのだろうか?

リンク: Soligenixのプレスリリース

ファイザー、JAK1阻害剤の三本目のアトピー性皮膚炎試験が成功
(2020年3月18日発表)

ファイザーは、PF-04965842(abrocitinib)の三本目の第三相アトピー性皮膚炎試験の成功を発表した。既に二本成功しているが、今回はリジェネロンのDupixent(dupilumab)との差別化に関わるエビデンスも獲得したことが成果。

局所的治療を受けている中重度アトピー性皮膚炎患者837人を偽薬(延長試験で100mgまたは200mgを投与するため二群設定)、100mg、200mg、そしてDupixentの5群に無作為化割付して、共同主評価項目であるIGA奏効率とEASI75達成率を比較したところ、200mgは第12週と第16週の両方で偽薬を有意に上回った。100mgは第12週時点だけだった。一方、二次的評価項目の一つである第2週の痒み評価は200mgがDupixent比でも有意に改善、100mgは数値上上回ったが有意ではなかった。

深刻な有害事象の発生率は各群3.8%、2.5%、0.9%、0.8%で大きな違いはない。有害事象による治験離脱は各3.8%、2.5%、4.4%、3.3%だった。

PF-04965842はJAK1阻害剤。Dupixentとの違いは一日一回の経口剤であることと、IL-4とIL-13だけでなく、痒みに関連するIL-31も阻害すること。数値が未発表なので臨床的な意義は分からないが、もし統計学的にしか有意でなかったとしても、今回の試験成績は宣伝材料になるだろう。

ファイザーは年内に承認申請する考え。承認審査では免疫抑制に伴う有害事象リスクも検討されるだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ファイザー、20価肺炎球菌ワクチンの第三相が成功
(2020年3月18日発表)

ファイザー(と買収される前のワイス)は2000年に7価肺炎球菌ワクチンPrevnar(和名プレベナー)、2011年に13価のPrevnar 13を発売したが、今度は20種類の血清型をカバーする新ワクチン、PF-06482077(別名20vPnC)の第三相試験を成功させた。18才以上で過去に肺炎球菌ワクチンを接種したことのない3880人を組入れた、メインの第三相試験で、主評価項目である60才以上における免疫原性が、19の血清型について、既存のワクチン(Prevnar 13がカバーする型についてはPrevnar 13、それ以外は23価肺炎球菌多糖体ワクチンのPneumovax)と非劣性だった。Prevnar 13がカバーしていない型の一つについては僅かに届かなかったようだが、FDA側は、承認に差し支えるほどではないと考えている由だ。18-59才における免疫原性は、全ての型に関して、60-64才と非劣性だった。

ファイザーは20年末までに承認申請する考え。

Prevnar 13は昨年、ACIP(予防接種に関する推奨を行う米国の諮問委員会)が65才以上に関する勧奨を変更し、免疫低下など特定の条件を満たす過去に接種歴がない人以外は、本人と担当医が相談して決定することとした。小児期における接種が普及し肺炎球菌性感染症が減少、高齢者に感染するリスクが低下したことが理由のようだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

MSD、難治性慢性咳の第三相試験が成功
(2020年3月17日発表)

MSDは、MK-7264(gefapixant)の第三相慢性咳治療試験二本が成功したと発表した。データは学会で発表する計画。承認申請に向かうだろう。

難治性、あるいは説明不可能な慢性咳の患者を組入れて、15mgまたは45mgの何れかを一日二回、経口投与し、一本は第12週、もう一本は第24週の咳の回数(オーディオレコーダーで24時間記録)を偽薬と比較したところ、45mg群は二本とも有意な差があった。一方、15mg群は二本ともフェールした。安全性や忍容性は第二相試験と同様だった由。

慢性咳の米国における罹患率は10%で、うち2~4割は原因が不明とのこと。知覚神経の過剰感作が影響しているケースもあるようだ。MK-7264は選択的P2X3受容体アンタゴニストで、ATPがP2X3受容体を刺激して知覚神経を過剰感作するのを妨げる。

後期第二相試験では50mgを一日二回投与した群の咳が有意に減少した。20mg群や7.5mgは有意ではなかったが数値上は偽薬群より少なかった。難点は用量依存的な味覚異常で、50mg群は半分近くの患者が経験、それによる治験離脱は16%に達した。

第三相の用量が若干少ないのは忍容性の緩和を図ったのだろうが、忍容性が第二相試験と同様であったことや、発生率が低いはずの15mg群が効果の面で不十分だったことは、残念だ。

MK-7264は、09年にロシュからスピンアウトしたAfferent Pharmaceuticalsを16年に当初金5億ドル、開発商業化目標達成金7.5億ドルで買収して入手したコンパウンド。

リンク: MSDのプレスリリース

バベンチオの頭頸部癌一次治療試験がフェール
(2020年3月13日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとファイザーは、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の適応拡大試験がフェールしたと発表した。頭頸部扁平上皮腫の一次治療として治癒的化学放射線療法を受ける患者にBavencioを追加する効果を検討したが、独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定。続行しても主評価項目であるPFS(無進行生存期間)に有意な差が出る可能性は極めて小さいと判断。両社は勧告を受け入れて治験中止を決めた。

Bavencioは抗PD-L1抗体で、メルケル細胞腫などに承認されている。後発であるせいか、ニッチな用途や難しい癌の試験にも取り組んでおり、そのせいか、フェールも少なくない。頭頸部癌ではMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)が転移・切除不能難治性の患者にモノセラピー(PD-L1高発現の場合)または白金薬などと併用することが欧米で承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース

アストラゼネカ、小細胞肺がんにイミフィンジと抗CTLA4抗体を併用しても無益
(2020年3月17日発表)

アストラゼネカは、第三相CASPIAN試験の共同主評価項目の結果を発表した。伸展型小細胞性肺癌の一次治療として、cisplatinまたはcarboplatinをetoposideと併用する対照群と、更に抗PD-L1抗体のImfinzi(durvalumab)を追加する三剤併用群、そして抗CTLA4抗体のtremelimumabも追加する四剤併用群の全生存期間を比較した試験で、三剤併用群は中間解析で目的を達成、日米欧で適応拡大申請中。

今回、四剤併用群がフェールしたことが発表された。残念だが、Imfinziとtremelimumabの併用療法は他の癌でも第三相試験が軒並みフェールしており、事前の期待は小さかった。

抗CTLA4抗体と言えばBMSのYervoy(ipilimumab)が複数の癌に承認されており、一部はOpdivo(nivolumab)との併用だ。両剤は軽鎖などのアミノ酸配列が異なるが、CTLA4側の結合部位、エピトープは同じだ。固定領域がIgG2型なので、ADCC活性やCDC活性がYervoyより小さい可能性があり、明暗が分かれた原因かもしれない。

tremelimumabはファイザーが第三相試験を行ったがフェール、アストラゼネカのメディミューン子会社にアウトライセンスした。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、VEGFR阻害剤のリムパーザ併用試験がフェール
(2020年3月12日発表)

アストラゼネカとMSDは、cediranibのLynparza(olaparib、和名リムパーザ)併用試験がフェールしたと発表した。このVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤は様々な癌の第三相試験がフェールしている。

今回のGY004試験は米国立癌研究所が主導するオープンレーベル試験で、再発卵巣癌に両剤を併用する効果を白金薬ベースの化学療法レジメンと比較した。主評価項目はPFS(無進行生存期間)。データは研究者側が発表する予定。

リンク: 両社のプレスリリース

ノボ、抗TFPI抗体の第三相を中断
(2020年3月16日発表)

ノボ ノルディスクは、NN7415の第三相試験二本と第二相を中断したことを明らかにした。有害事象が原因だが、よほど深刻でない限り、再開に向かう可能性のほうが開発中止より可能性が高いのではないか。

NN7415は活性化血液凝固第VII因子と組織因子の複合体による第X因子の活性化を抑制する天然のインヒビター、TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)を標的とする抗体医薬。TFPIが欠乏している血友病患者は出血リスクが小さいとされる。

第三相はA型とB型の血友病患者の出血を予防するルーチン投与試験が一本はインヒビターを持つ患者、もう一本は持たない患者を組入れて開始した。第二相試験を含めて109人に投与中だったが、第三相試験で3人が非致死的血栓性イベントを発現したため、今後の投与と新規組入れを停止した。

リンク: ノボのプレスリリース


【承認申請】


Aurinia、カルシニューリン阻害剤をループス腎炎に承認申請
(2020年3月16日発表)

カナダのAurinia Pharmaceuticals(TSX:AUP、Nasdaq:AUPH)は米国でvoclosporinをループス治療薬としてローリング承認申請を開始したと発表した。第2四半期中に完了する計画。長い臨床開発歴を持つカルシニューリン阻害剤で、第三相試験では、MMFやステロイドによる治療を受けている患者に23.7mgを一日二回、経口投与したところ、52週時点の腎反応率(eGFRや尿蛋白クレアチニン・レシオなどで評価)が40.8%と偽薬群の22.5%を有意に上回った。深刻有害事象発現率は21.3%で偽薬群の20.8%と大差なかった。但し、死亡者は5人と偽薬群の1人より多かった(組入れ数は335人)。

リンク: Auriniaのプレスリリース

JNJ、S1P1調節剤を多発硬化症に承認申請
(2020年3月18日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンは、EUに続いて米国でもponesimodを再発型多発硬化症用薬として承認申請したと発表した。S1P1受容体調節剤で、ロシュのスピンアウトであるアクテリオン社を17年に子会社化して入手した製品・パイプラインの一つ。第三相試験では、20mgを一日一回経口投与した群の年率再発率が0.202と、teriflunomide 14mgを一日一回経口投与した群の0.290を有意に下回った。

リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

ファイザー、抗NGF抗体を承認申請
(2020年3月2日発表)

ファイザーとイーライリリーは、PF04383119(tanezumab)を米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は12月。ヒトNGFを標的とする抗体は後述の副作用があるため、FDAが開発の当否を諮問委員会に諮問したことがあるが、改めて承認の当否を諮問する考えのようだ。日本やEUでも承認申請する計画。

予定適応症は難治性の中重度変形性関節炎による慢性疼痛。8週毎に皮柱する。

NGFを発見したジェネンテックのスピンアウトであるRinat Neuroscienceを06年に買収して入手したパイプライン。抗hNGF抗体は複数の会社が開発に凌ぎを削っていたが、後に急速進行形変形性関節症(RPOA)と呼ばれることになる有害事象が表面化、FDAがクリニカルホールドを命じたことがある。tanezumabの第三相試験でも1型(関節裂隙狭小化が早い)、2型(関節損傷・破壊)とも発現率が偽薬群より高かった。関節全置換術を受けた患者も偽薬群より多かった。

原因は不明。疼痛が緩和して行動的になることが裏目に出るのかもしれないが、関節に良い薬なのか、悪いのか、よくわからない。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EU、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認を停止
(2020年3月13日発表)

EUの薬品承認審査機関、EMAは、Gedeon Richterの子宮筋腫治療薬Esmya(ulipristal acetate)の承認を停止すると発表した。欧州委員会の要請を受けて、PRAC(市販後医薬品監視・リスク評価委員会)が肝毒性を再検討することが理由。

Esmyaは選択的プロゲスチン受容体調節剤で、欧州で12年に、13年にはカナダでも、子宮筋腫治療薬として承認された。日本でもあすか製薬が昨年12月に承認申請している。米国はアラガンが17年に承認申請したが、深刻な肝障害リスクが見られることから、承認されなかった。

EUでも17年にPRACが審査を開始、18年に新患には投与しないこと、治療を受ける患者は定期的な肝臓検査を受けることを勧告した。今回、承認停止にステップアップしたのはその後も肝障害報告が増えているため。

EMAは、速やかに患者とコンタクトして治療を止めるよう求めている。3月23日を目処にドクターレター(Direct Healthcare Professional Communication)を発出しEMAのウェブサイトにも掲載する予定。

尚、今回の規制や肝毒性リスクは、同じ活性成分を持つ事後的緊急避妊薬、ellaOneは関係ない。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

2020年3月15日

2020年3月15日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、血糖治療薬の開発ガイダンスをアップデート 
  • BMS、エムプリシティの一次治療試験がフェール 
  • 武田のニンラーロも一次治療試験がフェール 
  • オプジーボとヤーボイの併用による肝細胞腫二次治療が米国で承認 
  • BI、オフェブが多様な間質性肺疾患に適応拡大 


【今週の話題】


FDA、血糖治療薬の開発ガイダンスをアップデート
(2020年3月10日発表)

FDAは二型糖尿病の血糖治療薬の開発に関するガイダンスをアップデートし、草案を公開した。6月8日までの90日間、コメントを受け付ける。08年に公表されたガイダンス文書は撤回され、FDAのサイトで検索してもヒットしなくなった。

08年ガイダンスはPPAR作動剤の副作用禍を機に、心血管安全性審査を強化したもの。臨床試験に十分な数の高リスク患者を組入れて検出力を高め、ハザードレシオの信頼区間上限が一定の閾値を下回ることを確認するよう求めた。閾値は1.3に設定されたが、臨床試験費用が膨らみ開発期間が長期化するのを抑制するために、新薬承認審査段階では、複数の試験のメタアナリシスで1.8を下回れば良しとした。もし上回った場合は承認前に、1.3以上1.8未満であった場合は承認後に、大規模長期の心血管アウトカム試験を行わなければならない。

今回のガイダンスは、心血管安全性の評価方法や閾値の明示を止める一方で、様々な高リスク症例の組入れを充実させて多面的な安全性評価を行うよう求めた。FDAは懸念材料を見つけたらケースバイケースで対応する。

具体的には、第三相試験で4000人年以上の試験薬安全性データを構築する。うち、1年以上の投与実績は1500人以上、2年以上が500人以上とする。通常の慢性疾患用薬に関する要求よりは厳しくなっている。

高リスク・サブグループの投与実績に関しては、ステージ3/4の慢性腎疾患が500人以上、確立した心血管疾患(心筋梗塞など)は600人以上、65歳以上は600人以上、を求めた。全てに該当する患者600人ではダメで、何れかに該当する患者を1200人以上、組入れなければならない。

心血管安全性評価は今後も重視され、発現時は第三者による査読が必要。

個々の開発品に関する安全性懸念がある場合、FDAは、第三相試験開始前に指摘して、リスクが許容範囲であることを確認するために十分な検出力を持たせるよう要求する。

印象としては、製薬会社というよりはFDAに対する規制緩和だ。ガイダンス文書を作成する目的は、FDAがケースバイケースの名のもとに恣意的な判断を下すのを防ぐことにあるからだ。ページ数が大きく減ったことと合わせて、ガイダンス文書としては一歩後退したと言わざるを得ない。

リンク: FDAのコメント募集ページ


【新薬開発】


BMS、エムプリシティの一次治療試験がフェール
(2020年3月9日発表)

BMSはEmpliciti(elotuzumab、和名エムプリシティ)の多発骨髄腫一次治療試験がフェールしたと発表した。造血幹細胞移植が適応にならない初発患者を組入れて、Revlimid(lenalidomide)と低量dexamethasoneを併用するRdレジメンに追加する効果をRdレジメン群とオープンレーベルで比較したが、主評価項目のPFS(無進行生存期間)が有意に上回らなかった。データは学会発表の予定。

EmplicitiはSLAMF7(CS1糖蛋白)に結合するヒト化抗体で、15~16年に日米欧で多発骨髄腫の二次治療薬としてRdレジメンに併用することが承認された。再発治療に有効なら一次治療にも効きそうなものだが、不思議だ。

次項のように、競合薬のNinlaroも同様なパターンで一次治療試験がフェールしている。

リンク: BMSのプレスリリース

武田のニンラーロも一次治療試験がフェール
(2020年3月10日発表)

武田薬品はNinlaro(ixazomib、和名ニンラーロ)の多発骨髄腫一次治療試験がフェールしたと発表した。造血幹細胞移植試験が適応にならない初発患者705人を組入れて、Revlimid(lenalidomide)と低量dexamethasoneを併用するRdレジメンに追加する効果を偽薬追加群と比較したが、主評価項目のPFS(無進行生存期間)が有意に上回らなかった。メジアン値は35.3ヶ月対21.8ヶ月で1年以上の差があったが、ハザードレシオは0.83とそれほどでもなく、ログランクp値は0.073だった。

Ninlaroは代表的な多発骨髄腫用薬であるVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤で経口剤であることが特徴。15~17年に日米欧で多発骨髄腫の二次治療薬としてRdレジメンに併用することが承認された。再発治療に有効なら一次治療にも効きそうなものだが、不思議だ。

EUの承認は条件付きで、一次治療試験などを通じて効能を確立しないと取り消される可能性があるため、今回のフェールは痛い。他の試験では、大量化学療法と自家造血幹細胞移植が奏効した初発患者656人を組入れた維持療法試験が成功し、日本でまもなく適応拡大が承認される見込みだが、米国ではNinlaroも、似通った試験が成功したRevlimidも、承認されなかった(承認申請撤回)。多発骨髄腫は米国よりEUのほうがPFSに基づく承認に慎重なので、米国ですら承認されなかったのだからEUでは難しいだろう。治験登録を見る限りでは他に役立ちそうな第三相試験は行われていないようだ。EUでの承認維持はピンチと考えざるを得ない。

競合薬では、ジョンソン・エンド・ジョンの抗CD38抗体、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)が、様々な段階で様々なレジメンと併用する試験を成功させている。自家造血幹細胞移植不適の初発患者ならRdレジメン併用も、Velcadレジメン併用も、欧米では承認されている。今のところ、三剤の適応拡大競争はJNJに軍配が上がりそうだ。

リンク: 武田薬品のプレスリリース


【承認】


オプジーボとヤーボイの併用による肝細胞腫二次治療が米国で承認
(2020年3月11日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブは、抗PD-L1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)を肝細胞腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。バイエルのNexavar(sorafenib)による治療歴を持つ患者が適応になる。最初の4回はOpdivoは1mg/kg、Yervoyは3mg/kgを三週毎に、その後はOpdivoのみ240mgを二週毎に、点滴静注する。反応率データに基づく加速承認なので、別途、延命またはそれに準じる効果を検討する試験を行って便益を確認する必要がある。

第1/2相CheckMate-040試験では、BICR-ORR(盲検独立中央評価による客観的反応率)が33%(完全反応8%、部分反応24%)だった。反応者の56%は反応持続期間が12ヶ月以上だった。深刻有害事象の発現率は59%で、有害事象による治療中止が29%の患者で発生した。

同様な適応で承認されている競合薬の治験成績を見ると、MSDのKeytruda(モノセラピー)はKeynote-224試験でBICR-ORRが17%だった。また、Nexavarと類似した化学構造を持つVEGFR阻害剤であるバイエルのStivarga(regorafenib、モノセラピー)は、偽薬対照二重盲検試験で、Inv-ORR(担当医評価による客観的反応率)が7%、偽薬群は3%(!)だった。こうしてみると、Opdivo・Yervoy併用のパワーは大きい。

リンク: BMSのプレスリリース

BI、オフェブが多様な間質性肺疾患に適応拡大
(2020年3月9日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、FDAがOfev(nintedanib、和名オフェブ)の適応拡大を承認したと発表した。特発性肺線維症や全身性強皮症(SSc)に伴う間質性肺疾患(ILD)の治療薬として承認されているトリプル・アンジオキナーゼ阻害剤だが、SSc以外の進行性の慢性線維化性ILD、具体的には、「分類不能」型や自己免疫性のILD、慢性過敏性肺臓炎、サルコイドーシス、筋肉炎、シェーグレン症候群、石炭労働者じん肺炎、特発性非特定的間質性肺臓炎などによる慢性繊維化症が新たに適応になり、ILD患者の18-32%をカバーできるようになった。

リンク: BIのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2020年3月8日

2020年3月8日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • WSJ紙:ドイツのベバスト社、COVID-19の封じ込めに成功 
  • Karyopharm、Xpovioの三剤併用多発骨髄腫試験が成功 
  • アストラゼネカ、イミフィンジの膀胱癌試験がフェール 
  • ベネクレクスタ、AMLの市販後薬効確認試験がフェール 
  • OAB治療薬ベオーバが米国でも承認申請 
  • JNJ、ponesimodをEUで承認申請 
  • FDA、ノバルティスのクッシング症候群治療薬を承認 
  • FDA、サノフィの抗CD38抗体を多発骨髄腫三次治療薬として承認 
  • ノバルティス、ベオビュの網膜血管炎報告に関してプレスリリース 
  • FDA、シングレアの自殺リスクなどの警告を強化 
(2020年3月10日追補:ノバルティスのクッシング症候群治療薬について、レコルダッチが権利取得済みである旨を追記しました)

【今週の話題】


WSJ紙:ドイツのベバスト社、COVID-19の封じ込めに成功
(2020年3月8日発表)

ドイツの自動車用機器メーカー、ベバスト社は、トップの果断な対策によりCOVID-19の社内感染を封じ込めることに成功した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。政府と国民の関係とは異なり、経営者は企業と社員を守るために思い切った決定を行い、社員に遵守させることができる。逆に言えば、封じ込みの成否は経営者次第であることを、このエピソードは示している。

感染の発端は、ドイツで行われた研修に参加した中国の社員が疑われているようだ。帰国後に発熱したため1月25日土曜日に受診し、陽性と判明、上司に報告した。ドイツでも、数日前から発熱のあった社員が話を聞いて受診したところ、陽性と判明した。

エンゲルマンCEOは1月27日月曜日に報告を受け、その日のうちに危機対策委員会を設置した。委員は感染検査を受けた。感染して開催できなくなった時のためのシャドー委員会も設置した。また、バイエルン州の専門家チームの支援を求めるとともに、感染者の接触者を手間ひまかけて探し出した。接触者解明前に感染が広がるのを防ぐため、1月28日火曜日から週末まで全社員に在宅勤務を命じた。

結局、ドイツの社員の1割以上が感染していたことが判明したが、それ以上広がることはなく、現在では、感染者全員が退院している。

1月28日と言えば、武漢ではまだ感染者が急増している時期で、日本では1月29日から政府チャーター便による武漢在住者の帰国が開始されたが、ドイツでは、上記がCOVID-19感染第一号と推測される。この段階で迅速に対応したことは危機管理のお手本にできるだろう。

特に注目したいのは、感染者の行動履歴をキチンと追って検査を行ったことと、在宅勤務をセットで行ったこと。日本でもスポーツジムやライブハウスにおけるクラスター感染が観察されているが、感染者からのヒアリングをキチンと行えば、関東でももっと多くのクラスターを発見し、それ以上の伝播を防げるかもしれない。感染経路不明の市中感染が広がったと決めつけて、ウイルス検査に積極的に取り組まなかったり、広範な感染抑制策を導入し出口が見えないまま長期間続けたりすることを防げるかもしれない。

リンク: ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版の記事(要購読)


【新薬開発】


Karyopharm、Xpovioの三剤併用多発骨髄腫試験が成功
(2020年3月2日発表)

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)は、Xpovio(selinexor)の第三相BOSTON試験が成功したと発表した。三次までの治療歴を持つ再発難治多発骨髄腫患者を組入れて、Velcade(bortezomib)および低量dexamethasoneと三剤併用するSVdレジメンの効果をVelcadeと低量dexamethasoneだけを併用するVdレジメンと比較したところ、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が各群13.93ヶ月と9.46ヶ月、ハザードレシオは0.70、p=0.0066となり、主目的を達成した。尚、三剤併用群はVelcadeとdexamethasoneを週一回投与と、対照群の週二回より減量している。


Xpovioは核外輸送蛋白XPO1(エクスポーティン1)を阻害して腫瘍抑制的タンパクが核外に排出されるのを妨げる。BOSTON試験は19年7月に米国で多発骨髄腫のサルベージ療法(5次治療)薬として加速承認された時のフェーズIVコミットメントでもあるので、20年第2四半期に本承認に切替と適応拡大を申請する予定。欧州はサルベージ療法として承認審査中。日本は小野薬品が導入した。

米国では最大で年69000人が多発骨髄腫の薬物療法を受けていると推定されている。2~4次治療に用いることが承認されれば対象人口が約3万人と、今より一桁増えることになる。

リンク: Karyopharmのプレスリリース

アストラゼネカ、イミフィンジの膀胱癌試験がフェール
(2020年3月6日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)の第三相DANUBE試験がフェールしたと発表した。切除不能転移膀胱癌の一次治療におけるモノセラピーや抗CTLA-4抗体tremelimumab併用療法の延命効果を検討したが、gemcitabineと白金薬を併用する標準療法と有意差がなかった。この試験は17年に米国で再発膀胱癌のモノセラピーとして加速承認された時の市販後薬効確認試験なので、最悪、加速承認取消の可能性もあるが、化学療法併用を検討している第三相NILE試験の結果が22年頃に開票するまで先送りされるのではないか。

膀胱癌は抗PD-1/PD-L1抗体の代表的な用途であったが、モノセラピーによる一次治療に関してはよくわからないところがある。KeytrudaやTecentriqはcisplatin不耐患者の一次治療に承認されたが、その後の試験でPD-L1陰性に対する効果が対照薬と比べて不十分であったため、適応がPD-L1高発現のみに限定された(米国はcarboplatinにも不耐なら陰性でも可)。

PD-L1発現検査アッセイは各社マチマチなので比較は難しいが、DANUBE試験のモノセラピーの解析対象は、腫瘍細胞や腫瘍浸潤免疫細胞における発現頻度が25%以上と、通常より高発現の患者だった。それでもフェールしたのだから、失望が大きい。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ベネクレクスタ、AMLの市販後薬効確認試験がフェール
(2020年2月28日発表)

アッヴィは、Venclexta(venetoclax、和名ベネクレクスタ)の第三相初発AML(急性骨髄性白血病)試験がフェールしたと発表した。フェーズIVコミットメントなので、最悪の場合、適応拡大が取り消される可能性がある。尤も、数値自体は悪くないので、今回公表されたトップラインデータだけでは足りず、詳細結果の発表を待ちたい。

Venclextaはロシュ/ジェネンテックと共同開発した選択的bcl-2阻害剤。16年に欧米で、19年には日本でも、慢性リンパ性白血病用薬として承認され、米国ではジェネンテックと共同で、海外ではアッヴィが単独で販売している。

AMLは75歳以上または強化化学療法不適の新患にazacitidine、decitabine、または低量cytarabineと併用することが18年11月に米国承認された。第二相試験の完全寛解率データに基づく加速承認なので、別途、第三相対照試験を実施して全生存期間またはそれに準じる指標が向上することを確認する必要がある。

今回のVIALE-C試験は低量cytarabine併用を検討した無作為化割付偽薬対照二重盲検試験。211人を二剤併用群と偽薬・低量cytarabine併用群に2:1割付して全生存期間を比較したところ、メジアン値は7.2ヶ月対4.1ヶ月と上回りハザードレシオも0.75と悪くなかったが、p値が0.11となり有意差が出なかった。

この解析はメジアン12ヶ月間追跡後だが、更に6ヶ月追跡して行った解析では、ハザードレシオ0.70、95%信頼区間0.50-0.99と、事後的解析なので統計学的に有意とは言えないが、悪い数値ではなかった。

また、二次的評価項目の完全寛解率(血球数回復不完全例を含む)は47.6%対13.2%、完全寛解率は27%対7%で、どちらもp<0.001だった。因みに、承認の根拠となった61人の低量cytarabine併用試験では完全寛解率が21%だったので、似たような結果だ。

深刻有害事象は血小板減少症や貧血が少し増加した程度。

azacitidine併用の第三相寛解導入療法は2021年に結果が出る見込み。

リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: 治験登録サイトで開示された治験結果(NCT03069352試験として登録)


【承認申請】


OAB治療薬ベオーバが米国でも承認申請
(2020年3月5日発表)

Urovant Sciences(Nasdaq:UROV)は、FDAがvibegronの新薬承認申請を受理したと発表した。審査期限は12月26日。現時点では諮問委員会招集の考えはないようだ。

Urovantはバイオ株投資家から転じた起業家、Vivek Ramaswamyが設立したRiovant Sciences社の傘下でMSDからライセンスしたvibegronの開発を行っている。尚、Riovant傘下の5社は昨年12月に大日本住友製薬の子会社となった。

vibegronは選択的ベータ3アドレナリン受容体作動剤。18年にキョーリンが日本で過活動膀胱治療薬として製造販売承認を取得した。日本の用法は50mgを一日一回経口投与だが、米国申請は75mg一日一回。臨床試験では効果が偽薬を有意に上回ったが、tolterodineとは有意差がなかった。

類薬であるアステラス製薬のMyrbetriq(mirabegron、和名ベタニス)と異なり血圧・心拍影響は小さそうだが、9年遅れで発売されるハンデを覆すほどの差別化要因ではなさそうだ。

リンク: Urovantのプレスリリース

JNJ、ponesimodをEUで承認申請
(2020年3月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンは、ponesimodをEUに再発型多発硬化症用薬として承認申請したと発表した。S1P1受容体調節剤で、ロシュのスピンアウトであるアクテリオン社を17年に子会社化して入手した製品・パイプラインの一つ。第三相試験では、20mgを一日一回経口投与した群の年率再発率が0.202と、teriflunomide 14mgを一日一回経口投与した群の0.290を有意に下回った。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


FDA、ノバルティスのクッシング症候群治療薬を承認
(2020年3月6日)

FDAはノバルティスのIsturisa(osilodrostat)を成人のクッシング症候群の治療薬として承認した。コルチゾール合成に関わる酵素である11ベータ水酸化酵素を阻害することにより、クッシング症候群におけるコルチゾール分泌過剰を矯正する。一日二回、経口投与。2mgで開始、コルチゾール値や副作用を見ながら最大30mg一日二回まで増量できる。尚、1月に承認したEUによると、アジア系は1mgで開始する。

24週間の単群試験で5割の患者のコルチゾール値が正常化した。引き続き実施された離脱試験では、継続投与群は86%の患者が正常値を維持したのに対して、偽薬にスイッチした群は30%に留まった。主な有害事象で特徴的なのは副腎機能不全や浮腫、QTc延長、副腎ホルモン前駆体の増加。

尚、ノバルティスは19年にIsturisa及びSignifor(pasireotide、和名シグニフォー)の権利をイタリアのレコルダッチに譲渡している。FDAのプレスリリースにはノバルティスに承認供与と記されているので、今後、ライセンスホルダー変更申請を行うのだろう。


リンク: FDAのプレスリリース
リンク: レコルダッチのプレスリリース(pdf)

FDA、サノフィの抗CD38抗体を多発骨髄腫三次治療薬として承認
(2020年3月2日発表)

FDAは、サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc)を再発難治多発骨髄腫用薬として承認した。代表的な一次/二次治療薬であるlenalidomideおよびプロテアーゼ阻害剤による治療歴を持つ成人患者が適応になる。代表的な三次治療レジメンであるpomalidomideとdexamethasoneと併用で、体重1kg当り10mgを28日サイクルで第1サイクルは毎週、その後は隔週、投与する。200分(第3サイクルからは75分)点滴静注する。

第三相オープンレーベル試験では、PFS(独立評価委員会がMタンパクや放射線画像で評価)がメジアン11.5ヶ月とpomalidomideとdexamethasoneだけの群の6.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.596、p=0.001だった。有害事象は骨髄抑制や点滴関連反応、肺炎、下痢など。有害事象による治験離脱率、死亡率は対照群より小さかった。

5年前に米国で承認されたジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)と同様な抗CD38抗体。Darzalexは点滴時間が初回は5-6時間、二回目以降も3-4時間と医療施設にとって手離れが悪いが、3-5分で済む皮注用製剤が欧米で承認審査中。Sarclisaはまだ適応が限られるので、5年のビハインドをキャッチアップするのは大変だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ノバルティス、ベオビュの網膜血管炎報告に関してプレスリリース
(2020年3月2日発表)

3月1日号で報じたように、ノバルティスの新生血管加齢黄斑変性治療薬、Beovu(brolucizumab)で市販後に14例の網膜血管炎が報告されていることをASRS(米国網膜専門医学会)が会員に通知した。うち11例は失明のリスクのある閉塞性網膜血管炎である由。当方は会員ではないのでロイターやEyewireなどの報道しかアクセスできなかったが、やっと、ノバルティス自身がプレスリリースを出した。眼科医や患者、メディアからの問い合わせが多かったのだろう。

まだ精査中であるせいか、報道の追認に留まり、新たな情報は少ない。3月2日現在で57000本以上のバイアルを米国の医師に出荷したこと、米国の添付文書には眼内炎症の発生率が4%、網膜動脈閉塞症が1%と記されていること、重度視力喪失や炎症あるいは潜在的な網膜血管炎に関する限られた数の症例報告(他のVEGF阻害剤による治療歴を持つ症例もある)について包括的な検討を行っていること、臨床試験では視力喪失発現率はafliberceptを投与した群と同程度であったこと、進行中の臨床試験の独立データ監視委員会や薬品承認審査機関にも報告したことなどだ。

当面、医師や患者の手助けになりそうなのは、網膜血管炎報告例の多くで1回目または2回目の投与の1~2週間後に飛蚊や霞目などの視力変化が起きているという指摘。投与後に目が赤くなる、光過敏、痛み、視力変化などが発現した場合は直ちに眼科医の治療を受けるよう、患者に注意を促す必要性を再強調した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

FDA、シングレアの自殺リスクなどの警告を強化
(2020年3月3日発表)

FDAは、MSDのSingulair(montelukast、和名シングレア/キプロス)およびGE品の警告強化と適応縮小を発表した。自殺思慮・行動などの神経精神イベントに関する警告を枠付き警告にステップアップするとともに、アレルギー性鼻炎の適応を他剤不応不耐に限定した。

Singulairは22年の市販歴を持つリューコトリエン阻害剤。米国では、1歳以上の喘息症、6歳以上の運動誘発性喘息症、2歳以上の季節性アレルギー性鼻炎、6ヶ月児以上の通年性室内性アレルギー性鼻炎に承認されており、18年には930万人が外来薬局で購入した。

市販後に振戦や自殺思慮・行動、うつ病、不安症などの神経精神性有害事象が報告され、09年に事前注意事項としてレーベルに記載されたが、その後も副作用報告が増加、完成自殺は82例に達した。年齢が明らかな64例のうち19例は17歳以下だった。動物試験でmontelukastが血液脳関門を通過することも判明した。

医療保険データの分析では吸入コルチコイドより有意に多くはなかったが、実態を十分に把握できていない可能性があることや代替的治療手段が存在することなどから、昨年9月に開催された小児用薬諮問委員会と医薬品安全性委員会の共同会議では、多くの委員が規制強化を支持した。

FDAは、喘息症に用いている場合も、患者に神経精神性リスクを説明した上で便益がリスクを上回るか再検討するよう求めた。患者は、行動や気分に関連する変化が現れたら服用をやめて医師に相談する。症状の具体例としては、攻撃性、注意障害、悪夢、うつ病、見当識障害や混乱、不安感、幻覚、過敏、記憶障害、強迫性障害、落ち着きの無さ、夢遊病、吃り、自殺思慮・行動、振戦、睡眠障害、不随意筋運動が列挙されている。

リンク: FDAの安全性情報






今週は以上です。

2020年3月1日

2020年3月1日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ギリアド、remdesivirの第三相COVID-19治療試験を拡大へ 
  • Moderna社、COVID-19ワクチンの治験用バッチの出荷を開始 
  • Vanda、NK1阻害剤のアトピー性皮膚炎試験はフェール 
  • 武田、ALK阻害剤を一次治療薬として米国で申請 
  • ロシュ、PerjetaとHerceptinの合剤を承認申請 
  • ノバルティス、皮注用抗CD20抗体を多発性硬化症に承認申請 
  • FDA諮問委員会がサイラムザの適応拡大を検討 
  • CHMPが塩野義の抗生剤の承認などを支持 
  • CHMP、ヨンデリスの卵巣癌適応に関して検討着手
  • バイオヘブンのCGRP受容体拮抗剤も片頭痛治療に承認 
  • エスペリオン、コレステロール治療用合剤が承認 
  • FDA、Nerlynxの適応拡大を承認 
  • ASRSがベオビュの網膜血管炎症例を通知


【今週の話題】


ギリアド、remdesivirの第三相COVID-19治療試験を拡大へ
(2020年2月26日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、中国や米国で実施されているGS-5734(remdesivir)の第三相COVID-19治療試験を他の地域も含めて拡大すると発表した。医療標準が国により異なる可能性があり、こういう事態なので厳格なプロトコル遵守も期待しにくいか、規模拡大はエビデンスの充実だけでなく、試験投与を望む様々な国の医師や患者のニーズに応えることが可能になる。FDAからは治験許可を受けた由。通常は申請後に待機して、音沙汰ないまま一定期間が経てば許可されたことになるのだが、今回は特別な対応を受けたのだろう。

GS-5734は核酸系抗ウイルス剤のプロドラッグ。これまでにエボラなどのウイルス感染症試験が行われてきた。COVID-19では中国や米国で少数の投与症例報告がある。第三相は2月に中国の首都医科大学をスポンサーとして中日友好医院のBin Cao教授らが開始、4月頃の結果報告を計画しているようだ。米国でもNIAID(米国国立衛生研究所傘下のアレルギー・感染症研究所)主導試験が行われている模様。ギリアドは、これらの試験を包含して1000人規模に拡大する考えだ。

一本は重症患者400人を組入れて、5日コースと10日コースの治療効果を比較する。用量は負荷用量200mg、維持用量は100mgを一日一回、静注する。主評価項目は症状軽快(体温と酸素飽和度の正常化が24時間以上持続)。インフルエンザ治療薬と同様なtime-to-event分析なのか、抗生物質のような治癒率なのかはプレスリリースからは不明。

もう一本は中程度の症状の患者600人を5日コースと10日コース、そして試験薬を投与しないSOC(標準的治療)だけの群に無作為化割付する。用量用法は同じ、主評価項目は14日以内に退院した患者の比率。

突発的な感染症の場合、治療薬やワクチン、検査アッセイを開発しても、流行が一巡して投資を回収できないような事態も考えられる。それでも、将来的にSARS-CoV-3が出現した時に備えて臨床開発を勧めておけば、トリ・インフルエンザの流行に備えたモックアップ・ワクチンのように、最低限の手直しと薬効・安全性確認試験および承認審査だけで実用化できる態勢を作れるかもしれない。

リンク: ギリアドのプレスリリース

Moderna社、COVID-19ワクチンの治験用バッチの出荷を開始
(2020年2月24日発表)

米国ケンブリッジのModerna(Nasdaq:MRNA)は、米国NIH(米国国立衛生研究所)傘下のNIAID(国立アレルギー・感染症研究所)やCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)とコラボしてCOVID-19ワクチンとして開発しているmRNA-1273の最初の臨床試験用バッチを出荷したと発表した。CEPIが生産資金を拠出した。早ければ4月にもNIAIDが臨床試験を開始する予定。

NIAIDとテキサス大学オースチン校の共同研究で解明された、ウイルスが宿主細胞の受容体に結合して細胞融合により侵入する過程の構造変化に配慮して選択した抗原のmRNAを接種する。SARS-CoV-2ウイルスのゲノム・シーケンス同定から42日という短期間でバッチ供給まで到達したのは快挙。クリアすべきハードルはまだまだ多いだろうが、経験を積めば将来、また新しいウイルス感染症が流行した時に、即応することができるようになるだろう。

リンク: Modernaのプレスリリース


【新薬開発】


Vanda、NK1阻害剤のアトピー性皮膚炎試験はフェール
(2020年2月25日発表)

米国ソルトレイクシティの新興製薬会社、Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)は、VLY-686(tradipitant)の一本目の第三相アトピー性皮膚炎試験がフェールしたと発表した。尤も、軽度患者の成績は悪くなかったため、詳細分析を進めるとともに、昨年第4四半期に開始した二本目の主評価項目を軽度患者に限定するなどのプロトコル変更を検討する考えだ。

tradipitantはイーライリリーのNK1阻害剤、LY686017を12年にライセンスしたもの。今回の試験は、重度の掻痒症状を持つ患者341人を85mgを一日2回経口投与する群と偽薬群に無作為化割付して8週間治療し、掻痒症状スコア(WI-NRS)の改善度合いを比較した。結果は、第二相と同様に、偽薬効果が大きいせいか有意差は出なかった。

但し、アトピー症状が軽度の患者に限定すればスコアが7割以上改善し、応答率は72%と偽薬群の33%を大きく上回った。軽度患者は被験者の23%を占めるだけだったが米国の患者全体では6割以上を占めるため、サブセグメントだけでも臨床的意義がある。軽度患者向けの新薬は少ないため商業的意義もありそうだ。

Vandaは胃麻痺や乗り物酔いの第三相も実施中。NK1阻害剤は化学療法誘導性悪心嘔吐の治療・予防薬として複数の製品が実用化されており、tradipitantも第二相では船酔い予防試験が一番良さそうな結果だった。Vandaはこの適応症で今年中に承認申請する計画。170mgを長くても数回服用するだけだろうから商業的な価値はあまり大きくなさそうだ。

胃麻痺では52週延長試験を行うべくプロトコル変更を申請したところ、FDAが犬やサル、ミニブタなどの毒性試験を完了するまで12週間以上投与する試験はダメと、部分停止を命じたため、司法の場で係争中。乗り物酔いする人は多くても数日しか乗らないだろから、この点でも、三用途の中では最も実用化に近そうだ。

リンク: Vandaのプレスリリース(pdfファイル)


【承認申請】


武田、ALK阻害剤を一次治療薬として米国で申請
(2020年2月25日発表)

武田薬品はAlunbrig(brigatinib)をALK陽性転移性非小細胞性肺癌の一次治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は未公表。EUでは下記のように今月、CHMPの肯定的意見を得た。

17年にAriad Pharmaceuticalsを54億ドルで買収して入手したALK阻害剤で、同年に米国でファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)に不応不耐のALK陽性転移性非小細胞性肺癌に用いることが承認された。

今回の申請は、ALK陽性局所進行・転移非小細胞性肺癌でALK阻害剤による治療歴を持たない患者(化学療法歴は1レジメンまでなら許容)を組み入れて効果をXalkoriと比較した第3相試験に基づくもの。PFS(無進行生存期間、盲検独立評価委員会ベース)がメジアン24.0ヶ月とXalkori群の9.2ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.49、p<0.0001だった(昨年11月に公表された第二中間解析データ)。脳転移のある症例では特に大きな差があった。

ALKは東京大学の間野博行教授らが科学技術振興機構の助成を受けて行った研究で、ある種の肺癌に関与していることが発見された。Nature誌に論文刊行されたのが07年、Xalkoriの米国承認が11年なので、ベンチとベッドが4年でつながったことになる。crizotinibはc-kit阻害剤として以前から臨床開発されていたことが寄与したのだろう。

それから9年経ち、今日では、ノバルティスのZykadia(ceritinib、和名ジカディア)や中外製薬のAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)、ファイザーのLorbrena(lorlatinib、和名ローブレナ)と、直接比較試験でXalkoriを上回る効果を持つALK阻害剤が輩出している。

リンク: 武田薬品のプレスリリース(和文)

ロシュ、PerjetaとHerceptinの合剤を承認申請
(2020年2月25日発表)

ロシュはRG6264をFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は未公表。抗2C4抗体Perjtaの活性成分であるpertuzumabと抗her2抗体Herceptinのtrastuzumabの固定用量合剤で、her2陽性早期乳癌の術前術後アジュバント療法に用いる。Halozyme Therapeutics(Nasdaq:HALO)のヒアルロニダーゼ技術を用いて皮注製剤化した。各剤の静注製剤は60~150分かけて点滴するが、RG6264は5~8分で済む。

リンク: ロシュのプレスリリース

ノバルティス、皮注用抗CD20抗体を多発性硬化症に承認申請
(2020年2月24日発表)

ノバルティスは、OMB157(ofatumumab)を再発性多発性硬化症の治療薬として欧米で承認申請し、受理されたと発表した。米国の承認は6月、EUは来年4-6月の見込み。

活性成分は慢性リンパ性白血病用薬Arzerra(ofatumumab)として日米欧で承認されている。抗CD20抗体ではロシュがキメラ抗体のRituxan(rituximab)や糖鎖改変型完全ヒト化抗体のGazyva(obinutuzumab)を慢性リンパ性白血病や非ホジキンリンパ腫に、ヒト化抗体Ocrevus(ocrelizumab)を多発性硬化症に、ラインアップしている。ofatumumabはCD20の異なったエピトープに結合するが、OMB157の臨床的な長所は、Ocrevusが6ヶ月毎に3時間半かけて点滴静注するのに対して、オートインジェクターによる月一回皮下自己注であること。

第3相試験はサノフィのArbagio(teriflunomide)を対照薬とするダブルダミー試験が二本実施され、一本では年率再発頻度が0.11対0.22、もう一本は0.10対0.25で何れも統計的に有意に小さかった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がサイラムザの適応拡大を検討
(2020年2月26日発表)

イーライリリーは、FDA腫瘍学薬諮問委員会がCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)の適応拡大を検討し、6人の委員が賛成、5人が反対したと発表した。接戦は意外だが、延命効果が確立していないことがネックになったのだろう。

CyramzaはVEGFR-2を標的とする完全ヒト化抗体で、ある種の胃癌、結腸直腸癌、肝細胞腫に承認されている。今回の適応拡大は、EGFR遺伝子にエクソン19欠損またはエクソン21L858A置換を持つ転移性非小細胞性肺癌の一次治療にTarceva(erlotinib)と併用するもの。

昨年10月にLancet Oncologyに刊行された第三相試験論文によれば、PFS(無進行生存期間)がメジアン19.4ヶ月とTarceva・偽薬併用群の12.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.59、p≦0.0001だった。全生存の解析は未成熟で、昨年12月現在の中間解析でもハザードレシオ0.92、95%信頼区間上限は1.32と、不満足な数値に留まっている。

上記のようなEGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌はEGFR阻害剤が第一選択になる。TarcevaはEGFR阻害剤の先駆けの一つだが、今日では、効果が有意に上回る複数の第2世代品が存在するので、高価な新薬二剤を併用するハードルは高い。一次治療なので尚更だ。

今回の適応拡大はEUでは今年1月に承認された。日本でも承認審査中。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

CHMPが塩野義の抗生剤の承認などを支持
(2020年2月28日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、2月の会合で、塩野義製薬の抗菌剤の承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

塩野義のFetcroja(cefiderocol)は注射用シデロフォアセファロスポリン。好気性グラム陰性菌による感染症の成人で治療選択肢が限られている場合に適応になる。米国では昨年11月にFetroja名で18歳以上の治療選択肢が限られているグラム陰性菌複雑性尿路感染症(腎盂腎炎を含む)に承認された。

複数の作用機序を持ち、ベータラクタマーゼに分解されにくいため、in vitroでカルバペネム耐性の緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、そして腸内細菌科細菌にも強い活性を示した。但し、重症カルバペネム耐性菌感染症試験では14日死亡率が18.8%と対照群(主としてcolistinを使用)の12.2%を上回った。院内感染肺炎/人工呼吸器関連肺炎などの成績が悪かった模様だが、第三相院内感染肺炎試験では14日死亡率が12.4%とmeropenem群(11.6%)比で非劣性だったので、治験成績がちぐはぐだ。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を得たのは、まず、武田薬品のAlunbrig(brigatinib)。ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)阻害剤で、ALK陽性転移性非小細胞性肺癌の二次治療薬として承認されているが、一次治療に用いることが支持された。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib、和名オフェブ)。特発性肺線維症(IPF)に承認されているが、新たに、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の治療に用いることが支持された。米国では昨年9月に、日本では12月に、適応追加承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、アムジェンのOtezla(apremilast、和名オテズラ)。既存薬不応不耐の乾癬や乾癬性関節炎に承認されているが、新たに、ベーチェット病に伴う口腔潰瘍で全身性治療が適応になる成人に用いることが支持された。米国では昨年7月、日本でも9月に、承認されている。

Otezlaはセルジーンが開発したPDE-4阻害剤だが、BMSに買収される過程で、反トラスト規制をクリアするため、Otezla事業をアムジェンに134億ドルで売却した。

リンク: EMAのプレスリリース

否定的意見となったのはイーライリリーのEmgality(galcanezumab)の適応拡大。反復性片頭痛(月4日以上、発生)の予防薬として承認されている抗CGRP抗体を、反復性群発性片頭痛の予防に用いる是非を検討した結果、効果が明確ではないという結論に達した。

群発性片頭痛は数週間に亘って頻発する。第三相は慢性群発性片頭痛試験はフェールしたが、反復性(1ヶ月程度の群発しない期間がある)群発性片頭痛試験は成功したと発表されており、昨年6月に米国で適応拡大が承認された。レーベルによると、片頭痛発作回数がベースラインの週17回から8.7回に減少し、偽薬群の5.2回減少を有意に(p=0.036)上回ったとのこと。それだけに、CHMPの判断は意外。診断・特定が難しそうな疾患であることや、p値がそれほど低くないことが影響したのかもしれない。群発性片頭痛は他社の抗CGRP抗体の試験成績もパッとしない。

リンク: EMAのプレスリリース

最後に、BMSが、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用で非小細胞性肺癌の一次治療に当てる適応拡大申請を、撤回したことが発表された。1月31日にBMSが公表済みなのでサプライズではない。米国でも適応拡大申請されており、審査期限は5月15日。日本でも昨年12月に一変申請された。

リンク: EMAのプレスリリース


CHMP、ヨンデリスの卵巣癌適応に関して検討着手
(2020年2月28日発表)

CHMPは、スペインのPharma Mar社のアルキル化薬、Yondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)の検討に着手したことを発表した。日米欧で悪性軟部腫瘍用薬として承認されているが、EUだけで承認されている白金感受性再発卵巣癌に関する第三相試験がフェールしたため。

再発卵巣癌は米国でも承認申請されたが、根拠となる301試験の主評価項目であるPFSデータの信頼性や、全生存の解析が未成熟で有意差が出ていないことなどから、諮問委員会で15人の委員のうち14人が反対し、承認されなかった。結局、最終解析でも有意差は出なかった。

今回、俎上に上がる3006試験は301試験と類似した内容で、白金感受難治性卵巣癌の三次治療としてPEGリポソーム化doxorubicinと併用する効果をPEGリポソーム化doxorubicinだけの群と比較したが、第一回の中間解析で無益認定された。メジアン生存期間は23.2ヶ月と対照群の22.2ヶ月と大差なく、ハザードレシオは0.93、p=0.5236だった。深刻有害事象の発生率は41%対21%、有害事象による治験離脱は32%対16%と、どちらも大きく上回った。

事前に計画されていた生殖細胞系BRCA変異陽性サブグループ(被験者576人中155人)ではハザードレシオ0.54と良さそうな数値が出ているが、このタイプの患者の標準療法はPARP阻害剤になりつつあるので、臨床的な意義は曖昧だ。

全生存期間の解析が二本ともフェールしたことは軽視できないだろう。承認取消や範囲限定の可能性がありそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


バイオヘブンのCGRP受容体拮抗剤も片頭痛治療に承認
(2020年2月27日発表)

バイオヘブン・ファーマシューティカル(NYSE:BHVN)は、FDAがNurtec(rimegepant)口腔内崩壊錠を片頭痛治療薬として承認したと発表した。輩出しているCGRP(calcitonin gene-related peptide)拮抗剤の一つだが、経口剤であることや治療をリード・インディケーションにしたことが特徴。

臨床試験では、2時間以内片頭痛消失率が21%と偽薬群の11%を上回った。共同主評価項目である、本人にとって最も煩わしい症状(羞明、悪心など)の2時間内消失率も35%対27%と上回った。どちらも統計的に有意。主な有害事象は悪心。

GW Pharmaceuticalsから1億ドル余で購入した優先審査バウチャーを用いたため、アラガン(NYSE:AGN)がMSDからライセンスして開発し昨年12月に片頭痛治療薬として米国承認を得た、Ubrelvy(ubrogepant)よりそれほど遅れずに上市できそうだ。通常の錠剤も申請中で、数ヶ月内に承認されるだろう。

片頭痛予防でも開発中で、3月に第三相試験の結果が出る見込み。

rimegepantは16年にBMSからBMS-927711をライセンスしたもの。一緒にライセンスしたBHV-3500(vazegepant)は点鼻片頭痛治療薬として第三相試験中。

リンク: バイオヘブンのプレスリリース

エスペリオン、コレステロール治療用合剤が承認
(2020年2月26日発表)

エスペリオン・セラピューティクス(Nasdaq:ESPR)は、FDAがNexlizetをヘテロ接合性家族性高脂血症や確立アテローム硬化性心血管疾患の患者のLDL-C治療薬として承認したと発表した。先ごろ承認されたATPクエン酸リアーゼ阻害剤、Nexletol(bempedoic acid)とシェリング・プラウ(当時)が開発したNPC1L1阻害剤、ezetimibeの合剤で、生活習慣改善および第一選択薬であるスタチンの最大耐容用量を服用してもLDL-C値が十分に低下しない場合に追加投与する。心血管疾患抑制効果は未確認。

Nexletolは臨床試験でLDL-Cを偽薬比17~18%引き下げた。Nexlizetは38%なので、合剤でも高力価スタチンより見劣りする。オルターナティブ系に留まるだろう。

リンク: エスペリオンのプレスリリース

FDA、Nerlynxの適応拡大を承認
(2020年2月26日発表)

FDAは、Puma Biotechnology(NYSE:PBYI)のNerlynx(neratinib)の適応拡大を承認した。ファイザーからライセンスしたher2阻害剤で、her2早期乳癌の術後アジュバント療法(Herceptinなどを使う)の後の延長アジュバント療法薬として承認されているが、今回、her2陽性の進行/転移性乳癌で転移後にher2標的療法を2次以上施行した癌に、capecitabineと併用することが認められた。

臨床試験ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン5.6ヶ月とcapecitabine・lapatinib併用群の5.5ヶ月を若干上回り、ハザードレシオは0.76、p=0.0059だった。メジアン値の差は小さいが12ヶ月PFS率は29%対15%となっている。通常の偽薬対照試験のPFSと異なり、カプラン・マイヤー・カーブが分かれるまで時間がかかるのだろう。

Nerlynxは、研究者主導で各社のパイプラインを次々とテストし選抜するI-SPY2プロジェクトで最初に合格・卒業したことで有名。her2標的薬はここ数年、次々と登場しており、適応が限られるNerlynxの年間売上高は2億ドル程度に留まっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Pumaのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ASRSがベオビュの網膜血管炎症例を通知
(2020年2月23日発表)

複数の報道によると、ノバルティスの新生血管加齢黄斑変性治療薬、Beovu(brolucizumab)で市販後に14例の網膜血管炎が報告されていることをASRS(米国網膜専門医学会)が会員に通知した。うち11例は失明のリスクのある閉塞性網膜血管炎である由。ASRSのホームページにそれらしいリンクがあるが、会員IDなどを入力しないとアクセスできない。

BeovuはスイスのESBATechを買収して入手した抗VEGF-Aヒト化抗体単鎖フラグメントで、米国で昨年10月に、欧州は今年2月に、承認された。日本でも1月に部会通過、3月にも承認される見込みだ。バイエル/リジェネロンのEylea(aflibercept)と比較した第三相試験では、主評価項目の視力改善効果は非劣性で、二次的評価項目の幾つかでは統計学的に有意に優れていた。

承認後4ヶ月強の累計投与回数は46000回である模様。ノバルティスは社外専門家委員会や社内でも検討を進める。承認審査機関にも報告したようだ。

リンク: Eyewire Newsの記事(2/25付)





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